Comments
Description
Transcript
農村計画学とは - 京都大学農村計画学分野・持続的農村開発論分野
2013年度 Ⅰ ガイダンス 農村計画学(その1) 農村計画学とは 農村計画学研究室 農村計画とは・・・・ 農村計画学の特徴 農村計画学研究室の研究テーマ 星野 敏 1 1 農村計画とは・・・・ 2 具体的な農村計画 一定の農村地域の住民の所得と生活の安定的向上を目標として, 地域の社会経済的・物的諸条件の改善・整備を図る計画 ①地域農業計画(地域産業振興計画):地方自治体や農協などが策定 する、農林業を中心とし商工業などを含めた産業振興のための経済 計画 ②農村整備計画:生産関連および生活関連の物的諸施設(生産,交通, 教育,文化,福利厚生等の公共施設と集落の住宅)の整備に関する 計画 ③地域社会計画: 社会変動(少子高齢化,混住化,過疎化,グローバ ル化など)の過程で生じる社会的緊張を緩和し,望ましい未来の社 会を創出するために,体系的に社会的諸資源を配分するための計 画(日本大百科全書 大塩俊介) ④土地利用計画:そしてこれらの計画を一定の地域空間に配置する空 間計画(平凡社世界大百科事典 和田照男) ⑤地域活性化計画:長期ビジョンに基づく包括的な地域再編計画(上記 ①~④を必要に応じて組み合わせる) 4 農村計画とは,「国あるいは地方自治体などが,当該農 村地域の様々な営み(生産,生活,教育,保養,公共活 動など)を可能な限り望ましいものに近づけるべく,その 目的を達成するための各種の方策を構想化し,かつそ の実施規範を作成すること(農業土木ハンドブック第5 版)」 農村計画学とは,「農山村地域の地域計画をつくるため の方法論」といえます。 では,農村計画の特徴とはどんなものでしょうか? 3 研究室の歴史と社会背景 1960年代~(高度経済成長期) 農村計画学とは? ●1966年 農地計画学講座として誕生 1970年代~ 対象領域=農村地域(国内・国外) 多様化する人間活動の社会的・経 済的構造を主に土地利用の面から 分析・評価・設計する 農村を取り巻く自然や基盤施設等 の空間構造を分析する 農村に関わる社会状況や制度を分 析し,将来像を描き,その到達手法 を提案する これらによって今後の農村のあり方を 研究する学問 農村地域での雇用先の確保(工場誘致) 東京・大都市のバブル景気と地方の産業衰退 地域活性化、農村における大規模リゾート開発 1990年代~ 農村計画は多くの学問分野から成り立つ学 際的な学問 農産物の輸入自由化 ガット・ウルグアイラウンド農業合意(1993) 中山間地域の活性化対策と平坦農業地域の低コスト化対策 農業・農村の多面的機能(水源涵養,保健休養,自然環境保全など)が注目 ●1995年 農村計画学分野に改称(大学院重点化) 2000年代~ 地方分権化と市町村合併の推進 生物多様性保全と生態系サービス(生態系が人間にもたらす便益)の評価 人口減少社会と限界集落問題→農村地域の社会と環境の持続性が問題 ●2012年 持続的農村開発論の発足(地球環境学堂とのWアポイント) ルーラル・サステナビリティの確立 6 農地周辺の生き物調査 農業体験学習の場 生業としての農業から多様な農へ 2 農村計画学の特徴は・・・・ ① ② ③ http://www.nou-taiken.net/ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ 7 http://www.nou-taiken.net/ 米の生産調整の導入 → 米の過剰 農業生産だけでなく,生活環境も重視(圃場整備+集落排水+道路整備) 農村総合整備→事業の対象が農地から農村全体へ拡大 1980年代~ 現場での課題解決や実践に役立てられるこ とが特に重要 5 農産物の直売,加工,食事処 食料の確保と生産力の向上→機械化の進展に応じた農地の造成・整備 都市への人口流出、農業就業者の減少、農家の兼業化への対応 土地利用競合(農地減少,スプロール化) → 計画的な土地利用の必要性 地域固有の景観美 プラグマテックで学際的(これを「雑科学」と呼ぶ) 未来をデザインする(妥当性のよりどころを策定の過程に置く、 Process-Oriented Planning) 農村計画は,長い歴史の中で形成されてきた人と自然の共 生システムを再編するもの(目に見えないシステムの存在) 農林業の重視、自然生態系保全に対する細かな配慮,自然 生態系を介した資源循環プロセス(都市計画とは違う!) 住民の特性,とりわけ住民自治組織の特徴によって計画の 作り方が大きく異なってくる(地域に応じてスタイル変更) ダイナミックな合意形成手法(話合いは「生き物」) 規範(価値判断)の明示的処理(主観を客観的に扱う) ねらいは地域主体の問題解決能力の開発(地域力の向上) 8 ①プラグマテックで学際的な「雑科 学」 ①プラグマテックで学際的な「雑科学」 ③既存システムの再編計画 ②Process-Oriented Planning ⑥ダイナミックな合意形成手法 ④農林業と自然生態系への配慮 理論があって,それで解決できる課題を探すのではない。