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音象徴語であるオノマトペを用いた 金属調テクスチャの評価手法
論文 音象徴語であるオノマトペを用いた 金属調テクスチャの評価手法 Method of Evaluating Metal Textures by the Sound Symbolism of Onomatopoeia 吉野 淳也* 1) 屋形 叡* 2) 清水 祐一郎* 1) 萩野谷 雅春* 3) 坂本 真樹* 1) Junya Yoshino Akira Yakata Yuichiro Shimizu Masaharu Haginoya Maki Sakamoto Abstract In recent years many products, including many electric appliances, are starting to be made of imitation metals, which are lighter in weight and lower in cost than real metals. However, imitation metals can sometimes look and feel cheaper. This study proposes that differences in mimetic and onomatopoeia associated with imitation and real metals can be used in metal texture design to make imitation materials look and feel more like real materials. Japanese is a language known to have a large number of mimetic and onomatopoeia for expressing textures. For example, such words expressing a sense of smoothness often use the consonant /s/ in their first syllable, as in“sara- sara.”We conducted psychological experiments where participants were asked to look at a pair of imitation and real materials without touching them and respond with onomatopoeia that they felt were associated with them. For real materials, participants provided 1.49 words on average, while for imitation materials, 1.07 words on average were provided. A paired t-test showed that real materials were signify-cantly more easily associated with onomatopoeia than were imitation materials (t (49) =2.00、p < .01). Furthermore, we analyzed onomatopoeia obtained from both real metals and imitation metals using a system that quantifies the phonological information of onomatopoeia. A comparison of the onomatopoeia evoked by real metals and those evoked by imitation metals revealed differences in the affective features of the two types of metals. Key Word : Metal Texture Design, Real Metal, Imitation, Onomatopoeia 1. は じ め に 評価することにより,桃とネクタリン,あるいは仕上げ 近年,電気製品や自動車のインテリアなどの加飾パネ をしていない木材と磨かれた木材をどのように区別して ルに樹脂から成る模造金属が用いられることが増えてい いるのかを調べた [1],[2] が挙げられる.