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都市とネットワーク
家島, 彦一; 応地, 利明; 高橋, 美紀
重点領域研究総合的地域研究成果報告書シリーズ : 総合
的地域研究の手法確立 : 世界と地域の共存のパラダイム
を求めて (1996), 16: 15-48
1996-04-30
http://hdl.handle.net/2433/187552
Right
Type
Textversion
Journal Article
publisher
Kyoto University
都 市 と ネ ッ トワ ー ク
家
島
彦
一
は じめ に
私 は 、 こ れ まで に 「
総 合 的 地 域 研 究 」 に関 わ る 研 究 会 に何 度 か 出 席 して き た が 、 そ こで の 多
くの 議 論 は 、 「器 」 と して の 地 域 論 、 す な わ ち地 域 と い う もの を 所 与 の 条 件 と した 上 で 、 生 態
環 境 ・宗 教 ・文 化 ・権 力 な ど が 地 域 性 の 形 成 と ど の よ う に 関 わ る か 、 と い った 議 論 が 優 先 して
い た と思 わ れ る。 こ う した 地 域 の 自立 性 とか 内 的 結 合 性 を 中 心 と した 議 論 の 方 向 性 は、 そ もそ
も研 究 の 出発 点 が 「東 南 ア ジ ア 」 と い う 自然 生 態 条 件 の 上 で 強 い 特 徴 を 持 った 地 域 を 主 な 研 究
対 象 と し、 ま た 「地 域 研 究 」 を研 究 手 段 と して い る こ とか ら も、 当 然 の こ と で あ ろ う。 しか し、
地 域 を 区 切 る ・繋 げ る ・括 る、 の い ず れ の 方 法 に して も、 国 家 ・領 域 ・文 明 圏 と い った 特 定 の
空 間 を設 定 して 、 そ の独 自性 な り共 通 性 や 関 連 性 を 探 る と い う作 業 は 、 結 局 は現 在 の 国 民 国 家
の 国 境 ・境 界 を な ぞ っ た り、 近 代 国 家 形 成 前 の 地 域 を掘 り起 こす た め の 一 連 の 作 業 に通 じる も
の で あ り、 い わ ば 「器 」 を どの よ う に 区 切 り、 合 理 的 に 分 け 合 い 、 並 べ 、 繋 げ る か と い っ た 議
論 で あ る と言 え よ う。 そ う した 器 論 に留 ま る 限 りに お い て 、 「重 点 領 域 研 究 」 が 目指 して い る
21世 紀 へ の 提 言 と して の 「世 界 単 位 」 と い う一 歩 踏 み 込 ん だ 議 論 に は繋 が らな い の で は な い か
と、 私 は 危 惧 して い る 。 っ ま り私 は、 世 界 全 体 が ます ます 流 動 化 し、 大 国 の 理 念 が 崩 れ 、 近 代
的 国 民 国 家 の 枠 組 自体 が 問 わ れ て い る現 在 に お い て 、 今 後 の 世 界 の 在 り方 な り 向 か うべ き方 向
は 、 地 域 主 義 とか 国 家 主 義 が 強 化 され るの で は な く、 様 々 な 段 階 と過 程 が あ る に して も、 狭 い
地 域 枠 とか 国 家 枠 を 超 え て 、い くつ か の 拠 点 都 市 、っ ま り情 報 収 集 と 発 信 の た め の 基 地(keystation/workstation)を
相 互 に 結 ぶintercitynetworkの
よ う な一 っ の 世 界 に な るの で は な い か 、
と私 は心 に描 いて い る 。 従 って 、 地 理 的 枠 組 に結 び 付 け よ う とす る こ れ まで の 「地 域=器
論」
か ら脱 却 して 、 器 の 中 身 と して の 人 、 担 い手 と して の 人 間 、 人 の 動 き と そ の ネ ッ トワ ー ク(関
係 性)に よ って 結 ば れ る様 々 な 世 界 像 を 中 心 と した 分 析 視 角 に 注 目 す べ き で は な い か 、 と提 案
した い の で あ る。
私 の これ ま で の イ ス ラ ー ム 世 界 に っ い て の 歴 史 研 究 を 通 じて 、 ま た 中 東 地 域 、 地 中海 や イ ン
ド洋 な ど の 海 の 世 界 を 実 際 に 見 て き た 経 験 か ら言 って 、 ど う もイ ス ラ ー ム世 界 や 海 域 世 界 は 、
今 述 べ た よ う な未 来 型 世 界 に似 た ネ ッ トワ ー ク 型 社 会 と して の 特 性 を 強 く持 って お り、 個 人 か
ら世 界(全 体)ま で が 地 理 的 境 界 に 妨 げ ら れ な い 開 放 性 ・流 動 性 を 強 く も っ て 、 ダ イ ナ ミ ッ ク
に 外 に膨 脹 ・拡 散 し、 ま た 相 互 に 交 流 関 係 を 維 持 して き た と い え よ う。 つ ま り 中 東 地 域 、 そ し
て イ ス ラ ー ム 世 界 の 社 会 ・文 化 や 歴 史 を 考 え る上 で 、ヒ トや モ ノ ・情 報 の 移 動 と交 流 、商 業 交
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易 、社 会 ・文 化 の 重 層 ・多 重 性 と流 動 性 、 人 と人 との 関 係 に よ って 結 ば れ る 人 間 関 係 の ネ ッ ト
ワ ー ク な ど が 基 本 的 な 要 素 で あ り、 地 域 と か 土 地 ・領 土 ・国 家 ・国 境 な ど の 「器 的 な もの 」 は 、
い わ ば 二 次 的 な もの 、 弱 い 存 在 で あ る こ と に 気 付 くの で あ る 。 中東 で よ く言 わ れ る こ と で あ る
が 、 土 地 と か 地 域 は 「人 ・水 ・安 全 」 の な か に成 立 す る二 次 的 な もの で あ り、 そ れ 以 外 の 土 地
は 「死 ん だ 土 地 」 で あ る と か 、 「所 有 権 と か 財 産 は土 地 そ の も の よ り も実 って い る もの 、 生 産
物 に あ る 」 と言 わ れ る 。 さ ら に 、 海 域 世 界 と い う もの を 考 え て み る と 、 文 字 通 り土 地 、 地 域 と
は 別 の 理 念 の な か で 展 開 す る 海 の 世 界 で あ って 、 港 と港 、 島 と島 とが 相 互 に ノ ー ド(単 位 、 節 、
核)と な って 結 ば れ た 緩 や か な ネ ッ トワ ー クの 世 界 、 海 上 交 通 と人 の 移 動 の 上 に トレー ス さ れ
た 関 係 性 の 世 界 、 出会 い の 世 界 で あ る 。
そ こで 、 私 の 本 日 の 発 表 の 目 的 は、 これ まで の 「器 論 」 の 発 想 を 逆 転 させ る意 味 合 い を 込 め
て 、 「都 市 と ネ ッ トワ ー ク」 に 関 す る い くっ か の 話 題 を 提 供 す る こ と に あ る。
1.都
市 と ネ ッ トワ ー ク
(1)ネ
ッ トワ ー ク とそ の ノ ー ド(核)と し て の 原 都 市
メタ
人 間 は様 々 な 他 者 との 関 係 性 の な か で 自 ら生 き、 ま た 生 か さ れ て い る と言 え る 。 ネ ッ トワー
ク論 は、 そ う した 個 と個 、 個 と集 団(社 会 、 世 界)の 相 互 作 用 を 分 析 す る も の で あ って 、 ネ ッ
トワ ー ク 内 の ノ ー ド(単 位)が 相 互 に 作 用 す る こ とで 、 互 い に 連 結 す る と き に 成 立 す る 関 係 の
在 り方(形 態 と属 性)か ら、 ネ ッ トワ ー ク の 性 格 を 分 析 す る 。 従 っ て 、 ネ ッ トワ ー ク論 で は 、
構 造 ・機 能 の 静 態 的 分 析 と は違 って 、 動 態 的 分 析(拡 散 ・膨 脹 ・可 変 ・組 み 替 え な どの 開 放 性 、
多 重 ・複 合 ・重 層 な ど の ヒエ ラ ル キ ー 、 方 向 性 、 時 間 性 、 質 量 等 々 の 、 言 わ ば 関 係 性[relations])、
っ ま り 「動 きの ダ イ ナ ミズ ム 」 を 明 らか に す る こ と に研 究 上 の 力 点 が 置 か れ る。 こ
の ネ ッ トワ ー ク 論 は、 歴 史 研 究 に お い て も注 目 され て お り、 と くに 属 人 的 な 性 格 の 強 い 中 東 イ
ス ラ ー ム 社 会 の 分 析 に は ラ ピ ドス(1.R.Lapidus)の
研 究 に 代 表 さ れ る よ う に 、 注 目 す べ き多
くの 研 究 成 果 が み られ る。 っ ま り、 多 重 多 層 な ネ ッ トワ ー クの 網 目 の な か に機 能 す る 、 流 動 的
な 中 東 の 多 重 社 会 の 実 像 を 浮 き 上 が らせ 、 同 時 に 一 国 史 の 枠 内 で 歴 史 展 開 を 考 え て きた 研 究 の
限 界 を乗 り越 え る こ と に、 研 究 の 主 眼 が 置 か れ て い るの で あ る 。
さ て 、 都 市 と ネ ッ トワ ー クの 問 題 に 関 連 して 、 ネ ッ トワ ー クの ノ ー ド(単 位 、 節 、 核)と し
て の 原 都 市 、 メ タ フ ィ ジ カ ル な都 市 に っ い て 考 え て み よ う。 政 治 的 都 市 、 領 域 国 家 の な か の 都
市 と い った 場 合 、 そ の 都 市 は予 め 計 画 され 、 指 定 さ れ た 場 所 と構 造 を 持 って い るが 、 関 係 性 の
な か に成 立 す う 原 都 市 は、 本 来 的 に は 無 の 場 所 、 空 っぽ の 器 で あ り、 人 の 移 動 と交 流 に よ って
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一 時 的 に 成 立 す る 街 道 上 の 一 点 、 分 岐 の 境 、 境 域 で あ る。 ア ラ ビア 語 に 「サ グル(thaghr)」
と い う言 葉 が あ り、 しば しば 地 名 に付 け られ る名 称 で あ る 。 こ の 本 来 の 意 味 は、 異 界 との 境 、
辺 境 、 砦 、 中 心 、 河 口 、 港 、 市 場 な どで あ るが 、 ま さ に サ グ ル は ネ ッ トワ ー ク の な か で 成 立 す
る ノ ー ド=原 都 市 に通 じる も の で あ る と考 え られ る。 この よ うに ノ ー ドは 、 中 心 で あ り、 同 時
に 末 端 点 で もあ り、 中 間 の 拠 点 で あ り、 同 時 に 分 岐 点 で もあ っ て 、 伸 び 縮 み す る ネ ッ トワ ー ク
の 一 時 的 な 点 に過 ぎ な い と言 え よ う。
ネ ッ トワ ー ク の ノ ー ドと して の 原 都 市 は 、 多 様 な ヒ トが 集 ま る 情 報 ・モ ノ の 交 換 の 場 、 異 質
な モ ノの 出 会 い と集 積 の な か で 機 能 す る場 で あ って 、 そ う し た属 性 を 備 え る こ と に よ って 、 別
の モ ノ、 新 し い モ ノ を 創 り出 し、 発 信 す る 場 と もな る 。 つ ま り、 原 都 市 は 、 本 来 は 目 に 見 え な
い よ う な 「は か な い 場 」 で あ る が 、 同 時 に 目 に 見 え る もの(文 明)を 創 り 出 す 「
確 固 た る場 」
と もな り得 る の で あ る。 そ して 原 都 市 は ネ ッ トワ ー ク の ノ ー ドと して の 機 能(出 会 い ・集 積 ・
創 造)を 高 あ る こ と で 、 そ の 周 囲 の 農 業 社 会 に も影 響 力 を 及 ぼ し、 農 業 生 産 を 支 配 す る な か に
お い て 、 ノ ー ドと して の 都 市 機 能 を 肥 大 化 さ せ て い く。 こ の 意 味 に お い て 、 メ タ フ ィ ジ カ ル に
見 る な ら ば 、 都 市 は農 村 に 先 行 して い る と言 え よ う。
ノ ー ドの 上 に生 まれ た 都 市 文 明 は 、 多 様 な ヒ ト ・モ ノ ・情 報 の な か に 成 立 した 、 い わ ば 普 遍
化 の シ ス テ ム で あ って 、 ネ ッ トワ ー ク に沿 って 四 方 に 拡 大 す る こ とで 、 そ の 普 遍 化 と 多 様 化 の
過 程 を 辿 って 行 く。 多 くの ノ ー ドを 支 配 す る 大 文 明 は 、 多 様 な ネ ッ トワー クを 統 合 し、 同 時 に
内 発 的 発 展 モ デ ル(文 化)、 あ る い は 小 ノー ドを 挑 発 し、 内 発 的 発 展 モ デ ル(文 化)を 再 認 識 さ
せ た り、 適 合 ・不 適 合 と融 合 ・分 離 、 多 様 化 の 現 象 を も た らす 。
(2)イ
ス ラ ー ム の 都 市 像 と移 動 の ネ ッ トワ ー ク
以 上 の よ うな 原 都 市 は、 現 実 の 中 東 や イ ス ラ ー ム 世 界 の 都 市 像 に極 め て 近 い もの で あ る と考
え られ る。 も と も と中 東 社 会 は、歴 史 的 に古 くか ら海 上 と 陸 上 の 接 点 、多 様 な人 間 集 団 の 出 会 い
と 衝 突 の 場 、 流 通 経 済 と 都 市 社 会 の 高 度 な 発 達 を 特 徴 とす る、 いわ ば 「文 明 衝 突 と交 流 の 主 舞
台 」 で あ っ た。 しか も 中 東 地 域 の 周 囲 に は、 砂 漠 ・ス テ ップ 地 帯 が 広 が り、 そ こ に は 「移 動 」
を 定 常 的 な 生 活 形 態 と して い る遊 牧 民 た ち が 住 ん で い る。 従 って 、 中 東 を 中 心 と した 歴 史 を 振
り返 って み る と、 常 に大 規 模 な 「
人 間 移 動 」 が 国 家 ・社 会 ・経 済 ・文 化 を動 か して き た と い う側 面
を 見 逃 す こ とが で きな い 。 中 東 の 都 市 は、 そ う した移 動 す る人 々が 集 ま り、 モ ノ ・情 報 の 交 換 の場 、
異 質 な もの の 出 会 い の 場 、 接 点 、 文 明 発 信 の基 地 で あ って 、人 間 移 動 の 世 界 が 支 え る ノー ド(核)と
して の 機 能 、 っ ま り様 々 な 移 動 す る人 間 の 「止 ま り木 」 と して の 開 か れ た機 能 を果 た した 。
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現 在 、 私 は イ ブ ン ・バ ッ トゥー タ(lbnBat旗a)に
て い る が 、 そ れ に 関 連 して い わ ゆ るrリ
よ るrメ
フ ラ(al-Ri坦a)」
ッ カ巡 礼 記 』 の 邦 訳 作 業 を 進 め
と呼 ば れ る 多 くの 巡 礼 旅 行 記 を 読
ん だ 。 そ う した 旅 行 記 を 読 ん で 率 直 に 感 じた 一 っ の 印 象 は 、 イ ス ラ ー ム 世 界 は脱 領 土 ・脱 国 家
化 の 進 ん だ 一 つ の 人 間 移 動 の 世 界 、 旅 の 世 界 で は な い か とい う点 で あ る。 っ ま り イ ス ラ ー ム 世
界 は ヒ ジ ュ ラ(移 動 ・逃 避)、 リフ ラ(商 売 ・旅 ・学 問 ・修 行)、 ハ ッ ジ ュ(メ ッ カ 巡 礼)、 ズ ィ
ヤ ー ラ(聖 地 ・聖 廟 の 参 拝)な どの 作 用 を 通 じて 、 人 と 人 と が 相 互 に 結 び っ き、 個 人 ・血 縁 ・
地 縁 ・国 家 ・世 界 を 貫 く共 通 の 情 報 化 ・国 際 化 と普 遍 共 存 を 目 指 して 活 発 に展 開 して い た こ と
が 強 く理 解 さ れ るの で あ る。 そ の 究 極 の 理 念 的 世 界 が ウ ンマ ・ム ハ ンマ デ ィ ー ヤ と して の イ ス
ラ ー ム 世 界 で あ って 、 個 と世 界 との 間 が 吹 き抜 け た 状 態 に あ る と言 え よ う。
一 人 の 人 間 が 風 呂敷 一 枚 の 荷 物 を 持 っ て 旅 に 出 て 、 巡 礼 キ ャ ラ バ ン隊 の 仲 間 に な る。 キ ャ ラ
バ ン隊 が 遠 方 の 町 に着 く と 、 そ こ に は 礼 拝 の モ ス ク が あ り 、 商 売 の 市 場(ス ー ク)、 宿 泊 の フ
ン ドク や キ ャ ラ バ ンサ ラ イが あ り、 人 の 集 ま る広 場(maydan/s的a)が
修 行 と学 問 修 得 、 宿 泊 の 機 能 を 備 え た マ ドラ サ(madrasa)、
ヤ(zawiya)が
あ る。 病 院(blmaristan)、
あ る。 ま た宗教 的 な
ハ ンカ ー(khanq乞h)や
公 衆 浴 場 鯨amm且m)や
ザ ー ウィ
カ ー デ ィ ー 法 廷 が あ る。 こ
の よ うに ネ ッ トワ ー クの ノ ー ドと して の イ ス ラ ー ム 都 市 は 、 移 動 して き た よ そ 者 を 受 け 入 れ る
様 々 な 機 関 を 用 意 し、 町 の 人 間 も他 者 を 積 極 的 に もて な し、 保 護 す る心 構 え を 持 っ て い る。 ア
ラ ビ ア 語 で 、自分(仲 間)と 他 者 と の 間 に あ る 人 間 を 呼 ぶ 言 葉 に 、 「近 隣 者 ・寄 留 者(al-mujawi而n)」
が あ る。 こ れ は 「一 時 的 に 隣 人 愛(jiw巨r)の も と に 置 か れ た 人 」 の 意 味 で あ り 、 そ
の 人 は 寄 留 先 の 仲 間 ・集 団 と 同 じ ル ー ル 、 同 じ安 全 保 護(垣maya)の
もとに一 時の 滞在 が許 可
され た 人 間 で あ る。 こ う した 人 間 が 長 期 的 に 滞 在 す れ ば 、 そ の 本 来 の 土 地 の 人 間 に な る可 能 性
を も った 、 い わ ば 「内 と外 の 中 間 の 立 場 に あ る人 間 」 で あ る。 よ そ 者 は 、 確 か に 危 険 な 存 在 で
あ る が 、 反 面 に お い て 新 し い外 の 情 報 や モ ノ、 技 術 や 知 識 を もた らす 客 人 で あ り、 多 様 な ネ ッ
トワ ー クを 持 っ た 有 益 な 人 間 で あ る。rコ ー ラ ン』の な か に も、 「移 動 す る 旅 人 は 、道 の 子(ibn
