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続々と立ち上がるLNGプロジェクト - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報

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続々と立ち上がるLNGプロジェクト - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報
永井 一聡
JOGMEC 調査部
アナリシス
続々と立ち上がるLNGプロジェクト
-市場拡大と需給緩和をめぐる展望-
はじめに
天然ガスは、その環境負荷の低さ、豊富な資源量、使用時の機動性といった点から、将来の持続可能
社会に向けたエネルギー需給において重要な位置を占め続けると認識されており、その需要は現在そし
て今後においても堅調に伸び続けると予測されている。
そして、天然ガスを液化した LNG は、パイプラインでの輸送が地理的・経済的に現実的ではない地
域にとって天然ガスにアクセスするための重要な手段であり、近年急速な経済成長を続ける途上国にお
いてもその導入が進んでいる。
一方、天然ガス、特に LNG については、2 0 1 1 年以降価格の高騰が続き LNG 輸入国にとって大きな
問題になるなど、その価格動向と今後の需給が注目されるところでもある。
本稿では、LNG の需給見通し、特に供給側の能力拡大の動きとして、豪州・北米を中心として数多
く立ち上がろうとしている開発中の LNG プロジェクトの動向について紹介する。また、LNG 市場参画
者の動きや将来の LNG 価格水準の示唆等についても展望したい。
1. 天然ガス・LNG の需給見通し
(1)
天然ガス供給量推移
図 1 に世界の天然ガス供給量推
移を示す。
百万トン
3,000
天然ガスの供給量は着実に増加し
ており、現在そのうちの約 1 0 %
LNG
2,500
パイプライン
が LNG によるものとなっている。
天然ガス供給量に占める LNG の
2,000
割合は年々増加し、中国、ブラジ
ル、インド、台湾など新興国にお
1,500
ける LNG 導入がその大きな要因
となっている。
1,000
(2)LNG 需要推移と見通し
図 2 に、世界の LNG 需要推移
500
て い る。2 0 1 1 年 か ら 2 0 1 4 年 に
かけてほぼ横ばいとなっているの
は、原油価格高騰(特にアジアに
39 石油・天然ガスレビュー
出所:IEA Natural Gas Information、BP 統計を基に JOGMEC 作成
図1 世界の天然ガス供給量推移
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
万トンの LNG が取引(需要)され
0
1994
現在世界では、年間約 2 億 4,0 0 0
1993
と今後の見通しを示す。
年
アナリシス
おける長期契約の LNG 価格は、伝統的に原油価格に連
に至らず LNG 取引量の伸びの鈍化につながった。また、
動して決定される契約である)と日本の原発停止に伴う
欧州においても、2 0 1 0 年の債務危機以降の経済低迷と
スポット市場における需給逼迫により、価格が(長期契
発電部門における安価な石炭との競合により天然ガス需
約およびスポット価格ともに)高騰したことで、需要の
要は低迷し、LNG 輸入も過去 4 年間低迷している。
伸びが抑制された形になっているためである。特に、急
しかし、天然ガスは中期的に有望なエネルギー源と期
激な経済発展に伴い天然ガスの需要も急拡大すると見込
待されており、LNG 需要も今後はやはり堅調に伸びて
まれていた中国とインドで、従来の予測ほどの需要増加
いくと予想されている。
2 0 2 0 年時点では年間の需
要として 3 億トンから 4 億ト
ン、2 0 3 0 年 時 点 で は 4 億 ト
百万トン
600
ンから 5 億 8,0 0 0 万トン程度
になるとの見通しが出されて
500
いる。
高需要ケース
400
(3)LNG 生産能力推移と見
通し
300
図 3 に LNG 生産能力の推
移と見通しを示す。
200
LNG の生 産能 力は、2 0 1 4
低需要ケース
年末時点で約 3 億トン / 年で
100
ある。エジプトやアンゴラ等
2030
2020
2013
2011
2009
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1993
0
1995
年
一部の LNG プラントは生産
停 止 中となっては いるもの
の、LNG プラントの稼働率は
出所:IEA Natural Gas Information、資源エネルギー庁委託調査「アジア・太平洋市場の天然ガス需
給動向調査報告書」(2014 年 3 月)を基に JOGMEC 作成
通常90 ~ 95%程度以上
(LNG
図2 世界の LNG 需要推移と見通し
プロジェクトは膨大な投資で
あり、経済性を維持するため
にも高稼働率が必須となる)
500
百万トン
であることを考えると、年間
LNG 需要約 2 億 4,0 0 0 万トン
北米
欧州
に対して、生産能力には現状
ロシア
400
中南米
余裕があると考えられる。
オーストラリア
一方、LNG の生産能力は、
アフリカ
中東
300
今後数年の間に急速に拡大し
東南アジア
ていくことが見込まれ、現在
建設中のプロジェクトだけを
200
考慮しても、2 0 1 8 年には約
4 憶 5,0 0 0 万 ト ン / 年 程 度 に
100
達する見込みである。
出所:各種情報を基に JOGMEC 作成
図3 世界の LNG 生産能力推移と見通し
2017
2015
2013
2011
2009
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
1979
1977
1975
1973
1971
0
1969
し た が っ て、 少 な く と も
年
2 0 2 0 年までは、LNG 需要に
対してその生産能力には十分
余裕があると考えられ、LNG
需給は緩和状態が続くと考え
られる。
2015.9 Vol.49 No.5 40
続々と立ち上がるLNGプロジェクト
-市場拡大と需給緩和をめぐる展望-
2. 新規 LNG プロジェクトの進捗と見通し
(1)LNG 生産能力は大幅拡大の局面
前項でも述べたが、現在、LNG 生産能力は大幅拡大
