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未利用原油 - 石油エネルギー技術センター

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未利用原油 - 石油エネルギー技術センター
未利用原油(含む非在来型原油)の輸入可能性調査
一般財団法人 石油エネルギー技術センター 調査情報部
佐藤光範
1.調査目的
日本は、1 次エネルギーの約 43%(2014 年)を石油に依存している。しかしながら、国産原油
はほとんど生産されていない(内需の 0.3%)ため、ほぼ全量を輸入に依存している。日本の原油
輸入先においては、かねてより中東産原油に大きく依存(2015 年 中東依存度 約 82%)した状態
が継続している(図 1.1 参照)
。
(単位:万 kℓ)
(中東依存度)
30,000
92%
25,000
90%
20,000
88%
15,000
86%
10,000
84%
5,000
82%
その他
中南米
アジア
欧州
0
中東
中東比率
80%
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014 2015年
図 1.1 日本の原油輸入先推移(出所:経済産業省)
日本としては、エネルギー安全保障の観点からも、すみやかな中東依存度の低減が求められて
いる。本調査では、原油輸入ソースの多様化を目指すにあたり、未利用原油(含む非在来型原油)
の輸入可能性を探り、得られた情報を開示することを目的とする。
2.調査内容
本稿での輸入可能性調査においては、世界の産油国の中で日本が輸入可能な未利用原油を有す
る国を選定する。なお、選定においては、経済性および安定調達性を担保できる産油国を必要条
件とする。
BP 統計(2015 年)によると、世界の主な産油国は 49 ヶ国がリストアップされており、当該
産油国で世界の生産量の約 99%を占めている。本調査では、前述した産油国の中から Hart Energy
社の調査報告書および当センター独自調査を元に輸入可能性を考察し、日本にとって有望な産油
国ならびに未利用原油名を選別し優位性の比較検討を行う。
1
3 調査産油国の事前選定
3.1 未利用原油の定義
世界には約 500 種の原油があると言われているが、日本が過去 20 年で輸入した原油は約 200
種である。本稿で述べる未利用原油とは、在来型原油および非在来型原油を問わず、日本が輸入
実績のない原油および少量しか輸入実績のない原油を指すものとする。
3.2 未利用原油を保有する産油国の選定基準
本稿では未利用原油選定手順として、まず前述した産油国の中から原油生産量実績(2015 年)
が多い上位 25 ヶ国(同年 世界生産量の約 92%に相当)を 1 次選定国した。選定理由としては、
原油生産量が少ない産油国からは、経済的かつ安定的な輸入確保が懸念されるためである。
次に最終選定として、当センター独自の選定項目および選定基準値により選考を進めるものと
する(表 3.1 参照)。なお、前述した選定項目および選定基準値は、全て並列条件(項目による優
先度を設けない)とする。ただし、前述した条件に適合しない産油国であっても、ポテンシャル
があり日本にとって有益と推定される産油国は、当センターとして選定国として挙げる。
表 3.1 選定項目および選定基準 (出所:JPEC)
選定項目
原油輸入実績
輸入量が年間 50 万 kℓ 未満の産油国
原油可採年数
可採年数が 10 年以上有する産油国
単純輸出余力
地政学上のリスク
3.3
選定基準値
単純輸出余力(原油生産量 - 原油消費量)
が 100 万 BPD 以上有する産油国
外務省の危険レベルが 3 以下の産油国
最終選定産油国
表 3.1 の選定項目および選定基準値により、最終選定された産油国は 4 ヶ国(カナダ、ベネズ
エラ、ナイジェリアおよびノルウェー)となる(表 3.2 参照)
。
なお、前述した選定条件からは非該当となったロシアおよび米国は、下記理由により当センタ