al-sabll)」 で あ り、 尊 び 保 護 す べ き存 在 で あ る こ とが 繰 り返 し説 か れ て い る。 こ の 道(サ ビー
ル)と は 、 旅 、 道 、 イ ス ラ ー ム の 教 え 、 あ る 目 的 に 至 る 過 程 で あ り、 要 す る に 様 々 な ネ ッ ト
ワ ー クを 意 味 して い る。 旅 す る 人 の 心 を 支 え て い る の は 、 イ ス ラー ム で あ り、 旅 そ の も の は 純
正 の イ ス ラ ー ム に近 付 くた め の 修 行 と苦 行 の 旅 で もあ っ た 。
ム ス リム の 名 前 に は、 ニ スバ と い って 由 来 名 が 付 い て い る。 そ の 由 来 名 を 見 る と 、 生 ま れ た
地 域 、 町 、 村 の 名 前 で あ っ た り、 父 親 、 叔 父 や 祖 先 の 生 ま れ の 場 所 、 部 族 名 で あ っ た り して 、
ニ スバ の 定 ま った 命 名 の ル ー ル が あ った と は考 え られ な い 。 興 味 深 い 点 は 、 多 くの 場 合 、 本 人
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が 旅 の 過 程 で 滞 在 した 町 、 学 問 や 商 売 の た め に旅 して 歩 き 、 拠 点 と した 都 市 名 が ニ ス バ と して
残 さ れ る こ と で あ る。 例 え ば 、14世 紀 の 有 名 な 伝 記 学 者 、 メ ッカ 地 誌 の 著 者 で あ る Muhammad
b Ahmad
al-Fasi
al- Makki
と い う人 物 は、 モ ロ ッ コ の フ ァ ー ス に 生 ま れ 、 カ イ ロ と
メ ッカ に 学 び 、 ム ジ ャ ー ウ ィ ル と して メ ッカ に長 期 滞 在 した 。 この 命 名 法 か ら も明 らか な よ う
に 、 移 動 す る入 間 の 地 域 性 は多 様 で あ り、 後 で 紹 介 す る よ う に 、 ハ ドラ マ ウ トの ア ラ ブ 人 は 故
まつ ご
郷 に あ る墓 が 彼 らの 原 点 で あ り、 末 期 の 地 で あ る とす る強 い 観 念 もあ る が 、 こ う し た例 は稀 で
あ っ て 、 む しろ都 市 間 を 移 動 す る旅 の 人 生 、 一 本 の 杖 と一 っ の 水 壺 を 持 っ た 旅 姿 こ そ が す べ て
の 人 生 で あ る 、 と 考 え るの が 普 通 で は な か っ た か 、 と 思 わ れ る。
た だ し、 人 の 移 動 は 無 秩 序 に行 わ れ るの で は な く、 動 機 ・目的 ・交 通 条 件 な ど に よ って も、
そ の ネ ッ トワ ー クに は あ る 程 度 の 地 域 性 が 出 て く る こ と は言 う ま で もな い。 ネ ッ トワ ー ク の 内
容(種 類)・ 範 囲 ・頻 度 ・持 続 ・方 向 ・時 間 な ど の 点 で 、 そ の 濃 淡 と 範 囲 が 抽 出 され る 。 私 は、
イ ス ラ ー ム 世 界 の な か に 、 地 中 海 と イ ン ド洋 と い う二 っ の海 域 世 界 を 設 定 し、 両 海 域 世 界 を 繋
ぐい くっ か の 交 易 ネ ッ トワー ク軸 を 取 り 出 し、 そ れ らの 絡 ま り の な か で 、 そ の 世 界 と して の 歴
史 的 変 化 を 捉 え よ う と して い る 。
イ ス ラ ー ム 化(Islamization)と
は 、 移 動 す る 人 間 に よ って 多 様 な イ ス ラ ー ム が 拡 散 して い く
過 程 で あ り、 イ ス ラ ー ム の 都 市 ネ ッ トワ ー クを 通 じて 、 地 理 的 な 広 が りを 持 ち、 同 時 に 文 化 的
格 差 を均 質 化 ・国 際 化 し、 普 遍 共 存 の 理 念 で あ る ウ ンマ 共 同 体 形 成 の た め の 運 動 で あ る と言 え
る。 しか し人 の 移 動 に よ って 広 が り、 地 理 的 な 広 が りを 持 つ イ ス ラ ー ム は、 そ の 拡 散 の 過 程 で
「多 様 な イ ス ラ ー ム ・ネ ッ トワ ー ク 」 を 自 ら創 成 し続 け た。 こ う した 多 様 な 地 域 的 イ ス ラ ム を
横 軸 の イ ス ラ ー ム ・ネ ッ トワ ー ク とす る な らば 、 同 時 に 縦 軸 の イ ス ラ ー ム ・ネ ッ トワ ー クー
言 い 換 え る な ら ば 「大 伝 統 の イ ス ラ ー ム 」 、 「大 文 明 と して の イ ス ラ ー ム」 、 「
建 て 前 と して
の イ ス ラ ー ム 」 と も言 え る が あ って 、 両 者 は 常 に反 発 しあ い 、 革 新 運 動 を 起 こ しっ つ イ ス
ラ ー ム そ の もの が 揺 れ 動 い て い る 。 イ ス ラ ー ム の な か に は、 正 統 と異 端 の 両 軸 を 置 き、 相 互 に
レ フ ォー ム して 行 こ う とす る 力 強 い エ ネ ル ギ ー が あ る 。 そ の レフ ォ ー ム の 運 動 ・努 力 ・試 練 が
多 様 な ジハ ー ドの 運 動 の 原 点 に な っ て い る と捉 え られ る。 以 上 の よ うに 、 中 東 ・イ ス ラ ー ム 世
界 は 、 人 の移 動 の た め の 都 市 と都 市 を 結 ぶ 各 種 の 交 通 シ ス テ ム と文 化 的 コ ミュニ ケ ー シ ョ ンの
ネ ッ トワ ー クが 高 度 に 発 達 し、 ダ イ ナ ミ ッ ク に展 開 して い た の で あ る。
19
H.港
布 の ネ ッ トワ ー ク と 海 域 世 界
(1)港
市 と海域世 界
ノ ー ド(核 、 拠 点)と して の 港 は 、 海 域 の ネ ッ トワ ー クを 通 じて 様 々 な 異 界 と 接 す る フ ロ ン
テ ィア で あ り、 同 時 に 陸 上 の 領 域 国 家 の ネ ッ トワ ー クの も と に 囲 い込 ま れ た 陸 の 拠 点 で あ り、
そ の 両 者 の 「狭 間 の 地 」 「サ グ ル 」 に 位 置 す る こ と に よ って 、 様 々 な ヒ ト・モ ノ ・情 報 の 集 積 ・
拡 散 す る 出 会 い の 機 能 を 果 た す 。 従 って 、 港 は 陸 の 領 域 国 家 の 直 接 の 影 響 を 受 け るが 、 同 時 に
海 を 通 じて 広 が る ネ ッ トワ ー ク を持 つ こ とで 、 陸 の 都 市 と は違 っ た 秩 序 の な か に あ る。 陸 の 領
ヒンタ ラン ド
域 国 家 は 、 国 内 の 後 背 地(陸 上 ル ー ト、 土 地 、 人 間 、 資 源 な ど)を 支 配 す る 利 点 を 生 か して 、
強 い 力 を 持 って 港 を 支 配 す れ ば 、 外 に 開 か れ た 港 の 自 由 な 活 動 は 妨 げ られ 、 港 は海 域 ネ ッ ト
ワ ー ク の ノ ー ドと して の 自 由 な 機 能 を 失 う。 した が って 、 港 市 国 家(portofstate)は
、 港 と領
域 国 家 と い う二 っ の レヴ ェ ル の 異 な る ネ ッ トワ ー クの 交 差 す る 微 妙 な バ ラ ン ス 関 係 の な か に 成
立 して い る と 言 え よ う。
歴 史 的 に 見 る と、 多 くの 重 要 な 国 際 港 は 、 大 陸 と 少 し距 離 を 置 い た 島 娯 に 発 達 した 。 そ れ は
海 域 世 界 の ネ ッ トワ ー クの ノ ー ドと して 、 陸 の 領 域 国 家 に よ る軍 事 的 ・行 政 的 な 影 響 を 直 接 受
け に くい場 所 に あ る か らで あ って 、 現 在 の シ ンガ ポ ー ル や 香 港 の よ うに 、 そ こに は様 々 な 異 人
た ち が 寄 り付 き、 多 重 多 層 の コ ス モ ポ リ タ ンな 住 地 世 界 、 独 自 な フ ァ ッ シ ョ ン文 明 を 創 造 す る
可 能 性 を 持 っ た 場 で あ る 。 ま た 同 時 に 、 異 文 化 の な か のdiasporacommunityは
独 自のコ
ミュ ニ テ ィ ー を 維 持 す る た め の 文 化 伝 統 を 強 化 す る 傾 向 も常 に 持 っ て い る こ と も注 目 さ れ る。
そ う した こ と か ら、 港 に は港 社 会 の 共 通 性 と 多 様 性 、 活 力 が あ る と考 え られ る 。
海 域 世 界 は ノ ー ド(核 ・拠 点)と な る い くっ もの 港 や 島 を 繋 ぐ交 通 ネ ッ トワ ー ク に よ っ て 成
立 す る交 流 の 場 、 一 っ の 世 界 で あ り、 ま さ に未 来 型 世 界 の モ デ ル と して 讐 え られ る場 で あ る。
私 が 海 域 ネ ッ トワ ー ク に よ って 成 り立 っ 空 間(世 界)=海
域 世 界 を 積 極 的 に 設 定 しよ う とす る
こ と の 研 究 意 図 は、 そ こ に イ ス ラ ー ム 世 界 や 未 来 型 世 界 の モ デ ル を 想 定 して い るか らで あ る。
歴 史 研 究 の う え で 、 海 域 世 界 は 、 次 の よ うな 特 殊 条 件 を備 え て い る こ と に よ って 、 ネ ッ トワ ー
ク と 地 域 性 の 問 題 を 考 え る興 味 深 い 研 究 対 象 と な り得 る で あ ろ う。
① 海 域 と い う特 殊 な 地 理 的 条 件 に よ っ て 、 人 間 は 造 船 術 と航 海 術 とい う特 殊 技 術 を使 って の
み 、 これ を 活 動 の 場 と して 利 用 で き る こ と。
② した が っ て 、 海 域 は 、 陸 支 配 の よ う な 直 接 的 支 配 が 及 び に くい 領 域 国 家 の 狭 間 に あ っ て 、
国 家 枠 に 規 制 さ れ な い 、 ま た 国 家 枠 を 超 え た 多 様 な 人 間 の逃 避 と積 極 的 な活 動 の 場 と な り得 る
こ と。
20
③ イ ン ド洋 海 域 に つ い て い う と、 ヴ ァス コ ・ダ ・ガ マ が 喜 望 峰 を 回 っ て 、 イ ン ド洋 に進 出 し
た 頃 、 南 シナ 海 ・ベ ン ガ ル 湾 ・ア ラ ビア海 ・イ ン ド洋 西 海 域 を連 ね る 、 一 っ の 海 の ル ー ル 、 秩
序 が 存 在 して い た 。 そ の た め に ア デ ン、 ホ ル ム ズ 、 カ リカ ッ ト、 マ ラ ッカ な ど に代 表 さ れ る
ノ ー ドとな る 国 際 的 港 市 が 発 達 し、 そ れ らが 相 互 に 港 市 ネ ッ トワ ー クを 持 って 連 関 し、 共 通 の
港 市 機 能 と性 格 を 持 って い た こ と。16・17世 紀 の ア ラ ビア 語 史 料 に よ る と 、 イ ン ド洋 海 域 世 界
を 表 現 す る言 葉 と して 、
「イ ン ド洋 地 域 くNahiy母Bahral-Hind)」
が 使 わ れ て お り、 こ の 海
域 が 一 っ の 世 界 と して 捉 え られ て い た こ とが わ か る 。
④ 一 国 史 の 枠 を 離 れ て 、 広 域 地 域 を 有 機 的 連 関 性 を 持 っ 一 っ の 空 間 と して 設 定 し、 そ れ を 成
り立 た せ て い る 構 造 と ダ イ ナ ミズ ム を 捉 え る実 験 の 場 で あ る こ と。
陸 上 の 領 域 国 家 ・港 市 ・海 域 世 界 との 間 に は 、 相 互 に 断 ち 切 れ な い 関 係 が あ って 、 人 の 関 係 、
交 易 取 引 や 金 融 決 済 な ど の 多 様 な ネ ッ トワ ー クの な か で 成 り立 って い る こ と は言 う ま で もな い。
ノ ー ドと して の 港 市 の 機 能 と性 格 、 海 域 世 界 の 秩 序 ・ル ー ル 、 異 な る ノ ー ド(港)を 繋 ぐ情 報
関 係 の 在 り方 、 さ ら に は ネ ッ トワ ー クの ク ラ イ テIJア と地 域 性 と言 う問 題 に つ い て も、 さ ら に
議 論 を 深 め な け れ ば な らな い。 これ らの 点 に っ いて は 、 私 に と って の 今 後 の 研 究 課 題 で あ り、
今 回 の 発 表 で は 、 以 上 の よ うな 問 題 の 所 在 を 提 示 す るだ け に 留 め た い。
(2)ハ
ドラ ミ ー ・ネ ッ トワ ー ク を め ぐる 事 例 研 究
さ て 最 後 に 、 イ ン ド洋 海 域 世 界 に 張 り め ぐ ら され た 一 っ の ア ラ ブ ・ネ ッ トワ ー クの 事 例 と し
て 、 ハ ドラ ミー ・ネ ッ トワ ー クを あ ぐる 問 題 を 考 え て み た い 。 現 在 の ハ ドラ マ ウ ト地 方 は、 南
ア ラ ビア の イ エ メ ンの 東 部 に位 置 し、 オ マ ー ン国 境 に 近 い が 、 歴 史 的 に は オ マ ー ンの ズ フ ァー
ル 地 方 もハ ドラ マ ウ トの 一 部 に 含 ま れ た 。 北 に は ル ブ ゥ ・ル ・ハ ー リー の 大 砂 漠 、 南 に は ア ラ
ビア 海 と イ ン ド洋 が 広 が り、 イ エ メ ン と オ マ ー ンの 境 、 ア ラ ビア 半 島 の 南 の 外 れ に 位 置 す る と
い う意 味 に お い て 、 陸 の 文 明 中 心 か ら は一 番 の 辺 境 に あ る と言 え よ う。 そ こ は、 深 く削 られ た
ワ ー デ ィ ー ・ハ ドラ マ ウ トの 渓 谷 に沿 って 広 が るわ ず か な オ ア シス 農 耕 地 と そ の 文 化 ・経 済 の
中 心 都 市 サ イ ウ ー ン、 タ リー ム 、 シ バ ー ム 、 イ ン ド洋 の 港 の シ フ ル 、 ム カ ッ ラ ー 、 ゲ イ ダ、 セ
イ フ ー トな ど か ら成 り立 って い る(次 頁 地 図 参 照)。
ハ ドラ マ ウ ト地 方 の 注 目す べ き点 は 、 シバ ー ム 、 タ リー ム 、 セ イ ウ ー ンな どの 多 くの 人 口 を
集 め た 都 市 が 発 達 し、 周 囲 の 厳 しい砂 漠 と は 不 釣 合 な 高 層 の 建 築 物 が 立 ち並 び 、 学 術 ・文 化 ・
教 育 ・信 仰 の 中心 地 と して 歴 史 的 に特 異 な役 割 を 果 た して きた こ とで あ る。 この よ う に 極 め て
自然 条 件 の厳 しい 辺 境 に位 置 す る に もか か わ らず 、 ハ ドラ マ ウ ト地 方 に は多 くの 大 都 市 が 生 ま
zi
れ 、 宗 教 ・思 想 ・文 化 の 上 で 重 要 な 役 割 を 果 た して き た の は何 故 だ ろ うか 。 そ れ は 他 な らず 、
ハ ドラ マ ウ ト地 方 が イ ン ド洋 海 域 世 界 に 広 が る ネ ッ トワー ク の 重 要 な ノ ー ドと して 機 能 し、 ハ
ドラ マ ウ トの 人 々 に よ るハ ドラ ミー ・ネ ッ トワ ー クが イ ン ド洋 海 域 世 界 に 広 く張 り巡 ら され て
い た か らで あ る、 と考 え られ る。 そ こで 、 ハ ドラ ミー た ちの イ ン ド洋 海 域 に お け る 広 範 な 活 動
を 示 す 具 体 的 な 例 を 、 い くつ か 挙 げ て み よ う。
ハ ドラ マ ウ トの タ リー ム の 大 モ ス ク 内 で 発 見 さ れ た ア ラ ビア 語 写 本 の 一 っ で 、 法 学 者 で あ り
ス ー フ ィ ー の
Y usu f b 'Abi
d al-Idrisi
al-Husni
に よ るrマ
al-Fast
トま で の 旅 の 点 描1(Multaqaちa1-Ri坦aminalMaghribila耳a母ramawt)』
グ リ ブ か らハ ドラ マ ウ
が 、最 近 、校 訂 ・
出 版 され た 。 こ の 本 は 、 1559年 に モ ロ ッ コ の フ ァ ー ス(フ ェ ズ)の 近 郊 に 生 ま れ た 著 者
が24才
の 時 、 高 名 な ス ー フ ィー た ち と の 出会 い を求 め て 故 郷 を 離 れ 、 カ イ ロ 、 メ ッ カ、 ジ ッダ 、
イ エ メ ンを 経 て 、 ハ ドラ マ ウ トに至 り、 そ こで 神 学
lm al-tawhid)
教 師 に な り、結 婚 して
定 住 し、 彼 の 死 の 直 前 の70才 の 時 に 自 分 の 旅 の 人 生 を 回 想 した 記 録 で あ る。 彼 が ハ ド ラ マ
zz
ウ トに 来 た の は 、 学 者 た ち と の 出 会 い と ス ー フ ィ ー と し て の 修 行 の 目 的 と 共 に 、 彼 の 祖 先 が ア
ラ ブ 征 服 の 時 に マ グ リ ブ ・ ア ン ダ ル ス 地 方 に 移 住 し た 同 じ ハ ドラ ミ ー ・ア ラ ブ と して の 意 識 が
あ っ た か ら で あ る 。 さ ら に 興 味 深 い こ と は 、 彼 の 息 子 の 二 人 、 星Abidと
℃marが
い ず れ も商
売 と 学 術 ・修 行 の た め に イ ン ド、 エ チ オ ピ ア 、 ス ー ダ ン を 訪 れ た 。 こ の よ う に 、 モ ロ ッ コ ∼
メ ッ カ ∼ イ エ メ ン ∼ ハ ドラ マ ウ ト∼ イ ン ド洋 海 域 世 界 を 結 ぶ 人 と 情 報 の ネ ッ ト ワ ー ク は 、19世
紀 に 至 っ て イ ド リー ス 派 や サ ヌー ス ィ ー派 の ス ー フ ィ ー教 団 が 生 まれ る基 礎 に な っ た も の で あ
り 、 人 の ネ ッ ト ワ ー ク が 西 の 果 て の モ ロ ッ コ か ら 東 の イ ン ド、 東 南 ア ジ ア ま で 、 イ ス ラ ー ム 世
界 を 東 西 に 縦 断 して い た こ と が 分 か る 。
1886年
に イ ン ドネ シ ア の バ タ ヴ ィ ア で 出 版 さ れ たVanDenBergに
ン ド島 懊 部 にお け る ア ラ ブ人 コ ロニ ー (Le Hadhramout
Indian)
et les
よ るrハ
colonies
arabes
ドラ マ ウ ト と イ
dans
l'archipel
』で は 、 ハ ドラ ミー ・ア ラ ブ た ち が 東 南 ア ジ ア の 島 懊 部 、 と く に バ ン ダ ・ア チ ェ 、 パ レ ン
バ ン 、 ス ラ バ ヤ 、 そ の ほ か マ ドウ ー ラ や ボ ル ネ オ 島 へ 移 住 し た こ と を 実 証 す る 調 査 記 録 を 載 せ て い
