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カザフスタンの石油産業動向 - 石油エネルギー技術センター

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カザフスタンの石油産業動向 - 石油エネルギー技術センター
JPEC レポート
平成 28 年 1 月 8 日
JJP
PE
EC
C レ
レポ
ポー
ートト
第
第 2255 回
回
222000111555年
年
度
年度
度
カザフスタンの石油産業動向
2015年10月 安倍首相が民間企業団を伴い日本
の総理として9年ぶりにカザフスタンを訪問し、首
脳会談、共同声明の発表ならびにビジネスフォーラ
ムへの出席等の中で、両国間の経済交流のさらなる
促進などに合意したことは記憶に新しいことであ
る。
1 カザフスタンの石油産業
2
1-1 石油埋蔵量
1-2 石油分野の管理
1-3 カザフスタンの油田
2
2
2
2 カザフスタン産原油の性状
5
2-1 Tengiz 原油
5
2-2 CPC Blend 原油
5
カザフスタンは、旧ソビエト連邦から1991年の独
2-3 Kashagan 原油
5
立以降、Nazarbayev大統領の長期政権が継続して
2-4 Kumkol 原油
6
おり、ある意味では政治的に安定している国である。
2-5 Karachaganak Condensate 6
同国は、地下資源(石油、石炭、天然ガス、ウラン
3 石油の生産
6
鉱および各種金属鉱石)に恵まれた国であり、前述
7
した資源の輸出により近年著しい経済成長を遂げ 4 製油所
8
ている。2014年 IMFの統計によると、GDPは約 5 石油の輸出
8
2,160億米ドル(世界48位)
、一人当たりのGDPは約 5-1 石油の輸出関税
9
12,400米ドル(世界60位)となっている(図1参照)
。 5-2 石油の輸出先
5-3 石油の輸出ルート
9
12
本稿では、米国エネルギー省のエネルギー情報局 6 シェールオイル資源
12
(EIA 、Energy Information Administration)の 7 まとめ
レポートを主なベースとし、中央アジアの資源大国
であるカザフスタンの石油産業の動向について紹介する。
(単位:億米ドル)
図 1 カザフスタン独立後の GDP 推移
(出所:IMF)
1
JPEC レポート
1 カザフスタンの石油産業
1-1 石油埋蔵量
2015 年 6 月 BP 統計 に
よると、カザフスタンの石
油確認埋蔵量は、約 300 億
bbl(世界の 1.8%)で、世界
第 12 位にランクされてい
る(図 2 参照)
。
(単位:億 bbl)
図 2 カザフスタンの石油確認埋蔵量推移
(BP 統計)
1-2 石油分野の管理
2014 年 8 月 カザフスタンの Nazarbayev 大統領は、よりコンパクトで効率的な政府を
造る目的で、大規模な中央政府の省庁再編を発表した。政府の省庁の数を 12 ⇒ 7 に減ら
し、その一環により石油・天然ガス省、産業・新技術省および環境・水資源省の機能の一
部を吸収して新たにエネルギー省が設立された。この省庁再編以降、同省が石油・天然ガ
ス産業部門を監督することになった。
カザフスタンでは、地下資源利用法により石油・天然ガス産業の投資をコントロールし
ている。同国では 2000 年代に入り資源ナショナリズムが高揚し、同国政府は 2007 年に同
法改正した。この改正により、同国の経済に悪影響が出る場合は、生産物分与契約(PSC)
の条件の改定交渉を同国政府が申し入れることができるようになった。さらに、契約に定
められた要件を満たさない場合には、外国資本の権益をはく奪することも可能となった。
同法が適用された例としては、2013 年 同国政府は、ConocoPhillips が Kashagan Project
の権益(8.4%)を ONGC(インド石油天然ガス開発公社)に売却することを阻止し先取りし
た事例が挙げられる。
1-3 カザフスタンの油田
IEA によると、2014 年 カザフスタンでは、約 170 万 BPD の石油(含む他液体燃料)
を生産した。
同国の主な油田としては、
同国西部地域に 3 大油田
(Tengiz、
Karachaganak、
Kashagan 油田)がある(図 3 参照)
。
