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【異世界転生戦記】∼チートなスキルをもらい生きて行 く

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【異世界転生戦記】∼チートなスキルをもらい生きて行 く
【異世界転生戦記】∼チートなスキルをもらい生きて行
く∼
黒羽
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
http://pdfnovels.net/
注意事項
このPDFファイルは﹁小説家になろう﹂で掲載中の小説を﹁タ
テ書き小説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は﹁小説家になろう﹂および﹁タテ書き小説ネット﹂を運営するヒ
ナプロジェクトに無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範
囲を超える形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致し
ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
︻異世界転生戦記︼∼チートなスキルをもらい生きて行く∼
︻Nコード︼
N3347CF
︻作者名︼
黒羽
︻あらすじ︼
25歳。趣味はゲーム。年齢=彼女いない歴で。ごく普通のサ
ラリーマンだ。
そんな俺はある日の夕方、トラックにはねられ命を落とす。
そして気づいたら。異世界に転生していてしかも色々とチートな
能力までついてきちゃった!?
1
どう考えてもおかしすぎる俺の誕生。だが、もう一度生まれてき
たならば、今度は最後まで生き抜いてやる!!
そんな俺に待っていたのは俺を転生させた創世神﹃セラ﹄だった。
そして、俺はセラからこんなお願いをされる。
﹃私があなたをこの世界に呼んだ理由はひとつ。この世界の種族別
の対立を解消⋮⋮そこまではできないかもしれませんが、解消への
足掛かりをしてほしいのです﹄
俺はその願いを承諾した。こうして、俺の2度目の人生が幕を開
けたのだった。
2
第1話:転生︵前書き︶
後先考えずにはじめちゃいました。チートスキルを持ってどうや
以下を修正をしました。
って行こうか・・・作者である私もわかりません︵泣︶
※8/2
・レイナとアレスのステータスを大幅変更。
スキル名の分類名を変更しました。
・スキル︽神目の分析︾を︽神眼の分析︾に変更
※8/7
・︻固有アーティファクト︼から︻固有スキル︼へ
なぜ今まで放置していたんだろうか。
※8/20 加筆修正をしました。
※10/18
※10/16
※10/15
加筆修正を行いました。︵大幅修正︶
誤字脱字を修正しました。
誤字を修正しました。
誤字を修正しました。
※9/15 誤字修正をしました。
※10/20
※11/3 誤字を一部修正しました。
※11/9 誤字を一部修正しました。
3
第1話:転生
俺は今、25歳。天涯孤独である以外、普通のサラリーマンだ。
親や兄弟は、俺が小学校5年生になるまでに、全員死んでしまった。
親なんて5歳の時だぜ? 兄弟だけでは当然、生活は出来ないので、
孤児院で高校生になるまで、お世話になっていた。
年齢=彼女いない歴。趣味、ゲーム。寂しい奴だな俺は⋮⋮って
自分で言うなよ⋮⋮。
⋮⋮はぁ
俺の人生って何なんだろうな。どうせ俺の死に際とか誰も看取っ
てくれないだろうな。いや看取って欲しい訳じゃないよ、多分⋮⋮
うん⋮⋮
会社からの帰り道。疲れたと思いつつ、帰ったら早速新作のゲー
ムをするつもりだった。
ゲームジャンルはRPG。昔は、よくこの世界に憧れた。今でも
憧れているが。
楽しみで仕方がない。今の俺の生き甲斐は、これだけさ。
そう思いつつ、歩いていたら、目の前の信号が赤になったので待
つ。
あっ、そうだ。小説はもう更新されているかな? マンガも、ま
4
だ読んでいない。まっ、そのうち見ればいいかな? 週末はどうせ
フリーだからな。
自分で分かっていても、苦笑いを隠せなかった。本当、俺って寂
しい奴。
と、思っているうちに、信号が青になり、俺は横断歩道を渡り始
める。
すると妙に辺りが騒がしくなったので、辺りを見回す。すると一
緒に信号で待っていた人たちが、何かを指しながら逃げて行った。
指を指した方を見ると︱︱︱
そこには全く止まる気配の見えないトラックが、猛スピードで来
ているのが見えた。時刻は夕方の6時。まだ居眠り運転にしては、
早過ぎないか?
いや違った。俺の頭は新作のゲームの事で、頭が一杯だったので
気づかなかったが、後ろからサイレンの音が聞こえる。トラックに
隠れて見えないが、予想はついている。警察から逃げているのだろ
う。犯罪でもやったのか?
と、考えても仕方がないな俺も避けないと潰されそうだ。そう思
い他の人よりやや遅れ気味だったが、交差点から抜け出した。こん
な事件で、死にたくないからな。
逃げてるなら、わざわざ歩道につっこむ馬鹿などないだろう。俺
も周りもそう思っていた。そして僅かな余裕ができると、俺の頭の
中は再びゲームのことを考え出す。
5
だが、これがまずかった。再び悲鳴で我に返ると、目の前にトラ
ックが迫っていた。⋮⋮へっ?
おそらく交差点を曲がろうとして、ハンドルを早く切りすぎたの
だろう。どうやらカージャックしたトラックぽいので、慣れてなか
ったんだろう。
他の人は何とか逃げれていたが。反応が遅れた俺は今度こそ︱︱︱
︱︱︱バキャ!
目の風景が急に変わり。地面が下に見える。あれ? 俺、空飛べ
たっけ?
風景が変わり、今までの思い出が流れだす。親や兄弟の思い出。
孤児院での思い出。今ではもう思い出したくない、恐怖の思い出。
ああ、これが走馬灯ってやつなのか? 俺は死ぬのか?
そう思った瞬間、俺はコンクリートに頭から叩き付けられていた。
世の中よく、﹁前世の記憶を持った人﹂とか、﹁人は生まれ変わ
6
っている﹂とかよく聞くけど、正直な所、俺は信じれなかった。
だが、今、現実を見せられ、俺のその価値観は、変えざる得ない
状態となったといえよう。
ここはどこだ?
俺は確か仕事からの帰りで、信号を無視したトラックに体当たり
を受け⋮⋮数十メートルぐらいは、吹き飛ばされたような⋮⋮それ
で⋮⋮確かコンクリートに頭からぶつけて⋮⋮ここから先の記憶が
無い⋮⋮恐らく、頭ごと潰れたんだろうな。
で、起きてみれば、ここどこ? なんか少し古ぼけた家で、壁は
すべて木製、見たところ防腐剤などを施していない所を見ると、ど
こかの小屋か?
いや待て、俺が交通事故にあった場所は、すぐ近くに、病院があ
ったはずだ。なら本来なら絶対そっちに行くはずだ。ここは日本だ。
周りに人もいたから誰かが、必ず救急車を呼ぶはず。
ここが病院じゃないことは明らかだ。周りには、つるはしやら、
書物やらが、散乱しており、ここが病院だというなら俺は絶対訴え
る。衛生的な問題で。あと信号無視した奴もぶっとばす。
いやまて、なぜ俺は生きているんだ? つーか、衛生よりか、ま
ずそっちだ! あの勢いでは間違いなく死んでいるはずだ。いやあ
れで死ななくても、最後のコンクリートにぶつかったときは、間違
いなく死んだだろう。即死だ。
そう、俺は間違いなく一回死んだのだ。だが、生きている。なら
7
あれは夢だったのか? ⋮⋮違うな、あのぶつかったときの衝撃は
今でも思い出せる。全身の骨が砕ける音も思い出せる。
あれこれ考えていたが、いつまでも考えていても仕方がない。と
俺は体を上げようとした時に気付いた。
体が動かない事に
⋮⋮えっ、もしかして俺、脊髄やられたの? そりゃあ頭から落
ちればそうなるけどさぁ、えっじゃあなに? 俺、25歳にして一
生不自由な生活をしないといけないの? せめて手だけは⋮⋮ゲー
ムとかしたいのに⋮⋮
25歳になっても未だに、RPGやアクション系のゲームが好き
な俺には、地獄でしかない、いっそ死にたい⋮⋮いやまず一人で、
自立した生活を送りたい。せめて70ぐらいまでは⋮⋮
感覚
があるのだ。神経がやられているのなら、絶対
しかし、しばらくしていると、ある事に気づいた。確かに体は動
かせないが
にありえない。
わずかに動かせる眼を動かし自分の体を確認する。
シワシワの小さい手⋮⋮ぷっくりとしたお腹⋮⋮
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
8
俺は絶叫した。なんとか現実から目を背けようと、思考回路をプ
俺は赤ん坊になっている
ラスプラスへと持っていこうとするが、どう考えても結論は一つ。
しばらく間を置いた後に、絶叫しようと声を上げようとしたが、
不可能だった。おそらく声帯がまだ発達してないからだろう、それ
が一層、俺が赤ん坊であることを認めざる得ない状況に追い込む。
死にたい! まじで死にたい! こんな姿、知り合いに見せれな
い! もう結婚できない! ﹁もうお嫁にいけません﹂みたいなノ
リで絶叫する俺、だが当然その声は心の中だけであるが。
いやぁぁぁぁという絶叫︵心の中で︶すること数分。ようやくパ
ニックが落ち着いてきた俺は、状況を整理しようとする。
認めたくないが、今、俺はどうやら赤ん坊のようだ。つまり﹁生
まれ変わった﹂のだ。認めたくないが、﹁生まれ変わった﹂。大切
な事なので、2度言っておく。
そして、ある事に気づく。俺は赤ん坊なら、親はどこに行った?
まさか赤ん坊を捨てたのか?
死の予感がする俺。飢餓で死ぬとか嫌なんですけど、いやそもそ
も人生︵?︶で2度も早死にしてたまるか。
そして、極めつけは、ここは日本じゃない事だ。わずかに動く目
を動かし木を斬っただけの、ガラスなども付けられていない、窓の
外を見たとき、確信した。目に飛び込んできたのは、見たことない
クラゲみたいなのが、空を飛んでいる様子だ。完全に、物理の法則
9
を無視したその生き物は、悠々と空を、泳いでいる。
気球かなと、思いもしたが、火などを使ってる様子も見えないし、
なにより透明で中身まで丸見えなのだ。そこには心臓らしきものや、
腸らしきものが見えた。正直キモイ
もはや日本というレベルを通り越して、完全に異世界にいるよう
な気がする⋮⋮いや間違いなく異世界だろう。あんな生き物、地球
で見たら大ニュースだよ⋮⋮。ダイオウイカが出現とかいうレベル
じゃない。物理法則完全無視の謎の生物。あれ? もしかしてあれ
か? 宇宙人ってやつか? それならここは地球かな?
しかし、そんな現実逃避にも終わりが来る。
︱︱︱ガチャ︱︱︱
そんな音が聞こえ、目を向けるとそこに立っていたのは︱︱︱
﹁ふう、全く懲りない奴らだね﹂
﹁そうだな、いい加減あきらめて欲しいものだ﹂
頭に二本の角が生えており、アバ○ーよりも、薄い青い皮膚をし
た女性︵?︶と剣を片手に持った黒髪をした男だった。
⋮⋮What? あれ? 地球にあんな種族いたの? いや、い
たら俺の脳内知識にインプットされてるはずだ。やたらと雑学に詳
しい俺が言うんだから間違いない。伊達に高校のとき、座学がトッ
プだった訳じゃないぞ。でも待て、隣の男はどう見ても人間だよな
? あれ? あれ?
10
そんな困惑している俺をよそに二人は持っていた装備などを片付
けていく。あまりにインパクトが強かったので、見えていなかった
が女性らしき人物も槍を持っていた。そして血のついた槍を丁寧に
拭いていく。
>スキル︽武器整備︾を取得した
・・・ん? なんだ? 今、俺の脳内に響いたアナウンスは? ウグイス嬢?野球好きの俺からしてみれば、嬉しいものだが、いや
待てその前にスキルって?
﹁あっ、ごめんよクロウ∼﹂
女性らしき人物が、整備していた槍を置き、こちらに近づいてく
る。何か言ったようだが、俺にはなんのことかわからなかった。お
そらく言語が違うからだろう。何か言っていることは間違いないが
>スキル︽龍族語︾を取得した
あっ、また脳内アナウンスが⋮⋮、しかしよくみると、この人完
全に女性ですよね? さっきは思わず﹁︵?︶﹂をつけてしまった
が、皮膚の色や角を除けば、完全に女性である。そして俺が女性だ
と決定づけている最大の理由は、目の前に迫ってくる二つのメロン。
おそらくこれが前世なら、狂喜しているところだ。いや今でも嬉し
いです。ありがとうございます! しかし残念ながら下の方は反応
していないようである。やっぱり体は、赤ん坊かと思った。一瞬﹁
俺って女性に転生したのかな?﹂と思ったが、それは今は確認出来
ないので置いておこう。
11
﹁ごめんな⋮⋮私たちのせいで、さみしい思いをさせて⋮⋮﹂
女性はそう言いながら俺を抱え、よしよししてくる。腕にやわら
かいメロンが当たってめっちゃ嬉しいです。この人はやっぱり女性
です。でもたぶん怒ったら怖いだろうな、言葉使い的に。あと槍と
か返り血の様子を見て。
﹁あいつらが、諦めてくれさえすれば、こんな事にも、ならないの
に⋮⋮﹂
女性はそうポツリと呟く。どうやら、ただならぬ予感を感じさせ
るのは、俺だけでしょうか?
﹁しかたないさ、レイナ。それよりも体は大丈夫なのか? まだ出
産して数時間ぐらいしか経っていないが⋮⋮﹂
﹁それは出来れば、戦いに出る前に聞きたかったね。大丈夫だよ。
龍族を舐めないで﹂
﹁ははっ、そういわれると、お前が、龍族だと言う事を忘れていた
わ﹂
﹁全く、どこの馬鹿かしら異種族⋮⋮それも人を好きになった馬鹿
は﹂
﹁それなら、俺は龍族を好きになってしまったぜ﹂
二人は一瞬見つめあうと、そのあと笑い出した。あの、すいませ
ん俺の前でいちゃつかないでください。その手の事に縁のない奴ら
から﹁死ねリア充﹂とか言われそうな光景ですぜ。いや、俺はそん
12
なことで、リア充死ね、とか言いませんけど。
しかし、話を聞いていると、おおよそ見当がついた。伊達にネッ
トでは小説を読み、ゲームはFFとかDQをやっていたわけじゃな
いぜ。もっともFFは、攻略が難しかったから、そこまで遣り込ん
でいないが
予想は3つある。
1つ。彼らが一族︵人間か龍族のどちらか︶の大事な秘宝。⋮⋮
アーティファクト等を盗んで、追われているか。もっとも、彼らの
様子から、それはないと思うが、一応視野には入れておこう。
2つ。彼らのどちらかが、国または、種族の中でなんらかの重要
な役割、または特別な力を持った人たちか。これも可能性として無
さそうなんだけどな⋮⋮アーティファクト同様に。
そして3つ目。これが一番高いと睨んでいる。それは異種族同士
の結婚。簡単な話だ。今のご時世でも﹁あそこの人と話してはダメ﹂
、とか﹁あそに住んでいる人と結婚しては駄目﹂と言ってるのと、
同じ事だろう。
人と龍族か⋮⋮。人と魔族みたいなもんか?
⋮⋮まっ、いいか。とにかくどちらかの種族︵経験上龍族だと思
うけど︶が、異種族と結婚した事による制裁だろうか? それなり
に歴史のある世界なら対立とかありそうだもんな⋮⋮。俺らのいた
世界も、言えたようなもんじゃないが⋮⋮。
俺としては3つ目がもっとも可能性としては、高そうだなと思う。
となると俺は、人と龍族のハーフということか? 体の色は人間だ
13
けど、どこか龍族っぽい所とかあるのか?
いや、それも気になるが、問題は俺だ。さっきから流れる脳内ア
ナウンス見たいなのは一体、何なんだ? ファンタジー世界に憧れ
ていましたけど、もうゲームっぽくないですか? スキルとか。い
や普通のゲームに言語取得とか普通は無いと思うが。
なんか、メニューとかイメージしたら出てきそうだな∼、と思っ
ていたら
︱︱︱メニューを起動します。
>スキル︽倉庫︾を取得しました。
>スキル︽換装︾を取得しました。
⋮⋮なんか変なアナウンスが⋮⋮さらに︱︱︱︱︱
︱︱︱特別条件︽転生︾を満たしました。
>スキル﹁神眼の分析﹂を取得しました。
俺の視界の右上には﹁アイテム﹂﹁装備﹂﹁スキル﹂﹁ステータ
ス﹂という文字が並んでいる。おいおいこれは、いよいよゲームじ
ゃねぇか⋮⋮俺は、夢でも見てるのか? リアルな夢だな。夢なら
覚めてくれ、俺の心は泣いていた。いやまて⋮⋮夢から覚めたら、
激痛に襲われそうだな、じゃこのままでいいか?
不安になる俺だったが、反面うれしかった。目の前に、いつかこ
うやって異世界で戦ってみたいと思っていた出来事が今、目の前に
あるのだから。もっとも俺の予想が正しければ俺の命は今、この二
人に、かかっているようですが。
あれこれ考えていると、レイナがふと口を開く。
14
﹁しかし⋮⋮クロウだけでも何とかならないもんかね⋮⋮﹂
﹁無茶言うなよ、ハーフだぞ。たぶん。この世界でも二人といない
んじゃないか?﹂
あっ、やっぱり俺ハーフなんですね。つか待て。世界に二人とい
ない? つまりこの世界で、異種族と結婚し、子供を作ることはそ
んなに、問題になるものなのか?
そう考えると、この二人が勇者に見えてきた。いやマジで勇者に
は見えないよ。ただ純粋にすごい、と思ったからだ。
まぁ純粋に憧れるほど、俺の心は澄んでいませんが、はっきり言
ってその内、大部隊とか投入されるのでは? 俺、まだ赤ん坊です
から、やばいですよね?
ふとこの二人のスキルが気になり、さきほど流れていた︽神眼の
分析︾と言うスキルを、使ってみるとしよう。なんとなく使い方は
わかっている。何故か、わかっていた。不思議だね。
まずはレイナの方へと意識を集中させる。しばらくすると俺の脳
内に彼女のデータが流れ込んでくる。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:レイナ・アルエレス
種族:龍族
レベル:31
筋力:650
生命:1290
敏捷:980
15
器用:485
魔力:0
スキル:︽龍の眼︾︽龍化︾︽龍族語︾︽槍:7︾︽身体強化:7︾
︽調理:3︾︽自然治癒:5︾︽倉庫:5︾︽換装:6︾
︽鑑定:5︾
︽千里眼:3︾︽見切り:6︾︽透視:5︾︽フォース:
5︾
︽分析:4︾︽状態異常耐性:6︾︽遮断:5︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
これは高いのかな? 比較のしようが無いので、正直分からない。
ふとそのとき思い出し、メニューを開く。そしてステータスという
所を押す︵押すイメージをするだけで実際は押していない︶。案の
定、俺のステータスが載ってあったが⋮⋮それを見た俺は、口があ
んぐりと開いた。︵と言っても心の中の俺がであるが︶
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:クロウ・アルエレス
種族:龍人族︵龍族・人間︶
レベル:1
筋力:500
生命:500
敏捷:500
器用:500
魔力:1000
スキル:︽理解・吸収︾︽武器整備:1︾︽龍族語︾︽倉庫:10︾
︽換装:1︾︽神眼の分析︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
⋮⋮What? ︽レベル:1︾だよね? 高くないですか? 16
いや、高いだけならまだいい。問題は、器用と魔力の項目で、俺が
勝っていることだ。魔力は種族の違いもあるだろうが、器用はさす
がにどうかと思う、何十年か生きてきたレイナよりか俺の方が上っ
て⋮⋮。
それに魔力ゼロって⋮⋮、どうやら龍族は、魔力を持たない種族
らしいな。あれ? じゃあ︽身体強化︾とかどうやってるんだ? 龍族は魔力なしでも自己の力を上げることぐらいは出来るのかな?
しかし、それはすぐに違うことがわかった。セラのスキルのひと
つ︽龍の眼︾というのがどうも気になったので見てみると。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル:︽龍の眼︾
分類:固有スキル
属性:︱
効果:龍族独自のスキル︽身体強化︾︽千里眼︾︽見切り︾︽透視︾
︽フォース︾を無条件で発動可能にする。
威力は使用者の熟練度に比例する。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
すげぇスキルだ、なるほどこれのおかげで、魔力が無くても、魔
法を扱えるのか。そう思っていると
︱︱︱特別条件︽意志を継ぐ者︾を満たしました。
>スキル︽龍の眼︾を取得しました。
イージーすぎる!! これ固有スキルでしょ!? いや、俺はハ
ーフだから半分もっているのかな? それでもこれはどうかと思う。
チートすぎるでしょ? なんで? そもそもさっきから特別条件っ
て何?︽転生︾とか、︽意志を継ぐ者︾とか! ︽転生︾はまだな
んとなく理解できるからいいが︽意志を継ぐ者︾とか、今の流れで
17
何故そうなる!?
一応、スキルに目を通してみる。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル:︽理解・吸収︾
分類:古代スキル
属性:神
効果:一度見たものは即座に理解し使用することができる。
︽分析︾スキルでは表示されない。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル:︽神眼の分析︾
分類:古代スキル
属性:神
効果:︽鑑定:10︾︽分析:10︾を付加して︽遮断︾効果を無
視する。
︽分析︾スキルでは表示されない。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
いや、マテや、どこぞのマンガみたいな能力ですか? いや憧れ
るけど、実際マジで持ってみると、自分で自分に引きますわ。てか
属性問題あり! 神ってなに!?
これはあれか? この世界を作った神的何かが﹁こいつに、これ
やったらおもしろそうだな﹂とか言って渡してきたのか!? じゃ
ああれか? ︽神眼の分析︾ってやつも︱︱︱
赤ん坊でも、俺の眼は動いているのだろうレイナが不思議な目で
見てくる。そう思っていたらどうやら気づかれたようである。
﹁むっ、この子にも︽龍の眼︾が⋮⋮妙だな生まれたときは無かっ
18
た筈なのに⋮⋮ってな、なんだ!? こ、これは⋮⋮!?﹂
あ、アカン、これ完全にステータスも、スキルも、バレたパター
ンやん。︽理解・吸収︾と︽神眼の分析︾はたぶん大丈夫なんだろ
うけど、数値あたりとかアウトじゃないですか? だって30レベ
のレイナと比べたらおかしいですよね?
﹁ど、どうしたんだ!?﹂
男が寄ってくる。あっ、俺、そういえばこいつ⋮⋮この人の名前
とか知らないな、ついでに見ちゃえ☆
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:アレス・アルエレス
種族:人間
レベル:55
筋力:840
生命:1140
敏捷:1140
器用:1405
魔力:560
スキル:︽龍族語︾︽大陸語︾︽片手剣:6︾︽盾:6︾︽大剣:
4︾
︽身体強化:5︾︽倉庫:7︾︽換装:7︾︽鑑定:6︾
︽見切り:4︾
︽分析:6︾︽魔道士の心得︾︽炎魔法:5︾︽土魔法:
5︾
︽光魔法:2︾︽治癒魔法:4︾︽武器製作:4︾︽武器
整備:4︾
︽野営:5︾
19
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
なるほど、おやじの名前はアレスか。スキル豊富ですね。羨まし
いです。つーか、強いですね。
﹁⋮⋮! こ、これは!?﹂
アレスの表情が、見る見ると変わって行く。そりゃ、純粋な数値
なら俺の方がいくつか勝っている数値があるもんな、驚くのも無理
ないか。つーか、これ捨てられるパターンとか無いよね? 大丈夫
だよね?
と、思っていたら、アレスから、俺の予想の斜め上を行く、言葉
が飛び出す。
﹁この子は必ず強い子になる。これだけの力⋮⋮国が放っておく訳
がない。俺たちの所に来た奴らにも、いやその辺にいる生き物にも、
見せてはまずい⋮⋮いいな、この子が育つまでは、必ず守りきるぞ﹂
その言葉にレイナは静かに頷く。ええ話や∼、良かったこの人た
ち、いい人だ! やっぱり我が子は捨てられ⋮⋮って変なこと考え
ちゃ、まずいよな。
アレスは今まで開けていた窓に向かって何か呟いた、すると窓を
覆うように土が、どこからもなく現れ、窓を塞いでしまった。
>スキル︽土魔法︾を取得した。
⋮⋮これ、便利だけど、本当に一度見たら、なんでも吸収してし
まうんだな、なんかその内、恐ろしいぐらいのスキル量を、作って
しまいそうで怖いんだが。
20
何やらともあれ、俺は新しい世界で、なにやらチートじみた能力
を身に着けて転生してしまった。
だけど、もう一度生をもらったならば、次は、最後まで生き抜い
てやる。そして、傍から見たら化け物じみた俺を、絶対育てると決
心した親に俺は報いたい。純粋にそう思った。
自分の前世を、思い出しながら密かに決心する。
今でもありありと浮かんで来る前世の思い出。中には、もう一生
忘れたくても忘れられない思い出も、沢山ある。
失敗と、後悔だらけの前世。25歳になっても恋人は、ゲームぐ
らい。天涯孤独の身だと思った俺に、もう一度チャンスが巡ってき
た。
これから失敗も、後悔も、するだろう。だが戦い抜いてやる最後
の最後まで。
こうして俺の、2度目の人生が始まった。
21
第1話:転生︵後書き︶
というわけで、第1話はどうでしたか?
誤字、質問、感想など何かあれば気軽にどうぞ。
それにしても書くのは大変です。描写とか難しいです・・・。 22
第2話:成長期︵前書き︶
能力上昇値が決まりましたので、第1話のレイナとアレスのステ
以下を変更しました。
ータスを大幅変更しました。
※8/2
・スキル︽神目の分析︾を︽神眼の分析︾に変更しました。
・︽罠︾習得と同時に︽魔法制御︾も取得することにしました。
スキル︽商人︾を︽商人の心得︾に変更しました。
・誤字、脱字を修正。
※8/3
※8/20 加筆修正しました。
誤字を修正しました。
加筆修正を行いました。︵大幅修正︶
※10/17
※10/22
※11/3 誤字を一部修正しました。 23
第2話:成長期
クロウです。この世界で生き抜いていくには力は絶対だと思いま
す。両親の初めての姿が、血だらけの姿だったら、嫌でもそう思わ
ざる得ません。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:クロウ・アルエレス
種族:龍人族︵龍族・人間︶
レベル:1
筋力:500
生命:500
敏捷:500
器用:500
魔力:1000
スキル:︽理解・吸収︾︽武器整備:1︾︽龍族語︾︽倉庫:10︾
︽換装:1︾︽神眼の分析︾︽土魔法:1︾︽身体強化:
1︾
︽千里眼:1︾︽見切り:1︾︽透視:1︾︽フォース:
1︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
しかし、まずは何から始めればいいのやら⋮⋮どうやら両親は、
俺を外には出さないつもりのようだし⋮⋮まぁ、その代り座学は鍛
えさせてもらいますか、俺の知識を見せる時だぜ!
⋮⋮しかし、俺はまだ赤ん坊。さすがに色々するわけにもいかな
いので、親の行動を見て盗むことにしよう。
24
レイナ⋮⋮お母さんが何かを作っている。どうやら二人の今日の
晩飯を作っているようだ。俺はまだ乳を吸っている状態である。非
常に興奮するがあくまで俺の精神だけであって、体は反応しない。
今のうちに目に焼き付けることにしよう。
>スキル︽調理︾を取得しました。
>スキル︽暗記︾を取得しました。
⋮⋮なぜ暗記を覚え︱︱︱︱いや、こんなものなのか? 意識を
してもスキルを覚えるのか。なるほど、これは覚えておこう。︽暗
記︾は魔法を覚えるときとかに役に立つだろう。
それと、ある事に気づいた。それは、俺の天性スキル︽理解・吸
収︾のもう一つの効果だ。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル:︽理解・吸収︾
分類:古代スキル
属性:神
効果:一度見たものは即座に理解し使用することができる。
︽分析︾スキルでは表示されない。
※見ることによっても多少経験値が手に入る。
※また他人より経験値を取得しやすい
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
最初見たときは気づかなかったが、どうやら俺は見れば見るほど
強くなっていくことが出来るようだ。当然、トレーニングをする方
が、早いかもしれないが、遥かに上の人物の対戦を見た方が効率が、
いい場合もあるかもしれない。ふむ、この世界に闘技場みたいなの
25
はあるのだろうか? あるなら是非一度、見てみたいものだ。
その時、レイナの動きがピタッと止まる。どうしたんだろう、と
思うといきなりそばにあった槍を持って出て行った。どうやら敵の
気配を感じたようである。
>スキル︽気配察知︾を取得しました。
うぉいおい、こんな事からでも取得できるのか? 本当、チート
スキルだなこのやろぉ
そうなると現在スキルを取得できる条件は⋮⋮
1・動きを見て取得する
例:槍を拭く、魔法を目の前で使う
2・特殊条件下で取得可能
俺の見立てが正しければおそらく、これ以外に﹁自分で動作をす
れば﹂取得することが可能なのではないかと思う。さすがにこれは
俺がある程度動けるようになってからじゃないとわからないな。
20分後、槍に血がべっとりついたレイナが戻ってきた。いや、
かなりシュールな光景なのですが、てか槍に腸みたいなのがついて
る!? グロい!
笑顔でこっち見ないで!! トラウマになっちゃいます!
>スキル︽状態異常耐性︾を取得しました。
26
日本ではまずリアルで見ることがなかった光景だけに、俺の精神
的ダメージはかなりあるようだ。そりゃあホラー系ゲームとか中だ
けの世界ですしね。ダークソ○ルとかでしか見たことないよ。よか
ったその手のゲームもしていて。もっとも何とも思わないわけでは
ないが。
レイナは、槍を拭き、返り血も落としていく、さすがにそのまま
料理は勘弁ですわ。それが終わると、出ていくときに早業で消して
いった火を、近くにあったライターみたいなので付け直す。
>スキル︽魔法道具操作︾を取得しました。
>スキル︽火魔法︾を取得しました。
あれって、魔法道具だったんだな。じっと見つめて詳細をみる。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱
アイテム名:︻発火棒︼
分類:魔法アイテム
属性:火
効果:火を起こすことが可能。道具内に魔力を貯めることにより、
使用者の魔力切れが起きた時でも使用可能。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
なるほど、ライターみたいなものだな。それにしても今ので火系
の魔法を覚えるとは⋮⋮例えば水で物を洗ったりしても魔法を覚え
るのかな? いや、魔法道具を使ったからかな? とにかく色々なことをやってもらいドンドンスキルを取得・強化
していくべきだな。あっでもやりすぎても怪しまれるかな?
いや、どうせ成長したらスキルのことは話すつもりだ。それなら
27
今はできる限りのことをしておこう、時間は有効に使わないとな。
そのあとしばらくの間、スキルを﹁見て﹂学ぶことにした。親父
が剣を振っている様子。対人戦︵レイナとアレスによる模擬戦のこ
と︶などを見ながら地道にスキルを貯めていく毎日。
半年も経った頃には、俺のスキルはかなり充実してきていた。つ
いでにレベルも2ほど上がった。これは見ることによる︽理解・吸
収︾の効果の一つでもあるようだ。もっとも本当に微々たるものな
のだが。だって半年も見てほとんど上がっていないんだぞ。レベル
3とかコウモリをしばける程度なんですが︵※DQのこと︶
そんで俺の、今の俺のステータスはこんな感じだ。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:クロウ・アルエレス
種族:龍人族︵龍族・人間︶
レベル:3
筋力:650
生命:770
敏捷:710
器用:660
魔力:1500
スキル
・固有スキル:︽理解・吸収︾︽神眼の分析︾︽龍の眼︾
︽千里眼:1︾︽透視:1︾
・言語スキル:︽大陸語︾︽龍神語︾
・生活スキル:︽倉庫:10︾︽換装:2︾︽調理:1︾
︽魔法道具操作:2︾
28
・作成スキル:︽武器製作:1︾︽武器整備:2︾
・戦闘スキル:︽身体強化:2︾︽見切り:4︾︽気配察知:3︾
︽状態異常耐性:2︾
・武器スキル:︽片手剣:2︾︽大剣:1︾︽盾:3︾︽槍:3︾
・魔法スキル:︽魔道士の心得︾︽火魔法:2︾︽風魔法:1︾
︽土魔法:1︾︽光魔法:1︾︽治癒魔法:1︾︽
暗記:1︾
・特殊スキル:︽フォース:1︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
増えてきたら見にくいなぁ、と思っていると、急に並び替えられ、
しかも、ジャンルごとにしてくれた。便利なスキルだな。
野営とかは無理だけどほとんどのスキルはもらったようだな。っ
てかステータスの数値が異常すぎる。なんでだ? 魔力だけなら両
親の数値を余裕で超えているのですが?
︽風魔法︾は魔法道具から取得できた。なんか扇風機もどきみた
いなのを、使っていたときだ。
それにしても⋮⋮これは、後でいろいろな意味で怒られそうだな。
まぁいいやとにかくこれ以上の成長は効率が落ちそうだな。
しかし、俺はまだ生まれて半年。精神年齢は20代だが、体はま
だ半年。当然歩くことはできない。ハイハイぐらいはなんとか出来
るようになったが、それでも家からは出れないし、本を漁ろうにも
少し高い位置にあって手が届かない。どうやら俺が動き回っても問
題ないようにしているみたいだ。魔法道具も手の届かない位置にお
かれている。
椅子に上って取るということも考えたが、肝心の椅子が高すぎて
どうしようもない。
くっ、龍人族の成長速度ってどれくらいだ? ⋮⋮って俺が初めて
だから比べようがないな。歩けるようになるまでどれくらいかかる
んだろうな。
29
と、思っていたら1週間後には立てた。そして歩けた。急に歩け
るようになって驚かれていた。うんそりゃそうだよね。普通、立っ
てしばらくしてから歩けるようになるもんね。
でも、二人は素直に喜んでいた。もっとも、これは龍族にしたら
遅いようだ。
あとで知ったことだが、龍族は生まれたら1週間ぐらいで立てる
ようだ。まぁ地球の世界でも動物はすぐに立たないと肉食動物にや
られてしまうからな、決して弱い生物じゃないだろうがやっぱ弱肉
強食の世界なんだな。いや人間が異常なんか? ﹁人間は一年早く
生まれている﹂っぽい事を、誰かが言ってたしな。
歩くようになってからは非常に速かった。
俺は親が出払っているときの合間を縫って書物を漁ってはいろい
ろなスキルを習得した。魔法に始まり簡単な武器の扱い方。そして
この大陸の歴史書を見つけた。
しかし、これはほとんど役に立たなかった。俺の当初の見立て通
り、各種族ごとにかなりの偏見があるのだ。
結果は大抵あっていたのだが、その過程がまるで正反対なのだ。
正直結果以外は当てにならない。
しかしスキルを得ることが出来たのは、大きい。それにしてもち
ょっと上がるスピードが速すぎないか? 少しは抑えないと親にな
んて説明すればいいのかわからなくなるし。
と思っていたら本のなかから︽遮断︾スキルについて書かれてい
た本を見つけた。当然熟読して覚えさせてもらいました。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽遮断︾
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分類:戦闘スキル
属性:闇
効果:︽鑑定︾、︽分析︾スキルを防ぐことができる。
効果は熟練度による。
自由にスキルを隠したり見せたりすることが可能だが、
所持していないスキルを、表示することはできない。
また、種族は隠すことはできない。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
いやっほうぅ! 最高なスキルじゃないですか! でも種族名は
隠せないのか。ふむようは表示するかしないかの違いなのか? な
ら種族も消しても⋮⋮いや、消したら種族不明でどこの町にも入れ
なさそうだな。つーか、見た目でばれそうですし。
でも、これでスキルを取りまくれるな。よしゃあ上げまくるぜ!
⋮⋮こうして1年間まるっと本で鍛えた結果がこれです。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:クロウ・アルエレス
種族:龍人族︵龍族・人間︶
レベル:20
筋力:1,840
生命:2,810
敏捷:2,410
器用:1,850
魔力:4,900
スキル
・固有スキル:︽理解・吸収︾︽神眼の分析︾︽龍の眼︾
︽千里眼:1︾︽透視:3︾
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・言語スキル:︽大陸語︾︽龍神語︾︽妖精語︾︽兎耳語︾
・生活スキル:︽倉庫:10︾︽換装:2︾︽調理:3︾︽野営:
2︾
︽魔法道具操作:2︾︽家事:2︾︽演算:1︾
︽商人の心得︾
・作成スキル:︽武器製作:3︾︽武器整備:3︾︽防具製作:3︾
︽防具整備:3︾︽装飾製作:2︾︽装飾整備:2︾
・戦闘スキル:︽身体強化:3︾︽見切り:4︾︽気配察知:3︾
︽回避:1︾︽状態異常耐性:2︾︽遮断:3︾
︽跳躍:1︾︽心眼:1︾︽射撃:1︾
・武器スキル:︽片手剣:2︾︽細剣:2︾︽刀:1︾︽大剣:1︾
︽槍:3︾︽投擲:1︾︽斧:1︾︽弓:1︾
︽クロウボウ:1︾︽鈍器:1︾︽盾:2︾︽格闘:
1︾
・魔法スキル:︽魔道士の心得︾︽火魔法:2︾︽水魔法:1︾
︽風魔法:1︾︽土魔法:1︾︽雷魔法:1︾︽光
魔法:1︾
︽闇魔法:1︾︽治癒魔法:1︾︽音魔法:1︾︽
毒魔法:1︾
︽付加魔法:2︾︽詠唱:1︾︽詠唱短縮:1︾︽
暗記:1︾
︽魔力操作:1︾︽瞑想:1︾
・特殊スキル:︽フォース:1︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
うん、おかしいぐらいにあるね。レイナのと比べるともう比較に
ならないぐらいの量が⋮⋮、でもスキルレベルはやっぱり簡単には
上がらないか。これはやっぱり実践で上がっていくのかな?
あと、スキルレベル︵スキルの後ろにある数値︶の上限は10が
限界のようだ。
32
なぜ俺がそれに気づいたかというと︽倉庫︾を取得したとき俺の
スキルレベルはすでに10だった。そして脳内アナウンスで
︱︱︱スキル︽倉庫︾のレベルが最大値になりました︱︱︱
というのが流れてきたからである。一概には言えないと思うが、
おそらく10なのではと俺は思う。そう思うとレイナの︽槍:8︾
とかかなりすごいんだな。たぶん例えるなら達人の領域ってやつ?
10はたぶん神クラスだと思う。
さて、問題はこれをどうやって成長させていくかだな。
書物だとせいぜい3ぐらいが限界みたいだし、これ以上、上にい
くならトレーニングや実戦だろうな。
そうなるともう少し先の話になるな。
しかし、その考えはすぐに崩れ去ることとなる。
ある日の昼下がり。アレスとレイナが気配︵襲撃︶に気づき出か
けて行った時だ。
俺は2歳になってまだ数日しか経っていないときの事だ。
俺は薄々感じていた。︽気配察知︾のおかげで、俺は家が囲まれ
33
ていることに気づいた。数はおよそ10。
隠れて家でも破壊するつもりだろうが、俺からしてみればバレバレ
である。︽透視︾スキルは便利だな。
さて、そいつらの姿だが、全員レザーアーマーを装備しており、
剣や槍など自分の得意な武器で武装している。さらにやつらの手や
腰に棒らしきものがある。十手みたいなものかなとわずかでも感じ
た俺は甘かったです。︽神眼の分析︾で見てみると
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
アイテム名:︻爆裂弾︼
分類:戦闘アイテム
属性:火
効果:︽火魔法:2︾と同じ効果。
詳細:龍族が人間族の魔法に対抗するために作った道具。
しかし威力は低く、家を燃やす程度の威力しかない。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
やめてー! がっつり殺す気満々じゃないですか!?
さらに種族を見てみる。どうやら全員︻龍族︼のようだ。なるほ
ど初級魔法の道具を持ち歩いているのはそれが理由か、龍族は魔法
を覚えれないからな。
人じゃないけど限りなく人に近い生き物を殺さないといけないの
か⋮⋮2歳で殺人をするとかマジですか
いや、別に殺す必要はないか、無力化すればいいんだからな。
当然、俺は戦いに関してはド素人である。だが彼らのレベルや能
力を見て奇襲さえ出来れば充分に勝てる相手だと思った。
問題は、俺のこの体がしっかり思い通りに動くかだ。さすがに2
34
歳なので完全に思い通りにはいかないだろうが、その辺は︽身体強
化︾でどうにか切り抜けよう。どうせやらないと俺が死ぬんだから。
︽透視︾で彼らの動きを見る。俺の手には家の隅にあった片手剣
︻ショートブレード︼がある。ちなみに効果はというと。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
アイテム名:︻ショートブレード︼
分類:武器・片手剣
属性:無・斬
効果:︱
詳細:もっともシンプルな武器。非常に安く携帯しやすいので
冒険者が予備の武器として持ち歩いている。
長さは刃渡り60センチ程度。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
予想通り何もない。まぁ初期の武器なんてこんなもんだよな。
まぁ、大丈夫でしょう︵多分︶
徐々に包囲を縮めてくる龍族たち。ちなみに俺の家はまわりが森
に囲まれており、さらにその周囲を崖に覆われているいわば天然の
要塞みたいなところにある。
たぶん今回は確実に倒すために裏道でも使ってきたんだろうな。
奇襲とかできねーよ
⋮⋮あれ? あいつらも︽龍の眼︾を持っているはず。つまり︽
透視︾スキルを少なからず持っているはず⋮⋮
35
あわてて敵のステータスを読み取る。
平均してみると⋮⋮
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:︱
種族:龍族
レベル:10
筋力:200
生命:400
敏捷:300
器用:150
魔力:0
スキル
・固有スキル:︽龍の眼︾︽千里眼:3︾︽透視:4︾
・語源スキル:︽龍族語︾
・武器スキル:︽片手剣:4︾︽盾:3︾︽槍:4︾
・戦闘スキル:︽身体強化:4︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
あらいやだ、俺よりか格上じゃないですかやだー。
ということはなんだ? 俺の様子は丸見え? 奇襲できないとい
うこと?
武器を持ってこちらを見ていることがバレてる以上奇襲は不可能
だろう。となると俺に残された道は正攻法で倒すということだけで
すか?
頼みの︽身体強化︾も敵の方が上なのですが?
どうしようどうしようとあれこれ考えていたら、外から怒号が聞
36
こえてきた。︽透視︾で見ると︻爆裂弾︼を投げる構えをしている。
ああ⋮⋮こりゃもうやるしかないですな⋮⋮
家を囲むように土魔法を展開する。この世界の魔法はいわば創造
の力で作られる。魔力を加える量と創造によりさまざまなことがで
きるようだ。
スキルレベルによる違いはどうやら魔法を発動できる速さや規模
の上限に関係がありようだ。威力は魔力を使えば多少は上げれるが
範囲などはスキルレベルに依存しているようだ。
今の俺の土魔法のスキルレベルは1。この家が小さかったおかげ
でギリギリ囲める程度しか使えない。具体的に言うと直径10メー
トルぐらいかな。
それでも十分だ。俺は透視を発動しながら扉を開ける。正面には
敵はいない。まぁ敵も正面からノコノコやってくるほどアホじゃな
いよな。
土魔法の一部をいじり俺が通れるくらいの穴を作り外に飛び出す。
生まれて初めて家を出るのがこんな形になるとはな⋮⋮もうすこ
しロマンチックというかワクワクして出たかった。正直怖いです。
外に出ると素早く詠唱を開始。家の中でばれない程度に練習をし
ていたので小さいのはすぐに発動できる。
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さて、敵は⋮⋮どうやら土魔法で囲まれた家に驚いているようだ
な。一応確認したけど爆弾は中に入っていないな、よしこれで安心
して戦える。勝って家が消えましたなんて話にならないからな。
魔力を集中させ、敵がある程度固まっているところに︱︱︱
コール・ライトニング
﹁︱︱︱雷撃!!﹂
空からの突如の魔法の出現に敵は気づくことなくもろに受ける。
ちなみにステータスの魔力の項目には魔法耐性も入っている。つま
りゼロの彼らに魔法による攻撃は地獄で他ないのだ。
雷撃が走り、辺りが一瞬まぶしくなったかと思うと、バチィとい
う音が聞こえてくる。
しばらくすると辺りに焼け焦げた匂いが広がって行くのを感じた。
落としたあたりを見てみると、龍族が3体ほどピクピク痙攣しな
がら倒れている。
よかった。威力は落としたけど加減がわからないからな。もっと
も魔力ゼロの彼らにしてみれば加減しても死ぬほど痛いだろうけど
⋮⋮想像したくないね。
他の7体は最初は唖然としていたが、こちらに気づくとすぐに武
器を構える。さすがというべきなのか。龍族全体の実力なんてわか
らないし。
7体は俺めがけて一斉に襲いかかって来た。少しは怯んでくださ
いよ、さっきの魔法で逃げて下さいよ。
38
そう嘆きながらも、俺は、地面に手をつき魔方陣を展開する。俺
と敵のちょうど中間あたりが一瞬パリッとした。
まだ制御しきれてない、証拠である。
だが、敵はそんなことに、気づくことなく俺を倒さんといわんば
かりに襲い掛かってくるだが︱︱︱
﹁︱︱︱!?﹂
エレクトリック・トラップ
気づいた時にはもう遅い。7体のうち3体を魔方陣が閉じ込めそ
して魔方陣の中で雷撃が走る。
魔方陣で雷の範囲を制御し、そのまま罠へと応用した魔法雷罠だ。
>スキル︽罠︾を取得しました。
>スキル︽魔法制御︾を習得しました。
このタイミングでスキル取得かよ!? だが、考えるのは後回し
だ。
他の4体もこれにはさすがに驚いたのか足を止め、魔方陣に目を
向ける。そこを俺は逃しはしなかった。
﹁隙あり!!﹂
持っていたショートブレードの側面で横腹にうちこむ、体格差や、
身体強化を使っても、俺のステータスには勝てなかったのか、当た
った瞬間吹き飛んでいく、ついでに2体ほど巻き込んで。
そばにあった木をへし折り、そのまま森の中に消えていく3体。
ありゃ威力ありすぎたかな?
残りの1体が我に返り、そのまま俺に襲い掛かってくる。
39
ロングスピア
最後の一人が持っている武器は︻長槍︼。片手剣の俺との相性は
抜群だな。リーチの長さが2倍以上違うもんな。
だが、自動的に︽見切り︾が発動。敵の攻撃の軌道、範囲が赤い
一撃で仕留めようと突きをしたのが運の尽きだったな﹂
線となって見える。
﹁︱︱︱
バックステップをし槍の軌道から素早く横に逸れ、そのまま懐に
入り込もうと間合いを詰める。
だが、龍族も黙ってはいない。勢いそのままで薙ぎ払いに切り替
え、俺を止めようとした。
しかし、それも︽見切り︾であっさりと回避する。そして2歳と
いう小柄な体で懐に入ると、何も持っていない方の手で龍族のお腹
を突き上げる。筋力任せで、ド素人の打ち込みであったが、その威
力はレーザーアーマーの防御力など紙のように打ち破る。
打ち上げられた龍族はきれいな放物線を描きながら森の中へと消
えて行った。
>スキル︽雷魔法︾のレベルが上がりました。
>スキル︽片手剣︾のレベルが上がりました。
>スキル︽格闘︾のレベルが上がりました。
40
コール・ライエ
トレ
ニク
ント
グリック・トラップ
とりあえず、こいつらどうしよう。
俺の眼の前には雷撃と雷罠で気絶させた6体がいる。未だに動く
気配が見受けられないが念のため縛っておく。
﹁ほかの4体は⋮⋮放置でいいか﹂
︽千里眼︾と︽透視︾で確認してみる、怪我をしているが、一応
全員、生きてはいるようだ。
アース・ウォール
家を囲っていた土魔法も必要なくなったので解除する。そういえ
ば名前考えていなかったな。︻土壁︼でいいだろう。シンプルが一
番だ。イメージしやすいし。
そうこうしているうちに両親が戻ってきた。戻ってきた二人は、
顔色を変えている。そりゃそうですよね。
さて⋮⋮どう事情説明をしよう。
俺は両親への言い訳に悩む事になった。
41
第2話:成長期︵後書き︶
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。
感想、アドバイス、誤字脱字報告などありましたら気軽にどうぞ
42
第3話:訓練︵前書き︶
※以下の部分を改変しました。
加筆修正をしました。︵大幅修正︶
・スキル︽商人︾を︽商人の心得︾に変えました。
※10/24
※11/3 誤字を一部修正しました。
43
第3話:訓練
昔、親が大切にしていた花瓶を割ったことがあります。その時は
雷でも落ちたのかというくらい怒っていました。その後、安物とい
うことが判明し逆に怒り返しましたが。
今は反撃も許されない感じです︵泣︶
数分前︱︱︱︱︱
﹁いったい何をしたんだ!﹂
アレスの足元には6体の龍族が正座して怒鳴られている。先ほど
目覚めて︵物理的に︶何があったのか問いただしているようだ。話
さなかったら殺してやると言わんばかりの勢いに、龍族の面々は正
直に俺にやられたことを話しているようだ。
>スキル︽ポーカーフェイス︾を取得しました。
こんなスキルまであるんかよ⋮⋮、俺が怒られていたわけじゃな
いんだが⋮⋮
レイナがまあまあとなだめる。
﹁こいつらが言うにはクロウにやられたようだが﹂
44
﹁どうやったらこうなるんだろうな﹂
俺は︽遮断︾スキルでほとんどのスキルを隠している。レベルも
1にしている。
もうバレてもいい気がするが、もう少し黙っておこうかな。
﹁まぁいいか、こいつらどうしようか﹂
﹁クロウが初めて倒した獲物だからな∼﹂
うぉい! 俺が倒したことになってるのか!? いや事実ですけ
ど、なんでこうなったのか聞かないのか!?
﹁クロウに聞いてみるとするか、クロウお前はどうしたい?﹂
アレスが俺の顔を覗いてくる。俺は今さっき取得した︽ポーカー
フェイス︾に助けながらしらないふりをしておく。
﹁ふむ、クロウは殺したいと言っているぞ、じゃあそこの崖から落
とすか﹂
マテや脳筋ジジイ、俺そんなこと言っていないのだが、俺はまだ
言葉を覚えてないから関係ないだろと思っているのだろうな。
このまま崖から突き落とされるのはちょっと嫌だな。そう思うと
龍族のやつらを助けることにした。正直俺を殺しかけたやつなので
迷ったが、アレスに説教されているのを見るとなんか可哀そうにな
ってきた。
45
アレスが崖まで引きずって行こうと後ろを向いた瞬間。俺は︽跳
躍︾と︽身体強化︾を同時に発動しアレスの背中へとドロップキッ
クを食らわせる。どこかの某サッカーマンガみたいにオーバーヘッ
ドでもよかったのだが、ここは普通に行こう。
俺の素早さに察知しきれなかったのだろう。もろにキックを受け
たアレスは2転3転と転がっていく。レイナはその様子を見て驚き、
そして笑いを堪えようと必死に口を堅くしめている。
そして、久々に人に向かって声を出す。うん、2年ぶりだな。
﹁俺の意見を聞いてくださいよ﹂
ぎょっとしたような目で俺を見る。おいおいそいつらが俺に倒さ
れたと聞いたときはあんまり不思議に感じていなかったのに、ここ
でそんな顔するか?
﹁お、おましゃべ﹂
﹁あっ、それとも龍族語の方がいいですか?﹂
さっきから色々と耐えていたレイナも耐えきれずに笑い出す。た
ぶん驚いているのだろうがそれよりもさっきの俺のドロップキック
の方に意識が飛んでいるのだろう。
いや、そこまで笑うほどですか? 返り血がついている服で笑い
転げているシーンとかシュールすぎるのですが。
そこからは俺への質問攻めだ。いつから喋れた? 本当にこいつ
らはお前がやったのか? と先程から聞きたくてしょうがなかった
のだろう、次々と聞いてくる。
46
そして冒頭の俺の嘆きに戻る。
﹁なるほどな⋮⋮お前がこいつらを倒せたのはそのおかげだったの
か﹂
ちなみに前世のことは言っていない。なぜか言葉がわかったのと、
そのおかげで暇なときは魔法などの本を見ていたということだけ言
っておいた。
﹁そういえば前、1歳ごろにはもう言葉を話せるとかいうやつが私
の村にいたな﹂
1歳で話せる⋮⋮いや、1週間ほどで立てるなら可能かな。
レイナの援護でとりあえず納得したアレスは俺に改めてどうする
かと聞いてきた。
俺としてはもうこのまま逃がしていいような気がするが、アレス
に任せたら間違いなく殺すだろうな。
﹁もう放置していいのでは?﹂
こういう時は放置プレイに限る。俺としては殺してほしくないの
で、やっぱり日本人だな俺。
﹁なに、このまま帰らせろというのか!?﹂
﹁もういいでしょう。俺としてはもうどうでもいいんですがね﹂
チラッと龍族の方を見る。龍族は﹁ごめんなさい、もう二度とし
ません﹂と言わんばかりに額を地面にぶつけて謝っている。雷系の
47
魔法はそんなに痛かったのかな?
﹁こんな状態ですし﹂
もう見てられませんよ、という顔をしてアレスの方を見る。アレ
スも龍族をチラッと見て、しばらく考えた後仕方ないなぁ、と呟く
と、そのまま縛っていた縄を切り落とし、﹁さっさと行け﹂と言い
ながら、追い出した。
ついでに他の4人も、連れて帰らせた。3体同時に吹き飛んだ奴
らは、大丈夫だろうが、最後に昇○拳を食らわせたやつは正直もう
戦線に復帰することは不可能だろうな。命までは取らなかったにせ
よやりすぎたかなと思わざる得なかった。
>スキル﹁加減﹂を取得しました。
今頃かよ! それ雷使った時点で欲しかった! かわりに﹁魔力
制御﹂が手に入ったのか。なんか段々このスキルのことが、よくわ
からなくなってきたぞ⋮⋮
こうして俺の初めての実戦は終わった。しばらくは平和かな⋮⋮
無理でした︵泣︶
48
いや、別に襲撃があったわけじゃないですよ? 翌日から、アレ
スが﹁特訓するぞ﹂と言い初めて、外で訓練三昧です︵泣︶
朝早くに準備運動のかわりに素振り。そのあと魔法訓練。そして
午後は実戦。
スパルタすぎる! こんな奴だったのかぁ!
しかし、反面これでレベルアップできるとも思っていた。これま
で部屋に籠っていたからな、いい加減動きたいと思っていたんだよ
な。
レイナは複雑な表情をしていたが、最終的には自己防衛のためだ
とアレスが言うと納得したようだ。それにしても、龍族って意外と
やさしいな。いやレイナが例外なのかな?
いや、やっぱり普通だよ。2歳からこんなことやらせるアレスが
例外なんだ!
魔法訓練はアレスの出来るのだけ使い、あとは別のときに練習す
ることにしよう。嫉妬されても困るからな。
スキル・スティール
実戦はアレスの方が経験があるので最初はマジで負けることが多
かった。しかし俺の︽理解・吸収︾のおかげで1週間ぐらいすれば
余裕で勝てるようになった。もっとも何連勝もしたら悪いので普段
は手を抜いてわざと負けおき、たまに勝つようにする。
︽加減︾スキルは便利だな。
3ヵ月もすればこうなっていた
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:クロウ・アルエレス
種族:龍人族︵龍族・人間︶
49
レベル:31
筋力:2,680
生命:4,250
敏捷:3,610
器用:2,690
魔力:7,300
スキル
・固有スキル:︽理解・吸収︾︽神眼の分析︾︽龍の眼︾
︽千里眼:3︾︽透視:5︾
・言語スキル:︽大陸語︾︽龍族語︾︽妖精語︾︽兎耳語︾
・生活スキル:︽倉庫:10︾︽換装:4︾︽調理:4︾︽野営:
2︾
︽魔法道具操作:4︾︽家事:3︾︽演算:2︾
︽商人の心得︾︽ポーカーフェイス︾
・作成スキル:︽武器製作:3︾︽武器整備:4︾︽防具製作:3︾
︽防具整備:4︾︽装飾製作:2︾︽装飾整備:2︾
︽錬金術:3︾
・戦闘スキル:︽身体強化:5︾︽見切り:6︾︽気配察知:4︾
︽回避:3︾︽状態異常耐性:3︾︽遮断:5︾
︽跳躍:4︾︽心眼:4︾︽射撃:2︾︽罠:3︾
︽加減:6︾︽斬撃強化:5︾
・武器スキル:︽片手剣:5︾︽細剣:3︾︽刀:5︾︽大剣:3︾
︽槍:5︾︽投擲:2︾︽斧:2︾︽弓:3︾
︽クロウボウ:2︾︽鈍器:2︾︽盾:3︾︽格闘:
5︾
・魔法スキル:︽魔道士の心得︾︽火魔法:5︾︽水魔法:1︾
︽風魔法:3︾︽土魔法:4︾︽雷魔法:3︾︽光
魔法:3︾
︽闇魔法:3︾︽治癒魔法:3︾︽音魔法:3︾︽
毒魔法:2︾
50
︽付加魔法:4︾︽詠唱:5︾︽詠唱短縮:5︾︽
暗記:6︾
︽魔力操作:6︾︽瞑想:3︾︽魔力制御:5︾
・特殊スキル:︽フォース:1︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
武器などは本を読んで、親が出払っているときに使って身に着け
た。なかでも刀は非常にしっくりと来た。日本人だな。⋮⋮なんで
も日本人だからというのはよくないな。
そもそも刀という分類があるのが驚きだ。たぶん曲刀と一緒のカ
テゴリーなんだろう。
︽斬撃強化︾は刀を扱っているときに取得した。やっぱり切るこ
とに特化した武器なんだな。もっとも戦国時代ではほとんど役に立
たなかったんだけどな。︵鎧の防御力に勝てなかったらしい︶
あと︽錬金術︾はアレスが魔法道具を作っているところを見て覚
えた。アレスが言うには作れる人は、あんまりいない為、重宝され
るスキルで、王都ではこれで生計を立てていたとのこと。
これさえ作れば生計が立てれるのか、王都ぐらいは、いっぱい職
エーテル
人がいてもおかしくないと思うのだが。
ポーション
︻回復薬︼や︻魔力薬︼というアイテムからスタートするのかな
と思ったら、︻発火棒︼や︻ランプ︼などの生活アイテムから作成
しだした。
︻回復薬︼などはもっとうまくならないと出来ないらしい。アレ
スもたまに失敗していた。
もっとも、あんまりたくさん持ち運べないんだけどなとつぶやい
ていた。
︻回復薬︼一個の大きさは試験管一本分ぐらいの大きさだ。この
51
量で切り傷を治せるほどの力を持っている。もっと密度の高いもの
なら内臓の損傷も治せるんだとか。
確かにこの大きさなら戦闘のときは10本程度が限度だろう。即
効性では役に立つだろうが長期戦になると厳しいものがある。
ストレージ
もっとも俺は︽倉庫︾スキルが最高レベルなので無限に入れるこ
とができるから問題ないのだが。
それにしてもこのスキルだけ少し謎めいている。魔力を消費する
わけでもないのでレイナも使える。さらに入る量もスキルが上がる
につれ増えるようだ。
1・・・1個
2・・・2個
3・・・4個
4・・・8個
・
・
・
・
10・・・容量無限
・ ・
レベルが1上がるにつれ前の最大容量の2倍の量が入るようにな
るようだ。
そしてこの数は、物の数ではなく種類とのこと。
つまりスキルレベル1で回復薬1個が上限ということではなく、
同じ回復薬なら100個でも1000個でも、持てるそうだ。どん
な仕組みだよ。
そう考えるとゲームの世界って結構すごいところあるよな、某ゲ
52
ームでも回復アイテム1000個ぐらい持って、物理量で押す戦い
も多かったし。
もっとも、このスキルを持っている人はほとんどいない。先天的
に持っている人︵俺︶や後天的︵アレス、レイナ︶を合わせても世
界に100人いるかいないかだとか。︵もっともこれはわかってい
るだけで実際は国が重宝するので実際はもっといるはず、とのこと︶
レベル10になると容量を気にしないでいいのは大きい。アレス
にレベル10ってどれくらいすごいのと聞いてみると。
﹁⋮⋮魔法で言うなら国一個を滅ぼせる﹂
と、どこか遠い目をして言った。おお、恐ろしいことで⋮⋮。例
え取得出来ても加減は間違えないようにしないとな。
ストレージ
﹁もっとも10などは見たことない、俺もお前の︽倉庫︾で初めて
見た﹂
そんなに珍しいのか。やっぱり10は神の領域なんだな。
そうなると8ぐらいで、もう上がりにくくなるのかな? 聞いて
みるとどうやらそうらしい。何十年も魔道の研究をし続けた人も8
が限界とのこと。そいつの実力不足じゃないのかと思ったが、どう
やらその人は天才の分類だったようで、その人物を超える人物は4
00年たった今でもいないとのこと。
うへっ、そんなにすごいのか。
そうなると10はうかつに見せない方がいいな。下手に見られて
国に目をつけられるとか嫌だよ。もっともこんなところに、誰も来
53
ないと思うけど。来るやつなんて龍族ぐらいだろうな。
訓練に明け暮れることさらに半年、スキル上昇がなくなってきた
頃のこと。
俺がアレスと、実戦をしていたときのことである。
ふと、複合魔法というものはないのかと思っていた。もちろん戦
いながら。もうアレスでは、練習にならないと言うが正直な感想だ。
2歳児に負けるって⋮⋮
あまりに力の差があるので、最近はいろいろ考えながら戦ってい
る。そのときに、ふと思ったのである。
試してみるとするか。
俺はバックステップで距離を取る。そして得意な火を基盤に風を
混ぜ込んでみる。
イメージは火と風が螺旋状で互いに混ざることなく進んでいく様
子。
手の平に魔力を収束させ、そして︱︱︱
54
フレイム・インパクト
﹁︱︱︱︽炎風拳︾!!﹂
平手を出し火と風が混ざった魔法が飛び出す。本来は空気抵抗や
魔力の分散によりその威力は距離に比例して落ちていく。
だが、︽魔力制御︾によりその威力はほとんど減衰することなく
前に進む。さらに風が空気を取り込み火の威力は距離が進むにつれ
威力を上げていく。空気抵抗同様で自然の法則の影響だろう。
さらに回転にも手を入れた。直線に進むのではなくドリル状に突
き進んでいく、そうジャイロ回転だ。すさまじい回転数により風は
空気を取り込み、火は増々、威力を上げていく。
こうするにはかなり魔力制御をしなければならないが、その辺は
俺の努力の賜物と言わせてもらおう。
こうやってアレスの横をすり抜けて行った魔法は、凄まじい轟音
と共に、熱風を巻き起こし森を貫通し消えて行った。
あとに残ったのはきれいに開いた穴と、わずかに火に触れ変色し
た、燃えていない木々だけだった。
マジック・フュージョン
>スキル︽複合魔法︾を取得しました。
﹁⋮⋮﹂
やべぇ⋮⋮これかなりの威力があるんじゃないか?
スキルも気になるけど、これも気になる。
一応加減はしておいたから死ななかっただろうが、もしアレスに
当たっていたらかなりの重症だったんじゃないか?
いや、魔力を持ってるからある程度は軽減されるか。
じゃあレイナだったら即死かもな⋮⋮
55
﹁お、お前どうやってやったんだ!?﹂
アレスが俺の両腕をつかんで先ほどの魔法をどうやったのかと聞
いてくる。目がキラキラしてる。ああこの人完全に戦闘狂だ。どこ
かの戦闘民族じゃないけその分類だ。俺ならあの魔法を訓練でぶっ
放されたら怒ってる。
﹁ど、どうやったって、火と風を合わせたんですよ。火を基盤にし
て風を加えたら火を加速させつつ風による斬撃攻撃が加わるので使
えるかな⋮⋮と﹂
﹁か、風魔法だと? お前使えるのか? 土魔法を覚えているじゃ
ないか﹂
﹁えっ⋮⋮﹂
あっ、これもしかして⋮⋮
﹁ふつう火と水、風と土、光と闇は一人が同時に覚えることができ
ないんだ! ましてや魔法を合わせる!? そんなの普通に不可能
だ!!﹂
やべぇ、マジかよ。ゲームとかでその手の設定をやっているとこ
ろはあるけど、ここはそのパターンだったか。
﹁お、教えてくれどうやったらできるんだ!﹂
この人は⋮⋮自然の法則を無視する存在よりも、自分が強くなり
たいんだな。最近俺に負けるたびに夜まで特訓してはレイナに沈め
られていく、というシーンをちょくちょく見る。
56
﹁いやどうやってって⋮⋮普通にトレーニングしてたら使えたので
どうやるかは⋮⋮﹂
覚えたのはスキルのおかげですし。
﹁お前、今、土使えるよな?﹂
﹁できますよ﹂
そういうと目の前に簡単な壁を作る。
アレスは何も言わなかった。ただ目の前に自分のできないこと︵
戦闘系で︶をやっている息子になんとも言えない複雑な気持ちなの
だろう。
しかも3歳です。この間3歳になりました。
﹁⋮⋮よし、ならば⋮⋮﹂
⋮⋮なんだか嫌な予感がするのは俺だけでしょうか
﹁そのお前にかああぁぁぁぁぁぁつ!!!!!﹂
そういうと襲い掛かってきた。と言っても気配察知で予感はして
たので回避するのですが。︽見切り:7︾を習得しているから、余
裕で回避できます。
﹁いや、勘弁してくださいよ﹂
﹁勘弁してくださいとはなんだ! いくz︱︱︱ぐふっ!﹂
57
アレスの戦闘狂は、横腹に謎の拳が入ることで終焉した。薄青色
の皮膚に頭に生える2本の角。凛とした顔つき。そしてやや小柄な
体格に、ひときわ目立つ、2つのメロン⋮⋮そちらにはあんまり視
線を移さないようにしておこう。
﹁あんた自分の息子に、なにやっているんだい!﹂
﹁お前ならわかるだろ! こいつがやっているk︱︱︱ごはぁ!﹂
力説しようとするがすべて拳で沈められる。レベル差で筋力はア
レスの方が高いんだけどな。やっぱり種族別の見えない補正とかあ
るのかな。いや身体強化も入れてるのか?
﹁ほら、もう終わりな。勝負は決まったんだろ?﹂
あっ、さっきの見てたのかな⋮⋮いや、たぶんあれ︵炎風拳を撃
った跡︶見てから言ったんだろうな。
﹁やめろ! 俺はこいつに勝って⋮⋮ぐわあぁぁぁぁぁぁ﹂
ズリズリズリ∼と引っ張られ家に押し込まれるアレス。くそぉー
! という声が聞こえるがその後、鈍い音が聞こえたかと思うと、
急に静かになった。
その後、家から出てくるレイナ。いやほんとありがとうございま
す。⋮⋮でも待ってください。その手に持っている槍ハナンデスカ
? ソレ イツモ ツカッテル モノ デスヨネ?
﹁さて⋮⋮急で悪いんだが私にも見せて欲しいわね﹂
58
ああ、だめだこの一家⋮⋮
﹁私も龍族の一人、凄い技とかに興味があるのよ﹂
そう言いながら槍を構える。
﹁いや、見せるので、や、槍おろし︱︱︱﹂
﹁行くぞ!﹂
うっそぉぉぉぉおおおん!!!!
59
第4話:フォース︵前書き︶
加筆修正を行いました。︵大幅修正︶
誤字修正をしました。
※8/5 加筆修正しました。
※8/10
※10/29
※11/3 誤字を一部修正しました。
60
第4話:フォース
ぬぉぉぉぉぉ!
俺は︽見切り︾をフル活用して、襲い掛かる魔の槍を必死で回避
する。
レイナは基礎能力ではアレスよりやや下だが、それを補うほどの
技術で襲い掛かって来る。正直アレスより強い。
俺もショートブレードで応戦をするが、突破口を開けないでいた。
跳躍か何かで飛び跳ねて、魔法を放てば終わりそうだが、さすがに
自分の母親に魔法を打ち込むのは気が引けるのでやめておく。
槍の軌道を︽見切り︾で読み、スレスレで軌道を変える。口で言
うのは簡単だが、一歩間違えれば致命傷になりかねない危険な技で
ある。
﹁ちょ、お母さん見せるから落ち着いて!﹂
﹁やめてほしいなら全力でかかってきな!!﹂
やめてー! やっぱり夫婦だ! 戦闘狂いだ! もう当初の目的
からかけ離れているような気がするんですが。
これはもう、アレスと同じようにするしかないな。
すばやく後ろに引き魔法を発動しようとするが
﹁させない!!!﹂
61
一気に前に詰め寄って来る。正直槍との戦いはこれが苦手なんだ
よな。この長いリーチをなくさない限りは、中々有効打を打てない。
あーもう! なんで両親揃ってマジでやってきてるの!? さっ
きの言葉は!?
もしかして俺と戦うために無理やりアレスを退場させたのか!?
仕方ない。俺は跳躍でレイナの槍が届かない位置まで飛び上がると
フレイム・インパクト
﹁︱︱︱︽炎風拳︾!!!﹂
もちろん手は抜いている。レベルでいうなら1∼2程度の威力だ。
魔力制御も多少荒くして威力を落とすようにしている。
そして、その魔法は一直線にレイナへ向かっていく。
レイナはそれを避けて⋮⋮って避けない!? おいマジで当たる
ぞ!?
地面に魔法がぶつかり、あたりに熱風が吹く。さっきほどではな
いがそれでもかなりの威力がある。
そして焼けた先にはやけどしたレイナが⋮⋮否、なんか鱗を纏っ
た戦士がいました。
⋮⋮えっ? 鱗を纏った⋮⋮人?
62
いや、あれはレイナだ。皮膚が鱗になっただけで色や角、体の形
には変化がない︵あとメロンも︶
いやいや、あれ何!? もしかして、と思い俺はとあるスキルを
調べてみる。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽フォース︾
分類:特殊スキル
属性:︱
効果:人族以外が扱える力。個々によって使える能力は変わってく
るが
種族別に大体固定されている。
例:龍族 ↓ 飛行能力、皮膚の硬化 など
妖精族↓ 魔力アップ など
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
やっぱり! くそぉ、先に調べとけばよかった。
なぜ調べなかったのか自分でも不思議なくらいだ。他の基本スキ
ルに目が行き過ぎていたか
硬化したレイナの背中に翼が生える。あれフォースって一人につ
き一個じゃないの!? それとも複数の能力を総合してフォースに
63
しているのか?
﹁とりゃああぁぁぁぁぁあああ!!!﹂
飛び出して一気に間合いを詰めてくるレイナ。早い!
﹁くっ!﹂
間一髪で槍の攻撃は防ぐが、次に繰り出された横からの蹴りには
反応しきれなかった。思いっきり蹴り飛ばされ近くの木々の間に落
下してしまう。
ま、マジだ! マジでやってる! 死ぬ!
いや大して痛くないけどこれでハッキリとわかった。俺の両親は
戦闘のときはマジだということを
だったら俺も遠慮はいらないよな。いや、さすがに魔法は手加減
しますけど。
少なくともレベル1∼2程度の攻撃ではあの鱗にダメージは無い
のだろう。
となると、威力はは4∼5程度が必要か。
いや、まて確か︱︱︱
考えていると、辺りが急に暗くなったので上を見てみると、そこ
には
﹁もらったぁ!!!﹂
全力で槍を突きおろしてくるレイナが、ちょっ、心臓一直線コー
スじゃないですか!
64
︽回避スキル︾で全力で回避する俺。地面を転がるように移動し、
家のまん前︵初期位置︶へと戻る。レイナも続けざまに出てきた。
再び相対する俺とレイナ。レイナは相変わらずフォースを使用し
たまんまだ。一体どれほど持つんだろうな。まっ、それはこれから
自分でやっていけばいいか。
さきほど考えてたことを実行する。手に小さな水魔法を作り上げ
ると
アクア・ショット
﹁︱︱︱︽水衝撃︾!!﹂
撃つ。時速にしておよそ60キロ程度。威力はゴム鉄砲ぐらいだ
ろう。スキルレベル1ではそれが限界だ。当然︱︱︱
﹁そんなもの効かない!﹂
槍で水玉を簡単につぶしていく。だがそれでも俺は撃つことをや
めない。そのたびにあたりに水しぶきがまき散らされていく。
﹁ほらほらどうしたぁ!!!﹂
避けるの面倒なんだね。濡れても全然気にしてないや。もっとも、
透けるというラッキースケベイベントは起きない。ただエロいとは
思う。
そして4、50発、撃ちこんだ辺りで、俺は撃つのをやめた。
﹁はっ、疲れたか? じゃあそろそろ⋮⋮ん?﹂
槍を構えたときレイナは異変に気付いた。
65
スキル︽危険察知︾は自分が危険だと体が反応したときに発動さ
れる。それは今までの経験や勘がものを言う。特に経験はスキルレ
ベルに大きく響いてくる。
より多くの魔法を使う。見る。剣を振る。こうやってこの世界の
人はスキルを身に着けていくのである。
まぁそれが普通だろう。俺が例外なのだ。
つまり、俺らでいうスキルレベルはこの世界でいう経験のことを
指すといえよう。
まあゲームみたいに好きに振り分けれるポイントとかじゃないか
らな。
おそらくその経験が無かったら気づかなかっただろう。いや目の
前にいる人物が魔法を使い自分の夫を凌駕するほどの魔法を使える
ということを知らなかったら気づかなかったのかもしれない。
﹁⋮⋮気づきましたか? だけど、少し遅かったですね。いや水を
槍で受けておらず避けていれば、俺の方があぶなかったんですけど
ね﹂
レイナと俺の周囲は俺が放った水魔法により一面水浸しになって
いる。そしてその水は地面に吸い込まれ︱︱︱否、吸い込まれるこ
となく停滞している。傍から見れば乾いた地面の上に水が乗ってい
る状態だ。
﹁これは⋮⋮!?﹂
﹁まず言っときます。ごめんなさい。そして︱︱︱﹂
手に貯めた雷を地面に向かって思いっきり振り落す
66
コール・ライトニング
﹁︱︱︱恨まないでくださいよ! ︽雷撃︾!!﹂
だが、この魔法で当たるなら苦労しない。レイナはもちまえの身
体能力で一気に詰め寄る。
﹁させない!!﹂
だが、それが狙いだ。俺は魔法を発動したままサイドに飛ぶ。そ
して手にまとわりついてる雷を水︵地面︶に叩き付け放電をする。
そして、雷は水を伝わり、同じく濡れているレイナへと移ってい
く。
避けることができないその技は、頑丈な龍の鱗の防御力も余裕で
超えた。
﹁ぐわあああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!﹂
さすがのレイナもこれには耐えきれず叫び声をあげる。おそらく
今まで感じたこともない威力だろう。俺は初めての襲撃の時ふと思
ったことがあった。
戦いが終えた後の龍族はやたらと怯えていた。初めはアレスの怒
鳴り声に怯えていたのかなと思ったが、それはどうかと思った。確
かにアレスの怒鳴り声は煩くて多少は怖かったが、その程度の精神
で人を殺したり出来る物かなと思った。もっと。も初めはそういう
やつらもいるだろと思ったので対して深くは考えなかったが、ふと
思い直した。
そう、彼らは6人︻全員︼で怯えていた。
67
そして彼らに共通する出来事、それは俺の︻雷魔法︼を受けたこ
とだ。3人は雷撃による不意打ち。残りの3人も罠による雷攻撃で
沈んでいた。
もしかして龍族は雷に弱いのか? 俺の頭の中でそんな考えが浮
かんだ。
そしてその考えはほぼ確信になった。
フレイム・インパクト
さきほど俺が撃った︽炎風拳︾はスキルレベル的に言うと威力は
3クラス程度。強さ的には中級者クラスだ。
そして俺が使った︽雷撃︾は︽加減︾スキルを限界まで使い威力
は1クラスもないだろう。初心者に加え、魔力がほとんどない人が
使った程度のものだ。おそらく普通の人間が受けても、多少ピリッ
と来る程度のものだ。
だがその魔法は今、レイナを痛めつけている。3クラスの攻撃で
も全く効かなかったレイナがだ。
これは俺の推測だがおそらく龍族の皮膚は電気を通しやすい性質
なんだろう。普通の人間でも大したダメージがない雷であれほど痛
がっているんだから、たぶんそうだろう⋮⋮oh⋮⋮自分の親にな
にやってるんだろう俺、そして今頃気づくか俺。
あわてて雷を解除する俺。水もすべて蒸発させ、雷もかき消す。
レイナは、ピクピクしながら地面に伏している。あわてて俺は治
癒魔法を唱える。しばらくするとレイナは回復した。
﹁くっ⋮⋮完敗だな。あんな魔法見たことなかった﹂
68
見たことなかった? ただ単に雷と水を合わせただけなんだが、
俺は雷は見たことあると聞いてみた。レイナはあるけどそれが何か
と言ってきた。
あれ、雷は見たことあるのか、じゃあ水と雷を合わせたところか?
あれ⋮⋮ちょっと待て、俺が今扱っていた魔法って⋮⋮
アース・ウォール
・土魔法:︽土魔法︾
・土を固めるため、土の材質だけいじった。
・水を地面に染み込ませないため
︵雷を使っても威力が半減する可能性があったので
後、家の前を泥沼にしたくなかったので︶
アクア・ショット
・水魔法:︽水衝撃︾
・水を作る実行のため。
・また火が効かなかったので効くかなと思ったから、結論は
全く効きませんでした。まぁそのおかげで雷が弱点とは確信し
たけど。
コール・ライトニング
・雷魔法:︽雷撃︾
・雷が弱点という推測を確かめるため
・水と合わせて感電を狙った。
⋮⋮三魔法同時? 普通、水魔法とかは撃ったあとは魔力制御さえあれば自由に消す
ことはできる。ただし四散した魔力を集めて再び作ることはできな
い。
魔力を移動させて任意で発動することができるが、それにも結局
69
魔力は使う。
そして、俺は必要以上に水が外に行かないように水を集めていた。
同時に地面も固めていた。これは一見魔力を消費しないように見え
るが実はかなり俺なりに凝ったことをした、そこまでしないでいい
だろうと言うぐらいのことをしたが、俺は自分がまだ弱い︵経験で︶
と思っているので、確実に行く方法を取らせてもらった。
ふつう罠系魔法はばれない様に魔力を極限まで消し発動と同時に
一気に魔力を開放する。それは気配察知で感づかれないようにする
ためである。
それを土魔法に応用した。水魔法を撃ちながら地面に目が行かな
いように少しずつ地面を固めて行ったのだ。
あとは罠同様少しの維持だけでいい。維持なのでやっぱり多少の
魔力はいる。
そして最後に雷の止め。
つまり、俺は今3種類の魔法を同時に扱っていたのである。終わ
った後にレイナは気づいたのである。俺も気づいていなかったこと
を。
そう気づいたとき
︱︱︱特殊条件︽賢者︾を満たしました。
>スキル︽魔法合成︾を取得しました。
えっ、なにこれ?︽魔法合成︾って? 調べてみると。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽魔法合成︾
70
分類:古代スキル
属性:神
効果:取得している種類の魔法を自由自在に合わせることができる。
威力は各魔法のスキルレベルに依存。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
なんかまたキターーーーー!?
もうなにこれ!? えっ? チートスキル!? もうこの世界の
法則完全に無視していませんか!?もういやだ、遊ばれているよう
な気がしてなりません︵泣︶
しかもそこに
﹁ふっかあぁぁぁっつつつ! さぁやるぞぉ!﹂
ドアをぶちやぶってアレス復活!
もういやだぁ!
その後アレスは俺とレイナでフルボッコにしました。︵レイナは
主に、ドアをぶっ壊したことに対して、俺はもうやけくそです︶
71
その夜、俺はこっそり家を出ると家が少しだけ離れたところで︽
フォース︾の練習をしていた。人によって固有能力が違うようなの
で、俺は何を持ってるのか気になったのだ。
親の前で見せたらまた面倒なことになりそうで怖いので夜に決行
したのだ。ちなみに親は爆睡している。寝たら中々起きない。まだ
歩けない時に夜おしっこしたいと思ったときは、散々暴れまくった
のに起きなかった。
その後の結果は聞かないでくれ、もう思い出したくねぇ⋮⋮
気を取り直し、眼をつぶり意識を集中させる。スキルには固有発
動︵魔法系など︶と自動発動︵見切り、気配察知など︶があり、フ
スキル・スティール
ォースは後者にあたる。
これも︽理解・吸収︾の効果なのかなんとなく使い方がわかる。 やがて全身に力があふれる感覚がある。
眼を開けてみて俺の手を見る。暗闇でよく見えないので、火の魔
法を手に当て皮膚を見る。
するとそこにはいつも見慣れている肌色の皮膚ではなく、青色を
していた。レイナみたいに青空色っていうわけではなく普通の青と
でもいうのだろうか。
﹁うぉっ!?﹂
思わず声が出てしまいあわてて抑える。どうやらレイナと同じ硬
化の能力があるようだ。じゃあ他はどうだろうか。
再び意識を集中させる。するとふと体が浮く感じたので目をあけ
今度は背中あたりに手を当てる。
するとそこには翼らしきものが⋮⋮
72
﹁⋮⋮マジか⋮⋮﹂
すげぇな。軽く飛んでみたけど普通に俺の思い通りに飛べる。こ
んなに初めから飛べるものなのか? それとも風魔法系とか覚えて
いるからその分の補正があるのかな?
ともかくこれは便利だ。いざというときは、これで逃げよう。空
中からなら龍族相手には雷で行けるな。ほかのが来たら⋮⋮その時
は考えよう。
さて、ここまではほぼ予想通りだ。問題はここからだ。
俺には他に特殊な能力があるかどうかだ。色々試して見ることに
する。
できねぇ⋮⋮
いろいろ試して見たが何もできねぇ、例えば、爪が生えてドラゴ
ンクローみたいなのができるかなと思ったができない。
もっとも、爪が生えないだけで近いことはできる。硬化で体の強
度が上がっているので、あとは身体強化で強引に切り裂いたり、手
73
ウィンド・スラッシュ
に風を纏い前方に飛ばすことはできる。風魔法で︽風斬︾という技
があるが、それより魔力の消費量が低くても使えるので、これは何
かに応用できそうだ。
しかしあとはこれっといったのはなかった。
﹁うーん、他にはないのかな﹂
しばらく考えていたがそろそろ時間も時間なので帰ることにする。
それからしばらく夜はフォースの練習をしていたがこのあと特に
これというものはなかった。
ある日の夜、フォースばかりの練習もあれなので、俺は一番成長
が遅い魔法︽水魔法︾の練習をしていた。しかしフォースの練習も
かかせないので硬化したまんまでやっている。フォースを使える限
界時間を調べるためだ。
︽水魔法︾の中には︽氷︾の属性も入っている、そのため氷で細
かい細工品を作る練習をしていた、別に何か商売をやろうとかない。
けど細かい創造は難しいので練習になるのだ。魔力の消費量のわり
に周りにバレにくいのもある。
しかし思ったより難しい、日本にいたころの細かい装飾を思い出
し、似たような物を作ろうとしたが、どうしても小さいところは無
理だった。
うーん、あんまり器用じゃなかったけどなぁ、俺の想像力が足り
ないのかな。まぁ日本にいたときはネックレスとかに縁がなかった
からな⋮⋮
ええ、あげる人なんかいませんでしたよ25年間。
74
思わず昔の嫌な思い出を思い出しため息がでた。その時だ。
妙に口の中がパリッとした。あれ? なんだ今の感覚は?
口の中に何か入ったのかなと思い唾を吐く。だが特に、これっと
いった感覚は無く何も入っていなかった。
なんだったんだ?
もう一度ため息を吐く感じで息を吐いてみる。すると同じように
パリッとした感覚があった。この不思議な感覚はなんなんだ。しば
らく考えていると⋮⋮
そして俺はあることに気づいた。もしかして⋮⋮
今度は意識的にイメージする。そして︱︱︱
﹁︱︱︱︽咆哮︾ !!!!﹂
すると凄まじい音と共に前方へ雷を放出しつつ龍のブレスが飛ん
でいく。威力を加減していなかったせいか、かなりの威力だった。
﹁⋮⋮すげぇ﹂
ドラゴンフォース
>特別条件︽龍の力︾を満たしました。
>スキル︽フォース︾が︽龍の力︾に進化しました。
⋮⋮あっ、これやばいかも⋮⋮スキル進化も気になるけど、それ
75
よりもまずいことが⋮⋮
すでに感じていた。気配察知でこちらに来る人が二名。大ジャン
プをしている。お前ら人間じゃねぇ、つーか︽跳躍︾スキル持って
ないのに何でそんなに高く飛べているんだよ。
この辺で来るやつはあいつらしかいないだろ。
﹁ぬぉぉぉぉぉ、みつけたぞぉぉおぉぉぉっぉ!﹂
アレスが突っ込んでくる。あっ、あれ俺の姿わかっていないパタ
ーンだ。レイナはわかっているのかな?
ちょうどいい、試して見よう。
﹁だれだぁぁぁぁぁぁてめぇはぁぁぁぁ!﹂
あっ、マジでわかっていない。そしてあの声はアレスだ。間違い
ない。
ダダこねる
最近、俺はアレスに対しては特に躊躇は無くなった。アレスが全
力でこいやぁというのでやっているのと、手を抜くと後々面倒ので。
再びさっきと同じように意識を集中させる。咄嗟に発動できない
のでまだまだ実戦では使えないだろう。
息を大きく吸い込み︱︱︱
﹁︱︱︱︽咆哮︾ !!!﹂
再び、あたりが明るくなる。今度は雷ではない。周囲を明るくす
るために光属性のブレスだ。︽魔力合成︾のおかげなのか任意のブ
76
レスを出すことができる。
そしてそのブレスはピンポイントでアレスに向かっていく。先程
よりか範囲を抑えている。もっとも威力は縮小されたことにより上
がっているが。
ちなみに放つ前にどっちがアレスかは確認した。暗くても片手剣
と槍の違いはあかりました、あとメロ︵ry
その後、辺りにはアレスの絶叫が響いていた。
俺の目の前には、俺のブレスを受けてボロボロになっているアレ
スがいる。レイナは朝食の準備をするために台所にいる。もっとも
朝食にはまだ些か早く、まだようやく朝日が登り始めた時間帯だが。
﹁⋮⋮で、あそこで練習していたと﹂
﹁はい﹂
﹁全く、お前には驚かされるばかりだ﹂
﹁いえ、それほどでも﹂
77
﹁それにしても、もうおれたちじゃ太刀打ち出来ないようだな。正
直たまに来る面倒な連中らもなんとかなるんじゃないか?﹂
いや、勘弁。また龍族とやりあうんですか? 正直もう、あんな
ことになるのは嫌なのだが。
﹁いっそ殴りこむか?﹂
後ろから危険な発言と共にお盆をもったレイナが現れた。お盆の
上には今日の朝食が乗っている。この世界では小麦が主な主食とし
て扱われる。パンだな。
米はあるのかな? 近いのはあるといいな。味わいたい。お茶漬
けとか。
﹁おいおい、殴りこむって⋮⋮﹂
さすがのアレスも躊躇する。というよりたぶん話題にしないよう
にしていたのだろう。アレスたちがどれほどの規模の集団に襲われ
ているかは知らないけど、規模としてはかなりのものだろう。
もう、数えるのが面倒なほど来てるもんな。一週間に1、2回ぐ
らい来てるよな。
﹁正直、そろそろあいつらも諦めて欲しいんだよ。私は、未練なん
かないし﹂
おお強い。アレスも目を瞑り考える。
それにしてもこの世界の生き物は平気で殺しに行くような世界な
のか? いや必ずしもそうとは限らないだろうな、そうと願いたい。
でもたぶん正当防衛の延長だろう。やらなければやられる。やら
78
れる前にやれ。この理論じゃないのかな?
しばらくしてアレスが眼を開ける。
﹁だめだ、俺たちだけならまだしも、クロウもいる。下手に攻撃を
してもだめだ。そのうち諦めるのを待つしかない﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁それにこれ以上必要以上に血を流す必要もない﹂
﹁そ、それはそうだけどよぉ⋮⋮﹂
﹁あ、あの∼⋮⋮﹂
たまらず俺が動く。俺も仮説でなんとなく理解はしているが、本
当のことを知りたい。
﹁なんで、お父さんやお母さんは襲われているのですか?﹂
﹁⋮⋮そうだな、お前にも話しておかないとな、この話をするには
俺らが出会ったことからだな﹂
アレスの言葉を訳すとこうだ。
アレスとレイナが出会ったのは今から5年前。俺が生まれる2年
前のことだな。当時人間の国﹁アルマスダン国﹂にいたアレスは龍
族を攻撃する兵の一兵として動いていたらしい。
戦争した理由は至極簡単。龍族がアルマスダンの大規模商隊を襲
79
ったのだ。しかもその商隊はアルマスダン国直下の商隊だったのだ。
当然このことに襲った龍族の村に弁解を求めた。ああ、話し合う
気はあったんだな。だが龍族の回答がまずかった。
﹁貴様らが我らの領域に踏み込んだので襲ったまでだ﹂
とのこと。ああ、バカだ龍族⋮⋮。ストレートすぎる⋮⋮。当然
この発言にアルマスダンは大激怒。そして戦争に発展。
開戦当初から人間族は有利に戦いを進めたという。個々の力は龍
族の方が高いが、集団戦による戦いは人間の方が圧倒的に強かった
らしい。
弱いからこそ、集団で行動をし文化、技術を磨いてきたので当然
と言えば当然だろうな。そして龍族にはない魔法はたとえ4クラス
でも龍族を十分に葬れるほどだ。魔力耐性がないやつらからしてみ
れば紙装甲に車が突っ込むようなもんだもんな。
しかし、戦いが終わりに近づいたとき、龍族は思わぬ奇策を使っ
てきたという。
それはまさに捨て身の技だった。
谷間に人間を誘い込み戦う。ここまではまぁいい。問題は次だ。
なんと龍族側は自分らの同士もろとも谷を挟んでいる山を崩し生
き埋めにするという作戦だったのだ。アルマスダン側は参加してい
た兵の半数が死んでいった。一方龍族側も尋常な無いほどの被害が
出た。これは推測だがほとんどの龍族は教えてもらっていなかった
ようだ。龍族も半数以上が生き埋めになったのだ。
当時にアレスはこの戦いで、かろうじて生き埋めだけは避けるこ
とが出来たが土砂崩れの衝撃で気絶していたらしい、しかも落ちた
とこが運悪く人目につかないような場所だったのだ。
80
どれくらい時間が立ったかはわからないがアレスは目が覚めた。
あたりを見渡してみると、狭い洞窟みたいなところだったらしい。
土砂崩れの影響でできたと思われる小さい洞窟だったという。打
撲したのか全身が痛かったらしいが治癒魔法ですぐに治ったそうだ。
とにかくここを出ないとなと思い立ち上がった。
そのとき洞窟の片隅に誰かがいたように感じだ。誰だと叫びなが
ら幸いにも落としていなかった剣を構え気配を感じた方を向く。
だが反応は無い。少しずつ距離を縮めながら近寄っていく。洞窟
の隅は人が立てるところでなくまた太陽の光が届いていないところ
だった。
アレスの顔に汗が浮かぶ。味方か敵か? 反応が無いのがより一
層、緊張させられる。火の魔法を唱え、灯りをつける。灯りをつけ
たときに襲い掛かられてもいいように剣は構えたまま詠唱する。
やがて、あたりが明るくなる。そして誰かが、うつぶせで倒れて
るのが見てみえた。
だがそれは敵だった。薄青色をした皮膚、二本の角。すぐに龍族
だと分かった。
﹁うう⋮⋮﹂
そのとき龍族が動きゆっくりと起き上った。
アレスは反射的に後退し武器を構え直す。手は両手を扱えるよう
に灯りを火から光へと変える。今まで火にしていたのは、敵だった
場合、火で攻撃するためである。
今なら一撃で行けるか? 起き上った龍族の動きは非常にのろい
81
ので簡単に狩れそうだった。
﹁⋮⋮あれ? ここは?﹂
どうやらあいつも落ちたんだなと思っていた。アレスは龍族語を
少しだけ使える。敵国の偵察をやるときは言葉は少なからずも必要
なので各々サブで覚えるらしい。
﹁⋮⋮?﹂
その龍族は女性だった。髪が長かったので薄々感じてはいたのだ
が。あたりをキョロキョロと見回しアレスと目があった。
来るとアレスはおもったらしい。だがレイナは見るだけで一向に
襲ってくる気配がなかったという。
アレスはレイナから妙な雰囲気が漂っているのを感じた。なんと
いうか殺気もなければ隠している様子もなかったという。まさに素
の状態だったという。歴戦の戦士とまではいかないが、かなりの戦
いをしてきたアレスにはそう感じたらしい。 そして彼女が言った一言は
﹁ここはどこ? ⋮⋮あれ? 私⋮⋮誰?﹂
そう、レイナは記憶を失っていたのである。
82
第4話:フォース︵後書き︶
終わった。主人公にチートスキルがつきまくっとる⋮⋮見切り発
車とは恐ろしいですね。
それでもやりたいのをやり続ける作者。気分は崖に向かって全力
疾走中です︵泣︶
83
誤字脱字を修正しました。
加筆修正をしました。
第5話:出会い︵前書き︶
※8/7
※10/19
※11/3 加筆修正をしました。︵大幅修正︶
84
第5話:出会い
﹁⋮⋮は?﹂
﹁えっ、そ、その⋮⋮わ、私は誰?﹂
﹁⋮⋮記憶喪失?﹂
アレスはまだ警戒を解いていないが一応、剣を下した。彼女が言
ってることが嘘じゃないと直感的にわかったのだ。
もちろん記憶が戻った時のことも考えていた。身体能力では圧倒
的な差がある龍族にまともにやりあっても勝てないことぐらいわか
っている。
そこでアレスは︽鑑定︾スキルでレイナの能力を見たらしい、そ
うしたら⋮⋮
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:︱
種族:龍族
レベル:1
筋力:20
生命:40
敏捷:30
器用:15
魔力:0
スキル
・固有スキル:︽龍の眼︾︽透視:1︾︽千里眼:1︾
85
・言語スキル:︽龍族語︾
・生活スキル:︱
・戦闘スキル:︽身体強化:1︾︽自然治癒:3︾
・武器スキル:︱
・魔法スキル:︱
・特殊スキル:︽フォース:1︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
レベル1だったそうだ。記憶喪失でスキルの大部分を忘れていた
のだ。こういうスキルの消失は記憶が戻れば元に戻るらしい。
﹁⋮⋮っち、名前はわからねぇか⋮⋮おい龍族の人﹂
﹁わ、私!?﹂
﹁お前本当に何も覚えていないのか?﹂
﹁あ、ああ全く⋮⋮﹂
この頃から勝気な性格だったんだそうだ。アレスは。はぁとため
息をつくと、どっこいしょと腰を下ろした。
﹁なら仮の名前でも考えるか。⋮⋮アルマージャとか?﹂
※アルマージャ:人間族の英雄。アレスの時代からおよそ400
0年前の人物。ちなみに男性。
﹁なんだそれ?﹂
﹁なんか強そうなイメージから﹂
86
﹁はっ? 私が強そうに見えるのか?﹂
﹁同レベルなら俺はお前に負けるぞ。今は別だがな、龍族はそんな
もんさ﹂
﹁も、もっと他にないのか!?﹂
もっとかわいいのってことだったらしい。意外だな今度氷の細工
が上手くなったら色々作ってみようかな。
アレスはやれやれと思うと、それからかなりの名前を出したらし
い。意外と気に入るのがなかったらしくて1時間ぐらいかかったら
しい。
最初は色々出したらしいけど後半はあんまりでなかったらしい。
うん、アレス名前つけるの下手くそなイメージがあるしな、ちなみ
にクロウとつけたのはレイナらしい。
そして1時間後⋮⋮
﹁あー、もうなにがいいんだよ! つーかなんで俺は龍族と話して
いるんだよ!﹂
﹁はぁ!? 困っているんだから助けてくれよ!﹂
87
﹁ったく⋮⋮じゃあレイナはどうだ?﹂
﹁レイナ?﹂
﹁ああ、深い意味はないけどな﹂
﹁⋮⋮いい! それでいい!﹂
大喜びしたらしい。これがレイナという名前がついた由来だそう
だ。意外だなぁと思った。その後アレスはまず今後のことをどうす
るか考えていた。
アレスは母国があるから戻ることはできる。だがレイナは帰る家
がない、思い出せないのだが。そもそもこんなところを見られたら
まずい。どちらに見つかろうがどちらかを敵に回すことになるのだ。
そうなるとアレスに残された道は3つ、一つ目はレイナを捨てて
母国に帰ること。二つ目はこのまま残ること。そして3つ目はレイ
ナを殺すことだ。
1つ目はある意味もっとも現実的なことだろうだが、レイナを捨
てることになる。ここは龍族のテリトリーに近いだろうから彼女が
近隣に助けを呼びにいけばすぐ終わるだろう。
だが例え龍族と出会ってもレイナがもとのところに戻れるかは微
妙なところである。それは龍族の習慣があった。
龍族はもともと子供が生まれにくい種族のため一夫多妻制を取っ
ているらしい。しかも二人の男性で1人の女性と体の関係を持って
いたり逆もあったりする。用は規模が尋常じゃないらしい。しかも
龍族はかなり生命力が高くやる回数が半端ないらしい。︵何をやる
かは察してくださいマジで書けばえげつないことになりますので︶
88
そのため誰の子供かわからない場合がある、その場合、任意で育
てるか、子供を育てる専用の施設に預けるかのどちらかになる。
そのためか両親の顔をしらないという人はかなりいるらしい、そ
の習慣のせいで子供などの執着心はほとんどないらしい。
だから、子供が親のところに戻ることは無い。もっと。もレイナ
の場合はもう子供じゃないのでそこに行くのはどうかと思う。今後
馬鹿にされる可能性がある。アレスはそれを想像してやめたらしい。
意外とやさしいな戦闘k⋮⋮ゲフンゲフン、うん、さすが俺の親父
だ。
2つ目、これはもう話にならない、気配察知で周囲を調べてみた
がこの当たりには人の気配を感じなかったので、ここはあんまり人
が寄らないところなのだろうと思った。
そしてあの土砂崩れ。おそらく両軍とも死者の確認だけして行方
不明者は死んだと判断して放置するんだろうな。
たぶん国にそこまでの余裕はないのだろう。または速攻で片付け
たかったのだろうとのこと。ああ、なるほど短時間で片付ける必要
があったんだな。
そして3つ目、ある意味一番確実と言える、1つ目が人情ありの
現実なら3つ目は非情の現実と言えよう。
レイナのレベルはあのとき1。つまりアレスなら簡単に殺せると
いうことだ。
だが、名前まで付けたのでさすがにアレスも躊躇してしまったら
しい、種族間の対立が激しい世界だがアレスはまだマシな方だと思
えよう。
仕方ないので二つ目を取ることにしたらしい、ただしアレスも種
89
族対立の世の中を歩いてきている、記憶が戻ってから殺されるとか
は面倒なので、最初に自分が知っている種族間の対立などをこと細
かく教えたらしい。
﹁⋮⋮と、いうことこだ﹂
﹁⋮⋮それで、なんであんたは私を殺さなかったんだ? お前の方
が早く起きたんだろ?﹂
﹁まっ、何故だろうな、俺も甘い奴だったな﹂
本当に自分でもなんでか分からなかったらしい、でも今はああし
ておいて正解だったという。レイナもそばで聞いていてちょっと赤
くなっていた、バカ夫婦め。いや嫉妬じゃないですよ。
﹁⋮⋮わかった記憶が戻っても私は絶対襲わない﹂
﹁⋮⋮実際戻ったらわからないが今は信用しておくよ﹂
こうして歴史上初めてであろう人族と龍族が一緒に生活をしだし
たのである。
それからしばらくは近くで狩りなどをしながら記憶が戻らないか
確認をしたらしい、近隣を散策しながら何か思い出せないかと聞い
ていた。だが彼女の記憶が結局戻ることはなかった。
それから一週間が経過した。アレスはそろそろ不味いなと思い始
めていた。おそらく人間族側はおそらく一度撤退をしたころだろう。
だが⋮⋮
90
﹁⋮⋮! 来るな﹂
﹁ん? 誰が?﹂
﹁龍族だろうな、お前でも探しに来たんじゃないか?﹂
﹁えっ、それじゃあ﹂
﹁ああ、俺は隠れるからな、それじゃあ!﹂
アレスはそれだけ言うと土魔法で速攻で作り喘げた壁の内側に隠
れたらしい。もっとも龍族は︽透視︾スキルを持っているのですぐ
にバレそうだが、そこは幸運を祈ろう。
﹁いたぞぉ!﹂
何人かの声が聞こえて来る。よかったなとアレスは思ったらしい
だが⋮⋮
﹁全員で一斉にかかれ! 証拠を消せ!﹂
証拠? 一体何のことだ? アレスは土魔法の一部をいじり外の
様子をこっそりと見たらしい。
﹁な、何のことだ!?﹂
当然困惑するレイナ。
﹁ふふ、これから死んでいくやつに話しても仕方ないだろやれ!﹂
91
後ろの龍族が持っていた弓を構えレイナに向ける。あれ、あいつ
何で狙われ︱︱︱
︱︱︱ヒュン シュン
風を切る音と共に矢が飛び出す。数にして十数本。
レイナも咄嗟に危険と判断し横に避けるだが、この狭い洞窟逃げ
る場所など多いわけでなく、あっという間に避ける場所を失い、体
に矢が突き刺さる。うっ! という声が上がったが龍族は気にせず
矢を放つ。
矢が刺さった痛みで回避がよりこんなんとなりあっという間に体
に十数本の矢が突き刺さり、力尽きたレイナは地面へと仰向けに倒
れた。だが、それでも何とかしようと必死に動こうとする、さすが
にこの辺りは体が丈夫な龍族だな。体に矢を受けて立つとか弁慶じ
ゃあるまいし、人間には無理だな普通は。
﹁楽勝だな、おい止めを指すぞ﹂
龍族が一斉に弓を構える。太陽に反射されて矢じりがキラリと光
る。
﹁ぐっ、う⋮⋮かはっ⋮⋮﹂
何とかしないと、と必死に動こうとするだが、そのたびに全身に
刺さった矢が内臓を傷つけた。胃でも傷つけたのか咳き込み血を吐
く。
そして、まさに放たれようとした瞬間︱︱︱
92
﹁させるか!﹂
アレスがついに動いた、土魔法を解除し、同時に奴らを一掃する
べく魔法を唱える。属性は炎。龍族とは相性が悪いことはわかって
いる、だがフォースを使う前に片付ければいける!
アレスは全魔力をこの魔法に注ぎ込んだ、持てる力すべてを発揮
するために。
﹁!?﹂
あまりに唐突なことで龍族たちは全員驚き、一瞬動きが止まった、
そこを狙わないアレスではない。
フェニックス・ストライク
﹁燃えつきろ! ︽不死鳥の炎砲︾!!﹂
不死鳥をイメージした炎が龍族を一気に襲う。いくら火に強くて
も所詮は魔力耐性ゼロの彼らにスキルレベル4︵このころのアレス
の火魔法のスキルレベルは4︶の攻撃は効いたのだろう。十数人い
た龍族は2,3人逃げただけでほとんどが消失してしまった。
逃がしたらまずいと思ってアレスは追おうとしたらしいが、それ
よりかもっと大切なことがあった。
﹁って、あっちはどうでもいい! レイナ大丈夫か!?﹂
アレスはあわててレイナに駆け寄る。レイナは血を吐きぐったり
としてはいたが意識は一応あった。
﹁まずは矢を抜かないとな、抜くときに痛いかもしれないが我慢し
ろよ﹂
93
矢を持ち意識を集中させる。そして、フッと息を吐いたかと思う
と一気に力を入れて引き抜く。同時に治癒魔法を当て傷を素早く塞
いでいく。なるほど、俺も止血するときとかは気を付けておこう。
てかそれ痛いよね。俺だったら泣いちゃうかも、いや、絶対泣くだ
ろうな。
﹁あがっ! ぐっ⋮⋮﹂
レイナが抜けるごとに呻き声を上げる。そして⋮⋮
﹁これで⋮⋮最後だ﹂
最後の矢を引き抜き治癒魔法を唱える。あたりに緑色のやさしい
光があふれる。そして最後の傷がふさがった。
﹁⋮⋮大丈夫か?﹂
レイナはゆっくりと体を起こし体を確認する。傷跡は完全に消え
ていた。それを確認するとレイナはアレスの方を向いた。
﹁⋮⋮どうして助けたんだ?﹂
﹁はぁ?﹂
﹁どうした助けたんだよ。あんた⋮⋮出てこなければあんたはめで
たく故郷に帰れたんだろ?﹂
﹁⋮⋮ああ、それか⋮⋮さぁな。あそこで見捨てたら後味悪いと思
っただけだよ﹂
94
﹁それであんたは助けたのか!? たったそれだけなのか?﹂
﹁ああ、それだけさ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁それにしてもどうしよっかな、あいつら何人か生き延びたみたい
だし、ここにいるのはまずいな、どこかに行くしかないか﹂
﹁じゃあ私は置いていきな、これ以上は足手まといだろ?﹂
﹁はぁ、馬鹿じゃねぇか? わざわざ助けたのに死地に置いていく
意味がわかんねぇよ。お前は死にたいのか?﹂
﹁死にたくないに決まってるんだろ!﹂
﹁じゃあ生きろよ!﹂
﹁⋮⋮今のでわかったんだよ、私にはもう帰る場所が無い事をね﹂
レイナはなんらかの理由で襲われている。アレスはそれがなんな
のか薄々気づいていた。この前の戦いで土砂崩れが起きたとき、ほ
とんどの龍族も巻き込まれていた。たぶん半分以上の奴らがしらな
かったんだろう。そして生還者がいた場合、そいつらがあの戦いの
ことを言ったら結果は明らかだ。おそらく龍族は瓦解してしまうだ
ろう。
そう、彼らは口封じに来たのだ。そしてレイナもなんらかの理由
で私は追われていることがわかった。助けてくれたアレスにこれ以
上迷惑をかけたくないのだろう。
95
﹁じゃあ俺が作ってやる﹂
﹁⋮⋮はぁ?﹂
﹁言葉の通りだ。俺が作ってやると言っているんだ﹂
﹁⋮⋮あんたばかじゃないのか? あんた自分で言ったじゃないか、
なんであんたは助けたんだよ⋮⋮自分の人生捨ててさぁ﹂
﹁捨ててないさ﹂
﹁⋮⋮はっ?﹂
アレスは両手をレイナの両肩に勢いよく乗せた。そしてレイナの
顔をじっと見つめる。レイナは見つめられてなぜか顔が赤くなる
﹁俺の人生を賭けているんだ、もう後悔してもおせぇんだよ。龍族
はもう俺も完全に敵と認識している、このまま味方に戻ってもやっ
てくるだろうな⋮⋮わかるか?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁死ぬのはいやなんだろ? じゃあ戦えよ、死ぬ間際まで足掻いて
やれよ﹂
﹁⋮⋮はは、あははははは﹂
アレスの言葉を聞くとしばらくは堪えていたのかレイナは爆笑し
ながら床を転げまくった。
96
﹁全く⋮⋮とんだお人好しなんだね﹂
しばらく笑い転げたあとレイナは言った。目には笑いすぎて涙が
浮かんでいる。いや笑い泣きだじゃないだろう、その涙にはきっと
嬉しい涙もあるに違いない。
﹁わかった。生きるよ、足掻いてやるさ﹂
﹁それでいいんだよ﹂
二人はしばらく見つめあった後笑いあったという、その笑いはし
ばらくの間絶えることはなかったという。
﹁︱︱︱とまぁこういうわけで俺らはここに移り住み暮らし始めた
わけさ﹂
アレスが一通り話終わり用意していた水を飲んだ。レイナは最後
まで顔を伏せたままだった。うんかなり恥ずかしいんだねわかるよ。
その証拠にわずかに見える頬が赤くなっているのがわかった。
﹁なるほど、そんな出会いだったんですね。ということはお母さん
の記憶はまだもとには?﹂
97
だがアレスの回答は思わぬところに向かう。
﹁いや、記憶はもとにもどった。今から3年前にな﹂
﹁⋮⋮えっ?﹂
﹁3年前、訓練をしているときにレイナが足を滑らせてな、その時
に頭を打ちつけたみたいでな、目覚めたときには一瞬殺気を感じた
よ﹂
こえー⋮⋮
﹁それでもお父さんと一緒に生きる道を選んだのですか?﹂
うつ伏したままのレイナに問いかける。レイナは﹁やめてもう言
わないで黒歴史掘り返さないで﹂と言わんばかりに動こうとしない。
プルプル震えているような気がするがきっと気のせいだろう。うん
気のせいで通すしかないよね?
そしてアレスが止めとばかりに話す。
ドスッ
﹁ああそうさ、その時のレイナったら﹃もうお前なしじゃ生きられ
ねぇよ!!﹄と言ってな、嬉しかったが驚いtごはぁ!﹂
にやにや顔のアレスが突如襲来した物理攻撃にその場に崩れ落ち
る。犯人はもちろんレイナだ。顔をこれ以上に無いくらい真っ赤に
染め、目には恥ずかしの涙が浮かんでいる。よっぽど恥ずかしかっ
たんだな。
﹁あんたは話さないでいいことまで﹂
98
レイナがアレスの服の首元をつかみギャーギャー騒いでいる。そ
れを必死に回避しようとするアレス。もう威厳も何もない気がしま
すが、でも厳粛な家族よりかよっぽどいいな。ふと前世の家族との
思い出を思い出そうとするが、出てくるのは嫌な思い出ばかりだ。
あの時のようにはなりたくないなと俺は思った。でもいつかは崩
れる。それは俺が前世で感じたことだ紛れもない体験談だ。
だから今を大事にしよう。
俺は気持ちを改め、騒いでいる両親を止めに入ったのだった。
99
第5話:出会い︵後書き︶
本日も読んでくださいありがとうございます。
ちょっとグダグダになっちゃいました⋮⋮やっぱりこういうのは
慣れるしかないのですかね。
次回からは現実に戻ります。そして私は再び手の付けられないよ
うなことをすることになりました︵泣︶
いや、やったのは自分ですけど、やりすぎたかも⋮⋮
では、次回でまた会いましょう。
※感想、質問等ありましたら気軽にどうぞ。
また誤字脱字報告がありましたらよろしくお願いします。
100
第6話:ひょんなことから急成長︵前書き︶
加筆修正をしました。︵大幅修正︶
※8/9 誤字修正をしました。
※11/3
スキル︽無詠唱︾を︽詠唱短縮︾へとしました。
それに伴い、スキル︽詠唱短縮︾の説明を後書きに書き
※11/3
ました。
101
第6話:ひょんなことから急成長
あのお話のあと、色々話し合った結果マジで殴り込みにかかるよ
うです。集落の場所は把握しているので強襲してトップを説得させ
て終わらせるという考えもありましたが、そもそも人と結婚した︵
そんな儀式などはしていないらしいが俺からしたらお前ら結婚して
いるのと変わらないぞ︶ レイナをその集落は裏切り者と言ってい
るらしく話はダメなんだと言わざる得なかった。
ちなみに現在の俺のステータスは
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:クロウ・アルエレス
種族:龍人族︵龍族・人間︶
レベル:50
筋力:3,940
生命:6,410
敏捷:5,410
器用:3,950
魔力:10,900
スキル
・固有スキル:︽理解・吸収︾︽神眼の分析︾︽龍の眼︾
︽千里眼:5︾︽透視:6︾
・言語スキル:︽大陸語︾︽龍神語︾︽妖精語︾︽兎耳語︾
・生活スキル:︽倉庫:10︾︽換装:5︾︽調理:5︾︽野営:
3︾
︽魔法道具操作:6︾︽家事:3︾︽演算:3︾
︽商人の心得︾︽ポーカーフェイス︾
102
・作成スキル:︽武器製作:3︾︽武器整備:5︾︽防具製作:3︾
︽防具整備:5︾︽装飾製作:2︾︽装飾整備:4︾
︽錬金術:7︾
・戦闘スキル:︽身体強化:7︾︽見切り:7︾︽気配察知:6︾
︽回避:6︾︽状態異常耐性:5︾︽遮断:7︾
︽跳躍:5︾︽心眼:5︾︽射撃:2︾︽罠:3︾
︽加減:8︾︽斬撃強化:6︾︽対人戦:4︾
︽対龍戦:4︾
・武器スキル:︽片手剣:7︾︽細剣:3︾︽刀:5︾︽大剣:3︾
︽槍:5︾︽投擲:2︾︽斧:2︾︽弓:3︾
︽クロウボウ:2︾︽鈍器:2︾︽盾:5︾︽格闘:
7︾
・魔法スキル:︽魔道士の心得︾︽火魔法:6︾︽水魔法:6︾
︽風魔法:5︾︽土魔法:5︾︽雷魔法:5︾︽光
魔法:5︾
︽闇魔法:5︾︽治癒魔法:5︾︽音魔法:5︾︽
毒魔法:4︾
︽付加魔法5︾︽詠唱:5︾︽詠唱短縮:5︾︽暗
記:6︾
︽魔力操作:6︾︽瞑想:5︾︽魔力制御:5︾︽
複合魔法:5︾
︽魔法合成:4︾
・特殊スキル:︽龍の力:1︾
・特殊能力 :︽硬化:5︾︽飛行:5︾︽咆哮:2︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
oh⋮⋮どんどんスキルが多くなってきますね。もう見えにくい
な⋮⋮。あっそうそうなんかレイナたちと戦っていたら対スキルと
か覚えていました。その種族と戦うときは補正が付くようです。そ
れにしても俺もちょいと把握しきれていないな⋮⋮わかりにくいも
103
のだけでも再確認しておくか。なんかスキル進化とかいう物も出て
きちゃったし。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽魔法道具操作︾
分類:生活スキル
属性:︱
効果:魔法道具を上手く扱える。ただし道具だけでなく魔法武器に
も適用される。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽商人の心得︾
分類:生活スキル
属性:︱
効果:商人としての心構えがつく
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽錬金術︾
分類:生活スキル
属性:︱
効果:さまざまなものを調合して物を作り上げる。︽武器製作︾な
どと使えば
魔剣なども作れるようになる。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽心眼︾
分類スキル:戦闘スキル
属性:︱
効果:敵の動きなどから敵の弱点を読み取ることが可能
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽魔道士の心得︾
分類:魔法スキル
属性:︱
104
効果:魔法を習得しやすくなる。また各魔法の威力アップ
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽魔力操作︾
分類:魔法スキル
属性:︱
効果:魔力を変幻自在に操ることが出来る。︽武器製作︾などと使
うと
魔剣も製作可能。︽錬金術︾と一緒に使うと⋮⋮
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽瞑想︾
分類:魔法スキル
属性:︱
効果:意識を統一することにより魔力を回復させることが出来る。
マジック・フュージョン
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽複合魔法︾
分類:魔法スキル
属性:︱
効果:複数の魔法を組み合わせることが可能。ただし反対属性とは
複合することは出来ない。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
なるほど、つーか︽複合魔法︾って︽魔法合成︾の下位バージョ
ンじゃないのか?くっつけたりできないのかな?と思っていたら。
︱︱︱特別条件︽複合︾を満たしました。
>以後、規定を満たすとスキルが自動合成およびスキル進化を起こ
します。
⋮⋮えっ、なにこれ?つーか、こういう条件って俺が気づかない
とダメなんだな。たぶん自動で取得できるのもあるだろうけど。
105
︱︱︱複合条件を満たしました
>スキル︽複合魔法︾と︽魔法合成︾が統合されます。
>スキル︽特異魔法︾へと進化しました。
︱︱︱スキル︽特異魔法︾の所持効果により魔法系スキルの全レベ
ルが向上します。
>スキル︽火魔法︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽炎神魔法︾へと進化しました。
>スキル︽水魔法︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽水神魔法︾へと進化しました。
>スキル︽風魔法︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽風神魔法︾へと進化しました。
>スキル︽土魔法︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽土神魔法︾へと進化しました。
>スキル︽雷魔法︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽雷神魔法︾へと進化しました。
>スキル︽光魔法︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽天界魔法︾へと進化しました。
>スキル︽闇魔法︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽暗黒魔法︾へと進化しました。
>スキル︽治癒魔法︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽天空魔法︾へと進化しました。
>スキル︽音魔法︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽空間魔法︾へと進化しました。
>スキル︽付加魔法︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽強化魔法︾へと進化しました。
>スキル︽詠唱︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽詠唱短縮︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽詠唱︾と︽詠唱短縮︾が統合されます。
106
>スキル︽瞬間詠唱︾へと進化しました。
>スキル︽暗記︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽記憶︾へと進化しました。
>スキル︽瞑想︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽明鏡止水︾へと進化しました。
>スキル︽魔力操作︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽魔力制御︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽魔力操作︾と︽魔力制御︾が統一されます。
>スキル︽魔力支配︾へと進化しました。
>スキル︽魔道士の心得︾が︽賢者の心得︾へと進化しました。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽特異魔法︾
分類:魔法スキル
属性:︱
効果:取得時に魔法スキルがすべて5段階アップ。
同時にいくつもの魔法を扱ったり魔法を組み合わせることで
独自の魔法を使うことが出来る。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
ギャーぁぁぁぁぁぁ!!! チートスキル来たぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁ!!! もうやめてくれクロウのライフはもうゼロよ! 某マン
ガの声が脳内に響く。
はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮
どうやらすべての魔法スキルが向上したようだな。恐るべし複合
魔法。最後の心得もたぶん特別条件︽賢者︾を満たしたからなんだ
ろうな。
107
さて、状況を整理しよう。
まず俺の魔法スキルはすべて飛躍的に向上してしまった。もうク
ラス10とかじゃないよね? 完全に上位スキル身に付けちゃった
もんな。たぶん今の俺なら世界滅ぼせるんじゃない? 冗談じゃな
いよ。そんなことをする気なんか少しも思ってねぇよ。
それにしてもかなり色々な進化が起きたな。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽瞬間詠唱︾
分類:魔法スキル
属性:︱
効果:すべての魔法を一瞬で無詠唱することが可能。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
ふむ、なるほどなこれならもう詠唱とかいらないもんな。統合さ
れるわけか。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽記憶︾
分類:魔法スキル
属性:︱
効果:忘れたくないものを半永久的に記憶できる。
108
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
うわぁ、これ現代の学生さんとか絶対欲しいスキルだ。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽明鏡止水︾
分類:魔法スキル
属性:︱
効果:魔力が自動回復し続ける。
また発動中は視界中の速度が遅くなるように感じる。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
なんだと⋮⋮これはもうほとんどチートじゃないですか、魔力切
れが起きにくくなるのは大きいな。速度が遅くなるってあれかな?
﹁ボールがとま︵ry﹂ みたいに感じるのかな?
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽魔力支配︾
分類:魔法スキル
属性:︱
効果:自分の魔力だけでなく他人または空気中の魔力までも支配で
きる。
ただし他人の体内にある魔力は操作不能。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
⋮⋮つまりあれですか、このスキルさえあれば大抵の魔法は打ち
消せれるということ?
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽賢者の心得︾
109
分類:魔法スキル
属性:︱
効果:独自の魔法を作れるようになる。
また魔力大幅アップ。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
これは属性をくっつけたり創造して魔法を作り上げるのとはまた
違う物なのかな? うーん、よくわからねぇ⋮⋮
とにかく今の俺は普通の人ではないぐらいはわかっている。マジ
で国一個いけそうなんだが、力の使いどころを考えないとな⋮⋮。
ためしに外で試したらマジで洒落にならない威力でした。どれく
らいかというと軽く使ったと思ったのですがクレーター作っちゃい
ましたテヘッ☆
⋮⋮いやいやそんなんじゃないって!? えっあれどう考えても
直径10キロはあるよね!? 山の上からだからわかりやすい⋮⋮
ちなみにこれを見たアレスとレイナはついに何も言わなくなりま
した。俺だったら殺されるとかつぶやいていますがまぁ気にしない
ようにしておこう。アレスに言われたら終わりだ。あーあー何も聞
こえない。
それから数日後、俺とアレスとレイナは襲撃してきている集落の
近くにやってきていた。集落と言っているが、例の習慣のおかげで
人口はかなりあるようだ。聞いてみたら人口五千は堅いっておいお
い⋮⋮なんか襲撃できる回数が多いって思ったらそんな理由かよ⋮⋮
110
集落は木の丸太で周りを囲まれている。正面は櫓見たいなのがあ
り、見た感じは弥生時代の集落みたいだな。
でもただの木で覆っていないことぐらいはすぐわかった。周りを
囲っている木の城壁から魔力を感じていたのだ。鑑定してみると予
想通り魔力で強化されていた。たぶんあれは鉄よりも強度があると
考えられている。
てか、魔力無いのにどうやっているんだ? 魔石みたいなのがあ
るのかな? と思っていたらどんぴしゃり、龍族の何名かが魔石ら
しきものを抱えてやってきた。鑑定してみると。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
アイテム名:魔石
分類:アイテム
属性:︱
効果:自然にある魔力がなんらかの理由で凝縮された石。なくなる
と砕けて消える
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
あーやっぱりな。
龍族は魔石を壁のなにやらくぼみがあるところにはめ込んだ。す
ると魔石が徐々に色がうしなっているのがわかった。それと同時に
周りの城壁の魔力が上がっているのがわかった。
そして魔石が砕け散る頃には城壁の強度はかなり向上していた。
強度的には鋼クラスはあるのじゃないかな?
たぶんあれくらい堅いとクラス2とか3程度じゃ突破は難しいだ
ろうな。
111
だが今の俺らには関係ない話だが。
﹁レイナ本当にいいんだな?﹂
﹁何回も言わせないでくれよ、もう未練も何にもないよ﹂
アレスがクロウに向き直る。
﹁クロウ、お前も覚悟はできているのか?﹂
︻覚悟︼おそらく知能がある者を殺すことを覚悟しているのかと
いうことだろう。確かに俺はここに来て躊躇していた。
そうか俺は今から人ではないがそれに近いのを殺さないといけな
いんか。
3歳になんてことさせているんだよな⋮⋮
かすかに足が震えているような気がする。前世の俺だったらまず
ありえないことだよな⋮⋮
だが俺は切り替えた。ここは日本じゃない、もうあの世界の常識
にしばられていてはダメなんだ。俺はここにきて改めて異世界に来
たんだと思い知らされた。
﹁やらないとやられるのでは?﹂
俺はそう答えた。
﹁その通りだ、だが無理をするなどうしても無理なら俺らに任せな﹂
﹁大丈夫です、もうお父さんたちだけで戦わせるのは嫌なんです﹂
112
﹁よし、じゃあ⋮⋮行くぞ﹂
こうして俺らは歩みだした。コソコソやらないのは、﹁こういう
時は正面から正々堂々叩き潰さないと効果がない﹂というアレスの
判断からだ。
俺は自分自身を鼓舞しながら歩みだした。
これから多くの命を消さないといけないんだろうな。
だが、もし可能なら︱︱︱
可能な限り助けてやりたい。
俺はそう思いつつアレスとレイナの後ろをついていった。
113
第6話:ひょんなことから急成長︵後書き︶
やっちまった⋮⋮もう後には引けない⋮⋮
もう次回で発散してやります︵泣︶
感想、質問などありましたら気軽にどうぞ。
誤字脱字などがありましたら報告お願いします。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽詠唱短縮︾
分類スキル:魔法スキル
効果:詠唱を短くすることが出来る。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
114
第7話:強襲︵前書き︶
※8/11
誤字を一部修正しました。
誤字修正をしました。
さぁ、戦うぞ! といいつつもあんまり戦闘回でもないのですが。
※11/3
115
第7話:強襲
ここは大陸のとある所にあるとある集落。その集落はどこにでも
あるような集落だった。そこに住んでいる種族は幸せとはいかない
までも平穏な生活をしていた。
だが、その生活は今日を持って潰えることとなる。
叫ぶ人々、燃える家々、地面には建物が崩れた拍子に潰されたの
だろう死体が骨となって倒れている。その骨を蹴り飛ばしてしまっ
てそこら中に散乱しているのだが。
﹁誰かバッカスを呼んで来い!﹂
﹁俺の妻がぁ! うわあぁぁぁぁぁ!﹂
﹁うぇーん うぇーん﹂
それはまるで地獄だった。だがその光景もこの世界ではありふれ
たことなのだろう。
︱︱︱20分程前
116
﹁魔石による防御強化か、クロウぶち抜けるか?﹂
﹁魔石による強度がどれほどかわからないのですが?﹂
本当は︽神眼の分析︾で大体の強度はわかっているのだが念のた
めに聞いておく。
﹁そうだな⋮⋮木に魔石ならどんなに行っても鉄程度の強度だろう。
あれが人間族の城壁だったならもっと上だろうが奴らは魔力を持た
ないからそこまで強いのは作れないはずだ﹂
﹁わかりました﹂
﹁よし、クロウがぶち抜いた穴から中に入る。そっちの方がインパ
クトがあるからな、始めが肝心だ﹂
城門から入っても良さそうだけどな、まぁ俺もそれには賛成だ。
なんだから入口付近が騒がしくなってきたのでさっさとやることに
しよう。
﹁では⋮⋮行きます﹂
フレイム・インパクト
俺が魔法を詠唱する。派手に行くという意味で今回は火と風の複
合魔法を使おう。だけど今回はこの前の︽炎風拳︾とは性質の異な
った魔法だ。
炎を囲むように中に空気を圧縮させる、これはスキル︽空間魔法
︾の効果の一つだ。空間の空気を自在に操ることが可能となった。
さらに空気中の成分も事細かに集めることが可能になったので大量
117
の酸素を詰め込んでおく。
そう爆発を織り交ぜるのである。本当なら水素の方がいいんだけ
ど水素使っちゃうと威力が跳ね上がるから危ないんだよな⋮⋮。
こうやって出来上がった炎の球体は直径5センチほどの大きさだ。
﹁小さくねぇか?﹂
アレスが俺の作った火の球を見ながら言った。まぁ確かに小さい
なでも問題ない。
フレイム・マグナム
﹁大丈夫ですって、では行きます︱︱︱︽炎銃撃︾!!﹂
小さな火の玉は時速150キロ程度で打ち出される︽炎神魔法︾
に進化してからスピードがとんでもないことになってしまっている。
これでも本当にギリギリまで抑えているんだけどな︵加減スキル無
しで︶
そして丸太の城壁にぶつかると︱︱︱
︱︱︱ズンッ
お腹に来るような鈍い音が響いたかと思うと、次に来たのは熱風。
思わず顔を隠してしまうほどの熱さである。
風が去った後に巻き上がる大量の砂煙。目と口を隠し入らないよ
うにする。
やがて辺りが収まってきたので目を開けてみると⋮⋮
118
﹁⋮⋮なんじゃあれ⋮⋮?﹂
そこには木に開いた穴⋮⋮ではなく巨大なクレーターの穴が出来
ているのでした。
俺はこの龍族の警備をやっている奴だ! 今日もばっちり警備を
するぞ。
⋮⋮と言っても俺がするのは門の警備だけだ。この集落から出る
ための唯一の門だ。周りは全部丈夫な城壁に囲まれているからな。
人族は大嫌いだがこれだけは正直助かっている。なんせ普通の武
具じゃまず壊されないからな。しかも魔法強化のおかげで魔法にも
耐性があるという素敵な城壁だ!
ん? あれは誰だ? ⋮⋮あ、あいつらは確か裏切り者か! 急
いで集落の奴らに知らせないと!
ん? あのちっこい奴は誰だ? もしかして前に子供にボコボコ
にされたとか誰か言っていたがそいつなのか?
⋮⋮って うわっあいつの出している魔法ちっさwww 発火棒
の方がまだ威力ありそうだぜwww
おっ、中々の速さで飛び出したなでもそんなちっこい炎ぐらいで
119
この城壁はやぶられないぜHAHAHA∼
︱︱︱カッ
︻龍族の集落の門番死亡︼
死因:衝撃による全身強打
﹁⋮⋮ありゃ?﹂
やりすぎた? あの城壁一部完全に吹っ飛んでいるのですが? クレーター作っちゃった。あーさすがの二人も唖然としている。う
ん思うよあんな小さな火の玉がどうやったらああなるんでしょうね、
恐るべし空間魔法。
﹁⋮⋮もうお前だけで国一個いけるぞ﹂
アレスがポツリと言う。その眼はもう唖然を通り越してどこか悟
ったような澄んだ瞳をしていた。やだ怖い、あの戦闘狂はどこ行っ
たんだよ。
集落が騒がしくなってきた。ぶっ飛ばした城壁跡のところに武装
した兵士が集まっている。
﹁来たな、行くぞ﹂
120
﹁わかってる﹂
アレス、レイナは武器を構える。さっきの唖然な顔はどこかに行
き険しい顔をしている。そして一呼吸置いた後に同時に走りだし敵
に突入していった。さすがコンビネーションはぴったりだな。
俺も︽換装︾をし剣を抜く。ちなみに今俺が持っている剣は︻シ
ョートブレード︼ではない、長さはおよそ80センチ。全身を美し
い青で染めたような剣で、鍔には龍をイメージした装飾がされてい
る。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
アイテム名:︻青龍剣︼
分類:武器
属性:龍・斬
効果:斬撃系スキルの威力アップ
詳細:龍族で扱われる上位武器。
美しい装飾と高い威力を誇る
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
なるほどね、これは使えるな。ちなみに二人が持っている武器は
︻炎神剣︼と︻デーモンスピア︼という武器だ。どちらも俺の持っ
ている武器よりも上位の武器だな。
アレスが敵の集団のど真ん中にへと突っ込んでいく、おいあんた
︽跳躍︾無いのになんでそんなに高く飛べるんだよ。
アレスは敵の真ん中に立ち暴れまくっている。おいおいいくらレ
ベル補正があってもその数はまずいだろ。
龍族の人数はおよそ100人ほどしかも後ろから続々とやって来
121
ています。中には幼児見たいなのも混ざっている。龍族は幼いころ
から戦っているのかな?
と、そんな考えをシカトして龍族の何人かがアレスとレイナを置
いてこちらに向かってきた。アレスとレイナはこっちを向⋮⋮向い
てねぇ! スルーしてやがる!? えっ俺無視!? もう少し心配
しないの? アレスとレイナはたぶん内心﹁あいつなら大丈夫だよ
ね∼﹂と思っているのだろう。
龍族としては子供を置いてけぼりにしたと見えるのでチャンスと
言わんばかりに襲い掛かってくる。ちなみに襲い掛かってきている
のは若者を中心とした10人ぐらいの集団だった。レベルは10∼
20程度当然俺と戦うには実力不足すぎる。
龍族の一人が俺の体を真っ二つにしようと剣を振り下ろしてくる。
俺は青龍剣の側面で流す。勢い余った龍族が地面に顔面から打ち付
けそのまま2転3転と転がっていくのを後ろで感じた。続けざまに
襲ってきた龍族は俺を切りつけようと2人同時に襲い掛かってきた。
一人は首、一人は太ももどちらかでも避けることに失敗したら致命
傷になりそうなところだ。
だが俺には見切りではっきりとその動きが読めた。太ももを狙っ
てきた剣と首を狙ってきた剣の軌道が重なるラインのところを振り
上げる。赤い線が見えるだけで実物はまだ来ていないがまるで吸い
込まれるように二つの剣は弾き飛ばされる。一人は前かがみに一人
は後ろ向きにふらつく、俺は後ろ向きに倒れようとしている龍族の
お腹を殴り地面に叩き付ける。叩き付けられた龍族の周りを囲むか
のようにあたりに衝撃でクレーターが出来上がる。
一応死んではいないがそれでもかなりのダメージだろう。龍族の
やつは血と泡を同時に吹き出しながらピクッ ピクッとしている。
龍族の面々は驚いていた。目の前にいるのは龍族視点で見ても3
122
∼5歳ほどの子供である。その子が自分とほぼおんなじか少し長い
くらいの剣を操り3人の攻撃を防ぐとさらに一人は子供の腹パンを
受け血を吐いて倒れているのだから驚くなと言う方が無理かもしれ
ない。
そして、その一瞬の隙は自分らにも災いをもたらすこととなる。
コール・ライトニング
﹁︱︱︱︽雷撃︾!!﹂
進化したことによりその威力、正確性を格段に向上させた雷撃が
龍族を一斉に襲う。ちなみに︽雷神魔法︾に進化したことにより雷
の流れる方向までも制御できるようになっている。もちろんそれな
りに魔力は消費するが、すでに化け物じみた魔力を持っている俺か
らしてみたら雀の涙程度なんだが。
龍族が呻き声を上げながらその場で悶絶するこうなったらもうし
ばらくは戦線には復帰できないだろう。とりあえず土魔法で即席の
手錠を施しておくことにする。強度は龍族の力でも軽々とは壊せな
い強さだ。魔力で密度を上げればさらに強いのが出来るがこの先ど
うなるかわからないので出来るだけ魔力を保存しときたいからこれ
くらいの強度にしている。
さて、親父たちの所に行くか。
俺は龍族を放置してアレスたちのもとへ向かった。すでに数は半
数ほどに減っているみたいだが、さすがに数が多いのか、アレスた
ちも無傷じゃないようだ。︵それでもかすり傷とか多少の出血レベ
ルだが︶
俺は先程と同様の魔法を唱え龍族を無力化していく。ただまだこ
の威力になれていないので、一回だけレイナに当たってしまった。
この戦闘後にこっぴどく怒られました。すいません、次は自重しま
す。
123
そうこうしているうちに瞬く間に龍族100人ほどを倒した。ア
レスたちが40名ほどを倒し、残りの60名ほどは俺の雷撃で沈ん
でいる。もちろん手錠済みだ。
﹁手錠とかいるのか? 今すぐ︱︱︱﹂
という不気味な声が聞こえてきたがすぐに遮断する。
﹁戦えない者を殺す理由などないでしょ。そこまでやる理由もあり
ませんしね﹂
まぁ、本音を言うとこれ以上グロテスクなところを見たくないと
いうだけなんだが。40人ほどの死体など吐き気がしてきそうだ。
殺すこと自体にはそこまで躊躇は無かった。というのも最初の炎
銃撃ですでに一人昇天させてしまっているのがわかっているからで
ある。
もちろん何にも感じなかったわけではない。いくらこちらが慣れ
ていなかったともあれ殺したことには変わりがない。一瞬気持ち悪
くなったがすぐに襲い掛かってきた奴らのせいで忘れていたのであ
る。
そして今、思い出してもそれほどの罪悪感は無い。︵全くではな
いが︶
それでも殺すのはできる限りやめておこうというスタンスは変え
ない。甘いとか言われそうだが俺はそれでもいいと思っている。
アレスはまっいいかという表情をすると、まだまだやってくる龍
族に向かっていった。俺も行こうとするとレイナが後ろ髪を引っ張
ってきた。
124
﹁イテテテ﹂
﹁ご、ごめん。クロウ悪いけどちょっと来てくれ﹂
﹁えっ?﹂
そういうとレイナは俺を引っ張りアレスとは全く方向違いの方へ
と歩いていく。やがて誰もいないのか遠くで声が聞こえるがあたり
はものすごく静かになった。そしてレイナの足が止まる。レイナが
立っていたのはこの集落ではどこにでもあるような家だった。あた
りに豊富にある木を使った家で、江戸時代の民家に西洋の建物が合
わさった感じになっている。
﹁ここは⋮⋮?﹂
﹁私の家さ﹂
﹁えっお母さんの?﹂
﹁そうさ﹂
なんでわざわざ? レイナは扉を開けると中から龍族⋮⋮否、短
剣が飛んできていた。だがレイナはそれを軽々と回避する。回避し
た短剣が俺の頭を掠る。oh⋮⋮わかっていたが怖いな。
中に入るとそこには3人の龍族がいた。全員青空色の皮膚に2本
の角。その中のうち男女一名ずつが後ろに一人の龍族をかばう形で
立っていた。
おそらく前の二人が夫婦で後ろにいるのが子供だろう。たぶん年
125
齢は俺と一緒ぐらいかな?
﹁⋮⋮久しぶりだな﹂
﹁でたな裏切り者めが!﹂
男は剣を片手に威嚇している。女の方も短剣を持って構えている。
なるほどさっきの短剣はこの人が放ったものだな。
ちなみに後ろの子供もめっちゃ怖い形相で睨んでいる。あの私も
ターゲットですか?
﹁そう構えないでくれよ。今日は私の子供を見せに来ただけだから
さ﹂
あっだから俺もなのか。レイナは俺を家族に見えるように前に出
す。
﹁はじめまして、クロウと申します﹂
一応、礼はしておかないとな。
﹁なんだ貴様は!? 人間族と一緒に暮らしているだけでなく子供
まで作ったのか!?﹂
あっやっぱり異種族間ではまずいんだな。もっとも人間と龍族だ
けかもしれないが。
﹁そうカリカリすんなよ、別にいいだろ子供一人ぐらい。なんなら
もう1人か2人ほしいぐらいだぜ?﹂
126
レイナがサラッとすごいことを言う。何となく顔が赤くなってい
るような気がするがここにアレスはいないので一応黒歴史として俺
の脳内にだけ保存しておこうと思う。︵もっとも言質として使わせ
てもらいますが︶
その発言に龍族の夫婦もついにブチ切れた。武器を構え一斉に襲
い掛かってくる。二人としてはレイナは無理でも俺は確実に仕留め
ようとしたのだろう。
なら早めに切り上げるためにさっさとしますか、俺は身体強化を
全開し見切りで動きを確認する。攻撃指定は男の方はレイナで女の
方は俺のようだ。俺の真上を一直線上に行く赤線と俺の首元を通っ
ている赤い線が写っている。
本日2度目の首元への攻撃。いやマジでここの人たち容赦無すぎ
俺はもう武器を出すのも面倒だったので︽身体強化︾と︽硬化︾を
腕だけに発動する。
素早い斬撃はさすがの龍族と言ったところだろう。だが目の前に
いるのはそれを遥かに凌駕する文字通りの化け物だ。
キィンという音と共に肉を断つ筈だった刃物は柔らかい人間の手
によって見事なまでに止められていた。
﹁んな⋮⋮!?﹂
﹁へぼ⋮⋮﹂
思わず本音が出る俺。ちなみにレイナはこうなることを予期して
いたのか特に何もしていなかった。信用されるのはいいことですが
3歳児にさせることではないですよね?
とりあえず戦意を失わせるために粉砕するか。
剣を受け止めている両手に力を入れる、夫婦は剣を引き抜こうと
127
するがピクリとも動かない。まぁ筋力数値が10倍以上ある上に身
体強化もしてますからね無理もないでしょ。これに強化魔法をつけ
たらもう絶対に引っくり返せないよな。
そして一瞬力を入れると剣はバキィと言う音と共に粉々に砕け散
った。後に残ったのは柄とボロボロになったわずかばかりの刃だけ
だった。
﹁⋮⋮は?﹂
﹁⋮⋮﹂
俺は何も言わなかった。無言で粉々にした刃を手の平からからパ
ラパラと落ち、音だけがあたりに響く。そしてそれがすべて落ち切
った後にポツリという。
﹁⋮⋮失せろ、二度と俺らの前に立つな﹂
それはクロウの警告だった。出来るだけ穏便に済ませたかったの
が本音だが、彼らの問答無用の攻撃に半ば呆れていたのだ、実力差
もわからねぇのかと。だからさっさと止めをさして出て行こうと考
えたのだ。
レイナも自分の息子からこんな言葉が飛ぶと思っていなかったの
か若干顔が引き攣っていた。
レイナの両親は目の前で起きたことが信じられんと言わんばかり
の顔をしていた。その様子にもういいかなと思うとレイナに向き直
る。
﹁⋮⋮もう行きませんか?﹂
128
俺はレイナにもうこれ以上いてどうするの? という感じで言っ
た。レイナも要件だけ言って戻る予定だったのか、すぐに出て行こ
うとした。
だがそれに待ったをかける者がいた。クロウとレイナが後ろを向
き出て行こうとした瞬間。
﹁︱︱︱死ねぇ!!!﹂
レイナの両親の影に隠れていた子供が持っていた短剣を片手に襲
い掛かってきたのである。
だがそれに気づかない俺とレイナじゃない。俺が気づき素早く前
に出ると同時にレイナは邪魔にならないようにさっと後方に引いた。
そして夫婦同様短剣をいとも簡単に受け止める。
﹁ぐっ! ⋮⋮まだまだぁ!!﹂
続けざまに蹴りを入れてくる、だが俺はつかんだ短剣をそのまま
に飛び跳ね蹴りを回避する。そのまま着地と同時に流れを利用し短
剣を自分の前で円形に回転させる。持っていた子供は、足払いを受
けたような感じで一瞬宙に浮かぶとそのまま地面に叩き付けられた。
子供は一瞬何が起きたのか分からないという顔でクロウを見つめ
ていた。
﹁⋮⋮で何か言うことは?﹂
すでに持っていた短剣はクロウの手によって使い物にならなくな
っている。顔は青くなっていたが意志だけはまだ持っているようだ。
﹁消えろ!!﹂
129
そういうと寝たまんまであるがクロウに向かって唾を吐いてくる。
だがもともと上向きなので当たるはずもなく虚しく子供の服に落ち
ていく。子供なのに口の悪いことでとクロウは思った。
さて、こいつはどうしようかもう放置してもいいような気がする
んだが。
﹁⋮⋮クロウちょっとどいて﹂
えっと思い後ろを見てみる。そこには満面の笑みをしたレイナが
立っていた。クロウは直感で感じた。やばい、これはやばい。もう
眼が完全に笑っていないもん。
このままだと殺戮現場が生まれそうなので必死で制止させる。俺
からしてみれば子供は完全に両親の洗脳教育⋮⋮というと言葉が悪
いが、まぁ実際そんな感じだからいいか。
とにかく両親が悪いだろということで必死に抑える。
﹁ちょっ、別に死ななかったから大丈夫ですよ! ですからその槍
を下ろしてください!﹂
﹁下がりなさいクロウ、そこのやつは私がきっちり止めを刺してあ
げる﹂
﹁ま、まだ子供ですよ! 大丈夫だからやめてあげて!﹂
再三の俺のお願いでレイナはなんとか引いてくれた。その代りあ
の子供はレイナのパンチを一発食らって台所みたいなところに頭か
ら突っ込んでいったが。
﹁それじゃあ私はもう行くよ。よかったな孫の顔が見れて、もっと
ももう二度と見せる気がないけどな﹂
130
レイナはそれだけ言うと出て行った。俺も後を追おうとしたのだ
が当然両親が許さない。
﹁まて、貴様らを放置していては一族の恥だ! 貴様をここで片付
け︱︱︱﹂
俺が動くより早くレイナが動いた、一瞬で彼らの目の前に来ると
槍を彼らの咽喉に当てる。多少切ったのか血が流れている。
﹁もう一度言うもうあんたらの前に顔は出すつもりはない、お前ら
だろ? 私たちのところに刺客を送り出しているのは? あんたら
はこの集落でも力の持っている者だからな、それに村の掟をやぶっ
た裏切り者を始末するという大義名分が合わされば充分に可能だ﹂
﹁な、何を根拠に︱︱︱﹂
﹁根拠なんかねぇよ、私なりの考えだ。それにお前の言動ではっき
りと確信したよ、じゃあ正当防衛で私があんたらも殺しても文句を
⋮⋮いや死んでいくやつに文句とか無理だな。死人に言葉はねぇし﹂
レイナの威圧に両親たちは完全にやられた。顔は青ざめ額には暑
くもないのに何故か大量の汗が出ている。
>スキル︽威圧︾を取得しました。
こんなスキルまで得れるんだ。
レイナはそれだけ言うと今度こそ出て行った。俺はもう何も言わ
なかった。ただレイナの両親を一度だけみると呆れた顔をしてつい
ていった。
131
レイナの両親は今度こそ何も言わなかった。ただ自分の命が助か
ったことに安堵の思いをするのであった。
132
第7話:強襲︵後書き︶
両親登場。ですがレイナはもう何にも感じていないようですが、
とりあえず孫の顔だけ見せてあげるというなんとも上から目線。ち
なみにレイナのレベルはこのとき43。襲撃した集落の最高レベル
は50で次が30と一気に落ちるようなところです。
だからレイナもアレスも無双しちゃっています。クロウは⋮⋮も
う言わないでもいいですよね?
※感想、アドバイスなどありましたら気軽にどうぞ
※誤字脱字がありましたら報告お願いします。
133
第8話:実戦︵前書き︶
バッカスさん登場です。
11/03:加筆修正をしました。︵大幅修正︶
134
第8話:実戦
俺とレイナが家を出たころ。遠くで俺らを見ているものがいた。
集落内の櫓の屋根の上からこちらを見ている。ちなみに普通に見れ
ば豆粒のようにしか見えない。︽気配察知︾と︽千里眼︾のおかげ
だな。
さて、問題は彼の姿である。上半身裸でしかもマッチョな出で立
ちをした龍族だ。皮膚は全体的に黒い。ショートヘアーでスッとし
た顔立ち顔だけなら間違いなくモテるに違いない。ただしその下の
重厚な筋肉を見たらなんというだろうか。
俺は早々にそいつの存在に気づいたのでレイナに言う。
﹁ありゃバッカスだな﹂
﹁バッカス?﹂
お酒? という俺のつっこみは置いといて、バッカスとはどうや
らこの集落一の強さを誇っているらしい。生まれて3か月で龍族の
大人でも持ち上げることが難しい岩を持ち上げたり、村一の強さを
決める武闘大会でも史上最年少で優勝しているらしい。
ちなみに今でも連続で優勝しているだろうなとのこと。
﹁どうする?﹂
﹁ちょうどいい、お前相手して来いよ﹂
135
えっ、なにその近くのコンビニでジュース買ってこいや見たいな
気軽な発言は? 仮にも村で一番強いんだよね?
俺が不安になっているのがわかったのかレイナが続ける。
﹁心配するなアレスと同じくらいの強さなだけだ﹂
あっ、なるほどってそうじゃねぇって!
﹁じゃ任せたぞ、私はアレスのところに行くから﹂
というと︽飛行︾を使ってどこかに行きやがった。くそぉ何なん
だ家の親は⋮⋮戦いになると子供に無頓着すぎるだろ⋮⋮お前らは
経験の差というものを知らないのかよ⋮⋮。
そんな俺の嘆きを知ってか知らずか俺の前にバッカスが現れる。
﹁⋮⋮いよぅテメェがうちの若者を再起不能にしたのは?﹂
﹁な、なんのことでしょうか?﹂
﹁とぼけるな、あんな強烈なパンチを忘れたとは言わせないぞ﹂
あっ○龍拳ですね、確かに全力で殴ったけどマジで再起不能にな
ったんだな。どうやらあいつはこのバッカスとか言う奴の知り合い
だったらしいな。
﹁龍族で戦えない奴はただの役立たずさ、老人ならともかく、若い
連中は肩身の狭い思いをしてやがるんだよ﹂
自業自得じゃん。
136
﹁まぁそんなことはどうでもいいんだよ。問題はやったのがテメェ
のようなガキんちょってことだ。俺としては今回お前に用があった
ようなもんだよ﹂
あっ、こいつも戦闘狂なんだ。やっぱり種族別の性格はあるのか
な? それとも人間族が異常なのかな?
﹁それならお父さんあたりにでも行ってください。俺よりかよっぽ
ど強いですよ﹂
大嘘であるが、俺のなりを見れば納得するだろう。
﹁とぼけるなよ、お前の強さは最初から見ていた。お前の魔法は特
にすごかったな﹂
げぇ! あの場面から見ていたのか!? ということはあのクレ
ーターを作ってしまったところからか?
アチャーこれじゃあ言い逃れで出来ないな⋮⋮
深々とため息をする俺、片手を顔に当ててどうしようかと嘆く。
﹁まぁどっちにせよ、村を襲ってきた輩を放置するわけにもいかね
ぇんだよ﹂
バッカスは背中にあった剣を抜く。長さは1,5メートル程度の
剣だ。特にこれといった装飾はしてなく一見すると安っぽい剣と見
間違えそうだが、俺の眼はその剣がかなりの代物だということを警
告していた。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
137
バスターブレード
アイテム名:︻大剣︼
分類:武器
属性:無・斬・打
効果:打撃スキル1アップ
詳細:両手剣の基本武器、切ることよりも武器の重さを生かした
打撃攻撃に特化している。
素材:ミスリル
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
そう、俺の眼が警告しているのは素材だ。今まで特に注意して見
ることはなかったが、錬金術などで武器が作れることがわかると意
識して見るようにしてきた。ちなみにまだ武器を本格的に作ろうと
は思っていない。木剣なら一度作ったことあるけど一撃で壊れたし。
ミスリルはこの世界で一般的に扱われる鉱石の中で一番丈夫らし
い。︵と言っても所詮は本の知識。たぶん世の中にはまだまだ知ら
ない鉱石があるだろう︶
しかも、基本武器のくせに付加付きかよ。
次にバッカスの能力を覗いてみる。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:バッカス・スト・ローリア
種族:龍族
レベル:50
筋力:1,030
生命:2,050
敏捷:1,550
器用:770
魔力:0
スキル
138
・固有スキル:︽龍の眼︾︽千里眼:5︾︽透視:5︾
・言語スキル:︽大陸語︾︽龍神語︾
・生活スキル:︽倉庫:4︾︽換装:7︾
・作成スキル:︽武器整備:3︾︽防具整備:3︾
・戦闘スキル:︽身体強化:7︾︽見切り:7︾︽気配察知:7︾
︽回避:7︾︽状態異常耐性:3︾︽跳躍:2︾
︽打撃強化:6︾︽心眼:7︾
・武器スキル:︽大剣:7︾︽鈍器:6︾︽盾:5︾︽格闘:7︾
・魔法スキル:︱
・特殊スキル:︽フォース:6︾
・特殊能力 :︽硬化:6︾︽飛行:7︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
⋮⋮なんというか普通だな。やっぱり数値はアレスたちより上か、
さすが村一番なだけはある。やっぱり実戦での叩き上げだから戦闘
スキルは高いな。
なんて確認をしているとバッカスがすでに戦闘モードに移行して
いた。あっこいつも戦闘狂だったんだ。
俺も持っていた青龍剣を構える。この剣もかなりいい武器なんだ
けど素材が鉄だからな、素人の俺が打ちあったら簡単に壊れそうだ。
﹁おっ、やる気になったか?﹂
﹁別にそんなんじゃありませんよ。ただやらないと死ぬので﹂
一応逃げることも視野に入れている。飛行スキルだけじゃ俺の方
が熟練度が下だから逃げ切れないけど、魔法と組み合わせれば早く
逃げれるしな。
139
先手でも取っときますか。俺はさっそくこの前獲得したばかりの
︽瞬間詠唱︾も試してみることにした。
コール・ライトニング
﹁︽雷撃︾!!﹂
いやぁ無詠唱って楽だね。
補足しておくとこの世界の魔法は前に述べたとおり創造で作り上
げるものが基本だ。だが中には例外もある。それは雷撃見たいに本
とかに乗っている魔法だ。お手本と言うわけだな、イメージをつけ
やすいように魔方陣という形で存在している。
簡単に言うと。
雷撃 ↓ 魔方陣型魔法︵創造でも詠唱でも可能︶
炎風拳 ↓ 創造型︵魔方陣での使用は不可、ただし作ることは
可能︶
上に書いてある通り創造型の魔法は魔方陣に作ることも可能だ。
そういって書かれた魔法は︻魔法札︼というアイテムとして売り出
されるらしい。
しかも魔方陣に変えれば次回からはその魔法の名前と使用属性だ
け選べば即使用可能だ。もっとも俺の場合あまりにスキルレベルが
上がりすぎてもう名前をチョイスしている感覚しかないのだが。
イメージとしてはロック○ンあたりかな、バトル○ップが魔法札
だ。
だからっと言っていきなり魔方陣に出来るわけじゃない、まずは
創造型で作り上げることが大前提だ。つまり具体的な流れとしては
﹁創造型で魔法作成↓魔方陣に書いて固定﹂という感じだ。
140
魔方陣に作りかえるということは、忘れないように紙にメモをし
ておくようなものだ。
⋮⋮あれ? じゃあもっと上の魔法があってもおかしくないよう
な気が、なんであんなに簡単な魔法だけしか本に載っていないんだ
ろ。初級編だったけ? 今度聞いてみるか。
いきなりの雷撃でもバッカスは後ろに後退することによって回避
する。うぉっあれ避けるか? だが俺もそんなことで一々動揺はし
ない。
フレイム・インパクト
﹁︽炎風剣︾!!﹂
炎風拳の派生魔法で剣に炎と風の魔力を溜め前方に放出する魔法
だ。こちらの方が一回剣を媒体とするので威力があがるのだ。
暴風と火炎がバッカスを襲う。横に回避するが完全に回避しきれ
なかったのか足が一部やけどをしていた。
今度はバッカスが動いた。体勢を立て直すとそのまま一瞬で俺の
眼の前まで詰めてくる。そしてそのまま俺を真っ二つにするために
剣を振り下ろしてくる。
俺はこの勢いでは完全に受けきれないと判断し剣と剣がぶつかり
合った瞬間、斜め向きに軌道を切り替えそのままバッカスの剣を受
け流す。勢いがあった分バッカスが後ろに行く勢いもかなりのもの
だ。
バッカスはそのまま後ろに転がったかと思うとすぐに飛び上がり
141
体勢を立て直した、さすがにこの辺りは慣れたもんだな。
﹁ちっ、無詠唱かよ⋮⋮しかもかなりの速さだな。二つ目の魔法は
なんだ? 俺も見たことがないぞ﹂
あー複合魔法のことか。確かにほとんど俺のオリジナルだしな。
﹁お父さんの魔法ですよ﹂
嘘だけどな。
>スキル︽詐術︾を取得しました。
what!? 俺今まで両親に嘘ついたことあるよな!?︵家を
襲撃してきたやつらをタコ殴りにしたとき、詳しくは第3話参照︶
まぁ、いまさらだしいいか。
﹁ふ、面白い、これで本気でいけるな﹂
あー、やっぱりそうなりますよね。バッカスはふっと一息すると
一瞬で体中が鱗へと変質していった。さすがにあの熟練度になると
中々の速さだな。さらに翼も生えている︽飛行︾スキルか。
﹁お前も死ぬ前に見ておけ、これが本物の龍族だってことをなぁ﹂
さ、殺気が来る。こえぇ⋮⋮
バッカスは再び俺との距離を詰めてくる。さっきよりも速い。俺
は咄嗟に跳躍をする。スキルのおかげで30メートルぐらいまで飛
び跳ねてしまった。だが飛行している相手ならあんまり関係ないだ
ろうが。
142
俺はすぐに意識を集中させる、︽硬化︾︽飛行︾を使用。こっそ
り手と足には︽強化魔法︾で付加属性をつけている属性は風、静か
にしたら風の音が聞こえるだろう。もっとも空間魔法を使えば音も
遮断できるかもしれないが今は置いておこう。
全身が青色の鱗に覆われ翼が背中に生える。その様子を見ていた
バッカスがおいおい冗談だろと苦笑しているのが見えた。
俺は剣を鞘に戻す。︽格闘︾と︽対龍戦︾スキルのおかげで互角
に戦えるはずだ。
バッカスに一気につめよる。風のブーストでめっちゃ早くなる。
あまりに勢いをつけすぎて危うく地面に頭突きをするところだった。
要練習だな。
俺の速さについてこれないのか、地面に着地した音でようやく視
線を俺へと移すが、その時にはもう遅い。俺の風属性を付加した拳
が彼の顔面を捉える。
ドンッと言う音とベキッと言う音がほぼ同時に鳴る。見ると顔を
覆っていた鱗が見事に壊れていた、バッカスは苦痛に顔を歪ませな
がら俺との距離を取る。
﹁くそっ、なんつうぅ強さだ⋮⋮硬化した俺の皮膚を軽々と破って
きやがるとは﹂
﹁そろそろいいですか? もう十分でしょ?﹂
あくまで俺は平和主義者だ。ラブアンドピース精神だ。どこかの
戦闘民族じゃないぞ。
だが戦闘民族には無意味な発言だったようだ。
﹁馬鹿かテメェは、ここから勝つことに意味があるんだよ﹂
143
そういうと鱗の間から流れ出る血も無視して再び剣を構える。そ
の眼はもう完全に俺しか見えていないようだった。そのため俺の魔
法にも今回は気づかなかったようだ。
﹁⋮⋮︽雷撃︾﹂
バチィンという音が鳴り、バッカスが﹁あばばばばばば﹂とか言
いながら地面に倒れる。ピクッピクッと痙攣をしているが一応死ん
でいないようだ。
﹁はい、おしまい﹂
とりあえず手錠だけして俺はレイナたちのところへと戻ることに
した、何とも簡単なお仕事でした。
なんじゃこれゃ?
アレスたちの周りにあったのは死体の山、山、山。正直吐きそう
だいえ吐いていいですか? いえ吐きます。近くの民家に近づきと
りあえず朝食べたものが出てくる。
>スキル︽精神耐性︾を取得した。
﹁おいおい大丈夫か?﹂
144
レイナが駆け寄ってきて俺の背中をさする。あとで気づいたが返
り血がついていた、このやろぅ⋮⋮。
しばらくすると俺も正常な心を取り戻していた。
﹁で、これは?﹂
俺は気を取り直してアレスに質問する。もちろん俺は見ないよう
にしている。早く精神耐性ついてくれ。
﹁何って死体だが?﹂
いやそういう問題じゃないのですが、数にしたら200はあるぞ、
さっきの入口のとここまでの数を数えたら悠に400は超えないか?
あああ⋮⋮なんでこいつら躊躇なく人を殺せるんだろうか、もう
正直ついていけれないのだが、せめて魔物みたいなので慣れてから
ここに来たかった。
﹁残りの奴らはどこかに隠れてやがるな、もうこの村燃やすか?﹂
﹁そうだね、中途半端にやっちまったらまたやって来るだろうしね﹂
お前ら⋮⋮それにしてもどうやって倒しているんだろ? いくら
レベル差があってもこんな数をまとめて相手して勝てるとは思わな
いんだが、しかも相手は硬化とか飛行とか使うやつらだぞ?
なんかスキルを持っているのかな? 俺でも看破出来ない遮断と
か聞いていないが、まぁこのスキルが本当に万能かどうかわからな
いからな。
とにかく今は、この殺人魔をどうにかしないと
145
﹁こ、これくらいやれば十分なのでは?﹂
﹁だめだ、あいつらはこれくらいのことで諦めるような奴らじゃな
い、村の掟を破ったからには死んでもなんとかするぞ﹂
﹁だから全員殺すのですか?﹂
﹁ああ、そうしないとこれからもイタチごっこになるだけだろうな﹂
ああ、面倒だな⋮⋮結婚なんかどこの種族とやっても変わりない
だろ、別に人を殺したわけじゃないのに、あっもう殺したから手遅
れだ⋮⋮。
そう思っていたときどこからともなく音が聞こえてきた。地鳴り
? 地震かなと思っていると
﹁!! アレス! クロウ! 逃げるぞ!﹂
レイナが山の方を睨みながら警告した。
俺も︽透視︾と︽千里眼︾を使ってレイナの向いてる方を確認す
ると、そこにいたのは
﹁⋮⋮本物の⋮⋮龍?﹂
そこにいたのは真っ黒な龍だった。 146
第8話:実戦︵後書き︶
黒龍登場。
読んで下さった皆様ありがとうございます。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字報告がありましたら報告お願いします。
===2017年===
03/28:一部修正しました。
147
※8/16
※8/15
加筆修正をしました。︵大幅修正︶
誤字脱字を修正しました。
取得スキルを追加しました。
第9話:黒龍︵前書き︶
※11/3
誤字を修正しました。
通算10,000PVを突破しました。ここまで読ん
3/19
2015年
※
8/15
で下さった皆様に本当に感謝です。これからも応援していただくと
うれしいです^^
148
第9話:黒龍
世の中には絶対に敵対してはいけないものがあるらしい。ひとつ
は神、いるかどうかは別としてこの世界の人たちは宗教深いところ
があるらしい。。アレスは信じていないらしいが一応ひとつ入信し
ているらしい、治癒魔法で補助の恩恵を受けるからだそうです。現
金な奴だな。
そして⋮⋮今俺たちの目の前にいる生き物もそうらしいです︵泣︶
﹁逃げるぞ!!﹂
レイナの言葉に俺とアレスは弾かれたように逃げ出した。だがあ
れにとってはちっこい豆粒みたいな存在なんだろう、あっという間
に追いつかれた。
ちなみに俺は全力で逃げていないよ、だって全力でやったらレイ
ナとアレスを置いて行ってしまうもん。ちなみに一番足が遅いのは
アレスだ。それでもかなりの速さなんだが。
先回りされ降り立つ、ズゥンという音と共に風が吹き荒れる。く
そっとレイナがつぶやくと槍を構える。
目の前にいるのは大きさは40メートルは余裕でありそうな巨大
な龍だった。全身が黒く赤い瞳をしていた。その瞳に見つめられれ
ば一般人なら卒倒するだろう。
だがここにいるのは歴戦の強者だ一名を除いて。
﹁⋮⋮龍?﹂
149
﹁ああ、こいつが龍族の祖先であり、もっとも世界で敵に回しては
いけない奴だ﹂
アレスがマジメな表情になってる、明日は槍が降るな。
﹁おい今なんか失礼なことを思わなかったか?﹂
﹁イエ ゼンゼン﹂
こいついつのまに読心術を覚えたんだ?
﹁ぼけている暇があったら逃げる方法を考えな! あんたら何でそ
んなに余裕なんだ!?﹂
いえ全然余裕ありませんが、たぶん目の前の現実から逃げたいだ
けでしょう。
﹁ちっ、しゃーねな、クロウ! 俺とレイナで足止めするからその
うちに逃げろ!﹂
アレスがレイナと肩を並べる。俺は黒龍のステータスを調べる。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:黒龍
種族:龍
レベル:︱
筋力:4,000
生命:5,400
敏捷:9,050
器用:3,000
150
魔力:5,500
スキル
・固有スキル:︽龍の眼︾︽千里眼:8︾︽透視:8︾
・言語スキル:︱
・生活スキル:︱
・作成スキル:︱
・戦闘スキル:︽見切り:9︾︽気配察知:8︾︽回避:9︾
︽状態異常耐性:10︾︽跳躍:10︾︽炎耐性:
8︾
・武器スキル:︽格闘:10︾
・魔法スキル:︽火魔法:10︾︽闇魔法:9︾
・特殊スキル:︽龍の力:10︾
・特殊能力 :︽硬化:10︾︽飛行:10︾︽咆哮:10︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
うぎゃあああああああチートすぎるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!
えっなにこれ!? スキルとか神クラスじゃん!? ︽龍の力︾
も10ってうそぉぉおん。他にも戦闘スキルとか完全におかしいじ
ゃん!?
黒龍がすうぅと息を吸うのが見えた。あっこれやばいぞ俺の脳内
は速攻でそれを理解した。あれをどう防ぐか考える暇もなく黒龍か
ら特大の咆哮が飛んでくる。
︱︱︱スキル︽明鏡止水︾発動
周囲の動きが遅くなる。︵思考が加速されるためそう見えるだけ︶
アレスとレイナは動いている様子は見えない。早すぎるからだろ
う。
俺は二人の首元を掴むと跳躍で全力で横に飛ぶ。咆哮は地面に着
151
弾したかと思うとそのまま爆音を響かせながらあたりに衝撃波を伝
わらせる。そしてその衝撃は俺らにも飛んでくる。
アース・ウォール
﹁ちっ、︽土壁︾!!﹂
目の前に土の壁を作り上げる。強度は俺の出来る限界値。どれく
らい堅いかはわからないがやれるだけの手は打たないとな。
強烈なブレスは一瞬で辺りを荒野へと変えてしまった。集落の村
も一瞬で吹き飛んだ。
黒龍が勝利の雄たけびを上げる。だがその雄たけびは一瞬で別の
叫び声に変わる。
メテオ
﹁︽隕石︾!!﹂
上空から見たこともないスピードで落ちてくる岩の直撃を受けた
黒龍は体勢を崩した。黒龍は何が起きたかわからなかったが目の前
を向くと小さな生き物が空を飛んでいるのがわかった。
小さな生き物は何かをつぶやいた。すると小さな生き物の周りに
何やら球体が浮かんでくる。数にして20はあるだろうか。
ライトボール
﹁︽光球︾!!﹂
光の球が黒龍へと一目散に飛んでいく、黒龍は直感で飛んでくる
ものがやばいものだと察知したのかすぐに迎撃態勢をとる。
再び息を大きく吸い咆哮を放つ、先ほどの白色から変わり黒色の
ブレスが飛んでいく。闇の属性を付加した咆哮だ。二つの技は空中
でぶつかり合うとそのまま魔力の衝撃を放ちながら相殺をしていく、
だが球体と咆哮では攻撃種類で圧倒的な咆哮が勝り、光の球を貫通
して生き物に向かっていった。
152
確実にやった、黒龍はそう思っただろう。
だがその思いは、背後からの強烈な蹴りで打ち破られる。
﹁グオッ⋮⋮?﹂
黒龍の視線の先には咆哮で消したはずの生き物が生きていた。
﹁なんつー威力だ⋮⋮強すぎるだろ。あんな咆哮受けたら一発でお
陀仏じゃないか⋮⋮﹂
正直やばすぎる。俺の魔法で一応ダメ︱ジは与えられているみた
いだがほとんど効いてないのか、特に怪我とかをしている様子も無
い。
﹁もうちょい出力を上げたいんだけどな⋮⋮﹂
これ以上はやばい。これ以上の力を使えば本当にこの辺りが荒野
と化してしまう。集落もブレスで吹き飛んだとはいえ、まだ生存者
はいるだろう。それは俺の︽気配察知︾でわかっている。
とりあえず観戦者だけでも避難させるか。俺は自ら作った土壁の
近くまで一瞬で移動する。いつもなら彼らの眼で追えるくらいのス
ピードで移動するがさすがに、今は出し惜しみしている暇はないの
で全力で移動する。
153
﹁とりあえずどこかに逃げておいてください。ここに居ては巻き込
まれますよ?﹂
ぽかんと口を開いたまま何も言わない二人。気持ちはわからんで
もないけど。
﹁⋮⋮さっさと走る﹂
ボソッとそれだけ言うと俺はその場を離れた。というのも黒龍が
もう咆哮を放とうとしているからだ。
ポセイドン
﹁︽海神の槍︾!!﹂
作り出したのは水で作り上げたモリ。ポセイドンと言えば大体ど
んなものか想像できるだろう。だが俺の魔法はちょいといじって風
で加速するように出来ている。槍が当たった瞬間に雷を炸裂させて
もいいけどまだどんな感じになるかわからないので封印している。
範囲攻撃がダメなら一点集中はどうだと思いこの魔法を作り上げ
た。
俺の手から放たれた槍は黒龍の顔に向かって加速していく。発射
した瞬間は時速200キロ程度だったが、当たる頃にはマッハ2程
度には加速していたと思う。
黒龍はブレスを放つのをやめ回避する、だが加速する槍にわずか
に遅かった。
翼の一部に槍がヒットしそして貫通した。黒龍は苦痛の叫びを上
げながらもクロウを睨みつける。さすがだなとクロウは思っていた。
﹁やっぱり出し惜しみはダメだな﹂
154
今度は先程龍族の防壁を軽々と破壊した火の玉をだす、だが今度
は先程みたいに小さなものではない。大きさはバスケットボールほ
どの大きさまで拡大している。
そしてその数である。周囲に展開している数はおよそ20個。
一つ一つが山一つは軽く吹き飛ばせるぐらいの力を持っているだ
ろう。黒龍がそれに気づいた時には
アサルトフレイム
﹁︽誘導火炎弾︾﹂
炎の球が目の前に飛んできていた。
﹁さて、こいつはどうしようかな﹂
俺の目の前には完全にのびきった黒龍がいた。死んでいないぞ、
伸びてるだけだぞ。それにしてもアレをくらっても生きているとは
なぁ⋮⋮
さてアレスやレイナはどこまで行ったかな? ︽気配察知︾︽千
里眼︾︽透視︾を使い探索する。
あっいた、こちらに向かってきているな。あと数分もすれば到着
するかな?
︱︱︱小僧
155
ん? 今何か聞こえたような⋮⋮?
︱︱︱小僧、お前のことだ
バッと黒龍の顔を覗く。見ると意識が戻ったようだ、思わず構え
る。だが妙な感じがした、先ほどまでの敵意が全く見てとれないの
だ。ちなみに言語は龍族語みたいだ。やっぱり龍だからかな?
︱︱︱おぬしは何者だ?
よく見るとしゃべっていない、心に語りかけているのか?
﹁何者って言われてもただの龍族と人の間に生まれた人としか言い
ようがないんだけど?﹂
︱︱︱違うな、おぬしのその規格外の強さ。おぬし転生者か?
﹁!? なんでそれを﹂
︱︱︱創世者セラから転生したものの話は聞いていた。まだ3歳ほ
どだが想像以上だとな
﹁⋮⋮セラ? 誰だそれ?﹂
︱︱︱創世者セラにまだ会っていないのか転生者よ。なら今晩にで
も会うようにとりつけてやろう
﹁いや、ちょいまて事の事情を全く理解出来ないのだが、どういう
ことだ?﹂
156
︱︱︱詳しいことはまた後で話そう。とりあえず解放してくれない
か? もうワシにおぬしをどうこう出来る力は無い。
本来ならここで止めを刺すべきだろう。だがクロウはあえてしな
かった。黒龍のお腹から飛び降りる。なぜか自然に体が動いていた。
︱︱︱感謝する。小僧よ
﹁いや、感謝しなくていいから、とりあえず俺らを襲った理由を教
えてくれませんか?﹂
︱︱︱我が子孫が襲われているのだ、駆け付けるのは当然だ
﹁いや、あなたが止めを刺したじゃないですか﹂
︱︱︱あいつらには私にもわからない意志を持ってるだけだ。私も
神ではない⋮⋮すべてを知ることなど出来るわけがなかろう。
む、無視かよ⋮⋮と言うか、その言葉は暗に﹁だからお前たちが
襲われたことも知らないから許して﹂と言っているのだ。正論だけ
ど納得できないよな⋮⋮
ちっ、都合のいい奴め。
﹁ところで話すとは一体どういうことだ?﹂
︱︱︱なに、今晩になればわかることだ。
黒龍はそれだけ言うと飛び去って行った。
157
﹁で、なんであいつを逃したんだ?﹂
﹁もう十分痛めつけて怯えていましたし、当初の目的はあの龍のお
かげで果たされたので別にいいかなって、ギブアンドテイクってい
う奴です﹂
﹁はぁ⋮⋮それであれを逃がせる余裕が信じられないよ﹂
うん、俺ももうおかしいと思う。まぁ殺さないには限るよね。ど
っちにせよあいつは逃がすつもりだったし。
﹁まっ、確かにこの村はもう再起不可能だな。何人か生きているみ
たいだがもう村を形成していける力はないだろう﹂
どこかの村にでも逃げるんじゃね? と言うのがレイナの答えだ
った。それならもう襲ってくる奴らもいないだろとアレスも納得し
家に帰ることにした。
こうして、レイナとアレスの因縁は終わったのだ。以後彼らがや
ってくることは無かった。
>特別条件︽龍と遊びし者︾を満たしました。
158
>スキル︽龍の力︾のスキルレベルが5上がります。
>スキル︽硬化︾のスキルレベルが5上がります。
>スキル︽硬化︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽性質変化︾へと進化しました。
>スキル︽飛行︾のスキルレベルが5上がります。
>スキル︽飛行︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽変幻飛行︾へと進化しました。
>スキル︽咆哮︾のスキルレベルが5上がります。
>スキル︽意志疎通︾を取得しました。
その日の夜、俺が今日の衝撃的な出来事に眠れずに起きていた。
フレイム・マグナム
人を殺した。間違いないだろう。最初の︽炎銃撃︾で門番みたい
なやつが吹き飛ばされているのが見えた。
そのあとの黒龍戦だってあたり一面を荒野にしてしまっていた。
もっともその根本的な原因はあの黒龍のブレスにあるんだが。
もっとも今日の一番吐き気を催したのは、あの死体の山だが、つ
ーか吐いたな俺。
なんだろ親があんなことをしているせいか、俺もそこまで罪悪感
を感じないところがある。もちろん抵抗が無いわけじゃない、これ
からも極力人殺しは避けるつもりだ。
159
あんなことをやっといて良い訳がないからな。
⋮⋮これからどうしようか。一応身の危険は多少は遠ざかった。
多少は安心して暮らせるだろう。もっとも来ても返り討ちにするん
だが。
逆に言えば強くなる理由がなくなった。もちろんこの世界のこと
だ強くなって悪いことは何にもないはずだ。だがなんというか⋮⋮
明確な目標が消えてしまったのだ。
﹁悩んでいらっしゃるようですね﹂
!? ど、どこから!? ちなみにアレスとレイナはすでに爆睡
中である。時間は夜の1時と言ったところか。
俺が周囲に気をめぐらせる。
上!?
ばっと上を見上げるとそこには女性が浮かんでいた。白よりはや
や薄くねずみ色が着色されたような髪、自然に伸びたロングヘアー
はクロウのドストライクだ。顔もスッキリとしており美人だ。
服装は全身白色のワンピースみたいなのを身に着けていた。スタ
イルも悪くない出るところは出ているし、やばいめっちゃ好み。
いや、問題はそこじゃねぇ浮かんでいる!? あとどこから入っ
てきたんだ!?
﹁好みですか、うれしいですね。あと私は神と言われている人たち
ですからね、浮かぶぐらいはなんてことありませんよ。あと物質は
すり抜けれるので屋根から入ってきました﹂
あっ、心読みやがった。
160
﹁あなたは⋮⋮? もしかして﹂
﹁ええ、あの人から聞いているでしょ?﹂
﹁ええ、俺を転生させて放置している人だと﹂
たぶんその通りだろう。ここではあいつしかいないはずだ。
﹁⋮⋮今すぐ殺しましょうか?﹂
﹁ごめんなさい、もう二度と言いません﹂
怖い、この人怖い。
﹁⋮⋮もっともそうやりたくても私には出来ないんですけどね﹂
﹁ん? それはどういうことですか?﹂
﹁言葉の通りですよ。私はこうやって思念体を地上に降ろすことは
できますが、この世界に干渉が出来ないんです﹂
﹁幽体みたいなのですか?﹂
﹁ええ、そんな感じよ、もっとも幽体とは比べ物にならないほど高
い地位の人だし、この思念体は魔力で作ってあるのよ﹂
コロコロと彼女は笑う。そして改めて俺に自己紹介をする。
﹁初めまして、クロウ。私の名前はセラ。創世者セラです﹂
161
その日から俺の運命は大きく動き始めた。
162
第9話:黒龍︵後書き︶
ようやくお話が進みだしましたね。もう前の魔法チートで吹っ切
れたのかどんどんこういうのをやっていこうかと思います。
コウカイ ハ シテイナイ
※アドバイス、感想などがありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字報告などがありましたら報告お願いします。
163
第10話:創世者セラ︵前書き︶
今回は短いです。いつも同じくらいの量を目指しているんですが
スキル名を変更しました。
中々難しいですね。
※8/21
※11/4
加筆修正をしました︵大幅修正︶
誤字を一部修正しました。
・︽改変︾↓︽変化︾
※11/3
164
第10話:創世者セラ
﹁⋮⋮で俺をこの世界に呼んだ理由はなんですか?﹂
場所を移しここはいつもフォースの練習をしていた崖付近、月が
きれいに見える夜だ。︵この世界にも月はある。そのため潮の満ち
引きもある︶
季節は秋になりつつある。この山にも紅葉というものがあり、も
うすぐ真っ赤に色づきそうだ。
セラはどれからしゃべろうかなと言うと理由を話し始めた。
﹁この世界が異種族同士で対立があることは知っていますね﹂
﹁ええ、おかしい位に対立があるみたいですね﹂
﹁そうですね、どこの世界にもあるものですがここまでひどいのは
初めてです﹂
﹁俺のいた世界でも人種別で紛争とか起きていたのでそこまで言え
ませんけどね﹂
えっ、と言った感じでセラが驚いた顔をしていた。何故そんな顔
をしたのかはすぐにわかった。
﹁私があなたをこの世界に呼んだ理由はひとつ。この世界の種族別
の対立を解消⋮⋮そこまではできないかもしれませんが、解消への
足掛かりをしてほしいのです﹂
165
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮生きてますか?﹂
﹁はっ、俺は今何をしていたんだろう﹂
﹁大丈夫ですか?﹂
﹁ちょっと脳内スペックが足りませんでした﹂
﹁そうでしょういきなり大きな話をしすぎましたね﹂
﹁いやちょっとまって、何でそれが俺?﹂
﹁私はこの世界の対立をなんとかして解消したいと考えていました。
そのためには二つの血を持った人が適任と考えていました。それは
両方の血を持っている人なら他種族よりまだ考慮の余地があると考
えていたからです﹂
﹁考慮の余地? でもあの龍族は俺を見ても殺す気しか起きていな
かったようですが?﹂
﹁はい、正直ここまでとは思いませんでした﹂
﹁まぁその辺はいいとして、問題は俺が選ばれた理由は?﹂
正直、色々聞きたいことがあるけどとりあえずまずはこれからだ
な。
166
﹁はい、あの人たちがあなたを宿した時、私は魂の中で一番質のい
い魂を見つけようとしました。その結果があなたです。魔力の質は
もちろんのこと人種差別をする人ではないか、種族の特徴で差別を
する人ではないか。私はこの二つを重点的にあてました。そこであ
なたが見つかったのです﹂
﹁ん? それならもっといいのぐらいいるだろ? イエスとか﹂
﹁いえすというのがどんな人かは知りませんが、魂を選べるのも限
られてくるのです、特に死後数分以内でないともう私では手におえ
ない場所に行くのです﹂
どこにとは聞きたくないなぁ。
﹁しかし、あなたのいた世界でも差別はあったのですね、あまりに
純度が高いので、てっきりないかと思いました﹂
ああそういうことか。俺はさっきセラが驚いた理由がわかった。
要は俺の説明不足ということだ。
﹁ああ、そういうことですね。俺のいた国では差別というのはほと
んどありませんでしたね。と言っても全くなかったわけではありま
せんよ? 昔から代々続くような差別もあれば、その人個人の体の
特徴や性格、しゃべりかたを馬鹿にされる差別もありましたね。後
者の場合はいじめと言われることが普通でしたが﹂
﹁⋮⋮なんというか﹂
﹁ええ、正直この世界以上に色々と黒ずんでいる世界ですよ。まぁ
どこの世界でもそれは変わらないみたいですね。俺はもともとそん
167
なことにあんまり意識をしない性格でしたからね。まぁそれでも性
格が悪い奴らとは絶対に関わりませんでしたが﹂
﹁そ、そうですか﹂
﹁さて、次の質問いいですか? この世界はなんですか?﹂
パラレルワールド
この話は残念ながら割愛させてもらう。なぜか? 俺が理解でき
なかったからです。簡単に言えば平行世界みたいな感じだ。あと、
俺はもう二度ともとの世界には戻れないと言われた。まぁその辺は
期待していなかったからいいけどな。第一、一度死んだのにあちら
の世界に戻るのは場違いと言う奴だ。むしろまた生きられてるのが
奇跡なのに。
同時にスキルのことも聞いた。︽神眼の分析︾は俺を送り出した
時にくれたらしい。おいお前干渉できないって言ったよな?
﹁それはあなたがまだ生まれる前だったことと。あなたが私が選ん
だ転生者だった為に可能だったのです。今の私はあなたに干渉する
ことが出来ません。こうやって話すことだけが限界なのです﹂
なるほどな。
﹁そしてあなたは気づいていると思いますが、特別条件とかいう物
がありませんでしたか?﹂
﹁ありましたね、確か最初は意志を継ぐ者だったはずです﹂
それは俺の意識が覚醒した時、レイナの︽龍の眼︾を見たときに
得たものだ。
168
﹁そうです、普通の人にはこの特別条件という物は見えません。あ
なたは︽神眼の分析︾を持っている効果で取得したかどうかがかわ
るのです。そしてこの︽神眼の分析︾をあなたは私の想像を超える
勢いで使いこなしています。過去にそんなことでもあったのですか
?﹂
﹁いえ、ありませんよ。その辺は知識ですかね﹂
もちろんゲームとか小説からですけどね。
﹁その知識の入手源が非常に気になるのですが﹂
﹁それは元の世界の技術で﹂
﹁⋮⋮説明してもわからない可能性が高いのですね﹂
﹁はい、少なくともこの世界には絶対ない技術だらけでしょうから
ね。ゲームとかマンガとか小説とか科学技術と聞いてピンと来ます
か?﹂
﹁げぇむ? まんが? なんですかそれは?﹂
やっぱりわからないのかな。とりあえず簡潔に説明はしてみたけ
ど結局チンプンカンプンだったようだ。
その後も俺にとっては非常に有意義なお話になった。俺の所持し
ているスキルのさらなる秘密や、何故この世界がそこまで種族の争
いが激しくなったのか。どうして彼女はそれをここまで見逃すしか
出来なかったのか。だがその話は今ここで話すようなことではない。
いずれ時期が来れば話すことにしよう。
169
やがて朝日が昇ってくる直前あたりで、俺は彼女に最後の質問を
した。
﹁俺は好き勝手にやっていいのですね?﹂
その質問に彼女は即座に答えた。言うまでもないといった感じだ。
﹁はい、本当はこんなことをしていいはずはないのだけどね。あな
たには迷惑をかけるけど⋮⋮よろしく頼めるかしら?﹂
﹁ええ、俺も感謝しているんです。もう一度生きる権利を手に入れ
て、明確な目標が出来たんですからね。あっでも押し付けられるだ
けでは困るのでこれからも助けてくれますか?﹂
その言葉に彼女は屈託のない笑顔で答える。
﹁︱︱︱はい﹂
その笑顔を見たとき彼は確信した。彼女は本当に心からこの世界
のことを心配していることが、もちろん俺もすべてを信用したわけ
ではない、彼女の存在も一般人から見れば信じられないことだろう。
だが少なくとも彼女の知識と思いは本物だと感じた。
だからこそ彼はやると心に誓ったのである。
>特別条件﹁創世者の理解者﹂を満たしました。
>レベルが5上がります。
>所持しているすべてのスキルレベルが1上がります。
>スキル︽毒魔法︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽猛毒魔法︾へと進化しました。
170
>スキル︽毒性質変化︾を取得しました。
>スキル︽猛毒魔法︾と︽毒性質変化︾が統合されます。
>スキル︽溶解魔法︾へと進化しました。
>スキル︽魔力透視︾を取得しました。
>スキル︽透視︾と︽魔力透視︾が統合されます。
>スキル︽絶対透視︾を取得しました。
>スキル︽変化︾を取得しました。
⋮⋮もう突っ込むのに疲れたからいいや
171
第10話:創世者セラ︵後書き︶
完全に複合魔法ですべてが崩壊した作者。もう止まらない。私は
︵以下略︶
と、いいつつもそれなりに考えてあるので完全崩壊はしないと思
いますが、たぶん︵汗︶
次回も読んで下さるとうれしいです。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ
※誤字脱字がありましたら報告よろしくお願いします。
172
第11話:進むべき道︵前書き︶
この回で主人公強化回は終了です。私のやりたい設定を全部盛り
込んだらこうなっちゃいました。
後悔はしていない。
※8/19
スキルミスがありましたので修正しました。
加筆修正をしました。
※スキル︽改変︾を︽変化︾へと変更しました。
※8/21
指摘してくださった皆様本当にありがとうございます。
︽魔法合成︾と︽複合魔法︾が統一されたのに変わって
一部誤字を修正しました。
いないかったので修正しました。
※10/18
※11/4 誤字を一部修正しました。
173
第11話:進むべき道
﹁⋮⋮お前は唐突だな﹂
﹁ええ、でもこの前のことで思い直しました。僕はもっと外の世界
を見てみたいのです﹂
﹁外の世界ねぇ﹂
セラとあった翌日、俺はアレスとレイナにあるお願いをしていた。
﹁だが、お前はあまりに外の知識が無すぎるだろ?﹂
﹁だからお父さんにお願いしているのです。お父さんなら外の知識
をある程度は持っているはずです。ましてや人は高度な文明を築い
ていると言っていましたね。なら人の文明から聞いてみるのは妥当
だと思ったのですが﹂
アレスは俺の言葉を最後まで聞くと眼を瞑り考え出した。
俺は一刻もこの世界を見てみたいと思っていた。それは前から考
えていたことである。俺は前の世界ではゲーム大好きでファンタジ
ー大好きRPG大好きの男である。異世界なんか幾度となく憧れた
ことやら。
だが、昨日のセラの言葉から俺は早く動きたいとうずうずしてい
た。もちろん俺の性格上世界を動かすなんて言うことはしない。で
もレイナがほかの種族と結婚しただけで、今まで襲撃を受け続けた
174
ことに俺としてはどうも納得できない壁があった。俺からしてみれ
ばどんな人結婚しようが別にいいやろと言うのが正直な感想だ。
もちろん両方が愛し合っているということが大前提だが、無理や
りとか騙してとかは別だぞ。そう言う奴はぶっ飛ばす。
﹁⋮⋮だが、お前にはまだ早い﹂
﹁3歳だからですか?﹂
﹁ああ、それもそうだが、覚悟もない﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁道中になれば盗賊や魔物が出てくる、魔物ならいいが、盗賊だと
お前の場合はどうせ適度にやって止めるんだろ? そんな甘っちょ
ろい考えじゃ生きて行けるとは思えない﹂
﹁馬鹿ですか?﹂
﹁ば⋮⋮!!﹂
﹁馬鹿ですか? と聞いているんです。お父さんは殺すことがすべ
てなのですか? すべてを倒さないといけないのですか? 大罪を
犯したもの以外でも無理やりなっている人もいるはずです。それら
をすべて殺していくのですか? ﹂
﹁いや、そういうわけじゃないがな、その甘い判断はいずれ自分の
首を絞めることになるぞ?﹂
﹁それは困りますね。お父さんやお母さんに何かあればそれはそれ
175
で困りますね﹂
﹁⋮⋮は?﹂
﹁いや、言葉のまんまなのですが?﹂
﹁いや、自分のこと﹂
﹁自分のことなどいつでもいいんですよ。それにそんな面倒事に巻
き込まれるつもりはありませんからね。どっちかというと両親に迷
惑をかけたくないというのが大事ですね﹂
アレスははぁっと言った感じで唖然としていた。まぁそうだな、
でも言っちゃ悪いが今の俺はアレスとレイナの二人ががかりでかか
ってきても勝てる。マジでやれば。
︽飛行︾で空飛んでレイナが追い付けないスピードまで加速して
雷魔法をぶち込み、アレスは空から誘導弾でも撃てば終了だろう。
さらにセラから聞いた魔法使い方もある。
例えば︽魔力支配︾で魔力を集め︽空間魔法︾で固定し︽気配察
知︾を魔力に乗せて周囲に分散させる。そうすればまわりを探知で
きるソナーみたいなことが出来るらしい。つまり不意打ちは不可能
になるわけだ。
まだ試していないが、暇があれば試して見ようと思う。
ほかにも色々あるが、正直俺なら世界征服できるとのこと。そん
な力を与えたのはお前だろと言ったら﹁結局できるのは知識を教え
るだけです。それに匹敵する魔力を持っていなければ使えませんよ﹂
とのこと。それに﹁あなたは絶対に使わないと信じてます﹂とのこ
と、やめて笑顔がまぶしすぎる。
176
まぁ、そんなことに使うつもりはないけどね。
﹁⋮⋮しかしなぁ﹂
﹁いいじゃないか﹂
悩むアレスにレイナが割り込んでくる。
﹁しかし、なぁ⋮⋮﹂
﹁クロウが行きたいと行っているんだ。いいじゃないか、こいつの
実力なら問題ないはずだ﹂
﹁俺が言っているのは強さじゃない。今まで社会を知らなかった人
がいきなり社会に出てみろ、冒険者ならぼったくられる可能性大だ
ぞ﹂
ああ、なるほど。確かに社会と無縁の俺に過ごしてきた俺ならそ
うなるわな。だが残念ながら俺は普通ではないのだ。
﹁⋮⋮わかった﹂
﹁えっ﹂
﹁ただし、5歳だ。5歳になるまでは俺がルールやマナー、礼儀作
法を教える。伊達に王国兵士をやっていたわけじゃないぞ﹂
それを待っていたんです。俺の知識は所詮本での知識のみ。実際
の所は本当に見てきた人から聞くのが一番いい。﹁百閒は一見にに
177
しかず﹂だな。あれ? 使い方違うなこれ。
それから俺はアレスとセラから色々な事を聞いた。アレスからは
この世界の歴史、文化、通貨。大陸のおおよその勢力図、それから
冒険ギルド、商業ギルドのことも聞いた。この辺りはよく使うから
な。
セラからはスキルの説明やまだ俺がしらないスキルの潜在能力。
マジックフュージョン
もっとも創世者というだけですべてのスキル、条件を知っているわ
けでは無いみたいだ。︽複合魔法︾も知らなかったみたいでセラが
驚いていた。あんた創世者じゃないんかよと言ったら。﹁スキルと
条件は私もわかっていないことが多いのです﹂
とのこと。なんだろ、一度走り出した機関車が止まらなくなって
いるみたいだ。さすが放置神。
もちろん2年間勉強だけではない。訓練もした。セラに教えても
らった魔方陣を土魔法で作り上げたゴーレムに組み込んだら自立型
魔法兵になっていい訓練になった。
試しに俺の持ってる全魔力を投入して、回復した次の日にためし
に戦ってみたら、とんでもないほどレベルが上がってしまった。し
かもレベルが上がるにつれて魔力も飛躍的に上がるのでレベルの上
がり方が全然変わらないとい⋮⋮いやむしろ上がっているような。
そして、事情を聞き納得した。
人も龍族もレベルの上がり方は各種族により固定されている。例
えばレベル1の人間がゴブリンを10体
倒してレベルが2あがったとしよう。同じようにレベル1の龍族が
ゴブリンを10体討伐してもレベルは1しかあがらない。
人間は能力が平均しているかわりにレベルはあがりやすい。それ
178
にくらべて龍族は能力が高いのでレベルは人間にくらべて上がりに
くいのだ。
そして俺は龍人族という種族だ。レベルの上がるスピードは人と
龍族のちょうど中間あたりだとのこと︵※セラ談︶
だが、俺はレベルに相応しくないほどのスキルおよび能力を持っ
ているので、ゴーレムに全魔力を注いだら半端じゃない強さになる
のだ。しかもその魔力も化け物とのこと。
レベルは低いが能力が高いという状態に。
つまり、俺は今、本来のレベルの何十倍もの格上の敵と戦ってい
ることになる。そりゃレベルもあがりますよね。
しかも魔力数値は異常な成長速度を持っているので、レベル上昇
速度も必然的に上がっていくのだ。
さて、そんなゴーレムが今俺の目の前にある。
﹁⋮⋮これ絶対にやばい代物ですよね?﹂
俺はお試しで作ったゴーレムを見て驚いていた。だがセラは
﹁⋮⋮本当はそんなものではないんですけどね。あなたが規格外す
ぎるのですよ。しかもあなた魔方陣を少しいじりましたね?﹂
﹁えっ、何故それを⋮⋮﹂
﹁やっぱり、やけにあなたのレベル上昇が高いのでなんでと思って
いたんですよ。どういじったのですか?﹂
179
﹁えーと、︽神眼の分析︾で魔方式を解析出来たから色々といじっ
ていたら﹂
﹁⋮⋮﹂
もうセラは何も言わなかった。
﹁まぁこれで全力の俺が見れますので明日試して見たいと思います﹂
﹁やるのはいいですけど、どこか誰もいないところでやってくださ
いね﹂
﹁えっ﹂
﹁あなたクレーター作るくらいやる気ですよね?﹂
﹁⋮⋮はい﹂
そうか、俺のレベルはもうこんなところまで来てしまったんだな。
翌日
﹁よし、ここならいいかな﹂
俺は自宅から400キロ程度離れたところにある荒野で試作品の
ゴーレム置いた。周囲に誰もいないことは確認済みである。
﹁⋮⋮よし、機動﹂
ガクンと言う音が微かにする。そしてゴーレムの眼が赤く光った。
180
起動した証拠だ。とそれと同時に、俺の眼の前に一瞬で間合いを詰
めてきた。もっとも一瞬と言うのは他の人から見た場合で俺と互角
なので俺には見えている。
しかしあくまで向こうは全力である。俺も全力で立ち向かわない
と一瞬でやられるだろう。
クラッシュ
﹁︽破砕︾!!﹂
目の前にやってきたゴーレムに対土用の魔法をぶつける。これは
土を柔らかくする性質を風で切り刻む魔法を複合した魔法だ。本来
柔らかくすることで同じことが出来る。だが全体を柔らかくするの
には魔力をかなり消費する。
だが、柔らかくするところを極度に縮小。ピンポイントで柔らか
くしそこに風を当てて切り刻む。口で言うのは簡単だが尋常じゃな
いくらいの緻密作業なので普通の人では無理だ。俺は魔力支配とか
があるから出来るだけだ。
ファイヤボール
ゴーレムは破砕で粉々に⋮⋮ならずに跳躍した。さらに上空で︽
火球︾を撃つというオマケつきで。
初期の魔法だが肝心の魔力がクロウクラスである。爆音とともに
直径200メートルが焼かれていく。
﹁⋮⋮おいおい、マジでやべぇなこれは﹂
クロウは上空で下の火炎地獄を見ていた。
上空から魔法を撃ちこまれた瞬間、強化魔法で足を大幅に強化し、
そこから︽飛行︾で空へと回避したのだ。
181
クロウは驚いていた。まさかセラから教えてもらったゴーレムが
あんな動きをするとは思わなかったのだ。
ちなみにゴーレムと言っても姿、形は鎧を着た騎士みたいな形を
している。水魔法を練習している際に細かいことまで出来るように
なってしまい、気づけばこんな凝ったデザインになってしまったの
である。ちなみに色は土の色だ。
装備は剣と盾、ただしクロウの魔力でガッチガチに固めているの
で、盾は鉄を悠に超える強度を誇り、剣は刃ことないがバスターソ
ード見たいに殴りつけるようにしている、いわば鈍器だ。
そして岩を切ろうが刃こぼれ一つしない。
しょうじき、その辺の武器よりたちの悪いものを作ってしまって
いるのである。
まぁ、そんなことはどうでもいいか。今は俺の目の前にいる強敵
を倒すか。
そうつぶやきクロウはゴーレムに向かって突っ込んでいった。
訓練で作り上げたクレーターの後片付けは大変だった。カラッポ
の魔力に鞭打って整地するんだから地獄だよ。
ちなみにゴーレムは粉々に砕いた。さすがに全力のメテオには勝
てなかったようだ。簡単に言うが全力の俺なので俺もかなりひどい
182
目にあった。一番ひどかったのは右腕が粉々に砕けたときはマジで
痛かった。治癒魔法で何とかなったがもう二度と同じ目には遭いた
くないと思った。
あと、余った時間は武具と道具の作成練習もした。俺の場合なぜ
か飛んでもない代物も平然と作っちゃったのだがそれはまた機会が
あれば話そう。もちろん初めのころは失敗ばかりだったぞ。︽神眼
の分析︾のおかげで早く上達したが。ちなみにどれくらいとんでも
ないかと言うとセラが唖然とするほどだった。
こうして2年に及ぶ訓練の結果、俺のステータスはこうなってい
た。ただとんでもないほどの変化なのでまずレベル変動を表示して
から新スキル、進化スキルをだしていき特別条件を入れて最終的な
ステータスを表示してみよう。
正直、俺も分かっていないのが多すぎるのだ。
⋮⋮まさか俺の分身訓練があんなレベルチートになるとは思わな
かったんだ、俺は悪くないんだ。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:クロウ・アルエレス
種族:龍人族︵龍族・人間︶
レベル:319
筋力:22,770
生命:38,690
敏捷:32,310
器用:22,780
魔力:64,700
スキル
・固有スキル:︽理解・吸収︾︽神眼の分析︾︽龍の眼︾
183
︽千里眼:10︾︽絶対透視:4︾
・言語スキル:︽大陸語︾︽龍神語︾︽妖精語︾︽兎耳語︾
・生活スキル:︽倉庫:10︾︽換装:9︾︽調理:5︾︽野営:
7︾
︽魔法道具操作:9︾︽家事:7︾︽演算:5︾
︽商人の心得︾︽ポーカーフェイス︾︽詐術:4︾
・作成スキル:︽武器製作:9︾︽武器整備:10︾︽防具製作:
9︾
︽防具整備:10︾︽装飾製作:9︾︽装飾整備:
9︾
︽錬金術:10︾
・戦闘スキル:︽身体強化:9︾︽見切り:8︾︽気配察知:9︾
︽回避:9︾︽状態異常耐性:9︾︽遮断:9︾
︽跳躍:8︾︽心眼:8︾︽射撃:7︾︽罠:8︾
︽加減:10︾︽斬撃強化:8︾︽対人戦:8︾
︽対龍戦:8︾︽威圧:8︾︽精神耐性:7︾
・武器スキル:︽片手剣:10︾︽細剣:7︾︽刀:9︾︽大剣:
8︾
︽槍:9︾︽投擲:7︾︽斧:8︾︽弓:8︾
︽クロウボウ:8︾︽鈍器:8︾︽盾:10︾︽格
闘:10︾
・魔法スキル:︽賢者の心得︾︽炎神魔法:4︾︽水神魔法:3︾
︽風神魔法:2︾︽土神魔法:2︾︽雷神魔法:2︾
︽天界魔法:4︾︽暗黒魔法:2︾︽天空魔法:6︾
︽空間魔法:5︾︽溶解魔法:2︾︽強化魔法2︾
︽瞬間詠唱:2︾︽記憶:2︾︽明鏡止水:2︾
︽魔力支配:2︾︽特異魔法:4︾
・特殊スキル:︽龍の力:6︾︽意志疎通︾︽変化︾
・特殊能力 :︽性質変化:2︾︽変幻飛行:2︾︽咆哮:7︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
184
で、次に取得した新スキルと進化スキル、なんだけど、正直説明
が面倒なので必要なものだけ抽出していくことにしよう。正直セラ
も﹁せ、説明が⋮⋮﹂とのこと。ちなみにマジで気絶しました。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
特別条件:﹃強者を葬りし者﹄
取得条件:自分より遥かにレベルが上の敵を倒すこと。
取得スキル:︽一騎当千︾
取得経緯
全魔力を注いだゴーレムを討伐した際に取得。ちなみにその時の
ゴーレムのレベルは1200ぐらいだった。でも一騎当千って1対
多数のときに言う言葉じゃね?っと思ったらこのスキルは敵が各上
か1対多のときに発動するようだ。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
特別条件:﹃魔を極めし者﹄
取得条件:全属性魔法スキルが上位進化すること。
上位スキルレベルが最低でも2になること。
取得スキル:属性魔法をすべて統合し︽創生魔法︾を取得。
魔力に極大補正。
取得経緯
取得条件を満たした時に取得したんだが、これは正直チートすぎ
る。簡単に言えば何でもアリなんだよな。その気になればブラック
ホールすらも作成可能なんだから。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
特別条件:﹃剣王﹄
取得条件:剣系スキルのいずれか一つのレベルを10になること。
取得スキル:レベル10になったスキルが上位スキルへ変化。
185
効果:上位スキルへと変化したスキルに超大幅補正。
取得経緯
取得条件通りだな。ただしこれで上位に進化出来るのはひとつだ
けであとはまた別の条件が必要になるらしい。もっとも俺は片手剣
しか使わないから別にいいけどな。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
特別条件:﹃覇者﹄
取得条件:レベルが100を突破すること。
効果:ステータスに大幅補正がかかる。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
特別条件:﹃覇王﹄
取得条件:レベルが200を突破すること。
効果:ステータスに超大幅補正がかかる。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
特別条件:﹃覇神﹄
取得条件:レベルが300を突破すること。
取得スキル:︽次元作成︾
効果:ステータスに極大補正がかかる。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
特別条件:﹃精霊を呼ぶ者﹄
ゲート
取得条件:︽次元作成︾を取得すること。
取得スキル:︽門︾
効果:精霊を呼び出し戦うことが出来る。
取得経緯
これは⋮⋮後で説明します。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
特別条件:﹃惑星創世﹄
取得条件:︽門︾を取得すること。
186
取得スキル:︽惑星創世︾
効果:???
取得経緯
︽門︾を取得したことで手に入れたんだが、正直まだ使い方がま
ったくわかっていない。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
特別条件:﹃天駆ける者﹄
取得条件:︽飛行︾を取得すること
風魔法のレベルを最大値になること
取得スキル:︽変幻飛行︾が︽天駆︾へと進化します。
効果:飛行時、気流に影響されなくなる。
取得経緯
これは本当に便利。大雨とかでも晴れているときと同じ感覚で空
を飛べるから。物理法則完全無視の代物。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
特別条件:﹃不殺を貫く者﹄
取得条件:︽加減︾スキルのレベルが最大値に達していること。
取得スキル:︽加減︾が︽不殺︾へと進化する。
効果:どんなに本気になろうがスキルを発動しているときに相手を
殺すことがない。
取得経緯
これ一見やさしいスキルに見えるけど、全力でやって本来死ぬと
ころを死なないところギリギリでストップがかかるんだから、拷問
にピッタリだよな。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
特別条件:﹃不殺の剣﹄
取得条件:スキル︽不殺︾を所持してること。
187
剣系スキルレベルがどれか一つでも最大値に達している
こと。
取得スキル:スキル︽心眼︾のスキルレベルが4アップ
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
特別条件:﹃大魔法剣士﹄
取得条件:剣系スキルレベルがどれか一つでも最大値に達している
こと。
魔法スキルレベルがどれか一つでも最大値に達している
こと。
︽賢者の心得︾を取得していること。
効果:剣系スキルと魔法系スキルに大幅補正
筋力と魔力に極大補正。
取得経緯
魔法剣士じゃないんだな。いやそれとも俺が気づかない内に取得
していたのか? と思って調べてみたらありました﹃魔法剣士﹄。
おい脳内アナウンス仕事しろ。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
シックスセンス
>スキル︽心眼︾のスキルレベルが最大値になりました。
>スキル︽六感︾へと進化します。
これ以外にもかなりの数があるんだが正直説明しきれないので、
重要っぽいところだけを抜粋させてもらった。
そして、これらをすべて合わせて出てきたステータスが⋮⋮これ
だ。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:クロウ・アルエレス
種族:龍人族︵龍族・人間︶
188
レベル:319
筋力:41,770
生命:53,690
敏捷:47,310
器用:37,780
魔力:88,700
スキル
・固有スキル:︽理解・吸収︾︽神眼の分析︾︽龍の眼︾
︽千里眼:10︾︽絶対透視:4︾
・言語スキル:︽大陸語︾︽龍神語︾︽妖精語︾︽兎耳語︾
・生活スキル:︽倉庫:10︾︽換装:9︾︽調理:5︾︽野営:
7︾
︽魔法道具操作:9︾︽家事:7︾︽演算:5︾
︽商人の心得︾︽ポーカーフェイス︾︽詐術:4︾
・作成スキル:︽武器製作:9︾︽武器整備:10︾︽防具製作:
9︾
︽防具整備:10︾︽装飾製作:9︾︽装飾整備:
9︾
︽錬金術:10︾
・戦闘スキル:︽身体強化:9︾︽見切り:8︾︽気配察知:9︾
︽回避:9︾︽状態異常耐性:9︾︽遮断:9︾
︽跳躍:8︾︽六感:1︾︽射撃:7︾︽罠:8︾
︽不殺:1︾︽斬撃強化:8︾︽対人戦:8︾
︽対龍戦:8︾︽威圧:8︾︽精神耐性:7︾
︽一騎当千︾
・武器スキル:︽二刀流:1︾︽細剣:7︾︽刀:9︾︽大剣:8︾
︽槍:9︾︽投擲:7︾︽斧:8︾︽弓:8︾
︽クロウボウ:8︾︽鈍器:8︾︽盾:10︾︽格
闘:10︾
・魔法スキル:︽賢者の心得︾︽創生魔法:2︾
189
︽瞬間詠唱:2︾︽記憶:2︾︽明鏡止水:2︾
︽魔力支配:2︾︽特異魔法:4︾
・特殊スキル:︽龍の力:6︾︽意志疎通︾︽変化︾︽次元作成︾
︽門︾︽惑星創世︾
・特殊能力 :︽性質変化:2︾︽天駆:2︾︽咆哮:7︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
正直これはどこまで行くんだろうな。俺のスキルはもう異常なの
はわかる。もうここまで来ると逆にどこまで行くのか見てみたいも
のだ。
﹁で、この︽次元作成︾と︽門︾と︽惑星創世︾ってなんですか?﹂
夜の山岳。俺はセラといた。ほぼ毎日のことである。
﹁⋮⋮それは召喚魔法だと思います﹂
﹁召喚魔法?﹂
セラが言うにはこうだ。この世界の魔力は︻精霊︼という奴らが
出しているらしい。ファンタジーだな。そして召喚魔法と言うのは
この精霊を具現化して戦う魔法らしい。
エルフ
﹁ん? まて精霊族とは違うのですか?﹂
そう、この世界には精霊族と言われる種族がいる。その種族は精
霊の進化した姿と言われている。
﹁同じです。召喚魔法で具現化された精霊がなんらかの理由でこの
世界に残り続けた者の末裔と言われています﹂
190
見えない精霊にも寿命があるらしくそれは具現化されても変わら
ないらしい。そして子供もつくることができるとか。
﹁︽次元作成︾とはあなたが使用する精霊を留める場所です。︽門
︾はそこから取り出すため、そして︽惑星創世︾とはあなたがその
精霊が住む世界を作り上げる魔法です﹂
﹁⋮⋮なんか話が壮大になっているような気がするんだが﹂
﹁はい、あなたはそれほどまでの力を手に入れてしまったのです。
おそらく今のあなたなら眷属殺しもできてしまうでしょう﹂
﹁怖いこと言わないでください﹂
﹁しかし事実です。あなたはこれからその事実を持って進まなけれ
ばならないのです。強すぎるその力は尊敬されるのと同時に畏怖の
心も生みます。そしてどちらになるかはクロウ、あなたの行動次第
です﹂
﹁わかっています﹂
﹁⋮⋮本当にごめんなさい。あなたにすべてを託すことになるけど﹂
﹁そうですね、あなたの尻拭いですからね﹂
﹁うう⋮⋮その通りです﹂
クロウはセラの様子を見て、こういう性格をしている人は自分の
せいだと責める癖があるんだよなと思っていた。
191
﹁僕⋮⋮いや俺は前の世界では嫌われ者だったんだ、友達や友人な
どもほとんどいない。わずかにいた友人も時が立つと同時に自然と
交流が消えて行った。婚約者なんかももちろんいない﹂
﹁えっ、どうしたのですかいきなり﹂
﹁そんな俺にあなたは再びやり直す権利を与えてくれた﹂
元からこれだけは言っておこうと思っていた。
﹁ありがとう﹂
俺に礼を言われるとは思ってなかったのか、﹁あぅぅ﹂とか言い
ながら顔を俯けてしまった。かわいいなおい。
﹁⋮⋮そうえいばそっちの話し方の方が素ですか?﹂
﹁ああ、そうだ﹂
﹁上から目線ですね﹂
﹁ぐっ、わかっているんだがな⋮⋮﹂
どうも治らないんだよな。と嘆く意識的に話すことは出来るが感
情が高まると戻ってしまう。今回は意識的に戻したのだが。
﹁じゃ俺は寝るよ。明日からだし﹂
﹁わかりました。では﹂
192
セラはスッと目を閉じるとやがて光の粒となり消えて行った。俺
はそれを見送ると家へと帰って行った。
193
第11話:進むべき道︵後書き︶
次回からようやく本格的に前に進みだします。つーか10話すぎ
てもヒロインがいないという︵泣︶
セラさんか!? セラさんがメインポジか!? 作者もわかりま
せん。
本日も読んで下さった皆様ありがとうございます。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字などがありましたら報告よろしくお願いします。
194
第12話:旅立ちと厄介ごと︵前書き︶
お約束回ですね。
誤字修正をしました。
※8/21 誤字修正をしました。
※10/12
一部を誤字修正しました。
誤字を修正しました。
※10/18
2/21
2015年
※
195
第12話:旅立ちと厄介ごと
﹁あれがエルシオンか﹂
前方に見えるのは中世のヨーロッパを思い起こす街が見えていた。
周りは城壁に囲まれているが、都市の中央に見える城がこの都市の
雄大さを物語っていた。
﹁よし⋮⋮変化できてるな﹂
自分のステータスを確認する。そこには
種族:人間
﹁変化は便利だな。不可能とか言われていたことが出来てしまうん
だから﹂
再び街の方に足を向ける。
︱︱︱1時間ほど前
196
﹁いよいよか﹂
アレスとレイナは家の前で早すぎる旅立ちを見送るために立って
いた。目の前にいるのは誰が見ても子供としか言いようがない男が
いた。
腰には体に見合わない長い剣。やや長めの黒髪は眼に被るかかぶ
らないかの長さがある。
﹁はい、ここまでありがとうございました﹂
﹁なに、気にすることはない。いつでも戻ってこい﹂
﹁はい、たまには顔を見せますので﹂
﹁クロウ、お前は強いかもしれない、だが世の中は力だけではどう
にでもならないことがある。それを忘れるなよ﹂
﹁わかっています﹂
﹁よし、じゃあ行ってこい﹂
﹁行ってきます﹂
クロウはアレスとレイナに見送られながら我が家を後にした。
197
あとに残った二人は妙にぽっかりと心に穴が開いたような気がし
ていた。
﹁さみしいと感じるのは私だけかな?﹂
その言葉にアレスが即座に答える。
﹁いや、違うだろ。それにしても本当に強くなったな﹂
﹁そうだな。もう私たちより強いもんな﹂
﹁俺たちも負けてられないか﹂
﹁クロウが帰ってきたときに打ち負かしてやるぐらいにな﹂
二人は早くもこれから修行をする気のようだ。ちなみにこのあと
クロウは謎の寒気を感じたらしい。
﹁ここだな﹂
俺の目の前にそびえたつのは3階立ての木造建築物だ。石垣が基
本のこの都市でなぜ木造の建物かというと、わかりやすくするため
というのが狙いらしい。
そしてその建物はこの世界の人々の生活に無くてはならないもら
しい。
198
﹁冒険者ギルドってでかいなぁ⋮⋮﹂
周りの建物でもひときわ高い。もちろん木造なので白や赤などの
レンガ系の建物の中で茶色であるというのが大きく見せているのか
もしれない。
中に入ると想像通りの風景だった。冒険者らしき人たちが酒を飲
んだり食事をしたり、戦利品なのか素材を分けていたりしてる様子
が見てとれた。昼間なのでまばらなのだがそれでもお酒のにおいが
してくる。
昼間から酒を飲むなよ⋮⋮と言う俺の心の突っ込みを置いといて
目的の場所に行く。そこはカウンター見たいなところで、きれいな
受付嬢が笑顔で座っていた。
﹁あの∼、冒険者登録をしたいのですが?﹂
忘れてはならない俺は5歳だ。精神年齢は30歳だが。当然その
言葉を聞いて受付嬢は顔を引きつらせる。
﹁わ、わかりました、ではこちらの水晶玉に手を当ててください﹂
でもさすがの受付嬢、営業スマイルで手続きを進める。俺は言わ
れた通りに水晶に手を当てる。すると水晶が一瞬光ったと思うとす
ぐに消えて元に戻った。
﹁では、しばらくお待ちください﹂
しばらくすると受付嬢が戻って来た。
199
﹁はい、こちらがギルドカードです﹂
そのカードは冒険者であることを示す証明証らしい。そこには
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:クロウ・アルエレス
種族:人間
レベル:6
筋力:140
生命:200
敏捷:160
器用:150
魔力:180
スキル
・固有スキル:︱
・言語スキル:︽大陸語︾
・生活スキル:︽倉庫:3︾︽換装:3︾
・作成スキル:︽武器整備:2︾︽防具整備:1︾︽装飾整備:2︾
・戦闘スキル:︽身体強化:1︾︽見切り:3︾︽気配察知:1︾
︽回避:1︾︽状態異常耐性:1︾
・武器スキル:︽片手剣:1︾︽盾:1︾︽格闘:1︾
・魔法スキル:︽炎魔法:1︾
・特殊スキル:︱
・特殊能力 :︱
・ギルドランク:F
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
いつものステータスにギルドランクが表示されたものだ。もちろ
んこれは俺のスキルで能力はいじっている。本来あの水晶玉でこれ
200
をやることは不可能なのだが、それは俺のスキルでどうにでもなっ
た。スキル︽変化︾は便利だな。
﹁意外とお強いのですね﹂
まぁ5歳でこれは異常だよな。
﹁いえ、父に昔から散々しごかれたので﹂
嘘は言っていないぞ。マジでしごかれたし、考えれば考えるほど
あの親父は絶対おかしいな。受付嬢はそれで納得したのか話を説明
を始める。
﹁では簡単に説明をさせてもらいます﹂
﹁お願いします﹂
もちろん俺はアレスから聞いているがそこはしっかり聞いておこ
う。7年の間に色々変わっているかもしれないからな。
﹁まずあなたのランクFは一番下のランクです。あなたが現在受け
ることが出来るクエストのランクはEまでです。つまり自分のラン
クより一つ上までが可能となります。またパーティを組めばパーテ
ィ内でどんなにランクに差があってもパーティ内で一番高い冒険者
のランクの一つ上のランクのクエストを受けることが出来ます﹂
なるほどな、ここまでは特に変化はないな。
﹁次に昇格試験ですが規定のクエスト回数をこなすとおこなうこと
が出来ます。試験は実戦です。特にFクラスのクエストには討伐ク
201
エストは無いのでEの昇格試験を受けるときはまず各自で練習をし
ておくことをお勧めします﹂
﹁わかりました﹂
﹁次に失効期間ですが、最後にクエストを受けて1ヵ月以内にクエ
ストを受けなければ除名をさせてもらいます。なおこの失効期間は
ランクが上がれば長くなっていきます。またギルドで手続きを行え
ば凍結状態になり失効しません。以上で何か質問はありますか?﹂
﹁大丈夫です。ありません﹂
﹁では以上で説明は終わります。お気をつけて﹂
﹁あ、ちょっといいですか? この辺りでいい宿はありますか? できれば僕みたいなのでも借りれるのがいいのですが﹂
﹁あっ、それなら︽猫亭︾がいいと思います﹂
﹁猫亭?﹂
なんだろ、メイド喫茶を思い浮かべてしまう。
﹁はい、メインストリートをまっすぐ行けば看板があるのですぐに
わかると思いますよ。お値段も安いですし店主も気前がいいので初
心者の方はよくご利用をしていますよ﹂
﹁わかりました、ありがとうございます﹂
俺はそういうと手数料を支払いさっそく掲示板を見た。ちなみに
202
お金はアレスからもらった分だ。兵士のときにわずかに持っていた
のをくれた、あとで返せとのこと。つけかよ。
ランクFにはお留守番とか運搬の仕事などがある。少ないが採取
系の仕事もある、これは魔物とエンカウントしそうだな。この中で
いいのは無いかな
﹁よし、これで行こう﹂
俺が選んだクエストはこれだ。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
依頼名:満月草採取
セラス
クリア条件:満月草を10本集めてください。
報酬:1500S︵上乗せあり︶
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
そう思い俺はクエストが書かれた紙を自分の手に取る。これなら
すぐにできそうだなと思いカウンターに行こうとすると
﹁おっ、いいクエスト見っけ﹂
と、俺の手から紙を取っていく奴がいた。気配察知で薄々感じて
いたがマジで取るか。取った奴は俺よりやや年上だがまだガキの雰
囲気がある子供だった。こちらの世界で言うと小学校中学年ぐらい
だろうか?
