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第五回 森川豊国堂 但馬屋老舗 細田蒲鉾店
第五回 森川豊国堂 但馬屋老舗 細田蒲鉾店 NEXT 初版発行:2009 年 12 月 18 日 ■ 森川豊国堂/豊後高田市新町 〝昭和の風〟起こす 〝昭和三十年代〟をテーマにした商店街活性化の取り組みで 一躍、脚光を浴びた豊後高田市中心部の商店街「昭和の町」。 アイスキャンデーやミルクセーキを求める客でにぎわう商店 がある。通りから見える店の様子は一見、 「駄菓子屋さんかな」 TOP に戻る と思える「森川豊国堂」 。実はれっきとした和菓子屋なのだ。 創業は一九一九(大正八)年にさかのぼる。現在の店主森川 克己さん( )の祖父荒吉さんがこの地に和菓子屋を構えたの 一見、駄菓子屋と思えるが、れっきとした和菓子屋の森川豊国堂 56 2 「老舗の風景」第五回 p. が始まり。以来、ニッケ玉やカステラ、イモあめ、ボーロなど の庶民的な和菓子を製造、販売してきた。 「純然たる和菓子屋とはちょっと違うかな。まんじゅうが高 級品なら、うちはせんべいのような乾燥物が中心。じいさんは 子どもの小遣い(一文)でも買えるっていう意味で『うちは一 文屋だ』と言っていたよ」と森川さん。 アイスキャンデーの販売を始めたのも戦前から。真空パック などの保存方法がなかった時代、和菓子の保存が難しいことか ら夏季限定で本業を休止。代わりにアイスキャンデーの販売を 始め、和菓子屋ならではのアイデアを生かしてミルクセーキや TOP に戻る アイスボンボンといった冷菓を開発したという。 「昭和の町」の取り組みの一環で、昭和三十年代当時の店構 店舗奥の菓子工房で作業する店主の森川克己さん 3 「老舗の風景」第五回 p. えに改装したが、多くの観光客にとっては、昔ながらの和菓子 屋が駄菓子屋に見えるという。 「今では冷菓と和菓子のほかに 駄菓子も置いています。それでも和菓子の作り手としての誇り は常に持っています」と笑顔を見せた。 森川さんは町づくりの中心メンバーでもある。「観光客のに ぎわいはうれしいが、日常の中で商店街を利用してくれる人も 大切にしなければ商店街は再生しない。町に活気が戻れば人も 戻ってくる」と語る。 )は「父 会社勤めの合間に両親を手伝う二男の晃弘さん( は人付き合いがうまいし、町づくりと家業を両立させている姿 はすごい。店を継いでもいいかなという気持ちはあります」。 ) 森川さんと二人三脚で店を守ってきた妻の多賀子さん( は「先代の味を受け継ぎ、 自分の味を生み出すのが『跡を取る』 「荒城の月」といった、竹田 店の敷居をまたぐと「三笠野」 市民ならずともなじみの和菓子が並ぶ。一八〇四(文化元)年 町の顔、凛として ■ 但馬屋老舗/竹田市竹田町 高田支局・広石修一(二〇〇五年七月十三日掲載) 労をしました」と笑った。 ということ。わたしたちは先代が亡くなってから継いだので苦 54 の創業以来、城下町竹田とともに歩んできた。店舗は一八七七 TOP に戻る 23 4 「老舗の風景」第五回 p. 屋号は創業者の幸助が但馬の国(兵庫県)出身だったことに ち な ん で い る。 京 都 で 菓 子 修 業 中、 岡 藩 に 迎 え ら れ、 竹 田 に を経て、今も風格あるたたずまいで町並みにとけ込んでいる。 年に西南の役で全焼したが、同年内に再建、一九六四年の改装 風格あるたたずまいで町並みにとけ込んでいる但馬屋老舗 TOP に戻る 5 「老舗の風景」第五回 p. 6 代目の板井良助さんと妻のひとみさん ) 。 来 た と い う。 数 え て 六 代 目、 の れ ん を 守 る の が 板 井 良 助 さ ん ( )と妻のひとみさん( いたという伝統あるものだが、創業当時の味を守ることに努め 「いつものお菓子をいつものように」と心掛ける。創業以来 の代表的菓子「三笠野」は、レッテルの文字を田能村竹田が書 50 る。菓子は嗜好(しこう)品、景気の影響も受けるが、品質を 下げることはできない。 「味が変わったと言われ ることが、一番怖い」とい う。新たな菓子開発に取り 組みながらも、伝統的な菓 子のレシピは守る。先代の 「だますよりだまされろ」 と い う 言 葉 も 残 っ て い る。 原料の質を落としたりせず に、誠実に菓子を作ってい くという姿勢が一貫する。 学生時代は海外とかかわ りのある仕事に就きたかっ た。いずれは継ぐのかとも 思いながら四十歳をすぎて からとも考えていた。しか し大学生の時、五代目の父 親が死去。卒業後、間もな く跡を継ぐことになった。 TOP に戻る 56 6 「老舗の風景」第五回 p. 「日本の小都市を旅行した時、老舗の菓子屋が凛(りん)と して町の顔になっていた。竹田は緑、空気、水に恵まれ、歴史 と文化もある。可能性がある、と古里を見直した」という。 