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全文 - 筑波技術大学

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全文 - 筑波技術大学
え! わたしのクラスに
ろう学生が?! 難聴学生が?!
ろう・難聴学生を受け持つ教師のためのチップシート
NETAC
Tipsheets
NETAC
静岡福祉大学
平井利明訳
チップシート
チップシートは、必要に応じて、追加される。以下は、現在入手しているチッ
プシートである。これらは、本書にすべて掲載されている。
ろう文化
高等教育における差別禁止法
ろう・難聴学生のためのカウンセリング・サービス
キャンパスの治安とろうコミュニティ
難聴学生のための授業法
中途失聴学生とともに
人工内耳手術を受けているろう学生への対応
ろう学生の言語能力と習能力
盲ろう学生を教える際の配慮
ろう・難聴学生に対する試験実施上の配慮
授業テクニック:
ろう・難聴学生など視覚学習者のための視聴覚機器の使い方
学業の維持・継続
依存から自立へ・大学進学
遠隔教育
通訳・通訳者
有能な通訳者を見つける
ノートテイキング
チュータリング
キャプショニング
C-Print™
CART
キュードスピーチ
教室における補聴援助システムの役割
アイデアツール
TTYの使い方
テレコミュニケーション・リレーサービスの使い方
コミュニティ・リハビリテーション・プログラム
はじめて助成金を得る学生のための手引き
通訳者とバイオメカニクス
就職活動
高等教育プログラムに関わる職業リハビリテーション
1
NETAC Teacher Tipsheet
ろう文化
ろう者には、ろう者の文化があるというとたいていの人は驚いてしまう。
アメリカのろう文化は、主なコミュニケーション手段としてアメリカ手話(A
SL)を採用している点で、言語学的に極めて少数派社会である。このチッ
プシートは、ろう文化とは何か明らかにするとともに、ろう者との効果的な
コミュニケーションに対するヒントを提供するものである。
ろう者同士で用いられる共通用語
コミュニティ
アメリカのろう文化においては、各個人の文化アイデンティティ、または
自己意識を識別するために、ろう・難聴、中途失聴というような名称が用い
られる。これらの名称は、各個人の文化的価値と信念を示すものである。
ろう
ろうというこのことばは、ろう者の世界の価値や規範、伝統、言語および
行動基準を共有するメンバーであることを意味している。ろう者たちは、自
分のことをなにかを失った人間、たとえば聴覚を失っているなどとは考えて
いないし、障害があるとか、不自由だとか、不具だなどとも考えていない。
彼らは、共通の歴史と言語を共有できるまたとない特別な権利を与えてくれ
る自分たちの文化に、誇りと愛着を持っているのである。アメリカ社会では、
ろう者は、言語的に少数派と見なされているが、彼らには彼らの社会がある
と同時に、大きなアメリカ社会の中にあってしっかりと息づいているのであ
る。
ろう・難聴、失聴
ろう社会では、ろう、難聴、失聴などというこれらのことばは、個々人の
聴力状態を示すに過ぎない。ろう者は Deaf の
2
d
を 大文字の”D”にするこ
とでろうコミュニティのメンバーであると認識している。しかし deafened にお
ける deaf の「d」が小文字であることに注目してほしい。自分で「難聴」と
か「失聴」とかいう人は、自分のことをろうコミュニティ一員とは考えてい
ないのである。彼らの中には、手話のできる者もいるが第1言語は、英語の
はずである。
聴覚障害
聴覚障害というこのことばは、マスコミや社会一般が聴覚を失った人であ
る失聴者を指して使っている。聴覚を失った人を総称するには「ろうおよび
難聴」ということばの方がより適切である。ろう社会では、
「聴覚障害」とい
うことばにはなにかトゲがあるように感じられる。耳が聞こえないことで、
あたかもろう者が「故障品」とか「使い物にならない」という印象を与える
からである。
聴力
ろう文化社会の中では、
「聴力」ということばは、主たるアメリカ社会の構
成員であることを証明するために用いられる。
「聴力」を表すアメリカ手話は
(耳を指さす)、聴力に対するろう者の能力を示唆していると考えることもで
きるが、実は「話す」能力を表しているのである。ろう者にとって、聞くと
か、聞こえるというのは目に見えるものではないが、話す行為は、はっきり
と目に見えるものなのである。ろう社会の基準では、
「話す」という行為こそ
がろう者かそうでないかを明確に分けるのである。
価値感
アメリカ社会における最も中心的規範は、個人主義である。ほとんどのア
メリカ人は、自分が独立した個人であり、自分の人生に責任を持てるのは自
分だけなのだと教えられて育つ。この社会規範に共通したキーワードは、
「自
分のことは自分で」、「ナンバーワンを目指せ」、「他人に頼らない」などであ
る。たとえばアメリカ人が自己紹介するとき、まず名前と職業を述べて自分
らしさを強調しようとするだろうメリカ人がプライバシーを大切にするのは、
個人主義と密接に関わっているのである。アメリカ人は誰でも「私的空間」
や「自分流の考え方」を持っており、
「独りで生きる」ことに価値を見いださ
ないなど考えられないのである。
3
これに対し、ろう社会において、最も主流となる規範のひとつが集団主義
である。ろう者は、自分をろう者全員からなる集団の一員と考えている。自
分とは、個が相互に堅く結ばれた集団の一部であると見なしている。ろう者
は、他のろう者たちと一緒にいる方が楽しいし、自らそのように行動してい
る。ろう者同士が出会うとき、最初にやるのはお互いの出身地を教えあうこ
とと、共通のろう者の友人がいないか探ることである。友人の外見を述べ、
そしてそれを覚えておくのが手話によるコミュニケーションでは、いつもの
やり方である。友人の名前は、会話の最後まで出てこないこともある。集団
主義と密接に関わっているのがオープンコミュニケーションの重要性である。
秘密にしたり、情報を出し渋ったりすることは、もちつ、もたれつの集団主
義を阻害するものである。
社会のいろいろな価値に関わる動作振る舞いは、奥の深いものである。私
たちは、自己紹介をするときのマナーや別れるときのあいさつの仕方などに
ついてあまり意識することはない。子供の頃から私たちはこうした動作を何
度もくり返し、自分たちの行動パターンとして取りこみつづけてきた。いつ
もと違うルールが適用されるときだけ、同じ仕事をするにも別の方法がある
ことに気づく。たとえば、あるろう者が、他のろう者の集まりから先に帰ろ
うとするときなどあれこれ手間のかかる手順が必要である。ろう社会では、
あるグループに先に帰ることを告げようとすると、そこからまた話が始まっ
てしまうことも多いのである。結局帰るまでに一時間以上もかかってしまう
こともある。こうした行動パターンは、他にはあまりないと思われがちだが、
ろう社会では集団全員と関わることが大切なことであるとされていることを
考えると、大いに納得のいくことである。
アメリカ手話(ASL)
ろう社会におけるもう一つの重要な文化的財産が手話―すなわちASLで
ある。ろう者のほとんどは、一生の大部分を、ASLを知らない健聴者と過
ごす。ろう者でないとASLを知って人が少ない。このため、ろう者にとっ
てコミュニケーションバリアがなくなるのは、ろう者と一緒にいるときだけ
なのである。
ほとんどの人は、ASLが視覚言語であることを知っている。しかし、言
語の視覚的側面がコミュニケーションのルールにどのような影響を及ぼすか
についてはあまり知られていない。
4
健聴者の話しことばにおいては、話し手と聞き手の間のアイコンタクトは
必須条件ではない。実際、私たちがお互いを見つめ合っている時間はわずか
なものである。長時間相手を見つめ続けることはない。さらに、私たちは、
周囲の音に気を取られてそちらに目を向けてしまうことも多い。
ろう者が手話で会話するとき「聞き手」は、
「話し手」から目を離すことは
できない。ろう者のルールでは、目をそらしたり、目を合わさなかったりす
ることは、聞きたくないことを意味するのである。
耳の聞こえる人すなわち健聴者は、顔や体をコミュニケーションのために
自在かつ効果的に使っているとは言えず、ろう者から見ると健聴者のやりと
りは退屈で無表情に見える。
ASLは、表情による表現やボディ・ランゲージが重要な意味を持ってい
る。ろう者は、ノンバーバルコミュニケーションを使いこなすことにおいて
は特別な能力に恵まれている。彼らは、表情や体の微妙な動きを感じ取るこ
とができる。ボディ・ランゲージの重要な特徴に「触れ合う」ということが
あげられる。ろう社会では、あいさつをするとき、別れを告げるとき、話を
聞いて欲しいときや気持ちを表したいときなど、相手に触れて自己表現する
のである。
5
コミュニケーションのためのガイドライン
1)ほとんどの人は、初めてろう者に接したとき、違和感をもってしまう。
しかしこれは、ごく当然のことである。私たちが人とコミュニケーション
する場合、通常、コミュニケーションのプロセスを考えたりする必要はな
い。しかし、ろう者に接すると、コミュニケーションにどのルールを適用
したらよいか迷ってしまうのである。どこを見ながら話せばよいのか、話
す速さや声の大きさはどれくらいが適当なのか分からないからである。ろ
う者が困った顔をすると、もうどうしてよいか分からなくなったりする。
ろう者とのコミュニケーションの第一歩は、なにかしっくりいかなくて後
味の悪いものだと承知しておいた方がよい。経験を重ねるにつれて違和感
が取れ、気持ちが通じるようになるものである。
2)ろう者に対して、紙に書いて伝えるのは一向に構わない。それにジェス
チャーや表情、ボディ・ランゲージに筆談を加えれば、ろう者に伝えよう
という気持ちを一層分かってもらうことができる。ろう者の中には唇の動
きを読むことができる者もいる。これで伝わらなければ別の方法を試すく
らいの気持ちでやればよいのである。もしろう者が声を出して言った場合、
あたながそれを聞き取れなかった場合でも、遠慮なく紙に書いてくれるよ
うに言えばよいのである。
3)ふつうの人同士の会話は、極めて伝達効率の高いものである。このため
相手が分かってくれないとすぐにイライラしてしまう。そして、なんとか
してもっとすばやくやりとりできないかと考えてしまう。ろう者は、お互
いの顔を見ながらコミュニケーションすることに大きな価値を感じている。
そうすることを無理に行おうとするものではなく、これからのコミュニケ
ーションの円滑化のためであると考えているのである。もし言いたいこと
が伝わらなければろう者は聞き返してくるだろうし、ろう者の言うことが
分からなければ話を止めて説明してもらえばよい。決して分かったふりを
しないことである。間違っても「もういい、たいしたことじゃないから」
などとは言わないことである。どんなに小さなことでも情報を共有するこ
とが大切である。
4)ろう者は、目で聴く。ろう者は、物を見ることと、その使い方の説明を
受けることを同時にはできないのである。ろう者の目を見ながら話すとき
には、話すことに専念することである。
6
5)手話通訳者を利用するろう者も少なくない。その場合、通訳者ではなく、
ろう者の方を向いて、ろう者に直接話しかけることである。通訳者に向か
って話してはいけない。ろう者にとって、あなたが話すとき、ろう者の方
ではなく、通訳者の方を向いて話しているのは気分のよいものではない。
ろう者も、それにすぐに気がついてそのことをあなたに言うだろう。
6)通訳者がいる場合、なかなかろう者に直接話しかけられない人も多い。
そのような場合には、会話の始まりと終わりにろう者と直接コミュニケー
ションを取るようにするとよい。あなたがまず手を差し伸べ、相手の目を
見て、ジェスチャーを使い、相手に触れ、ほほえみかけたりしてあげれば、
目によるコミュニケーション、触れ合うコミュニケーションは成功である。
ここであげたガイドラインは、日常生活者として、ろう者と関わる場合の
包括的注意事項としてではなく、ろう者とのコミュニケーション状況を改善
するための第一歩として考えて頂きたい。
訳者注:
アメリカ手話のASLに対して日本の手話は、JSL(Japanese Sign Language)
と表現される。
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Prof. Leslie Greer,
and Associate Prof. Barbra Ray Holcomb, and translated into Japanese by
Prof. Toshiaki Hirai a faculty member at Shizuoka University of Welfare as
part of the PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College
of Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded
by grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
7
NETAC Teacher Tipsheet
高等教育における差別禁止法
1973年、議会がリハビリテーション法を通過させたとき、この法には、
州予算の支援を受けたプログラムおよび諸活動によって障害者に対する差別
を禁止する第504項が含まれていた。この法律は、合衆国陸軍士官学校と
少数の小さな宗教学校を除き、実質上すべての高等教育機関に適用された。
これは、障害者に対する差別を防止する目的で作られた最初の市民権制定法
であり、1964年の市民権法を模範としている。1990年の「障害をも
つアメリカ人法(ADA)」は、この第504項を模範としたものである。この
法は、障害を持つ学生が、ADAの適用を受けるいかなる教育機関によって
も、入学を拒否されたり、利用を断られたり、差別に曝されたりすることの
ないことを保障している。逆にADAでは、教育機関が州政府の補助金を受
けることは必須要件としていない。
保護されているのはだれ?
主たる社会活動を著しく制約する肉体的もしくは精神障害を持ついかなる
個人も、
障害を持つことが記録に残されているいかなる個人も、
障害を持つと見なされるいかなる個人も、
差別が多くの局面をもっているがゆえに、法により保護される。
ただし、ほとんどの教職員は、主たる社会活動を著しく制約する障害とい
う定義の第1項に該当する学生と既に出会っている。
この法律が自分の大学に与える影響は?
高等教育機関は、障害を持つ学生がその教育機関のコース、プログラム、
校外活動などに、健聴者と同じ機会が与えられるよう適切な配慮をしなけれ
ばならない。課外活動もこれに含まれる。大学側は、教育的配慮により、す
べての学生が平等に教育を受ける権利を保障しなければならない。教育的配
慮とは、試験時間の延長、コース課題や卒業研究制作の完成、授業内容の録
8
音、特定の科目を振り替えて卒業資格を満たすようにすること、試験方法や
実演成績評価方法を変更するなどして、試験に関係のない部分で、該当者の
知覚能力、発声能力、移動能力などの機能障害が不利に作用しないようにす
ることである。
大学等高等教育機関は、障害者に対して、資格を持つ手話通訳者、ノート
テイカー、リーダー、点訳物、拡大印刷物、その他の補助装置など「介助支
援具やサービス」を提供しなければならない。レベルの高い通訳者は、専門
の用語を自由に、効果的、正確、公正な方法で使いこなし、発信・受信を豊
かに伝えることができる。介助者、補聴器、眼鏡などの個人的な装備につい
ては、教育機関側で準備する必要はない。現在適用されている規約では、チ
ュータリングは個人的なサービスである。従って一般学生にチュータリング
による授業が実施されていないならば、障害のある学生にもチュータリング
による授業を提供する必要はない。その場合でも、障害のある学生が希望す
れば提供できるようにしておかなければならない。教育機関は、必要な便宜
は無料で提供しなければならない。
大学は、学習プログラムの中心となる教育プログラムや学業要件を根本的
に変えなければならないような便宜を提供する必要はなく、またライセンス
条件を満たす必要もない。しかし、何を根本的に変えなければならないのか
の決定については、学生グループによる、指定のステップと正当かつ決定権
のあるプロセスを経なければならない。ADAは、大学等に何が根本的なも
のであるのかという命題を自ら問わせ、教育プログラムが目指す成果を達成
する別の方法を提供することを義務づける救済のための法律であることを忘
れてはならない。
教職員としての自分の役割はなにか?
学校のメンバーのひとりとして、教職員はこうした法律を遵守する学校側
で努力すべき主要な部分を占めている。人種・宗教・性・民族を理由に学生
を差別することは許されないのと同様、障害のゆえに学生を差別することも
許されないのである。障害のゆえに学生を差別しないということは、すなわ
ち相応の便宜「教育的配慮」および「介助支援具やサービス」を提供しなけ
ればならないということである。組織として一体であるということは、教職
員が不可欠なパートを占める共同責任を意味している。教職員として雇用さ
れていることは、その他の市民権法はもちろん、ADAとの関係において、
9
共同責任を全うすべく組織のために尽くす義務があることでもある。
義務条項と禁止条項
義務条項
・
何か分からないことがあったとき、どのように進めてよいのか確信がも
てないときは質問すること。
担当の障害学生支援サービスセンターなどが力になってくれる。
・
適切と判定された支援計画に関しては、最後までやり抜くこと。
これには、クラスメートにノートテイキングを頼んだり、試験答案を障
害学生支援サービスセンターに渡したりして、筆記通訳者や点字を使用す
る、時間を延長するなど特別条件のもとで学生に試験を受けさせるといっ
た措置も含まれる。
・
多の学生に接するのと同じようにていねいな態度で接すること。
・
障害を持つ学生のプライバシーを尊重すること。
障害について他の学生に知られる必要はない。障害を持つ学生は、特例
措置を受けるために自身の障害について大学の担当係官に話しておく必要
があるものの、すべての人に話しておかなければならないわけではない。
教職員にあって障害に関する自分の知り得た情報はあくまで機密事項であ
る。
・
適切な質問をすること。
質問によって、自分の大学が、特定タイプの要請に今後、より継続的か
つより充実して応えていけるかが決まることがある。
・
大学のポリシーを学生が遵守するよう支援すること。
たとえば支援措置に対するすべての要請は障害学生支援サービスセンタ
ーを通すもので、教職員個人レベルで対応すべきでない。そして支援にお
いて実行可能な項目についての方針を貫くことで、学生、教職員さらに学
校を守ることになる。またさらに個々の教職員の負担を大きく減らすこと
になる。教職員はときとして、特別措置の適切性や、どのようにすればよ
いのかについて十分な情報を与えられていないことも多い。違反行為は、
10
教職員が学校方針に従わなかったケースによく見られる。
禁止条項
・
障害を持たない他の学生たちに対する「公平さ」や自分の研究の自由を
なにかしら損ねてまで便宜を与えなければならないかをテーマとして正面
から論争に持ち込むことはしない。
こうした議論が無益なことにはいくつか理由がある。第一に、障害を持
つ学生に等しい教育の機会を与えるべきか、またその方法は、という問題
に論理的な議論を加えることは法的には意味を持たない。議会は、私たち
が社会全体として教育を平等に与えるにはどうすべきかを決定し、州の市
民権法を通過させたのである。
その法案は、逆に障害のない人々を阻害することなく障害者の権利を守
ろうとするものである。議会のこの努力に他のほとんどの州政府も賛同を
示している。第2に、学問の自由は州の市民権法に関して常に最優先とい
うわけではないということである。
・
学校の被指名人によって承認された教育的配慮を提供しないような決定
をすることをしない。そのようなことをすれば組織も教員個人も法的責任
を負うことになる。
・
学生に便宜を与えず放っておくことをしない。もしクラスメートでノー
トテイキングの協力をしてくれる者がいない場合、別の方法でそのノート
テイキングの手助けをしてくれる人を責任持って紹介しなければならない。
・
学生が講義を録音するのを拒否しないこと。障害を持つ学生によるテー
プレコーダーの使用許可を規定として定めず、教員がテープレコーダーの
使用を拒否してもよいとなどとする一般的なルールは、法的に効力がある
とは認められない。
・
配付資料のコピーを渡すのを拒む、板書した情報を声に出して聞かせる
ことを拒むことはしない。また、黒板に書かれたものを指しながら学生の
方を向かないなどの行為をしない。さらに対象学生にとって適切な手段で
あると認められた好意的な方法を拒むことをしてはいけない。
11
・
試験時間の延長は、すべての学生に認められるべきという誤った考えで
試験時間の延長を拒むことをしてはいけない。
・
学生の障害に関する書類を個人的に確認するまで、その学生に対して特
例措置を与えないなどということをしない。ADAに照らしてサービスを
受ける資格があるかを判定するのは障害学生支援サービスセンターの担当
者の仕事であって、教職員の仕事ではない。
・
特定分野での学生の能力を決めつけてかかること。そんなことは学生に
はできないだろうという心配は往々にして事実からではなく、不安や思い
こみからくるものである。
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Jo Anne Simon,
Attomey at Law, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a
faculty member at Shizuoka University of Welfare as part of the
PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College of
Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded by
grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
12
NETAC Teacher Tipsheet
ろう・難聴学生のための
カウンセリング・サービス
最新の動向
最近の「タイム」誌の記事で、大学のカウンセリング・センターに、精神
衛生や成長期に関わるさまざまな問題を持ってサービスを利用しようと訪れ
る学生が増えていることが報じられていた。多くの学生にとって、しっかり
した食事をとらないことや睡眠が不規則であること、セックス、ドラッグ、
アルコールなど危険な行動への誘惑がある大学生活はストレスの多いもので
ある。
こうした危険な行動への誘惑は、大学生活の学習からくるストレスと結び
ついて精神衛生上の問題を悪化させる要因となる。抗うつ剤やその他の薬物
による現代の医療により、20年前なら大学に通うことができなかった学生
も、現在では元気に大学生活を送ることができる。
その結果、かつてないほどサービスに対するニーズが高まってきている。
いくつかの大学のカウンセリング・センターでは、学内のカウンセリング・
サービスを拡大したり、治療を学外機関に依頼したりするところも出ている。
ろう・難聴の学生も健常学生と同じように、成長過程で、心理上の問題を抱
えている。しかしながら彼らのコミュニケーション方法は少し変わっている。
ろう者、難聴者から知り得ること
健聴者の家族の中で育つことからくる日々の問題点と向き合いながらも、
ろう者、難聴の人々は上手に適応し、前向きの人生を送っている。しかし、
ろう者の人口が少ないことやコミュニケーションの問題から、ろう・難聴の
人たちの間での精神衛生上の問題の発生率は、一般の人たちから比べると高
13
くなっている。
一般の人たちとの間に見られる精神衛生上の問題の原因として知られてい
るものに加えて、ろう者を取り巻く世間の無理解や肉体的障壁が、しばしば、
ろう・難聴の人たちの精神衛生上の問題における「もう一つのカベ」という
存在を明らかにしている。良好な精神衛生環境を提供しようとする側にとっ
て重要なことは、ろう・難聴の人たちが経験する共通の現象のうちいくつか
が示唆しているものをくみ取ることである。以下問題点をいくつか拾ってみ
た。
・
ろう・難聴の子どもの90%は、両親が健聴者である。家族がろうにど
のように対処しているかは、その子どもの心に永久に消えない痕跡を残し、
その家族の感情構造全体に影響することになる。たとえば、両親がいつま
でも悲しんでばかりいると、子供の自我が目覚めるのを妨げることになる。
手話を使える親も増えてはいるが、まだ家族の大半は音声言語に頼ってい
る。
・
唇の動きで読めるのは、話される英語の30%に過ぎない。ろう・難聴
の人たちにとって「pat」や「bat」を識別するのは困難で、「mat」になる
とさらに難しくなる。ろう・難聴の人たちにとって音声でのコミュニケー
ションを理解することは、ストレスがたまることであり、困難なことなの
である。
・
耳の聞こえる子どもたちにとってそうであるように、家庭や地域社会内
部での偶発的学習は、ごく当たり前の日常活動と考えられている。ろう・
難聴の子供たちのほとんどは、こうした耳の聞こえる子どもたちと異なり
学習を十分に行うことができないことに加えて、コミュニケーションも情
報を利用することも限られている。もしくはろう者であるということで、
家庭や学校で、
「相手にしてもらえない、取り残される」という扱いをされ
ながら育ったことが、共通の体験なのである。ラジオを聞く、食事や家族
団らんの場での肩のこらない会話、運動場での会話、さらに空港など人の
集まる場でのアナウンスなどは、ろう・難聴の子供たちには、ほとんど無
縁のものである。こうした障壁が、ろう・難聴の子供たちが世の中を理解
するのを妨げているのである。
・
普通教育に組み込まれるろう・難聴の子供たちの数は増えているため、
こうした子供たちの多くは「まとまった数」のメリットを受けることがで
きない。普通の学校では、こうした子供たちの多くは、たとえ、ろうの子
が一人だけではないにせよ、ごく少数と見なされる。なかには自分と同じ
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ろうの子供たちと接触する機会すら持たない子どももいるし、うまくいっ
ているろう者用プログラムを利用することもできず、彼らのニーズにはほ
とんど合わないサービスに頼らざるを得ない子どももいる。社会からの隔
離や惨めな自尊心は、彼らの発達段階におけるギャップに起因するもので
ある。
・
ろう者に対する健聴者の接し方によっては、ろう者の家族、教育環境、
雇用主、職場の同僚との関係全般がろう者自身に影響を及ぼすことがある。
健聴者の感覚を基準として、自分が劣っているのはどうしようもないと考
えたり、過保護な環境で育てられたり、何でも人にやってもらったりした
結果、自信を失ってしまったりすることになる。
・
いくつかの研究で、ろう社会では、情報が利用できないことや物を破損
することへの理解の欠如が主な原因となって、物品を破損する事件の発生
率が高いことが報告されている。もう一つの障壁は、ろうに関する知識と
熟練を伴うプログラムにクウォリティサービスが欠けていることである。
また、ろう社会(聴覚に支障をきたしている人たち)で生活する人たちの
性的犯罪事件の発生率が、一般社会における発生率よりも高いことも報告
されている。いいかえれば、ろう社会で生活する人たちは、一般社会で生
活する人たちよりも性的犯罪事件に巻き込まれやすいことを意味している。
クウォリティサービスの提供
これらはろう・難聴の学生が大学内に持ち込む問題や出来事の一部である。
ところでこうした学生にサービスを提供する人たちにとって、この事実は何
を意味しているのだろうか。それには、ろう・難聴の学生のカウンセリング
には専門のスキルが必要であるということである。大学は、ろうとろう文化
に関する知識が豊富であり、手話を使いこなすことができる専門の精神衛生
管理者をおくべきである。たとえば、話しことばにおける声のばらつきと同
じく、顔の表情のばらつきは、アメリカ式手話(ASL)の文法ともいえる
ものである。このことは、ろうとろう文化にうといカウンセラーが誤解しや
すいところである。カウンセリングを受ける当事者にとっては、コミュニケ
ーションの効果が高いことは極めて重要なことである。このため、カウンセ
ラーとの直接コミュニケーションの方を好む。しかしながら通訳を使うとき
には、カウンセラーは、サードパーティの利用に伴うコミュニケーションの
力関係をも理解しなければならない。通訳を使う場合、どんなに環境を整え
ても、若干の情報が失われたり、選別されたりすることを知っておかなけれ
ばならない。カウンセリングによって治療が成功するための最大の要因は、
15
効果的なコミュニケーションひとつに限られるわけではない。ろうとろう文
化を尊重することや多様性など対する教育的、心理社会的意味合いに関する
知識、感受性、学習意欲につながる要因もそうである。ろう・難聴のカウン
セリングのスタッフに力のある精神衛生のプロをおくことは大学のカウンセ
リング・センターにとっても貴重な資産となる。
情報源
ろう者の心理については、多くの本や記事に書かれている。ニール・グリ
ックマン博士、ジェフリー・ルイス博士、マーク・マーシャーク博士、ロバ
ートポーランド博士、マッケイ・バーノン博士らの出版した資料は偏らない
ものの見方で書かれている。
全米心理学会、第22分科会は、文献が入手できる専門組織のひとつである。
ろうや精神衛生サービスを扱う文献、ウェブサイトは以下の教育機関・精神
衛生機関で入手可能である。
Gallaudet University in Washington、 DC
The Lexinton Mental Health Center in New York City
the National Technical Institute for the Deaf/Rochester Institute of
Technology in Rochester、NY
その他全国にあるろう者用精神衛生関係の情報は以下の文献の中にある。
Mental Health Services for Deaf People: A Resource Directory
これは下記に問い合わせれば入手可能である。
the Gallaudet University、 Department of Counseling
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Dr Matt Searls,
NTID, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty member
at Shizuoka University of Welfare as part of the PEPNet-Japan program--a
collaborative effort of Tsukuba College of Technology and PEN-International
at NTID.PEN-international is funded by grants from The Nippon Foundation
of Japan to NTID.
