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「不慮の事故」 の意義と証明責任

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「不慮の事故」 の意義と証明責任
「不慮の事故」の意義と証明責任
間1.「不慮の事故」等に関する次の概念の意義について検討して下さい。
(1)外来性
(2)偶発(然)性
(3)急激性
(4)不慮の事故を「直接の原因として」
間2.判例Iにおける「外来の事故」等に関する判示について検討して下さい。
間3.判例IIにおいて、「不慮の事故」の意義につき、「昭和42年12月18日行政管理庁告示第152
号に定められた分類項日中、別表r対象となる不慮の事故j記載のとおりとし、分類項目
の内容についてはF厚生省大臣官房統計調査部編 疾病、傷害および死因統計分類提要昭和
43年版』による」とされているが、これにはどのような問題があるかを述べて下さい。
間4.災害関係特約における「不慮の事故」の証明責任に関する諸説を検討し、保険金請求者が
主契約に基づく保険金と特約に基づく保険金とを同時に請求したが、保険金において自殺免
責等を主張している場合に、それぞれの証明責任にはどのような問題があるか。
間5.判例IIについて検討して下さい。
判例I 名古屋地判平4.1.14(判タ823−236)
名古屋高判平4.11.4(判タ823−236)
′ ̄ヽ
〔事実の概要)
(1)保険契約者Bは、昭和54年7月23日、生保会社
Y社との間において下記生命保険契約を締結した。
被保険者 A
保険金受取人 Ⅹ(Aの妻)
不慮の事故による保険金 5000万円
(2)Aは、平成元年5月8日午前8時頃、K市H町
の路上において、普通貨物自動車の右後部ライト
および開放中の右側スライドドアに接触し、且つ
同車両に荷物の積み降ろしをしていた訴外Tをは
ねて同人に傷害を負わす事故を起こし、同日午後
6時頃、脳内出血により死亡した。
〔争点〕
生命保険の災害死亡の保険金支払対象となる保
険事故は、「不慮の事故一偶発的な外来の事故−
を直接の原因として死亡したこと」であるが、(1)
Aの脳内出血は本件事故による身体的・精神的
衝撃により生じたものか、(2)本件事故前に生じ
た軽度の脳内出血が本件事故によって増悪し死亡
という結果に至ったものかが争点である。
〔第一審判決・判旨〕
1.次の各事実を認めることができる。
(1)本件事故の現場は、南北に走る幅貞約6.8メー
トル(片側車線幅員3.4メートル)のアスファルト
舗装された平坦な見通しの良い道路上であるとこ
ろ、Aは、普通貨物自動車(車幅1.67メートル)
を運転して北進中、進路前方の道路左端に停車し
ている普通貨物自動車(車幅1.67メートル)を認
めたが、折りから南進してきた対向車が右貨物自
動車の手前で停車して道を譲ってくれたため、同
車の右側方を通過すべく、自車の右側がわずかに
対向車線にはみ出る程度の位置(したがって、日
華の右側道路を相当あけた状態)を低速で進行中
に本件事故を起こしたものであり、Aがブレーキ
をかけ停車したかどうかは定かでない。Aは、事
故後、被害者の訴外Tのもとに赴くべく降車した
が、その足取りはあたかも酒にかなり酔っている
ような歩き方であり、間もなく路上にしゃがむよ
うにして倒れ、意識がはっきりしないまま救急車
でS病院に収容された。
(2)Aは、病院入院時、左片マヒと意識障害及び顔
面に5ミリ程度の擦過傷が認められたほかには外
傷はなかったけれども、右脳内の出血が多く危険
な状態で推移し、事故当日の午後6時5分頃、右
脳内出血を原因とする呼吸不全で死亡した。Aを
診察したS病院の医師は、Aの出血の程度、部位
及び外傷の程度から考えて、脳内出血後に意識を
失って自動車に追突したものと診断し、当日午後
3時頃にAを診察した市民病院脳外科の医師も、
明らかに脳内出血による意識障害であり、事故に
起因するものでない旨の診断をした。また、鑑定
7
人は、CT所見からは高血圧性の脳出血か外傷性
車両は、その直後、T車両の右側後部にドーンと
大きな音をたてて衝突し、T車両のライトを破損
の脳出血かの断定はただちにできないが、少なく
とも外傷が軽微であることや、CT上外傷が加わっ
た証拠としての脳挫傷など随伴した所見は認めら
させたほか、右側スライドドアを飛ばせてしまい、
更に、その付近で荷下ろし作業中のTに接触して
同人に傷害を与えた。
れないし、時間的に遅発性外傷性脳出血の発症も
認め難いことから、頭部外傷が脳出血の原因とす
る資料は乏しいといわざるを得ず、強いて推測す
(3)Aは、本件事故後、本件車両から降りてきたも
のの、酔っ払ったような歩き方や素振りをし、路
上でしゃがみこむようにして倒れ、ろれつが回ら
ない一ような様子を示したので、救急車でS病院に
運ばれた。Aは、外傷は軽微であったが、左片麻
痺と意識障害があって右脳内出血が多く、危険な
れば、高血圧が関わりをもった脳出血の可能性は
高いと考えるべきであるが、事故による精神的動
揺により血圧があがり、その結果脳内出血が起き
たか、すでに生じていた脳出血が事故による精神
的動揺により血圧があがり重傷となる誘引となっ
状態で推移して、同日午後6時5分死亡した。右
意識障害は、脳内出血によるものであるが、脳内
出血の原因が外傷性のものであるとはみられない。
(4)Aは、遅くとも昭和60年から高血圧症の加療を
続けており、昭和63年には言語障害をきたすほど
の不安定な状態にあったほか、血圧の動揺がみら
たのか、脳出血の時点の断定はできない旨の鑑定
をした。
(3)Aは、少なくとも昭和60年頃から本件事故の頃
まで、高血圧の治療のために病院に通院しており、
昭和63年2月には言語障害をきたす程に最低・最