ーとして最終選定産油国として残すものとし、以上合計 6 ヶ国を今回の調査対象国とする。なお、
各産油国の詳細な内容については 4 項で記載する。
・ロシア:東シベリアおよびサハリンで開発中の新規未利用原油が期待できる、産油量も多く
輸出余力がある、海上輸送距離が約 3 日と最短距離、輸出インフラ整備済、政治的
安定などメリットが多いこと
・米国:未利用原油であるシェールオイルなどの産油量も多く輸出余力がある、原油輸出禁止
法の解禁、政治・経済的安定、関係法整備済などメリット多いこと
2
表 3.2 最終選定国比較表
産油国
2015 年
生産量
万 BPD
2015 年
輸入実績
万 kℓ
選定基準
上位 25 ヶ国
50 未満
10 以上
100 以上
レベル 3 以下
例外理由
2014 年
2014 年
地政学上の
可採年数 単純輸出余力
リスク
年
万 BPD
(外務省)
選定国
1
ロシア
1,072
1,660
26.3
757
レベル 1
最短距離
2
サウジアラビア
1,051
6,595
69.6
733
レベル 1
非選定国
3
米国
920
16
14.4
-984
無
輸出禁止解除
4
中国
428
0
11.6
-678
無
非選定国
5
カナダ
369
0
128.4
132
無
選定国
6
イラク
360
322
114.2
284
レベル 3
非選定国
7
イラン
330
989
131.0
128
レベル 1
非選定国
8
UAE
323
4,935
83.0
236
無
非選定国
9
クウェート
288
1,452
96.6
238
レベル 1
非選定国
10 ベネズエラ
243
47
336.3
161
レベル 1
選定国
11 メキシコ
242
258
12.6
48
レベル 1
非選定国
12 ブラジル
233
0
19.0
-90
レベル 1
非選定国
13 ナイジェリア
231
0
57.4
201
レベル 3
選定国
14 カタール
166
1,604
42.4
135
無
非選定国
15 アンゴラ
166
59
21.0
152
レベル 1
非選定国
16 カザフスタン
155
119
53.0
127
レベル 1
非選定国
17 ノルウェー
154
0
15.5
130
無
選定国
18 アルジェリア
143
0
23.4
133
レベル 4
非選定国
19 コロンビア
99
162
6.6
68
レベル 1
非選定国
20 オマーン
94
132
15.2
74
無
非選定国
21 アゼルバイジャン
83
0
23.1
73
レベル 1
非選定国
22 英国
80
0
2.1
-70
無
非選定国
23 インド
78
0
20.0
-307
レベル 1
非選定国
24 インドネシア
78
439
13.0
-86
レベル 1
非選定国
25 エジプト
65
0
15.2
-16
レベル 2
非選定国
合計
7,456
18,784
選定国数
25 ヶ国
12 ヶ国
23 ヶ国
14 ヶ国
24 ヶ国
6 ヶ国
*注意
4
(出所:JPEC)
赤字:選定基準値に非該当
選定産油国の考察
3 項で最終選定した 6 ヶ国について、各国別に石油確認埋蔵量、生産量、輸送ルート(国内輸送、
輸出基地、輸出港および海上輸送)
、地政学上のリスクおよび日本と競合する輸入国などを報告す
る。なお、海上輸送距離は、日本とサウジアラビア間の片道 約 20,000km(航行日数 約 20 日間)
を基準とする。また、日本への原油輸入見込価格は 5 項で報告する。
3
4.1
ロシア
ロシア産原油は、2001 年より本格輸入が開始され、その輸入量および輸入シェアは増加傾向に
ある。2015 年には、全輸入量の 8.5%と中東地域に次ぐ輸入国となっている。
4.1.1
石油確認埋蔵量
2015 年 BP 統計によると、ロシアの原油埋蔵量は、1,032
億 bbl を有しており世界第 6 位の資源国である(図 4.1.1 参
照)。しかしながら、同国の原油埋蔵量は既存油田の成熟化
により漸減傾向が続いている。それに伴い可採年数も 26.3
年と世界平均(57.5 年)の半分程度となっている。
