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エピタ

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エピタ
エピタ
第四の国はエピタ。
焼けた砂原に
影まどろむ宵闇の王国。
この地にて語られますは、
死者従えし王と、
双子の王子の物語。
■概要
エピタはリブラリア南部、カクルブ砂漠を中心に
広がる人間族の国です。国土の大半は砂漠や荒
れ野であり、あまり豊かとは言えない地域ですが、
リブラリアの東西を結ぶ陸上交通の要所として独
自の発展を遂げています。
首都は砂漠のほぼ中央に位置するオアシスの
町モーンです。第二の都市カヤブと第三の都市ミ
シャカンは砂漠への玄関口となっています。また、
それらの都市を結ぶオアシスが砂漠の各地に点
在します。
エピタの首都モーンは別名、“冥府へのきざは
し”と呼ばれています。というのは、伝承ではこの
街のどこかに死者の国へとつながる道があると伝
えられているためです。もちろん、現在ではその
道は忘れ去られており、言い伝えもただの迷信だ
とされています。しかし、モーンはリブラリアでも強
い魔法と呪いの力が残っている場所です。そして、
その力に惹きつけられ、魔術(それも、あまり良い
目的のために使われるとは言いがたいまじないの
類)を扱うものが多く集まっています。また、密か
に持ち込まれた魔法の品が怪しげな商店で取り
引きされていることもあります。特に、モーンにあ
る糖蜜通りはまじない小道として有名です。そこ
は、本来なら歩いて十数分もあれば通り抜けられ
るほどの小さな路地です。しかし、魔術の素養が
不十分な者が奥まで足を踏み入れようならたちま
ち、“あるはずのない路地”や“見たこともない広
場”に行き当たり、迷ってしまうでしょう。というのも、
この通りを根城にしている呪い師たちが、好き勝
手に(といっても、魔術師同士の間での有る程度
の取り決めや法則はありますが)道を作っている
からです。
もっとも、まじない小道に迷い込まなくとも、モー
ンは少々物騒で危険な場所です。というのも、こ
の町の裏の社会は“赤き蜘蛛”をはじめとした大
小さまざまの犯罪組織によって支配されているか
らです。彼らはモーンにおける非合法物品の売
買による莫大な利権をめぐり、終わりなき抗争を
繰り広げています。
■成り立ち:ラバダ王と冥府の笛
センクティオ消滅後の混乱期、リブラリアでは、
大陸中央部から南部にかけていくつかの国が興
りました。エピタも当初はそうした国々のひとつで
した。
エピタは南部一帯を支配し、その王国はラバダ
王の代に最盛期を迎えます。ラバダ王は野心的
な王でした。そして、自国が砂漠や荒地に囲まれ、
けして豊かではないということに不満を抱いてい
ました。また、ラバダは砂漠を超え、リブラリアの東
部に至ればそこに肥沃な土地が広がっていること
を知っていました。やがて、ラバダはカクルブ砂漠
を超え、大陸東部への侵攻を始めました。
当初、何の備えもなかった東南部の国々は、ラ
バダの軍勢を抑えることができませんでした。最
初にネルグ半島にあった小国ファハンがエピタの
支配下に置かれました。しかし、東南諸国の団結
により、それ以上の侵攻は困難となってしまいま
す。また、いかにエピタの民が砂漠に慣れている
とはいえ、砂漠を越える間の兵の疲弊は大きなも
のでした。思うように進まぬ侵攻にラバダ王は
徐々に苛立ちを募らせてゆきました。
ある時、ラバダは兵を率いカクルブ砂漠を進ん
でいました。しかし、現在のモーンのある辺りにた
どり着いたあたりで、兵士たちの間にたちの悪い
病が流行り、それ以上進軍することができなくなっ
てしまいました。
その時、ラバダ王はふと呟きました。
「疲れることも飢えることも、病に倒れることももな
い兵がいれば、どんなに良いだろうか」と。
それは、何気なく発せられた他愛のない呟きで
した。しかし、それを聞いていた者がいたのです。
ぬっと影のように王の前に現れたのは、みすぼら
しい身なりをした男でした。
「その願い、私がかなえて差し上げましょう。
私ならば、その方法を知っております」
男は口元に三日月のように細い笑みを貼り付け、
酷く耳障りな声で喋りました。
ラバダにはそれが何か魔物の類だとすぐにわか
りました。けれど、王は不遜に相手を一瞥すると、
ただ「話してみよ」と告げました。
男はにやにや笑いを浮かべたまま、懐から奇妙
に捩れた笛を取り出し王に差し出しました。
「冥府において宝とされている笛でございます。
この笛の奏でる音色は王の望むままに死者を
躍らせることができましょう」
ラバダは男に差し出されるがままに笛を手に取
りました。そして、まるで最初から知っていたかの
ように、陰気な旋律を奏で始めました。
すると、死んだはずの兵士が次々と起き上がっ