アジア・豪州地域・・・合計約 7,0 0 0 万トン / 年
の局面にある。
北米(メキシコ湾岸)・・・合計約 6,0 0 0 万トン / 年
図 4 に示すように、2 0 1 4 年からの数年間において、
ロシア・・・Yamal LNG 1,6 5 0 万トン / 年
世界各地で LNG プロジェクトが続々と立ち上がり、操
業開始済みおよび現在建設中の案件(表 1)だけでも右の
さらに、北米地域(メキシコ湾岸、北西岸)、豪州地域
生産能力が新たに追加されることになる。
には、これら以外にも計画・提案中のプロジェクト案件
が多数存在する。ただし、大
500
規模な投資を必要とする
百万トン
北米
欧州
2015
Gorgon
AP LNG
G LNG
Sabine Pass
ロシア
400
中南米
オーストラリア
2016
Wheatstone
Ichthys
LNG プロジェクトは通常そ
2018
Cameron
Freeport
Corpus Christi
の生産能力の大半について顧
客(売り先)を確保してから最
終投資決定(FID)が行われる
アフリカ
ため、足元(~ 2 0 2 0 年)にお
2017
Yamal
Prelude
CovePoint
中東
300
東南アジア
いて生産能力が過剰気味とな
る状況が見えている現在、そ
れら計画・提案中プロジェク
200
トの実現性の成否は非常に不
透明である。
100
また、2 0 1 4 年中盤からの
0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
年
油価下落等の影響で財務状況
2018
が悪化したプロジェクト参画
出所:各種情報を基に JOGMEC 作成
企 業 も 多 く、FID 前 の プ ロ
図4 世界の LNG 生産能力推移と今後の主要プロジェクト計画
ジ ェ ク ト で は、 既 に ス ケ
ジュールの遅延、計画の保留・
表1 2014 年~生産開始および現在建設中の主な LNG プロジェクト
プロジェクト名
国
生産開始(年)
生産能力(万トン / 年)
中止を発表した案件も既に複
数出てきている。
2 0 1 9 年以降には、東アフ
PNG LNG
パプアニューギニア
2014
690
リカ(モザンビーク、タンザ
QC LNG
オーストラリア
2014
850
Gorgon LNG
オーストラリア
2 0 1 5(予定)
1,5 6 0
ニア)の大型 LNG プロジェク
AP LNG
オーストラリア
2 0 1 5(予定)
900
G LNG
オーストラリア
2 0 1 5(予定)
780
Wheatstone LNG
オーストラリア
2 0 1 6(予定)
890
Ichthys LNG
オーストラリア
2 0 1 6(予定)
840
Prelude FLNG
オーストラリア
2 0 1 7(予定)
360
Donggi Senoro LNG
インドネシア
2015
200
Sabine Pass LNG
アメリカ
2 0 1 5 ~ 2 0 1 7(予定)
CovePoint LNG
アメリカ
2 0 1 7(予定)
525
Cameron LNG
アメリカ
2 0 1 8(予定)
1,2 0 0
Freeport LNG
アメリカ
2 0 1 8(予定)
1,3 2 0
Corpus Christi LNG
アメリカ
2 0 1 8(予定)
1,3 5 0
Yamal LNG
ロシア
2 0 1 7(予定)
1,6 5 0
出所:各種情報を基に JOGMEC 作成
41 石油・天然ガスレビュー
4 5 0(→ 1,8 0 0)
ト 計 画 も 控 え て お り、LNG
プロジェクト間の競合は一層
激化していくだろう。
(2)
オ ーストラリア LNG プ
ロジェクトの進捗状況
オーストラリアでは現在 6
件の LNG プロジェクトが建
設中で、国別の 生産能力と
し て は 2 0 1 6 年 ま で に 8,0 0 0
万トン / 年を超え(図 5)、カ
タールを抜いて世界第 1 位に
アナリシス
なる見込みである。同国の LNG プロジェクトは、大き
② Australia Pacific LNG(AP LNG)
く分けて、北西岸沖合のガス田を原料とするもの、お
・参 画 企 業:Origin Energy Limited 3 7.5 %、
よび北東地域の陸上 CBM(コールベッドメタン)を原料
ConocoPhillips 3 7.5 %、Sinopec 2 5 %
とするものとなっている。
また現在建設中のプロ
ジ ェ ク ト の 他 に も、 提 案
百万トン/年
100
中・ 計 画 中 の プ ロ ジ ェ ク
North West Shelf
トも多数に上る(図 6)。
Darwin LNG
以 下 に 主 な LNG プ ロ
Pluto LNG
80
ジェクト
(建設中)
の進捗状
QC LNG
況等について述べる。
AP LNG
G LNG
60
① Gorgon LNG
Gorgon LNG
Wheatstone LNG
・参 画 企 業:Chevron
Ichthys LNG
4 7.3 %、ExxonMobil
40
Prelude LNG
2 5 %、Shell 2 5 %、大
阪 ガ ス 1.2 5 %、 東 京
ガ ス 1 %、 中 部 電 力
20
0.4 1 7 %
・液 化能力:1,5 6 0 万ト
ン / 年(5 2 0 万トン / 年
年
0
1990
× 3 トレイン)
1995
2000
2005
2010
2015
2020
出所:Department of Industry(DOI);RBA
・ 2 0 1 5 年内に初カーゴ
図5 オーストラリアの LNG 生産能力推移
出荷予定
Indian Ocean
Cash / Maple
Darwin
Ichthys
Timor Sea Sunrise
Browse
Prelude
Cairns
North West Shelf
Gorgon
Townsville
Pluto
NORTHERN TERRITORY
G LNG
AP LNG
QC LNG
QUEENSLAND
Scarborough
WESTERN AUSTRALIA
Alice Springs
Wheatstone
Fisherman’s
Landing
Surat
Brisbane
Geraldton
SOUTH AUSTRALIA
Kalgoorlie
NEW SOUTH WALES
LNGプロジェクト
(陸上)
【操業中】
Adelaide
LNGプロジェクト
(陸上)
【建設中】
LNGプロジェクト
(陸上)
