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11月号 - 石油エネルギー技術センター

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11月号 - 石油エネルギー技術センター
CONTENTS
■ 特 集
◎カナダオイルサンド原油の輸入が精製設備及び
石油製品品質に及ぼす影響調査
1
◎カナダオイルサンド油の調達に関する調査
6
◎欧州・米国石油政策・技術動向報告
<欧州>
9
<米国>
13
2007.11
特集
カナダオイルサンド原油は非在来型の超重質原油であり、中東原油と比べると使いに
くい原油ですが、豊富な埋蔵量とカナダという国のカントリーリスクの低さから原油調
達先として大きな可能性を持っています。原油輸入の約90%を中東に依存している我が
国にとってエネルギーセキュリティ上からもその活用検討は重要になっています。
カナダでは近年の原油高を背景に開発プロジェクトが目白押しとなっていますが、こ
うした状況を踏まえ、今回は具体的な輸入を想定して、カナダ・米国製油所でのオイル
サンド原油処理の実態、我が国製油所へ輸入した場合の処理の課題、そしてその経済性
を判断するための相対価値評価について調査しました。
1. オイルサンドとは
オイルサンドとは砂、粘土、水と油の混合物で、これは石油を含んだ油層が地殻変動
で地表近くに移動し、揮発や水・バクテリヤの影響により軽質分を失ったものです。砂
や粘土の中に10%程度のビチュメンと呼ばれるアス
ファルトに近い重質油分が含まれています。
これを露天掘りまたは油層内回収と呼ばれる方法
で回収し、ビチュメンを抽出します。油層内回収の
うちSAGD(Steam Assisted Gravity Drainage)と呼
ばれる方法を図1に示します。抽出されたビチュメ
ンは粘度が高いためコンデンセート等により希釈し
てパイプラインで移送され、希釈ビチュメンとして、
或いはこれに熱分解、水素化脱硫等のアップグレー
ディング処理を加えて合成原油として、ほとんどが
カナダ国内及び米国向けに出荷されています。カナ
1
2007.11
ダのオイルサンドはカナダ北西部に分布しており、確認埋蔵量は1,790億バレルで、サウ
ジアラビアに次いで世界第2位の埋蔵量です。
①オイルサンド層に上下
に平行な2坑を掘削し
上位の坑にスチームを
圧入。
②加熱され粘性が下がっ
たビチュメンを下位の
坑から回収。
図1
SAGD法によるビチュメンの回収
2. オイルサンド原油の品質
オイルサンド原油の品質は輸入可否の一番のポイントとなるため、本調査と並行して、
カナダ・米国で流通している各種オイルサンド原油サンプルを入手し、分析評価を行い
ました(分析期間;平成18年10月∼19年2月)
。
オイルサンド開発会社から入手したサンプルは表1のとおりです。
表1
オイルサンド原油種
合成原油
オイルサンド原油の入手サンプル サンプル数
5
内訳
スウィート原油;OSA、SSB、SSX
サワー原油;OSH、OCC
希釈ビチュメン
4
ビチュメン
2
Dil-Bit; 3 CLB(Dil-Bit;コンデンセート30%)
Syn-Bit; 1 CSB(Syn-Bit; 合成原油50%)
露天掘り
油層内回収(SAGD)
計
OSA、OSH、OCC;Suncor社
SSX、Dil-Bit;Shell-Canada社
CLB;Imperial Oil社
11
SSB、ビチュメン(露天掘);Syncrude社
CLB、CSB;EnCana社
ビチュメン(SAGD);Petro-Canada社
入手したサンプルを図2に、また主な分析結果を図3、図4、図5に示すとともに、合成
原油と希釈ビチュメンの特徴比較を表2に示しました。
2
(2)原油重質化動向(図2)
2030年頃までの我が国における輸入原油のAPI動向は、エネ研ならびに海外シンクタ
ンク等の調査結果に基づき、重質化の進展別にシナリオを想定しました。次に、これら