4.1.2
米国
485
UAE
978
クウェート
1,015
ロシア
1,032
ベネズエラ
2,983
石油
確認埋蔵量
1兆7,001億bbl
(2014年)
イラク
1,500
サウジ
2,670
カナダ
1,729
イラン
1,578
図 4.1.1 世界の原油確認埋蔵量
(出所:BP 統計)
石油生産
ロシアは、生産量が消費量を大きく上回
っており、世界最大の単純輸出余力を有す
る産油国である。2015 年 同国は 1,072 万
BPD を生産しており、世界最大の石油生産
16
14
12
生産量
輸出量
10
8
6
国にもなっている。
Hart Energy 社によると、ロシアは 2035
年まで石油生産量および石油輸出量共に着
4
2
0
2015年
実に伸びると予測されている
(図 4.1.2 参照)。
4.1.3
その他
2,547
15%
リビア
484
2020年
2025年
2030年
2035年
図 4.1.2 生産量と輸出量見込
(出所:Hart Energy)
原油輸送
ロシア産原油は、主
に Pipeline で輸送され
ている。同国の主要な
Pipeline は、Transneft
社(国営企業)により
Kozmino 港
運営および管理されて
いる。これら Pipeline
は、主要油田地帯と同
国の輸出基地および国
際 Pipeline と接続され
ており、同国産原油の
約 90%を輸送している
(図 4.1.3 参照)
。
図 4.1.3 原油 Pipeline ネットワーク(出所:Transneft)
4
4.1.4
アジア向け輸出原油
代表的なアジア向けロシア産輸出原油は、下記 4 油種が挙げられる(図 4.1.4 参照)。
【ESPO 原油】
(単位:万 kℓ)
ESPO Pipeline 建設に伴って誕生した原油
(輸入比率)
1,800
である。東シベリアの Vankor 油田を中心に
しているが、一部 西シベリア各地の原油もブ
レンドされた中質・低硫黄原油である
【Sokol 原油】
サハリン-1 によって生産されている軽質・低
9%
1,600
その他
8%
1,400
Espo原油
7%
1,200
Sokol原油
6%
1,000
Vityaz原油
5%
800
4%
600
3%
400
2%
200
1%
0
硫黄原油として高い評価を得た原油である。
0%
2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
【Sakhalin Blend 原油】
サハリン-2 によって生産されている Vityaz 原油
図 4.1.4 日本のロシア産原油輸入推移
(出所:経済産業省)
に、Kirinskoye ガス田のコンデンセートを加えた軽質・低硫黄原油である。
【Vityaz 原油】
サハリン-2 によって生産されている軽質・低硫黄原油である。
4.1.5 原油輸出港
ロシアは、原油輸出を行う 20 以上の港湾がある。極東地区では、Kozmino 港から ESPO 原油
が、De-Kastri 港から Sokol 原油が、Prigorodnoye 港から Sakhalin Blend 原油および Vityaz 原
油が輸出されている。また、各輸出港から日本まで片道最短距離(約 1,700km)である。
4.1.6
競合輸入国
2014 年 ロシア産原油の輸出先は歴史的に欧州向け(72%)が多いが、同国の東方重視政策に
より近年アジア向け(26%)が伸びてきている。なお、アジアの主な輸入競合国としては、中国、
韓国およびベトナムが挙げられる。特に中国は、同国石油産業への出資ならびに Pipeline 2 本が
直接繋がっておりアジア最大(14%)の輸入国となっている。
4.1.7
地政学上のリスク
2014 年 ロシアは、ウクライナ領クリミア半島を一方的に併合したことにより、欧米諸国から
経済制裁を受けており、日本もこの経済制裁に加わっている。また同国は、同年半ばからの油価
低迷により、石油収入が激減し経済的に苦境に陥っている。
4.1.10
まとめ