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NETAC Teacher Tipsheet
キャンパスの治安と
ろうコミュニティ
もしあなたの学校のキャンパス内にろう・難聴の学生が在籍しているとし
たならば、地域の治安課は、ろうに関する基本的な情報を入手し、ろう学生
を守る義務が生じることになる。公安課の係官は、さまざまな場面でろう学
生に関わることになる。
窃盗を報告するとき
急病になったとき
遺失物の報告を受けたとき
駐車違反をしたとき
サービス利用の要請があったとき
ろう者とろう社会に関する基本的な情報から始めてみることにしよう。重
要なことは、ろうの程度にもいろいろ差があることを知ることである。
ろう・難聴、聴覚障害という言葉
・
ろう社会に属する学生の多くは「ろう」、もしくは「難聴」のどちらであ
るかと言われると「ろう(Deaf)」と言われる方を好む。
・
「難聴(Hard of Hearing)」という言葉は聴力が若干残っているか、補
聴器を使用している場合に用いられる。
「Hearing
Impaired(聴覚障害)」ということばは、ろう社会の人たちか
らは侮辱と受け取られかねない。なぜなら彼らは自分たちが「壊れている
( impaired)」とは思っていないからである。耳が聞こえないことは、彼ら
にとっては生活の一部であり、自分の文化であり、ASLは、言語なので
ある。(ASLは独自の構文と文法構造を持った言語と認識されている。)
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気をつけなければならないことは、ろうには、ろう社会というものが存在
し、ろうの人たちはそれを誇りに思っているということである。ろう社会は、
他の文化と比較して類似性も対照性もあるのである。
コミュニケーション手段
次に、ろう者とコミュニケートするいくつかの有効な方法について考えて
みよう。ろう者とコミュニケートするためには、以降に掲げる項目の中から
ひとつを選択する、あるいは二つの組み合わせを選択することも可能である。
忘れてならないのは、最終目標はコミュニケートすることである。
パントマイム
私たちは誰でも日常生活においてパントマイムを使っている。物の大きさ
や丸みや並びを表現するのに両手を使う。顔の表情だけで感情や考えを表す
こともある。
読唇
唇の動きを読む能力は、ろう者の間でも差がある。効果的なコミュニケー
ションにはアイコンタクトや適切な照明が必要である。ろう者は、唇を読む
ために話し相手の顔を見る必要がある。彼らは顔の表情やアイコンタクトな
ど、健聴者の社会にとっては当たり前の特定要因に強く依存している。唇の
動きを誇張しすぎないことが重要である。誇張しすぎることなく(ふつうに)
ゆっくり、はっきり話せばよい。
筆記コミュニケーション
筆記コミュニケーションは、すぐその場で質問をするとき、すぐその場で
回答をするとき、あるいは指示を出すときなど、短い会話に使うことができ
る。体力がいる作業であり、特に詳細が必要な事柄のコミュニケーションに
は適さない。筆記コミュニケーションのもう一つの難点は、時間がかかるこ
とである。筆記コミュニケーションは、ろう者の標準英語の知識に左右され、
難しい場合もある。
通訳(インタープリーティング)
通訳は、コミュニケーションをするのに優れた選択手段である。通訳者に
よって、話し手の声のトーンや、顔の表情、ボディ・ランゲージ、合図の強
さなどの表現を伝えることができる。どのような出来事/状況なのか、通訳
18
者に概要を伝えておくと参考になる。話し手は、通訳者の隣に立つ、もしく
は座って、ろう者と向き合うようにする。話しかけるのは通訳者ではなく、
相手(ろう者)に向かって話しかける。通訳者は、耳にしたことすべてを通
訳するものだということを注意しておく。
手話
手話は、コミュニティサービスの機関や地方の高校、大学などで教えられ
ることが多い。手話は、ろう社会とコミュニケートするには優れたコミュニ
ケーション手段である。手話は、こちらの好意を伝えることができ、また緊
急時に対して心の準備をすることができる。
TDD/TTY(ろう者用テレコミュニケーション装置)
TDD/TTYは、ろう者が、電話を使って健聴者や健聴者の所属組織と
コミュニケートするために必須の装置である。TDDもしくはTTYを持つ
ことは重要であるが、同じくらい重要なことは、健聴者側のコミュニケーシ
ョン担当係員が適切かつ迅速にTDD/TTYに応答することである。
通訳者を使う
通訳者と協力して仕事をすることは、簡単で効率のよいコミュニケーショ
ン手段である。通訳サービスを利用するときにまごつかないよう守るべきガ
イドラインや手続きをしっかり決めておくのはよいことである。
・
日中、夜間に「オンコール」通訳者と連絡する手順を定めておくこと。
通訳サービス担当部門または地方行政当局と面談して業務の調整をしてお
く。
・
地理的位置関係、自分の所属課に通訳者が提供できるサービスの種類、
予算上の制約などについてしっかり把握しておくこと。担当の警察署が調
査をまとめるのに学外で通訳サービスを必要としているような場合、いつ、
どこでその通訳者が使われるのかについて方針や手続きを定めておくこと
が重要である。
・
通訳者は、認定資格を持っているか?契約した通訳者が、その州やキャ
ンパスで法的手続きを通訳する特別資格を持っているか?
・ 取り調べの際、話したことについて証言するよう通訳者が証人として出廷
を求められることはないが、やりとりがあったことを証言するために出廷
を要請されることはあり得る。
19
緊急の場合
緊急時のコミュニケーション能力の有無は、時間の節約になるだけでなく、
生命を救うこともある。緊急時に備えたトレーニングは、常に危険予防に役
立つと言える。
・ 警察官にも「緊急信号」を教えておく。だれが、何が起きたか、どこで、
痛みは、病院、救急車、医薬品、薬、どれくらい、落ち着いて、通訳など
である。
・
青色灯緊急電話ボックスや学校の寄宿舎、会社内など、場所の情報によ
ってそれとわかる「無言電話」に対する対応手順を決めておく。
・
夜間検問の間、懐中電灯は自分とドライバーの間におき、光を上または
横向きにして、自分とドライバーの姿が見えるよう、また光が目に入らな
いようにする。
・ 車や交通標識につて勉強しておく。運転免許証、車両登録、保険カード、
停止信号、スピード違反、待つ、違反切符など。
・
学生としての権利やミランダ警告:別の表現で言い直す。
例:
「君には黙秘権がある」→「私の質問に答えたくなければ答えなくて
もよい」
・
ろう学生は、ことばを理解しても意味が分からない場合がある。権利を
説明した文書があれば誤解やあいまいさを避けることができる。
・
手錠を掛けると重要なコミュニケーション手段が失われる。被疑障害者
が落ち着いてから手錠ベルト(両手を体の正面で固定する)などを使うの
もよい。この道具ならコミュニケーションも取れるし、警察官にも危険は
ない。
追記
ろう者とコミュニケーションする際に考慮すべきアドバイスをいくつかあ
げておく。
・
「ろう者のうなづき」
面談中、こちらの質問に応じてろう学生は「はい」とうなづく。このよ
うな「うなづき」は、常に質問に対する「はい」とは限らない。質問のこ
とばが聞き取れたことを示すだけで、意味まで了解していないかもしれな
い。伝えたいことが明確に伝わっているか確認すること。伝わっていなけ
れば別の手段を使う。
・
サインやジェスチャーが大きく速い時は、ろう者は緊張していて感情が
高ぶっていることを示している。これを知らない人には、このろう者が暴
20
力を振るおうとしているとか、気が動転しているというふうに見える恐れ
がある。この場合、健聴者のところに移動させ、落ち着いてコミュニケー
ションできるところに座らせるのが好ましい。
・ ろう者とコミュニケートするには、アイコンタクトが絶対必要である(大
声で怒鳴っても意味はない)。顔の表情とボディ・ランゲージも重要である。
・
ステレオをかけながら運転するドライバーと同様、ろう学生にはサイレ
ンもよく聞こえない。
・
まずこちらがやろうとしていること、ろう者にどうしてほしいかを先に
説明することでストレスを抑え協力を引き出すことができる。
・
ろう者の注意を引くには、光を点滅させる、足を踏みならす、テーブル
を叩く、手を振るなどの方法がある。
訳者注:
ミランダ警告
警察が被疑者を尋問する前に与える警告のことである。黙秘権がある、供
述は不利な証拠になりうる・・・など4項目がある。
TDD/TTY
ろう者や難聴者、言語障害がある人が健聴者に電話をする際に利用する装
置である。この装置を用いて文字で表出したメッセージをオペレータが文字
を音声に通訳する。反対に健聴者がろう者や難聴者、言語障害のある人に電
話をする場合には、オペレータが音声を文字に通訳する。
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These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by James Pressey,
Campus Department, NTID, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki
Hirai a faculty member at Shizuoka University of Welfare as part of the
PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College of
Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded by
grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
22
NETAC Teacher Tipsheet
難聴学生のための授業法
統計データ
1992年から1993年にかけて、難聴もしくは耳が聞こえないことを
自ら認識している学生が20、000人以上、高等教育機関に進学している。
障害者の市民権を保護する法律がさらに浸透するようになって、聴覚に障害
のある学生が一般の高等教育機関に進むケースは今後増加することが考えら
れる。聴覚障害を恥ずかしいと考える価値観がまだあって、中には聴覚障害
であることを知られたがらない学生もいる。
教える側の方針次第
難聴の学生が安心して進学できるようにするためには、教育機関側の受け
入れ方針がしっかりしていなければならない。難聴の学生が成果を上げるた
めにもう一つ重要なものが、彼らのニーズをよくくみ取り、学生生活に全力
投入できるように配慮してくれる教員の存在である。
いろいろな学生がいる
難聴の学生は完全に聞こえないわけではない。人の話を理解するのに彼ら
は、スピーチリーディング(読唇)というテクニックを使う。このテクニッ
クは、単独で使うと30%を理解する効果しかない。そこで難聴者は、この
ギャップを埋めるために機械技術を含む、その他のテクニックも使う。話者
に近づくとか、補聴器を使うとか、その他の補助装置を使うとか、あるいは
それらすべてを使うこともある。補聴器は、1対1の対話の場合には効果が
ある。より大きな集団で話者からの距離も遠く、音響条件も悪い場合には、
赤外線やFM、オーディオループなどの聴力補助器具(補聴援助システム)
などを使用した方がよい。ほかに通訳者、ノートテイカー、CARTなども
あると授業についていくのが楽になる。難聴者が授業で授業内容を共有する
ための補助手段として、さらにいくつかのテクニックや制度が考えられる。
23
失聴の兆し
難聴の学生は、一般に自分から聴覚がないとは言い出したがらないもので
ある。このため教員の側でその兆候を察知し、なんらかの方策を講じるよう
学生をフォローする必要がある。失聴の兆候とは以下のようなものである。
・
受け答えがかみあわない。
・
話す音量が適切でない。
・
背後から話しかけられても気がつかない。
・
聴いているそぶりは見せるが授業中のやりとりについてきていない。
・
何度も聞き返す。
・
笑ったり頷いたりして反応するが意見をいわない。
自分のクラスに難聴の学生がいると思われたときはその学生と個別面談を
して、何とかしてあげたいと思っていることを伝える。そして何が必要なの
か確かめることをすすめたい。
教員へのアドバイス
1.効果的なコミュニケーション方法を使うこと
・
質問やコメントは、聞き直される前にくり返す、または易しい表現に
なおす。
・
クラス全体に向かって、速すぎないスピードで自然に話しかける。
・
時間が足りなくなりそうであっても授業進度が駆け足になってはいけ
ない。
・
板書しながら話してはいけない。
・
動き回りながらではなく、教室の正面で話すこと。
・
グループディスカッションでは話し手を一人指定すること。
・
授業中に飲み物を飲んだり、チュウインガムを噛んだりしてはいけな
い。
・
窓の前に立ったり腰を下ろしたりしない。影で口の動きが読み取りに
くくなる。
・
あごひげや口ひげは唇の動きを読み取るのにじゃまになる。短くカッ
トしておくこと。
・
難聴の程度について教師は知りたいと思っても、授業中に話題にする
ことはせず、個別に話をすること。
・
難聴の学生と自分の授業スタイルについて、オープンに意見交換をす
24
ること。
2.授業に配慮を反映させよう
・
シラバス、レッスンプラン、課題などのプリント類を配布すること。
・
連絡事項や課題は黒板に書くこと。
・
名前、技術用語、法則、公式、外国語なども黒板に書くこと。
・
映画やビデオを使うときは必ず字幕のあるものを使用し、印刷物を配
布すること。
・
もし学生からの要望があれば極力正面にいること。
・
テストは口頭でなくペーパーで行うこと。
・
補聴援助システム機器の使い方に慣れること。
・ 音声通訳、手話通訳、キュード通訳と授業を一緒にやることに慣れる。
・
ノートテイカーがいなければ授業ノートをコピーして配布すること。
・
CARTを使いこなせるようになること。
・
学生に話をしたいと思わせること。
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These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was prepared by Brenda Battat,
Dupty Executive Director, Self Help for Hard of Hearing Inc, and translated
into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty member at Shizuoka
University of Welfare as part of the PEPNet-Japan program--a collaborative
effort
of
Tsukuba
College
of
Technology
and
PEN-International
at
NTID.PEN-international is funded by grants from The Nippon Foundation of
Japan to NTID.
26
NETAC Teacher Tipsheet
中途失聴学生とともに
中途失聴とは、学校への通学や社会との接触などを通して言語を修得した
あとで聴力を失うことをいう。中途失聴の学生は、読唇、手話、キャプショ
ニング(読唇の補助として残存聴力の増幅も用いられる)など視覚補助手段
なしで話す内容を理解することはできない。中途失聴は、突然起こる場合と、
徐々に起こる場合とがある。中途失聴の学生はみな、健聴者の世界で育った
こと、生まれつきのろうではなく耳が聞こえなくなったのだという共通の経
験を持っている。教員が、こうした人たちともっとも効果的につき合うため
のアドバイスをいくつかあげてみよう。
1.学生に自己紹介する時間的余裕を与えて、何が必要か話し合うこと。中
途失聴の学生に必要なものは何かをクラスメートに理解してもらうため、
そしてみんなが障害学生の力になってやれるようにすること、授業外でも
障害学生に話しかけて、健聴学生たちがきっと体験すると思われる障壁を
理解してくれるよう、簡単なプレゼンテーションを健聴学生に対してして
もらえるか確認する。
2.CARTその他のコミュニケーション手段の基本テクニックを覚える。
中途失聴の学生のメインのコミュニケーション・モードは多くの場合、筆
記コミュニケーション(筆記英語)である。学生は、CARTで直ちに情
報を得ることができたり、フロッピーディスクがあればあとで授業内容を
見直したりすることもできる。学生はこうしたサービスがあることや、同
様に利用できるその他の手段を知らないことがある。
3.通訳と中途失聴の学生が使えそうな通訳手法(手話音訳、口話、アメリ
カ式手話(ASL)、キュードスピーチ音訳など)の基本的利用法を学ぶ。ろ
う・難聴の学生は、聞こえなくなった年齢と文化的背景に応じてさまざま
なコミュニケーション手段を持っている。中途失聴の学生の中には最も気
27
に入っている方法として、ASLを使う学生もいれば、手話英語を使う学
生もいる。授業の前でもあとでもよいから通訳者に話を聞いて、通訳者の
仕事や使用するコミュニケーションのタイプに特有の問題点などがあるか
を調べること。
4.「障害をもつアメリカ人法(ADA)」と「リハビリ法第504項」につ
いて基本を学習しておくこと。この二つの法律は、学内における難聴の学
生に関係する法律である。
5.CARTの文書ファイルはいつも使えるとは限らないため、学生に授業
ノート作成を手伝ってくれるよう頼んでおく。講義量が多い科目もあるか
ら、資料をまとめたりノートを取ったりする仕事を別々の学生に頼んでお
くと便利で、あとでCARTの文書から何ページも読まなくてすむ。
6.通訳者は、窓の前に立って中途失聴学生に向き合わないようにする、と
いった環境問題にも気を遣うこと。光源の前に立つと唇を読んだり、キュ
ーを視認したりすることが難しくなる。障害学生に気を配り、話すときは
学生としっかり向き合い、顔や口の周辺で注意をそらすことのないように
する。
7.できるならば質問や応答はくり返すようにする。
8.中途失聴の学生にとって主言語は英語であることを忘れないようにする。
必要があればいつでも筆記コミュニケーション(筆記英語)を使うこと。
9.健聴学生同士のやりとりを、規制する。健聴学生が発言するときには必
ず手を挙げさせる。そうすることで健聴学生だけではなく、中途失聴の学
生もいま誰が発言しているか知ることができる。
10.話し手の名前を明らかにすること。そうすることによって学生はいま
誰が話しているのか知ることができ、またCART担当者もそれを入力す
ることができる。
28
11.インターンシップ、グループミーティングなど教室外の活動にも参加
の機会を与えること。もし、中途失聴の学生がグループに加わるような場
合には、そのミーティングの目的について、キャプショニングや通訳その
他工夫して、なんらかの方法で教えてあげること。
12.話すときは中途失聴の学生の方をまっすぐに見ること。板書しながら
話したり、下を向いて話したり、学生に背を向けて話したりすることのな
いように注意する。
13.明瞭に発音する、そしてふつうのスピードで話す。大げさな言い方を
したり、口ごもったりすると唇の動きを読むのはさらに難しくなる。
14.できるだけ視覚補助具を使用すること。OHPやメモボードなどは中
途失聴の学生にとって大いに助かる道具である。
15.できることなら授業のあと学生が個人的に質問をする時間をとる。こ
うした時間をとることが可能であることを学生にも知らせておく。聴いた
ことに対して自信のないとき、しかも自分が聞き逃したかもしれないのに
授業を止めたくない時などには、学生にとっては授業後1対1の方が質問
しやすいこともよくある。
16.高等教育プログラムの障害者サービスコーディネータ、その他ALD
A(中途失聴者協会)など利用できるものは利用する。
29
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was prepared by Mary Clark,
President, Association of Late-Deafened Adult, Inc., and translated into
Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty member at Shizuoka University of
Welfare as part of the PEPNet-Japan program--a collaborative effort of
Tsukuba
College
of
Technology
and
PEN-International
at
NTID.PEN-international is funded by grants from The Nippon Foundation of
Japan to NTID.
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NETAC Teacher Tipsheet
人工内耳手術を
受けているろう学生への対応
概
要
大人も子供も含め、人工内耳(CI)の手術を受けるろう者の数はかつて
ないほど増加している。こうした傾向を考えると、これまでになく多くの数
の学生が人工内耳を埋め込んだ状態で入学してくると考えて差し支えないで
あろう。このため、障害者支援サービスのスタッフも人工内耳手術とその影
響について基本的な知識を持っていることが必要になる。
人工内耳は、電子部品を蝸牛管内部に埋め込むもので、重度の難聴で補聴
器では充分な聴力が得られない人に、実用レベルの聴力とコミュニケーショ
ン能力をもたらすように設計されている。ただし聴力が「正常レベル」に回
復するわけではない。
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人工内耳の機能
人工内耳は、機能を失った蝸牛有毛細胞をバイパスして聴覚神経に直接刺
激を与えるよう設計されている。
CIに必ず装備されているもの
1.電極セット
2.マイク
3.信号プロセッサ
4.カプラ(送受信機)
2つのタイプを示す
A:耳の後ろに装着するタイプ
B:身につけて持ち運ぶタイプ
CIが音を伝えるしくみ
・
マイクが音を拾ってプロセッサに送る。
・
プロセッサが音を選択し、意味のある音声や音楽になる音声コードを組
み立てる。
32
・
音はプロセッサから皮膚を通して磁気ヘッドセット経由でレシーバー/
スティミュレータに伝えられる。
・
次に音声コードが電気信号に変換され電極セットに電気を流す。
・
さらに電極が聴覚神経を刺激し、脳が電気信号を音として認識する。
今後の展望
人工内耳は、
「正常な」聴力を取り戻すものではない。患者にCIの手術が
適当と診断されると聴覚学者と耳鼻咽喉科医は、人工内耳を埋め込んだから
といって生物学的に正常な聴力が戻るわけではないことに了解を求める。手
術の結果は人によってかなり異なる。環境音を認識するだけの場合もあれば、
電話を使ったり、音楽を聴いたりすることができるようになる人もいる。患
者も周囲もCIの埋め込みがろう者を健聴者のようにするものではないこと
を認識しておくべきである。
人工内耳手術の是非
ろう社会においては、生まれたときからろうでコミュニケーション手段と
してアメリカ式手話を使っている人たちの間で特に、人工内耳手術に対する
反対意見や抵抗感が強い。彼らの考え方の中心にはろう文化に対するプライ
ドと、ろうは治療して直るものではないという思いこみがある。
しかしながら、ろう社会においては一般的に後天性ろう、すなわち成長後
に聴力を失った場合については、CIの埋め込みが理解もされ、支持も受け
ていることは述べておきたい。
高等教育における影響は?
高等教育レベルでは、CIの埋め込みで多少の改善があったとしても、学
生にとってサポート・サービスが必要であることに変わりはない。手話もし
くは音声通訳が必要な学生もいるし、その場合問い合わせの多いのがALD
(補聴援助システム)である。同時キャプショニングがよいという学生もい
る。CIを埋め込んでいる学生が最も多く必要とするのはおそらくノートテ
イキング・サービスであろう。
CIを埋め込んでいる学生が必要とするもう一つのサポートに、CI埋め
込みにより生ずる問題や成長後に聴力を失ったことからくる問題に対するカ
ウンセリングがある。どちらの問題も、他の健聴者やろう社会のメンバーと
してのろう学生の抱える問題とは明らかに異質のものである。コミュニティ
33
が学校であるか他の所属組織であるかに関わらず、CIを埋め込んでいる人
や16歳以降に聴力を失った人の存在を知っておくと有益である。彼らは貴
重な人的資源であり、決して見落とされたり過小評価されたりしてよいもの
ではない。
そのほかのポイント
・
話すときには必ず相手の方を向くこと。
・
話している間は必ずアイコンタクトを忘れないこと。
・
必ず明瞭な発音を心がけること。
・
同じセンテンスを必ず二度くり返す。それでも相手が理解できなければ
表現を変えて伝える。
・
必ず環境音をチェックすること。
・
必ず環境光をチェックすること。
・ 話している間、決してろう者の視界から外れることがあってはならない。
・
話の内容を決して誇張しすぎてはならない。
・
決して周囲の大きな雑音に負けないよう気張ってしゃべってはいけない。
雑音が通り過ぎるまで待つか、または静かなところに場所を移すことを考
える。
・
決して大声で話してはいけない。
・
決して口にものを入れながら話したり、目の前に口が隠れるようなもの
を置いたりして話してはいけない。
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Sharaine Rawlison,
Associate Director, Midewst Center for Postsecondary Outreach, ST.Paul
Minnesota, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty
member at Shizuoka University of Welfare as part of the PEPNet-Japan
program--a collaborative effort of Tsukuba College of Technology and
PEN-International at NTID.PEN-international is funded by grants from The
Nippon Foundation of Japan to NTID.