【計画中】
LNGプロジェクト(FLNG)【建設中】
LNGプロジェクト(FLNG)【計画中】
ガスパイプライン
(既存)
Great Australian Bight
0
Sydney
VICTORIA
CANBERRA
500
Km
Melbourne
出所:各種情報を基に JOGMEC 作成
図6 オーストラリアの主な LNG プロジェクト
2015.9 Vol.49 No.5 42
続々と立ち上がるLNGプロジェクト
-市場拡大と需給緩和をめぐる展望-
・液化能力:9 0 0 万トン / 年
(4 5 0 万トン× 2 トレイン)
・ 2 0 1 7 年生産開始見込み
・ CBM プロジェクト
・世界で初めて FLNG を採用
・ 2 0 1 5 年内に LNG 生産開始見込み
・韓国サムソン重工(SHI)の造船所で建造中
③ G LNG
・参 画企業:Santos 3 0 %、Petronas 2 7.5 %、Total
(3)北米 LNG プロジェクトの進捗状況
図 8 に北米大陸の主な LNG プロジェクト計画を示す。
2 7.5 %、KOGAS 1 5 %
・液化能力:7 8 0 万トン / 年
(3 9 0 万トン× 2 トレイン)
北米大陸では、アメリカで現在 5 件の LNG プロジェク
・ CBM プロジェクト
トが建設中である。現在最も進捗が進んでいるのは
・ 2 0 1 5 年後半に LNG 生産開始見込み
Sabine Pass LNG プロジェクトで、アラスカを除けばカ
④ Wheatstone LNG
ナダ・アメリカでは初めての LNG 輸出プロジェクトで
・参 画 企 業: Chevron 6 4.1 4 %、KUFPEC 1 3.4 %、
ある。また、提案中のものを含めると、アメリカでは現
Woodside 1 3 %、PE Wheatstone 8 %、 九 州 電 力
在約 3 0 件以上のプロジェクトが、カナダでも約 2 0 件の
1.4 6 %
プロジェクトが輸出許可を求めて申請中である。しかし、
・液化能力:8 9 0 万トン / 年(4 4 5 万トン / 年× 2 トレ
イン)
(2,5 0 0 万トン / 年まで拡張可能)
これら全ての申請プロジェクトで輸出許可が下りる可能
性は高くはなく、また、輸出許可が下りたとしても、現
・ 2 0 1 6 年生産開始予定
在の LNG の市場環境に鑑みると、実現まで至るものは
⑤ Ichthys LNG
そう多くはないと考えられる。
・参 画 企 業: 国 際 石 油 開 発 帝 石 6 2.2 4 5 %、Total
北米の LNG プロジェクトからの LNG 輸出は、世界初
3 0 %、CPC 2.6 2 5 %、東京ガス 1.5 7 5 %、大阪ガス
のシェールガスを含む天然ガスを原料とする LNG であ
1.2 %、関西電力 1.2 %、中部電力 0.7 3 5 %、東邦ガ
ると同時に、従来一般的だった原油価格に連動する価格
ス 0.4 2 %
体系ではなく、北米大陸のガス市場価格(主にヘンリー
・液化能力:8 4 0 万トン / 年(4 2 0 万トン / 年× 2 トレ
イン)
ハブ)に連動する価格体系となっている。そのため世界
の天然ガス取引および価格動向に大きく影響を与えるも
・ 2 0 1 6 年末までに生産開始予定
のとして注目されている。
⑥ Prelude FLNG
以下に、主な LNG プロジェクト(建設中または最終投
・参画企業:Shell 6 7.5 %、国際石油開発帝石 1 7.5 %、
資決定済み)の進捗状況について記す。
CPC 5 %、KOGAS 1 0 %
・液化能力:3 6 0 万トン / 年
(LNG)
(1 3 0 万トン / 年〈コ
ンデンセート〉
、4 0 万トン / 年
〈LPG〉
)
① Sabine Pass LNG(アメリカ)
・参画企業:Cheniere
出所:Shell
図7 Prelude FLNG のイメージ図
43 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
・液化能力:1,8 0 0 万トン / 年(4 5 0 万トン / 年× 4 ト
JLI(三菱商事、日本郵船)1 6.6 %、三井物産 1 6.6 %
レイン)
※第 5、6 トレイン(各 4 5 0 万トン / 年)を
・液化能力:1,2 0 0 万トン / 年(4 0 0 万トン / 年×3トレ
追加する拡張計画あり
イン)
※第 4、5トレインを追加する拡張計画あり
・ 2 0 1 5 ~ 2 0 1 6 年 第 1、2 ト レ イ ン、2 0 1 6 ~ 2 0 1 7
・ 2 0 1 8 年生産開始予定
⑤ Corpus Christi LNG(アメリカ)
年第 3、4 トレイン生産開始予定
・ 2 0 1 5 年内に第 5、6 トレイン着工予定
・参画企業:Cheniere
② CovePoint LNG(アメリカ)
・液化能力:1,3 5 0 万トン / 年(4 5 0 万トン / 年×3トレ
・参画企業:Dominion Cove Point LNG
イン)
※第 4、5トレインを追加する拡張計画あり
・液化能力:5 2 5 万トン / 年
・ 2 0 1 8 年生産開始予定
・ 2 0 1 7 年生産開始予定
⑥ Pacific North West LNG(カナダ)
③ Freeport LNG(アメリカ)
・参画企業:Petronas 6 2 %、Sinopec 1 5 %、石油資
・参 画 企 業:Freeport LNG Investment、ZHA
源 開 発 1 0 %、Indian Oil Corp. 1 0 %、Petroleum
FLNG、Texas LNG Holdings、大阪ガス
BRUNEI 3 %
・液化能力:1,3 2 0 万トン / 年(4 4 0 万トン / 年× 3 ト
・液化能力:1,2 0 0 万トン / 年(6 0 0 万トン / 年× 2 ト
レイン)
※第 4 トレインを追加する拡張計画あり
レイン)
・ 2 0 1 8 年生産開始予定
・ 2 0 1 5 年 6 月最終投資決定(条件付き)
④ Cameron LNG(アメリカ)
(カナダの LNG プロジェクトで初の最終投資決定)
・参 画 企 業:Sempra 5 0.2 %、GDF SUEZ 1 6.6 %、
・ 2 0 1 9 年操業開始予定
Aurora
WCC LNG
Prince Rupert
Pacific Northwest
LNG Canada
Douglas Channel(浮体式)
Kitimat
