...

ファンドニュース ファンド投資のモニタリング手法

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

ファンドニュース ファンド投資のモニタリング手法
ファンド ニュース
<解説シリーズ>ファンド投資のモニタリング手法
①AIJ事件の概要とファンド監査報告書の利用
2013 年 2 月
はじめに
このたび、私どもあらた監査法人は「ファンド投資のモニタリング手法」と題した書籍を発行いたしました。2012 年に発生
した AIJ 投資顧問株式会社(以下「AIJ」)による年金資産消失事件を受けて、ファンド投資の信頼性の確保に向け、各業
界においてさまざまな対応が検討されています。こうした社会の流れを受けて、ファンド投資のモニタリングを行う上で必
要な手法や重要な知識、スキーム、海外ファンドの仕組みや規制、また、SSAE16 および GIPS などの利用の仕方につい
て、監査人としての視点から解説した書籍となっています。
本ファンドニュースでは、数回のシリーズとして、「ファンド投資のモニタリング手法」の内容について説明します。第 1 回
は、AIJ 事件の概要、米国のマドフ事件の概要、およびこれらの事件から考えられるファンドの監査報告書を利用する場
合の留意点について簡単に解説します。なお、詳細については当該書籍をご参照ください。
AIJ事件
1.事件の概要
AIJ は投資一任契約を締結している年金基金などの顧客に対し、かかる投資一任契約に基づく運用対象資産として
AIJ が運用している外国投資信託「AIM グローバルファンド」(以下「AIM ファンド」)の買付けを指図していましたが、
顧客に対して AIM ファンドの各サブファンドについて虚偽の基準価額を算出・報告していました。1
AIM ファンドは、2003 年 3 月期から 2011 年 3 月期の間に年金基金などから 1,458 億円を受け入れましたが、同期
間のデリバティブ取引において 1,092 億円の運用による損失を計上した結果、2011 年 3 月期の純資産は 251 億円
まで減少していたといわれています。2 AIJ は AIM ファンドの運用に失敗していたにもかかわらず、金融庁や年金基
金などに対して安定的に利益を上げているものとして事業報告書および運用報告書において虚偽の報告を行って
いました。年金基金などへの虚偽の報告は運用当初から行われていましたが、10 年近くの間それが発覚することは
ありませんでした。
1 出典:関東財務局「AIJ 投資顧問会社に対する行政処分について」平成 24 年 3 月 23 日
2 出典:証券取引等監視委員会「AIJ 投資顧問株式会社に対する検査結果に基づく勧告について」
(参考資料
資金の収支概要、デリバティブ取引損益及び純資産額の推移)平成 24 年 3 月 23 日
AIM グローバルファンドの
2.なぜ虚偽の報告が発覚しなかったのか?
AIM ファンドの基準価額は、AIJ から独立したアドミニストレーターにより算定されていました。アドミニストレーターによ
り正しく算定されていた基準価額は、AIJ の関連会社であり AIM ファンドの管理会社である AIM インベストメント・アド
バイザーズ・リミテッド(以下「AIA」)に連絡され、この時点で基準価額の改ざんがなされていたといわれています。改
ざんされた基準価額は①AIJ および ITM 証券、②信託銀行、③年金基金の順で連絡されましたが、ITM 証券は AIJ
が実質的に支配している関連会社であったことから3、有効なチェック機能が働きませんでした。
また、AIM ファンドを ITM 証券の保護預りとするように AIJ からの指示があったため、その名義人が ITM 証券となっ
ており、信託銀行が海外のアドミニストレーターに対して直接基準価額の照合ができなかったとされています。すなわ
ち AIJ は、ITM 証券を用いることで、信託銀行が AIM ファンドの基準価額に対して適切なチェックを行うことが困難な
スキームを作りだしていました。
一方、AIM ファンドについては、監査法人による監査が行われており、監査はアドミニストレーターが基準価額を算定
する際に使用している情報、すなわち改ざんが行われる前の情報をもとに実施されていたといわれています。しかし
報道などによると、監査報告書が添付された運用報告書は、AIA を通じて名義人である ITM 証券および AIJ に送付
され、AIJ は当該運用報告書に記載されている基準価額の水増しを行い、それを年金基金に開示していたとされて
います。すなわち、正しい情報に基づき監査報告書が発行されていたにもかかわらず、それが信託銀行などの第三
者に送付されることはなく、AIJ およびその関連会社のみを通して送付されていたため、報告書の偽造が発覚しませ
んでした。
マドフ事件
1.事件の概要
マドフ事件は、一言でいえば巨大なポンジスキーム(日本でいうねずみ講)により、被害者約 1 万 1000 人、被害総額
650 億ドルをもたらした事件です。首謀者であるバーナード・マドフは、自身で設立したマドフ証券という会社の経営
者であるとともに、NASDAQ を創設した人物でもあります。一方で、バーナード・マドフは「マドフ投資の会」を作り、副
業として投資顧問業も行っており、この投資顧問業において不正が行われていました。
マドフ投資の会は年率 10%から 12%の安定した配当を行っていることから、大手金融機関を含む多くの投資家がフ
ァンド4を通じて投資していましたが、実際にはマドフ投資の会における投資運用は行われておらず、新たな顧客から
集めた資金を既存の投資家に配当しているだけでした。マドフによる不正は 20 年以上続きましたが、2008 年 9 月の
リーマン・ショックにより、投資家が一斉に資金の引き揚げを行ったため、資金ショートを起こし事件が発覚しました。
2.なぜ虚偽の報告が発覚しなかったのか?
一般に、ポンジスキームによる不正は長続きしないのが特徴ですが、マドフ事件ではポンジスキームが 20 年以上続
きました。バーナード・マドフが NASDAQ の初代会長という著名な人物であったことから、そのような人物が不正を働
いているはずがないと多くの投資家が考えていたことが要因の一つとして挙げられますが、もう一つの大きな要因は、
マドフ投資の会自体はヘッジファンドではなく、マドフ証券の証券口座であったために、ヘッジファンドであれば通常
