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円債投資コメント 時事コラム:マイナス金利政策の位置付け

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円債投資コメント 時事コラム:マイナス金利政策の位置付け
土井 一人
日本拠点投資運用部長、
ポートフォリオ・マネージャー
マイナス金利政策の位置付け
要約
 日銀の導入したマイナス金
利を巡って、市場の混乱
が続いている。
 これまで存在し得ないと考
えられてきたマイナス金利
が、なぜ突然、金融政策
の表舞台に登場してきた
のか。本当に名目金 利に
非負の制約は存在しない
のか。
日銀の導入したマイナス金利を巡って、市場の混乱が続いている。欧州で一部導入済
みのマイナス金利政策の効果、影響への評価の蓄積も十分といえない中、なぜ日銀はマ
イナス金利の導入を決断したのか。
そもそも金利がマイナス領域も含めて下限なく低下できるのであれば、インフレ期待に
働きかける金融政策そのものが不要なはずである。景気を刺激するために、金融政策が
目指すのは均衡実質金利よりも低い水準まで実質金利を低下させることのはずである。し
かし、名目金利はマイナスにならないという制約があるため、十分に大きいプラスのイン
フレ期待を維持しなければ、実質金利をマイナス領域まで引き下げることができないと、
伝統的には考えられていたはずである。だからこそデフレが脅威とされたのである。な
ぜなら、いったんデフレ期待が蔓延すれば実質金利を引き下げることできず、デフレと不
況の悪循環に状況に陥り、脱却が極めて困難になるためであり、これは日本の「失われ
た15年」の経験から世界が学んだ教訓でもある。
 欧州でのマイナス金 利の
経 験では、一部を除くと
個人の普通預金がマイナ
ス金利になる状況ではなく、
にもかかわらず、これまで存在し得ないと考えられてきたマイナス金利が、なぜ突然、
金融機関の世界にとどまっ
金融政策の表舞台に登場してきたのか。本当に名目金利に非負の制約は存在しないのか。
ていることから、現段階で
は、マイナス金利は、やは この点を考えるには、欧州でのマイナス金利の経験が参考になる。
りプラスの金利を前提とし
た世界の中で、量的緩和 欧州中央銀行(ECB)が最初にマイナス金利を導入した際には、量的拡大よりも信用
を補完し名目金利を引き下 緩和を重視する考え方であったが、その後 ECB は量的拡大へと方針転換をしている。結
げるための政 策手段の一 果的に、マイナス金利と量的拡大が共存している点において日銀と似ているが、国債の
つと評価することが妥当で 購入量はコミットしても自身のバランスシートの規模拡大を数字で明確にコミットしてい
はないだろうか。
ない点は日銀とは異なる。実際に昨年初に ECB が量的緩和を導入した後の欧州金利の
大幅上昇を見て、やはりマイナス金利的状況には持続性がないと多くの市場参加者は感
 マイナス金利の導入を新次
じたはずだ。スイスの場合はもっと本格的なマイナス金利のケースである。もともと対ユー
元の展開とばかりに、さら
なるマイナス金利政策を強 ロでの自国通貨高を阻止するために大規模な量的緩和を行っていたが、ECB の大規模量
化・推進するのは、かえっ 的拡大の可能性の高まりを受けて、量的限界を悟りなりふり構わずマイナス金利への転換
て市場の混乱と機能麻痺 を図ったケースであり、状況は異なるものの、政策背景は日銀と似ている。スウェーデン
を深めることになるのでは やデンマークにしても、結局は対ユーロでの自国通貨価値をコントロールするためにマイ
ナス金利に踏み込んでいるのであって、これらはやや特殊なケースと考えられる。
ないか。
 そもそも、 今必 要なのは、 重要なのは、欧州のケースにおいては、一部を除くと個人の普通預金がマイナス金利
ぎりぎりまで 金融政 策に
になる状況ではなく、マイナス金利は金融機関の世界にとどまっている点である。つまり、
異次元の負担を強いるこ
マイナス金利は金融機関と国債投資家の負担で部分的に存在しているにすぎないのであ
とではなく、 労 働 市 場 の
る。もちろん、今後個人の預金も含めてマイナス金利、マイナスのイールドカーブの世
規制緩和と財政拡大など
金融政策以外の政策対応 界が登場する可能性もゼロではないが、そうなれば預金を中心とした信用創造の上に成
り立つ現代の金融システムそのものに対する重大なチャレンジとなるに違いない。このよ
ではないだろうか。
うに考えると、現段階では、マイナス金利は金利の価値観における「不思議の国のアリス」
的逆転を意味するのではなく、やはりプラスの金利を前提とした世界の中で、量的緩和
© Western Asset Management Company 2016. 当資料の著作権は、
ウエスタン・アセット・マネジメント株式会社およびその関連会社(以下「ウエスタ
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という)に帰属するものであり、
ウエスタン・アセットの顧客、
その投資コンサルタント及びその他の当社が意図した受取人のみを対象として作
成されたものです。第三者への提供はお断りいたします。当資料の内容は、秘密情報及び専有情報としてお取り扱い下さい。無断で当資料のコピーを作成
することや転載することを禁じます。
を補完し名目金利を引き下げるための政策手段の一つと評価することが妥当ではないだ
ろうか。マイナス金利政策を過大評価し、新次元の展開とばかりに、さらなるマイナス金
利政策を強化・推進するのは、かえって市場の混乱と機能麻痺を深めることになるので
はないか。
日銀のマイナス金利の導入後の市場変動は、グローバルな要因も多大な影響を与えて
いるので評価が難しい部分もある。しかし、日本の銀行株が売られ、その後、突然、欧州、
米国の銀行セクターの株安、社債スプレッド拡大に至った状況には、マイナス金利が金
融セクターに負担を強いる割に効果がはっきりしないことへの市場の批判も込められてい
たのではないだろうか。何よりも、日銀のマイナス金利の導入を本来最も歓迎すべき物
価連動債市場が暴落し肝心の実質金利が上昇してしまったのはあまりにも皮肉である。
同時に、本来限界的でしかないマイナス金利の導入を日銀が高らかに宣言する状況は、
ギリギリの瀬戸際まで追い込まれた金融政策の限界を感じさせる。金融政策以外ですべ
きことがあるにもかかわらず、それができない世界各国の政治の弱体化している状況も、
市場の閉塞感・限界感を強化しているように感じられる。今の日本に必要なのは、金融
政策に異次元の負担を強いることではなく、労働市場の規制緩和と財政拡大など金融政
策以外での政策対応ではないだろうか。
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式会社およびその関連会社(以下「ウエスタン・アセット」
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業務の種類: 金融商品取引業者(投資運用業、投資助言・代理業、第二種金融商品取引業)
登録番号:
関東財務局長(金商)第427号
加入協会:
一般社団法人日本投資顧問業協会(会員番号 011-01319)、一般社団法人投資信託協会
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2016年2月
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