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空中レーザー計測による活断層変位地形の 把握と

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空中レーザー計測による活断層変位地形の 把握と
活断層研究 29号 1〜13 2008
空中レーザー計測による活断層変位地形の
把握と変位量復元の試み
*1
*2
*3
*3
中田 高 隈元 崇 奥村晃史 後藤秀昭
*4
*5
*6
*6
熊原康博 野原 壯 里 優 岩永昇二
Fault-related Features and Restoration of Fault Slips revealed by Airborne Laser
Imagery along the Senya Fault and Adera Fault
Takashi Nakata, Takashi Kumamoto, Koji Okumura, Hideaki Goto, Yasuhiro Kumahara,
Takeshi Nohara, Yuu Sato, and Syoji Iwanaga
Abstract
Laser imagery technique is applied to obtain comprehensive features of a typical reverse fault (the Senya
fault in NE Japan) and strike-slip fault (the Adera fault in Central Japan).We test several methods for obtaining
fault slip from detailed DTM images. Using the visual analyzer “Geo-Graphia”, a series of three-dimensional
laser imagery is processed around the Senya hill, especially along the surface fault ruptures associated with the
Rikuu earthquake in 1896.
We compared amount of fault slips along the fault ruptures measured by previous field studies with those
obtained by automatic and manual topographical profiling using detailed DTM.
Three-dimensional laser imagery is also processed along the Adera fault, and slip vectors are restored based on
successively faulted terrace risers around Sakashita town.
する市街地や植生に覆われる斜面が広く分布する地域で
1.研究の目的と意義
は,空中写真判読によって微細な断層変位地形を認定する
ことや,地形測量を行なうことが困難な場合が少なくな
詳細な活断層の位置・形状の把握は活断層の最も基本的
い.近年,急速に発達した空中レーザー計測による地表形
な情報であり,活断層の長さに関する情報などの精度はそ
態の把握(例えば,Nelson and others, 2003)は,植生密
れを用いた研究や活断層から発生する地震の予測結果に大
度の高い地域などでの活断層の位置・形状の認定や変位量
きな影響を与える.また,強震動予測のためには,地下の
の計測を効率的に行う方法となりうる.
断層面のどこに強い地震動を発生させるアスペリティが存
本研究では,典型的な逆断層型活断層が発達する横手盆
在するのかを推定する必要があるが,断層に沿った変位量
地東縁の千屋丘陵周辺と,横ずれ型活断層の典型である阿
分布が一つの手がかりとなる(岩城ほか,2006).これま
寺断層沿いにおいて,独自に空中レーザー計測を実施し,
で,このような情報は主として空中写真判読や野外におけ
そのデータを用いて鳥瞰図化による断層変位地形の把握
る地形断面計測などによって情報を得ていたが,これらの
と,断層変位量計測の手法的検討を行なった.
整備には多大な労力と時間がかかる.さらに,家屋が密集
*1
*2
広島工業大学 岡山大学
*4
広島大学 群馬大学
*5
日本原子力研究開発機構
*6
地層科学研究所
*3
*1
*2
Hiroshima Institute of Technology
Okayama University
*4
Hiroshima University
Gunma University
*5
Japan Atomic Energy Agency
*6
Geoscience Research Laboratory Co. Ltd.
*3
中田 高・隈元 崇・奥村晃史・後藤秀昭・熊原康博・野原 壯・里 優・岩永昇二
2008
瞭な断層変位地形が報告された.Sugimura and Matsuda
2.調査対象地域の選定
(1965)は,この地域で河岸段丘崖のずれをもとに断層変
位ベクトルの復元を試みた.本研究では,断層変位地形が
逆断層型の活断層の例として選定した横手盆地東縁から
明瞭な坂下,付知,舞台峠の3地域において空中レーザー
田沢湖盆地の東縁に連なる活断層は1896(明治29)年の陸
計測を行い,断層変位地形の3次元可視化を行うとともに,
羽地震(M7.5)の発生源となったことでもよく知られて
坂下,付知の2地域において断層変位量計測の試みを行
いる(山崎,1896など).千屋丘陵周辺では,丘陵周辺に
なった.また,舞台峠周辺の河谷を例に,屈曲した谷を自
新旧の地形面を変位させる活断層が発達しており(藤原,
動抽出する試みを行なった.