る 。 ま た1931年
のVan Der MeulenとH. Von Wissmannな
ど の ハ ドラ マ ウ トで の 調 査 に よ る と 、
ハ ドラ マ ウ トの 港 ム カ ッ ラ ー の パ ス ポ ー ト ・オ フ ィ ス を 通 じて 、 東 南 ア ジ ア の 各 地 と の 間 を 往 来 す
る ハ ドラ ミー ・ア ラ ブ(特 にBa Kathir)の
人 数 は 年 間1,000人
、 シ フ ル 経 由 で は400∼500人
す る こ と 、 ハ ドラ マ ウ ト地 方 の 内 陸 の ド ゥア ー ン(Wa(n Do'an)と
ホ レ ー ダ(Hureida)の
に も達
町の大半
の 人 々 が 商 売 と 出 稼 ぎ の た め に エ チ オ ピ ア 、 イ ン ドと ジ ャ ワ に 出 か け て い る と の 興 味 深 い 実 態 を 報
告 して い る 。
で は 、 ハ ドラ ミ ー た ち は 、 い っ 頃 か ら 、 い か な る 動 機 の も と に 、 ど の よ う な 過 程 を 経 て イ ン
ド洋 海 域 世 界 に 彼 ら の ネ ッ トワ ー ク を 拡 大 して い っ た の か 、 ま た 彼 ら の ネ ッ トワ ー ク の 実 態 は
何 か 、 彼 ら移 動 す る 人 間 に と って 地 域 観 、 地 域 性 と は 何 か 、 彼 らの 移 動 の ネ ッ トワ ー クが 他 の
ア ラ ブ 系 、 イ ラ ン 系 や イ ン ド系 、 中 国 華 僑 系 の ネ ッ ト ワ ー ク と ど の よ う に 違 う の か 、 相 互 に ど
の よ う に 関 わ って い た の か 、 な どの 多 様 な 問 題 が あ る。 しか し、 こ う した 問 題 の 多 くは 、 い ず
れ も 具 体 的 な 記 録 史 料 に 基 づ い て 分 析 ・解 明 す る こ と が 困 難 で あ り 、 私 に と っ て の 今 後 の 研 究
課 題 で あ る。 こ こで は、 ア ラ ビア 語 に よ る年 代 記 、 名 士 伝 、 聖 者 伝 、 リフ ラ書 な ど に散 見 す る
断片 的な記 録 に基づ いて 、以上 の問 題 に関わ る諸点 につ いて、概 略的 に紹介 す るに留 め たい。
● イ ン ド洋 海 域 世 界 に お け る ハ ド ラ マ ウ トの 位 置:先
に 述 べ た よ う に 、 ハ ドラ マ ウ トは い ず
れ の 場 所 か ら も 遠 い 陸 の 孤 島 に あ る が 、 イ ン ド洋 航 海 の 要 地(ペ
ル シ ャ 湾 ∼ 東 ア フ リカ 、 紅 海
∼ イ ン ド、 ソ コ ト ラ 島)に 位 置 して い る 。 ま た 、 そ こ は イ ン ド洋 海 域 の 各 地 か ら 集 ま る ム ス リ
ム た ち の メ ッ カ 巡 礼 ル ー トの 交 通 ネ ッ トワ ー ク の 拠 点 、 メ ッ カ 、 イ エ メ ン に 至 る 途 中 の イ ス ラ
23
ム 諸 学 の 学 術 セ ン タ ー で もあ っ た 。 そ こ は 、 特 産 品 と して の 乳 香 、 没 薬 、 龍 誕 香 な どが あ り、
そ の 他 に 東 ア フ リカ 、 ソ コ トラ 島 との 中 継 貿 易 と して多 様 な 物 産 を 集 め る上 で も重 要 な 位 置 に
あ っ た 。 そ して 、 シ フ ル 、 ズ フ ァー ル、 ム カ ッラ ー な どの ハ ドラ マ ウ トの 主 要 港 は、 中 東 の 領
域 国 家 の 支 配 を 受 け な い コ ス モ ポ リタ ンな 自 由港 と して 発 達 し、 ハ ドラ ミー 商 人 、 船 乗 り の 活
躍 が イ ン ド洋 海 域 で 古 くか ら見 られ た 。
● 郷 土 意 識 と 聖 家 族 の 役 割:ハ
ドラ ミー た ち は 、 伝 説 上 の 部 族 、 預 言 者 に 由来 す る血 縁 集 団
や 聖 家 族 を 指 導 者 と し た 強 い共 同 体 的 な 連 帯 意 識 を 持 って 結 ばれ て い た 。 ア ー ル(ク ラ ン、 血
縁 集 団 、 大 家 族)の 指 導 者 は 、 サ イ イ ド(sayyid)、
ま た は マ シ ャ ー イ フ(mash盃'ikh)と
呼ば れ
て 、 集 団 全 体 に 対 す る カ リス マ 的 リー ダ ー 権 を も ち 、 同 時 に 先 祖 か ら受 け 継 が れ て き た 聖 域
①awta)、
聖 墓(maqbura/maqbara)や
参 拝 地(mazar)を
守 る長 で もあ った 。 そ う した 場 所
は、 ア ー ル の 集 団 構 成 員 た ち に と って の 協 議 ・契 約 ・紛 争 解 決 の集 ま りの 場 所 で あ り、 末 期 の
地 で もあ っ た 。 聖 域 や 墓 に帰 属 意 識 を持 っ こ と は 、 彼 らが 移 動 の 生 涯 を 送 り、 死 の 時 に 墓 に戻
る と い う地 域 観 、 人 生 観 と 深 く関 わ っ て い た 。14/15世
紀 にな ると、 アー ルの指導 者が イ スラ
ム 諸 学 に 精 通 す る ウ ラ マ ー と して 、 ま た ス ー フ ィー ・タ リー カ の 長 、 偉 大 な る聖 者 と して の 強
い権 威 を 持 っ よ うに な っ た 。
●BaSaqq百fを
起 源 とす る分 家 、と くに ア イ ダル ー ス(BaヒAdar船)の
ア イ ダ ル ー ス ィ ー ヤ(ク
ブ ラ ウ ィ ー ヤ の 一 分 派)と
り 、 彼 ら の 移 動 に 新 し い 展 開 が16/17世
イ ン ド洋 海 域 へ の活 動:
呼 ば れ る ス ー フ ィ ー ・タ リ ー カ の 活 動 に よ
紀 に あ っ た 。 ア イ ダ ル ー ス ィ ー ヤ は 、19世
紀 に 至 って
成 立 す る イ ドリー ス 派 タ リー カ や サ ヌ ー ス ィ ー 派 に も強 い 影 響 を 与 え た と思 わ れ る が 、 カ ー
デ ィ リ ー ヤ 派 ス ー フ ィ ズ ム と 同 じ く 、 都 市 派 の ス ー フ ィ ー ・タ リ ー カ で あ り 、 キ ヤ ー ス(類
推)、
イ ジ マ ー を 認 め ず に 、 コ ー ラ ン とハ デ ィ ー ス を 尊 重 す る点 で 、 ス ンナ 派 の ウ ラ マ ー や 政
治 権 力 と 結 び 付 き 易 か っ た 。 し か し一 方 で は 、 ア イ ダ ル ー ス の 祖 先 に 至 る 聖 家 族 の 意 識 が 強 く 、
ズ ィ ク ル 、 護 符 や 呪 文 、 占 い な ど を 用 い る点 で 神 秘 主 義 の 一 潮 流 で あ る と言 え る。 この タ リー
カ は 、 イ ン ドの グ ジ ャ ラ ー ト地 方 の ア フ マ ダ ー バ ー ド、 ゴ ル コ ン ダ 、 グ ル バ ル ジ ャ や 東 南 ア ジ
ア の 諸 都 市 へ 強 い 影 響 を 及 ぼ した こ と で 注 目 さ れ る 。 そ し て 、 こ の ア イ ダ ル ー ス ィ ー ヤ の ス ー
フ ィ ー ・ タ リ ー カ が ハ ド ラ ミー た ち の 商 売 と 移 動 ・移 住 の 経 路 を 大 き く 決 定 し た 。
● 教 育 制 度 と 学 問 の 旅 、 情 報 交 流:彼
ら は 、 正 統 イ ス ラ ム 諸 学(コ
ー ラ ン学 、 ハ デ ィ ー ス 学 、
タ フ ス ィ ー ル 学 、 法 学 、 ア ラ ビ ア 語 学 、 詩 文)と 実 学 教 育(計 算 学 、 星 占 学 、 医 学 、 土 木 技 術)
を重 視 した 。 従 って 、 移 住 先 に お い て 彼 ら は主 に書 記 、 侍 医 、 軍 人 、 占 い 師 、 技 師 、 通 信 士 、
高 級 船 員 、 教 師 、 仲 介 斡 旋 業 、 銀 行 、 ホ テ ル 、 運 輸 、 出版 業 な ど に活 躍 した 。 彼 らの 間 で は、
29
高 級 ウ ラ マ ー教 育 の た め の 学 術 サ ー ク ル が 発 達 し、 ウ ラ マ ー た ち は イ エ メ ン、 メ ッカ 、 東 ア フ
リカ 、 イ ン ドな ど の イ ン ド洋 海 域 世 界 を広 く遍 歴 す る こ とで 、 学 問 を 修 得 し、 ま た 彼 らの 主 張
や情 報 を 広 め る 上 で 大 き な 役 割 を果 た した 。 彼 らが 活 発 な 出版 活 動 を 展 開 した こ と も注 目 され
る。 と くに シ ンガ ポ ー ル に お け る イ ス ラ ー ム法 学 書 の 出版 が 代 表 例 で あ り、 そ の 出 版 物 は イ ン
ド洋 海 域 世 界 で 広 く使 わ れ た 。
● ハ ドラ ミー の 移 動 時 期 と経 路:ハ
ドラ ミー た ち の 移 動 は、15世 紀 半 ば に始 ま り、 特 に17・
18世 紀 に 目覚 ま しい 拡 大 を した 。 彼 らが イ ン ド洋 海 域 に進 出す る よ うに な った 発 端 は 、 イ エ メ
ン ・ラ ス ー ル朝 勢 力 の 崩 壊 とオ ス マ ン ・ トル コの 中 東 拡 大 に よ る イ ス ラ ー ム 世 界 の ネ ッ トワ ー
ク 構 造 の 変 化 と 関 連 して い る 。 彼 ら は、 最 初 は 東 ア フ リカ の ス ワ ヒ リ都 市 、 イ ン ド亜 大 陸 の
ヴ ィ ジ ャ ヤ ー ナ ガ ル 王 国 との 境 域 地 帯 、 特 に ゴ ル コ ン ダ 、 ビ ー ジ ャ ー プ ー ル 王 国 に進 出 し、17
世 紀 半 ば以 後 に は東 南 ア ジ ア に 進 出 した。 バ ン ダ ・ア チ ェ は、 東 南 ア ジ ア にお け る イ ス ラ ー ム
化 運 動 の 基 地 で あ り、 彼 らの ジ ャ ワ 世 界 へ の 拡 大 の 窓 口 と な った 。
● 多 様 な ネ ッ トワ ー ク と の 競 合 に よ る膨 脹 の ダ イ ナ ミズ ム:16∼18世
紀 と 言 う 時 代 は、 西
ヨ ー ロ ッ パ 勢 力 の イ ン ド洋 海 域 世 界 へ の 拡 大 の 時 期 で あ り 、 同 時 に イ ラ ン ・イ ラ ク 、 ペ ル シ ャ
湾 経 由 、 ま た グ ジ ャ ラ ー ト経 由 に よ る ス ー フ ィ ー ・ タ リ ー カ の 活 動(カ
ー デ ィ リー ヤ 、 チ ェ
シ ュ テ ィ ー ヤ 、 ナ ク シ ュ バ ン デ ィ ー ヤ な ど)の 多 様 な タ リ ー カ ・ネ ッ ト ワ ー ク の 拡 大 時 期 で も
あ っ た 。 さ ら に は ア ル メ ニ ア 系 商 人 、 ユ ダ ヤ 系 商 人 や イ ン ドの チ ェ テ ア ー ル(Chettiar)商
人 な
ど の 専 門 化 した 商 業 ・運 輸 集 団 が イ ン ド洋 の 海 運 ネ ッ トワ ー ク を 利 用 し て 活 躍 し た 。 東 で は 、
華 僑 系 ネ ッ ト ワ ー ク が 拡 大 して い っ た 時 期 で も あ る 。 こ の 時 期 の イ ン ド洋 海 域 世 界 は 、 多 様 な
ネ ッ トワ ー ク の 競 合 に よ る 膨 脹 の ダ イ ナ ミ ズ ム を 持 っ た 時 期 で あ っ た と捉 え られ る 。 こ の 点 で 、
A.リ
ー ドや エ.ウ オ ー ラ ー ス テ イ ン の 見 解 は 、 再 検 討 さ れ な け れ ば な らな い と 、 私 は 考 え て い る 。
以 上 を ま と め る な ら ば 、 ① 集 団 の 同 種 ・同 族 性(homogeneity)と
ミ ー ・ネ ッ ト ワ ー ク は 、 宗 教 ・教 団 ・出 身 地(同
い う 意 味 で は 、 ハ ドラ
郷)、 兄 弟 血 縁 関 係 に よ り 堅 く 結 ば れ て い た 、
② 専 門 化 し た 学 問 ・技 術 ・情 報 、 ③ イ ン ド洋 の 交 易 ネ ッ トワ ー ク の 活 用(モ
ン ス ー ン航 海 に よ
る 定 期 海 運 、 広 域 市 場 体 系 、 流 通 シ ス テ ム 、 国 際 交 易 と 地 域 交 易 の 関 わ り)、 ④ ヨ ー ロ ッ パ 世
界 シ ス テ ム の 拡 大 と 伝 統 的 イ ン ド洋 ネ ッ トワ ー ク と い う イ ン ド洋 海 域 世 界 の こ二重 構 造 が 形 成 さ
れ る な か で 、彼 らは そ の 狭 間 に巧 み に生 き続 け た 、 ⑤ 正 統 イ ス ラ ー ム を 表 看 板 と した こ と、 と
く に コ ー ラ ン 、 ハ デ ィ ー ス 、 伝 統 イ ス ラ ー ム 学 を 尊 重 す る 、 縦 型 イ ス ラ ー ム ・ネ ッ ト ワ ー ク に
よ り 、 多 様 な イ ス ラ ム 世 界(地 域 イ ス ラ ム)が 形 成 さ れ て い く な か で 、 イ ン ド洋 海 域 世 界 の イ
ス ラ ー ム 系 国 家 及 び 都 市 ウ ラ マ ー た ち(学 者 ・教 養 人 た ち)に 積 極 的 に 受 け 容 れ ら れ 、19世
25
紀
以 後 に は ヨー ロ ッパ 勢 力 に 対 抗 す る一 っ の 精 神 的 支 え と もな っ た こ と、 な どの 諸 事 実 が 指 摘 さ
れ よ う。
お わ りに
以 上 、 私 は今 まで の 議 論 に よ って 、 岩 石 結 晶 の よ うな 化 石 化 した 「地 域 」 を 見 るの で は な く、
伸 び縮 み す る地 域 、 重 層 ・複 合 の 地 域 、 人 の 移 動 、 社 会 ・文 化 現 象 の な か に トレー ス され る地
域 、 歴 史 の な か に ダ イ ナ ミ ッ ク に 揺 れ 動 く地 域 、 未 来 型 地 域 と して の ネ ッ トワ ー ク の ノ ー ド
等 々 の 、 ソ フ トな 地 域 像 を 考 え な け れ ば な らな い の で はな い か 、 と い う提 案 を 試 み た。 この 点
で 、 今 回 の 「中 東 と 東 南 ア ジ ア の 地 域 間 研 究 」 の 会 を 機 会 に 、 皆 様 の 間 で 議 論 を 深 め て い た だ
き た い と望 ん で い る 。
コ メ ン ト1
応
地
利
明
家 島 さ ん が レジ ュ メ の 一 枚 目で 、 「器 が 先 か 、 中 身 が 先 か 」 、 あ る い は 「地 域 が 先 か 、 人 が
先 か 」 と い う問 題 の た て 方 を して お られ る。 こ こ か ら私 が 連 想 した の は 、20世 紀 の は じめ に
あ った 、 社 会 学 者 デ ュ ル ケ イ ム とr人 文 地 理 学 原 理 』 の著 者 で あ る ポ ー ル ・ヴ ィ ダ ル ・ ド ゥ ・
ラ ・ブ ラ ー シ ュ と の 議 論 で あ る。 ヴ ィ ダ ル は 、 地 域 一
彼 の 言 葉 で は 「場 所 」
の もっ 規 定
性 を 主 張 して い る 。 そ れ に対 して 、 デ ュル ケ イ ム の ほ うは 、 い わ ば 組 織 を 中 心 に して 議 論 を 進
め よ う と した 。 こ の 議 論 は 結 果 的 に は、 お 互 い が 言 い 放 し と い う感 じで 、 い わ ば 引 き 分 け で
あ っ た。 こ の 問 題 に 対 し家 島 さん は 、 論 理 的 に 、 か っ 歴 史 的 事 実 に 基 づ き、 一 っ の 明 確 な 立 場
を 示 した 。
今 日 の 話 で は 、 い くつ か の 問 題 が 提 起 さ れ て い る と思 う。 家 島 さ ん の 著 書 にr海
が 創 る文
明 』 と い う の が あ るが 、 今 日 の 発 表 は、 む し ろ 「都 市 が 創 る 文 明 」 が 主 題 で あ った だ ろ う。
我 々 は 、 南 ア ジ ア 、 東 南 ア ジ ア 、 日本 な ど い ず れ の 事 例 に お い て も、 村 か ら都 市 へ と い う ひ と
≧)の発 展 図 式 を 想 定 して 考 え る。 この 考 え 方 を くっ が え して 、 は じめ に 都 市 あ り き と した 。 家
島 さん が 言 う原 都 市 、 あ る い は メ タ都 市 と もい え るだ ろ うが 、 それ は そ の 場 所 に存 在 し う るべ
く して 存 在 して い る と 主 張 した 。 そ の 基 盤 と して ネ ッ トワ ー クが あ る と い う こ と に な ろ う。 こ
26
の こ と は 、 午 前 中 に 古 川 さ ん が 言 って い た 中 東 は人 工 空 間 と して の 都 市 で 形 成 され て い る と い
う、 中 東 の 歴 史 的 な 展 開 過 程 そ の もの を 示 して い る の で は な い か と思 う。
さ て 、 こ こか ら一 っ の 問 題 と して 、 イ ス ラ ー ム と プ レ イ ス ラ ー ム との 間 の 関 係 を ど う考 え る
か と い う こ とが 出 て くる 。 人 類 史 に お け る 都 市 文 明 発 生 地 で あ る中 東 に は 都 市 が 創 る文 明 と い
う伝 統 が あ り、 そ の 伝 統 の うえ に都 市 が 出 来 あ が って い る とす る な らば 、 この 伝 統 と イ ス ラ ー
ム の 都 市 像 と の 関 係 につ い て も う少 し詳 し くお 聞 き し た い 。
次 に 「地 域 」 につ いて で あ るが 、 先 に も言 った が 、 家 島 さん は、 器 が 先 か 中 身 が 先 か と い う
こ とで は す で に 明 確 な 答 え を 出 して い る 。 す な わ ち 、 都 市 間 ネ ッ トワー ク が 先 行 して 存 在 し、
そ の 中 に 地 域 が 作 られ る 。 だ か らネ ッ トワ ー ク そ の もの が 一 っ の 機 能 的 な ノ ー ドと して あ り、
そ れ が 結 ば れ て い くの で あ る。 グ ラ フ理 論 で 例 え て い うな らば 、 ノ ー ドか らパ スが 伸 び て い き、
そ の パ ス の 末 端 に村 が あ る とい った 形 で 地 域 が 出来 て い くの で あ る 。 我 々 は これ を機 能 地 域 の
形 成 と 呼 ん で い る が 、 こ う した 機 能 地 域 の 形 成 と い う考 え 方 で 地 域 は理 解 で き る と い う こ と を
家 島 さ ん は 明確 に言 っ て い る。
そ うす る と、 器 、 あ る い は 古 川 さん の 話 に 出 た よ う な 、 生 態 的 ニ ッチ ェ と い う言 葉 で 表 わ さ
