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金融システムレポート
要 旨
日本銀行
2010年9月
わが国金融システムの現状評価
わが国の金融システムは、全体として安定性を維持してきている。金融仲介の面では、銀行が貸出や債券投資を
通じて与信シェアを拡大させた状態が続いており、貸出金利も明確に低下している。企業等に対する与信は総じ
て円滑に行われている。また、金融システムの頑健性も向上している。
もっとも、国際金融システムにおいては、先行き不透明感が高まった状態にあり、海外発のショックがわが国に及
ぶリスクに引き続き注意する必要がある。また、国内においては、銀行の基礎的な収益力が低下している。銀行
貸出債権の質の低下が続いていることにも注意する必要がある。
わが国金融システムを取り巻く環境
【第1章】
国際金融システムは、基調としては緩やかながら安定の方向に向かっている。もっとも、
2010年入り後、欧州ソブリン問題の表面化や米国景気の減速懸念の台頭などにより、
先行き不透明感が高まった状態にある。
先行きに関しては、先進国における財政再建と景気回復とのバランスが崩れたり、世界
経済の牽引役である新興国の経済成長が大きく鈍化するような場合には、不良債権の
増加などを通じて国際金融システムが不安定化するリスクがある。
金融仲介機能
【第2章、第3章4節】
〈現状評価〉
わが国の金融システムは、全体として概ね円滑な金融仲介
機能を果たしていると考えられる。
¾ 大企業を中心に資金繰りが安定したことで、企業の外
金融システムの頑健性
【第3章】
わが国金融システムの頑健性は向上している。
¾銀行は、普通株式増資を相次いで実施するなど、自己
資本基盤の強化に努めており、自己資本対比でみたリ
スク量は減少している。
部資金需要は減少している。中小企業でも、資金繰り
は改善の動きが続いている。もっとも、中小企業の中
には、依然として資金繰りの厳しさを訴える先も多い。
¾海外の金融資本市場で緊張が高まった中でも、銀行
¾ わが国のマクロの与信量は、実体経済との対比でほ
するというストレスが銀行の自己資本へ与える影響を
点検すると、最近の増資の奏功や、大企業製造業を中
心とした財務の改善もあって、銀行全体として自己資
本基盤が著しく損なわれる事態は回避されるとみられ
る。
ぼバランスの取れた状態にある。与信主体別にみると、
銀行が、機関投資家などの与信を一部補完した状態
が続いている。この間、銀行の貸出金利や社債の発行
金利は、広範囲に低下を続けている。
の資金流動性リスクは抑制されてきた。
¾先行きについて、景気減速と株価下落が同時に発生
1
〈先行きの展望〉
金融システムにはなお注意を要する点が残されている。
将来にわたる金融仲介機能の円滑な発揮という観点から
は、以下の点で留意が必要である。
¾先行きにおける貸出金利の低下余地が限定的となり
つつあるように窺われる。
¾銀行の基礎的な収益力が改善しない中で、貸出債権
の質の低下と貸出金利の低下が同時に生じている。こ
のため、収益対比で大きな信用コストが発生しやすく、
先行き銀行収益の圧迫要因となりかねない。
¾貸出市場以外でも銀行の与信シェアが拡大しているた
¾国債投資に対する選好が強まる中、地域銀行を中心
め、銀行部門にショックが加わった場合、クレジット市
場全体にその影響が幾分拡がりやすくなっている可
能性。
¾株式リスクは、削減が進められているものの、特に大
¾ストレス下で低下した自己資本比率を回復する場合を
¾ストレス・シナリオのもとでは、相対的に収益力や自己
想定すると、貸出残高の削減など金融仲介機能の低
下を通じて、実体経済活動に制約が及ぶ可能性。
資本基盤の弱い先の自己資本比率が先行きも低水準
に止まる可能性がある。
わが国金融機関の経営課題
【第4章1、3節】
自己資本基盤の一層の強化
¾貸出債権の質の低下が続くもとで、将来ストレスが顕
在化した場合でも損失をカバーし得るだけの自己資本
を確保する必要。銀行は、自己資本を巡る国際的な新
規制導入の動きも踏まえつつ、自己資本基盤を強化し
ていくことが重要。
株式リスクの計画的な削減
¾株式保有に伴う企業取引上の相対的なメリットを十分
に吟味したうえで、株式リスクの削減を計画的に続け
ていく必要。このことは、国際統一基準行にとって、自
己資本規制への対応にも資する。
安定的な収益の確保
¾金融機関には、成長力の高い企業や事業分野を発掘
することを通じて、収益機会を確保していくことが望ま
れる。金利リスクを複眼的に捉えた管理体制を整備す
るなど、リスク管理の実効性を向上させることで、リス
ク控除後の収益力を強化することも重要。