の想定APIに適合するように代表的な輸入原油を組み合わせた原油モデルを設定しまし
た。設定した原油モデルは、標準的な原油からなるリファレンスモデルと、2010年以降
に重質化が更に進展すると想定した中程度モデルと著しく進展した重度モデルの合計3通
りです。
図2
入手サンプル(左;希釈ビチュメンCLB、右;合成原油OSA)
100 %
軽 質 ナフ サ
重 質 ナフ サ
80 %
留
分
得
率
容
量
%
灯油
IB P ∼ 80 ℃
80 ∼ 150 ℃
150 ∼ 270℃
270 ∼ 360℃
360 ∼ 400℃
400 ∼ 538 ℃
538 ℃ ∼
60 %
軽油
40 %
重質軽油
20 %
減 圧 残 渣
減圧軽油
0%
OS A
図3
SSB
D il - B it
B it
オイルサンド原油の各留分得率
1
4
3 .5
0 .9 5
3
0 .9
硫
黄
分
密
0 .8 5
度
2
1 .5
(w t % )
1
0 .8
0 .7 5
0 .5
0 .7
SSB
図4
2 .5
D il - B it アラビアンエクストラ アラビアン
ヘビー(AH)
ライト(AXL)
オイルサンド原油の密度
0
SSB
図5
D il - B it
AX L
AH
オイルサンド原油の硫黄分
3
2007.11
表2
合成原油と希釈ビチュメンの特徴比較
合成原油(スィート)
留分得率
ナフサ20%以下、灯油 ∼VGO
希釈ビチュメン
(ビチュメン70%:コンデンセート30%)
40%が V R
が80%以上
原油
全酸価の問題なし
全酸価極めて高い
(0.7∼1.8 m gKOH/g)
性
ナフサ
軽質ナフサ;オクタン価高い
(希釈コンデンセートの性状)
重質ナフサ;ナフテン分多い
状
灯油
煙点低く、N 分多い
(希釈コンデンセートの性状)
軽油
セタン指数(価)低く、N 分多い
希釈コンデンセートの影響大
減圧軽油(V GO) 芳香族分多い
芳香族分極めて多い
減圧残油(V R)
高硫黄分・窒素分、高金属分
V R 0%
高残炭分
3. 調査結果
(1)カナダ・米国製油所でのオイルサンド原油処理の状況
カナダ・米国製油所での処理については、オイルサンド原油100%を処理している製
油所と、従来原油に混合処理している製油所があります。
100%処理するためには希釈ビチュメンケースでは高酸価対策、コーカー等の分解装
置、水素化分解装置等が必要であり、また合成原油ケースでは減圧残油(VR)がないた
めの運転上の対策等、大幅な改造、投資が必要です。このような改造を実施、もしくは
計画している製油所はオイルサンド鉱区を所有し、安定してビチュメンを採取・供給で
きる一部の大手石油会社のみに限られています。
一方ほとんど設備改造をせずに混合処理している製油所は数多くあり、それらでは希
釈ビチュメン、合成原油ともに常圧蒸留装置に10∼15%混合処理しているところが多く
なっています。
カナダ・米国ではこの混合処理
により、合成原油の灯油留分をジ
ェット燃料油に混合使用したり、
あるいはディーゼル燃料のセタン
指数規格が日本に比べて低いこと
から合成原油の軽油留分をディー
ゼル燃料に多く使用しています。
装置での混合処理割合の制約要
因として、製品の品質制約のほか
に、合成原油では減圧軽油(VGO)
のFCC通油バランスとFCCの転化
4
図6
Syncrude社のアップグレーディング装置群
率低下の問題、希釈ビチュメンではコーカー装置の処理余力や全酸価が高いことによる
腐食の問題対応等が上げられます。
(2)我が国の製油所で混合処理した場合の装置運転や製品品質面への影響
我が国の製油所装置構成はコーカー等の重質油分解設備が少ないこと、そして今後想
定される更なるC重油の需要低下等から、VR留分を40%含む希釈ビチュメンより、VR留
分を含まない合成原油を混合処理する方が適していると思われます。
合成原油の混合処理にあたっては以下の事項に考慮する必要があります。