高血圧が不安定な状態にあり、また、事故前年の
治療経過での血圧動揺が認められた。
れたが、その後、薬剤の投与により一応の安定を
みた。
2.以上認定の事実を総合して考えると、Aの死亡
は、少なくとも本件事故では未だ断定し得ず、他
にそうであるとする証拠もないのであるから、A
以上の認定事実によると、本件事故に至る経緯
と態様は運転者としての行動として異常なものが
あることは少なくとも明らかであり、このことに
右認定のAの既往歴と本件事故後の症状を併せる
と、本件においては、Aが既往の高血圧症に起因
する致命的な脳内出血を惹起し、その影響の下で
の脳内出血の発症ないしはその後の経過に本件事
故が何らかの影響を与えているとしても、Aの死
亡は、本件各保険契約の保険約款による偶発的な
外来の事故を直接の原因とするものとは到底いえ
ず、Yに保険金の支払責任は生じないといわねば
ならない。
本件事故に至った可能性も十分にあるものという
ことができる。そうすると、Aの死亡が前記保険
金支払事由にいう「外来の事故」によって被った
傷害の直接の結果又は「外来の事故」を直接の原
因とするものということはできない。
【第二審判決・判旨〕
(1)本件事故現場は、人家の密集する市街地を南北
に通じる幅員約6.8メートル(片側3.4メートル)
のアスファルト舗装された市道(本件道路)上で
ある。本件道路は、本件事故付近では平坦な直線
であり、平成元年5月8日の本件事故当時の天候
8
(
判例II 東京地判平4.5.26(判例集未登載)
東京高判平4.10.27( 〝 )
曇であって見通しは良く、路面は乾いていた。ま
た、本件事故当時、本件現場には、TがT車両
(車幅1.62メートル)を北側進行方向の左端に寄
せて北向きに停車し、後部荷台の扉を跳ね上げて
荷下ろし作業をしていた。
(2)Aは、本件車両(車幅1.67メートル)を運転し
て本件道路を北進して本件現場に停車中のT車両
の手前に至った。当時、反対車線を南進して本件
現場手前に至ったK車両から見ると、本件車両の
速度は遅い様に見えたが、T車両の手前で停止す
る様子もなく、かえって対向車線にせり出すよう
に進行し、危険が感じられたので、Kは、その車
両を本件現場手前で停車させた。ところが、本件
/■ヽ
〔事実の概要〕
1.保険契約者Ⅹl社は、生保会社Yl社との間にお
いて、下記災害割増特約付きの生命保険契約二ロ
を締結した。
表1
保 険会 社 契 約 日
契 約者
被保 険者
受取 人
S 58 2 25
Ⅹ 1杜
A
X l社
(
生 保 ) S55 11 28
X l社
A
Ⅹ2
Y l
保 険 金 額 (万 円 )
災 害 に よ る 死 亡 ・ 高 度 障 害 2 0 ,5 0 0
災 害 に よ る 死 亡 ・廃 疾 6 ,5 0 0
2.保険契約者Xl社および訴外Aは、生保会社Y2
社との間において、下記災害割増特約付きの生命
保険契約四口をそれぞれ締結した。
トルであり、車体後部左側と車体後部から約80セ
保険会社
契約 日
契約者
被保険者
受取 人
S5 1 7 2
X l社
A
Ⅹ1社
災害 に よる死 亡
S51 7 2
Ⅹ1社
A
Ⅹ1社
災害 によ る死 亡
(
生保) S50 .
3.
3
A
A
Ⅹ2
災害 によ る死 亡
S 2.
11 25
A
A
Ⅹ彿
災害 に よる死亡 ・廃 疾
Y2
保
険
金
♯
(
万 円)
2,
舶0
200
10,
000
9.
測0
3.訴外Aは、昭和63年8月21日午前7時05分頃、
首都高速道6号M線下のC地付近の一般道路面上
に倒れているところを発見され、D病院で救急治
療を受けたが、同日午前9時39分、脳内出血(く
も膜下出血)、脳幹傷害により死亡した。
′ヽ
争点
YlおよびY2社との関係では、Aの死亡が不慮
の事故によるものかどうか、Y3社(損保会社)
との間においては、Aが本件自動車の運行中に起
因した急激・偶然・外来の事故により死亡したも
のかどうか。
ンチメートル前方の路側壁最上部にそれぞれ人の
手の跡が付着しており、路側壁最上部の手の痕跡
はほこりがなく真新しいものであった。又、同所
から約22センチメートル後方および更に22センチ
メートル後方の路側壁外側にそれぞれ約8センチ
メートル大の足跡が認められた。
(4)Aが倒れていた地点
Aが倒れていた地点は、高速道路上から約8.75
メートル下にあたり、高速道路の路側壁から水平
面での距離は約4.4メートル強である。
(5)以上によれば、Aは本件自動車を運転中、なん
らかの理由で高速道路上で路側壁縁石に左側車輪
を乗り上げ、路側壁に左側車体を衝突させて停車
したこと、その後、運転席ドアから車外に出て、
本件自動車の後部に回り、同車後部左僻に手をつ
いて同所の路側壁に両足で乗ったうえ、高速道路
下に墜落したこと、Aの死因は墜落による頭部強
打によって生じたものであることが認められる。
2.Aの墜落原因
〔判旨〕
1.Aの死亡状況
(1)本件自動車の事故状況
本件自動車は、高速道路にその車体左側を接触
させ、左側前後輪は路側壁内側の高さ約25センチ
メートルの縁石に乗り上げる形で停止しており、
前バンパー左端が半ばちぎれ、左前輪がパンクし、
そのホイルカバーが割れ、ボンネットや左前輪泥
/細ヽ
(1)Aが本件自動車運転席から車外に出て、後方に
回ってから路側壁縁石から高さが65センチメート
ルある路側壁に両足で乗った後に墜落したという
状況に加え、もしAが過失により右路側壁から転
倒したのならば、真下に落下するはずであるが、
墜落した地点は右路側壁から水平距離で4メート
ルもあり、Aが相当勢いをつけて跳臆しなければ
よけ部分が凹損状態にあった。J也方、車体の右側
には何ら損傷はなかった。更に、本件自動車の後
方10数メートルの路側壁にも、本件自動車が接触
したと思われる痕跡があり、同所から更に後方27.