れ る生 態 環 境 的 な 、 ま た は 空 間 的 な ま と ま り と い う も の が 、 い ま述 べ た よ うな 機 能 主 義 的 な考
え 方 の 申 で 、 ネ ッ トワ ー ク を 基 盤 と した 地 域 の 形 成 と どの よ う に 関 連 して い るの か 。 そ う い っ
た ニ ッチ ェ とい うよ うな もの が 、 地 域 形 成 の 外 枠 と して 、 前 提 的 な 与 件 と して あ る の だ 、 と私
は 考 え て い る の だ が 、 この 点 に つ い て も う少 し説 明 して い た だ き た い。
ネ ッ トワ ー ク、 あ る い は原 都 市 か ら都 市 が 形 成 され る 社 会 と い うの は極 め て 流 動 的 で あ る と
い う こ とを 指 摘 した い。 私 は 、30年 ぐ らい 前 に イ ラ ン や ア フ ガ ニ ス タ ンの 村 に 短 期 間 で あ るが
滞 在 した 。 そ の と き、 日本 の 村 と の 違 い を 強 烈 に 感 じた 。 そ れ は 、 人 の 流 動 性 が 非 常 に 高 い と
い う こ とで あ る。 例 え ば 、 日本 の 村 の 場 合 に は 、 家 号 が あ って 、 そ れ に よ っ て そ の 家 の 系 譜 が
分 か る と い うよ うに 、 世 代 累 積 的 に 存 在 して い る 。 私 は 、 村 と い う もの は 、 この よ う に 世 代 継
承 性 を 持 ち な が ら、 機 能 的 に 累 積 して い く もの だ と考 え て い た 。 と こ ろ が 、 中 東 の 村 で 聞 いて
み る と 、 家 々 は ご く短 時 間 に 形 成 さ れ た と い う。 ま た 、 二 年 後 ぐ ら い後 に 再 訪 した 時 に は 、 二
年 前 に は居 た 誰 々 は も う い な い と い った こ とに な って い る。 非 常 に 流 動 性 が 高 い の で あ る。 こ
の 点 に っ い て 、 吉 田光 邦 さ ん が 初 期 の 『東 南 ア ジア 研 究 』 に 、 結 果 的 に み る と ス テ ッ プ 世 界 と
熱 帯 多 雨 林 世 界 と い うの は 非 常 に 似 て い る の で あ る、 と書 い て い る。 ジ ー プ に 乗 って 、 イ ラ ン
を 走 って い る時 と、 マ レー 半 島 あ た りの 降 雨 林 を 走 っ て い る時 と で 同 じ印 象 を 受 け た の だ と い
う。 窓 か ら見 え るの は 、 片 や 岩 山 だ け 、 片 や 緑 だ け で あ る が 、 ま ず 基 本 的 に 人 が い な い 。 そ し
27
て 、 水 が 無 い世 界 と水 が 多 い世 界 で あ る と。 お も し ろ い の は 、 そ の 様 子 を ス ポ ン ジに 例 え て い
る こ とで あ る。 砂 漠 は 、 カ ラ カ ラ に 乾 い た ス ポ ン ジで あ り、 東 南 ア ジ ア の ほ う は水 を た っぷ り
含 ん だ 状 態 の そ れ で あ る。 そ して 、 適 度 な 水 分 量 に しよ う とす る際 に 、 ど ち らが 困 難 で あ るか
と い う と 、 そ れ は 当 然 、 た っぷ り水 を 含 ん で い る ス ポ ン ジの ほ うで あ る。 指 で お して 水 を 出 し
て も、 す ぐに再 び吸 収 され る。 常 に 水 の 飽 和 状 態 な の で あ る。 一 方 、 カ ラ カ ラ の ス ポ ン ジの ほ
う に は 、 少 しず っ 水 を 加 え て い け ば 、 適 度 な 水 分 量 に な る 。 こ う い った こ と を 書 い て い る 。
私 の イ ラ ンや ア フ ガ ニ ス タ ンで の 経 験 で も、 水 は 、 大 量 で な けれ ば 意 外 に容 易 に ひ く こ とが
出来 るの だ と 思 っ た 。 先 の 話 に 戻 る と、 村 の 人 口 の 流 動 性 が 高 い と い う こ と は 、 ど こか に 新 し
い村 が 拓 か れ て い る と い う こ とで あ る。 結 局 、 小 作 契 約 の 条 件 を 天 秤 に か けて 、 簡 単 に移 動 し
て い く社 会 な の で あ ろ う。 い ま 言 った よ う な適 度 な 水 量 の あ る 場 所 を っ く り あ げ て 、 そ こに 農
耕 地 を 拓 い て い くの で あ る。 そ う した こ と は、 我 々 湿 潤 地 帯 に 住 む 人 間 が 考 え る よ り も容 易 な
ので は ない だろ うか。
こ こで 生 態 的 ニ ッチ ェ とか 、 乾 燥 とか い っ た 条 件 を 考 え る こ とが 出 来 る 。 家 島 さ ん が 言 った
よ うな 、 ネ ッ トワ ー ク に お いて 常 に 現 わ れ る人 の フ ロ ー と い っ た も の を 生 み 出 す 余 地 と い う も
のが様 々な形で
様 々 な形 と い うの は 環 境 的 な 条 件 も含 む の で あ る が
存 在 して い る の で
はないだ ろ うか。
最 後 に、 話 に 出 た 海 域 世 界 に っ い て 質 問 した い 。 イ ス ラ ー ム以 前 か ら イ ン ド洋 の 海 域 世 界 と
い うの は あ っ た 。 例 え ばrエ
リ ュ トゥ ラ ー 海 案 内 記 』 だ と か 、 タ ミル の 古 代 叙 事 詩 な ど に そ れ
は表 わ され て い る。 イ ン ド洋 で 結 ば れ た 海 域 世 界 と い うの は 、 古 い 時 期 か らあ って 、 バ ス コ ・
ダ ・ガ マ が そ れ を 使 って イ ン ドに来 た よ う に、 イ ス ラ ー ム もそ れ に 乗 っか った の だ と言 え る 。
そ うす る と 、 海 域 世 界 に お け る ネ ッ トワ ー クの 形 成 の され 方 が 、 イ ス ラ ー ム の 登 場 に よ って ど
こが 、 どの よ うに 変 化 した の か 。 す な わ ち 、 海 域 世 界 と い うの は 本 質 的 に ネ ッ トワ ー ク型 の社
会 で あ つて 、 そ れ に イ ス ラ ー ム の 持 っ ネ ッ トワ ー ク社 会 的 特 徴 が 相 乗 的 に か さ な って 、 大 き な
イ ス ラ ー ム 社 会 と して の 海 域 世 界 が 出 来 上 が っ た と い う こ と は理 解 で き る が 、 そ こで の 二 っ の
世 界 、 イ ス ラ ー ム と海 域 世 界 と の 関 係 に つ い て 聞 き た い 。 具 体 的 に 言 え ば 、 何 が イ ス ラ ー ム の
出 現 に よ っ て 変 わ り 、 あ る い は ま た 増 幅 さ れ た の か と い う こ とで あ る。 そ う した話 か ら、 イ ス
ラ ー ム 社 会 、 ま た は文 明 が 創 る世 界 と して の 中 東 と い う地 域 が 浮 か び上 が って く るの で は な い
か と思 う。
28
コ メ ン トH
高
橋
美
紀
華 人 の ネ ッ トワ ー クの 視 点 か ら、 家 島 先 生 の ご発 表 と の 関 連 で お 話 申 しあ げ た い。 東 南 ア ジ
ア の 華 僑 ・華 人 ネ ッ トワ ー ク は 、 国 境 を越 え た 華 僑 ・華 人 の 動 きで あ り、 これ か ら もそ う した
動 き は 続 い て い くで あ ろ う と考 え られ る。
華 僑 ・華 人 の 場 合 は 、 宗 教 が 一 っ の つ な が りに な って 動 いて い るわ け で は な い 。 ま た 、 国 境
を 越 え た 動 き を もつ 一 方 で 、 そ れ ぞ れ の 居 留 国 に チ ャ イ ナ タ ウ ン と い う 非 常 に 特 殊 な 世 界 を
作 って い る 。 家 島 先 生 は 、 イ ス ラ ー ム にっ いて 「開 か れ た 世 界 」 とお っ し ゃ られ た が 、 そ れ に
比 べ る と 、 華 僑 ・華 人 は 、 各 居 留 国 の 中で 非 常 に 「閉 じ られ た 世 界 」 を 形 成 しな が ら、 他 方 、
シ ンガ ポ ー ル の よ うに 、 自分 達 の 国 家 を 作 り上 げ た り、 東 南 ア ジア や 北 米 等 の 地 域 間 で は 、 経
済 ネ ッ トワ ー クを 通 して 国 境 を 越 え た 独 自 の つ な が り を も って い る。
ま ず 最 初 に、 東 南 ア ジ ア に お け る 華 僑 ・華 人 に っ い て 概 要 を お 話 し、 次 い で か れ らの 経 済
ネ ッ トワ ー ク に っ い て 述 べ る。 そ して 、 そ の 経 済 ネ ッ トワ ー クを 支 え る 「文 化 の ネ ッ トワー
ク」 の 一 例 と して 、 華 僑 ・華 人 が 共 通 に も つ 華 語(マ ン ダ リ ン)の ネ ッ ト ワ ー クが 今 日広 が っ
て い る と い う こ と につ い て お 話 した い 。
東 南 ア ジア へ の 中 国 人 の 移 住 が 本 格 化 した の は 、18世 紀 後 半 の こ と で あ る。 そ れ は イ ギ リス
が 植 民 地 支 配 を 進 め て い く中 で 、 そ の 労 働 力 、 クー リー と して 流 出 した こ とが き っか け と され
る 。 こ の 頃 の 中 国 人 労 働 者 の 移 動 は 、 猪 子(チ ョ シ)貿 易 と 呼 ば れ 、 中 国 人 は 、 生 き地 獄 の よ
う な状 態 で 、 豚 の 子 の よ う に船 で 運 ば れ た 。19世 紀 中 期 か ら は 、 そ れ が 世 界 に拡 大 した 。 こ う
して 世 界 各 地 域 に 流 出 した 中 国 人 の 人 口 は、19世 紀 後 半 で300万 入 ほ ど で あ っ た の が 、20世 紀
の 初 め に は 倍 以 上 の760万 人 に膨 れ あ が り、1931年 の 統 計 に よ れ ば、1,283万 と い う記 録 が 残 さ
れ て い る。
こ う した 在 外 中 国 人 が 自 ら を 華 僑 と 称 し、 他 の 人 々 か ら もそ う呼 ば れ る よ う に な っ た の は 、
19世 紀 末 か ら20世 紀 の 頃 と 言 わ れ て い る。 日本 で は 華 僑 と い う呼 び 名 が 最 も馴 染 み 深 い が 、 こ
こで は 中 華 民 族 の 特 徴 を 持 つ 人 々 で 、 中 国 籍 の ま ま他 の 国 に 居 住 して い る人 を 「華 僑 」 、 居 住
す る他 の 国 の 国 籍 を 取 得 して い る 人 を 「華 人 」 と 呼 ぶ こ と に す る 。 そ の 他 、 国 籍 を 問 わ ず に 中
華 民 族 の 特 徴 を 持 って い る 人 々 を 総 称 す る 「華 族 」 と い う語 も あ る が 、 これ は あ ま り使 わ れ な
い 。 ま た 、 中 華 民 族 の 特 徴 を 持 って い な が ら、5世
代 以 上 の 世 代 を 重 ね て お り、 中 国 との 結 び
っ き が な くな っ て し ま っ て い る 人 々 を指 して 「華 喬 」 と 呼 ぶ 場 合 もあ るが 、 これ も使 う人 に
29
よ って 定 義 は様 々 で あ る 。
華 僑 ・華 人 お よ び香 港 、 マ カ オ 、 台 湾 の 中 国 系 の人 々 、 そ して 中国 に 住 む 中 華 民 族 す べ て を
合 わ せ る と、12億6∼8千
万 人 に な る と言 わ れ て い る。 この うち 華 僑 ・華 人 の 人 口 は 、 中 国 側
の 発 表 に よ る と、2,726万 と な っ て い る。 し か し、 統 計 の と り か た は様 々 で 、 最 も多 い 例 で は
5千 万 と い う統 計 もあ る 。 そ して こ う した 華 僑 ・華 人 の86%が
東 南 ア ジ ア に集 中 して い る 。
華 僑 ・華 人 社 会 の 特 徴 の ひ とつ は 人 的 な 結 び 付 きに あ る。 よ く知 られ て い るの は 、 血 縁 、 地
縁 、 業 縁 で あ る。 血 縁 と は 、 同 族 、 っ ま り同 じ姓 を 持 っ 人 々 の っ な が りで 、 地 縁 は 同 じ言 葉 、
方 言 を 話 す 人 々 の っ な が り、 業 縁 は 、 同 じ業 種 に 就 い て い る人 々 の つ な が りで あ る。 そ の 他 に、
祖 先 崇 拝 に 基 づ くっ な が りや 、 風 俗 ・習 慣 を 共 に す る こ とで 形 成 され る っ な が り な ど もあ る。
華 僑 ・華 人 を 特 徴 付 け る も う一 っ の 側 面 は 、 中 国 、 台 湾 と の 関 係 で あ る。 在 外 中 国 人 は 、 中
国 、 台 湾 と政 治 的 に 微 妙 な 関 係 に あ り、 僑 民 と して 対 外 政 策 の 対 象 に な って い る。 特 に今 日で
は 、 両 国 ・地 域 と も に在 外 華 僑 ・華 人 の 経 済 力 を 非 常 に重 視 して お り、 彼 ら との っ な が りを 求
め て い る。 中 国 も台 湾 も二 重 国 籍 の 廃 止 を 掲 げ て お り、 在 外 華 僑 ・華 人 は 居 住 国 の 発 展 に 貢 献
せ よ と主 張 す る 一 方 で 、 僑 務 弁 公 室 な どの 政 府 機 関 を 設 け 、 僑 民 対 策 に熱 心 に 取 り組 ん で い る
のが実 情 であ る。
次 に 、 華 僑 ・華 人 の 経 済 ネ ッ トワ ー ク に っ い て 述 べ る。 最 近 で は華 僑 ・華 人 社 会 の 経 済 活 動
が 注 目を 集 め て い る 。 中 国 人 の 家 族 経 営 の 例 に み られ る よ う に 、 組 織 よ り も個 人 の能 力 と 才 覚
を 重 視 す る ネ ッ トワ ー ク を 持 って い る 、 と い う こ と が 華 僑 ・華 人 の 経 済 ネ ッ トワ ー クの 特 徴 と
して よ く指 摘 され る が 、 そ こ で は 個 人 が 絶 対 的 な 権 力 を も って い る。 た だ 、 こ う した 経 営 方 針
に は 問 題 点 も あ り、 例 え ば 、 最 初 の 経 営 者 が ネ ッ トワ ー クの 中 心 で あ る時 は良 い の だ が 、 そ の
人 が 代 譲 り をす る際 に 後 継 者 問 題 が 生 じる と い う例 も あ る 。
華 僑 ・華 人 社 会 の ビ ジネ ス の も う一 つ の 特 徴 と して 、 リ ス ク回 避 を 挙 げ る こ とが で き る 。 こ
れ は 、 ネ ッ トワー ク の 形 成 に大 き く関 係 して い る。 東 南 ア ジ ア で は 、 華 僑 ・華 人 の経 営 者 が 居
住 国 の 政 治 権 力 者 と密 接 に 結 び 付 き な が ら事 業 を 展 開 して い る と い わ れ 、 例 え ば イ ン ドネ シ ア
の 華 僑 ・華 人 が 、 ス ハ ル ト大 統 領 と結 び付 いて 作 り上 げ た サ リム ・グ ル ー プ は 有 名 な 例 で あ る。
華 僑 ・華 人 は 、 表 面 的 に は 自分 達 の ビ ジ ネ ス は 政 治 と は一 切 無 縁 で あ る と主 張 して お り、 そ れ
ゆ え 、 か れ らが 行 な う 中 国 へ の 経 済 投 資 を 中 国 政 府 も受 け 入 れ て い るの で あ る が 、 実 は そ の 裏
に は非 常 に した た か な 手 腕 が あ っ て 、 巧 み に政 治 的 リス ク を 回 避 して い る。 そ して 、 そ の た め
の 一 つ の 方 策 と して 、 ネ ッ トワー クを 形 成 して い る と い う側 面 が 強 い と思 わ れ る。
こ う した ネ ッ トワ ー クの 例 と して 、 樋 泉 克 夫 先 生 が 調 査 され た バ ン コ ク銀 行 の 創 設 者 で あ る
30
故 チ ン ・ソ ポ ンパ ー ニ ッ ト(陳 弼 臣)が 築 い た ネ ッ トワ ー ク の 例 が あ る(資 料1参
照)。
それを
見 る と 、 彼 が い か に 自 分 の 親 族 関 係 と事 業 協 力 関 係 を 通 じて 、 フ ィ リ ピ ン、 イ ン ドネ シ ア 、 マ
レー シア な ど に ネ ッ トワ ー クを 広 げ て い っ た の か が わ か る 。 今 で は長 男 と 次 男 に 代 替 わ り して
い る が 、 そ の うち 次 男 はTuntexグ
ル ー プ 会 長 の 陳 由 豪 と い う台 湾i華僑 の 経 営 者 と事 業 協 力 を
して お り 、 そ の 陳 は 、 台 湾 プ ラ ス チ ッ ク の 王 永 慶 社 長 と結 び っ きを もち 、 そ こ か ら イ ン ドネ シ
ア の ス ドノ サ リム ・グ ル ー プ に つ な が って い く。 こ の よ うに 華 僑 ・華 人 は人 脈 を 通 じ、 微 妙 な
人 間 関 係 を保 ち な が ら事 業 を 展 開 して い る。 チ ン ・ソポ ンパ ー ユ ッ ト自身 も生 前 、 香 港 を 中 心
に して 東 南 ア ジ ア の 主 な 華 僑 有 力 者 を 集 め 、 政 治 討 議 を 含 め た 非 公 式 の 会 合 を 持 って い た とい
わ れ 、 同 会 合 を 通 じて 、 ス ドノ サ リム ・グ ル ー プ を は じめ 、 フ ィ リ ピ ン、 香 港 、 マ レー シ ア の
華 僑 有 力 者 、 事 業 家 と も繋 が り が あ った と い わ れ る。 さ らに 業 縁 の 他 、 チ ン ・ソポ ンパ ー ニ ッ
下 は潮 州 系 で あ る こ とか ら、 そ の 地 縁 、 血 縁 の っ な が り を利 用 して 香 港 の 中 国 系 財 界 人 、 政 界
人 の な か に入 り込 ん だ と い わ れ て い る 。
資 料1タ
ま た世 界 華 商 大 会 も華 僑 ・華 人 の ネ ッ ト
イの ソポ ンパー ニ ッ ト=陳 一族を例 とす る華僑 ・華人人脈
ワー クめ一例 で ある。 そ こには、 国境 を越
え た 中 国 系 の 人 々 の 経 済 活 動 の 動 きが 示 さ
れ て いる。世界 華 商大会 の第一 回会 合 は、
1991年 に シ ン ガ ポ ー ル で 開 催 さ れ 、 第 二 回
は1993年 に 香 港 で 開 催 さ れ た 。 この 大 会 の
主 な 関 係 者 を み る と 、 東 南 ア ジア の み な ら
