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不慮の事故を直接の原因として死亡

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不慮の事故を直接の原因として死亡
心臓疾患持病者のショック死と
「不慮の事故を直接の原因として死亡」の意義について
1
!
間I 「不慮の事故」の概念と、事故の外来性、急激性、偶発性の関係を検討し、証
]
明責任を述べて下さい。
i
1
間II 被保険者の心臓疾患など基礎疾患があるうえに、火災、交通事故などが発生し
1
1
1
】
l
たため急性心不全により死亡した場合、「不慮の事故を直接の原因として死亡し
l
た」といえるかを検討し、因果関係の証明責任を述べて下さい。
l
間III 判例Iの判旨を検討して下さい。
間IV 判例IIの事実および判旨を検討して下さい。
___▼___▼______.____‖_._______−_‖」
一■■ヽ
判例I 東京地裁平成7年9月27日判決
(判例集未登載)
[事実の概要]
1.保険契約者Aは、昭和45年10月5日、保険会社
Y社との間において、次の内容の家族収入保険
(災害倍額保障)契約を締結した。
庄)保険期間 平成6年10月5日
(む被保険者 A
③死亡保険金 80万円
年金額64万円の5年確定年金
④被保険者が保険期間内に「偶発的な外来の事故
を直接の原因として、その事故から90日以内に
死亡したとき」
災害保険金 80万円
年金額64万円の5年確定年金
⑤死亡保険金受取人 Ⅹ(Aの妻)
2.Aは、平成4年6月1日午前9時40分ころ、圧
力灯油バーナーを使って、物置小屋(木造トタン
茸平屋建)付近の雑草の焼却作業をしていたとこ
ろ、バーナーの火が物置小屋の稲藁に引火し火災
となった。
3.Aは、同日、心疾患(急性心不全)により死亡
した。
[争点]
Aの死亡が本件保険契約でいうところの不慮の事
故によるものといえるか。
[判旨]
「1.証拠および弁論の全趣旨によれば以下の事実
が認められる。
(1)本件火災は、同日午前9時40分ころ発生し、A
は、水道の蛇口からビニール管を近くまで引き寄
せ、バケツに水を汲み、これをかけるなどして消
火活動を行った。しかし、消火活動中、突然身体
の具合が悪くなり、歩行も困難となり、Xに安全
な場所まで引きずられていった。午前10時4分こ
ろ、救急車が来たが、Aは既に死亡していた。
(2)Aは、狭心症により、昭和61年3月17日から、
B内科に通院し、同内科のB医師の所見では、A
は、安定型狭心症とのことであった。
Aは、平成3年は3回B内科に通院したが、特
に狭心症の症状は訴えておらず、B医師は、それ
ぞれ30日分の薬を処方した。Aは、平成4年は1
月に30日分の、4月に14日分の薬をB内科に取り
に来ただけであった。なお、狭心症の発作時に舌
下するニトロール錠は、昭和63年1月にB医師が、
10錠処方したのが最後であり、狭心症の発作もB
医師の問診によれば、昭和63年8月22日が最後で ノー
あった。
右通院状況等から、B医師の所見では、Aの狭
心症が増悪していたとは考えられないとのことで
あった。Aの死因についてのB医師の見解は、A
の狭心症の病状はかなり安定しており、治療によ
りほとんど起こらない状態にまでなっていたが、
自宅での火事という非常事態によって、肉体的精
神的ストレスが重なり強度の狭心症発作を誘発し、
強い発作のため死亡したものと推察されるとのこ
とである。
(3)以上の事実を総合考慮すれば、Aは、本件火災
の発生により、極度の緊張、恐怖、驚愕等の精神
的負荷及び緊急に極度の身体的負荷を強いられ、
これにより強度の狭心症発作が誘発され、急性心
不全により死亡したものといえる。
2.本件保険契約における保険約款の別表1に対象
となる不慮の事故についての記載があり、火災に
よる事故は10項の「その他の不慮の事故」に含ま
れる。
本件では、Aが、本件火災による火傷により死
亡したのではなく、精神的肉体的ショックから急
性心不全を起こして死亡したため、急激かつ偶然
の外来の事故による死亡といえるかどうかが問題
となる。
\
たしかに、Aの死亡原因である心疾患(急性心
不全)は外傷によるものではないが、そのことの