・灯油留分の煙点、軽油留分のセタン指数が低いので製品規格を維持するため、常圧
蒸留装置での混合割合は10∼15%程度に抑制する。
(表3 参照)
・FCC原料としてのVGOについては、芳香族分が多いため、混合量を増やすとガソリ
ンのオクタン価は上昇するが重質分解留分であるLCOやHCOが増加する。
表3
灯
油
市場品
SSB
OSA
硫黄分 ppm
3∼8
28
60
脱硫装置で脱硫
窒素分 ppm
0∼2
19
45
脱硫装置でどこまで下
がるかがポイント
23∼26
18
19
市場並みとするには10
∼15%程度混合
硫黄分 ppm
3∼8
600
1200
脱硫装置で脱硫
窒素分 ppm
0∼10
170
270
脱硫装置でどこまで下
がるかがポイント
セタン指数
53∼60
45
44
市場並みとするには10
∼15%程度混合
煙点 mm
軽
油
合成原油の灯油留分煙点、軽油留分セタン指数
備考
(3)オイルサンド原油の相対価値評価
オイルサンド原油の相対価値評価を行うにあたり、代表油種として合成原油のSSBと
中東のAXL(アラビアンエクストラライト)、希釈ビチュメンのCLBと中東のAH(アラ
ビアンヘビー)の比較を行いました。SSBとCLBの留分得率は今回のサンプル分析結果
を用い、留分価格は2006年平均輸入価格で計算しました。したがって当然マーケット価
格や装置構成等に大きく影響されますが、試算結果では重質油留分のないSSBが、AXL
より若干高く(+0.9$/BL)
、CLBはAHよりかなり低い(−4.6$/BL)という結果になりま
した(前提;AXL; 71$/BL、AH; 64$/BL)
。
前述のとおり、合成原油は10∼15%混合で製品品質には大きな影響を与えないと考え
られます。一方希釈ビチュメンについては販売価格がかなり安いので、コーカー設備を
有している製油所では処理を検討する価値があるかもしれません。
太平洋岸向け出荷パイプラインの建設動向や米国向け価格の動向によって中東との相
対的な購入価格も変動するため、経済性評価は随時変わっていくものと思いますがオイ
ルサンド原油の輸入を検討する上で一つの目安と見ることが出来ます。
5
2007.11
中東地域の増産余力、特に軽質原油の安定供給への懸念などの要因により原油価格の高止
まりが継続している中で、供給源の多様化の観点から非在来型原油への注目が高まっています。
このような状況の中で、今回特に埋蔵量が豊富で政治的にも安定しているカナダのオイル
サンドにつき、今後我が国石油会社による調達検討、実践交渉に寄与すると思われる情報を
収集し調査しました。
1. オイルサンド油の生産・販売状況
(1)生産(カナダ西部原油供給見通し)
CAPP(カナダ石油生産者協会)によれば、カナダ西部のオイルサンドの生産量は2005年実績の
99万BDから2020年には400万BDまで拡大する見通しです。カナダの原油生産量全体に占めるオイ
ルサンドの割合は2005年の40%から2020年には82%に拡大する見通しです。
オイルサンドは、下図のSyn-Bit、Dil-Bit、Total Upgraded Synthetic(合成原油)の合計、Heavy、
Lightは在来型原油です。
また、今後アルバータ州政府はビチュメンで輸出するより、アップグレードし付加価値を付け
た合成原油として輸出することを望んでいます。
(2)販売
① 2005年実績
・合成原油は、45%がカナダ国内、55%が米国向け。米国ではPADD 2(中東部)・PADD
4(中西部)が主要供給先。米国製油所では、合成原油を在来型原油に10∼15%混合し
て処理しています。
・希釈ビチュメンは、23%がカナダ国内、77%が米国向け。PADD 2が主要供給先です。
② 今後の新規販売先
・生産者は、分解装備率の高い米国PADD3(南部)及びPADD5(西部)を主要ターゲッ
トとして考えています。
・アジア向けも有望ですが、新設パイプライン計画の進捗は遅れています。一方既存パイ
