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サピエンXT審査の論点と安全対策について

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サピエンXT審査の論点と安全対策について
TAVR/Valvuloplasty 2 MP504
第22回 日本心血管インターベンション治療学会学術集会
Points for the examination and the safety
issues in SAPIEN XT transcatheter heart valve
Pharmaceuticals and Medical Device Agency
Kazuhisa Koike
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
1
本発表の目的

先月、厚生労働省により、サピエンXTが承認された。サピエン
XTは、これまでに治療できなかった患者の命を救うことができる
かもしれない革新的な医療機器である。

我々は、本発表により、承認審査における論点等を説明し、医
療現場の方々に現時点で得られている情報を提供することで、
サピエンXTの適正使用、リスク低減につなげたい。
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
2
品目概要


本品は、外科的な大動脈弁置換術の
施行が困難な症候性重度大動脈弁狭
窄症の患者に対して、経カテーテル的
に自己大動脈弁上に弁留置を行う人工
心臓弁システムである。
本品には、経大腿アプローチ及び経心
尖アプローチが設定されている。したが
って、本品は、それぞれのアプローチ法
専用のデリバリーシステム(経大腿シス
テム(デリバリーシステム、イントロデュ
ーサーシースセット、ダイレータキット、
バルーンカテーテル、及びクリンパ)及
び経心尖システム(デリバリーシステム
、イントロデューサーシースセット、バル
ーンカテーテル、及びクリンパ))から、
構成されている。
バルーン拡張型生体弁
経大腿アプローチ
経心尖アプローチ
デリバリーシステム
デリバリーシステム
23mm
26mm
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
3
審査における主な論点
1.本品の臨床的位置づけについて
2.本品の臨床評価について
1)前モデルを用いた米国臨床試験成績により本品の臨床評価を行う妥当性について
2)米国臨床試験デザインの妥当性
3)本品の有効性について
・ 手術不能症例における保存的療法に対する優越性
・ 手術ハイリスク症例における外科手術に対する非劣性
・ 大動脈弁逆流
4) 本品の安全性について
・ 本品特有のリスクについて
・ Valve in Valve手技
5) 米国臨床試験成績の国内への外挿性について
・ 米国臨床試験の対照群の成績(Cohort A、Cohort B)について
・ 国内医療環境への適合性について
3.経心尖アプローチの位置づけとリスク低減化策について
4.透析患者への適応について
5.本品の「使用目的、効能又は効果」について
6.併用される抗血小板療法の適切性について
7.市販後安全対策について
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
4
提出された臨床試験成績に関する資料
○ 添付資料
試験名
使用機器
デザイン
国内
【PREVAIL
JAPAN】
サピエンXT
前向き
非無作為化
単群試験
米国
【PARTNER US】
サピエン
前向き
無作為化
比較試験
被験者数
主要評価項目
外科手術ハイリスク患者:64例
・ 経大腿アプローチ37例
・ 経心尖アプローチ27例
6ヵ月時における
大動脈弁弁口面積及びNYHAクラス分類の改善
Cohort A
外科手術ハイリスク患者:699例
TAVR群348例、AVR群351例
1年時における死亡回避率(非劣性)
Cohort B
外科手術不適合患者:358例
TAVR群179例、内科的治療群179例
試験期間を通じての死亡回避率(優越性)
死亡及び再入院の複合事象
○ 参考資料
欧州
【PREVAIL EU】
サピエンXT
前向き
非無作為化
単群試験
外科手術ハイリスク患者
経大腿アプローチ213例
手術後30日時における死亡回避率
欧州
【PREVAIL TA】
サピエンXT
前向き
非無作為化
単群試験
外科手術ハイリスク患者
経心尖アプローチ220例
手術後30日時における死亡回避率
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
5
Cohort Bの生存率
生存率 (%)
① Cohort BにおけるTAVRの内科的治療に対する優越性
1年時
生存率
TAVR群
内科的治療群
69.3%
49.8%
P=0.0001
P:Log Rank検定
術後経過期間 (月)
Number at risk
TAVR:179
138
122
67
26
内科的治療:179
121
83
41
12
Cohort B において、TAVR群の1年生存率は、内科的治療群に比べて、大幅に改善している。
したがって、内科的治療群に対して、TAVR群は優越性を示し、サピエン XTは、手術不能患者の
予後を優位に改善できる。
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
6
Cohort Aの生存率
生存率 (%)
② Cohort Aにおける保存的治療に対する優越性
1年時
生存率
TAVR群
AVR群
75.8%
73.2%
P=0.6163
P:Log Rank検定
術後経過期間 (月)
Number at risk
TAVR:348
298
260
147
67
AVR:351
252
236
139
65
Cohort Aの試験成績より、外科手術ハイリスク患者では、TAVR群の1年生存率は、AVR群
に対する非劣性が示された。
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
7
Cohort Aに関するその他の試験成績
1年時
TAVR群
AVR群
Log-Rank
検定
脳卒中又は
一過性脳虚血
8.4%
4.3%
P<0.05
重度血管合併症
11.1%
3.5%
P<0.05
動脈血管への介入
14.2%
3.0%
P<0.05
術後30日時
TAVR群
AVR群
大動脈弁逆流
(≧中等度)
(≧軽度)
13.2%
61.1%
1.7%
16.4%
弁周囲逆流
(≧中等度)
(≧軽度)
12.0%
52.2%
0.9%
7.3%
P:Log Rank検定