たのです。王は驚くと同時にその笛の持つ力に
すっかり魅せられてしまいました。
翌日の朝日が昇る頃にはラバダ王の軍全滅し
ました。王はまるで狂気に駆られたかのように
次々と弱った兵士たちを切り殺して回ったのです。
そして、変わりに生まれたのが恐るべき死者の
軍団だったのです。
■美妃ハスティ
ラバダ王は死者の軍勢によって破竹の勢いで
進軍しました。そして、近隣の国々を次々と支配
下においてゆきます。略奪により、エピタは大国
へと発展してゆきました。
王に笛を渡したあの男は、王のまじない師として
強い影響力を持つようになりました。彼は現在の
モーンのある場所に街を作るようにラバダ王に進
言しました。そして、戦のために各地を飛び回っ
ていた王から「好きなようにいたせ」と言葉を受け
ると、街の建設を始めました。彼は不可思議な―
―けれどどこかおぞましい――魔術を使って、不
毛の土地に水を湧きあがらせました。さらに、支
配地から送られてきた奴隷たちを使って巨大な街
を作り王の宮殿を建てました。街は呪いと苦しみ
を吸い上げながらも歪に発展してゆきました。戦
いによって流される血が増えれば増えるほど、街
は大きく、美しくなっていったのです。
さて、その頃、宮殿へ連れてこられた者の中に、
ハスティという娘がいました。彼女は滅ぼされた
ファハンの騎士の娘であり、性格の苛烈さと武勇
と、そして何よりもその美しさで知られていました。
不幸にも彼女はラバダ王の目に止まり、後宮へと
召抱えられることとなります。そして、望みもしない
王の寵愛を受けることとなります。ハスティは王に
よって辱めを受けます。けれど、一度たりともラバ
ダ王に媚びる事もなく、お愛想の笑みのひとつも
向けたことはなかったのです。
しかし、ある時彼女はラバダ王の恐ろしい企てを
知ってしまいます。王はハスティに執着するあまり、
邪悪な術を用いて、彼女を従順な死者として永遠
に傍らにとどめようとしたのです。
ハスティはそれを知り、逃げ出しました。当然、ラ
バダは彼女に追手を差し向けます。彼女は逃走
を続け、モーンの地下墓地に迷い込みます。
そこはさながら迷宮のような場所でした。しばらく
の間は、彼女も追ってから逃げおおせました。し
かし、疲れることなく追跡を続ける死者たちからは
逃げ切ることはできず、やがて、彼女は墓地の最
奥の部屋に追い詰められてしまいます。彼女は
最後の望みに賭け、死せる兵たちと刃を交えまし
た。そして、戦いのうちにその命を散らせてしまい
ました。
■冥府の双子
しかし、倒れたハスティはラバダのものにはなり
ませんでした。偶然にも、彼女が戦いの場とした
のは半人半馬の神カノスの聖堂でした。死と戦い
を司るカノスは、ハスティが倒れると、冥府馬ザバ
ルを遣わせ、彼女を死者の国へと導きます。冥府
の王座の前へ連れられたハスティは、我が身に
起こった出来事に驚きながらもカノスに自らの身
の上に起こったことのすべてを話しました。
死者の王カノスは、始終険しい顔をしてハスティ
の言葉に耳を傾けていました。彼は冥府の笛のこ
とも、それをラバダ王に与えた呪い師のこともよく
知っていました。呪い師の正体は、かつて冥府で
王座についていたタルキンという神でした。タルキ
ンは死者を苛む残酷な冥府の王でしたが、カノス
が冥府に下って以来その王座を追われていたの
です。恐らくタルキンは、再び冥府の王座に返り
咲くべく、ラバダ王を利用しているのでしょう。
ハスティはカノスに助力を請いました。しかし、カ
ノスは首を横に振ります。なぜなら、冥府の者が
地上に直接関わることは、死者を導く以外には禁
じられているからです。ハスティは落胆しますが、
カノスは彼女にこう告げました。
「しかしながら、人の娘よ。
そなたの希望がついえたわけではない。
そなたは知らせと共に客人を連れてきた」
ハスティには客人が何を意味するのかわかりま
せんでした。カノスはさらに続けました。
「やがて時が満ちればそなたは双子の母となる。
子らはこの世にありてあらざる者。
我が試練を超えれば地への帰還も許そう」
ハスティはラバダの子を身ごもったまま冥府を訪
れていたのです。やがてカノスの言葉通り、彼女
は双子を生みます。ルクサークとファサルと名づ
けられた兄弟は生者でも死者でもないものとして、
冥府で育てられることになります。
二人は生前に英雄と呼ばれていた死者たちか
ら手ほどきを受け、若くして一流の戦士となります。
やがて、成長した双子はカノスの試練を受ける
ことになります。というのも、冥府の国を出ようとす
るものはそれが誰であれ、カノスと戦わなければ
ならないからです。そして、その体に一太刀でも
浴びせることができなければ、地上に戻ることは
かなわないのです。
それは厳しい試練でした。今までにもこの試練
を果たし、現世へ戻った者はいなかったのです。
ルクサークとファサルにも、まともに戦えば勝ち
目などないことがわかっていました。しかし、双子