プラインの段階的増強計画があり、またバンクーバー港湾内の浚渫工事が完了する2009
年には、Aframax(8∼12万DWT級)タンカーの入港も可能になる等、インフラは整備さ
れていくと思われます。
6
2. オイルサンド油のパイプライン増設計画
(1)太平洋向け新増設
下図の通り、キンダーモーガン社の増設とエンブリッジ社の新設計画があります。エンブリ
ッジ社のパイプラインが完成すれば、Kitimat港にてVLCCでの積荷が可能となります。
(2)カナダ→米国パイプライン増強計画(エンブリッジ社)
生産者は米国を販売増強の第一ターゲットと考えており、米国向けの増強計画が進んでいま
す。主要な増強計画は、次の通りです。
①SPEARHEAD
既存のFLANAGAN(イリノイ州)∼CUSHING(オクラハマ州)の増強。
12.5万BD→19万BD。2009年操業開始予定。
②PEGASUS
エクソン所有の既存のPATOKA(イリノイ州)∼BEAUMONT(テキサス州)に併設。
6.5万BD→45万BDへの拡張を検討。
3. オイルサンド油の売買価格決定方式
(1)合成原油(SSB)とWTI価格の
推移
合成原油の実績価格は、2005年初頭
は約50US$、2006年末は約60US$でほ
ぼWTIと同値であり、WTIを挟んで、概
ね±2US$、乖離が大きい時は±4∼
5US$のレンジを行き来しています。
(2)合成原油の売買契約条件
各生産者によりそれぞれ個別の違いはありますが、代表的な契約条件は次の通りです。
①価格フォーミュラ:WTI±スプレッド
②スプレッドの更新:毎月
③売買契約期間 :30、60、90日で当事者からの申し出がなければ自動更新
④受渡条件 :FOBエドモントン
⑤パイプライン輸送等による性状変化:他油種とのコンタミによる価格調整なし
7
2007.11
4. オイルサンド油の経済価値評価
価値評価の視点、評価の前提条件を次の通りとして、経済価値を試算しました。
(1)評価の視点
①オイルサンド生産者ネットバック比較
・生産者にとっての魅力度
・対象市場毎のFOBエドモントン価格の比較
②オイルサンド油と中東原油の経済性比較
・合成原油とAXL(アラビアンエクストラライト)のCIF日本価格の比較
(2)評価に当たっての前提条件
①対象市場及び指標原油
・シカゴ、クッシング
WTI 2006年プラッツ平均
・メキシコ湾岸
LLS
同上
・米国西海岸
ANS
同上
・日本
AXL
同上
②タンカーフレートは、ARGUS MARKETをベースに推定
③パイプラインタリフ、港湾使用料は現地調査会社情報
④日本(VLCCケース)は新設パイプライン通油での試算
(3)評価試算の結果
①2006年実績をベースに試算したオイルサンド生産者ネットバックについては、VLCCあ
るいは2009年以降Aframax船の使用が可能になれば、現行条件でシカゴ以外の米国市場
とは競合可能です。
②一方日本到着価格は、中東原油よりやや割高になるとの試算結果ですが、生産者はアジア
向けにも関心を持っており、価格フォーミュラには柔軟に対応する姿勢を示しています。
5. オイルサンド油の日本導入に向けての課題
(1)現地でのパイプラインを中心とする供給インフラの建設動向が未だ不透明であること。
またパイプラインの契約期間が長期を求められていること。
(2)米国、中国等他国との購入競合が激化するであろうこと。
(3)品質によるタンク繰り等の問題→日本での1社での受入れは困難であること。
(北米でも10∼15%の混合処理が一般的)
(4)その他の潜在リスク
現地生産コストの上昇と原油価格下落の可能性、バンクーバーから日本までの適船の確
保、現地インフラ内でのコンタミ対応等。
6. まとめ
(1)合成原油は現状パイプラインシステムでもスポット輸入が可能であり、フィードストッ
クへの一部混合であれば、日本でも既に処理可能です。
(2)日本への輸入の経済合理性を高めるには、業界横断的な共同輸入体制(コンソーシアム)
の構築も有効な手段であり、また石油企業によるカナダオイルサンド中流分野(アップ