もちろん俺ぐらいは異常だが、10歳ぐらいで冒険者に憧れて冒
険者になる人はいるらしいので別に不思議なことではないが。
﹁ちょ、それ僕が取っていたじゃないですか!?﹂
203
﹁はぁ?﹂
こいつ殴っていいか?
﹁何を言っているんですか、僕が取っていたじゃないですか﹂
﹁しらねぇよ、お前寝ぼけていたんじゃないか?﹂
くそっ、こいつ⋮⋮俺はチラッとカウンターの方を見る。こちら
を見て何かいいたいようだがおそらく規律上助けられないのだろう。
まわりの冒険者もとりあえず放置と言った感じだ。
なるほどな、冒険者になるということは独り立ちしたのと変わら
ないと言っていたが本当らしいな。これくらいなら解決しろと言う
ことだろう。
やれやれ、さっそく面倒なことになったな。
﹁まっいいですよ、そんな雑魚依頼しか受けれないんでしょ? 上
げますよ﹂
﹁⋮⋮なんだと?﹂
ピシッという音が聞こえそうな顔でこちらを睨んで来る。あっや
っぱり子供だ。
﹁言葉のとおりですよ。それは上げるので頑張ってくださいね﹂
超笑顔で言う俺。もちろん根ではそんなこと少しも思っていない。
挑発だ。
204
と、そこへ何人かの子供みたいなやつらが入ってきた。あっこれ
やばいパターンだ。
﹁おい、ジーンどうしたんだ?﹂
﹁ヴグラさん、こいつ俺の取った依頼を奪おうとしたんですぜ﹂
﹁言いがかりはやめてほしいですね。全く﹂
つーか、この年で危ない口調だな。ヴグラとか言われた奴はガキ
大将みたいだな。
﹁ほう、俺の部下にいい度胸しているじゃねぇか?﹂
パキポキと指を鳴らしながら俺に近づいてくる。俺は逃げる⋮⋮
ことなどせずとりあえずこいつのステータスを覗いてみた。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:ヴグラ
種族:人族
レベル:10
筋力:165
生命:240
敏捷:240
器用:280
魔力:110
スキル
・固有スキル:︱
・言語スキル:︽大陸語︾
・生活スキル:︽倉庫:1︾︽換装:1︾
205
・作成スキル:︽武器整備:1︾︽防具整備:1︾︽装飾整備:1︾
・戦闘スキル:︽見切り:1︾
・武器スキル:︽大剣:2︾︽斧:1︾︽鈍器:1︾︽格闘:1︾
・魔法スキル:︱
・特殊スキル:︱
・特殊能力 :︱
・ギルドランク:E
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
平均的な能力だな。スキルレベルはやっぱりこれくらいが普通な
のかな? と思いジーンと言われた奴のも見てみる。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:ジーン
種族:人族
レベル:9
筋力:105
生命:200
敏捷:200
器用:270
魔力:95
スキル
・固有スキル:︱
・言語スキル:︽大陸語︾
・生活スキル:︽倉庫:1︾︽換装:1︾
・作成スキル:︱
・戦闘スキル:︱
・武器スキル:︽片手剣:1︾︽盾:1︾
・魔法スキル:︱
206
・特殊スキル:︱
・特殊能力 :︱
・ギルドランク:E
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
へぼぉぉぉ!? えっ何、こいつこれでE!? い、いやこれが
普通なのか? くそっ基準がわからねぇ。
﹁今なら土下座して謝れば骨一本で許してあげるわ﹂
﹁断ります﹂
﹁んだと?﹂
﹁断ると言っています﹂
もちろん土下座する理由がないのでここは当然断る。
﹁こ、こいつ今日登録したばかりの奴にヴグラさんに立てつく気か
?﹂
﹁何こいつ今日来たばかりなのか!?﹂
﹁それがなんなのですか?﹂
﹁ほう、じゃあ俺がここの仕切りたりを教えてあげるぞ、ここに来
たならまず俺に上納金を納めやがれ﹂
こいつこの年で上納金とかいいだしやがった!? 完全に危ない
207
奴じゃねーか!?
﹁いや、金ないので遠慮しますよ。第一あなたはただの子供ですよ
ね?﹂
﹁馬鹿何を言ってやがる、ヴグラさんはここの領主の息子だぞ! たてつくとどうなるかわかっているのか!?﹂
周りにいたモブキャラみたいなやつらが言ってくる。ちなみに数
は全部で6人ほど、全員がジーンほどの能力だ。
﹁えーどうなるのですか︵棒読み﹂
完全に喧嘩を売る口調である。
﹁テメェ、いい度胸してるじゃねぇか、どうやら痛い目に合わない
と分からないみたいだな﹂
そういうとヴグラと言う奴は俺に向かって拳を振り下ろしてきた。
︵はぁ⋮⋮︶
俺は心の中でため息をつくと俺はその拳を片手で受けと止めた。
片手で受け止められたのが信じられないのか一瞬唖然とした顔をす
る。
﹁んなぁ!?﹂
周りの冒険者たちもおもしろそうだなと言う雰囲気になりこちら
に視線を向けているのがいる。
208
俺も人間だ。仏様みたいにすべてを穏やかにという気はなかった。
まさかさっそくこんな所で力を使うことになろうとは思わなかった
が。
﹁⋮⋮正当防衛と言うことでいいよな?﹂
そういうと俺はつかんだ拳を思いっきり回転させる。ちょうどパ
チンコをやるときの感覚でやって上げた。ボキボキと言う音と共に
ヴグラの拳があらぬ方へと曲がっている。折れてはいないが関節は
完全に外れただろう。
﹁ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!﹂
ギルド内にウグラの絶叫が響き渡る。
﹁ついでにこれも食らえ﹂
そういうと俺は暇を持て余している反対側の腕でヴグラの顔面に
パンチを食らわせる。ヴグラは地上から50センチ辺りをクルクル
回転しながらドアをぶち破り外へと出て行った。おそらく距離で言
うと100メーートルぐらいは行ったのではないだろうか?︽不殺
︾スキルのおかげで死なないだろうが︽格闘:10︾で思いっきり
いったのでただの怪我じゃすまされないだろう。
残った部下見たいなやつらは何が起きたのかわかっていないよう
だった。周りの冒険者も一瞬の出来事で何が起きたのかわからなか
った。
﹁あちゃぁ⋮⋮修理代いくらだ?﹂
209
俺はそんなことをつぶやく。もちろんぶっ飛ばした奴の生存なん
か知ったことではない。まぁ死んでないことぐらいわかっているか
らいいのだが。
﹁で、次は誰ですか?﹂
若干の︽威圧︾スキルを発動しながら俺は周りにいたガキたちを
脅す。ガキたちは我に帰るとぶっとばされたヴグラの方へと逃げて
行った。
俺はそんな奴らを無視してカウンターの方へ向かう。外から﹁大
丈夫ですか!?﹂﹁い、医者を!﹂とかいう声が聞こえるがどうで
もよかった。
﹁あー、あの﹂
﹁ひゃ、はい!﹂
一瞬変な声を出すがすぐにもとの受付嬢へと戻った。
﹁あれ、今弁償できないので立て替えとか出来ないでしょうか?﹂
俺の指をさした方には見事に壊れた扉があった。もはや扉は原型
を留めておらず金具だけが少しだけ残っているだけだ。
﹁あっ、はいわかりました。一応立て替えて置きますので⋮⋮こ、
こちらにサインを﹂
ちなみに修理代は1万Sだった。くそっ、あいつらから取り立て
210
てやろうか。
﹁あっ、あとこれを受けますね﹂
そういうと俺はさっきの奴が奪ったクエストを提出した。受付嬢
はさっきの様子を見ていたので、もう何も言わずに手続きをした。
まわりの冒険者は﹁また問題児見たいなやつが来たな﹂とぼやい
ていた。
満月草は満月になると薄く輝く草で、状態異常の一つ麻痺に効果
があるらしい。真ん丸な花弁も満月草と言われる理由らしい。
エルシオンを出たすぐ近くの森にそれは生えている。街を出ると
すぐにそれは見つけられた。
﹁いっぱいあるな∼、つーかこれ簡単じゃねぇ?﹂
森にあるので視界は悪いが見えるだけでも数本はあった。おそら
211
くもうチョイ深く潜れば出てくるだろう。
簡単と思っていたクエストだが、やっぱり町の外に出るので魔物
がやってくる。
ガサガサと言う音と共に人型をした魔物が出てきた。体長は1メ
ートルほど、皮膚の色はどす黒く、非常に醜い姿だ。
﹁あれがゴブリンか﹂
ゴブリンはこの辺りに出てくる魔物で知能は高くないが武器を使
ってくるので、危険度はEらしい。
強さはF程度なのだが
﹁⋮⋮10体ぐらいいないか?﹂
集団で襲ってくるので面倒なのである。もっとも
﹁⋮⋮︽風爪︾﹂
クロウには無意味なのであるが。
クロウの周りに起きた見えない刃はゴブリンを的確にとらえ切り
刻んでゆく。ゴブリンは何が起きたのかわからないまま絶命してい
く。
まだ時間は昼下がり。もう少し実戦慣れでもするかと思い狩りを
続けることにした。ちなみに満月草自体はすぐに集まった。
212
﹁あの∼これは⋮⋮﹂
ギルドの受付嬢の目の前にはゴブリンの牙が大量にあった数える
のも面倒なくらいに。
﹁満月草を取るついでに出てきたので潰したのですが﹂
﹁ついでって⋮⋮﹂
完全に顔が引き攣っている。無理もないか、俺も途中から数える
のをやめたんだけどたぶん100ぐらいはあるんじゃないかな。
﹁全部換金でよろしいのですね﹂
﹁はいお願いします﹂
受付嬢が裏方から何人か連れてきて仕分けていく。ホブゴブリン
のもあるという声が聞こえたが俺にはなんのことか。
やがて少し疲れた顔をした受付嬢が戻ってきた。
﹁ではこちらが満月草30本分の報酬です。あとゴブリンの牙です
が﹂
213
﹁あっ、もしかしてついでに倒したのはまずかったですか?﹂
﹁いえ、ゴブリンは倒してもきりがないので常駐クエストとして存
在していますのでこちらとしてはうれしいです﹂
よかった。これで報酬なしだったら泣こうかと思っていたからな。
﹁ゴブリン87本。ホブゴブリン4本で合計9万S。これにクエス
トクリア回数分の報酬をお渡しします﹂
へぇ、クリア回数も増えるんだな。ちなみにゴブリンも10体で
1クエストらしい。それに満月草のクエストも加算されるので合計
で11回ぐらいか?
﹁クリア回数が10回を超えたので昇格試験を受けれますが﹂
あっ受付嬢の顔が青くなってる。やっぱり異常だったかな? ま
わりの冒険者も俺の方を見てるし。まあ舐められてさっきみたいな
のはいやだからな。一応明日に受けるといい、それから修理代をき
っちり払い俺はギルドを後にした。
﹁ここが猫亭か﹂
受付嬢の言う通りに行くと本当にあった。猫亭と書かれた看板と
214
猫の飾りが特徴的だ。
中に入り受付の所に行く。ギルドの受付嬢並に若い女性が立って
いる。やっぱり受付嬢はかわいい方がいいよな。
﹁宿は空いていますか?﹂
﹁はい、一名ですか?﹂
﹁はい、一泊いくらですか?﹂
﹁朝と夕方の二食付で1泊1000Sとなっています﹂
﹁じゃあ一週間分でお願いします﹂
﹁では、ここにお名前を﹂
名前を書き部屋のカギを受け取る。ちなみに代金は先払いだ。
ついでに言うとこの世界にお風呂というものは一部の貴族くらし
か持っていないのでこの宿にもない。もっとも上の高級宿ならある
とのこと。
まぁ俺の場合土魔法で湯船を作って水を入れて温めればいいだけ
なんだけどな。複合魔法万歳。
それにしてもいきなりからまれるとは思わなかったな。しかもこ
の町の領主の息子みたいなことを言っていたな。
まぁこの町で面倒を起こしてもほかの町にいけばいいだけなんだ
けどな。もっともそれは最終手段だ。余程のことがない限りそんな
ことはしないつもりだ。
まぁ、あれだけやっとけばしばらくはやって来ないだろ。あれく
215
らいの年なら痛めれば手を出してこれないはずだ。
フラグ回収とはこのことだな。
翌日、俺は朝7時ぐらいに目が覚める。ギルドには10時に行け
ばいいのでまだ時間に余裕があった。本当は8時ぐらいに起きる予
定だったのだが、妙な気配がしたので目が覚めてしまった。
︽絶対透視︾で見てみると、なにやら物騒な男どもが10人ほど
この宿の目の前に立っている。その中でも一際目立つ服装をした男
がこの宿の店主と揉めているようだ。
そして、原因は俺と言うのがすぐにわかった。
何故なら、目立つ服装をした男の隣に昨日殴ったヴグラがいたか
らである。
﹁はぁ⋮⋮面倒だな﹂
そういうと俺は剣を片手に宿の一階に向かうのであった。
216
第12話:旅立ちと厄介ごと︵後書き︶
さて報告です。
これから作者が学校が始めるので更新スピードは格段に落ちます。
出来る限り更新して行きたいのですが限界があります。
楽しみにしてくださっている方にはご迷惑をおかけしますが、こ
れからも応援してくださるとうれしいです。
あと、誤字脱字報告いつもありがとうございます。またありまし
たらドンドン報告してくださるとうれしいです。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字などありましたら報告お願いします。
217
※8/22
誤字修正をしました。
誤字修正をしました。
第13話:厄介事と昇格試験︵前書き︶
※8/24
218
第13話:厄介事と昇格試験
﹁だからなんなのですか?﹂
﹁とぼけるな、ここに昨日登録されたばかりの新米冒険者がいるは
ずだ﹂
﹁新米? 昨日お泊りになられた方は何人かいますが?﹂
﹁ちっこい奴がいたはずだ﹂
﹁ちっこい? ⋮⋮ああ、確かその人なr︱︱︱﹂
﹁俺か?﹂
ギョッとした顔で店主は俺を見た。目立つ服装をした奴が俺の方
を睨む。
﹁ああ、こいつですお父様!﹂
そばに立っていたヴグラが叫んでいる。もっとも顔の右半分はま
だ痣が残っている。治癒魔法で治したんじゃなかったのか? いや、
かなり強く殴ったからあんな怪我じゃ済まないはずだ。
治癒魔法には限界でもあるのか? 俺は腕が粉砕骨折しても治っ
たんだが。
﹁なんの用ですか?﹂
219
﹁とぼけるな、この傷を見て忘れたとはいわせないぞ!﹂
ヴグラが残っている痣を指さしながら叫ぶ。ああ、なるほど証拠
を消さないためにわざと残しているんだな。
﹁はぁ? それはあなたが手を出してきてから反撃しただけですよ。
こちらに非があるとは思えませんが?﹂
﹁ふざけるな! 俺の息子が大けがをしたのになんなんだその態度
は!?﹂
と、横にいる男は叫んでいる。宿屋の店主はオロオロしながらこ
れからの成り行きを見ている。店主からしてみれば小さな子供が領
主の息子をぶん殴ったという事実が妙に信じられないようだ。
﹁ふざけるな? それはこちらのセリフです。私が取った依頼票を
そこにいる人の仲間らしき人に取られてその人が割り込んできて、
私に殴り掛かった。むしろこちらがそちらに文句を言いたいぐらい
ですよ﹂
﹁貴様! ここで詫びr︱︱︱﹂
言いかけた時にはすでに俺はヴグラの親の目の前に立っていた。
とてもじゃないが1秒もたたずに近づける距離ではない。
﹁詫びなかったら? どうするのですか?﹂
普通ならここで謝るのが普通だろう。こちらが被害者であろうと
も権力と言う刃は正しい事を軽々と打ち破る力を持っているのだ。
だが今彼の目の前にいる小さな少年はその力を超える力を持って
220
いるのだ。したがっていつも彼が行っている傲慢な態度はもはや脅
しにもならないのだ。
もちろんまだ手も出していない人に剣を向けるという事はしない。
一瞬で前に行くことをしただけだ。
それにビビッた男は後ろに身を引いた。俺は軽くそいつらを一瞥
すると俺は用があるのでとだけ言うと宿の中へ戻ろうとした。しかし
﹁待て、まだ話は済んでねぇ!﹂
振り向くとヴグラがこちらに指を指しながら睨みつけている。あ
の一瞬の行動にも怯まないのは単なる馬鹿かそれとも⋮⋮いや馬鹿
なだけだな。
ヴグラが剣を抜こうとしていたので、俺は︽威圧︾を発動し睨み
つけた。すると急にきた重圧にひぃというだらしない声を出しなが
ら腰が抜けたのかその場に座り込んでしまった。
﹁⋮⋮その剣を抜いたら覚悟はあるのか? 俺は別にやりあっても
かまわねぇが、命は無いと思え﹂
ヴグラはガクガクと顔を上下に動かした。周りにいた奴らも俺の
威圧にビビッたのか後ろに後さずりしていた。
俺はそれを今度こそ宿の中へと戻っていった。
221
﹁はい、ではこちらにどうぞ﹂
エルシオンの冒険者ギルド内には昇格試験用の闘技場がある。も
ともとは一般市民も使用していたようだが今ではギルドの許可が無
いと入れなくなっている。
闘技場は石で作られているようだが、壊れないように魔法で補強
しているようだ。龍族の集落の城壁より丈夫なんだろうな。
﹁では、試験のルールを説明します。武器はお互いに木の武器を使
用してもらいます﹂
なるほどな、ようは技術を調べるのか
﹁相手はこちらが用意する冒険者です。ランクは昇格するランクの
冒険者。あなたの場合はEですね。そして実戦をやってもらいます。
勝つことが目的ではありません。あくまでそのランクに相応しいか
どうかを試させてもらいます﹂
﹁質問です。魔法も使用していいのですか?﹂
﹁はい、問題ありません。しかし相手を殺しに行くような攻撃・魔
法は禁止です。もし破った場合はギルドから永久追放とさせてもら
い、各都市にあるギルドにブラックリストに登録されます﹂
おお、怖い怖い。
222
﹁では早速始めますか?﹂
﹁はい、いつでもいいですよ﹂
﹁では、お願いします﹂
受付嬢がそう言うと闘技場に誰かが入ってきた。年齢は15歳ほ
ど、赤髪の長髪が特徴的だ。出ると事はようやく出始めたというこ
ろかな?︵どこが出始めたかは言わないよ︶
腰には剣がある。ただし片手剣ではなく細剣と言う武器みたいだ
が、細剣は刃が細いため威力は高くないが、軽いため筋力が少ない
人でも簡単に扱うことが出来る。しかも細いため関節を突くような
ことに非常にすぐれているのだ。
﹁エリラよ﹂
﹁こちらが今回試験の相手をしていただくエリラさんです﹂
﹁よろしくお願いします﹂
そういうと俺は手を差し出した、しかしその手はパチンと弾かれ
てしまう。
﹁ふん、異例の昇格スピードと聞いたからどんな人かと思えばこん
なガキだとはね﹂
﹁エリラさん!﹂
﹁せいぜい相手になるようにね﹂
223
そう言い捨てるとエリラは自分の準備をするために闘技場のベン
チらしきところに歩いて行った。くそっ、何でこの世界の子供はこ
んな奴らばっかりなんだよ⋮⋮
﹁す、すいません﹂
﹁いいんですよ、この姿を見たらそう思っても仕方ありませんしね。
受付さんもまだ私の実力を信じていなのでは?﹂
﹁そ、それはそうですが⋮⋮﹂
﹁まっ、死なないように頑張りますよ﹂
まぁ死ぬ気も負ける気も少しもないけどな。
﹁勝負は1本勝負。時間は無制限。異論は?﹂
﹁ないわ﹂
﹁ありません﹂
224
5分後、俺らは相対していた。エリラは細剣の木剣︵レイピアか
な?︶。俺は片手剣の木剣だ。本当は刀系がよかったんだけどな。
ないならこれでいいや。
﹁では⋮⋮はじめ!﹂
最初は両方とも動かない。俺としてはカウンターで一撃で沈めて
やるんだけどな。もっとも敵の攻撃方法がわからないから油断は出
来ないんだけど。
﹁かかってこないの? ビビッたかしら!?﹂
安い挑発だな。自分より歳下だからってそんな挑発に乗るわけな
いだろ。
﹁好きに言ってればいいじゃないですか、どうせ一手で終わらせま
すからね﹂
適当に払っておく。
﹁へぇ⋮⋮いい度胸じゃない﹂
あれ? 逆に挑発してしまったか?
次の瞬間、エリラはすでに動き出していた。レイピアが俺の額を
捉え、鋭い突きを繰り出す。身長の差がかなりあるので、上から突
かれる形となっている。
︵かなりの速度だな。あの高飛車は形だけじゃないようだ︶
だが︱︱︱
225
﹁甘いなぁ⋮⋮﹂
俺は頭だけ動かしてレイピアを回避する。当たったと思って思い
っきり踏み込んでいたエリラは俺に倒れかかってくる。俺は避けた
剣を素手でつかむと勢いそのままに放り投げた。
一瞬だけ宙を舞うエリラ。そして闘技場の壁に激突する。地面に
倒れこみ咳き込むエリラだが、すぐに体勢を直そうとするが
﹁⋮⋮終了ってことでいいですか?﹂
エリラの額には逆に俺の木剣の先っぽが触れていた。
﹁そこまで勝者クロウ!﹂
受付嬢が終了のジャッジを下す。俺は妙にプルプル震えているエ
リラから剣を下げると振り返り受付嬢のもとに行こうとした。
だが、何でだろう。嫌な予感しかしないのですが。
そのとき受付嬢が﹁あっ!﹂と叫んでいた。すでにそのときにレ
イピアがクロウの首に当たろうとしていた。
もちろん俺はとうに気づいていたがギリギリまで待ってみた。甘
く見ているわけじゃない、ただ俺はまだこの街に来て2日しかたっ
ていない、もっと言うなら人間の世界に来て2日だな。だからまず
は年代ごとの実力を見ることにしていた。
アレスやレイナと実戦をしていたが出来れば色々な人の動きを見
ておきたかった。︽神眼の分析︾や︽記憶︾のおかげでどんな動き
でも為になるからな。
226
あとは気配などを感じる練習でもある。アレスやレイナのハイレ
ベルな動きだけでなく素人の動きなども見ておく。こうすることで
実力を隠しておきたいときや力を温存しておきたいときにどれほど
の強さなのかおおよその見当にするためだ。
ステータスだけですべてが決まるわけでは無いのはレイナとの戦
いでわかっていることだからな。
こんなことで怪我しても仕方ないしな、そろそろ止めるか。
俺は後ろを振り返ることなく迫ってきていた細剣を指二本で受け
止めた。受付嬢が驚いた顔をしているがどこかホッとした顔をして
いるようにも感じた。
一方のエリラは俺に止められた剣を引き戻そうと必死に引き抜こ
うとしている。だが俺もそれなりの力を入れてるのでピクリとも動
かない。木剣が折れそうだな。
﹁⋮⋮あんた、これがどういうことかわかっているのか?﹂
今までの子供っぽい声からは想像できないような低い声で言う。
といっても所詮は5歳の低い声だ。たかがしれている。口調も前世
の口調でやっているんだけど迫力ないよなぁ⋮⋮︽威圧︾が無い俺
にはこれが限界か。
俺はグッと力を入れ細剣を目の前に叩き落とす同時に細剣を持っ
ていたエリラも地面に叩き付けられる。
ゴハッという声と共に細剣からエリラの手が離れる。俺は受付嬢
に目で﹁すいません﹂とだけ誤っておくと、細剣をいとも簡単にへ
し折って見せた。もちろん脅しのためだ。これいくらなんだろうな
ぁ。
227
そして俺は魔法を唱える。今は火魔法しかないことになっている
から火しか使えないが十分だ。
フレムランス
﹁⋮⋮︽炎槍︾﹂
俺の手のひらから抜け出すように火柱が立つ、そして一瞬にして
槍の形を作り上げた。受付嬢は目の前の出来事にポカンとしていた。
おいおいカード作るときに確認しているでしょうが
﹁⋮⋮殺す気で来たお前に俺は容赦しないぞ?﹂
エリラがようやく震えだした。気づいたのだ自分が決して相対し
てはならない、本気でぶつかったらいけない相手だということに。
受付嬢も我に戻るとあわてて止めにかかる。俺は受付嬢が近づい
てくるのを確認すると魔法を一瞬で解除した。
﹁⋮⋮さて、これはどういうことですか?﹂
俺は受付嬢を睨みつける。当初の説明では相手を殺しにかかろう
としたらそのままギルド登録を抹消されるはずだ。そういう意味で
は俺も魔法を使ったからかなりギリギリの線なんだけどな。戦闘終
了後の不意打ち、いくら致死性のない武器でも、低レベルの冒険者
でも攻撃次第では後遺症を残すこともたやすい。
﹁これどうなるのですか?﹂
さっそく登録解除なんか嫌だな。
228
﹁す、すいませんちょっとお待ちいただいてもよろしいですか?﹂
受付嬢もこうなることは予想していなかったのだろう、あわてて
奥へと消えていく。おおよそギルドマスターみたいな人にでも報告
しに行くのだろう。
数分後、闘技場に受付嬢と大男がやってきた。ただならぬオーラ
を感じ、俺は直感でこいつは強いと感じた。そしてその風格からか
なり高い地位のものだとも思った。
﹁ふむ、初めましてだな。ワシは冒険者ギルドエルシオン支部ギル
ドマスターのガラムだ﹂
大男には似合わない丁重な挨拶だ。俺も丁重に挨拶し返す。
﹁さて事情は大方聞いた。ここではなんだから、こちらでお話をし
ようか﹂
俺は特に異論はないので、ガラムの後をついていく。
やがて連れて行かれた場所はどうやら来賓を招くところみたいだ。
簡素な造りに見えるが、それはあくまで日本人である俺視点で見た
場合であって、この世界では中々の部屋だ。
座れと言われたので言われたままにソファに座る。エリラは受付
嬢と一緒に俺の後ろで立っている。本当なら座ればとでもいいたい
んだが、とてもじゃないがこのタイミングで言えないな。
﹁さて⋮⋮まずはそうだなお前はどこから来たんだ?﹂
﹁どこでしょうか? 私は村という村に住んでいませんでしたので﹂
229
﹁ん? それは一体どういうことだ?﹂
﹁誰も来ないようなところで住んでいたのです。ですのでどこかと
聞かれてもわかりません﹂
﹁なるほどな﹂
嘘は言ってないぞ。ただ掟を破ったということを話していないだ
けだよ。
﹁知識は両親からか?﹂
﹁はい、特に戦いは重点的に教えられました﹂
﹁ふむ、おぬし何歳だ?﹂
﹁この前5歳になったばかりですね﹂
エリラが後ろでギョッとした感じがした。受付嬢はカードを見て
いるので知っていたみたいだが、ああ補足しておくとギルドカード
には色々な個人情報があるが、どれをだすかは本人の自由なのだ。
俺は年齢を基本的に見ないので出さないだけだ。
﹁5歳だと!? おぬし本当に人間か?﹂
﹁人間ですよ﹂
半分がつくが。
230
﹁おぬしほどの歳でその実力か凄まじいな﹂
﹁はぁ⋮⋮ところで本題から逸れている気がするのですが?﹂
﹁おお、そうだったな、ワシとしたことがついな。事情を聞くとお
ぬしには特に問題がないと判断した。よって罰は無い、昇格も出来
るぞ。﹂
その言葉を聞いて俺はホッとした。よしっ、これで俺の生活は守
られた。まだお金も全然ないしな。
﹁さて、問題はお前だエリラ﹂
エリラがビクッとする。ガラムがじっと睨みつけている。怖いけ
ど目を離せない、離すなと言わんばかりの威圧が流れている。
﹁試験官願いをしたときにあれほど口酸っぱく言ったのをお前は守
れなかったな﹂
﹁⋮⋮はい﹂
﹁しかも相手はお前より10歳も年下の子供。戦いの中での不意打
ちなら問題はなかったんだがな﹂
問題なかったんだな。なんか殺されそうな雰囲気でしたが、まあ
実戦ではそんなことは言えないか。
﹁⋮⋮戦闘終了判定後の不意打ちおよび、重症性の怪我をさせよう
とした罪で冒険者ギルドから除名をする﹂
231
﹁!!﹂
エリラは何か言いたそうだったが、すぐに押し黙った。これはい
くらなんでもなぁ⋮⋮まぁ予想していたんだけどな。
でもこのまま露頭にでも迷うことになったら後味わるいよな⋮⋮
﹁あのガラムさん、その件なのですが何とか不問にできませんか?﹂
﹁⋮⋮なに?﹂
﹁いえ、今回は別に死人が出たわけじゃないですし、私としては一
回軽く脅しておいたのでもう許してもいいのではと思ったので。そ
れに彼女にも生活があるのでは? まだ若いですし﹂
﹁⋮⋮おぬし本当に5歳児か?﹂
﹁本当ですよ。なんなら看破スキルでも使って見ればいいのでは?﹂
﹁いや、別に気にするほどでもない。だがな規則は規則だ。前例を
作れば後へ後へと影響を残していく。おぬしが言いたいことはわか
るが、こればかりは覆せれない﹂
﹁⋮⋮そうですか﹂
﹁⋮⋮だが別に方法が無いわけじゃないがな﹂
﹁は?﹂
﹁簡単だおぬしの奴隷にすればいいだけだ﹂
232
﹁はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?﹂
233
第13話:厄介事と昇格試験︵後書き︶
奴隷ってチート系小説では定番ですよね? やりたかったネタの
一つです。もっともこれからのお話にもかかわってくるので大事な
事ですが。
ちなみに異種族間の対立はあっても完全に隔離されているわけで
はありません。
人は獣族を奴隷として扱い、時に体を合わせることもあります。
しかし龍族ほどでは無いにせよ、ハーフを持つということは標的に
なるので魔法道具で妊娠を防ぎます。この魔法道具は非常に安価で
す。大量に使われるので。
⋮⋮これってあとがきで書くことかな? まあいずれ本編でも解
説していきますので、よろしくお願いします。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字などがありましたら報告ありがとうございます。
私も出来る限り誤字脱字は修正しているのですが、あんまり出来
ていないのが現状です。ですので報告してくださると大変うれしい
です。
いつも、感想、報告をしてくださる皆様には改めて感謝です。こ
れからもよろしくお願いします。
234
誤字修正をしました。
第14話:奴隷︵前書き︶
※8/26
以下を修正をしました。
アイスフィールド・ニードル
※8/27
アイスフィールド・ナイフ
・誤字修正をしました。
・魔法︽氷面・針︾から︽氷面・針︾へと変更しました。
235
第14話:奴隷
﹁はっ? どういうことですか!?﹂
﹁言葉の通りだ。本来登録抹消された奴は各ギルドに通達される。
そしてその登録リストは商会ギルドにも通達される。わかるか?﹂
﹁⋮⋮普通の店などが使えなくなる?﹂
﹁そうだ、まあ識別装置見たいなのがあるわけじゃないから普通に
使ってもバレないがな。バレたらそんな奴お断りだろ? 店で買う
ことが出来ないのなら自力でなんとかするか⋮⋮賊になるかだ﹂
﹁⋮⋮登録抹消ってそんなに恐ろしい事なのですか?﹂
﹁当然だ。ギルドランクも実力だけじゃない、そいつならギルドの
威信を背負っても問題ないと判断してからランクを上げるのだ。依
頼に失敗すればそれだけギルドへの信頼が落ちる。大きな依頼にな
ればなるほどその落差は激しくなる。それを防ぐためにはそれくら
いのことをしなければならないのだ﹂
怖いな。正直ここまでやばいとは。犯罪犯してもまだやり直しが
いくらか効く日本とかどれだけよかったんだよ。俺も気を付けてお
かないとな。
﹁エリラも本来の実力はD∼Cほどある﹂
マジで!?
236
﹁だが、お前もわかっただろうが、あまりにも短気すぎる上に感情
的になりすぎるため上位の依頼は失敗する確率が高くなる。そのた
め昇格できないのだ﹂
﹁なるほど、今回の昇格試験官は⋮⋮ガラムさんの慈善ということ
ですか?﹂
ガラムが苦笑する。どうやら図星だったようだ。ガラムさんいい
人だな。
﹁だが、今回のことはもう見過ごすことは出来ない。隠す気になれ
ばいくらでも出来るが、ワシはそんなことなどしたくない。そんな
前例は許さない。許したら最後次世代にまで影響を及ぼすからだ﹂
ガラムが苦虫を噛み潰したような顔をする。彼も本意ではないの
だろう。だが自分の感情を持ち込んではいけないとわかっているの
だろう。さすがだな俺には絶対できないことだ。
﹁⋮⋮それで奴隷とはどういうことですか?﹂
﹁ブラックリストに登録された人普通店などには非常に使いにくく
なるのはわかったな? そしてブラックリストは出回る﹂
﹁⋮⋮なるほどわかりましたよ﹂
﹁ほう、今のでか?﹂
﹁ええ、名前さえわかれば︽分析︾スキルで名前を当てることぐら
いは容易いでしょう。そしてそのような人物は世の中から相手され
237
ない。そして闇に潜む奴らはそんな奴らを手駒にする。感情的な奴
なら爆弾持ってブラックリストにしたギルドに突撃する奴ぐらいい
るんじゃないですか?﹂
﹁⋮⋮おぬし実は5歳児に化けた獣族じゃないのか?﹂
﹁いえ、ただ知識として持っているだけです﹂
戦時中の特攻だけどな。洗脳教育とは恐ろしい。
﹁だが奴隷ならそうはいかない、奴隷になるということは必然的に
主に指示されない限り悪いことも簡単に出来ないし、他の奴らも手
をだせない。奴隷にも所有権があるからな。そして宿や商会に行く
ときも奴隷は物として扱われるのでブラックリストになってても関
係ない。まぁ店主がどう思うかはわからないがな。少なくとも表面
上は大丈夫だ﹂
﹁⋮⋮それって俺に面倒見れということですか? 5歳児にですか
?﹂
﹁もうおぬしが5歳児と言っても説得力などないわ。それにおぬし
もこのまま自分のせいで抹消されるのが嫌だから助け舟を出したん
だろ?﹂
﹁それはそうですが、私は家とか持っていない新米冒険者ですよ﹂
﹁ああ、だからお前ばかりに負担はかけない。まずギルドランクを
Cに上げる﹂
﹁⋮⋮はっ!?﹂
238
﹁言ったようにエリラはギルドランクCにも匹敵する実力者だ。そ
しておぬしは一撃で沈めた。実力は充分。そして今までの会話から
おぬしに上げても問題ないと判断したまでだ﹂
﹁入って2日の5歳によくそんなことさせますね﹂
﹁逆にいえば5歳に年上の暴れ馬を渡すのだ。それだけのことをさ
せるのだ﹂
こいつをかぁと後ろを振り向く、エリラは完全に硬直している。
まるで時間が止まった感じだ。一方の受付嬢も顔が引き攣っていた。
なるほどこの顔から察するに飛び級は完全にギルドマスターの独断
のようだな。
﹁で、それだけですか?﹂
﹁あとは当面の生活資金を貸そう。貸すだけだからな?﹂
﹁貸すだけですか、それにしてもいいのですか? ギルドランクな
ど飛び級させて﹂
それこそ問題アリそうなんだが。
﹁問題ない飛び級自体は1年間に何人かいるからな特別な恩賞とか
でな﹂
ここに来て俺は改めて考えることにした。
確かにこのままエリラを見捨てるのは後味が悪い、それは事実だ。
だが見た目5歳児の俺に果たしてそんなことが出来るのか? 肉体
239
だけではない、知識も所詮は両親から受けただけの焼き付け刃だ。
それにもっとも大問題なのはこいつ自身だ。
エリラ。さっきの戦いやこれまでのガラムの言葉からわかるとお
り、かなりのじゃじゃ馬のようだ。こんな奴を近場に置いてたら面
倒なことこの上ない。しかも俺の最終目的を考えた場合このような
感情的な人物はまずい以外に何でもないのだ。もちろんこいつが種
族を気にしない特別な存在かもしれないとも考えたが、たぶんない
だろうなと思った。
うわっ、こう考えたらデメリットだらけじゃねぇかよ。メリット
一つもねぇ! オマケにブラックリストとという大爆弾付きとか。
唯一のメリットはランクが飛び級で上がるだけか、だけどそれな
ら時間が多少かかっても出来ることなのでいい気がする。
⋮⋮よし、ならこの条件をぶつけて試して見るか。
﹁なら、こちらも二つ条件を出していいですか?﹂
﹁ほう、言ってみろ﹂
﹁一つ、今後、なんらかの問題が起きた場合ギルドが後ろ盾になっ
てもらうこと。犯罪を犯したなどは無視してもいいけど、こんな爆
弾抱えたままだったら何が起きるかわかりませんからね。あくまで
出来る範囲でいいですよ﹂
﹁なるほどな、まだおぬしには重いか﹂
﹁重いですけどそれ以上に保険が欲しいのですよ﹂
240
﹁面白い奴だ、いいだろうで二つ目は?﹂
﹁この街に私専用の鍛冶屋を作ってもらいたいのです。作る資金は
足りないので生活費同様借りるという形でお願いしたいのですが﹂
﹁鍛冶屋だと?﹂
﹁ええ、私こう見えても鍛冶屋とか錬金に興味があるんですよ。も
ちろん錬金などは出来る保証はありませんが、鍛冶屋なら練習次第
でいくらでも出来るでしょう?﹂
まぁ、本当の理由を言うと魔法剣を作るのに場所がいるんだよね。
魔法剣ってかなり貴重らしいから大量生産したらやばいことになる
よな。
まぁ最終的な活用方法は考えているんだが。
ちなみに魔法剣なら簡易版をすでに作ってある。と言っても木剣
に魔方陣を書き込んで魔力を入れるのだ。
魔法制御と錬金術を活用して作るのだが、試しにアレスにさせて
みたら﹁こんな緻密な作業同時進行で出来るかぁ!﹂と叫んでやめ
たのを覚えている。
木に彫るんなら、風魔法で掘ればいいだけなんだけど、鉄とかの
場合は内部に埋め込む式にするから炎を操作しながら鉄の形を維持
して魔方陣を組み込むという作業を踏まないといけないのでこれが
出来ないと始まらないのだ。
ちなみに内部に埋め込む理由はこっちの方が大掛かりな魔方陣を
書きやすくなるのだ。どうしても強度的にこっちの方が上になるの
だ。
241
﹁なるほど、わかったそれくらいはやってやろう﹂
マジか!? 正直こんな俺にここまでやってくれるとは思ってな
かったんだが。俺の心の中を読んだのか笑いながら本当の理由を言
った。
﹁おぬしには期待しているのだ。先行投資だと思えばいい。逆に期
待を裏切らないでくれよ﹂
なるほどね、そういうことか。
﹁逃げ場が無くなりましたか⋮⋮﹂
やれやれ、ここまで条件を飲まれるとやらざる得ないよな
﹁わかりました。この暴れ馬引き受けますよ﹂
﹁そうか、ならこちらもおぬしの願いをしっかりと叶えてやろう﹂
こうして俺とガラムの初めての対面が終わった。なおエリラは終
始その様子を見た後、﹁死んでやる!﹂とか叫びながらどこかに行
きそうだったので、ガラムに強制的に阻止された。ちなみにその後
も文句を言っていたがガラムの﹁拒否権があるとでも思ったのか?
それとも解放されて無駄死にするか望んでもいない奴隷になるか
?﹂の言葉で黙ってしまった。
まあ俺の奴隷になるのも望んでいないだろうが、変な奴の駒にな
るよりはマシだろうと考えたのだろう。同時に﹁まだ生きたいんだ
242
ろうな﹂とも思った。だって無駄死にするとか言うあたりで涙目に
なっていましたもん。
その後どこから連れてきたのか知らないがなんかフードをかぶっ
た男をガラムが連れてきた。
﹁誰ですか?﹂
﹁奴隷との︽契約︾をするものだ﹂
﹁契約?﹂
﹁そうだ、主との約束事を破れば部下にはそれ相応の罪が来る魔法
だ﹂
危険すぎない!?
﹁国がそんなことまで認めているんですね﹂
﹁何をいっている? こんなのどの国にでもある当たり前のことだ﹂
当たり前なのかよ!? やばい日本の常識とかもう本当に役に立
たないなおい。
﹁まあすぐに済むから待ってろ、始めてくれ﹂
﹁わかりました。ではこれより︽契約︾を行います。契約の内容は
243
このようになっております﹂
一、主の言葉は奴隷にとって絶対である
一、主に反抗することは認められない
一、奴隷は主に絶対的な忠誠を誓うこと
うわぁ⋮⋮ひでぇ内容だ。でも今はこれをやるしかないか。
﹁わかりました﹂
﹁では契約を始めます。エリラ、主をクロウとし絶対的服従を誓い
ますか?﹂
一応、相手の思いも尊重するのか?
﹁⋮⋮はい﹂
いや、その顔絶対誓わないだろ、お前。
﹁⋮⋮︽契約︾﹂
体が一瞬光ったかと思うとすぐに元に戻る。 あれ? これで終
わり?
>スキル︽契約︾を取得しました。
﹁これで終わりです。では簡単に説明します。奴隷となった者には
どんな命令でも自在に動かすことが出来ます。もっともその人の体
が持てばですが。そして主に反抗しようものなら、奴隷は首を絞め
られるような痛みに襲われ、なお反抗しようものなら⋮⋮死あるの
244
みです﹂
﹁⋮⋮肝に銘じておく﹂
﹁なお、補足をさせてもらうとダンジョンないで主が死に奴隷が生
き残っていた場合、その奴隷を連れて帰ればその奴隷の主は連れて
帰った者の物になります。ちなみに生きている人から奪ったのなら
ギルドのカードや奴隷者のステータスに乗るので出来ません﹂
便利だなギルドカードとステータス。一応エリラの称号欄を見て
みる。称号とは特別条件のことだ。いくつかの称号は普通のスキル
でも見れるらしいが、ある程度高ランクになるとかなり高レベルな
スキルレベルが必要になるらしい。まあ俺は看破されないらしいか
ら関係ない話だが。
と、話がそれたな。でエリラのギルドカードには
称号:︽クロウの奴隷︾
と書かれていた。マジで俺の奴隷になったんだな。
﹁では後は頼んだぞ﹂
そういうと俺に当面の資金50万Sを渡してくれた。ちなみにこ
の世界の通貨の価値は大体10円=1Sぐらいだと思う。まあ価値
観が違うからすべてがそうだとは考えれないが。
﹁50万Sですか、かなりの量ですね﹂
﹁何をいっておる、おぬしならこれくらいすぐに稼げるだろう﹂
245
かもしれないけどね⋮⋮
こうして昇格試験に来ただけなのになぜか鍛冶屋と奴隷をもらっ
ちゃうという濃密な一日は終わった。
宿に戻っているときだ。
﹁ねぇ、なんであな⋮⋮ご主人様は私を助けたのですか?﹂
エリラが俺に聞いてきた。ご主人様って⋮⋮おそるべし︽契約︾
スキル。
﹁別に理由はありませんよ。あの人が言ったように後味が悪いと思
っただけですので、あと話し方は普段のエリラさんで結構です、私
も素の自分の話し方で話しますので﹂
﹁し、しかし﹂
﹁命令﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁わかった。で、何で助けてくれたの本当にそれだけ?﹂
246
うん、やっぱりこっちの話し方の方がしっくりくるな。まだ出会
って半日だけどこっちだと思う。
﹁ああ、それだけだよ﹂
﹁⋮⋮馬鹿みたい。お人好しすぎない?﹂
﹁それで結構。俺はそうやって生きて行くつもりだしな、あんたも
生きたいんだろ? だから年下で子供の俺の奴隷としてでも生きる
ことを決めた﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁お前はすごいと思うよ。解放されても生きることが出来る可能性
もあったからな、まあ無難にとも考えれないこともないけどな﹂
﹁なんでも見透かしている⋮⋮か﹂
﹁そんなわけないだろ? ただ何となくそんな感じがしただけだ、
おっ見えてきたな﹂
宿屋︽猫亭︾が見え来たので俺は話を切った。 さてこの後の問
題だがエリラの寝るところだ、人だから普通に宿でいれても問題な
いと言っていたが俺としては部屋は分けておきたいんだけどな。ま
だ体が発達していないから反応していないが、エリラは美人になる
宣言できる、今でもしゃべらなかったらかわいいんだけどな。そう
なったらモンモンとなっちまう、俺のキャノンが立ってしまう。
案の定宿の店主には﹁奴隷に個人部屋!?﹂と驚かされた。しか
247
も主人と同レベルの部屋なのでなおさらの驚きだ。いや俺としては
どうでもいいんだけどな。
エリラも﹁ありえない﹂とのこと。
まぁそんな二人の意見を平然と無視して俺は部屋の追加を頼んだ。
50万Sは全部エリラに使ってあげるつもりだからお金は問題ない。
レッドリザードン
次の日、俺とエリラはとある依頼で火山に来ていた。依頼はCク
ラス。炎亜竜を討伐する仕事だ。レッドリザードンは前、訓練中に
出会ったことがある。
赤いトカゲで口から火を吐くのが特徴的だ。まぁ一撃で沈めたん
だけどな。
場所はエルシオンから南に10キロ地点にあるバルケノ火山だ。
討伐部位は尻尾らしい。まぁそれは問題ないんだが。
﹁⋮⋮熱い﹂
問題はこの暑さだ。
﹁当然でしょ火山なんだから⋮⋮﹂
エリラは涼しい顔で進む。ちなみに昨日エリラのステータスを覗
いて見た。
248
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:エリラ・フロックス
種族:人間
レベル:24
筋力:580
生命:430
敏捷:600
器用:550
魔力:390
スキル
・固有スキル:︱
・言語スキル:︽大陸語︾
・生活スキル:︽倉庫:3︾︽換装:4︾︽調理:5︾︽野営:4︾
・作成スキル:︽武器整備:4︾︽防具整備:4︾︽装飾整備:4︾
・戦闘スキル:︽身体強化:4︾︽見切り:4︾︽気配察知:4︾
︽回避:5︾︽状態異常耐性:3︾︽斬撃強化:3︾
︽威圧:2︾
・武器スキル:︽細剣:6︾
・魔法スキル:︽水魔法:4︾︽暗記:3︾
・特殊スキル:︱
・特殊能力 :︱
・ギルドランク:凍結
称号
・︽クロウの奴隷︾
ect⋮
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︽水魔法︾か、なるほどなこの火山では有利に戦えるな。あとこ
249
いつ自分の周囲を魔法で涼しくしているな。
﹁お前、水で涼しくしているだろ?﹂
﹁えっ、なんでそれを?﹂
魔力支配の効果で見えてるからな。
﹁直感﹂
﹁そうよ、水魔法を操作すれば出来るようになるわよ。まぁあなた
は炎魔法を持っているからそっち方面の能力で耐性があるんじゃな
いの?﹂
いや、あるけどさやっぱり熱いよ。エリラがこっそりドヤ顔をし
ている。いや俺も出来るよな? 俺は水魔法を凍らせて周囲に薄く
張ってみる。
﹁おっ、なるほどな﹂
涼しくなるな。もっとも維持するのに魔力を消費するのであまり
に長時間は行けないよな。
普段細工を作る以外にやっていなかったからな、逆に寒いところ
には炎で同じようなことが出来るな。
﹁えっ、あなた今何を⋮⋮﹂
おっさすがCクラスに匹敵する元冒険者だな。もう気づいたのか。
﹁あなた火魔法使いだよね? なんで?﹂
250
﹁何って水を凍りに変換して薄く張っただけだよ﹂
まるで簡単にやってますよ的な発言にエリラが唖然とする。
﹁今なんて⋮⋮氷? えっ相対魔法?﹂
あっ、そうか相対する魔法は普通は使えないんだな。まっこいつ
は奴隷だからいいか。
ちなみに︽契約︾スキルを取得したのでいつでも解除することは
可能だが、ブラックリストなので出来ないでいる。
﹁あ∼そうだけど﹂
エリラから反応が返ってこない。ただ何かつぶやいているように
見えた。
﹁あ、ありえない⋮⋮水魔法の超上位にあたる氷をいとも簡単に、
しかも火魔法まで使っている⋮⋮法則完全無視って一体⋮⋮﹂
﹁おい﹂
﹁ひ、ひゃい!﹂
現実に引き戻したようだな。かわいい声も出せるんだな。
﹁こんな熱い所に長くいたくないだろさっさと片付けて帰るぞ﹂
﹁色々聞きたいんだけど、何であなたは相対する魔法を?﹂
251
﹁なんかできた。俺も理由はわからないんだよ﹂
﹁わからないって、あなた今自然の法則無視しているのわかってる
!?﹂
﹁わかってるけど?﹂
﹁そんなにさらっといわないでよ⋮⋮﹂
﹁そんなこと言われても仕方ないだろほら行くぞ﹂
﹁見つけた﹂
火山の洞窟内。いつマグマが噴き出ても可笑しくない気がするん
だが。その中にレッドリザードンがいた。
﹁よし、やるか﹂
と、俺は出ようとするがあわててエリラに止められた。
252
﹁何言ってるの!? レッドリザードンに正面から挑む気!? 死
ぬ気なの!?﹂
﹁えっ、かわいいもんでしょ?﹂
﹁か、かわいい!? 何言ってるの!? あの鱗には私のレイピア
は通用しないのよ。魔法で遠距離から仕留めないと!﹂
﹁いや、面倒。じゃ待ってるか?﹂
その言葉にエリラは二日連続の硬直を起こす。まぁ確かにレッド
リザードンの危険度ってCで鱗の強さは鉄クラスだったけ? ただ
し魔法耐性がほとんどないから水魔法で倒すのが普通だっけ?
﹁わかった、じゃあ遠距離で仕留めるぞ﹂
﹁へっ、わ、わかった﹂
﹁で、お前はあれを倒すには何発撃つ必要がある?﹂
﹁えーと⋮⋮全力で5発ぐらい﹂
﹁で、全力でどれくらい撃てるんだ?﹂
﹁⋮⋮10発かな﹂
﹁2匹だけかよ﹂
﹁な、何言ってるの!? こう見えても魔力量には自信があるのよ
253
!?﹂
﹁じゃあ、あれどうする?﹂
俺が指さした方にはレッドリザードンが⋮⋮10匹ぐらいいた。
増えている。ちなみに気配察知ではまだまだいるようだ。
﹁⋮⋮﹂
あっ、エリラが完全に思考停止してしまってる。
﹁繁殖期だったんかな? こんな狭い洞窟でよくいるよ﹂
洞窟内の大きさは高さ10メートル。幅5メートル程度の大きさ
だ。レッドリザードンがいるところは比較的広いがそれでも全長4
メートルになるレッドリザードンには狭い気がする。
一匹のレッドリザードンが俺らの方を見ている。おそらく警戒し
ているのだろう。
﹁ほら、エリラ先輩どうすればいいのですか∼?﹂
半分冗談声で聞いてみる。
﹁⋮⋮﹂
返事が無い、ただの屍のようだ。
﹁⋮⋮﹂
254
おお死んでしまうとは情けない
﹁⋮⋮﹂
⋮⋮ドラ○エネタを脳内で再生しても仕方ないな。
﹁に、逃げるわよ!﹂
ゴールド
エリラ、0Gを払い復活。
あわてて逃げようとしたエリラを制止し、俺はジト目で見つめる
﹁⋮⋮ど、どうしたのよ、早く逃げないと﹂
﹁その逃走を不可能にしたのは誰だ?﹂
と、来た道を指す。そこにもレッドリザードンがいた。数は5匹
ほどだ。どうやらエリラの叫び声で出てきたようだ。
﹁⋮⋮ああ、短い人生だったわね﹂
﹁おい、勝手に終わらせるな﹂
一匹のレッドリザードンが雄たけびを上げると一斉に襲い掛かっ
てきた。
﹁ああ、もう無理だこの状況で⋮⋮﹂
レッドリザードンとの距離残り5メートル。
255
﹁だから︱︱︱﹂
残り3メートル。
﹁勝手に︱︱︱﹂
残り1メートル
﹁終わらせるな!!!!!!﹂
地面に手を当て一瞬で創造をする。イメージは銀世界とつららが
立っている洞窟。
アイスフィールド・ニードル
﹁︽氷面・針︾!!﹂
一瞬であたりが銀世界になり一気に気温が下がり、同時に地面や
壁から氷の針が四方八方から襲い掛かる。
それらの針はすべてレッドリザードンの脳天を的確にとらえ、生
命活動を止めた後とどめを刺すため全身に突き刺さる。氷の針はレ
ッドリザードンの鱗を軽々と貫いた。
氷の刃は血しぶきも凍らせた。だがなぜかクロウとエリラのいる
場所は決して凍ることはない。
こうしてレッドリザードンとの対決はわずか3秒で決着がついた
のである。
256
第14話:奴隷︵後書き︶
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ
※誤字脱字がありましたら報告お願いします。
いつもアドバイス、報告してくださる皆様に本当に感謝です。あ
りがとうございます。
そしてこれからも応援よろしくお願いいたします。
257
下記を修正しました。
第15話:プレゼント︵前書き︶
※8/27
・誤字脱字を修正しました。
※8/28
誤字脱字修正をしました。
誤字脱字を修正しました。
・素材の換金計算が間違えていたので修正しました。
※8/30
258
第15話:プレゼント
﹁⋮⋮え、えーとこれは⋮⋮﹂
﹁見ての通りレッドリザードンの尻尾ですが?﹂
﹁えーと、一応お聞きしますが、何匹狩ったのですか?﹂
﹁数えていない﹂
キリッとした俺の顔に受付嬢はもう何も言わなかった。
レッドリザードン
俺の目の前には炎亜竜の尻尾がこれでもかというぐらい山積みに
なっていた。ちなみに依頼では尻尾は3本でいいのだが。
﹁えーと、数えますのでしばらくお待ちください﹂
その後しばらくした後、俺の目の前には白金貨と金貨を持ってき
た受付嬢がいた。ちなみにこの世界では銅貨1枚で1S。銀貨1枚
で100S。金貨1枚で10,000S。そして白金貨は1枚で1,
000,000Sとなる。すべての硬貨の大きさは10円玉ほどの
大きさなのだが。数が多くなると非常に面倒になる。だがこの世界
の住人のほとんどはある魔法道具を持っているので問題は無い。
マジックバック
説明しておくと、この世界の住人は魔法の鞄というものが市販で
売られている。ただし入れれるのは1種類のみなので財布として使
われている。なぜか硬貨は一まとめにお金として扱われるのでこれ
一つでいくらでもお金を持てるというわけだ。逆に言えばこれを取
259
られたら大変なことになると考えるだろうが、おもしろいことにこ
のアイテムは所有者でなければ開けることが出来ないのだ。
しかし所有者が死ねば誰でも開封可能となり、最初に開けたもの
がその財布の所有者となる。そのためダンジョンなどで拾ったもの
はとっても問題はないのだ。
﹁えーと、これはいくらですか?﹂
﹁え、えーと全部で200万Sです⋮⋮依頼報酬30万Sにレッド
リザードンの尻尾一本8万5千Sが20本で170万Sです﹂
﹁へぇ、意外と高いんですね﹂
﹁レッドリザードンは討伐が難しく、しかも個体数があまりに居な
いのです﹂
﹁繁殖期だったんじゃないのですか?﹂
﹁え、た、確かにレッドリザードンは繁殖期の時に数は多くなりま
すが、時期が分からないのですが⋮⋮もしかして⋮⋮﹂
﹁ええ、そういえばこんなものがありました。かなりあったのです
が1個だけ持ち帰りました﹂
︽倉庫︾から取り出したのは赤い卵だ、大きさはダチョウほどの
大きさで網目状の模様がある。緑色ならメロンに近いかな。
﹁こ、これはレッドリザードンの卵⋮⋮﹂
その名前に近くに座っていた冒険者たちが一斉に立ち上がり俺ら
260
の周りに集まってきた。おいおい、なんなんだよこれは。
﹁おい、マジかよ!? こんなチビがやったのか!?﹂
﹁うそだろ、どこかで拾ったんじゃないのか!?﹂
冒険者たちが口々に何か言っているがどうやら珍しいようだな、
けど結構数あったぞ? と思い俺も鑑定してみる。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
アイテム名:炎亜竜の卵
分類:尻尾
平均価値:300,000S
説明
炎亜竜の卵、産卵期にしかまず手に入ることが出来ないレアアイ
テム。だがそのときの炎亜竜は集団となり個々の強さもあがるので
危険度はB以上となる。
焼いて食べるのが一番おいしいとされている。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
ぬぉ、マジか。これ一個で300,000Sだと!? くそっも
っともってくればよかったか? いや、生態体系壊す可能性がある
からいけないよな。
﹁えーと、とりあえずこれも換金してくれるとうれしいんですが、
なんか価値が高そうなので私だと手に負えないかもしれないので﹂
﹁えっ、本当にこちらで換金していいのですか!?﹂
﹁ええ、いいですよ。私は味とかあんまりわからないタイプなので
261
︵ただし料理スキルがあるのである程度はわかるが︶﹂
﹁わ、わかりました。では30万Sで換金しますがよろしいですか
?﹂
﹁はい、それでいいですよ﹂
周りの冒険者が色々揉めているが俺は知ったことではないのでス
ルーする。換金したお金を受け取り俺はギルドを後にしようとする
が⋮⋮
﹁ちょ、ちょっとまってくれ、バルケノ火山のレッドリザードンは
今、どれくらいいるんだ!?﹂
と、一人の冒険者が話しかけてきた。後ろにもたくさんいる。ど
うやら俺の討伐数や卵を見て行きたいと思っているのだろう。
全員の能力を一通り見てみるが全員がエリラと同程度の強さだ。
全員CかDと言ったところだろう。
数は減ったけどそれでもかなりの数が残っているのも事実だ。正
直こいつらだけで行ったところでどうにかなるのか? と思ったり
もしたが一応数は減っているのでは、とだけ言っておいた。俺も正
確な数は把握していないからだ。
それを聞いた冒険者はパーティのメンバーたちを誘って早速行く
準備をし始めた。
俺はガルムに50万Sを渡しに行った。ガルムは﹁1日で返すと
はな⋮⋮﹂と苦笑していた。その後、鍛冶場はいつぐらいに出来る
か聞いて戻ってきた頃にはすでに半分近くがいなくなっていた。
262
おいおい、10分ぐらいしか立っていないんだが、無計画すぎな
いか?
やっぱり5歳児でも行けるんだからと言った感じだろうか。それ
にしてもこのギルドにはBとかAクラスのメンバーはいないのかな
? なんとなく受付嬢に聞いてみた。
﹁一応Bクラスは4名、Aクラスは2名います。全員が個別に長期
クエストを受けているので今は出払っているんですよ﹂
なるほどな、やっぱランクが上がればそれだけ時間がかかるよう
な依頼もあるんだな。まっ面倒なのだけには目を付けられないよう
にしよう。もう1名につけられているがあんなやつはどうでもいい
や。
俺は一言礼だけ言うと俺はギルドを後にした。
﹁さて⋮⋮戻るとする⋮⋮ん?﹂
俺はある店を見つけた。
﹁⋮⋮試しに作ってみるか﹂
そういうとクロウはその店に入っていった。
263
﹁戻って来たぞ∼﹂
﹁⋮⋮﹂
宿に戻って見るとエリラが放心状態でベットに座っていた。目は
完全に明後日の方を向いている。火山の帰りからもうずっとこんな
感じだ。
﹁お∼い﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
コール・ライトニング
﹁⋮⋮︽雷撃︾﹂
周囲にバレないように極小の雷をエリラに撃ち放つ。かすかにバ
リバリバリと言う音と共にあばばばばばばと言いながらエリラがそ
の場で飛び跳ね、そしてベットから転がり落ちた。
﹁はっ!? 私は一体⋮⋮﹂
﹁よう、ようやくお目覚めか?﹂
264
﹁あっ、あれ私はたしか火山にいて⋮⋮レッドリザードンに囲まれ
て⋮⋮﹂
エリラが再びフリーズする。どうやら俺の使った魔法を思い出し
たのだろう。無理もないよな、あんな魔力、国のお抱えの魔道士で
もそう何回も使えないクラスだからな。
﹁⋮⋮あなた一体何者よ?﹂
﹁生き物﹂
﹁バカ! そういう意味じゃないよ!﹂
﹁うーん⋮⋮人?﹂
半分だけどな。
﹁⋮⋮もうあんたに何言っても無駄なような気がしてきた。まさか
火だけじゃなくて水も使うなんて⋮⋮﹂
よし、雷を使ったことはバレていないな。
﹁それよりも卵とか売ったら全部で230万Sになった。50万は
ギルマスに返して残り180万Sだが、ほら半分やるよ﹂
そういうと俺は90万S分を彼女に渡す。
﹁な、何言ってるのよ!? 奴隷にお金を渡すなんてお使いのとき
にしか渡さないわよ!? しかも半分も!?﹂
265
﹁はぁ、知るかよ、第一な俺はお前を奴隷にしているが、お前を奴
隷だと思ったことはねぇ! 俺とお前は対等だ﹂
﹁えっ?﹂
﹁第一、くらだねぇんだよ奴隷とか俺としてはさっさと解除して二
人で仲良くパーティ登録にでもした方がいいわ﹂
﹁⋮⋮あんた見たいな考えを持った人初めてよ﹂
﹁はっ、なんだ今まであってきた奴は違うんかよ?﹂
﹁当然よ、奴隷は家畜同然。学校でそう教えられるのよ﹂
﹁はぁ!?﹂
俺はその言葉に愕然とした。なんなんだこの世界は!? 奴隷は
家畜と一緒という考えを学校で教えるだと!? どこかの国みたい
に洗脳教育でもしているのか!?
ちっ、どうやら相当可笑しいようだなこの世界は⋮⋮
﹁田舎出身の俺はそんな教育受けなかったな、第一学校にも言って
ねぇし﹂
﹁それは学校に行くのが6歳からだから当然でしょ、学校にも言っ
てないのになんなのあなたのその知識と力は?﹂
﹁親に鍛えられたからな、そりゃあ3歳のときから毎日朝から晩ま
で訓練尽くしだよ。まっおかげでこうやって生活出来ているんだが
な﹂
266
﹁あなたの親は奴隷のことは教えなかったの?﹂
﹁教えはしたさ、でも家畜と考えろと言うことは言われなかったな。
第一同じ人間だろうが、家畜と扱う方が間違ってるよ﹂
﹁⋮⋮あなたはとことん変な人ね﹂
﹁変な人で結構だよ﹂
俺はニヤリとする。そうさどうせ俺はこの世界では異質な存在な
んだならとことんやってやろうじゃないか。
﹁⋮⋮ごめんなさい﹂
急にエリラが謝りだす。はっ? どうしたんだ行き成り?
﹁正直、こんな人の奴隷になるなんてって思っていたわ。でも⋮⋮
今はよかったと思う。あそこで解放されて自由人になってもおそら
く⋮⋮﹂
自分の別の未来を想像していたのだろう。あのとき解放される方
を選んでいたのなら⋮⋮と無駄な想像はやめておこう。こっちを選
んだんだから考えても仕方ないしな。
﹁気にするな、10歳以上年下の下で奴隷としてとか思えば嫌でも
そう感じるだろうさ。まっなっちまったものは仕方ないさ。解放さ
せてあげれないけどこれからもよろしくな﹂
俺は手を差し出す。初めて出会ったときは弾かれたなぁと思って
267
いた。
﹁⋮⋮うん﹂
今度はしっかりと彼女は手を握っていた。なんでだろう彼女の眼
がかすかに潤んでいたような気がするのだが。
﹁あっ、そうだ忘れないうちに⋮⋮﹂
俺はそういうと︽倉庫︾からいくつかの小さな宝石と鉄のインゴ
ットを取り出す。
﹁宝石?﹂
﹁ああ、ちょっとまってな﹂
俺はそういうとまず鉄のインゴットを錬金で形を作り始める。も
ちろん普通の︽錬金術︾ではこんなことは出来ないが、俺のスキル
レベル10では形あるものを変形させることが出来るようになる。
もちろんこのスキルでも変えることが出来ないものはある。生き物
や特殊な鉱石は残念ながらいじることは出来ない。まあ特殊な鉱石
をいじるために鍛冶場が欲しいんだが。
目の前で起きている出来事に信じられないと言わんばかりに目を
見張る。
やがて鉄のインゴットは見事なチェーンに姿を変えたのだ。さら
にそのチェーンに買ってきた宝石を錬成してやがて美しいネックレ
スへと姿を変えた。
エリラの赤髪をイメージしたルビーを中央に置き周りを翼の形を
268
した金で作り上げた中々の出来だと思う、本当は買ってもよかった
んだけど、どうもどれも精度が低くて自ら作ることを決めたのだ。
おそらく売れば原価価格の3倍ぐらいで売れると思う。
そして出来たネックレスをエリラの首に着けてあげる。
﹁うん、思ったより似合っているな﹂
﹁⋮⋮﹂
エリラは何も言わない、代わりに付けられたネックレスに目を下
ろしジッと見つめている
﹁あー、俺のせいで不便な思いさせているって思ってな⋮⋮その、
せめてものと思って⋮⋮女性に物を送るとかしたことないからそれ
しか思い浮かばなかったんだが⋮⋮﹂
くっ、年齢=彼女いない歴の俺には苦渋の決断だったんだよ!︵
前世でのお話︶
いくら彼女に非があっても試験を受けたのは俺だ。だからせめて
もの償いと言う訳じゃないが何か出来ないかなと思って考えたのが
このネックレスと言うことだ。ちなみに︽創世魔法︾と︽錬金術︾
で特殊な付加魔法をに混ぜ込んでいるので錆びることはない。 壊
れないというのはさすがに無理だったが、耐久度も普通の鉄より格
段に上げることが出来た。︽錬金術︾と︽創世魔法︾は便利だな。
中々顔を上げてくれないので俺は段々と心配になってきた。
﹁もしかして不満k︱︱︱﹂
269
そう言いかけた瞬間、彼女がいきなり飛びついてきた。不意を付
けれたので俺は反応出来ずに彼女に巻かれそのまま地面に叩き付け
られてしまった。
﹁ちょっ⋮⋮いきなりどうし︱︱︱﹂
俺はそこで言葉を切った。
何故なら
彼女が俺の腕の中で泣いていたからだ
270
第15話:プレゼント︵後書き︶
タイトルが全然思い浮かびませんでした orz
終わりはきりはいいのに⋮⋮前回の最後にまとめればよかったか
な? まあ今言ってももう遅いですが。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ
※誤字脱字などありましたら報告お願いします。
いつもたくさんの感想、報告ありがとうございます。この場を借
りて皆様に感謝です。
本当にありがとうございます。
これからも応援よろしくお願いしますm︵︳ ︳︶m
指摘があったので、一部言葉の変更を行いました。
===以下更新履歴===
2017年
※02/22
271
第16話:エリラの過去︵前書き︶
※エリラ視点のお話です。
※8/30 以下を変更しました。
・誤字脱字修正をしました。
・序盤が誰視点か分からないという指摘を貰いましたので
以下を修正しました。
大幅加筆修正をしました。︵エリラ視点へと変更︶
※8/31
・誤字脱字修正をしました。
・領主や次男の名称を﹁祖父﹂﹁叔父﹂に変えました。
・後半の一部を加筆修正しました。
272
第16話:エリラの過去
私、エリラ・フロックスはエルシオンから遥か遠くの地で生まれ
たわ。
当時、私の家はその地方で有数の貴族であり、私は当時の領主の
長男の長女として生まれたの。
だけど、私の誕生は決してフロックス家の大半に取ってはうれし
い出来事ではなかった。
それは当時、フロックス家で起きていた跡継ぎ問題が関係してく
んだけど、そのとき領主は重い病気にかかっていて、跡継ぎを早め
に決めようという話になっていたらしいの。長男が後を継ぐという
のが自然な流れなんだけど、例外もあったらしいの。私の父は大し
た技量も知恵もなく、さらには自己中心的で気性が荒く、将来が不
安だと言われていた。
対する叔父︵次男︶は様々な分野で領主である祖父に貢献をし、
性格も誰とでも対等に接し家中も次男を後押しする声が高かった。
このとき私の父の年齢は24歳。叔父は21歳。どちらも子供が
いてもおかしくない状況。この世界では後を継げる人がいるのと居
ないのでは大きく違っていて、それは男でも女でも関係が無いらし
く、必然的に跡継ぎが出来ている父も次期領主候補であることを主
張し始めたの。
そんな中で私は育っていった。だけど次男を押す声が大半を占め
ている家で私は決していい目では見られなかった。
273
家の叔父派の人々は彼女に隙あればちょっかいをかけた。わざと
ぶつかりこけさせたり、お気に入りにしていたぬいぐるみをズタズ
タにしたり等とてもじゃないが子供にする悪行ではなかったわ。今
考えても酷い話よ。
母は毎日父と一緒に過ごし私に構っている暇はなかった。母も本
当は私にに構ってあげたかったのかもしれないけどそれは叶うこと
は無かった。
父も決して私に構うことなどなかった。まるで赤の他人のような
態度だった。
幼かった私はこんな扱いをされるのは自分が弱いからだと思いこ
み毎日必死になり勉強をしトレーニングを積んだ。毎朝走りこんで
午前中は剣の訓練。午後は魔法の訓練に当てて夜は座学もした。
だけど私の境遇は変わることはなかった。むしろこれまで以上に
しつこい悪戯を受けることとなった。力を付けたのを妬んだのかも
しれないわね。
そして私が14歳のとき祖父は死んだ。当然ながら跡継ぎ問題で
大い家は荒れたわ。
勢いとしては叔父の方があったが、跡継ぎとしての私がいる父に
も分がありいつ紛争になってもおかしくない状況にまで来た。
この時になって父は私に愛想を振りまくようになった。一見すれ
ば余裕が出てきたのかもしれないけど私は決してそうは思わなかっ
た。その眼の奥には私をトップに成り上がるための道具にしか見え
てないように見えたの。
274
そして私は家を出た。今までしつこく繰り返された悪質ないじめ
からそして権力争いから逃げ出した、なにより父が死んでから急に
優しくなった自分の父に見切りをつけた。
私は遠くへ遠くへと逃げた。外の世界はわからないことだらけで、
ほとんどが手探り状態だった。
私はは途中何度も死にかけながらも辿り着いたエルシオンで冒険
者になった。
でも、元々気性が荒いのに加え家内での劣等感からの解放から私
は事あることに力や自己中心的な動きをしてしまい、評判は良くな
かった。考えてみれば父と全く同じことをしていたのよね。
冒険者になってから2ヵ月で私のランクはEに上がったけど、そ
れ以上はギルドマスターであるガラムさんから性格を直さなければ
ランクは上げないと言われ止まっていた。
だけど当時の私はそれを直すことは無かった。
1年後彼に会うまでは。
昇格試験の時に見た彼の第一印象は﹁チビ﹂、﹁弱そう﹂であっ
た。身丈に似合わない剣に、いかにも子供っと言った感じの冒険者
だ。
受付の人からはわずか1日でクエスト10回分の依頼をクリアし
275
た期待の新人だと聞いていたので、どんな人かと思えば⋮⋮正直残
念でしかならなかった。
だけど、私の見解は全くの見間違えであった。
彼は私の一撃を簡単に回避するとそのまま私を放り投げて試合を
終わらせたのだ。
屈辱以外に何でもなかった。それまで年下に負けたことなど当然
無い、時には年上に絡まれても撃退したこともあるほどだ。
家を出てからかつてないほどの屈辱とランクが上がらない自分が
重なり私の中で何かが切れたんだと思う。
気づけば体が勝手に動いていた。得意の突きで彼の首筋へと剣先
を突き立てていた。やばいと正直思ったが動いた手はもう止められ
なかった。
だが、彼はそれを見向きもせずに指2本で挟んで止めて見せたの
だ。そしてそのまま地面へと叩き付けられた。
さらに彼は驚くことに一瞬で手のひらに魔法を収束させ、炎の槍
を作り出したのだ。あまりにも早い速度に私はもう何も考えれなか
ったおそらく詠唱速度は私が見てきた中でも断トツの速さだろう。
受付さんが来たおかげで彼は魔法を解いたけど、結局この事態は
ガラムさんに知られることになった。
そして私はギルドマスターに除名を受けたのだ。
276
終わったと思った。ブラックリスト入りはこれからの道に必然的
に関わってくる。残された道は少ない、一つ娼婦館にでも行き身を
売ること。または山賊となり悪事を働くこと。もう一つは奴隷市場
へと売り飛ばされること。
ブラックリスト入りとはそれほど重大な意味があるのだ。人間の
長い歴史の中でギルドという組織は重要な組織だ。そのギルドから
の除名。
どうしよう。そもそもなんでこうなったの。どうして? なぜ?
私の中で答えの出ない自問自答がグルグルと周り続ける。
だがその時彼は動いた。
﹁あのガラムさん、その件なのですが何とか不問にできませんか?﹂
と。
この人何を言ってるの? と思った。だが彼の眼は本気だった。
いくら我を忘れていたとは言えあんなことをした私を彼は助けよう
としているのだ。
そうして出された答えたが彼の奴隷になることだった。
277
もちろん私は反対したかった。こんな年下のよくわからない子供
の下で永遠に奴隷として動くなんて信じられないと思った。全力で
逃げたいと思った
だがもちろん有無を言わせないギルドマスターの発言と行動で結
局私は彼の奴隷になることでこの問題は終わった。
私の家にも奴隷はいた人族や獣族など様々な奴隷がいたが全員が
人間としての扱いを受けていなかった。彼も私をそのように扱うの
だろうか。私は恐怖に怯えた。
私はその恐怖から逃げるかのように彼に話しかけた。
﹁ねぇ、なんであな⋮⋮ご主人様は私を助けたのですか?﹂
くっ、ご主人様とか言う言葉を使う日が来るとは⋮⋮屈辱だ。ど
うせ男のことだから遊ばれるんでしょう。今はそんな歳じゃないけ
ど成長したらそうなるだろうなと私は考えていた。
だが彼の答えは﹁別に理由はありませんよ﹂だった。
おかしい以外に何でもないと思った。その後同じ問いかけをした
がやっぱり答えは変わらず。彼の泊まっている宿に着いた。
そこでも私は奇妙な光景を目の当たりにした。
彼はなんと私の為に部屋を一つ別に取ってくれると言うのだ。当
然奴隷身分の私は彼の部屋の隅で床に伏して寝るか外で寝るかのど
ちらかだ。獣族なんかになれば宿に入ることすらも許さないのに。
しかも聞けば彼と同じレベルの部屋とか言ってるし、ありえない
よ!
278
だが彼は反対を押し切り私の分の部屋を借りた。
彼は﹁明日さっそくCランクの依頼を受けるからしっかり休めよ﹂
と言って自室に戻っていった。私は彼が借りた部屋に入りベットに
飛び乗った。
頭の中がグルグルする。彼は一体何なんだろう、奴隷に対等の部
屋を与えるって、聞いたこともないよ。
彼は本当に何となくで私の助けたのか⋮⋮だとしたらとんだお人
好しだよね⋮⋮ほんと馬鹿な人よ⋮⋮
でも何でだろう、悪い気がしない。むしろ心地良い気がした。
その日、私は人生で一番ぐっすりと眠りにつくことが出来たと思
う。
279
翌日も彼には驚くしかなかった。火魔法も使えれば水魔法も使え
る。ありえない、普通相対している属性の魔法は一人では使えない
のに。
さらにレッドリザードンを一瞬で瞬殺してしまった。おかしすぎ
る⋮⋮この人は一体何者なんだろう⋮⋮
宿に戻っていてくれと言われたので戻って来た。何でだろうあの
氷の風景が頭から離れない。水魔法でも上級クラスに入る氷生成を
あんな一瞬でしかも広範囲、さらにはレッドリザードンを一撃で倒
せるほどの力を持っている。
私はとんでもない人の奴隷になったのかもしれない。
突然の痺れに私は我に返った。見てみると彼が戻ってきていたの
だ。いつのまに戻って来たのだろう。
280
そして彼は90万はやると言って私に渡そうとした。
当然断ったわよ。ありえないよ奴隷にそんな大金を渡すなんて余
程のことがないと渡さないのに。私がそれを言うと、彼は はぁ?
と言った顔をした。いや私がおかしいの?
﹁はぁ、知るかよ、第一な俺はお前を奴隷にしているが、お前を奴
隷だと思ったことはねぇ! 俺とお前は対等だ﹂
⋮⋮えっ対等? この人何を言ってるの? 自分と奴隷が対等だ
とでも言うの? いや違う彼の中で私は奴隷とではなく対等な人と
して見ているのだ。
﹁第一、くらだねぇんだよ奴隷とか俺としてはさっさと解除して二
人で仲良くパーティ登録にでもした方がいいわ﹂
パーティ登録。私も冒険者になりたての頃は憧れていた。でも結
局誰とも組まなかった。いや組んでくれなかった。今となればわか
るけど私の性格はパーティ内で亀裂を起こすと思われたんだと思う。
彼は私を解放したいと言った。それだけならさっさと売り払いた
いとも聞こえないこともない。だけど彼は仲良くパーティ登録した
方がいいと言ってくれた。
なんでだろう、嬉しかった。
彼も奴隷のことは前から知っていたようだけど、彼はそれでも﹁
家畜と扱う方が間違っている﹂と言い切った。ほんととことんおか
しい人ね。
281
そして私は気づいたら彼に謝っていた。何となくそうしないとい
けない気がしたのだ。彼は気軽に許してくれて、最初に会ったよう
に再び手を差し出した。
今度はしっかりと彼の手を握った。彼の手は私より小さいはずな
のに何故か大きくそして暖かく感じたのだった。
﹁あっ、そうだ忘れないうちに⋮⋮﹂
彼はそう言うと倉庫から鉄と宝石を取り出した。さっきの報酬で
買ったんだろうけど鉄は何に使うんだろう。そう思ったら彼は目の
前で行き成り鉄をぐにゃりと動かすと見る見るうちにチェーンを作
り上げた。そのチェーンは今まで見て来た中でも一番の美しさだっ
た。
さらに彼はそのチェーンに宝石を付けだした。やがて宝石は翼の
形をした金に囲まれているという見たこともないデザインへと変わ
っていた。
そしてそのネックレスを私に着けたのだ。
一瞬世界が止まったような気がした。彼は自分のせいで不便な思
いをさせていると感じていたらしいのだ。
ネックレスを見ながら色々な感情が心の中で回っていた。
今まで一度もプレゼントなどを貰ったことが無いなかったからだ。
母からも貰ったことはない。
私は今まで感じたこともない優しさを感じていた。故郷でもエル
282
シオンでも今まで味わったことの無い優しさ。
そして、気づいたら私は彼に飛びついていた。不思議とそうした
いと思ったからだ。
私はようやく心の拠り所を見つけたんだ⋮⋮
彼女は彼の腕の中でそう思いながら涙を流した。
283
第16話:エリラの過去︵後書き︶
エリラの過去を軽く書いてみました。もちろん彼女のお話はまだ
ありますが、今は主人公無双を引き続きお楽しみしていただくと嬉
しいです。
本日も読んで下さった皆様本当にありがとうございます。これか
らも応援していただけると嬉しいです^^
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ
※誤字脱字などありましたら報告お願いします。
284
誤字脱字を修正しました。
第17話:Bランク冒険者︵前書き︶
※9/1
285
第17話:Bランク冒険者
昨日は驚いた。いきなりエリラが飛びつくんだもん。何が起きた
のかさっぱりわからなかったよ。
その後、エリラから自分の過去を話してくれた。話している途中、
話し方とかが柔軟になったなぁと思っていたが最後あたりで言う前
に悟った。
ああ、親の愛を受けないってこういう事を言うんだなってな。
俺も親から酷いことされたよな。それでも鬱になったりとか誰か
をいじめたりとか自殺しなかったんだから俺って強いよな。もしか
して、龍族を殺してもそこまでショックを受けなかったのは、こん
な過去があったからかな。
エリラが一通り話し終わった後は添い寝してあげた。これ本来な
ら立場逆だよな歳的に。くっ前世の俺ではまずありえない光景だよ
な。部屋を戻した時に宿屋の受付嬢が﹁きゃー﹂と言いながら顔を
赤めていたが気にしたら負けだな。
俺の方がまだ小さいのでエリスに完全に枕になる形だ。か、顔に
むn︵ry︶
286
それからしばらくはCランククラスの依頼を受けながら生活品を
買い集めたり、必要な道具を集めていた。
鉄は積極的に集めた。理由はもちろん鍛冶屋が出来た時にすぐ作
るためだ。もっといい鉱石とかあるんだけどとりあえず実験という
ことで。ちなみにただの鉄剣なら鉄さえあれば出来るぞ。強度や切
れ味も普通のよりいいものが出来る。スキルレベルはありがたい。
そんなある日のことだ。ギルドで依頼を探していたとき、ふと後
方が騒がしくなった。ここ最近俺がCランクの依頼を受けていると
いうことで色々文句を言ったりちょっかいをかける連中がいる。そ
のたびに返り討ちにしているのだが、中にはなんか偉そうな貴族も
︵初日のヴグラの父親の部下ではないかと思っているが確証は無い︶
やって来て対応が面倒なのだ。
あとこの前のレッドリザードンの討伐で返り討ちになった奴らも
文句を言ってきたな。受けた奴は30ほどいてパーティは6組。だ
が3体を討伐できたのは半分の3組で。ほかの連中らはレッドリザ
ードンの集団戦に見事にしてやられたようだ。奇跡的にけが人は出
なかったようだ。
一杯いるじゃねぇか! と言ってきたが﹁数は減ってるのでは?
と言っただけですよ。私が討伐した分だけ減りますからね。でも
全体の総数なんて知る由もないので﹂と適当に跳ねのけておいた。
まあ金に負けて自分の力を見余った罰だな。
287
証拠に成功したのはCランクのパーティだか失敗したのはDラン
クのパーティだったからだ、Cランクも一組失敗しているのにDラ
ンクが簡単に成功できる訳がないんだよな。
あとエリラに殴られ隊とか言うアホ共も来たがこいつらのことは
省略する。話すのも面倒なので。
俺はいつも貴族がやってきたときはたまに騒がしくなるのでその
分類かと思ったのだ。
だが、後ろを振り向くとギルド中の視線は4人に集められていた。
﹁おい、Bランクの奴が帰って来たぜ﹂
﹁マジかよ、あの討伐戦上手くいったのか?﹂
﹁成功出来たから戻ってこれたんじゃね?﹂
冒険者がヒソヒソと話している。4人はそんな冒険者に目もくれ
ずカウンターの方に歩いて行き、リーダーらしき人物が受付嬢に
﹁成功したぞ﹂
とだけ行った。その瞬間近くにいた他の冒険者が聞いていたのか
騒ぎ出した。一体何を討伐したんだろうな。
﹁おめでとうございます。本当に討伐してくださるとは﹂
﹁なにAランクの奴がいない間だったからな、俺たちの出番だろ﹂
288
Aランクの討伐かレッドリザードンにやられたDランク見たいに
ならないでよかったな。
すると俺に気づいたのか4人の中で一番背の低い女性が受付嬢に
俺を指して何か言っている。あっ嫌な予感がする、俺が手に取って
いた依頼票を戻すとそそくさにその場から逃げ出そうと回れ右をし
たときに
﹁ま、待ってください!﹂
背後から声が聞こえた。ああ、面倒な事になりませんように⋮⋮
振り向くと予想通り先程受付嬢に話しかけていた背の低い女性が
立っていた。黄色い髪に縦ロール、いかにもファンタジーって髪型
だな。
ちなみに背が低いっていたが現時点での俺より高いぞ。それでも
145∼150ぐらいかな? 腰には短剣、手には魔道杖が握られ
ている。
﹁あなたが数日でCランクになった新人冒険者ですよね?﹂
﹁は、はい﹂
﹁始めましてソラって言います﹂
何か日本で聞きそうな名前だな。しっくり来ていいけどな。
﹁突然だけどあなた何歳なの?﹂
289
﹁5歳ですけど﹂
﹁5歳ですか!? すごいですね、ちなみに私は12歳です。歳が
近い人が多くないからよろしくね﹂
へぇ12歳ってエリラより年下じゃん、それでBとかすごいな。
﹁よ、よろしくお願いします﹂
勢いに負けました。元気な人だなぁ、でも12歳で冒険者という
危険な職業についているんだから訳ありなんだろうなぁ。
残りの3人のうちの一人がソラを呼び、ソラは戻っていった。4
人はこれから酒場で祝うとのこと。12歳で酒を飲むのかな?
4人が出て行ったあとはいつも通りのギルドに戻った。俺は受付
嬢に彼女らがどんな奴を討伐したか聞いてみた。
﹁あの人たちが討伐したのはケルベロスですよ﹂
ケルベロス? あいつってAランクだったんだな。というのも俺
も4歳の時に訓練中に出会っていたりする。あの時は逃げたけど、
ちなみに空飛んで逃げました。ビビりですよそうですよ。逃げる直
前にステータス確認したけどまあまあの高さだな。さすがに黒龍ほ
どじゃねぇけどな、あれは化け物クラスだよ、俺は置いといてな。
﹁へぇ、そんな奴を討伐したんですね﹂
とりあえず驚いておくか。無感情だと色々怪しまれそうだしな、
ただえさえ実力面で他の冒険者面々に怪しまれているのにこれ以上
290
面倒事は増やしたくないぞ。 ﹁あっ、あいつらのせいで依頼忘れてた﹂
セラス
と、ちょいと逃げるように依頼を取る俺。さきほど取って戻した
依頼を手に取る。
レッド・ウルフ
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
依頼:炎狼討伐
クリア条件:炎狼討伐
報酬:500,000S
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
﹁大型魔物の討伐ですか!?﹂
受付嬢が驚いている。あっそういえば今まで受けて依頼は採取と
複数討伐の依頼だからな、まあ俺としては複数の方が報酬いいから
な。
これを受ける理由は序盤に話していた鍛冶屋のお話に戻るが、武
器強化には鉱石だけだと魔方陣を組むのは大変な上に威力も上がら
ない。もっとも強度自体は鉱石だけの方が上だが。
﹁ええ、まぁさきほどのケルベロスに比べれば簡単な討伐だと思い
ますが﹂
﹁それでもBクラスですよ? 大丈夫ですか?﹂
周りに気を使って小声で話してくれる、ありがたいことだ。
﹁はい、まぁ危なくなったら逃げますよ﹂
291
﹁わかりました。場所はレッドリザードンと同じバルケノ火山の頂
上にいます。全身を炎に包まれているのでエリラさんの水魔法が有
効になると思います。出来れば魔法札を用意した方がよろしいかと、
近づくのは大変危険ですので﹂
魔法札とは魔法を発動する補助的な役割を持っている。付加魔法
と同じものだな。他にも詠唱速度を上げたりする魔法札もあるらし
い。
﹁魔法札はどこがいいですか? いつも行ってる店では取り扱って
いないようですが﹂
﹁いえ、どの店でも大抵扱っています。ただし条件がCランク以上
の人、一部の許可を貰った者のみなんです﹂
﹁ギルドカードを見せればいいのですか?﹂
﹁はい、そうすれば売ってくださいますよ﹂
なるほどな、貴重だからそれなりの人にしか売らないのか。でも
それだと新米や魔法を使えない下位の冒険者たちには苦しいな。
﹁では、お気を付けて﹂
俺はギルドを後にした。
292
﹁すごいね彼、あの歳でレッド・ウルフの討伐に挑戦しようとして
ますよ﹂
クロウがギルドを出た後、密かに彼の後をついていく4人の影が
あった。
﹁ふーん、大した実力は無いみたいだけど?﹂
﹁ステータスを隠蔽してるんだろう﹂
﹁あの歳で? でもギルドカードまでは隠蔽出来ませんよね?﹂ ﹁受付に聞いてみたけど最後に見たのは1週間前でその時はレベル
29だったそうよ﹂
﹁無理だろ? 29でBクラスとか﹂
﹁どこかの貴族とか?﹂
﹁軍隊でも連れて行ってるんじゃないか?﹂
﹁おい、どうでもいいが見えなくなるぞ﹂
﹁さっさと行くぞ﹂
293
﹁あ、はい﹂
︵っち、誰だよ︶
ギルドを出てしばらくした後から妙な視線を感じるんだよな。
数は4人。そのうち3人はピリピリした視線だ。残りの一人はち
ょいと心配した視線か?
言われた通りに道具屋でギルドカードを見せ大変驚かれたが、受
付嬢が言った通り魔法札を見せてくれた。
やはり、能力の高い物は無いな。買わないでいいんだけど、買わ
なかったら買わなかったで後が怖い。それに魔方陣の勉強になるか
ら買っておいても問題は無いな。
とりあえず各魔方陣を一枚ずつ。それに詠唱速度強化系を10枚
ぐらい買っておいた。全部で400万Sぐらいかかったが、問題な
い。店員がめっちゃ驚いていたな。まあ仕方ないか1ヵ月の利益に
匹敵する額だからな。
エリラも最近は遠慮しなくなって出費が重なっているが問題ない。
4人の視線が痛いなぁ⋮⋮つーか外から覗くなよ怖いぞ。気配を
294
消しているのか店員や街を歩いている人は気づいていないみたいだ
な。
﹁レッド・ウルフ!?﹂
宿屋︽猫亭︾の一室でエリラが叫ぶ。
﹁ああ、知っているのか?﹂
﹁知ってるも何もBクラスの魔物じゃない! 何でそんな依頼を受
けたのよ!?﹂
﹁素材が欲しかったから﹂
﹁素材って、そんな安易な理由で⋮⋮﹂
﹁とにかく準備は出来ているんだろう?﹂
﹁出来ているけど、心の準備が⋮⋮﹂
295
﹁はい、ダウト。半分楽しみにしている癖に﹂
﹁あれ? 分かっちゃった?﹂
エリラが強張っていたような顔を崩し笑う。普段から俺の動きを
見ているエリラはもう驚いていない。それよりも格上の敵と戦って
レベルアップすることの方が嬉しいようだ。なんで俺の周りには戦
闘狂が多いんだろうか。甘やかさないように俺はサポート程度で戦
っているのでエリラの経験もドンドン増えていく。正直彼女の実力
はBランクぐらいはあるだろう。
﹁そういえば今日、Bランクの奴が帰ってきていたな﹂
﹁ほんと!?﹂
﹁ああ、ソラって言う奴が話しかけて来たが間違いないぞ﹂
﹁ソラちゃんが?﹂
﹁知り合いか?﹂
﹁うん、私の数少ない友人よ、歳が近いから仲良くなってたの﹂
うげ、マジですか。何でだろう修羅場しか想像できねぇ⋮⋮。
今、エリラの首には俺の着けて上げたネックレスと一緒に黒い首
輪が付けられている。これは奴隷である証で自分では取ることが出
来ないらしい。
また取るにしても︽契約︾スキルを持っている奴と一緒に取らな
いと契約違反になりこの首輪締まるんだよな。
296
いざとなれば俺が解除しよう。
﹁⋮⋮今のお前を見たらなんて言うか﹂
﹁え∼と、どうすればいいの?﹂
﹁しかもあいつら宿にやって来てるんだよな。隠れているつもりだ
ろうけど、バレバレだった﹂
﹁何で連れて来たの!?﹂
﹁勝手に来たんだよ!﹂
﹁途中で巻いてよ! 自分で面倒事は嫌だとか言ってたでしょ!!﹂
﹁こんなことになるとか思うわけないじゃん!!﹂
﹁はぁ⋮⋮どうするの?﹂
﹁う∼ん、襲ってきても返り討ちに出来るけどそんなことしたくな
いしな⋮⋮まっ別にいいか﹂
﹁いいの?﹂
﹁でもお前どう言うつもりだ?﹂
﹁うっ⋮⋮﹂
﹁兎に角、宿を出ても追って来ていたら街から出た辺りで仕掛ける
か、逃げるかだな、いざとなれば俺がどうにかする﹂
297
﹁わ、わかった﹂
こうして宿を出た。ついて来ないことを願っていたんだが、つい
て来てやがる。なんかピリピリとした視線が4人に増えているんだ
が。ああ、やっぱりそうなりますよね。
そして街を出る直前に
﹁そろそろ出てきたらどうですか?﹂
彼らが隠れている付近に声をかける。だが反応がない、︽透視︾
で見えているんだがな、ちなみにバレたのかとか言う顔をして、相
談しているようだ。
俺は顔を逸らさないでジッと見つめる。それに負けたのかようや
く彼らは出てきた。やっぱりソラの顔が怖い。
﹁で、何の用ですか?﹂
﹁エリラちゃんに何したの!﹂
ソラが杖を持って前へ出る。やばいこんなところで戦闘とか嫌だ
からな。
﹁ソラちゃんこ、これには理由が﹂
エリラも俺の前に出る。だが彼女は止まらない。
﹁待っていてね今、助けるから﹂
298
そういうと彼女は杖を振り上げる。なんか呪文が聞こえて来るん
ですけど⋮⋮これマジ? つーか他の3人止めろよ! なにニヤニ
ヤしてるんだそこの女! 男2名! 俺を睨みつける前にやること
があるだろ!
ライトボール
やがて光の玉が出来る。俺の︽光球︾より大きいな、でもまぁ威
力は言うまでもないよな? ﹁︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︽光球︾!!﹂
あっ、名称は同じか、光球って俺オリジナルの名前かと思ったけ
どストレートはかぶるよな。
俺はエリラを素早く後ろに下げると俺も同じ魔法を唱える。時間
がないので無詠唱発動する。
﹁︽光球︾!﹂
撃ちだされた球は俺とソラの中間あたりでぶつかり相殺される。
しかし彼女は続けざまに魔法を唱える。後ろにいる女はマジかと言
う顔をし男2名は興味深そうな目で俺を見始める。
﹁おい、エリラ! お前の友達だろ!? 止めろよ!﹂
﹁む、無理! あの状態になったら止められない!﹂
﹁だぁぁ! 面倒だ!﹂
エレクトリック・ショット
﹁︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︽雷弾︾!!﹂
299
さっきより長めの詠唱ののちソラの指先から雷が飛び出す。いや
見た感じの威力だとかなりの高出力じゃないか? 魔力相当使って
いるんだろうな。
アース・ウォール
﹁︽土壁︾﹂
目の前の壁に電気がぶち当たり、辺りに分散した雷が飛び散る。
それでもソラは続けざまに魔法を唱えてくる。
ライト・ニードル
﹁︱︱︱︱︱︱︱︱︱︽光針︾﹂
ソラの指先に光の針が作られる。しかも大量に。殺傷力⋮⋮すご
く高そうです。
俺もついに面倒になったのでアレを使うことにしよう。
スキル︽魔力支配︾︱︱︱発動
ソラの指先にあった光の針は分散し消え去る。俺は立っているだ
けなので、他の3人は一斉に﹁ん?﹂となりソラの方を見た。
一方のソラは魔法を発動しようと詠唱をする。だが俺が魔力支配
でソラの発動する魔法をかき消しているので発動することは絶対無
い。
そのうちソラの魔力が切れてソラは戦闘不能。他の3人もどうな
ってやがるんだ? と言った感じでソラに駆け寄る。
﹁おい、今のうちにあいつらに事情説明してくれ、出来ないなら次
はもう逃げる﹂
300
正直、帰ってきた後が面倒だけどもう今は仕事したいんだよ。
エリラは了解と言って事情を説明しに行く。
さて⋮⋮どう転ぶか
あの3人が冷静さを兼ね備えた人であることを願うばかりだ。
301
第17話:Bランク冒険者︵後書き︶
新キャラ。Bランクはまだ半分も名前出ていませんが、今後登場
していくかは⋮⋮作者の気分と話の流れ次第です。
一応、ソラは主登場人物に入れようかなと思い、先に出しました。
名前を決めるのにそれなりに時間がかかりました。なんかカタカナ
だと名前が近いのが出来てしまいかねないので難しいです。
レイナとエリラもすでに近い名前だなぁと思っています。どうし
ても3文字系を多く考え付きます。
漢字系の名前を入れようか検討中だけどそれだとファンタジー系
がチョイとなぁと感じています。ソラ︵空︶も作中でクロウが言っ
ているようにかなり怪しいですけどね︵汗︶
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ
※誤字脱字がありましたら報告お願いします。
302
第18話:進む︵前書き︶
時間の都合上、普段の10分の1程度です。
つなぎ程度に考えてください。
本当にすいません。次回はその分火山での戦いと戻ってきてから
のお話をまとめて行います。
303
第18話:進む
フラグって折れることがほとんどないなぁと思う、今日この頃。
俺は今、例のBランク冒険者に絡まれています︵泣︶
﹁で、何で私に事情を求めるのですか? エリラから聞いたのでは
?﹂
﹁とぼけるんじゃねぇよ! 何でエリラがお前に負けてるんだよ!﹂
﹁いや、実力の差でしょう?﹂
﹁まて、その前に何故ソラの魔法が出なかったのかを調べるべきだ
ぞウィズ﹂
﹁それも知りませんよ。不発なのでは?﹂
別に不発自体は珍しくないしな。創造しきれなかったら発動しき
れないし。まあ俺の場合は無詠唱があるので魔力切れ以外ではほと
んどありえないけどな。
﹁ソラが使おうとした魔法は今まで何百回と使ってきた魔法だ、連
続で失敗などまずありえん﹂
﹁そんなこと知りませんよ﹂
ああ、早く火山にいきてぇのに、よしここは強行突破だ。
304
﹁さて、これ以上時間は取りたくないので仕事に行かせてもらいま
す﹂
﹁まて! こっちの話は終わってないぞ!﹂
﹁うるさいですね、これ以上、私たちのことを止めるなら﹂
そういうと、俺は一瞬でウィズと言われていた女性の後ろに立ち、
首筋にに刀を当てる。もちろん魔法は使っていない。純粋な機動力
で移動したのだ。さすがのBランクでもこの動きにはついていけれ
ないようだな。
﹁なっ、お前何故﹂
﹁うるせぇ、話しならあとで聞きますから先に行かせてください﹂
暑くもないのにウィズの背中に汗が流れる。本能的に感じ取った
のか黙って頷いた。
﹁では、私はこれにて、エリラ行くぞ﹂
﹁え、ええ。ごめんねかえってゆっくり話すから﹂
エリラは一言だけ伝えると俺の後をついてきた。後には3人の呆
然としている姿だけが残ったのだ。
305
第18話:進む︵後書き︶
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ
※誤字脱字などありましたら報告お願いします。
306
第19話:炎狼︵前書き︶
申し訳ございませぇぇぇぇん、時間が無くて進みませんでした⋮
⋮次回こそは。
誤字脱字を修正しました。
楽しみにしていらっしゃる皆様には本当に申し訳ございません。
︵土下座︶
※9/5
307
第19話:炎狼
﹁暑い⋮⋮﹂
﹁来るたびにそんなこと言っているわね﹂
﹁そうだよ、暑いもんは暑いんだよ、でもまあこうすれば﹂
俺はあたりに氷の魔法を分散させる。エリラの付近にも分散させ
る。普段魔道士はこんな使い方はしないが︵こんなことをすれば3
0分と維持できないから︶俺からしてみれば雀の涙程度の魔力だか
ら問題は無い。
そう考えれば、エリラって魔力量とか普通なのに使ってやがった
な︵第14話参照︶
⋮⋮あれ? そういえば強化魔法︵付加魔法︶で自分の周囲の体
温を下げる方法がなかったけ?
いや、氷魔法事態が珍しいから無かったんだな。
その時ひらめいた、じゃあ作ればいいじゃんと気づく。︽創世魔
法︾でほぼなんでも出来るしな。早速イメージだな。炎狼と戦いに
行くから氷系は効果が弱まるから、火には火でやってみるか。炎狼
みたいに全身を熱で覆えば行けるんじゃね?
周囲の温度は本人が感じる適温になるようにして、あとは周りか
らはわからないように無色をイメージ。
︱︱︱スキル︽創世魔法︾発動
308
︱︱︱︽強化魔法︾より︽火耐性付加︾を製作。
この世界の魔法は大して進んでいないので、日本にいたころにや
っていたゲームに出てくる魔法はほとんどないんだよな。特に付加
系は詠唱などを重点的に発展してきたのか、こうした耐性系はほと
んど見られないんだよな。
ただ、国は極秘でかなり強力な魔法を持っているらしい。だが市
場に出回ることはないそうだ。見つけたところで国の優秀な魔道士
何十人と集めてようやく発動できるタイプが多いらしいし、各国、
各種族で魔法は独自の発展をしているらしいからかなりの違いがあ
るようだ。
だから火山の国とかに行けば熱耐性系の魔法もあるんだと思う。
ただ出回っていないだけで。そう考えるとこの世界の国ってほとん
ど技術を出さないんだな。
まぁ、種族間の対立や同じ種族内での対立が腐るほどあるこの世
界では軍事︵魔法、武器など︶は生命線に繋がる部分だからな。
俺も魔法札作っても出まわさないようにしとこう。この世界の戦
争を変えちまうとかますます種族間の対立を深めそうだし。
309
﹁あれか﹂
火山の山頂。活火山なだけあって流石だな。溶岩が近くを流れて
おります⋮⋮凍らせていいかな?
山頂は窪みになっており、上から覗くと溶岩が波打っていて、歩
くところがかなり制約されている。モン○ンのキャラとかよく活火
山の上でのんきに鉱石とか掘れるよな。実際に立ってみるとすげぇ
な。
時間はもうすぐ夕方になると言ったところだが、それでもここは
昼間のように明るい。そりゃ眼下は溶岩ですからね。
さて、炎狼はこの頂上に餌となるレッドリザードンを食べに来る
らしい、そこを狙うのがいいと、受付嬢が言っていたな。それにし
てもいい加減名前でも聞いた方がいいかな? いつまでも受付嬢と
呼んでいたらそこら中にいるから大変だな。
310
それにしても見つからないな。火山の頂上から見ているんだけど
なぁ。
よし、こうなったら
︱︱︱スキル︽創世魔法︾発動
︱︱︱︽探索︾を製作
>スキル︽探索︾を取得しました。
へぇ、造ってもスキルを取得することがあるんだな。創世魔法っ
てすごいな。
でも、制限もある。作った魔法によって魔力量もかなり違ってく
るし、即死系の魔法は使えない。もちろん使う気などないが。さら
には時を移動するなどのことも禁止だ。世界を渡るということも禁
止だな。
即死系魔法がこの世に無いのはありがたい。ゲームとかでは俺は
ほとんど使わなかったけど、実際に敵が使ってきたときとか洒落に
ならん。
さて、探索をする、今回の検索は名前だ。ゲームのマップ検索み
たいだな。これって人探しもかなり楽になるな。でも制限範囲もあ
るようだし、完全ではないな。
おっ、見つけたどうやら、俺らがいる場所の丁度反対側にいるよ
うだ。あそこまで移動となると1時間はかかりそうだ。︵空を飛べ
ば速攻だが︶
311
仕方ない、敵さんから来てもらいますか。
俺は手のひらに水を集める。火山地帯なので集まりが悪いな。
﹁あれ、クロやってるの?﹂
エリラが俺の手の中を覗いてくる。クロって言うのは俺だ。なん
かこれで呼んでいいとか言われたので許可している。前の世界では
まともなあだ名は付けられなかったから少しだけ嬉しかったのは秘
密だ。
エリラも良くこんなこと言い出したな、仲のいい奴とかにちゃん
付けとかするらしいから、その延長かな?
﹁見てろ﹂
考え事はここまでだな。俺は収束させた野球ボール位の大きさを
した水玉を上空へと発射する。水玉は綺麗な放物線を描きながら山
の中央を越え、そして反対側へと消えて行った。
﹁⋮⋮どうしたの?﹂
うん、当然の反応だよね。傍から見れば何もないところに撃ちこ
んだように見えるしな。さて、なんて言おうかと考えていたが、そ
の考えはすぐにしなくて済むことになった。
反対側から巨大な火の球が飛び出す。それはまるで犬の形をして
おり、その場に留まっていた。
体長はおよそ10メートル、全身から溢れる炎は見る者を躍動さ
312
せそうな輝きを放っていた。
そう、あれこそが俺たちの今回のターゲット、炎狼だ。
﹁えっ⋮⋮狙ったの?﹂
﹁確証は無かったけどな、これだけ探しても見つからないんだから、
反対側とかいそうだと思っただけだよ﹂
嘘です。しっかりと認識して撃ちました。
炎狼が俺らを見つけたようで、吠えながら溶岩地帯を駆け抜けて
きている。すげぇ溶岩に触れても何とも感じないのかな?
﹁来るぞ! エリラ! 水魔法で援護を頼む!﹂
﹁わわわわ、わかったわ!﹂
おい、噛みすぎだ。
エリラが水魔法の詠唱を開始する。さて、俺はとりあえず前に出
るか。︽炎耐性付加︾の強度を上げて置くか。
耐性力が上がればそれだけ、暑さに耐えれるので耐性付加は便利
だな。ちなみに今の俺なら溶岩に突っ込んでも問題ない。たぶん、
313
試さないぞ。腕とか失いたくないしな。でも今度、他の事で試して
見るか。
炎狼の前に刀を片手に立つ。炎狼は真っ直ぐとこちらに進んでく
る。まるで巨大なファイヤーボールだな。いや、狼型の隕石の方が
合ってるか?
炎を絶えず体から噴き出している炎狼に接近戦は不利だ。という
か接近系の剣士とかはほとんど指をくわえて見てるだけだろうな。
槍あたりがギリギリ戦えるか?
炎狼の動きを見定める。俺からしてみれば奴の動きはまだまだ甘
いからな。
衝突するまで引きつけて俺は横に飛び移る、と同時に刀をだし炎
狼の左足に綺麗な一線を入れる、振り返ると炎狼の片足が⋮⋮無く、
炎狼はエリラに向かって一直線だ⋮⋮えっ?
やばい! 俺は一気に加速すると再び、炎狼の前に立つ、近くに
ある岩石を球体にする。こういうところではやっぱり環境に合った
魔法は使いやすいな。
クラッシュ・メテオ
﹁︽破砕隕石︾!﹂
炎狼を囲むように一斉に地面から砲弾が飛び出す、そしてそれら
は全弾、炎狼にヒットする。
もちろん傷つけるような威力は無い。だが、その魔法のおかげで
炎狼はようやく動きを止めた。後ろに下がると俺を睨みつける。
314
﹁こいつ⋮⋮﹂
どうやら、さっきまで俺を敵と認識していなかったようだ。俺そ
んなに弱く見えますか?
こうして、火山での戦いが幕を開けた。
315
第20話:火山での激戦︵前書き︶
ようやく、鍛冶屋までこぎつけました。2話連続で少なくなって
しまい、大変申し訳ございませんでした。
誤字脱字を修正しました。
では、炎狼との戦いをどうぞ。 ※9/7
316
第20話:火山での激戦
﹁あっぶねぇ、大丈夫か?﹂
﹁ええ、問題ないわ﹂
ホッと胸を撫で下ろす。危なかったあともう少し遅れていたらエ
リラに直撃するところだった。舐めていたわけでは無いがイレギュ
ラーなのには弱いな、もっと勉強しないと。
それにしても何であいつの動きが止まらなかったんだ? 刀は振
りぬいたはずなのに、とふと目を落とすとそこには信じられない光
景があった。
自分の持っている刀の刃が半分ほど消えているのだ、さらに無く
なった先端の部分は先程俺があいつを斬った場所でドロドロに溶け
ているのだ。
何だと!? 溶けたのか!? あいつの熱で!?
この刀の素材は鉄だが、一瞬触れただけで溶けるほど軟な構造は
していない、あいつの表面どうなっているんだよ。
こうなるとさっきの魔法も本当に直撃したのか怪しいよな。
﹁エリラ、済まないもう一度頼む、あとこれも使っていいぞ﹂
そういうと、俺は前もって買っていた魔法符︵詠唱短縮版︶を手
渡した。
317
﹁こ、これ魔法符!? いいの?﹂
﹁いいよ、どうせ俺はいらないし﹂
︽瞬間詠唱︾あるしな。一撃で沈めてもいいけど素材が欲しいん
だよな。あれくらいの大きさならどれほどの素材が取れるか。
エリラが再び詠唱に入る。それと同時にいきなり炎狼が掛かって
きた。
剣はもう使えない。︽倉庫︾に予備の剣があるけど、たぶん切り
付けたら同じ結果だろうなぁ。普通にやればな。
俺は予備の剣を取り出し構える。
﹁︽付加魔法︾武器へエンチャント﹂
持っている剣が今まで灰色だったのが次第に青くなっていく。
俺が付けた属性は水だ。魔力を直接剣に着けるという荒業だ。本
来こんな使い方はほとんどできない。剣を振った時に魔力がずれる
からだ。
素材から属性を付加させておくことは出来る。さらに魔法剣と言
われる剣も魔力を込めれば発動できるのもある。
しかし、ただの鉄の剣に属性を付けることは出来ない。出来るこ
とと言えば魔力を剣に集めることだろうか、しかしこれも一撃与え
れはじけ飛ぶので非効率だ。
318
だが、俺は創世魔法で付加が可能になっている。これは便利だよ
な、直前まで剣の見た目で属性が分からないのは大きい、特に対人
戦では大きなアドバンテージになるな。
大きく息を吐き、意識を集中させる。
炎狼が息を吸うのが見えた。そして感じる魔力の流れ。
﹁まずい! ブレスか!?﹂
そう言ったときにはすでに炎狼の口からは炎が吐き出されており
真っ直ぐと向かってきていた。
﹁エリス! 詠唱は続けろ! いいな! 絶対当てろよ!﹂
俺はそうとだけ言うと、剣を地面に突き刺し素早く両手を左右に
広げる。両手に光が収束し手を覆う。そして国お抱えの魔道士が見
たら眼を剥きだしにしてみると思われるほどの高度な魔方陣が両手
から展開される。普通の魔法は創造だけでも十分使えるが、魔方陣
にして作る魔力札のように式にして発動した方が安定する。まして
や強力な物は魔方陣無しでは安定せずに暴発する可能性すらあるの
だ。さらに想像力が足りない物が使えば魔力暴発はもちろんのこと、
体内で魔力が炸裂することもあるのだ。
ポリゴン・ウォール
﹁十連魔方陣⋮⋮展開︽多重防壁︾!!﹂
両手に地面を突き魔方陣をから透明な防壁を作り上げる。
ウォール
名前の通り防壁というこの世界でも基礎魔法として扱われる魔法
だ。魔力を固めて目の前に透明な防御壁を作り出す。
ただ、俺の場合それを重ね合わせるということをしている。しか
319
も重ねかけをするたびに相乗の防御力になる。
今は十連なので、10倍の防御力だ。もちろんエリラの所までカ
バーしている。
炎狼のブレスは俺らに届くことなく、背後に消えていく。ちょっ
と過剰戦力だけど別にいいよな。
ウォーター・キャノン
﹁︱︱︱︱︱︽水砲撃︾!!﹂
エリラの詠唱も終わり水の砲弾は炎狼に一直線に飛んでいく。
ドォンと水の音には相応しくない音が響き渡る。炎狼の声があた
りに響き渡る。確実に当たったなと俺は思った。
だが、炎狼の姿を見たときわかった。当たりはしたがダメージが
通っていない事が。
﹁うそ⋮⋮﹂
エリラも倒さないまでも確実にダメージを与えたと思ったのだ。
エリラも俺と戦ってきたおかげでレベルは40ぐらいまで上がって
いる。この年齢では異例の強さだろう。だがギルドには顔を出して
いないのでギルドの人は誰も知らないことだ。顔を出さないのは面
倒事を避けるためだ。
エリラの水魔法のスキルレベルは7だ。もちろん年齢の割に異常
な数値だ。普通なら十分対抗できる強さなはずなんだが。︵じゃな
いとAランクはもっと恐ろしいことになるからだ︶
炎狼が飛びかかってくる。だが俺の防壁のおかげで近づくことが
320
出来ない。
﹁マジかエリラの水魔法で無理だったか﹂
﹁ど、どうするの? クロも剣が届かないよね?﹂
﹁そうだな⋮⋮一応攻撃が当たっているから攻撃は通っているはず
だけどな﹂
﹁もしかして転異種?﹂
﹁⋮⋮かもなぁ﹂
転異種とは普通の魔物より数倍の強さを持っている魔物のことだ。
下位に属しているゴブリンなどは強くても問題ないが、ボスクラス
モンスターだとこの様に全く攻撃が通じないという最悪なパターン
になるのだ。
今回はアンラッキーだな。ボスクラスは個体数が少ないから滅多
に転異種とか生まれないのに。
エリラも﹁終わった﹂という顔をしている。まあ得意な水魔法が
当たらないんだからな。
もしかしてこの防壁も過剰戦力じゃないかもな。
﹁しゃあねぇ 俺がやるよ﹂
﹁や、やるって言ってもどうやって!?﹂
普段俺の力は抑えているからな。マジでやったらクレーター作っ
321
てしまうし。
﹁行くぞ﹂
片手は魔方陣に魔力を送るために付けたままにしておく。そして
反対側の手で魔法を唱える。
﹁百花繚乱⋮⋮﹂
手の周りに光が収束する。そして徐々に形を形成しながら手の周
りで回り始める。一寸も乱れることなく一定の速さで回る光はやが
て桜の花びらの形になった。
﹁︽桜吹雪︾!﹂
手を炎狼に向かって思いっきり突き出す。手の平に魔方陣が作ら
れ魔方陣、そして俺の手の周りから一斉に桜の花びらの形をした光
の刃が炎狼に向かっていく。
魔法は炎に焼かれることなく炎狼に次々と突き刺さっていく。痛
みに耐えられなくなり後ろへ後退した。
だが、それくらいで負けるような敵ではない。炎狼はすぐに体勢
を直そうとするが
﹁まだだ!﹂
多重防壁を解除し開いた手でさらに魔法を唱える。
﹁︽水龍︾﹂
322
︽桜吹雪︾同様に手を突き出す。出てきたのは龍の形をした水が
飛び出す。今度は並大抵の魔力をつぎ込んでは無い、そのため炎狼
の熱にも負けることなく炎狼に直撃をした。
だがそれでも炎狼は耐える。 だが桜吹雪の魔法がついに敵の眼を捉えた。光の刃が炎狼の左目
に直撃し炎の中に血が飛び散る。激痛に顔を除けさせる炎狼だが、
防御バランスを崩し︽水龍︾も耐えることが出来なくなり炎狼の体
を見事に貫いた。
地面に崩れ落ちる炎狼、じたばたと足掻くが、やがてその動きは
少なくなりついに止まってしまった。体を覆っていた炎も消え、紅
色をした皮膚が露出している。
こうして、炎狼の転異種は俺らの手によって倒されたのだ。俺ら
は討伐部位を確保し、必要な部位を取り火山を後にした。
323
街に戻るとちょうどガラムに出くわした。
﹁おっ、お主らかちょうど探しておったぞ﹂
﹁何の用ですか?﹂
﹁何、お前が言っていた例の物だよ﹂
﹁本当ですか!?﹂
素材を持ち帰った日に出来上がるとは。俺は表面は嬉しそうにし
ているが、心の中はそんなものではない。まさに狂喜して喜んでい
る状態だ。叫びたい。
ガラムはついて来いというと俺を案内してくれた。 ガラムが案内してくれたところは︽猫亭︾からそんなに離れてお
らず市場に近い場所にあった。
﹁よく、こんな立地条件がいい所が取れましたね﹂
あっちだったら地価とか高そうな場所だなぁと俺は思っていた。
324
﹁なに、たまたま店を畳むという奴がくれたんじゃよ、正直広すぎ
ると思ったが中途半端に余らせるのもあれだから広めに作っておい
たぞ﹂
案内された建物はレンガ造りの2階建ての家だ。白が基本の家で
中々いい造りだと思った。
中に入ると何やら店らしき造りになっていた。なんでも﹁前の奴
が使っていたのを改築しただけだ﹂と言った。
さらに奥に進むと俺がお願いしていた施設があった。
﹁おお⋮⋮!﹂
思わず歓喜の声が漏れてしまう。そこには国でも有数の人たちし
か持っていないような設備が整っていたのだ。
﹁いいのですか? こんなにいいのを造っていただいて﹂
﹁何、金はおぬしから取るから問題ないわい。むしろ爆弾を取って
くれたお主に感謝したぐらいじゃよ﹂
ちゃっかりしているな。それにしてもこれだけいい設備だと幾ら
かかったんだろうな。まあ返金は少しずつでもいいからと言ってい
るからのんびり返すか。
俺はガラムに礼を言うととりあえずギルドに報告に行くことにし
た。ガラムはまだ用事があるといい請求額は後日言うとだけ言って
市場に消えて行った。
そして、俺がギルドに歩き出した時、奴らが現れたのだ。
325
﹁見つけましたよ﹂
⋮⋮もう何でこうなるの。
俺は仁王立ちをしているソラを見て深々とため息をつくのだった。
326
誤字を修正しました。
第21話:武器製作︵前書き︶
※10/18
327
第21話:武器製作
﹁さて、事情を詳しく説明してくださいね?﹂
俺の前にいるソラは仁王立ちをして先に行かせないといった雰囲
気を醸し出していた。彼女はこの街では有名なBランクパーティだ、
そのため周りの視線も自然と集まってくる。
﹁仲間から聞かなかったのですか?﹂
あの3人には説明したんだけどなぁ、エリラが。
﹁いえ、あの人たちは何も言っていませんでした。知らんと﹂
おい、あいつら⋮⋮説明しなかったなわざと、どうやら面倒事を
見るのが好きなようですねぇ。俺は顔に若干の青筋を浮かべながら
Bランクパーティの残りの3人の顔を思い出した。
特にあの男2名はソラが暴走しているのを完全に楽しんでやがっ
たもんな。ウィズとか言う女性はたぶんあの顔から察するに渋々と
言ったところか、あくまで過程だが。
はぁ、これからギルドに報告して、鍛冶屋の設備を詳しく見て、
それからエリラに炎狼に使った魔法を教えてあげたり⋮⋮そこにさ
らにこれかよ⋮⋮。
﹁いいですけど、先にギルド報告があるので、それから宿屋でいい
ですか?﹂
328
﹁構いませんわ﹂
﹁では、宿屋︽猫亭︾に先に行っておいてください﹂
できればエリラに説明を受けてください。そして納得してくださ
い。
ソラはわかったと言うと︽猫亭︾に向かって歩いて行った。後に
残った人たちから﹁ソラちゃんと何かあったんかい?﹂という質問
を受けたが﹁巻き込まれただけですよ﹂とだけ言って早足でギルド
に向かうことにした。嘘じゃないよな? そして再びギルドでも問題ごとに巻き込まれました︵泣︶
﹁えっ、これって﹂
受付嬢の目の前には炎狼の牙とコアが置いてある。コアとは転異
種のみが持っている特殊な核で綺麗な球体をしている。色は様々で
大体各属性にあった色をしている。炎狼の場合は真っ赤な色をして
いる。
﹁見ての通り、炎狼から取れたコアです﹂
その言葉にギルド中の冒険者が一斉に立ち上がり受付に押し寄せ
て来た。人の波とはこのことを言うのだろうか。
俺の予想通りかなりやばい代物見たいだな。ゴブリンのコアでも
一個10万Sはするからな︵過去に2個ほど見つけた経験から︶
329
かなり珍しい物なので国が買い取るとか、魔法研究に使うんだな。
ちなみに俺は解読済みなので喜んで換金しました。
武器の素材にも変換出来るんだけどゴブリンのはあんまりよくな
かったからな。
それに比べてこの炎狼のコアはかなり使えるものだ。本当は見せ
たくない物なんだけど稀少な天転異種が現れた場合は報告が義務。
倒した場合はコアの提出も義務になる。隠しているのがバレたらブ
ラックリストでは済まされない。国への反逆と見なせて見つかるま
で追いかけられるとか。
このままだと面倒な事に間違いなくなりそうなのでコアを取ると
そのまま跳躍してカウンターの奥に飛び降りた。
﹁すいません、受付嬢さんとりあえずガラムさんに匿ってもらいま
すので、あとはお願いします﹂
そういうと俺はギルドの奥へと消えて行った。背後から色々声が
聞こえて来るが無視だ無視。でも受付嬢さんには本当にすまないと
思っている。マジでごめんなさい。
330
﹁で、逃げて来たと﹂
﹁はい、どうすればいいですかね?﹂
﹁どうすればって⋮⋮まいったなこれは⋮⋮﹂
﹁正直、私逃げれませんよね?﹂
﹁そうだな、こんな高ランクのコアを手に入れたんだから国が黙っ
ていないだろう﹂
やっぱりか。俺としては国と関わるのはゴメンなんだけどな。ま
あいざとなれば逃げるけど出来ればそんなことしたくないしな。そ
んなことやっちまったらエリラまで巻き込んでしまう。
﹁しかし、まさかお前みたいな若造がこんな奴を倒すとはな、討伐
難易度はAクラスに匹敵するはずなんだが﹂
﹁たまたまでしょう、遠距離から魔法を撃ったら何とかなりました
し﹂
﹁それで何とかなるお主が恐ろしいわい﹂
ま、そうですよね。とりあえずコアはこちらで預かるとガラムが
言ってくれたので俺は手渡して全力で逃げることにした。
これが後日さらに面倒な事を引き起こすとは思わずに。
331
﹁何とか巻けたな﹂
とりあえず俺は︽猫亭︾に戻って来た。はあ⋮⋮まだ面倒な事が
残っているんだよな⋮⋮。
俺は重い足取りで自分が借りている部屋に入る。
そこにいたのは仁王立ちをしている般若と正座をしている赤猫だ
った。
⋮⋮という例えは置いとくか。はい仁王立ちをしているのはソラ
で正座をしている赤猫⋮⋮赤髪をしたエリラです。
332
えーと、これはどういう状況なんだ? 呆然としている俺に気づ
いたエリラとソラがこちらを見てくる。ソラはちょっと申し訳なさ
そうに、エリラに至っては顔を赤くして半泣き状態である。なにや
ったんだエリラに。
ソラがこちらに近づいてきて俺が話しかけるよりか早く、頭を下
げた。
﹁ごめんなさい。私、何にも聞かないで﹂
﹁あっ、いやいいですよ。元々は私の昇格試験が原因ですからね﹂
﹁いえ、それでもエリラちゃんをギリギリ冒険者としてやっていけ
れる道は残してくれたので感謝しきれません﹂
あ、そうか、俺が冒険者だからエリラも部下と言う形で冒険者な
んだよな。まあ俺としてはあのままだったら後味悪いと思ったから
で、別になんてことなかったんだけどな。
﹁わかってるよね? エリラちゃん?﹂
エリラがビクッと震えると顔を縦に大きく振る。うわぁマジで何
やったんだろう⋮⋮
﹁ごめんなさいね、本当は何か返したいのだけど﹂
﹁いえ、それよりも他のメンバーの名前を知りたいですね﹂
﹁え、そういうことですなら﹂
333
ソラはBランクパーティのメンバーの名前を言い出した。
Bランクパーティのリーダーは男のうちの一人のモルドと言う男
らしい。この世界では比較的珍しい黒髪で背中に大剣を持っていた
やつのことだ。
そういえば俺も黒髪だけどレイナとアレスの髪は確か青と茶色だ
ったはず。転生者ということがかかわってくるのかな? いや黒髪
は少ないが平民や貴族まで幅広くいる。だから関係は無いな。
そういえば、俺って限りなく人だよな? 龍の角とかも生えてい
ないし、皮膚も肌色だし。まあじゃなかったら人の中に入れないし
な。
もっとも︽変化︾を使えば自由に姿をいじれるが。
トンファー
もう一人の名前はバーズというらしい。こいつも前衛役らしく武
器は格闘らしい。そういえば武器らしき物を持ってなかったな。
最後のあの女性はウィズ、あいつはシーフ系だな。腰に短剣二つ、
それからブーツの中にも仕込んでいたからな。
とりあえず名前ぐらいは聞いておかないとな。まああいつらとは
関わりたくないな。もう視線が嫌だったし、ソラに嘘ついて俺の所
に連れてこさせたのも何となく嫌だな。
俺も力を隠したけど、冒険者が他の冒険者に自分の力を簡単に教
えるわけないもんな。スキル持ちのやつは簡単に見て来るが、それ
でも情報は少ない方がいい。
とりあえずソラとの隔たりは消えたからよしとするか。ソラも﹁
何かありましたら出来る限り力になります。エリラちゃんのことよ
ろしくお願いしますね﹂と言って宿を後にしていった。うーん、あ
334
の戦闘さえなければほんといい奴だよな。エリラよりも歳下なのに
しっかりしていて、そういえば俺の力については言及して来なかっ
たな。忘れていたか覚えてないかかな?
さて、こいつは大丈夫なのか?
﹁⋮⋮エリラ⋮⋮大丈夫?﹂
﹁うう、いい゛ところに゛ぎでぐれた゛ぁ゛⋮⋮﹂
そういうとマジ泣きしながら飛びついてきた。前言撤回、あの人
は恐ろしい子だ。間違いない。俺はエリラを慰めながらそう思って
いた。エリラがこんな顔になるなんて早々ないからな。
次の日、俺はギルドに顔を出さずにエリラと一緒に昨日もらった
鍛冶屋に来ていた。
改めて見るとよく作ってくれたよな。炉、鞴、金床を一通り整え
335
てくれている上に鍛冶屋のマニュアル本まである。印刷技術がない
この世界では高価なはずなんだけどな。
いや違うな、俺からお金を取るからいいのを揃えたんだな。
さらに倉庫を見てみれば鉄や鋼なども一通り揃っていた。さらに
錬金術に必要な道具までそろえてやがる。おいあいつここで店でも
やれってのか?
開く予定はないが、生活用品とかは売れそうだな。
さて、まずは実験だな。俺はエリラにしばらく中を見てもいいか
ら待っていてくれと言った。だがエリラは﹁見ているわ﹂と言って
どこか行く気がないようだ。
まっ、別に見せても問題ないよな?
鉄を炉に流し込んでさっそく作ってみることにする。ちなみに燃
料は俺の魔力だ。石炭とかの燃料じゃなくてもこの炉は魔力を熱に
変換する設備が整っている。最初こそ微調整に多少戸惑ったが慣れ
たら後は予定通り作っていく。
それにしても熱い、最近暑い所に良くいくよな。まあ魔法を唱え
れば問題ないんだけどな。エリラは俺の様子をじっと見つめてくる。
汗でぐっしょりとなっていたが、全然気にしていないようだ。
やがて目の前に出てきたのは細い一本の剣だ。レイピアをイメー
ジして作り上げてみたんだがどうだろうか。
﹁エリラどうだ?﹂
俺はエリラに手渡して感触を確かめさせる。言われた通りエリラ
は出来たばかりの細剣を持つと慣れた手つきで素振りをする。
336
﹁すごい、これ軽いし手にしっくり来る、売れるんじゃない?﹂
﹁いや、売らない。知っている冒険者に貸すのはいいかもしれない
けどな﹂
戦争に使うとか嫌だからな。進んでそんなことしたくないわ。
﹁よし、じゃあここからが本番だ。エリラ、どんな剣が使いたい?﹂
﹁⋮⋮えっ?﹂
﹁最近、魔法ばっかりだっただろ? もともと剣が得意だったんだ
からそっちも伸ばして損はないだろ? でももう細剣はダメだな。
敵の装甲を貫けない可能性が高いからな﹂
剣を使わなくなった理由はそこにある。Cの上位にはエリラの剣
はすでに通用しなかったのだ。関節ならまだ多少は通じたんだが、
刃がすぐにダメになるので結局使わなくなった。
﹁私のを?﹂
﹁当然だろ?﹂
自分に作ってくれるとは思ってなかったのか一瞬ポカンとしたが、
すぐに立ち直り自分が使いたい剣を話した。
かなり特徴的な剣だが結論から言うと両手剣だな。片手剣よりも
長くしかし、大剣よりも短いのがいいとのこと、そうなるとクレイ
モア系辺りかな? あれはヨーロッパの長剣の中では小ぶりだった
らしく、長さは1メートルほどらしい。。もともと細剣は貴族の礼
337
儀作法の一つとして取得していなのをそのまま使っていただけらし
い。
さっそく俺は作り始める。使用するのは鋼を中心とした剣だ。エ
リラは水との相性がいいので素材も水系の魔物の素材を使ったもの
を造る予定だ。残念ながらこの近辺では小型の素材はB,大型はC
ぐらいしかいいのが無かったので威力はやや落ちるかもしれないが、
それでも十分な力を発揮するはずだ。
俺は前もって作り上げていたスキルを発動する。
シミュレーション
﹁︱︱︱スキル︽SLG︾発動﹂
俺の目の前に半透明の画面が表示される。右上に俺の︽倉庫︾に
ある素材が表示されており、真ん中には小さな円形にボックスがい
くつも表示されている。
これは俺の︽錬成︾スキルと︽倉庫︾、さらに︽神眼の分析︾を
合わせたスキル︽SLG︾だ。これを使えばどの素材がその素材に
一番適合に適しているのかを確かめることが出来るようになる。ち
なみにこの画面は他人には見えないようになっている。
指で操作することも出来るが、俺の場合は面倒なので頭で動かせ
るようにしている。
今回はただの確かめだ。素材の組み合わせ自体は何通りも試して
いるから問題ない。あとは武器の種類に適しているかだな。武器の
形によって合わない場合もあるからな。その時は素材の量を変えた
り、入れる順番、組み込み方を変えることもある。
それなら今度試せよと思うかもしれないが、そこは好奇心だ、早
く試したくて仕方ないんだ許してくれ。
338
幸いにも両手剣とこの素材の相性は良かったようだ。俺はドンド
ン素材を加えていき剣の形を作り上げていく。
1時間後、その剣は出来上がった。
きれいな青色をした刃、握りの部分には俺らでいうテーピングを
施しており、汗をかいても滑らないように施している。水を吸収す
る素材を使用しているので、水につけた直後でもすぐに乾くように
なっている。そして鍔の部分には俺がつくった宝石がはめ込まれて
いる。深海のような色をしており俺の特性の能力もついている。
﹁すごい﹂
後ろから見ていたエリラも出来上がった剣を見てそれが只の剣で
ないことを感じ取ったみたいだ。
剣を受け取り振ってそれを確信したようだ。
﹁⋮⋮どうだ?﹂
﹁⋮⋮すごい、初めて扱う剣なのに今まで扱っていたかのように軽
いわ。以前装備していたレイピアよりも軽い⋮⋮けど、なんでも斬
れそうって感じがする﹂
﹁それはよかった、じゃ次だ、ちょいとその剣に魔力を送って見れ
くれ﹂
﹁剣に魔力を送る? どうやって?﹂
339
﹁魔力を手のひらに集める動作があるだろ? あれを剣に流すよう
にするんだ﹂
言われた通りエリラは魔力を込める。すると剣から微かな光が溢
れだした。
﹁⋮⋮よし、そのまま前方に振って﹂
ヒュンと言う音と共に剣が振り下ろすと前方に水のショックウェ
ーブを放った。
水の衝撃波は真っ直ぐと飛び、壁に激突し消えた。
﹁うん、結構威力があるな﹂
壁には前もってアースウォールで壁を張ってあったので傷はつい
ていない。だがその威力は本人が身をもって知っただろうな。
﹁これ⋮⋮魔法剣!?﹂
﹁そうだよ、魔力を前方に放つのは慣れれば無詠唱とほぼ同スピー
ドになるし、剣に魔力を乗せたまま戦っても問題ない。魔力を乗せ
れば乗せるほど切れ味、貫通力、強度、重さを自由に変更出来るは
ずだ﹂
俺の言葉を聞きながらエリラは再び剣に魔力を込め、振ってみる。
世界にも20本程度しかないと言われている魔法剣が今自分の手元
にあるのだ。次第に慣れてきたのか楽しいのかかなりのスピードで
振り出した。うぉい、両手剣握るの久しぶりなんじゃないのかよ?
めっちゃ早いんだけど。
340
やがて、満足したのか軽く息を乱しながら剣を下ろした。
﹁これ本当にもらっていいの?﹂
﹁もちろんだ、エリラの為に造ったんだぞ?﹂
エリラはしばらく剣と俺を交互に見ていた。
﹁⋮⋮わかった﹂
よし、これでエリラの分は終わりだな、後は俺かと思いどの武器
にしようかと考えていると、ふと後ろからエリラが俺に抱き着いて
来た。いやだから身長差があるから胸が⋮⋮
﹁⋮⋮ありがとう、大切にするわ﹂
そういわれたら離すに離せれないじゃないか、なんやかんやで何
故か寝る時もこの姿が恒例になっている。
これを聞いたら壁ドンマスターがやって来そうだな。そういえば
最近、宿屋の人も気づいているのか受付の少女が若干顔を赤めなが
らこちらを見ている時がある。エリラのベットの方は誰も入ってい
ないから感づいたんか、それとも奴隷だから床で寝かせているのか
と思っているんだろう。もちろんこの人の場合は前者だと信じてい
るんだろうな。
エリラが初めてやってきたときの会話を一番間近で聞いていた人
だからな。
結局、その後5分ぐらい動かなかったので、俺の方が言って動か
した。いや、残念そうな顔で見ないでください。
341
その後、俺の剣とその他、魔法札などを作っていたらあっという
間に夜になってしまった。やばいこれ超ハマリそう。材料があるう
ちは色々な物を試してみるとしますか。明日も早く来てやるかと思
い、宿屋に戻って来たのだが
宿屋に戻ると丁度誰かが出てきていた。よく見るとギルドの受付
嬢じゃないか?
俺は受付嬢を呼び止めると、受付嬢は俺の方に走ってきた。
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮いました クロウさん⋮⋮﹂
﹁あ∼、あのすいません本日は面倒事を押し付けて﹂
﹁い、いえ、あんなことで疲れていたらギルドの受付なんて出来ま
せんよ﹂
﹁で、どうしたのですか?﹂
﹁あっ、す、すいません。えっと明日ギルドに来ていただけますか
?﹂
﹁うげっ、コアの件ですか?﹂
342
﹁それもあります。それとガラムさんが鍛冶屋の請求のこともある
と﹂
﹁あ、そうかわかりました。明日の朝に行けばいいのですね?﹂
﹁はい、よろしくお願いします﹂
受付嬢さんはそういうと仕事終わった∼と言いながら去っていこ
うとした。そういえば受付の服じゃなくて私服だ。
と、忘れないうちに聞いとかないとな、今頃間があるが俺は受付
嬢の名前を聞いた。受付嬢は﹁そういえば言っていませんでしたね﹂
といい俺に名前を教えてくれた。﹁ミュルト﹂だそうだ。
そして、受付嬢⋮⋮ミュルトは今度こそ去って行った。
俺はミュルトを見送ると、明日はどうなるかと頭を悩ませるのだ
った。
343
第21話:武器製作︵後書き︶
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ
※誤字脱字などありましたら報告お願いします。
344
第22話:運命と切り開くもの︵前書き︶
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ
※誤字脱字などありましたら報告お願いします。
345
第22話:運命と切り開くもの
翌朝、俺はエリラも連れてギルドに行くことにした。
これ以上面倒事は避けたいのが現実だが、なんか俺には面倒事を
引きつける力でもあるのかもしれない。ここまで来たらもう開き直
った方がよくね? というの思いがある。
あと、エリラにそろそろある程度行動させたいのと、もうバレる
のも時間の限界だろうなと思っている。エリラの問題児っぷりはエ
ルシオン内では有名らしい。それが急にピタリとやんで、肝心のエ
リラ本人の首には奴隷の証があり。しかもなんだかよくわからない
子供と歩いている、その子供が、最近ギルドで有名になっている人。
come
on!
正直、何にも無い方がおかしい。ならもうこちらから出迎えてや
ろうじゃねぇが面倒事爆弾
ギルドはいつも通りの様子⋮⋮とはいかなかった。昨日のコア騒
動が未だに冷めていない今日。
Bボスクラスのコアの取得は国としては30年ぶり。エルシオン
としては80年ぶりの快挙だ。しかもやったのは先日、Cクラスに
昇格したばかりの子供だというのだ。
﹁⋮⋮やっぱり騒がしいですね﹂
346
﹁そうだな﹂
ガラムとミュルトはギルドの奥でコアの前で立っていた。カーテ
ン越しにギルドの騒がしさが感じ取れていた。
﹁それにしても、あんな子供がこんな物を回収するとは思いません
でしたね﹂
﹁そうだの。エリラがいたとしても異例すぎるな﹂
﹁国にはどう説明しますか?﹂
﹁小僧の事は伏せることは無理だろうな。国の事だ、こんな戦力を
放置するとは思えん﹂
﹁近頃は国境もピリピリしっぱなしですからね。数年前の龍族との
戦争も未だに癒し切れているとは思えませんからね﹂
﹁小僧はどう答えると思うか?﹂
﹁⋮⋮私は何となくですが断ると思います﹂
﹁お主もそう思っていたか﹂
﹁ガラムさんもですか?﹂
﹁ああ、まあお主と同じで何となくだがな﹂
そんな話をしているとギルドの方が一層騒がしくなった。来たな
347
と思ったミュルトは受付に戻って見た。ちなみにカウンターは別の
受付嬢が担当している。
戻って見るとそこにいたのは、クロウだったのだが、同時に背後
の女性にも目を奪われていた。もう二度とこのギルドでは顔を見る
ことは無いだろうと思っていたからだ。
﹁ミュルトさん、ガラムさんはいますか?﹂
この言葉に我に返ったミュルトはさて、どうしたものかと苦笑す
るしかなかったのである。
︵さて、どうなるか⋮⋮︶
ギルドに入ると俺の顔を見た奴らが何人か席から立つのが見えた。
だがエリラが入ってくるとおそらくギルドにいた奴ら全員が俺らの
方を見てきた。
﹁お、おい、あいつだろ? 転異種を倒したってやつは?﹂
﹁い、いやそれよりも後ろ見ろ、エリラじゃねぇか﹂
﹁どういうことだ? 一緒に討伐したのか?﹂
348
﹁いや、あのエリラだぜ? 誰もパーティ組まねぇはずだが﹂
﹁ねぇ、ねぇあの首にあるのって﹂
﹁! おい、あれは奴隷の証じゃねぇか!?﹂
冒険者同士の声が聞こえて来る。予想通りの反応ありがとうござ
います。あれ、そういえばエリラが奴隷になっちゃったっていうの
は冒険者たちは知らなかったのかな? なんかよくわからない隊が
一度襲撃に来たことがあるからわかっている奴が大半かと思ってい
たんだが。
まっ、そんなことはいいか、俺はミュルトの所へ向かうことにし
た。
﹁ミュルトさん、約束通りに来ましたよ﹂
爆弾付きで。
ミュルトは苦笑しながらも奥に案内してくれた。あっちなみに例
の野次馬共は別の受付嬢に任せています。マジですいません。
﹁さて、エリラはしばらく見ないうちに随分と立派になったようだ
な﹂
﹁クロがいたからここにいるようなもんよ﹂
相変わらずのぶっきらぼうだが、どことなく口調がやさしくなっ
ていたような気がするとガラムは感じていた。それにクロウのこと
349
をクロと言うあたりかなり慕っているようだな。
﹁相変わらずで何より、さてクロウよ、例のコアだが国に送ること
になった﹂
﹁やっぱり国が管理するのですね﹂
﹁それもそうだが、それと同時におそらくお主も王都に向かわなけ
ればならまい﹂
﹁えっ、私がですか?﹂
と、取りあえず疑問形で。おおよそ検討ついているけどな。
﹁そうだ、その若さでBクラスの大型討伐任務達成、および転異種
のコア回収はおそらく歴史的にも異常だろう。ましてやこのご時勢、
国に取っては咽喉から手が出るほどの人材になるだろう﹂
﹁なるほど、でも私は行きませんよ﹂
﹁そういうと思っていたわ﹂
思っていたんですね。
﹁だが、お主に拒否権などおそらくないも同然だろう。こなければ
逆に暗殺部隊とかに追われるかもな﹂
うわぁ、そこまで物騒じゃないだろう⋮⋮と、日本の常識で考え
たらダメだな。でもなぁ、国お抱えで戦争なんかに駆り出されたら
セラとの約束なんか守れなくなるだろうな。例え人族をすべて配下
350
にしても次はおそらく異種族狩りが待っているのは目に見えている。
ここはなんとかして乗り切らねぇとな。
﹁それでも、私は国との関わりは持ちたくありませんね。むしろそ
んな高ランク冒険者を敵に回すリスクでも考えてみた方がいいと思
いますけどね﹂
犠牲を考えなければ、その王都とか言うところに隕石を一発落と
せば終わりだからな。
﹁まぁ、これは国とお前との関係じゃ、冒険者ギルドはあくまで中
立が絶対だからな。ギルドの後ろ盾はないと考えておくがよい﹂
﹁なるほど、肝に銘じておきます﹂
﹁く、クロ⋮⋮それって国と戦うってこと!?﹂
﹁⋮⋮そうなるかもな⋮⋮エリラお前はやっぱり嫌だよな﹂
一瞬黙り込んだエリラだったが
﹁何言ってるのよ、クロが行くなら私も当然行くわよ﹂
と、返してくれた。その言葉に俺は目頭が熱くなってきた。前世
の俺には決して居なかっただろうな⋮⋮。俺は改めて人との繋がり
の大切さを感じていた。
ガラムはエリラの返答に目を丸くしていた。当然だろうな、ギル
ドに在籍していた頃を知っている彼にと取ってすべてが変わってし
まったように感じたからだ。一体ここ数か月で何があったと言うん
351
だろうか。
直接来い
とでも言
﹁兎に角。私は国のもとで働く気はありません。使者が来てもそれ
で流してください。引き下がらないなら⋮⋮
っておきましょう﹂
﹁む⋮⋮﹂
﹁この話はもう終わりましょう。それより鍛冶場建設の請求額はい
くらですか?﹂
﹁あ、ああこれくらいじゃが﹂
そういうと俺の手に金額が書かれた紙を手渡す。
﹁なるほど⋮⋮900万Sか。かなりの額ですね﹂
﹁お主が返すと言ったからだぞ。早くとは言わないが出来るだけ早
めに返してくれ﹂
﹁まあ、そこ前のコアでもかなり浮くと思うのですが﹂
﹁それを差し引いての金額だ﹂
﹁ちなみにコアってどれくらいするのですか?﹂
﹁200万Sだな。国がそのお金で買い取ると言ったからの、半分
は冒険者の物になるから実際は100万Sじゃよ﹂
﹁わかりました。ではこれで﹂
352
﹁待て﹂
﹁ん? どうしたのですか?﹂
﹁一つ言っておく、いずれどんなに足掻こうが無理なことが来る。
それはもはや運命。逃れないな。その時もお主は自分の意志で進む
のだろうが⋮⋮周りを不幸にだけはするなよ﹂
︵⋮⋮なるほどな。エリラの事が心配なのか︶
いや、それ以外でもこれから出会っていく色々な人たちにも言え
る話だろう。
︵⋮⋮力を持っているからこそか︶
﹁わかった、肝に銘じて置きます。ですが私からも一言、運命は決
まっているのではありませんよ。切り開く力がある者には選ぶ権利
があるものです。それが出来ないのならば所詮はその程度だったの
でしょう﹂
﹁⋮⋮お主は本当に子どもなのか?﹂
﹁さぁ? 自分でもそう思えなくなってきてますよ﹂
俺はそう言い残すとギルドを後にした。残ったガラムは一人椅子
に座り、ぼそりとつぶやく。
﹁運命に逆らう物か⋮⋮ならば見せて見よ小僧よ﹂
353
ガラムのその声はやがて静寂に消えて行ったのだった。
354
誤字修正をしました。
第23話:国の使者︵前書き︶
※9/14
355
第23話:国の使者
﹁エリラ﹂
﹁えっ、なに﹂
﹁⋮⋮お前は俺に着いて来ることを望んでいるか?﹂
ガラムとの会話の後、俺は表に戻る前にエリラに聞いた。それは
俺の先程の言葉から出たものだ。ガラムは言った
﹁いずれどんなに足掻こうが無理なことが来る。それはもはや運命。
逃れないな。その時もお主は自分の意志で進むのだろうが⋮⋮周り
を不幸にだけはするなよ﹂
と、確かに俺は強いかもしれない。だが幾ら強くても時として守
れないときもある。もちろんそうならないように最善を尽くすが。
そう考えるとエリラはどうなのだろうかと思ったのだ。
﹁何言ってるのいまさら。私はあなたの奴隷とでしかまともに生き
ていけれないのよ。どうしようがあなたの勝手よ﹂
勝手か⋮⋮
まあ、今は考えるのはやめて置くか、先延ばししているだけだけ
どな気がするが答えの出ないことは考えても意味ないしな。後で後
悔しないか不安だが今は置いておこう。
356
気持ちを切り替える。こういうのは前から得意だったよな。寝た
ら忘れるタイプだったし。でも嫌いな奴とかは結構選別する癖があ
ったからな⋮⋮だから前世で友達できねぇんだよと言う声が聞こえ
てきそうだ。
﹁そうだな一蓮托生って奴か、だけど一つ間違えている﹂
俺はエリラに向き直ると額に軽くデコピンをする。﹁あ痛っ﹂と
いう声が漏れる。
﹁エリラは奴隷じゃねぇ仲間だ。誰が何と言おうがな﹂
エリラはクロウの顔を一瞬見つめるとクスッと笑い
﹁そうだったわね。あなたはそんな人だったわ﹂
﹁そういうことだ、じゃ行くとするか﹂
これだけは譲らない。俺は改めて誓うと面倒事だらけのギルドの
広場に戻るため歩き出した。
結論から言うと、ある程度は説明した。エリラだからあり得るか
と納得する人が圧倒的に多かったが、何人かはそもそもCクラスに
357
相当する実力を兼ね備えているエリラが俺見たいな小僧の奴隷にな
っているのが気に入らないのか必要以上に突っかかってくる奴もち
らほらいた。
そう言う奴らも軽く無視するのだが、やっぱり俺みたいな奴に言
われたらムカつくのか喧嘩騒動になりかける場面もしばしばあった。
もちろんそのたびに︽不殺︾スキルを発動して全力で殴って終わ
らせた。最近チートかしてきているスキルや魔法だが、俺は︽不殺
︾スキルにもちょっとした手を加えた。
そもそも︽不殺︾スキルとは全力で戦って手加減を間違えても命
だけは助かるようになるスキルだ。ただし命だけはなので、骨折し
ようが内臓が破裂しようが死ななければダメージとして残るように
なっている。
つまり、後遺症も残る可能性があるということだ。下手したら植
物人間にすらなりえる。
そこで、俺はちょいとスキルをいじることにしたのだ
※簡単に言ってるが普通はこんなことできません
俺は設定という能力を付けることにした。これによりたとえば筋
肉だけに損傷を与えるとか、痛みだけ与えるとかすることが可能に
なる。詳しい原理はややこしいので割愛するが、創世魔法のおかげ
であるところが大きい。
今回は、骨折程度で済ませるようにしている。ちなみに俺の筋力
358
+格闘スキルが合わされば人間の顔面なんか水風船のように割れる
らしい。そのため普段からセーブしているが、それをしないでいい
のは正直楽だけど、手加減の仕方を忘れそうなので多用はしない。
と言う訳で、俺の殴りかかってきた馬鹿どもは全員病院送りにし
ておきました。正当防衛だから問題ないよな?
それからさらに数日たったある日の昼下がり。俺は宿屋に籠って
ちょっとした物を作っていたときのことだ。コンコンとドアが叩い
た音がした。
﹁すいません、クロウさん﹂
どうやら宿屋の受付嬢さんのようだ。あっ、ちなみに名前はラミ
と言うらしい。
359
﹁アルダスマン国の使者がお会いになりたいと﹂
アルダスマン国⋮⋮確かアレスがもともといた国であり、ここエ
ルシオンを管轄している国だったな。普段国の事とか意識しないか
ら忘れかけていたな。
﹁わかりました、すぐに行きます﹂
国の使者を待たせるわけには行かないよな。俺はエリラと共に下
の階に降りる。
そこにいたのは10名程度の兵士らしき物と白銀鎧を来た大男だ
った。
360
第23話:国の使者︵後書き︶
今回も内容が少なくてすいません。キリのいいところで終わらせ
ようとする癖があるのでどうしてもこうなっちゃいます。
見切り発進ダメですね。どんな話をしたいかだけ考えても駄目だ
なと最近思うようになりました。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ
※誤字脱字などありましたら報告お願いします。
361
第24話:勧誘︵?︶︵前書き︶
誤字を修正しました。
2015年
1/13
362
第24話:勧誘︵?︶
クロウです。時々無理やり勧誘してくる人がいますが、日本では
やんわりと断ることしかできませんでしたよね。今、改めてこの世
界って弱肉強食なんだなと思っています。
﹁君がクロウ君だね﹂
白銀鎧を着た男が俺に話しかけて来た。金髪に顔立ちは凛々しい
な。さぞかしモテるんでしょうね。憎んでいませんよ。俺は前世で
も彼女はいらないと豪語していましたから、強いて言うならゲーム
が彼女でした。
⋮⋮誤解するかもしれないので補足しておくが決して脳内彼女と
かじゃないからな、マジだからな。エロゲはすk⋮⋮ゲフンゲフン。
﹁そうです﹂
﹁出会っていきなりだが率直に言おう、君をアルダスマン国軍に正
式にスカウトs﹂
﹁お断りします﹂
﹁せ、せめて最後まで言わs﹂
﹁国と関わる気はありませんので﹂
俺の無礼な振る舞いに後ろにいる兵士たちの視線が痛いです。う
363
ん俺も理解してるけどさ
﹁自分の名前を言わない人と関わりたくないので﹂
まずは名刺交換とか常識でしょ。戦闘中じゃないですしこれくら
い当たり前だよね? 少なくとも日本では。
﹁そうだね、私の名前はハヤテ・シーオン。アルマスダン国軍第2
部隊の隊長を務めている﹂
おっ、意外と礼儀正しいな。まあだからと言って関わらないぞ。
﹁私の名前は⋮⋮言う必要もありませんね﹂
﹁クロウ君とエリラ君だね。君たちの事はギルドマスターから聞い
た、なんでもここ最近現れた期待の新人を超えてかなりの実力者だ
とね﹂
﹁買い被りすぎですよ﹂
﹁残念だけどその言葉は信じれないね、現に君たちはBクラスの転
異種を倒している。国でも討伐出来る人はそうはいない。特に君た
ちは二人で討伐している。異例しかいいようがないよ﹂
やっぱりそうなるか⋮⋮コア今からでも奪えないかな? つーか
全員の記憶から抹消したい。
﹁まっ、私としては別にどうでもいいことなんだけどね。君たちみ
たいな子供が倒したことすら怪しいし﹂
364
その言葉にエリラが一瞬ピクッとなる。おい青筋浮かびそうだか
ら落ち着けよ、どう考えても安い挑発だろ。マジで勧誘する気なら
そんな相手を落とすようなマネをするだけ無駄だろ。馬鹿だろ。つ
ーか後ろの兵士笑ってるぞ。隠しているつもりかもしれないけどバ
レバレだぞ。
まあ、嘘でもカチンと来るのが人間ですよね。ええ、私の場合は
ちょっと人間からずれていますが。それでもカチンと来ますね。
それじゃあ、俺もそれなりの対応をしましょうか、これが通常な
に行こうぜ
cool にな。⋮⋮こ
らキレるところだな。そして無理やり抑えられ連行かな? よし、
俺は冷静だぞ。 cool
れカプ○ンさんに怒られないよな?
﹁じゃあ、帰ってください。こっちも暇ではないので﹂
サラッと流されたので後ろの兵士も﹁あれ?﹂という顔になる。
まあそうだよな。アルダスマン国という国喧嘩売ってるもんだから
な。
まつりごと
﹁弱い小僧に興味は無いでしょ? それに、そちらも政が忙しい間
を抜けてわざわざ来ているのでは? もしそうならこんな茶番見た
いな情報に振り回されずに戻ってください。どうぞ﹂
そのときプツンと言う音が聞こえた気がした。ん? と思い視線
を向けると⋮⋮
あら、なんということでしょうか、アルダスマン国の兵士たちが
全員抜刀しているではありませんか、この速さには匠も驚かされま
した︵笑︶
365
⋮⋮ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ! こいつらアホすぎ
る! あんな見え見えな挑発にマジで乗りやがった! つーかハヤ
テとか言ったな、止めろよ! あんたの部下でしょうが! いや、
お前まで睨むなよ! やばい、これ完全に面倒事になったパターン
だ!
﹁貴様、その言葉を放ったことを後悔させてやる﹂
一人の兵士が前に出てくる、それに合わせて残りの兵士も俺とエ
リラを囲むかのように移動を始めようとする。ハヤテとか言う奴も
すでに片手が剣に届いていた。
エリラも睨み返し剣を抜く準備を始める。いきなり始まった騒動
にラミはアワアワしているだけで店主に至っては完全に逃げていた。
﹁エリラ君、君は何故こんな輩のもとで奴隷になっているのだ? 事情は大よそ聞いたが元貴族の君なら王都にでも来たr﹂
言い終わるよりもエリラが早かった。気づいたら抜刀された剣︵
俺、特製の︶がハヤテの目の前に突きつけられていた。
あーあ⋮⋮そこは触れてはダメな部分だろ⋮⋮特に事情を知って
るならなおさらじゃないか⋮⋮。
﹁私はもう貴族じゃないわ、二度と頼らない。 それに今はもう頼
れる存在がいるから必要ないわ﹂
あ、おう、若干頬を赤くして俺を見るな。これって毎度思うけど
恥ずかしいな。別に文句は無いけどエリラはもう少しオブラートに
包みましょう。いや、違うな。それを公衆の目がある所で平然と言
いますか? それともこれはこの世界では当たり前なのでしょうか
? もうすぐこの世界に生まれて6年になりますが、未だに常識が
366
分からない。
そして、次に反応したのはなぜか後ろの兵士だった。
﹁き、貴様は我が国よりかそこの一人の子供の力を当てにしてると
でもいうのか!!!﹂
いや、そこまで言って無いやろ自己解釈しすぎるだろおい。なん
だよ、国の勧誘断ればこんなことになるのか? 拒否権無いに等し
いくないか?
﹁そういってるんじゃ無いわ。あなた達とクロ、どちらを信じてる
かの問題なのよ。いきなり来て国の軍隊に入ってください? もう
少し礼儀ってものは無いのかしら? 国のお偉いさんはこんな馬鹿
ばかりなの?﹂
あっ、これはやばい。完全に地雷踏み抜きやがった。しかも人一
人とか言うレベルじゃねぇ都市一個吹き飛ばせるクラスの地雷を踏
み抜きやがった。
俺の予想通りエリラの言葉に完全にキレた兵士は一斉に襲い掛か
ってきた。つーか囲んでいたんだな。お仕事が早いことで。
てか、あなたたち何か忘れていませんか?
﹁いいのかしら? このまま貫いて?﹂
その言葉に全員の動きが止まる。そう今ハヤテの目の前にはエリ
ラの剣が突きつけられているのだ。もし俺やエリラに襲い掛かれば
そのまま突き刺すことも可能なのだ。
それに気づいた兵士は、慌てて剣を引く。だがエリラは引かない、
367
あの一応その人国のお偉いさんなんですけど?
さて、これ以上ややこしくしたくないし、介入するか。
﹁エリラそこまでにして起きなさい﹂
﹁でも︱︱︱﹂
﹁命令﹂
﹁⋮⋮へいへい﹂
江戸時代の商人見たいな返事と共にエリラは剣を鞘に納め後ろに
引く。ここからは俺の出番だな。
﹁さて、交渉は決裂と言うことでいいですか? まあこちらとして
は願ったり叶ったりなのですが?﹂
﹁いや、まだだな﹂
だな、このまま戻ったら交渉は失敗した上に国を侮辱されただけ
で終わるからな。ハヤテとしてはこのまま引き下がれないだろうな。
﹁このままでは私たちの面目がありませんからね。そこで提案です
が﹂
ハヤテが剣を俺の前に突き出す。
﹁私と1対1の勝負をしましょう﹂
368
﹁⋮⋮なるほど、私が勝てばこのまま帰り、負ければ強制連行って
ところですね﹂
﹁頭の回転が速い子供ですね。その通りです﹂
なるほど、そう来たか⋮⋮ちなみに既にこのメンバー全員のステ
ータスは確認済みだ。いつしたかって? 俺が心の中で突っ込んで
いる最中にです。
結論から言えば弱いな。さすがにハヤテは格が違うが、ステータ
スを見るときに僅かに出る俺の魔力を感知できなかった時点で負け
確定だ。同じ量の魔力で罠を仕掛けて引っ掛けたあとは遠距離で終
わりだからな。
さて、この勝負は受けるべきだな。これで嘘をついてなお俺に食
い下がって来るなら骨盤粉砕骨折ぐらいしてやるか。
﹁⋮⋮いいでしょう。その勝負受けて立ちます﹂
こうして、俺はハヤテとの一騎打ちをすることになった。
369
第24話:勧誘︵?︶︵後書き︶
多少主人公の考えを多く入れてみましたがどうでしょうか? ※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ
※誤字脱字などありましたら報告お願いします。
370
第25話:驚くべき真実
エルシオンの町はずれにあるコロッセオ。昔はここでよく決闘が
行われていたらしいが今では、ほとんど人が来ない場所だ。
だが、汚いとか古びているわけでは無い。何故ならまだ決闘をす
ることはしばしばあり、また年に一度ここでは﹁武闘会﹂と呼ばれ
る大会があり、アルマスダン中の人々が集まる。この大会は国王も
見学に来て優秀な人材はスカウトされることもあるそうだ。しかも
兵士スタートではなく分隊長など1ランク上の格からスタートする
ことが多い。当然収入も違う。
そのためこの大会に参加するために1年間修練を積んで態々参加
する人もいるらしい。
※ちなみに普通の兵士になら王都で試験受けて合格すれば入隊出
来ます。
んで、普段ここは国が管理しているのだが、見張りの兵士以外は
マジでほとんど来ない。そのうち死霊がいたとか悪霊に憑りつかれ
るとか言う噂が立ちそうだな。心霊スポット化する闘技場とか見た
くねぇ、ベターと言えばベターだが⋮⋮。
﹁勝負は一本勝負。時間は無制限で魔法あり。敵を降参させるか戦
闘不能にすれば勝利となる。異論は?﹂
﹁ありません﹂
﹁ない﹂
371
またこれかぁ⋮⋮闘技場と言えばエリラと出会った闘技場はギル
ド内にあったんだよな、あっちは小さかったけど。
﹁クロ! 頑張りなさいよ!﹂
エリラが手を振って笑顔で観客席から応援している。
﹁当然﹂
エリラは最近笑顔が多くなった気がする。最初の時はほとんど笑
うときがなかったからな。
﹁では、始め!﹂
審判︵見張りの兵士︶が始めの合図を鳴らす。もはや前置きすら
ないこの適当感。おい見張りの兵士あんた物語の基n︵以下メタ発
言略︶
﹁︱︱︱︽炎牙︾!﹂
先手を取ったのはハヤテだった。言葉の通り炎が俺を食らいつく
すかのように襲ってくる。手加減はしないのですね。
﹁よっと﹂
俺は素早く横に避ける。通り過ぎて行った炎が壁に当たる。そし
て⋮⋮えっ壁が溶けて⋮⋮る?
まて! スキルと能力見た限りではこうはならないはずだぞ!?
人だよね!? うん、種族も︽人族︾だな。ここは神目の分析を
372
信じよう。
﹁︱︱︱︱︱︽炎狼︾!﹂
うげっ、今度は狼型の炎!? しかもでけぇ!
﹁ちっ︽土壁︾! 魔力最大限!﹂
黒龍のブレスさえも防いだ強さだ。これなら⋮⋮
あれ? 何か溶けていませんか? 俺の作った壁はシュ∼と言う
言葉と共に熱も持ち溶けだしていた。そして時間にして僅か数秒で
完全に溶けきり炎が再び襲い掛かってきた。
ウソヤ、ドンドコド∼ン⋮⋮ってボケてる暇じゃねぇ!
ポリゴン・ウォール
﹁五連魔方陣︽多重防壁︾!﹂
魔力の障壁が炎を受け止める。よし、今度は溶けていないな。そ
して炎は完全に消滅する。
﹁全く、とんでもない魔法を使いますね﹂
俺は正直な感想を述べた。だって︽土壁︾が完全に溶けるもんな。
黒龍のブレスすらも防いだあれが溶けるとかどれだけの熱量だよ。
あれ? でも︽多重防壁︾では防げたな。もちろん防御力は︽多
重防壁︾の方が上だけど妙だな⋮⋮
﹁何を言っているのですか、あなたの魔法なんか見たことありませ
373
んよ。しかもそれを無詠唱とは﹂
﹁ただの︽防壁︾ですよ﹂
半分はあってるぞ、重ねてると言ってないだけで。
﹁ふむ、︽防壁︾であれを防ぎますかおもしろいですね。それにし
ても今ので決める気だったのですけどね﹂
死ななかったかと言う声が聞こえてきた。こ、こいつ俺を殺す気
だったのか、いい度胸じゃねぇか。
﹁そうですか、じゃあ次の魔法はもっと面白いですよ。火傷しない
ように﹂
そういうと、俺は手のひらを前に突き出す。
﹁︽白焔砲︾!﹂
炎と風を混ぜた︽炎風剣︾の上位強化版だ。あまりに高温にしす
ぎたので色は白くなったので白焔と言う名前にした。
﹁!?﹂
発射された瞬間に彼は危険を察知したのだろう、とっさに回避行
動を取ったので体には当たらなかったが、鎧の一部が溶けてしまっ
ていた。
あっ、ちなみに炎はもう消火済みですよ、目の前にいるどこかの
お偉いさん見たいに壁とかにぶつけていませんからね。
374
﹁感想は?﹂
俺はいかにも全力で撃ちました風にわざと膝に手を置いて見た。
いやぁ一度でいいからこういうのやって見たかったんだよね。もち
ろん全力じゃないぞ、全力でやったらこの街消えるかもしれないか
ら。
観客席で観戦していた兵士たちがざわめいている。
﹁う、嘘だろ⋮⋮﹂
﹁ハヤテさんの鎧が⋮⋮﹂
﹁魔法繊維も入っている対魔法用の鎧があっさりと﹂
へぇ、そんなにいいものだったのか。魔法繊維と言えばかなり高
価な物ばかりだからな。
﹁ふっ、中々やる、だが魔力を使い切ったかい?﹂
﹁いえ、全然﹂
﹁じゃあ、しっかり立つがいい﹂
﹁じゃあ、お言葉に甘えて⋮⋮ほい﹂
俺が膝から両手を離した瞬間、ハヤテの周りの地面から大量の槍
が飛び出してきた
375
﹁ぬぉ!?﹂
咄嗟に反応したハヤテだったが、完全に油断したのかコンマ一秒
の判断が遅れ一つの槍がハヤテの足を捉えた。
﹁ぐわっ!!﹂
太ももに入る一撃。うわぁ、痛そう。今度からは鈍器にしておこ
う。
﹁お前⋮⋮﹂
バンブーランス
﹁︽竹槍︾。まああれは竹じゃなくて土で作った槍ですけどね。あ
なたが回避している間に仕込ませていただきました﹂
﹁くっ、私が気づかないとは⋮⋮﹂
一応、魔力は感じると思うんだけどな。やっぱり気づかないもん
なのか。
﹁ククク⋮⋮おもしろい﹂
﹁ん? 何か嫌な予感が⋮⋮﹂
﹁貴様も消してやる﹂
お、おいなんかさっきと感じが違うのだが。
﹁︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︽紅焔︾!!﹂
376
ハヤテの体中から炎が溢れだす。⋮⋮って暑! おい、ここまで
熱風来てるぞ!?
﹁行くぞ﹂
そういうと、いきなり飛びかかって来た。
﹁ちっ﹂
俺もハヤテの動きに合わせて速度を上げる。どうやらあの魔法は
身体能力強化の能力があるようだな。ブーストってことか。
﹁くっ、この速さでも回避するか﹂
﹁弱い者は逃げ足は速いっていうことですよ﹂
まあどっちかうと悪者が速いんだろうけど。
﹁ちょこまかと⋮⋮キエロォ!!﹂
ちょ、口調も変わっていないか!? この人も戦闘狂!? ﹁︽紅焔︾!!﹂
クラッシュ・メテオ
﹁無詠唱!? くっ、︽破砕隕石︾! ︽竹槍︾!﹂
二つ同時の魔法発動とか久々だな。もちろん前と比べても威力は
桁違いだけどな。
前後左右から一斉に石の弾丸と土槍が襲い掛かって来る。これで
377
多少はなんとかならないかな。
だが、俺の予想は脆くも崩れ去り、体中に弾丸を受けながらも、
魔法をやめる気配がなかった。くそっ、マジで止める気ないんのか
!? こうなったら迎撃するしかないんじゃないか!
﹁二十三連魔方陣︽多重防壁︾!﹂
まだ魔方式が解読しきれていないから、これが現時点での俺の出
来る多重防壁の限界の重ね掛けだ。俺の見立てだとおそらく、あの
︽紅焔︾という魔法には魔法の威力も強化できるのではと思ってい
る。眼で見てみたいんだが中々チャンスが出来ないのであくまで憶
測だが。
俺の防壁とハヤテの炎が激しくぶつかり合い、そして炎の方が消
えた。俺の防壁が勝ったのだ。
﹁テメェ⋮⋮コロシテヤル﹂
やっぱり、おかしい。だがハヤテが止まってくれたお蔭で見るこ
とが出来たぜ。俺は前もってステータスの確認はしていたのだが称
号の確認まではしていなかったのだ。俺はさっきからおかしい位の
炎の力は称号の能力があるのではないかと思った。例えば︽炎の追
求者︾とか︽炎を極めし者︾とかありそうじゃん。
︱︱︱スキル︽神眼の分析︾能力・称号分析発動
﹁⋮⋮!!!!﹂
378
俺はしばらく硬直していた。そこに映っていた称号は
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
ハヤテ
称号
・︽放火魔︾
・︽放火の狂人︾
・︽放火の狂王︾
・︽他種族を恨みし者︾
・︽他種族の天敵︾
・︽親殺し︾
・︽国の騎士団︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
こ、これは一体どういうことなんだ⋮⋮
俺はハヤテが次の攻撃を仕掛けるまでの間動くことが出来なかっ
た。
379
第25話:驚くべき真実︵後書き︶
と、言う訳で急展開。称号にやばいのが沢山入っているな。他種
族のことから関係しているのですがね。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ
※誤字脱字がありましたら報告お願いします。
380
第26話:問題だらけの称号と決着︵前書き︶
今回はちょっと短めです。楽しみにしていらっしゃる方には本当
一部修正をしました。
に申し訳ございません。
※9/22
381
第26話:問題だらけの称号と決着
結論から言おう。こいつの称号の中身が異常すぎる。
称号:︽放火魔︾
取得条件:物を燃やすことを楽し人。
今までにそれなりに放火を行ってきた者。
効果:火魔法のスキルレベルが1上がる。
称号:︽放火の狂人︾
取得条件:大量に燃やしたことがある人。
効果:火魔法のスキルレベルが2上がる。
称号:︽放火の狂王︾
取得条件:炎を扱うことに快感を覚える人。
効果:火魔法のスキルレベルが3上がる。
火魔法がどんな物でも溶かせるようになる。
︵ただし魔力単体を燃やすことは出来ない︶
称号:︽他種族を恨みし者︾
取得条件:大切な者を異種族に奪われることで取得。
効果:︱
称号:︽他種族の天敵︾
取得条件:他種族を大量に殺すことにより取得。
効果:他種族戦のときステータス大幅強化
他種族戦のときに︽狂乱︾状態になる。
382
称号:︽親殺し︾
取得条件:自分の両親を殺すことで取得。
効果:︱
称号:︽国の騎士団︾
取得条件:国の騎士団に入団すること。
効果:︱
何なんだよこの称号は⋮⋮ハヤテは他種族に恨みでもあるのか、
それとも洗脳教育でそうしているのか⋮⋮。どっちにせよ、あの状
態は︽狂乱︾になっているというのか。ステータスは変えれても直
感かそれともスキルの自動発動によるためなのか。
どっちにせよ、これは覚えておかないとな。後々役に立ちそうだ。
今はこれをどうにかして止めないとな。俺はなおも襲い掛かって
来るハヤテから距離を取ると一気にスキルを発動する。
︱︱︱スキル︽明鏡止水︾︽身体強化︾︽対人戦︾︽威圧︾発動
俺の持っているスキルの中でもチートクラスの性能を持つスキル
を一斉に発動する。ちなみに身体強化とかはまだ全力で使用してい
ない。全力で使えば最大で10倍までステータスを上げることが出
来るが、体にも負荷がかかるので多用は出来ないのだ。今回は2倍
で充分だろ︵もっとも色々な魔法や剣での攻撃を上げれば勝てるが、
実験感覚で使わせてもらいます︶
俺は足に力を入れて踏み込む。蹴り上げた地面がまるでジェット
噴射でも受けたかのように砂煙を巻き上げ地面が抉れる。剣に魔力
383
を溜めこむ、この剣は俺が作った最初の魔法剣で風属性を発動出来
るようになっている。
風を纏った剣を振り上る。するとまるで竜巻でも起きたかのよう
な風がハヤテを包み込む。だがハヤテも負けてはいない、全身の炎
がより一層燃え広がり、一時的にこう着状態になることになる。
だが、魔力量で圧倒的な差がある俺に持久戦で勝てるはずもなく、
徐々にハヤテが纏っていた炎が剥げだしていた。
︽狂乱︾状態のハヤテもこの状況には驚きを隠せないようだ。
﹁ナ、ナンダコレハ!!﹂
﹁俺がただの風を使う訳ないだろ﹂
俺は独り言のように呟いた。そう、俺のこの魔法剣︵名前は決め
て無いが一応風剣と言うことでもしておこう︶には、風の刃が起き
る以外にも魔力支配の魔法式を一部組み込んでいる。それは風を使
うことで強化魔法などの魔法を剥がす力を付加している。もちろん
敵の魔力制御や魔力があまりにも格上だったら剥がしきれないが、
それでもある程度の能力低下は行うことが出来る。
この風剣は使えるな、今度使うときはしっかりとした名前を考え
とかないとな。
そうこうしているとハヤテを纏っていた炎は完全に消え、直で切
り刻まれているのが見えた。さて、可哀そうですし、そろそろ止め
を刺しますか。
俺は魔法を解除する。するとハヤテは自由落下をしながら落ちて
くる。そして
384
﹁紅蓮⋮⋮﹂
ファイア・ウエポン
剣に強化魔法︽武器・炎︾を付け、そして
﹁︽焔柱撃︾!!﹂
落ちてくるハヤテに容赦ない炎の円柱が襲い掛かる。普通、火魔
法を覚えている人は火にも耐性が付く。︵それでも暑いものは暑く
感じるけどな︶。だが俺の魔法はそんな耐性もまるで無いかのよう
にハヤテの白銀の鎧をアッサリと消し去ってしまう。あっ、ちなみ
に︽不殺︾スキルのお蔭でハヤテ本人は死なないようになっている
のでその点は安心を。
ズンッと響き渡る音。ハヤテが地面に叩き付けられたのだ。白銀
の鎧は見るも無残に溶けて砕け散っており、最早原型を留めていな
かった。正直なところ死なないと分かっていてもやりすぎた感が抜
けなかった。
こうして俺とハヤテの戦いは最終的に見ると俺の圧勝で幕を下ろ
したのだった。
⋮⋮さて、後日対処はどうしようか。
﹁⋮⋮また面倒事になるのか⋮⋮﹂
こうして、この世代になってから何度目かになる後日処理に頭を
抱える事になったのであった。
385
第26話:問題だらけの称号と決着︵後書き︶
と言う訳で思ったよりあっさり終わりました。当初からこの予定
だったのですが、改めて見ると内容薄! と思っている自分がいま
した。
今回も読んで下さり本当にあるがとうございます。次回も見て下
︽異種族を恨みし者︾の取得条件が間違えて
︽紅蓮鳳凰剣︾を︽紅蓮焔柱撃︾に変更しました。
さると嬉しいです^^ ※9/30
※10/17
ありましたので、訂正しました。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字などがありましたら報告よろしくお願いします。
386
第27話:嵐の前触れ︵前書き︶
今回もお時間が無くなり短くなってしまいました。テスト前なの
で許してください︵泣/土下座︶
387
第27話:嵐の前触れ
くそっ、これまた面倒になったよな。
俺はハヤテに治癒魔法をかけておき、これからの事を考えていた。
まず俺がどう王様に報告されるかだ。味方として絶対引き入れる
べきだと言われるか、前もって断りを入れていたので敵になる前に
殺すべきと言われるか。おそらくこの二つのうちどちらかだろう。
うーん、そうなるとどうしようか。何事も無かった⋮⋮⋮と言う
のはないだろうな。国軍の隊長クラスの人物を倒してしまったんだ
からな。白銀の鎧に至っては原型すら止めていないし。oh⋮⋮⋮
︵´・ω・`︶
逃げようかな⋮⋮⋮龍族ならレイナからいくらか習性とか聞いた
し。
そうこうしているうちにハヤテが目を覚ました。
﹁お目覚めになりましたか?﹂
周りにいた兵士たちは皆泣いてハヤテにしがみついている。気持
ち悪いz⋮⋮⋮そう思ってしまう俺の心は腐っているな。若き日の
心は完全に失われたもと20代です。
﹁さて、約束は約束です。国への勧誘はお断りさせて頂きますよ﹂
﹁⋮⋮⋮いいでしょう。約束は約束です国への勧誘は諦めましょう﹂
388
⋮⋮⋮以外と素直だな⋮⋮⋮いや違うな。端からみれば諦めたよ
うに見えるかもしれないが、俺にはハヤテの瞳の奥にある感情がハ
ッキリと見えた。
こいつは諦めない。
俺の直感が⋮⋮⋮いや見ればわかる。ため息が口から漏れている
がこいつの目は⋮⋮⋮
﹁ハヤテ隊長。本当に諦めてよろしいのですか?﹂
エルシオンから少し離れたところの森を通っているとき、一人の
兵士が馬に乗りボロボロの服を着たハヤテに話しかけていた。
﹁そうですね⋮⋮⋮﹂
ハヤテはニヤリと顔を動かした。
389
﹁た、隊長⋮⋮⋮?﹂
﹁国に勧誘するのは諦めましょう。ただし⋮⋮⋮﹂
その表情を見ていた兵士たちは後に口をそろえて語ったという。
﹁あれは悪魔の笑いだ﹂と。
こうしてエルシオンでの一日は終了した。クロウは自分の勝利を
喜んでいるエリラにベタベタ引っ付かれているのをどうしようかな
と思いつつ、これからのことを思ってもいた。
嵐が来る⋮⋮⋮と。
390
第27話:嵐の前触れ︵後書き︶
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字などがありましたら報告よろしくお願いします。
391
第28話:汚い依頼
ハヤテとの戦いの翌日、取りあえず俺はガラムに経緯を報告して
置くことにした。万が一の時に盾は多い方がいいからな。
﹁全く⋮⋮お主は何故こんなにも問題事を持ってくるのか⋮⋮﹂
﹁それについては申し訳ございません﹂
本当だよ全く⋮⋮俺、前世ではこんなに連続で巻き込まれた事な
んか一度も無かったぞ。せいぜい三角関係をどうかしてくれとか言
われたぐらいだ⋮⋮今考えれば、あれは泥沼の戦いだったな⋮⋮思
い出しただけでも寒気がしてくるぜ、前世の思い出にいい思い出と
かほとんどないよなぁ⋮⋮。
﹁それで、ギルドはどう動くのでしょうか?﹂
というのも、ギルドは大陸の人間領にはほとんどありギルドは独
立した機関として運営されている。他種族では自分の問題は自分で
と言う意識が強いか、またはよそ者の力を借りるのが恥となってい
るのか、怖いのかは知らないがほとんどないらしい。
今回の件は俺と国との関係だが、一応確かめておきたかった。こ
れで国に手伝うとか言ったら俺、全力で逃げるからな。
﹁この前も言ったがギルドはあくまで中立機関。どこの国にもつか
ない。それが基本にして絶対的なルールじゃ。それは各国との協定
でも決まっており、もしギルドを吸収や配下に納める様なら他の国
が止める仕組みになっておる﹂
392
後半の事はどうでもいいがどこの国にも付かないのはありがたい
な。
﹁まあお主の事じゃから大丈夫じゃろう。Bクラスのコアを持ち帰
った情報は他国にも知れ渡る。そうすれば自然とお主の名声も上が
るもんじゃ。そうなれば国も迂闊には手を出せなくなるだろうな﹂
ですよね∼
﹁⋮⋮正攻法ではな﹂
やっぱりか
﹁裏で無理やりとかもあり得ますよね﹂
﹁無論だ。むしろ裏で来なかった方がおかしいぐらいじゃ﹂
ぐっ、俺はまた⋮⋮いやもう何も言うまい。こうなった以上、悪
いが今まで封印していた者を使ってでもこの状況を打開してやる!
!!!
﹁ま、わしとしてはお主にはこの街はいて欲しいのじゃが、逃げる
ことも考えといたほうがいいぞ﹂
﹁逃げる? まさか﹂
俺は笑ってその案を拒否した。
﹁とんでもない、向こうが来るなら迎撃するまでですよ﹂
393
﹁⋮⋮時々お主は本当に怖くなるのぉ﹂
﹁そうですね。そう考えている自分も恐ろしいですよ。ではこれか
らもここで仕事はやりますので﹂
﹁構わぬ。お主見たいな強者がいればそれだけこの街も安心出来る
からの。デメリットもあるがな﹂
﹁メリットになるように善処しますよ﹂
さて、これから忙しくなるな。まあサラリーマン時代の俺からし
てみれば自由気ままに好き勝手にやりやがって羨ましいっぞ! と
か言うレベルなんだけどな多分。
早速始めるとしますか。 俺は宿に戻ると久々のメニューを開く。
>>スキル︽メニュー︾コマンドスキル︽ノート︾発動
394
これは、俺が市場にある紙︵日本のより遥かに劣化版︶を見て思
いついたのだ。このノートなら俺の頭の中にあるだけだから外部に
漏れることもないから安心だ。前世でもこれさえあれば複雑なPパ
スワードいくつも作ったんだけどな。
どれがいいかな⋮⋮これとこれとこれだな。俺は思いついた限り
の事を書いたノートの中を探し回り色々な魔法やスキルを作り上げ
た。後日使ったときに説明するとしよう。
あとはあれを買うか。逃げないって宣言したからな。形だけでも
用意するか。
俺はラミさんからとある店の場所を聞くとそこに出かけて行った。
出ていくときに少しラミさんの顔が曇っていたのは気のせいだと信
じたい。
395
それからおよそ2ヵ月。この間は殆ど何も起きず、俺は無事6歳
になった。本当に平和だった。恐ろしい位に平和だった。
ソラとも和解してから随分と親しくなった。もともとこっちの方
が素なんだろうな。なんか前世とかでもクラスの中心的人物って感
じだもんな。
あとエリラが新しく治癒魔法を覚えた。だいぶ前から覚えたいと
言っており本を買ってきて勉強した成果がようやく実ったと言えよ
う。性格の割に頑張り屋なのはやっぱり家の事だろうな。
俺? 俺は色々な魔法を思いついたり新しいスキル作ったり覚え
たりしたよ。もっとも一番進んだのは魔法道具系統だけどな。
例えば前に魔法剣を作った時に思いついたんだが火魔法と風魔法
の魔法式を筒状の中に入れて持つところを付けて魔力動力型ドライ
ヤーってのを作って見た。
そしたら意外と使えてビックリだ。そこに魔力制御の魔法式を組
み込めば、誤って暴発する心配も無くなった。
ちなみに魔法制御魔法式が無かったらちょっとした火炎放射器に
なっちゃいます。
試にエリラに使わせてみたら大好評でした。あっちなみにこっち
の世界では高価なお風呂も俺にかかればすぐにできちゃいます。︵
もっとも宿屋に付いてるので使う機会は旅先とかしか無いが︶
後は電気系も出来たらいいんだけど、俺、電池の中身とか見とか
知らないんだよな。魔石と雷魔法で作ったり出来るのかな。
他にも色々作って見た、なんだか某子供向けテレビの進化バージ
ョンをやっている感覚だ。
そんなある日の事、俺が珍しくギルドで食事を取っていた時だ。
﹁ん? なんだこれは?﹂
396
ふと地面で何か動いたようなと思うとそこには一枚の依頼票が落
ちていた。
﹁? 落ちたのかな?﹂
地面から拾い上げ何となく内容を見ようとしたが
﹁⋮⋮字下手くそだな﹂
正直に言おう何を書いているかさっぱりわかりません。
﹁それは依頼箱に入っていた依頼ですね﹂
ミュルトが俺に頼んでいた果実水を持ってきてくれた。ちなみに
リンゴ味がお気に入りだ。
依頼箱とはギルドに正式な手続きをしないでも通せる依頼票を入
れる箱の事で最大の特徴は誰でも依頼を作ることが出来ることだ。
もちろんギルド員も一度目を通してから張り出す。報酬も書いて
いた分を出さなければ一発でブラックリスト行きになることもある
らしいので、悪戯で入れるようなバカはそうは居ないらしいがたま
にこうやって悪戯で書いてくる奴も多少なりともいるようだ。
﹁それも悪戯かと思い処分したはずなんですけどね。多分処理中に
落としてしまったのでしょう﹂
なるほどね、まあこの文字なら仕方ないか。
でもただ単に汚い文字には見えないんだよな。なんか規則性って
言うか形があるっていうか、う∼ん⋮⋮
397
﹁あっ、そうだ﹂
俺の頭に豆電球マークが浮かび上がった感じがした。
︱︱︱スキル︽解析︾発動
これは俺が対罠型魔方陣用にハヤテが来た夜に作ったスキルで罠
型の魔方陣を解読するスキルだ。魔法制御があれば一発で壊せるん
だが、念には念を入れて作っておいた。他にも見たことない文字を
読むのにも使ったりできる。
もし、これが何らかの意味が込められているなら何かしら浮かん
でくるのではと思ったのだ。
思ったより解析に時間がかかっている。ハズレかな?
そう思っていた矢先﹁解読が完了しました﹂という文字と共に解
析内容が俺の目の前に浮かび上がってきた。︵と、見えるのは俺だ
けで傍から見れば紙を見ているようにしか見えないが︶
その内容を見て俺はギョッとした。そこには
依頼名:お姉ちゃんをたすけて!!
内容:お姉ちゃんがわるい人につれさられました。
だれかたすけて下さい。くわしいことは直せつ話ます。
報酬:私が大切にしているものをあげます
と、書かれていたのだ。もしこれが本当だとしたらやばくね? そう思ったときに
398
>スキル︽獣族語︾を取得しました。
おっ、久々に聞いたな不意打ちでの脳内アナウンス。⋮⋮って
﹁はぁっぁぁ!?﹂
思わず飛び出してしまう絶叫。周りの目視線が一斉に俺に集まる。
あっこれはやばい。
﹁ど、どうしたんですか!?﹂
ミュルトが心配しているような声で俺に話しかけて来た。そりゃ
あ急に叫びあがれば誰でも心配しますよね。
﹁い、いやなんでもありません、凄い依頼かと思ったんですけど間
違えましたね。第一読めません﹂
そう俺は誤魔化すと依頼票をミュルトに渡した。若干怪しがって
したがその後、あの依頼票は問題無く処分されたそうだ。
だが、俺にとっては処分とかでは済まされない内容だ。
まず問題なのが獣族語で書かれていることだ。この街は人族の街。
当然異種族はいたとしても奴隷だけのはず。もちろん奴隷がこんな
ことをすれば主人に何をされるか分からないからな。俺が例外過ぎ
るんだなおそらく。
そうなると、どこから侵入したんだ? この街って城壁に覆われ
ているから並大抵では入れないはずなんだが、しかも入口には種族
などが分かるセキュリティーもあるオマケ付きだ。
399
﹁⋮⋮考えても仕方がねぇか一度行ってみるとするか﹂
俺はエリラも連れて行くかどうか迷いながら宿屋に戻った。
400
第28話:汚い依頼︵後書き︶
よ、ようやく話しを本編に持っていけれた。皆さんも主人公の当
初の目的を忘れかけてないか心配です︵汗︶
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字などがありましたら報告よろしくお願いします。
401
誤字を修正しました。
第29話:獣族の女の子︵前書き︶
※11/29
402
第29話:獣族の女の子
﹁ここか⋮⋮﹂
エルシオンの東部にあるとある廃墟。今は使われていない旧宿屋
らしい。もともと東部側の隅っこは住宅街が多いので冒険者などが
泊まりに来ることは殆どないらしい。
まあ、俺からしてみれば周りが住宅だらけってわかっている状況
でここに店を構えたのか全くわからないがな。
普通に商売をやるなら商業地区の端にでも構えた方がまだ経営出
来ると思うのだが⋮⋮
﹁ねぇ、この辺で待ち合わせってかなりやばい依頼じゃないの?﹂
エリラが俺の後ろをチョコチョコと着いて来る。おかしい本来の
立場なら逆なのだが
︵※俺は傍から見れば6歳。エリラは15歳︶
エリラは幽霊とかそういった類が苦手らしい︵ソラから聞いた︶
Bクラスモンスターと戦ってもあんまりビビらないのにこういうの
は苦手なんだな。
たぶん︻変な依頼だから逃げよう=ココ怖い︼
という頭になってるんだろうなぁ。
﹁まあ、ギルド員も見てるし大丈夫だろう﹂
あんな落書きみたいな依頼を真面目に読み解こうとしたのか謎だ
403
が。まあ普段殆ど見ないであろう獣族語に加え飛んでもない下手さ
だもんな。
解析してみたら元の字と全然違うもん。
﹁それに危なくなったら逃げればいいだけだ﹂
﹁そうだけどさぁ﹂
﹁心配するなって、こんな街中で派手に暴れる奴なんかそうそうい
ねぇって﹂
俺はそういうと中に入っていく、中はおんぼろ屋敷という言葉が
ピッタリ合いそうなぐらいの廃れようだ。なんかこういう建物をマ
ジのお化け屋敷にしたら面白そうだなと思ったり。
一歩歩くたびにギシッと言う音が響きそのたびにエリラが俺に飛
びついてきそうで怖い。ステータス的には問題ないけど絵柄的にあ
れだからやるんじゃねぇぞ⋮⋮。
そして一番奥の扉まで来た。確かココって書いていたよなと言っ
ても解析画面では﹁ひがしのふるい、いえのおく﹂としか出てなか
ったけどな。東側で誰も使ってない家はココしかないらしいんだが
⋮⋮ここは住宅街の井戸端情報を信じるしかない。
︵後になって思ったが千里眼とか透視とか探索使えば楽だったん
だよな︶
恐る恐る扉を開ける。灯りなどは付いて無いが壊れた天井から太
陽の光が降り注いでおり中は比較的明るかった。⋮⋮某ゲームを思
い出すな、こうやって光に当たったら変身が解けてボス戦とかよく
あったな。
404
部屋を見渡すと隅でモゾモゾと動いている。大きさは俺と同じく
らい。フードを被っている用で顔は見えない。というか光が無かっ
たら巨大な黒光りした台所に現れる生き物見たいに見えるぞ。
そしてエリラ頼むから座り込んで俺にしがみ付こうとするな。危
ないだろ。
やがて、俺の姿をハッキリと確認したのかフードを被った生き物
が俺らの方に近づいてくる。透視とかで中を見てもいいのだが、殺
気や戦意などを感じないのであえて使わないようにしている。ネタ
バレはダメだよね。
﹁ぼうけんしゃのひとですか?﹂
片言に近い言葉が俺の耳に届く。間違いないこれは︽獣族語︾だ。
正直︽神眼の分析︾が無かったら全くわからなかっただろうな。
証拠にエリラには通じていないみたいだ。どうやらこの雰囲気に
合わせて聞いたこともない言葉を発したことで完全に場に飲まれて
いるな。
﹁そうです⋮⋮獣族さん﹂
俺の言葉にフードがビクッとなる。おいおい気づかれてないとで
も思ったのかよ。完全に文字でバレルだろ。
そして今度は逃げようとしたので、とりあえずフードを掴まえと
くか。アタフタとするあたりが子供って感じだな。
﹁別に襲ったりしませんって、依頼の内容を聞きに来たのですよ﹂
その言葉にアタフタとしていた動きが止まる。
405
﹁ほんとうですか?﹂
﹁ええ、もちろん﹂
しばらくの間静寂が流れる。エリラもさっきの出来事で我に戻っ
たようだな。
﹁⋮⋮﹂
そして獣族の子がフードを外すして
﹁おねがいです! お姉ちゃんをたすけて下さい!!﹂
外すと同時に頭を下げて来たのだった。
俺の目の前には猫耳? だろうか、コスプレとかしている人がい
かにもつけているような耳が付けた女の子の姿が写っていた。
406
﹁そ、その耳⋮⋮まさか﹂
あっ、やべ説明してなかった。背後から急に現れた殺気の源を俺
は肘打ちで撃沈させておく。異種族が出会うと喧嘩が起きるってい
うぐらいこの世界では種族間での隔たりが大きかったんだな。
﹁少し黙ってろ、ビクついているじゃねぇかよ﹂
頭にマンガ風のたんこぶを作ったエリラが悶絶しながら﹁了解﹂
の合図だけだした。つーか了解の合図をよく出せたな瞬間的にスキ
ルだけ発動することに重点を置いたから威力は結構あったと思うん
だけどな⋮⋮。もちろんエリラに対してもだが、建物の床も褒めた
い。だって床が抜けてないもん。
﹁⋮⋮何があったのか聞きたいから教えてくれますか?﹂
俺は視線を猫耳風の獣族の子供に戻した。いや、あの後ろに引か
ないでなんか悲しくなっちゃう。
﹁⋮⋮あなたはわたしを何とも思わないのですか?﹂
﹁なーんにも﹂
﹁⋮⋮おかあさんは人はわたしたちを見つけしだいおそいかかるっ
て言ってた﹂
どんな教育だよ。俺は人狼じゃねぇんだぞ。
﹁他の人は分かりませんけどね。すくなくとも私はそんなことをし
407
ませんよ﹂
てか、襲い掛かられるのを覚悟の上で依頼を出したのか? ⋮⋮
いやさっきの様子を見るにフードで隠しておけば大丈夫だと思った
んだろうな。
﹁ふしぎなひとです﹂
﹁よく言われます﹂
不思議と言うか歩く爆弾と言うか。とにかく危険な方でだがな。
﹁さて、お姉ちゃんがどうしたのですか?﹂
話を思いだしたのだろう、多少目が潤んでいるように見える。
﹁このまえ、わたしたちのむらにこわい人がやってきてお姉ちゃん
がさらわれておうちもきえて⋮⋮お、おかあさんも⋮⋮にげて、ぐ
ずっ⋮⋮このまちに来て、ひっぐ⋮⋮﹂
お、おいな、泣くなよ⋮⋮いや泣くなと言う方が無理か。お母さ
んの後に何か聞きたくない単語が聞こえたような気がするが聞かな
かったことにしておこう。少なくとも今は⋮⋮な。
﹁わかった。ここまでよく頑張ったな⋮⋮後は任せな﹂
今の俺に出来る事なんかこれくらいしか無いな。獣族の女の子が
俺に抱き着いて泣き崩れる。我慢し続けていたのだろうな。俺がよ
しよしと頭を撫でてあげる。
あとエリラ⋮⋮視線が痛いぞ。こうするしかないでしょうが⋮⋮
408
﹁お姉ちゃんが連れ去られた場所は分かる?﹂
女の子は泣くのをやめて﹁はい!﹂と元気に返事をした。まだ鼻
水垂れているぞ。
﹁ついてきて下さい!﹂
女の子は部屋の穴へと向かっていく。お、おいこれどこに通じて
いるんだ? と思い千里眼と透視を使ってみてみるとどうやら下水
道見たいなところに繋がっているようだ。なるほどなここから入れ
ば確かに町に入ってもバレないよな⋮⋮これ戦争の時に使われたら
アウトじゃね?
って今はそんなことはどうでもいいか。俺は女の子の姿を見逃さ
ないように視線だけは固定しておき
﹁エリラ、彼女に一切手を出すことを禁止する。これは︽命令︾だ﹂
久しぶりの強権発動にエリラも驚いている。
﹁な、何で!? あれは獣族よ!!﹂
﹁だからなんだ? 襲うのか? 過去にどんなことがあり、どんな
教えられ方をされたか知らないけど、すべての種族をそう見ること
は間違いだと思うよ﹂
﹁で、でも⋮⋮﹂
﹁ほら、文句なら帰ったらいくらでも聞くから! 今は俺に任せて
409
ソロ
くれ! それとも家に帰る? 今なら絶賛昼の肝試し大会が出来る
ぞ﹂
エリラはこれまで通った屋敷の様子を思い出したのか﹁い、いひ
ゃです!﹂と舌を巻いてしまいながらも立ち上がってビシッと敬礼
をする。
﹁さっ、行くぞ﹂
俺はエリラの手を取ると、引っ張るようにして穴の中に飛び込ん
だのだった。
﹁くさ⋮⋮﹂
さすが整備されていない下水道。10分いただけでもリバースし
ちゃいそう。よくこの子はこんな所を通れたな。
﹁そういえば、君名前は?﹂
走りながら話しかけたので息持つのかなと思っていたが意外と平
気な顔で答えてくれた。
410
﹁フェイっていいます﹂
﹁そうか、俺の名前はクロウ。でこの後ろにいる子がエリラってい
うんだ﹂
下水道内での会話はこれ以外にほとんどない。途中で俺が一度リ
バースしかけたのでちょっと止まってと言ったとき以外は、ちなみ
にその時に︽悪臭耐性︾が付いたけど、レベル1程度ではほとんど
効果無しって感じだった。戻しそうな感覚は消えたから助かったけ
ど。
やがて下水道を抜けてしばらく森の中を進みやがて火山地帯の近
くまで来た。そういえば前に︽炎狼︾を討伐したとき以来だなここ。
もっともそんな危険地帯にアジトなど作れないので、必然的に森
の近くになるんだけどな。
やがて、フェイの足が止まる。目の前に見えたのは木々の中でぽ
っかりと空いた大穴だった。おいおい普通洞窟にアジトを作るのが
盗賊とかじゃないのか⋮⋮ってこれは俺の固定概念だな。でも洞窟
の方が作る手間が省けそうなんだけどな。もしかしてこの下って空
洞なのか?
﹁お姉ちゃんたちはこの中につれて行かれたのを見ました﹂
俺はフェイの言葉に耳を傾けながら、穴の下を覗きこむ。内部は
暗く下までは見えなかった。つかここ本当にアジト? 穴の付近に
見張りがいない時点でアウトな気がするんだが。
もっともマジでアジトみたいなんだよな、透視で見てみるとわか
411
るだけでも50名ほど武装した山賊どもがいて、別の一室には鎖を
繋がれた獣族たちが多く見えたのだ、しかもほとんどが子供や女性
たちだ。どうやらどの世界でも盗賊事情は変わらないようで少し安
心した。
﹁なるほどな。じゃいっちょやってくるか、つーわけで待っといて﹂
ちょっとコンビニ行ってくる風に穴に飛び込もうとしたところを
エリラが全力で止めに入る。
﹁何言ってるの!? ここが本拠地なら敵が沢山いるわよ! 死ぬ
気!?﹂
﹁大丈夫だって負ける予定無いし﹂
﹁そういう問題じゃない! いくらクロでも多勢に無勢すぎるわよ
!﹂
﹁おいおい、負ける訳ないだろ、アリと人間が戦って人間負けるか
? それと一緒だよ﹂
しっかり罠が無いことは確認しましたし。敵のレベルも大方わか
りましたし。
﹁だぁあ! もうっ! だったら私も行くわよ!﹂
乗り気じゃ無かった様なのに気合い入っているな。ちょいと怖い
ぞ。
﹁フェイ、お前も来い! じゃないと誰がお姉ちゃんかわからねぇ
412
ぞ!﹂
﹁は、はいです!﹂
まあ全員連れて帰ればいいだけの問題なんですけどね、エリラも
行くとか言ったらフェイが取り残されてしまうだろう。止める気も
無いしな、無理やり連れてきているからな。
で、エリラ。お前飛び降りるつもりか? 結構な深さ⋮⋮あっ行
っちゃった。
﹁⋮⋮まっ、いいか。行くぞしっかり捕まっておけよ!﹂
俺はフェイを背中におんぶすると深い穴の底に飛び込んでいった
のだった。
413
第29話:獣族の女の子︵後書き︶
山賊のアジトの入口が穴って⋮⋮自分で考えて書いてみたもの
のおかしいよな︵笑︶と考えていました。
補足しておくと一応、入口は普段は隠れているのですが、おそら
くアホが閉じ忘れたのでしょう。
いつも、感想、アドバイスを下さる方々本当にありがとうござい
ます。お返しの返信内容が少なかったり薄かったりなどしたりして
いるかもしれませんが、本当に感謝しています。いつもありがとう
ございます! これからも応援よろしくお願いします!
感想などはいつでも募集中です。アドバイスや誤字脱字報告も同
様です。皆様これからもよろしくお願いします。
414
一部に加筆修正をしました。
第30話:許せない者︵前書き︶
※10/15
415
第30話:許せない者
﹁いやああああああああぁぁぁぁぁ!﹂
暗闇の中で響き渡るエリラの絶叫。竪穴の深さはおよそ20メー
トルと言ったところか。透視スキルでギリギリ見えた限りではだが。
今度は︽暗視︾スキルとか作っておこう⋮⋮。
さて、あんまり叫び続けられても困るのでそろそろ助けますか。
﹁︽空術︾!!﹂
風魔法を魔法制御で完全に操り空へ浮かび上がらせる魔法だ。俺
だけなら自由に飛び回れるんだけど他人の飛行実験とかやっていな
いからな、安全面を考慮して浮かび上がるだけの魔法で行かせても
らう。
フワッ、そしてスタンと地面に降りる。あたりには松明が立ち並
んでおり、意外と視界は良好だ。これなら暗視スキルとか今は作る
必要は無いな。
﹁く、クロウさんすごいです、あんなまほうを使えるなんて﹂
フェイが俺の背中で褒めてくれた。まあ多分俺にしか出来ないオ
リジナルかもしれないけどね。あっでも国の直轄軍ならいるかもな。
﹁⋮⋮でエリラ、なんで梯子があったのに何で飛び降りたんだよ⋮
⋮﹂
416
俺はジト目で﹁い、生きてる!? 私生きてる!?﹂的な顔をし
ているエリラを見る。
﹁うっ⋮⋮ご、ごめんなさいつい﹂
つい か⋮⋮これからの事が心配だな。一応聞いておくか
﹁エリラ﹂
俺は威圧を発動し︵と言っても弱めだけどな︶エリラに聞いた。
﹁⋮⋮お前は人を殺せるのか?﹂
﹁⋮⋮何言ってるの? 賊を殺してもいいのとか当たり前でしょ﹂
﹁⋮⋮そうか、よしじゃあ行くぞ﹂
やっぱりこの世界の価値観は前の世界と比べると大違いだな。特
に人や動物の命があまりにも安すぎる気がする。まあじゃないとこ
の世界を生きて行けないのか、それともそういう教育を受けている
のかは知らないけどな。
でも、やっぱりなぁ⋮⋮何と言うか⋮⋮RPGで山賊を倒しても
何とも思わないけどやっぱりリアルは違うよな。当然と言えば当然
だが。
でも、俺もこの世界に来てもう6年もたつ。別に斬り合いが初め
てと言う訳じゃない。アレスたちと初めて初陣をしたときには数百
人規模の死体を見せつけられているし、俺自身も黒龍戦の時に残っ
417
ていた集落ごと吹き飛ばしてしまうほどの魔法を撃ったからな。お
そらく俺もすでに血で汚れているんだろうな。
だからと言って簡単に殺すほど、俺は悪い奴じゃない。この世界
の常識からしてみれば明らかに異質な考えを持った俺だろうが、そ
れでいいと思っている。
まあ、俺は⋮⋮言うまでもないか、出来る限り助けては上げたい
が⋮⋮今回ばかりは死人ゼロとは行かないだろう⋮⋮いや無理だろ
うな。
ふと、思った、それはエリラのあの間だ。僅かにだが悩んで答え
たように俺には思えた。
もしかして⋮⋮俺は考え込みながら薄暗い洞窟内を奥に進むので
あった。
﹁いたぞ!﹂
通路を塞ぐように武装している山賊がおよそ20名程度。その奥
にちょっとした広間が見えるがそこにもさらにいるようだ。どうや
ら俺が思っている以上に数がいるようだ。
﹁ここに獣族の奴らが囚われているだろ。悪いが返させてもらう﹂
俺が一歩前に出て堂々と宣言する。その宣言にポカンとした山賊
418
たち、やがて一人の男が笑いだし釣られて全員も笑い出した。
﹁ギャハハハハ!! おいチビ! お前頭がおかしくなったんじゃ
ねぇか? あいつらは家畜なんだよ。森の中にいたから捕まえて持
ってきただけなんだぜ? 返させてもらう? そもそもどこに返せ
ばいいのですか? おチビちゃん ぎゃははははははは!﹂
その声にフェイが微かに怒りに震えているのを俺は感じた。辺り
に響き渡る笑いの声、それはクラス全員からイジメを受けるレベル
⋮⋮いや、フェイにはそれ以上に感じられるだろう。
昔の俺なら逃げていただろうな。力が無い者が助けても巻き込ま
れるだけだ。俺が出来ることは誰もいない所でフォローすることぐ
らいしか出来なかったっけ。
でも結局最後にバレて⋮⋮いや、これ以上過去の事を思い出すの
はやめて置こう今は今だ。
︱︱︱︱お前ら⋮⋮生きて洞窟から出られると思うなよ
俺は密かに足に魔力を込め、そして機会をうかがっていた。
﹁さてと、おチビちゃんその後ろにいる獣人⋮⋮いや家畜を渡せば
ここからただで出してあげるよ、もちろんここの事はお母さんたち
には黙っておけよなおチビちゃん﹂
﹁いや、まとうぜ、後ろにいる女もだ﹂
﹁ああ、忘れていたぜ。そいつも置いていきな! 俺たちがタップ
リ可愛がってやるからな﹂
419
﹁おい、待てあいつの首にあるのは、奴隷のマークじゃねぇか?﹂
﹁もしかして、あいつが主人なのか?﹂
﹁じゃあやっぱ殺そうぜ、ぎゃはははははは!!!﹂
その言葉にエリラが剣を抜く構えに入る
﹁誰があんたたちに︱︱︱﹂
その時
グシャ!!!!!!!!
まるでトマトが潰れたような音が聞こえた。そしてさらに
ボキボキボキボキッッッ!!!!!! ベキョベキョ!!!!!
グチャッッッ!!!!!!