に、金利リスクが一段と蓄積される方向にある。
手行にとっては、なお大きなリスク要素である。
政策対応
【第4章】
〈国際的な金融規制の見直し〉
自己資本規制、レバレッジ規制、流動性規制に関して最終
的に合意。システミック・リスク抑制のための議論も進行中。
〈日本銀行の取り組み〉
成長基盤強化のための資金供給制度
¾わが国経済の成長性を高める観点から、成長基盤強
化を支援するための資金供給制度を導入。
ミクロ・プルーデンス面
¾個別金融機関に対する考査・モニタリングを通じて経
営状況を把握し、必要に応じてリスク管理などに関す
る助言・指導を実施。
マクロ・プルーデンス面
¾ミクロ・マクロの情報を活用しつつ、金融システム全体
を調査・分析・評価し、金融システムレポートを公表。そ
の結果は、考査・モニタリング、金融高度化センターの
活動に反映させるとともに、政策運営や国際的な規制・
監督の議論に活用。
2
『金融システムレポート』(2010年9月号)の目次
金融システムの現状と課題:概 観
1.わが国金融システムを取り巻く環境
3.金融システムの頑健性
(1)国際金融システムの安定に向けた動き
(1)信用コスト減少下での信用リスクの蓄積
(2)米欧金融システムを巡る不透明感
(2)蓄積が進む金利リスクと残存する株式リスク
BOX 1 ユーロ圏の銀行間市場の機能
(3)新興国経済の高成長と資本流出入
(4)わが国の金融システムに対する留意点
2.金融仲介機能の現状評価
(1)信用循環と景気循環
BOX 2 日米の与信比率ギャップ
(2)高まりにくい企業の資金需要
BOX 3 企業の負債・資本選択
(3)資金需要減少下の金融仲介
BOX 4 生命保険会社の市場リスク
(3)低位に抑制されている資金流動性リスク
BOX 5 米MMFのドル資金運用
(4)自己資本の頑健性と金融仲介
4.わが国金融機関の経営課題と日本銀行の取り組み
(1)銀行の健全性強化に向けた国際的な取り組み
(2)システミック・リスクの抑制に向けた国際的な議論
(3)わが国金融機関の経営課題
(4)日本銀行の取り組み
3
米欧金融システムを巡る不透明感
1.わが国金融システムを取り巻く環境
国際金融システムは、基調としては緩やかながら安定の方向に向かっている。
z
¾ 米国では、収益力のばらつきが金融機関間で拡大した状態。わが国のROAの分布が収斂していることと対照的。
2010年入り後、欧州ソブリン問題や米国景気の減速懸念の台頭などにより、不透明感が高まった状態にある。
z
¾ 欧州ソブリン問題の表面化を背景に、欧州周辺国の金融機関の信用力に対する懸念も高まり、これらの先のユーロ資金調
達コストは市場調達・預金調達ともに上昇。
¾ 米欧では、バランスシート問題が引き続き経済活動の重石となっている。
図表1-1-3 金融機関別のROA
1.5
%
米国
1.5
1.0
図表1-2-2 米国の貸倒償却率
欧州
%
1.5
1.0
%
日本
3.5
0.5
0.5
0.0
0.0
0.0
-0.5
-0.5
-0.5
-1.0
-1.0
-1.0
商業用不動産ローン
3.0
1.0
0.5
%
住宅ローン
2.5
2.0
1.5
-1.5
-1.5
07
08
09
10 年
07
08
09
10 年
07
08
09
注1)シャドーは金融機関の分布(25-75%点)、折れ線は分布の中央値。
注2)集計対象は上場金融機関。ROAは当期純利益の対総資産残高比率(4四半期移動平均)。直近は10年4∼6月。
資料)Bloomberg
1.0
0.5
-1.5
図表1-2-3 ソブリンCDSスプレッド
12
10
8
%
図表1-2-6 各国金融部門のECBオペ調達比率
20
ギリシャ
アイルランド
スペイン
ドイツ
0.0
10 年
15
%
ギリシャ
ポルトガル
スペイン
ユーロ圏
100
%pt
ユーロ圏
80
60
40
厳格化
0
緩和
-20
4
5
-40
2
0
08/1
08/7
09/1
注)期間5年。
資料)Bloomberg
図表1-2-9 金融機関の融資姿勢
20
10
6
01 02 03 04
05 06 07 08 09 10 年
注)直接償却額の対貸出残高比率。
資料)FRB "Charge-off and delinquency rates on loans
and leases at commercial banks"
-60
-80
0
09/7
10/1
10/7 月
大企業
中堅・中小企業
07
08
09
10
年
注)各国金融部門のECBオペ調達残高の対負債残高比率。
資料)Eurosystem
03 04 05 06 07 08 09 10 年
資料)ECB "The euro area bank lending survey"
