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「IT先進国の国際競争力強化プログラムを探る」 海外調査
情報化レビュー 情報化・生産性評価基準プロジェクト報告 「IT先進国の国際競争力強化プログラムを探る」 海外調査 「情報化・生産性評価基準プロジェクト」では、2002年10月3日∼13日、スイス(ジュネーブ) 、フィンラ ンド(ヘルシンキ) 、スウェーデン(ストックホルム、マルメ)各都市の政府・公的機関・企業を訪問し、ITを 如何に活用して経済構造改革と活性化を達成したか、その成功要因およびその背後にある努力や叡智に学ぶことを 目的とした聞き取り調査を行った。 北欧のIT産業成長基盤と競争力評価 北欧諸国の産業は、1990年代前半のバブル崩壊後、 大きな不況に見舞われ、国家政策により従来型産業 の改廃に加えて、知識集約型産業の育成を目指す転 換が行なわれた。国民及び産業支援をネットワーク コンピューティングの普及に的を絞って行った結 果、IT産業が興隆し、世界的IT需要の流れとも タイミングが合い、GDP(国内総生産)はヨーロッ パの平均を上回る成長を保持し、IT関連産業を中 心に世界で有数の競争力を持つに至った。また、別 の観点から、毎年国際競争力評価を発表しているス イスのIMD(International Institute for Management Development)とWEF(World Economic Forum) を訪問し、国の競争力とITの関係およびその評価 基準についてもインタビューを行った。 げを図っている。また、現在のIT基盤整備は、 「過渡期の措置」として位置付け、将来、ナレッジ ベースの産業社会像を想定し、産業省(R&D)、労 働省(雇用開発)と教育省(HRD)と通信省(イ ンフラ整備)的な機能を統合し,教育の中で如何に ITを実践的に活用していくかを考えている。また、 人口規模の小さな国としてのイネーブラーを有利に 活用している。同一業界のエキスパートは、知り合 いであることが多く、認識と情報の共有化、合意形 成がしやすいということでビジョンや具体的施策決 定と実行のスピード化が図られている。 ベンチャー育成機関では,投資育成対象のドメイ ンを「今まで誰もやらなかったことや分野」に定め ていた。加えて、“経済的困難こそ最良の教師であ る”との言葉は日本の現状から大変印象に残った。 また、IT化を進めていく上で,「誰にでもさわれ るように」「活用する人が分かりやすい内容にする」 「モチベーションを高め、持続する仕組みを創る」 ことの重要性に触れ、中でも、モチベーションの維 持がもっとも難しいと指摘していた。社会的普及の 一環としてCDL(コンピュータ・ドライビング・ラ イセンス)と言うプログラムの開発と資格認定を行 い雇用開発にもつなげている。このカリキュラムで は、簡単なレベルからワイヤレスを駆使出来るレベ ルまでのプログラムを展開しており、440の公的お よび民間の教育機関にプログラムと卒業試験と認証 を提供し、既に人口の2%がAレベルの資格を取得 Source:OECD Science,Technologies and Industry Scoreboard, 2001 国民全体のIT活用能力向上を 図るフィンランド この国では、IT化(北欧ではICT:Information and Communication Technologyを代替用語として 使う場合が多かった)を国家の重要戦略として位置 付けすることにより如何に企業活動を行い易くする かに焦点を集中させている。一方で、競争戦略とし てのR&Dの一環であるとともにその活用能力の向 上を社会政策としても位置付け、国民全体での底上 2 フィンランド情報交通省 Information Society Advisory Boardとの意見交換 2002-11 No.94 情報化レビュー している(このモデルが元になって,96年からEU レベルの「ECDL」が展開されている)。ここでの 印象的な話は、ITの活用によって一番インパクト があったことは、北欧の辺境意識や孤立感がインタ ーネットによる安価で簡易なコミュニケーションに よってかなり緩和されたとのことであった。 通信基盤整備の進んだスウェーデン 伝統的に通信基盤の整備が進んでいるスウェーデ ンでは、1900年以前から電話の普及率で見ても、ス トックホルムは、ニューヨークやパリより上回って いる歴史的事実がある。