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日本語学校のビザ申請手続きに見る入国管理施策
月刊 アジアの友 第 432 号 2005 年 1 月 10 日発行 1966 年 10 月 25 日第三種郵便物許可 日本語学校のビザ申請手続きに見る入国管理施策 2005 年4月期日本語学校在留資格認定証明書交付申請の動向から (財)アジア学生文化協会 日本語コース 事務長 山 田 健一 2003 年 11 月以降、法務省入国管理局において留学生や就 学生の犯罪が増加しているなどとして在留資格認定証明書発 給方針が大きく変更され、2004 年 4 月期および 10 月期に おいて厳しい審査が継続されました。その一方で本誌 2004 年 10 月号でもお伝えしたように、今年、法務省本省から各 地方入国管理局に対し 「平成 16 年 10 月以降の在留資格 「留学」 又は「就学」の在留資格認定証明書交付申請の取扱いについ て」という通達がだされ、若干軌道修正する兆しも見えるよ うにも思えます。ここでは実際に日本語学校の 2005 年 4 月 入学のための在留資格認定証明書交付申請手続で何か変化が あったのか、またその狙いなどを探ってみたいと思います。 ■ 10 月 申請受付期間、提出書類の注意が送付される 日本全国にある日本語学校は各地域を統括する地方入国管 資料(a) 理局へ、入学時期(大部分は 4 月・10 月、学校によっては この他に 1 月・7月の入学が認められている)に合わせて在 留資格認定証明書交付の申請を行います。そのため、申請手 続等の連絡は各地方入管から管轄地域の日本語学校宛に通知 されることになります。首都圏の学校の場合は、東京入国管 理局から平成 16 年 10 月 25 日付けで、2005 年 4 月入学の ための申請手続等について通知がなされました。 ( 「平成 17 年 1 月期就学生に係る在留資格認定証明書の交付及び同年 4 月期就学生に係る在留資格認定証明書交付申請の受付につい (a) て」 )ここでは 2005 年 4 月期生の受付期間や、2005 年 4 月期生申請に伴う各種提出書類についての注意事項がなさ れています。 2004 年 7 月期申請からは、各日本語学校の在籍管理の適・ 不適の基準を不法残留率5%から3%に下げた区分が導入さ れ、同区分による提出書類は資料bからも分かるように今回 も継続されました。また今回の注意事項の主な指示としては、 11 資料(b) 月刊 アジアの友 第 432 号 2005 年 1 月 10 日発行 1966 年 10 月 25 日第三種郵便物許可 以下のようなものでした。 (1)中国、ミャンマー、バングラデッシュ、モンゴルの 4 か国については、 「最終学歴卒業証書調査票」や「預金残高 証明書調査票」の提出をすること (2)過去に偽変造などの日本語学習証明書を発行するなど したことが疑われる海外に所在する日本語学校については、 これとは別に日本語能力を証明すること。また、各校の職員 が現地に赴いて日本語能力を確認している場合は、その客観 的な証明書類を提出してもよいこと (3)各種の申請書類、仲介機関や入学希望者の紹介者がい た場合はその紹介者個人についての資料等も最低 2 年間は各 学校で保管すること (4)不法残留者を多く発生させている国・地域の出身者で、 最終学歴となっている学校を卒業後、5 年以上経過している ものについては、日本語を学ぶ目的、日本語教育機関卒業後 の進路等を具体的に記載した書類を提出すること ■学歴証明書・預金残高証明書には調査表を添付 ここに列挙された提出書類は、代表的な資料例であり、そ れ以外の資料によっても許可要件への適合性を立証すること も可能とした点や、これまで複数証明(同一の発行機関が発 行する証明文書に複数の書式がある証明書類)は不許可要件 の一つとされていましたが、そのような証明書類があれば補 足する資料を提出するようになど、細かな指示が目立ちまし た。一方で、不法残留が多いなどの理由で、中国、ミャンマー、 バングラデッシュ、モンゴルの 4 か国については、最終学歴 証明書や預金残高証明が真正なものか確認し調査票を添付す ることになりました。 最終学歴の卒業証書などの調査については調査結果だけ でなく、 “いつ”“誰が”“どのような担当者に”“どのよう に” 調査したのか、さらに、その確認時の“会話内容”な どについても報告するよう求めています。また、不法残留者 が多数発生している国の出身者からの申請については、法務 省通達でも「最終学歴となっている学校を卒業後 5 年以上が 経過している者の場合、日本語を学ぶ目的、日本語教育機関 卒業後の進路等を具体的に記載したものの提出を求める」と されていますが、2004 年 10 月期には不法残留を多数多発 させているとは思えない台湾出身者においても、 「卒業後 5 12 月刊 アジアの友 第 432 号 2005 年 1 月 10 日発行 1966 年 10 月 25 日第三種郵便物許可 年以上が経過している者」にはビザが出にくい状況となり ました。アニメや漫画だけでなく、日本のものがかわいい、 かっこいいという日本ブランドそのものに魅力や憧れを感 じる層が台湾では生まれ育ち始めていると「哈日族 ( ハー リーズー ) なぜ日本が好きなのか」(「 光文社新書 」) の著者 は書いています。この現象は台湾だけにとどまらず、周辺 国にも広がっているようですが、日本語学校の現場でも、1 年間ぐらい日本に留学体験したいという学生が少なからず 現れてきているように感じます。逆に、日本人留学生を多 く受け入れる国が、 「卒業後 5 年以内の日本人に限る」など と制限を課したとしたら、我々はその国に対してどのよう 資料(c) な印象を持つだろうかと、想像してみるのも良いのではな いでしょうか。 