砕けるそして潰れるような音。山賊たちは一瞬何が起きたか分か
らなかった。
わかったのは、目の前にいたはずの仲間の首から上が跡形もなく
なくなりさらに横にいた仲間の姿が見えなくなったことだけだ。
数秒後、ようやく山賊たちは我に返った。
420
目を下に向けると、そこにあったのは⋮⋮、首より上が無くなり、
あたりに耳や目玉、さらには脳の一部らしき物が赤色の液体と共に
転がっており、その横に骨、筋肉、内臓、血ともはやなんの生き物
か分からないぐらい原型を留めていない物体があった。
﹁⋮⋮えっ?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮次は誰だ?﹂
声の方を向くとそこに立っていたのは左足全体が赤く染まってい
る俺が立っていたのだ。
﹁う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!﹂
﹁あ、あにじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!﹂
先程の笑い声とは全く変わり大声で仲間のもとへと駆け寄る山賊。
それをじっと見つめる俺。
悪いが容赦など一切しなかった。身体強化を5倍近くまで跳ね上
421
げ、さらに︽不殺︾スキルを解除し、獣族の事を家畜呼ばりした奴
の頭をスキル︽格闘:10︾の力を使い膝うちで風船のように潰し、
潰した山賊の体を借りすぐ横にいたエリラを置いていけと言った山
賊に踵落としをくらわせた。その様子は水風船の用にはじけると行
った感じだった。
﹁⋮⋮俺からしてみればテメェら全員クズなんだよ⋮⋮﹂
その声に山賊たち全員が一斉にこちらを向く。威圧スキルもフル
活用させてもらう。
﹁生きてここから出られると思うんじゃねぇ⋮⋮さぁかかってこい
やぁ!!!﹂
この言葉に山賊たちは誰一人して立ち向かっていくものなど誰一
人もおらず、我先にと一斉に逃げ出した。
﹁逃がさねぇぞ!! ︽土壁︾!﹂
山賊たちが逃げていく先の通路が一瞬でふさがる。何が起こった
かわからない山賊たち、すると山賊の背後でキィンと言う音がする。
山賊たちが振り返ってみると。クロウが刀を片手に近づいて来てい
たのだ。
﹁さて⋮⋮誰から死にたい?﹂
このとき山賊たちは悟ったのだ。自分たちは絶対に相手をしては
行けない奴を相手にしてしまったのだと。
422
この世界で他種族を襲う事など日常茶飯事だ。そう言うならば山
賊たちの方が普通なのだ。だが、目の前にいる化け物はそのすべて
を真っ向から拒否をした。
そして、その非常識の塊は仲間を一瞬でミンチにして今自分たち
にも近づいてきている。
尻餅をついてアワワワと言いながら壁ギリギリまで逃げていく者
たち、あまりの恐怖に失禁をする者や気絶をするもの。この場にい
るすべての山賊が終わったと思っただろう。
だが、化け物は刀を鞘に戻した。そして見下すような眼差しを山
賊たちに向けた。その目はまるで最底辺の者を見るような眼差しで
あった。
﹁お前らの命までは奪わない。だがこれだけは覚えて置け、俺は見
た目の違いや文化の違いなどですべてを決める奴らが大っ嫌いだ。
この世界の歴史で何が過去にあったかは知らんが俺はそんなことな
んか関係ねぇ。あと、エリラは奴隷なんかじゃねぇ、俺の大切な仲
間だ!!! もし、一人でも奴隷と言ってみろその時は⋮⋮﹂
クロウはそれだけ言うと微動だにしないエリラとフェイのもとへ
戻っていった。あとに残された盗賊たちはもはや何も言う事も出来
ずに、ただ命があったことに安堵の思いを浮かべるのだった。
423
誤字脱字を一部修正しました。
第31話:圧倒的なまでに︵前書き︶
※10/18
424
第31話:圧倒的なまでに
﹁⋮⋮﹂
エリラとフェイは今、目の前に起きた現実を認めきれなかった。
わずか30秒ほどである。目の前にいた20名以上の山賊たちを
彼はすべて沈黙させたのだ。
彼が近づいてくる。だが二人とも何も言う事が出来なかった。特
にエリラはクロウの本音をハッキリと感じ取っていた。
クロウが前から差別をする人は好きじゃないと言う事は分かって
いた。奴隷になったエリラに対しても彼は決して無碍に扱うことな
く普通の冒険者とほとんど変わらない生活を送らせてくれた。
だが、別種族までも平等に扱うとは思っていもいなかったのであ
る。
そして街での出来事を思い出す。フェイと初めて出会ったあの廃
墟で彼は襲い掛かろうとしたエリラを肘打ちで沈めた。その威力は
昇格試験のときよりも数倍も痛かった。
そして彼はフェイの顔を見ても嫌な顔一つせずに話しを聞いてあ
げ、後は任せろと言い。普通の人ならば触れる事はもちろん近づく
ことさえも嫌がる異種族を簡単に抱きしめて上げたのだ。
エリラは背中に謎の汗が流れているのを感じていた。もしあの死
んだ山賊たちのような牙が自分に向いたら⋮⋮と。
﹁⋮⋮幻滅したか?﹂
425
クロウは顔をちょっとだけ逸らしながら聞いた。
﹁⋮⋮あのクロウさん﹂
フェイがクロウに近づく。
﹁なんでクロウさんはほかのしゅぞくでもたいとうに話すのですか
?﹂
当然の質問だろう。クロウはそうだなとつぶやくとこう答えた。
﹁生きている者として⋮⋮生きる権利を尊重するからさ﹂
﹁生きている者として?﹂
﹁そうさ、例え生まれる場所がどこだろうか、どんな種族だろうが、
どんなに醜い顔つきであろうが⋮⋮この世界で生まれてきたのなら
⋮⋮自由に生きる権利は誰にでもあるはずさ、それを他者が一方的
に奪ってはならないと俺は思っている⋮⋮食べ物でも感謝を込めて
いただくようにな﹂
﹁食べものは大切ですもんね、クロウさんすごいです﹂
﹁それほどでもないさ、俺は当然だと思っているだけだよ。さあお
姉ちゃんを助けるぞ!﹂
﹁はい!﹂
426
クロウさんはすごいです。
わたしは今までほかのしゅぞくの生き物はみんながみんな悪い人
だと思っていました。
でも、それはクロウさんみてちがうと思いました。
クロウさんはとってもやさしい人です。初めて私と会ったときも
かおいろひとつ変えずに私にやさしく話しかけてくれました。
クロウさんはお姉ちゃんをきっと助けてくれるでしょう。いらい
を受けたのがクロウさんでほんとうによかったと思っています。
はやくお姉ちゃんに会いたいな。
427
⋮⋮私は間違えているのかしら。いえ昔からずっと言われてきて
教えられたことだわ。誰に聞いてもそうだった。﹁他種族は信じて
はいけない、他種族は悪魔である。人以下の劣等種族だ﹂と。
でもクロは真っ向から否定した。そして彼は一人の頭をまるで水
風船のように軽々と潰し、さらに体を真っ二つにする勢いでもう一
人を一瞬で絶命させた。
彼は私見たいに奴隷になった人でも仲間と言って対等に扱ってく
れる。私もそのうち自然と意識しなくなっていた。
でも、あの山賊に言われてハッと思い出した。私は奴隷だったの
だと。
なんで、クロは他種族でもあんなにやさしいのだろう? なんで
彼は私みたいな奴隷でも対等に扱い誰が何と言おうと﹁奴隷じゃな
い仲間だ﹂と言ってくれた。
なんで? なんで? 答えの出ない問題が頭の中をグルグル回る。
クロは⋮⋮一体何者なんだろう。
今まで一緒にいて感じなかったのがおかしい位の疑問に私はぶつ
かっていた。
428
なんとか沈黙させることが出来たか。しかし思ったよりか統制は
取れていないな、二人殺された瞬間にこれだもんな。いや、俺の殺
し方に問題があったな。あっちの世界だと完全にモザイクが入るよ
うな映像だもんな。俺も︽精神耐性︾が無かったらやばかったかも
しれねぇ。
さて、フェイは納得してくれたみたいだけど、エリラは俺を警戒
気味だな。やっぱり俺の行動と発言は異常すぎるんだろうな。自分
ではあんまりそうは感じないけど。
山賊たちも運が無かったな、もっとも山賊だとしても人は人だけ
どな。
でも、これでいいんだろ⋮⋮セラ。お前の望んでる世界は⋮⋮決
して間違いじゃねぇと思うぜ、俺もファンタジーでしかなかった光
景を見てみたいしな。
429
﹁さて、じゃ統領に会いに行くのは最後にして先にフェイのお姉ち
ゃんたちを助けますか﹂
﹁えっ? どういうことですか?﹂
﹁こういう事だよ﹂
俺はそういうと壁に手を付け土に魔力を送る。やがて、ズズズと
音と共に洞窟の壁が崩れ始めた。
やがて、目の前には一本の通路が出来る。
﹁さて、ショートカットさせてもらおうか、エリラ、フェイ、俺の
手を取れ﹂
二人はは? と言った顔をしたがエリラはすぐに察したのか左手
を握ってきた。フェイもそれにならって右手を握る。
﹁しっかり、ついて来いよ﹂
俺は自分で作った通路の中に足を踏み入れる。灯りなどは無いの
で中は真っ暗だが、俺が自分で作った道なので問題ない。
火を使えばと思うかもしれないが、こんな狭い地中で炎の魔法な
んか使ったら大変なことになりかねない。可燃性のガスでもあれば
大変なことになるからな。︵もっともこれも後で気づいたんだが風
430
魔法とかで空気を移動させれば問題ないことに気づいた。あとつい
でに光魔法でもよかったんだけど︶
暗闇を進むこと2分。暗かった洞窟に僅かな光がこぼれている。
俺らはその光に向かって進む。もちろん行先は分かっている。
﹁お邪魔しまーす﹂
﹁!?﹂
開けた場所に出るとそこは狭い鉄格子で入口を塞がれた部屋だっ
た。
そこにはフェイと似たような耳をした獣族たちが2、30名ほど
いた。俺が見たとおり全員が子供か女性だった。
﹁えっ、だ︱︱︱﹂
その中の一人が何かを言いかけた瞬間、俺の横をスッとすり抜け
て一直線に走っていくフェイの姿が見えた。
﹁お姉ちゃん!﹂
フェイはそういうと一人の獣族のもとに飛び込んだ。女性と言う
よりも少女と言った方が近い容姿だ。
﹁えっ、ふぇ⋮⋮フェイ!?﹂
フェイは涙を流しながらも笑顔でそれに答える。するとお姉ちゃ
431
んの方も自然と笑顔になっていた。
﹁よがったよぉ﹂
﹁ごめんね心配させたね﹂
いい場面だなぁ。他の獣族たちも目の前の微笑ましい光景にしば
し目を奪われていた。忘れてはならないがここは牢獄だ。でもなん
でだろうな、あの周りだけ輝いてみるよ。
﹁でもどうやってここに?﹂
﹁あの人たちが連れてきてくれたの﹂
そういうとフェイは俺の方を指さす。
﹁え⋮⋮その姿﹂
﹁人間ですよ。あなたの妹のお願いで助けに来ました。あっ言葉も
わかっているので普通に話してくださいね﹂
その言葉に周りにいた獣族たちも騒がしくなる。もっとも牢獄の
入口ら辺はもっと騒がしいが俺が︽土壁︾で塞いでいるので残念な
がら通れないが。
﹁に、人間が⋮⋮?﹂
信じられないと言わんばかりの顔だな⋮⋮まっこればっかりは仕
方ないか。
432
﹁さて、エリラは獣族たちの護衛を頼む。あいつらを駆逐してから
外に出るぞ!﹂
﹁分かったわ﹂
考えることを今は置いているのだろう、目や動作に迷いが無い様
に見受けられた。
﹁フェイはお姉ちゃんから離れるなよ﹂
﹁はい!﹂
﹁えっ、状況が読めな﹂
クラッシュ・スピア
﹁脱出するついでに片付けるだけですよ、︽破砕槍︾﹂
クラッシュ・メテオ
牢屋までの通路を塞いでいた土を固め、俺と反対方向へ飛んで行
かせる。︽破砕隕石︾とやり方は同じだが、唯一違うのは先端だ。
非常に鋭利な形をしている。︽竹槍︾と︽破砕隕石︾を組み合わせ
たバージョンだな。悪いが今回は統領を潰すまでは容赦なしだ。
スドドドドドとまるで巨大なミシンが動いているかのような音と
共にあたりに土煙があがる。それと同時に上がる叫び声。獣族たち
はただジッと見ているだけだ。
やがて、音が収まり土煙も消えると通路の先は死屍累々だった。
ぱっと見でも十数名は絶命しているだろう。
﹁行くか﹂
433
俺はそういうと鉄格子をギュッと掴み一気に引きちぎりにかかる。
言葉を間違えてないかと思われそうだが、まさに引きちぎっている
のだ。
鉄格子はパキッ、ベキョと言う音と共にあっさりと曲がってしま
った。唖然とする獣族。エリラもこれには﹁ちょっと⋮⋮嘘でしょ
ぉ﹂と呟いていた。
﹁あっ、この鉄はもらっていこう﹂
そういうと、俺は移動する前にもはやただのゴミに成り下がった
鉄格子の一部を︽倉庫︾に納める。ありがたく素材として使わせて
いただきます。
﹁何が起きた?﹂
洞窟の中でも一番広い場所で堂々と座っている者が部下らしき人
に聞く。当然部下もここにずっといただけなので﹁わかりません﹂
434
と答えるしかなかった。
そこに一人の人間が飛び込んでくる。何やら慌ただしい様子だ。
﹁バーザス様お逃げください! 謎の人物g︿ズンッ﹀ごはぁっ!﹂
目の前で崩れ落ちる山賊。心臓を一突きさて鮮血を吐き出しなが
ら倒れる。
﹁案内ご苦労様。さてあんたが頭か?﹂
目の前に現れたのは子供だった。だが身丈に似合わない曲剣に血
を滴らせながら歩く様子はただの子供ではないと思い知らされる。
﹁誰だテメェは!?﹂
統領バーザスは近くにあった剣を持ち椅子から立ち上がる。
﹁ただの冒険者ですよ。ちょっと用事があったのでついでに潰させ
てもらっているだけですよ﹂
冒険者は﹁よう﹂みたいな気軽な口調でとんでもないことを口走
っていた。この山賊の規模はかなり大きい方といえよう。人数は総
勢八十名余り。異種族を狩っては奴隷として売りつけることで生活
をしており、ここら辺一帯では比較的有名な山賊に当たる。
だが、冒険者と名乗った子供はまるで遊びに来ました的な口で言
ってくるではないか。
﹁何が目的だ? 貴様⋮⋮言葉次第ではただでは帰せんぞ﹂
﹁なに、ちょっと捕まっている人の関係者からSOS願いが出たか
435
ら手伝っているだけですよ﹂
﹁何? ⋮⋮貴様! 異種族に組するか!?﹂
﹁う∼ん、答えは半分NOですかね。私は依頼で来ているので﹂
﹁この逆賊目が⋮⋮死ねぇ!!!!﹂
バーカスの剣が子供の頭上から振り落とされる。だがその剣は子
供に届く前になぜかポッキリと折れてしまった。
﹁なっ!?﹂
﹁あーあー⋮⋮そんな粗悪な武器を使っているからそうなるんです
よ。やっぱり賊は賊か。自分で使う剣ぐらい念入りに手入れしたら
どうですか?﹂
子供が残念そうな顔で統領の顔を見る。
﹁こん⋮⋮ガキがあ!!﹂
剣は無理だったので今度は素手で殴りかかる。だが
ゴンッ!
まるで石にでも殴りつけたような音が響く。次に聞こえてきたの
は﹁いってぇぇっぇ!!﹂というバーカスの叫び声。子供を殴りに
かかったはずの手は真っ赤になっていた。
﹁ププッ、だせぇ奴、こんな子供すらも殴れないとは﹂
436
子供の馬鹿にする声が辺りに響く。バーカスの顔は見る見る赤く
なった。
﹁生きて帰れると思うなよぉクソガキがぁ!﹂
そういうと、今度は何かをつぶやき始めた。
フレム・ランス
﹁︱︱︱︱︱︱︱︱︽炎槍︾!!﹂
手にできた炎の槍を子供めがけて思いっきり振り下ろす。行った
! バーカスは内心で微笑んでいただろう。この生意気なガキに引
導を渡せるとだが︱︱︱
﹁そんな魔法に八節もかかるんかよ⋮⋮﹂
子供が手を出すと炎の槍はまるで最初から無かったかのように消
え去ってしまった。
何が起きたのかさっぱりわからないバーカス。
﹁俺がお手本を見せてやるよ。冥土の土産にしな﹂
そんなバーカスをよそ眼に今度は子供が構える。
﹁︽炎槍︾﹂
子供の手に一瞬で炎の槍が握られる。その炎はバーカスが出した
炎よりもはるかに熱く、そして美しい形をしていた。
﹁これがゼロ節、通称︻無詠唱︼だよ。いい土産になったか?﹂
437
﹁なっ、何でお前見たいなガキが無詠唱を!?﹂
﹁それはあの世でゆっくりと考えな⋮⋮それじゃあ、さようならだ﹂
その直後、バーカスの視界は真っ赤になり、そしてすぐに真っ暗
になった。それにバーカス本人が気づいたのかはもう、誰にも分か
らない事であるが。
こうして、辺り一帯の異種族を狩る︻軍︼はわずか30分という
速さで壊滅させられたのであった。
438
第31話:圧倒的なまでに︵後書き︶
クロウさんの無双はまだ止まりそうにありませんね。対抗ネタは
考えているのですがどこでだそうか悩み中です。
以下を修正しました。
本日も読んで下さった皆様ありがとうございます。
※9/28
・囚われていた獣族の人数を40名ほどから2、30名ほどに
変更しました。
・誤字脱字を修正しました。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字などがありましたら報告よろしくお願いします。
439
第32話:思い
﹁くぅぅぅぅ∼、やっぱり外の空気はうめぇなあ﹂
とある火山が近くにあるとある森の奥でクロウは大きく背伸びを
していた。その周りを囲むかのように約数十名の獣族たちが助かっ
たと喜び合ってるのと同時に、これから自分たちはどうなるのだろ
うと怯えてもいた。
逃げる。そんな選択肢など初めからない。自分らを捕らえていた
人間を彼はたった数十分で壊滅させたのだ。逃げるてもすぐに追い
つかれるに決まっている。
そして彼はフェイに慕われてもいた。そんな状況下で逃げるなど
選択するものは誰一人としていなかった。
﹁さて⋮⋮これからお前らをどうするかだよなぁ⋮⋮自分たちの村
の場所分かる?﹂
その問いに答える者はいなかった。いや誰一人として答えられな
いのだ。
﹁その⋮⋮私たちの村は⋮⋮滅ぼされて⋮⋮﹂
﹁あー、もう言わなくていい。すまない嫌なの思い出させてしまっ
たな﹂
﹁あの⋮⋮これから私たちをどうするつもりですか?﹂
440
クロウはまいったなぁと後ろ髪を掻きながら呟いた。
﹁お前たちを村に帰せれたらが理想だったんだけど⋮⋮うーん﹂
そして次にクロウの口から出たのは
﹁⋮⋮俺の所に来るか?﹂
だったのだ。
はい、一難去ってまた一難とはこのことですね。ええ、クロウで
す。ただいま大量の獣族に囲まれて絶賛悩み中です。
ほんと、どうしよう。故郷はどこって聞いたら、﹁滅亡していま
す﹂なんだもん。前の俺だったら絶えれないな。日本以外の世界で
住める自信全く無いし。
はぁ⋮⋮こうなったら面倒見るしかないよな⋮⋮見捨てる? そ
んな選択肢など無い! そもそも助けて見捨てるとかどんな悪党だ
441
よ。上げて落とすの典型的な例だな。
しかし面倒見るっても⋮⋮街には入れないしな⋮⋮あっそうかそ
の手があったか。
﹁⋮⋮俺の所に来るか?﹂
﹁⋮⋮へっ?﹂
﹁あー、言葉が悪かったな。住む場所が無いなら俺の所に来るか?
ちょうど大きなお家があってな空き家状態でな。よかったらそこ
で生活でもしてもらおうかなと考えたんだが﹂
﹁ちょっと、クロ何言ってるの?﹂
あっ、そうだエリラは獣族語が話せないんだったな。
﹁ほら、アレ出来ただろ。そこに住んでもらおっかなって﹂
﹁アレって⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮はぁぁぁぁぁぁ!? 本気で言ってる
の!?﹂
﹁あーうるさいぞ。まあ空き部屋多いし別にいいかなって﹂
﹁冗談じゃないわよ! クロ! そもそも何で異種族を助けるよう
なマネをするの!? 普通考えられないわよ!﹂
﹁逆に何で助けないんだよ?﹂
﹁当然よ。幼いころからの教えよ。異種族は虐げるのが普通。遥か
442
昔に起きた大戦で人間は異種族に多くの人々が殺された。それも兵
士だけじゃない。一般市民など無関係の虐殺よ! ここ数十年でこ
こまで戻って来れたのよ! そんなことをやって来た異種族と一緒
の所で寝るの!?﹂
﹁⋮⋮で?﹂
﹁えっ?﹂
﹁それが何なんだ? 昔の奴がやったことを今の子孫たちもすると
は限らないだろ。昔の奴らがやったことは昔の奴らのこと。それで
終わりじゃねぇか﹂
﹁何言ってるの!?﹂
﹁俺からしてみればお前の方が何言ってるの状態だよ。街にも奴隷
としているだろ、それがちょっと同じ家で暮らす程度じゃないか、
そもそも俺がこんな奴らを見放すと思っているのか? 自分の経歴
を思い出してみたらどうだ?﹂
ぐっ⋮⋮とエリラはそこで完全に言葉を詰まらせる。エリラは完
全に忘れていた。自分が奴隷だった事に主であるはずのクロウと普
通に話していたので完全に頭から外れていたのだ。
﹁で、でも異種族とは﹂
﹁はぁ⋮⋮しょうがねぇな﹂
俺はそういうと立ち上がり、服を捲り肩から手の先まで全部見え
るようにして手を突き出した。まさかこんな所でカミングアウトす
443
る羽目になるとはな⋮⋮まあいざとなればエリラには命令すれば問
題ないし。獣族たちは街中に入れば追って来れないし問題ないだろ
⋮⋮たぶん?
ああ、もうなるようになれ!
﹁⋮⋮エリラ、お前はこれを見てもまだ、異種族は悪と決めつける
のか?﹂
﹁はっ? 腕を出して行きなりどうしたの?﹂
﹁⋮⋮スキル︽硬化︾﹂
俺の手が見る見るうちに青くなる。その光景を見たエリラは⋮⋮
なんというか完全に意識が飛んでいませんか? とでも聞きたくな
るような顔をしている。
﹁スキル︽飛行︾﹂
俺の背中に翼が出来、一瞬で上空に上がって見せる。そのまま空
中で飛び回ること30秒。俺はもといた地面に着地した。
﹁⋮⋮﹂
エリラは何も言えなかった。まあそうだろうな、今まで人間だと
思ってた奴がこんなこと出来ちゃうんだもんな。そりゃそういう顔
になるよな。
﹁御覧の通りだ、俺は半分は確かに人間だが半分は違う血が流れて
いるわかるか?﹂
444
﹁あっ、えっ、ま、まさか﹂
﹁そうさ、俺はこの世で最も嫌われている︽ハーフ︾系の種族だ﹂
カミングアウト乙。もうどうにでもなれ∼。俺の頭の中は早くも
川の先にあるお花畑に飛び立ちそうです。
﹁嘘だ⋮⋮﹂
むっ、まだ信じられないか。と言っても俺は龍族みたいに角が常
にあるわけじゃないしなそうなると︽龍の力︾を使うしか﹂
﹁嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!﹂
エリラは両手を頭に着け、地面に顔をつけガクガクと震えている、
そして嘘だと何度も呟いている。やべぇ、これやべぇぞ。
﹁クロウさんは人じゃないのですか?﹂
そんな中で無邪気な反応を見せるのはフェイだ。
﹁いや、半分は人さ。でももう半分は龍族と呼ばれる種族の血が流
れているんだよ。俺の父が人間で母が龍族なんだ﹂
その発言に獣族も完全に言葉を失ってしまった。ただ一名を除いて
﹁すごいですの?﹂
﹁ん? ハーフはかなり嫌われるらしいけど大丈夫なのか?﹂
445
﹁クロウさんはいい人なので平気です!﹂
ドヤッと胸を張るフェイ。これが自分の孫だったらかわいい∼と
か言って抱きしめてそう。いや今でも笑顔がまぶしいです。
﹁そうか、フェイは平気なのか⋮⋮よかったよ﹂
俺はそういうと膝を地面につけ、︽硬化︾していない方の腕をフ
ェイの頭に乗せよしよしする。今なら擬人化に凝っている人の気持
ちが分かるかもしれない。目の前にいるのは猫みたいな耳をしてい
て、しっぽが生えている︵と言うのに下水道を走っているときに気
づいたが、何も言わないで置いた︶まさに猫が人間になったような
感じなのだ。
うん、かわいいな。許してくれ前世の猫耳大好きフレンドよ。俺
も今までかわいさに気づけていなかったようだ。もっとも﹁萌え∼﹂
とか言ってた友達見たいには絶対になりたくないが。
えへへ∼とデレ︵?︶ながらフェイは顔を赤くしている。しっぽ
がフリフリしている。喜んでいると受け取っていいのかな?
おい、フェイのお姉ちゃん。羨ましそうにこちらの顔を見ないで、
気持ちは何となく察しているから!
そして、フェイはここでとんでもない爆弾発言をするのだった。
﹁フェイはクロウさんに付いていきたい! お姉ちゃんだめ?﹂
﹁へっ?﹂ ↑俺
﹁はっ?﹂ ↑フェイのお姉ちゃん
446
﹁⋮⋮え゛?﹂ ↑獣族の皆様
﹁嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ︱︱︱﹂ ↑エリラ
この予想外の反応に俺を含めた︵ほぼ︶全員の思考回路が一瞬停
止するのだった。
﹁ちょっ! フェイ! あなた何を言ってるの!?﹂
﹁ことばの通りです!﹂
目の前で始まる姉妹喧嘩。そしてその喧嘩は他の獣族たち︵主に
大人︶を巻き込んでの乱闘になった。相変わらずエリラは地面に向
かって呟いている。他の乱闘に参加していない獣族たちもどう思う
あれ? とか話している。
447
⋮⋮あの⋮⋮俺⋮⋮置いてけぼりにされていませんか?
﹁何でだめなの!?﹂
﹁駄目とは言っていないわ! でもそんな安易な考えで決めちゃ駄
目でしょ!﹂
﹁あんいに考えていません! それにやくそくしているんです!﹂
約束? そんなもんあったっけ?
で報酬は
私が大切にして
﹁クロウさん、いらいの内容をおぼえていますか?﹂
お姉ちゃんを助けて
だったな。⋮⋮も、もしかして﹂
﹁えーと、確か
いる物
﹁はい、ほうしゅうはわたしなのです!﹂
﹁⋮⋮はああぁぁぁぁぁぁぁ!?﹂ ↑俺&獣族全員
﹁もし、おねえちゃんたちがたすかったら、わたしは、わたしをだ
すつもりでした。ほかに渡せるものなんて何もありませんでしたか
ら﹂
﹁あの報酬欄はそういう意味だったのか⋮⋮﹂
解読できた喜びと、早くいかないとやばいパターンじゃないと言
う思いが重なりすっかり報酬のことなど頭から外れていたのだ。も
っともこんな子供︵人の事言えないが︶から何かを取ろうなんてこ
448
れっぽっちも思っていなかったが。
﹁だからこれはけっていじこうなのです!﹂
アカン、この子将来絶対にアカン人になる。もうそんな雰囲気が
流れとるぞ⋮⋮。
はあ⋮⋮とフェイのお姉ちゃんが頭を悩ませる。お心遣い察しま
す。
﹁⋮⋮クロウさん﹂
フェイのお姉ちゃんが俺の名前を呼んだ。
﹁こうなったらフェイはもう言う事を聞かないので⋮⋮私も付いて
行っていいですか?﹂
﹁いや、あの⋮⋮提案したのは俺だけどいいのか? お前たちから
してもハーフはやばい存在だと聞いたんだけどな﹂
﹁確かにそうです。でも私もクロウさんの言葉を聞いて思いました。
すべての他種族の者が悪い人ではない中にはあなたのような者もい
るんだと、私は今回の出来事で確信しました﹂
﹁おいおい、俺が言うのもなんだが、もう少し疑うとかいう選択肢
は無いのか?﹂
﹁もし、私たちを酷く扱おうと思うならあんな無茶なマネはしない
と思いますけど?﹂
449
あー、単騎で50名ぐらいの山賊たちの集団に突撃したあれか。
割愛させてもらったが、牢屋を出た後にバッタリと出くわした援軍
とマジ衝突して全力だしたら洞窟が崩れそうだから仕方なく︽不殺
︾スキルを発動して剣一本で挑んだだけなんだけどな⋮⋮俺は三○
無双に出てくるキャラかよ。
でも、この姉妹のお蔭で今まで停滞気味だった空気に流れが生じ
始めた。
今まで、どうしようか悩んでいた獣族も時が立つにつれ次第に付
いて来ると言う人が増え始めたのだ。戻る所が無いっているのが一
番の大きな理由だろうけど、あの人たちが言っているんだからと考
えているのもあるんだろう。
結果、すべての獣族が付いて来ることになってしまった。
そうなると、こいつはどうしようか。俺はエリラになんて声を掛
けていいのか悩んでいると。
﹁⋮⋮取りなさい﹂
﹁ん? 何か言ったか?﹂
﹁⋮⋮ん、取りなさい﹂
﹁だからなんt︱︱︱﹂
﹁責任取りなさい!! って言っているのよ!﹂
ウガーと言う効果音と共にエリラが俺に飛びかかってくる。ガシ
450
ッと腕を捕まれそのまま全体重を乗っけて来る。
そして、俺はそのまま押し倒されt︵ゴンッ!︶いたぁ! 頭痛
い! 脳出血していない? 大丈夫俺の脳みそ!? あっ、治癒魔
法使えばいいんだ、そうだ、落ち着け俺!
﹁せ、責任って何のを責任だよ﹂
自分の頭に治癒魔法を掛けながらさっぱり方向性の読めない展開
にどうなってるんだと悩まざる得なかった。
﹁私をブラックリスト入りさせたんだからね⋮⋮﹂
﹁あー﹂
﹁私を幸せにしないと許さないからね!!!!﹂
⋮⋮えっ、なにそれ。
﹁⋮⋮どういうこと?﹂
﹁こういう事よ!﹂
そういうとエリラが俺に顔を近づけてきたt⋮⋮ん? ちょいま
てエリラそれ以上近づいたら⋮⋮
気づくとエリラと俺の唇はくっついていた。
451
えっと⋮⋮これって⋮⋮
⋮⋮キスですよね?
やがて顔を真っ赤にしたエリラが顔から離れていく。俺も上半身
だけ体を起こす。
﹁私にはあなたしかいないのよ﹂
やや震えた声が当たりに響く。
﹁家ではずっと外され者だったし、とかいって叔父が死んだら急に
愛想良くしてくる人がいて、ようやく解放されたと思ったらギルド
ではずっとEランクで問題児扱い⋮⋮﹂
エリラの頬に涙が流れ落ちる。
﹁ソラちゃんもいたけど、それでも彼女は遥か上のBランクの冒険
者で街にいることがほとんどなくて⋮⋮﹂
さっきまでアタフタしてた俺はどこに行ったんだろうなと思いな
がらも、エリラの言葉を一字一句間違えないようにハッキリと覚え
ていく。
452
﹁そこにさらにギルド永久追放⋮⋮死にたいとしか思えないわよ⋮
⋮﹂
そうだよな。前世の俺で言う会社をクビになり国外追放とほとん
ど変わらないもんな。俺も思う間違いなく。
﹁でも⋮⋮あなたは違った⋮⋮奴隷になった私にも普通の人間と一
緒のように接してくれて、色々な事も教えてもらって、色々な物を
もらって⋮⋮今の私は⋮⋮クロがいなければいなかった﹂
﹁エリラ⋮⋮﹂
﹁お願い! 私を一人にしないで!!!!﹂
そう言いながらエリラは俺を抱きしめた。なんだろう⋮⋮すんご
い罪悪感が⋮⋮。マジで本当⋮⋮スイマセン⋮⋮。
でも⋮⋮そうだよな。俺はエリラが自分の過去を話してくれた時
のことを思い出していた。人の優しさに飢えるってこういう事を言
うのかな? 俺は前世の俺を思い浮かべながら静かにエリラを抱き
返した。
もちろん、俺の答えも決まっている。
﹁するわけないだろ。お前を絶対一人になんかさせねぇ⋮⋮誓うよ﹂
﹁⋮⋮本当?﹂
﹁ああ、本当さ﹂
453
その言葉に、エリラは遂に声を上げて泣きだした。
そうか、獣族と一緒になることを嫌っていたんじゃないんだな。
離れることを恐れていたのか。おそらくこの獣族たちが人間だった
としても色々理由を付けて拒否していただろうな。
俺はエリラが泣きやむまでそっと彼女を抱きしめて上げていたの
だ。
すいません獣族の皆さん。こちらのゴタゴタに巻き込んでしまっ
て。
﹁で、エリラ、さっきの話なんだが⋮⋮いいのか?﹂
エリラは涙を拭うとハッキリと答えた。
﹁ええ、あなたと一緒にいれるなら獣族でもなんでも来なさい!﹂
おっ、いつものエリラに戻ったな。でも顔が赤いぞ。俺もたぶん
かなり赤くなってると思うけど、そこはスキル︽ポーカーフェイス
︾に頑張ってもらおう。
454
﹁さて、決まったな﹂
家
にな!!!!﹂
俺はエリラを支えながら立ち上がり、周囲で見守っていた獣族た
ちを見回し。
﹁帰るぞ。俺たちの
俺の高らかな宣言が太陽が沈み始めた夕暮を背景に鳴り響いた。
455
第32話:思い︵後書き︶
やっちまった⋮⋮もう後には引けない。という後悔を何回もして
いる気がしますが︵笑︶ 今回のお話は正直いれようかどうか迷っ
たのですが最終的に入れることにしました。
それにしても⋮⋮こういう話って書くのが本当に難しいですよね、
改めて思い知らされました。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字などがありましたら報告よろしくお願いします。
456
第33話:自宅と打ち上げ花火
クロウです、買ったばかりの屋敷の庭で子供たちのお相手をして
います。遊び内容は﹁鬼ごっこ﹂です。でもただの鬼ごっこではあ
りません。まるで某世界最速ランナー並の速度で行われています。
そして数にして15名。全員が鬼です。そう俺はなぜか逃げる方に
なっているのです。
素晴らしい、脚力です。あっちの世界なら全員間違いなく足で世
界一になれます。オリンピックとかメダル完全独占している気がし
ます。
えっ、つまり何が言いたいかって?
助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
=====前日=====
エルシオンの郊外で俺はどうしようか悩んでいた。
﹁さて、どうやって街に入ろうか﹂
457
忘れていたが街に入るには異種族は奴隷である必要があるのだ。
侵入するだけならあのリバースしような悪臭が漂っている下水道を
通ればいいんだからな。
でも、街中で奴隷の首輪を付けていない異種族が歩いていたら捕
縛ものである。
﹁でもなぁ⋮⋮﹂
解決方法は簡単である。俺の︽契約︾を使えばいいのだが、どう
も気が⋮⋮でもなぁ⋮⋮
そんな俺を助けてくれたのは他でもない獣族の人たちだった。
﹁心配なされずとも、私たちもそれを覚悟で来ているのです。気に
することなく奴隷にしてください﹂
﹁⋮⋮すまないな﹂
﹁いえ、感謝しなければならないのはこちらの方なのですから﹂
俺は総勢25名の獣族たち全員に︽契約︾を施した。つまり全員
が俺の奴隷と言うことだ。だが契約内容はエリラとやや強制的にな
った時のと内容は大きく違う。
一、命令の指示があるとき以外は好きにしてよい
これのみである。本当は形契約内容なんかいらないんだけど、さ
すがにゼロにすることは出来ないようで何らかの服従関係の証が必
458
要見たいなのだ。。だから︻命令︼という指示を出すとき以外は自
由にしていいと言う契約内容が限界だった。ちなみにこの契約内容
は既にエリラにも反映してある。
エリラ曰く、﹁普通こんな契約内容ありえないわよ﹂との事。い
いじゃん、俺の好き勝手で。
見知られた兵士や街の人々にかなり驚かれたが﹁奴隷を入れてい
た行商人が襲われて助けたんだけど、行商人は死んでいて仕方なく
連れてきた﹂と嘘を言っておいた。一応、これから奴隷になった理
由はと聞かれるとこう答えるようにと︻命令︼しておいた。これで
口外されたら俺やばいよな?
あと俺の︽倉庫︾の中身ももう絶対に見られてはまずい内容にな
ってしまっていた。何故なら回収したアイテムの中にこんなものが
混じっていたからだ。
>>アイテム名:アルダスマン国の旗
他にも剣とか、魔法符とかどう考えても一個の山賊が持っている
ような装備じゃないものがてんてこ舞いだった。
さらに統領の称号にも
>>称号:アルダスマン国軍騎士
つまり、俺が襲撃した山賊は国の正式な手続きを踏んだ軍だった
のだ。
表上では有名な山賊で裏では異種族狩りをする兵士と言う事か。
459
一応、全滅させておいたし問題はないと思うけど、ちなみに助け
た山賊もこれを見た瞬間抹殺しました。本当二度としたくねぇよ⋮
⋮。
つまりバレれば俺は国で指名手配犯になるということだ。つーか
下手すれば世界規模での指名手配犯になりかねんぞこれは。
今のところはバレてないと思うがこれがいつなんどきまで続くか
⋮⋮不安で胃が痛くなりそうだ。
そして、俺はその足でとある所に顔を出してさっさと取引をして
来た︵半分逃げるように︶。もらったのは家の契約書。数か月前に
俺が逃げないと宣言した形で一番でけぇのと頼んだ結果がこれだ。
=====そして時間は次の日︵今日︶に=====
正直に言おう、お城じゃないですよね? エルシオンの北部にあ
るその豪邸は2階建てだったが、とんでも無く広かった。
敷地面積:普通の高校ぐらい?
部屋の数:⋮⋮200名ぐらいは行けそう?︵詳しい数は不明︶
その他設備:完☆璧
⋮⋮って、思わず☆マークつけちゃった。いやマジですげぇ、さ
すがに鍛冶屋まではなかったけど、調合セット一式があるし、風呂
もあるし、めっちゃいいじゃん、台所もきれいだ。さすがに日本の
レベルと比べると酷になっちゃうけどな。
あっ前日は全員で仲良く野宿しました。携帯食料しか持ってなか
460
ったけどそれなりに楽しい夜だったなぁ。
ちなみに、この家のお値段⋮⋮小さな村なら軽く買えそうな金額
です。さすがに俺でも足りなかったが、ランクC以上の冒険者が特
別に借りれるギルドからのお金があるらしい。基本的に無尽蔵だが、
当然期限までに返しきれなかったらブラックリスト入り+全ギルド
に緊急依頼として討伐依頼が出されるとのこと、oh...ギルド
本気になりすぎでしょう。自分のお金が持ち逃げされればまあ起こ
りますけどね。
まあ、今回は俺だから良かったみたいだけど。ここ最近すっかり
有名になった見たいだしな。
で、部屋の中にも色々装飾品があったんだけど、なんつーか俺、
貴族じゃないからそんなの分からないんだけどな。
と、言う事で
﹁エリラ、この装飾はそのままでいいのか確かめてくれないか?﹂
﹁えっ、私でいいの?﹂
﹁仮でも、貴族の家に入った事あるんならいくらかわかるだろ?﹂
﹁まあ、わかった、じゃあこの人たち連れて行くよ?﹂
と、言って獣族の女性を連れて行こうとする。
﹁ん? 連れて行ってどうするの?﹂
﹁そりゃあ、手伝わせる﹂
461
キリッじゃねーよ。
﹁子供どうする?﹂
﹁遊ばせておいたら?﹂
﹁遊ばせるねぇ⋮⋮獣族って何するの?﹂
﹁知らないわよ。そもそも私言葉分からないし﹂
﹁じゃあ、どうやって指示出すんだよ﹂
﹁気合いで﹂
いや、そんな問題じゃなと思うんだが。まあ、そんな感じでアリ
サは10名の獣族を連れてお部屋探索に行った。
で、残った俺と子供たち。フェイも一応いるから大丈夫かな?
﹁なあ、フェイ、獣族って何して遊ぶんだ?﹂
﹁おにごっこー﹂
﹁鬼ごっこ?﹂
462
おっ、それなら出来そうだな。
﹁でも、クロウお兄ちゃんでだいじょうぶかな﹂
﹁⋮⋮何度聞いても慣れないな﹂
お、お兄ちゃんって、というのも年齢も俺とほぼ同じみたいだっ
たので﹁じゃあお兄ちゃんで!﹂と言われまあそのままおkしたパ
ターンだ。ちなみに聞いた瞬間フェイのお姉ちゃんが吹いていまし
た。最初は驚いていたみたいですけどそのうち﹁弟が出来たみたい﹂
なんて言いながら照れていた。いや、なんでお前が照れるんだよ。
﹁まっ、いいか、わかったじゃあ鬼は?﹂
﹁えっ、もちろんきまっていますよ﹂
そういうと獣族の子供が全員前に出る。
﹁⋮⋮えっ、もしかして﹂
﹁そうです。わたしたちたちぜんいんがおになのです﹂
そして、冒頭の嘆きに場面は戻ってくる。いや、これ意外ときつ
463
いよ、俺みたいなチートクラスのスキル&ステータス持ちでもきつ
いよ。よく子供たち出来るな。あっ、そういえば獣族って素早さに
補正がかかるんだっけ? それで走って体力の底上げが行われてい
るのか?
﹁ヘルプゥ!! 誰か俺を助けてくれぇ!!﹂
﹁お兄ちゃんまてぇ!﹂
﹁かこめーかこめー﹂
あ、アカン最初はみんな単独で来ていたのにマジで捕まえに来て
いる! 作戦練りだしているよ。どうしよう本気になれば余裕だけ
ど土抉っちゃうし、魔法もあまりに高威力過ぎるし、だぁああああ
ああ!!!!
﹁あっ、クロー終わったわよー﹂
装飾隊が戻ってきてくれたこれで終わった!
﹁ちょ、エリラ! 助けてくれ!﹂
﹁がんばれ☆︵キュピーン﹂
ぎゃぁぁぁぁぁぁ、フラグが回収されたぁぁぁぁぁ!!!!
つーか、何その笑顔! ぺ○ちゃん思い出したの俺だけですかね
!? ええ、俺だけですよね少なくともこの世界では!! 俺しか
知ってないもんね!
﹁すごい、クロウ様あの子たち全員を相手にしているわ﹂
464
﹁大人でも3人が限界なのに﹂
﹁魔法を使っても5人が限界ですよね﹂
おとなぁ!! 仕事しろよ! つーか、ただの遊びに魔法使って
るの!? どんだけデンジャラスなんだよ獣族の子供たちは!
﹁くそぉ、魔法は使わないぞ! 俺のプライドが許さないからな!
!﹂
でも、せめて地面は硬くしていいですか?
﹁魔法無しでは10分と持たないはずですけど⋮⋮﹂
嘘つけ! もうかれこれ30分は動いているぞ! こいつらもさ
すがに息が上がって来てるけどおかしいぞ! いや、それに付いて
行ってる俺もどうかと思うけどさ。普通人間って200メートルを
全力疾走すればリバースしてしまうんだよな!?
そして、いよいよ連携を本格的に組んできて俺を捕まえに入った
ようだ。
﹁ぜんほうこうから行くです!﹂
﹁﹁﹁おおおっっっ!!!!﹂﹂﹂
あっ、やべ囲まれた。こうなるとやべぇなあ⋮⋮仕方ない悪く思
うなよ。
465
俺は足を上げると、強めに地面を踏み抜く。ドッと音と共にわず
かに地面が揺れ俺を中心に衝撃波が走った。
﹁ぎゃっ﹂
﹁うきゅー!﹂
﹁な、なんなのですぅぅ!?﹂
風圧に負け転がりながら爆心地である俺から離れていく。煙が無
くなると俺の辺りは地面が凹んでおりクレーターを作ってしまって
いた。
﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂
それを見た全員がその場で固まってしまう。ま、まだこれでも全
力じゃないんだよ!? 俺も自分の全力なんてほとんど見ないけど。
﹁⋮⋮す﹂
ん?
﹁すごいですぅ!﹂
フェイのその言葉を皮切りに子供たちが近寄ってくる。﹁もっと
見せてー﹂とせがまれるのとか初めてだな。
﹁⋮⋮あのなんで獣族はこんなに元気なのでしょうか?﹂
無邪気とは恐ろしいです。
466
﹁わかったから、はい、ここを離れて⋮⋮って面倒だからまとめて
やっちゃえ︽空術︾!﹂
子供たち全員を浮かび上がらせる。子供たちはキョトンとしてい
たり、どうなってるのとはしゃいでいるのもいる。反対に女性たち
からは﹁あわわわわ、だ、大丈夫なの!?﹂とか言っているが、ま
あそこは俺を信じて下さい。てか地上5メートルぐらいから落とし
ても猫みたいな反射神経で着地しそうだよな⋮⋮いや、やるなこい
つらなら。
﹁さて、整地整地∼﹂
俺は魔法で地面を埋めていく。子供たちからしてみればすべてが
見たことないような魔法なのだろう。︵まあ威力がただ単に桁違い
なだけなのが多そうだけど︶
その後がんばっておかげで、地面は綺麗に元通りになりました。
﹁⋮⋮相変わらずクロの魔法には驚かされるわね﹂
﹁これが得意分野だからな﹂
エリラが半分呆れたような顔をした。まあそうですよね。もっと
も修行していたときはもっとえげつないクレーターを作っていたの
ですが。
﹁クロウお兄ちゃんもっと∼﹂
ああ、完全にさっきの魔法を見せたのは失敗だった。そんなキラ
467
キラした目で見つめないでくれよ。
それに綺麗な物でもないし⋮⋮綺麗? ⋮⋮あっ
すげぇ、俺、超お手軽な魔法を忘れていたジャン。お手軽って言
っても魔力はそれなりに使うと思うけど、これなら派手だし楽しめ
るよな。
﹁︽花火︾!﹂
手を天に突き上げる。丸い火の玉が真っ直ぐに上空へ飛んでいき
そして
︱︱︱︱︱ドーン
それは暗くなり始めた夕方の空に綺麗な円形の光を写し出し一瞬
にして消えてしまった。
﹁すご∼い﹂
﹁きれいなのです∼﹂
﹁⋮⋮すごい綺麗でしたね﹂
﹁はは、私も見たことなかったわよあんな魔法﹂
花火の文化ってこっちには無いんかな? まあそれならよりこの
美しさが分かるって物でしょ。
﹁ほら、あんまり打ち上げないからしっかり見てろよ﹂
468
こうして、俺は10分間の間魔法を撃ち続けた。炎ばかりでは色
が悲しいので氷を混ぜたり雷を応用してはじけさせたり、またはす
べての属性を織り交ぜた特大を打ち上げたりと結局1000発ぐら
い撃った気がする。さすがにこれ以上撃ったら近所にも迷惑を掛け
そうです。と言っても近くが敷地内なのですが。
﹁楽しかったです!﹂
﹁また明日もやるです!﹂
いや、勘弁して俺の体力が持たないから。
︱︱︱特別条件﹃無尽蔵なスタミナ﹄を満たしました。
>スキル︽絶倫︾を取得しました。
なんかいかにもこれっと言った感じのスキルだな。ちなみに昨日
もかなりの称号やスキルが手に入ったけど割愛させてもらっていま
す。なぜかって? だって︽世界の異端者︾とか︽アルマスダン国
の朝敵︾とかおかしすぎる称号手に入れちゃったもん! これはも
う絶対に見せれない! 隠蔽だ! 隠蔽! 称号:﹃世界の異端者﹄
取得条件:世界の常識に反することをやること。
取得スキル;:︱
効果:精神耐性に大幅補正
称号:﹃アルマスダン国の朝敵﹄
469
取得条件:特定の国に対しての犯行を行うこと。
取得スキル:︱
効果:もし称号がバレたら⋮⋮ねぇ
称号:﹃無尽蔵なスタミナ﹄
取得条件:特定の体力を使う事。
取得スキル:︽絶倫︾
効果:筋力・敏捷・生命ステータスに大幅補正
スキル名:︽絶倫︾
分類:戦闘スキル
効果:筋力・敏捷・生命のステータスが2倍になる。
⋮⋮もう突っ込まないぞ、つーか殆どが文字通りだな⋮⋮ってお
スキル
い、真ん中の称号! 効果説明しろ! いや大体わかってるからい
いけどさ。怖いよ! ︽神眼の分析︾さん仕事して! 人間離れし
た称号得ても仕事していたでしょ! 初心を思い返して! ⋮⋮い
やまて、何で俺はスキルにツッコミを入れているんだ?
ああ、多分疲れているんですよね。まあ一晩寝れば⋮⋮
︱︱︱特別条件﹃華やかな魔法﹄を取得しました。
>>スキル︽装飾技師︾を取得しました。
スキル名:︽装飾技師︾
分類:生活スキル
効果:製作系に関わるすべてのスキル発動時に器用の
ステータスが大幅修正。
常に器用のステータスに補正がかかる。
470
クロウ ノ ライフ ハ ゼロ ニ ナリマシタ
この後、装飾を変えた家の中で灰になったかのように燃え尽きて
いたのだ。燃え尽きたぜ⋮⋮真っ白になと言うどこかで聞いたこと
ある名言がピッタリ合いそうな雰囲気がただよっていたとのことで
す。
ちなみに部屋は親族に一部屋ずつ振り分け、親がいない所は逆に
子供がいない女性に任せることにした。﹁成長したら一部屋だよな
ぁ﹂と俺が呟くと一緒に振り分けをしていた獣族の女性たちが一斉
に青ざめた気がした。何か言ったか? と聞くと﹁ふ、普通こんな
ところで過ごせるのもすごいのにさらに部屋を一人に一つ与えるも
のなのですか?﹂との事。
こういう時はエリラに聞くのが一番だ。
﹁おかしい、獣族たちに普通は与えないよ﹂
デスヨネー。まっ俺らの家だから好きにやっていいよなと言う事
で決めました。皆さん出来る限り近い所がいいですよね。
遠くの部屋で﹁このお布団やわらかいです!﹂﹁こんなの始めて
だ!﹂とか言う声が聞こえている。まあ喜んでくれたのならよかっ
たよ。
こうして、俺の新しい住居での生活は始まったのだ。
471
後日
﹁あれ? どうしたんですか? ミュルトさん?﹂
﹁あっ、クロウさんちょうどよかったです、緊急の依頼なのですが
いいですか?﹂
﹁緊急依頼? ケルベロスでも現れたのですか?﹂
﹁いえ、国の森林調査隊が昨夜全滅させられたとのことがあり協力
要請が国から来ているのですよ。なんでも隊長だったバーカスも戦
死したとか﹂
﹁ヘータイヘンデスネー﹂
﹁?? どうしたのですか? ちょっと顔色が優れないようですが
?﹂
﹁いえ、昨日、走り回らされたので疲労が⋮⋮﹂
﹁ああ、そういえば昨日町の北部で何か音がし続けていたらしいの
ですが何か知っていますか?﹂
﹁それは、俺が魔法をちょいと練習していたときですね。特に何も
知りませんけど?﹂
﹁なにやら町中の魔道士たちが騒いでいるのですよ、﹁何としても
正体を突き止めて教えてもらわなければとかいって血眼で探してい
472
るみたいですが?﹂
﹁ハハ ガンバッテ ホシイデスネ﹂
﹁⋮⋮大丈夫ですか? ご自宅に戻られた方が⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そうさせてもらいます。まだちょっとフラフラするので﹂
別の意味でな。こうして俺は逃げるかのようにギルドを後にした
のだ。まずいな今後は打つ場所を考えておかないとな。
473
第33話:自宅と打ち上げ花火︵後書き︶
最近、主人公のスキルとか称号の説明もしていませんでしたので、
それを兼ねての花火をしました。
これ以外にも書いていないところでたくさんの称号を持っている
のですが、それはまた後日、公開したいと思います。
※アドバイス、感想などがありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字報告などがありましたら報告お願いします。
474
第34話:推薦
クロウです。突然のお呼び出しのときにはいつもビクビクして怯
えていました。特に上司からの呼び出しだとどんな無茶を言われる
のかと思われると胃が痛くなりそうでした。
﹁さて、突然呼び出したりしてすまないな﹂
﹁いえ、で要件は?﹂
俺の軍隊壊滅事件から4日のことだった。俺は何故かギルドのギ
ルマス室に呼び出されていた。
﹁なに、お主に推薦状が届いておるのだよ﹂
推薦状? なんじゃそりゃ。
﹁どんな推薦状なのですか?﹂
﹁魔法学園からのな﹂
魔法学園? たしかごく貴族の子供たちが通うお坊ちゃま学園と
か聞いたことがある気がするんだが、そんなところから?
﹁何、別に珍しい話では無いわい。だいたい16歳ぐらいまでの優
秀な冒険者はたまにこうやって推薦状が届くのじゃよ。まあお主は
たぶん最年少だろうがな﹂
475
なるほどな、そんな推薦状があるのか。でも俺は今は家の方をど
うにかしたいんだけどな⋮⋮。
﹁まあ、これは言わば学園からの命令書に近いがのぉ﹂
﹁学園から?﹂
﹁そもそも魔法学園は、組織自体は独立しておるが、国が自国の地
位を見せるためや実力を向上させるために自分直属の者を送り込む
ことがあるんじゃよ。ようは権力問題じゃな、色々な国から色々な
人が集まるからのぉ、ストッパーが欲しいのかもしれないの﹂
﹁でも、それだと冒険者を送ると言う意味がいまいち理解できませ
んが⋮⋮、冒険者がそんな一国の者と対等に渡り合えるわけがない
じゃないですか?﹂
﹁外ではな、だが学園内では生徒は全員対等という決まりごとがあ
る。そこに実力が高い若手の冒険者が出てくると、国の奴らは欲し
がる。この前のお主のようにな。そしてさりげなく勧誘して来る。
あくまで表面上は仲良くしような。という感じでだがな﹂
﹁⋮⋮それって問題ごとを冒険者に押し付けている用に聞こえるの
ですが?﹂
﹁結論から言えばそうなるな。学園内では無闇な行動は取れないが
優秀であればあるほどどの国も積極的にやってきてそして、他の国
とぶつかり合う。学園はそこで喧嘩と同感覚で処分したいのだろう
な﹂
﹁冒険者にサンドバックさせているのと何もかわらないじゃないで
476
すか⋮⋮﹂
﹁まっ、冒険者も色々な魔法技術などに触れれるから誰もが一度は
行ってみたいとらしいがな﹂
俺はそれに行く必要なくね? いや待てよ、もしかしたらそこに
は俺も知らないような魔法もあるのかもしれないな。
﹁そういえば、その学園の場所ってどこですか?﹂
﹁エルシオンを東に50キロと言ったところか﹂
結構あるな。そうなると家からの通いは無理か⋮⋮いや、あれを
使えば⋮⋮
﹁でも、その間家が心配ですけどね、エリラやこの前連れてきた獣
族も放置ですか﹂
﹁そういえばそんな事を言っておったの、獣族は知らんがエリラな
ら奴隷として連れて行けばよいではないか。学園内でも一人だけな
ら付き添い人を連れていけれるからの﹂
⋮⋮なんでだろ、なんだか嫌な予感しかしない所だな。
﹁ちなみに期間は?﹂
﹁確か6年だったかの。まあお主らみたいな冒険者は授業など受け
なくて良いし半分自由に何してもいいようなところだな﹂
﹁それ学園っていうのですか?﹂
477
少なくとも日本ではないぞ。
﹁あくまで推薦で入った奴のみじゃよ、そいつらは冒険者としての
仕事もあるだろうから月に一回ある朝礼に顔を出しとけばあとは好
き勝手やってくださいっていうパターンじゃよ﹂
ルーズすぎね!? まあ冒険者としてやってきたのならと分から
ない気がしないけどよ!!
﹁で、どうするか?﹂
﹁うーん⋮⋮﹂
家にアレを置いとけばなんとかなるし、ほとんど自由ならこの世
界の魔法に付いてももう少しわかるかもしれないな。そうすれば魔
法具を作るのも捗りそうだな。
﹁まっ、おもしろいかもしれませんからいいですよ。その推薦受け
入れます﹂
﹁そうか、それでは今から1週間後に魔法学園に向かってくれ、そ
こで詳しい話を聞けるじゃろ﹂
﹁はぁ、まあわかりました﹂
こうして、俺は魔法学園へと入ることになった。貴族たちに絡ま
れるのは面倒なんだよな。主にウグラとのやり取りもあったし面倒
な奴らが多そうだ⋮⋮。
でも魔法学園とか言うぐらいなら必ず俺の知らない魔法なんかも
478
あるかもしれないし半分楽しみでもあるよな。
⋮⋮まあ8割方面倒事が待っていそうですが。
479
第34話:推薦︵後書き︶
学園編開始です。といっても学園が中心になるわけでもないので
すが︵笑︶
480
第35話:魔法学園
﹁でけぇ∼⋮⋮﹂
初めて見た感想はコレだ。昔大きいどーむに行ったことあるけど
そこよりも大きそうだ。
ここはエルシオンより東にある都市﹁ハルマネ﹂。商業都市とし
て栄えている一方。大陸有数の魔法学園もあり、魔法都市とも言わ
れることがあるらしい。
そして、俺は今、その有数の魔法学園の建物の近くにいる。
﹁って、見惚れている場合じゃねぇな。どこにいればいいんだ?﹂
学園の外周りを回ること10分。俺はようやく正門にたどり着い
た。いや大きすぎでしょ? 直線距離でこの長さって一体⋮⋮。
顔を見上げると学園の規模の大きさが見て取れた。赤いレンガで
作られた校舎らしき建物を中心に色々な施設が見えている。ただし
透視と千里眼を使用して見える範囲でのお話だが。
門をくぐり受付らしき所に向かう。
それにしても今日は休みかな? ほとんど人の姿は見えない静か
な学校ってなんか嫌だな、俺の個人的な感想だけど。
そうこうしている内に受付の所へとたどり着く。
481
﹁あの、クロウですけど﹂
﹁クロウさんですね、お待ちしていました。こちらへどうぞ﹂
受付の女性は笑顔で俺を案内してくれた。案内してくれた個室で
待つこと5分。コンコンとドアをノックする音が聞こえ続いて人が
中に入ってくる。
俺は入ってきた人物の顔を見て驚いた。日本では大体どこの学校
も校長先生といえば歳がある程度行った中高年の男性が俺のイメー
ジだったんだが、現れたのはまだどう見ても20代ぐらいの女性だ
ったのだ。秘書とかかな?
﹁あなたがクロウ・アルエレス君ね。初めましてこの魔法学園を統
括しているアルゼリカ・マーベルです。よろしくね﹂
あっ、マジで校長だった。
﹁えーと、初めましてクロウ・アルエレスです﹂
挨拶と共に握手を交わす。アルゼリカは笑顔で俺の顔を見ている。
楽しそうですねあなた。
﹁フフ、まだ6歳の子供って聞いていたんだけど、随分と大人びて
いるわね﹂
﹁そうですか?﹂
まあ見た目は6歳でも中身はいい年した20代の精神だからな。
どこかの某名探偵じゃないぞ。あんなに頭は切れる方だとは思って
482
いないし。
﹁では、さっそく話を始めましょうか、まずは推薦を受けて頂いて
ありがとうございます﹂
﹁いえ、私も学園って所に興味があったのでうれしいお誘いです﹂
﹁そうですか、それはなにより、ではあなたが編入する特待生につ
いてですが⋮⋮基本的に自由です。授業などのカルキュラムなどは
組み込まれていませんので、どこの授業に入っても結構です。逆に
授業を受けずないでも構いません。あなたの場合は冒険者ですので
依頼を受けても構いません。ただし月一である朝礼にだけは出席し
て頂きます﹂
﹁依頼が一か月以上かかる物だったら?﹂
﹁その場合は特待生の担任を務めている人に届け出をしたら問題あ
りませんよ。あっ担任は私ですので、依頼などで無理な時は気軽に
どうぞ﹂
﹁えっ、担任?﹂
校長先生だよね?
﹁はい、ここの学園では校長が特待生の担任も兼任することになっ
ているのです。推薦を出すのは校長の権限なのですが、そこ代わり
に面倒を見ることが前提ですので﹂
なるほどな、自分で呼んだんだから自分で責任を取れと言う事か。
まあ月一の朝礼以外は校長の仕事が中心だろうからあまり支障はき
483
たさないのかな。
﹁わかりました﹂
﹁あと、特待生枠は一人だけ従者を付けることが出来ますがどうし
ますか?﹂
﹁一応、一人候補はいるのですが、従者はなんで必要なのですか?﹂
﹁理由はいくつかあります。まず自分の身の回りの世話。勉学だけ
に集中してもらいたいからです。次にあるていど実力、または地位
をあることを周囲に見せるためですね﹂
なるほどな、なんかメイド見たいな役割なんだな。
その後も、学校に入学する上での諸注意や軽い説明を受けたのち
何故か俺は闘技場に立たされていた。
もう一度言います。私は今闘技場に立たされています。
484
﹁えっと、何が始まるのでしょうか?﹂
﹁まずはあなたの実力を見せてもらいます。これは特待生枠では必
ず行う事で試験などではないのでその辺はリラックスしてください﹂
いやいや、リラックスってこんな闘技場のど真ん中に急に立たさ
れてリラックスなんか出来るか!
﹁では、お願いします﹂
⋮⋮あれ? 出てこないぞ? 俺の正面にはいかにも何か出てく
るっぽい出入り口が口を開いていた。だが一向に時間が立っても出
る気配が感じられない。
﹁⋮⋮まだかな﹂
そう呟いたとき
﹁ふはっはっはっはっーーーー!!!!﹂
バッと後ろを振り向くと観客駅の上に何故かマスクをした謎の少
年がポーズを決めて立っていた。
﹁⋮⋮﹂
﹁とうっ!﹂
シュパッと言う音と共に観客席からジャンプをするとそのまま華
麗な空中三回転を決め︱︱︱
485
︵ゴキッ︶﹁あばっ!?﹂
⋮⋮れませんでした。
アルゼリカさんの方からため息が漏れている。
﹁シュラ君。ふざけないでサッサと立ちなさい﹂
頭から砂の地面に突き刺さっていた少年はよっこらせっと地面か
ら頭を外す。あの⋮⋮大丈夫なの? さっき ゴキッ って音が聞
こえたんだけど。
俺の心配を余所にシュラと言われた少年は砂を払い落とす。﹁よ
しっ、大丈夫だな﹂と自分の身の周りを確認してから
﹁俺はシュラだ! よろしくな!﹂
﹁あっ、はい、よろしくお願いします﹂
﹁⋮⋮シュラ君はあなたと同じ特待生で去年入学して来たわ。クロ
ウ君、あなたには今から彼と模擬戦をしてもらいます﹂
﹁と言う訳だ! よろしく頼むぜクロウ!﹂
⋮⋮嫌にテンションたけぇな。
﹁では二人とも位置に付いて、始めるわよ﹂
﹁はい﹂
﹁おう!﹂
486
⋮⋮なんでだろ、ここ最近闘技場にやたらと縁がある気がするの
ですが。
﹁準備はいいですか?﹂
﹁いつでも﹂
﹁気合い入れていくぜ﹂
﹁武器は使わないようにね﹂
魔法学園だから魔法を見せるのか。どっちにせよ今の俺は普通の
武器を持ってきていないからだせるにだせないんだけどな。後で普
通の剣買っておくか。
487
﹁では⋮⋮はじめ!﹂
先手を取ったのはシュラだ。開始と同時に一気に俺との距離を詰
めだした。俺は距離を置くことよりも防御魔方陣を展開する方を優
先させる。
﹁くらえぇ!﹂
﹁︽防壁︾﹂
ドォンとシュラの拳が俺の防壁を壊そうと襲い掛かって来る。
てか、武器は禁止だけど格闘戦はいいんだね。つーか音やばい!
どう考えても普通に受けたら骨の一本や二本は軽くいきそうなの
ですが!?
﹁おおっ! すげえな俺のパンチを初手で止めたか!﹂
シュラの歓喜の声が聞こえる。いや止められてうれしいのですか?
﹁よしっ、次は全力で行くぞ! 簡単に終わらないでくれよな﹂
⋮⋮えっ、全力じゃなかったの?
再び同じ構えを取るシュラ。俺は防壁を今度は二連式にして防御
態勢を取る。
﹁︽崩拳︾!﹂
うげっ、技使ってきか!?
488
防壁と拳がぶつかり合い当たりに砂吹雪が舞い上がる。今度の攻
撃も防ぐことは出来たが防壁の一部にヒビが入っているのが見て取
れた。
あぶねぇ⋮⋮普通の︽防壁︾だったら完全に貫いていたぞこれ。
﹁今のはなんだ?﹂
﹁︽防壁︾ですよ﹂
﹁いや、ただの防壁じゃないだろ? 殴った時の感触が普通の︽防
壁︾とは若干違った気がしてな﹂
ぐっ、鋭い⋮⋮
﹁まあ、少しだけアレンジが入っているいますけど﹂
少しレベルじゃないけどな。
﹁すげぇな、お前ちっこいのにすげぇな! 燃えて来たぜ!﹂
完全にスイッチ入っているよなこれ⋮⋮。
こうなると俺も応戦をするしかないよな。左手をバッと横に広げ
ると魔方陣が俺の周りに展開した。数にして20個。大きさは人間
の頭ぐらいの大きさしかない小さな物だ。
﹁おっ、どんな魔法を放つんだ?﹂
489
﹁まあ見ていればわかりますよ⋮⋮︽魔弾︾﹂
各魔方陣の中央から一斉に放たれる魔力の塊。形は今風の銃弾で
もよかったんだけどあえて昔風の球体風だ。
﹁ぬぉ!?﹂
一斉に襲い掛かって来る魔弾を回避するシュラ。右左空中って自
在に逃げ回るな、おい今空中を蹴らなかったか!?
ならば⋮⋮俺は魔方陣を切り替え︵もちろん外部からは分からな
いように︶直線型から追尾型へと切り替える。
当然、今までの動きから一転、逃げても逃げても付いて来る魔弾
にシュラも回避に苦労しているな。
﹁なんで急についてくるんだ!? お前何したんだよ!?﹂
﹁ちょっと球質を変えたのですよ、ほらしゃべってていいのですか
?﹂
気づくとシュラを囲むように魔弾が空中でホバリングしていた。
俺が撃った魔弾だから俺も操作できるからな。
﹁げっ!?﹂
ラッシュショット
﹁︽乱撃弾︾!﹂
全方位からの一斉射撃。さてどう回避するk︱︱︱
︵ズガガガガガァン︶﹁あぎゃあぁぁぁぁ!!!!﹂
490
⋮⋮しませんでした。
無残にも全方位からの総攻撃で地面に伏してしまったシュラの姿
がめっちゃ悲壮感漂わせている。
﹁そこまで!﹂
アルゼリカの声と共に勝負は終わった。
﹁実力はある程度見させてもらったわ。素晴らしい実力ね。特に魔
力の球を自分で操作するなんて簡単に出来ることじゃないのにね﹂
﹁ありがとうございます﹂
﹁さてシュラ君は医務室に運ばないと﹂
﹁いえ、必要ありませんよ﹂
俺はサッと治癒魔法をかける。ほどなくしてシュラがガバッと起
き上り辺りを見渡す。
﹁ハッ!? 俺は今まで﹂
﹁ほら、シュラ君の負けよ。それにしてもクロウ君治癒魔法まで使
えるのね、他にも持っていたりするの?﹂
﹁え、えーと一応土魔法を﹂
﹁三種類の魔法を扱う魔道士なんてね﹂
491
﹁クッ! 俺もまだまだなのかぁ!﹂
﹁当然よ、世の中にあなたより強い人なんていくらでもいるわ、で
は本日は解散。明日は一か月に一度の朝礼ですので、必ず顔を出す
ようにね﹂
﹁はい、わかりました﹂
﹁へーい﹂
﹁シュラ君?﹂
あ、あの⋮⋮アルゼリカさんの背後から負のオーラが見えるので
すが
﹁は、はい! わかりました!﹂
さすがにビビッたのかスッと立ち上がり最高とも言えそうな敬礼
をするシュラ。アルゼリカはニコッとすると﹁じゃあまた明日ね﹂
と行って去って行った。
﹁くそっ、帰ったら早速修行しなおすぜ! クロウ! 今度は負け
ないからな!﹂
そういうとシュラは猛ダッシュで帰っていった。いや⋮⋮早すぎ
ませんか?
﹁⋮⋮って新入生の俺軽く放置?﹂
492
本当にルーズなんだな。まっ気楽でいいか。俺はそう考えること
にし自宅に帰ることにした。もっとももう夕暮なので歩いて帰れば
何日かかるやら。
なので、ここは俺のチートっぷりを発動させてもらおう。
とりあえず怪しまれないように校門から出ると、そのまま賑やか
な繁華街へと向かう。そして繁華街に付くととりあえず人目の着か
ない裏手へと出る。
﹁よし、ここなら問題ないな﹂
周囲に誰もいないことを確認し、意識を集中させる。
ゲート
﹁⋮⋮︽移動門︾発動﹂
目の前に紫色をした空間が現れる。これは一度行ったことがある
所なら何処にでもいける魔法でドラ○エあたりだとルーラに相当す
る魔法だな。
もっともこんな魔法人まで絶対見せれないけど。
紫色をした何とも言えない門を通り抜けると、そこには慣れつつ
ある我が家の中だった。
⋮⋮雪国だったらどこかで聞いたことあるような⋮⋮。
﹁いたたたた⋮⋮ 本当に戻って来たのね﹂
ちょうどばったりと出くわしたエリラが驚いて地面に尻餅をつい
ていた。
493
﹁あっ、すまん大丈夫か?﹂
俺は手を差し出しエリラを起こす。
﹁大丈夫よ。それにしてもすごい魔法よね。一体どこで覚えたの?﹂
﹁本で﹂
ただし、前世でというオマケが必要ですが。
﹁そんな本見たことないわよ。古代魔法にでも行かないとないんじ
ゃないかしら﹂
﹁まっ、そんな事より、あいつらとは打ち解けられそうか?﹂
﹁ええ、まだ言葉は全然だけど多少のことなら﹂
エリラは今、急いで獣族語を習得しようと猛勉強中だ。まあ獣族
語は少しだけ大陸語に似たような所があるから比較的覚えやすいと
は思うけど、がんばって欲しい。⋮⋮人にスキルを覚えさせる方法
ってないのかな? 今度セラに聞いてみよう。
あっ、ちなみに料理は俺+獣族の女性達で作っています。正直な
ところ俺が一番上手いのと︵※料理スキル:7︶ある程度日本での
494
料理が再現できそうな部分は再現しているので獣族の女性たちから
色々質問されたりもしています。
エリラが背後で﹁私も料理くらい出来るようになりたいわ⋮⋮﹂
と嘆いていたので今度教えてあげようと思う。
でもエリラも確かレベル5はあったよな?
学校の事もあるしこれから忙しくなるな。俺はそんなことを考え
ながら忙しい夕方を過ごすのであった。
⋮⋮一応言っておくがエリラと熱い夜なんてまだ過ごしていない
からな、個室あげると行ったのに﹁クロと同じ部屋でいい﹂とか言
われて相部屋ですが。⋮⋮一緒のベットで寝ますか
俺の体がまだ発育途中だったことにありがたいと思った瞬間であ
った。
495
第35話:魔法学園︵後書き︶
と言う訳で、次回はたぶん大量にキャラが出てきますよ︵たぶん︶
予定しているのだと10人程度なんだけど、なんかまだまだ増えそ
うな感じです。
並行して番外編も書いていたりするのですが、話の流れが切れそ
うなのでまだ控えさせてもらいます。
本日も読んで下さった皆様。本当にありがとうございます。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ、
どしどし送ってください!
※誤字脱字がありましたら報告よろしくお願いします。
496
第36話:頑張らないとな︵前書き︶
すいません、本来なら学園の話を入れようとしたのですが、この
話を入れ忘れていたので急遽いれることにします。
学園編は次回になります。楽しみにしてた方には本当に申し訳ご
ざいません。この場を借りて深くお詫び申し上げます。
誤字を修正しました。
本当にすいませんでした。
※10/8
497
第36話:頑張らないとな
魔法学園に行った日の夜。
俺は獣族の子供たちを集めた。
﹁クロウお兄ちゃん何をするのですかー?﹂
﹁まっ、見ていればわかるさ。君たちたちにはこれからスキルと魔
法、それから武器の使い方を覚えてもらう﹂
﹁まほうですの∼﹂﹂
﹁ああ﹂
﹁でも行き成りですね﹂
まあ、そうだよな。
﹁これから俺は魔法学園に行く。まあ俺はある程度自由が効くから
問題ないが、それでも俺とエリラが抜けたらこの家にいるのは奴隷
となっている獣族のみだ。襲われる危険も無いとも言い切れないし
な﹂
もっとも、そんなことをしようなら二度と太陽を拝めないように
してあげるがな。
もう一つ理由はあるんだが、これはこいつらにはまだ早いから言
わないでいいだろう。
498
﹁いえを守るです∼?﹂
﹁そうだ。フェイ頑張れるか?﹂
﹁クロウお兄ちゃん見たいにすごいまほうを使えるようになるなら
がんばります!﹂
いいやつだ。俺もこんな妹が欲しかったと心の中で切実に思う俺。
﹁まずは体造りをすることからだな、まあ獣族だから下半身は強い
だろうから上半身なんだけど、それじゃあ簡単なメニューとやり方
を教えるから全員で覚えるように﹂
﹁﹁﹁はーい﹂﹂﹂
それからは簡単な上半身の鍛え方を教えた。腕立てとか懸垂とか
︵懸垂用の道具は俺が土魔法で作りました︶俺が思いついているだ
けのやり方を教えてあげる。
こいつらの場合下半身と体幹は無茶苦茶強いだろうからたぶん問
題ないだろうな。だって短距離走顔負けの俊敏力ですよ? よくあ
の軍は捕まえられたなと思っていたが、実はこいつら素早さだけ早
いだけでステータスで見た限りの筋力などはかなり低いのだ。つま
り一回捕まえられたら逃げられないってことだな。囲まれたりした
らもう終わりだろうな。
そうならないためにも今は体作りを教えることにしている。
一方女性の方も何もしないと言う訳ではない。
彼女たちの方は短剣・投げナイフの使い方を中心に技を教えるこ
499
とにしている。もっともこちらは家の家事も任せているので暇があ
ればでいいよというレベルにしている。
あとは肝心のスキルとかだが、取得条件が︽神眼の分析︾で分か
ることが判明したので俊敏性を生かしたスキルを覚えさせるつもり
だ。
そのためにも隠密系に入るスキルを俺も持っていきたいなと思っ
ている。一番手っ取り早いのは本とかで説明を見る事なんだけど、
魔法以外はあんまりないので俺のイメージで覚えていくことにする。
そして、最大の問題が魔法だ。これは学校にあるであろう図書館
とかでコツを覚えるしかないな。教えるのが苦手な俺だけど、俺や
エリラだけだったら限界があるしな。エリラに一応治癒魔法を覚え
させることは出来たので、全くできないわけじゃないと思うんだけ
どな。
まあ、それは俺が今後頑張るしかないな。なんでだろう、今の俺
前世よりも忙しくしているよな。
でも自然と疲労感とか出てこないのが不思議だな。多分ステータ
スも関係しているんだろうけど、充実しているんだな。
⋮⋮今を大切にだな。
俺はそう呟くと早速明日の学校に備えて眠りにつくのであった。
500
第37話:10秒で
翌日。俺は前日に指定された教室のドアの前に立っていた。
なんていうんだろうな、俺は転校生とかになったことないからハ
ッキリとは分からないけど、たぶん殆どの人が緊張しているんだろ
うな。俺見たいに。
とまあ、いつまでもここにいるわけには行かないよな。
意を決して教室のドアを開ける。教室内は日本の学校とほとんど
変わらない広さに机が10個ほど置いてあった。黒板らしき物や隅
に飾られている花などを見ると懐かしい気持ちになるな。
⋮⋮でも、これだけは勘弁願いたいな
﹁そりゃあああ!!!!﹂
ドアを開けた瞬間に聞こえる叫び声。俺は特に見るとこも無く左
腕を曲げの手の甲を顔の横から振りぬく。
ゴンッ! と言う音と共に俺の手の甲に何かが当たった感触があ
った。なんか一部出っ張ていたような気がするんだが。
﹁あちゃgかhkjhsgtふfga!!!﹂
音の聞こえた方を見ると、なんだか聞き取れない言葉に鼻の部分
501
を抑え地面でのた打ち回っている者が1名いた。
﹁⋮⋮開始早々なんですかこれは?﹂
教室の中を見ると20人ほどの人間がいて全員が﹁はっ?﹂とし
た顔をしていた。ちなみに黒い首輪を付けている者もいるので従者
も混ざっているんだろうな。
﹁ち゛ぐし゛ょう!﹂
俺の裏拳を受けて倒れていた奴が立ち上がる。あの鼻から血が溢
れているのでかなりシュールな光景なのですが、いや、やったのは
俺なのですけどね。
﹁だから無理だって言っただろ?﹂
俺の背後から声がしたので振り向いてみると、そこには昨日であ
ったばかりのシュラが立っていた。
﹁ようっ、わりいな馬鹿が迷惑かけて﹂
﹁いえ、なんてことありませんでしたけどこれは一体?﹂
﹁あ∼昨日の事を聞いたこいつが子供に負けたんかよ! とか言っ
てあとはご覧の様ということだ﹂
﹁あー﹂
と、そこに
502
﹁教室に入り⋮⋮ってカイト君どうしたの!?﹂
﹁あっ、アルゼリカ先生、おはようございます﹂
﹁ちわーす、何、いつものことですよ﹂
アルゼリカ⋮⋮先生はまたかと呟いて顔を天に仰いだ。これ転校
生が来るたびにこれしているのですか?
﹁とりあえずカイト君は保健室にでも行きなさい﹂
﹁あ∼、一応私がやったので私が直しますよ﹂
俺は治癒魔法をかけてあげる。鼻血程度の怪我なので一瞬で治っ
たんだが、問題はその服に付いた血は残ったままなことだ。正直殺
人でも犯してきたの? と言わんばかりの血の付き方である。俺は
甲を構えていただけなんだけど、余程勢いよく襲ってこようとした
んだなこいつ。
﹁こいつはいつもこんな感じだよ。強い奴が現れるとなりふり構わ
ずになこうやって、襲っているってことだ。まっ半分以上はこうや
って返り討ちなんだけどな﹂
シュラがやれやれと行った顔をしている。でもあんたも昨日全力
で走って帰っていましたよね? ある意味人の事言えなくないです
か?
﹁今回は子供だと聞いていたのに不覚だ⋮⋮﹂
俺に奇襲をしかけて返り討ちになったカイトは両拳で地面を叩き
503
ながら叫んでいる。ちなみにステータスも覗いてみたが30程度だ
った。エリラにも負けてるとは言えないよな。んで、肝心のエリラ
はもはや言葉を発さずに俺の後ろにいたのだが。
というのも、仮にも元貴族なのでもしかして知っている人がいる
かもと思って緊張しているらしい。まあつい1,2年ほど前までそ
うだったもんな。確かにそこはあんまり考えていなかった。
﹁とりあえず席に着きなさい。朝礼するわよクロウ君と従者はこっ
ちに来て﹂
アルゼリカ先生の声で全員があっとしか感じで席に付きだした。
そして座った全員の後ろには通り従者らしき人が一人必ず立ってい
る。奴隷の証である首輪︵チョーカーとでも言えばいいのだろうか
?︶を付けている者もいればメイド服を着た人など様々だ。
ちなみにエリラの服装は比較的安価な冒険者用の装備を付けてい
るといった感じだ。もっとも奴隷などにつけるには勿体ない位の価
値があるものだけどな。
俺が﹁普通の服装でよくない?﹂と聞いたのだが﹁いや、いつも
来ている私服だと高価に見えすぎない?﹂とのことだ。まあ多少は
分からんこともなかったので、とりあえずこんな感じ一見安価な装
備を来ているのだ。
ただし、すべてが俺手作りの装備だ。全装備に対魔法耐性と物理
攻撃耐性を加えたそんじょそこらでは売っていない代物だ。
バレにくい様にわざと安っぽくしているだけだからな。
﹁えー、みなさんおはようございます。早速ですが今日から新しい
転入生が入ってきました﹂
俺は一歩前に出て一礼をして自分の名前を言った。好きな食べ物
はとかそんなことは言わないぞ。従者については特に何も無かった
504
のでよかったと思っている。
その後は特にこれっといたことが無い普通の朝礼だ。1ヵ月の主
な日程を説明し、特待生である俺らが出来れば参加して欲しい内容
などが説明される。ちなみに今月は特に何もないとのこと。
﹁では質問はありますか?﹂
最後になりアルゼリカ先生が聞くとさきほどのカイトが手を上げ
⋮⋮ってか勢いよく立ち上がり。
﹁あとでクロウと一戦したいです! 闘技場貸してください!﹂
君も戦闘狂ですか? さっきの一撃で充分でしょ?
﹁⋮⋮はぁ、あなたは言い出したら聞かないからね、いいわよでも
ケガの無いようにね﹂
いいんかよ! 先生! 俺の許可は!?
﹁お待ちなさい﹂
と言い別の生徒が立ち上がる。金髪に縦ロールといういかにも貴
族っと言った感じの少女が立ち上がる。制止してくれるのかなと俺
は期待していたのだが
﹁それなら私も一戦お願いいたしますわ﹂
ちょっとぉぉぉぉっぉ!? 皆さん揃ってなんですか!?
505
﹁よし、なんなら全員で一回ずつ模擬戦しましょう!﹂
これまた別の生徒が立ち上がる。青髪のロングヘアーと、ソラに
多少似ている髪型をした少女が追撃をするかのように発言をする。
えっと⋮⋮あの
﹁いいわね! みんな異論はない?﹂
残っていた4名の生徒も異論はないと言った感じで頷く。
あの、いつからこの世界は戦闘狂の集まりになったのですか? いや元からですね。多分俺の出会って来た中で常識人だったのはラ
ミとミュルトさんだけでしょう。あとガラムのおっさんもか。
﹁はあ⋮⋮わかりましたいいですかクロウ君?﹂
いや、今頃聞いても断れない雰囲気ですよね?
﹁わ、わかりました﹂
﹁それじゃあ立会いは私がしましょう。今から1時間後に闘技場を
開放します。いいですね﹂
アルゼリカ先生の言葉に一同賛同し朝礼は終わった。
前言撤回、どう考えても普通の朝礼じゃありません︵泣︶
506
そして、全員が闘技場に行き始める。俺もやれやれといった感じ
で闘技場へと向かう。
﹁クロ本気?﹂
エリラが心配そうに俺に聞いてくる。エリラも冒険者としては申
し分ない実力を持っている。そのためそれぞれの個々の力をある程
度感じていたんだろう。
と言う事はエリラは自分より格上の人たちばかりと感じ取ったの
か。
﹁心配するな、多少の連戦になるけど炎狼に比べたら問題ないだろ﹂
負けねぇよ。
一時間後、俺は闘技場で最初の相手であるカイトと向かい合って
いた。
507
﹁今度は決めるぜ!﹂
いや、奇襲でも勝てなかった相手に何言っているんですかあなた
は。
﹁⋮⋮クロウ君﹂
立会人であるアルゼリカ先生が俺を呼んだ。
﹁はい?﹂
﹁最近、こんな感じで調子付いているので一発叩いてください﹂
﹁⋮⋮と言いますのも?﹂
﹁全員10秒以内で蹴りを付けなさい。私もあなたの本当の実力を
見てみたいわ﹂
その言葉に俺とアルゼリカ先生以外の闘技場にいた全員が固まっ
てしまったのであった。
508
第37話:10秒で︵後書き︶
次回からは連戦ですね。
本日も読んで下さった皆様。本当にありがとうございます。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ、
どしどし送ってください!
※誤字脱字がありましたら報告よろしくお願いします。
509
第38話:やりすぎた?
﹁10秒でですか?﹂
﹁あなたなら可能でしょう。昨日の模擬戦が本気ではないことぐら
いわかってるわよ﹂
バレていましたか......
その言葉に特待生組の面々の視線が妙に鋭くなった気がした。
﹁あの∼それは命令ですか?﹂
その言葉にアルゼリカは﹁出来ないとは言わないのね﹂と呟くと
﹁はい、命令です﹂と言った。
﹁⋮⋮⋮別に構いませんが治癒班でも用意しておいてくださいよ﹂
あーあー、またこれか。不殺スキルの設定はどうしようか。取
り敢えず痛みと後遺症が残らないレベルに設定しておくか。
武器は⋮⋮⋮しまった昨日買おうと思っていたけど忘れてた。
カイトが剣を持っているということは武器ありなんだろうな。
⋮⋮⋮しゃーない。使うか。
俺は倉庫から刀を引き出す。真っ黒な刃に目立つような宝玉を
埋め込まれたその刀は周りの人々に戦う前から恐怖を覚えさせるに
は十分だった。
510
それほどまでにこの刀は格が違うのだ。
﹁ちょっクロ、その武器はヤバいわよ﹂
エリラが俺が装備した刀を見ながら忠告する。前に一度だけエリ
ラに見せたことがある俺の最新の魔法剣だ。残りは解体でもしよう
と思い鍛冶場に放置している。
﹁予備忘れてたからこれともう1本しか用意していないんだよ﹂
﹁で、でもいくらなんでも私のを使った方が⋮⋮﹂
﹁いや、その剣の方がもっとやばい、おもってる以上に高いからな
それ?﹂
下手したら俺の仕込みがばれてしまう可能性があるからな。あれ
は最終手段やし。
﹁まあ、魔法剣ですとかで流すさ﹂
﹁わかったわ、でも気を付けてね﹂
﹁任せときな﹂
俺はそういうと闘技場の中央へと向かう。すでに特待生組は俺の
持っている武器に異変を感じているようだ。
この世界の魔法剣と言えば古代遺跡から出たものがほとんどでこ
こ最近作られた魔法剣はほとんどないと言う。作ることが出来る職
人が少ないうえに魔法剣を作るのにも莫大な資産が必要らしくコス
トに似合った性能を作ることが不可能とのことだ。
511
﹁魔法剣か⋮⋮﹂
﹁ええ、これしか今は持っていないので﹂
俺とカイトは向かい合い、武器を構える。カイトの武器は槍か、
刀とのリーチの差はあるけど問題ないだろう。
﹁では、両者準備はいいですか?﹂
﹁はい﹂
﹁いつでも﹂
﹁では⋮⋮はじめ!﹂
闘技場で、俺の剣とカイトの槍が交じり合い火花を散らした。
512
結論から言おう。10秒かかりませんでした。全員2秒でノック
アウトさせちゃいました。
<戦績> カイト戦 ↓ 槍ごとぶっ壊し場外アウト
金髪の縦ロールの少女 ↓ 圧倒的詠唱スピードで一撃で終了。
青髪のロングの少女 ↓ 剣を弾き飛ばし首筋に剣を当て降参さ
せ終了。
その他もほぼ同じような結果で終わらせた。魔法の詠唱には1節
でも1∼2秒程度は必要だ。ましてやそれが可能なのは本当にその
魔法を色々な意味で使い切っている者にしか出来ない世界だ。
つまり山賊モドキの統領の8節はイコール8∼16秒程度時間が
かかっていると言う事だ。俺は無詠唱スキル持ちなのでほぼゼロに
近い速度で魔法を撃ちだせる。
ちなみに無詠唱スキル持ち同士でも発動速度に僅かだがタイムラ
グがある。その誤差はほんのわずかであるが、その差が勝敗を分け
ることも多々あるとのこと。
補足しておくと詠唱もすべて無詠唱に勝てないわけではない。詠
唱を使えば形が安定した魔法が作れるし、想像力が弱い者でも高威
力なものを作れる。
513
反対に無詠唱は圧倒的な発動速度が売りだが、形が安定していな
いし、無詠唱スキル持ちでも使い慣れていない魔法だと失敗するこ
ともある。戦争などでも城など見通しが悪い所で奇襲には使えるが、
平原などで戦うときは無詠唱を熟練していない魔道士よりも詠唱を
してしっかりとした魔法を撃てる魔道士の方が効率がいい。
まあ一長一短と言う事だな。今では無詠唱を中心に使っている種
族は妖精族や魔族ぐらいらしい。
俺の場合は⋮⋮どうなんだ? もう詠唱スキルと無詠唱スキルは
くっ付いているしよく分からない。でもイメージをある程度はして
おかないとたまに不完全になることもあるので︵と言っても強力な
魔法のときだけだが︶注意はしている。
で、俺が何を言いたいかって? つまり2秒でノックダウンさせ
たと言う事は一節または無詠唱を使える人物しか魔法は使えなかっ
たと言う事だ。そして特待生組にはそれが出来る人はいなかった。
そう、俺は、誰一人魔法を使わせないで一方的にやってしまいまし
た。と言う事だ。
やりすぎたのは反省しているけど、先に吹っかけてきたのは君た
ちだからね? 恨むんなら過去の自分達かアルゼリカ先生を恨みな
さい。
従者と救急班︵アルゼリカ先生に呼ばれて来た先生方︶によって
治療魔法を唱えられながら担架らしきもので運ばれていく様子はか
なりシュールでした。
514
﹁あの、もう行っていいですか?﹂
あまりに急な幕切れにアルゼリカ先生も言葉が出ないようだ。た
だ運ばれていく様子を見送りしばらく出口を向いたまま何もしゃべ
らない。
ようやく我に戻ったのは俺が話しかけてから1分ぐらいは立った
だろうか? とにかく待たされる俺の身としてはかなり長く感じた。
﹁あっ、あれ?﹂
﹁もしも∼し、あのもう行っていいですか?﹂
﹁あっ、えっと⋮⋮アレが本気?﹂
﹁詠唱のみです。威力は抑えていますよ﹂
ちなみに身体能力も抑えていました。本気でやったら多分カイト
とか槍折れての場外アウトどころじゃすまされなかったぞ。たぶん
闘技場の壁を貫いてすっ飛んで行くぞ。あと不殺スキル無しだった
ら、水風船見たいに割れちゃっても可笑しくないからな。︵という
のもだいぶ前に魔物相手にマジでやってしまったので︶
⋮⋮ほんと俺何しているんだろうな。見た目は子供、その他︵ry
﹁⋮⋮人?﹂
﹁人です﹂
515
半分な。まあ裸にされても俺の体は見た目が人間と全く一緒だか
らな。唯一違うのは歯ぐらいだろうか? 犬歯が人よりも若干尖っ
ているんだが、普通誰もそんなことに気づかないよな。
﹁さすがは炎狼のコアを取ってきた冒険者か⋮⋮えーと、もう行っ
ていいですよ、あの様子だと全員しばらくは動けそうにありません
からね﹂
そこは治癒魔法班頑張れだ。
﹁では、失礼します﹂
そう言って俺は闘技場を後にした。本当は今日は図書館でも見て
みようと思っていたけどなんか疲れたからまた今度でいいや。
﹁あっ、そういえばエリラは何も言われなかったな?﹂
﹁えっ、あっ、そういえばそうだね﹂
頭から離れてやがったな。まあ何も無かったことやししばらくは
大丈夫かな? あと俺の心配は特待生組の復帰後が怖い事かな。シ
ュラやカイト辺りは平然と戻って来そうなオーラ出していたけどあ
の縦ロールの子や青髪の子とかは大丈夫だろうか?
まあ、何か考えるのもアホらしいからやめて置くか。
俺はエリラと共に帰宅をして何事も無くその日はそれ以上は何事
もなく終わった。
516
翌日、俺は魔法学園のある町ハルマネのギルドを覗いてみた。規
模はエルシオンとほぼ同じってところかな? 今日は軽めの依頼でも受けるとしますか。
俺は何の依頼を受けようか迷っているとふと目に飛び込んできた
依頼は
依頼名:治癒願い
依頼主:魔法学園保健部
内容:昨日とある模擬戦中に怪我人が多発し、重傷者が多く出まし
た。
そこで治癒魔法を使える方は補助をお願いいたします。
受注条件:治癒魔法レベル4以上を扱える者
報酬:100,000S、基礎魔法薬5本
﹁⋮⋮﹂
いや、待て魔法学園から治癒魔法系の依頼って駄目だろ!? 威
厳とかそんなのはスルーなのですか!? てか、俺そんなに重傷を
負わせましたか? ⋮⋮いや、負わせたな、普通に考えて骨折れるって重症だよな。
やばい俺の感覚も麻痺って来てるのか?
517
あれ? そもそもこれ、俺のあれ? ⋮⋮しかなさそうだよな。
﹃模擬戦﹄って付いているし
⋮⋮
ほんっ! とうにすいませんでしたぁぁぁぁ!!!!!
心の中で必死に謝りました。
その後、俺がこの依頼を受け、学園に向かったのは言うまでもな
い事だろう。
518
誤字を修正しました。
第39話:自己紹介︵前書き︶
※10/23
519
第39話:自己紹介
﹁⋮⋮色々スイマセン﹂
﹁いえ、私ももうちょい手加減すればよかったかなと﹂
魔法学園の理事長室︵?︶で謝りまくる両者。どっちが悪いかと
言えばあっちだけど立場っていう問題があるので俺も謝る。
﹁とりあえず出来るだけの補助でいいのでお願いできますか?﹂
学校の一番お偉いさんが学生である俺にお願い︵報酬付きで︶す
るってなんか変な気分だな。
それをやりに来たのでもちろん頷き、俺は患者︵特待生組︶の所
へと向かうことになった。
依頼を出していた理由だけど、ちょいと重症なので手が足りない
との事。どうやらこの世界の治癒魔法の性能はあんまり高くないみ
たいだ。
切り傷などはすぐに治せても、骨折や重度の火傷などには時間を
かけて回復していくしか方法が無いとのこと。
なので、腕が千切れても生やせたりとか天に召される一歩手前ま
で来た人を急に治すことは無理との事。再生魔法とかは無いと言う
事だな。
いや、まて俺前に一度自分の砕けた右腕を治したことあるぞ?︵
520
第11話参照︶ あれは上位スキルだったから出来たことって事か?
っと、着いたようだな。
ドアを開けて中を見てみると⋮⋮はい見事に俺と戦った特待生組
がベットに伏していました。
これを俺がやったと思うと若干胃が痛くなりそうです。
特待生組で大丈夫だったのは8名中2名。青髪の子ともう一人杖
を持っていた黒髪の短髪の女の子のみだ。青髪の子は直接打撃を与
えたわけでは無いのでもちろん無傷。黒髪の子も同様の内容だ。
従者の人もジト目で俺の方を見てくる。ココロ ガ イタイ デ
ス。
そしてエリラ、見返さなくていいから! 落ち着け! 頼むから
この空間で火花を散らすような行為はやめてくれ!
俺の姿が見えたときの特待生組の反応は色々だ。シュラとカイト
は﹁次は勝つ!﹂とか言って騒いで痛みが出てベットに伏してを繰
り返している。君たち病人なんだからジッとして置けよ。
縦ロールの人は俺を睨むような感じだ。
青髪の子と黒髪の子が立ち上がり、﹁本当にごめんね﹂と誤って
きた。特に青髪の子は昨日のノリのいい人見たいなイメージは感じ
られなかった。
﹁そういえば、まだ自己紹介をしていませんでしたね。私はセレナ
っていいます、でこっちが﹂
521
青髪の子⋮⋮セレナは丁重な挨拶をする。
﹁⋮⋮サヤ﹂
サヤ⋮⋮これまた東日本でいるような名前だな。でも黒髪だから
ソラよりも日本人って感じがする。
残りの2人は⋮⋮伸びていますね。茶色い髪にどこかすっとぼけ
たような顔をしている少年と、似たような顔をした少女か。兄妹と
かかな?
﹁さて、治療を再開するかの、クロウ君だったの早速じゃが準備を
︱︱︱﹂
﹁必要ありません﹂
﹁はっ?﹂
治療班⋮⋮もとい保険の先生が﹁何言ってるの?﹂と言った顔を
している。その言葉に従者の人も何人か剣に手が出かかっている。
おいおい、ここで抜いたらアウト⋮⋮ってエリラ、お前も下ろせ。
気持ちだけはありがたく受け取るから下ろしてください︵切実︶
﹁一人で充分ですよ﹂
数にして6人。複数の人の治療をやるの初めてだが問題ないだろ
う。むしろあのスキルを試させてもらおう。
両手を前に出し意識を集中させる。普通治癒魔法は一人に対して
意識を集中させるのだが、今回は6人全員一斉に意識を集中させな
522
ければならないので普通より大変だな。
ヴィーナス・ブレッシング
﹁︽女神の祝福︾﹂
︽治癒魔法︾の上位スキル︽天空魔法︾の光はすべての闇を退け
術者に恵みを与える。FFなどでは白魔法と言われる分類の上位に
相乗効果が乗ったものといえるかもしれない。
後は全員に光が降り注ぐようなイメージをしたら完成だ。色はや
っぱり緑だよな。
光は怪我人やその周りにいた人すべてに行き渡る。もちろん普通
の人には無害だ。そして光は怪我人の怪我を時間にしてわずか十数
秒足らずで完治をさせてしまった。
当の本人からしてみれば緑色の謎の光が飛んできたかと思うとい
きなり痛みが引いていくという、日本にあったら﹁何それ? 危な
いお薬?﹂とか聞かれそうな出来事だな。
>特別条件﹃聖者﹄を取得しました。
称号についていは今はスルーでいいか。
真っ先に気づいたのは縦ロールの子⋮⋮えーと名前は⋮⋮聞いて
なかったな。後で聞いておこ。
まあ、その子が真っ先に痛みが無くなったのを感じ、ベットから
飛び跳ねるように飛び出した。従者からしてみれば大怪我を負った
主人が行き成り空中1回転を決めるというアクロバティックな動き
を見せたように見えるんだろうな⋮⋮。従者さんの顔真っ青です。
523
﹁⋮⋮治った? あなたのおかげですの?﹂
﹁ええ、まあ治癒魔法は少々得意なので﹂
﹁あれのどこが少々よ﹂とエリラから愚痴がこぼれる。エリラも
治癒魔法は初期の初期だが取得しているので俺がやった難しさが多
少でもわかっているのだろう。ましてや専門職である学校の先生は
目をパチクリさせながら﹁えっ、何が起こった?﹂とアルゼリカ先
生に聞いている始末だ。
﹁あっ、それより従者さん大丈夫?﹂
縦ロールの従者さんは今にも卒倒しそうな勢いだ。大丈夫だから、
現実に戻って来い! 縦ロールの子が自分の従者の顔をペチペチ叩
き﹁ちょ、どうしたのよ!?﹂と言いながら必死で従者の両肩を持
ち揺さぶっている。で従者はと言うと一応意識は戻ったみたいだけ
ど、今は別の意味で飛んでいきそう。主に自分の主のせいで。ご愁
傷様です従者さん。
﹁こんなの見たことないぞ!? クロウ君一体どうやったのだ!?﹂
あっ、保健の先生がアルゼリカからの説明を諦めた。
﹁天空魔法と言われるスキルです﹂
﹁な、なんだそれは? 治癒魔法ではないのか?﹂
そういえば、治癒魔法を始めとするスキルの上に存在する︽上位
スキル︾の存在はまだこの世にないとかセラが言ってたな。
524
例え治癒魔法のスキルレベルを10にしてもそこから進化して上
位になると言う事は今まで無かったらしい。唯一の例外が俺との事、
つまり上位スキルを持っているのは今、世界で俺だけになる。⋮⋮
セラの説明が正しければ。
名前だけは公開してもいいとのことなんだが、ただし説明につい
ては決してしないように。と釘を刺されている。
理由は話してくれなかったけどセラにもセラなりの事情があるん
だろうな。と俺は思ってそれ以上深入りするのはやめたんだっけ?
スキル
﹁お、教えてくれ! どんな魔法なのだ!?﹂
当然知りたいですよね。でも残念説明は出来ません。
﹁それは秘密です。冒険者が簡単に教えるわけないでしょ﹂
俺はここの学生であって学生ではない。特待生として呼ばれたか
ら来ただであって、別に今すぐやめてもいい。しつこく来るような
らこれで仕留めればいい。
⋮⋮図書館が使えなくなると言うデメリットに目を瞑ればだけど。
﹁⋮⋮そうか残念だがしょうがないな﹂
あれ? 意外とアッサリ引いてくれたな。まあそっちの方が俺的
にも助かるが。
﹁ほれ、約束の10万Sと基礎魔法薬じゃよ﹂
525
保健の先生が戸棚から引っ張り出してきた袋の中には報酬の10
万Sと基礎魔法薬が5本しっかりと入っていた。
エーテル
アイテム名:︻基礎魔法薬︼
分類:道具
属性:︱
効果:魔力の回復
詳細:魔力を直接体内へ入れるタイプの薬。魔力が速めに回復する
が体力や怪我などは回復しない。
まあ、基礎魔法薬はいらないけどな。でももらえる物は貰ってお
こう。
ほかの面々も復活しだしたことやし、俺はさっさと行くとするか。
﹁じゃ、今日はもう用事は無いのd︵ガシッ﹂
俺が反転した瞬間に俺の肩に何やら違和感を感じた。なんという
か⋮⋮掴まれているよね?
﹁ふふふ、クロウもう一度勝b︱︱︱﹂
アースチェーン
﹁︽土鎖︾﹂
すまんがカイト、しばらくはやめてくれ。俺のsan値がやばい
んだよ!︵色々な意味で︶
﹁うわっ、な、なんだこれ!?﹂
526
﹁土魔法で作った鎖ですよ。あっ、今すぐ戦いたいのならそれぐら
い引きちぎってください。ただの土に魔力を込めただけの代物です
ので﹂
﹁上等! ふんぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!﹂
精一杯力の限りに引きちぎろうとするカイト。だが、土の鎖はピ
クリとも動かない。
︵まあ、筋力ステータスが5000ぐらいないと無理だと思うけど
⋮⋮︶
あれは、アレスとレイナと俺で行った龍族の集落を襲った際に敵
を無力化するのに使用した手錠を改良した魔法だ。
﹁はい、では﹂
﹁ちょ、こ、これどうするの!?﹂
アルゼリカ先生も壊すのに参戦しながら言った。やっぱこのまま
じゃ駄目か。
﹁あ∼、はいはい﹂
俺が鎖に触れるとまるで無かったかのように消えていった。 ﹁ふーむ、鎖か、今度生徒が暴れたとき用に一つぐらい欲しいの﹂
⋮⋮保健の先生は苦労されているようです。
527
﹁じゃあ、今度こそ﹂
﹁お待ちなさい﹂
⋮⋮今度は縦ロールの子か
﹁なんでしょうか?﹂
﹁その⋮⋮あの⋮⋮こ、今度、私の家に来なさい! 借りを作った
ままではテルファニ家の名折れですわ! 個別にお礼はさせてもら
います!﹂
何故か顔を赤くしながら言う縦ロール。そして次の瞬間には﹁い、
今のは見なかったことにして﹂と自分がついさっきまで寝ていたシ
ーツに顔を隠している。
﹁えっ、いえお礼なんていいですから﹂
ただ治療しただけなんだけどな。⋮⋮俺が怪我させたのを。と、
そこから思いがけない追撃が来る。
﹁クロウ様、どうかローゼ様の好意を受け取ってくださいませんか
?﹂
ローゼ⋮⋮それが、あの縦ロールの子の名前か。と言うのも、そ
の名前を言ったのがついさっきまで縦ロールの子の動きに顔真っ青
にして、さらに縦ロールの子からのまるでM○3のアオア○ラの動
きにあるプレイヤーを上下に激しくシェイクさる動きを食らった人
だったからだ。
528
﹁な、何てことを! 何言っているのですか!?﹂
シーツに顔を隠していたローゼが自分の従者を両肩を揺さぶり激
しく前後にシェイクしている。ちょっあの従者さんの顔、また青く
なっていませんか!? 耐性無すぎない!?
﹁あの∼﹂
このままだと、逝きそうなので救援をすることに。縦ロールの子
⋮⋮ローゼは顔を赤くしているは半泣き状態になっているわで大変
な状態になっている顔をこちらに振り向けた。
﹁別に行くのは構いませんよ?﹂
﹁なっ⋮⋮﹂
顔をさらに真っ赤にしたローゼがいやあぁぁぁぁと言いながら保
健室から飛び出していった。そのまま何やら分からない言葉を発し
ながら遠くへと消えて行った。
⋮⋮何でだろ。今マンガの中の主人公の気持ちが何となくわかっ
た気がする。
﹁申し訳ございません。うちのローゼ様が﹂
ってうぉっ!? 復活早っ!?
﹁急で悪いのですが、よろしければ明日にでも学校に来てください
ませんか? ローゼ様にもそれまでに準備させますので﹂
529
﹁え、ええ、俺はいいですけど⋮⋮﹂
﹁すいません本当に⋮⋮では私も失礼させてもらいます﹂
丁重な挨拶と共に去っていく従者さん。なんというか⋮⋮さすが
だな⋮⋮
﹁よし、俺は特訓だ! カイト! 行くぞ!﹂
﹁うぉっしゃあぁぁぁぁ!!!!﹂
ズダダダダダダダダダッッッッッ!!!! ⋮⋮
⋮⋮もう言葉が出ません。
﹁あっ、わ、私も行きます。クロウさん本当にありがとうございま
した﹂
﹁⋮⋮ありがとう﹂
セレナとサヤも二人の後を追いかける。日本でもこれくらい明る
くて元気な子に会いたかった。従者さんは大変そうだけど。
﹁⋮⋮クロウ君だっけ?﹂
声のした方を振り向くと、特待生組の残りの二人が立っていた。
530
﹁ありがとう。無理に試合組み込んで治療もしてくれたらしいね。
詳しいことはメイドから聞いたよ﹂
メイド⋮⋮こちらでも聞く日が来るとは。いやそれに近い人はた
くさんいたけど、大抵、部下とか奴隷とか従者とか言われていたか
らな。
﹁ありがとうなのです!﹂
元気だな。ちなみに最初の方が少年で後の方は少女だ。
﹁僕はテリーと言います﹂
﹁妹のネリーなのです!﹂
あっ、やっぱり兄妹だった。妹は活発そうだけど、反面兄の方は
少し落ち着いた人かな?
﹁今度、お礼でも⋮⋮﹂
﹁あっ、それなら食事とかでいいですよ。本当はお礼とか充分なん
ですけどね﹂
取れるところから取ってるし。俺はどこかの某RPG見たいに人
の引き出しから物を盗む趣味とかないし。
﹁いえ、そうじゃないとこちらが落ち着きませんので、では今度、
お勧めの店を紹介しますよ﹂
﹁あそこですの!? ネリーも楽しみなのです!﹂
531
うーん、多分この年齢でも行く店だから俺も大丈夫だよな? 少
しだけ年下に見える程度だよね?
﹁ええ、是非﹂
﹁では、僕たちのこれにて、ほらネリー行くよ﹂
﹁はい、なのです! クロウさんまたなのです!﹂
二人仲良く揃って保健室を出ていく辺り仲がよさそうだよな。
こうして、残るメンバーは俺と保健の先生とアルゼリア先生のみ
となった。
﹁⋮⋮なんというか元気な人たちですね﹂
正直な感想だ。サヤを除くと、熱血2名、ツンデレ︵?︶1名、
元気な子2名、普通ぐらい1名という編成だもんな。
﹁先代の理事長は、若手を育てることに重点を置いていたらしくて、
ああやって可能性のある子は率先して引き入れたのよ。それこそ周
囲の批判なんか目もくれずにね﹂
そう言ってる割には全員、ステータスは高めだったぞ? そう考
えると先代っていい目していたんだな。今は知らないけど。
﹁では、私も行きます。クロウ君本当に、ありがとうね﹂
﹁あっ、いえいえ、では私も﹂
532
﹁クロウ君、また大変な時は頼んでもいいかね? もちろんそれ相
応のお礼はするよ﹂
﹁ええ、いつでも﹂
こうして、俺の依頼は無事、終了した。今こそ言えるが嫌われて
ないか多少心配だった。
でも、皆全然そんな雰囲気は無かったな。本当よかったよ。
俺は安堵の息を吐きながら学校を後にした。
533
第39話:自己紹介︵後書き︶
特待生のステータスは後日本編にて紹介します。
534
※10/18
※10/17
誤字を修正しました。
誤字を修正しました。
誤字を修正しました。
第40話:ローゼの家へ向かう道中にて︵前書き︶
※10/20
535
第40話:ローゼの家へ向かう道中にて
翌朝、俺は約束通り朝に学校に来て教室で待っていた。
ただ、待っているのも暇なので︽SLG︾で武器の素材や新アイ
テム、魔法などを考えて待つことにした。
今この教室にいるのは俺とエリラだけだ。基本的に朝礼の時に集
まるぐらいで、あとは自習の為に使うこと以外ではこの教室はあま
り使われない。そう考えるとなんだかこの教室が寂しそうに見える。
2日に一回は清掃員が来るらしいけど、今日はたまたま来ない日
みたいだ。
﹁⋮⋮それにしてもクロってホントなんでも出来るわね﹂
エリラが唐突に話し出す。エリラの今日の服装は貴族の家に行く
のでエリラが持っている服では一番高いのを着させた。と言っても
あくまでそれは市場での価値でのお話です。これは殆どお金かかっ
ていません。俺が作りましたから。昨日速攻で、ええ、お蔭で少し
だけ眠いです。防具製作スキル様に感謝です。
昨日来ていた服と能力は同程度だが、こちらは色々な所に行くに
しても恥ずかしくないような服装かつ従者と言う立場を失わないよ
うにという意味で作った。まあ一言でいえばメイド服に近いと言え
るかもしれないな。
チャイナ服とかの方が動きやすいかなと思ったけど、色々な意味
でやめておいた。ナイス俺の理性だ。まああっちは趣味でもないけ
どな。遊び感覚で暴走しないでよかった。
536
﹁ん? 別にそうじゃねぇだろ? ちょいと魔法と剣が出来るぐら
いだろ?﹂
﹁昨日の魔法とこの服の仕上がり具合で良くちょっとって言えるわ
よね﹂
﹁世界を見て回れば俺よりすごい奴はもっといるだろうし、俺より
か器用な奴もたくさんいると思うぞ?﹂
そうでも思っておかないとなんか、飛んでもないことをやらかし
そうだからな。謙虚って大事だと思うけど。いや、謙虚すぎもどう
かと思うけど。
﹁まっ、そうかもしれないけどね、あっ今度、剣を教えてよまだあ
の魔法剣どうも扱いきれてない気がしてね﹂
﹁いいよ、あっ、そういえば魔法剣は使えば使うほど使用者に特化
されていくって前、どこかで聞いたことあったな﹂
﹁へぇ、そんなそうなんだ﹂
まあ、俺の剣限定で言える話ですけどね。まあ万が一その時が来
たらわかるだろうから今、説明はしなくていいよな。
と、そのとき教室のドアが開いた。中に入ってきたのはローゼの
従者だった。
﹁あら、早かったですね﹂
537
﹁朝と言ってもいつか分かりませんからね。早くに越したことはあ
りませんよ﹂
この世界の時間って結構ルーズだからな、朝だったらこれくらい
かなって時に行けばいいらしいけど、どうも少し早く来てしまう。
﹁では、案内します﹂
教室を出て学校を後にする。
﹁そういえば、お名前は何というのですか?﹂
黙っているのもあれなので、俺はローゼの従者さんに何となく聞
いてみた。
﹁私はゼノスと言います﹂
﹁ゼノスさんですね。よろしくお願いします﹂
﹁私程の者にさん付など滅相もない。ゼノスでいいですよ﹂
﹁う∼ん、私、敬語の時はさん付を絶対してしまうのでこのままで
いいですよ﹂
﹁でも立場という物が﹂
﹁そんなの関係ありませんよ﹂
敬語の時に呼び捨てとか似合わな過ぎでしょ。
538
﹁そ、そうですか⋮⋮﹂
﹁あら、私のときもそんな感じだったわね﹂
エリラが横から割り込んで来た。
﹁別にいいだろ、対等だよ﹂
﹁まあ、誰だって同じ反応するわよね﹂
﹁はいはい俺が変ですよ︵棒読み﹂
﹁なんで棒読みするの∼?﹂
横で起きている見慣れない光景にゼノスはしばらくの間唖然とし
ていた。たぶん理由はエリラの首に付いている黒い首輪だろうな。
そんなの関係なく俺とエリラのやり取りは続いていく。
﹁少しは私も構ってよぉ、この前の何か恥ずかしかったんだからね
!﹂
﹁その前に公衆の目の前でやることじゃねーだろ!﹂
そもそも10歳近く年下にやることじゃないと思うんだが。
﹁ぐっ、だからって無反応はないでしょ! こうしてやる!﹂
エリラの拳が俺の頭の天辺に押し付けられると、昔誰かにやられ
たことある懐かしのグリグリ攻撃をかましてきた。これ最近やる人
539
いないだろ。
︵ぐりぐり︶﹁ちょっ、せこいぞ身長差使うなんて!﹂
﹁悔しかったら伸びて見なさいよ!﹂
﹁数年後には勝ってる! 俺はまだ成長するっての!﹂
エリラの身長は大体160センチ程度。対する俺は110センチ
程度。50センチ以上差があるので当然俺の方は手を出せません︵
泣︶。だ、大丈夫だ、俺はまだ10歳にも到達していないし。
﹁だったらあれをガラムのおっさんに言うぞ!﹂
﹁ちょっ、クロさっき公衆がどうのこうのって言ってたじゃない!﹂
﹁やるのと話すのは別問題だよ。あのおっさんならエリラをいい程
度に躍らせてm ︵ゴスッ︶ がはっ!?﹂
突如したから襲来する強烈な痛み。その痛みは俺の股間から発せ
られている。そして痛みの根源は⋮⋮
﹁い、言わないでよ! 絶対だめだからね!﹂
エリラの右蹴りだ。
﹁ぐおぉぉぉぉ⋮⋮イテェ⋮⋮﹂
最近、かなり容赦なくなってきてませんか? もちろん全力でや
られれば確実に潰れるので︵筋力ステータスに○○○の強度は入っ
540
ていないぞ︶手を抜いてることぐらいはわかっている。それでもピ
ンポイントでヒットしたのは痛い⋮⋮。何か変な汗が出てきている
ような⋮⋮。
﹁⋮⋮あっ﹂
エリラがしまったという顔をしている。おい、今頃気づいたのか
よ!?
﹁ごごごごごごごご、ゴメン!! だ、大丈夫!?﹂
﹁誰のせいだと思ってるんだよ! 罰として今日の夕飯抜きにして
やろうか? 今日の夕飯の責任者は誰か分かっているよな?﹂
﹁⋮⋮ハッ そ、それだけは勘弁して∼!﹂
秒速で地べたに座り込み土下座するエリラ目には涙が浮かんでい
ます。あれ? 半泣きに成っちゃった。ちなみに夕飯の責任者とは
俺の家で毎日料理を作る人を交代で任せているのだ。獣族の大人︵
すべて女性︶と俺とエリラを入れたら総勢17名。それをとりあえ
ず三班にして能力が均等になるように振り分ける。振り分ける基準
は持っているスキルの合計数値だけど、俺だけ最近上がって8ある
ので別クラスです。
エリラの料理レベルは5。獣族の中に6が二人ほど何故かいたの
で、俺とその二人で班長。ようはまとめ役を一人作ったのだ。総勢
30名近くの人がいるからこれくらいで回さないときついです。お
金? 依頼を頑張ります︵泣︶
そして、今日の責任者は俺である。
541
そして、俺の作る班は3班の中で一番上手い。俺がやっているの
もあるけど、獣族の人も吸収速度が速いのだ。おかげでスキルレベ
ルが上がる人が続出中。他の班も当番では無いのに手伝ったり見学
をする始末で、どんどん食事のレベルが上がっている。
お蔭で日本料理も再現する人が出てきています。もちろんまだ簡
単なのだけだけど。その内教えたら作りそうだよな。いや作るわあ
の人達なら。
日本料理が意外と受け入れられてうれしかったりする。そしてエ
リラも日本料理が大好きになっちゃっています。
﹁まあ冗談だよ。でも手加減しとかないとマジで怪我人でるぞその
内﹂
主に俺の息子が。野球でキャッチャーとかが使うファウルカップ
でも装着しておいた方がいいかな?
﹁以後気を付けます﹂
﹁ほら立った、服が汚れるぞ﹂
俺がエリラの手を取り立ち上がらせる。どこかの漫才みたいな光
景にすっかり周りの目を集めてしまった、しかも方一歩は奴隷の首
輪持ちとくれば変な誤解する人もいかねないのでさっさと行くこと
にする。
こんな事で注目集められたくないな⋮⋮。
542
﹁あ、あの失礼かもしれませんが、クロウ様の奴隷ですよね?﹂
﹁えっ? ええ、そうですよ。ちょっと諸事情がありましたけど﹂
﹁い、いいのですか?﹂
﹁何が⋮⋮ってああ、いいのですよこれは、俺が素でいいよって言
っているので﹂
﹁⋮⋮M?﹂
﹁断じて違います!﹂
なぜその発想になる。
﹁私は同じ生きている者として対等に生きたい⋮⋮そう思ってそう
指示しているだけですよ﹂
﹁⋮⋮なんと言うか、珍しい発想なのですね﹂
素直に聞いたことないって言ってください。俺ももう充分この世
界では可笑しいってわかっておりますから。
543
﹁いえ、素晴らしい考えだと思いますよ﹂
あれ? 意外な反応だな。この世界では初めてだな。
﹁そう言ってもらえるとは光栄です﹂
﹁い、いえ! 飛んでもございません!﹂
こういう人もいるんだな。あっでもさすがに獣族とかも同じこと
してるとか言ったら不味いよな。
﹁あっ、これは秘密でお願いしますね﹂
﹁はい、畏まりました﹂
うーん、結構若い人に見えるけどかなりメイドとして熟練されて
いるな。ここまでとは言わないけどエリラも、もう少し節度を考え
て欲しいかな。まあこれがエリラなんだろうけどな。
その後は他愛もない話をしながら、俺らはローゼの家に無事到着
した。
﹁やっぱ貴族の家だな⋮⋮﹂
俺の家までとは言わないが、かなり大きい。エルシオンでもこん
な貴族の館は数えるほどしかないんだけどな。もしかしてローゼっ
てかなり裕福そうな家の生まれ?
﹁大きいね﹂
544
﹁では、こちらへ﹂
ゼノスさんの案内で俺は屋敷の入口まで来る。って門番までいる
よ。俺の家も防犯上必要だったりするのかな。
ゼノスさんが門番の兵士に声を掛けた。しばらくするとドアを開
けてくれて俺らは家の中に入った。
中も豪華な造りだあちらの世界で言うシャンデリアの灯り。床は
大理石見たいな石が覆っており歪みなどはほとんど見えないように
見える。技術は中世ぐらいのはずなんだけどすごい出来だな。
多くないですか? どう考えても30名はいますけど
そして、まるで待っていたかのように待つのはメイドの人達。
⋮⋮oh
!?
﹁お待ちしていましたわ﹂
そして、そのメイドに囲まれた一団がこちらに近づいてくる。ロ
ーゼだ、学校では動きやすい様にと普通の服を着ていたけど今はと
っても煌びやかな服装だ。うん、貴族の家に溶け込んでいる。逆に
俺だけ少し浮かんでいるように見えない? エリラはメイド服なの
で問題ないが、俺の今の服は一般市場に出回るような服を俺が自分
で縫って作ったものだ。黒をベースにした作りで、冒険者のように
動きやすい作りで作られている。正直こんな所では合わない服だな。
⋮⋮そういえば最初これを見たエリラが﹁クロだけにクロか⋮プク
クク﹂と笑っていたっけ。
⋮⋮やっぱり夕飯抜きにしようかな。
﹁本日はようこそ、こちらへ﹂
545
う∼ん、ゼノスさんもそうだけどやっぱり身についているよな。
とてもじゃないけど昨日叫びながら逃げて行った人には見えない。
案内された部屋にはソファー2つとテーブルが中央に置かれた部
屋で大きさは日本の学校の教室の2倍ほどの大きさかだな。庭がす
ぐそばにあり、園庭が一望できるところだ。今日は晴れているので
園庭もしっかりと見える。バラを始めとする多くの花が綺麗に飾ら
れており、今にも輝きそうなほどの美しさだ。
﹁綺麗ですね﹂
﹁当然よ。いつも庭師が手入れしていますからね﹂
いつもなんだな。あとローゼ、君は胸張る所じゃないですよ。
﹁では、こちらに﹂
ゼノスさんの後に付いていき2つあるソファーのうちの1つに腰
かける。
うーん、さすがにソファーは日本の方がいいかな? まあ庶民の
俺にはこれで十分だけどな。ソファーの良し悪しとか分からないし。
ローゼは﹁しばらくお待ちで﹂と言うとそのまま部屋を後にした。
﹁お飲み物をご用意しました。どうぞ﹂
ゼノスさんとは別のメイドが俺たちの前にあるテーブルに飲み物
を置いてくれた。このテーブルも大理石製で出来ているみたいだ。
さて、飲み物は⋮⋮!?
546
﹁ごふっ!﹂
﹁ちょっ、ど、どうしたの!?﹂
咳き込む俺。別に蒸せた訳じゃない。飲み物事態に問題があった。
というのも、この中に入っていたのはおそらく紅茶に分類される
飲み物だ。実は俺は前世から紅茶が苦手でどうもあの味がいつまで
立っても慣れなかったのだ。こちらの世界に来て果実水と水しか飲
んでいなかったので完全に頭から外れていたのだ。
そして結論、この世界でも俺は紅茶が苦手なようです。体が変わ
ったから別に味覚とかは変わるとかはないんだよな。今更ながらに
この事に気づくとは⋮⋮。
ふぅ⋮⋮幸いにして被害があったのは俺へのダメージだけで、周
囲に激しく飛び散っている様子は見えなかった。
﹁ごほっ、だ、大丈夫だから!﹂
﹁もしかして紅茶が苦手ですか?﹂
﹁え、ええ、どうもこの味が苦手で、久しぶりに見たので気づきま
せんでした﹂
久しぶりって言ってももう通算したら10年以上前だな。前世で
も決して手をださなかったし。あとこの世界でも紅茶って言うんだ
な。
﹁私としては飲んだことあるのと聞きたいわね﹂
547
エリラは平然と飲んでいる。やっぱりもと貴族なだけあって小さ
い時から飲んでいたのか。
﹁ふふでも、子供ね﹂
ピキッ
﹁よし、その喧嘩買った。表出ろ、それとも夕飯抜きか?﹂
﹁よし、喧嘩を買うわ﹂
﹁まあまあクロウ様、落ち着いてください﹂
ゼノスに止められて俺とエリラは取りあえず落ち着く。そうだな
俺は大人だ︵中だけ︶ここはクールダウンだ。
そもそもここはそんな場所じゃないな。てかゼノスさん以外にも
メイドいたの忘れていた。部屋の隅っこで今の一通りの流れを見て
いたメイドは﹁あれ?﹂と言った感じでポカンとしていた。これは
あとでゼノスさんのフォローを期待しておこう⋮⋮対して期待でき
ないけど。
﹁あれ? そういえば私さりげなく飲んでいたけどいいのかしら?﹂
おい、エリラそれに気づくのは遅くないか? つーか今日、かな
りの確率で気づくのに遅れていないか?
﹁ええ、それは私からお願いさせましたので、問題ありませんよ。
それよりもローゼ様がそろそろ参られますので﹂
﹁あれ? そういえばローゼさんはどこに?﹂
548
﹁お礼の準備とお着替えでございます﹂
ん? お礼はいいけどお着替え?
10分後、ようやくローゼがやって来た。服装は先程来ていた煌
びやかな服から学校で見たときに来ていた服と似ている。まあ簡単
に言うと普通の女性が着るような服と言えばいいのだろうか。
あっ、さすがにエリラは俺の後ろに立ちましたよ。さすがにこう
いう時はしっかりとしてるな。
﹁お待たせしましたわ﹂
﹁いえ、大して。それにしてもあの服で来るものかと思っていまし
たよ﹂
﹁今日は学校でも会う人なのでこちらの方がいいかと思いまして﹂
﹁あら? 素直にあの服は着にくいし動きにくいと申していたのは
誰でしょうか?﹂
えっそうなのゼノスさん と心の中で疑問に思ったが口に出すよ
りか先にローゼの声が出ていた。
﹁ななななな何言ってるの! 私はそんな事言った覚えはありませ
んわよ!﹂
と、若干顔を赤らめながらローゼは言った。言ったんだなこの様
子を見るに。
549
﹁お、お礼の物をお持ちしましたわ﹂
誤魔化したな。
まあそれはさておいて、ローゼが一声かけると後ろから何やら食
べ物が運ばれてきた。うわっ、何個が市場で見たことある高い物も
混ざってる。買えない値段じゃないけど、あんまり手は出したくな
いお値段だった記憶があるぞ。
﹁おお、これは揃えるの大変だったのでは?﹂
﹁大丈夫ですわ。私の家ぐらいの貴族でしたらこの程度の物ならい
くらでも用意できますから﹂
﹁と、言いつつも昨日散々悩んでいtフガッ!?﹂
ゼノスが何か言いかけた所でローゼの手がゼノスの口を塞ぎそれ
以上の発言を許さなかった。
﹁と、とにかく食べましょう!﹂
本日二度目の誤魔化しだな。まあ俺も深く追求する気はないから
いいけどな。
こうしてローゼの家にてお茶会が始まったのである。
550
第40話:ローゼの家へ向かう道中にて︵後書き︶
いつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
10月15日に皆さんのご声援のおかげ様で通算アクセス数が50
0,000PVを突破し、さらに本日10月16日になんと1,0
00,000PVを突破しました!
最初は1,000PVでも到達すればいいかなと思っていたのが、
いつの間にか当初の目標より1000倍ものアクセス数を達成し本
当にうれしいです! こんな初心者が書いている小説を読んでいた
だき本当にありがとうございます。
これからも異世界転生戦記∼チートなスキルを貰い生きて行く∼
をよろしくお願いします。
追伸:皆様からの感想やアドバイスなどは真摯に受け止めています
が、あまりに酷い誹謗中傷的な発言をする方々はコメントをお控え
ください。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字などがありましたら報告よろしくお願いします。
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※10/18
誤字を修正しました。
一部誤字を修正しました。
第41話:ローゼの家にて︵前書き︶
※10/19
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第41話:ローゼの家にて
お茶会⋮⋮と前回言っていたが、これほど豪華なお茶会とか見た
ことも聞いたこともない。ちょっと悪い気がしたけどそれぞれの料
理に使われている食材をスキルで調べて見たところ。とんでもない
お値段になりました、ちょいと公言出来る域を超えていますけど⋮
⋮。テレビに出したら﹁お菓子の値段じゃない﹂と言われそうだ。
エリラが後ろでゴクリと言ったのが聞こえて来た。チラッと後ろ
を見ると一見立っているだけに見えるが、目線が明らかにテーブル
に広げられたお菓子に向かっていた。
俺は仕方ないなぁと思うと
﹁これ、おいしいですね。お土産にいくつか貰いたいぐらいです﹂
と言った。
﹁あら、それならいくらでも差し上げますわ﹂
ローゼがそう言ってくれたので助かった。まあ貴族はこういうと
ころでは派手に使うのがこの世界では普通かもしれない。
俺はエリラの方を少し向き、彼女にだけ分かるようにウインクを
する。エリラはそれですべてを悟ったのか口がニンマリとしている。
でもすぐに元に戻った。よし、これでこのお茶会の後でエリラが暴
走する確率は無くなったな。まあもともと少し可哀そうだとは思っ
ていたから帰りに何か買ってあげようとは思っていたけど手間が省
けて助かった。
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﹁そういえば、クロウさんはどこの生まれなのですか?﹂
うぐっ!? まさかローゼからそんな言葉が出るとは⋮⋮なんて
言おうかな⋮⋮。俺は多少悩んだが
﹁エルシオンという町の近くの生まれです﹂
と言った。本当はアルダスマン国の辺境地なんだけどな。
﹁エルシオンですか?﹂
ローゼの顔が微かに曇った気がした。あれ? これまたなんか俺
やばいこと言ったか?
俺の顔に気づいたらしいゼノスさんがローゼに耳打ちをしている。
ローゼはアッと言った顔をするとすぐに謝ってくれた。
﹁あっ、ごめんなさい、別に悪気はありませんでしたの﹂
﹁いえいえ、大丈夫ですから﹂
ん∼、でも何かありそうだったな。まあ話しにくいことを問いた
だしても仕方がないな。間が少し悪くなりそうな雰囲気が流れたの
で飲み物を飲んだ瞬間
﹁ごふっ!?﹂
はい、やってしまいました本日二度目の紅茶クラッシュ。そして
それにつられて
﹁ぶっ!?﹂
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ローゼも似たようなことをやってしまいました。でもさっきは普
通に飲んでいたので9割いえ、10割俺のせいでしょう。
﹁あらあら﹂
ゼノスさんが俺たちの様子を見て笑っている。部屋の隅っこでも
一回目の紅茶クラッシュを見ていた人たちが必死で笑いを堪えてい
るのが分かった。穴があったら入りたいです。
﹁プッククク⋮⋮﹂
⋮⋮エリラにも笑われました。
﹁⋮⋮エリラぁ﹂
俺は顔に青筋を立てながらエリラの方を睨みつける。俺の声にエ
リラは瞬時に反応し謝ろうとしたのだが⋮⋮
﹁す、すみゅ! ⋮⋮﹂
⋮⋮不︵?︶の連鎖って恐ろしいですね。見事に噛んでしまいま
した。
そしてそれをきっかけに先程まで笑いを堪えていたメイドさんた
ちも堪えきれずに笑い出してしまった。 部屋中に広がる笑い。俺
は二重の意味で穴に入りたくなりました。
﹁∼∼∼∼∼∼! 皆様客人の前ですよ!﹂
ローゼは何とか止めようとするが、言っている等の本人も紅茶を
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拭きだした跡がまだ残っており全然怖くも何ともない。むしろそれ
に気づいたローゼが慌てて顔を拭くので、完全に火に油を注いだ状
態に、もうメイドさんの何人かは目に涙が浮かんでいる人も。
エリラはエリラで顔を赤くして俺の背中に顔を隠してくるわ、ゼ
ノスさんも笑うわ、ローゼは慌てるわで一時、部屋は笑いの渦に巻
き込まれていた。
⋮⋮もう帰りたいです︵泣︶
ようやく、笑いが一通り収まってきた頃にはゼノスさんやローゼ
は落ち着きを取り戻していたが、何人かのメイドsとエリラは未だ
に立ち直っていなかった。
﹁ほら、エリラももう顔上げろよ﹂
﹁⋮⋮いやだ恥ずかしくて無理⋮⋮﹂
﹁いや、噛んだだけだろ? 俺の方がさっき一度やってしまった分
恥ずかしいぞ﹂
﹁追撃してしまったことが恥ずかしい⋮⋮﹂
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だぁー! なんで普段のお前はここまでに来るような事を平然と
やっているのに︵前回参照︶、こんな所ではダメなんだよぉ!! ﹁もうエリラさんもお座りになられてはどうでしょうか?﹂
ちょっとぉ!? ゼノスさん!? なんでそんな発言になるので
しょうか!?
﹁クロウ様もエリラさんを大事にしておられるようですので、どう
ですかローゼ様?﹂
ゼノスさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!! orz
駄目だ、もうこの人絶対フォローしてくれない! てか、前回秘
密でって言ったじゃないですか!? ⋮⋮もしかして、あれの言葉は俺の主義については黙っておいて
くださいにしか聞こえなかったのかな?
後で考え直したがそう聞こえていても可笑しくないやり取りだっ
たな。
﹁へぇ、クロウさんって年上が好みなのですか?﹂
ローゼが結構真面目な口調で言ってきたので俺は焦って言葉を返
す。あとエリラお前、さっきから俺の背中に顔をグリグリ押して来
てるだろ。痛いぞ。もう大丈夫なら早く立ち直ってくれよ。
﹁ち、違いますよ。 そういう意味ではありません﹂
﹁じゃあどういう意味でしょうか?﹂
557
﹁言葉の通りですけど違います﹂
﹁じゃあその通りでは?﹂
﹁い、いやだから違いますって!﹂
ど、どう弁解すればいいんだよ!?
﹁クロウさんは同じ人として大切に扱っているのですよ﹂
おい、ゼノスさんやい、もう秘密とか完全に忘れていますよね?
ゼノスさんが俺の方をちらっと見てニコッと笑った。あっ、この
人確信犯や⋮⋮。
﹁同じ客ならお菓子なども準備なされた方がよろしいですよね?﹂
﹁えっ、えーと﹂
⋮⋮ローゼさんってもしかしてあんまりゼノスさんに頭が上がら
ないタイプ? その代り揺す振られたら超弱いけど。
﹁どうしますか?﹂
﹁え⋮⋮えーと⋮⋮クロウさんの従者だけにですよ?﹂
いやそこでOK出すの!?
﹁他の方もいいですね?﹂
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ゼノスさんがにっこりと部屋にいたメイドさんたちを見回す。そ
の視線にメイドは全員顔を縦に振っている。⋮⋮っていうより振ら
されていない? ゼノスさんって実は⋮⋮怖い人?
﹁じ、じゃあ予備を持ってきなさい﹂
ローゼがそう命令してメイドが何人か部屋を後にした。ローゼさ
んも﹁ちょっと服を変えてきますわ﹂と言って部屋を出て行った。
こうして、状態はテーブルにあるお菓子を除いてほぼ最初の状態
に戻った感じとなった。
ゼノスさんがにこやかな笑顔で俺らの方を見て来る。
﹁ふふ、先程エリラさんがあまりにも欲しそうな顔をしていたもの
ですから、ついでですよ﹂
﹁ふう⋮⋮確信犯ですよね?﹂
﹁あら、なんのことでしょうか?﹂
﹁全く⋮⋮先程の秘密を守るとは何のことだったのですか﹂
o
﹁エリラさんに︵ピー︶を蹴られた時のことですよね? ええそれ
は秘密にしておきますわよ﹂
⋮⋮って、そっちのことじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
rz
部屋の隅に残っていたメイドたち︵3名ほど︶がゼノスの発言に
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吹き出しまた笑い出す。てか、もう言っちゃってるじゃありません
か⋮⋮。
﹁ご心配なさらずにここにいる者以外には聞かせませんよ﹂
大丈夫かな? 本当に大丈夫かな? 俺なんか怖いよ!?
﹁さて⋮⋮エリラさんも座られては?﹂
﹁ほら、エリラ﹂
だが、俺の言葉にも気づいておらず、ただ﹁言われた⋮⋮﹂と泣
きそうな声で呟いていた。エリラ、お前ってそんなにメンタル弱か
ったか?
仕方ないので俺が無理やり引き剥がし強制的に俺の横に座らせる
⋮⋮が
﹁ちょっ、エリラ、お前鼻水出てるって!﹂
﹁う゛う゛⋮⋮こんなに恥ずかしい日とか⋮⋮アレ以来よぉ⋮⋮﹂
アレってついこの前の話じゃねぇか!︵第32話参照︶。エリラ
の顔は真っ赤になっており涙&鼻水でもう色々と残念になっていた。
こんな様子じゃ俺の背中も何が起きてるかもう大体予想つくなぁ⋮
⋮⋮。
ゼノスさんが他のメイドに頼んでタオルを持ってこさせ、タオル
で顔を拭きようやくエリラは落ち着いた。ちなみにエリラの顔を見
たときにメイドが笑いかけたのはエリラには秘密である。
560
⋮⋮なんか今日は疲れるなぁ︵主に精神的なダメージにより︶
﹁⋮⋮というか見ていたのですね﹂
﹁人の動きを見ることは得意ですので﹂
やっぱりこの人出来るよなぁ⋮⋮。
その後、ローゼが戻ってきてエリラを含めて再び、お茶会は再開
された、まあ後半はエリラが結構食べること以外は特にこれっと言
った事もなく、日が傾き始めたのでお茶会はお開きとなった。
それにしてもおいしかったな。帰り際にお土産ももらったので帰
って分けようと思う⋮⋮獣族の人にもあげたいけどレシピが分から
ないから、作りようがないな⋮⋮フ○ーチェでもあればいいのに。
こうして、ローゼの家でたっぷりとお礼をさせてもらった、俺と
エリラは︽移転︾で家に戻った。ただ、帰ってきた瞬間﹁甘いにお
いがするのです!﹂とフェイが気づきその後はちょっとした争奪戦
になった。幸い大人の女性らが断ってくれたので分けることは出来
た。⋮⋮めっちゃ残念そうな顔だったけど、やっぱり今度どこかで
レシピでも聞いて来るか、料理なんてこの世界に来る前は全くに近
いほどやっていなかったが、スキルのお蔭で多少手抜きで作ろうが
旨くなってしまうと言う料理人が聞いたら怒りそうな事が出来るよ
うになってしまった。
ちなみに料理はやらなかったけど、作り方は意外と知っているの
が多かった。まあほとんどがテレビで仕入れたちぐはぐな情報なの
ですが、スキルのせいで出来てしまうんです。
俺が悪いわけではありません、スキルが悪いのです!
561
その夜
薄暗い部屋の中、ポツンと一人で開けた窓の外を見ている少女が
いた。近くの机にはさっきまで読んでいたであろう書物が数冊置か
マジックキャンドル
れており、風に吹くたびにページがパラパラとめくれていた。部屋
の中は静まり返っており、︽魔力型蝋燭︾の灯りだけが微かに輝い
ていた。
﹁⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮まだお休みになられていないのでしょうか?﹂
﹁!?﹂
思わず後ろを振り返る。そこに立っていたのはメイド服を着た2
0歳前半の若いメイドだ。若いと言ってもその仕事っぷりは長年勤
めていた人でさえも驚くほどの能力を持っており、その能力を買わ
れ今はメイド長になっているほどの人であるが。
﹁⋮⋮結局言い出せませんでしたね﹂
562
﹁⋮⋮あの子⋮⋮紅茶が苦手でしたわね﹂
﹁はい、ローゼ様が来る前におっしゃっていました﹂
﹁⋮⋮そうでしたの⋮⋮ですがあれを見た後ハッと思い出したので
す。彼はまだ子供であることを﹂
﹁ですが、その実力は間違いなく本物。話をしたらローゼ様のお力
になっていたと思われますが⋮⋮﹂
﹁そうね、あの子⋮⋮エリラだったわね。彼女、前どこかで見たこ
とあったと思ったらフロックス家の長女だった者ですわ。昔、何度
が会った事がありましたの、向こうは覚えていらっしゃらないかも
しれませんが⋮⋮でもまさか奴隷になってしまっているとは思わな
かったので、聞けず仕舞いでしたが﹂
﹁あの人が⋮⋮? 家出したと聞いていたのですが、何故⋮⋮?﹂
﹁まあ色々遭ったのでしょう。でも彼女は繁栄を約束された貴族か
ら泥沼の奴隷に落ちても相変わらずの様子だったわね⋮⋮﹂
﹁面白い子だと思いましたよ﹂
﹁そう⋮⋮昔から打たれ弱いからからかってみるとすぐ涙目になっ
ていましたもの⋮⋮その度に強情になって結局真面に会話できた事
なんて数えるほどしかありませんでしたわ﹂
﹁そうだったのですか﹂
﹁ええ、私も始めは人違いと思いましたわ⋮⋮でもほら後で出した
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お菓子⋮⋮あれ確か全部食べてましたわね? あれを見て彼女はエ
リラ・フロックスであることは確信しましたわ﹂
﹁お菓子で?﹂
﹁ええ、だってその真面にお話した時⋮⋮全部一緒にお菓子を食べ
たときでしたもの﹂
﹁フフ⋮⋮それでですか?﹂
﹁そうよ。当時はあんなのを食べている時しか笑顔は見せなかった
んだけどね⋮⋮﹂
ローゼはそういうと今まで開けていた窓を閉め、そのまま椅子に
座った。
﹁本当⋮⋮あんなに笑顔を見せるようになって⋮⋮﹂
﹁悔しかったのですか?﹂
﹁⋮⋮﹂
ローゼは何も答えない、だがこの沈黙がまさに答えを物語ってい
るように見えた。今まで本当にごくわずかな時しか笑わなかったの
に⋮⋮奴隷になった今、あんなに笑顔でおられるのかと。
﹁⋮⋮私にはクロウ様と話していらっしゃるときだけは素で話して
いたと思われました﹂
﹁⋮⋮そう⋮⋮あなたにもそう見えたのなら間違いないでしょうね﹂
564
﹁⋮⋮クロウ様とエリラさんはとてもではありませんが服従関係で
成り立っているとは思いませんでした。そんな枠組みなどに囚われ
ない⋮⋮まるで姉と弟⋮⋮と言ったら可笑しいかもしれませんが、
それくらい仲がいいように感じられました﹂
﹁言うわねあなた﹂
﹁メイドですから﹂
﹁全く、そんなことを平然と言うメイドがどこにいらっしゃますの
?﹂
﹁ローゼ様の目の前にいるではありませんか﹂
﹁⋮⋮はぁ、負けよ負け、本当あなたには絶対勝てる気がしないわ、
何を言っても返してきそうで怖いですわ﹂
﹁恐縮です﹂
﹁⋮⋮私は今私に出来ることをするだけですわ﹂
﹁⋮⋮その結論が彼の力は必要ないと?﹂
﹁そうよ﹂
﹁⋮⋮本当にそうお思いですか﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ええ﹂
565
﹁⋮⋮分かりました。もはや私からは何も申しません。あなたの思
いのままに﹂
﹁⋮⋮ありがとう、ゼノス﹂
﹁⋮⋮それがメイドですから﹂
部屋に置いてあった魔力型蝋燭はいつの間にか魔力が切れ、部屋
の光はいつの間にか月によって照らされていたのだった。
566
第41話:ローゼの家にて︵後書き︶
いつも読んで下さる皆様本当にありがとうございます。
次回の分を投稿し次第、執筆作業と同時に今まで甘かった文章を
すべて一から点検します。日頃あまりに多い誤字脱字報告に報告を
して下さる皆様に感謝しているのと同時にこんなに大量の誤字を見
落としていた自分に泣けてきます︵ToT︶
こんな初心者で何回も修正がかかるような小説ですが、これから
も読んでいただけると嬉しいです。
これからも応援、よろしくお願いします m︵︳ ︳︶m
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字などがありましたら報告よろしくお願いします。
なお、余に酷い誹謗中傷的な発言をする方々はコメントをお控え
ください。
567
※10/21
※10/20
誤字を修正しました。
脱字を修正しました。
後書きに加筆をしました。
第42話:早食い対決︵前書き︶
※10/22
※
5/9
4/9
誤字を修正しました。
誤字を修正しました。
2015年
※
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第42話:早食い対決
ローゼの家に行ってから1週間が経過した。あれから特にこれと
言った出来事は起きず、俺は学校の図書館に行く傍ら食事と家の維
持費のために狩り︵依頼︶へ出かけている。
一気に稼ぐため、最近はBクラス系の依頼を中心に受けている。
﹁この調子だとすぐにBランクに昇格ですね﹂とミュルトさんに苦
笑いをされながら言われたが﹁それはもっと先の話ですね﹂と言い
Bランクに昇格することは今、保留にしている。
というのも、ハヤテ戦の後に、少し遣り過ぎたと反省し、昇格す
るのは10歳のときにしようと思っている。最近忘れがちになられ
ているが、俺はまだ見た目は子供だ。日本で言うなら小学1年生ぐ
らいの年齢だ。こんなちっこい子供がBになりましたなんて言った
ら面倒な事が起きるのは目に見えている。
だけど俺は今、稼がなくてはならない。何故なら家で稼ぎ手が俺
しかいないからだ。奴隷身分の人は一人でクエストなど当然受注で
きないので、必然的に俺が依頼を受け、エリラと一緒に行くのが自
然な形になっている。
もちろん、一回依頼を受ければ数ヶ月は持つぐらいの報酬は手に
入るのだが︵報酬金上乗せで︶、もっと安定した収入も欲しい所だ。
獣族たちもお金が無いと何も買えないので、大人の人たちにはい
くらか振り分けている。この世界の常識では奴隷にお金を与えるな
どまず考えられない行為だが、毎日訓練ばかりもどうかと思ったの
569
で、好きなのを買って来ていいよと言っておいた。
相変わらず驚いたりはしたけど、素直に受け取ってくれた。
前にも言ったが奴隷でもない異種族が街で買い物をしようものな
ら大問題だが、奴隷身分の異種族なら問題なく買えるので、人間の
生活にも慣れてもらうと言う事も含めお金を上げた。
子供たちの分もあるけど。子供たちはほぼ毎日、庭で遊んでおり、
買うと言う発想自体が無いみたいだ。なので必然的に女性たちが使
うことに。
まあ、もともと物欲が激しい人たちでは無いので花を買って来て
植えるとか、子供たちにお菓子を買ってあげるとか、その程度にし
か使っていないみたいだ。
そんなある日の正午。俺が学園の図書館で本を読み終えたときの
事だ。
サイレント
学園の図書館だけあってさすがに量がすごい。ただ新たに覚えた
魔法やスキルは少なく獣族の子供たちに教える予定の︽無音︾や︽
隠密︾などと、言ったものがあったことぐらいだ。ちなみにどれも
魔法を使えば再現することができる。
もちろん、それだけを読んでいた訳では無い。
著者不明の﹁滅びた都市︻チェルスト︼の謎﹂や﹁マーザーの異
端騒動﹂など、色々なものを読んでみた。
まあ、歴史なんてほとんど改ざんされており、内容は異種族の事
が大半は悪く書かれていたので、内容についてはスルーした。しか
し、いつ何が起きたと言う事は分かっても損は無いので一応、覚え
ておくことにする。
﹁ふう⋮⋮疲れた﹂
570
﹁⋮⋮ふあ⋮⋮﹂
朝から読んでいたのだが、どうやら熱中し過ぎたようだ。エリラ
は途中で読むのをやめ完全に熟睡していたけどな。まだ半ボケ状態
なのか瞼はトロンとしている。エリラは読んでいた本を持っていこ
うとするのだが、足が覚束ない様子。 ⋮⋮酔ったおっさんの千鳥
足見たいな光景だ。
﹁⋮⋮大丈夫かあいつ?﹂
呟かずにはいられない。⋮⋮あっ転んだ。あいつの寝起きの悪さ
はすごいからな。夜中に何故か踵落としをする日もあれば腹に裏拳
を繰り出されたこともある。俺も寝相はあんまりよくない方だが、
あいつの寝相に比べたら俺なんか可愛い方だと思う。いやマジでだ
ぞ? 俺は日本にいるときは夜寝たときと朝起きたときに頭が向い
ている方向が180度真逆になっていることがよくあった。
あと、朝起きたら何故か壁に寄り添って体育座りをしているとき
もあった。
それから、昔、兄から聞いた話だと枕を持ったままトイレに行っ
たこともあるらしい。俺は全く記憶に無いのだが⋮⋮、あと水もし
っかりと流していたらしいぞ。
⋮⋮こんな俺でもエリラの寝相は悪いと言える。静かな時は静か
ですよ? でも、それって大抵俺を抱き枕感覚で抱きしめている時
ぐらいです。夏は暑くてかないません。でも離したら離したで色々
と、物理攻撃が飛んでくるので下手に離すことも出来ず、夏場は水
がお隣に必須です。
しかも、これで翌日は、必ず元の体勢になっているから余計にタ
571
チが悪い。つまり本人は無自覚なのだ。
﹁ごはん∼﹂
⋮⋮寝ぼけながらでも、本をしっかりと片付けている所はすごい
な、元の場所にしっかりと戻している。
片付け終わったエリラが俺の所に戻って来る。まだお目覚めには
程遠いのか、目を擦りながらゆらゆらとこちらへ歩いてくる。
﹁あっ、ごはんだ∼﹂
⋮⋮ん? 何か嫌な予感が⋮⋮、エリラは俺の前まで来ると、そ
のまま︱︱︱
﹁いただきまふぅ﹂
のんびりとした声と共に、俺の肩辺りをパクリと噛みついて来た。
俺は踏ん張ることも出来ずに地面へ背中から叩き付けられた。むに
ゃむにゃとか言いながら俺の肩をもぐもぐしてくるエリラ⋮⋮いや、
いつから俺は食べ物になったんだよ。俺は猪○戒じゃねぇぞ。
俺はエリラを肩から引き離そうとするが、これがまた中々離れな
い。痛いかと聞かれたら痛くは無い。というのも、やっぱり寝ぼけ
ているので噛む方の力は弱いようだ。でも離れないってどういうこ
とだよ、あっ、俺の肩に涎が⋮⋮。
﹁おい、エリラ起きろ﹂
俺はエリラの額をペシペシしながら呼びかけるのだが
﹁にがふぁないわよ∼ぶた∼﹂
572
と言いながら両手を俺の首後ろで握ると、尚ももぐもぐとして来
る⋮⋮いや、だから俺は猪八○じゃねぇって⋮⋮。
あまりに長時間、目が覚めなかったので、俺が頭に空手チョップ
を食らわせ強制的に目覚めさせることに。
﹁とうっ!﹂
︱︱︱ゴンッ!!!
﹁いたぁ!?﹂
エリラが後頭部を摩りながら顔を上げる。意識がはっきりとして
来た辺りで俺が
﹁起きましたか?﹂
と問いかけると⋮⋮
﹁えっ? えっ? えっ?﹂
何が起きたか分からない様子。ようやく俺の上に乗っかっている
ことに気づくと、辺りを数回見回し、その後﹁いやああぁぁぁぁぁ
ぁ!!!﹂と言いながら顔を真っ赤にして俺の胸へ強烈なヘッドア
タックをかましてきた。
﹁ごふっぅ!﹂
⋮⋮何故⋮⋮俺に攻撃を⋮⋮? 俺は,心の中でそう思いながら
しばしの間,意識を手放してしまった。俺の意識が戻ったのは、そ
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れから10分後ぐらいだった。
その後はエリラが土下座をして誤ってきて、俺が何故あんな体勢
だったのか経緯を説明すると、また顔を真っ赤にし、目を、うるう
るさせながら﹁もっと早く止めてよぉ!﹂と言いながら顔を俯けて
しまい、その後、5分間ぐらいはその場から動けなかった。﹁大丈
夫だよ、誰も見ていないから﹂と、俺が慰めてようやく立ち直った。
⋮⋮前回のローゼの家に引き続き、最近たるんでいないかと心配に
なります。
﹁食堂に行くのは初めてだな﹂
この学園には食堂がある。全校の生徒が一斉に全員入ってきても、
問題無い位の大きさがあり、メニューも非常に豊富らしい。昼休み
になると生徒は食堂で食べるのが普通との事。
もう、家に帰って食べる気も無くなったので︵エリラの頭突きを
受けたダメージにより︶、食堂で軽い食べ物でも食べようと思い初
574
めて訪れたのだ。
﹁それにしても⋮⋮本当に生徒が多いな⋮⋮﹂
食堂にいるのは人、人、椅子、机のオンパレード。酔いそうです。
もっとも、この程度で酔っていたら渋谷の某交差点などを見たとき
は、どうなるかわかったものではないが。
﹁あっ、クロウじゃねぇか?﹂
振り返ると、そこにいたのは俺と同じ黒髪をした少年だった。黒
をベースにしたズボンに、黒色の上着、極めつけは黒いマントと、
黒一色で身の回りをガッチガチに固めていた。
﹁えっと⋮⋮確かカイトさんでしたっけ?﹂
そう、そこには転入初日で教室に入った瞬間に、奇襲を仕掛けて
来たカイトがいたのだ。
﹁ああ、食堂に来るのは初めてか?﹂
﹁ええ、今日はあんまり食べる気がしないので、いつもの場所では
なく、ここで軽めの食事でも取ろうと思いまして﹂
﹁なるほどな、じゃ、俺が案内してあげるぜ﹂
﹁本当ですか? 助かります﹂
﹁ああ、任せておきな。さっ、こっちだぜ﹂
575
そういうと、カイトは食堂の中にあるカウンターの方へと歩き出
す。俺もその後ろから付いていく。
その後、俺はサンドイッチみたいなものをチョイスし、カイトは
丼に、これでもかと言うぐらいの大量のご飯に、山盛りのお肉を乗
せた﹁元気定食・極﹂を頼んだ。いや、アメリカのハンバーガーじ
ゃあるまいし、そんなにいる? どう見ても肉は1キロぐらいはあ
りそうなのだが。
エリラも何か頼めるのかな? と不安になっていたが、カイトが
﹁従者も何か頼んでも問題ないぜ﹂と言ってくれたので、エリラも
﹁じゃ、あれと同じので﹂と言ってカイトの﹁元気定食・極﹂を指
さした。
⋮⋮君、正気? 受付のおばさんも﹁本気かい?﹂と、聞いたが
﹁もちろん!﹂と胸を張って言った。
近くにいた生徒たちから﹁マジかよ⋮⋮﹂とか﹁奴隷のくせにあ
んなの頼むのかよ﹂とか、ちょっと睨みつけたい発言が飛んでいた
が、俺が何ともない雰囲気で支払って行ったので、チラチラ見られ
るだけで、ちょっかいを掛けて来そうな人はいなかった。
テーブルに行く前に﹁主人、小っちゃいな﹂﹁ば、ばか! お前、
あの人はあの特待組を沈めた転入生だぞ!﹂と言う声が聞こえたが、
スルーしておこう。情報ってどこで漏れるか分かりませんね。
﹁クロウ、あんたの従者本気か? というか良くお金払って上げた
な、2000Sもするんだぞ?﹂
576
安いものだ。と思ったことは秘密にしておこう。
﹁別にいいじゃないですか、本人が食べたいと言っているのですか
ら、後⋮⋮本気だと思います﹂
寝ぼけて俺を肉と勘違いして噛みつくほどですし。ちなみにカイ
トに付いて来ている従者は、俺と同じのを頼んでいた。本人が言う
には﹁普段から少食ですので﹂との事。エリラも、普段はあんな物
は食べないが、今日はどこか、思考回路がおかしくなってしまって
いるのだろうと、考えておくことにした。それに普段も、あれほど
じゃないけど、結構食べてる方だと思うし。それでも体重が増えな
いのは、日々夜まで行っている訓練のお蔭だと思う。
⋮⋮ふと、あの栄養は頭じゃなくて、胸とかに行ってるんじゃな
いだろうかとつい考えてしまう。どれくらい成長したかと言われて
も困るが、確実に初めて俺と出会ったときより育っているのは間違
いない。最近、﹁最初の頃に着てた服が着れない⋮⋮胸が邪魔で﹂
と嘆いていたし。紳士な俺は、聞かなかったことにしておこうかと
思ったのだが、つい﹁⋮⋮誰のせいでしょうね﹂と呟いてしまい、
﹁クロのせいでしょうが! 奴隷の私にも良い物を食べさせるから
!﹂と言い掛かりをつけられ、ちょっとした運動︵喧嘩︶をさせら
れたこともあった。
﹁あっそうだ、なあクロウの従者、あんた俺と早食いで勝負しねぇ
か?﹂
カイトが唐突な勝負を持ちかけている。近くのテーブルにいた生
徒らが ブーー! と、食べた物を吹き出しているのが聞こえて来
た。
577
﹁早食い?﹂
﹁ああ、この大きさを頼む奴なんて中々いないからな。あまりこう
言う機会が無いんだよな。一度でいいから勝負してみてぇって思っ
ていたんだよ﹂
﹁もちろん受けて立つわ! いいでしょクロ?﹂
﹁まっ、エリラがいいならいいよ﹂
﹁じゃあ、行くぞぉ! クロウ! 審判をしてくれ!﹂
﹁えっ? ああ、わかったよ⋮⋮始め!﹂
俺の開始の合図と共に、一斉に食べだす両者。周りの生徒が、面
白そうな光景が見れるぞ、と言いながら俺の周囲らの集まってくる。
おい、見世物じゃないぞ。
そんな周りの様子は見えていないのかエリラとカイトは箸を進め
る。
両者、一歩も譲らない戦いが続く。時折、ごほっ! と咽る場面
もあったが、それでも構わず食べ続ける二人。良い子の皆は、肺炎
の危険があるので咽たときはしっかりと咳き込んで、出しておきま
しょう。間違えても無理やり食べたりはしないように。
そして︱︱︱
﹁終わったぁ!﹂
578
﹁だああああああ!!!! チクショォォォォォ負けてしまったぁ
ぁぁぁぁ!!!!﹂
勝利のVサインを俺に向けてくるエリラと、テーブルを叩きなが
らマジで悔しがっているカイトの様子が、勝敗を物語っている。俺
が判定をするまでも無く。エリラの勝利だ。カイトも善戦したが、
あと肉が2口ぐらいで、エリラが食べ終わった。
﹁うぉぉぉぉ、すげぇぞあの奴隷﹂
﹁カイトの奴にあの早食いで勝ちやがったぞ⋮⋮﹂
と、周囲から拍手が何故か起きる。普通奴隷はこんな所で、こん
なことを、しては悪いのだが、色々な意味で俺のことが知れ渡って
いるので、特に問題は起こりそうに、ならなかった。奴隷でも人間
であるのに加え、俺みたいな特待生組の従者となると、多少立場が
良くなるようです。
﹁くそぉ! 次は勝つ! また勝負だ!﹂
﹁もちろん! 受けて立つわ!﹂
何故か固い握手をし合う二人。しかしその直後﹁おぷっ⋮⋮やば
い、さすがに早く食べ過ぎた﹂とダウンする両者。せっかくのいい
シーンが台無しになっています。
見物客も元の場所に戻り始めたが、何人かの貴族が俺の所に近づ
いてきて﹁かわいい子だね、どうだい買った値段の4倍で買いたい
のだが﹂と言ってくる奴らがいったので、﹁顔を潰されるのと、心
臓を潰されるの、どちらがいいですか?﹂と満面の笑みで貴族に問
いかけると﹁じょ、冗談だよ﹂と言い、噂の効果もあってか、そそ
579
くさと逃げて行ってしまった。
その後、食堂も勝負が始まる前の様子に戻った。エリラが﹁や、
やばい⋮⋮戻しそう﹂と、テーブルの上に顔を伏せている状態で言
った。ここではやめてくれよな⋮⋮。キラキラ演出とかいらないか
らな。カイトも似たり寄ったりの状況で、従者さんから心配そうに
声を掛けられてる。
﹁全く⋮⋮無理するかだろう﹂
﹁へへ⋮⋮負けたくなかったから、つい⋮ね﹂
エリラが笑顔を造りこちらを見てくるが、直後に﹁あっ、ご、ご
めんちょっとトイレ言って来る﹂と、言って去って行った。その後
に付いていくかのように﹁お、俺もやばいぜ、胃袋が暴走を始めち
まいそうだ﹂と言いながらトイレに行った。
俺とカイトの従者はお互いに、思わず顔を見合わせてしまう。
﹁⋮⋮バカを持つと大変ですね﹂
﹁い、いえ、カイト様は大抵の物事の後は、あんな感じなので、も
う慣れました﹂
ああ、プールとかで真っ先に飛び込んで足をつるタイプですね。
さて、あいつらが戻って来るまで、どうしようかと悩んでいると。
﹁お前何ぶつかっとるんじゃあ!﹂
580
と、言う怒号が食堂の隅から聞こえて来た。見てみると女子生徒
がどうやら男子生徒にぶつかってしまったようだ。男子生徒の胸元
にはぶつかった時に、水がかかったのか、水跡が残っている。
﹁あー、あー、あいつにまた絡まれたか﹂
﹁ドンマイしか言いようがねぇな﹂
﹁いや、あいつの不幸オーラのせいだろ?﹂
﹁よりによって、あいつになぁ⋮⋮﹂
周囲のテーブルからヒソヒソと、話が聞こえて来る。どうやら、
いつもの事のようだ。男子生徒の後ろには同じ背丈ぐらいの男子生
徒がもう二、三人ほどいて完全に傍から見たらリンチ状態だ。
さて、どうしようかと俺は思い、何となく男子生徒の顔を見てみ
ると。
その時、俺は思わずあっと息を飲み込んだ。
何故なら、その顔は、俺も良く覚えている顔だったからだ。
581
第42話:早食い対決︵後書き︶
最初の図書館のやり取りはどうしようか迷った挙句、使う事にし
ました。元ネタは、実は作者自身だったり⋮⋮。
次回、懐かしのあいつが登場︵あんまり古くないけど︶
さて、この回を投稿後、大掛かりな修正を始めたいと思います。
すべて完了するまで、どれくらいの時間がかかるか、分かりません
が、少しずつでも、進めて参りたいと思います。
第1話の、大幅加筆修正が終了しました。以後、大幅修正を行っ
た話には︻︵大幅修正︶︼と言う表示を、前書きで修正した日と共
に記載しておきます。
物語に大幅な変化はありませんが、一部の設定が少し、変わった
部分などもあります。その場合は、更新した日の後書きにて載せま
す。前のを見なくても、物語にはほとんど影響はありませんが、﹁
嫌だ!﹂と言う方は、大変申し訳ないのですが、一度読み直して下
さい。
読者の人に多大な迷惑をお掛けすることを深くお詫び申し上げま
す。
本当は、設定などは殆ど変更する予定は無いのですが、第1話は
変えざる、得なかったので変えさせて、もらいます。本当に申し訳
ありません。
582
︻大幅加筆修正報告︼
・第1話
・クロウの生まれの天涯孤独の部分を少しだけ、加筆を行い、孤
児院の事と、親が兄弟が死んだ時の学年を加筆しました。
583
※10/22
誤字を修正しました。
後書きを加筆しました。
第43話:目には目を歯には歯を︵前書き︶
※10/22
584
第43話:目には目を歯には歯を
﹁あいつは確か⋮⋮ウグラだったな﹂
俺がエルシオンに初めて訪れた時に、喧嘩を売って来て、一撃で
沈んだ奴だ。確か、エルシオンの領主の息子だったか?
そして、後ろにいる男子生徒の顔は、ほぼ全員覚えていた。中に
は俺の依頼を奪おうとしたジーンもおる。どうやら、俺が絡まれた
時と、メンバーは殆ど変らないみたいだ。
ウグラは、ぶつかった女子生徒の胸倉を掴み引き寄せると、思い
っきり顔を殴った。ゴスッ! と言う鈍い音と共に、女子生徒は吹
き飛び、地面を二転三転と転がって行った。
⋮⋮ぶっ殺していい? たかが、ぶつかって水を掛けてしまった
事に対する報復のレベルを、悠に超えていると、俺は思った。
女子生徒の顔を見ると口の中を切ったのか、口から血が出ていた。
﹁ウグラさん、俺も一発いいですか?﹂
ウグラの後ろにいた、男子生徒の一人が、ウグラの前に出て来な
がら言う。
﹁別にいいぜ。もう一発行きたかったが、お前にあげるわ﹂
前に出て来た男子生徒は、少し姿勢を低くし、一瞬、動きが止ま
るとふん! と言いながらなんと女子生徒のお腹辺りを目がけて蹴
585
りを繰り出した。
しかも足の甲で蹴らずにつま先を立てた状態で蹴り込んでいた。
女子生徒のお腹に、強烈なキックがめり込んでいる。
﹁!!!!﹂
女子生徒はその場に倒れ、激しく咳き込んだ。咳き込むのと一緒
に、血も出ているのでその惨状が余計に目立ってしまう。
﹁へっ、お前、蹴り弱すぎ﹂
﹁ウグラさん俺もいいですか?﹂
完全に遣りたい放題の彼ら。だが周りの生徒は、誰も動こうとし
ない。何人かはチラッ、と見てはいるが、すぐに視線を逸らす。先
生を呼びに来るとかを、する者もいない。これが日本だったら説教
どころか大問題になりかねないほどなんだが⋮⋮。
何故、誰も動かない? いくらエルシオンと言う都市を治めてい
る領主の息子と言っても、この学園には他にも同地位の人位いるだ
ろ?
食堂のおばちゃんも、何か言いたそうだが、見るだけで何も、し
ようとしない。
その時、周りのヒソヒソ声から聞こえて来た会話が、俺の疑問に
対する答えをくれた。
﹁お、おい、これ、いつにも増してやばくねぇか?﹂
﹁で、でもあいつらに歯向かえないよ、下手をしたら決闘で半殺し
になりかねないし⋮⋮﹂
586
決闘? 模擬戦とは違うのか?
﹁それに最初にあいつ等を止めようとした奴、最近見てねぇだろ?
噂によれば捕まえられてどこかに閉じ込められているとか﹂
﹁い、いや、さすがにそんな事ないでしょ、そんな事をしたら、い
くらなんでも国やギルド辺りが黙っていないだろ﹂
﹁確かにな⋮⋮でも俺、よくこの噂聞くぜ﹂
﹁冗談で言ったのが、そのまま噂になってしまったんだろうな﹂
まあ⋮⋮やりそうだな。
うーん、面倒事は嫌いなんだけどな⋮⋮特に、あいつの顔はもう
見たくないと思っていたんだが⋮⋮。
仕方がない、ここは天誅と行きますか。
二人目の男子が、再び、構えに入る。女子生徒はまだ地面に倒れ
たままだ。
﹁よっしゃあ行k︱︱︱﹂
行かせないよ。俺は構えた男子生徒の足元に素早く魔力を送る。
俺と男子との距離はおよそ30メートル。普通、こういった罠系に
近い魔法は、仕掛ける場所まで一回行かなければならないのだが、
俺にはそんな事は関係ない。もちろんそんなに遠くまでは、届かな
いが、あいつらの所までなら問題ない。
女子生徒と同じ顔面にぶち込んでやろうかなとも考えたが、どう
587
せやるんだったら、とことん痛めてやろう、と考え直し、男の弱点
を狙う事にした。正直顔を殴られるより痛いし︵自己体験より︶。
﹃目には目を、歯には歯を﹄だ。
構えた男子生徒の股の下の地面が少し、盛り上がったかと思うと、
行き成り何かが飛び出し、そして⋮⋮
︵ドスゥツ!︶﹁はうっ!?﹂
さらに、少し前屈みになっていたのに加え、狙った場所が狙った
場所だったので、そのまま空中を半回転し、地面に顔面を強打する
と言う、結局両方受けてしまったじゃねぇか! と言うオチに⋮⋮
あれは決して狙った訳じゃありませんからね。
一応、俺はバレないように机の上で腕を組んで、そのまま机に俯
せ、腕の上あたりから、こっそりと様子を見ている。傍から見れば
寝ているように見えることを、願っておこう。
俺の一撃と天からの罰により、二重にダメージを負ってしまった
男子生徒は、鼻血を出し、股間を押させ、悶絶しながら転がり回る、
と言う何とも言えないシュールな光景を作り出していた。
たまたま見ていた男子生徒の何名かが、自分の股間を押さている。
気持ちは分かるぞ。
﹁なっ!? だ、だr︱︱︱﹂
ウグラが後ろを向いた瞬間、ウグラの尻に向かって強烈な土塊を
ぶつける。﹁あふぅん!﹂と何とも気が抜けるような声と共に、空
中をお散歩するウグラ。俺がぶっ飛ばした時を思い出すな︵第12
話参照︶
そして、ウグラは誰もいない机へと一直線に飛んでいき、その机
588
に頭から突っ込んで行った。
﹁ウグラさぁぁぁんん!﹂
と、部下⋮⋮と言うか、舎弟見たいな奴らがウグラのもとへと駆
け寄って行く。ウグラは頭と鼻から血を出して気絶をしていた。時
折、ピクッ ピクッ と痙攣している。
﹁誰d︱︱︱﹂
先程、女子生徒に腹蹴りを食らわせた、男子生徒が叫ぼうとした
時、最初に股間をやられた生徒と同じような棒が地面から飛び出し、
そのまま大事な所へとクリーンヒットする。そして勢いそのままに、
空中に一瞬だけ浮かぶとその後、地面へと垂直落下をし地面へキス
をするような体勢で激突した。まあ⋮⋮分かりやすく言うならば、
最初の男子生徒と同じように、顔面から落ちたと言う事だ。
ウグラの生き残りの舎弟らは全員口を思わず手で隠していた。彼
らは悟ったのである。自分らが一言でも話せば、その瞬間そこに転
がっている3人のようになると。
無言になると彼らはウグラを始め撃沈された仲間を抱え、逃げて
行ってしまった。
まあ、あれくらいやれば、今後、少なくとも食堂で、あんなマネ
をすることもないだろう。
俺は、椅子から立ち上がると、倒れている女子生徒のもとへと歩
いて行く。女子生徒の周りには既に、人が集まっており、﹁誰か保
健室に連れて行くの手伝ってくれ﹂や﹁大丈夫?﹂と声を掛ける者
589
がいる。
俺はその人混みを掻い潜り近づく。女子生徒は意識はあるようだ
が、まだ痛いのかお腹の辺りを両手で抱え込んで、蹲っている。顔
の殴られた部分は内出血をしているのだろう、黒ずんでいるのが見
えた。。
俺は、女子生徒の傍までやって来た。
﹁大丈夫ですか?﹂
女子生徒は蹲ったまま頷くが、どう見ても大丈夫じゃないな。腐
っても冒険者である、あの男子生徒の蹴りは普通の︵かは不明だが︶
女子生徒には少し強すぎだと思う。
ヴィーナス・ブレッシング
﹁︽女神の祝福︾﹂
俺の治癒魔法の光が女子生徒を優しく包み込んで行く。辺りの生
徒が呆然と見ている中、彼女の頬からは黒ずみが消えて行く、表情
も次第に柔らかくなって来た。
彼女の傷が完治したのを感じ、俺は魔法を止める。
﹁⋮⋮えっ?﹂
女子生徒は何が起きたの、と自分と辺りをキョロキョロ見回す。
﹁治癒魔法を掛けましたので、たぶん大丈夫とは思いますが、まだ
どこか痛い所はありますか?﹂
﹁い、いえ、どこも⋮⋮﹂
590
周りの友達かは分からないが女子が﹁本当に大丈夫なの!?﹂と
聞いている。女子生徒は頷きサッと立ち上がって見せた。
周囲からは歓喜の声が上がる。
﹁すげぇ、顔の痕なんか残っていないじゃないか﹂
﹁一瞬で治しやがった、あいつ⋮⋮﹂
まあ、これで多少は俺の印象も良くなるかな? こんなイベント
望んでいた訳じゃないが、俺の誤解も多少は解けるだろうし、あの
アホ共も少しは懲りただろうし。たぶんこれで問題ないはずだ。
もっとも、彼らがこれで完全に懲りたかは分からないけどな。な
んか変な噂も流れているようだし、変なイチャモン付けられなけれ
ばいいけど⋮⋮。
﹁あ、あの⋮⋮﹂
顔を上げると、そこには、先ほど倒れていた女子生徒が立ってい
た。やや薄紫色をした長い髪に、同じ色をした、吸い込まれてしま
いそうな程の綺麗な瞳。体はまだ成長途中だと思うし、俺にロリ○
ンの趣味は無いが、成長したらもっと可愛くなるだろうなと率直に
思った。何歳ぐらいだろ? 俺よりも20センチほど高いな。
﹁その⋮⋮えっと⋮⋮﹂
モジモジしながら何かを言いたそうにしている。
﹁あ⋮⋮ありがとう⋮⋮﹂
591
女子生徒はぺこりと頭を下げた。やばい、何と言うか⋮⋮大勢い
る中で面と向かってお礼されると、何だか恥ずかしいな。
﹁いえ、困ったときはお互い様ですから、私はクロウ、アルエレス
と言います﹂
前世の癖からか、つい礼をしてしまうが、別に問題ないよね?
﹁えっと⋮⋮リネア・フォールです⋮⋮よ、よろしくお願いします
⋮⋮﹂
リネアがもう一度お辞儀をする。礼儀いい子だな。
﹁では⋮⋮また困った事があったら、力になりますので﹂
﹁あ、⋮⋮その⋮⋮本当にありがとうございました⋮⋮﹂
リネアが再びお辞儀をして、この騒動は幕を下ろした。
もうすぐ昼休みが終わるのだろう。騒動終了後に、慌てて教室に
592
戻っていく生徒がちらほらと出始めていた。
俺は午後は特に用事はないので、あの二人が戻って来るまでは、
のんびりと待たせてもらおう。水を一杯もらい、俺は元の席へと戻
った。椅子に座りふう、と一息つく。
﹁ふぅ⋮⋮﹂
何とか収まってくれてよかった。でも、あのバカ共はしばらくは
監視がいるな。下の奴らは分からないが、ウグラは恐らく相当お怒
りだろうな。
もしかしたら、再びリネアを襲うかもしれない。あの魔法を撃っ
た奴が分からない以上、助けられたリネアに矛先が向いてもおかし
くないと思う。
﹁先程の攻撃はクロウ様ですよね?﹂
カイトの従者が俺に問いかけて来た。この人良くわかったな。
﹁秘密ですよ﹂
﹁いえ、ありがとうございます。私も彼らの行動には、怒りを覚え
ていたので⋮⋮﹂
まあ、あの光景を見て喜ぶ人とかいないよな⋮⋮。
ちょうどその時、エリラとカイトが戻って来た。二人ともスッキ
リしたような顔をしている。どうしてそのような顔をしているのか
気になるが、おおよそ見当は付いているので、聞かないでおこう。
その後、俺とエリラはカイトたちと別れると、もう一度図書室に
593
行くことにした。エリラがえーと言う顔をするが、帰ったらお菓子
あげると言うと﹁行く!﹂と言い、俺を逆に、図書館まで引っ張っ
て行く。あれ? 何かこれ違うぞ?
==========
同刻、???。
広い部屋に二人の男の姿がいた。一人は、黒い鎧を全身に身に纏
った男。顔を隠しているため、どんな顔かは分からないが、声から
して恐らく男性だろう。もう一人は、灰色の皮膚に、赤い瞳、そし
て、耳の少し上の部分から、真上に向かって伸びている角。黒髪は
腰の辺りまであるような長さで、男性にしては伸びすぎでは、と思
うほどの長さである。
﹁ほう、おもしろそうな奴だな﹂
﹁ええ、しかし、このままでは⋮⋮﹂
﹁ああ、わかっておる。あの学園には、面倒な人材が多いからな、
このまま野放しにして置くつもりはない﹂
594
﹁では、どうするのですか?﹂
﹁こうするのじゃよ﹂
角の生えた男が、一枚の紙を差し出す。鎧を来た男は紙を受け取
り、目を通して見る。
﹁!? こ、これは⋮⋮﹂
﹁お前なら可能だろ? 面倒な芽は早めに摘んでおくに限る﹂
﹁はっ、しかし、これでは﹂
﹁心配するなアレを準備させておく。それにあそこなら、お主の実
力も十分に発揮できるし、万が一負けても問題はなかろう﹂
﹁問題ありません。今度こそは必ずや﹂
﹁期待しておるぞ﹂
黒鎧の男は一礼すると、その場を後にする。あとに残った男は一
人だけになると﹁楽しみだな﹂と呟き一人、笑うのであった。
595
第43話:目には目を歯には歯を︵後書き︶
︻大幅加筆修正報告︼
・第2話
・細かい部分、及び戦闘の所を一部修正しました。物語に変化は
ありません。
596
※10/24
誤字を一部修正しました。
後書きに大幅修正履歴を加筆しました。
第44話:指名依頼︵前書き︶
※10/26
597
第44話:指名依頼
﹁国からの指名依頼?﹂
﹁はい、皆様宛に﹂
校舎の一角にある、理事長室。俺はここに来るのは3回目だ。1
回目は入学前日。2回目は依頼で、そして3回目は⋮⋮今だ。いわ
ゆるnowってやつです。
﹁魔法学園の特待生に指名依頼って珍しいのですか?﹂
テリーがアルゼリカ先生に問いかける。
﹁珍しい⋮⋮と言えば、珍しいのですが、初めてと言う訳では無い
そうです。過去にも何回、か国から直接来る事が、あったらしいの
で﹂
⋮⋮とのことだ。今、理事長室には、特待生組とその従者。あと
アルゼリカ先生がいる。前日に、﹁明日、特待生組は全員、理事長
室に集合してください﹂と連絡が入ったのだ。ちなみに、連絡係は
アルゼリカ先生本人です。そこは使者とかじゃないんだな⋮⋮、相
当探し回ってたようで、俺と出会った時には、汗まみれでした。
ベヘモス
﹁依頼内容は︻獣魔︼の討伐です﹂
﹁ベヘモス⋮⋮って、Cクラスの大型モンスターのことじゃ⋮⋮!﹂
598
﹁ええ、カイト君、良く知っているわね。ええ、そのベへモスよ。
水牛や、サイに似ていると言われる悪魔系モンスターよ。本来は、
砂漠地帯にいる魔物なんだけど、何故か今回は、旧都市跡地で見つ
かったらしいわ﹂
﹁珍しいのですか?﹂
ベヘモスなんて、俺は聞いたことなかったので、アルゼリカ先生
に聞いてみた。
﹁ええ、ベヘモスは、普段、砂漠に生息していますが、体内には大
量の水を溜めておく必要があるらしく、一定の期間だけ、川の近く
までやってきて、水を飲み続けることがあるの。1週間ほど飲み続
けたのち、また元の場所へと戻るはずなんだけど、今回は何故か跡
地の方へと移動してしまったのよ﹂
﹁旧都市跡地と言っても、数はたくさんありますわ。アルゼリカ理
事長。どこの跡地ですか?﹂
﹁︻チェルスト︼と言う都市です﹂
チェルスト? 何でだろ、つい最近聞いたような気がするが、思
い出せない。︽記憶︾スキル仕事しろや。
﹁それにしても⋮⋮国が、指名依頼を学園にする理由が、イマイチ
分かりませんね﹂
﹁先ほども言いましたが、珍しい事です。ですが初めてと言う訳で
もありません﹂
599
﹁人材発掘⋮⋮ってところですか﹂
ギクッ
﹁その可能性は、高いと思いますよ﹂
﹁ですが、どちらにせよ、厳しくないですか? この中で冒険者は、
シュラとカイト、それからセレナの3人しかいないのですよ? し
かも全員Dランクですし﹂
﹁ご心配なく。恐らく国も、この人が参加する前提で、頼んだ可能
性は高いですからね﹂
そういうと、アルゼリカは俺の方を見ると、ニコッと笑った。あ
っ、やっぱりそうなりますよね。
﹁? クロウですか?﹂
orz と言うのも、俺は、自
﹁ええ、この子の冒険者ランクはCクラス。炎狼の転異種を討伐す
る実力の持ち主ですわ﹂
カミングアウトしないでぇぇぇ
分が冒険者であることは、他の奴らには言ってなかった。聞かれる
ことが無かったので、言わなかったんだけどな。
﹁げっ、クロウがですか!?﹂
﹁ええ、それに、その3人もDクラスの人じゃありませんか﹂
﹁この前の、コアの件はあなただったのね⋮⋮﹂
600
﹁いや、言うほどでも無いと思ったので﹂
﹁どこがですか! 数十年ぶりの出来事とか言っていましたわよ!
? それにCってなんですか!?﹂
﹁まあまあ、ローゼ落ち着けって﹂
シュラがローゼをなだめる。
﹁強制ではないのですが、どうしますか?﹂
﹁もちろん行くぜ!﹂
カイトが真っ先に行くことに賛成し、その後にローゼとシュラも
賛成をした。
⋮⋮これって俺に拒否権あるのかな? 話の流れ的に、俺は強制
参加っぽいのですが。
俺の予想通り、その後、特待生組は全員賛成となり、俺は問答無
用で強制参加となった。
﹁従者は全員残すよね?﹂
601
理事長室から教室へ移動し詳しい打ち合わせをやることになった。
そして、始まりと同時に、セレナが従者の事について聞いた。
﹁そうだな、戦闘は避けられないからな⋮⋮俺の所は留守番だな﹂
カイトが従者をチラッと見ながら言った。
﹁私もね、無理に連れて行く必要ないし﹂
﹁⋮⋮同じく⋮⋮﹂
セレナとサヤの所も行かないみたいだ。
﹁じゃあ僕らもそうしよう﹂
﹁そうだね。ちょっと危険だよね﹂
テリーとネリーの所もか
﹁⋮⋮戦闘経験とかありませんわよね?﹂
﹁申し訳ございません⋮⋮﹂
ゼノスさんも無いか⋮⋮俺の所は⋮⋮よし、流れに乗って
﹁では私の所も⋮⋮﹂
﹁い・く・わ・よ?﹂
エリラが俺の方を見ながら言った。デスヨネー。
602
﹁クロウの所はどうする?﹂
﹁⋮⋮行くなと言っても、付いて来そうなので、行かせます﹂
﹁えっ、戦えるの?﹂
つい先日、熱い︵?︶大食い対決を行ったカイトが、エリラを見
ながら言った。
﹁まあ⋮⋮、一応元冒険者ですので﹂
﹁現役で・す・け・ど・?﹂
俺の頭をガシッと手で掴み、グッと力を入れて来るのがわかった。
﹁いや、そこに怒る?﹂
﹁私だけ除け者扱いはさせないわよ﹂
﹁いや、この場合、除け者はたぶんお前じゃないか? と言うか除
け者と言うより浮く?﹂
﹁年下のお世話は年上の仕事でしょ?﹂
ピキッ、何か、エリラに言われたらスゲームカつくのですが。
﹁よし、マジで表出ろ。一週間ぐらい寝たきりにさせてやる﹂
﹁オーケー、逆に沈めてあげるわ﹂
603
﹁⋮⋮この流れ、どこかで見た気が⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ん? 何か言いました?﹂
﹁⋮⋮いえ、なんでもございません﹂
本当は覚えているが、あえて伏せておくことにしたのかゼノスは
笑顔で誤魔化した。
そして、表に出る事無く教室内で始まる喧嘩。
⋮⋮と言うには程遠い喧嘩︵?︶だが。
﹁⋮⋮いいの⋮⋮?﹂
﹁いい訳ないだろ⋮⋮﹂
普段無口なサヤも︵と言うか殆ど声は聞いたことない︶、目の前
の光景に思わず突っ込んでしまっている。
﹁ご心配なく。自宅に来られた時も似たようなじゃれ合いをやって
おられましたので﹂
﹁ぶっ!? ぜ、ゼノスあなた!?﹂
﹁ええ、ローゼ様が来られる前にちょっとですね。ふふ、クロウ様
に負けましたね﹂
﹁そ、それは言わないでいい!﹂
604
﹁⋮⋮?﹂
﹁まあ、しばらくしたら収まるでしょう﹂
﹁|おまふぇ、、じふんのたひばわふれてふぁいか?︽お前、自分
の立場忘れていないか?︾﹂
﹁|なんのことふぁしひら?︽何の事かしら?︾﹂
﹁|ばんめひぬきにふるぞ?︽晩飯、抜きにするぞ︾﹂
﹁ぬひぃにするんだったらこのままつふけてやる!︽もし抜きにす
るんだったら、このまま続けてやる!︾﹂
﹁﹁ふゅぅぅぅぅぅぅぅぅ﹂﹂
⋮⋮最初はそれなりに喧嘩っぽく、格闘戦が行われていたが、ど
こで間違えたのか、最終的に両者は、互いに相手の頬を引っ張り合
うと言う、傍から見たら喧嘩と言うよりか、完全にじゃれ合いにな
っていた。効果音にはポカポカとかがいかにも合ってそうだ。
﹁⋮⋮仲良し⋮⋮﹂
﹁あら、サヤ様もそう見えましたか?﹂
605
﹁⋮⋮楽しそう⋮⋮﹂
この言葉に、クロウ、エレナ、ゼノスを除いた、この場にいた全
員が驚いて、一斉にサヤへ視線を向ける。そして真っ先にセレナが、
皆がほぼ心の中で思っていることを口に出す。
﹁サヤがこんなこと言うなんて⋮⋮明日は槍でも振ってくr︱︱︱﹂
完全に言い切る前に、絶対零度のような視線を感じたセレナはあ
わてて、言葉を切った。本当はサヤの顔を見て見たかったセレナで
あるが、残念ながら見ることは叶わず、顔を正面に向け、視線だけ
は絶対に横に向けないよう心に誓った。他の者も似たような心境だ。
どうしたのですか?
﹁ふにゅぅぅぅ⋮⋮ん? どうひたのでふか?﹂
﹁⋮⋮いや、珍しい事って重なるもんなんだなって﹂
﹁⋮⋮︵コクコク︶﹂
カイトがはぐらかして答える。他のメンバーも同意するかのよう
に首を縦に振る。
﹁まあ、クロウが良いって言ってるんだからいいじゃないの?﹂
最終的にセレナのこの一言で、このちょっとした騒ぎは終わった。
ちなみに、その後の俺とエリラだが、最終的にエリラの方が、この
場の空気に耐えられなくなり、﹁ごめん、もう勘弁して﹂と土下座
したので、俺の勝利と言う形で終わった。
606
﹁そういえば、さっき言ってた旧都市ってどこにあるの?﹂
精神的に撃沈したエリラを余所に俺らは都市跡地に向かう為の事
前準備に入るため、色々と話し合っていた、敵の特徴は無論のこと、
周辺の地形も確認する。
あ、あと、さっきチェルストって名前を思い出した。確か前に読
んだ本に﹁滅びた︻チェルスト︼の謎﹂、とかいう本があったはず
だ。
﹁ここから南西に直線で300キロ。アルダスマン国とカナンの国
境付近だな﹂
セレナの質問にシュラが質問に答える。
﹁300⋮⋮往復で約2週間と言う所かしら?﹂
﹁いや、舗装されているなら一週間と少しだけど、道中は危険な個
所がいくつかあるから、実際には往復で1ヵ月ぐらいかかるはずだ﹂
一ヶ月!? 片道で2週間も使うのかよ!
﹁馬は使えないの?﹂
﹁無理だ。途中までなら大丈夫だが、馬車が通れない道や傾きが急
な箇所もあるから、馬は連れていけれねぇ、馬の餌とかも考えると、
最寄りの村までが限界だな﹂
607
空を飛ぶ⋮⋮は、俺だけだよな。
﹁ルートは?﹂
﹁ここからまず、エルシオンに向かって、そこから山岳部を通って
いく形だな﹂
﹁と、なると物資の補給はエルシオンで?﹂
﹁そうだな⋮⋮エルシオンの方が冒険者向けの装備や道具を売って
いるからな﹂
﹁そういえばクロウさんはエルシオン出身でしたわよね?﹂
﹁そうですけど?﹂
﹁クロウさんのお家に泊まれば宿代も幾分か、浮きそうですわね﹂
⋮⋮俺は突如、暑くもないのに、冷たい汗が背中から流れ落ちる
のを、感じていた。
﹁えっ、マジで? いいじゃんお泊り会やろうぜ!﹂
﹁おいおい、遊びに行くわけじゃないんだぞ。依頼を甘く見すぎや﹂
﹁大丈夫だ! 問題ない!﹂︵キリッ︶
﹁大問題だ! 経験者がそれでどうするんだよ!﹂
608
余裕綽々のカイトと、いつもとは違う雰囲気を出しているシュラ。
両方とも熱血系で似ていると思っていたが、こんな所では決定的な
違いが出ているな。
﹁⋮⋮まあ、確かに宿よりかは、心身的にはいいけどな﹂
うぐっ⋮⋮正論だから反論できない⋮⋮。やばい流れだ⋮⋮。
﹁と、言う事だけど、クロウどうするか?﹂
﹁全力で遠慮させてもらいます!﹂
俺の家は絶対駄目だ! 理由は、獣族の事があるからだ。普通に
獣族の奴隷がいるだけならまだ問題ないが、問題は扱いだ。
︻普通︼
・寝床:小屋でも高いぐらい。
・食事:一日二食は普通。三食でも量は少ないかも
・服装:みずほらしくするのが当たり前。店頭に立つときや人前に
出る機会があっても一般服レベルが最大。
・趣味:やっている余裕無し
・金銭:持てるわけがない。せいぜいお使いの時に持つぐらい
・仕事:現代の労働基準法丸投げ状態。仕事によってはブラック企
業の方がまだマシの場合も。
・扱い:下手したら家畜レベル。
︻クロウの家︼
・寝床:一室、しかもふかふかベット付き
・食事:三食? 当然。おやつもあったり
・服装:傍から見れば一般市民が着るような服やメイド服。これで
609
も十分高いが、仕立て屋が見れば口から心臓が出るほどの高品質&
高性能︵クロウが作った為︶であることが判明する可能性も。
・趣味:基本的に自由。やる時間はある。
・金銭:そこら辺の一般市民より安定的に入ってくる。
・仕事:家事のみ。強いて言うなら訓練も仕事かも。自衛するため
にさせている。
・扱い:対等
こんな状態の家を見られたら、面倒事になること間違いなしだ。
﹁え∼いいじゃん、危ない本でもあるのか?﹂
何故その言葉を知っている!? この世界にも︵ピー︶本が存在
するのか!?
﹁何ですかそれは⋮⋮﹂
いいか、俺、クールダウンだ。あとスキル︽ポーカーフェイス︾
さん、頑張ってください。
ベキッ
﹁カイトのことだから︵ピー︶な本だn ぐふっ!?﹂
﹁⋮⋮不謹慎⋮⋮﹂
﹁おー、サヤちゃんのパンチが決まったね﹂
﹁我が生涯⋮⋮ガクッ﹂
﹁シュラあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!﹂
610
⋮⋮なにこれ、三文芝居? ち、ちょっと待て、状況が理解でき
ないんだが⋮⋮
・カイトが危ない発言
←
・その発言にシュラが完全にOUT発言
←
・サヤ⋮⋮さんが完全に言い切る前に一瞬でシュラの正面に来てみ
ぞおちに正拳
←
・シュラは某マンガの決め台詞を言いかけて沈黙
サヤ⋮⋮さんって格闘が出来るんだな、確か、最初に模擬戦やっ
た時も、素手だったな。あの時は魔道士系かと思ったんだけど、違
うようだな。
今度から、心の中でもサヤは、さん付けしよう。うん。だって怖
いもん︵汗︶
﹁で、どうして駄目なの?﹂
﹁え、え∼⋮⋮と家が狭k︱︱︱﹂
orz その後も
俺は何とかして断る理由を言おうとしたのだが、
﹁よし、じゃあ皆で雑魚寝しようぜ!﹂
カイトの発言で、あっさりと撤去されました
何とかして家に来させないように頑張ったが、結局決定されました
611
︵泣︶
﹁わかりました! ただし条件があります。僕の家で見た事は一切
他言しないでください!﹂
﹁なに、バレたらやばい物でもあるの?﹂
セレナが若干口元をニヤニヤさせながら聞いてくる。この会話の
始めが、危ない発言スタートだったので、想像もそっちに偏ってい
るようです。
﹁⋮⋮来たら分かりますよ﹂
俺は場の空気に任せることを覚えました。モウ ドウニ デモ ナレ∼
どうやら俺は依頼が始まる前に一つの修羅場を潜り抜けなければ
ならないようです。
⋮⋮隠れさせても、確実に見つかるだろうな。いや見つけるな orz
612
第44話:指名依頼︵後書き︶
あれぇ? 初期に考えていた構想通りなんだけど、何故かエルシ
オンを通る羽目に︵泣︶
設計した時には考えなかったのですが、冒険者とかの道具ってや
っぱり、エルシオンみたいに冒険者がいる所に、良いのが集まるの
は当然ですよね。
今更、地形を変えるのもあれなので、泣く泣く突入させます︵泣︶
それにしても、修正が進みません。時間はあるのですが、もう一
度過去のをじっくり読み返すと、穴に潜りたくなります。︵泣︶
修正はのんびりやっていきますので、もうしばらくお待ちください
m︵︳ ︳︶m
︻大幅加筆修正報告︼
・第3話
・不必要な個所を大幅カット、また文章を修正しました。物語に
影響はありません。
613
※10/26
誤字を一部修正しました。
誤字を一部修正しました。
第45話:反省︵前書き︶
※10/27
614
第45話:反省
﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂
﹁⋮⋮まあ、こうなるよな⋮⋮﹂
ボソリと呟く俺、特待生組は全員硬直状態。何故硬直しているの
かと言うと、今いる場所が、俺の家だからだ。
クッキー
獣族の大人組はちょうど、休憩時間だったのか、俺が作り置きし
ておいたお菓子を、食べながらワイワイしていた。
普段、俺とエリラ以外に、今この家に出入りする人間はいない。
その為、この急な来訪者を見た瞬間、全員硬直してしまったのだ。
⋮⋮さて、どう出るかな?
先日、アルゼリカ先生に見送られながら学園を出発した俺たち。
道中、特に問題などは起きずに無事、エルシオンまで辿り着いた。
ここには予定では2日間、滞在する予定だ。何故二日なのかと言
うと、市場などの品揃えは毎日変わるから見て回りたい、とのこと。
確かに変わるけど、2日間程度でそんなに差があるか? と聞こう
と思ったのだが、どこからか﹁お泊り会やろーぜ﹂とか言う声が聞
こえて来たので、聞くことはやめておいた。どの道、俺の意見は殆
ど通らないだろうし。
そして、俺の意見を聞かなかった結果がこれか⋮⋮。
特待生組が硬直している後ろで、俺はエリラに耳打ちをする。
615
﹁エリラ案内してやって﹂
﹁こ、これ大丈夫?﹂
﹁いざとなれば話し合い︵物理︶で解決するから﹂
﹁わ、わかった⋮⋮﹂
小会議を切り上げると、俺はやや大きめの声でしゃべりだす。
﹁ほらエリラ案内してあげて﹂
﹁は、はい﹂
﹁お、お前⋮⋮これなんだ?﹂
ようやく、現実に戻りだした特待生組のカイトが、獣族を指さし
ながら言った。
﹁何って⋮⋮どこかの商隊が襲われてその時に、救出した獣族です
が?﹂
﹁いや、俺が言っているのはそういう意味じゃない。これは良いの
かって言っているんだよ!﹂
コレ
﹁別にいいですよ。私が許可していますから、奴隷の証を付けてい
るから、それくらい分かりますよね?﹂
俺は自分の首元を指しながら言った。彼女らも一応この街では奴
616
隷扱いなので、奴隷の証である、黒いチョーカー見たいな首輪は絶
えず付けている。
﹁で、でも、こいつらは︱︱︱﹂
カイトがまだ何か言いかけたが、それは謎の威圧によって止まっ
てしまう。見ると、クロウが笑顔でカイトの方を見ていた。だが、
その笑顔とは裏腹にクロウの方からは、これ以上にないくらいのど
す黒いオーラが流れ出していた。
﹁二泊だけですから別にいいでしょ? それとも何ですか? 今か
ら宿探しますか? 幸い良い所を知っているので、そちらに案内を
することも出来ますけど?﹂
クロウの顔は笑顔だったが、威圧を向けられている人は、悪魔の
笑いに見えただろう。クロウの威圧に初めて触れた特待生組は、本
能的に﹁これ以上は言わない方がいい﹂と感じ取った。
﹁別に僕は構いませんよ。クロウ君が良いって言ってるのなら、外
部の僕らが口出すことでもないですしね﹂
テリーが最初に声を出してくれた。それに続いてネリーも﹁そ、
そうだね﹂と若干迷いながらも兄に賛成した。
﹁⋮⋮猫耳⋮⋮﹂
ん? 今、サヤが何か言ったように︱︱︱
俺はサヤの方を見たが、すでに彼女は最初の位置には居なかった。
そして、視界のギリギリ隅っこで、ものすごい速度で動く物体が見
617
えた。
バッとそちらに顔を向けると、大人の獣族の一人の真後ろにサヤ
が立っていた。
サヤの手が獣族の耳に触れた瞬間、﹁ひゃう!﹂と言う声と共に、
耳を触られた獣族の女性の体がビクッと震える。
﹁⋮⋮ゴメン⋮⋮﹂
謝るサヤだったが、その後もフサフサの猫耳を触り続ける。獣族
の耳は良く聞こえると同時に、非常に敏感な部分らしく。サヤの手
が動くたびに﹁ひゃうん!﹂や﹁ひゃい!﹂などの声を上げ、体を
捻らせている。
﹁⋮⋮家にも居たから私は平気⋮⋮小さいときはこうやって悪戯し
ていた⋮⋮﹂
﹁あ∼、そういえばそうだったわね。私もやる∼﹂
⋮⋮何かこうやって見ると、すべての人間が極端に異種族嫌いと
言う訳じゃないんだな。昔から近くにいた分、慣れているのかもし
れない。
セレナとサヤは獣族の一人をターゲットに、二人掛かりで獣族の
耳を触りまくる。触られている女性はさっきまで座っていた椅子か
ら滑り落ち、地面で笑いながらクネクネと体を動かしている。その
動きに余裕で付いていくサヤとセレナ。⋮⋮なんでだろ、妙にほっ
こりとする。
﹁ま、まあ、私の家にもいましたし、私も問題ございませんわ﹂
618
次にローゼが言った。そういえば確かに、家に行ったときに何人
かいたな。さすがにお茶会中に部屋の隅にいたのは人間だったけど。
﹁そうだな、どっちにしろ、今から移動するのも面倒だし、ここで
いいか﹂
シュラもOKみたいだ。最終的に孤立したカイトも﹁わかったよ﹂
と多少不機嫌ながらも、承諾してくれた。ふう、何とか修羅場は去
ったな。
俺はエリラに案内を任せ、獣族の大人たちにも話をしようとした
のだが⋮⋮
﹁⋮⋮あれ? 一人少なくない?﹂
先程、サヤとセレナに耳を触られていた獣族の姿が見当たらない。
﹁え、え∼と⋮⋮さっきの女の子たちに⋮⋮﹂
﹁⋮⋮連れていかれたか﹂
俺は心の中で合掌をした。
その後、しばらくするとフラフラになりながら戻って来ました。
619
﹁すまないな、驚かせて﹂
素直に俺は謝った。最初は言っても、言わないでも、変わらない
と考えていたけど、やっぱり話すって大事ですよね。
話しておけば相談して、働いている姿とかで出迎えてもらえたか
もしれないし、カイト辺りもまだそんなに不機嫌にならないで済ん
だだろうし、俺も威圧なんか使わないで良かったかもな⋮⋮反省し
ないとな⋮⋮。
幸いにも獣族の人たちは大丈夫ですよと言ってくれた︵一名を除
いて︶。
その後、俺は彼女らに今日と、明日の特待生組の食事はこっちで
準備するから、自分たちのだけで。と指示を出して、俺は自分の部
屋へと戻った。
620
==========
﹁作業はどうだ?﹂
﹁問題ありません﹂
洞窟の中で、作業を進める者が数人。全員、全身をフードやマン
トなどで隠しており、見た目は分からない。
洞窟の中は魔力型蝋燭ではなく、普通に木の棒に油を付けた布を
巻いただけの松明が灯りを照らしていた。風が流れていないので、
かなりの蒸し暑さだ。
その中で作業を進める者たちは、汗一つ、いや、声一つすらも出
さずに、黙々と作業を進める。
﹁あとどれくらいだ?﹂
﹁予定では、あと5日ほどで完成します﹂
﹁そうか⋮⋮時間は問題ないが、準備は怠るなよ﹂
﹁承知しております⋮⋮それにしても⋮⋮コレはなんですか? 魔
方陣のように見えますが、このような魔方陣は見たことありません﹂
﹁魔方陣だ。それ以上は知らなくていい﹂
﹁⋮⋮分かりました。まだ命は失いたくありませんので﹂
﹁賢明な判断だ﹂
621
﹁では、私はこれにて⋮⋮﹂
そう言うと作業に戻って行った。
一人残った男は洞窟の奥へと消えて行きながら、
﹁見てろ⋮⋮すべてがお前の思い通りに進まないとな﹂
と、言いながら、密かに微笑んでいた。そして男の不気味な姿は、
暗闇の洞窟の中へと消えていった。
622
第45話:反省︵後書き︶
改めて登場人物を見てみると、意外と獣族などの異種族と関わっ
ている人が多いなと思っていたり。
orz
※次回も予定通り2日後の10/28に投稿します。
※修正は予定通りに進みません
623
※10/29
ステータスミスを修正しました。
誤字を一部修正しました。
第46話:チェルスト︵前書き︶
※10/31
624
第46話:チェルスト
﹁ここが、チェルスト⋮⋮﹂
旧都市跡のチェルストは、ボロボロの城壁に覆われていた。城壁
には、蔦が生い茂っており、石の部分は殆ど見受けられらなかった。
壊れた城壁の奥に住居らしきものが見えるが、それもほとんど原型
を留めておらず崩壊をしているように見える。
今日は偶々かもしれないが、風が強い。これも、風化を進めてい
る原因なのではと思う。
﹁それにしても、こんな立地の悪い所に、こんなでけぇ都市なんか
建てるなよ⋮⋮﹂
シュラが足に絡まった蔓を、引きちぎりながら呟く。
﹁この地形だからこそ、守りに適した場所といえるのさ﹂
﹁それでも、人が住むにはどうかと思いますわ﹂
全くだ。
エルシオンを出発してから、1週間ちょっと。俺たちは無事、旧
都市チェルストの入口まで来ていた。本当に長かった。途中の町で
馬車から降りてから、歩いて3日もかかったんだけど⋮⋮。冒険に
慣れている者にとっては、そこまで問題ではないが、初めて参加す
る人には過酷だろう。
625
意外とサヤは平気そうな顔をしている。道中、話を聞くと、やっ
ぱり武器は格闘みたいで、自分のナックルダスターを見せてくれた。
指の関節部分辺りには、刃が付けられており、斬撃にも使われそ
うな感じだった。ただ刃は脆いらしく、予備は必須との事。
今度、丈夫な物でもあげようかな?
一方、テリーとネリーは完全にバテており、地面に座り込んでい
る。この二人が今回、もっとも危険だと思える。
と言うのもレベルが20すらも到達していない。これでもDラン
ククラスの、力なのだが、もう少し詳しく言うとDの下の下だ。C
ランク、しかも大型系モンスターとなると全然、力が足りない。そ
れに加えて経験無し。なんでOK出したの? ノリなの? と聞き
たいくらいである。
レベル的には他のメンバーも、最高が31と大して変わらないか
もしれないが、スキルに圧倒的な差が出ており、さらに、細かい称
号なども加えていくと、かなりの差が出てしまう。
つまり、経験値に差が出てしまっているのだ。
どうせなので、ここで俺とエリラ以外の、全員のステータスを出
して見よう。ただ、全て出すと非常に長く、かつ観難くなるので、
基本ステータスと戦闘系スキルのみの抽出とさせてもらう。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:シュラ・ストライタ
種族:人間
レベル:31
筋力:500
626
生命:870
敏捷:600
器用:980
魔力:400
スキル
・戦闘スキル
︽見切り:4︾ ︽気配察知:6︾
︽回避:5︾ ︽心眼:4︾
︽対魔物:3︾
・武器スキル
︽片手剣:3︾ ︽大剣:6︾
︽盾:2︾ ︽格闘:4︾
・魔法スキル
︽火魔法:3︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:カイト・シュダリア
種族:人間
レベル:27
筋力:440
生命:720
敏捷:610
器用:1,000
魔力:370
スキル
・戦闘スキル
︽見切り:2︾ ︽気配察知:4︾
︽回避:2︾ ︽心眼:3︾
︽対魔物:3︾
・武器スキル
627
︽片手剣:6︾ ︽槍:2︾
︽盾:1︾ ︽格闘:2︾
・魔法スキル
︽風魔法:2︾ ︽付加魔法:3︾
︽詠唱:3︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:ローゼ・テルファニア
種族:人間
レベル:22
筋力:300
生命:620
敏捷:550
器用:930
魔力:360
スキル
・戦闘スキル
︽見切り:5︾ ︽気配察知:5︾
︽回避:3︾
・武器スキル
︽片手剣:4︾ ︽盾:2︾
︽格闘:1︾
・魔法スキル
︽風魔法:2︾ ︽光魔法:2︾
︽詠唱:2︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:セレナ・ガーデン
種族:人間
レベル:30
628
筋力:500
生命:730
敏捷:630
器用:900
魔力:200
スキル
・戦闘スキル
︽見切り:4︾ ︽気配察知:3︾
︽回避:3︾ ︽心眼:2︾
︽集中:3︾ ︽対魔物:4︾
・武器スキル
︽片手剣:5︾ ︽盾:1︾ ︽射撃:3︾ ︽格闘:2︾
・魔法スキル
︽水魔法:4︾ ︽土魔法:4︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:サヤ・ミカヅキ
種族:人間
レベル:23
筋力:620
生命:740
敏捷:700
器用:600
魔力:200
スキル
・戦闘スキル
︽見切り:2︾ ︽気配察知:4︾
︽回避:2︾ ︽心眼:3︾
︽対魔物:3︾
629
・武器スキル
︽格闘:7︾
・魔法スキル
︽魔力制御:3︾︽詠唱:3︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:テリー・ラーナ
種族:人間
レベル:19
筋力:370
生命:430
敏捷:390
器用:500
魔力:350
スキル
・戦闘スキル
・武器スキル
︽片手剣:4︾ ︽盾:1︾
・魔法スキル
︽火魔法:2︾ ︽風魔法:2︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:ネリー・ラーナ
種族:人間
レベル:17
筋力:290
生命:380
敏捷:420
器用:630
魔力:300
630
スキル
・戦闘スキル
・武器スキル
︽片手剣:2︾ ︽盾:3︾
・魔法スキル
︽風魔法:2︾ ︽光魔法:1︾
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
⋮⋮冒険者と言っていたシュラ、カイト、セレナは、問題ない。
最低限、自分の身は守れるだろう。
ローゼも多少能力は低いが、警戒系スキルがやや高めなので問題
ない。サヤに至っては﹁君、なんで冒険者じゃないの?﹂と聞きた
いぐらいだ。︽格闘:7︾って⋮⋮あの拳に何人が沈んで行っただ
ろうか。
⋮⋮考えないでおこう。
そうなると、テリーとネリーが問題か⋮⋮。
﹁さて、時間も無いしさっさと行くか﹂
今回、リーダーを務めるのはシュラだ。この中で一番ランクが高
いのは俺だが、長旅などほとんどしたことないので、ここは経験者
にお願いすることになった。
食料などは各自で携帯している。各自、最低でも︽倉庫:2︾を
持っているので、そこに食料や水をたっぷりと入れて置いた。バラ
バラになってしまった時の保険も含めて。
シュラの案内の元、俺らは都市の中へと入っていく。通り道には
ほとんど物が落ちていなかったので、進むのに邪魔になることはな
631
かったが、中の寂れ具合を見ると本当に長い間放置されていたのが
わかる。何とか形を取りとめている家は石などの建造物で、木で出
来ていたであろう建物は、もはや支柱を残し、かつてここに家があ
ったと言う事だけが、辛うじて分かる。
幽霊とか出て来そう。この世界にいるのかどうかは、知らないけ
ど。
さて、お化けと言うとここに一名、苦手な人がいる。
﹁お、お化けとか、で、で、で、出ないよね?﹂
エリラが、先程から俺が付けているマントをしっかりと握り、離
れない用にすぐ、後ろを歩いている。マントが上がっている上に、
風が強いので、背中がスースーする。
﹁雰囲気だけだと出て来そうだけどな﹂
﹁こ、こわい事を言わないでよ!﹂
うーん、ここではエリラも戦力外かな? 実際の戦闘はどうなる
か分からないけど。
町の中を進んでいく、目標のベヘモスと思われる姿は辺りに見当
たらない。と言うよりか
﹁⋮⋮風以外に音がしないな﹂
時折、風で石などが崩れ落ちる音は聞こえるが、生き物の声らし
きものはしない。普通こういう所は、魔物が巣にしていることが多
いらしいが、今は全く聞こえない。
632
﹁⋮⋮居ないわね﹂
セレナが周囲を警戒しつつ呟く。
﹁ああ、気配すらも感じないぞ﹂
俺も気配は全く感じない。だが妙だ。何もいないはずなのに、俺
は妙な視線をさっきから感じていた。本当に極僅で、意識していな
いと分からないほどであるが。
⋮⋮どこだ? 俺が周囲をキョロキョロしているのにシュラが気付いた、
﹁どうしたんだ? クロウ﹂
﹁いえ⋮⋮ちょっと妙な視線を感じているので﹂
﹁気のせいじゃないのか?﹂
﹁⋮⋮だといいのですが﹂
⋮⋮これは気のせいじゃないな。
︱︱︱スキル︽探索︾発動
スキルにより周囲の情報が一気に俺の脳内にインプットされてい
く。すぐに見つけることは出来ないが、これを常に発動していれば、
近づけばすぐに分かるはずだ。
633
﹁それにしても、どこにいるんだ?﹂
﹁アルゼリカ先生に聞くところによると、移動は歩きで空を飛んだ
り、地面を潜って進むことは出来ないそうだけど﹂
﹁空でも飛べればな⋮⋮﹂
全員が思わず上を向いてしまう。空は雲一つない快晴だが、鳥の
姿は見当たらない。それが俺らを一層、不安にさせる。
﹁無い物ねだりをしても仕方がないだろ。兎に角、探索を続けるぞ﹂
出来るけど、絶対にやらないからな。バレたら洒落にならない。
﹁いねぇ⋮⋮﹂
探索を初めてかれこれ2時間。その間ぶっ続けで探し続けたのだ
が、ベヘモスどころか虫すらも見つけれない。
そして、俺の探索も無反応だ。どこにいるんだよ⋮⋮。
634
と、そのとき
︱︱︱ギャオオオオオオオオ!!!!︱︱︱
突然、鳴り響く声。全員が一斉に武器を構え周囲を警戒する。だ
が、どこからも来ない。
︱︱︱いや
﹁下だ!!﹂
俺の叫び声に反応し、エリラ、シュラ、カイト、セレナ、サヤが
咄嗟にその場から離れる。だがローゼ、テリー、ネリーは慣れてい
ないこともあり、反応が僅かに遅れた。
俺は咄嗟に風魔法を使い、3人を強制的に吹き飛ばす。多少手荒
いが止む得ない。
3人を飛ばした瞬間、地面が一瞬盛り上がったかと思うと、爆音
と共に、中から大きな口が現れる。その姿はまるで、鯨の様だった。
皮膚は黒く、所々に赤い斑点見たいな模様が見受けられた。
誰が、地面には潜らないかボケエェェェェ! 俺は心の中で叫ん
でいた。
謎の生き物は、勢いそのままに地面から抜け出し、その大きな巨
体を地面に叩き付ける。ズドォンと音と共にあたりに地震並の振動
が伝わる。
﹁全員! 戦闘体勢にt︱︱︱﹂
635
シュラが、指示を出そうとしたとき、全員がその異変に気付く。
地面に広がるひび割れ。そして広がって行く亀裂。その亀裂は謎
の生き物が飛び出した穴からではなく、謎の巨体が落ちたを中心に
広がっていた。
﹁まずい! 崩れるぞ!﹂
だが、シュラの言葉虚しく、振動により足を取られたことも影響
し、全員が地面の中へと落ちて行く。
俺も例外ではない。一瞬空を飛ぶことも考えたが、見られると思
うと、発動を一瞬ためらってしまい、巻き込まれてしまった。
だが、落ちたことにより、俺はあることに気づく。
︵どういうことだ?︶
俺は最初、突如飛び出た、謎の生物が作った穴と、地面に叩き付
けられた衝撃で崩落が発生したと思った。
だが、地面の中は空洞だったのだ。まだ、崩れていない、地上の
すぐ下の部分も暗黒に包まれており、崩れて無くなった⋮⋮と言う
より前から無かったと言う方が妥当と思った。
﹁うああぁぁぁぁ!!!!﹂
俺たちは、そのまま暗闇の中へと吸い込まれていった。
636
第46話:チェルスト︵後書き︶
ステータスを見たらわかるかもしれませんが、ステータスには見
えない数多くの称号があります。
私たちが普段意識していないことも称号に入っていることもある
ので、レベルが近くてもステータスには大きな違いがあります。
一番いい例がサヤですね。彼女は冒険者ではありませんが、身体
能力が高いため、クロウの﹁下だ!﹂と言う発言にも素早い反応が
出来たのです。
次回、投稿予定は10月30日です。
修正は予定通りに︵ry
ほんとマジですいません。
︻大幅加筆修正報告︼
・第4話
・不必要な個所を大幅カット、また文章を一部修正しました。物
語に影響はありません。
637
名前の間違えを修正しました。
第47話:暗闇︵前書き︶
※10/30
638
第47話:暗闇
暗闇へのスカイダイビングって怖いですね。今の率直な気持ちで
す。
謎の鯨︵?︶による襲撃で、暗闇の中に落ちていく俺ら。既に俺
は作っておいた︽暗視︾スキルで下までの距離は大よそ分かってい
る。この時、俺は落ちている辺りを見回していた。
周囲は、土があるかと言うと何も無く。空間が広がっていた。
︵おいおい、何だよこの空間は⋮⋮?︶
石レンガで舗装されていた下が、まさか空洞だとは⋮⋮。
﹁オチるぅぅぅぅぅぅ!﹂
﹁きゃあぁぁぁぁぁぁ﹂
特待生組の叫び声が聞こえる。
下を見ると地面がもうかなり近くまで迫っていた。この勢いで地
面に落ちたら、どれくらい勢い良くバウンドするんだろうな⋮⋮。
と、前の俺だったら⋮⋮と言うか、普通の人だったら落ちながら思
う事ではない事を思っていた。
まあ冷静でいられるのも、魔法があるからなのだが。
﹁︽空術︾﹂
639
俺を含めた全員に浮遊効果のある魔法をかける。これにより加速
し続けていた落下速度は、徐々に低下し始め、やがて地面に着地す
る頃には人が歩くくらいの速度まで低下していた。
俺は全員が地面に降りたことを︽暗視︾スキルで確認し、俺は魔
法を解除する。
﹁み、皆、大丈夫か!?﹂
こんな事態でもシュラは冷静だな⋮⋮。
﹁なんとか⋮⋮﹂
﹁だ、大丈夫です⋮⋮﹂
﹁よ、よし、取りあえず集まるぞ。ローゼ、済まないけど光魔法で
灯りをつけてくれないか﹂
﹁分かりましたわ﹂
しばらくすると、ポッと暗闇に光が浮かび上がる。ローゼが光魔
法で灯りを付けたのだ。その光に全員が集まる。だが、灯りはあん
まり強くないので、全員の表情までは分からない。
﹁よし⋮⋮全員無事だな。まずは一安心か﹂
﹁それにしても⋮⋮地面に落ちる前の、あの浮遊感は一体⋮⋮?﹂
﹁僕が落ちる前に付加魔法で、全員に浮遊効果をエンチャントする
640
魔法をかけました﹂
﹁⋮⋮クロウ。お前、本当に万能だな⋮⋮﹂
﹁たまたま使えただけですよ﹂
﹁まあ助かった。ありがとうな﹂
﹁いえいえ﹂
﹁⋮⋮どうするの⋮⋮?﹂
サヤの一言で、辺りにちょっとした沈黙が流れる。
上を見てみると明かりは殆ど見えず、かなり深くまで落ちて来た
ことが分かる。
﹁くそっ、暗いせいで周りが見えないな⋮⋮﹂
﹁ローゼさんの魔法をもう少し強くすることは出来ないのでしょう
か?﹂
この声はテリーだな。
﹁そうしたいのは山々なのですが、これ以上強くすると私の魔力が
持ちませんわ。まだ先が分からない以上、魔力の消耗は出来る限り
抑えておく必要が⋮⋮﹂
﹁そうですね⋮⋮﹂
﹁兎に角、出口を探さないとな⋮⋮﹂
641
﹁だけど、どうやって? こんな暗闇じゃ探しようがないぜ?﹂
﹁発火棒では長くは持ちませんし⋮⋮﹂
発火棒は確かに魔力さえあればいつでも使うことが出来るし、非
常に小型なので持ち運びにも便利だ。だが弱点もあり非常に燃費が
悪いのだ。このような場合は、発火棒より大きいが、魔力型蝋燭を
使うのが普通だ。だが今回は出来る限り荷物を軽くしようと言う事
で持ってきていない。
松明が必要な時は、辺にある木の棒に付けて代用していた。まあ
魔力型蝋燭は結構高額なので初心者の冒険者などは、松明の方を使
うことが多いのだが。
俺は念の為に持ってきてはいる。︽倉庫︾ありがとうございます。
だけど、数は2つ︵俺とエリラ用に︶しか持ってきていないので、
出しても殆ど使えないだろうな。しかも灯りも大して強くないし⋮
⋮。どれくらいかというと豆電球と同レベルと言えばわかるだろう
か?