Triton LNG(浮体式)
CANADA
Oregon LNG
Jordan Cove
U.S.A
Sabine Pass
Golden Pass
Cove Point
Cameron
Elba Island
Freeport
Gulf Coast LNG
Lake Charles
Corpus Christi
MEXICO
LNGプロジェクト
【建設中】
LNGプロジェクト
【計画中】
出所:各種情報を基に JOGMEC 作成
図8 北米の主な LNG プロジェクト
2015.9 Vol.49 No.5 44
続々と立ち上がるLNGプロジェクト
-市場拡大と需給緩和をめぐる展望-
海外
〈北米 LNG プロジェクトの日本向け契約について〉
ガス田
北米産 LNG は、先に述べたようにヘンリーハブ価格に
※ガス田開発者とLNGプロジェクト
事業者が同一事業者の場合もある
ガス田開発者
連動して LNG 輸入価格が決まるとされているが、正確に
ガス調達(天然ガス売買契約)
は液化加工委託契約をスキームとしたものである。つま
LNGプロジェクト事業者(売り主)
り、液化加工契約保持者は、北米内のパイプライン天然
液化
ガス市場で自らガスを調達し、それらのガスを各 LNG 液
LNG液化基地
化基地事業者に委託して液化、LNG として加工する。そ
の後、液化された LNG を LNG タンカーに載せ日本に輸
日本
送する、もしくはさらにその先の LNG 引き取り者に販売
する、という仕組みだ。液化加工契約では、各液化基地
の液化容量を契約によって確保するという形になってお
LNG売買契約
輸入
LNG買い主
出所:JOGMEC 作成
図9 従来の一般的な LNG 売買契約のスキーム
り、これは LNG 自体を直接売買するこれまでの LNG 調
達方法とは異なる流れである
(図 9、図10)
。
表2に、
日本企業の北米産LNG調達契約について示す。
ガス市場
北米
(4)
その他地域の LNG プロジェクト進捗状況
ガス調達
オーストラリア、北米地域以外の地域でも LNG プロ
※LNG調達者が自らガス市場で天然ガスを調達
ジェクトは進捗している。ロシア Yamal LNG は現在建
液化
設中、インドネシア Donggi Senoro LNG は 2 0 1 5 年 7 月
LNG液化基地事業者
LNG液化基地
に生産を開始した。近年大規模な天然ガス資源が発見さ
れている東アフリカにおいても、それらガス資源の商業
日本
化として LNG プロジェクトが提案・計画されている。
輸入
液化加工委託契約
LNG調達者(液化加工契約保持者)
モザンビークの場合、最終投資決定(FID)をまだ行って
(LNG売買契約)
いないが、2 0 1 5 年中に行われる可能性が高い。
さらにLNGを別の買い主に販売する場合も
出所:JOGMEC 作成
① Yamal LNG(ロシア、図 1 1)
北米の LNG プロジェクトにおける液化加工
・参 画 企 業:Novatek 6 0 %、Total 2 0 %、CNPC
図10 委託契約のスキーム
表2 日本企業の北米産 LNG 調達契約
プロジェクト
液化加工契約保持者(売り主)
(基地事業者とは異なる)
LNG 引き取り者(買い主)
大阪ガス 2 2 0 万トン / 年(2 0 1 8 年から 2 0 年)
Freeport LNG
中部電力 2 2 0 万トン / 年(2 0 1 8 年から 2 0 年)
東芝 2 2 0 万トン / 年(2 0 1 9 年から 2 0 年)
三菱商事 400万トン/年(2018年から20年)
東京電力 4 0 万トン / 年(2 0 1 8 年から 2 0 年)
東北電力 3 0 万トン / 年(2 0 2 2 年から 1 6 年)
東京電力 4 0 万トン / 年(2 0 1 8 年から 2 0 年)
Cameron LNG
三井物産 400万トン/年(2018年から20年)
東邦ガス 3 0 万トン / 年(2 0 1 8 年から 2 0 年)
関西電力 4 0 万トン / 年(2 0 1 8 年から 2 0 年)
東京ガス 5 2 万トン / 年(2 0 2 0 年から 2 0 年)
Engie(旧 GDF SUEZ) 4 0 0 万トン / 年
(2 0 1 8 年から 2 0 年)
Cove Point LNG
住友商事・東京ガス 2 3 0 万トン / 年
(2 0 1 7 年から 2 0 年)
(注)調達開始年は基地操業開始予定年とした。
出所:各種情報を基に JOGMEC 作成
45 石油・天然ガスレビュー
東北電力 27万トン(2018年または2019年から20年)
東京ガス 1 4 0 万トン / 年(2 0 1 7 年から 2 0 年)
関西電力 8 0 万トン / 年(2 0 1 7 年から 2 0 年)
アナリシス
20%
Winter route
・液 化 能 力:1,6 5 0 万 ト ン / 年
Yamal LNG
Summer route
(550万トン/年×3トレイン)
・ 2 0 1 7 年生産開始予定
Trans-shipment
・ウクライナ問題をめぐる制裁
の影響で資金確保が懸念され
ていたが、中国の銀行からの
融資を確約するなど、資金調
達にもめどが立ったようだ。
・夏季は、欧州向けに加え、北
極圏航路でのアジア向け輸送
South America
を行う計画である。また冬季
には、
欧州地域で、同プロジェ
LNG exporters
LNG importers
クト専用のアイスクラスタン
カ ー か ら 通 常 の LNG タ ン
出所:Total、Novatek
カーに積み替えを行ってから
図11 Yamal LNG の輸出ルート
各地域向けに輸送することも
計画されている。
② Donngi Senoro LNG(インドネ
シア)
・参 画 企 業:Sulawesi LNG
Development( 三 菱 商 事
75
%、K O G A S 2 5
%)
5 9.9 %、Pertamina Hulu
Energi 2 9 %、PT Medco
LNG Indonesia 1 1.1 %
・液化能力:2 0 0 万トン / 年
・ 2 0 1 5 年 8 月出荷開始
③モザンビーク
(図 1 2)
(i)Mozambique LNG(Area 1)
・参 画 企 業:A n a d a r k o
2 6.5 %、 三 井 物 産 2 0 %、
ONGC 1 6 %、ENH 1 5 %、
Bharat Petroleum 1 0 %、
PTTEP 8.5 %、Oil India Ltd.
