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不採算ゴルフ場の問題と再活用に関する研究 -少子

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不採算ゴルフ場の問題と再活用に関する研究 -少子
不採算ゴルフ場の問題と再活用に関する研究
少子・高齢化社会に適応した居住地の建設学生氏名 堀井 洋尚
主指導教員 草柳 俊二
副指導教員 那須 清吾
高知工科大学大学院
基盤工学専攻 社会システムコース 修士2年
(〒782-8502 高知県香美郡土佐山田町宮ノ口)
我が国は,第二次世界大戦後からの経済復興,高度経済成長により急速な経済発展を遂げ,先進国の仲間入り
を果たし豊かな国となった.さらに 1980 年代初頭,我が国のバブル経済が起こり,不動産,株式等多くの投資が
起こり,また様々な施設の開発が行われ,急速な経済発展を遂げたかのようであった.しかし,経済的先進国に
も関わらず,未だに住環境の向上がなされていない状況である.そして,1990 年代初頭にバブル経済が崩壊した
後,経済成長が鈍化しバブル期の投機的な施設の建設においては,数々の問題を顕在化させる原因となっている.
今後,我が国は人口減少に加えて少子・高齢化社会へと移行していくのだが,時代に即した住環境の整備が求め
られ,バブル期の投機的な施設の清算を適切に行う必要があると考えられる.
Key Words: Non-profitable golf courses, Aging Society, New Community
1.はじめに
で,我が国の住居は,政府によって保障されるもの
ではなく,自ら獲得するものであり続け,住居を確
保するため労働に対する対価の大部分を使わなけれ
ばならならない.そして,苦労して得た宅地は, 単
なる使用価値だけでなく万一の時に生活を保障して
くれる資産,家賃負担を軽減し生活を安定させるた
めの保険としての価値,成功の証としての価値など,
快適に住むという使用価値以外の様々な期待が込め
られ,1980 年代初頭,バブル経済期での土地価格の
上昇と共にさらにその期待は,高まっていった.つ
まり,建物は老朽化するが,土地は老朽化しないこ
とから,人々の関心事は,住環境より宅地価格に向い
ていったと考えられる.その結果,我が国の居住地
は,使い捨てでありかつ高価なものとなり,人々の
生活を逼迫させる原因となってしまい,ゆとりを持
って豊かに生活する事を阻害している.
さらに現在,我が国では,経済成長の速度が鈍り,
人口減少,少子・高齢化といった人口構造の変化が
生じている.そこで,住宅の絶対数が不足するとい
我が国は,第二次世界大戦後からの経済復興,高
度経済成長により急速な経済発展を遂げ,先進国の
仲間入りを果たし豊かな国となった.しかし,衣食
住のうち衣食はかなり改善されたものの,1979年EC
事務局の「対日戦略基本文書」中で「日本人はウサ
ギ小屋に住む仕事中毒」と表現されてしまった程に,
我が国の住環境は他の先進国と比較して劣悪な状況
であった.この文書により人々は,住環境について
考える大きなきっかけとなり,住環境向上への期待
が高まっていったと思われる.しかし,職住の分離
や遠高狭の住宅問題が進行し我が国の住環境は,未
だに問題改善の糸口が見出せていないのではなかと
思われる.
建設白書(平成8年度版)によると,わが国の住
宅の平均寿命は約 26 年となっている.これは,ア
メリカの約 44 年,イギリスの約 75 年と比べても非
常に短いものである.また,戦後から現在に至るま
1
う事態は起こり難く, 上記の住むという使用価値以
外の価値,言い換えると保有しているだけの価値は
低下していくと考えられる.
よって,将来における居住は,ゆとりを持って快
適に住むことに重点をおき,時代に対応した居住
地の整備が必要あると考えられる.
一方,経済発展に伴う国民の所得増大や週休 2 日
制の普及等による余暇の増大により,余暇に費やす
時間・費用の増加が可能となり,余暇に対するニー
ズが多様化して行った.その結果,リゾート市場は
拡大し,リゾート開発は急激に増大していくことと
なる.また,1975 年以降,内需型経済への転換等を
背景にリゾート開発が流行となり,大規模なゴルフ
場,スキー場,マリーナ等の多様な宿泊施設を備え
た大規模複合リゾートが開発され始める.
1980 年代後半から 1990 年代初頭にかけて,我が
国の経済は絶頂となり,いわゆるバブル期経済を迎
える.さらには,1996(S62)年に制定された総合
保養地域整備法(リゾート法)により,ゆとりのあ
る国民生活の実現と地域の振興を目的として,数万
へクタールを超える広大な地域を,全国各地で官民
一体となって総合的に整備されることとなる.バブ
ル経済,リゾート法等に伴い,リゾート開発は急速
に拡大していった.しかしながら,開発の多くは,
収益の見込めない遠隔地の土地を開発名目に破格の
値段で取引する事が目的とされた.その結果,バブ
ル経済崩壊後の景気低迷に加え消費税の引き上げ,
地価の暴落などの影響,さらに現在まで長引く景気
低迷や好転しない社会情勢を背景に,バブル期に数
多く開発されてきたリゾート施設の経営は,現在,
倒産,会社更生法・民事再生法等の法的整理を余儀
なくされており,厳しい状況であると言える.
2005 年現在,リゾート事業の中でも,ゴルフ場は,
18 ホール換算で約 2,600 箇所存在し,総面積は約
2,100km2 に上り,東京都の面積と等しい国土面積を
占めている.そのほとんどのゴルフ場が厳しい経営
状態に陥っているといわれている.昨今,そのこと
を示すように,ゴルフ場の倒産が多発し,我が国の
経済へ多大な打撃を与えており社会問題化しつつあ
る.また,バブル崩壊後,ゴルフ場開発の資金調達
が困難となり開発は手付かずにより,開発途中で放
置されてしまっている事例も顕在化しつつある.ゴ
ルフ場開発用地は,大規模かつ各種の許認可を取得
しているために,放置されている用地は,産業廃棄
物の捨て場になってしまう危険性すらある.
さらに,ゴルフ場事業には,不動産業,商社以
外に開発業,鉄鋼業,造船業など異業種の企業が
参入しているため,不採算経営に陥っているゴル
フ場を保有している企業にとっては本業の企業活
動に多大な悪影響を及ぼしてしまっているのが現
状である.
こういった現状を考えると,今後,ゴルフ場に
関わる問題は地域・経済への影響,環境負荷の増
加といった様々な問題を作り出してゆく可能性を
含んでいると考えられる.
本研究は不採算ゴルフ場の実態を調査し,地域
環境・社会に与える影響を分析し,不採算ゴルフ
場の問題,住環境の解決策として,ゆとりある居
住空間を創造する新しいコミュニティーへの転換
を目指したものである.つまり,不採算ゴルフ場
を再利用し,少子・高齢化,人口減少など新しい
時代への変遷を期に新しいライフスタイルに適応
すべく居住地開発の可能性を追求するものである.
2.我が国の経済発展とその弊害
我が国は,第二次大戦で敗戦し大きな痛手を被っ
たが,図−1 が示すように世界では類をみない程の
急速な経済発展を遂げていった.
1950 年代の中ごろから,電気洗濯機,電気冷蔵庫,
電気掃除機が「三種の神器」と呼ばれ電気製品がブ
ームとなり農村にも普及し,人々の生活様式は大き
く変化し 1956 年には経済白書で「もはや戦後では
ない」と規定され,1960 年「マイホーム主義」が流
行語になり,さらに,1964 年 10 月にはアジアで初
となった東京オリンピックが開催され,人々は経済
発展に伴う豊かさを実感できたであろう.一方政府
は,1960 年代後半になると国民生活審議会の設置,
住宅や余暇時間など生活の豊かさについての検討を
始めた.我が国は,戦後の高度経済成長と工業化の
急速な発展によって,国民生活は大きく変わり豊か
になったかのようであった.
しかし,1970 年代,中東アラブ国間で第四次中東
戦争が勃発し原油の高騰が起こりエネルギーを中東
の原油に依存してきた先進工業国の経済を脅かした.
ここから第一次オイルショックが発生し,その影響
から中東の原油に依存してきた我が国では,インフ
レが加速し,「狂乱物価」という造語がうまれる程
物価の上昇が発生した.そのため,企業の設備投資
が抑制され戦後続いた高度経済成長が終焉を迎えた.