脳卒中や血管合併症などの術後合併症の発生率は、TAVR群で有意に高い。また、
予後に影響を与える弁周囲逆流や大動脈弁閉鎖不全の発生率も、TAVR群にお
いて高い。

臨床試験成績から、TAVRの有用性は、長期的なパフォーマンスを確立している
AVRの有用性ほどではないと判断した。

リスク低減化のため、留置手技に対する十分なトレーニングを行うことが必要であ
る。また、トレーニングの中で重篤な合併症が発生することを十分に理解し、緊急
時には対処できることが重要である。
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
8
経心尖アプローチの成績
PREVAIL JAPAN
1年時
生存率
MACCE
回避率
脳卒中
回避率
血管合併症
回避率



PARTNER US
Cohort A
TF
TA
91.7%
75.0%
P=0.102
TF
TA
TAVR群
AVR群
78.7%
74.8%
P=0.3283
TAVR群
AVR群
70.9%
74.7%
P=0.5534
Cohort B
TF
TAVR群
内科的治療群
69.1%
49.8%
P=0.0001
88.9%
71.4%
77.1%
73.3%
66.3%
70.7%
65.7%
47.6%
97.1%
95.7%
95.7%
98.6%
89.6%
93.0%
88.3%
94.6%
83.7%
85.2%
77.0%
95.9%
94.0%
93.2%
66.8%
91.8%
TFにより、生体弁を留置した患者の1年生存率は、AVR群に対して優位な傾向であった。一
方、TAの場合は、劣性な傾向だった。
したがって、我々は、TAに関するTAVR群の試験成績は、AVR群に対して非劣性であると結
論付けることはできない。しかし、TFを実行できない患者の第二選択しとして、TAを位置づけ
ることはできる。
ただし、①Cohort BのTA臨床試験成績がないこと、及び②PREVAIL JAPANにおいて、術
後1年時の死亡回避率、MACCE、脳卒中発生率が、TFに比べてTAが悪い傾向が認められ
ることから、TAの適応については、慎重に検討することが必要である。
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9
本品を用いた治療の国内環境への適合性
PREVAIL JAPAN
PARTNER US
Cohort A
TF
TA
Cohort B
TF
TF
TA
留置成功
94.6%
92.6%
デバイス成功
91.7%
92.3%
81.9%
78.2%
手技的成功
81.1%
61.5%
76.1%
71.8%
97.9%
96.0%
95.4%

TAにおける手技的成功率を除き、PREVAIL JAPANにおいても、PARTNER USと同等
以上の成績が得られた。
(PARTNER US同様、有症状例のみを脳卒中として解析すると、PREVAIL JAPANにお
けるTAの手技的成功率は70.4%であり、PARTNER USの試験結果と遜色のない。)

これらの結果を踏まえると、PREVAIL JAPAN実施時の技術的要件やトレーニングを満たす
ことが重要である。
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
10
PREVAILJAPAN及びPARTNER USにおける患者背景の違い
PARTNER US
PREVAIL JAPAN