﹁はぁ⋮⋮どうしたものか﹂
﹁完全なミスでしたわね﹂
﹁だれだったけ? 置いていこうと言ったのは?﹂
カイトがあーあーと言った口調で言った。
﹁悪かったな! 俺だよ!﹂
642
﹁だから、俺は持っていこうぜと言ったんだよ﹂
﹁てめぇ︱︱︱﹂
﹁お、落ち着いて今、言ってもしょうがないでしょ?﹂
﹁くっ⋮⋮あ、ああ⋮⋮そうだな⋮⋮﹂
⋮⋮やばいな、少し空気が悪いぞ。
イレギュラーな事態に加え、準備不足。皆明らかに動揺をしてい
る。
そして、すでに俺は次の危機を感じ取っていた。
それは、俺が都市に入ってから感じていた視線だ。今までは、見
られてはいるが、どこにいるかまでは確認できなかった視線が、今
はハッキリと感じていた。
どうする? 今、動くか?
だが、応戦したところでこんな暗闇で戦えるのか? 俺は迎え撃
つことは可能だが、他のメンバーは戦おうにもこんな暗闇では、下
手に動けない。
︽暗視︾スキルを付加させることも考えたのだが、あれはまだ未
完成なのでリスクが高すぎる。というのも付加魔法は体の一部に能
力を付けようと思うほど難易度が飛躍的に上がる。
俺のスキルレベルでは可能なのだが、問題はまだ、俺自身が使い
きれていないのだ。例えるなら、パソコン初心者の人に行き成り、
643
高性能かつハイレベルのソフトを与えた状態と全く同じだろう。
もちろん練習はしているが、あまりに高レベルなので苦戦してい
るのが現実だ。各属性系の魔法はそれなりに扱えるが、他の部分が
なぁ⋮⋮。
と、その時
﹁チッ、生き残りましたか⋮⋮﹂
突如聞こえた声。周囲を見回すが姿は見えない。と言うのは他の
面々だけで、俺にはハッキリと分かっていた。
﹁全く、普通の人間⋮⋮しかもまだ子供たちに回避させられるとは
⋮⋮後でお仕置きですね﹂
﹁誰だ!﹂
カイトが剣を構えたまま叫ぶ。だが謎の声はカイトの質問を無視
し、話を続ける。
﹁まあ、いいでしょう。ここで消せば問題ないのですから﹂
﹁おい! 誰だ! 正体をあらわs⋮⋮﹂
カイトがもう一度叫ぶが、その返答は、突如飛んできた物体が答
えを表していた。
644
ウォール
﹁!? ︽防壁︾﹂
俺は全員を守れるように防壁を展開。展開が終了したと同時に、
キィンと言う音が全方位から聞こえた。見るとボールペンほどの針
が、防壁によって弾き飛ばされ宙を舞っていた。やがて、カランコ
ロンと地面に次々と落ちていく。
ちっ、答える気は無いのかよ。
俺は︽防壁︾を解除し、ローゼが先程まで小さくしていた光を大
きくする。視界が先程より良くなり、敵の姿が見えた。
紫色のローブを着ている人が一人立っていた。顔はローブに隠れ
ているので見ることが出来ない。
辺りを見渡すと、小形の魔法陣が大量にあった。なるほど、あれ
からこの針が飛んできたのか。
﹁やはり、あなたがいると面倒ですね。クロウ君﹂
!? 今、俺の名前を呼んだのか?
﹁何で、知っているのですか?﹂
﹁それは見たことがありますからね。あの時は散々でしたよ﹂
﹁⋮⋮あっ、お前まさか⋮⋮!?﹂
﹁ええ、おそらくあなたが思っている通りですよ﹂
645
謎の人物が顔を隠していたローブを取り外す。そして見えたのは
﹁やっぱりか⋮⋮ハヤテ⋮⋮﹂
﹁ええ、お久しぶりで﹂
アルマスダン国軍第2部隊の隊長。ハヤテ・シーオンだった。
﹁これはなんですか? 国が僕たちを殺そうとしているのですか?﹂
﹁いえいえ、これは国は関係ありませんよ。まあ仲介人にはさせて
もらいましt︱︱︱﹂
﹁おい!﹂
カイトが、先程の勢いそのままに、ハヤテに向かって怒鳴る。お
いおい、まだ俺が会話途中だろ⋮⋮。
﹁お前は誰だ! 何故こんなことをする!﹂
﹁おや、私をご存じありませんか? そちらの令嬢辺りは知ってい
646
ると思われますが?﹂
﹁⋮⋮ええ、何故あなたがいるのですか? ハヤテ・シーオン隊長﹂
ローゼか⋮⋮そうか、貴族だから国のお偉いさんと話す機会が遭
ったのかもしれない。
﹁アルマスダン国軍の部隊長でもあるあなたが何故、こんなことを
!﹂
﹁国の隊長だと!? ローゼどういうことだ!﹂
カイトが、ローゼに食い下がる。
﹁彼はハヤテ・シーラン。アルマスダン国軍第2部隊の隊長をやっ
ている人ですわ﹂
﹁まあ、私からしてみれば、そんな肩書、必要ありませんけどね﹂
﹁どういうことですか?﹂
﹁知る必要はありませんよ。どうせあなた方はここで死ぬのですか
ら﹂
ハヤテが右手を挙げると、暗闇の奥から魔物が出て来る。その中
にはハヤテと同じように紫色のローブをした人の形をした者もいた。
﹁クッ、なんて数だ⋮⋮﹂
﹁おいおい⋮⋮Cクラスのモンスターがうじゃうじゃいるぜ⋮⋮﹂
647
俺が見た限りではE∼Dクラス系のモンスターが約2、30体。
その後ろにはCクラス系モンスターがうじゃうじゃといる。暗闇で
全部は見ることが出来ないが、その後ろにはさらに数がいるようだ。
︽暗視︾スキルで見てみると、Bクラスも何体か確認できた。
﹁さて、君たちは我が主から危険と判断された者たち⋮⋮特にクロ
ウ君。君は将来、我々の計画に非常に邪魔だ。⋮⋮消えろ!﹂
ハヤテが上げていた右手を振り下ろすと、一斉に魔物たちが全方
向から押し寄せてきた。
﹁くそっ、どうするんだよ⋮⋮﹂
﹁戦うしかないでしょ!﹂
﹁でも、どうやって戦うんだよ! こっちは9人しかいないんだぞ
!﹂
﹁私は、光の維持に精一杯ですわ﹂
﹁と、言う事は8人でか⋮⋮﹂
たった8人で10倍とも20倍とも言える魔物の大軍を相手する。
しかもこちらは視界不良。普通に戦えば勝率は何分⋮⋮いや、下手
をしたら何厘と言う確率だろう。
全員の間に絶望と言う名の空気が流れる。
一人を除いて。
648
﹁⋮⋮いい度胸じゃないか⋮⋮﹂
﹁? クロウ何か言ったか?﹂
シュラの声が背中から聞こえて来た。だが、この時俺には既にシ
ュラの声はほとんど聞こえていなかった。
全神経を集中させる。
スキル︽明鏡止水︾の効果により、敵の動きがすべて手に取るよ
うにわかる。
﹁エリラ! 行くぞ! あいつはもう一度、ぶっ飛ばす!﹂
﹁はは⋮⋮全く、こんな時でもクロは⋮⋮ええ、わかったわ!﹂
エリラが俺の横まで来て剣を構える。俺とエリラが持っている剣
は共に俺が作ったオリジナルの魔法剣だ。
エリラが持っている剣は俺が初めてエリラ用に作った両手剣︵第
21話参照︶を強化した剣だ。名前は︻蒼獣・改︼。素材に獣形モ
ンスターを多く使ったので、分かり易くて良いかな? と言う事で
命名した。前の両手剣の能力に加え︽対魔物︾︽対火耐性︾を加え
た。さらに前よりも切れ味、耐久性も向上させている。
一方、俺の持つ剣は全身が黒く光っており、斬る事に特化させた
刀タイプの剣、︻漆黒・改︼だ。これも改良をしており、︽斬撃強
化・改︾︽対魔物︾︽対人間︾など色々な特殊能力を付けている。
これは魔物から取った素材を加えたことにより、自動的に付いた能
力だ。魔法式を書き込めば、意図的に付けることが出来るが、こっ
ちの方が手間がかからず、作りやすいのだ。
649
﹁他の人もボケッとしないで、考える前に動きましょう!﹂
俺の言葉にサヤがその場から一歩前へ出る。その動きに釣られて
他の特待生組も前に出る。
﹁⋮⋮戦う⋮⋮﹂
﹁わかっているわ!﹂
﹁当然だ!﹂
己の武器を構え、目の前の敵に集中する。
﹁全員、一体に集中してください! あとは僕たちがやります!﹂
力はこういう所で使わないとな。今回は出し惜しみをしている暇
は無い。そんなことをしたら、下手をすれば死人が出かねない。
﹁行きます!﹂
こうして、暗闇での戦いが幕を開けた。
650
第47話:暗闇︵後書き︶
話しの途中で書いてある通り、クロウはスキルレベルはかなり高
い物ですが、完全に使い切るかと言うと使い切れていないのです。
逆に言えば、まだまだ成長の余地があると言う事に。オソロシイ⋮
次回更新予定日は11/1です。
651
誤字を一部修正しました。
第48話:乱戦・前編︵前書き︶
※11/1
652
第48話:乱戦・前編
クロウが一気に前へと走り出し、エリラもその後ろから付いてく
る。
クロウは刀に力を入れ始める。すると先程まで真っ黒な色をして
いた︻漆黒・改︼が徐々に赤くなり始めたかと思うと、次の瞬間、
刀から一気に火柱が上がった。その強さはローゼの光魔法の明かり
よりも、さらに明るく、辺りを照らすしていた。
えんざん
﹁︻炎龍型︼⋮⋮︽焔斬︾!!﹂
クロウは自分の目の前で群がる魔物達に向かって、刀を水平に振
り抜く。それと同時に火力を一気に上げ周りの魔物を巻き込んでい
く。炎の長さは20メートルにまで達していた。
斬られた魔物は体を上下に分離され、炎に巻き込まれた魔物は自
らに纏わりついた炎を何とか消そうともがきまわる。
その内、何体かが力尽き、動かなくなった。そしてまだ暴れてい
た魔物は、被害が無かった周りの魔物達までを巻き込み、ちょっと
した同士討ちが発生した。
煙と焦げた臭いが、辺りに漂い始める。
だが、クロウはそんな事に構いもせず、次々に辺りの魔物に向か
って突入して行く。
対するエリラは、クロウの斬撃と炎で討ち漏らした敵を中心に撃
破をする。
653
犬の顔をした︻コボルト︼と、体長が5メートルに達する︻オー
ガ︼がクロウの出した炎を掻い潜り、エリラへと襲い掛かる。だが、
目の端でその動きを前もって捉えていたエリラは後ろに下がり、剣
に魔力を込める。
ソニック・ブレード
﹁︽音速剣︾!!﹂
エリラは目の前の、何もない空間へ剣を振りぬく。魔力を溜める
ことによって、放たれる魔力の刃は、ヒュンと一瞬、音が鳴ったか
と思うと、次の瞬間、ブシャと音と共にオーガの体が真っ二つに切
り裂いていた。
隣にいたオーガから行きなり血が噴き出した事に驚いたコボルト
の動きが止まる。それを待ってましたと言わんばかりに、エリラは
一気にコボルトとの間合いを詰め、コボルトの右肩から左横腹に掛
けて剣で切り裂く。
コボルトが悲痛な叫びと共に地面に倒れ、動かなくなる。
﹁さぁ⋮⋮次は誰かしら?﹂
エリラが周囲の魔物を睨みつけながら、剣先を再び上げた瞬間、
エリラの近くにいた魔物たちの動きが一瞬止まったように感じられ
た。
654
﹁な、何なんだあいつらは⋮⋮﹂
﹁カイト! ボケッとするな! 来るぞ!﹂
ゴブリンが振り下ろした剣と、シュラの剣がぶつかり一瞬だけ、
火花が飛び散る。ゴブリンは勢いそのままに目の前にいるシュラを
斬ろうと、ぐっと力を入れる。これが力が同じ者同士の戦いなら上
から振り下ろしたゴブリンの方が優勢だったかもしれない。
だが、シュラが使っている武器は両手剣。一方、ゴブリンが使っ
ている武器は片手剣。ゴブリンが使っている片手剣は斬る事に重点
を置いるのに対し、両手で全身の力を使うシュラの武器は、斬るこ
とより叩き潰す事に重点を置いていた。
したがって、叩き落としやすいように重さもそれなりにある。そ
して、その剣を普段から使っているシュラは、ゴブリンの攻撃より、
早く、そして力強い攻撃が可能となっていた。
ゴブリンを剣もろとも一気に切り上げる。力勝負で負けたゴブリ
ンは、そのまま後方へと吹き飛ばされ、味方の中央に落ちて行った。
しかも、暗闇の中なので魔物たちも急に落ちてきた仲間に対処す
るのが遅れ、数体が巻き込まれ地面に倒れる。
そして、たまたま後ろから来ていたオーガに踏みつぶされ、絶命
をした。
踏みつぶした後に、オーガは何を踏んだのか確かめようとでもし
たのだろうか、顔を下に向ける。
そのオーガの顔の前に、何者かが、飛び込んできた。
655
オーガは、その気配に気づき、顔を上げた。目に映ったのは小柄
な体をした少女だった。手には少女の髪の色と同じ、黒い小さな刃
が付いていた。
﹁⋮⋮﹂
少女は顔色を一つも変えず、無言のままオーガの顔に、強烈なパ
ンチを入れる。眉間に強烈な一撃を受けたオーガは、グシャと音と
共に白目をむきながら、後ろ向きに倒れ、オークの後ろから来てい
た仲間を潰して、圧死させながら倒れた。
しばらくの間、ピクッピクッと痙攣していたオーガだが、やがて
その痙攣すらも無くなり、ピクリとも動かなくなった。
﹁⋮⋮次⋮⋮﹂
少女はそう呟くと、次なる獲物へと視線を移し走りだす。
その様子を見ていた、ゴブリン5体が、持っていた剣を下げ、背
中に引っ掛けていた弓を手に持った。近距離は危険と判断したのだ
ろう。
弓を引き絞り、狙いを定めると、合図もしていないのに、5体一
斉に矢を放つ。集団戦を得意とするゴブリンの放った矢は、少女へ
一直線に飛んで行く。
少女は、自分に飛んでくる矢に気づいたが、その時には、既に矢
は少女のすぐ近くにまで来ていた。﹁当たった﹂と思ったゴブリン
達の顔が一瞬、喜色に染まる。だが
アース・ウォール
﹁︽土壁︾!﹂
656
突如、少女の目の前の土が盛り上がり、一枚の壁となって現れた。
矢は5本すべて、突如現れた土の壁に突き刺さり、少女に届くこと
はなかった。
何が起きたのか一瞬分からなくなるゴブリン達。その時、ゴブリ
ン達を何処からか飛んできた水球が襲った。ゴブリンの顔やお腹に
強烈な水球が当たり、反動でゴブリン達は後ろへ吹き飛ばされてい
く。
少女は、水球が飛んできた方向を向く。そこには、少女が一番良
く知っているセレナが立っていた。
﹁サヤ! 集中しなさい!﹂
サヤと言われた少女はこくりとうなずくと、再び視線を敵へと向
け、敵の中へと飛び込んでいった。
サヤを間一髪で助けたセレナは、ふぅと一息すると、今度は先程
から顔を真っ青にして、ガクガクと震えている二人の兄妹へと声を
飛ばす。
﹁テリー! ネリー! 魔法でサヤの援護をお願い!﹂
だが、二人は何も答えない。生まれて初めて見る目の前の光景に、
彼らは戦々慄々とするだけであった。
﹁二人とも立ちなさい!﹂
セレナの叫び声に二人がようやく反応した。恐る恐ると言った感
657
じで、二人がセレナの方を見る。セレナは自分の所へ向かってくる
魔物を処理しつつ、二人に激を飛ばす。
﹁あなたたち死にたくないなら、戦いなさい! 怖がっていても敵
は待ってくれないのよ!﹂
気づくと、周囲の魔物たちは、一番弱いと判断したのか、テリー
とネリーの所に集まり始めていた。セレナは早くに、そのことに気
づいていたので、何とか止めようと近づく魔物を斬っていく。だが、
魔物の数は多く、このままではジリ貧であることは目に見えていた。
そして、ゴブリンが放ったであろう矢がセレナの頭上を越え、ネ
リーの頭に一直線に飛んで行ってしまった。セレナは、しまったと
二人の方へ向けた瞬間、前から進んできた豚の顔をした重戦士系の
魔物である︻オーク︼の棍棒がセレナに襲い掛かった。
セレナはそれに気づき、回避しようと体をくの字に曲げながら下
がるが、気づくのが一歩遅かった。長さ1メートルにも及ぶ、オー
クの木の棍棒の先端が、セレナの左横腹を捉えた。動きこそ遅いオ
ークであるが、その力は凄まじく、握力で言うと150キロにも及
ぶと言われている。そのオークの強烈な打撃攻撃を受けたセレナは、
攻撃を受けた方とは逆の方へと吹き飛ばされる。
セレナの防衛線を突破した魔物たちがテリーたちへと襲い掛かろ
うと、進もうとしたその時、魔物の首がほぼ同時に、胴体から切り
離されていた。
﹁大丈夫ですか!?﹂
クロウだ。クロウがセレナが吹き飛ばされたのを見て、駆け付け
たのだ。クロウは開戦の時同様、刀に炎を纏わせ敵を一掃し、吹き
658
飛ばされたセレナのもとへと向かう。
それを止めようと魔物たちが立ちはだかるが、横から飛んできた
エリラの水球がそれを邪魔する。
﹁エリラはテリーたちを守れ! 近づけるなよ!﹂
﹁わかったわ! クロも急いでよ!﹂
エリラはテリーたちがいる方へと戻り、クロウは倒れているセレ
ナのもとに急ぐ、すでにセレナに止めを刺そうと複数の魔物たちが
セレナの周りに群がっていた。
オークの一撃を受けたセレナは打撃を受けた横腹を庇いながら、
必死に立ち上がろうともがいている。だが、痛みで立ち上がること
サンド・ストーム
が出来ないのか、地面に這いつくばったままだ。
ふうじん
﹁風陣⋮⋮︽砂嵐︾!﹂
ウィンド・クロウ
クロウの手の平から小さな砂の竜巻が次々と生まれ、魔物に一個
ずつ飛んでいく。殺傷能力は普通の︽風爪︾と呼ばれる魔法の物の
方が高いが、彼の作り出した小さな砂の竜巻は、魔物たちの体を細
かく傷つけ、傷口には砂が付着し、怪我を治せなくするという、苛
める様に作ったとしか思えない魔法だ。
短期戦や一対一ではそこまで効果が発揮されないかもしれないが、
逆に考えると、止血がし難くなり、長期戦になればなるほど有利に
なる。さらに、こんな乱戦時では傷口から砂を取ろうと、もがく敵
が周りを巻き込んで行くので、大変役立つ魔法なのだ。
砂の嵐に飲み込まれた魔物は、何とか振り払おうと暴れまわる。
その隙を付き、魔物たちの包囲を潜り抜けたクロウは、自分よりも
659
大きいセレナを、ひょいと抱きかかえると、スキル︽跳躍︾で魔物
の頭上を越え、魔物がいない、地点へ華麗な動きで着地する。
﹁⋮⋮ごめん﹂
ダメージが残っているのかセレナの口調は弱い。
クロウは礼には答えず、すぐに治療を始める。ものの数秒でセレ
ナの傷は治った。
﹁行けますか?﹂
﹁⋮⋮ええ、もう大丈夫、ありが︱︱︱﹂
セレナが礼を言おうとするが、クロウは大丈夫な事を確認すると、
﹁礼は終わった時にでも言ってください﹂と言い残すと、先程から
砂を取り払おうと。もがいている魔物たちに止めを刺すべく、走り
去っていった。
﹁⋮⋮私も負けていられないね﹂
ストレージ
セレナは立ち上がり、︽倉庫︾から予備の剣を取り出す。先ほど
の一撃で最初に持っていた剣は、無くしてしまっていたのだ。
剣を構えて息を整えると、セレナも乱戦への中へと舞い戻って行
った。
660
第48話:乱戦・前編︵後書き︶
初めて、前編と後編で分けてみます。
661
第49話:乱戦・後編︵前書き︶
まさか、まさかの連続投稿。本日2本目です。同じ日に投稿する
なら、分けなければよかったと思っていますが、後悔はしていませ
※11/1
誤字を一部修正しました。
誤字を一部修正しました。
ん︵泣︶
※11/2
662
第49話:乱戦・後編
﹁中々やりますね﹂
クロウ達と魔物の乱戦を眺めながら、ほくそ笑むハヤテ。
﹁もっとやってください、せっかくこの近辺の魔物達をすべてかき
集めたのですからね⋮⋮クックックッ﹂
えんろう
﹁︻炎龍型︼︽炎牢︾!﹂
クロウの剣からまるで、津波の様な炎が飛び出し魔物たちを襲う。
だが、その炎は魔物を焼き殺すことなく、魔物たちを巻き込んだ炎
は、檻の形となり、炎に触れたすべての魔物を閉じ込めてしまった。
えんふう
﹁︻炎龍型︼︽炎封︾!﹂
クロウの声と共に、炎の檻の中が一瞬光りだしたかと思うと、檻
で囲まれた地面と炎の天井から凄まじい爆音と熱風が発生し、中に
いた魔物たちは、その熱に耐えれずに恨みの声と共に消え失せ、土
へと還って行った。そして、魔物がいた炎の檻は、何事も無かった
663
かのように消滅し、跡形も残らなかった。
クロウは、炎が消えたのを確認すると、開戦からずっと眺めてい
るだけのハヤテを睨みつけた。
ハヤテが見えているかどうかは、知らないがクロウの方は︽暗視
︾スキルと︽探索︾スキルでいつハヤテが行動をされてもいい様に
警戒しているので、ハヤテがいる位置は把握している。
﹁ちっ、あの野郎⋮⋮魔物に戦わせておいて、自分は高みの見物か
よ⋮⋮﹂
本当は、今すぐぶっ飛ばしたいのだが、ここで、自分が抜ければ、
エリラたちがやられる可能性があるので行くに行けれなかった。
﹁だったら、さっさとこんな奴ら全滅させて、引きずり降ろしてや
る﹂
クロウはそう呟くと、再び敵の方へと意識を集中させる。
それにしても、よくこれだけの魔物を集めたな。クロウは戦いな
がら思った。確かにこれほどの量の魔物が集まれば、チェルストの
周辺から魔物がごっそりと居なくなるな。
でも、何で地下? 確かに俺らの視界を奪うと言う意味ではいい
かもしれないが、それは︽暗視︾を持っていない日中に活動する魔
物も同じはずだ。この戦場で見えない奴らは迷惑以外でもなんでも
ない。嗅覚や聴覚も、この乱戦では殆ど機能していないかもしれな
い。
664
夜行性、または︽暗視︾スキル持ちの奴らを集めるのが面倒にな
っただけか? それとも別の目的が⋮⋮?
戦いながら物事を考えられるのは、ひとえに父親アレスとの訓練
のおかげだな。アレスからしてみれば嫌味以外でしか、ないような
褒め言葉を何となくかける。
﹁アレはまだ出来ていないから、あいつらは駄目だし⋮⋮やっぱ全
滅が先だよな﹂
独り言をしゃべりながらでも、俺の体は動き続けている。スキル
のお蔭で俺が意識していなくても、自動的に角度や斬り込む位置な
どを判断して斬り付ける。俺の意識が必要なのはいわゆる初動のみ
なのだ。
アシスト
オートマチック
だが、これの状態では攻撃を途中で中断することが難しい。自動
で動くんだからな、支援システムとか言うレベルじゃない。自動シ
ステムだ。
無理やり止めることも出来ないことはないが、体を痛めつけてし
まうのでパスだ。
一気に敵を殲滅する魔法を使うしかないか。
アサルトフレイム
﹁︽誘導火炎弾︾⋮⋮﹂
俺の周りに小形の魔方陣が現れ、そこから小さな火の球が現れる。
俺が敵と認識したものだけを攻撃する自動追尾型魔法、実戦で使う
のは本当に久々だ︵第9話以降未使用︶
だが、放置していた訳ではない。俺はこの魔法に改造を加えた。
フルバースト
﹁︽全力射撃︾!﹂
665
魔方陣に溜めた魔力を魔方式により、常に火弾を出し続ける凶悪
な魔法だ。しかも俺が魔力を入れ続けさえすれば、撃ち続けること
も可能だ。あと、強制終了も出来る。
魔方陣からゴルフボール程度の大きさの弾が、次々と飛び出す。
現時点で一分間に最大で400発を放つことが可能だ。それが今、
俺の周囲に10個ほど浮いている。
何故、最初からこれを使わなかったかと言うと、この魔法は非常
に便利なのだが、燃費が最悪なのだ。戦いの序盤でまだ先の見えな
い時に、特大の魔法は使う物じゃないと言うのは、某ゲームで嫌と
言うほど見せつけられました。⋮⋮今となってはいい教訓だが、当
時の俺は発狂ものだったな。何度も死んでようやく辿り着いたと思
った時にあの仕打ち⋮⋮。思わずゲームを放り投げ、アパートの窓
を壊してしまって、弁償させられたな⋮⋮。
そんな俺の教訓︵と言うか自爆︶のお蔭で最小限の被害で戦い続
ける癖が身に付いたのだ。
でも、敵の数もさすがに減って来たので、ここら辺で片付けよう
と思い、使用に踏み切ったと言う訳だ。
あの黒龍ですらも沈めた魔法に、魔物たちは次々と撃沈されてい
く。多分、上から見たらちょっとした花火見たいな光景が広がって
いるのではと思う。ただし花火の前にエグイが入るかもしれないが。
そして、魔方陣が撃つのをやめて自然に消滅して行く。これは俺
が付けた能力で、敵を感じなくなった場合、強制的に攻撃を終了さ
せ、魔方陣を消滅させるのだ。魔方陣の中に残った魔力は、そのま
ま俺の体に戻って来るので、魔力の無駄使いもしなくて済む。
666
辺りには焦げ付いた匂いが立ち込めており、地面には敵の残骸の
一部などが散らばっており、ホラー映画なんかよりも数倍の気持ち
悪さを感じた。
特待生の面々は全員呆気に取られていた。当然と言えば当然だが、
これにより後の説明が面倒になったことは間違いないだろう。
しかし、特待生が何か言葉を発する前に、辺りに高笑いが響き渡
る。
﹁アッハハハハハハ! ⋮⋮やはり君はおもしろいねクロウ君﹂
先程まで、高みの見物をしていたハヤテがクロウ達の元へと歩い
てくる。
﹁⋮⋮これで残りはあなただけです、降参でもしますか?﹂
﹁降参⋮⋮? 笑止! 私は降参などしないよ﹂
ハヤテの顔は先程からニヤニヤしたままだ。焦る様子も、動揺も
感じられない。
﹁ちなみに、君たちの討伐対象であるベヘモスもさっきの攻撃でや
られたみたいだね。おめでとう﹂
その言葉に俺を含めた特待生全員が驚いた。
﹁何故知っているのですか?﹂
667
﹁何故かって? 簡単ですよ。あの依頼は我が主が出した依頼なの
ですから﹂
﹁!! ⋮⋮と言う事はこの依頼は国からと言う事なのか!?﹂
シュラが信じられんと、言う顔をしながら立ち上がる。
﹁いいえ、最初も言いましたが、国を仲介人として通しましたが、
国自体には全く関係がありませんよ﹂
﹁どういうことでございますか?﹂
今度はローゼだ。光魔法をもうかなりの時間が経っているが、ま
だまだ明るさは落ちていない。持久力はかなり高い方なのかもしれ
ない。
﹁言葉の通りですよ。国の名前を使わせてもらっただけですよ﹂
﹁⋮⋮その言葉から予想するに、この依頼はあなたの主個人の依頼
⋮⋮この場合国王と言う事になりますか﹂
﹁ん∼クロウ君、残念だがそれは違うよ﹂
﹁えっ⋮⋮﹂
﹁だって、私の主があんなデブなわけないじゃないですか﹂
アルダスマン国の王様ってデブなんだな⋮⋮。
﹁じゃあお前は一体何なんだよ!﹂
668
カイトがこのやり取りにしびれを切らし、前へと出るが、カイト
の体が突然くの字に曲がり、吹き飛んだ。
﹁⋮⋮静かにして﹂
サヤだ。サヤがカイトの横腹にこの依頼を受けた後にシュラへや
ったように沈めたのだ。
﹁あ∼あ⋮⋮﹂
思わずため息が出る。カイトのあの短気はもう少しどうにかなら
ない物か⋮⋮。
﹁さて、話はもう終わりかい?﹂
﹁まだありますよ﹂
今度は俺が前へと出る。
﹁クロウ君ですか? 何でしょうか﹂
﹁あなたの言葉を全て鵜呑みにするならば、あなたはアルダスマン
国の配下では無いと言う事になります。つまり、アルマスダン国に
仕えてはいるが忠誠は別の所にある⋮⋮と言う事になりますね﹂
﹁⋮⋮その通りですよ。あなたは本当に子供か怪しくなりますね。
その歳ではまあまあの出来です﹂
見た目は子供⋮⋮いや、このネタをやるのはやめて置こう。今は
669
こいつから情報を抜き取ることが先決だ。
俺がさっき言ったことは誰でも分かることだ。問題は誰に仕えて
いるかだ。
前に俺が見たときハヤテの種族は確かに人だった。異種族間での
対立が激しいこの世で、他の種族に仕えているとは考えられにくい。
となると、主は人間に限られる。そしてアルマスダン国に仕えなが
ら、主はそれ以外⋮⋮となると、アルマスダン国を快く思っていな
い人物と言うことになるが、一体それは誰なんだ?他国か? それ
ともレジスタンス見たいな勢力か?
﹁さて、そろそろお開きにしましょうか。私がなぜこんな暗闇で戦
いを挑んだか⋮⋮あなたたちに分かりますかな?﹂
﹁暗闇では俺らの視界が限られる⋮⋮違うのか?﹂
シュラが答える。見ると冒険者の勘だろうか、シュラとセレナは
剣を構えていた。他のやつらは一応武器は持っているが、隙だらけ
だ。
そういう俺は、構えていないが、魔法はいつでも出せるようには
している。無詠唱スキルで殆ど0秒に近いスピードで発動できるが、
意識をしていれば、さらに高威力の魔法を発動することが出来る。
﹁いえいえ、それなら、暗闇に適さない魔物まで集めた意味がない
ではありませんか﹂
﹁なら⋮⋮一体﹂
・ ・
﹁簡単ですよ。これを発動するには膨大な魔力と血が必要なのです。
しかも準備に時間がかかるので、誰一人として見せるわけには行か
670
ないのですよ。だからこのような暗闇であることを承知して準備を
させてもらいました。﹂
﹁?﹂
﹁まず、膨大な魔力は魔物が消滅した時に吸収されます。そして血
は⋮⋮あなたたちの足場を見て下さい﹂
全員が、足元に目をやる。足元にはそこら中に魔物の死骸が転が
っていた。
だが、俺らはここで妙な違和感を感じた。そしてその違和感はす
ぐにわかった。
﹁血が⋮⋮消えている?﹂
そう地面には確かに魔物の死骸はある。だが血は無いのだ。先ほ
どまでまるで池の様に貯まっていたというのに。
﹁これで、発動に必要な物はすべて集まりました⋮⋮︻代償魔法︼
⋮⋮﹂
足元がほのかに青く光だし、文字が次々と浮かび上がってくる。
俺は知らない文字に見える。一体どんな文字だ?
それに、この嫌な感じはなんだ?
﹁︱︱︱︱︱︱︱︽異転封印︾﹂
ぐぉんと言う音と共に俺を含めた特待生全員を囲むかのように極
671
大の魔方陣が足元に現れる。
考えるより早かった。俺は気づくと魔法を唱えていた。
テンペスト
﹁︽嵐︾!!﹂
エリラを含めた全員を魔方陣の外へと吹き飛ばす。着地の時に怪
我をされても困るので、土魔法で着地視点は柔らかくしておいた。
俺もすぐに脱出をしようとした⋮⋮が、既に魔方陣は完成してし
まっていた。
﹁ちっ、余計な事を⋮⋮だが君だけ送り込めば問題ありません。異
次元で永遠に彷徨い続けなさい﹂
くそっ、こうなったら⋮⋮
︱︱︱スキル︽魔力支配︾発動
﹁⋮⋮!?﹂
だが、魔方陣は消える事無く輝き続ける。どういうことだ!? 魔力支配はすべての魔力を支配下に置くことが出来るはず⋮⋮つま
り魔法で出来た物はどんな物でも支配下に置けると言う事になる。
それは魔石でもだ。つまり物に組み込まれていても例外など無く、
支配下に置けると言う事だ。
方法を変えて、無理やり魔方陣から抜け出そうと。思いっきり魔
672
方陣を蹴る。だが魔方陣は壊れない。それなら穴を掘って魔方陣か
ら抜けようとしたが、それも出来なかった。
俺は完全に魔方陣に閉じ込められてしまったのだ。
﹁さすがの君も何も出来ないか。では⋮⋮さようなら﹂
魔方陣が青から白く輝きだした瞬間、強烈な閃光が辺りを照らた。
思わず全員が目を瞑る。そして次に眼を開けてみると魔方陣と俺は
跡形も無く無くなっていた。
﹁アッハッハッハッ、これであの子はもういないよ⋮⋮では、要件
はすんだので私はこれにて⋮⋮﹂
ハヤテはフードを被り、呪文を唱える。するとハヤテのすぐ足元
に人が一人横に慣れる程度の魔方陣が現れた。
ハヤテがその魔法陣に踏み込むと、ハヤテの体が一瞬だけ光、そ
して消えて行った。その直後にハヤテを転送した魔方陣も消えた。
何が起きたのか分からなかった。特待生全員が、その場で硬直し
動くことが出来なかった。
エリラだけが、クロウが消えた場所にフラフラと歩いて行く。や
がてクロウがいた場所に辿り着くとペタンと両膝から地面に崩れ落
ちた。持っていた剣を離し、両手も地面につける。
﹁嘘だ⋮⋮﹂
エリラは現実を受け止めきれなかった。だが時間が経つとともに、
起きた目の前の非情な現実に否が応でも受け止めなければならなか
673
った。
エリラの目から涙がこぼれ、頬を流れた涙は、地面へポツポツと
落ちていく。
﹁うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
!﹂
エリラの悲痛な叫び声だけが辺りに鳴り響いた。
674
第49話:乱戦・後編︵後書き︶
皆さん、いかがでしたでしょうか?
正直、これをやるにはかなり勇気が必要でしたが、自分の書きた
いことを書くと決めた以上、突き進ませてもらいます。
次回投稿予定は11/3です。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字などがありましたら報告よろしくお願いします。
※なお、余に酷い誹謗中傷的な発言をする方々はコメントをお控
えください。
感想や報告いつもありがとうございます。この場を借りて改めて
お礼申し上げます。
これからもドンドン感想を書いて行って下さると嬉しいです。で
もあまり苛めないでね?
675
※11/3
後書きに加筆しました。
誤字を一部修正しました。
第50話:辿り着いた場所は︵前書き︶
※11/3
676
第50話:辿り着いた場所は
﹁う、う∼ん⋮⋮﹂
頭が痛い。
目覚めてすぐに感じたのは、それだった。ガンガンとする痛みを
感じながら、俺は眼を覚ました。
﹁⋮⋮ここは?﹂
目を開けると、雲一つない青空が広がっていた。快晴とはこのよ
うな空の事を言うのだろうと俺は思った。しばらくボケッとしてい
ると、だんだん記憶が鮮明になってくる。
えっと⋮⋮俺は何をしていたんだっけ? 確か依頼を受けて、そ
れから都市に行って⋮⋮それから⋮⋮
﹁⋮⋮!? そ、そうだ! みんなは!?﹂
急に思い出したかのようにガバッと体を起こし、辺りを見渡す。
辺りは木がポツポツと生えており、近くに森が見えた。自分が倒
れていた周囲は高い木などは見られる草が広がっている。
どうやらここは、草原と森の境界辺りらしい。
﹁くそっ、どうなったんだよ⋮⋮﹂
分かることは、あの妙な魔方陣により変な所に飛ばされたことぐ
677
らいか⋮⋮。
それにしても、あの魔法⋮⋮確か︻代償魔法︼とか言っていたな。
セラからそんな魔法の事は一言も聞いていなかったぞ。まあセラも
必要ない魔法は教えなかったのかもしれない。
よっこらしょと、クロウは立ち上がり、さてどうやって戻るかと
考える。
﹁ここが大陸のどこか分からないから、空を飛ぶのはちょっと非効
率だな⋮⋮。そうなると、近くに町があれば、そこから情報を聞き
出すことが出来るな⋮⋮﹂
平原があるから、もしかしたらこの近辺に村でもあるのかもしれ
ない。
﹁じゃあ、早速町でも︱︱︱﹂
と、その時、森の方から﹁キャァ!﹂と言う女の子の悲鳴が聞こ
えた。咄嗟にクロウは森の方へと走り出す。
スキル︽探索︾を使うまでも無く、すぐに見つけることが出来た。
少女が一人、熊見たいな獣に襲われていた。熊見たいな動物は見
た目こそは熊に近かったが、体長は数メートルぐらいあり、爪は鋭
くまるで爪一本一本が刀見たいだ。
コール・ライトニング
俺は、一発で仕留めようと︽雷撃︾を発動しようと準備をする。
コール・ライトニング
﹁︽雷撃︾﹂
678
だが、何も起きない。
﹁あ、あれ?﹂
日本の街中で言うならば傍から見れば、﹁何アレ? 中二病?﹂
と言われそうな光景だろう。
なんで発動できないんだ? と思ったが熊は一歩一歩少女に近づ
いて来る。逃げろよと言いたくなるが、どうやら腰が抜けてしまっ
ているようだ。少女は﹁あわわわわ⋮⋮﹂と言いながら後ろにずり
下がっている。
﹁くそっ、何で発動出来ないんだよ﹂
だが、考えている暇は無い。熊モドキはノッソリと二本脚で立ち
上がると、刀みたいな爪が生えた腕を高々と挙げ、今にも振り下ろ
しそうだった。
武器を出す暇は無い。俺は持てる限りの全力疾走で走り出す。
そして、熊モドキが今まさに爪を振り下ろさんとしたとき、間一
髪で俺は少女と熊の間に割り込むことに成功した。
熊の振り下ろした腕を、俺はご自慢のステータスに物を言わせた
方法で無理やり右手で受け止める。爪が長いせいで多少、顔を切っ
たが問題ない。
﹁ぐっ⋮⋮こいつ、かなり力があるぞ⋮⋮﹂
俺は本気と言う訳ではないが、それでも中々のパワーだ。あと、
少しでも気を抜いたら押し切られそうな程の力だ。
679
﹁チッ⋮⋮大丈夫ですか?﹂
俺はすぐ自分の後ろにいる少女に振り向かずに声を掛ける。
﹁え、あ、はい﹂
﹁良かった⋮⋮じゃあ⋮⋮﹂
グッと全身に力を入れると、熊モドキの横っ腹に蹴りを食らわせ
る。俺の攻撃にバランスを崩した熊モドキの力が一瞬だけ緩くなる。
その隙に熊モドキと鍔迫り合いをしている右腕で熊モドキの左腕
の肘辺りを掴み、そのまま俺の方へ引き寄せる。バランスを崩して
いたので、簡単に引き寄せることが出来た。
そして、開いている反対の手で、熊モドキの鳩尾へ強烈な左スト
レートを繰り出す。熊モドキはそのまま地面に背中から叩き付けら
れた。俺の鳩尾への一撃が効いたのか、倒れたままピクッピクッと
痙攣をするだけで立ち上がる気配は感じられなかった。
﹁⋮⋮ふう、何とか上手くいったか﹂
それにしてもどういうことだ? 魔法が使えなかった事なんて、
この世に生まれてから一度も体験したことなんてない。魔力が空っ
ぽになっているなら別だが、今は、魔力が空っぽになったときの怠
慢感などは、感じない。
俺が頬に負った傷も、治癒魔法で治そうとするのだが、全然うま
くいかない。まるで前世の俺の世界みたいだ。
﹁あの⋮⋮﹂
680
声を掛けられて、俺は現実に戻った。声を掛けたのは、先ほど襲
われて腰を抜かしていた少女だ。見た感じ年齢は12∼15ほど。
前の世界のリアルではまず見たことなかったツインテールに白色の
髪。と言っても歳を取った時に出来る白髪ではない。白色の髪には
艶を感じ、綺麗と言う言葉が当てはまる。服装は、もう見慣れた市
民たちが着るような服だ。この服装を見る限り、少なくとも過去に
戻ったとかそんな訳じゃないようだ。
あっち
幼さをまだ少し感じさせる顔に、ツインテールの白髪⋮⋮少なく
とも日本でお眼にかかる事は、まずないだろうな。
﹁助けてくれて、ありがとう。私はテリュールっていうの。あなた
この近辺では見かけない顔だよね?﹂
﹁え、えーと、僕はクロウって言います。実はちょっとした迷子に
なってしまって⋮⋮﹂
﹁迷子? 一体どこから来たの?﹂
﹁エルシオンって言う街からなのですが⋮⋮﹂
もしかしたら、知っているかもしれないと、僅かに期待はしたの
だが
﹁エルシオン⋮⋮? 聞いたことも無い街⋮⋮﹂
知らないか⋮⋮。となると少なくともここはアルダスマン国では
無いみたいだな。いや⋮⋮もしかしたら、この子が知らないだけな
のかもしれない。
﹁道に迷ったのなら、村に来る? 長老ならすべての村の道順を知
681
っているから﹂
長老スゲー。俺は素直に感心した。前に一度だけアルマスダン国
とその周辺の街道や街の名前が載った地図を見たが、正直、小学校
の時に見た地図帳と張り合えるぐらいのごちゃごちゃ度だった。
まあ、この近辺に道や街が少ないだけかもしれないが。
﹁付いて来て、お礼に案内してあげる!﹂
﹁それは、助かります。ありがとうございます﹂
﹁いいの、いいの、私を助けてくれたんだから気にしないで﹂
こうして、俺はテリュールが住んでいる村に案内される事となっ
た。
﹁着いたよ∼、ここが私の村だよ﹂
テリュールが案内してくれた街⋮⋮いや、村は昔の日本の村を連
想させた。木材で造られた家。整地がされているだけで、舗装など
何もしていない土の道。
682
一瞬、江戸時代にタイムスリップしてしまったのでは、と思って
しまった。もっとも、村の人たちが着ている服が服なので、そんな
思いは一瞬で無くなるが。
その中で一際大きい建物に俺は案内された。大きさとしてはエル
シオンのギルドと同じくらいかな? 横幅こそ、数十メートルぐら
いはありそうだが、一階建てなのだ。
﹁長老様∼ 入ってよろしいですか∼?﹂
と、言いながら建物の中に入っていく、テリュール。おいおい、
まだいいよとか何も言っていないぞ⋮⋮。
俺も呆然と立っているのもあれなので、中に入って行く。家の外
観こそは、昔の日本の家見たいな造りだが、廊下には絨毯︵土足で
入れる模様。この世界では土足は当たり前︶が敷かれており、装飾
もゴテゴテな造りばかりで、日本に住んでいた俺からしてみれば、
外見と内見が合って無いとツッコミを入れたくなる。
俺の考えを余所にテリュールは家の一番奥ある、部屋のドア︵引
き戸︶の前まで来ると、﹁はいりますよ∼﹂と言いながら開けてい
った。言うのと開けるのが一緒になってると俺は心の中でつっこみ
ながら、部屋の入口まで行く。
﹁⋮⋮テリュールよ⋮⋮何度も言ってるが私が返事をしてから入り
なさい﹂
デスヨネー。部屋の中には、頭が禿げては、いるが髭がめっちゃ
立派な初老のおじさんがソファーに座って、こちらを見ていた。
仙人だ⋮⋮完全に仙人だ⋮⋮。
683
その仙人おじさんは、俺を一目見ると、何やら急に険しい目つき
になった。
﹁⋮⋮お主⋮⋮封印者か⋮⋮﹂
封印者?
﹁ふういんしゃ? 長老、なんですかそれは?﹂
﹁テリュールは知らないでもよい⋮⋮お主⋮⋮名前は?﹂
﹁クロウです﹂
﹁クロウか⋮⋮付いて来なさい﹂
言われるがまま、俺は付いていくことに。テリュールは来るなと
長老に言われ渋々引き下がっていた。
あのやろう
封印者⋮⋮どういうことだ? ハヤテが使った︽異転封印︾と何
か関わりがあるのか? 俺は自分なりの推理を頭の中でしながら長
老の後を付いていく。長老が案内してくれた部屋は先程の部屋より
も大きな部屋だった。と、言うか図書館だ。部屋一面に広がる書籍
はどこの図書館ですか?
と聞きたい。しかし、部屋の壁一面に本棚が並んでいるので、部
屋は暗かった。蝋燭で灯りを灯すが、逆に、そのせいで部屋がより
一層不気味に見える。肝試しですか? それとも怪談話でもやるの
ですか? と聞きたい。
どう考えても、本を読むには適さないような部屋だ。
中央には本を読むためにあるのだろう、小さな木の椅子が3つほ
684
どある。そのうちの二つに俺と長老は座った。
﹁さて⋮⋮封印者よ⋮⋮﹂
﹁その前に⋮⋮ここはどこですか?﹂
長老は、そこからかと呟くと
﹁ここは、︻チェルスト︼の村じゃ﹂
と、言った。
その名前を初めて聞いたとき、俺には何が何やらサッパリと分か
らなかった。
685
第50話:辿り着いた場所は︵後書き︶
と言う訳で、この小説も無事50回目を迎えることが出来ました。
始めた頃は30話位が良い所かなと思っていましたが、次から次へ
とやりたいことが出てきて、こんな所まで来ちゃいました。
でも、まだまだ全然書き足りないのが現実です。これからもエン
ジン全開で突き進んでい行きたいと思いますので、出来れば応援し
て頂けると嬉しいです^^
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字などがありましたら報告よろしくお願いします。
※なお、余に酷い誹謗中傷的な発言をする方々はコメントをお控
えください。
感想や報告いつもありがとうございます。
︻大幅加筆修正報告︼
・第5話
・誤字修正を行いました。物語に変化はありません。
・第6話
・︽無詠唱︾を︽詠唱短縮︾に変更しました。
・誤字修正を行いました。
・第7話∼第10話
・誤字脱字を修正しました。
686
誤字を一部修正しました。
第51話:後の祭り︵前書き︶
※11/5
687
第51話:後の祭り
﹁チェルスト⋮⋮!?﹂
俺は思わず椅子から立ち上がる。
﹁正しくはチェルストの村の中央部と言ったところかの﹂
﹁中央部? どういうことですか?﹂
﹁チェルストの村は各方面に分かれておるのじゃ、中央部以外に、
北部、南部、東部、西部があり、後は特別部があるの﹂
分かれているのか⋮⋮いや、どういうことだ? チェルストって
言ったら、確かあの本︵第42話・﹃滅びた都市︻チェルスト︼の
謎﹄参照︶には約500年ほど前に滅んだ都市のはず。
500年前、突如滅んだ都市。都市からは人だけでなく、動物す
らも消え、当時の調査での消失理由は不明となっている。
近辺に住んでいた人に聞いても、全く分からなかったらしい。そ
れが原因で﹁呪われた都市﹂とか言うレッテルを貼られて人々が近
づかなくなったんだっけ?
国も立ち入り禁止区域にしていたけど、200年ほど前に解除。
国の調査隊などが入って見たりしたが、その後に調査員が死ぬとか
言うことも起きず、呪いのお話は自然と風化して行き、最終的に消
えて行ったらしい。今ではごく一部のオカルトマニアたちしか知っ
ている人がいないと言われている。
688
いや、まて、もしかして偶々同じ名前なだけかもしれない。日本
にもどこかは忘れたが、外国の都市と同名の町があったなしな。
﹁ふむ⋮⋮お主らの世界ではチェルストと言う都市は滅んだことに
なっておるはずじゃ﹂
﹁!? ⋮⋮えっ﹂
俺の頭はショート寸前なのですが。
﹁ちょっ、一体どういう事ですか!? さっきから意味が分からな
いのですが?﹂
﹁お主は魔法と言う物によってここに飛ばされて来たのじゃろう?﹂
﹁えっ⋮⋮た、たぶんそうですが﹂
﹁ここは、かつてチェルストに住んでいた者の末裔が暮らす村⋮⋮
と伝わっている﹂
﹁伝わっている? 曖昧ですね﹂
﹁なんせ、もうかなり古い時のお話だからな。言い伝えしか残って
いない今となっては確かめる術が無いのじゃ﹂
どういうことだよ! 俺は心の中で叫んだ。チェルストに住んで
いた者の末裔? なんでこの人は俺が魔法で飛ばされたのが分かっ
たんだ?
古い話? 確かにもう500年前の話らしいけど、当時の人たち
は自分たちに起きた事すらも記録していないのかよ⋮⋮。
689
少しでも情報が欲しかった俺だが、ここまで来ると怒りを通りこ
して、呆れの領域なのだが。
﹁⋮⋮で、ここは結局なんなのですか?﹂
もう、俺は諦めて結論を聞くことにした。
﹁ここは、お主らがいた世界とは別の世界⋮⋮魔法とやらによって
次元の狭間に封印された世界じゃよ⋮⋮もっともワシらしてみれば、
ここは故郷じゃがのう﹂
﹁⋮⋮はぁぁぁぁぁ!?﹂
思わず声を上げてしまう。
﹁そして、わしらの一族は、お主見たいな新たな封印者が分かる不
思議な目を持っておる、これを持っている理由も、何故一族が使え
るのかも全く分からないけどな。ただ﹃封印者が分かる目﹄と言う
事しか、分からないのじゃがのう﹂
泣きたい、先祖のいい加減さに泣きたい。なんでそんな事しか伝
えていないんだよ⋮⋮。
﹁⋮⋮﹃封印者が来た場合、我が家で手厚く保護せよ、それが我が
一族に出来る罪滅ぼしだ﹄⋮⋮初代の言葉らしい﹂
﹁罪滅ぼし?﹂
﹁⋮⋮ああ、そうじゃ⋮⋮これ以上の事は私も知らぬ﹂
690
意味ないじゃないか! ふざけるなぁ!
﹁⋮⋮ちなみに、僕以外にもここに飛ばされた人はいるのですか?﹂
もしいたのならば、その人の子孫がいる可能性もあるし、に何か
残している可能性もある。と俺は思ったのだが
﹁⋮⋮知らないな﹂
この発言によって、俺のライフはゼロになった。
俺は今、村のはずれにある小さな丘の頂上に体育座りで座り込ん
691
でいた。
﹁⋮⋮はぁ﹂
俺がここに飛ばされて分かったことは二つ。一つ、ここは元いた
世界とは別の世界であること。二つ﹁ここに住んでいる者たちはチ
ェルストに住んでいた者たちの末裔であると言う事。
戻る方法もなければ、ヒントすらもない。
あの後、魔法やスキルも全て試してみたが、全部駄目だった。例
えば、テリュールに頼んで、俺の背後から小さな石を俺に目がけて
投げさせてみた。本来、俺に当たるならスキル︽見切り︾が自動発
動して、飛んでくるライン上に赤い線が光るはずなのだが、何も起
きずに俺の頭に当たった。痛かった。︽神眼の分析︾も発動しなか
った。同じ要領で︽倉庫︾も︽換装︾も全部駄目だった。それだけ
ではない、武器系スキルもすべて駄目になっていた。
木の棒を拾って、前と同じように振るのだが、もの凄く違和感が
あった。どうやら頭の中にある、剣術の動きと今、体で感じている
動きに明らかな違いがあるみたいだ。
今の動きには前のような精彩さがなかった。
ただ、ステータスの基礎値だけは無事だった。指先一本で木を吹
き飛ばしたり、走ってみると50メートルを1秒程度で走れたりな
どしたからだ。
だが、他はすべて駄目だった。今の俺はステータス以外の能力は、
すべて前世の俺に戻った事になる。
﹁⋮⋮どうすればいいんだよ⋮⋮﹂
692
体育座りを解き、今度は仰向けに倒れて空を見てみる。青い空が
見える以外には何も見えない。雲すらも見当たらない。太陽すらも
ないのだ。この世界には雨と言う概念や、夜と言う概念は存在しな
いらしい。
そういえば︽惑星創造︾と言うスキルもあったな。まだ俺には早
いと思って、結局何も手を付けていないままだったな。もしかした
ら、あのスキルもこれと似たような物だったのかもしれない。
だが、今更後悔しても遅かった。だが、例え遅いと分かっていて
も後悔せずにはいられなかった。 ﹁⋮⋮畜生⋮⋮﹂
自分の目から涙が零れ落ちるのを感じた。
なんで、あの時ハヤテと話すようなことをしたのだろう。なんで、
あのとき全員を外に吹き飛ばすと同時に、俺も外に出なかったのだ
ろう。
力があるから大丈夫。︽魔力支配︾があるから大丈夫。そんな楽
観的な考えを持っていたからだろう。もちろん自分は慢心したつも
りはない。常に魔法を鍛え、新しいスキルを作り武具、道具も開発
を頑張っていた。
それでもきっと心のどこかで⋮⋮慢心していたのだろう。
その結果がこれだ。見知らぬ世界に飛ばされ、帰る方法も不明。
家には奴隷になった者ばかり⋮⋮俺がここに居ればいるほど、彼
女らに危険が生じる可能性もある。せめて、何か守れる物を置いと
けばよかった。ガラムあたりに頼めば、家の護衛だって頼めたはず
だ。
693
﹁畜生⋮⋮畜生⋮⋮﹂
これが俺の2度目の人生で初めての挫折だった。
694
第51話:後の祭り︵後書き︶
次回投稿予定は11/7です。
695
第52話:やり直し
俺が後悔をしていたとき、俺に近づいて来る影が見えた。
﹁⋮⋮どうしたの?﹂
テリュールだ。テリュールは、仰向けに倒れている俺の顔を上か
ら覗きこんだ。
俺は何も答えない、と言うか答えれない。今は真面にしゃべれる
気がしない。
﹁⋮⋮聞いたよ。他の世界から来たんだってね﹂
﹁ああ⋮⋮﹂
俺は辛うじて言葉を返す。
﹁⋮⋮私には何も出来ないかもしれないけど、何か手伝えることが
あったら言ってね﹂
﹁⋮⋮ありがとう⋮⋮﹂
﹁⋮⋮元の世界に戻れるといいね⋮⋮﹂
テリュールは、それだけ言うと、その場を後にした。
696
それから、どれくらの時間が立っただろうか。2時間? 3時間
? それとも、もっとかもしれない。
いつまでもこうしている訳には行かない。俺はそう思うと、涙を
拭き体を起こす。
何か方法はあるはずだ。例え何もなくても、ここで後悔している
のは駄目だ。あいつらの為にも早く元の世界に戻らないといけない。
俺は頭を冷静にし、これからの方針を決めることにした。
ここにいる人達が、本当に何もしらないとすると、少なくとも彼
らの生活範囲内に、なんらかのヒントがある確率は低いだろう。そ
うなると、生活範囲外⋮⋮村から遠く離れた場所。
マッピングか⋮⋮。スキルを使う事に慣れていたせいで、物凄く
面倒な感じがする。剣の扱いにも慣れないといけない。
おそらく前世の世界で、繰り返し慣れるようにしないといけない
だろう。もしスキル補正なしで同じように振れるのにどれくらいの
時間がかかるだろうか⋮⋮。
ステータスのお蔭で、あの熊は倒せたが探索するたびにあんな戦
闘を繰り返していたら、とてもじゃないが身がもたない。
697
戦闘を避けるのが一番いいかもしれないが、囲まれたり、逃げら
れない状況に陥ったりする可能性もあるし、素手で殴るには危険す
ぎる相手と、対峙する場合も想定しておかなければならない。
と、言う事で俺は長老に剣が無いか聞いてみたが
﹁剣⋮⋮? 木剣のことか?﹂
﹁いえ、鉄の剣が欲しいのです﹂
﹁てつ⋮⋮? なんじゃそれは?﹂
と、言われた。
そして、俺は建物の建築方法を見て納得した。
建物をよく見てみると、釘がなく、木と木に窪みや穴を開けてそ
こに、はめ込んで組み立てており、鉄製の物が一切無かった。
長老の家にあった派手な装飾品にも鉄製品は無く焼き物だった。
どうやら、この世界には鉄と言うものが無いみたいだ。物はすべ
て、木や綿などで出来ており、むしろ、これ鉄使っていないの? と言う代物もたくさんあった。
精錬と言う技術が無いか、または鉄鉱石自体が存在しないのかも
しれない。
考えてみれば、今の状況って最悪じゃね?
・ヒント無し
698
・スキル無し
・魔法無し
・武器無し
俺の着ている服も魔力繊維と言う特殊な糸で防御力は並の鎧ぐら
いはあるが、このような状況なので、効果は保障出来ない。
﹁本当に何もないじゃねぇか⋮⋮﹂
俺は頭を抱えた。木剣や石を括り付けた鈍器はあったが、耐久力、
攻撃力、ともに不足しており。これでは使い物にならない。
そこで、俺は木剣を使い、極力敵の動きを流すと言う戦い方をす
ることにした。
だが、これも並大抵のことではない。今までスキルに頼っていた
剣術を記憶を頼りに体に染みつくまで練習をしなければならない。
幸い、長老が剣術を教えている先生を紹介してくれたので、すべ
て自分でしなければならないと言う事態だけは避けれた。
しかし、スキルが無い状態での覚える速度は遅く、改めてスキル
に頼りすぎていた自分が情け無くなってきた。
しかも、加減スキルなどもないので、力をセーブすることにも一
苦労だ。力加減を間違えれば木剣がすぐ折れるし、先生を真っ二つ
にしかねない。
本当は、今すぐ調査して元の世界に戻りたい。だが先生が言うに
は。今の俺の剣の使い方じゃ、外に出たらすぐ武器を駄目になるこ
とが目に見えているとの事。ましてや人々が踏み入ったことも無い
地域を歩き回るなら、自分の教えをマスターしても怪しいとのこと。
699
結局、俺は先生に良いと言われるまでは、外に出れないことにな
ってしまった。
そのことに、俺も特に異論はいなかった。戻りたい気持ちは当然
あるが、ここで焦って命を落としてしまえば元もこうも無い。
こうして、俺の焦る自分の心と、剣術とひたすら向き合い続ける
日々が始まった。
700
第52話:やり直し︵後書き︶
心が折れそうです⋮⋮
感想欄の中傷的な言葉に気にしないと思いつつもダメージが⋮⋮。
心優しい方が運営に報告してくださったようで本当にありがたいで
す。
あと、自分の文章力のなさにマジメに引退を考えていたりもしま
す。小中学生レベルって⋮⋮詳しくは申しませんが、私は今現在︵
2014年11月7日現在︶、高校を卒業し専門学生です。理系で
すが、文章力が無い事の理由にはなりませんね。
⋮⋮とまあ、言い訳に聞こえるかもしれませんが、無意識で気に
しているのか、急に筆が進まなくなりました。
これがスランプと言う物なのでしょうか?
書きたいことは決まっているのに、全く進めず、文章を何度直し
ても納得が行かず、文章量が激減してしまいました⋮⋮。
でも、私は自分でこの小説を気に入っています。主人公と周りの
人々のお話をまだまだ書き続けたいです。
ですから、これからも更新は頑張っていきます。
絶対完結してやります。
誰も読まなくても完結させます。
どんなに誹謗中傷がこようが完結させます。
701
なお、感想欄はこのまま、誰でも書けるようにしておきます。や
っぱり外部の意見は大事ですので。
なお、これから私が誹謗中傷を書いただけと判断した感想は問答
無用で削除していきます。
こんな状態ですが、これからもこの小説をよろしくお願いします。
702
誤字を一部修正しました。
第53話:原動力︵前書き︶
※11/9
703
第53話:原動力
﹁だぁ!﹂
カァンと言う音が、朝の静かな道場に響く。もう何回、この音を
聞いただろうか。
※太陽などは無くても朝と言う概念はあります。朝とかを決めるの
は時間です︶
﹁甘い!﹂
かなりの速さで繰り出される技。それは攻撃力は低くとも、確実
に相手の攻撃を流すことに重点を置いた技だ。
﹁!?﹂
勢い余った俺は、体勢を崩し、顔から地面に落ちそうになるのを、
柔道の受け流しの様な方法で体勢を直そうとしたが。
﹁ふんぬぁ!﹂
︱︱︱ゴンッ!
﹁げふっ!﹂
突如、後頭部に来る衝撃。それと同時に俺の体が垂直に床へ落下
する。そしてそのままドスンと床に叩き付けられた。
704
﹁⋮⋮まだじゃの、形がまるでなっておらん、鍛練せよ﹂
そういうと、先生は剣を下げ部屋を後にする。あとに残った俺は、
一人道場の真ん中で仰向けで大の字になっていた。
﹁あーあー、また駄目だったのね﹂
先生が出て行ったドアから、今度はテリュールが入ってくる。今
日は綺麗な白髪を、ツインテールでなく、自然のままに下ろしてい
た。
テリュールは、俺の胸元にタオルを置いた。俺は起き上ると、そ
のタオルで汗だくになった、顔を拭く。
﹁⋮⋮ねぇ、なんで剣術に拘るの? 初めて会った時みたいに体術
でも十分に戦えると思うのだけど﹂
﹁体術だけだったら、手を出せない相手もいますからね。例えば、
全身を針で覆っている敵に素手で挑む、なんていう無謀な挑戦はし
ないでしょう?﹂
﹁ああ、なるほど⋮⋮そういう意味だったのね﹂
﹁それにしても、テリュールさんのお父さんは強いですね﹂
﹁あれだけをやって来た馬鹿だからね。クロウにまだ負ける訳には
いかないと思っているのだろうね﹂
﹁はぁ⋮⋮これでもう1年か﹂
705
俺がこの世界に来て、もう1年が経過した。あれから毎日のよう
に朝から夕方まで剣を練習している。もちろん、剣だけではない、
俺の高いステータスを活かした体術も独自に研究、試行、練習を重
ねている。
だが、もう何年もスキルによる上達に慣れてしまった俺が、剣術
を覚えるのは容易ではない。スキルを使っていた時は漠然と繰り返
していても、経験値を得てレベルが上がって勝手に体が覚えていた。
その恩恵が無くなった今、一から覚えるのは楽ではない。どうし
ても、漠然とやってしまう。
人間一度楽をすると、ズルズルと流れていくとはこの事を言って
いるのだろうな。
さて、長老に紹介された剣術の先生とはテリュールの父親のこと
だった。娘を助けてくれたお礼に、快く快諾してくれた。
以後、ここでひたすら訓練に明け暮れていると言う訳だ。
﹁何言っているの、まだ、1年じゃない。ほぼ、ゼロからスタート
したにしては、早すぎる程ですよ﹂
﹁はは⋮⋮それはどうも﹂
﹁じゃ、私は朝食を作るのを手伝ってくるから、一息ついたら来て
ね﹂
テリュールは、そう言うと道場を後にした。
706
﹁⋮⋮1年か⋮⋮あいつら元気にしているかな⋮⋮﹂
離れ離れになった仲間の顔が、次々と脳裏に浮かんでくる。
﹁⋮⋮くっ⋮⋮焦るなよ⋮⋮俺⋮⋮﹂
思い出すたびに、戻りたい衝動に駆られる。その度に自分を無理
やり、押さえつける。毎日の事だ。
エリラ⋮⋮獣族の皆⋮⋮元気にしているかな。誰かに助けられて
るといいんだけど⋮⋮もしかしたら、ローゼが助けてくれているか
もしれない。
そんな、淡い期待をする毎日だ。正直、何度折れかけたかわかっ
たもんじゃない。
一度だけ無断で近くの森に行ってみたが、その時は散々だった。
怪我こそは少なかったが、見事に返り討ちにあった。数の暴力の恐
ろしさを改めて感じた。
その時のことを思い出し、落ち着く。今、行っても駄目だと。ミ
イラ取りがミイラになるなんて真似はしたくない。
あの時は、もう思い出したくないとか考えていたけど、今となれ
ば俺の心を制御する材料になった。そういう意味では、あの時の返
り討ちはある意味、良かったのかもしれない。
﹁⋮⋮いつまでボケッとしておるのか⋮⋮﹂
ハッと我に返ると、目の前にテリュールの父親⋮⋮俺の先生が立
っていた。
707
﹁⋮⋮私はいつになったら出れるのでしょうか⋮⋮﹂
﹁それはお主の努力次第だ。剣の道は楽ではない。一年やそこらで
身に付けれるような生半端な物ではない。ましてやお主のように、
遠出を考えておるならば、私に勝ち、その上を行かなければならな
い⋮⋮私に負けているようでは、まだまだ、だな﹂
﹁⋮⋮精進します﹂
﹁⋮⋮自分のかつての力をいつまでも覚えていては先に進めぬぞ﹂
その言葉は、俺の心に深く刺さり、同時に俺は﹁何かを変えなけ
れば﹂と思ったのだった。
さらに数週間が経った。相変わらず前に進めない日が続く。そん
なある日、俺は木剣を片手に村の外れにやって来ていた。
俺の目の前には両手を広げて囲むなら、10人は必要なほど太い
巨木がそびえ立っていた。
708
剣を構え意識を集中させる。村の外れと言うだけあってここら辺
にやって来る村人はいない。魔物に襲われない、かつ一人で集中す
るには、まさにぴったりの場所だ。
近くの木に生えていた葉が一枚、枝から離れ、ゆらりゆらりと落
ちていく。もちろん当の本人は気づいていない。
そして、葉が地面についた瞬間︱︱︱
︱︱︱ガン! 鈍い音が辺りに響く。俺の目の前に立っている木には、先ほどま
では無かった僅かな傷が見て取れた。
﹁︱︱︱!﹂
巨木とぶつかり合った木刀から伝わる振動に、俺は思わず剣を離
してしまう。カランカランと言う軽い音が辺りに響き渡る。
俺は手を匿うように蹲る。
﹁イテェ⋮⋮﹂
だが、少し間を開けて、再び剣を拾い上げ、先程と同じことを繰
り返す。
これは、テリュールの父親がクロウに与えた試練だ。ただの木剣
で木を斬ると言う試練。だが、テリュールの父親がやってみせたの
は、村の中にある木で、太さは大人が一人で囲めるほどの太さだ。
だが、クロウはあえて、その何倍もの太さの木に挑んでいた。
709
昔の彼なら、間違いなくこんなことはやらなかっただろう。
彼を突き動かしているのは、ただ一つ。﹃元の世界に戻る﹄。そ
の思いだけが彼を動かす原動力になっていた。
木を斬っては、痺れて剣を落とし、また拾い上げと繰り返す。
彼はひたすら、その動作を繰り返し行うのだった。
710
第53話:原動力︵後書き︶
感想を書いて下さった皆様、本当にありがとうございます。おか
げで元気が出ました!
ただ、出たのは元気だけで文は中々思い通りにはいきませんね。
でも、何を書くかは決めているので、少しずつですが、前に進ん
でいきます。
この場を借りて、応援して下さった皆様に改めてお礼申し上げま
す。本当にありがとうございます。
これからも応援、よろしくお願いしますm︵︳ ︳︶m
711
第54話:例え木剣でも︵序編︶
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
もう、何回この木を斬ろうとしたんだろう⋮⋮。
何万? 何十万? それとも何百万? 最初の頃は数えていたが、
いつからか、忘れてしまった。
だが、それほどの数を持ってしてもこの木は、倒れる気配を見せ
ない。
手はいつの間にか固くなっていた。それでも、手からは血が滴り
落ちている。最初こそは痛かったが、今では違和感も感じなくなっ
ていた。慣れと言うのは恐ろしいものだ。
︱︱︱シュッ ガァン!
﹁︱︱︱っ!﹂
放った一撃は、またも虚しく弾かれてしまった。だが諦める事無
く黒髪の少年は剣を振り続ける。
身長165センチ程度。大きくも無いが細くも無い体には、数多
くの傷が体中に付いていた。年齢の割には体つきはしっかりとして
おり、今まで過酷なトレーニングを積んできたことが見て取れる。
﹁⋮⋮っ!﹂
712
︱︱︱ガン!
︱︱︱ガン!
︱︱︱ガツッ!
決して暗くなることがない、この世界に、今日も鈍い音が響いて
いた。
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮まだだ⋮⋮﹂
連日繰り返す修行。肉体はボロボロになりつつも精神だけは充実
していた。
視界が微かに霞む。本来なら脱水症状を起こしてもおかしくない
状況かもしれない。
だが、少年は手を休めることは決してなかった。
すべては︱︱︱帰る為に︱︱︱
713
異世界転生戦記・︻第1章:帰還編︼ 714
第54話:例え木剣でも︵序編︶︵後書き︶
と言う訳で、今回より第1章が始まります。︵本来は第2章だっ
たのですが、アドバイスを貰い第1章とさせてもらいました︶
そこで、このサイトでは見たことが無い書き方を何故かやってみ
ようと思い、第54話が分裂してしまうという異例の事態に。︻第
54話:例え木剣でも︵本編︶︼は11/11に投稿予定です。
皆さんのおかげで元気が出てきたのか、調子こいてやってしまい
ました。本当ならこれも11/11の更新で載せようかなと思った
のですが、載せたい病にでも私はかかってしまったのかもしれませ
ん︵汗︶
もしかしたら、吹っ切れたのかもしれません。
皆様がこの小説を好きで読んで下さり、最後まで見届けてもらえ
るならば、私は私のやりたい様にやろうと思いました。例え誰も読
まなくても︵キリッ
モウ ヒボウ チュウショウ ニモ マケナイ
もし、これからもこんな色々問題あり過ぎの小説を読んで下さる
心優しい読者がいましたら応援よろしくお願いします
m︵︳ ︳︶m
715
誤字を一部修正しました。
第54話:例え木剣でも︵本編︶︵前書き︶
※11/11
716
第54話:例え木剣でも︵本編︶
﹁全く⋮⋮どこに行ったのかしら?﹂
とある世界の、とある村。争いなどは特に無く、のんびりとした
時間が流れている。
その村の中をあちこち移動しながら、何かを探している女性がい
た。白色の瞳に腰まで伸びている白髪。髪は束ねることなく下ろし
ていた為、顔を横に振るたびに綺麗な髪が激しく左右になびいてい
た。
体つきは比較的小さ目だが、整った綺麗なラインが服の上からで
も分かった。
﹁すいません。クロウ見ませんでしたか?﹂
女性は、近くを偶々歩いていた農夫に声を掛ける。
﹁クロウ君かい? さぁ? 見ておらぬのぉ﹂
﹁そうですか⋮⋮すいません。ありがとうございました﹂
女性は一礼をすると他の人にも聞き込みを続けていく。
だが、なかなか有力な情報は得られなかったが、聞き込みを開始
してからおよそ1時間後。ついに︱︱︱
﹁ああ、それならさっき、村の外れに歩いていくのを見たわよ﹂
717
﹁ほ、本当ですか!? 分かりました。ありがとうございます!﹂
﹁いいのよ、早くテリュールちゃんの旦那さんに会いに行きなさい﹂
﹁!? ち、違います! お父さんに呼んで来いと言われたので探
しているだけです!﹂
顔を真っ赤にしながら全力で拒否をする。色々言いたかったみた
いだが、急いでいたので、有力な情報を得ることに成功したテリュ
ールは、教えてくれた人に一応、一例をすると、情報があった村の
外れに向かって走り出した。
︵村の外れに? もしかして勝手に出て行った⋮⋮!?︶
心の中に不安が過りながらテリュールは先を急いだ。
==========
︵見つけた!︶
村の外れ、森に近い場所で私は彼を見つけた。
彼は巨木の方に向かって木剣を突きだしていた。
︵⋮⋮? 何、あの木についている傷は?︶
718
私がそう思った瞬間、彼は木に向かって木剣を振り出した。
︱︱︱ガンッ!
鈍い音が辺りに響き渡り、彼が持っていた剣が宙を舞った。綺麗
な線を描きながら木剣は地面に突き刺さった。
︵ちょっ、クロウ何やっているの!?︶
あんな巨木に向かって何をやっているの!? これをみた私は最
初、彼はストレスでも発散しているのだろうかと思った。
だけど、彼は地面に突き刺さった剣を引き抜くと、再び巨木の方
へ剣を構えた。そして少し間を置いたかと思ったら、もう一度巨木
へ斬りかかった。
︱︱︱ガンッ!
だが、再び剣は虚しく宙を舞い、地面に落ちる。
それを拾い上げ、また同じことをやる。
何回も、何回も。
そして、私はすぐに理解をした。
︱︱︱あの巨木を斬ろうとしているの!?︱︱︱
そんな無茶な! 私は一瞬、自分は馬鹿かと思い、首を振った。
そしてもう一度、彼の方を見る。
719
だが、どう見ても彼は、あの巨木を斬り倒そうとしているように
しか見えなかった。
私はすぐ彼を止めようと駆けだそうとした、だけどその時、再び
聞こえたガンッと言う音を聞いたとき、私は足を止めていた。
彼は本気だった。
肩で大きく息をし、眼も半分虚ろを向いているように見えた。剣
を取りに行く足取りもどこか頼りなかった。
ただのストレス発散とかなら、あんなになるまで絶対にやらない
はず。
フラフラになりながらも、彼は巨木に挑み続けた。
そして、私は知らず知らずのうちに、自分の手を合わせて祈って
いた。
==========
視界が妙に霞む。やり過ぎたか? 俺はそう思いながらも腕を止
めることはしなかった。
720
だが、次第に体が言う事を聞かなくなっていた。
だけど、やめる気は無かった。このままでは変わらない。死力を
振り絞り、足を踏み出す。
その時
グラッと視界が大きく揺れると、まるで壊れたテレビのノイズの
ような光景が広がった。全身から力が抜け、振り出していた剣は、
初動の勢いそのままに巨木に向かっていく。
いつものように弾かれると思った。だが、いつもの感触は無く代
わりに何かに当たっているような感覚が手から伝わる。
俺はそのまま地面に倒れた。グラグラする視界を何とか保とうと
視線を上げると︱︱︱
︱︱︱バキバキバキ︱︱︱
﹁⋮⋮えっ?﹂
少しだけ傾いた巨木が目に見えた。そして、傾きは徐々に大きく
なり俺を長年に渡って見届けてくれた巨木は、別れを惜しむかのよ
うに、一瞬動きを止めると、次の瞬間︱︱︱
︱︱︱ズドォォォン!
辺りに衝撃と、砂煙が舞い上がる。地面に倒れていた俺は砂煙を
もろに受けた。口の中にジャリジャリとした食感が広がる。
721
しばらくの間、あたりに小さな揺れが続いた。やがて、その振動
も収まり、辺りに静寂が戻る。
ガンガンする頭を無理に起こし、巨木の方を見る。
巨木の木は根元が綺麗に切断されており、年輪が露出していた。
﹁は、はは⋮⋮﹂
思わず笑いが出てしまう。次にやったと言おうと思ったのだが、
口が動かなかった。あれ? 視界もおかしく︱︱︱
俺の意識はそこで途切れた。
==========
﹁す、凄い⋮⋮﹂
私は目の前の光景に自分の眼を疑った。夢かと思った。目の前で
先程まで、まるで要塞の様にそびえ立っていた巨木が、クロウによ
って一刀両断されたのだ。
あまりの光景に暫くの間、私の脳は全く機能しなかった。
722
辺りに流れる静寂。
しばらくして、私は我に返った。まだ、夢を見ているような感覚
がする気がした。
﹁⋮⋮はっ! クロウ!!﹂
私は倒れて全く動かないクロウに急いで駆け寄った。うつ伏せで
倒れていたクロウを抱え上げる。
クロウはびっしょりと汗をかいていて、顔色がものすごく悪かっ
たわ。呼吸も弱々しく、一目見ただけで、かなりの無理をしていた
ことが分かった。
すぐに戻って休ませないと。私はそう思い、クロウを背中に乗せ
てようとした。
その時、クロウの手が見えたんだけど、見た瞬間、私は言葉を失
った。
彼の手はすべて布に覆われており、布からは血が滴り落ちていた
わ。
辺りを見回してみると、倒れた巨木の根元に、赤い色をした地面
がそこらじゅうに見えわ。
︵一体、どんなことをしたら、こんなことに⋮⋮!?︶
色々聞きたかったけど、今はクロウの命が大事と思い、彼をおん
ぶして帰路を急いだ。
723
==========
﹁ん⋮⋮﹂
薄らと目を開いて最初に目に飛び込んできたのは、白色の髪と見
慣れた天井だった。
﹁この髪は⋮⋮﹂
ここ数年、毎日のように見ていた髪なのですぐに誰か分かった。
テリュールだ。視線を動かすと、彼女は俺の胸元を枕にして眠り
こけているのが分かった。それと同時に、俺は自分が布団に寝かさ
れていることもわかった。
体を起こそうと思ったが、寝ているテリュールを起こすのもアレ
だったので、やめることにした。
724
︵寝かされている所を見ると、どうやら倒れてしまったようだな⋮
⋮︶
記憶を辿ってみるが、どんなに思い返しても、倒れた巨木を見た
のを最後に、プッツリと切れてしまっている。
﹁そうか⋮⋮倒したんだよな⋮⋮﹂
﹁そうだな、話を聞かせてもらおうか﹂
顔だけ動かしてみると、テリュールの親父⋮⋮先生が現れた。
﹁⋮⋮巨木を斬っただけですよ﹂
﹁その結果がこれか? 自分は倒れないとでも思ったか? 自分の
体調を管理できない時点でまだまだじゃの﹂
﹁⋮⋮そうですね﹂
﹁ふん、ワシの娘にいらぬ心配を掛けさせるな。これでお主が外に
出れるのは当分見送りじゃな。テリュールに呼ばせに行かなかった
ら、命が消えてたわ﹂
﹁⋮⋮そうですか﹂
﹁話はそれだけだ﹂
そういうと先生⋮⋮テリュールの父親は出て行った。
725
﹁⋮⋮そろそろ起きて下さい⋮⋮﹂
﹁⋮⋮いつから気づいていたの?﹂
むくっとテリュールが起き上る。
﹁⋮⋮先生がやって来たときに﹂
﹁残念、クロウが目覚めたときからよ﹂
最初からやん! 思わず心の中で突っ込んでしまう。
﹁⋮⋮悔しくないの?﹂
ん?
﹁⋮⋮何がでしょうか?﹂
俺がそう言った瞬間、彼女はいきなり俺の服を掴んだ。そして、
そのまま自分の体重を俺にかけるかのように、乗せる。テリュール
の顔がすぐ目の前まで近づく。ちょっ、それ以上近づいたらk︱︱︱
﹁あなた、あんなに帰りたいって言ってたでしょ! もう7年よ!
確かに無茶をしたかも知れないけど、こんな事で諦めていいの!
?﹂
彼女がすごい剣幕で俺に迫ってくる。正直、ここに来て一番の怖
さかもしれない。
﹁良い訳ないでしょ﹂
726
もちろんだ。正直殴りかかりたい気持ちだった。
﹁じゃ、なんで︱︱︱﹂
テリュールが全部言い切れる前に、俺は彼女の口を塞いだ。
﹁明日、出ます﹂
﹁⋮⋮えっ?﹂
﹁明日ここを出発します﹂
その時、微かに吹くはずがない風が何故か、吹いたように感じた。
727
第54話:例え木剣でも︵本編︶︵後書き︶
皆様、心温かいコメントありがとうございます。
感想にはすべて返させてもらいましたが、もし﹁返してねーぞ﹂
とか言う人がいたら、スイマセン。
次回更新日は11/13を予定しています。
728
第55話:v.s.テリュール
俺がこの世界に来てから7年の月日が流れた。
俺は今年で、15歳。体つきも誰かさんに鍛えられたおかげで、
丈夫に育っています。腹筋なんかもう6分割してしまっていますよ。
本当は早く戻る方法を探したかった。だけどあの木を斬り倒すま
ではと、心を鬼にしてやり続けた。
道中は何があるか本当に分からない。スキル、魔法をすべて封印
されている今,俺が頼れるのは、高いステータスだけだ。
だから、7年間、それを活かす剣術と体術をひたすら磨き続けた。
そして、俺は目標である巨木を斬り倒せた。
テリュールの親父はまだとか言ったけど、悪いがこれ以上は待て
ない。
今まで、目標によって止められていたようなもんだ。
だから、俺は決めていた。
だけど
729
﹁あ、明日!?﹂
﹁ええ、あれを斬り倒したらと決めていました﹂
﹁いきなり過ぎない! 確かに私はお父さんの決めた事には納得し
ていないけど⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ごめんなさい。でも、帰らないといけないんです。あちらの
世界で、自分の帰りを待ち続けている人たちがいるのです﹂
もちろん例え戻っても、もう誰かに連れて行かれたかもしれない。
そもそも向こうに戻れる保証も無い。
それでも、戻らないと行けない。いや、戻りたい。と言った方が
良いかもしれない。
俺がそういうとテリュールは、少し寂しそうな顔をする。
他の世界からやって来た俺の話を一番よく聞いていたのはテリュ
ールだった。俺と初めて会った時も元気な子と言うイメージがあっ
たけど、俺の話を聞いているときはそれを特に感じさせていた。
目をキラキラさせて聞いていたから、俺も話すのが楽しかったな。
テリュールは俺の胸元を掴んでいた手を離す。それに合わせて俺
もまだ、重い体を起こす。
しばらくの間、流れる沈黙。どれくらい時間が空いたか分からな
かった。先に口を開いたのはテリュールだった。
730
﹁⋮⋮ねぇ、あっちに戻ったら⋮⋮もう戻ってこれないの?﹂
﹁⋮⋮戻れる可能性はああります⋮⋮﹂
﹁! ⋮⋮本当?﹂
﹁でも⋮⋮もし、それをやるとするなら⋮⋮何百、何千と言う生き
物を殺さないと行けない可能性が高いのです﹂
もし、ハヤテの魔法をそのまんまやろうとするならだが。創造魔
法で作れるかもしれないが、保証は無い。
確実に出来る方法がない以上、こう言うしかなかった。
﹁⋮⋮ごめん⋮⋮﹂
彼女の寂しそうな顔を見たら、自然と謝っていた。
﹁いえ、私こそ、ごめんなさい⋮⋮﹂
すると、彼女は立ち上がり部屋の隅にあった木刀の方を手に取っ
た。
﹁⋮⋮お願い、私と勝負してくれない?﹂
唐突だな⋮⋮。
なんでだ? と俺は聞こうと思ったが、彼女に悪い事をしたと思
っていたので、せめても、と思い何も聞かずに受ける事にした。
﹁いいよ、今から?﹂
731
﹁もちろん﹂
彼女も親の影響を受けてかかなり剣の扱いは出来る方だ。スキル
レベル的には6∼7ぐらいはあると思う。最初の頃は良く負けてた。
今でも気を引き締めてかからないと冷や冷やする場面は多々ある。
道場にはここに通う生徒が練習をしていた。数は十数人ぐらい。
さすがに今は負けることはないが、それでもかなりの実力者揃いだ。
あの先生は性格的にはあんまり好きじゃないけど、実力は本物だか
らな。
生徒たちは、俺たちが勝負をしたいと言うと、快く場所を貸して
くれた。と、同時に観戦者になりました。
﹁時間は無制限。一本勝負です。両者準備はよろしいですか?﹂
俺とテリュールは頷く。
732
﹁では⋮⋮はじめ!﹂
両者一気に間合いをつめ、道場の中央で剣と剣がぶつかりあう。
すぐに剣を戻しもう一回ぶつかり合う。
ぐっと、そのまま力を入れ、抑え込みにかかるが、テリュールは
木剣の側面を合わせ、そのまま後ろへと流す。
俺はそのまま、テリュールの後ろ側へと転がり、二転三転と転が
り、間を開ける。案の定テリュールが、そのまま俺の方を見ないで
剣を振って来た。だが、その剣は虚しく床にぶつかり、剣が一回だ
け飛び跳ねた。
俺は転がる勢いを使い、中腰の体勢にすぐになると、テリュール
の剣を叩き落とそうと、前へ出る。
だが、その時
﹁おい、お前ら﹂
その声にピタッと二人の動きを止め︱︱︱
︱︱︱ゴン!
﹁ぶっ!﹂
733
衝撃と共に、俺の体がエビ反りとなりお腹から地面に崩れ落ちる。
鼻からは赤い水がたらたらと出る。
それと同時に俺の頭にも同じような水が滴り落ちる。
そして、俺の頭の上にはテリュールが持っていた木刀が︱︱︱。
﹁⋮⋮えっ﹂
テリュールは何が起きたか分かっていないのか、ポケッとしてい
た。周りにいた生徒も固まっている。
﹁⋮⋮せめて軌道を逸らしてくださいよ⋮⋮﹂
俺は自分の鼻を押さえながら立ち上がる。声に反応したのは良い
が、テリュールは剣の勢いを止めずにそのまま俺の、鼻にクリーン
ヒットしたのだ。
ちなみに、俺は寸止めだ。ちょっと手が痛かったけど止めたぞ。
﹁ゴゴゴゴゴメンナサイ! 大丈夫!?﹂
⋮⋮なんで俺の周囲の女性は事の事態に気づくのが遅いんだよ⋮
⋮。
﹁血が出てるけど、取りあえず大丈夫です。しばらくしていたら止
まるでしょ⋮⋮それより、なんですか?﹂
この事態を招いた声の主に問いかける。声の主は鬼の形相でこち
らを睨んでいる。
734
﹁さっきまで寝込んでいた輩がやけに元気だな。明日もまた訓練す
る身だぞ?﹂
ああ、もうこんな事を言われるためだけに、俺は、鼻を犠牲にし
たのかよ⋮⋮。この親父め⋮⋮
何故か、鬼の形相で睨んで来るテリュールの親父に対して真っ直
ぐと体を向けると。︵血はまだ出ています︶
﹁その問題は、ありませんよ﹂
﹁何?﹂
﹁明日にはここを出ますから、今までありがとうございました﹂
俺が言い終わるかどうか分からなかったが、突如の殺気が、俺を
襲った。そして、俺の眼球の前に突きつけられる木剣。
ねぇ⋮⋮なんで、こんなに血早いの?
﹁言ったじゃろ、お主見たいな未熟者が外に出るのは早すぎると﹂
ちなみに、この人には俺のステータスの事は言ってない、俺が身
に付けたかったのは技術だから、あんな力は出さないし︵無論、あ
の巨木にも使っていないからね? 使ったら木刀折れるからな⋮⋮︶
まあ、﹁あって言って無かったや﹂と思ったけどスルーしていた
だけなんだけど。
﹁確かにそう言われました。ですが、私にもやらなければならない
事があります﹂
俺は持っていた剣を、先生と同じように付きつける。
735
﹁ですから、それは私との一戦で決めてもらいませんか?﹂
﹁⋮⋮いいだろう、その慢心をしている精神を、すぐに鍛えなおし
てやる﹂
こうして、俺と先生の勝負が始まる事となった。
今回、俺は今まで通り、ステータスには極力頼らない方針で行こ
うと思う。ステータス使って、勝っても嬉しくも何とも無いし、な
により本当に強くなったのか分からないからな。
俺は生徒の一人が持ってきてくれたタオル見たいなので顔を拭き、
先生が立っている方へと向かっていく。
あんな事が起きるとは夢にも思わずに。
736
第55話:v.s.テリュール︵後書き︶
﹁早く話進めろ﹂と思っている方々本当にスイマセン。実はこの
辺りの話や描写にすごい悩んでいます。
頭の中にはアニメ見たいに動いているのが想像出来るのに、いざ
書くとなると難しいと、いつも思います。
描写は他の人の作品を見て勉強します。 ガンバリマス
思ったより帰還編が長引きそうです︵ドウシヨウ⋮⋮︶
737
第56話:信念と大切な物
﹁では⋮⋮始めます﹂
﹁⋮⋮はい﹂
﹁はじめ!﹂
開始の声が鳴り響く。
︵︱︱︱先手必勝!!︶
俺は、足を踏み出した瞬間、俺は試合の時には感じた事ない殺気
を感じた。
気づけば、俺は踏み出した足を下げ、木剣を構え防御態勢を取っ
た。
ヒュンと言う風切音が聞こえ、俺のすぐ耳横を風が通り過ぎて行
った。
俺は、カウンターを仕掛けるようなことをせず、一歩二歩下がる。
俺は地面を見て、硬直した。
木が張られた床に、綺麗な切れ目が出来ており、俺のすぐ足元を
通り抜け、壁にまで届いていた。
俺は先生の方を向いた、先生は剣を構えたまま微動だにしない。
738
﹁どうした? こないのか?﹂
この言葉が、先ほどの技が本気であることを感じさせた。
﹁⋮⋮なんでそんな危険な技を試合で使っているのですか﹂
先ほどこの地面に綺麗な切れ目を作った技は、俺が巨木を斬り倒
すという目標を決めた技だった。
﹁ふん、ワシはこの技を試合で使っては悪いとは言ってないぞ﹂
﹁!? それでもこんな模擬戦に使うw︱︱︱﹂
﹁戯け!﹂
﹁!﹂
﹁ワシに殺されるなら、その程度の事だったということだ⋮⋮行く
ぞ﹂
く、狂ってやがる⋮⋮
俺の心の叫びを余所に先生は次々と攻撃を放ってくる。おいおい
何でこんなことになったんだよ⋮⋮
739
﹁ちょっ、あれやばくないですか!﹂
道場の隅っこで俺と先生の試合を観戦していた生徒たちが騒然と
している。当然のことかもしれないが、床に穴が開いたことなど今
まで無かった。
あんな技を普通の人間がまともに受ければ当然、命は無いだろう。
﹁と、止めようぜ!﹂
﹁で、でもどうやって!?﹂
この中で先生に勝てる人などいない。全員で束になっても勝てる
かどうか分からない。
生徒がどうしようかと悩んでいたとき、テリュールだけは行動に
移していた。
﹁止めないと⋮⋮﹂
考えるよりも先にも体が動いていた。観衆の中から飛び出すと、
先生に向かって行く。
他の生徒が制止しようとするが、道場の中では俺とほぼ同程度の
敏捷力を見せる彼女にとって、周りの生との動きなど止まって見え
るかもしれない。
740
﹁あっ! 馬鹿! 来るな!﹂
反撃のタイミングを見計らうために、回避に専念していた俺は、
視界の隅に彼女を捉えていた。
先生は俺に攻撃をするために、再び構えを取っていた。
その背後に飛び込む彼女。先生の顔が一瞬ピクッと動いた気がし
た。
と、次の瞬間、俺は何が起きたか一瞬分からなかった。
︱︱︱ザンッ!
先生の後ろ頭が見えたかと思うと、剣を振り切っていた。
そして、辺りには赤い血が飛び散る。飛び散った血は俺の顔にも
かかった
俺のすぐ足元に何かが転がって来る。やや間があってあってから、
俺は転がって来た物を確認するために視線を動かした。そこには
﹁あ⋮⋮あ⋮⋮﹂
テリュールが横腹から血を流しながら倒れていた。
741
﹁て、テリュールさん!﹂
先程、テリュールを止めようとしていた生徒がテリュールの元に
駆け付けようとしていた。
﹁来るな!﹂
俺は声を張り上げた。俺の声に驚いた生徒たちが一瞬でピタッと
止まる。よく見ると先生は、木剣を片手に、また背後から来ようも
のなら斬るぞと言わんばかりの構えをしていた。
あのままこちらに来ようものなら、辺りに血の池を作りかねない。
生徒たちが止まったのを確認すると、俺はすぐにテリュールの傍
に行き、彼女の体を仰向きにして支えあげようとした。と、その時
﹁!?﹂
俺は彼女を抱きかかえると、そのまま横に走り抜ける、それと同
時に、俺らがいた所を木の刃が通りぬけていた。
勢いを止める為に、彼女を抱きかかえたままスライディングを決
め、ようやく止まる。
﹁どういうことですか!?﹂
血が流れ続けている部分を手で押さえながら、叫んだ。テリュー
ルは、痛みを堪えているのか、時折歯ぎしりをしていた。顔から大
742
量の汗が流れ、すぐにでも止血をしたい。
﹁剣を向けて来たのであれば、それは立ち向かう意思﹂
先生が俺らの方へと近づいて来る。
﹁ならば、全力で迎え撃つまでよ﹂
﹁それが例え自分の娘でもか!﹂
﹁そうじゃ、それがワシの剣術の信念だ﹂
ブチッ︱︱︱
その言葉に、俺の中の何かが切れた気がした。
気付いたら、俺は先生の目の前にいた。そして俺は今まで、押さ
えていたステータスを一気に解放し、全力で剣を振り抜いた。
咄嗟に、反応した先生は横に飛ぶことで回避をした。
ズガァンとこれまで聞いたことないような音と、風が巻き起こる。
初めて体験する強風に多くの生徒が、自らの体を支え切ることが出
来ずに、転んだり、転がったりした。
風は、数秒で止んだ。
生徒たちが恐る恐る目を開けると、そこには床が見事に吹き飛び、
壁はポッカリと大穴を開けていた。そして、真っ直ぐと伸びる亀裂
は、道場の外の地面まで抉り取っており、綺麗に整えられていた園
庭は見るも無残な姿になってしまっていた。
生徒たちは、口をあんぐりと開けていた。誰一人言葉を発したり
743
動いたりもしなかった。
・ ・ ・
﹁先生⋮⋮いや、じじい﹂
その声で、ようやく我に返る生徒たち。俺は自分で作ったクレー
ター見たいな跡には目もくれずに、生徒同様、唖然としていた先生
のへと歩いていた。
﹁俺は、あんたの考えなんか殆ど分からないし、あんたほど長くも
生きていねぇ﹂
俺は立ち止まると、ゆっくりと中腰になった。
﹁だから、あんたの考えや信念は分からないし、それを否定する気
は無い⋮⋮だが︱︱︱﹂
木剣を両手で持ち、顔の近くまで持ってくる。剣の刃先は先生の
方を向き、光るはずもない木剣は、光に僅かに反射したように見え
た。
なかま
﹁大切な家族を傷つける奴に⋮⋮俺は負けねぇ!!﹂
次の瞬間、再び衝撃音と爆風が吹き荒れ、そして、再び辺りに赤
い血が飛び散った。
744
・
3週間後。俺らは、村人たちに見送られ、村を後にした。
・
らって、どういうことかって? それはまだ完治していないのに
付いて来ると言って、聞かなかった馬鹿がいるからです。
﹁⋮⋮ねぇ、今すごい失礼なこと考えていなかった?﹂
﹁⋮⋮別に考えていませんよ﹂
﹁顔に出てるわよ﹂
ツンツンと俺の頬を触ってくるテリュールの顔は笑顔だった。
﹁⋮⋮本当に良かったのですか?﹂
﹁いいのよ﹂
﹁⋮⋮家族とは二度と会えない可能性もあるのですよ? 今ならま
だ戻ることが可能ですよ﹂
﹁もう、見送られらたし、今更戻れないわよ﹂
﹁ですが⋮⋮﹂
745
なかま
﹁⋮⋮﹃大切な家族を傷つける奴にh︱︱︱﹂
﹁だぁぁぁぁぁ! 言わないでください! 分かりましたから! もう聞きませんから! 掘り返さないでください!﹂
中身はいい年こいた人の黒歴史を掘り返さないでぇぇぇぇぇ。
心の中で絶叫する俺、穴があったら入りたいです。無かったら掘
って入りたいです。
じじい
あの後、道場は半壊し、先生は大けがを負った。最後まであの光
景を見届けていたテリュールも大量失血で、2日ほど生死を彷徨い
続けたが、奇跡的に持ち直し、2週間後には、一人で動けるまでに
回復し、現在に至っている。
そんな彼女は、歩けるようになったときに、俺に旅の同行を願い
出たのだ。
当然、俺は﹁やめて置いた方がいい﹂と言ったさ。確率的にはも
し戻った場合、二度とこの世界に戻れない可能性の方が高いのだ。
だが、彼女はそんなことも全て了承して、付いて来ると言い張っ
た。
理由も教えてくれない。たぶん俺がいた世界をこの眼で見たいの
があると思うけど、これは理由にするには弱すぎないか? 家族と
離れる<異世界への好奇心 って言う形が出来てしまうんだが。
仕方無かったので、親がいいと言ったら良いよと言う事にしたの
だが、母親は﹁彼女がそういうなら好きにさせてあげて下さい﹂と
言い、まだ立ち上がる事すらも出来ない先生は﹁勝手にしろ! 戻
746
って来るな!﹂と言われた。ちなみにそのあと、また傷口が開いて
悶絶していました。
結局、俺は半分納得はしていなかったが、テリュールが付いて来
ることを許可した。
﹁ほら、掘り返して欲しくないなら、さっさと行くよ!﹂
﹁あっ、ちょっ、まだ無理をしないで下さい!﹂
前を歩いていくテリュールを俺は慌てて追いかけた。
﹁ふふ⋮⋮﹃家族﹄か⋮⋮///﹂
﹁ん? 何か言った?﹂
﹁ううん。何も言ってないわ。それより早く行きましょ!﹂
﹁ちょっ、腕、引っ張らないで痛い痛い!﹂
こうして、俺はテリュールと共に、新たな旅へと出たのだった。
747
第56話:信念と大切な物︵後書き︶
いつも読んで下さり、ありがとうございます。
m︵︳ ︳︶m
﹁展開が遅い﹂﹁爽快感が減ったね﹂などの感想を頂き、私自身
も早く進めたいと言う思いが重なりました。
肝心の描写なのですが、いざざっくりと、削ってみると意外とス
ラスラと書けました。︵上手い、下手は別として⋮⋮︶
こんなテンションで次回も書けたらいいなと思います。
クロウがぶっとばす前の言葉には悩みましたが、シンプルイズベ
ストと言う事で、こんな形となりました。自分は結構気に入ってい
ます。
次回も頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。
m︵︳ ︳︶m
なお、次回更新予定日は11/17を予定しております。
748
誤字を一部修正しました。
第57話:罠とリバース︵前書き︶
※11/24
749
第57話:罠とリバース
﹁だああああああ!!!!﹂
﹁いやぁぁぁぁぁぁぁ! なんでこんな事になったのぉぉぉぉ!﹂
﹁文句を言っている暇が合ったら走ってください!﹂
狭く暗い通路を俺らは全力で走り抜けていた。
その後からハリセンボンが膨らんだような形をした大玉が転がっ
て来ていた。玉の表面には鋭い針がいくつも付いており、追いつか
れたら最後、蜂の巣の様にされるだろう。
⋮⋮そもそもなぜこんな事になったんだっけ?
=====1時間ほど前=====
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
750
深い森の中、俺らはある一つの建物の前で立ち止まっていた。
村を出てからまるっと1週間。この間、特にこれっと言った問題
は発生しなかった。
村を出て南に進んでいると、森が見つかり、この中を探してみよ
うと思って踏み込んできた。
ヒントなど、何も無いこの状況下でこんな森の中を探すなんて、
砂場で針を見つける様な物だと思っていたので、気楽に探す事にし
た。
⋮⋮が、探索開始からわずか30分で見つかったのだ。そう、見
つけてしまったのだ。あまりに淡々としすぎていて恐ろしい位の早
さで。
﹁⋮⋮これ⋮⋮なんだろうね﹂
見つけたのは古ぼけた建物だ。石レンガで出来ており、壁を伝っ
て伸びている蔓が、長年放置されていることをひしひしと感じさせ
た。
1階建てで、辺りの木々より低く、建物に迷彩色を塗られたら森
の中に完全に溶け込んでしまいそうなくらい、分かりにくい造りに
なっている。
﹁建物ですよ﹂
﹁い、いや違う⋮⋮確かに建物なんだけど⋮⋮﹂
テリュールが指を指した方は、建物の扉のすぐ横にあった、古ぼ
けた看板だ。かなり傷んではいるが、かろうじて文字は読めた。そ
して、その看板にはこう書かれていた。
751
﹃封印者へ、ようこそ うふっ︵はぁと︶﹄
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
⋮⋮あの⋮⋮帰ってよろしいでしょうか?
﹃封印者﹄と書かれているので、ここは俺が飛ばされた事と何か
関係があるのは間違いないだろう。初めて手がかりを得た瞬間であ
る。
⋮⋮だけど、なんだろう、この心の中にある﹁行きたくねぇぇぇ
ぇ!!!﹂と言う気持ちは。
と、色々と言いたいことはあったのだが、取りあえず俺らは中に
入る事にした。
752
建物の1階は何も無く、地下に続く階段があったので、降りる事
にした。明かりの心配があったのだが、電球虫と言う虫のお蔭で、
進むことが出来た。明るさは懐中電灯ぐらいかな? 蛍見たいに光
っているのだが、数の暴力によってその光は、建物の内部を明るく
照らしている。
﹁古い建造物ね⋮⋮﹂
壁の石はあちこちがひび割れており、ときどき砂が落ちる音が聞
こえて来る。築数十年は立っているのではないだろうか?
﹁何があるか分からないから慎重に行きましょう﹂
﹁あっ、あれなんだろ﹂
見ると、石の壁の一部に穴が開いていた、中に何かあるように見
えたがここからじゃ見れそうにない。
﹁あっ、勝手に行かないで下さい!﹂
﹁いいじゃないの、何かあるかもよ?﹂
スルー
俺の言葉を無視し、テリュールが壁に近づいた瞬間。
カチッ
﹁⋮⋮カチッ?﹂
753
嫌な予感が⋮⋮と、俺が思ったその時
︱︱︱ゴゴゴゴゴゴ
﹁!?﹂
遠くから聞こえる地鳴り。バッと俺が後ろを見ると何やら謎の球
体が近づいているように見えた。
﹁⋮⋮えっ?﹂
テリュールも、それに気づいたようだ。ドンドン近づいて来るに
つれその全容が明らかとなる。
謎の球体は、全身を針で覆ったものだった。パッと見てみると、
膨らんだフグを連想させる。そして通路一杯の大きさの球体は、等
加速的に速度を上げているように見えた。
ちょっと待て、ここ平地だぞ? なんで加速しているの?
と、考えたが
﹁ハッ! こんなこと考えている暇じゃない! 逃げますよ!!﹂
テリュールの手を引っ張り、駆け出す俺。
﹁あっ! ちょっと、待って中に何か︱︱︱﹂
なんとマイペースな行動でしょう。この様な状況でも中身が気に
754
なるのですよ? 自分の生命とどちらが大事なのでしょうか。
﹁死にたいのですか!? 生き残って、また来たらいいでしょう!﹂
通路は一本道で隠れる様な所は無い。つまりこのままだと、アレ
が止まるか、俺らが潰れるかのチキンレースと言うことだ。
そして、冒頭の場面に時間は戻る。
⋮⋮で、現在に至るんだったな。
﹁うぇ⋮⋮吐きそう﹂
テリュールが顔を青くし、片手で口元を押さえながら言った。
﹁吐かないで下さいよ!﹂
人間、200メートルぐらいを全力で走ったら吐きそうになると
聞いたことあるけど、あれは本当のようである。
ちなみに、俺は全力では無いのでまだ行けます。
テリュールがマジでギブアップしそうなので、手を貸すことにす
る。本当は他の罠とかを考慮して、出来る限り両手を空けておきた
かったんだけど、そんな事言ってられないな。
755
﹁ちょっと、失礼しますよ﹂
と、俺は言うと彼女を後ろからすくい上げ、お姫様抱っこをする
と、一気に走り出す。彼女は何か言っていたようだが取りあえずス
ルーだ。その後、彼女は走っている途中でいつの間にか静かになっ
ていた。
俺たちと針球の距離はみるみる開いて行いった。
そして、走る事、約2分。俺は広い空間に出た。
とりあえずそこに入り、やり過ごす事にした。しばらくすると、
ゴロゴロゴロと言いながら俺らの横をすり抜けて行った。
音は遠くなっていき、そして聞こえなくなった。
﹁⋮⋮﹂
完全に聞こえなくなったのを確認し、ホッと一息つく。全くなん
て建物だよ。
﹁⋮⋮ん?﹂
その時、俺は初めて背中に感じる生暖かい感触に気づいた。ふと、
彼女を見てみると。
﹁あばばばば⋮⋮﹂
﹁ぶっ!?﹂
756
テリュールの口からはテレビで流そうものならモザイクか、キラ
キラが必要な物が流れていた。そして、そのリバースされた物は俺
の服を伝って下に落ちていた。
﹁⋮⋮﹂
その後、辺りに俺の絶叫が鳴り響いたのは言うまでもないだろう。
﹁何やっているんですか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮酔った⋮⋮﹂
取りあえずテリュールを横にして、水を上げて、うがいを促す事
にした。その間に、俺は予備の服に着替える。リバースされたのが
付いた服はどうしようか迷った挙句、置いていく事にした。だって
匂いがねぇ⋮⋮。
彼女によると吐きそうになった時に、俺が抱きかかえたのだが、
激しく上下に動いたことにより、OUTとなったとの事。
757
⋮⋮取りあえず、これ以上話すと、女性としての威厳も何もあっ
たものでは無いので切り上げることにする。ちなみに彼女はまだ、
仰向けに寝ています。
信じられないだろう、こいつ、22なんだぜ⋮⋮。
しばらく経ったのち、俺たちが逃げ込んだ空間を見渡してみると、
広場の隅に何やら扉があった。石の壁の中で木の扉があったら否で
も目立ちますよね。
あんなに苦労したんだからこの先に何かあって欲しいと願いつつ
俺が、扉の方に近づこうとすると、テリュールが俺の服の袖を掴ん
だ。
﹁まって⋮⋮﹂
ん? 何か見つけたのかな? 俺はそう思ったのだが、次に出た
言葉は
﹁さっき取り損ねたアレ⋮⋮先に取り行きたい⋮⋮﹂
であった。
俺は何も言えなかった。そして心の中で思った事は。
︵⋮⋮どこまでも好奇心旺盛なんだな⋮⋮︶
であった。
その後、俺がダッシュで取り行く事になりました。
758
759
第57話:罠とリバース︵後書き︶
最後まで読んでみるとタイトルが笑えないですね。実際に受けて
みたら私なら泣きます。
いつも、感想を書いて下さる皆様本当にありがとうございます^
^。
誹謗中傷だけする人のコメントは無視して消す事にしました。
モウ マヨワ ナイ。
いつも応援して下さる皆様、本当にありがとうございます
m︵︳ ︳︶m
760
第58話:部屋の中には
﹁さて、この中には何が入っているんだろうか⋮⋮⋮﹂
俺とテリュールの前には大きさにしてバレーボールほどの大き
さの木箱が置いてあった。
これはさっき、テリュールが見つけた物だ。と言っても取りに
行ったのは俺なんだが。
これも罠だったら泣くからな。
﹁よし⋮⋮⋮じゃあ開けようか﹂
﹁私が開ける∼﹂
グロッキー状態から復活したテリュールが開けたがっている。
まあ⋮⋮⋮別に良いけど、君、本当に好奇心旺盛だね。
半ば無理矢理の形で箱を奪ったテリュールは、目をキラキラさ
せながら、箱を開けた。
そこに入っていたのは
あははははっっ﹂
折角罠を潜り抜けたのに
今どんな気持ち?
﹁残念∼何も入ってないよ︵はぁと︶
本当に残念だね。どう?
と、書かれた紙だけだった。
761
﹁﹁⋮⋮⋮﹂﹂
俺はひょいと木箱を持ち上げ、壁に向けて全力でぶん投げた。
木箱は、石の壁に当たるとばきっという音と共に見るも無惨に砕け
散った。
そして、俺はすうっと息を吸うと
メテオ
つーか破壊したい!
﹁ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!﹂
もう、この建物破壊して良いよね?
超がつくだけじゃ物足りないわ!!
ここが依頼で来た場所立だったとしても、隕石
何なんだここは!!
帰りたい!
か何かで沈めてやるぞ!
はぁ⋮⋮⋮はぁ⋮⋮⋮
怒っても仕方がない、ここはクールダウンだ。深呼吸、深呼吸。
ちなみにテリュールは、力尽きて倒れています。気のせいかテ
リュールの口から白い煙みたいなのが出ている様に見える。
⋮⋮⋮きっと俺も疲れているんだな。
762
今の気持ち?
まあ、例えるなら先に進みたくないという、
土砂を、帰るという意志で取り除いていくような気持ちだ。
重い足取りのまま、俺らは先程見つけた木のドアの奥を調べる
事とした。
﹁何か起きるのかな?﹂
好奇心旺盛なテリュールも、流石にここまでやられるとキツイ
ようだ。
﹁何も無いことを祈ろう﹂
俺は淡い期待を持ちながら、扉を開ける。開けてすぐ入るとい
う事をせずに、一度、距離を取って何が起きてもいいように身構え
る。
だが、何も起きない。どうやら今回は大丈夫なようだ。
ふぅと溜め息をしながら、俺は部屋に踏み込んdーーー
ーーーカチッ
⋮⋮⋮⋮⋮⋮︵汗︶
シュンと空気を切る音と共に、部屋の奥から何かが飛んできた。
﹁ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!﹂
763
咄嗟にマトリッ○ス顔負けのイナバ○アーで、緊急回避を行う。
もちろんテリュールの事も忘れてはいない。エビ反りになりながら、
テリュールを突飛ばした。バランスを崩したテリュールは、尻餅を
ついて倒れた。そして、そのテリュールの頭上をナイフみたいな短
剣がすり抜けて行った。
﹁﹁⋮⋮⋮﹂﹂
そして、先程と同じような紙が俺の頭に落ちてきた。
イナバ○アーの体勢から戻り、紙を拾い上げると、そこには。
もし死んでいないならおめで
ここがあなたの目的が果たされるかもね封印者さ∼ん︵は
﹁あはははっっ、死んじゃった?
とう。
ぁと︶﹂
ブチッブチッ
﹁く、クールダウン⋮⋮⋮出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
!﹂
木製の扉を鷲掴みにし、無理矢理もぎ取る。バキバキッと言う
音と共に扉が取れる。そしてその扉を俺は両手で持つとそのまま膝
で真っ二つにへし折った。
出ましょ!?﹂
﹁はぁ⋮⋮⋮はぁ⋮⋮⋮、なんなんだよここ⋮⋮⋮﹂
﹁いたたた⋮⋮⋮ねぇ、もう出ない?
764
テリュールはもう帰りたい!
いてきた。
と言わんばかりの顔で泣きつ
﹁⋮⋮⋮ここで最後にしますので、頑張りましょう﹂
もし、あの言葉が本当なら⋮⋮⋮だけど。
部屋の中には生活感が非常に溢れていた。
机に椅子。ベットに戸棚⋮⋮⋮暖炉まであった。
﹁誰か住んでいたのかな?﹂
﹁見たいですね﹂
こんなデンジャラスな所に住んでいる奴なんてアレ書いた奴し
かいないと思うけどな。
部屋の隅にあった本棚に近づき、適当に取ってみる。しかし大
分長い間放置されていたのか、痛んでおり、まともに見れる物はほ
とんど無かった。
765
何にも無いなぁと思ったとき、一つだけ綺麗な本が目に入った。
﹁あれ⋮⋮⋮これなんだ?﹂
その本を取り出してみる。その本は他の本と比べると綺麗⋮⋮
⋮いや、まるで新品のようだ。
開こうとするが、何故か開かなかった。
思いっきりやってみるがやっぱり開かない。
どうやって開くんだと思ったとき、突如本が光だした。
その光は虹のようにカラフルに光っていた。やがて、本の表面
に文字が浮かんできた。
﹃この本は条件を満たしている者のみが開き見ることが出来ます﹄
﹃所持者の魔力反応を確認します﹄
お、おいなんだこれ?
﹃魔力反応アリ。代償魔法魔力の残留を調べます﹄
﹃⋮⋮⋮確認完了。残留あり。封印者であることを確認。魔法解除
を行います﹄
????
クロウ
﹃⋮⋮⋮魔法解除完了。所持者名を登録します。⋮⋮⋮登録完了。
これより所持者のみに内容を開示します﹄
766
やがて光は収まり始め、最初の状態に戻った。
﹁⋮⋮⋮魔法?﹂
なんでこの世界で?
取り敢えず、1ページ目を開いて見る。今度は簡単に開くこと
ができた。
さて⋮⋮⋮何が書かれているかな⋮⋮⋮
﹃やっほーおめでとう封印者さん︵はぁと︶。私のプレゼントはど
うだったぁ?︵はぁと︶﹄
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
俺はもう何も言えなかった。
767
第58話:部屋の中には︵後書き︶
PCが壊れましたぁぁぁぁぁぁぁぁ
orz
全然動きません⋮⋮⋮。この回も携帯から打ち込みました。
泣きたい⋮⋮⋮。
取り敢えず投稿は続けますが、直るまでコメント返しはお休み
させてもらいます。本当にすいません、︵土下座︶
本当は一人一人のコメントに返したいのに申し訳ございません。
この場を借りてお礼申し上げます。
次回投稿日は11/21を予定しています。
頼む⋮⋮⋮PC直ってくれぇぇぇ︵PCに向かって土下座︶
768
第59話:ただいま
、何を見たかは知らないけど落ち着いて
破っていいでしょ、いえ、破らせて下さい﹂
﹁お、落ち着いてクロウ
!﹂
﹁破っていい?
俺が本を破こうとするのをテリュールが必死で止める。頭では
これを破いたら駄目だと分かっているが、破きたい衝動に駆られる。
そしてこの光景をまるで予言していたかのように⋮⋮⋮
だめだよねー。ようや
﹃あっ、別に破くのは勝手だけど、破いたらこの本にかかっている
魔法が解けて読めなくなるけどいいの?
すんごいムカつ
く帰れるヒントがあるんだから破けないよねー?﹄
一回殴ってやる!
うぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
くのですが!
書いた奴出てこい!
﹁はぁ⋮⋮⋮はぁ⋮⋮⋮﹂
くそっ、さっきから言いように書きやがって⋮⋮⋮
﹃それにしてもドンマイだね、君も神々に敵視されたのかなー?﹄
⋮⋮⋮はっ?
﹃この世界って超面倒だよねー、魔法とかスキルとか全部駄目にな
769
るもんねー、おまけに私はステータスが魔法以外低かったから苦労
したわー、まあ君なら大丈夫だよねー、死んでないなら大丈夫だよ
ねー﹄
さっきから空白のページを見てるけどどうしたの?﹂
イライラする書き方しやがって⋮⋮⋮。
﹁ねぇ?
﹁どうしたって⋮⋮⋮読んでいr⋮⋮⋮空白?﹂
⋮⋮⋮あっ﹂
﹁うん、何も書いていないじゃない﹂
﹁でも、書いてありますよ?
最初この本を開いたときに﹃所有者のみに開示します﹄って書
その子には見えないよ。
いてあったような⋮⋮⋮。もしかしてこの文字は俺にしか見えてい
ないのか?
﹃もしかしてこの世界の人もいるかな?
きっと空白のページを見てると思われているんかもね∼﹄
こ、このやろう⋮⋮⋮まるで今、見ているみたいな書き方しや
がって⋮⋮⋮
﹃あっ、見えてないからね。これ見てるときはもう天国にいると思
うし∼﹄
なんでだろう⋮⋮⋮さっきから、本と会話しているように感じ
るのは⋮⋮⋮
770
﹃まあ色々言いたいのだけど、魔力も、もう無くなっているから手
短に言うよ∼。結論から言うと君はもとの世界に戻れるよ∼。連れ
の人もいるなら一緒に行けるよ∼おめ∼﹄
⋮⋮⋮嘘ついているようにしか感じられないのだが⋮⋮⋮取り
敢えず帰れるんだな。
﹃でも最大で2人までだからね。それ以上は魔力が無いから。私は
本当はこの世界に連れてこられた人たちを助けないといけないから
残るよ∼、何か手は無いか調べて見ることにするよ∼前なら出来た
のかもしれないけどね。力を失った今はもう無理∼﹄
⋮⋮⋮
﹃あの野郎共ぶっとばしたかったんだけどね、一人じゃ無理があっ
たよ。力が足りなかったんだよね∼⋮⋮⋮てへっ︵はぁと︶﹄
⋮⋮⋮無理やりだな⋮⋮⋮
セラ﹄
敵視って!?
いや、もしそうだとしても、なんで創世神が!?
セラって⋮⋮⋮いや旧って書いているし、名前
旧創世神
﹃じゃ、もっと詳しい事はスキルに任せておくね∼、それじゃ幸運
を祈るよ∼
はっぁ!?
は襲名制か?
おい神々ってどう言う事!?
もう一度あの世界を見たかったな﹄
一気に浮かんでくる疑問。全く意味が分からなかった。
﹃p.s.
771
お、おい説明をーーー
俺が本に思わず文句を言ったとき、突如、最初のとき同様、本
が光だした。
﹁えっ、なにこの光!?﹂
今度はテリュールも見えているみたいだ。そう思ったとき、本
に再び文字が浮かび上がる。
ゴッド・ぺリオン
﹃ディメイション魔法︽神の反乱︾を発動します。所有者及び、隣
まだ聞きたい事が⋮⋮⋮!!
接者最大1名を転送します﹄
ちょっ、待て!
そんな俺の思いは虚しく消え、俺とテリュールは本から発せら
れる不思議な光に吸い込まれて行った。
あとに残った本は役目を終えたのか、光を失いボロい本へと戻
っていた。
772
﹁う⋮⋮⋮う∼ん⋮⋮⋮﹂
目が覚めたのは暗い洞窟だった。視界の下ら辺が明るかったの
で、以外と外は近いのかもしれない。
﹁ここはどこだ⋮⋮⋮?﹂
むくっと体を上げる。
そして俺は目の前に誰かいることに気付いた。
赤い長髪に赤色の瞳。腰には髪の色などとは対照的に青白く光
っていた。
そして、涙で顔中がぐしゃぐしゃになっていた、その顔に俺は
見覚えがあった。
﹁⋮⋮⋮エリラ⋮⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮⋮クロ⋮⋮⋮クロなの?﹂
俺の声に赤髪の少女は俺をじっと見つめた後に、ややあって言
った。
エリラは姿形とも全く変わっておらず、7年前と同じ姿だった。
よく見ると、エリラの後ろにも懐かしいメンバーが顔を揃えて
いた。
773
えっ、どういうこと?
えっ?
なんで7年前と全く同じ姿なの?
いくらなんでも少しぐらいは⋮⋮⋮えっ?
混乱しているのはエリラも一緒だった。
彼女は何が起きたのか全く現状を理解していないのか、ポカン
としていた。
しかし、次の瞬間、エリラがいきなり俺に飛び付いてきた。勢
いはあったが、俺はエリラをしっかりと受け止めることに成功した。
そしてそのまま俺はエリラに上から乗られるような形となりながら
仰向けに倒れた。
エリラが顔を上げた。顔は涙で残念な顔になっていたが、その
顔にも何故か懐かしさを感じた。
﹁よがっだ⋮⋮⋮よがっだよぉ゛⋮⋮⋮﹂
そう言いながら、エリラは俺の胸に顔を埋め、俺を強く抱きし
めてきた。
それを見た俺は、今まで考えていた疑問がすべて吹っ飛んだ。
そうだ⋮⋮⋮帰えって来たんだな⋮⋮⋮
﹁⋮⋮⋮ただいま⋮⋮⋮﹂
774
俺も考えるのをやめ、静かにエリラを抱きしめ返した。
775
第59話:ただいま︵後書き︶
PC直りませんでした⋮⋮⋮orz
リカバリーを行い、一度は直ったと思ったが、家に持ち帰り再
泣いていいですよね?︵泣︶
び立ち上げると逆戻り。
泣いていい?
ちなみにコメント返しは出来ていませんが、確認はしているの
ですが、そのなかで買い換えればという質問をいただきましたので、
お答えしますと、私は専門学生でしかも情報系です。この壊れたP
Cも学校で購入したPCです。
これで交換されらら3代目ですよ、某ユニットじゃあるまいし
⋮⋮⋮︵泣︶
と、話は逸れましたが、今回の話は如何だったでしょうか?
エリラたちの話を入れなかったのは、こうする為だったのです。
個人的には好きな回ですが、皆さんにはどう写りましたでしょ
うか?
楽しんでいただけたら幸いです。
次回更新は11/23を予定しております。同じく携帯から投
稿になりますが、頑張ります。
776
第60話:平常運行
﹁⋮⋮⋮と、言うわけです﹂
﹁⋮⋮⋮雲を掴むような話だな﹂
非常に恥ずかしい光景をさらしたのち、俺はとりあえず事情を
説明した。
あと、さっき気づいたらいつもの脳内アナウンスが流れた。あ
れを聞くのも久々だったな。
細かいことは気にしないでください。
でも、話の流れを切るので後でまとめて説明しようと思う。メ
タい?
﹁さっぱりわからん、どういうことだ?﹂
カイトが頭にハテナマークが浮かんでいる。
﹁あとで説明するから、お座り﹂
⋮⋮⋮って、俺は犬じゃねぇよ!﹂
シュラが犬でも手懐けるかのようにカイトをなだめる。
﹁ワン!
この世界のノリツッコミも日本
それに反応するカイト。犬のお座りのポーズを取る。そして華
麗なノリツッコミを決める。
⋮⋮⋮こんなキャラだっけ?
と似ているなと思った。
777
﹁⋮⋮⋮うるさい⋮⋮⋮﹂
7年前には分からなかった事だ。
サヤが冷たい目でカイトを睨んだ。彼女はこういうことは苦手
なのだろうか?
﹁はい、申し訳ございません!﹂
その声に、カイトはお座りのポーズを取ったまま、まるで蛇に
睨まれたカエルのように固まる。
⋮⋮⋮7年前、そのまんまだな⋮⋮⋮。この中で俺だけ年齢が
進むと言う、なんとも、不思議な感じだ。
さて、結論から言うと俺は戻ってはこれた。簡単な魔法を使っ
て見たが、一応使えた。と言うのも7年も使っていなかったので、
大きな魔法を使うのが怖いからだ。
さらに俺が生きた7年間は、こっちの世界では僅かに十数分程
度しか経っていなかったのだ。
物凄い時間差だ。約2分が、あちらの世界で1年分に相当する
のだ。
と言うことは⋮⋮⋮こっちで1時間も経てば向こうでは30年
経つ計算じゃねぇかよ!
このことをテリュールに告げると、少し寂しそうな顔をしたが、
﹁覚悟はしていたから大丈夫よ﹂と言った。
ちなみに、テリュールの事についても説明したときに、ちょっ
とエリラが怖かった。﹁へぇ⋮⋮⋮付いてきたのねぇ⋮⋮⋮﹂と言
778
っていたときに、後ろに毘沙門天が見えたのは気のせいだよな?
そんなエリラは、俺の腕に巻き付いている。あの⋮⋮⋮当たる
ところが当たっているのですが、俺も成長したので、立つところが
立ちそうで危ないのですが、気にしないようにしないと⋮⋮⋮あっ
︵以下略︶
ととととにかく、俺だけ成長して後は変わらないと言うなんだ
かおかしな展開になってしまった。何これ?
﹁さて、その辺も踏まえて、アルゼリカ先生に報告をしよう。戻っ
て早々に悪いけどすぐに戻るけどいいか?﹂
﹁ええ、私も家とかが心配でしたので異論はありません﹂
﹁⋮⋮⋮さっきまで子供だった奴がいきなり成長すると、どう対応
すればいいか判らないんだが⋮⋮⋮﹂
クロウもそっちの
デスヨネー。と言うか俺が一番どう対応しようか悩んでいると
思うのですが。
﹁いつも通りでいいのではございませんか?
方が宜しいのでは?﹂
よし、ナイスだローゼ。
﹁ええ、そっちの方が良いです﹂
﹁そうだな。じゃいつも通りと言うことで、戻るとしますか﹂
779
こうして、俺らはチェルストを後にし、帰路についた。
ーーー特別条件﹃時空を越えし者﹄を取得しました。
つるぎ
>>スキル︽創生魔法︾傘下スキル︽空間魔法︾のレベルが最大限
になりました。
ふだん
ーーー特別条件﹃不断の剣﹄を取得しました。
>>スキル︽不殺︾のスキルレベルが最大になります。
ーーー特別条件﹃魔法を封じられし者﹄を取得しました。
>>スキル︽動作中断︾を取得しました。
ーーー特別条件﹃鈍器で斬りし者﹄を取得しました。
>>スキル︽瞬断︾を取得しました。
パワー・コントロール
ーーー特別条件﹃一点集中﹄を取得しました。
>>スキル︽力点制御︾を取得しました。
⋮⋮⋮久々に戻ったらこの有り様だよ!
780
﹁むー﹂
﹁⋮⋮⋮いや、そんな顔をされても困るんだが⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮私より大きくなってる⋮⋮⋮﹂
帰りの途中、エリラが俺のほうを見て何やら不機嫌な顔になっ
ていた。
﹁仕方ないだろ⋮⋮⋮別に困ることでもないだろ?﹂
﹁困るわ﹂
﹁なんでだよ⋮⋮⋮﹂
﹁弄るネタが無くなるじゃない!﹂
﹁そこかよ!﹂
781
﹁あと、枕に出来ないじゃない﹂
﹁あれ、確信犯だったのか!﹂
背後でセレナ辺りが必死に笑いを堪えているのを感じる。﹁く
っ⋮⋮⋮我慢、我慢⋮⋮⋮﹂って言ってるし。
﹁あークロウって暖かいよね∼、少し寒い日には本当に気持ちいい
よね∼﹂
ばかやろおぉぉぉぉぉぉ!
突如テリュールから投下された言葉の爆弾。
﹁あら、なんであなたがそんなことを?﹂
あっ、嫌な予感しかしない。エリラは俺の腕にまとわり付き、
テリュールを笑顔で見ていた。ただし、笑顔の前に怒が付きますが。
業と言ってるの?
そんなエリラの顔を見つつも、テリュールは全く気にしていな
いようだ。
というか、業と?
﹁いや、私たちの世界って天気とか言うのは、変わらないんだけど、
気温は以外と変わるのよね。それで寒い日は、クロウは暖かいから
⋮⋮⋮ねぇ?﹂
⋮⋮⋮そういえば無理やりカイロ感覚で使われた記憶が⋮⋮⋮
782
バチバチと言う音が聞こえて来る。
ふと、エリラを見てみる。
﹁フフフ⋮⋮⋮﹂
エリラ⋮⋮⋮さん⋮⋮⋮怖いです⋮⋮⋮
元の世界に戻って僅か数時間。俺は早速面倒事に巻き込まれそ
うです。
783
第60話:平常運行︵後書き︶
スマホからは時間がかかります。
前回はあまりにさくっと進
と言う声が聞こえましたが。
今回はどうでしたでしょうか?
み過ぎないか?
ええ、私もそう思います。
早く元の世界の物語書きたい病が
エリラたちの事を書きたかったんです!
し、仕方が無いんです!
出てしまったのです!
許してください。︵土下座︶
あと、まだ第1章は続きます。昔、遠足で﹁家に帰るまでが遠
足だぞ﹂と言われましたよね?
あの感覚ですね。まだまだクロウ達のやり取りを書いていきた
いので書きます。
次回更新日は11/25を予定しています。
次回もよろしくお願いします。
784
第61話:氷の人形
﹁クロ∼説明して∼﹂
エリラの顔は満面の笑顔が浮かんでいる。だが、巻き付いてい
る俺の腕には爪を立てていおり、ギシッと強く握っている。痛い。
顔と行動が合ってない!
﹁⋮⋮⋮テリュールさんが言う通りだよ⋮⋮⋮暖房器具感覚で冬場
に使われた。あっちの世界、何故か暖房器具が小さいのしか無い上
に燃料の薪を作るのも一苦労だったからほとんど使っていなかった
んだよ﹂
﹁それは大変だったわね、お姉さんが慰めてあげるわよ∼﹂
﹁⋮⋮⋮一応言っておくけど、今、同じ年だからな?﹂
﹁⋮⋮⋮えっ?﹂
⋮⋮⋮いや、さっき事情を説明していたときに一緒に説明した
だろ⋮⋮⋮
﹁一応、日数で見たらエリラの方が先になるから一応間違いではな
もうすぐ16だけど一応15。
15とちょっと
↓
↓
いけどな﹂
俺
エリラ
785
﹁⋮⋮⋮そ、そうなの⋮⋮⋮ね⋮⋮⋮﹂
そう言うと、エリラは急に大人しくなった。なんかモジモジし
ているように見えたが、気のせいだろうか?
﹁ねぇねぇ、クロウ、魔法って言うのを見せて見せて!﹂
テリュールはもう他の方に興味が行ってるようだ。
﹁いいけど何がいいかな⋮⋮⋮そうだ、久しぶりにやってみるか﹂
意識を統一させる。この感覚も懐かしいな。上手く出来るとい
いのだが⋮⋮⋮。
団子を作るかのように手を合わせる。辺りに一瞬冷たい冷気が
流れる。
俺は手の内で思い通りの形を仕上げて行く。
﹁⋮⋮⋮よし、どうだ?﹂
手のひらを見てみる。
そこにはテリュールの姿を形とった氷の人形が出来上がってい
た。
﹁うわぁ⋮⋮⋮すごい⋮⋮⋮触ってもいい?﹂
目をキラキラさせているテリュールは、既に氷の人形を触って
いた。本当に彼女は新しい物には目が無いんだから⋮⋮⋮。
786
﹁冷たい!
何これ?
もの凄く冷たいけど!?﹂
﹁あっ、氷も初めてか。それは氷って言って、水が極度に冷えると
出来るものなんだ。それをくり貫いて作っているんだ。前にエリラ
にも同じのを作ったことがあるんだけど、もう大分前︵俺の感覚だ
すごい!
冷たい!
すごい!﹂
と︶に作ったから出来るか心配だったけど、よかった﹂
﹁冷たい!
⋮⋮⋮もう既に聞いてないようだ。
﹁私にも作って!﹂
﹁私にもお願い出来ますか?﹂
様子を見ていたセレナとローゼが詰め寄ってくる。俺はいいよ
と言って、セレナとローゼを形とった氷の人形を作った。
二人はわあぁい、と言いながら氷の人形を受け取り自分の手の
ひらで観賞している。
その時、背中をつんつんと、つつかれた感触があった。振り返
ってみると、サヤがいた。顔はいつも通りの無表情だったが、目が、
ちょっと違った。
なんと言うか物欲しそうな目だ。綺麗な黒色の瞳でジーと俺の
方を見つめてくる。
﹁⋮⋮⋮作って欲しいの?﹂
﹁⋮⋮⋮﹂︵コクコク︶
787
無言で訴える彼女。正直かわいい。ちょっとナデナデしたいと
思ったのだが、下手に行動したらいつかのシュラ見たいに撃沈され
かねないのでやめておこう。︵第44話参照︶
同じように、氷の人形を作った。
渡されたとき、彼女は﹁⋮⋮⋮ありがとう﹂と一見いつも通り
かと思ったが、自分の人形を見ているときは、いつもの顔ではなく、
なんと言うか⋮⋮⋮珍しい物を見る子供みたいだった。﹁おー﹂と
か言いながら見ていたら、完璧に子供に見えそうだ。
﹁あっ、そういえばこれ氷で作っているけど、どれくらい持つの?﹂
あっ、確かに。今は俺が魔力で維持しているから溶ける心配は
ないけど、流石に、このままという訳にはいかない。
﹁一応、私が魔力を送り続けている間は、問題ありませんが、補給
をやめたら⋮⋮⋮5時間ぐらいかと﹂
一応、溶けにくい設定はしているんだけど、完全と言うのは無
理だ。
﹁⋮⋮⋮残念⋮⋮⋮﹂
それを聞いたサヤが、肩をすくめていた。顔はいわゆるショボ
︵´・ω・`︶
↑
こんな感じ。
ンとした顔をしており、残念だと思っているのがすぐに分かった。
※
⋮⋮⋮今度はクリスタルとかで作るか。ガラスは作り方分から
788
ないし⋮⋮⋮。
﹁でも、本当に凄いよね⋮⋮⋮氷を扱えるだけでも凄いのにこんな
繊細な細工も出来るなんて⋮⋮⋮﹂
﹁クロウがドンドン遠い人になっている⋮⋮⋮﹂
セレナは素直に感心し、シュラが空を見上げながら呟いていた。
このまましばらく嘆くのかなと思っていたが、シュラは思い出
ネリー?﹂
したかのように、視線を自分の後ろに向けた。
﹁テリー?
は、はい!﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁おい﹂
﹁!?
﹁⋮⋮⋮初めての依頼がアレなら仕方ないさ、まだこれからだよ、
だから気落ちするな﹂
﹁﹁⋮⋮⋮はい﹂﹂
そういえば、俺が戻ってから一度もしゃべっていなかったな。
確かに初めてでアレはトラウマものだよな⋮⋮⋮ランク的にもAの
上位ぐらいはあったからな。
若干、場の空気が悪くなる。氷の人形を観賞していたセレナた
ちも、どうしようかと考えていた。
789
ただ、氷の人形はもちろん冷たいので、ずっと持つことが出来
ずに彼女らの手のひらでお手玉状態になっている。
ちょっと笑いたくなってしまう。不謹慎だな俺。
ただ、俺以外にも不謹慎な奴がいた。
﹁クロウ∼もっと見せて!﹂
テリュールだ。さっきの氷に夢中になって、こちらの様子には
気付いていないようだ。
﹁わ、私にも作って﹂
今度はエリラだ。どうやら彼女は、少しでも明るくしようとし
ているようだ。
ただ、いつもの元気は妙に無いように感じたが。
﹁そうだな。テリーさんとネリーさんの分も作りますよ?﹂
﹁え⋮⋮⋮ええ、お願いします﹂
テリーも少し場の空気を読んだのか話に乗ってきた。それに釣
られネリーも乗った。
結果的に場の空気はすぐにいつものように戻った。テリーたち
は無理をして、明るく振る舞っているのかもしれないが、今それを
言うのは場違いだろう。
ただ⋮⋮⋮これで立ち直ってくれるとは思わないな⋮⋮⋮
790
その夜、俺らはチェルストからおよそ10キロ離れた地点で野
営をすることになった。
好奇心旺盛なテリュールのお陰で特に、空気が悪くなると言う
ことは起きず。無事就寝となった。
今日の見張りはセレナ、サヤ、ローゼだ。俺とエリラはおなじ
テントで、眠ることに。
テントは2人用×5個。ちょうどローゼは一人だったので、テ
リュールと一緒に寝ることになっていた。
さて、久々にエリラと二人っきりになったのだが⋮⋮⋮なんと
言うか⋮⋮⋮さっきから彼女の行動が妙に不自然に感じた。
なんと言うか⋮⋮⋮俺を避けているように感じた。歩いている
ときは、ずっと俺に寄り添って歩いていたのだが、言葉が少なかっ
たったように感じた。
そして、なんと言うことでしょう。あのエリラが、俺を抱き枕
にしないではありませんか。そして、しない時に起きる寝相の悪さ
がなんと出ていません。
791
⋮⋮⋮と言うか起きてますね彼女。
彼女は狭いテントの中で、俺に背を向けて端で横になっている。
その為、俺は少し広く使えるではありませんか。
⋮⋮⋮いや、そんなこはどうでもいいや。
どうしたんだろう?
試しに背なかをつんとしてみると、ビクッとして、体が一瞬浮
いた。
﹁⋮⋮⋮エリラ⋮⋮⋮起きているんだろ?﹂
﹁⋮⋮⋮うん⋮⋮⋮﹂
いつもの元気が無かったけど﹂
彼女はこちらを向くことなく答える。
﹁どうしたんだ?
﹁別に⋮⋮⋮何も無いわ﹂
﹁ダウト﹂
﹁うっ⋮⋮⋮﹂
﹁それくらい分かるぞ、さてどうしたんだ?﹂
いいけど⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮少し外に行かない?﹂
﹁⋮⋮⋮?
792
俺らはテントから出て、近くの平原に出て行くことになった。
793
第61話:氷の人形︵後書き︶
いつもコメントを書いてくださる皆様。本当にありがとうござ
います。
コメントは返せていませんが、読んではいますので、書いて下
さると嬉しいです。
⋮⋮⋮PCはまだです。スマホ打ち、疲れました⋮⋮⋮︵´・
ω・`︶
次回更新日は11/27を予定しております。
794
第62話:月夜の平原で⋮⋮⋮
﹁で、何で外に?﹂
もう時間にして午前0時を回った頃。俺はエリラと一緒に野営
していた場所から、少し離れた所にある平原に来ていた。
今日は満月だったので月明かりがいつも以上に、俺たちを照ら
しており、光が無くてもお互いの顔の表情ぐらいは分かるぐらいだ。
ちなみに、俺らが野営していた場所は、平原の近くに広がる森
の隅っこだ。
テントから出たあと、エリラは何も言わなかった。いつも元気
な彼女にしては、妙なことだ。
さらに言えば顔も見ていない。と言うよりか見させてもらえな
いと言った方が、正しいのかもしれない。
いつもは俺の隣か、後ろを付いてくるが、今日は何故か前を歩
いているし。俺が顔を覗こうとすると、俺の方とは反対側を向くし。
正直、﹁えっ、俺って嫌われた?﹂と思ってしまう。
﹁⋮⋮⋮﹂
俺の質問にも何も答えない⋮⋮⋮か⋮⋮⋮。
やがて、平原の中に、少しだけ盛り上がって出来ていた丘の所
で、エリラは立ち止まり、その場に腰を降ろした。
俺はエリラの隣に座ったが、座る直前でやっぱり、アッチの方
795
を向く。
⋮⋮⋮ちょっと泣きたくなります。俺たちは、何となく体育座
りをしていたけど、このままいじけていいかな?
﹁⋮⋮⋮私、変かな?﹂
エリラが唐突に言葉を発した。
﹁何が?﹂
﹁なんて言えばいいのか、分からないけど⋮⋮⋮その⋮⋮⋮﹂
相変わらず顔は、アッチを向いたままだ。
どう言うことだ?﹂
﹁⋮⋮⋮私、今クロを見る事が出来ない⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮はっ?
﹁言葉の通りよ⋮⋮⋮﹂
と言うか、昼間は普通に見ていなかった
いや、よくわからないんだが。
見たら死ぬのか?
か?
﹁ますます、分からない。と言うことでこっちを向け!﹂
俺はエリラの両肩を、掴むと、ぐいっと自分の方へと向けた。
エリラはすぐに、顔を背けようとしたが、そうはいかない。俺
796
はそこから、エリラの頬を挟むと、無理やり俺の顔をみさせた。
お互いの目と目が合う。しばらくの間、静寂が流れたが、それ
は、俺が妙な違和感を感じたと同時に終わりを向かえる。
︵⋮⋮⋮ん?︶
エリラの顔がやけに熱い気がする。手で押さえていたにしては、
熱くないか?
い
さらに、よく見てみると、月明かりで僅かに照らされていた顔
も、最初より赤く見える気がした。
﹁はぁ⋮⋮⋮はぁ⋮⋮⋮﹂
エリラの呼吸も妙に乱れている。風邪でも引いたのか?
や、それだったらそうと言うはずだよな?
多少、呼吸が乱れ始めたエリラは、一層顔を赤くし
誰かの顔み
﹁分からないの⋮⋮⋮クロを見てると⋮⋮⋮急に呼吸が乱れてくる
し、顔も熱くなるし⋮⋮⋮﹂
と、言った。
⋮⋮⋮えーと⋮⋮⋮風邪じゃない⋮⋮⋮よな?
て風邪引く何て聞いた事無いぞ?
頭が混乱する。落ち着け俺、ここはクールダウンだ。
﹁いつから?﹂
797
そう言えばハヤテどうなったんだ?
⋮⋮⋮って今はそ
もしかして、あのときの戦闘の時に毒でももらったのか?
アレ?
んなこと、どうでもいい!
﹁え⋮⋮⋮えっと⋮⋮⋮今日、クロが私と⋮⋮⋮同じ年って言った
そう言えば⋮⋮⋮あのときのエリラも妙にモジモジ⋮⋮
直後から⋮⋮⋮﹂
?
⋮していたような。
⋮⋮⋮私⋮⋮⋮死んじゃ
今、すごくドキドキしているのだけど⋮⋮⋮﹂
﹁ねぇ⋮⋮⋮これって病気なのかな?
うんかな?
エリラの目には少しだけ涙を浮かべているように見えた。
⋮⋮⋮あっ⋮⋮⋮え、えーと⋮⋮⋮俺、多分、その病気分かっ
たと思うんだが⋮⋮⋮。
何て説明しよう⋮⋮⋮。
それと
俺は多分それが何なのかわかった。それが分かった途端、俺も
自分の心臓がバクバクしているのに気づく。
くそっ、今まで意識していなかった、だけなのか?
も体が子供だったから、本能的に反応していなかっただけなのだろ
うか?
⋮⋮⋮いや、多分⋮⋮⋮俺も心の何処かで感じていたんだろう
な。向こうにいたときは、いつも彼女の事を思っていたし、会うこ
とを心の糧にして7年間必死になって頑張ってきたんだ⋮⋮⋮。
798
俺の知らない所で彼女の存在は大きな物になっていた。
⋮⋮⋮その時、何かが切れたのかもしれない、俺はそれ以上考
えるのはやめた。
俺はエリラの頬から手を離し、代わりに俺とは反対の方のエリ
ラの肩に手を乗せ、彼女をそっと自分の方に引き寄せた。
﹁!!!!!﹂
俺の胸の中でエリラの顔が、ますます赤く、熱くなっているの
を感じた。
﹁収まったか?﹂
﹁ぜ、全然⋮⋮⋮むしろ激しく⋮⋮⋮﹂
﹁俺もそうだから心配するな﹂
﹁えっ⋮⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮⋮エリラ⋮⋮⋮前、俺が絶対一人にしないって誓ったのを覚
えているか?﹂
﹁⋮⋮⋮もちろんよ⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮今、気付いたよ⋮⋮⋮アレは本当の意味で誓った訳では無
かったんだよ⋮⋮⋮﹂
799
﹁⋮⋮⋮?﹂
エリラが顔を上げ、俺の方を自ら見ている。もうエリラの顔は
真っ赤になっていた。
そして、俺は
﹁好きだ⋮⋮⋮これからもずっと傍にいてくれ⋮⋮⋮﹂
と、言った。
しばらくの間、彼女はこちらをじっと見つめたままだった。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
どれくらい経っただろうか?
エリラはニッコリとして
﹁⋮⋮⋮私もよ⋮⋮⋮クロ⋮⋮⋮﹂
と言った。俺たちは見つめ合っていたが、やがて自然と顔を近
づけていた。
そして、気付いたら俺とエリラの唇はーーー
ーーー静かに合わさっていた。
800
まるで前以て打ち合わせをしていたかのように、互いの顔が同
時に離れる。
﹁⋮⋮⋮私、今、これ以上にないほどドキドキしている⋮⋮⋮でも、
さっきみたいな不安は無いの⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮エリラ⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮私⋮⋮⋮今、とっても幸せ⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮俺もだよ⋮⋮⋮﹂
その後、俺たちは陽が頭を出す直前まで、その場を離れなかっ
た。
801
第62話:月夜の平原で⋮⋮⋮︵後書き︶
はずかしいいいいいい!!
穴があったら入りたい!
今回のシーンは、エリラと出会ったときから考え始めていた内
容です。ですが、いざ書くとなると、恥ずかしいと言ったら⋮⋮⋮、
こういうシーンを数多く書いている人は本当にすごいと思います。
恥ずかしやら、上手く書けなくて泣きたいやらで、今回の回は
本当に忘れられないでしょうね⋮⋮⋮。
色々と無理やりになったかもしれませんが、やりたかった事な
ので後悔はしていません。︵恥ずかしいとは思うが︶
次回更新は11/29を予定しております。
802
第63話:猫耳フサフサ
翌朝、朝日が顔を出し始めたころ。俺らは野営地に戻って来てい
た。結局、昨晩は一睡もしておらず、ちょっと肌寒い夜空の元でエ
リラといちゃついていました。前の俺から見てみれば﹁死ね! リ
ア充共が!﹂と絶対言っていたでしょう。
穴があったら入りたいです。後で思い直したら、超が付くぐらい
恥ずかしいです。
で、エリラはと言うと⋮⋮
﹁⋮⋮エリラ⋮⋮そろそろ立てないのか?﹂
﹁⋮⋮無理⋮⋮﹂
なんか、今日、戻ろうとしたときに立ち上がれなくなった模様。
変なことはしていない。ただ、完全に気が抜けてしまっただけだと
思う。
仕方ないので、俺が背負って戻ることに。
﹁⋮⋮クロの背中、温かい⋮⋮﹂
⋮⋮俺って本当に体温高いんだな⋮⋮。そういえば、こっちの世
界も、これから寒くなってくる時期だったよな。⋮⋮戻ったら冬用
の服でも作るか。
﹁⋮⋮なあ、エリラ⋮⋮﹂
803
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮? エリラ?﹂
﹁⋮⋮zzzzzzz⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
こ、こいつ寝やがった! Σ︵゜Д゜︶
轟沈したエリラを背負って、野営地に戻ってきた俺。まだ、起き
ていない人もいるが、見張り組は全員なぜか起きていた。
﹁あっ、夜中に出て行ってから、どこ行っていたの?﹂
804
﹁⋮⋮気になる⋮⋮﹂
﹁若い二人で、夜に出かける⋮⋮気になりますわ﹂
いや、あんたも若いだろうが。
﹁ちょっと夜の空気を吸いに、それで寝てしまっていたのですよ﹂
ここは、適当に嘘でも言って誤魔化そう。正直に言ったら、絶対、
深入りしてくると思うから。
﹁ふ∼ん、まあ何もなかったいいわね﹂
⋮⋮ほっ
﹁あっ、それからさっき思い出したのですが⋮⋮ハヤテってどうな
ったんですか?﹂
﹁⋮⋮逃げられた⋮⋮﹂
サヤが答えてくれた。
﹁クロウが成長していた方に気を取られてて忘れていたわねー︵棒﹂
あいつ
逃げられたか⋮⋮。というか、君たちハヤテの扱い酷くない? 一応、今回の事件の実行者だよね?
⋮⋮見つけたら一発殴っておこう。もちろん全力で。
805
その後、何の問題も起きずに、1週間後、無事エルシオンに戻り
ました。
﹁な、何に!? あの大きい壁は!?﹂
俺たちはエルシオンの目の前まで来ていた。テリュールは、初め
て見る町を囲っている城壁に目を奪われていた。ちなみに、何も問
題は起きなかったが、時間はかかった。テリュールが見るもの見る
ものすべてに、興味を示して、一々説明をしたりしたからだ。
さて、今回もエルシオンに一泊する予定だ。まだ陽は登り始めた
ばかりなので、このまま通過して、次の町に行くことは可能なのだ
が、
﹁⋮⋮モフモフ⋮⋮いいでしょ⋮⋮﹂
と言う、サヤの一言で今回は、1日だけ、自由行動という形で泊
まる事に。
﹁モフモフ∼♪﹂
﹁⋮⋮♪﹂
ダメだ、この二人もうあの耳の事しか考えていない⋮⋮。俺は心
の中で合掌した。
806
ローゼも俺たちと来るようだ。﹁どこにも用事はありませんし、
少し疲れを取りたいですわ﹂とのこと。確かに、あいつら元気だよ
な⋮⋮あんな、仕事の後なのに。
んで、シュラはというと、﹁熱湯我慢大会って言うのがあるらし
いから行って来る! 今日は帰らないぜ!﹂と、どこから仕入れて
きた情報かは知らないが、どこかに行った。
というか、この町にそれなりにいたけど、そんな大会があったん
だな⋮⋮。
テリーとネリーはと言うと﹁少し自分たちについて考えて来ます。
このままでいいのか、それとも⋮⋮、明日には合流をします﹂と言
って、何処かへ行ってしまった。
今回、彼らには苦い経験になっただろうな⋮⋮、俺も何か手伝え
る事があったら手伝う事にしよう。
カイトも﹁俺はパス。一人で泊まるぜ﹂と行って一人で宿を探し
に行った。うーん、もう俺の中では7年前の話だが、確かあいつ、
獣族を見て嫌がっていたよな? 何か嫌な経験でもあるのだろうか
? もし嫌な事だったら聞くのもアレだから、聞くのはやめておこ
う。
さて、街中に入ってもテリュールの好奇心魂は尽きることを知ら
ず、建物の説明や、店の商品の説明。まるで子供のようだった。ま
あ、彼女からしてみればすべてが新しく、新鮮な光景だから仕方が
ないかもしれないが⋮⋮もう少し22歳らしい行動をして欲しい。
セレナ達は早くアレ︵猫耳︶を触りたいみたいで、俺の家に着く
ごとには、手が怪しい動き方をしていた。えっ? どんな動き方か
807
? そりゃあ⋮⋮危ない方向にと言う意味で。
ようやく俺の家に辿り着いたのは、陽が既に沈みかける頃だった。
久しぶりに見る自分の家。この世界での時間では大した日数は経
っていないが、俺の中では、もう何年も前に出て行ったきりなので、
非常に懐かしく感じている。
今の俺を見て、どう思うだろうな⋮⋮、絶対驚かれるのは目に見
えているが、他にもどんな反応があるのか気になるところだ。
久しぶりに手をかけた家のドアノブ。少しだけ緊張するな。
﹁ただいm︱︱︱﹂
﹁クロウお兄ちゃんおかえりーーーー﹂
﹁ドンッ︶あばっ!?﹂
突如、俺の視界は左へと傾き、体がくの字に曲がる。どうやら横
腹に何かが突っ込んで来たようだ。まあ、犯人は分かっていたので、
ワザとノーガードだったのだが、思ったよりか強かった。しかも、
クリーンヒットするというパターン。いわゆる入ったというやつだ。
そのまま地面に横向きに倒れる俺。
﹁アレ?﹂
俺の体の上で、フェイがキョトンとしている。
﹁間違えたですか?﹂
808
﹁イテテテ⋮⋮いや、間違えていないよ、フェイ﹂
﹁? クロウお兄ちゃんの声ですけど⋮⋮大きくなりました?﹂
意外と鋭いな。だいぶ声変りをしているのだが、気づくとは。俺
の予想ではもう少し、混乱すると思っていたのだが。
﹁まっ、そういうことだよ、ほら︽風術︾﹂
俺が魔法を唱えると、俺の上に乗っていたフェイが、フワッと浮
かび上がる。
﹁おお、やっぱりクロウお兄ちゃんです﹂
俺はヨッと立ち上がり、フェイを降ろしてあげると、フェイの頭
をなでなでした。猫耳のフサフサの感触が手から伝わってくる。フ
ェイは嬉しいのか、耳がピクピクしている。
そんな、光景を見て唖然としているのが、大人たちだ。﹁えっ、
なにこれ?﹂状態である。あの時同様、休憩中だったのか、テーブ
ルを囲んで、座っており、テーブルには
﹁ああ、それじゃあ説明を︱︱︱﹂
と、俺が言いかけた時。
﹁ひゃう!?﹂
獣族の一人が、いきなり気が抜けるような声を上げ、椅子からず
809
り落ちて行った。もしや、と思い後ろを振り向いてみると、そこに
いたのはエリラ一人だけであった。
椅子からずり落ちた人は、ここからでは見えないが、耳を触られ
て悶えている光景が、目に浮かぶ。
﹁や、やめてくだひゃ、あひゃ、ひゃい、だ、だめですぅ∼∼﹂
近寄ってみると、俺が予想していた通り、サヤ、セレナ、テリュ
ールが一人の獣族を囲んで一斉に触っていた。
しかも、偶然か、それともワザとか被害に遭っていたのは、あの
時の獣族だった。
我慢していた反動なのか、とにかく触りまくるサヤとセレナ。テ
リュールは﹁すごい! これ本物!?﹂と生まれて初めて見る、獣
族に興味津々だ。
﹁⋮⋮ゴメン、今度どこかで埋め合わせをするから、頑張って﹂
﹁そ、そんな、にゃはぁぁぁ、ひゃう!? も、もうひゃめぇぇぇ
ぇぇぇ∼∼∼﹂
⋮⋮エロい発言だ⋮⋮。
その後、あの時と同じようにずりずりと部屋に連れ去られて行っ
た。俺は、残りの獣族に事情説明をして、戻ることにした。
なんか⋮⋮色々と疲れた。
810
その夜
﹁⋮⋮﹂
俺は家の屋根で仰向けに寝っ転がり、空を見つめていた。ただ単
にボケっとしている訳ではない。待っているのだ。じゃないと、あ
のエリラの抱き締めから、態々抜け出す意味が分からないからな。
しばらく、して俺が待っていた者が降りてくる。
﹁久しぶr⋮⋮!?﹂
白色美人という言葉がピッタリと合いそうな美しい女性は、俺の
姿を見た瞬間、ギョッとしていた。
﹁⋮⋮クロウですよね?﹂
﹁⋮⋮ああ、やっぱり見ていなかったのか?﹂
﹁はい、私も常に見ている訳ではありませんよ。私にも仕事があり
ますので﹂
﹁まあ、その辺も一緒に説明するよ﹂
﹁はい、お願いしますね﹂
811
創生者である、セラが俺の隣にチョコンと座った。そして、まず
俺が一番気になっていることから話を切り出した。
﹁⋮⋮セラさんって名前は襲名制なのですか?﹂
﹁⋮⋮えっ?﹂
セラと言う、女性は唐突な質問にポカンとした。
﹁いや、実は⋮⋮﹂
そういうと、俺はセラさんに、俺が成長した理由と、あちらの世
界で何を見てきたかを説明し始めた。
812
第63話:猫耳フサフサ︵後書き︶
繋ぎ回みたいな内容になってしまいましたね。タイトルと内容が
微妙に合っていないと思っています。大丈夫ですか?
さて、第一章も残すところあと少しとなりました。と言っても、
あと何話で終わるかは未定なのですが⋮⋮。
それと、PCは一応直ったのは直ったのですが、何故か起動する
ときに、電源を入れて、ある程度時間が経っても動かないなら、強
制シャットダウン、そしてまたつけるという動作を3回ほど繰り返
さないと、起動しないようになりました。
一応、動いているからいいかと言った感じです。まあ直ったこと
は直ったので、時間があるときにコメ返しをしたいと思います。書
いてくださっている人に全員必ず、何かを返すようにしているので
すが、見落としていたらスイマセン。
いつも応援してくださる皆様。本当にありがとうございます。こ
れからもよろしくお願いします。
m︵︳ ︳︶m
ところで、話が変わりますが、今現在、本編とは別にクリスマス
と正月用に特別編を書こうかなと思っていますが、どこに載せよう
かなと思っております。私の活動報告の処で投稿するべきか、それ
813
ともこちらで書いて出すべきか悩み中です。
ちなみに前、特別編を書いたのは活動報告のところでした。
もし、よろしければ皆様のご意見を聞かせてもらえますでしょう
か? よろしくお願いします。
814
第64話:確執︵前書き︶
次は12月1日に更新すると思いましたか? 残念だったな!
⋮⋮スイマセン、謝りますのでブラウザバックはしないでくださ
い。あっ、そこブックマークから削除しないでください。本当、マ
ジでお願いします。もう二度と言いません。調子乗りません。︵土
下座︶
最後に、皆さんにまた質問をしたいので、出来れば後書きも読ん
でくださると嬉しいです。
3/15
誤字を修正しました。
と、言う事で連日投稿です。と言っても説明回なのですが。
※
815
第64話:確執
﹁⋮⋮という訳﹂
ディメイション
﹁そんなことがあったのですか⋮⋮おそらくクロウがその世界に送
られた魔法は、代償魔法、移転系の一つ︽異転封印︾と言われるも
のでしょう⋮⋮遂に使ってきましたか⋮⋮﹂
﹁遂に?﹂
どういうことだ?
﹁恐らく、それを使ってきたのは魔族なのでは?﹂
﹁いや、普通の人間だったぞ?﹂
﹁えっ!? そんなはずは⋮⋮﹂
﹁いや、俺も︽神眼の分析︾を使ったから間違いないはずだが⋮⋮﹂
﹁でも、その技術は普通の人間には使えないはず⋮⋮﹂
﹁??? 一体どういうことだ?﹂
﹁⋮⋮生き物が進化する様に、魔法もスキルも進化します。それこ
そ私の手の届かないところでも同じです﹂
﹁まあ、それは最初の頃に聞いたから知っている﹂
816
﹁⋮⋮もし、私が持っている知識が、個人の手に渡ったらどうなる
と思いますか?﹂
﹁そりゃあ、その人が放置するか都合のいいように使うかだろ?﹂
﹁では、その知識を⋮⋮大袈裟に言えば、世界征服などに使われた
らどうしますか? 例えばクロウがかつて作ったようなゴーレムが
量産されたら﹂
﹁⋮⋮まあ、一国家でどうにかなるレベルを超えるな﹂
と言うか、アレが量産されたら全世界が立ち向かっても厳しいよ
うな気が⋮⋮少なくとも人間がまともに対抗できるとは思えないぞ
⋮⋮。
﹁私は確かにこの世界に直接干渉することは出来ません。ですが、
前にも言ったようにこうやって、話すことは可能です﹂
⋮⋮と言うことは初めて出会ったときに聞いたあの話になると言
うことか⋮⋮︵第10話参照︶
俺は、ここでセラが何を言いたいのかピンときた。
﹁⋮⋮既に気が付いたようですね﹂
ゴットレイス
﹁まあ⋮⋮大分前のお話だったから、忘れかけていたけど、多分、
︽種族の神々︾の事だろ?﹂
自分で言ったのは初めてだな。まあ彼女に話を聞いた後に考えて
817
いなかったからだけど。
﹁⋮⋮はい﹂
セラは慎重に頷いた。正直あの時以来、考えたくも無かった事な
のだが⋮⋮。
ゴットエレメント
﹁すまんけど、だいぶ前の話だから殆ど忘れてしまったんだ。もう
一回説明お願いできるか?﹂
﹁構いませんよ﹂
==========
ゴットレイス
私たち神と呼ばれるのは幾つかの種類がいます。︽属性の神々︾、
ゴットクリエイション
︽自然の神々︽ゴットネイチャー︾︾、︽種族の神々︾、そして、
私がいる︽創世の神々︾です。
まず、全員に共通していることですが、﹃地上世界に直接干渉は
出来ない﹄、次に共通しているのは、﹃自分の力が及んでいる領域
のみしか見ることは許されない﹄、そして﹃自然の摂理に反するこ
とはいかなる場合でも行うことは出来ない﹄以上です。
一つ目は、言葉の通りです。この様に話すことが出来ても、私た
ちはこの世界の物に触れることも、魔法で干渉することも出来ませ
ん。
818
二つ目の﹃自分の力が及んでいる領域のみしか見ることは許され
ない﹄は、自分が担当している種族、属性が数多くいる場所のみで
しか、地上に降りて話をしたりする事が出来ません。﹃人﹄の神な
らなら人が多いこのような街。﹃火﹄の神なら火山や高熱地帯など
と言うことになります。
三つ目、﹃自然の摂理に反することはいかなる場合でも行うこと
が出来ない﹄とは、﹃自然の神々﹄の初代が作った物で、絶対的な
力を持っております。例えば﹁燃えやすい物質に火を当てると燃え
る﹂などが該当します。
私は︽創世の神々︾の一人であると同時に︽人の神︾なので、人
の多いところでしか、降りることは出来ません。
ただし、クロウ、あなただけは唯一の例外です。あなたは転生者
で、あると同時に二つの種族の血を持ったものです。
あなたがいるところはどんな所でも﹁人の神﹂と﹁龍族の神﹂が
降りることが可能となるのです。
さて、さらにこの共通点に加え純粋な︽自然の神々︾︽創生の神
々︾は降りることも許されません。私は兼任をしているので問題あ
りませんが、そう考えると私はかなり特別扱いされている事になり
ますね。
最後に、私たち神と言われる者にも寿命は存在しています。ただ
し、地上に生きている者たちから見ると悠久の年月に見えると思い
ますが。
以上が私たち神々です。
819
==========
﹁⋮⋮以上です﹂
﹁まあ、あの時もそうだと思ったけど、神の存在意義って何だよ⋮
⋮﹂
﹁そう言われると、私にも分からないのですよね。まあ、私たち神
にも生活や文化があるので、ある意味では地上の生き物たちと同じ
なのかもしれませんね﹂
﹁で、あの代償魔法は︽魔族の神︾による入れ知恵と言うことかよ
?﹂
﹁⋮⋮恐らく、本来私たちが作った魔法、スキルは、地上にいる人
ゴーレ
々が自分で見つけることには問題ないのですが、直接教える事は⋮
⋮﹂
ム
﹁でも、それを言ってしまったら、セラさんも俺に教えた自立魔方
陣もアウトじゃないか?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮テヘッ♪﹂
﹁⋮⋮スキル︽魔力支配︾⋮⋮﹂
﹁ち、ちょっ! やめて下さい! それ今の私たちには致命的なの
ですよ!?﹂
820
﹁大丈夫じゃないですか? 本体は別の所に有るみたいですし﹂
﹁大丈夫じゃないですよ! 私たち神は地上にいる生き物以上に、
魔力が枯渇したら命に関わるのですよ! 魔力支配をされた瞬間、
思念体を作り出す為に作り上げた魔力をすべて持っていかれるので
すよ!? これ作るの相当な魔力を使っていますからね!? しか
も維持にもかなり使っているのですよ!?﹂
﹁ご、ごめんなさい⋮⋮﹂
﹁兎に角、それは私に使わないで下さいね﹂
﹁はい⋮⋮﹂
﹁⋮⋮兎に角、他の神がそれをやり始めたと言う事は、本格的な争
いが起きる可能性があります。すでに、代償魔法を教えれると言う
事は、地上で動かせる駒を沢山持っている可能性があります⋮⋮﹂
﹁⋮⋮それ、セラさんもしたらどうですか?﹂
﹁⋮⋮スキル︽意思疎通︾を持っている人がいないのですよ⋮⋮ア
レを持っていないと私たちと話すことは出来ません⋮⋮。精霊や魔
族など、魔力をかなり高めに保有している種族には、後天的に極々
稀にですが、持っている人がいるらしいのですが、人間には殆どい
ません。それにそのような事をして、戦争に発展してしまったら、
それこそ私がお願いした願いが達成出来なくなります﹂
﹁⋮⋮あ∼そうだったな⋮⋮﹂
はあ、今になれば全く面倒な事を押し付けられたな⋮⋮。
821
﹁⋮⋮そうだ、それで旧創世神とは?﹂
﹁⋮⋮私の先代に当たる人だと思いますが、何代前か⋮⋮少なくと
も一つ前の先代ではありませんね。あの人は今でもバリバリの現役
ですから⋮⋮﹂
﹁じゃあ、何であの代償魔法に俺の︽魔力支配︾は効かなかったん
だ?﹂
﹁⋮⋮それも私には⋮⋮もしかしたら魔力支配を抑える魔法式が組
み込まれていたのかもしれません⋮⋮﹂
うげー、何かそれ卑怯じゃねえか? 俺もまたスキルや魔法を作
っていくしか無いのか⋮⋮何か使えるネタあったっけ?
﹁私の方でも調べて起きます﹂
﹁そうしてくれ、こっちばかりに荷を乗せないでくれよな﹂
﹁はい、任せてくださいでは、そろそろ⋮⋮﹂
﹁ああ、またな﹂
﹁ええ⋮⋮あっ最後に﹂
﹁?﹂
﹁成長した姿、中々カッコいいですね﹂
822
﹁⋮⋮はっ?﹂
セラはウィンクをしながら言った。そしてそのまま、戻ろうとし
ている。辺りに白い光が散りばめ始める。
﹁では、さようなら﹂
﹁あっ、おい、ま︱︱︱﹂
俺が呼び止めるのを意に介さずにセラは消えていった。
﹁⋮⋮﹂
これは言っておく、俺は少なくとも、自分はイケメンとは思わな
いぞ。
﹁⋮⋮はぁ、なんか段々と凄い事に巻き込まれてきたな⋮⋮﹂
これに逃げるという選択肢はありますでしょうか? ⋮⋮ありま
せんよね⋮⋮。
﹁⋮⋮まぁ、あっても逃げないけどな⋮⋮﹂
俺はそう呟きながら、セラが消えていった辺りをボーと見ていた。
そこにな何も無く、夜空が見えるだけなのだが。
823
⋮⋮星が綺麗だな。
こういう時は別の事を考えて一回忘れよう⋮⋮。
俺はそう思い、何故か小さい頃やってみた夜空に浮かぶ星の数を
数え始めていた。
まあ、簡単に言うと現実逃避をしていると言うんだが。
結局、俺はそのあと、夜通し星の数を数えていて、気づいたら朝
日が見え始めていた。
⋮⋮寝れば良かった。 後でそう思いました。
824
第64話:確執︵後書き︶
と言う事で、質問です。
昨日、﹁特別編﹂はここで載せるべき? それとも活動報告で載
せるべきと言う質問をしました。
結果は⋮⋮一日経ちましたが、一人しかお答えしてくれませんで
した。︵泣︶。答えて下さった方には、本当に感謝です。もう足を
向けて寝れません。
それで、その人のコメントを見た瞬間にふと思ったこと。
﹁⋮⋮この登場人物でメタありのスピンオフ作品でも書きたい⋮⋮﹂
と思いました。
そこで、皆様に質問なのですが、別にもう一作品を書きたいので
するかも
すが、そこでは﹁本編に寄せられた質問を答える﹂、﹁何もないと
きはフリートークでもやる﹂、﹁キャラが崩壊﹂と言った感じで好
き勝手に不定期にやりたいのですが、これってやってみていいもの
ですか?
もし﹁ふざけるな! そんなの考えている暇があれば、本編面白
くしろや!﹂とか﹁その時間を誤字脱字の添削に使えやごるら゛ぁ
!﹂と言う方や﹁是非やってくれ﹂と言う方などいましたら、コメ
ントに書いてくださるとうれしいです。活動報告に書いても、メッ
セージに書いてくださってもかまいません。
是非、今度も皆様のご意見よろしくお願いします。
825
次回更新は12/1︵つまり明日!︶を予定しております。
826
第65話:弟子?
﹁眠い⋮⋮﹂
結局、徹夜してしまった⋮⋮しかも、星の数を数える為に徹夜っ
て⋮⋮。全部数えれて無いし⋮⋮2,000超えた辺りから記憶が
曖昧過ぎる⋮⋮。
まだ、時間はあるので、自分の寝室に戻って寝る事にしよう。
部屋に戻ると、まだエリラは眠っていた。ただ、散々暴れまわっ
た形跡があったが︵原因:寝返り︶。
具体的に言うと、ベットの上から毛布が落ちているのは、当然
だとして、枕は何故かベットとは正反対の所にあり、ベットと隣接
している壁には、何故か殴られたような後があった。
⋮⋮⋮俺と出会う前はどうなっていたんだろうなと、つくづく
思った。
ベットから落ちていた羽毛布団を拾い上げ、それをエリラにかけ
てあげる。こうやって見ると本当に、可愛いなと思ったり。
さて、俺も眠るとしますか。
ベットの中に潜り込み、眠りに就こうとしたのだが、案の定エリ
ラが来やがった。もういつもの事なので慣れてはいるが、俺の息子
827
は大丈夫ではありません。
それにしても、ベットに入った途端、コレだぜ⋮⋮センサーでも
付いているのか? と聞きたくなる。
普通、若い男女が一つのベットに一緒に潜って寝ているシーンっ
て、かなりアレじゃないですか? ムフフですよね? でも何でで
しょうか? エリラと寝ていると、どう考えてもそのシーンを呼び
起こすことは不可能だ。何で? 誰か教えてください。
﹁⋮⋮﹂
こういう時って、普通ならどうするんだろうな⋮⋮前は半ば無理
やり抱かれていたが、流石にこれくらい大きくなるとそういうこと
も出来ないので、何と言うか⋮⋮半分エリラが上に乗っかる感じに
なっている。
思わず、エリラの頭をナデナデする。気のせいだろうか、エリラ
の顔がふと笑っていたように見えた。
﹁⋮⋮いや、笑ってるな⋮⋮﹂
何故かって? そりゃ口元が三日月型に曲がっていたら、誰もが
そう思いませんか? への字型じゃないですよ。しかも撫で出した
たとんにこれだ。
本当にセンサーでも付いているのか、ガチで気になる。
828
その時、ふと思った。逆に抱き返してみればどうなるんのだろう
と。不思議だ⋮⋮今まで一度も思わなかったんだぜ⋮⋮。
左手をエリラの右肩、右側を背中に乗せて、少しだけギュッとし
てみる。柔らかい感触が胸の当たりから伝わってくる。﹁んっ⋮⋮﹂
とエリラから微かに声が漏れた時は少しドキッとした。︵色々な意
味で︶
⋮⋮⋮人の温かさっていいよな⋮⋮⋮。
そう思いつつ、俺は深い眠りについた。
その1時間30分後。俺はフェイのダイブによるお腹への、強
襲で起こされました。︵泣︶
﹁⋮⋮⋮どうしたの?﹂
2階からお腹を擦りながら降りてきた俺にサヤが問いかけた。
ちなみにサヤを始め、特待生組は全員、既に朝食の後らしく、皆が
座っている前にある机には、ティーカップが置かれていた。ちなみ
に紅茶が入っているみたいだ。⋮⋮⋮俺はもう飲みたくない。
829
﹁フェイからダイブを受けた⋮⋮⋮﹂
﹁クロウお兄ちゃんのお腹は気持ちよかったです﹂
俺の後ろからひょいと顔を出したフェイが元気に答えた。
﹁そう⋮⋮⋮それは、良かったわね⋮⋮⋮所でクロウ⋮⋮⋮あなた
え、ええ、取り合えず一通りは⋮⋮⋮﹂
格闘もそれなりに出来るのでしょ?﹂
﹁えっ?
﹁⋮⋮⋮勝負して⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮は?﹂
思わずキョトンとしてしまう。俺がどういうことか、理解して
いないのが分かったセレナが、捕捉を入れてくれて、ようやく理解
が出来た。
﹁サヤはね、今回の依頼で自分の無力さを痛感したんだって、だか
らもっと強くなりたいらしいの。お願い協力してあげて﹂
ああ、なるほどな⋮⋮⋮。でもサヤってあのとき、未経験者と
は思えない強さだったよな?
無力って程じゃなかったと思うんだけど⋮⋮⋮。まあ俺が口出
しすることじゃないし、いいか。
﹁いいですよ。では1、時間後でいいですか?﹂
﹁⋮⋮⋮わかった⋮⋮⋮楽しみにしている⋮⋮⋮﹂
830
サヤはそう言うと、椅子から立ち上がり、部屋に戻っていった。
﹁⋮⋮⋮あのナックルダスターは受けたくないぞ⋮⋮⋮﹂
既に今日、お腹に大打撃を受けたので、これ以上リバースしか
アレ、かなり鋭かったぞ。
ねない事は遠慮して起きたいのだが⋮⋮⋮。あっ、でも流石にナッ
クルダスターは使わないよな?
﹁あっ、多分サヤは武器付けて来ると思うから気を付けてね﹂
まるで、俺の心の中を読んでいたかの様に、セレナの言葉が俺
の心に突き刺さった。
﹁⋮⋮⋮本当?﹂
﹁⋮⋮⋮本当﹂
﹁訓練用に⋮⋮⋮﹂
﹁多分持っていないと思うよ、そもそもサヤって、本当に手を抜く
のが嫌いだから﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
⋮⋮⋮嘘だと言ってくれえええええええええ!
831
1時間後。家の庭で対峙する俺とサヤ。僅かばかりの淡い期待
をしていたのだが、どうみても鉄製のナックルダスターを付けてい
ます。本当にありがとうございました︵泣︶
一応、俺も即製のナックルダスターを付けているが、錬成で薄
く伸ばしただけで、ナックルダスターと言うよりか籠手と言った方
が正しいと思う。
仕方ないでしょ、家に鍛冶屋の設備をつけていなかったから、
刃を作れなかったんだよ!
ああ、サヤの目がマジだ⋮⋮。
﹁⋮⋮手を抜いたら許さない⋮⋮﹂
﹁は⋮はい⋮⋮⋮﹂
俺は首を縦に振ることしか出来なかった。だって背後に毘沙門
天が見えますもん⋮⋮。
嘘なんか付けませんよ⋮⋮。
﹁じゃあ、用意はいい?﹂
今回の審判はセレナだ。エリラ、ローゼ、テリュールは遠くで観
戦している。
﹁⋮⋮始め!﹂
832
開始と同時に動いたのはサヤの方だった。ダッとスタートを切る
と、一直線にこちらに向かってきた。そして、俺との距離が3メー
トル辺りで、腰を低くし拳を構える。
来るかと思ったが、次の瞬間、急に止まったかと思ったら、横に
進度を変えた。そして、俺の横をすり抜けて行き、一瞬で背後に立
った。
傍から見たら、まっすぐ進んでいたサヤが、行き成り消え、気付
いたら背後にいたように見えるかもしれない。
だが、俺には見えている。サヤが一気に勝負を決めようと、拳を
繰り出すが、そうは行かない。
サヤの繰り出した拳が、まさに俺に当たろうという瞬間。俺は体
を反らした。俺の腰辺りに当たりかけた拳は、虚しく空を切り、す
り抜けて行く。
﹁!?﹂
俺はすぐ右横から出てきた腕を、掴むとぐいっと引っ張り、その
まま反時計回りに回し、つつ右足でサヤの足をすくい上げた。
勢いを止めることが出来ずに、彼女の体は一瞬、宙に浮いた。
こうなってしまったら、もう結果は決まったも同然だ。踏ん張る
ことを封じられたサヤは、そのまま、上半身から地面にうつ伏せに
突っ込んだ。
辺りに舞っていた土煙が晴れ、辺りには風が流れる音だけが聞こ
えている。
やがて、サヤがムクッと起き上った。
833
一瞬、まだやるかと思い思わず構えたが。
﹁⋮⋮参りました⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そうですか﹂
﹁えっ? 何が起きたの? どうしたの?﹂
どうやら、セレナには何も見えていなかった模様。
﹁⋮⋮負けた⋮⋮﹂
﹁え、えっと⋮⋮クロウって、格闘も強かったの?﹂
﹁⋮⋮その前に、何であの一瞬で分かったの?⋮⋮﹂
﹁気配察知が働いたの?﹂
﹁え⋮⋮あっ、そうか、そういえば気配察知があったんだ⋮⋮﹂
すっかり、忘れていました。
﹁⋮⋮えっ? どういうことそれ?﹂
﹁あっちの世界で、スキルとかが使えなかったのは言いましたよね
? その時に嫌と言うほど気配を読むことと、動体視力を鍛えるこ
とをやらされまして⋮⋮﹂
﹁それで、気配察知より早く感じれるって⋮⋮おかししすぎじゃな
834
い?﹂
﹁デスヨネー﹂
スイマセン、この世界の人には分からないネタやりました。
﹁⋮⋮クロウ、お願いがあるの⋮⋮﹂
サヤが俺の方に体の向きを変え、そして何故か地面で正座をした。
えっ、何ですかこれは?
﹁⋮⋮弟子にして下さい⋮⋮﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
︵´・ω・︶︵・ω・`︶﹁﹁⋮⋮﹂﹂
→※俺とセレナ
﹁﹁えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?﹂﹂
835
第65話:弟子?︵後書き︶
ちょっと、展開が遅くなっていますが、スイマセン。m︵︳ ︳︶
m
さて、昨日皆様に多くのご意見を頂きました。書いてくださった
皆様、本当にありがとうございます。
その結果なのですが⋮⋮特別編、及びスピンオフ作品をやること
が決定いたしました!
特別編は今のところ、︻特別章︼を新たに作り、そこに乗せて行
こうかなと思っております。主に、リアルのイベントとリンクする
事を中心に書いていきたいと考えています。
スピンオフ作品ですが⋮⋮一部の方々から頂いた意見も参考にし
てもらい、私の別作品として載せようと考えています。
タイトルは﹁異世界転生戦記∼もしも作者の家で⋮⋮∼﹂です。
えっ? タイトル名にセンスを感じられない?
私もそう思っています︵泣︶
こちらでは、シリアス展開ゼロ、キャラ崩壊<するかも>、作者
の良くわからない漫才話となっております。
第65話、投稿後、1時間以内に始める予定です。
第1回目は﹁お試し企画・﹁もしもこの人たちに質問をしたら﹂﹂
836
です。本当は、野球とかをネタにやろうかなと考えていたのですが、
もう少し本編でキャラを掘ってからやろうと思い、今回は少し抑え
目なネタをやりました。基本、作者︵黒羽︶がボコボコにされてい
ます︵何故か︶
もし、宜しければそちらもご覧になって頂けると嬉しいです。
ちなみに、あちらは不定期で、更新したら本編の後書きで報告い
たします。
あっ、あと、あちらの作品は作者が気ままに書くと同時に、皆様
の案も待っています。詳しいことはあちらの第1回をご覧になって
ください。私のマイぺ︱ジから行けると思います。
最後に、あちらを見る前に以下の事を注意してください。
1・基本会話文のみ
2・キャラ崩壊<あるかも>
3・シリアス? 何それ美味しいの? 状態です。
4・作者が好き勝手にやっておりしょうもなネタがてんこ盛りで
す。
5・理不尽がそこらじゅうに転がっています。ですが、すべてギ
ャグと思い、生暖かい眼差しで見てください。
以上を見て、それでも読むという強者は公開されるまで、しばら
くお待ちください。m︵︳ ︳︶m
ただ⋮⋮これで読む人いるのでしょうか? ︵ガクガクブルブル︶
あっ、ちなみに投稿スピードは今まで通りです。
837
次回更新は12/3を予定しております。
838
第66話:出発前に︵前書き︶
誤字を修正しました。
本日、1本目の投下です。
3/15
2015年
※
839
第66話:出発前に
﹁ちょっ、サヤどうしたの!?﹂
﹁⋮⋮言葉の通り⋮⋮﹂
﹁こ、言葉の通りって⋮⋮、行き成り過ぎない!?﹂
﹁⋮⋮格闘系が伸び悩む理由⋮⋮ですね?﹂
﹁⋮⋮そう⋮⋮﹂
﹁えっ、クロウどういうこと?﹂
まぁ、俺も元いた世界の漫画からの知識だけど。
﹁格闘家って、ある程度まで行ったら伸び悩むのですよ⋮⋮、その
理由は自分より上の者が極端に減るからです。そもそも格闘は、剣
などを扱う人たちより圧倒的に人が少ないのです。あの人を目指す。
あの人を超える⋮⋮。憧れもモチベーションにとても関わってきま
す。それが格闘では少ないために、自分はこの分野では強い方だか
ら⋮⋮など怠慢になる人が出て来るのです。そもそも技術を鍛える
なら圧倒的に同じ道の人と戦った方が効率がいいのですよ﹂
﹁う⋮⋮うん、なんだか分からないけど、兎に角、同じ格闘同士で
戦った方がいい。と言う事?﹂
﹁技術を伸ばすなら。⋮⋮もちろん色々な人と戦った方が宜しいで
840
すが﹂
﹁⋮⋮そう⋮⋮﹂
﹁確かに、学園でも少ないよね、格闘系って、シュラが一応できる
けど、サブだし⋮⋮クロウもだよね?﹂
﹁ええ、一応サブですが⋮⋮﹂
﹁⋮⋮サブには負けない⋮⋮﹂
サヤの目は、闘志に満ち溢れていた。あっ、これ断ったら正拳入
れられるパターンですよね? 戦闘には勝っても、本当の意味では、
勝てないなと思いました。
﹁別に私はいいですが⋮⋮私に、アドバイスとか出来るとは思えな
いのですが﹂
﹁⋮⋮大丈夫⋮⋮戦って覚える⋮⋮﹂
つまり、俺は相手をすればいいだけという訳か? 確かに、それ
なら俺は戦えばいいだけだから問題はないな。
⋮⋮と言うか、戦って覚えるって、随分と簡単に言うな⋮⋮俺の
スキルじゃあるまいし。
﹁分かりました。よろしくお願いします﹂
﹁⋮⋮お願いします⋮⋮﹂
841
あっ、俺が頭下げても駄目だよな。つい日本の感覚でやっちゃっ
た。
﹁じゃあ、そろそろ出発する用意をしましょう﹂
俺のこの一言で、解散となった。ちなみに準備は既に出来ている
ので、俺はギルドに顔を出すことにした。面倒事は先に片付けてお
かないとな。多分、余りに変わってしまったから、分からない奴が
大半だと思うから、モブは無視して置くとして、ガラムさんには事
情を話しておかないとな。
あと話すのは⋮⋮ミュルトさんぐらいでいいか。あの人には、受
付嬢としてお世話になっていたし。
と、言う事で、俺は出発前に、ギルドを訪れることにした。
﹁⋮⋮と、俄かに信じがたいお話とは思いますが、以上が、こうな
ってしまった理由です﹂
﹁⋮⋮信じられない⋮⋮が本心じゃが、お主のその姿を見たら、否
が応でも信じらざる得ない⋮⋮か⋮⋮﹂
ギルドの奥にある、応接室には俺とガラムさんとミュルトさんが
いる。
842
﹁一応、これは黙秘と言う形で、出来ればお願いしたいのですが﹂
﹁ああ、それは構わんが、すぐにバレること無いか?﹂
﹁まあ、急にこんな姿になったら、分からない人の方が多いと思う
ので、しばらくは大人しくして置けば、いいのでは﹂
﹁コアの件も完全に終わった訳では、ないからな? こっちの方に
も是非来てくれと言う密書が沢山届いているわ⋮⋮まあ、あくまで
ギルドは中立の立場だから、すべて黙殺するがの⋮⋮﹂
﹁国も綱渡りな事をしますね。バレたら周辺諸国から一斉非難をさ
れそうですが﹂
﹁所詮、国と国とのお約束なんぞ、空手形に過ぎん。裏でこんな事
を行っているのは、お互い承知済みじゃ﹂
﹁そうですか﹂
おお、黒い黒い⋮⋮。やっぱ、それくらいしないと生き残れない
のかな?
﹁それにしても、これからどうするつもりですか? クロウさんに
はまだ、借金が残っていますけど?﹂
ミュルトさんが、手に持っていたノートの中を見ながら言った。
多分あのノートには、俺が溜めるに溜めている借金の残高が書いて
あるのだろう。
よくよく考えたら、俺が死んだらあの借金ってどうなるのかな?q
843
﹁暫くは、地道に稼いで行きますよ﹂
と言うか、そうするしかないよな? 今の姿ならBランクになっ
ても問題ないと思うが、それも暫くは保留だな。
﹁まあ、頑張るがよい、ワシ等はほぼ高みの見物じゃがの﹂
﹁もう面倒な事には、巻き込まれたくないです﹂
俺はそう言うと応接室を後にした。出ていく直前に、誰かが﹁チ
ッ﹂と舌打ちした様に聞こえたが、多分空耳だろう。
﹁⋮⋮で、これは何なんだ?﹂
844
予定の時間になって、続々と集合場所に集まって来たのだが、シ
ュラだけがいなかった。カイト曰く﹁まだ、勝負中だったぜ﹂との
こと。
﹁勝負中って⋮⋮熱湯我慢大会⋮⋮の事ですよね?﹂
﹁ああ、まだやっていたぜ﹂
俺の脳内イメージだと、熱湯風呂に入って、どれくらい我慢出来
るかという感じなのだが、そうじゃないのか?
そして、何故か同時に﹁押すなよ! 絶対に押すなよ!﹂と、ど
こかで聞いたことあるような言葉が、脳内で再生された。⋮⋮いや、
アレは違うな。
﹁仕方ないね。じゃあシュラの所まで行かない?﹂
﹁そうですね﹂
﹁そうだな﹂
﹁⋮⋮面倒だけど⋮⋮﹂
と言う事で、俺らはシュラが参加している大会を見に行くことに
した。
だが、その熱湯我慢大会は、俺の想像を遥かに超える大会だった。
845
⋮⋮先に言っておこう。
⋮⋮バカだろ⋮⋮
﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂
今、俺らは温かい⋮⋮いや熱い雨が降っている会場の目の前まで、
来ています。場所はエルシオンの郊外にある、民宿﹁サンシャイン﹂
。もう名前から嫌な予感しかしないような民宿だ。
基本的に、普段はあんまり人は集まらないのだが、この時期に行
われる熱湯我慢大会の時には人ごみで溢れている。
そして、民宿の前には、巨大な蛇口が作られていた。高さはおよ
そ3メートル。水が噴き出すところは直径2メートルぐらいはある。
あっちの世界でも、これ程の大きさは見た事ない。と言うかギネス
行けるんじゃね? 詳しいことはもう覚えていないけど。
そして︱︱︱
﹁ふはっはっはっ! 若造よ! お主中々やりよるな!﹂
846
﹁おっさんこそ、やるじゃねぇか!﹂
男2名が、熱湯の滝の下にあるドラム缶風呂に入っていた。何故
温めているのが焚火じゃなくて、溶岩なのでしょうか? 私の目は
おかしくなりましたのでしょうか?
﹁まだまだ!﹂
﹁大会主催者として、負けられるぬわぁぁぁぁぁぁ!!!!﹂
こんなむさ苦しい光景は誰も望んでいねぇよ! と心の中で叫び
ました。
﹁⋮⋮毎年、シュラに引きずられて無理やり来ているが、本当に謎
だな﹂
﹁⋮⋮興味無い⋮⋮﹂
﹁⋮⋮もう置いていきませんか?﹂
﹁﹁﹁賛成﹂﹂﹂
恐らく、今ほど全員の意見が一致した事は無いと思いました。
847
第67話:羞恥心って大事だな︵前書き︶
本日、2本目、行きます!
前回から若干の下ネタ系が入っていますが、オブラートに頑張っ
て隠していますので、ご了承ください。︵土下座︶
848
第67話:羞恥心って大事だな
﹁ふぅ⋮⋮そろそろきついわ﹂
﹁塩くれ塩!﹂
﹁⋮⋮あの、まだ続くのでしょうか?﹂
﹁普通、あのおっさんが最後まで、残るんだが、今年はシュラも頑
張っているな﹂
﹁⋮⋮いつから入っているのよ⋮⋮﹂
セレナが、全員が聞きたかった事を代表して言ってくれた。
﹁多分、今日の早朝からじゃないか?﹂
﹁えっ!? もう昼よ!?﹂
﹁バカとしか言いようがありませんわ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮まあ、やる気にはならないよね⋮⋮﹂
﹁⋮⋮アホ⋮⋮﹂
849
﹁ちょっと、理解に苦しみますね⋮⋮﹂
﹁あはは⋮⋮﹂
全員が、苦笑いをするしかない。俺はむさ苦しいと思ってはいる
が、日本にも寒中水泳とか、やる人がいるので、あんまり酷くは突
っ込めないのが現実だ。
まぁ、俺も﹁何でそんなことするんや﹂と思っていますが。
シュラとおっさんのすぐ横に置かれている、塩がさっきからすご
いスピードで無くなっているのだが⋮⋮。間違っても真似をしない
ようにしないと⋮⋮ってか、する気ないわ。
水? あの熱湯から飲んでいますよ。
どうしたものかと思い、群がっている群衆たちの方をチラリと見
る。群衆の端には、顔を真っ赤っかにして、伸びきっている人が見
える。おそらく、参加者だった者だろう。かなり無理をして、頑張
っていたやつもいるのか、︽火傷︾を負っている人も、ちらほらと
見受けられる。どんだけ我慢すりゃあそうなるんだよ⋮⋮。少なく
とも普通の人間では無理だ。魔力がある程度、耐熱の効果も持って
いるから出来る芸当であって、マジの生身の人間がやれば、半永久
的な水ぶくれを起こしかねない。
﹁アレは間違いなく体に悪いよね⋮⋮﹂
セレナが、呆れた顔で対決の様子を見ている。ちなみに、腰には
タオルを巻いているので、息子が見えることは多分ないだろう。い
や、無いことを祈りたい。こんなところで赤の他人の息子なんて、
見たくもない。
850
﹁悪いですね﹂
﹁悪いな﹂
﹁⋮⋮うん⋮⋮﹂
満場一致で、体に悪いことが決まりました。
と、ちょうどその時。
﹁ぬぉ! 我慢出来んわ!﹂
と、言いながらおっさんが熱湯風呂から飛び出した。しかもご丁
寧にタオルを付けずに。
フラグ回収ですね。お疲れ様です。
特待生組の女子メンバーらは、一斉に顔を背けた。まあ仕方ない
よな。俺も見たくねぇよ。﹁お巡りさーん、この人でーす﹂と言い
たい。日本なら、確実にOUTだ。
⋮⋮と、殆どの女性が顔を背けたが、一部例外もいた。
﹁⋮⋮案外小さいわn ︵ゴスッ﹂
﹁言うなボケ﹂
﹁あい﹂
851
エリラだけは、平常運航でした。つーか、誰と見比べたんだよ。
ちょっと聞いてみたかったが、色々な意味で、怖い回答が返ってき
そうなのでやめて置こう。
ちなみに、この光景に一番耐性が無かったのが、意外とテリュー
ルだった。見るんだったら一番見てそうなんだけどな。
地面に蹲って、﹁何も見ていない、何も見ていない、私は何も見
ていない﹂と自己暗示を必死でかけている。意外と初心なんだなと
思った。
遠くの方で、﹁よっしゃあ! 勝ったぜぇ! と熱湯風呂から飛
び出したシュラが、勝利のVサインを片手に高々と宣言していた。
そして、お約束の息子を隠していない。バカだ。観衆からも﹁隠せ
バカヤロー!﹂と言う声が聞こえてくる。
肝心の本人は、﹁あっ、やべっ﹂と言った顔をしていたが、特に
恥ずかしがる事無く、普通にタオルを巻くと﹁これで、文句ねーか
!﹂と言っている。ただ、微妙に下の部分が隠れていないのですが。
﹁どこがだよ!﹂と言われてるし。
ただ、どこからともなく﹁あら、良い体ね、うふっ食べたいわ﹂
と言う低い声が聞こえてきた。
アレ オカシイナ キキ マチガエ ダヨネ?
その後、真っ赤っかになっている、おっさんの手から、優勝トロ
フィーが手渡され、﹁また来年も参加してくれよな!﹂﹁あたりめ
ーだ!﹂と、むさ苦しい光景と握手を見て、SAN値がガリガリ削
られまくった大会は、幕を降ろした。
852
⋮⋮今後、この辺りには近づかない方がいいな。
俺は、心の中でそう決めました。
﹁⋮⋮ねぇ、なんか俺に急に冷たくなってない?﹂
乗り込んだ、馬車の中で優勝トロフィーを片手に持っているシュ
ラが、周りに問いかける。
﹁⋮⋮考えろ⋮⋮﹂
冷えた目つきでサヤが切り返した。他の面々に至っては、顔すら
も合わせていない。シュラ君完全アウェイ状態です。
﹁? 俺なんか悪いことでもしたか? 出発前には終わったはずな
んだが﹂
いや、そういう事じゃねぇよ。
853
﹁⋮⋮今回は、俺も何も言えないわ﹂
﹁⋮⋮スイマセン、シュラさん⋮⋮僕もです﹂
同性のカイトとテリーも呆れた目でシュラを見る。
﹁⋮⋮クr︱︱︱﹂
﹁右に同じです﹂
﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂
しばらく静まる、馬車内。辺りに馬の足音と車輪が地面を蹴る音
だけが、響き渡っている。いつもは何も思う事は無いが、今は非常
に助かっている。無音とか一番嫌だからな。日本生まれの俺は、こ
んな風景を何度も経験しているから正直、この音は有りがたかった。
﹁俺が何をしたんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!﹂
シュラの絶叫が、青い空の元で虚しく聴こえていた。
結局、シュラのアウェイ状態は、学園に到着する直前まで続きま
した。
854
第68話:帰還︵前書き︶
本日、3本目の投下です。
やばい、思っていたよりもきつい投稿だこれ。
855
第68話:帰還
学園に着くと、真っ先に理事長室に来た。まあ、報告は当然だよ
な。
アルゼリカ先生も俺の姿を見て、驚いていたが、事情を話すと﹁
そうですか。では後で詳しい話を伺いましょう﹂と取りあえずは、
納得してくれた。
どこかの、誰かさんとは違って、大人の女性だなと本当に思いま
す。
それからは、チェルストで起きた出来事と、テリュールについて
の説明をシュラが一通りしてくれた。
﹁⋮⋮分かりました。では、後の事はこちらで処理をしておきます﹂
﹁はい⋮⋮ところで、あれから国側から何かありましたか?﹂
﹁いえ、依頼が達成された事は、国から通知が来ましたがそれ以外
は何も﹂
何もないか⋮⋮と言う事は、国側は何も知らないか、または知っ
てて、何も言ってこないか⋮⋮。まあこの学園の、特待生組を失う
事は国としても痛手だろうから、おそらく前者だと思うが。
﹁そうですか⋮⋮﹂
856
﹁では、皆様お疲れ様でした。延期していた朝礼は、明後日に行い
ますので、明日は各自、ゆっくりと休んでください。あと、クロウ
君とテリュールさんは残りなさい﹂
﹁はい﹂
特待生組は外に出て行き、後に理事長室に残ったのは、俺、エリ
ラ、テリュール、そしてアルゼリカ先生の4人だ。
﹁⋮⋮信じられない話ね﹂
﹁それは、私が一番、言いたい言葉です﹂
俺が一番ウソだろ! と思っているよ!
﹁幸いにも、まだ学園に来てから日が浅いことが、幸いしました。
まだあなたの顔は、殆ど割れてないと思いますので、そのままでい
いとして⋮⋮問題は⋮⋮テリュールさんでしたね?﹂
﹁はい﹂
﹁あなたは、今後どうするおつもりなのですか?﹂
﹁い、一応クロウの所でお世話になろうかなっと思っています。私、
剣は出来るので﹂
﹁そう、クロウ君もそれでいいのね?﹂
﹁はい、問題ありません。彼女の実力は、私も知っていますから﹂
857
﹁分かりました。では、クロウ君、暫くは目立つ行動は慎みなさい
ね?﹂
﹁分かりました﹂
﹁それじゃあ、あなた達も解散していいわよ﹂
﹁⋮⋮あの、一つ聞いていいですか?﹂
﹁? 何、クロウ君﹂
﹁これから、国にはなんと説明を求めるのですか?﹂
﹁⋮⋮あなた達には、申し訳ないけど、今回の事はこちらで不問に
してしまうつもりです﹂
﹁!? ふ、不問って、国g︱︱︱﹂
﹁不問﹂と言う、一言にエリラが真っ先に食いついた。俺の後ろ
から前に出てきそうにするのを、俺は片手で制止する。
﹁エリラ、立場を弁えろ﹂
﹁ぶー﹂
﹁あと、場所も考えろ﹂
今は、理事長室にいる。いくらアルゼリカ先生が、大らかな人で
も行動を慎まなければならない場面だ。ましてや今のエリラの立場
は、何を言われようがが動いては行けない。
858
元貴族だけあって、察したのか、しぶしぶだが、エリラは元の立
ち位置に下がってくれた。
﹁⋮⋮従者さんの言う事ももっともです。ですが、これ以上、事を
荒立てると国からも何かしらの干渉がくるでしょう。下手に動くと、
国の保護下で成り立っているこの学園への援助も無くなるかもしれ
ません。そうなれば、この学園の運営自体も危なくなります﹂
﹁⋮⋮まあ、今回は首謀者が誰だか、分からないのがきついですね。
ひょっとしたら、他国の陰謀とも受け取れますが﹂
魔族がどうたらこうたらってセラが、言っていたが、ここでこの
話をしたら、さらにややこしいことになりそうだ。
﹁その可能性は高いです。クロウ君たちには申し訳ないのですが、
今回はイレギュラーな事故と言う事で、終わらせて貰いたいのです﹂
こっちは、命がけだったのに随分と、アッサリとした返答だな。
まあアルゼリカ先生の立場を考えれば、分からない話でも無いが⋮
⋮。
﹁⋮⋮まぁ、私が良いっと言っても、他の人たちはどうかは分かり
ませんが﹂
﹁それはこちらで、何とかします﹂
﹁分かりました。私からはもう何も言いませんよ。幸いにも死者は
出ませんでしたので﹂
859
完全に、板挟みだけは避けて上げないと。昔、会社で命がけでは
ないが、似たような状況になったことが、ある俺には、少しだけだ
が、彼女の辛さも分かるつもりだ。
﹁そういって貰えると有りがたいです﹂
﹁では、私たちはこれにて﹂
こうして、この指名依頼は何とも後味が悪い結末となって終息し
た。
==========
灰色の皮膚に、赤い瞳、そして、耳の少し上の部分から、真上に
向かって伸びている角。黒髪は腰の辺りまであるような長さ。
この男︵?︶の姿はいつ見てもこうだ。
﹁ちっ、失敗しよって⋮⋮まあいい⋮⋮、たった一個の策が失敗し
たぐらいで、私の野望は止められぬ。それにこの作戦はあっても、
860
無くても変わらないわ﹂
男は、次なる作戦を練り始めていた。彼にしてみれば、今回の失
敗はある意味、どうでもいいことだ。ただし、実行者には何らかの
罰を与えないとな、と思っていた。
﹁しかし、まさかあの魔法を使われて、生還するとはのう⋮⋮面白
い小僧じゃ。もし刃を交える場面があるのならば、是非とも一戦、
願いたい物だ﹂
男は、誰も居ない広間で、一人笑っていた。
==========
﹁⋮⋮﹂
861
⋮⋮はぁ⋮⋮これからどうすればいいだろう⋮⋮。
一人寂しく残った理事長室で、私は頭を抱えていた。
﹁クロウ君は、多分アレで良かったけど⋮⋮いえ、良い訳がないよ
ね⋮⋮。彼が今回の一番の被害者なのに⋮⋮﹂
でも、彼は良いと言ってくれた。本当、不思議な子ね。私なら﹁
ふざけないで!﹂と、言っても可笑しく無かったのに。
結果的に生徒を危険な目に遭わせて、そして生徒に助けられ⋮⋮
私って本当、駄目な先生ね⋮⋮。
⋮⋮本当⋮⋮私は⋮⋮
小さな水玉が、私の手の甲に落ちたが、私はその時それには気付
かなかった。例え、気付いていても、何も変わらなかった。
﹁また⋮⋮何を⋮⋮やっているのかしらね⋮⋮﹂
私は、その日にやらなければ、ならなかった公務を他所に、机に
の上に顔を伏せ、自分の無力さに泣いていました。
異世界転生戦記・︻第1章:帰還編︼・・・完
862
第68話:帰還︵後書き︶
と言う事で、第一章はこれにて完結です。非常に後味が悪くなっ
ておりますが、このモヤモヤは後日、キッチリと返しますので、こ
のモヤモヤ感は一先ず、置いてくださると嬉しいです。
まぁ、書いている私が言える話ではないのですが、私が一番、モ
ヤモヤしています。誰か発散させて下さい。よし、ハヤテ君、君を
殴らせてくれ︵逆に殴り返されそうですが︶
第二章︻魔法学園・対抗戦編︼は、今日中に書いてお出しします
ので、読んでくださる心優しい方がいましたら、もうしばらくお待
ちしてください。
m︵︳ ︳︶m
追記・第2章タイトル名は、上記から︻魔法学園・魔闘大会編︼
へと切り替えます。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。
m︵︳ ︳︶m
863
第69話:魔闘大会︵前書き︶
よ、四本目⋮⋮次で本日の投稿は終わりです。
だ、誰かリポ○タを⋮⋮グフッ
864
第69話:魔闘大会
﹁では、朝礼を始めます﹂
月一回に、行われる特待生組の朝礼。俺はこれが2回目になる。
﹁先日は、皆様本当にお疲れ様でした。そして、本当に申し訳ござ
いませんでした﹂
朝一番の、朝礼で、アルゼリカ先生は俺たちに向かって、頭を下
げた。
﹁別に気にしなくても宜しいですわよ﹂
﹁そうだよ先生。誰も死んだりしてねぇから大丈夫だって﹂
シュラが、ローゼに続くような形で、先生を慰める。いい奴らだ。
﹁まぁ、若干一名、成長した人はいr ︵バキャッ︶ ごはぁ! アバラガー!?﹂
﹁⋮⋮静かに⋮⋮﹂
⋮⋮まぁ、空気を読めない奴も中にはいますが。
﹁ありがとうございます⋮⋮では、次に今月に行われる︻魔闘大会︼
についてですが⋮⋮﹂
865
魔闘大会? なんじゃそりゃ。
﹁初めての人もいますので、今一度説明をしたいと思います。魔闘
大会とは、この学園内で行われる、トーナメント式の実践大会です。
参加資格は一般学生については自由参加。特待生組に対しては怪我
などの諸事情が無い限りは強制参加になります﹂
強制参加なのね⋮⋮。
﹁ルールは、お互い持てる武器は練習用の木剣。魔法は自由に使っ
て宜しいです。制限時間は20分。制限時間内に相手を、降伏、ま
たはノックアウトさせれば勝利となります。なお、制限時間内に勝
負が付かない場合は審判による判定戦となります。なおレスリース
トップがかけられた場合、即座に攻撃をやめなければ失格となり、
強制的に留年が確定します、その他にも度合いによって、罰が課せ
られます﹂
うわぁ⋮⋮確かに、必要以上に熱くなられても困るから分かるが、
厳しいルールだな⋮⋮。
﹁そして、最後まで勝ち残った上位、5名が優秀者として表彰され
ます﹂
優勝者は決めないんだな⋮⋮。まあ理由はおおよそ見当はついて
いるが。
﹁試合は、今月末。場所は闘技場にて行われます。集合時間は早朝。
そこで、予選を行い、残った32名が本選出場となります。予選方
法については当日公開されます。以上です。質問はありますでしょ
うか? ⋮⋮なければ、これで終わりとなります。では、解散です﹂
866
﹁優勝者は決めないんだね﹂
朝礼終了後に、エリラが俺に言ってきた。
﹁多分、舎弟関係を作られるのを、恐れての対策だと思うけど、そ
んなんじゃあ対策にならないと思うけどな⋮⋮﹂
俺は、一般生徒の事は知らないが、多分どこにでもあるような苛
めとかあるんだろうな。しかもこの世界は、魔法って言う強さを決
めるシンプルな物が、あるんだからなおさらだろう。
﹁まっ、俺らは頑張るしかないって事さ﹂
シュラは俺たちの話を聞いていたのか。
﹁所で、毎年だれが優秀者として選ばれているのですか?﹂
﹁う∼ん、俺は去年の分しか知らないけど、去年の優秀者は、一般
生徒3名に特待生組は、サヤとカイトだな﹂
867
アレ、以外と特待生組少ないな⋮⋮。このメンバーらも年齢の割
には、かなり強い分類に入るのだけど。てか、サヤさん強くないで
すか?
﹁一般生徒が3名ですか?﹂
﹁ああ、まあ特待生組は、有望株と言うことで推薦された人たちだ
からな。強さはあまり関係ないんだよ。逆に叩き上げで登ってくる
奴らは多いみたいだ﹂
﹁選落ちした僕は暫く、一般生徒に顔向けできませんでしたけど﹂
テリーが会話に入ってきた。
﹁私も似たような感じでした﹂
ネリーも入ってきた。もうこの前の事は、引きずっていないのか
な?
﹁特に、エリートとか言われる奴らが煩いな﹂
今度はカイトか。
﹁しかも、今年は入学して1年目にして、最上級生を打ち負かす人
材が3名もいるって話よ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮面倒⋮⋮﹂
セレナとサヤもだ。なんかドンドン集まってきたなぁ。まあこの
868
大会の事を知らない俺には嬉しいけど。
﹁まあ、参加するかは分かりませんけど﹂
最終的にローゼも混じって来ました。アレ? この中に絶対磁石
みたいな人いるよね?
﹁まず参加するだろうな。一回そいつららしき奴らを見たことある
が、高飛車と言うか下の奴らを、まるでゴミでも見るような感じの
奴だった﹂
あっ、それ絶対関わったらアカンパターンの奴らや。
﹁はぁ、また今年も荒れそうですね﹂
﹁テリーさんはこの大会が嫌いなのですか?﹂
﹁まあ、勝ち負け以前に参加したくはないね﹂
﹁特待生組はタダで入っているんだから、それなりに実力あるので
しょ? って嫌みを言う奴もいたな﹂
﹁あの∼⋮⋮皆さんは参加したくないのですか?﹂
﹁俺はどっちでもいい﹂
﹁嫌だ﹂
﹁私も﹂
869
﹁まぁ⋮⋮そこまで参加したいとは﹂
﹁⋮⋮強い格闘がいるなら参加したい⋮⋮﹂
色々、文句言われる身としては、参加したくないよな。そしてサ
ヤさん。あなたはどこかの某戦闘民族の人でしょうか? 発言がや
ばいって。
﹁まっ、参加するなら負けるつもりはないけどな。よしっ、カイト
早速修行だ!﹂
﹁あったりめーだ!﹂
そういって、ダッシュで教室を出ていくシュラとカイト。やっぱ
り普段は、脳筋な奴らだなと思った。
﹁⋮⋮私も練習する⋮⋮クロウ⋮⋮﹂
﹁あっ、はい。いいですよ﹂
この人も、やる気に満ち溢れているなぁ⋮⋮。
﹁恥ずかしい思いなんて、テルファニア家として出来ませんわ。私
も早速鍛錬をして参りますわ﹂
﹁あっ、サヤがクロウと練習するなら、私はローゼとする!﹂
﹁僕らも、やれるだけの事はやろうか﹂
﹁うん!﹂
870
続々と教室を出ていく皆。本当、勤勉家だよなあの人たちって⋮
⋮。
﹁⋮⋮行こう⋮⋮﹂
﹁ええ、そうですね﹂
サヤに引っ張られるような形で、俺も闘技場に向かっていった。
アレ? 先生に許可は? と思ったが、行ってみると闘技場では、
特待生組が全員居た。サヤが﹁⋮⋮みんなの訓練はここって決まっ
ているから⋮⋮﹂と言って、自分が使いたい場所へ俺を引っ張って
いく。
その後、4時間ぐらいミッチリと戦わせられました︵泣︶。いや
サヤ、スタミナあり過ぎでしょ!? それ以上に恐ろしいのは、何
度も俺に挑んでは、色々な技を︵うろ覚えな柔道の技。ただしスキ
ル補正でプロ級並の上手さになっています︶かけているのだが、何
度も立ち上がっては、俺に果敢に挑んでくる。休憩のとき以外に、
止まっている所を見ないぐらいだ。
しかも、技術の吸収スピードも尋常な無いぐらい早い。後半にな
るにつれて、俺も少しは力を入れないといけないほどになった。
結局、俺らは夕方の閉校時間ギリギリまで、残って特訓を続けた。
871
﹁やばい、眠い⋮⋮﹂
﹁お疲れ様﹂
目をゴシゴシする俺にエリラがタオルをかけてくれた。ちなみに
今頃かもしれないが、テリュールは家で獣族語を勉強している。獣
族の人たちも最近は、俺らの言葉を覚えて来た者もいるので、多分
大丈夫だろう。
﹁それじゃあ、家に戻る?﹂
﹁そうだな⋮⋮ん?﹂
校舎の入口から出て家に帰ろうとしたとき。どこからかともなく、
ボッと言う音が聞こえて来た。
﹁? 今の音なんだろう?﹂
エリラもその音に気付いたようだ。もう学校が閉まる前なのに、
まだ誰かが練習しているのだろうか?
872
﹁ちょっと行ってみるか﹂
そう言って、俺は音の聞こえた方に足を向けた。
学園には、闘技場以外にも、何か所か魔法を使っていい場所があ
る。ただし人に向けるのは厳禁だが。人に向けて使ってもいいのは、
今の所俺の知っている限りだと、闘技場だけだ。
魔法を使っていい場所の一つに中庭がある。中央に噴水と隅にベ
ンチがあり、大きさはサッカーコートのおよそ4分の1程度の大き
さだ。
昼休みには、ここで休憩している人もしばしば見かける。この場
所で、誰が何をしているんだろうか。
校舎の物陰に隠れて、こっそりと中庭の方を見ると、そこには一
人の少女が、杖を片手に持って一人、ポツンと立っていた。
少女は、杖を高々と突き出し、詠唱を開始しする。
フレイム
﹁︱︱︱︱︱︱︽炎︾﹂
ボッと言う音とともに、杖の先端から火の球が生まれ、暮れかか
った夕暮れ時の辺りを照らした。
﹁誰だろうね?﹂
﹁⋮⋮あっ﹂
俺は、あっとした。思い出したのだ
873
﹁彼女は︱︱︱
874
第69話:魔闘大会︵後書き︶
第2章のタイトル名は︻魔法学園・魔闘大会編︼となりました。
急な変更申し訳ございません。
m︵︳ ︳︶m
875
第70話:魔法式︵前書き︶
この回を書き終えたら寝るんだ︵フラグ︶
本日、ラストとなる5話目です。
876
第70話:魔法式
﹁彼女は、前俺が、食堂に行ったときに助けた子だ﹂
﹁えっ、いつ?﹂
﹁エリラたちがトイレに行ったとき﹂
﹁うっ、その時だったのね﹂
黒歴史を掘り返され、﹁も∼掘り返さないでよ∼﹂と背中をビシ
ベシッ叩きながら言ってるエリラは、置いといて何となく、近づい
てみるこうとして、物陰から出た瞬間。
ボンッ
﹁あっ!﹂
﹁﹁あっ﹂﹂
少女が杖の先に出していた炎が、突如、弾き飛ばされたかのよう
な勢いで、こちらに向かって来た。慌てて少女が飛んで行った方向
を見ると、ちょうど俺らと目があった。
﹁に、逃げてください!!﹂
だが、逃げる暇などない。だってもう3メートルきっていますも
ん。それに避けたら校舎に当たるパターンですよね?