なお、カザフスタンでは、国営企業の KazMunayGas 社(別称 KMG、2002 年設立)お
よび同社グループ会社が、同国の石油および天然ガスの開発、生産、輸送、石油精製およ
び販売までを運営している。
2
JPEC レポート
Karachaganak 油田
Kashagan 油田
Tengiz 油田
図 3 カザフスタンの 3 大油田の位置
1-3-1 Tengiz 油田
Tengiz 油田(1979 年 発見)は、カスピ海東岸沿いの海抜の低い湿地帯に位置している。
同油田は、世界第 6 位にランクされる同国最大の油田であり、その埋蔵量は Cantarell 油
田(メキシコ)に匹敵する規模である。なお、同油田は、南北 19km×東西 21km×厚さ
1.6km と広大な面積を占めている。
Tengiz 油田開発プロジェクトは、面積約 2,500km2 の鉱区(同油田、中規模な Korolev
油田およびいくつかの探査中の鉱脈を含む)を開発するものである。当初見積もられた同
油田の確認埋蔵量は、掘削部分と未掘削部分合計で約 260 億 bbl であった。なお、Korolev
油田の確認埋蔵量は、約 15 億 bbl であった。また、両油田を合わせた可採埋蔵量は、60
〜90 億 bbl と推定されている。
Tengiz 油田は、1993 年から生産されており、Tengizchevroil 社(TCO)が一貫して同
油田の開発および操業している。なお、同社は、Chevron(50%、米国)、Exxon Mobil
(25%、米国)、KazMunaiGas(20%)、Lukoil(5%、ロシア)の企業連合体を形成し
ている。
2013 年 Tengiz 油田(含む Korolev 油田)から採掘された石油は、約 58 万 BPD(同油
田単独:約 45 万 BPD)である。なお、同油田は、高熱かつ高圧の状態で吹き出しており、
世界でも最大の高圧状態であると推定されている。また、吹き出している原油には、有毒
な硫化水素(H2S)を豊富に含むガスが大量に含まれており、過去に中毒死亡者をともな
う大規模な火災事故を起こしている。また、現在も採掘に付随して発生する大量の硫黄の
備蓄(1,000 万トン以上)が、近隣住民への深刻な環境問題を発生させている。
3
JPEC レポート
1-3-2 Karachaganak 油田
Karachaganak 油田(1979 年 発見)油田は、世界最大級の Condensate 田である。同
油田は、カザフスタン北西部の都市 Oral の東約 150km の「沿カスピ海盆地」に位置する。
同油田の埋蔵量は、Condensate が 12 億 3,600 万トン、天然ガス 1 兆 3,710 億 m3 を有し
ている。
同油田は、1984 年から生産開始されており、油田の操業者は BG Group(英国)とEni
(イタリア)で、Lukoil、Chevron、KazMunayGasがパートナーとなっている。現在の
Condensate の生産量は約 20 万 BPD である。
1-3-3 Kashagan 油田
Kashagan 油田(2000 年 発見)は、カスピ
海北部の沿岸都市Atyrau近くの海洋油田(水
深:3~9m)である。同油田は、Tengiz 油田と
相まって、過去 30 年間で世界最大規模の発見
であった。同油田の原油埋蔵量は、380 億 bbl
と推定され、
そのうち可採埋蔵量は約130億bbl
と見積もられている。なお、同油田も Tengiz
油田と同様に高濃度の硫化水素ガス(約 19%)
が大量に含まれているため、生産するには技術
的に難しい油田である(写真参照)
。
写真:Kashagan 海上油田
(出所:NCOC の HP より)
写真: Kashagan 油田
(出所:NCOC の HP より)
Kashagan 油田は、北カスピ海 生産物分与協定に基づき、North Caspian Operating
Company 社(NCOC)によって開発されている。各社の出資比率は、Eni、KazMunayGas、
Shell、ExxonMobilおよび Total が各 16.81%、中国石油天然ガス集団公司(CNPC)が
8.4%、国際石油開発帝石が 7.56%である。
Kashagan 油田は、後述する「Kazakhstan-China Pipeline」への主要な供給源として指
定された。2013 年 9 月 同油田の商業生産が開始されたが、同年 10 月 Pipeline からのガ