みをもって、同人の死亡を偶発的な外来の事故に
よるものではないと断定するのは相当ではない。
おもうに、前記認定のとおり、Aは、本件火災
当時は、ほとんど医院への通院はしておらず、狭
心症の発作も昭和63年8月の発作を最後に生じて
・災害による死亡保険金額(不慮の事故を
直接の原因として、その事故日から180
日以内に死亡したとき) 800万円
2.Xは、Aが、昭和56年11月13日午前6時30分こ
ろ、K市先路上で普通乗用自動車を運転して、F
市方面よりN市方面へ進行中、B運転の普通乗用
車と衝突し、右交通事故による物理的衝撃並びに
精神的ショックにより急性心不全症を起こし、同
日午前8時20分死亡した、と主張した。
[Y社の主張]
本件事故は、極めて軽度で人身事故に至っておら
ず、Aは、車外でBと話し合い中に持病の心臓病の
発作がおき死亡したものである。
[判旨]
いないことから、Aの狭心症は、本件火災当時は、
かなり安定していたものといえ、同人の死亡が狭
心症という内在的事由のみを直接の原因として生
じたものとは解することはできない。Aは、狭心
症の症状が安定していたにもかかわらず、本件火
1.「災害保険金支払事由である「不慮の事故を直
接の原因として」とは、死亡保険金に加えて死亡
保険金相当額が支払われるという効果に照らして
も因果関係が単に軽微な影響を与えた程度のもの
災の発生により、極度の緊張、恐怖、驚愕等の精
神的負荷及び緊張に極度の身体的負荷を強いられ
たこと、右負荷から心疾患(急性心不全)をもた
らし、同人が死に至ったことを考えるならば、A
の死亡と本件火災との間には相当因果関係がある
といわざるを得ない。したがって、Aの死亡は不
では足りず、当該事故が死亡の結果について主要
な原因たることを要求したものと解するのが妥当
である。
そして、Aの病的・体質的素因が競合する場合
に、不慮の事故が死亡の結果について主要な原因
であったか否かについては、一方に事故の大きさ
慮の事故によるものというべきである。」
3.よって、Y社はⅩに対し、金273万円およびこ
れに対する平成6年9月27日から支払い済みまで
を置き、他方に、日常生活においても容易に病的・
体質的東国によって死亡の結果がもたらされる蓋
然性を置いて、両者を相関的に考察して判断する
のが妥当である。」
2.「本件交通事故は、右折しようとしたB運転の
年6分の割合による金員並びに平成8年6月1日
および平成9年6月1日が経過したときそれぞれ
金64万円をヌ払うべきことを認容した。
判例II 福岡地裁昭和60年2月4日判決
(文研生命保険判例集vol.4−155貢)
[事実の概要]
1.保険契約者Aは、昭和47年5月1日、保険会社
Y社との間において、次の内容の生命保険契約を
締結した。
①被保険者 A
(亘)保険金受取人 Ⅹ
(享)保険金額
・保険料払込期間中の死亡保険金額
400万円
・長寿保険払込期間経過後の死亡保険金額
1000万円
乗用自動車(以下「B車」という)の左後部とA
運転の乗用自動車(以下「A車」という)の左前
部とが衝突したものであること、B車については
後部左側バンパーが外側に曲がり修理費2万3300
円を要する損傷、A車については前部バンパーお
よび左前部フェンダー取替等6万1180円の修理費
を要する損傷があったこと、Aは、事故後自動車
を止め、徒歩で30.5メートル後方にある陸橋まで
行き、Bと約17秒間話し合った後、Bと一緒に同
所から39メートル離れたところに止めてあったB
車まで行って同車の損傷個所を確認し、更に69.6
メートル離れたA車まで戻って同車の損傷個所を
確認した上、再びB車まで引き返し、手帳を出し
てBから名前を聞いて書いている途中突然仰向け
に倒れ、まもなく気がついてB車の後部座席に座っ
たが、胸が痛いということで救急車で病院へ運ば
れ、事故から2時間後に死亡したこと、Aの解剖
所見によると、外傷はなかったことが認められる。」
3.「Aは、日常生活に注意を払うことで無事出勤
(第百生命新災害割増特約条項第1条)
『特約の責任開始期以後に発生した別表1に定
することができ、事務の仕事をすることはできた
ものの、Aの心臓は心臓弁膜症の代償のため、通
める不慮の事故による傷害を直接の原因として、
その事故の日からその日を含めて180日以内に
死亡したとき』
(1)急激性について