明るさ,色, る.模造金属は実金属と比べて軽量かつ低コストという テクスチャなど,多くの視覚属性が材料表面の識別に使 メリットを持つ.しかしながら模造金属は実金属と比べ, われている.本吉 [1] は人間が物の表面を見たときに感 高級感がやや劣るように見えたり感じられたりする場合 じる光沢や明るさ等の質感を画像の輝度ヒストグラムの がある.製品の開発において模造金属には実金属のよう 歪みから知覚していることを指摘している. に見えるように検討された金属調のテクスチャが設けら しかし先行研究によるこれらの知見は , 材料の知覚を れている.しかし模造金属の表面に実金属を模したテク 主に写真を用いた実験により得ている.またテクスチャ スチャを設けても,模造金属は実金属としばしば異なる の感情的なまたは感覚的な知覚についての研究はまだ少 ように見えてしまう.その理由は未だ解明されておらず, ない.古川 [3] は金属テクスチャの感情的な知覚に着目 またどのようなテクスチャがより実金属のように見える し,人間のテクスチャの認識の特徴の分析を試みた.し かのデザイン手法も明らかになっていない. かし実験で用いられた刺激は写真であった. 人間は材料の特性を五感:視覚,触覚,嗅覚,味覚, 本研究では,感情的,感覚的な材料の知覚を捉えるた そして聴覚を通して推察することが出来る.先行研究は めの新しい手法としてオノマトペを利用する.オノマト 視覚に着目しているものが多く,人間は視覚情報をどの ペとは様々なテクスチャを象徴すること事が出来る音表 ように解釈をするかを調べている.例として表面特性を 現である.音と知覚経験の間には共感覚的な関係(音 国際学会ACIS2013発表論文を日本語訳し転載 1) 電気通信大学大学院情報理工学研究科 2) 電気通信大学電気通信学部 3) カルソニックカンセイ株式会社 77 CALSONIC KANSEI TECHNICAL REVIEW vol.11 2014 象徴語として知られる)が存在することが Köhler [4], これらを参考に我々は実験の被験者として専門家 20 Sapir [5] により示されている.また知覚と音の一致性に 名(金属調加飾デザインを扱う部署で,勤続 5 年以上の ついては,画期的な [5],[6] の研究により示された目に 人,男性 18 名,女性 2 名),及び特別に金属との関わり 見える形に関する“mal/mil”と“buba/kiki”などの語 のない非専門家 30 名(男性 19 名,女性 11 名)を対象 (各々,丸っこい / とがった形を表す)の一致性のみな とした. らず,手触り,臭い,味についても同様に指摘されてい 実験は Fig. 1 に示すような,内部を色温度 5500K 以 る [7],[8].日本語は非常に多くのオノマトペを持つ言語 上のライトで照明された観測箱の中で実金属と模造金属 の 2 素材の 1 組を比較することで行った. として知られている.Hamano [9] は日本語のオノマトペ の音素とその意味の音象徴的な関係を Table 1のように 示した. Table 1 音象徴的意味(一部) 母音 /i/ /a/ 子音 /h/ /s/ 線,一直線に延びたもの,光(光線) 平らさ,広がり,大きい表面 やわらかさ,弱さ,繊細 なめらかさ,静けさ・穏やかさ 渡邊 [8],[10] は触覚に関する日本語のオノマトペの音素 と物体に触れたときの心地良い / 心地良くない,に関す る主観評価との音象徴的な関係を示した.例としてなめ Fig. 1 実験装置 らかさを表現するオノマトペにおいて音節の最初に用い られる /s/ という音素(“サラ - サラ”など),粗さを表 現するオノマトペにおいて音節の最初に用いられる /z/ という音素(“ザラ - ザラ”など)についてである. しかしながら , 近似のテクスチャデザインを持った実 金属と模造金属の間の視覚的な差異についてオノマトペ を用いて調べた研究は従来無かった.本研究の目的はオ 実験刺激用サンプルとして、テクスチャデザイン 1 ~ 15 を形成した 15 組の実金属と実金属に対する模造金属 を用いた.各組の実金属と模造金属には同一の形状デー タを用いて NC 機械加工によりテクスチャを形成した. サンプルの一例を Fig. 2 に示す. ノマトペの金属調テクスチャの視覚的な計測における有 効性を調べることにあり,また模造金属と実金属からそ れぞれ想起されるオノマトペを比較することにより,模 造金属をより実金属に近く見えたり,感じられたりする ようなテクスチャのデザイン指針が得られる可能性を探 究することにある. 