・日本は、ロシア極東地域から原油輸入を継続中である
・極東地区および東シベリア地域の在来型原油埋蔵量が豊富であり、新規油田を開発中である
・極東輸出港湾まで原油 Pipeline 網および輸出ターミナルが整備されている
5
・同国産原油の輸入は、海上チョークポイントを通航せず、かつタンカー運航距離も中東はもと
より比較検討国の中で最短距離となっている
・日本は、欧米諸国と同調し経済制裁を実施している
4.2
米国
米国は、2015 年 世界第 3 位の石油生産国になっている。しかしながら、米国のシェールオイ
ルの増産が、2014 年 7 月以降の原油価格の急激な低下の要因の 1 つとなっている。
4.2.1
石油埋蔵量
米国は、2009 年以降 埋蔵量が急激に増加しており、BP 統計によると世界第 9 位(2014 年)
となっている。これは、シェールオイルの増産により、シェール層の資源探査が進んだことが影
響している。
4.2.2
石油生産と在庫
米国では、在来系原油とシェールオイルと
(在庫:億 bbl)
(価格:ドル/bbl)
6
呼ばれる非在来型原油を生産している。シェ
5
ールオイルは近年生産が開始され、全米各地
5
US$120
US$100
US$80
に Shale Plays と呼ばれる油田地帯がある。
2014 年 7 月からの原油価格の急落により、
シェールオイル生産は停滞し、それに伴い生
産リグ数も減少している。一方、需要減少に
US$60
4
US$40
4
在庫量
3
2011年
より民間在庫は、過去最大水準になってきて
2012年
2013年
2014年
2015年
図 4.2.1 民間在庫量と WTI 価格推移
(出所:EIA)
いる(図 4.2.1 参照)
。
4.2.3
US$20
WTI
原油輸送
米国では、シェールオイルの増産により原
油の国内輸送が課題となっている。米国での
原油輸送は、Pipeline および鉄道輸送が中心
である。なお、Pipeline は建設に時間と多額
の費用を要すること、建設工事および漏えい
にともなう自然環境破壊、長期の輸送契約期
間が必要など多数の課題がある。一方 米国
では、全米に鉄道網のインフラが整備されて
おり石油 Pipeline の輸送能力不足を補うた
め、鉄道(タンク車)を利用した輸送方法が
図 4.2.2 原油 Pipeline ネットワーク
(出所:Hart Energy)
拡大を続けている(図 4.2.2 参照)
。
6
US$0
2016年
4.2.4 原油の輸出解禁
2015 年 12 月 米国は、過去 40 年間禁止していた原油輸出を解禁した。今回の輸出解禁理由と
しては、下記が挙げられる。
・シェールオイルの増産による在庫の増加が生産への弊害があること
・製油所が重質原油処理に適した装置構成になっており、シェールオイル処理に不適であること
・輸出解禁は、世界の原油需給が緩和され原油価格の低下することにより、米国での石油製品価
格が連動して低下し、消費者にメリットが出ると EIA が発表したこと
4.2.5
輸出ルート
米国の太平洋側輸出基地は現状整備されていないため、同国産原油輸出はメキシコ湾側からに
なる。同湾側輸出港からパナマ運河経由で輸送すると片道約 17,200km あり、中東産原油の輸送
距離より約 5,200km(航行日数 9 日追加、試算条件:同運河での待船時間なし)長くなる。なお、
パナマ運河は、2016 年前半に完成予定を目指し拡張工事を実施している。
この工事が完成すれば、
タンカー積載量も 8 万 DWT から 15 万 DWT に大型化が可能になる予定である。
4.2.6
競合輸入国
米国産原油は、カナダおよび欧州へ輸出されてきた実績がある。米国は、カナダ産オイルサン
ド希釈用にコンデンセートを輸出している。また、欧州向けにも輸出禁止法の例外事項を利用し
て輸出されていた。そのため、現状取引関係がある両地域が競合国となる。また、アジアの競合
国としては、中国および韓国が挙げられる。
4.2.7
まとめ
・シェールオイルが豊富に産出しており輸出余力がある