急激性とは、原因から結果に至る過程において、
常人の重さ300グラムに対して760グラム、大きさ
にして大人手拳の3倍大にも達して非常に危険な
状態にあり、安静時にでも容易に代償失調を起こ
すことが充分考えられたことが認められる。
右認定の事実によると、Aが本件事故によって
受けた物理的衝撃は、さほど大きなものでなかっ
たことが推認でき、他方、事故後降車してからの
肉体的運動、精神的興奮、寒冷等の要因がAの死
亡に何等かの影響を与えたことは認められるが、
Aは日常生活においても容易に死亡の結果をもた
らされる蓋然性が極めて高かったものといわざる
を得ず、Aの死亡は、本件事故が主要な原因になっ
たと認めることはできない。」
[研究報告]
間Iについて
1.「不慮の事故」の概念と、事故の外来性、急激
性、偶発性の関係
通常、「不慮の事故」の一般的概念は「思いが
けない災難、災厄、または予期あるいは意図され
なかった事故」と抽象的に定義されている。傷害
の法的概念は「急激かつ偶発的な外来の事故によ
り身体傷害を被ること」である。約款はこれを具
体的にすべく「不慮の事故」の構成要件として、
事故の急激性、事故の偶発性、事故の外来性の三
要件を挙げ、かつ、事故が約款に定める分類項目
に該当することを要するとしている。
また、約款上の災害死亡保険金の支払事由には、
「不慮の事故による傷害を直接の原因として死亡
したとき」と定められている。
※対象となる不慮の事故
(第百生命普通終身保険約款別表1)
F対象となる不慮の事故とは急激かつ偶発的な
外来の事故(ただし、疾病または体質的な要因
を有する者が軽微な外因により発症しまたはそ
の症状が憎悪したときには、その軽微な外因は
急激かつ偶発的な外来の事故とはみなしません。)
で、かつ、昭和53年12月15日行政管理庁告示第
73号に定められた分類項目中下記のものとし、
分類項目の内容については、「厚生省大臣官房
統計情報部編、疾病、障害および死因統計分類
提要、昭和54年版」によるものとします。』
※災害死亡保険金の支払事由
結果の発生を避け得ない程度に急迫した状態を意
味するものと解される。したがって、慢性・反復
性・持続性の強いものについては急激性はないも
のと考えられる。
『事故が突発的に発生し、原因となった事故から
結果として障害が発生するまでのプロセスが直接
的で、時間的間隔のないことをいう。』
(西島梅治「保険法」) ノ.、
(2)偶発性について
偶発性とは、被保険者の故意に基づかずかつ予
期し得ない突発的な原因から生ずることをさすと
考えられるが、予期し得る原因から生じた結果で
あっても、その経過において予期し得ないできご
とが加わり、それが結果に対して重大な影響を与
えている場合は、偶発的なものとすると考えられ
る。
『被保険者にとって予知できない原因から傷害の
結果が発生することをいう。………被保険者自身
の意思にもとづく行為により事故を誘致した場合
や、事故そのものは被保険者の関与なしで発生し
たが被保険者が事故の発生を予知し、これを防止
できたのに、放置していた場合には保険者が免責
される。』 (西島梅治「保険法」)
(3)外来性について
外来性とは、何らかの外的要因(身体への外部 (
からの力)が加わることであり、身体に外部から
の原因によって生じる受傷は、必ずしも身体の表
面(外側)にある必要はない(打撲、骨折等の損
傷)。なお、外的要因が内的要因(身体の内部的
要因、または病的原因)より大きく、それによる
死亡・障害・入院に対して外的要因が重大な影響
を与えている場合、外来性を認めてもよいと考え
られる。ただし、軽微な外因による場合(疾病ま
たは体質的な要因を有するものが、医学常識的に
みてちょっとしたきっかけを原因として発症増悪
したような場合)、外来性があるとはいえず「不
慮の事故」によるものとは認めることはできない
と考えられる。
『障害の原因が被保険者の身体の外からの作用で
あることをいい、身体の内部に原因するものは除
外される。』 (西島梅治「保険法」)
2.「不慮の事故」の証明責任について
証明責任とは、訴訟において裁判所がある事実
の存否につきそのいずれとも確定できない場合、
いわゆる真偽不明・ノン・リケットの場合に、そ
の結果として、当事者の一方が判決においてその
事実を要件とする自己に有利な法律効果の発生が
