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三浦 鉄郎 アメリカ合衆国の開拓と地名に関する歴史地理学的研究

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三浦 鉄郎 アメリカ合衆国の開拓と地名に関する歴史地理学的研究
アメリカ合衆国の開拓と地名に
関する歴史地理学的研究
三 浦 鉄 郎
I.はしがき
衆国の地名を究明する価値の高いものであ
る。
アメリカ合衆国の歴史は、ヨーロッパ諸国
II.アメリカ合衆国の植民(Figl・2)
民の移住による開拓史であるといっても過旨
でない。したがって地名は、開拓に無関係で
(1)束部地方の開拓
はあり得ない。
17世紀から18世紀初頭まで100年間に、ヨー
本題はアメリカ合衆国の人口50万以上の都
ロッパからの移民が盛んに行われ、歴史上の
市と州の首都を選定し、それらの地名由来を
ゲルマシ民族の移動にも比すべき民族移動と
究め、その地域性を明らかにしたい。
みることができる。それ故植民地時代のアメ
本題の目的を達成するため、次の諸点に留
リカは、ヨーロッパの出店でありヨーロッパ
意した。但しアラスカを除いた。
文化圏の拡大であった。
(1)アングロサクソン系のイギリス人、ラ
大西洋を越えて、アメリカヘ移民したイギ
テン系のフランス人・イタリア人・スペ
リス人・フランス人・ドイツ人・スコットラ
イン人、束ヨーロッパ系民族、その他ア
ンド人・アイルランド人・オランダ人・スウ
ジア人・黒人・メキシコ人・キューバ人・
Fig l
プエルトリコ人、アメリカインデアン(原
住民)などから構成される複族国である
こと6
(2)多種多様な言語集団からなること。
(3)移民と開拓の歴史の国であること。
(4)ヨーロッパ文化圏に属すること。
正井泰夫教授(1)は「北アメリカの地名」論文
において、文化地理学の観点からインデアン
語・英語・フランス語・スペイン語などの諸
国民による多様な言語集団がもたらした地名
が多く存在し、特に開拓の意昧やフロンティ
アの前進を物語るNew地名、方位地名を論じ
ている。正井教授のこの論説は、アメリカ合
Figl Coloniuation
of U.S.A
(注)浮田典良(1971):歴史地理学 P79、朝倉書店
エーデン人・スペイン人などは、彼等の風俗
気候のため、企業的プランテイションが行わ
習慣や伝統を移植したことであろう。
れるなど独自性をもっていた(2)。そして18世
オランダ人は、アメリカにニューネーデル
紀後半までには13州の植民地が建設された。
ランド植民地(1612)を開いて、ニューアム
この植民地はアパラチア山脈の東麓のピー
ステルダムを建設したが、17世紀後半イギリ
モンド台地下の海岸平野に限定されている。
ス領となって、ニューアムステルダムをニュ
その理由は、① 海上交易の利をもとに、
ーョークと改称された。
可航河川の洽岸が選ばれた。ここを「Tide
オランダより早くイギリスは束インド会社
Water
(1600)を設立し、国王の特許状による植民
チア山脈と湯布線(Fa11
会社の手で北アメリカヘの植民が進められ、
ため、インデアンの襲撃を防ぐのに利点があ
ニューフォンドランドやヴァージニア(1607)
った。しかし他面この地形がわざわいして奥
植民地を開き、タバコ・ワタ・サトウキビの
地の開拓をおくらせた(3)。
Colony」と称されている。② アパラ
Line)を控えている
(2)七年戦争とミシシッピ川以東の取得
Fig 2
北アメリカは、数多くの開拓者の移住によ
って、1730年には開拓者とその家族達が、ペ
ンシル八二アのフロンティアに充満した。
それ故彼等は、シエナンド渓谷を下り、さ
らに西部をミシシッピ川に向う水路沿いに前
進を試みるにいたった。他方フランス人が、
束カナダのセントローレンス川流域から、多
くの探険家・宣教師および毛皮商人を送りこ
み、さらにミシシッピ川流域を領土とし、ケ
ベックからニューオルリンズに至る三日月形
の地域を完全に植民地化した。この植民地を
プランテイションや海岸の松林からテレピン
ルイ14世に因んでルイジアナ(Louisiana)と