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NETAC Teacher Tipsheet
ろう学生の言語能力と学習能力
「優れた授業こそ良い授業法に他ならない」ということばがあるが、ろう
学生の教育に当たってどのようなやり方を模範とすべきか考えるとき、この
ことばには重要な真理が含まれているといってよい。ろう学生や難聴の学生
に、おざなりでなく、満足できるレベルの教育をする方法を考えるならば言
語教育と内容学習をリンクする同等の教育的手法を取り入れる必要がある。
ろう学生も難聴学生も、コースの科目内容の学習と同時に言語も学習すべき
である。そのためには、すべての教員が、学生の学ぶ領域について言語もリ
ーディングもライティングも教えることができた方がよい。もちろん学習内
容は、その科目を担当する教員の指定に従うべきである。それでは言語とリ
ーディングとライティングを学習内容にどのように埋め込めば学生は、特に
ろう・難聴学生は、他者の考えを学んだり、斬新なアイデアをことばで表現
したりできるようになるのであろうか。ここにいくつかヒントをあげてみよ
う。
全カリキュラムに関わる言語
・
授業が始まる前に、前のクラスで話し合ったアイデアを学生に要約して
もらい、次にその要約をその授業の目的に関連づけて話してもらう。
・
学生がディスカッションを通して考えをまとめる時間を増やす。特にリ
ーディングとライティングの課題を与える前には必ず時間を増やす。
・ ドラマ仕立てにするなど、できる限りアイデアを現実味あるものにする。
たとえば酵素の触媒機能を学習している学生の場合など、これら酵素がア
ミノ酸を「捕獲」してタンパク質を作り出す様子を自分で演じてみると決
して忘れることはないだろう。
・
黒板の図表を使ってアイデアを図示してみる。
・
たとえを使って分かっている概念と分かっていない概念を比較してみる。
たとえば度量衡換算(インチをセンチに、オンスをグラムになど)を教え
る場合、まずお金の単位変換(ドルをダイムに、クウォータをペニーに)
35
を教える。そうすると金額よりもお金の形で、おつりの考え方を理解する
ことができる。
・
キーになる概念や用語を黒板上に書き出し、授業中にポイントしたりし
て意味を確かめる。
全カリキュラムに関わるリーディング
・
リーディングの課題を与える前に課題の概要を教えておく。
・
もしリーディングが物語形式であれば登場人物の氏名と役割を明らかに
しておく。
・
本の行間に意味や質問を「書き加える(marking-up)」方法を実例で示
す。
・原文からの引用や事実を片側に書き写し、それに対する答えや疑問点を反
対側のページに書き込めるような二度書きノートを使って原文にさらに深
く踏み込むように指導する。
・
パソコンやOHPを使って原文をできる限り投影して見せる。人差し指
で新出用語とその意味・用法(単語の前後にある文との関係)を示すこと。
・
通訳に表示した文章のなるべく近くに立つあるいは座るなどしてもらう。
原文の難しい部分を音読して文の意味をどのように解釈するかやってみせ
る。
(前の文章が後の文章にどのようにつながっているか、読み手が文の意
味をどのように予測し、結果を確認しながら読み進めていくのかを教える)
・
クラスでディスカッションしたあとも納得のいかない課題文をもう一度
学生に読ませ、かつ書き直させる。
全カリキュラムに関わるリーディング
・
ライティングの必要量を増やすこと。長めの課題1、2本に対し、短め
のものを数多く与えるのも一考の価値がある。
・
回答書、方針説明書、インタビュー、調査など書き手が直接関わるよう
な内容の課題を創り出す。
・
優秀な学生のライティング課題を分析して他の学生のライティングに何
が求められているのか明らかにする。
・
同じ文献について複数の要約課題を出し、必要に応じて1本1本の課題
にコメントをつけて返す方法も大きな効果がある。この場合、話の流れが
スムーズであるか、明瞭か、正確か、次のような方法で評価することがで
きる。すなわち要約1に対しては、課題のテーマが充分研究されているか、
充分な情報が収集されているか、情報が錯綜していないか、どの部分とど
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の部分が関連しているかなどについて評価を加える。ことばに不明確な点
があれば指摘する。要約2に対しては(場合により)もっと詳細な情報が
必要であるとか、提示の順番を変えた方がよいとか、表現をもっと正確に
した方がよいなどの点を評価する。要約3が完了したあとはライティング
担当講師のところへ行って文法の間違いはないかチェックしてもらい、課
題から明らかになった文法上の問題点についてアドバイスを受けるよう指
導する。要約1から要約4の間に進歩があれば評価点を与えてよい。
・
ライティング担当講師は、学生の話す言語に精通しており、かつ矛盾な
く文法を教えることに熟達していなければならない。X-Word 文法方式を試
してみるのもよい。X-Word 文法方式は、書きことばとしての英語のための
言語学に基づいた文法であり、英語の言語構造を教えるには順序立てられ
た、しかも包括的で厳密なアプローチといってよい。このアプローチを授
業全期間に適用するためにちょっとした工夫をしてみよう。授業を5分早
めに終わって、学生にその授業で得られたこと、およびまだ解決しない疑
問点を書き出させるのである。ここで書いたものは次の授業の始めに読ま
せてもよい(前述の全カリキュラムに関わる言語の最後にあげたポイント
で述べたとおりである)。
ここであげた方法を使うことで、学生は、新しいアイデアとそのアイデア
が言語の中でどのように表現されているか、両者の関係をより明確に把握す
ることになり、教養あることばの使い方ができるようになる。
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These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was prepared by Dr.Sue Livingstone,
Professor in the Program for Deaf Adults, LaGuardia Community College, and
translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty member at
Shizuoka University of Welfare as part of the PEPNet-Japan program--a
collaborative effort of Tsukuba College of Technology and PEN-International
at NTID.PEN-international is funded by grants from The Nippon Foundation
of Japan to NTID.
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NETAC Teacher Tipsheet
盲ろう学生を教える際の配慮
盲ろうの学生が学生登録し、あるコースを選択した場合、そのコースの細
部を見直し、シラバスやプリント類、OHPやその他の視聴覚教材、試験、
提出物などに特別な対応が必要であるかどうか決定しなければならない。盲
ろうの学生にも視覚、聴覚の程度に差があるため、何が必要かについて一定
の法則があるわけではない。最初のステップは、学生本人と話をしてどのよ
うな対応が必要か決めることである。
アシスタントが必要なとき
頼めば来てくれるアシスタントがいる。障害を持つ学生にサービスを提供
するスタッフがいて、教員も障害をもつ学生も応援を要請することができる。
このようなスタッフは、カウンセリング・オフィス内やDSS(障害学生サ
ポート・サービス)のさまざまな部署に待機している。彼らはサポート・サ
ービスを提供するために何が求められているのか、どこに行けばどのような
情報が手に入るのかについて知識も経験もある人たちである。学生の了解を
得た上で、これまで担当していた教員に話を聞くのも役に立つ。
学習補助機材を使う
学生が使えるサポート・サービスにはいくつかのタイプがある。こうした
サービスを利用することで授業における学生の理解度を上げ、コースの進度
がペースダウンするのを避けることができる。以下にサポート・サービスを
いくつかあげてみよう。
ALDS(Assistive Listening Devices System
補聴援助システム)
教員が身につけた小型マイクが講義の声の音量と明瞭さを増幅し、学生は
身につけた装置でこれを聴くものである。小グループの場合には外部接続装
置を用いて数人の声だけがよく聞き取れるようにすることもできる。
39
通訳
通訳者は教室内にいる学生相互間および学生以外の人の間の情報のやりと
りを仲介する。必要とされる通訳者のタイプ、言い換えれば通訳の手段は学
生の視力・聴力がどの程度残っているかによる。通訳者には音声によるもの、
視覚によるもの(ASLなどの手話システムに学生/通訳間の距離の大小や
手話空間の大小によるバリエーションを加えたもの)、触覚(手と手をつない
で行う)によるものがある。
ノートテイカー
ノートテイカーは講義中筆記、点字、録音などで講義内容の二次ソースを
提供するものである。
チューター
チューターは、個別指導教員である。個別指導の際には通訳が必要になる。
リーダー
最小限ながら視覚も聴覚も残っている学生には、リーダーがテキストその
他教材の読み上げ作業を担当する。
教室の物理的適合条件
科目内容の実施場所や環境によっては対応できる対策がいくつかある。
・ 教室の明るさは充分か?
・ 蛍光灯や片側の壁に添って室外に向けて開け放たれた窓などグレアの原
因となるものはないか?
・ 白い壁や白いテーブルクロスがグレアの原因となっていないか?
・ 教室内に盲導犬や通訳のいるスペースがあるか?
・ 公共交通機関を使う学生もしくはとり目の学生が夜間コースを選択でき
るか?
・ 座席配置が適切かどうか?
教室の物理的条件が学生の必要性に合わないならば別の場所を考えるのが
好ましい場合もあることなど、学生の授業参加が向上するよう考えるべきであ
る。これはOSD(Office for Students with Disabilities on campus−大学障
害学生支援オフィス)との協力で実施可能である。
40
プリント配布物/特別教材を使う
もし自分のクラスに正規メディアでは対応できない機材を持った学生がい
たら早めに学生を呼んでその学生の処理できるメディアへ変換する必要があ
る。コース教材は、他の学生に遅れることのないよう本人に確実に渡すよう
にしないとその学生の学習効果に影響することになる(Senge & Dote-Kwan、
1998)。教材によっては、ときには早めに用意しなければならないものもある。
たとえば、授業で配布された文献をその場で読んで、ただちに議論したりレ
ポートを書いたりするのはムリというものである。事前に配布物が必要なの
は、通訳を使いながら、文書を読みながら、同時にディスカッションに参加
することは不可能だからである。視覚的対応に問題があるとリーディングに
よる理解も阻害されるものである。プリント配布物に変わるものとして考え
られるものに以下のようなものがある。
拡大印刷/点字文書および音声テキスト
リーディング用テキストや配布物はすべて拡大プリントや点字、録音テー
プの形に変えておく必要がある。まずこうした問題は、印刷会社に相談する
とよい。米国の法律(ADA:障害を持つアメリカ人法)は、教科書はすべて
の読者が読める形で提供されなければならないと定めている。可能であれば
コンピュータで処理できる形への変換も検討する。教材がコンピュータで処
理されようと手作業で作られようと、個々の盲人にとって力となるのはボラ
ンティアや障害者サポート・サービス、市の福祉当局などである。
リーディングマシン
リーディングマシンは、表示サイズを拡大するだけでなく、黒いスクリー
ンに白文字で表示することによって視神経へのストレスとグレアを軽減する
ようになっている。リーディングマシンはCCTV(クローズドサーキット
テレビ)としても知られており、キャンパスや市町村の図書館で見ることが
できる。また個人で所有している学生もいる。
41
視聴覚教材を使う
授業でビデオを使ったり、OHPやスライドを使ったりする場合、必ず視
聴覚障害を持つ学生のために一定の変更が必要となる。たとえば提示してい
る情報が確実にその学生に届くように通訳をつけるなどである。場合によっ
てはOHP教材の拡大印刷や点字コピーの提供、またビデオやスライドは文
字原稿での配布などの対応が必要である。弱視の学生にはカラーオーバーレ
イを使うと画面のコントラストが強くなって効果がある(Enos & Jordan、
1996)。弱視の学生にはライティングが非常に重要であることが多い。照明を
暗くすると、弱視の学生は教材や通訳を見ることが一層困難になる。重要な
ことは、授業で提示される視覚情報をすべて、視力障害のある学生のために
別の形で表現してみせるということである。たとえばOHPでグラフ化した
り、図表化したり、染色体の拡大模型を使って動きを示すことをしたりとか、
あるいはまた、カウンセリングをロールプレイしてみるとか、実際に体を動
かしたり、実物模型を使うことである。
小グループによるディスカッション/アクティビティ
一般に、教室で授業をする際適用されるさまざまな対応策は、学生が小グ
ループでディスカッションをする場合やグループによるプロジェクトを進め
ようとする場合にも必要になることが多い。通訳やALDを使うこともこう
したサポート・サービスのひとつである。一度に複数の学生が話すことのな
いよう、また学生は、始めに自己紹介をして盲ろうの学生がついていけるよ
う、ディスカッションに参加できるよう、話の進め方のルールを決めて、そ
れを守るようにする必要がある。グループが作成した成果物は障害者用形式
(alternate format)に変換するようにする。学外で特別ミーティングを持つ
際にはボランティアかグループの誰かの手を借りて障害学生をミーティング
の場所まで運ぶことになる。
口頭発表
もし選択したコースで口頭発表が必須となっている場合、全員によるコミ
ュニケーションに間違いがないよう、さらにいくつか工夫が必要になる。も
し、学生が通訳を使う場合、通訳は学生の示しているサインが何を意味する
かクラス全体に声で知らせることになる。たとえその学生が手話を使わなく
ても、学生の声が明瞭でなかったり小さかったりした場合には、音声通訳が
必要になる。さらに学生の見える範囲が限られていれば、通訳がクラスメイ
トからのコメントを学生に伝えることになる。
42
試験
障害者用試験実施方法として考えられるものには、次のようなものがある。
・ 試験を口頭で行う。
・ 試験問題をASLで翻訳(視覚でも触覚でもよい)してもらう。
・ 音声テープで聞けるようにする。
・ 試験時間を延長してもらう。
・ 照明環境がよい場所で試験をうけさせる。
・ 読書機(リーディングマシン)のある場所で試験を受けさせる。
この他に、答えを記録するのに必要な対応策が必要になる。またオプショ
ンとしてノートテイカーや試験監督者、パソコンによる答案システム、点字
による答案システム(試験後に通常文字になおす)、ライティングガイドやテ
ンプレートなどの弱視補助器具を使用する等がある。(American Council on
Education、 2000)
アクティビティ
通常、教室の外で行われるアクティビティは、すべて事前によく検討して
障害学生が充分参加できるようにしなければならない。学外の異なる環境で
授業をする場合、障害学生はその場所へ移動するのに誰かの案内と補助が必
要になる。その学生がふだん歩いて学校に通っている場合など移動手段が必
要になる。学生が盲導犬をつれているような場合は、その施設が介助犬の入
館を禁止していないかどうか確認をする。場所によっては、化学物質の蒸気
や有毒の蒸気を使用している場合もある。
授業スタイル
自分のクラスに盲ろうの学生がいる場合、教員の授業スタイルもいくつか
対応すべき点が出てくる。もし、その教員が、ふだん講義の間、教室内を歩
き回っているとすれば、障害学生は、教員の声をはっきりと聞き取ることは
できないだろう。教員が板書しながら話すと、障害学生は教員の声を聞き取
ることも唇を読むこともできなくなってしまう。もし教員が毎時間のように
OHPやスライドを使うなら、それらの資料は資料を見ることができない学
生のためにコピーして配布されるか、または点字で打ち直す必要がある。
講義のスピードも通訳がついていける速度でなければならない。前述した
やりとりのルールを採用すれば充分に参加することも可能になる。ロールプ
レイによる全員参加により、視覚も聴覚も失った学生もともに授業を受けら
れることができる。土壇場で配布プリント類を作成する教員も、障害学生用
43
の資料を準備する必要がある。学生にとって都合のよい学習スタイルが分か
れば、教員は、できうる限りその授業スタイルを変えずに必要な対応策を講
じることができる。
結論
視覚および聴覚の障害の程度は人によって異なるため、盲ろうの学生に必
要な対応策も千差万別かつ明確である。しかしながら、対応として簡単に実
行できるものが多い。DSSを通じてサービスを利用するのもよい。学生と
オープンなコミュニケーションを継続することが、最終的に学生にとっても
教員にとっても良好な教え、学ぶ環境を築くことにつながるのである。
本ファクトシートの開発はジャミー・マクナマラとパット・レイチェルが
入力をしてくれたおかげである。
個別指導分野でのプロと接触するための詳細情報、および NETAC Teacher
Tipsheet series が カ バ ー す る そ の 他 の ト ピ ッ ク の 詳 細 情 報 に つ い て は
NETAC の Web サイトで見ることができる。
http://netac.rit.edu
訳者注:
リーディングマシン:この場合、拡大読書器を意味している。
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with theU.S.
Department of Education. This tipsheet was prepared by Beth Jordan, Helen
Keller National Center, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a
faculty member at Shizuoka University of Welfare as part of the
PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College of
Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded by
grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
44
NETAC Teacher Tipsheet
ろう・難聴学生に対する
試験実施上の配慮
法律ではどこまで義務づけられているか
高等教育に進学を希望する、ろう・難聴の学生の数が増加するにつれて、
等しい受講機会を確保してほしいという要望も増加している。通訳、ノート
テイカー、補聴援助システムなどの学生への配慮は、ほとんど明白であり疑
問の余地がないものである。しかしながら、ろう・難聴の学生が試験実施の
配慮を求めている件に関しては、問題点も多く、全米のサービス提供業者に
も少なからぬ混乱の原因となっている。サービス提供者の中には、ろう・難
聴の学生に、試験実施に関してはいかなる便宜も必要ないと考えるものもい
るし、必要だと考える者もいる。
1990年の「障害者をもつアメリカ人法」および1973年の「リハビ
リ法」第504項では、試験は、何びとも障害を理由に差別されることのな
い方法で実施されることを義務づけているが、そこから踏み込んでサービス
提供者がどうすべきかについてはほとんど触れておらず、いわゆる「グレー
ゾーン」となっている。
ADAによれば、特別な配慮を受けるためには実生活上大きな制約となっ
ている認定障害であることが必要だとしている。このため、難聴が認定障害
に当たるかどうかという点が議論の的になっている。高等教育機関のサービ
ス提供者の中には、難聴は認定されるという者もいるし、難聴だけでは認定
できないという者もいる。ろう社会の人たちは、しばしばこの点に反対して
おり、より大きな混乱の原因となると同時に、社会文化的問題ともなってい
る。
ろう・難聴の学生に対して試験への配慮をすることに反対している人たち
は、その学校の入試条件を満たす入学者は、学力上の条件も満たすべきだと
45
主張している。これは検討に値する主張である。より高度の学位を目標にし
ている学生が、配慮を要望していることを計算に入れるべきである。賛成派
の主張は、ろう・難聴の学生は、聴覚に問題がある結果、英語に問題点を抱
えている場合もあり、障害の定義に該当するため配慮が必要というものであ
る。
英語能力は、ほとんどの経営、管理、専門技能分野の職業で必須とされる
もので、学生に英語での一定の習熟度を要求するのは妥当であると考えられ
る。教育、心理学、カウンセリング、法学、医学などどの分野においても、
情報を取り込み、明瞭で正確なレポートを書いて、英語をこれらの分野で出
会う職業に必須のツールにするだけの、一定レベルの英語能力は求められる
からである。
しかしながら、英語能力が重要であるとはいうものの、必須というわけで
もないような職業もある。製造、サービス、建設、その他いくつかの技術職
などは、英語ができなければ仕事ができないような職業分野ではない。これ
らの職業分野には「ハイテク」の職業もあり、まともに仕事をするには平均
から平均以上の知性が必要な職業もある。
ろう・難聴の学生の中には、そうした職業に必要な知性を持ちながら、
「英
語表現(English Communication)」のような就職や一般教養関連の科目にお
ける試験では英語力がないため健聴者に太刀打ちできない学生がいることも
よくあることである。
このような場合こそ、サービス提供者と教員が協力して、どちらも学生の
ことを常に最優先に考えているという信念を認め合うべきである。重要なこ
とは、その試験が英語のスキルだけでなく、仕事的内容のスキルを判定する
ように作られているかのチェックを受けているかどうかである。内容に関す
る理解が重要か、英語の能力か、それとも両方かを決めるのは教員である。
内容の理解が最優先となれば、試験実施の際の配慮は妥当であろう。だから
といってこの職業分野で英語は重要でないというわけではなく、その学生は
英語のスキルは高くないけれども、この職業分野で成功する可能性を持って
いることを示しているに過ぎない。
サービス提供者には、このような配慮がろう・難聴の学生に不公平な有利
さを与えるのではと懸念する者もいる。残念ながらデータはなく、高等教育
46
の場にいるろう・難聴学生に試験上の配慮をするという大きな問題に関して
は研究が待たれている状況である。これまでの研究によると、リ−ディング
のクラスでは、作業の遅い学生に対しては、試験時間を延長することが有効
であることが分かっている。作業の遅い学生と、そうでない学生を比較して
みると、共通試験問題を最後まで解くために時間を延長した学生のほとんど
全員が、集計上影響のあるほど点数が上がっている。おもしろいことに時間
無制限にしても、もともとの試験時間の50%を超えて試験場に残った学生
はいなかった。
重要なことは、要望には個人ベースで対応すること、そして誰と誰に試験
の際の配慮を与えるかを決定するのは厳密な理論によることはできないとい
うことを受け入れることである。試験の際の配慮が必要かどうかを決めるに
は、いくつか検討すべき要因がある。ADAは、自由裁量権(carte blanche)
にそのような配慮を要求していないため、サービス提供者は学生個々のニー
ズに対応すればよい。過去のこのサービスを利用したことがあるか?文書化
された二次障害を持っているか?学習障害か?リーディング能力のレベル
は?リーディングの際の作業能力は?メインの伝達手段は?これらの要因が
わかればサービス提供者は配慮が妥当かどうか決定するのが容易になる。
ろう・難聴の学生に与えられる試験実施の配慮
ろう・難聴の学生に与えられる試験実施の配慮の項目例を次にあげる:
時間延長
答案を完成させるために試験時間を延長する。ほとんどのケースではどの
学生にも一般の試験時間の50%の延長で充分である。
試験答案の編集
多肢選択と長文エッセイからなる試験問題はろう・難聴の学生を混乱させ
る。問題の表現を変えると、学生は内容を理解しようとやる気になる。教員
は、問題は疑問の余地のないほど完璧であると思いこんでいることがあるた
め、この配慮には教員を入れて慎重に行う必要がある。4つの解答群を持っ
た多肢選択式の問題が、ろう・難聴の学生にとってどれほどやっかいか教員
には分からないかもしれない。
47
手話問題−手話解答
試験問題を、手話通訳者に通訳してもらうのも、教員とサービス提供者が
協力して提供することができる配慮のひとつである。通訳者が問題を通訳し、
学生が解答を手話で返すものである。これは学生が疑問点をはっきりさせる
ため通訳者を使う(ほかの学生と同様に)のとは異なる。教員は、試験が内
容理解を判定しようとしているのか、英語のスキルか、それとも両方なのか
決めておく必要がある。
試験が、主として内容理解を判定するように作成されている場合、教員は
問題の中の用語を指し示すのみ、通訳者は指でスペルをなぞるだけにする。
これにより、通訳者がろう・難聴の学生に余計な情報を与えて、不公平にな
る心配をなくすことができる。この配慮によって学生は文字による問題に手
話通訳者を通して手話で回答することができる。これは作業速度の遅い学生、
読み書き能力が高くない学生にとっては都合のよい方法である。
補助具を使う
エッセイ問題では学生にコンピュータのワープロ機能の使用を認める。
集中できる環境
外からの雑音を最小限に抑えた環境を用意する。部屋・建物内部の振動な
ど環境からの雑音は健聴者には気にならないかもしれないが、難聴の人にと
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by David Buchkoski,
training Coordinator for the Midwest Center for Postsecondary Outreach, S.
