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シンクロナスイーサネット技術を適用した クロック伝送システム

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シンクロナスイーサネット技術を適用した クロック伝送システム
クロックパス網
シンクロナスイーサネット技術
R&D
信号劣化検出技術
シンクロナスイーサネット技術を適用した
クロック伝送システム
NTTネットワークサービスシステム研究所
かなみつ
ひであき
す
だ
さ ち お
あ ら や
かつひろ
まつすえ
よ し き
金光 秀明 /須田 祥生 /荒谷 克寛 /松末 佳樹
ここでは,シンクロナスイーサネット技術を利用し,イーサネット上で現行と同
等の高品質なクロックパス網の構築を可能とする,クロック伝送システムについて
紹介します.
クロックの必要性
現在,電話や専用線の通信サービス
の多くは,時分割多重方式を用いたネッ
信号を主信号に重畳し,下位のクロッ
スを1つのADMシステム(1システム
ク供給装置に伝送するSDH(Synchro-
当 り20 G/10 G/2.4 Gbit/s) で伝 送
nous Digital Hierarchy)リンク系シ
できるようになってきました.このADM
ステムで構成されています.
システム上で構築するクロックパス網で
トワークにて提供されています.時分割
1998年以降,トラフィックの増加に
はルート分散は可能ですが,高信頼性を
多重方式において,多重分離,クロス
柔軟に対応可能であり,リングトポロ
確保するためのビル分散・装置分散がで
コネクトを行うためには,ネットワーク
ジを構成可能な大容量のADM(Add
きません.そのため,ADMシステムによ
内の各装置のクロックを高精度に一致さ
Drop Maltiplexer)システムの導入が
る1系統に加え,他系統のクロックパス
進んでおり,従来複数のリンク系システ
網確保のため, 現状では1989年より導
近年,次世代ネットワークに代表され
ム(1システム当り150 Mbit/s等)で
入しているSDHリンク系システムを継続
るIP系サービスの普及とともに,従来の
伝送していた電話や専用線などのサービ
利用することが必要となります.
(1)
せる網同期 が必要です.
電話や専用線の通信サービスは減少する
傾向ですが,今後も多くのお客さまが継
続して利用されることが想定されるため,
網同期による高精度なクロックが必要と
∼
∼
大阪(淡路)
Bビル
Aビル
CSM
なります.
現状のクロックパス網は信頼性を高め
東京(大手町)
64 k
クロック
るため,N(Normal)系,E(Emer-
∼
64 k
クロック
ビル分散
ADM
装置
ADM装置
20 G/10 G/2.4 G
リング
ルート分散
えることにより,安定したクロック供給
を担保しています.さらにクロックパス
CPM
(RX)
網の設計では,ビル分散,ルート分散,
装置分散
装置分散を行い,高い信頼性を確保し
ています(図1).
N系クロック
CREC(N)
装置分散
E系クロック
CREC(E)
供 給 するクロック供 給 装 置 ( C S M :
Clock Supply Module) と, 上 位 の
クロック供給装置から受信したクロック
30
NTT技術ジャーナル 2012.2
E系
クロック
CREC(N) CREC(E)
新たなクロック
伝送システム
CSM
Cビル
クロックパス網は,クロックを生成・
N系
クロック
CSM
現状のクロックパス網の課題
CPM
(TX)
ルート分散
ADM装置
SDH装置
SDH装置
Bビル
CSM
gency)系の冗長構成としており,N系
に異常が発生した場合にはE系に切り替
大阪(淡路)
64 k
クロック
CSM
64 k
クロック
SDH装置
SDH装置
∼
Aビル
CSM
ビル分散
東京(大手町)
Cビル
(a) 現状のクロックパス網構成
(b) ADM 装置移行後の適用形態例
図1 クロックパス網の現状と今後の構成例
R
そこで私たちは,クロック伝送に特化
したCPM(Clock Path Module)シ
ステムを開発しました.本システムを用
の1の経済化を実現しています.