ス漏れを理由により一時停止している。同年 カザフスタンは、中国の習近平国家主席と協
力関係を結んだ。その後、前述したように CNPC が同油田の権益(8.4%)を約 50 億米ド
ルで ConocoPhillips より買収している。
NCOC は、
「商業生産の再開は、早ければ 2016 年後半に生産を開始(9 万 BPD)する。
遅くても 2017 年の予定である。2017 年初には 18 万 BPD に、さらに同年末には最大 37
万 BPD に引き上げる」と発表している。
4
JPEC レポート
2 カザフスタン産原油の性状
カザフスタンは、輸出原油として下記 5 銘柄を持っている(表 1 参照)。なお、経済産
業省の統計によると CPC Blend 原油は、2013 年より日本へも輸出されており、2014 年
の輸出実績は 34 万 kℓ である。
表 1 カザフスタン産原油の性状
47.2
44.2
42~45
41.2
S分
wt%
0.55
0.53
0.80
0.11
全酸価
mgKOH/g
0.05 以下
0.05
不明
0.05
流動点
℃
-32
-37
不明
16
44.7
0.81
0.05 以下
-23
原油名称
API 度
Tengiz
CPC Blend
Kashagan
Kumkol
Karachaganak
Condensate
産出油田名
Tengiz 油田、Korolev 油田
Tengiz 油田、他 6 油田
Kashagan 油田
カザフスタン中部地区油田
Karachaganak 油田
2-1 Tengiz 原油
Tengiz 原油は、前述した Tengiz 油田と Korolev 油田から産出される原油をブレンドし
たものである。また、同原油は、CPC Blend 原油の主要な基材原油でもある。同原油は、
軽質で低硫黄分かつガソリン留分が多いことに特徴がある。物性から似た原油としては、
Arab Super Light 原油(サウジアラビア)および Marib 原油(イエメン)などの中東原
油が挙げられる。
2-2 CPC Blend 原油
CPC Blend 原油は、軽質で硫黄分も少なく、ガソリンや軽質留分の得率が高い原油であ
る。2001 年末 「CPC(Caspian Pipeline Consortium)Pipeline」の開通に伴い、西カ
ザフスタン地域の主要油田産原油を混合した同原油が初めて国際石油市場に登場した。
2004 年末時点で、同原油は 7 つの原油種(Tengiz、Aktobe、Kumkol、Martyshi、Arman、
Karachaganak Condensate、Siberian Light)の混合原油となった。Tengiz 原油がそのう
ちの約半量を占め最大の構成原油となっている。なお、CPC Blend 原油価格は、Brent
原油の SPOT 価格にリンクして変動している。
2-3 Kashagan 原油
Kashagan 原油は、Kashagan 油田から産出された原油であり、軽質かつ低硫黄分で、
特徴としてメルカプタンが多い原油である。物性から似た原油としては、前述した Tengiz
原油が挙げられる。なお、同原油は、前述したように生産再開準備中であり、2016 年後半
には生産が開始される予定と発表されている。
5
JPEC レポート
2-4 Kumkol 原油
Kumkol 原油は、カザフスタン中部の様々な油田から発している。同原油は、高流動点
(16℃)からもわかるように Wax 含有量の多い原油である。同原油の多くは国内の製油
所で精製され、石油製品は同国南部地域に供給されている。また、同原油は
「Kazakhstan-China Pipeline」を経由して中国に、黒海沿岸の Batumi 港(グルジア)
を経由して欧州向けにも輸出されている。なお、Kumkol 原油価格は、Brent 原油の SPOT
価格にリンクして変動している。
2-5 Karachaganak Condensate
ロシアとの国境付近に位置する Karachaganak 油田から産する Karachaganak
Condensate は、軽質だが硫黄分が多い原油である。同 Condensate は、主に CPC Blend
原油の構成基材として輸出されている。残りは「Uzen-Atyrau-Samara Pipeline」を経由
