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資料編 - 公益社団法人 日本都市計画学会 関西支部

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資料編 - 公益社団法人 日本都市計画学会 関西支部
資料編
1.都市計画教育と都市計画に関わる人材育成に関する研究特別委員会委員名簿
2.講演会・ヒアリング記録……………………………………………………………Ⅱ−
(1)特別委員会の狙いについて話題提供
鳴海邦碩 大阪大学大学院教授
(2)講演「海外の都市計画の職能と教育」
倉田直道 工学院大学教授
(3)「アメリカのシンクタンク事情」
1
青山公三 ニューヨーク都市政策研究所
3.都市計画教育と都市計画に関わる人材育成シンポジウム記録…………………Ⅱ−15
テーマ:−これからのまちづくりに求められる人材とは
司会:塚本直幸氏(大阪産業大学・特別委員会副委員長)
1.趣旨説明:鳴海邦碩(大阪大学・特別委員会委員長)
2.パネルディスカッション
澤木昌典(大阪大学・特別委員会副委員長)
、松原永季(スタヂオ・カタリスト)
、戎 正晴(弁
護士) 、西 栄一(神戸新聞社)
、木原勝彬(ローカル・ガバナンス研究所)
、鳴海邦碩(大阪大
学・特別委員会委員長・コーディネーター)
4.大会ワークショップの記録…………………………………………………………Ⅱ−23
(1)2005 年大会−千葉大学にて
司会:三輪康一(神戸大学)
、発表者:鳴海邦碩(大阪大学)
・堀口浩司(㈱地域計画建築研究所)・
佐藤道彦(都市再生機構)
・久保光弘(㈱久保都市計画事務所)
・嘉名光市(大阪市立大学)
(2)2006 年大会−琉球大学にて
司会:塚本直幸(大阪産業大学)、発表者:鳴海邦碩(大阪大学)
・澤木昌典(大阪大学)
・梶木盛
也(㈱OUR)
・堀口浩司(㈱地域計画建築研究所)三輪康一(神戸大学)
5.「都市計画分野の人材育成と職能の拡充」に関するアンケート調査票………Ⅱ−26
都市計画教育と都市計画に関わる人材育成に関する研究特別委員会
委員名簿 (敬称略・50 音順、所属は平成 19 年 9 月現在)
<氏 名>
< 所
属 :( )は委員会における役割 >
阿部
正和
大阪市計画調整局開発調整部(ワーキング)
石塚
裕子
八千代エンジニヤリング(株)大阪支店(ワーキング)
上原
正裕
(財)兵庫県まちづくり技術センター(副委員長)
大窪
健之
京都大学大学院地球環境学堂
大塚
毅彦
明石工業高等専門学校建築学科
岡野
清
梶木
盛也
㈱オーユーアール(ワーキング)
嘉名
光市
大阪市立大学大学院工学研究科都市系専攻
金井
萬造
㈱地域計画建築研究所
金澤
成保
大阪産業大学人間環境学部都市環境学科
金田
徳蔵
堺市都市整備公社
河端
秀直
㈱日建設計
久保
光弘
㈱久保都市計画事務所
小浦
久子
大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻
榊原
和彦
大阪産業大学工学部環境デザイン学科
佐藤
道彦
大阪市計画調整局開発調整部(副委員長)
澤木
昌典
大阪大学大学院工学研究科環境・エネルギー工学専攻(副委員長)
下村
泰彦
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科農学環境科学専攻
橘
俊光
兵庫県県土整備部まちづくり局公園緑地課
塚本
直幸
大阪産業大学人間環境学部都市環境学科(副委員長)
土井
幸平
大東文化大学環境創造学部環境創造学科
土井
勉
神戸国際大学都市文化経済学科
中嶋
新一郎
兵庫県中播磨県民局県土整備部
鳴海
邦碩
大阪大学大学院工学研究科ビジネスエンジニアリング専攻(委員長)
難波
健
兵庫県阪神南県民局県土整備部
根岸
芳之
神戸市都市計画総局建築指導部
久
隆浩
近畿大学社会環境工学科
平田
富士男
兵庫県立淡路景観園芸学校景観マネジメント部門
堀口
浩司
㈱地域計画建築研究所大阪事務所(副委員長)
増田
昇
宮前
保子
㈱スペースビジョン研究所
三輪
康一
神戸大学大学院工学研究科建築学専攻(副委員長)
宗田
好史
京都府立大学人間環境学部環境デザイン学科
山崎
寿一
神戸大学大学院工学研究科建築学専攻
吉田
長裕
大阪市立大学大学院工学研究科都市系専攻
尼崎市都市整備局
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科農学環境科学専攻
2.講演会・ヒアリング記録
(1)特別委員会の狙いについて話題提供
鳴海邦碩 大阪大学大学院教授
2005 年 6 月 21 日
鳴海:
ロバータ・グラッツとノーマン・ミーツ両者による著作
『 “Cities” Back From The Edge : New Life For
Downtown』を参考に「ロバータ・グラッツのまちづくり論
と都市計画」とタイトルで、話題提供をさせてもらいます。
ロバータ・グラッツ女史は、NY Post に長く勤めたジャーナ
リストで、第一作目として『The Living City』を書かれまし
た。日本では、林泰義さんの監訳で『都市再生』というタイ
トルで出版されています。
歴史的建築物の保存運動に関わり、
アメリカの様々な地域再生を取材した方です。以前にもジェ
ーン・ジェイコブスがジャーナリストとして都市地域問題に
取り組んでいましたが、彼女のことも色々勉強しているよう
です。
ノーマン・ミーツは、25 年以上ダウンタウンの再生に取り組
んできたコンサルタントです。
■『“Cities” Back From The Edge : New Life For Downtown』
の背景:近代主義は失敗
新アテネ憲章や近年読んだいくつか本によると、アメリカと
ヨーロッパ(特にイギリス)の都市再生の考え方がお互いに
影響を受けつつあるようです。また、様々な本で、近代主義
は失敗だとよく言われます。
ラドリン(David Rudlin)とフォーク(Nicholas Falk)の
共著『"Building the 21st Century Home : The Sustainable
Urban Neighborhood"』の中では、マンチェスターの再開発
が、アメリカの色々なまちづくり運動の影響を受けていると
書かれています。ラドリンは都市計画家でフォークは経済学
者です。その二人が一緒にコンサルタントをやっており、こ
の本で賞を受賞されており、
イギリスでも評価されています。
また同書で、
「20 世紀末に近づくにつれ、モダニストの影響は顕著に弱ま
り、1950、60、70 年代の再開発計画が失敗だったことは今
では明白になりつつある」
と明示されています。また、伝統的な都市について
「イギリスや世界の多くの地域では、街の伝統性が再び注目
されている。<中略>何より信頼の基調となるものは、時間
の流れにより濾過され、より魅力的で、より機能的な、伝統
的な市街地の形態である。
」
とも書かれていました。
新アテネ憲章の中の
「都市生活のエネルギーは、世代・民族あるいは貧富によっ
て決定される、社会的集団の多様性に依存するという認識が
高まりつつある。一般に古い都市に見られる多文化の街は、
社会的・経済的活力を供給できる」
も同じ文脈だと思います。
以上の考え方が、ロバータ・グラッツらの著書『“Cities” Back
From The Edge : New Life For Downtown』の背景にあり、
以下のように問題を設定しています。
「今の近代主義の都市開発は変ではないか。大型開発は必ず
しも成功しない。エンタープライズゾーン型開発は必ずしも
新しい仕事を生み出していない。周囲の街に存在していた機
能が新しい街に吸い取られてしまった。立地しても多くがチ
ェーン型の企業でしかない。
」
エンタープライズゾーン型開発とは、
ピーター・ホール
(Peter
Hall)が提唱した一つの都市再開発手法です。都市構造が変
化している中では、大規模に迅速に、複合的に開発しなけれ
ば都市にインパクトを与えることができないという考え方に
基づく開発手法です。
■商業戦争が地域を壊す
ロバータ・グラッツが以前の著書から主張し続けてきたこと
は、
「商業戦争が地域を壊す」ということです。
「ショッピングモール vs ダウンタウン、巨大企業 vs 独立小
店舗、全国チェーン vs 地域経済、大規模専売 vs 小規模起業
家という競争は伝統的でフェアな競争だと言われるが、これ
は間違っているのではないか。なぜなら、安売り店、スーパ
ーストアチェーンの多くは新規株式公募(initial public
offering)の産物であって、株式を一般公開することで、資
本を拡大するための資金を集めて商売するため、地域と関係
なく自分達の企業活動を行っており、そのことによる弊害が
大きい」
ということです。
■自動車が都市を蝕む
その同じ論調の中で、
「自動車が都市を蝕む」ということも書
かれています。
「税金を使って基盤整備が行われ、大型店舗の経営はその上
に成り立っており、大型店舗は税金による公共施設整備の恩
恵を多大に受けている。
」
ヴィンセント・スカーリー(Vincent Scully)は、
「世紀末に向かう今、自動車が都市を蝕んでいる。それはま
た場所の定義を持とうとする全てのものを破壊している。自
動車が当たり前になっている場所があるが、そこは一切都市
と呼べる場所ではない。
私が今からしなければならないのは、
自動車化に反対するデザインを考えることだ。
」
と述べており、随分前から反自動車論を展開してきました。
■製造業への無関心
少し文脈が変わりますが、都市計画に関係する人たちは製造
業に無関心であるという批判もあります。例えば、NY市で
は小規模な製造業が増加していますが、製造業に関心のある
人は、都市デザインや歴史的環境の保存、都市計画に関係し
ている主要な市民グループであって、NY市の経済発展当局
者は不動産業には関心があるが、製造業にはほとんど関心が
ないそうです。現在は大分変わってきているのかもしれませ
んが、私の印象では、まだそのような傾向があるように感じ
ました。
■青空市場
ロバータ・グラッツは、青空市場を高く評価し、手押し車ア
Ⅱ−1
ーバニズムと呼んでいます。
「市場には、生命、活力、健康、潤沢、根性、主要な農産物、
色がある。市場には、モノ、社交性、人間のコミュニティの
鼓動が密に在って、それらは過去とのつながりを提供してく
れる。最も重要なことは、市場が地域ビジネスを生み出し、
地域にドルの循環を維持することで地域経済を活気付けて支
える。公的市場は、農家だけでなく、すべての市場の店や、
」
成長しうる地域企業に機会を提供する。
これはNY近郊の自営農家の青空市場を推奨した都市計画コ
ンサルタントがおり、その人がグリーンマーケットの運動を
やっていることを聞いてこのような話を書いているのだと思
います。
■SOHO症候群
1956 年、NYのマンハッタンの南の SOHO(South of
Houston Industrial Area)地区で、ハイウェーを建設するこ
とに決定したが、保存主義者、市民活動家の反対にあい撤回
された。その間、多くの製造業が去り、銀行はお金を貸さな
くなり、企業もメンテナンス費用をかけなった結果、パイオ
ニア的な芸術家たちが、空のロフトを不法占拠し、SOHO は
魅力的で機能的な生活や制作の空間になった。このことから
生まれた名前が SOHO 症候群です。
「ダウンタウンを再編することは可能だ。しかし、それを働
かせるための文脈、都市構造や歴史、つまり、資源がない場
合、SOHO 症候群は働かない。
」
どこでも、都市活性化の現象が起きるとは限らないというこ
とです。
「その点では、都市構造を模造することは、閉鎖的なショッ
ピングセンターと同じくらい異常かもしれない。模写は落と
」
し穴である。結果は外形に過ぎず、本質ではない。
要するに、そういう場所で都市活性化が生じるとみんな真似
をするが、真似はできないものだということを述べている文
脈です。
そのようなことを整理すると、SOHO 現象とは以下のような
ことであると言えます。
・ 現状のストックを見直し、活用する。
・ 新しい仕事と空間利用を育んで行く。
・ 大規模開発によってもともとあった機能を入れ替えてし
まうことはしない。
・ 真の都市活動を畏縮させてしまう規制を排除する。
・ 歩ける空間の重視も含み、周囲の環境から孤立するので
はなく、周囲と連携する。
・ そのことによって、真に人が行って見たいという都市空
間が生まれる。
ロバータ・グラッツは、このような中で、アメリカでニュー
アーバニズムの人たちが色々な活動をしていることを評価し
ています。
「建築、都市計画、学者、交通工学、開発者、そして各種の
反スプロール論者達という異種の人びとの集団であるニュー
アーバニストは、近年、第二次世界大戦以降この国がとって
きた自動車中心のほとんど全ての原則を完全に排除するとい
う、計画、デザイン、そして開発のアプローチの推進によっ
て、かなりの注目を集めている。
」
このグループは、ヴィンセント・スカーリーの脱自動車論に
基づいて様々な活動をしているのですが、その活動は少し田
舎くさい新しい町をつくるのに役立つだけで、既存の町の改
善に何も役にいないなどとの批判もされています。しかし、
ニューアーバニズムのメッセージはそんなに単純ではないと
いうことを言っています。以前のシーサイドのエコポリス的
な開発は、ニューアーバニズムの開発の先駆けだったわけで
す。
■望ましい都市像
望ましい都市像について、
「設計や計画の指針のみでは十分ではない。現在の都市の人
種的、
民族的、
そして経済的に混在したまちの提携によって、
社会的そして経済的な幅広い価値の本質をアメリカ社会にも
たらすだろう」
と書いています。そして、教訓として、
「1960 年代・1970 年代に、通信や電子娯楽における全ての
進歩に伴い、ダウンタウンの将来を悲観的にとらえていた予
言者は、
ダウンタウンは時代錯誤であると宣言した。
しかし、
1990 年代には、
インターネットやサイバースペースの発生に
より、同じことが再び聞かれる。本当に都市は不必要となる
だろうか。
」
ロバータ・グラッツの考え方の底流には、新しいコミュニテ
ィのセンスを確立できないと都市の未来はないのではないか
ということがあります。
「人々は孤立に飽きている、彼らは新しいコミュニティのセ
ンスを求めている。
」
「古いものは新しい異質なものによって新しく生まれ変わ
る。
」このような現象が SOHO の現象ではないかと考えてい
るわけで、
「もしくは活気づけられた地区は、郷愁に基づく飛
び地ではなく、都市の確実性に根付かされた実行可能な精力
的なまちである。
」
つまり、SOHO の現象はノスタルジーではない。しかし、モ
ダニズムの開発整備は壊れていないのに潰して再開発してし
まうということを数十年やってきたのではないかということ
です。
■プロジェクトプラン vs 育む都市
その辺りを明確に説明するために、
「プロジェクトプラン vs
育む都市」という設定をしています。
プロジェクトプランニングとは、以下のような開発です。
「空間をプロジェクトで満たすことができると仮定し、プラ
ンニングのプロセスはプロジェクトを達成するためにデザイ
ンされ、市場に出して、売って、予定された解決法の選択に
市民を巻き込む。プロジェクトベースのプランニングの下で
は、大きなプロジェクトが求められ、熟練した開発業者、大
きな建築業者、大きな政府機関、大きな公共投資、そして多
くの投資銀行業と法的な費用が必要とされる。
」
プロジェクトの語源は「前に投げる」ですから、
*世界や将来をあたかも1枚の白紙のように考える。
*完成されたプロジェクト、未来への投てきが唯一の焦点
になる。
*事業の現場、現場での現状などは、しばしば図面の余白
の情報に格下げされてしまう。
*同時に起こりうる全ての事は、プロジェクトのスケジュ
ールを書く技術者の視点に従い仕切られる。
*責任ある説明とは、現プランを完全に遂行することであ
る。
つまり、非常に単純化された未来に投げかけられたものを実
行することだけに専念してしまう性質があるわけです。従っ
Ⅱ−2
て、プロジェクトプランを行うと、エンタープライズ型開発
のような結果を引き起こしてしまいます。このように、
「プランニングは科学のようになってきましたが、都市やダ
ウンタウン、活動の場は、科学的アセスメントを拒否してお
り、アーバニズムはアートであって、科学ではない」
ということも言っています。
以前、ジェーン・ジェイコブスが言ったことですが、
「我々は都市を、組織的複雑性−それは裏打ちの無いもので
満たされた、しかし明らかに複雑に相関した、確かに理解可
能な関連性がある組織−として、その問題として捕らえねば
ならない。それらの多くの要素の相互関係は複雑であるが、
そのお互いの要素の相関の仕方には、偶発的なものや不合理
なものは無い。
」
プロジェクトプランは「銀行業が受け入れる、安全な方向」
、
「修復可能な場所をビジターのためのアトラクションやプロ
ジェクト計画の寄せ集めと置き換える方針」と言えます。
「こうしたプロジェクト計画を持たないまちは、自分たちの
まちは二流だと感じて、多くの伝統的資産をもっている小さ
な都市でさえ、コンベンションセンターの必要性を感じてい
る。野球場、アメフト場、カジノは、最近のプロジェクトプ
ランの常套手段であった」
が、本当にそうだろうかということです。
プルーイットアイゴー団地の爆破跡地に、贅沢な住宅や曲が
りくねった小道、のどかな池などによって囲まれている9ホ
ールのゴルフコースをつくるというプロジェクトが浮かび上
がったそうですが、実現はしなかったのだと思います。一方
で、プルーイットアイゴー団地から少し離れた場所にある団
地は、結構うまくいっているそうです。これは、管理やマネ
ージメントの話ですが、プルーイットアイゴー団地は占拠し
たギャング達によってつぶれたが、別の団地ではギャングが
まともな人間になったということも書いてあります。
これに対して、都市を育むとは以下のようなこととしていま
す。
*何か新しいものを付け加える前に今あるものを強化する。
*ひとつの大きな開発業者ではなく、多くの、さまざまな
規模の事業者を巻き込む。
*政府のサポートがもしあったとしても、穏やかなものに
依存する。
*一番に存在する生活を考え、尊重し、問題としてではな
く財産として見て、地域の使用者と共にどの救済策が進
歩させることができるかを決める。
*色分けされた地図からではなく現場から問題を調査し、
人々が生活し働く場所、また物理的、非物理的に影響を
受ける場所を見る。
庭のアナロジーで以下のようにも説明しています。