グレーディング)への投資も検討に値すると考えられます。
(3)さらにより一歩進め、日本、中国、韓国3国で構成する輸入コンソーシアムによるアジ
アワイドでの輸入の検討も合理的であり、また日加間の技術協力、関係強化も広義の資
源外交として重要と思われます。
8
石油産業活性化センターではベルギーのブリュッセルおよび米国のシカゴに長期派遣員を1
名ずつ配して、欧米における石油・エネルギー関連の最新情報の収集活動を行っています。先般、
欧米派遣員2名が帰国し、この1年間に収集した情報をもとに関係機関・企業と意見交換を行い
ましたが、本稿では、その報告内容から抜粋して最新の欧米エネルギー事情をご紹介します。
<欧州>
欧州は現在加盟国が27カ国に膨れ上がった欧州連合(EU)を中心に、経済、産業の中心とし
て世界をリードする立場にあります。エネルギーや環境という分野においても、注目すべき政
策や規制が次々と実施されています。
1. 欧州のエネルギー事情
<一次エネルギー需要>
EU25ヶ国における一次エネルギー
の需要見込みによると、2020年頃ま
で増加傾向は続きます。しかし、そ
の内訳は大きく変化しており、天然
ガスや再生可能エネルギーの占める
割合が大きくなる一方、石炭の比率
が大きく減少します。また、現状最
大のエネルギー源である石油は、
2030年においても全体の3分の1を占
め、依然として重要な一次エネルギ
ーであることに変わりはありません。
図1
一次エネルギー需要見込み(石油換算千トン)1)
<石油製品需給状況>
欧州の石油製品については、軽油需要が非常に大きいという特徴があり、これは米国や日本
と大きく環境が異なります。ディーゼル車の比率が欧州全体では約半分もあり、フランス、ス
ペイン、ベルギー等では7割にも達します。これはディーゼル車の方がガソリン車に比べて燃費
が勝ること、軽油の方がガソリンよりも安価であること等が影響しており、TOTAL社の分析で
は今後の軽油需要は年率2.8%で伸びていくと予想しています。また、船舶の燃料は現在重油が
使用されていますが、これも環境への影響を緩和させるために、よりクリーンな油である軽油
に変更しようという議論が船舶業界を中心に始まっています。
現在の欧州における需給は、不足している軽油をロシアから輸入し、余剰となっているガソ
リンをアメリカへ輸出することでバランスが保たれています。2005年のIEAのデータでは、25
百万トンの軽油をロシアから輸入し、19百万トンのガソリンを北アメリカへ輸出しています。
しかし、今後の大幅な軽油需要増に対して他地域に頼るのではなく欧州域内での軽油供給を
増やす為、水素化分解装置の新設、増強の各種プロジェクトが計画されています。しかしなが
ら、これら水素化分解装置等の導入は、数千億円単位のコストがかかるため、全ての石油会社、
製油所で実行することは容易ではありません。またバイオディーゼル燃料の生産増によるバッ
クアップも期待されていますが、これらの対策を加味しても、2015年において軽油の需要と供
給のギャップは34百万トン/年となると予測されています。
9
2007.11
図2
軽油、ガソリンのEU輸出入バランス(2005年)2)
2. 欧州における新しい規制の動き
<燃料品質指令見直し>
欧州の石油業界に大きな影響を与える「燃料品質指令見直し案」が2007年1月31日に欧州委
員会から公表されました。この指令により、欧州委員会が、輸送用燃料の品質パラメーターと
制限値を規定すると共に、地球温暖化防止と大気環境対策の方針を打ち出すことが明らかにな
りました。
本指令の主な項目は次の通りです。
(1)2009年1月1日からサルファーフリー軽油(10ppm以下)、サルファーフリーガソリン
(10ppm以下)へと完全移行する。
(2)軽油中の多環芳香族炭化水素の上限を2009年1月1日から11wt%から8wt%に低減する。
(3)ノンロード燃料の硫黄分を低減する。
・陸上 1,000ppm → 10ppm以下(2010年初∼ )