課 題にあわせて,有用な論理を組み立てる→問題からの発想 個別分野だけでは対応できない→学際的なアプローチ 学問である以上,科学的な根拠と合理的な判断に基づかな ければならない→「雑学」ではなくて,科学的な手順に基づく 「雑科学」 ⑦規範(価値判断)の明示的処理 9 ⑤住民主体の特性に対する配慮 ⑧問題解決能力向上 ②Process-Oriented Planning 10 ③規範(価値判断)の明示的処理 過去を分析する学問ではなくて,将来を設計す る学問である→計画のただしさ(適切さ)の根拠 を結果に求めることが出来ない 適切な手続き(最善の診断,最善の設計,適切 な合意形成)から計画の妥当性を判断する→ Process-Oriented Planning 11 絶対的に正しいということを,誰も断言できない 価値(なにをより重視するか)という判断は主体に よって異なる 従って,計画に関わる人(住民,行政,首長ほか)に 対して,価値判断の過程を透明にするべきであり, ブラック・ボックスにしてはいけない だれがそれを判断するべきなのか,常に意識する必 要がある 12 ④農村計画は既存システムの再編計画 農村計画は,白紙の上に描く計画(ニュータウン 計画など)ではない 空白に見えても、既存の社会経済システムが存 在する→農村計画は再編計画である 新しい計画が既存のシステムの中で有効に機 能するためには,既存システムの特性を理解し, 整合性を考慮する必要がある ⑤農林業と自然生態系への配慮 農林業および農山村地域での生活は自然条件・農 業生態系に大きく依存している(影響を受けている) 農村計画においても,農林業の重視や自然生態系 への配慮が不可欠である(自然の果たしている機 能を損なうことなく,上手に活用) 13 ⑥住民主体の特性に対する配慮 14 ⑦ダイナミックな合意形成手法 農山村地域では,集落を基礎とした住民主体(自治 組織あるいは受け皿組織)が機能している 合意形成において,中心的な役割を果たすのは自 治組織である(Receiving Mechanism) 実際には,うまくまとまって対応できる(合意をまと めあげる)自治組織とそうでない自治組織がある 集落(自治組織)の社会的特性によって,計画づくり のスタイルを変える必要がある 15 個人の問題ではなく,集団の問題を対象とする=集 団的な合意形成を前提とする 合意形成は極めてダイナミック(流動的)なプロセス である 計画づくりの現場で,参加者の意向を集約して,そ れを「かたち」にすることがプランナーに求められる プランナーは現場の状況に応じて,打つ手を変えな ければならない→計画手順の厳密なマニュアル化 は難しい 16 ⑧地域主体の問題解決能力の向上 地域社会の歴史と比べて,計画づくりは一瞬の出来事 人間の行動は「慣性の法則」に従うので,地域の再編は そんなに簡単には進まない 計画づくりを広義(=管理のサイクルplan-do-seeの繰り 返し)にとらえる その広義の計画づくりのプロセスは「地域づくり」と一致 地域づくりの目的は,地域主体の問題解決能力の向上 17 農村計画学のイメージ1 (農村計画学「浮島論」) 農村計画学のイメージ2 (農村計画学「浮島論」) 実学は,基礎科目の知見を駆使し,応 用分野で課題を解決する 水利施設なら:水の流れを力学的に解 析する水理学とか,降雨と流出の関係 をモデル化する流出解析(水文学)など が基礎科目となる 土木構造物なら:土木材料的な観点か ら土の力学特性を把握する土質力学, 構造物の力学的な安定性を解析する 構造力学とか,それなりにある 基礎的学問の上に課題解決を担う応 用分野が乗っかって,現実の課題を解 決するのが,既存の実学分野です。 農村計画学という分野はまだ新しく,研究の蓄積も十分とは言え ません。それだけに,初心者にとっては苦労することも多いので すが・・・ 計画は既に「問題」の生じているところで,あるいは今後大きな 問題に発展することが予想されるところで必要とされる社会的な 問題解決の方法です。 今日の農村地域は,地域問題をいっぱい抱えています。さらに は,グローバルな環境問題や資源・エネルギー問題の解決も農 村地域とは無縁でありません。 ということは,農村計画学という視点から見ると,取り組むべき課 題が山積している状態と言えるでしょう。 これは我々(研究者)にとっては-もちろん,院生や学生の皆さん にとっても-活躍の場が広がっているという意味で,大きなチャ ンスです。 いろんな分野の研究成果(理論,手法)を活用しながら,直面す る地域課題の処方箋を考えるところに,独創性を存分に発揮す る「場」があります。 