*新しいものが植えられ、育ち、場所から飛び出し、新し
い場所に移り、そしてそのサイクルは繰り返す。
*都市では凍っているものはない。
*継続的な変化は、
複雑で敏感な場所では健康の証である。
*人々は生命の要求に従って、あちこち動き回れる。
*一人の人間は、小さなアパートから始め、結婚後、大き
なアパートもしくは一軒家に移ることができる。
*子供ができると、より広い場所が必要となるだろう。
*代替案は容易に利用することができる。
*同様に、
ビジネスも1つの地区から小さな規模で始まり、
成長と共に他の地区へ広がり、そしておそらく成熟と拡
大によって街を離れるかもしれない。
*健康な都市では、ビジネスは移動し、都市を離れるが、
新しく出現したビジネスが取って代わる。
これと逆のものがプロジェクトプランと郊外化であると言っ
ているわけです。
「真のアーバニズムの基本的な理解力の低下は、プロジェク
トプランの長年の支配の結果で、多くの若者が、歩道やカフ
ェ、人で一杯の通りをもった都市というのは、映画の中や外
国の都市、あるいはバカンスの場所でのみ存在すると思って
いる。しかし、時の試練を受けた伝統的な真の都市計画は、
」
失われた芸術ではなく、本当のものは存在する。
「都市は、一方で、郊外化を通してただ負けるだけである。
都市を希釈することは、再建や安定のために必要とされる多
くの特質を浸食してしまう。
」
■賢い成長(smart growth)
このような論調で、もうひとつの例を見ました。
『National Trust for Historic Preservation』戦後にアメリカ
で設立されたトラストで、このトラストはここ20年くらい
反スプロール運動を続けています。賢い成長(smart growth)
という言葉はアメリカのまちづくりで最近良く使用される言
葉ですが、トラストの会長の演説で以下の内容を発言されて
いました。
・できるだけ既存の建物と土地をリサイクルする。
・ローカルなコミュニティの特徴と個性を維持する。
・農場、森林、良い眺め、環境面で敏感な領域を保存する。
・コミュニティのセンスを高める。
・歴史的なダウンタウンと住宅街を生き返らせる。
・既存の都市の中にある空地や十分使われていない土地を
開発する。
・それを周囲の環境とブレンドする。
・車の代わりに、歩行、自転車、公共交通機関のオプショ
ンを与える。
・効率の良い所に、うまく設計された新しいコミュニティ
を創造する。
・将来の世代が経済繁栄を支えることができるよう環境を
保護する。
賢い成長運動というのは、
1970 年代にハワイやオレゴン州で
始まり、1980 年代後半から国の政策「都市の成長管理」があ
り、それを受けて、バンク・オブ・アメリカや Sierra Club、
全国住宅建設業協が運動を始めたそうです。そして、2000
年 10 月に Smart Growth America が全米の約 60 の利益団
体によって結成されました。
スプロール現象の代価として、
①失われる空き地や農地によって払う。
②失われる時間で払う。
③増税で払う。
④最終的には、生活の質を着実に浸食されることによって
払う。
−長時間の通勤により家族との時間は少なくなる。
−静かなまちが、道路の拡幅により破壊される。
−歴史的なランドマークが取り壊され、
埋立地に運ばれる。
あらゆる場所が何もない No-place になっていく
ということを問題視したわけです。
Ⅱ−3
■創造的デザイナーとは
以上、SOHO 現象や都市を育む、エンタープライズ型ではう
まくいかないなどの一連の考え方のグループ、人たちのバッ
クグラウンドを紹介してきました。
そういう人たちが、創造的デザイナーやプランナーと呼んで
いるものを集めると以下のようになります。
ピーター・ホール
「新しい都市経済を認識し推進することは、今は学校では教
えられていない都市計画技術を必要とする。
」
ラ ド リ ン ( Building the 21st Century Home The
Sustainable Urban Neighborhood)
「経済活動の新しい形を考え出したりするようなことを、都
市計画はもっと積極的に行うべきである。
都市計画家や測量技師よりも、都市の思想家や社会的な起業
家が必要である。
」
トラストの会長(An Address by Richard Moe National
Trust for Historic Preservation)
「誰も気付かなかった場所を生き生きとして安全かつ協力的
な場所へと作り直す方法、どこにでもある場所を何か特別な
場所へと変換する方法、そのためには、私達の理解を手助け
」
する、最も創造的なデザイナーが必要である。
がこれから議論する手がかりになるかもしれないということ
で紹介しました。
■マスタープランからガイドラインへ
同じ文脈で、マスタープランをつくってそれを実現していこ
うというプロジェクト型の発想が良くないのではないかとい
うことも言われています。マスタープランからガイドライン
へということで、
「都市域は極めて複雑であり、長期間にわたって対策を講ず
る必要があるため、従来の計画過程では手に負えない。物理
的なマスタープランは、
すぐに時代遅れになってしまうので、
我々が求めているものではない。その代わりに、行政は、計
画場所や規模を正確に示すのではなく、適切な構成要素の関
係を示したデザインガイドを用いるべきである。より自然に
都市形態の創造を導くような開発にむかう代替のアプローチ
について工夫するのは可能かもしれない。
」
道路と建物の関係など達成されるべき空間の資質や役割を細
かく示し、それを達成していくために各段階で取り組む必要
があり、絵を示してそれを実現していこうというものでは何
も生まれないのではないかという発想です。
■最後に
ロバータ・グラッツやラドリンの論理、ナショナルトラスト
の運動の背景など、
少し混ぜて説明してきました。
その中で、
アメリカやヨーロッパには、プロジェクトプラン型のものが
都市をつくって未来をつくるという系統と、今ある都市の良
さを育てていくという考え方の系統が同時に存在しているこ
とが見えてきたと思います。最近、都市工の若い人たちが両
系統の取材をした報告書を手に入れて読んでいますが、都市
工で取材した内容は並列しているだけで論じてはいませんで
した。
EUでも育てる型のまちづくりを色々な補助金を出してやっ
ているということも知りました。
日本でもプロジェクトプラン型と都市を育む型は歴然とした
対決ではありませんが、存在しています。しかし、その違い
を議論しているところはあまりありません。何冊かの本を読
んで、結び合わせるとこのような構造が見えたので、皆さん
Ⅱ−4
けるかと思います。
(2)講演「海外の都市計画の職能と教育」
倉田直道 工学院大学教授
日時:2005年10月27日(火) 14:00∼16:30
場所:大阪市立大学文化交流センター ホール [大阪駅前第2
ビル6階]
■■■はじめに
佐藤(都市機構)
:
都市計画学会関西支部の企画事業委員会委員長、特別委員会
幹事の佐藤です。今回は2つの委員会の合同事業として開催
しています。
特別委員会は、都市計画分野の人材育成及び職能拡大を目的
に、平成 16 年度に関西支部で設置されました。本部から 3
年間の調査助成金をいただきながら活動をしており、今後は
全国アンケートも実施する予定です。
一方、企画事業委員会では、今年9月に神戸で、行政と市民
の協働のまちづくりという視点からの震災復興シンポジウム
を開催しました。今後は、大規模店舗の立地に関するまちづ
くりの課題や地方都市の中心市街地活性化に関する議論を深
めていく予定です。
今回は、倉田先生に「海外の都市計画の職能と教育」という
テーマでご講演いただきます。今後の両委員会における議論
の参考にさせていただきたいと思います。
倉田先生は、日本都市計画家協会の自主研究「海外における
都市計画に関する専門家教育と人材支援プログラム等につい
ての事例調査」のまとめ役をされました。特にアメリカの実
情には詳しいと聞いていますので、そのあたりを詳しくお話
いただけると思います。
三輪(神戸大)
:
特別委員会副委員長の三輪です。
倉田先生の紹介をさせていただきます。
倉田先生は 1947 年にお生まれで、早稲田大学工学部建築学
科を卒業、同大学大学院修士課程を修了された後、カリフォ
ルニア大学大学院アーバンデザイン・プログラムを修了され
ています。その後、カリフォルニアやサンフランシスコで実
務に携われた後、
(株)アーバン・ハウス都市建築研究所を設
立され、現在、工学院大学建築都市デザイン学科の教授をさ
れています。カリフォルニア大学最優秀芸術賞、パブリック
デザインセンター「ふるさとの顔づくり設計競技」最優秀賞
など様々な賞を受賞されています。著書には「まちづくりデ
ザインのプロセス」
(日本建築学会)
、
「都市計画国際用語辞典」
(丸善)など、訳書にはピーター・カルソープ氏の新しい都
市計画の議論である「次世代のアメリカの都市づくり」
(学芸
出版社)や、アラン・ジェイコブス氏の「サンフランシスコ
都市計画局長の闘い」
(学芸出版社)
、ニューヨークやその他
の都市の試みを記したジョナサン・バーネット氏の「新しい
都市デザイン:アメリカにおける実践」
(集文社)などがあり
ます。各時期でのアメリカの新しい傾向をご紹介いただいて
きました。海外の都市計画の職能と教育の議論とも深く関わ
る話だと思います。
雑誌「Planners」には、今回の講演テーマに深く関わる、日
本都市計画家協会での自主研究の結果をまとめた「海外の都
市計画家の職能」という記事が掲載されています。特別委員
会で議論してきた事柄について、適切な示唆を与えていただ
■■■「海外の都市計画の職能と教育」
■■はじめに
倉田(工学院大学、㈱アーバン・ハウス都市建築研究所):
2002 年から 2004 年にかけて、日本都市計画家協会の自主研
究で、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オランダと
アジアの国々における都市計画の職能と教育の現状について
調査をしました。
日本都市計画家協会のメンバーが以下のように分担して調査
を行いました。
(調査対象国と調査者)
イギリス:高見沢実(横浜国立大学)
ドイツ:大村謙二郎(筑波大学)
フランス:望月真一(アトリエUDI)
オランダ:笠真希(早稲田大学)
アメリカ:倉田直道(工学院大学)
アジア:佐保肇(佐保計画工房)
調査項目は以下の通りです。
(調査項目)
・主要都市計画職能団体の概要
・都市計画職能及び関連組織の歴史
・都市計画家の役割・位置づけ
・都市計画家職能制度
・関連職能団体
・地方自治体と都市計画専門家
・専門家の研修プログラム
・専門家の人材支援プログラム
・都市計画教育
・その他
私自身はアメリカを担当しましたが、全体の取りまとめも担
当した関係で、各国の各項目に対する現状を比較する機会も
ありました。今日は調査項目をベースに、国別の取り組みの
現状を紹介します。皆さんの議論の参考にしていただければ
と思います。
最初にお断りしておかなければならないのは、私が情報とし
て個人的にもっているのはアメリカの現状であり、その他の
国の具体的な現状については、各調査者の成果を私なりに理
解して使わせてもらっています。そのため、細かい点につい
ては、実感のないところで紹介させていただくことと、もっ
ている情報の範囲での回答になることについて、ご了承いた
だきたいと思います。
日本都市計画家協会での調査は、全体で200ページ程度の
報告書にまとめられています。正式な印刷物にはなっていま
せんが、日本都市計画家協会にリクエストしていただければ
提供できると思います。
■■イギリス
■都市計画職能団体の歴史と概要
職能団体としては、1834年に建築家の職能組織である王
立英国建築家協会(RIBA)が設立されました。1868年
にはイギリス独特の組織である王立公認調査士協会が設立さ
れました。公認調査士は surveyor と呼ばれ、日本の積算士
や測量士とは少し異なっています。
その後も、1883年には環境保健官協会、1886年には
王立公衆衛生協会など、いくつかの専門家組織が設立されま
Ⅱ−5
した。1909年の都市計画法制定のための国会審議の際、
トーマス・アダムス(初代 TPI 会長)が都市計画協会の必要
性を訴え、1914年に都市計画協会(TPI)が設立されま
した。1959年には、TPI が王憲章(Royal Charter)に
より、王立英国都市計画協会(RTPI : Royal Town Planning
Institute)に改編されました。
RTPI は、都市計画家の職能組織として広く社会的にも認め
られています。RTPI は登録チャリティー団体という位置付
けにもなっています。Royal Charter には、RTPI の目的「公
共の利益を守るために都市計画の科学と技芸を向上させるた
めの組織」
、RTPI が行使できる21項目の権限、定款と規則
が明記されています。RTPI にはいくつか常設委員会と支部
があり、年間予算は7億2000万円で、予算規模のかなり
大きな団体です。会員数は約18000人、そのうち一般会
員(MRTPI)が約14000人です。一般会員以外にも、高
度な能力と都市計画に対する主要な貢献があると認められた
人には、フェロー(FRTPI)という特別会員資格が与えられ
ています。一般会員のうち約76%が公的機関、約20%が
民間、約4%が大学やボランタリーの活動組織に所属してい
ます。
■都市計画家職能制度
RTPI は、都市計画の職能組織であると同時に資格組織でも
あり、
一般会員は職能資格者という位置付けになっています。
Royal Charter に基づく定款でその資格が規定されており、
RTPI が RTPI 認定の学位又はディプロマ・コースの修了、
2年以上の実務経験という資格要件を審査して planning
qualification の認証を行っています。
■地方自治体と都市計画専門家
プランナーの約3/4は公的機関で仕事をしているため、多く
の都市計画業務は自治体内部の専門家が行い、特別な技術や
経験を要する業務は民間コンサルタントにも発注している状
況です。そのため、民間コンサルタントは主に民間の仕事を
行っています。
国の都市計画関連予算は、
「チャレンジファンド」の形で、事
業遂行能力のある主体(自治体、開発公社、NPO など)に
コンペ方式で配分されています。民間コンサルタントへの委
託は入札が基本です。
■専門家の研修プログラム
継 続 的 職 能 開 発 ( CPD : Continuing Professional
Development)プログラムに力を入れています。RTPI の職
能規定の中にも、2年間に最低50時間以上の CPD トレー
ニングプログラムを受けることが義務付けられています。
■専門家の人材支援プログラム
日本都市計画家協会での調査目的の一つに、職能組織が計画
分野の現場に対する支援をどのような形で行っているかを把
握することがありました。
イギリスでは、1972年にイギリスの伝統的組織である田
園計画協会(TCPA)がプランニングエイド活動を開始しま
した。1975年には RTPI もプランニングエイド活動を開
始しています。活動内容は、RTPI 支部が、支部のイニシア
ティブによりプランニングエイド・ボランティアネットワー
クを立ち上げる際の支援、また、その活動に対する公的補助
金、本部からの補助金の投入です。RTPI の場合、プランニ
ングエイドはボランティア活動であり、行政プランナーが勤
務時間外の時間を使って行っている点が特徴的です。プラン
ニングエイド活動はCPDの一部にも位置付けられています。
■都市計画教育
RTPI が専門教育機関を認定しています。イギリスの都市計
画教育は長い歴史があり、1909年にリバプール大学に最
初の都市計画プログラムができました。その後ロンドン大学
でも都市計画プログラムができ、現在は24大学に都市計画
プログラムがあります。その24大学が RTPI の認定校とな
っており、そのうち1校は香港、18大学は学部と大学院の
両方をもっています。また、イギリス連邦の関係で、オース
トラリア、ニュージーランド、カナダと相互認証制度をとっ
ています。また、EU 指令による申請機会もあります。
アジアの国々はヨーロッパやアメリカとは事情が異なるため、
並列して説明できませんが、シンガポールとマレーシアは
RTPI の支部としてスタートし、現在は独立した形で運営さ
れています。そのため、シンガポールとマレーシアの都市計
画職能組織は RTPI と類似しています。
1970年頃、イギリスでは都市計画に対する批判や議論が
なされ、2004年以降、都市計画の力が弱くなったという
現状があります。都市計画や都市計画の職能自体が全く変わ
ってしまったわけではありません。しかし、2001年から
RTPI では、都市計画の新しいビジョンについての様々な議
論がされており、これが教育プログラムにも影響しているそ
うです。具体的には、イギリスの場合、都市計画が土地利用
計画に限定される傾向があったため、もう少し空間計画に広
げていこうという動きがあったようです。これまでのフィジ
カルだけだったものにノンフィジカルなものまで含めた都市
計画のビジョンに変化してきており、2004年にニュービ
ジョンが出されました。しかし、このニュービジョンはまだ
議論の過程だそうです。教育でも2004年のニュービジョ
ンに基づいた新しい制度も開始されています。その中で、批
判的思考(critical thinking)
、空間、場所、行動(action)
と介入(intervention)の4点に力を入れています。
RTPI には1996年に若手プランナー育成のための
「Young Planners Panel」が設立され、35歳以下のプラン
ナーによる支部活動も行われています。
■■ドイツ
■都市計画職能団体の歴史と概要
1969年に都市・地域・国土計画連合(SRL : Vereinigung
für Stadt-, Regional- und Landesplanung e.V.)が、197
5年に IfR(Informationskreis für Raumplanung)が設立
されました。
SRL は様々な分野のプランナーが集まって作られました。会
員数は約2000人です。SRL は自発的なプロジェクトグル
ープ活動や政策提言などの活動が行われています。会員の専
門分野は都市計画、地域計画、国土計画、空間計画、交通計
画、ランドスケープ、建築などとなっています。IfR の会員
数は1700人です。IfR も自発的な活動が中心になってお
