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・ 派遣研究室:ボン大学 Life and Medical Sciences(LIMES) Institute

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・ 派遣研究室:ボン大学 Life and Medical Sciences(LIMES) Institute
 ・ 派遣研究室:ボン大学 Life and Medical Sciences(LIMES) Institute, Prof.Michael Hoch 研究室 ・研究・交流概要 近年、TAL effector nuclease (TALEN)や CRISPR/Cas9 システムが効率的で
簡便なゲノム編集技術として注目されている。派遣者は TALEN を用い
てゼブラフィッシュに遺伝子変異を導入する実験を行った。初めに体
細胞変異の変異率を測定して TALEN プローブセットの変異導入効率を
検討した。次に、導入された変異箇所の塩基配列の解析を行い、得ら
れた変異のタイプを同定し、この TALEN プローブが機能していること
を確かめた。最後に得られたデータから最適の組み合わせと実用上の
至適濃度について考察した。 ・研究・交流概要
8/3 フランクフルト到着。ICE に乗り2時間程度でボンに到着し、ホテルにチェ
ックイン。
8/4
午前中、LIMES Institute Prof. Hoch lab.で研究を行っている、田中英臣先生と
ディスカッションし、滞在中の実験計画を立てる。TALEN プローブは、Trim71
遺伝子の翻訳開始コドン近傍に変異を導入出来るように設計されたものが複数
準備されているのでそれを用いた(ライトアーム2種類(4R、6R)、レフトアー
ム 3 種類(4L、5L、6L))。マイクロインジェクションは、正確な技術が必要なの
で田中先生が行い、派遣者は体細胞変異確認手法の原理と必要な手技の習得に
務めた。変異の有無はターゲット部位近傍を PCR で増幅し、増幅産物の制限酵
素での切断パターンから判定する。
初めに予め準備されたプライマーでゲノム DNA を鋳型にして PCR を行い、
予想される長さのバンドが増えることを確認した。
8/5
前日に PCR のプライマーが機能することが確かめられたので、TALEN プロー
ブ(4L/4R、75μg/μl)をインジェクションしたサンプルのゲノム DNA を鋳型
として PCR を行った。電気泳動を行い、増幅産物を泳動ゲルから精製し、TA
クローニングのため pCRⅡ TOPO vector へのライゲーション反応を 16℃オー
バーナイトで行った(サンプル1)。
8/6
前日のライゲーションミックスを大腸菌にトランスフォームし、LB 培地にプレ
ーティング後、37℃オーバーナイトで培養した。
平行して、異なる濃度の TALEN プローブ(4L/4R、150μg/μl)をインジェク
ションしたサンプルのゲノム DNA を鋳型として PCR を行った。前日同様に
PCR と増幅産物の精製を行い、pCRⅡ TOPO vector へのライゲーション反応
を行った(サンプル2)。
8/7
午前中、ゼブラフィッシュの 1 細胞期の受精卵に、異なる濃度の TALEN プロ
ーブをインジェクションした(サンプル3、サンプル4、4L/4R 150μg/μl、
4L/4R 200μg/μl)。それぞれの TALEN プローブには、マーカーとして YFP
mRNA を加えてあり、後日蛍光顕微鏡下でプローブ導入の有無をチェック出来
る。
午後に、サンプル1について前日プレーティングした培地にコロニーが形成さ
れていることを確認した。blue/white selection を行い、5 6 個の white コロニ
ーを選んでコロニーPCR を行った。得られた増幅産物に制限酵素処理後電気泳
動を行い、切断パターンの違いから体細胞変異の導入効率を評価した。
サンプル2について ligation mix を大腸菌に transform し、37℃オーバーナイ
トで培養した。
夕方 Hoch 研究室のメンバーにより企画された BBQ に参加した。
8/8
サンプル2についてサンプル1と同様に 56 個の white コロニーを選んでコロ
ニー PCR を行い、増幅産物の制限酵素による切断パターンから体細胞変異の導
入効率を評価した。
前日新たにインジェクションしたサンプル3、4についてそれぞれから YFP 陽
性で形態が正常な embryo を 12 個体選び、ゲノム DNA を抽出した。
8/9
土日は休日で自由行動。ライン川中流域のコブレンツに観光。モーゼル川とラ