油・タールが抽出された。その中心はチャー
命名した。17∼18世紀におけるヨーロッパは、
ルストンである。
北方においては、信仰の自由を求めて、メ
イフラワー号で渡米した清教徒の移住が行わ
れ、清教徒がマサチュセッツを開いて農耕に
従事(1630)した。
北方が冷温湿潤な気候のため、製材・造船・
絶対王政国家時代であり、スペイン継承戦争
(1714)、オーストリア継承戦争(1748)、七
年戦争(1756∼63)が行われた。
これらの戦争は単にヨーロッパで展開され
たのみならず、アメリカ・アジアの植民地抗
争と結びついた。特に七年戦争の際のパリ条
漁業を中心としたのに対し、南方は亜熱帯的 約(1763)によって、イギリスはフランスか
らミシシッピ川以東の地とスペインからフロ
トンのあるコロンビア特別区から構成される
リダ半島を得た。代償としてスペインは、ミ
連邦国家である。人種上では複族国であり「人
シシッピ川以西のフランス領を得た(4)。
種のるつぽ」である。したがって地名は、多
(3)アメリカ合衆国の独立と領土の拡大
様な言語集団のもたらした民族的内容をがん
北米東岸13州のうち、北部は商工業が営ま
有するものが多い。
れたのに対して、南部は黒人奴隷を使役して
地名のモチーフを検討するにあたり、その
プランテイションが営まれた。北部と南部は、
出典は次の記号で示した。
建設の事情や宗教も異なっていたが、各植民
牧英夫(世界地名語源)(6)=M、山中襄太(統
地は代議制の議会を有し、自主独立の気運が
地名語源辞典)(7)=Y、渡辺光(世界地名大事
強かった。本国のイギリスは、重商主義を強
典アメリカ・オセアニアI
化したので、アメリカは1774年フィラデルフ
kyusha's(New English
ィアに大陸会議を開き、1775年レキシトンの
Dictionary)(9)ニD。
戦で独立戦争に突入、1776年に独立宣言をし
A 東 部
た。ついにパリー会議(1783)において、正
ニューイングランドは、自由を求めてイギ
式に独立が認められた。
リスから移住してきたピューリタンが定住
独立後のアメリカは、西部へ向かって開拓
し、イギリスによく類似した地域である。
が進められ、ルイジアナをフランス(1803)
この地域には、メーン・ニューハンプシャ
から、フロリダをスペイン(1919)から購入
ー・バーモント・マサチューセッツ・ロード
した。 1853年までには、太平洋岸に達する広
アイランド・コネチカットの6州が含まれて
大な領域がアメリカ合衆国の手中に収められ
いる。
た。*フロンティアも西漸したことは勿論であ
(1)オーガスタ(Augusta)
る。1890年には、フロンティアは消滅した。
メイン州の州都、サヴァナ川に洽い遡行の
この広大な地域を経営するのに、タウンシッ
終点。 18世紀に英人が川の西岸に入植し、ジ
プ制**を設け、開拓者の家族を定住させて開
ョージ3世の母プリンセスオーガスタに因ん
拓に従事させた(5)。
で命名された。綿花の集散地で有名である
II)(8)=S、Ken− Japanese
(M・S)。
IH.アメリカ合衆国の地名のモチーフ
(2)コンコード(Concord)
と横能
アメリカ合衆国は、現在50州と首都ワシン
ニューハンプシャー州の州都。地名は1635
年初期の移住者が土着のインデアンと融合し
たことを記念して命名され、1727年に集落が
立地した。独立当時の史跡が多いので著名で
であり、国際連合本部の所在地である。
地名の起源は、1626年オランダ人がインデ
ある。オールコット・エマーソン・ホーソン・
アンからマンハッタン島を24ドルにあたる装
ソローなどの文豪の居住地としても名高い。
身具で買収し、ニューアムステルダムと呼称
交通、商業の中心地である(D・M)。
した。その後1664年イギリス領となり、ニュ
(3)ボストン(Boston)
ーヨークと改名した。
マサチューセッツ州の州都。商工業の中心
ヨークは、ョーク侯(イギリスの植民地管
地である。マサチューセッツ湾岸の商港で、
理官)に因んだ。ボストンからワシントンに
羊毛と魚類の集散地として有名だが、航空機
至る約800km問に人目100万人以上の大郡市圏
や造船も盛んである。ハーバード大学の所在