到達できない距離であること、更に同所の路側壁
外側にA約8センチメート大の足跡が二か所に見
られることに鑑みると、Aが自らの意思で路側壁
を蹴って飛び降りたことを強く推認させるもので
ある。
9メートル付近の路側壁にも同様の痕跡があり、
その付近路面上にスリップ痕も認められた。
(2)本件自動車の停車状況
本件自動車は、左折の方向指示器および後退燈
(ギアはオートマチック車のRの位置にあった)
(2)加えて、Aには以下のとおりの病歴が認められ
る。
Aは、19才の頃から糖尿病等を患っていたが、
昭和59年初め頃から、不眠、食欲減退などの症状
を訴え、同年5月21日に自殺を思い立ったこと
をそれぞれ点灯させ、運転席ドア以外はすべてロッ
クされており、運転席ドア(車両右前席)はロッ
クされていないものの、ドアは閉まっていた。エ
ンジンキーはオンの位置にあったがエンジンは停
止しており、サイドブレーキはかかった状態であっ
た。車内およびその付近には血痕は認められず、
他にも異常は見受けられなかった。
(3)本件自動車停車付近の路側壁等の状況
本件自動車停車付近の路側壁の高さは車道路面
から約的センチメートル、縁石から約65センチメー
(家族の説得で思い止まっている)、同年9月3日
には発作的に割腹自殺を図り、重傷を負ってN大
学病院救命センターに収容されたこと、その後は
同病院でうつ病の診のもとに治療を受けたが、Ⅹ1
社の経営に思い悩み、 また自宅で自殺を企図す
るようになったため、昭和61年10月から昭和62年
3月まで入院治療を受け、その後昭和63年1月13
日までは、通院治療を受けていたこと、この間、
医師の診断では「不安焦燥感が前景に出ており、
自殺念慮が強い」とされていたことが認められる。
この点に開し、本件事故は通院しなくなって半年
余り経過しているうえ、Aは本件事故当時、千葉
へ商談のため赴く途中であったこと、うつ状態は
軽快していたことから、ⅩらはAには自殺の動機
がない旨主張する。しかしながら、それまでの通
院期間・状況から見て、ただちに治癒したとは思
われないのであって、うつ病が自殺の原因となっ
た余地も十分に考えられる。
(3)以上によれば、Aの墜落による死亡は自殺によ
る可能性が高い。
付加されている災害割増特約に基づく災害死亡保
険(災害割増特約第6条(1))は、不慮の事故を
直接の原因として被保険者が死亡したときに支払
われるものであり、不慮の事故の意義については、
Ylの場合と同様の定めがされている。したがって、
Aが自らの意思で墜落した可能性が高い本件事故
は右約款にいう不慮の事故にはあたらない。よっ
てY2社に対する右特約に基づく保険金請求は認
められない。
〔研究報告〕
3.Ylに対する保険金請求について
(1)Ylによる、養老保険普通約款に付加されてい
る被保険者死亡の場合の災害割増特約ないし傷害
特約に基づく保険金は、被保険者が不慮の事故に
よる傷害を直接の原因として死亡したとき(災害
割増特約第6条(1)、傷害特約第8条第1項(1))
に支払われるところ、不慮の事故とは、偶発的な
災厄または予期あるいは意図されなかった事故に
外来の事故で、かつ昭和42年12月18日行政管理庁
告示152号に定められた分類項目中下記のものと
し、分類項目の内容については「厚生省大臣官房
統計調査部編、疾病、傷害及び死因統計分類提要
昭和43年版」によるものとするとある。そして、
右該当分類には、「不慮か故意かの決定されない
当項目(事故)を分類し、一表として記載してい
る。その別表に次の文言で「不慮の事故」を想定
している。
高所からの墜落」は含まれていない。したがって
保険金を請求する側、すなわちⅩらの側に、不慮
の事故であることの立証責任があるというべきで
ある。
または体質的な要因を有する者が軽微な外因
により発症しまたはその症状が増悪したとき
には、その軽微な外因は急激かつ偶発的な外
来の事故とはみなしません。)で、かつ、昭
和53年12月15日行政管理庁告示第73号に定め
ところで、前記認定のとおりAの墜落状況や自
殺の原因となりうる病状が存在したことからは、
Aが高速道路路側壁から自らの意思で墜落した可
能性が極めて高いから、少なくとも、「不慮か故
意かの決定されない高所からの墜落」により死亡
したといわざるを得ず、結局、不慮の事故により
羞票芸霊雲上孟芸票差完孟;呈蒜讐冒票 へ
害を被ること」である。
約款上は、「対象となる不慮の事故」として該
・対象となる不慮の事故
急激かつ偶発的な外来の事故(ただし、疾病
られた分類項目中下記のものとし、分類項目
の内容については、「厚生省大臣官房統計情
報部結、疾病、傷害および死因統計分類提要、
昭和54年版」によるものとします。
死亡したと認めることはできない。
(2)なお、Ⅹらは、Aが、自動車事故により精神的
衝撃を受け、その影響下に路側壁から墜落した可
能性があるとして、自動車事故自体を不慮の事故
ととらえ、それによる傷害を直接の原因として墜
上記の規定より「不慮の事故」の特徴または構
成要件として、
a.外来的なものであること
b.偶発(然)的なものであること
C.急激的なものであること
落、死亡したと主張し、右に沿う意見もある。し
かし、Aが本件自動車を降り、ドアを閉めて、後