その後,1980 年代に入ると我が国は,再び経済成
長に突入し貿易黒字,特に対米貿易の黒字が拡大し,
米国が対日貿易の是正を狙いドル安円高政策を採る
ため 1985 年にはプラザ合意により強調的なドル高
是正が合意された.そのため,急激な円高が進行し,
円高不況の発生が懸念されたために低金利政策が採
2
用・継続された.この低金利政策が,不動産や株式
への投機を加速させ我が国のバブル経済へと繋がっ
ていき,1987 年には,我が国の一人当たりの GDP が
米国を抜いて世界 1 位となり,戦後からの目標であ
る米国への追随を達成し先進国の仲間入りを果たし
た.
1990 年代初頭までバブル経済による経済成長が続
いたが,投機によって支えられた中身の無い資産上
昇により経済成長を維持していたため,実体経済の
経済成長ではなかった.その中身が無い資産上昇分
は,バブル経済の崩壊と共に消滅し,その損失分だ
けを残しただけでなく,その後の経済成長を阻害し
強烈な経済の低下,不況へと導いた.
2000 年代に入ってもバブル経済崩壊が招いた経済
混乱は,企業の倒産,大規模なリストラ,デフレな
どを発生させた.今現在,我が国の経済は,徐々に
回復しつつあるが未だ本質的な経済回復の解決には
至っていない感が強く,人々は将来の我が国の経済
への不安を抱いている現状である.
我が国は,上記の通り戦後から経済成長を遂げ現
在の経済的な豊かさを手に入れて入れた.経済発展
の原動力は,エネルギーの進化と人々の豊かさへの
強い思いであったと考えられる.
経済発展の原動力であるエネルギーは,木材・石
炭・水力から石油・火力さらに原子力へと進化を遂
げたことで多量エネルギー供給を可能にし,石油化
学への原料転換,鉄鋼業の規模拡大と近代化,自動
車産業の発展とそれに伴う工作機械・特殊鉱産業の
自立,電気工学の急速な発達,コンピューターの普
及に伴う生産過程の効率化が進み大量生産が可能と
なった.さらに,図−2 のエネルギー消費の推移に
おいて,我が国全体としてのエネルギー消費は 1950
年代後半から急激な増加をみせるが,家庭用エネル
ギーの消費が増加し始めたのは 1965 年からである.
この間は,産業は発展してゆくものの,なかなか生
活の向上には結びつかなかったというのが実態では
ないだろうか.生活は貧しくとも,今後の豊かな生
活の実現を信じて懸命に働いた当時の人々の姿が浮
かび上がってくる.やはり経済発展を支えたのは,
人々が豊かな生活への希望に向けた労働意欲であろ
う.
しかし,経済成長優先での工業化社会の流れから
引き起こされた様々な問題が露呈しだした.水俣病,
四日市ぜんそくなどの公害問題・環境破壊が顕在化
し,人口の都市一極集中が強まり,交通難・住宅
難・ごみ処理などの都市問題を表面化させ,農村部
には過疎化が起こり,産業の衰退・生活条件の悪化
をもたらした.さらに,昨今では,自殺者の増加,
少年・少女の犯罪事件の増加・凶悪化,引きこも
り・NEET(Not in Employment, Education or
Training)の増加など一昔では考えられなかった心
理的要因が関係した問題が顕在化している.無計画
な使い捨て工業化社会は,自然環境だけでなく人々
の心の豊かさまでをも喪失してしまったのかもしれ
ない.
つまり,我が国の経済は,成長を遂げ物質的な豊
かさは得ることができたといえるが,心の豊かさを
得たとは言い難い状況であると言えるのではないだ
ろうか.そして,今後の我が国の発展のためには,
経済の建て直しだけでなく解決していかなければな
らない重大な問題が数多く存在しているのではない
かと考えられる.
(ドル/人)低所得国 低中所得国
45,000
40,000
中所得国
高所得国
(兆円)
90
80
建設投資(公共+民間)
(右軸)
35,000
70
30,000
60
25,000
50
20,000
30
9,665ドル
20
一人当たりGNP(ドル)
(左軸)
10
3,125ドル
785ドル
0
1985
1990
1995
2000
10,000
5,000
0
1960
40
社会保障給付費
(右軸)
15,000
1965
1970
1975
1980
参考資料:高知工科大学博士学位論文 五艘 隆志
「地方自治体の新しいマネジメントシステムの構築と導入に関する研究」より引用
図−1 我が国の一人当たりの GDP,公共建設投資,
国・社会保障の給付費の推移
(全エネルギー 単位:10 9J)
140
(家庭用 単位:10 9J)
高度成長期
低成長期
バブル経済 低成長期
60
120
100
50
全エネルギー
40
80
60
0
1950
30
1973 1979
オイルショック
40
20
(高度成長の起点)
20
10
家庭用エネルギー
(生活向上の起点)
1955
1960
1965
1970
1975
0
1980
1985
1990
1995
2000
参考資料:高知工科大学博士学位論文 五艘 隆志
「地方自治体の新しいマネジメントシステムの構築と導入に関する研究」より引用
図−2 戦後の一人当りエネルギー消費の推移
3
70
3.我が国の少子・高齢化社会
(%)
100
90
経済的先進国は,貧困,戦争など人口を減少させる
要因が少なくなり,総合的な社会基盤整備,医療技
術などの発展により,必然的に高齢化することとな
る.
我が国の高齢化率は,図−3 に示すように 1990 年
代に入って急激に上昇し,1950 年で 5%であったが
2005 年現在で 20%に達し,2050 年には約 35%に達
し,図−4 の示すように人口構造は徐々に変化し若
年層の人口比率が小さく,高齢者が大きくなるタマ
ネギ型の様な構造となると予測される.そして,我
が国は,他の経済的先進国と比較して 1 番先に多く
の高齢者を抱える国となるのである.
実態として我が国では,生まれてくる子供の数が
減少する少子化の問題が発生しており,政府は,
1994(平成 6 年)年 12 月に「今後の子育て支援の
ための施策の基本方向について(エンゼルプラ
ン)」を策定し,少子化への対応をとろうとしてき
た.しかし,図−5 が示しているようにエンゼルプ
ランの策定後において出生数,合計特殊出生率(1
人の女性が一生の間に平均何人の子供を産むかを示
す数値)は減少傾向である.
また,高齢化率が 14%を超えている高齢社会の国
で 2.0 以上の合計特殊出生率を示す国は存在してい
ない.高齢化が急激に進行している我が国では,合
計特殊出生率の大幅な回復はほとんど期待できない.
また,男女の勤労に関する社会経済的条件や婚姻関
係以外での出産と子育てについての社会慣習が,出
産をより促進する方向に働いていると思われる欧州
諸国でも 1990 年代後半において合計特殊出生率は
1.5 から1.7 程度であり,我が国の合計特殊出生率
2.0 を超えることを想定することはかなりの長期的
にわたって難しい.
すなわち,我が国の人口構造は,すでに少子・高
齢化の構造となっており,将来的にはっきりとした
少子・高齢の構造となる.
そして,少子・高齢化は,経済,産業,福祉,教
育等社会のあらゆる分野に影響を及ぼすことが予測
され,今後社会構造,システムの大きな変革を必要
としていくと考えられる.
生産年齢人口
(14歳∼64歳)
実測値
推計値
80
70
60
50
40
年少人口
(0歳∼14歳)
30
20
10
0
1950
高齢者人口
(65歳以上)
1960
1970
1980
1990
2000
(年次)
2010
2020
2030
2040
図−3 三区分人口の推計(中位データ)
図−4(1)1990 年の年齢,性別での人口ピラミッド
図−4(2)2030 年の年齢,性別での人口ピラミッド
図−4(3)2050 年の年齢,性別での人口ピラミッド
※図−4(1)(2)(3)は国立社会保障・人口問題
4
2050
研究所より引用
第1次ベビーブーム
(1947年∼1949年)
最高の出生数
に,1980 年代後半から 1990 年代前半までのバブル
経済期,土地は投機目的にされ宅地価格も高騰し,
人々は住宅地には住むという価値ではなく保持,運
用すべく資産という目的に重点をおくこととなった.
現在,宅地価格の高騰により人々が,市街化の拡
大によって通勤圏に開発された郊外住宅地を購入す
る場合には,自らの収入に応じて宅地の面積,職場
からの距離などを選択せざるおえない状況となって
いる.その結果,人々は住宅地の購入費の支払いが
日々の生活を圧迫しているにも関わらず,理想とす
る居住環境を確保することが困難となっている.し
かし,我が国が将来迎えると予測されている人口減
少により,郊外住宅の需要は低下し宅地の価格が現
状を維持していくとは考えにくい.さらに,資産価
値に重きをおき,核家族の生活を念頭において開発
されたほとんどの郊外住宅は,高齢者や単身者を含
む多様な要求に対して,柔軟に対応できるような体
制を整えておらず,少子・高齢化社会において都市
機能の衰退などの問題を生みだす恐れがある.