Cohort B
TF
(N=37)
TA
(N=27)
TAVR
(N=348)
AVR
(N=351)
TAVR
(N=179)
内科的治療
(N=179)
年齢
83.2 ± 6.5
85.9 ± 5.3
83.6±6.8
84.5±6.4
83.1±8.6
83.2±8.3
身長
151.10±7.82
147.47±8.55
165.68±12.80
166.62±16.41
164.87±12.23
165.05±9.39
体重
男性 (%)
STSスコア
Logistic
EuroSCORE
Ⅱ
49.89±9.90
35.1%
7.79 ± 3.43
47.20±6.85
33.3%
10.55 ± 5.28
75.62±20.76
57.8%
11.82±3.34
74.21±17.65
56.7%
11.69±3.47
72.81±21.52
46%
11.18±5.798
73.43±20.14
47%
11.88±4.830
13.32 ± 5.99
18.59 ± 9.55
29.34±16.47
29.23±15.64
26.45±17.20
30.38±19.09
59.5%
51.9%
5.7%
6.0%
7.8%
6.1%
Ⅲ
37.8%
37.0%
41.7%
43.3%
48.6%
48.6%
Ⅳ
2.7%
11.1%
52.6%
50.7%
43.6%
45.3%
NYHA

Cohort A
PREVAIL JAPANの患者は、PARTNER USの患者よりも、リスクスコアが低い患者が登録
された。
PREVAIL JAPANは、術前のNYHAⅡの患者比率が、PARTNER USよりも低い。
:PREVAIL JAPAN 50-60%、PARTNER US 7-8%
国内外共に、対象患者は80歳超の高齢者が登録された。
以上の結果から、日本におけるサピエンXTの対象患者は、欧米に比べ、臨床症状が軽度の
患者となる可能性が示唆された。
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
11
サピエンXTに関する臨床評価結果






評価結果から予想される、日本におけるサピエンXTの対象患者は、以下の通り。
80歳以上の高齢者
欧米よりも術前手術リスクが低い
臨床症状は、比較的軽度
サピエンXTの有効性及び安全性に関する評価結果
日本のCohort Aに相当する患者の場合、AVRほどの有用性が、サピエンXTでは認
められない。
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
12
SAPIEN XTの国内への安全な導入

サピエンXTを、より有効で、より安全な医療機器として、国内へ導入するため
は、以下の対応が必要である。

外科ハイリスク症例に対して、開胸手術を含む緊急時の十分な対応が可能な
医療チーム(ハートチーム)を結成できる医療機関であること
ハートチームでの議論をもとに、本品の適応可否について、適切な判断ができ
ること
実施医は、サピエンXTを用いた治療を安全に施行でき、合併症に対しても十
分に対応できる技術的要件を有すること
プロクターによる適切な導入支援があること
一定の手技の習熟度を担保することができるトレーニングプログラムが設定さ
れていること
定期的に使用成績を確認しながら、段階的に施設数を拡大すること





Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
13
サピエン XTの臨床評価結果に基づく市販後安全対策

以上の審査結果に基づいて、日本への本品の導入に際して、
以下の市販後安全対策がとられた。
①
4学会協議会によるTAVI施設基準の策定
トレーニングプログラムの受講を含む、エドワーズライフサイエ
ンス社が規定する導入基準
一定期間全例、長期的フォローアップを含む、学会主導のレ
ジストリ調査及び企業が実施する使用成績調査
②
③
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
14
透析患者に対する適応




長期的に透析を受ける患者が多い日本では、透析患者は本
品の適用対象となることが予想される。しかし、全身状態だけ
でなく、心血管系へ負荷がかかっている透析患者へ本品を適
用するリスクは、非透析患者に比べ格段に高くなると考える。
また、これまで透析患者には、生体弁の劣化が早いため機械
弁が用いられてきた。
透析患者における本品の有効性と安全性については、臨床
試験などの成績により確認する必要がある。
したがって、慢性透析患者については、本申請の「使用目的、
効能又は効果」から除くことが妥当と判断した。
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
15
使用目的、効能又は効果