877
ならどうするかって? 逃げないで向かい撃つべし。ってな
アクア・ショット
﹁︽水衝撃︾﹂
久々に使ったなこれ︵第4話以来︶。
魔法陣から飛び出した水の弾丸は、火の球にぶつかるり、じゅわ
∼と言う音と共に水蒸気を放ちながら、火の球を消滅させた。
﹁相変わらずの無詠唱﹂
﹁詠唱? 何それ美味しいの? ︵ドヤッ﹂
﹁むうぅぅぅぅぅ! 私にも教えろぉぉぉぉぉぉ∼﹂
ギニュと俺の頬を抓って来るエリラを他所に。例の少女が近づい
てきた。
﹁す、スイマセン! だ、大丈夫ですか!?﹂
少女は、頭を下げ謝って来た。
﹁ええ、だいひょうぶですよ ︵訳:ええ、大丈夫ですよ︶﹂
⋮⋮このままだと話しにくいな。俺は俺の頬を抓って来るエリラ
の、背中に指先を当てス∼指を走らせてみる。これで、ダメだった
ら後頭部に一撃だな。
﹁ひゃ!?﹂
878
効いたようです。
﹁な、何をやっているのよ!﹂
﹁はいはい、その話は後。心配しなくても、私たちにも校舎にも被
害はありませんから、安心してください﹂
﹁は、はい、スイマセン、私が誤射をしてしまったばかりに⋮⋮も
う、人がいないと思っていたので、本当にスイマセン!﹂
﹁ええ、気にしないでください。ではこれにて﹂
俺は早足で去ろうと思っていた。だって、一昨日アルゼリカ先生
に﹁目立たないように﹂と釘を刺されたばかりなんだが。
﹁⋮⋮あっ! あ、あの、もしかして、クロウ⋮⋮さんですか?﹂
フラグ回収来ました。ありがとうございます。⋮⋮いや、ありが
とうございますじゃねぇよ!
﹁ひ、人間違いではないでし︱︱
﹁合ってるよ﹂
バカヤロォォォォォォォォ!!!! エリラてめぇ! 確信犯か
!? 一昨日、俺と一緒に話を聞いたよな!? orz
﹁⋮⋮はい⋮⋮﹂
879
﹁あっえっと⋮⋮﹂
﹁いいですよ。言いたいことはおおよそ見当ついているので、何故、
分かったのですか? リネアさん⋮⋮﹂
﹁えっと⋮⋮雰囲気で⋮⋮﹂
雰囲気で Σ︵゜Д゜︶!? 一回会っただけなのに!?
﹁雰囲気って⋮⋮︶ まあ、色々あったのですよ。所でこの時間に
魔法の練習ですか? もうすぐ閉まりますよ?﹂
﹁⋮⋮私、昔から運が悪くて⋮⋮よく魔法とかも周りの人を迷惑を
かけるのですよ⋮⋮ですから⋮⋮﹂
﹁この時間からですか⋮⋮﹂
﹁はい、この時間しかないので⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そういえば、あの魔法ってオリジナルですか?﹂
ファイヤー・ボール
﹁は、はい! 炎の基本魔法︽火球︾に、真っ直ぐ行くだけでは無
く、私の意思で自由に動かせるようにしたのです!﹂
お、おう⋮⋮行き成り元気になったな。
﹁⋮⋮ただ、中々思い通りに撃てないのです⋮⋮︵´・ω・`﹂
あっ、へこんだ。
880
﹁魔法式書いたのありますか?﹂
﹁? えっ、あっはい﹂
リネアが自分で書いた魔法式を手渡してくれた。普通、この場面
は渡したら冒険者としてはOUTなのだが、今回はラッキーと思っ
ておこう。
紙には、火を基盤とした魔法式を中心に威力アップの魔法式や、
魔力効率化の魔法式などが書かれていた。
﹁⋮⋮ああ、なるほど⋮⋮これでは制御が効かずに暴走してしまい
ますね⋮⋮﹂
﹁えっ?﹂
﹁ちょっと、待ってください﹂
ストレージ
そういうと、俺は︽倉庫︾から紙とペンを取り出すと、素早く︽
火球︾の魔法式を書き込んだ。
魔法式と言うのは一種の回路みたいなものだ。様々な効果を持つ
魔法式を繋いでいき、最終的に一つの魔法として発動をするのだ。
プログラミングにも似ている箇所はある。
リネアが書いていた式は、一見すると上手く発動する様に見える
が、本来、無い魔法式にも効果を加える魔法式が余分に書き込まれ
ていた。プログラムで言うなら、本来設定していないはずの、変数
に入れようとして、コンピューターが変数を見つけきらずにエラー
を起こすのと似ているのかもしれない。
881
もっと簡単に言うならば、コップの何も入れる物がない場所に、
水を流し込もうとしているのだ。水はコップ見たいな物に入れない
と安定をせず、流れてしまう。つまり﹁流れる=エラー﹂と思えば
いいのかもしれない。
※作者の大変分かりにくい説明ですが、誠に申し訳ございません。
﹁ココと、ココを繋いで⋮⋮で、打消しの魔法式をココに入れて⋮
⋮よし、これでOKだ﹂
﹁??? この魔法式は⋮⋮?﹂
フレイム
﹁リネアさんの︽炎︾を改良したものです。試しに撃ってみてくだ
さい﹂
言われるがままに、リネアが、俺の書いた魔法式通りに、魔法を
組み上げていく。
フレイム
﹁︱︱︱︽炎︾﹂
すると、先ほどとは、大きさも火力も桁外れの大きな、火が杖の
先から、激しく表れた。
﹁わっ!﹂
﹁そのまま、撃ってください、何かあったら私が責任を取ります﹂
﹁え、あっ、はい!﹂
882
ボンッと撃ちだされた火の球は、綺麗に真っ直ぐに校舎の方に向
かっていく。
﹁あっ!﹂
さっきの失敗を思い出したのか、火の球は、校舎よりもだいぶ手
前で、真上に急上昇をしていく。
﹁⋮⋮あれ?﹂
﹁成功ですね﹂
アサルトフレイム
我ながら良い出来だ。まあ︽誘導火炎弾︾の簡易版見たいなもの
だけどな。
火の球を消し、自分の杖を見つめるリネア。そして急に俺の方を
向き
﹁す、すごい⋮⋮ありがとうございます!﹂
礼を言ってきてくれた。
﹁いいえ、別に大したことではありませんよ﹂
と、その時、ゴーンと鐘の鳴る音が聞こえた。あっ、確かこれは
学校が閉まる音だ。
﹁あっ、いけない⋮⋮あ、あの本当にありがとうございます!﹂
﹁いいのですよ。ではこれで﹂
883
そう言って、俺らは別れると帰路に着いた。周囲は既に薄暗く町
の中央は、すっかり夜の街になっていた。
やれやれ、戻っても忙しい毎日だ。俺はそう思いながらエリラと
一緒に、家に帰って行った。
884
第70話:魔法式︵後書き︶
と言う事で、一気に5話連続投稿and新章に突入です。第1章
の最後の最後は、モヤモヤしましたが、今章は良い終わり方をした
いと思います。いや、させて見せます。
それにしても、思ったより疲れました。3日︵ほど2日で︶5話
とか無理があったのでしょう。私のライフはもうゼロです。
PCが壊れて励まして下さった方、取りあえずなんとかなって復
帰したときに、応援をしてくださった皆様。本当にありがとうござ
います。m︵︳ ︳︶m
これからも、異世界転生戦記シリーズをよろしくお願いします。
次回更新は12/9を予定しております。なお、明日12/8日
は特別話を投稿予定です。
同時に、明日は﹁更新一時停止のお知らせ﹂と﹁復活﹂を消させ
てもらいます。感想にも、﹁こういうことは活動報告でしてくださ
い﹂と言うコメントを貰いましたので、もしまたこんなことがあっ
たら、そうさせてもらいます。
では、次回からもよろしくお願いします^^
885
第71話:合宿?
﹁はぁぁぁぁぁぁぁ!!!﹂
ダンッと言う音と共に、一瞬で俺の目の前に移動してくるエリラ。
初めて出会った頃と比べると、速度も威力も桁違いだ。
エリラから繰り出される斬撃を、持っている訓練用の剣︵木刀︶
で弾き返していく。
今やっているのは、俺の家の庭で毎晩行っている実戦だ。
﹁そこっ!﹂
俺の剣とぶつかり合った瞬間、一気に速度を上げ、俺に強烈な突
きを与えようと踏み込んで来た。
だが、俺はその攻撃を僅かに、体を反らすことで回避をした。
エリラの剣が虚しく空を切る。だが、エリラもこんな事は想定済
みだ。そこから更にもう一歩踏み込み、右足を俺の顎めがけて振り
上げて来る。あの⋮⋮殺す気でしょうか? 普通の人だったら顎か
ち割れそうなのですが。
まぁ⋮⋮避けるのですが。
体を回転させ、エリラが動いている方向と同じ方へと体を傾ける。
エリラの蹴りは僅かに、俺に届かなかった。
そして、俺は倒れながら両手を地面に付けると、手を支点に、エ
リラの左足に自分の左足をかけ、そのまま地面と水平に蹴った。
886
エリラの体が前のめりになり、そのまま地面に激突。勢いは止ま
らず、そのまま前転。家の壁に盛大にぶつけようやく止まった。
⋮⋮その光景をみて﹁どこの喜劇だよ!﹂と突っ込みを入れたく
なってしまう。
﹁まだまだ!﹂
ムクッと起き上ると、そのまま再び俺に突進してくる。アレ? 何か呟いているような気がするのは俺だけでしょうか?
ウォーター・キャノン
﹁︱︱︱︱︽水砲撃︾!!﹂
気のせいじゃねぇじゃねぇか!
ポリゴン・ウォール
﹁︽多重防壁︾!﹂
間一髪で、俺の防壁が完成し、強烈な水の砲弾は魔力の壁にぶつ
かると、一瞬で弾け散った。
平然と、使っているが、あの︽水砲撃︾は強力だからな? コン
クリートなんか軽くぶち抜く強さだからな? 人に︵しかも訓練に︶
使っていいものではありません!
ウォーター・スライサー
﹁︱︱︽水流斬︾!﹂
続けざまにエリラは剣に水の刃を纏わせ、俺に叩き出してくる。
﹁炎龍型︽炎斬︾!﹂
887
それに対抗し、俺も剣に炎を纏わせ応戦する。
ドォンと言う音がまず初めに響き渡り、次に聞こえた音は水が蒸
発する音だった。俺とエリラの剣が交わっている場所からは、もの
すごい勢いで煙が吹き出している。
水対火。普通に考えれば火の方が不利だが。
﹁︱︱︱︱っらぁ!!!﹂
一気に魔力を注ぎ込み高熱にする。すると、先ほどまでせめぎ合
っていた水と火のパワーバランスが、一気に崩れた。
そして、水はすべて蒸発され、俺の火が一気にエリラに襲い掛か
る。
﹁っ!﹂
一瞬だけ、剣で踏ん張ろうとしたのか、エリラの動きが止まった
が火の勢いは止まらずに、そのままエリラは火諸共、後方に吹き飛
び、先ほど激突した壁にもう一度ぶち当たってしまった。
流石に、これはかなり堪えたのか、手を上げ降参の合図をだした。
﹁全く⋮⋮魔法は使っていいとは言ったけど、あんな強力なのを使
うなよ⋮⋮﹂
剣を︽倉庫︾に収めると俺はエリラが倒れてる方へと歩き出す。
﹁そうでもしないと勝てないでしょ⋮⋮まだ、本気出していない癖
に⋮⋮﹂
888
イタタタと言いながらエリラは体を起こすと、自分がぶつかった
壁に寄り掛かった。
﹁大丈夫か?﹂
﹁うん、大丈夫よ。それにしても相変わらずの強さね⋮⋮﹂
﹁正直、向こうでは剣を中心とした戦い方をしこたまさせられたか
らな⋮⋮﹂
﹁だからって木の枝で鉄の剣を真っ二つにするとか⋮⋮有り得ない
ってレベルじゃないわよ⋮⋮﹂
﹁ああ、︽瞬断︾の効果か﹂
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽瞬断︾
効果
・触れている物に魔力を込めることで、どんな物でも刃となる。魔
力を入れた分だけ、強度、切れ味が向上する。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
﹁はぁ⋮⋮、どうやったらそんなに強くなれるの?﹂
スキルのおかげですとは言えないし⋮⋮なんて言ようか。
﹁⋮⋮特訓?﹂
腕が粉砕されるレベル程度の特訓をやればだけど。
889
﹁⋮⋮そうだ、それよ!﹂
エリラがピンと来たというような顔をして。
﹁朝から夜まで強化トレーニングをしましょ!﹂
と言った。⋮⋮あの、あなたはどこの脳筋バカでしょうか?
﹁そうすれば、もっと強くなれるはず! クロ! お願い!﹂
﹁んなこと言われてもな、別にやるのはいいけど、サヤはどうする
んだよ?﹂
まあ、そう言いながらも多分エリラなら
﹁一緒にやるってのは?﹂
デスヨネー。そうなるよな。
﹁⋮⋮はぁ、別にいいけど﹂
﹁本当!? やったー﹂
あーあー、これで学校の図書館に行くのは暫くの間お休みだな⋮
⋮。
﹁じゃあ、明日サヤに聞いてみるか⋮⋮﹂
890
と、まあ次の日、学校に行って話をしてみると。
﹁⋮⋮参加する⋮⋮﹂
とのこと。 アレ? 俺、この世界に来てから脳筋ばかりしか会
っていない気がするのですが?
こうして、唐突に俺の家で急遽、特別強化合宿が始まった。
891
第71話:合宿?︵後書き︶
急遽始まった合宿。⋮⋮これ、よくよく考えたら飛んでもない、
レベリングの気がするのですが︵汗︶
次回更新は12/11を予定しております。
いつも応援、感想を書いてくださる方々へ。本当に感謝していま
す。感想などには極力全てに返事を書くように心がけておりますが、
もし私の確認ミスで返せれていなかったらスイマセン。
これからも頑張って書いていきますので、応援よろしくお願いし
ます。
では、最後にクロウの71話終了時点でのステータスをどうぞ。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
名前:クロウ・アルエレス
︻1290︼
︻51︼
種族:龍人族︵龍族・人間︶︻人族︼
レベル:347
筋力:100,770
生命:106,690︻1300︼
︻1700︼
︻2000︼
敏捷:102,310
器用:90,080
魔力:167,500︻1790︼
スキル
・固有スキル:︽理解・吸収︾︽神眼の分析︾︽龍の眼︾
︽千里眼:10︾︽絶対透視:4︾
892
・言語スキル:︽大陸語︾︽龍神語︾︽妖精語︾︽兎耳語︾
︽獣族語︾
・生活スキル:︽倉庫:10︾︽換装:10︾︽調理:8︾︽野営:
8︾
︽暗視︾︽マッピング︾︽魔法道具操作:9︾
︽家事:7︾︽演算:6︾︽商人の心得︾
︽ポーカーフェイス︾︽詐術:5︾︽探索:5︾
︽解析:7︾︽装飾技師︾
・作成スキル:︽武器製作:10︾︽武器整備:10︾︽防具製作:
9︾
︽防具整備:10︾︽装飾製作:9︾︽装飾整備:
9︾
︽錬金術:10︾︽SLG︾
・戦闘スキル:︽身体強化:9︾︽見切り:8︾︽気配察知:9︾
︽回避:9︾︽遮断:9︾︽跳躍:8︾︽六感:8︾
︽射撃:7︾︽罠:8︾︽不殺:10︾︽斬撃強化:
10︾
︽対人戦:10︾︽対龍戦:8︾︽威圧:8︾︽一
騎当千︾
︽絶倫︾︽動作中断︾︽瞬断︾︽力点制御︾
・耐性スキル:︽状態異常耐性:9︾︽火耐性:6︾︽水耐性:5︾
︽雷耐性:5︾︽悪臭耐性:2︾︽精神耐性:7︾
・武器スキル:︽二刀流:7︾︽細剣:10︾︽刀:10︾︽大剣:
10︾
︽槍:9︾︽投擲:7︾︽斧:8︾︽弓:8︾
893
︽クロウボウ:8︾︽鈍器:10︾︽盾:10︾︽
格闘:10︾
・魔法スキル:︽賢者の心得︾︽創生魔法:4︾
︽瞬間詠唱:6︾︽記憶:5︾︽明鏡止水:5︾
︽魔力支配:5︾︽特異魔法:5︾︽契約︾
・特殊スキル:︽龍の力:6︾︽意志疎通︾︽変化︾︽次元作成︾
︽門︾︽惑星創世︾
・特殊能力 :︽性質変化:4︾︽天駆:4︾︽咆哮:7︾
・ギルドランク:C
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
894
2014年:聖なる日の前に︵前書き︶
前置き回だと思って下されば、嬉しいです。
※この回は本編とは殆どかかわりがありません。
本編だけ見たい方は次へとお進みしても問題ありません。
895
2014年:聖なる日の前に
﹁寒いなぁ⋮⋮﹂
ここ最近、本当に冷えて来たと思う。俺がこの世界に戻って来て
から、初めての冬だ。
今日も、ベットから出るのが正直辛かった。
でも、こんな寒い日でも子供たちは非常に元気だ。フェイによる
ダイブ目覚まし︵俺命名︶も相変わらずの勢いだ。
さて、本日俺は自分の鍛冶屋に来ている。
エリラは、今日は着いて来ないでいいからと言って、半ば無理や
り家に置いて来た。ブーブーと言われたが、お菓子を買ってあげる
と言うと﹁いってらっしゃーい﹂と態度を一変。快く見送ってくれ
た。
鍛冶屋に響き渡る、金属の音。俺の周りには大量の材料が、そこ
らじゅうに散らばっていた。
金属を溶かし、インゴットを作り上げる。そこから︽錬金︾を使
い必要な形に仕上げていく。細かい円状の物から、細長い棒見たい
な物、への字に曲がっている物など、様々な形がある。
それらを組み合わせ、前もって作ってあったオリジナルの魔法式
がかかれた鉄の板をはめ込み、あとは魔力が流れる場所に、専用の
回路を付けてガラスをはめ込み完成だ。
896
﹁できたー﹂
出来たのは、俺らのいた世界で言う電球だ。これを今日は、50
0個ぐらい作る予定だ。一個作るのに大体1分程度だが、鉄鉱石か
ら鉄のインゴットを作り上げる方が大変だ。銅とかの数が足りなか
ったんだよな。
さて、何故電球? と言う人もいるだろうから説明をしておこう。
それは、今から一週間ほど前の事。
==========
﹁クリスマス?﹂
﹁はい、ちょうど来月にあるのですよ∼﹂
ここはエルシオンのギルドのカウンターだ。今日は依頼を取って
来ていたのだが、たまたまミュルトさんと会い、雑談をしていた。
それにしてもクリスマスって、こちらの世界にもあるんだな。
﹁へぇ、どんな事をしているのですか?﹂
﹁どこの家でも家族や仲の良い人たちでちょっとした、パーティを
開く程度ですけどね。でも、パーティなんて滅多にあるものではあ
897
りませんからね。あと、あると言えば正月ぐらいでしょうか﹂
﹁へぇ∼⋮⋮あっ、クリスマスってプレゼントとかあげたりするも
のなのですか?﹂
﹁基本的に、プレゼントをするのは誕生日で、後はありませんね。
クロウさんはあったのですか?﹂
﹁い、いえ、ただ何となく思ったので﹂
危ない、危ない。気を付けておかないと。クリスマスがあるって
聞いたから、てっきり日本と同じかなと思ったけど、やっぱり僅か
に違うのか。
でも、イベントは大事だよね。よし、家でもやるか。どんな感じ
なのかはエリラが知っているだろうから、基本は問題ないとして、
もう少し詳しく聞いておきたいな。
﹁もう少し詳しく教えてもらいませんか? 私は今までやったこと
無いので﹂
﹁え? でもエリラさんが知っているのでは?﹂
﹁彼女も、知っていると思いますが、色々な人から聞いた方がいい
かなと思い﹂
﹁いいですよ。そうですね︱︱︱﹂
その後、約1時間ぐらいかけて、ミュルトさんからクリスマスの
事を一通り聞いた。結論を言うと、パーティ見たいな事をすると言
898
うだけで、あとは何もないとのこと。ただ、この日に食べる物とか
はあるらしく、七面鳥みたいなのもあるみたいだ。ただ、クリスマ
スケーキが無いのは残念だった。やっぱりお菓子類は高価な物なん
だなと思った。
やっぱり、日本みたいなクリスマスはやらないか。俺も昔は﹁サ
ンタさんから貰った∼﹂とか言っていたな。
そうなると、日本式のクリスマスをやるっているのも面白そうだ
な。
俺は、取りあえず簡単な依頼を貰いギルドを後にし、家でエリラ
を待たしていたので、早足で戻る事にした。ちなみに依頼はすぐに
終りました。建物の解体を手伝ってほしいと言う依頼でしたので、
俺が風魔法で建物を綺麗に斬って解体してあげた。﹁私の出番は?﹂
とエリラが言っていたが、報酬も少し多めに貰えたので、許してほ
しい。
その日の夜。俺はベットの中で、クリスマスに何が必要か考えて
いた。
料理やその他、この世界のクリスマスに関することはエリラに任
せればいいとして、俺が準備するものは⋮⋮やっぱりクリスマスツ
リーかな? 家をライトアップすることも考えてみたが、それは流
石に目立つのでやめておこう。
クリスマスツリーを作るとなると、あの木ってどこで手に入るの
かな? まあ最悪、他の木で代用すればいいかな。
899
あとは、装飾品だよな。電球は⋮⋮雷系の魔法を元に作れるかな
? 色が出せるか分からないけど、やるだけやってみるか。
そして、やっぱりアレはいるよな。子供たちもいるこしだし、絶
対に必要だ。あと、クリスマスケーキも作るか。
よくよく考えてみれば、ケーキを作るのは初めてだな。昔一度だ
け作ったことがあるから問題はないはずだ。それよりも材料が集ま
るかどうかの方が不安なんだが。
まあ、やれるだけやってみますか。俺はもう決意し眠りに就いた。
==========
そして、現在に至る。
現在出来ているのは、クリスマスツリー用の木と電球50個。ケ
ーキ系はすべて集まった。試しに一度作ってみたが、問題なく出来
た。︽調理︾スキル万歳だな。
それにしても量が多い。これをコッソリと作り続けると思うと、
大変だ⋮⋮。まあ一番気大変なのはエリラに留守番をさせることだ
が。
﹁⋮⋮やばい、ちょっと後悔してきた﹂
正直、スキル無しでは絶対に無理だと思う。まだ一カ月ほどの余
900
裕があるにしても大変だ。
まあ、やると決めたから、やるのですけどね。
しかし、作業は思った以上に時間がかかり、途中でエリラにバレ
かけたりなど本当に大変だった。エリラにはクリスマスは家もパー
ティやるから、準備をお願いと料理系の材料の調達を押し付けて置
いた。取りあえず俺は﹁材料費を稼いで来る﹂とか適当な事を言っ
て逃げたりしていました。
道具も途中でクラッカーを思いついたり、ツリーの装飾品を追加
したりなど、結局作業が終わったのは、クリスマスの前日だった。
何本リポ○タを飲んだか分かりません︵泣︶
そして、いよいよクリスマス夜を向かえた︱︱︱
901
2014年:聖なる日の前に︵後書き︶
当日談は、12/25に掲載します。少し間がありすぎるかなと
少し反省しております。
902
第72話:やり過ぎないでね︵前書き︶
今回は短いです。理由はあとがきにて
903
第72話:やり過ぎないでね
﹁⋮⋮⋮と言うわけで何故か家で合宿が始まりました﹂
﹁いえーい﹂
﹁⋮⋮⋮宜しくお願いします⋮⋮⋮﹂
⋮⋮⋮なんでだろう。二人ともモチベーションは同じはずなの
に物凄い温度差を感じる。
一昨日の俺の一言で急遽決まった合宿。サヤも一発OKだった
のはいいが、問題はどうやって来させようかだった。往復で2週間
ディメイションゲート
かかってしまうので、2週間しか特訓出来ないなと思い考え付いた
のが︽移動門︾を使っての移動だ。
ただ、アレは他人から見られたら不味い代物なので、サヤには目
隠し&一切他言をしないと言う条件で使った。一瞬でエルシオンに
たどり着いた時に放った一言が﹁⋮⋮人間⋮⋮⋮?﹂だった。あの
泣いていいでしょうか?
まあ、それはさておき。サヤとエリラには二人で実践形式で戦
ってもらう事にした。俺が戦っても良いけど、どうせならこの二人
に戦わせたら面白そうだなと思い、やらせて見ることにする。
日中は休憩を挟みながらの実践。夜は魔法式の勉強。魔法の勉
強にはサヤも参加するとのこと。
ただ、サヤは使える属性魔法が今の所ゼロなので、身体強化の
やり方を中心に教え、余った時間を使って新たな魔法の習得を目指
904
そうと思う。
﹁あっ、前もって言っておくけど、マジでやり合うなよ?﹂
﹁分かっているわよ﹂
﹁⋮⋮⋮承知⋮⋮⋮﹂
﹁じゃあ、俺は用事で抜けるけど無茶はしないようにな﹂
そう言って俺は、庭を後にした。しばらくしたら遠くから爆音
が鳴り響いて来たが、アレは何かの聞き間違えだと思う。いや、思
いたい。
﹁今日もやっているのですね﹂
﹁あっ、クロウさん。こんにちは﹂
今日は学校は休みなのだが、学校は基本的に生徒が自習出来る
よに解放されている。だが、俺らの世界でもそうだったが、来てい
る生徒は極僅だ。
この前、リネアと出会って聞くとほぼ毎日ここで練習している
とのこと。だから、俺も彼女を手伝ってあげることにした。決して
905
下心からじゃないからな?
ノ
ただ、裏で頑張っている人を見ると、
コトバ
ハ
ドコイッタ⋮⋮⋮
これって下心
手伝いたくなってしまうだけだ。教えて覚えてくれたときは、本当
サッキ
に嬉しい。それがかわいい子ならなお⋮⋮⋮アレ?
だよね?
ただ、一つ謎なのは、彼女を手伝っていると、必ず誤射が生じ
るのだが、それが必ず俺かリネアに当たりかけるのだ。
まあ、すべて︽防壁︾で防いでいるのですが。そのたびに﹁は
わわわ、すいません!﹂と言って謝ってくる。食堂に行ったときに、
誰かが言っていた﹁不幸オーラ﹂が妙に引っ掛かる。まあ確か、俺
が防いでいなかったら何回もケガをしてしうだけどね。
彼女も最初は手伝おうかと聞くと﹁迷惑をかけるので、いいで
すよ﹂と断って来たが
906
第72話:やり過ぎないでね︵後書き︶
あははーPCが調子をある程度取り戻した矢先。
また、OSが立ち上がらなくなりました。orz
もう⋮⋮⋮このPC交換してもらっても良いと思うんだ⋮⋮⋮
︵´・ω・`︶
HDのどこかが、緩んでいるのでいるのでしょうか。学校の先
生に聞いたら﹁向こうの人に聞いてみます﹂とのこと。
せっかくアクセス数が4,000,000越え。ユニーク数も
500,000人を突破して、心の中ではお祝いムードでしたのに。
︵この二つが突破したのは大分前の事でしたが報告していませんで
した︶
次回更新は未定です。PCの調子が戻れば、12/13に投稿
したいと思います。
⋮⋮⋮PCよ、私が何をしたというのだ⋮⋮⋮︵´・ω・`︶
907
第73話:新しい魔法
﹁もっと色々なの見たかったなー︵チラッ﹂
﹁新作みて!﹂
⋮⋮という感じになって、手伝う事になった。実際の所俺も勉強
させられる。こんな書き方もあるんだなと思うのをいくつも見るこ
とが出来た。リネアのを見て、俺も新しい魔法を作ったり、改良を
加えたりした。
リネアは魔法研究が好きなんだろうな。普段は物静かのイメージ
があるが、魔法の事を話す時だけはまるで人が変わったかの様に、
よくしゃべる。
ただ、誤射は減らな︵ry
﹁で、ここをこう変えれば⋮⋮﹂
﹁あっ、それならこうはどうでしょうか?﹂
﹁あっ、じゃあそれをさらにこうして⋮⋮完成だな﹂
﹁はい、早速いいですか?﹂
﹁勿論﹂
908
ファイヤー・ボール
リネアは俺と十分な距離を取るために、中庭の中央に向かって走
エリア・ショット
アサルトフレイム
って行った。今回、リネアが作ってきたのは、︽火球︾の上位互換
︽広・火弾︾だ。俺の持っている︽誘導火炎弾︾と似ているが、彼
女のは撃ちだされた後、対象者に直接向かうのではなく、四方に広
がるように撃ちだされる。そして、ある程度進んだ後に、全方位か
ら一斉に火球をぶつける魔法だ。狭いところでは威力を発揮しにく
いが、十分に開けた場所で使えばかなり有効な技となる。
さらに、この魔法は対一用に出来ているので、魔力消費も少ない。
俺の︽誘導火炎弾︾に応用すれば魔力の使用量削減に繋がるな。
中庭の中央でリネアが詠唱を開始した。ターゲットは用意してい
ないので、地面の一点に向かって撃つことになる。
不思議なことに、ここの中庭の地面は一面、芝生で覆われている
のに何故か、芝生が燃えないのだ。例え火を放ち燃やしても、何事
も無かったかのような綺麗な芝生に生え変わるのだ。どういう構造
だよ⋮⋮。
エリア・ショット
﹁︱︱︱︱︱︱︽広・火弾︾!﹂
リネアの目の前に、直径2メートル程度の赤い魔法陣が現れた。
そして、魔法陣からバスケットボール程の大きさの火の球が、大量
に飛び出していく。その数20。
そして、狙った辺りの地面を囲むように広がっていく。速度こそ、
遅いが闘技場みたいに広い場所or移動できる範囲が限られて来る
場所では、立ち回りをミスすれば逃げ場を失ってしまうに違いない。
火の球が十分に拡散した所を見計らい。
﹁︱︱︱制!﹂
909
リネアが一声上げる。すると、先ほどまで、広がるように移動し
ていた火の球が一斉に向きを変え、地面に向かって、突入をしだし
た。
最初の火の球が着弾し、それに続くように次々と地面にぶつかっ
ては火の粉を巻き上げていく。
やがて、全ての球が着弾し終え、辺りに焦げ臭い匂いが広がって
来る。ただ、その匂いも数秒後には、何もなかったかのように、風
に流されていった。
﹁⋮⋮出来ましたぁ!﹂
ピョンピョンと跳ねながら、笑顔でリネアが戻って来た。
﹁すごいですね! 詠唱を二段に分ければ、途中で意識的に向きを
変えることが出来るなんて、初めて知りました! これで、今まで
追尾型は一個しか撃ちだされなかったのが、数多く撃ちだせるよう
になります!﹂
お、おう、すごい喋るな⋮⋮。
﹁⋮はっ! す、すいません⋮⋮つい⋮⋮﹂
﹁いえいえ、別に構いませんよ。リネアさんの気持ちは分かります
から﹂
頭を下げて来るリネアに、顔を上げるように俺は言った。
﹁⋮⋮それにしてもクロウさんは、色々な事を知っていますね?﹂
910
﹁私もこういう事は好きですから、昔から良くやっていたのですよ﹂
C言語などのプログラミングからだけど。
﹁⋮⋮私も追いつけるように頑張ります﹂
いつもの落ち着いた雰囲気でリネアは言ったが、目は闘志に満ち
溢れていた。なんでこの世界の女性は、こんなにも逞しいのだろう
かとつくづく実感する。
ふと、家で特訓中のエリラとサヤの顔が思い浮かんだ。あの二人
もジャンルは違っても同じような感じだよな⋮⋮。
そういえば、家を出る前に爆音が聞こえたけど、それは大丈夫だ
ったのかな⋮⋮今になって急に不安になって来た。
ステータスでは圧倒的にエリラの方が有利だけど、それを消して
しまいそうな雰囲気をサヤは持っているからな⋮⋮。
帰ったらボロボロになって伸びきっている二人を容易に想像でき
てしまう。
﹁⋮⋮時間も時間ですので、今日はここまでにしましょうか﹂
俺は唐突に切り出した。時間は昼頃と言った所か。休日の学校は
昼間までしか開いていないので時間的には丁度いいのだが、それ以
上に家が心配だ︵主に、周りの建物や獣族たちなどの事が︶
﹁は、はい、今日もありがとうございます﹂
リネアはペコリと頭を下げた。なんか日本人見たいな所あるよな
⋮⋮。まあ礼儀正しいと言う事でいいか。
911
﹁じゃあ、かえr︱︱︱﹂
俺がさようならをしようとした瞬間
﹁そこの君たちまってくれたまえ!﹂
﹁﹁?﹂﹂
声のした方を向くと、白い衣装に身を包んだ少年が、クルクル回
りながらこちらに向かって来た。その後ろには何人いるのか分から
ないぐらいの女子が、クルクル回っている奴を﹁キャー﹂と言いな
がら追いかけて来ている。
⋮⋮あっ、これ絶対に面倒な奴だ。
俺は、その場から全力で逃げたくなった。
912
第73話:新しい魔法︵後書き︶
と言う事で、本来ならここまでが第72話の内容です。本当に申
し訳ありません︵土下座︶
PCの調子は相変わらずの不調ですが、一応生きているので使っ
ております。
それにしても電源を入れてロゴマークが出て、そこから動かない
って一体どういう状況なのでしょうか⋮⋮。
昔、ゲームボーイで電源を入れたら任○堂が出てこなくて、そこ
で止まってしまう事が多々ありましたが、あの状況と同じなのでし
ょうか?
情報処理系の学校に行きながらも、全く分からないのが悲しくな
ってきます︵泣︶
くっ、負けませんよ!
感想で励まして下さった皆様。本当にありがとうございます。皆
さんのおかげで書きかけたデータが吹っ飛んでも、﹁読みたい人が
いる﹂と思って、更新できています。本当に感謝しています。
これからも異世界転生戦記をよろしくお願いします。
次回更新は12/15を予定しております。
︵※ただし、PCが調子良ければの話ですが︶
913
第74話:その涙
﹁⋮⋮行こう﹂
﹁⋮⋮そうですね﹂
謎のダンサー︵?︶を無視して回れ右。
﹁無視かい? だがそれがいい!﹂
⋮⋮Mですかあなたは? てか、何で普通︵?︶の芝生でアイス
スケートのスピンが出来ているのですか!? あんたどういう原理
で回っているんだよ! あと、こんな気持ち悪い奴にキャーキャー
言ってる奴らもうるせぇ! ﹁ねぇ、ねぇそこの不幸ちゃぁん!﹂
謎の少年がクルクル回りながら近づいてくる。酔わないのかなあ
れ⋮⋮。てか不幸ちゃん? リネアの事か?
﹁知り合い?︵ボソボソ﹂
﹁いえ⋮⋮ですが、彼は今年に入って来た三人衆の一人だったはず
です︵ボソボソ﹂
﹁三人衆?︵ボソボソ﹂
﹁今年入って来た優秀生の中でさらに上位3人につけられたあだ名
914
です︵ボソボソ﹂
ああ、あの凄い奴らとか言っていた奴の一人か⋮⋮残念な奴だな。
俺らと残り3メートルぐらいの所で、スピンをやめ
﹁君、さっきすb⋮⋮まって、吐いちゃいそう!﹂
予想通り。地面に四つん這いになって、悶えている少年の周りに、
先ほど追っかけていた女子たちが群がる。キモイ。こいつもキモイ
が、周りの女子たちも群を抜いてキモイ。こんな奴のどこがいいの
だろうか? 確かに顔立ちはスッキリとして、イケメンかもしれな
いが、こんな残念な行動を見せつけられたら、ドン引きするしかな
いわ。
※この世界の学校は入らなくてもよく、いつ入っても構わない。そ
のため、同じ学年でもかなりの年の差がある事もしばしばあるとの
こと。
﹁よし、もう大丈夫だ! 君、さっき素晴らしい魔法を使っていた
ね。是非教えてよ!﹂
復活した瞬間に、行き成りリネアに魔法を教えてくれと迫る謎の
ダンサー。
﹁い、いえ、そ、それは⋮⋮﹂
リネアが解答に困惑している。チラッとこちらに目線を動かし﹁
どうしよう﹂と目で訴えて来る。はぁ⋮⋮仕方ない、助けますか。
915
﹁お断りします﹂
俺はリネアの前に立ちはだかるように割り込む。
﹁ん? 君は誰だい? 君のような男には興味無いのさ!﹂
キラキラオーラを放ちながらさりげなく、どけよと言う感じの言
葉を放ってくる。
﹁もしかして、不幸ちゃんのボーイフレンドかい? HAHAHA
HA∼それは済まなかったね﹂
いや、違うし、つーかまず話を聞けや。
﹁心配しないでいいさ、僕が興味あるのは彼女が使った魔法だけだ
よ﹂
サラッとリネア自身には興味ない発言をしやがったな。
﹁そーだーそーだー﹂
﹁セルカリオス様の邪魔するんじゃないわよ!﹂
﹁そこを、どきなさいよ!﹂
後ろの女子たちも援護攻撃を仕掛けて来る。女子の発言の中から
目の前にいる、ナルシスト野郎の名前はセルカリオスと言う事が分
かった。
つーか、君たち関係ないよね?
916
﹁まあ、そういう訳さ! という訳でどいt︱︱︱﹂
﹁断ります!!﹂
頑固として動く気はない俺。俺の後ろで﹁どうしよう⋮⋮私のせ
いで⋮⋮﹂とオロオロしているリネアの声が聞こえる。
﹁第一、他人からオリジナルの魔法を聞き出すのはマナー違反です
よね? 冒険者⋮⋮いえ、学校でも暗黙の了解のはずです﹂
﹁ノー! それは普通の奴らだからさ! 僕は、世界で一番カッコ
良くて、美しいセルカリオス! そんな私に常識など通じないのね
!﹂
﹁その通りよ!﹂
﹁﹁そーだーそーだー﹂﹂
うわっ、こいつ想像の斜め上⋮⋮いや、別次元にかっ飛んでいる
レベルのナルシスト野郎だった。そしてさりげなく、女子sの援護
攻撃もうざい。
﹁はぁ⋮⋮じゃあ、この魔法を共同で作った私から言わせて貰いま
す。この魔法をあなたに譲渡する気はありません!﹂
﹁おー、そうかい!﹂
おっ、諦めたか?
﹁でも、残念ながら僕は君には聞いていない! 僕が聞いているの
917
は後ろの不幸ちゃんだよ! さぁ、答えを聞かせておくれぇ!﹂
違った⋮⋮一瞬でも、物分りの分かる奴と思った俺がバカだった。
どうしようか、と俺が思っていたその時、今まで俺の後ろに隠れて
いたリネアが前に出て来た。そして、スゥと息を吸うと。
﹁お、お断りします!﹂
と、言った。
﹁オー何でだい?﹂
﹁これは、クロウさんと作った魔法です。クロウさんが教えないと
言うのであれば、私も教えません!﹂
﹁⋮⋮と、言っていますが?﹂
これで、教えてもらう筋合いはもうないはずだ。俺はそう思った
のだが、残念ながらこのナルシスト野郎には常識と言う言葉は無い
ようです。
﹁何を言っているのかい、君みたいに、魔法で他人に誤射してしま
う様な人物に使われるなんて、魔法もきっと泣いているさ、それよ
りも魔法も出来て、なおかつイケメンの、この僕が使うべきだと思
わないかい?﹂
﹁﹁そーだーそーだー!﹂﹂
﹁っつ! ⋮⋮﹂
918
顔を下に向け、歯を食いしばるリネア。言いたいことは山ほどあ
るだろう。だが、数の暴力&理不尽すぎる考えの前に、沈黙をして
しまった。
⋮⋮もう⋮⋮怒っていいよな?
﹁さぁ、おしえt︱︱︱﹂
﹁失せろ﹂
﹁ん? そこのボーイ何かいっt︱︱︱﹂
﹁失せろと言ったんだよ⋮⋮﹂
︽威圧︾をばら撒きながら、俺はリネアの肩をポンッと叩いた。
﹁大丈夫ですか?﹂
俺がそう、声をかけると彼女の顔が上がった。顔を上げた彼女の
目には涙が浮かんでおり、それでもまだ我慢しているのが分かった。
﹁おー、君には聞いていないって言っただろ!?﹂
俺の威圧を受けているにも関わらず、余裕綽々のナルシスト野郎。
後ろの女子達は流石に、気付いたのか俺の︽威圧︾を前にジリジリ
と後退をしている者もいた。
だが、何人かは今だに、ナルシスト野郎の後ろで﹁はぁ? なに
怒ってるの?﹂と言った顔で俺を見ていた。
⋮⋮こいつら、良く平然としてられるな⋮⋮。余程自身に満ち溢
919
れているか、または威圧すらも感じられないアホなのか⋮⋮まあ、
そんな事はどうでもいいか。
﹁はぁ? そんな事知らねぇよ⋮⋮。さて、答えろ⋮⋮ここで病院
送りにされるか、それとも尻尾を巻いて逃げるか⋮⋮どっちかを選
べ﹂
﹁何を言っているのかい? そんなの決まっているじゃないですか
! ことわr︱︱︱﹂
ナルシスト野郎が完全に言い終わる前に、俺は︽倉庫︾から︻漆
黒・改︼を取り出しナルシスト野郎の首筋に刃を立てた。
﹁答えろ、先に言っておくがハッタリとかじゃないからな⋮⋮﹂
その時になって、ようやくナルシスト野郎の後ろにいた女子たち
も退きだした。だが、肝心の張本人はぞ若干顔を引き攣らせながら
も、未だに退く様子は無いようだ。
﹁オー、そんな事やっていいかい? 僕は沢山のフレンドがいるん
だよ? 噂になるだろうね﹁不幸ちゃんと付き合っている、暴力男﹂
ってね﹂
チッ、面倒な事をやりやがって⋮⋮俺はどうでもいいが、そんな
事をやればリネアの立場も危ない。どうしようかと思い、思わずリ
ネアの方をチラッと見た。
まだ、半泣き状態だった彼女の視線と合った。視線を向けられて
も困るよな⋮⋮と俺は思った。
彼女は俺と目が合うと目を瞑った。一瞬﹁逃げた?﹂と思ったが、
920
次の瞬間彼女が、そっと近づき俺の後ろに回りこむと、刀を握って
いない反対側の手をそっと両手で握って来た。そして、俺だけに聞
こえるかのように、ボソッと呟いた。
﹁⋮⋮クロウさんに全てを託します⋮⋮﹂
その言葉を聞いた俺は、一瞬、思考が完全にストップしてしまっ
た。思わず後ろに回った彼女を見る。彼女は、涙も拭かないまま俺
に笑顔を見せ、そして何も言わずに頷いた。
その顔を見たとき、俺の中で何かが吹っ切れた。
もう、何も言わなかった。
次の瞬間、俺の右足がナルシスト野郎の横腹を捉えていた。
﹁!?﹂
捉えたと同時に、ミシッと言う感覚が足に伝わって来る。だが、
特に気にすることもなく、俺はそのまま振りぬき、ナルシスト野郎
を吹き飛ばした。
ナルシスト野郎は吹き飛ばされるとそのまま、中庭の真ん中から
校舎すれすれの場所にまで吹き飛んでいき、ツーバウンドほどして
ようやく止まった。
﹁⋮⋮失せろ。テメェの顔なんざ見たくもねぇよ⋮⋮﹂
吹き飛ばされて行ったナルシスト野郎のもとに女子達が駆けつけ
る。女子達に支えられナルシスト野郎はよろよろと立ち上がると。
921
﹁ぼ、僕に歯向かった事を後悔するがいい! 覚えておくがよい!﹂
と、捨て台詞を吐きながら、女子の肩を借りながら去って言った。
逃げ際に何人かの女子が、中指を突き立てて来たが、すべて︽威圧
︾で沈黙させた。
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
先ほどまでの事が、まるでなかったかの様に中庭は静まり返って
いた。
﹁⋮⋮スイマセン⋮⋮﹂
俺はリネアに向きなおると真っ先に、頭を下げて言った。
﹁⋮⋮こちらこそ⋮⋮本当に何て言えばいいのか⋮⋮巻き込んでし
まって⋮⋮﹂
﹁巻き込んだのはこちらの方です⋮⋮すいません⋮⋮どうしてもリ
ネアさんがあんな事言われるのが許せなくて⋮⋮﹂
﹁いえ⋮⋮また⋮⋮私のせいなのでしょう⋮⋮﹂
﹁? どういう事ですか?﹂
思わず顔を上げて問いかける。
922
﹁私⋮⋮自分で言うのもなんですが、物凄く運が悪いのです⋮⋮そ
れも自分だけならまだしも、それが周囲にいる他人も巻き込んでし
まうのです⋮⋮木の下にいれば、上から枝が落ちてきて怪我をした
り、魔法の授業でも失敗したら周りの人に飛んでしまう⋮⋮。いつ
もの事です⋮⋮﹂
⋮⋮それが、不幸と言われた理由か⋮⋮。
﹁それで⋮⋮友達もいなくて⋮⋮でも、あの時クロウさんが助けて
くれて⋮⋮大好きな魔法の事も手伝ってもらえて、誤射をしても笑
顔で許してくれて⋮⋮うれしかった⋮⋮﹂
いつの間にか、彼女の目に再び涙が溢れていた。
﹁でも⋮⋮結局⋮⋮また巻き込んでしまって⋮⋮本当にごめんなさ
い⋮⋮私っていない方がいいn︱︱︱﹂
その時、俺は彼女の頭にそっと手を乗せた。
﹁えっ⋮⋮﹂
﹁そんな事を言わないでください⋮⋮誰もいなくていい人なんかい
る訳ないじゃないですか﹂
﹁でも⋮⋮こんな私だから⋮⋮親にも見捨てられて⋮⋮誰も⋮⋮誰
も私の事なんて⋮⋮必要と⋮⋮し⋮⋮な⋮⋮い⋮⋮﹂
彼女はそこまで言うと我慢の限界だったのか、遂に顔を下げ両手
で顔を隠してしまった。手の隙間から嗚咽が微かに聞こえて来る。
923
﹁必要としている人なら目の前にいるじゃないですか﹂
﹁⋮⋮えっ?﹂
リネアの顔が上がり、涙ですっかり残念になってしまっている顔
が露になった。
﹁私は必要としていますよ﹂
励ましでも嘘でも無い。俺が本当に思っている事を言った。彼女
がいつも書いてくる魔法式には驚くばかりだ。彼女のお蔭でどれく
らいの魔法が改良されて、新しく作られただろうか。
こんな人を必要としないなんて間違っている。
﹁だから自分に必要ないなんて言わないで下さい﹂
彼女の目が、俺をジーと見つめてくる。そして一言だけ言った。
﹁⋮⋮ありがとう⋮⋮﹂
俺は、その言葉を聞くと、リネアをそっと手繰り寄せた。リネア
は嫌がる素振りを一つもせずに、むしろ自分から俺の胸元に顔を沈
めて来た。
﹁⋮⋮泣いていい?﹂
顔を埋めたままリネアが聞く。
﹁⋮⋮ええ、好きなだけ﹂
924
その後、しばらくの間彼女は静かに泣き続けていた。
925
第74話:その涙︵後書き︶
甘い! 自分で書いて感じておりましたが、口の中が砂糖で溢れ
かえっております。ブラックコーヒーをペットボトルで下さい!︵
まあ、私はブラックは飲めないのですが⋮⋮︶
それにしても、書き始めた当初はハーレム要素なんて、ないだろ
うなぁと思っていたのですが、いつの間にかあちこちでフラグが乱
立しまくっております。私はどこで道を間違えたのでしょうか︵汗︶
まあ、これはこれでいいのですが、私が書くたびに悶える事以外
は。
PCは相変わらずですが、まあ⋮⋮頑張っていきます。いつも応
援・感想を書いてくださる皆様、本当にありがとうございます。m
︵︳ ︳︶m
次回も頑張って書いていきます^^
次回更新は12/17を予定しております。
926
第75話:やり過ぎだ︵前書き︶
今回も短いです。理由は⋮⋮⋮もう察しておられるかもしれません
が。
詳しい事は後書きにて。
927
第75話:やり過ぎだ
﹁⋮⋮ありがとう⋮⋮もう大丈夫⋮⋮﹂
﹁わかりました﹂
リネアの顔が俺の腕の中から離れた。リネアの顔にはまだ、流
した涙の跡が残っていた。しかし、その表情は雲っておらず明るく、
笑顔だった。
﹁本当にありがとう﹂
改めてリネアは頭を下げ、お礼を言った。
﹁いえ⋮⋮私が悪かったのに﹂
﹁そんなことありませんよ。私の方こそ巻き込んでしまってごめん
なさい﹂
﹁うーん⋮⋮分かりました。ではお互いにすいませんと言うことで﹂
﹁⋮⋮分かりました﹂
ふぅ⋮⋮これ以上同じ事を繰り返す訳にも行かないし、仕方な
いよな。
﹁でも、あの人の言った事が本気なら⋮⋮⋮﹂
928
﹁私は特待生ですから、学校に来なくてもいいですが、リネアさん
はそういう訳には行きませんよね?﹂
﹁⋮⋮いえ、もう慣れていることですから⋮⋮﹂
慣れているか⋮⋮俺はいじめたり、いじめられたりした事が無
いからよく分からないが、慣れるものなのかな?
もしかしたら強がっているだけかもしれない。
はい?﹂
﹁⋮⋮リネアさん﹂
﹁?
﹁もし何かあったら私に相談して下さい。力になります⋮⋮いえ、
ならせてください。リネアさんばかりに辛い思いをさせたくないの
です﹂
﹁⋮⋮⋮はい、その時は宜しくお願いします。⋮⋮⋮では、いきな
りですいませんが⋮⋮⋮﹂
﹁はい、なんでしょうか?﹂
﹁また⋮⋮⋮明日も⋮⋮⋮魔法の練習を手伝ってもらえますか?﹂
と、思ったが彼女がそう言うならそうだと思いた
薄紫色のつぶらな瞳が、俺の返答を待っていた。そんなことで
良いのかな?
い。
当然、俺の返答は決まっている。
﹁もちろん。喜んで手伝います﹂
929
ありがとうございます!﹂
その答えに、彼女の顔が一気に明るくなる。
﹁本当ですか!?
ああ、やっぱり魔法が好きなんだな。
この様子を見ると、手伝ってもらえるのか、心配だったのだろ
う。
宜しくお願います!
では、帰って早速研究してきま
﹁では、明日もまたいつもの時間に⋮⋮⋮﹂
﹁はい!
すので、これにて!﹂
﹁あっ、ちょっ⋮⋮⋮﹂
陸上選手顔負けの速さだよね
俺が呼び止めようとしたが、彼女は物凄い速さで去って行った。
てか、そんなに速く走れたの!?
!?
あとに一人取り残される俺。悲しくなって来そうです。
﹁⋮⋮⋮まっ、いいか﹂
彼女が元気になったのなら。
さて、俺も戻ってあいつらの方を見るとするか。
930
﹁はぁ⋮⋮⋮どうしてこうなったんだ?﹂
地面に横たわるエリラとサヤ。全身ボロボロになっており、見
えては行けない部分まで露になっているほどだ。︵どこがとは言わ
ない、ヒントはえr⋮⋮⋮ゲフンゲフン︶
﹁マジでやりあうなと言ったよな?﹂
﹁ごめん⋮⋮途中からマジになってしまって⋮⋮⋮﹂
エリラは治癒魔法が使えただろ?﹂
﹁はぁ⋮⋮まさか本当にやるとは⋮⋮てか、なんで治療しないんだ
?
﹁⋮⋮⋮無理⋮⋮⋮魔力が⋮⋮⋮底を尽きた⋮⋮⋮﹂
魔力ゼロになるまでやりあうなよ⋮⋮⋮それはもう訓練と言う
大丈夫ですか?﹂
名の実戦じゃねぇか⋮⋮⋮。
﹁⋮⋮⋮サヤさん?
931
﹁⋮⋮⋮一応⋮⋮⋮でも⋮⋮⋮動けない⋮⋮⋮﹂
よーく見ると、サヤの右足の脛あたりの本来は曲がらない箇所
があらぬ方向に折れている。
エリラも、左腕の一部が黒ずんで、腫れ上がっている。どう考
えても折れてますね。
と言うか二人とも指では数えきれないほどの怪我をしている。
二人とも大怪我す
あっちの世界︵日本︶だったら意識不明の重体でもおかしくないレ
ベルだと思うんだが。
何をどうすれば、ここまでなるんだよ!
るまでやめなかったのかよ!
﹁⋮⋮⋮はぁ⋮⋮⋮取り合えず治療するか⋮⋮⋮﹂
その後治療をした俺は、二人にしっかりと説教をした。無駄に
疲れてしまった俺は、その日の授業を取り止め、さっさとベットに
潜りました。
932
第75話:やり過ぎだ︵後書き︶
はい、PCがおかしくなりました。なんかもう状況がよくわか
りません。明日にでも先生に相談をします。
でも、今、修理に出したら届くのは年明け⋮⋮⋮︵T0T︶
そこで、大変申し訳難いのですが、更新頻度を一時的に不定期
かつ、量を減少させてもらいます。︵停止ではありません︶
今回はコメント返しは中断しません。携帯からですが、出来る
限り返して行きたいと考えています。
スマホでも速く打てればいいのですが、これが今の限界速度で
す。
出来る限り書いて行きたいと思いますので、これからも宜しく
︳︶m
お願いします。
m︵︳
933
第76話:誤射の行方は
翌日の暮れ。学校の中庭の隅っこで俺は地面に座り込んでいた。
ちょっと前まで、放課後だけあって生徒が自主練習をしていた
が、その姿も無くなり、静かになり始めていた。
﹁クロウさん!﹂
何か悪戯さ
俺に声をかけてきたのはリネアだった。ざっと見た感じ外傷な
ど無い様子だったので取り合えず一安心かな?
﹁待ちましたか?﹂
﹁いえ、全然。それよりそちらは大丈夫でしたか?
れたりは⋮⋮﹂
﹁はい、何もありませんでしたよ。ちょっと陰口を叩いてくる人は
いましたが。﹂
﹁そうですか⋮⋮﹂
予想はしていたけど、やっぱりそう言うことになったか。何か
してあげたいけど、俺が下手に介入すれば、状況を悪化させかねな
いからな⋮⋮。
﹁⋮⋮そんな顔をしないで下さい。もう済んだ話ですよ﹂
表情が雲っていたのだろう。リネアが心配そうな目で俺を見て
934
きた。
﹁あっ、すいません﹂
﹁いえ、それよりも早く始めましょう。今日はこんなのを書いてき
たのですが﹂
そういいながら彼女が、持っていた鞄の中から、大量の紙を取
り出した。つーかどれくらいあるんだよ⋮⋮。どう考えても50枚
はあるぞ⋮⋮。
この世界では紙は結構高価な分類に入る筈なんだが⋮⋮。
一つの魔法式を書くのに紙は半分も使わない。だが、それはあ
くまで基本型の魔法の場合だ。
複雑な魔法式を書こうとするなら、最低でも1ページ丸々必要
だ。
まぁ、何故そんなに必要かと言うと、魔方陣の形で書くからな
んだが。
円形が基本で、それに沿って魔法式を書き込んでいき、さらに
それを繋いで行く。
口で言うのは簡単だが、少しでも書き間違えれば余分な魔力を
使ってしまう魔法になったり、暴発、誤射を招いてしまう。
さらにそこにイメージが加わって来るので、この世界の魔法は
面倒だなと思う。
さて、今回彼女が作ってきたのは、火を凝縮して小さな弾丸と
して撃ち出し、衝突と同時に大爆発を起こすと言う魔法だ。
935
フレイム・マグナム
俺の︽炎銃撃︾と同じ代物か。
﹁結構危ない魔法ですね⋮⋮﹂
俺も使った時は、鉄並みの強度がある城壁をぶっ飛ばしてしま
ったもんな。︵第7話参照︶
﹁気をつけて下さいね。万が一の場合は何とかしますので﹂
﹁分かりました⋮⋮ありがとうございます。いつも⋮⋮﹂
﹁いえ、大した事ありませんよ。では試しに撃ってみましょう﹂
﹁はい﹂
リネアが中庭の中央に向けて手を出す。詠唱を開始すると、リ
ネアの手のひらに赤色の魔方陣が現れた。
と、その時、中庭の奥の校舎付近で、誰かが歩いているのが見
えた。少年かな?
と言ってもリネアが、放とうとしている方向とは、90度以上
ずれているのだが。⋮⋮⋮あっ
﹁まtーーー﹂
だが、言うのは一歩遅かった。
﹁ーーーーーーーー︽炎撃︾﹂
ボッと言う音と共に、小さな火玉が魔方陣より生まれ、そして
936
打ち出された。
だが、その火玉は真っ直ぐ飛んで行かず、あろうことか歩いて
いた通行人の方へと飛んでいってしまった。
完全な誤射である。失敗したのだ
﹁危ない!﹂
俺は叫びつつ、火玉に追い付く為に移動を開始した。
俺の声が聞こえたのか、少年がこっちを振り向き、飛んでくる
魔法に気付いた。
リネアも少年に気付いて、避けてと叫んでいる。
少年は、えっと言う顔をしており、状況が飲み込めていないよ
うだ。
そんな少年に火の玉は問答無用で、飛んでいく。
少年が状況を理解した時には既に目の前まで、飛んできていた。
﹁っと、運がないのを忘れていたよ﹂
俺はそう言いながら少年の前に立つ。本来なら、防壁を展開し
たいところなんだが、この距離では、展開するよりか先に俺に魔法
が当たってしまう。いくら無詠唱でも、俺の脳が追い付かなかった
ら意味無いしな。
﹁あーあー⋮⋮﹂
思わずため息が漏れる。あーあーこれなら魔力支配を使えばよ
かったな⋮⋮⋮。
937
あれを使わなかったのは、見たら絶対リネアが食い付くからだ。
俺は自分の左手を前方に突き出した。
﹁⋮⋮なら、受けるか﹂
次の瞬間、ボンォンという爆音が辺りに響き渡り、俺は炎に包
まれた。
938
第76話:誤射の行方は︵後書き︶
やっぱりスマホは遅くなりますね。
と言うわけでちょっと中途半端ですが第76話投稿しました。
ちなみにPCは、昨日業者が引き取って行きました。新品にな
って帰ってこないかなと思っております。
⋮⋮まあ戻って来るのは年明けなのですが︵泣︶
が、頑張って行きます。
939
第77話:誤射後︵前書き︶
誰か私にPCを⋮⋮⋮ぐふっ
︵バタン︶
940
第77話:誤射後
﹁く、クロウさん!﹂
クロウさん!﹂
爆音と爆風が辺りに響き渡る。
﹁大丈夫ですか!?
﹁⋮⋮⋮大丈夫ですよ﹂
煙の隙間から俺の顔が見えたのに安心したのか、ホッとした顔
をするリネア。
だが、俺が魔法を受け止めた腕を見た瞬間、リネアの顔が再び
青くなる。
俺の左腕は、手先から肘の辺りまで黒く煤けていた。まあ見た
目ほど痛くはありませんよ。この世界ってステータスで痛みの度合
どこがですか!?﹂
が変わるのに、見た目は変わらないんだよな。だから⋮⋮⋮
﹁だだだだだだ、大丈夫!?
⋮⋮⋮と言う事になる。
﹁いや、大丈夫ですって⋮⋮⋮、これくらいなら、それより大丈夫
ですか?﹂
俺は、すぐ後ろで地面にへたりこんでいた少年に声をかけた。
941
結論から言えば少年は無傷だった。ただ、脳の回転が非常に遅
いのか現状を理解するのに、それなりに時間がかかった。
その後、俺にお礼を言って去って行った。ただ、リネアも謝ろ
うとしたのだが、言い掛けた瞬間、﹁い、急いでいるので﹂とはぐ
らかされた形で、去って言った。
⋮⋮⋮い、言いたいことはあったけど、こっちに非があるし仕
方ないか⋮⋮⋮。
﹁あの⋮⋮⋮その⋮⋮⋮﹂
少年が見えなくなった後、リネアが非常に申し訳無さそな顔で、
俺を見ている。あっ、そういえば怪我放置したままだった。
﹁あっ、これなら大丈夫ですって﹂
そう言うと、俺は自分の腕に治癒魔法を掛けた。黒くなってい
た皮膚が、もとの肌色に戻っていく。
ちなみに、普通は受ける前に自分の魔力で薄い膜を張るのだが
︵自然に︶忘れてました。普通は忘れないのだが、7年間のブラン
クは大き過ぎました。
﹁はい、もう大丈夫ですよ﹂
942
俺は治った方の腕をリネアの前で軽く振ってみせた。
﹁ほ、本当に⋮⋮ごめnーーー﹂
また謝ろうとする彼女の口をそっと隠してあげる。
﹁何かあったら私に任せてくださいと言いましたよね?
これく
らいなら問題ありませんよ。ですから心配しないでください﹂
うーん、リネアと話しているとなんか謝罪合戦をしているよう
な気分になるな⋮⋮前回と前々回合わせて俺たちで何回謝ったけ?
︵メタい︶
まあ、それは置いといて⋮⋮
﹁結構危険な魔法と言うことが分かりましたので、もうここでは出
来ませんね⋮⋮﹂
いくら安全を保証すると言っても危険なことをわざわざ続ける
訳にもいかないし。
﹁⋮⋮⋮そうですね⋮⋮では、もうやらないこt﹂
﹁私の家でやりましょうか﹂
﹁⋮⋮⋮へっ?﹂
﹁リネアさんって、一人暮らしですか?﹂
943
﹁へっ、あっ、はい⋮⋮﹂
﹁なら問題ありませんね。では、今からすることを一切他言しない
と約束出来ますか?﹂
﹁あ、あのよく分からないのですが﹂
﹁いいから答えて下さい﹂
﹁えっと⋮⋮⋮はい?﹂
﹁じゃあ行きますよ﹂
と、無理矢理説得させると︽門︾を目の前に出す。本当ならこ
んな強制にやることじゃないけど、普通に聞いたらまた押し問答が
繰り広げられそうだったので、強制的に送ることにした。
もちろん、詳しいことは説明するが。
﹁えっ、な、なにkーーー﹂
﹁レッツゴー﹂
﹁ちょっ、きゃあぁぁ!!﹂
944
﹁到着﹂
俺らは無事エルシオンの俺の家の敷地内に出た。
﹁えっと⋮⋮⋮ここどこ?﹂
﹁エルシオンです﹂
﹁⋮⋮⋮あの⋮⋮⋮もう一度﹂
﹁だから、エルシオンですよ﹂
﹁⋮⋮⋮私、疲れているのでしょうか?﹂
﹁いえ、恐らく違いますよ﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
しばらく時が止まったかのように動かなくなるリネア。まぁ、
普通に考えて最低でも移動に1週間はかかる所を、僅か数秒で来て
しまったのだからしょうがないか。
﹁⋮⋮⋮あのー﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
945
﹁⋮⋮⋮ちょっと⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁大丈夫ですかー?﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
返事がない。ただのリネアのようだ。
⋮⋮ってドラ○エを思わず思い出してしまった。
と思ったのだが
このまま彼女を放置しておくのもあれなので、取り合えず庭に
担いで行くことに。担いだらもとに戻るかな?
硬直したままでした。
庭に出ると、エリラとサヤが特訓をしていた。⋮⋮まあ特訓と
いうなのガチ試合ですが。
ウォーター・キャノン
サヤの蹴りがエリラの横腹に決まったかと思えば、次の瞬間に
はサヤにエリラの︽水砲撃︾がサヤにクリーンヒットしていた。
君たちもう少し手加減と言うこと
言っておくが、今の彼女たちの蹴りや魔法を受ければ一般人な
ら一撃で瀕死ものだからな?
は出来ないのでしょうか?
﹁お帰り﹂
声の正体はテリュールだった。彼女には獣族語を覚える傍ら、
946
サヤとエリラのサポートを任せている。まあサポートと言っても形
だけで、彼女はサポートらしいことはせずに、俺が買ってきた魔法
書を読んでいるのだが。
﹁⋮⋮⋮そちらは誰かしら?﹂
﹁あー⋮⋮なんと言いますか⋮⋮諸事情ありって奴です﹂
てか、何でそんな事になるのですか!?﹂
﹁そう⋮⋮口説いたの?﹂
﹁違います!
﹁クロウは女たらしですから⋮⋮ねぇ﹂
⋮⋮⋮なんででしょうか。テリュールが怒っているようにみま
す。なんと言うか⋮⋮⋮赤いオーラが漂っているのですが⋮⋮。
﹁あと、敬語はやめてって言ったでしょ?﹂
﹁あっ、ごめん﹂
﹁まあ、それは後でゆっくりと事情を聞くことにするわね﹂
Oh⋮⋮嫌な予感しかしないのデース。
と、さらに
﹁あっ、おかえ⋮⋮誰?﹂
エリラとサヤも俺に気付き、こちらに向かって来た。
947
﹁⋮⋮その服⋮⋮学園の生徒⋮⋮?﹂
サヤはリネアの服を見ていった。それからサヤはふとエリラの
方を向く。エリラも同じ事を考えていたのかサヤの方を向いた。そ
してしばらく見つめ合うと、急に俺の方を二人揃って向いてきた。
そして口から出てきたのは
﹁﹁⋮⋮口説いた⋮⋮⋮?﹂﹂
﹁だから、ちがうっての!﹂
だった。
948
第77話:誤射後︵後書き︶
PCがないので、休日が物凄く長く感じます。早く来年になっ
て、PC帰ってこないかな?
コメント返しが遅れぎみで申し訳ありません。でもコメント待
っています。
いつも書いてくださる皆さま。本当にありがとうございます。
949
第78話:やっぱりこの人も
﹁で、なんでそんな子を連れてきたのか、説明してくれる?﹂
﹁⋮⋮説明⋮⋮﹂
﹁あっ、はい⋮⋮︵汗﹂
何故か説明をしないと地獄図︵俺だけに︶が出来そうな気がし
たので、俺は出会った時のことから事細かく説明をした。ちなみに
その間もリネアは呆然としていた。
この辺りは事情を説明したら納得してくれたのだが⋮⋮。
﹁で、連れてきたっちゃと⋮⋮﹂
﹁はい﹂
なんで俺は正座させられているのでしょ
俺にも分かりません︵泣︶
その説明をする際、何故か俺は地べたに正座をさせられていま
した。えっ何故かって?
﹁ひとつ聞いていい?
うか?﹂
﹁んー⋮⋮何となくかな⋮⋮﹂
﹁じゃあ立っていい?﹂
﹁それはだーめ﹂
950
﹁えっ、ちょっ、なんで?﹂
︵クロウも鈍感ね⋮⋮︶
俺が正座させられた理由を必死で探している時、テリュールだ
けは何となく理由が分かっていたらしい。ただ、この間テリュール
が助け舟を出してくれることは無かった。
私何か罪を犯しましたっけサヤさん?﹂
﹁⋮⋮罰⋮⋮﹂
﹁罰!?
﹁⋮⋮自分で考えて⋮⋮﹂
﹁理不尽すぎる⋮⋮﹂
サヤまでもが何故か怒っていた。顔こそはいつもの無表情だっ
たが、声のトーンが非常に低かったので怒っているのが分かった。
ただえさえ口数が少なくて少し怖い感じがするのに、そこに超低ト
ーンな声が加わると怖さ倍増である。
声の質自体はアニメにも出てきそうなくらい可愛いのに勿体な
い⋮⋮。
﹁特訓はいつもより長めでね﹂
エリラがめっちゃ笑顔でサラッとキツい事を言って来る。アレ
⋮⋮なんでだろう目から涙が⋮⋮。
951
﹁あ、あれ⋮⋮⋮ここは?﹂
と、その時ようやくリネアが元に戻った。
﹁あー夢だったのk⋮⋮なんでクロウさんは正座を?﹂
﹁私にも分かりません︵泣﹂
﹁あっ、ようやく戻ったのね﹂
﹁⋮⋮アレ⋮⋮私何していたんだっけ?﹂
⋮⋮どうやら完全に記憶が飛んでしまったようです。
ーーー説明中ーーー
﹁⋮⋮⋮というわけです﹂
﹁夢じゃなかったのですか⋮⋮﹂
一通りの説明をしたのだがイマイチ状況を理解しきれていない
リネア。ちなみに説明中も正座させられています。
﹁私としては、ここは広いから魔法の練習とかもしやすいかなって
思ったのですが⋮⋮﹂
952
﹁誤射先が人って、それ私たちも対象だよね?﹂
﹁いい練習になるだろ?﹂
﹁じゃあクロが盾になってね︵笑顔﹂
﹁いや、それ練習になってないじゃん﹂
﹁⋮⋮集中したい⋮⋮﹂
あれ⋮⋮思ってた以上に反対されてる⋮⋮まあ隅っこでやれば、
エリラたちに届く前に無力化出来るから問題無いけど。
で
﹁まあ、別にエリラたちの訓練を疎かにするつもりは微塵も無いか
らそこは安心して﹂
﹁まあクロがそういうならいいけど⋮⋮﹂
と言うことで、なんとかOKは貰いました。⋮⋮アレ?
もこんなことしなくても、俺の家だから勝手にやってよかったよな?
﹁じゃあ、私たちは特訓に戻るから﹂
﹁⋮⋮次は勝つ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮負けない⋮⋮﹂
あの目の前で火花を散らす二人。ほどほどにしとけよと本当に
思う。
今日も昨日ほどでは無いが、結構傷だらけになっている。怪我
953
をしてもすぐ治せば傷痕は残らないが、乙女には少しどうかと思う。
まあそんなことで、どうのこうの言うつもりは無いけどさ。
﹁⋮⋮ちなみに今日はどれくらい戦ったんだ?﹂
21戦!?﹂
﹁21戦やって10勝11敗﹂
﹁⋮⋮はぁ!?
﹁⋮⋮⋮︵コクリ﹂
君たち
無言で頷かないで下さいサヤさん。てか朝からやっているけど、
そんなにやっているの!?
﹁一戦何分?﹂
﹁20分ぐらいかな?﹂
なんでそんなにやって平気なの!?
と言うことは、総計すると420分⋮⋮7時間!?
頭大丈夫!?
﹁⋮⋮わかった大怪我だけはしないでくれよ⋮⋮﹂
﹁ええ、じゃあ始めましょう﹂
﹁⋮⋮うん⋮⋮﹂
そう言うと、二人は庭の中央に戻っていった。しばらくして再
び、二人が庭のど真ん中で激しくぶつかり合った。
954
﹁⋮⋮あの人達すごいですね⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮まあちょっと次元が違う気がしますね⋮⋮﹂
﹁ところで、あのチョーカーをつけている人⋮⋮誰の奴隷ですか?﹂
﹁一応私です。まあ、主従関係なんて無いようなものですが⋮⋮﹂
何かいいましたか?﹂
﹁仲がいいのですね⋮⋮羨ましいです⋮⋮﹂
﹁ん?
何か呟いたようだったが、何を言ったかまでは分からなかった。
﹁い、いえ、そ、それよりま、魔法の練習をしたいのですが⋮⋮﹂
﹁あっ、そうでしたね。では早速始めましょう﹂
俺らは庭の端に移動すると、さっき中断した魔法の練習を再開
した。
さっきは失敗してしまったが、魔法式を書き換えたり何度も使
っていくうちに失敗をしなくなった。
余裕が出てくると﹁さっきの魔法どうやって⋮⋮﹂と移転魔法
についてさりげなく聞いてきたりしもした。
その度に集中力が切れて誤射してしまうのだから勘弁願いたい。
その後も練習を続けて行き、気づいたらスッカリ空も暗くなっ
ていた。
955
﹁ーーーでは、今日はここまでにしましょう﹂
﹁はい、今日もありがとうございました﹂
いつも通り一例をするリネア。
﹁⋮⋮⋮あっ、そう言えばあの人も学園の人ですよね?﹂
急に思い出してサヤの方を見て言った。
﹁なんで分かるのですか?﹂
﹁去年の魔闘大会で出場していたのを見ましたので﹂
﹁あー⋮⋮なるほど﹂
﹁あの人はいつ帰るのですか?﹂
﹁あーあの人は泊まり込みだからね⋮⋮﹂
﹁⋮⋮泊まり込み⋮⋮?﹂
ポカンとするリネア。まあそんな顔になりますよね。
﹁まあ特待生だから学校には行かなくていいので出来る芸当ですg
ーーー﹂
﹁⋮⋮⋮なら私も泊まりたいです⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮はぁぁぁぁぁぁぁ!?﹂
956
結局、無理矢理決まりました︵泣︶
957
2014年:メリークリスマス︵前書き︶
本当に遅れてもうしわけありません。︵土下座︶
※この回は本編とは殆どかかわりがありません。
本編だけ見たい方は次へとお進みしても問題ありません。
※この回は﹃2014年:聖なる日の前に﹄の続きです。お手数
ですが読んでない方はそちらから読んで下さい。
958
2014年:メリークリスマス
子供たちが外で遊んでいる間に準備をせっせと進める。ツリー
を立てるときに獣族の女性たちから﹁なにこれ﹂と軽い質問攻めに
あったが、秘密ですと言って適当に誤魔化しておいた。
女性陣は料理。俺は装飾。一人でやるのって以外と大変です。
モドキ
電球を付けての、天辺に星つけてのと言った感じで作業したけど、
︽風術︾がなければもっと大変だっただろうな。
クリスマスツリー用の木を見つけるのは以外と簡単だった。近
くの森にそれらしい木がそこらじゅうに生えていたからな。
﹁⋮⋮よし、これでいいな﹂
ええ、そうです。
額の汗を拭きながら、俺は自分で作ったツリーを見て納得をし
ていた。自己満足?
ちょうどその時、子供たちも中に入ってきた。獣族はクリスマ
クロウお兄ちゃん、これはなんです?﹂
スツリーを見て、キョトンとしていた。
﹁?
フェイが皆の声を代弁して質問をしてきた。
なんですかそれは?﹂
﹁これはクリスマスツリーって言うものだよ﹂
﹁クリスマスつりー?
959
﹁んー⋮⋮俺の故郷でクリスマスの時に飾った木だよ。こうやって
木に装飾をして飾るんだよ﹂
﹁おーなんかすごそうです﹂
凄くないけどな。
﹁フェイもやりたいです﹂
﹁分かったよ、じゃあ来年は皆でやろうか?﹂
﹁やるでーす!﹂
どうやらフェイはやる気満々のようだ。他の子供たちにも聞い
てみたが、やりたいとのこと。好奇心旺盛だなぁ⋮⋮。俺が子供も
ときは絶対にしなかったな。眺めているだけだし。
その後、エリラたちが作った料理が続々と運ばれて来て、準備
は整った。
で、乾杯する前にツリーを点灯することにした。やっぱり光っ
ている横で食べたいし。
どういうこと?﹂
﹁じゃあ、点灯するぞー﹂
﹁点灯?
エリラも初めて見るツリーに驚いていたな。
960
﹁見れば分かるさ、じゃあ行くぞー﹂
モドキ
前もって作っておいた魔石を回路にはめ込む。すると回路に電
力の代わりの魔力が流れ込み電球が次々と光だし、やがてツリーに
飾ってある全ての電球が光だした。色はどうしようか悩んだが、ど
うしても色を出す方法が分からなかったので、塗料で塗った。あっ
でもこれが普通なのかな?
少し薄暗い部屋をツリーの光が照らす。子供たちがおーと歓喜
声を上げた。女性陣もツリーに見とれていた。
こういう顔を見てると作って良かったなと思う。あと、よくよ
く見たらはしゃいでる子供の中にテリュールがいたが、目を瞑って
見なかったことにしよう。
﹁へぇ⋮⋮クロのところではこんなのを飾っていたのね﹂
﹁まあ飾らない家もあったけどな﹂
俺も施設でしか見なかったし。
﹁私に隠れてこんなのを作っていたのね﹂
﹁サプライズだよ。エリラたちに見せたら駄目だろ?﹂
﹁そうね、うん、知らなくて良かったと思うわ。だってこんなに凄
いと感じこと出来なかっただろうしね﹂
その後、エリラたちが作った料理を美味しく頂きました。日本
のときにもこうやってワイワイしたかったなと、ちょっとセンチメ
ンタルになったのは秘密だ。
961
﹁ケーキですぅ!﹂
﹁おいしいですね﹂
﹁ぐぬぬぬ⋮⋮こんなのも作っていたのね⋮⋮﹂
何か言いたそうな顔をしていたエリラだが、一口ケーキを食べ
るとさっきまでの顔が嘘のように消え、代わりにとろけるような顔
になっていた。
甘いものには弱いなぁ⋮⋮。いや別にいいけどさ。
まあまだ終わりませんが。
﹁はーい、皆にクリスマスプレゼントがあります﹂
﹁クリスマスプレゼント?﹂
﹁そう、こうやってクリスマスの時に渡すものだよ﹂
まぁあっちでは24の夜でサンタが⋮⋮といった感じになるけ
ど、別にしなくてもいいですよね?
子供たちには魔力を流せば、長さを変幻自在に代えることが可
能な短剣をプレゼントした。クリスマスプレゼントに武器かよ!
962
と思ったが、刃が無いし、不殺スキルで怪我をしないようにしてい
るから、物騒な物ではない。まあいうならば、チャンバラ用の剣だ。
鬼ごっこだけだったら可哀想だし。何か変化をつけさせてあげたか
ったのだ。
まあ⋮⋮結果的に喜んでくれたので勘弁してほしい。
女性たちにはアクセサリーをプレゼントした。まあさすがにそ
んなにきらびやかな物はやめておいたけど、向こうの世界では一個
数万はするぐらいの物をプレゼントした。
こちらはちょっと困惑していたが、最終的に喜んで貰ってもら
えた。どうせなので、一人一人に付けてあげた。付けるときに何人
かの女性の猫耳がやけにピクピクしていたような気がした。アクセ
サリー関係はテリュールにもネックレスを渡した。テリュールは隷
属関係のチョーカーを付けている訳でもないので、煌びやかなネッ
クレスをプレゼントした。﹁フェイも欲しいのです!﹂と言われた
ので後でフェイにも作ってあげたことは後日談として言っておこう。
テリュールも喜んでいたので安心した。と言うのも大人、それも人
間の女性に渡すことなど無かっただけに少し緊張をしていたのだ。
さて、これで残るはエリラだけになったな。
でも、エリラには既にネックレスをプレゼントしているので、
ちょっと変化をつけてみることにした。
﹁エリラには⋮⋮これ﹂
渡したのは、毛糸で作った特製の白色のマフラーだ。この世界
にはマフラーという物が無いので、エリラも初めてみるマフラーに
何これ状態だった。
963
﹁?
これどう使うの?﹂
﹁それはこうやって⋮⋮﹂
俺はエリラの首にマフラーをかけてあげた。マフラーを巻かれ
たエリラはしばらく動きが止まっていた。おそらく何の効果がある
のだろうかと思ったのだろう。
しばらくして、ようやくエリラも何か気付いた。
﹁⋮⋮温かいわ﹂
﹁保温効果があるアクセサリーの一種だよ。それに首チョーカーも
隠せるし﹂
﹁あっ、そういえば﹂
そう、俺がエリラにマフラーをプレゼントしたのはそのためだ。
せめて見た目からは奴隷に見えなくしようと思ったのがきっかけだ。
まあ冬限定ですが。
﹁⋮⋮ありがとう。大切にするわ﹂
彼女はマフラーを触りながら嬉しそうに言ってくれた。
こうして、この世界に来て初めてのクリスマスは無事幕を降ろ
した。
964
2014年:メリークリスマス︵後書き︶
ということで、最初と言うことでクロウが色々あげました。来
年はもっと色々とネタを盛り込む予定です。まあ来年の今頃まで続
いていたらの話ですが。
まあそう考えると2日に一回更新しているので、来年の今頃は
約300話あたり⋮⋮書いている自信がありません。
あと、投稿遅れて申し訳ありません。25日にまさかの爆睡と
いうミスを犯してしまいました。
次書くときはそうならないように頑張ります。
=====2017年=====
02/26:テリュールに物を渡している描写が無いという痛
恨のミスを指摘されたので加筆修正しておきました。ごめんねテリ
ュール。
965
第79話:縦ロールの子
クロウです。最近、なんか色々な意味で疲れました。主に人と
のコミュニケーションで。
魔闘大会開催まで残り2週間を切った。
サヤは半端じゃないほどのスピードでレベルアップを続けてい
る。始める前は30ほどあったレベル差が、今では10程度にまで
縮まっている。
だが、エリラもサヤほどの速さでは無いが、確実に強くなって
いる。
エリラの現在のレベルは82。つまりサヤは72となる。もう
一般人と次元が違うような⋮⋮
まあなんでこんなに急激にレベルが上がったかというと、俺と
の実戦が原因だ。
俺のレベルは340越える。そしてエリラ、サヤは毎日のよう
に実戦をしている。例え負けても戦ったことによる、経験は残る。
数倍格上の俺と戦い続けたのだから、ある意味当然かもしれない。
さらにサヤはエリラという格上︵レベル的には︶と毎日何十戦
も戦っていたのだからレベリングもいいところである。
エリラもあんな事件が無かったら上位ランカーの冒険者になっ
ていたかもしれないんだよな。
966
まあ、あの事件が無ければここまで強くなれなかったのかもし
れないが。
⋮⋮いや、元々努力家だったし、強くなっていただろうな。
テリュールは少しずつだけど獣族語を覚えて来ている。女性た
ちともコミュニケーションを取れるようになってくたから良かった。
あと、魔法関係も頑張っている。ステータスを覗いてみると、
潜在的な魔力はあるから覚えれる可能性は高い。ただ、今までやっ
たことのないものだから、四苦八苦しているが。
魔法と言えばサヤも風の魔法を使えるようになった。上手く行
これヘタしたら直ぐに抜かれるのでは?
けばスピードアップや攻撃方法が大幅に向上することが期待出来そ
うだ。
⋮⋮⋮アレ?
おかしいなこのレベルはもう人外クラスの筈なんだけど⋮⋮。
と、それなりに危機感を覚えております。
さて、今日は特待生たちだけで闘技場を借りて実戦をやろうと
言う話になったので、闘技場にいる。今試合をしているのはサヤと
シュラなんだが⋮⋮。
﹁⋮⋮⋮遅い⋮⋮⋮﹂
﹁ゴスッ︶ぐはぁ!﹂
⋮⋮⋮正直、ワンサイドゲームもいいところだ。シュラもそれ
なりに強くなったかもしれないが、サヤはもはや冒険者ランクで言
うならばAクラスの実力者だ。話にならない。
967
﹁はい、そこまでサヤの勝ち、サヤすご∼い﹂
審判をしていたセレナが勝ったサヤのもとへ駆け寄る。
﹁⋮⋮クロウたちのおかげ⋮⋮﹂
﹁前見たときとは別人のようですわ﹂
﹁おいおい、シュラが手も足も出ないってどういうことだよ﹂
驚きを隠しきれない特待生の面々。まあ2週間で3倍もレベル
があがれば驚かないほうが可笑しいよな。
﹁おい、クロウ一体どんなトレーニングをしたらこうなるんだ!﹂
敗北から復活したシュラがまるで黒光りするGのようにはいよ
って来た。キモい。
﹁⋮⋮⋮毎日骨が折れるレベルのトレーニングを繰り返せば﹂
嘘は言っていない。あれから無理するなよと口酸っぱく言った
のだが2日1回が大怪我をしていた。もう家の地面にはそこらじゅ
うに赤い染みが出来ている。馬鹿を通り越して一種の変人である。
それにしても、よくエリラもついていったと思う。
﹁⋮⋮遠慮しておくわ⋮⋮﹂
流石のシュラもドン引きだったようである。まあ誰でも引くよ
な⋮⋮。
968
﹁よし、こうなったら残りの2週間徹夜で特訓だ!﹂
G体勢から華麗なジャンプで立ち上がるシュラ。
Oh⋮⋮こいつも変人だった⋮⋮。
﹁じゃあ次は⋮⋮﹂
セレナが次の組み合わせを言いかけたそのとき。
﹁あら、だれが使っていると思えば⋮⋮コネで入って来た特待生で
はありませんか﹂
振り替えると、そこには3人の女性が立っていた。
︵これまた面倒そうなやつだな⋮⋮︶
俺は心の中で嘆いた。最近⋮⋮と言うかこの世界に来てからこ
んな事ばっかりじゃないか?
まとも人と、そうでない人の差が激しすぎるような気がする。
﹁誰?﹂
俺はポツッと呟いた。結構小さい声で言ったのだが、残念なが
ら地獄耳は存在したようです。
﹁そこのアナタ?﹂
969
3人の女性うち一番前にいた縦ロールの女性が俺を指差してい
た。
︵⋮⋮⋮あっ︶
俺はこのとき心の中で自分の失敗に気付いた。
﹁私を知らないとは言い度胸ではありませんか﹂
こういうとき、無駄口を叩いてはいけないということを。口は
災いの元とは良く言ったものだ。
﹁おぼっちゃんは下の人など気にも止めないのですね﹂
いや、誰もそんな事言ってないだろ。
﹁やはり所詮はコネを使い楽して入学した人ですわね、そんなので
なにこの人。話の主旨が読み取れ無いのだが。何が
すから去年の大会も上位を一般生徒に取られるのですよ﹂
???
言いたいのでしょうか?
﹁まあそんなん学園のメンツを取るなんて⋮⋮名折れもいいところ
d﹂
と、そこまで言った所で
﹁ちょっと、あなた?﹂
俺と縦ロールの子の間に割り込んでくる人が一名。
970
﹁人のことを知らずに言いすぎじゃないかしら!?﹂
エリラだ。縦ロールの子を睨み付け、腰に持っていた剣に手が
行く。
﹁大体、あなたはクロの何を知っているのよ!﹂
﹁ちょっ、エリラ落ち着けって﹂
慌てて仲裁に入る俺。短気な所も直りつつあるのだが、まだ時
それ俺にも当
この前はナルシスト野郎蹴り飛ばしたし。⋮⋮
々荒れる時があるので困りものだ。⋮⋮⋮アレ?
てはまるよな?
ってそんなことは後だ!
﹁で、でもクロ⋮⋮﹂
ま
﹁怒ってくれる気持ちは嬉しいけど、今は落ち着け、争っても仕方
ないだろ﹂
﹁うっ⋮⋮う、うん⋮⋮﹂
と俺は思ったのだが
奴隷にタメ口を言われるダメ主だったかしら?
ふう、何とかなるかな?
﹁アラ?
家畜レベルの存在に話しかけられるとかドブに飛
あそれなら無知でも仕方ないかもしれませんわ。あと私に話しかけ
ないで下さる?
び込んだ方がマシだわ﹂
さらに要らない爆弾を投下する縦ロールの子。
971
﹁おい、あんたもいい加減にしろ!
存在と言ったことを訂正しろ!﹂
あとエリラを家畜レベルの
1
思わず素が出てしまう俺。あとで思い直せば俺も冷静になりき
なぜそんな事をしなければならないのですか?
れていなかったのかもしれない。
﹁訂正?
0文字以内に答えてください﹂
俺は冷静になろうと必死に自分の心を抑
おふざけも大概にしてくださいませんか!?
子供かこいつ!?
えるが。
﹁そこのアナタ?
﹂
﹁⋮⋮⋮五月蝿い⋮⋮⋮﹂
そこにローゼやサヤも割り込んできた。
そして、このあと事態はさらに悪化をすることになる。
972
第79話:縦ロールの子︵後書き︶
今年も残すところ4日︵実際はほぼ3日ですね︶ですが、ここ
は平常運転で頑張ります。
返信など色々遅れて申し訳ありません。気長に待っていただけ
ると嬉しいです。出来る限り急ぎます。︵土下座︶
973
2/23
誤字を修正しました。
第80話:前触れ︵前書き︶
※
974
第80話:前触れ
﹁なんですか?
やるのなら相手になりますよ?﹂
その言葉に合わせて縦ロールの子の後ろにいた二人が前に出る。
それと同時に俺の背後から鋭い視線を感じた。見るとローゼや
サヤだけでなく、残りの特待生たちも鋭い視線を縦ロールたちに送
っていた。
やばい、何とかこの場を押さえないと⋮⋮。
前回のナルシスト野郎の時の反省を生かし、冷静にする俺。だ
が周りの面々はどうやら平和的な解決をやろうとする気は無いよう
です。
学校でこんな雰囲気が発生すると、大抵次に起きるのは決まっ
ている。
﹁⋮⋮怪我する前に帰れ⋮⋮﹂
サヤがナックルダスターを着けながら縦ロールらに近付いて行
く。
﹁その言葉、そのままアナタたちに帰しましょう﹂
﹁⋮⋮そもそも何故あなたはここにいる⋮⋮?﹂
あっ、そう言えば闘技場って特待生たち以外は普段授業以外は
原則許可なしでの出入りは禁止のはずだ。
975
﹁許可をもらっらに決まっているじゃない﹂
縦ロールの子が胸を張って答える。
﹁よく許可がおりましたわね。で、ここに何をしに?﹂
﹁それはーーー﹂
縦ロールの子がなにかいいかけ瞬間、突然前置き無しに縦ロー
ルの後ろにいた二人が剣を抜きつつ前へと飛び出して来た。
だが、この程度の不意打ちに反応出来ない特待生組では無い。
ローゼとサヤがほぼ同時に武器を構え、同じように飛び出して来た。
まあ、一触即発の状況だったのだ、不意打ちなど無理だったん
だけどな。
そして両者の武器が交わるその瞬間
﹁ゴンッ︶いたぁ!?﹂※ローゼ
﹁ゴンッ︶ひゃう!?﹂※サヤ
﹁ゴンッ︶げばっ!?﹂
※→←縦ロールの後ろの子たち
﹁ゴンッ︶あべっ!?﹂
4人の動きが一斉に止まった。
いや、止まったというより無理矢理止められたと言った方が正
しいのかもしれない。
976
4人とも顔を擦りながら互いに何が起きたの?
わせた。
﹁勝手に開戦しないで下さいよ﹂
と顔を見合
俺はそういいながら顔を擦っている4人に近付いた。
﹁⋮⋮くひょうがやひゃったの⋮⋮?﹂︵訳:クロウがやったの?︶
顔を擦りながら言っているのでサヤの言葉がイマイチ分からな
かったが、まあ言いたいことは大体分かった。
﹁すいません。咄嗟でしたので⋮⋮﹂
そう、こんな状況になったのは俺の︽防壁︾のせいだ。時間が
あったら地面を緩くして沈める方法もあったけど残念ながら無理だ
った。4人には少し申し訳ないと思ったので、治療魔法をかけるこ
とにした。
﹁⋮⋮で、行きなりなんですか?﹂
治癒魔法をかけながら俺は縦ロールの子を睨んだ。縦ロールの
子は特に口調などを変えることなく淡々と話す。
﹁なにって⋮⋮あなたたちが大会で恥をかくのが可愛そうですので、
その前に病院送りにして差し上げようとしているのですよ﹂
なんだよこの人⋮⋮物騒なことを平然というな⋮⋮いやその前
に行動したのが恐ろしいな⋮⋮。
977
﹁へぇ⋮⋮逆に病院送りにして差し上げましょうか?﹂
そう言うと俺は自分の真上に半径5メートルくらいの巨大な魔
方陣を展開した。
恐らく学校でも見たこと無いだろう。このクラスの大きさとな
ると、国の優秀な魔導士が複数がかりで発動するような規模になる
からだ。
まあこの魔方陣は完全に見かけ倒しなのだが。いわゆるハリボ
テと言うやつだ。
おそらく初めて見る魔方陣を見た縦ロールの子は言葉を失って
いた。
⋮⋮というよりかこの場にいるほとんどの奴が固まっていた。
唯一エリラには一度見せたことあったので俺の後ろで﹁ざまぁ⋮⋮﹂
と呟いていた。
﹁⋮⋮お帰りくださいますでしょうか?﹂
やや声のトーンを低くおさえながらスキル︽威圧︾の力も借り
つつ威嚇を続ける。
ちなみにこの魔方陣。このままではハリボテだけど、少し回路
を弄れば家一軒を吹き飛ばす凶器になる。
暫く縦ロールの子は黙っていたが、ハッと我に返ると
﹁くっ⋮⋮か、帰るわよ!﹂
と言うと早足で闘技場を後にした。治療を終えた二人も慌て縦
978
ロールの子の後を追っていった。
﹁⋮⋮はぁ⋮⋮なんか最近こういうことが多いよな⋮⋮﹂
﹁疫病神?﹂
﹁⋮⋮お祓いってどこで出来るかな?﹂
エリラのボケにも真に受けてしまう。笑えないから怖いよね
﹁⋮⋮なんかゴメン⋮⋮﹂
予想外の反応だったのかエリラが謝ってきました。
﹁⋮⋮ま、まあ取り合えず落ち着いたということで﹂
﹁そうだな﹂
﹁⋮⋮あの様子ですと大会にも出てきますわよね?﹂
﹁ああ⋮⋮⋮恐らくな﹂
﹁⋮⋮⋮潰す⋮⋮⋮﹂
サヤ⋮⋮⋮さん⋮⋮⋮怖いです。本当にボソッと言うので怖さ
倍増です。さらに今のサヤのステータスなら本当に物理的に潰しか
ねないので怖さに拍車がかかる。
﹁⋮⋮なんか今日は疲れたね﹂
979
﹁⋮⋮⋮そうですね今日はもう御開きにしましょう﹂
と言うことで、この日は御開きと言うことになった。
だが、事件はここで終わらなかった⋮⋮。
980
第80話:前触れ︵後書き︶
と言うことで今年最後の投稿です。一年間︵実質5ヵ月︶あり
がとうございました。
そう考えると約150日で80話なんてよく書けたなと思いま
す。まあ内容は薄いのですが︵泣︶
応援してくださった皆さま本当にありがとうございます。来年
も宜しくお願いします。
では、皆様よいお年を
981
2015年:振袖︵前書き︶
明けましておめでとうございます。
今年初めての投稿です。と言っても本編ではなく、クロウとエリラ
のお話しなのですが。
※この回は本編とは殆どかかわりがありません。
本編だけ見たい方は次へとお進みしても問題ありません。
2015年
1/13 誤字を修正しました。
982
2015年:振袖
﹁こうやって⋮⋮⋮出来た﹂
﹁こ、これなに⋮⋮クロ?﹂
﹁これは振袖っていう正月に着る服だよ﹂
年が明けた今日の朝、俺は自分の部屋でエリラに振袖を作って
着させていた。
振袖の作り方は歴史の勉強をしたときに少しだけ触れた記憶を
頼りに作った。正直スキル無しでは無理でした。
えっ、着替えさせたってことは⋮⋮はい、そうですほとんど見
ました。もう俺のキャノンが発射しそうで怖かったです。だってあ
ちらこちら触らざる得ない︵以下自主規制︶
※エリラ本人は触られて満更でも無かった様です。
※エリラの胸は⋮⋮⋮すごく⋮⋮大きいです︵確信︶
着方はどこかで覚えていたのでなんとか出来ました。⋮⋮俺っ
て本当に無駄な豆知識が多いよな⋮⋮。
﹁こ、これ動かしにくい⋮⋮﹂
慣れない振袖に困惑ぎみのエリラ。トコトコと小刻みに歩いて
くる姿が物凄く可愛いです。
983
コテッ
﹁えっ﹂
﹁あっ﹂
慣れない足取りだったので案の定、躓き前のめりになって倒れ
ていくエリラ。そして、倒れていく先には⋮⋮ザッツライト、俺が
座っていました。
エリラの顔が俺の胸元に飛び込んできたのを、俺は自分も後ろ
に倒れることで衝撃を押さえた。
そして、華麗に俺は後頭部を床に強打させました。痛い。
何故でしょう、エリラの近くにいるとガリガリ寿命が縮まされ
ているような気がします。
﹁動きにくい⋮⋮﹂
﹁少しは我慢してくれ、折角可愛いんだから﹂
﹁そ、そう?﹂
エリラが立ち上がるのを手伝い、俺も立ち上がる。
まだ幼稚さが残ってはいるから可愛いと言ったけど、もう数年
もしたら美しいに変わると思う。今でも綺麗と言ったら綺麗だし。
﹁あ、ありがとう⋮⋮﹂
顔を赤らめながら素直にエリラは感謝をした。
984
﹁じゃあ早速皆に御披露目と行きますkーーー﹂
﹁待って!﹂
テリュールたちにも見せようと思い、部屋から出ようとしたと
どうしたの?﹂
き、急にエリラが俺を止めた。
﹁ん?
﹁⋮⋮⋮今の私って⋮⋮綺麗?﹂
少し顔を下に向け、隠すような仕草で言った。唐突な質問に俺
は困惑したが。
﹁綺麗だよ﹂
と返した。嘘ではない、実際可愛い中にも綺麗と思うこともあ
あったし。
どうして?﹂
﹁じ、じゃあ行きたくない﹂
﹁?
﹁⋮⋮クロだけに⋮⋮見てもらいたいから﹂
お湯でも沸騰しているかのようにエリラの顔が赤くなり、恥ず
かしと言いながら、俺の背中に顔を埋めて来た。背中越しに彼女の
暖かみが伝わってくる。
全く⋮⋮そんなことを言われたらこっちまで恥ずかしくなって
985
くるよ。
﹁じゃあ⋮⋮⋮しっかりと見せてよ﹂
﹁う⋮⋮うん!﹂
その後、暫くの間俺はエリラの振袖姿を堪能しました。
エリラはクルクル回ったり、ポーズを決めたりなど、ファッシ
ョンショーでもやっているかのようだった。
振袖を着ている間、エリラはずっと嬉しそうな顔をしてくれた。
あんな顔を見たらやる気が溢れて来そうだ。頑張って作った甲斐が
あるもんだ。
さぁ、今年も頑張るとしますか
986
2015年:振袖︵後書き︶
と言うことで新年一発目はどうでしたでしょうか?
最初は新年会みたいなのをやろうかなと思ったのですが、こう
やって二人のやりとりを書く方が手が動きそうだったので、こちら
を書きました。
量としては少ない目ですが、あま∼いお話だったと思っていま
す。
︳︶m
今年も頑張って行きますので、皆さん宜しくお願いします。
m︵︳
987
第81話:行方不明?︵挿絵あり︶︵前書き︶
今回のお話し最後に挿絵があります。良かったらご覧になって
ください。
988
第81話:行方不明?︵挿絵あり︶
﹁テリーとネリーがいない?﹂
﹁ああ、今日は闘技場でカイトと一緒に特訓をするはずだったんだ
が⋮⋮﹂
リネアが家に何故か泊まっているので、俺が送り迎えをするし
かないのだが︵リネアは一般学生なので週6で授業がある︶
どうせ学校に来たのならついでに図書室寄ってから帰ろうと思
った。
で、昼頃まで読んで帰ろうとしたときに何やら慌てているシュ
ラを見つけ事情を聞いたとこ、テリーとネリーが居ないとのこと。
﹁で、本来はいつ集まる予定だったのですか?﹂
もう昼ですよ?﹂
﹁朝からだよ﹂
﹁朝?
﹁ああ、だから今カイトと手分けして探しているんだよ!﹂
ありがてぇ﹂
﹁じゃあ私も探しましょう﹂
﹁本当か?
﹁では、私は街を探しましょう﹂
989
と言うことで街に出て探すことになったのだが⋮⋮正直この広
大な街で人を探せとか砂場で蟻二匹を探すようなものだ。
俺はテリーとネリーの家を知らないし、完全にノーヒントだ。
⋮⋮と思うのが普通かもしれないが
﹁さーて⋮⋮︽マッピング︾と︽探索︾を組み合わせて⋮⋮検索ア
イテムはテリーとネリーの魔力と⋮⋮﹂
残念ながら、今の俺は完全にチート的存在なのでこれくらいの
事は朝飯前だ。
﹁探索範囲はハルマネ全域と⋮⋮﹂
※ハルマネ=学園がある都市︵第35話参照︶
作者も忘れかけていました︵土下座︶
よし、これで行けるはずだ。探索開始っと⋮⋮
読んでいる皆さんはもう分かっているとは思うが、一応説明し
ておくと、まず︽探索︾でこの街全域を指定する。これくらいの広
マッピング
さならすぐに出来る。そしてこの街中からテリーとネリーの魔力を
探す。hitした場合のマップ上に視覚情報として反映される。
あとはこれを頼りに探せばいいだけだ。
待つこと数秒。マップ上に二つの赤い点が表れた。二つの点は
ほぼ重なり合っており同じ場所にいるのか読み取れる。
﹁ここは⋮⋮廃墟?﹂
990
点は街の片隅にあり、そこは人がほとんど寄り付かない廃墟と
してこの街や学園で良く噂された。中には幽霊が出るとの噂もあっ
たほどだ。
何故こんなところに?
夜じゃないし季節じゃ
俺は首をかしげた。この二人は怖がりかどうかは知らないが普
通こんな所には来ないだろう。胆試し?
ないだろ。そもそもこの世界で胆試しってあるのか?
と、話が逸れたな。他に考えられる事は⋮⋮秘密の特訓とか?
だが、二つの点は先程から少しも動いていない。メンタルトレ
ーニングか?
いや、まずシュラたちと特訓するとか言っていたのなら、こん
な所でやらないだろ。
⋮⋮まぁ、あの二人と一緒にいたらメンタルトレーニングとか
出来ないだろうな⋮⋮。
⋮⋮考えるより直接行ってみるか。そう考え俺はこの廃墟に向
かうことにした。
﹁うわっ⋮⋮暗⋮⋮﹂
廃墟と言われるこの場所を見たとき、背筋が凍るような気がし
991
た。昼で太陽の光が届いているにも関わらず、この辺りだけまるで
分厚い雲に覆われているかのように暗かった。
舗装されていたと思われる道路は苔だらで、長い間人が通って
いないことを現していた。
何でこの辺りだけこんなに古びているんだろうか⋮⋮
そんな疑問を持ちつつも俺は点がある建物へと向かう。もうこ
こに来るのは嫌だな。
いるのか?﹂
目的の建物はすぐに見つかった。まあチートじみたことをやっ
⋮⋮ネリー!
ているから当然だけど。
﹁テリー!
しばらく待ってみる。だが建物内から反応らしい反応は無かっ
た。
念の為、もう一度声を掛けてみる。
だが、やっぱり反応は返ってこない。
﹁⋮⋮いやな予感がするな﹂
俺は意を決して中に入ってみる。老朽化した建物は一歩歩く度
にギシギシと音を立て、部屋の四隅には蜘蛛の巣が張られてあった。
二人の反応はこの建物の二階からだ。
どう言うことか微かに焦げた臭いがする。不安を抱えながら俺
992
は2階に上がった。
2階に上がり周囲を見回す。何も無いと思ったそのとき、俺の
目にある光景が飛び込んできた。
それは、頭から血を流し倒れているテリーと、同じように全身
ネリー!﹂
ボロボロになっているネリーだったのだ。
﹁テリー!
俺はそう叫びながら二人のもとに駆け寄った。
﹁おい、しっかりしろ!﹂
思わず素の自分が出てしまう。だがそんな事はどうでもいい。
俺は二人に声をかける。だが反応が無い、慌ててステータスを覗い
てみる。幸いにも死んではいなかった。
※死んでいる場合、ステータスに﹁死亡﹂と表記される。
取り合えず最悪の事態ではないようだ。だがこのままでは危険
なのは間違いないない。
クロスヒール
﹁︽聖なる治癒︾﹂
ヒール
︽治癒︾の上位互換の1つで、体力の回復と傷の治療を同時に
行うことが出来る魔法だ。状態異状︵麻痺などのこ︶も同時に行え
るようになるにはもう少し時間がかかる。
緑色に輝く光が優しく二人を包み込み、今まで血を流していた
993
傷から血が流れなくなり、そして傷が治り始める。数分もする頃に
しばらく様子を見ていると、
は、傷は綺麗さっぱりと無くなっていた。
これで取り敢えずは大丈夫か?
テリーの方が先に目を覚ました。その時には俺も元の俺に戻ってお
り、次に何をすべきか脳内で模索していた。
﹁っ⋮⋮ここは?﹂
僕は一体⋮⋮﹂
﹁大丈夫ですか?﹂
﹁クロウ君?
大丈夫か!?﹂
まだ、意識が混濁しているのだろうか?
﹁⋮⋮そ、そうだネリー!
思い出したかのように彼はネリーを探しだす。そして隣にいた
ネリーを見つける。
﹁ねーーー﹂
﹁大丈夫です治療はしましたから!﹂
﹁そ、そう⋮⋮なら良かった﹂
俺の言葉に安心した彼から何があったのか聴くことにした。
だが⋮⋮
994
﹁それが⋮⋮僕に良くわかっていないのです⋮⋮裏路地で背後から
首筋を何かで殴られて気づいたらここにいた⋮⋮その時に、確か二
人俺らの前に立っていた﹂
﹁どんな人だったのですか?﹂
﹁それがフードや布で顔を隠していて誰かは⋮⋮﹂
﹁分かりました。でその後は?﹂
﹁それが、僕らが目覚めるや否や行きなり襲いかかって来たんだ⋮
⋮あまりに急な出来事だったから僕も動けなかった⋮⋮その後はも
う散々さ⋮⋮魔法とかでボロボロだったよ﹂
﹁分かりました﹂
実を言うとこのとき犯人は何となく検討がついていた。と言う
か前回の事件から間がほとんど開いていないし⋮⋮。
でも、思い込んだら駄目だな。本当に違っていたら洒落になら
ないし。
俺の脳内に先日闘技場に殴りこんで来た縦ロールの後ろにいた
二人の事を思い出していた。
結局あの事件は不問にした。言うか迷ったが闘技場に行くこと
を許可した時点で、ある程度の私闘は暗黙の了解になることがある
らしい。もう無茶苦茶すぎると思ったが、学園でトーナメント式の
実戦大会を開いていたり、リネアの食堂での事件のことを考えると、
いつもじゃないにしても、あることなのかもしれない。
995
と、少し脱線したが、犯行はあの二人の可能性も無しにあらず
という感じだな。だけど確証などどこにもない、このままでは只の
いちゃもんである。
﹁⋮⋮駄目か、どうやって犯人を見つければ⋮⋮﹂
その時、俺は有ることを閃いたのだった。
友達が絵を描いて下さいました。
本当にありがとうございます。
<i137223|13655>
セラさんがとっても可愛いです。
996
第81話:行方不明?︵挿絵あり︶︵後書き︶
ちょっと中途半端で申し訳ありません。
それは置いといて︵置いて良くないけど︶
友達が挿絵を描いてくだいました。本当に感謝です。上でもコ
メントしていますが、セラさんマジで可愛いです。他のメンバーも
可愛いなと思っています。マスクをしているシュラは思わず笑って
しまいました︵笑︶
描いて下さり本当にありがとうございます。
では、次回もよろしくお願いします。
997
第82話:犯人は⋮⋮︵前書き︶
遅れて申し訳ありません。
︳︶m
お詫びとして、少しだけ多めにしました。
m︵︳
998
第82話:犯人は⋮⋮
﹁そうだ、テリーさん!
テリーさん達が襲われたときその人た
ちは魔法を使っていましたか?﹂
急な質問にテリーは特に深くも考えずに答える。
﹁あ、ああ使っていたよ⋮⋮確か、風系の魔法だった﹂
﹁分かりました。ありがとうございます﹂
俺はそう言って一礼をすると、直ぐに作業に取りかかった。ス
キル︽創生魔法︾から色々と組合せ始める。
まずこの辺り一帯の魔力を調べる為に︽魔力支配︾を発動し、
自然の魔力とそうでない魔力を分別する。さらにそこから自然に作
られた訳では無い魔力を更に細かく訳る作業を行う。これは︽分析
︾スキルを使えばなんとかなるか?
※普通、そんな使い方はしません。と言うか出来ません。
魔力は空気中に出ると直ぐに自然の魔力に溶けてしまう。だが
原子に半減期と言うものがあるのと同様に、魔力も行きなり全部消
える訳では無く、徐々に空気中に溶けていくのだ。
今回はそこを使わせてもらう。
これで分析が出来れば︽探索︾スキルを使ってその魔力と同じ
形の魔力を見つけ出し、︽マッピング︾スキルに記憶をすればいい。
999
これで、例え相手が誰だか分からなくても魔法さえ使ってもら
えれば追跡が可能になるということだ。
自粛しておこう。
上手く行けば、追尾をして移動ルートを残すことも可能だ。と
言うかそんなことやったらストーカーだよな?
まあ今回の場合は情け無用だと思うが。
前回に引き続き︽マッピング︾スキルなどに助けてもらいなが
ら、俺はテリーたちを襲った奴ら2名を探し出す事に。
俺の目の前でこの街全体の通路を表示したマップに赤い点が2
つ浮かび上がった。
どうやら移動をしているようだ。
﹁これでいいな⋮⋮それではテリーさんはここにいてください﹂
﹁えっ、どうするつもりなのかい?﹂
ちょっ、どういうことdーーー﹂
﹁ちょっと、ストーカー紛いのことを﹂
﹁はっ?
テリーが俺を引き留めようとするが、俺はそんなのお構い無し
に駆け出し木製の壊れた窓から外へと飛び出した。
これで窓ガラスがあったら、某特殊部隊見たいなカッコいいシ
ーンなんだろうな。
って、ネタが古いか?
まぁ、普通2階から飛び降りれば結構な確率で足を痛めそうだ
が。
足首を挫きましたぁ!
1000
衝撃を和らげるため、地面に着地をしながら膝を折りつつ、両
手も地面に付ける。
そして、マーキングしてある連中の点を確認しながら走る。
しかも表門か
そのとき、赤い点の動きが止まった。しばらくすると、赤い点
はどこかの敷地内へと入っていった。
この建物は⋮⋮規模にしてから貴族の家か?
ら入らずに裏門から入って行きやがった。
やっぱり、あの縦ロールの手下っぽい奴らか?
そんな推測を頭のなかに立てつつ俺は、この屋敷に向かうため
に街中を走り抜けた。
﹁到着っと⋮⋮﹂
俺は屋敷の裏門近くに来ていた。
俺の予想通り建物はどこかの貴族の屋敷だ。さっき確認をした
のだが、表門は2名ほどの門番が立っていた。
裏門付近には誰もいなかったが、代わりに罠が仕掛けられてい
た。
1001
︽分析︾スキルと︽罠︾スキルを使えば、この程度罠位ならす
ぐに見つけれるな。
今はまだ実装していないけど、帰ったら︽マッピング︾スキル
に罠マークも追加しておく事にしよう。
罠の種類は加圧式で踏むと屋敷内の警備室かどこかに通報され
るシステムのようだ。
現代にも欲しい防犯システムだと思ったが、子供達が悪ふざけ
で遊びそうだ。
まあ、こんな罠俺には関係無いのですが。
スキル︽透視︾発動。
これで、塀の内側の様子が分かる。幸いにも堀の内側や建物の
窓付近には誰も居なかった。罠も裏門に設置されている物以外は何
にもなかった。
随分とあの罠を信用しているんだな。
﹁︽風術︾﹂
風の力で地面から数センチだけ浮かび上がり、裏門の目の前ま
で近づく。
辺りを確認し、誰も居ないことを確認すると塀の上に飛び乗り
塀の内側へと飛び降りた。
俺は手頃な窓を見付けるとそこから館内に侵入して、赤い点が
光っている2階の部屋へと急いだ。
1002
運良く誰にも遭わずに赤い点がある部屋の真ん前まで来れた。
︽探索︾スキルで館内を調べてみると、それなりの数がいたが、こ
の辺りには皆無であった。と言うか2階には殆ど人がいなかった。
そんなことは置いといて、俺は︽透視︾スキルを使い部屋の中
を見た。
﹁そうか、良くやってくれたな﹂
﹁まあ、不意を突けばあいつらぐらいなら楽勝ッスよ、指示通りに
廃墟に棄てて来たッス﹂
︵あいつは!?︶
部屋にいたのは、あの縦ロールとその他2名たちでは無く、ウ
グラたちだった。
︵ちっ、あいつらがやったのか?︶
1003
思わずドアをけち破って乱入してやろうかなとも思ったが、あ
いつらがやったと言う明確な証拠も無いし、街中にある貴族の館
だから下手に暴れて逃げたときに目撃されたらややこしい事になっ
てしまう。
落ち着け俺、今は情報を抜き取るんだ。
俺は自分にそう言い聞かせる。早くなっていた鼓動が少しずつ
収まって行く。そして耳をドアに付け、中の会話に耳を澄ませた。
﹁でも、他の特待生らは難しいッスよ﹂
﹁そうですね。常に複数で行動している上に外出時には従者を引き
連れています。幸い、あやつらは従者を付けていませんでしたので、
なんとかなりましたが﹂
ヴグラはいかにも貴族が好んで座ってそうな椅子に座っており、
そこから手下っぽい奴ら2名から報告を受けていた。
﹁チッ、まあいい二人消えただけでも儲け物だ。あとのやつらは放
っておけ﹂
﹁でも、何で今年に限ってこんなことを?﹂
部下の一人が質問をした。
﹁今年は出来る限り同レベルか格上を消しておきたいんだよ、これ
を見てみろ﹂
ウグラがニヤニヤしながら手の平を出すと、おそらく︽倉庫︾
からだろう。何かを取り出した。
1004
このスキ
ポケットから出てきたのは紫色をした錠剤だった。もう色から
して怪しさ満点である。
﹁うわっ、なんすかコレ?﹂
﹁薬⋮⋮ですか?﹂
部下たちもやや引いている。
﹁まあ、それはお楽しみって事だ﹂
ウグラは部下たちにも答えなかった。
表記されない?
チッ、言わなかったか⋮⋮だったらこれでどうだ。
スキル︽神眼の分析︾発動
ーーーーーーーーーー
アイテム名:???
分類:ポーション系?
効果:???
一体どういう事だ?
ーーーーーーーーーー
はっ?
ルは︽分析:10︾と同レベルのスキルだぞ?
俺は何かの間違いでは無いかと思い、もう一度確認しようとし
たとき、マップにこちらに近づいて来る反応に気付いた。
やばい、俺は咄嗟に近づいて来る反応とは反対の方へと走り出
した。まだ知りたい事はたくさんあったが、そんなことを行ってる
1005
暇じゃない。
まぁ、最低限の事は分かったし今日は引くことにするか。
それとも︽透視︾
それにしても︽分析:10︾レベルでもわからない物ってある
んだな。もっと近づかないと駄目だったか?
を使いながらだったから駄目だったのか?
色々疑問が残ったが、結局もう少し近づかないと駄目だと言う
結論に至りそこで考えるのをやめ、俺はテリーたちの所へ戻る事に
した。
﹁クロウ君、無事だったのか?﹂
﹁ええ、問題ありませんよ、それよりネリーさんは?﹂
﹁ああ、問題無くさっき目覚めたよ﹂
テリーの後ろからひょっこりとネリーが顔を出した。
あれから俺は特に寄り道などはせずにテリーたちを待たせた廃
墟へと戻って来ていた。
﹁それで⋮⋮一体何処に行ってたんだい?﹂
1006
誰か分かったのかい!?﹂
﹁ちょっと、犯人探しに﹂
﹁!?
テリーが身を乗り出すようにして、俺に迫ってきた。コワイ。
俺は一応の犯人と思う人を挙げ、しばらくは学校にいかない方がい
いと言った。そして最後にこう付け加えた。
﹁⋮⋮ですが⋮⋮証拠が無い以上その人たちと確信してしまうのは
⋮⋮﹂
そう、今回は俺のほぼチートといえるスキル運用で分かったの
だ。こちらがいくら言ってもあちらが知らないと言えば、証拠不十
分で終わりである。さらに言えば逆に名誉毀損で訴えられかねない。
なので、くれぐれも短絡的な考えに移らないようにと念を押しと
いた。
﹁⋮⋮そうか⋮⋮分かったよ﹂
テリーは素直に聞き入れてくれた。
僕たちはクロウ君に助けられなかった
﹁すいません、力になれずに﹂
﹁何を言ってるんだい?
ら死んでいたかもしれないのだから、ありがとう﹂
﹁ありがとうございます﹂
兄妹揃って頭を下げてくれた。
1007
﹁いえ⋮﹂
その後、取り合えずシュラとカイトたちには急用で言う暇が無
かったとかなんとか言って誤魔化しておいた。
あの二人が本当の事を知ったら間違いなく喧嘩を売りに行くだ
ろうしな。
こうして、事件はやや不満の残る形で幕を下ろした。
1008
第82話:犯人は⋮⋮︵後書き︶
PCよ⋮⋮早く帰ってこい。
どうも、PCが無くてモチベーション駄々下がりです︵泣︶
スマホはやっぱり時間がかかります。前に読者様からblue
もう
toothのキーボードを買えばと言われたのですが、結局買わず
仕舞いです。教えて下さった方には申し訳ありません。
ですが!
あと、3日もすれば帰って来る可能性があるのです!
それだけがモチベーションです。
ちなみに帰って来たらマ○ンクラ○トを真っ先にダウンロード
する予定です。
と、色々愚痴ってしまい申し訳ありません。読んでくださって
いる皆さまの為にも頑張って行きますので、応援よろしくお願いし
ます。
1009
第83話:大会当日︵前書き︶
パソコン治りました。
それなのになぜ遅れたのかと? うれしさのあまり、時間を忘れ
てマイ○ラしてしました。本当に申し訳ございません。︵土下座︶
1010
第83話:大会当日
大会当日
とうとう迎えてしまった。俺はエリラ、サヤ、リネアと共に大会
の集合場所となっている闘技場前に来ていた。
大会の参加者だろうか? 闘技場前ではウォーミングアップをし
ている者などがちらほらと見受けられる。
結局⋮⋮あの後、特にコレっと言った進展はなく。ナルシスト野
郎や縦ロール、ウグラたちからちょっかいがかかることはなかった。
ただ、この大会中、今言ったメンバーは俺らを目の敵にしている
可能性が高い。特にウグラは嫌な予感がする。結局あの薬みたいな
のもわかっていないからな。
もっとも、俺らも黙って行くつもりはない。あいつらには悪いが、
サヤやリネアには出来る限りの知識や技術を与え、万全の準備をし
て迎え撃たせてもらう。
﹁ところで予選って何をするの?﹂
﹁⋮⋮分からない⋮⋮ただ、去年は4人一組でバトルロワイヤルを
行った⋮⋮﹂
俺の質問に、前年度参加者であるサヤが答えてくれた。
1011
この大会中、木剣以外の武器は禁止。ということは必然的にサヤ
は素手での戦闘となる。まあ、それで去年は優秀者として表彰され
ているんだからすごいよな⋮⋮。
サヤはこの2週間で風魔法を取得し実践にある程度使えるまでに
なった。風魔法と格闘のコンビネーションはかなり強力だった。
﹁毎年予選は違うそうですよ﹂
そう言ったのはリネアだ。いつもは、自然のままにしている薄紫
色の髪を、今日は後ろで束ねポニーテールにしている。
リネアはステータスの大幅な向上は無かったが、スキルや魔法式
では飛躍的に向上した。
どんなに成長したかは大会での楽しみとしておこう。
﹁それにしても結構な数がいるね⋮⋮一体どれくらいの人がいるん
だろうね﹂
エリラが俺の傍で辺りをキョロキョロと見渡している。確かに多
いな、確か本選出場者は32名。3回勝てばいい。表彰されるのは
ベスト4進出者と、ベスト8で敗北した人たちで行われる敗者復活
戦で勝ち残った一人の計5名だ。
確かに多いな。今の会話の間にも参加者らしき人たちがゾロゾロ
と集まってくる。
﹁戦闘民族じゃあるまいし、そんなに出たいのか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮国の偉い人も見に来る⋮⋮スカウト待ち⋮⋮﹂
俺がボソッと呟いた言葉にサヤが反応した。
1012
﹁スカウト待ち?﹂
﹁⋮⋮そう⋮⋮強いことが証明されれば⋮⋮騎士とかになれる⋮⋮﹂
﹁へぇ⋮⋮じゃあ去年はサヤさんにも声がかかったのですか?﹂
﹁⋮⋮断った⋮⋮﹂
断ったのか、まあサヤはそんなことにあんまり興味無さそうなイ
メージがあるし、ある意味納得かも。俺は⋮⋮まさか来ないよな⋮
⋮いや、来そうで怖い。
あっでも、ハヤテ一発殴りたい。
﹁参加者の皆さんは集まってください!﹂
そうこうしているうちに、アルゼリカが闘技場の入り口から出て
来て参加者に集合をかけた。てか、あんたが呼びかけるんだな、実
行委員とかいるでしょうに。
1013
参加者が集まってくる中、特待生組とも出会うことが出来た。
最初に会ったのはシュラとカイト。その後ローゼ、セレナ、テリ
ー、ネリーの順番で合流をした。ローゼと会ったときはゼノスさん
とも再会することが出来た。こっちの世界では2か月程度のことだ
が、俺からしてみれば7年ぶりの再会だ。
再会した時にゼノスさんが最初に放った一言は
﹁ふふ⋮⋮もうエリラさんと熱い夜を過ごしましたか?﹂
だった。この人はいつ会っても変わらなさそうです。
﹁なんでそうなるんですか⋮⋮﹂
俺は呆れ顔で言い返した。
﹁いやぁ、折角お二人とも同じ年になったのですから、あんなこと
やこんなことを﹂
﹁いや、何のことですか一体⋮⋮﹂
﹁あんなことやこんなこと⋮⋮うぅぅぅぅ⋮⋮﹂
俺が平静を装いながら会話をしているが、後ろにいたエリラはゼ
ノスさんの言葉から何を連想したのか、急に顔を赤くして俺の背中
に顔を埋めた。まあ、何を想像したかは大方見当がついているけど。
﹁まあ、元気そうでなによりです﹂
1014
﹁うふふ⋮⋮子供の顔が楽しみですね⋮⋮名前はなんでしょうか?﹂
﹁あの⋮⋮いつまで続けているのですか?﹂
﹁子供⋮⋮あうぅぅ⋮⋮﹂
アレ? この人ってこんなにマイペースな人だったっけ? あと、
落ち着けエリラ。ゼノスさんの勝手な妄想に釣られるな。
﹁それより、もう説明が始まりますよ﹂
﹁そっちが言い出したのに捨てた!?﹂
結局、ゼノスさんに散々弄られただけで終わりました。
ちなみに、従者が主人の背中に顔を埋めると言う行為は普通あり
えないので、周囲は一時騒然としていました。
1015
第83話:大会当日︵後書き︶
前書きにも書いてあった通り、PCは無事に帰ってきました。
けど、なんかどこも物理的には壊れていなかったみたいで、若干
不安が残ります。
しかし! 更新はこれから頑張って行きますよ。もうこの章の大
orz
まかな流れはすべて決まりましたので、あとは書くだけです。
ただし、語彙力が低いので言葉が中々出て来ません
が、頑張ります!
1016
第84話:予選︵前書き︶
今回も投稿遅れて申し訳ございません︵土下座︶
1017
第84話:予選
﹁こほん⋮⋮では、これより魔闘大会のルール説明、及び予選を始
めたいと思います﹂
司会進行もアルゼリカさんのようだ。闘技場入口前に設置された
ミニステージの上に立ちマイク︵拡散器、電力は無論魔力から︶を
片手に説明をしてくれた。
まず最初に、この大会のルール説明を受けるのだが、要約すれば
以下の内容になる。
1・お互い持てる武器は練習用の木剣。
2・魔法は自由に使ってもよい。
3・制限時間は10分。
4・制限時間内に相手を、降伏、またはノックアウトさせれば勝利
となる。
5・制限時間内に勝負が付かない場合は審判による判定戦へと移行
する。
6・レフリーストップがかけられた場合、即座に攻撃をやめなけれ
ば失格となる。
その他にも、モラルがかけた行為など様々なルールがあったが、
試合にかかわることはこれくらいだった。特に変わったことはない
が、制限時間が10分しかないのか。確か最初は20分とか言って
いたよな?︵第69話参照︶。まあルールは変わらない訳では無い
からいいか。
むしろ、数十回も試合があるのに、20分で回す方が無理だよな。
1018
それも一日で。そう考えると、この大会ってかなりハードだなと思
う。
﹁では、予選を始めたいと思います。本大会参加者数182名から
32名を選出する今回の予選は⋮⋮これです﹂
そういいながらアルゼリカさんがバッと手を指した方を見ると、
そこには何やら見られない機械︵?︶見たいな台座があった。
台座の中央は手の形に掘られていた。恐らくあそこは手を置くと
ころだろう。⋮⋮見れば分かるか。
台座の上部分には、水晶も飾ってある。
マジックカウンター・メーシャルメント
﹁あれは通称MPMと呼ばれる物です。あの機械に自分の魔力を流
せばそれが数値となって表示されます。そのポイントが高い上位3
2名が本選出場となります﹂
周囲が騒がしくなる。なるほど、去年と比べたら随分と平和的に
決めることが出来るな。
﹁ただし、一つ注意があります。MPMに魔力を流せば当然、自分
の魔力が消費されます。本日は勝ち続ければ最大で3戦。多くて4
戦を行いますので使う魔力には注意をしてください﹂
﹁サヤさんには少し不利な予選ですね﹂
サヤは今まで格闘に特化していた分、魔力はそこまで高くない。
総合力では勝っていても魔力が負けていれば本選出場は出来ない。
﹁⋮⋮問題ない⋮⋮﹂
1019
サヤは顔色一つ変えずにそう答えた。うん、確かにサヤなら問題
にならないと思うけど、一応ね。
﹁これより、予選を始めますので順番に並んでください。なお魔力
数値は随時更新していきます。では皆さん頑張ってください﹂
こうして、魔闘大会の予選が始まった。
﹁⋮⋮数値︻109︼です﹂
﹁だぁ! その程度かよ!﹂
数値を測り終えた男子生徒が悔しそうにしている。その周りで、
数値を見た他の男子生徒が笑っている。ああいうのを見ると、学校
でテストが返却される時を思い出す。教室の隅っこで、せーので一
斉に却ってきた解答用紙を見せ合い、﹁勝ったぁ!﹂とか﹁あ゛あ
゛あ゛負けたぁ!﹂と言う声がよく聞こえてきた。時折、﹁ざまあ
www﹂という若干小馬鹿にしている発言も飛び交っていたな。
1020
俺はそんな光景を思い出しながら自分の番を待っていた。
﹁あと半分か⋮⋮﹂
長い。一人一人はそんなに長くないけど、とにかく人が多いから
待ち時間が長い。
﹁まだ結構あるわね⋮⋮﹂
あくびをしながらエリラが呟いた。
闘技場の入り口前には既に観戦者が続々と集まってきていた。聞
くところによると、一般生徒は無料で見れるらしい。あとは一部の
お偉いさんとかもちらほらいるとか。
有能な人がいたら引っこ抜く気だな。
﹁皆は大丈夫かな?﹂
﹁さあな⋮⋮冒険者のシュラやセレナ、あと無駄に強いサヤとかは
大丈夫だとは思うけど﹂
﹁あの兄妹のこと?﹂
﹁いや、セレナの方かな。最初に会ったときサヤと並んで魔力が低
かったから﹂
﹁まあ、大丈夫だと思うわよ、あの子たちも頑張っていたはずだか
ら﹂
と、エリラは言っていたが正直なところかなり不安だ。参加者の
1021
魔力は全体的に見てかなり高い方だと思言う。さっきの︻109︼
を出していた男子生徒ですらも、ステータスを見ると160はあっ
た。
俺が見た限りで現時点での平均的な数字はおよそ200前後。ス
テータスに直すと、およそ300程度だ。シュラ、カイトたちです
らもギリギリだ。
そうやって見ると、冒険者の魔力が低いのが謎だな⋮⋮。レベル
的には10ぐらいしか無いのにな。恐らく魔法のことばっかりを学
習しているので、称号などの影響があるのかもしれない。ほぼ一年
中勉強しているから魔力面では不利か。
もちろん、本選になれば圧倒的に特待生組の方が有利だ、理由は
スキルレベルの差が顕著に現れるからだ。
でも、この予選を突破しないと始まらないからな。
セルカリオス
おっ、次はあのナルシスト野郎の番か。相変わらず謎のスピンを
しながら台座の前に立ちやがった。
﹁⋮⋮数値︻340︼﹂
﹁フッ⋮⋮これくらい当然さ﹂
﹁﹁キャーーーーセルカリオス様ーーーー﹂﹂
イラァ! 殴りてぇ、あの顔面半分つぶしてやりたい。
ただ、実力はやっぱり認めざる得ない。340ということは、ス
テータスに直すと600前後ということになる。
1022
﹁⋮⋮なに、あの集団⋮⋮﹂
エリラが、ナルシスト野郎とその周りに群がる女子生徒たちを見
ながら若干後ろに動いていた。ああ、そうかエリラはアレを見るの
は初めてだったな。
﹁さぁ?﹂
俺は知りませんよと言う感じで首を横に振った。
ナルシスト野郎は女子生徒たちに囲まれ、その中央でスピンをし
ながら台座から離れていった。いや、だから、なんでこんな地面で
フィギュアスケート並みのスピンをしながら移動が出来るんだよ。
もはや物理法則完全無視だな。
しばらく待っていると、次はあの縦ロールの子がやってきた。俺
はあんまり見ないように顔を逸らしていた。向こうもこちらに気づ
いているのか、特にこちらを見る仕草は見受けられない。
﹁⋮⋮数値︻287︼﹂
やはり高いか。口だけじゃないのは確かか⋮⋮特待生組が彼女と
当ったら厳しいかもな。台座から去り際、彼女の目線が僅かにこち
らに動かした気がしたが、瞬きする間にその視線は元に戻っていた。
気のせいだったのかな? もしかしてこれが自意識過剰と言う奴
なのだろうか?
その次に行ったのはリネアだった。
1023
﹁⋮⋮数値︻251︼﹂
周囲が少しざわめく。確かに見た感じ一般生徒で200を超えて
いるのは全体の3割。さらにそこから250に到達できているのは
半分程度。
かなり上だな。まあリネアのすごさは別の所にあるんだけど今は
いいか。
﹁中々の数値ですね﹂
判定から戻ってきたリネアに俺は声をかけた。
﹁あっ、いえ、クロウさんのお陰ですよ﹂
リネアは頭に手を当てながら、照れくさそうに答えた。
と、そこに
﹁AHAHAHAHA∼、やあ、不幸ちゃぁん、相変わらずラブラ
ブd︱︱︱﹂
言い終わるよりも早く俺の︽魔弾︾が、どこからもなく湧いてき
たナルシスト野郎の顔面にクリーンヒットした。
※魔弾⋮⋮魔力をボール状にしてぶつけた物。低コストで、威力は
低い。
ナルシスト野郎は、そのまま背中から地面に激突した。
1024
﹁誰がラブラブだコラ。喧嘩売っているなら本選で相手してやるか
らどっか行け﹂
のっけから喧嘩口調で追い返そうとする。というか俺からしてみ
れば、もう生理的に受け付けることが出来ない。
地面に仰向けに倒れていたナルシスト野郎が、周りにいた女子︵
野次馬︶に支えられ立ち上がる。
﹁HA! 不幸ちゃんは知らないが君にそんな実力あるのかい? あの機械は筋力を測るものじゃないんだよ?﹂
﹁あ゛っ?﹂
こいつの言い方はどうも気に入らない。というかこんな奴にキャ
ーキャー騒ぐ女子の気持ちが分からないのですが。
懲りていないようなので、もう一発入れようかと思い立ち上がっ
たのだが。
﹁次の人﹂
﹁クロじゃないの?﹂
タイミング良く順番が回ってきた。仕方ないと俺は思い、計測器
の方に向かおうとしたとき。
﹁ねぇ、そこの君! もしかしてあの不幸ちゃんのボーイフレンド
の従者かい?﹂
﹁だから何?﹂
1025
ナルシスト野郎がエリラに問いかけた。その問いにエリラは無愛
想に答えた。
﹁oh、折角可愛いのにあんなボーイの元にいるなんて、まさに宝
の持ち腐れじゃないか、お兄さんの所に来ないかい?﹂
恒例になりつつあるスピンをしながらエリラに詰め寄るナルシス
ト野郎。恐らく心の中では口説き成功と思っているのだろう。あの
自信満々な顔がそれを物語っている。
エリラは口説きに対する答えを言わず、代わりに彼女の強烈な右
ストレートがナルシスト野郎の鳩尾に見事に決まった。
﹁!!!!!!?﹂
﹁あーあ⋮⋮﹂
膝から崩れ落ちるナルシスト野郎。思わず俺は天を仰いだ。
ナルシスト野郎は無言のまま地面に這いつくばっていた。恐らく
呼吸ができないのだろう。彼の周りにいた女子たちが慌てふためき、
何人かの女子は鬼の形相でエリラに詰め寄っている。そんな、女子
たちを無視し、エリラは俺の方へと向かって来た。
そして、ニコニコしながら俺の右腕に抱き付いて来た。
﹁容赦無いな⋮⋮﹂
俺は苦笑いをするしか無かった。
﹁私、あーゆータイプ嫌いなのよ。なんていうか⋮⋮世界は俺を中
1026
心に回っているとか思っていそうで﹂
﹁気持ちは分かるけど、あれは行き成りすぎるだろ⋮⋮﹂
﹁いーの、いーの、私はクロしか見ていないから﹂
少し顔を赤らめながら言ってくれた。
﹁お、おう︵汗﹂
う、嬉しいけどよ、今このタイミングで言うか?
というのも、後ろの女子'sの視線が痛いだけど。
﹁ちょっと! そこの奴隷! 奴隷の風情で何セルカリオス様を殴
っているのよ!﹂
一人の女子がそういいながらエリラの肩を掴んできた。エリラは
振り返り、その手を掴み返し在らぬ方向へと捻じろうとしている。
脱臼しそうな痛みと恐ろしさで掴んでいた女子がエリラの手を振り
払おうとした。
しかし、エリラの手はピクリとも動かない。
﹁いだだだだだだ! ちょっ、離してよ!﹂
﹁文句を言うなら行き成り口説いてきたアレに言いなさい﹂
うわぁ⋮⋮理不尽だ。行き成り口説いてきたのは問題あるけど殴
るのは良くないだろ。と言いたかったが今のエリラにそんな突っ込
みを入れたら俺にも火の粉が飛んできそうなので置いておくことに
1027
する。
というか、早く測定したいのだが。
﹁君、早くしなさい!﹂
案の定、計測者から催促がかかる。
﹁あっ、ハイすいません。ほらエリラ、来るんならさっさと来い﹂
﹁はーい﹂
掴んでいた女子生徒の腕をパッと手を放し笑顔で来た。こ、怖い
⋮⋮。
腕を掴まれていた女子は、イタタタと言いながらこちらを睨みつ
けていた。だが余程痛かったのだろう、こちらを追いかけようとは
しなかった。
﹁ほら、君早く測定しなさい、後がつっかえているんだよ﹂
計測者は目の前で起きた出来事に無関心を装っていた。もしくは
本当に興味がないのかもしれないが。
言われるがままに、俺は台座に手を乗せた。
フゥと一息入れ、そして魔力を流し込み始めた。
もう少し⋮⋮もう少し⋮⋮
︵⋮⋮あっ、流しすぎた︶
1028
だが俺がそう思った時にはすでに遅かった。
﹁⋮⋮数値⋮⋮︻2579︼!?﹂
先程の出来事に無関心だった測定者も目の色を変えて浮かび上が
った数値に目を見張っている。周囲にいた参加者たちの目が一斉に
こちらを向く。
﹁⋮⋮クロ⋮⋮﹂
﹁あっ、ハイ。マジですいません﹂
エリラの呆れた声に、俺は何故か咄嗟に謝っていた。
1029
第84話:予選︵後書き︶
今回も投稿遅れて申し訳ございません。書いているとどうしても、
アレやコレも入れたいと思い、文が上手くまとまりません。
ナルシスト野郎の介入がいい例です。
こんな行き当たりばったりの面もありますが、これからもよろし
くお願いします。
あと早く元の更新速度に戻せるように頑張ります。コメント返信
遅れていますが、すべてのコメントに目は通していますので、いつ
も書いてくださる皆様には本当に感謝です。これからもよろしくお
願いします。
1030
第85話:本選開始
﹁︻2579︼!?﹂
マジックカウンター・メーシャルメント
MFMから少し離れた位置から見物をしていた、縦ロールの子が
思わず声を荒げた。
無理もないだろう。ここまで測定した中での最高値はセルカリオ
スの︻340︼だ。ステータス数値に換算するとおよそ600前後
になる。
だが、クロウの叩き出した数値は︻2579︼。ステータス数値
に換算するとおよそ5500。
しかも、まだ本気を出しているようには思えない。むしろ彼の顔
は﹁やりすぎた﹂と言っているように苦笑していた。
縦ロールの子に付いていた二人は互いに顔を見合わせていた。
あの時、あのまま戦っていたら⋮⋮
もちろん、魔力の数値だけがすべてではない。だが、あの時彼は
巨大な魔方陣を一瞬に作り上げていた。つまり、すぐにでも魔法を
撃てたと言うことになる。
二人の背筋が凍り、それと同時にあの時、戦わなくて本当に良か
ったと心の底からホッとした。
﹁い、インチキよ! そんな数値出るわけ無いじゃない!﹂
1031
若干一名クロウたちに近づいていく者を見たとき、再び二人に緊
張が走る。
﹁レミリオン様!?﹂
レミリオンと言われた縦ロールの子は、二人が制止するのも気に
も留めずクロウの元へと歩いて行く。そしてクロウの目の前まで来
ると
﹁どうせ卑怯な手でも使ったのでしょ!? 私が目の前で見てあげ
るからもう一回やりなさい!﹂
指をクロウの方へと突出して平然と言った。
さっきの数値を真に受けている二人の顔は真っ青だ。もし本選で
ぶつかれば勝機はほぼゼロに近いだろう。ただえさえ先日、闘技場
でこちらから喧嘩を売りに行って見逃してもらっているのに、なぜ、
向こうの感情を逆撫でする様な言動を自分の主は平然とやってのけ
れているのか、不思議でたまらなかった。
そして、心の底から何もありませんようにと願うのだった。
==========
1032
何故か卑怯な手を使ったと言われているクロウです。
いや、卑怯な手は使っていないけどさ。心の底からミスったとは
思っています。当初の予定では絶対安全圏の500あたりを狙って
いたんだけど、思ったより魔力を必要としなかった。だから思って
いたより大量の魔力を注ぎ込んでしまったのだ。
この縦ロール⋮⋮確かレミリオンとか言われていたな。まあこの
人が言うように卑怯な手を使ったと言われても可笑しくないレベル
だよなこれ。
﹁いいですけど⋮⋮別に抑えても結果は変わりませんよ?﹂
今だって抑えていたのですから。︽魔力制御︾を使えばもっと抑
えられると思うけど、どっちにせよ500ぐらいで一位取って10
0%本選に出れるようにするつもりだったし。
﹁上等! やってみなs︱︱︱﹂
﹁いや、その必要は無い﹂
完全にもう一度測る流れになり掛けたとき、測定者の人が待った
をかけた。
1033
﹁どういうことですか!?﹂
納得いかないと測定者に迫るレミリオン。測定者は先程まで動揺
していた顔から測定前の冷静な顔になっていた。
測定者は淡々と説明を行う。
﹁この装置はなんらかの不正行為を行えばエラーが発生する仕組み
になっている。そのエラーが起きていない以上2度目は規定上無し
だ﹂
﹁何を言っているの!? こんな数値ありえないでしょう!﹂
・ ・
まあ、普通は無いだろうな。ところがどっこい私は普通ではあり
ません︵笑︶
測定者が何度説明しようが納得が行かない様子のレミリオン。流
石にこれ以上他の参加者を待たせるのも嫌だったので止めることに
した。
﹁まあ、不正したとかしてないとか本選で分かることじゃないです
か? その時にその眼で確かめたらどうですか?﹂
﹁そ、そうですよレミリオン様。この人が言うのももっともです﹂
﹁ここは一つ落ち着いてください﹂
﹁⋮⋮っ!﹂
従者2名が俺の発言に乗ってくれたおかげで何とかその場は落ち
着いた。ただ周囲の群集は最後まで、不正しているだのしていない
1034
など勝手な憶測を飛ばしていた。そのうち場の空気が﹁隠れて不正
をした﹂と言う流れになった。なんでそうなるのですか⋮⋮。
﹁本選で叩き潰してやる! 出たことを後悔するのよ!﹂
挙句の果てにリミリオンに捨て台詞を言われる始末でした。
測定終了後、俺は近くにあったベンチに座り込んだ。
﹁はぁ⋮⋮本選前になんかドッと疲れたんだけど⋮⋮﹂
﹁クロが魔力を流す量ミスったからでしょ﹂
エリラの鋭い突っ込みが痛い。
﹁ハイ、ソノトオリデス﹂
﹁⋮⋮まあ、改めてすごいと思ったけどね。本当に羨ましい⋮⋮﹂
﹁エリラもレベル的に可笑しい領域だけどな﹂
※エリラ現レベル:89
﹁クロに言われたくないわよ! 誰が鍛えたのよばかぁ!﹂
﹁アッ、ハイサーセン﹂
最後の人が測定し終えるまで俺はなんか色々な目で見られたが、
エリラといつも通りの雰囲気で流しました。
1035
そして、全員の測定が終わり本選出場者、およびトーナメント表
が貼られた。
まず、特待生組で本選に出場するのは俺、サヤ、シュラの僅か3
名だった。ローゼ、セレナ、カイトはギリギリ数値が足りずに脱落
した。
戦闘力では圧倒的な冒険者組も魔力勝負では分が悪かったようだ。
そして、リネアも本選に無事出場をすることになった。しかも相
手は
﹁HEY! 一回戦は不幸ちゃんとかい! やっぱり不幸な子に生
まれたのだねHAHAHAHA∼﹂
こいつだ。まあ⋮⋮なんと運の無い。
﹁まあ⋮⋮頑張れ﹂
﹁はい!﹂
取りあえず俺はリネアに一言かけておいた。
さて、俺の対戦相手だがどうやら三人衆の最後の一人が相手との
こと。
ただ、俺はそんなところに興味はない。問題はその次の2回戦の
相手だ。貼り出されたトーナメント表に書かれている俺の名前のす
ぐ横には
1036
レミリオン
v.s. ウグラ
と、書かれた名前があった。
どこからもともなくピリピリとした視線を感じる。まあ相手は分
かっているけど。
チラっと後ろを見てみると案の定、レミリオンが物凄く鋭い眼で
こちらを睨みつけていた。
はぁ⋮⋮最初から予想していたけどこの大会⋮⋮どう考えても一
波乱あるよな⋮⋮主に俺に対して。
こうして、不安のまま本選が開幕した。
※サヤとシュラの対戦相手は一般生徒でした。
本選の会場となる闘技場には沢山の観客が押し寄せていた。この
学園の生徒や国のお偉いさんだけでは無い。見れば一般市民のよう
な服装をした人もいれば、冒険者らしきグループも見受けられた。
どうやらこの大会はそれなりに有名見たいだな。
試合が行われるたびに闘技場は熱狂の渦に巻き込まれる。
そして、俺の中で最初の注目カードが始まろうとしていた。
1037
﹁リネア! セルカリオ! 前へ﹂
審判の掛け声と共に、リネアとナルシスト野郎が闘技場の中央に
向かって歩いていく。ナルシスト野郎の顔は余裕綽々そうだ。時折、
スピンをしたいような仕草をやっている。なんというか﹁スピンし
ようかな∼あっでもやめようかな∼﹂とでも言いたそうだ。殴りた
いな。
対するリネアは少し緊張しているのか、表情が硬くなっていた。
﹁リネア!﹂
闘技場に向かって行くリネアに俺は闘技場の出入り口から声をか
ける。大観衆の中だったので気づくが心配だったが、幸い彼女の耳
に届いたのか後ろを振り返りこちらを見てくれた。
﹁思いっきりやれ! 後は心配するな!﹂
その声が届いたかどうかは分からないが、彼女の顔に走っていた
緊張感が幾らか和らぎ笑顔で頷いてくれた。
そして、再び彼女は闘技場の中央に向かって歩き出した。
さあ、修行の成果を見せてやれ!
1038
第85話:本選開始︵後書き︶
と言う訳で本選開幕です。
特待生組少なくねぇか! という声がたくさん届きそうですが、
数値計算をしてみるとどう考えても魔法の勉強を専門的にやってい
ない冒険者には分が悪かったので仕方ありません。︵泣︶
ステータスが上がるのはレベルアップだけではなく称号などでも
上がることがあるので、魔法のことを中心に勉強してきた生徒たち
は数多くの称号によって補正がかかっているということになります。
実は称号は書いていないだけでちょっとしたことでも手に入るこ
とがあります。ただ主人公からしてみると本当に微々たるものなの
で省略していますが。
もちろん、本編で書いてある通り実戦になれば、経験、スキルレ
ベルで圧倒的に冒険者つまり特待生が有利になります。そういう意
味ではこの予選は本当に運が悪かったと言えるかもしれません。
次回からいよいよ大会本選に突入します。頑張って書いていきま
すので応援よろしくお願いします。
1039
第86話:リネア v.s. セルカリオス
﹁HAHAHAHAHA∼、ボーイフレンドが応援とは隅に置けな
いね∼不幸ちゃん﹂
私の目の前で謎のスピンをしながら三人衆と呼ばれるうちの一人
であるセルカリオスさんがそう言った。
﹁ボーイフレンドではありません﹂
私は拒否をした。そう、クロウさんとはそんな関係じゃない。
﹁じゃあ何だというのかい?﹂
﹁⋮⋮クロウさんは、私の師匠です﹂
﹁HAHAHAHA∼、あんなボーイに何が出来るのかい? 確か
ココ
に筋力も魔力もあったようだけど所詮は将来有望とかコネとかそん
なんで学園に来たんじゃないか? それよりもビューティフルで天
才の私から教わった方が素晴らしい成長が出来ると思うけどね∼あ
っ、もちろん不幸ちゃんには教えないよ。どうしても教えて欲しい
なら、あのときの魔法と月謝を払いたまえ HAHAHAHAHA
∼﹂
﹁⋮⋮﹂
私は何もしゃべらなかった。いや、しゃべる気が無くなってしま
ったと言った方が正しいのかもしれない。
1040
この人はクロウさんを馬鹿にした。許せない。
クロウさんはあなたよりずっと大人です。頭もいいです。何より
も優しいです。こんな私にも魔法を教えてくた。私がどんなに誤射
をしようが笑顔で﹁気にするな﹂と言ってもらえました。
彼の家に行ったときも、思い切って泊まっていいですかとお願い
したら、少しは迷ったけどすぐに笑顔でいいよと言ってくれました。
彼の家には沢山の獣族の奴隷がいました。彼女らは物凄く笑顔で
した。私は最初、少し距離を置いていましたけど、過ごしていくう
ちに仲良くなりました。
そんな彼女らもクロウさんは優しい人といっていました。
ただ彼女らは、﹁怖い一面もあるけどね﹂とも言いました。それ
は私も見ました。今、目の前にいる人が私に魔法を教えろと迫って
きて、それを撃退してくれたときの彼は、鬼のように怖かったです。
でも、私の為に怒ってくれたと思うと、それもクロウさんの優し
さなのではと思えてきます。
﹁両者用意はいいですか?﹂
審判の方の声で私は現実に引き戻された。
﹁HAHAHAHA∼、いつでもいいですよ﹂
﹁はい﹂
今の私に出来ること⋮⋮それは
﹁では⋮⋮始め!﹂
1041
この人に勝つことです!
試合開始と同時に私はセルカリオスさんとの距離を置きました。
私は、彼は詰め寄ってくると思っていたのですが、彼は最初の位置
から微動だにしませんでした。
﹁?﹂
思わず首をかしげてしまいました。彼は笑顔で
・ ・
﹁最初はそちらからどうぞ。不幸ちゃんも一応女の子だし。紳士な
僕はレディー・ファーストで﹂
と言いながら木剣を地面に突き刺し、腕を組みました。
観衆の中でおそらく彼のファンだと思う人から、﹁キャー素敵!﹂
とか﹁さっすがセルカリオス様!﹂などの言葉が聞こえてきます。
﹁では、遠慮なく行かせてもらいます﹂
私はそういうとクロウさんから教わった魔法の詠唱を始めました。
クロウさんが一度だけ私の為に見せてくださった魔法。クロウさ
1042
んは﹁実戦で使うには詠唱が長いから使う機会は無いかもしれませ
んが﹂と言っていましたが、まさかこのような形で使えるとは思い
ませんでした。
﹁︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱﹂
私が発動までにかかる時間は15節分。クロウさんは無詠唱で発
動していました。本当にすごいと思いました。
﹁多重型魔法⋮⋮﹂
私のすぐ横に私の顔と同じぐらいの紅の魔方陣が浮かび上がる。
そしてそれを中心に一斉に大小様々な魔方陣が生まれた。正直なと
ころ余りに多くて魔方陣の数は数えたことはない。
数は知らないけどクロウさんが言うには﹃たいほう﹄とか言われ
る物をモチーフに作ったとか言っていました。
それぞれの魔方陣は自分の役割を果たし始める。やがて、最初に
生まれた魔方陣にパワーが集まりだし、一つの球体を生み出す。
﹁?﹂
見たことない魔方陣にセルカリオスさんも観客席も黙り込んでい
た。無理もないことだと思う。私も始めクロウさんに見せてもらっ
た時には言葉を失った。
多重型魔法。学校の先生からは教えてもらったことはないし、見
たことも聞いたことも無かった。本にもそんな魔法式の事を書いて
いたのを見たことは無かった。
やっぱりクロウさんはすごいと思う。
1043
見せて上げます。これがクロウさんの魔法です!
ボルケノ・キャノン
﹁⋮⋮︽火山砲撃︾!﹂
その言葉と共に、一つの魔方陣に集約された火の魔力が一気に解
き放たれ、膨大な熱が辺りを支配した。放たれた炎はセルカリオス
さんに向かって一直線に飛んでいく。
﹁はっ?﹂
一瞬、セルカリオスさんの困惑している顔が見えた。けど、次の
瞬間すでにその顔は炎で見えなくなっていた。死んでいないよね?
クロウさんが言うには﹁多少の火傷はするけど死ぬまでは行かな
いように設定してあります。必要となれば解除も出来ますが﹂との
こと。
観客すらも思わず顔を隠してしまいそうな熱が辺りに放たれる。
正直、ここまでの威力とは思いませんでした。
やがて、魔法が終わり辺りに静けさが戻った。
先程までセルカリオスさんがいた個所には、もはやセルカリオス
さんはいなかった。かわりに闘技場の壁にややめり込む様な形で完
全に伸びていました。髪の毛はチリチリに焼け、もはや最初のビュ
ーティフォー︵?︶な顔はありませんでした。
あの⋮⋮あれ、本当に大丈夫なのでしょうか?
﹁し、試合終了⋮⋮勝者リネア!﹂
1044
ややあって、審判が宣言した。最初は静まり返っていた場内がや
がて、大歓声に包まれていくのが分かった。
もっとも私には雑音にしか聞こえませんが。
でも、やっぱり嬉しいのは嬉しい。
私はセルカリオスさんに近づくことなく競技場を出た。出る前に
何人かが担架を持ちながら走っていく様子が目の端に移った。おそ
らく彼を運ぶためのものだろう。
出入り口付近にまで戻ってくるとクロウさんとその従者さんが待
っていました。
﹁おめでとう。圧勝でしたね﹂
﹁おめでとう﹂
﹁あ、ありがとうございます﹂
私は素直に礼をしました。
心の中から嬉しかったです。やっぱりクロウさんに言われるのが
一番嬉しいです。
1045
﹁それにしても、あのナルシスト野郎も馬鹿な事やったな⋮⋮﹂
クロウさんは闘技場の方を見ながら呟きました。
﹁あの⋮⋮あの人は大丈夫なのですか?﹂
﹁ん? ああ、大丈夫ですよ︽不殺︾スキルを入れてあるから一定
のダメージまで言ったらダメージが無効化されますから。まあ痛み
はそのまんま行きますが﹂
それを聞いて私はホッとしました。やはり心のどこかで心配だっ
たのでしょう。体から一気に力が抜ける感覚がしました。
﹁よかっ
私が改めてお礼を言おうと右足を踏み出したとき、いきなり右膝
が折れガクンと体勢が崩れてしまいました。
こける! と思いましたが、クロウさんが自分の体で私を受け止
めてくれたお陰で事なきを得ました。それにしても何でしょうかこ
の全身の倦怠感は? 力を入れようとしても全く力が入りません。
﹁やっぱり一気に魔力を使い過ぎましたね。あれくらいの魔法を放
ったから仕方ないかもしれませんが﹂
そういってクロウさんは自分のポケットから何かを私に差し出し
ました。 クロウさんが私に差し出して来たのはガラス瓶でした。
中には青く輝く液体みたいなのが見えました。
﹁これを飲んでください﹂
1046
私はクロウさんに背中を支えてもらい、言われるがままに瓶の中
に入っていた液体を飲み干しました。⋮⋮甘くておいしいです。
しばらくすると、先程まで感じていた怠慢感が消え、楽になって
来ました。
﹁これは?﹂
﹁エーテルポーションですよ﹂
﹁ぶっ!?﹂
思わず吹き出してしまいました。何故ならエーテルポーションと
言えば超が付くぐらい高価で貴重な薬品だったからです。
一瞬、眩暈がしました。
﹁? ああ、お金なんて要りませんよ。私が作ったものですから﹂
私の表情から察してくれたのか、クロウさんはそういってくれま
した。
作ったって⋮⋮かなり高難易度の調合のはずなのですが⋮⋮。ま
だまだクロウさんには私なんかが出来ないことがたくさんあるよう
です。
﹁ところで⋮⋮いつまでクロに支えてもらっているの?﹂
横からクロウさんの従者さんが不機嫌そうに私に言ってきました。
よく見ると私はどうやらずっとクロウさんに背中を支えてもらって
いました。 1047
﹁∼∼∼∼///﹂
何故か急に熱くなってきました。私は慌ててクロウさんから起き
上がりました。
何故でしょうか? 顔が熱く、心臓の鼓動もいつもより早い気が
します。
﹁って、次はクロの番じゃない?﹂
﹁あっそうだった。それではリネアさんまた後で会いましょう﹂
﹁は、はい! 頑張って来てください﹂
私は笑顔でクロウさんたちを見送りました。クロウさんが去った
後私は闘技場外にあったベンチに一人座りこの鼓動が収まるまで一
人ポツンと座っていました。
1048
第86話:リネア v.s. セルカリオス︵後書き︶
後書きを書いている時に、もう少しナルシストの無残な姿を入れ
れば良かったかなと思いました。イケメンのチリチリ頭だけでも十
分に私は笑っていましたが︵笑︶
本当は、次のクロウの勝負も入れようかなと迷ったのですが、す
でに昨日投稿するはずだったこの回が遅れていましたので、キリが
言いここで止めました。続きを楽しみにして下さっていた人には申
し訳ありません。
それにしてもいつもと違う人からの視点で書くことは難しいと思
いました。けど後悔はしていない︵キリッ
1049
第87話:クロウ v.s. リーファ︵前書き︶
1050
第87話:クロウ v.s. リーファ
さて、リネアも勝った事だし俺も行くとするか。
ちょうどリネアの次が試合だった俺は競技場に入る出入り口付近
で待機をすることにした。
﹁うわぁ⋮⋮クロってこんなに人がいる中で戦うの初めてでしょ?﹂
﹁ん? まあ⋮⋮そうだな。まあ別に緊張とかはしてないけどな﹂
だって、緊張する要素が見当たらないですもん。どんな勝ち方が
いいかなと悩んでいます。贅沢な悩みだなおい。
﹁⋮⋮今度は手の抜き方を間違えないようにね﹂
﹁善処する﹂
俺のチートっぷりに慣れてきているエリラからしてみれば、十中
八九決まっている勝ち試合だよな。
と、その時競技場の方から入場してくださいとの声が聞こえた。
さて、行くとしますか。
⋮⋮あっ、ちなみに今回は殆ど手加減はしないので。ごめんなエ
リラ。
俺は内心で秘かにエリラに謝っておいた。
1051
﹁卑怯者!﹂
﹁帰れ!﹂
競技場内に入ると聞こえてくるブーイング。どうやら予選でのこ
とが噂で広がっているようだ。まあ予想は付いていたけどさ⋮⋮。
某球場なら物投げられて当たり前そうな光景だ。
﹁君も大変だね﹂
声のした方を向くと、そこには少年が立っていた。
﹁? 誰?﹂
﹁君の対戦相手さ﹂
ああ、三人衆の最後の一人だっけ? ⋮⋮確か名前は⋮⋮リーフ
ァだったけ?
緑色で先端が外向きに跳ねている短髪の髪が特徴的だ。
1052
﹁まあ、不正したとか、そんなことは僕にはどうにでもいい事さ。
どうせここで全てが証明するんだから﹂
﹁まあ⋮⋮そうだな⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ん? どうしたんだい?﹂
﹁いや、ようやく真面な奴に会えたなって﹂
少なくともあの2人よりかは真面そうだ。
﹁はは、あの二人の事は僕からも謝っておくよ。どうも少しばかり
自己中心的な気がするし、それにセルカリオスは、もうお灸を据え
られたみたいだしね﹂
ああ、さっきの試合の事か。
﹁アレは大丈夫だったのか?﹂
と、撃沈させた魔法を作った当の本人が言ってみたりする。俺も
悪い奴だな。まあ、後悔はしていないが。
﹁ああ、先程保健室に連れ込まれていたよ。生きてはいたけど、ち
ょっと衝撃でどこか狂ったのか、意味不明な言葉を連呼していたよ﹂
⋮⋮あっ、しまった死なないようにはしていたけど、痛みはダイ
レクトで入ることを忘れてしまっていた。
一瞬で灰になるほどの膨大な熱を受けて死ななかったから、きっ
と想像を絶するような痛みが彼を襲った事だろう。ぶっちゃけ死ん
1053
だ方がマシとか言うレベルだったかもしれない。
﹁まあ、アレよりか周りにいた女子たちが涙目になっていたからそ
っちの方が可哀相に見えたけどね﹂
﹁あー⋮⋮そりゃご愁傷様で﹂
全然思っていませんが、建前って大事ですよね。
﹁そろそろ始めましょう。ちなみに僕も一応、君らの事はあまり快
く思ってはいない⋮⋮全力で行かせてもらうよ﹂
﹁ええ⋮⋮﹂
こいつもか⋮⋮どうやら一部の奴らからは特待生は本当に目の敵
にされているようだな。
﹁⋮⋮まぁ⋮⋮全力なんて無理だろうけどな⋮⋮﹂
﹁ん? 何か言ったかい?﹂
﹁いえ、何も。それよりこちらも予選の汚名を晴らしたいので死な
ないように﹂
﹁⋮⋮ああ、そうするよ﹂
1054
﹁では、両者準備はいいですか?﹂
﹁はい﹂
﹁いつでもいいよ﹂
﹁それでは⋮⋮始め!﹂
試合の幕が切って落とされる。
﹁︱︱︽炎
開戦と同時にリーファが魔法を唱えようとした。
だが、肝心のターゲットである俺はもうスタート地点には居ない。
試合が始まって2秒も経っていなかっただろう。
﹁はっ?﹂
思わず詠唱を中断し辺りを見渡すリーファ。だが、周囲に俺の姿
は見えないだろう。何故なら俺は
1055
﹁⋮⋮!? 上か!﹂
バッとリーファが顔を上げると、そこには空中で止まっている俺
が見えたことだろう。
開戦直後にジャンプをし高さ20メートルぐらいまで飛び跳ねる。
︽跳躍︾スキルがあればこれくらいは簡単に出来る。
空中に来たのは敵の思考を混乱させるためだ。
︽風術︾みたいに自分を浮かび上がらせる魔法はかなり高度な技
術を必要とする。ある程度魔法をかじった人ならば俺がやっている
ことがどんなに凄い事か分かるはずだ。
﹁さて、じゃあやるとするか﹂
バッと両手を広げると闘技場全体に白い魔方陣が一斉に現れた。
その数100個。大きさは一つにつき1∼2メートル程度のものだ。
魔方陣はターゲットであるリーファに全て向けられていた。これ
だけの数の魔方陣に囲まれるなど人生でそうは無い体験だろう。
今からやろうとしているのは明らかにオーバーキルな行為だ。
俺も仏様じゃない。勝手に俺が知らないところで嫌な噂が立てば
俺もイラッとする。
そこで全校生徒が殆ど見ているであろうこの試合で黙らせること
にした。あの装置は不正と言われても生の試合でこんなことをやれ
ば俺を不正行為だとか言ってた奴らを黙らせることが出来るだろう。
それと同時に、リネアにまたちょっかいをかけて来る奴らの牽制
もこれで出来る。あのナルシスト野郎が変な噂を立ててくれたお陰
1056
でいい抑止力が出来そうだ。
まぁ、これでまた変な噂が立って、俺に面倒事が来るのだろうが
もういつもの事なのでスルーをさせてもらおう。
と言うことで、リーファには犠牲になってもらいます。
ミーティアンズ
﹁︽流星群︾﹂
すべての魔方陣から一斉に飛び出す光の弾。時速200キロは出
ているかもしれない。恐らく直撃をすれば頭なんか水風船みたいに
弾け飛ぶことだろう。
そんな恐ろしい魔力の弾が100個の魔方陣から一斉に解き放た
れる。もちろん各魔方陣から一発なんて生ぬるい事はしない。各魔
方陣からは取りあえず20個ぐらいは出るようになっている。
えーと⋮⋮2000発と言うことになるな。
地面に落ちる度に辺りにまるで大地震のような地鳴りが辺りに響
き渡る。まるでこの世の終わりかと言うような魔法が辺り一面に降
り注ぐぎ、観客たちも席から滑り落ちあるものは地面に俯せになり。
あるものは隣人の人たちと思わず抱きしめたりしていた。
ズガガガ! となったかと思えばグラグラと辺りが揺れ。続いて
何かが弾ける音が聞こえる。揺れは震度にして6強はあるのかもし
れない。
と言っても俺は地震って言っても日本でも3しか体験したことが
無いのだが。
最後の魔法が地面にぶつかり終わり、俺は魔方陣をすべて閉じた。
先程まで一面、砂で覆われていた競技場の中央を中心に辺りは穴
1057
ぼこだらけ、特に集中して当たった部分はもはや底が見えないほど
だ。
一応審判が立っていた場所は土魔法で土台をがっちりしておいき、
尚且つ射程外にしておいたので殆ど無傷だ。
一方のリーファはと言うと、闘技場に僅かに残った砂の山の上で
気絶をしていた。今度は死亡および痛みもある程度軽減されるよう
にしておいたので、発狂するなんてことはないはずだ。
もし、痛みを軽減させなければ、自分の体が粉々につぶされ、引
きちぎられる痛みを何度も何度も生きたまま味わうことになってい
ただろう。
⋮⋮あれ、俺がやっている事って拷問にならないか? リーファ
はいいとして、ナルシスト野郎に少しだけ罪悪感を感じました。
さて、このまま競技場を放置したら試合どころではないので、得
意の土魔法でさっさと整地を始める俺。その間審判、観客を始め、
誰一人として声を発さなかった。
整地作業が終わり、俺が地面に降り立った後も同じだった。
しばらくはこのままにしておいた方がいいだろうと思った俺は。
何も告げずに競技場を後にする。
闘技場の方からどよめき声が上がったのは、それから数分してか
らだった。
1058
第87話:クロウ v.s. リーファ︵後書き︶
クロウが少しだけ力を入れたら、このような形になっちゃいまし
た。ある意味一人で自然災害どころか天変地異を起こしかねないな
ぁと改めて実感しました。
三人衆の最後の一人は意外と真面な人だったので、残念に思う人
もいるかもしれませんが、思い込み縦ロール子とナルシスト野郎に
冷静に対応する人がいなければカオス過ぎる三人衆だなと思ったの
で、リーファには冷静なキャラでいてもらいましょう。︵現時点で
は︶
次回、あの二人が激突します。
いつも感想ありがとうございます。感想には多少遅れてもすべて
の人に返すように心がけていますが、見落としている人がいたらマ
ジですいません。
次回以降もよろしくお願いします。
1059
第88話:レミリオン v.s. ウグラ︵前書き︶
ようやく、2日に1回の更新に戻れました。
では、第88話をどうぞ。
1060
第88話:レミリオン v.s. ウグラ
﹁このっ、バカぁ! 手を抜くんじゃなかったの!?﹂
・ ・
﹁えっ、一応抜いたけど?﹂
﹁アレのどこが!?﹂
競技場に向かう為の通路で俺に待ち構えていたのはエリラの説教
だった。
﹁万が一観客が怪我でもしたらどうするつもりだったの!?﹂
﹁いや、その万が一を考慮してアレですけど?﹂
本当ならもう少し数も威力も増やす所だけどな。流石にやり過ぎ
ると魔力がやばいけど、あれくらいならまだ撃てる自信はある。
ただあれ以上やるとマジで称号辺りに︽歩く天災︾とか︽全てを
消す者︾とかが付きかねないから自重するけど。
﹁⋮⋮アレ? 私、疲れているのかしら? アレデモ テ ヲ ヌ
イテイル?﹂
﹁イエス﹂
﹁⋮⋮﹂
1061
俺の言葉を聞いて硬直するエリラ。目の前で手を振ってみたりお
馴染の行動を一通りやってみたが、やはり動かなかった。
アレ? これリアルに大丈夫? 俺がそう思いだしたころにエリ
ラの表情がハッとした表情に変わった。どうやら戻ってこれたよう
だ。
﹁大丈夫か?﹂
﹁あー⋮⋮もう⋮⋮どうでも良くなってきたわ⋮⋮もう、クロだか
らしょうがないとしか思えない⋮⋮﹂
どうやら想像以上にショッキングな出来事だったようです。
﹁⋮⋮所で判定をされる前にここに来たけど大丈夫なの?﹂
﹁大丈夫だろ。てか、負けならそれはそれでいいし﹂
ぶっちゃけあんなことをやれば早々手を出して来るような馬鹿は
いないと思う。いや、馬鹿が居ないことを信じよう。
リネアの方にもいい意味で影響が行ったらいいな。
1062
﹁そろそろ次の試合だな﹂
俺は闘技場に設けられた選手専用の客席に座って次の試合を見る
ことにした。
ちなみに、ここに来た時には道を開けられましたよ。ああ、想像
上の効果だったようだ。それと同時に何やら少し豪華な服を着てい
る国の関係者らしき人たちが少し選手用の客席の周りに集まってき
ているようにも感じられた。
てか、こういうVIPな人たちって普通専用席みたいなのがある
よな!? なんで一般生徒たちに紛れて観戦しているの?
もしかして、本来こういう大会って国の人たちは来ないのかな?
俺がイメージしているのは闘技場の観客席で一番高いところに王
の間みたいに赤くて、豪華な作りをした椅子や装飾品があるところ
で堂々と座って観戦して、部下たちはすぐ下の席で見てる? そん
な感じのを想像していたのだが、どうやら少し違うようである。
と言うか、このままここにいたら確実に話しかけられそうだなお
い。
あれほどのことをやっちゃったのだから、何か言ってくるのが当
然と言えよう。
自分の駒になればとか思っているんだろうな。
1063
このままでは嫌な予感がするので、この試合を見終わったら全速
力で選手控室の方に逃げようと思う。エリラも周囲の視線を嫌がっ
ているのか、キョロキョロと辺りを見渡して、俺の左腕を少し強め
に握っている。
まぁ、それ以外にもエリラは元貴族だから顔見知りが居たら不味
いんだけどな。アレ? そういう意味でもすぐ移動した方が良くな
いか?
と、そうこうしていると次の選手らが出てきた。
ここまで来るとなんか逆に動かない方がいいかなと思い、この試
合はココで見ることに決めた。
ちなみに、俺は勝っていることになっていた。なんでもリーファ
の方から﹁僕の負けです﹂と自らギブアップをしたとのこと。
リーファ⋮⋮あんたはいい奴だったよ、うん︵※死んでいません︶
さて、次の対戦カードはレミリオンとウグラか⋮⋮ちなみに、勝
った方と次に俺はぶつかることになる。
どっちも対戦したくない人物だ。正直共倒れにならないかなと思
っていたり。
予選の魔力数値はほぼ互角。若干レミリオンの方が上と言ったと
ころだったけ? まあ︽神眼の分析︾を使えば分かる話なのですが。
さて、どっちが勝つかな?
1064
==========
﹁両者用意はいいか?﹂
﹁来なさい。あんたを潰してあのクロウとか言う奴の化けの皮を剥
がしてやるんだから﹂
﹁⋮⋮﹂
っち、何も言わないのですか。いいですわ。すぐに終わらせて差
し上げましょう。
このウグラとか言う人は冒険者とか言っていましたが、そんなの
関係ありません。全力で叩き潰して上げましょう。
﹁始め!﹂
審判の始めの合図と共に私は、前に足を踏み出した。
何故私がこう出たかと言うと今までの試合は殆どの初手が魔法だ
1065
ったからよ。魔法を使うには詠唱時間がかかる。私の経験ではどん
なに早くてもそれなりに威力を出すのなら3∼5節は必要。
あいつとの距離は僅かに10メートルちょっと。3節もあれば、
十分に懐に入れるわ。
案の定、ウグラは詠唱の構えをしていた。
ばかね。冒険者とか所詮口ばかりよ。実際の戦闘では距離を置く
までは近接攻撃が当然じゃない。
私は、腕にグッと力を入れ木剣の刃の面をお腹辺りにめがけて一
気に振りぬこうとした。
だけど、次の瞬間。彼の口から衝撃の言葉が飛んできた。
﹁︽炎柱︾﹂
その言葉と共に、突然私の足元に魔方陣が生まれ、そこから一気
に炎が噴き出した。
私は回避することがあ出来ずに、突然現れた炎に掬い上げられた。
何故!? 確かに彼は詠唱の構えをしていた。そして事実魔法を
放ってきた。だけど早すぎる! 何節とかの問題じゃないわよ! 下手をしたら無詠唱くらの早さはあった。
いや、考えている暇はないわ。上空に掬い上げられたら回避が不
可能になる。ここは、魔法を撃って来たところにカウンターを︱︱︱
﹁どこ見ているんだ?﹂
1066
突如、自分の背中側から声がし、振り向いてみるとそこにはウグ
ラがいました。
えっ、何故彼が私よりも高い位置に︱︱︱
そう思ったときには彼の踵落としが私の腰に決まっていた。そし
て、私はそのままお腹から地面に叩き落とされた。
腰に受けた蹴りと地面に落ちた時の衝撃が私を襲った。呼吸をし
たくても出来ず、私はその場で蹲っていた。
﹁おいおい、もう終わりか? 試金石すらにもならねぇな﹂
痛む体を声が聞こえた方へと無理やり動かす。
ウグラのニヤニヤした顔が見えた。普通の時に見たのなら、どこ
か間抜けな顔だなと思っていたかもしれない。
だが、彼のにやけ顔は、今の私には﹃悪魔﹄にしか見えない。
﹁もっと、実験させてくれよ﹂
次の瞬間。ウグラの蹴りが私の横腹を捉えていた。
そして今まで感じたこともない衝撃と共に、私は空中へと投げ出
されていた。
1067
第88話:レミリオン v.s. ウグラ︵後書き︶
審判が判定していないけど大丈夫? と言うご意見が寄せられま
したが、こういう結末になりました。いかがでしたでしょうか?
もし、私がクロウの対戦相手ならこうしていましたね。もう泣き
ながら土下座でもしていることでしょう。
他の人も内心、イチャモンをつけたかった人もいるでしょうが、
私からしてみればそんなことをして、後でバレたら﹁ちょっと、体
育館裏まで来ようか﹂みたいな流れが起きそうで怖くてとてもじゃ
ないが言えませんね。︵ガクガクブルブル
いつも、感想ありがとうございます。特に毎回書いてくださる人
には、もう足を向けて寝れません。ただ、どっちの方にいるのかは
分かりませんが。
次回も頑張って書きます。では、また次回
1068
第89話:漆黒の雷︵前書き︶
お待たせしました。
1069
第89話:漆黒の雷
﹁︱︱︱︱︽雷げ
フレア・レイン
﹁︽炎矢雨︾﹂
レミリオンが魔法を放つ前に放たれる魔法。
レミリオンに作り出された炎の矢が襲ってきた。素早く体勢を低
くし矢の弾道から逸れると、その体勢からそのまま地面を蹴るよう
に踏みつけウグラの懐に肉薄しようとした。だがウグラはそれを体
を仰け反らせることで回避をする。
そして、そのままレミリオンが繰り出してきた足を掴み、そのま
ま壁に向かって全力で放り投げる。
空中で大車輪をしながら勢いそのままにレミリオンは背中から壁
に激突した。余程の衝撃だったのか衝突したところを中心に競技場
の壁には少しひびが入っていた。
﹁げほっ! ごほっ! く⋮⋮まだよ!﹂
壁を支えにレミリオンが立ち上がる。
﹁もう一回︱︱︱︱︱︽ら
﹁遅いわ!﹂
再び魔法を使おうとしたレミリオンの目の前に、再びウグラが現
1070
れる。速度にして僅か2秒足らずで50メートル。先程まで開いて
いた距離などまるで無かったかのようだ。
そして、今度はお腹⋮⋮それも溝をピンポイントで蹴り、そのま
ま背後にあったひびの入った壁にめり込ませるかのように蹴り込ん
だ。
レミリオンの口から血が吐き出され、辺りに飛び散る。
﹁!!﹂
だが、レミリオンは自分に蹴り込まれている足を掴み、そのまま
詠唱を始める。それに気づいたウグラはすぐに距離を取ろうとする
が、がっちりと掴まれたレミリオンの手がそれを許さない。
﹁︱︱︱︱︱︽雷撃︾!﹂
レミリオンの指先から閃光があったかと思うと次の瞬間には、ウ
グラの体に電流が流れていた。バチバチと言う音と共にウグラの体
を伝って地面にも流れる電流は、地面の砂を弾き飛ばしながら辺り
に放電をしていく。
だが、ウグラはそんなことを諸共しなかった。
離せないならと、これでもかと言うぐらい力を入れ、ただえさえ
壁にめり込んでいるレミリオンをさらにめり込ませるかのように押
していく。
﹁ちっ、しつこいなお前は﹂
1071
﹁ど、どっちの⋮⋮セリフ⋮⋮ですか!﹂
ギリッと歯ぎしりをするレミリオン。そんなレミリオンを余裕綽
々な顔で見るウグラ。
﹁まあ、どうせ無駄だろうけどな⋮⋮闇炎︱︱︱﹂
ウグラの手が彼女の目の前に出される。
﹁! し、しまっ︱︱︱﹂
事の失敗に気づいたレミリオン。だが壁にめり込んでしまってい
る彼女に回避する方法などもはや無く
﹁︽業炎︾﹂
ほぼゼロ距離から漆黒の炎がレミリオンを襲った。
==========
﹁あっ、あれヤバいかも﹂
1072
観客席から試合を見ていた俺は呟いていた。ほぼゼロ距離じゃな
かったか?
﹁クロたちを馬鹿にしたから罰が当たったのよ﹂
レミリオンに対してはいい思い出が全くないエリラは嬉しそうだ
な。
それにしても妙だな。あいつあんなに力を持っていたのか?
⋮⋮そういえばあいつ、先日妙な薬を持っていたな。あれと何か
関係あるのかな?
そう思った俺はステータスを覗いてみたが特に変化は見られない。
スキルもこれっと言ったものは無く、前見たときと変化は殆ど見ら
れないな。
だけど、なんだ違和感は⋮⋮?
なんというか⋮⋮ステータスと動きが比例していないような⋮⋮。
それにここからは聞こえないからハッキリとは分からないけど、魔
法の詠唱早くないか?
うーん、あの薬の件も含めて怪しいな⋮⋮
==========
1073
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
﹁どうした終わりか?﹂
﹁くそっ、こんな奴に⋮⋮こんな奴に⋮⋮﹂
﹁まぁ、終わらせないけどな﹂
ウグラの口元がうっすらと笑ったかと思えば、次の瞬間既にその
顔は見えず代わりに晴れている空模様が見えた。
既に満身創痍のレミリオンにはもはや、なるがままにされるしか
なかった。
﹁ほらほら! 最初の威勢はどこにいったんだぁ!?﹂
また見える顔。そして視界は今度は半分が暗くなって見える地面
へと移り変わる。
﹁⋮⋮も、もう無理⋮⋮ぎぶあっ
レミリオンは擦れ、審判に届いてるかさえも分からないぐらい小
さな声で降参を言おうとしたが︱︱︱
﹁あ゛あ゛!? 何言っているか聞こえないなぁ!﹂
1074
それは、ウグラの声と蹴りによって掻き消された。蹴られた衝撃
で血を時折吐きだしながら地面を二転三転と転がっていく。
﹁あ⋮⋮あ⋮⋮﹂
地面に横たわったレミリオンは微かに唸る声を漏らしながら虚ろ
な眼差しをしていた。誰の目にも最早勝負あったと思った。
だが、ここで誰もが少し疑問に思った事があろう。何故審判はレ
フリーストップをかけないのだろうか。誰が見ても既にレミリオン
は限界だ。これ以上やると本当に命が危ないだろう。
だが、そんな状態でも審判は顔色一つ変えずじっとゲームを見て
いるままだった。
﹁こいつで楽にしてやるよ⋮⋮消えろ!﹂
ウグラはそんなこと気にもせずに、まさに最後の攻撃が入ろうと
していた。
黒い魔方陣がウグラの前に展開され、魔方陣の中央に黒い稲妻が
走りだした。それはバチバチとは鳴らず、むしろゴゴゴゴとうねり
を伴っていた。
そして
﹁⋮⋮︽黒雷砲︾﹂
1075
漆黒の雷を宿した球体がレミリオン目掛けて発射され、そして、
誰が見ても魔法がレミリオンにヒットしたと同時に、強烈な爆音が
辺りに響き渡ったのだった。
1076
第89話:漆黒の雷︵後書き︶
今回の回は珍しく再三書き直した回でした。頭でイメージは出来
ているけど上手く伝えきれないのでもどかしいですね。
3日おきが癖付かないように頑張ります。
では、また次回でお会いしましょう。
1077
第90話:漆黒の雷は女神の祝福へと︵前書き︶
書きたくなったから書いた。
後悔はしていない︵キリッ︶
1078
第90話:漆黒の雷は女神の祝福へと
黙々と上がる煙。観衆の人たちが固唾を飲んで見守っていた。
終わったと思う者。僅かな希望にかけるもの。またはどうでもい
いと思っている者。
一人ひとりが違う思いを抱いていたが、視線だけは一つに集まっ
ていた。
やがて、煙の中から人が現れた。
﹁⋮⋮誰だテメェ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あんたの次の対戦相手さ﹂
クロウはそれだけ言うと刀を静かに下した。持っていた刀からは
黒い煙と僅かに稲妻が漏れていた。
1079
﹁なに邪魔をしているんだよ⋮⋮テメェ、ルール違反だぞ?﹂
﹁はっ? お前こそルール守れよ。誰が殺す直前までやっていいと
言ったんだよ?﹂
﹁審判が止めない限り試合は終わらない。それまでやって何が悪い
?﹂
クロウは審判の方に視線を動かした。審判は予想外の出来事にた
だ驚いているだけに見えた。だが、クロウは試合を止める直前まで
の審判の顔をハッキリと見ていた。
︵⋮⋮グルか⋮⋮︶
﹁ところでお前はどこから現れた? ここは競技場のど真ん中だぞ
?﹂
﹁あっ? 客席からだけど?﹂
そういってクロウは刀を持った手で、自分がついさっきまでいた
客席の方を指した。客席の方を見るとエリラが、こちらとクロウが
居た場所を交互に見ているのが見える。﹁えっ? えっ?﹂と顔を
動かし目の前で起きたことを必死に理解しようとしている。
競技場の大きさは半径約100メートル。そして先程のウグラと
レミリオンの距離は約5メートル。そして魔法が打ち出されてレミ
リオンにヒットする直前までにかかった時間は僅か0.4秒。
クロウが言っている事が事実なら、彼は秒速200キロ以上の速
度で駆け付けた事となる。さらにそこから︽倉庫︾から武器を取り
1080
出す時間も入れなければならない。
つまり彼は僅か0.4秒足らずで移動・換装を行ったことになる。
さらに自分が移動する際、周囲に被害が行かないように︵蹴りだし
ソニックウェーブ
た衝撃で客席が壊れる可能性があった︶客席を自分の土魔法で強度
を上げ、さらに空間を一瞬だけ固め間違えても音速波を出さないよ
うにしたのだ。
その状態から彼はウグラの放った魔法を刀で一瞬で消し去ったの
だ。
もはや人間離れした技と言えよう。と言うか人間をやめているだ
ろ?
︵なんかナレーションに何か言われた気がするんだけど⋮⋮︶
﹁はっ? なにそんな冗談言っているんだ?﹂
﹁まあ、冗談と思うならそれでいいよ。でも、お前の魔法が防がれ
た事実は変えられないぞ?﹂
目の前に現れた人物だけに思考が言っていたのか、ウグラはハッ
とすると次に歯ぎしりをしだした。
﹁てめぇ⋮⋮一体どうやって⋮⋮﹂
﹁? どうやってって⋮⋮普通に刀で止めただけだが?﹂
1081
そういってクロウは持っていた刀をウグラに見せつけた。
﹁⋮⋮まぁ、どうでもいい。どうせお前はルール違反で出場停止だ﹂
﹁それは別にいいけど⋮⋮﹂
クロウは面倒だなと呟き溜息を付いたが、すぐにこう続けた。
﹁ところでさ、クロウ・アルエレスっていう名前どこかで聞いたこ
とないか?﹂
﹁はぁ、誰がそんななま⋮⋮あっ!﹂
ウグラが思い出したと思われる顔を見たクロウは、ようやくかと
言った感じで今度は逆に見下すような眼つきをした。
﹁ああそうさ、あんたをギルドで吹っ飛ばしたガキだよ? 気づか
なかったか?﹂
﹁な、何を言っているんだよ⋮⋮あのガキがお前だとでも言うのか
?﹂
﹁信じるか信じないかはお前次第さ。あーでも俺失格なんだろ? 残念だなーこれじゃあ戦えないなー︵棒﹂
見え見えの挑発にウグラは見事に乗った。
﹁いい度胸じゃねぇか⋮⋮いいだろ⋮⋮次の試合で叩き潰してやる﹂
﹁あれぇ? 俺失格でしょー? 何あんたが勝手に決めてるの?︵
1082
笑﹂
﹁おい審判⋮⋮どうなんだよ?﹂
今まで静観していた審判がウグラの声にビクリと反応し、何故か
敬礼をするポーズを取った。
﹁しょ、勝負がき、決まった後だったので⋮⋮クロウさんは失格じ
ゃありません!﹂
完全に後付のような気がするんだが⋮⋮。クロウは思わずジト目
で審判を見つめた。
だが、審判がそう言うならそうなんだろう。クロウはそう納得す
ることにした。
﹁だとよ、良かったな。これで次にボコボコにされるのはあんたさ﹂
そう吐き捨ててウグラは競技場を後にした。
==========
1083
﹁レミリオン様!﹂
﹁レミリオン様! しっかりしてください!﹂
フゥとため息をついた直後。俺の背後から必死な声が聞こえてき
た。振り返ってみてみるとレミリオンに付いて来ていた二人だ。
二人とも涙目になりながらレミリオンに声をかけていた。レミリ
オンはこの二人に本当に慕われていたんだなと思った。
で、肝心の本人だが意識は多少朦朧としているようだが従者たち
の声は聞こえているみたいだ。何か二人に言っているのか、口か微
かにモゴモゴと動いたが残念ながら俺には聞こえなかった。
﹁⋮⋮大口叩いておいてこれですか⋮⋮﹂
俺は陰口を叩きながら彼女らに近づいた。その声が聞こえたのか
従者の二人が同時にこちらを睨みつけてきた。
﹁助けて上げたのですからそんな顔をしないで下さいよ﹂
﹁誰⋮⋮が⋮⋮よ⋮⋮﹂
声に反応したのはレミリオンだった。僅かに首を動かしこちらを
睨んだ。oh⋮⋮折角助けたのに、この仕打ちですか⋮⋮。つーか、
この人元気だな。
ただ、元気なのは精神だけのようですが。
そう思った次には、レミリオンはうぐっと呻き声を上げていた。
二人がまた泣きながらどうしましょと慌てふためいている。
遠くから担架が運ばれて来るのが見える。傍にはアルゼリカ先生
や保健室の先生の姿も見える。
1084
このまま先生たちに任せてもいいのだが、折角ここまでしてあげ
たので最後までやることにした。
俺は、レミリオンの傍まで来ると姿勢を下しレミリオンの体の上
にそっと手を差し出す。従者の二人が何をするの!? と手を出し
かけたが無視することにしよう。
ビーナス・ブレッシング
﹁︽女神の祝福︾﹂
柔らかい緑の光がレミリオンの全身をそっと包み込み、傷ついた
体を癒し始めた。それを見た従者たちは言葉を失い、ただ茫然とし
ている。
そして、緑の光が徐々に薄くなって行き消えるころには、レミリ
オンの傷はすっかりと癒えていた。
目の前で起きた出来事に唖然とする従者二人。急に痛みが消え体
が動くようになったレミリオンは上半身だけ起こし、自分の体をキ
ョロキョロと見回している。
それを確認した俺は用は済んだと思い、スッと立ち上がるとその
場から去ろうとしたのだが。
﹁待ちなさい!﹂
まぁ、そうなりますよねー
クルッと体を180度回転させ俺はレミリオンたちと向き合う。
1085
﹁何故私を助けた!? 私はお前らを⋮⋮﹂
﹁⋮⋮人の死体を見たことないような生徒たちが沢山見ている中で
死体を見せたくなかったからだよ⋮⋮﹂
﹁!? なんですって!﹂
﹁それに⋮⋮あいつに殺されるかもしれないと思うと思わず体が動
いてしまっただけさ﹂
それはそれだけ言うと、今度こそ、その場から立ち去った。
1086
第90話:漆黒の雷は女神の祝福へと︵後書き︶
と言う訳で、皆さんはどうだったでしょうか?
この流れは当初から予定していたものなのですが皆さんの目には
どう映ったでしょうか?
次回ももう少し試合後は続きます。本当はまとめて書いた方がい
いと思ったのですが、先にここだけは書いていたいと思い。書きま
した。
なお、前回の感想などを含め、コメント返信は後日行います。感
想は目をガッツリ見開いて見ますので、その辺はご安心を。
いつも書いてくださる皆さん。本当にありがとうございます。
では、また次回で会いましょう。黒羽でした。
1087
第91話:二回戦へ
﹁ただいま﹂
﹁お、お帰り⋮⋮﹂
闘技場の客席に戻って来た俺は何事も無かったかのように元いた
席へと戻ってきた。ちなみに階段を上るのは面倒なのでジャンプし
て直接戻ってきました。
※闘技場の壁の高さ⋮⋮約10メートル
﹁今度はどんな魔法を使ったのよ⋮⋮﹂
何故か死んだ魚のような眼でエリラは俺に聞いてきた。
﹁秘密﹂
と言うか、魔法とか使っていないのですが。せいぜい空間を固め
たり、しただけで移動速度は素のステータスで出来る範囲の事だ。
﹁秘密って⋮⋮それより、何であの子を助けたの?﹂
﹁まあ、マジで危なかったからかな?﹂
﹁でも、彼女は⋮⋮﹂
﹁それともこんなところで死体を見たい?﹂
1088
前回も言ったが、ここにいる生徒は恐らくほとんどが死体など見
たことがないだろう。いくら前の世界より命が軽く扱われると言っ
ても、目の前で人が死んだりでもしたら何かしらの影響はあるかも
しれない。
と、前に兵士を殺した人が言ってみたり。いや、俺だって好んで
見たくねぇよ。
﹁まぁ、それもそうね、ところでさ⋮⋮さっきから視線が痛いんだ
けど⋮⋮﹂
見ると俺らの背後でお偉いさんたちが互いに目で牽制しあいなが
らジリジリと寄って来ているのがわかった。眼が怖い。
﹁よし、逃げよう﹂
そうしよう。と言うか逃げないとヤバいと俺の脳が言っている。
だが、俺たちの会話が聞こえたのか、先程まで目で牽制し合って
いたお偉いさんたちが、今度は通路付近に固まってしまった。
いや、君たち︽意思疎通︾でも使えるの? なんで眼だけでそこ
まで緻密に動けれるの?
すっかり包囲されてしまった俺たち。さてどうしましょうか⋮⋮。
後と左右はお偉いさんたち⋮⋮となると⋮⋮。
いいアイディアを思いついた俺は闘技場の方を確認する。
よし、まだ試合は始まっていないな。それが分かると俺は咄嗟に
1089
エリラの腕を掴みそのまま闘技場を囲っている石のフェンスに足を
かけた。
﹁えっ? ちょっ、クロ何を︱︱︱﹂
急に掴まれたエリラは俺が何をする気なのか分かっていない。ま
あ、普通考えつきませんよね。
﹁こうするのさ!﹂
俺はご自慢のステータス任せにエリラを、自分の体に引き寄せる
と、そのまま余っている方の手で、エリラの脹脛の裏から彼女を支
え、もう片一方の手をさっとエリラの肩に当てる。
まあ⋮⋮簡単に言いますとお姫様抱っこ状態です。
﹁行くぞ!﹂
﹁へっ?﹂
それはさておいて、そのまま俺は客席から闘技場の方へと飛び降
りたのだった。
※何度も言いますが高さは10メートルあります。
﹁いやぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!﹂
響き渡るエリラの絶叫。彼女が反射的に俺の体に巻き付いて来た。
おう、この体勢当たっていまっせ。いや、どこがとは言いませんが。
だがもはやこれくらいでは動じないぜ⋮⋮アレ? おっかしいな
1090
⋮⋮俺、賢者︵意味深︶になった覚えは無いのだが。
そんなことを考えているうちに地面が近づいてきた。
普通これくらいの高さから落ちれば﹁足首を挫きましたぁ!﹂と
どこかで聞いたことあるようなフレーズが聞こえてきそうですが、
残念ながら俺にそんなフラグは立ちません。
回収しないからな?
周囲からどよめき声が聞こえる中、ドスゥンと言う音と共に俺は
華麗に地面に着地に成功する。
挫いていないからな?
パッと上を見ると、お偉いさんたちが顔を覗かせていた。ざまあ
と言ってやりたいが、ここはサッサと退散することにしよう。
﹁もぉ、、ばかぁぁぁぁ!﹂
1091
﹁いやぁ、スリルあったな﹂
﹁スリルあったじゃないでしょ!﹂
プンスカしながらポカポカ俺の背中を叩くエリラ。ただ、顔が赤
面状態だったので色々な意味で恥ずかしかったのだろう。
﹁うぅ⋮⋮どうせならもっと良いシチュエーションで抱っこしてほ
しかった⋮⋮﹂
﹁ん? なんか言った?﹂
﹁な、なんでも無い!﹂
?? まぁ⋮⋮いいか。
==========
選手控室の一室。部屋の中で一人苛立ちを隠せない人物が一人い
1092
た。
﹁くそったれが! こうなったら⋮⋮﹂
ウグラはおもむろにポケットから紫色の錠剤を取り出す。
﹁一個であれ程の力ならきっと⋮⋮﹂
そういいながら紫色の錠剤を口の中に放り込む。数にして5錠。
ゴクリと音を立て錠剤が胃袋へと入っていく。
﹁ははは⋮⋮これで、あいつにも負けない⋮⋮潰してやる⋮⋮﹂
ウグラは一人高笑いを上げていた。
そのときであろうか? ミシッ⋮⋮そしてドクンと心臓が波打つ
ような音が小さく、だがハッキリと聞こえた。
だが、高揚している彼にの耳には届かなかった。彼の頭の中は行
かにしてあの少年を潰すかと言う考えしかもはや無かったのである。
==========
﹁︽翔空︾!﹂
1093
手に纏わりついた風の刃が男子生徒を襲う。あまりの威力に一秒
足りとも踏ん張れずに遥か後方へと吹き飛んで行った。
そして、地面で2回ほどバウンドをして、ようやく動きが止まっ
た。
しばらく待っても立ち上がる気配が見えないのを確認し、審判が
試合終了の合図を出す。
﹁勝者! サヤ!﹂
サヤはその場で一礼をすると、闘技場を後にした。
﹁やっぱりサヤは飛びぬけているな⋮⋮﹂
俺は控室から試合の様子を見ながら呟いていた。
ちなみに、この前の試合でシュラも勝っている。そして、2回戦
でシュラとサヤがぶつかることとなった。
そして、サヤの試合を最後に1回戦の全ての試合が終わり、2回
戦へと突入する。
その後、リネアも無事、勝利を収めることに成功し、いよいよ俺
の出番となった。
﹁さて、ちょいとお仕置きして来るか、じゃ行ってくるわ﹂
1094
﹁頑張ってよ! あんなカッコつけた手前負けないでよね﹂
エリラの声援を後ろに俺は闘技場へと足を踏み入れたのだった。
1095
v.s.
第92話:暴走するウグラ︵?︶
二回戦、第三試合:クロウ
﹁⋮⋮遅くない?﹂
ウグラ
もう10分は待っているような気がするのだが。
﹁そうだな。おい、誰か見て来い﹂
俺の声に反応した審判が闘技場の出入り口にいる補助員の一人に
呼んでくるように指示を出した。
さて、いつもなら瞬殺で決める俺だが、今回はちょっとそれは無
しにしようと思う。
と、言うのも一回戦のウグラの強さは可笑し過ぎる。魔法の威力、
詠唱速度、そして体術⋮⋮全てにおいて異常な動きを見せた。
まぁ⋮⋮だからなんだと⋮⋮レミリオン戦の時に思ったが嫌な予
感がずっと離れないでいる。あいつのことは全然知らないが、少な
くとも見てきた中では決していい奴とかでは無い。
まあ、それで力が無かったらそのまんま放置しても何れどこかで
行き詰るからまだ良かったんだが⋮⋮。
1096
それにしても何であんなことが? ステータスを誤魔化している
とは思えないし、そもそも︽遮断︾無効化スキルを持っている俺に
は通用しない技だ。
うーん⋮⋮前は︽透視︾を使っていたからと思って放置してい
たけど、やっぱ一度セラに聞いていた方がいいかもなぁ。
その時だ。
﹁⋮⋮!?﹂
急に襲ってきた殺気。それを感じた瞬間、既に俺の体は横に飛び
乗っていた。
それとほぼ同時に俺のいた場所を黒い物体が通過していくのが見
えた。それと同時に反応しきれなかった審判の下半身が地面に崩れ
落ちていくのも見えた。おそらく上半身はあの物体にもぎ取られた
のだろう。うえ⋮⋮見ないようにしよう。
地面で軽く一回転し勢いを殺さずに体勢を整える。
そして、先程の黒い物体の正体を確認した。ちなみに、この時に
既に︽神眼の分析︾を使用しているので、どんな奴なのかがすぐに
分かった。
﹁おいおい⋮⋮冗談だろ⋮⋮﹂
体長およそ5メートル。形は人に近かったが全身を黒い皮膚に覆
われており、肩や肘などの関節部分には角が生えていた。手には鉤
爪があり、先端部分は返しが見て取れた。例えるなら釣り針を大き
くして真っ直ぐに伸ばしたものだろうか。
1097
黒い物体がこちらに振り向いた。怪しく光る眼は見るものを一瞬
で凍りつかしてしまいそうなほどに鋭く、危険だと本能が感じ取っ
ていた。
客席が一気に騒がしくなりすぐに観戦者たちは我先にと逃げ出し
始める。
︱︱︱︱︱︱オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オォォォォォ
!!!!
黒い物体はこの世の声とは思えないほどに低い雄叫び声を上げた。
そして、ギロと俺を人睨みしたかと思うと次の瞬間、俺に向かって
走り始めたのだ。
ポリゴン・ウォール
﹁ッ!? ︽多重防壁︾!﹂
黒い物体の突進を︽多重防壁︾で無理やり押し止める。
一瞬、止まったかに思えた黒い物体だったが
︱︱︱︱オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォ!
再び雄叫び声を上げ、俺の防壁を無理やりぶち破ってきた。
﹁うおっ!?﹂
咄嗟に横に飛び乗り、間一髪で黒い物体の突進を回避した。
﹁あっぶねぇ⋮⋮連式にしてないとは言え、簡単に破ってきやがっ
た﹂
1098
アース・ウォール
正直︽土壁︾だったらもっと簡単に打ち破られてただろう。
﹁それにしても⋮⋮﹂
俺は︽神眼の分析︾によって表示されている文字を見て、何した
んだよと思わざる得なかった。何故ならそこに表示されていたのは
⋮⋮
名前:ウグラ︵?︶
バーサーカ
種族:???
状態:狂人、???
ウグラ︵?︶と表記されている黒い悪魔⋮⋮。嫌な予感とは良く
当たるものだとつくづく思い知らされる。
﹁何したんだよお前は⋮⋮﹂
状態異常の一つ﹃狂人﹄。RPGなどでは攻撃力が大きく向上す
る代わりに、防御力が大きく低下しさらにはプレーヤーの命令を聞
かなくなる事が多い。
この世界で﹃狂人﹄を見るのは珍しい事ではない。お酒に酔って
喧嘩っ早い奴らによく付いていることがる。どっちかと言うと︽泥
酔︾じゃないかなと思うが、ステータス表示がこうなるのだから仕
方がない。
よくよく考えれば全く違うと思うのだが⋮⋮。
1099
そして、今回も謎表記⋮⋮一体なんだよこれ⋮⋮万能スキルにも
分からないことがあるんだな⋮⋮。
﹁クロ!﹂
エリラが剣を片手に走ってくるのが見えた。さらに目の端に見え
る観客席でアルゼリカ先生を始め先生たちが避難誘導をしているの
が見えた。
さらに闘技場の出入り口付近から競技場内に入ってくる人も見え
た。全員が白色のローブみたいなのを着ているので、警備隊かもし
れない。
﹁全員! 配置に付け!﹂
その集団の中にいた一人が合図を出すと、合図を出した人を中心
に輪形を描くような陣を組む。
﹁一六七式︽桜燐︾詠唱開始!﹂
俺みたいに一人で複数の魔方陣を操るのは至難の業だ。だが、一
人一人が必要に応じた魔法式を一個ずつ作り上げ、それを組み合わ
せることによって、大型の魔方を作り出すことが出来る。
分かり易く言うならヒーロー戦隊シリーズでお約束の合体技みた
いなものだ。
ただ
︱︱︱︱ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァ!!
本当の悪は正義のヒーローが必殺技を出すまで待つなどと言うこ
1100
とはしない。特撮なら取り直しだが残念ながら、これはガチである。
﹁! 逃げろぉ!﹂
そう言ったときには時すでに遅し。ウグラの腕が陣形を組んでい
た警備兵たちに襲いかかっていた。くそっ! あいつまだ早くなる
のかよ!
さっき俺に突進して来た時よりも格段に速度を増した攻撃に、警
備兵は成す術無く無残にも絶命していく。
クラッシュ・メテオ
﹁︽破砕隕石︾!﹂
地面から弾丸の如く石︵正式には周囲にあった砂が凝固した物。
威力には影響無し︶が飛び出し次々とウグラにヒットする。
だが、そんなことを諸共せず、ウグラは警備兵たちを潰したり、
捕まえて真っ二つに引き裂いたりしていく。
﹁くそ! 最大出力だったのに威力不足かよ!﹂
実はと言うと︽破砕隕石︾の威力はそこまで高くは無い。人間に
も各々に保有可能魔力上限が設けられているのと同じで各魔法にも
つぎ込める魔力上限と言うものが存在する。
それを突破して魔力を入れると⋮⋮お察しの通り暴発します。安
定の爆発ですよ、ええ。
ポセイドン
﹁なら、これでどうだ! ︽海神の槍︾!!﹂
あの黒龍の翼すらも︵第9話参照︶一撃で引き裂いたこれならど
うだ?
1101
三又の槍が一直線に飛んで行く。当たるかと思ったが、ウグラは
こちらに気づくとすぐに攻撃をやめ、回避をした。槍はウグラの顔
の横を掠めていったが外し、そのまま闘技場の壁にぶつかり壁に大
穴を開けてしまった。
﹁ちっ、もっと威力の高いものかよ⋮⋮﹂
と、その時エリラが走っていく姿が見えた。エリラはウグラが回
避した方向へと向かっていた。なるほど着地する前に叩く寸法か。
エリラが剣を片手にウグラが着地する地点に一目散に走る。
だが、敵も簡単には引っかからない。
ウグラはスッ飛び乗りつつエリラの方へ手を突き出した。
﹁えっ?﹂
と、次の瞬間。ウグラの手からとてつもない衝撃と共に魔弾が飛
び出していた。
回避する間も無く魔弾をもろに受けたエリラは、今まで進んでい
た方とは180度正反対に向かって弾き飛ばされた。
﹁ぐっ⋮⋮はぁぁぁぁぁぁ!﹂
エリラが飛ばされてきた魔弾に負けじと両足を剣のように突きブ
レーキをかけた。そして、任されるがままに飛んで行っていたら壁
に穴を開けかねないほどの速度だったのを、なんとか壁すれすれで
止める。
1102
﹁大丈夫か!?﹂
片手を上げて大丈夫と合図をするエリラ。
一安心と行きたいところだが、敵は待ってくれないだろう。エリ
ラですらもあそこまで吹き飛ばされるとなると、魔力は高め。瞬発
力もかなり高いので基本ステータスはかなり高いとなるな。
でも、これ以上は闘技場ぶっ飛ばしかねないし⋮⋮。︽流星群︾
であいつを倒すぐらいの出力だったら、この辺一帯がクレーターだ
らけだし⋮⋮。
﹁⋮⋮あっ、剣使えばいいじゃん﹂
今更ながらにこの事実に気づく俺、ルールで剣禁止だったのです
っかり忘れていました。
⋮⋮それにしても俺、なんでこんなに余裕があるのだろうか⋮⋮。
やっぱり俺も戦闘民族の血が︵yr
︽漆黒・改︾を取り出し武器を構える。
︱︱︱︱ゴガァァァァ!
雄叫び声を上げ俺を一睨みするウグラ。改めてこいつが本当にウ
グラなのか怪しくなる。
1103
﹁⋮⋮行くか﹂
俺は剣を片手にウグラに向かって走り出した。
1104
第92話:暴走するウグラ︵?︶︵後書き︶
毎回思うのです。クロウ君はあんまり高威力の魔法を作っていな
いなと。︽流星群
︾も範囲攻撃ですし、今度魔法を作る回でも作ってみようかなと思
ったり︵マジメにやるとは言っていない キリッ︶
いつも感想ありがとうございます。皆さんの感想を見てると頑張
ろうと思うことが出来ます。
これからもよろしくお願いします。以上、黒羽からでした。では、
また次回お会いしましょう。
※オマケ・友達からの質問
もう一つのスピンオフはどうなっているの?
A:書きたいキャラが出ていないのと、アイディア不足で、書い
てもボツにしているからです。あと不定期だから気ままでいいかな
と、思ってこっちしか書いていなかっ⋮うわっ、何をするやめrア
ーーーー!!!
頑張って行きます⋮⋮グフッ⋮⋮
1105
第93話:淡々とした︵前書き︶
※2/8 誤字を修正しました。
1106
第93話:淡々とした
﹁炎竜︱︱︱﹂
魔力を刀に収束させ、意識を統一する。
怪物となったウグラの雄叫び声が聞こえるが、今の俺には雑音に
もならないように感じられる。それほどまでに意識を統一しなけれ
ば暴発しかねないからだ。
刀の先端を地面擦れ擦れで走らせ、そのままウグラに向かって一
気に掬い上げるかのように切り上げる。
﹁︽滅炎陣︾!﹂
振り上げられた刀から炎を纏った音速波が放たれ、ウグラの真正
面へ一直線に飛んで行く。
ウグラがその巨体に似合わない俊敏な動きで回避に動いたが、す
べて回避するにはいたらず、右肩からザックリと切り裂かれ胴体と
分離された。
さらに肩の方と腕の傷口から突如、炎が噴き出した。
その炎を掻き消そうと、地面を転げまわるウグラ、ただ、腕の方
は既に炎に包まれており手遅れなのが見て取れた。
俺は跳躍をし、上空で上段構えをする。そして、そのまま重力に
身を任せウグラの真上から一気に振り落す。
1107
︱︱︱スキル︽瞬断︾発動。
普通、重力と力に任せて上から叩きおろしても威力などはたかが
知れている。だが、人間離れしている︵自分で人間離れと言えるの
が泣けて来る︶俺の筋力で全力でそれをやれば、ちょっとした震源
地となってしまうほどの衝撃になってしまう。
そこにあらゆる物を刃になってしまう︽瞬断︾で切れ味をさらに
上げた刀なんか振り回せば、もはや音速などと言う生ぬるいもので
はないだろう。
⋮⋮本当、今更だけど俺ってもう可笑しいよね⋮⋮。
地面に着弾と同時に辺りに衝撃が走り、折角整地した砂の地面に
亀裂が走る。振り下ろした時に生まれた音速波が闘技場の壁に当た
り石の壁に綺麗な切れ目が出来上がる。
︵⋮⋮どうだ?︶
サッと素早く後ろに下がりウグラの様子を伺う。胴体も綺麗に真
っ二つに切り裂かれたウグラは倒れたままピクリとも動かない。
真っ二つに切った時に、内臓とかエグイものが飛び出すと思って
いたのだが、切れ目は黒い霧が覆いかぶさっている感じでよく見え
ない。
﹁イタタタ⋮⋮全く⋮⋮どうしたらこんな事が出来るのよ⋮⋮﹂
先程闘技場の壁ギリギリまで吹き飛ばされていたエリラがふくれ
っ面で歩いて来ていた。
1108
﹁⋮⋮まだか﹂
だが、俺はエリラの事など殆ど意識していなかった。何故なら真
っ二つにされた傷口から何やら黒い液体とが流れだし、体の形を形
成し始めたではないか。
再生能力。この世界では即死術や蘇生術は神の力でも不可能とさ
れている。
しかし、反面、死にさえしなければ膨大な魔力と引き換えに再生
をすることが可能だ。しかし、この世界のレベルではまだ、傷口を
塞ぐことぐらいしか出来ず。骨折などの重傷を負った場合は自然回
復を促進させることは出来ても、瞬間的に回復させることは事実上
不可能だ。ただし、俺は出来ますが。
そして、体を真っ二つにされ、そこから再生を始めると言うこと
は奴が高い魔力を持っていることが推測される。どこの魔神だよと
ツッコミたい所だが今はそんなことをやっている場合ではないな。
﹁真っ二つにされても再生するとなると、どうすればいいんだ⋮⋮﹂
と、その時俺の目にある物が映った。それは俺が最初に胴体から
切断したウグラの腕だ。既に燃えつき炭にしか見えなくなっていた。
普通こういうタイプが再生するには二つの方法がある。
一つ目は魔法で再生すること。ただし、俺みたいに治療系の上位
スキルを持っていなければ出来ない。そして二つ目はヒトデみたい
な再生を行うか。
1109
海に居るヒトデは確か千切れてもその両方から同じように再生を
すると聞いたことがある。分裂とはちょっと違うと思うのだが。
見た感じ、悪魔っぽい彼が治療系スキルを持っているとは到底思
えない。人︵?︶は見た目で決まらないと言うけど。
能力なら、腕からも同じように再生することがあるかもしれなか
ったが、残念ながらその様子は全く見てとれなかった。
と言うことはナメ○ク星人見たいにそれなりに部位が残っていな
いと駄目だと言う推測が立つ。あくまで推測だが、今はこれしか情
報が無いので今はこれで続けさせてもらう。
つまり⋮⋮千切りや短冊切りみたいにバラバラにすれば再生はほ
ぼ不可能と言うことになる。それでも再生しようものなら燃やして
やればいい。
﹁⋮⋮︽千乱刃︾﹂
刀に風を乗せウグラに向かって弾き飛ばす。そして空中で俺が放
った風の刃が分裂を始める。だが、例え分裂しようが威力は落ちる
ことは無く、気付けば無数の風の刃が出来上がっていた。
そして、その刃は再生を仕掛けているウグラに次々と命中してい
く。命中するたびに体の断面図が出来て行く、一撃当たるたびに怪
物が雄叫びとも奇声とも似てもつかないような声を上げていた。
そして、風が止んだ時。そこにあったのはまるでシュレッターに
掛けられた後のようだった。黒い塊が時折心臓音見たいな音を吐き
出していた。
だが、いくら待っていようが再生をする様子は見られなかった。
1110
再生しないことが分かったあとは、実に淡々とした作業だった。
黒い肉塊となったウグラを灰すらも残らないように燃やし尽くし
た。その後、サヤたち特待生組も闘技場に戻って来たがその時には
既に遺体も何も残ってはいなかった。
こうして、この騒動は呆気なく幕を降ろしたのだった。よく悪役
が最後に派手に散っていくドラマとかマンガを見たことがあったが、
実際はそんなに上手くは行かないなと俺は思った。
==========
﹁ふん⋮⋮結局最後は力に飲まれたか⋮⋮﹂
闘技場の客席へのの出入り口の壁に肩をかけいた大男がクロウと
の戦いを見終わったあとにそう呟いた。
﹁それにしても⋮⋮あれは想像以上の力だ⋮⋮何故、今まで野放し
1111
にしていたのか⋮⋮全く上の考えはわからんわい⋮⋮﹂
﹁あっ、見つけました⋮⋮マスターどこに行ってたのですか?﹂
どこかで見覚えがある女性が大男を見つけると駆け寄ってきた。
﹁何、ただの野暮用よ。それよりこの大会はおそらく中止じゃろう。
少し早いが切り上げるぞ﹂
﹁えっ? あっ、はい分かりました⋮⋮所でクロウさんは⋮⋮?﹂
﹁小僧ならピンピンしてるわ。やはり転異種の炎狼を倒しただけの
実力は持っていたわい﹂
﹁⋮⋮今回の事件でまた彼に接触しようとする人が出てきますでし
ょうか?﹂
﹁それはそれで構わん。もうワシらの力ではどうしようもないわ﹂
﹁⋮⋮はい、分かりました﹂
﹁よし、では戻るとするか﹂
﹁はい﹂
大男と女性は闘技場の背に歩き始めた。
︵そう⋮⋮マスターとしてのワシならな⋮⋮︶
1112
大男は一度だけ振り返り闘技場を見て笑った。そして、再び前へ
と歩き出した。
その後、彼らは一度も振り返ることなく学園を後にしたのだった。
1113
第93話:淡々とした︵後書き︶
前回、単体魔法は強いの持っていないといいましたが、クロウ君
なら素のステータスでも天変地異を起こせそうな気がします。
いよいよ魔闘大会編も終盤へ突入を始めました。この大会がどん
な最後を迎えるかは皆さんの目で確かめて頂けると幸いです。
では、また次回で会いましょう。黒羽からでした。
あと、いつも感想を書いてくださる皆様。ありがとうございます。
改めてお礼申し上げます。
よろしければ、これからもこの小説をよろしくお願いします。
m︵︳ ︳︶m
1114
第94話:選手控室にて︵前書き︶
投稿遅れて申し訳ありません。この辺の話を入れようか迷ったら
遅れてしましました。︵土下座︶
⋮⋮あれ? なんか前書きで私、いつも土下座しているような気
が⋮⋮?