・海上 1,000ppm → 300ppm以下(2010年初∼ ) → 10ppm以下(2012年初∼ )
(4)ガソリンへのバイオ燃料利用を促進する。
・含酸素基材の混合濃度上限緩和
・夏場の蒸気圧規制上限緩和
・給油時の揮発性有機化合物(VOC)回収設備の設置義務化
(5)燃料供給業者に対して燃料のライフサイクル温室効果ガスの削減を義務付ける。
・2009年1月1日からデータのモニタリングと報告の義務化
・2011年1月1日から年率1%削減し、2020年までに10%の削減を義務化
欧州における規制の決定過程は、欧州委員会による指令案の作成、その後欧州議会、欧州理
事会での議論、また各種利害関係者との認識合わせを経て、最終的に規制が決定されます。欧
州委員会は本指令案に対して利害関係者との会合をこれまでに2回開催し、意見交換を重ねてい
ます。この会合の議題は(5)のライフサイクル温室効果ガスの削減に対して行われており、利害
関係者から最も反発が強いものであることがわかります。見直し案の確定時期についてははっき
りしていませんが、欧州委員会としては2008年中には確定させたいという意向を持っています。
<燃料品質指令見直し案に関する利害関係者会議>
本年5月と7月に開催された利害関係者会合では本指令案に賛成である環境団体と反対である
石油業界の議論が展開されました。環境団体は、今回の指令案は、掲げた目標も高く環境対応
として効果を発揮する可能性が高いということで、一定の評価をしています。
一方、石油業界は、この指令への対応が難しいことを主張しています。欧州の製油所では過
10
去10年以上に渡り継続して省エネルギーを進めてきていますが、大きな省エネ効果のある案件
は年々少なくなってきており、技術的にも手詰まり感が見られています。これについては日本
の製油所でも同じような問題を抱えています。また、先に述べたように、今後も増大する軽油
需要に対応する為には装置の増強や新設を進めていく必要があり、さらには今後欧州で処理さ
れる原油は重質化することが予想されるため、精製工程は高度化・複雑化の度合いを強めてい
くこととなります。その結果、製油所全体におけるCO2の発生量はますます増加してしまうこ
とが懸念されており、これを如何にして解決するかということが、石油業界にとって非常に大
きな取り組み課題となっています。
図3
利害関係者会合での議論状況
3. バイオ燃料についての最近の動き
(1)欧州のバイオ燃料普及状況
2003年のバイオ燃料指令の採択以降バイオ燃料の生産、消費は着実に増加していますが、欧
州においてはバイオディーゼルがバイオ燃料全体の80%を占めています。バイオ燃料指令では
2005年に2%、2010年に5.75%のバイオ燃料を輸送用燃料に使用することを目標としています
が、表1に示したように、2005年の目標を達成したのはドイツ、スウェーデンのわずか2ヶ国し
かありませんでした。また、2010年の目標達成も困難であることが既に各国の状況から明らか
になっています。
このような状況から、欧州理事会は2020年に10%とすることを義務化することを2007年3月
に決定しました。今後はこの義務化により何らかのペナルティーを科すことも検討されており、
各国のバイオ燃料使用の動きが加速されるものと予想されています。
表1
主要各国におけるバイオ燃料導入実績3)
(単位%)
2005年実績
ドイツ
3.75
2006年実績
−
スウェーデン
2.20
3.10
1.75
フランス
−
ポルトガル
0.002
1.02
ポーランド
0.48
0.92
スペイン
0.44
0.53
イタリア
0.51
−
オランダ
0.02
0.43
イギリス
0.18
−
目標
2.00
−
11
2007.11
(2)持続可能性証明システム
世界的にバイオ燃料が注目される中で、欧州では、新たなシステムの導入が今年中に提案さ
れる計画になっており、環境問題だけでなく様々な分野に影響を及ぼし始めています。バイオ