4%
・液 化 能 力:1,2 0 0 万 ト ン / 年
(600万トン/年×2トレイン)
Mozambique LNG
Coral FLNG
出所:Mozambique LNG
・初期開発コントラクターを選
図12 モザンビークの開発鉱区と LNG プロジェクト
定
(まもなく FID の見込み)
(ii)Coral FLNG(Area 4)
・参 画企業:Eni 5 0 %、CNPC 2 0 %、Galp Energia
1 0 %、ENH 1 0 %、KOGAS 1 0 %
(5)
プロジェクトの競合は激化、油価下落の影響も含め
遅延・中止となるプロジェクトも
・液化能力:2 5 0 万トン / 年
多くの LNG プロジェクトが提案・計画されているこ
・ 2 0 1 5 年 FID の予定
とで、LNGプロジェクト間の競合は激化している。一方、
2015.9 Vol.49 No.5 46
続々と立ち上がるLNGプロジェクト
-市場拡大と需給緩和をめぐる展望-
2 0 1 4 年中盤からの原油価格下落により石油企業の財務
40%
・ 2 0 1 4 年 6 月、プロジェクト見直しを発表。FLNG
状況は悪化し、投資を抑える企業も出てきている。
LNG 市場における生産能力過剰感(販売先確保が困
をコンセプトとして検討を進めていたが、これに加
難)や、プロジェクト建設案件が多数立ち上がることで
えて、パイプラインによって Darwin の陸上液化プ
労働力市場が逼迫し人件費が高騰していること、などに
ラントに輸送する等、他のオプションも考慮して再
より、LNG プロジェクトの経済性確保が困難となって
検討
いるのも事実。このため、計画を遅延
(後ろ倒し)
したり
② Arrow Energy LNG(オーストラリア)
中止する案件も出てきている他、立地に伴う課題や申請
・参画企業:Shell 5 0 %、Petro China 5 0 %
手続きのタイムラグなどによってスケジュールを変更す
・ 2 0 1 5 年 1 月、プロジェクト中止を発表
るプロジェクトもある。
・ガス田開発は継続
さらに、Browse LNG プロジェクトのように、「市場
③ Scarborough FLNG(オーストラリア)
の大きな変化」(おそらく油価下落による企業の活動停
・参画企業:ExxonMobil 5 0 %、BHP Billiton 5 0 %
滞・減少によるサービスコスト低下を指すと推測される)
・世界最大の FLNG がコンセプト
を見込んで最終投資決定時期を遅らせているケースも見
・ 2 0 1 5 年 5 月、BHP Billiton が事業としての優先度
受けられる。
は下がったと発言
このように、これまで LNG プロジェクトの計画とし
④ Prince Rupert(カナダ)
て挙がりながらも、既に事業としての計画を遅延・中止
・参画企業:BG Group
することを決定した案件、開発優先度を下げた案件を記
・ 2 0 1 6 年に建設開始を予定していたが、LNG 市場状
しておく。
況を考慮して計画を延期。
⑤ Lake Charles(アメリカ)
① Bonaparte LNG(オーストラリア)
・参画企業:BG Group、Southern Union
・参 画 企 業:Engie( 旧 GDF SUEZ)6 0 %、Santos
・価格動向およびコスト動向を注視するとして、FID
WA-30-R
R2
TR/5
WA-32-R
WA-29-R
WA-28-R
Torosa
Brecknock
Calliance
WA-31-R
Derby
Browse joint venture permits
Broome
0
Gas fields
100
200
kilometres
Horizontal Datum: GDA 1994
出所:Woodside
図13 Browse プロジェクトのガス田
47 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
時期を 2 0 1 5 年から 2 0 1 6 年に後ろ倒し
⑥ Lavaca Bay(アメリカ)
・参画企業:Excelerate Energy
・最近の経済情勢を考慮して、計画保留
⑦ Browse LNG プロジェクト(オーストラリア、図 1 3、
図 1 4)
・参 画 企 業:Woodside 3 0.6 0 %、Shell 2 7.0 0 %、
BP1 7.3 3 %、MIMI 1 4.4 0 %、Petro China 1 0.6 7 %
・ FLNG を指向
「市場の大きな変化」に伴うコスト低下(ある分野の
・
コスト削減率は 1 5 ~ 3 0 %との発表あり)を見込ん
で、FEED 実 施 時 期 を 後 ろ 倒 し。2 0 1 5 年 中 盤 に
FEED 作業に着手、2 0 1 6 年後半に FID の予定。
出所:Woodside
図14 Browse プロジェクトの FLNG イメージ図
3. LNG プロジェクトコスト低減に向けた動き
多数の LNG プロジェクト計画が提案され、プロジェ
業はその削減に向けて動き出している。一つは、液化基
クト間の競合は激化していることは既述した。また、
地のメイン設備である液化トレインの標準化・モジュー
LNG の需要を伸ばしていくためには、他燃料
(主に石炭)
ル化である。これまでの液化トレインは、各プロジェク
に 対 し て の 価 格 優 位 性 も 重 要 と な っ て く る。 事 実、
トの規模に応じてゼロから設計を行うという完全なオー
2 0 1 1 ~ 2 0 1 4 年 に か け て は、LNG 価 格 の 高 騰 に よ り
ダーメイドであった。この液化トレインを標準化し、量
LNG 需要の伸びは鈍化した。
産型のものとすることで、設計等のエンジニアリングコ
現在、LNG プロジェクトの開発コストは非常に高く、
ストは削減可能となる。プロジェクト規模に応じた生産
このコストはプロジェクトの経済性、そして LNG 自体