が5つも連続し、メガロポリスを形成してい
地で文化の中心地でもある。
る(D・S)。
この地はインデアンがShaw
Mutと呼んで
(7)トレントン(Trenton)
以たのが、1603年イギリスより大移民集団が
ニュージャージー州の州都。トレントンは、
入りボストンと改名した。その理由は、ボス
デラウェア川にまたがり舟運の要地である。
トン出身者が多かったことによるのであろう
地名は、創建者William
(M)。
(1655∼1724)に因む(D・M)。
(4)プロビテン(Providence)
(8)フィラデルフィア(Philadelphia)
ロードアイランド州の州都。地名は、Roger
ペンシルバニア州南東端のデラウェア川に
Williamsによって命名された。その起源は、
臨む河港で、ニューヨークに次ぐ大貿易港で
Trent
「自由な神の国」を意昧する。集落はナラガ
ある。製鉄・造船・精油業などが盛んな商工
ンセット湾奥プロビデンス川河目に立地し港
業都市である。
町として発達した。伝統的綿工業の中心地で
地名は、フィル「愛」とアデルフィ「兄弟」
ある(D・M・S)。
と接尾語「アイ」との合成で、「兄弟愛」の意
(5)ハートフォード(Hartford)
昧である。 1682年ウィリアム・ペンが、クエ
コネティカット州の州都。地名のハートフ
ーカー教徒を引きいて入植し、「兄弟愛」をモ
ォードは、コネティカット川の西岸に発達し
ットーに開拓に従事した。独立戦争における
舟運の終点。海上保険会社の木社が集中して
主要都市である(D・M)。
全米保険業の一大中心である。
(9)ドーバー(Dover)
地名のハードは「堅固」、フォードは「徒渉
デラウェア州の州都。セントジョーンズ川
地または要塞」の意である。つまり徒渉に困
に面し、鶏肉・果物・野菜の缶詰などの加工
難であり、堅固な要塞地のことであろう。
業が盛んである。集落は1683年にウィリア
同名の地名が、バーモント・ウイスコンシ
ム・ペンによってつくられた町である。
ン州にもある(D・S)。
地名の由来は、Dura
(6)ニューヨーク(Newyork)
水」のことである。イギリスにおけるドーバ
ニューヨーク州の北束部ハドソン河口に立
ー川・ドーバー海峡・ドーバー市に因んだ名
地し、世界最大の都市であるとともに、世界
称である。 18世紀の古い家屋や史跡に富んで
経済の大中心である。都心はマンハッタン島
いる(D・M・S)。
the watersで「流れる
叫 ボルチモア(Boltimore)
メリーランド州の都市。1729年に創設され、
初期はタバコの取り引きで繁栄した。今は大
西洋岸のチエサピーク湾に臨み海港として著
名であり、製鉄・造船・自動車などの工業が
盛んである。地名は、メリーランド開拓者ボ
ルチモア卿に因む(D・M・S)。
(11)アナポリス(Annapolis)
メリーランド州の州都で、チエサピーク湾
岸の港市である。アメリカ海軍兵学校の所在
地。地名は、Annar女性名」、イギリス女王
Anna(1665∼1714)とpolisとの合成である。
1695年に命名された(D・M)。
(1功 ワシントン(Washington)
アメリカ合衆国の首都。正式にはコロンビ
ア特別区と呼称される。連邦の直轄地で面積
Fig 4 Distribution
は、180
の指導者ウィリアム・バードが、イングラン
、である。市民は国会議員の選挙権を
of Fall-linecities
有しない。 1790年ポトマック川に臨んだこの
ドのリッチモンド市に因んで命名した。語源
地が首都にさだめられ、1791年首都創設委員
上リッチ「豊かな」の意で好まれた(M)。
会によって、初代大統領を記念してワシント
(14)ローリー(Raleigh)
ンと命名された。
ノースカロライナ州の州都。滝線都市の1
市街は、放射直交路であり、その設計はフ
つで、繊維・製材・印刷などの工業が盛んで
ランスのピエール・ランファンによる(D・
ある。地名は、イギリスの探険家、軍人、著
M)。
述家で有名なオーター(1552∼1618)に因ん
B 東南部(Fig4)
だ。彼はThe
大西洋の海岸平野とピードモント台地の地
にRaleighと綴った。
