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【第4回】 リモートセンシングが農業に利用されています!

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【第4回】 リモートセンシングが農業に利用されています!
たくみ
青森県産業技術センターの匠のお話あれこれ④
リモートセンシングが農業に利用されています!
地方独立行政法人
青森県産業技術センター
農林総合研究所 1 .リモートセンシングとは?
境谷 栄二
リモートセンシング学会の構成員をみると、
宇宙、航空、気象、環境、防災、測量、資源開
近年、リモートセンシング(remote sensing)
発、農林漁業など実にユニークな分野にわたっ
というカタカナ英語が日本語として定着しつつ
ています。農業分野において、衛星画像を作物
あります。遠隔探知とも呼ばれますが、離れた
の栽培管理に用いる場合、画像の解像度や撮影
場所から物を測定するという意味です。現在、
周期について高い水準が必要とされており、近
地球の周りにはいろんな人工衛星があり、天気
年、衛星の性能が大幅に向上したことで、利用
予報(気象衛星)やカーナビ(GPS衛星)、
環境が急速に整ってきています(図 1 )
。
地図の作成や災害状況の把握(地球観測衛星)
など、私たちの身近な生活を支えています。
地球観測衛星は、地上の状況を把握するため
の衛星です。最近では、民間企業の衛星による
有料撮影があり、農業分野でも衛星画像で得ら
れる情報を栽培管理に利用する動きが始まって
図 1 地球観測衛星の性能の向上
います。
県内でリモートセンシングを利用する動き
は、平成18年の青森県の事業が始まりです。
2 .お米の食味の推定
平川市をモデル地区に、米の食味を推定し、そ
れを生産指導に活用することが目的でした。こ
お米は、タンパク質の含有量が多いと、粘り
の事業が、私とリモートセンシングの出会いで
が少なく硬いご飯になり、食味が低下するた
す。この頃は、リモートセンシングのイメージ
め、タンパク質の含有量の把握が大事です。こ
すらつかめていませんでした。そこで、一念発
れを水田ごとに把握するため、リモートセンシ
起し、つくば市にある(独)農業環境技術研究
ングを農業分野に利用した技術が平成12年頃
所へ長期研修に行きました。その後も、同研究
に国内で初めて北海道で開発されました。これ
所とは、共同研究などで頻繁に交流しています。
は、8 月下旬に撮影した水田の衛星画像からお
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米のタンパク質の含有量を推定する方法です。
さキャッチ米」というネーミングで、販売に取
その後、全国の米産地が競って導入を試みま
り組んでいます(写真 2 )。衛星画像の撮影費
したが、推定精度は十分ではなく、研究者の間
用については、当初は、補助金を活用していま
では、北海道以外に適用できない技術と噂され
したが、現在では付加価値米の販売収益で賄わ
ていました。
れています。
私は、推定精度の低さの究明にこだわり、原
因が田植日のばらつきであることを突きとめま
した。田植えが可能な期間は寒冷地ほど短い傾
向があります。そのため、北海道では精度が高
く、南の県ほど精度が低下するという状況にな
っていたのです。青森県は田植日のばらつきが
小さく、地域で作付する品種がほぼ分かれてお
り、リモートセンシングを行うには、全国屈指
の恵まれた条件にあると言えます。
お米のタンパク質の含有量の推定に用いる衛
星画像は、地上で反射する光に含まれている波
長ごとの強さを示すものです。北海道では赤と
近赤外の波長を用いていますが、私は、赤を緑
の波長に変更した結果、田植日のばらつきによ
写真 1 タンパクマップ
る影響が緩和され、推定精度を高めることに成
功しました。推定したタンパク質の含有量を基
に水田を色分けした地図をタンパクマップと呼
び、水田ごとのお米の食味が一目でわかります
(写真 1 )。
北海道では、タンパクマップを栽培指導に活
用していますが、本県では、さらに高付加価値
化にも取り組んでいます。これは、食味が特に
良い地区の米を別枠で集荷し、より美味しいと
いうプレミアを付けて販売する取組みです。こ
れには、従来よりも早い時期の撮影が必要です
が、推定式を改良して精度が向上したことで、
撮影の前倒しが可能になりました。
JA津軽みらいでは、平成19年から「おいし
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れぢおん青森 2013・3
写真 2 おいしさキャッチ米
平成 24 年産販売価格:3,780 円 / 白米 10 kg
(うち、100 円の付加価値含む、販売店:弘南生協、
JA 直売施設)
3 .お米の収穫適期の推定
の推定の普及を図ることにしています。
お米は見た目によって、1 等米、2 等米など
に等級格付けされ、これに応じて、農家の収入
が変動します。平成24年は、本県中南地域で
米にひび割れが生じる胴割米が発生し、地域全
体で数千万円の被害が生じました。胴割米は、
収穫が遅くなるほど被害が拡大するので、収穫
適期を広域的に推定できれば、米の品質向上に
役立ちます。 私は、これまでに取り組んできた食味の推定
をさらに進めて、平成21年から収穫適期の研
究に取り組みました。実は、これには伏線があ
りました。お米のタンパク質の含有量を推定す
る際、赤の波長を用いると推定精度が低下しや
すいことを紹介しましたが、逆にこれは生育の
早晩に対する感度が極めて高いためでもありま
写真 3 収穫適期マップ
した。
そこで、赤の波長を収穫適期の推定に応用す
4 .皆様へのメッセージ
ることを考えつきました。平成19年∼ 24年ま
での衛星画像を解析した結果、出穂後の積算気
リモートセンシングで得た各種の情報をリア
温を用いる従来の方法に比べ、格段に優れた推
ルタイムで全ての生産者に伝えることができれ
定精度が得られました。
ば、より高品質な農産物を作ることが期待され
さらに、従来の方法では、人手による調査の
ます。例えば、生産者の持つ携帯電話などにタ
ため、特定の水田しか推定できなかったことに
ンパクマップや収穫適期マップを配信したり、
対して、リモートセンシングによる方法では、
生産者自らが検索できるシステムの構築などを
衛星画像により全域を把握することができます
含め、農業分野において、IT活用の余地はとて
(写真 3 )。
も大きいと思われます。
また、一つの衛星画像から、タンパクマッ
今後、農業の収益アップに繋げていくアイデ
プと収穫適期マップの 2 つを作成できるため、
アがどんどん生み出されていくことでしょう。
コストパフォーマンスに優れていることもメリ
私もそのお手伝いができたらと思います。リモ
ットの一つです。胴割米の防止に向けた対策と
ートセンシングに興味がありましたら、是非ご
して、全国に先駆け平成25年度から収穫適期
相談ください。
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