1954・Nakata, 1976など),陸羽地震に伴う断層変位に関
する詳しい報告(松田ほか,1980)がある.したがって,
3.本研究で用いた空中レーザー計測の特徴
空中レーザー計測によって,断層変位地形や地震断層をど
の程度詳細に把握することが可能なのか,また,地震断層
空中レーザー計測は,LiDAR(Light Detection and
などの変位量をどのくらい正確に計測することができるの
Ranging)とも呼ばれるもので,飛行体からレーザーを地
かを確かめるには適切な地域であると判断した.一方,横
表に向けて発射し,反射してくるまでの時間から,距離を
ずれ活断層の例として岐阜県を中心に発達する阿寺断層を
計測するものである.樹木や構造物に覆われる地表でも,
調査対象とした.阿寺断層は,河岸段丘面や河谷を系統的
一つの発射パルスに対して幾つかの反射パルスが受信され
に変位させる典型的な左横ずれ断層であり,岡山(1959,
るため,最後に到達するパルスから地表までの距離を検出
1966)によって坂下周辺の木曽川の河岸段丘を横切る明
できるこのため,空中写真では地表を認識し難い場所でも
第1図 レーザー計測で得られた点群データの断面:坂下を東西に横切る断面の一例
下の実線が地形断面,その上にある点群は早く反射したパルスで,樹木や家屋の屋根に反射したものと思われる.最後に到達し
たパルスから地面出し作業が行われる.
Fig. . Ground profile beneath vegetation canopy and house roof.
A E-W cross-section across Sakashita town. Dense dots are laser pulses reflected by trees and houses, and solid line bold-earth surface
interpolated between the ground points.
活断層研究 29号
空中レーザー計測による活断層変位地形の把握と変位量復元の試み
その形態を詳細に把握することが可能となる.第1図はそ
データから,樹木,人工物等を自動的に除去(フィルタリ
の一例で,樹木や屋根から反射したパルスと地表から反射
ング)し,地表面を表す点群データを抽出(地面出し)す
したパルスが認められ,地表を検出することが可能となる.
ると同時にTINを生成したり,メッシュ上のDTMを発生
本研究では,デベロ社製の空中レーザー計測装置(Geo-
させる。フィルタリングには,トポロジー法や独自のサー
Scanner LISA)を使用してデータの取得を行なった.従
チエリア法など,いくつかのロジックが用意されており,
来の装置では,レーザー出力(Class3~4)が大きく人
計測状況に応じた最適なフィルタを選択することができ
体に影響を及ぼすために低空から計測できず,角度誤差な
る。また,本解析ソフトは地形解析機能を具備しており,
どが大きくなるために,鉛直方向の偏差は150mm程度と
断層の評価に先立ち計測された地形の特徴を調べる目的
言われている.Geo-Scanner LISAを用いた場合,高さの
で,傾斜ベクトルや法線ベクトルの分布を描く,ラプラシ
わかっている橋梁を独自に計測した結果では,鉛直方向の
アンフィルターにより急傾斜度分布を求める,接峰面・接
偏差は70mmであった.実際の計測では,GPS衛星の状態
谷面などより侵食の度合いを評価することなどが可能であ
や下草の状況などで,これらの精度は変化すると考えら
る。さらに,任意の点から落水線を設定する流水分析機能,
れるが,低空からの計測が可能なGeo-Scanner LISAでは,
落石の軌跡を計算する機能など,地形面形状を多角的に分
角度誤差を抑えることができるため,精度の向上が期待で
析する機能を有している.ここでは,独自に取得したレー
きる. 本装置は,レーザースキャナー,高性能ジャイロ,
ザー計測データをこのようなさまざまな機能を活用して解
GPSなどの計測システムが完全にユニット化され,小型軽
析し,断層変位地形の把握と変位量の計測を行なった. 量(25kg)であるため,小型ヘリコプターに搭載するこ
4.断層変位地形の把握
とが可能である.
今回の計測では,ビーム径の小さいレーザースキャナー
(100m先で直径2-3mm)を用い,一秒あたり8000点の
4.1 千屋丘陵周辺の断層変位地形
計測を行った.得られたデータを100m四方のセルに分割
千屋丘陵全域の広い範囲の地形を把握するために,10m
したとき,その内部にある点群は約40,000点となった,そ
メッシュのDTMを用いて,遠近法と等距離法画像を作成
れらの点群データから,樹木や人工構造物等の除去を自
した.第2図は,千屋丘陵を南上空から北に向かって撮影
動的に行い地表の高度を示すデータを抽出し,必要に応
した空中斜め写真と空中レーザー計測結果を遠近法で示し
じて補間計算を行った上で0.5mメッシュのDTM(Digital
た画像と比較したものである.写真では樹木におおわれた
Terrain Model)を生成した.
