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感じられる環境 感じられる心
常磐会短期大学付属 茨木高美幼稚園 感じられる環境 感じられる心 ∼生き物とのかかわりから育つもの∼ 2009 1・はじめに・・・・・・・・・・p1,2 2・実践事例 ○チョウチョの幼虫との関わり 3歳児「また あそびにきてね」・・7 ・・・・ 4歳児 「チョウチョさん 元気でね」」 ・・・・p8、9 5歳児 「これ なんやろ?」 ・・・・p10、11 ○3歳児 「ザリガニがやってきた」 ・・・・p12 5歳児 「どうしたら元気になるのかな」 ・・・・p13、14、15 5歳児 「動物さんのお世話をしよう」 ・・・・p16、17 3・まとめと今後の課題・・・・p18∼p20 生き物とのかかわりを通して ∼昨年からの経過∼ はじめに 昨年度の「科学する心」の研究では、本園の特色の大きな一つである“生き物とのかか わり”をテーマにし、現在の子どもたちを取りまく環境の中で、 「科学する心」すなわち「感 じる心」をいかに育成できるのかを改めて考え、見直した。結果、子どもたちの心の動き に寄り添うことの大切さや環境の大切さを改めて感じることができた。 今年も引き続き同じテーマで、子どもたちの様子を見守り、気づきや感動する心、また 学年別の違いにも着目して研究を進めてきた。 ∼昨年から引き続いた研究のポイント∼ 子どもをとりまく環境 物的環境 人的環境 感じられる環境を 感じられる心を大切に 子どもを取りまく環境を元に、 教師が考え計画性をもって、子 どもたちに提供する環境=「感 じられる環境」の提供 生き物とのかかわり 子どもが感じた心を、教師がい かに受け止められるか。子ども がつぶやく一言一句に耳を傾 ける。 教師の感じる心を を深める 育てる 子どもの感動体験 1 昨年度よりの経過 嬉しい報告がある。それは昨年度のまとめにつながる。 子どもたちの思いは伝わったのだろうか…交配したかはまだ分からず現在経過を見ている。 お腹をさわるなどして気にしている子どもや、 「リリのおっぱい 張ってませんか?」と気 にしている保護者もいる。こうした幼稚園・子ども・保護者とのトライアングル、すなわ ち大人も子どもも同じ気持ちになれる経験が、子どもの心の成長には欠かせないものとな るのではないか。 そのヤギのリリが交配をしていて、お腹が膨らむ様子や、出産、子育ての様子を幼稚園 で見守ることができた。わたしたち教職員にとっても感動体験となり、その感動は子ども たちへと伝わった。 リリのお腹はどんどんと膨らんだ。その様子を見て、親子で「頑張れ」「元気なあかちゃ ん産んでや」と自然と声を掛けて帰る人が増えた。「リリのお腹重たそうやな」「りりちゃ んお母さんになるの?」と子どもたちは今までとは違う変化を不思議そうに感じていた。 定期的に動物村の飼育員さんにいつ頃産まれるのか、産まれそうになったときのサインは ありますか?と訪ねた。 ・日が落ちてから、または夜中に産むことが多い。 ・高い鳴き声になる。 ・毛がぬけだす。 以上の変化がないかを確認しながら、動物村さんとの こまめに連絡をとっていた。が、その日は突然きた。 全園児での遠足の日で、子どもたちを見送り、職員が 幼稚園についてホッとしていたその時であった。 甲高い鳴き声が静かな幼稚園に響いた。一人の職員が異変に気付き、あわてて駆け寄っ た。ただただ見守り応援するしかできなかったのだが、1匹目のヤギが出てきたときから 瀕死状態で息を吹き返すことなく死んでしまった。不思議 とそのヤギにはリリは舐めることすら全くしなかったのだ。 そして2匹目、3匹目を出産。一般に、ヤギが3匹出産す るのは珍しいようだ。2匹目3匹目のヤギには産んですぐ に駆け寄り、「頑張れ」「初めまして」と言わんばかりに舐 めまわして世話をした。私たちは、もっと知識をもってお かなければならなかった、専門家の元で産まれていたら1 匹目のヤギも助かってたのではないかと命の重たさを深く感じさせられることとなった。 2 そのときに「預かり保育」にいた子どもたちは、リリの出産を少し離れて見ていた。貴 重な体験となっただろう、次の日には友だちにその様子をずっと伝えていた。夜間の寒さ を考慮し、2・3日動物村で過ごすことになった親子ヤギ。子どもたちには無事に出産し たことをボードに掲示して知らせた。 