域は、台地と平野との境界付近で北西から南
㈲ コロンビア(Columbia)
東に流下する諸河川が滝となり、この滝を結
南カロライナ州の州都。滝線都市の1つ。
んだ線を滝線(Fall-Line)と呼んでいる。
古くから紡績工業で名高い。地名は、アメリ
この滝線に沿って、水力を動力とした工業
カ大陸の発見者クリストフア・コロンブスに
都市が出現した。リッチモンド・ローリー・
因む。
コロンビア・オーガスタ・モントゴメリーな
㈲ ジャクソンビル(Jacksonville)
どがそれである。
フロリダ州北東部における大西洋沿岸の港
㈲ リッチモンド(Richmond)
市で、綿花の輸出港である。木材・柑橘類・
バージニア州の州都。港市として栄え、夕
タバコの生産も行われている。
バコの集散地である。南北戦争当時は、南軍
地名の由来は、1830年当時の大統領ジャク
側の中心地であった。地名は、1733年入植者
ソン名による。ジャクソン地名は、アメリカ
History of the world (1614)
各地に命名されたので、それと区別するため
テネシー州の州都。地名は、独立戦争時の
に、フランス語のビルを語尾につけた(D・
英雄フランシス・ナァシュ(1472∼1477)と
M)。
スペイン語のビル「住居・村・町」との合成
㈲ モントペリア(Montopelier)
である(D・Y)。
バーモント州の州都。世界的に名高い花肖
叫 アトランタ(Atlanta)
岩採掘所があり、石碑・プラスチックの製品
ジョージア州の州都。綿工業をはじめとし
工業が行われている。地名は、フランスのモ
て、機械・化学工業が盛んである。またU・
ントペリアに因む(M)。
S・A南東部の航空交通の要地で関税港であ
(18》オルバニ(Albany)
る。地名は、1843年州知事名Martha・Atlanta
ニューヨーク州の州都。1600年初頭オラン
Thomsonに因んだ(D・M・Y)。
ダの西インド会社によって開拓され、その後
叫 モントゴメリー(Montgomey)
エリー運河開通によって商工業都市として発
アラバマ州の州首。ここは黒人居住地の中
展した。地名は「The
Duke
of york
and
心地で、綿布・綿紡績工業で名高い。
Albany」を記念して1664年に命名された。
地名は、1775年独立戦争で戦死した「リチ
アメリカのジョージア州にも同地名の都市
ャード・モントゴメリー・メンフィス」を記
がある(D・S)。
念して命名された(D・M・Y)。
(19)ハリスバーグ(Harrisburg)
C 南 部
ペンシルバニア州の州都。サスケハンナ川
ミシシッピー川下流の広大な地域で、肥沃
の谷口集落で交通の要地であり、製鉄・金属・
な沖積土や黒土に恵まれ、綿花栽培の一大中
食品工業が盛んである。
心地である。 1850年代には、黒人奴隷制度に
地名は、設計者John
・ Harrisに因んで命名
基づいてプランティションが行われ、世界綿
された。ハリスバーグは「ハリスの構築した
花生産量の%以上を占めていた。 しかし現在
要塞」の意である(D・M)。
は%に減じ、黒人は北部へ移動して労働力が
帥 チャールストン(Charleston)
少なくなった。近時は機械化が進んで耕地経
ウエストバージニア州の州都。地名のチャ
営が近代化した。
ールスはイギリスの王名、トンはイギリスの
メキシコ湾沿岸は、降水量が多く、米やサ
地名用語で「町」の意。つまりイギリス王に
トウキビの栽培地である。テキサス州には油
因んだ町のことであろう(D・S・Y)。
田が多く、U・S・Aの石油産出の40∼45%
卸 コロンバス(Culumbas)
を占める。
オハイオ州の州都。行政や商工業の中心地
(絢 タラハシー(Tallahassei)
である。地名は、1492年にアメリカ大陸を発
フロリダ州の州都。周囲の地形は、低平な
見したコロンブスに因む(D・M)。
海岸平野で、綿花の栽培や牧牛が盛んに行わ
(功 フランクフォート(Frankford)
れている。 16世紀にはインデアンの村落が発
ケンタッキー州の州都。タバコの生産や農
達していた。地名は、インデアン語で「古い
牧業が営まれている。地名は、この地で殺害
町」のことで、今も植民地風の古い地主建物