4
わが国の金融システムに対する留意点
1.わが国金融システムを取り巻く環境
z
わが国の銀行収益は、国際金融資本市場が動揺する中にあっても改善傾向を維持している。資金調達面でも
比較的安定した状況が続いている。もっとも、基礎的な収益力は引き続き低下している。
z
先行き、海外の経済・金融システムが不安定化するような場合には、金融と実体経済の2つの経路を通じて、わ
が国の金融システムに影響を及ぼす可能性がある。
4
図表1-4-1 邦銀の当期純利益
大手行
兆円
2
兆円
地域銀行
3
2
1
1
0
0
-1
-2
-1
-3
-4
-2
10 年度
07
資金利益
役務取引等利益
有価証券関係損益等
経費・税金
注)信用コスト(不良債権処理損失)、経費は銀行単体ベース。
資料)Financial Quest
07
08
09
08
信用コスト
当期純利益
09
10 年度
図表1-2-5 金融機関CDSスプレッドのクラスター
金融危機前
リーマン・ショック直後
ギリシャ国債格下げ直後
クラスター分析は、高い類似性を示す順に
サンプルをグループにまとめ、サンプル全
体の相互連関性を階層構造(樹形図)で表
すもの。
ギリシャ国債の格下げ直後、わが国の金
融機関は、独自のクラスターを形成してお
り、米欧金融機関の間でみられたカウン
ターパーティ・リスク懸念の連鎖が及ばな
かったとみられる。
注1)CITI:Citigroup、GS:Goldman Sachs、MS:Morgan Stanley(以上米国)、
BNP:BNP Paribas、DB:Deutsche Bank、ISP:Intesa Sanpaolo(以上欧州)、
BTMU:三菱東京UFJ銀行、MHCB:みずほコーポレート銀行、SMBC:三井住友銀行(以上日本)。
注2)横軸は、値が小さいほど、サンプル間の類似性が高い(距離が近い)ことを表す。
5
信用循環と景気循環
z
2.金融仲介機能の現状評価
金融機関によるマクロの与信量(貸出および債券投資)は、長期的な趨勢に照らしてみる限り、実体経済との対
比でほぼバランスのとれた状態にある。
¾ 今回の景気後退局面では、実体経済が過去に例をみない規模で縮小。総与信はむしろ増加し、企業の資金繰りを下支え。
¾ 銀行の与信シェアは拡大した状態。リーマン・ショック以降、機関投資家の与信シェアの縮小分を補完。
¾ 政府部門向け与信が増加。国債市場には、機関投資家の資金のほか、銀行の資金も流入。
図表2-1-1 信用循環と景気循環
25
与信比率ギャップ
%
900
20
800
15
総与信と名目GDP
兆円
総与信
名目GDP
700
10
5
600
0
500
-5
与信比率ギャップは、総与信・GDP比率
の長期的な趨勢からの乖離。趨勢を示す
トレンド線は HPフィルター(平滑化パラ
メータ=400,000)による。
400
-10
300
-15
-20
200
80
85
90
95
00
05
10 年
80
注)シャドーは景気後退局面。
資料)内閣府「国民経済計算」、日本銀行「資金循環統計」
85
90
95
70
%
40
預金取扱機関
65
機関投資家等(右軸)
05
10 年
図表2-1-4 主体別の国債保有シェア
図表2-1-2 主体別の与信シェア
%
00
35
30
25
%
機関投資家
国内銀行
海外
20
60
30
55
25
15
10
5
50
20
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 年
注)機関投資家等は投資信託、保険会社のほか、証券会社等。
資料)日本銀行「資金循環統計」
0
00 01 02 03 04 05 06
資料)日本銀行「資金循環統計」
07
08
09
10 年
6
高まりにくい企業の資金需要
2.金融仲介機能の現状評価
z
リーマン・ショック直後に大きく落ち込んだ企業のキャッシュフローは、総じてみれば改善している。
z
設備の過剰感は緩和する方向にあるが、解消された訳ではない。企業の貯蓄投資差額は、過去最大規模の貯
蓄超過となっており、企業の外部資金需要は高まりにくい状況となっている。
¾ 企業は、金融危機以降、大企業を中心に手元資金を売上高対比で厚めに積み増し。手元流動性比率は、最近でも高水準を
維持。もっとも、企業の資金繰りには引き続きばらつきがみられる。企業間信用の対売上高比率は、企業の与信管理が依然
として厳しいこともあり、金融危機以前と比べても低水準。
図表2-2-2 企業部門の貯蓄投資差額
80
図表B3-2
兆円
設備投資
内部留保
60
在庫投資
貯蓄投資差額
2.0
投資超
%
1.5
40
1.0
20
0.5
0
0.0