そして、出産の様子を記録として採っていたビデオを集会で見ることにした。自然と「リ リ頑張れ」「がんばれがんばれ!」と応援が始まり、りりが大きな鳴き声を出して懸命に産 む姿を見ている子どもの表情はいつもと違った。そして産まれると大きな拍手がおきた。 その後、園に帰ってきた親子ヤギ。親子の触れあいの様子、乳を飲んだり、寄り添って 寝ていたりする様子を見守るのが子どもたちの日課となった。 そして「せんせい、リリのあかちゃんなんて呼ぶ」 という声もあがり、親子でヤギの名前を考えてもら いアンケートをとった。名前は“ララ”と“ルル” に決定した。 子ヤギはすくすくと成長した。限られた狭い飼育小屋の中ということもあり、雌と雄の けんかも始まったので、雄ヤギのララは動物村にいる父ヤギと、雌のルルは母ヤギのリリ と過ごすこととなった。 ルルは今現在、リリと変わらない大きさまで成長している。 3 《子どもを取り巻く環境》 ◎四季を感じることのできる自然環境 ・奈良東公園・きつねの森公園・桜通り ・田んぼ・畑 など ・定期的な動物の検診 ・動物に合わせた餌の提供 ・子どもや教師からの疑問に ・家庭での生活経験 答える ・親子での話題 ・年に一度「1日動物村」を ・「はらっぱ」への 幼稚園で開催 参加 ・親と子の触れあいの場「は らっぱ」での動物村開放日 ◎動物小屋での飼育動物 「ヤギ」♀「アヒル」♂・♀「ウサギ」♂・ 「モルモット」♂・♀「ハムスター」♂・♀ ◎動物小屋・園庭・クラスでの飼育物の環境の工夫 子どもたちが自ら 進んでできる環境 作りの見直し 子どもが使いやすいよう、掃除道具や動物小屋の片づけの場所 を表示するなどし、子どもが自分達で考えてできるようにした 4 子どもをとりまく環境 見る 触れる 興味をもつ 「ちいさいな」 「リリにくっついてるな」 「角ある」 「かたいな」 子ども なでる 「ふわふわしてる」 「うわっうごいた!」 聞く 心の変動 心 変動 「チュッチュていうてる」 「いっぱいお乳のんでるなぁ」 臭う 抱く 「あったかい」 「かるいな」 命ある存在 に気付く 「うんちいっぱいして くさいなぁ」 餌をあげる 餌を準備する そうじ をする 「はいどうぞ」 「いっぱいたべて」 お世話したいな・お世話しないと 5 実践事例集 幼児の活動 ☆ 環境 幼児の姿 (行動、表情、言葉) 教師の読み取りと援助 6 3歳児∼これってなんだろう∼ 「また あそびにきてね」 5月下旬∼6月上旬 園庭のミカンの木の葉っぱにはアゲハチョウの幼虫がいる。虫に興味はあるものの、探したり捕 まえたりとまではいかなかった。そんなある日、他クラスからアゲハの幼虫をもらった。子ども達 にチョウになるまでの不思議さを感じてほしいと思い、クラスで飼育することにした。 ☆保育前にアゲハチョウの幼虫を入れた飼育ケース 黒い幼虫に気づき興味を持つ。 興味 を置き、子どもの目につきやすいようにしておく。 飼育ケースに入った、黒い小さな幼虫に気づく。 「先生 、これ何?」と興味津々の子ども達。「これは、どん どん変身して、チョウチョになるんだよ」と教師が伝えるが、 「そうなん!」とは言うものの、あまり理解していないよう であったが、この日から、幼虫の観察がはじまった。 黒い幼虫がアオムシになる。 変化に気づく 数日が過ぎると、黒い幼虫がアオムシに変化していた。 ここで教師の「変身してチョウチョになるんだよ」の言葉が 少し理解できた のか、 「ほんとにチョウチョ になるかもしれ ない」と感じ、さらに興味を持ってアオムシを見るようにな った。 アオムシがサナギになる。 姿が変わり、じっと動かなくなった幼虫(サナギ)を見て、 不思議そうな子ども達。 動かなくなったサナギに、だんだんと興味が薄れ、飼育ケー スをのぞくことが少なくなってきた。 サナギがチョウになる。 喜び ☆ミカンの葉を入れ、葉っぱを食べる様 子を見ることができるようにする。 ちぎれていない 葉を用意することで 葉を 食べた跡が残るため、食べているんだとい うことが実感しやすいんだな。 何で動かへんのかな? 寝てるんかな? 変化のない日々に興味が薄れてきているな。自然と目 につく所に置いて、時々、のぞき込めるようにしよう。 朝はまだサナギであったが、年長児がチョウチョになってい ☆ 子ども 達のよく通る水道前に飼育ケ ー スを置く。 ることに気づき、知らせに来てくれた。それを聞いた子ども 達は興奮気 味に飼 育ケースを覗き 込みチョウチョ になった うわぁ、すごい! ことを喜んでいた。 