方に回り、路側壁を乗り越えて墜落したという状
況からは右主張の事態は到底考えにくく、採用の
限りではない。よって、Yl社に対する右特約に
基づく保険金請求は認められない。
d.別表として記載のある事故一覧表(E分類
表)に該当すること
としている。
また、約款上の災害死亡保険金支払事由には、
前述のa∼dと合わせ「不慮の事故をr直接の原
因』として保険期間中に死亡したとき」と規定さ
れている。
これら(a∼dおよび直接の原因)については、
一般に次のように意義付けられている。
4.Y2社に対する保険金請求について
.Y2による利益配当付養老保険普通保険約款に
10
1.設問1について
不慮の事故の一般概念は「思いがけない災難、
(
(1)外来牲
・何らかの外的要因(身体への外部からのカー
/ヽ
いものではなく、一般の医学常識・経験則上
から蓋然性の認められることであり、また初
発原因と傷害結果(死亡・障害・入院)との
間に通常の成り行きとして合理的・蓋然的連
続関係が存在していれば、初発原因は傷害結
果の「直接の原因」と解される。
外力)が加わることであり、内因原因(身体
の内部的要因一病的原因)と区別される。
なお、身体に外部からの原因によって生じる
受傷は必ずしも身体の表面(外側)にある必
要はない。
(災害関係特約支払査定基準 保険金委員会
平成4年4月発行)
・傷害の原因が被保険者の身体の外からの作用
であることをいい、身体の内部に原因するも
のは除外される。
ただし、因果関係という観点から次のような諸
説がある。
(西島 梅治 保険法)
(2)偶発(然)性
・被保険者の故意に基づかずかつ予期し得ない
突発的な原因から生ずることをさすと考えら
れるが、予期し得る原因から生じた結果であっ
ても、その経過において予期し得ないできご
a.条件的因果関係
「少なくともAという行為がなければ、Bとい
う結果は起こり得ない」といった行為と結果と
の条件関係であれば、その行為はすべて原因で
あり結果Bに対して因果関係を持つとする考え
方。
とが加わり、それが結果に対して重大な影響
を与えている場合、やはり偶発的なものとし
て取り扱う。
(災害関係特約支払査定基準 保険金委員会
平成4年4月発行)
しかし、この説は実際の適用上因果関係の範囲
が無制限に広いものとなるため、この不都合を
救済するため「因果関係の中断」の理論が考え
出された。
b.割合的因果関係(過失割合認定基準)
・被保険者にとって予知できない原因から傷害
の結果が発生することをいう。
被保険者自身に意思に基づく行為により事故
因果関係の中心的課題は、考えうる原因が傷害
と疾病が併存するときの原因の認定であるが、
を誘致した場合や、事故そのものは被保険者
の関与なしで発生したが被保険者が事故の発
生を予知し、これを防止できたのに、放置し
ていた場合には保険者は免責される。
(西島 梅治 保険法)
(3)急激性
′■ヽ
く他の要素が入ってはならないという程の強
・原因から結果に至る過程において、結果の発
生を避けえない程度に急迫した状態を意味す
るものと解される。
したがって、慢性・反復性・持続性の強いも
のは急激性が否定される。
(災害関係特約支払査定基準 保険金委員会
平成4年4月発行)
・事故が突発的に発生し、原因となった事故か
ら結果として傷害が発生するまでのプロセス
が直接的で、時間的間隔のないことをいう。
(西島 梅治 保険法)
(4)不慮の事故を「直接の原因」として
・「不慮の事故」と結果(死亡・障害・入院)
との間に密接な因果関係が認められなければ
ならないという趣旨である。
なお、「不慮の事故」から結果までの間に全
(災害関係特約支払査定基準 保険金委員会
平成4年4月発行)
交通事故損害賠償請求訴訟の例においては、
「交通事故も直接の原因であり、その寄与度を
10%であると算定し保険金の10%支払請求を容
認する」(名古屋高金沢支部昭和62.2.18)との
判断が示された。ただし、これが生命保険の傷
害特約での解釈にも適用できるか否かは、定額
性という原則において困難であると考えられる。
C.相当因果関係
事故と疾病が併存して身体障害を生じた場合、
事故の方が相当と認められる限り疾病の存在は
無視される。「・・・事故と死亡との間に条件
関係があるだけでは足らず、相当関係があるこ
とを要するのはむしろ自明のことでもあるが・‥
当該事由と結果との間に相当関係が認められな
い限り、その死亡に関して本件特約を適用でき
ないことは保険約款上でも、明らかである。
(東京地裁昭和56.10.29)」に代表されるよう
に現在の判例ではこの考え方を示すものが多い。
d.近因の法理
英法の近因の法理によれば、傷害が疾病を悪化
させ、あるいは疾病の存在が傷害の結果を重大
化させた場合、二つの競合的原因の、いずれも
が死亡等の原因(近因)とされ、約款で除外さ
11
れていない限り、傷害の当然の結果として保険
保護を受けうるとされている。「・・・傷害と
死亡との間に特に直接の因果関係の存在を求め
ているのは、当該傷害が死亡の結果について主
要な依存原因がおおむね同程度に影響を与えた
ことが認められればそれで足り、それ以上に他
の併存原因と比較してより有力な原因であると
認められることまでは必要としないと解するの