現在は東京、福岡などの百貨店にも商品を出しているが、基 本的には竹田の店舗まで来て、味わってもらおうというスタン ス。地域に密着した経営で、町づくりに寄与できればと考えて いる。 「竹田市民に愛され、来た人に喜ばれる、おいしい菓子を作 り続けたい」 。竹田で生まれ育って二百年を超えたのれんを守 TOP に戻る る気概を語った。 竹田支局・赤坂耕(二〇〇五年七月二十日掲載) ■ 細田蒲鉾店/中津市古博多町 手打ちにこだわり 。スケトウダラのすり身が包丁の上で踊 「コン、コン、カン」 る。見事なリズムで形が整えられ、 油の入った鍋に落ちていく。 明治初めの創業以来、 看板商品として愛されてきた「手打ち天」 )が一人で守り抜いている。 の製造風景だ。包丁二本を巧みに扱う独特の職人芸。五代目の 細田幸司さん( しか出せない、ふんわりして複雑な食感をお客さんは求めてい 店の売り上げの六割を占める手打ち天。一日に千五百枚は作 る。 「機械産はどこをかじっても味や歯応えが同じ。手打ちに 54 7 「老舗の風景」第五回 p. るんです」 。毎朝、五時には「アツアツ」を求める人が店の前 に立つ。 かつて博多の商人たちも店を構えてにぎわった古博多町の一 角にある。魚を扱う店が多いことから「魚の辻(つじ) 」とも 呼ばれ、三十年前までは五十メートルの通りの間に蒲鉾(かま ぼこ)屋が五軒もあったという。 しかし、鉄道や自動車の普及とともに人の流れも変化。南側 の新博多町から中津駅前の日の出町商店街、今では大型ショッ ピングセンターへと客足は完全に移った。今でもかまぼこ屋を 営むのは、近くではほかに一軒だけとなった。 TOP に戻る 創 業 当 時 か ら 手 打 ち 一 本 で き た 老 舗 も、 高 度 経 済 成 長 の 時 代、機械化の流れに乗ってみたことがある。だが、同じ機械産 を大量にさばく大手スーパーの前で、「売り上げはパッタリ」。 細田蒲鉾店ののれんをくぐるお客さん = 中津市古博多町 8 「老舗の風景」第五回 p. 二十六年前に跡を継いだ五代目の手で、伝統の技を復活させ、 お客さんも戻ってきた。 「揚げかまぼこ」の商品名で出している手打ち天の大 現在、 半は市場やスーパー向け。販路はぐんと広がった。十年前から は「同じ味だと飽きるから」と新商品の開発にも取り組んでい る。昨年十二月、中津で本格操業を始めたダイハツ車体にちな んだ「ダイハッ天」は、ちょっとしたブームだ。 それでも、老舗を取り巻く環境は厳しい。中国などでかまぼ この生産が伸び、原料のスケトウダラの値段が上昇する中で、 )とはにかんだ。 値 段 は 二 十 年 前 と 同 じ。 「 お 客 さ ん に な じ み の 値 段 で す か ら、 ね」 。妻の千鶴子さん( 中津支社・吉良政宣(二〇〇五年七月二十七日掲載) 舗は、百年の歴史を、世代を超えてじっと見つめてきた。 城下町のにぎわいの場所は、時代とともに移っている。 「将 来は、この辺りがまたにぎやかになるかもしれませんよ」 。老 51 TOP に戻る 「手打ち天」を作る 5 代目の細田幸司社長 9 「老舗の風景」第五回 p. 「老舗の風景」第五回 p. ■オオイタデジタルブックとは 追加情報を受けながら逐次、改訂して充実発展を オオイタデジタルブックは、大分合同新聞社と 図っていきたいと願っています。情報があれば、 学校法人別府大学が、大分の文化振興の一助とな ぜひ NAN-NAN 事務局にお寄せください。 ることを願って立ち上げたインターネット活用プ NAN-NAN では、この「田舎暮らし」以外にも ロジェクト「NAN-NAN(なんなん)」の一環です。 デジタルブック等をホームページで公開していま NAN-NAN では、大分の文化と歴史を伝承して す。インターネットに接続のうえ下のボタンをク いくうえで重要な、さまざまな文書や資料をデジ リックすると、ホームページが立ち上がります。 タル化して公開します。そして、読者からの指摘・ まずは、クリック!!! 大分合同新聞社 別 府 大 学 デジタル版「老舗の風景」 第五回 編集 大分合同新聞社 初出掲載媒体 大分合同新聞(2005 年4月 6 日~ 2007 年 3 月 28 日) 《デジタル版》 2009 年 12 月 18 日初版発行 編集 大分合同新聞社 制作 別府大学メディア教育・研究センター 地域連携部/川村研究室 発行 NAN-NAN 事務局 (〒 870-8605 大分市府内町 3-9-15 大分合同新聞社 企画調査部内) ⓒ 大分合同新聞社 TOP に戻る ●デジタル版「老舗の風景」について 「老舗の風景」は、大分合同新聞社が 2005 年 4 月から翌 2007 年 3 月まで、同紙夕刊に掲載した連 載記事。今回、デジタルブックとして再構成し、公 開する。登場人物の年齢をはじめ文中の記述内容は、 新聞連載時のもの。 2009 年 11 月 20 日 NAN-NAN 事務局 10