チョウチョを空に逃がす。 なんかパタパタしてる 朝はまだサナギであったが、年長児がチョウチョになっていることに気づき、知らせに来てくれた。 それを聞いた子ども達は興奮気味に飼育ケースを覗き込みちょうちょになったことを喜んでいた。 考 察 ・初めは黒い小さな幼虫だったが、アオムシからサナギ、そしてチョウへと変化していく様子を 実際に目で見ることで“何を食べるんだろう・・・。 ” “サナギってどんな状態?”など、詳し いことまで興味は深まっていないが、まず状態が変化し、チョウになるという不思議さを存分 に感じることができたと思う。 ・長い間共に過ごしたチョウをいつまでも追いかけ、手を振ったり「また、帰ってきてね」と声 をかけたり身近な生き物に親しみを感じることができた。 7 4歳児 ∼興味を持つ∼ 「チョウチョさん 元気でね」 5 月連休明け。園庭ではダンゴムシを見つけることを楽しんだり、アリが動く様子を見たり集めたりす ることを楽しんでいた。生き物に興味が高まっていた、そんなある日。年長児がくれたアゲハチョウの 幼虫を飼育ケースに入れ、子どもたちが見やすいところに置いておいた。 幼虫との出会い 興味 黒い幼虫をじっと見つめる子ども達。 「これ、何の虫?」「がぁ虫ちゃう?」 「なんか動いてる!」と 口々に自分の思いを言う姿があった。 何の幼 虫なのか、自分たちで気 づいてほしいな 好奇心 触ってみる ☆調べられるように絵本や図鑑をおいておこう 虫や小さな生き物が好きな A 児が、アオムシが動いているのを見て 「足、気持ちいいか気持ちくないか、触ってみたい!!」 触ると 「黄色いやつ出た」 青虫の足の動きに気づき、不 思 議さを感じ 触ってみよ う と思ったのかな。 「めっちゃ くすぐったい 「なんか匂いする」 この後も、青虫が葉っぱを食べる様子や、動く様子を見ていた。 変化に気づく サナギになる 「なんか、青虫、動かへんようになってる・・・」と飼育ケース覗き込む子どもたち。 「それ、さなぎって言うねんで」 年長児から「14 回寝たらチョウになって出てくる」と聞き、出てくる日を楽しみにしている。 興味・関心・驚き 蝶の羽化を見る ☆朝サナギの様子を見ると蝶の模様がはっきりと見えてお り、もうすぐ羽化することが予想されたので、子どもた ちが良く見えるところに飼育ケースを置いた。 サナギになり2週間が経ったある日。登園してきた子どもが羽化が始まっていることに気づく。 「先生、なんか出てきてるよ!!」と すぐにクラスの友だちに知らせた。 羽化の様子をじっと見つめる子どもたち。口々に蝶の様子を話したり、蝶を応援する姿が見られた。 「目が見えた」 「足が出てきた」 「ちょうちょが出てきた」 「びっくりするから静かに」 「羽がぐちゃってな ってる」 「揺らしたらあかん」 8 しばらくして羽が乾き、動かし始める。その様子を見て。 ちょうちょさん、早く 飛びたいんとちゃうか もうすぐしたら飛ぶ んちゃう 蝶が出てくるところや羽が 広がる経過等どのようにな っていくのか、真剣な眼差し で羽化の様子を見ており、蝶 に対する思いが強くなった のではないか。 チョウの立場になって考える 蝶をどうするか考える 羽化した蝶が飼育ケースの中で羽ばたき、羽が折れてしまった。その様子を見て、蝶 をどうするのかクラスで話し合うことにした。 「広いところに、行きたいんじゃない?」 「きっと、お花があるところにいきたいんや。ちょうちょさんお花好きやもん。 」 「お花、入れてあげる?」 「羽が折れたら、飛ばれへんようになってしまう・・・。」 「ちょうちょさんお外に、行きたいんやと思う。」 「みんなもお外行くの好きやろ?」 子どもたちから蝶の気持ちになって考えいろいろな意見が出てきて相談の結果、外に 逃がすことにした。 しかし、この日は雨が降っていた。そのことに気が付いた子どもたち。 「ちょうちょさん、雨嫌 いやねんで。嫌いって本 にかいてあったやん。」 「だって、羽が濡れるから。濡 れたら飛ばれへんようになる やろ。だから嫌いやねん。」 →6月の月刊絵本に載っていたのを覚えていたようだ それを聞いて、どうするのかもう一度考え、雨が止んだら逃がすことにした。それ までは保育室の中に出すことに決まった。その後、この日は雨が止まず、次の日に 逃がすことにした。 蝶を外に逃がす 次の日、雨が上がった。