して輸出されるか、カザフスタン国内市場で Condensate として販売されている。
3 石油の生産
1911 年以降 カザフスタンは石油の埋蔵量・生産量ともに、旧ソビエト連邦中でロシア
に次いで第 2 位を維持している。同国の産油量は、1960 年代に約 50 万 BPD の安定生産
レベルに達し、1990 年代半ば以降は大手国際石油企業の助けを借り、2003 年に初めて 100
万 BPD を超えた。また、同国では天然ガス生産量の増加により、大量の天然ガスを油田
へ再注入する(石油増進回収法)により石油を増産することが可能になった。
2014 年 カザフスタンは、
石油
(含む他の液体燃料)
を 170 万 BPD 生産した(図 4 参照)。
同国の石油生産は、同国西部の 2 大 内陸油田(Tengiz 油田、Karachaganak 油田)によ
ってもたらされており、両油田からの産油量は同国の全産油量の約半分を占めている。今
後、生産準備中の Kashagan 油田からの生産が開始されれば、カザフスタンの産油量がさ
らに大きく増えるため、同国の輸出余力も拡大する見込みである。
国営石油ガス会社 KazMunaiGas は、カザフスタンの石油・天然ガス分野において重要
な役割を果たしている。同社は、3 大油田(Tengiz 油田、Karachaganak 油田 、Kashagan
油田)の各油田開発プロジェクトの権益を夫々20%、10%、16.8%保有している。また、
他の多くの石油生産プロジェクトにおいても、33〜100%の権益を保有している。現状の
生産レベルからさらなる成長を続けるには、同社による前述した 3 大油田の開発が鍵とな
ると同時に、さらなる輸出インフラ能力の改善も産油量を伸ばすために必要条件となる。
6
JPEC レポート
(単位:百万 BPD)
年
図 4 カザフスタンの石油生産と消費量推移
(出所:EIA)
4 製油所
2014 年 12 月 Oil & Gas Journal によると、カザフスタンには合計 3 製油所が稼働し
ており、原油精製能力合計は 34.5 万 BPD である(表 2 参照)。
表 2 カザフスタンの製油所一覧 (2014 年)
製油所名
Pavlodar
Atyrau
Shymkent
精製能力
(万 BPD)
16.3
10.4
7.8
運営企業名
特記事項
KazMunaiGas
Omsk-Pavlodar-Shymkent-Chardzhou Pipeline
から送られてくるロシア産の西シベリア原油と
Tyumen 原油を処理している。アップグレーディ
ングプロジェクト(多くの既存装置のリバンプと
異性化装置・軽油水素化処理装置・硫黄回収装置
などを新設し、製品は Euro-5 基準を満たすとして
いる)が進行中である。
KazMunaiGas
国産原油(主に Tengiz 原油)を処理している。アッ
プグレーディングプロジェクト(ディレードコー
カーの能力アップ、減圧軽油の増産、軽質留分の
収率アップ、自動車ガソリンの Euro-4 基準クリア
など)が進行中である。
Petrokazakhstan 50%
KazMunaiGas 50%
Kumkol 原油を処理している。アップグレーディ
ングプロジェクト(接触分解装置・ガソリン水素化
処理装置・異性化装置などの新設により、軽質留
分の収率アップおよび品質の向上を目指す)が進
行中である。
34.5
7
JPEC レポート
2013 年 カザフスタンの 3 製油所は、ガソリンとディーゼル燃料の国内需要量の約 70%
を供給したが、不足分はロシアからの輸入(約 3 万 BPD)により補っている。
2014 年から同国では、高品質の輸送用燃料を増産するため、全 3 製油所のアップグレ
ーィング計画を進行させている。この計画により、2017 年までにはガソリンおよびディー
ゼル燃料の国内需要を満たすこと、両石油製品の品質規格を Euro-4 または Euro-5 基準に
準拠することを目指している。2 次装置の装備状況を示す「ネルソン指数」は大幅に増加
し、3 製油所の平均指数は 5.4 から 9.5 になる予定である。
また 2014 年 10 月 同国政府は、国内需給 GAP を解消するために計画していた第 4 製
油所(約 20 万 BPD)新設計画を却下し、代わりに Shymkent 製油所を拡張する計画(12
万 BPD)を発表している。
5 石油の輸出