能力の調整は、液化トレインの設置数を変更することで
の売価にも跳ね返ってくる。各企業は、こうした状況に
対応するのである。
鑑みて、LNG プロジェクトのコスト引き下げに向けた
また、労働力コストの高騰も課題となっている。特に
動きを見せ始めている。
オーストラリアでは、近年資源ブームが巻き起こり、ガ
LNG プロジェクトのコストは、大きく分けて、上流
ス田開発だけでなく、石炭や金属資源の採掘などとも労
コスト(ガス田開発コスト)と LNG 液化基地建設コスト
働力の奪い合いが発生していた。そのために作業員等を
に分けられる。
含め人件費が高騰、結果として建設コストは膨大なもの
上流コストは、
油価下落に伴う企業の活動減退により、
に跳ね上がっている状況にある。各企業は、同時進行す
サービス市場が緩和してきているため、今後の開発コス
るプロジェクト数の監視・調整等を意識しながら、労働
トは低下する方向にある。
力市場を緩和させることで人件費を抑制し、コスト低減
一方、LNG 液化基地の建設コストについても、各企
を目指している。
4. 新たな LNG 輸出航路
新規 LNG プロジェクトの立ち上がりに伴い、新たな
例えば、北米メキシコ湾岸のプロジェクトからアジア
LNG 輸出航路も出現してきた
(図 1 5、図 1 6)
。
向けの LNG 輸出においては、現在拡張工事が行われて
2015.9 Vol.49 No.5 48
続々と立ち上がるLNGプロジェクト
-市場拡大と需給緩和をめぐる展望-
いるパナマ運河が使用される予定である。パナマ運河拡
海水温上昇による北極海の氷減少に伴い活用が期待され
張後の通航可能船型は、全長 3 6 6m、全幅 4 9m、喫水長
てきた航路で、既にノルウェー産 LNG 等のアジア向け
1 5.2m となる計画で、メキシコ湾岸プロジェクト向けの
輸送などで実績がある。ただし、冬季についてはやはり
新たな LNG 船も各企業により多数建造される見込みで
海面が氷に覆われることから、北極圏航路による LNG
ある。パナマ運河の使用開始は2016年第2四半期とされ、
輸出は今のところ夏季限定となる見込みである。冬季に
日本向けの LNG 輸出開始である 2 0 1 7 年には間に合うよ
ついては、アイスクラスタンカー(砕氷能力を持ったタ
うだ。なお、拡張後の運河通航料金は今年 4 月 2 9 日に
ンカー)で出荷された LNG は、欧州地域内の港湾で通常
パナマで閣議決定され、公表されている。
の LNG 船に積み替えを行い、そこからアジア等各地域
また、ロシア Yamal LNG では、北極圏航路を使用し
に輸出されることも計画されている(2.(4)①の Yamal
てのアジア向け輸出も計画されている。北極圏航路は、
LNG の項も参照)。
ノルウェー
アルジェリア
カタール
ナイジェリア
トリニダード・
トバゴ
ブルネイ
マレーシア
インドネシア
豪州北西岸
パプアニューギニア
豪州北東岸(コールドベッドメタン)
LNG 輸送ルート
出所:各種情報を基に JOGMEC 作成
図15 主な LNG 輸送ルート(現状)
ロシアYamal LNG
カナダ西海岸
アメリカ北西岸
アメリカメキシコ湾岸
東アフリカ
豪州北西岸および沖合
豪州北東岸(コールドベッドメタン)
LNG 輸送ルート
出所:各種情報を基に JOGMEC 作成
図16 主な LNG 輸送ルート(将来)
49 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
5. LNG 買い主側
(日本)
における価格適正化への取り組み
ここで、LNG の買い主側(特に日本)の動きについて
体系といわゆるアジアプレミアムに結びつく要因とも
も触れておきたい。
なっていた。しかし、2 0 1 0 年代に入って以降、生産者側・
昨年来の原油価格下落と LNG 需給緩和に伴い、最近
消費者側ともに参画者が増加し、世界の LNG 市場は拡
の LNG 価格は落ち着いている。しかし、2 0 1 1 年の震災
大してきている。市場拡大はすなわち取引の流動性向上
以降、特に日本においてエネルギー源として LNG の重
につながり、そのなかで既存の契約体系にとらわれずに
要性が大きく高まるなか、その伝統的なガス市場構造と
「多様化」を目指すことは、生産者間での競争をもたらす
価格体系に起因した「アジアプレミアム」と呼ばれる
ことにもなる。また、調達源の多様化は、買い主側にとっ
LNG 価格の高騰が続いた。
ては供給安定性を高めることにも寄与する。
アジアプレミアムは、以下のような事態を契機として
特に 2 0 1 0 年代後半に向けて、LNG の需給そのものも
発生した。
緩和する見通しであるので、生産者側への交渉力を発揮
し価格の適正化へ向けて動く大きなチャンスと言える。
①原油価格連動の LNG 価格体系
→原油価格が高騰すると LNG 価格が高騰
(2)北米産 LNG 調達の意味
②世界のガス市場が分断
されてお
(北米、欧州、アジア)
前項で述べたように、アメリカ産 LNG の日本への輸
り、各地域ごとの特性と歴史的背景によって個別の市
入は 2 0 1 7 年より始まると見込まれているが、それらの
場となっている
(=取引流動性の欠如)
。
LNG はアメリカ国内のガス市場価格(ヘンリーハブ)に
→各市場ごとに価格決定メカニズムが働き、各市場間
連動するものであり、従来の原油価格連動の価格体系と
で価格差が発生してもこれを解消する機能がない
は異なる。LNG にするための液化コストや、日本への
③日本(北東アジア)は天然ガス調達手段が LNG のみで、
輸送コストは上乗せされるが、結局は、アメリカ国内の
売り主に対しての交渉力が弱い
天然ガス需給によって決定される価格の LNG が導入さ
→天 然ガスパイプラインを持つ欧州などは LNG によ
れることになる。原油価格の動向次第では従来の原油価
る調達と競合させることができ、価格引き下げの交
格連動型の LNG と比べて必ずしも相対的に安価とはな
渉が可能
らない可能性もあるが、アメリカ国内の市場とはいえ天