登園すると蝶の様子を心配そうに見ていたが、子どもたちから 「逃がしてあげよう」と声があがり、テラスから逃がすことにした。チョウに向かって声 をかけたり手を振る姿があった。 考 察 ・最初は何の虫なのかわからなかった子どもたちが、虫に興味を持ち様子を見たり、触っ たり、また、絵本を一緒に見たりすることで、蝶への興味も大きくなっていった。 ・黒い幼虫から青虫へ、サナギから蝶への変化を実際に経過を追って見る事で、羽化後、 より蝶の気持ちになってどうしたらいいのかを考えることが出来た。 9 5歳児 ∼調べてみよう∼ 「これ なんやろ?」 6月中旬∼7月上旬 生き物や虫が好きで、園庭や花壇で見つけたダンゴムシを飼育ケースに入れて飼おうとするが、 どれも世話をしきれずに死なせてしまうことが多かった。ダンゴムシの生活に関する絵本を読んだ ことで世話の仕方がわかり死なせてしまうことが少なくなってきた。また、 アゲハの幼虫を見つけ、 チョウチョになるまで世話をしたり、家からザリガニやオタマジャクシなどを持って来る子がいた りと、たくさんの虫たちとの生活が始まった。 そんなある日、虫好きの男の子たちが金色模様の幼虫を見つけてきた。 発見・興味 金色模様のサナギを見つける A児: 「飼育ケースちょうだい!」 B児: 「たけ組で飼おう」 意気揚々と保育室に戻ってきた子ども達。飼育ケースに入れて、 またすぐに虫探しにでかけた。 金色模様のサナギを見た周りの子ども達も驚いている。興味津々 で、見たり触ったりし始めた。 しかし、サナギだけを持ってきてしま っている。そのまま飼育ケースに入れ てたら羽化しないんじゃないかな。以 前ア ゲハ の幼 虫を育 てて いる経 験が ある から 何か にぶら 下げ てあげ ない といけないことに気づくかな? あっ、サナギがつぶれてる 虫探しに出かけていた男の子たちが戻ってくると、金色模様の幼虫がつぶれていた。 C児:「なんで、つぶれてるん?」 D児:「かわいそうに」 落胆する様子を見て、一人の子どもが「触ってる時につぶれちゃった」と申し出た。 発見・興味 クラスで話し合う。 ぎゅってしたら かわいそう どんな蝶になるの か見たかった 触るときは優しく触る 虫もみんなと同じように大切な命があることを話し合い、どんな生き物も大切にしようと約束した。 翌日、新たに金色模様のサナギを3匹見つけ、図鑑で調べ始めた。 疑問 調べる 今度はつぶさへんようにしな なんていうチョウチョになるんやろ 図鑑で調べるが、載っておらず、自宅に別の図鑑を持って いる子どもが調べて くることを約束し、 その日は降園し た。 ツマグロヒョウモンのサナギや! 発見 見つけたことに興 奮して、羽化しや す くしてあげないと いけないことに気 づ いていないな。 ☆1匹だけ、逆さまにして棒につけておき、子ども達がき づけるようにしておこう 黒地に赤いトゲトゲのはツマグロヒョウモンの幼虫や! 図鑑で調べ てきたK児が嬉しそう に友達や教師にツマグロ ヒョウモン のサナギであることを 伝えている。そして、新 たな発見も あった。サナギの近く で見つけた、黒地に赤の 模様でトゲ がたくさんある幼虫は 、ツマグロヒョウモンの 幼虫であることも分かった。 サ ナギは逆さ ま に ぶ らさげとい た ら なあかんねん 10 世話をする 幼虫って何たべるんやろ? エサは、幼虫のいたパンジーやビオラの葉を食べるという ことが分かり、毎日、誰かが気づき、新しい葉を入れていた。 幼虫はみているだけでは飽きたらず、カプラ積み木をしている所 に出し、一緒に遊ぶ姿も見られた。 チョウになる 数日後、子ども達が登園してくると1匹がチョウに羽化していた。アゲハチョウを返した経験か ら、広い所のほうが喜ぶだろうということで、すぐに全員一致の考えで空に逃がすことになった。 チョウチョさん元気でね 飼育ケースのふたを開け、逃がそうとするが、保育室の中を飛び 回り、なかなか出ていこうとしない。結局、子ども達が降園する 前まで、保育室で過ごし、その後、飛び立っていった。 子どもたちとたくさん一 緒に遊んだか ら、なかなか飛び立たないのだろうか。 子どもたちの気持ちがチ ョウチョに伝 わったのだろうか その後、羽化したツマグロヒョウモンも同じように、しばらく保 育室を飛び回り、しばらくしてから飛び立っていった。 おしり見えてんで∼羽化が始まった∼ 喜び・感動 降園後の預かり保育時に棒についていたサナギが、ある日、下に おちていた。