が相当である‥・(大阪高裁 昭和56.5.12)」
のように「近因の法理」を適用したものも存在
する。
2.設問2について
(1)判旨の論理構成について
《第一審判決について〉
・事故を原因とする外傷性脳内出血を直接の原
因として発症したものであるとまでは断定で
きず、他に証拠もなし。
・脳内出血の発症または、その後の経過に事故
が何らかめ影響をあたえているとしても、偶
発的な外来の事故を直接原因とするものとは
言えない。
なんらかの影響を与えている可能性は否定して
いないのに、請求を棄却したことから考えると、
事故と死亡との間の因果関係について条件説では
なく、相当因果関係を採っていると考えられる。
〈第二審判決について〉
12
による外傷は該当しないとし、保険金の請求を棄
却している。
第二審は、脳内出血を原因とする事故招致の可
能性に言及し、その可能性を肯定した上で、外来
性を否定した。即ち、第一審では少なくとも事故
(外傷)による死亡という可能性は低いのだから、
外来性および因果関係を認定できないというスタ
ンスだが、第二審では死亡に因果関係を与えた原
因についてもう一歩踏み込み、脳内出血という内
的要因が原因である可能性が高いとし、外来性を
否定するにまで至っている。
私見では、道路の幅員や、見通しの状況等(事
故に至るまでの経緯とAの態様)から考えると、
停止中の自動車に接触する時点で、すでに身体の
異常をきたしていたと考えるのが経験則上妥当で
はないかと考える。そこで第二審に賛成である。
′ヽ
3.設問3について
災害関係特約において対象となる「不慮の事故」
については約款上、「急激かつ偶発的な外来の事故
(ただし、疾病または体質的な要因を有する者が軽
微な外因により発症しまたはその症状が増悪したと
きには、その軽微な外因は急激かつ偶発的な外来の
事故とはみなしません。)」で、かつ、昭和53年12
月15日行政管理庁告示第73号に定められた分類項目
中のものとし、分類項目の内容については、「厚生
省大臣官房統計情報部編、疾病、傷害および死因統
計分類提要、昭和54年版」によるもの(当社約款よ
り)としている。
・事故当時の事実(事故に至る経緯とAの態様)
およびAの既往症を、詳細に認定している。
・高血圧症に起因する脳内出血を惹起したその
影響下での事故の可能性十分にあり。
約款へのこの記載の編入については、次のような
目的が考えられる。
(1)国際比較等を行うために疾病、傷害および死因
について諸統計をベースとして国が作成しており、
・外来の事故によって被った傷害の直接の結果、
または、外来の事故を直接の原因とするもの
とはいえない。
第一審と異なり、因果関係を持ち出す以前に死
亡という結果を生んだ原因について外来性を認め
権威のある資籾といえること
(2)災害関係特約において不慮の事故の範囲をでき
るだけ正確にし、各生命保険会社間および査定担
当者間において、取扱いに差異がないようにする
ため
以上の目的から、昭和39年の災害関係特約創設時
ず、内因性の原因、すなわち既往症である高血圧
症に起因する脳内出血であるとほぼ認定している
ようである。
(2)第一・二審の相違について
「外来の事故」の可能性について第一審は可能
性は乏しいとしたが、第二審は明確に否定してい
る。
第一審は、相当因果関係を採り、死亡という結
果に対し、相当因果関係のある原因として、事故
より今日に至るまで、約款上記載されていると考え
られる。
では、この分類提要を実際適用する場合、なんら
かの問題は生じないのであろうか。
この点について次のような見解が示されている。
・分類提要の採用により、生命保険会社は処理を
明確にし、各社間の取扱いの差異を避けること
が可能となろうが、「基本分類表番号」の内容
を知ることは実際上困難であり、これに該当し
(
ないからといって不慮の事故性を否定すること
はできないであろう。
が判決においてその事実を要件とする自己に有利
な法律効果の発生が認められないことになるとい
う危険または不利益を負わされている。この危険
または不利益を客観的証明責任(立証責任・以下
(古瀬村 邦夫 ジュリストNo.769 生命保
険契約における傷害特約)
約款上、分類提要は引用資料として記載があり、
その拘束力については次の3つの説に分けられる。
a.<約款編入肯定説>
・約款に引用されている以上約款に編入され約
「証明責任」という)といい、どちらの当事者に
不利益にその事実の存否を仮定するかの定めを証
明責任の分配という。
一般には権利関係の発生・変更・消滅等の法律
款と一体となって拘束力を有するとする考え
方。
b.<約款編入否定説>
・約款に引用されていても、その趣旨からみて
保険事故の例示にすぎず、約款としての拘束
効果を主張する者は、これを直接規定する法条の
要件事実の証明責任を負うとする法律要件分類説
が通説とされている。
・法律要件分類説
・権利根拠事実=権利者が証明
力を有しないとする考え方。
C.<制限的約款編入肯定説>
・約款への引用の趣旨と方法によっては約款と
しての拘束力が認められる場合もあるが、そ
の内容によって不意打ち条項として拘束力が
排除されるとする考え方。
・権利障害事実、権利減却事実=相手方が証明
(2)「不慮の事故」の証明責任