こうした世界の天然ガス市場構造の特性が複合したこ
然ガス自体の需給を反映した、ある意味では合理的な価
と で、2 0 1 1 ~ 2 0 1 4 年 前 半 に か け て ア ジ ア 地 域 向 け
格決定方法である。
LNG 価格が相対的に高騰したというものである。
また、何よりも、分断されていた天然ガスのアジア市
これらを受け、日本政府および日本の各 LNG 買い主
場とアメリカ市場をつなぐことにもなる。さらに、日本
は、
「アジアプレミアム」
を発生させ得る構造的な問題を
が調達する LNG にとって価格体系の多様化への一歩と
解決し、将来にわたって LNG を適正な価格で調達でき
なり、売り主間の競争を呼び起こし、より安価な LNG
るよう、さまざまな取り組みを行っている。
調達の実現につながるものである。
(1)
多様化の指向
(3)短期・中期契約の増加と新たな価格体系の導入
日本の買い主は LNG 調達において、これまで以上に
従来の LNG 売買契約は、1 5 ~ 2 0 年の長期契約が普
「多様化」
を重要視するようになった。
「供給源の多様化」
通であったが、近年は 2 ~ 5 年を契約期間とする短期・
「価格体系の多様化」
「契約の多様化」などである。これ
中期契約も増えてきている。これは、日本の原発再稼働
まで、LNG の生産者側は、いわゆるスーパーメジャー
の見通しが不透明なことへの対応という意味も含め、や
と呼ばれる企業、もしくは国営の大規模石油・ガス会社
はり調達において流動性を高めたいとの狙いもあると思
の寡占状態にあった。また、2 0 0 0 年以前ころまでは世
われる。なお、統計上はスポット取引での調達と短期契
界の LNG 取引の大部分を日本が占めていたように、需
約による調達が同じ区分けで計上されることが多いのだ
要者側も日本の買い主を含め一部の企業のみに限定さ
が、正確には異なるものである。各機関がまとめている
れ、石油等に比べると取引の流動性は非常に低いものと
統計において、現状日本の LNG 調達における短期・ス
なっている。こうした市場構造が、硬直的な LNG 契約
ポット取引の比率は約 4 分の 1 程度とされているが、中
2015.9 Vol.49 No.5 50
続々と立ち上がるLNGプロジェクト
-市場拡大と需給緩和をめぐる展望-
身としては大部分が短期契約であり、純粋なスポット調
代になっている。そのため仕向け地条項は取引の流動性
達は少ないと推測される。
を阻害するというマイナスの側面が大きくなっており、
存在自体が好ましくないと評されるようになった。
(4)
買い主企業間のアライアンス
仕向け地条項の撤廃は、経済産業省が掲げる「ガスセ
東京電力と中部電力が発表した LNG を含めた原料調
キュリティの強化に向けた課題と今後の取組の方向性」
達におけるアライアンス締結のように、買い主間での協
において「FOB 契約における仕向地条項の撤廃」が重要
力を強化する動きが出てきている。これにはもちろん
課題として認識されている。各 LNG 買い主も仕向け地
バーゲニングパワー拡大の意味もあるが、LNG の場合、
条項の撤廃が必要との認識の下、売り主側への働きかけ
数量を多く買うからといって価格が安くなるわけではな
を行っている。また、北米産の LNG についてはこのよ
い。LNG の価格は契約したタイミング(需給やプロジェ
うな仕向け地条項はないため、仕向け地条項の撤廃に向
クト固有の事情など)によるところが大きいからだ。だ
けた第一歩という意味でも北米の LNG の導入は日本の
が、調達数量は大きければ、少量ずつ購入する場合と比
買い主にとって大きな意義を持つ。
べて、購入方法や契約内容としての選択肢を増やし、交
ただし、仕向け地条項の撤廃が直接的に安価な LNG
渉の幅を広げることが期待できる。企業間のアライアン
調達につながるというものでもなく、あくまで世界的な
ス提携も、LNG 調達方法の多様化へとつながり、交渉
天然ガス市場の流動性向上のための必要要因という位置
力の強化をもたらすことになるだろう。
づけであると考えられる。
(5)
仕向け地条項の撤廃へ
(6)LNG 取引市場の開設
仕向け地条項とは、LNG の調達において LNG 船の行
2 0 1 4 年 9 月、Japan OTC Exchange(JOE)は、LNG
き先を規定している条項のことである。この条項はほと
の取引市場を開設した。これは、これまで相対取引が主
んどの既存 LNG 売買契約に組み込まれているとされ、
で指標価格が存在していなかった LNG 市場に鑑み、経
LNG 船は契約で規定された行き先以外の場所へ仕向け
済産業省のエネルギー基本計画でも標榜された、アジア
変更することはできない。これは、買い主が購入した
における LNG の指標価格の形成が目的となっている。
LNG を第三者に直接転売することを事実上認めないこ
同市場を通じての LNG 取引は容易に成立に至らなかっ
とを意味しており、LNG 取引の流動性を阻害している
たが、2 0 1 5 年 7 月 3 1 日に初めての取引が成立したとの
一要因と考えられている。
報道がされている(取引量は最低取引単位である約 5,0 0 0
ただし、この仕向け地条項は、ある意味では LNG 取引
トン、約定価格は約 8.1 ドル /MMBtu とされている)
。
の黎明期に実操業面での安全担保にも寄与していたと考
元来、LNG プロジェクト(液化設備の建設)は、高額
えられる。従来の(特に Ex-Ship 取引を主流とする)LNG
な設備投資に対するリスクを回避するため、長期契約で
売買契約では「仕向け地」を指定する一方、LNG を輸送す
その生産能力枠の売り先をほぼ全量確保することが主流
る「船舶」も個別船名として指定し、むやみに入港実績の
となっている。したがって、現状ではこういった公開市
ない船・基地で受け渡しを行うことを防止する(LNG 船
場に提供される LNG のボリュームは限られたものにな
の操船や受け渡し作業は熟練した知見と経験を要する)