Paul Technical College, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a
faculty member at Shizuoka University of Welfare as part of the
PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College of
Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded by
grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
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NETAC Teacher Tipsheet
授業テクニック
ろう・難聴学生など
視覚学習者のための視聴覚機器の使い方
ろう・難聴学生に対して、いろいろなタイプの授業テクニックを考えるよ
り先にどうしてもやっておかなければならない配慮がいくつかある。主とし
て、視覚入力に頼る必要のある学習者にとって、授業環境を最適の状態にす
るには、教室のセッティング、表示装置の見やすさ、それぞれの技術が最も
効率よく使われるよう充分な配慮が必要である。通常の教室環境で機材を使
用することを考える場合、視覚学習者が機材を使用した授業のメリットを最
大限活かすためには、どの機材がよくてどの機材は避けるべきか、充分考慮
しなければならない。
教室のセッティング
・
学生からの要請があった場合、極力正面近くに立つこと。
・
教室の空間をたて方向に使うこと。
・
机/イスをU字型に配置すると、学生同士のコミュニケーションを最大
にすることができる。
・
窓がある場合、できる限り不透明なカーテンで覆うこと。
・
投影機を使う場合、画面と最後尾の学生の距離を投影画面幅(スクリー
ンサイズではなく)の5倍以内にするという「5:1ルール」を適用する
こと。
49
マルチメディア機器の見やすさについて
・テレビ
事前に教室でビデオを再生し、学生が座る可能性のある最も遠い位置に
立ってみること。そして映像がはっきり見えるか、キャプションは読める
かを確認する。
・プロジェクタで投影したパソコンの画面
授業で提示したい部分を表示した上で、学生が座る可能性のある最も遠
い位置に立ってみること。画像ははっきり見えるか、文字は読めるか確認
する。
・OHPシート
目の前の床においた白い紙の上にOHPシートを重ね、直立状態で文字
が読めるか確認する。読めないようであれば投影した状態でも読むのは難
しいと思われる。
・視覚障害者への配慮
学生の中に視覚障害者がいる場合には投影する資料のハードコピーを配
布すること。
授業テクニック
・一度に一テーマを
注意を引きつけるビジュアルなキューは、一度にあまり多用しすぎない
方がよい。学生の注意は室内の極力限られたエリアに集中させる。あまり
歩き回らないようにする。板書中や学生に背を向けている間は話すのをや
める。
・二人同時に話さない
全員によるディスカッションは、野放しにしてはいけない。司会として
一度に二人以上が話さないようにコントロールすること。次に誰に発言さ
せるか決めておくとよい。そうすれば学生たちは次の発言者は誰で、いつ
発言してもよいか知ることができる。答える前に質問をもう一度くり返す
か、わかりやすく表現しなおすことである。
・ペースはゆっくりと
手話を使う、もしくは通訳やALD(補聴援助器具)を使う場合は、そ
れら補助環境がついてこられるようテーマとテーマの間に休みを入れるこ
と。
50
・視覚内に余分なものを入れない
できる限り学生の方を向いていること。窓の前に立って講義するのは、
日よけがあってもなくてもしてはいけない。コントラストの強い光はコミ
ュニケーションの妨げになる。飲み物を飲んだり、チューインガムをかん
だりするのもいけない。
あごひげ、口ひげは短くカットしておくこと。長いと唇の動きを読むの
に支障がでる。
・質問を投げかけること
学生が教員のところにやってきて、情報の伝達に関して教員のティーチ
ングスタイルが妥当かどうか意見を述べるのをためらわないような雰囲気
を作ること。講義内容が聞き取れているか、学生の聴力について他の学生
のいるところでなく、個人的に話し合う。
・通訳者と友人関係を築く
音声、手話、キュードスピーチなどの通訳者と仲良くなって授業中の連
係プレーがうまくできるようにする。
・情報は事前に伝えておく
授業の概略と課題について予め知らせておく。
テクノロジーは有効に使う
・ALDS(補聴援助システム)
集合FM、赤外線、誘導ループ、サウンドフィールドシステムなどのA
LDSの存在を意識し、使い方をマスターしておく。
・キャプショニング
授業で使用する映画やビデオにはすべてキャプションを入れ、また可能
な限り事前に概要をプリントし配布しておく。
・同時キャプション(ライブキャプショニング)
CART、C-Print™、RTC、RTGD などコンピュータを使った授業補助機
器を使いこなせるようにしておく。
51
・コンピュータを授業に導入する
設備上可能であれば従来のコースプランニングや運用方法から WWW、
データベース、スケジューリングソフト、オーサリングツールなど最新の
ツール類を使う方向へシフトする。これらのツールは視覚中心の授業へ移
行するとともに、コースデザインの基本型(テンプレート)になりつつあ
る。学生が教員の WWW サイトにアクセスすることでコース管理や課題提
出期日設定、宿題の提出、連絡等が容易になる。
・コンピュータソフト
設備上可能であれば 白板、OHP、フリップチャートなどの従来のツール
からウェブデザインソフトやプレゼンテーションソフト、ワープロソフト
などのツールへの移行を考える。
・書画カメラ
−
8.5 ×11 インチの用紙にランドスケープフォーマットで印刷したも
のを用いる
−
18ポイント以上のフォントを使用する
−
フォントは「Arial」または「Palatino」がよい
−
用紙の色に対してコントラストの強い色を使う(用紙を黄色にすると
よい)
・プレゼンテーションソフト
このタイプのソフトとして Microsoft PowerPoint、Corel Presentations、
Adobe Acrobat などがある。
−
フォントサイズは18ポイント以上にする。
−
背景色を濃紺、文字を白色にすると非常に見やすくなる。
−
フォントは「Arial」または「Palatino」がよい。
−
スライド1枚にチャートやグラフは1つだけとする。
−
グラフィックスはできるだけシンプルにする。
−
ソフトのノート機能を使ってプリントアウトしたものを学生に配布す
る。
−
パソコンなどがあれば資料を自分のホームページに公開して学生が復
習できるようにする。
52
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
aDepartment of Education. This tipsheet was compiled by Chas Johnstone ,
Seinor AV Specialist, NTID, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki
Hirai a faculty member at Shizuoka University of Welfare as part of the
PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College of
Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded by
grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
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54
NETAC Teacher Tipsheet
学業の維持・継続
高等教育に進学するろう・難聴学生は、時としてサポートも特にないまま、
大きなハンディを背負って学業をスタートさせなければならないことも多く、
そのため学位を得ることなく、ドロップアウトしてしまうことにつながる。
高等教育に進んだ、ろう学生、難聴学生に対する調査の結果では、入学生
数の2/3から3/4が卒業に至らずやめてしまうことが示されている。個
人レベルでは、学位を手にすることで経済的に豊かになるという結果が得ら
れ、その効果としてはかなり大きなものがある。ある報告によれば、高等教
育の修了証明を持つろう・難聴の卒業生の収入は健常の卒業生に勝るとも劣
らないレベルであり、学士の資格を持たないろう・難聴者に比べるとかなり
高額の収入を得ているということである。また、卒業資格を持たずに大学を
やめた、ろう学生の収入レベルは、大学に行かなかった人の収入に及ばない
ことも報告されている。
多くの学生が大学を続けられない、もしくは続ける意欲を失うという問題
を共通に抱えているときには、学校は、学校自身のためにも、学生のために
も、どのような理由で大学をやめようと決心するのか、学校をやめることの
起因となった影響要因についてできる限り知っておく必要がある。そうすれ
ば学業継続を阻む原因に対する対応策が特定できるかもしれない。このチッ
プシートでは、調査結果が示すとおり、卒業まで頑張るために重要とされる
要因を知ることに焦点を当てるとともに、高等教育機関に通う、ろう・難聴
の学生の数が減少するのを食い止める対策案をいくつか提示している。
学業維持・継続の理論モデル
最近、学生がなぜ大学をやめていくのかという問題が大きな注目を集めて
い る 。 198 7 年 ティン ト に より提 示 さ れ、国 立 ろ う工科 大 学 (National
Technical Institute for the Deaf)などさまざまな環境で試されてきた理論モ
デルにより、ろう・難聴学生に適用される学業継続/退学の説明的理論が導
55
かれる。この理論では、学業継続を研究機関および社会の仕組みとしての学
校と、学生がどう関わるか、主にその関わり方のレベルの結果として捉えて
いる。すなわち、学生たちは、高等教育を受けることへのさまざまなレベル
の関わり方はもちろんのこと、他にもさまざまな背景事情(成績、コミュニ
ケーション力、社会経済面でのステータス、性格など)に応じて進学先を選
択している。その関わり方も背景事情も学校の社会および教育システムの内
側で、学生が他のメンバーとどのような関係を築いてゆくかに影響を及ぼす
のである。その体験が前進を助ける方向のものであれば、学生はキャンパス・
コミュニティの教育的および社会的システムにうまく順応していく自信を深
めることになる。また体験がネガティブなものであれば学校との関わりも学
業継続の可能性も低下することになる。このモデルによれば、学生の教育的、
社会的な一体感、および学校への帰属意識は日々の学生生活の中で継続的に
変化していることを示している。
ろう・難聴学生とこの理論モデルの関係
同様の要因がろう学生、健常学生の学業継続に大きく影響している。学力
も知的好奇心もある学生で学校の方針と要望に添う学生の場合、そうでない
学生よりも学業の達成の成功がしやすい傾向にある。
ろう・難聴学生の場合で異なるのは、彼らが、社会面および教育面での達
成感を経験するためには、ほとんどの場合、特別な社会環境と学習環境の変
更が必要になるということである。ろう・難聴の学生の多くは、仲間と接触
することが友情、デート、相互交流を促進する最良の機会であると考えてい
る。このように考えると、ろう・難聴の学生はひとつの民族グループに似て
いるといってよい。学業完遂の点でいえば、ろう学生の多くは、たとえ手話
通訳やノートテイキング・サービスが提供されても、主に健常学生のために
構成されているこれまでの授業形態で効果を発揮するような数学、科学、リ
ーディングの能力に欠けるといわなければならない。
何ごとも決めつけてかかってはいけない
・
しっかり話すからといって、その学生が充分な英語運用能力を持
っていると思いこんではいけない。
ろう・難聴の学生の多くは、聞き取りに問題ないほど明瞭に話すことは
できても、健常学生に比べると基本的な英語運用能力に欠けることが多い。
56
ろう・難聴の学生の場合、聞く、話す、読む、書くという4つの能力は、
相互に補完しつつも発達にレベル差があるのが普通である。その一方、話
す能力が低いからといって、それがそのまま学習能力の低さを表すものと
思いこんでもいけない。
・
手話通訳やノートテイカーがいれば、ろう学生のコミュニケーシ
ョンの問題は解決したものと思いこんではいけない。
ほとんどのプログラムでは、通訳やノートテイキングのサービスが提供
されるが、これらのサービスは、通常の教室に、手話通訳、ノートテイカ
ー、チューター、電子機器さえ備えれば、ろう学生も健常学生に「匹敵す
る能力が得られる」という前提に基づいている。これらのサービスがあれ
ばろう・難聴学生も健常学生と互角に渡りあえると思われている。もし成
果が上がらなければ、原因は教育環境や授業方法ではなく、勉強不足・努
力不足にあるとされることが多い。講義ノートや手話通訳の導入が必ずし
も、充分に取り組めない、充分に体得できないことからくる「バリアー」
の消滅を意味するものでない、という事実が考慮されることはほとんどな
い。
・
どの学生にも必ず協力してくれる友人ネットワークがあると思い
こんではいけない。
ほとんどのろう・難聴の学生にとって、聞く、話すことの障害は、他の
学生との学習上、社会生活上のリンクを確立することを困難にしている。
たとえ大学に進学できても、ろう学生は、社会的にも学習面でも主流から
取り残されてしまう可能性がある。そうした孤立してしまうことが、学生
社会にとけ込めないことがろう学生の大学進学を阻む大きな要因になって
いることもあり得る。サービス提供者は、健聴者とろう学生との人数比が
1000対1という一般的な教育環境において、学生の学習上のニーズ、
生活上のニーズが満たされているか確認しなければならない。
・
学生は必ず充分検討された就職目標を持っているものと思いこん
ではいけない。
大学における学業継続の理論によれば、特定の学校に対する強い志望意
識がない場合、退学を決める重要な要因になりうることが示されている。
そうした強い志望意識を持たせるために、学生に必要なものは人生に対す
る方向感覚と進学理由である。ろう学生にとってそれがとりわけ困難なの
57
は、彼らが多様なキャリアパスに対する限られた知識しか持ち得ないから
である。授業で充分な成果を上げることができないのもキャリアゴールを
見定める教育の機会に恵まれなかったことが大きな原因になっていること
も考えられる。
・
ろう・難聴の学生は必ず学校の提供したサポート・サービスを使
用しているものと思いこんではいけない。
大学という環境において、ろう・難聴の学生がサポート・サービスを必
要とする状況は、授業中の情報の敏速な伝達のみであると、これまで一般
に考えられてきた。しかし、ろう・難聴の学生は、健常学生と比べると、
大学生活に関するその他のいろいろな状況の経験がほとんどない。このこ
とを考えると、授業以外のサポートも必要である。経済援助、カウンセリ
ング、学習アドバイス、健康管理、課外活動などはすべて、ろう・難聴の
学生が大学の生活環境に適応する際にサポートが必要になる。このような
状況下でサポートが得られない場合、ろう・難聴の学生は大学の生活環境
において孤立する危険があり、結果として退学につながる可能性がある。
授業に入る教員は該当する学生が、障害サポートセンターを通してこれら
のサービスの適用を受けられるよう配慮しなければならない。
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Gerard Walter,
Division of Government and Administrator Services, NTID, and translated
into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty member at Shizuoka
University of Welfare as part of the PEPNet-Japan program--a collaborative
effort
of
Tsukuba
College
of
Technology
and
PEN-International
at
NTID.PEN-international is funded by grants from The Nippon Foundation of
Japan to NTID.
58
NETAC Teacher Tipsheet
依存から自立へ・大学進学
現状および実行する勇気
高校からさらに上級の学校である高等教育機関に進学するのは、すべての
学生にとって決断のいることである。生活の場もつき合う人も生活の仕方も
すべてが新しくなる。そればかりではなく、それまでプログラムもサービス
も誰かが準備をしてくれたが、突然イエス/ノーを自分で言わなければなら
ない状況に放り込まれるのである。
ろう・難聴の学生にとって状況は、健聴者とくらべさらに困難なものにな
る。その理由は、単純ではない。最大の要因は、彼らが社会の一般通念に触
れる機会に恵まれなかったということに尽きる。このギャップは、特定の問
題に関わる適切なカウンセリングにより大幅に改善される可能性がある。
学生が直面する代表的な問題点
ゴールとしての就職先をどのようにして決めたらよいのか?
そのために最もよい大学はどこか?
大学への受験申込みはどのようにすればよいか?
どのタイプのコミュニケーションが必要か?
どうすれば介助サービスが受けられるのか?
自己評価と職業選択
1.最初のステップは、学生が自分の希望とニーズを明確にすることである。
そのために必ず必要なものが自己分析である。学生が興味のある特定の分
野に光を当てる方法はたくさんある。関心事リスト作成テスト、職業教育、
適性検査などはスクールカウンセラーや職業リハビリテーション法(VR)、
また一般のテスト業者や精神分析医から入手可能である。
59
2.2番目のステップは、可能な職業の職業特性を理解することである。こ
の情報を知るにはいろいろな方法がある。どこの図書館にも(職業一覧の
ような)職業の一覧とその詳細内容、さらにその職業に就くために必要な
知識と合わせて記載された書籍を備えている。求人説明会なども非常によ
い情報源である。求人説明会に出席すれば、ひょっとしたら雇用主になる
かもしれない人と直接会って条件を話し合ったり、質問したりすることが
できる。手元に若干の基本的情報があれば、会社訪問のアポイントメント
を取ることも可能である。現場を訪問することで、聞きたいと思っている
仕事をしている従業員から直接話しを聞くことができる。
3.職業選択のように重要な問題は、必ずだれかに相談してから決めるべき
である。学生は、誰に相談すればいいのだろうか?とりあえず高校のカウ
ンセラーや先生がよいだろう。VRカウンセラーは進路について学生に適
切なアドバイスのできるものであるが、同時に学生に関する最新情報を持
っていることも多い。もちろん学生の両親、家族も貴重な意見、アドバイ
ス、情報の源である。
大学の選択
大学の選択は、それ自身が大きな仕事であり、一夜にして成るものではな
い。大学の調査は、高校を卒業する2、3年前から始めるべきである。希望
の職業が見つかったら、まずその職業に適したカリキュラムを持つ大学を探
すことからスタートする。高校や大学の図書館は、通常、近隣の大学、遠方
の大学を含め多くの大学の案内が揃えてある。これらの案内に目を通すだけ
でも、特定の教育機関の概要がつかめるし、学生が希望する専攻学部のある
大学を瞬時に探し出すことができる。「College and Career Programs for
Deaf Students」(Gallaudet
University/National Technical Institute for
the Deaf 協同出版)などは大学の選択に役立つ情報源となる。
その大学について、次のようなことを調べてみるとよい。
・
ろう・難聴の学生のためのプログラムやサービスを提供しているだろ
うか?
・
そのプログラムが提供され始めたのはいつか?
・ 通訳、無料のチューター、ノートテイカー、学習補助具は導入済みか?
・
ノートテイカーやチューターの採用基準はどうか?
・ ノートテイカーやチューターは、採用にあたって研修を受けているか?
60
・
通訳は州で選考された者であるのか?
・
通訳は通訳の国家資格を持っているか?
・
その大学に在学中のろう学生は何人いるか?
・
その大学は、毎年、ろう学生の入学を許可しているか、それとも何年
かに一度だけ入学を許可しているのか?
・
過去何人のろう学生が入学したか?
・
大学と大学が提供するサービスの評判はどうであったか?
大学を見学する際、学生はこれらの質問をすべて大学の担当者もしくはカ
ウンセラーに聞いて確かめるとよい。
もしろう学生が希望する大学に、ろう学生用のプログラムがない場合、そ
の学生は、ニーズやサービスについて、大学側を教育するという余分な負荷
を負うことになりかねない。通訳、チューター、ノートテイカーなど質の高
いサポート・サービスを自分で探さなければならないだろう。学生の側に相
応の表現力があれば必ず質の高いサービスを探し出して利用することができ
る。
自宅からの距離もひとつの要因である。大学は、自宅からどれくらい離れ
ているか?近くの学校まで通う、もしくは遠く離れたところで学校に通うの
に車は必要か?通学は基本条項外か?車が必要かどうかは、学生が大学寮に
入るか、通常のアパートで生活するかにより大きく左右される。
必要なリサーチが完了し、大学が選択されたら、学生が自分でキャンパス
に足を運んでみるのがベストである。そうすることで生活環境を自分で確か
めたり、カウンセラーや学習アドバイザーに会ったり、自分の選んだ専攻の
学生たちと話したりすることもできるし、どのようなサービスが受けられる
か、そしてその質はどうかなどについて自分で納得することもできる。わく
わくしながら移動した先に快適な生活環境があり、心地よく便利な場所があ
り、成長できる経験が待っていたら大学生活も必ずスムーズに始められるこ
とであろう。
61
入学願書の提出
学生は、自分が希望した大学への入学許可条件に注意しなければならない。
高校でのGPA(評価平均点)は何ポイント以上でなければならないか?S
ATのような試験は義務づけられているか?その大学は高校の卒業資格、も
しくはGED(高等学校卒業認定試験)を必須要件としているか?ほとんど
の大学では高校の成績証明書、大学の入学願書、および受験料が必要になる。
すべての応募書類はいつまでに揃えればいいのだろうか?
大学の正確な入学条件を知る一番よい方法は、大学のカウンセラーに直接
会うことである。状況がどうであれ受講科目を登録する時点ではカウンセラ
ーに直接会った方がよい。カウンセラーは、学業継続の経済面にも相談にの
ってくれるし、学資の工面の仕方も教えてくれる。
大学での学業継続費用
進学を最終的に決断する前に、大学ではどれくらいお金がかかるか調べて
おかなくてはならない。必要な費用は授業料だけというわけではない。教科
書、消耗品、生活費(大学寮、アパートに関わらず)、交通費も計算に入れる
必要がある。アパート暮らしは水道光熱費、食費が余計にかかるため割高に
なる。
学費、教科書その他の費用を誰が出すのか?学生の両親?学生は正規のS
SI資金や預金で補えるのか?VRは教育費の一部しか負担しないのか、そ
れとも全額支援してくれるのか?ほとんどの学生はなんらかの支援を必要と
しており、教育ローンや補助金の経済的支援を申し込んでいる者も多い。奨
学金を受給することも可能である。もちろん学生の多くはパートタイムやフ
ルタイムで働いている。
奨学金、教育ローン、補助金はできるだけ早めに申請しなければならない。
資金は早めに申請した学生から配分されていくため、ぎりぎりまで待ってい
ると資金援助を受けるのが難しくなる。FAF(Financial Aid Forms:経済
援助申込書)は大学の教務課や援助団体に置いてある。大学のカウンセラー
は、学生の専攻に適した学業・仕事の両立プログラムをよく知っている。覚
えておいてほしいことは、早めに申請するということである。
62
サポート方式
―
タイプと適用方法
どのタイプのコミュニケーション方式を選択すればいいか?手話通訳は必
要か?ノートテイカーやチューター、聴覚補助具、TTY、その他のサポー
ト方式はどうか。
大学がこうしたサポート・サービスを既に運用しているかどうかについて、
まっさきに大学のカウンセラーに相談してみるとよい。おそらく学生サポー
ト・サービス、場合によってはろう者サービスの選任スタッフがいるであろ
う。手をつけるにはこのあたりがよいと思われる。
ポイント:サービスの要求は学生の責任において行うこと。
1.
何が必要になるか、あらかじめ調べておく。
2.
学校に到着する前に調査・研究して情報を集める。
3.
学期が始まる前に大学を見ておく。
4.
必要な書類すべてに記入する。
63
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Lucy Howlett,
Coordinator of the Center for the Deaf and Hard of Hearing at New River
Community College, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a
faculty member at Shizuoka University of Welfare as part of the
PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College of
Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded by
grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
64
NETAC Teacher Tipsheet
遠隔教育
高等教育のろう学生に遠隔教育が及ぼす影響
遠隔教育とは、先生と学生が時間的、空間的に隔たっている状況での学習
をいう。通信技術の急速な進歩のおかげで、遠隔教育は高等教育おいて最も
急速に知られるようになったトレンドである。大学用コースは、地球を巡る
ハイウェイの端まで受講者がいた。今日、認可を受けた4000のカレッジ
や大学の3分の2は、なんらかの形の遠隔教育を学生に提供している。20
03年までには全高等教育機関の90%以上が遠隔教育に関わっていると見
られている。遠隔教育の劇的な増加で、学生が、自分の住む地域では得られ
ない教育の機会を手に入れることが可能になった。ろう学生にとってこの現
象はプラスでもあり、また難しくもある。こうした新しい環境の多くで、平
等の問題は難しい問題でもある。ろう・難聴学生は、遠隔教育のコースでは
健聴者と対等に学習する機会が与えられるだろうか?ろう学生にとって遠隔
教育のコースは敷居が高くないだろうか?遠隔教育の施設に「アクセス可能」
とはどういうことか?カレッジや大学は遠くから提供する学習内容が、学内
で提供しているコースと同じ受講基準を満たしているか保障できるのだろう
か?
ADAと遠隔教育
1990年のADAでは公立学校も私立学校も、その教育プログラムおよ
びサービスが障害を持つ全アメリカ国民が受講可能であることを保障しなけ
ればならないと定められている。これは教育プログラムが実施される施設に
も、実施方法にも適用される。遠隔教育プログラムに関しては、法律の趣旨
に沿うことは、送る側、受ける側の両端にある公共施設が利用可能であるこ
とを意味している。ADAでは遠隔教育プログラムの提供を義務づけている
わけではないが、プログラムが提供されるとなると、標準的教育プログラム
の場合と同じ受講機会が保障されなければならないと受け止められている。
たとえば、ASLの通訳者を必要とするろう学生が受講する場合、たとえ
受講場所が遠隔地であっても、同等の受講条件を与えられる資格があること
65
になる。ただし、遠隔教育においてサポートは、システムのどちら側から出
されてもよい。すなわち通訳者は、学生と同じ部屋にいる必要はない。もし
ろう学生が学業を完了するのにキャプショニングサービスが必要であれば、
CARTや C-Print™キャプション通訳が確保されなければならないし、それ
を実現するテクノロジーも調達しなければならない。ろう・難聴の学生が、
読唇術や手話通訳、キャプショニング、赤外線ALDなどを必要としていた
ら、充分な視界と適切な照明が与えられなければならない。教室の中であっ
ても、離れた場所からスクリーンを見た場合であっても、質問をすることが
できる他の学生と同様、障害学生は、視界を遮られることなく講義者の姿を
見ることができなければならない。教室で一人一人がパソコンを使う場合、
フルサイズモニターのついたデスクトップ型は視線を妨げることになる恐れ
がある。この場合には、赤外線機能付きのポータブルかノート型のパソコン
がよりよい選択肢ということになる。
一般的遠隔教育テクノロジー
衛星テクノロジー
この発信システムは、CおよびKu帯域の周波数で、州境を越えた世界に
アクセスする通信システムに接続された衛星放送受信アンテナを基盤として
いる。衛星の「ダウンリンク」を通して、衛星受信装置を備えたほかの場所
から授業内容やイベントがあるエリアに送り込まれ、さらに別の通信システ
ムで再び送信される。衛星の「アップリンク」を使えば、プログラミングを
州外の別の場所に送ることができる。
画像圧縮
画像圧縮技術により複数地点を結んだ双方向ビデオ会議が可能になる。ビ
デオ信号は、デジタル化され一定の圧縮レートで送られて「準フルモーショ
ン・ビデオ」を実現するため、
「圧縮」と呼ばれている。手話では通常の圧縮
よりも高品質の画像が求められる。MPEG−2はASL用表現手段として
優れたレベルの規格である。
教育用テレビ
放送用モデルをベースにしたこの方式では、双方向の音声・映像のやりと
りが可能である。州内の通信インフラの整備状況にもよるが、技術的に他に
も 可 能 な こ と が あ る 。 信 号 は I T F S ( Instructional Television Fixed
66
Station)用周波数を使って電波で送信され、音声部分は電話回線経由で送ら
れる。
光会議
キャンパスをつなぐ光ファイバー回線があれば双方向ビデオ会議に利用す
ることができる。この設備で放送用の部屋があるところならどこでも、双方
向授業や参加者によるミーティングを開くことができる。
ATM(Asynchronous Transfer Mode−非同期転送モード)
ATMは、高帯域のネットワークで音声、映像、データをフルモーション
で伝送することができる。MPEG−2の画像圧縮技術をATMスイッチン
グハブ経由で使うと、デジタル化されたビデオ信号が回線上を充分なスピー
ドで伝送されるため、画像データをインターレース方式で表示するシステム
の構築が可能になる。このシステムでは、いろいろなレートでの圧縮が可能
な双方向画像配信システムが提供され、圧縮画像よりも通常、より高速で、
より配信品質が高い結果が得られる。
コンピュータをベースにした授業
インターネット・プロトコル1、2やWWWを利用している教職員・学生
は、インターネットを介して相互に接続することができる。パソコンの技術
を使えば、ネットワークの回線速度はもちろん、パソコンの能力に比例した
品質でパソコン同士のPPP接続が確立する。インターネット・プロトコル
2−K20は、K−12プログラムを含む、さまざまな教育機関と連携する
リーディングプログラムである。
アクセスしやすい遠隔教育モデル
アクセスしやすい遠隔教育モデルを考える際に必要なのは、成功する教育
プログラムや教育空間を作るのに共通して見られる慎重な計画である。企画
のプロ、ろう・難聴の学生、管理者、資金提供の権限を持つ政府機関が協力
して、誰もが利用できる通信インフラを整備する決断をしなければならない。
遠隔教育コースが、数および分野において拡大するにつれて、企画のプロ、
設備管理者、大学の経営陣なども遠隔教育コースの提供の仕方を改善し、す
べての人が容易に使えるようになっていくと思われる。
大学は、ユニバーサル・アクセスやユニバーサル・デザインを重要視する
67
方針を確立して、すべてのコンピュータ、電話、FAX、メッセージ送受信
システム同一のガイドラインに沿って動くようにするべきである。
最後になるが、大学は、アクセスの向上と進歩を定期的にモニターする基
準を設定すべきである。ひとつのプランがすべての障害者のニーズを満たす
ことはあり得ないにしても、すべての学生が希望する遠隔教育を受けられる
ようにすることは、慎重な計画と長期的ビジョンがあればできることである。
遠隔教育および高等教育の機会に関連するサイト
1. www.mainecite.org
2. www.usdla.org
3. www.washington.edu/doit
4. www.w3.org
5. http://bobby.watchfire.com/bobby/html
6. www.dln.olg
7. www.usdoj.gov/crt/ada/cguide.htm
8. www.cast.org
9. http://ncam.wgbh.org
10. www.webaim.org
11. www.adaptenv.org/neada/indez.php
12. http://barrierfree.ca
13. www.access-board.gov
14. www.acb.org/accessible-formats.html
15. www.polycom.com
16. www.mimio.com
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Barbara Keefe,
Netac Site Coordinator, University of Maine System, and translated into
Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty member at Shizuoka University of
Welfare as part of the PEPNet-Japan program--a collaborative effort of
Tsukuba
College
of
Technology
and
PEN-International
at
NTID.PEN-international is funded by grants from The Nippon Foundation of
Japan to NTID.