認められないことになるという危険または不利益
を負わされている。この危険または不利益を客観
的証明責任といい、どちらの当事者の不利益にそ
の事実の存否を仮定するかの定めを証明責任の分
\
配の法則という。一般には権利関係の発生、変更、
消滅等の法律効果を主張する者は、これを直接規
定する法条の要件事実の証明責任を負うとする法
律要件分類説が通説とされ、権利根拠規定は権利
者が立証し、権利障害規定・権利滅却規定・権利
阻止規定はその相手方が立証するものとされてい
る。
問題は、「不慮の事故」の証明責任についてで
あるが、その構成要件である外来性、急激性、偶
発性のいずれについても請求権者側にあるとされ
ているのが通説である。しかし、このうち偶発性
については請求権者側でこれを証明できず、また、
なお、関連する判例には次のようなものがある。
(1)昭和58年10月28日 大阪高裁
『「不慮の事故」によるものであることについての
立証責任は、その事を前提として被控訴人である保
険会社に対し災害死亡保険金の支払を請求する控訴
人らにおいて負担するものである』
(上告棄却 昭和61年11月7日 最高裁)
(2)平成3年7月4日 東京地裁
『災害割増特約又は障害特約に基づく保険金請求訴
訟にあっては、保険金の請求者(受取人)は、当該
事故が被保険者の素因や故意に基づくものではなく
て、急激かつ偶発的な外来の事由に起因するもので
あること(いわゆる災害起因性)についての立証責
任を負い、他方、保険者は、当該事故が被保険者の
重大な過失によるものであることについての立証責
任を負うものと解するのが相当である。』
(3)平成3年10月30日 東京地裁
『約款を合理的に解釈すると、災害死亡保険金につ
いては、死亡が「不慮の事故」によるものであるこ
と、すなわち被保険者の故意によるものでないこと
の立証責任はその支払を請求する側にあると解する
保険者側によっても「故意による事故招致」また
は「重過失」によることが立証されないことがあ
り、これを請求権者側の証明責任としてよいかど
うかが問題であり非故意性の証明責任の問題とし
て次のような諸説がある。
(1)請求原因説
のが相当である。』
(4)平成4年5月26日 東京地裁
『保険金を請求する側、即ち、原告らの側に、不慮
の事故であることの立証責任があるというべきであ
る。』(控訴棄却 平成4年10月27日 東京高裁)
『「偶然は、保険契約者、被保険者または保険金
受取人の故意による傷害が保険者の免責事由とさ
れ、その免責事由の証明責任が保険者側にあるこ
間IIについて
約款に「不慮の事故による傷害を直接の原因とす
る」とある意味は、「不慮の事故」とその結果(死
亡・障害・入院)との間に密接な関係があること、
即ち因果関係が存在していなければならないという
ことである。ただし、その関係は、「不慮の事故」
ととの関連好おいて、これを請求権者側の証明責
任としてよいかどうかが問題である。しかし、傷
害保険は生命保険とは異なり、単純に「死亡」自
体を保険金の支払い要件としないで、急激・偶然・
外来の事故と傷害との間の相当因果関係を要する
外、その傷害を直接の原因として死亡した場合に
保険金を支払うと規定しているので、保険金の請
求者が三要件の立証責任を負うものと解すべきで
あろう。』
(西島梅治「保険法」新版392頁 悠々社)
(2)抗弁説
『被保険者の故意の証明責任は保険者にあると解
する。……被保険者の故意を保険金免責事由とし
て掲げている生命保険会社の障害特約については、
この点の証明責任は保険者にあると解するのが適
当であろう。』
(中西正明 「生命保険の障害特約概説」)
から結果までの間に全く他の要素が入ってはならな
いというほどの強い関係ではなく、一般的な医学常
識・経験則上から、その間に蓋然性の認められる関
係をいうものとされている。また初発原因と傷害結
果(死亡・障害・入院)との間に通常の成り行きと
しての合理的・蓋然的な連続関係があれば、初発原
因が結果に対する「直接原因」たりうると解されて
いる。すなわち、その存在が必要とされている因果
関係は直接因果関係ではなく、相当因果関係であれ
ばよく、その意味では、「直接の原因」とは「主要
な原因」と解してよく、判例もこれによっている。
本間では、被保険者に基礎疾患があるうえに、事