-20
-0.5
-40
-1.0
-60
実績>理論値
実績<理論値
負債比率ギャップ(負債比率の実績と理論値と
の差)がプラスの場合(実績>理論値)、企業
は負債の圧縮を優先するため、外部資金需要
は高まりにくいと考えられる。
-1.5
貯蓄超
-2.0
-80
00
02
04
06
資料)財務省「法人企業統計季報」
08
92
94
96
98
00
02
04
06
08 年度
注)対象は東証一部上場企業。直近は09年度末。
10 年
図表2-2-3 大企業の財務比率
50
企業の負債比率ギャップ
%
図表2-2-5 資金繰り判断DI
%
手元流動性比率
30
30
20
長期借入金比率(右軸)
40
25
%pt
大企業
中小企業
図表2-2-6 企業間信用
小企業
楽である
20
15
0.6
-10
95
98
01
04
資料)財務省「法人企業統計季報」
07
10
10 年
0.4
-30
-40
10
1.0
0.8
-20
20
製造業
非製造業
10
0
30
1.2
倍
0.2
苦しい
-50
95
98
01
04
07
10 年
資料)日本政策金融公庫「全国中小企業動向調査結果」、
日本銀行「全国企業短期経済観測調査」
0.0
95
98
01
04
注)対売上高比率。
資料)財務省「法人企業統計季報」
07
10 年
7
資金需要減少下の金融仲介
2.金融仲介機能の現状評価
z
銀行貸出残高は、中小企業向けが前年割れを続け、大企業向けの減少幅も拡大している。
z
銀行の貸出金利や社債の発行金利は、長期の与信や低格付け先向けの与信を含め広範囲に低下を続けてい
る。これは企業の借入需要の減少と整合的。
z
中小企業向け貸出のうち全額を公的保証付きで実行する事例は、最近では5割程度まで減少。この結果、公的
保証付き貸出残高の伸びも明確に鈍化。
図表2-3-2 銀行別の貸出平均金利
図表2-3-1 銀行の貸出残高
8
前年比、%
1.6
地方公共団体
大企業等
合計
6
4
個人
中小企業
0
0.8
-2
0.6
-4
0.4
-6
0.2
-8
01
02
03
04
05
06
07
08
09年度末
08年度末
07年度末
1.2
1.0
00
3.0
1.4
2
09
注)個人は個人貸家業を含む。
資料)日本銀行「貸出先別貸出金」
10 年
60
50
%
2.5
2.0
1.5
BBB
A
AA
1.0
0.5
0.0
0.5
0.0
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
金利、%
注)縦軸は、貸出平均金利ごとの銀行の割合。
図表2-3-5 公的保証の利用状況
70
図表2-3-3 格付け別の社債発行金利
%
08
09
10
資料)日本証券業協会「公社債発行銘柄一覧」
図表2-3-6 中小企業向け貸出残高
%
全額利用
半分以上利用
半分未満利用
07
4
前年比、%
2
0
40
30
-2
20
-4
10
-6
0
-8
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 年
注)四半期ごとの調査対象期間中に借入を受けた中小企業
のうち、公的保証を利用した企業の割合。
資料)日本政策金融公庫「保証先中小企業金融動向調査」
公的保証付き貸出
プロパー貸出
合計
07
08
09
10 年
注)都市銀行、地域銀行、信用金庫の貸出残高合計。
資料)全国信用保証協会連合会、日本銀行「貸出先別貸出金」
8
年
各種リスク量の減少
z
3.金融システムの頑健性
銀行の各種リスク量は、Tier I対比でみると2009年度に減少し、大手行・地域銀行ともリーマン・ショック以前の水
準を下回った。
¾ 銀行の自己資本基盤は、2009年度以降、増資などによって強化されている。
¾ 信用コストは、大企業製造業を中心とした企業業績の改善に加え、中小企業金融円滑化法などの影響もあり、引き続き抑制
されている。
¾ 株式リスクは、多くの銀行が保有株式の削減を進めていることなどから、減少している。もっとも、特に大手行にとっては、な
お大きなリスク要素。
¾ 金利リスクは、多くの銀行が国債保有を増加させた結果、一段と蓄積される方向。
¾ 資金流動性リスクは、欧州ソブリン問題の表面化以降も、円貨・外貨ともに低位に抑制されている。
図表3-1
140
各種リスク量(対TierⅠ比率)
大手行
%
140
オペレーショナルリスク
金利リスク
株式リスク
信用リスク
120
100
地域銀行
%
120
100
80
80
60
60
40
40
20
20
0
0
03
04
05
06
07
08
09 年度
03
04
05
06
07
08
09 年度