された開拓者フラクフォートに因む(D・Y)。
が残存している(S)。
(却 ナッシュビル(Nashville)
哺ニューオーリンズ(New
−
Orleans)
ルイジアナ州を流れるミシシッピー川河目
テキサス州の州都。商業・教育の中心地で
から上流170kmのところに立地、綿花や穀物の
ある。地名は、テキサスの開拓者Austin・Ste-
輸出港として発達した。そのほか製糖・精油・
phen ・ Fuller (1793∼1836)に因む(D・M・
石油化学・造船業が盛んである。
S)。
1718年フランス人とスペイン人によって建
叫 サンアントニオ(San
設されたので、旧市街には名残りの建造物が
テキサス州の都市。1718年に建てられたフ
多い。地名はヌーペル・オルレアン侯(フラ
ランス系教会のサンアントニオ・ドゥ・バル
ンスの摂政)に因んで命名された。
ロとサンアントニオ・ドゥ・バジャールがも
英語読みで、Nowvelleはニュー、Orleansは
とになって集落が形成された。農産物・羊毛
オーリンズとなる(D・M・S・Y)。
の集散地であるとともに保養地として利用度
叫 バトンルージュ(Baton
が高い。地名は、教会のサンアントニオに因
Rouge)
Antonio)
ルイジアナ州の州都。かつてイギリス・フ
む(D・M・S)。
ランス・スペインによって交互に統治された
叫 ボーモント(Beaumont)
結果国際的性格が今なお残っている。化学工
テキサス州の束南部を流れるサビーン川支
業の中心で、重要河港でもある。
流に面する河港である。また精油工業が行わ
地名は、1719年フランス軍人が白人をイン
れている。地名は、vertgreen(シカのかくれ
デアンから守る目的で要塞を構築し、そこに
る森林中の草木)とmountainとの合成である
赤い棒(Baton
(D)。
Rouge)を立てたという。こ
の赤い棒は、豪族屋敷の境界を示したもので
叫 ジャクソン(Jackson)
あり、インデアン語のistonmaをフランス語
ミシシッピー州の州都。経済の中心地であ
化した(M・S)。
る。地名は、第7代アメリカ大統領ジャクソ
(畑 ダラス(Dallas)
ンに因む。彼は普通選挙の功労者(ジャクソ
テキサス州の都市。石油と綿花の中心地で、
ンデモクラシー)として著名。
最近航空機製造も発達している。
ス軍をニュー・オーリンズで破った記念日を
ダラスは、1841年に建設された集落であり、
祝う日が1月8日であり、ジャクソンデーと
地名はU・S・A副大統領(1845∼1849)ダ
している(D・M)。
ラスに因んで命名された(D・M・S)。
叫 メンフィス(Memphis)
叫 ヒューストン(Houston)
テネシー州の西南部に位置し、ミシシッピ
テキサス州の都市で、運河でメキシコ湾と
ー川の港市である。綿花・農産物の集散地で
連絡されてから、石油と綿花の大貿易港に発
あるばかりでなく、航空機製造・化学工業・
展した。地名は、1820年代の入植当初はハリ
食品工業も盛んである。
ス・タウン(Haris Town)と呼ばれたが、1835
地名は、1821年に集落が形成され、古代エ
年メキシコの独立戦争で、ヒューストン将軍
ジプトの古都メンフィスに因んで命名され
の指揮のもとに勝利した。
た。開拓時代には、ミシシッピー川が「アフ
地名は、ヒューストンに因んで命名された
リカのナイル川」と呼ばれ、ナイル川流域の
(D・M・S)。
ように豊作と発展を願った(D・M)。
卸 オースチン(Austin)
1815年イギリ
D 申西部
に因む(D)。
オハイオ州西半からインジアナ・イリノ
帥)シカゴ(Chicago)
イ・アイオワ・サウスダコタ・ネブラスカの
ウイスコンシン州ミシガン湖畔に立地する
各州にわたる地域であり、コーンペルトと呼
U・S・Aの大都市で、水上交通の要地とし
称され高度に発達した混合農業地帯である。
て農産物の取り引きで発展した。ここには、
ミシガン・ウイスコンシン・ミネソタ各州
世界有数の穀物市場と家畜市場があり、工業
の北半は、大酪農地帯を形成し、なお五大湖
では食用品・農品具工業が有名である。
周辺は、鉄鋼と自動車工業地帯として世界的