B児が気付き棒につけようとすると、皮が破れて少 しお尻が見え始めていた。 B児:「もう少しでチョウチョになるんとちゃう」 よく見ると、もぞもぞと動きだし、さなぎの背中部分が少しづつ 破れてきた。 ち ょっとづ つ 出 てきてる 羽 くしゃ くしゃや がんばれ がんばれ 子どもの手の上で羽化したツマグロヒョウモンもやはりしばらく保育室を飛び回り、その後 空へと飛び立っていった。 翌日、羽化の様子を目の当たりにしたB児は、クラスの友達に、昨日の様子を興奮気味に伝える姿 があった。周りの子どもも、興味を持って聞き入っていた。 考 察 ・虫好きの子どもたちを中心にいろいろな小動物や虫のことを調べたり世話したり一緒に遊んだりし ていくことで、興味がなかった子や触れなかった子も、幼虫に触れたり園内で飼育している小動物の 様子を観察する姿が増えていった。ここに至るまでにいろいろな虫たちの死があり、お墓を作ったこ とも少なくなかった。そのことで生き物・虫の「命」を大切にしようとする気持ちが持てた。 そして、今回、珍しい模様のサナギとの出会いから始まり、何のサナギなのか調べたことで、サナ ギになる前の幼虫の姿にも気づくことができた。また、羽化に立ち会えたことは子どもにとって大き な経験となったことだろう。保育室の中をいつまでも飛び回るツマグロヒョウモンにより親しみをも ったことは言うまでもない。この先も身近な生き物や虫との出会いがあるだろうが、今回の経験を生 かし「命」を大切にする気持ち、そして「これは何の虫?」という好奇心を持ち続けて欲しいと思う。 11 3歳児∼ちょっと怖いな∼ 「ザリガニがやってきた」 6月頃 子ども用のバケツいっぱいのザリガニが届いた。 登園するなり、バケツに群がる子どもたち。初めてみた子どももいて興味津々の様子だった。その にぎわいをサッしてか年長T児が保育室に入ってきた。 ザリガニがやってきた 子ども たちは興味を持って覗きこ んでいる。 そこに年 長T児がやってきて手に載 せてり触っ たりし始めた。 さすが年長。ザリガニのことは知っていて年少 がた だ群 がって見て いるのと は違い 手に取り 観察している。 こ っちははさ み1個 取れてる 子どもたちは年長児の言葉を聞きながらお兄ちゃんがつかんでいるザリガニが気になって仕方 がないようだった。 T児:「先生、こんな小さいとこにいれてたら共食いするで 教師:「じゃあ、どうしたらいい?」 ここは、年長児の意見を 聞いてみよう T児:「分けていれなあかんねん。入れ物いるわ」 ☆思いを受け止め、少し大きめの観察ケースをだした 「これでいいわ」と言わんばかりの顔をしてT児がバケツから移し始めた。 子どもたちはこのやりとりを聞き、じっと見ている。 年少の子どもたちが身を乗り出しみていた様子に、T児が気付き、話しかけた。 T児:持ってみる? 少し手を出すが、怖くて持てない様子。 T児:ここを持ったらはさまれへんで T児:持ってみる? 今度はつかみ方を知らせてくれた。 年少: 「ううん、いい」 考察 お兄ちゃんの言葉に試みて持とうとするが怖くて持てなかった。 何気ない場面だが、年少児だけのやり取りではこんな会話や活動は出てこない。経験のある年長児 がいてこそ、また交流があってころのやり取りだと感じた。私たちが小さい頃、近所のお兄ちゃん やお姉ちゃんに教わった時のような関わりが幼稚園の中で再現されている。このような、異年齢で の関わり、そして生き物との関わりを今後も大切にしていきたい。 その後、年長児のおかげでザリガニの家(観察ケース)には砂利と水、隠れ場所が設置された。 そして数匹は自分達が世話をしたいと申し出があり年長のクラスでもお世話が始まった。 12 5歳児 ∼生き物を飼育するということ∼ 「どうしたら元気になるかな」 5月下旬∼6月中旬 4月当初より保育室ではメダカとオタマジャクシを飼っていた。生き物に興味を持つ子 も多く、日々エサをあげたり、様子をみたりしていた。 生き物が好きで、生き物についての知識が特にあるA児は、自分のクラスの飼育物だけ でなく、隣に続く年少組の部屋の飼育物の様子を見回るのが日課となっていた。 ザリガニをもらってくる 好奇心 ある日、T児がいつものように年少組にいくとすぐに目を輝かせて帰ってきた。 A児: 「せんせい!ばら組にザリガニがいっぱいおる!そだ てたいから1匹くれへんかなぁ…」 教師: 「そう。たくさんどこからきたんやろうね。