...

第 16 講 第4章 金融問題(1) 1.貨幣に対する考え方

by user

on
Category: Documents
1

views

Report

Comments

Transcript

第 16 講 第4章 金融問題(1) 1.貨幣に対する考え方
第 16 講 第4章 金融問題(1)
1.貨幣に対する考え方
二つの貨幣観
●〈供給側〉における貨幣
貨幣は単に物の取引を円滑にするための潤滑剤,あるいは価値を計る単位
●〈需要側〉における貨幣
総資産の一部を構成しており,その中でもっとも流動性の高いもの→貨幣そのものよりも流動性全体
が重要であり,その全体量が需要規模を決め,それを通して経済活動にも影響を及ぼす
(注)流動性: 損失無しに短期の予告で確実に貨幣に交換しうる性質。
もともとの意味から言えば,財の流通力の高さの度合いを指す。すなわち,あるものが財となるに
は,その財を消費することによって,そこから何らかの便益を得るという具体的有用性,すなわち使
用価値があるからであるが,それに加えて,現に所有している財では満足されない要求が生じたとき
に,その要求を満足する他の財またはサービスと交換できるという性質もある。生産者が,自ら消費
する目的によらずに財を生産するのは,後者の性質を期待するからである。財の持つこの性質を流動
性という(マルクスは,商品(財)の交換可能性を「交換価値」あるいは単に「価値」と呼び,それ
が商品の本質的性質として説明する。ただし,マルクス経済学では,「価値」は,その商品を生産す
るために必要な社会的に平均の労働力であって,その商品の生産性によって変動するが,流動性のよ
うに金融政策によって変動することはない。)。
あらゆる財は,使用価値と流動性の二つの性質を持っているが,使用価値が流動性そのものである
特殊な財を貨幣という。貨幣の流通を保証する国家の信用が十分に高ければ,あらゆる財の中で貨幣
の流動性が最も高いので,流動性は,最初の定義の形に翻訳される。言い換えれば,必要な時にいつ
でも期待通りの価格で売れる,あるいは現金化できると言うことである。以上のことが示すように,
流動性とは,交換=購買成立の可能性を表すものなので,流動性の大きさは,購買力の大きさに対応
する。すなわち,一般に,貨幣量の増大が購買力の増大に対応するとされているが,貨幣量だけでは
なく,すべての財の流動性の総量が購買力を決定していることを理解することが重要である。
当然のことながら,流動性は,すべての財について一様ではない。また同一の財であっても,本文
で述べているように,その時々の経済条件によって変動する。例えば,普通預金は,その総額の範囲
内でなら,ほとんど手数料無しに自由に引き出せるばかりでなく,基本的に保護されているので流動
性は極めて高く,ほぼ現金に匹敵する。一方,定期預金は普通預金同様保護されているが,満期以前
に換金しようとすると,高額の解約手数料を要求されるので,普通預金よりは流動性は低く,そのか
わり利子率が高い。国債や手形,貸し付けなどの債券も,期限前に現金化しようとすれば,額面を割
り引かなければならず,さらに流動性が低いが,債券毎の安全性によって,流動性に差がある。すな
わち,普通,国家が保証する国債の方が一般の企業が振り出す手形よりは流動性は高い。また,土地
や宝石,貴金属などの資産は,本来頻繁に売買流通されるものではなく,また,市況に左右されるの
で,基本的には流動性は低い。株式は,株式市場の整備によって流動性が高まったが,反面,リスク
は拡大した。(第5講の再掲)
●〈供給側の経済学〉における貨幣
* 需要=経済全体の生産能力でをフル稼働して生産した物をすべて使い切るように,自動的にが決
まる
* 経済全体の物の生産能力→貨幣量とは無関係
→経済の実物的側面(物の生産量,取引量,需要量など)も,貨幣量とは無関係
すなわち,
* 経済の実物的側面が決まった後に,物の取引のさいに貨幣が必要となり,物一つの価格が決まれ
ば,すべての物を取り引きするのに貨幣がいくらいるかが決まる=貨幣需要
* 一方,先に貨幣量が与えられていれば,貨幣需要から逆算して,その貨幣量が経済全体の物の取
引にちょうど見合うように,物一個当たりの価格が決まってくる
↓
〈供給側〉の考え方では,物が主であり,貨幣は完全に従
●〈需要側の経済学〉における貨幣→金持ち願望を満たす流動性の一部
→貨幣量の増大=購買力の増大=需要の拡大→経済活動水準の上昇
他の資産でも程度の差こそあれ同じ働きを持つ