現在、不慮の事故における証明責任の負担者に
ついて、学説によれば不慮の事故の要(外来性、
偶発性、急激性)のうち、「急激性」と「外来性」
の2要件については請求者側に証明責任があると
前述の古瀬村先生のご見解は、上記の<約款編入
否定説><制限的約款編入肯定説>を採用されてい
るものと考える。
しかしながら、分類提要自体、国家機関作成によ
る権威ある資料として位置づけられており、またそ
れを編入している約款自体も監督官庁の行政規制を
受けており、かつ、約款上の災害死亡保険金の支払
事由にも「次のいずれかを直接の原因として責任開
されているが、「偶発性」については故意免責
(自殺)と不慮の事故との関係において、不慮の
事故か故意かを決定できない場合、非故意性の証
明責任の問題として次の3つに学説が分かれてい
る。
a.請求原因説
・障害保険契約の保険事故は、身体の損傷それ
自体ではなく「急激かつ偶然の出来事による
始期以後に発生した不慮の事故(別表2)」(当社
約款より)として分類提要の使用を明記している。
したがって不慮の事故の範囲について内容的にも
契約者へ明らかにしており、<約款編入否定説>お
よび<制限的約款編入肯定説>については採用しが
′ヽ たく、現行約款の解釈上は、<約款編入肯定説>を
身体の損傷」が保険事故であり、保険金を請
求する側において傷害の原因を立証しなけれ
ばならず、また傷害の原因と傷害、および傷
害事故とその結果としての死亡、廃疾状態、
要治療などの事実との因果関係を立託しなけ
ればならない。
とってもなんら問題はないと考える。
約款の体裁に関する立法論としては、現行約款で
は「免責条項(契約者・被保険者の責任によるもの)」
と、除外項目(分類提要から不慮の事故の範囲外と
して除くもの)と別途に設けられており、「デメリッ
(石田 滴 現代法律学講座19 商法5)
b.抗弁説
・被保険者の故意の証明責任は保険者にあると
解する。簡易生命保険の傷害特約では、不慮
/ヽ
ト条項は一括して記載することが望ましい」と昭和
58年災害特約改正時に述べられたとおり、検討の余
地はある。
4.設問4について
(1)証明責任の分配の法則について
客観的証明責任(立証責任)とは、訴訟におい
て裁判所がある事実の存否につきそのいずれとも
確定できない場合、いわゆる真偽不明・ノン・リ
ケットの場合に、一その結果として、当事者の一方
の事故が「被保険者の意思によらない」とい
う要素をふくむものとなっており、同特約の
場合には、被保険者の意思によるものでない
ことを保険金受取人が立証することを要する
と解されるが、被保険者の故意を保険金免責
事由として掲げている生命保険会社の傷害特
約については、この点の証明責任は保険者に
あると解するのが適当であろう。
(中西 正明 生命保険の傷害特約概説)
C.折衷説
・「偶然」は、保険契約者、被保険者または保
13
険金受取人の故意による傷害が保険者の免責
事由とされ、その免責事由の証明責任が保険
者側にあることとの関連において、これを請
求者側の証明責任としてよいのかどうか問題
である。
事故であるか確定できなかった場合には、主契約
事故の偶然性の証明責任を保険金請求者側に
諌すると、保険者の免責事由の証明責任を転
嫁することになって不公平であるだけでなく、
被保険者側の自由意思に基づかないことの立
とれば、自殺の立証ができない時点で主契約・特
約の保険金は支払いとなる。)
しかしながら実務上、このように主契約では保
険者、特約では請求者側と証明責任が分かれるこ
とはなんら問題はないものと考える。
なぜならば、主契約と災害関係特約では、その
保障自体が異なり不慮の事故という要件の有無が
規定されているからである。
証が消極事実であるため不可能に近いので、
この一点の立証ができないために被保険者側
の請求がつねに棄却されるのは妥当でないか
ら、立法論としてはもちろん、解釈論として
も、偶然性の証明責任は保険者にある。
(西島 梅治 保険法)
(3)同時請求時の自殺免責等の証明責任
証明責任の分配によれば、保険金支払の免責事
由たる「自殺」の証明責任は保険者が負担し、一
方保険金受取人は、死亡保険金については保険事
故発生の事実を証明すればよく、その死亡が免責
事由である「被保険者の自殺」によるものである
ことは、保険者が立証しなければならないと解さ
れている。
・自殺であることの証明責任は保険者にあり、
被保険者の精神障害等の事由についての証明
責任は保険金受取人にあると解するのが、公
平であろう。
(西島 梅治 保険法)
・保険者の免責事由である被保険者の自殺につ
いて、その証明責任が保険者にあること、ま
た自殺である場合には、それが精神障害によ
るものであることの証明責任については、そ
れが保険金受取人側にあることは言うまでも
ない。
(鴻 常夫 生命保険判例百選149貢)
の保険金については保険者が不利益を負い、保険
金支払いとなり、災害関係特約については、請求
者が不利益を負い、災害死亡保険金不払いとなる。
(故意性の証明責任が保険者にあるとする立場を
ただし、約款には保険金を支払わない場合とし
て「被保険者の故意または重大な過失」をあげて
いるため、この規定から被保険者の故意・重大な
過失は免責事由となり、保険者において免責事由