68
NETAC Teacher Tipsheet
通訳・通訳者
通訳者の役割は、聞こえる人と聞こえない人が完璧に意思疎通できるよう、コ
ミュニケーションを円滑にし、音声や視認情報を双方に伝えることである。
通訳が提供する一般的サービス
1.ASL(アメリカ手話)通訳− 言語としての特質を備えた、体の動きを
使ったビジュアルな言語である。
2.手話音訳 − ASLと英語の要素を用いた、手話と口の形で表現する通
訳である。
3.口語通訳 − 話された英語を音声なしでくり返す通訳である。
4.キュード スピーチ −英語で話された内容を手の形と位置関係で表現す
る通訳である。
これらのサービスでは、音声を使わないろう学生に代わって通訳者が「発声」
することもある。その場合、通訳者は、学生が手話、口の形、キュードで伝え
るものを英語で音声表現することになる。
自分の属する教育機関での授業においてどのタイプの通訳が使われている
かに関わらず、
「全米手話通訳者協会 (RID)」に所属する通訳者は、すべて倫
理規定(Code of Ethics)の適用を受ける。通訳者のプロとしての行動を規制す
る指針は、次のようなものである。
・
通訳者/音訳者は、契約に関わる情報の機密を完全に守らなければなら
ない。
・
通訳者/音訳者は、自分がついている障害者が瞬時に理解できる言語表
69
現をもって、常に話者の話す内容と気持ちを伝えられるよう、メッセー
ジを忠実に表現しなければならない。
・
通訳者/音訳者は、相談を受けたりアドバイスしたり個人的な意見を述
べたりしてはならない。
・
通訳者/音訳者は、スキルレベル、場のセッティング、その場にいる他
の人々に関して自己の判断で職務の指示をすることができるものとする。
・
通訳者/音訳者は、プロとして、かつ良識の範囲で、業務に対する報酬
を要求することができる。
・
通訳者/音訳者は、状況に応じて適切な行動を取ることができる。
・
通訳者/音訳者は、ワークショップへの参加、プロの集まり、プロとし
て活動している仲間との交流、該当分野の現代文学の読書などを通して、
知識・技能の一層の研鑽に努めなければならない。
・
通訳者/音訳者は、RID の定める会員資格もしくは認定資格に恥じない
よう、倫理規定の定めるプロとしての高度な技量を維持するよう努めなけ
ればならない。
通訳者の仕事は、話者の話の内容と気持ちを忠実に伝え、学生と教員のコ
ミュニケーションが円滑に進むようにすることである。通訳者の主要な責務
は、コミュニケーションを円滑にすることである。インストラクタが通訳者
に所定の業務以外の仕事を依頼するのは避けるべきである。それは、定めら
れたコミュニケーションの質を落とし、通訳者の業務の妨げになる恐れがあ
るからである。
通訳者と仕事をするときに気をつけるべきこと
通訳者の仕事は、コミュニケーションを円滑にすることである。通訳者に
教員の補助の役や参加者の役を期待したりしないでいただきたい。
通訳者が授業科目内容に精通していると、通訳された内容の質も上がる。
できるならば通訳者を依頼した学生は、コースがスタートする前に通訳者と
会って、授業の概略や教科書、授業計画、専門用語、シラバス、関連するそ
の他の情報などを共有するとよい。
自分と表示される情報(手話通訳の表現)の間に視野を妨げるものが入ら
ないようにすること。授業中、通訳者は教員と学生、補助表示機器を結ぶ線
上に入ることがあるかもしれない。
70
通常、通訳者は話者より2、3センテンス遅れて訳すものである。通訳者
は、意味全体を聴いて理解して表現し直していることを意識しながら、ほど
ほどのペースで自然に話すのがよい。
ディスカッションや質疑応答の際には学生が手を挙げる、学生は指名され
る、そして学生は通訳者を通して質問する。こうした一連ことに充分な時間
を取るべきである。こうすることで通訳者も話者の通訳を完遂することがで
きる。そして、ろうおよび難聴の学生は、質問したり意見を述べたりするこ
とができる。
通訳者は、話者のことばをそのまま伝える。このため話者が通訳者を通し
てろう者とコミュニケートする際には「私」と「あなた」を使う方がよい。
話者は、通訳者ではなくコミュニケートしようとしている人の方をまっすぐ
見るようにしなさい。
「彼女に尋ねる」とか「彼に伝える」など、表現に三人
称が入ると混乱が生ずる可能性がある。
双方向コミュニケーションの場合、半円または円形配置がろう・難聴の学
生にはベストである。
学生が筆記作業をしているときには話を中断する。学生は、読むのと通訳
者を見るのを同時にはできないからである。
学生、通訳者を精神的にも肉体的にも緊迫状態から解放するために意図的
にブレークを取るよう計画しておくとよい。ブレークなしで目からの情報を
処理し続けると疲れるし、ろう者には眼精疲労のもとにもなる。さらに、同
時通訳というのは、話者がたった今話し終えた情報をアウトプットしながら
次の情報を処理しなければならないのである。通訳者が一人の場合、必ず途
中で5分間のブレークを入れること。
学生に対して、通訳者に話したり、手話信号を送ったりする前に、教員に
も気づく時間を与えるよう教えるべきである。話者が決まってから通訳者が
伝えることができるのは一度に1メッセージだけである。重要なことは、音
声でも手話でも発言できるのは一度に一人だけということである。
情報を学生が直接取り込むことができる点で、字幕付き映画やビデオは極
めて優れた手段である。映画を見せたり、その他の視聴覚教材を使おうと考
71
えたりしているのなら、あらかじめ通訳者にも知らせて、照明や室内の構成
を計画することである。
授業開始時点で通訳者を依頼したろう者が教室にいなければ、通訳依頼者
であるろう学生が到着するまで通訳者は待たされることになる。通訳者は、
他にも必要としている人がいるので、10分ないし15分たってもろう者が
現れないときは引き上げることも許される。
通訳者にテスト問題を読み上げてもらったり、訳してもらったりしたいと
きには、通訳にそのための時間的猶予を与えるべきである。
通常以外の方法でないと試験を受けることができない学生もいる。作文、
多岐選択、空欄記入など筆記形式の試験であれば、問題を通訳者に読んでも
らって手話に翻訳してもらう方がよいかもしれない。この種の試験に関する
打ち合わせは必ず「事前に」済ませておかなければならない。
通訳者の役割に関する詳細な情報は、手話通訳/音訳サービスを提供する
プロの国家機関である「*ろう者通訳登録局(Registry of Interpreters for the
Deaf、Silver Spring、Maryland )で手に入れることができる。
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was prepared by Kathy Darroch and
Liza Marshall, interpreting services, NTID, and translated into Japanese by
Prof. Toshiaki Hirai a faculty member at Shizuoka University of Welfare as
part of the PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College
of Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded
by grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
72
NETAC Teacher Tipsheet
有能な通訳者を見つける
今日有能な助手を探すだけでもかなり難しいことだが、手がかりもなしに
有能な手話通訳者を見つけるのはとりわけ難しいことである。見つけるため
のヒントをいくつか挙げてみよう。
・
通訳者を探すには少なくとも2つのルートがある。すなわち、通訳者紹
介所に依頼するか、直接通訳者と接触するかである。どちらにもメリット、
デメリットがある。
−
独立の通訳者紹介所を通すとコストは高くなるが、通訳者との接触、
雇用契約、価格交渉などは紹介所が責任を持ってやってくれる。さら
に過去に通訳者との契約実績があれば、その通訳者のスキルレベルや
倫理観についても紹介所が保障してくれる。
−
通訳者を個人で契約する場合には、通訳料金についても自分で交渉
できる。その一方で空いている通訳者を見つけるには数人の通訳に当
たらなければならないかもしれない。そのうえその通訳者のスキルも
強みも弱点もわからない。
・
手話を流ちょうに使いこなすだけでは有能な通訳者にはなれない。通訳
者には、手話に関する広い知識が求められる一方で、あなたのニーズ、学
生のニーズ、学校側のニーズにあった通訳において関係する他の多くの要
因が要求される。
・
通訳者の雇用に際しては、資格証明書の提示を求めるべきである。証明
書は、その通訳者が相応のスキルテストをパスしており、さらに言語、文
化に関する知識のほか倫理規定の知識と経験があることを示すものだから
である。証明書の形式は少なくとも3種のうちいずれかの可能性が高い。
73
−
RID (Registry of Interpreters for the Deaf) 国家資格
−
CSC、CI、
CT、IC、TC、RSC など
−
NAD (National Association of the Deaf) 国家資格
−
レベル5(最
高レベル)からレベル3(全般)まで
−
各州にはその州内でのみ通用する資格/選別システムがある。そのひ
とつの例が「中南部資格認定スクリーニングテスト Mid-South Quality
Assurance Screening Test」といわれるもので、レベル5(最高)からレ
ベル1(最低)まである。州レベルのスクリーニングテストは国家資格
への足がかりとなっている。
74
通訳者を見つける際のその他の注意事項
・
面接に遅れてくることはないか?身なりはきちんとしているか?
・
通訳者の役目についてこちらが分かるように理路整然と説明できるか?
これにより、講義室内と校外活動の両方で業務遂行能力(たとえば一定レ
ベルの単語力で読めるテキストを探してくるなど)が判定できる。
・
通訳者養成プログラムの修了証明を持っているか?これがなければ絶対
採用してはならないというものではないが、雇用契約を結ぶ可能性のある
者にとっては通訳者のバックグラウンドや専門分野における知識を推測す
る鍵になるものである。
・
通訳者の教育レベルは、その授業の教育レベルと比較してどうか?これ
は重要なことで、通訳はそのコースに必要な言語レベルに見合った力を持
っていなければならない。
・
プロらしい話し方ができるか?しっかりした英語を話すことができる
か?手話通訳者はASLのみでなく、英語もきれいに話せなければならな
い。
・
ろう学生に対し、また一般に耳の聞こえない人たちに対し暖かい気持ち
を持っているか、見下すような行動をしないか?(これが重要なサインに
なる)
・
セメスター終了まで継続する意志があるか?
・
プロ組織のメンバーであるか?もしメンバーであれば RID、場合によっ
ては RID の州支部、もしくは NAD 通訳課の会員証を持っているはずであ
る。RID の倫理規定には通訳について次のように規定されている。
通訳者/音訳者は、ワークショップへの参加、プロの集まり、プロとし
て活動している仲間との交流、該当分野の現代文学の読書などを通して、
知識・技能の一層の研鑽に努めなければならない。
証明書を取得して以降参加した能力開発研修をあげてもらう。
75
・
現在所属する機関で活動しているか?これで専門領域への関わりと能力
開発への意欲が分かる。
・
見つけたその通訳者は、ろう者の間での評判はどうか?通訳者のスキル
と倫理観についていろいろな人の意見を聞く、ろう者のコミュニティに問
い合わせる、学生や州のろう者コミュニティのメンバーからなる評価委員
会に評価してもらうなど。
・
その通訳者が倫理面でジレンマに陥ったときのことを、さらにその状況
から(守秘義務を損なわずに)どのように抜け出したか説明してもらう。
・
通訳者はそのスキルレベルに応じて、よく考えて仕事を引き受けなけれ
ばならない。その通訳者は、現在どの専門分野で経験を積もうとしている
か答えられるだろうか?
少しだけ時間と思案を重ねるとそれだけ、その仕事に最適の人物を見つけ
る可能性が大きくなる。その方が関係するすべての人にとって好ましいはず
である。
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was prepared by Sharon Downs, John
West, and Shana Kirksey Mile, University of Arkansas, and translated into
Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty member at Shizuoka University of
Welfare as part of the PEPNet-Japan program--a collaborative effort of
Tsukuba
College
of
Technology
and
PEN-International
at
NTID.PEN-international is funded by grants from The Nippon Foundation of
Japan to NTID.
76
NETAC Teacher Tipsheet
ノートテイキング
ノートテイキングが必要な理由
やり方の差はあれ、ノートテイキングは、使用頻度において通訳者以上に、
ろうおよび難聴の学生に最も広く使われているサポート・サービスである。
学生がノートテイキングを希望するのは、この方法がコース内容を確実に把
握する点で、他の方法にはマネのできない利点があるからである。しかし、
ノートテイキングは、通訳者の代用ではない。通訳者を目で追い、また唇を
読みながら同時にノートを取ることが物理的に不可能なことから、多くの場
合両方のサービスを必要とする。また手話のできない学生にとって講義内容
の把握にはノートしかないともいえる。
だれに頼めばよいか
ボランティア
1.通常は、学生の友人、一般にはクラスメートで、無報酬もしくはわずか
な謝礼や学校が与える特典で協力してくれるボランティアである。
2.学生もしくは市民組織から選ばれたボランティアである。
3.ろう・難聴の学生、教員、他の職員が選んだボランティアである。
4.ボランティアは、学内等のワークショップで最小限のトレーニングを受
けた者である。
5.ボランティアには感圧紙でできた専用のノートを使ってもらうこともあ
る。
6.通常、紙を使用してノートテイクした場合はノートをコピーする。ただ
し、コピーできるのはコピー権限を与えられた職員のみとする。コピー後、
コピーは学生に、オリジナルのノートはノートテイカーに返却される。
返却までの時間は最大でも24時間以内とする。
7.ボランティアの品質管理は難しいため、完全なノートテイキングを保障
するには1クラスに複数のノートテイクボランティアが望ましい。障害学
77
生が学習効果を上げるには高品質のノートが欠かせない。
8.こうしたノートは、学生が自分の読みやすいよう、漏れのないよう、間
違いのないよう工夫して作成した個人用ノートに近いものとなるのが一般
的である。その結果、コメント、凡例、クラス内討論などは省略されるこ
とも多い。
有料ノートテイカー
1.これには専門のトレーニングを受けた職員がフルタイムもしくはパート
タイムであたるのがよい。
前のセメスターでそのコースで特に成績のよかった学生で、しかも最低
限の職業意識とキーボード操作技術を持った学生を雇用する形がよい。
2.法廷での報告作成や専門分野の補助技能など、いろいろ異なる分野の高
い技能を持っていることが望ましい。
3.手話技能はあってもなくてもよい。
4.通常、授業の場で、授業内容のまとめを作成して渡すのが一般的である。
言い換えると、コメント、凡例、クラス内討論などは授業のペース、ノー
トテイカーのスキル、利用できる設備などによって左右される。
5.ノートテイカー専用の席と照明を用意した方がよい。
6.機材のセッティングのため早めに講義室を開ける配慮も必要である。
7.フィールドトリップ等の場合には機材の手配もあるので早めに連絡する。
8.有料のノートテイカーは、授業終了後、記録内容をアウトライン型に整
理したり、重要用語を強調したり、スペルや事実関係をチェックしたりな
ど、しばしば「クリーンアップ」作 業を行う。疑問点をはっきりさせるため
教員に質問することもある。
ノートテイキングの技術
CAN
(Computer Assisted Notetaking
パソコンを使ったノートテイキング)
1.ノートテイカーは、ノート型やデスクトップ型のパソコンを移動用台車
に乗せて使用する。
2.ノートテイカーは、好みに応じてどのようなソフトでも使用することが
できる。
3.バッテリー切れにならないよう電源を用意することも大切である。
4.ノートテイカーの真横もしくはやや後ろに学生が座ってリアルタイムに
78
ノートを覗くこともよく行われる。ほとんどの授業環境では、学生とノー
トテイカーが、教員に介入されることのない適切な場所が確保される。
5.できれば以下のような環境があるとより好ましい。
−
ノートパソコンとノートパソコンの接続(接続された2台のパソコ
ン)
−
ノートパソコンとモニターの接続
1台のノートパソコンを学生とノートテイカーがのぞき込むような場合
には視認範囲の広いアクティブマトリックス方式のディスプレイが必須で
ある。小型のノートパソコンでこの環境が得られない場合には視認性に問
題が生ずるため、使用を差し控える。
6.ノートテイカーには高度のワープロ技能が要求される。
C-Print™
1.専用の一体型ソフトでさまざまなCAN機能が提供されている。
2.他のソフトよりも動作速度が速く、授業の進み方に追随した記録が可能
になる。
3.ノートテイカーには高度の専門的トレーニングが必要になる。
4.座席位置とパソコン環境は標準CANに定められているものに準ずる。
同時キャプション
1.テレビで見る字幕とほぼ同じである。
2.スクリーンに投影してクラス全員が見られるようにする。
3.専用の機材とソフトが必要である。
4.高度なトレーニングを受けた専門家が必要である。
教員の役割
高品質のノートを保障するためには教員の協力が欠かせない。
人材確保と品質管理
1.教員は、ボランティアのノートテイカーを探す前に、ろうや難聴の学生
の入学を学校側がどのように受け止めているのか知っておくべきである。
2.教員は、時々ノートを見せてもらうとよい。ノートが読みやすいか、明
瞭か、漏れはないか正確かなどを確認する。もし何らかの問題があればノ
ートテイカーをもう一人入れる、別のノートテイカーと入れ替えるなどの
策を講じる。ボランティアが交代することは滅多にないが二人目、さらに
79
三人目を投入することはよくあることである。
ノートを改善するためのアドバイス
(クラス全員にとっても有益である)
1.教員は、意識して明瞭に話さなければならない、また本題をそれるとき
やたとえを引くときははっきりそういうこと、さらに話題が変わるときや
関連性が重要なときはそれを動作で表すような注意も必要である。
2.白板に書いた重要な字句や投影した文字、図表などはノートテイカーが
写し取れるだけの時間消さずに残しておくか、でなければ印刷物を配布す
る。
3.名前や用語で外国人のもの、難しいものは白板に番号付きで表記する、
または番号を振ったリスト(参照が容易になる)を全員に配布する。
4.課題を与えるときはページや問題番号、いつ、どこに提出するのかなど
課題の全情報を板書する、そうでなければ課題シートを配布する。
5.配布物は、すべてノートテイカーに渡しておくこと。特にシラバス、授
業予定表、課題シートは重要である。
6.上級コースの場合、教員によっては自分の講義ノートのコピーを有料ノ
ートテイカーに渡した方がはやいと思うかもしれない。この場合、ノート
は、教員の許可なくコピー、配布されてはならない。
7.ビデオがクローズドキャプションかどうかチェックしておくこと。もし
そうなら字幕の原文が手にはいるし、ノートテイカーにとってはまたとな
い資料になるはずである。
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Kim Brecklein,
English Specialist, Tulsa Community College, and translated into Japanese
by Prof. Toshiaki Hirai a faculty member at Shizuoka University of Welfare as
part of the PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College
of Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded
by grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
80
NETAC Teacher Tipsheet
チュータリング
本チップシートでは、チュータリングを「ろう、もしくは難聴の学生に対
し、学術的内容もしくは教育方法についてその説明と理解に、チューターが
協力する形で行われ、学生主導の双方向活動である」と定義する。ここでチ
ューターは、手話に精通しておらず、学生の主たる伝達手段が手話である。
授業中にはチューターによるサポートは行わない。さらにチューターは、そ
の組織の教員もしくは特別講師であることが前提である。
ろう学生が必要とするチュータリングの回数を抑える科目構成/提示に関
する考察を2点あげる。
1.そのコースの到達目標が、コースシラバスの中でしっかり説明されてい
れば、学生は成績評価基準、ペーパーその他の提出課題、宿題の提出期限、
試験に関する詳細情報などの点につて十分理解することができる。
2.有料であるなしにかかわらず、親しいノートテイカーがいればろう学生
は教授から目をそらすことなく授業に集中することができる。ノートテイ
カーのノートを教授が定期的にチェックしてろう学生が授業内容をすべて
把握していることを確認することもよいことである。
上記の2点に十分配慮しても、なお、ろう学生がチュータリングを必要と
するケースは発生する。そのような場合には、できる限りすべての参加者が
メリットを受けられるような方法を講ずべきである。
理想的なチュータリングの要件
誰もが成果に満足できるような理想的なチュータリングは、以下の要件の
ほとんどを備えている。
1.学生が特に強い関心を持っていること。
2.サポートについて学生が基礎的な理解を持っていること。
3.サポートについて学生が自分で理解しようとしていること。
81
4.チュータリングにかけられる時間が限られていることを学生が理解して
いること。
5.チューターと学生のコミュニケーションが良好であること。
6.該当の科目/方針についてチューターが完全に理解していること。
7.方針が説明・理解された上で、チューターおよび学生双方が満足できる
よう実行されること。
上に挙げた成果がすべて実現されればチュータリングは成功といえる。最
後の項目までたどり着けない場合は学生にどうあって欲しいのか、もっとよ
く話し合ってみるべきである。担当する学生について、チューターが期待し
てもよい限度を以下に挙げてみよう。
1.方針が理解できないとき学生はチュータリングに頼るべきで、どろ沼に
はまりこむ前に相談すべきである。
2.学生は、チュータリングに過度な期待をしてはいけない。たとえば、チ
ュータリングを1時間受けて「第1章から第5章までがよく分からないん
です。明日試験があるので何とかしてください」などというのはチュータ
リングを正しく理解しているとはいえない。
3.学生は、チューターのコミュニケーションスタイルや技能について必要
以上の注文をつけるべきではない。
学生の側からチューターに望むこと
1.チューターは、担当するコースについて、教室での授業、リーディング
課題、個人発表、グループ発表および試験対策などについて熟知している
こと。
(試験対策は、クラス内のろう学生を指導する教員側には問題ではな
いが、授業を担当する教員とチューターが良好な連携関係は絶対必要であ
る。)
2. 学生が必要とする度合いにもよるが、チューターは常時、もしくは学生
が必要とするときは必ずサポートに入れる態勢が望ましい。
3. 学校側は、チュータリングの「とき」と「場所」については学生のスケ
ジュールを優先させてほしい。
4. チューター、ろう・難聴の学生のコミュニケーションニーズにできる限
りの配慮をしてほしい。
82
その他効果的と思われるアドバイス
1.ろう学生のチュータリングをするときには、その学生の隣りではなく、
向かい側に座るとよい。黒板や白板を使うときは、黒板や白板に向かって
話しかけないようにすること、また学生の聴く態勢が整うまで話を始めな
いようにする。
2.できる限りビジュアルな資料を多く使う。重要ポイントを説明するとき
は板書すると学生にはわかりやすい。また説明する順番も大切である。メ
モ用紙に重要ポイントやキーワードを書いて学生とやりとりする。専用の
ボードを用意するのもよい。
3.他の一般学生と同様、ろう学生にとっても技術用語や問題を解くことは
難しいものである。アイデアを説明するときや説明の中で技術用語を使用
する場合には、いったん停止して学生にキーワードやアイデアを説明させ
てみる。また、問題や課題を与えたら、あまり間をおかずにどうやって解
決するつもりか、学生に概略を説明させる。
4.解説が終わって、学生が分かったという表情をしたら、どのように分か
ったのか、そのアイデアについて説明してもらう、もしくは実際にやって
みるなどして確認する。
83
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Richard Orlando ,
associate
professor,
Business/Computer
Science
Support,
NTID,
and
translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty member at
Shizuoka University of Welfare as part of the PEPNet-Japan program--a
collaborative effort of Tsukuba College of Technology and PEN-International
at NTID.PEN-international is funded by grants from The Nippon Foundation
of Japan to NTID.
84
NETAC Teacher Tipsheet
キャプショニング
キャプショニングとは、ビデオ教材の音声部分を視覚表示するもので、授
業中使われる資料のすべてを、ろう学生が参照することを可能にするもので
ある。キャプショニングを提供する業者がどんどん増えて、最新技術を含む
さまざまな選択肢が可能になった。そのおかげで、また C-Print™やCART
などビデオキャプショニング以外の、安価なキャプショニング機能が多く使
えるようになったことで、授業資料を参照することが以前よりはるかに容易
になった。このチップシートの目的は、教育関係者に現在手に入るさまざま
なキャプショニングフォーマットを紹介すること、キャプション教材を求め
る声に応えるサービスに関する情報を提供すること、そしてろう学習者のた
めのビデオプログラムをもっと利用してもらうための隠れたオプションを明
らかにすることである。
多様なニーズに応えるため、キャプショニングには数種類の
フォーマットが用意されている。
1.オープン/クローズド・キャプショニング
クローズド・キャプション(CC)は、原則としてブラックボックスに隠
されていてテレビのライン21上に表示されている。このキャプションはデ
コーディング機能(デコーダーまたはデコーダーチップ内蔵のテレビについ
ている)を使わなければ、テレビ画面上では見ることができない。
オープンキャプションは、
「CC」キャプションをデコーダーなしで見える
ようにするために「オープン」キャプションとして記録したもので、外国映
画にみられ、大文字や小文字で表記されたり、影付き効果で表示されたりし
字幕に似た形で私たちの目に入る。
85
2.オンライン/オフライン・キャプショニング
オンライン・キャプショニングは、一般にノートパソコンで動く専用ソフ
トと連携する、速記用キーボードを使って作られたものである。このキャプ
ションは、原稿の準備がなくても番組の進行や放送に連動して最大3行まで
画面上でスクロールするものである。この動作は「リアルタイム」キャプシ
ョニングと呼ばれ、時にはかなりの長距離間で、プログラムの動作地点から
モデムによって実行が可能になったものである。たとえばニュースキャプシ
ョンは放送局から数百マイル離れた場所にいる同時キャプション技師により
オンエアと同時に挿入されるといったものである。
オフライン・キャプショニングは、すでにできあがっているプログラムに
あとからキャプションを挿入するもので、画面表意に適当な長さにキャプシ
ョンをフォーマットしたり、ことばを編集したり、キャプションを配置した
り、話している人の名前を入れたり、特殊なフォントを使ったり、タイムコ
ードを入れたりする作業がある。オフライン・キャプションは、マスタープ
ログラムに「エンコード」されるか、または放送中に「ナマで表示される」
かである。
3.逐語/編集 キャプショニング
番組の多くは、逐語キャプショニングを採用している。それはキャプショ
ンを放送中に用意しなくてはならないため、もしくは番組内容に手を加えな
いという方針のためである。
その他は複雑な構造の言語を単純化するなどのキャプション編集方式を採
用して、視聴者の最大部分の読解力と言語のレベル、特にK−12レベルに
合わせている。これは重要なことで、視聴者がキャプションを見るチャンス
は一度しかないからである。
4.CART
この方法は、リアルタイム・キャプショニングに似ているが、CARTは
ノートパソコンと同時キャプショニングソフトを使ってパソコンモニターや
壁掛け式スクリーン上に「ビデオを使わない」キャプショニングを実現する
点が異なっている。また会議に使われることもあるし、易しい表現に変えた
り双方向通信の機能もあったりする。詳細情報は「CART教員用チップシ
ート」で知ることができる。
86
ビデオ教材を講義に利用する方法
1.通訳とキャプショニング、どちらが効果的?
・どちらの方式がよいか学生に聞いてみるとよい。通訳や口述記録などの
安上がりな代替法が障害学生の要求に合うかどうか決めなければならな
い。障害をもつアメリカ人法のタイトル2に明記されているとおり、公
的資金により運営されている機関は、障害者との意思疎通に関して個人
の好みに最大の配慮を払わなければならない。
・どの方式のキャプショニングを採用するかを決める際の鍵となるのは、
a.プログラムのタイプ
ビデオの中にはASLでの通訳が非常に困難なものがある。とくに
場面転換の激しいもの、多数の話し手が登場するもの、外国訛りがあ
るものなどは難しい。
b.そのプログラムが使用される頻度と期間
プログラムが長期間、頻繁に使われる場合、キャプショニングは他
の方法よりもコスト的に有利になる。一度キャプションをつけてしま
えば上映のたびに通訳を使う心配をしなくてもすむ。
c.予算
遠隔教育など、学校が自力でビデオを作成するような場合にはキャ
プショニングのコストをビデオ制作予算に組み込んでおくとよい。
2.キャプションのついた教材は手に入るか?
・
学校のメディアセンターや図書館にキャプション付きビデオがあるか
どうか確認してみること。アメリカ教育省が資金を出しているCMP(キ
ャプション付きメディアプログラム)にはK−13+向けオープンキャ
プションのビデオテープが4000本以上集められていて無料で借りる
ことができる。
・
教育訓練用ビデオを借りたり購入したりする際はキャプション付きの
ものであることを確認すること。
3.自分のニーズに合うキャプショニングフォーマットはどれか?
講義、プレゼンテーション、ライブショーなどにはリアルタイム・キャ
プショニングが使われる。ドキュメンタリーなど、通常同時に複数人が話
すことはなく、動作がほとんどなく、話が主体の記録済み作品の場合は、
オフライン・ロールアップ・キャプショニングが適している。
87
複数の人が速いペースで会話を続ける内容で、1∼4行のキャプション
を挿入するような場合にはオフライン・ポップアップ・キャプショニング
がよい。
リアルタイム・キャプショニングとオフライン・キャプショニングとでは、
コストがかなり異なる。リアルタイム・キャプショニングでは、一般にプロ
グラム1時間当たり$50∼$175であるが、オフライン・キャプショニ
ングでは作品の長さによって料金が決まり、通常1分当たり$15である。
制作費の点ではポップアップ・キャプションよりロールアップ・キャプショ
ンのほうが安い。コストとキャプション品質を業者間で比較してみるのが賢
明である。
4.自作ビデオにキャプションを入れてもらうにはどのような手順を
踏めばよいか?