丘陵部が,空中レーザー計測画像では開析谷などが明瞭に
本研究では,上記のDTMを利用して調査地域のさまざ
認められるとともに,丘陵前縁に連なる断層崖がさらに顕
まな地形図,鳥瞰図,断面図などを作成した.この処理に
著となるとともに,丘陵内部から南に延びる活断層などが
は,DTM解析ソフトGeo-Graphia(地層科学研究所)を用
視認しやすくなり,後者が地形の把握に効果的であること
いて行いた.このソフトは,レーザースキャナで取得した
がわかる.
第2図 空中斜め写真と空中レーザー計測画像との比較( )
千屋丘陵を南から望む(斜め空中写真は,八木浩司氏提供)写真と空中レーザー計測画像は,遠近法によるもので,データメッ
シュは視点に近い場所は0.5mメッシュ,遠い場所は50mメッシュと順次変化している.
Fig. 2. Comparison between oblique air photograph and LiDAR image ().
Senya hill, Akita prefecture, looking from south. LiDAR image is made by perspective drawing. Air photograph: courtesy by Hiroshi Yagi.
中田 高・隈元 崇・奥村晃史・後藤秀昭・熊原康博・野原 壯・里 優・岩永昇二
2008
千屋丘陵ではほぼ全域を同じ密度のメッシュデータ(こ
第4図は,1896年陸羽地震に伴って千屋丘陵前縁の一
こでは10mメッシュ)を用いて視点に近い場所と遠い問い
丈木周辺に出現した地震断層を把握するために,2mメッ
場所で縮尺が一定となる鳥瞰図を作成した.第3図は千
シュのDTMを用いて,0.5m等高線で表したものである,
屋丘陵の主部を南西上空から俯瞰したもので,上の図は
地震後100年以上経過し地形の人工改変が進んでいるが,
グレースケール陰影図,下の図は2mコンターの立体画像
高さ約3mの地震断層の位置を詳細に追跡することが可能
である.両図とも垂直方向を水平方向に対して2.25倍に強
である.また,1980年に実施された小森トレンチの跡も明
調して表示した.これによって起伏が誇張されるため,丘
確に認識できる.このように,地震断層のような微細な地
陵を横切って流下する河川が形成する扇状地や河岸段丘面
形の把握にも,空中レーザー計測が効果的であることがわ
などの地形面を切断する低断層崖が強調され,新旧の地形
かる.
面の食い違いから累積的な変位を認定することが可能であ
る.これらの図には,丘陵西縁に位置する活断層をはじめ,
4.2 阿寺断層の断層変位地形
丘陵内部や背後に発達する活断層などが明瞭に表現されて
横ずれ断層の典型的な事例である阿寺断層坂下周辺の景
いる.活断層の認定には変動地形学的知識が不可欠であり,
観は,これまで多くの教科書などで紹介されてきた.今回
このような画像が新たな活断層の発見に直ちに貢献するこ
取得した空中レーザー画像を用いて,断層変位地形をより
とは少ないと考えられるが,空中写真の実体視が不得意な
理解しやすい形であらわすために,様々な画像を作成した.
専門外の研究者などに活断層の位置・形状をわかり易く説
第5図は阿寺断層坂下周辺を南上空から北に向かって撮影
明するため補助手段として,極めて有効であると言える.
した空中斜め写真と比較したものである.空中レーザー計
このように,描画する範囲と地形の起伏によって視点位置
測画像は,坂下の街が現在のように発展する以前に撮影さ
調整を行い,等高線間隔,垂直:水平比を任意に設定する
れた斜め空中写真に比べ,顕著な違いは認められないかも
ことによって,変動地形を説明するために必要な説得力の
しれない.画像では,病院や商業施設など比較的大きな建
ある画像を容易に作成することができる.
造物は残っているものもあるが,河岸段丘面とそれを横切
第3図 千屋丘陵の主部を南西上空から俯瞰した画像
垂直:水平比 2.25:.下図の等高線は 2 m間隔.