ず 北 米 等 も含 め た 、 ま さ に 世 界 の 華 僑 ・華
人 が 集 って ネ ッ トワ ー ク を 形 成 して い る状
況 を うか が う こ とが で き る。 この 世 界 華 商
大 会 は、 も と も と シ ンガ ポ ー ル の リー ・ク
ワ ンユ ー の 呼 び 掛 け で 始 め られ た 。 リ ー に
よれ ば 、 そ の 目 的 の 一 つ は 、 全 世 界 の 華 人
が 総 力 を 結 集 して 中 国 の 経 済 建 設 に 協 力 す
る こ とで あ る とい う。 た だ そ こで も、 リス
ク 回 避 の 原 則 は 忘 れ られ て お らず 、 中 国 と
の 過 度 の 接 近 は 、 居 留 国 に お け る反 共 主 義
(出 典)樋 泉 克 夫r華 僑 の 挑 戦 一 金 と 血 の 団 結 が 世 界 を 制 す 一」
ジ ャ パ ン タ イ ム ズ,1994年12月,189頁
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を 呼 び 起 こす こ と に な る た め 、 そ れ は避 け
ね ば な らな い と され て い る。 現 在 は 、 シ ン ガ ポ ー ル の 呼 び 掛 け で 、 特 に ビ ジ ネ ス 分 野 で の 情 報
交 流 を 目 的 と した コ ン ピ ュ ー タ ー ネ ッ ト計 画 が 進 め られ て い る とい わ れ る。 こ れ は、 華 僑 ・華
人 の 経 済 人 を 、 地 域 に 関 わ りな くイ ンプ ッ ト して 、 い つ で も情 報 を 得 られ る よ うに す るた め の
計 画 で あ り、 情 報 が ネ ッ トワ ー クを 作 って い く一 つ の例 で あ る。
そ こで 、 この よ う な経 済 ネ ッ トワ ー クを 支 え て い る 華 語 文 化 ネ ッ トワー クの 話 に 移 りた い 。
華 語 と は 、 華 僑 ・華 人 の 間 で は マ ン ダ リ ン、 大 陸 で は 「普 通 話 」 、 台 湾 で は 「国 語 」 と呼 ば れ
て い る言 語 で あ り、 ネ ッ トワー クを 支 え る情 報 伝 達 の媒 体 と考 え られ る。 た と え ば 、80年 代 末
か ら90年 代 に か け て 、 華 僑 ・華 人 向 け の 雑 誌r亜
州 週 刊 』 が 香 港 で 発 行 さ れ た り、 東 南 ア ジア
全 域 に 向 け て 華 語 で の 衛 星 放 送 が 流 され る よ う に な っ た の も、 華 僑 ・華 人 の 国 境 を 越 え た 動 き
の あ ら わ れ とい え る。
資料2マ
レー シア の華人 学生 の主 な留学 先(私 立華 語 中等 学校卒 業生 の場 合)
(出 典)Higher
Education
Advisory
`The Malaysian
Independent
Certificate',United
Chinese
Board, Merdeka
University
Berhad
Chirese
Secondary
Schools System
School
Committees'Association
ed.,
and Unified
of Malaysia,
Examination
n. d. , P.12
先 に家 島 先 生 が ハ ドラ ミー ネ ッ トワ ー ク に っ い て 述 べ られ た 際 に 、 ど う して 人 々 が 移 動 す る
よ う に な っ た の か と い う理 由 と して 、 地 理 的 に 辺 境 で あ る こ とや 、 そ の 他 の 様 々 な 要 因 ゆ え に 、
人 々 は外 に 出 て い か ざ る を え な か った 、 と い う こ と を お っ し ゃ られ た 。 華 僑 ・華 人 の 場 合 も同
じで あ り、 初 期 に か れ らが 国 を 出 て い った の は 、 食 べ る物 もな い よ う な 貧 しい 状 況 に お か れ て
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い た こ と が 挙 げ られ る。 今 日の 東 南 ア ジア な ど の 華 僑 ・華 人 の 場 合 は 、 必 ず し も そ う した 状 況
に あ る わ け で は な く、 居 留 国 に お け る政 治 ・経 済 的 な 状 況 の ゆ え に 、 国 境 を 越 え た ネ ッ トワ ー
ク を 自 ら広 げ よ う と して い る。
そ の 一 つ の 例 と して 、教 育 を 通 した ネ ッ トワ ー ク が あ る。 家 島 先 生 も、ハ ドラ ミー ネ ッ ト
ワ ー ク に お いて 教 育 が 非 常 に重 視 さ れ て い る と い う こ と を お っ し ゃ られ た。東 南 ア ジ ア の 華 僑 ・
華 人 に っ い て も同 様 の 傾 向 が 指 摘 で き る。 国 ご と に 事 情 は 異 な るが 、 こ こで は マ レー シ ア を 例
に と って 、 華 人 の 留 学 に つ い て 話 した い。 マ レ ー 系 の 優 先 政 策 で あ る ブ ミプ トラ政 策 が 開 始 さ
れ る と、 ブ ミプ トラ で あ る マ レー 系 や 東 マ レー シ ア の 先 住 民 族 の 学 生 に高 等 教 育 を 受 け る機 会
が 積 極 的 に 与 え られ る よ う に な っ た 。 そ う した 状 況 が 、70年 代 か ら現 在 ま で 続 いて い る。 そ の
た め 、 そ れ 以 前 は、 華 僑 ・華 人 は高 等 教 育 就 学 者 の 中 で 大 き な 位 置 を 占 め て い た の が 、 この20
年 余 り の 間 に様 変 わ り して し ま っ た 。
華 僑 ・華 人 は 教 育 を 非 常 に重 視 す る と い わ れ るが 、 マ レー シ アの 場 合 、 進 学 先 を 失 っ た か れ
らは 、 海 外 に 向 けて 人 材 を 送 り 出す よ うに な っ た。 マ レー シ ア の 華 僑 ・華 人 は 、 現 在 、 自分 達
独 自で 運 営 す る私 立 の 華 語 中 等 教 育 機 関 「華 文 独 立 中 学 」 を有 して い る。 こ の 「独 中 」 の 卒 業
生 の 進 学 先 と して 、 「独 立 大 学 」 と い う大 学 の 設 立 を 計 画 して い た が 、 政 府 の 反 対 か ら実 現 に
は至 ら な か っ た 。 ま た か つ て シ ン ガ ポ ー ル に は 「南 洋 大 学 」 と い う華 僑 ・華 人 が 自 ら設 立 した
大 学 が あ っ たが 、 同 大 学 は シ ン ガ ポ ー ル政 府 の 政 策 に よ って 、 国 立 シ ンガ ポ ー ル 大 学 に統 合 さ
れ 、閉 校 に な った 。 そ の た め マ レー シ ア で は 、華 僑 ・華 人 の 教 育 機 会 が 大 幅 に 制 限 さ れ 、華 僑 ・
華 人 の 留 学 志 向 に弾 み が つ い た 。 こ う して 教 育 ネ ッ トワ ー クが 、 徐 々 に張 り め ぐ らさ れ っ つ あ
る とい うの が 現 在 の 状 況 で あ る と考 え られ る(資 料2参
照)。
華 僑 ・華 入 学 生 の 進 学 先 に つ い て み る と、 彼 等 は 、 ア メ リカ 、 イ ギ リス な ど の 英 語 圏 の 国 を
中 心 に 様 々 な 国 に 留 学 して い る 。 そ の 数 は マ レー シ ア か らの 全 留 学 生 数 の6割
近 くに もな る。
そ う した状 況 は 、 頭 脳 流 出 と い っ た こ と に もつ な が り、 今 日大 き な 問 題 に な りっ っ あ るが 、 一
方 で は留 学 と、 そ の 際 の 文 化 交 流 を 通 して 、 華 僑 ・華 人 の ネ ッ トワ ー クが 広 が って い る の で は
な い か と も思 わ れ る 。 そ して こ う して 作 られ る 文 化 ネ ッ トワ ー クが 、 華 僑 ・華 人 の 経 済 ネ ッ ト
ワ ー クを 支 え て い る こ と が 考 え られ る。
以 上 述 べ た よ う に 、 華 僑 ・華 人 ネ ッ トワ ー ク は今 日様 々 な 広 が りを み せ て い る。 こ う した 動
きの 背 景 に は、 中 国 が70年 代 後 半 以 降 、 改 革 開 放 政 策 を 進 め る よ う に な っ た こ とに 応 じて 、 華
僑 ・華 人 社 会 が 人 的 交 流 を 拡 大 さ せ た こ と も指 摘 で き る。 そ れ ら は 、従 来 か ら華 僑 ・華 人 が 大
き な 影 響 力 を 持 って い た 東 南 ア ジ ア の 国 々 の み な らず 、 香 港 、 台 湾 、 そ して 今 日注 目 され て い
33
る 、 イ ン ドシ ナ 半 島 、 ミ ャ ンマ ー な どで もみ る こ とが で き る。 こ う し た人 的 交 流 で は経 済 関 係
が 重 視 さ れ て い るが 、 先 に 触 れ た 華 語 と の 関 連 で い う と 、 近 年 顕 著 に な っ た動 き と して ビ ジ ネ
ス 用 語 と して の 華 語 見 直 しの動 き も活 発 化 して い る 。 イ ン ドネ シ ア や カ ン ボ ジア な どで も華 語
学 校 が 復 活 しつ つ あ る と聞 く。
最 後 に 、 こ う した 華 僑 ・華 人 の ネ ッ トワ ー クの 拡 大 を み る うえ で 、 今 後 注 目 す べ きで あ る と
思 わ れ る点 を2点 挙 げ た い 。 第1点
は 、 中 国 、 台 湾 、 東 南 ア ジア を 結 ぶ ネ ッ トワ ー ク拠 点 と し
て の 香 港 の 位 置 付 け で あ る。 香 港 は 、 経 済 人 が 対 中 国 投 資 を 積 極 的 に 行 な う場 と して 台 湾 や ア
セ ア ンか らの 対 中 国 投 資 の 窓 口 に もな って い る 。 逆 に 中 国 の 方 も、 香 港 を 一 つ の 足 場 と して 東
南 ア ジ ア等 の 華 僑 ・華 人 ネ ッ トワ ー ク と っ な が り を 持 と う と して い る 。 香 港 の 経 済 界 が 持 って
い る 人 脈 は 、 台 湾 、 東 南 ア ジ ア 、 中 国 は も と よ り、 欧 米 に まで 広 が って い る と 言 わ れ て い る。
こ う した 状 況 が97年 に 予 定 さ れ て い る イ ギ リス か ら中 国 へ の 返 還 以 降 、 ど の よ う に変 わ って い
くの か は興 味 深 い 点 で あ る。
ま た 第2点
め と して は 、 今 日再 び盛 ん に な りっ っ あ る と い わ れ る新 華 僑 の 流 出 が あ げ られ る。
新 華 僑 と い うの は 、 中 国 の 改 革 開 放 政 策 に よ って 引 き起 こ され た 人 口 移 動 に よ って 出 現 した 。
当 初 は 、 経 済 難 民 と か 、 偽 装 難 民 と か い った 用 語 で 呼 ば れ て い た の が 、 現 在 で は 新 華 僑 と い う
用 語 で 呼 ば れ る よ うに な って い る。 例 え ば 、1979年 か ら現 在 まで 、 ア メ リカ だ け で 、 そ う した
人 々が 約50万 人 流 入 し た と言 わ れ て い る。 他 に も、 日本 や オ ー ス トラ リア 、 さ ら に は ソ連 の 崩
壊 後 、 シベ リア 鉄 道 で モ ス ク ワ を 経 由 して ヨ ー ロ ッパ に も流 入 して い る。
以 上 、 国 民 国 家 の 枠 を 越 え て 広 が って い く華 僑 ・華 人 ネ ッ トワー ク に っ い て お 話 し申 しあ げ
た 。 華 僑 に っ い て は古 くか ら 「海 水 の 至 る 所 に 華 僑 あ り」 と言 わ れ る が 、 この こ と は 現 在 の 華
僑 ・i華人 に も あ て は ま る。 華 僑 ・華 人 は、 三 つ の 刀 、 す な わ ち床 屋 の ハ サ ミと 料 理 の 包 丁 、 仕
立 屋 の ハ サ ミの 三 っ が あ れ ば ど こで も生 き て い け る 、 た く ま しい 民 族 で あ る と い わ れ る。 しか
し、 一 方 で 、 行 っ た先 の 国 や 地 域 にす ぐ同 化 して しま うの か と い う と 、 必 ず し も そ うで は な い。
チ ャ イ ナ タ ウ ンの 例 に み られ る よ うに 、 移 り住 ん だ 先 の 国 で も 自分 達 の 文 化 を か た くな に 維 持
して い る。 そ の 意 味 で は 、 非 常 に 「閉 じ られ た 世 界 」 を 外 で 形 成 して い る の で あ る。 家 島 先 生
の お言 葉 を 借 りて い え ば 、 そ の 「閉 じ られ た 世 界 」 を 一 っ の ノ ー ドと して 、 他 の ノ ー ドと つ な
が る道 筋 を ネ ッ トワ ー クを 通 じて 作 って い る と 言 え るの で は な い だ ろ う か 。 今 日の 東 南 ア ジ ァ
の 華 僑 ・華 人 の 状 況 を み る と、 か っ て は 「落 葉 帰 根 」 と い わ れ 、 舞 い 落 ち た 葉 も いず れ は 中 国
の 故 郷 に帰 る と い わ れ て い た の が 、 今 で は 「落 地 生 根 」 で 、 落 ち た 場 所 に 根 を 生 や し、 そ の 場
所 で 強 く生 きて い くよ うに な って い る と い わ れ る。 マ レー シ ア の 例 で も、4世
34
、5世
に な る と、
自分 達 は 中 国 系 の マ レ ー シ ア 国 民 で あ る と主 張 して い る し、 多 くの 生 徒 が 国 語 で あ る マ レ ー語
を 主 要 教 授 用 語 とす る 国 民 学 校 で 教 育 を受 け て い る 関 係 で 、 マ レ ー語 や 英 語 は わ か って も華 語
は十 分 に は 判 らな い 華 人 学 生 も多 い 。 そ う した 中 で も 引 き続 き 、 他 民 族 と は 同 化 ・融 合 す る こ
と な く、 自分 達 の 伝 統 文 化 を 大 切 に し、 そ こで の 結 び つ きを ネ ッ トワ ー ク と して 生 か して い る
と考 え られ る。
質疑応答
ネ ッ トワー ク ・生 態 ・イ ン ド洋
を う ま く捉 え て イ ス ラ ー ム世 界 が 出来 上 が っ
鈴木
た 。 ま さ に、 原 都 市 的 機 能 が 最 大 限 に機 能 し
ま ず 家 島 さん の ほ うか ら、 応 地 さん と
高橋 さん の コ メ ン トに対 して 答 えて い た だ き、
て 、 そ の 都 市 ネ ッ トワ ー クの上 に イ ス ラー ム
それ を き っか け と して 討 論 に入 り た い。
が 乗 っか った と い う時 代 性 を考 え る必 要 が あ
家島
応 地 さん の 御 指 摘 は、 いず れ も非 常 に
ろ う。 メ ソ ドロ ジ カル に ノ ー ドを分 析 す るた
重 要 で あ り、 今後 の 私 の 研 究 課 題 で もあ る。
め に原 都 市 を 考 え た の で あ り、 そ の点 で は時
しか しイ ス ラー ム に な って 何 が ど う変 わ った
代 的 に中 東 都 市 は連 続 した もの と考 え て い る。
の か とい う問題 は 、 様 々な 意 味 を持 って い る
二 番 目の 問 題 の 前 に、 まず 三 番 目 の 問題 に
つ いて 述 べ る。 ネ ッ トワ ー クを考 え る際 に は 、
ので 、簡 単 に説 明 す る こ と は難 しい。
と りあ え ず 、応 地 さん が お っ し ゃ った三 点
双 方 向 性 、 拡 が り、 量 、 ヒエ ラ ル キ ー(質)
につ いて 、 私 の考 え を述 べ る。
な どが 重 要 な 要 素 で あ る こ と は、 既 に触 れ た。
まず 、私 は 出会 い の 場 と して の 交 点 、 ノ ー
そ うい うネ ッ トワー クの 要 素 を もと に 、 ネ ッ
ドの持 つ 原 理 と性 格 に つ いて 考 え て み た か っ
トワ ー クが 絡 ま って 濃 淡 を もつ 地 域 空 間 が形
たの で あ る。 この点 で 、 イ ス ラ ー ム以 前 と以
成 され る。 今 度 はそ の 空 間 につ いて 、 生 態 系
後 で は、 原 都 市 と して の都 市 機 能 は どの よ う
そ の 他 の 条 件 が ど うな って い るの か を分 析 す
に違 うの か とい うの が 、 最 初 の 質 問 の 主 旨で
る。 っ ま り、 器 を 先 にみ た て て そ こに人 間 を
あ ろ う。 私 は、 中東 とい うの は、 基 本 的 に イ
乗 せ るの か 、 あ る い は入 間 を先 に見 て、 そ こ
ス ラ ー ム以 前 と以 後 も同 様 に、 ネ ッ トワ ー ク
に トレー ス され た 空 間 の 在 り方 を 分 析 して い
社 会 で あ った とい う意 味 で 、 連 続 性 が あ る と
くの か とい う立 場 の 差 異 で あ って 、 私 は後 者
考 え て い る。5∼7世
紀 にお いて 、 中東 は地
の 立 場 を 取 りた い 。 確 か に生 態 的 な特 徴 が ど
中海 世 界 とイ ン ド洋 世 界 が 繋 が って その 中 間
の よ うに そ の 空 間 を 覆 って い るか を み る こと
に位 置 して お り、 交 流 上 の 接 点 と して 非 常 に
は重 要 で あ る。 海域 とい うの は、 そ うい う意
重 要 な意 味 を持 って い た 。 そ して 、 その 状 況
味 で 、共 通 の 一 っ の 関 連 性 の 中 で 現 われ る世
35
界 で あ る。 それ か ら、砂 漠 とス テ ップ とい う
と は 中東 と地 中海 世 界 に 跨 る共 通 性 の 世 界 で
共 通 の 自然 生 態 系 の 広 が る世 界が あ る 。 た と
あ る。 そ の世 界 が イ ス ラ ー ム の 時 代 に な って
え ば 、 ニ ジ ェー ル川 流 域 、 チ ャ ド湖 か ら東 に
か ら、 ダ ウ船 の技 術 的 発 達 が あ り、 交 易 ネ ッ
エ ジ プ ト、 ス ー ダ ン に か け て の、 い わ ゆ る
トワ ー クと そ の ノー ドの さ らな る拡 大 が 起 こ