2014 年 カザフスタンは、世界第 14 位の石油輸出国であるが、石油輸出国機構(OPEC)
には加盟していない。同国の石油輸出金額および石油の輸出比率は、一部年を除き増加傾
向を示している。国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計によると、同年の石油輸出金額
は、約 566 億米ドルであり、同国全輸出金額の約 65%を占めている(図 5 参照)
。
(単位:億米ドル)
石油、
その他
図 5 カザフスタンの輸出金額推移
(出所:UNCTAD)
5-1 石油の輸出関税
2008 年 カザフスタンでは石油輸出関税が初めて導入され、その後 2009 年 1 月に中断
された。しかし、2010 年 8 月 同国政府は石油輸出関税の再導入を発表し、2011 年 1 月
8
JPEC レポート
にはそれを増額した。現在、再導入された石油輸出関税が、同国の石油輸出業者に大きな
影響を及ぼしている。
5-2 石油の輸出先
2013 年 同国は、原油とコンデンセ
ートを合わせて約 140 万 BPD 輸出し
た。輸出原油の約 76%が、カスピ海を
迂回または経由で欧州市場へ輸出され
ている。一方、中国向けパイプライン
を経由してアジア&オセアニア方面に
も輸出されている(図 6 参照)。
早ければ 2016 年に予定されている
Kashagan 油 田 の 生 産 開 始 お よ び
Tengiz 油田と Karachaganak 油田の
増産効果により、カザフスタンの原油
輸出量は増加する見込みである。しか
図 6 カザフスタンの原油輸出先 (2013 年)
しながら、油価レベルはもちろんのこ
(出所:EIA)
と、原油の生産量および輸出量の成長
には、輸出インフラ能力の拡充も不可欠となる。
5-3 石油輸出ルート
カザフスタンは、内陸国であるため国際石油市場からほど遠くに位置している。また、
外洋へのアクセスの欠如が、世界石油市場への輸出に際し、Pipeline 移送に大きく依存せ
ざるを得ない体制となっている。また、同国からの石油 Pipeline は、中国向けを除くとロ
シアを経由することになっており、ロシアに大きく依存した状態になっている。なお、同
国内の石油 Pipeline システムは、KazTransOil(KazMunaiGas の子会社)によって運営
され、その総延長距離は約 5,470km に及んでいる(図 7 参照)。
同国からの輸出用各石油 Pipeline および他輸出ルートを下記に紹介する。なお、地図上
に各 Pipeline の位置を番号で表示する。
9
JPEC レポート
緑線:石油 Pipeline
②
①
③
④
②
①
④
図 7 カザフスタンからの国際石油 Pipeline 網
(出所:EIA)
図 7 カザフスタンからの国際石油 Pipeline 網
(出所:EIA)
① CPC (Caspian Pipeline Consortium)Pipeline
2001 年 主要な原油輸出パイプラインとして、Tengiz 油田から黒海東岸の石油ターミ
ナルであるNovorossiysk港(ロシア)に至る CPC Pipeline(総延長約 1,500km)が開
通した。同 Pipeline は、同年 3 月に輸送開始し、その後、ポンプステーションの拡充
などにより、
輸送能力を段階的に引き上げ、
2015 年の輸送能力は 68.4 万 BPD である。
なお、Novorossiysk港からの石油輸出は、黒海の西側にある Bosporus 海峡(トルコ)
の通航がチョークポイントになる。
② Kazakhstan-China Pipeline
Kazakhstan-China Pipeline は、カザフスタンから中国へ輸出できる初の石油 Pipeline
である。2009 年に完成した同 Pipeline は、総延長 約 2,200km、輸送能力 24 万 BPD
であり、KazMunayGas と中国石油天然気集団
(CNPC)により建設されたものである。
輸送される原油は、主に Kumkol 原油であるが、前述している中国の一部資本参加によ
り開発中の Kashagan 原油が主力になる予定である。
10
JPEC レポート
③ Uzen- Atyrau- Samara Pipeline
Uzen- Atyrau- Samara Pipeline は、Tengiz 油田からロシア向けに輸出する Pipeline