は二人で戦えば、あるいはカノスと渡り合えるかも
しれないと考えていたのです。後はそれをいかに
カノスに認めさせるかでした。兄のルクサークは弁
舌には多少の自信がありました。そこで、彼は試
練の場に臨んで、カノスにこう申し出ました。
「死者の国統べたもう王よ。
貴方にお願いがございます。
私たち兄弟はひとつの血肉としてこの国へ
やってまいりました。
そこで、試練におきましても――」
それ以上の言葉はカノスの豪快な笑いによって
さえぎられました。彼はさも面白いという風に兄弟
を見ると、二刀を構えました。
「前口上はいらん。
二人まとめてかかって来るが良い」
カノスを相手に双子は厳しい戦いを強いられま
す。しかし、刃と刃の激しい応酬の末に、ルク
サールもファサルもカノスに一太刀を浴びせること
に成功しました。カノスは双子の健闘を称えると
自らの剣を彼らに与えました。
かくして、双子は地上へと向かうこととなりました。
しかし、そこで彼がが見たものは、冥府よりもひど
い有様となりはてたエピタの姿でした。そこは死者
の軍団によって支配され、弱き人々は隷属を強い
られていました。街には家々の明かりも子供の笑
い声も消えていました。
双子がいかにエピタを解放したかはそれだけで
も長大な物語です。彼らは虐げられし者たちの中
から仲間を募り、ラバダ王と戦うことになります。死
者の軍勢に双子は苦戦しますが、ラバダ王から
冥府を笛を奪うと死者たちは動きを止めました。
命も魂もない抜け殻の兵たちは、命令がなければ
王を守るようなことはないのです。ラバダ王はその
悪行に相応しい末路を迎えることとなります。
一方、呪い師を装っていたタルキンは敗色が濃
いと見なすや戦場から逃げ出しました。彼はファ
サルによって背中に大きな傷を負いながらも、砂
漠へと逃れました。タルキンがどうなったかは伝え
られておりません。ただ、今でも砂漠のどこかで力
を取り戻すチャンスを虎視眈々と狙っているのだ
という話です。
その後、ルクサールとファサルは混乱状態に
あったエピタを復興すべく尽力しました。しかし、
兄のルクサールは、国が落ち着きを取り戻すのを
見届けると、先の戦いで迷うこととなった死者たち
を引き連れ、冥府へと戻ります。彼は二度と地上
へは戻ることはなかったと伝えられます。
■現在:影まどろむ王国
現在のエピタは別名を“影まどろむ王国”と呼ば
れます。ラバダ王の時代に悪徳のままに栄えたこ
の国は、今も暗い影を引きずっているのです。エ
ピタでは、麻薬や危険な呪具などの非合法物品
の取り引きや、賭博や売春などがなかば公然と行
われています。また、過去に存在した奴隷制度の
名残から今でも裏で人身売買が行われています。
ファサルをはじめとした代々の王はこうした悪し
き習俗を一掃しようと試みてきました。しかし、きつ
い締め付けによって数々の犯罪組織が社会の裏
で暗躍する土壌を作り出すことになってしまいま
した。皮肉にも、エピタの法とそれに従って与えら
れる刑罰はリブラリアの国々の中でも最も厳しいも
のです。しかし、それが社会の裏に潜む巨悪に対
して振るわれることは稀(というよりもほぼ皆無)な
のです。
エピタでは数年前に国王のハイダンが病に臥
せり、その息子のジャファル王子が実験を握って
います。しかし、それ以後エピタを覆う影は急速
に濃くなっています。
ジャファル王子は切れ者ですが非情で冷酷な
人物として知られています。王子は犯罪組織の
“赤き蜘蛛”と裏で手を結び、彼らの“商売”の目こ
ぼしをしています。今ではジャファルの裏の世界
での影響力はかなりのものとなっています。しかし、
同時にそれはエピタに表向きの平穏を与える結
果となっています。“赤き蜘蛛”の支配によってエ
ピタの裏社会もまとまりつつあるのです。
しかし、そうしたかりそめの平穏も長くは続かな
いでしょう。ハイダン国王が崩御すれば、後継を
巡りまた多くの血が流されることでしょう。
■文化と宗教
国土の大半が荒地と砂漠という厳しい風土はエ
ピタに独特の文化を育みました。人々の生活の
中には、砂漠で生き延びるための様々な知恵を
見ることができます。また、厳しい気候は苛烈で
勇猛な気質を人々に与えました。男女問わず何
かしらの武芸を修めることはエピタの民のたしな
みです。
エピタはカノスが信仰される数少ない場所です。
カノスには医術の神や冥府の神など多くの面があ
りますが、エピタでは主に戦いの神として信仰さ
れ、名馬の産地として知られるミシャカンなど一部
の地域では馬の神として信仰されています(この
地の馬は冥府馬ザバルの血を引くと伝えられて
います)。また、エピタは“朽ち矢の魔女”や“礎の
竜”など他の地域では邪神とみなされる神々が秘
密裏に信仰されている場所でもあります。
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