2. 実 験 2.1. 材料とデザイン 本実験では,実金属から想起されるオノマトペと模造 金属から想起されるオノマトペについて,その数と種類 の比較を行う.渡邊 [8],[10] は人間がテクスチャを心地 良い / 心地良くない,好き / 嫌いなどの認知する知覚能 力を理解するのにオノマトペが有効であることを示してい る.そこで我々は実金属が模造金属に対して,より容易に オノマトペを想起させると仮定した.李 [11] は漆によるテ クスチャに関する研究において,専門家が非専門家に対 してより正確に特性を評価したこと明らかにしている. 78 Fig. 2 実験刺激の例 Fig. 2 において各右側の素材が模造金属,各左側の素 材が実金属である.実験において素材は左右ランダムに 配置した.実験刺激用サンプルはカルソニックカンセイ (株)が作成した. 音象徴語であるオノマトペを用いた金属調テクスチャの評価手法 2.2. Procedure 実験手順 門家おいては t (19)=6.61,p<.01,また専門家と非専門家 被験者にはあらかじめ実験手順の説明を行うと共に, 両方あわせた全被験者においては t (49)=8.87,p<.01 とな オノマトペが分からない被験者が多いと思われたため, り,実金属から得られたオノマトペの平均個数の方が模 実験を行う前にあらかじめ金属以外のものについて用い 造金属から得られたオノマトペの平均個数よりも 1%水 られるオノマトペの例を載せた紙を呈示した.この用例 準で有意に多いことがわかった. の説明では金属以外の素材について用いられるオノマト この結果は二つの物体が同じ表面デザインを有してい ペを用いたため,実験結果に影響はないと考えられる. ても,実金属はより容易に感情的なテクスチャの認知に 被験者は Fig. 3 に示すように,観測箱の前に座り,額を 結びつき,その結果,オノマトペには人の感性的質感認 観測箱の上部に軽く当てるように指示された. 知が直接的に結びつきやすいという特性が関係し,実金 被験者には実金属および模造金属を観察してもらい, 属は模造金属よりも人の感性的質感認知に結びつき易い 感じたままを,口頭でオノマトペを回答してもらった. ためなのではないかと考えられる. 回答時間の制限は 20 秒とし,時間内で思いつく限りの 更に,専門家と非専門家から得られたオノマトペの種 オノマトペを答えてもらった.被験者には素材に一切触 類を比較した.各々のグループから最も多く得られた語 らないように指示した.これは触覚により実金属と模造 が各素材を表す語とした.Table 2 に各素材から得られ 金属の違いを知覚することを防ぐためである. た代表的なオノマトペを示す.非専門家からは触覚的な オノマトペ(粗さを表す“ザラ - ザラ”など)が専門家 より多く得られた.一方で専門家は視覚的なオノマトペ (明るさを表す“テカ - テカ”など)を回答した. ここで,非専門家が触覚的なオノマトペをと専門家よ り多く用いるかについて統計的検定を行った.その結果, χ 2 (1,N=75)=16.835,p<.01 となり,非専門家の方が専 門家よりも触覚オノマトペを想起している比率が有意に 高いことが分かった.この結果より,金属調加飾デザイ ンを扱う部署の専門家は金属素材の視覚的なデザインに 着目する傾向があり,非専門家(いわゆる一般人)は金 属らしさを触覚から得られる経験を通して知覚している と考えられる. Fig. 3 実験の様子 2.3. Results 結果 まず,各被験者が実金属と模造金属から想起したオノ マトペの数を集計した.その後,専門家の被験者から得 られたオノマトペと非専門家の被験者から得られたオノ マトペに分けて,それぞれ実金属と模造金属から想起さ れたオノマトペの平均個数を集計した.実金属から得ら れたオノマトペの平均個数は,1.59(非専門家),1.36(専 門家)であったのに対し,模造金属から得られたオノマ トペの平均個数は 1.16(非専門家),0.94(専門家)であっ た.また,専門家,非専門家の区別なく全ての被験者の 実験データを集計したところ,実金属から得られたオノ マトペの平均個数は 1.49 であったのに対し,模造金属か ら得られたオノマトペの平均個数は 1.07 であった. 実金属から想起されたオノマトペ平均個数と模造金属 から想起されたオノマトペの平均個数の間に統計的な有 Table 2 抽出されたオノマトペ(一部) 非専門家 専門家 様式 実物 模造 実物 模造 1 ザラザラ ツルツル ウネウネ サラサラ ギラギラ テカテカ 2 ボコボコ ツルツル キラキラ サラサラ ギラギラ 3. 