である。1971 年に完成した同 Pipeline は、総延長 約 2,200km、輸送能力 60 万 BPD
である。また、Kashagan 油田の生産が再開された場合は、Kashagan 原油の輸出にも
使用される予定である。
④ カザフスタンは、カスピ海を経由しても原油を輸出している。カスピ海沿岸まで鉄道
で運ばれた石油は、同国の Aktau 港または Atyrau 港でタンカーまたはバージ船に積載
され、カスピ海を横断し Baku 港(アゼルバイジャン)へと輸出されている。Buku 港
からは、BTC Pipeline(Baku-Tbilisi-Ceyhan Pipeline、2006 年完成、総延長 約
1,770km、輸送能力 100 万 BPD)または Northern Route Export Pipeline(別称
Baku-Novorossiysk Pipeline 、
1997 年完成、
総延長 約 1,330km、
輸送能力 10 万 BPD)
を経由して、主に欧州向けに運ばれている。
さらに、カザフスタンは、Tengizchevroil 社(KazMunayGas 出資企業)の鉄道輸送
網を利用して、同国とロシアを横断し、Odessa(ウクライナ、黒海沿岸)の石油ター
ミナルに移送(2013 年実績:7 万 BPD)されている。
⑤ カザフスタンは、外国資本の支援を得てロシア領を通らない「Kazakhstan-Caspian
Transportation System (KCTS)
」の構築を計画している。同計画は、主に Kashagan
油田と Tengiz 油田で生産された石油をカスピ海東岸の Kuryk 港から Baku 港に至る
シャトルタンカー船団の利用または新設 Pipeline を通すというものです。その後、既
設の BTC Pipeline を経由し、
Ceyhan 港(トルコ)から国際市場に輸出するものである。
KCTS は、その輸送量を当初 30 万 BPD から徐々に増やして 80 万 BPD に上げたいと
している。
カザフスタン
⑥ カザフスタンを含むカスピ海諸国
(アゼルバイジャン、トルクメニス
タン、ロシア)産原油の他輸出方法
は、イランとの原油 SWAP を実施す
ることである。何年もの間 同国は、
カスピ海沿岸の Neka 港(イラン)
へ原油を出荷し、その原油はイラン
の Tehran および Tabriz 両製油所で
処理され、その後イラン北部地域で
石油製品が消費されていた(図 8 参
照)。一方、イランは、その原油と
イラン産原油 輸出
図 8 イランの製油所と石油輸送網
(出所:EIA)
11
JPEC レポート
引き替えに、ペルシア湾岸の輸出ターミナル港から同量のイラン産原油を輸出してい
た。
長年にわたり SWAP 量は変動してきたが、イランに対し課された経済制裁が SWAP
量の設定を複雑にし、過去数年間の SWAP 量は少量または皆無の状況である。2013
年後半以降、イランとカザフスタンは SWAP の再開を協議しているが、2014 年末時
点で SWAP は再開されていない。
カザフスタン
6 シェールオイル資源
EIA は、世界中の技術的
に回収可能なシェールオイ
ルとシェールガス資源の評
価国数の拡大を継続してい
る。2014 年 1 月 従来の 42
ヶ国の評価に加え、4 ヶ国
(カザフスタン、チャド、オ
マーン、UAE)を追加して
いる(図 9 参照)。
図 9 EIA の評価エリア(2014 年)
(出所:EIA)
EIA は、これら 4 ヶ国内の 11 盆地における 26 の地層を分析した結果、世界のシェール
オイル資源は内数で 13%増加、一方シェールガス資源は 4%増加したと発表している。こ
れらの地層は、かなりの量の回収可能なシェールオイルとシェールガスを含んでいるが、
2015 年 12 月時点では経済的に成り立たないとして、4 ヶ国内でのシェールオイルとシェ
ールガスの資源探査は行われていない。
カザフスタンのエネルギー省は、シェールオイル可採埋蔵量が 106 億 bbl と評価された
ことに関し、「カザフスタンは、在来型の原油資源を豊富に保有しているが、新たに非在
来型エネルギー資源を調査する計画があり、シェールオイル生産の可能性も探りたい」と
発表している。
7 まとめ
カザフスタンは、石油、天然ガス、石炭およびウラン鉱などに恵まれた資源大国である。