・原油の民間備蓄在庫は、増加しており過去最高の水準(5 億 bbl 以上)に達している
・2015 年 12 月に 40 年間継続していた原油輸出禁止を解禁した
・米国の輸出基地はメキシコ湾側港湾に集中している
・太平洋側向け Pipeline 網が少なく、輸出インフラの整備が進んでいない
4.3
カナダ
カナダは、2003 年 オイルサンドが技術的かつ経済的に回収可能であると判明してから確認埋
蔵量が急増している。
4.3.1 石油埋蔵量
BP 統計によると、2014 年 カナダはベネズエラとサウジアラビアに次いで、石油確認埋蔵量は
1,729 億 bbl(世界第 3 位)である(図 4.1.1 参照)
。なお、そのうち約 97%(約 1,670 億 bbl)がオ
イルサンドとされている。
7
4.3.2 石油生産
(単位:百万 BPD)
2015 年 カナダは、世界第 5 位の石油生産
見込
国である。同国はオイルサンド由来原油(超
重質原油)が大半を占めており、その比率は
オイルサンド
過去 10 年間徐々に増加してきている。特に、
Alberta 州のオイルサンドから生産される稀
その他
釈ビチューメン(Dilbit)およびアップグレー
在来型原油
ド(改質)された合成原油(SCO)によって伸
びている(図 4.3.1 参照)
。
図 4.3.1 原油生産量と見込 (出所:EIA)
4.3.3 原油輸送
カナダ・エネルギー・パイプライン協会(CEPA)の所属会社が総延長約 35,400km の Pipeline 網
を運営し、330 万 BPD の石油を輸送している。特に同国西部州から約 180 万 BPD が米国の中西
部地域(PADD 2、3)へ送られている。なお石油輸送量の増加分は、内陸部の Pipeline 能力を超え
るため、鉄道タンク車でも輸送されている。
Northern Gateway Pipeline
4.3.4
原油輸出
Kitimat
カナダの石油輸出は、Pipeline により主に米国
Pipeline
urnaby
Edmonton
のメキシコ湾岸方面へ輸出している。一方、太平
洋側向けには、現行 1 本のみであるが、下記 2 件
の Pipeline 計画がある(図 4.3.2 参照)。
Burnaby
・Trans Mountain Pipeline と同じ用地内に、第 2
Pipeline(輸送能力 59 万 BPD)を建設すること
Trans Mountain Pipeline
を目指しているが、まだ着工されていない
・Kitimat 港を終点とする Northern Gateway
図 4.3.2 太平洋側向け Pipeline
(出所:Hart Energy)
Pipeline プロジェクトを進めている。同プロジ
ェクトは、原油 Pipeline(輸送能力 52.5 万 BPD)
およびコンデンセート用 Pipeline(輸送能力 19.3 万 BPD)を 2018 年に稼動開始予定である。し
かしながら、環境破壊問題から住民が反対活動をしており、完成は不透明になっている
4.3.5 原油輸出港
Burnaby 石油基地は、Trans Mountain Pipeline の終点にある輸出基地である。同輸出基地は、
唯一太平洋側に面しており、日本への海上輸送上 チョークポイントは存在しない。同港から東京
湾までの片道距離は、約 8,000km(タンカー航行日数:約 13 日)となり、中東からの運航距離
に比べると、約 4,000km(航行日数:約 7 日)の短縮となる。
8
4.3.6 競合輸入国
カナダ産原油の最大の輸入競合国は米国である。前述したようにカナダは、米国と地続きの隣
国であり Pipeline 等の複数のインフラが整備されている。
4.3.7 まとめ
・オイルサンドを増産しており、十分な輸出余力がある
・原油の性状は超重質油であり、現地でのアップグレードまたは希釈することが必要である
・同国からの太平洋側への Pipeline 輸送は、1 本のみであり輸送量が限定されている
この課題を解決するため 2 本の Pipeline 計画があるが、環境問題で進展していない
