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ブタの成長に伴う骨細胞外マトリックスの変化
北畜会報 4 0:3 1 3 4,1 9 9 8 ブタの成長に伴う骨細胞外マトリックスの変化 中村富美男・森 休広・海津幸子・浪崎晋二・福永重治* 北海道大学農学部畜産科学科,札幌市 *サンギ北海道研究所,小樽市 0 6 0 8 5 8 9 0 4 7 0 2 6 2 Ager e l a t e dchangesi nbonee x t r a c e l l u l a rmatrixd u r i n gt h egrowtho fp i g 開 FumioNAKAMURA,YasuhiroMORI,SachikoKAIZU,ShinjiNAMISAKIandShigeharuFUKUNAGA* Departmento fAnimalS c i e n c e,Faq l 1t yo fA g r i c u l t u r e,HokkaidoU n i v e r s i t y,Sapporo0 6 0 8 5 8 9 Hokkaidol a b o r a t o r y,SANGIC o r p .,Otaru0 4 7 0 2 6 2 * キーワード:骨細胞外マトリックス,カルシウム,コラーゲン,成長 Keyw o r d s:bonee x t r a c e l u l a rm a t r i x,c a l c i u m,c o l l a g e n,growth と思われる. 要 約 畜産副生物としての骨は,スープ,ゼラチン, 成長期のブタを用い,加齢に伴う無機成分を含む細 リン 酸カルシウム等の抽出素材として利用されてきたが, 胞外マトリックス (ECM) の変化を調べ,骨の発達に 近年, ECM構成成分は化粧品や細胞培養用試薬とし 果たす ECM構成成分の役割を検討した. てだけではなく,医療への利用も計られている.骨に 骨の発達は,組成的には水分含量の減少と灰分およ 関しては,老化現象としての骨粗繋症が注目されてい びタンパク質含量の増加によって,形態的にはハ るが,多くの研究は骨に存在する細胞や成長因子に集 ヴアース腔の縮小によって特徴づけられた.骨タンパ 9 9 7 ),実質である ECMの骨の 中しており(杉本ら, 1 ク質の殆どを占める I型コラーゲン含量は加齢に伴い 発達や退化に伴う詳細な挙動は明らかにされていな 増加したが, m型 , v型 , V I型コラーゲン,オステオ い.骨の発達は家畜の生産生理にも重要であり,本研 ポンチンおよび、オステオネクチン含量は減少した. 1 究では,成長期のブタを用い,加齢に伴う ECMの変化 型および m 型コラーゲンは骨全体に存在していたが, を調べ,骨の発達に果たす ECM成分の役割を検討し 本研究で調べた他の ECMタンパク質成分は管腔周辺 こ f 部により多く存在していた.骨の発達,即ち, 1型コ 材料および方法 ラーゲンとカルシウムの蓄積には, ECMの微量成分 北海道大学農学部附属農場で飼育したランドレース が密接に関与していることが推測された. 緒 8,6 0,9 8,1 5 4および、 1 8 2日齢で各 2 種雌ブタを 1,2 占==. 呂 頭屠殺し,採取した中足骨鍛密質を以下の実験に供試 動物体を支えなければならない骨には多量の無機質 が存在するが,骨においては無機質も ECMの一員と した. 生化学的分析 凍結粉砕した骨粉を用いて,水分,灰分,脂肪含量 9 9 5 ) . 一方,骨タンパク質 みなされている(久保木, 1 6N塩酸によって加水分解し,ニ の主成分はコラーゲンであり,約 90%を占めている. を測定すると共に, 型および V型コ コラーゲンの大部分は I型で少量の m ンヒドリン法によりタンパク質量を, Hyp量を指標と ラーゲンを含み (LrNSENMA YER, 1 9 9 1 ),この他にプ してコラーゲン量 (BERGMANandLOXLEY ,1 9 6 3 )を , ロテオグリカンや骨特有タンパク質と呼ばれる非コ 原子吸光法によりカルシウム量を測定した.