よって,今後の住宅開発は,資産価値を重要視し
たものではなく,社会構造の変化,多様なライフス
タイルに対応しつつ,本来人々が求める豊かな暮ら
しを確保できる住宅地の創出が必要であろう.しか
し,宅地が資産価値を強めていった原因は,住宅開
発が戦前から現在に至るまで民間主導で行われてき
たことにより生じた弊害であると考えられる.すな
わち,今後,住宅問題の打破には,行政が的確な公
的住宅の供給,整備を促進していく必要があると考
えられる.
エンゼルプラン策定
(1997年)
第2次ベビーブーム
(1971年∼1974年)
ひのえうま
(1966年)
最低の出生数
(2004年)
1,110,835人
過去最低の合計出生率
(2004年)
1.29
1947
1955
1965
1975
1985
1990 1995
2004
図−5 出生数及び合計特殊出生率の推移
厚生労働省:人口動態統計月報年計(概数)の
概況より引用
4.我が国の住宅環境
4.1.我が国の住宅開発の歴史と実態
我が国の住宅地は,明治末期から現在に至るまで,
大都市部では主に私鉄によって供給された.借家住
まいが普通であった都市住民に対して,環境の良い
郊外に持ち家をかまえて,そこから電車で都心に通
勤するという生活様式を提案し,一部の中階級の賛
同を得て,郊外開発が民間主導ではじまったといわ
れている.明治末期から昭和の戦前にかけての住宅
開発は,都会の雑踏から離れてゆったりした環境に
住むという理想のもとで行われた.第二次世界大戦
後,高度経済成長により戦前までは借家に住んでい
た都市住民と地方出身者などが成功の証として住宅
を求めたことから,郊外の庭付き一戸建てこそが理
想の住まいという感覚が広まり郊外の住宅開発が進
められた.我が国の住宅供給は,公的供給として住
宅供給公社が一定の役割を果たしていたが政府によ
って保障されるものではなく,社会福祉政策の発達
した諸外国とは異なり民間主導により供給されたも
のを自らが獲得するものであり続け,老後や万一の
時には生活を保証してくれる資産となった.そして,
人々の宅地に対する資産価値は強くなり,既存の郊
外住宅地の周辺に開発が行われ,民間の住宅供給で
は人々の購買意欲を高めるために「自然との共生」
「文化」など様々な開発テーマや,売り込みのため
のネーミングを用意し,公共交通の整備を伴って新
たな住宅地を求め郊外部へと広がっていった.さら
4.2.我が国の宅地供給量の推移
我が国における宅地供給量は,図−6 からみてと
れるように 1974 年を境に急激な減少を示し,1978
年まで減少が続いた.この供給量の減少は,1974 年
に起こった第一次オイルショックがもたらした物価
上昇により,公的・民間ともに宅地供給を抑えたか
らであると考えられる.さらに,図-7 が示すとおり
宅地価格の変動率にも急激な低下が起こり,顕著な
減少もみられないことから購買意欲も抑制されたと
考えられる.さらに 1978 年,第二次オイルショッ
クが起こり,宅地供給量は,1985 年まで減少傾向に
あったが,その後,緩やかな増減があるものの安定
した推移を示した.しかし,第二次オイルショック
後,住宅価格の変動率はプラス推移を示し,1985 年
付近まで上昇を続け,1986 年付近から異常なほどの
上昇を示した.この宅地価格の高騰の始まり年,
1986 年がバブル期の始まりだといわれている.
バブル期では,宅地価格の変動率が最大で 70%の
5
上昇を示したが,宅地の供給量に急激な変動がない
ことから供給以上に需要が増加したと考えられる.
しかし,以上な高騰は,投機目的によるもので実
質的利用目的の需要ではなかったのである.
その後,住宅価格の変動率がマイナスに転じた
1992 年をバブル経済の崩壊時期といわれている.さ
らに,宅地価格の変動率は,年々マイナスを推移し
ていることから宅地価格は年々下落している.
今後,宅地の価格は,下落するか上昇していくか
予測は難しいのだが,先に述べた少子・高齢化の歪
である人口減少により宅地価格は,投機目的にされ
ない限り適正な価格で落ち着く可能性が高いと考え
られる.
(ha)
50,000
4.3.我が国の宅地
(1)宅地価格,面積
我が国の宅地の価格は,表−1 からわかるように
他の主要都市と比較すると非常に高価であり,東京
の宅地は,他の主要都市の中で 1 番高価であり,約
5 倍以上の開きが生じている.我が国の延床面積は,
他の主要都市と比較して狭いほうではあるが,ほぼ
同等の面積である.しかし,我が国の宅地面積をみ
てみると約 1.5 倍∼3 倍の開きがある.
我が国の人々は,高所得を確保しているにも関わ
らず宅地が高価であるがために,他の先進国と比較
してあまりゆとりを持って住宅が確保できない状況
がわかる.
表−1 我が国の宅地価格・面積及び諸外国との比較
総計
公的供給
民間供給
45,000
40,000
国名
単位
東京
大阪
日本
名古屋
高知
ニューヨーク
サンフランシスコ
アメリカ
ロサンゼルス
リバーサイド
ホノルル
カナダ
バンクーバー
イギリス
ロンドン
ドイツ
フランクフルト
ベルギー
ブリュッセル
オーストラリア
シドニー
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
1970
1975
1980
1985
1990
都市
1995
平均
平均
平均
宅地価格 延床面積 宅地面積
円
㎡
㎡
円/m2
4,219,000 428,000
150
200
3,096,000 234,000
130
210
3,481,000 203,000
100
158
2,318,000 49,800
/
198
3,696,386 62,408
158
177
3,696,386 49,938
149
558
3,696,386 35,090
185
650
3,696,386 13,340
178
648
3,696,386 29,812
139
604
2,249,315 56,180
223
368
2,781,751 88,491
117
400
2,370,562 52,400
120
300
2,377,974 29,475
200
900
2,497,619 83,127
110
550
国民所得
(年次)
図−6 我が国の宅地供給の推移
(%)
1973年:第一次オイルショック
80
70
バブル期
1979年:第二次オイルショック
60
全国
三大都市圏
東京圏
地方圏
50
40
30
20
10
0
1970
-10
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
-20
(年次)
図−7 宅地価格の変動率(公示価格)
6
(2) 我が国の宅地が高価である理由
我が国の宅地が高価である理由は,まず宅地造成
費が影響していると考えられる.
現在,我が国の国土面積は,3,778万haであり,宅地は
国土面積の約4.6%に当たる174haの面積を占めてい
る.我が国には宅地のための平地が少ないことから,
ほとんどの宅地開発前の素地は,国土の大多数を占
めている森林部に確保してきた.そこで,宅地開発
前の素地である森林を宅地にするためには,切土工
事,盛土工事,擁壁工事など宅地造成工事を行わな
ければならない.
つまり,宅地価格は,宅地開発前の素地価格と宅
地造成費で構成されているのである.
そこで,地価が500円/㎡の山林に宅地造成を行った
場合を調査したところ,宅地価格は100,000円/㎡と
なっていた.よって,宅地が高価になる原因は,森
林を宅地化するために必要な宅地造成工事費である
と考えられる.しかし,実際の平地にある住宅密集
地の合間をみると,建物が建てられていない田・畑,
荒廃した遊休地が多く点在している.この土地は,
地権者が手放さないという理由が考えられるのだが,
こういった宅地化できる土地を宅地化してない理由
が他にもあるのではないかと考えた.
そこで,国土に関する制度について調査したとこ
ろ,都市計画法上で都市計画区域において都市計画
区域について「無秩序な市街化を防止し,計画的な
市街化を図るため必要があるときは,都市計画に,
市街化区域と市街化調整区域との区分(以下「区域
区分」という.)を定めることができる」と記され
ており,都市計画内の土地は2つの区域により線引
きされている.市街化区域では,宅地の建設は認め
られるが,市街化調整区域では原則として宅地化は
認められておらず,さらにこの線引きは,容易に変
更を行うことが難しいといわれている.そして,平
地の住宅地に点在している田・畑,荒廃した遊休地
は市街化区域か市街化調整区域のどちらかなのであ
る.市外化区域内の農地は,宅地への転用が可能で
あるが,市街化調整区域内の農地は,転用すること
が難しいのである.さらに,追い討ちをかけるよう
に農地法,農業振興地域の整備に関する法律により
都市内の農地を宅地化することを制限している.つ
まり,住宅地に点在している田・畑,荒廃した遊休
地は,宅地として有効な土地であっても有効に活用
できない状況なのである.
よって,宅地として有効な土地の利用が各法律に
より阻害されている状態であり,宅地造成費用の高
い森林地,湿地などが開発され,宅地価格が高くな
っている状態である.
