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海外体験記 岡山大学医学部・歯学部附属病院麻酔科蘇生科 助教 高 田 研 この度は貴誌に寄稿する機会を頂きまして光栄に存 開発だったのですが、強い攣縮を得るのが難しく、紆 じます。2005年10月から2007年11月まで、森田 潔 岡 余曲折の結果最終的に運動障害・認知障害における長 山大学病院長/麻酔科蘇生科教授のご高配に預かり、 期予後をエンドポイントに設定し研究を進めました。 アメリカ合衆国ノースカロライナ州にありますDuke 連日ラットの手術と運動機能・認知機能評価に明け暮 大学麻酔科に研究留学させて頂きました。 れ、休日もあまり取れない状態でしたが、それでも楽 当初の留学の目的は、大学院での研究テーマであり ました脳蘇生・脳保護研究の分野で世界的に名が知ら れたDavid S. Warner教授に師事し、実験に対する新 しく研究を続けることができたのはDr. Warnerのおか げだと感謝しています。 ここでちょっと留学先であるノースカロライナの紹 しいアプローチを学ぶことでしたが、いい意味で予想 介をさせていただきます。ノースカロライナは東海岸の を大きく裏切られる 2 年間になりました。 中程に位置する南部の州で、いわゆる“ディープサウ Dukeという名前は大学バスケなどで知ってはいま ス”の玄関口ともいわれています。休日の公園やモー したが、ノースカロライナに関しては事前情報も少な ルでは、南部らしいゆったりとした時の流れを味わう く、若干不安を抱えての旅立ちでした。とはいうもの ことができます。ライト兄弟の初飛行の地であること の、ついついいつもの個人旅行感覚でスーツケース 1 以外には目立った観光アピールはありませんが、州の つで一泊目のホテルだけ予約して、レンタカーで大学 南東には全米トップ10に数えられるほどの美しい海岸 に伺ったところ、Dr. Warner と当時ラボに留学中で 線が広がり、サーフィンで波待ちなどしていると割と あった先生方が非常に心配して下さり、すぐさまリロ 近くでイルカが飛び跳ねたりもします。北西には紅葉 ケーションサービスを手配して下さいました。内心、 が美しい山脈が走っていて冬には人工降雪ですがス セットアップぐらい 1 人でできるだろうと高をくくっ キーも可能です。Duke大学からはどちらも日帰り圏な ていたのですがこれは全くの誤りでした。結局生活が のがうれしいところです。さらにワシントンD.C.まで車 立ち上がるまでに 3 週間もかかりましたが、周りの で 4 時間、アトランタまで 5 時間と、ちょっとしたドラ 方々に助けて頂きどうにかアメリカでの研究生活を始 イブにもちょうど良い立地です。また意外にもワイン めることができました。 の産地として知られており、値段も手頃で気軽にワイ Dr. Warnerは専門である神経麻酔・集中治療分野で 長年にわたりすばらしい業績を挙げられているにもか ナリー巡りなども楽しめます。ちなみに私はChildress VineyardsのSyrah(2005)がお気に入りでした。 かわらず、非常に気さくな人格者で、私が実験のこと 実は今回の留学中にどうしても体験しておきたいこ のみならず、週末にあれをした、これをした、などと とがありまして、2005年の暮れに早速実行に移しまし 拙い英語で話しかけると喜んで耳を傾けて下さいまし た。一足先にハーバードに留学されていた同門の前島 た。新しい実験環境に慣れるために約 1 カ月ほどラッ 亨一郎先生ご一家とニューヨークで合流して、私と前 ト脳梗塞モデルでトレーニングした後、私の研究テー 島先生の 2 人でタイムズスクエアのカウントダウンに マとなったラットくも膜下出血モデルの立ち上げを開 参加したのです。氷のような雨が降る中延々とその時 始しました。当初の目標は脳血管攣縮とその治療法の を待ち、地響きのような歓声とファイアーワークス、 39 A net Vol.13 No.2 2009 一面の紙吹雪に包まれてミラーボールがついに落ちる うかと本気で考えたほど、すばらしい先輩方に出会う のを見たときの興奮と感動は忘れられません。2007年 ことができ幸せに思います。 春には、当時アメリカ留学中の同門メンバー(前島亨 田舎だったせいもあるでしょうが、コミュニティの皆 一郎先生、中平毅一先生、川上朋子先生、私)でこれ さんと接する機会も多く、たくさんの異業種の方と知 またニューヨークに集合し、お互いの現況を報告し合 り合いました。そしてどういう訳か現地の日本人ロッ いました。懐かしい顔に思い出話にも花が咲き、また クバンドにキーボードとして加入することになり、帰 皆それぞれ全力で取り組んでいることが分かりとても 国前には全米(?)ライブハウスデビューも果たしまし 励みになりました。同門からの留学者数もますます増 た。バンド名はベタすぎて恥ずかしい程なのですが、 えていますので、これからいっそう活気づくことと思 Fujiyama Roll といいます。現在も絶賛活動中です。 います。 ホームページもありますのでよろしければ一度ご覧下 普段接する機会の少ない他大学の先生方と知り合え さい(http://www.myspace.com/fujiyamaroll)。 たのも、今回の留学の大きな収穫でした。山口大学麻 さて肝心の研究活動ですが、試行錯誤を繰り返しま 酔科の石田和慶先生、順天堂大学静岡病院麻酔科の坂 したが最終的に、高脂血症の治療薬であるシンバスタ 井宏明先生、隣のGrocottラボにおられた奈良県立医 チンをくも膜下出血後に継続投与することで脳血管攣 科大学麻酔科の吉谷健司先生(現・国立循環器病セン 縮が改善し脳血流が増加、運動機能・認知機能の長期 ター)には留学当初から大変親切にして頂き、また石 予後が改善する、という結果を得まして、2005・2006 田先生と交代で来られた福田志朗先生にも非常にお世 年と連続でSNACC(Society of Neurosurgical Anesthe- 話になりました。先生方の研究に対する姿勢などもじ sia and Critical Care)Travel Award受賞者の 1 人に選 っくりお話を聞くことができ、非常に刺激を受け勉強 ばれました。丁寧にご指導くださったDr. Warnerはじ になりました。帰国したら順番に国内留学させて頂こ めStatin-BH4-SAHプロジェクトの皆様に感謝すると同 時に、今回の留学の機会を与えて頂きました森田先生 はじめ岡山大学麻酔・蘇生学教室同門の皆様に心より お礼を申し上げます。 Duke大学のシンボルでもある大聖堂 2006年SNACC Travel Award受賞者(向かって右端が著者) Profile 高田 研 たかた けん 略歴 1998年 3 月:岡山大学医学部卒業 1998年 5 月:岡山大学医学部附属病院麻酔科蘇生科 研修医 1998年 7 月:総合病院岡山赤十字病院麻酔科 研修医 2000年 5 月:愛宕病院麻酔科 2001年 4 月:岡山大学大学院医歯学総合研究科麻酔・蘇生学分野 2004年 7 月:総合病院岡山赤十字病院麻酔科 2005年10月:デューク大学麻酔科 リサーチフェロー 2007年12月:岡山大学医学部・歯学部附属病院麻酔科蘇生科 助教 40