もらえる かどうかは自分で聞いてごらん」 ちょうどいい大きさの飼育ケースを選んできて、1匹もらって保育室にもどってきた。 ザリガニの家作りが始まる 試行錯誤 意欲 さっそく生き物図鑑を絵本棚からもってきてザリガニのページを開き、ザリガニの住み やすい環境が絵でわかりやすく載っているのを見つけて、この通りにしようとはりきって いる。そのT児の姿をみていた子どもたちが、一人二人とその場に集まってきて、みんな でザリガニの家造りが始まった。 写真一枚入ります… T児: 「隠れる場所がないとけんかするねんて」 B児: 「下に石をしかないとあかんわ」 C児: 「そうや!ばら組の分も作ってあげないとあかんわ」 自分たちで考え、用務員さんのところに行って石をもらってきたり、隠れる為の小鉢を もらってきたりと夢中で作っていた。 オタマジャクシのお家作りが始まる 意欲 子どもたちは次の日に、ザリガニのお家作りに引き続き今まで世話をしてきたオタマジ ャクシの家づくりを始めた。 ザリガニのお家を作ったことが刺激とな り、オタマジャクシのお家作りにも意欲 がわいてきたな。 13 オタマジャクシの変化 気づき 育てていたオタマジャクシに足が出てきた変化を子どもたちは 大喜びし、T児は飼育ケースを置いている机の後ろに「ゆりくみ どうぶつえん」と書いた小さな画用紙をテープで貼っていた。そ して他クラスに「動物園にきてね」と呼び回っていて、気付くと 違うクラスの子どもたちが集まっていた。 しばらくすると、動物園の目玉であるカエルが動かないことに気がついた。 D児:「死んだ振りをしているんや! T児:「寝てるだけやからそっと静かにしておこう! C児:「せんせい 明日までまってみる 子どもたちが話し合っている。 私もびっくりして覗いてみると確かに動かないで死んでいる様子であった。 子どもたちは絶対動くよ!と静かに見守っていた。 次の日に登園してきたA児は「せんせいカエルは?」と言い、 飼育ケースをのぞきに行く。そして動かないことを確認した。 その日は雨がぽつぽつとしていた。 おなかすいているからや。ごはんを 口の近くに置いてあげたらいいね。 カエルはな雨水がすきやからためてき れいな雨を入れてやろ。 しかしカエルは動かない。 カエルの死 悲しみ T児が「お墓をつくろう。」と言ってきた。そしてみんなで話し合って、お墓を作った。 お墓は保育室の小さな裏庭に作り、大きな石を持ってきてオタマジャクシのおはかと書い てっあった。 ∼その後∼ “動物小屋の掃除当番”は子どもたちが“年長組になったら特別 にできる”と楽しみにしていたようで、いつもはりきって取り組 んでいる。うんちを掃除する、餌をあげる。実際に取り組むと子 どもたちにとってはとても大変で、ちょっと気の引けてしまう仕 事であった。しかし、世話を通して自分たちと一緒で、お腹がす くとご飯を食べ、いらない物はうんちとして出す。そして生き物 を飼うということはそのことを世話しないといけない。世話をし ないと死んでしまうということに子どもたちなりに気付いてく れたようだ。そこからクラスの飼育ケースの生き物の世話もエサ やりだけでなく、水替えや糞の掃除も加わった。 14 考 察 ・年少組からもらってきたザリガニ。そのザリガニをどうやって世話をしようか、自分達の知 っていることを生かし家づくりをする姿に興味から、意欲へと気持が変化していることを感 じた。 ・大事に世話をし、カエルになることを楽しみにしていた分、カエルに対する思いは強かった。 「死」ということを初めは受け止める・感じることが難しかったが、じっと動かない様子に 「死」ということを感じとった子どもたち。そして、自分の経験を元にお墓を作るという考 えも出てきた。ここまできて「死」ということをさらに実感として感じられたことだろう。 そして、そのことが園内で飼育するヤギやウサギ・アヒルの世話へとつながっている。 ・子どもたちが自分たちで経験し感じたことを通して、活動の幅が広がった。 これからも継続して、生き物の飼育をし、命を大切にする気持ちが友だちと共感できるよう な気持ちの育ちへと繋がって欲しい。 15 5歳児 ∼思いやりの気持ち∼ 「動物さんのお世話をしよう」 5月中旬∼ 昨年度、ヤギの出産を見たり、産まれた子ヤギを引き続き飼育していることもあり、動物小屋 の掃除やエサやりを年長組でしていこうと取り組みを始めた。 考える 動物の世話の仕方について話し合う 初めに“ごはんをあげる“。