また,宅地が高価な理由には,我が国の人々が抱
き,地価を支えている「土地神話」と呼ばれる概念
が影響しているとも考えられる.「土地神話」を生
んだ土壌として指摘されるのが,我が国の土地本位
制経済というものであるといわれている.我が国の
土地本位制経済とは,企業が土地を担保に銀行から
借金をし,設備投資を拡大していき国際的経済力を
増したものであり,今日においても続いている.こ
の経済の構造は,我が国独特のものである.また,
戦後から我が国の土地政策において,需要が多く供
給が少ない時には地価が上がるという経済の市場原
理である単純需給制を採用してきている.その需給
制により,地価は度々高騰を示したため,人々は
「土地の価格は下がらない」,「地価の高騰時には
持っていればいるだけ特をする」などという期待感
を「土地神話」と名づけられた.さらに企業の多く
が確実・安全な投資対象として土地を買い,地価が
高騰すればそれだけ含み資産が増え,企業の経営内
容が増え,企業の経営内容が改善されるとして,土
地投機に走る行動が人々の「土地神話」に対する感
情をさらに強固のものとしたといわれている.「土
地神話」の広がりにより,宅地も例外なく高価なも
のとなっている.
つまり,我が国では,土地担保主義が「土地神
話」の概念を生み,その概念の影響により地価の水
準を引き上げているため,宅地が高価になっている
現状を生んでいると考えられる.
4.4.ゆとりある居住地環境への願い
我が国の宅地は,高価であり持家世帯の過半数以
上が住宅取得時に数十年のローンを組んでおり,毎
月住宅ローンの返済をしている.2003 年国土交通省
住宅局の「住宅需要実態調査」によると住宅ローン
を払っている世帯の返済は,平均で月額 9.6 万円と
なっており,住宅タイプ別でみると「一戸建て・長
屋建」で 9.5 万円,「共同住宅」で 10.2 万円であ
った.さらに,図−8 に示した 2003 年での持家住宅
のローン返済者に対するアンケートでは,「生活必
需品を切りつめるほど苦しい」が 10.6%,「贅沢は
できないが,なんとかやっていける」が 60.5%,
「贅沢を多少我慢している」が 20.5%,「家計に余
り影響がない」が 8.5%という結果であったことが
わかる.このアンケート結果から,ほとんどの持家
の家計が住居費の捻出により日常生活が逼迫してい
る状況が伺える.「夢」のマイホームを持ち,快適
な生活を過ごしたいにも関わらず,その思いとは裏
腹に住宅を取得した事で,他の生活を犠牲にしなけ
ればならない状況である.さらに,前記のとおりあ
まりゆとりを持って住宅が確保できない状況である.
果たして,この状況下において我が国の人々は,
豊かな生活を送っているといえるのかと疑問が残る.
さらに,図−9 に示されている持ち家住宅のロー
ン返済者に住環境に対する評価のアンケートを行った結
果の推移から, 1978 年から 2003 年までの間で
2003 年に多少満足と答えている割合が増加したもの
の, 15 年の間不満足率は 30%前後を維持している.
これは,今も昔も人々が住環境への期待,要求が
強く,快適で時代に即した生活を過ごせる生活を求
めているからであろう.
よって,多額の労働に対する対価を投じているに
も関わらず満足していない実態から,今後もより良
い住環境の改善が求められていると考えられる.
7
郊外,地方部では少子・高齢化に適応したゆとりあ
る居住地というものが求められてくるのではないか
と考えられる.若年層にとっても高齢者にとっても
魅力ある居住地の創出が待たれていると考えられる.
100%
90%
25.2
23.1
23.1
0.0
0.0
0.0
80%
0.0
10.2
8.5
19.4
20.5
18.7
(%)
100
70%
80
50%
40%
15歳∼64歳の世帯主
65歳以上(高齢者)の世帯主
90
60%
62.3
61.6
67.5
63.8
70
60.5
60.1
60
30%
50
20%
40
10%
12.5
15.3
1978
1983
13.0
13.8
10.3
10.6
30
1988
1993
1998
2003
20
0%
生活が苦しい
贅沢を多少我慢している 贅沢はできないが、何とかやっていける 影響ない
10
0
1980
図−8 持ち家住宅のローン返済者に対する
アンケート
100%
90%
0.9
0.7
1.3
2000 2005
(年次)
2010
2015
2020
2025
11.7
11.4
10.7
8.6
1.8
14.7
54.2
56.0
54.5
57.4
52.0
50%
40%
30%
26.5
10%
0%
1995
4.5.まとめ
0.7
70%
20%
1990
図−10 世帯主の予測推移
80%
60%
1985
3.7
1983
不満率
30.2%
28.5
不満率
33.2%
28.1
不満率
32.5%
30.9
不満率
35.8%
26.0
4.7
4.4
4.9
5.6
1988
1993
1998
2003
不満率
31.6%
我が国は,先進国になっても未だにゆとりある住
環境への整備が遅れていると考えられる.さらに今
後,少子・高齢化社会に移行しその社会に適応した
住環境の整備を行う必要があると考えられる.
しかし,この社会変化を期に我が国の居住環境の
向上を真に行える良い機会であると捉えることもで
きる.
よって,少子・高齢化を真に受け止め今まで達成
できていないゆとりある豊かな居住環境,新しいラ
イフスタイルに対応をしていけるための整備を行う
ことを目標としていくべきであると考えられる.
5.我が国のゴルフ場開発
非常に不満 多少不満 まあ不満 満足 不明
図−9 住環境に対する評価のアンケート
5.1.我が国のゴルフ場開発の歴史
我が国のゴルフ場の第一号は,1901 年にイギリス
人の紅茶貿易商アーサー・グルームが神戸・六甲山
付近に開発した四コースの私設コースである.その
後,第 1 次,第 2 次世界大戦へと突入したのだが,
ゴルフ場数は徐々に増加していった.そして,戦後
の経済復興後から高度経済成長へ移行し,人々が豊か
になり高価な娯楽と考えられていたゴルフが大衆化
し,それに伴いゴルフ場開発は年々増加していった.
1984 年,林野庁長官は,「森林空間総合利用整備
事業(ヒューマングリーンプラン)の実施につい
て」という通達を出し国有林内での第三セクターに
4.5.高齢者世帯主
将来,我が国の少子・高齢化社会に伴い,世帯主が高
齢化してくることが,図−10が示している.今後,
徐々に世帯主が高齢化していき2025年には約40%の
世帯が高齢者となる.そこで,都市部には若年層が
集中し,郊外または地方部では高齢者が集中する現
象が現在より顕著に現れてくるのではないかと予測
される.つまり,その2極化を制御するため,特に
8
よるゴルフ場造成を認め,1987 年 6 月 9 日に第三セク
ターや民間企業によって大規模なリゾート,レジャ
ー施設を整備し,地域振興を図ることを目的とした
「総合保養地域整備法(リゾート法)」が制定・施
行された.そして,今まで規制の厳しかった農地,
森林は容易にリゾート開発ができるようになり,そ
の流れからゴルフ場開発が促進され,さらに,1986
年から 1992 年に起こったバブル期では,不動産を中
心に投資が増加し,ゴルフ場開発も投機の目的となり
増加した.
つつある.そして,2005年におけるゴルフ場数は,
利用者数の絶頂期である1989年と比較し,約1.6倍
以上の差となった.
つまり,現在のゴルフ場利用者数がバブル期と
同数であっても1ゴルフ場の集客数は,極度に減
少し,ゴルフ場の経営が厳しい状況であると考え
られる.
上記のように,1965年から1990年までゴルフ場
及びゴルフ場利用者数は比例するように増加し続
けた.しかしながら,1991年以降から現在まで,
ゴルフ場利用者数は減少したにも関わらず,ゴル
フ場数は減少する気配はないのである.
2005 年現在,我が国にはゴルフ場が約 2,450
箇所存在しており,18 ホール換算で約 2,600 箇所
のゴルフ場が存在していることとなり,その総
面積は約 2,300km2 に上り,東京都面積である
2,100km2 を超えている.また,我が国の宅地面
積は,230,000 km2 であることより,我が国のゴ
ルフ場の総面積は宅地の 10%分に相当する面
積となっている.