→預金はもちろん,土地や株式,債券なども,ある程度の,流動性を生み出しへ金持ち願望を満たす。
▽流動性=ある資産を保有することが,自由に使える貨幣をどのくらい持つことに対応するかを表し
ている
ex)
▽一億円の地価の土地=所有者にとっては,一億円の貨幣を持っていることと同じではない
* 担保にして資金を借りれば,一億円をはるかに下回る額しか借りられず,手数料や手間もかかる
* 売る場合も,手数料や手間がかかるし,その額で売れるとは限らない
▽株式→貨幣に変えるには手数料と手間がかかり,時価どおり売れるとは限らない→株式の持つ流動
性は土地より高いが,貨幣よりは低い。
↓
各資産はそれぞれ異なる程度の流動性を持つ→その程度は経済の状況によっても変化
流動性の変化は,土地面積や株式の数量など,個々の資産の物理的な量が変わらなくても起こる
* バブル期→土地や株式の取引が活発で,価格も上昇
→貨幣量は変わらなくても,すべての資産が生み出す流動性は莫大
→人々の金持ち願望の満足→物に対する購買意欲の増加→経済活動の活発化。
* 不況期→資産価格は低迷→評価額と流動性は大幅に下落
→人々は貧しくなったと思い,失った資産価値の水準を少しでも回復しようと貯蓄を増やし,
消費を減らす
→企業業績も悪化,土地が生み出す収益性も低下→株価や地価はさらに下落
↓
〈需要側〉の考え方では,貨幣そのものよりも,貨幣を含むすべての資産の総体が生み出す,
流動性総量が重要
→流動性総量が,経済の実物的側面の活動水準を決めている
株価や地価と流動性
●資産価格に対する二つの考え方
* 〈供給側の経済学〉における資産価格
→資産が生み出す収益のみを裏付けとした価値=「ファンダメンタルズ」
* 〈需要側の経済学〉における資産価格
→金持ち願望も満たす
→流動性は高く,その価値が確実だと思えば,その価格は収益性とは直接関係がなくても拡
大
→流動性の増大=消費意欲の向上→好況
→企業収益も土地から生み出される収益も上昇
→ファンダメンタルズすら改善
▽不況期のバブル=物価のデフレによる貨幣のバブル
物価のデフレ→貨幣の実質価値の上昇
不況期には金持ち願望を十分に満たす資産は貨幣しか残されていない→人々の金持ち願望は貨幣に集
中→タンス預金までされる
▽資産とバブル
* 満期のない資産:株式や土地,現金通貨
→いつまでもその価値を保ち得る→金持ち願望に基づくバブルが存続可能
* 満期が有限である債券→バブルが起こらない
満期における価値がはじめから与えられているから
ex)満期において元金が返済されるような債券
→満期日に元金以上の価値を持つはずはない
不況期の流動性
不況期:余剰労働力や遊休資源→社会的に見れば,リストラによる体質改善よりも,積極的な事業を
拡大が望ましい。
ところが現実の不況期には,逆に信用の収縮
* 金融機関の貸し渋り
* 不良債権問題による銀行への不信→預金者には預金を引き揚げようとする傾向
●銀行の信用創造による流動性の拡大
1) 銀行が資金を貸し出す
2) 人々が銀行に預金を預ける
の二つの要素が必要
現状では,信用創造の二要素がいずれも萎縮
→金融部門が生み出す貨幣や預金などの流動性も,企業部門が生み出す株式という流動性も相乗的に
収縮し,景気を低迷させている。
2.中央銀行の役割
〈供給側〉から見た中央銀行の役割・物価安定
●流動性の水準=実質貨幣量
→取引に過不足ない量であればよい。
→物価が素速く調整して,ちょうどよい実質貨幣量が実現できるならば,中央銀行は貨幣の名目量を
調整する必要すらない
↓
金融政策は実体面には何の影響も与えない
しかし,物価水準をできるかぎり一定に保つことが重要
▽名目貨幣量の無制限の拡大
→実質貨幣量を取引に必要な一定量に保つためには物価水準がつねに変動
→調整の遅れ,物価変動に対する予想のあやまりで,流動性の量が一時的にせよ過大/過小
に
↓
* 完全雇用水準まで物が売れない
* インフレの進行→貨幣への信頼失墜
↓
中央銀行は,主に物価のインフレ率を目安として,金融緩和や引き締め=「通貨の番人」→
みずからが発行した貨幣の価値を維持することが,第一の責務
〈需要側〉から見た中央銀行の役割・積極的な流動性管理
●流動性=金持ち願望を満たす源泉
〈供給側〉が考えるような物の取引のための単なる潤滑油ではない
人々は流動性量の拡大縮小によって,金持ちになったり貧しくなったりしたと思い,消費や貯蓄を増
減→実体経済も変動
↓
実体面とは無関係に,単に貨幣価値が一定になるように名目貨幣量を維持するだけでは,流動性の管