新しい評価手法による分析 3.1. 評価手法の概要 Table 2 のオノマトペについて,オノマトペが喚起する イメージを定量的に判定するシステム [12] を用いて分析 を行った.我々が考案したオノマトペの印象予測モデル は,オノマトペが持つ音素が印象に与える影響を数値化 し線形和で計算することにより定量化を行う‥‥(1)式. Yˆ = X 1 + X 2 + ... + X 12 + X 13 + Const. (1) 意差があるかどうか両側 t 検定(両側,5% 水準)を行った. ここで,Ŷ は任意のオノマトペの質感印象予測値,X1 その結果,非専門家においては t (29)=6.28,p<.01,専 ~ X13 は各音韻要素がオノマトペ全体の印象に与える影 79 CALSONIC KANSEI TECHNICAL REVIEW vol.11 2014 響の大きさを表す値,Const. は定数項を表している.オ 化する.ここでは被験者の平均評価値を目的変数として, ノマトペの質感印象予測値,各音素のカテゴリ数量と変 数量化理論 I 類によって,説明変数である各々の音韻要 数 X1 ~ X13 の対応を Table 3 に示す.オノマトペを構 素のカテゴリ数量を評価尺度ごとに算出した.前述のよ 成する各音韻要素が,オノマトペ全体の印象に与える影 うに,このカテゴリ数量値によって,音韻要素のオノマ 響の大きさを表す各音韻要素のカテゴリ数量値(評価尺 トペ全体の印象に与える影響の大きさが表される.例と 度 43 対ごとの Xi1 Xi13 の値)を収集するために,まず して,“フワ - フワ”(/fuwa/ の繰り返しから成る)は第 被験者にオノマトペ表現を呈示した上で,その印象を評 1 音節の /fu/(/f/ + /u/)と第 2 音節の /wa/(/w/ + 価させる実験を実施した. /a/)から成っていることから, “フワ - フワ”の「かたい : 被験者は 312 語のオノマトペ(52 語ずつから成る 6 グ やわらかい」に対する印象は次式に従い予測される. ループ)の主観的印象について,43 の形容詞対の 7 段 階のセマンティックディファレンシャル(SD)尺度に 対して評価した.オノマトペ刺激は被験者に対してコン Ŷ = /h/ + /u/ + /w/ + /a/ + repetition + Const. = /h/ (X1) + /u/ (X4) + /w/ (X7) + /a/ (X10) + repeat (X13) + Const. ピュータの画面上にランダムに表示される(Fig. 4).総 数として,78 人の日本人の学部学生(13 のグループに 分けられた 20 才~ 24 才,男性 51 名 / 女性 27 名)が実 験に参加した. = 0.29 + 0.55 + 0.71 + 0.07 + 0.23 + 4.43 = 6.28 予測された値は7段階の尺度から求められるので, “フ Table 3 オノマトペの質感印象予測モデルの変数 1 モーラ目 2 モーラ目 音韻 カテゴリ X1 X7 子音 なし , カ行 , サ行 , タ行 , ワ - フワ”の評価値 6.28 は柔らかさのイメージと強く結 ナ行 , ハ行 , マ行 , ヤ行 , 参加者から得られた,312 語のオノマトペ刺激に対する X2 X3 X4 X5 X8 濁音・ ラ行 , ワ なし , 濁音あり , X9 X10 半濁音 坳音 母音 半濁音あり なし , あり なし , 小母音 /A/,/I/,/U/,/E/,/O/ なし , 特殊音 /a/,/i/,/u/,/e/,/o/ なし , X11 X6 X12 X13 撥音 N, 促音 Q, 長音 R 特殊語尾 なし , 撥音 N, 促音 Q, 長音 R, 語末のり L なし , あり , 反復 (ex. ふわふわ→あり) 3 2 1 0 1 強い プ ニ プ ニ 1 シンプルな かたい 弱い 1 鋭い 安心な 2 3 複雑な 1 1 鈍い 不安な びついていることがわかる.このモデルの確からしさを 検証するために,モデルから予測された値と実験2への 実際の値とを比較した(ここから先は,前者を“予測値”, 後者を“実際値”と呼ぶことにする).43 尺度について の予測値と実際値の間の重相関係数を計算した.重相関 係数は 33 スケールについて 0.8 ~ 0.9 の範囲にあり,10 スケールについては 0.9 以上であった.そこで我々のモ デルは人間のオノマトペの知覚について充分有効であ る,と結論した. 3.2. 