次に“うんちとか きれいにしてあげる”そして、 “掃除をするため にはほうきとちりとりがいる”と。他には“ウ サギさんをサークルにだしてあげる”など自分 達の気づいたことが意見としてでてきた。 A児: A児: 「動物さんって何食べるんやろ?」 「動物さんって何食べるんやろ?」 B児:「野菜好きやねんで」 C児:「にんじんやろ」 D児: D 児: 「キャベツとかレタスも食べるんち 「キ ャベツとかレタスも食べ るん ゃう?」 ちゃう?」 E児: E 児: 「チョコレートとかお菓子はな、 「チ ョコレートとかお菓子は はお お腹壊すからあげたらあかんねん」 腹壊すからあげたらあかんねん」 自分達の生活と重ね合わせている部分が多いな。 家でウサギやハムスターを飼っている子ど もが自分の知っていることを友達に伝えな がら食べるものについて考えている。 動物小屋の掃除をする ☆みんなでより共通理解できるよう、話し合っ たことをボードに書いて子どもたちが意識で きるようにしよう。 実行 長靴にはきかえ飼育用エプロンをつけると意欲 が高まり、進んでほうきやちりとりを手に掃除を 始める。しかし、最初はうんちに抵抗がありなか なか進まない子もいた。また、友達と一緒という ことで安心するのかみんながほうきを持つとい うこともあった。 ど んな こと をし たの かク ラス で 話 し合 うこ とで どん な役 割が あ るのかを知れるようにしよう。 うんちの違いに気付く 「り り って 一 日で こ んな にウンチすんねんな」 「ウ サ ギの ウ ンチ っ てま んまるやな」 家から野菜をもって来て、動物が食 べてくれることを喜んでいる。 (野菜 はお家の人の配慮でざく切りになっ ている)しかし、アヒルに関しては 食べる際にくちばしで手をつつかれ る為、少し怖がる様子がみられた。 気づき 役割分担して掃除をする ほうきでウンチを集め る子、ちりとりを持つ 子、水を流す子、ブラ シでこする子と自然と 分担して行うようにな った。 動物に野菜をもってくる 野菜を長細く切って持ってくる 自主性 翌日、 野菜はざ く切りでは なく長 細く切っ て持ってき た。持 ち手が長 くなったこ とでア ヒルにも 怖がらず野 菜をあげるようになった。 継続して動物の世話をする 動物当番をする中で友達と役割を決めて取り組んだり、それぞれの動物の特徴に気付 いている。 「今日も、動物さんのお世話しないと、お腹すいてるかも」と教師がつき っきりでなくとも、自分達でエプロンをつけ、長靴を履き身支度を整え進んで世話を している。 16 考 察 ・昨年度にリリの出産を経験していることと、継続して子ヤギを飼育していることから、 関心を持って動物当番に取り組み始めることができた。 ・長靴・エプロンという環境も子どものやる気を高めることにつながった。 ・世話をする中で、エサをあげるだけでなく、ウンチやご飯の食べ方を知るきかっけとな りより“生きている”“命がある”ということを実感できた。 ∼動物当番の様子∼ エサ入れのバケツをタワシでごしごし ウサギが食べやすいように、にんじんを 長く切ってもってきたよ 「私の食器も洗うもん」と自分の生活と重 ね合わせて考えている ∼仲良しのハムスター∼ 友達と役割分担をして掃除を頑張っています 年中組の時からクラスで飼育しているハム スター。サークルに出してごはんをあげたり なでたりして一緒に遊ぶよ 17 次年度へ引き継ぎ H20年度 1年を通して… 動物がエサを食べる様子を見る 身近な動物を見る (ヤギ・アヒル・ウサギ) 動物にエサをあげる 3 動物を触ったり 抱っこしたりする 年長児が世話をする様子を見る 歳 児 身近な虫を 見る・探す チョウチョ ダンゴムシ ・オタマジャクシ メダカ カタツムリ カブトムシ ・トンボ カブトムシの幼虫 うごいたよ! おなかすいてるかな? 身近な動物を見たり触れ合ったりする (ヤギ・アヒル・ウサギ) 思いやりの気持ちを持ち動物に触れ合う (抱っこの仕方・力加減が分かる) 4 年長児に世話の仕方を 教えてもらい一緒にする 年長児が世話をする様子を見る 歳 児 身近な虫を 見る・探す チョウチョ ・オタマジャクシ ダンゴムシ メダカ テントウムシ カブトムシ クラスで飼育する (ハムスター) ・トンボ カブトムシの幼虫 おうちをつくって あげよう! 