理には不十分
↓
経済全体の流動性を適切な水準に維持しながら,景気過熱も不況も起こさないようにする
→流動性を生み出す他の資産価格の動きまでも注意
▽アメリカの現状
〈供給測〉は,物価のインフレ率は低いが資産価格は伸びているという状況は,理想的なものと見る
→経済の実体はよく,貨幣への信頼は厚いから,貨幣価値は安定しているという評価
しかし,安定した物価と膨張する資産価格→流動性量の異常な伸び=裏付けのない空手形を発行し続
けているのと同じ
→資産価値への信用がなくなり,いつかは崩壊
金融緩和とデフレ対策
▽好況期→株価や地価の自律的流動性増大
→中央銀行が何もしなくても,経済全体の流動性は拡大
→持続的景気上昇
▽不況期→流動性の低迷→需要不足→デフレ傾向
→貨幣価値の維持には有利
→貨幣保有に対する魅力の向上
→消費抑制=景気悪化
↓
本来経済を順調に活動させるための貨幣価値の安定が,かえって景気を抑制
長期のデフレは,貨幣の実質価値を徐々に拡大し,流動性の実質量も増やすが,拡張速度は遅く,十
分な流動性確保の見通しがたたない
↓
金融緩和によるデフレ対策→消費を刺激することの必要性
しかし,急激な貨幣供給→日銀券自体の信用失墜
→かえって流動性量を減少させる危険
↓
貨幣の信用を失わない程度の低い率で,安定的かつ持続的に貨幣供給を拡大が重要
↓
* 流動性量の緩やかな増加→資産保有意欲の減退
* 若干のインフレ期待(あるいはデフレ減少期待)
=貨幣を保有が不利に→流動性保有願望の減少
↓
相対的に消費意欲が増して,二重の意味で景気刺激
すなわち,
●金融緩和の二つのポイント→流動性を増やすことと,インフレ期待を抱かせること
ただし,普通の金融緩和ではなかなかうまく効果が現れない
公定歩合引き下げの意味
●不況期の公定歩合引き下げが期待通りの効果を発揮しないのはなぜか
* 市中金利が極めて低いときは,資産を債券類として保有するよりも,事実上無利子でも,流動性
の高い貨幣や預金で持っている方がまし
→貨幣供給量を増やしても,債券や株式などの収益を生み出す資産への需要には回らず,そ
のまま貨幣として保有
* 銀行の貸し渋り
* 回収不能の危険
* 自己資本比率の向上→貸し出し抑制による総資産減らし
↓
公定歩合の引き下げを行っても,銀行は貸し出しを増やさず,経済全体の流動性の総量は変わらない
(注)公定歩合=市中金融機関に対する日銀の貸出金利
(注)自己資本比率=(自己資本/総資産)×100
* 自己資本=資本金および利益準備金の基本的項目(Tier 1)に返済条件の緩い劣後債務や株式含
み益(Tier 2)の一定割合を加えたもの(ただし、Tier 2 の合計が Tier 1 を超えてはならない)
* 総資産(リスク・アセット)=個々の資産をリスクによってウェート付けして足しあわせたもの。
現金,自国中央政府向け債権(国債など)はリスクウェイト0%,民間部門向け債権は 100%。
危険度が増すほど乗率が大きくなる
●銀行に対する隠れた補助金となる公定歩合引き下げ
民間銀行が資金の貸出量を増やすことなく,貸出利子率を低下させずに,日銀からの借入利子率(=公
定歩合)だけが低下すれば,その二つの利ざやによって,民間銀行の利益が増加
↓
不況期における公定歩合引き下げ=不良債権に悩む銀行に日銀から補助金を出し,不良債権の処理を
促して,経営破綻を回避させようとすること
しかし,流動性の総量自体は変わらないため,金融緩和にはならない
●不況期の金融緩和の景気刺激効果が小さい理由(まとめ)
1)金融を少々緩和しても,流動性保有願望が弱まらない
2)貸し渋りによって,民間銀行の信用創造を通した流動性の拡大が,起こらない
流動性の罠と投資・消費需要
●「流動性の罠」=資産に対する需要が,貨幣が持つ流動性という罠にはまってそこから抜け出せず,
すべて貨幣需要として吸収されてしまうこと
しかし,
流動性の罠は資産構成の選択だけにとどまらず,流動性保有への相対的な選好があまりに強いために,
債券や株式,企業への貸し出しなどに資産が回らないだけでなく,消費にも資金が十分に回らない
*
*
債券や株式,企業への貸し出しへの資金供給不足
→利子率低下の抑制
→企業への資金供給の抑制
→投資の抑制
人々の流動性保有願望
→貯蓄性向の上昇/消費抑制
また,貯蓄形態:銀行預金/郵便貯金/現金
↓
需要不足→売れ残りや失業
逆にいえば,流動性をうまく拡大することができれば,投資需要だけでなく,消費需要も増やすこと
ができる
Fly UP