Fig. 3. Bird’s view of Senya hill from southwest (above) and 3D contour image (below).
Figures are made from 0m DTM and contour interval is 2m. Vertical scale is exaggerated by 2.25 times against horizontal scale.
活断層研究 29号
空中レーザー計測による活断層変位地形の把握と変位量復元の試み
る阿寺断層をより明瞭に認めることができる.
ことが可能であり,さらにこれらを3次元画像化すること
また,このような空中レーザー計測画像は任意の視点か
によって,断層変位地形を容易に認識するための鳥瞰図を
ら俯瞰できるよう3次元可視化できるために,専門外の研
作成できる.
究者が活断層の詳細な位置・形状や断層変位地形を容易に
説明することが可能となる(第6図).
5.レーザー距離計による地形測量結果との比較
さらに,阿寺断層が木曽川の河岸段丘を連続的に変位さ
せる坂下周辺(第7図)と,明瞭な低断層崖を発達させる
空中レーザー計測では詳細な地形図が容易に作成可能で
付知川西岸第8図)で詳細な1mメッシュのDTMを用い
あり,断層変位地形の把握に極めて効果的であることを示
て,等高線0.5m間隔の大縮尺地形図を作製した.これら
すために,地上において携帯型簡易地形計測装置(Handy
の地形図では,専門外の人たちが活断層の位置を特定する
Station)によって作成した地形図と比較した.この計測
第4図 一丈木周辺の 2 mメッシュDTMから作成した0.5m立体等高線図
矢印は896年陸羽地震の地震断層の位置.
Fig. 4. Detailed 3D contour map around Ichijogi on the western fringe of Senya hill.
Figure is made from 2m DTM and contour interval is 0.5m. Arrows indicate location of the surface fault rupture associated with the 896
Rikuu earthquake.
第5図 空中斜め写真と空中レーザー計測画像との比較( 2 )
阿寺断層を坂下の南から望む(斜め空中写真は,岡田篤正氏提供)写真と空中レーザー計測画像は,遠近法によるもので,デー
タメッシュは視点に近い場所は0.5mメッシュ,遠い場所は50mメッシュと順次変化している.
Fig. 5. Comparison between oblique air photograph and LiDAR image (2).
Sakashita area, Gifu prefecture, looking from south. LiDAR image is made by perspective drawing. Air photograph: courtesy by Atsumasa
Okada.
中田 高・隈元 崇・奥村晃史・後藤秀昭・熊原康博・野原 壯・里 優・岩永昇二
2008
第6図 坂下周辺の阿寺断層の南西上空に視点を置いた鳥瞰図
Fig.6. Bird’s view of Sakashita area from southwest.
Figures are made from 0m DTM. Vertical scale is exaggerated by 2.25 times against horizontal scale.
装置の計測精度は0.1mであるので,誤差は数10cmに収ま
と1896年地震時変位量を計測する試みを行なった.また,
ると考えられる.第9図は,阿寺断層の付知に見られる
横ずれ活断層の典型である阿寺断層では,付知断層を対象
低断層崖(第8図に見られる低断層崖の南東端付近)の
に縦ずれ変位量の自動計測と坂下周辺の断層変位ベクトル
0.5mコンター地形図である.二つの図には殆ど差が認め
の復元を試みた.この際,横ずれ変位量を検出するために
られないが,地上での測量によって広い範囲の詳細な地形
解析ソフトの流水解析機能を用いて,活断層を横切る谷の
図を作成するには多大な労力と経費がかかる.したがって,
流水線を検出し,横ずれ量の計測を試みた.
局地的な地形計測を除けば,空中レーザー計測による精度
の良い地表面高度データの取得は,断層変位地形の把握に
6.1 活断層の位置を与えた自動地形断面作成
とって経済的にも時間的にも推奨される効率的手法である
この手法は,断面位置を自動的に設定することによって,
と言える.
多数の断面を短時間に作成できるという特徴がある.しか
しながら,細かな谷や尾根,段丘面などの地形が入り組ん
6.断層変位量の計測の試み
でいる場所では,自動的に選定された断面では異なった地
形要素を横切って断面が作成されるため,研究者が作成し
空中レーザー計測によって得られた点群データは,それ
たい地形の最大傾斜方向の断面などを得ることが困難であ
ぞれ詳細な位置と高度のデータを有しており,任意の地形
る場合が多い.したがって,断層線に直交する断面が適切
断面を作成できるため,これを利用して断層の上下変位量
であるとは必ずしもいえず,変位量を適切に計測するため
を求めることが可能である.1896年陸羽地震に伴う地震断
には断面の取捨選択が不可欠となる.