注)信用リスクは非期待損失(信頼水準99%)、株式リスクはVaR(信頼水準99%、保有1年)、金利リスクは100bpv、
オペレーショナルリスクは業務粗利益の15%。
9
企業財務の改善と信用コストの減少
3.金融システムの頑健性
z
2009年度の信用コスト率は、大手行・地域銀行とも、貸出金償却と貸倒引当金繰入の減少を主因に前年度を下
回った。部門別にみても、国内・国際業務部門ともに、信用コスト率は前年度に比べ低下。
z
信用コスト減少の背景には、大企業製造業を中心に収益が回復する中、企業の債務返済能力が改善している
ことが挙げられる。
¾ 有利子負債対キャッシュフロー(CF)比率、インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR、収益/支払利息)、当座比率(当座資産/流
動負債)はいずれも改善。
図表3-1-1 信用コスト
大手行
兆円
%
地域銀行
兆円
%
2.0
8
1.5
6
1.5
4
1.0
4
1.0
2
0.5
2
0.5
0
0.0
0
0.0
8
その他
引当金純繰入
貸出金償却
信用コスト率(右軸)
6
-2
02
03
04
05
06
07
08
-0.5
09 年度
-2
02
03
04
05
06
07
08
2.0
-0.5
09 年度
図表3-1-2 企業の債務返済能力
12
有利子負債対CF比率
倍
20
10
ICR
倍
110
100
15
8
当座比率
%
90
10
6
80
5
70
4
製造業
2
0
60
非製造業
0
-5
00
02
04
06
08
10 年
資料)財務省「法人企業統計季報」
50
00
02
04
06
08
10 年
00
02
04
06
08
10 年
10
信用コスト減少下での信用リスクの蓄積
z
3.金融システムの頑健性
銀行の貸出債権の質は中小企業向けを中心に引き続き低下しており、新たなショックが加わると信用コストが発
生しやすい状態にある。一部の非製造業や中小企業の中には、財務内容が芳しくない先も多い。
¾ 貸出条件緩和債権の要件見直しや公的保証により、貸出債権の質が実態として低下したとしても、財務上の信用コストには
反映されにくくなっている。例えば、住宅ローン(住宅金融支援機構の買取債権等)のデフォルト率は、貸付条件の変更を含
む6か月以上の延滞ベースでは、このところ急上昇している。
¾ また、中小企業にかかる信用リスクの一定部分は、公的保証により銀行システムの外側に移転される状況が続いている。
図表3-1-4 債務者区分別の貸出残高構成
100
%
図表3-1-5 住宅ローンのデフォルト率
0.8
5.0
%
%
0.20
08年度
0.6
07年度
0.5
90
%
09年度
0.7
95
図表3-1-7 保証協会の保証
と代位弁済
4.5
0.15
4.0
0.10
0.4
0.3
85
正常先
要管理先
その他要注意先
破綻懸念先以下
80
0.2
0.1
3.5
0.0
05
06
07
08
09 年度
6
9
12
15
18
21
24
27
30
33 36
経過月数
注)デフォルト率(貸付条件の変更を含む6か月以上
の延滞)は件数ベース。集計対象は住宅金融支援
機構の買取債権等。ローン実行年度別の12か月移
動平均(年率)。
資料)住宅金融支援機構「償還履歴データ」
06
07
08
0.05
09 年度
保証比率
代位弁済比率(右軸)
注)対貸出残高比率。
資料)全国信用保証協会連合会、
日本銀行
11
国債投資を通じて進む金利リスク・テイク
z
3.金融システムの頑健性
民間金融機関は、幅広い業態にわたって国債保有を増加させている。足もとでは、銀行による国債保有残高が
100兆円を超え、生保がそれに次ぐ姿となっている。
¾ 銀行では、預金の増加基調が続く一方で貸出が減少した結果、債券投資の増加圧力が高まっている。2009年度末時点にお
ける銀行の国債保有残高は、量的緩和政策時を上回り、既往ピークを記録。
¾ 生保の金利リスク(100bpv)拡大は、資産と負債のデュレーション・ミスマッチを縮小させる動きとみることができる。
* 100bpvは、全年限の金利が同時に1%pt上昇する場合を想定した金利リスク量。
図表B4-1
保有残高
修正デュレーション
兆円
100
生保
09年度末
80
02年度末
60
年金
10
0
金利リスク量(100bpv)
兆円
10 生保
8
生保
8
6
40
20
日本国債の保有構造
年金
都市
銀行
6
年金
4
2
0
都市
銀行
4
2
0
都市
銀行
公的年金
地域銀行
公的年金
地域銀行 公的年金
地域銀行
注)修正デュレーションは、金利変動に対する債券価格変動の大きさを表すものであり、平均残存期間に比例する。