イン川の合流地点であるドイチェスエックと対岸の丘にあるエーレンブライト
シュタイン城跡にのぼり、丘からドイチェスエックを一望。川沿いの広場でド
イツの休日の雰囲気を味わうことができ、日本と違ってとても開放的な休日を
過ごした。
8/10
ボンの市街地を観光。ベートーベンハウスや市庁舎、ライン川のほとりを散策。
8/11
サンプル1、2について変異部位の塩基配列を調べるために、前日の電気泳動
パターンから陽性と思われるコロニーを選び、大腸菌を液体培地中で 37℃オー
バーナイトで培養してプラスミドを増幅した。
サンプル3、4のゲノム DNA について PCR を行ったが、成功しなかった。
Positive control で PCR が出来たことからゲノム DNA 抽出に失敗したことが判
明した。ゲノム抽出時の ProteinaseK の濃度を間違っていたことが原因であっ
た。田中先生と残りの1週間で出来ることについてディスカッションし、実験
計画の修正を行った。
8/12
午前中、サンプル3、4とは異なる種類と濃度の TALEN プローブを 1 細胞期
の受精卵にインジェクションした(サンプル5、6、7、5L/4R 75μg/μl、5L/4R
150μg/μl、4L/4R 75μg/μl)。
午後に、サンプル1、2、について前日液体培地で培養した大腸菌からプラス
ミドを精製し、シークエンス解析に出した。
8/13
シークエンス解析の結果から、サンプル1の 3 個のクローンで標的部位に変異
が認められた。この内、1 クローンは 12 塩基の挿入、2 クローンは 80 塩基と
13 塩基の欠失であった。アミノ酸に変換すると、3 残基の挿入では下流の配列
は正常であったが、欠失の 2 クローンではフレームシフトが起こり、標的部位
近傍に異所性に終止コドンが形成される事が確認出来た。
新たにインジェクションしたサンプル5、6、7ついてゲノム DNA を抽出し
た。今回はゲノム抽出時の ProteinaseK 濃度を修正し、正しく作業出来た。サ
ンプル1、2の場合と同様に PCR 産物の精製し、pCRⅡ TOPO vector へのラ
イゲーション反応を行った。
8/14
サンプル5、6、7のライゲーションミックスを大腸菌に transform し、37℃
オーバーナイトで培養した。
8/15 サンプル5、6、7のコロニー PCR を行い、体細胞変異の導入効率を評価した。
これまで得られたサンプル1、2のデータと合わせて、TALEN プローブセット
の組み合わせと最適濃度について検討した。その結果、4L/4R75μg/μl で 5.3%
の効率でゲノムに変異を導入出来る事が判った。5L/5R の組み合わせにおいて
も、75μg/μl で 4.1%、150μg/μl で 16.6%の効率で変異を導入出来ることが
判った。しかし、高濃度(150μg/μl)のインジェクションは生存率も悪くなる。
生殖系列で変異を導入し、次世代で変異体を得る事が目的なので、75μg/μl 程
度の濃度が実用上至適であると考えられた。
8/16
休日で自由行動。ブリュールの宮殿やケルン大聖堂、アーヘン大聖堂などの世
界文化遺産を観光した。宮殿や教会など歴史的な建築物を見ることができ、日
本には無い文化に触れることが出来た。
8/17
ボン中央駅から電車でフランクフルト空港へ。空港で最後のドイツビールを飲
んで日本へ帰国。
・交流総括 TALEN や CRISPER/Cas9 システム等の技術が開発され、ENU や EMS 等化学物質で
ゲノムに変異をランダムに導入していた時代に較べ、任意の遺伝子に対して高
確率で変異を導入することが可能となった。これらの技術は遺伝子操作におけ
る基礎技術となりつつある。今回の滞在で、TALEN を用いたゼブラフィッシュに
おける Mutagenesis の一連の技術を習得でき、時代の最先端に遅れを取らない
ことが重要であると感じた。体細胞変異効率の測定は、TALEN や CRSPR/
Cas9 システムが正しく働いている事を調べるために必須の技術なので、今回の
派遣で得られた知見を基にして、自身の研究にも応用出来るようにしたい。
Hoch 研究室ではモデル生物としてマウス・ゼブラフィッシュ・ショウジョウバ
エなど多様なモデル生物を用いて研究を進めており、どのモデル生物が研究に
適しているか?など改めてモデル生物・実験系の重要性について考えるよい機
会になった。 Hoch 研究室のメンバーと実験後に BBQ をする機会があり、夏の日照時間が長い
ドイツならではの光景を楽しむことが出来た。 
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