特に石油は、既存および新規油田からの生産の増加が見込まれており、同国の目覚ましい経
済成長を支えている。
12
JPEC レポート
カザフスタン産原油は、軽質かつ低硫黄分の物性を持ち、輸出余力も拡大傾向にある。し
かしながら、カザフスタンは、内陸国であるため国際石油市場へ出す輸送ルートが限られて
いる。同国産原油の輸出には、Pipeline輸送距離が長くなるため外洋に面している産油国に
比較して輸送コストが高くなるという地政学上の課題がある。
カザフスタンは、中東産油国などと比較すると遠い国ではあるが、その豊富な石油資源の
権益を確保することも、日本のエネルギー安全保障上 重要といえる。また、同国は、資源
依存構造を脱却し、
さらなる経済発展のため外国からの資本および技術導入をはかろうとし
ている。日本としては、経済発展を続けている同国の今後の動向に注視が必要である。
≪参考資料≫
(1)米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート 、Kazakhstan Country Analysis Brief、
http://www.eia.gov/beta/international/analysis.cfm?iso=KAZ 、
(2) 米国 DOE ・ エ ネ ル ギ ー 情報局(EIA) レ ポ ー ト 、 ANALYSIS & PROJECTIONS (SEP 24,2015) 、
https://www.eia.gov/analysis/studies/worldshalegas/ 、
(3)米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート 、TODAY IN ENERGY (DEC 14,2015) 、
http://www.eia.gov/todayinenergy/detail.cfm?id=24132 、
(4)米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート 、TODAY IN ENERGY (SEP 18,2013) 、
https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.cfm?id=13011 、
(5)Wikipedia 、Kazakhstan 、
https://en.wikipedia.org/wiki/Kazakhstan 、
(6)A Barrel Full 、Global refineries 、
http://abarrelfull.wikidot.com/global-refineries 、
(7)Global Note 、
http://www.globalnote.jp/post-3197.html 、
(8)Eni 、Home Page 、
http://www.eni.com/en_IT/innovation-technology/eni-projects/karachaganak/karachaganak-project.shtml
(9)Wikipedia 、Tengiz Field 、
https://en.wikipedia.org/wiki/Tengiz_Field 、
(10)Wikipedia 、Karachaganak Field 、
https://en.wikipedia.org/wiki/Karachaganak_Field 、
(11)Wikipedia 、Kashagan Field 、
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13
JPEC レポート
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本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、
分析したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは
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次回の JPEC レポート(2015 年度 第 26 回)は、
「ベトナム石油産業の動向」
を予定しています。
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