・
キャプションを入れることが自分の学校や機関で補助金の対象になっ
ていないか調査する。作品にキャプションをつけることが著作権問題を
クリアしていることを確認する。
・
キャプショニング業者をいくつか当たって取り扱っているキャプショ
ン・フォーマットのタイプを確認し、時間/分当たりの料金を比較する。
業者の多くはホームページを持っている。
www.captions.org/alphalinks2.cfm へ行くとキャプショニング業者とハ
ード/ソフト業者へのリンクが張られている。
・
Captioned Media Program にコンタクトして「公認キャプショニング
会社(NADHII)」リストの無料コピーを入手する。また WGBH-Boston
の 入 手 可 能 メ デ ィ ア ・ ナ シ ョ ナ ル セ ン タ ー (National Center for
Accessible Media at WGBH-Boston)に連絡してインターネット上にある
ビデオやデジタルテレビ、CD−ROM入手方法に関する情報をチェッ
クする。
URLは次の通り:www.wgbh.org/ncamである。
WGBHの関連組織にキャプション・センターがあり、キャプション挿
入やガイドラインに関する利用者関連情報を入手することができる。
www.wgbh.org/caption
88
5.自分でキャプションを入れることは可能か?
・
必要な装置類や作業内容によってコストは大きく変わる可能性がある。
・ Captioned Media Program にコンタクトして「キャプショニング装置
と製造業者(NADH-23)」という無料コピーを入手する。この資料にはキ
ャプショニングに必要なハード/ソフト、および機能、必要な性能レベ
ル別の価格帯が載っている。
・
必要なキャプショニング性能を判定する基準
a.キャプショニングの必要性はコストに充分見合うものであるか?
b.キャプショニングをだれに依頼するか?
c.キャプショニング要員に必要なトレーニングをどうするか?
NTIDでは要請があれば教育研修テレビ部門
(Instructional Television Department) 内 で の キ ャ プ シ ョ ニ ン
グ・インターンシップ研修を受け入れている。
d.技術サポートはどこまで可能か?
キャプショニング関係の補助金制度
文部省、特殊教育およびリハビリプログラム振興事務局(Office of Special
Education and Rehabilitative Services)が補助金申請を受け付けているか、
連邦政府広報で調べる。キャプショニング補助金に関する情報は第5章に記
載されている。
リンクは次の通りである。
http://ocfo.ed.gov/grntinfo/forecast/forecast.htm#chart5.
ろう・難聴の学生にとってキャプションは、学習プロセス上重要なポイン
トであって、授業に完全参加できるか否かの鍵を握るものである。教育関係
者にとって高品質のキャプショニングサービスを探し出して提供し、ろう・
難聴の学習者のニーズを満たすことは、時間と労力をかけるだけの価値が十
分あるといえる。
89
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Peter Schragle ,
associate Professor and Senior Captioning Specialist, NTID, and translated
into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty member at Shizuoka
University of Welfare as part of the PEPNet-Japan program--a collaborative
effort
of
Tsukuba
College
of
Technology
and
PEN-International
at
NTID.PEN-international is funded by grants from The Nippon Foundation of
Japan to NTID.
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NETAC Teacher Tipsheet
C-Print
C-Print™とは?
C-Print™は、国家の主たる教育環境に在籍する、ろう・難聴学生のためのサポ
ート・サービスとしてNTID(National Technical Institute for the Deaf)が開
発した、コンピュータ支援音声/文字変換システムである。このシステムは、高
校・大学レベルの授業内容改善に大きな関心を持つNTIDの研究者たちによっ
て開発されたもので、全米の多くの教育プログラムに採用され、成功を収めてい
る。
研究の結果、ろう・難聴の学生は、情報獲得の手段として手話通訳やノートテ
イカーより、どちらかといえば印刷された講義録の方を好むことが知られている。
これが C-Print™の基本理念になっている。もちろん通訳の方がいいという学生
もいる。個々の学生がどちらを選択するかによって、DSS(障害者サポート・
サービス)の提供するサービスが決まることになる。
さらに、大学や高校が提供する速記ベースのサービスに比べると、C-Print™の
方がより低コストで、より簡単に実現が可能である。
どのように使うのか
C-Print™は、
「C-Print™キャプショニスト」と呼ばれるタイピストが教師の講
義(および学生の意見)をノートパソコンに入力する。入力された情報は、直ち
に2台目のノートパソコンまたはモニターに表示され、授業を受けている学生が
読むことができるようになっている。授業終了後、学生は、印刷された講義内容
をもらって復習することができる。
このシステムでは、ノ−トパソコンに略記ソフトの機能が組み込まれたワープ
ロソフトをインストールして使用する。キャプショニストは、キーストロークを
減らすために略記システムのトレーニングと、文章を圧縮する技術のトレーニン
グを受ける。キャプショニストが全速で入力する情報の量はかなり多く、一般に
91
講義の要約に比べ話された内容の全景に近いものを記録することができる。
特別に必要な装置は何か?
教室環境で C-Print™を使うには、ノートパソコン2台(キャプショニストに
1台、学生に1台)、もしくはノートパソコン1台と入力された文字情報を複数の
学生が見ることのできるVGAサイズのモニターが必要である。
費用はどれくらいかかるか?
C-Print™を導入する費用は、どのような装置を使うか、キャプショニストの報
酬レベルや拘束時間、業務需要、サービス形態、補助金の有無などによって変わ
ってくる。
通常のパターンでは、ワープロソフトが約$100、通信ソフトに約$200、
略記ソフトに約$400が必要となる。ノートパソコンと表示装置の価格、キャ
プショニストの給与にかかる費用は、場合により異なる。キャプショニストの給
与は、一般にプロのノートテイカーと通訳の中間である。
C-Print™キャプショニングを導入する学校のためのアドバイス
C-Print™を導入している教職員のために、いくつかアドバイスをあげておきた
い。
1. その科目の最初の授業の始めにキャプショニストと C-Print™サービスにつ
いてクラスに紹介しておく。さらに自分も協力していることを示しておく。
2. キャプショニストに、C-Print™とはどんなものか簡単に説明してもらう。
授業終了後興味のある学生にスクリーンを見てもらう。
3. 次の授業までに手に入る資料は、すべて C-Print™キャプショニストに渡し
ておく。コースシラバス、配付資料、授業概略、リーダー、OHP資料、用語
リストなどはキャプショニストが支援する授業準備を助けるものとなる。これ
らの提供されたものは、各授業ごとに、その授業において特に頻繁に使用され
る略語を含んだ専用の辞書を作成するのに特に役に立つ。
4.授業ではキャプショニストによく聞こえるよう大きな声ではっきり話すこと。
5.キャプショニストには、教員と学生全員の声がよく聞き取れる場所を割り当
てること。
6.教室のセッティングについて、キャプショニストがストレスを感じないよう
必要なものを用意し、最適な配慮をすること。
(たとえば、ブラインドを下ろし
92
て画面のグレアを防ぐ、適切なサイズ・高さの机やテーブルを用意するなどで
ある。)
7.学生のコメントが聞きづらい時や、なにやら論点がはっきりしない時には、
言い直す、要約するなどの配慮をする。
8.授業中、キャプショニストは、
「ダウンタイム(授業中の一区切りの休止時間)」
を使って、それまでに入力した文章を編集する作業をしていることを知ってお
いてほしい。
「ダウンタイム」とは黙読している時間や筆記の時間、クラスが変
わるときの休み時間のことなどである。
9.耳の聞こえる学生が、この C-Print™のハードコピーを覗くのを許可するか
どうか決めておくこと。教員がそれをはっきりさせることでキャプショニスト
にも、障害のある学生にも、障害のない学生にも、さらに科長や学生部長にも、
しっかりと C-Print™の理解がされるものであることを知っておくべきである。
10.C-Print™に関わる学生のニーズを検討する際には、キャプショニストもチ
ームの一員に加えることである。
93
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was prepared by Pam Giles, C-print
Project, NTID, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty
member at Shizuoka University of Welfare as part of the PEPNet-Japan
program--a collaborative effort of Tsukuba College of Technology and
PEN-International at NTID.PEN-international is funded by grants from The
Nippon Foundation of Japan to NTID.
94
NETAC Teacher Tipsheet
CART
CARTとは?
CART
− Computer Aided Realtime
Translation −
とは、CAR
Tレポーターが速記装置やノートパソコン、リアルタイムソフトを使って話
されたことば(英語)を瞬時に文字にする技術である。文字は、モニターそ
の他の表示装置に表示されて、ろう・難聴の学生が読むことができるように
なっている。この技術は、当初聴力のない人のために使われていたが、障害
を研究する人たちや外国語として英語を学習する人たちにも使われるように
なった。
CARTはどのように使われているか?
CARTレポーターは、STENOと呼ばれる音声言語で筆記する。速記
用キーボードの22個のキーと数字用バーを使って、声すなわち音素を一意
な文字の組み合わせに変換する。キーボードという機器は、コーダル、すな
わちピアノで和音を弾くように複数のキーを同時に押して特定の音素を表現
することができる。キーボード上にアウトラインを描くと、ケーブルを介し
てコンピュータに渡されて処理される。このプロセスを「翻訳」と呼ぶ。こ
うして呼ばれるのは、レポーターによって描かれた音声によるアウトライン
が入力されると、レポーターが作成した専用の辞書によって英単語に置き換
えられるからである。この辞書には、単語の音節、単語、フレーズ、人名、
句読点のほか、授業のやりとりの最中にレポーターが使った特殊用語まで入
っている。
必要な専用の機器は何か?
ほとんどのCARTレポーターは、同時表示用のハードウェアとソフトウ
ェアを自分専用に持っている。ハードウェアに含まれるパソコンは、通常イ
ンテル486の33MHz以上の性能と120Mbのハードディスク、RA
95
Mを8Mb、シリアルポートを2個搭載したものである。オプションで外付
けタイプのVGAもしくはSVGAカラーモニターを購入するレポーターも
いるが、これがあると学生はさらに高い画面視認性を得ることができる。
ハードウェアとして他にコンピュータ速記装置とノートパソコンを接続す
るケーブルがある。さらにレターサイズの印字品質のドットマトリックスプ
リンターまたはインクジェットプリンターがあるとよい。他にもコンピュー
タ速記装置、同時翻訳ソフト、サポートしている学生のために文字を拡大表
示するソフトも購入してほしい。OHP、スクリーン、ビデオ接続機器、大
型ディスプレイ、その他特に講義室に必要なものに関しては学校側が用意す
ればよい。
CARTサービスにかかる費用はどれくらいか?
ろう・難聴の学生に協力するCARTレポーターへの報酬は、研修と経験
によりかなり異なる。全米法廷レポーター基金(National Court Reporters
Foundation)の基準に従えば、1講義時間ごとに$40∼$75、準備に1時
間$15∼$40(1講義時間につき30分)、さらに(編集や配布など)仕
上げ作業1時間当たり$15∼$40というところである。CARTレポー
ターを利用したことがほとんどの大学、もしくは全く利用したことがない大
学は、利用実績のある他の大学に問い合わせてみるとよいだろう。
CARTを利用しようとする教員のためのいくつかのアイデア
教員が、CARTレポーターを利用する場合のアドバイスをいくつかあげ
てみる。
1.教員は、その科目の授業が始まる前に、CARTレポーターに会ってコ
ースシラバス、教科書、配布物、授業概略、リーダー、OHP、用語リス
トなど、CARTレポーターが授業準備にあたってあると便利なものを渡
しておく。授業で使う専門用語はレポーターの辞書に入力され、翻訳速度
を上げるのに役立つことになる。これはレポーターにとっても学生にとっ
ても有利である。
2.学生たちに授業初日の最初にCARTレポーターとCARTサービスを
紹介して、そうしたサービスがあることを知らせる。1名もしくは数名の
学生のためにCARTレポーターが学期を通して仕事をすることをクラス
全員に伝える。
96
3.学生に対して、CARTレポーターに同時翻訳とはどのようなものか簡
単に説明してもらったり、授業終了後興味のある学生にスクリーンを見せ
たりするなどもよい。同時翻訳の使用を通して、レポーターが先生や発言
者のことばを書き込むこと、ろう・難聴学生が読めるよう講義内容が英語
の文字でコンピュータモニターや表示装置に表示されるのだということを
説明する。また、各講義の終わりに、レポーターは同時翻訳装置に蓄積さ
れた講義内容のコピーを、フロッピーディスクに入れた未編集の ASCII フ
ァイルの形、もしくは編集後印刷したもののいずれかの形で、障害学生に
渡すこともクラス全員に知らせておくこと。
4.教員とクラスの学生全員の声ができる限りストレスなく聞き取れる位置
にCARTレポーターを配置する。
5.サポートを受ける学生が、スクリーンと話し手を同時に見られるように
する。通常、翻訳と文字表示は話し手より1∼4秒遅れて進行するため、
ろう・難聴の学生が反応するのに2、3秒余計にかかる。クラス内討論で
は、発言者を一度に一人に限定することで、学生全員に発言の機会を与え
ることができる。
6.学生の発言が聞き取り難くかったり、論点がはっきりしなかったりした
ときは、発言内容をくりかえすとか要約するなど配慮すること。CART
レポーターは、どんな場合でも話者の意図を外してはならないことをよく
承知している。CARTレポーターは、常に話者の発言内容と意図が伝わ
るよう極力逐語訳を心がけている。時には正確に翻訳できない新しい用語
が出てくることもある。そのような場合、レポーターは、コンピュータが
持っていることばに置き換えて、障害学生に伝わるようにする。
7.CARTレポーターは、授業中のちょっとした間の「ダウンタイム」に
講義ノートを編集する。耳の聞こえる学生がこの講義ノートを覗くのを許
可するかどうか決めておくこと。教員がそれをはっきりさせることでCA
RTレポーターにも、障害のある学生にも、障害のない学生にも、さらに
科長にも学生部長にも、しっかり理解されるものであることを知っておく
べきである。
97
CARTサービスのその他の機能
8.スクリーン上の文字は、周辺からの環境音や発言者IDなど、そこで起
きていることを示すすべてである。
例;
「教員」
「男子学生」
「女子学生」
(笑い)
(拍手)
(鐘が鳴っている)
など
9.CARTレポーターは、どの講義においても教員、学生と協力して、連
係プレーをよくし、よいレポートの作成を保障するものでなければならな
い。
10.CARTレポーターは、病気等の事態に自分に代わって授業に入れる
よう、常に代替レポーターを用意しておく必要がある。また、変更ある時
は教員に必ず連絡しなければならない。
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Judy Larson,
associate professor, Court and Conference Reporting Program, St.Louis
Community College, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a
faculty member at Shizuoka University of Welfare as part of the
PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College of
Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded by
grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
98
NETAC Teacher Tipsheet
キュードスピーチ
キュードスピーチとは?
キュードスピーチ(CS)は、話しことばを視覚化するツールである。C
Sは、音素をベースとしたシステムで、顔面近くの4カ所で8種類の手の形
を使うことで、話すとき口の動きが持つ情報を補うものである。キュードス
ピーチは、読唇技術から推測作業を取り除き、視覚のみを手段としてあらゆ
る言語での表現に対応するものである。簡単な手のキューを、話すときの自
然な唇の動きと組み合わせることで、唇の動きでは同じように見える単語を
視覚的に識別し、読み取ることができるようになる。
なぜ開発が必要だったか?
リテラシー、すなわち読み書き能力がキュードスピーチの出発点であり、
最大の目標でもある。キュードスピーチは、聴覚の正常な両親が、ろうの子
供と通常の話しことばでコミュニケートすることを可能にするために開発さ
れたものである。話しことばに対するもう一つの視覚的手段ともいえるこの
方法によりろうの子供は、言語を音韻コードとして認識することができ、読
む能力を向上させることができるのである。このシステムを使うことにより、
ろう者は、ことばが話されるのと同時にそのことばを「視聴」、すなわち目で
聞くことができるようになり、ろうの子供は、話しことばを自然かつふつう
のスピードで受け止めることができるようになる。
キュードスピーチを使うのは誰か?
ろうの子供たちの家族は、米国内外で30年以上に渡ってキューを出し続
けてきた。キュードスピーチは50以上の言語、方言に適用されてきた。聴
覚の正常な両親は、CSを使って自分たちが生まれ持った言語で自由に表現
することができる。
99
キュードスピーチは、ほかに教育の場でも、キューを出す先生やキューの通
訳 者 に よ っ て も 使 わ れ て い る 。 こ の 通 訳 者 は C S 音 訳 家 (Cued Speech
Translator)と呼ばれて、教室内で発生するあらゆる音声や音情報を伝達する
役目を持っている。学生は、話者の発表にほんのわずか遅れるだけで、話し
ことばを目に見える形で、しかも音節単位で受け取ることができる。したが
って、幼稚園から高校卒業後まで全米の学習者が、CS音訳家の助けを借り
ることで、教育の本流に等しく参加することができるのである。先生たちに
とって音訳家とチームを組むことは、通訳者とチームを組むことによく似て
いる。
キュードスピーチは、発声の訓練のために開発されたものではないが、発
声セラピストもこの方法を、発音、訛り、持続時間、リズムを改善するツー
ルとして使用することができる。
キュードスピーチは、多感覚入力を採用しているため、その使用は、聞く、
話す、言語におけるさまざまなニーズを抱えた子供や大人に合わせて、聴覚
弁別、読唇技術、明瞭発音、音声学訓練などとも関わっている。キュードス
ピーチは、また聞くこと、話すこと、バイリンガル、そのほかトータルなコ
ミュニケーションにおける考え方と相通じるものがある。
キュードスピーチを使用した結果
・言語能力/リテラシー
キュードスピーチを受信する側は、キューで伝えられた話しことばを極め
て高い精度で理解することができる。キューを使った会話を長期間継続的に
続けていると言語能力やリテラシーのレベルは正常な聴力を持った同級生と
比べて遜色のないものになる。キュードスピーチを使える学生の多くは、幼
稚園から大学まで通してふつうクラスに入学している。
・読唇
話しことばに関する知識があるために、人はキュードスピーチを続けてい
ると、しばしば高度な読唇技術を体得し、キューを知らない人ともコミュニ
ケートできるようになる。
100
・聴力
キュードスピーチは、言語の音韻部分を伝えるために使われるツールで
ある。従って聴力の使用と全面的に同様の意味を持つもので、聴力、弁別、
理解力の発達を促すものである。キューで養われた土台は人工蝸牛管を埋
め込むことで統合的な力を発揮する。
・外国語
キュードスピーチは、英語以外でも使われる。米国のろう学生はキュード
スピーチをスペイン語、フランス語、ラテン語など外国語会話の学習にも用
いている。
キュードスピーチを第一優先のコミュニケーション・ツールとして使って
いる家族もあるし、ろうの子供たちとのコミュニケーションにバイリンガル
方式、すなわちある時はASL(アメリカ式手話)、ある時は英語用キュード
スピーチを使う家族もある。
キュードスピーチは、話しことばの音韻学的根拠と関連があることから、
耳から入る情報を重要視するアプローチとは相性がよい。また、コミュニケ
ーションを視覚情報に頼る人にとってキュードスピーチは、視覚を通して完
全に理解できるものである。最初の言語がASLという子供たちには、キュ
ードスピーチは、英語能力の獲得を促進する手段として使用することができ
る。
キュードスピーチを使うろう者はどのようにコミュニケートするか?
ほとんどの場合、耳の聞こえる人たちとのやりとりには会話によるコミュ
ニケーションが使われる。手話を使う人とのコミュニケーションには手話を
使う人が多い。
キューを習得するにはどうすればよい?
キュードスピーチの訓練は公認インストラクタのネットワークを検索する
ことで全米どこでも受講が可能である。「Cue Camps(キュー合宿)」は家族
やプロの指導員がキューのスキルを磨くのによく使われる方法である。
101
キュードスピーチで子音を表す手の形
キュードスピーチで母音を表す方法
口
あご
のど
102
首横
二重母音の表し方
横−のど
あご−のど
103
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Catherine Quenin,
President, National Cued Speech Association, and translated into Japanese
by Prof. Toshiaki Hirai a faculty member at Shizuoka University of Welfare as
part of the PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College
of Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded
by grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
104
NETAC Teacher Tipsheet
教室における
補聴援助システムの役割
補聴援助システムとは?
静かな環境で補聴器を効果的に使っている学生でも、大学の大教室で受け
る講義情報をカバーするのは大変なことである。教室内での教員の声は、周
辺の雑音、室内の反響、距離によって減衰され邪魔される。そのため教室の
音響環境が悪いと、教員の声も、補聴器を使用していても聴覚を失うのと同
様に聞き取りにくくなる。ほとんどのALDS(補聴援助システム)では、
教員の口元近くにマイクまたはトランスミッタを置いて、無線またはケーブ
ルで学生が身につけたレシーバーに教員の声が送られるようになっている。
マイクを教員の口元近くに置くことでALDSは遠距離でもクリアな音を提
供し、反響を消し、環境からの雑音を少なくすることができる。ALDSが
ろう学生にとって効果的なツールであることはすでに証明されている。良好
な補聴環境を提供することは、一人ひとりの学生の学業達成にとって極めて
大きな要因となりうる。
ALDSにはいろいろなタイプがあるのか?
ALDSにはいろいろな技術が使われている。基本的にALDSには無線
のものとケーブルを使ったものとがある。無線ALDSでは、音の発信に電
波、光、磁気誘起エネルギーなどが使われている。ケーブルを使ったシステ
ムでは、直接接続したケーブルで音声信号を送るようになっている。どちら
のシステムにも、機能、利点、弱点などそれぞれの特徴をもっている。ここ
では3種類のALDS−FM、音響増幅、インダクション・ループシステム
を取り上げる。
105
FMシステム(Frequency Modulated System)
FMシステムは、無線方式の、小型でバッテリー駆動の装置で、電波を使
って音響信号、すなわち人の話を発信器からレシーバーに送るものである。
ほとんどのFMシステムでは、講義する教員は発信器を腰につけ、それに接
続された襟用ピンマイクを胸につける。学生は、FM受信器を着ているもの
にクリップで留めて装着する。このFM受信器は、インダクション・ネック
ループシステムもしくは音声入力ケーブル経由で、学生の補聴器につながっ
ている。FMシステムの受信範囲は、出力やアンテナにもよるが30フィー
トから200フィート以上になる。FM電波は、壁や建物を透過するので隣
接した教室を使用する場合には複数の周波数帯が必要である。
近年FM受信器は目立って小型になった。FMやBTE(耳の後ろに掛け
る補聴器)システムでは、FM受信器は補聴器と同じケーシング内に組み込
まれている。補聴器メーカーからは補聴器のしたにはめ込む方式のFMブー
ト受信器が発売されている。適切なFMシステムの選択と設置に関しては聴
覚に関する専門の人の意見を聞くとよい。
音響増幅システム
音響増幅システムにおいては教員の声は、壁や天井に取り付けたラウドス
ピーカーで増幅され音になる。このシステムは、マイクとFMトランスミッ
タ、アンプ、1個以上のラウドスピーカーからなる。スピーカーは学生の隣
に置いてもよい。音響スピーカーは、障害学生が最もよく聞こえるような位
置を考えて設置すべきである。システムは、聴覚に関して専門の人、もしく
は教室の音響に詳しい人のガイドに従って導入するのが好ましい。
インダクション・ループシステム
インダクション・ループシステムは、発信に電磁波を使うものである。講
義者のマイクが音声を拾い、増幅され、ケーブル/ループを通ると、目に見
えない電磁場が発生する。学生の補聴器の内部にあるテレコイル(T-switch)
が信号に対する受信器の働きをする。ループは部屋全体を円形に囲み、イス
やテーブルの下側では小さく、反応しなくなる。大型のループを使用する場
合、ループが隣の教室まで及ばないよう注意しなければならない。磁場エネ
ルギーが漏れて干渉を引き起こすためである。最新の情報によれば、新型の
3次元ループは漏れの問題を解消しているということである。
106
ALDSを使う利点
個人用補聴器より、ALDSの方が音響上明らかに優れている点は、音を
拾うマイクが講義者の口元近くにあるということである。このマイクの位置
により、学生と講義者の距離の遠近に関わらず、学生の立場からみて講義者
の音声レベルが安定している。イスを動かす音、ファンの回る音、学生たち
が話す声など部屋の雑音に負けることなく、講義者の声を明瞭に聞き取るこ
とができる。
・
ALDSは、教室から教室へ移動して使うこともできるし、固定的に設
置することも可能である。
・
ALDSは、教室全体を対象に使うときも、小グループで使うときも効
果的である。
・
ALDSは、単独で使うこともできるし、個人の補聴器と組み合わせて
使うこともできる。
・
ALDSは、聴覚の正常な学生(学習障害、注意欠陥多動性障害、中枢
聴覚障害の学生など)から、重度の難聴までさまざまなレベルの聴覚障害
の学生に適用できる。
・
ALDSは、VCRやテープレコーダー、ステレオなど聴覚、視聴覚用
機器を聴きながらでも有効である。
ALDSを使用する際のストラテジー
ALDSは、適切に使えば極めて大きなメリットが得られる。使用に際し
てのアドバイスをあげておく。
1.ALDSについてよく勉強しておくこと。聴覚に関する専門家やシステ
ムのメーカーによる実地研修を受けること。
2.ALDSがどのような状況で使われるのか学生と話し合うこと。
3.ALDSのマイクをどこに置けば講義が最も明瞭に聞き取れるか検討す
ること。マイクは、OHPなどノイズ源のそばに置いてはならない。襟ピ
ンマイクは、口元もしくは音源から3∼5インチ離すこと。声や音源の大
きさが大き過ぎないこと。音声信号が大き過ぎるとALDSに伝わる音が
ゆがんだり、過増幅されたりすることになる。
107
4.ALDS受信器をどこに置くのがベストかを決める。
a
音響増幅システムの場合、スピーカーを置く場所は効果をよく考え
て決めること。スピーカーの最良の配置について、聴覚に関する専門
家や部屋の音響に関する専門家とよく相談すること。
b
頭の位置およびルームループからの距離は、補聴器内部に受信装置
としてテレコイルを装備している学生にとっては、検討すべき変数で
ある。受信器を教室のいろいろな場所に置いてみて最もよく受信でき
る場所を決定する。
5.授業にALDSがどのように使われるのかクラス全員に説明しておく。
ALDSを使う学生は、マイクを持っていない学生が提示した質問を聞き
取ることができない。このため他の学生からの質問やコメントは、必ずく
り返し話すこと。学生には二人以上同時に話させないようにする。もし可
能であればマイクとトランスミッタを学生に回してもよい。FM受信器に
ついた環境マイクのスイッチを入れて障害者のクラスメートと交信してみ
ようという学生がいるかもしれない。
6.補聴器をつけた学生に対応したときのテクニックをここに提示する。
a
学生とまっすぐに向き合うこと。ALDSがあれば比較的に距離が
あっても学生には聞き取れるが、障害学生は理解を補うために、視覚
によるキュー信号にことのほか頼っているものである。マイクが口の
動きを覆い隠していないか注意すること。
b
ゆっくり、はっきり話すこと。
c
できれば教員や黒板近くの席がよい。
7.可能ならば学生のALDSを視聴覚機器と接続する。
8.装置類は使うたびごとにテストする。
メンテナンス用作業内容とスケジューを整備しておく。
108
教室で効果的に使えるALDSにはいろいろなものがある。制約のないテ
クノロジーというものはないし、すべての利用者のあらゆるニーズに応える
ことができるテクノロジーもない。どのALDSが最も適切か、聴覚に関す
る専門家や学生とよく話し合うことである。音響効果の悪い部屋でもALD
Sは音声信号を明瞭に復元することができる。したがって難聴の学生も教室
内の出来事をより充分に把握することができるのである。
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was prepared by Catherine Clark,
audiologist, NTID, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a
faculty member at Shizuoka University of Welfare as part of the
PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College of
Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded by
grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
109
110
NETAC Teacher Tipsheet
アイデアツール
アイデアツールとは?