地名は、インデアン語のChigagour玉ネギ
に有名である。グレートプレーンズ地帯は、
のある所」、その後白人によって「シカゴウ」
放牧地で名高く小麦地帯でもある。
は川の名に転用された。
叫 ランシング(Lansing)
Fort・Dearbornによって「デボン要塞」が建
ミシガン州の州都。工業の中心地である。
設された。都市は、シカゴ川の河岸に立地す
地芦は、アメリカの裁判官John
るため「シカゴ」と称した(D・M)。
・ Lansing
1830年U・S・Aの
(1751∼1829)に因む(D・M)。
(42)スプリングフィールド(Springfield)
哺 デトロイト(Detroit)
イリノイ州の州都。経済の中心である。地
ミシガン州の都市。エリー湖とサンクレア
名は、インデアン語で「泉のある原野」の意
湖にはさまれた地点に立地し、アメリカ第1
である(D)。
位の自動車工業の中心地であり、航空機や製
㈲)リトルロック(Little
鉄工業も盛んである。地名は、フランス語で
アーカンソー州の州都。農産物・木材の集
「海峡」を意昧し、かつては砦がありそこを
散地である。また黒人問題でも知られている。
中心に都市が建設された(D・M)。
地名は、字義通り「小さな岩石」の意で、
叫 インデアナポリス(lndianapolis)
氷河榛の多いことによる(D・M)。
インデアナ州の州都。トウモロコシと家畜
㈲ ジェフアーソンシティー(Jefferson-
の集散地である。地名は、lndianaとCkpolis
city)
Cityとの合成である。インデアナは「lndian-
ミズリー州の州都。地名はアメリカの独立
land」の意である(D・M)。
宣言文起草委員であり、民主共和党の指導者
(39)ミルウォーキー(Milwaukee)
でもあるジェファーソンを記念して命名され
ウイスコンシン州のミシガン湖畔に立地す
た(M)。
る港市。ビール・自動車工業が行われ、穀物・
闘 デモイン(Desmoines)
畜産品の集散地である。
アイオワ州の州都。交通の要地であるとと
17世紀後半フランスが毛皮取り引きのため
もに農牧業の中心地である。ここには51の保
設けられた集落である。地名は、アルゴンキ
険会社があり、保険業界の著名都巾である。
アン語族(インデアン)で「good-land」の意
地名は、インデイアンの部族名で1843年に
である(D・M)。
デモイン砦が構築された。カトリック宣教師
㈲ マジソン(Madison)
達の開拓に連想して、moingsがmoine’s、
ウイスコンシン州の州都。地名はアメリカ
monk’sとなった(D・M)。
第4代大統領James・Madison(1751∼1836)
㈲ セントポール(St、Paul)
一
Rock)
ミネソタ州の州都。セントポールは、ミネ
E 西 部
アポリスと合せてTwin
ロッキー山脈と太平洋沿岸地方を含む地域
Citiesと呼ばれてい
る。1849年集落が建設され、小麦の製粉工業
である。ロッキー山脈の東部は、海抜高度が
の中心地であるとともに、交通の要地でもあ
高く冷涼気候で降水量が少ないため、農業に
る。地名は、St、Paul’s Churchに因む。
はあまり適しないが、金・銀・鉛・スズ・モ
助 オクラホマシティー(Oklahomacity)
リブデン・ウランなどの鉱物資源に富んでい
オクラホマ州の州都。小麦の集散地である。
る。また雄大な山岳地帯であるため、イエロ
特に石油産出によって急速に発達した(D・
ーストン国立公園をはじめ、多くの国立公園
M)。
がある。中でもグランドキャニオンは世界的
鴎 トピカ(Topeka)
観光地である。ロッキー山脈の西部は、乾燥
カンザス州の州都。地名は、「Good
Place
気候で砂漠地が多い。
1936年フーバーダムの
to dig Potatoes」の意であって、Sweet
完成によって、南アリソナ・南カリフォルニ
Potatoesを栽培するに良い場所ということ
アの不毛地が濯漑されて、綿花・果実・野菜
である(D・M)。
などの栽培が可能となっている。
㈲ リンカーン(Lincoln)
太平洋沿岸は、海岸山脈・カスケード山脈・
ネブラスカ州の州都。交通上の要地。第2