たる自殺を立証しなければならないのではないか
とする見解もあるが、免責事由に「被保険者の故
意」をあげていることは当然のことを確認的(注
意的)に記載したと考えるべきであり、これによっ
て証明責任が保険者に転換されたとは思われない。
しかしながら、立法論的には免責事由から被保
険者の故意を削除すべきものと考える。
5.設問5について
・Aの死亡が約款に定める「不慮の事故」による
ものかどうかについてが争われている。
・判旨は、
(1)・Aが倒れていた地点から考えると、Aが
自らの意思で路側壁を蹴って飛び降りた
ことを強く推認させるものであったこと
・Aには、うつ病の病歴があり、医師の診
断では「邑殺念慮が強い」とされており
通院状況から治癒したとも思われないこ
と
14
′ヽ
したがって、「主契約に基づく保険金」の請求
の場合、保険者に自殺の証明責任があると考えら
れるが、「災害関係特約に基づく保険金」が同時
以上からAの墜落による死亡は自殺による可
能性が高いとしている。
(2)分類提要の分類項目の一つである「不慮か
に請求されていた場合、次のような矛盾が生じる。
つまり、災害関係特約における証明責任におい
て前述の「請求原因説」を採用した場合、主契約
については、保険者に自殺の証明責任があり、特
約については非故意性(自殺ではない)の証明責
任が請求者側にあることになり、一つの事項に対
して保険者と請求者側が証明責任を負うこととな
る。
訴訟において、裁判官が自殺であるか、不慮の
故意かの決定されない損傷」が約款に含まれ
ていないことを根拠とし、証明責任を請求者
側に負わせていることから考えると「約款編
入肯定説」を採っている。
(3)請求原因説を採っている。
(4)上記(1)(2)(3)より、「不慮の事故」を否
認し、請求を否定している。
(5)さらに、自動車事故→精神的衝撃→墜落→
死亡という過程から、自動車事故自体を「不
(
虞の事故」ととらえ、それによる傷害を直接
の原因として墜落、死亡したもの(条件的因
果関係説)が、約款に定められた不慮の事故
に該当するか否かについては、条件的因果関
係説を否定も肯定もせず、当案件の状況(詳
しくは述べられていないが)から採用できな
いとしている。
私見ではあるが、結果を見ると約款編入肯定説お
よび請求原因説を採っていることから妥当な決定と
思量する。
しかしながら、条件的因果関係説について言及し
ていない点については検討の余地があると思われる。
′ヽ
《参考(引用)文献》
・大森 忠夫 保険契約法の研究
・西島 梅治 保険法(新版)
・青谷 和夫 保険約款演習
・古瀬村邦夫 生命保険契約における傷害特約
ジュリストNo.769
・保険金委員会 災害関係特約支払査定基準
平成4年4月発行
・生命保険判例百選増補版
・文研保険事例研究会レポートバックナンバー
急激性・偶然性それぞれを要件と考えるか
a.外来性・急激性・偶然性をそれぞれを要
件とする考え方もある
b.不慮の事故を要件と考え、外来性・急激
性・偶然性は、その判断ファクターと考
えることもできる
2.不慮の事故による「傷害」の意義
(1)原因事故による「傷害」は、身体の外部・
内部を問わない
(2)身体内・外の損傷及び機能傷害を含む(疾
病との区別が困難な場合がある)
3.不慮の事故による傷害と死亡との「直接の因
果関係」
(1)条件的因果関係説
a.先行事実と後行事実との間に条件関係が
あること
b.条件関係にあるものを「同等」に見る
(同等説)
(2)相当因果関係説
a.条件的因果関係があるとされた場合に、
原因と結果とが、経験則上、相当な適合
関係にある場合をいう
b.近因説、最有力原因説との異同について
(大阪高判昭和56.5.15はいずれの説によっ
ているものか)
〔講師のコメント〕
(松岡弁護士)
′ヽ
第1.「不慮の事故」等の意義について
1.「不慮の事故」の意義
(1)外来性
a.身体外的原因によること
b.身体内的(病的)原因を除く趣旨である
(2)急激性
a.結果の発生を避け得ない程度に急迫した
原因によること
b.予見・回避が可能な場合には、急激性が
ないとされ、「偶然性」を補完するもの、
といわれる
C.慢性的、反復的、持続的な原因を除く
(3)偶然性
a.被保険者の故意(主観的行態)に基づか
ないこと
b.予想し得ない突発的な原因によること
C.契約成立時の「不確定性」とは異なる
(4)引用にかかる「分類提要」の拘束力がある
ときは、その該当性(間3の問題)
(5)保険事故の要件としては、「不慮の事故」
そのものであるか、それとも事故の外来性・
第2.判例Iについて
本判決は、本件事故の「外来性」を否定した。
1.事故後の状態
(1)降車したが、酒に酔ったような足取り、ろ
れつが回らない
(2)路上にしゃがみ込むように倒れ、意識がな
くなった
2.Aの身体状態
(1)左片マヒ、意識障害、顔面は擦過傷程度
(2)右脳内出血
(3)脳内出血後に意識障害、追突事故と診断さ
れる
(4)高血圧による脳内出血の可能性が高い
3.事故前の病状
(1)高血圧の治療 血圧の動揺、服薬
(2)昭和63年には言語障害
4.既往の高血圧症に起因する致命的な脳内出血
の惹起、その影響下での本件事故の発生
第3.引用にかかる「分類提要」の拘束力の有無に
ついて