一定量の F r S H E Re ta l .,1 9 8 7 ) . ラーゲンタンパク質が存在する ( 骨粉を 0.5MEDTAまたは 0.5N塩酸と共に透析膜 非コラーゲン蛋白質の多くはコラーゲンや無機質の主 に入れ,大量の同液に対して 4o cで 7日間透析後遠心 体であるヒドロキシアパタイト或いは両者に対する親 分離 ( 1 0, 0 0 0rpm, 1 0分)によって得られた上清を脱 (GRYNPASe ta l ., 1 9 9 4 ),骨の石灰 灰抽出画分とし,非コラーゲン蛋白質の分析に供した 和性を有しており 化やリモデリング,即ち,発達と維持に関わっている 受理 1 9 9 8年 4月 2 7日 (GERSTENFELDe ta l .,1 9 9 4 ) .脱灰後水洗した骨粉に, SDS-PAGEサ ン プ ル 処 理 液 (1% SDS, 1%βM E,3.6M尿素, 1 0m MT r i spH6 . 8 ) を添加し, -31- 中村富美男・森休広・海津幸子・浪崎晋二・福永重治 4Cで一晩撹件後加熱処理 ( 9 8C, 3分)によって得 0 0 デンシトグラムの結果, I I I型コラーゲンはほぼ直線的 られた画分を I型コラーゲンの分析に供した.脱灰後 8日齢以降急速に, V I型コラー に , V型コラーゲンは 9 0 . 5N 酢酸で洗浄した骨粉を 1 / 5 0量 (W/W) のペプ ゲンは 9 8日齢までに減少していた. 5Cで 2 4時間撹件処理し シンを含む同液に懸濁し, 2 骨横断面で観察されるハヴアース腔の大きさは加齢 1 0, 0 0 0rpm, 2 0分)によって得られた た.遠心分離 ( に伴って縮小し,管腔周辺部のエオジンによる赤染度 0 I I型コラーゲンの,そ 上清の 0.7M NaCl塩析画分を I も低下した(図 3A). 単位面積当たりの骨小腔の数は の上清を V型と V I型コラーゲンの分析に供した.各画 加齢に伴い増加したが,ハヴアース腔の数は変化しな 分は SDS-PAGE用にサンプル処理後, 3.6M尿素を I I型コラーゲン抗体 かった(図示せず).抗 I型および I 含む 5 %あるいは 10%ゲルによって泳動し, CBB染 による陽性反応は骨基質全体で観察されたが, 1型コ 色した.ウエスタン・プロッテイングは,電気泳動像 ラーゲンに対する染色性が加齢に伴って強くなるのに を転写したニトロセルロース膜をブロッキング処理し I I型コラーゲンに対する染色性は弱く 対し(図 3B), I v型と V I型コラーゲンに対する免 た後,抗 I型,抗 I I I型,抗 V型,抗 V I型コラーゲン, なった(図示せず). 抗オステオネクチン,抗オステオポンチン抗血清を第 疫染色像は類似しており, 一抗体として, PoIgを第二抗体として反応させ, DAB び骨小腔における強い染色以外にも骨基質全体に陽性 によって発色させ,陽性バンドの吸光度をデンシト 反応が散在していたのに対し, 9 8日齢で、はハヴアース メーターを用いて測定した. および骨小腔とその周辺部だけが強染されていた(図 1日齢で、はハヴアースおよ 3C).オステオネクチンおよびオステオポンチンに対 間接蛍光抗体法 . 5N塩酸に 4Cで数週 細断した中足骨綴密質を 0 0 する免疫染色像は局在,加齢変化とも V型や百型コ 間浸潰し脱灰した後,凍結横断切片を調製した.上記 ラーゲンの染色像と類似していた(図 3D). 抗体を第一抗体として反応させた切片を FITC標 識 考 した第二抗体で可視化し,蛍光顕微鏡下で観察した. 察 対照のためにへマトキシリン・エオジン (HE) 染色を 骨組織の発達は,光学顕微鏡によって観察されたよ 行い,ヒッテイング、パーセンテージ法 (CHALKLEY, うに,ハヴアース腔における骨基質の蓄積(ハヴ〉アー 1 9 4 3 )によりハヴアース腔および骨小腔数を計測した. ス腔の縮小)と骨細胞(骨小腔)の増加によって特徴 づけられた.この形態的な加齢変化は,タンパク質お 結 果 よび灰分含量の増加という組成的な加齢変化と対応し ブタ骨の水分含量は, u 甫乳期である 2 8日齢までは約 40%と高かったが,その後は加齢に伴って 20%以下ま ており,骨内部も動物の成長に伴い発達することが明 らかとなった. で減少した(図 1A). 対照的に灰分とタンパク質含量 動物の体を支える骨の物理的機能は,同心円状構造 は加齢に伴って増加し,灰分は骨重量の半分以上を占 を呈する骨単位の集積に依拠しているが,ハヴpアース 8日齢から 9 8 めるようになった.