1)
層が出現した千屋丘陵西縁部を対象に, 活断層のデジタ
千屋丘陵周辺の活断層の位置をデジタル化された情報
ル位置情報をもとに断層線に直交する計測位置と計測距離
(中田・今泉,2002)をもとに決め,それと直交する長
2)
を自動的に設定して地形断面図を作成する方法と, 変位
さ200mの断面を自動的に設定して断面を作成した(第10
量計測に適した断面作成位置を手動で設定して地形断面図
図).これらの断面の多くは上述した問題をはらんでおり,
を作成する方法とを試み,手法の有効性について検討した.
活断層や地震断層の変位量の計測にとって効率的な手法で
逆断層の例として千屋丘陵前縁部の活断層の累積変位量
はないことがわかる.一方,第11図にみられるような一連
活断層研究 29号
空中レーザー計測による活断層変位地形の把握と変位量復元の試み
第7図 阿寺断層坂下周辺の断層変位地形
mメッシュDTMを用い,0.5m間隔のコンターを描画した.A,Bは第6図の測量位置を示し,四角の点は段丘崖の横ずれを計
測した場所(ピアシングポイント)を示す.左下の図は,平野・中田(98)による段丘区分図.
Fig. . Adera fault across the stairs of river terraces around Sakashita on the west bank of Kiso river.
Map is made from m DTM and contour interval is 0.5m. Dots in the map are location of piercing points for measuring fault slips.
中田 高・隈元 崇・奥村晃史・後藤秀昭・熊原康博・野原 壯・里 優・岩永昇二
2008
第8図 阿寺断層付知周辺の断層変位地形
mメッシュDTMを用い,0.5m間隔のコンターを描画した.
Fig. 8. Fault scarp on Adera fault at Tsukechi.
Map is made from m DTM and contour interval is 0.5m.
の広い地形面を横切る断層崖の変位量を計測するような事
例では多少の横ずれ変位によって食い違う場合でも隆起側
と沈降側の地形面が同じ場合があり,自動計測によって効
率的な計測が可能となる.
6.2 断層変位基準の分布を考慮した手動計測
研究者が,野外で断層変位量を計測する場合,極めて慎
重に測量断面の設定を行なっている.これは,断層変位基
準となる地形が活断層を挟んで同じものか,あるいは変位
基準が侵食作用や人工改変による影響を受けていないかな
どを考慮することが重要なためである.
空中レーザー計測結果を基に三次元的な地形画像を作成
第9図 阿寺断層の付知断層崖の一部の地形
上の図は,空中レーザー計測によるもの.下の図は,Handy
Stationによるもの(杉戸ほか,2008).
Fig.9. Contour maps of a part of fault scarp at Tsukechi.
The map above is drawn from DTM by LiDAR and that below
data obtained by a laser distance meter.
し,その上に等高線を描示することによって,活断層線の
位置と断層変位地形を極めて明確に把握できる画像を作成
1980)を参考に,手動によって断面位置を設定し地形断面
した.この画像に更に地形面分類図などを重ねることに
を求めたものである.地形断面は,地形調査の経験の無い
よって,断層変位量を計測する位置を適切に設定し,手動
学部学生が,当該論文を参考に,空中レーザー計測によっ
によって地形断面を作成することが可能となる.
て得られた詳細地形図に手動で計測位置を設定し地形断面
この手法では,事前に地形分類図などを作成し,これを
を作成したものである.その結果は,比較的大きな累積的
デジタル化する必要があり,個々の事例についてこれを準
変位量を伴う活断層変位量の計測に空中レーザー計測デー
備することは労力を要するが,変位量を正確に求めること
タの解析が効果的であることを示している.また,明瞭な
が可能となる(松多ほか,2006;澤ほか,2006など).なお,
地震断層については,大縮尺のDTM画像を利用すること
便宜的な手法として,空中写真を実体視して適切な地形断
によって,野外調査経験のない測定者でも野外での測量結
面の位置を設定する方法が考えられるが,今回は実施しな
果とほぼ同じ変位量を取得することが可能であることを示
かった.
している.