時,作業性の向上が期待できます.ま
(2) マルチベンダ化による自由な設備
時,故障の早期復旧が期待できます.
構築
いることで,クロックパス網を構成して
本システムはマルチベンダ対向可能で
いる一部の回線収容率の低いSDHリン
あり,ベンダ共用NE-OpS(Network
ク系システムから経済的に移行し,ク
*
Element-Operation System)
にて監
ロックパス網の高い信頼性の確保を可
視制御可能としています.
能とするとともに小型化・省電力化など
のC A P E X ( 設 備 系 コスト) / O P E X
(運用コスト)削減を実現しました.
CPMシステムの概要
(1) 小型・省電力化によるCAPEX/
OPEX削減
CPMシステムは,小規模局への適用
を考慮し,現在小規模局でクロックパス
網を構築しているリンク系システムと比
べ,3分の1以下の小型化(19インチ
た,クロックが原因と思われる特異故障
CPMシステムの構成および
主要諸元
本システムの構成および主要諸元を図
2に,装置外観を図3に示します.
(3) 充実した装置内監視機能
CPMシステムは,CPM(TX)装置,
装置内監視として従来装置では一部
実施していない周波数監視を充実しまし
CPM(RX)装置,長距離伝送用の中
た.周波数異常検出時,CPM(RX)
継再生装置CPM(REP)装置,およ
装置から クロック供給装置への出力ク
び監視制御装置(NE-OpS)から構成
ロックを停止し,擾乱したクロックを配
されます.
下の局および装置への供給を抑えること
(1) TX
が可能です.
クロック供給装置からの64 kHz入力
(4) 運用性を劇的に向上させる遠隔
クロックの周波数成分をシンクロナスイー
サネット技術を用いてギガビットイーサ
制御機能
制御機能としてNE-OpSまたは地気
ラック等搭載可能,高さ10 cm以下)
による遠隔での出力クロックのシャット
および,約9分の1の省電力化を図っ
ダウン機能とCPUリセット機能を具備
ています.また,装置価格についても現
しています.本機能によりクロックパス
在クロックパス網を提供できるもっとも
網の遠隔切替操作を可能とし,クロッ
安価なリンク系システムと比較し約4分
クパスを収容している伝送路の支障移転
ネット(GbE)のイーサネット信号によ
り送出する装置です.
* NE-OpS:装置監視や通信路状態を監視する
ネットワーク監視システム.
NE-OpS
DCN
64 kHz + 8 kHz(+ 0.4 kHz)
クロック
CPM(TX)
CSM
GbE
GbE
CPM(RX)
GbE
GbE
6.312 MHz
クロック
CSM
クロック
送信部
交換機
…
クロック
受信部
CPM(REP)
専用線
装置
中項目
中継インタ
フェース
小項目
伝送速度
内 容
・GbE
インタフェース種別 ・SX:局内 500 m 程度(光ファイバ:MMF)
伝送距離
・LX:局間 5 km 程度(光ファイバ:SMF)
・長距離インタフェース:局間 70 km 程度(光ファイバ:SMF,DSF)
監視制御機能
(NE-OpS インタフェース /
地気インタフェース)
自律制御機能
サイズ
・監視:各種警報
(地気インタフェースは装置系警報と通信系警報の区別のみ)
・制御:6.312 MHz 出力クロックシャットダウン,CPU リセット
リンク
装置
…
大項目
NE 共通
・電源断から復旧時の自動立上げ
・高さ 10 cm 以下,19 インチラック等搭載可能
CPM(TX) クロックイン クロック受信部
タフェース
・64 kHz + 8 kHz(+ 0.4 kHz) 1系統
CPM(RX) クロックイン クロック送信部
タフェース
・6.312 MHz 1系統
NE-OpS
・ベンダ共用 OpS にて監視制御
DCN: Data Communication Network
図2 CPM システムの構成と主要諸元
NTT技術ジャーナル 2012.2
31
&
D
ホ
ッ
ト
コ
ー
ナ
ー
せん.このため,送信側と受信側で最
した.