先生と一緒に世話をする (ゲージを掃除する・餌をあげる) 先生と一緒に飼育小屋の掃除を したり動物に餌をあげたりする 年中児に飼育小屋の掃除の仕方や 世話の仕方を伝える エサを近所のスーパーにもらいに行く 5 歳 児 エサ作りをする(食べやすい大きさに切る) 身近な虫を クラスで飼育する アゲハの幼虫を 育てる カブトムシ セミの羽化をみる オタマジャクシを育てる カブトムシの羽化を見る 継続して観察する 出産を見る カブトムシのタマゴ 幼虫を育てる こんな風に大きくな るんだ 図鑑で調べてみよう 18 昨年度よりの継続 H21年度 1年を通して… 身近な動物を見る (ヤギ・アヒル・ウサギ) 動物がエサを食べる様子を見る 動物にエサをあげる 3 年長児が世話をする様子を見る お兄ちゃん達、すごいね 歳 児 動物を触ったり 抱っこしたりする 身近な虫を 見る・探す チョウチョ ダンゴムシ くねくねした虫が チョウチョになった! ・オタマジャクシ メダカ カタツムリ カブトムシ ・トンボ 身近な動物を見たり触れ合ったりする カブトムシの幼虫 ルルちゃん〔子ヤ ギ〕大きくなったね (ヤギ・アヒル・ウサギ) 思いやりの気持ちを持ち動物に触れ合う (抱っこの仕方・力加減が分かる) 4 年長児に世話の仕方を 教えてもらい一緒にする 年長児が世話をする様子を見る 歳 児 身近な虫を 見る・探す チョウチョ ・オタマジャクシ ダンゴムシ メダカ テントウムシ カブトムシ ・トンボ カブトムシの幼虫 先生と一緒に世話をする あおむしさん動かなくなっ たね。サナギになったんだよ 先生と一緒に飼育小屋の掃除を したり動物に餌をあげたりする 年中児に飼育小屋の掃除の仕方や 世話の仕方を伝える ごはんをあげたり お掃除をしたりし ないと死んじゃう どんな野菜を食べるのか調べ家庭から持ってくる 5 エサ作りをする(食べやすい大きさに切る) 歳 児 虫や生き物の誕生に出会う 身近な虫を クラスで飼育する クラスで飼育する (ハムスター) アゲハの幼虫を 育てる カブトムシ 虫や生き物の死に出会う セミの羽化をみる オタマジャクシを育てる カブトムシの羽化を見る カブトムシのタマゴ 幼虫を育てる 継続して観察する 19 まとめ どの学年を通しても、生き物が好きで自分から積極的にかかわってみようとする子がい る反面、動物や昆虫などを苦手とする子もいる。一人一人の興味の大きさの違いはあるに しても、年少組から年長組になる過程で子どもの興味の広がりは大きく成長していくので はないか。命ある存在に気づき、それを思いやる気持ちが育つ。その為に、教師が各学年 に合わせた人的・物的環境を大切にしたいという思いで昨年に引き続き研究を進めてきた。 昨年度、本園で飼育しているヤギのリリが、飼育小屋で子ヤギを3頭出産した。その日 は園外保育で預かり保育の子どもと教師が園に戻って来た時に出産が始まった。数名の子 どもが出産に立ち会うこととなったが、怖がることなく「頑張れ、頑張れ」と必死に声を かける姿が見られた。産まれた子ヤギを母ヤギであるリリが愛おしくなめる姿やなんとか たちあがろうとする子ヤギを見て、子どもたちも愛おしく感じたのだろう。 やっと立ち上がった子ヤギをやさしく撫でたり追いかけっこ をする姿があった。出産に立ち会った子どもの中に年中児が おり、今年、年長に進級し動物のお世話が始まると、今まで よりヤギの存在を身近に感じ、 進んで世話をしていた。 出産時から子ヤギとの出会 いがあり日々成長していく様子を見ていたことが、このよ うな姿につながったのだろう。 ヤギだけでなく、今年度は、どの学年でもアゲハチョウの幼虫を世話しチョウになるまで の変化を目にすることで、羽化したチョウをどうするか話し合ったときに「お空に逃がし てあげよう」「また、遊びにきてね」と心から大切に思う言葉がでてきたのだろう。 そして、生き物との関わりを昨年度、密に経験してきた年長中児が先頭に立ち、年少児 に自分達の知っていることを伝えたり、また年長児はさらに生き物とかかわるなかで疑問 に思ったことを調べたり発見したりすることでより心が動かされることとなった。 本園の特徴でもある、木々の豊かな園庭・自然を生かし、そこで出会う生き物や動物と の関わりを大切に「感じられる心」 「感じる心」を持った、そして「友達同士で伝え合いが 出来る」そんな子どもに育つことを願いながら「感じられる環境」づくりに今後も力を注 いでいきたいと思う。 20