故が発生したため急性心不全により死亡した場合が
問題となっているが、相当因果関係説より、「事故」
と「疾病」とが協働した場合、「事故」のほうが相
当原因とされる限り結果的に「不慮の事故を直接の
原因として死亡した」といえると思われる。また、
「不慮の事故」とその結果(死亡・障害・入院)と
の因果関係の証明責任は、特約に基づく請求権の
「権利根拠規定」であるため、その証明責任は、請
求権者側にあることとなる。
学説には次のような諸説がある。
(1)相当因果関係説
相当原因であるためには、ある事実がそれのみ
で結果を生ずることは必ずしも要求されない。し
たがって身体傷害につき事故と疾病とが協働した
場合において、協働して初めてそのような結果を
もたらすことができたと認められても、事故のほ
うが相当原因とされる限り結果的には疾病の存在
でも明らかである。』
間IIIについて
Aの死亡(急性心不全)が約款に定める「不慮の
事故」によるものかどうかについて争われている。
※心不全
『心機能不全、循環機能不全、収縮力減退など
心臓自体に障害があって、心臓、末棉血管系を
経て全身の臓器組織へ必要な量と質の血流を循
環しえなくなった状態を心不全という。弁膜症、ノー、
は無視される。
(2)条件的因果関係説
先行事実と後行事実との間に条件関係があるこ
と。「少なくともAという行為がなければ、Bと
いう結果は起こり得ない」といった行為と結果と
高血圧、冠状動脈硬化、心筋梗塞などあらゆる
心臓疾患の末期の症状である。心不全の出現の
仕方により急性心不全と慢性心不全に分けるこ
とができる。前者は心停止、心室細動、心室頻
拍、心筋梗塞、心臓暗息などの場合に見られる。
の条件関係であれば、その行為はすべて原因であ
り結果に対して因果関係を持つとする考え方。
(3)最有力条件説
何が有力で最も重要な原因であるかを探求し、
これについて責任あるものがその全部の責任を負
心不全を起こす要因があっても直に症状を表す
とは限らない。これは、心臓自体あるいは心外
性に多くの代謝機序が働いているからである。
その場合でも運動、感動その他のストレスによっ
て容易に代謝不全の状態に陥る』.
(医学大辞典 南山堂)
判旨は、(1)Aには、狭心症既往症があったが、
う。
(4)近因説
英法の近因の法理によれば、疾病と事故とが同
時に協働して初めて身体傷害へと導く場合には、
そのいずれもが近因とみなされる。したがって疾
病との協働そのものが除斥事由とされていなけれ
ば、それは傷害として保護される。
(5)主要な原因説
『障害と死亡との間に特に「直接の」因果関係の
存在する場合に限定しているのは、右の因果関係
の存在の立証責任が保険金請求権者側に有ること
を明確にし、かつ、その因果関係が単に軽微な影
響を与えた程度のもの、または、遠い条件的因果
関係に過ぎないものでは足りず、当該障害が死亡
の結果について主要な原因となっていることを要
求したものと解される。』
(昭和56年5月12日 大阪高裁)
なお、関連する判例には次のようなものがある。
(1)昭和56年10月29日 東京地裁
『「事故」と「死亡」との間に条件関係があるだけ
では足りず、相当関係があることを要するのはむし
ろ自明のことでもあるが・…‥本件特約に基づく災害
保険金が支払われるのは、被保険者が不慮の事故を
10
「直接」の原因として死亡した場合である、との趣
旨の記載があるのも、要するに、右の相当関係を意
味するものであって……当該事由と結果との間に相
当関係が認められない限り、その死亡に関して、本
件特約を適用することができないことは保険約款上
その病状はかなり安定しており、治療により発作
はほとんど起こらない状態にまでなっていたこと。
(2)自宅での火事という非常事態によって、極度の
緊張、恐怖、驚愕等の精神的負荷および緊急に極
度の身体的負荷(肉体的精神的ストレス)を粗い.(
られ、これにより強度の狭心症発作が誘発され、
急性心不全により死亡した。
(3)Aの死亡は狭心症という内在的事由のみを直接
の原因として生じたものではなく、Aの死亡と火
事との間には相当因果関係がある。
以上からAの死亡は「不慮の事故」であると認定し
ている。
相当因果関係説を採っており、妥当な決定と思わ
れる。
なお、関連判例には次のようなものがある。