1987年:
総合保養地域整備法(リゾート法)施行
(箇所)
3,000
バブル期
低成長期
低成長期
(千人)
120,000
100,000
2,000
80,000
1,500
60,000
1,000
40,000
ゴルフ場数
延利用者数
500
延利用者数
2,500
ゴルフ場数
5.2.我が国のゴルフ場数の現状
(1)我が国のゴルフ場数・利用者数の推移
我が国のゴルフ場数は,図−11に示すように
1965年で約450箇所存在していたが,高度経済成
長期から低成長期前半にかけて急激に増加し,
1980年で約1,400箇所になった.1980年から1985年
までゴルフ場数は横ばい状態となる.1986年のバ
ブル経済発生から再度急激に増加し,バブル経済
崩壊後も増加し続け,2000年には2,400箇所に達し
ている.しかし,2000年以降,ゴルフ場数は,ほ
ぼ横ばい状態となった.
1986年以降のゴルフ場数の急激な増加の原因は,
バブル経済による経済発展以外に,やはり1987年
6月9日に制定・施行された総合保養地域整備法
(リゾート法)も影響したと考えられる.
我が国のゴルフ場利用者数は,1965年からゴル
フ場数の増加に伴って増加し,1992年に1億人を
超え,絶頂期を迎えた.しかし,バブル経済崩壊
を機に減少傾向に転じ,1995年までゴルフ場利用
者数は徐々に減少し続けたが,その数は1億人を
少し下回る程度であった.1998年には一時的では
あったが再度増加し,絶頂期であった1992年の利
用者数に近づいた.しかし,1999年以降,再びゴ
ルフ場利用者数は減少傾向に転じ,2002年の利用
者数は約9千万人となったが,その後急激な利用
者の減少となった.さらに,図−12が示すように
バブル経済崩壊後,1ゴルフ場当たりの利用者数
は,急激に減少し2003年には,1977年と同数にま
で落ち込み,2005年現在,さらにその数は減少し
高度経済成長期
20,000
0
0
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005
(年次)
図−11 ゴルフ場数と延利用者数の推移
バブル経済崩壊
(千人)
60,000
2,500
50,000
2,000
40,000
1,500
30,000
1,000
20,000
500
10,000
ゴルフ場数
1ゴルフ場数当たりの延利用者数
0
0
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005
(年次)
図−12 ゴルフ場数と
1ゴルフ場当たりの延利用者数の推移
9
1 ゴ ル フ 場 (18ホ ー ル 換 算 )当 た り の 利 用 者 数
ゴ ル フ 場 数 (18ホ ー ル 換 算 )
(箇所)
3,000
フ場の倒産が頻出している.図−14に示すように
我が国におけるゴルフ場経営会社の倒産件数は,
1991年のバブル経済崩壊後から徐々に増加し,
2000年を境に急激に増加していった.さらに倒産
件数に伴い負債総額も増加し,1998年に1兆円を
超え,2000年頃を境に急激な増加が起こり,調査
した1987年から2004年の累計負債額は11兆円に到
達した.
よって,1987年から2004年までの倒産件数が
450件,累計負債額は11兆円であるから,1ゴルフ
場経営会社当たりの負債額は約244億円となる.
以上により,まずゴルフ場経営の悪化は,バブ
ル経済の崩壊後の影響から利用者が減少したこと
が,経営の悪化の起因であったと考えられる.
(2)売上高の推移
1980年において1ゴルフ場当たりの売上高は,
約4億円で,その後も増加を続けた.そして,バ
ブル経済初期の1988年における売上高は,約6億
円であったが1年間で急激な増加が起こり8億円ま
でになった.さらに,売上高は急激な増加を示し
1992年では,10億円の手前まで近づいた.しかし,
1992年でバブル期が終わると売上高は,急激に減
少し続け,2004年には売上高が約5億円となりバ
ブルの絶頂期の約半分まで減少した.バブル経済
の崩壊と共に利用者の減少が起き,売上高の減少
を招いたと考えられる.さらに,図−13に示され
ているようにゴルフ場数は,増加し続けているこ
とから,ゴルフ場数の増加が個々のゴルフ場での
集客数の低下を引き起こしていったと考えられる.
よって,今後我が国のゴルフ場は,利用者数の
増加,またはゴルフ場数の減少が起きない限り厳
しい経営状況下にたたされ,不採算経営のゴルフ
場数が増加していくと予測できる.
350
60,000
1,000
40,000
ゴルフ場数
1ゴルフ場当たりの売上高
0
20,000
0
1980
1985
1990
(年次)
1995
1ゴ ル フ 場 当 た りの 売 上 高
ゴルフ場数
1,500
150
60,000
総倒産件数
総負債額
100
40,000
20,000
50
0
0
87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04
19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 20 20 20 20 20
(年次)
図−14 ゴルフ場経営会社の累計倒産件数
と負債総額の推移
(4)経営方法
我が国のゴルフ場の運営方法には,大きく分け
て会員制とパブリック制の2通りがある.会員制
ゴルフ場は,会員権を発行して集めた会員が主に
利用できるゴルフ場であり,パブリック制ゴルフ
場は,会員権の発行などを行わず一般に広く開放
しているゴルフ場である.
そこで,我が国におけるゴルフ場の約90%が預
託金会員制ゴルフ場であることに着目し,預託金
会員制ゴルフ場の運営方法ついて調査を行った.
預託金会員制ゴルフ場とは,会員(ゴルフ会員
権保持者)が非会員より優先的にゴルフ場が利用
できるゴルフ場のことである.ゴルフ場経営者は
ゴルフ場開発の前段階で会員を募集し,そのゴル
2000
図−13 ゴルフ場数と
1ゴルフ場当たりの売り上高の推移
※ 参考資料として経済産業省経済産業政策局調
査統計部産業統計室:特定サービス産業実態
調査(ゴルフ場)財団法人社会経済生産性本
部 余暇創研:レジャー白書1998,2005を使
用したため,ゴルフ場数は,18ホール換算で
はない.
(3)ゴルフ場倒産件数と総負債額
昨今では,厳しい経営状況を裏付ける様にゴル
10
総負債額
250
200
80,000
80,000
300
100,000
500
100,000
400
120,000
2,000
(億円)
120,000
バブル期
450
(万円)
バブル期
2,500
500
総倒産件数
(箇所)
(件)
フ場の会員希望者が一定の金額をゴルフ場経営者
に預ける.この預け金を預託金という.ゴルフ場
経営者は,預託金を預かった証明としてゴルフ会
員権を発行し,会員に譲渡する.ゴルフ会員権に
1996 年から 2002 年の時期と一致した.ゴルフ場経
営会社は,預託金の会員制度によりゴルフ場開発の
資金調達を容易に行えたのであるが,この計画・運
営制度自体に問題があったと考えられる.
付加されている会員・ゴルフ場経営者の権利,
義務を以下に整理した.
5.3.ゴルフ場数が適正数にならない理由
一般の産業では,企業が倒産すれば,市場から撤
退して市場調整機能が働き,需給バランスが保たれ
ていく.しかしながら,1996年以降,ゴルフ場の倒
産数は増加しているにも関わらず,それに見合った
ゴルフ場数の減少がみられない.
その要因の1つとして,倒産後の法的整理が関
係している.我が国の倒産ゴルフ場の多くが再建
型の法的整理である会社更生法,民事再生法を選
択している.再建型の法的整理により,ゴルフ場
経営者は膨大に抱えている預託金または,銀行な
どからの借入金等の負債を大幅に軽減でき,事業
を存続することが可能となる.倒産しても,ゴル
フ場数がほとんど減少していないのは,再建型法
的整理を行うことにより,事業を存続しているた
めである.
さらに,昨今,外資系企業が不採算ゴルフ場を
開発費の10分の1から時には100分の1程度で買収
していると言われており,その買収ゴルフ場数は
200箇所にも及んでいる.買収している外資系企
業のほとんどは,プライベート・エクイティ・フ
ァンドといわれる投資ファンドである.このプラ
イベート・エクイティ・ファンドとは,投資家か
ら集めた資金で経営が悪化している企業を買収し,
企業価値を高めて売却するなどして利益を上げる
投資ファンドのことである.つまり,不採算ゴル
フ場を外資系企業が買収している真の狙いは,企
業・不動産価値などを高め,または株式上場後の
売却により利益を得る事ではないかと推測される.
現在,我が国のゴルフ場は,利用者が減少し,
多くのゴルフ場が不採算経営であるにも関わらず,
その数が減少しないために市場調整機能が働かず,
需給のバランスが保たれていない状態に陥ってい
ると考えられる.
ⅰ)優先的利用権:
会員(会員権保持者)は,非会員より優先的にゴ
ルフ場を利用できる権利.
ゴルフ場経営者は,優先的に会員権保持者がゴル
フ場を利用できるようにさせなければならない.