り、12のワーキンググループと、17の地域支部がありま
す。
■都市計画家職能制度
ドイツは他国と異なり、建築と都市計画の境界が明確には分
けられていません。建築家の職能の中にプランニングの職能
も含まれています。建築家は各州の建築家法に位置付けられ
ています。建築家にも、建築家、インテリアアーキテクト、
ランドスケープアーキテクトの3種類があります。そして第
4 の自立的職能グループとして都市プランナーが建築家法の
Ⅱ−6
中に加えられています。つまり、都市プランナーは各州の建
築家協会に登録されており、正式に職能として都市プランナ
ーと名乗れるのは、建築家協会に登録されている都市プラン
ナーということです。
現在、ドイツ連邦全体で約2100人の都市プランナーがい
ます。他国よりも少なく、選ばれた人達という印象を受けま
す。しかし、日本の都市計画家協会の会員数は500人程度
とさらに少なくなっています。
プランナーの活動分野や社会的責任・倫理については、各州
建築家協会の規定に記されています。しかし、建築家協会に
登録されたプランナー以外にも、プランナーの仕事をしてい
る人はいます。特に、自治体の都市計画関連分野で勤務する
上級技術系公務員制度の試験を通ったプランナーは、建築家
協会の会員とは別にいるそうです。
■地方自治体と都市計画専門家
都市プランナーの職場の大半は基礎自治体である市町村です。
しかし、自治体間、自治体と民間、自治体と大学間などでの
プランナーの移動は多く、
人的資源の流動性が高いようです。
■専門家の研修プログラム
都市計画リファレンダリアート(上級公務員研修制度)を受
けて試験に合格した人達には、上級技術系公務員資格が与え
られています。修習制度の応募資格は大学で都市計画関連の
学位を取得していること、年齢上限32歳であることとなっ
ています。年齢上限がどのような意味を持っているのか分か
りませんが、それ以上年をとった人は公務員になれないとい
うことかもしれません。1965年から2001年の35年
間に、1524人が都市計画部門の上級公務員試験に合格し
ています。
■■フランス
■都市計画職能団体の歴史と概要
フランスには多くの都市計画に関連する組織があります。そ
のため、どの組織が職能団体を代表しているのか、どの組織
とコンタクトを取れば最も情報が得られるかということで、
調査を担当された望月さんは苦労されたようです。
1911年にフランス都市計画家協会(SFU : Société
Française des Urbanistes)が設立されました。1993年
に都市計画専門家協会(Association Profession Urbaniste)
が暫定設立されました。これは、認定プランナー制度につな
げていく前段の組織づくりの一つだと思います。1996年
に都市計画職能組織としてフランス都市計画家評議会
(CFDU : Conseil Français des Urbanistes)が設立されま
した。CFDU は、EU でヨーロッパ都市計画家評議会(CEU :
Conseil Européen des Urbanistes)が設立されて、ヨーロッ
パ全体で職能認定を行おうという動きの中で、フランスに設
立された組織です。SFC は CFDU を立ち上げるための主要
な組織ともなりました。
主要な職能団体は SFU と CFDU です。SFU は、民間の都
市計画家が中心になって設立された組織ですが、会員数は4
08人と少なく、SFU が都市計画組織を代表しているわけで
はありません。
■都市計画家職能制度
フランス独自の職能制度はありません。しかし、ヨーロッパ
全体でプランナーの資格認定制度をつくろうという動きの中
でできた CFDU に加え、SFU、APUCT、AUDE、SFU、
FNAU、FNC PACT-ARIM などの団体とフランス全国市町
村長会の合意のもとに、1998年に都市計画資格事務所
(OPQU)が開設されました。OPQU はフランス設備省と
協定を締結し、EU が策定した「ヨーロッパ都市計画憲章
(CEU:Charte Européenne des Urbanistes)
」に基づく、都
市計画の認定制度の受け皿にもなりました。現在のヨーロッ
パ都市計画憲章に基づくヨーロッパ都市計画評議会のメンバ
ーは、フランスが424人、ベルギーが734人、デンマー
クが424人、オランダが744人、イギリスが17875
人と、圧倒的にイギリスが多くなっています。しかし、ドイ
ツなどは全く参加しておらず、全ての EU 諸国にこの制度が
受け入れられているわけではないようです。
■地方自治体と都市計画専門家
地方自治体と都市計画専門家の関係として、フランスでは都
市計画アジャンス国家連盟(FNCAUE)という特徴的な組
織が設けられています。FNCAUE は、自治体外部に主に都
市圏レベルで設けられている組織で、自治体に代わって計画
を行っています。フランスでは首長が変わると都市計画も大
きく変化していたため、都市計画をできるだけ政治から独立
させて都市計画の継続性と中立性を担保する目的で自治体外
部に設けられた組織です。FNCAUE は、公的な性格をもっ
ていますが、民間コンサルタントや第三セクター、公社的組
織など法人格は様々あるようです。
県レベルの専門家のオープンな協会として、建築・都市計画・
環境評議会(CAUE)があります。
コンサルタントの選定は様々な形で行われており、その対象
は、民間コンサルタントや FNCAUE、CAUE、第三セクタ
ーなどで、様々な組織が行政計画に協力しています。
■専門家の研修プログラム
長期研修として、大学などの高等教育機関や関連領域の公的
機関による研修、専門家育成民間企業による職業教育研修が
行われています。また、短期研修として、数日の研修やセミ
ナーが行われています。
■都市計画教育
バカロレア(大学入学資格)を取得後4年以上の専門家とし
て都市計画に関わる基本的な専門知識を習得する基礎教育を
受けて、その上に、大学・高等教育専門学校における専門高
等教育があるという第3サイクルの資格という形になってい
ます。
■その他
その他のフランスの特徴としては、プランナーと市民や行政
の関係が日本とは大きく異なるという点です。日本のように
立場と責任が不明確な住民参加ではなく、役割が明確化して
います。特に行政は行政責任が明確化されています。一方、
住民は発言権利が確保されています。しかし、最近の日本で
よく見られるように中に入って計画をつくったりはしていま
せん。行政と住民の双方向のコミュニケーションを成立させ
る公的審査と法的コンセルタシオンがあり、法的にも行政責
任と住民の発言権利が成り立っています。
■■オランダ
■都市計画職能団体の歴史と概要
1917年にオランダ都市計画・住宅協会(NIROV :
Nederlands Instituut voor Ruimtelijke Ordeing en
Volkshuisvesting)が設立されました。その後、1934年
にBNS設立、1995年にBNP設立など、様々な組織が
設立されてきました。1998年には BNS と BNP が合併
Ⅱ−7
してオランダ都市デザイナー・プランナー組合(BNSP :
Beroepsvereniging van Nederlandse Stedebouwkundigen
en Planologen)が設立されました。
NIROV は、都市計画家に加え建築家、ディベロッパー、一
般市民を含む幅広いメンバーによって構成された非営利組織
です。会員数は約4000人です。一方、BNSP は NIROV
よりも職能組織的な性格が強く、都市計画家と都市デザイナ
ーだけがメンバーになれます。
会員認定審査も行われており、
行動規範をもった職能団体です。会員数は約800人、企業
約65社です。これは協賛企業的なものだと思います。
NIROV と BNSP は完全に別の組織ではなく、BNSP は
NIROV の中の専門組織的な位置付けにあります。これはア
メリカの APA と AICP の関係にも類似しています。
■都市計画家職能制度
BNSP による都市計画家の認定制度には、指定教育機関の学
位審査と実務経験の審査があります。現在、認定専門家は約
800人、そのうち都市デザイナーが約500人、都市計画
家が約300人となっています。また、認定専門家のうち1
37人が地方自治体に勤務しており、オランダの場合は自治
体に勤務している人は比較的少ないという印象を受けます。
ドイツと同じく、建築家の資格法に基づいて、建築家の登録
制度があり、都市デザイナーも建築家登録制度の中に位置付
けられています。
今日は都市計画プランナーの職能ということで、建築家の職
能についてはあまりお話していませんが、
建築家については、
現在も国際建築家連合(UIA)で国際的な教育基準の議論が
されています。建築分野で先行して、ヨーロッパ全体での相
互認証や国を越えての業務委託などの円滑化が進められ、そ
れに便乗する形で都市デザイナーも建築家の登録制度の中で
そこに加わっていくことが予想されます。
■地方自治体と都市計画専門家
自治体内専門家は「良き委託者」という位置づけになってい
ます。
アムステルダム市の都市計画局の職員300人のうち、都市
計画家が約100人、都市デザイナーが約100人となって
います。自治体内に約200人の専門家がいるということは
驚きましたが、アムステルダム市は例外で、もう少し小さな
都市、地方都市では、内部と外部の専門家が協働で進める場
合が多く、外部からの出向スタッフが自治体内で仕事をする
ケースが多いそうです。
業務委託は、業務委託に関する規則(RVOI)に基づいて行
われています。
外部委託の多くは指名入札で行われています。
■専門家の研修プログラム
専門家の研修プログラムは、様々な職能組織、専門家組織、
大学によって行われており、特筆すべきプログラムはありま
せん。
■専門家の人材支援プログラム
専門家の人材支援プログラムについても特筆すべきプログラ
ムはありません。都市プランニング関連の組織が共同で、都
市デザインや都市計画に関わる機関や専門家の目録を作成し
提供しています。
■都市計画教育
教育については、大学院、大学、高等専門学校、専門学校の
4つのレベルで専門家教育が行われています。オランダでは
都市デザインは工学系、都市計画は文系というように都市デ
ザインと都市計画が明確に分けられています。近年、5年制
のプロフェッショナルの大学を3年制の学部と2年制の大学
院に分割する動きもあります。BNSP が13校の教育課程を
認定しています。
■■アメリカ
■都市計画職能団体の歴史と概要
1917年に米国都市計画家協会(AIP)が設立され、19
34年には米国計画行政官協会
(ASPO)
が設立されました。
1978年には、AIP と ASPO が合併し、米国都市計画家協
会(APA : American Planning Association)に再編されまし
た。
APA は、職能団体と学会の両方の機能をもっている非営利の
公益法人です。District of Columbia Non-Profit Corporation
Act に準拠した定款及び会則によって運営されています。現
在、会員数は約33000人です。そのうち自治体職員が約
65%で、その他は民間プランナーや自治体内の委員会や市
議会の市民委員、研究者、学生などで構成されています。APA
会員には資格審査がないため、希望すれば会員になれます。
APA には46の地方支部と19の専門部会があります。専門
部会は時代の要請に応じて増えてきています。APA の内部組
織として、米国認定都市プランナー協会(AICP)がありま
す。会員数は約14000人で、APA 会員の半分弱が認定の
都市プランナーになります。会費は一般会費に加えて、部会
のメンバーになると部会費もかかります。メインオフィスは
シカゴにあり、専従のスタッフがワシントン D.C.とシカゴの
両方にいます。APA は大きな組織であるため、幅広い活動を
しています。
アメリカの地方自治体内の委員会や審議会には、専門家だけ
ではなく市民の代表としての市民委員が多数参加しています。
専門家が作業していく部分も多くありますが、市民委員は諮
問するだけではなく政策立案者にもなります。しかし、市民
委員は都市計画についての知識や素養がないため、市民委員
の教育にも力を入れています。毎年行われている National
Planning Conference にも、プランニングコミッショナーの
ための部会がいくつか設けられています。
連邦政府や州政府においてプランニングに関する法律を通す
ロビー活動などにも力を入れています。近年は、クリントン・
ゴアの政権時に策定された交通に関連する時限立法「総合陸
上交通効率化法(ISTEA)
」や「21世紀交通公正法(TEA
21)
」
をブッシュ政権でも継続していくことに力を入れてき
ました。このように、APA は政治的にも立場を明確にして積
極的な活動しています。
プランニングを広く社会的に認知してもらうための広報啓発
活動もしています。
学会からの委託研究や自主研究も行われています。
出版は、啓発活動や活動財源にもなっています。出版社
Planners Press を内部に設置し、約700冊の都市計画関連
図書が出版されています。専門家を対象とした月刊雑誌
「Planning」では、アメリカにおける様々な計画関連の動き
を紹介しています。季刊研究ジャーナルとしては「APA
Journal」が出版されています。その他にも、
「Zoning News」
や法律関係の「Land Use Law & Zoning Digest」
、政策立案
者となる委員会メンバーを対象とした「Commissioner」な
どのニュースレター的なものも出版されています。また、そ
の時代の要請で求められている特定テーマに焦点をあてた報
Ⅱ−8
告書「Planning Advisory Service (PAS) Report」や、その簡
易版としての「PAS Memo」も出版されています。
会議や教育・研修では、年一回、5日間に渡って行われる全
米都市計画会議(National Planning Conference)がありま
す。民間、行政、委員会のメンバー、学生も含めて、1回の
会議に5000人以上が参加しています。開催都市は数年前
から決まっており、会議の専従スタッフはその年の会議が終
わると、すぐ次の日から翌年の準備を始めています。昨年の
APA 発足25周年大会では、APA の会長は「都市計画がこ
れほど社会の中で認められて活動が活発になったことがない。
都市計画の時代である。
」と誇らしげに言われていましたが、
これはあながち誇張ではないという実感すら受けるほど、会
議への参加者も増え、活動も活発になってきています。会議
では、ワークショップや部会が1時間きざみで併行して約1
0本動いています。人気のある部会は事前登録で定員オーバ
ーになっています。全体の参加費約5万円に加え、それぞれ
のワークショップや部会でも参加費をとっています。
会議以外の情報提供としては、
「PAS Report」が有効に利用
されています。月刊雑誌「Planning」でも、自治体でこのよ
うなポジションの専門家を求めているという広告も出ていま
す。また、インターネットを使った専門家の紹介サービスや
就職情報提供サービスなども行われています。このように、
専門家のジョブマーケットも活発であるという印象がありま
す。また、National Planning Conference では、学生の就職
についての情報交換や、受け入れ側と学生の双方のマッチン
グを行うブースも設けられています。
顕彰制度では、全米都市計画賞(National Planning Awards)
として、10程度の分野のグループが表彰されています。こ
れは National Planning Conference のイベントの一つにも
なっています。
部会活動としては、現在以下の19部会があります。
・都市計画と運営部会(City Planning and
Management)
・経済開発部会(Economic Development)
・環境・自然資源・エネルギー部会(Environment,
Natural Resources, and Energy)
・連邦政府関連計画部会(Federal Planning)
・都市計画におけるゲイとレズビアン部会(Gays and
Lesbians in Planning)
・住宅とコミュニティ開発部会(Housing and
Community Development)
・情報技術部会(Information Technology)
・広域圏と政府間関連計画部会(Regional &
Intergovernmental Planning)
・国際部会(International)
・ニューアーバニズム部会(New Urbanism)
・計画と法律部会(Planning and Law)
・都市計画と黒人社会部会(Planning and Black
Community)
・都市計画と女性部会(Planning and Woman)
・民間業務部会(Private Practice)
・リゾートと観光部会(Resort and Tourism)
・小都市と田園計画部会(Small Town and Rural
Planning)
・交通計画部会(Transportation Planning)
・アーバンデザインと保存部会(Urban Design and
Preservation)
・土着的コミュニティ計画部会(Indigenouse Planning)
いくつか特徴的な部会もあります。
「都市計画におけるゲイと
レズビアン部会」は長い歴史をもつ部会です。カリフォルニ
ア大学では、学生がこのような科目を設けて欲しいというリ
クエストをすると、ある条件を満たした場合、新しい科目と
して設けられるというシステムがあり、私がカリフォルニア
大学大学院にいた時にも、都市計画の授業として「ゲイとレ
ズビアンのコミュニティのための計画」という授業が新たに
設けられました。このような部会は日本とアメリカの社会の
違いを表しているようにも思います。その他にも、都市計画
と女性部会、都市計画と黒人社会部会など特徴的な部会があ
ります。アメリカンインディアンなどのための土着コミュニ
ティ部会もあります。
ニューアーバニズム部会も特徴的です。
私はピーター・カルソープのニューアーバニズムに関する本
を翻訳しましたが、ニューアーバニズムという言葉が登場し
て10年くらい経っていました。当時は建築家を中心に古き
良き時代の伝統的なコミュニティを再評価しようというとこ