1115
第94話:選手控室にて
﹁中止ですか⋮⋮﹂
﹁ええ、あの謎の生物が他にもいるかもしれないし、一般生徒たち
に危害が及ぶ可能性があります﹂
闘技場の選手控室に集合させられた俺ら参加者に告げられた結果
は予想通りだった。逆にここで続行するのも問題あるし、仕方がな
いのかもしれない。
﹁出場選手であったウグラ君も行方不明になっており、その他にも
死者やけが人が出ています。参加者にも影響が出ている以上、学園
側としては大会を続行することは認められません﹂
先生の口から淡々と告げられる内容を俺らは黙って聞いていた。
ちなみに、あの怪物の正体がウグラだったことは誰にも分かって
いないようだった。俺も自分の口から正体を明かすのは避けている。
理由は色々あるが、一つはこれ以上生徒たちに動揺をさせる必要
がないこと。先生の方に言えばいいかなとも思ったが、人の噂なん
てどこから漏れるか分かった物ではないので誰にも他言しないよう
にしている。
もう一つ、言っても信じてもらえるとは思われないと言うことだ。
あの化け物からウグラを想像できる奴なんて早々いないだろう。
これは後で分かったことだが、以前、リネアをリンチにしていた
ウグラの舎弟的奴らは全員死んでいたそうだ。
1116
俺が思うにウグラが謎の豹変を遂げたときに巻き込まれたか、理
性を失ったウグラに殺されたかのどちらかだろう。
実に淡々とした死に方だ。これが日本だったならしばらくは連日
ニュースになるレベルものであるが、この世界ではそこまで深くは
捉えないのかもしれない。親しかった友人たちなどはともかく、他
の人たちに他人の事を同情する理由などないというスタンスなのか
もしれない。
﹁それはそうと⋮⋮では、表彰なども何もないということですか?﹂
その証拠に、参加者の一人が説明をしていた先生に聞いていた。
﹁そうですね⋮⋮その辺はまだ決まっていませんので、後日改めて
正式に連絡したいと思います﹂
そして、それに淡々と答える先生。怒っている様子なども無いと
ころを見ると先生もどうでもいいと思っている人の一人なのかもし
れない。
欲
⋮⋮これ以上考えるのはやめよう。、あいつの事をいつまでも引
きずっていても仕方がない。どんな理由にせよ、彼は自分の
に勝てなかった。あの錠剤みたいな物がドーピングの役割を果たし
ていたならば、あれが卑怯な手に溺れた奴の末路なのだろう。
﹁では、今日はこれにて解散です。また詳しい事は後日朝礼などで
連絡させてもらいます﹂
参加者たちが次々と控室を後にして行く。特待生組の面々も同じ
1117
ように出ていく。
﹁⋮⋮不服⋮⋮﹂
普段ほとんど表情が変わらないサヤも、このときばかりは口をへ
の字に曲げていた。
﹁くそぉ⋮⋮来年こそは!!!﹂
それと熱くなっているのが一名。熱血野郎にはもう来年の大会の
事を考えているのだろう。
気づけば周りには俺とエリラ以外、誰も残っていなかった。
﹁さて⋮⋮帰るか﹂
﹁⋮⋮ねぇ、一つ聞いていい? あの怪物は何だったの?﹂
エリラもあの怪物の正体が分からなかったうちの一人か。俺は言
おうかどうしようか迷った挙句。
﹁さあ? 魔族の一人だったんじゃないか?﹂
そんなことありえないのですが。
﹁そうだね。あの姿だったらそうかもしれないね﹂
信じるんかい!! 思わず心の中で突っ込んでしまう俺。自分で
1118
言っておいてなんだけど、こんな人間領のど真ん中に街をスルーし
てピンポイントで闘技場を狙うってよほど殺しておきたい奴がいる
ぐらいじゃないか? と言うか、その前に目撃証言があるだろ。
﹁残念だったね、クロだったら余裕で優秀者だったのに﹂
﹁まぁ、そうかもしれないな﹂
﹁んー? どうしたの? なんか元気ないように見えるけど?﹂
﹁えっ、そ、そうか?﹂
おかしいな普段通りのつもりなんだけど。
﹁顔に出ているわよ。伊達にいつも隣にいる訳じゃないのよ﹂
エリラはそう言いながら俺の顔をツンツンと突いてきた。
﹁何にも無いさ。さて、サッサと帰るとするか﹂
サヤの修業期間も終わったので、今日は久々にゆっくりと眠れそ
うだ。もっともエリラの添い寝は継続中なので悶々とした状態に変
わりがないのですが。
﹁ところでさ⋮⋮﹂
急にエリラの声が小さくなった。見てみると赤面顔に少しモジモ
ジしながらこちらを見ていた。
﹁ん? こんどはどうしたんだ? トイレか?﹂
1119
﹁な、なんでそうなるの!?﹂
﹁いや、何となく﹂
﹁ち、違うわよ!! ⋮⋮えっと、その⋮⋮さ、クロってさ⋮⋮ご
にょごにょ⋮⋮﹂
ん? 何か言った見たいだが俺には良く聞こえなかった。
﹁何て?﹂
﹁だからさ⋮⋮クロってさ⋮⋮私との子供とか⋮⋮欲しい?﹂
﹁ブッ!!?﹂
突如投下された爆弾に思わず吹いてしまった俺。エリラは言って
しまったという顔をしていたが、目は離す事無く俺を見てくる。
﹁い、行き成りどうしたんだよ⋮⋮さっきの戦いで頭撃ってしまっ
たか?﹂
﹁ち、違うわよ⋮⋮その⋮⋮ほら、朝さ⋮⋮﹂
﹁朝? ⋮⋮ああ、ゼノスさんの事か﹂
俺は、結構さりげなくスルーしていたが、大会前に俺らに言った
あの言葉をどうやらエリラは真に受けてしまったらしい。︵第83
話参照︶
1120
﹁き、気になるんだもん!﹂
﹁年齢的にまだそんな歳じゃないだろ⋮⋮﹂
落ち着け俺。ここは俺がクールに行かないと駄目だze。
→少しテンパって語尾が片言になっております
﹁そういうのじゃないの⋮⋮今じゃなくてもいつかって言う意味で
⋮⋮﹂
爆弾発言をする前から赤面顔だったエリラの顔がさらに赤くなっ
ていく。ほっといたら自分の髪の毛の色ぐらいに赤くなりそうだ。
それにしてもどうしよう。俺、前世でそんな経験無いからな⋮⋮
彼女いない歴=年齢ですし。⋮⋮セフレ? いる訳ないじゃないで
すかヤダー。
﹁⋮⋮そうだな⋮⋮俺は︱︱︱﹂
1121
第95話:あの正体は?︵前書き︶
第2章最終話です。
1122
第95話:あの正体は?
﹁俺は︱︱︱ほs﹂
﹁あ! ようやく見つけました!﹂
俺の言葉を遮るかのように控室に入って来る人が一名。
﹁クロウ君、悪いけど今すぐ理事長室に来てくれないかしら﹂
場の空気を読まない登場をしたのは、アルゼリカ先生だった。
﹁え? あっ、はい分かりました﹂
﹁あっ、従者さんは付いてきてもいいけど、部屋の外で待たせてお
いて下さい﹂
そう言い残すとアルゼリカ先生はすぐに控室を後にしていった。
﹁⋮⋮行くか⋮⋮﹂
﹁ちょっ、今なんて言おうとしたの!?﹂
﹁サテ ナン ノ コト デ ショウカー?﹂
何をいいかけようとしたのか問いただそうとするエリラ。
﹁えー、今答えようとしt︱︱︱﹂
1123
﹁いつかその時が来たら言うから、その時まで⋮⋮な﹂
俺はすべて言いかける前にエリラの頭にそっと手を置き、頭をナ
デナデしてた。急にこんなことをされるとは思わなかったのか一瞬
驚いていた。
﹁⋮⋮ム゛ー⋮⋮﹂
膨れっ面をしながらも、顔を赤くし、どことなく嬉しそうな表情
をするエリラ。
﹁⋮⋮絶対だよ﹂
﹁ああ、約束する﹂
﹁わかった。じゃあ早く行きましょう﹂
俺はアルゼリカ先生に言われた通り理事長室に来ていた。エリラ
はと言うと恐らくドアの反対側で立って待っていると思う。と言う
のも、外で素振りとかしていそうなので予想に留まっている。
理事長室の中にはアルゼリカ先生が既に待っており、アルゼリカ
1124
先生は俺を部屋の隅に設置されてある来賓用のソファーに座らせ、
早速本題に入った。
﹁単刀直入に聞くわ。あの怪物はウグラ君なの?﹂
﹁⋮⋮何故そう思うのですか?﹂
﹁今回の行方不明者はウグラただ一人。死んだ人たちの死体はすべ
て回収され確認もされた。そしてあの怪物が闘技場に現れたのはウ
グラたちがいた控室の方﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁外にいた警備員に聞いたのだけど、彼らはそんな化け物など見て
いないし、怪しい人物も通っていないと言っていたわ。そうなって
くると、たった一人だけ姿を消したウグラ君が怪しくならないかし
ら? もしくはあの怪物がウグラ君自身で無かったとしても、なん
らかの介入をしたと考えられないかしら?﹂
どうするべきか⋮⋮ここで言ってもいいのだが⋮⋮。
俺が最も危惧するのは、言ってしまうことで本当に関係ない人た
ちが巻き込まれる可能性があるということだ。一家下手したら親族
すべてを処罰とか洒落にならない。しかも、あの闘技場には国の関
係者もたくさんいたはずだ。そうなるとその危険がなお高くなる可
能性がある。
﹁⋮⋮さぁ、私はその辺はわからないn
﹁嘘を付かない。あなたほどの実力の持ち主が何も感じなかったは
ずがないわ﹂
1125
険しい眼つきでピシャリと言い放たれた。言葉からは絶対そうだ
と思わせる雰囲気が流れ出ていた。どうやら彼女は俺が何か知って
いると決めつけているようだ。
これは⋮⋮たぶん折れないな⋮⋮
﹁⋮⋮はぁ、そうですよ、少なくとも私がみた限りですが﹂
結局、俺の方が折れる形となってしまった。恐らく折れなかった
らずっと問いただされる事になっていただろう。
﹁そう、あなたが何で最初に言おうとしなかったかは、あえて聞か
ないでおくけどそう言った事はしっかり大人に言ってください﹂
俺の方が年上ですけどねー︵前世と合わせると40歳︶
﹁それで⋮⋮あれは結局どういう状態だったのでしょうか?﹂
﹁それは本当に分かりません。ただステータス異常で︽狂人︾とな
ってはいました﹂
﹁︽狂人︾?﹂
﹁はい、それ以外は⋮⋮あっ あと、名前の部分に?マークが付い
ていましたね﹂
﹁?マーク? 一体どういうことかしら⋮⋮﹂
そんなの俺が聞きたいよ。︽神眼の分析︾すらも不明表記されて
1126
いるんだから⋮⋮。
﹁分かりました。今日はもう帰ってよろしいです。私たちは今後、
あの怪物の正体をもっと詳しく調べていくけど、あなたたちは手を
出さないようにして下さい﹂
﹁えっ、私も何かあったら力に︱︱︱﹂
﹁手を出さないでください!!!﹂
机をドンッと叩きながら大声をだし、手を出すなと言う彼女。思
わずビクッとなってしまった。
﹁⋮⋮ご、ごめんなさい﹂
﹁い、いえ⋮⋮気にせず⋮⋮﹂
﹁兎に角、これ以上あなたたちは介入をしないようにして下さい﹂
﹁⋮⋮分かりました﹂
もともとこれ以上介入する予定は無かったし、多少後味が悪いが
ここらで手を引くべきだろう。
結局、これ以上何の進展も無かった。
ウグラのあの暴走。アレは結局なんだったのだろうか? この事件に手を出すつもりは無いが、もう少しその辺は調べてお
くべきかもしれない。セラに聞くことも出来るかも知れないが彼女
1127
も知らないこともたくさんあるだろう。彼女も﹁神も万能ではない﹂
と言っていたからな。
結局その後は外で素振りをしていたエリラと共に家に帰ったのだ
った。
==========
コンコンとドアが叩く音がした。
﹁どうぞ﹂
﹁失礼する⋮⋮どうでしたか?﹂
﹁⋮⋮あれはウグラ君で間違いないと思います﹂
﹁ふむ、あの怪物を討伐したのがあの︽炎狼︾を討伐した冒険者か。
あのような人材を吾輩も部下に持ちたいの﹂
﹁はは⋮⋮で、今後はどうなるのでしょうか?﹂
﹁おそらくウグラが住んでいた自宅は差し押さえられ、そこにいた
人たちは拘束されるだろう。処罰についてはまだ分からんがの。あ
1128
あ、あの焼死体は国で調べさせてもらうよ﹂
﹁ええ、問題ありません﹂
﹁今年は残念だったが来年の魔闘大会は楽しみにしているよ﹂
﹁ええ、来年はこんなことが無いといいのですがね﹂
﹁どうかね⋮⋮私は思うに、これからもっと荒れると思うぞ﹂
﹁? どういうことですか?﹂
・ ・
﹁だいぶ前にエルシオン近辺を警備していた兵団が全滅したのは覚
えているかい?﹂
﹁? ええ、で、それがどうしたのですか?﹂
﹁調査の結果、犯行はエルシオンより南部に位置するクローキ火山
地帯一帯を制圧している龍族と断定されたのだ﹂
﹁龍族が?﹂
﹁ああ、これに対し国は討伐隊を結成したそうだ﹂
︱︱︱︱︱戦争が始まるぞ
1129
静かな校舎に冷たい声が響いた。
1130
第95話:あの正体は?︵後書き︶
と言うことで、今回をもちまして第2章﹁魔法学園:魔闘大会編﹂
は終了です。
最初はカッコよくクロウたちが優秀者になることも考えていたの
ですが、色々考えた結果このような話になりました。
と言うのも、もうすぐで100話に到達しそうなのに﹃いつまで
タイトル詐欺をしているんだよ!﹄と言われそう︵と言うか、前に
言われました︶なので、第3章はいよいよ﹃戦記﹄と言う所に入っ
ていきたいと思っております。
構想はもう少し考えてから投稿しようと考えておりますので、次
回投稿は2/15を予定しております。最近遅れ気味なので、ペー
スを上げないとと思っているのですが、変わらない自分。泣けます
ね︵泣︶
話を変えまして、もうすぐバレンタインですね。読者の皆様は誰
から貰ったり差し上げたりするのでしょうか? 私の友達は嘆いて
いました。﹁どうせ俺らには関係ないな﹂と。
私ですか? 聞かないでください︵土下座︶
という訳で、色々良くありませんが、2章はこれにて終了です。
感想などいつでもお待ちしております。
いつも書いてくださる皆様。本当にありがとうございます。
では、また次回、黒羽からでした
1131
第96話:竜王︵前書き︶
今回より﹃第3章:エルシオンの戦い﹄が始まります。ようやく
戦記らしくなって来ました。
︵96話まで着といて何言ってるでしょうねー、あっ、すいませ
んブラウザバックしないでください︶
1132
第96話:竜王
<クローキ火山地帯︳龍の住処>
﹁竜王様! 全軍出撃準備、整いました!﹂
一人の龍族が全身を鎧で包んだ姿で竜王と呼ばれた龍族の前で敬
礼をしながら言った。竜王と呼ばれた龍族は木の王座に座っており、
その様子はとても堂々としていた。
﹁そうか⋮⋮うむ、では指示された通り各軍散開して、合図を待て﹂
﹁はっ!﹂
鎧に身を包んだ龍族は一礼をすると、早足に部屋を後にした。
部屋⋮⋮正式にはゴツゴツした岩に出来た空洞内であるが。
﹁⋮⋮人間め、勝手な事をぬかしよって⋮⋮﹂
竜王は頭を抱えた。
つい先日の事だ。他の集落からの火急の伝令。内容は﹁人間が武
器を揃え軍備を進めている様子。矛先はクローキ火山の模様﹂との
事だった。
普段、龍族の集落は別々に分かれておりこのように集落ごとに連
携を取るのは本当に稀な話だ。
1133
ただ、﹁竜王﹂と呼ばれた男はその類いないカリスマ性を生かし、
他の集落と連携を取ることを可能としていた。
これを聞いた竜王はすぐに開戦準備を始めた。
開戦理由など必要無い。彼らがどんな理由を持ってしても攻めて
くるならば先に動かなければ敵に好き勝手にさせてしまうだけだ。
それが、争いが続くこの世界の暗黙のルールだった。
物資に乏しい龍族に用意できる物などたかが知れている。それに
対し人間⋮⋮今回は﹁アルダスマン国﹂は物資豊かで広大な領土を
保有しており、それを生かした徴収、徴兵を行っている。
竜王が今自分で動かせる手勢は900余り。これに対しアルダス
マン国軍は1万5000ともいわれる大軍を結集させており、竜王
は驚いた。アルダスマン国は、数年前に起きた戦いでかなりの痛手
を負っていると思っていたからだ。
もちろん回復を想定していなかった訳では無い。だが、それを考
慮してもこの持ち直しの早さは異常だったのだ。
﹁迂闊だったか⋮⋮﹂
いくら、個々の能力はこちらの方が上と言っても、これでは多勢
に無勢。さらに火山地帯とだけあってここら一帯は地表を岩に覆わ
れた場所だ。
つまり、森の中に隠れて奇襲するなどと言った手が殆ど使えない
のだ。
﹁⋮⋮いや、今更考えても仕方があるまい﹂
1134
だからこそ、竜王は先に動いた。人間側が来る前にこちらから打
って出ることにしたのだ。
==========
﹁エルシオンを奇襲!?﹂
﹁そうだ。そこを落とし物資を得て、可能なら異種族共を配下にす
る。そしてすぐに街に火を放ち引き返す。幸い、火山地帯とエルシ
オンの間には森がいくつか点在している。そこに潜伏しゲリラ戦に
持っていくのだ﹂
﹁し、しかし、それで勝てる物なのでしょうか?﹂
﹁そこからは我が同士たちの出番だ。いくら人間どもの立て直しが
早かろうと、あの戦いの傷を完全に癒し切れたとは思えぬ。奴らは
我々は個々で掛かってくると想定しておろう。そこを突くのだ﹂
﹁同士⋮⋮?﹂
﹁なに、ここから先は機密じゃ。我が指示を出す。まずは目の前の
ことを片付けるぞ。異論は?﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
1135
﹁⋮⋮無いな⋮⋮では、各自戦闘の準備をしろ⋮⋮戦だ﹂
﹁﹁ハッ!!﹂﹂
==========
今回の戦いは本当にこちらからは理解できない一方的な出来事だ。
常に争っている龍族と人間だが、ここ最近は特に目立った事など
は起こしていない。理由は言わずも、先の戦の傷を癒す為だ。
様々な憶測が脳内で飛び交う。だが、いつまでも自問自答を繰り
返しても明確な答えは出てこなかった。
結局、竜王はこのことを考えるのはやめた。頭を切り替え目の前
の戦いに思考を集中させる。
﹁⋮⋮奴らは協力してくれるだろうか⋮⋮?﹂
と、そこに先程とは別の龍族が部屋に入って来た。息を切らせな
がら竜王の前まで行くと、そこで片膝をつけ、手に持っていた物を
両手で差し出した。
持ってこられたのは手紙だった。竜王はそれを受け取ると持って
きた者を下がらせ、手紙に目を下す。
﹁⋮⋮⋮そうか、動いてくれるか﹂
1136
竜王は手紙を読み終わると、にやりと口元を動かしていた。そし
て、スッと王座から立ち上がり部屋の隅に置かれてあった防具縦か
ら自慢の鎧を外し、自らに装着をし始める。
普通、このような事は部下に任せて付ける王などもいるが、竜王
はそんなことはせず、自分一人でつけていた。こうすることで、ひ
とり集中をし戦前の昂ぶりを抑えているのかもしれない。
﹁見てろ人間ども⋮⋮我らに戦を仕掛けた事を後悔するがよい⋮⋮﹂
その瞳は闘志と殺意に静かに燃えていた。
==========
﹁⋮⋮ん﹂
窓から降り注ぐ日差しに目が覚めた俺。
﹁⋮⋮起きるか﹂
そう言いながら体を起こそうとしたのだが、どうやっても起き上
がれなかった。
1137
特に右腕が肩の下あたりは動きそうに無かい。代わりにやけに柔
らかい感触を右腕全体で感じておりますが。
ある程度の予測は付いていた俺だったが、念のため確認をすると、
予想通りエリラが俺の腕をガッチリと抱きしめていた。
はぁ、と若干の溜息を交えながら、俺はエリラを起こさぬよう静
かに腕を抜こうとしたのだが、これがまた抜けない。別に痛いとか
そういうのではないが、何故か抜けない。
俺が四苦八苦しながら抜こうとしたそのとき。俺の体が突然宙に
浮かんだと思ったら、そのまま体ごと持ち上げられてしまった。
俺が何が起きたか理解できないうちに、俺の体は先程寝ていた場
所から反対側のベットの上に俯せで着地した。︵叩き落された︶
一瞬の間の後、何が起きたか理解した俺は、今度は俯せの状態か
ら体ごと時計回りに回転をした。俺のベットは壁に密着している。
そしてその壁は、今俺の左側、すぐ目の前にあった。
俺の体が丁度横向きになったとき、ドンッと音と共に、俺の動き
が止まった。
それと同時に俺がベットの上で持ち上げた張本人が俺の上に落ち
てくる。
﹁っ⋮⋮⋮⋮ふぇ?﹂
まだ重たそうな瞼をゴシゴシと手で擦るエリラ。何が起きたか理
解していない模様。当然と言えば当然ですが。
そして、パチパチと瞬きをしたとき、丁度俺と目が合った。
1138
﹁⋮⋮えっ?﹂
﹁おはようさん﹂
俺は軽く挨拶をしておく。
ちなみに、エリラと俺との顔の距離は10センチも無い。これで
もまだ遠い方だ。何故なら俺の上に落ちてきたときは、ほぼゼロ距
離でしたので。
ポカンとするエリラ。だが、段々状況を理解してくると、顔を真
っ赤にしだし。
﹁あsdfghjkl!﹂
何と言っているかよく分からない言葉を発しながら、ベットを転
がりだし、そのままドスゥンとベットから転がり落ちて行った。
﹁⋮⋮今日も平和だな﹂
俺は素直にそう思ったのだった。
1139
第96話:竜王︵後書き︶
と、言うことで今回より、本格的な﹃戦記﹄が始まります。戦記
物を見たかった人には大変お待たせいたしました。
もちろん、これまで見たいに個々との戦いも織り交ぜながら書か
せてもらいますので、よろしくお願いします。
※いつも感想を書いてくださる皆様ありがとうございます。感想は
いつでもお待ちしておりますので、気軽に書いてください。︵ただ
し、誹謗中傷するだけの人は書かないで下さい︶
1140
第97話:覚悟を決め
﹁募兵?﹂
魔闘大会が終わって幾何も経っていないある日、俺はエルシオン
の冒険者ギルドにてそのような張り紙を見つけた。
﹁はい、何でもここから南のクローキ火山一帯を拠点に動いている
龍族を撃滅するとのことですよ﹂
俺の疑問に答えてくれたのはミュルトさんだ。
ちなみにエリラは今この場にはいない。何故かって? 朝の出来
事︵前回参照︶でまだ精神が立ち直っていないからです。いつも添
い寝しているんだからあれくらいで恥ずかしがるとか⋮⋮。
﹁この街はクローキ火山の目と鼻の先にある街です。国の軍隊は出
動して手薄になるので、冒険者に傭兵としてこの街を防衛してほし
いのです﹂
俺が考えている事を余所目にミュルトさんが依頼について説明を
してくれた。
﹁へぇ⋮⋮ちなみになぜそんなお話が? そんな前兆は特に無かっ
たはずなのですが?﹂
﹁なんでも前に起きた森林調査部隊の全滅事件の犯人がクローキ火
山を拠点にしている龍族だったらしいのです﹂
1141
⋮⋮はぁ!? ち、ちょいまて、森林調査部隊の全滅ってアレだ
ろ!?︵第33話参照︶ なんでそんなお話になってるの!?
森林調査部隊とはエルシオンの近くにある森の生態を調査する為
の部隊だ。⋮⋮と言うのはあくまで表向きのお話で実際は獣族を拉
致して奴隷として売りさばこうとしていた集団の事だ。
あの時、俺はフェイからの依頼として、乗り込みその部隊を全滅
させた。そりゃもう、一兵も残さずにだ。
その後、エルシオンのギルドに要請された調査が入ったが、原因
は不明。結局集まった冒険者たちは未解決のまま解散しこの話は終
わったかと思っていたのだ。
それを今更掘り返されるとは⋮⋮。
事実を知っている俺からしてみれば、龍族は濡れ衣を着せられて
いると言える。だが、そんなことをここで言っても信じてもらえる
訳がないし、そんなことをすれば飛び火が来るのは俺の方だ。
俺の知らないところで、とんでもない事が起きてしまっている模
様。
しかし、俺のせいで人が死ぬかもしれないと頭で考えているのだ
が、怖いとかどうしようとかの震えなどは特にない。
おそらく、精神耐性が称号によって大幅に強化されているせいだ
ろう。︵第33話などの各種称号参照︶どうしよう俺、今完全に人
間をやめているという自信がある。
もともと半分しか人間じゃありませんが。
﹃俺は好き勝手にやっていいのですね?﹄
1142
かつて、俺がセラさんに言った言葉だ。︵第10話参照︶
好き勝手にやった結果がこれかよ。俺は心の中で苦笑いをせざる
得なかった。
もし、このまま戦いが起きれば⋮⋮獣族の命数十名と引き換えに
数百、下手をしたら数千名の命が消えることになるだろう。
⋮⋮いや、俺は選んだんだ。数百名の命を捨てて、数十名の命を
助けることを。なら、俺が後悔してどうする?
普通、こういうとき、皆に愛される主人公は悩んで悩んでなんと
か争いをしないことを選択するんだろうな。
俺は日本で見た漫画や小説の一部を思い出していた。
それが王道なら俺は邪道かな? まあ、ここはマンガとかの世界
ではないので、皆笑顔で大団円チャンチャンとか言うオチには期待
しないで置こう。
俺は腹を据えた。ここまで来たんだから、これからも自分がこれ
だと思った道を貫こう。改めてもう一度覚悟を決める。
じゃあ、まずは情報収集からだ。
﹁ところで、なぜ龍族だという事が分かったのですか? 前に調べ
たときは全くと言うほど何も分からなかったのですよね?﹂
当時、どんな調べ方をしたか参加していない俺は知らない。だが、
やった本人なので惨状はしっかりと覚えている。
あのときは、魔法具や武具は全部奪ったんだっけ? 一応洞窟の
形だけは元通り︵俺が分かっている範囲で︶やっておいたが、一体
1143
何が出たのだろうか?
﹁それが⋮⋮私も良く知らないのです。国からの発表されたという
ことしか⋮⋮﹂
﹁公に発表しないのですか? 明確な理由が無いと文句を言う者が
出てきそうですが?﹂
﹁? 何を言っているのですか? 異種族との戦争に明確な理由な
ど必要ありませんよ﹂
﹁!?﹂
⋮⋮はっ?
﹁異種族はすべて敵。共通の知識ですよ﹂
﹁いや⋮⋮あの、俺田舎出で、そんなこと教えてもらってないので
すが⋮⋮﹂
﹁昔からの事ですよ。異種族とは常に臨戦状態。いつどこで襲われ
ても仕方がない。だからこそ、﹁やられる前にやれ﹂と昔から言わ
れてきているのですよ。実際、私もなんどか襲われた事があります
ので﹂
ああ、そうか⋮⋮これがこの世界のルールだったな。
﹁そういうことですね﹂
﹁どうです? クロウさんも参加しますか? クロウさんもこの街
1144
に家を持っているし、奴隷もいるのですから︱︱︱﹂
﹁いいえ、遠慮しておきます﹂
俺は丁重に断った。
﹁えっ、な、何故ですか?﹂
﹁別に一人でも大丈夫ですし﹂
と、言うのは口だけだ。俺の全力がどんなことになるなど想像も
したことないし、俺一人で出来ることには限界がある。
しかし、俺は逆に考えた。依頼を受ければ当然指揮下に入らない
といけないだろう。そうなれば動きに制限がかかる。なら、依頼を
受けなければいい。
そうすれば、指揮下に入らずに自由に動くことが出来る。
それに、指揮下に入れば守るのはこの街全体。当然のことながら
俺の家だけを守ることも出来ない。街の人には悪いが、口を悪く言
えば切り捨てさせてもらう。
もちろん、そんなことをするのは本当に最後の最後だ。可能な限
りは助けるさ。
それに、まだ街に攻めてくるとは決まった訳じゃない。なんとか
この衝突を止められないものか⋮⋮
﹁⋮⋮やってみる価値はあるな⋮⋮﹂
俺の中で一つの試案が頭に浮かんだ。
1145
﹁? 何か言いましたか?﹂
﹁いえ、では俺は守る準備をしますので、これにて﹂
﹁あっ、はい。また気が変わったらいつでも言ってください。クロ
ウさんなら大歓迎です﹂
﹁はい、その時は是非﹂
ミュルトさんの笑顔を背中にギルドを後にした俺は、早速家に帰
った。
家に帰り、まずは精神的に立ち直っていないエリラを物理的に叩
き起こし。戦争の事を話す。最初はまだ枕で顔を隠していたが、話
し終わるころには真面目な時のエリラに戻っていた。
﹁そう、あれが原因でね⋮⋮でも、妙ね。前は調べても分からなか
ったのでしょ? なんで急に⋮⋮?﹂
﹁あー、それな。理由は特に無くてもやるとか言ってなかったか?﹂
﹁そうだけど、急にはしないわよ。どこと戦争するにしても準備が
必要ですもの。武具や食料、人を集め始めていたら必ずどこかで情
報が出ると思うのだけど⋮⋮﹂
お、おう。何故でしょう、エリラが頭良く見えます。いえ、俺も
その辺は考えていたけど、︵脳筋︶バカなエリラが思いつくとは思
わなかったからだ。
﹁⋮⋮ねぇ、今私を馬鹿にしなかった?﹂
1146
﹁ハテ? ナン ノ ハナシ デ ショウカー?﹂
﹁こう見えても、色々勉強していたのよ。その辺のお坊ちゃま貴族
たちと一緒にしないでね﹂
﹁ア、ハイ﹂
﹁で、どうするの?﹂
﹁獣族たちには内密にして、俺はちょっと行くところがあるから、
エリラはこの家で待機しといてくれ﹂
﹁何もしなくていいの?﹂
ゲート
﹁いいんだよ。いざとなれば︽門︾使って逃げればいいから、じゃ
行ってくる﹂
﹁気を付けなさいよ﹂
おかんかよ。というツッコミは置いといて俺は早速行動に移るこ
とにした。
まずはあそこに行ってからだな。
1147
第97話:覚悟を決め︵後書き︶
一日に2話も更新したのは久しぶりです。不定期ってモチベーシ
ョンが思いっきり関わってくるなと思いました。
今日も読んで下さった皆様。本当にありがとうございます。
また、次回もよろしくお願いします。
m︵︳ ︳︶m
1148
第98話:真夜中の事件︵前書き︶
2/21
誤字を修正しました。
遅れて大変申し訳ありません。
※
1149
第98話:真夜中の事件
エリラに念のため予備の武具や道具を一通り渡したのち、俺は
かつて、獣族たちを助けた森に来ていた。
あの事件のあと、ここら一帯は恐怖の森へと変わり、今は殆ど
人が来ない場所となっている。
依頼を見てもこの森に入る依頼が誰の手にも渡らず、掲示板に
張り付いているのをよく見るようになった。
と、言っても近寄らなくなったのはここ近辺で生活をしている
市民や冒険者であり、はるばる遠方から来た冒険者は依頼の為に森
に入ったりはしている。
報酬が多少いいので事情を知らない人にはおいしい仕事だろう。
俺もたまにお世話になっています。
さて、何故俺がここに来たかと言うと、もう一度あの場所を調
べてみる気だからだ。
もう、大分時間が経っているので、そう大した進展はないと思
うが、何故あの出来事が龍族の仕業になっているのか気になったの
で、もう一度調べて見ることにしたのだ。
少しでも有力な情報があればいいなと思いながら、俺はあの縦
穴に足を踏み入れたのだった。
1150
﹁くさいな⋮⋮⋮﹂
洞窟内を自らの光魔法で照らしながら奥へと足を進めていた俺
を待っていたのは、鼻が曲がりそうなほどの強烈な腐臭だった。
最後に火で殺菌したはずなのに⋮⋮。血はよく落ちにくいと言う
が、これもそういった類の一つなのだろうか?
前に下水道を通った時に︽悪臭耐性︾が付いてくれて本当によか
ったと俺は思った。︵第29話参照︶
洞窟内を探索すること10分。俺は洞窟内のちょっとした広場に
来ていた。ここは、前バーカスとか言う奴がいた部屋だ。
ここの部隊の隊長をやっていた部屋なら何かヒントがあるかもと
推測したのだ。
だが、ここも結局それらしい物は見つからなかった。
﹁くそっ、何もねぇじゃねぇか⋮⋮﹂
おかしい。こんな殆ど当時の状況が分からないこの事件を、何故
龍族のせいと断定したのか。それも事件が起きてから数か月もした
今に。
その時、俺の頭の中にある仮説が生まれた。
もし、龍族を壊滅させたい者がいたのなら。
この世界の異種族とは合い慣れない存在として認知されている。
1151
見つけ次第平然と襲ってくるような世界だ。当然、彼らにとっては
邪魔者だろう。
そして、調査部隊の中に火山地帯の龍族を消し去りたいと思う人
がいるならば⋮⋮。
公平などと言う言葉は無いも当然の世界だ。偽造、ねつ造があっ
てもおかしくはない。
﹁⋮⋮と、なるとこれはもう、ここに居ても仕方がないか﹂
もし、俺の仮説が当たっているならば、ここには何もないだろう。
おそらく情報がどこかで改ざんされ国の上層部に伝わった可能性が
高い。
だが、調べようにも時間が圧倒的に足りない。今から国の組織や
指令系統を調べ、その中からこの調査に関わった人物を探し、調査
の報告が誰のもとに伝わって、どう流れていったのか。
そんなことを最初から調べだしたら、絶対に戦いに間に合わない。
この世界の兵士の練度は不明だが、もし中世のヨーロッパの軍程
度と仮定するならば、エルシオンからクローキ火山まで1週間も無
いかもしれない。
⋮⋮途中で森を抜けないといけないからもう少しかかるか? い
や、どっちにせよ調べている時間は無い。
今は、どうやって戦争を止めるか。それを考えなければ。
だが、どちらかに伝手が無い以上、出来ることはほぼ無いに等し
い。俺に出来ることは何だ?
1152
そう考えてみると、俺の頭の中にはひとつの案しか浮かんでこな
かった。
﹁直接介入をすれば⋮⋮﹂
だが、介入をしたところでどうやって止める? 巨大な魔法でも
つかって脅すか? いや、そんなことで簡単に止まるとは俺には思
えなかった。例え、多少の効果があってもすぐに持ち直されたら時
間稼ぎにしかならない。
﹁⋮⋮駄目だ。同じ思考がグルグルと回り続けるだけか﹂
思わず頭をぐしゃぐしゃと掻き毟ってしまう。
結局、俺はそこで考えることをやめ、もう少し探索をしてみよう
と洞窟のさらに内部を探索することにしたのだった。
==========
﹁竜王様。例の地下水路を見つけました。これより全軍内部へと侵
入を開始します﹂
﹁うむ、全員、周囲の索敵を怠るな。いいか、戦うよりも今は逃げ
て隠れることを優先しろ﹂
﹁ハッ﹂
1153
暗い下水道の中、悪臭と戦いながら先へと急ぐ竜王、以下その部
下たち。少数に分かれ、枝分かれしている水路の中を進む。
︵エルシオンにこの抜け道があってよかった。死んだ仲間には感謝
しなければな︶
ここは前、潜入をしていた仲間の最後の情報だった。エルシオン
は頑丈な城壁で覆われている。
奇襲をかけるには通常、この分厚い城壁を突破しなければならな
いが、それは夜間でも大変な作業だ。いくら︽飛行︾の能力を持っ
ている龍族でも、眼の効かない夜間に飛行をすることはかなりの技
術を必要としている。
そこで、当時の潜入していた仲間はこの下水道を見つけたのだ。
エルシオンの隅に存在し、その存在は忘れられているそうだ。
もちろん少し前の情報なので、ここが完全に大丈夫だとは思って
いない。向こうから宣戦布告をしてきたのならば、それなりの準備
をしている可能性も十分にある。
ある意味では賭けだといえるかもしれない。
だが、そんな心配は無用だった。下水道を潜り抜けるとそこはど
こかの古ぼけた屋敷だった。
周囲に人影は無く。壁の四隅に張ってある蜘蛛の巣が、長い間こ
こが放置されていることを物語っていた。
﹁他の奴らはどうだ?﹂
﹁︽透視︾で確認出来た限りですと問題はありません﹂
1154
﹁よし、では予定通り今夜零時から作戦開始をするように命令を出
せ﹂
﹁分かりました。外の仲間にもそう伝えて参ります﹂
そういうと、指示を受け取った龍族は受け取った指示を伝えるべ
く、再び下水道の中へと消えて行った。
竜王たちも、簡単に内部を探索し終えると、バレないように再び
下水道の中へと戻って行った。
==========
﹁くそっ⋮⋮すっかり遅くなってしまったな﹂
俺が洞穴から出た頃にはすっかり夕日は沈みきっており、綺麗な
三日月型をした月のみが、辺りを薄く照らしている。
﹁この様子だと既に夜中だな⋮⋮﹂
結局、まるっと一日使ったが洞窟内には何も残っていないことを
改めて確かめる結果に終わってしまった。
こうなってくると、俺の立てた仮説はほぼ当たっているのかもし
1155
れないと思わざる得なかった。
﹁止めるしか無いか⋮⋮﹂
具体的な案も決まっていない中。しょぼんとした空気のまま俺は
エルシオンに戻ることになった。
森の中を一人でとぼとぼと歩きながら、どうしようかと頭を悩ま
す。そして、気づくと森のはずれまで来ており、エルシオンの街の
城壁がすぐ近くにそびえ立っていた。
この時、俺は妙な違和感に気づいた。
︵妙に騒がしいな⋮⋮︶
今が何時かは分からないが、月がほぼ真上にあることを見るに、
時刻はおそらく深夜。もしかしたら日を跨いでいる可能性もある。
電気と言う技術が無いこの世界の就寝時間は早い。なので、時間
で言うと9時ごろには既にベットに入っていてもおかしくはなかっ
た。お陰で早寝早起きを強制的に実行させられている。サラリーマ
ン時代にはありえない生活習慣だ。
だが、今日は妙に街のほうが騒がしかった。
お祭り? いや、この時期に祭なんてないはずだが⋮⋮。
不思議に思った俺は、夜中なのをいいことに︽跳躍︾で20メー
トルにも及ぶ巨大な城壁を軽々と飛び越え、城壁上部に着地をした。
顔を上げた瞬間、俺は頭の中が真っ白になってしまった。
1156
何故なら、俺の目に写ったのは、静かな街でも無く祭りで騒いで
いる街でも無く
︱︱︱紅蓮の海だった。
1157
第98話:真夜中の事件︵後書き︶
今回は投稿が遅れてしまい。本当に申し訳ありませんでした。
今回はこの作品内では一番書いては消してを繰り返していた回に
なったと思います。︵その割には内容はショボーンですが︶
今後、こういうことがあんまりないように気を付けます。
では、また次回でお会いしましょう。黒羽でした。
1158
第99話:真夜中の戦い1
街の各所から立ち上る煙や火を無視し、屋根を伝って家へ全速力
で走り抜ける。後で考えたら飛んだ方が早かったのだが、当時の俺
はそんな事など考えていなかった。
︽マップ︾上に映しだされる赤色のマーカーと青色のマーカー。
︽マッピング︾は本当に便利だな。
赤色のマーカーが敵対勢力。青色がエリラやテリュール、フェイ
たち獣族を示している。
敵対勢力⋮⋮龍族のことだ。最初は違うかと思ったが、街中に入
る際人の死体がいくつか見え、傍には翼の生えたやつがいた。色は
違ったが俺が龍化をした際に出来る︽天駆︾の際に出来る翼とほぼ
同じ形をしていた。
まぁ、最終的に︽神眼の分析︾を使って断定したのですが。
マップを確認してみると、まだ俺の屋敷周辺に赤いマーカーは表
示されておらず、取りあえず一安心だ。
屋敷内にある青いマーカーは屋敷のリビングに集中しており、全
員が固まっているのが分かった。
今度はマップでこの都市の全体を表示する。赤いマーカーが都市
の各地に点在しており特に、南、西地区に集中していた。
俺の屋敷がある北や東地区には、まだそれほどの数はいないよう
だ。
1159
赤いマーカーの数を検索してみると全部で693個あった。少数
精鋭で乗り込んできているのか? ちょっと好きな気がする。
今度は、緑色のマーカーを表記するように設定を変える。表示条
件は﹁アルダスマン国軍兵士﹂だけだな。冒険者はまだ入れないよ
うにしておこう。
検索し始めてから徐々に緑色のマーカーが表示し始める。だが、
何故か中々表示されていかない。PCじゃあるまいし処理落ちとか
そんなんのでは無さそうだ。今度は検索数をみると僅か19としか
表示されていなかった。
どういうことだ? 余りにも少なすぎる。
普通、都市には警備兵の他に駐留兵が必ずいる。これは有事の際
に動く部隊だな。エルシオンぐらいの街なら数百人はいるはずだ。
警備数でも100はいてもおかしくは無いなずなのだ。
これが意味していること、それは既に殲滅させられた可能性があ
るということだ。
19個の緑のマーカーは集団で固まっており、赤いマーカー2個
と交錯している。と、そのとき緑のマーカーが2つ消え、数字も1
9から17へと減った。
あっ、アカンこれ完全にやられているパターンじゃねぇか。
だが、戦闘地点は西地区の端。かなりの距離がある。北地区にも
徐々に赤いマーカーが移動し始めている以上、助けてあげる暇など
無かった。
︵すまん⋮⋮︶
心の中で戦っているであろう、緑のマーカーの兵士たちに謝った。
1160
ほどなくして緑色のマーカーはすべてマップ上から消え去ってしま
った。
﹁間に合ったか﹂
なんとか北に敵が来る前に屋敷に到達することが出来た俺は、屋
敷の中に飛び込み、勢いそのままに全員がいるであろう、リビング
へと向かった。
扉を開け、リビングの中へと入る。するとそこにいた獣族たちが
一斉にこちらを向いた。
﹁クロ!﹂
﹁クロウさん!﹂
﹁クロウお兄ちゃん!﹂
エリラ、テリュール、フェイが真っ先に叫んでくれた。そして俺
の顔をみた他の獣族たちも安堵の表情を浮かべる。
1161
﹁敵は︱︱︱﹂
﹁敵はまだここまで来ていないわ﹂
うん。知ってるけどね。でも、表示ミスとかしていたら悪いから
まあ、いいか。
﹁取りあえず、エリラはここで皆を守っておいてくれ。他の皆も出
来る限りの武装を!﹂
時間が無いので、指示を次々と出して行き、一通りの作業を終え、
エリラとテリュールに指示を出したのち、再び外に出る。
そして、今度は﹁冒険者﹂を条件に検索を行う。
表示された数は97。だが、そのうち交戦していると思えるのは
半分ぐらいしか無い。残りはそれぞれ、北と東へと逃げていく様子
が伺えた。中にはどこかの家の中で移動している奴らも見受けられ
た。どう考えてもこれ、火事場泥棒だよな?
命と物。物のほうが大事なのかよ。
そっちに行って説教してやりたい気分だが、今はそれどころじゃ
ないな。
ダンッと再び跳躍し屋根に飛び乗ると、そのまま付近の赤いマー
カー目掛けて一直線に駆け抜ける。
一人目を見つけたとき、尻餅を付いて後ずさりをしている人が見
えた。彼の目の前には龍族が剣を振り上げており、今まさに振り下
ろされようとしていた。
スタンショット
﹁︽脅撃︾﹂
1162
これは魔力を極力抑え、コントロールに重点を置いた無属性の魔
弾だ。威力は結構高いが殺傷能力は殆どない。何故こんなものを使
っているのかというと、いつも使っているような魔法だと、民家や
一般人に被害を出す可能性があるからだ。
そこで、まず武力を無効化をし怯んだところで格闘戦に突入し無
力化することにした。
指先に小さな魔方陣がいくつも現れ、それぞれが線で結びあって
いた。魔法も大きくすることは大変な作業だが、小さくすることは
もっと大変な作業だ。
ピンッとコインを弾いた時のような音と共に、俺の指先から直径
およそ3センチ。幅、1ミリ以下の細長い魔弾が飛び出した。
そして、龍族が振り落そうとした剣の刃の側面にヒットした。
剣が龍族の手から離れ宙を舞う。突如弾き飛ばされた剣に龍族は
唖然した。そして剣が飛んで行った方向を向こうとしたとき、俺は
既に龍族の目の前まで来ていた。
ハッと俺に気づいた龍族だったが、その時には時すでに遅し、俺
の昇○拳が龍族の溝に突き刺さり、そして弾け飛んだ。まるでボー
ルを打った時みたいに龍族の体は綺麗な放物線を描きながら、立ち
並ぶ民家のどこかへと落ちて行った。
﹁大丈夫ですか?﹂
﹁へっ? ⋮⋮あっ、はい﹂
何が起きたか全く理解していないようだったが、返事をしたので
よしとしておくか。
﹁兎に角、北へ逃げて下さい﹂
1163
俺はそれだけ言うと、さらに周囲にいた龍族たちを潰しにかかっ
た。
幸い、龍族の多くは中央部から東部を中心に攻撃しているようで、
北部。特に俺らのところまで来る龍族は殆どいなかった。
結局、30名ほどに昇○拳を食らわせた辺りで、北へ来る敵はほ
とんどいなくなっていた。
ここら辺は大丈夫だなと判断した俺は、今度は中央へと移動を開
始した。既に冒険者の数は70名ほどにまで落ち込んでおり、もは
や壊滅状態と言えるかもしれない。
それにしても、敵が来るのが早すぎたな⋮⋮俺が募兵の張り紙を
見たのが今日の昼︵ただしくは、既に日を跨いでいるので、昨日の
昼︶
たった一日程度の募兵では殆ど人は集まらないだろう。あくまで
俺の予想だが、他の街からに情報が流れそれをもとに街へやってく
ることを計算すると最低でも1週間は必要になるだろう。そこから
守備位置を決めたり連携を決めたり、規律を決めていたりなどした
ら、まだ時間はかかるだろう。
守備が疎かな今を狙ったということか。
しかし、何故あいつらはこんなに早く動けているんだ?
例え、募兵に時間が多少かかろうとも、それは敵も同じ。いくら
常に臨戦態勢を取っていたとしても戦争をしかける情報を得るまで
に数日は必要だろう。
1164
と、実際に戦争を見たことが無い奴が言っても仕方がないか。俺
は再びマップを見渡し、近場の龍族を無力化していった。
1165
第99話:真夜中の戦い1︵後書き︶
次回は、いよいよ節目の第100話です。と言ってもいつも通り
の平常運転となる予定ですが、何かした方がいいかなと思っていた
り。まぁ、たぶん平常運転に︵ry
次回もよろしくお願いしますm︵︳ ︳︶m
1166
第100話:真夜中の戦い2︵前書き︶
2/23
誤字を修正しました。
投稿する箇所を間違えておりました。大変申し訳ございません。
※
1167
第100話:真夜中の戦い2
﹁第14歩兵部隊、アルダスマン国軍詰所を完全制圧しました﹂
﹁同じく第11部隊が都市西側を完全制圧したとの報告﹂
﹁第1翼竜部隊も西側制圧を確認しました﹂
﹁第3部隊が南側の物資を回収し終えた模様。これより人間族を始
めとする一般市民、および彼らの奴隷となっていました者たちの捕
獲作戦を開始するとのこと﹂
竜王の元に各方面から知らされる報告。報告は大抵は良い知らせ
ばかりだった。
﹁国軍は完全制圧。冒険者からなる傭兵部隊も制圧しつつある⋮⋮
これはもう勝ったも同然では﹂
今にも狂喜しそうな顔で部下の一人が竜王言った。
﹁油断するな。まだ今回の戦いは我らの奇襲と、敵軍の準備の遅さ
によって有利に進んでおるが、これからはそうは行かぬぞ﹂
だが、竜王の顔は少しも崩れなかった。相変わらず険しい表情を
保っていた。その顔はまさに﹃勝って兜の緒を締めよ﹄を体現する
かのようだった。
﹁も、申し訳ございませぬ⋮⋮そうでございました﹂
1168
部下の顔も再び引引き締まる。そして、そこに部下の気持ちをさ
らに引き締める報告が来た。
﹁申し上げます! 第7歩兵部隊、および第8部隊が壊滅した模様
! 第2翼竜部隊の報告によると若い冒険者一人によって壊滅させ
られた模様!﹂
竜王の周りにいた部下たちがざわめき出す。だか、トップに君臨
する竜王はそんな事では動揺しない。
﹁慌てるな。第2翼竜部隊に高い高度から︽咆哮︾で攻撃するよう
指示を︱︱︱﹂
竜王が、指示を出そうとした瞬間、慌てて竜王の元へ一人の龍族
が走ってきた。
﹁報告! 第2翼竜部隊が謎の遠距離射撃により全機撃墜されまし
た!﹂
﹁なに?﹂
周囲に緊張が走る。今、壊滅させられた部隊はすべて、北地区に
向かっていた部隊だ。その部隊がこの僅かな短時間で全滅させられ
るとは誰が予想できただろうか。さすがの竜王もこれには顔色を変
えざるを得なかった。
だが、恐れている暇は無い。おそらく敵は一人。たった一人の手
によって3部隊が葬られてしまったという事実を受け止め、次の手
へを打つ。
1169
﹁東へ向かった部隊を都市から脱出させよ。中央から北の部隊は中
央に残っている物資を回収次第撤退を始める﹂
﹁て、撤退!?﹂
﹁そうだ、これ以上被害を出すわけには行かぬ。戦いはこれで終わ
りでは無い。一定の戦果を上げた以上、無駄な犠牲を出す前にここ
は引くぞ﹂
今回、既に龍族は南と西地区を完全掌握し尚且つ大量の物資を得
れた。なら今のうちに引きこれからの持久戦の為に力を温存するべ
きと竜王は判断した。
竜王の判断に反対する者はいない。お互いに頷くと、無言で各方
面へ散っていった。
竜王自身も撤退を開始しようとした、その時だった。
﹁待てよ﹂
振り向くとそこには一人の少年が立っていた。
﹁⋮⋮誰だ?﹂
竜王がそう問いかけようとした時、急に竜王の部下の一人があわ
あわしながらバランスを崩し尻餅を付いたのが見えた。
﹁ここここ、こいつです! 第7、8部隊を壊滅させたのは!﹂
先程第7、8部隊の壊滅を報告した部下が震える指で少年を指さ
1170
した。
﹁ほう⋮⋮﹂
竜王は少年の方に向き、少年を睨み付けた。
竜王が睨みつける。たったそれだけの事であるが、辺りにとてつ
もない重圧が伸し掛かる。竜王の部下ですらも、体を震わせながら、
竜王と素早く距離を取ったほどだ。
だが、少年はそれほどの威圧でも動じることなく堂々と立ってい
た。
﹁あんたがトップだろ?﹂
﹁だとしたらどうする?﹂
﹁今すぐエルシオンにいる全軍を撤退させろ﹂
﹁ほう、少年よ。撤退させれば我々に利益でもあるのか?﹂
﹁ああ、あるさ。これ以上無駄な被害を出さなくて済むぜ。︽飛行
︾を使える龍族をまるっともう半分失いたいか?﹂
﹁その言葉を聞くに、北に向かった翼竜部隊を壊滅させたのはお前
か?﹂
﹁壊滅? ああ、片方の翼に穴開けて落としただけだから生きてる
んじゃね? あとで拾っとけよ﹂
1171
﹁き、貴様我らの同胞にそのような蛮行をやっておいt﹂
﹁蛮行? 戦争自体が蛮行だろ? そんなのお互い様だろ? 俺も
あんたらを巻き込んでしまったし、あんたらもこの街の住民を巻き
込んだ。まぁ、根源は俺ですけど⋮⋮﹂
﹁貴様、さっきから何をいっている!﹂
﹁⋮⋮壁に隠れてそんなこと言われても迫力ないんだけど⋮⋮﹂
少年は、壁に隠れてみている龍族に呆れ顔でツッコんだ。
とてもじゃないが龍族のトップを前にしての態度には見えない。
﹁⋮⋮少年よ、名は?﹂
﹁⋮⋮クロウ﹂
﹁ふむ、面白い奴だ。だが、相手を間違えておらぬか?﹂
﹁⋮⋮︽竜族を統べる者・竜王︾⋮⋮か﹂
﹁⋮⋮何故わかる﹂
こんな所で動じないのは流石の竜王だ。竜王は自身の正体がいと
も簡単に読まれても態度を一つも変えない。
﹁︽神眼の分析スキル︾で分かるんでね﹂
クロウと名乗った少年は自分の目を指しながら言った。
1172
﹁それでも態度を変えぬか⋮⋮面白い、一つ相手してやr﹂
竜王が腰に着けていた剣を抜こうとした瞬間、クロウの姿が消え
次の瞬間には竜王の下顎に指を当てていた。誰の目でも捉えること
など不可能だっただろう。
﹁!?﹂
﹁まあまあ、ここは素直に引いてくれないか? 今回ばかりは俺に
も非があるからさ﹂
周りにいた龍族たちは言葉を失った。自分らどころか竜王すらも
反応しきれない速度で移動したことになる。
本当に人間か? と疑問を持つ者もいた。実際、その疑問は半分
合っているのだが、それを知っている者はこの場において、クロウ
一人だけだ。
﹁⋮⋮いいだろう﹂
勝てない。竜王は咄嗟にそう判断した。気安く負けを認める性格
ではない竜王だが、この時ばかりは負けを認めざる得なかった。自
分と彼との差に余りの差があると感じたのだ。
﹁全軍、撤退の用意を︱︱︱﹂
と、その時だった。街の中央の方から爆音が聞こえ、それと同時
にあたりが揺れた。見ると街の中央で先程までは見えなかった新た
な火柱が立っているのが見えたのだった。
1173
第100話:真夜中の戦い2︵後書き︶
ということで、第100話です。
ここまでこれたのも皆様のお陰です。本当にありがとうございま
す!
ここに来るまでに7か月。長いようであっというまだった気がし
ます。
物語はまだ10分の1程度終わっただけですが、これからも頑張
って行きますよ。
皆様、ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。これ
からもよろしくお願いします。
1174
2/23
誤字を一部修正しました。
第101話:真夜中の戦い3︵前書き︶
※
1175
第101話:真夜中の戦い3
﹁まだ戦っているのか? 撤退命令はどうした!?﹂
竜王が近くにいた部下に吼える。その威圧に多少押され気味なが
らも部下が答える。
﹁わ、分かりません! 撤退命令は既に伝わっているはずなのです
が⋮⋮!﹂
﹁引き際を分かっていない者がいたか⋮⋮すぐにもう一度︱︱︱﹂
﹁いや、その必要はない﹂
クロウは片手で竜王たちを制止し、火柱の上がった方を睨みつけ
ながら言った。
﹁あんたらはこのまま引いてくれ。どうやら第3勢力のお出ましら
しい﹂
﹁第3勢力だと⋮⋮?﹂
﹁ああ、人間でも龍でも無い奴らがな、あんたらは引いた方がいい。
後は俺が全部片づける﹂
それだけ言うとクロウは、普通の人間ではまず越えることは不可
能であろう2階建ての建物の屋根に飛び乗り、そのまま街の中央へ
と消えて行った。
1176
後に残った龍族たちは一瞬静かな間があったが、すぐに竜王の元
へと集まった。
﹁竜王様チャンスですぞ。もし彼の言っている事が本当なら東地区
の制圧までなら出来るかもしれませぬ﹂
部下の一人がそう進言した。それに頷く龍族もいたが、大半は苦
い顔をした。そして、それは竜王も同じであった。
﹁馬鹿を抜かすな。撤退指示は変えぬ、むしろ奴が見逃してくれた
のだから今こそ、引き時よ﹂
﹁な、何を言っておられるのですか!? 龍族の頂点に立ちし竜王
様が、たかがあんな人間の小僧のいう事を聞くのですか!?﹂
部下の一人が竜王に詰め寄ろうと一歩前に足を踏み出した。だが、
その直後、とてつもない威圧が辺りに流れた。ビクッと震えると足
を踏み出した龍族はすぐに最初の位置に戻った。
﹁普通の人間と思うな。我も反応できぬほどの速度、そして我らの
同胞の部隊を一人で撃破する力⋮⋮一筋縄で行かぬことなど赤子で
も分かる事だぞ!?﹂
﹁そ、それはそうですが⋮⋮しかし⋮⋮!﹂
﹁異論は認めん! それともなんだ、お主は人間と第三者との戦い
にわざわざ参加してこれ以上犠牲を増やしたいとでもいうのか!﹂
﹁そ、それは⋮⋮﹂
1177
部下は言葉に詰まってしまった。それは正論だったからだ。だが、
部下の心の中のプライドは納得はしていなかった。
だが、有無を言わせぬ竜王の言葉に部下はついに折れてしまった。
﹁⋮⋮失礼しました。つい熱く⋮⋮﹂
﹁よい、お主の気持ちも分からぬことはない⋮⋮だが、戦いはこれ
だけではない。少ない同胞をこれ以上、悪戯に失う訳にはいかぬの
だ。分かってくれるな?﹂
﹁ハッ!﹂
﹁よし、では再度撤退の指示を出せ! 今度は撤退の妨げになる者
の排除以外の戦闘を一切禁じるのだ!﹂
こうして、各地に再び竜王の指示を伝えるべく部下たちが散って
行った。
︵クロウとやらよ⋮⋮次会ったときは覚悟しておけ⋮⋮︶
竜王は、クロウが向かって行った街の中央の方をしばらく見つめ
たのち、自身もこの街を去るべく移動を始めたのだった。
1178
==========
街のほぼ中央で紅蓮の火柱が吹き上がっていた。余りの熱にガラ
スは割れずに溶け、建物に使われている木材は灰すらも残さんとば
かりに燃えていた。
そんな、光景を空で見物する者がいた。
﹁イッヒッヒッヒッヒッ⋮⋮街のギルドも崩壊⋮⋮これでこの街の
防衛機能は完全に消滅しましたな⋮⋮﹂
一人は灰色のローブを被った魔導師みたいだった。だが、人の魔
導師では無い。大きさこそ人間並みだったが、ローブの隙間から見
える肌の色は紫色だった。手に持っている黒い筒らしき物からは黒
煙が立ち上っている。
﹁ふん、わざわざ龍族を使わないでよかろうに⋮⋮﹂
もう一人は体長が3メートルほどはあろう巨大な男だった。ただ、
こちらも肌の色は赤黒く、眼球には色が無く、白目であるところを
見ると人間では無い者だろう。
﹁いえいえ、出来れば共倒れをして欲しかったのですがね⋮⋮人が
余りにもゴミケラでしたね、イッヒッヒッヒッヒッ⋮⋮﹂
﹁まあ、後は龍族共が止めを刺すだ︱︱︱﹂
1179
その時、赤黒い大男が突如上空で止まっていた位置から忽然と消
えてしまった。
﹁!?﹂
紫色の魔導師はすぐに辺りを見渡そうとした、瞬間。今まで誰も
いなかったはずの空間に、突如一人の人間が現れたではないか。
﹁なッ︱︱︱︱!﹂
﹁墜ちな﹂
人間はそれだけ言うと、紫色の魔導師の頭に強烈な回し蹴りを食
らわせた。蹴りを受けた紫色の魔導師は僅かな抵抗すらも許されず、
そのまま燃え盛る炎の中へと突っ込んで行った。
==========
やっちゃった。
ふつう、ああいう悪役っぽい奴からは情報を聞き出すとかそんな
ことするんだろうけど、問答無用で蹴り落としてしまった。一応︽
不殺︾スキルを使ったから死んではいないだろう。あとでたっぷり
と情報を聞き出すことにしよう。こういう時は先制が大事だよな。
1180
大事だよね? ですよね?
スタンショット
消えた大男の方は上から︽脅撃︾をぶつけて叩き落しておいた。
殺傷力は無いに等しいが魔力を込めれば当然殺傷力は上がる。
ちなみにあの大男に使った威力なら厚さ40センチ程度の鋼鉄の
壁をぶち抜ける威力のはずだ。あの戦艦大和の装甲を貫けるほどと
言えば分かるだろうか。
さて、説明はこれくらいにしてと。
俺はあの2名を叩き落した辺りへと着地して、辺りを探索する。
アースチェーン
ほどなくして地面で伸びている2体を見つけることが出来た。
その後、︽土鎖︾でしっかりとくくりつけ、紫色の奴が持ってい
た黒色の筒を拾い上げる。
スキル︽神眼の分析︾発動
==========
アイテム名:爆炎筒
分類:魔法武器
効果:強烈な火の弾を撃ち放つ。さらに着弾点を中心に強烈な爆発
および、破片弾を周囲にまき散らす。
==========
﹁なんつー凶悪な武器なんだよ⋮⋮現代の兵器としても十分使えそ
うな代物じゃねぇか⋮⋮﹂
俺はそれを︽倉庫︾に入れると。まだ伸びている二人を起こした
︵殴って︶
1181
﹁さて、答えろ。あんたらは何もんだ? 人間でなければ龍族でも
ないようだが?﹂
ベキッ
﹁ふん、人間如きに答える訳がnアイタタタタタタ、ちょっ、小僧
マテや! 指折れた! 折れたで!﹂
﹁ああ、次は片手の指の骨全部折るからな?﹂
まさに極悪。なんか裏の世界ではこんなことが行われてそうで、
俺も黒く染まっているなと思う。あれ? なんでだろ、視界が滲ん
でいるような⋮⋮。
﹁イッヒッヒッ、素が出ておるぞ?﹂
﹁う、うるさいわ!﹂
﹁おい、そんなことはどうでもいいんだ。魔族のあんたらが何でこ
んな所にいるんだ?﹂
魔族であることは既に確認済みだ。
1182
﹁ヒッヒッ⋮⋮何、人と龍族が争っていたから横槍を入れたまでよ﹂
﹁ふぅん⋮⋮その割にはあんたら来るのが早すぎじゃねか? 人間
でも準備が出来ていなかっただけどな﹂
﹁我らはお主ら人とは違う。お主らが分からないような方法で通信
することぐらい容易いわい﹂
﹁まあ、単騎で乗り込んで来るあたり、軍規模では動けないようだ
な﹂
﹁まあ、そういうことじゃい。さて⋮⋮我らをどうするつもりかの
? ちなみに、我らはこれ以上何かに答えるつもりはないぞよ﹂
﹁ちっ、簡単には行かないか、じゃあこいつの骨砕いてから適当に
片付ける︱︱︱﹂
と、その時紫色の魔族の後ろから何かが転がり落ちるのが見えた。
﹁ん?﹂
俺がなんかなと思った次の瞬間。転がり落ちた物から強烈な閃光
が放たれた。
﹁!?﹂
思わず、顔を手で覆ってしまう。すぐに手をどかしたが、もうそ
の時には奴らの姿は見えなかった。
くそっ! 逃げられた! ︽土鎖︾で縛っておいたから取りあえ
1183
ず大丈夫かなと思っていたんだけどな⋮⋮。
それにしても魔族か⋮⋮、あいつらはどうやって戦争の情報を掴
んだんだ? 電話とかインターネットが無いこの世界では情報は波
状に広がっていく。魔族がどこに勢力を持っているかは知らないが
早すぎるだろ。この街に住んでいて、情報の集まるギルドにほぼ毎
日顔を出しているような俺でも、今日︵正しくは昨日︶知ったばか
りなんだぞ⋮⋮。
これは調べてみる必要があるな。
と、考えごとをしている俺の、傍から急にバキバキと言う音が聞
こえた。見上げてみると、火事で残った建物の骨組みが炎を纏った
ままこちらに傾き始めていた。
﹁ちょっ、マジかよ﹂
俺は崩れる建物からすぐに距離を置いた。それからほどなくして、
俺の立っていた場所に建物が崩れ落ちていった。
ほっとしたがこれで今やらなければならない事を突き付けられた
気分だった。
﹁⋮⋮まずは、この状況を何とかしないとな﹂
そういうと、俺は行動を開始した。
1184
第101話:真夜中の戦い3︵後書き︶
と言う訳で、真夜中の戦いは一応ここで決着が尽きましたが、戦
争自体はまだ序盤⋮⋮恐ろしいですね。
さらに魔族も介入しだしどうやらお話はただの戦争では終わらな
い模様。書きながら﹁また長くなりそうだな﹂と思っています。︵
笑︶
話は変わりまして、前回無事100話到達を成し遂げたのですが、
皆様からの祝福のメッセージをいただきまして本当にありがとうご
ざいます。
もう部屋で一人狂喜しておりました。端から見ると変人ですね︵
泣︶。でも嬉しいから後悔は︵ry
感想に書いてくださった皆様。本当にありがとうございます。そ
して皆様、次回もよろしくお願いします。
以上、黒羽からでした^^
1185
2/26
誤字を一部修正しました。
第102話:戦後処理︵前書き︶
※
1186
第102話:戦後処理
燃え盛るエルシオンの上空で街を見下ろす俺。こうやってみると
東と北にはほとんど被害が出ていないのが分かる。
燃えている箇所は明るいので時折街の外に向かって行く龍族や、
逃げる人々を確認することが出来た。
さて、まずは鎮火だな。今は被害の無い東と北にまで火の手が伸
びて行けば大変な事になってしまう。それに逃げ遅れた人が焼死し
ましたなんて笑えないしな。
スコール
﹁︽雨雲︾﹂
俺を中心に雲が集まり始める。やがて分厚い雲へと成長した雲か
らポツポツと雨水が落ちて行き、やがて大雨へと変化していった。
まずこれで、延焼を多少なりとも防げるはずだ。
だが、肝心の火の元がこの程度で消える訳も無く、相変わらず轟
々と音を響かせながら火柱を上げていた。
ウォーターボール
そんな箇所には︽水球︾を投げつけて消して行く。時折逃げ遅れ
たのか、火に囲まれた人がいたので、その人たちも助けて行く、︽
火炎耐性︾バンザイ。
もちろん中には手遅れだった者もいた。焼死体になっている者、
大量の炭素を吸ったことで起きた一酸化炭素中毒により倒れている
者。
1187
⋮⋮彼らもあとで弔ってあげないとな。
そうこうしているうちに夜が明けた。
国の軍隊⋮⋮もとい守備隊は全滅したのでかなりの混乱だったが、
生き残った冒険者たち︵火事場泥棒者含む︶とギルドの職員たちの
お陰で多少は良くなっていた。
それにしてもギルド員が生き残ってくれたのは良かった。襲撃さ
れたのが夜だったので、ギルド員も夜勤の人が残っていただけだっ
た。さらに襲撃されたとの報告を受けたため、全員出払っていたと
きに攻撃を受けた形となっていた。
で、俺はと言うと運ばれてきた怪我人を治療することとなった。
医者も何人かいたのだが、そいつらには軽傷者を任せ、俺は重症
者の治療にあたることになった。
もっとも、俺の場合魔法ですぐに治せるので治療自体は午前中で
終わった。余りに早く終わったので結局軽傷者も全員まとめて治療
をしてあげた。医者の面目丸つぶれだな、最終的に隅っこで指をく
わえて見ていました。
重症者だった人やその家族たちからは物凄く感謝された。泣きな
がらお礼を言ってくれる者や、何故か俺の方を向いてお祈りポーズ
をしている人もいた。いや、俺神様とかじゃないのですが。
その後は生き埋めになっている人の捜索を開始した。といっても、
手探りなのは他の人たちだけで、俺は︽マッピング︾で生き埋めに
なっている人たちをピンポイントで当てることが出来るのでこれも
対して問題にはならなかった。瓦礫の撤去も生き埋めになっている
人に︽防壁︾をつけてあとは力任せにどかしていくと言う荒業でど
1188
うにかなりました。
今なら言える気がします、﹃自称:重機﹄と⋮⋮すいません何で
もありません。
ただ、運び出すのには人手が必要だったのでエリラたちには運ぶ
のを手伝ってもらった。獣族たちにも手伝わせたかったのだが、こ
んなタイミングで外に連れ出したら何が起きるか分かったものでは
ないので、お留守番をさせることに。
こんな後だからまだ火事場泥棒する馬鹿がいるかもしれないから
少し心配だな。一応注意はしてきたけど。
そうこうしているうちに、気づけば夕刻を迎えていた。俺が確認
できた限りでは救助を行うことが出来た。
﹁ふぅ⋮⋮﹂
﹁お疲れ様です﹂
瓦礫の丘の上でエリラとテリュールと一緒に一息ついていたとき、
ミュルトさんが声をかけてくれた。彼女も今日は丸一日働きづめだ
ったみたいで、ちょっと疲れているように見えたが彼女が笑顔で来
たのであえてそこには触れないでおこう。
ちなみに、俺は徹夜しました。もうすぐ二徹です。某サバイバル
番組みたいな感じになってきた。正直今すぐベットへとダイブした
い。
﹁クロウさんがいて助かりました。本当にありがとうございます﹂
﹁いえいえ、当然の事をしたまでですよ。そういえばマスターは?﹂
1189
今日一日見かけてなかったので、少し気になっていたんだよな。
ギルドマスターという立場ならいてもおかしくないのにな。
﹁マスターは昨日首都の方に用があるとのことでいませんよ。なん
でも急用が出来たとか﹂
へぇ⋮⋮あのおっさんタイミング良すぎだろ、なんか逃げてたよ
うに感じるのは俺だけだろうか?
﹁そうですか。⋮⋮被害はどれくらいでしたか?﹂
﹁現在分かっている限りでは死者2000名以上。行方不明者29
0名、怪我人は今朝の時点で数千人以上いましたが今はほとんど残
っていません、クロウさんのお陰ですね﹂
面と向かって褒められると恥ずかしいな。俺の背後でエリラが﹁
チートぉ⋮⋮﹂とぼやいていたが聞こえなかったことにしよう。う
ん、俺は何も聞いていない。
﹁それにしても彼らはどこから侵入したのでしょうか?﹂
﹁さぁ? 壁には損害がありませんでしたし、どんな状況だったか
はこれから、調べるしかないのでは? そういうのはギルドのお仕
事なのですか?﹂
まぁ、本当は見当ついているんだけどな。
おそらくだが、あの下水道から侵入したのではないかと思う。あ
そこはずいぶん長い間放置されていたみたいだし、あの廃墟周辺に
は殆ど人がいないらしいから侵入するにはぴったりだ。
1190
﹁そういう仕事は国が行いますね。ギルドはあくまで補助という形
で調査に参加することになるかと﹂
あ⋮⋮国のお仕事か。
それにしてもこれからどうしようか⋮⋮衝突は避けられないだろ
うな。それに魔族も介入したところをみると、この街がまた戦場に
なりそうで怖い。
⋮⋮ああ、駄目だ。眠いせいか思考が回らないな、また明日にし
よう。
﹁では、一休みしたいので俺はこれにて﹂
﹁あっ、徹夜したのですよね。ゆっくり休んでください﹂
こうして、ミュルトさんに見送られながら俺は自分の家へと戻っ
て行った。戻ったのち俺はベットにダイブしすぐに深い眠りに落ち
た。
⋮⋮あっ、そういえばあの魔族たち︽土鎖︾どうなったんだろう。
===========
﹁ぬぉぉぉぉぉぉぉ! 壊れねぇ!﹂
1191
﹁駄目です! いくら斬っても斬れる様子がありません!﹂
﹁⋮⋮これは失策だったのぉ﹂
﹁くそぉ! あのガキめぇ⋮⋮次会ったら覚えてろぉぉぉぉぉぉぉ
ぉぉぉぉぉぉ!!!!﹂
1192
第102話:戦後処理︵後書き︶
おそらく彼らはしばらく鎖に縛られたままの生活を強いられるで
しょう︵笑︶
今回も読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。また
次回でお会いしましょう!
1193
4/9
誤字を修正しました。
第103話:始めから⋮⋮︵前書き︶
※
1194
第103話:始めから⋮⋮
あの襲撃から2日後、国軍の先発隊がエルシオンに到着をした。
先発隊の兵力はおよそ5000人ほどで、大部分が騎兵だった。
この二日間、俺は瓦礫の本格的な撤去を任されていた。今度は
残った冒険者も手伝うことに。と言っても手伝っているのは十数名
程度だ。
残りの冒険者たちは、この街から逃げ出したり、﹁そんなこと
何故しないと行けないんだ!﹂と言って断った人たちだったりする。
街の住民たちはというと死んでいった者たちの葬儀を執り行っ
たり、俺達が綺麗にしたところに仮の住居を建設したりしており、
ここには居ない。
⋮⋮⋮まぁ、正しくは必要無いのですが
﹁取り合えず取りやすいように出していくから運んでくれませんか
?﹂
と、言いながら一個数百キロにもなるような木材を片手で持ち
出したり。
﹁あとはこれくらいか。じゃあ俺が運びますわ﹂
といって下手をしたら1トンにはなりそうな重さの鉄材を一人
で運んだりなど、完全に重機かした俺の手によってほとんどが片付
けられたからだ。ときどき﹁俺らって必要なくね?﹂とか﹁俺たち
の存在って⋮⋮⋮﹂などの声が聞こえたが聞かなかったことにして
1195
おこう。⋮⋮⋮なんか俺って最近、聞いていなかったということに
しているのが多いような⋮⋮⋮。
とまあ、そんな二日間でした。
先発隊の到着により街のなかには安堵の声が聞こえてきた、だ
が、そんな声もすぐに変わっていき、代わりに聞こえてきたのは、
龍族を滅ぼせという、住民たちからの怒りの声だった。
﹁龍族を殺せ!﹂
﹁奴等を決して許すな!﹂
中には義勇兵として加わりたいと言う者まで現れた。こうなっ
てくると兵士たちの士気も否が応でも上がって行った。
住民たちは本隊が来てくれることを心から望んでいた。俺として
はこれ以上面倒な事にはなって欲しくないので正直なところ来ない
で欲しいのが本音だったが、それは口にしないように気を付けた。
だが、国の本隊が到着することは無かった。
エルシオンの襲撃事件より3日後。
アルダスマン国軍本隊。龍族の奇襲を受け敗走。多くの物資、人
材を失う。
さらに翌日、別の部隊も奇襲を受け敗走。ここでも物資や人材を
数多く失う。
立て続けに起こった奇襲によるアルダスマン国軍の敗北。それは
1196
多少の時間を要したのちエルシオンにも伝わった。
いや、奇襲の警戒網がガバガバすぎるでしょ? とツッコミを入
れたい所だったが、よくよく考えてみれば、夜間の目が効かないと
ころで空から強襲されたら厳しいか。敵はエルシオンで得た物資を
上手く使っているな⋮⋮。いや、それでもあまりに無防備すぎると
思うのだが。
今みたいに照明という強い明りなんて無いしな。むしろ今までな
んでこんなに勢力を広げていられたのか逆に問いただしたい。
敗走の情報を聞いた住民の不安は高まっていた。だが、そこにさ
らに住民の不安を増大させる報告が伝えられる。
先発隊の再編による撤退。事実上の都市放棄と言えるかもしれな
い。各地で国軍が敗れたことにより補給線が伸び、戦線を維持する
ことが不可能になりつつあったのかもしれない。
そもそも、この戦争自体が既に無意味な事に成り下がりつつあっ
た。
事の発端は調査部隊の全滅、それに対する報復戦になるはずだっ
たが、既に予想以上の損害を出してしまっている。
ここからさらにクローキ火山にいると思われる主力の敵を倒さな
ければならないのだ、終わる頃にはどれほどの被害が出ているか分
かったものではない。
そして、あの戦いから僅か一週間後。エルシオンを守る守備隊が
すべて撤退し、街を守る国の兵士は誰一人として残っていないので
あった。
1197
第103話:始めから⋮⋮︵後書き︶
実際、偵察部隊とかあるでしょうが、今みたいに哨戒機などがな
い昔だったらと思って書いていました。実際どうなのでしょうかね。
松明程度の魔法道具しか作れない国家の偵察部隊って。
と、試行錯誤の場所もありますが、暖かい眼差しで見て頂けると
嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。
1198
第104話:第1次エルシオン防衛戦1
﹁⋮⋮で、この街には守る人がもう殆どいないと⋮⋮﹂
﹁はい、国軍の撤退に伴い冒険者たちも大半が他の都市へと流出し
ました。ここに残っているのは、逃げたくても逃げるあてのない住
民たちと僅かばかりの勇士だけです⋮⋮﹂
国軍の撤退には本当に驚いた、まさか防衛を放棄するとは思わな
かったのだ。それほど追い込まれているという事なのだろうか?
いや、いや、いくらなんでもそれは無いだろ。俺は戦時中に生ま
れたわけではないから俺の知識がどこまで合っているかは分からな
いから絶対とは言えないが。
それにしても⋮⋮国でも有数の商業都市をこうもアッサリと手放
したりするものか⋮⋮?
ここまで来ると、意識的に捨てに行ったようにしか俺は思えなか
った。そもそもエルシオンはアルダスマン国でも有数の都市なんだ
ぞ? それを見捨てるってどういう神経しているんだよ。普通なら
石にしがみ付いてでも奮戦する場面じゃないのねぇ?
﹁⋮⋮で、俺にどうしろと⋮⋮?﹂
﹁この街のギルドからの依頼です。この街の守備をお願いしたいの
です﹂
﹁⋮⋮俺一人で?﹂
1199
いや、実際たぶん出来ると思うけどさ。
﹁⋮⋮現状、一人ですね。手当たり次第に声はかけているのですが
⋮⋮﹂
いないんだ。ちょいマテ、なんでや。一人ぐらい、いるでしょ?
いくらなんでも誰も居ないってことは⋮⋮
マッピング検索
検索ワード:冒険者
ヒット数:1
﹁⋮⋮﹂
あっ、これアカン奴だ。
※冒険者が検索ワードなのでクロウもカウントされてます。アーユ
ーオk?
﹁ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!﹂
ボロカスとなった青空ギルドで叫ぶ俺。いや、叫んでいいですよ
ね? なにこれ? 何の仕打ち!? いや、誰も居ないってどいう
いこと!? 一人ぐらい勇士がいてもいいのでは!? 逃げた奴ら
薄情過ぎない!? 君たちの血の色は何色をしているのかな? 紫
色のナメ○ク星人の色でもしているのかな?
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
1200
地面にへたり込む俺。アレ? おかしいな、全然動いていないは
ずなんだけど、物凄く息切れをしているような⋮⋮?
﹁⋮⋮俺一人でどうしろと?﹂
﹁すいません⋮⋮今、声をかけているので⋮⋮﹂
それ集まらないフラグや。
﹁本当にすいません⋮⋮また、誰か来てくれたらお伝えしますね﹂
おう⋮⋮そんな申し訳なさそうな顔しないで下さい。怒るに怒れ
ないじゃないですか⋮⋮。
俺は色々と言いたかったが、結局俺は何も言わずにギルドを去っ
て行った。
くそっ、また襲ってきたら一人でやらないといけないんかよ⋮⋮
いや、出来るけどさ、勝つだけなら。ただ、防衛戦になれば話は違
う。三方を平原。残りは森で囲まれたこの都市を守るという事は、
アサルトフレイム
四方八方から襲いかかってくる敵から街を防衛しなくてはならない
のだ。
いや、出来ますよ? 街の中央から︽誘導火炎弾︾で狙撃すれば
いいだけですから。
⋮⋮で、帰ってエリラに相談してみたのだが
﹁クロなら大丈夫でしょ?﹂
と、言われました。oh、信頼してくれているのは嬉しいのです
1201
が、なんかだんだん俺は人間扱いを受けなくなって気がするのです
が⋮⋮。
こうなったら、ミュルトさんが戦ってくれる人を見つけて⋮⋮一
人や二人じゃ変わる訳ないか⋮⋮。
結局、俺は一人で戦うことを想定したスキル作りや魔法作りをす
るのであった。
それから、3日間が過ぎた日の夜の事だ。
﹁⋮⋮!﹂
来た。
===INTRUSION!!===
英語の表記と共に俺の視界にこの街と周辺の地形が表示されたマ
ップが現れ、さらにマップ上には何百というほどの赤いマーカーが
表示された。
赤いマーカーはこの都市を囲むように広がっていた。
キルゾーン
これは俺が新たに作った︽侵入探知︾と言うスキルだ。予め決め
ておいた範囲内に指定した者が侵入した場合に俺に伝わってくるよ
1202
うに作っている。
寝ている場合はちょっとしたアラームが発動するようにしている。
えっ、どんなものかって? それはな⋮⋮
﹁お、おううっぅぅぅぅ⋮⋮﹂
俺の横ではエビ反りで呻き声を上げているエリラがいた。
﹁ああ⋮⋮やっぱり被害が出たか⋮⋮﹂
俺のアラームというのは至極簡単。電流だ。なんか体に悪そうだ
けど勿論即死するほどの威力ではない。それでも普通の人が受けた
らそれなりのダメージになる。現に目の前に実例がいる。
ちなみに俺は耐性あるから問題ない。
ちょっと急造だったので、まだ完全に出来ていないんだよな⋮⋮。
なんというかバグじゃないけどそんな感じが残っているんだよな⋮
⋮。
っと、そんな場合じゃなかったな。
俺は痺れているエリラを放置して家を出ると、そのまま空を飛ん
で街中央の上空にまで来た。高さは200メートルぐらいだ。
﹁ターゲット補足開始﹂
マップのキルゾーンに入って来た敵を片っ端ロックオンをしてい
く。一人一個でいけるかな?
1203
===すべてのロックオンが完了しました===
よし、全部にロックオン出来たな。
﹁⋮⋮悪く思うなよ﹂
一回は忠告しておいたんだからな。アレが忠告かどうかは分から
ないけど。
﹁一斉掃射⋮⋮開始!﹂
暗い夜空ので、赤い魔法陣と共に赤い花火が四方へと飛び出して
いった。
1204
※
※
※
4/9
3/6
3/5
3/4
誤字を修正しました。
タイトルを間違えていましたので、修正しました。
誤字を修正しました。
誤字を修正しました。
第105話:第1次エルシオン防衛戦2︵前書き︶
※
1205
第105話:第1次エルシオン防衛戦2
﹁よし⋮⋮情報通りだな﹂
森の中で街の城壁を見つめる竜王。彼の周囲には龍族が十数名ほ
ど完全武装をして周囲を警戒していた。
﹁本当に敵はこの街を放棄したのでしょうか?﹂
﹁うむ、報告によれば数日前に人の軍勢が引き上げるのを確認した
らしい。冒険者らしき者もその後、ゾロゾロと出て行ったそうだ﹂
﹁つまり、例えいたとしても少数の可能性が高いのですな﹂
竜王は頷いた。
﹁あの例の小僧はどうされたのでしょうか?﹂
﹁分からぬ。だが、奴一人ではこの街を守る事など不可能であろう
? 全方位から一斉攻撃を仕掛ければ終わりだ﹂
竜王は分析していた。確かにあの速度で移動されれば街の各地へ
移動するのにそれほど時間は必要としないだろう。だが、どんなに
早く動けようが一人である以上、必ず時間のロスがある。
そこを突くのだ。
敵がこの街を放棄してくれたのは幸運だった。竜王はそう考えて
いた。
1206
アルダスマン国と戦争をする上でこの都市は要所になる。エルシ
オンは東西南北に街道が広がっており、商人たちが足を休めるとこ
ろとして良く使われている。
そこを押さえるという事は、各地への物流を押さえることに繋が
る。物流が途絶えれば各地で物資が不足するところが出て来て、後
は敵が疲れるのを待てばいい。山岳地帯など普段使われていない場
所を使われる可能性もあるが、運搬効率は確実に落ち輸送量も下が
るだろう。
だからこそ、竜王はここを押さえるのが第一と判断をしたのだ。
﹁よし、これより再攻撃を仕掛けるぞ、各員配置に急がせ︱︱︱﹂
と、その時、突然周囲が明るくなった。不思議に思った竜王が上
を向くと、目の前に直径30センチほどの火の玉が迫ってきていた。
さらにそれは一つや二つでは無く、空を埋めるかのように大量に落
ちてきていた。
﹁竜王様! 危ない!﹂
叫び声と共に部下の一人が竜王をドンッと突き飛ばした。そして、
次の瞬間。竜王を突き飛ばした龍族に火の玉が辺り、爆発をした。
爆風が辺り一面に熱と共に広がっていく。さらに周囲にも続々と
落ちてきているのか、あちらこちらから爆音と爆風が吹き荒れた。
直撃を免れた竜王も爆風に巻き込まれ吹き飛ばされた。数メート
ル空を舞ったのち地面にお尻から落ち、ワンバウンドをしたのちに
無事︵?︶に止まった。
1207
﹁くっ⋮⋮な、何事だ?﹂
竜王の疑問に答える者はいない。立ち昇る煙が視界を邪魔してよ
く見えない。
やがて、煙が晴れるとそこにあったのは、同士では無くもはや言
葉を発することも出来ない肉塊であった。
下半身と上半身が真っ二つに千切れている者や、胸から上がない
体。逆に首だけの物、見たくもない光景がそこらじゅうに転がって
いた。
さらに周囲には最早、龍族だったとは思えないような肉片もあっ
た。肉片では無く腸が千切れてバラバラに飛んでるのもあった。
﹁こ、これは一体⋮⋮﹂
何が起きたのか理解が出来ない竜王。と、そこに。
﹁あっ、やっぱりアンタかよ﹂
振り返るとエルシオンの城壁の上から誰かが降りてくるのが目に
見えた。
﹁お主⋮⋮まさか⋮⋮﹂
﹁警告ってほどじゃないかもしれないが、力の差は見せたはずだ。
それでもあんた等はやって来た。だから迎撃したまでだ﹂
﹁一体どうやってだ!?﹂
﹁敵にわざわざ教える必要もないだろ。俺がこれをやった。それだ
1208
けだ﹂
クロウが言いきった、その時、ダンッと地面を蹴る音と共にクロ
ウの目の前に竜王が現れた。そして竜王から右ストレートが飛び出
した。
普通の人間ならまず回避不可能な高速技であった。だが、残念な
がら相手が悪すぎた。目の前にいる者は人の領域をとっくに抜け出
している男なのだから。
竜王の拳が今クロウに届くと思った瞬間、クロウは身を落としフ
ァイティングポーズを取りながら竜王の攻撃をいとも簡単に回避し
て見せた。
そして、そのままクロウから竜王の横腹に向けて強烈なフックが
放たれた。
回避する間も無く攻撃を受けた竜王は弾き飛ばされ、綺麗な放物
線を描いて地面に落ちた。
︵ぐっ⋮⋮なんというパワーだ。本当に人間なのか!?︶
個々の力では人間は龍族の足元にも及ばない。これがこの世界の
常識だ。だからこそ、人は繋がり合い一つの国家として成り立たせ
ることで龍族他異種族たちを退けてきた。
だが、今起きていることは全く正反対の出来事だ。数百の龍族が
たった一人の人間に手も足も出ずに散って行ったのだ。
﹁ぐっ⋮⋮お主⋮⋮本当に人間なのか?﹂
蹴りを受けた個所を庇いながらヨロヨロと立ち上がる竜王。
1209
﹁人間だよ︵半分だけだけど︶﹂
クロウは必要以上に情報を教えるのはやめておいた。無駄に情報
を広げる意味は無いしな。
﹁さて⋮⋮あんたには二つの選択権がある﹂
クロウは指でVサインを作って竜王に突き出した。
﹁二つ?﹂
﹁ああ、一つはここで切り殺されて終わりか。あんたも気づいてい
ドラゴンフォース
るんだろ? 自分との差が予想以上にでかいという事を、ああ、︽
龍の力︾とか使っても無理だからな? たぶん同じ結果になるぞ?﹂
︵⋮⋮こやつ、何故わかった⋮⋮?︶
︽龍の力︾。それは龍の奥の手ともいえる最後の切り札だ。龍族
でも使える者は片手で数えれるぐらいしかいない上に一人ひとり能
力が違うので詳しい事は龍族も分かっていない力だ。
﹁さて⋮⋮二つ目だが、あんたが指揮している龍族をすべて撤退さ
せろ、そうすればココでは見逃してやる。別の所であったら話は別
だけどな﹂
﹁ふむ⋮⋮残念だが2つ目の案は無理だ﹂
﹁何でだ? 自分の命を捨ててまでやる事なのか?﹂
﹁そういう訳では無い。ただ、他の所の指揮はワシには出来ぬ。指
1210
揮系統が違うからな、それだけだ﹂
﹁ふぅん⋮⋮じゃあ、覚悟は出来ているのか?﹂
クロウが︽倉庫︾から剣を取り出し構えた。殺気を研ぎらせ竜王
をじっと睨みつける。クロウの放つ威圧は普通の生き物なら恐怖で
動くこともままならなかったかもしれない。
﹁フッ⋮⋮フハハハハハッ!﹂
だが、怯えるどころか竜王は突如笑い出した。
﹁? 何がおかしい?﹂
﹁フッ⋮⋮失礼。お主みたいな小僧にしてやられるとはな⋮⋮ワシ
も老いたものだ﹂
どっこいしょと竜王は立ち上がり軽く体に付いた土を叩き、それ
からクロウと向き合った。その様子は冷静で目の前に敵がいる時の
様子など一つも感じられない。
﹁さて⋮⋮クロウだったかな? お主は先程﹃︽龍の力︾を使って
も勝てない﹄と申したな?﹂
﹁⋮⋮で、それがなんだ?﹂
﹁何故お主が知っているかは知らぬが⋮⋮あまり舐めぬ方が良いぞ
?﹂
その時、竜王の眼つきが変わった。今まではどことなく落ち着い
1211
た雰囲気を出していたのから一転、殺意に満ち溢れた気を放ち始め、
その気は地球でいう百獣の王者と言われるライオンが放つ見た者の
心を硬直させる気だった。
すぐに様子の変化を察知したクロウは、止めを刺そうと駆け出し
たが、一歩遅く、剣を竜王の首目掛けて振り抜いたが、既にそこに
は竜王の姿は存在せず、剣は虚しく空を斬っていた。
それと同時にクロウは背後から只ならぬ気を感じ取った。クロウ
は、振り返ることなく振り抜いた勢いを生かしたまま横へと飛び乗
った。
ズドォンという音と共にあたりの地が揺れる。体勢を立て直した
クロウの目に写ったのは、先程自分のいた所の地面が無くなってい
る光景と、破壊された城壁だった。
地面には断層が生まれ、その一部はエルシオンの城壁を軽々とぶ
ち破り、城壁の近くにあった民家は吹き飛ばされたか木端微塵とな
っており、威力の凄まじさを物語っている。
﹁ほう⋮⋮アレを回避するか﹂
竜王はそう呟きながら地面から片手を離した。離した手は先程ま
では見受けなかった爪が見て取れる。
﹁チッ⋮⋮面倒になったな⋮⋮﹂
思わず舌打ちをしてしまうクロウ。
﹁さて、お遊びはここまでだ⋮⋮﹂
1212
ユラリと立ち上がった竜王。その手に生えた爪は赤い光を放って
いた。
﹁人間如きが⋮⋮調子に乗るな!!!!﹂
次の瞬間、街の城壁には二つ目の穴が出来上がっていた。
1213
第105話:第1次エルシオン防衛戦2︵後書き︶
次回、本気の竜王v.s.クロウ。
︽龍の力︾というスキルが始めて発動状態で登場しました。かな
り初期からあったので﹁コレいつ使うの?﹂と思っていた人もいら
っしゃるかもしれません︵もしくは完全に忘れられていたでしょう︶
。
今回も読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。また
次回で会いましょう。
以上、黒羽からでした。
1214
3/6
戦果に項目を追加しました。
第106話:第1次エルシオン防衛戦3︵前書き︶
※
誤字を修正しました。
戦果項目を修正しました。
1215
第106話:第1次エルシオン防衛戦3
あ⋮⋮あっぶねぇ⋮⋮
二つ目の衝撃波を避けていた俺は敵の技の威力に多少引き気味だ
った。
てか、地面を殴っただけでなんでそんな衝撃波が生まれるの? 確かに︽龍の力︾の中には︽身体強化︾とか︽硬化︾とかのスキル
があるから可能かもしれないけどさ。
俺は壊された城壁をチラッと見た。壁には直径にすると5,6メ
ートルはありそうな大穴が開けられていた。城壁のすぐ近くの地面
は抉れ、傍に合った半壊だった家を木端微塵に吹き飛ばされていた。
⋮⋮力って扱いを気を付けないといけないな。再認識させられま
した。
ゴゥっという音と共に竜王が俺目掛けて突撃して来る。いや、な
んで移動でゴゥとか鳴っているのですか? 移動音じゃないですよ
ね?
竜王がグッと拳に力を入れ懐で構えた。俺はまた避けようと一瞬
考えたが、迎え撃つことにした。もし避けてしまうと俺の背後にそ
びえ立つ城壁に3個目の大穴を開けかねないからだ。流石にこれ以
上穴を開けたら一部が崩壊しかねない。
ポリゴン・ウォール
﹁二十連魔法︽多重防壁︾﹂
1216
両手を地面に当て、そこから何重にも囲まれている魔方陣が浮き
出て光の障壁が生まれる。
俺の魔法と竜王の拳が衝突し辺りに衝撃が四散し、辺りに飛び散
る。城壁に当たった部分には傷痕が出来、小さな木は根本から吹き
飛ばされた。
まさか止められるとは思っていなかったのだろう、竜王は驚いた
様子で俺を見ていた。その顔を見て俺は思わずニヤリとしてしまう。
﹁ぐっ!﹂
﹁そういえばあんたら魔法耐性が殆ど無かったよな?﹂
そういうと、俺は片手を地面から離し、雷の魔法を撃つ準備だけ
してみせる。
﹁!﹂
危険を察知したのだろう。竜王は攻撃をやめるとすぐに後ろに引
いた。
﹁お主何故⋮⋮!?﹂
﹁同時に複数の魔法が使えるのが珍しいか? 詳しい理由は俺にも
分からないからな? 聞くんじゃねーぞ﹂
だってセラからもらったスキルでこうなってしまいましたから、
俺が理由を知る由もない。まぁ、聞けばいいだけの話ですけど。
1217
﹁小癪な⋮⋮!﹂
竜王が再び攻勢に出た。今度は背中に付けていた鞘から剣を抜刀
し斬り付けにかかった。
﹁そうかい⋮⋮そっちがその気なら︱︱︱﹂
︱︱︱スキル︽硬化︾発動
竜王が振り抜こうとしている剣の刃に向かって手の甲を思いっき
りぶつけに行く。普通ならこんなアホな真似はしないが、そこは自
分のスキルを信じていくことにする。
ガンッと硬い者同士がぶつかった音が聞こえ、その次にピシッと
ひびの入る音が聞こえた。
﹁なっ⋮⋮!?﹂
竜王の手に握られていたのは、先程まで刃こぼれ一つない剣に代
わり、拳とぶつかりあって亀裂が入った剣だった。
﹁なぜだ。これはミスリル製の剣なんだぞ! 一撃で⋮⋮!!﹂
そして、竜王にとってもっと驚く光景があった。それは先程剣と
ぶつかりあったクロウの腕だ。先程までは綺麗な肌色をしていた腕
が今は深い青色をしている。
竜王にはその皮膚の正体に対してある一つの推測が脳内にあった。
だが、それを認めることは到底できなかった。もし認めればそれは、
龍族の頂点に立つものとしては侮辱に近い事であったからだ。
1218
﹁そ、それは︱︱︱﹂
竜王がクロウに何かを言おうとした。
﹁質問に答える気はないぜ、じゃあな﹂
だが、それよりも早くクロウが剣を受け止めた方とは逆の腕にグ
ッと力を入れる。そして︽硬化︾で青くなった腕で竜王の顔面を殴
りつけた。
グシャッ! と聞こえてはいけない音と共に竜王の体はかっ飛び、
そしてそのまま森を突き抜け地平線へと消えて行った。
﹁⋮⋮あっ、やり過ぎた﹂
俺は少しだけ反省をしました。
︵後悔はしていない︶
こうして、第1次エルシオン防衛戦はエルシオンの住民たちが知
らないところで始まり、そしてようやく何かが起きたと気づいた頃
に幕を降ろしたのであった。
・第1次エルシオン防衛戦・戦果︵勝者:人族︶
・戦闘参加者:649名
・龍族:648名
・人族:1名 ・死者:647名︵他非戦闘参加者0名︶
1219
・龍族:647名
・人族:0名
・怪我人:0名︵他非戦闘参加者18名︶
・龍族:0名
・人族:0名︵他18名︶
・行方不明者:1名︵他非戦闘参加者2名︶
・龍族:1名
・人族:0名︵他2名︶
1220
第106話:第1次エルシオン防衛戦3︵後書き︶
最後にちょっとした戦果をまとめてみました。いかがでしょうか
? こういうのを小説で書くのはかなり珍しい事かなと思いつつ、
書いていました。
今回も読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。また
次回で会いましょう。
以上、黒羽でした。
1221
第107話:商隊結成
陽が顔を出してから数時間後。俺はミュルトさんにギルド︵跡地︶
で昨夜の被害を報告していた。
ギルド︵跡地︶には今は仮設のテントが設置してあり、そこでマ
スターの代わりにミュルトさんが指揮を取っていた。
﹁⋮⋮被害報告は以上ですね﹂
﹁はい、城壁が少し吹っ飛んだ以外は民家が数軒ほど壊されただけ
で、殆ど被害は無いと言ってもいいでしょう﹂
﹁それは良かったです⋮⋮それにしても誰がやったのでしょうか⋮
⋮あれほどの龍族を短時間で倒せる人など早々いないはずなのです
が⋮⋮?﹂
﹁サア? ワタシ ニハ ワカリマセン ネー﹂
﹁⋮⋮どうしたのですか?﹂
﹁いえ、何もありませんよ﹂
昨夜の一件の事は秘密にしておこう。理由は色々あるけど、一番
は﹁面倒だから﹂だ。最初がそれかよと言うツッコミをいただきそ
うですが、ええ、そうです。
龍族数百人相手に、一方的に︵しかもワンパンキル︶をした事が
分かれば必ず、それをやってのけた人を手駒にしたいと思う連中ら
1222
が現れるだろう。炎狼のときだって国から使者が来たぐらいだから
確実にそうなるだろう。
もう関わらないでいいものには進んで関わりたくありません。
二つ目は、あくまで俺の予測だが、﹁見えない何か﹂という存在
の方が抑止力が強いと思ったからだ。ほら、感染症とか目に見えな
いからどこから感染するから分からないと言った恐怖があるだろ?
あんな感じでびびってくれたらいいかなと思ったからだ。
まあ、そんなのはなってみないと分からないので、何とも言えな
いのだが⋮⋮。
﹁⋮⋮まさかとは思いますがクロウさんとかじゃないですよね?﹂
﹁ハハ ソンナ コト アルワケナイ ジャ ナイデスカー﹂
︽ポーカーフェイス︾さん頑張ってください。
﹁⋮⋮まあ、兎に角、街に殆ど被害が無かったのは幸運でしたね﹂
﹁あれ︵城壁︶はどうするのですか?﹂
﹁うーん⋮⋮そこは街の人との話になるでしょうね。もっとも今の
状況で直す余裕があるのかという話になりますが⋮⋮﹂
うん、でしょうね。物流が殆ど止まってしまっているこんな時に、
そんな事にまで手を回すのはちょっと難題かもしれない。
まあ、しばらくは襲撃は無いと思うけどな。
1223
﹁それより物資の方はどうですか?﹂
気になったついでに聞いてみることにする。ちなみに我が家は食
糧事情には困っていません。何故なら狩っているからだ。森などに
行けば食べれるのも沢山あるし、もともと森などに住んでいた獣族
たちの情報のお陰で調味料なども手に入るので困ってはいない。ち
なみに単純計算なら1年は我が家を支えれる計算となっている。え
っ、腐らないのかって? ︽倉庫︾に入れればいつでも新鮮な状態
で出せれるので問題無い。
﹁あと、1週間といったところでしょうか⋮⋮﹂
やっぱり街にあった物資ではそれが限界か、被害が大きかった西
と南地区には物資は殆ど無かったそうだし、やっぱりその辺もどう
にかしないとな⋮⋮。
エルシオン周辺には農村が各地に点在をしている所でもあるが、
敵が見過ごすわけも無く街周辺の農村は全滅状態だそうだ。そりゃ
あ空飛べれば平原の村なんてすぐに見つかりますわ。
﹁街の人たちに農業をさせることは出来ないのですか?﹂
﹁農業に携わっている人もいますが、今から作ったところで間に合
わないと思いますよ⋮⋮﹂
あっ、そりゃそうだな。うーん⋮⋮どうしたものかな⋮⋮。流石
に品種改良してすぐに実が出来る種を作れる魔法やスキルは無理だ
よな⋮⋮。そういう生きている物を使う魔法は蘇生や即死系がどう
しても関わってくるから無理なのだ。
1224
※この世界の魔法では蘇生系や即死系など命に直結するような魔法
は作れないし使えない。再生系魔法は﹁生きている﹂事が前提条件
となるので、蘇生や即死とは関係ないという扱いになっている。ま
た、急激に歳を取ったり、若返りをすることも不可能。植物の成長
を促進させるのは、人間でいう﹁歳を取る﹂事と同じ意味となるの
で、同じように使用は出来ない。
同じ原理で不老不死になるという事も出来ない。だからこの世界
では神と言われる者たちも、長い間生きるが最後には亡くなってし
まうらしい。
﹁じゃあ狩りとかは?﹂
﹁狩りですか⋮⋮確かに有効な手ではありますが、この近辺に数万
の人を養えるだけの食料を得られるところなど⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ある訳ないですよね﹂
﹁⋮⋮はい﹂
まあ、そんなラッキー地形なんて早々ある訳がないよね。食物連
鎖の理はこの世界でも有効なようです。
﹁どうすればいいんだよ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮方法は無い事はありません﹂
ミュルトさんは何か閃いたのかな。
﹁⋮⋮?﹂
1225
﹁他の街から物資を輸送してもらうのです。幸いこのような状況で
も物を売りに来る商人はいますので、それらを頼っていけば﹂
﹁なるほど⋮⋮﹂
そうか、その手があったか。
どこの世界でも商人の中にはチャレンジャーがいるものだ。物資
が不足していると見るや否や、早速売り込んでくる強者もいるしな。
ただ、安価で販売してくれるはずもなく、割高で販売される。そ
りゃあ向こうからしてみれば命がけで売りに来ているのだから当然
と言えば当然なのですが。
﹁早速、私が街の人たちと話してきます!﹂
思い立ったら吉日。ミュルトさんはそういうと急いでどこかへと
出かけて行った。まあ、それなら何とかなるかな⋮⋮?
ただ、話はそんなに簡単に進まなかった。
商人たちが自分の物流ルートを簡単に教えるはずもなく、また商
人と話がついてもそんなお金はどこからだせばいいのか。
ギルドにあった資金は例の爆撃のせいで、ほぼ消失してしまった
らしい。かと言って街にお金があるのかと聞かれたら、街自体には
ほとんどお金は無いとのこと。
結局、何も進展がないまま、2日が経過してしまった。
1226
竜王が消えても戦争は続いているらしく、他のいくつかの龍族た
ちも呼応しているとのこと。竜王が言っていた﹁私には止められぬ﹂
はどうやら本当だった模様。
﹁はぁ⋮⋮どうしましょう⋮⋮﹂
仮設ギルドの机に顔を伏せてミュルトさんは嘆いていた。この二
日間ミュルトさんは徹夜で交渉をしてたらしく瞼の下にドス黒いく
まが浮き出ていた。
﹁ミュルトさん⋮⋮気持ちは分かりますけど、少しはお休みしたら
どうですか? そのうちあなたが倒れますよ?﹂
俺は素直にミュルトさんに休むことを進めた。
﹁でも⋮⋮早くしないと⋮⋮もう一回お願いに︱︱︱﹂
ミュルトさんが椅子から立ち上がったと思った瞬間、フラッと体
が揺れたかと思うと、そのままミュルトさんの体が傾いて行ってい
た。
要は⋮⋮倒れそうなのだ。
﹁!﹂
俺は慌てて立ち上がるとミュルトさんが倒れる直前でギリギリで
体を支える事に成功した。
改めてミュルトさんの顔を間近で見ると、くま以外にも唇が青白
かったりと本当にこの二日間飲まず食わず寝らずにあっちこっちで
1227
交渉をしたのが分かった。
それ以外でも精神的な重圧もあったのかもしれない。ガラムの代
わりにマスター代行として1週間奮戦していたのだ。考えればその
頃から睡眠とかも殆ど取っていなかったのかもしれない。
︵ガラムのおっさん⋮⋮あんたは今何をしているんだ?︶
俺は心の中でおっさんからじじいへと秘かに降格︵?︶させた。
一週間以上経っているのに、なんであんたは帰ってこないんだよ。
俺は心の中で戻らないガラムに苛立ちを覚えていた。
﹁あっ⋮⋮す、すいません⋮⋮﹂
ハッと意識を取り戻したミュルトさんが慌てて立ち上がろうとす
るのを俺は止め、そのままミュルトさんを抱きかかえると、仮設で
作ってあった病室に連れて行きやや強引にベットへと寝かしつけた。
﹁ちょっ、離して下さい、こうしている間にも﹂
﹁でも、あなたが倒れては元もこうもないじゃないですか!﹂
﹁でも⋮⋮﹂
ギュッと唇をかみしめ薄らと目に涙を浮かべるミュルトさんを見
て、俺はあることを決断した。これ以上ミュルトさんが壊れてしま
う前に⋮⋮いや、この街を助けるために⋮⋮
﹁分かりました﹂
﹁えっ?﹂
1228
﹁⋮⋮俺が商隊を作りましょう﹂
俺は力強く言った。
1229
3/10
誤字を修正しました。
第108話:トル・アランシュ︵前書き︶
※
1230
第108話:トル・アランシュ
﹁ふぁ!? く、クロウさん何を言っているのか分かっているので
すか!?﹂
﹁え? ふざけていると思いましたか?﹂
﹁ふざけるも何も、クロウさんは商売をやったことがあるのですか
?﹂
﹁そうですね⋮⋮冒険者歴=年齢と言った感じでしょうか?﹂
﹁それってほぼゼロですよね?﹂
﹁と、言うかゼロです︵笑顔﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁あっ、すいませんそんな顔しないでください﹂
ミュルトさんが死んだ魚の眼になってしまったので、全力で謝り
に行く。ごめんなさいなんでもしまs︵ry
﹁⋮⋮どうして出来ないものをやろうとしたのですか⋮⋮いいです
か。商人になるという事は物流の流れや各地の需要、相場価格、そ
してお客様から信頼が無いとやっていけれません。それが全くっと
いうほどない今、どうやってやっていけるのですか?﹂
1231
あら、意外と詳しいのですね。まあ、ギルドでも結構重要な人み
たいだから当然なのかな? 確かにミュルトさんが言っている事は
正論だろう。普通の人ならまずやろうとは思わないし、そもそも簡
単に出来ることでもない。
だけど、それはあくまで﹃普通﹄の人の場合だ。ミュルトさん、
今あなたの目の前にいるのは常識など別次元にかっ飛んでしまった
﹃異常﹄な人間でっせ。
⋮⋮自分で異常って言ってしまったら終わりでしょ⋮⋮。
ま、まあ。それは置いといて別に俺は無策で言い出したことでは
ない。
商人の基本になるというスキル、︽商人の心得︾を習得している
ので後は必要な知識をもらうだけだ。
︵スキルについては第6話参照。皆さん覚えていますか?︶
﹁ミュルトさん。ミュルトさんから見て良い商人を紹介してもらえ
ませんか?﹂
﹁えっ⋮⋮いいですけど、どうするのですか?﹂
﹁一日だけ時間を下さい、それで覚えて見せましょう。これでも理
解度は︵スキルのお陰で︶早い方なので、やれるだけやりましょう﹂
﹁で、でも⋮⋮﹂
﹁でもじゃないでしょ! では、ミュルトさんは何か策があると言
うのですか!?﹂
言い切った後で強く言い過ぎやと思ってしまった。ミュルトさん
1232
は俺がそんなことを言うと思っていなかったのか、口を開けてポカ
ンとしていた。
﹁あっ⋮⋮すいません。ちょっと言い過ぎました⋮⋮﹂
慌てて俺は謝った。
﹁い、いえ⋮⋮確かにクロウさんの言う通りですね⋮⋮分かりまし
た﹂
ミュルトさんはベットから起き、机に置いてあった帳簿を取り中
を見始めた。
﹁⋮⋮⋮⋮あっ、この人なら大丈夫だと思います﹂
そういうと、俺に開いたページを見せてくれた。ページには店の
場所を示した地図や主な商品など店の情報が記されていた。
﹁トル・アランシュさん。この街で店を構えてそれなりに長い間店
を続けている人です。ただ⋮⋮優秀なのは間違いないと思うのです
が⋮⋮﹂
﹁ミュルトさんが言うならそうなのでしょう、早速行ってみます﹂
多少不安な言い方だったけどな。
﹁あ、あの⋮⋮﹂
︽記憶︾スキルでしっかりと場所を覚え、俺は早速行こうと回れ
右をしたとき、ミュルトさんに呼び止められた。
1233
﹁? なんですか?﹂
﹁先程はありがとうございました﹂
先程? ああ、俺が倒れそうになったミュルトさんを支えた時か
な?
﹁いえ、それほどでも⋮⋮。ミュルトさんはしばらく休んでいてく
ださい。さっきも言いましたがミュルトさんが倒れてしまったら元
もこうもありませんよ﹂
﹁はい、気を付けます﹂
﹁じゃあ、行ってきます﹂
俺はトル・アランシュと呼ばれた商人の元へと急いだ。
エルシオン東部地区の隅にその店はあった。石煉瓦製の家が立ち
並ぶ中、一つだけ木で作られた民家がぽつんと建っていた。
民家には看板が掲げられており、そこには
1234
﹁トルじゃ、ボケ﹂
と書かれていた。⋮⋮いや、なんで看板で喧嘩売っているんだよ。
これじゃあ喧嘩っ早い奴が乱入してこないか? いや、そもそも入
ろうとは思わないだろ⋮⋮。
そもそも店なのか? そうも思えないのだが⋮⋮。
何やら物凄く嫌な予感を感じさせながら、俺は店の戸を静かに開
けた。なぜ静かにかと言うとなんか音とか立てたら刃物が飛んでき
そうだったのd︱︱︱
﹁誰じゃボケェェェェ!!!!﹂
ドアを開けるや否や。俺に向かって啖呵切ってナイフをぶん投げ
るじじいが目に入った。
前言撤回。静かでも飛んでくるようです。
﹁うぉぉっ!?﹂
思わず反射的に︽硬化︾をして飛んできたナイフを弾き飛ばす俺。
キィンと言う音と共にナイフが宙を舞い、そして壁に突き刺さる。
﹁おい、じじい! 殺す気か!?﹂
つい素で怒る俺。怒っていいですよね? なんでドア開けた瞬間
にナイフが飛んでくるの!? 異次元に飛ばされた時の経験が無か
ったら建物ごと吹き飛ばす魔法を使いかねなかったっぞ!?︵第5
8話参照︶
思わぬところで異世界での経験が役に立った瞬間であった。
1235
﹁誰じゃお主は! お主など知らんわ!﹂
﹁客だよ! つーか、お客さんに向かって行き成りナイフを投げつ
ける奴がどこにいるんだよ!﹂
﹁ここにいるじゃねぇかボケェ!﹂
﹁あっ、本当ですね⋮⋮って違うわ! 俺じゃなかったら死んでい
たかもしれないんだぞ! 一般市民が入っていたらどうするつもり
だったんだよ!﹂
﹁知らんわ! 反応できなかった奴が悪いんじゃボケェ!﹂
﹁はぁ!? 理不尽過ぎるだろ! あんたにやってやろうか今すぐ
に!?﹂
﹁上等じゃ! 職人歴40年のワシの手にかかればそんな事、朝飯
前じゃボケェ!﹂
﹁よーし、いい度胸だ。そのハゲ頭に穴開けてやる!﹂
﹁誰がハゲじゃボケェ! ワシには心の髪がしっかりと生えておる
わいボケェ!﹂
﹁誰が心の髪だよ!? 痛い中二病かあんたは!? そういうのは
一人でやってくれ!﹂
﹁一人でやっとるわいボケェ! こちらとら毎日鏡に向かって一人
呟いておるわボケッ!﹂
1236
﹁はぁ!? あんた頭大丈夫!? 病院紹介してやろうか? ボケ
かけているんじゃねぇか!?﹂
﹁何を言っておる! ワシはまだピチピチの50代じゃボケッ! 誰がボケとるかってボケッ!﹂
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
﹁ぜぇ⋮⋮ぜぇ⋮⋮﹂
﹁はぁ⋮⋮一ついいか?﹂
﹁ぜぇ⋮⋮ぜぇ⋮⋮な、なんじゃボケ⋮⋮﹂
﹁段々⋮⋮話の趣旨が⋮⋮変わってないか⋮⋮?﹂
俺の冷静なツッコミにより、この謎のやり取りは終わりを迎えた
のであった。
1237
第108話:トル・アランシュ︵後書き︶
久しぶりにツッコミ合戦を書いた気がします。
本日も読んで下さった皆様。本当にありがとうございます。また
次回もよろしくお願いします。
では、次回で
1238
第109話:商人⋮⋮さぁ? 何のことでしょうか
﹁で、あんたがトル・アランシュさん?﹂
﹁それがどうしたんだいボケ﹂
ボケボケうるせぇな⋮⋮あと、汗ふけやおっさん。
﹁ミュルトさんに聞いて来たんだよ。商人としては有能だって﹂
﹁ミュルトがかい? ほう、あんたギルドのもんかいボケ﹂
﹁まあ、冒険者だからな﹂
﹁よし、帰れボケ﹂
﹁なんでそうなるんだよ!﹂
なんかこのおっさんと話していると疲れるな⋮⋮。
﹁ワシはこの街から出る気はないぞボケ﹂
ん? ああ、このおっさん俺が商隊を出してくれるように依頼し
に来たと思っているのか?
﹁別に出らなくてもいいよ。ただ俺にちょっとでいいから商売って
いうのを教えて欲しいんだ﹂
1239
﹁ああ? 商売をかボケ﹂
あんたボケって無理して言ってないか? 漫画の中とかでも聞い
たことないぞ、その口癖。
﹁なんでもいいんだ。コツとかでもいい﹂
﹁そんなもん簡単に教える訳なきゃろうがボケ!﹂
まあ、そう来るよな。良かった。ここで教えて上げようと言って
いたら逆に不安になっていたところだよ。
冒険者が魔法などを他者に簡単に教えないように商人も自分の流
通ルートや独自のアイディアなんかを簡単に教えるなんてことはし
ない。
そんなことをやってしまえば自分の売り上げが落ちる危険がある
からな。自ら進んでライバルを増やす真似はしないってことだ。
﹁じゃあ取引といかねぇか?﹂
俺はそういうと︽倉庫︾から試験管︵この世界では瓶と言われて
いるがここは分かり易い方で統一させてもらう︶を取り出した。
試験管の中には赤い液体が入っており、振動で揺れると時折微か
に光を放っている。
その試験管にトルは反応した。やはり、こういうのはすぐに分か
るんだな。開始早々ナイフをぶん投げてきたからてっきり頭の中は
お花畑になっているか不安だったけど、問題なさそうだ。
﹁これは俺が作った治癒の魔法薬だ。あんた商人なんだろ? なら
︽鑑定︾スキルでこれを見てみな﹂
1240
言われた通りにトルが試験管を取り上げジッと見つめる。
これは俺が作った試作品の魔法薬名前は一応﹁治癒薬﹂と付けて
いる。えっ? 名前が普通過ぎる? ほら、こんな言葉があるだろ
⋮⋮シンプル イズ ベスト っていう言葉が⋮⋮。
と、俺のネーミングセンスのお話は置いといて、これは材料は近
くの森なんかで取れる薬草で作られているが、俺が分析してさらに
色々付け加えた結果、骨折を直せるレベルのコレが出来てしまった。
効果は即時性なので緊急時にはピッタリのアイテムだ。
﹁⋮⋮どうだ?﹂
﹁⋮⋮お主、これをどうやって作ったんじゃボケ﹂
﹁教える訳ないだろ? その情報は俺に商売を教えてくれるのと交
換っていうことだ﹂
彼にしてみれば悪い話ではないはずだ。この魔法薬を売れば医者
なんて不必要になるレベルの回復薬だ︵ただし外傷限定︶これをこ
こだけで売れればこれまでの収益なんか非にならないだろう。
﹁ふむ⋮⋮悪い話ではないがお断りだボケ﹂
﹁ほう⋮⋮なんでだ?﹂
﹁これほどのレベルの物を作るならそれ相応の材料が必要じゃボケ。
ワシらみたいな店を構えている奴らで集めれるレベルではないぐら
い誰にでもわかるわいボケ﹂
1241
ふぅん⋮⋮そう来たか。でもこの薬の材料って子供でも集めれる
物ばかりなんだけどな⋮⋮。
﹁さあ、帰れボケ! ワシは忙しいんじゃ! 小僧如きにワシは騙
せれんぞボケェ!﹂
そういうと、おっさんはペッと俺の方に唾を吐いてきた。
︵イラッ︶
﹁忙しい? 鏡に向かってボケをかましている奴が忙しいねぇ⋮⋮
退屈の間違えなんじゃねぇか?﹂
﹁ああ? なんじゃとボケ﹂
﹁諦めろよ。現実見ろよ、あんたのつるっつるの頭にもう髪は生え
ねーy
﹁カエレェボケェ!!﹂
そういうと、再びナイフをぶん投げてくるおっさん。いや、あん
たどこから今出した?
さっきより至近距離での投射だが、さすがに二度目は通用しない。
俺は無言でナイフの軌道から体を逸らすと無言で飛んでくるナイ
フをまるでトランプでも挟んでいるかのように中指と人差し指で挟
んで止めた。
トルもこんな止め方をされるとは思わなかったのかアレって顔を
1242
していた。
﹁俺がお手本を見せてやろうか?﹂
俺は止めたナイフをトランプを弾き飛ばすかのように投げ返した。
ピンッという音と共にナイフは俺の手から離れて消えた⋮⋮と思
った次の瞬間、バキッと木が折れる音が聞こえ、その後も立て続け
に何かがへし折れる音が聞こえて来る。
見ると、トルのすぐ後ろにあった壁に先程までは無かった親指程
度の大きさの穴が開いていた。
トルはしばらくの間何が起きたか理解できなかったようだが、や
がて事を理解したのか急にそわそわし始め、俺と壁に空いた穴を交
互に何度も見ていた。
簡単な話だ。俺が放り投げたナイフは弾丸ライナーの如く加速し
壁に突き刺さったたが、勢いを殺しきる事は出来ず、そのまま貫通
していったのだ。ちなみに背後に誰も居ない事は確認済みだ。音速
? ︽不殺︾スキルを弄ればソニックブームを出さないことぐらい
楽勝です。
﹁じゃ、俺は帰るわ。おっさん、後悔しても遅いからな﹂
俺はそんな捨て台詞と共に店を出て行った。
その後、ギルドに謎の浮遊物体が現れたという目撃情報が相次い
で報告されたらしい。その物体は民家を突き破りあろうことか城壁
すらも突き破っていたとのこと。
1243
誰がやったのでしょうかね?
店を出て、俺はあることに気づいた。
﹁⋮⋮あっ、商売について何も教えてもらってねぇや﹂
後悔したのは俺の方だったみたいです。
1244
第109話:商人⋮⋮さぁ? 何のことでしょうか︵後書き︶
皆さんにまたお知らせです。
再び私のPCの調子がおかしくなりました。具体的にはマ○ンク
ラ○トにmodを沢山いれて30個ぐらい入れたあたりでしょうか?
ゲームが落ちたかと思えばブルースクリーンが出る始末。今日も
PCを開くのに悪戦苦闘しました。
現在は、ゲームのセーブデータとmodのデータを外付けに移動
させてゲームはすべて消しました。次のPCが来るまでお預けのよ
うです。
このように今日は投稿できましたが、次は投稿できるか分からな
い状況です。ですので、しばらく経っても更新が無かったら﹁あっ、
黒羽さんPC壊れたんだ﹂と思ってください。︵具体的には1週間
ぐらい?︶
頼むからあと1年は持ってください、お願いします何でもしまs
︵ry
では、次回お会い出来たら会いましょう。黒羽でした。
1245
3/15
誤字を修正しました。
第110話:商売? 狩人の間違いでは?︵前書き︶
※
1246
第110話:商売? 狩人の間違いでは?
﹁⋮⋮と言う訳で帰って来てしまいました﹂
俺はギルドに戻り、ミュルトさんに起きたこと全てを話した。
﹁そうですか﹂
ミュルトさんの顔はどこか納得をしている顔だった。不思議に思
った俺は聞いてみることにした。
﹁なんですかその顔は?﹂
﹁アレ? 出ていました?﹂
自分では気付かなかったのか、逆に聞いてくる始末。
﹁ええ、ハッキリと﹂
﹁まあ、予想はしていましたよ。確かに彼は商人としては良い腕を
持っていますが、若者に対しては信用しない人なのですよ﹂
﹁? 年下を舐めているんか?﹂
﹁いえ、ただ昔、信用していた若者に騙されて莫大な借金を抱えた
事があって、それ以来若者の言葉はめっきり信用ならなくなったみ
たいで⋮⋮﹂
1247
おいおい、それって俺は完全に被害者じゃん。俺は思わずその騙
した奴の面を一発殴りたいという衝動に駆られる。
﹁はぁ⋮⋮これだから⋮⋮﹂
﹁年寄りは頭の固い奴が多くて困る﹂と言いかけたがやめておく
ことにした。どの世界にも一度騙されたらもう人が信用できないと
いう人は少なからずいる。
ただ、風評被害とかはマジで勘弁願いたい。ただ、種族間対立が
激しいこの世界では事実では無い情報が様々な種族間で飛び交って
いるのが当たり前なんだろう。
一度でも話したのか? 何故そう思える? 理由は? 根拠は?
人が言ったからと言ってそれが全て真実になるのか?
根拠のない嘘が真にされて飛ばされるのは俺は大っ嫌いだ。
前のいた世界でもそうだ。小さな子供たちに幼いころから人を殺
すことをさせ戦争に恐怖を覚えさせないようにする洗脳教育を行う
人や国家を見たり聞いたりする度にイライラしていたのを思い出す。
洗脳⋮⋮この種族間対立にも関わっていることなのかな? それ
は前のエリラたちの反応を見たら分かる気がした。もっとも例外も
あるにはあるんだけどな。サヤとか昔から一緒だった獣族たちには
嫌な表情一つせず︵むしろ楽しそうに︶話していたな。
って、今はそんな事は置いといて。問題はこの状況をどう打破す
るかだ。
営業とかやったことない若手サラリーマンに物流の正しい知識な
どあるはずも無い。あるのはゲームや本などで培ってきた紛い物の
1248
知識だけだ。
ゲート
やれるだけやってみるか? 最悪都市を破壊⋮⋮ゲフンゲフン、
︽門︾で遠くの森から食料調達をやってみればいいし。何か変な方
向に思考が行きかけたが俺は某戦闘民族じゃないからそんな考えに
は行かないぞ、うん。
⋮⋮アレ、なんか視界がぼやけるのですが⋮⋮?
親の血には逆らえないようです︵泣︶
﹁取りあえず、やれるだけの手はこちらで打っておくので、ミュル
トさんは住民に農作業を行うように促す事は出来ますか?﹂
﹁うーん⋮⋮私の発言力がどこまでいけるかは分かりませんけど⋮
⋮でも、今からじゃ﹂
﹁今、繋げても後が無ければ意味が無いでしょ? 物資が完全に断
たれている今、根無し草の状態で出来ることには限界があります。
それに今は落ちつていますが暴徒や泥棒がいつ現れてもおかしくあ
りませんよ﹂
実は俺が一番懸念している所はそこだったりする。今は戦争後な
のでそんな元気は無いが、物資が完全に底を尽きれば必ずそういっ
た奴らが現れるはずだ。現在、この街の戦力は皆無なのでそれを防
ぐ手立ては無い。
そう考えたら、結構崖っぷちだよなここ⋮⋮?
﹁⋮⋮分かりました。どの道他に手はありません。やれるだけやり
ましょう﹂
ミュルトさんは理解してくれたようだ。よし、こっちもやれるだ
1249
けやるとしますか。
家に帰った俺は、早速全員を集めてこうなった経緯を説明した。
﹁⋮⋮と言う訳でこれから皆に手伝ってもらおうと思う﹂
﹁しょうばい∼? なんですかそれ?﹂
フェイを始め、獣族の子供たちはしきりに頭を傾けている。頭の
上に?マークが浮かんでいるのが見えそうだ。
﹁あの⋮⋮私たちもそういうことについては殆ど⋮⋮﹂
大人たちも似たような反応だった。まあ、主婦的立場の人たちが
商売の事なんて分かる訳もないよね。
﹁商売ってなんなのですか?﹂
﹁いや、私に言われても⋮⋮﹂
向こうの世界では商売という概念が無かったのでテリュールの好
1250
奇心センサーがビンビンに反応しているようです。エリラも知識は
ほぼなしか⋮⋮。
﹁で、この中に商売なんかしたことが無い人が殆どだと思うから⋮
⋮そういうのは俺に任せてくれ。皆にはやってもらいたい事がある﹂
﹁やってもらいたいことー? なんですかそれはー?﹂
﹁それはな︱︱︱﹂
エルシオンより西に120キロ地点。
﹁きましたですー!﹂
深い森の中、獣族の子供を追いかける影が二つ。体は緑色の斑模
様に角と形だけはバッファローを連想させるが、緑色をしているの
でク○ーパーの牛バージョンにしか見えない。何かのmodでいな
かったっけ?
1251
※ここはこんな事を話すサイトではないので詳しくは省略しますが、
マイ○ラのmodにあります。
ズドドドドドと地鳴りを響かせながら猛追をするバッファロー︵
?︶。獣族の子供たちとの体格差は一目瞭然だ。もし、彼らが狭い
路地などで相対すれば結果は見るまでもないが、ここは森の中だ。
バッファローモドキも森に生息する生き物ではあるが、獣族は森の
狩人である。
細い木々の間をすり抜け、木の上を飛び乗り、つたを使ってター
ザ○みたいに移動をする。子供たちに取って森は自分らの庭となん
ら変わりは無いのである。
さらに、ほぼ毎日と言っていいほど俺を追いかけたその瞬発力と
判断力はもはや、大人の獣族顔負けのステータスへと変貌をしてい
た。
そんな子供たち相手に勝てる筈もなくバッファローモドキは子供
たちに弄ばれる始末。本能で馬鹿にされているのが分かるのか、ブ
ォォォと唸り声を上げ猛追をする。ただ、気合いだけ入れても早く
なるはずがなく、その差は開く一方だ。子供たちが手を抜いていな
かったら今頃、置いてきぼりだっただろう。
やがて、走るのをやめるバッファローモドキ。ブヒブヒ言いなが
ら息を切らしている所に
﹁︱︱︱そこ!﹂
エリラが木の上から飛び降りる。手には剣が握られている。
ズドンと言う音と共にバッファローモドキの脳天から垂直に地面
へと剣が突き刺さる。一瞬だけビクンッと反応したバッファローモ
ドキだったが、やがて動かなくなってしまった。
1252
剣を引き抜き生きていないことを確認すると、エリラはすぐに次
のターゲットへと的を切り替え、子供たちは何人かがかりでバッフ
ァローモドキを運び出す。さらにその中のリーダー格は周囲を警戒
し何かあったら、すぐに逃げれる準備をしている。
まあ、この森にはこいつ以外は肉食系はいないから来たら大丈夫
だとは思うが。
﹁取って来たのです∼﹂
フェイをリーダーとする子供たちがバッファローモドキを抱えて
戻って来た。
獣族の大人たちがお疲れ様と出迎え、大人たちは解体作業へと移
る。
﹁解体作業なんて久しぶりね﹂
﹁そうね⋮⋮またやることになるとは思わなかったわね﹂
獣族たちの大人はそんな事を呟きながら手慣れた様子で作業を続
ける。
さて、今の流れで多少は分かったとは思うが、軽く説明をしてお
くと、まず獣族の子供たちが森の中でバッファローモドキを始めと
する獲物を探し、可能ならおびき寄せる。
そして、ある範囲内にまでおびき寄せたあとはエリラが仕留める。
エリラはレベル90以上なのでまず、しくじることは無い。
そして、子供たちがそれを大人たちのもとへと運び大人たちは解
体をする。
1253
ちなみにバッファローモドキは色こそあれだが、味は星4に相当
するほどおいしい肉だ。
後は俺の︽倉庫︾にぶち込めば終わりだ。一応ダミーと言うか移
動用に馬車を何個か拝借︵廃墟となっている南地区などから奪って
きた︶のを持ってきたが殆ど使っていない。
俺の︽倉庫︾に入れておけば腐らずに保管できるし、嵩張らない
し本当スキルって便利だな。
あと、調味料などに使える薬草などの採取も獣族たちの仕事だ。
森の中で生活していただけあってそのあたりの知識は俺よりか上な
ので任せることにした。
やっぱり、こういうのは本職や経験者に任せるに限るな。
一方、俺とテリュールはその森の近く⋮⋮と言っても数キロ離れ
ていますが、とある町に来ていた。
﹁ほぇ∼⋮⋮ここもすごい活気ですね!﹂
テリュールが目をキラキラさせながら辺りを見回す。あまりにキ
ョロキョロしているので、周りの人も少し警戒気味だ。
﹁珍しいのは分かったから、少し落ちついて⋮⋮﹂
やっぱり連れてきたのは失敗だったかなと俺は頭を悩ませた。ど
うしても行きたいと言ってきかなかったので仕方なく連れてきたの
1254
だが⋮⋮。
今からでも街の外に引きずり出しておこうかな? 俺がそんなこ
とを考えていたとき
﹁どけどけ! 邪魔だ! 邪魔だ!﹂
街の通りを駆け抜けてくる馬車が一台こちらに向かってきていた。
通りの幅は5メートルぐらいあるので、馬車が通るには差支えが
無いが、この辺りは人が密集しているのでちょっと不安だった。
馬車はスピードを落とす事無く通りを駆け抜けて行く。
その時だった。バキッ! と鈍い音が響き周囲の人たちがざわめ
き出した。
﹁ん? 何が起きたんだ⋮⋮?﹂
俺とテリュールは群衆たちをかき分け、道の中央へと出た。
すると、そこには小さな獣族の子供が道の真ん中で血を吐いて倒
れていたのだった。
1255
第110話:商売? 狩人の間違いでは?︵後書き︶
さて⋮⋮吹っ飛ばす準備をしますか︵準備運動中︶
次回も、よろしくお願いします^^
1256
第111話:現実︵前書き︶
3/15
追記を書き足しました。
連日投稿ですm︵︳ ︳︶m
※
3/19
誤字を修正しました。
誤字を修正しました。
※
1257
第111話:現実
﹁おい! 大丈夫か!?﹂
人混みを掻き分けて、俺は倒れている獣族の子供の傍に駆け寄っ
た。
獣族の子供︵少年でした︶はお腹を踏まれたらしくそこを中心に
真っ赤な血を流していた。おそらく馬に踏みつけられた後に馬車に
轢かれてしまったのだろう。
子供だったのはある意味幸いだったかもしれない。子供が倒れて
いる位置を鑑みるにもう少し背が高かったら顔を踏みつぶされてい
た可能性がある。
︵⋮⋮即死じゃないな︶
俺はそれを確認して取りあえず一息いれる。取りあえず引いた馬
車の主出てこいや。と思いながら周囲を見渡すと馬車は30メート
ルほど行ったところで停止をしており、こちらの様子を見ていたが、
すぐにまた移動を始めようと準備をし始めていた。
﹁クロウ! ど、どうすればいいの!?﹂
近くでテリュールさんがあたふたしていたとき、俺はある事に気
づいた。
︵誰も近づいてこない⋮⋮?︶
1258
そして、俺の疑問はすぐに解決した。近くの群集たちざわめき声
の中に交じって一際目立った会話が耳の中に入って来たからだ。
﹁おいおい⋮⋮アレ、誰が片付けるんだ?﹂
﹁同じ種族の奴らに任せとけばいいんじゃね?﹂
﹁ちょっとぉ、それまでここに置いておけってこと? あんた片付
けて来なさいよ﹂
﹁はぁ!? ふざけるな俺は絶対嫌だからな!﹂
﹁私だって嫌よ! なんで獣族の死体なんか扱わないといけないの
よ!﹂
﹁心配するな。あのガキが片付けるか、冒険者か誰かが焼いてくれ
るだろ﹂
﹁いや、それって骨が残るじゃねぇか﹂
﹁その辺の犬が持って行ってくれるんじゃね?﹂
そんな会話がヒソヒソ声とかでは無く普通に会話をするぐらいの
声量で俺の耳に届いてくる。それも一ヶ所や二ヶ所なんてレベルじ
ゃない。耳を澄ませてみれば、そんな会話があちらこちらから聞こ
えて来た。
これが現実か⋮⋮。俺は改めて認識をさせられた。
この人たちからしてみればこの子の命なんて、その辺の虫と同レ
1259
ベルなんだろう。心を痛めることも無ければ悲しむ事も同情の気持
ちも無い。それがこの世界では当たり前のことなんだろう。
やがてテリュールの耳にもそれらの会話が届いて来たのだろう。
表情が強張りそのまま固まってしまった。恐らくだけど、頭で状況
の整理が行われているのだろう。
ヴィーナス・ブレッシング
そんな周りの事は放置して、俺は傷ついた獣族の子供に回復魔法
をかける為に両手を合わせ子供の胸辺りにそっと添え︽女神の祝福
︾をかけてあげる。
緑色の綺麗な光が小さな子供をそっと包み込み優しく治療をして
いく。お腹にあった傷は次第に小さくなっていき、子供の顔も苦痛
に歪んでいた顔が少しずつ柔いで行くのが読み取れた。
唖然とする周囲、轢き逃げをやろうとした馬車の主っぽい奴もこ
ちらの光に気づいたのか、動きを止めこちらの方を見ていた。
そして、物の数十秒で治療は終わり、辺りに飛び散った血と轢か
れたときに破けた服以外は全て元に戻すことが出来た。
何が起きたのかさっぱり分かっていない周囲のモブ。本人はアレ
? アレ? と言いながら体のあちこちを触って確かめていた。
﹁大丈夫かい?﹂
俺は獣族の子供にやさしく声をかけた。子供は一瞬ビクッと震え
たが﹁うん﹂と頷いてくれた。
﹁う゛う゛う゛⋮⋮よがったあ゛あよぉ∼﹂
俺のすぐ後ろで何故か号泣をしているテリュール。ちょっと子供
1260
が驚いて引いているじゃん、お前が泣いてどうするんだよ。
そんなテリュールを放置して俺は念のため他に外傷や異常がない
かスキルで確認をしていると。
﹁いやぁ、素晴らしい!﹂
声がした方を見てみると、先程この子を轢いた馬車を操っていた
おっさんがこちらに笑顔で向かって来ていた。
﹁見させてもらいましたよ。あの大怪我をあっという間に治したそ
の魔法、実にすばらしい!﹂
おっさんは何やら物凄く豪華な服を着ており大商人か貴族の人だ
とすぐに分かった。
﹁その力、是非活用してみませんか? 私の元で働けば一生遊んで
暮らせる金額がすぐに溜まりますよ?﹂
そんな、大富豪を余所目に、俺は少年に特に異常が無いことを確
認すると、念には念を入れ︽倉庫︾から一本の治癒薬を取り出した。
﹁もう大丈夫だと思うけど、もしまた後でどこか痛くなったらこれ
を飲めばいい、君にあげるよ﹂
そう言いながら俺は獣族の子供に魔法薬を渡す。子供はそれを受
け取ったが魔法薬と俺を交互に見てキョトンとするだけだ。
﹁コレなに?﹂
やや、間があったのち、獣族の子供は俺に聞いてきた。
1261
セラス
ああ、さすがに見た事無いか⋮⋮
一応市販の魔法薬︵平均相場:
一本、5万S︶と同じ色にしたんだけど、彼らには縁の無いものだ
ったな。
※忘れている人も多いと思うのでおさらい。クロウが第12話で泊
まった︽猫亭︾は一泊1000Sで、これでもそれなりにお高いお
値段です。一般的にこの世界で人が1日生活するには100Sほど
しか必要ないので⋮⋮あとは察してください。
﹁それは魔法薬って言って、体の傷を治す薬だよ。能力としては君
にさっきかけた魔法と同じぐらいのレベルで、それも即時性だから
念のため持っておくといいよ﹂
その言葉を聞いた、周りの群集たちが一気にざわめき出した。当
然だ、この世界でこんなどこにも売っていない超高性能回復薬を獣
族の子供に差し出しているのだから。
﹁えっ⋮⋮いいの?﹂
流石にある程度の知識は持っていたのか、恐る恐るといった感じ
で俺に聞いてきた。
﹁いいよ。お兄さんは自分で作ってて、いっぱい持っているからさ﹂
その言葉を聞いた瞬間、周りで何人かが吹き出してしまっていた。
まあ、こんな高性能な回復薬をただであげるうえに自分はたくさん
持っていると言っているのだから吹かない方がおかしいよね。
一応補足しておくと、この治癒薬。マジで売ろうとすれば50万
Sは平然と行くと思う。それで材料費はその辺の薬草から作ってい
るんだから殆どただだから一本売ればしばらくの間生活には困らな
1262
いだろう。
と、言うか今回はこれを売って資金を手に入れようとしたのだけ
ど、別に一本ぐらいなら問題ないし、万が一無くても別の物がある
から問題は無い。
﹁あ⋮⋮ありがとう⋮⋮﹂
獣族の子供はそういって一礼をした。
﹁な、何を言っているのだ!?﹂
馬車の主が慌てて俺を止めようと色々声をかけてくる。
﹁それを売れば、一生遊んで暮らせるお金なんてすぐに手に入るん
だぞ!? 見た所君は若い、女とか欲しくないのか!? ワシに任
せておけば国中の美女を集めれる! ワシの手にかかれば最高級の
食べ物や宝石を手に入れ、豪邸に住む事も夢ではないのだぞ! さ
あ、もう一度考え直してワシの元へこないk︱︱︱
﹁うぜぇ﹂
そういうと、俺は急に立ち上がったかと思えば、ガッと大富豪の
両こめかみを片手でワシ掴みにしてそのまま持ち上げた。ボヨンと
揺れた腹が今までの食生活を物語っているかのようだ、うえぇ。
だが、そんなことはチートステータスを持っている俺には関係な
く大富豪の足はあっという間に地を離れ空中でぶら下がってしまっ
た。
﹁な、何をすr︵ミシミシッ!︶ぎゃぁぁぁぁぁ!!! 痛い痛い
1263
!!!﹂
俺が少し力を入れると大富豪の頭がミシミシと音を立て始め、大
富豪が離せと言わんばかりにもがくが、俺の腕はピクリとも動かな
い。
﹁謝れ。今すぐこの子に轢いたことを謝れ﹂
低いトーンで俺は言った。周りにいた群集には俺の行動と発言の
意味がきっと分かっていないのだろう。その証拠に見ていた奴らの
殆どが自分の周りにいた人たちとヒソヒソと何かを話始めていた。
﹁な、何故謝る必要がある!? こいつは異種族だ! こいつらの
命などその辺の虫けら以下じゃないか! 轢いてしまって何が悪い
! さあ、そんなことは放置して私を降ろせ! そして私の元で働
け! 冒険者如きが調子に乗るな!﹂
俺は悪くない! とあくまで自分のしたことに罪悪感は無い模様。
﹁はぁ? なんでお前みたいなクズの下で働かないといけないんだ
よ? テメェみたいなやつの下で働くぐらいならその辺の性質の悪
いブラック企業に入った方がまだマシだよ﹂
言ってみたけど⋮⋮こいつらにブラック企業の意味分かる訳ない
よな。ただ、馬鹿にしているというニュアンスだけは伝わっている
のか、先程より一層激しく暴れる大富豪。時折こいつの蹴りが当た
るが正直痛くも痒くもない。
﹁き、貴様! ワシにこんなことをして良いと思っておるのか!?
ワシは貴族じゃぞ! しかもただの貴族では無い! 名誉ある王
1264
族の血を引いている偉大な貴族なんだぞ! 貴様の命など消す気に
なればいつでも消せるのだぞ!﹂
へぇ、こいつ大富豪だなとは思っていたけどまさか王族の血が混
ざっているとはな。
﹁怖いか!? そうされたくなければ今、ワシを降ろして土下座し
て謝れ! そうだ、普通に土下座するだけでは甘い! 服を脱ぎに
裸なって謝れ。そして誓え! 未来永劫ワシに仕えるとな!﹂
この状況下でも自分の利益だけは考えられる模様。ここまで来た
ら逆に褒めてあげたいわ、そのド低能っぷりに。
俺は貴族からパッと手を離した。ドスゥンと重い音と共に地面に
落ちる貴族。
﹁ハッ、それ見ろワシの怖さに恐れをなしたか!? さあ、早速謝r
﹁なあ、知っているか?﹂
﹁れ⋮⋮何っ?﹂
﹁男の玉ってさ⋮⋮一個無くても生きていけれるんだぜ?﹂
俺は︽土鎖︾を地面から生み出し貴族の両手両足をガッチリとか
らめとり、大の字で地面に貼り付け動けないように固定する﹂
﹁な、何をするつもりだ!﹂
﹁何って、俺はそれを聞いたことしか無くてさ⋮⋮今、目の前で確
1265
かめてやろうかなってな⋮⋮﹂
※事実、某歴史上人物の中に子供の頃に玉を嚙まれ失った人がいる
らしい。でもその人はそのあと結婚して子供も生まれているとの事。
俺はそういうと貴族の股間に一回だけ足を当て、場所を確認する
とスッと足を上げ構えた。何をされるのか理解したのか貴族の顔が
みるみる内に青くなっていく。
﹁ま、まて! 全裸で土下座は許してやる⋮⋮今なら土下座だけに
してあげるぞ! それでどうだ!?﹂
﹁この期に及んでまだそんな事を言うか⋮⋮まあ、何を言おうが変
わらないぜ?﹂
﹁ま、まて話会おう
次の瞬間、プチッと言う音が聞こえたかと思うと、ドオォンと言
う音が聞こえ、僅かに地面が振動をした。
﹁ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ
あああああああああああああああ!!!!!!!!!!﹂
言葉に出来ないような声を上げる貴族。だがもがきたくても︽土
鎖︾に縛られている今、それは叶うはずも無く、この世とは思えな
いほどの痛みが貴族を襲った。
︽不殺︾スキルで死ぬことも許されず、また気絶する事すらも許
されず。即死レベルの痛みは彼を延々と襲い続けた。
周りにいた群集の男たちはほぼ一斉に自分の大切な息子あたりを
1266
握りしめた。もしアレが自分だったらと思うと身の毛のよだつほど
の恐怖だ。
それ
﹁ああ、そうそう。土鎖半日したら自動的に消滅する仕組みになっ
ているから、それまでそこで反省をしていな﹂
もっともこの言葉は彼に届いているのかは分からない。相変わら
ずこの世の物とは思えないような絶叫を上げ続けていた。余りに聞
くに堪えなかったので︵うるさかったので︶音魔法で消音をおいた。
︵ただし全部は消さず時折、元に戻るようにも設定してある。効果
は︽土鎖︾と同じ半日間︶ ﹁ごめんな、嫌なの見せてしまって﹂
俺は獣族の子供に素直に謝った。あんなのを見せられた後なので、
少年もやや引き気味だったが、﹁ううん﹂と首を横のに振ってそう
言った。
﹁じゃ⋮⋮家に帰りな﹂
俺はそういって獣族の子供をこの場から遠ざけようとしたが、彼
はうつむいたままで答えなかった。
﹁?﹂
﹁⋮⋮帰りたくない﹂
子供はそう呟いた。
﹁⋮⋮どういうことかい?﹂
1267
﹁もういやだ⋮⋮あんなところ戻りたくない⋮⋮﹂
ああ、そういう事かと俺はすぐに察した。ここは人族の街だ。と
いう事は彼の地位も決まってくる。その証拠に首には黒いチョーカ
ーがしっかりと付けられていた。
泣きそうになる子供を見た俺は、仕方ないなぁと別の案を出す。
﹁じゃあさ⋮⋮俺の所に来るか?﹂
﹁⋮⋮えっ?﹂
﹁俺の所にもお前ぐらいの獣族が沢山いるんだよ。あいつらの事だ
からきっと笑顔で出迎えてくれるぜ﹂
俺はそういって獣族の子供の頭を優しくなでてあげた。
﹁⋮⋮いいの?﹂
やや涙目になりながら聞いてきた。
﹁ああ、歓迎するぜ。俺もな﹂
獣族の子供は頷いてくれた。俺はよっと子供を持ち上げると、そ
のまま肩に乗せ、先程からフリーズしていたテリュールを無理やり
現実に引き戻し、本来の目的を果たしに行こうと再び足を前に向け
る。
﹁⋮⋮なんだよ?﹂
1268
俺らの周りに集まっていた群衆たちを人睨みすると群衆たちはサ
ッと訓練されたかの如く綺麗に道を開けてくれた。
﹁じゃあ行くか﹂
こうして、俺は再びある場所を目指して歩き始めた。
だが、これが発端となり事件はこれだけでは終結しなかった。
1269
第111話:現実︵後書き︶
久しぶりに一話5000文字と多く書いてしまいました。
次回もよろしくお願いします。^^
追記:PCは今の所動いているので、しばらくは問題ないかと思い
ます。︵マイ○ラにmodを入れれないのはつらい︶。
ただ、いつ壊れてもおかしくないかなと思いますので、一応注意は
しておきます。心配して下さった皆様、ご迷惑をおかけしましたm
︵︳ ︳︶m
1270
3/15
誤字を修正しました。
第112話:スキルは使ってナンボ︵前書き︶
※
1271
第112話:スキルは使ってナンボ
ちょっとスッキリした出来事の後、俺らは本来の目的場所に移動
をしていた。最初より一人増えた三人で。
﹁あっ、そういえば、君名前は?﹂
俺はある物を作りながら獣族の子供に聞いた。
﹁レーグっていいます﹂
﹁レーグか。前はどこに住んでいたか覚えている?﹂
﹁前は森に住んでいました⋮⋮けど﹂
﹁あっ、それ以上は言わなくていいよ﹂
そこまで言ってしまえばもう、オチは見えたに等しい。恐らくフ
ェイたちと同じ運命を辿っていたのだろう。
﹁く、クロウ! わ、私が抱っこしていいですか!?﹂
﹁⋮⋮空気読めよ⋮⋮﹂
俺のすぐ横で目をキラキラさせているテリュールが鼻息を荒くし
ながら言ってきた。君、そういうのは街を出てからにしてもらいた
いものだ。
1272
さて、結構やらかしてしまったな⋮⋮。例えどんな性格だとして
も、この国の王族と関わっている奴のヤシの実を一個潰してしまっ
たのだから、ただ事では済まないだろう。
さらに言えば、根本的に俺の行動自体が大問題だ。
この世界⋮⋮あくまで人間の国ではのお話だが、俺は常識はずれ
な行動を起こしてしまった。俺からしてみればあいつの方がおかし
いのだが、世間では俺の方がおかしいと思われるだろう。
﹁あーあー⋮⋮こりゃ指名手配ものだよな⋮⋮﹂
少なくともこの街にはもう居れないな。用が済んだらサッサと逃
げよう。
でも、逃げた後はどうしようか⋮⋮
⋮⋮
⋮⋮あれ、これって詰みじゃね?
今は、戦時中だから大丈夫だと思うけど、その後はどうしよう⋮
⋮。
何故でしょう。俺の頭の中で某ゲームのセーブデータが消えた時
のBGMが流れました。あれって結構トラウマ物だよな。
と、話が逸れたが顔なんかも全然隠していなかったから割れてい
るだろうしな。
⋮⋮まぁ、いいか後で考えよう︵現実逃避︶
1273
﹁⋮⋮と、出来た﹂
そうこうしているうちにお目当ての物を作ることが出来た。
﹁? 何が出来たの?﹂
レーグをおんぶして⋮⋮って、いつの間に!?
どうやら、テリュールは俺すらも気付かない掩蔽スキルを覚えて
たようです。
﹁あー、うん、えっとな、ほら、レーグってチョーカー付けている
だろ?﹂
﹁? ええ、そうだけどそれが?﹂
﹁これって、奴隷である証なんだけど、これが付いている奴隷を勝
手に奪う事ってこの国じゃあ犯罪なんだよな﹂
﹁あっ⋮⋮そうなんだ﹂
まあ、あっちの世界にいたからテリュールが知る由もないんだけ
どね。前に一回だけ教えたんだけどその時は犯罪のことまでは言っ
てなかったしな。
﹁だから、外したいんだけどこれ、契約者が許可しないと外せない
んだよ﹂
無理に外そうとしたら奴隷が死んじゃうし。
1274
﹁だから、強制的に外すスキルを作ったんだよ﹂
そう、普通︽契約︾スキルを無効に出来るスキルなどは存在しな
い。だけど作れば別だ。
チート? ええ、そうですよ。チーターですよ。自重? する訳
ないじゃないですかやだー。良くスキルを隠して生活する小説とか
見た事あるんだけど、スキルって使ってナンボだと思うのです。
作り方は︽契約︾スキルを元にして、そこから︽神眼の分析︾で
スキルを事細かく調べ、穴︵セキュリティホールと言えば分かり易
いだろうか?︶を見つけだし、そこから解除をするという、ハッカ
ーみたいな作業を行って作った。
口で言うのは簡単だけど、意外と苦労する。今回はすぐに穴が見
つかったからよかったけど、もっと複雑なものから脆弱性を見つけ
るという事になったら、こんなに短時間では出来ないだろう。
﹁うーん、スキル名はどうしようかな⋮⋮﹂
アンロック
まあ、安易で︽解除︾でいいかな。
﹁よし、じゃあ早速試してみるか﹂
﹁間違えて死ぬオチとか無いよね?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
1275
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮よし、やるか︵汗﹂
﹁ちょっとぉ!? なんですか今の間は!?﹂
﹁大丈夫だよ、きっと⋮⋮おそらく⋮⋮たぶん?﹂
﹁疑問形!?﹂
﹁よし、レーグじっとしておけよ?﹂
やや緊張した面持ちのレーグ。多分失敗はしないと思うけど、一
応慎重にいこう。
俺はレーグのチョーカーにそっと手を当てた。
アンロック
﹁︽解除︾﹂
その直後、ガチョンと言うどこかで聞いたことあるような効果音
と共にレーグの首に付いていたチョーカーが取れ、地面に落ちた。
﹁⋮⋮大丈夫?﹂
﹁⋮⋮う、うん⋮⋮﹂
よし、成功したみたいだな。俺はホッと胸を撫で下ろした。
その後、再び︽契約︾で俺の奴隷となることで隠蔽工作は取りあ
えず終了した。⋮⋮俺って酷い人間︵?︶でしょうか?
1276
﹁おっさん、この剣を売りたいんだが幾らだ?﹂
時と場所を変え、ここは街有数の武器屋に来ていた。俺はそこで
まず、急いで作り上げた︻普通︼の剣を売ろうとしていた。
借金がある身ですので、もともと手持ちは心細かったので、まず
はこうやって売ることで基本資金を作り上げようという事だ。
﹁ん? 鉄剣かい? 見せなさい﹂
俺は言われるがままに武器屋のおっさんに剣を差し出す。
﹁ふむ⋮⋮おお⋮⋮これは素晴らしい出来だ⋮⋮﹂
刃先などを触りながらおっさんは呟いていた。まあ、普通の剣っ
て言ってもスキルレベルが10の人が作った剣なのですが。
ちなみに、素材も鉄は殆ど入れていない。大半が銅や青銅など耐
久力で劣る鉱石を使っている安価な剣だ。だが、スキル補正のお陰
で耐久力、切れ味共に鉄剣の性能を大幅に上回る剣へと変貌してい
た。
﹁お前さん、これをどこで手に入れた? 見た所普通の鉄じぁあ作
1277
れないような強度を誇っているようだが⋮⋮﹂
﹁ちょっと山賊を潰した時の戦利品だよ﹂
俺は適当な嘘を言って誤魔化しておく。
﹁ふーむ⋮⋮ただの山賊がこれほどの武器を持っていたとはな⋮⋮
分かった。3万Sで買い取ろう﹂
﹁本当か? よし、それで売ろう﹂
即決でした。ちなみに一般の鉄剣は1万S足らずで購入可能なの
で、その倍以上のお値段で買い取ってくれるようだ。という事は店
頭ではさらに高額で売り出すつもりだな。
俺はそこからさらに19本を取り出し。計20本を60万Sで買
い取ってもらった。店を出るときにおっさんがにやけ顔だった気が
するが、まあ気にしないでおこう。
⋮⋮ぼったくっていたら後で喧嘩売りにでも行こうかな。
そして、それを元に自分の手持ちにあったお金を使い、森などで
は手に入らない調味料などを中心に爆買いを行った。調味料のお値
段はそこまで高くないので市場から一部の調味料が消えそうなレベ
ルで買ってしまった。
これが原因でしばらくの間この街で一部の調味料の値段が高騰し
たらしいが、すぐに元に戻った挙句大量に残ったのか結果的にかな
り値下げされたとか。
1278
﹁さて、これで買いたいものは大体買ったかな?﹂
メニュー画面からアイテム欄をスクロールして確認をしていたと
きのことだ。何やら表通りの方が騒がしくなっていた。
で、俺はどこにいるのかと言うと、表通りから少し外れた裏道で
積み重なっていた木箱に腰を下ろしていた。レーグはテリュールの
ももに乗っていた。いいなぁレーグ、そこ代わってくれよ。
﹁騒がしいですね⋮⋮﹂
アレ
﹁うーん、まだヤシの実を潰した貴族が解除されるには時間がある
はずだけどな⋮⋮﹂
などと、言っていたら。表通りの方からこちらを指さして叫んで
いる人が見えた。
その直後、何やら鎧を着た物騒な人たちが表通りに集まりだして
いた。
﹁⋮⋮ねぇ、クロウ⋮⋮﹂
﹁ん? なんだ?﹂
﹁⋮⋮アレってさ⋮⋮私たちを追っかけてきた人じゃない?﹂
﹁奇遇だな。俺もそうじゃないかなと考えていたんだ﹂
1279
何やら指揮官らしき人がこちらを指さし何かを言ったかと思えば、
その周囲にいた武装した兵士らしき者たちがこちらに向かって一斉
に向かって来た。
﹁あっ⋮⋮き、来たよ!? ど、どうするの!?﹂
﹁⋮⋮よし、こういうときはアレだ﹂
﹁アレ⋮⋮?﹂
﹁逃げるんだよぉぉぉぉぉ!!!﹂
どこかで聞いたことあるような某フレーズを叫びながら俺たちは
一斉に逃走を始めたのだった。
1280
第112話:スキルは使ってナンボ︵後書き︶
と、いう事で今回はスキルを使う回となってしまいましたね。武
器屋の所とかもっと色々書けばよかったかなと思いましたが、あん
まり書きすぎると後々ひどい目にあるので、今回はやめておきます。
1281
第113話:屋根に昇ればどうにでもなる
昔、逃○中っていう番組を見た事あるけど今なら余裕で逃げ切れ
そうな気がします。もちろん空を飛ぶというのは無しですよ。
ですが
﹁いっくぞぉぉぉぉぉ!!!﹂
自分に気合いを入れ、地面を思いっきり蹴り込む。ゴウッっとと
てもじゃないが、地面を蹴ったとは思えない音と共に一気に加速す
る。
と、その前にテリュールとレーグをしっかりと抱えてと。
﹁ちょっとぉ!? どうるすつもり!?﹂
﹁わっ、わっ、わっ﹂
﹁しっかり捕まってろ! 逃げるんだよ!﹂
﹁逃げるって言ってもそっちはか︱︱︱﹂
前方には行き止まりですよと言わんばかりの高ーい壁がそびえて
いる。ほら、漫画とかなら﹁逃げ道が!?﹂と言うような場面だ。
﹁突っ込むぞ!﹂
1282
﹁いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!﹂
ダンッと地面を蹴り︽跳躍︾スキル全開で飛び上がる。約一人分
重いが、たかが数メートルの壁なら行けると判断した。
そう、俺がやっているのは、屋根の上に逃げようとしているのだ。
数メートルの壁なんて城壁を超えた俺からしてみれば、犬が使うレ
ベルのハードルぐらいにしか感じられない。
えっ、そこはピンチになるところじゃないかって? いえ、俺そ
ういうタイプじゃないので。
気付けば既に俺は周りの民家の高さを越えていた。下を見てみる
と口をあんぐりと開け、茫然としていた。そりゃあ普通の人間︵?︶
が大人一人、子供一人を抱え、ジャンプ一回で壁を登り切ったら、
誰だって驚くよな。
そうこうしているうちに、屋根に着地をし二人を降してあげた。
だが、二人とも腰が抜けたのかそのまんま屋根にへたり込んでしま
った。
﹁はは⋮⋮死ぬかと思った⋮⋮﹂
﹁お兄ちゃん人間?﹂
﹁一応、人間ではあるよ﹂
人間の定理ってなんでしょうね。誰か分かる人がいたら教えてく
ださい。
﹁逃がすな! 回り込め!﹂
1283
そんな声が聞こえたので、屋根から下を覗いてみると下で兵士っ
ぽい人やら住民やらがこちらを指さしながら何かを叫んでいる様子
が見えた。
これはぐずぐずしているとすぐに囲まれそうだな。
取りあえず﹁兵士﹂で検索してみると居るわ居るわ、町中を赤い
マーカーで覆い尽くすような量が出てきた。数にして3000人弱
と言ったところか。
おい、マテや何で3000もいるんだよ? この街はそれなりの
大きさではあるが、エルシオンなどと比べてみると発展に劣ってい
る。さらに言うなればここはどの国境とも近く無い場所だ。今はエ
ルシオンを取られたのでいくらか戦線に近い場所とはなっているが、
それでも後方地帯であることは間違いない。
そんな所に3000も兵士を配置してるとか⋮⋮エルシオンに回
しても罰は当たらねーぞ。
︵それにしてもちょっと多すぎないか⋮⋮?︶
ここまで兵の配置が偏っていると疑問を覚えざる得ない。それく
らいいるなら前線にも回してもおかしくなくね? つーか、回せ。
そもそも、前線をすぐに放棄した時から妙なんだよなぁ⋮⋮。ゲ
ームじゃあるまいし簡単に街を放棄するわ、奇襲対策は皆無だった
りするわ⋮⋮。
街に魔族が現れたり、ガラムのおっさんはどこかに行ったり⋮⋮。
なんなんだこの感じは⋮⋮、なんというか漠然としているんだけ
ど裏で意識的に動かされている? そんな感じが気がしてならない。
1284
そもそも、森の調査部隊の全滅理由が龍族と断定されているのに
も納得がいかない。あんな街の近くまで龍族が集団でゾロゾロ来て
いたら誰か気付かないか?
考えれば、考えるほど理不尽な点が多すぎる。
﹁く、クロウ!! どうするの!?﹂
テリュールの声で現実に引き戻された俺の眼に入って来たのは、
あちこちの民家の屋根に梯子を使って昇って来る兵士たちの姿だっ
た。
って、今はそんなことは後々! まずはここから逃げ出さないと。
﹁突破するぞ!﹂
俺は再び二人を両脇に挟むと、そのまま屋根伝いに移動を開始し
た。︽門︾使った方が確実やし楽なんだけど、あんな反則級なスキ
ルを人前でポイポイ使っていいものではないと俺は思うんだ。まあ、
だからと言って自重はしないけどな。
人前で多用しているといつか対策されそうなので、アレは最終手
段だ。
一生懸命梯子を昇って来る兵士を余所目に、あっさりと包囲を突
破して街の外へと急ぐ。正直言うと本気で逃げ出した俺に追いつけ
るはずも無く俺らは無事、街の外へと逃走することに成功したのだ
った。
1285
第113話:屋根に昇ればどうにでもなる︵後書き︶
お知らせ。
3月も中旬を越えましたね。
さて、そんな最中ですが、私黒羽は就職活動と言う活動を本格的
に始めなければなりません︵泣︶
ですので、今までより少しだけ更新速度が落ちるかも知れません。
出来る限り頑張っては見ますが、履歴書とかエントリーシートには
勝てる気がしません︵泣︶
こんな感じですが、これからもよろしければ応援よろしくお願い
します。m︵︳ ︳︶m
1286
第114話:反攻作戦︵前書き︶
昨日と今日を使ってヘロヘロになりながら志望動機とか書いてい
3/25
誤字を修正しました。
ました。また明日から添削のよってほとんど書き直しでしょうが︵
泣︶
※
1287
第114話:反攻作戦
アルダスマン王国︳首都:メレーザ
エルシオンより北に200キロほど離れた場所に位置しており周
囲を山々に囲まれた盆地にあった。東西南北に街道が連なっており、
各方面への交通の良さから交易の街として発展している街である。
この街を治めているメレーザ一族は古くから続く名家で、人族の
国の中では二番目に建国年数が古いと言われている。︵と言うのも、
詳しい伝記などが残っていないため不明な点が多いので一応という
形である︶
その街の中央に位置する巨大な城は大陸一の堅牢な城として呼び
名が高いシールメレス城がそびえ立っている。
城壁の高さ20メートル。周囲は幅20メートル、深さ10メー
トルにも及ぶ巨大な堀が城を守っており、出入り口は南北の二ヶ所
しかない。さらに城壁の上にはカタパルトを始めとする最新鋭の防
衛兵器が守ってあり、まさに難攻不落の城としてこの地に君臨して
いる。
城内のほぼ中央部には王の間があり、常時は国王が執務をする場
所としても兼任されていることが多い。
﹁メレーザ陛下。各軍の編成が出来上がりました。こちらに詳細が
記されておりますので、ご覧になって下さい﹂
一人の家臣が国王に書簡を手渡した。
﹁うむ﹂
1288
そこに書かれていたのは今作戦の編成であった。メレーザ国王は
上から順番に目を通していく。
==========
・反攻作戦 兵力編成及び統制将兵
南部制圧部隊 兵力:4000人
・ハヤテ=シーオン ・グランム=ガラッシュル
東部制圧部隊 兵力:3500人
・ロス=カーディオン
エルシオン守備部隊 兵力:1000人
・レシュード=フロックス
第1遊撃部隊 兵力:1500人
・ミーロ=ファルシム
第2遊撃部隊 兵力:900人
・ダレーム=ハッシュ
・
・
・
・
==========
﹁ふむ、なるほどな。悪くはない編成だな﹂
1289
メレーザ国王は一通り見終わると編成が書かれた紙を家臣へと返
した。
﹁で、これまでの損害報告はまとまったのか?﹂
﹁はい、これまでの戦いでの死者は1989名。行方不明者528
名となっております﹂
﹁大分痛手だの⋮⋮で、原因は分かっておるのか?﹂
﹁はい、どうやら龍族に情報を漏えいさせている者がいるようです。
我々でしか知りえない秘密の道や暗号を彼らは知っていました。お
そらくそこからこちらの作戦が筒抜けになっていたのでしょう﹂
﹁そうなると、こちら側が用意してあった暗号などは使わない方が
良いな。で、それは誰か分かっているのか?﹂
﹁そ、それが情報の出所が全くと言うほど分からないのです⋮⋮﹂
﹁怪しい者も居ないのか?﹂
﹁何名かは候補に挙げているのですが、決め手に欠けるというのが
現実です﹂
﹁ふむ、そいつらの監視は引き続き行え、いいか敵は必ずどこかで
ボロが出るはずだ﹂
﹁ハッ﹂
1290
﹁それと⋮⋮今回、エルシオンを一時的に放置したのは何故だ?﹂
﹁それは各方面で敗走する部隊が相次ぎ兵力の編成を行いたかった
というのが第一、次に⋮⋮理由は存じ上げませんが、ハヤテ隊長か
らの進言です﹂
﹁何⋮⋮? あ奴からだと?﹂
﹁はい、何でも﹁確かめたいことがある﹂との事で⋮⋮彼の事でし
ょうから何も考えずにという訳ではないでしょうが、一応彼も監視
対象にしております﹂
﹁理由は言わないか。まあワシは戦に付いては殆ど分からぬからお
主らに任せるしか出来ないから任せておくが、余りに酷な作戦はす
るなよ。しょうもない事で無駄な兵を使うなよ﹂
﹁ハッ﹂
==========
1291
﹁⋮⋮と、言う訳で逃げてきました。はい、マジで反省しています﹂
無事街からの脱出に成功した俺に待っていたのはエリラからのき
っついお説教だった。土に座ると書いて土下座とはよく言ったもの
だ。
﹁全く⋮⋮これからどうするの? あの街では完全に手配されちゃ
っているわよ。なんでそんなに短絡的なの⋮⋮?﹂
﹁返す言葉もありません﹂
せめて短絡的という言葉には反論したかったが何も言えませんで
した。でも、心の中では返します。エリラ君、その短絡的な反応で
奴隷になってしまったのはどこの誰でしょうか?
俺が説教されているのを余所目にレーグは早速フェイたちとワイ
ワイ騒いでいた。
﹁フェイなのです! よろしくなのです﹂
﹁れ、レーグといいます。よろしくお願いします⋮⋮﹂
ウルフ
﹁綺麗な灰色の毛ね。狼?﹂
﹁は、はい﹂
大人の一人が言ったのは、獣族の中でも犬や猫など様々な種類が
1292
あり、レーグはどうやら狼らしい。ちなみにフェイは猫で、大人は
全員猫。子供は犬と猫が半々といったところだ。
同じ獣族間での種類の違いはあってないような物みたいらしいの
で良かった。
﹁で、クロ? 本当にどうするの?﹂
﹁調味料は手に入ったからしばらくは問題ないけど、その後はどう
しようもないな︵キリッ﹂
﹁⋮⋮殴っていい?﹂
﹁あっ、すいません。なんでもするので許して︵バキッ︶ あふん﹂
1293
第114話:反攻作戦︵後書き︶
今回、ちょっとした伏線を入れたのですが、どれくらいの方が気
づいてくださるでしょうか? とちょっと気になっていたり。
次回もよろしくお願いします。
1294
3/28
誤字を修正しました。
第115話:オカン︵?︶登場︵前書き︶
※
1295
第115話:オカン︵?︶登場
﹁ただいま戻りました﹂
取り合えずエルシオンに戻った俺らはギルドに顔を出すことに
した。
あの踏み潰しておいた貴族の事は言わないでおこうと思う。余
計な心配事をミュルトさんにかけたく無かったのもあるが、ギルド
構成員であるミュルトに俺の事が知られた場合に敵になる可能性が
あるのでバレるまでは黙っておこう。
⋮⋮⋮ドンドン逃げ場を失っているなぁ俺。
自分の行動に失笑しながら俺はギルド︵仮設︶に顔を出した。
お帰りなさいご無事でしたか?﹂
中を覗いてみるとそこにはミュルトさんと
﹁クロウさん!
﹁⋮⋮⋮っえ?﹂
俺の顔を見てキョトンとしている少女がいた。黄色の縦ロール
の髪に150に届くか届かないか程度の背丈。まだ幼稚さは残って
いるあの顔は俺の記憶の中に残っていた。
﹁⋮⋮⋮ソラ⋮⋮⋮さん?﹂
﹁え、えーと⋮⋮⋮クロウ君⋮⋮⋮?﹂
1296
そう、あのBランク冒険者パーティーであり、同時にエリラの
親友であるソラだったのだ。
﹁⋮⋮⋮と言うことがあって、今に至るわけです﹂
﹁にわかには信じられないけどその姿をみたら頷くしかないよね⋮
⋮⋮﹂
一通り事情を説明して納得はしてもらえたが、やっぱり突然成
長していたら誰だって驚くよな。
﹁それで、何故ソラさんがここに?﹂
﹁ソラでいいわよ。クロウ君の方がもう歳上なんだから。あと敬語
も別にいいよ。お互い敬語は無しでいきましょ﹂
﹁そうだな⋮⋮⋮じゃ、ソラ。なんでこの街に?﹂
1297
﹁仕事先の街でこの街が襲われたって聞いて居ても立ってもいられ
なくなったの、皆は反対したけどエリラちゃんとか心配だったから
⋮⋮⋮﹂
﹁ああ、なるほど。でいつ頃にここに来たの?﹂
﹁2日前に。そのときミュルトさんにエリラちゃんたちは無事だっ
て聞いたの﹂
﹁そうか﹂
で、あのBランクたちはどうしてるの?﹂
仲間の反対を押しきってきた辺りかなり心配していたんだろう
な。
﹁ん?
﹁分からない。もしかしたらこっちに向かって来ているかもしれな
いし、または身の安全を考慮してもといた街に留まっているかもし
れない﹂
﹁心配していないか?﹂
﹁うーん、もともと個々の力で成り立っていたようなチームだから
そこまで心配はしていないと思うよ。多分﹂
お、おいおい⋮⋮そんなので良いのかよ。
チームを組んでいたんだから少なからずは心配しているとは思
うのだが⋮⋮。
1298
︽マップ︾を開きエルシオンから半径10キロ圏内を対象に﹁
Bランク冒険者﹂を検索してみる。
だが、検索で出たのはソラのマーカーだけで、残りは何も出な
かった。
まだそこまで追い付いていないのか、それとも本当に見捨てた
のか。
﹁あっ、そう言えばクロウさん。食料は⋮⋮?﹂
﹁ああ、えーと、取り合えず一週間分は確保出来ました。と言って
も主食の元である小麦粉系は手に入っていませんけどね﹂
俺がやらかしたのが原因ですが。
それでも﹁ありがとうございます﹂と言ってミュルトさんから
は感謝してくれた。まあ人口が減っていたから出来た芸当なんだけ
どな。数万人規模になってしまうと流石に無理です。時間外圧倒的
に足りなかったし。
一方ミュルトさんの方はと言うと、やはり最初は反対する意見
の方が多かったらしい。いくら放棄されたと言っても城壁の中の方
が安心出来るのが大きかったのだろう。
ただ彼らもこのままでは長くは持たないとは分かっていたのか、
最後はしぶしぶ了解してくれたとのこと。まあ、エルシオンに近づ
いて来よう物ならワンパンで沈めれるのでその辺は大丈夫だと思う。
問題は第三勢力の攻撃だ。この前の魔族がいい例だな。あいつら
のようにこれまで関係が無いと思っていた奴らが参入してきたら対
処しきれない。
1299
残念ながら検索に﹁敵対者﹂という括りで検索することは出来な
い。その辺はこれまでの情報から総合的に判断するしか手は無い。
まあ、それが普通なんだけどな。
﹁ソラはどこで泊まっていたんだ?﹂
こんな時に経営している所なんて無いと思うのだが。
﹁ミュルトさんの家で休ませてもらっていたよ﹂
﹁後で家に来るか? エリラも会いたいだろうし﹂
﹁もちろんそうさせてもらうね、エリラちゃん迷惑かけていない?﹂
﹁かけてねーよ。たまに説教される時もあるぐらいだよ﹂
現につい最近説教されましたし。
と、俺の言葉を聞いた途端ソラの顔が固まってしまった。
﹁え、エリラちゃんが説教してる? うそでしょ?﹂
﹁嘘じゃないよ﹂
﹁エリラちゃんの事だからきっと我儘な事を言っているんじゃない
?﹂
﹁い、いや、そんなこと全然︱︱︱
﹁いえ、きっとそうよ。ちょっと説教してくる!﹂
1300
﹁あっ、おいちょい待て!﹂
俺の制止も聞く耳を持たないでソラはギルドの仮設テントを去っ
て行った。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あの∼クロウさん⋮⋮止めた方がいいのでは?﹂
﹁いや⋮⋮なんというか⋮⋮言っても止まらなそうなので諦めます﹂
初っ端から話の主旨がずれていたと感じた俺は追うのを諦めた。
前にエリラが号泣していたのを思い出し物凄い罪悪感が⋮⋮
ごめんエリラ⋮⋮今度おいしいものでも食べさせてあげるからそ
れで許してくれ。俺は心の中で家の方に向かって合掌をした。
⋮⋮アレ? そもそもソラって俺の家の場所知っているのかな?
道に迷うんじゃねと俺は一瞬期待をしたのだが。
﹁私が教えてしまいました﹂
とミュルトさんがアッサリと壊してくれました。うん、フラグだ
よね知ってた。
その後は食料の事についてミュルトさんと話し合った。どうやら
調理はギルドの方でやるとのこと。何でも他のギルド員にさせると
か。︵現在は街の復興のため街のあちこちに散乱しているらしいが︶
1301
そして、さらにこの街に再び軍が派遣されるとのこと。昨日早馬
からの便りで分かったらしい。これで少しは安心できるな。
まあ、俺は安心出来ないのですが。
万が一のために逃走ルートだけは確保しておこう。
﹁ただいま﹂
ミュルトさんと一通り話し合ったのち、俺は食料などを納入し
て自宅に戻ってきていた。
ちなみに、納入したのはイノシシモドキおよそ50体と調味料
系全てに森に自生していた青菜系の薬草だ。
積まれた肉の山を見たミュルトさん始めギルド員一同は黙り込
んでしまっていた。
うん。俺も最初見たときはビックリしたよ。確かに作戦を考案
したのは俺ですけどさぁ。まさかあの短時間でここまでやるとは思
わなかったよ。
1302
人に当たるのは︵ク
ちなみに、これでもまだ全部じゃない。俺のインベントリの中
にはまだ倍近くの肉塊が残っている。
手加減は必要だよ。うん。
そんなこんなで戻ってきたのだが⋮⋮
﹁大体、エリラちゃんはいつもこうでしょ!
ドクド︶
⋮⋮まあ、予想はしていたよ。
玄関を抜けた所にあるリビングで何故か説教をしているソラと
床に正座をして涙目になっているエリラとその様子を見ててどうし
ようとオロオロしているテリュールを以下はじめとする獣族たち。
行きなり押し掛けて
俺の姿に気付いたテリュールが慌てて俺の所に駆け寄ってきた。
﹁く、クロウ⋮⋮これどうなっているの?
来たと思ったらエリラの知り合いと聞いて会わせたら何故かそのま
ま説教を始めて⋮⋮﹂
﹁あー、うん。気にしないで、ただのオカンタイプの人だから﹂
﹁?﹂
どういうことかサッパリ分かっていないテリュールはただ首をか
しげるだけだった。
さて、エリラの方を助けるとしますか。俺は説教しているソラに
近づき後ろから肩をポンッと叩きながら
1303
﹁そろそろ、その辺にしと
と、言い終わらないうちに俺に思わぬ悲劇が襲った。
﹁うるさいわね! あっち行って!!﹂
そう言いながらソラはこちらを見ないまま裏拳を繰り出して来た。
﹁﹂
何も考える暇を与えられず、ソラから放たれた拳が俺の顔面へと
クリーンヒットした。メリッと音が聞こえた気がしたがこの時の俺
はそんな事すらも考える余裕などなく、なるがままに玄関方面へと
綺麗な放物線を描きながら吹き飛んで行った。
ソラを除きそこにいた全ての者の顔が凍り付いていた。俺はその
まま地面に頭からおっこちそのままワンバウンドしてゴロゴロと地
面を転がって行きそのまま、柱に背骨を打ちようやく動きが止まっ
た。
﹁⋮⋮えっ﹂
地面に落ちた音でソラも我に返り俺の方を見ていた。
で、俺はというと地面に放り出されたままピクリとも動かなかっ
たらしい。うん、今考えればよく生きていたなと思うよ。
﹁⋮⋮﹂
俺の屋敷に一人の少女の叫び声が響き渡ったのは、このすぐの後
1304
の事だった
1305
第115話:オカン︵?︶登場︵後書き︶
クロウは女の子からの攻撃はかなり受けているような気がします。
いつだったかは忘れましたが、エリラに息子蹴られたこともあった
なと書いていながら思っていました。
クロウには女難の相でも浮かび上がっているのかもしれません。
1306
4/1
誤字を修正しました。
第116話:忍び寄る手︵前書き︶
※
1307
第116話:忍び寄る手
俺の意識が戻ったのはそれからしばらくしてからだった。と言っ
ても数分程度だったらしいが。俺が気づいたとき俺はソファーの上
に寝かされていた。
﹁く、クロ? 大丈夫?﹂
眼を開けたとき目の前にエリラの顔があり、ちょっと驚いた。俺
は大丈夫だと一言いい、体を起き上がらせた。
﹁ごめんなさい! ごめんなさい!﹂
その後、俺の目の前で何度も何度もソラが謝って来た。
﹁いや、大丈夫だから、そんなに謝らなくていいよ。誰かさんのお
陰で慣れているからさ﹂
﹁? 慣れている? そんなことあったっけ?﹂
無自覚エリラはとぼけているのかな? お前だよ! お前! ベ
ットの上で投げ技決めるわ、俺の息子を街中で堂々と蹴るわで耐性
付いとるわ!
無自覚って怖いですね。
﹁⋮⋮っあ、それより! クロ! なんで私怒られたのよ!?﹂
急に思い出したのかプンプン怒っているエリラだが、まだ泣いた
1308
後のせいかむくれているから怖くもなんともないですが。
﹁さっきまで無かったけど、やっぱりあったわ﹂
﹁? 何が?﹂
﹁いや、こっちの話さ﹂
エリラを適当に足払って、これ以上いても問題ごとしか生まれな
い気がしたかので、俺はソラをお家に返しておいた。
で、結局エリラに怒られた理由の経緯を説明してあげることに。
話を聞き終わったエリラから出た第一発声は﹁私、ただの被害者じ
ゃないの!﹂だった。うん、そうだね。
﹁⋮⋮﹂
その夜、ベットの中で俺は今後の事を考えていた。
正直なところ、やってしまったのは仕方がない。今後、あの街に
1309
は二度と行けないと割り切ることにした。
あの街での出来事はもう忘れよう。レーグを殺しかけた報復とし
ては少々行動に問題があったかもしれない。
次からは人の居ないところで行おうと思う。まあ、理想は助けて
あとは関わらないのがいいのだろうけど、どうもそれは俺の性格的
に無理なようだし。
この街の件は、間もなく到着するであろう軍が来たら問題ないだ
ろう。竜王⋮⋮だっけ? あいつが不在の今、他の集落の奴らもじ
きに退いてくれるだろう。いや、そうだと願いたい。
と、なると俺がしないといけない事は魔族の事か⋮⋮。
今のところ理由は全く不明だが、この混乱に乗じて何かアクショ
ンを起こそうとしているのは確かだろう。
この街にやって来たのはたまたまか、それとも意図してか⋮⋮。
それも気になるが、俺としては︽神眼の分析︾で解析できなかっ
たあの、錠剤が気になるところだ。あれからウグラの屋敷︵今は差
し押さえられている︶に忍び込んだりして、探してみたのだが結局
見つからなかった。
セラにも一度聞いてみた所、神⋮⋮つまりここではセラや歴代の
神が見た事無い物は不明なままだという。そういう時は俺が、独自
に調べて説明を作っても良いとのこと。今は面倒なので︽魔人化薬
︾と命名している。
調べていないと言えば⋮⋮俺からしたら大分前の話だがチェルス
トでのあの移転魔法。何故、俺の︽魔力支配︾が効かなかったのか
な。セラに聞いても首をかしげるだけだったし、この世界の神って
なんか、俺が想像していた程万能じゃないんだなと思った。
1310
ああ⋮⋮アレもやらないといけないしコレもやらないといけない
し⋮⋮。
正直頭が痛くなりそうだよ全く。
﹁⋮⋮クロぉ⋮⋮﹂
ふと、聞こえた方に首を動かしてみるとエリラの気持ちよさそう
に眠っている顔が映った。どうやら寝言のようだ。
﹁⋮⋮大好き⋮⋮﹂
⋮⋮寝言だよな? 一度確認をしてみるが寝ているようで間違い
ない。
﹁⋮⋮///﹂
うわっ⋮⋮改めて聞くと恥ずかしいな⋮⋮あの時は勢いとかもあ
ったから、そんな事考える暇も無かったけど、考え直してみるとか
なり、恥ずかしい事だな。
⋮⋮まあ、嘘じゃないけどさ
色々あったけど、この世界で⋮⋮いや、前世から合わせて見ても
一番、親しみを持って接してくれているよな。まあ、その分酷い目
にも合っておりますが、主に俺の身体的な面で⋮⋮。
⋮⋮なんかこのままだと、しゃくなので俺も返してやることにし
た。
1311
﹁⋮⋮俺も好きだぜ⋮⋮﹂
心なしかエリラの顔が笑ったように見えた。
﹁⋮⋮﹂
超! 恥ずかしいのですけど! ああ、暴れたい! 今すぐ暴れ
たい! と、言っても右腕をガッチリと掴んでおり出来ないのです
が。
離そうものなら固め技をかけられること必至だ。︵※なお本人は
無自覚の模様︶
⋮⋮はぁ、まあいいや諦めて悶々としてやりますよ。
なんか、さっきまで考えていたのがバカらしくなって来た。
﹁⋮⋮まあ、出来ることからやって行きますか﹂
その日、俺はそれ以上考えるのをやめ、眠ることにした。ただ、
あんな言葉を掛けてしまったせいか、中々寝付けなかったのだが。
俺がようやく眠りに付いたのは日の出の少し前の事だった。
1312
==========
南部制圧部隊出陣前夜︵同時刻︶
アルダスマン国のどこかの地下にて。魔法によって掘られた暗い
室内で男が二人、椅子に座っていた。
そのうちの一人はハヤテだった。暗い室内でも分かるぐらいの白
銀の全身鎧を身に着けており、いつでも出れるようにしていた。
﹁首尾はどうじゃ?﹂
もう一人の男がハヤテに問いかけた。もう一人の男も鎧を付けて
いた。だが、ハヤテの白銀の鎧とは真逆に全身を黒い鎧をつけてい
る。顔は髭が生え、初老を思わせるような姿をしていた。
﹁順調です。⋮⋮それにしても何故、今更ながらにあの街に兵士を
⋮⋮いえ、アレでは仕方ないとは思いますが﹂
﹁そうじゃの、まさか龍族600人を一瞬で葬ってしまうとは誰が
予想できたか⋮⋮ワシもこれには驚いておるワイ﹂
﹁それで⋮⋮如何なさるので?﹂
﹁ふむ、それじゃが⋮⋮小僧を狙った所で返り討ちに遭うのは目に
見えておる。なら取り巻きから崩しにかかればよい。小僧がいくら
強かろうと所詮は人、出来ることには限界がある。必ず隙はあるは
ずだ。そうだの⋮⋮﹂
﹁そういえば⋮⋮エリラ⋮⋮と申されましたか。確か彼女はもとフ
ロックス家の人間⋮⋮まさか、今度の編成は﹂
1313
﹁石橋を叩いて渡ると言うじゃろ? いくら助け船を出すほど情が
厚かろうと所詮は奴隷の一人。国を敵にすると考えれば話は変わる
⋮⋮かもしれんの﹂
﹁私が思うに⋮⋮返り討ちに遭うと思われますが﹂
﹁いいのじゃよ。ようは確かめるだけじゃ。行動を起こした後に切
り捨てられたら元もこうも無いじゃろ。それじゃあ、ワシは一旦街
に戻り仕掛けてみるとするかの﹂
﹁分かりました。では私はこれまで通り気付かれないように動きま
す﹂
﹁⋮⋮そうじゃ、それで思い出したわ。お主監視されているぞ?﹂
﹁⋮⋮人間にですか?﹂
﹁そうじゃの。まあ、あ奴らぐらい楽なもんじゃわい。第一誰が動
かしていると思っておるのじゃ?﹂
﹁⋮⋮そうでございました﹂
﹁一応、注意はしておけ。なあに万が一の場合は手を貸すわ﹂
﹁勿体無きお言葉⋮⋮﹂
﹁では、武運を祈るぞ﹂
﹁ハッ、そちらもご気をつけて
1314
ガラム様
﹂
1315
第116話:忍び寄る手︵後書き︶
実はかなり前からこの設定は伏線として入れていたり。
1316
第117話:眠れない夜︵前書き︶
エントリーシートだけで心が4回ほど折れた黒羽です。更新が落
ちているけど頑張りますよ。いや、こっちよりリアル頑張れよと言
う声が聞こえてきそうですが、私はひたすら逃避をします︵泣︶
※今回、多少不快な思いをするかもしれません。予めご了くださ
い。
1317
第117話:眠れない夜
エルシオンに戻ってから一週間が経過した。
その間、特にこれっと言った問題は起きなかった。まあ、強い
ていうなら農作業のお手伝いだろうか。
当然、機械など無い世界だ、これまでただの平原だった場所を
耕すのは楽じゃない。雑草だらけよりはいいけど。
で、俺は何をしたかというと⋮⋮種まき以外かな?
区画を︽マップ︾で区切って、綺麗な十字路にしてから、魔法
で土を掘り起こして、溝を作って近くの下水道から水を引くために
水路を掘って⋮⋮と、ほぼ全ての作業を一人で執り行ってしまった。
途中で﹁俺らって必要無いよな?﹂という住民の声が聞こえた。
それでも流石に種まきなどは魔法でどうのこうのとは行かない
ので最後は任せたけど。
⋮⋮まあ、魔法でも出来ないことはないと思うけど。
さて、そんなことは置いといて。ミュルトさんの報告によると、
どうやら国の軍隊が明日には到着できるとの事。
うわー、嬉しいんだが悲しいんだが正直分からない。
俺の事が広まっていないことを祈るばかりだ。︵色々な意味で︶
﹁これで、ようやく一息つけるわね﹂
報告を聞いたエリラがそう言った。うん、俺は全然一息付けない
1318
のですけど。
ミュルトさんにお願いして俺の事は伏せて貰うことにした。厄介
ごとが収まるまで俺は大人しくしておこうと思う。
人の噂も七十五日って言うしな。
俺がそんなことをエリラに言うと。
﹁じゃあ、その間は特訓に付き合ってよね﹂
と言われた。あ⋮⋮うん⋮⋮。正直、寝ていたいのですが駄目で
しょうか? と、聞いたところで結果は目に見えているので敢て何
も言わない事にしておく。
また息子蹴られるのだけはご勘弁願いたい。
結局この日は、エリラの特訓に︵何故かテリュール始め子供たち
も参戦︶付き合わされて丸一日が潰される結果となった。夜、ベッ
トに潜り込んだ俺はすぐに深い眠りに付いた。エリラがその後すぐ
に入って来たのにも気付かずに。
==========
1319
︻あら、またあの子苛められたの?︼
︻今度はお気に入りのぬいぐるみを木の上に乗っけられたってね?︼
︻そうそう、それを取ろうとして木に登ったらしいけど、落ちて腕
折ったてよ︼
︻あらあら、まあ、あの子にはそれがお似合いでは?︼
︻そうね、所詮はあの人の子供⋮⋮大人しくドブにでも浸かってい
るのがお似合いよ︼
﹃⋮⋮﹄
﹁⋮⋮アレ? ここはどこ?﹂
︻こっちまでおいでーだ。ほらほら︼
﹃止まりなさい! あんたたちもビショビショにしてやる!﹄
アレは⋮⋮私? 見ると、私が一人の少年を追っかけている様子
が見えた。私が私を見ている? どういうこと? 少年を追いかけている私の髪や服は何故か濡れており、滴が垂れ
落ちていた。ワンピースに近い服は私の皮膚にピッタリと張り付い
1320
ており、見るからに気持ち悪そうだった。
︻へへん! やれるものならやってみな! さあ、来てみろよ!︼
﹃上等よ! そこで待ってなさい!﹄ ﹁⋮⋮あっ、駄目! それ以上は︱︱︱﹂
﹃きゃぁ!﹄
︱︱︱ベチャ!
︻ぎゃっはっはっ! 引っかかったな! どうだ? 俺ら特製の落
とし穴は? ついでに馬糞の味は?︼
﹃くさぁ⋮⋮ちょっと! 卑怯よ!﹄
︻気付かなかったお前が馬鹿なんだよ。やっぱりあいつの娘だな。
じゃじゃ馬さんよぉ︼
﹃誰がじゃじゃ馬よ! あんたたちが私にちょっかいかけて来るか
らでしょうが!﹄
︻ん? 何言っているか聞こえないなぁ∼、おい皆来てみろよ?︼
︻どうだった? 上手く落ちたか?︼
︻あたりめぇよ。あのじゃじゃ馬だぜ? 失敗する訳ねーだろ︼
︻みろのあの様! ぴったりだぜ︼
1321
︻そうだ! どうせならここで小便でもしようぜ︼
︻︻さんせーい︼︼
﹁あなたたち、いい加減にしなさい!﹂
私はそう言いながら彼らに向かって走り出そうとしていた。だが、
いくら必死に足掻いても私が落ちた穴を囲っている少年たちのとこ
には辿り着けそうに無かった。
︻一斉に行こうぜ︼
︻誰が合図とる?︼
︻誰でもいいじゃん、ほら行くぞ?︼
一人の少年の掛け声と共にいくつかの尿が放たれ穴へと落ちて行
く。私は叫び声を上げなんとしても止めようとした。
だが、そんな私の思いも虚しくジョボジョボと音と共に、穴に落
ちた私の頭に降り注ぐ。それを黙って受け続ける私。
︻ぎゃっははははははは! 見ろよあの様。いいきみだぜ︼
︻ふー、スッキリしたし帰ろうぜ!︼
排泄をし終わった少年たちが穴から離れ帰ろうとしていた。まだ、
私は穴の中にいる。
1322
穴の深さは数メートルぐらいあり、一人では当然登れそうにはな
い。
﹃出しなさいよ!﹄
当然、穴に落ちた私はそういったが。
︻ん? おい、今何か聞こえなかったか?︼
︻気のせいじゃね? それよりさ、今日の晩飯なんだっけ?︼
彼らは聞く耳も持たずに去って行った。
﹃だしなさーーーい!﹄
私は助けたい衝動に駆られた。だが、いくら動こうと思っても動
くことは叶わず時間だけが去って行く。
臭い汚物が溜まっている穴の底で穴に落ちた私は座り込んでいた。
﹃なんで⋮⋮なんで私が⋮⋮﹄
そういうとポロポロと彼女は涙を流し始めていた。そして、何故
か私の眼がしらも厚くなっているのを感じていた。
次の瞬間、場面は変わり、今さっきまでの穴の中では無く、一転
し豪華絢爛な部屋にその、私は座っていた。
そして、その私の前には見たことがある男が⋮⋮
⋮⋮あれ? なんでだろ⋮⋮思い出せない⋮⋮?
1323
どこかで見たことがある顔。それは間違いなかった。けど、何故
か思い出せなかった。
︻いいか、お前はただおればいい。お前の意志などここには存在し
ない!︼
男は唐突にそう言った。
﹃何故です?﹄
当然、聞き返す私。だが、男はそんな事には興味がないのか、言
いたいことを続けた。
︻お前は一生、俺の人形としておればよい。いいな?︼
﹃人形? なz︱︱︱
その時、ドンッと鈍い音が渡りに響き次に、私の眼に飛び込んで
きたのは何故か突き飛ばされている私と、足を上げている男の姿だ
った。
蹴られた?
︻そんなくだらない事お前が知らなくていい! いいな?︼
男はそう言った。蹴られた私は地面に蹲り何も答えない。
︻いいなって聞いてるだろうが!︼
男の蹴りが再び襲いかかり、お腹を突き上げられた私は口から血
1324
を吐きながら床を二転した。激しくせき込みながらも私はヨロヨロ
と立ち上がり
﹃はい⋮⋮﹄
とだけ言った。
︻ふん⋮⋮︼
男は私を一瞥するとそのまま部屋を後にした。男が部屋から出て
行くや否や、私が地面に崩れ落ちていく様子が見て取れた。
私は必死に彼女のそばに駆け寄ろうとした。でも、動けない。な
んでよ! とイライラ感が溜まって行く。それと同時に一回落ち着
いていた目頭が再び熱くなる。
﹁うっ⋮⋮うっ⋮⋮けほっ! ごほっ!﹂
地面から上半身だけ体を起こし、そして咳き込むと喉に詰まって
いた血を残さずに吐き出していた。
やめてよ⋮⋮。
居た堪れない気持ちになる私。
そんな私の目の前にあの男が姿を現す。
︻ほら、おいで。エリラの大好きな物は何かな?︼
男は先程とは打って変わって笑顔だった。
1325
︻ほら、大好きな食べ物を言ってごらん。なんでも食べさせてあげ
るよ︼
満面の笑みを見た私は何故か、少しずつ後ろへと下がろうとして
いた。だが、当然の如くその場から動けない。
︻ほら、何か欲しいものはあるか? なんでも買ってあげるよ︼
笑顔を見ているはずなのに、感じる寒気、恐怖。気付けばその男
の後ろに黒い悪魔のような男の顔が浮かんでいた。
﹁来ないで!﹂
私は必死になってなんとか逃げようとした。
︻ほら、何が欲しい? 何がしたい? なんでも言いなさい︼
やめて! 来ないで!
拒絶をする私。何故拒絶をしているのか分からなかった。言葉は
もちろん、その姿、仕草、声。全ての行動にが嫌だった。
︻ほら⋮⋮おいで⋮⋮
︱︱︱︱︱私の愛する娘、エリラよ︼
1326
﹁来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!﹂
ドンッと言う音と共に私は目を覚ました。
見慣れた天井が目に入った。既に夜遅く、月夜の光が窓からやさ
しく部屋を照らしていた。
﹁アレ⋮⋮?﹂
ムクリと体を起き上がらせる。なんだろう⋮⋮物凄く嫌な夢を見
たような⋮⋮?
何かをみた気がしたが思い出せない。顔は汗でべっとりとしてお
りこの時期としては、おかしい量の汗をかいていたのが分かった。
﹁⋮⋮エリラぁ⋮⋮﹂
ハッと声をした方を向いてみると、クロがベットの上に這い上が
っていた。
﹁全く⋮⋮お前はなんでこんなに寝相がわる︱︱︱﹂
1327
﹁クロ!﹂
次の瞬間、私は何故かクロに抱きついていた。なんでそう思った
のか分からない。だけど急に抱きつきたい衝動に駆られていた。
﹁お、おい⋮⋮どうしたんだよ一体⋮⋮?﹂
いきなり抱きつかれたクロは困惑をしていた。そんな事はお構い
なしに私はクロの胸元に顔を埋めると、これ以上に無いくらいギュ
ッと抱きしめた。
肌を伝ってクロの温かさが伝わってくる。なんでだろう、私はこ
れ以上にないくらいの安心感を感じていた。
﹁⋮⋮﹂
最初は困惑していたクロだったけど、その後は何も言わずに私を
抱きしめ返してくれていた。
﹁優しいね⋮⋮﹂
私は何故かそう呟いていた。
﹁? ⋮⋮ほら、布団の中に入れって風邪ひくぞ?﹂
確かにそうだった。べっとりとかいていた汗が乾きだし急に寒く
感じていた。
﹁⋮⋮﹂
1328
私はそれには答えずにただ、ひたすらにクロを抱きしめた。
﹁⋮⋮﹂
やや間があった後だった。クロは行き成り私ごと体を寝かせ無理
やりベットの中へと押し込んできた。
行き成りの事で慌てる私。クロはその上から私と一緒に布団をか
けた。
﹁⋮⋮ほら、今日はこのままでいいから、本当に風邪ひくぞ?﹂
﹁⋮⋮うん﹂
私は素直に応じ、結局そのままの体勢で一晩を過ごした。結局、
それから私は眠れずずっとクロの腕の中でじっとしていたのだった。
1329
第117話:眠れない夜︵後書き︶
約100話ぶりの掘り返し⋮⋮もとい伏線回収でした。
︻愛する︼という言葉にこれほど嫌悪な思いを抱いたのは初めて
かもしれません。
今回も読んで下さった皆様ありがとうございますm︵︳ ︳︶m
次回もよろしくお願いします。
なお、今年のエイプリルフールネタはリアルが忙しいので無理で
した。と言うか嘘つくのが苦手なので私には無理なネタかもしれま
せんね。
来年、何か書くかは未定です。
1330
第118話:一抹の不安︵前書き︶
遅れてしまって申し訳ありません。あと内容も進んでなくてすい
ません。︵土下座︶
誰か私に時間を下さい⋮⋮︵切実︶
1331
第118話:一抹の不安
朝日が昇り、窓からお日様がおはようとひょっこり顔を出した。
鳥の鳴き声が耳に届いた。
朝チュン⋮⋮これだけ聞いたら非常にOUTな想像をする方も多
いかもしれない。そう、そこのあなた。
残 念 だ っ た な !
昨晩、エリラによってベットから放り投げられるわ、抱き着いて
くるわ、結局一晩中抱きしめ合っていたりと壁殴り代行がフル活動
しそうな出来事︵?︶が起きた。
だけど、なんでだろう。全然ラッキーと感じない。いや、エリラ
の豊満な胸とかが当たってそういう意味では良かったよ。
でも、それっていつもの事ですし、皆さん想像してみてください、
夜中爆睡中にいきなり放り投げられた時を。
仕事で疲れている時にそれを受けてみてください。おそらく興奮
するより先に怒りが込み上げて来るでしょう。
ですよね?
結局、なんだったんだろうな。色々聞こうかなと思ったが、大分
うなされていた様だったので深入りしておくのはやめておこうと思
う。何かあったらエリラから話して来ると信じて。
1332
﹁あっ、すいません早朝から﹂
リビングに向かってみると何故かミュルトさんがいた。テーブル
の上にはテリュールが出してくれたのかティーカップ3つが置かれ
ていた。︵なお、客人には紅茶を出すが俺だけお茶である。理由は
言わなくていいな?︶
獣族さんたちは取りあえず、見えないところに退避をしたのか、
一人も見えなかった。
﹁どうしたのですか?﹂
ミュルトさんと向かい合うように座った俺は、目覚め頭にと一番
手元にあったティーカップに手を伸ばし、一口、口にふく︱︱︱
﹁ぼはっ!?﹂
口に含んだと同時に盛大に吹き出す俺。周囲に薄い紅色の水しぶ
きが舞った。
口一杯に広がる苦い味。そう、言わずも知れたコレは
1333
﹁そっち、紅茶ですよ﹂
冷静なツッコミがテリュールから飛んで来た。ちなみにテリュー
ルは俺が紅茶を苦手としているのは周知の事だ。
言うのが遅い! と、言いたかったが残念ながらそんな余裕は俺
には無かった。
後ろで必死にエリラが笑いを堪えているのを感じた。ミュルトさ
んはと言うと、これまた冷静で自分にかかった紅茶を拭いていた。
ちなみにミュルトさんも苦手だという事を知って︵ry
てか、ミュルトさん結構かかったけど意外と冷静だな!? 俺の
眼には特に顔色を変えることなくポケットからハンカチを取り出し
て、自分の顔と服にかかった紅茶を冷静に拭き取っているように見
えた。
﹁アハハハハハハ! 何やってるのよっ﹂
先程まで笑いを堪えていたエリラが、今度は口を開けて笑ってい
た。この口から考えるにどうやら、エリラは俺が取ったのが紅茶だ
ったと気付いていたのだろう。
﹁エリラ⋮⋮気付いていたな﹂
﹁だって、クロったらなんも躊躇も無く紅茶入りの方を取ったんだ
から答える暇も無かったのよ!﹂
ぐっ⋮⋮正論だから言い返せない。
1334
﹁⋮⋮朝から楽しい所ですね﹂
見るとミュルトさんが笑顔でそう言っていた。一通り拭き終わっ
ており最初に見たときと同じ姿勢になっていた。
﹁す、すいません。ミュルトさん⋮⋮﹂
﹁いえ、気にしないでください。分かっていましたので﹂
﹁⋮⋮もしかして、ミュルトさんも気付いて⋮⋮?﹂
﹁ええ﹂
だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ちっくしょぉぉぉぉ! ってことは
何だ、気付いていなかったの俺だけ!?
別に気付かなかったからなんだと言う訳では無いが、この謎の敗
北感は何とも言えなかった。
俺はこの時思った。
︽察知︾や︽見切り︾の前にまず、確認することを覚えないと。
来てから叩くのではなく、その前に叩いておくことの大切さを改め
て感じた。
︱︱︱スキル︽梟の眼︾を取得しました。
久々に俺の脳内に響くアナウンスと共に久々にスキルを取得して
1335
しまったのであった。
﹁で、ミュルトさん、今日は一体どうしたのですか?﹂
数分後、冷静になった俺は改めてミュルトさんと向かい合ってい
た。
確か、今日は国の軍隊が到着するから朝から準備があるとか言っ
ていたはずだけど。
﹁実は⋮⋮今日の未明にマスターが戻ってこられたのです﹂
﹁マスターが⋮⋮?﹂
俺は彼の顔を思い出すと一人内心不機嫌になっていた。と言うの
も、住民が困っている時にどこかに行ってたガラムは、俺の中では
下落の一方だったからだ。
理由も聞いていないでこう思ってしまうのは、些かどうかとは思
うが、それでも緊急時に居ないと言うのは何と言われようが納得の
行くことではないだろう。ましてや、その理由すらも釈明しないな
どもっての外だろう。
あっちの世界でも、そんなことが最近問題になっていたような気
がするが、今は関係ないか。
1336
﹁はい、それでマスターがクロウさんとエリラさんにギルドに来て
欲しいと⋮⋮﹂
﹁ふーん⋮⋮﹂
さて、これはどう受け取ればいいやら。
﹁今日ですか? 俺、色々とやりたいことがあるのですが﹂
主に新スキルと武器の開発を。そろそろエリラの剣も強化をしな
いと、エリラが持つにしては性能が低すぎると感じ出し始めていた
のだ。
まあ、最初作った時はレベルが20台だったからしょうがないと
言えば、しょうがない事なのだが。
﹁それが⋮⋮マスターが言うには﹁絶対に連れてこさせろ﹂⋮⋮と﹂
﹁マジか⋮⋮めんど⋮⋮﹂
思わず本音が漏れてしまった。幸いミュルトさんには聞こえてい
ないようだったが、エリラは聞こえたのか、ミュルトさんから見え
ない机の陰からツンツンと突いてきた。すいません。
﹁⋮⋮ええ、分かりました。で、今からですか?﹂
﹁いえ、昼に顔を出してほしいとの事です﹂
﹁昼にですか?﹂
1337
昼と言えば軍隊が到着する予定時刻じゃないか? もし、俺に個
人的な用があるのなら夕刻とか朝早い時に呼んだ方がいい気がする
のだが。
まさか⋮⋮俺を捕まえに来たとか?
数日前の出来事を思い出してしまう。忘れてた訳じゃないが改め
て思い直したくはなかった。武器強化も方便で本当は軍隊が到着す
るときに顔を出したくないと言うのが本音だったりする。
﹁で、何の用なのですか?﹂
﹁それが⋮⋮私にも教えて下さらないかったのです﹂
おい、ますます怪しいじゃねーか。こうなって来ると、どう考え
ても俺を捕まえに来たようにしか感じられなって来る。
くるーきっとくるー♪
脳内でそんなBGMが唐突に流れる。いや、流れてこられても困
るのですが⋮⋮。
﹁⋮⋮分かりました。では昼ごろにお伺いします﹂
﹁はい、よろしくお願いします⋮⋮クロウさん⋮⋮﹂
﹁?﹂
ミュルトさんが心配そうな顔でこちらを見ていた。
﹁あの人はいい人ですから⋮⋮あまり気を悪くせず⋮⋮﹂
1338
どうやら、顔に出てしまっていたようだ。︽ポーカーフェイス︾
仕事しろや。
﹁ええ、分かっていますよ﹂
お世辞にもそんな事を言う気にはなれなかったが、ミュルトさん
を不安にさせるのも嫌なのでここは、素直にそう言っておくことに
した。
ただし、会ったらしっかりと事情は聞くが。
﹁ありがとうございます。では、私は仕事があるのでギルドに戻り
ますね﹂
そういって、ミュルトさんはギルドに帰って行った。
俺は彼女を玄関からミュルトさんが見えなくなるまで見送った。
その時、曲がり角を曲がったときか、彼女が全速力で駆け出してい
るのが目に見えた。
俺はその行動を見て、益々不安を募らせるのだった。
1339
第118話:一抹の不安︵後書き︶
感想など気軽に待っています^^
いつも書いてくださる皆様、本当にありがとうございます。返信
が遅れているのは本当にすいませんm︵︳ ︳︶m
※スキル︽梟の眼︾
分類:戦闘スキル
効果:自分の真後ろの様子を首を動かす事無く見ることが出来る。
ただし使用時は両目どちらかを閉じている必要がある。︵閉じた目
で後ろを見る︶
1340
第119話:猛将、レシュード・フロックス
﹁⋮⋮よし、これでいいな﹂
自宅の地下にあるミニ工房にて、俺はエリラの武器︻蒼獣︼を弄
っていた。
︱︱︱スキル≪共鳴≫を取得しました。
==========
※スキル≪共鳴≫
分類:特殊スキル
効果
・媒介を通すことで離れている相手と通信を取ることが出来る。た
だし、スキル所持者のみ発信が可能。相手は一方的に聞くだけしか
出来ない。
・相手が一定状態になると特殊信号が出せる。
==========
﹁で、こいつをこれに設定して⋮⋮﹂
≪RPG≫のお蔭で錬成や合成に失敗することなく次々と素材を
組み合わせて行く。色はこれまでと同様、青色を使っている。
﹁⋮⋮よし、出来た﹂
1341
新たに生まれ変わった︻蒼獣︼を見て、我ながらいい仕事をした
と一人、自己満足をしていた。
new!
==========
※武器︻蒼獣︼
分類:両手剣
付加効果
≪対炎獄耐性≫
・≪対火耐性≫の上位互換。持っていればマグマダイブしようが平
然としていられる。ただし離した瞬間⋮⋮あとは何も言うまい。
≪斬撃強化・真≫ new!