ⅱ)預託金の返還請求権:
会員希望者は,一定の金額(預託金)をゴルフ
場経営者に預けることで会員になれる.ゴルフ場
を退会したい場合,会員は,預託金全額をゴルフ
場経営者から返還請求できる権利を持つ.(ただ
し,ゴルフ場によって異なるが,預託金は無利子
であり,10年から20年経過しないと返還請求でき
ない)ゴルフ場経営者は,会員から預託金の返還
請求を受けた場合,全額を会員へ返還する義務が
ある.
ⅲ)年会費の納入義務:
会員権保持者は,上記の1.2の権利を維持して
いくために,ゴルフ場経営者が決める年会費を納
入しなければならない.
ゴルフ会員権に付加された権利・義務は上記の
通りである.ゴルフ場経営者は,上記の権利を付
加したゴルフ会員権を発行することで,ゴルフ場
開発以前に多額の費用を集めることが可能であっ
た.さらに,預託金は返還しなければならない資
金であり,所得と見なされないことから課税対象
とならない.よって,ゴルフ場経営者は,この預
託金制度によりゴルフ場開発の資金が無くても容
易にゴルフ場開発が行えたのである.しかし,預
託金制度の導入当時,会員権はゴルフ場経営者に
返還されず,市場で売買されるだけで,預託金を
会員に返還しなくて済むと考えられていた.さら
に,集めた預託金はゴルフ場の開発費用として使
用しており,10年程度の期間で開発費用をゴルフ
場運営の利益により補填することはほとんど不可
能であると言われている.
バブル期(1986 年∼1992 年)に造成されたゴル
フ場の預託金返済期(10 年後)を当てはめると,図
−15 から倒産件数,負債総額が急激に増加している
5.4.今後のゴルフ場の将来予測
我が国のゴルフ場は,ゴルフ場利用者数の減少に
も関わらず,倒産したゴルフ場は,法的整理による
債務精算を行い再びゴルフ場経営を行っている現状
となっているため需要と供給のバランスが保たれて
いない.ゴルフ場は,市場原理によって減少してい
くか,利用者数を増加させない限り厳しい経営状態
が続いていくと予測できる.しかし,今後,人口減
少,少子・高齢化などの影響を受けゴルフ利用者が
11
急激に増加していくとは考えにくい.つまり,今後
ゴルフ場数は,減少していくと考えられる.
そこで,今後の我が国のゴルフ場は,どの程度の
余剰数が存在してくるのかを算出した.
まず,図−15に示すように1960年から2005年現在
まで,ゴルフ場利用者の多くを占めている30歳∼65
歳の年間回数の推移を算出し,そこから導きだされ
たバブル期以前の値と2005年の値を用いて,今後の
30歳から65歳までの人口変化を考慮し図−16に示す
ように今後のゴルフ場利用者の予測数を算出した.
そして,その利用者数をまかなえるゴルフ場数の推
移を過去の値から読み取り,図−17に今後のゴルフ
場数の予測数の推移を示した.
図−17から今後ゴルフ場数の減少が示されて,今
から15年後の2030年には,約1,000箇所のゴルフ場
が余剰数として存在すると予測される.
つまり,今後ゴルフ場が適当数に落ち着いていく
ということは,ゴルフ場自体の機能を失うゴルフ場
が増加してことであると考えられる.そこで,ゴル
フ場としての価値が無くなってしまったところは,
放置されていく可能性があると考えられる.ゴルフ
場を放置することは,経済的影響だけでなく自然災
害の誘発などが心配される.そこで,ゴルフ場の経
営のみを健全再生化するのではなく,他への転用,
自然への回帰などの方法,施策を十分検討していく
必要があるのではないかと考えられる.
推計値
120,000
2.78回/人年
実測値
(2005年の値)
100,000
80,000
60,000
2.60回/人年
40,000
(1975年∼1985年の平均値)
20,000
0
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
図−16 ゴルフ場利用者数の予測
(箇所)
3,000
推計値
実測値
2.78回/人
(2005年の値)
2,500
2,000
余剰ゴルフ場数
約1,000箇所
1,500
1,000
2.60回/人
500
(1975年∼1985年の平均値)
ゴルフ場数(18ホール換算)
延利用者数/30∼65歳の総人口
ゴルフ場数(18ホール換算)
2,500
4
3.5
3
2,000
1,500
1,000
2.5
2
1.5
1
500
0.5
0
1960
延利用者数/30∼65歳の総人口
3,000
0
0
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005
図−15 ゴルフ場の利用回数(30から65歳での)
12
1970
1980
1990
2000
2010
2020
図−17 ゴルフ場数の予測
5.5.今後ゴルフ場の与える影響
(1)地方自治体の行政経営への影響
地方自治体は,ゴルフ場から固定資産税,法人
税,消費税,ゴルフ場利用者税等様々な税金を徴
収している.そこで,ゴルフ場利用者の減少によ
り地方自治の税収で最も影響するのは,ゴルフ場
利用税である.このゴルフ場利用者税とは,ゴル
フ場を利用した人が,ゴルフ場の経営者を通じて
納め,税率は,ゴルフ場の規模,利用料金などに
よるゴルフ場ごとの等級で決められているのであ
る.その税は,まず県に納められ,ゴルフ場利用
税の70%に相当する金額が,ゴルフ場所在地の市
町村に納められることとなっている.つまり,ゴ
ルフ場の利用者が減少すると地方自治体がゴルフ
場からの徴収する税金が大幅に減少していくので
ある.そこで,利用税の推移を調査したところ,
2030
図−18が示すようにバブル経済の絶頂期,1ゴル
フ場当たりの税収が6,000万円ほどあったのだが,
バブル経済崩壊後ゴルフ場からの税収は急激な減
少を示し,2005年では2,500万円まで落ち込んで
しまった.ゴルフ場数は,年々増加しているにも
関わらず,税収は減収し続けているのが現状であ
る.つまり,前記の通り大幅なゴルフ場利用者の
増加が見込めないことから,地方自治体にとって
今後ゴルフ場からの大幅な税収を見込めないと考
えることができる.
3,000
(百万)
ゴルフ場数
ゴルフ場の利用税額
2,500
70
50
ゴルフ場数
2,000
40
1,500
30
1,000
20
500
図−19(1)開発中断ゴルフ場の例1
60
1ゴ ル フ 場 の 利 用 税 額
(箇所)
10
0
0
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005
図−18 ゴルフ場利用者税の推移
図−19(2)開発中断ゴルフ場の例2
(2)地域災害発生と環境への影響
まず,ゴルフ場は,広大な面積を保有し人里離
れているため,さらに他の用途に見当が無く,結
果的に放置され人目に触れられず産業廃棄物等の
不法投棄が起こる可能性があり,土壌・水質汚染
を引き起こす危険があると考えられる.
昨今,開発途中で放置されたゴルフ場が産業廃
棄物の捨て場になってしまった事例が何件か発生
し,その一例を図−19 に示すが,この様に産業廃
棄物処理場となってしまった場合,廃棄物の成分
が河川,沢などに流出し水質汚染を引き起こすと
予測できる.
さらに,ゴルフ場は,造成時に盛土・切土工事
をしているため維持,管理をしないと地滑りなど
を起こす恐れがあるため,危険である.ゴルフ場
は,おおよそ図−20に示す排水・給水管図の様に
コース全体に排水管,給水管が埋設されている.
ゴルフ場の広域な排水機能が必要となる理由は,
雨天時でもゴルフプレーが行えるように,また,
地下水を制御するためである.しかし,ゴルフ場
の放置による排水機能の停止は自然災害を招く大
きな要因となりうるのである.それは,図−21に
示すように,メンテナンスがなされていない放置
ゴルフ場の場合に落ち葉,砂などが排水溝を埋め
排水の制御が停止し,フェアウエイに雨水が溜ま
るか,また調整池の水が溢れ土石流,地すべり,
洪水,鉄砲水などが起こる原因となる.そして,
下流部の公共施設,個人家屋等の崩壊,水質汚濁
など自然災害を及ぼす危険があり,その発生はゴ
ルフ場の放置後1年以内で起こる可能性が高いと
ゴルフ場建設の専門家の意見としてある.
さらに,給水機能を停止し,植栽の維持・管理
13
が行われない場合も枯れた芝・葉などが排水を詰
まらせてしまう原因となり同様の被害が起こる可
能性が高いといわれている.ここで,放置ゴルフ
場ではないのだが,上記のように排水管を砂,土,
落ち葉などが排水管を塞ぎ排水機能が低下してし
まったために地すべり,洪水が発生してしまった
事例を図−22に示す.
図−22 排水・給水機能停止での災害発生の事例
さらに,ゴルフ場は,雨天時でも水溜りが無く
プレー出来る様に排水性が高い赤土,真砂土,な
どを敷き詰め土壌の改良がなされ,さらに芝を維
持するため農薬の散布を行っている.よって,植
生を失ってしまった放置ゴルフ場は,水分をあま
り蓄えられず化学物質で汚染された土壌となって
おり,図−23 に示すように閉鎖後 10 年経過して
もなお自然の植生は回復していないのが実態とし
て存在している.