(1)平成3年11月20日 浦和地裁越谷支部
『目に見えないショック等による死亡の場合でも、
それが原因をなした事象との間に相当因果関係があ
ると認めることができる場合には、その原因をなし
た事象を「外来的なもの」に当たると見るのが相当
である。……建物の火災による不慮の事故により、
その事故を直接の原因として死亡したと認めること
をいう。
ができる。』
(1)外来性
①身体外的原因によることを要する。
[補説]
本判決(平成7年9月27日 東京地裁)に対して
は控訴があったが、第2審は、第1審判決とほぼ同
じ理由により、控訴棄却の判決を下している。(東
京高裁 平成7年(ネ)第4258号 平成8年6月11
日判決)
間IVについて
Aの事故が、死亡の結果について「主要な原因」
といえるか否かについて争われている。
判旨は、
\
(1)災害保険金の支払事由である「不慮の事故を直
接の原因として」とは、因果関係が単に軽微な影
響を与えた程度のものでは足りず、当該事故が死
亡の結果について主要な原因となることを要求。
(2)被保険者の病的、体質的素因が競合する場合に
は、事故の大きさと日常生活において容易に病的・
体質的素因によって死亡する蓋然性の両者を相関
的に判断するのが妥当。
(3)Aには外傷はなく、心臓弁膜症のため非常に危
険な状態にあり、安静中でも容易に代償失調を起
こすことが考えられる状態であった。
(4)Aが受けた交通事故による物理的衝撃はさほど
大きなものではない。
(5)事故後降車してからの肉体的運動、精神的興奮、
寒冷等の要因が何等かの影響を与えたことは認め
られるが、Aは日常生活においても容易に死亡の
結果をもたらされる蓋然性が極めて高かった。
以上からAの死亡は交通事故が主要な原因ではない
としている。
「主要な原因」説を採っており、妥当な決定と思
われる。
[講師のコメント]
(松岡弁護士)
第1.間Iについて
1.災害保険金等の給付請求訴訟における請求原因
は、次の二つの要件事実である。
(∋災害補償特約の存在
(三)保険事故の発生……保険期間内に急激かつ偶然
の外来の事故を直接の原因
として、90日以内に死亡し
たとき
2.「不慮の事故」は、一個の要件事実であって、
「急激の」「外来の」「偶然の」という特徴を有する事故
(カ身体内(病的)的原因を除く趣旨である。
(2)急激性
(》結果の発生を避けえない程度の急迫した原因に
よること。
⑦予見・回避が可能な場合には、急激性がないと
され、偶然性を補完するもの、といわれている。
(享)慢性的、反復的・持続的な原因を除く趣旨であ
る。
(3)偶然性
①被保険者の故意(主観的行態)にもとづかない
こと。
(∋予測しえない突発的な原因によること。
(4)この外来性、急激性、偶然性は、それぞれを要
件とする考え方もあるが、「不慮の事故」そのも
のを要件事実と考え、外来性、急激性、偶然性は、
これを判断するための要因(ファクター)である
と考える。
3.「不慮の事故」の証明責任
(1)いわゆる証明責任は客観的証明責任を意味する。
(∋一定の事実の存否が確定しないため、自己に有
利な法律効果の発生(又は不発生)が認められ
ないこととなる当事者の一方の不利益又は危険
をいう。
(∋証明責任は、法律関係ごとに最初から当事者の
一方に定まっているものである。ただし、解釈
によって、一方から他方に証明責任を転換する
ことは有り得る。
(2)立証の必要(主観的証明責任)
(力客観的証明責任を前提としたうえで、当事者が
自己に有利な裁判を得ようとして証拠を提出す
る当事者の行為責任をいう。
②例えば、原告の立証によって裁判所が心証をえ
ている状態にあるときに、被告がその心証に動
揺を与えるため、反証活動をすることにより、
証明責任領域(真偽不明の状態)に引き戻す被
告の証明活動がなされる。
③裁判所の心証形成・証拠評価に当たっては、証
拠との距離、立証の難易、事実の存否の蓋然性
などが影響することがあるが、証明責任とは異
なる。
(3)「不慮の事故」は、権利発生要件を構成する一
個の要件事実であるため、その証明責任は、請求
者にあると考える。
ただし、「自殺免責」のように、被保険者の
「免責事由」とされているときは、保険者の証明
11
.、−′ 一
責任とされるのは当然である。
「故意又は重大な過失」を免責事由と規定した