・≪斬撃強化・改≫の上位互換。鋼鉄を紙のように斬ることが出来
る。ただし武器の耐久が上がったわけでは無いので、そんな物を斬
れば一発で駄目になる。
≪対魔物≫≪対人間≫
・指定種族を攻撃する時に威力が向上する。
≪???≫
・召喚系魔法。
・スキル︽共鳴︾の追加効果によりクロウが任意のタイミングで発
動可能。
==========
エリラのレベルが90を超えたので、それに見合う武器を作った
つもりだったのだが⋮⋮正直に言おう。素材的に圧倒的な耐久不足
1342
だった。
≪斬撃強化・真≫などいい例だろう。このスキルの性能を限界ま
で使おうものなら、この武器の数倍の硬度は必要になるだろう。だ
が、鉄素材や上位互換にあたる鋼鉄素材ではここあたりが限界だ。
今度、暇があったら調べておこう。そんな暇あるかわからないけ
ど。
あ
そういう意味では俺の刀も完全に強度不足だけど、俺はそもそも
っち
魔法をよく使うので問題は無い。それ以前に剣の使い方が完全に異
世界の世界の使い方になっているから、強度なんていらないのだが。
さて、もうそろそろ昼頃だな。
ギルドに顔を出す時間だ。時間が足りるか心配だったが、なんと
かエリラの剣の強化は間に合った。前々から試行錯誤していたのが
功を奏した。ぶっつけ本番だったなら、絶対に間に合わなかっただ
ろう。
エリラに剣を返し試しに手合わせをしてみる。急に跳ね上がった
能力に驚いていたようだが、それも最初だけで数分も立てば見事に
使いこなしていた。
問題も特に無いみたいで、初めて剣をあげた時みたいに喜んでく
れた。満面の笑みを見ると、俺も作ったかいがあったものだ。
その後、準備を簡単に済ませ、俺とエリラはギルドに向かうこと
にした。
1343
仮設ギルドに来てみると馬が三頭、近くの瓦礫に首を繋がれてい
るのが見えた。そして、その近辺にはアルダスマン国軍の正規装備
を付けた兵士が数人ほど会話をしていた。兵士たちはこちらに気付
いたようだったが、それでも一視しただけで、すぐに興味が無くな
ったのか、会話をし始めていた。
︵警戒心無過ぎるだろ⋮⋮︶
こんな非常時に剣を携えた奴がやってくれば︵しかも二人︶職務
質問の一つや二つすると思うのだが⋮⋮。
︵まぁ、無関心ならそれでいいけどな︶
正直なところ、面倒事を避けられて内心嬉しかったり。
今回は念のためにと、︽神眼の分析︾を常時発動状態で会うこと
にする。一人でも怪しい奴がいたら、覚えておかないとな。このス
キルで見た後は︽マップ︾の検索に固有名詞で使うことが出来るの
は大きな。
﹁入るよ﹂
俺は、一言そういうと。仮設テントの陣幕を上げ、中へと入った。
するとそこにいたのはガラムとミュルトさんと⋮⋮軍服を着たおっ
さん一名だった。
1344
歳は40代? 体格は太っている訳でもなければ痩せている訳で
もなく、普通の体格と言ったところだろうか。
︵なんだ、どうやら普通の司令官みたいだな⋮⋮︶
スキルを見た限りでは大した能力は無かったのでホッとする俺。
だが
﹁あっ﹂
そんな声を漏らしたかと思えば、エリラが行き成り俺の真後ろに
回り込んで来た。どうしたと思って見てみるとエリラはギュっと俺
の服を握って俺に隠れるような体勢を取って、あちらを見ていた。
見ている眼もどこか、怯えており思わず幽霊でも出たか? と聞き
たくなってしまいそうだった。
﹁おい、どうしたんだよ?﹂
小声でエリラに問いかける。だが、エリラは何も言わず、じっと
しているだけだった。
﹁︱︱︱⋮⋮ん?﹂
ガラムと会話をしていた男がこちらの存在に気付き、ガラムとの
会話を止めた。そして、こちらを見るや否や、行き成りこちらに近
づき始めていた。
男が近づき始めるや否や、エリラが先ほどより、一層強く握って
いるのを感じた。
1345
俺は咄嗟にエリラを後ろに庇うように手で隠し、魔法を打てる準
備を取った。
﹁エリラか⋮⋮貴様、今までどこに行っていた⋮⋮﹂
エリラがビクッと震えた。何なんだこいつは⋮⋮名前は⋮⋮
咄嗟に、先ほどは見なかったスキルで名前を見て俺は何となく合
点がいった。
﹁あなたは誰ですか?﹂
分かっていようとも、そういわざる得ない。
﹁貴様などに答える口は無い。俺が用があるのはそこにいる小娘だ﹂
﹁エリラの事か?﹂
﹁そうだ。どこで拾ってきたかは知らないが、そいつは俺の家の奴
でな﹂
チラッと視線を動かしてみた。すると一瞬だが、ガラムの顔がニ
ヤケているように見えた。そう思った次の瞬間には、もとの老獪さ
を思い立たせる顔になっていたが、俺はその顔を逃がさなかった。
︵そういう事か⋮⋮︶
あの顔が何を意味していたかは俺には分からない。だが、今まで
会ってきた中で、このような場面で笑う人とは考えにくかった。
1346
エリラがこの街に来る前の事は一通り聞いていた。俺からしてみ
れば、もう何年も前の話だが、その話の事はよく覚えていた。
そして、目の前にいる男もエリラとどういう関係なのか、名前で
何となくだったが予想はついた。
﹁ああ、そうだったのですか、で? それで? エリラに何の用で
すか? 要件なら主人である俺が聞きましょう﹂
あえて、主人の部分の強調して、俺と話をするように連れ込みに
かかる。
﹁主人?﹂
﹁まあ、色々理由がありまして、こういう事ですよ﹂
ひょいと体を逸らし、エリラの首についている証を見せる。首か
ら垂れ下がっている朱色の宝石と同時に目に入る黒色のチョーカー。
それを何を意味するか分からないはずが無い。
案の定、チッと微かに舌打ちをする男⋮⋮いや、エリラの父親に
あたるレシュード・フロックス。家庭では無能と評されていたらし
いが、実際は短気なだけで武に秀でた猛将とのことだ。
まあ、それ以外が馬鹿なだけかもしれないが。少なくともエリラ
からはそう聞いていた。
﹁⋮⋮ふむ⋮⋮ならばそいつを返して貰おう﹂
﹁は? 何を言っているのですか? いくらあなたと家族関係にあ
ろうが、︽契約︾をしている以上、無理を言う事は出来ないはずで
すが?﹂
1347
︽契約︾で配下になっている状態では例え、国だろうが手を出す
ことは犯罪になる⋮⋮と、表向きではそうなっているが実際、その
ような決め事など合って無いような物で、実際は無理やり︽契約︾
を解除させることも多々あるらしい。
﹁そうか、なら交渉といかないか?﹂
これで切れてくれれば良かったが、どうやら簡単には行かないよ
うだな。
1348
第119話:猛将、レシュード・フロックス︵後書き︶
感想など気軽に待っています^^
いつも書いてくださる皆様、本当にありがとうございます。返信
が遅れているのは本当にすいませんm︵︳ ︳︶m
1349
※
4/25
4/13
レベル表記の間違いがありましたので修正しまし
誤字を修正しました。
第120話:風雲急を告げ︵前書き︶
※
た。
1350
第120話:風雲急を告げ
﹁交渉?﹂
﹁ああ、そうさ、内容は簡単だ。俺の部下になるのとそいつを手放
す事。この二つを飲むことだ﹂
おいおい、冗談じゃねぇ。と、言いたいところだが、一応お偉い
さんっていう事で話は聞くことにした。少なくともこの前、玉踏み
つぶした奴の例があるし、短気は損気と考えることにしよう。
でも、誰だって行きなりこんな事を言われたら﹁はぁ?﹂って
思うと思うんだ。
﹁冒険者を雇う事は禁止ですよ﹂
﹁そんなの誰も守ってねぇよ。あんなの表面上だけだ﹂
﹁ふぅん⋮⋮でも、俺みたいな無名を雇うのも納得行かないんだが﹂
﹁そんなこと分かっているに決まっているだろ。あんたがエリラの
主人っていうなら︽炎狼︾を葬った奴だろ? 話はそこにいるマス
ターから聞いた﹂
チッ、余計な事をしやがって。これまでがこれまでなので、俺の
心の中でのガラムの評価はもはやダダ下がりだ。どれくらいかと言
うと、もう少しで地につきそうなくらい。
1351
さて⋮⋮答えは当然﹁ノー﹂だが、さてどう回避すればいいやら
⋮⋮流石に実力行使と言うのは駄目だ。前例がある上に、ガラムの
前で下手には動けない。
﹁そうですねぇ⋮⋮俺があなたの部下になったとして⋮⋮俺にどん
な利益があるんだ?﹂
念のため聞いておくことにしよう。俺の後ろでギュッと握りし
めているエリラの手がますます強く握っていくのが伝わってくる。
﹁そりゃあ俺は国でも有数の貴族だ。欲しいものがあれば何でも揃
うし、国でどんなことをやっても揉み消すぐらい朝飯前だ。その後
ろに張り付いている小娘なんかよりもずっといい女を集める事も可
能だ。まあ部下になった以上、俺の命令には従ってもらうがな﹂
まあ、随分と危ないお話をするもんだ。揉み消すって⋮⋮あの
貴族の事も揉み消してもらえたりするのか?
それは少し有難いと思ったのは秘密だな。
﹁で、どうなんだ答えは?﹂
おっさんはどうだと言わんばかりの顔をしている。顔は完全に
上手く行くだろうと言わんばかりの顔だった。
まあ、俺の答えは最初っから決まっていたけどな。
﹁丁重にお断りさせてもらいます﹂
俺はキッパリと断った。
1352
﹁ほう⋮⋮良いのか?
俺が本気を出せばお前を取り込むことな
ど意図も容易いことなんだぞ﹂
﹁その時は全力でお相手させてもらいます﹂
﹁クロ⋮⋮﹂
﹁心配するなって、見捨てるわけないだろ﹂
俺はそう言ってエリラの頭を撫でてあげる。先ほどまで強張っ
ていた顔が緩んでいるのが見え、俺の心もホッコリし⋮⋮たいです。
うん、そんな状況じゃないよね。
﹁ふん⋮⋮あんたは国でも相手にしそうだな﹂
﹁いや、流石に国は嫌ですね。出来れば一個人だけでお願いします﹂
﹁まあいい。ほら、マスターが呼んだんじゃないか?﹂
ありゃ? 諦めるの!?
絶対に食い下がると踏んでいた俺の予想をアッサリと覆されてし
まった。
いや、食い下がれよ。むしろそれが普通だろ? と、言いたかっ
たが折角、諦めている今のうちにさっさと要件を済ませて逃げてし
まおうと判断した俺はさっさとガラムに要件を聞いた。
で、その要件自体も居ない間に街を助けてもらい感謝するといっ
た程度の内容で、急ぐ必要も何もなかった内容だった。
1353
絶対何かある。と俺は思っていた。あの時のガラムのニヤケ顔も
そうだし、エリラの親父がアッサリと手を引いたのもそうだし、急
ぐ内容でも無い事をわざわざ急がせたり⋮⋮。
あまりに不自然な点が多すぎる。もしかしてこれは別の何かがあ
るのではないか?
だが、それを面として向かっては言う事は今は出来なかった。そ
んなことを本人に向かって簡単に言うほど俺は短絡じゃないからな。
とりあえず、今はこの場からさっと身を引くことにしよう。そう
考えた俺は早々にギルドを後にした。
なお、その後自宅に帰った際、エリラから抱きしめられた挙句、
頬にキスをされ何度もお礼を言って、それを見た女性の獣族たちが
アラアラと顔を赤くしながら見て、さらにテリュールが乱入してき
て、﹁何があったのですか!﹂と問い詰められたりしたが、それは
また別の時にでも話すことにしよう。
==========
﹁ふむ、ごくろうじゃったの﹂
クロウとエリラが去っていた後のギルド内では、ガラムがレシュ
ードに労いの言葉をかけていた。
﹁いんや、あんたにはお世話になっているからな。これくらいは朝
飯前さ﹂
1354
レシュードはそれを軽く返して、近くにあった椅子に腰を下ろし
た。
﹁しかし、お主はエリラの事は本当にこれでいいのか?﹂
﹁ハッ、あんな奴、もう俺の子供じゃねぇ逃げ出した奴に興味も何
もあるかよ。まぁ、出来れば数発は殴らせてもらいたかったけどな﹂
﹁じゃが、お主も気付いておったじゃろ、エリラの力を﹂
レシュードはチッと舌打ちをした。実はレシュード自身もスキル
︽分析︾を持っており、エリラのステータスを見たときは思わず顔
色を変えてしまいそうだったほどだ。
﹁あの小僧は分からぬが、少なくともエリラの能力は国での随一の
力をもっておるな﹂
﹁⋮⋮チッ、93とか笑い話にならねぇわ﹂
レシュードは不機嫌そうに答えた。
﹁どうやってあんな力を身に着けたんだよ?﹂
﹁あの小僧に出会ってからかの﹂
﹁はぁ? 確かにあいつもそれなりだったが、それでも40ちょっ
としか無かったじゃねぇか?﹂
﹁そんなの嘘に決まっておるだろ。どんな方法かは知らぬが、ワシ
1355
はあ奴がステータスを誤魔化していると思っておる。150ぐらい
はあるのではないか?﹂
﹁ひゃ、150だと!? ふざけるなよガラムのおっさん。伝説の
英雄でも120ぐらいと言われているんだぞ﹂
﹁じゃが、ワシはそう見ておる。少なくともエリラよりかは強くな
いと、あのエリラの急激なレベルアップも説明が付かないからの﹂
と、言っているガラムも実際は全く見当違いのレベルを言ってい
た。この時のクロウのレベルは319。150の倍以上のレベルに
なっていた。そこにスキル能力も加味するとレベルは400を超え
てもおかしくはないではあろう。
だが、この二人がクロウの本当のレベルを思い知ることになるの
はもっと後の話だった。
﹁で、結局エリラは諦めるのか?﹂
﹁チッ、変わってなかったらそう言いたかったがな⋮⋮だが、どう
せあいつは何を言っても変わらないだろうけどな﹂
﹁なら、ワシがチャンスをあげようじゃないか﹂
﹁⋮⋮はっ?﹂
その後、ガラムの口から飛び出した言葉にレシュードはしばらく
の間呆然としていた。だが、元々野心家なレシュードに取っては、
それはまたとない機会でもあった。
レシュードは少し考えたのち、ガラムのその言葉に乗ることにし
1356
たのだった。
==========
﹁隊長! 背後からも敵の襲来が!﹂
龍族に制圧された東部を取り返すべくメレーザを出発した東部制
圧部隊を待っていたのは、死の切り裂き声と悪魔の大群だった。
﹁くそっ! 状況は!? どうなってるんだ!﹂
自らも空から降りてくる魔物と交戦しながら必死に周囲の状況を
掴もうと叫んでいるのは、東部制圧部隊指揮官ロス・ガーディオン
だ。
﹁駄目です! 各部隊ごとに寸断をされ状況が伝わりま︱︱︱﹂
ズンッと音が鳴り、ロスに状況を伝えていた兵士の左胸から拳ぐ
らいの大きさの爪が突き出し、鮮血があたりにまき散らされた。兵
士の後ろを見てみると隊長2メートルはありそうな、紫色の体をし
たデーモンの姿が目に飛び込んできた。
﹁チッィ、化け物めが!﹂
1357
魔物に向かって得意な炎の魔法を打った。デーモンは回避しきれ
ずに顔にもろに当たり、そのまま乱戦の中へと吹き飛んだ。それと
同時に突き刺さっていた爪が抜けた兵士が地面へと崩れ落ちる。
﹁くそっ⋮⋮誰か! 誰かこのことを伝え︱︱︱﹂
︱︱︱ギャオォォォ!!!!
バッとロスが振り返ると目の前にいたのは、頭は獅子、胴体はヤ
ギの胴、尻尾はドラゴンの尻尾をした怪物だった。
通称﹁キマイラ﹂。危険度はAランクに指定される魔物。口から
吐き出される炎は石をも焼き、鋭い牙はどんな鉱物でも噛み砕くと
言われ、人々に恐れられていた。
そして、その恐怖の的であった牙がすでに目の前に迫ってきてい
た。
﹁あっ︱︱︱
次の瞬間、頭が食いちぎられた胴体がまた一つ、戦場に転がって
いた。
==========
﹁撤退! 撤退!﹂
同じころ、第1遊撃部隊も同じく魔物の攻撃を受けていた。
1358
﹁ミーロさん! 前はもう駄目です! 完全に壊滅しています!﹂
﹁くっ! ⋮⋮一体どこから⋮⋮﹂
﹁考えるのは後です! 今は一刻も早く離脱を!﹂
﹁ええ、分かっている。全軍後退!﹂
第1遊撃部隊指揮官ミーロ・ファルシムの声に反応した何人かは
来た道を引き返し始めていた。だが、乱戦状態となっている戦場に
その声は殆ど届いておらず。多くの兵士がその場に残り、必死の攻
防を続けていた。恐らく彼らは隣の味方の叫び声さえも聞こえてい
ないのだろう。
﹁クッ⋮⋮﹂
その様子を見たミーロは剣を構えたかと思うとそのまま、乱戦の
中に突入をし始めていた。
﹁! ミーロ隊長!﹂
呼び止める声も気に留めず、ミーロは今にも魔物に食べられそう
な味方の兵士を見つけると、その魔物の目に向かって全力で剣を突
き刺しにかかった。
﹁はぁぁぁぁぁぁぁぁ!﹂
女性とは思えないほどの気迫に、魔物が一瞬怖気づいた。その一
瞬を狙い一気に間合いを詰めると魔物の目に鋭い剣戟が突き刺さり、
そして、魔物の頭の後ろに突き抜けていた。
1359
﹁今のうちに逃げなさい!﹂
ミーロに助けられた兵士は何かを言いながら走り去っていく。魔
物は必死で振り払おうともがくが、そのさらに上を行くミーロの力
でそれは叶わず。徐々に大人しくなって行く。
﹁トドメ!﹂
グッと渾身の力を入れ一気に勝負を決めにかかったミーロだった
が、次の瞬間横から凄まじい衝撃がミーロに襲い掛かった。
剣を手放してしまいそのまま地面へに叩き付けられてしまった。
﹁グォォォォォォォ!﹂
見ると、緑色のずんぐりとした体格が目に入ってきた。オークだ。
オークは突進の勢いそのままに、拳を振り上げ、ミーロ目がけて
一気に叩き落としてきた。
咄嗟に横へ回避をしたが、あと一歩届かず右肩にオークの重い一
撃を受けてしまった。
ズドォンと当たりに地響きが聞こえ地面に亀裂が走る。
﹁う゛⋮⋮うう゛⋮⋮﹂
体の大半は無事だったが、右腕は上からつけていた鎧ごと壊され、
見るも無残な姿になっていた。
そこに、先ほどのオークが再び拳を振り上げようとした瞬間。
1360
﹁うわぁぁぁぁぁぁ!﹂
叫び声と共に、一人の兵士がオークの足に切りかかった。その剣
先はオークの足を切断することは叶わなかったがオークの気を逸ら
すことには成功した。自分の足を斬った者を始末するべく体勢を変
えるオーク。
﹁来るなら来てみろ! てめぇなんざ怖くねぇぞ!﹂
見ると、先ほどミーロに助けられた兵士だった。遠くからでもわ
かるぐらい膝が笑って、腕も震えていたが、眼だけは逸らさずにじ
っとオークを見つめる。
﹁誰か⋮⋮ミーロ隊長を助けてくれ!﹂
その言葉に⋮⋮もと、ミーロを止めようと走ってきていた兵士が
追いつき、ミーロを抱え上げ離脱をしようと試みる。
﹁待って! 彼が⋮⋮彼を助けなさい!﹂
痛みに顔を歪めながらも尚も味方の兵士を助けようとするミーロ
を無理やり運んで行く。
ミーロが離脱する直前、彼女に見えたのは彼女が助けた兵士がこ
ちらに笑いかけていた顔だった。
その後、彼の姿を見たものは誰もいなかったという。
1361
第120話:風雲急を告げ︵後書き︶
第3章はこれにて終わりです。中途半端だという声が聞こえてき
そうですが、第4章のお話的にこの辺で切らないと、きる場面を失
いそうでしたので、そうさせてもらいました。
あと、更新も遅れて申し訳ありません。就活が終わったらまた、
いつもの更新速度に戻させていただきますので、もうしばらくご辛
抱願えたらと思います。
﹁第4章:アルダスマン国の崩壊﹂は来週あたりから始まると思
います。が、詳しいことは未定です。
1362
第121話:戦火に包まれた王国︵前書き︶
リアルが忙しくて少しずつしか進めることが出来ていませんが、
気合で乗り切って見せます。
1363
第121話:戦火に包まれた王国
﹁報告です。人族の部隊を二つ撃破。現在、追撃中とのこと﹂
薄暗い部屋に男の声が一つだけ響く。その直後、雷が落ちたの
か雷鳴が轟いていた。だが、王の間にいた三つの影はピクリとも動
じなかった。
﹁ヒッヒッヒッ⋮⋮取り合えずは上々の立ち上がりかの﹂
何処かで聴いたことがあるような声の笑い声はイボガエルの鳴
き声みたいに低かった。
﹁ガラムはどうしている?﹂
﹁はい、例の少年を押さえる為に奔走している模様で﹂
﹁たかが一人の小僧ごときに⋮⋮まあ、お主と脳筋の報告通りなら
手を打つにこした事は無いか。その鎖も未だに取れないのだろ?﹂
﹁ヒヒッ⋮⋮完全にしてやられたのぉ⋮⋮﹂
じゃらじゃらと音を鳴らす土の鎖を見て男は思わず苦笑いをし
てしまう。
﹁あの脳筋でも壊せぬ鎖を作れるとはの⋮⋮龍族迎撃の件も含め面
倒な奴が現れたな﹂
1364
﹁お蔭で生活しにくいでございますよ﹂
﹁フハハハッ、その小僧とは是非とも一戦してみたいわ﹂
﹁ご冗談を。いくら我が主でもただでは済まされぬと我は見ますが﹂
﹁そういえば、あれ以来龍族の王は行方不明だったな﹂
﹁ヒッヒッヒッ⋮⋮恐らくですが例の小僧に倒されたと見るべきで
しょうな﹂
﹁まあ、死体が見つかっておらぬ以上確定は出来ないがな、龍族の
王を単騎で葬る人間⋮⋮ますます戦ってみたいわ﹂
単騎かどうかは分からないはずだが、男の頭の中では少年が単
騎で倒したと思っているようだ。
﹁ヒッヒッヒッ⋮⋮アスモ様、まだ断定は出来ませぬぞ﹂
﹁ふもむ、それが無かったにせよ数百人を葬る魔法を使えるのだか
らな、我が下僕にでも出来たら最高だろうな﹂
アスモと言われた男は強者の顔を思い浮かべ笑う。それを見た
二人は呆れるしか他無かった。
こうなってしまうと当の本人以外ではどうにもならない。
﹁ヒヒッ⋮⋮その件も含めどうなるかはガラム次第でしょうな﹂
﹁そうだな。それまで我は高みの見物だな⋮⋮﹂
1365
アスモと言われた男は少しだけ残念そうに言いながらも、その顔
は何故か笑っていた。
==========
アルダスマン国首都メレーザは、混乱に包まれていた。
再編された軍隊が出陣から僅か一週間足らずで逃げ帰ってくると
いう異例の事態に国民の間には不安が募る。さらに、戦った相手は
龍族では無く、魔物⋮⋮つまりは魔族だと言うのだからもはやどう
にもならなかった。
東部制圧部隊がメレーザに帰還したのは、出陣から僅か一週間と
4日。
第2遊撃部隊がその3日後。
その後も、各地で敗れ去った部隊が続々と帰還をしてくる。
そして、二週間が経過した頃、軍隊だけでも数千と言われる死者
が生み出されていた。こうなって来るともはや、軍としての体裁は
整わず実質の総崩れと言わざる得なかった。
軍隊が機能しないので、当然地方の都市の守りにも混乱が生じた。
1366
国から直接派遣されていた駐留部隊は大半が司令官の自己判断によ
り首都への帰還を始めた。実際、これが人間同士の戦いであったな
らば、または普通の戦いであったならば、ある意味では正しい判断
だったのかもしれない。
だが、これは結果として最悪の事態を招いてしまうこととなる。
各地方都市の守備が疎かになったのを察知した山賊などが街を襲
い始めたのだ。
さらに周辺隣国の国々も領土拡大のチャンスとアルダスマン国に
宣戦布告を行い侵略を始めた。当然彼らも魔族と戦うのは出来る限
り避けたいので、被害が出ているところから大分通り地方などを切
り取ろうと考えた。
そこに、それを奪い合う形で周辺国同士で衝突が発生。気付けば、
アルダスマン国全土が戦火に包まれるという最悪の結果を招いてし
まっていた。
もちろん、国家も何もしなかった訳では無い。
だが、軍隊の大部分を損失したアルダスマン国に出来ることは限
られていた。同盟国家があったのかといえば無く、ギルドに介入を
お願いしたかったが周辺国の参入によりそれも断念。
結論を言えば、アルダスマン国は首都メレーザを中心とした領土
を守る事しか出来なくなってしまっていたのだった。
だが、その領土を守る兵士ですらも徐々に不足し始める事になっ
てしまう。主な理由は兵士の脱走だ。
日々落ち続ける戦力。この事態にアルダスマン国は新たな兵力の
1367
増強に乗りしたのだった。
そして、真っ先に徴兵されたのは、あろうことか戦いも全く出来
ない生徒も多数存在する魔法学園だったのだった。
==========
・第1次エルシオン防衛戦∼現在に至るまでの被害状況
・戦闘参加者:23000人
・魔族:約3000人︵魔物含む︶
・人族:約20000人︵隣接地域兵力含む︶ ・死者:5000人以上︵他非戦闘参加者:2000人以上︶
・主な戦死者
・アルダスマン国
・ロス・ガーディオン︵戦死︶
・怪我人:1万人以上︵他非戦闘参加者:5000人以上︶
・行方不明者:多数︵他非戦闘参加者:398名︶
1368
第121話:戦火に包まれた王国︵後書き︶
私は戦争などにそこまで詳しくは無いので、かなり曖昧な個所も
たくさんありますので、多少のミスには目を瞑っていただけると有
難いです。
ですが、﹁これは明らかにおかしい﹂というのがあれば、優しく
感想欄に書いて下さると有難いです。
1369
※
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4/23
誤字を修正しました。
誤字を修正しました。
第122話:フォートの攻防戦︵前書き︶
※
1370
第122話:フォートの攻防戦
﹁はぁ!? あなた、自分が何を言っているのか分かっているの!
?﹂
プルプルと体を震わし怒りを露わにした。
﹁いいえ、そもそも私は上層部の声を届けに来ただけですので、理
解する必要も無いかと﹂
しらばっくれる使者にアルゼリカは怒りをぶつけていた。
﹁大体、生徒で部隊を作るとか本気なの!? あの子たちの大半は
魔物すらも戦ったことがない子たちなのよ!? その子たちに行き
成り魔族と戦え、人と戦えって言って出来ると思っているの!?﹂
﹁さぁ? 私はその辺の事は詳しくないのでなんとm︱︱︱
﹁ふざけないで!!!﹂
アルゼリカは使者の胸元を掴み自分に引き寄せる。だが、使者は
なおも平然としていた。
一触即発の雰囲気に近場にいた別の教師がアルゼリカを宥める。
﹁落ち着いてください理事長。彼に言った所で何も変わりませんよ﹂
﹁それくらい分かっているわよ!﹂
1371
使者を掴んでいた手を粗々しくだが離したアルゼリカ。頭の中で
は分かってはいるのだろう。
﹁分かったわ。あなた今から私もメレーザに向かいます。そこで一
度キッチリとお話をさせてもらいますよ!﹂
﹁それは構いませんが⋮⋮話が通らなかった場合を考えてこのこと
は生徒たちにしっかりと報告をお願いしますよ﹂
﹁⋮⋮くっ、分かったわ﹂
﹁では、私はこれにて﹂
使者は一礼したのち理事長室を後にした。
﹁ふざけてるわ⋮⋮﹂
後に残ったアルゼリカは自分の椅子に座ると深々とため息をつい
た。
﹁それほど国も追い込まれているということでしょうか﹂
1372
﹁それでも馬鹿げているわよ。実戦経験もまともに積んでいない子
たちに部隊として戦える筈なんかあるわけないのに⋮⋮最悪、案山
子扱いされる可能性もあるわよ﹂
・ ・
かつての経験からアルゼリカは生徒たちの未来を想像していた。
﹁案山子⋮⋮?﹂
これまでの人生で戦争など殆ど無関係だった教師は意味が分から
ず首を傾げていた。
﹁要するに囮よ。数年前に起きた戦争で龍族が使った戦法で敵の龍
族も巻き込まれていたらしいじゃない。彼らみたいな事を言うのよ﹂
﹁そ、それは下手をすれば⋮⋮﹂
﹁まあ、想像に任せるわ。さて、私はメレーザに向かうわ。説明は
任せておくけどいいかしら?﹂
﹁あっ、はい。分かりました﹂
﹁それと、クロウを呼んで今からいう事を伝えてもらえる?﹂
﹁クロウ⋮⋮と、申されますとあの今年入った特待生の⋮⋮?﹂
﹁そうよ。多分エルシオンに戻っている筈だから至急呼び戻しても
らえる?﹂
﹁わ、わかりましたがエルシオンと言えばこの前襲撃があった筈⋮
⋮彼が生きていなかったら?﹂
1373
﹁必ず生きてるわ、彼ならね﹂
一体その根拠はどこにあるやら。頼まれた教師は理由を聞こうと
思ったが、この前の魔闘大会でのことを思い出し、彼女なりの考え
があるのだろうと考え直した。
﹁ええ、それでどんな事を?﹂
﹁もし、部隊を本当に作るとなれば隊長的存在は必須。先生方の誰
かに任せるのがいいのかもしれないけど、正直どこまでやれるか当
てにならない。そこで彼にお願いをするのよ﹂
﹁はっ? 隊長役を子供に? それは⋮⋮むしろ戦闘経験者の先生
を誰か⋮⋮﹂
﹁言ったでしょ? 当てにならないって。囲まれてすぐに死ぬよう
な軟な人なんかじゃいる方が邪魔よ。それよりもその中でも戦える
人がなるべきものよ﹂
﹁でもそれは、後方などにいればいいものでは? 指揮官が戦闘を
しても周りの様子が掴めないだけかと思いますが﹂
﹁これは私の考えだけど、隊長が前線で戦うってね、周りに勇気を
与えるのよ。指揮を執るだけ執って自分は安全なところにいる隊長
に従いたいと思う? 少なくとも私は嫌よ﹃自分は高みの見物かよ﹄
って気持ちになるわね。それよりも一緒に戦ってもらえると﹃この
人は指揮も執りながらも戦っている。負けられない﹄という気持ち
になるわね。私だけかもしれないけど﹂
1374
﹁は、はぁ⋮⋮﹂
未だに理解できていない様子の教師にアルゼリカは説明するのを
やめ、メレーザに向かう準備を始めた。
﹁いいから伝えるのよ。絶対にね。伝えていなかったらすべて終わ
った後にあなたの首が飛ぶかもしれないわよ? あなた家族いたよ
ね? 一家そろって路頭に迷いたくなかったら従うこと。いいね?﹂
﹁そ、そんな権力の使い方ありですか!? わ、分かりました。し
っかりと伝えますよ。ですが、死んでいたら無しですよ!? いい
ですか!?﹂
﹁そんな理不尽な事しないわよ。その時はその時よ。あっ、でもい
なかったらあなたが隊長役を探してね?﹂
﹁いや、ちょっと本気ですか?﹂
焦る教師を尻目にアルゼリカは準備を終え、部屋を出ようとして
いた。
﹁本気よ。じゃ任せたからね﹂
﹁えっ、あっ、ちょっ、まっ︱︱︱﹂
ガチャン⋮バタンッ。そんな音と共にアルゼリカは理事長室を出
て行った。後に残った教師はしばらく茫然としたのち
﹁なんでこうなるのですかぁぁぁぁぁっぁあ!﹂
1375
己に降りかかった災いを振り払うがごとく大声で叫ぶのであった。
==========
メレーザを囲ってある山々を南東に抜けるとフォートというメレ
ーザと同時期に建設された砦がある。建国時からメレーザを守る重
要要塞の一つであった。
城壁の高さ10メートル。そこにこの地方の山岳が加わりまさに
難攻不落の砦と呼ぶに相応しい城だ。
周囲にはカタパルトが40門ほど設置され、襲い掛かってくる敵
に槍の雨を浴びせさせる。城壁には何か所か穴が存在しその穴から
熱湯だったり、溶かした鉛などを下す専用の穴だ。
食糧も常に準備されており、万全の状態なら半年間は戦える仕組
もし、ここを攻め落とすならば税と血の川を作らなければなら
みになっていた。
ないだろう
とある軍師の評価だ。
だが、これらもあくまで人間同士の戦いでの場合だ。
1376
では、魔族はどうか? 魔族も当然地上を移動するので、この砦
に足はばめられるのは間違いないだろう。
だが、魔族には利点があった。
それは、飛行系の魔物がいることだった。人間はクロウみたいに
魔法を使ってでなければ飛行は不可能なうえ、その飛行技術はまだ
開発どころか作られたことすらもない高難易度魔法である︵クロウ
は除く︶
それに対して、魔族は生まれた直後から飛べる魔物などから出来
た飛行部隊を揃えてあった。数こそは少数であったが、その少数に
よる高空からの攻撃は強力だった。
彼らからしてみれば壁など無きに等しいと言えよう。
事実、フォートは今現在、飛行系魔族からなる部隊に襲われてい
たからである。
﹁射角を限界まで上げろ!﹂
一人の兵士の叫び声と同時に、城壁に並んだカタパルトが一斉に
傾きだす。そしてある程度傾いたところで止め、装填を開始する。
﹁急げ! 次が来るぞ!﹂
空を見上げてみると上空から急降下してくる魔族の集団が見えた。
魔物と城壁との距離はどんどん縮まっていく。
﹁装填完了しました!﹂
1377
40門からなるカタパルトが空へ牙を剥けている。各先端には毒
も仕込まれており、万が一致命傷に至らなくても死へと追いやる仕
組みとなっていた。
﹁一斉射撃用意!﹂
このような兵器は一斉に使うことで威力を発揮する。一斉に放つ
ことで回避を難しくさせ、なおかつ一気に士気を削ぐことが目的だ
からだ。
単発で撃てば、回避することも可能になるし、また当たったとこ
ろで被害も小さく敵からしてみれば大した脅威には見えないかもし
れない。
﹁撃てぇぇ!!!!﹂
合図とともに全40門。およそ1200本もの槍︵シャベリンと
いう投槍︶が放たれた。槍は魔物の一団へと一直線に飛んでいく。
︱︱︱グガァ!
何とも言えないうめき声と共に魔物たちが回避行動に移る。避け
きれなかった魔物には全身に突き刺さって落ちていく魔物や毒を受
けて落ちて行く。
だが、その攻撃ををすり抜けて尚も向かって来た。
﹁撃ち漏らしだ! 魔法兵迎撃開始!﹂
城壁に待機していた魔法兵たちが一斉に応戦を開始した。
1378
魔法兵の攻撃をさらにすり抜けた魔物たちが城壁にいる兵士たち
に襲い掛かる。あちらこちらから怒号と叫び声が飛び交っていた。
その頃、地上の方でも戦いは起きていた。
先鋒のゴブリンたちと人間がぶつかり合う。ゴブリンは弓兵とし
ての役割も果たしていたが、地上部隊との交戦により白兵戦を余儀
なくされていた。城壁の上にいる者たちが対空に専念出来るのも、
彼らの働きがあってこそだろう。
﹁くそっ! トムがやられた! 誰か運んでくれ!﹂
﹁馬鹿野郎! そんな暇あるか!! 目の前に集中しろ!﹂
数は人間の方が圧倒的に多かったが、個々の能力では魔族の方が
一枚上手だった。少しでも気を抜けば一気に持っていかれかねない
危険な状態だった。
戦いで傷ついて倒れた物の息がまだある兵士が平然と踏みつけら
れ、踏みつぶしてと戦場の足場は土が見えないほどに様々な色の血
が飛び散っていた。︵魔物の血の色は赤以外にも青や紫など様々な
色が存在する︶
﹁我らにはセラ様の加護があるぞ!﹂
セラ。人間の基本宗教で神として崇められている存在だ。実際に
見たものはクロウ以外では不明だが、その存在はあると信じられ長
きに渡って信仰の対象となっている。
﹁そうだ! 加護がある限り我らは負けぬぞ!﹂
1379
﹁﹁﹁おぉぉぉぉぉ!!!!﹂﹂﹂
何かを信じることによって生まれた力は、確かに兵士に勇気と力
を与えていたが、それと同時に無謀な突撃への引き金を引く場合も
あった。何故なら︱︱︱
﹁馬鹿! 前に出過ぎるな!﹂
﹁えっ︱︱︱﹂
グシャと音と共にゴブリンの後ろから出てきたオーガにぺしゃん
こにされる兵士。
﹁ジョォォン!!﹂
﹁くそぉ! 負けるな! やれえぇぇぇ!﹂
フォートでの戦いは尚も続くのであった。
1380
第122話:フォートの攻防戦︵後書き︶
※本編中に出てきた﹃トム﹄と﹃ジョン﹄は兵士の名前です。
1381
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誤字を修正しました。
第123話:Can you protect?︵前書き︶
※
1382
第123話:Can you protect?
急遽国からの指令により学生らによる部隊作成に理解できないア
ルゼリカ先生は自分が直接聞いてくると、メレーザに向かう準備を
してクロウを呼ぶようにと教師に命令、言わなければクビという強
迫をされたので、他の教師たちに内容を説明し、すぐにエルシオン
に向かうこととなった教師。
内心、不服だったが、一家全員路頭に迷うようなことにはなりた
くなかったので渋々了承をすることに。
エルシオンまでは通常の速度で行けば一週間はかかる。そこで彼
は早馬を用意しての強行を開始した。
そして、時間にして48時間、つまり二日でエルシオンに到着し
たのだった。
==========
﹁⋮⋮で、俺に役が回ってきたと?﹂
ギルド︵仮設︶に家を聞き出し、飛んでも無く豪華なお屋敷に思
1383
わず後ずさりをしてしまいながらも、クロウの元にたどり着いた教
師はクロウに会い、学園の生徒のみで構成された部隊編成とアルゼ
リカ先生に言われた事とを全て話した。
ちなみに、その時クロウは獣族の大人たちを集め、ある訓練を行
っていた真っ最中だった。今回の襲撃の件を考え、エリラ、テリュ
ール以外にも戦力が必要と判断し今まで、殆ど戦闘訓練を行ってい
なかった獣族の大人たちに訓練を行うことを決めていた。
しかし、もともと獣族は俊敏性に長けた種族ではあったが、筋力
は人間の平均以下であった。しかもクロウの元にいる獣族の大人は
全員女性であった為、筋力はさらに低かった。
俊敏力は高いので隠蔽戦などでは有利に戦えそうだが、全身を阿
保みたいに硬くした魔物などには相性が最悪なので、クロウは別の
攻撃方法を考案して実践中だったのだが、丁度そこに例の教師がや
って来たという形だった。
﹁ええ、私は戦争というものに参加したことが無いのでアルゼリカ
理事長が何故、あなたを選んだかは定かではありません。ですが、
アルゼリカ理事長はあなたを推薦されました。一つ、ここは力を貸
しては貰えないでしょうか﹂
こんな大役無理だろと教師は内面思っていたが、その思いは表面
出すことは無かった。初老と中年の境目を歩いている教師であった
が、その辺りは年の功とでも言うべきなのかもしれない。
﹁⋮⋮﹂
クロウは教師を見らずに自分の右後ろにある壁をジーと見ていた。
もちろん全く話を聞いていない訳でもないし、ふざけている訳でも
1384
ない。
というのも、クロウの見つめている壁の反対側には先ほどまで同
じ部屋にいたエリラを始めとした獣族などが全員待機している部屋
があったからだ。
︽透視︾スキルでジッと壁の先を見るクロウ。壁の先では一体何
の話だろうかと、壁に耳を立てているエリラや獣族の様子が伺えた。
﹁⋮⋮? どうしましたか?﹂
﹁ん⋮⋮いや、ちょっとな。それで返事だが︱︱︱﹂
教師に緊張が走る。これで来てもらえれば自分の役割は終わりを
迎えるが、断られた場合は今度は生徒たちの命を預かるであろう別
の人を自分で探さなければならないからだ。
﹁︱︱︱無理だ﹂
言葉を聞いた瞬間、教師はがっくりと項垂れた。ただし心の中だ
けであり、顔や姿勢は相も変らぬ姿であった。
﹁無理⋮⋮と言われますと、何か理由でも?﹂
﹁ああ、理由はいくつか存在するが一つは俺がいなくなった後のこ
の家を誰が守るかだ。見ての通りこの家は大きい。そしてそれなり
の数が住んでいる。俺がいなくなった後にここは一体だれが守れば
いい?﹂
﹁⋮⋮絶対とは言えませんが冒険者を雇えばよろしいかと。それく
らいならこちらで手配出来ますが﹂
1385
﹁はぁ? 本気で言ってるの? 知っているか? この町ってさ、
今冒険者は俺を含めて二人しかいないんだぜ?﹂
事実、この町にいる冒険者はクロウとソラだけだった。他の冒険
者はこんな危険な街に近寄って来ないのだ。
こういうところだと、稼ぎ場所だと言って一人や二人は火事場泥
棒でいたりするのだが、それすらもななかった。﹁全員﹃命を大事
に﹄作戦でもしてるんじゃね?﹂とクロウもぼやいていたり。
﹁自信の無い奴らがこの町に来た所で役立つ訳ないだろ。それにそ
もそもそんな奴らを雇うつもりは毛頭ないからな﹂
要するに﹁チキンはいらねぇ!﹂と言うことだった。そもそもそ
んな奴らを雇うぐらいならエリラに守らせた方が良いのだが。
﹁二つ目は不確定要素が多すぎる。いくら絶対的な守りを作り上げ
ても、いつそれらを上回るか予測も出来ないような時を開けるなん
て俺には出来ない﹂
龍族だけならまだ問題は無い。しかし、今回は魔族や人間までも
が介入してきている。最初に龍族が襲って来た時に魔族が使用して
いた武器︵爆炎筒︶を量産されて数で撃たれたりしたら結果は目に
見えている。当然、クロウはその対策もしているが、これだけを対
策しても他の手を打たれたらどうしようもないと言うのが現実だっ
た。
さらにエリラの父親の存在もクロウが拒否した理由の一つでもあ
る。エリラはかなり恐怖心を抱いていたようだし、出来るだけ傍を
離れるのは今はやめておいた方がいいだろうとクロウは考えていた。
我ながら過保護だなとクロウは心の中で苦笑していた。ただ、そ
れ程までに守りたい存在であるのもまた事実であった。
1386
﹁では⋮⋮あなたは生徒たちはどうなってもいいと?﹂
﹁じゃあ、あんたは家の者がどうなってもいいのか?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁あんたは生徒が大事かもしれないが、俺はそれよりも大事な者を
守りたいんだよ。俺の体は一つだ。ならどちらかを切り捨てなけれ
ばならない。教師をやっているならこれくらいは分かるだろ?﹂
﹁ぐっ⋮⋮﹂
なおも食い下がりたかった教師だが、クロウの言っていることも
正論なのも事実だった。どうしようと教師が悩んでいたその時であ
った。
﹁行けばいいじゃない﹂
クロウと教師が声がした方を向いてみると、そこに立っていたの
はエリラだった。
後ろのドア付近では獣族たちがどうしようと慌てているのが見え
ていた。
どうやら、全部聞いていたようだ。
﹁何のために毎日クロから訓練を受けていると思っているのよ。私
にだって守る事は出来るわよ﹂
エリラが胸を張って答える。思わぬ所からの助け船だ。と教師は
1387
咄嗟に判断し追い打ちをかけにかかった。
﹁家の方もこう言っていますし、一つ信じてみてはいかがでしょう
か? 大切な人なら信頼することも大事だと私は思いますが﹂
﹁信頼しているのと力があるのは別問題じゃねぇかよ⋮⋮﹂
クロウは聞こえない程度にぼやいた。
﹁ほら、サヤやローゼさんたちの事も大事でしょ?﹂
そうだなとクロウは言ったはもののクロウの顔色は変わる事はな
かった。そして唐突にこう切り出した。
・ ・ ・
﹁⋮⋮エリラはさ、龍族数百人に対してさ守れる自信はあるのか?﹂
クロウは座っていた椅子から立ち上がり、エリラと向き合ってい
た。
1388
第123話:Can you protect?︵後書き︶
英語のサブタイトルとか初めてでした︵汗︶
英語力全然ないので合っているか不安ですが後悔はしていない︵
キリッ︶
1389
第124話:乾いた笑い
﹁守れる?﹂
﹁そうさ。自分自身だけでなくテリュールたちの分も含めてだ﹂
﹁そ、それは⋮⋮﹂
勝てる。エリラはそう言いたかった。だが一人や二人ならともか
く、数百人と言う数を相手出来るかと聞かれると、迂闊には答えら
れなかった。
だが、サヤたち特待生組が心配なのは事実だった。少しの間だけ
しか一緒にいなかったが、それでも知っている人が死ぬ危険がある
事にただ指をくわえて見ていと言うことはしたくなかった。
﹁⋮⋮勝てる⋮⋮勝ってみせるわ!﹂
やや足踏みしながらもエリラは言い切った。
﹁⋮⋮そうか⋮⋮じゃあさ、その数百人を相手にこの街を守れるか
?﹂
﹁えっ?﹂
﹁国の軍隊がいるとはいえ、正直な所どこまで当てになるかは分か
らねぇ。そんな時エリラだったらどうする? 街の殆どの住民は戦
闘能力はほぼ皆無で何も出来ないだろうな。その数千人の命を背負
って、エリラは戦えるのか? それも一人で﹂
1390
その質問にエリラは言葉を詰まらせてしまった。この広大な街を
一人で? そんなの出来るわけが無い。エリラは素直にそう思った。
だが、ここで引くわけには行かない。そう思い精一杯言い返す。
﹁わ、分からないわよ! でも、クロはローゼさんたちの事はどう
でもいいって言うの!?﹂
﹁どうでも言いわけないだろ!!! でも、どうしろっていうんだ
よ! 俺の体は一つなんだぞ! どちらかは捨てないといけないん
だぞ!﹂
﹁だからって、諦めるの!? こっちはまだ、来るかもってレベル
でしょ!? でも、あの人たちは確実に戦地に送り込まれるのよ!
? ﹃かもしれない﹄を優先して﹃起きる事﹄を無視してクロはい
いの!?﹂
﹁じゃあ、﹃かもしれない﹄が現実になった時はどうするんだ!?﹂
﹁だから、私を信じてよ! 絶対に守ってみせるわ!﹂
﹁無理だ! 一人で出来るわけがないだろ!﹂
言ってしまった。
クロウは冷静に考えて、エリラが一人で守れるわけが無いと考え
ていた。俺はあくまで異質の存在。俺が出来る事の殆どをエリラた
ちが出来ないということを忘れなかった。
だがこのとき、彼は彼女たちを過保護に扱ってしまっている事が
頭から離れてしまっていた。勿論この判断は合っている。いくらエ
1391
リラがレベル100近くで強力な武器を持っていても、現時点でク
ロウが上げた事例に対処できるかと聞かれたら不可能だ。
だが、クロウは忘れてしまっていた。過保護にする余りに他者の
気持ちを考えると言うことを。
﹁⋮⋮もう、いいわよ! クロのバカァ!﹂
﹁あっ、おい待て!!﹂
少しだけ声を裏返らせながらエリラは急に走りだし屋敷の奥へと
消えていった。
後に残ったクロウと教師に気まずい空気が流れる。静かな空間に
ギリッと歯ぎしりの音が鳴った。
﹁くそっ⋮⋮!!﹂
音を出したのはクロウだった。
やってしまった。思わず叫んでしまっていた。
クロウは、エリラが前々から自分に背負ってもらっているだけだ
ったのを悩んでいたことを知っていた。故に何かしらの機会で色々
任せてみたいとも考えていた。
だけど、今回は余りにも状況が悪すぎる。龍族、魔族、人間、父
親、ガラム⋮⋮考えるだけでも頭を痛くするような内容がてんてこ
盛りだった。
だからクロウは、これは任せれないと判断し、エリラに何とか諦
めてもらおうと思っていた。だが、言い争いがエスカレートし、カ
ッとなって言ってしまったのだ。
1392
﹁⋮⋮え、えーと⋮⋮﹂
完全にばつを悪そうにする教師。心の中は﹁もう嫌だ帰りたい﹂
状態だった。
﹁⋮⋮行くよ⋮⋮﹂
﹁えっ?﹂
﹁その役割を引き受けると言っているんだよ!﹂
クソッと言いながら片足を貧乏ゆすりしているクロウから、思わ
ず回答を聞いた教師は一瞬自分の耳を疑った。
﹁い⋮⋮いいのですか?﹂
﹁良いって言ってるだろ。出発は今日の午後だったな、街の門で待
っていてくれ﹂
﹁は⋮⋮はい! よろしくお願いします!﹂
机に額をぶつけそうな勢いで一礼をした教師。彼からしてみれば
ホッとした気分だっただろう。
︵⋮⋮面倒な事になってきたぞ⋮⋮︶
頭を下げている教師を尻目に、クロウはエリラが消えていった屋
敷の奥の方を見ながらこれからの事を考えるのであった。
1393
﹁ニャミィ﹂
﹁? 何でございましょうか?﹂
教師が屋敷を後にしたのち、クロウは獣族たちがいた部屋に行っ
た。入った瞬間、事の経緯を聞いていた彼女らは物凄く居ずらい雰
囲気となっていたが、クロウはそんなことを気にせずに一人の獣族
を呼んだ。
ニャミィ。獣族の大人の中で最年長の獣族だ。と言っても年齢は
27とまだまだ若々しい獣族であった。クロウは彼女に前々から獣
族のまとめ役を任せていた。
﹁これを渡しておく﹂
そういうとクロウはニャミィにピンポン玉程度の大きさの無色の
水晶らしきものを手渡した。
﹁? これは何でございましょうか?﹂
1394
行き成り渡された水晶らしき物を見つめながら彼女は聞いた。
﹁んー、名前はまだ決まっていないけど、取り合ず︽伝令水晶︾と
でも言っておこうか﹂
﹁は、はぁ⋮⋮?﹂
﹁いいか、皆もよく聞いておいてくれ、俺はこれから戦地へと出か
けることになるだろう。当然、この家を留守にしないといけない。
そこでだ。もし、自分たちに緊急事態が起きた場合は迷わずこの水
晶を握って、俺を想像しながら魔力を送れ。そうすれば俺にその信
号が届く仕組みになっている﹂
﹁? こういうのはエリラ様に渡した方が良いのではございましょ
うか?﹂
言ってはいけないような気がしたが、ニャミィはクロウに聞いた。
その問いにクロウは首を横に振る。
﹁さっきの話は聞いていたんだろ? 今のエリラにこんな物を手渡
したら地面に叩き付けられてぶっ壊すこと間違いないだろ?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁はは⋮⋮帰ったらエリラには土下座の一つでもしないとな⋮⋮﹂
クロウは獣族たちの顔を見て乾いた笑いをしたが、その笑いに誰
一人としてついていく者はいなかった。
1395
第125話:彼の優しさは⋮⋮︵前書き︶
1396
第125話:彼の優しさは⋮⋮
さて、いつまでもへこんではいられないな。
ニャミィに水晶を渡したのち、今度はテリュールにもある物を渡
していた。
﹁?⋮⋮これは何?﹂
テリュールに渡したのは銀色に輝くブレスレットだった。表面に
は文字が刻まれており、一見すると何を書いているのかよくわから
ないが、規則通りに解けば魔法式が形成されるようになっている。
本当は指輪レベルまで小さくしたかったのだが、今回は時間が足
りなかったので腕輪型にした。
﹁まあ、話は置いといてまずは付けてくれ﹂
俺に促されるがままにテリュールは右腕の手首付近に腕輪を取り
付けた。
﹁これでいいの?﹂
﹁OK。じゃあそのままジッとしててくれ﹂
︱︱︱スキル︽契約︾発動
1397
腕輪が僅かに光を放ち、そしてすぐに何事も無かったかのように
元に戻った。
﹁???﹂
当然、説明を全くしていないので何が起きたか分からないテリュ
ール。
﹁今のはスキル︽契約︾を少しだけ改造して使った能力で、今から
その腕輪はテリュール以外の人は一切使えなくしたんだ。俺を除い
てな﹂
﹁えっ⋮⋮で、これは何なの?﹂
﹁ほら、この前魔力の流し方を簡単に練習しただろ? あれをその
腕輪に行えば詠唱無しで強力な︽魔弾︾を撃てる仕組みになってい
る﹂
テリュールはこの世界に来る前は魔法やスキルが使えない世界で
過ごしてきた。だが、使えない世界にいたからと言って魔力が無い
わけでは無く、︽神眼の分析︾で見てみるとしっかりとステータス
の魔力欄に数値が記載されていた。
それで、魔法はまだ使えないので魔力を操作する練習を簡単なが
らに行っていた。と言うのも、魔法は使えなくてもこうやって、道
具に流しこめば魔法を疑似的にだが使用可能になる。
そして、この腕輪にはリネアに教えた魔法式よりも遥かに高度な
魔法式を組み込んでいる。数学で例えるならリネアに教えたのが因
数分解なら、この腕輪に書き込まれているのは微分、積分レベルの
内容だ。︵分かりにくいかな?︶
そのため、僅かな魔力でも強力な魔法を撃てるようになっている
1398
という訳だ。
﹁俺はもう行かないといけないから、庭で一人で練習して使い慣れ
てもらいたいんだ。俺がいない間少しでも戦力は欲しいからな﹂
﹁わ、分かった⋮⋮﹂
色々あったが、俺がテリュールの傍に長期間いないのはこれが初
めてだったりする。色々と不安だが、ここは信じてみることにする。
保険も色々とかけているしな。
﹁⋮⋮クロウ﹂
﹁? なんだ?﹂
・ ・
﹁⋮⋮無茶はしないでね﹂
﹁⋮⋮ああ、そっちもな﹂
・ ・
やはり心配なのだろう。向こうの世界でも度々無理をしてきた前
科があるのでテリュールに念を押されてしまった。
1399
準備も整い出発の時刻になった。一応、俺が少し家を空ける事は
ミュルトさんとソラには伝えておいた。ガラムにはミュルトさんか
ら伝えられるとは思うが、知らないで欲しいのが正直な所だ。
﹁じゃあ⋮⋮行ってくるわ﹂
﹁気を付けてください﹂
﹁気を付けてね﹂
ニャミィを始めとする獣族とテリュールが玄関で見送りに来たが、
そこにはエリラの姿は無かった。
︵エリラ⋮⋮︶
エリラには色々と言いたいことがあったが、結局何も言わずに出
て行くことになってしまった。彼女の事はテリュールたちに任せる
ことになってしまったのは悔しいな。
﹁⋮⋮じゃあ、行ってくる﹂
﹁クロウお兄ちゃん﹂
俺が家を後にしようとしたとき、フェイが目の前にやってきた。
一応子供たちにも家を空ける事は言っておいたが詳しいことまでは
話していない。もっとも、話したところでどこまで理解できるか謎
なのだが。
﹁出かける時は﹁えがお﹂で、なのです!﹂
1400
そういって、フェイがにっこりと笑ってくれた。彼女のを顔を見
たとき、少しだけだが俺の心に日差しが差し込んで来た気がした。
﹁⋮⋮ああ、ごめんな。行ってくるよフェイ﹂
﹁はい! いってらっしゃいなのです!﹂
フェイの頭を撫でながら、俺も笑って言葉を返す。
まさか、こんなところでフェイの無邪気な笑顔に心を救われた気
分になるとは思いもよらなかった。一時期は同じぐらいの年齢だっ
たことを考えれば、何とも不思議な感覚だな。
︵⋮⋮エリラ、気を付けてな⋮⋮︶
家を出る直前に今一度、我が家の方を振り向き心の中で、そう呟
いた。
﹁⋮⋮さて、頑張るとしますか﹂
俺は待ち合わせ場所の街へと急いだのだった。
==========
いつもは二人でいる部屋のベットに、今は私だけ潜り込んでいた。
﹁⋮⋮﹂
1401
やってしまった。つい怒ってしまった。
クロが、私の⋮⋮皆の為を思って言ってくれている事ぐらい分か
っていたのに⋮⋮。常識的に考えればクロは当然の事をしたまでな
のに。
この街から長期間離れる可能性がある話に簡単にいいよと言うわ
けが無い。私たちの事を考えればあの話を承諾する訳にはいかない
ことぐらい⋮⋮。
それでも⋮⋮私は知っている顔の人を見捨てる事なんて出来ない
⋮⋮したくない。
だから、私はクロに任せてと言った。
私だって守られるだけの存在じゃないもん!
確かに、私なんてクロから見たらまるで子供のような強さかもし
れないけど⋮⋮私だって強くなったんだもん。沢山特訓したんだも
ん。サヤとの特訓だって何回大けが負ったか分からないぐらい頑張
ったもん。
私にだって出来る事ぐらいあるはずだもん。
﹁⋮⋮私だって⋮⋮﹂
レベル98なのよ? 普通の人だったらまず届かない領域なのよ
? ⋮⋮そういえば、クロの数値も一回見てみたけど多分あれは誤
魔化していると思うわ。じゃないと私よりはるかに低レベルなのに、
私をいとも簡単にねじ伏せれるわけないじゃないのよ⋮⋮。
何よ⋮⋮自分は偉そうに⋮⋮
⋮⋮クロって何者なんだろう⋮⋮
1402
⋮⋮いや、そういうことじゃない。
﹁ああっ! もうっ!﹂
だんだん考えている内容がおかしい方向に進みだしたのに気付き、
思わず布団から顔を出したけど、なんか顔を隠していないと落ち着
かなかったので、今度は枕に顔を埋めることにしたわ。
枕に付いたクロの匂いが伝わってくる。
﹁⋮⋮落ち着く⋮⋮﹂
⋮⋮いやいや、私そんな趣味持っていないからね?
﹁⋮⋮そういえば、私って寝相が悪かったのよね?﹂
クロからの話だと、関節技決められたり、投げられて布団から落
ちたりとかされたらしい。当然、私は無自覚なんだけど。
⋮⋮よくよく考えれば、今までクロに一回も離れて寝ようって言
われた事ないわ⋮⋮。
出会ってからずっと今日まで、いつも隣にいてくれたっけ? 私
だったらそんなに寝相悪かったら絶対離れて寝ようって言うわね⋮
⋮。
﹁ほぼ毎日睡眠を阻害される⋮⋮考えただけでも体が持たなさそう
だわ⋮⋮﹂
改めてクロって優しいのだなと再確認させられたわ。
1403
﹁⋮⋮あれもクロの優しさなのかな⋮⋮?﹂
そう考えると、なんだか自分が恥ずかしくなって来た。
クロがサヤやローゼさんの事をないがしろにする訳ないのに⋮⋮
なのに⋮⋮
気付けば、夕日が山の向こうへと消え始め、月が出始める時間帯
へとなっていた。モヤモヤしたままだったけど、このままで言い訳
ないよね。
思い切ってベットから抜け、部屋を出て、一階へと降りた。リビ
ングに来てみると食事の準備を進めている皆の姿がそこにはあった。
珍しいことに子供たちも食器を出したり、食事を運んだりなど手伝
っていた。
﹁⋮⋮エリラ様?﹂
声をかけられて振り返ってみると、ニャミィが立っていた。最近、
ようやく私も獣族語を理解できるようになって来た。クロは何故か
話せれていたから、クロから色々と教わったわね⋮⋮。
﹁あっ⋮⋮ごめんね。邪魔だったかしら?﹂
﹁い、いえ、そんなことございません!﹂
﹁⋮⋮所で珍しく子供たちが手伝っているわね。いつもだったらま
だ、外で遊んでいそうなのに﹂
﹁ええ、クロウ様がお出かけになられて、自分たちも頑張らないと
1404
とか言って、色々と家事を手伝い始めたのでございますよ﹂
﹁出かけた⋮⋮? どこに?﹂
﹁学園の方でございます﹂
行ったんだ⋮⋮。
﹁⋮⋮ねぇ、私に何か言っていた?﹂
恐る恐る私はニャミィに聞いてみた。
﹁いえ⋮⋮特に何も⋮⋮﹂
﹁そう⋮⋮﹂
﹁ただ⋮⋮﹂
﹁?﹂
﹁強いて言うなれば⋮⋮﹃帰ったらエリラには土下座の一つでもし
ないとな﹄とはおっしゃっていました﹂
﹁⋮⋮嘘﹂
﹁⋮⋮本当です﹂
ニャミィの言葉を聞いたとき、私は自分の存在がとても小さいよ
うに感じた。
1405
﹁あんなこと言ったのに⋮⋮﹂
私はクロに思わずバカと叫んだ事を思い出していた。普通、奴隷
である私が主人であるクロに向かって言うことなど許されない言葉
だ。過激な人なら制裁⋮⋮いや、そもそも言い合いすらも許されな
い。
クロが私⋮⋮奴隷に対しても、いや異種族に対しても決して無下
には扱わ無い事は分かっている。それでも立場と言うものがあるの
は間違いない⋮⋮特に人前なら尚更なのに⋮⋮なのに⋮⋮。
﹁え、エリラ様?﹂
気付けば何故だか涙が出てきていた。ぐしぐしと服の袖で拭いた
が後から後からと流れ落ちて来る。
﹁⋮⋮ごめんなさい⋮⋮﹂
私の様子に気付いた子供たちが私の傍に集まってきて、心配そう
な目で見つめて来ていた。私はその中で、自分の愚かさとクロの優
しさにしばらくの間、泣き続けていた。
========== ﹁⋮⋮何をしているのですか?﹂
﹁ん? これか?﹂
1406
俺の目の前には紙の束が置かれており、俺は一枚一枚魔法でその
紙に文字を刻み込んでいた。
﹁秘密。所で人数はそれで間違いないんだろうな?﹂
﹁え、ええ。間違いないはずですが﹂
﹁そうか⋮⋮まあ、余ればそれでいいか。足りなかった時はあんた
をしばくからな?﹂
﹁は、はい!﹂
馬車の中で立ち上がり敬礼をする教師。俺はその光景には目を向
けず、黙々と目の前の作業に集中する。
現在、俺は馬車で移動をしている。馬だけなら2日で着くとのこ
とだったが、馬車に切り替えてもらった。これでも最速は3∼4日
かかるらしいが、その頃までに付けば問題ないとのこと。
﹁魔法式⋮⋮? でも、こんな構文は見たことありませんね﹂
﹁当然だ。じゃないと意味ないからな﹂
﹁? 意味ない?﹂
﹁それも秘密だ﹂
教師がちょくちょく、聞いてくるが全て秘密で押し通しながら、
俺は学園に付くまでの3日間。ほぼ不眠不休で作業を続けるのだっ
1407
た。
1408
第125話:彼の優しさは⋮⋮︵後書き︶
今回は後半部分にすごい悩みました。人間って訳し方次第で考え
方が変わって来るんだなと思いながら書いていました。当然と言え
ば当然ですが。
1409
第126話:決戦場所と不吉な言葉
アルゼリカ先生からのお願いを承諾したクロウは、アルゼリカ
先生の言葉を伝えに来た教師と共に馬車に揺られながら魔法学園を
目指していた。
﹁しかし⋮⋮何故、あのとき急に行くと決心なされたのですか?﹂
﹁あっ?﹂
作業中の手を止めることなく声だけで反応したクロウ。多少不
機嫌な感じが流れているが、これはほぼ徹夜2日目に突入している
からであろう。
﹁いえ、それまで行かないとおっしゃっていましたので、なぜ急に
と思いまして⋮⋮あの奴隷と言い争ったからですか?﹂
﹁うーん⋮⋮﹂
クロウは作業をしていた手を止め天を見つめると、やや間があ
ったのち、こう答えた。
﹁そうだな⋮⋮そうなるかな⋮⋮まあ、過保護過ぎていた面からっ
てのもあるけどな﹂
﹁と、言われますと?﹂
﹁俺に依存し過ぎるのも問題かなって⋮⋮ただ、今回は状況が状況
1410
だけに失敗だろうけどな⋮⋮せめてあと一週間あればなぁ⋮⋮まあ、
無い物ねだりをしても仕方が無いか⋮⋮﹂
⋮⋮私の経験からすればあ
﹁ときに⋮⋮身内内のお話かもしれませんが、あの言い争っていた
人は貴方の奴隷ではありませんか?
のように言いたいことを言う奴隷など私は見たこともありませんの
ですが﹂
﹁それは、主人から絶対服従を︽契約︾で定められているからだろ。
俺はそんな契約をさせていない。ただそれだけだよ﹂
﹁そうですか⋮⋮ですが、公の場ではもう少し立場をわきまえさせ
るべきでは?﹂
﹁そうだな。その辺は教育不足⋮⋮まあ、エリラも気付いていると
は思うけどな﹂
奴隷とか異種
﹁では、何故あのように自由にさせているのですか?﹂
﹁自由って⋮⋮意思ある者には当然の権利だろ?
族とか関係ない⋮⋮誰しもが持つべき権利を俺は尊重しているだけ
だよ﹂
﹁はあ⋮⋮?﹂
﹁もういいだろ? 俺はこれを完成させなきゃならないんだから、
一人で作業をさせてくれ﹂
﹁あっはい﹂
1411
再び、紙に目を落とし何かを書き込み始めたクロウ。結局クロウ
と教師が馬車の中で話した会話はこれと、書いている魔法式のこと
だけだった。
と、言うよりクロウから放たれる異様なオーラのせいで、これ以
上教師が話すことが出来なかったと言った方が強いかもしれない。
︵うぜぇ⋮⋮︶
誰でもそうだとは思うが、真剣に作業しているときに話しかけら
れたりしたら、誰でもイラッとするものだろう。教師としてみれば、
先ほどの嫌な空気でそのまま移動しているので、静かなのが耐えら
れないのだろう。要は﹃気まずい﹄ということだ。
結局、その後魔法学園に到着するまで、二人は一切しゃべらなか
ったのであった。
﹁クロウさん、着きましたよ﹂
﹁ん⋮⋮?﹂
重い瞼を開き、目をごしごしと擦る。クロウが上を見上げるとそ
こには魔法学園の校舎があった。
1412
﹁くそ⋮⋮まだ、全然寝てねぇよ⋮⋮﹂
到着まで3日、そのうちの殆どを作業に費やしたクロウ、そして
つい先ほど作業が終わり眠りについていたのだ。時間にして2∼3
時間程度だろう。某テレビ番組で三徹した人に比べればアレだが、
それでもかなりのきつさだろう。
﹁取りあえず、まずは理事長室にまで来て下さい。たぶんアルゼリ
カ理事長も戻られていると思いますので﹂
﹁ああ⋮⋮﹂
魔法学園とメレーザの距離はエルシオンのおよそ半分、休まず進
めば1∼2日でたどり着ける距離だ。ただしこの場合、馬を1頭潰
してしまうのを頭に置いておかなければならないが。
教師の案内で理事長室まで足を運び部屋に入る。そこにはアルゼ
リカ先生が机の上に伏しているのと、何人かの他の教師たちが口々
に何かを言っている様子が目に入ってきた。
﹁ふざけるな! 一方過ぎだ!﹂
﹁こんな事に参加する義務など無いぞ!﹂
﹁そうだ! 参加などしなくてもよい!﹂
﹁しかし⋮⋮もし参加をしなければ、この戦争が終結した後が怖く
はないか?﹂
1413
﹁出資の殆どは国が行っている⋮⋮もし、資金を停止させられたら
運営が不可能になりますぞ﹂
﹁それだけではない、国に協力をしなかった罪を問われ下手をすれ
ば何かしらの制裁すらも考えられるぞ!﹂
﹁だからと言って、魔物すらろくに戦ったことが無い生徒が大半を
占めている部隊など案山子同然だぞ!﹂
﹁お前は学園が無くなってもいいというのか!?﹂
﹁あんたは、生徒がどうなってもいいのか!?﹂
最初はお互いに意見を述べ合っていたが、次第にエスカレートし
て行き、お互い罵倒したり髪を引っ張り合ったりと、終いには子供
の喧嘩みたいになってしまっていた。薄くなり始めた髪を必死に守
る教師の姿は非常にシュールで現実的な光景だ。
﹁⋮⋮! クロウ君!?﹂
ようやくクロウに気付いたアルゼリカ先生の一言で、これまで言
い合っていた教師たちの手が止まり、その視線は全員クロウに向け
られていた。
﹁お待たせしました。アルゼリカ理事長、約束通りクロウ君をお連
れしました﹂
クロウは連れてきた教師の言葉は無視をして、言い争っていた教
師の間を何の躊躇もなくすり抜けアルゼリカ先生の前に立った。先
生などの目上の人たちが話している間を何も言わず抜けることは失
1414
礼に値するが、クロウには関係無いと言わんばかりの堂々した通り
っぷりだ。先ほどの興奮の熱が冷めていないのか、教師たちが口々
スルー
に何かを言ったが、クロウからしてみれば﹁お前らどけよ﹂なので
無視をすることにした。
﹁よく来て下さいました。クロウ君、話は聞いていると思うけど、
あなたにお願いしたいことがあるの。それはあなたほどの若者には
重すぎる物です。ですが⋮⋮私はあなたが適任と判断しました﹂
これ
﹁で、部隊長をやってくれと⋮⋮﹂
﹁ええ、その通りです。来て下さったということは引き受けて頂け
ると判断して良いのでしょうか?﹂
﹁まあ、そういう事でいいですよ。本当は家が心配で来たくは無か
ったのですけどね﹂
﹁家⋮⋮? そういえばいつもの従者さんはどうしたのですか?﹂
﹁⋮⋮留守番ですよ﹂
あんな形で家に置いて来たので留守番と言って良いのか分からな
かったが、無駄な心配をさせるのも嫌だったクロウは留守番と答え
ておいた。事の事実を知っている教師も、言わない方がいい︵言っ
たら殺されそう︶と判断し、黙っておくことにした。
﹁そうですか⋮⋮すいません。このような時に家を空けさせてしま
って﹂
﹁大丈夫ですよ︵多分︶。それより出発日とかは決まっているので
1415
すか?﹂
﹁予定では⋮⋮明後日ですね﹂
﹁明後日!? 早くないですか!?﹂
﹁これでもかなり出し渋らせた方なのですよ。これ以上は無理だと
断言されて今に至るわけです﹂
﹁理事長! まだ出すと決まった訳ではありませんぞ!﹂
クロウとアルゼリカ先生の間に割って入るような形で先ほど言い
争っていた教師の一人が言った。
﹁決まった事です。私もこの参加には当然反対です。しかし、国が
潰れればそれこそ、この学園はお終いです。それなら出来ることを
やるべきと判断した訳です﹂
﹁ほざくな! 結局国に良いように使われるだけですぞ! 良くて
前線。悪くて単独特攻させられるのですぞ!?﹂
﹁では、あなたが国の軍部のトップと話してきなさい。それで認め
られればこのことは無しに出来ますが?﹂
﹁ぐっ⋮⋮!!﹂
それが出来たら苦労しねぇよという雰囲気が辺りに流れる。
﹁前線? 特攻? アルゼリカ先生。一体どういうことですか?﹂
1416
﹁そうですね⋮⋮クロウ君にも言っておきましょう。今回、すでに
向かう先が決まっているのです﹂
向かう先⋮⋮つまり、学園の部隊の向かう先と言うことになる。
実はクロウもそのことについて多少なりとも考えてあった。子供
たちで作り上げた部隊を一体どのような所に配属するのか。
首都は論外だろう。子供たちの部隊など見れば士気が落ちる事は
目に見えている。同じような理由で都市などの防御にも適さないだ
ろう。
しかし、もしそれらを消した場合残るのはどこかと聞かれると、
前線や補給部隊などに限定されてくる。あわよくば補給部隊として
ストレージ
運用してもらえることを願っていたのだが︵補給ならクロウ一人で
︽倉庫︾に入れて持ち運べるから︶どうやら、そんなに甘くはない
ようだ。
﹁⋮⋮一体どこなのですか?﹂
どうやら、補給と言うことは無さそうだった。では、一体どこに
連れていかれるのか。クロウは聞きたくなかったが聞かないことは
許されない立場なので、渋々聞くことにした。
﹁場所は首都メレーザより南東の山岳地帯にある砦です﹂
﹁砦⋮⋮名前は⋮⋮?﹂
クロウはこの世界の地理についてはそこまで詳しくはないので、
名前を聞いてもピンとこないのだが。そして予想通りアルゼリカ先
生から出てきた名前をクロウは知らなかった。
﹁名前はフォートと言う場所です﹂
1417
==========
﹁ふむ、思わぬ幸運が舞い降りたの﹂
ミュルトからクロウが出て行くとの情報を聞いたガラムは内心喜
んでいた。ギルドの仮設テントの中でガラムとレシュードが話をす
る。
﹁どうやら天は我らに味方をしているようだな、ですぐに行動をす
るのか?﹂
剣を引き抜き今すぐにでも暴れたい思いに駆られるレシュードを
ガラムが宥める。
﹁まあ、待て、一週間だ。あ奴の行動範囲を予測出来ない以上、あ
る程度の距離は取っておきたい。おそらく一週間辺りならあ奴も戦
地の中じゃろう。そうなればこちらに目が行きにくくなるワイ。そ
こを狙うのじゃ﹂
﹁オーケー。で、派手にやっていいんだな?﹂
1418
﹁小僧がいないエルシオンなど容易いことよ。そのために兵士も寡
兵を連れてこさせたのだからな﹂
﹁そうか、分かった。それまでは大人しくしておく、じゃ俺はそろ
そろ宿舎に戻るぜ﹂
そういうとレシュードは兵舎へと帰って行った。あとに残ったガ
ラムもテントの奥に引き下がろうと、仕切りを潜ろうとすると
﹁ひゃっ!﹂
ミュルトがガラムの顔を見て驚いた。
﹁⋮⋮なんじゃ?﹂
﹁いえ⋮⋮なんか話し声が聞こえたので⋮⋮何をお話されていたの
ですか?﹂
﹁なぁに、この街の今後についてじゃよ﹂
ガラムはそれだけ言うとテントの奥へと消えて行った。
﹁⋮⋮一週間⋮⋮寡兵⋮⋮どういうこと?﹂
盗み聞きをして僅かに分かった言葉を頼りに、話の内容を推測す
るミュルトだったが結局、その場で答えは分からなかった。ただ、
僅かにだが胸騒ぎを彼女は感じてはいた。
彼女がこの言葉の意味を理解するのは事件が発生した後のことだ
った。
1419
1420
第126話:決戦場所と不吉な言葉︵後書き︶
GWの真っ只中ですが、皆さんはどうお過ごしですか? 私は家
に引き籠ってパソコンを前にポチポチしています。今のPCではマ
イクラのバニラすらも出来ないので、マイクラ動画とvitaで満
足をするようにしています。
本編中に出てきたフォートについては﹁第122話:フォートの
攻防戦﹂を見て頂けるとある程度は分かるかと思われますので、そ
ちらをご覧になってください。
では、また次回もよろしくお願いします。黒羽でした。
1421
第127話:全校集会︵前書き︶
GW最終日ですね。まあ、いつもと変わりませんが︵笑︶
1422
第127話:全校集会
俺が魔法学園に着いた翌日の朝。いつもなら生徒たちはもう授業
が始まっている時間帯だが、教室には生徒の姿は見受けられず、そ
の代わりに学園の食堂には溢れんばかりの人だかりが見受けられて
いた。
全員が集めれる場所で何で食堂なのかと聞きたいが、室内で生徒
や教師全員が入れる場所と言うのがここしか無かったからだ。
普段はどこに集まっているのか不思議に思って聞いてみたら、普
通全校が集まる集会などは無いので、必要が無いとのことだった。
朝礼や連絡は全て各教室で行われるらしい。
で、俺は今どこにいるのかと言うと、その食堂の外で待たされて
いた。食堂の扉は薄い一枚の木の板で作られており、閉めた状態で
内部を見る事は出来なかった。まあ、俺は︽透視︾で見えるんだけ
どな。
扉の反対側からは沢山の生徒がおしゃべりをしているせいで雑音
みたいな音しか聞き取れなかった。ちなみに、俺の場合、集合場所
に早めに来て黙ってと突っ立ていることが殆どだった。何故かと言
うと、すぐ斜め後ろ辺りにはよく怒る体育教員がいつもいたからだ。
誰かとしゃべってみたりしてみろ、たちまち五月蠅い愚痴を聞かな
いといけない羽目になる。
それが嫌だったのか、俺の周りの奴らはいつも静かだったな。
そんな事を思い出していると、ふと食堂の中が急に静かになり始
めた。おそらく誰かが前に立っているのだろう。
1423
﹁皆さんおはようございます。本日皆様に集まって頂きましたのは、
今度編成されました部隊の隊長が正式に決まりましたので、報告と
紹介をさせていただきたいと思います﹂
静かだった場内が騒がしくなる。アルゼリカ先生が聞こえて来た
ので、おそらく前に立っているのも先生本人だろう。
﹁出発前日に報告することになりまして大変申し訳ございません⋮
⋮では、早速登場して頂きましょう﹂
先生の話が終わり、閉じていた扉がゆっくりと開き出す。
こんな登場の仕方など今までしたことはあるが、それは卒業式な
どで皆がいた時だけだ。一人で出てくるのは初めてなので緊張する。
扉が完全に開いたのを確認し、ゆっくりと歩き始める。俺の顔を
見た生徒の何人かが周りの人とヒソヒソ何かを話しているのが見え
た。
俺はアルゼリカ先生が立っている位置の隣に来ると真っ直ぐと生
徒の方を向いた。それを見計らってアルゼリカ先生が説明を始める。
﹁彼の名前はクロウ・アルエレス。特待生組の一人で冒険者をやっ
ています。ランクはC。つい最近話題になった︽炎狼︾の転異種討
伐者です。この前中止された魔闘大会でも彼の強さを見た者は多い
のではないでしょうか﹂
ざわめいていた場内がさらに騒がしくなる。転異種討伐かそれと
も魔闘大会かは知らないが、俺のことを知っている人は思いのほか
多いように見受けられた。
1424
﹁指揮は彼にお願いをしてもらいますので、皆さんそのつもりでい
て下さい﹂
アルゼリカ先生が進行をさせようと話をし始めた時だった。
﹁ちょっと! どういうことよ!﹂
場内に高い声が突如響いた。後ろの方から一人の生徒が前へとや
って来る。どこかで見覚えがある縦ロールの髪型が特徴的な少女だ
った。
やがて、前まで出て来ると俺の方を鬼の形相で睨み付けて来た。
﹁⋮⋮どうかしたのかレミリオン?﹂
色々いちゃもんを付けるわ、助けてあげたのに敵視されるわで散
々な目にあわせたこの顔を忘れるはずが無い。相変わらず立派な縦
ロールだことで。
﹁あんた実践で指揮とか取ったことあるの?﹂
﹁無い﹂
嘘ついてもしょうがないので、ここはきっぱりと言っておく。
﹁無い!? 冗談じゃないわよ!﹂
レミリオンの視線が俺からアルゼリカ先生へと移る。対するアル
ゼリカ先生は特に驚いた顔などはしておらず、すがすがしい顔つき
だった。
1425
﹁アルゼリカ理事長これはどういうことよ! まともに実勢経験も
ないのが大半を占めているこの部隊を指揮経験が無い人がまとめる
って言うの!?﹂
﹁ええ、そうです。他に人がいなかったので戦闘能力で一番妥当な
人を選んだまでです、他意はありませんよ﹂
﹁いなかった!? 嘘言わないでよ!﹂
﹁嘘ではありません﹂
無表情なアルゼリカ先生と感情丸出しのレミリオン。どっちも色
々な意味で怖い。
﹁あんたが自分でやればいいじゃない!﹂
レミリオンの言葉にアルゼリカ先生の眉が一瞬上がったように感
じられたのは気のせいだろうか?
﹁⋮⋮私には出来ませんよ﹂
アルゼリカ先生はそう言い返した。だが、レミリオンは納得でき
ないのか言葉を続けた。
﹁嘘言わないでください! 知らないとでも思っているのですか!
?﹂
﹁⋮⋮知らない? 一体どういうことだ?﹂
1426
その言葉に俺は反応した。
﹁あんた何も知らないのね。教えてあげるわよ!﹂
レミリオンはアルゼリカ先生を指さして場内に行き届くほどの声
量で言った。
﹁彼女は元アルダスマン国軍第4遊撃部隊隊長⋮⋮国軍で指揮を取
ったとこもある将兵よ!﹂
その言葉に会場全体の空気が凍り付いた。
﹁⋮⋮あなたそれをどこで知ったの?﹂
アルゼリカ先生は顔色ひとつ変えずに聞いた。
﹁そんな事はどうでもいいでしょ? それよりも元軍隊の一隊長が
何故指揮を取れないのか説明をお願いします!﹂
﹁⋮⋮昔の話よ。今じゃ指揮どころか剣も握れない⋮⋮そんな人を
陣頭に立たせて皆が奮い立つと思いますか?﹂
﹁⋮⋮フン、立つ訳ないじゃない。そんな奴は案山子にでもなって
いればいいのよ!!!﹂
﹁そうですね。その方が役立つかもしれませんね﹂
﹁ですが、それでも知識はあるはずよ! あんたせめて補佐ぐらい
はやるのでしょうね!?﹂
1427
その問いにアルゼリカ先生は首を横に振った。
﹁はぁ!? やらないっていうの!? なんでよ! 説明し︱︱︱﹂
﹁君! そこまでにしなさい!﹂
見かねた周囲の教師らが飛び出しレミリオンを捕まえるとそのま
ま、ズルズルと生徒たちの後ろへと引き下げていく。当然、彼女も
抵抗をするが大人4人がかりで止められればどうしようも無いだろ
う。
﹁ちょっ、話は終わっていないわよ! 説明をしなさいよ! 私は
納得していないわよ!!﹂
﹁いい加減にしなさい! これは理事長が決めたことだ! 一生徒
がどうこう言った所で結果は覆らないぞ! 君一人が出しゃばって
いいことじゃないぞ!﹂
教師の言葉に歯ぎしりをするレミリオン。ジタバタともがくが、
生徒の最後尾を過ぎそのまま食堂の外へと連れ出されて行く。
﹁クロウ! 私はあんたの指揮になんか従うつもりなんて毛頭ない
からね! いいね! 絶対に従わないから!﹂
置き土産に捨て台詞を吐きながらレミリオンは食堂の外へと連れ
出されていった。
﹁⋮⋮アルゼリカ先生?﹂
﹁⋮⋮続けましょう﹂
1428
俺はアルゼリカ先生に色々と聞きたかったが、何か事情があるの
だろうと思いこの場では聞かない事にした。
その後、簡単な日程を説明したのち、式は終了した。
1429
第128話:Survive it till the las
t !!︵前書き︶
The
誤字を修正しました。
last
survi
英語の意味は﹁最後まで生き抜け﹂です。和訳サイト様に感謝で
でした。
す。ちなみに私が最初書いた文は
ve
5/10
構文⋮⋮分からんかったんや︵泣︶
※
1430
第128話:Survive it till the las
t !!
クロウが生徒たちを校庭に集合させたのは、その日の午後だった。
﹁⋮⋮全員集まりましたか?﹂
クロウはアルゼリカ先生に点呼をお願いしていた。普段点呼など
はあまりしないらしく、来ない奴は放置をしているとのことだった。
そのためか、クロウの高校時代の点呼と比べ倍以上の時間を要す
る結果となってしまっていた。まあ、年齢的には小学生∼中学生ぐ
らいの集団なので多少は目を瞑りたりが、明日から向かうのは戦場
だ。自分勝手な行動や命令を聞かない者が一人でもおれば連携は乱
れ、兵は軍としての力を発揮できなくなる。
﹁⋮⋮十数人⋮⋮いえ、数十人⋮⋮来ていないらしいわ﹂
アルゼリカ先生がクロウの伝えるとクロウはやや落胆したような
顔つきになる。
﹁そうですか⋮⋮﹂
クロウはこの結果をある程度は予想していた。レミリオンやセル
カリオスを筆頭に特待生組を快く思わない連中は数多く学園内に存
在している。思春期真っ只中の生徒ならそれぐらいはあるだろうと
予想はしていた。
だが、まさか数十人規模で抜けてくるとは思ってもいなかったの
だ。
1431
︵そりゃぁそうだよな⋮⋮︶
行き成り戦いや戦場を知らない生徒たちで部隊を作れと言われ。
隊長は指揮経験が皆無でしかも自分たちと同じ生徒なのだ。さらに
言えば特待生の看板がなお生徒たちの不満に拍車をかけていたのだ。
勿論、不満を持っていようと集団を乱すような行動を慎んだ生徒も
多数いる。現にセカリオスはこの集合に参加をしていたからだ。あ
る意味、一番集団行動をしなさそうな人がいたのだから、クロウも
驚きを隠せなかった。
﹁⋮⋮これ、明日全員揃うなんてこと無いですよね?﹂
﹁それがそうでも無いのよ。国の方から﹃部隊に参加しない者は終
戦し次第処罰を与える﹄っていう伝令が来ているから有無を言わさ
ずに揃えないといけないのよ。最初は生徒の親などから参戦反対と
言っていたのが、これを見た途端シュンと大人しくなってそれから
文句を言う人が出なくなったのよ﹂
﹁はぁ? 何ですかそれ?﹂
あまりにも無謀すぎるお願いと思われる方もいるかもしれないが、
昔の戦でも逃げ出した者には罰則があり、このこと自体は別段不思
議な事では無い。
ただ、それをこんな子たちにも無理やり罰を科せるのには多少ど
うかと思われるが、戦いに出れば年齢、性別など全く関係無い。非
力な兵が強靭な兵に勝つこともありえるのだ。
クロウは生徒たちの両親の心の痛みを思い歯ぎしりをした。子に
先立たれるほど辛い経験など数多くないだろう。出来るだけ失いた
くは無い。それがクロウの本心だった。
1432
﹁⋮⋮分かりました。もう彼らは放置しましょう﹂
だが、クロウは放置する道を選んだ。これが、出発1か月前とか
ならクロウも何かしらの手を打っただろう。だが、出発は既に明日
に迫っていた。
そのような状況下で話を聞こうともしない生徒に構っている時間
など到底割けるわけが無かった。クロウはやむを得ず話を聞いても
らえる生徒の方を優先したのだ。
クロウはアルゼリカ先生に始めるとの趣旨を伝え台座に登り生徒
たちの前に立った。
﹁まずは話を聞いてくれてありがとう⋮⋮この中には特待生組を快
く思っていない人も沢山いるかもしれない。だが、それを一時置い
て参加してもらった皆には最大限の敬意を表すことでお礼とさせて
もらう﹂
クロウは︽倉庫︾からこちらに来るまでの馬車の中で作り上げた
魔法式が書かれた紙を取り出した。
﹁さて、今から俺たちが向かう場所は戦場だ。戦場はその辺の魔物
を狩るのとは訳が違う。明日も分からないまさに死地と言うに等し
いものかもしれない。隣にいる友達はもしかしたら明日にはもうい
ないかもしれない﹂
その言葉に反応してか隣の人たちと顔を合わせる生徒が出て来る。
﹁友達だけじゃない。自分たちもだ。明日にはその命は消えている
かもしれない⋮⋮一番前の君﹂
1433
﹁は、はぃ!?﹂
クロウは一番最前列の中央にいた生徒を指し、続けた。
﹁君は俺に﹃明日死ね﹄と言われたら⋮⋮死ねるか?﹂
シーンと静まり返る校庭。その質問に生徒は口を噤んだ。
﹁素直に言っていい、別にそれでどうこうしようとは思っていない﹂
躊躇っているのを感じたクロウは安心させるためにそう言った。
その言葉に少し安心した生徒は自分の答えを言った。
﹁し、死にたくないです!﹂
﹁そうか⋮⋮隣の君は?﹂
﹁わ、私もです!﹂
﹁君は?﹂
﹁⋮⋮嫌です。死にたくありません﹂
﹁⋮⋮そうか分かった。その言葉を聞いて俺は少し安心した﹂
﹁﹁﹁??﹂﹂﹂
クロウの言葉に教師たちは首を傾げた。戦いに参加したことが無
くとも、彼ら大人は色々な事を知っている。
この国の兵士に課せられた唯一で絶対の掟。それは﹁上の指示は
1434
絶対﹂だった。基本的に訓練の時以外では、自由で国からの安定し
た高収入を得られ特権もある兵士たちのルールだった。
死ねと言われれば死ななければならない。上の命令は絶対。それ
が厳密な軍を組織し巧みな連係戦術を可能として来た。故に人は個
々の能力は低くても人は大陸の大部分を制圧することが出来ている
のである。
そんな明日も分からないような兵士のことを知っていた教師たち
はクロウの言葉に疑問を覚えたのである。
﹁わざわざ戦地に死ぬために行くような人より、生きるために必死
になる人を俺は求めている⋮⋮死んだら何も残らない⋮⋮国のため
に死んだ英雄? そんな言葉なんか俺は求めていない﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
﹁俺が皆に求めるのは規律を守ることもそうだがもう一つ⋮⋮﹃最
後まで生きるために足掻き続けろ﹄⋮⋮だ。猛獣に食い殺されそう
でもナイフで喉を一撃刺せば腕は食いちぎられるかもしれないが、
命は残る。どんなに泥臭くてもいい﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
﹁生き抜いてみせろ⋮⋮いいな!?﹂
﹁﹁﹁は⋮⋮はい!﹂﹂﹂
クロウは生徒たちの返事を聞いて納得したような表情を浮かべた。
教師たちも色々言いたいことはあったが、クロウに全権を委ねてい
る以上下手な発言は許されないので黙っていた。
1435
﹁よし、ではこれから皆には一人ひとりこれを受け取ってもらう﹂
持っていた紙束の一枚を手に取り生徒たちに面が見えるように見
せる。紙は縦10センチ。横3センチ程度の長方形の紙で出来てお
り魔法陣が一つだけ書かれていた。
﹁本当は指輪みたいなアクセサリーにしたかったのだが、時間が無
かったので紙に代用させてもらった。君たちには今から俺と一時的
な︽契約︾を結んでもらうことにする﹂
生徒たちがざわめきだす。当然と言えよう、彼らにとって︽契約
︾とは下僕になれと言っているのと等しいことだったからだ。
﹁静かに! あくまで戦いの間だけだ。約束する。なんなら契約内
容に﹃戦争終結後に契約を破棄しなければ主に死を与える﹄と入れ
てもいいぞ?﹂
︽契約︾に主へのルールを取り入れるのは異例の事だ。だが、ク
ロウはそれぐらいしないと皆が安心して結んでもらえないと思いこ
のルールを入れたのだ。勿論、当の本人は端から約束は守るつもり
だったのだが。 死を与える。それ程までの言葉を聞いて多少なりとも納得した。
﹁でだ。︽契約︾はこの紙を媒介にして行う﹂
︽契約︾に媒介を使うことは珍しい事⋮⋮と言うよりかなり希少
な素材を使用するので滅多に使うことは無いが、クロウからしてみ
れば、﹁えっ、書けばいいだけじゃん﹂ぐらいの安価な物だった。
それを聞いた教師の何人かは腰が抜けてへたり込む者もいるほどだ
1436
った。ちなみに市場でその素材を一個買えば一般家庭100軒分が
一生遊んで暮らせるほどの大金になるとか。
もっとも、こんな希少アイテムなど100年に一回見つかるかど
うかも怪しいと言われるほどのレアアイテムなので市場に並ぶこと
はまずないのだが。
そんな媒介を使うメリットは契約を結ぶことで主のスキルを一つ
共有することが可能となる事だ。つまりこれを大量に用意して強力
なスキルを持った人を主に︽契約︾を行えば強力なスキルを使える
人を大量生産出来る事になる。
もっとも、身体や魔力的な要素は共有出来ず、あくまでスキルだ
けが共有されるので使えるかどうかは別問題となるが。
さて、先ほど覚えれるスキルは一つだけと言ったが。クロウが今
回用意した紙にはクロウのみが読み解ける特殊な魔法構文が組み込
まれておりいくつかの効果が付けられていた。
﹁効果は⋮⋮まぁ、実際になれば分かるから今は省いておこう。強
いて言うなれば全員を管理する表だとでも思ってもらえれば結構だ。
全員の位置を特定するためのな﹂
それだけ聞いてもなぁと言う思いが生徒と教師たちの間に流れた
がクロウはそれ以上説明はせず、自ら一人ひとりと︽契約︾を結び
始めたのだった。
︽契約︾を使える事を初めてしった生徒︵全員︶は驚き、教師た
ちは﹁どこかで奴隷販売でもしていたのでは?﹂と疑った。特に生
徒たちは自分たちと同じかやや年上のこの人はこれ以外にも何が使
えるのか密かに敬意と恐怖を覚えたのだった。
こうして、集合から約2時間。集まった生徒246名分の︽契約
1437
︾を済ませたのだった。
クロウは、そこからさらに特待生組とセルカリオス、リーファを
各小隊の部隊長になるように指示をし、そこからさらに生徒たちを
振り分けて行った。
セルかリオスを隊長にするのはどうかと思ったクロウだったが女
子からの圧倒的な人気から指示を通しやすいと判断したのだ。
ちなみに最初は本人も拒否したが、どこからか突如としてやって
きたリネアから﹁クロウさんの言う事を聞かないならアレをもう一
回受けとく?﹂と脅され首をコクコクと振って了承した。当のリネ
アは自ら進んでクロウの直属になることを望んで入った。
その他にも、セルカリオスの部隊に女子が殺到したり、リーファ
の部隊に一般生徒が集まったりと色々な問題があったが、夕刻ごろ
にはクロウも含めた10の部隊に生徒たちを分け終え、部隊情報ま
でクロウが回収し終えると明日に障ると悪いからと言うことで、今
日はそこで解散となったのだった。
1438
第129話:ハルマネ攻防戦1︵前書き︶
就活が落ち着いたので、そろそろ元のペースに戻したいなと思っ
ています。感想欄で書かれていますが、﹁られる﹂などの表記がお
5/13
誤字を修正しました。
かしいとのことで、勉強の時間も欲しかったり。
※
1439
第129話:ハルマネ攻防戦1
出発の日の早朝。まだ陽は顔を出していない時間の事だった。
クロウは魔法学園の近くにあるとある宿屋に泊っていた。出発の
時間は昼だったので、まだ眠っているときの事だったのだが。
﹁⋮⋮ッ!?﹂
突如、体に電流が走りクロウの意識が覚醒する。目覚めたのはい
いが、一瞬何が起きたか分からなかったが、ハッと気付きすぐに︽
マップ︾を開いた。
マップには魔法学園を含むハルマネ全域、及びその周囲2キロ圏
内を映し出していた。
﹁これは⋮⋮!!﹂
===INTRUSION!!===
︽キルゾーンに敵が侵入しました︾
そのマップの西側の画面隅っこにポツポツと表示される赤いマー
カー。さらに、そのマーカーの数はどんどん増加をしており、表示
されている数だけでも数百はあった。
そして、そのマーカーの正体は神出鬼没と噂されている魔族だっ
たのだ。エルシオンの防衛戦時に使用していたのを、まだ設定した
ままだったのだ。本来なら凡ミスだと嘆く所だったが、今回はこれ
のお陰で早い段階で敵に気付くことが出来たので幸運と言えよう。
1440
﹁何でこんなところに⋮⋮?﹂
ハルマネは前線に近い場所にはあったが、それでも前線からはか
なり離れた場所にあり、また前線を突破されても地理的には攻撃さ
れない︵行軍ルートからかなり外れた︶位置に存在するため、守備
も殆ど手薄の状態だった。
クロウが知ったのはもっと後の事だが、この時ハルマネの守備兵
700人、魔法学園に駐留している魔導兵︵第92話に登場した警
備兵︶は数十人と足しても800に届かない程度の守備兵だったと
いう。
クロウは宿屋の窓から外に飛び出すと、浮遊で屋根に登り、マー
カーが表示されていた西側に目を凝らす。水平線に浮かび上がる無
数の影が見えたが、それ以外はよく分からなかったので、︽千里眼
︾を使い見てみることにした。
予想通り、無数の影の正体は魔族や大量の魔物たちで、さらに殆
どの魔物が冒険者ランクC以上が戦うような敵で、中にはAクラス
ですらも戦うことを回避したいレベルの魔物まで混ざっている。
﹁うげっ⋮⋮マジかよ﹂
流石のクロウもこれにはドン引きであった。
さっきも言ったがハルマネは地理上には攻撃を受け難い場所にあ
る。メレーザとハルマネを結ぶ街道は古くから存在していたが、重
要度は殆どないと言うことで長らくの間整備が行われていない旧街
道で、ここを通るより迂回した方が早いと言われるほどである。ま
してや軍単位で動くなら尚更迂回をした方が良い。さらにハルマネ
1441
は平原のど真ん中にある都市で攻撃側には非常に有利だが、防御に
は不向きで占拠をしてもすぐに奪還される恐れがある。それらの理
由からハルマネは古くから戦地にならない平和な土地だったと言え
よう。
同時に、平原であるが上に敵を見つけ易いので奇襲も難しい場所
であった。そんな場所に態々上級の魔物たちを殺到させるとはクロ
ウも思っていなかったのだ。
この時、王国軍の戦線は既に反崩壊気味で少数で作戦を遂行でき
る魔族のいくつかの部隊が戦線を突破してきていた。
そこから、傷が広がりハルマネの近くの戦線に大穴が空き、そこ
を突かれたのだろう。
そう考えてみると、クロウはエルシオンの方も心配になった。龍
族の勢力範囲と隣接しているとはいえ、その他の戦線からは遠い場
所にあると思っていたが、これではエルシオンの方も襲われる可能
性は十分に存在するからだ。
思わぬところで心配事が増えてしまったとため息を付く。
だが、憂いている暇は無い。
魔族がハルマネに到着するまで残り10分足らず。自分だけで迎
撃を行うことも可能かもしれないが、マーカー数の表記は既に1千
を優に超えており、流石にこの規模を一斉掃射するのは骨が折れそ
うだった。
﹁⋮⋮あいつらに現実を見せるには良い機会かもしれないな﹂
クロウの頭の中に学園の生徒たちの顔が思い浮かんだ。
1442
彼らは戦争を舐めている。いや、大部分の者はそうではないが、
ごく一部の者が舐めていれば、それが伝播してしまう恐れがあった。
被害が出る可能性があったが、昨日来た人に付けさせたアレがあ
れば多少は抑えられると判断したクロウは、学園へと急いだ。
﹁とうっ!﹂
パリィンと言う音と共に窓ガラスが割れ破片が飛び散る。
﹁!?﹂
中にいた人は何事かと急に窓から飛び込んで来た少年へと視線を
向けた。
﹁窓からすいません。アルゼリカ先生﹂
少年は華麗な前転をしてからシュタと着地を決める。その姿はま
るで某特殊部隊の突入を思わせる姿だった。
この日、アルゼリカ先生は今日、出発をする生徒たちの様々な手
1443
続きを行っていた。食糧や最低限の防具をすぐに集めたものだから、
具体的な数などが結局昨日で終わらず、ほぼ徹夜の形となっていた
のだ。
﹁く、クロウ君!?﹂
クロウは自分の服に付いていたガラスを叩き落としながら、アル
ゼリカ先生の方に近づいていた。
﹁な、何で窓から!? ここ3階よ!?﹂
﹁ジャンプすれば楽勝ですよ。あと窓から来たのは時間が無いから
です﹂
﹁時間が⋮⋮?﹂
﹁ええ、街の西に魔物と魔族の軍団が向かってくるのが見えました。
かなり面倒な魔物の姿も確認しました。最低でもC∼D。最高はA
クラスです﹂
﹁⋮⋮え゛?﹂
何のことか事情が分からなかったのかアルゼリカ先生の動きが止
まる。彼女もまた、ここに敵が来るわけないと思っていた者の一人
なのだろう。
﹁言葉の通りです。確認しただけでも数は1千以上。街に到達する
まで残り2キロを切っています﹂
﹁えっ、えっ待ってどういうk︱︱︱﹂
1444
﹁話は後です。全生徒を西側へ集結させて下さい、迎撃をします﹂
クロウの口から出る言葉にアルゼリカ先生は全く着いていけれて
なかった。徹夜気味だってせいもあり脳が回っていないのかもしれ
ない。
だが、アルゼリカ先生の思考が回復するまで待っている暇は無か
った。
︱︱︱ズドォン!!
突如、響く爆音。クロウはチッと舌打ちをし、なおも混乱を続け
るアルゼリカ先生の思考はさらにおかしな方向へと進んでしまって
いた。﹁アレ? どういう事? 私誰? ココハドコ?﹂と一人で
漫才でもやっているのかと言いたかったクロウだったが、真っ先に
自分がぶち破って来た窓から顔を出し、音が聞こえて来た西側を見
てみると、明るくなり始めたばかりの朝には似つかわしい真っ黒な
煙と火柱が見えた。
﹁くそっ! もう来たのか!? アルゼリカ先生! そういう事で
急いで生徒を集めてください! 俺は先に行ってます!﹂
そういうと、クロウは窓から飛び降りていった。ハッと我に返っ
たアルゼリカ先生が窓から下を覗いてみると、既にクロウの姿は無
く、音を聞きつけた近隣の住民たちがざわざわとし始めているだけ
だった。
1445
第130話:ハルマネ攻防戦2
クラスターフレイム
﹁︽拡散火炎弾︾斉射準備!﹂
目の前に広がっている敵の山に片っ端に標準を定めていく。
﹁掃射⋮⋮始め!﹂
クロウの合図と共に無数の火球が魔法陣から飛び出し狙いを定め
た魔物へと次々と飛んで行く。上空から降り注ぐ火球に魔族といく
つかの魔物はすぐに気付き回避行動を開始する。
だが、火球は空中で破裂。そこから小さな火球が大量に生まれた。
空中で炸裂し無数の小さな爆弾を生む兵器。通称﹁クラスター爆
弾﹂その強力な威力は水上から上陸する部隊にとって最も恐ろしい
兵器と言われている。
日本ではクラスター爆弾禁止条約によって自衛隊からはその姿を
消しているとのことだが、残念ながらこの世界ではそんな条例は無
いので躊躇なく作ることが出来る。クロウは﹁技術って怖いな⋮⋮﹂
と作りながら呟いたとか。
そんな兵器を模して造られた火球は着弾と同時に爆発を引き起こ
し、直撃した魔物は勿論、周囲の魔物たちまでもが木端微塵に吹き
飛ばされて行く。
この攻撃に知性のある魔族やいくつかの魔物の動きが止まる。だ
が、知性が無くただ突撃するだけの魔物はその動きを止めることな
く突き進んでいく。
1446
﹁チッ⋮⋮﹂
クロウは舌打ちをしてすぐに空中を蹴り上げ猛烈なスピードで移
動を開始する。空を飛べるのは極僅かな上級魔導士だけなあって、
たまたま飛んでいるクロウを見た魔法学園駐留魔導兵は﹁アレ? あんな奴隊にいたっけ?﹂と首を捻らせたとか。
もっとも空を飛べる人はいても、クロウの速度で飛べる人など、
いないに等しいのだが。
クロウが空を飛んでいるとき、真上を飛びながらも気付いていな
い人たちがいた。ハルマネを守っている守備兵たちだ。
どこからともなく現れた魔族たちに右往左往と慌てふためく兵士
たち。
まさか敵がこんなところに現れるとは思ってもいなかった。さら
に彼らの殆どは実戦経験が一度も無いような新兵ばかりの寡兵だっ
た。
僅かばかりの実戦経験がある兵士たちは魔物たちの数に圧倒され
我先にと逃げ出す始末。クロウが放った攻撃すらも気付かなかった
そうだ。
そんな役立たずの兵たちを無視してクロウは勢いそのままに、魔
物たちの目と鼻の先に着地をした。
﹁ガウッ!?﹂
行き成り目の前に落ちて来たクロウの姿を見て、突撃ばかりして
いた魔物たちの一団が反射的に動きを止めた。
おうか
﹁︻樹龍型︼︽桜花︾﹂
1447
︽倉庫︾から漆黒︵刀︶を取り出したと同時に桜の花びらの形状
をした魔力の塊が集まり、次の瞬間一気に放出した。
まるで桜吹雪を思わせるような光景が辺り一面に広がる。だが、
その光景と反してその威力は鉄すらも切り裂く威力を持っており、
さらに花びら程度の大きさであるが故に目や服の中へと入りこみ、
ズタズタに切り裂いてゆく。
目を斬られたオークの一体が痛みに耐え切れずに地面に倒れジタ
バタと転がりまわる。オークより小さめの体をした魔物はその巨体
に潰され、近くにいた魔物はオークが持つ棍棒によって突き飛ばさ
れ、それが連鎖反応のように次から次へと広がっていく。
ドミノ倒しに遭っている魔物たちを尻目に、何人かの魔族がクロ
ウへと襲い掛かった。その中にはアスモデウスなどA級のさらに上
位にあたるS級にも匹敵する魔族も混じっていた。
アスモデウスのレベルはおよそ60。しかし、魔族のレベル60
は人間のレベル100に匹敵すると言われており、個体数こそ少な
いが、一体で軍の小隊一個を潰したと言う逸話があるほどの強力な
魔族だ。
﹁シネェ! ニンゲンガ!!﹂
アスモデウスを始めとする魔族が一斉に各々の得意とする攻撃を
繰り出し始めかけたが
﹁邪魔だ! 消えろ!!﹂
︽硬化︾させた腕を全力で振り上げると辺りに突風が吹き出し、
その風に押し負けた魔族たちが魔物たちの集団の中へと吹き飛ばさ
1448
れて行く。
だが、何体かの魔族は耐え抜きクロウへと肉薄をした。
それに対しクロウは剣、魔法、︽龍の力︾を使って応戦する。
複数の魔族に集られるクロウであったが、その視線の矛先は戦っ
ている魔族には無かった。
︵早く来いよな⋮⋮︶
街の方をチラッと見ては魔族を吹き飛ばすといった行為を続ける
クロウ。街からの狙撃ではいずれ魔物たちが街へと群がると判断し
たクロウは接近戦を試みていた。
だが、街からの攻撃が無くなったと思った軍の端っこにいる魔物
や魔族たちが再び攻勢に出る。そして、その動きは︽マップ︾を半
透明状にして常に表示しているクロウもすぐに気付いた。
︵くそっ! 城壁から応戦するしかねぇか⋮⋮︶
接近戦は失敗だったと判断したクロウは、群がる魔族たちを吹き
飛ばすと街の方へと退避を開始する。と、その時、クロウの上を通
って行く火球がクロウの目に飛び込んで来た。
﹁しまった!﹂
ドンッ! と地面を蹴り上げると、一瞬で追いつき、そして街の
方へと飛んでいく火球に対してまるでボールでも蹴るかのように蹴
って見せた。
カッと一瞬光ったかと思った次の瞬間、空中で火球は炸裂をしそ
1449
こから生まれた強烈な爆風がクロウを一瞬で飲み込んでしまった。
遠くから飲み込まれるクロウを見て喜ぶ魔族たちがいた。火球を
撃った魔族だ。手にはかつてエルシオンのギルドを木端微塵に吹き
飛ばした︽爆炎筒︾が握られている。
︽爆炎筒︾の量産に成功したのか、持っている魔族の数はおよそ
200。街からの反撃に動きを止めていたのだが、それ以上の反撃
が無いと判断したのか、再び攻撃を開始したのだ。
撃った魔族は確実に死んだと思った。だが、その思いはすぐに裏
切られることとなる。
爆炎によって発生した煙が吹き飛び一瞬で消えると中から、傷一
つ付いていないクロウの姿が見えた。どうやら蹴る直前に︽多重防
壁︾で爆発に飲み込まれるのを防いだようだ。
その姿に驚く魔族たち。だが、今度は攻撃をやめることなく次々
と発射をしていく。
これに対しクロウは︽誘導火炎弾︾を火球に向かって発動をした。
言わば対空ミサイルみたいな感じだろうか。
魔法陣から放たれる火炎弾は次々と火球にヒットして爆発を起こ
す。連射をする︽爆炎筒︾だったが、クロウの︽誘導火炎弾︾の方
が連射力を上回り、今度は逆に︽爆炎筒︾を持つ魔族たちへと火球
が降り注ぐ結果となった。
この猛攻に200ほどいた︽爆炎筒︾を持つ魔族は一瞬で地塊へ
と還っていった。
そして、対空攻撃を失った魔族たちに新たな敵が登場する。
1450
﹁何⋮⋮アレ?﹂
﹁アレ⋮⋮クロウか?﹂
その敵は目の前の光景に唖然としていた。それはたった一人の人
間が魔族たちを空から次々と倒していく光景だった。
彼らは魔法学園の生徒たちで作られた部隊。
アルゼリカ先生の助力により、彼らはついに西の戦地へと結集し
たのだった。
1451
ゴキッ
第131話:ハルマネ攻防戦3︵前書き︶
昨日は投稿できずにすいません。
5/18
誤字を修正しました。
お詫びにエリラが何でもしてくださいまs
※
1452
第131話:ハルマネ攻防戦3
生徒たちが到着したことにクロウもすぐに気付いた。
目の前にいる魔族や魔物を風の魔法で切り刻み吹き飛ばしてから、
回れ右をして街の方に逃げ出す。もちろん全力で魔物たちは追うの
だが、クロウの速度に︵やや力を入れて60キロ︶ついて行けるも
のなど一匹としていなかった。
そして、クロウと魔物との間に数百メートルの差が生まれる。そ
のままクロウは呆然と立っていた生徒たちの元へと駆け抜けた。
生徒たちはボーと何かを見ていた。それが、これまで見たことな
いような魔物の大群にか、それともその大群相手に戦っていたクロ
ウを見ていたかは人それぞれだろう。
﹁全員いるな!﹂
いつの間にか自分たちの前に来ていたクロウの声で、生徒たちは
我に返った。
﹁お、おいクロウ⋮⋮さっきのアレh︱︱︱﹂
カイトが全員の心の代弁をするかのように問いかけるが
﹁余計は話をするな! いるかって聞いているんだ!﹂
クロウの声によっていとも簡単にかき消された。
1453
普段のクロウなら答えている質問だろう。だが、クロウはあえて
厳しくしていた。ここは戦場と言う意識を植え付けさせるためだ。
本当なら彼一人でもどうにかなる規模であろう。だが、それをせ
ずにわざわざ生徒たちを集めさせたところにもその意図は伝わるで
あろう。
﹁⋮⋮問題ない。いるよ⋮⋮﹂
サヤが代わりに答えた。ここでの﹁いるよ﹂とは昨日集まった生
徒は勿論のこと、ボイコットした生徒たちも含めてのことだ。
彼らはリーファの部隊に編入をさせている。と言うか、リーファ
にしか任せられないと判断したのだ。特待生の部隊には入りたがら
ないだろうし、かといってセルカリオスに任せるのは些か心もとな
い。そう考えたクロウの命令だった。そのため一つの部隊だけ40
ほどの大所帯となっており、この中にはレミリオンも混ざっている
が、当の本人は既にクロウの事など意も介さずに迫りくる魔物たち
に見入っていた。
そんな彼女の話は置いといて。
﹁よし、各自横列に隊列を組め! 急げ!﹂
言われるがままに生徒たちは隊列を組み始める。こうしている間
にも刻一刻と迫ってくる魔物の大群。その大群を見て、ある者は恐
怖を覚え足が竦みそうになってたり、ある者はあんな奴らすぐに倒
してやるぞ! と、その自信はどこから来るのかと聞きたいぐらい
自信満々な人もいた。彼らはまだクロウの強さを分かっていない愚
か者か、それとも只の馬鹿か、分かってやっているのか⋮⋮。
そんな中で各小隊の隊長を任せられた特待生たちの顔は一名を覗
1454
いて全員似たような顔付をしていた。
﹁⋮⋮チェルストの時よりも多くねぇか⋮⋮?﹂
﹁分かっているわよそれくらい﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
﹁⋮⋮やるしかない⋮⋮﹂
セレナ、カイト、ローゼなどはかつてチェルストでの戦いよりも
遥かに多い魔物たちの数に思わず苦笑いを浮かべ、テリーとネリー
に至っては言葉も出せない状態だった。
セレナとシュラは目の前の魔物たちに怯えているような素振りは
見せていなかったが、顔や手から噴き出している汗が彼らの緊張度
を表していた。
サヤはやや緊張した顔をしていながらも、武器であるナックルダ
スターの確認を行っていた。どうやら他の人たちに比べ少しだけ余
裕があるようだ。そんな中、唯一の例外がいた。
﹁AHAHAHAHAHA∼奴らなんて僕の魔法で一発で消してあ
げるよぉ!﹂
﹁﹁キャーセルカリオス様ぁ! かっこいい∼!!﹂
物理法則を完全無視した得意のスピンをかますセルカリオス。そ
の後ろでは律儀に隊列は組んでいるものの完全に意識が敵を放って
おかしな方向に向かっていた。
﹁あの人⋮⋮もう一度焼かれたいのでしょうか?﹂
1455
顔は普通通りだったが、その背後からはドス黒いオーラが吹き出
ているリネアが、手のひらに小さな魔法陣を作りながら言った。
﹁リネア⋮⋮バカは放っておいてこっちに集中しろ⋮⋮﹂
クロウに呼び止められたリネアはすぐに反応して再び魔物と向き
合った。
﹁魔法陣展開!﹂
クロウの指示で、ローゼたちが詠唱を始め、それを確認した他の
生徒たちも詠唱を開始する。
戦争での魔導兵の役割は補助と援護射撃だ。そのうちの援護射撃
は一斉射撃が多かった。一発一発の威力は低くとも全員で一斉に打
てば敵を倒すには至らないにせよ、ひるませることぐらいは可能だ
からだ。理想は全員で一つの魔法を作り上げ、強力な一撃を撃った
方がいいのだが、そんな練習などしている筈もなく、また行ってい
たとしても一朝一夕で出来るような生温い魔法ではない。どれくら
い大変かと言うと
それなりに熟練した力を持つ魔導士が数年かけて仲間と共に作り
上げる物と言えば分かるだろうか?。その変わり、威力は格段に向
上し戦争では大事な戦力の一つとなる。特に魔法耐性がない龍族と
の戦いには重宝されている。
ただ、誰か一人でも欠けるとすべてが駄目になるので、運用は非
常に難しいと言えよう。
﹁﹁﹁︱︱︱︱﹂﹂﹂
1456
︵⋮⋮アレ? そういえばアルゼリカ先生は?︶
他の生徒が詠唱を開始したとき、ふと気付いたクロウは周囲を見
渡した。だが、クロウが求めているアルゼリカ先生の姿はどこにも
確認出来なかった。
クロウはアルゼリカ先生が連れて来たものと思っていたのだがど
うやら違うようだった。
︵⋮⋮そういえば、指揮が取れないとか言っていたっけ?︶
全校集会の時のアルゼリカ先生の言葉をふと思い出す。
︵別の先生かそれとも生徒たちだけで来たのか⋮⋮?︶
色々な考えが頭の中に浮かんだが、首を横に振り不要な考えを振
り払うと目の前の事に集中をする。
︽衝突まで残り300メートル︾
魔法の有効射程範囲はスキルレベルによるが、レベル3∼4なら
80∼100メートル程度の距離しか届かない。よってさらに引き
つける必要があった。
︽衝突まで残り200メートル︾
﹁さあ! 我が魔法よ! その力で奴らを薙ぎ払うが良い! HU
HAHAHAHAHA!﹂
そこかの悪役みたいなセリフを飛ばしている声が聞こえて来る。
今すぐぶん殴りたり衝動に駆られるが今はあんな奴の相手をしてい
1457
る暇は無かった。
どんどん、距離を縮めて来る魔族。やがて大きめの魔物の顔がハ
ッキリと分かるほどになった時、クロウの声が響いた。
︽衝突まで残り100メートル︾
﹁撃てぇぇ!!﹂
数百個の魔法陣から無数の魔法が飛び出し、その魔法は全て魔物
の大群へと吸い込まれていった。
︱︱︱ズドドドドォン!!
魔法は余すことなく魔族と魔物たちを巻き込んでいった。
1458
第132話:ハルマネ攻防戦4
魔物たちへの先制攻撃を行う直前、アルゼリカ先生はフラフラし
た足取りで前線から離脱をしていた。
彼女の横には二人の教師がそれぞれ肩を貸し、ゆっくりとアルゼ
リカ先生の歩調に合わせて付き添っていた。
﹁理事長⋮⋮大丈夫ですか?﹂
教師の一人の問いにアルゼリカ先生は笑顔で大丈夫と合図をした。
だが、顔は笑顔を作れていたが顔色は蒼白で足取りも覚束ないまま
だ。
﹁⋮⋮私たちに任せても良かったのですよ?﹂
﹁おい、それは来る前に散々問いただしただろうが﹂
もう片方で支えていた別の教師が言葉を遮る。
﹁ですが⋮⋮﹂
﹁いいからしっかりと理事長を支えてろ。理事長もこうなることを
予期して行ったんだ。俺らがどうこう言う問題じゃない﹂
﹁⋮⋮はい﹂
再び無言になる二人。
そのとき、生徒たちのいる西の方から爆音が聞こえて来た。思わ
1459
ず反応してしまい、後ろを振り返る二人の教師。
﹁⋮⋮始まったか﹂
﹁先生。我々も急ぎましょう﹂
﹁そうだな⋮⋮理事長もこんなんだし、早くしないとな⋮⋮おい、
俺が理事長をおんぶするから、お前は担架を持ってこい!﹂
﹁えっ、わ⋮⋮分かりました!﹂
そういって、教師の一人は走り去っていった。残された教師はア
ルゼリカ先生を背負う体勢を取る。アルゼリカ先生はそれに身を任
せるかのように乗り、乗ったことを確認した教師が立ち上がり走る
体勢を取る。
﹁⋮⋮ごめんなさい⋮⋮﹂
アルゼリカ先生がか弱い声で呟くかのように言った。耳元じゃな
ければ聞こえなかっただろう。
﹁謝るのならクロウ君に謝って下さい。それに今はそんな暇じゃな
いでしょう﹂
そう答えると、教師は速足で魔法学園へと急ぐのであった。
1460
==========
もくもくと立ち上る煙。流石に数百人が一斉に撃っただけはある
なとクロウは思っていた。
﹁HAHAHAHAHA∼見たか悪魔どもめ! 僕の正義の魔法の
前ではお前らの力など無に等しいのさHAHAHAHA∼﹂
セルカリオスが既に勝ち誇ったような声がクロウの耳に飛び込ん
でくる。その声を聴いた瞬間クロウは思うのであった
︵⋮⋮それはフラグや︶
と。
︱︱︱オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!
そして、そのフラグは直ぐに回収をされることとなる。
立ち上る煙の中から無数の魔物がわらわらと出て来て、さらにそ
の後ろから魔族も続々と姿を現してくる。
︵⋮⋮数は二千余り⋮⋮と言ったところか⋮⋮︶
クロウは︽マップ︾にこれ以上のマーカーが増えない事を確認し
たのちに集計をしていた。こんな時でもこれほどの余裕を出せるの
は、やはりチート能力持ちだからこそ出来る芸当だろう。
1461
そんな間にも魔物たちは街へと刻一刻と近づいて来る。
︽衝突まで残り70メートル︾
﹁効いていないか⋮⋮﹂
クロウがボソリと呟く。
魔物たちの体には魔法が当たった形跡も殆ど見受けられなかった。
やはり、Cランク以上の相手には殆ど効果が無いかとクロウは思っ
た。
実際、この時まともにダメージを入れることが出来たのはサヤと
リネアの魔法ぐらいだった。他の魔法は大多数が届く前に無効化さ
れたか、受けたところで彼らにとってみれば蚊にでも刺された程度
のダメージしか無かったのだ。
この光景に、先ほどまでどこか余裕があった生徒たちの顔からも
一気に血の気が引いた。魔法を撃つ前から足が竦みそうになってい
た生徒たちに至ってはへなへなと地面に座り込んでしまっている者
もいた。
﹁に⋮⋮逃げろぉ!!﹂
生徒の中から誰か一人が叫ぶと、それに呼応するかのように一斉
に生徒たちが逃げ出していく。特待生たちがそれを静止しようとし
ていたが、こうなってしまえばもう誰にも流れを止める事は出来な
かった。
︵やっぱりこうなるよな⋮⋮︶
1462
︽衝突まで残り50メートル︾
逃げ出す生徒がいるなか、何人かの生徒が腰を抜かしたのか地面
に座り込んだままの状態だった。だが、そんな人たちに手を差し伸
べる人など誰一人としていなかった。
︽衝突まで残り30メートル︾
遠距離攻撃が出来るいくつかの魔物たちから攻撃が開始された。
﹁全員街まで走れぇ!!!﹂
クロウはそう叫ぶのと同時に、クロウの周りに白色の魔法陣が浮
かび上がる。
もっとも、そんな声を聞かずとも既に大多数が逃げているのだが。
﹁︽魔弾︾!﹂
無属性の魔力の弾丸が魔法陣から飛び出し魔族たちへと襲い掛か
る。魔弾が直撃した魔物たちは後方へと吹き飛ばされたり、そのま
ま体の一部を持っていかれたりする物が多数だった。
だが、その弾丸をググり抜けてくる魔物たちが何体かいた。
︽衝突まで残り10メートル︾
︱︱︱オオオオ゛゛!!!
﹁HAHAHAHA、今のは挨拶なのさ! だから許してくれたま
えHAHAHAHA∼﹂
1463
そういいながら、全力で逃げているセルカリオス。そんなセルカ
リオスを守るためか周囲に女子たちが群がって、後退しながらも魔
法を撃っていた。皮肉な事に、クロウや隊長を除いた生徒たちの集
団的な応戦はこれのみで、残りは散発とした反撃のみだった。
﹁クロウさんも早く逃げましょう!﹂
リネアが︽魔弾︾を撃ちまくっているクロウの背後にしがみ付き、
後ろへと引っ張ろうとしている。
先ほどのクロウの無双をリネアも見ていたが、そんな彼女でもこ
の数相手には限界があると思っての行動だった。
﹁おい! やべぇぞ!﹂
完全に部隊としての機能を失った隊長たちがクロウの元へと近づ
いてくる。だが、クロウから離れた位置に陣取っていた何人かは間
に合いそうに無かった。このままでは間違いなく魔物の大群に飲み
込まれるだろう。
リネアは必死で引っ張るがクロウは微動だにしない。クロウの前
方の魔物たちとの距離はある程度あったが、左右を見てみるともう
既に、攻撃体勢に入っている魔物たちの姿も見え始めた。
一体のオークが、地面に座り込んでしまっている生徒に目を付け、
持っていた戦斧を振り上げる。恐怖によって完全に硬直してしまっ
ている生徒はただそれを見る事しか出来なかった。
﹁クロウさん!﹂
1464
リネアの悲痛な声が響いた。と、その時、クロウが魔法を撃ちな
がらもリネアの方を向いた。そして、笑顔で一言だけいった。
﹁心配するな﹂
︽衝突まで残り1メートル︾
振り上げられた戦斧が生徒目がけて勢いよく振り下ろされた。そ
して、十分な加速がつき生徒の頭を捉えたと思ったその時だった。
︱︱︱ガキィィン!!
硬い何かと何かがあった音が響いたかと思うと、オークが持って
いた戦斧はオークの手から離れ上空をクルクルと回りながら飛んで
いた。
﹁えっ?﹂
その光景をたまたま目にしたリネアは何が起きたのか良く分かっ
ていなかったようだ。
さらに、似たような光景が各所で起こり始める。
火球を撃った魔族の攻撃は生徒に当たったと思われたが、火球の
火の中からは無傷の生徒の姿が現れ、それを見たすぐ隣にいた別の
魔族が今度は槍で襲い掛かった。
一直線に生徒の眉間に向かっていた槍は、突き刺さる直前で硬い
何かにせき止められ、弾かれた反動で魔族が後ろへと体勢を崩した。
﹁︽自動防御魔法・イージス︾⋮⋮術者にある一定以上の攻撃が加
1465
えられかけたとき、自動で術者の魔力を消費し特殊な防壁を張るこ
とで、それを防ぐことが出来る﹂
きょとんとしているリネアにクロウが説明をする。
﹁昨日、︽契約︾をしただろ? あの魔法札にその魔法式を書き込
んでいたんだよ﹂
﹁ふぇっ!?﹂
さらっと恐ろしい言葉を聞いたリネアから妙な声が漏れる。何故
そんな反応をしたかと言うと、︽自動防除魔法︾は一見便利に見え
るが︵実際そうなのだが︶、大きな弱点があった。それは魔力消費
量が半端じゃなかったからだ。その燃費の悪さは現在ある存在する
魔法の中で最悪の魔法とも言われるほどだ。
さらに、その魔法式も複雑すぎて理解できる者が殆どいないと来
たもんだから、もはやその魔法は一般市民の間では伝説となってい
る魔法だった。
そんな魔法をサラッと書き、さらっと︽契約︾させたのだから、
誰だって驚くだろう。
﹁さて⋮⋮じゃ、そろそろ本気と行きますか﹂
未だにきょとんとしているリネアをガッと掴み、そのまま脇に抱
えるとそのまま上空へと移動するクロウ。
﹁⋮⋮へっ?﹂
上空で止まった所で、リネアが現実へと引き戻され、﹁はわわわ
1466
!﹂と手足を急にばたつかせた。混乱してよく現状が理解できてい
ないのだろう。
﹁こら、暴れるな! 危ないだろ﹂
コンっと一つリネアの頭を叩き、それによってリネアも一応理性
は取り戻したようだった。だが、現状が変わっていないことには変
わりない。
﹁えっ⋮⋮なんで⋮⋮ここ、空だよね? エッ、アレレ?﹂
﹁そうだよ。しっかりと掴まってろよ﹂
そういって、クロウが魔法陣を展開する。その魔法陣を見た瞬間
リネアは自分の目はおかしくなったのではと錯覚した。
その規模が尋常じゃなかったからだ。
まず、半径数メートル規模の魔法陣を中心にその周りに、大小様
々な魔法陣が連なり、さらにそれに数えきれないほどの魔法陣が繋
がっていた。さらに、円形の魔法陣以外の見たことも無い魔法陣も
多数存在していた。これはリネアは後に知ったことだが六芒星や五
芒星の事を指している。
そして、それらの魔法陣はその場に留まることなく絶えずゆっく
りと移動をしていた。
これは、魔力消費を抑えるのと魔法式を出来るだけ簡潔にさせる
ためにクロウが独自で作り上げたものだった。各魔法式が様々な所
に順番に移動しそこで役割を果たすことにより、魔法式の数を減ら
し、魔法陣を作る分の魔力量を抑えることが可能となっていた。
1467
﹁⋮⋮綺麗﹂
リネアはいつも間にか、自分の置かれている状況など忘れ、目の
前の光景に見入っていた。彼女の目には一つ一つの魔法陣が踊って
いるように見え、とても神秘的な光景だろう。
﹁光の裁きを受けよ⋮⋮﹂
そんなリネアの事は放置しクロウはいよいよ魔法を撃つ体制へと
入った。リネアを抱えている方とは反対の手を掲げる。
クロウの姿は街の方からも見えたという。そして初めて見るよう
な魔法陣と共は見る人を虜にした。その光景を見た者は口々に﹁神
の魔法だ﹂と言ったとか。
巨大な魔法陣に光が収束した、その瞬間、掲げていた手を振り下
ろした。
セレスティアル・ジャッジメント
﹁︽天上の裁き︾﹂
その瞬間、この光景を見ていた者は全て光の中へと飲み込まれて
いった。
1468
第132話:ハルマネ攻防戦4︵後書き︶
クロウが神化し始めている︵汗︶
1469
5/31
誤字を修正しました。
第133話:ハルマネ攻防戦5︵前書き︶
※
1470
第133話:ハルマネ攻防戦5
その日、街は光に包まれた。
突如として押し寄せる魔物と魔族の大群。兵士は全く戦わずに逃
げ、街を守る者はいなくなった。きっと、このまま時が流れて行け
ばこの街は徹底的に破壊され、生き残った人間どもは一人残らず虐
殺されるだろう。誰もがそう思っていた。
だが、一人の少年が放った魔法がその思いを全て打ち消した。
街の上空に浮かぶ巨大な魔法陣の中央に光が集束したと思った次
の瞬間、光は爆発をしたかのように炸裂した。そして、その光は襲
い掛かってくる魔物、魔族。そして街を全て丸呑みにしてしまった。
何も見えない。光に包まれた人々の視界は白一色で隣にいた人す
らも確認できないほどだった。
その光は暖かった。また優しかった。ふんわりとも清涼とも何と
も言えない光はすぐに消え、すぐに元の景色が戻ってきたが、包ま
れた人々には悠久の時のように感じていた。
この時の不思議な感覚とその後に見た光景を人々はこの日を生涯
忘れる事は無く、いつまでも鮮明に覚えていたという。
1471
==========
﹁⋮⋮っ﹂
急に視界が真っ白になったかと思えば、すぐに消えた。
余りに急なフラッシュを目に受けたせいかチカチカする。リネア
は目をごしごしと擦り、何が起きたのか自分の目で確かめるべく周
辺を見渡した。
目の前には青空が広がっていた。一瞬思考が止まってしまってい
たが、すぐにクロウに抱えられていることを思い出し慌てて下を向
いた。
地面を見た瞬間リネアは自分の目を疑った。
あれ程地面を覆い尽くすかのように進んでいた魔物や魔族の姿は
無く代わりにあったのは、無数の石像だった。
その石像の形は疎らでまるで何かを模っているかのように見えた。
角みたいに尖っている石像もあれば、四本足で歩いているような物。
かと言えば二本足で立っている石像もあった。街から離れるに連れ
手に大きな物を持っているように見える石像もあった。
リネアは最初、突如として出て来たこの石像が何なのか本当に分
からなかった。
だが、時間が経つにつれ、石像の形などからアレは何なのか薄々
感づいていた。しかし、認めたくは無かった。と言うより認めれな
1472
かった。
もし⋮⋮もし、自分が思っている事が本当なら、自分を抱えてい
る師匠がやった事はとんでもないことだったからだ。恐らく長い歴
史を見ても無いであろうこの出来事を。
﹁⋮⋮クロウさん⋮⋮アレは⋮⋮?﹂
聞くのがとてつもなく恐ろしく感じた。だが、聞かずにはいられ
なかった。
光を放出した魔法陣を閉じ、目の前の光景をしっかりと確認した
クロウは淡々と答えた。
﹁石化した魔族の姿だ﹂
﹁石化した⋮⋮魔族の姿⋮⋮?﹂
﹁そうだ⋮⋮。もう二度と動くことは無いだろう石の塊だ﹂
﹁これは⋮⋮クロウさんが⋮⋮?﹂
クロウは頷いた。
セレスティアル・ジャッジメント
﹁︽天上の裁き︾⋮⋮術者の視界に入り、術者が敵と認識した者だ
けに半永久的な石化の状態異常をかける魔法だよ﹂
リネアは身の毛がよだつのを感じた。自分が師匠と思っていた人
は自分のずっとずっと前を歩いている人だと言うのを改めて感じ取
り、それと同時に恐怖を感じていた。もし、これが自分に向けられ
ていたかと思ったら⋮⋮。
暑く無いのに顔中から汗が噴き出る。寒くも無いのに手足が震え
1473
る。今まで散々周囲から不幸な人と馬鹿にされ、自分自身もそう感
じていたリネアだったが、この時ばかりは、自分は本当に幸運だと
感じらずにはいられなかった。
一方、生徒たちも目の前の現実を受け入れきれずにいた。
一瞬で何千といた魔物の姿が消え、代わりに何千もの石像が姿を
現したのだから、これを受け入れろと言う方が無理かもしれない。
呆然とする生徒たち。と、そのときだった。
﹁いでぇよ゛⋮⋮いでぇよぉ゛⋮⋮﹂
ハッと我に返り声がした方を見てみると、そこには頭から血を流
して地面に蹲る生徒の姿があった。すぐそばには棍棒をもっている
魔族の石像が転がっていた。
血を流して倒れている自分たちと同じ生徒の姿を見ても、しばら
く受け入れる事が出来ずにいた。信じたくない心と現実の光景が心
の中で葛藤する。夢なら冷めてくれ。と心で思う。
だが、そんな葛藤にも終わりが告げられる。
﹁お、おい! 大丈夫か!?﹂
1474
一人の生徒が現実を見る事を選択し、倒れている仲間の元へと駆
け寄る。それを皮切りに続々と現実に引き戻されていく者が現れだ
す。
﹁誰か! こっちに来てくれ!﹂
﹁担架を誰か持ってきてくれ!﹂
そんな声が聞こえて来る。だが、それに答える者はおらずただあ
わあわと、慌てふためく生徒だけが増えて行く。
こんな時にどうすればいいか。そんな訓練を受けている訳でもな
ければ学んでいる訳でもない。魔法学園とは魔法を教えるところ。
故にそれ以外の事には殆ど疎かったのだ。
﹁⋮⋮落ち着け﹂
サヤだった。彼女もまた目の前で起きた現実を受け入れ切れてい
なかったが、それはそれと頭を切り替え行動に移っていた。
﹁取りあえず、けが人を運ぶぞ手伝え!﹂
今度はシュラがけが人を運ぶために人手を求め呼びかける。この
あたりの行動はやはり、冒険者としての知識と経験の違いといえよ
う。
そうやって、特待生の冒険者たちを中心にけが人を運び始める。
近くで石化している魔族たちがいつ動くかも分からない恐怖に怯え
ながらも手を動かしていく。
そんな彼らを上空から見ていたリネアは自分はこのままでいいの
かなと思っていた。
1475
﹁クロウさん。私たちは降りないのですか?﹂
その問いにクロウは首を横に振る。
﹁俺がやるだけじゃ意味がない。ここはあいつらに任せる事にして
おく﹂
もともと、クロウだけでもこの戦いは十分に勝てた︵周囲の損害
を考えなければもう少し早く勝てた可能性も︶
なのに、クロウはあえて生徒たちに戦わせた。何故か? それは
彼らにこれが戦いだと見せつけるためだ。
自分らが学んできた魔法が効かない。それは魔法だけを学んでき
た彼らにとってどんなに屈辱的か。どんなに恐ろしい事か。恐らく
今回の件で彼らは思い知ったことだろう。
恐らく、この出来事のせいで二度と戦線に立てないほどのトラウ
マを植え付けられた者もいるだろう。そんな彼らがそのまま腐るの
かそれとも再起するのかは自分自身が決めることだ。
﹁あいつらも思い知っただろう⋮⋮自分の感情だけで動けばどうな
るかを⋮⋮﹂
怪我をして運ばれていく生徒の姿を見ながらクロウはそう呟いて
いた。
1476
第133話:ハルマネ攻防戦5︵後書き︶
︽追伸︾
アクセス数が10,000,000PVを突破しました! ここま
で読んで下さった皆様には本当に感謝でいっぱいです。
これからも精一杯頑張っていきますので、応援よろしくお願いします
m︵︳ ︳︶m
1477
第134話:その犠牲は何の為に?・前編︵前書き︶
1000万PV。改めて皆様に感謝です。本当にありがとうござ
います。
1000万と節目を迎えた訳ですが、特にこれまでとは変わらず、
まったりと進んでまいります︵笑︶
5/23
誤字を修正しました。
普通が一番いいと思うのです。
※
1478
第134話:その犠牲は何の為に?・前編
﹁これどうしようかなぁ⋮⋮﹂
俺の真下に広がる大量の魔物の石造。なんというか、某お隣の大
国の昔の王様が作った兵士たちの石造を思い出す。
俺がこれを地下に並べて保管しようものなら確実に後世で﹁悪趣
味﹂のレッテルを貼られること間違いなしだろう。意地でもコレク
ションとかにはしたくないな。
だが、これを放置しているのも色々と不味いだろう。国のお偉い
さんに見られたらどんな災いが起こる事やら⋮⋮。もっとも、生徒
たちや街の人たちは俺の姿をキッチリと見ている事だろう。
ああ⋮⋮今回ばかりは言い逃れ出来そうにないな⋮⋮。
すいません、セラさん。私は某見た目は子供、頭脳は大人な名探
偵みたいに行った先行った先で問題ごとを起こす能力があるようで
す。
神様へこっそりと謝っておく。そのとき、何故か分からないがセ
ラが頭を抱えている姿が見えたような気がした。
そんな神様の事を思い浮かべながら、俺はこの石造をどうするか
を決めた。
ストレージ
壊すのはなんかもったいない気がするし、何かに使えるかもしれ
ないので、回収して置くことにした。どうせ︽倉庫︾の容量は無限
なんだから、どこか適当に一か所に集めて保管しとけば大丈夫だろ
1479
う。
ここで、注意をして置かないといけないのは、普通の石化状態は
体の表面が石化するだけで、命までは取る効果は無い。ただし、そ
のまま放置をした場合、餓死をするし、体の一部を壊せば皮膚が無
い状態で空気に触れるのでなんらかの治療を行わない場合はそこか
ら壊死する可能性は十分にある。もっとも、石化したときに皮膚細
胞の最深部まで石化してしまうので、自然的に治る事は永遠に無い
が。そして、︽倉庫︾には生きているものは入れる事が出来ないの
だ。
で、俺のやった石化は体の内側から石化させるという何ともエグ
イ石化で、彼らは既に死んでいる。よって︽倉庫︾に入れる事が可
能なのだ。
具体的な原理だが、放射線に近いものだ。ただ、DNAを破壊す
るとかそういうものではなく、ただ単に体を貫通する程度のものだ。
しかし、そこに石化系の毒魔法を混ぜれば立派な兵器となる。
化学兵器顔負けの魔法だ。正直な所使うのはこれっきりにしよう
と思う。
ちなみに、なぜ︽天上の裁き︾と命名したかというと、その放射
線もどきは天空魔法から生まれたもので、具体的に言えば解毒系魔
法の応用版を転用したものだからだ。毒を以て毒を制すという言葉
があるが、解毒魔法も毒を中和させるための毒を疑似的に取り込ま
せるもので、それを完全に毒へと応用したのだ。
さて、大分話は逸れたが既に生きていない魔族の石造を︽倉庫︾
へとさっさと回収していく。リネアは皆さんのお手伝いをして来ま
すと言って皆の所に戻っていった。ただ、戻る途中で石造の一体が
バランスを崩し危うく彼女が下敷きになりかけるというハプニング
1480
があったのには冷や冷やさせられた。咄嗟に駆けつけて石造を蹴り
飛ばすことで事なきを得たが、壊れたのがその一体だけでかつ、ピ
ンポイントで崩れたので不幸と言われているのも、どことなく分か
った気がした。
﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂
意気消沈とする生徒たち。彼らはけが人を運んだ後、俺の命令で
学園の校庭へと集合をさせていた。
表情は暗く沈んでおり、まともに話している人はいなかった。
無理もないか、おそらくほぼ全員、自分が一番自信のある魔法を
撃っただろう。それが全くと言うほど通用しなかったのだから。
自尊心とかそんなことを置いても、彼らにはこれからいつまで続
くか分からない戦線へと向かうのだ。暗い気持ちになるなというの
が無理と言えるだろう。
そんな彼らをよそ目に俺は教師たちから怪我人などの報告を受け
ていた。
1481
ちょっと、気がかりなのが俺に報告をしている教師はそんな感じ
はしないが、何人かの教師が明らかに俺を警戒していた。
被害を出した事への不信感か、それともあの時見た俺の姿にびび
っているのか⋮⋮。どちらにせよ、良い事では無いな。
﹁︱︱︱以上より死者7名。負傷者10名です﹂
﹁⋮⋮分かりました。報告ありがとうございます﹂
﹁⋮⋮クロウ君。これからどうするつもりだい?﹂
﹁⋮⋮取りあえず出発は延期ですかね。へっぴり腰の国の兵士たち
が逃げて、尚且つ敵に襲われる可能性があるこの街を放置するわけ
にはいきません。国の方にもそう伝えてもらえませんか?﹂
﹁ええ、分かりました。その辺は私たちの方でどうにかしましょう。
問題は︱︱︱﹂
俺と話している教師の目が一瞬生徒の方を向く。それにつられて
俺も思わず目を動かしてしまっていた。
﹁彼らですね⋮⋮﹂
﹁そうですね﹂
﹁こんな子たちを戦場に連れて行っても案山子にすらもならないと
思うが⋮⋮﹂
﹁そんなこと最初から分かっています。亡くなった生徒には悪いで
すが出発する前に、こんな戦いが起きたのはある意味幸運だったの
1482
かもしれませんね。取りあえず今日はもう解散させて一晩時間を上
げましょう。あんなことが起きた直後でまともな思考が働いている
とは考え難いですからね﹂
その意見に教師は頷くことで賛成をした。そして、生徒たちに翌
日再びここに集合することが伝えられたのち解散命令が出された。
疲れ切った様子の生徒だったが、何とか重い腰を上げぞろぞろと
帰宅していく。
そんな中、特に集まれと言ったわけでは無いのに、俺の所に来る
人たちがいた。
﹁クロウ⋮⋮話がある﹂
﹁?﹂
カイトと⋮⋮それからテリーとネリーだった。なんか珍しい組み
合わせだな。
﹁クロウ⋮⋮お前、分かっててやったな?﹂
﹁? 分かってて⋮⋮? 何のことですk︱︱︱﹂
﹁とぼけるな!!﹂
カイトの手が伸び、俺の胸元を掴むとグイッと引き寄せる。カイ
トの顔は鬼の形相で真剣そのものだった。テリーやネリーも決して
穏やかとは言えない顔でこちらを睨んで来ていた。
1483
﹁お前分かっているのか!? 7人だぞ! 今日の戦いで死んだ奴
が7人もいるんだぞ!? ⋮⋮いや、あんなの戦いじゃねぇ! た
だの公開処刑だ!﹂
オートガード
﹁⋮⋮ええ、ある程度は予想していましたよ。ですから前日に︽契
約︾で︽自動防御︾を付けさせたんじゃありませんか﹂
﹁そんな事は分かってる! 問題はそのときに参加していない奴が
戦いでどうなるか知っていたかと言ってるんだ!﹂
カイトが言っているのは俺の命令で校庭に全員を集めさせたとき
に、ボイコットをした奴らのことをいっているのだろう。
﹁⋮⋮勿論ですよ﹂
今日の戦いに参加すれば、︽自動防御︾を付けていない生徒がど
のような目に遭うかも分かっていた。分かっていたからこそ、強行
したのだ。
﹁てめぇ人の命をそんなに簡単に扱いやがって⋮⋮ふざけるなよ!﹂
さらに怖い形相を浮かべ俺を問いただしにかかるカイト。
﹁クロウ君⋮⋮カイト君のいう事はもっともだと僕も思うよ⋮⋮。
君一人であんなことが出来るなら最初から行っていればよかったの
だから﹂
テリーがカイトを援護する形で言った。テリーの言葉にネリーも
無言で頷く。
1484
さて、どう説明しようかと頭を悩ませる俺に、更にやっかいな奴
が姿を現した。
﹁居たわ!﹂
声のした方を向いてみると、腕に包帯をグルグル巻きにしたレミ
リオンの姿がそこにはあった。彼女もボイコットをした身であった
ため、︽自動防御︾の援護をもらえずに負傷をした一人だ。
幸い腕の怪我だけで済んだので、それ以外はピンピンしているよ
うだ。
俺は、そんな彼女の姿を見て、さらに頭を悩ませるのだった。
1485
第135話:その犠牲は何の為に?・中編︵前書き︶
※今回、少し短めです。全部入れようかと思ったのですが、それを
やると想像以上に長くなりそうだったので、少し少ないですが上げ
させてもらいました。
何も無ければ後編は2日以内にしっかりと投稿しますので、それ
※
5/25
5/24
誤字を修正しました。
誤字を修正しました。
までお待ち下さい︵土下座︶
※
1486
第135話:その犠牲は何の為に?・中編
﹁⋮⋮めんどくさいなぁ⋮⋮﹂
思わずそんな小言が口から漏れてしまう。
﹁れ、レミリオン様! 落ち着て下さい! 気持ちは痛いほど分か
りますが⋮⋮!﹂
﹁五月蠅い! あんたは黙っていなさい!﹂
レミリオンの後ろで彼女に必死にしがみ付いている生徒の姿が見
える。体のあちらこちらに包帯が巻かれており、彼もまた全校集会
に参加しなかった生徒の一人だなと俺は思った。さらに、よくよく
見てみると魔闘大会でレミリオンに付き添っていた二人の生徒のう
ちの一人であることも分かった。
彼が必死に制止をしようとするが、レミリオンは止まらずにこち
らへと向かって来る。
﹁お、おい! 君たち大人しく救護室に戻っておk︱︱︱﹂
﹁いえ、先生。止めなくていいですよ﹂
彼女らの姿を見た教師の一人が救護室に戻るように指示をしよう
としたのを俺は止めさせた。めんどくさいはずなのに何故止めさせ
たかと言うと、理由は二つある。一つはここで引き下がってもまた
どこかで現れることが目に見えていたからだ。
1487
もう一つは⋮⋮止めても無駄だろうと諦めているからだ。
﹁⋮⋮取りあえずカイトさんは離して下さい﹂
﹁⋮⋮チッ﹂
舌打ちをしたと思えば、次の瞬間には胸元を掴んでいた手を放し
ていた。カイトのせいで乱れた服装を整えている間に彼女は俺の目
の前にまで来ていた。引きずられながらも彼女に必死にしがみ付い
ていた生徒は校庭のど真ん中で倒れていた。その光景を見た何人か
の教師が彼の元へと走り寄って行った。
﹁⋮⋮なんですか?﹂
半分分かってはいたが一応聞いておくことにする。
﹁⋮⋮!!﹂
すると、いきなり彼女のが俺に詰め寄って来てカイト同様俺の胸
元を掴んだ。またかと思う俺に襲い掛かってきたのは、俺を掴んで
いる腕とは反対の腕からの強烈なストレートだった。おい、まさか
の武力行使かよ。しかも怪我をしている筈の腕で殴りにかかってい
るし。
﹁あッ!?﹂
教師が止めにかかろうとしたが、時すでに遅く彼女の拳は、俺の
目と鼻の先の距離にまで近づいていた。
だが、彼女の不意打ち程度で後れを取る俺では無い︵多少は焦っ
1488
たが︶。俺は表情を変えずに彼女の拳を両手のうち左手だけで受け
止めにかかる。
︱︱︱ビシッィ! そんな音が昼下がりの青空の下で虚しく響く。彼女の放った一撃
は俺の顔を捉えることなく、その直前で俺の片手に遮られた。
﹁⋮⋮何の真似ですか?﹂
俺が問いかける。だが、彼女は腕が止められたと否や今度は俺を
引き寄せながら自分の頭を思いっきりこちらへと振り下ろして来た。
要するに頭突きをしに来たのだ。おいおい⋮⋮それが女子のやる事
かよ⋮⋮。
予想外に次ぐ予想外な行動であったが、俺は特に焦ることなく、
今度は余らせておいた右手で彼女の頭を受け止めてみせる。 ドン
ッと受け止めた位置から少しも俺の方に近づく事無く彼女の動きを
止ることが出来た。
﹁ぐっ⋮⋮!!﹂
彼女から悔しそうな声が漏れる。
﹁落ち着て下さい。何故こんなことをしているのですか?﹂
﹁ふざけないで!!﹂
止められているにも関わらず、彼女の拳と頭がグググとこちらへ
押し込もうともがくが、筋力ステータスが100倍以上の差がある
ので動くわけもなく、衝突した衝撃で傷口が開いたのか彼女の腕に
1489
巻かれている包帯のから赤い血だけが虚しくにじみ出ていた。だが、
彼女はそんな事は意も介さずに言葉を続けた。
﹁あんたわざとでしょ! 私が昨日の集合に集まらなかったのを良
い事に他の人たちに細工したんでしょう!? 一般生徒があんな障
壁を半日で使えるようになるわけないじゃない!﹂
はぁ!?
余りに身勝手すぎる言葉に俺は言葉を失っていた。誰がどう見て
も明らかにそちらに非があると思うのだが⋮⋮。俺は半ば呆れ気味
になっていたが、なんとか彼女に言葉を返す。
﹁いやぁ⋮⋮だって昨日の午後から来なかったじゃないですか﹂
﹁だから放置したの!? 終わった後にでも伝えることぐらいは出
来たでしょう! それもせずに、何も教えずに今日のアレに参加さ
せたの! ふざけるんじゃないわよ!﹂
いや、ふざけるなと言いたいのはこちらの方なのですが? 何、
その﹁私が世界の中心よ﹂みたいな発言
?
レミリオンの言葉に流石の教師たちも﹁いや、あんた何言ってる
の?﹂という顔をしている人が出だしていた。ただ、このまま言っ
ても無駄だろうなと思っているのか特に発言することなく静観をし
ているだけだなんだが。
﹁すいません。少し自己中心過ぎませんか? 来なかったのはあな
たたちが悪いわけですし、さらに言うなれば今日こんなことになる
なんて誰が予想できましたか?﹂
1490
ここでキレたら面倒な事になるのは前世でも感じていたので、な
んとか冷静に取り図ろうとしたのだが。
﹁それを予想するのが指揮官でしょうが!﹂
と、言われた。キレたい。この自己中女に今すぐキレたい。一発
殴って終わらせたい。でも、キレたらキレたで後日面倒な事になり
そうなのでしたくないんだよなぁ⋮⋮。
﹁クロウ、レミリオンの言っていることも一部は当たっているだろ
? せめて伝えたりしておけば、今日の死傷者もいくらかは軽減で
きたかもしれないんだぞ?﹂
そこにカイトが割って入る。彼もさすがに全部は認めなかったが、
それでもほぼ援護射撃に等しい言葉を放ってきた。
んな無茶な理論がまかり通る訳ないだろ⋮⋮。つーか昔の名将と
言われた軍師ですら不可能な事を言っているのだが。
そして話は思わぬ方へと飛び火したのであった。
﹁そういえば、あなた聞いたわよ。あの時リネアだっけ⋮⋮? そ
の子だけ自分の背後に周らせていたそうね﹂
﹁はぁ?﹂
﹁確か、あの子ってあなたが可愛がっていたとかね⋮素晴らしいね
自分の指揮する隊に入れてかつ優遇してあげているのだから指揮官
っていいわね、気に入った子を自分で好きに動かせるのだからね。
私なんて一人失っているのよ!? 分かる!? この気持ちわかr
︱︱︱﹂
1491
ブチッ
次の瞬間、レミリオンの体は空中で逆さまになった状態で浮かん
でいた。
1492
第136話:その犠牲は何の為に?・後編︵前書き︶
5/26
誤字を修正しました。
お待たせしました。後編です。
※
1493
第136話:その犠牲は何の為に?・後編
レミリオンの体が宙を舞う。逆さまになった体は、そのまま一回
転するかと思われたが、本来頭がある場所に足が来た瞬間、レミリ
オンの体は急に軌道を変え真っ直ぐに地面へと向かって行く。
﹁︱︱︱あっ!﹂
周りにいた人々が気付いた時には時すでに遅く、彼女の体は豪快
に地面へと叩き落とされていた。しかもご丁寧に怪我をしている腕
から地面に落としており、何とも言えない嫌がらせ付きでだった。
勿論わざとだ。クロウによる背負い投げが綺麗に決まった瞬間だ
った。
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
突然の出来事に周りの空気が静まり返った。一瞬の出来事だった。
レミリオンが最後まで言おうか言わないかのほんのわずかな時間で
レミリオンは地面へと叩き落とされていたのだ。時間に換算すると
2秒∼3秒程度の早業であっただろう。
﹁い゛ッ⋮⋮!﹂
静まり返った空気を最初に破ったのはレミリオンの呻き声だった。
見るとレミリオンが怪我をした腕を庇いながら地面に蹲っていた。
﹁⋮⋮お前、いい加減にしろよ?﹂
1494
俺はそれだけ言うと、地面に蹲っているレミリオンの体の正面を
無理やり俺の方に向かせると今度はこちらが胸元を掴み、引き上げ
た。分かっているとは思うが決してやましいことはやっていない。
第一、それなら毎晩エリラの胸が当たっていr︵以下略︶
そんな事は置いといて、背負い投げのダメージと腕の怪我への追
撃に苦痛を浮かべるレミリオン。だが、俺はそんな事など気にもせ
ずに続ける。
﹁俺の言う事は聞かないと言っておきながら今度は責任取りなさい
? ⋮⋮ふざけているんじゃねぇぞ? ああ゛ッ!?﹂
︽威圧︾スキルが自然と発動され周囲にとてつもない重圧がのし
かかる。カイトたちはその威圧に腰を抜かし地面にへたり込んでし
まう。怖くて目を背けたいのか首が僅かに動いていたが、それすら
も許さない強烈な威圧により固まってしまっていた。
俺の丁度後方にいる教師も、その重圧に耐えられずにいた。
だが、これでもまだいい方だろう。恐らくだが本気の︽威圧︾を
やればここにいる奴らは全員確実に失神してしまうだろう。で、な
ぜ大丈夫かと言うと︽不殺︾スキルの効力が同時に働いているから
だ。
痛みなどのダメージ量をコントロール出来るこのスキルは、精神
へのダメージ量すらもコントロール出来てしまう。それにより気絶
をしないように設定をすることにより、気絶をしなくなると言うこ
とだ。
だが、裏を返せば気絶をしたくても出来ないと言うことになり、
本来なら耐える事の出来ないプレッシャーをずっと受け続けなけれ
ばならないのだから、これ以上の苦痛は無いであろう。
﹁てめぇら勘違いしてねぇか? 司令官が守るべき対象は﹃指示を
1495
聞く兵﹄であって、決して﹃味方の兵﹄じゃねぇんだよ。俺が気に
入らないかどうかは知らねぇが、その程度の理由で部隊の全員が集
まる集会を平然と欠席した奴なんかが守る対象になるとでも思って
いたのか? で、なんだ? 更に今度は﹃自分らを守れ?﹄⋮⋮言
う事を聞かないで自分勝手な行動をする奴は戦場では屑同然なんだ
よ!! むしろ消えていた方がまだ役立つわ! そんな奴らを守る
義理がどこにある!? 結局、てめぇらは自分らの都合がいいよう
に勝手に解釈をしては甘い汁を吸おうとしているだけなんだよ⋮⋮
分かるか!?﹂
﹁ひぃ⋮⋮﹂
俺の︽威圧︾に完全に押し負けているのか、レミリオンの口から
情けない声が漏れたように感じた。それを確信付けるかのように、
レミリオンを掴んでいる腕から、彼女の体の振動が伝わって来る。
﹁俺が最初から本気を出さなかったから死者が出た? 違ぇよ⋮⋮
てめぇらが戦場を舐めすぎていたんだよ!! だから昨日の集会を
ボイコットをしたんだろ!? その結果が今日死んでいった奴らじ
ゃねぇか!! 昨日の集会に出ていればその命は今日も続いていた
んだぞ!? それを見す見す手放したのは小さい理由で来なかった
奴らじゃねぇか!!!!﹂
ミシッと俺の足元を中心に地面にひびが入る。ちなみにこれは何
かしらの演出では無く、純粋にステータス任せで地面を踏んづけて
いるために起きている現象だ。
﹁知っているか? 軍を作り上げる際、兵士たちには普通決まり事
を課せるんだよ。その中には色々な事が書かれてあるがその中に﹃
部隊の行動を乱す者には処罰を与える﹄と言うのが大体入っている
1496
んだよ。処罰は色々あるが、大体が打ち首じゃなかったっけ⋮⋮?
さて⋮⋮自分勝手な行動をし、命令を聞かず、さらに大将に暴力
を振るったあんたはどうなるんだろうな?﹂
瞬時に︽倉庫︾から刀を取り出しレミリオンの首筋に刃をあてる。
僅かに皮膚がサクッっと斬れそこから血が流れ出していた。
﹁⋮⋮! ⋮⋮!﹂
レミリオンに刀を付きつけられた瞬間、チョロチョロと言う音が
微かに聞こえて来た。どこから聞こえてきているんかと思えば、レ
ミリオンの股から太もも、足へと何やら黄色い液体が線を作って地
面へと流れ落ちていた。
どうやら、恐怖のあまり漏らしてしまったようだ。
﹁ふんっ!﹂
そんな彼女の姿に完全に切れてしまった俺は、彼女を掴んでいた
腕を離してあげる。重力に赴くがまま彼女は自分の漏らした液体の
上へとドサリと落ちた。
周囲を一瞥する俺。俺と目があった教師やカイトたちは自然と後
ろへと下がっていく。その情けなさに、もはや何も言う気が起きな
くなってしまった。
﹁⋮⋮ああ、そうそう。お前さっきリネアを俺が好き勝手に動かし
たとか言っていたな? 残念ながら彼女は自分の意志で俺の部隊に
入ることを決め、あの時自分の意志で、反撃していた俺を下げよう
と掴まっていた。下らねぇ勘違いをしているようなら⋮⋮次は容赦
しねぇぞ⋮⋮いいな!?﹂
1497
涙目になりながらも、こくこくと無言で頭を上下に動かすレミリ
オンの姿を確認した俺は、最後にもう一度周囲を一瞥すると教師に
向かって。
﹁⋮⋮明日レミリオンを始め集会に出なかった生存した生徒全員に
処罰を下す⋮⋮いいな?﹂
と言った。教師たちももはや誰一人として先ほど俺を見ていた警
戒のまなざしをしておらず、ただ純粋に恐れのまなざしをしていた。
︵⋮⋮恐怖体制か⋮⋮したくねぇなぁ⋮⋮︶
教師の顔を見ながら、俺は自分が嫌っている恐怖による強請をし
ていることに心の中で苦笑をしながら、校庭を静かに後にしたのだ
った。
1498
第136話:その犠牲は何の為に?・後編︵後書き︶
如何でしたでしょうか? 皆さん色々な意見があるかと思われま
すが、私はこうなって当然の事をレミリオンはやったと思っていま
す。﹁意見を言う﹂と﹁勝手に行動する﹂のは全く違う事ですよね
? ちなみに前回の補足なのですが、レミリオンが最後に﹁一人失っ
た﹂と言っていたのは、彼女に付いていた二人の生徒のうちの一人
を指しています。もう一人は前回、レミリオンを止めようとしてい
た生徒です。
1499
第137話:処罰︵前書き︶
お待たせしました。いよいよ彼らの処罰が決定します。
誤字を修正しました。
誤字を修正しました。
5/27
5/28
※
※
1500
第137話:処罰
翌日、魔法学園の生徒たちは再び学園の校庭に集められていた。
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
だが、昨日今日で気分が簡単に晴れるわけでは無く、口数はいつ
もより皆少なめだった。
﹁一体今日は何があるんだ?﹂
隊長格のみは生徒が集まっている所から少し離れた場所に集めら
れていた。何も聞かされていないシュラは周りに答えを求めた。
﹁知らないわ。私も聞いていませんもの﹂
﹁⋮⋮私も⋮⋮﹂
﹁私もよ。多分クロウが集めさせたんだと思うのだけど⋮⋮﹂
ローゼ、サヤ、セレナは何も聞いていないと首を横に振った。
﹁特待生組も聞いていないのか⋮⋮僕も聞いていないな⋮⋮﹂
リーファも右に同じくと言った感じだ。
﹁HAHAHAHA∼どうでもいいけどさぁ!? まだ始まらない
のなら女の子の所にいかs︵ゴスッ!﹂
1501
セルカリオスがもはや恒例とも言えるべき回転をしながら生徒た
ちの方に向かって行こうとした瞬間、どこからともなく鈍い音が聞
こえ、次の瞬間にはセルカリオスの顔面が地面と密着しているとい
う謎の光景が出来ていた。
﹁⋮⋮時間を弁えろ⋮⋮﹂
見るとセルカリオスのすぐ近くにサヤが立っていた。リーファは
何が起きたのかサッパリ分からなかったが他の特待生組は全てを理
解し苦笑いをするのであった。
勘のいい人⋮⋮出なくても気付いていると思うが何故こんなこと
になっているかと言うと、サヤがセルカリオスの腹に自慢の拳を放
ち、セルカリオスは耐え切れずに倒れてしまったのだ。
ドスッ
﹁HAHAHAHA⋮⋮これでも弁えているつもrふぁべらぁ!?﹂
﹁⋮⋮死にたいの⋮⋮?﹂
﹁すびぃばせん⋮⋮﹂
サヤの拳を受けても懲りなかったセルカリオスに今度は蹴りを入
れる事でようやく大人しくなったセルカリオスを見て、セレナたち
は思わず笑いが出てしまう。ただリーファは生徒たちの方から伝わ
って来る物凄い殺気じみた視線に冷や冷やしていた。
﹁⋮⋮﹂
そんな中、昨日のやり取りを目の前で見たカイト、テリー、ネリ
ーたちは黙り込んでいた。
1502
﹁ん? どうしたんだ? 今日はやけに静かだな?﹂
﹁いや⋮⋮何でもない﹂
最初から静かだった事に気付いていたシュラがカイトに聞いたが
カイトは答えをはぐらかし、まともに答えようとはしなかった。
﹁⋮⋮始まる⋮⋮﹂
特設された台にクロウが昇って行く様子が特待生組たちの所から
も確認が出来た。
﹁⋮⋮クロウ⋮⋮少し怖くない?﹂
﹁そうですね。少なくともいつものクロウの雰囲気ではありません
わ﹂
いつもと違う雰囲気のクロウに少しだけ驚く。そんな中、生徒た
ちの前に立ったクロウの口が開く。
﹁⋮⋮昨日の事から一夜が明けたが⋮⋮どんな気分だ?﹂
そんな問いに誰も答えれる者はいなかった。
﹁まだ怖い人、次こそはと思っている人、色々いると思う。だが、
それでも時間は待ってはくれない⋮⋮今回の襲撃を受け国へ出撃中
断要請を出したが、俺の見立てだと恐らく国は拒否をするだろう。
そうなれば今度こそ戦地へと送られることは間違いない﹂
1503
生徒の何人かがひぃっと小さな悲鳴を上げる。
﹁勿論、ただ殺されに行くような馬鹿な真似はしない。だが、そう
するためには互いが互いを信頼しなければならない。味方を警戒し
ているようでは駄目だ﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
﹁⋮⋮と、言っても口では簡単に言えても実際は難しい事だろう⋮
⋮そこである掟を定めたいと思う。なぁに簡単な事さ﹁命令には忠
実に動け﹂ただこれだけを守ってもらえればいい。後は自分自身の
モラルに問いかけろ。これはやっていいのか? いけないのか? よくよく考えて行動をしろ﹂
今まで生徒たちと向き合っていたクロウが特待生の方に顔を向け
る。
﹁もし、命令に意見があるなら自分たちの隊長を伝って俺に伝えろ
どんなことでも聞いてやる。だが意見が無いのであれば、その命令
は承諾したとみなし以後、命令違反をしたものには処罰を下す⋮⋮
いいな?﹂
﹁﹁は、はい!﹂﹂
﹁よし⋮⋮では早速命令違反をした人たちを処罰しようと思う﹂
クロウの言葉に生徒たちがざわめきだす。だかクロウはそんなこ
とは意も介さずに言葉を続ける。
﹁一昨日の午後の全校集会に来なかった奴ら⋮⋮前に出ろ﹂
1504
一昨日の全校集会⋮⋮つまりクロウが生徒たちに︽契約︾をした
集会のことだった。
﹁⋮⋮﹂
やや間があったのち、まずレミリオンが前へと出て来た。昨日の
事があってかすっかり大人しくなっていた。
レミリオンが前に出たのを皮切りにポツポツと前へと出だす生徒
たち。
やがて数人出た所でピタリと出て来る者がいなくなった。
﹁⋮⋮チッ﹂
その様子を見てたクロウは舌打ちをすると、いきなり生徒たちの
上空に飛び出した。そして、少し移動したのち生徒たちの中へと降
り立ち、一人の生徒の前へとたった。
﹁な、なんだよ⋮⋮﹂
目の前にいきなり来られたクロウに焦る生徒に何も言わず無言で
生徒の襟を掴むとそのまま、ズルズルと引きずるように前へと戻る。
﹁ちっょ、な、なんだよ!?﹂
﹁とぼけるな。逃げられるとでも思ったのか?﹂
その生徒は一昨日の集会をボイコットした一人だった。何故それ
が分かるかと言うとクロウが全員と結んだ︽契約︾の効果だ。︽マ
1505
ップ︾にマーカーがない生徒は︽契約︾を行っていない⋮⋮つまり
はボイコットをした人物と言えるからだ。
ちなみに教師の情報からクロウはその日に休んだ生徒はいなかっ
たことは確認済みだ。
﹁何のことだよ!? 俺は集会のときにいたぞ!﹂
そんな事は露知らず、生徒は来たと言い張った。
﹁ほう⋮⋮じゃあその集会で俺はお前らに何をしたか覚えているか
?﹂
﹁あ、ああ覚えているよ! 全員と︽契約︾を結んだじゃねぇか﹂
どうだとニヤケ顔になる生徒。これで逃げれるとでも思ったのか
もしれない。だが、クロウは答えられることなど想定済みだった。
﹁そうか⋮⋮じゃあ﹂
と言うと、いきなりクロウはその場から飛び出し、上空へと移動
する。勿論生徒は掴んだままだ。
オートガード
﹁その契約の効果で︽自動防御︾を会得してるはずだよな?﹂
﹁へっ?﹂
﹁術者の魔力量で防御力は変わるがまぁ、俺のパンチ︵手抜き︶一
発ぐらいなら耐えれるだろ?﹂
1506
そういうとクロウは、掴んでいた生徒をバッと空中で離すと、そ
こからまるで見えない壁でも蹴ったかのようなロケットスタートを
切り生徒へと右ストレートを繰り出した。
生徒は何が起きたか分かっていなかったが、クロウにとってそん
な事はどうでもよかった。何故なら︽自動防御︾は完全に術者の意
識とは無縁で発動するからだ。
当然、一昨日の集会に参加していない生徒にそれが発動する訳も
無く、完全にノーガードの状態でクロウのパンチを顔面に受ける事
になった。
ゴンッと鈍い音⋮⋮と何かが折れた音が響いたかと思えば、次の
瞬間、校庭の誰もいない所に殴られた生徒が着弾するかのような勢
いで落ちた音が響いた。
﹁⋮⋮馬鹿野郎が⋮⋮﹂
クロウはそう呟くと、生徒が着弾した個所に飛んでいくと、その
まま顔が地面にめり込んでいた生徒を引上げ、台へと戻る。生徒は
と言うと、今の一撃で完全に伸びてしまっており、気を失っていた。
一応クロウは︽不殺︾スキルでセーブをしたが、それでも鼻の骨は
折れてしまっているだろう。
﹁前に出ていない奴!! こうなりたくなければとっとと前に出て
こい!! 逃げられると思うな!!﹂
今の光景を目の当たりにしてしまった以上、前に行かないと言う
選択肢は無いだろう。予想通り一昨日の全校集会をボイコットした
者たちが続々と前へと出て来る。
1507
﹁チッ⋮⋮やっぱり口で言ってもダメだったか⋮⋮﹂
クロウはこの現状に少しだけ落胆をしたのだった。
﹁さて、これで全員だな﹂
前に出てきた生徒の数は14名。のち男子が8名。女子が6名だ
った。怪我人の分はと思うかもしれないが、きっちりクロウが昨日
のうちにある程度は回復をさせておいたので、これで全員だ。なお、
完全回復はさせなかったのは罰のおまけなのかもしれない。
﹁こいつらは、俺の集合命令を無視した者たちだ。特にレミリオン
は解散後に俺への暴力を振るうなど二重の意味で罰を受けてもらう﹂
クロウが︽倉庫︾から刀を取り出し、自分の一番近くにいた生徒
の首筋へと刀を当てる。当たられた生徒はヒッと逃げようとしたが
﹁逃げるな!﹂とクロウに言われ震えながらも何とか居残っていた、
﹁本来ならお前らの行動は作戦を乱したのも勿論、同時に他の生徒
たちにへの間接的な攻撃をしたとみなし打ち首⋮⋮要は死んでもら
うところだ﹂
1508
その言葉に前に出ていた他の生徒たちの顔がみるみる青白くなっ
ていった。レミリオンについては顔をうつぶせたまま一言も話さず
ただ黙り込んでいただけだった。
﹁⋮⋮だが、今回は最初と言う事でそれは無しにしてやろう﹂
ホッとした空気が場に流れる。だが、打ち首が無くなっただけと
いうのを忘れてはならない。
﹁代わりに別の罰を下す⋮⋮お前ら全員⋮⋮服を脱げ﹂
今度は、はっ? とした空気が場に流れ出す。
﹁服を脱げって言ってるだろ? 下着とかも全部だ、そして手とか
で大事な所を隠すんじゃねぇぞ?﹂
﹁ど⋮⋮どういうことよ⋮⋮?﹂
今まで黙りこくっていたレミリオンが初めて声を出した。
﹁言っただろ? 罰だ。もう二度しないと誓わせるためのな。ほら、
さっさと脱げそして、全員で生徒たちに向かって謝れ﹁勝手な事を
してすいません。もう二度としません﹂とな﹂
﹁ふ、ふざけているんじゃないわy︱︱︱
﹁ふざけてねぇわ! 何だ? それともやっぱり打ち首がいいか?﹂
持っていた刀を突き出しレミリオンの鼻へと剣先をピタリとつけ
る。ぐっと呻く声がレミリオンから漏れる。
1509
﹁命があっただけマシと思いな! いいか? これは面白半分でや
っている訳じゃねぇ⋮⋮これ以上無駄な損害を出さないようにと俺
流の躾けをしているだけだ⋮⋮いいから、とっとと脱ぎな!! て
めぇらに拒否権があると思うなよ!﹂
気迫におされた生徒たちがいそいそと自分の服を脱ぎだす。レミ
リオンも何かいいたそうな顔をしたが、やがて服を脱ぎだした。
そして、まだ成長途中の体が露わになる。隠すなと言われている
ので陰部なども全て丸出しになる。女子の何人かが堪え切れずに泣
きだすハプニングが起きたがクロウはそんな事も全て無視をする。
そして、前に出ていた生徒は全員で一斉に復唱をする。
﹁﹁勝手なことをしてすいません。もう二度しません﹂﹂
そう言って頭を下げる。彼らにとっては一生忘れられない思い出
になることだろう。この光景に見ていた生徒たちの背中にも凍り付
くような恐怖の旋律が流れた。
﹁⋮⋮よし、オーケーだ。頭を上げて服を着ていいぞ。それから後
で︽契約︾をするから台から降りたら分かりやすい所に集まって起
きな﹂
その言葉を聞いた瞬間。生徒たちが一斉に自分の服に群がり、そ
のまま台を降りて行った。
﹁くそっ⋮⋮いつか殺してやる⋮⋮!﹂
﹁殺せるものならな? その前に戦争で死なないことを願っておき
1510
な﹂
レミリオンが涙目になりながらクロウに向かって言う。クロウは
その言葉にやれやれと言った顔で言葉を返した。
こうして、一昨日の集会に来なかった者たちへの制裁は終わり、
クロウはこの事態を打破するために行動を開始するのであった。
1511
第137話:処罰︵後書き︶
如何でしたでしょうか?
私個人としては、どうしても殺すと言う事だけはしたくなくてこ
のような結果にしました。一回目と言うこともありますし、﹃兵士﹄
では無く﹃生徒﹄でとしての配慮をしました。
殺さずにかつ忘れられないようなトラウマを産み付ける方法と言
うことでしたが、中学生頃の生徒には酷だよなぁと思いながら書い
ていました。私だったら泣いていますね。そしてトラウマになって
いるでしょう︵汗︶
次回、クロウのチートスキルで超強化を行っちゃいます。
1512
第138話:クロウ v.s. 隊長格︵前書き︶
次回、クロウのチートスキルで超強化を行っちゃいます。
といいましたね? アレは嘘です。ごめんなさい本当にすいません
︵土下座︶。どうしても入れたいと思って書いてしまいました。
1513
第138話:クロウ v.s. 隊長格
罰を受けさせた生徒を台から下したのち、今後の指示を俺は出し
た。
﹁では、一時解散をして30分後に再び集まってもらいたい。何を
するかはその時に話す。それと︽契約︾をしていない者たちにもそ
こで︽契約︾をするからそのつもりでいてくれ。では、解散﹂
生徒たちが解散をし始めたのを確認してから俺は台から降りた。
それを待っていたかのように俺の元に近づいてくる集団がいた。
俺が隊長格に命じた特待生組の面々だった。
殆どが小難しい表情をしており、決して歓迎されている訳では無
いなと俺は率直に思った。
﹁おい、いくらなんでもやり過ぎじゃないか?﹂
シュラから飛び出した言葉は予想通り俺のやり方に不満を持って
いた。
﹁あれくらいやらないと分からないんですよ。それに罰が甘かった
ら罰にはならないじゃないですか﹂
俺は即座に反論した。と言っても心の中ではやり過ぎたかなとは
感じていた。というかこんなこと俺だってやりたくはない。やらな
いで済むならそれが一番いいに決まっているだろ。
1514
﹁だかららってアレはどうなんだ? あいつらトラウマになるだろ
?﹂
﹁HAHAHAHA∼僕もそれには賛同だね∼特に女の子たちにそ
んな事をやるとは言語道断! 今後そんな事を行うならば僕は反対
をしようではないかHAHAHA∼﹂
﹁その時はそれなりの理由を付けてから言って下さいよ﹂
﹁まあ僕に任せておくが良い! ねー﹂
﹁﹁キャー! セルカリオス様すてきぃ!!﹂﹂
いつの間に来たのか、セルカリオスの周りに数名の女子が集まっ
てセルカリオスの発言に喜色の表情で賛成をしていた。
﹁クロウ、昨日の件を見てもそうだが、確かにやり過ぎる面もある
だろ? 俺らはあくまで﹃生徒﹄であって﹃軍隊﹄では無い。そん
な訓練も教育まともに受けていない奴らに軍隊並の罰をやるのは酷
すぎないじゃないか?﹂
﹁それ、戦場でも同じことが言えますか?﹂
﹁何⋮⋮?﹂
﹁戦場ではすべての人間が対等。敵が﹁まともに訓練していないな
ら仕方がないね。攻撃しないであげますよ﹂って言うと思いますか
? そんな訳ないでしょ! むしろ率先して潰しに来ますよ! そ
んな生温い奴をわざわざ戦地に送り込めと言うのですか? 司令官
として⋮⋮いえ、一人の人間としてそんな事は行いたくありません﹂
1515
﹁それはそうだが⋮⋮そうだ! クロウが一人で前線に出ればいい
じゃないか!﹂
﹁はっ?﹂
﹁だってそうだろう! あの魔物の大群を一瞬で消し去ってしまう
クロウの力があれば余裕じゃないか! わざわざ戦えない生徒を前
に出す必要なんかないじゃないか!﹂
﹁それもそうですね⋮⋮クロウ君が前に出て僕らは援護射撃をすれ
ばいいのですから。何のための魔法か分かりませんよ?﹂
カイトの言葉にリーファが賛成した。
﹁そうですわね⋮⋮後ろからの援護射撃なら魔法の力を付ければい
いだけですからなんとか出来るのではありませんか?﹂
﹁そうね。いつ出るかは分からないけどそれまでに出来るだけ鍛え
て、何とか有効打を与えるくらいになれば戦えるじゃないかしら?﹂
ローゼ、セレナも同じように賛成した。テリとネリーも何も言わ
なかったが頷いている。そんな彼らを見て、俺はどうしようもない
気分になった。
﹁はぁ⋮⋮そんな甘いわけないじゃないですか?﹂
﹁そうか? クロウが前線で敵を引きつければいいだけだぞ? 多
少の攻撃が飛んできてもあの︽自動防御︾があれば被害を出さない
ことも可能じゃないか?﹂
1516
﹁︽自動防御︾は魔力消費量が悪い事ぐらい知っていますよね? 俺が多少の改良を加えて改善はしているますが、それでも悪い事に
は変わりありません。そんなものに頼り過ぎて魔力が切れたらどう
するのですか?﹂
﹁それを起こさないために魔力を鍛えることに重点を置くんだよ。
魔力強化を中心に訓練を行っていけばいいだけじゃないか﹂
﹁戦争がそれだけで決まると思っているのですか? そんなのだっ
たらどの国でも魔力だけ鍛えているに決まっているじゃないですか。
それが出来ないから兵器や戦術が生まれているんじゃないですか!﹂
﹁俺たちに兵器の開発や戦術など考えている暇は無いだろ! そう
なれば今できる最善の手を打つしかないじゃないか!﹂
﹁だからって俺一人で前線を維持できる訳がないじゃないですか!﹂
いや、出来ないと言い切れば嘘になるかもしれない。だが、全力
で魔法を撃てばどのくらいの被害が出るか分かったもんじゃない。
俺自身も被害規模が分からないことを易々とやれとか無謀にも程が
ある。下手をすれば敵味方共々全滅させてしまうほどの被害を出す
可能性だってあるのだ。
最後に本気で撃った時は5歳ころのお話だ。あの時も周囲の地形
を変えてしまうほどの威力を誇っていた。
さらに言えば敵と正面衝突することしか想定していないこと自体
が間違えている。敵も勝ちに来る、敵によってはあらゆる手を使っ
てでも来るだろう。そうなれば俺も予想できない事態が起きる可能
性も十分にあり得る。
1517
そんな中で俺の力だけに頼ることの危険性を全く理解していない。
﹁いや、クロウ君なら可能だと思うよ。あのような光景を目の当た
りにしたらそう断言できるよ﹂
うんと頷く特待生組とリーファ。︵セルカリオスはいつの間にか
いなくなっていた︶だが、そんな中でサヤだけが違う反応をしてい
た。
﹁⋮⋮﹂
先ほどから表情も変えなければ言葉も一言も発していない。普段
から無表情で発言もあんまりしない彼女だが意見があるときは口数
は少なくともしっかりと言う人だと思っていたのだが。
と、そんな事はどうでもいい。完全にアウェイな流れになってし
まった。司令官は俺だが俺一人で部隊を動かすという訳には行かな
い。いざとなったら彼らの力が必須になる。
そんな彼らの意見も蔑ろにする訳には行かない。だが、彼ら全員
を納得させる方法言葉や理論が全く思い浮かばなかった。どんな事
を言っても彼らは甘い理由を付けて反論すると思ったからだ。
いくらなんでも隊長格を恐怖で抑える訳には行かない。そんなこ
とをすれば肝心な所で自分勝手な行動をしかねないからだ。
﹁⋮⋮分かりました。今後の戦闘は俺が前に出て敵を引きつけまし
ょう﹂
結局、俺は折れてしまった。
1518
﹁よしっ、それなら早速全員で魔力を鍛える特訓をしないか!?﹂
俺が折れたのを確認してからカイトがまず意見を言った。おそら
く勝ったとでも思っているのだろう。
﹁そうですわね⋮⋮時間も惜しいですし﹂
﹁クロウ、30分後の時に何をするつもりだったんだ? 戦いの方
針が決まったらそれに合わせる必要が無いか?﹂
くそっ! 俺は心の中で歯ぎしりをするしか無かった。俺がやろ
うとしたのは、各部隊ごとに分かれて俺との模擬戦をやる予定だっ
たのだ。レベルを上げるならレベルが300超えの俺と戦うことが
一番いいからだ。
だが、それが出来なくなってしまった。当然、俺のレベルは他人
に言えるようなもんじゃない。エリラにすらも言っていないだぞ?
そのため俺は衝突時の隊員同士の連係という名目をつけてやろう
と思っていたのだが、俺が前に出て戦うのならば、そのような演習
を行う意味が全く無くなってしまうからだ。
﹁⋮⋮模擬戦をするつもりでしたが﹂
簡単に演習内容を説明すると。
﹁それ、接近戦をやらなくなる以上いらなくね?﹂
と、カイトに言われ結局これも折れる事に。で、何をすることに
なったかと言うと。
1519
﹁⋮⋮分かりました。では30分後から行う訓練は魔力増強訓練で
行きましょう﹂
学園の授業で行っている魔力訓練を集中的にやろうと言う話にな
ったのだった。
﹁その辺は俺は知らないから、リーファが中心となって行ってもら
えないでしょうか?﹂
﹁分かった。セルカリオスはこの手の訓練は得意としているから彼
と一緒にやってみよう﹂
﹁それでお願いします。では、解散しましょう﹂
そういうと俺は速足に彼らの元を離れたのだった。
1520
第138話:クロウ v.s. 隊長格︵後書き︶
連続投稿です。すぐに続きは投稿します。
1521
第139話:校舎裏にて
クロウは苛立ちを隠せなかった。
﹁くそっ!﹂
思わずガンッ! と地面を蹴り上げる。ここは校舎の隅で誰も見
ていないからこんなことが出来るのだが、皆の前ではしないように
気を付けないといけないだろう。
﹁なんで分かってくれないんだよ⋮⋮!﹂
身をもって体感させたはずだった。何千と言う魔物を相手に自分
らの無力さを十分に感じさせたはずだった。
だが、俺が街を守るためにやったあの魔法が全てを駄目にしてし
まったとでも言うのか!?
確かに一般生徒たちには十分なお灸になっただろう。目立った反
乱分子にも一般生徒の前であれだけのことをさせておけばしばらく
は大人しくなるだろう。
しかし、一般生徒たちに注意を向けすぎたが故に隊長格のことに
まで頭が回っていなかった。いや、俺は俺といくらか面識のある奴
と冒険者としてそれなりに活動をしている彼らなら分かってもらえ
ると思い込んでいたにすぎなかったのだろう。
結果、下手に彼らに不満の残すわけにもいかず俺が折れてしまっ
た。
これじゃあ、無理してまでレミリオンたちに罰を与えた意味がま
1522
るで意味をなさないじゃねぇかよ⋮⋮。
﹁あいつらには申し訳ないな⋮⋮﹂
確かに彼らは﹃生徒﹄であった﹃兵士﹄ではない。あのような罰
もやり過ぎていたかもしれない。
でも、こうでもしないと駄目なんだよ。短期間で結束力も何もな
い彼らに連携をさせ、僅かでも生存率を上げる方法などこれ以外に
早々思いつくものでもない。
﹁どうすればいい⋮⋮?﹂
誰もいない校舎の隅の石階段に腰を下ろし頭を抱える。
俺が前に出て守れるならそれはそれでいい。だが、それが出来な
かった時はどうすればいい。
戦況はいくらでも変わる。戦争などが無い平和な日常を過ごして
いた俺でも分かる事だ。当然、参加したことも無い俺の頼りはスキ
ルとステータス。そして本などから得た僅かな知識だけだ。
その程度しかないのだから当然、どこかでボロが出るだろう。今
は上手くいっているかもしれないが、綱渡りな状況には変わりがな
い。
頭を無理やりにかきむしってしまう。自分と彼らのあまりの意識
の違いに落胆と苛立ちがこみあげて来る。
﹁⋮⋮大丈夫⋮⋮?﹂
1523
バッと顔を上げ声のした方を見てみると、そこにはサヤとリネア
が立っていた。サヤは相変わらずの無表情だったが、リネアは心配
そうな顔でこちらを見ていた。
ちなみに、この二人は魔闘大会の前に俺の家で特訓をし合った中
なのでお互いに知っている中だ。
﹁⋮⋮いつからいた?﹂
素で気付かなかった。完全に周囲への警戒が疎かになっていた。
﹁座ってから頭を抱えだした辺りから⋮⋮﹂
ほぼ半分じゃないですかやだー。
﹁⋮⋮ごめん⋮⋮﹂
サヤが俺に対して頭を下げた。
﹁えっ⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮私もクロウの考えは分かる⋮⋮けど⋮⋮怖かった⋮⋮﹂
言えなかった⋮⋮そういえば、さっき集まっていた時は一言もし
ゃべらなかったな⋮⋮あの時か?
﹁⋮⋮余計な口を出したら⋮⋮本当に瓦解しそうで⋮⋮﹂
⋮⋮彼女でも怖いって思うことあるんだな。意外な彼女の一面を
見た気がした。
1524
﹁いや、いいんだよ。俺も考える所もあったしな﹂
﹁⋮⋮無理しているでしょ⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮していないと言ったら嘘になるな⋮⋮慣れ無い事なんて簡単
にするもんじゃないな⋮⋮﹂
﹁⋮⋮私はあなたの考えが分かる⋮⋮だから⋮⋮困ったらいつでも
言って⋮⋮力になる⋮⋮﹂
﹁⋮⋮分かった。ありがとうな、サヤ﹂
﹁あなたは私の師匠⋮⋮弟子が困っている師匠を助けるのは当然の
こと⋮⋮﹂
﹁わ、私も出来る限り力になります! ですからクロウさん。気落
ちしないでください!﹂
﹁そういえば、リネア。お前︱︱︱﹂
﹁⋮⋮私が教えた﹂
﹁あっハイ﹂
俺が何を言おうとしたのか分かったのか。いや、そりゃあの場に
いなかったリネアがあの話をしっていると言う事になったら、だれ
かが教えたしかないけどよ。
﹁⋮⋮じゃあ、私は戻る⋮⋮リネア⋮⋮﹂
1525
﹁は、はい!﹂
﹁私は隊長として任せられているから⋮⋮クロウの事にまで⋮⋮中
々助けるころは難しい⋮⋮だから、あなたがクロウを助けて⋮⋮﹂
﹁わ、分かりました!﹂
﹁⋮⋮じゃあ、また後で⋮⋮﹂
そう言い残してサヤはこの場を後にした。
その場に残っていたリネアは俺の横にまで来ると、俺と同じよう
に石階段にちょこんと腰を下ろした。
﹁生徒の間では酷いっていう話が殆どですけど⋮⋮クロウさんも無
理にやっているんだなと私は思いました﹂
﹁? なんでだ?﹂
﹁だって、普段のクロウさんはとっても優しいじゃないですか! 私はクロウさんがあんなひどい事を進んでやる人とは思えません﹂
ああ⋮⋮心が癒されていく。
誰かに励まされるってこんなに良い事なんだなと思っていた。
﹁今は駄目でも必ず分かってもらえます! だから気落ちしないで
ください! 私も出来る限りクロウさんを手伝いますので頑張りま
しょう!﹂
﹁⋮⋮﹂
1526
﹁⋮⋮? どうしたのですか?﹂
﹁いや、普段不幸な子とか言われているけど⋮⋮今は女神か何に見
えるなって⋮⋮﹂
﹁!? ち、ちょっと、何を言っているのですか!?﹂
思わぬことだったのか、反射的にリネアは立ち上がってしまった。
﹁わ、私はそんな人じゃないですよぉ﹂
顔を何故か赤くしてしまっている彼女は可愛かった。
﹁はは、さて俺らも行くか﹂
立ち上がると精一杯背伸びをしてみせる。先ほどの苛立ちが完全
に消えたわけでは無いが、それでも少しだけ心が軽くなった気がし
た。
﹁ありがとうな、お蔭で少し楽になったよ﹂
俺は素直に彼女に礼を言った。
﹁い、いえ! とんでもありません! わ、私に出来ることがあっ
たらいつでも言ってください!﹂
﹁ああ、そうさせてもらうよ。ほら、行くぞ﹂
﹁は、はい!﹂
1527
さて、気合を入れなおして行かないとな!
1528
第139話:校舎裏にて︵後書き︶
感想の返信につきましてはゆっくり返しますが、いつでも募集し
ています。感想につきましては特に記述が無い場合を除いて必ず返
信させてもらいます。
あっ、でも優しくお願いします︵切実︶
1529
5/30
誤字を修正しました。
第140話:リネアの意外な︵前書き︶
※
1530
第140話:リネアの意外な
﹁それにしても、どうしたらいいやら⋮⋮﹂
まだ、約束の30分までは時間があるので、校庭の隅でリネアと
一緒に座って校庭にいる生徒たちをボーと見ていた。何人かが魔法
を撃ちあっているのが目に見えた。いや、普通に暴力だよなそれ?
案の定、教師が何人か止めに入っていく様子が目に見えた。
あいつらには魔力訓練を行うとか言ったけど、改めて考えるとア
ホすぎる。時間があるなら未だしも、下手をしたら数日で出発させ
られる可能性があるのに、そんなことをやってられる悠長な時間な
ど、無いに等しいんだぞ?
でも、口で言っても駄目、体で⋮⋮うーん、あの襲撃を見てもあ
んな事を言うんだからなぁ⋮⋮並々の体験じゃ話にならないだろう
な。
﹁? クロウさんどうしたのですか?﹂
﹁いや⋮⋮躾けって難しいなって﹂
﹁そんなものですよ。戦いを理解していない人たちなので仕方が無
いのかもしれませんね﹂
﹁そういえば、リネアは俺があんなことをしたのに何も言わないの
か?﹂
1531
﹁そうですね⋮⋮私も確かに何もないと言えば嘘かもしれませんが、
それでも皆で生き残る為には時には鬼になる必要もあると私は思い
ますし、クロウさんが進んでやっているとは思いませんでした。そ
れに自分の無力さも私は承知していますから⋮⋮クロウさん、そし
てサヤさんやエリラさんを見てそれは痛いほど身に染みています﹂
あーうん。そうだね。でも俺やあいつらは規格外だと思うんだ。
﹁それに⋮⋮クロウさんは私の師匠ですから﹂
隣でリネアが真面目な顔で言ってくるので、少し恥ずかしくなる。
師匠って言う人柄じゃないんだけどなぁ。サヤにもなんか師匠認定
されているしどこで、こうなったやら⋮⋮。
﹁ありがとな⋮⋮でも、師匠だったとしても間違えていると思うな
ら言ってくれよ? 師匠だって完璧じゃないんだからさ﹂
自虐発言をして思わず苦笑いをしてしまう。いや、ホントマジで
俺、人に教えるのって苦手なんだよ。
﹁そんなこと滅多にありませんよね? でもそうですね⋮⋮その時
は遠慮なく言わせてもらいます﹂
﹁ああ、そうしてくれ﹂
自分の事なんか他人から見てもらわないと分からない箇所って多
いからな⋮⋮。他人から意見をもらう事は大事な事だ。
﹁⋮⋮そうだ。リネア﹂
1532
﹁はい? なんでしょうか?﹂
﹁リネアがさ、あいつらに言う事を聞かせるんだったらどうやって
する?﹂
﹁私がですか? ⋮⋮そうですね、やっぱりまずは集団で行動する
大切さを言いますね⋮⋮って言ってもそれが駄目なんですよね?﹂
﹁まあ、そうだな。少なくともレミリオンみたいな奴には何を言っ
ても無駄だろうな﹂
﹁じゃあ、次は実際に体験したことから説得をしてみてらどうです
か? 実際にあったことなら少しは現実味を帯びてきますよ﹂
﹁うーん⋮⋮﹂
﹁クロウさんの中で、インパクトが強い思い出とかないのですか?﹂
﹁そうだなー、龍としゃべったことや、龍族の死骸の山を見たこと
や、魔法でやり過ぎてクレーター作ってしまったこととかかな?﹂
﹁???!?﹂
目を白黒させているリネア。うん、分かるわけないよね。てか、
分かったら分かったらでそれはまた、恐ろしいしな。
﹁想像できるか?﹂
﹁い、いえ、私にはとても出来ません⋮⋮ていうか、それ本当のこ
となのですか!?﹂
1533
﹁誰にも言うなよ?﹂
﹁は、はい⋮⋮でも、どこでそんな光景を?﹂
﹁まあ、色々合ったんだよ俺も⋮⋮﹂
﹁そうですか⋮⋮ちょっと信じられないですね⋮⋮﹂
アレ。これしゃべってよかったのかな? まあ、リネアなら大丈
夫だろう⋮⋮多分。
﹁それにしても、やっぱり思い浮かばないなぁ。体に覚えこませよ
うとしても時間がなぁ⋮⋮﹂
そう、何をやるにしても時間が足りないのだ。時間があれば某軍
人さんみたいな地獄のトレーニングか何かで洗の⋮⋮ゲフンゲフン、
叩き込むことが出来るんだけどなぁ。
結局は、国からの返答次第と言う事になるのか。
﹁身体に覚えこませるのが一番早いとは思うのですけどね。授業で
も座学より実践の方が私はよく見に付くような気がします。もっと
も、私は実戦は失敗ばかりでしたけど﹂
﹁そうだな。あんなに誤射ばっかりしているんだからな。でもまぁ、
最近は大分良くなっては来ているじゃないか﹂
﹁はい、お蔭さまで。何度もご指導してもらいましたから﹂
やっぱり、反復って大事なんだな。繰り返しやることで体に染み
1534
つくんだろうな。
﹁反復⋮⋮実戦⋮⋮体験⋮⋮﹂
⋮⋮そうだ!
﹁⋮⋮やってみる価値はある⋮⋮か?﹂
﹁? いきなりどうしたのですか?﹂
﹁いや、ちょっと良い事を思いついたんだ。だけどかなり危険な行
動なんだよな⋮⋮﹂
ある意味一番怖いかもしれない。てか、俺自身もこれを実行する
のは楽じゃないぞ⋮⋮。やってみるのは初めてのことだし、何より
一個につきどれ程の魔力を消費するか全く見当がつかない。
そして、一番危険なのはこれを行ったことによる怪我だ。俺が回
復させれば一番早いが、俺が瞬時に回復させてしまうことで、﹁怪
我しても大丈夫﹂と駄目な思いを抱かせてしまう。それに甘んじて
回避行動などを怠ってしまう危険があるからだ。そんな癖が付いて
もらっては大変困る。ますます、俺依存が激しくなるからだ。
そうならないためには、俺が回復させなければいいだけなのだが
⋮⋮。
﹁どんな危険なのですか?﹂
﹁⋮⋮色々かな。下手したら死人出るかもしれないし﹂
1535
﹁⋮⋮やってみてはどうですか?﹂
﹁はっ?﹂
思わず発言に口が開いてしまう。
﹁もう時間もないのなら、一か八かでやってみてはどうですか? あの時だって︽自動防御︾を付けていない人が死ぬ覚悟でやったの
でしょ?﹂
﹁そうなんだけどなぁ⋮⋮﹂
チラッと目線かえ、特待生組たちを見る。あいつらになんて言う
べきなのだろうか。絶対反対するだろうしな。
そんな、俺の考えが読めたのか、はぁ、とリネアはため息を吐く
と、急に俺の両肩をガシッと掴み、無理やりリネアの方へと向きを
変えられてしまった。
﹁大丈夫ですって! 勝手にやればいいのですよ! クロウさんは
司令官なのですよ!? クロウさんが遠慮していたらダメでしょう
が!﹂
初めて見る彼女の気迫にやや押され気味になる俺、薄紫色の綺麗
な瞳は力強く俺をしっかりと見ていた。その目を見た俺はああ、俺
ってこういうのに弱いよなぁと心の中で呟いてしまう。
﹁反対されたら今度は私も味方をします! だから思いっきってや
ってください! 例えどうなろうとも私はクロウさんの味方です!﹂
1536
﹁⋮⋮ああ、分かったよ。ありがとうな﹂
まぁ⋮⋮背中を押されるって悪い事じゃないな。今日は彼女たち
に支えられてばっかりのような気がする。彼女たちの意外な一面も
見たが、俺なんかよりしっかりしているなぁと思ってしまう。
﹁いいえ、サヤさんもさっきも言ったじゃないですか。クロウさん
は私たちの師匠なのですから。弟子が助けるのは当然の事ですよ﹂
﹁はは、当然か⋮⋮な⋮⋮?﹂
と、その時徐々に生徒たちが元居た場所に集まりだしているのが
目に見えた。どうやら約束の30分にもうすぐなるようだ。
﹁さぁ、行きましょう﹂
リネアは立ち上がると、俺に手を差し伸べて来た。あれ、なんで
だろ⋮⋮自分が情けなく見えてきたような⋮⋮?
はぁ、全く俺が助けられてどうするんだよなぁ。
だが、忘れていたな。人は一人では何も出来ないってことを。
あまりに、チートじみていたので、すっかり忘れてしまっていた。
俺は少しだけ、笑顔になると彼女の差し伸べた手をしっかりと掴
み立ち上がるのだった。
1537
第140話:リネアの意外な︵後書き︶
あれ? 私の心の中でリネアの評価がとんでもない勢いで上がっ
ています。
書きながら、リネアへ一言。﹃健気すぎるで、あんた⋮⋮﹄
私はこういう子、大好きです︵キリッ︶
1538
第141話:ゴーレム再び
﹁おい、どうしたんだ? いきなり自分が説明するって?﹂
﹁まあ、まあ見ておいて下さい、別にシュラたちの意見を蔑ろとか
にする訳じゃありませんから﹂
ここで彼らに説明をしてもいいけど、何を言われるか分からない
のでやめておこうと思う。
予定の30分が経ち、レミリオンたちに︽契約︾をさせ、いよい
よ訓練と行く前に俺は説明を変わるようにお願いした。
ちょっと疑問に思われたがいいよと言われたので俺は台に立つ。
生徒たちには訓練とだけ言ってあるが、まだどんな訓練かは話し
ていない。まあ、知らない方がいいだろうな。
何故なら、彼らが今から体験するのは、俺が実際にあった戦いだ
からだ。
﹁さて、実は先ほど隊長たちからとある案が出された﹂
俺はそう切り出した。
1539
﹁それは、これから戦う上での陣形についてだ﹂
陣形。聞きなれない言葉に首をかしげる生徒。陣形ぐらい分かれ
よ。と言っても、この世界では陣形なども戦術に含まれるので仕方
が無い事なのだが。
﹁でだ、隊長たちは俺一人を前衛にして、残りの皆は後衛として援
護射撃をすると言う案なのだが⋮⋮皆に聞いておきたいんだ。皆は
今の案に賛成するか?﹂
生徒たちが騒がしくなる。
﹁賛成する人は挙手をしてくれ。自分の考えでだぞ? 別にこれに
賛成、反対で処罰をするとかそんな事はないからそこは安心してく
れ﹂
選挙とか言いながら、投票所に行くと兵士が立って、一人ひとり
の投票内容を見て場合によっては無理やり書き換えさせたりする国
が前の世界のどこかにあった気がするが、そんな理不尽なことはし
ないからな。
隣同士でヒソヒソと話している者もいれば、何やら誘っているの
か積極的に周りの子に声をかけている者もいた。やがて、ポツポツ
と手を上げだす者が出て来る。それを見て、どうしようか迷ってい
た生徒たちも手を上げていく。
5分の4⋮⋮いや、6分の5か? 手を挙げた者が大半をしめて
おり、挙げなかった者は殆ど見られなかった。
ここで、反対が大半を占めればシュラたちに考え直させるつもり
だったのだが、そんなに甘くは無かったか。
1540
﹁皆は賛成と言う事でいいんだな? ⋮⋮分かった、では陣形はそ
れで確定をする。次に訓練内容だが⋮⋮当初の予定では隊長たちか
ら案が出ていた学園の授業の一つである魔力訓練をするつもりだっ
たのだが、時間が圧倒的に足りないと言う事でその案は却下させて
もらう﹂
シュラたちが﹁はぁ!?﹂と言った顔をしているのが見えた。悪
いな、あんたらの意見を全て認めていたら何人死人が出るか分から
ないんでな。
まあ、全部否定するのもそれはそれで問題なので、陣形だけは案
を通らせたが︵つーか、通ってしまった︶、悪いけどこの案も通す
つもりは微塵も無い。
だが、俺が口で言っても無駄なのは分かっている。ならどうする
か? 身をもって体験させるのが一番手っ取り早い。
いや、それが上手く行かなかったじゃないかと言う声が聞こえて
きそうだが、確かにその通りだ。しかし、物事を覚えさせるのは体
に染みつけるのが一番早いのには変わりがない。
スポーツの練習でもそうであろう。頭で色々考えるよりも実際に
動いてやる方が、動きが染みつき、試合でも自然と体が動くように
なるものだ。
だが、それは一度やっただけでは出来ないことが多い。どんなに
そのスポーツが得意でも、見たことがないような動きや技を一度や
っただけで、さあ試合でやれと言ってそうそう簡単に上手くはいか
ないだろう。
なら、出来るようにするにはどうすればいい? 答えは至極簡単、
何度も同じことをやればいいのだ。
1541
そして、それは躾にも同じことがいえることだ。犬などに﹁お座
り﹂や﹁お手﹂、﹁おかわり﹂を覚えさせるさい何度も何度も同じ
ことをさせる。また、悪い事をすればその度に罰を与えれば、本能
的に﹁これはやっては駄目だ﹂と覚え、やがてしなくなるだろう。
俺が考えているのは、こういうのとは多少違うが、簡単に要約す
ると﹁何度も何度も戦いをさせ、恐怖を身に沁みこませる﹂戦法だ。
一度で覚えないなら何度でも何度でも体験させればいい。そうすれ
ば戦争を舐めている奴らも、どこかで考えを変えるかもしれない。
勿論、やや賭けに近い方法だとは思っている。馬鹿に付ける薬は
ないと言う言葉があるが、実際何度も何度もやっても懲りない奴ら
は多くいる。
そんな奴らでも無理やり体に覚えさせればいい、それも一度だけ
では無い。何度も何度もだ。
で、その恐怖体験をどうやって何度も体験させるかと言う事だが、
前に俺が作った自重しないゴーレム︵第11話参照︶の応用を行っ
てみる事にする。
と言っても、一体だけでは現実からかけ離れてしまうので、能力
は低く、数は大量に用意する必要がある、
問題は、それが出来るかどうかなのだが、正直なところ考えがま
とまっていない。その数をどうやって短時間で用意して、どういう
思考で動くなどのアルゴリズムを入れて、更に、そこに集団で動く
ように設定をしなければならない。
で、そんな魔法式を書いている暇は当然無い。そこで、俺が考え
たのは簡単な攻撃手段をセットするだけで、残りは全て俺が指令を
出す作戦だ。これなら、魔法で量産できるし、魔法式を書く時間も
ほとんど必要ない。
1542
・
だが、俺一人で前を守らないといけないので俺も、戦わなければ
実戦にはならない。というか、戦わなければシュラたちに文句を言
われるのは俺の方だ。従って、戦いながら指令をするということを
強いられるのだが、当然、やるのは初めてなので、どうなるか予想
がつかない。
一歩力加減を間違えれば何人かが死ぬ危険もあるが、手を抜き過
ぎれば実戦とはならないので、弱すぎることも出来ない。
︵出来るか⋮⋮?︶
リネアが背中を押してくれたことで、そこまで不安ではないが。
それでも、大丈夫か? と不安に駆られる。
だが、他にいいアイディアが思い付かない以上やるしかない。
﹁さて、では何をするのかと言うと、陣形を組み実際に戦いを行っ
てもらう。これなら魔力訓練と同時に部隊としての練度の向上も望
める、時間が無い以上、同時に行えるこの訓練を行う事にする。で
は、全員校庭の真ん中に集合し、各隊長の指示に従って陣形を組ん
でもらう。では、移動してくれ﹂
その言葉に従い生徒たちが校庭の中央へと向かって行く。それを
確認して俺は台から降りた所で当然のことながらシュラたちが歩み
寄ってきた。
﹁おい、クロウ。どういう事だ? 勝手に変える前にせめて俺らに
言ってもy﹂
﹁⋮⋮うるさい﹂
1543
シュラの言葉を遮ったのはサヤだった。自前のナックルダスター
を両手に取り付けながらシュラを見る。顔は無表情であったが、ど
ことなくシュラを睨んでいるように見える。
﹁⋮⋮司令官はクロウ⋮⋮クロウにも考えがある⋮⋮﹂
﹁で、でもよお︱︱︱﹂
﹁⋮⋮シュラは戦いを全て知っているの⋮⋮?﹂
﹁えっ、いやそれは﹂
﹁⋮⋮知っていないなら言うな⋮⋮﹂
それだけ言うとサヤは、生徒が集まっている方へと歩いていった。
﹁さ、サヤ! 待ってよぉ!﹂
セレナがサヤの後を追いかけて行った。いつも一緒にいる所を見
るとあの二人は仲がいいんだなと思う。
﹁⋮⋮どうしたんだあいつ? さっきは何も言わなかったのに?﹂
﹁⋮⋮とにかく、俺たちも行きますよ﹂
﹁お、おいちょっ﹂
﹁文句は後で聞きます。今は黙って付いてきてください﹂
1544
﹁⋮⋮ああ、分かったよ﹂
﹁お、おいシュラそれでいいかよ!?﹂
カイトが折角諦めたシュラに余計な油を注いだが、シュラは仕方
が無いと言った顔をした。
﹁クロウがトップだ。それにサヤが言った通りクロウにもクロウな
りの考えがあるんだろう。俺らに何も言わなかったことを含めてな﹂
﹁だ、だが︱︱︱﹂
﹁もういいだろ? これ以上言い争っても仕方が無いだろ。ほら行
くぞ﹂
﹁くっ!﹂
まだ、色々言い足りないようだったが、シュラによってやや引き
ずられるような形で歩いていった。それに乗るような形で他の面々
も後に続いていく。
思ったよりも反論が少なかったので、多少ホッとしたがこれから
が本番だ。と気を引き締め、俺も皆の後ろから付いていく形で行く
ことにした。その道中、思い出したかのようにカイトが俺に相手の
事を聞いて来た。
﹁所で、実戦って誰と戦うんだ? クロウが相手だと意味が無いと
はさっき言った︱︱︱﹂
﹁ええ、そうですよ。だからとっておきの相手を用意しましたから﹂
1545
﹁それは一体どこに?﹂
﹁始まれば分かりますよ﹂
俺は答えをはぐらかしておいた。今言った所で余計な混乱を招く
だけだろうし、それでまた言い争いになったらたまったもんではな
いからだ。
︵さて⋮⋮出来るかな? ⋮⋮いや、やらないと駄目なんだな︶
俺は自分を鼓舞して、一般生徒が待つ元へと歩いていった。
1546
6/2
誤字を修正しました。
第142話:幻想人形操り・前編︵前書き︶
※
1547
第142話:幻想人形操り・前編
﹁⋮⋮全員配置についたな?﹂
校庭の真ん中に出来上がる長方形の陣。名前は⋮⋮確か﹁横陣﹂
だったはずだ。
横陣。部隊を横一列に並べる最も基本的な陣形だ。ただ、あくま
で基本であって、この陣形で平野などの障害物が無い地形で戦うの
は自殺行為に等しいと言えるだろう。何故なら縦陣で陣を突破され
ばぼうさく
れば左右に隊を分断され各個撃破をされる恐れがあるからだ。
したがって横陣は防塁や馬防柵をなどの地形を利用して使う事が
一般的だ。
本当は方円の陣とかの方がいいのだが、方円は円形に陣を作り上
げ大将が中央に陣取るので、大将つまり俺が真ん中に行くとなると
必ず文句を言う馬鹿が出るし、そもそもそんな高度な陣形を全く練
習をせずにやれと言う方が無理である。それに俺一人が知っていて
も出来る訳が無いので却下とさせてもらう。
練度、知識の無さから自然と基本的な陣形である﹁横陣﹂になっ
てしまう。まあ、これは仕方がないことだよな。
実戦
だ。大怪我をする可能性もあれば最悪⋮⋮
﹁さて、これから模擬戦を行うが⋮⋮最初に言っておく。これは模
擬戦と言う名の
命を落とす可能性もある﹂
生徒たちの間に緊張が走る。急に顔が引き締まった者もちらほら
1548
と見えたので、俺は心の中で﹁まだ甘ったれているか﹂と嘆いた。
まぁ、その生温い考えを徹底的に直してやるからな。
﹁だから死ぬ気で戦え。こんな所で死ぬようじゃ実戦に出ても命は
直ぐに消えると思うんだな﹂
﹁それはいいけど、一体誰が相手なんだ? まさかエアーでやれと
は言わないよな?﹂
どこからともなく野次らしき声が聞こえて来た。その言葉に笑う
生徒が多数。うん、まあそれやれっていったら俺も笑うわ。
﹁今から戦うのは俺が実際に戦った戦いの布陣、戦力を再現する。
残念ながら市街地戦だったので戦況までは再現できないが、それで
も十分な再現度になるはずだ﹂
それだけ言うと、俺も自分の位置へと移動をする。そして、自分
の位置に来る、くるりと反転をし生徒たちの方を向いた。
﹁では⋮⋮はじめ!!﹂
俺は両手を天に向かって振り上げるとそのまま、地面へと勢いよ
く叩き付ける。俺の手が着弾したところを中心に魔法陣が生れ、さ
らにそこを中心に数え切れないほどの小さな魔法陣が生れる。
すると、俺のすぐ後ろの地面が盛り上がりだした。そして、同じ
ような盛り上がりが校庭のあちらこちらに発生をする。その高さは
2メートルもなかったが、それが生徒たちを囲うように生成されて
いくのを見て、大きさ以上の恐怖を生徒は覚えたかもしれない。
1549
やがて、ある程度時間が経つと今度は逆に盛り上がった地面の一
部が沈みだした。そしてその沈んだ土の中に何かがいるのが見えた。
大ざっぱ形から徐々に綺麗なラインへと変貌を遂げ、ある所でそ
の変化は終わりを告げた。
出てきたのは、大きさ1.6メートル程度のゴーレムだった。そ
れが生徒を囲むように生成されており、その数は優に500はある
だろう。
急に現れた土くれのゴーレムたちの姿にたじろぐ生徒たち。だが、
恐怖の時間はまだ始まったばかりだ。
︵出来るか⋮⋮!?︶
︽魔力制御︾をフル活用し全てのゴーレムたちに一斉に指令を送
る。歩くや攻撃するなどの基本的な魔法陣は予めゴーレムに内臓さ
せているので、あとは俺が状況に合わせて多種多様な動きを指示し
ていけばいい。
マリーアントワネット
>>スキル︽人形操り︾を取得しました。
>>スキル︽指揮︾を取得しました。
久々だな脳内アナウンス。︽人形操り︾を取得した瞬間、俺の視
界にマップが現れ俺が動かしているゴーレムを表しているらしきマ
ーカーが大量に現れた。
何なんだこれは? と、思っていたが、すぐにそのスキルを理解
した。
1550
マリーアントワネット
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽人形操り︾
分類:戦術スキル
効果:自信が作成した人形を自由自在に動かすことが可能となる。
スキルレベルが上がればより細かい動き、一度に操れる量を
増やすことが出来る。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
スキル名:︽指揮︾
分類:戦術スキル
効果:部隊を指揮する時に指揮する味方全体にステータス上昇の効
果を付与する。
スキルレベルにより付与効果は上昇する。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
流石チートや。だが、悠長にしている余裕はない。早速このスキ
ルにあやかることにしよう。
そうして、早速スキルでゴーレムを動かそうとしたのだが、動か
した直後、ズキィッと頭の奥に響くような鈍い痛みが襲ってきた。
思わず手を止め頭を抱えてしまう。
︵何なんだこれは⋮⋮?︶
ゴーレムを動かそうとしたらいきなり頭が痛くなったが⋮⋮もし
かして、一度に操り過ぎているのか? スキル説明にも操れる量に
ついて触れているところを見るとその可能性は十分にある。
試しに動かすのを数体だけにしてみる。すると、問題なく動かす
ことが出来た。
1551
なるほどな⋮⋮だけど、そんな数体だけを悠長に動かしている余
裕はない。
痛みを覚悟し、一斉にゴーレムを動かしだす。すると、収まって
いた頭痛が再び襲いだす。
歯を食いしばり痛みに耐える。ゴーレムたちは徐々に生徒たちと
の距離を縮め始める。それに合わせるように生徒たちがじりじりと
後ろへと下がっていく。
﹁何をしているんだ! 応戦しろ!!﹂
俺の声に弾かれるように各々が魔法を唱えだす。
応戦している様子を見ていたかったが、俺の方も人の事は言えな
い。何故なら目の前にまでゴーレムが迫ってきているのに完全にス
ルーをしているからだ。
彼らばかりを地獄に行かせるのもあれなので︵と言うか、後で文
句を言われないようにする︶、俺の近くにいたゴーレムの戦闘力は
彼らが戦っているのよりも遥かに桁違いの戦闘力を擁してる。
その強さは普段の俺なら難なく倒せるレベルだ。だが、今の俺は
ゴーレムを操っているために神経を費やしており、そこに頭が割れ
そうなぐらいの頭痛と戦っているので、簡単には行かなそうだ。
近づいてくるゴーレムの攻撃を回避しながら一体、一体確実に削
っていく。だが、俺の周りには既に数百単位のゴーレムが群がって
おり既に、俺の位置からでは生徒たちの様子は分からなかった。
さて、この戦いはあのエルシオンを襲撃した龍族の2回目の攻撃
1552
を再現したものだ。
あの時は、俺の遠距離射撃で問答無用に沈めたが、もし俺がいな
い状況または、魔法を撃てない状況で都市内に侵入された場合、こ
のような状況下に陥ると仮定をし動かしている。
﹁⋮⋮死ぬんじゃないぞ⋮⋮﹂
生徒たちの事を考え呟いたが、何故かそれは自分自身に言ってい
るようにも聞こえたのは、きっと気のせいでは無いだろう。
自分で作り出した状況に苦笑をしつつも、俺だけが楽をする訳に
は行かないよな、と痛む頭を誤魔化すかのように自分の体を動かす
のであった。
1553
第142話:幻想人形操り・前編︵後書き︶
久々にスキル取得をした気がします。
補足:方円の陣は防御的な陣形で陣形の形上、移動には適していな
いため、迎え撃つ形となるのが基本のようです。
1554
誤字を修正しました。
誤字を修正しました。
第143話:幻想人形操り・中編︵前書き︶
6/4
6/5
※
※
1555
第143話:幻想人形操り・中編
﹁あの野郎嘘つきやがったな!﹂
﹁しゃべってる暇があるんなら一つでも多く魔法を撃てや!﹂
﹁くそっ! ⋮⋮後で絶対文句言ってやる!﹂
迫り来るゴーレムに魔法を撃ちつけ、懐に入って来る前に得意の
近接攻撃でゴーレムを迎え撃つ。数はおよそ数百。一人が二体破壊
すればほぼ全滅する程度の数だ。だがシュラたちからしてみれば、
このゴーレム軍団は無限にわき続ける湧き水のように感じられただ
ろう。何故なら。
ショット
﹁︱︱︱︽魔弾︾!﹂
フレア
﹁︱︱︱︽火球︾!﹂
︱︱︱ズガガガガァン!