1.約款編入肯定説(東京地判平成2.3.5レポ74
15
号および本件判例II)
(1)約款中に引用され、約款と一体をなして拘
束力を有する
(2)公用のものとして作成された
2.約款編入否定説
(1)「分類提要」の内容を知ることは困難で、
約款以外の資料を引用して保険事故の範囲
を示すことはできない
(2)引用資料は、例示にすぎず、約款としての
効力を有しない
(3)除外項目を明示するところに重点があるが、
これに該当しないからといって「不慮の事
故」性は否定されない
3.制限的約款編入肯定説
(1)約款上具体化されている範囲では、契約内
容として拘束力を有し
(2)契約者側に不利益であるときは、不意打ち
条項として一部又は全部の無効として救済
すべきものとされる
第4.「不慮の事故」(とくに、偶然性)の証明責
任について
1.いわゆる「証明責任」(客観的証明責任)
(1)一定の事実の存否が確定しないため、自己
に有利な法律効果の発生(又は不発生)が
認められないこととなる当事者一方の不利
益又は危険をいう
(2)事実が不明な場合でも、当事者の紛争を解
決するための法的判断を要するためである
(3)証明責任は、法律関係ごとに最初から当事
者の一方に定まっているものであって、後
から転換するとか、双方に反対の証明責任
があるとかというものではない。但し、法
解釈によって、一方から他方に証明責任を
転換することはあり得る
2.証明責任の分配の原則(法律要件分類説)
(1)自己に有利な法律効果の発生を定める規定
(権利根拠規定)に定める要件事実一その
効果を主張する者
(2)根拠規定に基づく法律効果の発生を障害す
る要件を定める規定(権利障害規定)に定
める要件事実一権利発生の効果を争う者
(3)権利行使を一時的に阻止する要件を定める
規定(権利阻止規定)及び権利の消滅を定
める規定(権利減却規定)に定める要件事
実−その効果の阻止・消滅を主張する者
(4)上記(2)の権利障害規定の証明責任をめぐっ
て、新説が提唱され、次の諸点を考慮して
16
決定すべきであるとする
a立法者の意思、b証拠との距離、C立証の
難易、d事実存否の蓋然性
3.立証の必要(主観的証明責任)
(1)客観的証明責任を前提としたうえで、当事
者が自己に有利な裁判を得ようとして証拠
を提出する当事者の行為責任
(2)例えば、原告の立証によって裁判所が確信
を得ている状態にあるときに、被告がその
確信に動揺を与えるため、反証活動をする
ことにより、証明責任領域(真偽不明の状
態)に引き戻す被告の証明活動
(3)裁判所の心証形成・証拠評価にあたっては、
証拠との距離、立証の難易、事実の存否の
蓋然性などが影響する(立証活動において
問題となる)
4.「故意による事故招致」と不慮の事故におけ
る「偶然性」
(1)主契紬こおける「故意による事故招致」は、
′ヽ
「免責事由」として、「権利障害要件」に
当たり、保険者に証明責任がある
(2)特約における「偶然性」の証明責任
a.特約に基づく保険金請求権の発生要件と
考える場合には、請求者に証明責任があ
る
b.これに対して、主契約におけると同様に、
免責事由と考えるときは、保険者が証明
責任を負う
(3)証明責任は、法律関係ごとに(主契約に基
づくか、特約に基づくか)別異に定まるも
のであり、真偽不明の場合に、いずれの当
事者の不利益に帰するかを定める原則であ
る
そけゆえ、次のように考える
故意 不明 不慮の事故
主契約(保)免責(保)支払 支 払
特 約 (受)不払 (受)支払
()内は、証明責任を負う者
第5.判例IIについて
1.墜落地点と墜落原因
(1)高速道路から8.75m下、路側壁から4.4m
(2)路側壁縁石に乗り上げ、車体を衝突させた
(3)路側壁に乗り、蹴って墜落、頭部強打
2.事故前の病状
(1)自殺企図、割腹、不安焦燥感
(2)うつ病に羅患、治療していた
3.「分類提要」には「不慮か故意かの決定され
(
ない高所からの墜落」は含まれておらず、請
求者に証明責任がある、と判示した
4.精神障害(本件では、うつ病)による事故の
場合、外来性を有しないと思われる
(岡野谷弁護士)
従来の裁判例においては、支払事由の証明責任
(偶発性を含め)は請求者側にあるとしており、裁
判所の一般的立場と思われる。
・参考
判例時報1455号 仙台地判平成4.8,20
不慮の事故の立証責任……請求者
/ヽ
免責事由(重大な過失)の立証責任
… …保険者
ただし、約款の文言(支払事由と免責事由の関係)
については、将来的に見直す必要があると思われ
る。
(東京H5.12.16)
報告:ソニー生命 国分 勇司 氏
出題:弁護士 松岡 浩 氏
指導:松岡弁護士、岡野谷弁護士
′ ̄ヽ
17
′ヽ
(
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18
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振 替 日座 人阪4 −2989 爵/取 引銀 行 は 長銀行 中之島 支店 普通440 133 ・ 三和銀 子川 一之烏 麦lJi 洋通33460 6
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