燃料と食料の競合により、とうもろこしや小麦等の価格が高騰しました。また、バイオ燃料作
物の作付面積を拡大する為に、南米や東南アジアの熱帯雨林が破壊されるという問題提起もあ
ります。
あるデータによると、1haの畑で生産されたサトウキビを使うことによるCO2の削減効果は13
トン/年ですが、同じ面積の熱帯雨林が吸収するCO2の量は20トン/年になります。つまり、休耕
地をバイオ燃料作物の生産に当てるのは問題ありませんが、既に植物が十分生えている地域に
ついては手を加えない方がいいということになります。
しかし他方、バイオ燃料の生産振興によって雇用の促進、経済成長等が見込まれるため、発
展途上国によるバイオ燃料生産が拡大する傾向にあります。欧州委員会ではこの動きを規制す
るため、
「持続可能性証明」システムを確立し、バイオ燃料の供給者に対して義務化していくこ
とを計画しています。
現在、欧州委員会にてこのフォーマットを作成中で、2007年末までに公表する予定になって
います。
4. まとめ
欧州では環境への関心の高さから、世界に先駆けて様々な規制や政策が議論されたり、決定
されたりしています。確かに中長期を見据えた目標値の設定は先進的ではありますが、目標が
必ず達成されているかという点ではしばしば疑問があります。今後、欧州では実態の伴った目
標と実行を各方面で進めていく為に、未達に対する罰則の導入等も視野に入れた義務的目標が
展開されていくことが計画されています。
1)European Energy and Transport - Trends to 2030-update 2005, DG TRENより作成
http://ec.europa.eu/dgs/energy_transport/figures/trends_2030_update_2005/energy_transport_trends_2030_
update_2005_en.pdf
2)"Refining Some key Issues for the future", Jean-Jacques MOSCONI, European Fuels Conference発表資料
より作成
3)バイオ燃料資料に基づく加盟国報告書より抜粋
http://ec.europa.eu/energy/res/legislation/biofuels_members_states_en.htm
12
<米国>
1. 石油エネルギー・バイオ燃料に関する連邦政策
米国では、ガソリン高値安定化を端緒にしたエネルギーセキュリティへの関心の高まり、ま
た農業振興策や地球環境対策を背景にして、米国石油業界に大きなインパクトを与える可能性
の高いエネルギー関連政策法案がここ最近議会で盛んに議論されています(図4)
。なかでもそ
れらの議論に大きな影響を与えたのが、今年1月にブッシュ大統領が発表した「10年後の2017
年までに米国ガソリン消費量を20%削減する」という“20 in 10”イニシアチブです。その中で
特に石油業界に大きな影響を与えると考えられているのが、
「2017年までにバイオ燃料を中心
とした代替燃料使用量を350億ガロンまで拡大する」という政策提案です。これは現在の石油由
来のガソリン消費量を実質的に15%削減するというもので、米国ではすでにバイオ燃料政策が
石油産業の根幹を揺るがす存在となっていることを示す一例となっています。
一方で、上記のようなバイオ燃料普及拡大を強力に推進しようとする政府や議会に対抗して、
産業界のロビー活動が例年より活発になっていることもあり、来年の大統領選挙までは米国石
油業界に大きなインパクトを与える法案が成立する可能性は低いといった見解が米国では多く
見受けられます。
図4
米国石油エネルギー・バイオ燃料政策概況
2. 地球温暖化に関するカリフォルニア州の政策
米国における地球温暖化政策は、2007年4月に出された連邦最高裁判所の歴史的な判決(ブ
ッシュ政権に対する大気浄化法遵守違反判決)により大きな転換を遂げました。この判決以降