ると考えられるため、当該市場を通しての LNG 調達は
という意味合いも持っている。ただし、LNG 産業・ビジ
まだ聞こえてこない。しかし、LNG 市場が拡大し原油
ネスは、既に黎明期は過ぎ去り、世界的に十分発展・拡
並にコモディティ化するような将来に向けて、このよう
大しており、現在はむしろ市場の流動性が求められる時
な市場の整備は有意義なものになるだろう。
れいめい
あいたい
ひょうぼう
6. LNG 価格の今後は ?
LNG の価格は、伝統的に原油価格に連動して決まる
て決定される。アジア向けの LNG にも新たな価格体系
価格体系であるが、これまで述べてきたように北米産の
が導入されることとなり、LNG 価格の低下が期待され
LNG は北米天然ガス市場価格(ヘンリーハブ)に連動し
ることになった。
51 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
しかし、原油価格の変動次
第では、必ずしもヘンリーハ
130
原油価格
ドル/bbl
アメリカH・H価格
ドル/MMBtu
ブ連動の LNG が安くなると
7
H・H連動(右軸→)
い う わ け で は な く、 事 実
2 0 1 4 年の原油価格下落によ
110
6
90
5
70
4
り日本向け LNG の価格も大
きく下がった。
原油価格連動とヘンリーハ
ブ連動のそれぞれの LNG の
価格について、相関をグラフ
にすると図 17 のようにな
る。緑色の線が左軸原油価格
との関係を示したもの(一般
50
3
原油価格連動(←左軸)
的とされる係数を使用)で、
橙色の線が右軸ヘンリーハブ
価格との関係を示している
30
2
0
5
10
(ヘンリーハブ価格 + 液化コ
ス ト 3.5 ド ル /MMBtu+ 日 本
15
20
LNG価格(日本着)
ドル/MMBtu
出所:各種情報を基に JOGMEC 作成
までの輸送コスト3ドル/
MMBtu と仮定した)
。
図17 各指標価格(原油、ヘンリーハブ)と想定 LNG 価格
原油価格は、多くの機関や
企 業 の 予 測 に よると、今後
しゅうれん
2 0 1 6 ~ 2 0 1 7 年にかけて 1bbl6 0 ~ 8 0 ドルに収 斂する
となる。
と見られているが、この価格を前提とすれば LNG 価格
他の燃料(石炭、石油、再生可能エネルギー)との競合
は 9 ~ 1 1 ドル /MMBtu となる。
や、これまでの価格推移、需要への影響等を考慮すると、
一方、アメリカのヘンリーハブガス価格は、米エネル
やはり LNG 価格として 1 0 ~ 1 1 ドル /MMBtu が、買い
ギー省 EIA(エネルギー情報局)の予測によると 2 0 1 6 ~
主が求める上限ラインであると思われ、また、プロジェ
2 0 1 7 年にかけて 3.5 ~ 4 ドル /MMBtu で推移すると見
クト間の競合が激化していることも含めると、この価格
られており、LNG 価格にすると 1 0 ~ 1 0.5 ドル /MMBtu
水準が何らかの目安になっていく可能性がある。
まとめ
十数年前までは LNG は「特殊な」エネルギーであった。
うとしている。LNG は特殊なエネルギーではなくなり
基本的には、必要とする者の必要とする数量に応じて生
つつあるのである。
産設備を建設し、生産能力のほとんどは長期売買契約で
そして、2 0 1 4 ~ 2 0 1 8 年にかけて複数の LNG プロジェ
確約され、需要量と生産能力は一致するものであった。
クトが立ち上がり、LNG 生産能力は大幅拡大の局面を
LNG 生産設備の稼働率は、その膨大な投資額と経済性
迎えている。豪州・北米等、現在建設中のものだけでも
確保の観点から、稼働率は 9 0 ~ 9 5 %以上を確保するの
合計約 1 億 5,0 0 0 万トン / 年の生産能力が追加される。
が普通で、トラブル等で生産が停止すれば途端に LNG
提案中の LNG プロジェクトも多数あり、乱立と言って
需給は逼迫することになっていた。
もよい状態である。LNG プロジェクト間の競合は激化
近年、LNG に参画する需要者・生産者が増加し、原
していき、競争力のない LNG プロジェクトは淘汰され
油などと同じように市場での取引が一般化・拡大化しよ
ていくだろう。そして、需給バランスを見ると、生産能
2015.9 Vol.49 No.5 52
続々と立ち上がるLNGプロジェクト
-市場拡大と需給緩和をめぐる展望-
力拡大により 2 0 2 0 年までは、LNG 需給は緩和の見込み
見せるのか、非常に注目されるところである。
である。これは LNG ビジネスの歴史において初めての
LNG 価格は、ヘンリーハブ連動の価格体系導入も含
状況かもしれない。
め、今後価格体系は多様化していくことが見込まれる。
ただし、2 0 2 1 年以降については、これらに続く新た
そして、参画者の増加と買い主側の取り組みによって、
なプロジェクトの進捗も含め、
見通せない部分が大きい。
取引の流動性も向上していくと思われる。ただし、他の
新たなプロジェクトが立ち上がってくるかどうかは、今
燃料(石炭、石油、再生可能エネルギー)との競合や、こ
後の需要の伸び次第と言える。そして、需要の伸び率は
れまでの価格推移、需要への影響等を考慮すると 1 0 ~
LNG 価格動向による影響が大きい。LNG 価格が適正な
1 1 ドル /MMBtu が何らかの目安になっていく可能性が
水準を保持し、需要を促進していけば、必然的に新たな
あり、これを超える水準となった場合には「高い」と認識
生産能力が必要となり、
これに対する投資も続いていく。
するようになるだろう。
「適正な」と述べたのは、価格が安くなり過ぎればプロ
LNG 産業は新規プロジェクトの多数の立ち上がりと
ジェクトの経済性が低下し、生産者側の投資に対するイ
ともに市場の大幅拡大の局面を迎えている。そして、需
ンセンティブが確保できなくなってしまうからである。
給バランスの見通しを見る限り、買い主有利の「買い手
もちろん、生産者側においてプロジェクトコストを低
市場」の時代に突入したと言える。逆に、生産者側にとっ
減する努力も必要不可欠なものになるだろう。北米や豪
ては大戦国時代とも言えるが、今後の LNG 産業発展、
州だけでなく、巨大な資源量を持つ東アフリカ(モザン
ひいては天然ガスがエネルギーの中心として君臨できる
ビーク、タンザニア)の大型プロジェクトなども、LNG
かどうかに向けて、重要な時期にさしかかっていると言
業界への新規参入となる途上国としてどのような動きを
えよう。
執筆者紹介
永井 一聡(ながい かずあき)
東京大学大学院工学系研究科修了。
2002年、東京ガス株式会社入社後、主にLNG受入基地の操業管理、プロセスエンジニアリング業務等に従事。
2013年4月より現職。
趣味は毎週末興じる野球。最近のマイブームは、愛車に七輪を積んでドライブに出かけ、漁港等で調達した食材
を浜焼きで食べること。
53 石油・天然ガスレビュー
Fly UP