アイデアツールは、インターネットに接続して使うオンラインコース用教
材作成ツールである。パソコンにあまり強くない教職員が、教室での授業や
遠隔授業を実施するオンラインコース教材を作成する支援を提供する目的で、
NTID開発したものである。このツールは、教育目的のインタラクティブ
なサイトを構築する作業を自動化して、教育者がコースコンテンツの開発の
ため、時間をもっと生産的に使えるようにしようというものである。
アイデアツールは、学習中の学生がアクティブに関われるようなオンライ
ン教材を創作・構築するための教育ソフトである。アイデアツールを使って
開発されたコース授業は、ネット接続でのレッスン、双方向演習、インター
ネット利用の課題、クイズ、学年教科書、ディスカッション・フォーラムな
どを組み込んだ適用範囲の広い教育的価値を持っている。教員は画像、図表、
図解などを加えて、ビジュアル的にレベルの高い教材を作成することができ
る。学生はインターネットに接続する環境さえあれば、いつでも、どこから
でもコース教材を利用することができる。
アイデアツールは、インターネットベースのオンライン教育法を開発する
には経済的に厳しい教育部門や小規模の大学に低コストの手段を提供するこ
とができる。
使い方
アイデアツールが優れているのは、使い方が柔軟で比較的容易であるとい
う点にある。ワークショップで10時間ほどトレーニングを受けると、イン
ターネット接続環境と Windows パソコンを持った教員であれば、アイデアツ
ールを使ってオンライン教材を自作することができる。将来的にはオンライ
ンチュートリアル作成の研修も可能である。
111
コース作成作業は、レッスンユニット、配付資料、クイズ、宿題をコース
アウトライン上に並べるところからスタートする。
「保存」ボタンをクリック
するだけで数秒のうちに完璧なWebサイトが完成する。ドロップダウンメ
ニュー、目次、サイトマップは自動的に生成され、すべての資料へのアクセ
スが簡単にできるようになる。
「編集」アイコンをクリックすると、コンピュータがレベル分けしたクイ
ズや電子化ホームワークなどコース資料の作成がスタートする。専用の教育
ソフトを使えば、ポップアップノートや用語集の他、学生の学習指針となる
双方向チュートリアルや演習問題なども組み込むことができる。
アイデアツールは、サーバ・アプリケーションといって、サーバーコンピ
ュータ上で動作し、どの先生も Internet Explorer(ブラウザソフト)からこ
のソフトにアクセスできるようにする機能を持っている。
(アイデアツールは
Netscape には対応していない)先生方は、自宅や職場からこのアイデアツー
ルを起動して、インターネットベースのリーダーや資料、クイズ、ホームワ
ーク、エッセイ、実験などのコンテンツを作成することができる。作成した
コンテンツは離れたサーバにファイル転送するという時間のかかることをし
なくても、直接自分のパソコンに保存することができる。いったん保存され
たコンテンツは直ちに利用可能になり、学生たちはいつでもインターネット
上で授業内容にアクセスすることができる。
アイデアツールは、サーバ・アプリケーションであることから多くの人の利
用が可能な製品である。サーバに1本だけアイデアツールをインストールす
ればあちこちに広く分散している多くの教員も、学生も利用することができ
る。このため、ソフトのメンテナンスが容易である。発見されたバグが修正
されたときなど、それはすべての利用者にとって、しかも今後に渡って修正
されたことを意味する。
専用の装備は必要か?
アイデアツールをインストールするサーバには、Windows NT 4 Server 以
上、IIS4 Server、PHP4 以上が稼働している必要がある。また、学校建
物にはインターネットに対応できる基本ネットワーク設備が備えられていな
ければならない。
112
教員も学生もインターネット上でアイデアツールにアクセスするため、
Internet Explorer5以上を備えた自分用のパソコンが必要である。オンライ
ンコンテンツを作成するには Windows パソコンが必要であるが、開発された
Windows でも Mac でも見ることができる。
アイデアツールの他に、自分がほしい機能に応じて低価格ソフトの購入とそ
のインストールが必要である。こうしたソフトの価格は1本当たり$40∼
$100である。これには必要なネットワークインフラ設備と、インターネ
ット・サービスに技術的に対応する機能が学校に装備されていることが前提
である。アイデアツールは、ハード的にも$3000以下の、比較的に高く
ない性能のサーバ機で動作する。もう一つ考えられる選択肢は、サーバ業者
からサーバを借りること、必要なインフラ設備や技術的な対応能力を持った
別の学校と Web サーバを共有することである。
アイデアツールを利用する教職員のためのアドバイス
過去3年間に渡り、NTIDの教職員が何人かアイデアツールを利用して、
Webデザイン、コンピュータ・プログラミング、リーディング/ライティ
ング、社会科、天文学、気象学、環境調査などさまざまな分野のコース授業
を進めてきた。
アイデアツールは、既存のコース教材をオンライン用に切り替えるために
開発されたものである。これにより教員は、これまで使い慣れてきた授業形
態を継続して使うことができるし、一方でアイデアツールによって可能にな
った新しい教育方法を実験してみることもできる。
NTIDの教職員によるアイデアツール使用法の例
例1
ローズマリー・トスカーノはアイデアツールを使って「作文と文学研究Ⅰ、
Ⅱ」の授業をろう学生のクラスで行っている。最初は自作の小冊子を学生が
ネット上でアクセスできるようにすることからスタートし、次にホームワー
クのファイルでのサーバへの提出、さらにネット上でのクラスフォーラムへ
と実験を進めていった。現在彼女は、専用の作文用マークアップツールを使
ってネット上で学生のエッセイを採点しており、さらに別の Web ベースのチ
ュータリングツールを使って、リーディングとライティングの力が弱い学生
を引き上げる授業を進めている。
113
例2
ジム・マロリーは、アイデアツールを使ったコンピュータ・プログラミン
グのコースをいくつか担当している。いずれもNTIDでの授業であり、海
外の学生を含む、遠隔授業でもある。彼は、遠隔授業での成績評価のために
ネットでの試験を実施しており、例題プログラムの完成までの過程を各ステ
ップごとに学生に示すために双方向ビデオ教材を使っている。彼はまた、自
分のオンライン用教材を非常勤講師にも提供している。
例3
ポーラ・グルチェビッチの場合は、アイデアツールを、グラフィックデザ
インコースの複数の単元で授業に使用している。彼女のコース教材はいずれ
も数年間の授業により蓄積されたもので、それらがオンラインで使えるよう
に作り替えられた。学生たちは作品と文書をインターネットから提出してい
る。採点後、作品はコメントをつけて学生に返却される。ファイルでは再提
出が簡単であるという利点があり、ポーラは学生に作品を見直して再提出さ
せ、改めて採点しなおす機会を与えている。
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was prepared by Simon Ting,
instructional Developer, Department of Instructional Design & Evaluation,
NTID, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty member
at Shizuoka University of Welfare as part of the PEPNet-Japan program--a
collaborative effort of Tsukuba College of Technology and PEN-International
at NTID.PEN-international is funded by grants from The Nippon Foundation
of Japan to NTID.
114
NETAC Teacher Tipsheet
TTYの使い方
TTYとは?
TTYとは、テレタイプライターのことで、ろう者と耳の聞こえる人が通
常の電話回線を使ってメッセージをやりとりするための装置である。
テレタイプライターは何年もの間、報道機関や企業で使われていた。報道
機関では既存の電話回線を使ってニュースを送受信していた。その他の機械
は専用線で直接接続されていた。1960年代、これらの機械がろう者用に
改良された。ロバート・バイトブレヒトは物理学者で耳が聞こえなかったが、
TTYからくる電気信号を変換して、TTYのキーを起動しメッセージをプ
リントアウトすることのできる音響カプラを考案した。
テレタイプライターは、TDD(ろう者用テレコミュニケーション装置)
とか、TT(文字電話)とかいくつかの名前で呼ばれていた。しかし、TD
I(ろう者のためのテレコミュニケーション株式会社)という国家機関が、
文字伝送装置はすべてTTYという略称で表すという明確な方針を打ち出し
たのである。TDIは、ろう・難聴、ろう盲、発声機能障害など、障害のあ
る人々のためのテレコミュニケーション利用を促進するのに使うことができ
る全米の電話帳と番号ガイドを発行している。
TTYで会話するためにどのような装置が必要か
また費用はどれくらいかかるのか?
TTY装置は、重量1∼2.3kgで、3列ないし4列のキーボードとタイ
プされたメッセージの表示装置、モデムないしモジュラーコネクタ、AC電
源、さらに交換可能な充電式バッテリーからなる。別にプリンターや自動応
答装置をつけることもできる。TTYにはいろいろなモデルや型式のものが
市販されている。価格は$200から$1000の間である。メーカー、通
信販売、電子製品販売店で購入することができる。
115
TTYはどのようにして通信するのか?
TTYを呼び出すには
1.受話器を一般電話に接続した音響カプラ(モデム)にセットして電源を入れ
る。小さなランプが2個点灯する。電源ランプはそのまま点灯を続けるが、電
話ランプの方は音響カプラが拾った音に反応して点灯する。
2.番号をダイアルして電話ランプの点滅状態を確認する。ダイアルトーン、ビ
ジー信号、呼び出し音に対応してランプが点滅する。ランプは音を拾っている
間点灯し、音が消えると消灯する。たとえばビジー信号の場合、ランプは短く
リズミカルな点滅をくり返す。
3.電話を受ける側は「どうぞ」を表す「GA」に続いて名前とショートメッセ
ージを入力する。
4.この時点でこちらはタイプ入力を開始、識別名を入力してTTYコールをス
タートする。
5.1回分のメッセージ送信が終わったら「GA」とタイプインすると相手側が
再度タイプインを開始する。相手側から「GA」が返るまでは入力してはいけ
ない。
6.会話がすべて終了したら「GA to SK」と入力する。これは「go ahead to
stop keying」すなわち「キー入力を完了します」または「バイバイ」の意味で、
TTYでの会話を終了することを相手に知らせるものである。
7.TTYメッセージ処理中は、相手側が何を入力しようとしているか分かって
いる場合でも、割り込むことはできない。
TTY交信中時間を節約する方法は?
タイプ入力は、おしゃべりよりも遅いため、TTY交信には時間がかかる。
時間を節約するためにしばしば略記が用いられることが多い。さらに意味に
影響を与えない範囲で、句読点、冠詞、前置詞なども省略されることがある。
TTYユーザーの多くはカンマやピリオドなしで入力するが、それでも電報
的で充分意味の通るメッセージを送ることができ、情報のやりとりに問題は
ない。
116
よく使われる略記
GA
=
どうぞ
SK
=
入力終了またはバイバイ
GA to SK
=
交信完了、回線切断準備
U
=
あなた
XXX
=
間違い
HD
=
待って
Q
=
クエスチョンマーク
MSG
=
メッセージ
THX
=
サンキュー
TMW
=
明日
BECまたはCUZ
=
その理由は
TTYでの交信はこのような感じになる。
Hello
ga
HELLO SAM IS MARK THERE Q GA
Yes this is mark
I AM FINE
how are you q ga
WANT TO JOIN FOR A MIOVXXX MOVIE Q GA
Sure what time q ga
AT 7:00 NIGHT AND M EXXX MEET ME AT MY PLACE GA TO SK
Ok I will see you at 7:00 sksk
タイプミスの訂正の仕方
TTYによってはタイプミスの訂正は、バックスペースキーでメッセージを消
去するだけの簡単な操作でできるものもある。他にもエラー箇所の後に直接、X
XXを何回か打ち込んでから打ち直すこともできる。スペルが誤っていても文脈
上理解に問題がなければ訂正する必要はない。
117
TTYエチケット
好ましいTTYエチケットとは
1.TTYユーザーをコールするときは、電話を切るまでに少なくとも7回以上
はベルを鳴らすこと。ろう・難聴のユーザーの多くは電話が鳴っているのをラ
ンプの点滅で知るが、ランプの点滅は呼び出し音より気づきにくいからである。
2.交信の始めに、まず双方が名乗ること。周辺で会話を見ている人も氏名を明
らかにしておくべきである。
3.交信者はGA、Q、HD、SKなど標準の略記法を使用すること。
4.交信が「ホールド(待ち)」状態、もしくは送信状態に入るときにはお互いに
連絡すること。
5.TTYユーザーが「受信できますか?」と聞いてきたときは、文字や数字に
文字化けがなく、メッセージが明瞭に伝わっているかどうか確認するためであ
る。もし文字化けがあればスペースバーを数回叩いてみるとよい。それでも問
題が解決しなければ、いったん回線を切ってから改めてやり直す。
教育関係者へのアドバイス
TTYを使うことで、高校卒業レベルの教育現場にいる先生たちが、ろう・
難聴の学生たちに授業変更や中止について連絡をすることができるようにな
る。これらの学生もTTYを使って、必要なときに教員に連絡を取ることが
できる。もちろん、どちらも電話設備の他にTTY装置が必要である。
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Barbara Ray
Holcomb, associate professor, American Sign Language and Interpreting
Education, NTID, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a
faculty member at Shizuoka University of Welfare as part of the
PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College of
Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded by
grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
118
NETAC Teacher Tipsheet
テレコミュニケーション
リレーサービスの使い方
テレコミュニケーション・リレーサービスとは?
テレコミュニケーション・リレーサービスは、ろう、難聴、盲ろう、発声
障害の人たちに電話のすべての機能を利用できるようにするものである。専
門のトレーニングを受けたコミュニケーション・アシスタント(CA)を媒
介として、耳の聞こえる人とTTYを使う人の会話を仲立ちする。リレーサ
ービスは24時間365日、通話数や通話時間に制約なしで利用することが
できる。この貴重なコミュニケーション・ツールによって、私的用件もビジ
ネスのやりとりも、すべての人が等しく電話を使う機会を与えられることに
なった。
TTYを使うことで、高校卒業レベルの教育現場にいる先生たちが、ろう・
難聴の学生たちに授業変更や中止について連絡をすることができるようにな
る。これらの学生もTTYを使って、必要なときに教員に連絡を取ることが
できる。
リレーサービスの使い方
ろう者はどんな装置を用意すればよいだろうか?
リレーコールのために必要な最も一般的な装置は電話の受話器に接続され
るTTYである。ただし、必要な装置はどのタイプのリレーサービスを利用
するかで変わってくる。自分の住む地域で、自分に必要なサービス利用する
ために必要な装置を入手するための情報については州のリレーサービスに問
い合わせること。場合によっては経済的負担がほとんど、または全くかから
ないこともある。
119
耳の聞こえる人たちに必要な装置は何か?
必要なものは電話機だけである。どの州にもコミュニケーション・アシス
タントとつながるフリーダイヤルがある。番号は州の電話帳に載っている。
かかる費用はいくらくらい?
地域の局番エリア内であれば、リレーサービスを利用するのに料金はかか
らない。長距離電話料金は選択した電話会社による。コミュニケーション・
アシスタントにも支払い方法を知らせておいてほしい。直接支払い、受信者
払い方式、サードパーティ、地域交換局(LEC)のコーリングカード、そ
の他の長距離コーリングカード、プリペイドテレホンカードなどの選択肢が
ある。
基本サービス
TTY利用者
ろう、難聴、盲もう、発声障害は、TTYを使ってコミュニケーション・
アシスタントに会話内容をタイプする。コミュニケーション・アシスタント
はその電文を耳の聞こえる人のために読み上げる。次に耳の聞こえる人が話
したことばをタイプで打ってTTY側に送り返す。
ここに例を示す。
1.州のリレーナンバーをダイアルする。
2.リレーサービスから「CA1234(オペレータID番号)」、
「F」とか「M」(オペレータの性別)、
「番号をどうぞ」
などが返ってくる。(GAは go ahead の意)
3.相手先のエリアコードと電話番号を入力して「GA」とタイプインする。
4.コミュニケーション・アシスタントがその番号にダイアルしてこちらの
TTYとの間で会話を中継する。やりとり1回ごとに「GA」をタイプイ
ンする。
120
音声で利用する利用者
ふつうに電話を使う側からはTTYユーザーに簡単に通話することができ
る。耳の聞こえる人が話すことばをコミュニケーション・アシスタントがT
TY宛てにタイプインし、タイプされた返信を読み上げるだけである。
ここに例を示す。
1.州のリレーナンバーをダイアルする。
2.
「リレーサービス・コミュニケーション・アシスタント1234(ID番
号)、お掛けになりたい番号をどうぞ」という声が聞こえる。
3.コミュニケーション・アシスタントに相手先のエリアコードと電話番号、
および必要事項を伝える。
4.コミュニケーション・アシスタントはTTY側からのタイプ内容を処理
してこちらに中継する。また、こちらが話したことをTTY側に伝える。
(必
ず通話相手に直接話しかけること。話しの終わりに「そう伝えてください」
とか「GA」とか言ってはいけない)
利用者のためのオプションサービス
HCO利用者
HCO(Hearing Carryover)は、耳は聞こえるが声帯に障害がある人のた
めに、通話相手の声だけは聞こえるようにする装置である。HCO利用者は
会話内容をタイプ入力でコミュニケーション・アシスタントに伝え、通常の
電話利用者に向けて読み上げてもらう。
ここに例を示す。
1.州のリレーナンバーをダイアルする。
2.リレーサービス・コミュニケーション・アシスタントから「CA123
4(オペレータID番号)」、
「F」とか「M」
(オペレータの性別)、
「番号をどうぞ」などが返ってく
る。
3.相手先のエリアコードと電話番号を入力して「HCO
PLEASE
G
A」とタイプインする。
4.CAが回線をつないで、こちらが入力した会話文を音声で相手先に伝え
る。「GA」と入力したら受
話器を取り上げて音声による返事を聞けばよい。
121
VCO利用者用
VCO(Voice Carryover)は、難聴もしくはろうだが、自分の声を使うこ
とを選択した人たちが、健聴者に直接話しかけることを可能にするものであ
る。健聴者が話しかけるとコミュニケーション・アシスタントが障害者の「耳」
となって相手の話した内容をすべてタイプしてTTYやディスプレイ上に出
力する。
ここに例を示す。
1.州のリレーナンバーをダイアルする。
2.リレーサービス・コミュニケーション・アシスタントから「CA123
4(オペレータID番号)」、
「F」とか「M」(オペレータの性別)、「どうぞお話し(入力して)くだ
さいGA」などが返ってくる。
3.相手先のエリアコードと電話番号を発音するか、またはタイプインする。
4.CAは「どうぞお話ください」とメッセージを入力して、こちらが話し
始める合図をくれる。こちらは健聴者に直接相手方に話しかける。CAは
こちらの言ったことをくり返すことはせず、健聴者のことばをタイプする
だけである。応答の最後に双方とも「GA」を発音する必要がある。
TTY公衆電話
FCC(The Federal Communications Commission:連邦コミュニケーシ
ョン委員会)1993年11月制令を公布、リレーサービス経由で公衆電話
を利用する中間計画の概要を発表した。
制令に定められた項目
・
TTY公衆電話から発信する地域内通話はすべて無料とする。
・
市外通話の支払い方法は、コーリングカード、プリペイドカード、受信
者払い、サードパーティのいずれかとする。
・
コイン式TTY公衆電話を使う利用者は接続を確実にするためリレーサ
ービスを利用することができる。
122
緊急通話
緊急の場合にはTTY利用者は、TTYを備えた911センターもしくは
地域の緊急サービスセンターに連絡することになる。加入者はすべて自分の
地域のTTYコール用の緊急番号を確認しておかなければならない。地域の
TTY緊急番号に直接かつ即時に接続された通話は急を要する状況では貴重
な時間のロスを防ぐことになる。地域の緊急連絡番号を入手する方法につい
ては州のリレーサービス番号に問い合わせること。
自分の州のテレコミュニケーション・リレーサービスに関する情報を
入手するには?
各州にはその州をカバーするテレコミュニケーション・リレーサービス用
プロバイダーが存在し、さまざまなサービスを提供している。複数のプロバ
イダーから選択できるのはカリフォルニア州だけである。自分の州のプロバ
イダーを知るには、その地域の電話帳を調べる。自分の地域のプロバイダー
の顧客サービスに電話して、現在どのようなサービスが提供されているか、
問い合わせるとよい。テレコミュニケーション・リレーサービスは、すべて
の人のためのものである。ためらうことなく利用してほしい。
123
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Mary Beth
Mothersell, Sprint Relay Account Manager, and translated into Japanese by
Prof. Toshiaki Hirai a faculty member at Shizuoka University of Welfare as
part of the PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College
of Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded
by grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
124
NETAC Teacher Tipsheet
コミュニティ・リハビリテーション・
プログラム
コミュニティ・リハビリテーション・プログラム(CRP)は、ろう・難
聴の障害者の雇用を促進するためのプログラムであり、ほかの出先機関と連
携することによって健聴者と全く同等の個別サービスを提供するものである。
資金・人材両面にわたって集積されたリハビリテーション・プログラムの資
源は、協力を惜しまない当局の機関が雇用者、労働者双方をサポートして、
雇用関係に対する障壁をなくす、もしくは徐々に障壁をなくすようするため
の効率的な実りある手段となっている。雇用/労働市場が変化するのは避け
られないことであるが、変わらないのは、それでもたくさんの人たちが求人
支援サービスを必要としていることである。それは、雇用機会を確保するた
めだけではなく、職種を安定させ、キャリア・アップを図るためでもある。
ろう者や難聴者、そして「低機能」と分類されている人たちは、行動障害、
教育の発達障害、移動、雇用、独りで生活する能力、コミュニケーション能
力の欠如などによる二次的機能障害と診断されることが多い。こうした人た
ちは、職業訓練や就職、雇用の継続においてコミュニケーション上の障壁を
体験している。このため、CRPでは、難聴、コミュニケーション・スキル、
職業教育の3分野において教育を受けた知識豊富な専門のスタッフを置いて
おくことが不可欠である。難聴は、ろうと医療、社会、文化の面での関わり
を持っている。ここでコミュニケーション・スキルとは、ASLを使いこな
す能力と、ろう・難聴者の人たちが使うコミュニケーション・システムに関
する知識のことをいう。もうひとつ、スタッフは就職促進に関する現状の問
題点はもちろん、介助技術、評価法、地域が持つ資源、就職斡旋についても
知識を持っていなければならない。
ろう・難聴者の消費者を全体的にとらえることで経済的にも人間的にも独
125
立自足を達成する機会が生まれる。基本的にこのグループは健聴者と同じセ
ットのサービスが提供できればよい。最大の問題は利用しやすいかどうかと
いうことである。
そのサービスの利用しやすさはというと、通訳が使えるかどうかが優先す
る。すなわち、ろう者、難聴者、「低機能」のクライアントは、公式の言語と
は見なされていないコミュニケーション方法など、ASLを除くさまざまな
方法を用いてコミュニケートすることのできる専門家と直接仕事をすること
も多い。コミュニケーションの手段として意味を伝えるためにジェスチャー
を使う、絵を描く、実物を示す、やってみせるなど、コミュニケーションを
スムーズにするためによく使われる手段である。
ろう・難聴者の長期的雇用を成功させるために欠かせない専門サービスに
は次のような要素が必要である。
・
職業評価
・
就職指導
・
長期間のフォローアップ
これらは就職斡旋、キャリアプラン、カウンセリング、職業訓練の重要度
が低いという意味ではなく、職業評価や就職指導や長期間のフォローアップ
などはCRPにはあまり見られないものの、このグループに属する人たちが
成功するのにどうしても必要なものであることを示しているに過ぎない。
職業評価
職業評価は、ろう・難聴の人たちのために仕事をしようとするとき、社会
復帰の過程にどうしても必要な要素である。カウンセラーや教員、さらにこ
のグループの人たちと仕事をするその他の職業の人たちは、今日一般に出回
っている大量のテストツールや評価ツール、およびろう者と仕事をする際そ
れらのツールをどのように使うのか、よく知っている必要がある。社会復帰
プログラムの専門家は、これまで、職業能力を予測したり、適切な就職リハ
ビリプランを作成したりする時には、標準化されたテストを使用し、ろう者
を健聴者と比較していた。ろう者の適性を測り、適切なリハビリサービスを
決定するために使われる精神測定機器やワークサンプルを選定する前に、ろ
う者がどのようなコミュニケーション方法をとり、どの言語を得意としてい
るのか考慮する必要がある。コミュニケーション能力の不足は、公共サービ
スの特典をあまり受けられないろう者の一般的特性であるから、適性の判定
126
や教育レベル、職業に対する希望に優先させて、その人のコミュニケーショ
ン能力を評価することが何よりも重要である。
コミュニケーション・アセスメント・モデルでは個々人のコミュニケーシ
ョン力の特徴と弱点を正確に評価するため、その人の背景、経験、好みを評
価する。このコミュニケーション・モデルは、特定の仕事環境に関係する個
人のコミュニケーション能力を第一に考え、結果を就職斡旋、職種開発、就
職指導、長期雇用に結びつけようとするものである。
就職指導
就職指導を行うと、公共サービスの特典をあまり受けられなかった、ろう・
難聴の人たちの長期雇用を促進する効果のある重要なサービスであることが
証明されている。就職指導担当者は雇用側、被雇用側と緊密な連携をとって
充分満足のいく労働環境を確保するよう努めている。就職指導が成功するケ
ースでは担当者が、就職斡旋環境を検討して介入計画を考える際、雇用側、
被雇用側双方のニーズを慎重に考慮している。
就職指導サービスで実施されること
・
管理者、上司、同僚に対するコミュニケーション訓練
・
新人に対する机上教育(手当、会社方針、オリエンテーションなど)
・
障害者に対する意識教育と教材
・
職場のバリアーに対するトラブルシューティングおよび職場に適応する
ためのアドバイスに関して専門知識を持っていること
・
職場で前向きな人間関係を作るための支援
長期のフォローアップ・サービス
フォローアップ・サービスは、個々人のニーズによるサービスの範囲と期
間に従って、ケースバイケースで行う必要がある。フォローアップ・サービ
スは、障害によってさまざまであり、雇用関係が終了するまで続くことが多
い。
127
フォローアップ・サービスで実施されること
・
コミュニケーションのニーズに関連して並行して提供される援助
・
社内で被雇用者をサポートする付加的サービスニーズ
・
被雇用者が職場で健聴者と同等の活動ができるよう、見えないバリア
ーを取り除くためのチェックと問題解決
終わりに
ろう・難聴の人たち、および地域ベースのリハビリテーション・プログラ
ムにおいて「低機能」と見なされている人たちにサービスを提供する仕事は、
経験の浅いサービス提供業者にとっては簡単な仕事ではない。サービス提供
業者は、社会的サービスを受けられなかったこの層だけがもつニーズ、これ
らの人々にうまく利用してもらえるような特化したサービスを意識する必要
がある。プログラムは、求人と斡旋を必要としているろう・難聴の人たちの
人数に基づいて、その地域で機能する活動を促進するようなものでなければ
ならない。ろう・難聴の人たちへの包括的サービスの開設や提供に関する詳
細は下記に問い合わせることができる。
参考文献
1 . Serving Individuals who are Low-Functioning 、 25th Institute on
Rehabilitation Issues、1999、Dew、Donald、Ed.D、CRC、editor.