ろからスタートしました。現在でも、そのような感じはあり
ますが、一部には建築などのデザインスタイルを表すという
イメージもあります。そのような中で、もう少しニューアー
バニズムの提唱しているプランニングの側面に焦点をあてて、
ニューアーバニズムの理念を発展させていく必要があるので
はないかということでこの部会ができました。最初は一部の
動きでしたが、APA の一つの部会となったことは少し驚きで
した。National Planning Conference では、ニューアーバニ
ズムは当初提唱した人達の手を離れて、非常に広いところで
議論されています。ワークショップや分科会の約1/4は、何
らかの意味でニューアーバニズムに関連しており、現在、頻
繁にプランニングの中でニューアーバニズムが取り上げられ
ています。
■都市計画家職能制度
APA の中の AICP が認定試験を行っています。この認定試験
は日本でも受けることができます。受験資格は、APA 会員で
あり、AICP の認定大学の都市計画プログラムを修了してい
る人となっています。認定試験は専門家の責務や倫理を問う
問題が多く含まれています。具体的には、色々なシチュエー
ションを設定して、政治家がこのように言ってきた時にこの
ように答えた、このような圧力があったときにこのように行
動した、どれが正しいかという問題などです。
「専門家の責務と倫理」綱領には、公共に対するプランナー
の責務、
クライアント及び雇用者に対するプランナーの責任、
専門家及び職能仲間に対するプランナーの責任、プランナー
自身に対する責任など、公共の利益に対する奉仕と社会的公
正やプランニングは公共性に立脚して行われなければならな
いということが詳細に述べられています。また、公共の利益
への奉仕については所属に限らない、民間コンサルタントで
働いていようが自治体内で働いていようが、プランナーとし
ての責務は全く共通しているということを読み取ることがで
きます。
各国に共通して、職能組織や認定制度を成り立たせている根
幹には、確かに専門的な知識や能力もありますが、専門家の
責務と倫理に対する定款と規定があると感じました。
■都市プランナーの実態
●ppt38
Ⅱ−9
プランナーの実態としては、平均年齢は43歳で、1/3が女
性です。私がカリフォルニア大学大学院にいた時、建築と都
市計画とランドスケープの3つの学科の男女比は、建築が男
2:女1、都市計画が男1:女1、ランドスケープが男1:
女2でした。
●ppt39
学歴では、master’s / planning が43%、master’s / other
が19%、bachelor’s / planning が10%となっています。
日本の大学では修士課程と博士課程の位置付けが曖昧である
のに対して、アメリカでは修士過程はプロフェッショナルな
教育過程、博士課程は研究者と位置付けが明確化されていま
す。
●ppt40
プランナーが従事している専門分野は、日本で言うまちづく
りにあたる community (re)development が49%と最も多
く、その次に land-use or code enforcement が43%、
transportation planning と environment / natural resource
が26%と続いています。日本では交通計画は土木分野とい
うイメージが強いのですが、アメリカでは土木分野の交通は
エンジニアリングで、交通計画はプランニングスクールの方
でやっており、交通の中でもすみ分けされています。それ以
外にも、economic planning / development や urban design
が21%と多くなっています。自治体では市民参加のスペシ
ャリストも仕事をしていますが、彼らの多くは都市計画では
なく、コミュニケーションや広報などをバックグラウンドに
もっています。また最近は、従来のイメージでは行政に相対
して、市民側で活発に活動していたコミュニティアクティビ
スト(市民活動家)が、行政の中に入って、行政と市民との
橋渡しをしている状況も見られました。
●ppt41
プランナーの平均経験年数は13年くらいですが、20年以
上の人も3割程度います。
●ppt42
所属は、民間コンサルタントにあたる consulting firm が2
3%です。それに other の9%を加えた32%が民間で、残
りの68%は公的機関と思って良いと思います。other には
NPO などの組織も含まれています。NPO の活動をしている
人達が必ずしも AICP の認定を受けたプランナーではないと
いうことで、この表に表れていないのかもしれませんが、私
が学生の頃と違い、学生の間では NPO の人気が高いそうで
す。National Planning Conference で会う人も、NPO の人
達が多いという実感も受けました。
●ppt43
所得については、プランナーの平均年間所得は約60000
ドル(720万円)です。日本人の平均所得が上がってきて
いる中で、日本のプランナーの平均所得を考えると、アメリ
カの方がプランナーが社会的に認められているという感じが
します。AICP のメンバーは平均年間所得が5000ドル高
く、約65000ドルという状況です。民間コンサルタント
と公的機関を比べると、民間コンサルタントの方が約100
00ドル高いという状況です。
■地方自治体と都市計画専門家
AICP 会員の約2/3が自治体職員です。自治体内部の専門家
が多くの都市計画業務を執行しており、特別な技術や経験を
要する業務は外部に発注しています。コンサルタントの選定
は指名選定、有資格者リストからの選定、資格審査(RFQ)
による選定、技術提案書審査(RFP)による選定、RFQ と
RFP を組み合わせた2段階の選定が行われています。アメリ
カの場合は、
価格で選ぶ入札は基本的には行われていません。
■専門家の研修プログラム
継続的職能開発プログラム(CPDP)が行われています。
CPDPではAICPの倫理規定をより深く理解していくという
ことをやっており、3年間に最低60時間相当以上の単位を
取得した人には、修了証書が授与されています。
■専門家の人材支援プログラム
APA は人材支援プログラムを行っていませんが、建築家協会
(AIA)が R/UDAT(Regional & Urban Design Assistant
Team)という歴史のあるプログラムを行っています。要請が
あった場合、課題にあわせて、AIA メンバーに APA などの
外部のメンバーも含めた専門家チームを編成して地方に出か
けていき、1週間弱のシャレットと言われる集中的なワーク
ショップ、地域課題の診断、簡単な処方箋を行うというプロ
グラムです。
地方都市でプロジェクトをスタートさせる際に、
R/UDAT がきっかけとなって進められる場合も多くありま
す。R/UDAT は大きな成果をあげており、最近ではイギリス
でも同様の活動が行われています。
■都市計画教育
AICP 内の都市計画関連認定委員会と大学都市計画学部協会
(Association of Collegiate Schools of Planning)
が共同で基
準を設け、大学の都市計画専門課程のプログラムを都市計画
学位認定プログラム(Accredited University Planning
Degree Programs)として認定しています。全米で64認定
校があり、Planning School と呼ばれる専門大学院が中心と
なっています。
Planning School へ行く人のためのガイドブックも市販され
ています。ガイドブックには、奨学金の状況、どのような先
生がおり、どのようなディグリーを出しているかなど様々な
大学の内容が掲載されています。また、ガイドブックの前半
には、Planning School を選ぶ視点、プランニングとは何か、
プランニングを仕事として選ぶ場合どのような道があるか、
などが書かれています。さらに、都市計画教育の目標が「知
識」
「技術」
「価値観と倫理観」の3つに分けて示されていま
す。
「知識」には、都市の構造と機能、都市計画史、都市計画
理論、計画の策定と政策の実行があります。
「技術」には、計
画課題の抽出・整理、実地調査の設計・実施方法、コンピュ
ータ解析等の課題・調査の分析手法、報告書作成・報告・解
説・ビジュアルプレゼンテーション、合意形成手法、調整・
折衝手法があります。
「価値観と倫理観」には、社会的公正・
社会正義、効率性、経済的福祉、市民参加、自然資源の保全、
多様な視点の主義と尊重があります。
■カリフォルニア大学バークレー校環境デザイン学部地域
計画学科の例
最後に、一つの例として、私自身が通っていたカリフォルニ
ア大学バークレー校環境デザイン学部地域計画学科の内容を
簡単に紹介します。
カリフォルニア大学では、建築プログラムが最も早く、その
次にランドスケーププログラムがつくられ、1948年に都
市計画プログラムがつくられました。アメリカで、建築・都
市の分野で評価をされてきたハーバード大学やペンシルバニ
ア大学などでもこの時期に都市計画学科が設立されました。
カリフォルニア大学では、1959年に建築、ランドスケー
プ、
都市計画の3学科が統合され、
環境デザイン学部
(College
Ⅱ−10
of Environmental Design)というプロフェッショナルスク
ールが発足されました。
建築もランドスケープも都市計画も大学院がプロフェッショ
ナルディグリーを出しており、学部は一般のディグリーを出
しています。学部にも専門関連科目という形で都市計画に関
連した基礎的科目が置かれています。日本では都市計画は、
建築や土木と学部レベルで直接つながっているところがあり
ますが、
アメリカの都市計画の大学院には、
経済学や社会学、
法学、文学、コンピューターサイエンスなどの様々なバック
グラウンドの学生がいます。私が Planning School にいた時
には、都市デザインのジョイントプログラムを含めても、建
築をバックグラウンドにした人は10%程度しかいませんで
した。修士号の名称は大学ごとに異なりますが、カリフォル
ニア大学では、都市計画修士(M.C.P. : Master of City
Planning)が最低2年間の修学期間で授与されます。修士を
修了するための要件は、単位取得に加え、論文若しくは実務
的な報告書であるプロフェッショナルレポートの提出となっ
ています。カリキュラムは、大きくコア・カリキュラムと専
修コースの2つがあります。
コア・カリキュラムは、以下の通りです。
・都市計画プロセス
・都市計画史、都市計画制度、都市形態・デザイン論、
計画行政、から1科目
・都市計画手法概論、定性的調査手法、計画における定
量解析、都市・地域分析手法、プログラム計画と評価、
都市環境論、から2科目
・公共セクター経済学、都市の土地経済学、応用ミクロ
経済学、政治経済と計画、から1科目
・演習・実習科目から1科目
都市計画には経済学が大きく関係していますので、経済的な
科目も設けられています。
専修コースはコアプログラムよりも細かい専門分野を選択す
るコースです。専修コースは以下の通りです。
・フィジカル・プラニング(土地利用計画、都市デザイ
ン、環境計画)
・住宅政策及び計画
・地域都市開発計画
・都市サービス計画(保健衛生、教育、都市サービス、
就業機会などの公共的な社会サービスの評価、システ
ム及びプログラムの計画)
・交通政策及び計画
・プロジェクト開発(公共や民間の開発プロジェクト等
の市場調査、事業計画、不動産開発計画)
・コミュニティ開発
カリフォルニ大学には、これらのカリキュラムに加えて、学
際的なカリキュラムもあります。建築、都市計画、ランドス
ケープの3学科の間に設けられた学際スタディ(IDS)は、
どの学科からも受けに来ることができます。学部内、学部間
のジョイントプログラムもあります。
・建築学科と都市地域計画学科のジョイントプログラム
である都市デザインプログラム
・都市地域計画学科と造園学科のジョイントプログラム
である都市デザイン・環境計画プログラム
・建築学科と土木学科の構造工学専攻
・都市地域計画学科と法律学部 のジョイントプログラム
・都市地域計画学科と公衆衛生 のジョイントプログラム
・都市地域計画学科と土木学科の交通工学専攻
これらのジョイントプログラムでは2つのディグリーを短期
間にもらうことができます。
カリフォルニア大学の場合、建築、都市計画、ランドスケー
プのいずれかの修士をもっている人が、さらに1年間やるこ
とによって、アドバンスプロフェッショナルディグリーとし
て都市デザイン修士(Master of Urban Design)が設けられ
ています。内容は少し異なりますが都市デザイン修士と近い
形で、ハーバード大学では従来の PHD とは異なる形でドク
ターオブデザインが設けられています。
■■■質疑応答
三輪:
倉田先生からヨーロッパ及びアメリカの都市計画の職能と教
育について紹介していただきました。これまで我々が議論し
てきた内容に深く関わる部分も多くありました。
これまで、特別委員会で都市計画に関わる職能と教育につい
ての議論を数回に分けて行ってきました。その中間まとめの
資料をお配りしています。
3つの枠組みの中で議論を組み立ててきました。1つ目は、
社会的要請のもとで今後の都市計画のあり方をもっと考えて
いかなければならないのではないかという都市計画の再定義
に関わる内容です。2つ目は都市計画家の役割、都市計画プ
ランナーの職能、その職能を確立していくための仕組みやイ
ンセンティブとしてどのようなものが考えられるか、そこで
どのような問題があるかという現状認識や提案です。3つ目
は、これまで蓄積されてきた都市計画に関わる技術をいかに
継承していくかという人材育成、教育の問題についてです。
質問や意見を出していただきながら、議論を深めていきたい
と思います。
■■日本で都市計画を職能として位置づけていくためには
何が必要か?
瀬田(大阪市立大学)
:
日本の状況を考えると、日本での都市計画の職能は、これま
では技術士などにあたるのかと思います。現在も検討されて
いるかもしれませんが、一時期、都市計画士という職能が検
討されていたと思います。今後、日本で都市計画を職能とし
て位置付けていくために何が必要なのでしょうか。
倉田:
全国的に、社会的には都市計画やまちづくりのニーズが大き
くなっているという実感があります。しかし、一方で、業務
としては冬の時代で、皆忙しくはしていますが、ボランティ
アに近い状況で、なかなか生業として成り立たない状況にあ
ります。
資格制度ができれば問題が解決できるかというと、そうでも
ないと思います。市民参加が悪いわけではありませんが、日
本でまちづくりや都市計画のニーズが大きくなっているにも
関わらず、業務としては必ずしも社会的に成り立っていない
理由のひとつには、市民参加が活発になる中で、ボランティ
ア的なところでまちづくりが大切だという方向に動いていっ
ている現状があると思います。そのため、専門家が自分達の
立場を確保できないでいるというのが現状だと思います。行
政もハコモノ的なものでなければボランティア的なところで
やるまちづくりで良いのだというところもあるように思いま
Ⅱ−11
す。
特別委員会の中間まとめ資料にもありますが、成長期のプラ
ンニングに対し、縮小時代における都市計画はどうかという
ことだと思います。都市計画の中で、現在関心の集まってい
るものは、先ほどニューアーバニズムという言い方をしまし
たが、成長管理や smart growth、制御していくというよう
な修復型や更新型にあるのだと思います。これまでの郊外に
全く新しい開発をしていくグリーンフィールドのディベロッ
プメントから、都心部の産業用途や工業用途で使われていた
土地を上手に活用していくブラウンフィールドのディベロッ
プメントへと転換してきているという感じがします。
日本も、市民を含んだまちづくりや都市づくりの活動と併せ
て、
その中で専門家の役割を明確に位置付けていかなければ、
経済全体が縮小傾向になると削られていくものの中に、プラ
ンナーが巻き込まれる状況になってしまいます。現在の日本
は相当深刻な状況だと実感しています。
■■アメリカやヨーロッパでの行政内プランナーの位置づ
けは?
中農(日本工科専門学校)
:
都市計画家の多くが行政内部にいるということ、協会メンバ
ーの7割近くが行政にいるということは印象的でした。日本
では、行政で都市計画を担当する職員は土木を勉強してきた
方が大半で、建築を勉強してきた方が都市計画を担当するの
は稀でした。また、役所は3年で人事異動がありますので、
行政プランナーが育つ環境ではありませんし、役所自身もそ
のようなスタッフを求めていないという行政の実態があると
思います。アメリカやヨーロッパで、行政内のプランナーの
位置付けはどのようになっているのでしょうか。日本のよう
に人事異動でまわされるようなことがなく、しっかりと確立
された位置付けがされているのでしょうか。
倉田:
日本の行政内の都市計画やまちづくりを担当する職員との大
きな違いは、まず役所に入るときにあると思います。日本で
も技術職で入るということにはなっていますが、アメリカや
ヨーロッパではもう少し細かく専門性を重視して雇っていま
す。
1つの役所に30年以上いる人もいますし、
その場合も、
ポジションは経験によって上がったりはしていますが、基本
的に扱う領域は変わっていないそうです。これは、どこの自
治体も同じだと思います。
APA の月刊雑誌「Planning」には、このようなプランニン
グの、このようなポジションで、このような仕事をする人を
いくらでという募集の仕方をしています。このように、受け
入れ側の人的ニーズとそれに応募する人の関係が明確になっ
ています。そのため、日本のように役所の中での大きな人事
異動はありません。一方、役所と民間の間での人的流動性は
高く、民間でプランニングしていた人が役所に入る場合や、
役所にいた人が民間コンサルタントで働く場合などは多く見
られます。最近のアメリカの傾向として感じていることは、
元行政職員が NPO にいるということです。役所との関係を
つくって NPO に入り、役所側も地域にネットワークをもっ
ている NPO を上手に利用しています。
三輪:
特別委員会でも民間と行政、大学など職域間での人的流動化
の必要性が議論されていたところです。
倉田:
今言われたように、大学との関係もあります。民間コンサル
タントや民間のプランナー、役所のプランナーが大学に来る
場合も多く見られます。
■■APA 会員はどのような人が増えているのか?自治体内で
の専門性と教育の多様性との関係は?