ス ー ダ ン ・サ ーヘ ル ベ ル ト。 これ は サ ハ ラ 砂
る。 そ して 、7世 紀 末 か ら8世 紀 半 ば に は、
漠 と南 部 の 森 林 地 帯 との 間 に ス テ ップ が 東 西
ベ ンガ ル湾 か ら南 シナ 海 まで そ の ネ ッ トワ ー
に 拡 が って い る。 こ こに は や は り、共 通 の エ
ク は広 が って い く。 さ らに 、 ア ッバ ー ス 朝 時
コ ロ ジ ー を も った 世 界 と共 通 の 生 業 形 態 の
代 に、 内 陸 の イ ス ラ ー ム 都 市 、 っ ま り ノー ド
持 った 人 間 の 生 活 圏 と交 通 の ル ー トが 出来 上
が新 しい展 開 を遂 げ る。 そ れ 以 前 の 時 代 に は、
が る。 そ して 同 時 に縦 の 交通 ル ー トとの ノ ー
地 中海 世 界 との 関 わ りの 中 だ けで 存 在 して い
た。 この よ うに私 は 考 え て い る。
ドの 接 点 と な る オ ア シス都 市 が 出 来 る。 そ う
い う面 で は、 ス ー ダ ン ・サ ー ヘ ル ベ ル トは 自
然 生 態 的 に共 通 の 地 域 性 を持 った 空 間 とい え
原都市
る。 しか し私 の 立 場 で は 、人 間 の移 動 、 あ る
鈴木
い はネ ッ トワ ー クの 中 に トレー ス され た共 通
以 前 と以 後 で は連 続 して い るの か いな いの か
の 空 間 が 何 で あ るか とい う こ とを 第一 に考 え
と い う ことが 応 地 さ ん の 質 問 の ポ イ ン トだ ろ
た い 。 そ して 自然 生 態 、 人 間 の移 動 、 そ こ に
う。 今 の話 か らい う と、 か な り連 続 性 もあ る。
流 れ て い る文 化 的 な 特 徴 、 とい う三 つ の要 素
家島
の も と に、 地 域 の 構 成 を も う一 度 考 え る とい
と い う もの を イ ス ラ ー ム は う ま く捉 え た と言
う立 場 で あ る。
え る。 古 代 か らの 人 間 の 経 済 的 ・文 化 的 な 変
イ ン ド洋 海 域 世 界 にっ いて も同 じだ 。 ロー
場 の特 質 と い った もの が 、 イ ス ラー ム
連 続 性 と 同 時 に 、 や は り、 時 代 の 流 れ
質 ・変 化 の順 序 ・段 階 を 捉 え て 、 中 世 にイ ス
マ 帝 国 の 時 代 、 す な わ ち紀 元 前後 か ら1、2
ラ ー ム世 界 が形 成 さ れ た 。 具 体 的 に言 うと、
世 紀 に か け て の 時 代 に、 地 中海 世 界 は 東 に 向
ビザ ンツ帝 国 と サ サ ン朝 ペ ル シヤ 帝 国 とい う、
か って 大 き く膨 張 した。 そ の世 界 に ロー マ 帝
中東 で は大 き な文 明 世 界 が あ り、 そ の 両 者 の
国 が 覆 いか ぶ さ る。 そ して、 イ ン ド洋 の 、 特
政 治 的 ・経 済 的 な世 界 が 、 い ま まで あ った 地
に ア ラ ビア 海 と イ ン ド西 海 岸 まで が地 中海 世
中海 世 界 ・イ ン ド洋 世 界 と繋 が って 、 そ の 中
界 に っ な が るネ ッ トワー クに組 み込 ま れ て い
に共 通 す る イ ス ラ ー ム 世 界 が 出 て きた の だ と
く。rエ
思 う。
リュ トゥラ ー海 案 内記 』 は、 ま さに
そ の 世 界 を 描 いて い る。 っ ま り、 中東 を 中 軸
応地
と考 え る と、 ア ラ ビア海 と、 イ ン ド洋 西海 域
うが ど うか。
36
社 会 的練 度 とい う問 題 に関 連 す る と思
農 業 に先 行 す る場 と して 原 都 市 を 考 え
らに 、 出 来 る前 で あ って も、 そ れ が 出来 る場
る こ と に は全 く賛 成 で あ る。 ル ー トが あ って
所 は 、 自然 の 川 か ら近 い と こ ろ、 水 を ひ きや
そ れ が 交 差 す る と ころ に何 か 出 来 る。 以 前 、
す い と ころ で あ ろ う。 す る とや は り、 器 が 存
高 谷 さん 達 と オ ア シス農 耕 にっ いて 考 え た時 、
在 して い るの で はな い か 。 結 局 生 態 と人 の動
そ うい った こ とを ま さに 考 え て いた 。 と は言
き は関 係 して い るの で は。
え 、 そ の 当 時 は こ う考 え て い た。 っ ま り、
家島
人 々 は移 動 して い て広 い地 域 間 の 交 流 が あ っ
業生 産 もな く、 水 もな い と こ ろ に点 と して の
て 、 その 交 流 の線 で止 ま らね ば な らな い こ と
都 市 や 港 が で き る。 シー ラ ー フ と い うイ ラ ン
が あ る。 そ こに茶 店 が 出 来 る。 お 茶 を沸 かす
の ペ ル シ ャ湾 岸 の 町 な どが 好 例 で あ る。 ノー
た め に水 を ひ か な け れ ば な らな い。 ま だ この
ド、 都 市 は人 間 が 人 工 的 に作 るの で あ る。 カ
時 点 で は農 業 は な い。 茶 店 が 先 に出 来 て オ ア
ナ ー トに して も、 山 岳 部 か ら砂 漠 を 越 え て何
シス都 市 の も とに な る。 そ して 「余 り水 」を
十 キ ロ もひ い て くる。 そ して 砂 漠 中 に都 市 が
利 用 す る よ うな形 で オ ア シ ス農 耕 が 発 生 す る、
作 られ る。 つ ま り、 メ タ(原 都 市)を 考 え て 、
と い うよ うに考 え て い た 。
そ の 基 本 的 な 性 格 な り構 造 な りを分 析 の 一 っ
家島
私 も原 都 市 の成 立 過 程 を、 そ の よ うに
の べ 一 ス にす る こ とが 重 要 で あ る。 そ して 、
考 え たの で あ る。 ナ イ ル の 農 業 に して も、 都
時 代 性 、 人 間 牲 、 あ る い は社 会 的 経 済 的 な条
市 と結 び っ い て非 常 に 商 業 的 で あ る と い え る。
件 と い った もの が そ の 上 に重 な って く る。
古川
そ れ以 外 の 場所 に も都 市 は 出来 る。農
9、10世 紀 に綿 花 や 砂 糖 キ ビな どの 商 品作 物
の栽 培 が起 こ り、 わ ず か 一 世 紀 の 間 に ペ ル シ
郷土意識
ヤ湾 岸 の地 域 か ら シ リア 、 エ ジ プ ト、 北 ア フ
応地
リカ、そ して ア ン ダル スの 先 ま で拡 が る。これ
と 私 達 は す ぐ に 、 幕(パ
は、ま さに 商 業 と して の 農 業 で あ る と言 え る。
な 紐 帯 を も と に した ネ ッ トワ ー ク を 考 え る。
古川
家 島 さ ん は ハ ドラ ミ ー ・ネ ッ トワ ー ク の お 話
そ の点 に 関 して は、 賛 成 なの で あ るが 、
先 に華 僑 の お 話 が あ った。 華 僑 とい う
ン)と い っ た 地 縁 的
原 都 市 とい うの が 、 無 の 場 所 、 か ら っぽ の場
で 、 郷 土 意 識 とお っ し ゃ った。 そ れ は、 例 え
所 に 出来 る とい う点 が 納 得 いか な い。 とい う
ば 華 僑 の 場 合 で の 福 建 出身 者 が 集 ま る とい う
の は 、結 局 オ ア シス都 市 が 出来 る と こ ろ は、
よ う な 意 識 と 同 じな の か 。
もち ろ ん砂 漠 の 中 で あ る と い う意 味 で 無 で あ
家 島
る が 、 そ れ が 出来 た後 に は、 そ こ に は 、泥 壁
の 場 合 は、
の 家 が 並 び、 祭 壇 や広 場 の よ うな もの も出来
が あ る 。 か れ ら は 丁 度 、 グ ラ ン ドキ ャ ニ オ ン
る。 そ うす る と、 無 の場 所 で はな くな る。 さ
の よ う な ワ ー デ ィ ー ・ハ ド ラ マ ウ トの 谷 に
37
ハ ドラ マ ウ トの 出 身 者(ハ
ド ラ ミ ー)
「ワ ー デ ィ ー の 民 」 と い う 言 い 方
沿 って 住 み 、 サ イ イ ドと呼 ば れ る神 聖 な 力 を
ほ う が ア ラ ブ化 と い う か 、 真 似 を す る こ と が
持 った家系 の人 が共 同体 を まとめ る権 力を
あ る。 そ の 同 化 と い う こ と が は っ き り しな い 。
持 った 。 従 って 、 ワー デ ィー の民 とい う言 い
片倉
方 と都 市 の そ れ を 囲 む サ イ イ ドの 結 び付 き と
ンが あ るわ けで はな い。
い う ものが 二重 に な って い る。
立本
片倉
ハ ドラ ミー は 例 外 で あ るの か 。
クオ ー ター の よ うな 。 数 の 問 題 で あ る。 チ ャ
家島
血 縁 、地 縁 的 意 識 、 サ イ イ ドを 中 心 と
イ ナ ・ク オ ー タ ー と 同 じ レベ ル で ア ラ ビ ッ ク ・
チ ャイ ナ タ ウ ンの よ う にム ス リム タ ウ
た だ し ク オ ー タ ー は あ る 。 ア ラ ビ ック ・
す る共 同 体 的連 帯 の 強 固 さの 点 で は 、 特 に 例
クオ ー タ ー が あ る。 ア ラ ブの ほ う は、 大 き な
外 と思 われ る。
町 に な って い な い だ け で あ る 。
片倉
郷 土 意 識 と い うの は、 「故 郷 は遠 くに
片 倉
そ れ は ど こに あ るの か 。
あ りて 思 う もの 」 と い うよ うに 、 だ れ もが 何
立 本
シ ン ガ ポ ー ル に あ る。 田 舎 で も ア ッ
らか の 形 で もっ ので は な い か 。
チ ェ、 ス ラ ウ ェ シ な ど で み ら れ る 。
家島
小杉
例 え ば、 マ グ リ ビー とい うよ うに 、 マ
そ こで は何 を して い るの か 。 っ ま り、
グ レブの 人 た ち の意 識 とい うの が あ る。 これ
チ ャイ ナ タ ウ ンの場 合 は 、 中 国 語 の 新 聞 を 出
は東 方 イ ス ラ ー ム の 人(マ シ ュ リ ク)に 対 応
し た り、 中 国 的 な こ と を し て い る 。 そ う い う
す る言 葉 で あ る。
意 味 で の 、 ア ラ ブ ・ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 保 つ
片倉
よ うな こ と を して い る の か 。
問 題 な の は、 それ を持 って い る こ とに
よ って 、 ハ ドラ ミー の 人 々 は最 後 は、 元 の 場
鈴木
所 に帰 るの か ど うか と い う こ とで あ る。
で 移 って 来 た ア ラ ブ人 の 家族 が い るが 、 か れ
家島
原理 的 に は帰 る。 特 に サ イ イ ドは。 基
ら は マ ドラ サ を 作 っ て お り 、 コ ー ラ ン 学 校 を
本 的 に は、 帰 るべ き と い う意 識 が あ る。 しか
開 いて い る。 外 婚 は少 な い よ うで あ る。様 々
し、現 実 に は必 ず し も帰 らな い し、時 代 が 下
で あ るが 、 私 が 訪 れ た ム ス リム の 知 的 指導 者
が れ ば移 住 先 に コ ミュニ テ ィ ーを 作 り、 混 血
の 家 は 、 原 則 と して ア ラ ブ だ け で 結 婚 し て い
す る こ と もあ る。
た。
片倉
シ ン ガ ポ ー ル の 場 合 、 パ レ ンバ ン経 由
意 識 の レベ ル と、 実 際 に は ど うか と い
故 郷 意 識 の 問 題 で 、 ハ ドラ マ ウ トの 場 合 は
う レベ ル が あ る。 ま た、 先 に高 橋 さん が お っ
故 郷 意 識 は あ るが 、 帰 ろ う と思 って も帰 れ な
し ゃ った よ うに 、 華 僑 は 同化 しな い。 チ ャ イ
く な る よ う な こ と が あ る 。 華 僑 ・華 人 の 専 門
ナ タ ウ ンを 作 って い く。 そ う した 形 態 と は か
家 か ら 、 ハ ドラ マ ウ ト と の 比 較 で こ の 点 に つ
な り違 うだ ろ う。
いて うか が いた い。
立本
高橋
ア ラ ブ人 は同 化 す るの か。 マ レー人 の
38
私 の 見 た 限 り で は 、 世 代 間 で 差 が あ る。
一 世 の 世 代 は方 言 しか 話 さな い。 広 東 出身 で
国語 を話 す 、 とい うパ ター ンが 増 え て い くと
あれ ば広 東 語 しか話 さな い 。 と こ ろが 、 三 世 、
思 う。
四世、五 世 の世 代 にな ると居住 国 の国 籍を
立本
と って い る。 彼 らは 、 自 分 達 の 祖 先 が 、 例 え
デ ンテ ィテ ィな どは 重 要 で な い と思 う。 自分
ば広 東 出身 で あ る とい う場 合 、 い っ か はそ の
の子 供 の 居 住 国 を 、 例 え ば 、 一 番 目 を フ ィ リ
祖 先 の土 地 を訪 ね て み た い と言 っ た りす るが 、
ピ ン、 二 番 目を 香 港 、 三 番 目を オ ー ス トラ リ
一 世 の 世 代 と 同 じよ うな 故 郷 意 識 を 持 って い
ア とい うよ うに分 け た りす る。
るの か と い うと疑 問 で あ る。 た だ し、 これ も、
片倉
族 に よ ってず いぶ ん違 って い る。 例 え ば よ く
いのか。
知 られ て い る よ うに客 家 は 、 非 常 に結 束 が 強
立本
く、 華 僑 ・華 人 の 中 の ユ ダ ヤ 人 と もい わ れ て
て も、三 代 目、 四代 目な どの 世 代 で 分 離 が あ
い る。 東 南 ア ジ ア で 活躍 して い る政 治 家 や 経
るだ ろ う。 同 化 す るの で あ れ ば 、 ま だ望 み の
済 人 に は、 客 家 出身 が 多 い 。 彼 らの 活 動 の 背
あ る シ ンガ ポ ー ル を選 ぶ と い った 、 華 人 の し
後 に は、 同郷 意 識 に根 ざ して 張 りあ ぐ らされ
た た か さが あ る。
しか し、 華 人 に と って 国 家 に よ るア イ
そ うす る とア イデ ンテ ィテ ィ は全 くな
華 人 と して の ア イ デ ンテ ィテ ィが あ っ
た ネ ッ トワ ー クが あ る。
片倉
大 まか に言 うと、 郷 土 意 識 の 強 い もの
ネ ッ トワー ク の拡 大
は華 僑 、 そ うで な い もの は 華 人 に な って い く、
坪内
と考 え て よ いか 。
政 治 性 に つ い て の話 が 中 心 にな って い る。 こ
高橋
華 人 を 居 住 国 の 国 籍 を取 った もの と定
れ は お も しろ い話 で あ る が 、総 合 的 地 域 研 究
義 す る場 合 、 華 人 の 方 が 華 僑 に 比 べ 郷 土 意識
の 立 場 か ら これ を ど こに位 置 付 け るの か 、 と
は弱 い と考 え られ る。
考 え る と次 の疑 問 が 出 て くる。 っ ま り、 これ
片倉
国 籍 を 取 ら な けれ ば な らな い とい うの
は地 域 研 究 な のか 、 地 域 間研 究 な の か 、 そ れ
は、 も ち ろん そ の 国 の 事 情 に もよ るだ ろ う。
と もど ち ら もや って い な い の か 、 と い う こ と
高橋
で あ る。 ネ ッ トワ ー ク と地 域 との 関 係 は ど う
イ ン ドネ シ アの よ うに 取 らざ るを え な
少 し話 題 を か え た い 。 ネ ッ トワ ー クの
い とい う場 合 もあ る。
な って い る の か。 ネ ッ トワー クに つ い て 議 論
片倉
す る ので あれ ば、 それ は地 域 研 究 、 あ る い は
華人の同化 というか、居住国の国籍を
取 る よ うな 例 は増 え て い る の か 。
地 域 間研 究 とど う関連 す るの か を 考 え る必 要
高橋
が あ ろ う。 ネ ッ トワ ー クが あ る 、海 域 世 界 が
一 世 が い な くな る中 で 、 これ か ら生 ま
れ る世 代 とい うの は、 そ の 国 の ナ シ ョナ ル ・
あ る、 都 市 が あ る、 と い うよ うな こ と は よ く
ア イ デ ンテ ィテ ィ を一 応 身 に付 け 、 そ の 国 の
分 か る。 で は、 その こ と と、私 達 の 地 域 研 究
39
と は ど こで リ ン ク して い るの か を 整 理 して 、
ナ ッ ク が あ る 。 た しか に 、 そ れ は ア ラ ブ 人 の
そ れ か ら議 論 を進 め るべ きで はな いか 。
拡 が り で あ る 。 しか し、 そ れ は ど う い う形 か
家島
今 日の私 の話 は 、 ま さ にそ の こ とを 言
と い う と、 そ こ に住 む それ ぞ れ の人 が コ ミュ
い たか っ た の で あ る。 っ ま り、 ネ ッ トワー ク
ニ テ ィー を っ くって い るが 、 そ の どれ かが 、
社 会 を 考 え る 際 に 、 そ れ を 地 域 性 な り、 地 域
都 市 全 体 を 支 配 した り、 性 格 付 け た りす る の
と い っ た もの の 中 に どの よ う に トレー ス して
で はな い 。 そ れ ぞ れ の コ ミュ ニ テ ィ ー は 、 あ
い っ た らよ い の か 、 とい う こ と考 え た の で あ
る種 の 機 能 を 果 た す ひ とつ の 部 分 と して存 在
る。
して い る 。 こ れ が 、 東 南 ア ジ ア の 特 徴 な の で
鈴木
東 南 を ア ジア を べ 一 ス に して 地 域 を考
あ る 。 ア ラ ブ 人 に 限 らず 、 中 国 人 の コ ミ ュ ニ
え る時 、 ど ち らか とい う と、 まず 生 態 的 環 境
テ ィー につ いて もそ れ が 言 え る。 そ して 、 そ
を お さ え る 。 そ の上 で 、 人 間 の 暮 し方 を 見 て 、
れ ぞ れ の 上 に東 南 ア ジ ア 的 な支 配 者 が 乗 って
それ が 同 じで あ れ ば 、 そ この 人 々 は、 同 じよ
い る 。 さ ら に 、 そ の 支 配 者 に 結 び 付 く形 で 、
うな考 え 方 を し、 同 じよ うな 意 識 を 持 って い
内 陸 部 の 社 会 もっ な が る。 こ う して ネ ッ ト
る。 そ こ に ひ とっ の 独 自の 世 界 が で き上 が る 、
ワ ー クが 出 来 上 が って い る。