2 . Assessing
Workplace
Communication
Skills
with
Traditionally
Underserved Persons who are Deaf 、 Greg Long. Available from the
PEPNet Resource Center.
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was prepared by David Buchkoski,
Training Coordinator for the Midwest Center for Postsecondary Outreach at
St.Paul College, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty
member at Shizuoka University of Welfare as part of the PEPNet-Japan
program--a collaborative effort of Tsukuba College of Technology and
PEN-International at NTID.PEN-international is funded by grants from The
Nippon Foundation of Japan to NTID.
128
NETAC Teacher Tipsheet
はじめて助成金を得る
学生のための手引き
障害者サービスを提供する者として、自分の学校の学生のニーズと、学業
の達成を助けるためのいろいろなサービスにかかる費用を負担する余力には
ギャップがあることは周知のことである。資源、特に人的資源の確保が限界
に達しているときに、一般に行われるのが、
「助成金をもらう」ということで
ある。そしてこの助成金は、通訳、ノートテイカー、CARTや C-Print™の
筆記者の費用をまかなうために使われる。
資金源は、どのようにして探したらいいのだろうか。申請手続きはやっか
いではないか。もらえる可能性は低いのか。助成金申請の手続きをしたり、
助成金の運用管理を任せたり、最終報告書を書いたりする時間はあるのか、
人的余力はあるのか。その答えはここにある。
助成金とは?
助成金を出す側(資金提供機関やスポンサー)が心配しているのは、特定
の問題点、不公正、不平等である。彼らは、ろう・難聴者のギャップの存在
を認識し、そのギャップを埋めるために資金を提供したいと考えている。
「助
成金」
(慈善組織や個人からの贈与とは異なる)の場合、多くは、特定のプロ
ジェクトが対象であり、時間にも制約がある。そして助成機関の終了時には
成果物の提出が求められている。こうした資金は、もらう側に厳密な会計処
理が必要で、プロジェクトの一部費用の負担が求められることもしばしばで
ある。
助成金が適用される分野は?
一般に助成金でカバーできるのは、人件費、手当、学生アルバイト、交通
129
費、設備、コンサルタント、ワークショップへの参加費用、教材開発(書籍、
パンフレット、配付資料)カリキュラム開発、ウェブサイト開発、ワークシ
ョップやカンファレンス開催費、プロジェクトに関する資料や情報の見積と
配布である。スポンサーがサポートしている活動について知るには、助成金
プログラムの申請文書(応募のガイドライン)をしっかり読んでからプログ
ラム担当者(後述)に電話する。
助成金が適用されない分野は?
助成金プログラムに対して、スポンサーから継続的にサポートを得ること
は非常に難しい。彼らは、建設関係、改装補修、極めてローカルなプログラ
ム、運営費用などには資金を出したがらない。通訳、ノートテイカー、同時
通訳筆記者などにも同様に資金を出したがらない傾向がある。スポンサーの
ウェブサイトにすべて目を通し、連邦TRIOプログラムのひとつ、教育省・
学生サポート・サービス・プログラムに問い合わせて、自分の学校に必要な
資金提供の申請受付に道が開かれているか確認することは、やってみるだけ
の価値があるだろう。(ウェブサイトのURLは「情報源」項目に記載)
資金源をどうやって探すか?
・
自分の学校のスポンサー・オフィス・リサーチに問い合わせてみる。主
な大学には、申請プロジェクトの資金提供者を捜すのを助けてくれたり、
申請書を作成してスポンサーに提出する仕事を代行してくれたりするオフ
ィスがある。(このオフィスは、「スポンサー・リサーチ」、「スポンサー・
プログラム」、「助成金と手続き」などいろいろな呼び方がある)ほかにも
開発オフィスがあって、そこでプライベート・スポンサー(基金、企業、
個人など)に関する情報を入手することができる。小さなカレッジなどで
はこれらのオフィスはひとつに統合されていることもある。
・
インターネットを検索する。教育省、国立科学財団、プライベート・ス
ポンサーなどの資金提供の機関はすべて、助成するもの、助成しないもの、
申請方法などに関する情報を公開している。
・ 教育省や連邦政府広報が発行する EdInfo のようなリストサーブに登録し
ておく。この情報源は、連邦政府のいろいろな連邦機関が提供する助成金
の最新情報を知らせてくれる。
130
・
自分の所属する学校、研究所の図書館に協力してもらう。図書館の資料
係に頼めば、他に同じような問題点を抱えている学校や研究機関はないか、
それらはどのように解決したのか、探す手伝いをしてくれるだろう。また
助成金や申請手続き、資金提供者に関する資料を探すのに力になってくれ
るだろう。少なくとも図書館には基金一覧があって、この一覧に挙げる基
金に問い合わせる場合など協力してくれるはずである。
・
身近にある公立図書館に行ってみる。大きな公立図書館は、基金センタ
ーが発行する資料の宝庫であり、必要な資料を検索するスタッフを揃えて
いることが多い。
どこから手をつけるか?
プロジェクトを管理したり、資金提供先の申請基準(年次報告、最終報告、
会計報告など)を満たすのは時間がかかるのと同じように、提案書を企画し
たり、作成したりするのも時間のかかることである。どれくらい時間がかか
りそうか、上司と相談し、かけた時間に見合う結果が確実に得られるように
する。
・
申請書提出の計画を進める件につき、また内部承認と申請提出に要する
組織内での基準を作成する件につき、自分のチーム(オフィス)の全員に
知らせておくこと。
・
同業者の集まりには出席してほかの学校・研究機関の同じようなニーズ
を持った人たちと、ひょっとしたら解決策を持っている人たちと意見を交
換する。
・
信頼のおける相談相手を見つけること。学内に研究費申請の経験があっ
て、申請手続きを進めるのに力を貸してくれる人が必ずいる。その相談相
手とはいろいろなプロジェクトで研究費をもらったことのある教職員のこ
ともあれば、自分の委託研究チームにいる専門家のたまごのこともある。
・ 記事のスクラップの収集を始める。自分の分野に関係する雑誌の記事で、
ニーズに満足するもの、他の学校・研究機関の仲間の連絡先、助成金提供
者の情報、申請計画に組み込めそうなプロジェクトのアイデア、評価と配
布に関するヒントになるものなどをスクラップしておく。すべての情報が
131
1カ所にあれば申請の期限が迫ったときには必ず役に立つ。
・
プログラムの審査官になること。優れた助成金申請書の作成法を考え出
す最高の方法のひとつは、資金提供側の審査官になることである。特に連
邦政府当局は常に審査官を探しており、ここで審査手続きに携わった経験
が自分で申請書を書くときに絶大な競争力を発揮することになる。ここで
も、自分の委託研究チームが、審査官を探している当局とのパイプになる。
・
プログラムのガイドラインと解説をよく読むことである。申請プログラ
ムの応募受付がスタートしてから最終申請案を作成、提出するまで2、3
週間しかないことが多い。前回の申請ガイドラインに目を通しておくと、
次のガイドラインが発表される前に申請案の全体を考え、骨組みを組み立
てるのに役立つ。当局のウェブサイトや自分の委託研究チームが、これま
でのガイドラインを調べるのを手伝ってくれるだろう。
申請が認められる可能性は高くない?
資金を提供する当局は、プログラムごとに数百の申請を受け付けるが、実
際に資金を提供できるのは2つか3つである。申請が却下されるとがっかり
するが、助成金申請は一度では終わらない仕事であることを忘れてはならな
い。失敗から何かを学び、あきらめずに頑張らなければならない。プログラ
ムの担当者に自分の申請に関する審査官のコメントを教えてもらい、指摘を
真摯に受け止め、プロジェクトについてプログラムの担当者を含むいろいろ
な関係者と検討し、そしてもう一度提出するのである。
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Gail Hyde, Senior
Research Administrator, Grants, Contracts and Intellectual Property, RIT,
and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty member at
Shizuoka University of Welfare as part of the PEPNet-Japan program--a
collaborative effort of Tsukuba College of Technology and PEN-International
at NTID.PEN-international is funded by grants from The Nippon Foundation
of Japan to NTID.
132
NETAC Teacher Tipsheet
通訳者とバイオメカニクス
蓄積性外傷障害
蓄積性外傷障害(CTD)とは、神経、筋肉、腱、骨、神経血管(神経お
よび関係する血管)系に関わる障害を包括的に呼ぶものである。CTDの原
因には次のようなものがある。
・
同じ運動を何度もくり返す。
・
手足をむりな位置に置いたまま筋力とスピードをかけて同じ運動をくり
返す。
・
休憩を適切な間隔で充分取らない、また回復時間が充分でない。
CTDの兆候は、首、背中、肩、腕、手首、手などに現れる。CTDを持
つ通訳者には痛み、関節神経過敏、腫れ、針を刺されるような感覚、しびれ、
肌の色や身体組織の変化などの症状がある。
CTDは、まず、通訳業務中もしくは終了直後に兆候が現れ、数時間で治
まる。最初の兆候が夜間に起き、眠れなくなる場合もある。弱かった兆候が
時間とともに明瞭になり、より長い時間続くようになる。最終的に兆候は絶
え間ないものとなり、日常生活に支障をきたすようになる。
バイオメカニクスは、CTDを多角的側面から予防し管理するプログラム
のひとつである。
バイオメカニクスとは何か?
バイオメカニクスは、通訳者のワークスタイルと関係があり、通訳者の姿
勢や体の動かし方、休憩の頻度によって影響を受ける。
姿勢がよいと骨と骨、それをつなぐ細胞組織(筋肉、腱、靱帯、動脈、静
脈)が正しい位置に納まり、安定した働きをするようになる。
133
人体(主に腕)のバイオメカニカルな動きは、一般に危険度(リスク)の
高低で分類される。通訳者は、低リスクのワークスタイルで働くことが重要
である。そのためには、通訳者のワークスタイルである運動線を矯正する必
要がある。運動線は、次のカテゴリに分けられる。手および手首の位置、作
業外縁線、外力、静荷重、「微少」停止である。
手と手首をできるだけ力を抜いた位置で固定する。頻繁に偏位(力を抜い
た位置から手首を大きく曲げる)を与えるとCTD傷害になる確率が極めて
大きくなる。
通訳者の作業外縁線は、手話のためのスペースである。ふつう、正常な作
業外縁線は、肩幅プラス約1インチで頭から腰の位置まで、奥行きは充分に
伸ばした腕の半分の長さである。
両腕を伸ばせば作業外縁線は広がるが、こうした手話スタイルは主流では
ない。通訳者が両腕もしくは上肢を作業外縁線の外まで広げると筋肉はさら
に緊張する。体から離れるほど疲労も大きくなる。本を一冊、体からあまり
離さず腰の位置に置き、そこから両腕を伸ばして肩の高さまで持ってくると
このルールがよく分かる。
力んだ、いわば「バリスティック」手話はCTDの主要な原因と考えられ
ている。手話はあくまで柔らかく、優しくなくてはならない。静荷重とは、
1個もしくは複数の筋肉を緊張状態に保つことである。これで筋肉は疲労す
る。両肩を首の方向に引き上げるのがストレスによる静荷重の例である。筋
肉が緊張状態を続けると、回復のための充分な時間が取れなくなる。
通訳業務中ブレークを取る回数が多いほど、業務終了後に残る疲労は少な
くなる。通訳者は、業務と次の業務の間だけでなく、通訳業務の間も適切に
ブレークを取る必要がある。「マイクロブレーク(ミニ休息)」は、できるだ
け頻繁に両手を下げるだけの休憩法である。これは、座っている場合は両手
を膝の上に、たっている場合は体の横に力を抜いて置くだけである。通訳の
仕事中休息を取る機会はいくらでもある。たとえば話者が一息入れていると
きなど、通訳者にとっては両手を休めるチャンスである。
134
通訳業務が長引いて、ブレークなしで1時間以上連続するような場合も通
訳者には大きな精神的疲労を強いることになり、それだけミスも多くなる。
それがよくないのはなぜか?
ブレークが取れないと、まず筋肉が疲労してくる。疲労した筋肉は収縮す
るとき血流を妨げ、気づかぬ傷害(マイクロトラウマ)の原因になるからで
ある。マイクロトラウマは、筋肉繊維内部の見えない亀裂といってよい。時
間の超過や適切なブレークを取れない仕事をしていると、筋肉や腱に大きな
ダメージを与えることになる。
バイオメカニクス上正しくない動作を続けていると、他にも次のような症
状/障害が発生することがある。
・
腱炎(腱の炎症)
・
毛根管症候群(正中神経に作用する圧力が手首の細い毛根管を経由して
腕に伝わるもの)
・
胸郭出口症候群(首や肩周辺の神経や血管の圧迫からくるもの)
通訳者と通訳者が仕事をする際のバイオケミカル・ガイドライン
通訳を1時間行うごとに10分間のブレークをとる。2、3時間を超える
ような業務の場合には、チームを組んで負担を分担する。こうすることで、
通訳者全員が筋肉を十分休めることができる。座っている体勢でも立ってい
る体勢でも体を適切に支える工夫も大切である。
135
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by the Department of
Interpreting Services, NTID, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki
Hirai a faculty member at Shizuoka University of Welfare as part of the
PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College of
Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded by
grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
136
NETAC Teacher Tipsheet
就職活動
「仕事を探しています」という、このことばは、すごく頑強な人でも心に
恐怖を感じてしまう。家や車を買う、結婚する、赤ん坊が生まれる、などと
同様、仕事を探すのは、人生で数回しか経験することのない大きな出来事で
ある。
郵便受けに採用見送りの手紙が届いたときの、失望感、精神的混乱、期待
から挫折への感情のジェットコースターは、就職活動をしたことのある人な
らほとんどすべての人が経験するだろう。ろう学生は、それに加えて、採用
に消極的な雇用主と渡り合う余計なフラストレーションを経験することにな
る。雇用者は、ろう学生の能力に疑いを持ち、耳が聞こえないことにワンパ
ターンの誤った認識を持っており、適格性についても誤った情報を持ってい
る。それでも、就職活動を成功させるには相当な苦労がともない、また否定
的な感情がついて回るにも関わらず、就職活動は達成感のある、エキサイテ
ィングで成長を実感させてくれる経験である。正しい視野、前向きな姿勢、
適切なサポートのあるなしで全く違った結果になる。
就職活動を成功させる戦略は、ろう・難聴の学生だからといって健聴学生
と変わりがあるわけではない。従ってこの情報は、ここではくり返さない。
しかしながら、成功したければ守らなければならない問題がいくつかある。
それは、コミュニケーション戦略、ろう・難聴を隠さないこと、そして適格
性である。
コミュニケーション
このトピックには、2つのポイントがある。
サポート・スタッフと学生のコミュニケーションはどうするのか?
学生は、自分を採用しようとしている人とどのような方法でコミュニケー
トするのか?
137
ということである。
・ろう学生とのコミュニケーション
このジレンマを解決する最良の方法は、学生に得意なコミュニケーショ
ン方法を聞くことである。ろう・難聴の人たちの間でも、コミュニケーシ
ョン能力と好みには大きな幅がある。ひとたび方法が決まったらアイコン
タクトが重要であることを覚えておくことである。話している間は学生の
方を向くこと、チューインガムや食べ物を口に入れたまましゃべらない、
口を手で押さえないこと。照明が背中でなく顔に当たる位置に座ること。
・
就職活動中における、自分を採用しようとしている人とのコミュニケー
ション
ここで適用される問題点は次のようなものである。雇用主は自分とどの
ようにコミュニケートするのか?こちらは相手とどのようにコミュニケー
トするのか?面接はどのように対応するか?通訳は必要か?学生のコミュ
ニケーション能力は個人によりさまざまであるため、正解はこれ、という
わけにはいかない。
打ち明ける時期
この問題は、ろう・難聴の学生が、将来雇用主になるかもしれない人に難
聴を打ち明けた場合を想定している。どちらを取るかは学生に任される。た
だし、どこでどのように打ち明けるか、選択肢がいくつかある。表書きの中、
履歴書の中、採用側が面接を求めてきたとき、面接の最中、内定通知を受け
取ったとき、採用内定を受諾したあと、などである。それぞれの選択肢には
メリットもデメリットもある。しばしば勧められるのは、面接したいという
申し出があるまで待て、というものである。この件に関しては Melanie Witt
著「Job Strategies for People with Disabilities」に詳細が書かれている。
138
適格性
アメリカ障害者法に、障害を持つすべての人に適用される情報がある。し
かし、雇用主が適格性に対するニーズの保障を義務づけられる前に、それを
明らかにする必要がある。
学内にある資源
・ 「就職指導・求人斡旋室」は履歴書や表書きの書き方を教えてくれたり、
面接練習をしてくれたり、求人照会をしたり、学内での就職活動を支援し
てくれたりする。センターによっては、就職カウンセリングや模擬試験、
研究計画の立案を依頼することもできる。カウンセリング・センターであ
れば、就職カウンセリングも個人的なカウンセリングも引き受けてくれる。
必要ならばこういうところに学生を連れて行ってスタッフに紹介すると
よい。
139
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Debbie Fister ,
employment advisor, NTID, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki
Hirai a faculty member at Shizuoka University of Welfare as part of the
PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College of
Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded by
grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
140
NETAC Teacher Tipsheet
高等教育プログラムに関わる
職業リハビリテーション
目
的
公的機関による職業リハビリテーション(VR)プログラムの目的は、障害を
持った個人の能力を高めることで、雇用、経済的自立、人間的自立、社会参加と
融和を最大限推し進めることである。平たくいえばVRは、心身に障害のある人
たちが、その体力や資源、優先順位、利害関係、能力、関心、インフォームド・
チョイスに応じた仕事にエントリーし、また求職活動を成功させるためのサービ
スを提供しているということである。
高校を卒業したばかりで、
しかも重度の難聴障害を持つ人はすべてVRの対象となるか?
ほとんどは対象となるが、必ずしも全員とは限らない。
VRは、資格付与プログラムではなく、適格性養成プログラムである。そのた
め、対象学生は、州政府が求めるVR適格性基準を満たさなければならない。
基準1:なんらかの障害を持っていること。
VR法では障害を次のように定めている。
・
直接的、間接的に雇用の重大な妨げとなる、肉体的もしくは精神的な機能障
害を持っていること。
・
VRサービスによる雇用実現の点で利益を得る立場にあること。
基準2:雇用の準備・確保・維持・回復のためにVRサービスを必要としている
こと。
141
適格性はどのようにして決められるのか?
審査のための面接と検討を経て、担当のVRカウンセラーが個々の応募者ごと
にVRサービスを受けるに値するかどうか決定する。
担当のカウンセラーは
ろう、聴覚障害の分野における専門家であるか?
そうでない場合もある。多くの州には専門のコミュニケーション・スキルと、
ろう・難聴の人のための社会心理学的、教育的、技術的ニーズに関する少なから
ぬ知識を持った「ろう・難聴の障害者のためのカウンセラー」がいる。しかし、
地理的条件その他の理由により、聴覚障害を持つ人すべてがこうしたカウンセラ
ーになれるわけではない。
学生がVRへの推薦を受けるにはどうすればよいか?
VRへの申請に制約はない。自分で申請してもよいし、中等教育卒業後にその
教育機関から申請してもよい。従って、もし該当する学生が就職問題で悩んでい
るなら、またそうしなければ彼らがVRサービスを受けられないと判断される場
合には、学生の希望に応じて地域のVR当局に問い合わせるよう勧めるのがよい。
ひとつ気をつけるべきことをあげると、中等教育以上の教育機関への入学を目
的として学生にVRサービスを受けさせることは不適切、というより違法である
ということである。学生にVRとそのサービスについて啓蒙するのは構わないが、
進学を目的として障害を持つ学生にVRを受けさせることは差別と見なされる。
サービスはどのように決められるのか?
VRサービスを受ける資格があると認められると、学生はVRカウンセラーを
相手にじっくりとIPEと呼ばれる、個別就職支援計画に取り組むことになる。
IPEの基本部分は以下の通りである。
・
その人に合った就職目標
・
その就職目標を達成するために必要なサービス
・
目標達成に向けた進捗をチェックするプロセス
142
IPEは、個々の学生の能力、体力、優先順位、利害関係、関心、人的資源に
基づいている。学生は、補聴器などの身体的補助具、職業訓練や大学等の教育支
援、これと決めた職業への就職を成功させるために必要なその他のサービスを受
けることができる。適格と認められた学生によく提供されるサービスには、自己
評価、就職計画、カウンセリングとガイダンス、移動手段、履歴書作成その他の
就職活動、求人斡旋、就職課題と採用予測、内定確保と満足度をサポートするた
めのフォローアップなどがある。
VRサービスは個々に決定されるものであること、また就職内定を最終目標と
しているものであることを忘れてはならない。同等の能力と難聴の程度が同じ二
人がいても、就職目標、教育内容、経験、個人的希望を含むその他の要因によっ
て受けるサービスはかなり異なったものになる可能性がある。
カリキュラムの一部しか受講しないパートタイム学生でも
VRの支援は受けられるか?
支援の対処法は州によって異なるが、やむを得ないと認められた場合以外は受
けられないことが多い。
VRは必要かつ承認されたIPEのすべてのサービスについて
資金提供してくれるのか?
類似の助成金は、すべてVR資金が稼働し始める前にチェックを受けなければ
ならない。いわばVRは「ラストキャッシュ」とでもいうべきものである。従っ
てVRは授業料その他のサービスについて、全額カバーすることもあれば、一部
しかカバーしないことも、また却下することもあり得る。
州政府VR担当局の中には経済状況の検査を行うところもある。これらの州で
は学生は(学生が家を出られない場合は親権者が)経済状況調査書を記入・提出
しなければならないことになっている。申請者の保有財産に応じて、コストの全
額もしくは一部の負担を求められる。
(評価、カウンセリングとガイダンス、求人
斡旋サービスについてはその家庭の支払い能力に関わりなく支援されることにな
っている。)
州政府VR担当局の中には、特定のサービスについて「天井」すなわち支払い
上限額を設けているところもある。しかしながらこうした天井は、自己負担金額
が大き過ぎてサービスが購入できないというほど低く設定されることはあり得な
い。
143
通訳やCART/C-Print の資金はどこから出るのか?
ADA(障害をもつアメリカ人法)が施行されて以降、この問題は州によって
まちまちである。コストを全額負担する州もあれば、一部だけの州もあり、対象
外の州もある。リハビリテーション法の1998年修正案では、VRと高等教育
の間で州レベルで友好的協約を策定するよう定められた。これにより長らく停滞
していた問題点が解決に向かうようになるであろうが、解決が各州に委ねられる
であろうことに変わりはなさそうである。
VRは、ろう・難聴で条件を満たしている学生が希望の大学に進学す
ることを経済的に可能にしてくれるか?
希望の学校を選択することは自由である。しかし、ほとんどの州では、異なる
学校で異なる学費で同等の教育内容が受けられる場合、学費の低い方を選ぶか、
差額を自己負担する規定を設けている。
VRでは高等教育機関にすでに入学している学生がさかのぼって授業
料の支払いを受けることは可能か?
VRではいかなるサービスも遡って支払うことはしない。必要なサービス、授
業料その他は、適格性が確定し、IPE(個別就職支援計画)が作成され、学生・
VRカウンセラー双方が契約にサインするまで支払われることはない。
VR助成金の受給資格が認定されたら受給は自動的に卒業まで続くの
か?
答えは、ノーである。受給資格は規約により異なるが、セメスターごと、もし
くは四半期ごとにチェックを受ける必要がある。学生は、担当のVRカウンセラ
ーと連絡を取り続けること、さらにカウンセラーには常に最新の講義録、コース、
カリキュラム、経済状況、発生した問題点について連絡を取ることが義務づけら
れている。受給学生は、VRカウンセラーの同意なく受講を停止してはならない。
学生は、正当な理由があれば、VRの受給を継続したままカリキュラムや目標学
位を変更することができる。ただし、こうしたサービス分野における大きな変更
をする際には、カウンセラーは学生と協議して、事前に文書による変更計画を作
成しなければならない。
VRの学生情報の更新はどのように行われるか?
機密保持法(Family Educational Rights & Privacy Act of 1974 バックリー修
正法案)により、中等教育以上の高等教育機関は、授業ノートや成績その他の資料
144
を、資料一点一点ごとに学生の文書による同意なしにVRカウンセラーに送るこ
とはできないようになった。従って、資料送付が学生の責任により行われるべき
ものであり、VR受給資格の継続のために必要であることを学生に周知徹底させ
るのは学校側の義務ということになっている。
詳細情報
最寄りのVR事務局の所在地を調べる方法
・
電話帳で州政府関係の機関を調べる。VRプログラムには教育、労働、福祉
サービス、更正サービスなど複数の部署が関わっているはずである。
・
電話帳で見つからない場合には地域の PEPNet(Postsecondary Education
Programs Network)に問い合わせるとよい。
NETAC 関係のワークショップで、VRおよび中等教育以上の地域レベルスタ
ッフが、学生・雇用主双方が難聴という障害を持つ場合に協力的雇用関係を作る
ための支援をしてくれるところがないか、PEPNet に問い合わせてみるとよい。
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These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Patricia Tomlinson ,
Rehabilitation Consultant, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki
Hirai a faculty member at Shizuoka University of Welfare as part of the
PEPNet-Japan program--a collaborative effort of Tsukuba College of
Technology and PEN-International at NTID.PEN-international is funded by
grants from The Nippon Foundation of Japan to NTID.
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