佐藤:
1点目は、APA 会員が増えているということでしたが、分野
的に拡大したために増えているということなのでしょうか。
また、自治体の職員が多いということでしたが、行政のやる
ことが増えてくることによって、会員も増えてきているので
しょうか。そのような実態の面をお伺いしたいと思います。
2点目は、自治体内ではある程度専門職が固定されていると
言われましたが、一方、講演ではバックグラウンドを問わず
に都市計画の教育があると言われていたと思います。そのあ
たりが整理しづらいため、もう少しお話を伺いたいと思いま
す。
倉田:
1点目は、データ的におさえていないため印象で回答させて
いただきますが、都市計画やまちづくりの活動が広く浸透し
て、関心を持つ人が増えてきているということもあります。
また、自治体内の委員会や審議会にはプロでない市民委員が
多数おり、National Planning Conference には市民委員だけ
のためのセッションが相当設けられており、そこにも多くの
人が参加していることを考えると、市民委員のような人がか
なり増えてきているのではないかと思います。2点目の質問
に関係しますが、勿論、分野的にも日本の都市計画よりも幅
が広いという印象はあります。大学院の教育も幅が広く、経
済学は都市計画の基礎科目になっており、経済学をバックグ
ラウンドにもつ人が多いという印象も受けます。また、都市
計画は具体的な形になっていく時には制度に置き換わってい
く場合が多いため、法律を勉強している人や、社会学を勉強
している人も多くいます。所得階層も幅が広く、人種的にも
様々な人がいるため、行政開発やコミュニティ開発でもその
ような問題は必ず関係してくるため、色々なバックグラウン
ドの人が必要とされていますし、生かせないバックグラウン
ドはありません。つまり、都市計画は完全な理系ではなく、
社会科学やソーシャルサイエンスにも近く、文系的な要素を
多く含んでいます。実際に都市計画が社会の中でカバーして
いるエリアは広いため、一人で全部やるということは難しい
分野です。従って、学部時代勉強していたことを全て捨てる
わけではなく、それを生かしながら都市計画をやるという状
況です。1点目の話に戻ると、このような意味でも分野が多
様になっているため、幅広い人が参加し始めているのだと思
います。
■■日本での都市計画教育の有り方
林田(和歌山大学)
:
都市計画の教育について質問させていただきます。
アメリカでは学会が就職支援等、実務と学生との接点になっ
ているということ、また、カリフォルニア大学バークレー校
では建築や色々なバックグラウンドをもった人達とその他の
バックグラウンドをもった人達のジョイントプログラムなど
がありましたが、一方、日本ではどうすれば良いのでしょう
か。私は建築をバックグラウンドとしていますが、都市デザ
インや都市計画にとって今日的に必要な人材を送り出してい
Ⅱ−12
かなければならない立場にいます。現在、従来は土木や建築
系であった学科が環境や人間環境、建設などの言葉を使って
学科再編を行っています。和歌山大学でも環境システム学科
という名前でやっていますし、工学全体をソフト化して、大
学院自体をひとつの専攻にして、建築やまちづくり分野と情
報分野のジョイントなどの試みも行われています。一方、そ
のようなことは大学以外のところでは当たり前で、中心市街
地活性化計画の策定に経済学部の教員が関与するということ
も見られるようになっています。カリフォルニア大学では強
力なディーンがいてまとめたのかもしれませんが、比較的リ
ベラルな日本の大学において、どのようなやり方があるので
しょうか。
倉田:
私も現在、大学で新学部構想をやっており、ご指摘があった
ようなことを、教育の中でやれないかと考えているところで
す。その中で、建築を工学部の中から独立させ、エンジニア
リングではないソーシャルな要素を入れた学科をつくれない
かと考えています。その際、現在ある社会科学系の学科とは
違う特徴を持たせていくという点で苦労しています。
日本も教育を中身から変えていかなければならないと思いま
す。もちろん建築や土木のバックグラウンドでできることも
ありますが、やはり、経済などもある程度理解した上で都市
計画をやるということは、環境の問題を扱う場合にも大切に
なってくると思います。また交通計画の中でも、公共交通の
導入の際は、経済的な視点が説得の大きな要素の1つになっ
ています。社会的な部分と接点を持たせていかなければ、単
に技術のみに終わってしまう危険性があります。技術はベー
スとして必要ですが、それを社会といかにインターフェース
させていくかが大切だと思います。そこがこれからの職能と
しての可能性をもっているところではないかと思います。し
かし、技術はお金になりやすいが、技術でないところはお金
になりにくいという現実もあり、教育の現場にいる人、行政
を含めて実際に都市計画やまちづくりの現場にいる人が努力
しなければならないと思います。
■■最後に
三輪:
今日は、倉田先生に「海外の都市計画の職能と教育」という
テーマで、貴重なご講演をいただきました。
我々のこれまで特別委員会での議論のひとつひとつに示唆に
富んだ知識をいただけたと思います。皆様も、海外の様々な
事例も含め、日本の状況について考えるところが多々あるか
と思いますが、今日の成果を含めて、今後も特別委員会で議
論を深めていきたいと思います。加わって議論したいという
方がおられましたら、参加いただきたいと思います。
Ⅱ−13
(3)アメリカのシンクタンク事情
青山公三氏(ニューヨーク都市政策研究所)へ
のヒアリング
日 時 2005年10月19日 17:00∼18:30
出席者 ニューヨーク都市政策研究所 青山氏
地域計画建築研究所
堀口氏
オーユーアール
梶木(記)
■シンクタンクとコンサルタントの違いはどこにあるか?
○シンクタンクは自主的に政策分析や政策立案を行い、クラ
イアントという発想がない。コンサルタントはプロフェッ
ショナル・アシスタントであり、クライアントに対するサ
ービスを提供する。
○シンクタンクは基本的に非営利組織であるのに対し、コン
サルタントは営利組織である。ただ、ブルッキングスやマ
ッキンゼーなどのように、双方の業務を行っている所もあ
る。
○シンクタンクでは、基金や寄付金、研究助成金が活動の原
資である。また人材のネットワークを活かす傾向が強い。
コンサルタントの原資はクライアントからの委託費であり、
個人の事務所以外はネットワークしない。
○シンクタンクで働く人材は、大学院生のインターンやポス
トドクターが多い。政治家の予備軍もいる。主任研究員の
ような人材は少なく、人材流動性は高い。仕事の経験があ
る人も多く、インターンには責任を持たせた仕事をさせて
いる。インターンの時給は15ドルぐらいで、就労経験を
得るだけでなく、生活費を得ることにも役立っている。コ
ンサルタントでは、都市や経済領域などプロでないと駄目
な専門領域があり、職能が求められる。自分で勉強する人
も多く、会社もセミナー等に参加させる。ただ、会社から
お金をもらう場合、一定期間勤務する義務を課す会社もあ
る。
○シンクタンクの業務の評価は自ら成果をアピールすること
で評価を得る。コンサルタントは行政が成果とともに受託
者と担当者の名前を必ず公表する。この公開情報が入札指
名にも使われる。ただ、入札だけでは業務の質が落ちるの
で、能力を評価する委員会の議論をベースに指名リストが
作られていく。地域への密着性などが考慮される。
■シンクタンクの自主財源はどのように確保するのか?
○シンクタンクのボードメンバーの仕事は、ファンドレイジ
ングであると言う話もある。また、各州の非営利団体とし
て登録されると、寄付金や消費税の控除が受けられるよう
になる。
○寄付金だけでは変動が大きいので、大きな資金を得た際に
ビルを建て、それを賃貸することで家賃収入を得て、安定
運営できる仕組みを作ることもある。このような例に
South Street Seaport がある。ここでは銀行へ空中権を移
転する一方で財団が寄付を受け、船員会館を建設・保有・
賃貸することで家賃収入により周辺の管理をあわせて行っ
ている。東京市政調査会はこの仕組みをまねて設立されて
いる。
○アメリカには寄付を行う文化がある。
(青山も)個人で10
0∼200ドルの寄付を各団体に行っており、その総額は
年間1000ドルぐらいある。例えば美術館に寄付をする
と、満足感だけでなく無料パスがもらえるなどの見返りも
ある。日本では源泉徴収であり、これ(寄付)をまねるの
はシステム的に難しいが、
、
、
○入札の仕組みを変えることが重要ではないか。客観的な評
価の仕組みで、玉石を分ける必要がある。その方法は成果
の公開であろう。もちろん、受けた評価に対して反論する
権利も必要であり、アメリカではその機会が保証されてい
る。
■日本でも経済団体は政策提言を行っており、シンクタンク
的といえないか?
○アメリカの政策提言は実行性を重視しているが、日本はそ
れが乏しい。日本の経済団体の提言には行政の実行部隊が
入っていないが、アメリカでは実行プログラムが付いてい
る。コンサルタントの仕事でも、税金が投入される以上、
実行性がないと住民から訴えられる可能性がある。そのた
め、出来ないものは書かないなど、現実的な対応もする。
■成果を公開されると、それを真似る人が出てくるのではな
いか?
○アメリカでは事例よりもオリジナル性を求めるので、提案
の著作権は厳しい。
もっとも、
ベースのアイデアは同じで、
実施上の詳細部分を変えるようなケースはある。BIDも
ニューヨークのグランドセントラルで成功したことを真似
たことにより広がった。
○シンクタンクには、報告書の内容・品質をチェックするエ
ディターと呼ばれる職能の人がいる。出典など、細かくチ
ェックする。
■行政や企業からの委託費は、年によって増加したり減少し
たりするのか?
○自治体は自前のスタッフを内部に有しており、元々コンサ
ルタントに委託することが少ない。
○自治体はチャーター(市の憲章)で行うべき業務が決まっ
ており、それ以外のことは出来ない仕組みになっている。
何か特別で大きな調査などが必要な場合は特別予算を組む
必要があるが、そのためには財源確保のために不動産税な
どの税率を変更する必要がでてくるので、住民投票を経る
こととなる。従って、10万ドル(約1150万円)を超
える自治体発注の調査はまず無い。アメリカのコンサルタ
ントは企業や業界からの委託が大半である。
○ 例 外 は Comprehensive Planning や Transportation
Planning などである。ガソリン税(州税)を利用した調査
が多い。インターステイツ・ハイウェイはこの税金の一部
を利用して連邦政府が建設したが、
高速道路が出来た後は、
環境関係の調査や公共交通機関の費用便益調査などに使わ
れている。なお、LRTのイニシャルコストの9割は、ガ
ソリン税により補助されている。
Ⅱ−14
3.都市計画教育と都市計画に関わる人材育
成シンポジウム
−これからのまちづくりに求められる人材とは
場所:大阪産業大学梅田サテライト・レクチャールーム
日時:2007年6月30日(土) 13:30∼
■プログラム
司会:塚本直幸氏(大阪産業大学・特別委員会副委員長)
1.趣旨説明:鳴海邦碩氏(大阪大学・特別委員会委員長)
2.パネルディスカッション
・特別委員会から
澤木昌典氏(大阪大学・特別委員会副委員長)
・学会委員以外の都市計画専門家から
松原永季氏(スタヂオ・カタリスト)
・他領域の専門家(法律)から
戎 正晴氏(弁護士)
・ジャーナリズムから
西 栄一氏(神戸新聞社)
・まちづくり支援団体から
木原勝彬氏(ローカル・ガバナンス研究所)
・コーディネーター:鳴海委員長
■シンポジウムおよび特別委員会の趣旨説明
鳴海:
「都市計画教育と都市計画に関わる人材育成シンポジウム」の
趣旨についてお話させていただきます。
「都市計画教育と都市
計画に関わる人材育成に関する調査研究特別委員会」という
非常に長い名前の委員会を関西支部に作りました。私が 2 年
間都市計画学会の会長と関西の支部長をやっていたときに、
東京に行って全国のいろいろな人とお話をする機会がありま
した。その中で日本の都市計画の現状を知ることができまし
た。全国の大学を見てみても広く都市計画を教える学校はな
いことがわかりました。一部の学校を除いては、限られた教
育しかできていないのが現状です。みなさんがご卒業された
大学も、ここ 5∼6 年の間に名称が複雑化して、学科名だけ
では何をやっているのかわからないところも増えてきました。
こうした現状が、取り組むべき課題が多くあることを反映し
ているのだとも思います。変化していく都市計画への課題、
またそれに取り組む人材をどうやって育てていく必要がある
のかと考えました。
そこで関西支部で、調査研究特別委員会を立ち上げました。
それに先立って、学会全体でも「21 世紀学会ビジョン」を立ち
上げており、助成金を頂くことができ、3 年にわたって活動
を続けてきました。大学だけでなく、役所や民間コンサルタ
ントの方々にも参加していただき、検討してもらってきまし
た。それらの結果を本日発表させていただきます。そして、
みなさまのご意見もいただきながら、取りまとめをしていこ
うと考えています。
■活動報告・報告書案の説明
澤木(特別委員会副委員長)
:
私は大阪大学で環境・エネルギー工学専攻に所属していま
すが、所属名からは都市計画をやっているとはわからないと
思います。わが国の大学で学科全体で都市計画人材を育成し
ているところは、東大の都市工学などを除いてほんのわずか
であるという現状にあります。
特別委員会設置の背景としては、大学における学科や専攻
の再編、また名称の変化の中で、大学における都市計画に関
する研究室の位置付けが変わってきている。またここ数年、
規制緩和を方法論の一つとする都市再生が叫ばれているが、
開発を規制誘導していくようなコントロールの役割としての
都市計画の認識が下がってきていることも感じています。ま
た公共事業の縮小とともに、都市計画コンサルタントの業務
が減少してきています。あるいは、都市開発においては民間
事業者との連携が求められるようになってきて、事業性を求
められるようにもなってきました。
今日のタイトルに関しても、都市計画という言葉を主題に
挙げずにまちづくりという言葉を使っているのですが、社会
的関心が都市計画という概念から、まちづくりに移ってきた
ことで、それに関わる人たちの資質や専門分野も変わってき
たという現状があります。
これからの人材育成の方法についていろいろ議論を重ねてき
た中で、今後の都市計画はどうなっていくのだろうか、また
その中で専門家はどうあるべきなのか、また職能を確立でき
るのかという話がでてきました。そして、それに対して学会
はどう関与していくのかということも検討してきました。
3 年間の成果をまとめる報告書の概要が見えてきました。
前半では、都市計画に関わる人たちにアンケート調査をする
ことで、現状とこれからの展望をつかまえました。そして後
半で、人材教育などこれからどうやっていくかの考えを述べ
ています。
ここでは、後半の内容を紹介しますが、まず、都市計画の
取り巻く環境の変化があります。一つはこれまでの都市計画
は実際の空間を作る物的計画を中心としてきたが、近年それ
らは総合的な広い領域になってきている。都市計画は工学を
中心に土木・建築・造園の人たちでコアを担ってきましたが、
いろいろな専門分野の素養がないとまちづくりができなくな
ってきている状況にあります。二つに、都市計画の専門家だ
けではなく多くの主体がまちづくりのプロセスに関わるよう
になってきました。従来は大学、行政、民間コンサルタント
やディベロッパーなど大きく三つの職業分野の人たちが担っ
てきました。しかし近年では、地域住民や市民グループなど
の多くの主体、都市計画の専門ではない行政マンや民間企業
Ⅱ−15
の方も、
合意形成のプロセスに絡むようになってきています。
三つ目に、都市計画はまちづくりを包含しながら、計画策定
から管理・運営に至る広い領域を扱わなければならなくなっ
てきたという流れがあります。作りっぱなしではだめなので
す。
さて、今後の都市計画に携わる者に必要なものを考えた場
合に、忘れてはいけないものや、中心のコアとして無くして
はいけないもの、都市計画に関わる基本的な認識や姿勢、理
念として、5つぐらいの大事なキーワードがあると思われま
す。「街から学ぶ」、「地域で考える」、個人の利益ではなく「公
益をあつかう」、
つまり計画の立案と実現を通じて公益へ貢献
することです。また「未来を組み立てる」、そして部分のみの
合目的性でなく部分との関係の中での全体の合目的性を探求
する「総合化する」ということです。
都市計画分野を担う人材をどうやって育てていくのかにつ
いては、大学と行政と民間企業の3つに分けて考えてきまし
た。大学では入口として、都市計画の理念、都市とは何か、
都市計画とは何かということを教育する意義が大きいと思い
ます。併せて、専門家としての都市計画関連の色々な技術と
いうものも教えていく必要があるでしょう。そうした教育を
大学で受けた後、行政や民間企業として実際に都市計画に携
わっていくことになります。大学においては、コンパクトシ
ティや共生、持続という概念を教える必要があるでしょう。
非成長社会、
人口減少社会の中でどう都市を作っていくのか、
形態的評価だけでなく性能評価を行っていく重要性もありま
す。マネジメントする能力の育成も必要になってきます。
行政では、都市計画の専門的な技術だけではなく、マネジ
メント力や調整力といった能力が求められてきています。単
に都市計画事業や法定都市計画だけではなく、まちづくりで
は地域のホームドクター(主治医)としての役割が果たせる
人材が必要となってきます。同時に、まちづくりの専門家(専
門医)として深い技術と知識を持った人材も必要であり、こ
れら両軸が大事になってくるでしょう。
民間企業では、行政との関係の中で仕事をしていくコンサ
ルタントにおいては、今後の公共政策の中心分野がどこに移
っていくのかを見据えながら仕事の領域もシフトしていくこ
とが必要になってくるでしょう。受益者からどうフィー(料
金)をもらっていくのかという課題もあります。都市開発を
しているところでは、開発事業全体をコントロールしていく
能力などが求められています。双方とも、元々の物的計画を
おこなっていくフィジカルな部分に関する能力は維持してい
く必要があると考えられます。
次に、人材をどうやって育てていくのかという問題があり
ます。現在ある仕組みを踏襲しながらどうしていくのか。大
学では、講義だけでなくフィールドワークを加え、現場に行
って大学の教員といっしょに仕事をして実社会におけるまち
づくりや都市計画を体験させることや、大学間で連携して教