タンパク質含量は 2 腔において骨単位が形成されるためには I型コラーゲ 日齢にかけて急速に増加し,その後はほぼ一定となっ ンとヒドロキシアパタイトが規則的に蓄積する必要が たが,コラーゲ、ン含量は加齢に伴い直線的に増加した ある (KRISTIC, 1 9 7 8 ) . V型および V I型コラーゲンは ( 図 1B). カルシウム含量もコラーゲン同様, 2 8日齢 I型コラーゲンとの結合性を有し,組織特異的なコ 以降直線的に増加しており,灰分に占めるカルシウム ラーゲンの立体配置に関与していることが知られてお の割合とタンパク質に占めるコラーゲンの割合は,加 9 9 1 ),オステオネクチンとオス り (LINSENMAYER, 1 齢に伴い増加した. テオポンチンはカルシウム結合性を有し,骨における 脱灰後の骨に存在するタンパク質は SDS-PAGE像 ヒドロキシアパタイト沈着への関与が知られている 1型コラーゲンが大半を占めて (ROACH,1 9 9 4 ) . 免疫染色像においてこれらの微量成 から明らかなように, いた(図 2A). しかし,泳動パターンに加齢に伴う顕 分は,骨単位形成前のハヴアース腔に局在していたこ 著な変化は観察されず, 1型コラーゲンの α鎖 β鎖 γ とから, 鎖の比率も加齢変化を示さなかった.一方,脱灰に伴っ には, て抽出される非コラーゲンタンパク質は,脱灰法に ステオポンチンなどの微量成分が密接に関与している よって SDS-PAGE像が異なり,各々で加齢に伴う変 ことが示唆された. 化が観察された(図 2B,C). ウエスタン・プロッテイ 1型コラーゲンとカルシウムの規則的な蓄積 V型や V I型コラーゲン,オステオネクチン,オ 従って,骨の物理的機能を担っているのは骨 ECM ングの結果, EDTA抽出画分において加齢に伴い減少 の主要成分である I型コラーゲンとカルシウムである したバンドはオステオネクチンであり,塩酸抽出画分 が,骨の発達にとって重要なのは微量成分と考えられ v型お た. しかし,骨には構造糖タンパク質やプロテオグリ I I I型 , ではオステオポンチンが減少していた . I型コラーゲン含量は何れも加齢に伴い減少した よび V t カンも微量 ECM成分として存在しており (FISHERe ) . ウエスタン・プロッテインクY 象の ( 図 2D, E, F a l .,1 9 8 7 ),今後の検討が必要と考えられる. -32- 骨の発達に伴う ECMの変化 図 % 100 35 28 A 98 154 182 日齢 ω 15E ~g_ ( ¥ ( ! 1 3nU 。 20 ﹁ 口水分 gOOF¥留﹄) 20 園灰分 脂質 25 30 国 . カルシウム EJnU ロタンパク質 40 コラーゲン ー 一 + ー 2211 ω uBoaωZ02 ( ﹂- 60 酬入、lhm円冶吋勾眠、て入、 80 タンパク質 口 10 5 5 。 会E 2g 。 。 28 98 154 ¥ 宮 182 日齢 B 図 1 成長に伴う骨組成の変化 骨の一般組成(%) を( A )に,骨 100mg中のタンパク質,コラーゲン, カルシウム含量 ( mg) を( B )に示す. std 98 182 ON 98 182 std 98 182 98 182 OP std 98 182 98 182 図 2 骨タンパク質の SDS-PAGEおよびウエスタン・ブロッティング像 A は脱灰後の骨粉に残存するタンパク質, Bは EDTA抽出画分, Cは塩酸 抽出画分の CBB染色した電気泳動像を, D,E,Fは脱灰後ペプシン処理に I I型,抗 V型,抗 V I型コラーゲン抗血清による免 より得られた画分の各々抗 I 疫染色像を示す . Aの α1,α2,β,y は I型コラーゲンの鎖名を, Bのオス テオネクチン (ON),Cのオステオポンチン ( Op)および D,E, Fの s t dは 免疫染色に際し用いた標準タンパク質を,数字は日齢を表す. 33- 中村富美男・森休広・海津幸子・浪崎晋二・福永重治 図 3 骨横断面の HEおよび間接蛍光抗体染色像 A は HE染色像を, Bは抗 I型コラーゲン, Cは抗 V I型コラーゲン, D は抗オステオネ クチン抗血清を第一抗体として用いた免疫染色像を示す.図中の hはハヴアース腔を, 5倍. 矢印は骨小腔を,数字は日齢を表す.