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ろう・難聴学生のための カウンセリング・サービス

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ろう・難聴学生のための カウンセリング・サービス
NETAC Teacher Tipsheet
ろう・難聴学生のための
カウンセリング・サービス
最新の動向
最近の「タイム」誌の記事で、大学のカウンセリング・センターに、精神
衛生や成長期に関わるさまざまな問題を持ってサービスを利用しようと訪れ
る学生が増えていることが報じられていた。多くの学生にとって、しっかり
した食事をとらないことや睡眠が不規則であること、セックス、ドラッグ、
アルコールなど危険な行動への誘惑がある大学生活はストレスの多いもので
ある。
こうした危険な行動への誘惑は、大学生活の学習からくるストレスと結び
ついて精神衛生上の問題を悪化させる要因となる。抗うつ剤やその他の薬物
による現代の医療により、20年前なら大学に通うことができなかった学生
も、現在では元気に大学生活を送ることができる。
その結果、かつてないほどサービスに対するニーズが高まってきている。
いくつかの大学のカウンセリング・センターでは、学内のカウンセリング・
サービスを拡大したり、治療を学外機関に依頼したりするところも出ている。
ろう・難聴の学生も健常学生と同じように、成長過程で、心理上の問題を抱
えている。しかしながら彼らのコミュニケーション方法は少し変わっている。
ろう者、難聴者から知り得ること
健聴者の家族の中で育つことからくる日々の問題点と向き合いながらも、
ろう者、難聴の人々は上手に適応し、前向きの人生を送っている。しかし、
ろう者の人口が少ないことやコミュニケーションの問題から、ろう・難聴の
人たちの間での精神衛生上の問題の発生率は、一般の人たちから比べると高
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くなっている。
一般の人たちとの間に見られる精神衛生上の問題の原因として知られてい
るものに加えて、ろう者を取り巻く世間の無理解や肉体的障壁が、しばしば、
ろう・難聴の人たちの精神衛生上の問題における「もう一つのカベ」という
存在を明らかにしている。良好な精神衛生環境を提供しようとする側にとっ
て重要なことは、ろう・難聴の人たちが経験する共通の現象のうちいくつか
が示唆しているものをくみ取ることである。以下問題点をいくつか拾ってみ
た。
・
ろう・難聴の子どもの90%は、両親が健聴者である。家族がろうにど
のように対処しているかは、その子どもの心に永久に消えない痕跡を残し、
その家族の感情構造全体に影響することになる。たとえば、両親がいつま
でも悲しんでばかりいると、子供の自我が目覚めるのを妨げることになる。
手話を使える親も増えてはいるが、まだ家族の大半は音声言語に頼ってい
る。
・
唇の動きで読めるのは、話される英語の30%に過ぎない。ろう・難聴
の人たちにとって「pat」や「bat」を識別するのは困難で、「mat」になる
とさらに難しくなる。ろう・難聴の人たちにとって音声でのコミュニケー
ションを理解することは、ストレスがたまることであり、困難なことなの
である。
・
耳の聞こえる子どもたちにとってそうであるように、家庭や地域社会内
部での偶発的学習は、ごく当たり前の日常活動と考えられている。ろう・
難聴の子供たちのほとんどは、こうした耳の聞こえる子どもたちと異なり
学習を十分に行うことができないことに加えて、コミュニケーションも情
報を利用することも限られている。もしくはろう者であるということで、
家庭や学校で、
「相手にしてもらえない、取り残される」という扱いをされ
ながら育ったことが、共通の体験なのである。ラジオを聞く、食事や家族
団らんの場での肩のこらない会話、運動場での会話、さらに空港など人の
集まる場でのアナウンスなどは、ろう・難聴の子供たちには、ほとんど無
縁のものである。こうした障壁が、ろう・難聴の子供たちが世の中を理解
するのを妨げているのである。
・
普通教育に組み込まれるろう・難聴の子供たちの数は増えているため、
こうした子供たちの多くは「まとまった数」のメリットを受けることがで
きない。普通の学校では、こうした子供たちの多くは、たとえ、ろうの子
が一人だけではないにせよ、ごく少数と見なされる。なかには自分と同じ
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ろうの子供たちと接触する機会すら持たない子どももいるし、うまくいっ
ているろう者用プログラムを利用することもできず、彼らのニーズにはほ
とんど合わないサービスに頼らざるを得ない子どももいる。社会からの隔
離や惨めな自尊心は、彼らの発達段階におけるギャップに起因するもので
ある。
・
ろう者に対する健聴者の接し方によっては、ろう者の家族、教育環境、
雇用主、職場の同僚との関係全般がろう者自身に影響を及ぼすことがある。
健聴者の感覚を基準として、自分が劣っているのはどうしようもないと考
えたり、過保護な環境で育てられたり、何でも人にやってもらったりした