育していく必要があると思います。
行政、民間ではいずれにしても、仕事をしながら先輩が後
輩に伝えていく OJT というものが主体になると思いますが、
業界あるいは学会などがセミナーや研修などで支援をしてい
く体制を関西で作っていけないかとも考えています。
報告書の最終章には、提案を3つの軸で整理しています。
一つは、都市計画の重要性を社会全体にどう再認識してもら
うかということです。そして、市民も含めてどう共有しても
らうかということです。都市計画教育のコアにある理念を共
有しながら教えていくことが必要です。また単位互換をした
り、大学間でコンソーシアムを作ったりすることも考えられ
ます。
二つ目に、都市計画分野の新しい職業形態を生み出す仕組
みが必要だとも考えられます。それには学会自身を交流の場
として、産官学の人事交流を活発にすることが必要であり、
アメリカにあるような民間プランナーが大学に常駐する制度
なども実現できないかと思います。学会が中心になって人材
のデータベースを作っていくことも考えられるでしょう。
三番目は、人材の資質の向上を推進するということです。
学会員のコラボレーションによって、都市計画の技術の向上
を推進する取り組みを始めています。いろいろな企業や行政
で行われている OJT に対して、学会でガイドブックのよう
なものを作ることができないだろうかという意見もでていま
す。会員のスキルアップに関しては、現在、まちづくり、都
市調査手法、GIS などの技術について、会員を講師にして研
修会が行われています。
関西は一定の範域の中にまとまりのある都市圏を形成して
おり、産・官・学・民の専門家等が一堂に会しやすい地域特
性を有しています。
すでに、
当学会の支部活動をはじめ,JUDI
(都市環境デザイン会議)関西ブロックの活動、日本建築学
会近畿支部の都市計画部会の活動等を通じて、都市計画に関
連する産・官・学・民の人的ネットワークも形成されつつあ
ります。これらを有効に活用して連携していくことで、関西
独自の人材育成の仕組みができないかと考えています。
■各パネラーからのコメント
木原(ローカル・ガバナンス研究所)
:
私は NPO を含めて 28 年間活動を続けております。
最初は
奈良町の町家保存の運動から始まっていますが、こうした活
動を通じて、戦略的に人材を育てていくプロジェクトの提案
を行いたいと思います。
私たちが住む環境は非常に変化が激しく、その中でこれか
らのまちづくりを考えていかなければならない。政府が小さ
くなることは明確で、確実に住民自治の確立が進んできてい
ます。ガバナンスという点では、これまで行政が中心に進め
てきた公共活動の決定・推進が、地域の住民などの多様なス
テークホルダーのコラボレーションによるものになってきて
いる現状があります。幸いにして NPO も育ってきている状
態です。
ガナバンスの基本的な構造は、市民が主権者として政府を
構築し、政策決定に関わる高度サービスを供給していくこと
です。多様なコミュニティ、小学校単位の自治の仕組みづく
り、市民社会のアソシエーションレベルのシステム、市場シ
ステムなどの、最適な組み合わせをどうするか考える必要が
あるのです。その中で特にコミュニティや、市民社会システ
ム・イニシアティブで、地域まちづくりなどを進めて行かな
ければならない状況になっている。
ご存知のようにコミュニティは疲弊してきており、いろい
ろな格差問題、犯罪の問題などがあります。私たちの生活環
境は不安定になってきているのです。こうした身の回りで起
こっている問題を誰が解決していくのかということが問題で、
まちづくり団体や NPO、自治会の中にはっきりと担い手と
して位置付けていくことが必要だと思います。また公共活動
が縮減されていく中で、誰が縮減された部分を担っていくの
かを考えなければなりません。同時に住民や NPO が力を持
Ⅱ−16
っている問題解決力をどう評価するのかも考えなければなり
ません。
地域再生を、地域に住んでいる方が、地域の方で共有して
問題解決の方法を話し合って、役割を分担して活動する、こ
ういう地域の方の意思形成、意思決定、規範作りというもの
が必要で、市民社会の原型だといえます。
そのためには 3 つの資質が必要なのです。ハードの問題、
資金的な問題、支援システムの問題があります。まちづくり
の専門家リーダーの問題、戦略的パートナーシップ型の課題
解決プロジェクトを取り組んではどうだろうか。
私の提案は次のとおりです。
大阪府の府民税は6000億円、
1%で 60 億円です。
市町村税も 6000 億円。
この両者の1%、
120 億円を地域再生の資金に積み立てていくというものです。
国が120億円分を出すという発想で公益信託を作り上げてい
くというものです。
各地のまちづくり活動が資金的な問題から四苦八苦してい
ます。NPO のスタッフの平均年収は 290 万円。やりたくて
も、エンパワーメントしていきたい状況にあるのに、資金的
な問題でできない人たちをバックアップしていく。一般枠で
はなく、投資していくという発想です。奈良の話になります
が、
例えば吉野地方の限界集落を支えるということに対して、
奈良の都市部の人たちの税金から資金を出していくというこ
とが考えられます。助成に関わる審査員評価システムもきっ
ちりと確立し、税金を投資した結果をきっちりと評価してい
く必要があります。
大阪府下の大学と連携して、NPO などを交えて地域再生
を行い、まちづくりの人材養成を行っていきます。基本的に
は助成したプロジェクトに対して、その後もフォローしてい
くことが必要なのです。終わってからの必要な資金・人材な
ど色んな方面のバックアップが重要です。
地域戦略会議というのはマルチパートナーシップであり、
あるテーマに関わるステークホルダーが方策を決定して分担
していきます。地域再生プロモーター的な人材が運営する公
益型の会議に対して、近隣小学校レベルでの地域の課題解決
をバックアップしていく仕組みも必要でしょう。
コミュニティリーダーとしての能力を自治会長さんに身に
着けていだたき、
民主的な自治会運営を行っていただきます。
そして、コミュニティワーカーとして、自治活動などをファ
シリテーション、プロモーションしながら自治会長を応援し
ていく人たちも育成していきます。こうした地域再生プロモ
ーターは、コーディネーションやファシリテーション能力が
必要になってくると思います。
自治体職員はコーディネーションやファシリテーション能
力を持つ必要がありますが、基本的には、住民自治のサポー
ターであることが必要で、またこういった取り組みの中で、
民間や住民サイドに入っていって、課題解決に向けてどのよ
うな支援ができるのかを考える必要があるでしょう。もちろ
ん議員さんなども入ってもらい、勉強してもらいます。こう
いった OJT の中で人材を養成していくということが重要だ
と思います。
最後になりますが、こうした戦略は資金やバックアップし
ていく機能を有した、既存のものとは対照的なシステムであ
り、もう一つの政府ということもできるでしょう。
松原(スタヂオ・カタリスト)
:
私は現場からの視点を中心にお話ししたいと思います。
私は現在 41 歳で、元々は大学・大学院で建築を学び、そ
の後設計事務所で働いていました。その後独立してまちづく
りに関わるようになってきました。スタヂオ・カタリストと
いう事務所をやっているのですが、カタリストというのは触
媒という意味でして、これは震災復興を通じて触媒的役割の
重要性を感じたことが大きな要因です。建築設計とまちづく
りコンサルの立場からお話をさせていただきたいと思います。
業務の主体は住民参加のまちづくりの支援が多く、具体的に
は兵庫県や神戸市を中心に、例えば漁村集落のまちづくり支
援や、ニュータウンでの地域ネットワークづくりなどを行っ
てきました。中山間での集落活性化や土地利用計画などの策
定にも関わってきました。
元々建築設計に携わってきたのですが、まちづくりに関わ
るようになってきた経緯を、どのようにして私が人材育成さ
れてきたのかという視点でお話したいと思います。
元々いた設計事務所では、建築設計を地域計画の中で考え
るというスタンスで、ここで地域社会における建築のあり方
というものを厳しく指導されました。そして事務所に入って
3∼4 年後に震災を経験し、震災復興のプロセスを経験しまし
た。神戸の事例は少々特殊な事例なのかもしれませんが。た
だその中で、様々なまちづくり事業の経験や知識を得ること
ができました。
神戸という町に関しては、大阪や京都とは少々が違った特
徴を持っていると思います。一つは比較的コンパクトにまと
まって、重層性を持っている都市だということです。人材が
集まっており、みなさん仲が良いです。水谷頴介先生のお弟
子さんの方々で、現在 50 代から 60 代の方が中心になってい
ますが、震災復興のときも、小林郁雄さんや後藤祐介さんら
が阪神淡路大震災復興市民まちづくり支援ネットワークを組
織して活動されていました。民間と行政と大学などが連携し
て活動の場を設けており、現在も続いています。私自身もお
話を聞いていろいろな知見を得ることができてきた
またプランナーズネットワーク神戸というものがあります。
若手ネットと神戸で言われているもので、水谷ゼミの阪神淡
路大震災復興市民まちづくり支援ネットワークの中で、下っ
端集団であったメンバーで形成されています。ここで共同作
業を積み重ねてきたことも、私の経験になってきたと思いま
す。
そういったネットワークとは別に、私が仕事をさせてもら
っている大きな背景には、神戸市や兵庫県の制度的な先進性
があります。具体的にはアドバイザー派遣やコンサルタント
派遣など、金額の問題は別としてきちんとお金を払っていた
だける制度があることが重要になってきます。神戸と兵庫に
はまちづくりセンターがあり、教育プログラムや私たち自身
が企画できる事業などがあったことは大きかったと思います。
これからのまちづくりに求められる人材ということを私な
りに考えてみると、一番感じるのはコミュニケーション能力
とファシリテーション能力の必要性です。これが無ければ、
住民主体の活動というのは上手く進んでいかないのです。こ
うしたスキルを教えてくれる場所は近年増えてきているもの
の、
まだまだ十分にあるとはいえない現状にあると思います。
特に震災復興のプロセスでは、現場で自ら学ぶという方法し
かありませんでした。また一般的にファシリテーション能力
と言われるものと、まちづくりにおけるファシリテーション
能力というというのは若干異なっていると思います。具体的
にコミュニケーション能力とファシリテーション能力を支え
Ⅱ−17
ていくためには、カウンセリング・スキルというものが必要
で、
これをまちづくりに援用していく必要があると思います。
具体的には、積極的な傾聴、共感的理解、受容などといった
ものだと思います。
一般的なカウンセリングと違うのは、地域は多様な主体の
集合体であることだと思います。こうした集合体に対した、
カール・ロジャーズさんが考えられたパーソン・センタード・
アプローチというカウンセリング・スキルというものを援用
していく必要があると思います。そういうものに支えられて
内発性を支援する会議や場の運営をおこなっていく必要があ
ると思います。
震災復興の非常時のまちづくりが、10 年経つと日常のまち
づくりに変わってきました。地域自治システムづくりという
のが、これから必要になってくると思います。それを支える
ためには、
総合的な職能が必要になってくるのだと思います。
最後に、私のような小規模事務所でもできそうな人材育成
を考えてみますと、役割を若い人たちに与えていく必要があ
ると思います。OJT の中で先輩と後輩という話がありました
が、近い世代と交流していくことも重要になってくると思い
ます。イベント型ワークショップ、まちあるきなどの重くな
い仕事の中で経験を積み重ねていく必要があると思います。
建築設計事務所でのオープンデスクというものがありますが、
まちづくりの分野でも取り入れることで、学生時代からこう
した経験を積むこともできるのではないでしょうか。
都市計画の仕事が減ってきている中で、30 才からその手前の
世代では携わる仕事がない状況にあります。ただ、まちづく
りをやりたいと考えている若い人はたくさんいます。私たち
自身も、若い人たちが関わることができる仕事づくりという
のを考えていかなければならないと思います。
戎(弁護士)
:
今日は法律家というまちづくりに門外漢なイメージのある
職種の人間が、どのようにしてまちづくりに関わってきたの
か話をしたいと思います。私は 20 年以上神戸で弁護士をや
ってきました。震災前くらいから私の専門はマンション法に
なってきました。
一方で区分所有法制などの研究もしており、
半分研究半分実務という状況です。現在は明治大学の法科大
学院で不動産法を担当しています。現在のテーマは団地の再
生で、建替え事業などに携わっています。ロースクールの教
員として、人材育成をする立場にもあります。まちづくりと
いう面では、震災の時はコンサルタント登録を行い、マンシ
ョンの建て替えにコンサルタントやアドバイザーとして派遣
されて仕事を行ってきました。
まちづくりは理系の人がやるものであって、我々には関係
ないものとして認識されています。法学部には、まちづくり
や都市計画の専門の講座を教えているところはありません。
工学の先生が来て特別に授業をするくらいであって、都市計
画の専門を学ぶ場所というのはありません。しかし都市計画
の根幹部分は法律が非常に大きな役割を果たしていて、法の
解釈でまちづくりや都市計画が行われているというのが現状
なのです。実務の面では、法政大学の五十嵐敬喜さんなどの
例もありますが、ほとんど関係ないという状況です。しかし
阪神淡路大震災を契機に、もっと法律家も都市計画の分野に
関わっていかないといけないという論調が高まってきました。
都市計画というのはほとんど公法によっています。公法を
専門にする法律家はほとんどいない状況で、公法の専門家と
は一般的に行政の人を指しています。復興の過程で、公法の
事業法の網掛けをしたとろで、その前提には私法上のさまざ
まな問題というものがあります。公法と私法を一緒に扱って
いかなければならないということがわかってきました。そう
した背景で、神戸市がいちはやく建築系コンサルタント以外
にも、弁護士、税理士、土地家屋調査士、司法書士などもコ
ンサルタント登録できるようにしました。都市計画は決して
行政の人と建築系の人たちがやるのではなく、私法に関わっ
ている人間もいっしょにやってやるべきものであり、映画の
ような総合芸術的要素をもっているのではないかと思います。
それ以降、弁護士会などでもまちづくりに積極的に関わって
いこうという動きになってきています。
震災復興のときに、一人のコンサルタントを派遣するので
はなく、チームとして派遣することを神戸市と交渉して認め
てもらうことができました。建築系の人もいれば、法律系の
人もいる、土地家屋調査士、司法書士、鑑定士なども状況に
応じてチームを組んで行いました。チームを組んで、はじめ
てまちづくりの中で活躍できるようになるのです。一人の人
材を高いレベルに引き上げるよりは、チームで行動すること
の方が大事になってくると思います。
法律家は公法の知識を持っていないのに対して、行政や民
間コンサルタントの方は私法の知識があまりありません。し
かし両方あってこそ初めて有効なのであり、お互いに研究会
などをすることで知識や経験を交換することも必要になって
くるのだと思います。それから弁護士会でも震災以降兵庫県
では司法修習生に対して「まちづくりと弁護士」という講座
を設けており、兵庫県で修習する人は区画整理などの事業の
知識も教えるようになってきています。
西(神戸新聞社)
:
私は神戸新聞に勤めて 20 年くらいになります。都市計画
に関わるきっかけになったのは、阪神大震災でした。震災復
興まちづくり担当という役柄の記者になりまして、再開発や
区画整理などの地区や商店街の再生などを記事にしてきまし
た。震災 10 年でそういった仕事も一段落してきました。現
在は神戸新聞のメディア局というところで、HP 作成業務を
行っています。WEB 上でバーチャルなまちづくりを展開で
きないかなと考えています。
記者は客観的に公正・公平な立場で書くものなのですが、
私の場合は被災した住民の一人として、読んでいる人が元気
になる記事を書いてきました。取材した地域に、取材以降も
個人的に関わることも度々ありました。商店街再生に関わっ
てみたり、イベントのスタッフとして働いたこともありまし
た。ちょうど私がまちづくり担当をしていた 5∼6 年前は、
行政と住民との対立から住民同士が権利を主張して対立が激
しくなっていた時期で、正直疲れていました。当時は西神中
央に住んでいたのですが、朝は通勤、夜は帰宅する人ばかり
ですれ違う人がいない状況に少々居心地悪さを感じていまし
た。そんな時に、灘区の方でナディストというまちを楽しむ
活動をされている方たちと出会い、現在は水道橋筋商店街に
移り住んでしまいました。記者としてよりも住民としてずっ
と町に関わってきたと思っています。
色々記事を書いてきたのですが、都市計画というと読者か
ら遠い感じを受けてしまいます。今年の 1 月から6月まで、
「都市計画」という言葉が出ている記事は 50 件近くありま
した。ただ都市計画と書かれる記事は、悲観的で冷たい行政
Ⅱ−18
発表であったり、行政や住民、また住民同士の対立であった
り、冷たい記事が多くなっているように感じます。都市計画
という言葉がでてくると誰かが不幸になっているとも言える
でしょう。いいイメージが持たれていないのです。都市計画
をもっと上手に楽しく広報していくことができるのではない
でしょうか。もう少し、いいことをやっているんだというア
ピールの必要性も感じています。
人材育成ということでは、大学では専門家をつくるところ
ということが報告書にも書かれていましが、もう少し懐を深
くしてもよいのではないでしょうか。
「良き市民を作ってい
く」ぐらいでもよいのではないでしょうか。どういう窓口で
もいいからまちづくりに関与していくチャンネルは増えてい
るので、そうした人たちを全て専門家とする必要はなくて、
都市計画の予備役となる人を増やしていく必要があるのでは
ないでしょうか。
また大学以前の初等教育の段階でも、自分たちのまちを歩
くという癖を付けていくことが必要になるのではないでしょ
うか。都市計画学会が後方から支援する形で、町のいいとこ
ろを見つけたり、危険場所を考えてみたりしてみるのです。
そうした中で、何人かの人は興味を持って専門家になってい
くかもしれません。少年サッカー教室をやるような感じで、
まちづくりの J1・J2・JFL みたいな組織を作っていくこと