・輸入競合国は、輸送インフラが整備済の米国である
4.4
ベネズエラ
ベネズエラは、石油収入に大きく依存した国家
である。2014 年 7 月から継続している石油価格
の急落が同国経済をさらに悪化させている。同国
は、世界最大の石油埋蔵量を保有しているにもか
かわらず、同国経済は破綻状態にありデフォルト
の危機に直面している。また、超インフレと物不
足が国民生活を直撃しており、混乱に拍車を掛け
ている。
4.4.1
図 4.4.1 オリノコベルト地帯
(出所:PDVSA)
石油埋蔵量
BP 統計によると、2014 年 ベネズエラは、世界最大の石油確認埋蔵量(2,983 億 bbl)を有し
ている産油国である。ベネズエラの油田は、大きく西部地区と東部地区に分かれている。なお、
西部地区の油田は、すでに成熟しており今後大きな増産は見込めない。一方、東部地区の油田は、
オリノコベルト地帯とも呼ばれ、世界最大の超重質原油(オリノコタール)および Bitumen を埋
蔵している。なお、前述した超重質原油は、カナダのオイルサンドと異なり、油層内で流動性が
あるため坑井から直接産出することが可能である(図 4.4.1 参照)。
4.4.2
石油生産
Hart Energy 社によると、2015 年 ベネズエラの生産量は 243 万 BPD であった。なお、同国
の石油生産量予測は、2020 年は 2015 年に比べ若干減少するが、その後は回復し緩やかな増産に
向かうと予測されている。同国には 4 基のアップグレーダーがあり、合成原油の生産能力合計は
63 万 BPD である。
9
4.4.3
原油輸出
近年 ベネズエラの最大の輸出先であった米国が、シェールオイルの増産により同国からの輸入
が半減していることもあり、同国の輸出余力増加に拍車を掛けている。また、Hart Energy 社に
よると、同国の今後の原油輸出は、同国の消費量がほぼ変わらないため、生産量と同様に 2020
年は若干減少するが、その後は増加傾向を示す見込である。
オリノコベルト地帯は、内陸にあるため同地帯で産出する原油は、改質後 Pipeline で大西洋岸
の輸出基地まで輸送する必要がある。石油輸出港として 4 ヶ所(Punta Araya 港、Jose 港、
Maracaibo 港、Puerto Cabello 港)を有している。
ベネズエラから日本へ輸出するには、同国の輸出基地からパナマ運河を経由して太平洋を横断
する必要がある。同国から東京湾までの片道輸送距離は、約 15,500km(タンカー運航日数:約
26 日)と中東より約 3,500km 遠距離(航行日数 6 日間追加、パナマ運河待船時間なし)となる。
4.4.4
競合輸入国
ベネズエラ産石油の主な輸出先は、米国、中南米諸国、中国およびインドである。特に、メキ
シコ湾岸に集中している米国の石油精製業者は、ベネズエラ産原油を長年処理しているため、技
術知見があり日本にとって最大の競合国となる。また、中国およびインドも重質油分解装置を多
く保有しており、日本にとって競合国となる。
4.4.5
まとめ
・米国の同国産原油輸入量削減もあり、輸出余力は増大している
・原油性状は、超重質油であり硫黄分および全酸価値も高いことから改質処理が必要となる
・輸送距離は、中東産原油の輸送距離より約 3,500km 遠距離(航行日数 6 日追加)となる
・パナマ運河は、2016 年前半に拡張工事が完成予定であり、通航時間およびタンカーサイズを
大型化でき、拡張前より運航コスト低減になる
・輸入競合国として、米国、中南米諸国、中国およびインドが挙げられる
・ベネズエラ経済は破綻しており、現状 大規模な石油施設の改善が困難である
4.5
ナイジェリア
ナイジェリアは、アフリカ最大の石油生産国であり、アフリカ最大の経済大国にもなっている。
しかしながら同国は、石油および天然ガス資源に大きく依存しており、2014 年 7 月以降の油価
下落は同国経済に大きな影響を及ぼしている。
4.5.1 石油埋蔵量
Oil & Gas Journal によれば、2014 年のナイジェリアの石油確認埋蔵量は 370 億 bbl であり、