倍率は 3 文 M.D.,] . H .TuPYand] .SODEK( 1 9 9 4 )The GRYNPAS, 献 BERGMAN,1 . andR .LOXLEY ( 1 9 6 3 ) Two improved and s i m p l i f i e d methods f o r t h e s p e c t r o p h o t o m e t r i cd e t e r m i n a t i o no fh y d r o x y p r o l i n e . Ana. 1Chem.,3 5 :1 9 6 1 1 9 6 5 . CHALKLEY, H爪 T .( 1 9 4 3 )Methodf o rt h eq u a n t i t a t i v e morphologica i l a l y s i so ft i s s u e s .]NCI,4 :4 7 5 3 . FISHER,L .W.,G . R .HA WKINS,N.TUROSS and ] . D . TERMINE( 1 9 8 7 )P u r i f i c a t i o nandp a r t i a lc h a r a c t e r i z a t i o no fs m a l lp r o t e o g l y c a n s1and I I,and bones i a l o p r o t e i n s1andI I,ando s t e o n e c t i nfrom t h em i n e r a l compartment o fd e v e l o p i n ghuman b o n e .] .Bio. 1Chem.,2 6 2 :9 7 0 2 9 7 0 8 . 開 GERSTENFELD,L .C .,M.FENG,Y .GOTOH and M . ] . GUMCHER( 1 9 9 4 )S e l e c t i v ee x t r a c t a b i l i t yo fn o n k c o l l a g e n o u sp r o t e i n sfromc h i c k e nb o n e .C a l c i f . T i s s u e .I n t .,5 5 :2 3 0 2 3 5 . d i s t r i b u t i o n o f s o l u b l e, mineral-bound, and matrix-boundp r o t e i n si no s t e o p o r o t i candnormal b o n e s .Bone,1 5 :5 0 5 5 1 3 . LINSENMAYER, T . F .( 1 9 9 1 )C o l l a g e n .i nC e l lB i o l o g y o fE x t r a c e l l u l a rMatrix2nde d .(Hay,E . D .e d )7 4 4 .PlenumP r e s s .NewYo rk . K R I S T I C, R . V .( 1 9 7 8 )D i egewebed e smenshenund d e rs a u g e t i e r e .2 1 4一2 21 .S p r i n g e r 久保木芳徳 ( 1 9 9 5 ) 骨形成と細胞外マトリツクス.蛋 0:4 7 5 4 91 . 白質核酸酵素, 4 ROACH, H.1 .( 1 9 9 4 )Whyd o e sbonematrixc o n t a i n nonc o l l a g e n o u sp r o t e i n s ? Thep o s s i b l er o l e so f 開 o s t e o c a l c i n,o s t e o n e c t i n,o s t e o p o n t i n and bone s i a l o p r o t e i ni nbone m i n e r a l i z a t i o n and r e s o r p t i o n .C e l lB i o l o. In t .,1 8 :6 1 7 6 2 8 . 杉本到・太田博明・野津志朗 ( 1 9 9 7 ) 老年性骨粗緊 症のメカニズムの解析.組織培養工学, 2 3:4 3 1 -4 3 4 . -34-