で、都市計画ファンをつくっていけたらおもしろいのではな
いでしょうか。
都市計画学会という言葉をGoogle などで検索してみると、
出てきた結果は文章ばっかりでした。もう少しビジュアルに
訴えていくようなものは作れないのかなとも思います。今の
大学生は新聞を読んでいません。下宿して新聞をとっている
学生は中々いなくて、なかなか活字に触れません。携帯とか
ネットを使うので、Yahoo ニュースなんかで情報を得ている
のです。こうした状況を踏まえて PR を考えていく必要があ
るでしょう。何らかの形で興味を広げていくことが必要だと
思います。
自分たちのやりたいことを伝える、情報発信をする、多く
の人に理解してもらうということが大事なのではないでしょ
うか。行政が中心にあって、その背後にコンサルタントや民
間の人たちが蠢いているものとなんとなく認識されている都
市計画ではなくて、行われている様々な活動をいろんなチャ
ンネルを通じて発信していく必要があるのです。その際、わ
れわれのような地域メディアもどんどん活用してもらいたい
です。
若い人にはネット、
中高年には活字などというふうに、
いろんなチャンネルを使い分けながら、情報発信をしていく
必要があるでしょう。
■自由討論
鳴海:
都市計画が新聞に出ると暗いというコメントがありました。
都市計画は公法で制度であるために、お役所が公法を司って
います。そして、その制度がまちづくりの壁になってしまっ
ています。私も都市計画の講義をしますが、広い意味の都市
計画と狭い意味の都市計画があることを丁寧に説明するよう
にしています。狭い意味のものだけやると面白くなくて、学
生が興味を持ってくれません。制度そのものが人を不幸にす
るためにあるのではなくて、いい環境を作っていくために存
在しているのです。
これを使いこなすという視点が必要です。
新聞に載ると暗く感じてしまうのは、都市計画という言葉が
こんな時にしか使われないからです。
西:
新聞記事に出てくる都市計画は、冷たさや機械的な雰囲気
を感じさせてしまうのですが、いろんなイベントやニュース
の影には、いい意味の都市計画が隠れているはずです。行政
などの話題の文脈ではどうみても暗くなってしまいます。素
人の文系読者にわかりやすく伝える広報技術も考えている必
要があると思いますし、もっと都市計画を学んだ人間がイン
タープリターとして記者やマスコミの世界にいてもいいので
はないかと思います。それから、行政の人は市民と対話して
いるように見えても、変なことを言って後で付け込まれない
ように失敗しないように訓練されています。特にマスコミに
対しては顕著です。もっとフランクに言えるような場があっ
てもよいのではないでしょうか。
戎:
都市計画に弁護士が登場する時点で、都市計画決定に対す
る争いなど、そんな雰囲気をイメージしてしまいます。自分
の土地なのに自由に使えないというのが都市計画であって、
住民にとっては制約以外の何物でもないという意見もありま
す。都市計画というのは制度化された形で手法というものが
書かれているので、制度があるゆえの硬直性や制約があると
認識されてしまいます。しかし、法で書いてあるからこそ可
能になってくるものもあります。例えば権利変換というもの
は、普通に考えればとんでもない制度です。法律の大原則で
は権利を変えられるのは自分自身の意思のみであります。そ
れが一度の行政処分で多くの権利を自由に変えてしまうとい
うことは驚くべきことです。逆に言えば、権利変換という制
度があるがゆえにできてしまうという側面もあります。また
都市計画というものが、その法律の枠の中でしか許されなく
なっているという制約もあります。例えば、区画整理事業で
は公園の広さも決まっていて、必要がなくてもその大きさに
なってしまいます。補助金制度というものと絡んでくるので
なおさらです。
鳴海:
制度ありきで説明するのではなくて、いい町にしていこう
という意味で制度を使うことを説明する必要があるでしょう。
松原:
震災復興の中で任意事業を多くやってきました。合意形成
がどうしても必要で、
住民さんの意見の対立も起こりました。
そうした対立を解消する方法を考え続けてきているのですが、
まずインタープリーター(翻訳者)の役割が重要だと思いま
す。
役所の方が説明しても本来の趣旨が中々伝わらないので、
当事者の心に響くように伝える作業が必要になってくると思
います。その中でコミュニケーション能力というものが問わ
れてくるのだと思います。コミュニケーションのための様々
な技術は、多くの場面で調整のための有効な道具になると思
います。ワークショップは非常に有効な方法ですが、さらに
その延長線上で、アーノルド・ミンデルという方が言ってお
られますが、様々な対決を取り上げて、両者の怒りや憎悪の
炎を燃え立たせて、その中で両者の和解を図っていく方法も
報告されています。ワークショップでそこまでやる必要はな
Ⅱ−19
いでしょうが、両者の対立の敷居を低くする必要があり、そ
うしたトレーニングを積んでいくことも必要でしょう。
西:
行政の方は熱い思いでやっているのですが、それが逆に火
に油を注ぐ形になっている現場も多くみてきました。行政の
人が行っていることはもちろん全部正論だけれども、落とし
どころとしては「法律があるから」と説得する形になってしま
う。法律に拠らないところでやるのが幸せで、説得してもら
うのではなく納得してもらう形が作れればと思います。プラ
ンナー、コンサルタントという方たちが行政との間に入って
調整する役割を担うことが必要になってくると思います。
鳴海:
財源を事業に付けるのではなく、地元にお金を出していた
だければ、まちづくり協議会の次の姿が見えてくるのではな
かというお話でした。最近はエリアマネジメントという概念
も出てきていますが、木原さんの構想はどこを突破口にして
いけば可能になってくると思いますか。
木原:
納税者として、税の使い方を行政に任せておいてよいのか
という問題があります。税の直接民主主義の話です。千葉県
市川市では納税者の個人市民税の 1%をリストアップされた
市民活動に投資することができます。
また群馬県太田市でも、
税金の1%に当たる4500 万円がNPOや地域づくりに助成さ
れています。公益信託というものは、行政から自立していく
中で資金を地域問題の解決に自分たちで使っていくという仕
組みです。地球博の残余金の 12 億円を愛知、岐阜、三重、
静岡、長野の活動団体に公益信託として助成していくことに
なっています。阪神まちづくり支援ネットワークという支援
システムは、どうして資金的な面を含めて活動ができただろ
うかも聞いてみたいです。
松原:
阪神まちづくり支援ネットワークができたのは、震災時に
新しい制度や支援策が出来る中で、いちはやく専門家や住民
に伝える必要が生じたことが大きな原因です。3年ぐらい経
つと、復興の一定の道筋が見えてきたこともあってか、参加
数が減ってきました。「キンモクセイ」という機関誌を定期的
に発行してきましたが、こうした機関誌が無くなったとして
も、緊密な関係で繋がっていると思います。ネットワークの
一部が、神戸まちづくり研究所という NPO に引き継がれて
おり、この中で具体的な事業や政策提言が行われています。
鳴海:
全部を出来るスペシャルな人は必要ないというコメントが
ありました。大きな会社では様々な分野の人材が揃えている
のですが、
小さなところではなかなかそうはいきません。
色々
な資質を持った人たちと出会う中で、ネットワークの中で自
分の技能をどうやって育てていくと考えたらよいでしょうか。
松原:
私自身が、水谷ゼミナールや阪神まちづくり支援ネットワ
ークに育てられてきた経験を話します。建築をやっていたと
きは、
まちづくりのことが正直よくわかっていませんでした。
ネットワークの中には、緑やハードなどそれぞれ得意分野を
持っている方がおり、多様な生の情報を聞かせていただける
ことが大きかったと思います。そこから派生して同世代のネ
ットワークが形成されたのですが、都市計画は一人でやるも
のではないので、多種多様な人のネットワークの中で進めて
いこうということになりました。神戸新聞の西さんにも来て
いただいていますし、
鍼灸師や平面デザインをやっている方、
役所の方など、町に関していろんな側面から知識を与えてく
れる人が集まっています。上の先輩方とは違う感覚で、同じ
立場で話し、自ら考えることができる環境ができてきたのが
大きかったと思います。
戎:
私は法律家の人と仕事をすることはあまりありません。再
開発プランナーの人など自分の専門外の人たちといっしょに
仕事をしています。最初は戸惑いました。もちろん発想が違
うから良いという考えの人と、門外漢の人と仕事をやっても
意味が無いと考える人もいると思います。しかし、自分自身
の教育という意味でも専門外の人との関わりが重要だと感じ
ました。兵庫県ではサムライ(=士)業の人たちが一緒にな
ってまちづくり支援機構というものを立ち上げ、それらに兵
庫県や神戸市といっしょになってコンサルタント登録をして
活動してきました。今では東京でもサムライ業だけでなく、
多様な専門家の団体が一堂に集まって支援機構を作り、東京
都と提携を結んでいます。地震などのいざという時に、活動
できる仕組みができています。専門外の人と仕事をやってい
ると、自分自身の発想も変化してきました。弁護士の仕事は
事件が起きてから動くものと思っていましたが、まちづくり
に関わる人たちと仕事をする中で、後始末だけではなく作り
上げていく中で法律家としての知識を活用できることがわか
りました。
澤木:
特別委員会で議論する中では、「都市計画」という 4 文字の
言葉は、建築・土木・造園などの実際にものを作っていく分
野、工学的分野を指していました。こうした狭い意味での都
市計画に対して、広い意味での都市計画を考える必要が出て
いると思います。コアとなる部分は従来の工学的分野で構成
されているのですが、その周辺に広がることで、いろんな専
門家たちとの連携の中でやっていかないといけない状況にあ
ります。都市計画を広く考えた場合に、今後のまちづくりの
中でどういう専門性が必要とされてくるのか、業界や学会は
どのように変革していくべきなのでしょうか。
西:
従来の分野に加えて、社会学・政治学・経営学、心理学な
どの協力は必要になってくると思います。一般教養として都
市計画を位置付けることで、広く種を撒いていくことが重要
かなと思います。その中から個人の関心領域を広げていけば
いいと思います。
木原:
私の中での都市計画の専門家のイメージは、行政と組んで
まちを壊し、じっくりと地域と話すことなく合理的にやって
きた存在というように感じます。任せておられないという思
いで NPO を立ち上げて活動してきました。地域では様々な
Ⅱ−20
活動が行われていますが、市民主体のまちづくりの中で専門
家がどうあるべきなのかを考えなければなりません。市民が
お金を出し合ってコンサルタントを雇ったりして、地域やコ
ミュニティを再生していくことが必要です。NPO でもやっ
てはいるのですが、安請け合いをさせられている現状です。
[フロアから]花岡(
(有)環境とまちづくり)
よい市民を育てるという観点はおもしろい。自ら学ぶ姿勢
を育てるということについての意見をお聞きしたい。
ろいろなグループがあります。
多様な主体が蠢きあっていて、
その中に行政も含まれている状況を認識する必要があります。
その中で課題解決の中でパートナーシップを考えていく必要
もあります。建築家やコンサルタントの方々とも一緒にやっ
てきましたが、活動をやっていく中で、自分の役割というも
のを認識していくのかとも思います。
[フロアから]橘(兵庫県)
[特別委員会委員]
社会に出てから、大学での教育成果がきちんと発揮されて
いるのでしょうか。
西:
学校や企業内教育で必要なことを挙げれば、誉めることと
お金をあげることのどちらかだと思います。数字にならない
ような世界において、第三者に注目されていることを意識さ
せていく必要があるでしょう。震災復興の際に、鷹取で映画
監督が映画を撮っていたのですが、カメラの前では、もめて
いる人たちにも自然に自制がかかっていました。その地域を
誰か第三者がみているということが必要だと思います。大企
業には社会的な栄誉や名誉を受けたいという気持ちがありま
す。スポンサー、CSR を企業に求めていけば財政的な問題は
解決していけるかもしれない。新聞広告でも、防災のシンポ
ジウムをやろうとするとスポンサーがついてきます。メディ
アが町への貢献をきちんと伝えることで、まちづくりもいい
ことやっているという認識が生まれてくるはずです。これま
でこうした分野に繋げるチャンネルが都市計画の中に無かっ
たのですが、地元メディアなどを活用することなどができる
ようになってきています。
澤木:
私の研究室でも学生はいろいろな分野に就職していきます
が、都市計画の専門性を発揮できる場所が少ないように感じ
ます。行政の中で都市計画に関わる人材、民間の都市計画コ
ンサルタントやディベロッパーなど様々で、どこまで育成し
ていくのかは難しいところです。都市計画の中でのジェネラ
リストというのも難しく、もっと広い領域の中ではなおさら
のことです。本人の適性によって自分たちで就職先を探しま
すが、
実情はなかなかマッチングできているとは言えません。
大学からみると、受入れ口というか間口を増やしてほしいな
とも思います。マッチングしていく中で、より必要だと思わ
れる能力があればそれを伸ばしていく教育をしていく必要も
あるのかもしれません。ファシリテーション能力などを育て
るために、プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)で
地域に入って実感していく演習形式の教育が重要になってき
ています。
[フロアから]松村(大阪大学)
大学教育でジェネラリスト的センスを持つことができるの
でしょうか。
[フロアから]林(和歌山大学)
国や自治体の行うまちづくり担い手講座などの効果につい
て教えてください。
松原:
一人ではできないという現実があります。教育プログラム
はまだまだ改革の余地があると思います。まちづくりという
形の中に教育プログラムを持ち込むことが可能だと思います。
体験して自らが学ぶためのものが必要だと思います。近年ワ
ークショップが盛んになり、定式化されてしまっている。本
来ワークショップの数だけ、そのやり方があるはずだと思っ
ていますが、その場その場にあったプログラムが必要なので
す。それと同じように教育プログラムに関しても、まちづく
りを学んでもらうにもそれぞれの方法があり、ジェネラリス
トの資質を考えるようなプログラムのあり方もあるでしょう。
カウンセラーやファシリテーションの研修などを考える必要
があると思います。
[フロアから]阿部(大阪市)
[特別委員会委員]
大阪市では、平成 9 年から市民のみなさんが地域活動をさ
れる際のサポートを行っています。まちづくりのリーダーや
サブリーダーとなる人を育てていくような、またまちづくり
を身近に感じてもらう仕組みを設けています。小中学生向け
にまちあるき講座などを行ったりもしました。行政が当然や
るべきものであるという考えもありますが、自分たちの身の
回りの環境をよくしたいという人たちをサポートする仕組み
を作り、制度や様々な情報を提供しています。
[フロアから]金澤(大阪産業大学)
[特別委員会委員]
まちづくりの人材に求められる資質とは何でしょうか。
木原:
奈良の事例から地域のまちづくりリーダーとしての資質を
考えてみると、未来価値として古い町並みの価値を感じるこ
とができるのかということです。もう一つは時間をかけるこ
とに耐えていくことです。長く時間をかけていくことが重要
です。また、保存に関する様々なメンバーが育ってきます。
しかし、イベント中心の人もいるし、調査研究中心など、い
[フロアから]佐藤(大阪市)
[特別委員会副委員長]
活動がオーソライズされるというメリットがあります。期
間は 5 年間であるけれども、支援終了後のケアも考えていか
なければなりません。
西:
小中学生のまちづくりを考えると、総合学習という授業の
中で、先生だけでなく地域のプランナーやコンサルタントの
人が間に入ることもできると思います。支援に関しては、行
政がお金をだしていけばいいと思います。同時に、地域の婦
人会や老人会などにも協力していただいて、まちのことを語
ってもらうなどをしていけばいいと思います。こうしたこと
を繰り返していくことで、まちへの愛着が培われていくと思
います。今の子供は、学校、家、塾しか知りません。小中高
Ⅱ−21
の間に、その三つ以外の地域の人と交わっていく機会を作っ
ていく必要があるともいます。漢方薬のようにじわっと効い
ていく人材育成だと思います。
連のプロセスを作れるかどうかだと思います。住民参加にお
いては参加者がコンサルタントを評価する仕組みも必要とな
ってくるでしょう。
[フロアから]中山(淡路景観園芸学校)
緑のまちづくりに関する職能の可能性について教えてくだ
さい。
鳴海:
本日の内容は関西支部の研究に反映していこうと思います。
震災を契機としたネットワークの形成の話がありましたが、
そうした非常時だけでなく常時においても、そうしたものが
必要なのではないでしょうか。また、一般教養としての都市
計画が必要だという議論もありましたが、都市計画原論とい
った工学系以外の方々にもわかりやすいものを考える必要も
あるでしょう。子供たちのまちづくりについてもご指摘があ
りましたが、支部の活動として考えていく余地もあると思い
ます。メディアなどでも明るい都市計画が伝えられるように
していきたいと思います。
澤木:
緑に関しては、市民主体のまちづくりの中で、身近でコン
センサスを得やすいという特徴があります。職能となると、
造園系のコンサルタントに就職することになると思います。
可能性のある分野ですが、現状では仕事が少ない状況は同じ
であると伺っています。
[フロアから]金澤(大阪産業大学)
[特別委員会委員]
コンサルタントをどうやって育てるのかという議論も必要
だと思います。従来の大規模プロジェクトで考えてみると、
意思決定が特定の人たちに限られ、コンサルタントがそうし
た人たちの意思に従って作っていくというプロセスで作って
きました。しかし、参加型というなかでは、開かれた多様な
立場の人たちが関わるようになってきました。
そうした中で、
意思決定におけるコンサルタントの第三者性が侵されていき、
プロジェクトの成否が危うくなってくるのだと思います。コ
ンサルタントは客観的な立場で意見を提示すること怠ってき
たために、
公共事業の失敗などというツケが出てきています。
複数の案を客観的に提示しながらプロジェクトを進めていく
ようなプロセスをどうやって作っていくのかが問題だと思い
ます。プロのコンサルタントを育てるイメージがないと、学