資料)みずほ証券金融市場調査部
12
蓄積が進む金利リスク
z
3.金融システムの頑健性
金利リスク量(100bpv)は、2009年度中に、大手行では2,500億円弱、地域銀行では5,000億円程度増加した。た
だし、金利リスク量をTier I対比でみると、大手行では過去10年の平均的な水準にまで抑制されている一方、地
域銀行では一段と上昇し、30%を上回る水準に達している。
¾ 貸出にかかる金利リスク量は、大手行では幾分減少したが、地域銀行では横ばい。
¾ 保有債券にかかる金利リスク量は、大手行・地域銀行とも増加。
z
債券の投資対象年限に関しては、大手行と地域銀行は対照的。
¾ 大手行は、短中期ゾーンを積み増し、債券保有にかかる平均残存期間を2年程度まで短期化。
¾ 地域銀行は、5年超の長期ゾーンへの投資を一段と増加させたため、平均残存期間は3.5年超まで長期化。
z
計測手法や仮定の置き方次第でリスク量の評価が大きく変わり得ることも踏まえ、リスクを複眼的に捉えた管理
体制を整備することが重要である。
図表3-2-1 金利リスク量(100bpv)
大手行
兆円
%
兆円
図表3-2-2 金利更改期間と期間ミスマッチ
地域銀行
%
35
8
6
30
6
30
4
25
4
25
2
20
2
20
0
15
0
15
-2
10
-2
10
5
09 年度
債券
-4
8
-4
00
03
06
貸出
00
調達
03
06
対TierⅠ比率(右軸)
35
5
09 年度
2.0
年
大手行
地域銀行
年
4.0
1.5
3.5
1.0
3.0
0.5
2.5
0.0
00
03
06
ミスマッチ
調達
09 00
03
06
2.0
09
年度
貸出
債券(右軸)
13
イールドカーブの変化に対する頑健性(金利リスクのシナリオ分析)
z
3.金融システムの頑健性
運用・調達の期間ミスマッチ(運用期間>調達期間)を反映して、金利上昇局面の初期段階では、短期調達の利
払い増加が貸出や保有債券の利息収入の増加を上回る試算結果(資金利益の短期的な減少要因)。
¾ 期間ミスマッチが拡大した地域銀行の場合、資金利益の下押し圧力がさらに強まる。一方、大手行では、保有債券の平均残
存期間が短期化したことにより、保有債券の利息収入を通じて資金利益に増加圧力が生じやすい。
z
大手行・地域銀行ともに、債券保有残高を増加させているため、債券時価の低下による含み損益への影響が強
まっている。
¾ こうした影響は、変動利付債による金利上昇ヘッジが効きにくいパラレルシフトやフラット化のもとでは、より大きなものとなる。
図表3-2-5 スポットレートの上昇シナリオ
3.5
ベースライン
%
パラレルシフト
スティープ化
フラット化
3年後
2年後
1年後
09年度末
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 年
図表3-2-7 資金利益と債券時価変動
大手行
0.8
0.4
0.0
-0.4
-0.8
-1.2
0.8
0.4
0.0
-0.4
-0.8
-1.2
兆円
ベースライン
パラレルシフト
スティープ化
フラット化
債券時価変動
資金利益
地域銀行
10
11
12
10
11
12
10
11
12
10
11
12 年度
注)ベースラインは09年度下期実績からの変化幅。その他のシナリオはベースライン対比の変化幅。
14
低位に抑制されている資金流動性リスク
3.金融システムの頑健性
[円貨]
z
大手行・地域銀行では、流動性ショックに対する頑健性が高まっている。2010年9月にはわが国で初めて預金の
定額保護による破綻処理が実施されたが、他の金融機関の資金繰りは安定を維持している。
¾ 市場調達が3か月間不可能になるという強い流動性ショックを想定しても、銀行は、短期的な資金需要を満たすだけの流動資
産を確保した状態にある(図表3-3-2左図)。
¾ 金利更改まで3か月以内の預金が一定の割合で流出するという、より強い流動性ショックを想定する場合でも、ほぼ全ての銀
行がショックに耐え得るだけの流動資産を保有している(図表3-3-2右図)。
[外貨]
z
わが国の金融機関における資金流動性リスクは、外貨資金市場がやや不安定化したにもかかわらず、総じて抑
制されている。
¾ 欧州ソブリン問題の表面化時に、ドル資金市場における最大の資金の出し手の1つである米MMFのリスク・テイク姿勢は、
リーマン・ショック時ほどには慎重化しなかった。ドル資金市場全体としてみると、需給逼迫の程度は、リーマン・ショック時に
比べ小さかった。
図表B5-1
図表3-3-2 銀行別の流動資産比率
600
%
10%点
5%点
最小値