ブッシュ政権は、これまでの地球温暖化政策に懐疑的なスタンスから一転して前向きに取組み
始め、現在では連邦レベルで具体的に地球温暖化ガスの規制検討がなされています。
一方で、カリフォルニア州は連邦最高裁判所の判決より前に独自の地球温暖化政策を開始し
ており、2006年8月には「2020年までに1990年レベルまで地球温暖化ガスを低減する」という
地球温暖化解決法を成立させています(図5)
。
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2007.11
① 地球温暖化解決法(Global Warming Solution Act of 2006)
地球温暖化解決法に基づき、カリフォルニア州は2008年中に自動車、発電所、製油所、工場
等の主な排出源からの温暖化ガス排出削減計画を定め、2012年から規制を始める予定にしてい
ます。また、この取組が米国のオレゴン州、ワシントン州等の米国西部6州、カナダ2州まで波
及し、温暖化ガス排出削減のためカリフォルニア州を中心に共同で取組検討を行う動きにつな
がっています。さらには、このカリフォルニア州の地球温暖化解決法が米国連邦政府の政策へ
大きく波及する可能性も米国では議論されています。
図5
地球温暖化解決法概要
(出典:カリフォルニア州政府公聴会/ヒアリング結果により作成)
② 低炭素燃料基準(Low Carbon Fuel Standard)
カリフォルニア州の中で温暖化ガス最大の排出源は輸送用燃料(全体の41%)です。そのた
め、輸送排出源からの温暖化ガス排出低減対策として、また地球温暖化解決法で検討されてい
る多数の排出削減計画の中でも最も早く取り組むべき施策の1つとして、低炭素燃料基準が
2007年6月にカリフォルニア州大気環境局にて採択されました(図5)
。この施策は、図6に示し
たように「2020年までにカリフォルニア州の輸送用燃料の炭素強度(※)を1990年比で10%低減
する」というもので、カリフォルニア州の輸送用燃料供給者に対して、ガソリン、軽油といっ
た従来の石油系燃料以外にバイオ燃料、電気、水素、天然ガス、LPGといった多様な燃料を供
給できる体制を促すことと、多様化した燃料に対応した車両の普及を促進することを狙ってい
ます。
低炭素燃料基準は、カリフォルニア州における輸送用燃料多様化促進のため、州内で事業を
する石油会社(精製および石油製品輸入者を含む)を対象に規制する計画となっていますので、
今後この基準が米国石油業界に与える影響は非常に大きいと考えられています。
※炭素強度の定義に関しては、後述するカリフォルニア州大気環境局主催の技術アドバイ
ザリー委員会にて審議・検討される予定
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図6
低炭素燃料基準案
(出典:カリフォルニア州政府公表資料等に基づく)
2007年9月にはカリフォルニア州の大気環境局にて技術アドバイザリー委員会が編成され、
低炭素燃料基準で採用されるライフサイクルアセスメント計算手法や基準値、法規制遵守や排
出権取引の仕組み等を石油業界や自動車業界といったステークホルダーを交えて議論が開始さ
れており、2009年1月に規制公布、2010年1月から発効という計画になっています。
3.まとめ
原油価格高値安定化を背景にしたエネルギーセキュリティへの関心の高まり、また地球温暖
化への国際的な関心の高まりにより、米国の石油・バイオ燃料政策や地球温暖化政策はここ1年
で大きな動きを見せ始めています。
米国の石油エネルギー・環境政策が大きく転換している中で、米国石油業界が戦略的にそれ
らの政策にどのように対処していくかということは、日本の石油業界にとっても非常に重要で
あることから、今後も継続して米国石油エネルギー・環境政策の動向を注視していく必要があ
ります。
15
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