豊かさを背景に、日本に憧れて留学体験をしてみたい という希望はそれほど不自然ではないと思われますし、世 界中に若い日本留学体験者や理解者がいること、日本の中 でいろいろな国の学生と交流体験した若者がアジアを中心 に世界中に広がることは、日本の大学等に受け入れる留学 生と同様に日本の若者や日本の将来、アジアの国々の協力 や連携を考えても大きな財産となるはずです。この点で、 2005 年 4 月期生について在留資格認定証発給状況を注視す る必要があるでしょう。 ■ 11 月 必要経費算出書添付の通知が送付される 資料(d) 申請期限が2週間に迫った 11 月 12 日付で、東京入管よ り申請にあたっての詳細な注意事項が再度案内されました。 ( 「在留資格認定証明書交付申請( 「就学」4 月期生)におけ (c) (d) る注意事項について」 )ここでは、 「必要経費等算出書」 を各申請書に添付してほしいことなどが通知されています。 同算出書は今回、初めて導入されたものですが、申請者 一人毎に、授業料、渡航費用や月額の住居費、食費、通信 費などの細かな必要経費を記載すること、日本に来てから アルバイトを予定している学生については予定の収入金額 を書くことを求めています。しかしながら申請者自身に書 かせるのか各日本語学校が記入するのかなどの判断もでき ないまま、申請期限も迫り各日本語学校では対応に苦慮し、 混乱が生じました。これに対して、日本語教育振興協会 東京地区評議委員会が東京入管に問い合わせた結果として 13 資料(e) 月刊 アジアの友 第 432 号 2005 年 1 月 10 日発行 1966 年 10 月 25 日第三種郵便物許可 (1)この必要経費等算出書の調査 は、様々な日本語学校から必要預 金残高に関する問い合わせが入管 にあったことにより、実態調査が 必要と判断した (2)必要経費等算出書は申請する 学校が記入してもよいこと (3)住居費等正確に分からない場 合は、予測の金額を書いてもいい こと 等々、基本的には各学校の判断に まかせるという報告が 11 月 17 日 付けで入りました。これらは月の 必要経費もさることながら来日後 のアルバイト予定収入を特段の証 明が無くとも、年間 120 万円程度 として経費支弁能力の一部として 取り扱うことができるとの法務省 の見解が発表されたため、地方入 管ではアルバイト等を含めた生活 実態を把握する必要があったため 急遽行われたのではないかと思われます。このアルバイト予 資料(f) 定収入については、日本語学校側で歓迎する動きと、来日前 からアルバイトを推奨することにもなりかねないとして慎重 に取り扱う日本語学校の両者の動きがあるようです。 ■申請受理直後に疑義書類の再調査を依頼される 地方入管への認定証明書の申請時には、中国、バング ラデッシュ、ミャンマー、モンゴルの 4 か国について卒 業証書の原本確認が入管にて行われます。通常は卒業証 書などの原本確認後、入管での審査作業に入るのですが、 今期は申請が受理された直後に「在留資格認定証明書交 付申請 (「就学」4月期生 ) における卒業証書の疑義につ いて」 (e) という書類が各学校に通知され、卒業証書の印 刷等について疑義あるものについて、再度詳細な調査を してほしい旨の依頼がなされました。(「最終学歴卒業事 (f) 実の確認方法について」 )。 また、預金残高証明書についても、提出した申請の中 14 資料(g) 月刊 アジアの友 第 432 号 2005 年 1 月 10 日発行 1966 年 10 月 25 日第三種郵便物許可 に疑義がある場合には、再度調査してほしい旨の依頼が 通知されています。(「預金残高証明書の確認方法につ (g) いて」 )卒業事実や最終学歴は日本語学校にとっても 最重要課題なので、入管提出前に確認を実施し一通り終 わっていると思われますが、一方で、預金残高証明書の 確認については、各金融機関に連絡を試みるものの個人 のプライバシーを元に電話やFAX等には一切応じない と言うところも多くありました。これらの再調査の依頼 は、証明書に疑義があるということで不許可とされてき た以前の審査を考えると、画期的な試みに思えます。し かし金融機関への預金残高証明書確認作業などのように 民間の日本語学校が個別に行うには限界もあると言わざ るを得ませんでした。 資料(h) ■ 12 月 追加提出資料の通知、さらに改正入管法について の通知が送付される 12 月に入ると、10 月期の偽変造文書のうち過半数が中 国(福建省)出身者であったこと、1 月期の申請ではスリ ランカ、ベトナム、ネパール出身者の申請に多くの問題が 見られたとして、これら1地域・3 か国の申請者があった 学校については、別途追加書類を提出してほしい旨の通知 もありました。 (12 月 3 日付「在留資格認定証明書交付申 (h) 請( 「就学」4 月生)における追加提出資料について」 ) さらに、12 月 8 日付けの通知では、改正入管法が 12 月 2 日から施行されたことや性売買関連法が施行された韓国か らの出稼ぎについて関連新聞記事とともに注意を呼びかけ る通知までもありました。 以上、普段一般には想像することも困難であると思われ る日本語学校における在留資格認定証明書交付申請の手続 きを概括しました。今回、入管と日本語学校双方でおびた だしい数の書類作成や調査に費やした膨大な時間とエネル ギーは功を奏すものなのか、また、2004 年 7 月に導入さ れた不法残留率 3%基準による新制度は新たな成果を生み 出すのか、2005 年 4 月期生の結果は、21 世紀の日本留学 を占う大きな分かれ目となりそうです。 この記事からは日本語学校生との関係性はう かがえないが・・・? 15