同国の石油埋蔵量の多くは、ニジェールデルタとギニア湾内の沖合に集中している。
10
4.5.2
石油生産
Hart Energy 社によると、ナイジェリアの生産量は緩やかに増加する見込みである。また、輸
出量も生産量に合わせるように緩やかに増加すると予測されている。
4.5.3
原油輸出
(単位:千 BPD)
2014 年 ナイジェリア産原油の最大
輸出先は、欧州(約 90 万 BPD)であ
り、国別ではインドへ約 37 万 BPD を
輸出している。一方、米国向けはシェ
ールオイルの増産の影響を受け急激に
減少している(図 4.5.1 参照)。
同国の輸出基地は、Port Harcourt
港、Forcados 港、Esrcavos 港、
図 4.5.1 原油輸出先推移(出所:EIA)
Pennington 港、Brass 港、Bonny 港
および Qua Iboe 港などが挙げられる。同国産原油の日本への海上輸送は、希望峰廻りのため長距
離(片道約 20,400km)となる。中東産原油の輸送日数に比べ、片道約 8,400km (航行日数:14
日追加)も多く要するため、タンカーフレートもその分加算される。
4.5.4
競合輸入国
ナイジェリア産原油の輸入競合国としては、欧州、中国およびインドが挙げられる。特に中国
は、同国の石油権益への積極的な投資をしており強力な競合国となる。
4.5.5
地政学上のリスク
ナイジェリアでは、石油輸出に関し石油窃盗団、海賊の出没、イスラム過激派の襲撃および
Pipeline からの石油漏えいによる環境破壊などの地政学上のリスクがあり、時に Force Majeure
も宣言されるなど安定供給面で不安がある。
4.5.6
まとめ
・石油輸出余力は、米国向けが急減しているため増大傾向にある
・海上輸送距離は長距離となるため、輸送コストが高くなる
・地政学上のリスクとして、深刻な治安問題(石油窃盗団、海賊、イスラム過激派)および環境
破壊問題がある
4.6
ノルウェー
ノルウェーは、北海油田、ノルウェー海油田およびバレンツ海油田の 3 大油田地帯を有してお
り、西欧州最大の産油国である。
11
4.6.1
石油埋蔵量
ノルウェーの石油埋蔵量は、87 億 bbl と多くはない。特に北海油田が成熟しており、1990 年代
後半より年を追うごとに低下してきている。
4.6.2
石油生産
ノルウェーは、石油生産量が消費量より多く単純輸出余力を有する産油国である。Hart Energy
社によると、同国は新たな有望油田が開発されていないため、石油生産量および石油輸出量も今
後緩やかに低下すると見込まれている。
4.6.3
原油輸送
ノルウェーは、原油 Pipeline を 8 本有しており、17 万 BPD の輸送能力がある。また、Pipeline
で運べない原油は、シャトルタンカーで陸上基地に輸送されている。
4.6.4
原油輸出
ノルウェーは、2014 年 地理的メリットから、輸出原油の 98%を大市場である欧州域内国に輸
出している。特に、Pipeline で繋がっている英国向けが最も多くなっている。同国産原油を日本
が輸入するには、片道航行距離が約 21,800km となり、今回の調査国の中で 1 番遠い産油国とな
る。中東産原油より約 9,800km 遠く(航行日数:16 日追加)となる。なお、同国の輸出港は、
Drougen 港、Mongstat 港、Sture 港、Karsto 港および FPSO となる。
4.6.5
競合輸入国
ノルウェー産原油の競合国は、前述したように欧州諸国である。しかしながら、近年 欧州の需
要減少にともない、石油精製部門で合理化が進む見込みである。そのため欧州の輸入量減が予想
され、競合はそれほど激しくなくなると推定される。
4.6.6
まとめ
・ノルウェーは、政治・経済が安定した西欧州最大の産油国である
・輸出余力は、年々低下傾向にある
・海上輸送距離は、選定国 6 ヶ国中 1 番長く輸送コストが高くなる
・競合輸入国は、欧州諸国となる
5
原油輸入見込価格
Hart Energy 社によると、