シエラネバタ山脈・ロッキー山脈へと続くの
次世界大戦後工業化が著しく、電気器具・時
で、開拓の障害となった。
計の精密工業に特色がある。
ドラッシュ(GOld
1864年に町として建設され、1867年に州都
た。
となる。地名は、16代大統領リンカーンを記
勁 ヘレナ(Helena)
念して命名された(D・M)。
モンタナ州の州都。商業・交易・運輸の中
紬 ピーリー(Pierre)
心地である。地名のヘレナは女性名で「聖」
南ダゴタ州の州都。小麦・家畜の取り引き
を意昧する(D)。
の中心地である。開拓当初に毛皮商人である
叫 シャイアン(Cheyenne)
Pierre Chonteauが、この地に交易市場を作
ワイオミング州の州都。
った。彼に因んで命名した(D・M)。
輸送中心地となる。精肉加工場や缶詰工場が
卸 ビスマーク(Bismarek)
立地している。地名は、インデアンのシェイ
北ダゴタ州の州都。小麦地帯の中心地で、
ェンス族名に因む。毎年7月には、開拓記念
ミズーリー川に面して対岸のマンダン市と双
のため「辺境開拓の日」を設けている(D・
子都市を形成している。
M)。
この地は、ドイツ人が多く居住し鉄道債券
糾デンバー(Denver)
を所有していることに敬意を表して、旧ドイ
コロラド州の州都。集落は1858年に建設さ
ツ帝国の宰相ビスマークに因んで命名され
れ、gold rushによって急に発展した。
た。なお農器具・建築材料の製造が盛んであ
地形上から夏は避暑、冬はスキー客でにぎ
る(D)。
わっている。地名は、当時カンザス州知事で
19世紀中頃ゴール
Rush)を契機に大発展し
1870年頃から牛の
あったJ ・ W ・ Denver に因んで命名された
(D・M)。
闘 サンタフェー(Santafe)
ピュージェット・サウンドに最初に開かれた
ニューメキシコ州の州都。
港市である。木製品工業は特に名高い。
1609年スペイン
人によって建設され、周囲が山地にかこまれ
地名は、開拓者スミス・フィルドに因んだ
ている関係上観光地・保養地となっている。
が、後に古代ギリシャのオリンピアに因んで
またサンタフェー鉄道の要地である。この
命名された(D・M・S)。
地域は、土着文化と欧州文化の混合地帯であ
《61)セレム(Salem)
る(M・Y)。
オレゴン州の州都。海岸山脈の東側に発達
紬 ボイシー(Boise)
した集落であって、地方行政の中心地である
アイダホ州の州都。農牧業が盛んで、肉牛・
ことは論をまつまでもない。地名は、フレン
乳牛・ニワトリ・穀物などの取り引きが行わ
ド教徒の「聖地エルサレム」を意昧する(D・
れている。 1863年金山が発見されてから、陸
M)。
軍がボイシー要塞を構築した。
紹 サクラメント(Sacramento)
、地名は、「Boise’wooded」のことで「森林」
カリフォルニア州の州都。付近では、大農
の意昧である(D・M)。
法による米作が行われ、またモモ・梨・オレ
励 ソルトレークシティー
ンジ・ブドーなどの果樹栽培が盛んである。
(Saltlakecity)
このことは、地中海性気候の恩恵といえる。
ユタ州の州都。モルモン(mormon)教の本
地名のサクラメントは、キリスト教の「聖礼
山のある市であるとともに、商業都市でもあ
典」を意昧する(M)。
る。地名は、字義の通り「塩分の湖」に由来
斜 サンフランシスコ(Sanfrancisco)
する(M)。
西岸の港湾都市で、オークランド・バーク
叫 フェニックス(Phoenix)
レー・サンノゼを含むサンフランシスコ大都
アリソナ州の州都。商業の中心地で、冬温
市圏(Metroplitan
暖なため、保養地に利用されている。
石油・機械類を輸出し、太平洋岸第1位の
コロラド川が作った世界的観光地グランド
貿易港である。また自動車・造船・金属・機
キャニオンがある。地名のフェニックスは、
械・化学・食品などの工業も盛んである。
「不死鳥」の意だという。
地名は、1776年に聖フランシスコ会の宣教
1881年都市を建設する際、都市区画内にイン
師が、ここを基地に伝道したことに由来する。
デアンの穴居跡が存在したので、新都市がそ
日系人が多い(D・M・S)。
の蘇りとなり、栄えんことを祈念して命名さ