と い う形 で 地 域 を捉 え て いた よ う に思 う。 イ
小杉
ス ラ ー ム圏 か ら見 る と、 同 じよ うな 行 動 様 式 、
して も、 家 島 さん の お 話 は、 イ ス ラ ー ム ・
考 えを 持 った人 々 が 、 動 きだ して 、 お 互 いが
ネ ッ トワ ー ク と そ の 個 別 バ ー ジ ョ ン と し て の
ネ ッ トワ ー クを 作 り上 げ る。 そ こで は、 同 一
ハ ドラ ミー ・ネ ッ トワ ー ク に つ い て で あ っ て 、
タ イ プの 人 々 が 、非 常 に 濃 密 な ネ ッ トワ ー ク
ア ラ ブ に っ い て で は な い 。 そ れ で 、 華 僑 ・華
を 作 って い る。 そ して 、 そ れ が 拡 大 して い る。
人 の 場 合 は ど うな の か を 聞 き た い 。
それ が 地 域 に な って い るの で あ る。
坪 内
坪内
その 点 が 私 に と って 興 味 深 い。 次 に、
の 村 で は 、 多 くが 福 建 出 身 者 で あ っ た 。 福 建
東 南 ア ジ ア に もア ラ ブ人 が や って くる。 それ
の あ る 村 か ら来 た 人 で あ る 。 同 じ 村 か ら次 々
は、 ア ラ ブ社 会 が そ こ に出 来 て い る こ と に な
と人 を 呼 び 込 ん で い る。 そ の 連絡 は つ い最 近
るの だ ろ うか。 実 際 に はそ うで はな い。 東 南
に至 る まで 続 い て い た。 そ の 意味 で は 、 同 じ
ア ジ アの 都 市 を 考 え る と、 例 え ば シ ンガ ポ ー
よ うな 構 造 が あ る と もい え る 。
ル な どで は、ア ラ ブ人 が 住 ん で い る が、ア ラ ブ
小杉
の 都 市 に な って い るの で はな い。 レジ ュ メの
る よ う に 思 う 。 ハ ドラ ミー ・ネ ッ ト ワ ー ク の
地 図 を 見 る と イ ン ド洋 にお け るハ ドラ ミー ・
拡 が り につ いて 言 うと、 ア ラ ブ人 クオ ー ター
ネ ッ トワ ー ク と して ブ ル ネ イ や ポ ン テ ィ ア
に と ど ま らず 、 イ ス ラ ー ム ・ネ ッ ト ワ ー ク が
40
た しか に ア ラ ブ 人 ク オ ー タ ー は あ る に
私 が 調 査 して い た ア ロ ー ル ジ ャ ン グ ス
そ れ は 華 僑 ・華 人 の 中 だ け に 当 て は ま
さ らに 拡 が る。 イ ン ドネ シ ア を イ ス ラ ー ム化
い ま ネ ッ トワ ー ク に議 論 の 焦 点 が 置 か れ て い
す る よ うな 構 造 が あ る と い う点 で 、 華 人 の
る。 そ れ と地 域 研 究 は ど う関 係 して い るの か
ネ ッ トワー ク と は異 な って い る。
と い うこ とだ ろ う。 こ こで 、 簡 単 に そ の経 緯
鈴木
ア ラ ブ人 が デ ィ ア ス ポ ラ 的 に拡 が る こ
を ま とめ る。 まず は じめ は、 「
地 域 」 か ら出
と とイ ス ラー ム 的 な もの が 浸 透 す ると い う二
発 した。 い ま や、 国 民 国 家 を単 位 に して 世 界
つ の 層 が あ る。
を 考 え る こ と は出 来 な くな って い る。 高 谷 さ
坪内
ア ラ ブ と イ ス ラ ー ム を 区 別 しよ うと い
ん が 世 界 単 位 論 で 述 べ て お られ る前 提 か ら始
う話 が 先 にあ った 。 そ して 、 イ ス ラ ー ム 教 は
ま って い る。 高 谷 さん が 提 起 さ れ た の は、 同
と りあ え ず お いて お くと い う こと だ った と思
じ価 値 を 共 有 して い る人 達 の 地 域 一
うが 。
位一
鈴木
世 界単
を 求 め る、 と い う こ とで あ る。 要 す る
に、 価 値 観 を共 有 して い る こ とが基 本 で あ る。
例 え ば 、 文 字 につ い て言 う とマ レー語
は、 も と も とサ ンス ク リ ッ ト系 文字 を 用 い て
そ うす る と、 私 達 の ほ うの 中 東 に っ い て 地 域
い た の が 、 ア ラ ビア文 字 を使 うよ うに な った 。
を 考 え る と、 価 値 観 を 共 有 す る単 位 が 地 域 で
この よ う に顕 著 な 文 化 変 容 が み られ る 。 そ こ
は な くて 、 ど う も 「人 」 に あ る とい う認 識 が
に は、 文 字 を 通 じた ネ ッ トワー クが あ る。
出て きた。 そ こで 属 人 的 とい う言 葉 を 使 った 。
そ して 、 その 属 人 的 で あ る こ とを成 り立 た せ
い ろ いろ の ネ ッ トワ ー ク
て い るの は何 か と い う話 か ら、 ネ ッ トワー ク
高谷
少 し話 が 高 等 に な って しま った 。 こ こ
が 出て き たの で あ る。 今 日の家 島 さん の お 話
で シ ン プル な 図 を 出 して み た い 。 ネ ッ トワー
が 大 胆 で あ った の は、 あ る意 味 で は 地 域 を 否
ク と は クモ の 巣 の よ うな もの で あ る。 中 東 で
定 し て い る こ とで あ る。 そ こで は 、 ネ ッ ト
考 え る と、 ど こ まで 行 って も クモ の巣 ば か り
ワ ー クを メ タ地 域 と言 って も良 い か も しれ な
に な って い る。 獲 物 もか か って い な い 。 東 南
い。 い ま問 題 と して い る地 域 は 、 「地 域 を 否
ア ジア の 場 合 、森 が あ り、 そ こで採 集 を して
定 した地 域 」 で あ る よ うに思 う。
い る人 々 が い る。 クモ の 巣 は 、外 側 に チ ョ ロ
応地
チ ョロ とあ る。 こ う い う感 じだ ろ うか 。 東南
別 に して 、 片 倉 さん が お っ し ゃ った よ うな 文
ア ジア に は、 何 か ネ ッ トワ ー ク以 外 の もの が
脈 で 、 中 東 班 は ネ ッ トワ ー クを前 面 に 押 し出
あ る。 そ ん な イ メー ジな の だが 、 純 粋 な ネ ッ
して 来 た 。 そ して そ れ は、 人 間 の世 界 、 入 間
トワー ク論 か ら少 し離 れ て 、 も う一 度 中東 と
が 作 り上 げた 都 市 の 世 界 で あ り、 高 度 に 文 明
東 南 ア ジア とい う話 に戻 って も らえ な い か。
化 され た 世 界 で あ る とお っ し ゃ った。 そ の 時
片倉
に、 ネ ッ トワ ー ク と い う言 葉 だ け取 り上 げ る
坪 内 さん が 問題 に して お られ る の は、
41
地 域 研 究 か 地 域 間研 究 か とい う こ と は
と 、例 え ば 、東 南 ア ジア の 場 合 で も、 海 域 世
片倉
界 につ いて ネ ッ トワー ク とい う こ とが 語 られ
ま り好 ま な い。 とい うの は、 ネ ッ トワ ー ク に
る し、 ま た、 南 ア ジ ア か らみ る と イ ン ドの
網 とい う ク ロー ズ ドな イ メー ジが で て くるか
カ ー ス ト社 会 な どは ま さ にネ ッ トワー ク社 会
らで あ る。 そ こで、 私 は属 人 的 と い う言 葉 を
で あ る。 しか し、 中 東 の ネ ッ トワ ー ク は、 そ
使 った。思 考 様 式 な どが 、基 本 的 に人 に 属 して
の 中 に住 ん で い る人 々が 、 そ れ ぞ れ に正 当 性
い るの か 、 器 で 決 ま るの か とい う ことで あ る。
を認 め あ う社 会 で あ る。 つ ま り多 元 的 で あ る。
応地
そ れ が 前 回 の ひ とつ の結 論 で あ った と思 う。
ど ち らが 対 象 を考 え る際 に分 か りや す いか で
イ ン ドの 場 合 は ヒエ ラ ル キ ー が あ る。 そ れ 以
あ ろ う。
外 の 価 値 は認 め られ て い な い 、 とい って も言
片倉
い 過 ぎで は な い。 つ ま り、 ネ ッ トワー ク とい
まず 生 態 、 っ ま り器 を見 て い け ば 、 そ こに 住
う言 葉 は 、 共 通 項 的 に ひ とつ の タ ー ミノ ロ
む 人 間が ど の よ うに 考 え て い るの か が 分 か る
ジ ー と して 用 い る け れ ど も、 そ の 中 身 の違 い
と お っ しゃ って い る の だ ろ う。
を 比較 して 、 地 域 の 差 が 議 論 出来 るの で は な
立本
い か。 そ れ で 、 い ま 中東 に お け る ネ ッ トワー
て 少 しお か しい。 東 南 ア ジア を み る と き、 器
クの 中 身 を 聞 い た 上 で 、 で は 東南 ア ジア海 域
か らか 中 身 か らか と い う こと に つ い て 、 そ れ
世 界 に お け るネ ッ トワ ー クの 中身 は ど の よ う
は器 だ と、 高 谷 さん や古 川 さ ん は お っ しゃ っ
で あ る の か 、 とな る。 そ こで 、 地 域 間研 究 が
て い るの だ が 、 東 南 ア ジ ア に つ い て も と も と
始 ま る の だ と思 う。
問 題 で あ っ たの は、 生 態 とい う もの が 器 と し
坪内
私 も同 じ よ う に 考 え て い る。 た だ 、
て の ま と ま りを 持 た な か った こ と、 っ ま り器
ネ ッ トワー ク と い う平 た い言 葉 で す べ て切 っ
が 無 か った こと なの で あ る。 中 国 や イ ン ドの
て しま うの は恐 い と い う こと は指 摘 して お き
よ うな 器 が 無 い と こ ろで 東 南 ア ジア を ど うみ
た い。 先 に 高 谷 さん が 、 東 南 ア ジ アで は ク モ
るか と い う こ とで あ る。 地 と 図 とい う こ とで
の巣 で あ る ネ ッ トワ ー クが 、 外 側 、 港 で く っ
考 え て 欲 しい。 図 と い うの は 、例 え ば ネ ッ ト
っ いて い る だ け で あ る とお っ しゃ った。 こ こ
ワ ー クで あ る。 地 の 上 に その 図が 描 か れ て い
で は ネ ッ トワー クの 意 味 が か な り異 な って い
る。 そ の 図 を東 南 ア ジア で考 え る と、 や は り
る 。東 南 ア ジア で 発 達 して 、 東 南 ア ジアで 形
ネ ッ トワ ー ク と い うの は 大 き な 図 で あ る。
作 られ るネ ッ・
トワー クが 存 在 す る とす ると 、
ネ ッ トワー ク は ク ロ ー ズ ドで あ る とい った が 、
中東 で 発 達 した 、 中 東 独 自の ネ ッ トワ ー ク と
そ れ は濃 淡 で 成 り立 って い る 。 関 係 とい うの
の 違 い は何 か とい う点 は興 味 深 い。
は強 い と こ ろ と弱 い と ころが あ る。 イ ン ド洋
42
私 は ネ ッ トワ ー ク と い う言 葉 を 実 は あ
決 ま る とか決 ま らな い とか で は な く、
そ うだ。 だ か ら、 東 南 ア ジア の 場 合 は、
それ は 自然 環 境 決 定論 に な って しま っ
を繋 ぐの とマ ラ ッカ 海 峡 を 繋 ぐの とで は、 そ
ジア の 海 域 世 界 の ネ ッ トワ ー ク との 違 い が分
のっ なが り方 は違 う。 ネ ッ トワ ー クの 濃 い と
か って くる。
ころ と段 々 薄 くな って い くと こ ろが あ る と い
家島
うこ とで あ る。 そ う考 え れ ば や は り、 東 南 ア
え て い る。 海 そ の もの が 、 独 自 の ネ ッ トワー
ジ アの あ る部 分 は 、 ネ ッ トワー ク社 会 と して
クで あ る。 関 連 の世 界 で あ る。
括 る ことが 出来 る。 そ して そ の 上 で 生 態 をみ
立本
る と、 これ は生 態 的 に 説 明 が 出来 るの で は と
お っ しゃ って い るの か 。 例 え ば 、 陸 か ら見 て
い う こと に な った。 外 側 か らみ る と、 私 達 は
特 殊 だ とい うの で あ れ ば 、 東 南 ア ジ ア か ら中
器 を基 に議 論 して い る とい う印 象 に な るの か
国 に 対 して の 南 シナ 海 も特 殊 な空 間 、 イ ン ド
も しれ な いが 、 出発 点 は 器 で はな い の で あ る。
洋 も特 殊 な 空 聞 とい うよ う に同 じに な って し
片倉
ま う。
そ うす る と、 先 に言 って いた 東 南 ア ジ
海 と い うの は、 特 殊 な空 間で あ る と考
特 殊 な 空 間 と い う の は、 何 に 対 して
アの ネ ッ トワ ー ク と中 東 の ネ ッ トワ ー クで の 、
家島
その ネ ッ トワ ー クは何 か違 い が あ るの で はな
ば な らな い とい う こ とだ 。
いか と い う議 論 は可 能 か 。
大塚
海 とい う場 の 様 々な 特 性 を 考 え な けれ
立 本 さん が 今 ま とめ られ た よ うに 、三
っ の ネ ッ トワー クが あ る。 そ して 都 市 とイ ス
ネ ッ トワ ー
一ク:都
ラ ー ム が 重 な って い る の で は な い か と お っ
市/海
そ れ を 言 い た いの で あ る。 今 日の 家 島
し ゃ った。 む しろ私 は 、 イ ス ラー ム の それ は
さん の お 話 の 二 番 目 に あ った イ ス ラー ム 都 市
少 々質 が違 うの で は な い か と思 う。 逆 に、 海
ネ ッ トワ ー ク で は 、 移 動 の 動 機 を イ ス ラ ー ム
と都 市 とは 重 な る 、 っ ま り、 海 港 と い うの は
が 与 え て い る と い う こ とが 示 さ れ て い る 。 三
都 市 で あ る。
番 目 の 海 の ネ ッ トワ ー ク は 、 海 が 創 っ て い る
立本
とい わ れ る。 っ ま り、 今 日 の話 で は 、 海 が創
あ った。
る ネ ッ トワ ー ク、 イ ス ラ ー ム が 作 る ネ ッ ト
大塚
ワ ー ク、 都 市 が 作 る ネ ッ トワー クの 三 っ の
は 共 通 性 が あ る。 っ ま り ノ ー ド(結 節 点)と
ネ ッ トワ ー ク が 出 て 来 た 。 イ ス ラ ー ム と 都 市
い う点 で あ る。 そ うす る と海 が 特 殊 な 空 間か
の そ れ の 結 び付 き は分 か る が 、そ の 二 っ と海
ど うか とい う こと で は 、 中 東 の 場 合 砂 漠 と対
の ネ ッ トワ ー ク が な ぜ 結 び 付 くの か 、 あ る い
置 させ て考 え る必 要 が あ る。 も う一 つ 地 域 と
は 両 者 の 質 の 違 い につ いて 疑 問 が あ る。 あ る
い う こと で 言 うと、 明 らか に 中 東 と東 南 ア ジ
い は、 イ ス ラ ー ム の 拡 大 と して 海 の ネ ッ ト
ア は と もに地 域 概 念 で あ る 。 そ して 今 日家 島
ワ ー ク は 捉 え られ て い る の か 。 そ こ で 東 南 ア
さ んが 話 さ れ た の は 、中 東 地 域 を イ ス ラ ー ム ・
立本
43
今 日の お 話 で は 、 港 市 と都 市 は一 緒 で
原 都 市 とい う考 え 方 で は 、 都 市 と港 に
ネ ッ トワ ー クか ら考 え て い こ うと い う ことで
大塚
大 陸 部 は ど うか 。
あ る。 東 南 ア ジア の 海 域 ネ ッ トワ ー クの 場 合 、
立本
あ ま り含 まれ な いが 、 川 が あ れ ば そ れ
高 谷 さん の世 界 単 位 区 分 に よ る と東 南 ア ジ ア
を 遡 って っ な が る。
の一 部 で しか な い 。 今 日の 話 で は、 中東 、 も
古川
し くは イ ス ラー ム 社 会 を主 語 に して 考 えて 、
あ る。 っ ま り、 ど こま で っ な が るの か 分 か ら
そ れ は全 体 的 にネ ッ トワ ー ク に よ って あ る程
な い と い う ことで あ る。
高 谷 さん の 図 で も海 域 は点 線 で 括 って
度 は お さえ る こ とが 出来 る だ ろ う とい う こ と
で あ った 。 東 南 ア ジ ア の場 合 、 高 谷 さ ん の 区
東南 アジアのイスラーム化
分 図 で考 え るの で あ れ ば 、海 域 ネ ッ トワー ク
小杉
の社 会 は 、 そ の 一 部 で あ る。 そ こで は 、港 を
が あ る 。 東 南 ア ジ ア で は ネ ッ トワ ー ク は 、 一
都 市 と考 え れ ば 確 か に 同 じネ ッ トワー クで あ
部 に 引 っ掛 か って い る だ け だ と お っ し ゃ っ た 。
る。 しか し、 東 南 ア ジ ア全 体 の ネ ッ トワー ク、
ハ ドラ ミ ー ・ネ ッ ト ワ ー ク は イ ス ラ ー ム ・
あ るい は そ こか ら拡 が る ネ ッ トワ ー クが あ る
ネ ッ トワ ー クの 一 っ の バ ー ジ ョ ン と して 拡
の か ど うか 。 東 南 ア ジア を主 語 に した場 合 、
が って い る。 イ ン ドネ シ ア も マ レー シ ア も そ
ネ ッ トワー クで 捉 え る こ とが 出 来 るの か 、 そ
れで か な り覆 わ れ る。 イ ス ラ ー ム世 界 が 成 立
れ と も海 域 と い う特 徴 に よ って い るだ け な の
して しま え ば 、東 南 ア ジ ア に しろ中 東 に しろ
か。
消 滅 し て し ま う こ と に も な る 。 そ うで な くて
一 つ ど う して も確認 して お きた い こ と
東 ア ジ ア に お け る 「世 界 単 位 」 の 分 布
も よ い と は 思 う が 。 そ こ で 確 認 した い の は 、
東南 ア ジア に は か な り イ ス ラ ー ムが 拡 が って
い る 。 そ れ は な ぜ か 。 そ れ を 明 らか に し な い
と 、 イ ス ラ ー ム が 浸 透 して も、 イ ス ラ ー ム ・
ネ ッ ト ワ ー ク が 拡 が っ た の か ど うか は 議 論 で
きな い。 東 南 ア ジア の イ ス ラ ー ム と は一 体 何
なのか。
高 谷好 一,1993r新 世界秩 序を求めて』中公新書.