選定国 6 ヶ国から日本への輸入価格見込みを示す(図 5.1~5.4 参照、
各直径は各産油国の生産量見込を表す)
。なお、この原油価格見込みは、2015 年の原油価格(FOB)
をベースにその後の原油価格変動幅見込値を比例計算して、CIF 価格を算出したものである。
なお、参考までに日本の輸入原油平均性状(2014 年)は、API 度:36.0、S 分:1.43wt%とな
っている(出所:経済産業省)
。
12
60
50
ノルウェー
50
40
API 度
API 度
60
米国
ロシア
30
20
カナダ
10
$75
ベネズエラ
30
20
ナイジェリア
10
0
$70
40
0
$80
$85
$90
$95
$100
$105
図 5.2 2025 年 原油 CIF 価格見込
(出所:Hart Energy)
60
60
50
50
40
40
API 度
API 度
図 5.1 2020 年 原油 CIF 価格見込
(出所:Hart Energy)
30
20
30
20
10
10
0
$120
$130
$140
0
$140
$150
$145
図 5.3 2030 年 原油 CIF 価格見込
(出所:Hart Energy)
$150
$155
$160
図 5.4 2035 年 原油 CIF 価格見込
(出所:Hart Energy)
6 まとめ
選定 6 ヶ国のメリットおよび課題と懸念事項を以下にまとめる(表 6.1 参照)。
表 6.1 選定 6 ヶ国のまとめ
選定国
生産量
輸出余力
万 BPD
万 BPD
日本向け輸出
推奨原油例
輸出港湾
輸送距離
km
ESPO
ロシア
1,077
757
Sokol
極東
Vityaz
側各港
1,700
Sakhalin Blend
920
-984
在来型原油
メリット
課題、懸念事項
・埋蔵量:豊富
・経済:危機状態、ルーブル安
・輸出インフラ:整備済
・競合国:中国、韓国、欧州、ベトナム
・東方重視政策
・ウクライナ問題:経済制裁
・投資:最低限
シェールオイル
米国
メキシコ
湾側各港
17,300
・輸出禁止法:解除
・パナマ運河の通航
・政治・経済・法体系:安定
・太平洋側からの輸出:Pipeline 能力不足
・競合国:カナダ、欧州、中国、韓国
・投資:シェールオイル処理
カナダ
369
132
オイルサンド
太平洋
(改質油)
側各港
オリノコタール
(改質油)
カリブ海
側各港
8,000
・埋蔵量:豊富
・太平洋側からの輸出:Pipeline 能力不足
・政治・経済・法体系:安定
・競合国:米国
・投資:オイルサンド処理
・パナマ運河の通航
ベネズエラ
243
161
15,500
・埋蔵量:豊富
・競合国:米国、中南米、中国、インド
・経済:破綻状態、超インフレ、物不足
・オリノコタール処理投資
Bonny Light
ナイジェリア
231
201
Akpo
Alvheim Blend
ノルウェー
154
130
Asgard Blend
ギニア湾
側各港
北海
側各港
$165
・競合国:欧州、南アフリカ、中国、インド
20,400
・投資:最低限
・経済:危機状態、ルーブル安
・治安悪化、インフラ破壊
21,800
13
・輸出インフラ:整備済
・埋蔵量・生産量:低下
・政治・経済・法体系:安定
・チョークポイント:3 ヶ所通航
・投資:最低限
・競合国:欧州
図
選定国 6 ヶ国から日本への輸入可能性について前述まで記載したが、各産油国においてメリッ
ト、課題および懸念事項等がある。また、原油輸入価格については、将来予測が困難であり前述
のような計算予測値に留める。実際の輸入価格については、各石油精製企業の個別交渉によって
決定するため、当センターとして経済性のある産油国の特定コメントは控える。
なお、可能であれば継続調査として、輸入可能性が有望な原油サンプルを入手し、機器分析等
によりさらに詳細な性状解析をする。その結果を当該原油処理するにあたり、石油精製業界なら
びに関係機関等に技術情報提供できれば幸いである。
14
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