つまり,ゴルフ場を放置してしまうと自然災害
を引き起こす根源となり,自然への回復は難しい
のである.
青実線:基幹排水 プラスチック管φ150∼800
緑点線:基幹排水 塩化ビニール管φ150
赤点線:表面排水 塩化ビニール管φ100
図−20 ゴルフ場の排水・給水管図例
る
失す
に流
気
一
水が
3.雨
2.雨水がフェアウェーに溜まる
Fairwayangulations
Leaves have accumulatedin the ditch.
図−21 ゴルフ場の排水・給水機能停止での
災害発生メカニズム
図−23 閉鎖後 10 年間経過したゴルフ場
14
5.6.まとめ
現在,我が国のゴルフ場はバブル期以降利用者
が減少し,不採算経営に陥っており,倒産が頻出
してきた.しかし,倒産ゴルフ場は,再生型の法
的整理の手続きを行い新たなゴルフ場として開場
し,あるいは外資系企業が投資目的で買収を行い
新たなゴルフ場として開場している状態である.
その結果,ゴルフ場数が減少しないために市場調
整機能が働かず,需給のバランスが保たれていな
い状態に陥ってしまっている.さらに上記の状況
にも関わらず,未だに開発中のゴルフ場は多数存
在しているが,その多くは開発資金の枯渇,ゴル
フ場市場の縮減の影響から建設を見送っている状
態である.
しかし,今後我が国のゴルフ場は,市場調整に
より余剰数に落ち着いていくと予測できるのだが,
不採算ゴルフ場が放置され維持・管理を行わなけ
れば産業廃棄物の捨て場,地すべり土壌・水質汚
染など自然災害の発生を招く恐れを多く含んでい
ると予測できる.
よって,不採算ゴルフ場は,経済の悪化を招く
と共に,放置され考えられる.上記の問題を発生
してしまう原因の1つは,ゴルフ場経営者が不採
算ゴルフ場の活用方法を見出せていないことが挙
げられる.そこで,本研究では,不採算ゴルフ場
を活用できる方策を提案することができれば,上
記の問題解決に一石を投じることができるのでは
ないかと考えた.
預託金会員制の会員と経営者との間を法的観点か
らみた場合,債権者(預託金返還請求権,優先的
施設利用権など)と債務者(年会費などの支払い
義務)の関係になる.しかし,債権者にすぎない
預託金会員は,経営に参加したり,会社財産の分
配を請求したりすることは基本的にできない事と
なっている.つまり,預託金とは,法律上は単な
る預かり金であり,その返還請求権には何ら優先
性はなく,無担保の一債権に過ぎないため,ゴル
フ場経営会社が倒産という事態に陥った場合,預
託金を全額回収する事は 100%不可能であり,
数%が返還されるだけである.よって,預託金制
ゴルフ場が倒産すると数百万円から数千万円を預
け取得した会員権は,紙屑同然となる可能性が高
い.
一方,株主制会員権の場合では,会員は経営会
社の株主であるからゴルフ場経営会社の共同所有
者の地位となる.これを一般の会社になぞらえれ
ば,預託金会員は社債を保有している人,株主会
員は株式を保有している人(株主)ということに
なる.このような法的地位の差から,株主会員は,
まず会社の実質的な共同経営者として,経営に参
加する事ができる.具体的には,株主会員は,株
主総会に出席して会社経営に関する基本的事項の
決議に加わったり,不正不当な経営がなされれば
これを是正するよう求めたりする権利がある.ま
た,株式を持つ事により,会社の共同所有者とし
ての地位を有しているから,もし会社が解散など
した場合,会社に残余財産があればその分配を求
める事ができるのである.
さらに,不採算ゴルフ場の多くは,法的整理の
中で再建を目的とした会社更生法,民事再生法な
どの倒産手続きを行っている.この再生型の倒産
では,経営者は債権者へ法的整理の手続きを行っ
た事についての謝罪,会社の財産状態,今後の経
営再建計画等を説明する集会を開催し,法的整理
を債権者に認定されなければならない.その集会
で議決権を行使することができるのは債権者であ
り,民事再生法の場合ではその議決権者数の過半
数且つ債権総額の 2 分の 1 以上の債権者の同意,
会社更生法では議決権者数の過半数且つ債権総額
3 分の 2 以上の債権者同意が必要となる.(民事
再生法:第 87 条 第 117 条 第 172 条の 2,会社
更生法:第 164 条 第 205 条)
つまり,ゴルフ場の債権者数,債権額の大部分
は会員が占めており,法的整理の認定は会員の意
向により大きく左右されるのである.しかし,上
記の通り預託金は,一般債権である銀行などから
6.不採算ゴルフ場の再活用に向けて
6.1. ゴルフ場を宅地へ変更する時の障害
(1)ゴルフ場取得の障害
本研究の目的である居住地建設のためには,建
設用地である不採算ゴルフ場を取得する方法を思
案しなければならない.そのためには,不採算ゴ
ルフ場取得における問題を整理し,考慮しながら
取得の方法を導いていく必要がある.
我が国のゴルフ場の大多数において,前記の通
り経営者は開発のために多額の預託金を収集し,
ゴルフ会員はゴルフ場経営会社に預託金を預けて
会員となる預託金会員制を適用している.昨今,
不採算経営に陥っているゴルフ場の原因は,この
預託金の返還による経営の圧迫であると広く認識
されている.
そこで,不採算ゴルフ場を取得する場合に最も
問題となるのは,預託金(ゴルフ会員権)の処理
であると考えられる.
15
の借入金,税金などの優先的債権に比べて返済を
求めるための法的効力が弱いため,倒産後の再建
計画では,ゴルフ場の会員を退会する場合でも存
続する場合でも預託金額の 90%から 100%が削減
される案が提示される.再建型の法的整理では,
ゴルフ場経営が継続され優先的にゴルフ場施設が
利用できる権利(優先的施設利用権)は保証され
るため,会員の多くは預託金の大幅な削減にも関
わらず再建型の法的整理を受け入れているという
のが現状である.
しかし,本研究では,不採算ゴルフ場を居住地
に変更する計画であるため,倒産後優先的にゴル
フ場施設が利用できる権利(優先的施設利用権)
は保証できない.ゴルフ場倒産後に会員の権利を
保証する必要があるかどうか,どの様な会員権の
処理を行えば会員は納得するのかなど,慎重に会
員権処理の方法を熟慮しなければならない.
響が多大であると考えられるため,各都道府県は,
都市計画法を基に各々で地域に即した大規模開発
条例等の制定をしている.開発事業者は,大規模
開発に向けて法規・法令により事前の市町村長,
地域住民への説明・意見徴収,許認可の取得が多
岐にわたって必要となる.
そこで,本研究において活用する対象施設とし
ているゴルフ場は,都市計画法において第二種特
定工作物と定義されている.特定工作物は,その
態様からして,用途の変更は考えられないので,
建築物の場合と異なり,用途の変更に関する規制
はないとされている.ただ,例えば霊園からゴル
フ場に変更する場合は,前者の廃止であり,且つ
後者の新設となっているのみである.言い換える
と特定工作物は,事前の協議,申請等を熟慮して
開発するため用途の変更がほぼ皆無という想定の
もと,用途変更の規制を必要とせず,都市計画法
において用途変更に関して考慮されていない現状
が伺える.
つまり,第二種特定工作物であるゴルフ場は,
用途の変更が実行されない施設という位置づけが
なされており,用途の変更をする法規・法令が存
在していない現状である.
さらに,第二種特定工作物は,直接市街化の要
因となるものでなく,また,スプロール現象を惹
起するおそれがないので,市街化調整区域内にお
ける開発許可の許可基準は適用されないとされて
いる.市街化調整区域とは,都市計画区域の中で,
市街化を抑制する意味を持った区域のことであり,
山林地帯や農地などが中心で,人口及び産業の都
市への急激な集中による無秩序,無計画な発展を
防止しようとする役割を持ち基本的に,住居も含
め建物は許可なく建てられない.そこで,ゴルフ
場が市街化調整区域に指定されている場合,さら
にゴルフ場に住居地の建設を行うことが難しくな
ってくるのである.
(2)法規,法令の制限
本研究の目的である居住地建設のためには,建
設用地であるゴルフ場を宅地へと変更時に関わる
法規・法令を克服する必要があると考えられる.
その為には,土地の用途変更に関わる現行の法
規・法令を把握しなければならない.
