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だから,機械はおもしろい!
Dakara Kikai Ha Omoshiroi Dakara Kikai Ha Omoshiroi Dakara Kikai Ha Omoshiroi Dakara Kikai Ha Omoshiroi Dakara Kikai Ha Omoshiroi Dakara 連 載 第48回 都合の良いところだ けを切り取る,のは エンジニアの恥 東京大学 中尾 政之* *なかお まさゆき:博士(工学)。東京大学大学院工学系研究科教授。1983 年,東京大学大学院卒業後,日立金属に入社。 HMT Technology Corp. を経て,1992 年東京大学大学院工学系研究科助教授,2001 年教授に就任。2010 年 4 月から同大学産業 機械工学専攻 専攻長を務める。著書に「失敗百選」(森北出版),「創造はシステムである」(角川書店)など多数。 チャンピオンデータと異常値の取扱いに 困る 技術者論理に反し,退学に値する。 でも昔は,そうでもなかった。筆者らが学生の 自分の成果を発表するときは, 「都合の良いと 頃の 30 年前はひどかったというか,明確なルー ころだけを切り取る」ことが最高の戦術である。 ルがなかった。仮に 10 回に 1 回しか起きない成 都合の悪いところは隠すわけではないが,積極的 功だけを発表しても,成功自体は真実である,嘘 に言わない。しかし,これはエンジニアの恥でも ではない,と開き直った。もし残り 9 回の失敗に ある。 ついて試問教員に質問されたら,小さな声で成功 このように,先日の卒業論文の試問発表の練習 率 10%と答えた。だが何もわざわざ,こちらか 時に,筆者はある学生に対して偉そうに指導した。 ら失敗自体を自白する必要もない,という雰囲気 学生が一番困るのは,図 1 に示すような“チャン であった。今だって,工場の生産の歩留まりを正 ピオンデータ”と“異常値”の取扱いである。10 直に公開して,だから利益は薄いのです,と述べ 回に 1 回しか起きないチャンピオンデータを,ま るお人好しの企業はない。 るで常にそれしか起きないかのように論文に書け しかし,すべからく,エンジニアは真実の空間 ば,成果が実に華々しくなる。また,10 回に 1 回 に対して,それをありのまま記述すべきである。 しか起きない異常値を消しゴムで抹殺すれば,突 仮に戦術上,その中の一部の成功事例を誇張して 飛な結果が消えてグラフが美しくなる。しかし, 取り上げるとしても,その発生確率を片隅のどこ それは反則である。エンジニアならば,全部の結 かには記述すべきである。先日の小保方晴子さん 果を正直に列記すべきである。列記できなければ, の STAP 細胞報道では,万能細胞になる確率を 7 から 9%と発表している。これでも,iPS 細胞の 1 チャンピオンデータ だけ選択 %や,クローン羊ドリーの 0.36%に比べれば,一 桁も成功率が高く,画期的である。日本の新聞で も,科学記事ではチャンピオンデータの成功率を 性能 取り上げるようになったのである。 新方法のサンプル 新方法v.s.従来方法 Dakara Kikai Ha Omoshiroi (a) “チャンピオンデータ”を記する する」 「見たくないことは見ない」という傾向が 性能 R2=0.97 強い。先日,筆者のところにエスカレータ事故の 取材にテレビ局が来たが,2 時間のインタビュー を切り接ぎ細工して 1 分間で放映した。2 時間分 パラメータ (b) “異常値”を消す 図 1 都合の良い所だけを切り取る 92 いまだに真実の集合体から「都合の良いところだ け切り取る」 「美味しいところだけをつまみ食い 異常値だけを消す Dakara Kikai Ha Omoshiroi しかし,科学記事以外になるとそうでもない。 の映像があれば,本意と逆の論旨の話も作れるか ら怖い。その傾向は,訴訟の世界にも見える。 Dakara Kikai Ha Omoshiroi 機 械 設 計