大 ± 100 ppm程度の周波数偏差が発生
信号劣化を検出するためには, 誤り
し,クロックパス網を提供可能な品質を
を検出する方式と誤り率を判定する方式
担保できません.イーサネット上でクロッ
が必要となります.
誤りを検出する方式については,伝送
クを伝送するためには,各装置内部の発
(a) A 社の CPM 装置
振周波数をクロック信号に同期させる必
路品質を直接検出可能な,GbEのPCS
要があります.このため,クロック伝送
(Physical Coding Sublayer)に具備
可 能 なシンクロナスイーサネット
されている8B/10B符号を使用すること
としました.誤り検出の契機は8B/10B
(SyncE)技術を採用しました.
シンクロナスイーサネット技術とは,
ITU-T G.8261
(b) B 社の CPM 装置
図3 CPM 装置例
(2) RX
(2)
で規定されているク
変換表にない未使用のビットパターンを
検出したとき,またはランニングディス
ロックをイーサネットの物理層を介して
パリティエラーを検出したときとなります.
装置間を伝送する技術です.図4に示
誤り率を判定する方式は短時間で信
すように送信装置は,クロック供給装置
頼性が高い方式が求められるため,SDH
から供給されたクロック信号にて送信装
網でも使用されているスタガ方式を採用
置内部の発振器で基準クロックを生成
しました.スタガ方式とは,監視フレー
TXからのイーサネット信号を受信して
した後,GbEの信号速度に周波数変換
ム数NSにL個以上の誤りを検出する事
6.312 MHz正弦波のクロックを作成し,
を行い,イーサネット信号を送出します.
象がM回連続するか否かを判別する方式
クロック供給装置へ供給する装置です.
受信装置では伝送されたイーサネット信
です.本技術については,実機検証によ
号のクロックタイミング(ビット列の立
り10 −6 程度のエラーでエラー検出,解除
ち上がりタイミング)を抽出することで,
されることを確認しており,従来と同等
て再生中継する装置です.TX-RX対向
送信装置のクロック信号を再生すること
な品質監視が可能です.
によりクロック伝送が可能な中継距離は
ができます.
(3) REP
TXからのイーサネット信号を受信し
70 km程度であり,70 kmを超える長距
離 区 間 でクロックを伝 送 する場 合 に,
クロック伝送特性評価結果
(2) 信号劣化検出技術
信号劣化検出技術は,イーサネット
シンクロナスイーサネットによるクロッ
REPを使用します.REPを使用するこ
において入力断に至らない10 −6 程度のエ
ク伝送品質は,従来のSDH網でのクロッ
とにより最大140 km程度のクロック伝
ラー発生状態を検出する技術で,CPM
ク伝送と同等な品質を確保できています.
送が可能となります.また,現在運用中
システム開発において,技術確立しま
また,伝送路故障時もRXからクロック
の波長多重系装置を介したクロック伝送
も可能なため,光心線の有効活用と,
さらなる長距離伝送が可能です.
(4) NE-OpS
NE-OpSの警報監視機能として発生
(a) シンクロナスイーサネット
∼ CSM
CSM ∼
誤り検出方式と誤り率判定方
式にて SD を検出
クロック
受信部
供給されたクロック信号を基に
イーサネット信号を送出
1.25 GHz
中警報や警報履歴の確認ができ,従来
イーサ
(PHY)
のクロックパス網を構築する装置と同等
あり,NE-OpSを使用しない運用も可能
イーサ
(PHY)
伝送されたイーサネット信号
のクロックタイミングを抽出
な保守運用ができます.
なお,地気による監視制御も可能で
クロック
送信部
SD 検出
回路
周波数
変換部
周波数
変換部
GbE パッケージ
GbE パッケージ
です.地気での監視機能として通信警
報と装置警報の2種類の地気警報を具
備しています.