我が国では,個人の資産を自ら有効に活用して
いくことを原則としているが,土地の利用におい
ては,国土環境の保全,良好な都市の整備など国
民全体の利益を優先するため,法規・法令により
様々な規制がある.その都市計画の中核を担って
いるのが都市計画法であり,「都市の健全な発展
と秩序ある整備を図り,国土の均衡ある発展と公
共の福祉の増進に寄与する」ことを目的として,
都市計画の内容及びその決定手続き,都市計画制
限,都市計画事業などを定めてある都市計画に関
して必要な事項を定めている.都市計画を策定す
る場として指定している区域を「都市計画区域」
としており,この都市計画区域は,「農林漁業と
の健全な調和を図りつつ健康で文化的な都市生活
及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこ
のためには,適正な制限のもとに土地の合理的な
活用が図れることを基本理念」とし,「区域区
分」・「地域地区」・「促進区域」・「都市施
設」・「市街地開発事業」・「地区計画」等の各
種都市計画を一体的にかつ総合的に定めることと
している.
さらに,広大な森林,農地などを造成して住宅
団地,ゴルフ場,スキー場,工場などの大規模な
開発を行う場合,都市形成,周辺環境へ及ぼす影
6.2. ゴルフ場を宅地へ変更する方法の提言
建設用地である不採算ゴルフ場を取得する方法
として,ゴルフ場の統廃合案を提言する.
我が国のゴルフ場は,90%以上が会員制であり,
その 1 ゴルフ場(18 ホール)の適正会員数は,約
2,000 人程度と言われている.そこで,1 ゴルフ
場の適正会員を 2,000 人前後としてゴルフ会員権
の整理,処理を行う方法を考案した.
例えば,ある地域でAゴルフ場の会員数が
1,000 人,Bゴルフ場の会員数が 1,000 人とした
場合,Bゴルフ場の会員の権利をAゴルフ場に移
16
動させることで,Bゴルフ場の会員の権利が確保
でき,さらにAゴルフ場の会員数は,2,000 人と
なり来場者数も増加していくと考えられる.そし
て,空いたBゴルフ場の土地を宅地として再活用
すれば,新たな居住地の創出が行えると考えられ
る.
よって,この方法によりゴルフ会員からゴルフ
場施設が利用できる権利(優先的施設利用権)を
剥奪することなく,宅地用地としてのゴルフ場の
取得が行えると考えられる.
さらに,ゴルフ場を居住地へ変更する用途変更
の法令・法規が存在していないのが実態であるの
だが,空いたゴルフ場を閉鎖し居住地の建設に向
けた大規模条例での許認可取得を行っていけば実
現可能ではないかと考えられる.また,空いたゴ
ルフ場が市街化調整区域であった場合は,許認可
の取得が困難になってくると予測される.しかし,
市街化調整区域では,国,都道府県,指定都市が
建てる建造物,都市計画事業の施工として行う建
造物,都市区画整理の一環として行う場合,非常
災害の応急措置として行う建築物,仮設建築物な
どの場合では,例外として建設が認められると言
われている.さらに,昨今の地方分権,規制緩和
により自治体で独自の基準を設けることが可能と
なってきたのである.昨今では,都市計画法が
1968年に制定されてから約40年あまりが経過し,
当時からの社会経済情勢の変化により,急速な都
市化の時代から安定した都市型の時代をむかえた
今,現行の制度ではなじまない点も出てきたこと
から見直しがなされ,2000年5月に都市計画法の
一部を改正する法律(改正法)が公布され2001年
5月に施行された.つまり,宅地政策を行う行政
側が積極的にゴルフ場の土地を宅地への変更を主
導していくことで可能性が大きくなってくると考
えられる.さらには,産官学の連携を強め構造改
革特別区域計画案を申請し,全国的に法令・法規
の規制緩和,改正を促していく方法をとってゆけ
ばよいと考えられる.
・総人口 :1,063 人
・人口比
区分
人数(人) 割合(%)
年少人口(0から15歳)
100
12
生産人口(16から65歳)
470
55
老年人口(65歳以上)
280
33
計
850
100
「宅地」
・戸数
:200 戸
・宅地面積:1000∼1,600 ㎡
・平地だけでなく斜面地も宅地として利用する.
・敷地全体は,大きな 4 つのゾーン(東西南北)で
構成される.
「タウンセンター」
・タウンセンターには,レストラン,コンビニエ
ンスストア,メディカルセンター,入浴施設,
図書館などが設置される.
「アメニティーと景観」
・建蔽率 10%以下の広々とした宅地を創造する.
・ひな壇造成によるよう壁を出さないように,なる
べく土工を少なくし,斜面をそのまま活用した宅
地とする.
・既存の森林は,そのまま残し,活用する.
・敷地周辺の山並みや海への眺望を活用し,快適な
空間を創造する.
・既存のため池は,そのまま親水空間として活用す
る.
「交通」
・タウンセンター内は,基本的移動は専用カートを
使用.
6.4. 新たな居住地の地域経済への効果
まず,我が国の余剰ゴルフ場数は,1,000 箇所
と試算したため 1,000×1,000 人=100 万人規模の
人口がゆとりある居住空間を得る可能性がある.
そして,概算ではあるが,地方自治体への経済的
効果として年間 1,250,000 円(年金給付)×750
人×0.8=750 百万円があると算出された.
さらにこの同等の経済効果を得るためにはどの程
度の規模の企業誘致が必要かの試算をしたところ,
750,000,000÷{0.3(製造費率)×0.4(人件費率)
×0.4(経済投下率)+0.2(経費率)×0.35(人件
費比率)×0.4(経済投下率)}≒986,000,000
となり,年間事業量 100 億円程度の優良企業を誘致
する必要があるのである.
よって,企業誘致を行うより宅地を創出した方が
より確実な経済効果を期待できると考えられる.
6.3. 新たな居住地の構想例
居住地建設用地としての対象ゴルフ場総面積を平
均的なゴルフ場の面積である約 100haとし以下
に新たな居住地の構想例を示す.
「コンセプト」
少子・高齢化,新しいライフスタイルに適応した,
自然の中でゆったりとした生活を目指した居住空
間
「人口」
17
7.おわりに
今後,我が国は,確実にはっきりとした少子・高
齢化社会に突入し,さらに人口減少も進み人口構造
の変化が顕著に現れてくると予測さる.さらに,バ
ブル期に無計画に開発された施設は,多くの問題を
含んでおり,我が国の経済の鈍化とともにその問題
が顕在化してきたのである.しかし,我が国の現行
の社会・経済システムでそれらの問題に対応できる
状況ではない.それは,先進国にも関わらず未だに
人々が豊かでゆとりある生活をおくる環境が整備さ
れていないことからも伺えるのである.
そこで,急激な社会変化が起こる中で,今一度,
真の豊かさ,夢を持てるゆとりある生活を考え直す
良き機会であり,今後我が国が豊かでゆとりある社
会になっていくことを望む.
日本住宅協会
19)梶 秀樹「居住環境管理と財政運営」
技法堂出版
20)土地利用研究会「早わかり国土利用計画法」
大成出版
21)角野 幸博「郊外の20世紀」学芸出版社
22)丹保 憲仁人口減少下の社会資本整備」
土木学会
参考文献
1)山田 國廣「ゴルフ場の亡国論」藤原出版
2)松井 覺進「ゴルフ場の廃残記」藤原出版
3)多賀 修一「ゴルフの法律全書」
ベースボールマガジン社
4)「2004 全国ゴルフ場コースガイド 東日本編」
廣済堂出版
5)「2004 全国ゴルフ場コースガイド 西日本編」
廣済堂出版
6)「財界展望 2001 年 8 月号」財界展望社
7)「財界展望 2002 年 12 月号」財界展望社
8)「ゴルフマネジメント 2004 年 6 月号,12 月号」
一季出版
9)「ゴルフマネジメント 2005 年 1 月号,6 月号」
一季出版
10)「平成 17 年度版ゴルフ場企業決算年鑑」一季出版
11)服部 弘志「ゴルフ場企業民事再生計画集」
一季出版
12)下田 耕士「土地が動く日本が動く」三省堂
13)本間 義人「土地問題総点検−土地神話への挑戦」
有斐閣選書
14)五艘 隆志「地方自治体の新しいマネジメントシス
テムの構築と導入に関する研究」
高知工科大学博士学位論文
15)「特定サービス産業実態調査(ゴルフ場)」
経済産業省経済産業政策局調査統計部産業統計室
16)「レジャー白書1998∼2005」
財団法人社会経済生産性本部 余暇創研
17)「平成 16 年開発許可制度事務ハンドブック三重県」
三重県県土整備部建築開発部
18)「街づくりを推進する住宅地設計企画」
18
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