500
2.5
米MMFの運用資産残高
兆ドル
%
プライムMMF
6
政府系MMF
ドル調達プレミアム(右軸)
5
2.0
400
4
1.5
300
3
1.0
200
2
0.5
100
0
05
06
07
08
0
5
10
09
年度 預金流出率、%
注)左図は預金流出率を0%と仮定した場合、右図は09年
度末を基準として預金流出率が0%から10%まで変化
した場合の、流動資産比率のばらつきを表す。
0.0
08/1
1
08/7
09/1
09/7
10/1
0
10/7 月
注)ドル調達プレミアムは、ユーロ投ドル転コストの
対ドルLiborスプレッド(3か月物)。
資料)Investment Company Institute "Weekly money
market fund assets"、Bloomberg
15
自己資本の増強
z
3.金融システムの頑健性
銀行全体では、Tier I資本は2009年度中に20%増加。特に、国際的な自己資本規制の対象となる国際統一基準
行は、内部留保の蓄積のみならず、大規模な普通株式増資を実施して、Tier I資本を1年間で30%増加させた。
¾ 2009年度には、銀行全体では、配当額を増加させながらも、1兆円規模の内部留保を蓄積している。
z
Tier I資本の内訳をみると、国際統一基準行・国内基準行ともに、普通株式等(最も質の高い資本)の割合は、
2009年度中、60%弱から70%に上昇した。
¾ 公的資金の注入は、優先株式(普通株式等に準ずる高い損失吸収力を有する商品)の発行を通じて行われてきたことから、
国内基準行では、優先株式の割合が国際統一基準行に比べて高い。
¾ 国際統一基準行では、優先出資証券(資本の永続性の観点で普通株式に劣後する商品)の割合が2009年度中に23%から
17%に低下。
図表3-4-2 TierⅠ資本の構成
図表3-4-1 TierⅠ資本の増減要因
26
国際統一基準行
兆円
5.5
25.1
23
兆円
0.7
15
1.1
20
16
▲0.5
19.3
0.1
国内基準行
100
1.5
▲0.2
15.0
▲1.1
100
90
90
80
80
70
70
60
60
50
50
%
国内基準行
14.2
▲0.4
17
14
▲0.0
40
13
08年度 当期 配当
TierⅠ 純利益
% 国際統一基準行
優先 優先 その他 09年度
株式 出資証券
TierⅠ
08年度 当期 配当
TierⅠ 純利益
注1)増減要因の棒グラフは、色付きが増加要因、白抜きが減少要因。
注2)その他は普通株式増資、控除項目等。
優先
優先 その他 09年度
株式 出資証券
TierⅠ
40
08
09 年度
普通株式・内部留保等
優先出資証券
08
09 年度
優先株式
控除項目
注)控除項目調整前ベース。
16
マクロ経済ショックのストレス・シナリオ
3.金融システムの頑健性
z
ベースライン・シナリオ:先行きの名目GDPが、民間予測機関の見通しに沿って1%台前半で成長を続け、長期
的には過去の平均的な水準に収束。
z
ストレス・シナリオ:景気と株価のそれぞれに対して同時に5%の確率(四半期ベースで5年に1回の頻度)で生じ
る大きさの負のショックを仮定。これに伴い、他のマクロ経済変数も変動。
¾ 名目GDPが小幅なマイナス成長(2010年度前年比-0.4%、2011年度同-0.2%)。TOPIXは2011年度末にかけてバブル後最安
値圏(752pt)まで下落した後、801ptまで反発。長期貸出金利は2012年度末にかけて0.1%pt程度低下。
シナリオの作成①
シナリオの作成②
企業財務モデル
5変数VARモデル
実質GDPと
TOPIXに
同時に5%の
確率ショック
実質実効為替レート
実質GDP
GDPデフレータ
長期貸出約定金利
TOPIX
信用コスト・シミュレーション
名目GDP
企業財務
格付遷移行列
ICR
当座比率
名目GDP
コア業務純益モデル
貸出利率
調達利率
Tier I比率シミュレーション
リスク資産シミュレーション
信用コスト
リスク資産の
削減圧力
株式評価差損シミュレーション
TOPIX
β(TOPIXに
対する感応度)
注)シナリオ分析は、銀行が直面するリスクの特性を明らかに
し、金融システムの頑健性を評価するためのもの。金融シ
ステムの動向に関して将来予測を行うものではない。
Tier I比率
株式評価差損
コア業務純益
内部留保の
蓄積圧力
17
信用コストのシナリオ分析
z
3.金融システムの頑健性
ストレス・シナリオのもとで、大手行の信用コスト率は、コア業務純益に対する損益分岐点を2010年度に幾分上
回るが、2011年度以降下回る試算結果。地域銀行でも、損益分岐点を幾分上回る程度の上昇に止まる。