CPMシステムの要素技術
(1) シンクロナスイーサネット技術
イーサネットは非同期方式であり,送
信側と受信側で周波数は同期していま
32
NTT技術ジャーナル 2012.2
(b) 既存イーサネット
MAC
イーサ
(PHY)
ローカル 発振器
+ / − 100 ppm
既存イーサネット用パッケージ
イーサ
(PHY)
MAC
ローカル 発振器
+ / − 100 ppm
既存イーサネット用パッケージ
図4 シンクロナスイーサネット技術によるクロック伝送
R
&
D
ホ
ッ
ト
コ
ー
ナ
ー
行が可能となります.
1E−9
CPMシステムは,すでに開発を完了
8E−10
しており,今後の導入に向け円滑なシス
伝送路故障前
6E−10
伝送路故障後
テム導入支援を行うとともに,安定した
4E−10
運用を可能とするよう支援していく予定
周
波 2E−10
数
0
変
動 −2E−10
量
です.
■参考文献
−4E−10
−6E−10
故障検出前と
同等な精度
シャットダウン
−8E−10
−1E−9
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100 107(s)
観測時間
図5 CSM 装置出力クロックの周波数変動量
(ns)
100
60
(1) 河 西 ・ 槇 ・ 辻 ・ 上 田 : “ わ か り や す い
SDH/SONET伝送方式,”オーム社,p.152,
2001.
(2) ITU-T G.8261/Y.1361:“Timing and Synchronaization aspects in packet networks,”
2006.
(3) ITU-T G.8262/Y.1362:“Timing characteristics
of synchronous Ethernet equipment slave
clock,”2010.
ITU-T規定
・本ラインの下側で規格を満足
20
最 10
大
位
相
変
動
量 1
実測データ
0.1
0.1
1
10
100
1 000(s)
観測時間
図6 定常時のワンダ特性
供給装置への供給クロックをシャットダ
て周辺温度を25 ℃→0℃→50 ℃→0℃
ウンすることにより,クロック供給装置
→25 ℃に変動)におけるワンダ量を測
から配下装置へ供給するクロック品質に
定しました.本ワンダ量は既存のクロッ
影響を与えないことを実機検証にて確認
クパス網を構築する装置と同等なワンダ
しています.通常時のクロック品質や伝
量であり,従来と同様にワンダ量を考慮
送路故障時のクロック品質の検証を実
したクロックパス網の設計が可能となり
施し,図5の伝送路故障時の測定デー
ます.
タのとおり,クロック供給装置から配下
装置へ供給するクロック品質に影響を与
えないことを確認しました.
さらに,ワンダ特性についても図6の
(3)
今後の展開
ここでは,NTTネットワークサービス
システム研究所が開発したクロックパス
とおりITU規定(G.8262) を満足す
網を構築するCPMシステムを紹介しま
る特性が得られています.ワンダ量につ
した.CPMシステムは,現在課題となっ
いては,温度変動による影響が大きいた
ているクロックパス網の信頼性を確保し
め,恒温槽での検証により温度変動に
経済的に実現可能とするシステムであり,
よるワンダの影響を確認しました.温度
現在のクロックパス網のほとんどを構築
変動幅50 ℃(恒温槽にて約10時間かけ
しているSDHリンク系システムからの移
(左から)松末 佳樹/ 荒谷 克寛/
金光 秀明/ 須田 祥生
さらなる保守性と性能の向上を目指し,
今後もリンクシステムの開発に取り組んで
いきます.
◆問い合わせ先
NTTネットワークサービスシステム研究所
第一推進プロジェクト
高速リンクシステムDP
TEL 0422-59-2555
FAX 0422-59-3494
E-mail kanamitsu.hideaki lab.ntt.co.jp
NTT技術ジャーナル 2012.2
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