立本
立本
イ ン ド化 に し ろ 、 イ ス ラ ー ム 化 に し ろ 、
そ れ は 非 常 に 難 しい問 題 で あ る。
高 谷 さん の 図 は か な り生 態 的 に ま と め
られ て いて 、 細 か い。 私 達 が 言 って い る海 域
坪 内
ネ ッ トワ ー ク世 界 は東 南 ア ジア か ら南 シナ 海
ム ス リム は、 中 東 の ム ス リム と同 じな の か。
を 含 む もっ と広 い単 位 で あ る。
立本
ム ス リム の 定 義 に っ い て う か が い た い 。
小杉
そ れ に は、 す で に イ ス ラ ー ム化 とい う
44
む しろ 逆 に 質 問 した い。 東 南 ア ジア の
の はイ ス ラ ーム の 地 域 化 とセ ッ トで あ る とい
に難 しい 問題 で あ る 。
うテ ー ゼ を 出 して い る。 同 じで あ って 違 う、
高谷
浸 透 して い な い。
違 って いて 同 じと い う こ とで あ る。 っ ま り、
立本
薬 を も ら うた め とか 、 ま じな い をす る
イ ス ラ ーム 化 した以 上 は 同 じ部 分 が あ る。 東
た め と か、 は くを っ け る とか 様 々で あ ろ う。
南 ア ジ アの 特 性 の 中 で 、 同 じに な って しま っ
片倉
た の は 何 か とい う こ とで あ る 。
教 と言 え ば 、単 純 に魂 の 救済 とか い う ことで
高谷
あ ろ う。
な ぜ 東 南 ア ジ ア で は イ ス ラ ー ムが 拡
それ は生 活 と は違 うの か 。 いわ ゆ る宗
が ったの か 、とい う質 問 に皆 に答 え て も らお う。
立本
古川
東 南 ア ジア で は 、元 来 の イ ス ラー ムの よ うに
社 会 的 練 度 の 高 い人 達 が 、金 儲 け と称
そ うい う こ とを言 って い るの で は な い。
して や って きて 、 コ ミ ッ シ ョンを ば ら まい て 、
イ ス ラ ー ム が生 活全 体 を 律 して い るの で は な
商 売 を や った 。 要 す る に 、 熱 帯 多 雨 林 に は
い とい う こ とで あ る 。
様 々な 産 物 が あ る。 そ こ に社 会 的練 度 の 高 い
片倉
で は なぜ 浸 透 した の か 。
こす か らい 人 達 が や って きた 。東 南 ア ジア は
立本
浸透 した の は 、 イ ス ラ ーム その もの が
ア ニ ミズ ム の 世 界 で あ る か ら巻 き込 ま れ て し
ど うで あ る か らで は な く、様 々 な 外 部 的 な 条
ま う。
件 の た めで あ る。 チ ャ ンス 、 偶然 で あ る。
立本
東 南 ア ジ アの イ ス ラ ー ム を ど う考 え る
小杉
偶 然 で あん な に も拡 が るの か 。
の か に 簡 潔 に答 え る ので あ れ ば 、 東 南 ア ジア
加藤
や は り、歴 史 的 タ イ ミン グを 考 え な け
で はイ ス ラ ーム は宗 教 に な って しま った とい
れ ば な らな い。11世 紀 に広 州 で10万 人 の ム ス
う こ とで あ る。 例 え ば 、 イ ス ラー ム は デ ィー
リムが 殺 され て い る。 そ の 頃 に東 南 ア ジア に
ン(din)と い う言 葉 で は な く、 ア ガ マ(aga-
イ ス ラ ー ム が拡 が って い た形 跡 は な い。13世
ma)と
い うサ ンス ク リ ッ ト起 源 の 言 葉 で 示
紀 頃 に よ うや くス マ トラ に イ ス ラ ー ム 国 家 が
さ れ て い る。要 す る に、 生 活 と宗 教 が 一体 に
で き る。 こ こに、 歴 史 的 タ イ ミン グを 見 る こ
な った シ ャ リー ア 、 ウ ン マ と い った形 で は な
とが で き る。 一 っ に は、 元憲 に よ って 強 い ヒ
く、 「宗教 」 と して 扱 わ れ て い る。 一 様 で は
ン ドゥー的 な国 家 が 崩 壊 した こ とが あ り、 も
な い が 、地 域 が 東 に い くほ ど 、 だ ん だ ん シ ン
う一 っ はセ ラ ミ ック ロ ー ド、 海 の シル ク ロー
ボ ル 的 に な って い る。 全 体 と して 言 え ば、 単
ドの 重 要 性 が この 時 期 に高 ま った こ とが あ る。
な る宗 教 に な って い るの で あ る。
そ うい う歴 史 的 状 況 を考 え な い と 、 な ぜ 東 南
小杉
ア ジア で イ ス ラ ーム が 受 容 され た の か は理 解
そ れ は よ く分 か るが 、 単 な る宗 教 に な
る と なぜ 浸 透 す る の か。
で きな い 。 イス ラー ム が 島 懊 部 で 広 ま る時 期
立本
と、 大 陸 部 で 上 座 部 仏 教 が 広 ま る時 期 とは 、
宗 教 を ど の よ うに 選択 す るの か は非 常
45
時 代 的 に近 い 。 ヒン ドゥーか らの パ ラ ダ イ ム
が 早 く戻 って 来 た の で彼 は イ ス ラ ー ム を受 容
転 換 が 、12世 紀 か ら14世 紀 にか けて の 東 南 ア
した と言 わ れ て い る。 な ぜ そ の後 拡 大 した の
ジ アで 起 こ った の で あ ろ う。
か と い う と、 王 は イ ス ラ ー ム を シ ンボ ル に し
小杉
て 、 聖 戦 、 ジハ ー ドを戦 い 、 南部 に勢 力 を 広
そ うす る と、 ま さ にそ う した歴 史 的 状
況 が非 常 に 有 利 に作 用 す る 中で 、イ ス ラー ム ・
げ て い った か らで あ る。 マ レー シア の 場 合 は、
ネ ッ トワー クが 東方 に拡 大 した、 と い う議 論
ポ ル トガ ル の 残 虐 性 に対 抗 す るた め の シ ンボ
に な る ので はな い か 。
ル と して イ ス ラ ーム が 使 われ 、広 ま った と考
鈴木
イ ス ラ ー ム世 界 そ の もの が 、11世 紀 後
え られ て い る。 っ ま り、 イ ス ラ ー ムが 良 い か
半 か ら14世 紀 に か け て 中 東 の 外 に 向か って 再
ら広 ま った の で は な く、 歴 史 的 な 偶 然 が 重
び拡 大 して い った。 イ ン ド、 アナ トリア、 東
な った た め にイ ス ラ ーム は広 ま った の で あ る、
南 ア ジ ア、 東 ・西 ア フ リカへ と拡 が って い く、
とみ た 方 が 妥 当 で あ ろ う。 上 岡 さん の 質 問 に
イ ス ラ ー ム の拡 大 期 で もあ った 。
つ い て は、 ブギ ス が そ うで あ るか ど うか は 別
坪内
そ の 拡 大 は、 同 じ原理 で拡 大 した の か
と して 、一 般 に 改 宗 に対 して 寛 容 で あ る地 域
ど うか が 問 題 で あ ろ う。 っ ま り、 中 東 に存 在
は 多 い と言 え よ う。 イ ス ラ ー ム の 捉 え 方 が
し、 機 能 して い る イ ス ラ ー ム の原 理 と東 南 ア
違 って い る の で あ ろ う。
ジ アの そ れ とが 、 同 じな の か とい う こ とで あ
鈴木
る。 異 な る面 が あ るの で は な い か。
うと す る時 は 、聖 戦 に よ るの で あ るが 、 必 ず
上岡
し も改宗 は させ な い 。
先 の 立 本 さん の お話 に 関連 して い る と
イ ス ラ ー ム教 徒 が 他 の 人 々を 支 配 しよ
思 うが 、 ブギ ス人 の 場 合 イ ス ラ ー ム か ら他 の
立本
宗 教 へ の 改 宗 者 が 非 常 に多 い とイ ン ドネ シア
場 合 は王 が 改宗 させ た の で あ る。
の あ る研 究 者 か ら聞 い た。 中東 で は そ う した
鈴木
こ とは ほ とん どな い 。 ヨ ル ダ ンな どで は改 宗
か。
した こ とを 公 にす る と死 刑 に な る と も聞 い た 。
立本
や は り宗 教 の 捉 え 方 が 、 中東 と東 南 ア ジア で
て ム ス リム に な った。 上 か ら下 へ と広 ま っ た。
は 違 って い るの で は な い だ ろ うか 。
っ ま り、 まず 王 が 改 宗 し、 次 いで 王 が 連 れ て
立本
くる イ マ ー ム な ど が 民 衆 を 改 宗 させ 、 そ して
ス ラ ウ ェ シの ブギ ス人 の イ ス ラ ー ム へ
そ れ は イ ス ラ ー ム で あ って 、 ブギ ス の
聖 戦 で行 った 先 は す べ て 改 宗 させ た の
そ うだ。 だ か らス ラ ウ ェ シ南 部 はす べ
の 改宗 は16世 紀 に入 って か らの こ とで あ る が 、
民 衆 か ら もイ ス ラ ー ム学 者 が 出 る よ う にな る
伝 説 に よ る と当 時 の 王 が 、 イ ス ラ ー ム とカ ト
ので あ る。
リ ッ クの 両 方 に 使 節 を 送 り、 早 く戻 って来 た
片倉
ほ うに 改 宗 す る と告 げ、 イ ス ラ ー ムへ の使 節
ス ラ ー ムが 入 って い くとい う形 で 拡 が る。
46
東 南 ア ジ ァ の場 合 、 ま ず 上 流 階 級 に イ
ふ っ うは 、 ま ず 王 権 層 や大 商 人 な ど に
い て 議 論 す る必 要 が あ る とお っ しゃ っ た。 中
入 る。 そ れ は、 そ の 当 時 ム ス リム が非 常 に活
東 は ネ ッ トワ ー クで は あ る。 そ れ は確 か な よ
躍 して い た か ら、 改 宗 した ほ うが 得 で あ る と
うだ 。 一 方 応 地 さん は、 イ ン ドも同様 に ネ ッ
考 え た か らで あ ろ う。
トワ ー クだ と見 る こ と もで き る と言 わ れ る。
立本
これ は驚 きだ 。 それ ぞれ が イ メー ジ して い る
ネ ッ トワー クの地 域 差
ネ ッ トワ ー クの 中身 が 違 う ら しい 。
小杉
応地
地 域 を考 え る 際 に 、 そ う した違 い を話
人 間 の い る と こ ろで あ れ ば 、・ど こ にで
し て も だ め だ と 思 う 。 イ ス ラ ー ム ・ネ ッ ト
も ネ ッ トワ ー ク は あ る。 その 意 味 で は 、 ネ ッ
ワ ー ク は、 中東 に あ る時 は均 質 で あ る のが 、
トワー クの な い人 間 社 会 な ど は存 在 しな い と
東 南 ア ジア に く る とそ の 質 は違 って い る、 と
思 う。 以 前 の イ ス ラ ーム に関 す る研 究 会 で 次
い う議 論 に な って い る。 そ れ は 妥 当 で は な い 。
の よ うな 結 論 が 出た 。 そ れ は、 イ ス ラ ー ム の
な ぜ な らハ ドラ ミー ・ネ ッ トワ ー ク は ハ ドラ
社 会 と い うの は、 そ れ ぞ れ の 人 に それ ぞ れ の
ミ ー 的 な 特 徴 が あ る し 、 西 ア フ リ カ で も北 ア
尊 厳 、あ る い は正 当 性 を認 め あ う、多 元 的 な 価
フ リカ で も若 干 質 は 異 な る の で あ る 。 そ して 、
値 観 に 基 づ いた ネ ッ トワ ー ク社 会 で あ る と い
偶 然 と い う な らば、 それ は ど の 地 域 に っ いて
う こ とで あ った。 そ れ に 対 しイ ン ドの ネ ッ ト
も 同 じ こ と で あ ろ う。 イ ス ラ ー ム の ど の 要 素
ワ ー クを考 え る場 合 に は、 カ ー ス ト制 が す ぐ
が 人 々 を 魅 き っ け た の か も異 な っ て い る 。 イ
挙 げ られ る。 単 純 化 して 言 え ば 、 カ ー ス トと
ス ラ ー ム ・ネ ッ トワ ー ク で 議 論 を す れ ば 、 ど
は一 元 的 な ヒエ ラル キ ー を も った ネ ッ トワー
う して も そ れ は トラ ン ス エ リ ア で あ る と い う
ク の 中 に あ る。 海 外 の イ ン ド人 を 見 て も、 そ
こ とに な って しま う。
う した ネ ッ トワー クを保 って い る と こ ろ で は、
鈴 木
地 域 の 定 義 そ の もの が 問 題 で あ る 。 地
彼 らは母 国 語 を大 事 に し、 そ うで な け れ ば 同
理 的 で は な く、 人 間 関 係 論 的 な も の と し て 定
化 して い く。 こ う した形 で、 先 に鈴 木 さん が
義 した ほ う が よ い 。
述 べ られ た 文 化 変 容 も、 そ の プ ロ セ ス が 異
坪 内
そ の 定 義 だ と、 日本 も中 国 の一 部 に な
な って い る。 この よ うに、 東 南 ア ジア の ネ ッ
る 。先 の 話 に 戻 る が 、華 僑 ネ ッ トワ ー ク と イ ス
トワ ー ク もどの よ うな 内容 で あ るの か 話 して
ラ ー ム ・ネ ッ ト ワ ー ク の 二 つ の ネ ッ ト ワ ー ク
い た だ きた い。 要 す る に、 東 南 ア ジア の 社 会
に っ い て の 議論 が あ った 。 華 僑 ネ ッ トワー ク
は、 来 る もの は拒 まず 、 去 る者 は追 わ ず と い
も同様 に人 間原 理 で 重 な って い くの か、 あ る
う 自 由 に往 来 で き る よ う な ネ ッ トワー ク社 会
い は 質 の 異 な る ネ ッ トワ ー ク な の か 聞 き た い 。
で あ る とお っ しゃて い る が、 それ は イ ス ラ ー
高谷
ム につ いて も同 様 で あ る。 そ れが 、 イ ス ラー
応 地 さん が 、 ネ ッ トワ ー ク の 中 身 に つ
47
ム 自由 都 市 論 の基 本 的 な 考 え 方 で あ る。 そ う
鈴木
す る と両 者 の ネ ッ トワー クを 、 全 く同 じもの
した い 。 「イ ス ラ ー ム と地 域 」 と い う題 で 大
と して 考 え て よ い の か 、 が 問 題 に な る。 この
塚 さん か ら話 題 提 供 が あ り、 ま た総 合 討 論 も
点 に っ い て 議 論 して 、 も し違 いが あ れ ば 、そ
あ るの で 、 この 議 論 は次 の 議 論 に っ な が る と
れ は地 域 の 問 題 に な る し、違 い が な け れ ば 、
思 う。
ネ ッ トワ ー ク論 で 組 み 立 て な お せ ば よ い。
48
まだ 議 論 は尽 き な い が 、 こ こで終 了 に
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