¾ 前回までの試算に比べ落ち着いた結果となるのは、この半年間における大企業の財務改善によるところが大きい。
¾ 銀行サイドでは、地域銀行を含め、貸出債権のカバー率(引当等による手当て・保全の割合)を引き上げる動き。
¾ なお、ベースライン・シナリオのもとでの信用コスト率は、2010年度以降も減少せず、概ね横ばい。
z
もっとも、過去のストレス局面と比較してみると、ストレス・シナリオのもとでの信用コスト率は、大手行・地域銀行
ともに、リーマン・ショック時(2008年度)の水準を上回る姿。
図表3-1-10 その他要注意先債権のカバー率
図表3-1-9 銀行別の信用コスト率
ベースライン・シナリオ
2.5
ストレス・シナリオ
%
2.5
大手行
地域銀行
2.0
試算期間
%
60
2.0
試算期間
50
1.5
1.5
1.0
1.0
30
0.5
0.5
20
0.0
0.0
10
-0.5
02
04
06
08
10
-0.5
12
02
年度
兆円
%
カバー無し残高
引当残高
公的保証・担保付残高
カバー率(右軸)
40
65
60
0
04
06
08
10
12
年度
注)シャドーは10-90%点。水平線は大手行(実線)と地域銀行(点線)の
09年度損益分岐点。
70
05
06
07
08
09
55
年度
注)カバー率は、その他要注意先債権残高のうち、
引当残高および公的保証・担保付残高の割合。
18
株式評価差損のシナリオ分析
z
3.金融システムの頑健性
多くの銀行が株式リスク削減を経営上の重要課題として位置付けたうえで、具体的な取り組みを進めている。
¾ 2008年度以降、株式を削減する銀行が過半を超え、足もとでは8割近くの銀行が株式を削減している。
z
ストレス・シナリオ(TOPIXが2011年度末にかけて752ptまで下落)のもとでは、株式評価差損の発生がTier I比率
を0.4%pt程度低下させる試算結果。
¾ 特に大手行では、政策保有株式を相対的に多く保有していることもあり、Tier I比率の低下幅は0.6%ptとなる。
図表3-2-8 銀行別の株式保有残高
150
%
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
大手行
地域銀行
100
50
0
02
03
04
05
図表3-2-9 銀行別の保有株式の増減率
06
07
注)対TierⅠ比率(取得価額ベース)。
シャドーは10-90%点。
08
09 年度
%
03
04
-10%未満
05
06
-10∼0%
07
08
0∼10%
09
年度
10%以上
注)保有株式の増減率(取得価額ベース)ごとの
銀行の分布。
19
Tier I比率とリスク資産削減のシナリオ分析
z
3.金融システムの頑健性
増資などによる自己資本基盤の強化が進んだこともあり、マクロ経済ショックに対する頑健性は着実に高まって
いる。
¾ ストレス・シナリオのもとでは、Tier I比率は2011年度末までに0.6%pt押し下げられるが、2008年度末を上回る9%台の水準を
維持し得る。分布全体をみても、半数以上の先は8%を上回る。
z
ストレス・シナリオのもとで、銀行の自己資本基盤が全体として大きく損なわれる事態は回避されるものの、相対
的に収益力や自己資本基盤が弱い先では、Tier I比率が先行きも低水準に止まる可能性がある。
¾ Tier I比率の分布の裾は緩やかな低下を続け、6%を下回る先もみられる。
z
ストレス下で低下した自己資本比率を回復する際、リスク資産の削減が貸出残高の減少のみによって行われる
とした場合、2011、2012年度の貸出残高は前年比0.7%程度減少する。金融仲介機能の低下を通じて、実体経
済活動に制約が及ぶ可能性がある。
図表3-4-3 銀行別のTierⅠ比率
14
%
試算期間
図表3-4-5 リスク資産に対する削減圧力
0.0
前年比、%
-0.1
12
10
-0.2
-0.3
-0.4
8
6
4
02
04
06
08
10
12 年度
注1)ストレス・シナリオの試算結果。シャドーは、各
行の貸出シェアで測った10-90%点。
注2)点線はベースライン・シナリオの試算結果。
-0.5
-0.6
リスク資産
-0.7
貸出残高
-0.8
10
11
12
13
14
15
16 年度
リスク資産削減のシナリオ分析では、ストレス・シナ
リオのもとで低下したTier I比率を、過去の平均的
なパターンに従って、内部留保の蓄積とリスク資産
の削減を併用しながら、基準時点の水準まで復元
していくと仮定。
20
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