第12〜14図は,陸羽地震に伴って出現した地震断層の変
位量について,野外での計測位置と地形断面(松田ほか,
活断層研究 29号
空中レーザー計測による活断層変位地形の把握と変位量復元の試み
第10図 千屋丘陵周辺の自動地形断面作成の例
Fig. 0. Example of automatic profile drawing from DTM across Senya fault.
7.横ずれ変位量の計測
活断層の横ずれ変位の多くは,空中写真判読による河谷
の系統的な屈曲によって認定される.この際,累積変位量
が大きい明瞭な屈曲については,見落とされることは多く
はないが,屈曲部が植生に覆われた屈曲量の小さい場合
は,見逃されることも少なくない.また,谷の屈曲量は,
一般には空中写真判読などによって認定された河谷屈曲の
位置・形状を地形図などに転記した後に,定規などを使っ
て屈曲量を計測する.このため,断層変位地形は正確に把
握されるとしても,作業の過程で様々な誤差が生じる可能
性がある.
空中レーザー計測結果の解析の一つに流水解析機能があ
る.これは,谷の中の一点あるいは限られた面積の場所か
第11図 阿寺断層付知周辺(第 8 図の北西部)の自動地形断
面作成の例
Fig. . Example of automatic profile drawing from DTM across
Tsukechi fault.
ら,面の最大傾斜方向を算出し水が流下する経路を見出す
手法をとっている.これによって屈曲した流路を容易に抽
れの様子を,落水線認定機能を用いて流水線を抽出し,
出することが可能となる.一方,屈曲した谷が断層変位に
DTMから発生させた等高線図に重ねたものを鳥瞰図にし
よるものであるか否かの判定には変動地形学的知識が不可
たものである.このような図を用いれば,空中写真判読の
欠であり,このような機能のみによって活断層線を認定す
みの結果より,さらに詳細な活断層位置の認定と変位量計
ることは困難である.
測が可能となる.また,専門外の研究者に横ずれ変位地形
第15図は,舞台峠北方の阿寺断層を横切る谷の左横ず
を説明する際の強力な補助説明手段となる.
10
中田 高・隈元 崇・奥村晃史・後藤秀昭・熊原康博・野原 壯・里 優・岩永昇二
2008
第12図 千屋丘陵西縁に現れた896年陸羽地震の地震断層と地形断面位置(松田ほか,980より)
Senya Area
(north)とSenya Area
(south)は,それぞれFig.(d)・(e)の一部を改変.図中の番号は断面図の番号に一致する.
Fig. 2. Trace of the surface fault rupture along Senya fault and location of profiling across the rupture.
Figures are modified after Matsuda and others (980).
第13図 最終氷期に形成されたと考えられる段丘面に認められる累積的変位の計測
左:松田ほか,(980)の断面を抜粋.右:左の地形断面に対応するレーザー計測断面.
活断層の累積的変位量の計測にレーザー計測資料の解析が効果的であることを示している.
Fig. 3. Comparison of profiles of the faulted terrace surface formed during the last glacial period.
Left profiles made by leveling in the field after Matsuda and others (980), and right profiles made from DTM along their location selected
manually. Amounts of fault displacement obtained from each profile on the similar section are more or less same.
8.阿寺断層坂下周辺の断層変位ベクトルの復元
の試み
後,平野・中田(1981)や佃ほか(1993)などによって,
再検討がなされている.
これらの研究が実施された後,現在では,断層に沿って
坂下における木曽川西岸の河岸段丘の阿寺断層による累
多くの建物が建設され地形改変が進んだため,当時のよう
積的な変位は,古くから地形研究者(岡山,1954など)に
に断層変位地形の保存は良くない.筆者らは,空中レーザ
よって指摘をされてきた典型的な横ずれ変位地形である.
ー計測によって得られた詳細なDTMから,断層の隆起側
前述した通り,Sugimura and Matsuda(1965)は坂下周
と低下側で断層線に並行する地形断面を作成し,鳥瞰図か
辺の木曽川西岸における河岸段丘崖のずれを用いて,阿寺
ら認定した段丘崖の基部を変位基準として用いることで,
断層の変位ベクトルを復元する試みを行なっている.その
断層の横ずれ・縦ずれ変位量を計測した(第16図).
活断層研究 29号
空中レーザー計測による活断層変位地形の把握と変位量復元の試み
11
第14図 896年陸羽地震の地震断層の地形断面
左:松田ほか(980)から抜粋.右:左の地形断面に対応するレーザー計測断面.