ことで、「偶然性」のみ、保険者の証明責任事項
としたといいうるであろうか。
第2.間II.基礎疾患(疾病等)と不慮の事故とが
競合した場合について
1.「不慮の事故」の意義については、「ただし、
疾病または体質的な要因を有するものが軽微な外因
により発症し又はその症状が増悪したときには、そ
の軽微な外因は急激かつ偶発的な外来の事故とはみ
なさない」とされている。「軽微な外因による発症」
等を除外しているところから、条件関係にある原因
を同等とみる「条件的因果関係説」はとりえないと
ころである。
2.基礎疾患(疾病)と不慮の事故とが競合し協働
した場合について
(1)相当因果関係説(原因と結果とが、経験則上、
相当な適合関係にある場合)
(2)近因説(疾病と事故との協働による場合には、
いずれも近因とする)
(3)再有力条件説(何が有力で最も重要な原因であっ
たかによる)
(4)「主要な原因」とする説(大阪高裁昭56.5.12、
京都地裁峰山支部平1.9.4)
の諸説があるので、その意義および他の諸説との違
いについて検討を要する。
3.因果関係は、請求者の証明責任事項である。
第3.問HI.判例Iの判旨について
1.Aは、狭心症の病状にあったものの、安定して
ほとんど起こらない状態となっていたが、本件火災
の発生により、極度の緊張、恐怖、驚愕等の精神的・
身体的不可を強いられ、これが急性心不全をもたら
したものとし、本件火災とAの死亡との間に、相当
因果関係があるとした。
2.ところで、大阪地裁平4.12.21判決は F日常生
活上普通に起こり、通常人ではおよそ死亡には結び
つかないものである場合まで……不慮の事故にふく
めるのは相当ではない』とし、①通常人を基準とし、
②日常生活上普通に起こりうることを判断の前提と
している。
しかし、通常人あるいは日常生活上死亡事故に至
るか否かの判断は容易ではなく、当該被保険者にとっ
ては重要な原因となりうる場合がありうる。
3.本件では、Aが圧力灯油バーナーを便っ「
物
置小屋(木造トタン葺平屋建)付近の雑草を鰯
業をしていたところ、物置小屋の稲藁に引火l
災となったものであって、Aの死亡との間にキ
作
果関係がある、とした(通常人であるとか、【
活上とかいうことを考えると疑問が残る判例で宏
生
火
因
0
第4.間IV.判例IIの判旨について
1.本判決は、「主要な原因」説を判示し、し
その判断については、事故の重大性と日常生着
ける病的・体質的素因によって死亡の結果が増
される蓋然性との相関性から判断すべきものと
2.Aには、心臓弁膜症の代償としての心臓月
あり、安静時にも、容易に代償失調を起こす」
があった。
他方、本件事故による物理的衝撃はさほどフ
ものではなかったとして、本件事故が主要なl
はない、と判示した。
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3.「主要な原因」に関する相関的判断の問題
①通常人を基準とし、日常的に生起するかi・を
基準とするか否か。
(わ当該被保険者の具体的状況等を考慮するゴ う
か。
(岡野谷弁護士)
約款上「直接の原因」とある以上、「相当伝:関
係」よりも密接な関係を不慮の事故と死亡とc lに
要求しているように思われる。
下級審では「主要な原因」に落ち着きつつあ
「直接の原因」を「主要な原因」と言い換え‘
判例でも、バリエーションがあり、大阪高裁(
数の主要な併存原因が概ね同程度に影響を与フ
とが認められればそれで足りるj との判断基皇
識的で実用性があるように思われる(「併存「
の死亡原因と比較してより有力な原因であるj
られる場合」と解する方が、文言には適合すj
それぞれの原因の優劣を制定することの困難†
みると、そこまでの立証を要求することはやj
すぎると思う)。
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(東京:H8.7.18)
報告:第百生命 保険金課 中村維男 氏
出題:弁護士 松岡 浩 氏
指導:松岡弁護士 岡野谷弁護士
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12
普通19694
奴
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