存在するサービス・プロバイダー(プライム・ブローカー、カストディアン、アドミニストレーター)によるチェック機能を、
自身が経営するマドフ証券を使用することで無効化していた点です。
またマドフ証券の監査は、役職員3人の小規模監査法人が行っていました。監査法人の規模から考えて十分な監査
が行われていたとは考えられておらず、また、クライアントがマドフ証券のみであったことから、バーナード・マドフとの
間で独立性が確保されていなかったといわれています。
3 AIJ は AIM ファンドを通じて ITM 証券に 10 億円の出資を行っていたことから、実質的に AIJ に支配されていたものと考えられます。
ITM 証券は AIJ とともに年金基金向け営業・仲介業務を行っていました。
4一般に「マドフファンド」や「マドフ関連ファンド」と呼ばれているものは、マドフ証券の証券口座に投資しているファンドを指してい
ます。
なお、マドフ事件後に SEC(米国証券取引委員会)は US カストディルールを改定し、会計士による予告なしの検証
手続(Surprise Examination)の実施、会計士が作成する内部統制報告書(Internal Control Report)の入手、カストデ
ィアンから投資家への口座ステートメントの送付といった対応策により、同種の不正が起こらないように規制を強化し
ています。
両事件の共通点とファンド監査報告書の利用における留意点
AIJ 事件とマドフ事件の不正のスキームは異なりますが、両者には共通する点があります。
まず、本来機能するべき第三者のチェック機能を、関係会社や自身が経営する会社を用いることによって無効化してい
る点です。AIJ 事件においては ITM 証券を用いることで信託銀行のチェック機能を無効化し、マドフ事件においてはマ
ドフ証券を用いることでカストディアンなどのチェック機能を無効化していました。従って、ファンド運営に関与している会
社の関係性(例えば会社間の資本関係や取締役の兼任状況など)を把握することは、不正を行う機会が存在し得るか判
断するために有益であると考えられます。
次に、監査報告書が添付された運用報告書を偽造したり、信頼性の低い監査法人を意図的に選定したりすることによっ
て、監査人によるチェック機能を無効化している点についても共通しています。ファンドが監査を受けているか否かを確
認するとともに、以下の点に留意することが有益であると考えられます。
監査人の独立性の確認
ファンド監査が適切に実施されるためには、運用会社などから独立した監査人が監査を実施する必要があり、独立性の
確保は監査の前提となるものです。マドフ事件のように、極端に小規模の監査法人が監査を行っている場合には独立性
が害されている可能性に留意する必要があります。また、運用会社がどのような判断基準で監査人を選定しているかを
確認することも効果的であると考えられます。
監査人の信頼性の確認
監査人がファンドを監査するうえで十分な能力と信頼性を有していることを確認する必要があります。特に流動性が低く
時価の取得が困難な有価証券などに投資するファンドの場合には、十分な専門知識と経験を有した監査人でなければ
十分な検証を行うことが困難になります。監査人の規模や実績、評判などを確認することが効果的であると考えられます。
監査報告書の入手
実際に監査報告書を入手し、監査意見の内容(適正意見が付されているか)を確認するとともに、AIJ 事件のケースのよ
うに監査報告書を入手する過程で改ざんされている可能性がないか確認する必要があります。
おわりに
AIJ 事件を受けて、ファンド監査に対する期待がより一層高まっています。ファンド監査が実施されることにより、ファンド
財務諸表の信頼性が確保されるとともに、不正行為の抑止力になることが期待されます。
このたび発行した書籍「ファンド投資のモニタリング手法」では、年金基金の投資運用関係者などファンド運用をモニタリ
ングする方のみならずファンドの投資運用に広く関連する方にとって有用なものとなるよう基礎知識から平易に解説して
います。多様化する年金資産、コンプライアンス要件への対応、不正防止対策のヒントとして、本書籍がお役に立てば幸
甚です。
文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを申し添えます。
あらた監査法人
第3金融部(資産運用) ディレクター
今福 太一
あらた監査法人 第3金融部(資産運用)
お問い合わせフォーム
本冊子は概略的な内容を紹介する目的で作成されたもので、プロフェッショナルとしてのアドバイスは含まれていません。個別にプロフェッショナル
からのアドバイスを受けることなく、本冊子の情報を基に判断し行動されないようお願いします。本冊子に含まれる情報は正確性または完全性を、
(明示的にも暗示的にも)表明あるいは保証するものではありません。また、本冊子に含まれる情報に基づき、意思決定し何らかの行動を起こされ
たり、起こされなかったことによって発生した結果について、あらた監査法人、およびメンバーファーム、職員、代理人は、法律によって認められる範
囲においていかなる賠償責任、責任、義務も負いません。
© 2013 PricewaterhouseCoopers Aarata. All rights reserved. In this document, “PwC” refers to PricewaterhouseCoopers Aarata, which is
a member firm of PricewaterhouseCoopers International Limited, each member firm of which is a separate legal entc 2013
PricewaterhouseCoopers Aarata. All rights reserved. In this document, “PwC” refers to PricewaterhouseCoopers Aarata, which is
a member firm of PricewaterhouseCoopers International Limited, each member firm of which is a separate legal entity.
Fly UP