本品は、経皮的心臓弁留置に用いるバルーン拡張型人工心臓弁(ウシ心
のう膜弁)システムであり、自己大動脈弁弁尖の硬化変性に起因する症候
性の重度大動脈弁狭窄を有し、かつ外科的手術を施行することができず、
本品による治療が当該患者にとって最善であると判断された患者に使用
することを目的とする。ただし、慢性透析患者を除く。
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
16
承認条件
1.
外科手術リスクの高い症候性の重度大動脈弁狭窄症に関連する十分な
知識・経験を有する医師により、本品を用いた治療に伴う合併症への対応
ができる体制が整った医療機関において、本品が使用されるよう必要な措
置を講じること。
2.
1.に掲げる医師が、適応を遵守し、講習の受講等により、本品の操作に
関する十分な技能や手技に伴う合併症に関する十分な知識を得た上で、
本品が用いられるよう必要な措置を講じること。
3.
一定数の症例が集積されるまでの間は、本品を使用する症例全例を対象
として、使用成績調査を行い、その経年解析結果を医薬品医療機器総合
機構宛てに報告するとともに、必要に応じ適切な措置を講じること。
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17
手術後の抗凝固療法



手技前
手技中
手技後6ヵ月まで
手技6ヵ月以降
ヘパリン
(米国)必要に応じて
(日本)なし
(共通)5,000 IU/回、
以後ACTが250秒以
上に到達し維持できる (共通)なし
ように必要に応じて
アスピリン
(米国)75-100 mg 1日
1回
(共通)なし
(日本)なし
チクロピジン塩
酸塩又は硫酸ク
ロピドグレル
(米国)300 mg 経口 (米国)クロピドグレル (米国)クロピドグレル
75 mg経口、1日1回
(長期投与していない 75 mg経口、1日1回
(日本)チクロピジン
(共通)なし
場合)
(日本)なし
200-300
mgを1日2-
(日本)なし
3回に分けて
(共通)なし
(共通)75-100 mg 1日1回
本品を使用するに際して、血栓性有害事象を防止する観点から一定の抗血小板療法が必要と考
える。しかし、至適とされる抗血小板療法のエビデンスは十分に蓄積されていない。
したがって、臨床試験における抗凝固療法及び抗血小板療法を推奨することとし、臨床試験にお
ける抗血小板療法の使用実態について添付文書で情報提供を行った。
使用成績調査において、抗血小板療法の使用実態と血栓性有害事象について、十分な調査を
行ない、リスク低減化につなげることが重要である。
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18
エドワーズライフサイエンス社が設定したサピエン XTの
国内への導入基準
実施施設
• AVR:年間20症例以上
• PCI:年間200症例以上
• 5例以上の緊急開心・胸部大動脈手術の経験を有する心臓血管外科医による緊
急手術の対応が可能である
実施医
• 日本心臓血管外科専門医及び日本インターベンション治療学会認定医が含まれ
る
• 本品のトレーニングプログラムを受講している
プロクター資格
実施施設独り立ち基準
適応に関する第三者判定委員
会
トレーニング
使用成績調査
メインオペレーターとして手技を実施している
症例数の他に経カテーテル的大動脈弁留置術に関する幅広い知識を有する
エドワーズライフサイエンス社によりプロクターとして認定される
術中に起こりうる合併症及びトラブルシューティングに関する深い知識とマネージ
メントスキルを有する
• 成功症例数25以上
•
•
•
•
• プロクターによる総合的判断
• 経験症例数8例以上
• 委員会の構成:心臓外科及び循環器内科のプロクター、心不全の内科的治療の
エキスパート各1名以上の計4名程度
• 対象症例数:各施設導入後一定症例(25症例)
手技施行前の受講が義務
全症例を対象とした使用成績調査(長期フォローアップを含む)
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
19
結語



TAVIは、これまでAVRの実施が困難であった患者に、新たな治
療選択肢を提供する。
サピエンXTは、周術期の重篤な合併症が一定頻度で発生し、長
期成績も確立しておらず、現時点においては、AVRと同等の治療
成績であるとはいえないため、適応を慎重に判断し、使用に際し
て十分なリスク低減措置をとることが肝要と考える。
サピエンXTに関する審査の論点、及びその議論に基づき施した
安全対策について、本品を使用する医療従事者の方々に理解し
て頂くことで、本品を日本に安全に導入する一助となれば、幸い
である。
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
20
最後に

PMDAにおける審査結果の詳細については、PMDAのホーム
ページに公開されている審査報告書をご確認ください。
http://www.info.pmda.go.jp/iryo.h
tml
(医療機器関連情報のページアドレス)
http://www.info.pmda.go.jp/n
mdevices/M201300022/170492
000_22500BZX00270000_A100_
1.pdf
Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
21
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