分析結果 上述のモデルを用いて,Table 2 で示したオノマトペ (セクション2で説明した心理学実験より求めたもの) が表現している情報を 43 の評価尺度について計算した. Table 4 に計算結果の一例を示す. Table 4 非専門家のデザイン 1 のシステム値とその差 非専門家(デザイン1) 実物 模造 実物―模造 尺度(1←:→7) ザラザラ ツルツル 差 暖かい:冷たい 4.76 3.88 0.88 湿った:乾いた 5.15 3.47 1.68 なめらかな:粗い 4.90 2.75 2.15 1 やわらかい Fig. 4 オノマトペ質感印象調査の回答画面(一部) 実金属と実金属に対する模造金属から得られたオノマ 実験により 174,408 の評価結果(312 語× 43 尺度× 13 とった.その差の値の絶対値を分析した結果,「なめら 名の参加者)が得られた.被験者実験で得られたオノマ トペの印象評価値(312 語× 43 尺度)から,オノマト ペを構成する音韻とオノマトペ全体の印象の関係を定量 80 トペについて,それぞれの尺度についての評価値の差を かな : 粗い」, 「重厚な : 軽快な」, 「きれいな : 汚い」, 「湿った : 乾いた」の順で,実金属と模造金属に大きな差があるこ とがわかった. 音象徴語であるオノマトペを用いた金属調テクスチャの評価手法 4. 結 論 3.3. 評価 実金属と模造金属との間で最も大きい差が出た印象評 本研究は実金属と模造金属から得られるオノマトペ印 価スケールの一つが「なめらかな : 粗い」であったこと 象評価の差異の分析が,模造金属をより実金属に近づけ から,我々はテクスチャデザイン 6 について追加実験を て見えるようにする金属調テクスチャのデザイン検討に 行った.システムの解析結果から,人間は表面のテクス 有用であることを示していると考える. チャが同じであっても実金属を模造金属より[粗い]と 被験者は一対の実金属と模造金属を手に触れることな 評価する傾向があると仮定した. く目視で観察し,口頭で感じたままのオノマトペを回答 オリジナルのデザイン 6 では,実金属,模造金属共に する,という心理学実験を通して,我々は実金属が模造 深さ 0.2mm の幾何学パターンのテクスチャを持ってい 金属に対して有意に容易にオノマトペを想起することが る.そこで,模造金属をより実金属に近づいて見えるよ 出来ることを示した. うにするために,模造金属のテクスチャの幾何学パター オノマトペは人の感性的質感認知と直接的に結びつき ンの深さを 0.6mm,0.4mm としたものを用意した(こ 易いと考えられており,この実験結果は模造金属が実金 のデザインと試作はカルソニックカンセイ(株)が行っ 属と同じ表面テクスチャを持っている場合においても, た). 実金属の方が感性的なテクスチャの認知がし易いことを デザイン 6 の実金属と深さを増した模造金属について 示している. 実験を新たに行った.実験手順はセクション2. 2で説 この研究知見は実金属と模造金属に関連付けられるオ 明した通りである.被験者は観測箱の前に座り額を観測 ノマトペの差が,模造金属をより実金属に近づけて見え 箱の上部に軽く当て,Fig. 5 に示すサンプルを観測し, るようにするための情報を与えられることを示してい 中央に置かれている実金属に対して最初の実験に用いた る.この情報は金属調加飾テクスチャデザインの専門家 模造金属と新たに試作した模造金属の比較を行う(どち にとっても有用である. らの模造金属が右又は左に置かれるかはランダムであ 更に実金属と模造金属の観察から得られる回答をオノ る). マトペの音素情報を定量化し分析を行い , 実金属と模造 被験者は左右のサンプルのどちらが中央のサンプルに近 金属から得られるオノマトペの差から感性的な特徴の差 く見えるか回答する.模造金属のパターンの深さ 0.2mm, を明らかにした.これらの差の分析から,より金属らし 0.4mm,0.6mm についてこの実験を行った. く見える新しい模造金属のテクスチャデザインを創出し た.実験の結果,この新しいデザインがより金属に近い 見え方を実現できていることを確認できた. 将来においては,この手法を別の材料 - 真珠,ガラス, 石材などに応用研究を行う予定である. 謝 辞 本研究の成果は,文部科学省科学研究費補助金新学術 領域研究質感脳情報学(課題番号 23135510)の助成によ るものである. 参 考 文 献 [1] Motoyoshi, I., Nishida, S., Sharan, L. and Adelson, E. 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