生もイメージできないでしょう。
木原:
コンサルタントは第三者というよりも、プロジェクトの中
で専門的意見を出していく職能を持っていると思います。ス
テークホルダーが集まった会議の中で、決定されたことが正
当性を持って、市民からも認証されていくシステムが必要だ
と思います。
戎:
第三者性というのは依頼者からの独立性と言えると思いま
す。公認会計士も本来独立しているべき存在ですが、チェッ
クされる側からお金をもらうという構造が話を困難にしてい
ます。弁護士の場合も同様ですが、独立していなければなら
ないということを、法曹倫理という科目の中で講義を受けま
す。また弁護士倫理というものがあり、こういう立場に身を
置いてはいけないということが確立され、教育が行われてい
ます。コンサルタントも行政からの独立性を考えた場合に、
相手から報酬をもらうという構造がある以上、コンサルタン
ト倫理というものも併せて考える必要があるでしょう。
松原:
皆さんの意見を聞いていて「アリバイ・ワークショップ」と
いうのが頭に浮かびました。何回かやって住民参加をやった
と言ってしまうのは、どこか奇妙さを感じてしまいます。
意思決定をどうするのかというプロセスのデザインをできる
かがとても大事だと思います。あるプロジェクトに関わる一
Ⅱ−22
4.大会ワークショップの記録
今後はエリアマネジメントが重要であり、そのマネージャー
(1)2005 年−千葉大学にて
として、組織論・事業論の点から戦略を立てる能力が必要で
ある。
(4)大学の立場から(嘉名)
テーマ:都市計画教育と都市計画に関わる人材育成
都市に関わる領域を取り込む学科が拡散的に増える中で、
日 時:2005 年 11 月 19 日(土) 16:00∼18:00
会 場:千葉大学西船キャンパス工学部 17 号棟 211 教室
コア部分は縮小している。JABEE で技術者教育について議
進 行:三輪康一(神戸大学)
論し、エンジニアリングとプランニングの両方ができる人材
発表者:鳴海邦碩(大阪大学)
・堀口浩司(㈱地域計画建築研
育成を目指している。都市マネジメントを含む幅広い科目を
究所)
・佐藤道彦(都市再生機構)
・久保光弘(㈱久
提供して、演習科目では戦略に組み立てる能力を重点的に鍛
保都市計画事務所)
・嘉名光市(大阪市立大学)
えている。
3.会場との意見交換
記 録:澤木昌典・惣司めぐみ(大阪大学)
○他分野(とくに経済・経営)とのかかわりについて
関西支部に設置された 21 世紀学会ビジョン実現のための
人・もの・金・情報を扱う技術が必要である。プロジェク
「都市計画教育と都市計画に関わる人材育成に関する調査研
トマネジメントができる「経済性工学」を身に付ける。管理
究」分科会で議論・検討を重ねてきた成果を中間報告すると
工学・経営工学の人を都市計画畑に参入させることも必要
(栗
ともに、今後の都市計画における職能の拡充や人材育成、さ
田・慶応大)/ヨーロッパでは、都市計画と経済との関わり
らには、学会と行政、企業や市民組織などとの社会的連携の
が重視されている。他方、公共性の観点からはファンドの自
推進などについて、課題や方向性を展望することを目的に議
由な活動をどうコントロールするかという問題もある
(鳴海)
。
論した。
○これまで蓄積してきた都市計画技術について
まちづくりに関しては大きなデマンドがあるが、昔の都市
1.ワークショップ主旨(鳴海)
都市計画を巡る状況が急速に変わっている。例えば、都市
計画技術で対応し齟齬をきたしている。
従来の①中央集権型、
計画分野の大学の組織名称、都市再生での規制緩和基調と開
②開発・建設、③広域の3つのパラダイムを根底から考え直
発コントロールの弱体化、公共事業縮小の中での都市計画コ
し、プロフェッショナリズムを確立していくことが重要(渡
ンサルタント業務の縮小化、
「政府=企業=NGO」3者の合
部・東理大)/これまでの日本の都市計画を客観的に評価す
意と連携、
まちづくり概念への社会的関心の移行などであり、
るとともに、その経験を途上国の都市に伝えていく必要があ
これらにいかに取り組むべきかを関西支部の研究分科会で検
る(坂本・大芸大)
。
討してきた。この報告を基に議論し、今後のとりまとめへの
○継続教育について
都市計画の専門的な資質を評価できる資格が必要である
示唆を得たい。
2.報告
(斉藤・明海大)/社会人教育は、各人の知識や専門的レベ
(1)研究分科会概要報告(堀口)
ル・ニーズが多様で難しいが、満足度の高いプログラムを提
33 名のメンバーで、①今後の都市計画のあり方、②都市計
供することが重要である(野澤・東大)/学会では来年 4 月
画家の役割と職能の確立、③人材の育成・教育のあり方の3
からCPD実施を予定している。関連団体と連携し、我々の
点について議論を重ねてきた。メンテナンス型、縮小時代の
プロフェッションを証明する材料を育てる(岸井・日大)
都市計画が求められており、コミュニケーション力や事業推
4.総括(発表者+三輪)
地方行政担当者は、学会を通じた大学・民間の専門家との
進力・経営能力を備えつつ、職能を確立していくことが重要
である。
交流で職能の向上をめざすべきである(佐藤)/ 工学のイメ
(2)行政の立場から(佐藤)
ージの強い技術士とは異なる資格が必要である。民間コンサ
市民参画の流れの中で、政策的な視点の都市計画と地域の
ルタント出身の専門家を行政で活用して欲しい(久保)/ 伝
視点の都市計画を区分して考えねばならない。計画の見直し
統的な都市計画技術の本質の部分も教えていく(嘉名)/ 民
や財源問題など都市経営の視点も必要である。専門家として
間コンサルタントで都市計画関連の業務をしている他分野の
の信頼を得るためには、他分野の知識も含めた能力育成が必
専門家ともパートナーシップを築く(堀口)/ 全国の会員へ
要である。
のWEBを通じたアンケート調査を実施する。今後とも当分
(3)民間コンサルタントの立場から(久保)
科会への意見や示唆をいただきたい(三輪)
。
専門プランナーとジェネラルプランナーとに二分できる。
まちづくり業務では低収入で、
専門家の位置も不明確である。
Ⅱ−23
専門医といった人材像を描いている。
他グループについては、
(2)2006 年−琉球大学にて
下記参照。
また、支部では会員同士の協力によるスキルアップセミナ
テーマ:都市計画教育と都市計画に関わる人材育成
日 時:2006 年 11 月 18 日(土) 15:30∼17:30
ーの実施を企画中である。
会 場:琉球大学工学部 4 号館 1 階 111 教室
進 行:塚本直幸(大阪産業大学)
(4)各分野担当メンバーからの追加コメント
発表者:鳴海邦碩(大阪大学)
・澤木昌典(大阪大学)
・梶木
(4)−1 民間(梶木)
都市開発にはコンサルタント業務とコーディネート業務が
盛也(㈱OUR)
・堀口浩司(㈱地域計画建築研究所)
あり、前者での事業費試算、収支検討、権利調査及び後者は
三輪康一(神戸大学)
実務の中で覚えた。都市計画の知識だけでなく、職業的倫理
記 録:澤木昌典・徳勢貴彦・松本邦彦(大阪大学)
観、土地や時代を見る目、専門以外の人との交渉力を養う必
要がある。
関西支部に設置された 21 世紀学会ビジョン実現のための
「都市計画教育と都市計画に関わる人材育成に関する調査研
(4)−2 民間(堀口)
コンサルタントでは調整型業務・住民慰撫型業務が増加し、
究」分科会で議論・検討を重ねてきた成果の2回目の中間報
プランニングからプログラムやマネジメントへと仕事がシフ
告するとともに、今後の課題について議論した。
トしている。コンサルタント会社には人材を育てる余力がな
い。
1.ワークショップ主旨(鳴海)
分科会は、都市計画をめぐる大学における変化や社会的な
状況の変化の中で、今後の都市計画をいかに教えていけばよ
(4)−3 大学(三輪)
いのかを大きな課題として、
3年前に関西支部で立ち上げた。
都市計画の教育におけるコアは、①空間に関わる専門性、
とりまとめる段階に入りつつあり、
課題について討論したい。
②都市計画の考え方や方法論の体系、③究極の目標としての
生活の質・都市の質であり、学生が学ぶレベルには①認識、
2.話題提供
②理念、③技術の3つがある。その上に、都市計画の楽しさ
(1)研究分科会検討の枠組み(澤木)
や好奇心、情熱、都市計画の公共性・倫理性なども教える必
約 30 名のメンバーで、①現状把握のための主にメンバー
要がある。
を対象としたアンケート調査、②全国会員対象の WEB によ
るアンケート調査を実施し、現在、③今後の都市計画分野の
3.会場での意見交換
枠組みや展望を議論しながら、④提案について議論を重ねて
○文科系における都市計画教育
いる。
文科系の都市計画教育は議論しているのか?(里居・宇都宮
共和大)
/工学系が中心だが、建築学会コンペでの社会学系の学生の
(2)全国会員対象 WEB アンケートの結果概要(澤木)
有効回答数は 288。
「都市地域経営」
「防災」
「環境関連」
「プ
発想も面白かった(三輪)
ロジェクトファイナンス」が拡大し、
「再開発」
「景観デザイ
/関西では都市計画は1校の大学では教えきれない。連携が
ン」
「市民活動」は今後も重要との結果を得た。能力的には「プ
必要。都市計画教育のコアがあり、それは技術でなく都市へ
ロデュース能力」
「問題分析能力」
「意見をまとめる能力」な
の意識ではと議論している(鳴海)/経済学とは社会システ
どが求められており、人材育成の場としては「企業・自治体
ムとしての都市計画という考え方であればフェーズが合うの
での実践上のOJT」
「大学院での専門教育」が挙げられた。
では(里居)
/商社・金融・不動産の方々は文系出身が多く、合意形成の
(3)研究分科会検討結果の中間概要報告(澤木)
進め方で悩むこと多い(梶木)
今後の都市計画分野の枠組みとして①領域の広がり、②プ
ロセスの重視、③管理・運営をキーワードに、都市計画プラ
○都市計画行政における専門家
ンナーの基本姿勢を議論し、その後大学・行政・民間の3つ
行政における専門家について中部支部で研究会。行政におけ
のグループで人材像と育成方法を議論している。行政グルー
る有識者の活用方法を考えられないか(加藤・名古屋産業大)
プでは、①調整力、②まちづくりの主治医でかつ都市計画の
/都市計画の専門家は地方にはおらず、3大都市圏で育てて
Ⅱ−24
いく必要有り。ただし、1市で賄うのは無理(平田・兵庫県
立大)
/まちづくり NPO にも専門家がいる(澤木)
/民間の専門家は有識者の立場だけでは仕事にならない(堀
口)
○都市計画分野の学生の資質
都市計画分野の学生は物事や議論を進めていく能力に長けて
おり、これを専門性に高めていく必要あり(秀島・名古屋工
大)
/学生を OJE(On The Job Education)で濃密に教育すると
3ヵ月ぐらいで学生が変わってくる(鳴海)/JABEE 認定
により必修科目が増え、4年間で都市計画を学ぶことが難し
くなった。社会で仕事を学んだ人が大学に戻ってくるのが理
想(嘉名・大阪市立大)
/文理融合でもフィールドが重要(塚本)
/どの場面で活用する人材を育てるのかが重要。問題認識能
力やコーディネート能力が必要。工学的な理念をコアに文化
や歴史などを取り込む必要あり(石嶺・JUDI 琉球ブロック)
/文科系大学で物的環境に関する知識を教えても役に立たな
い(里居)
/社会システムを扱うには専門領域を決めながら、いろいろ
な人とコラボレーションしていくことが必要(三輪)
○総括(塚本)
出てきた意見を研究分科会で議論・活用させていただきたい。
Ⅱ−25
5.
「都市計画分野の人材育成と職能の拡充」に関するアンケート 調査票
調査の趣旨
近年、社会・経済状況の変化、既成都市インフラの成熟、人々の価値観の多様化、環境・
資源制約、
行財政改革等に伴い、
都市計画の役割やあり方が変化しているといわれています。
本アンケート調査は、都市計画・まちづくりに関与する官公庁、民間企業、大学等に所属
される本学会員を対象として、
① 都市計画に関する業務の変化
② 都市計画に携わる人材の資質やその育成
③ 都市計画に関わる職能の確立
の3点について、日頃お感じになられていることをお伺いするものです。
このアンケート結果に基づいて、都市計画とその関連分野(業務・研究領域:以下、単に
「都市計画」と略します)に関わる職能の拡充や人材育成の方向を明らかにするとともに、
日本都市計画学会の社会的責務とその役割の強化について検討していく予定です。
よろしくご協力ください。
「都市計画教育と都市計画に関わる人材育成に関する調査研究」分科会では、今後、本ア
ンケートをWEB上で実施していく予定(URLはメールにてご案内します)ですが、本日、
当ワークショップにご参加のみなさんには、この場でご記入いただき、お帰りの際にご提出
いただければ助かります。
いただいたデータは、すべて統計的に処理をいたします。
ご協力をよろしくお願いいたします。
「都市計画教育と都市計画に関わる人材育成に関する調査研究」分科会
代表 鳴海邦碩
Ⅱ−26
最初に、あなたご自身のことについてお尋ねします
Q1 日本都市計画学会の会員の種別は何ですか?
1.正会員
2.学生会員
3.賛助会員
4.非会員
Q2 年齢は?
1.10代
2.20代
3.30代
6.60代
7.70才以上
4.40代
5.50代
Q3 あなたが所属する産業分野(職業)は何ですか?
1.官公庁
2.公団・公社・独立行政法人
3.公益サービス(鉄道、ガス、電力など)
4.教育機関(教員)
5.教育機関(学生)
6.専門サービス業(コンサルタント、設計業)
7.建設業
8.不動産業
9.金融・保険業
10.卸・小売業(流通業)
11.NPO
12.その他(
)
Q4あなたの勤務地・通学地はどちらですか?都道府県名でお答えください。
(
)都・道・府・県
Q5 あなたはこれまで(概ね5年程度)
、どのような分野の業務・研究領域に関与されてきましたか?(当て
はまるものすべてに○)
1.市街地整備分野 2.農山村関連分野 3.土地利用分野 4.新都市開発分野
5.既成市街地の再開発
6.景観・デザイン分野
7.住宅関連分野
8.医療・福祉関連分野
9.交通関連分野
10.都市基盤分野
11.防災分野
12.市民活動関連分野 13.緑・生態系関連分野 14.観光・レクリエーション分野
15.環境関連分野
16.施設維持管理分野
17.都市・地域経営分野
18.プロジェクトファイナンス
19.情報サービス分野
20.国際協力関連分野
21.その他(
)
都市計画の変化の方向についてお尋ねします
Q6 現状の都市計画の問題点として、もっとも大きいと思われるものはどれですか?(一つに○)
1.法定都市計画が複雑で判りにくい
2.住民・企業・NPOが都市計画を発意・決定するしくみが一般化していない
3.自然や環境、都市デザインなど質を重視したまちづくりを誘導する制度が求められている
4.産業経済、文化歴史、安全安心(防災や福祉)などの分野との関連が必要になっている
5.作ることを重視しすぎ、既にあるものの維持・保全・活用が不十分
6.都市経営や地域経営に配慮した都市計画になっていない
7.地方分権が進んでいない
8.その他(
)
Q7 今後、需要が拡大すると思われる都市計画分野はどのような分野でしょうか?
(当てはまるものすべてに○)
Ⅱ−27
1.市街地整備分野 2.農山村関連分野 3.土地利用分野 4.新都市開発分野
5.既成市街地の再開発
6.景観・デザイン分野
7.住宅関連分野
8.医療・福祉関連分野
9.交通関連分野
10.都市基盤分野
11.防災分野
12.市民活動関連分野 13.緑・生態系関連分野 14.観光・レクリエーション分野
15.環境関連分野
16.施設維持管理分野
17.都市・地域経営分野
18.プロジェクトファイナンス
19.情報サービス分野
20.国際協力関連分野
21.その他(
)
新たな分野の拡大に対応するための能力開発や人材育成について尋ねます
Q8 今後の都市計画に必要な基本的な資質(能力)はどのようなものだとお考えですか?(当てはまるものす
べてに○)
1.空間把握・構成能力、デザイン力
2.問題分析能力(複雑な話を解きほぐしたり翻訳する能力)
3.意見を引き出したり多様な意見をまとめる能力
4.プレゼンテーション能力
5.交渉力
6.財務能力
7.組織・人材管理能力
8.高度に分化した専門性
9.総合的なプロデュース能力(コーディネート能力)
10.新たな分野を開拓する独創性
11.その他(
)
Q9 今後の都市計画を担う人材を育成する場として、あなたがもっとも期待するのは次のうちのどれですか?
(一つに○)
1.大学院における専門教育
2.企業や地方自治体における実践上での教育(OJT)や研修
3.学会による再教育・継続教育(CPD)
4.業界団体が実施する講習会
5.専門学校における専門教育
6.その他(
)
Q10 学会が人材育成に果たす役割の一つとして会員向けの継続教育(CPD)が考えられますが、あなたは
どのような内容の教育を期待しますか?
(当てはまるものすべてに○)
1.最新の学術的専門知識・技術に関する教育
2.最新の潮流や背景・方向性などについての解説
3.体系だった専門知識・技術の教育
4.都市計画に関してこれまで培われてきたノウハウの伝授
5.経済や法律など都市計画を取り巻く周辺領域の専門知識の教育
6.プロジェクト運営や都市経営の能力を身に付ける実践的なトレーニング
7.市民参加型まちづくりを進める能力を身に付ける実践的なトレーニング
8.その他(
)
Ⅱ−28
都市計画における新たな職能の確立と学会の役割についてお尋ねします
Q11 今後の都市計画の職能を確立していくためには、どのような取り組みが必要であるとお考えですか?
(当てはまるものすべてに○)
1.業務の各プロセスに応じた報酬システムの明確化
2.多様な職種の再整理(NPOなど新規参入との調整)
3.多様な関連業種との連携、協力体制づくり
4.地域住民団体など多様な主体が業務を発注できる仕組みづくり
5.産、学、官の職種の流動性の向上
6.弁護士のような権威のある資格制度(再教育制度)の創設
7.社会的な倫理観の確立
8.その他(
)
Q12 上の質問(Q11)の中で、特に学会が取り組むべき役割と考えられるものは、どのようなものだとお
考えですか?(一つに○)
1.業務の各プロセスに応じた報酬システムの明確化
2.多様な職種の再整理(NPOなど新規参入との調整)
3.多様な関連業種との連携、協力体制づくり
4.地域住民団体など多様な主体が業務を発注できる仕組みづくり
5.産、学、官の職種の流動性の向上
6.弁護士のような権威のある資格制度(再教育制度)の創設
7.社会的な倫理観の確立
8.その他(
)
Ⅱ−29
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