また、国の市場規模の限界 やハンザ同盟の歴史から「内外」のコミュニケーシ ョンの重要性を国民がかなり理解しており、早くか らITへの投資が行われていた。また電信電話の規 制を緩和した事により、90年代の半ばから大幅に利 用が促進されそれに伴い、競争が促進された。他方、 89年の東西冷戦の終焉は、軍需産業の縮小を促し、 重厚長大型の製造業から知識集約型産業に国全体と してシフトする必然性を高めた。現在では、ハイテ ク産業に雇用される比率が欧州先進諸国でもNo.1 の地位を保っている。また国内企業の寡占化も進み 大企業に従事している比率も他の国に比べて顕著と なっている。その他、自治体の多くが民間企業と大 学を結んだ行動プロジェクトの推進に取り組んでい るのも特徴的である。今回訪れたKISTAは、欧州 最大のIT産業の集積・サイエンスパークとして、 長期的ビジョンと戦略をもって推進しており、他の サイエンスパークとはバイオなどとの戦略的棲み分 けを行っていた。この10年間にスェ−デンでは、コ ミュニケーションに使う支出は7倍の伸びを見せて いるが、IT化が労働生産性の伸びを支えると同時 に、コストダウンに役に立っているとの事であった。 具体的には90%の企業は何らかの形で、Website を活用しており、世界の銀行での電子取引・決済な どのランキングでもベスト5にスウェーデンの金融 機関が3行も入っている。 通信基盤整備では、光ケーブルを60%の自治体が 民間と組んで敷設し、その総延長は460,000Kmに達 している。ストックホルム市内では、30%の建屋で 光ファイバーが、“ラスト1マイル”まで来ており、 その回線スピードは2∼3Gbpsとのことである。 この理由は将来の容量増加にそなえると同時に安全 保障上の基盤整備の一環として取り組まれていると の事であった。 ITの活用に関しては、ここでも2方面からの戦 略を行っている。1つは、PCが苦手な方や中小零 細企業を対象にIT活用を高める活動と、1つは、 ある程度以上の規模の企業のビジネスでのITの効 果的活用度を高めるために、マネジメントや中間の マネジャーを対象にした活動である。 2002-11 No.94 やはりスウェーデンでもベンダーと実際の導入ユ ーザー間にあるギャップや弊害を認識しており、ユ ーザーサイドに立った「e-tour」と言うプログラム (西スウェーデン及び南スウェーデン商工会議所は 工夫して独自のプログラムですすめている)の中で、 CIOではなく直接企業の「経営者」に焦点を当て、 成果を上げつつある様である。これは、ITの効果 をコストダウンとマーケッティングのチャンネルと して活用し実効性を上げるための評価と教育プログ ラムで形成されている。この活動の第一フェーズで は、ベンダーが商売抜きで協力する仕組みになって おり、その効果を認めた参加者(ユーザー)のみに 対して、商工会議所が中立的立場で、第2フェーズ でベンダーがビジネス(コンサルティングやシステ ムソリューション)を展開する事をお世話するとい う納得性の高いスキームとなっていた。 スウェーデンNutekでのITSMEsのミーティング 国際競争力を評価する機関IMD、WEF (スイス) 競争力の評価については、スイスの各機関(IMD、 WEF)でそれぞれ、独自のドメイン・評価視点を 持って活動を行っている。IMDは、調査対象国を絞 り込み、具体的なミクロの競争指標を重視し、独自 の競争力指標を売り物にマネジメント対象の教育プ ログラムやMBAをプロモートしている。企業間の 競争力を中核として国家の競争力を評価しているの がIMDの特色である。日本の競争力評価について は、プロセス革新としての能力は高い評価をしてい たが、クリエイティビティを発揮することについて は疑問を投げかけていた。 WEFでは、なるべく多くの国を対象にマクロの 成長指標としてその国の一人当たりのGDP成長率を 重視し、国全体の成長・競争力の可能性について、 投資家及びODAの参考になるような測定・評価の フレームワークを設定している。IMDよりもインデ ックスは少ない。ここではしたがって、成熟した経 済よりも発展途上の経済をより注目して見ている。 日本については、既にマスコミで報じられているよ うに、政府や公的機関の政策実行力、効率性と金融 機関の弱さが指摘されていた。 3