結果、自信を失ってしまったりすることになる。
・
いくつかの研究で、ろう社会では、情報が利用できないことや物を破損
することへの理解の欠如が主な原因となって、物品を破損する事件の発生
率が高いことが報告されている。もう一つの障壁は、ろうに関する知識と
熟練を伴うプログラムにクウォリティサービスが欠けていることである。
また、ろう社会(聴覚に支障をきたしている人たち)で生活する人たちの
性的犯罪事件の発生率が、一般社会における発生率よりも高いことも報告
されている。いいかえれば、ろう社会で生活する人たちは、一般社会で生
活する人たちよりも性的犯罪事件に巻き込まれやすいことを意味している。
クウォリティサービスの提供
これらはろう・難聴の学生が大学内に持ち込む問題や出来事の一部である。
ところでこうした学生にサービスを提供する人たちにとって、この事実は何
を意味しているのだろうか。それには、ろう・難聴の学生のカウンセリング
には専門のスキルが必要であるということである。大学は、ろうとろう文化
に関する知識が豊富であり、手話を使いこなすことができる専門の精神衛生
管理者をおくべきである。たとえば、話しことばにおける声のばらつきと同
じく、顔の表情のばらつきは、アメリカ式手話(ASL)の文法ともいえる
ものである。このことは、ろうとろう文化にうといカウンセラーが誤解しや
すいところである。カウンセリングを受ける当事者にとっては、コミュニケ
ーションの効果が高いことは極めて重要なことである。このため、カウンセ
ラーとの直接コミュニケーションの方を好む。しかしながら通訳を使うとき
には、カウンセラーは、サードパーティの利用に伴うコミュニケーションの
力関係をも理解しなければならない。通訳を使う場合、どんなに環境を整え
ても、若干の情報が失われたり、選別されたりすることを知っておかなけれ
ばならない。カウンセリングによって治療が成功するための最大の要因は、
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効果的なコミュニケーションひとつに限られるわけではない。ろうとろう文
化を尊重することや多様性など対する教育的、心理社会的意味合いに関する
知識、感受性、学習意欲につながる要因もそうである。ろう・難聴のカウン
セリングのスタッフに力のある精神衛生のプロをおくことは大学のカウンセ
リング・センターにとっても貴重な資産となる。
情報源
ろう者の心理については、多くの本や記事に書かれている。ニール・グリ
ックマン博士、ジェフリー・ルイス博士、マーク・マーシャーク博士、ロバ
ートポーランド博士、マッケイ・バーノン博士らの出版した資料は偏らない
ものの見方で書かれている。
全米心理学会、第22分科会は、文献が入手できる専門組織のひとつである。
ろうや精神衛生サービスを扱う文献、ウェブサイトは以下の教育機関・精神
衛生機関で入手可能である。
Gallaudet University in Washington、 DC
The Lexinton Mental Health Center in New York City
the National Technical Institute for the Deaf/Rochester Institute of
Technology in Rochester、NY
その他全国にあるろう者用精神衛生関係の情報は以下の文献の中にある。
Mental Health Services for Deaf People: A Resource Directory
これは下記に問い合わせれば入手可能である。
the Gallaudet University、 Department of Counseling
These materials were developed in the U.S.A. by the Northeast Technical
Assistance Center (NETAC) of the National Technical Institute for the Deaf at
Rochester Institute of Technology in the course of an agreement with the U.S.
Department of Education. This tipsheet was compiled by Dr Matt Searls,
NTID, and translated into Japanese by Prof. Toshiaki Hirai a faculty member
at Shizuoka University of Welfare as part of the PEPNet-Japan program--a
collaborative effort of Tsukuba College of Technology and PEN-International
at NTID.PEN-international is funded by grants from The Nippon Foundation
of Japan to NTID.
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