糾 サンホセ(San
れたらしい(M)。
カリフォルニア州に属し、商工業都市でサ
叫 力−ソンシティー(Carsoncity)
ノーゼともいう。果物・野菜の集散地として
ネバダ州の州都。地方行政の中心であるこ
名高い。 1797年にサノーゼ・ドゥ・カルター
とはいうまでもない。地名は、「辺境地方で活
ペ教団が、ここを拠点として活躍した。
躍された義勇兵JKit
地名は、サノーゼ・ドゥ・カルターペ教団
Carsonに因んだ(D・
Area)を形成している。
Jose)
M)。
に因む(S)。
糾 オリンピア(01ympia)
糾 ロサンゼルス(Losangeles)
ワシントン州の州都。
U・S・A第2の大都市。19世紀後半に大
1846年に建設され、
陸横断鉄道が開通し、その上石油が発見され
紬 サンディエゴ(San
てから急速に発展した。工業としては、石油・
カリフォルニア州に属し、太平洋沿岸にお
自動車・航空の各業が盛んである。
ける港湾都市である。
ハリウッドは、映画産業の中心地である。
地名は、1542年にスペイン人のドンファ
地名は、スペイン系に属し、ロスは「冠詞」・
ン・ロードローグ・カブリロが発見し、サン
アンゼルスは「天使」の意である。
ディエゴ湾「聖ジェゴ」と命名された。
スペイン人が、入植したのは1781年である
発見の日が、キリスト教暦の「聖ジェゴ」
(M)。
の日にあたっていたことに由来する(D・M・
S)。
Diego)
上述の地名由来を人物地名・宗教地名・自
の高い国王名が地名用語として用いられた。
然地名とその機能を中心に地域的に分類した
独立後は、アメリカ民主主義の確立と連邦
のが、表1・2−(1)・(2)である。各地域の性
国家建設に功労のあった著名政治家やフロン
格は、表1に示した通りである。
ティア前進に活躍した義勇兵などを記念し
て、命名された地名である。
V.地名からみたアメリカ合衆国の
性格(表2−(1)・(2))
宗教地名は、スペイン系カトリック教の教
会・聖礼典・天使などに由来する地名が多い。
本稿で取り上げた地名総数(アラスカ州を
それは、旧教政革による旧教(カトリック教)
除く)73のうち、人物地名38(52.1%)で全
の普及結果である。
体の半数を占めている。ついで宗教地名
自然地名は、インデアン語が地名用語とし
12(16.4%)・自然地名12(16.4%)で、同数
て用いられている。原住民の生活が、自然的
である。その他の地名11(15.1%)の順とな
現象に強く制約されていることを物語ってい
っている。高率である人物地名は、政治的に
る。また一面白人とインデアンとの融和政策
偉大なる功績者、植民地開拓に中心的役割を
のあらわれとみることが可能であろう。
果した人物などを記念して命名したものであ
次に機能的面においては、世界的性格をも
る。合衆国独立以前の場合は、植民地開拓に
つ港湾都市(ニューヨーク・サンフランシス
際し、イギリス本国において、政治的に功績
コ・ニューオーリンズ)、重工業都市(ピッツ
バーク・バッフアロー・デトロイト・シカゴ)
は、アメリカ合衆国の代表的都市である。
観光面では、西部地域の国立公園黄石公園
やコロラド川流域におけるョセミテ峡谷など
は、国内は勿論世界的観光地として著名であ
る。このほか、南北の方位・ニュー(新)地名の
あることは、新開拓国であることを物語る。
VI.結 語
歴史的背景を基礎に、アメリカ合衆国の地
名由米と地名の機能について述べ、さらにそ
れらを中心として地域性に言及した。
(1)地名の由来は、政治的功労者・探険家・
植民地開拓の先駆者及び開拓戦争で活躍
した義勇兵などを記念した人物地名が多
い。
宗教地名では、スペイン系カトリック
教に起因し、自然地名はインデアン語に
関係をもつ。
(2)民族的には、複族国であるから、地名
用語が多様性にとみ、民族性をよく表現
されている。
(3)機能的には、政治・経済・重化工業な
どの発達が著しく、世界的地位を占め支
配的立場にある。
(4)ニューとか南北的方位地名が用いられ
ていることは、開拓史と密接な関係があ
る。
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