野外調査の結果とほぼ同じ変位量を取得することが可能であることを示している.
Fig. 4. Comparison of profiles of the surface fault ruptures associated with the 896 Rikuu earthquake.
Left profiles made by leveling in the field after Matsuda and others (980), and right profiles made from DTM along their location selected
manually.
この結果から復元した断層の変位ベクトル(第17図)
のA, Bの矢印),それをもとに変位量を計測しており,断
は,Sugimura and Matsuda(1965)のものより,系統的
層崖近傍のみの変形が除去されている可能性もある。今
な横ずれ傾向を示し,この断層が相対的に北東隆起の左横
後,現地調査などによって,対比の妥当性は検証する必要
ずれ断層運動を継続していることを示している.計測した
はあるが,段丘面の広がりや段丘崖の規模とそれらの対比
変位量のうち,Sugimura and Matsuda(1965)のⅣ面・
から,本研究で新たに設定した対比基準の方が合理的であ
V面の水平変位量は,これまでの研究による値よりかなり
ると考えられる.
大きくなっている.これは,DTMから作成した地形図や
今回の変位量計測結果から復元された変位ベクトルは,
鳥瞰図をもとに認定した断層変位基準(段丘崖基部)の位
これまでの計測結果から復元されたものより,断層運動の
置をDTMから直接作成した断面図から計測したため,こ
一様性を示しており,断層変位基準の対比が適切であるこ
れまでの研究成果と異なっていると考えられる.断層崖か
とを示している可能性が高い.このように,古い空中写
ら少し離れた場所で,断層崖と平行な断面を描き(第7図
真と詳細なDTMの併用によって,比較的容易に横ずれ変
12
中田 高・隈元 崇・奥村晃史・後藤秀昭・熊原康博・野原 壯・里 優・岩永昇二
第15図 舞台峠北西の阿寺断層による谷の屈曲
矢印は,阿寺断層の通過位置,黒い球は落水線を示す.
Fig. 5. Stream offset along Adera fault, north of Butai-toge pass.
Dots indicate the water flow line automatically depicted from DTM. Arrows show the location of Adera fault.
第16図 坂下の阿寺断層崖を挟んで平行に測線を設定した地形断面と変位量
図の右が北西,左が南西にあたる.測線の位置や横ずれを計測した場所は第 図を参照.太実線は相対的隆起側の地
形断面図示し,灰色の実線は低下側の地形断面図を示す.小さな四角は変位量計測のために用いた河岸段丘基部(ピ
アシングポイント)を示す.細い線はそれぞれの段丘の垂直・水平変位量を示し,数値を添え書きした.
Fig. 6. Fault offset across Adera fault around Sakashita.
Amount of displacements measured from the piercing points in Fig. . Dark solid line is the profile of the up-thrown block
between Bs, and gray of the down-thrown block between As.
2008
活断層研究 29号
空中レーザー計測による活断層変位地形の把握と変位量復元の試み
13
文 献
第17図 阿寺断層坂下における断層変位ベクトル
矢印の線は,それぞれの段丘の変位ベクトルを示し,点線は,
本研究で得られた一連の断層変位ベクトルを示す.
Fig. . Slip vector of Adera fault around Sakashita.
位量を詳細に復元することが出来ることは,空中レーザー
計測を活断層調査に用いることのメリットの一つといえよ
う.
9.おわりに
活断層変位地形の把握と断層変位量計測のために,さま
ざまな試みを行なった結果,空中レーザー計測によって取
得したDTMを利用した画像解析が有効であることが確認
できた.今後,この手法を活用して活断層に沿った変位量
分布が明らかにされ,活断層から発生する地震予測精度の
向上が図られることが期待される.
謝辞
千屋丘陵および坂下周辺の空中斜め写真は,それぞれ八
木浩司,岡田篤正両氏からご提供いただいた.また,千屋
丘陵西縁の陸羽地震断層の手動断面の作成は,岡山大学理
学部学生・北尾直規さんによるものである.記して感謝の
意を表する.
本研究は,平成17〜19年度科学研究費補助金(基盤研究
(A)課題番号17200053)の研究費の一部を使用した.
キーワード
活断層,空中レーザー計測,断層変位量
Key words : active fault, LiDAR, fault slip
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