18 分野の課題解決 応用科目 水面 基礎科目 既存の実学分野 農村計画学の場合も,解 決することが期待されて いる課題はたくさんある しかし,農村計画学の基 礎科目にあたるものが従 来の農業土木系科目だ けでは足らない 上から見れば,既存の学 問のように,課題が見え ますが,実際には農村計 画学の下に十分な基礎 がない(正確には、別の 分野で基礎勉強が必要) 農村計画学とは,まるで 浮島のような存在 水面 正統派の 課題 農村計画学 の課題 上から見ると,どちらも同じように課題がみえる 分野の課題解決 応用科目 基礎科目 基礎科目がない 既存の実学分野 農村計画学=浮島 19 20 農村計画学のイメージ3 (農村計画学「おじや論」) 農村計画学のイメージ4 (農村計画学「借り物競走論」) 農村計画学は様々な分野の知識を必要とします。かつて, 農村計画学会ができた頃(1980年代後半),「私の農村計画 論」というテーマで研究会が何度か開催されましたが,その 時、農村計画学「おじや論」も議論されました(実際の「おじや 論」の誕生はそれより前だったと思います)。 いろんな分野の研究者が学際的に交流して農村計画を議論 することで,鍋の後の「おじや」のように美味くなる(成果があ がる)というものです。 その当時,活躍されていた先生方の多くは,そして現在も状 況的に大きな変化はありませんが,元々の専門分野(これは 沈まない)に軸足を置いて「農村計画学(こちらは浮島)も」研 究するというスタイルが一般的だったように思います。「二足 のわらじ論」です。 21 しかし,当時,私は計画学を看板に掲げた研究室(北村貞太 郎先生の地域計画論研究室)に在籍していましたので,両足 を浮島の上におかざるを得ない研究室でした。それで,浮島 を沈まないようにする工夫が必要だと思いました。 たとえば農村コミュニティに関する知識は必要不可欠ですが, これは農村社会学で扱います。社会調査論の基礎知識や フィールド調査・参与観察の手法も必要でしょう。また,品質 管理・TQCやファシリテーションの技術や社会心理学なども 役に立ちます。 しかし,農村社会学の全ての知識が必要なわけではありま せん。必要な知識はその一部です。 様々な分野で蓄積されてきた断片的な知識を農村計画学へ の必要性に基づいて再構成した独自の基礎学を樹立する必 要があるように思います。必要なものを借りてくるので,私は, 農村計画学「借り物競走論」と呼んでいます。もちろんこの言 22 葉に一般性はありません。 農村計画学のイメージ5 (農村計画「ドラマ論」) 教授:星野 敏 准教授:橋本 禅 特定准教授:清水夏樹 地域空間は舞台であり、地域主体(農家や企業などの経済主 体を含む)は役者。 地域空間の上で展開されるドラマ(活動)を特定のテーマ毎に シナリオとしてまとめたものが部門計画である。 舞台装置と大道具の配置をスケッチした図が土地利用構想図 であり、それを詳しく描いた図が土地利用計画。 プランナーは脚本家兼演出家。監督のような絶対的権力をも つ人はいない。それに変わって,首長や地域のリーダーがリー ダーシップを発揮することはある。 シナリオの筋書きや演出家の指示をどの程度、受け入れ るかは、役者の判断とやる気にまかされている。実際の 演劇とは異なり、監督や演出家の力は弱く、はかない。 一方、近年では、役者自身が共同で自分達のシナリオを 描くこともある。これは住民主体型の計画づくりである。 23 農村計画学とは 自然の力,人の心,組織の力,地域の文化,技術の力,制度・政策などが合わ さって,現在の農村が存在しています。農村計画学は,これらの現実のメカニズム を解明し,望ましい未来を実現するために,それぞれの要素の総合化を目指した 学問です。 農村計画学のテーマ 農村の未来をデザインするとともに,実現の手段を構想する 直面する地域問題を解決するための処方箋をつくる 里地・里山生態系サービスの再生戦略を構築する 土地利用や土地改良事業の制度を設計する ハードな基盤整備とソフトな対策(組織づくりや活動計画)を組み合わせた総合化 手法を開発する 住民自治組織の発展や地域リーダーの成長を支援する 現実の合意形成のメカニズムを解明する 24 農村計画学分野の研究事例 25 農村計画に係わる推薦図書 1. 改訂 農村計画学 (単行本) 農業土木学会 ¥ 4,200 農業土木学会 (2003/05) <教科書的、公務員試験対策> 2. 福与徳文 『地域社会の機能と再生―農村社会計画論』 (日本経済評論 社) (2011/8) 3. 中塚雅也編 『農村で学ぶはじめの一歩』 (昭和堂) 4. 彩適空間への道―住民参加による集落計画づくり 岩田 俊二・川嶋雅章著 ¥ 2,625 農林統計協会 (2004/08) 5. 農業農村工学ハンドブック(改訂7版) (農業農村工学会)、2010 6. 大西隆ほか共著 『これで納得!集落再生』 (ぎょうせい) 7. 河村能夫・星野 敏・目瀬守男共著 『地域活性化と計画』 (明文書房) 8. 撤退の農村計画―過疎地域からはじまる戦略的再編 林 直樹 , 齋藤 晋共 編著 ¥2,415 学芸出版社 (2010/10) 9. 雑誌 『農業と経済』(昭和堂) :今日的な農業農村問題を特集した月刊の専 門雑誌 27 詳しくは,農村計画学のWeb頁を開けてください。 グーグルで「農村計画学研究室」と引けば,最初に出てきます。 26