Comments
Description
Transcript
図2 県内育成牧場における牛ウイルス性下痢ウイルス対策 中央
県内育成牧場における牛ウイルス性下痢ウイルス対策 中央家畜保健衛生所 1 おくむら た か き す ぎ え のり え 奥村貴樹、杉江典映 はじめに 牛ウイルス性下痢ウイルス(以下、BVDV)は、牛ウイルス性下痢・粘膜病の原因ウイ ルスであり、BVDV に感染した牛は下痢や肺炎、異常産など様々な症状を引き起こす。 BVDV は、感染時期によっては持続感染することがある。持続感染牛(以下、PI 牛)は 生涯にわたり多量の BVDV を排泄し、主要な感染源となることから、PI 牛の摘発・淘汰 が BVDV 対策の鍵となる。今般、PI 牛の摘発歴がある育成牧場(以下、A 牧場)の要望 を受け、全頭検査および導入牛検査を行った結果、7頭の PI 牛を摘発・淘汰した。一方、 PI 牛が感染源となり、A 牧場内で BVDV が水平感染した可能性が示唆された。そこで、 導入牛検査の方法を変更し、PI 牛を入牧させない体制としたのでその概要を報告する。 2 農場の概要 A 牧場の概要は図1のとおりであり、乳 図1 用育成牛を常時約 500 頭飼養している。A 牧場は、県内の酪農場から子牛を 2 カ月毎 に約 80 頭ずつ導入しており、育成および種 付け後、導入元へ初任牛を販売することを 主な業務としている。なお、一部の子牛は、 県外の育成牧場を経由して導入元の酪農場 に初任牛として導入されている。 平成 23 年 11 月、A 牧場で飼養する発育 不良牛について病性鑑定を実施した結果、 PI 牛と診断した。この結果を受け、飼養牛および導入牛にも PI 牛が存在する可能性をが あるとして、農場主の希望により平成 24 年 4 月に飼養牛の全頭検査を行うとともに、同 年 6 月以降は導入牛についても全頭の検査を開始した。 3 材料と方法 平成 24 年 4 月時点の飼養牛 447 頭、 図2 および平成 24 年 6 月から平成 25 年 11 月までの間に導入された 908 頭、計 1,355 頭について採血を実施し、分離した血清を 検査材料とした。血清は 20 頭前後ずつプールし、QIAamp Viral RNA Mini Kit((株)キ アゲン)を用いて RNA を抽出後、QIAGEN One Step RT-PCR Kit((株)キアゲン)を用 いて Vilcek らの方法1)により RT-PCR 反応(以下、 PCR)を行った。プール血清で PCR が陽性となった場合は、個体ごとに再度 検査を実施することで陽性個体を特定し た。陽性個体は、2~3 週間後にポスト血 清を採材し、ポスト血清の PCR 検査お よびペア血清の中和抗体検査により PI 牛もしくは急性感染牛(以下、AI 牛)に ついて判定した。また、PCR 産物は、制 限酵素 Pst1 による RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism、制限 酵素断片長多型)を実施して遺伝子型の判別を行った。 4 結果 図3のとおり、平成24年4月から平成25年9 図3 月までの間に、AI牛を7頭、PI牛を5頭摘発し た。AI牛は、PI牛が存在する場合にのみ摘発 されており、またAI牛7頭のうち5頭は、A牧 場に入牧後、PI牛と同一もしくは隣接する区 画で飼養されており、PI牛と接触しやすい状 態にあった。このことから、PI牛が感染源と なり、BVDVが水平感染している可能性が示 唆された。 平成25年9月までの間、導入牛は図4のとお りA牧場に入牧した後、全頭の導入が完了し 図4 た段階で採血を実施していた。この方法は、 採材の手間は少ない反面、検査結果が判明す るまでの間にPI牛がBVDVを拡散させるリス クを含んでいる。そこで、平成25年11月から、 採材方法を図5のとおり変更した。採材は各酪 農場にて実施し、PCR検査が陰性であった個 体のみを導入する体制とした。具体的な採材 方法としては、A牧場の職員が行う導入予定 牛の事前調査の際に家畜保健所職員が同行す ることとし、1回の導入あたり3〜4日間で20〜30戸の酪農場を訪れて実施した。その結果、 平成25年11月の検査では100頭の導入予定牛からPI牛を2頭摘発し、これらのPI牛をA牧場 に導入させることなく淘汰したため、A牧場へのBVDVの侵入を未然に防止することがで きた。 また、RFLP法による遺伝子型別の結果、図5のとおり7頭のPI牛のうち3頭をBVDV1型、 4頭をBVDV2型の持続感染と判定した。 図4 5 図5 まとめと考察 平成24年4月からBVDV対策を始めた結果、平成25年11月までに7頭のPI牛を摘発・淘汰 することができ、BVDVの主要な感染源を牧場内から早期に排除することに成功した。こ れらのPI牛のうち、2頭は1戸の酪農場から摘発されたものの、その他の5頭は全て別々の 酪農場から摘発されており、BVDVが県内の酪農場に広く浸潤している可能性が示唆され た。 また、導入牛中に存在するPI牛が感染源となり、BVDVが水平感染している可能性が示 唆された。その対策として、導入牛の検査を、導入前に各酪農場にて実施することとした。 その結果、採材の手間は増えたものの、各酪農場でPI牛を摘発・淘汰することが可能とな り、A牧場内にBVDVが侵入するリスクを軽減することができた。 PI牛7頭の遺伝子型はBVDV1型が3頭、BVDV2型が4頭となり、1型よりも2型が多い結 果となった。近年全国的にBVDV2型の発生が増加していると言われているが、県内の多く の酪農場から牛を導入しているA牧場においても同様の結果が得られたことから、愛知県 内においても全国的な傾向と同様、BVDV2型が広く浸潤している可能性が示唆された。 今後の方針として、A牧場では導入予定牛を導入前に検査する体制を継続することで BVDVの侵入防止に務め、飼養牛にBVDVを感染させない対策を継続していきたいとして いる。また、県内の酪農場、特にPI牛が摘発された酪農場に対しては、BVDVに関する知 識を普及するとともに、ワクチン接種やモニタリング検査を推奨することで、PI牛の早期 摘発、BVDVの水平感染対策を促し、今後の生産性向上に寄与していきたい。 参考文献 1)Vilcek S,Herring AJ et al:Arch Viol,136, 309~323(1994)