魔法が次々とゴーレムに当たって行く。命中率はほぼ100%に
近いだろう。だが︱︱︱
︱︱︱ミシミシ⋮⋮ドスン!
魔法を受けたことにより一時的に停止するゴーレムであったが、
しばらく待ったのちに何事も無かったかのように動き出す。
1556
﹁ぜ、全然効いていないじゃねぇか!﹂
そう、彼ら一般生徒程度の魔法ではこのゴーレムを破壊するどこ
ろか、傷を入れるのすらも一苦労なのだ。だが、そんな中でも一際
目立つ動きをする者たちもいた。
﹁︱︽風剣︾﹂
風を纏った拳がゴーレムの胴体を襲った。ドンッという音と言う
よりもドガァンと砕ける音と破裂する音が響き、ゴーレムの胴体に
巨大な穴が開く。その勢いのままゴーレムは後ろへと吹き飛び、後
方にいた別のゴーレムに直撃して二体共々一緒に転び、砕けた。
エリア・ショット
﹁︱︱︱︱︱︱︽広・火弾︾!﹂
一つの魔法陣から一斉に火の玉が飛び出し、各方向へと飛んで行
く、そして、ある程度広がった時に
﹁︱︱︱砲!﹂
真っ赤な火の玉がゴーレムの集団へと落ちていく、前にリネアが
使ったのは一点集中型で敵単体に使う魔法だったが、今回は広範囲
に広がった後、そのまま敵の集団へと落としていく拡散型だった。
︵前回の魔法については第73話参照︶
火球を受けたゴーレムは次々と砕け散っていく。通常、火属性の
魔法は土系の敵には相性が悪い。だが、それを取って補うほどの威
力がその魔法にはあったのだ。
﹁⋮⋮腕を上げたね⋮⋮﹂
1557
﹁サヤさんも相変わらずすごいです﹂
クロウが前線に立っているため臨時でサヤの配下に入っていたの
だが、この二人のコンビがこれまた強烈なコンビとなっていた。超
接近タイプのサヤが前で戦い、後ろからリネアが援護する。これが
型にはまり、彼女らの周囲にはゴーレムだったはずの土塊の山が出
来上がっていた。
﹁⋮⋮勝負する⋮⋮?﹂
﹁いいですよ。負ける気はありませんけど﹂
﹁⋮⋮ふふ⋮⋮後悔させてあげる⋮⋮﹂
﹁その言葉、そっくりそのまま返しますよ﹂
こんな状況下であったが、二人には余裕があった。サヤが薄らと
笑うとリネアも負けじとニッコリと笑顔をし返す。そして、互いに
負けじとゴーレムを次々と倒していく。
﹁なんだよあいつら⋮⋮﹂
﹁レベルが違い過ぎるだろ⋮⋮﹂
戦いの一部始終を見た特待生や生徒たちは自分たちと桁違いに強
かった彼女たちを見て愕然としていた。
同じ年齢の生徒がこんなに戦えるのに⋮⋮と悔しがる者もいた。
しかも片一方はついこの間まで﹁不幸﹂とあだ名を付けて見下して
いた人なのだから、その悔しさも何倍に跳ね上がっているだろう。
1558
﹁! おいっ前! 前!﹂
サヤたちの動きに見とれ動きが止まっていた生徒の頭上にゴーレ
ムの巨大な手が覆いかぶさっていた。周りの声でそれに気付いた生
徒であったが、時すでに遅くゴーレムの重い一撃が生徒に振り下ろ
されていた。
︱︱︱ガァンッ!
だが、ゴーレムの振り下ろしは生徒に届く事無く、直前で弾き返
されてしまった。その反動でぐらりとバランスを崩し、そのまま尻
餅を付いてしまった。
﹁た、助かった⋮⋮﹂
︽自動防御︾のお蔭で命拾いをした生徒であった。このようにゴ
ーレムの攻撃は生徒までは届くことが出来ないでいたので、戦局は
サヤとリネアの活躍もあってジリジリと押し気味だったのだが、そ
うは簡単に問屋が降ろさなかった。
︱︱︱パキィン!
﹁ひぃ!﹂
どこからともなくガラスが割れた時のような音が鳴り、さらに同
じような音があちこちから聞こえ出していた。
﹁︱︱︱︱︱︽しょ
1559
とある生徒が魔法を撃とうとしたとき、その生徒の動きが一瞬止
まったかと思えば、いきなり地面へと崩れ落ちた。
﹁や、やばい!﹂
﹁誰か助けるんだ!﹂
︽自動防御︾は術者の魔力を吸い上げる。たまに誤解される時が
あるので、補足をしておくと、︽契約︾により生徒たちは︽自動防
御︾を使えるようになってはいるが、この魔法を使用する時に消費
する魔力はほかならぬ、生徒たち自身の魔力を消費している。決し
てクロウが肩代わりをしてもらっているとかは無いのであしからず。
ただえさえ︽自動防御︾は魔力の消費量が激しい。普通の︽自動
防御︾を生徒の魔力で使用をしようものなら、ゴーレムの攻撃に耐
えれる回数は数回が限界だろう。
クロウが改良を加えているとはいえ、それでも耐えれる回数は数
回から十数回が限界であることは間違いない。
そして、魔力が足り無い状態で攻撃を受けてしまえば︽自動防御
︾の障壁は叩き割れ彼らの身を守る結界は崩れ去ってしまう。
そう、先ほどあちこちから聞こえて来ていたガラスが割れるよう
な音は、この障壁が叩き割れる音だったのだ。
そして、割れたと言う事はその生徒自身の魔力が尽きかけている
と言う事を指し示していた。その状態で尚も魔法を撃とうものなら
魔力枯渇を起こし倒れてしまうという訳だ。
地面に倒れた生徒の上にゴーレムがやって来る。
周囲にいた生徒は何とかしてゴーレムを止めたかったが、自分ら
も目の前にいるゴーレムに手一杯で援護射撃は不可能だった。
倒れた生徒はなんとか立ち上がろうともがくが、力が上手く入ら
1560
ないのか立ち上がるために体を支えている手や足はまるで生れたて
の小鹿のように震えていた。
そんな中、無常にもゴーレムの巨大な拳が振り上げられる。
﹁あ⋮⋮あ⋮⋮いや⋮⋮﹂
倒れた生徒の目からは涙が流れていた。だが、そんな事など関係
ないと言わんばかりにゴーレムの腕がピタリと止まったかと思えば、
一気に振り下ろされた。生徒は思わず目を瞑り藁にすがるかの思い
で祈った。
︱︱︱ガァン!!
﹁⋮⋮え﹂
だが、振り下ろされたはずの拳が結局、その生徒に当たる事は無
かった。覚悟していた攻撃が来なかったので、恐る恐るといった感
じで目を開けると。
﹁⋮⋮ギリギリだったな﹂
そこに立っていたのは額から血を流しているクロウであった。
1561
第144話:幻想人形操り・後編︵前書き︶
1562
第144話:幻想人形操り・後編
﹁思ったより魔法耐性があったな⋮⋮まぁ、このレベルをどうにか
しないと話にならないんだけどな⋮⋮﹂
何やらそんな独り言をつぶやいているクロウ。その後ろには先ほ
ど倒れた生徒を襲おうとしていたゴーレムが立っていた。だが、ゴ
ーレムが自慢としている腕は肘から先が無く、代わりにクロウの周
囲に土塊が落ちてあった。
﹁あ⋮⋮あの﹂
﹁ん?﹂
﹁あ、頭から⋮⋮血が⋮⋮﹂
倒れていた生徒から指摘されようやく気付いたのか、クロウは自
分の額に手を当ててみた、当てた手を確認してみると、そこには血
がべっとりと付いていた。
﹁⋮⋮やっぱりノーガードはきつかったか⋮⋮﹂
﹁えっ⋮⋮? 今何て︱︱︱﹂
周りの騒音でクロウの声が聞き取れなかった生徒が問いかけよう
としたとき、いきなりクロウが後ろを振り返ったかと思えば、それ
と同時に足を蹴りあげる。
その足はクロウの背後にいたゴーレムの胴体に当たったが、一瞬
1563
も止まることなく振り抜かれていた。胴体を抉られたゴーレムはそ
のまま崩れ落ち、ピクリとも動かなくなる。
その生徒は気付いていなかったが、ちょうどクロウとゴーレムが
重なって見えていなかったのだろう。
あまりに突然の事で先ほど言いかけた言葉などどこ吹く風か、生
徒はただ唖然とするしかなかった。
﹁⋮話は後だ。ほら立て⋮戦場は待ってくれないぞ﹂
﹁は⋮⋮はい﹂
生徒はクロウが差し出した手を掴み立ち上がる︵勿論血の付いて
いない方で︶。生徒が立ち上がったのを確認だけすると、クロウは
ゴーレムの集団の中へと消えて行った。その際にクロウは自分の周
りにいたゴーレムを殴って粉々にして行ったのでクロウのいた周囲
にはゴーレムの姿は無く、代わりに土塊と血痕だけ残っていた。
﹁⋮⋮﹂
﹁だ、大丈夫!?﹂
生徒の友達が傍に駆け寄る。
﹁う、うん、私は⋮⋮で、でも彼が﹂
﹁あんな奴放っておいていいでしょ! ほら、ここに一人でいたら
危ないよ!﹂
そういうと、生徒の手を引っ張って行く。クロウに助けられた生
1564
徒も流されるがまま移動を開始した。
︵⋮⋮ちょっとかっこよかった⋮⋮︶
頭の中では彼の事を思いながら、その生徒もすぐに戦闘へと戻っ
ていった。
==========
﹁もう少しだ! 踏ん張れ!﹂
長く永遠に続くかに思われた戦いにも終わりが見えて来た。
クロウが生徒たちの元へと戻って来たこともあるが、サヤ、リネ
アの活躍によりゴーレムの数は着実に少なくなって行き、ついに数
えれるほどにまで減って来た。
数が減って来たことにより生徒たちの視野にも余裕が出来だした。
﹁⋮⋮マジかよ﹂
シュラはクロウが最初に立っていた位置を見ていた。
そこには、土塊が山のように積まれていた。しかもその量が尋常
では無かった。どう見ても自分たちが倒した量よりも多い土がそこ
1565
にあったのだ。
つまり、彼は一人で自分たちが倒した敵よりも多く倒し、尚且つ
こちらの援護に来たと言う事だ。いくら彼の強さが規格外で、ゴー
レムを作り上げたのが本人であったとしても、自分らが手こずる相
手にここまで圧倒するのだから改めてクロウの強さと、自分らの不
甲斐なさを感じていた。
﹁⋮⋮くそぉ! 俺も負けてられねぇ!!!﹂
このような光景を目の当たりにした場合、人々の気持ちはいくつ
かに分かれるだろう。自分の不甲斐なさを感じる者、クロウの強さ
や恐ろしさを痛感するもの⋮⋮これ以外にも数多くの心境があるだ
ろう。そして、それらの心境ののち、さらに幾つかの分岐点がある。
それは、行動するものと諦め投げやりになる者だ。
シュラは行動をした。もともと熱い男︵色々な意味で︶だったの
もあるが、昨日からおんぶされっ放しの自分を変えたいと言う思い
が強く出たのだろう。
果敢にゴーレム向かって行こうとしたその時、シュラの目にクロ
ウの姿が映った。群がるゴーレム相手を次々と殴ってぶっ壊してい
くクロウの姿を見て、ますます無駄に燃えて行くシュラであったが、
その時妙な事に気付いた。
﹁⋮⋮あれ? 何であいつ剣とか魔法を使っていないんだ?﹂
クロウが戦っている姿を数多く見た訳では無いシュラであるが、
見た限りでは彼は剣︵刀︶を使った近接攻撃と同時に、魔法を併用
する戦いを主としていた。
そんな物を使うまでも無いと言えばそれまでだったのだが、チェ
1566
ルストに向かった時やその帰りで魔物と遭遇した時も剣や魔法を使
っていたのをシュラは覚えていたので、違和感を覚えたのだ。
﹁これで⋮⋮最後だ!﹂
シュラがハッと現実に戻されたとき、既にゴーレムは最後の一体
を残すのみとなっていた。そして、その一体ももう間もなくクロウ
が仕留め終えようとしていた。
クロウがゴーレムを殴ると殴られた個所に穴が開き、その周囲へ
と亀裂が走りそして崩れ落ちて行った。
﹁⋮⋮終わったか﹂
最後のゴーレムが崩れたのを確認した生徒たちは次々と地面へと
腰を下ろしていく。中には大の字になって寝そべる者もいた。
﹁おい、休憩をするのは怪我人を運んでからにするんだ﹂
うわぁと嫌がる生徒が大半であったが、流石に怪我人を放置して
休むのは気が引けたので、重い腰を上げしぶしぶ運び初めてた。
﹁︱︱︱っ!﹂
クロウは自分の頭を押さえながら何かを言っているように見えた。
﹁おい! クロウ!﹂
クロウが誰だと声がした方を向くと、カイトがすぐ目の前まで迫
ってきていた。少し怪我をしているようにも見えたが、軽傷のよう
1567
だった。この辺りは冒険者としての経験の違いが出ているのかもし
れない。
クロウが何かと聞く前にカイトの口が先に動いていた。
﹁この嘘つきが! アレはどういう事だ!﹂
﹁アレ⋮⋮? ゴーレムを使っての戦いのことですか?﹂
﹁違う! 俺が言ったのはそうじゃない! お前が前で戦うって言
っておきながら俺らも戦ったじゃないか!﹂
﹁ええそうですよ。文句ありますか?﹂
﹁当たり前だ! それじゃあ約束g︱︱︱
﹁黙れ﹂
﹁⋮⋮何﹂
﹁黙れって言ってるんだよ﹂
散々反対していたカイトにキレ気味のクロウが今度は詰め寄る。
その一部始終を見ていた特待生たちが嫌な予感がすると判断し、止
めにかかり、その様子を一般生徒たちが見るという構造になってい
た。
もっとも、当の本人たちは気付いていないようであったが。
﹁お前、戦争舐めてるだろ? 戦いは正面からぶつかり合うだけな
1568
のか? 違うだろ? 時には横から受け、時には後ろから受けるこ
とだって十分ありえる。それが分からない屑なのかお前は?﹂
どこか罵倒したような言葉と、いつもよりも悪い口が重なってか
カイトはムキになりかけていたところに、セレナたちが割って入っ
て来た。
﹁カイト! そこまでにしなさい!﹂
﹁なんでだよ! 嘘を付いたのはクロウの方じゃねぇk︱︱︱﹂
﹁黙れっ! ボケが!!﹂
後ろから来たシュラにカイトは胸倉を捕まえられる。
﹁シュラ! お前何のつもりだ!﹂
﹁それはこっちのセリフだ! クロウがこんなことをした理由が分
からねぇのか!﹂
﹁何⋮⋮?﹂
﹁お前や俺も含め、全員考えが甘かったのを教えようとしてたんだ
よ! クロウが一人で前で戦う事が出来る戦いばかりじゃない事を
身をもって教えられたじゃねぇか!﹂
﹁じゃあ、あそこで反対すれば良かったじゃないか!﹂
﹁反対しても無駄だと判断したからこうしたんだろ! 俺らに言っ
ても無駄だってな﹂
1569
﹁⋮⋮チッ!﹂
ようやくひと段落ついたところでシュラも疑問に思っていたこと
を言い出した。
﹁クロウ、確かあれは本当にあった戦いを再現したって言っていた
が本当のことなのか?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁クロウ?﹂
﹁! えっ、なんて⋮⋮?﹂
﹁おいおい、聞いていなかったのか? あれは本当にあった戦いを
再現したのは本当かと聞いているんだ﹂
﹁え、ええそうですよ。俺が実際に身をもって体験した戦いですよ﹂
﹁あんなゴーレム集団とどこで⋮⋮?﹂
﹁ゴーレムは俺の実力不足でああなってしまっただけですよ﹂
﹁じゃあ、何と戦ったんだ?﹂
﹁龍族﹂
﹁龍⋮⋮族?﹂
1570
﹁ええ、今この国が戦っている相手の一つですよ。龍族は魔法耐性
が無いので、それは訓練にならないと判断してそうしませんでした
が、敏捷性以外のパワーと体の丈夫さなどはほぼ再現していますよ。
魔法もダメージこそは再現できませんが、あの装甲を突破出来ない
と言う事は、自分らの魔法では龍族の皮膚を貫通することは出来な
いと言う事になりますね﹂
その言葉を聞いた特待生は勿論のこと、その話を聞いていた一般
生徒もたちも動きが止まっていた。
それは、彼らが予定通りに向かっていたとした場合、龍族と当た
る形が十分にありえたからだ。
いくら魔法耐性が違うといっても、自分らの魔法があそこまで歯
が立たないのを昨日の事も含め二重に受けた気分だった。魔族とい
う魔法耐性が高い相手ならまだしも、まさか龍族の装甲すらも貫け
ないとは思わなかったのである。
﹁⋮⋮もういいですか?﹂
﹁えっ⋮⋮あ、ああ⋮⋮﹂
﹁では、今日はこれで終わりましょう。ですが、明日、もう一度同
じことを行います。いいですね?﹂
﹁あ、明日も⋮⋮?﹂
﹁当然です。昨日今日であなたたちの魔法が歯が立たないことは痛
感したはずです。死にたくないのであればやるしかありませんね。
1571
もっとも今日は居ないようでしたが明日の訓練で死人が出る可能性
も無きにあらずですが⋮⋮それに、俺が一人だけ前に出るという意
味も十分理解したと思いますので、改めて明日もう一度聞きましょ
うかね﹂
﹁⋮⋮﹂
誰も言葉を発する者はいなかった。
﹁⋮⋮じゃあ、今日は終わりです。私は先に帰っていますよ⋮⋮﹂
それだけ言うとクロウは校舎の方へと消えて行った。
﹁⋮⋮はぁ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁マジかよ⋮⋮﹂
﹁もう嫌だ⋮⋮﹂
色々な事が重なり合い、明日の事を考えて嫌気が指す人が過半数
を占める中、近くでクロウを見ていたサヤは他の事を考えていた。
︵⋮⋮変⋮⋮︶
いつもなら、もう少し理論的な事を言うと思ったが、今の言動に
は少し疑問を覚えていた。
︵⋮⋮いつもより弱かった?︶
1572
なんというか⋮⋮漠然とであったが、どことなく弱まっていたよ
うに感じられた。シュラが問いかけた時もボーとしていたみたいで
あったし、それに︱︱︱
﹁⋮⋮サヤさん?﹂
ハッと顔を上げるとそこにはリネアが立っていた。
﹁クロウさんは?﹂
どうやら、彼女は怪我人を運んでいてクロウの姿を見てなかった
ようだ。
﹁⋮⋮クロウならあっちに⋮⋮えっ?﹂
サヤはその時、嫌な予感がした。確かにクロウは﹁帰ります﹂と
言っていた。︽門︾を開く事は考え難いので、この場合での帰るは
街にある宿屋に戻ることを表しているはずだ。
だが、彼が向かって行った先は⋮⋮
﹁⋮⋮あっちは街とは反対の方⋮⋮﹂
1573
第144話:幻想人形操り・後編︵後書き︶
今回は語彙力が無いなぁと痛感した回でした。
それと、同時に第4章は長引きそうだなとも思いました。
1574
第145話:あなたに⋮⋮
﹁⋮⋮!﹂
何も言わぬままサヤはクロウが向かって行った方へと走り出す。
﹁えっあっ! サヤさん!?﹂
いきなり駆け出したサヤに慌てて付いていくリネア。
﹁いきなりどうしたのですか!?﹂
﹁⋮⋮嫌な予感がする⋮⋮﹂
﹁へっ?﹂
﹁⋮⋮いつもと様子が違った⋮⋮﹂
﹁いつも?﹂
﹁⋮⋮特訓期間中に少しでも良い所を吸収しようとして⋮⋮彼のこ
とは細かい所まで見てた⋮⋮﹂
魔闘大会前にクロウの家に押しかけていたときのことだった。サ
ヤはクロウに少しでも追いつくために彼の行動を事細かく見ていた
と言う。それは動きだけでは無く、普段の何気ない声、表情、行動
などあらとあらゆる事を見ていた。ただそれをクロウに言うと流石
に困ると思ったのか気付かない程度に、かつ大胆に見てたとのこと。
1575
ちなみに、夜の寝室にも忍び込んだことがあったのだが、その時
にクロウと同じベットで寝ていたエリラを見て少しだけ嫉妬したの
は彼女だけの秘密だ。
ここまで来ると一種のストーカー行為だと思うが、決して悪意は
無く、ただ純粋にクロウから良い所を吸収し自分を成長させようと
していただけと言う事は念を押して言っておこう。
﹁⋮⋮何もないならそれでいい⋮⋮でも何かあった後では遅い⋮⋮﹂
クロウが消えて行った場所は校舎の方だ。正門は校舎の目と鼻に
先に存在したが、クロウが向かって行った方はその正門とは全く真
逆の校舎があるほうだった。
この学園には正門以外で出入りが出来る正規の入口は存在しない。
つまり、彼は﹁帰る﹂と言っておきながら帰る方とは見当もつかな
い方へ向って行ったと言う事になる。
﹁⋮⋮急ごう﹂
自分が感じている予感が間違いであることを信じサヤは先を急い
だ。
==========
1576
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮ぐっ⋮⋮﹂
頭が痛い。それも尋常じゃないレベルだった。痛みのあまり意識
が飛びそうになるのを何とか防ぎながら校舎裏へとクロウは到達し
た。
本当は正門から出るはずだったのだが、痛みに気を取られまさか
移動する方向を間違えるとは思わなかっただろう。最初は切り替え
そうとも思っていたが、最早そのような余裕など彼には残っておら
ず、結局そのまま校舎裏へと来てしまったのだ。
﹁こ、ここなら⋮⋮﹂
校舎にへばりつくような形からズルズルと地面へ崩れ落ちていっ
た。暑くも無いのに汗が滝のように吹き出して、顔から滴り落ちて
いた。
﹁くそっ⋮⋮全然治まらねぇ⋮⋮﹂
マリーアントワネット
︽人形操り︾でゴーレムを大量に操った時から起きていた頭痛は、
スキルを使う事をやめても収まることを知らなかった。
最初は、時間が経つにつれスキルレベルが上がり多少は楽になる
だろうと思っていたが、時間が経てども経てども一向に収まる気配
は無く、むしろ悪化の一途を辿っていた。やっとの事さ終わったか
と思い、スキルを解除してもこの有様だった。
カイトに文句を言われていた時などは最早立っているのもやっと
だった。それを無理やり︽ポーカーフェイス︾で押さえ付け何とか
離脱をして来たのだ。
地面に横たわり少しでも楽にしようとするが、楽になる気配は無
く頭痛のせいか、吐き気まで襲って来る有様であった。さらに体が
1577
思うように言う事を聞かず顔に付いている汗を手で拭き取ろうとし
たのだが、腕が動かず、先ほどまで何とか体勢を動かせていたのだ
が、それすらも不可能になっていた。
スキルオーバーヒート
結論を言うと、クロウはこの時に気付くことは出来なかったが、
彼のステータスには異常が起きていた。名前は︽技能異常熱︾。詳
しい事は後々に話すが、簡単に要約するとスキルがスキルとして擁
護出来る範囲を超えてしまい、体に負担がかかっていたのだ。結果
として頭痛を始め、吐き気、めまいなどを引き起こし重体になれば
脳の中にも本格的に異常が起きクロウに起きている通り身体が痺れ
て動かなくなってしまう。
そのステータス異常で直接的に死ぬことは無いが、それでもかな
りきついのは間違いない。クロウの場合、スキルレベル1で数体し
か操れない状況で数百単位という行為をやっている。数体オーバー
しただけでもこの症状は出るので、かなりの重症だと言う事が分か
るだろう。さらにその体からの警告を無視し続け長時間に渡り動か
していたのも問題だった。
﹁! クロウ!!﹂
﹁クロウさん!﹂
そこに、サヤとリネアが追いついて来た。クロウの傍に駆け寄り
仰向けに寝かせる。
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮なんで⋮⋮サヤ⋮⋮たちが⋮⋮﹂
﹁話は後! しゃべらない!﹂
1578
普段は無口なサヤであったが、この時ばかりは我を忘れてしまっ
ていた。
﹁わ、私少しなら回復魔法が使えます!﹂
そう言って、クロウに回復魔法をかける。だが、幾度経てどもク
ロウの体調が良くなる兆しは見えなかった。
﹁どうして⋮⋮?﹂
回復魔法が効かないことに焦りの表情を浮かべるリネア。サヤと
リネアは︽分析︾のスキルは持っていないのでクロウの今の状態を
調べることは出来ない。
﹁⋮⋮救護室に!﹂
﹁! そうですね。運びましょう!﹂
リネアが回復魔法をかけている間に幾分か冷静さを取り戻したサ
ヤのアイディアを採用し、救護室へと運ぶことにした。担架とかい
う道具は二人とも持ちあるいていないので、サヤが担ぐことになっ
た。
﹁⋮⋮ごめん⋮⋮少し我慢して⋮⋮﹂
そう言って、クロウを担ぎ上げる。そして出来る限りクロウを揺
らさないようにゆっくりと歩く。一歩、歩くたびにクロウがかいた
汗が飛んだり、落ちたりしてサヤの服に染み付いていた。
﹁顔色が⋮⋮﹂
1579
クロウの汗をふき取りながら、リネアは血の気が引き顔色を失っ
ていた彼の顔を見て、何をしたらこうなるのかと疑問と心配の思い
を浮かべていた。
﹁はぁ⋮はぁ⋮はぁ⋮すま⋮⋮ない⋮⋮﹂
﹁⋮⋮謝らなくていい⋮⋮今はしゃべらないで﹂
クロウが倒れていた場所から救護室までは校庭側を回った方が近
く、サヤもそっちのルートを通った。そうなれば、必然的に生徒た
ちにも見られると言う事になる。案の定、校庭を歩いているのに気
付いた生徒たちがおり、シュラたちの耳にも飛び込んで来た。
情報を聞くや否や、特待生たちはクロウの元へと走っていく。そ
れを見た生徒たちが何事と思い、戻って来た生徒から情報を聞いて、
驚きの表情を隠せなかった。
﹁おい! どうしたんだ!?﹂
クロウを運び途中のサヤたちに追いついたシュラたちに、どんな
状況だったかを説明をしたのはクロウの傍で彼の汗を拭いていたリ
ネアだった。
1580
﹁⋮⋮分かった。兎に角先生に見てもらわないと分からないんだな
? じゃあ急ごうぜ!﹂
シュラを始め特待生の面々たちも心配をした。だが、そんな中一
人不謹慎な者がいた。
死
﹁⋮⋮ふん。自分は生徒たちを戦場へと追いやって置きながら、自
分が体調不良になったら人に担がれて救護室行きかよ⋮⋮いいご身
分だな﹂
その言葉を聞いたサヤがカイトを睨みつけた。その時の顔は親し
い仲であるセレナも見たことが無いほど怒りに満ちていたという。
だが、そんな事よりもさらに特待生たちを驚かせた事があった。
︱︱︱バチンッ!
乾いた音が響いき、その様子を見ていた特待生たちの動きが止ま
る。
その音の正体はリネアがカイトをひっぱたいた音だった。無言で
いきなり近寄られると問答無用のリネアの平手がカイトを襲い、勢
いに負けたカイトは、そのまま地面に尻餅をついてしまう。
何をされたか一瞬分からなかった。カイトは急に叩かれた頬を抑
えながら上を見上げると、そこには目から涙を流しているリネアの
姿があった。
﹁あなたが⋮⋮あなたが言う資格があるのですか!? クロウさん
の気持ちを理解しようともせずただ単に、自分の意見だけを好き勝
手に言うあなたが、クロウさんを侮辱する資格なんてありません!
1581
!﹂
涙ながらのリネアの言葉に、カイトは何も言えなかった。クロウ
が倒れて、今このような状況になっているのかはリネアは当然知ら
ない。
だが、彼女は確信をしていた。クロウがこんなことになってしま
ったのは、きっと、自分たちの想像を絶する無理をしていたのを。
事実なのだが、どこか思い込みもあるような発言だったが、まさ
か学園でも有名ないじめられっ子にこんな仕打ちを受けるとは思っ
てもいなかったカイトだった。
﹁⋮⋮リネア⋮⋮話は後⋮⋮今はクロウを運ぶのが先⋮⋮﹂
その光景を見ていた訳では無かったが、何となく理解をしたサヤ
はリネアにそう促した。
﹁⋮⋮はい﹂
涙を拭きリネアは、再びクロウの傍に近寄りクロウの汗を拭きだ
した。特待生たちも後を追う。
だが、カイトだけはその場から立ち上がることが出来るずに、た
だ茫然とするだけだった。そして、その一部始終を見ていた生徒も
リネアの予想外な行動に我を忘れただ、呆然とするだけだった。
1582
第145話:あなたに⋮⋮︵後書き︶
︽技能異常熱︾については、次回しっかりと説明を行います。そ
りゃあ、性能以上の事をしようとしたらこうなりますよね。
それにしても、リネアもそうですが、サヤさんの評価も私の心の
中で限界突破しそうです。
1583
第146話:技能異常熱
スキルオーバーヒート
﹁技能異常熱?﹂
﹁そうだ﹂
救護室に運び込まれたクロウを保険の教師が診察したのち、その
結果を特待生始め、隊長格の面々に伝えていた。ちなみにリネアも
いる。情報拡散を防止するため最初は隊長たちにしか教えないと言
う話だったのだが、リネアが散々駄々をこねた挙句、サヤからのお
願いもあって、他の人には絶対に話さないのを条件に許可をされた。
﹁で、それはなんですか? 俺は始めて聞きましたが?﹂
﹁私も﹂
﹁僕もです﹂
特待生たちは初めて聞く言葉に首をかしげていた。
﹁無理もない。この状態異常は滅多にお目にかかれるものでも無い。
私も実際に見たのは今回が初めてだ﹂
﹁で、それはどんな状態異常でございますの?﹂
﹁簡単に説明をすると、スキルのカバー領域を超えてしまうと起き
る症状だ﹂
1584
﹁スキルのカバー領域?﹂
﹁種族ごとに各ステータスの上昇値が違うように、スキルにもまた
エルフ
種族ごとに上昇速度が違っている。例えば︽魔力制御︾のスキルは
私たち人間より、森などに住んでいる妖精族の方が早く上昇する。
また人間は武具制作や強化系の器用系スキル上昇が早く、妖精族は
筋力などのパワー系スキルの上昇度は遅いと言うのがある﹂
﹁それは、知っています。で、カバー領域と言うのは?﹂
﹁うむ⋮⋮一番分かりやすいのは作成系スキルだ。スキルレベルに
応じて作れる物、質が変わって来るだろ。あれがカバー領域だ。実
はそれは他のスキルにもある。例えば︽見切り︾スキルはレベルが
上がるにつれてより素早い動作を見切れるようになるだろ? あの
ような感じだ。でだ、技能異常熱はスキルレベルでカバーをしうる
限界を超えることで起きる一種の炎症みたいなものだ。症状は発熱、
おう吐、めまい、頭痛、全身の痺れ、倦怠感、各部位の痛みなど様
々なのが挙げられるな。まあ、幸いなのは命までは取られることは
無いが、回復魔法は一切聞かないので自然治癒任せになるがな﹂
﹁だ、大丈夫なのですか!?﹂
﹁ああ、休んでいれば治るからそこは安心をしたらいい﹂
﹁⋮⋮よかった﹂
リネアがホッと胸をなでおろす。その言葉を聞いたサヤや他の特
待生組たちもホッと一安心と言ったところだった。あの部隊からク
ロウが消えたらなど想像もしたく無いものだ。
1585
﹁HAHAHAHA∼では、大丈夫と分かった所で私はレディーの
元へ戻らせてもらおう。さらばだ! HAHAHA∼﹂
そういってセルカリオスは得意の物理法則無視のスピンをしなが
ら、甲高い声とともに外へと出て行った。
﹁⋮⋮うるさい⋮⋮﹂
サヤが不満な声を漏らす。無表情でその上小さく呟いたので、そ
の怖さも倍増である。おそらくだがサヤのような人物が尋問とかを
やったら一番効率がいいのかもしれない。
﹁⋮⋮それにしても、一体なんであんな事に⋮⋮?﹂
マリーアントワネット
﹁⋮⋮︽人形操り︾⋮⋮﹂
﹁? 何それ?﹂
﹁⋮⋮人形を自分の意志で自由自在に操れるスキル⋮⋮先生⋮⋮ク
ロウのスキルレベル⋮⋮調べて下さい⋮⋮﹂
﹁えっ、わ、分かった﹂
そう言って先生はカーテンをめくり中に入っていった。カーテン
の中にはクロウだけいる。教師が入った時にサヤは一瞬だけクロウ
の顔を見ることが出来た。先ほどと変わらず苦しそうな表情を浮か
べていた。
︵⋮⋮もっと早く気付いていたら⋮⋮︶
1586
﹁おまたせ、サヤさんの言う通りクロウ君は︽人形操り︾を持って
いたよ﹂
﹁⋮⋮レベルは⋮⋮?﹂
﹁1だった﹂
﹁⋮⋮1⋮⋮!?﹂
サヤの無表情な顔が崩れ代わりに動揺の表情を浮かべていた。
﹁⋮⋮1ってどうなの?﹂
セレナが動揺しているサヤに恐る恐る聞いた。サヤはしばらくの
間焦りの表情を浮かべたままであったが、何とか落ち着き説明を始
めた。
﹁⋮⋮本来なら⋮⋮操れる数は⋮⋮数体が限界⋮⋮﹂
﹁数体!? 待って! あのゴーレムたちをクロウ君が作ったのな
ら⋮⋮どう見ても数百体はいたわよ!?﹂
コクリとサヤは頷いた。
﹁⋮⋮なるほどね。本来なら数体しか操れないところをクロウは無
理をしてあの数を操ったと⋮⋮﹂
﹁そうだな。おそらくそれを行ったせいで脳に過剰な負担がかかっ
てしまい、頭痛や麻痺を引き起こしたのだろう﹂
1587
﹁⋮⋮異常⋮⋮普通は無理⋮⋮﹂
どんなに無理をしてもスキルレベルを超えて操ることなど早々出
来る訳が無い。魔法でどんなに遠くをターゲットにしてもスキルレ
ベルに応じた範囲を出てしまえば、途端に無力化されてしまうのと
同じことだ。そもそも範囲外に一瞬でも魔法を飛ばすことすらも現
代では不可能と言われているのだ。
魔法以外のスキルにも同じことが言える。どんなに丹精込めて作
り上げても作成レベルを超えるほどの高品質を作り上げることは不
可能で、その限界を引き上げる為に職人たちは日々レベル上昇を目
指し鍛錬をするのである。それは生産者、非生産者、冒険者関わら
ず全員に同じことが言える。
唯一の例外はあった。︽限界突破︾と言うスキルだ。ただしこれ
は身体能力系の数値の限界を引き伸ばすことのみ可能で、当然使用
後は使用者に強烈な反動を与えるのだ。まさに﹃諸刃の剣﹄と言え
るスキルであろう。このスキル使用後の反動も︽技能異常熱︾に扱
われる場合がある。と言うのも見切りみたいに動体視力など脳にま
で直接影響を与えるようなスキルに影響が渡れば、先ほどの説明と
同じ通りの症状がでるからだ。
﹁⋮⋮それほどの規模を扱ったとなると⋮⋮恐らくだが、回復まで
には時間がかかるだろう﹂
﹁!? ⋮⋮それはどれくらいかかるのでしょうか?﹂
﹁そうだな⋮⋮私もこの手の事はよく分かっていないからな⋮⋮数
日⋮⋮と言った所だろうか﹂
﹁数日⋮⋮!?﹂
1588
つまり、クロウは数日間、地獄のような頭痛や吐き気に耐えなけ
ればならないと言う事になる。さらに体を動かして誤魔化そうにも
その体が麻痺してしまっているので、それすらも叶わないのであっ
た。
﹁⋮⋮と言う事は、どちらにせよ暫くここからは動けないと言う事
か﹂
﹁そうなりますわね⋮⋮その間の訓練のことなども私たちが受け持
つしかありませんわね⋮⋮﹂
﹁まあ、もっともクロウのせいで何人負傷者が出たか⋮⋮全員での
訓練は無理だろ⋮⋮﹂
どこか棘のある言い方にサヤとリネアだけでなく、セレナやロー
ゼ、シュラまでもが眉をひそめたていた。
﹁お前⋮⋮少し言い方を考えろよ⋮⋮﹂
シュラがそう警告したのだが
﹁事実だろ⋮⋮もっとまともな方法だってあっただろ⋮⋮﹂
リネアがカイトの方に動き出そうとしてサヤに止められる。どう
して!? とリネアは視線で質問したが、サヤは静かに首を横に振
って答えた。それを見たリネアも不満ながらも元居た場所へと戻る。
﹁と、とにかく! クロウ君や他の怪我人が治るまでは私たちで彼
らの面倒をみましょう!﹂
1589
場の嫌な雰囲気を打開すべくセレナがあえて、明るい声で発言を
する。その発言に助けられたと言わんばかりに、他の人も賛成をす
る。
﹁⋮⋮そうだな。じゃあ、このことをアルゼリカ理事長には私から
伝えておこう﹂
﹁あれ? そういえばアルゼリカ先生は?﹂
﹁ちょっと体調不良でな。今は休んでいるはずだ﹂
﹁そうですか⋮⋮じゃあ、私たちはこれからどうするか決めましょ
う。先生にも手伝ってもらった方がいいかな?﹂
﹁まあ、全権を握っているクロウがいない以上、そうした方がいい
かもな⋮⋮よし、じゃあ早速先生たちも呼んで話し合おうじゃない
か!﹂
﹁ああ、ここでやるのだけはやめてくれよ。ここには怪我した一般
生徒もいるんだから﹂
はいと了承するとシュラやセレナなどを筆頭にこれからどうする
べきか話し合うために部屋を後にしていく。
﹁⋮⋮リネア⋮⋮あなたはどうする⋮⋮?﹂
出て行き際にサヤはリネアに聞いた。彼女は隊長とかでは無いの
で、これから何をしようが自由だった。
1590
﹁⋮⋮私は、もう少しクロウさんの傍にいます⋮⋮少しでもクロウ
さんを元気にさせたいので⋮⋮﹂
﹁⋮⋮分かった⋮⋮あなたも無理だけはしないこと⋮⋮いいね⋮⋮
?﹂
﹁はい、サヤさんも頑張って下さい﹂
﹁⋮⋮善処する⋮⋮﹂
そう言ってサヤも出て行き、保健室に残ったのはリネアだけとな
った。リネアはカーテンをめくりクロウがいる中に入ると、近くの
椅子に座った。
﹁⋮⋮クロウさん⋮⋮﹂
﹁⋮⋮どう⋮⋮したんだ⋮⋮?﹂
ビクッとリネアは震えた。見るとクロウが僅かに目を開けてこち
らを見ていたからだ。だが、呼吸は荒く汗だらけれで苦しそうな事
には変わりが無かった。まさか聞こえているとは夢にも思わなかっ
た。
﹁⋮⋮いえ、なんでもありませんよ⋮⋮早く良くなって下さいね﹂
﹁⋮⋮ああ⋮⋮﹂
そういうとクロウは再び目を閉じた。
自分の師匠がこんなにも弱っている所を初めてみたリネアは、ど
うすればいいのか分からない焦燥感と、自分には何も出来ない無力
1591
さを感じていた。だが、自分には何も出来ないかもしれないが、傍
にいることは出来る。リネアはそう思い直し、クロウが早く良くな
ることを心の底から願うのであった。
1592
第146話:技能異常熱︵後書き︶
最近、リアルが忙しくて感想が返せていません。本当に申し訳あ
りません。感想は読ませて頂いておりますので、ドンドン送って下
さっても結構ですが、返信は遅れてしまう可能性が高いのであしか
らずご了承ください
m︵︳ ︳︶m
1593
第147話:黒い影︵前書き︶
﹁投稿が遅れてしまい申し訳ありません。作者の黒羽です。リアル
が忙しくて感想も返せずに申し訳ない限りです。代わりと言っては
何ですが、リネアさんが読者の言う事を何でも聞いてくr︵ゴスッ
!︶はぐわぁ!?﹂
﹁⋮⋮リネアに⋮⋮何をさせる気⋮⋮?﹂
﹁サヤさんいきなりの強襲はやめて下さい。死んでしまいます﹂
﹁⋮⋮いいから答える⋮⋮﹂
﹁えーと⋮⋮コスプレとか、えr︵ゴスッ ボキッ!︶ごはぁっ!
!﹂
※上記の茶番は本編とは全く関係がありません。
1594
第147話:黒い影
クロウが倒れたのち、特待生組を中心として訓練などを続けてい
た。
流石にこう何度も完膚なきまでに叩かれると、いつ再び進軍命令
が出るか分からない恐怖と、まともに太刀打ちをすることすらも不
可能な自分らの実力に焦りを覚える者は少なくなかった。
だが、こうした恐怖心が生徒たちの間に流れていたにも関わらず
特待生組たちが行わせた訓練は魔力強化など実戦には程遠いものが
中心だった。
当然、特待生組内にもクロウのように行かないまでも実戦形式で
の訓練をした方がいいという意見も出た。サヤを筆頭にシュラやセ
レナ、ローゼは実戦形式系に賛成の旗を上げていた。これに相反す
る形でカイト、テリー、ネリーそして三人衆のリーファ、セルカリ
オスが反対をした。
賛成側の意見はご存知の通りであるが、反対側の持論はと言うと、
﹁俺たちは生徒であって軍隊では無い。これ以上負荷のかかること
を行えば、どこかで必ず無理がたたるだろう。また、国もそんなま
ともに戦えない案山子をいきなり前に出す事は殆どありえないと仮
定するならば、魔力を強化しての遠距離戦をまずは重点的に鍛える
のが先決なのでは?﹂
と言うものだった。賛成側からしてみれば、砂糖を口いっぱいに
頬張ったぐらい甘い理論であった。そもそも、その理論の甘さはク
1595
ロウが身を潰してまでハッキリと示したはずなのに、彼らの心には
届かなかったのかもしれない。もはや甘いどころか歯が溶けそうな
レベルの発言に、シュラやセレナなどサヤ以外の実践派はこの時に
なって、ようやくクロウの苦心とあそこまで無理をした理由を思い
知る事となった。
あれくらいやらなければ戦場では生き残れない。そう思ったクロ
ウは心を鬼にして、また自分自身の体にも鞭を打ち生徒たちを鍛え
ようとしていた。だが、結果はあの有様だった。
先生たちの意見も様々であった。長時間に及ぶ小田原会議の末に
最後は多数決を取るという形になり、実戦派4の訓練派5で訓練を
やると言うことになったのだった。
糠に釘とはまさにこのことなのかもしれない。実戦派の面々は物
事を狭い範囲でしか見れない訓練派に不服の思いを募らせていたが、
多数決で決まった以上。下手に反論することは避け、渋々付き合う
羽目になった。と言うのも実戦派は恐れていた。意見の食い違いに
よって発生する仲間割れだけは避けたかったのだ。
そして、クロウが倒れてから数日が経過をしようとしていたとき
の事だった。
1596
==========
﹁⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
夜も大分深まって来た中、エリラは窓際から外をボーと見つめる
と深々とため息を吐いた。クロウと共同で使っているこの部屋は彼
が居ない今はとても広く感じていた。
クロウが魔法学園の方に行ってから既に一週間が過ぎていた。
あれからエリラは一人でいる時間が圧倒的に多くなっていた。
色々頭の中に浮かんでは消えていた。
クロウが戻ってきたらどんな顔で会えばいいんだろう?
どんな言葉をいえばいいのだろう?
謝る? でも、それだけでいいの?
クロウからしてみれば、エリラの気持ちを考えずに言ってしまっ
たと思っているので、エリラに謝ってもらおうなど微塵も考えてい
なかった。だが、エリラはそうはいかなかった。
何か罪滅ぼしをしなければ自分の気が済まないと言ったらいいの
かもしれない。結局、自分はただ単に自分の願望をぶつけて挙句の
果てに癇癪を破裂させて思ってもいなかったことを口走ってしまっ
た。いくらクロウがエリラ自身を奴隷身分として扱っていないとし
ても。この世界で生まれ育った彼女に取ってはタダでは済まされな
いことだ。
﹁⋮⋮ああ! もうっ! 私は何をやっているのよ!﹂
思わずベットに身を投げ捨てそのまま、布団に身をもぐらせてし
1597
まった。自分の中でどうすればいいか分からず頭をかきむしる。
﹁⋮⋮素直にごめんなさい。と言えば十分なのかもしれない⋮⋮で
も⋮⋮﹂
やはり、自分としてはそれだけでは許せれなかった。それほど彼
女は自分自身の事を簡単には許せなかったのである。
布団に顔を埋め、ボーと考える。
考えがまとまらず、時間だけが過ぎて行った。
それから、どれほど時間が経ったか分からない。
彼女は妙な違和感を覚えた。
︵⋮⋮あれ? なんか妙に眠いような⋮⋮?︶
今さっきまで少しも眠くなかったのに、突然瞼が重たく感じだし
た。だが、エリラがおかしいと感じたときには既に遅く、彼女は意
識を失い、ベットの上でピクリとも動かなくなった。
そして、エリラが動かなくなったのを確認してからか、今まで閉
じていた窓が急に開き、部屋に黒い人影が一つ。侵入をして、気を
失っているエリラの傍まで来るとそっと彼女を抱きかかえ、そして
音も無く過ぎ去っていったのであった。
1598
そして、その30分後。静まり返ったエルシオンの街中に突如爆
音が響き渡ったのであった。
1599
第147話:黒い影︵後書き︶
感想を返したいのですが、もう少しリアルが安定するまでお待ち
して下さい︵土下座︶
1600
第148話:心を決め、守るべき者の元へ
===同時刻、アルダスマン王国・首都﹁メレーザ﹂===
この日、メレーザは戦火に包まれた。
空から降り注ぐ大量の火球が人々に襲い掛かる。ある者は火球に
全身を焼かれ、ある者は体の一部を吹き飛ばされ、ある者は頭に直
撃し原型を留めることなく潰された。
建物は焼かれ、崩れ落ちて行く。崩れ落ちた建物が道に溢れ出て、
その度に生存者の逃げ道を奪っていく。
兵士たちが応戦しようと敵を探すが見当たらず、空を見上げても
見えるのは落ちて来る火球とその遥か上で輝いている星の光だけだ
った。
﹁城壁の外だ! 外から飛んできているぞ!﹂
一人の兵士が城の外に指を差し叫んだ。その声に反応した兵士た
ちが続々と城の外へ向かうべく城門へと急いだのだった。
1601
===ハルマネ・魔法学園=====
﹁クロウさん、調子はどうですか?﹂
﹁ああ、体は動くようにはなって来たよ、まだ頭はガンガンするけ
どな⋮⋮﹂
魔法学園の保健室では、クロウと様子を見に来たサヤとリネアが
いた。他にも一般生徒が数人いたが全員、重症者で口もまともに聞
けない人たちばかりだった。
そのため、彼らの話声だけが保健室で飛び交っていた。
﹁⋮⋮良かった⋮⋮﹂
﹁ああ﹂
﹁もう、あんな無茶二度としないでください! 心配したんですか
らね!﹂
クロウに説教をするリネア。ただ、怒っているというよりも﹁め
っ!﹂と叱っている感じなので怖さなどは微塵も感じられないのだ
が。
﹁あーもうその言葉は耳に胼胝ができるぐらい聞いたよ﹂
ここに来る度に説教されているクロウは聞き飽きたと耳を手で塞
いでしまう。
﹁⋮⋮そうでも言わないと⋮⋮また無茶する⋮⋮﹂
1602
﹁アッハイ﹂
クロウはサヤの的を射た発言に思わず片言になってしまう。倒れ
てしまって以来彼女たちに殆どまかせっきりになっているので、下
手に反論も出来ずにいた。
﹁所で⋮⋮彼らの様子は?﹂
クロウの質問にサヤは一瞬だけ躊躇したが、首を横に振った。
﹁⋮⋮相変わらず⋮⋮生温い人たち⋮⋮﹂
﹁はぁ⋮⋮もうあいつらには何をしても無駄なのか⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮理解をした人もいる⋮⋮けど⋮⋮少ない⋮⋮﹂
﹁そうですね⋮⋮一般生徒の中にもクロウさんがあんな事をやった
理由を理解した者もいますが、それでも圧倒的に少ないのが現実で
すね⋮⋮﹂
﹁⋮⋮放置⋮⋮それも考えた方がいい⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮したくないかもしれないけど⋮⋮このままじゃ⋮⋮理解した
人にも被害が⋮⋮﹂
﹁分かっているよ⋮⋮﹂
ただえさえ頭が痛いのに、そこに別ベクトルから新たな痛みがク
1603
ロウの頭にのしかかる。正直な所逃げ出したいのが本音だろう。
だが、一度任された身である以上、易々と放棄をするなどクロウ
には中々出来ない事だった。もっとも、クロウ自身もあんな勝手な
連中たちにいい加減見切りを付けたいのも事実だ。
どうしようかと頭を悩ませていたその時であった。
===INTRUSION!!===
よい思い出が全く無い言葉がクロウの脳内に響く。
慌てて︽マップ︾を開くと、そこには赤いマーカーが数多く浮
かび上がっていた。そしてそのマーカーの正体はつい先日全滅させ
また来たのか!?﹂
た魔族だった。
﹁!?
だが、数は大したことは無く数百体ぐらいの小規模な軍勢だっ
た。
これくらいなら大したこと無い、今の俺でも十分対処可能だと
判断したクロウは手短にサヤとリネアに説明をした。
﹁⋮⋮と言うわけだ。今すぐ迎え撃つぞ﹂
そういってベットから降りようとしたクロウをサヤが制止した。
﹁⋮⋮まだ駄目⋮⋮﹂
﹁何を言ってるんだよ、頭が痛いだけなら行けr﹂
1604
﹁駄目﹂
﹁⋮⋮いや、だから平気⋮⋮っ!﹂
ズキンと急に来た痛みに苦虫を噛み潰したような顔になる。そ
れを見逃さなかったサヤは無理矢理クロウをベットへと寝かし付ける
﹁⋮⋮休んで⋮⋮私達なら大丈夫﹂
﹁⋮⋮で、でも!﹂
クロウが反論をしようとしたとき、何処からともなくピーと聴
力検査の時に流すような音が聞こえてきた。
﹁? 何の音でしょうか?﹂
リネアが周囲をキョロキョロ見渡す。この音の正体を知っていた
クロウは迷うことなく、ズボンのポケットに手を突っ込み、中から
一枚のカードを取り出した。
カードは手のひらサイズで裏には何も装飾などなくただ黒一色に
染まっていた。表の方はカードの淵が赤く点滅を繰り返し、中央に
は﹁緊急要請 NO.02﹂の表記があった。
﹁くそっ⋮⋮こんな時にか⋮⋮!﹂
﹁それは⋮⋮?﹂
リネアの問いに躊躇をしたが、話した方がよいと判断したのか口
を開く。
1605
﹁⋮⋮エルシオンにいる家の者たちからの緊急連絡だ。恐らく向こ
うでも同じような事が起きているのかもしれない⋮⋮﹂
﹁! な、ならそちらに行った方が⋮⋮!﹂
﹁⋮⋮クロウ⋮⋮行って⋮⋮﹂
﹁くっ⋮⋮!!﹂
尚も躊躇うクロウにサヤたちは言葉を投げかける。
﹁⋮⋮大丈夫⋮⋮私たちを⋮⋮信じて⋮⋮﹂
﹁クロウさん、私たちはクロウさんから見たら弱い存在かもしれま
せん⋮⋮ですが、信じてほしいのです! お願いします!﹂
リネアが頭を下げ、サヤはクロウの方をじっと見つめる。その瞳
はとても力強く、意志ある者の目をしていた。
クロウは下を向き暫くの間動かなかった。だが、時間は待っては
くれない。覚悟を決めると顔を上げる。
﹁分かった⋮⋮死ぬんじゃないぞ⋮⋮絶対だからな﹂
コクリと静かに、だが力強くサヤとリネアは頷いた。
バッっとベットから飛び出すと、そのまま救護室を後に走り去っ
ていくクロウを二人は彼の足音が聞こえなくなるまで見送った。
﹁⋮⋮行くよ⋮⋮﹂
1606
﹁⋮⋮はい﹂
﹁⋮⋮リネア⋮⋮﹂
﹁?﹂
﹁⋮⋮生き残りなさい⋮⋮﹂
﹁⋮⋮もちろんです。約束しましたから﹂
お互いの顔を見合い頷く。そして、サヤとリネアも救護室を後に
するのだった。
1607
第148話:心を決め、守るべき者の元へ︵後書き︶
今回も遅れて申し訳ありません。
今週から来週一杯までは忙しい時期が続くようです。ちなみにそ
の先も未定です。
ですので、感想返しなどはそれらが落ち着いてから行いたいと思
います。度々お詫び申し上げます。
1608
第149話:牢獄の中で
===???===
﹁⋮⋮っ﹂
暗闇の中でエリラは目覚めた。
﹁⋮⋮ここは⋮⋮?﹂
辺りを見渡そうと顔を上げ、体を動かそうとしたときあることに
気付いた。
﹁あれ、体が⋮⋮?﹂
バッと視線を上に上げるとそこには、自分の腕があり、さらにそ
の腕の手首には手錠がかけられていた。暗闇のせいで良くは見えな
かったが、どうやら手錠は天上から吊り下げられているようだった。
慌てて外そうともがこうと足を動かしたとき、少し動いたところ
でジャラという音と共に、何かに動きを妨げられてしまった。
見ると、足首にも手首同様手錠がかけられており身動きが取れな
くなっていたのだ。
﹁ちょっ、何よこれ!?﹂
どうにか外そうと、身を動かし続けたが鎖が擦れる虚しい音だけ
が響く。力任せに壊そうともしてみたが不可能だった。エリラの力
でも壊れないとなると見た目以上に硬くて丈夫な物なのだろう。
1609
見てみると、エリラがいた場所は牢獄であった。だが、ただの牢
獄で無い事にすぐに気付いた。
何故なら、部屋の中にはエリラが見たことも無いような凶悪な武
器を始めとした拷問器具が数多くあったからである。
﹁な⋮⋮なによ⋮⋮ここ⋮⋮﹂
エリラの背筋に今まで感じたことも無いような寒気が流れる。
﹁ようやく目覚めたか﹂
暗闇の中から一人の男が現れた。軍服に身を包み腰には指揮棒の
代わりにもなっているレイピアが腰に付けられていた。
その男はエリラもよく知っている男だった。茶色い茶髪のこの顔
を見るたびに僅かだが怯えてしまう。
﹁⋮⋮お父さん⋮⋮﹂
﹁ふん、お前から父親と言われるようなことはした覚えはないな﹂
﹁これはどういうことよ! 説明しなさい!﹂
動けなくても魔法なら撃てる。そう思ったエリラはすぐに詠唱を
始めたがすぐにやめてしまった。その様子を見ていた父親⋮⋮レシ
ュードはニヤリと笑っていた。
﹁気付いたが、察しがいい奴だな﹂
﹁なんで⋮⋮魔法が⋮⋮﹂
1610
﹁俺みたいに魔法が苦手な奴には最高の場所だぜ、魔法が使えない
と言うのは素晴らしいものだな。魔族の技術は素晴らしい物だ﹂
︵魔族⋮⋮!?︶
﹁ちなみに言っておくがここではスキルも使えないからな。それに
この場所は絶対にばれない位置にある。魔法もスキルも封じられた
ここを小僧は見つけることが出来るかな?﹂
﹁⋮⋮クロを甘く見ないことね﹂
﹁⋮⋮気に入らないが、まあどうでもいい。さて⋮⋮単刀直入に聞
こうエリラよ、俺の配下になる気はないか? ︽契約︾をすること
になるが、立場は今とは比べられないほど優遇してやる﹂
﹁あなたの配下に? どこの口がほざいているのよ。そんなの真っ
平ごめんだわ。第一、私はクロと︽契約︾している以上、あんたが
口を挟める事じゃないわよ﹂
﹁そう、普通ならな⋮⋮だが⋮⋮﹂
レシュードがポケットから首輪を取り出した。首輪は黒が主体と
なっていたが、その中央を赤い模様が走っており、禍々しい雰囲気
を漂わせていた。
﹁これはな、今ある︽契約︾を強制的に解除する能力を付けたチョ
ーカーだ。これならあの小僧との︽契約︾をけし、俺の隷下にする
ことなど容易いわけだ﹂
1611
﹁⋮⋮なr!﹂
﹁だがな⋮⋮少し問題がある⋮⋮これは主の了承は必要ないが奴隷
自身⋮⋮つまり、お前の承諾が必要になる。⋮⋮チッ、そこまで作
らせろよあの爺が⋮⋮﹂
舌打ちをした後の言葉や先ほどの﹁魔族﹂の言葉に次々と疑問が
浮かぶエリラ。だが、何か言おうとした瞬間、レシュードの方が話
をし始め、思うように話せないことに苛立ちを覚える。
﹁まあいい、さて、改めて聞く﹂
レシュードの顔がエリラの顔に近づく、それを黙って見つめるエ
リラ。
﹁どうだ? 俺の方に戻って来る気はないか? お前自身は気に入
らないがお前の力には目を見張る物がある。その力を俺の為に振る
うならば、今の奴隷などと言う下らない身分など消し去り一国一城
の主にもさせてやる⋮⋮さぁ、どうだ?﹂
奴隷から一国一城の主。夢のある話かもしれない。恐らくこれが
罪人などの悪人なら喜んで飛びつくかもしれない。だが、エリラの
答えは当然既に決まっている。
﹁ペッ﹂
ビチャと音と共にレシュードの顔にエリラの唾がかかり頬を伝っ
て流れ落ちて行く。その様子を見たエリラは清々したような顔で言
い放った。
1612
﹁ばっかじゃないの? あんたみたいなクソの下でこき使われるの
と、クロの元で生きていくのを比べるとでも思ったの!? そんな
の比べる価値すらも無いわ! そんな一国一城の主なんてゴミよ!
ゴミ!﹂
その言葉に、レシュードの顔付きが変わった。今まではどことな
く父親としての心が残っていたのかもしれない。だが、エリラから
受けた仕打ちによりその心は完全に消え去ってしまった。
﹁そうか⋮⋮まあ、予想はしていた﹂
レシュードはエリラに背を向けると、そのまま部屋に置かれてあ
る器具の傍に移動した。
そして、ゴソゴソと辺りを暫く漁ったのち、一本の鞭を取り出し
た。鞭にはまるでバラの棘のような小さな歯が無数に付いており、
受ければ打撃攻撃と同時に出血間違いなしだろう。
﹁さぁ、お話はここまでだ。お前が黙って俺に付いてくると言えば
良かったものを⋮⋮こうなれば、無理やりにでも言う事を聞かせな
いといけないようだな﹂
エリラへと徐々に近づいて行くレシュード。その姿に一瞬だけた
じろいだエリラだったが、すぐに持ち直しレシュードを睨み付ける。
﹁さて⋮⋮お楽しみの時間だ﹂
外が漆黒の夜に包まれ、月の明かりだけが煌々と輝いていた辺り
にバチィンと鋭い音と悲鳴が突如響いたのであった。
1613
6/22
誤字を修正しました。
第150話:第2次エルシオン防衛戦・前編︵前書き︶
※
1614
第150話:第2次エルシオン防衛戦・前編
﹁皆無事か!?﹂
久しぶりに見た我が家をのんびりと鑑賞する間も無く、戻って来
た勢いそのままにバンッと激しくドアを開けるクロウ。
﹁あっ、クロウお兄ちゃん!﹂
﹁クロウ様!﹂
﹁クロウ!﹂
待っていましたと言わんばかりに真っ先にクロウに飛び込んでき
たのはフェイだった。他の皆もその後に続く感じでクロウの元へと
集まった。
﹁あのね、お外から大きな音が聞こえてきて、夜なのにしゅういが
明るかったのです!﹂
﹁ああ、俺も戻って来た時に確認したよ﹂
フェイからの報告に頭を撫でながら答える。もっともっととフェ
イは頭を摺り寄せ尻尾をフリフリと動かしていた。
こんな状況であったが、その光景を見た大人たちは少しだけ羨ま
しそうに見ていた。平和ボケでもしているのかよという声が聞こえ
てきそうであった。
1615
﹁そういえばエリラは?﹂
辺りを見渡しエリラ以外の人はいることが確認できたが、エリラ
の姿は確認出来なかった。
﹁⋮⋮申し訳ございません⋮⋮実は先ほどから姿が見えないのです
⋮⋮﹂
そういったのはニャミィだった。
﹁見えない?﹂
﹁はい、夕食の時にはおられたのですが、その後部屋に戻ったのを
最後に⋮⋮部屋も確認してみましたがいませんでした﹂
﹁⋮⋮分かった。エリラも心配だが今はこっちをどうにかしよう。
で、今分かる限りのことを話してくれないか?﹂
﹁はい! つい30分ほど前です。突如街の南側が騒がしくなり、
続いて爆音などが確認されました。それと同時に街の壁を越えて降
り注ぐ火の球も確認しました﹂
﹁なるほど、状況は思ったよりも早く進んでいるのか⋮⋮﹂
︽マップ︾を開きニャミィの話を聞きながら自分が見た光景と合
わせてみる。
敵の姿は既に確認済みで、予想通り魔族だった。既に街の南を中
心に前々回の襲撃にて被害が大きかった南側と西側は火の海に包ま
れており、更に今回は東地区も既に被害が出始めていた。このまま
では北側にまで被害が及ぶのは時間の問題であろう。
1616
﹁国の軍隊は一体何をしているんだよ⋮⋮﹂
検索をかけてみると街の各地に兵士がいることが確認された。し
かし、そのほとんどはバラバラで行動をしており、組織らしい行動
をしている隊などは殆ど見られなかった。
﹁ガラムのおっさんはどこにいる? あのレシュードとかいう奴も
一体どうしているんだ!?﹂
検索をかけて確認をしようとするが、どちらもヒットすることは
無かった。つまり、彼らは今この街にいないか、はたまた既に死ん
だかのどちらかだ。
あの二人がすぐに死ぬとは思えない。そう判断したクロウは前者
のこの街にいないという事を前提で考えを張り巡らかした。なお、
死んだ可能性も一応は視野には入れている。
あの二人が居ない⋮⋮ハルマネとエルシオンはほぼ同時刻に襲わ
れた。このタイミングで二人が消えることは単なる偶然ではないは
ずだとクロウは考えた。非常事態のこの時に街の中心的存在である
ギルドのマスターとエルシオンを守る軍の最高司令官が抜けるなど
あってはならないことだ。特にガラムのおっさんに至っては二度目
になる。そんな馬鹿みたいな真似をした理由は⋮⋮。
一番手っ取り早い結論は﹁ガラムとレシュードはグルでさらに魔
族ともグルでした﹂だろう。ただ結論を出すにはまだ早すぎる。大
本の国の一部が行わせた可能性も無きにあらずだからだ。ただ、少
なからずガラムは何かしら関与しているのは確実だろう。やはり2
度も非常時にいなかったことはクロウとしても見逃すことが出来な
1617
いことだった。
これが終わったら一度本気で調べてみようとクロウは思った。
問題の魔族であるが、正直なところ直ぐに片づけることも可能だ。
数は数百しかいない上に、ハルマネの時みたいにA級の魔族がゾロ
ゾロという訳でもなくD級などの魔物が相手だったからだ。
ただ、ここで気になることが少しあった。いくら指揮官がいない
とはいえD級の魔物相手に一国の軍隊がこんなに呆気なく負けるも
のなのだろうか? 今までが今までであったが故にその可能性も無
きにあらずであるが、最前線になりつつあったこの街にDクラスに
も負ける寡兵を置く理由はどこにも存在しない。
と言う事は⋮⋮わざと⋮?
この街に寡兵を連れて来て魔族にフルボッコにされに来たと言う
事になる。そうなって来るとレシュードも何か加担しているのはほ
ぼ確定となる。
それを考慮したうえでこれからの行動を行う必要がある。
まず真っ先に片付けれなければならないのは、街に侵入した魔族
だ。
まだ頭が痛かったが、幸いにも魔法を撃つ分には支障は無かった。
ただ、大型の魔法を使うとなればまだ無理があるかもしれなかった
が、今回はそこまで派手なのを使わないで住みそうだ。
クロウは全員を家の中に待機させると屋根に登り、そこから浮遊
1618
をし街の上空へと移動する。クロウの姿を確認したのか、何体かの
魔物が群れを成しクロウの方へと向かって行くのが確認できた。そ
の手には︽爆炎筒︾が握られており地上にいた魔物やこちらに向か
ってくる集団が一斉にクロウの方へと発射口を向ける。
﹁うわっ⋮⋮あんなの集団で使われたら⋮⋮﹂
クロウは街の守備隊が抵抗らしい抵抗を行っていない理由をここ
で理解した。
決して兵士が弱いだけが全てでは無く、技術力の差がこの戦況を
作り出していたのだ。
︵俺のイメージでは魔族が魔力など身体面で上回るのに対して、人
間は技術力などで個々の身体能力差をカバーするってイメージが強
かったんだが⋮⋮これじゃあ、あべこべだな︶
﹁︱︱︱︱︱!!﹂
魔物の一体が合図らしき声をあげると、クロウに向けられていた
発射口から一斉に火を噴き、中から火球が飛び出し一直線にクロウ
の方へと向かって行った。
当たったと思われた瞬間強烈な爆炎が発生し、さらに後ろから続
いて来た火球がこれでもかと言わんばかりに次々と爆発し街の上空
に小型の太陽でも生み出されたかのように真っ赤に燃えていた。
これを見た魔物たちは歓喜の声を上げる。誰もが確実に仕留めた
と思った事だろう。
だが、この思いはすぐに打ち崩れることとなる。
1619
太陽のような火球が震えたかと思ったら次の瞬間、一気に破裂を
し巨大な火球は小さな火の粉となり四方八方へと散り、消えて行っ
た。そして火球があった場所には仕留めたと思っていたクロウの姿
がそこにはあった。
﹁グギャア!?﹂
何が起きたのか分からない魔物たち。クロウは傷一つ付く事無く
立っており、魔物たちの頭では理解をするのは難し過ぎるようだっ
た。
そんな彼らをよそ目にクロウは大量の魔法陣を生成する。今回の
魔法陣は青色に光っており、色からも分かるように水系の魔法陣だ
った。
﹁お前らそんな武器を使っているから熱いだろ? 少し冷やしてや
るよ﹂
魔法陣から人の拳程度の水が飛び出したかと思えば、次の瞬間に
はクロウから一番近い位置にいた魔物たちの集団がいきなり弾き飛
ばされ、そのまま落下をしていった。その中には頭が無い魔物や腕
と胴体が分断された魔物の姿が数多く見られた。
魔物からしてみれば、魔法陣から何か飛び出したかと思えば次の
瞬間には自分たちに届いていたものだから、落命していった物の大
半は理解を許されないまま死んでいったものが数多くいただろう。
その光景を裕著に眺めている余裕などなく、それを皮切りに地上
にいた魔物たちにも次々と水の弾丸が襲い掛かり始めていたのだっ
1620
た。
1621
第150話:第2次エルシオン防衛戦・前編︵後書き︶
今週も先週ほどではありませんが、忙しい日々が続いているので
投稿速度は落ち気味にです。
ですので、テンポ重視で一話ごとの内容を厚くするように心掛け
たいと思います。
1622
誤字を修正しました。
第151話:第2次エルシオン防衛戦・後編︵前書き︶
※6/26
1623
第151話:第2次エルシオン防衛戦・後編
地上が魔物たちにとって阿鼻叫喚のような地獄になっているとき、
クロウは魔法を撃つ片手間であることをしていた。
︵エリラの奴⋮⋮どこにいったんだよ!︶
︽マップ︾を使いエリラを探すクロウ。実はクロウとしては真っ
先にエリラを探したかったのが本音だったのだが、魔族の迎撃の方
が第三者からの視点から見ればこっちの方が優先な上、レシュード
レシュードやガラムの方は前々から怪しい行動をしていたので︵な
お、レシュードは別に変な行動を行ったわけでは無いのでそういう
意味では完全に濡れ衣を着されているのだが︶あいつらの確認を優
先した。
⋮⋮と、思っていたのだが死ぬほど心配しているのもまた事実で、
結局魔族の掃討が終わる前に調べ始めるという行動に出てたのであ
った。
それと同時にレシュードもいないとなるとクロウは嫌な予感がし
ていた。
そして、その予感はあっていますよとでも言うかのごとく、マッ
プにエリラの反応は見つからなかった。
検索範囲をエルシオンの街からさらに周囲半径10キロ圏内に広
げてみたが、やはり反応は無かった。
︵街にもいない、その周辺にもいない⋮⋮となると⋮⋮︶
1624
どこかに連れ攫われた⋮⋮と言う事になるだろう。そうなるとレ
シュードがいない理由にもいくらかの仮説を立てることが出来る。
レシュードはクロウと一度会った際にエリラを手に入れようと動
いた。恐らくだが、ガラムかまたは自分でエリラのステータスを覗
いたのだろう。レベル98と言えばAランク冒険者でもまず届くこ
とが出来ない領域だ。クロウの場合は隠蔽をしているため、ばれる
可能性は低いがエリラの場合は筒抜け状態なので、この混乱に乗じ
てエリラを攫った可能性もありえる。
だが、ここで一つの疑問が生れる。エリラは︽契約︾でクロウの
奴隷になっている。︽契約︾がある以上エリラを攫って自らの駒に
しようとしても限界があるだろう。
レシュードからしてみれば、エリラを完全に操れるのが理想のは
ずだ。あとエリラの性格的に強制力が無い以上暴れるのは目に見え
ている。自分の傍に置き兵士として動かそうとするならば、手錠な
どの束縛品は邪魔以外に何でもない。だが、外せばエリラから倒さ
れる可能性が高くなるだろう。
︵じゃあ、この可能性は無いだろうか⋮⋮?︶
一瞬、そのような結論が出かけたが、ハッと思い出し首を横に振
る。
忘れてはならない。かつてクロウは自分自身でレーグの︽契約︾
を強制的に外したした事を。︵第112話参照︶
勿論あれは俺だから出来た芸当であって他の一般人には出来る訳
がない。だが、もしどこかであれを解除するスキルやアイテムの研
究が行われていたらどうだろうか? 魔族は爆炎筒などと言う現代
戦でも使えそうな武器を作っているような奴らだ。どんな技術に重
1625
点を置いているかは知らないが、その可能性は無きにあらずだ。
もし、そんなアイテムが完成していれば⋮⋮。
そう考えると悠長にしていられる時間は無い。今すぐにでも何ら
かの手を打ちたい衝動にかられそうになるが、今処理をしている魔
族を倒すこともしなければいけないし、ミュルトさんやソラの安否
も気になる。
クロウの頭の中では一番の優先事項はエリラの捜索だったが、ま
ずは魔物の撃破に集中することにした。
魔物の数は少なくなってきたが、身体能力が高い個体の魔物や魔
族が地味に回避しているせいで時間がかかってしまっている。音速
クラスの水の弾丸を撃ちだしているのだが、よく回避できているな
とクロウは思った。
と言っても、クロウは民家や建物に被害が極力出ないように撃っ
ているので民家の影でコソコソ移動すればいいだけなのだが。
じれったくなったクロウはここで魔法による遠距離戦を切り上げ、
︽マップ︾を使い残党を片付ける作業に切り替えた。
そうして、約30分後にはほぼ全ての魔物や魔族を倒すことに成
功していた。今回、街を襲撃した魔族たちの力は比較的に低かった
こともあったので、短時間で片付けることが出来たのは大きかった。
街の被害状況は西地区及び南地区はほぼ全滅。東部と北部も一部
被害を受けてしまっていたが負傷者や死者は前々回の襲撃よりは遥
かに少なかった。全滅した地区に殆ど人がいなかったのもあるが、
今回は守備兵たちのお蔭の部分もあったようだ。
1626
その後、クロウはミュルトとソラの無事を確認したのち自宅へと
戻ってきていた。なお、彼女らの家は被害が出てなく、二人とも街
の中央にあるギルドへと向かっていたとのことだった。恐らくだが
ガラムの所へ向かうつもりだったのだろう。
その様子をクロウは遠くから見たのち、二人に話しかけることも
無く家へと戻っていた。いつもの彼なら話しかけることぐらいはし
ていたと思うが、やはり心のどこかで焦りが出来ていたのかもしれ
ない。
==========
暗い牢獄に響く痛々しい音と声。かれこれ1時間は経っているだ
ろう。
レシュードから振り下ろされる鞭や棍棒などが音を上げるたびに
血しぶきと共にエリラの呻き声が響く。
﹁⋮⋮さて、改めて聞こうか?﹂
顔色一つ変えることなくそういうと、レシュードはむすりとエリ
ラの頭を掴むとぐいっと顔を上げさせた。
エリラの体は真っ赤に腫れ、さらにその腫れた皮膚の上を血が伝
1627
わり、雫となって地面へと流れ落ちていた。エリラのすぐ足元には
血の溜まり場が小さく転々と出来上がっており、そこに交じるよう
な形でエリラの汗が同じように地面で溜まり場を作っていた。
全身で大きく息をするかのように呼吸をするエリラ。その顔にも
傷がいくつかあり頬から流れる血が顎から滴り落ち、エリラの豊満
な双丘の谷間へと流れ落ちる。服は既にボロボロで見えてはいけな
いものは既にオープン状態であった。
﹁どうだ? この苦痛から解放されたいか? 言う事を聞くんなら
考えてやらんこともないぞ?﹂
殴りたくなるような笑顔でエリラに問いかけるレシュード。
﹁誰⋮⋮が⋮⋮冗談じゃ⋮⋮ないわ⋮⋮﹂
だが、それにエリラは頑固して応じなかった。体はすでに満身創
痍であったが、その瞳にはまだ光が宿っており、意志はピクリとも
動いていないのが分かった。
﹁ふん、いくら我慢し続けた所で奴がここを見つけれる訳が無いだ
ろ、どんなに優秀な魔法やスキルを持っていようが無効化されてい
るなら意味が無いからな、もっともあいつがこの事に気付いている
かも分からないけどな、そうそう、例え気付いていても戻って来る
までに何日必要だろうな、そして何日かけてここを割り出すかな?﹂
まるで岩山のような意志をへし折ろうと、まるで心の中に問いか
けるかのような声でエリラの耳元でささやく。悪魔とも言えるよう
な声であった。これが親が子にやる仕打ちかと耳を疑いたい気持ち
になる。
1628
﹁⋮⋮別に⋮⋮見つけてもらわなくても⋮⋮いいのよ⋮⋮﹂
﹁なに⋮⋮?﹂
思わぬ返答に一瞬耳を疑うレシュード、一方エリラは不敵な笑み
を浮かべてみせていた。
﹁ここで⋮⋮あんたについて⋮⋮クロに迷惑を⋮⋮かけるぐらいな
ら⋮⋮潔く死んでやるわよ⋮⋮﹂
﹁ほう⋮⋮お前はもう二度と顔を見せなくてもいいと?﹂
﹁はん⋮⋮この姿で何をみせろと⋮⋮? ばっかじゃないの⋮⋮?﹂
今までクロウに散々迷惑をかけてきた。初めて出会ったときは見
下して、試験では殺すかのような殺意をぶつけ、奴隷となってでも
生きる道をもらい、自分の立場も忘れて言いたい放題言ってきた。
でも、そんな自分でも彼は私を一人の人間として見て、主君と奴
隷という関係をもまるで無いかのように接してくれて。そんな自分
を好きと言ってくれた。
奴隷となる前、エリラは冒険者であった。その前は腐っても一貴
族の娘としてそれなりの礼儀や生活を学んできた。
そんな彼女だからこそ、今の自分の有様を許すことが出来なかっ
た。
だからこそ、彼女はその姿を見せるぐらいなら死を選ぶと言った
のだ。それは彼に迷惑をかけたくない思いと生きて会いたいという
思いがぶつかり合う中での決断だった。
1629
生きてもう一度会いたい。そして謝りたい。自分の立場も忘れ、
かつての過ちを繰り返し、自分勝手な事をした自分をもう一度やり
直したい。レシュードから拷問を受け続けている中でエリラはそん
な思いを抱いていた。
一方、魔法もスキルも使う事が出来ないここをクロウが見つけれ
なかった場合も考えていた。そもそも自分勝手な発言をして、クロ
ウを魔法学園へと向かわせておきながらこんな有様になって助けて
くれるなど虫の都合が良すぎるとエリラは心の中で自分に対し嘲り
笑っていた。
︵⋮⋮私って⋮⋮本当⋮⋮馬鹿だよね⋮⋮︶
そのため、もしこのまま時間が経って行くならば、せめて迷惑を
かけないように死んでやると心の中で決めていたのだった。
そんなエリラを見たレシュードは急にエリラから背を向けると、
例の拷問器具が置かれている場所を再び漁りだしていた。
﹁わかった⋮⋮なら、せめて俺を楽しませてもらおうか⋮⋮﹂
そういって、レシュードは一本の剣を抜きだした。刃には赤い液
体がついており、絶えることなく流れ下りており、ただの返り血で
は無い事が見て取れた。柄には悪魔を思い浮かべる顔が模られてお
り、その剣が放つ不気味な雰囲気を一層際立たせていた。
﹁俺が好きな女ってどんなやつか分かるか?﹂
唐突な質問だった。レシュードは剣の刃先とエリラのほうを交互
に見比べるかのように見ていた。
1630
﹁⋮⋮知らない⋮⋮﹂
﹁なら教えてやろう﹂
不気味な剣を片手にエリラへと近づくと刃先を二の腕辺りに押し
付ける。
﹁俺は別に股を開くやつだとか、そんなもんには興味ねぇんだわ。
なら何が好きかと言うとな⋮⋮﹂
いきなり剣を自分の方へと引くように剣を動かすレシュード。刃
を押し付けていた部分の皮膚がスパッと綺麗に切れ、痛みでエリラ
の顔がゆがんだ。
﹁こうやってな、女の傷物にするのが好きなんだわ。それも一時的
なもんじゃねぇ、一生残る傷がな﹂
﹁⋮⋮?﹂
﹁これは、︽不治の剣︾と呼ばれる剣で主に処罰などで使うもんで
拷問には普段使うことは無い。だが、それはあくまで男のときはで
な⋮⋮綺麗な女の時にはよく使われるんだよなこれが﹂
不敵に笑うレシュード。
﹁この剣で切られた傷痕は生涯治る事は無い。どんな魔法でもな⋮
⋮お前のお母さんもこれで全身傷だらけになっていたんだよ﹂
﹁な⋮⋮!?﹂
1631
﹁気付かなかっただろ? まあ、傷付きの女なんで俺の威信に傷が
付くから普段は服で隠していたがな、それでも結構我慢していたん
だぜ? 本当は腕とかも傷つけて見たかったんだよ、さて、お前は
別に俺の何かという訳でもないからな⋮⋮せいぜい楽しませてくれ
よ﹂
﹁ひっ⋮⋮!﹂
エリラも女であることは間違いが無い。貴族出身でもあった彼女
はレシュードの言った意味を即座に理解をした。
この時代、女は十中八九と言えるほど顔やスタイルがまず見られ
ていた。性格など二の次である。特に公の場ではそれが顕著に表れ、
女の兵士がいた場合、公の場などに出れる⋮⋮つまり出世するため
にはまず、見た目が大事だったのである。ちなみに男は実力主義と
地位主義が混ざり合った感じといえよう。つまり容姿は二の次であ
ったのだ。
で、体のどこかに傷が付いていることは女としてはタブーだった。
そんな世界の為傷を隠す魔法アイテムとかも頻繁に売られている。
そんなこの世界での理想の形とは、我々で言う﹃二次元﹄クラスの
レベルと言っても過言では無かった。
そんな中でレシュードの趣向は変態の域を超え異常とも捉えられ
ることだと言えよう。
﹁さてと、続きと行こうか﹂
﹁ぐっ⋮⋮!﹂
﹁ここで死ぬんなら姿なんでどうでもいいんだろ? まあ、ゆっく
1632
り、ゆっくりと楽しませてもらおうか、フハハハハハハハハハ!!
!﹂
レシュードの笑い声は暫くの間止むことは無く、その声はエリラ
に更なる地獄への道を予感させるものになっていた。
1633
第151話:第2次エルシオン防衛戦・後編︵後書き︶
今回の第151話はかなり色々言われる覚悟で書きました。私が
小説を書く上で意識している一つに﹁実際はここまでやる可能性も
あるんじゃない?﹂とある一種のリアリティーを意識しているよう
にしています。そこに﹁魔法などによる自分たちは体験出来ない事﹂
を妄想で考え、交差させていたりします。ですので、私の小説には
﹁いや、この話いらねーだろ﹂と言うものが数多くあります。まあ、
ほとんどは︻見切り発車︼な部分だったりしますが︵泣︶、その見
切り発車も含めて、私自身も﹁この先はどうなるんだろう!?﹂と
ワクワクして書いていたりもします。これが楽しいからやめられな
いのですけどね⋮⋮勿論、しっかりと考えて書いている伏線や話も
数多くありますけど、時間が経つにつれ﹁あれ⋮⋮これどっちだっ
け?﹂と言うことにもしばしばありますが︵泣︶
で、結論を言いますと︻レシュードにもともと付けていた性格の
設定を掘りまくった結果が今回の回なのです︼! エリラファン人
がいましたら全力で謝ります。本当にすいません。ですが、これも
前々から少し考えていたことで、あんまり見ないよなとふと思って
走ってしまいました。
ちなみに、リアルの私にはこんな趣味は一ミクロンもありません。
恐らく見たら怒りがこみ上げるかグロテスクさに負けトラウマにな
っているかのどちらかでしょうね。小説だから出来ることだなと書
きながら思いました。
こんな小説ですが、これからもお付き合いのほどよろしくお願い
します。リアルが元に戻ったら更新スピードも感想返しもしたいで
1634
す。
1635
第152話:約束をした⋮⋮︵前書き︶
今回、短めです。
1636
第152話:約束をした⋮⋮
クロウが魔物の掃討をしている頃、ハルマネでは同じく魔物の襲
撃に対応するべく特待生らを中心に部隊編成が行われていた。
生徒たちの顔は緊張に引き攣っていた。あの襲撃から初めてとな
る実戦にあの時の恐怖を忘れきないで思い出す生徒が数多くおるの
も事実だった。
﹁まあ、クロウがいればいけるんじゃね?﹂
そんな中、カイトがさらっと言い放った一言がちょっとした問題
になっていた。
﹁何を言っているんだよ! クロウは無理だろ!?﹂
﹁でも、サヤが言うには体の麻痺は取れていて、症状は改善してい
るんだろ? だったらあいつが出た方が一番被害が少ないと思うん
だが?﹂
﹁だからクロウを出すと言われますの!?﹂
そんなのいくらなんでもおかしいとシュラ、ローゼの二人が真っ
先に反対した。
﹁あなた最近クロウに冷た過ぎではありませんか!? 彼も人間な
のですよ!?﹂
1637
最近のカイトのクロウへの接し方に疑問を覚えていたローゼがカ
イトに聞いた。だが、カイトはローゼの質問に少しも応える素振り
は見せず、今のこの事態を打破することだけを言った。
﹁でも、そんな余裕ないじゃないか! 俺らだけであいつらを止め
ることが出来るのか!?﹂
﹁⋮⋮止める⋮⋮﹂
﹁サヤ!?﹂
カイトたちが言い争っているとき、その会話にサヤが割り込んで
くる形で戻って来た。その後ろにはリネアの姿もあった。
﹁⋮⋮止めなければ⋮⋮死ぬだけ⋮⋮﹂
﹁そんなのわかってる。だからクロウが前に出t﹂
﹁⋮⋮クロウは⋮⋮エルシオンに戻った⋮⋮﹂
﹁はぁ!? おい、一体どういうことだ!﹂
サヤの思いもよらない答えに、カイトは無論ほかの特待生たちも
驚きを露わにしていた。
﹁言葉の通り⋮⋮向こうも襲撃があったらしい⋮⋮﹂
﹁だからってこっちは放棄したのかあいつは!?﹂
﹁⋮⋮私が行かせた⋮⋮﹂
1638
﹁なんだと!? ふざけるな! あいつ無しで俺らが戦えるわけn
カイトがサヤを問い詰めようとしたその時、突然カイトの身体が
真後ろへと吹き飛ばされ、暫く宙を浮いたのち地面に激突をし、転
がり周りようやく止まることが出来た。
見ると、カイトがいた場所には代わりにサヤが立っていた。腕に
はナックルダスターが取り付けられており、血が滴り落ちていた。
﹁⋮⋮ふざけるなはどっちよ⋮⋮﹂
サヤはカイトの方へと歩き出した。カイトのお腹には血がべっと
りと付いており、そこから血が噴き出していた。
それを見た仲間は慌ててカイトのもとへと駆け寄ったり、サヤを
止めたりと奔走しだした。
﹁サヤ落ち着いて! まずは知っている事情を話して!﹂
﹁サヤ、ここで仲間割れをしても仕方ないから落ち着くんだ!﹂
セレナがサヤを背中から抱きしめる形で止めようとして、シュラ
がサヤの前に立って彼女を宥めにかかる。
だが、セレナとサヤでは筋力ステータスが既に何十倍と差が開い
ているため、足止めすらも出来ず、シュラはサヤの放つ独特な威圧
に押され引き下がるしか他ならなかった。
﹁⋮⋮普段は散々クロウの意見に反対して⋮⋮いざ困ったら助けて
下さい⋮⋮?﹂
言葉の一つ一つに憤怒の思いが込められているかのような恐ろし
1639
さがにじみ出ていた。その気迫に押されるかのようにカイトの周囲
に集まっていた人たちも徐々に彼の回りから離れ始めていた。
﹁⋮⋮クロウが⋮⋮どんな気持ちで⋮⋮あんなことをやったか⋮⋮
あなたは理解しているの⋮⋮? 自分の意見を言いたいだけ言って
⋮⋮人の気持ちも考えない⋮⋮あなたに⋮⋮何が分かるの⋮⋮?﹂
カイトの前まで来たサヤが倒れているカイトを持ち上げる。当の
本人はと言うと痛みに顔を歪ませることしか出来ず、なされるがま
まだった。ナックルダスターを付けたままだったので、サヤが掴ん
だところから新たな傷が生れ血が流れ出ていた。
﹁あなたに⋮⋮物を言う資格は⋮⋮無い⋮⋮﹂
それだけ言い放つとポイッとまるでゴミでも捨てるかのようにカ
イトを地面へと放り投げた。その様子を見ていた周りはこんなサヤ
を初めて見た。
物静か、無口、冷静。そんな言葉が似合う普段の様子とは打って
変わり、まるで鎌倉の金剛力士像や毘沙門天立像を思い浮かばせる
かのような、オーラは見る者を恐怖で覆いつくさんとばかりに放っ
ていた。
カイトはその恐怖に負けたのか、はたまた痛みに耐え切れなかっ
たのか白目を向けて気絶をしていると言う失態を犯していた。
﹁⋮⋮私は勝つ⋮⋮約束をした⋮⋮﹂
サヤはカイトに背を向けるとそのまま、正門の方へと歩き始める。
その様子を黙ってみることしか出来きず、あっという間にサヤの姿
は消えてしまっていた。
1640
我を忘れ呆然していたが、ハッと現実に戻りだしていた。
﹁⋮⋮俺たちは彼に頼り過ぎていたと言う事か⋮⋮まあ、分かって
いたことだけどな﹂
﹁私たちも行きましょう。ここでじっとしている訳には行きません
わ﹂
﹁そうだね⋮⋮サヤだけに戦地に立たせる訳には行かないわね﹂
そういって、続々と自分たちの配下の元へと行き動き出す生徒た
ち。狙っていたかそれとも偶然かは分からなかったが、少なくとも
サヤの行動は特待生たちには起爆薬になったようであった。
こうして彼らは、戦地へと再び向かう事になった。ちなみにカイ
トはと言うと一部の良心的な人たちの手によって救護室へと運ばれ
て行き、この戦いに参加することは無かったと言う。
1641
第153話:エリラ救出作戦1
落ち着け俺。
自宅に戻るや否や俺は自分の部屋に引き籠り考えを張り巡らす。
ニャミィが言うにはエリラを最後に確認したのは今からおよそ1
∼2時間程前。
襲撃があったのはエリラを最後に確認した時からおよそ30分後。
そしてそこから俺が戻ってきて魔物を殲滅するのにかかった時間は
30分∼45分ほどだ。
街から半径10キロ以内にエリラの反応は無かった。移転系の魔
法を使われていたらそれも納得できるが、チェルストで俺が他の世
界︵?︶に飛ばされたときは、何百の魔物の血と巨大な魔法陣が必
要だったはずだ。
前もって準備をしていた? いや、恐らく違うだろう。もし俺の
仮説が正しいのであればレシュードがエリラの事を知ったのは今か
らおよそ1週間前。仮設のギルドで出会ったのが初めてだろう。そ
こから魔法陣を作って魔物を片っ端らから殺して⋮⋮無理だ。1週
間じゃ圧倒的に時間が足りない。
そもそもその辺にいる下級の魔物の血では無理な可能性もある。
それに、あの魔法は魔族の神が作った魔法だ。そんな魔法を街の
近くで作ろうと考えるだろうか? もしばれたら言い逃れなんて出
来ないぞ。少なくとも俺だったらしないな。
1642
そうなると⋮⋮走ってか? エリラを抱えて走って1時間程度で
10キロの移動⋮⋮十分可能か⋮⋮。
なら、もっと遠くまでと思い俺は思い切って半径30キロまで検
索範囲を広げてみることにした。ここまで来ると並大抵の人の魔力
では枯渇してしまいかねない消費量だ。
だが、30キロまで広げても検索に引っかかることは無く、0件
という文字が虚しく浮かぶだけだった⋮⋮と、思っていたのだが、
ここで意外な表示を見つけた。
﹁ん? これは⋮⋮?﹂
それは0件と表示されたすぐ下に表示されていた。
==========
ヒット件数:0件
※検索不能範囲がありました。
==========
検索不能範囲、そういえばそんなものも作ったな。この表示は要
するに﹁エラー﹂を表しており何らかの原因で検索範囲内で検索が
出来なかった範囲があった場合に表示するようにしていたものだ。
作ったはいいが、これまでそんな事例が無かったので作った本人
である俺もすっかり頭から消えていたな⋮⋮。
検索不能範囲がある場所は街から15キロ程度離れた場所にあり、
1643
どうやら森に囲まれている場所からだった。
不能範囲は直径200メートルほどで綺麗な円形状に出来ていた。
こんな事例は見たことが無かったので最初は全く分からなかった
が、分かった途端すでに体が動き出しており、何故か開けっ放しに
なっていた窓から飛び降りていた。
と言うのも、あの不自然なまでに綺麗な円形を見て思ったのは﹁
人工物﹂じゃないかと言う事だ。もしそうならば、なぜここが調べ
れないかと言う事になるが恐らくスキルや魔法が使えないような結
界が張ってあるあるのだろう。その体験はチェルストでしたし何よ
り、そう考えるのが一番早いからだ。こうなれば、エリラの反応が
無い理由も納得が行く、距離的にもありえそうな場所だな。そして
森の中にあるとか隠してますと言っているようなものだ。
窓から飛び降りドンッと音と共に地面へと着地を決める。﹁アシ
クビ ヲ クジキ マシター﹂という声が聞こえてきそうな感じだ。
︽飛行︾で一気に街の外へと飛び出す。見られないか不安もあっ
たが、そんなことを気にしている暇は無い。
そして、街の外に出ると反応が無い地点へと一直線に飛んで行く
ことにした。道中は何も起こることなく10分程度で目標のすぐ付
近にまで移動することが出来た。
着いてみると森の中にあるには明らかに不自然な建物を見つけた。
石レンガで作られた小さな掘立小屋みたいな感じだった。
中がどうなっているか調べるべく︽透視︾を使ってみたが中を見
る事は出来なかった。やはり何らかの結界らしきものが張っている
ようだな。
仕方が無いので境界線ギリギリに降り立つことにした。そして、
ついに検索不能範囲内へと足を踏み入れることに成功をした。特に
これと言った監視もなければ、罠もなさそうだ。深い森の中という
1644
アドバンテージを十分に生かし切れていないな。
もっとも、外れだったら元も子もないのだが。
試しに魔法を使ってみることにする。いつも通りに意識を集中し
魔法を発動しようと試みた。だが、いくら魔力を込めようが魔法が
発動する気配は無く数分後、結局俺は諦めて︽倉庫︾から武器を取
り出すことにした。
だが、︽倉庫︾からも道具を取り出すことが出来なくなっていた。
何回試そうとも一向に使える気配も無く時間だけが過ぎ行く。
時間が惜しかった俺は、咄嗟の判断で先ほどの範囲外へと出て︽
倉庫︾からアイテムを出そうと試みる。するとようやく慣れた感じ
の感触と共に刀が現れてくれた。
﹁⋮⋮と言う事は﹂
この結果を鑑みるに、どうやらあの小屋に乗り込むには武器を範
囲外で出して乗り込むしかないと言う事になるな。恐らくスキルの
アシストも無くなるから実質ステータス便りになる可能性が非常に
高くなるということになる。
もっともこのステータスでは余程の不意打ちを受けなければ大丈
夫だと思うが⋮⋮。
一応、念のために予備の剣をもう二本取り出し背中に着けておく
ことにした。一部魔法錬成に頼っている刀なので脆くなっている可
能性があったからだ。
﹁さて⋮⋮乗り込むか﹂
俺は武器を構えると一歩一歩小屋へと近づいていくのだった。
1645
1646
第154話:エリラ救出作戦2︵前書き︶
やっと、少しずつリアルが落ち着いてきました。と言ってもまた
別の方向から、忙しさがやってきており、泣きたい気分です。でも
私は負けませんよ!
⋮⋮ですからバイトに寝坊して遅刻しかけたことは許して下さい
何でもしますk︵割愛
1647
第154話:エリラ救出作戦2
﹁⋮⋮﹂
暗い牢獄の中、エリラはボロボロになっていた。
既に全身には︽不治の剣︾によって数えきれないほどの切り傷が
生れていた。唯一の救いはレシュードが最後に遊ぼうと考えている
顔には、まだ傷が入っていないことぐらいだろうか。
﹁もう終わりか?﹂
﹁⋮⋮﹂
反応を示さないエリラにレシュードは舌打ちをする。回復薬の一
つでも持ち込んでおくべきだったと後悔をしていた。
その理由は床に広がる血の池が指し示していた。全身からの出血
により既にエリラの意識は途切れ途切れになっていたのだ。幸いエ
リラの回復力が高いのか現在、出血はしていなかったら、これがも
し止まっていなかったのなら、恐らく1時間以内に命尽きてたこと
だろう。
一番の楽しみを行う前に力尽きられては元もこうも無い。身体の
傷物を見る趣味があるレシュードにとって無反応な人形に傷をつけ
ても意味が無いということになる。
﹁チッ、今死なれたらせっかく爺の話に乗った意味がねぇじゃねぇ
か﹂
仕方が無いので一旦拷問を止めどうしようかと考える事にした。
1648
拷問が止まったとき、エリラの意識も僅かに回復をしていた。下
を向いたまま僅かに瞼だけを開き、そこから見える自分の体を見て
心の中で嘲り笑っていた。もっとも口に出す力などはもはや残って
はおらず、端から見たら動かない玩具のように彼女は見える事だろ
う。
その時だった。ズドン! と大きな音が響いたのと同時に牢獄全
体が僅かに揺れ、天井の隙間に溜まっていた埃がパラパラと地面へ
落ちて来た。
﹁なんだ一体!?﹂
ダッダッダッと何かが走って近づいてくる音が聞こえて来る。そ
の音は徐々に大きくなり牢獄のある部屋に何者かが入って来た。
﹁ホウコクデス!﹂
レシュードの部下であろう物は立ち止まると敬礼をした。その見
た目は人間みたいに二足歩行で立ってはいたが、装備のしたから見
える皮膚は全身毛むくじゃらで顔は犬のような顔をしていた。人間
と見比べてもかなり小柄な大きさだったが、体格はガッチリとして
おり弱そうというイメージはつけにくかった。
﹁なんだ!﹂
﹁シンニュウシャデス! レイ ノ コゾウデス!﹂
﹁なんだと!? もうここに気付いたと言うのか!?﹂
1649
﹁ゲンザイ チカ ヘト オリ セントウチュウ! ゴメイレイヲ
!﹂
﹁チッ、分かった先に行ってろ!﹂
そういうと報告しに来た生き物は回れ右をすると来た時同様走っ
て出て行った。
﹁相変わらずコボルトの言葉は分かりにくいな⋮⋮次はもっとまと
もな言葉を話せる奴にさせるか﹂
コボルト。その名前は人間がとある魔物に付けた名称だった。ず
る賢く、武器を使いゴブリンと同様武器を扱う魔物として一般的に
知れ渡っている魔物だ。
そして、その魔物が今、レシュードに話しかけ報告をした。さら
にはレシュードの命令に忠実に従う姿まで見せていた。
そう、今や彼の周囲に人間は彼のみしかおらず彼の周りを固める
のは知能がある魔物で他ならなかったのだ。
﹁くそっ⋮⋮どうやって割り出しやがった⋮⋮!﹂
魔法もスキルも届かないここが絶対にばれるとは思わなかったレ
シュードの思考はやや混乱していた。そして、この混乱がある一つ
のミスを生んでいた。
﹁いや⋮⋮そんなのはどうでもいい! あいつが現れた以上、生き
ては帰さん!﹂
そういうとレシュードもまたコボルト同様、走って牢獄を後にし
ていった。
1650
もし⋮⋮彼がここでエリラを利用すれば、また結果は違ったもの
になったかもしれない。エリラはどう思っているかはさておき、ク
ロウ自身はエリラの事を大切に思っているのは間違いない。じゃな
ければ態々こんな森の奥深くにまで追って来る理由がないからだ。
普通の奴隷なら見捨てて終わりが関の山だろう。
だが、猛将が上の短気が仇となってしまった。
このとき、既に彼の頭の中からエリラの存在などすっかり飛んで
しまい、どうやって侵入者を殺すかと言うことに頭が行ってしまっ
ていた。
例えば⋮⋮エリラを人質に取る⋮⋮などの作戦などを立てればよ
かったのかもしれない。だが、彼は自らが持っていたカードを墓地
へと送ってしまっていたのだ。
そのため今のレシュードの手元に残っているのは配下になってい
る魔物の集団と自身の力のみだったのだ。
そして⋮⋮相手が悪すぎた。レシュードが今から戦おうとしてい
る者は、この世の常識を完全に捨てた人間であり、人間ではない者
だったからだ。
1651
==========
コボルトから発せられる言葉は意識が朦朧としていたエリラにも
聞こえていた。そしてその後にレシュードが発した言葉から﹃例の
小僧﹄がクロウであると確信をしていた。
普通この状況で助けが来たら、それは囚われた人にとっては希望
の光となるものだろう。
だが、エリラにとってクロウが来てくれたことは何とも言えない
感情を抱かせていた。
︵⋮⋮また⋮⋮また助けられるの⋮⋮?︶
捕まる一週間ほど前、彼女はクロウの前で大きく啖呵を切ってみ
せた。守ってみせる。勝ってみせると。結局決裂した形でクロウは
魔法学園へと向かっていったが、そのことを知ったとき彼女の中で
は謝らないとと謝罪の気持ちが芽生えたのと同時に﹃約束は守って
みせる﹄と心の中で決めていた。
だが結局自分は父親に捕まり、見るも哀れな姿になるまで好き勝
手に痛めつけられ、今度はクロウに助けられようとされていた。
その事がエリラの心の中に、自分自身への怒りと情けなさを生み
出していた。自分は大切な人にまで迷惑をかけるだけの存在なのか
今すぐ死にたい
と。
1652
エリラは率直にそう思った。だが、そんなことは彼が許さないこと
ぐらい分かっていることだ。
なら、どうするか?
変わりたい
エリラの中で答えは一つだった。
好き勝手な自分を、弱い自分を。
エリラは心に決めた。もし、クロウが⋮⋮いや、誰でもいい、何
でもいい、ここから生きて出れたならば、もう一度やり直したい、
クロウに迷惑をかけた分、今度は自分で恩返しをしたいと。
その思いが、死んだ魚のようだった瞳に再び光をともしていた。
そして、それと同時に両目から洪水のように涙があふれ出て来た。
﹁⋮⋮ごめん⋮⋮ごめん⋮⋮﹂
それは、彼女なりの彼への謝罪であったと同時に、今まで自分自
身が行ってきた行動への懺悔の言葉だった。
1653
第155話:エリラ救出作戦3
﹁テキダ! イソゲ!﹂
幅3メートルほどしかない狭い直線通路に集まるコボルトたち。
手には︽爆炎筒︾がそれぞれ一丁ずつ握られていた。
通路の壁は地層がそのまま剥き出しになっており、まるで炭鉱の
中にでも潜り込んだような感覚になりそうだった。
﹁カマエロ!﹂
銃口は前方から向かってくる一人の人間に向けられていた。だが、
その様子に特に驚いた様子などは無く、人間はドンドンと近づいて
くる。人間は刀を持っており、刃先は一寸もぶれることなくコボル
トたちに向けられてい居た。だが、コボルトたちはそんなことは意
も返さなかった。何故なら、このときのコボルトたちは誰もが﹁馬
鹿め!﹂と完全に舐めていたからだ。
無理もない。魔法もスキルも使えず、尚且つここは隠れる事も出
来ない直線通路、普通に考えればここを駆け抜けるという王道は死
に急いでいるようなものだ。例えるならレインボーブリッジで戦車
の砲口がズラリと向けられており、その戦車に向かって真正面から
何も持たずに走り抜けようとしているような感じであろうか。
﹁ウテェ!﹂
一体の指示が降りるとコボルトたちは一斉にトリガーを引いた。
銃口から激しい爆発音が響いたかと思えば、銃口から野球ボール
1654
ほどの火球が飛び出し、それが走り寄って来る人間に向かって一斉
に放たれた。
︱︱︱︱ドォォォン!
火球は逸れることなく人間に当たり爆発を起こした。その爆炎の
中に後から来た火球が飛び込み連鎖爆発を起こし始める。
爆炎筒の特徴である爆発直後に飛ばされる破片弾がはじけ飛び、
撃った本人たちにまで襲っていた。目に当たったコボルトは両手で
目を庇い地面で暴れまわり、被害が無かったコボルトたちは暴れま
わっている同士の銃からの暴発を恐れ後ろへと引き下がる。
離れた位置にいたコボルトたちでさえこのような有様だ。まして
や直撃を食らったであろう人間はひとたまりもないだろう。
そのとき、突如発生した風圧により狭い通路全体に煙が広がった。
コボルトも魔物とは言え生きていることは間違いない。煙を大量に
吸い込めば一酸化炭素中毒で死ぬ可能性もある。もっとも、人間が
中毒を引き起こす何倍もの量を吸い込まなければならないので、彼
らにとってはそこまで問題では無かった。
だが、問題は別の所で起きた。
先ほどまで広がる一方だった煙の流れが逆に流れ出したり、その
場で渦を形成しだしたりなど不規則な流れを作り出していた。
と、その時、煙の中から先ほど爆撃を受けたはずの人間が飛び出
し、最も近場にいたコボルト3体が人間の一振りによって胴体を真
っ二つにされてしまった。
地面に倒れて暴れていたコボルトは顔をピンポイントで足で潰さ
れ絶命をし、さらに近くにいたコボルトから順番にまるで蚊を潰す
1655
かのように淡々と切り殺していた。
その光景に恐怖を覚えたコボルトは持っていた爆炎筒を放り投げ
一斉に逃げ出した。コボルトの俊敏力はそこそこの高さであったが、
その人間はそれを遥かに上回る速さで追いついては刺して行く作業
を淡々とこなしていた。
勇気のあるコボルトが一体、自らも被害を受ける覚悟で目の前ま
で迫ってきていた人間にほぼゼロ距離で爆炎筒を撃ち放ってみせた。
ゼロ距離で発砲をしたので当然、爆炎や破片が撃った本人を襲い、
撃ったコボルトは肢体バラバラに飛び散るという大惨事が起きてし
まった。
だが、そんな命を懸けた特攻攻撃も煙の中からバラバラになった
コボルトの死体を踏みつぶしながら出て来た人間によりあっさりと
無にと返されてしまった。
﹁ニ、ニゲロ!﹂
﹁バ、バケモノダァ!﹂
この光景を見たコボルトは今度こそ全速力で逃げ出した。だが、
機動力も上の相手に狭い直線通路の中で逃げ切れるはずも無く、最
初に侵入者を迎撃したコボルト20体余りの命は呆気なくこの世か
ら消え去ってしまったのだった。
==========
1656
﹁キタゾォ!﹂
﹁オイ! ナカマハドウナッタノダ!?﹂
﹁ヤラレタノカ!?﹂
コボルトたちの声が耳に入って来る。
﹁カマエロォ! ウテェ!﹂
爆炎筒が一斉に火を噴き火球の球が飛んでくる。魔法もスキルも
使えないこの結界内で何故魔法武器が使えているのか謎だった。
おそらく、この効果は生きている物にだけ効果があるものかもし
れない。
だが、そんなこと今はどうでもよかった。
火球の球に対し剣先で小さな音速波を作り当てる。火球が爆発し
た後に飛んでくる破片に対しては刃の側面を爆発方向と平行に向け
弾くような形で防ぐ。
例え高いスキルレベルを保有していようが出来ないだろう。元の
世界でなら某200キロのバッティングマシーンのボールなどまる
で止まっているかのように見えるほどにまで鍛え上げた動体視力、
及び身体があればこそ出来る芸当だ。
なお、普通の人間にはいくらやろうとしても無理だと思う。
つくづく人間離れしているなぁと思いながらも、群がる敵をなぎ
倒し奥へと進んでいく。
1657
まさか異世界に飛ばされた7年間の技術がこんな所で役に立つと
は思わなかった。おそらくあの7年間が無ければここで死んでいた
ことだろう。
異世界に飛ばしたハヤテに感謝するべきなのか怒るべきなのか妙
な心境になるな⋮⋮。
そうこうしているうちに通路の奥にまで到達をした。今、俺の目
の前にはこじんまりとした扉がある。
それにしても、外から見えたのはちっぽけな小屋だけだったので、
まさか地下にこんな空間があるとは思いもしなかったなぁ⋮⋮。
通路の壁を見るに殆ど手作業で掘った跡が見えるに、魔法などほ
とんど使わなかったのだろう。デコボコしている壁や天井がそれを
物語っている。
そんな事は置いとき、俺はゆっくりと扉を引き始めた。。いつ何
が起きてもいいように周囲に神経を張り巡らしつつ、扉を開ける。
先にあったのは同じく壁に地層が露出をしている空間だった。た
だ、先ほどまでの通路とは変わり、こちらはまるで多目的ホールを
連想させるような広さだった。後で思ったことだが、この洞窟、見
れば見るほど突貫工事な構造になっていた。ただ、この時の俺はそ
んな事に気を配ることは無く、エリラの安否だけが心配だった。
空間の中央には大きな机が置かれており周囲にはそこらかしこに
爆炎筒が置かれていた。
そして、その直後俺は広場の中央に鎮座している男に気付いた。
1658
﹁⋮⋮ビンゴか﹂
その人間の顔を見た瞬間、俺は咄嗟にそう呟いていた。男は両手
に剣を握りしめこちらをじっと睨んでいたが、俺の姿を確認したの
かスッと立ち上がり一歩二歩と前へと出る。
﹁小僧⋮⋮いや、クロウか。何故ここが分かった?﹂
﹁知らなくていいだろ⋮⋮どうせ死ぬんだから﹂
次の瞬間、広場に3本の剣が交わり激しく火花を散らしていた。
1659
第156話:エリラ救出作戦4
﹁おい! 俺がここに来た理由は分かってんだろ!? エリラはど
こにいるんだ!?﹂
﹁ふん、知らんわ! 知りたければ力ずくで吐き出させてみやがれ
!﹂
火花と甲高い金属音が洞窟内で響く。
﹁それは知ってると言ってるもんじゃねぇか、ならさっさと吐いて
もらうぜ!﹂
レシュードの剣が左右から襲い掛かる。それを素早くバックステ
ップで回避する。ブンッと空気を斬る音が響びいた直後に一気に間
を詰める。
そのまま一気に剣をレシュードの懐に入れこみトドメを刺しに行
ったがそうは簡単に問屋が下さない。
﹁甘い!﹂
レシュードが持っていた剣を無理やり引き戻し、クロウの背後か
ら斬りかかるという物理法則を完全無視した攻撃を繰り出してきた。
非常に分かりにく構図だが、両手に持っている剣をクロス型に切
りつけたレシュードが振り切った隙を突きクロウがその剣の上を越
える形でレシュードの目の前にまで間を詰めたが、レシュードはま
るで壁にでも当たって跳ね返ったかのごとく、いきなり腕を自分の
方へ引き寄せ、その引き寄せをする中で後ろから斬るという飛んで
1660
もねぇぜ状態となっているという訳だ。
自分の背後に刃が迫っているのを感じていたクロウだったが、そ
んなの関係ないと言わんばかりにレシュードへと突撃を敢行した。
そして、クロウはいきなり刀を持っていた片手を離すと初速無し
からのゼロ距離でレシュードの首元に抉りこませるかのような強烈
な一撃を繰り出した。
︱︱︱ゴキッ!
何やら聞こえては行けない音が聞こえたかと思えばすでにレシュ
ードの体は宙を舞っており、持っていた双剣は手放してしまってい
た。
その刃先には少しだけ血も着いていた。みるとクロウの両脇下の
服が一部切れており、そこから血が流れていた。一歩間違えていた
ら急所を斬られていたことだろう。
何故、そんな危険を冒してまでもレシュードを沈めにかかったか
? やはり、エリラを助けたいという焦りがあったのかもしれない。
もっとも、そんな焦りが無くても行けると判断しての行動だった
かもしれない。それはクロウ本人にしか分からないことだ。
1661
==========
﹁さて、約束通りエリラの居場所を吐いてもらおうか﹂
﹁あが⋮⋮が⋮⋮﹂
﹁あー⋮⋮殴った時に顎が外れたんだな、それじゃあ喋れないよな﹂
ゼロ距離&初速無しで顎を外してしまうほどのパンチを繰り出せ
るクロウもクロウであるが、それを顎が外れるくらいで耐えたレシ
ュードもまたレシュードである。
︱︱︱ゴキン!
﹁あげぁぁっ!!﹂
クロウは無理やりもとに戻してあげると戻した痛みで、レシュー
ドがゴロゴロと地面をのたうち回る。それが終わるのを待つことな
くクロウは転がるレシュードをむすっと掴むと、そのまま地面へ叩
き落としレシュードの顔に刀を突きつけた。
﹁さて、吐けよ。余計な事を言うと肢体をバラバラにするぞ?﹂
﹁チッ⋮⋮分かったよ。話すからこの刀をしまえよ﹂
﹁はぁ? 片付ける訳ねぇだろ? 第一、お前は今の自分が命令で
きる立場だとでも思っているのか? 身を弁えろ﹂
﹁⋮⋮クソッ、爺にそそのかされてこのありさまかよ⋮⋮冥土の話
1662
にもなりゃしねぇ﹂
こんなはずでは無かったと悪態をつくレシュード。
﹁爺⋮⋮ガラムか?﹂
﹁ああ、そうだよ﹂
﹁あいつと何を取引した? それも言え﹂
﹁それを言ってほしいならその刀をどk
﹁拒否権なんてねぇと思え、別にそんな情報無くてもこちらで調べ
ることぐらい容易いんだからな?﹂
﹁そうか⋮⋮なら!﹂
と言うと、いきなり刀の先を弾くと自分のポケットへと手を伸ば
すレシュード。だが︱︱︱
クロウの刀がそれを許さなかった。
スパァン! と切れの良い音がし鮮血が飛び散った。
﹁あ゛あ゛あ゛!!!﹂
暴れようとするレシュードを溝の一発で静かにさせる。自分の腕
を見ながら怒りに震えていた。そしてその視線の先には先が消えた
腕と行き先を失った手が転がっていた。
と、そのときクロウはレシュードのポケットから何かが出ている
1663
のが見えた。拾ってそれをみてみる。
それは、錠剤だった。紫色をした錠剤はとてもじゃないが病気な
どを直してくれそうには見えなかった。そしてクロウはこの錠剤の
事を知っていた。
︵これはウグラの⋮⋮!?︶
魔闘大会の少し前にクロウがウグラの屋敷に忍び込んだ際にウグ
ラが舎弟に見せていたあの錠剤だ。あの時はスキルで覗いても殆ど
不明だった上に回収が出来なかったものだ。
︵後で調べるか⋮⋮︶
クロウは自分のポケットに錠剤を押し込んだ。
﹁もういい。お前が何も言う気が無いのは分かった。だったらこっ
ちで勝手に調べさせてもらう﹂
そういうとクロウはレシュードの首元を掴むと、そのままズルズ
ルと引きずりながら部屋を調べ始めた。途中、何度もレシュードが
暴れることもしばしばあったが、その度に無力化をし続け裏へと続
く道を見つけた頃にはすっかり大人しくなってしまっていた。
その通路は上へと⋮⋮つまり地上へと続いていた。先ほどの通路
よりもひんやりとした空間で周囲も地層が露出していたのと変わり、
石で綺麗に舗装をされていた。
その通路を一歩一歩奥へと進んでいく。ちなみにレシュードはと
言うと完全に沈黙をしてしまっている。五月蠅かったのもあるが探
1664
索を邪魔されたくなかったので、気絶させておくという何とも適当
な扱いであった。
通路を抜けると真っ暗な部屋に出た。周囲は荒い石で囲まれてお
り、鉄格子が所々ありここが牢獄であることをいやが応も無く認め
させた。
その部屋の中を一歩一歩歩いていく。そして一番奥の部屋にたど
り着いたときだった。
﹁エリラ!﹂
そこにはボロボロになって鎖に繋げられたエリラの姿があったの
だった。
1665
第157話:エリラ救出作戦5︵前書き︶
7/13
誤字を修正しました。
今回、後書きにお知らせがあります。
※
1666
第157話:エリラ救出作戦5
﹁⋮⋮クロ⋮⋮﹂
エリラの姿を見た途端レシュードを放り投げエリラの元に駆け寄
るクロウ。疲れた顔付であったが、意識はハッキリとしているよう
にみえた。
﹁ああ、今外してやるからな﹂
そういうとエリラの腕に付いていた手錠に綺麗な川を描く如く切
りつける。するとエリラの手首には傷一つ付けることなく両手に付
いていた手錠とそれらを繋ぎ合わせていた鎖が切れ地面へとドスン
と落ちた。それと同時に解放されたエリラの腕がだらんと落ちる。
﹁⋮⋮ごめんなさい⋮⋮﹂
﹁いや、俺のほうこそg︱︱︱
﹁謝らないで﹂
﹁えっ﹂
﹁私が悪いのよ⋮⋮出来もしないことを出来るとか言って⋮⋮結局
この有様⋮⋮自業自得よ﹂
﹁⋮⋮わかった⋮⋮無事でよかった⋮⋮﹂
1667
自分にも思うところがあったがクロウはあえてその言葉は飲み込
んだ。こんな所で無駄な言いあってもいいことは何もないし、何よ
り早くこの結界の範囲外にまで移動してエリラの治療をしたかった
のが大きい。意識はあるが声自体にも力は余りなく、全身に付いた
無数の傷がエリラの今の状態を物語っている。
そっとエリラを抱きしめてあげる。それに応えてエリラもクロウ
の背中にそっと手を回す。
﹁⋮⋮が⋮⋮﹂
クロウの背後で妙な呻き声が聞こえて来た。クロウが振り向くと、
意識が覚醒したレシュードがどこかに行こうと這いずりながら移動
をしようとしていた。
﹁⋮⋮﹂
クロウは迷った。ここでトドメを刺すのが一番いいだろう。だが、
腐ってもレシュードはエリラの父親である。切っても切れない同じ
血が流れている肉親を目の前で殺すのはさすがに些か腰が引ける。
だが
﹁⋮⋮クロ⋮⋮剣を貸して⋮⋮﹂
﹁エリラ⋮⋮?﹂
﹁私が決める⋮⋮いい⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮エリラがそれでいいなら⋮⋮﹂
1668
エリラがそう言ったのでエリラに最後を任せることにしたクロウ。
エリラは自力では立てないほど弱っていたのでクロウは自分の肩を
貸し、ゆっくりと立ち上がるとそのままレシュードの前まで移動を
した。
﹁ぐっ⋮⋮!﹂
﹁⋮⋮﹂
無言で刀を持つエリラ。そのエリラを睨み付けるレシュード。お
互い、今何を思っているのだろうか気になるクロウであったが、こ
の関係には入らない方がいいと思い黙っていた。
﹁⋮⋮チッ、まさか自分の娘に殺される最後とはな⋮⋮﹂
﹁⋮⋮娘に殺される? 私の事を心の底から⋮⋮自分の娘だと思っ
たことがあるの?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮もういい⋮⋮あなたとはここで完全に蹴りを付けさせてもら
うわ⋮⋮﹂
スッと刀を振り上げると、そのまま一度も躊躇することなくレシ
ュードの首へと振り下ろした。重力に任せるがままに見えた振り下
ろしだったが、クロウの持っている︻漆黒︼の切れ味は物凄く、い
とも簡単にレシュードの首を切断してしまった。
ゴンッ ゴロゴロとレシュードの首が胴体から離れ地面に落ち転
1669
がっていく。
その様子を黙ってみるエリラとクロウ。やがて、動きが止まった
のを確認するとエリラがポツリと呟いた。
﹁⋮⋮これで私にはもう⋮⋮両親はいないのね⋮⋮﹂
﹁⋮⋮さみしいのか⋮⋮?﹂
存在する
いる
だけでも⋮⋮﹂
﹁⋮⋮分からない⋮⋮もともといなかったに等しい存在だったから
⋮⋮でも、心のどこかでは
エリラはそれ以上何も言わなかった。暫く黙っていたクロウだっ
たが、突然エリラを再び抱きしめた。急な行動に驚いたのかエリラ
がびっくりしたが、傷に響いたのか苦痛に少しだけ顔を歪めた。
﹁⋮⋮俺がいるだろ⋮⋮両親の代わりは無理だけど、そのさみしさ
を少しでも埋めてやる⋮⋮!﹂
その言葉に、先ほどまで痛みに歪んでいたエリラの顔が安心した
ような顔になり、瞳から涙があふれていた。
﹁⋮⋮ありがとう⋮⋮﹂
﹁⋮⋮家族だろ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮うん⋮⋮﹂
暫くの間、クロウは時間を忘れエリラを抱きしめていた。それに
対しエリラも自分の傷の事など忘れたかのようにクロウへとしっか
1670
り抱きしめ返していたのだった。
==========
﹁治さなくていい?﹂
﹁うん⋮⋮﹂
例の小屋を出た二人は結界の範囲外まで移動をし、そこでまずエ
リラの治療をすることにした。
そこで初めてクロウはエリラの傷がただの傷では無く︽不治の剣
︾によって傷つけられた傷だと知った。
エリラから簡単な経緯を聞いたのち、クロウは﹁ちょっと待って
てくれ﹂と言うと再び小屋へと戻っていた。
数分後、クロウが戻って来た。手にはエリラが言った︽不治の剣
︾を持って。
そして、まずクロウは剣を解析し、その後エリラの傷を見た。や
エスナ
や間があったのちクロウは素早く︽創生魔法︾で魔法を作り上げた。
そして出来上がったのが︽状態異常回復︾だった。
これで治療が出来ると言ったクロウであったが、エリラはそれに
1671
は十分感謝しつつも治さなくていいと言ったのだ。
﹁どうしてだ?﹂
﹁⋮⋮今回、私は自分の発言のせいでこうなってしまった⋮⋮そし
て、これは一回目じゃない⋮⋮クロウと初めて出会ったあの時も、
私は自分勝手な振る舞いをしてしまっていた﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁だからね⋮⋮私はこの傷を残そうと思うの⋮⋮この傷を見る度に
自分の行動や発言は本当に良い事なのか。それは自分の考えばっか
りを言っているのではないかと思い返すためにね⋮⋮頭で分かって
いても私はもともと身体が先に動くタイプだから⋮⋮だから⋮⋮﹂
﹁でも⋮⋮それは⋮⋮﹂
クロウも知っていた。この世界で女性の体に傷が入ることがどう
いうことか。
エリラの傷は顔以外は、ほぼ全身に傷がつけられていた。レシュ
ードが最後の楽しみにしていたのか顔や胸などの女性としての真の
本陣には被害はいってなかったか、それ以外の傷だけでも十分崩壊
ものだった。
例えるならリンゴであろうか。中央の種の部分は残っているが、
それ以外の果肉の部分はほぼ虫に荒らされてしまっているようなも
のだった。
だが、それはエリラも百も承知だった。
﹁⋮⋮いいの⋮⋮覚悟は決めている⋮⋮でも⋮⋮﹂
1672
再びエリラの瞳に涙が浮かぶ。声を震わし嗚咽を時折漏らしなが
らエリラは言った。
﹁ごめんね⋮⋮クロ⋮⋮私の事、好きって言ってくれて本当に嬉し
かった⋮⋮でも、こんな姿をした私じゃあ、もう⋮⋮好きになれな
いよね⋮⋮まあ、もともと外からは奴隷と主の立場だし、それが正
しい形かm︱︱︱﹂
全てを言い終わる前にクロウは動いた。
いきなりエリラの顔を引き寄せると唇に熱いキスをする。モガモ
ガー! とエリラが何かを言いたそうにしていたが、それすらも無
視をしクロウは黙ってエリラと唇を合わせ続けた。
何十秒たったか。クロウとエリラの唇がそっと離れた。エリラは
﹁ふえっ!? 何!? 何!?﹂とでも言いたげな顔をしていた。
それに対し当のクロウはと言うと至って真剣な眼差しだ。
﹁馬鹿、俺がエリラを外見だけで好きになった訳じゃない! こん
な俺に奴隷としての立場だったかもしれないけどここまで付いてき
てくれた。それが嬉しかった! 気付いたら好きになっていたんだ
!﹂
﹁えっ⋮⋮えっ⋮⋮﹂
﹁例え世界中の奴らがエリラの事を馬鹿にしても俺は絶対にエリラ
を離さない! そんな奴は俺が許さない!﹂
﹁⋮⋮!!﹂
1673
口を両手で隠すかのように当て、涙を流すエリラ。口はまだ何か
を言いたそうにしていたがクロウがそれを許さなかった。
﹁エリラがその傷を戒めのために残すのならそれでもいい。だけど、
俺はエリラのことは好きなんだ! だからよ⋮⋮そんな事言わない
でくれよ⋮⋮エリラはさ⋮⋮今でも俺の事は好きなんだろ⋮⋮?﹂
﹁うっ⋮⋮うっ⋮⋮うわぁぁぁぁん!﹂
ついに大声をだしながら泣き始めたエリラ。その勢いのまま今度
はエリラがクロウにガバッと襲い掛かるかのように抱きしめた。ク
ロウは今度は自分が黙ってエリラの顔を自分の胸元に包み込むかの
ように抱きしめた。
﹁大好き!! 大好きだよ!! 離れたくない!! クロとずっと
いたい!﹂
自分の言葉は本当に良いのかととか、色々言っていたエリラが、
この時ばかりは全てを忘れ自分の本音を全て吐きだしていた。
﹁ああ⋮⋮これからも宜しくな⋮⋮﹂
﹁⋮⋮うん!!﹂
気付けば夜は明け朝日が深い森の木々の上から見え始めていた。
この日の天気は、雲一つない快晴だったという。
まるで、これからの二人を祝うかのように⋮⋮
1674
第157話:エリラ救出作戦5︵後書き︶
いかがだったでしょうか? 私個人といたしましてはもう少し、
言葉を上手く使えたらなぁと反省はしていますが、後悔は一ミクロ
ンもしておりません。これが私クオリティーです。
さて、お知らせですが、最近リアルが忙しいと嘆いておりました
が、その原因は何とか落ち着いてきたのですが、代わりじゃぁ! と言わんばかりに次の波が来ちゃいました。正直なところ夏休みも
ちょっと微妙な所です。
そこで、今後の方針なのですが、更新は多少落ち着かせ約3∼4
日に一回出来たらいいと思っています。その代わりと言ってはなん
ですか、一回一回の内容を濃ゆくしていきます。
そして、感想返しですが誠に言いにくいのですが、今後活動報告
にていくつかピックアップをして返す形にしたいともいます。この
手だけは使いたくありませんでしたが、このままでは忙しいのが続
いて感想返しが全く出来ないという負のスパイラルが襲って来そう
でしたので、早々に手を打たせてもらいました。
誠に申し訳ありません。
これからは感想返しの分を執筆作業に力を入れていけれるぐらい
頑張りたいと思いますので、よろしければ今後も応援よろしくお願
いします。
以上、黒羽でした。本当に申し訳ありませんでした!!︵土下座︶
1675
⋮⋮エリラが何でもs︵グサッ!︶
﹁⋮⋮天丼禁止⋮⋮﹂
すいません︵土下座︶
1676
7/17
誤字を修正しました。
第158話:ハルマネへと︵前書き︶
※
1677
第158話:ハルマネへと
今回の事件で色々な事があったので、調べたりセラに聞いたりな
どしたかったクロウであるが、それ以上に魔法学園の方も気になっ
ていた。
サヤやリネアたちに任せたとは言っても不安であるのは変わりが
ない。
そのため、クロウは必要最小限の事をやり、直ぐにハルマネへと
向かう事にした。
まず、エリラの治療からだ。
︽不治の剣︾と言われた剣で付けられた傷は出血などはしっかり
と止まっても、傷跡を強く残してしまう。調べて分かった事である
エスナ
が、これは一種の状態異常が引き起こしているものだった。
そのためクロウはそれを打ち消す魔法を作りそれから治療を行お
うとしたのだが、前回を見て分かる通りそれはエリラ自身の意志に
よって中断された。
この状態異常は︽呪い︾のジャンルに分類されているが、少し特
殊な効果を持っていた。
普通、呪い系の状態異常は何らかの形で呪いを解かなければ消え
ないのだが、この剣によって出来た呪いは数日で消えてしまうよう
になっていた。
しかし、呪いが消えてしまうと同時に付けらてた傷跡は永遠に残
1678
る事となる。
説明をすると、︽不治の剣︾の呪いの効果は﹃対象者に傷をつけ
その傷の回復を阻害する﹄と言うものだったからだ。
つまり、人が本来持っている治癒能力を阻害し傷を消されないよ
うにしておくと言う事だ。
これがどうなるのかと言うと、本来皮膚は傷跡を直して体内に菌
が入らないようにするのだが、呪いの効果で傷跡を治せない状態に
なる。でも体は黴菌が入らないようにしようと動くので、結果的に
傷跡を残す形で治療をしてしまうということだ。
非常に分かりにく説明になったと思うが、要するに普段刃物など
で切り傷が出来た時、場合によっては縫わなければならないような
怪我の可能性もある。
そのような傷を縫わないで放置していると、皮膚が再生する時に
皮膚同士が少しずれてしまい跡が残るだろう。あれを意図的にかつ
濃ゆくしっかりと残してしまう呪いと考えればよい。
と、少々長い話になってしまったが、それが呪いが数日で抜ける
のとどう関係するのかはもう皆様はお分かりいただけただろうか?
傷跡は一応傷が塞がった状態である。つまり、次に再生するとき
には、同じ傷痕と言う名の皮膚を生んでしまうと言う事だ。
拷問用に作られたものだなとクロウは調べて納得をしていた。こ
の呪いの効果を逆手に取り、拷問の時に数日の猶予を生ませそれま
でに結論を出さないと否が応でも傷を残してしまうという、ある一
定の人たちには地獄のような気分を味あわせるのだろう。
1679
この世界のことを多少なりとも理解をし始めていたクロウはエリ
ラの覚悟を心中で察していた。10代半ばで女性としての武器を捨
てるに等しいことだったからだ。
もっとも、そんな姿でもクロウはエリラの事が好きと言う事には
変わりが無かった。そんな彼の思いにエリラもまた、より一層クロ
ウへの好意を寄せる結果となった。
さて、大分話は脱線したが、クロウはエリラの意志を聞いたのち
に治療︵傷跡は残ります︶を行い拷問によってボロボロになった服
に代わって新しい服を出してあげた。その服のデザイン自体は普通
の民が着るようなものであったが、半袖だったのでエリラの腕に付
いた傷が明るみになることに一瞬クロウは抵抗を覚えたが、それを
察したのか﹁私はクロウが困らなければいいのよ﹂と言ってきた。
彼女の言葉を意訳すると、公の場に出る時などにエリラみたいな
女性は敬遠されがちで、それによって主であるクロウにも悪影響が
出てしまう可能性がある。
つまり、クロウがそれでもいいなら、私も構わない。でもクロウ
が隠した方がいいと言うなら隠すと言った感じである。
勿論、クロウとしては、エリラにいちゃもんを付けたりするもの
には市内引きずり回しの刑でもしてやるつもりである。が、態々馬
鹿にされに行く必要もないのもまた事実なのだが、、手の甲や首に
も傷跡は出来てしまっているので、正直なところ全部隠しきれるの
は難しいとも感じていた。
色々悩んだクロウだったが、結局今まで通りと言う形で落ち着い
たのだった。
1680
エリラの着替えが終わったのち、二人は︽門︾を使いエルシオン
にある家へと戻った。戻った時にテリュールを始め獣族たちにエリ
ラの事はかなり驚かれ説明しようか迷ったが、時間も惜しかったの
で後でと言って、取りあえずエリラを部屋まで連れて行きそこで休
ませると、クロウは魔法学園へと急ぐのであった。
﹁!? これは⋮⋮!﹂
魔法学園⋮⋮ハルマネに来てみればそこには壊れた民家や燃える
家々がそこらじゅうにあった。
いや、それだけなら何度も見た光景だっただろう。だが、クロウ
の視界には初めての光景が写っていた。
そこには逃げる人々の様子は無く、代わりに燃える家を魔法が使
える何人かが消化をしようと水をかけ、魔法が使えないものはバケ
ツリレーで消したり、瓦礫の山をかき分け埋もれた人を助け出そう
としていた。
1681
その光景にクロウは魔物に襲われたと言うよりも、震災があった
のか? と思ってしまった。どちらにしても災害後であることに変
わりは無かったが、エルシオンなどで度々見た光景とは違っていた
ことにクロウは違和感を覚えたのかもしれない。
﹁クロウさぁん!﹂
ハッと我に返り自分を呼ぶ声に反応したクロウの前方から手を振
る一人の少女がこちらに向かって来ていた。
﹁リネア!?﹂
驚くクロウに、リネアはタンッと地面を蹴ったかと思うとそのま
ま、クロウに抱き付くように飛びかかって来た。まさかリネアがそ
んな行動に出るとは思っていなかったクロウであったが、飛び込ん
で来たリネアをしっかりと抱きしめるように受け止めてみせた⋮⋮
までは良かったのだが、地面に落ちていた瓦礫をたまたま踏んづけ
てしまい、バランスを崩しクロウはリネア共々仰向けに地面へと倒
れてしまった。
いきなりこんな歓迎︵?︶をされるとは思わず困惑するクロウを
置いて、リネアは満面の笑みでクロウの胸元で笑っていた。
﹁⋮⋮ようやく来た⋮⋮﹂
﹁クロウも無事だったのね﹂
そこにサヤとセレナも姿を表した。セレナはホッとした表情を浮
かべていた。サヤはと言うと相変わらずの無表情であったが
1682
﹁⋮⋮サヤ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮何⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮怒ってる?﹂
﹁⋮⋮いえ⋮⋮﹂
﹁そ、そう? ならいいんだけどさ⋮⋮﹂
どことなく怒っているように見えるサヤにクロウはたじろいだ。
サヤが無表情な事には変わりなかったが、クロウは彼女の言葉がい
つも以上に棘があるような気がしていたのだ。
事実、サヤはこの時怒っていたのであるが、それはエルシオンに
戻った事では無く別にあったのだが、その本心を知るのは本人のみ
であった。
﹁クロウさん⋮⋮﹂
気付けば先ほどまで笑っていたリネアがクロウをじっと見つめて
いた。リネアの綺麗な紫色の瞳に見つめられクロウは照れと困惑の
表情を浮かべ、それを見たサヤの視線がどことなく強くなっている
のを肌で感じていた。
﹁約束⋮⋮守りましたよ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ああ、そのようだな⋮⋮よくやった﹂
リネアの頭を撫でながらクロウは約束を守ってくれたことに嬉し
1683
さを覚え、撫でられたリネアはもっと撫でてと言わんばかりにクロ
ウに頭を差し出し、嬉しさを隠すことなくクロウに甘え、それを見
たサヤの視線がさらに痛くなり、そして︱︱︱
︱︱︱ドスッ!
﹁へばっぁ!?﹂
突如襲い掛かる激痛。見るとクロウの横腹にサヤの足の爪先がめ
り込んでいた。リネアが驚きパッとクロウの上から降り、クロウは
それによって自由に動かせるようになった身体を痛みが引くまで動
き続けた。
そして、ようやく痛みが落ち着いたのかクロウは﹁イテテ﹂と横
腹をさすりながら上半身を上げた。
﹁⋮⋮遊ばない⋮⋮起きたことを話すから⋮⋮来て⋮⋮﹂
﹁アッハイ﹂
別に遊んでいた訳ではないが、サヤから滲み出るオーラに負けた
クロウは素直に従うのであった。
1684
第159話:半壊の魔法学園の一室にて
﹁⋮⋮話すよ⋮⋮﹂
﹁おk﹂
半壊の魔法学園の教室の一角を借り、俺はサヤとリネアからお話
を聞くことにした。
半壊と付いてある通り、魔法学園の校舎は3割∼4割ほどが崩れ
落ちたり亀裂が走っていた。その中でも被害が殆どない教室をで二
人と話すことになった。
これ、日本なら間違いなく立ち入り禁止区域になっている場所だ
よな⋮⋮。廃校というより廃墟と言った方が正しい光景が窓から見
えた。
﹁⋮⋮結果から言うと⋮⋮襲ってきた魔物は何とか処理できた⋮⋮﹂
俺が確認した魔物たちはどうやら倒せたようだ。まあ、一般人の
作業風景やリネアの発言から大体予想は付いていたけど。
ただ、勝ったのはいいが、街の様子を見るとかなりの乱戦だった
と思われ、生徒たちもかなりの数が死んだのではと思っていた。
しかし、その心配はどうやら無用だったようだ。
オートガード
﹁クロウさんの︽自動防御︾のお蔭で怪我をした人は居ましたけど
死者は居ませんでした﹂
リネアが笑顔で言った。それは良かった。
1685
でも、そうなるとあの町の壊れ方はなんなんだ?
その答えもすぐに分かった。
﹁⋮⋮敵が持っていた棒みたいなものから火の玉が飛び出して⋮⋮
前衛を相手しているときに後方からかなりの数が打ち込まれた⋮⋮﹂
おそらく︽爆炎筒︾の事だな。
﹁大体どの辺で迎え撃ったんだ?﹂
﹁西門⋮⋮﹂
西門⋮⋮つまり街には殆ど侵入されていないで一方的に撃たれた
と言う事になる。
街を見た時に見えた被害状況と迎撃位置から推測するに、︽爆炎
筒︾の射程距離は1キロ∼2キロ程度と言う事になる。
⋮⋮ってマテヤ、大きさは小銃ほどしかないのに飛距離が100
0メートル以上? 一体どんな仕組みになっているんだよ⋮⋮。
︽爆炎筒︾の事はそこまで詳しく調べていなかったので、予想以
上の飛距離に俺は驚いた。だがそれ以上に驚いたのは魔族側がこれ
ほどまでの技術力を持っていることだ。
当然だが、人族側にはそんな高度な技術は無い。クロスボウなど
の遠距離系射撃武器は魔力を使わない代物だし、魔力を使っても数
百メートルが限界のはずだ。
魔法単体では数百メートルの距離を打つことが出来る事魔導士は
ごく一部だ。何故ならスキルレベルで言うなれば7以上を要する超
高難易度だからだ。
威力を抑えて距離を伸ばす方法もあるが、そうなると殆ど殺傷力
1686
は消えてしまうので使えないらしい。
まあ、仮に︽爆炎筒︾レベルの魔法を一人が撃とうとするならば、
従来の平面魔法式では駄目だ。魔力の消費量が馬鹿にならないから
だ。
ではどうすればいいかと言うと、俺がリネアに教えた立体魔法式
を作らなければ実戦では使い物にならないはずだ。
本格的に話したら長くなるので、簡単に話すと平面魔法式は足し
2+2+2+2+2+2+2+2+2+2
=
算や引き算。立体魔法陣はそれに加え掛け算や割り算、括弧を加え
たものになる。
例えばだが、威力20の魔法があるとしよう。
=
20
︵2+2+1︶*︵2+2︶
=
=
これを1と2のみで表そうとすれば
平面魔法式
20
立体魔法式
と、同じ威力20の魔法を撃とうにも式の長さ⋮⋮ここでは魔力
消費量を表すのだが違いが出て来るのが分かるだろう。当然、少な
い方が魔力消費量も少なくて済む。
本来ならここに加速魔法式などの制御系魔法式なども加わって来
るので実際はこんな安価な計算式では無いんだけどな⋮⋮。
これはまだ威力20と低めの数値だから差はそんなにないかもし
れないが、魔力が増えれば増えるほどその差は開いていくことは忘
れてはならない。
あと、この世界の常識では括弧や乗数など使い勝手の言い式は無
いので、リネアが覚えた魔法はどの国も喉から手が出るほど欲しい
1687
技術になる。⋮⋮まあ、立体魔法式の時点で既にこの世界に︵少な
くとも人間には︶持っていない式なのであるが。
さて、話を戻して西門あたりで迎え撃ち無事に迎撃に成功したの
はサヤとリネアの活躍によるところが大きいのは間違いないが、話
を聞いてみるとランクが低い魔物が多かったので特待生は勿論、一
般生徒もかなり頑張ったとのこと。
そして、その戦いの前に主にカイトといざこざがあったことも聞
いた。
﹁⋮⋮そうか﹂
﹁クロウさんは何も悪くありませんよ、あの人たちが勝手すぎるの
ですよ﹂
俺が落ち込んだと思ったのかリネアが励ましてくれた。実際、へ
こんでも無いけど。
もっとも、今回の一件を受けて俺はある決断をしたのだが、それ
はまた後にして、一通り話を聞き終わった俺も、救援活動に参加す
ることにした。
︽マップ︾で瓦礫の下敷きになっている生存者を見つけ出し、見
つけ次第、魔法で本人を囲みあとは周りに被害が行かないように撤
去をするという作業を淡々と繰り返した。
その途中火事になっていた家を見つけては水魔法で消化したりも
した。
人が数百人単位でやっても何時間かかるか分からない作業を俺は
1688
一つ数分で済ませてしまい、街の住民たちはひっくり返るほど驚き、
﹁これ、俺たちいらなくね?﹂と呟く者もいた。
その後は、怪我をした者たちを一か所に集めてまとめて治療をし
た。骨折していたい大やけどをしていた者たちが全員一斉に治った
ので、人々は俺を﹁神の使いだ!﹂とかなんやら言って崇めて来る
事態が発生した。あれ? この流れ前にもあったような⋮⋮。
そして、一通りの作業が終わる頃には、俺はハルマネの街の人々
に神徒とか言われて崇められる羽目になっていたのだった。
アレ︱? コンナ ハナシ ジャ ナカッタ ノ ダケドナー?
1689
第160話:部隊長交代
﹁全く⋮⋮いつの間に戻っていたのよ⋮⋮﹂
一通りの救出作業が終わったのち俺は特待生たちと集まっていた。
セレナやローゼ、シュラなどは事情を聴いて納得してくれたのか
今まで通りだった。ただ、その他のメンバー⋮⋮ここではテリー、
ネリー、カイトになるが、彼らは顔が少し怖かった。もう見た瞬間
に﹁あっ、これ根に持ってるわ﹂と思ったほどだ。唯一の救いはカ
イトは包帯をグルグル巻きにしていたので怖さ三軒だったことぐら
いか。
﹁えーと⋮⋮午前中かな⋮⋮﹂
﹁それで、エルシオンの方はどうなりましたの?﹂
﹁ああ、何とか間に合ったよ。まあ、被害が全く無かった訳じゃな
いし、色々あったけどな﹂
エリラの事がチラッと頭に浮かんだが、この人たちに言う必要は
無いとすぐにかき消す。ただ、リネアとかサヤはエリラと結構仲良
くしていたのでどうしようか迷ったが、また会った時でいいか。
﹁夜に出て朝に戻って来るって⋮⋮一体どうやったら出来るのよ⋮
⋮﹂
エルシオンとハルマネまでの距離は強行でも2∼3日かかる。そ
1690
れを時間にして僅か10時間足らずで行き帰りして戦闘もしてとな
るとそりゃ物議になるよな。
﹁まあ⋮⋮色々してな﹂
取りあえず適当にはぐらかして置くことにする。移動方法を知っ
ているサヤとリネアはお互いに顔を見合わせ納得したのか頷いたの
ち一緒に明後日の方を向いていた。
﹁ふぅん⋮⋮まあ、クロウならねぇ⋮⋮﹂
﹁クロウさんですからねぇ⋮⋮﹂
﹁クロウだしな﹂
何故か俺と言う事で特にそれ以上言われることは無かった。うん
⋮⋮それ以上言わない事は嬉しいんだけどよ⋮⋮なんでだろう⋮⋮
涙が出てきそう。
﹁で、これからどうするんだ? エルシオンもそんな状態じゃこっ
ちばかりとは言えないだろ?﹂
そう言ったのはシュラだった。
﹁そうよね⋮⋮家の方にも被害は出たりしたの?﹂
﹁ちょっとだけだけどな。今回は壊された南地区からの侵入だった
からよかったけど北地区から侵入されたら不味かったかもしれない﹂
今回の件で俺が不在の時に、彼女らを守る盾が全く無い事を痛感
1691
した以上、ハルマネに滞在を続ける訳には行かない。
職務放棄と言われようとも大事なのを守るためには決断をしなけ
ればならないようだ。
﹁⋮⋮エルシオンに戻るべき⋮⋮﹂
サヤが俺にエルシオンに戻るべきと提案をする。援護射撃ありが
とうございます。
﹁⋮⋮ああ、悪いけどこれ以上エルシオンを放置する訳には行かな
い⋮⋮エリラたちの事も考えて俺は降りさせてもらうよ﹂
降りる⋮⋮それは隊長をやめると言う事だった。エルシオンに戻
る以上部隊の隊長は降りなければならない。隊長がいない部隊のま
まにする訳にはいかないからだ。
﹁⋮⋮それが正しい⋮⋮﹂
﹁そうね⋮⋮不安だけどそればっかりは仕方が無いね⋮⋮﹂
﹁戦力不足は否めませんがそれはこちらで何とか補うしかありませ
んわね﹂
皆が納得をしてくれる中一人反論する者もいた。
﹁⋮⋮俺らの存在は|アレ︽クロウの家にいる獣族たち︾以下かよ
⋮⋮﹂
何やらカイトがポツリと呟いた。結構大きい声だったがので俺の
耳にも当然届いている。
1692
一瞬、ぶちのめそうかと思ったが
﹁では、その辺のお願いは理事長に報告をしなければなりませんわ
ね﹂
﹁隊の編成も仕切り直しかな?﹂
﹁おい、でも国の命令で徴兵されている以上、逃げるのは駄目だr
﹁そうですわね⋮⋮暫くは何もないといいのですが⋮⋮﹂
﹁おい、話をk
﹁⋮⋮なんとかする⋮⋮﹂
セレナたちの会話に遮られた。おそらくだが、彼女たちもカイト
の声が聞こえたが、あえて無視をしたのだろう。その証拠によくよ
く見てみるとサヤが目でセレナたちに何やら合図をしているように
見えたからだ。
事情を察してくれているのもあるが、俺にはカイトは居ない存在
⋮⋮空気扱いをされているように見えた。
﹁じゃあ、全員で理事長室に今から行かない?﹂
﹁そうですわね⋮⋮理事長にはまだ何も話していないので報告も必
要だと思われますわ﹂
﹁それならリーファ辺りは一緒に付いてきてもらった方がよくねぇ
か?﹂
1693
﹁おいっ!!﹂
スルーされる空気に耐え切れなくなったのかカイトが大声を上げ
た。そんな彼にサヤが振り返る。ただその目は死んでいる⋮⋮いや、
ジト目をしてどことなく近寄りがたい雰囲気を作り出していた。
﹁⋮⋮あんたは⋮⋮話に入るな⋮⋮﹂
﹁何でだよ!? 俺も関係あるだr
﹁⋮⋮黙ってなさい⋮⋮それとも何⋮⋮? また沈められたいの⋮
⋮?﹂
気付くとサヤの拳に風が纏わり小さな気流を作りだしていた。恐
らく、あの拳に殴られたら最後、皮膚を切り刻まれ、内臓にまで損
傷を与え痛みの中で死んでいくのだろう。サヤさん怖いっす。
その様子に先ほどまで威勢の良かったカイトも
﹁あっ⋮⋮いや、なんでもねぇ⋮⋮﹂
あっさりと萎んでしまった。襲撃される前に彼とのいざこざがあ
ったことは聞いていたが、よほどこたえたんだろうな⋮⋮。もっと
も、俺もカイトの立場だったら引き下がる自信はある⋮⋮いや、逃
げだすわ。
﹁じ、じゃあ早速行こうや﹂
シュラが場の空気を読んで催促をしたのでそれに乗っかり理事長
室へと向かう事になった。GJやシュラ。
1694
﹁ええ!? 隊長を降りる!?﹂
まぁ、そんな反応になるよな普通。
﹁ええ、エルシオンで被害が出た以上、俺としてはあちらを優先さ
せてもらいます﹂
だが、俺はそんなことお構いなしに答えた。実際、最初は来る気
すらも無かったんだけどな。
﹁⋮⋮﹂
アルゼリカ先生は顔の前で手を組み、俯いた。
﹁⋮⋮私としては残ってもらいたいのですが⋮⋮﹂
﹁ええ、それは分かっています。ですから隊長は降りますが一生徒
として部隊に残らせてもらいたいのです﹂
﹁ですが、クロウ君はエルシオンに戻るのでしょ? 在籍していて
もそれは居ないに等しいn
1695
﹁ええ、分かってますよ。その辺は手を打っています﹂
そういうと俺はエルシオンを出る前にニャミィに渡したのと同じ
水晶を取り出した。
﹁? それは?﹂
﹁仕組みは詳しくは言えませんが、これに俺を思いながら魔力を送
れば俺に伝わるようになっています。緊急時にはこれを使ってくだ
さい。すぐに駆けつけます﹂
そう。あのニャミィに渡した水晶を今度はこちらに渡しておくの
だ。当然、何も改良はしていないのでリスクはエルシオンのとき同
様にあったが今はこれしか無いので仕方が無かった。
アルゼリカ先生はその水晶を手に取るとまさぐるように見回した。
聞いたことも無いアイテムなので本当かどうか気になるのだろう。
ただこれを教えるとなると︽共鳴︾スキルの存在がばれてしまう
ので教える訳にはいかない。
と言うのも、エリラの一件もそうなのだが、俺の予想が当たれば
これからこの地方は大変な時期に入るだろう。龍族もそうだが、魔
族や人間たちといった敵対勢力の動き方によってはエルシオンやハ
ルマネも戦火に飲み込まれる可能性がある。
ただえさえ俺の周りには問題が転がりまくっているのに、そこに
さらに別の問題が転がって来るとか洒落にもならない。
と、これからどうなるか分からない以上下手に自分の技術を他人
においそれと渡したり教えたりするのは決していい手とはいえない
1696
ことだ。
﹁⋮⋮いいでしょう。クロウ君にはこの街を救ってもらった礼もあ
りますので、今回は特別に許可しましょう⋮⋮ですが、クロウ君、
本当に何かあった時は駆けつけてもらえますか?﹂
﹁ええ、勿論ですよ。約束します﹂
﹁⋮⋮分かりました。その言葉を信じましょう﹂
アルゼリカ先生も色々言いたいことはあったのだろうが、ここは
グッと抑えたのだろう。何とも言えない複雑な表情がそれを物語っ
ていた。
もっとも、ここで断ろうが強行するつもりだったしな。アルゼリ
カ先生は多分﹁ここで言い争っても良いことは無い、むしろ助けて
くれると言う今のうちに彼の願いをかなえるべき﹂と考えたのだろ
う。
﹁⋮⋮ですが、隊長の役は誰が⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮私がやる⋮⋮﹂
﹁!? サヤっ!?﹂
﹁⋮⋮いいでしょ⋮⋮?﹂
﹁い、いや、それはそれでいいけど⋮⋮本気? クロウが隊長をや
った時にあなたも見てたでしょ。隊長役がどんなに大変なのか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮承知済み⋮⋮﹂
1697
﹁⋮⋮分かった⋮⋮お願いするぞ⋮⋮サヤ⋮⋮﹂
サヤがコクリと頷く。
﹁⋮⋮任せて⋮⋮だからクロウも⋮⋮エルシオンを絶対に守る事⋮
⋮いいね⋮⋮?﹂
サヤにそんなこと言われたら頑張るしかないじゃないですかー。
﹁ああ⋮⋮約束する﹂
サヤとしっかり握手をしお互いにしっかりと頷く。
﹁⋮⋮なんか変な雰囲気ですわね﹂
﹁むー﹂
ローゼとセレナが何かを言っているが聞かなかったことにしてお
こう。
こうして、部隊の方はサヤに任せ俺はエルシオンに戻る事になっ
た。
1698
戻ったらまずは何をするべきか⋮⋮
家を安全にするために色々作らないといけないし、例の薬のこと
もあるし、ガラムの件もあるし⋮⋮。
スキルもまだ強化出来たり新しく作れるのもあるだろうし、とや
る事があり過ぎて頭がこんがらがってしまいそうだ。
だが、そんな俺をさらに悩ます出来事が起きるのであった。
1699
第161話:自己防衛のために武器を作ろう
エルシオンに戻り、その日は特に何もなく終えることが出来た。
久しぶりにエリラが隣で寝ている様子を見てちょっと嬉しくなった。
やっぱり自宅はいいなと思った。
そして、珍しくエリラの寝相が良く、その日は気持ちよく寝るこ
とが出来ました。
翌日、起きるや否や早速作業に移った。
まず屋敷の敷地内で土というより砂地に近い場所から砂を大量に
集める。
そこからガラスを作りにかかるのだが⋮⋮どうやれば良かったっ
け? 溶解法っていう1500度程度の熱で加熱して液体状態にし
てその後に冷却する方法が最も一般的な方法らしいのだがそれ以外
の事は全く知らないんだよな。
そこで、まずガラス細工の製品︵家にあった飾り物︶を︽神眼の
分析︾で解析を行った。そこから材料を解析し、︽錬成術︾で砂か
ら材料を取り出すという荒業をやってのけた。出来るか不安だった
が意外とすんなり出来たので正直な所驚いた。
技術すらも超越してしまうスキルの恐ろしさを垣間見た瞬間だっ
た。
1700
︱︱︱スキル︽錬成術︾より派生スキルが開発されました。
︱︱︱スキル︽錬成術・分離︾を取得しました。
お久しぶりです脳内アナウンスさん。
さて、そんな事は置いておき、材料が出来たのであとは︽錬成術
︾の本来の能力でガラスを生成。それを綺麗に曲げてレンズを作成
する。それを繰り返し前玉と呼ばれるものを作成した。
そこから容器を作成して、さらに︽記憶︾スキルを紙に書き込み、
人工魔力石︵意図的に魔力を濃縮し固めた石。自然の魔力石より多
くの魔力を蓄積できるが制作難易度は高く、国レベルで持つほどの
施設も必要なので、作られているのは極僅か︶と接続しいわゆるテ
ープを作成する。
勘のいい人はもうわかったかと思われるが、俺が今作っているの
は防犯カメラだ。
もっとも、俺らの世界にあったあんなカメラは勿論作れない。構
造を知らないからだ。
そこでまず、レンズ︵前玉︶を作成し、光を縮小させる仕組みを
作り、焦点部分に︽記憶︾スキルを書いた紙にある記憶部分を当て、
記憶をさせる、保存する魔力石と組み合わせそれを容器に入れて完
成だ。
注意しておくが、普通のカメラの構造はこんな生半可なものじゃ
ない。もっと複雑で精密に作られているのは間違いない。これは魔
法とスキルのお蔭で出来ているだけなので決して間違えて理解して
しまわないようにお願いしたい。
1701
ちなみに記憶させる方法だが人工魔法石にDVDなどにデータを
保存するのと同じ方法を取り入れただけの簡単なものだ。そして保
ストレージ
存されたデータはある程度の量がたまると俺の方に直接送られてく
る仕組みになっている。
ちなみにそのデータは︽倉庫︾に直接収める事が出来てしまった。
形が無い物のなずなのだが、生きていなければ本当に何でもいいよ
うだ。
ただし、取り出しをするには媒体に納めなければならず、手に出
すなどのことは出来なかった。まあ、そんなことをすれば空気中に
出た瞬間に魔力が拡散してしまうから当然なのだが。ちなみに、俺
だけが見る場合は媒体などに移す必要は無く︽マップ︾など同様に
俺の視界内で映すことは可能だ。
そんな感じで防犯カメラを複数個作成。それを玄関や敷地の周り
や室内の一部に取り付けておいた。全部が見えるように付けた方が
いいのだろうけど、後々のデータの整理が大変そうなのである程度
で収めておいた。
次に、戦力アップを図るために武器の作成も開始したかったが、
防犯カメラの作成やデータのやり取りなどで結局丸一日潰してしま
った。
その間、珍しくエリラは居なかった。その後、庭でほぼ一日中ず
っと一人で素振りや魔法の練習をしていたと言う事をテリュールな
どから聞いた。
あれから思う事もあったのだろう。頑張っているみたいだし少し
様子を見ていようと思う。
1702
翌日、その日も起きてからすぐに作業に取り掛かった。ちなみに
食事などは運んでもらって自室で食べている。子供たちから不評を
買っているようだが、終わったらたっぷり遊んであげると言うと素
直に納得してくれたので助かった。
さて、今日はと言うと武器制作に取り掛かろうと思う。
と言っても、今日はまず試作品を作るだけだ。まずは試作品を作
り、全員に試してもらい自分が一番使いやすいと思う武器を選んで
もらい、それから本格的な製造を始めるつもりだ。
もっとも、鉱石類が全く足りないので試作品を作るのがやっとな
のだが⋮⋮これが終わったらどこかの鉱山にでも忍び込んでうば⋮
⋮ゲフンゲフン⋮⋮借りて行くことにしよう。︵返すとは言ってい
ない︶
まず、基本となる片手剣を作る。そこから刀、大剣、槍、棍棒、
ハンマー、斧などを作り、遠距離系では弓、クロスボウなどを作成
していく。
そこに今回は更に強力な武器を作成した。
﹁⋮⋮出来た﹂
黒色で統一された色に形はくの字に近く敵を殴り殺すには軽く、
かといって鋭い刃を持っている訳でもなく、一つの口だけがあるだ
けの武器だ。
そう、人類が作り出した現代にまで続く基本兵装武器﹁銃﹂だ。
1703
そう、俺はこの世界には無いはずの近代武器を一足お先に作って
しまったとのだ。
もっとも、魔族が︽爆炎筒︾を作ってしまっている以上、魔族も
すぐに作る事は可能だろう。むしろ制作難易度は︽爆炎筒︾の方が
上だと言う事がのちの調べて分かってしまった。
これは魔力を消費して撃つ﹁魔弾﹂タイプと俺らの世界同様、弾
薬を入れて火薬で発砲をする﹁実弾﹂タイプの二つを作ってみた。
﹁実弾﹂はレシュードのときみたいに魔法が制限された時のために
作ってみた。お互いに魔法が使えない状況下でこれを出されたら相
手もたまったもんじゃないだろう。
エレメンタルリロード
︱︱︱スキル︽火器銃製作︾を取得しました。
︱︱︱スキル︽全属性装填︾を取得しました。
︱︱︱スキル︽全属性装填︾のエキストラ効果が解放されます。
︱︱︱スキル︽射撃︾のレベルが﹁2﹂上がりました。
==========
スキル名:全属性装填
スキル分類:戦闘スキル
取得条件
・六大属性魔法を取得していることが前提となる。︵六大属性:火・
水・風・土・光・闇︶
効果
・銃系統の武器に属性付与が自動的に付く。
・実弾系銃にも付与可能。
・六大属性以外にも取得している属性の魔法なら属性付与が可能と
なる。
1704
・なお、魔力消費量は通常時と変わらない。
・例外として実弾系は属性付与分の魔力が使用される。
・実弾系の銃の場合、魔法が使えない状況下でも属性付与が可能と
なる。
エキストラ効果取得条件
・空間魔法を取得していること
エキストラ効果
・スキル︽複合魔法︾取得者のみ使用可能。属性を二つ以上同時付
与が可能となる。
クラスター
ホーミング
エクスプロージョン
・射撃系統スキル︵弓、クロスボウ︶がレベル﹁8﹂以上のみ使用
可能。銃弾に︻分裂︼︻追尾︼︻爆発︼の効果を追加する。
・新スキル︽射撃︾を追加する。
・︽射撃︾を取得している場合、スキル︽射撃︾のレベルが﹁2﹂
上がる。
==========
なんかすげぇスキルきたぁぁぁっっっ!!
つまり銃一丁持っているだけで全属性攻撃が可能という訳か? 魔法が封じられた状況下でも非常に役に立ちそうなスキルだ。
てか、銃を作っただけでこんなスキルが手に入ってしまっていい
のか?
それと、エキストラ効果って初めて聞くな。なんか色々やばい代
物が付いてきているが有難く使わせてもらうことにしよう。
さて⋮⋮この武器は大人たちだけに使わせておこう。子供たちが
持つと思わぬ誤射を生みそうで怖くてたまったもんじゃない。
て、言うよりか普通の武器ですらも正直なところ扱わせたくない
のが本音なんだよな⋮⋮まあ、そんなことが通用する世界じゃない
ことは重々承知だけどさ。
1705
俺はさらにそこから自分用に試作武器を何点か作成し、さらに補
助系装備やある人物に上げるための武器の試作品も制作した。
その日は結局それで一日を終えてしまった。作るの自体には対し
て時間は取らなかったのだが、補助系装備でどんな効果を付けよう
かとあれこれ悩んだのが痛かったな。
でも、まあ今日中に出来て良かった。これで明日には皆に使って
もらえれるな。
そう考えていた時期が私にもありました。
翌日。
コンコンコンと言う音に気付いた俺は目を覚ました。
時間にして現在の時刻は朝の5時。まだ太陽もこんにちはしてい
ない時間帯だ。
瞼をこすりながら俺はベットから降り、扉に向かって行った。
一体誰だ? と思いつつ俺が扉を開けるとそこには同じく眠そう
1706
な顔をしたテリュールが立っていた。
﹁なんだ一体?﹂
﹁ごめんね、こんな朝早くに⋮⋮なんか来客が来ているのよ⋮⋮ふ
ぁ⋮⋮﹂
来客? こんな時間帯に来るとは随分と失礼な奴だな。
﹁誰か分かるか?﹂
﹁えーとねぇ⋮⋮うーんと⋮⋮﹂
寝ぼけている頭で必死に考えようとしているのだろうが、緩い声
によって真面目に考えているか? と問いたくなってしまう。
﹁もういいや、会ってみるからテリュールは寝ていな﹂
﹁ふぁい⋮⋮おやすみにゃさい⋮⋮﹂
そういうとフラフラした足取りで自室へとテリュールは戻って言
ったのだった。
﹁ごめんなさい、こんな朝早くに﹂
1707
取りあえず着替えをして、一階に降りて玄関に出てみるとそこに
はソラが同じく眠そうな顔で立っていた、
﹁うん⋮⋮まぁ、それはいいけど何の用?﹂
本人も眠い所を見るとどうやらソラも不本意で起きたのだろう。
てか、そうじゃなかったら困る。
﹁それがね⋮⋮なんか人が一杯来ているのよ⋮⋮﹂
﹁人が?﹂
こんな時間帯に? しかもこんな非常時に? 一体誰が?
﹁そう⋮⋮ミュルトさんもどうするべきか困っているみたいだった
から、クロウにも手伝ってもらおうかなと思って⋮⋮失礼だとは思
うけど一緒に来てもらってもいい?﹂
﹁うーん⋮⋮まぁ、いいけどさ﹂
一体何のことか分からないまま、俺はソラに付いていくがままに
街の中心部へと向かって行くのであった。
1708
第161話:自己防衛のために武器を作ろう︵後書き︶
久しぶりにスキルを作ったら色々アイディアが出てきてああなっ
ちゃいました。後悔はしていない︵ry
第4章もいよいよ終わりが見えてきました。朝早くに大量の人⋮
⋮早朝に街の隅っこでリバースしていた人を思い出しながら書いて
いました。
なお、本編にリバースを入れるなんてことは⋮⋮第1章でありま
したね︵遠い眼差し︶
なお、リバースをしたタイミングが分からない人は第57話を参
照して下さい。テリュールの黒歴史を見る事が出来ます。
活動報告にて︻異世界転生戦記︼のコメント返し001を行いま
した。良かったら御覧になってください。
1709
7/31
フォーク城となっていた部分を訂正しました。
第162話:フォート城の殲滅戦︵前書き︶
※
正しくはフォート城です。
1710
第162話:フォート城の殲滅戦
おいおい⋮⋮一体これはどういうことだよ⋮⋮?
俺はソラに誘われるがままに付いていくと、そこには大量の人、
人、人の嵐だった。
それもただ単に人が集まっている訳では無かった。見ると服はボ
ロボロ、中には靴を履いておらず裸足の人もいた。全身傷だらけの
人もいれば五体満足ではない人もいた。全員顔はやつれており、疲
れ切った表情をしていた。
まるで、あの夜の事件の後のエルシオンの住民たちをもう一度見
ているかのようだった。
︵一体、今度は何なんだよ⋮⋮︶
おそらくどこかの街の人たちであるのは間違いないだろう。
もしかしてハルマネの!? と言う考えが一瞬頭をよぎったが俺
が去ってから3日しか経過していないのと、サヤに渡した水晶から
の反応が無い所を見ると違うなとすぐに考えを改めた。
こういうのは聞いてみるのが一番いい。そう思った俺は比較的傷
などが少なくかつ、表情を見て疲労感が他の人よりも幾分少なそう
な男性を選び、聞いてみる事にした。
﹁ちょっといいか?﹂
1711
﹁⋮⋮なんだよ、あんた﹂
﹁この街の者だ。あんたらどこから来たんだ?﹂
﹁俺らか⋮⋮メレーザだよ⋮⋮いや、正確にはだったか⋮⋮﹂
﹁だった⋮⋮? どういうことだ?﹂
﹁うるせぇな⋮⋮これ以上嫌なのを思い出させるなよ⋮⋮もう嫌な
んだよ﹂
そういうと、話しかけた男性は口を噤んでしまった。なんとなく
心境を察した俺はそれ以上問いかけるのをやめ、メレーザから来た
と言う集団からそっと離れた。
﹁どうだったの?﹂
様子を見ていたソラが結果を聞いて来た。
・ ・ ・ ・
﹁メレーザから来たってよ。何があったかは教えてくれなかったけ
どな、ちょっと見て来るわ﹂
まぁ、何が起きたかは薄々察していたんだけど一応確認の為に見
て来ることにした。
﹁見て来る? それってどういうこt︱︱︱
ソラが言い切る前に俺は既に︽跳躍︾で屋根の上に登り、そこか
ら屋根伝いに少しだけ助走をつけると︽風魔法︾で一気に空へと飛
1712
び立った。
街を飛び出しある程度の距離を行ったところで今度は︽天駆︾で
移動をする。魔法で飛んでいた速度のおよそ2倍近くの速度を出し
俺は北を目指した。ちなみにだが、魔闘大会の時に出した速度ほど
では無いので時速はおよそ200キロ程度となる。
メレーザの名前は聞いたことあったが実際に見たことは無い。聞
いたところによれば盆地にあるアルダスマン国の首都として機能し
ている街でエルシオンなどとは比べものにならないくらい綺麗に舗
装された町並みだと聞いている。
だが、先ほどの人々の様子や、男性の様子を見るに今メレーザで
は決して良い事は起きていないだろう。
何があっても覚悟してみようと決心しているとき、俺の視界の隅
っこから煙が上がっているのが確認された。
﹁なんだあれ?﹂
俺は少し予定航路を外れて見に行くことにした。
少しずつ煙が発生している場所へと近づいていく。それにつれ血
生臭い匂いと多数の声が混ざった不快な声が聞こえて来た。
﹁!?﹂
そして、目視できるほどに近づいたとき、俺の目に飛び移ったの
は人と魔族が戦っている光景だった。
1713
石でできた城を囲うかのように魔物が飛んでおり、地面も多数の
魔物で埋め尽くされており城は完全に包囲されている状態だった。
塔の頂上で何人かの兵士が魔法や矢で応戦している様子が見えた。
だが、次の瞬間その塔へと何百もの魔物が襲い掛かり塔の天辺の姿
はこちらからでは確認出来なくなった。
そして次に塔の上が確認できた時には、そこには人の姿は無く代
わりに赤い液体が布きれ? 見たいなものと共に流れ落ちている様
子が見えてた。
︵魔族の軍隊みたいだけど⋮⋮爆炎筒は無いのか?︶
俺は城を囲う魔物たちを見ながら思った。これまで襲ってきた軍
隊では全てにあった爆炎筒がここでは見られなかった。
どうやら、量産はしているようだが数自体には、まだまだ限りが
あるようだ。
などと分析していると。
︱︱︱グギャアォォォォォッッッ!!
耳をつんざくような声が聞こえたかと思うと城を囲っていた魔物
たちが一斉にこちらを向いた。
⋮⋮やばい、近づきすぎた⋮⋮
慌ててブレーキをかけ止まる。魔物は人の姿をしているが龍の翼
1714
を持っている俺を見て敵か味方か判断するかのようにこちらをギロ
リと睨んでいた。俺も彼らから見ると魔物に見えているのかもしれ
ないな⋮⋮。
⋮⋮などと思っていると。
︱︱︱ギャオォォォッッ!
何かの叫び声と共に一斉にこちらへと向かって来た。
数にして80ちょっとか⋮⋮こちらに向かってきたのはおよそ1
割ほどで、残りは相変わらず城を包囲していた。
実は歓迎しています的なノリを期待したかったのだが、向かって
くる魔物のほぼ全員の目は完全に逝っており︵色々な意味で︶どう
見ても歓迎ムードには見えなかった。というかあの様子を見るに警
戒を通り越して俺を殺す気満々だよな?
魔物にそんな友好的な事を期待する方が馬鹿なのかもしれないけ
ど、魔族みたいにもう少し理性を持ちましょうよ。
じゃないと⋮⋮無駄死にするぞ。
フレイム・マグナム
さっと魔法陣を開き向かってくる魔物に片っ端から︽炎銃撃︾を
ぶち込んでいく。魔物に当たった瞬間強烈な爆炎と共に周囲の魔物
も巻き込み、その爆発に巻き込まれなかった魔物もその強烈な風に
バランスを崩すものが多数いた。
そうやって身動きが取れなくなった魔物に容赦なく︽炎銃撃︾を
1715
食らわせて行く。その音や衝撃に城を包囲していた魔物も気付きこ
ちらを向いているのが少しだけ見えた。
そうやって、およそ80程度の魔物は一瞬で灰になり風に流され
ていった。
何が起きたか分からない様子の魔物たち。だが、煙の向こうから
俺の姿だけが見えるや否や城の包囲を解きこちらに一斉に向かって
来た。
ああ、面倒なことになっちゃった⋮⋮。
時すでに遅し後悔しても時間は戻ってきません。
取りあえず向かってきた魔物に︽炎銃撃︾をぶつけ掃討を始める。
まだまとまった戦力がある敵に向かって掃討とは語弊がありそうだ
が、俺からしてみればこの程度の相手は片手間に近いので問題ない
だろう⋮⋮多分。
既に開戦から僅か1分たらずで次々と撃ち落されていく︵敵から
してみれば消されているに等しい︶同士を見た魔物の何体かが俺に
向かってくる事を躊躇し始めていた。
本能的に俺が危険だと判断したんだろう。賢明な判断だと俺は思
うよ。
だが、ここまで来た以上お前らを逃がすなんて考えは持ち合わせ
てないので、相手を間違えたなと心の中で合掌しておき、消しにか
かる。
1716
﹁ニゲロ! カテルワケガナイ!﹂
﹁バ、バケモノダァ!﹂
魔物たちのそんな声が聞こえて来るがお構いなしに攻撃を続ける。
既に大多数の魔物が討ち取られ残りはあとわずかになっていた。
ついでなのであの攻撃されている城も助けてあげるかと、俺は数
が減ったことで空いた魔法陣のいくつかの標準を地上の魔物たちへ
と向ける。
ソフトボールほどの火球が今度は地上の魔物へと襲い掛かる。
俺がいる位置ははるか上空かつ、城からそれなりに離れた位置に
いる。地上の魔物からしてみれば豆粒程度の何者かが小さい火球を
撃ちだしたかと思えば、当たれば大爆発を起こし木端微塵にされる
のでまさに一方的な暴力であった。
爆炎筒の無い地上の魔物に俺を攻撃する手段はおそらくだが無い
はずだ。つまり、ゲームで言うところの一方的な作業ゲームと言う
名のボーナスステージに入っているようなものだ。
一方的な攻撃に地上にいた魔物たちの士気は一気に地に落ちた。
城を囲っていた包囲網を解き周囲にある森の中へと隠れて行く。
だが、︽マップ︾を持っている俺には無意味な行動だ。
魔物が隠れた場所をピンポイントで狙い撃つ。隠れた者からして
みればまるで、最初から分かっていたかのような攻撃にただえさえ
落ちていた士気は完全に失われてしまった。
そして、それと同時に空の魔物たちの数ももはや数えきれるほど
にまで減り、城のことなど意に介さない様子で逃げて行く。
1717
そんな彼らも容赦無く撃ち落とし、終わってみれば魔物はほぼ全
滅という結果に終わっていた。
城の中からこちらを見て何かを叫んでいる様子が見えた。もっと
も、彼らからしてみれば俺など豆粒みたいにしか見えないだろうが、
俺は︽千里眼︾でしっかり見えているけど。まあ、この距離なら俺
の事なんざ見えていないだろう。
本当は、治療もおこなってあげたいのだが今の俺が近づいたら面
倒なことになるのは目に見えているので、俺はさっさと元の進路へ
と戻った。何故ならこの翼があったからだ。
殆どは人の形をしていようが、この翼でたぶん人間に化けた魔物
とか言われるんだろうな。
さて、寄り道してしまった分を取り戻すべく俺はメレーザへと移
動を開始するのであった。
==========
﹁ほ、報告です!! 城の西側に謎の物体が出現し包囲していた魔
1718
物どもを殲滅しました!﹂
その報告にフォート城内にいた将兵たちは全員唖然とした。
死を決していた。既に城は包囲され援軍も期待できない。敵の飛
行部隊に殆ど手も足も出ずに城へと追い込まれ地上の敵部隊による
攻撃に城はもはや持ち堪えそうには無かった。
そのような状況下から一転し、魔物たちの敗走。その報告に唖然
としない方がおかしいであろう。
﹁そ、その物体とやらは何なのだ!?﹂
当然、その話になる。
﹁そ、それが遠くて我々の目では確認をするのは無理でした⋮⋮﹂
﹁では、その物体は今どうなっている?﹂
﹁北への移動を始めたのを確認しました﹂
﹁北⋮⋮メレーザ方面か!?﹂
﹁は、はい! その模様です!﹂
将兵の間で様々な憶測が飛び交う。ある者はセラの化身では? といい、ある者は無差別に殺す敵の新兵器とも言った。
そんな中、一人の女性は口を噤んだままボーとある方向を見てい
た。彼女は第1遊撃部隊の隊長の名に相応しい白銀の鎧に身を固め
ていたが、右肩から後の部分が無く、代わりに寂れた鉄の肩当が無
1719
くなった右腕部分を隠すかのようにかけられていた。
﹁⋮⋮ミーロ隊長?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ミーロ隊長!﹂
将兵の声にビクッと震え、我に返っるミーロ。
﹁ミーロ隊長はその物体とやらを何と思われますか?﹂
﹁⋮⋮さぁね⋮⋮どちらにせよ私たちは助かった⋮⋮そう考えるべ
きじゃない?﹂
﹁そ⋮⋮そうですね﹂
ミーロは再び視線をある方向へと向ける。
︵⋮⋮彼は一体⋮⋮?︶
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
遥か彼方へ飛び去っていく翼を持った人間を見て彼女は、感謝と
畏敬の念を感じるのであった。
1720
第162話:フォート城の殲滅戦︵後書き︶
フォート城を覚えて下さっていた人はどれくらい、いるでしょう
か?
覚えていた方には今ならサヤからのご褒美が待っていまs⋮⋮お
や、誰か来たy⋮⋮うわっ! 何をするやm、アー!
※覚えていても何もありません。ご了承くださいm︵︳ ︳︶m
1721
8/4
名称が間違えていたので、機関銃と一括りにしま
第163話:混沌の始まり︵前書き︶
※
した。
1722
第163話:混沌の始まり
﹁⋮⋮﹂
俺は一言も喋らず、黙って空から地上を見下ろしていた。
・
目の前に広がるのは平野とそれを囲む山岳地帯。いわゆる盆地だ。
ここに人間が建設した巨大都市メレーザが︽・︾あった︽・︾場
所だ。
メレーザがあった場所は瓦礫の山と化し、あちらこちらでまだ出
火しているのか煙と火柱が見えた。大陸一堅牢と言われたシールメ
レス城はその面影を僅かばかりに残し、殆どは大穴が開いて黒こげ
になった中が見えたり、石煉瓦が崩れて雨さらしになっていたりな
ど見るも無残な姿になっていた。
高さ20メートルと言われた巨大な城壁にはあちらこちらに突破
した跡があり、まるで責めて来た敵が﹁そんな高い城壁など我らに
は無に等しい﹂とでも固辞するかのように見えた。
城壁にあったカタパルトは殆どが無残にも粉々に破壊されていた
り、燃えて灰になっていたりした。人類にとっては最先端とか言わ
れていた技術の塊が無残なものだな⋮⋮。
瓦礫の山中を歩く人が見える。この大惨事を生き残った人たちだ
ろう。だが、その数は本当に極僅かで大量にある瓦礫と、人や魔物
の死骸で今にも埋め尽くされそうなほどだった。
1723
この様子を見るに恐らく襲ってきたのは魔族だろう。
爆炎筒とカタパルトじゃ話にならなかったんだな⋮⋮歴史で大坂
城に立て篭もった豊臣軍に対し大砲︵当時は国崩しや大筒などと呼
ばれていた︶を天守閣に打ち込んで講和させた徳川軍のことを思い
出すな。
難攻不落と言われた大坂城を一方的にフルボッコにしたのも力の
差が大きかったが、こういった技術力の差もあったと言われている。
やっぱり、技術力か⋮⋮個々の能力の差も多少はあったかもしれ
ないが⋮⋮城壁を軽々と超えて内部に降り注ぐ火球の姿が簡単に想
像できてしまいそうだな。
そうなるとやっぱり、俺も小銃なんて生半端なもんじゃなくて機
関銃ぐらいは用意しないと駄目かもなぁ⋮⋮。
と、話が逸れたがこの光景を見たとき、俺はアルダスマンは事実
上の滅亡をしたことを感じ取った。
王都がこのありさまではそう考えるのが妥当だろう。どこかに首
都を移して臨時政権として生き残っている可能性もあるが、メレー
ザですらこのありさまではもはやそれも無駄なあがきであることは
一目瞭然だ。
﹁⋮⋮これからどうなるんだろうな⋮⋮﹂
エルシオンも当然この影響を受けるだろう。他国が侵攻してくる
か、はたまた他種族が殴り込みに来るか⋮⋮。
他国に併合されるならまだ良いだろう。だが、他種族となると⋮
1724
⋮ああ、阿鼻叫喚な地獄絵しか見えてこないな⋮⋮もっとも俺がい
る限りはそんなことさせないけど。
さて、結果は分かった。じゃあ戻るとするか。
ゲート
本当は難民たちもどうにかしたいんだけど、手が無いからな⋮⋮
︽門︾を使えばいいだけなんだが、そんな代物を易々と一般人にか
つ大量の人たちに見せる訳にも行かないしな⋮⋮緘口令を敷くにし
ても赤の他人にそんな事を強要することも出来ないし。
物凄く後味が悪いこととなるが、仕方が無い。
せめて人手がいればなぁ⋮⋮
そんな事を頭の中で思いつつ、俺は︽門︾を使ってさっさとエル
シオンに戻る事にした。
==========
﹁ただいま﹂
﹁うわっ!? クロウ!? どこに行ってたのよ?﹂
1725
﹁ちょっと色々と確かめにそこまで﹂
エルシオンに戻り、ソラがいた場所に戻ってみると取りあえずと
壊れた建物の資材を使ってテントみたいなのを作らせていた所だっ
た。ちょっととは言ったが片道200キロも離れているので、果た
してちょっとかどうかは分からないが。
そこにはミュルトさんやソラ以外の人物もいた。
﹁なんだ、おっさんもいたのか﹂
﹁⋮⋮クロウよお主ワシに対しての態度が悪化しておらぬか?﹂
そういうのはガラムだった。あくまで表面上はいつも通りの様子
だったが、既に俺の心の中は敵意丸出しor警戒モードになってい
た。
当然だ。肝心な時に2回もいなくなり、さらにはエリラをレシュ
ードに渡すためにレシュードを何らかの方法で事に乗っけたのだか
ら。
だが、それを今ここで出すわけにはいかない。奴は一応ギルドマ
スターなのだから。こんな所で敵意むき出しに色々言っても無駄な
ことぐらい分かっている。むしろ俺の方が周囲から怪しい目で見ら
れることになる。
だから、俺も表面上は何も知らないように装った。︽ポーカーフ
ェイス︾のお蔭でもあり俺はいつものように話をした。
﹁いや、肝心な時にギルドにいない偉いギルドのおっさんに何を言
えと言うんですか?﹂
1726
もっとも、周りも周知の事実は言わせてもらうけどな。
﹁うむ⋮⋮手厳しいの⋮⋮まぁ、よい。それよりもこやつらの情報
を元にするとどうやらメレーザは魔族に攻められたようでの⋮⋮今、
軍の奴を一人出して確認させているのだが⋮⋮小僧、レシュードは
見なかったか?﹂
﹁さぁ? ギルドで会った以来会っていませんが?﹂
当然嘘を言う。
﹁そうか⋮⋮そういえばエリラは元気にしているか? レシュード
の奴諦めるとか言ってた割には気にしていたようだしの﹂
﹁ええ、元気にしていますよ。昨日も庭で一人黙々とトレーニング
をしていましたし。それはもう、ちょっとは休めよとこちらから言
ってしまいそうなぐらいにね﹂
その言葉にガラムの顔が一瞬引き攣ったように見えた。まぁ、そ
うだよな。エリラがいると言う事はレシュードに渡した作戦は破綻
したことを表しているからだ。
それにしても、この程度のことで表情を変えるなよ⋮⋮こいつ絶
対詐欺師に向いていないわ。と心の中で思った。レシュードとギル
ドで会った時もニヤケ顔を一瞬さらけ出していたしガラムと話すと
きは顔をよく見ておいた方が良さそうだ。
﹁⋮⋮ふむ、そうか。まあ、それは良い事だ。ミュルト、ワシはこ
れから本部に行って来る。済まないが今度は直ぐに戻れるとは限ら
ないから留守をお願いするぞ﹂
1727
﹁えっ? は、はい!﹂
ミュルトは一瞬ポカンとしたが、すぐに承諾した。まるで﹁いや、
そんな話ありましたっけ?﹂とでも言いたそうな様子だな。
﹁またいなくなるんですか? 少しは街の復興を手伝ってください
よ﹂
それとなく鎌をかけてみる。
﹁そういう訳にも行かぬわい。ワシはギルドマスター、この街の様
子を本部に伝えなければならない。場合によっては各街に復興の手
伝いをお願いする依頼も出してもらう必要もあるしな﹂
まぁ⋮⋮そうだな。強ち間違ってはいないな。それなら⋮⋮
﹁へぇ⋮⋮でも、俺の感覚だとそれこそ国とかに助けを呼んだ方が
よくないですか? 今は知りませんけどレシュードみたいな人がい
る以上、まずは彼にお願いした方がよろしいのでは?﹂
﹁あ奴がどこにいるかは知らぬが国だけよりも大陸中から集めた方
がいいじゃろ?﹂
﹁ふーん⋮⋮まあ、おっさんの考えならそれでいいのでは?﹂
適当にほっぽり投げつつ頭の中では別の事を考えていた。
兵士たちの方が治安面でも安定するだろうし、何よりも纏まった
数を用意しやすい。それに対し個々の冒険者となると数は運任せ。
人によっては治安の悪化にもなりかねない。そして一番の問題は期
1728
限だ。冒険者たちを雇うと言う事は当然お金がかかる。もし復興に
必要なほどの冒険者をかき集めた場合、その支払いは誰がする? 最初はギルドの方から出るかもしれないが、それは同時に後々にエ
ルシオンに対してその分を徴収する可能性は十二分にある。例え1
00人規模で一日の生活に最低限必要なお金を払う⋮⋮それも何日
もとなれば莫大な費用になる。
同時に、食料の問題も重なる。冒険者が集まれば商人もここぞと
ばかりに出て来る可能性はあるが、もしそうでなければ? 特にエ
ルシオンは龍族の勢力範囲に近い場所に位置している。国が事実上
の崩壊をしてしまった以上、無防備なここに態々命を懸けてまで来
る商人がどれほどいようか⋮⋮。現に今ですら来ていないのに⋮⋮。
結論から言うとガラムの奴がやっていることはメリットよりもデ
メリットの方が大きいことになる。まあ、ギルドマスターが国へお
願いするなんてことは出来ないけど、むしろそれなら何もやらない
方がいいのではないか?
もっとも、俺からしてみれば﹁今度はどんな事を仕掛けて来るん
だ?﹂としか思えないのだが。
・ ・
そうなると、早々にこれを付けておいた方がいいな⋮⋮。
俺はポケットの中に手を突っ込むと、周りからは見えないように
︽倉庫︾からある物を取り出す。
それは一見すれば、ただの平たい石のように見える物だった。大
きさは数ミリ未満と小さなものだったが、俺から言わせてみればも
っと時間があればもっと小さいのが作れたのにと、歯ぎしりをした
くなるような出来だ。
1729
で、これは何かと言うと⋮⋮
﹁さて⋮⋮それじゃあボチボチ出ないといけないのう⋮⋮じゃあ後
は頼んだぞ﹂
ガラムが後ろを向きどこかへ向かいだした。
︵そこだ!︶
︽空間魔法︾と︽風魔法︾を同時に使用。空気を凝縮しゴムのよ
うな空間を作りだしその上にコレを乗せ風魔法で弾き飛ばす。シュ
ンと一瞬風切音が鳴ったかと思ったら次の瞬間には、それはガラム
の腰辺りにピタッと張り付いた。
︵よっしゃ!︶
心の中でガッツポーズを取ってみせる。幸いにもガラムは勿論周
囲の人にも気づかなかったようだ。GJやで。
ガラムに張り付けたのは小型の盗聴器だ。あの大きさ故に1時間
程度しか録音は出来ないが、防犯カメラ同様俺の︽倉庫︾にデータ
として転送すればまだ盗れるので問題は無い。作ったのは補助装備
を作っているときにだ。
仕組みは空気の振動を伝えるだけなので、比較的に簡単に出来た
のだが、データを蓄える部分と発信する部分が中々小さくならなか
ったので、あれほどの大きさになってしまったわけだ。あと、先に
断っておくがアレは魔法で何とか出来ている訳で、実際の盗聴器な
どはもっと複雑な筈なので間違って覚えてしまわないように。
さて、あれで出来るだけ情報を掴めるといいのだが⋮⋮服に付い
1730
ているから脱がれたら終わりなので、これとは別の手を打っている
が、それはまだ未完成なので作成が急がれるな。
ガラムが去って行ったあと、ミュルトさんは険しい表情でガラム
が去って行った方を見ているのに気付いた。
﹁? ミュルトさん? どうしたのですか?﹂
それに気付いたソラがミュルトさんに問いかけた。
﹁⋮⋮いえ、何でもありません⋮⋮﹂
明らかに何でもない訳ないだろと突っ込みたくなるような顔だっ
たが、すぐにいつものミュルトさんに戻っていた。
﹁それよりこれからどうすればいいのかしら⋮⋮一番の問題は彼ら
を養えるほどの食料などが準備できないのよね⋮⋮開墾を始めてま
だ間もないし、この前の襲撃で損害も受けているし⋮⋮﹂
それとなくミュルトさんが話題を逸らした。うーん⋮⋮何か隠し
ているようだけど、ここでは不味いかな? 後で二人っきりになれ
た時を見計らって聞くことにしよう。⋮⋮決してやましい気持ちは
無いからな!
﹁何とかするしかないじゃないですか! 最悪狩猟でも何でもしま
すよ﹂
﹁ありがとうございます。ソラさん。ですが一人だけでは駄目です
よ。クロウさんもお願いできますか?﹂
1731
﹁ええ、いいですよ。開墾などの方ももう一回俺が作り直せばいい
だけですし、何とかなると思いますよ﹂
﹁ありがとうございます。皆で頑張って行きましょう!﹂
﹁はい!﹂
﹁オーケー、オーケー。何としましょう﹂
ミュルトさんの声にソラは元気に答え。俺もそれなりに返してお
いた。
==========
こうして、アルダスマン国は事実上、滅亡をしてしまい、エルシ
オンやハルマネなどアルダスマン国にあった各地の都市はそれぞれ
窮地に立たされることになった。
だが、本当の戦いはこれからだった。
個々の能力のみならず、技術力でも圧倒的な差が開いたことを確
認させられた各国は慌てた。どの国でも防衛のための技術研究や魔
法研究が盛んになり始めたのはこのころだったとされる。
これから人間はどうなるのか。
1732
人以外の種族は何を思うか。
そして、なぜこれほどまでに魔族は強力な兵器を作る事が出来た
のか。
世界はいよいよ混沌の時代へと突入しようとしていたのだった。
︱︱︱第4章:アルダスマン国の崩壊 ⋮ fin
==========
・第3章及び4章の被害報告
・戦闘参加者:約48,000人
・魔族:約5,500人︵魔物含む︶
・人族:約41,000人︵隣接地域兵力含む︶
・龍族:約1,500人
・死者:約57,000人︵内、非戦闘参加者およそ30,00
0名︶
・怪我人:約100,000人︵内、非戦闘参加者およそ75,
000名︶
1733
・行方不明者:約20,000︵内、およそ9割が非戦闘参加者︶
1734
第163話:混沌の始まり︵後書き︶
という訳で、第4章はこれにて終了です。お疲れ様でした。
次章はクロウが家族を守るべく色々やっちゃいます︵主にチート
系で︶。予定ではのぼのぼとは行きませんが、小休憩程度の章にな
ればなと思います。まぁ、戦闘が無いわけじゃないのですけどね。
あと、異世界転生戦記が一周年を迎えました。︵7/27にて一
周年達成︶
ここまで来るとは思いませんでしたが、来れて良かったです。ま
だまだやりたい話は沢山あるのでこれからも皆さんよろしくお願い
します。
以上、では次章で会いましょう。黒羽からでした。
1735
第164話:まずは食べ物から︵前書き︶
今回から第5章が始まります。前回の後書きに書いた通り今回の
章は少し小休憩のお話になります。
戦闘回などを楽しみにしている方には本当に申し訳ありません。
代わりにこの章では久々に称号などを沢山取り入れますので、ク
ロウの人間離れした技をのんびりと見て頂けたらなと思います。
1736
第164話:まずは食べ物から
﹁と、いう訳で作りました﹂
﹁⋮⋮へっ?﹂
﹁だから、農地を作りました﹂
目の前に広がる一面の耕作地。
翌朝⋮⋮まだ日の出前だったが、俺はこの前作った農業区︵俺の
心の中での名称︶の所で更なる拡張をした。攻撃によって荒らされ
た部分は多少あったものの、大体の部分は残っていた。
魔物が相手なので食料の事など無視して踏み荒らしそうだなと思
ったが、彼らも生き物なのでこの区画は残そうとしていたみたいだ。
恐らくだが占領後にコボルトやゴブリンみたいな下級魔族などに耕
させるつもりだったのだろう。もっとも人間と同じものを食べると
は限らないので変な物を埋められそうで怖いが。
さて、そんな話は置いといてエルシオンの地理をまずは整理しよ
うと思う。
エルシオンの北部と西部は平原が広がっており南部と東部には森
が広がっている。さらに南部の森を抜けた先にはクローキ火山とい
うかつて龍族が拠点としていた火山地帯がある。そこの龍族は全滅
させておいたので今はもう無人の拠点があるだけとなっている。
1737
そして、エルシオンは北にメレーザ。西にハルマネがあり交通の
便などはいい方になる。東に行くと海岸線と山岳地帯があり魔族た
ちはその山岳地帯か、またはその先に住んでいると言われている。
もっともその場所は遠くに離れておりエルシオンと隣接していると
はいえ、襲われる心配はあんまりなかった。
南西部には他の国との国境地帯が広がっており、常時500名ほ
どの兵士が待機していたと言われているが、国が事実上滅んでしま
った今、他国が制圧していると予想される。
南西部に位置する国は二つある。
一人の王が長年支配している国﹁ラ・ザーム帝国﹂。
同じく一人の王が国を支配しているが事実上の共和国の﹁クロリ
アル共和国﹂。
二つとも強力な軍隊を持ち長年アルダスマン国と争っている国家
だった。その国家が全て隣接しているのがエルシオンの遥か南西部
に位置する﹁シャヌダリア平原﹂となっている。
ちなみにこのクローキ火山とシャヌダリア平原の中間にある山岳
地帯に俺が生れた家がある。もっとも、平原と火山の本当に隅っこ
の位置にあるのでかなり遠い所にあるのだが。
話が逸れてしまったが、この2か国のうちのどちらかが支配して
いる可能性が高いという訳だ。絶対とは言い切れないのは未だに龍
族の力が強い場所でそこを制圧するメリットが少ないので、放棄さ
れている可能性もあるからだ。
ストテラジー系のゲームでも空白の地帯が隣接していたら取りに
行くけど、周りの敵国に囲まれてしまうような所に無駄に兵士を送
1738
って守れない領土を増やすなんて事はあまりしないからな。まあ、
守れないならだけど。
んで、平原の方は作物を育てると言う事で耕そうとしたのだが、
難民の数とエルシオンにいた人口を合わせてどれくらいの大きさが
いるのか見当もつかなかった。
そもそもここの世界の主食は小麦である。中世のヨーロッパで一
人を養うのに必要な農地と中世の日本で一人を養うのは規模が全く
違う。日本が狭い国土で何千万人︵江戸時代は約3000万人が住
んでいたとされる︶もの人を養えたのは水田による稲作農業の力に
よるところが大きい。
今でこそ日本の自給率は低いが、江戸時代では3000万人もの
人々がほぼ日本国内で出来た食べ物を食べて過ごせていたのだから
昔から低いわけじゃない。︵まぁ、昔と比べて食べる量などは全く
違うが︶
俺も詳しく知っている訳では無いが、確か収穫量で言うなら小麦
が1haで約3.5tくらいに対してお米は1haで約5.0tも
の取れ高があったそうだ。
さらにヨーロッパではこれに酪農などで餌の分が消えて行ったの
に対して、日本では肉︵正しくは仏教で4足の動物が︶を食べる事
は禁止されていたので、お米などはほぼ人間の胃に入っていくこと
になる。
現代の地球が90億人ぐらいが限界と言われているが、どこかの
本で草食になればもっと多くの人を養えると言っていたのはある意
味当たっているよなと思った。
とまぁ、以上の理由で俺の感覚で農地を拓いても失敗するのは目
1739
に見えている。前回は一時的にと言う事で作ったが今回は違う。下
手をすればポリス︵都市国家の事︶見たいな生活を強いられる可能
性も無きにあらずなのだから。
⋮⋮近隣の国々が寛容的にエルシオンを向かい入れることに期待
しておくか⋮⋮。
聞けばいいのだけど、正直どれくらい必要かなんて農地を管轄し
ている人に聞かないと作っている本人たちも分からないことだろう。
てか、測量とかしたことあるのかるんだろうか⋮⋮。
日本とは違うことだらけなので︵てか、日本基準だとしても分か
らないよ︶手探りでやるしかないな。
という訳で、まずは小手調べに前回のに加え2ha︵20,00
0平方メートル︶分を新たに追加で作っておいた。残りの部分はそ
の手の本職の方に任せましょう。
︱︱︱特殊条件︻人間重機︼を取得しました。
==========
称号:人間重機
取得条件
・一人で一日あたり3,000平方メートル以上の農地を制作する
こと。
効果
・分析系スキルで土の養分などが調べられるようになる。
1740
==========
⋮⋮どうやら、︻自称︼は必要なくなったようです︵泣︶
あれ? てか重機とかこの世界にあるの? 専門職の人に前聞い
たけどそんなものは無かったはず⋮⋮これしか表現方法が無かった
のかな?︵※作者の脳の限界です︶
と、まあ色々あったがこんな感じで農地を開拓したのだが⋮⋮こ
れを見たミュルトさんは唖然としていたと言うよりどこか遠いとこ
ろを見ているような何とも言えない奇妙な表情をしていた。脳がオ
ーバーヒートしてしまったのか、それとも考えるのをやめてしまっ
たのか⋮⋮。
﹁えっ⋮⋮えっと⋮⋮良く分かりませんがありがとうございます?﹂
何故、疑問形なのだ?
本当はここでガラムを何故あんな表情で見ていたのか聞こうと思
っていたのだが、肝心のミュルトさんはお礼の言葉に疑問形を付け
るほど頭の中の処理が済んでいないようでしたので、また後にしよ
うと思いました。
1741
第165話:ミュルトの心配事
取りあえず農地を少しだけ作ったが、あれだけじゃ当然足りない
ので後で増加させたいが、その辺はエルシオンの住民に任せておく
ことにした。
何でも与えるだけではダメ人間になってしまうだろうし、何より
俺の時間が取られまくるから駄目だ。色々やりたいこともあるし、
やらないといけないこともあるしで時間はあってもあっても足りな
いのが現実だ。
さて、当然人は小麦だけでは生きていけれないのでその他にも色
々な物を作る必要があった。
取りあえず目先の必要なものとしては調味料が必要だが、これは
また他の街で売買すれば手に入るだろうし後に回そう。
やっぱり商人に運んで来てもらうのが一番手っ取り早いのだが、
状況が状況なので商人たちもそれなりの値で吹っかけて来ていたの
でお金が結構必要になる。
セラス
昔︽猫亭︾に泊った時の宿代は確か1000Sだったはずだ。︵
第12話参照︶
銀貨にして10枚ほど。これならランクFの人でも何とか食って
いけるぐらいの金額だが、この時の商人が商品に付けていた値段は
通常のおよそ2倍∼4倍程度。
そんなにお金を使っていたらすぐになくなってしまうよな⋮⋮。
1742
もっとも、俺も金欠なのは間違いないのですが︵主にギルドへの
借金で︶
そこでちょっと意地悪いが、前に獣族たちが中心になって行った
狩りの時に得られた肉を格安で売りつけることにした。
タダじゃないのかって? それが出来たらいいが、残念ながら俺
の所も余裕があるわけではないので無理なお願いだった。
ただ、前回無料で配布をしているので、今回値段を付けて売るに
は少し手を加えなければならないだろう。
そこで家の獣族の出番だ。
皆には今度はちょっとした料理をしてもらう事にした。と言って
も材料は肉と森から取ってきた調味料だけなので出来ることは少な
いが、焼き肉程度の事は出来るのでお願いをすることにした。
もっとも料理スキルが軒並み高い彼女らの手にかかれば肉だけで
も至高な焼き肉になってしまうのでスキルとは恐ろしいものだと我
ながら感じずにはいられなかった。
さらに前に取ってきたこの肉は星4ほどに匹敵するような美味し
い肉なのでさらに美味しくなりそうだ。
肉だけを作ってもすぐに飽きられると思うので、獣族の人たちに
頼んで森で色々な食料を集めてもらうことにした。
獣族が食べる料理となれば、謙遜する人はいくらでもいるかもし
れないがちょっとアレンジをしたら大丈夫だろう。むしろ食べてい
る料理を知っているのだろうか?
ま、まあその辺はどうでもいいか。餓死寸前ならそんな事言って
られないだろうしな。
1743
﹁ミュルトさん。ちょっといいですか?﹂
例の農地を作ったその日の午後のこと。俺はギルド︵未だに仮設︶
に出向きそこで仕事をしているミュルトさんの所に来ていた。
﹁えっ、なんですか?﹂
﹁ここではアレですので少しこちらに﹂
そういうと俺はミュルトさんをギルドの外へと連れ出した。ギル
ドにはミュルトさん以外にも従業員がいるが、彼女らに聞かれては
ミュルトさんも聞きにくい事だからだ。
俺はギルドから少し離れ、未だに瓦礫の山がある南部の方に来た。
ここなら人も少ないしちょうどいい場所だと思ったからだ。
その辺にあった瓦礫にお互い腰を降ろし本題に入る。
﹁で、何ですか?﹂
﹁⋮⋮ガラムの事何か知っているのでしょ?﹂
俺は単刀直入に聞いた。ミュルトさんの眉がピクリと僅かに動い
1744
た。分かりやすい人だなぁ。この世界の人たちは非常に分かりやす
い人が多いなと思う。
﹁何のことですか?﹂
﹁別に隠さないでいいですよ。俺もガラムの事は怪しいと思ってい
ますので⋮⋮少なくともエルシオンにとって良い事をしているとは
思えませんしね﹂
﹁⋮⋮クロウさんはマスターの何を⋮⋮?﹂
﹁それはミュルトさんが話してからですね﹂
﹁⋮⋮実はですね﹂
ミュルトさんは俺とエリラがギルドでガラムとレシュードに会っ
た後、彼らが話していたことを話してくれた。
﹁⋮⋮と言う事がありまして﹂
﹁⋮⋮やっぱりか⋮⋮﹂
第2次エルシオン防衛の時に思ったことはどうやら間違えていな
かったようだ。
Dランク相手に簡単に負けた軍隊。それと同時にガラムとレシュ
ードの不在。想像以上に面倒な事態になっているようだ。
ミュルトさんが話したので、俺も自分なりの仮説と知っている情
報を教えた。なおエリラのことに関しては言っていない。言う必要
も無いと言う俺の判断だ。
1745
﹁⋮⋮つまり、マスターが裏で今回の襲撃を起こした可能性がある
と⋮⋮?﹂
﹁確信はありませんが、その可能性はあります﹂
﹁⋮⋮﹂
不安、怒り⋮⋮そんな感情が心の中で戦っているのだろう。膝の
上に置かれた手はギュっと握られプルプルと震えているのが分かっ
た。
もっとも彼女も信じたくは無いのかもしれない。まあ、ガラムと
ミュルトさんの出会いとか全く知らないが。
﹁⋮⋮これからどうなるのでしょう⋮⋮﹂
﹁さぁ、それは分かりません。ただ、ガラムの行動には今後、細心
の注意を払うべきでしょう﹂
﹁⋮⋮ええ、分かりました⋮⋮。それじゃあ私はギルドに戻らせて
もらいます。やらないといけないことは沢山ありますし、何より早
くこの街を復興させたいですから﹂
そういうとミュルトさんは立ち上がった。
﹁クロウさん。出来れば今後も力を貸してください﹂
昨日力を貸すって言ったのだが⋮⋮。いや⋮⋮怖いのか?。
﹁ええ、出来る限りのことでしたら喜んで﹂
1746
ただ、俺も守らなければならない家族がいるので、優先はそちら
になるけど。この優劣はしっかりとしておかないと何のために魔法
学園からこっちに戻って来たのか分からなくなるからな。
﹁ありがとうございます。では私はこれで失礼させてもらいますね﹂
そういうとミュルトさんはギルドへと戻って行ったのだった。
1747
第165話:ミュルトの心配事︵後書き︶
少し訂正をさせてもらいます。
前回の第164話のタイトルにある﹁1﹂を消させてもらいます。
と言うのも予想以上に書くことが少なかったのです。
その言葉の通り165話の半分ほどでかけてしまうほどの薄さ。
いや、もっと書かないといけない内容は多いのですが、半分以上は
今はまだ出来ないことで、かける事を書いたらこうなってしまった
んです。本当に申し訳ありません。
1748
8/20
誤字を修正しました。
第166話:試してみよう・前編︵前書き︶
※
1749
第166話:試してみよう・前編
﹁よし、フェイ自分なりの方法でいい、来てみろ!
﹁はいです!﹂
全力で来いよ﹂
ダンッと地面を蹴りあげるフェイ。子供といえどもそのスター
トダッシュはまるで地面に銃弾が当たったような激しさがあった。
﹁でやぁぁ!﹂
俺の目の前に剣を振り上げた状態のフェイが現れる。初めて剣
を持ったとは思えない素早さだ。
目にも止まらぬ早さで降り下ろされる剣。その早さは一般の兵
士の比ではなかった。
俺はそれを避けることなく持っていた剣で正面から受け止めて
みせる。キィンと金属がぶつかり合う音が聞こえ周囲に風が吹く。
なかなかのパワーだ。普通の兵士が受けたら弾き飛ばされそう
だな。
年齢に似合わないパワーは明らかなオーバースペックだ。毎日
遊びという名のトレーニング︵自主的に︶をしていたお陰だな。な
んか俺の知らないところで俺が教えた筋トレをひたすらやりまくっ
たらしい。一回見てみたらノーストップで200回を軽々としやが
人間なの?
いや、人間じゃないけどさ。
った。しかも等の本人らはまだまだ全然行けますよ的な顔をしてい
やがったんだぜ?
それで試しにこの前作った武器を見せて使いたいものを使わせ
1750
てみたらこの結果ということだ。
ちなみにフェイが使っている武器は両手剣だ。大きさは約1メ
心の中でそ
ートルでフェイよりか一緒ぐらいかやや大きいぐらいだ。
いや、それを軽々と振るなよ。女の子でしょ?
んな突っ込みが行われる。
そんな俺の心境のことなど全く関係なく、フェイは次々と攻撃
を打ち込んでくる。例えるならなんだろモン○ンで大剣を持ってい
ながら動きが片手剣並の動きをしているんだが、どうなっているん
だよ。
動きはぎこちないがそれをとって余るほどの攻撃力と素早さだ。
それなら近い将来アレを設立出来るかもなまあ、それまでのハ
ードルが高すぎるのだが⋮⋮⋮まあ、頑張って行きますか。
﹁よし、そこまで!﹂
何度か打ち合ったのち攻撃をやめさせる。
﹁どうですか?﹂
﹁ああ、いい攻撃だ。ただ、フェイの身長で両手剣はまだ厳しいか
ら最初は片手剣からした方がいいかもしれない﹂
﹁なるほど。そうするのです!﹂
﹁よし、じゃあ次﹂
﹁は、はい!﹂
1751
そういって次々と相手をあいていく。フェイがやたらと強かっ
たのか、後の子供たちはそこまで強いという印象を受けなかった。
ただ、そう思っただけで実際はかなりの強さだ。Dランクの魔物と
一対一でもいい戦いをするのではと思った。ちなみにフェイの次に
強かったのはレーグだ。それも基礎的なものに加え短剣の剣術まで
出来ていた。聞くと教えられたとのこと。前の主はこんな幼い子供
に何をさせようとしたのか、全くけしからんな︵遠い目︶
さて、最後までしてみて分かったが全員技能はまだ無いが身体
的な基礎はしっかりと出来上がっているということだ。
これなら剣術などそれぞれにあった技術を身につけて、魔法も
覚えれば充分に戦えるはずだ。
自衛を出来るぐらいにはしたいな。もちろん戦わせない方がい
いのだがそういうわけにも行かないからな。技術がつけば近くの森
で魔物と戦ってみる必要もあるかもな。
お姉ちゃんたちもおんなじ事をしているのさ﹂
﹁ところでクロウおにいちゃん。お姉さんは何をしているのですか
?﹂
﹁あれか?
﹁でも、さっきから何かを持って立っているだけに見えるのです﹂
﹁そうだね。でもあれも立派な武器だよ﹂
﹁??﹂
1752
フェイは首を捻っている。彼女にはまだ早すぎる代物だからな。
仕方無いな。
﹁じゃあ俺はお姉ちゃんの方を見に行くから皆は休憩していいよ﹂
﹁はいなのです!﹂
俺はフェイに休憩の指示を出して大人たちの方を見に行くのだ
った。
1753
第167話:試してみよう・後編
パァン!
軽い響きと共に小さな弾丸が飛び出す。秒速200メートルにま
で瞬間的に加速した鉄の塊は真っ直ぐと飛んでいく。
その先にはその辺の素材を繋ぎ合わせた軽鎧が置かれていた。軽
鎧と言ってもその装甲は剣を弾くほどの強さは持っている。
だが、そんな装甲ごときに小さな鉄塊は止められるはずもなかっ
た。
バキッ! と何かが弾かれる音が聞こえ、その後バリィッ! と
いう音と共に軽鎧はアッサリと突き破られ、その後ろに設置してあ
った土嚢に銃弾が突き刺さり、ようやく止まった。
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
目の前の光景に唖然とする獣族の女性たち。
ジュウ
魔力も加えなければ特別、力が必要という訳でもなく、見た目は
鉄の棒を曲げ、そこに装飾を施した
だが、その見た目とは裏腹に一度トリガーとクロウが言った引き
金を引けば突如として腕だけ吹き飛ばされてしまうような衝撃と共
に設置してあった防具を一瞬にして打ち破ってしまったのだ。
獣族がいままで扱って来た遠距離系の武器と言えば弓が代表的だ。
ジュウ
と呼ばれた武器は弓なんかよりも遥かに早くて、強か
あれでも当たり所が悪ければ一撃で生命を消し去ってしまうが、こ
の
1754
った。
もし、こんなのが自分に向けられれば⋮⋮
自分たちは抵抗をする間もなく殺されるだろう。こちらが弓を引
き絞る前に、魔法を唱える前に、ジュウと呼ばれる武器からの攻撃
の前に成す術も無く⋮⋮
﹁怖いか?﹂
クロウが獣族の大人たちの元へと近寄る。
自分たちにこんな武器を渡した主は撃ち抜かれた鎧を見ながらそ
う言った。
﹁⋮⋮はい﹂
ニャミィが皆の心の声を代表して言った。
﹁そうか。それが正しい反応だろうな。だけど、その銃は規模とし
ては一番最少の銃だ。威力もまだまだ小さい。皆には⋮⋮そうだな、
少なくともこれくらいのを扱ってもらうつもりだよ﹂
ストレージ
そういうとクロウは︽倉庫︾からニャミィたちが持っている銃よ
りほんの一回りだけ大きいが、形はほぼ変わらない大きさの銃を取
り出した。
パァン!
先ほどと同じくらいの音が鳴り響いた。だが、軽鎧に当たった瞬
1755
間先ほどの光景とは全く違う別の光景を彼女らは見せられてしまっ
た。
ズドォン!!
鎧に当たった瞬間、強烈な爆発が起き先ほどは穴が開いた程度の
鎧が木端微塵に吹き飛ばされてしまった。
その光景に大人たちだけではならず子供たちまでも動きを止めて
呆然とした。庭の隅っこで一人別メニューをしていたエリラもこの
時ばかりは動きを止め、庭で起きた爆発をただただ見ていた。
パラパラと砕け散った鎧が地面に落ちる。その様子を見たクロウ
は無言で銃をしまった。
﹁⋮⋮まあ、あれはかなり遠くから攻撃する用で近距離ではさっき
みたいな銃を使うけどな﹂
﹁⋮⋮あれを私たちが⋮⋮ですか?﹂
戦いには殆ど無縁な彼女たちに行き成りこんな武器を持たせるの
も無理難題なのかもしれない。
﹁そうだ。扱わないと駄目なんだ。これから先、何がどうなるかか
全くわからない。これくらいは扱えるようになってもらわないと困
るんだ。勿論そうならないようには極力努力するけどな⋮⋮
﹁わ、分かりました⋮⋮﹂
ニャミィたちも何も思わないわけでは無かったが、そんな状況で
は無い事ぐらいは理解していた。続けて起きたエルシオンへの攻撃。
1756
クロウ
自分たちが直接交戦した訳では無いが、街の様子を見れば状況は一
目瞭然だ。
今回は助かったが、次はどうなるか分からない。もし主人が居な
い状況に自分らが立たされたら⋮⋮。
そう思うと彼女らも自然とスイッチが入る。やらなければならな
い。それが自分らのためにも、子供たちのためにも、そして主人の
ためにもなるのならと。
﹁⋮⋮ごめんな、こんなことさせて﹂
﹁と、とんでもありません! 自分たちのことを思って、このよう
なことをして下さっているのならクロウ様に謝ってもらう理由なん
てございませんよ!﹂
ニャミィの言葉に周りの大人たちも頷く。
﹁そうか⋮⋮ありがとうな﹂
クロウは素直に礼を言ったのだった。
==========
俺もやることはやらないとな。
1757
俺は彼女たちに練習を続けるようにと指示をして俺は一人庭の隅
で、あるものを飛ばす実験をしていた。
﹁⋮⋮よし﹂
俺が取り出したのは、直径10センチほどの小型の飛行機だった。
緑色をベースに赤色のラインを両翼につけたこの飛行機は、俺が持
っている特殊スキル︽飛行︾を応用して作った試作品だ。
人に︽飛行︾の能力を付与することは出来なかったが、物には制
限がありながらも作り上げることが出来た。
制限と言うのは、まず燃費が悪いこと。それと動きが遅いこと。
そして、動きは指示しなければならないと言う事だ。
最初の二つはまあ、説明しなくても分かる事だろう。問題は3つ
目だ。
動きを指示する⋮⋮というのも︽飛行︾スキルをつけさせたもの
の、その動きは俺自身が指示をしなければならないのだ。
動きのさせ方自体はゲーム感覚で一機一機にここに行けと指示を
出すだけなのだが、これだと移動できるのは俺が知っている範囲に
限られるし。しかも直線で行くもんだから進行上に障害物があって
もつっこんでしまうのだ。
まあ、これらの改良もおおよそ検討はついているからいいだろう。
で、なんで自分は空を飛べてかつ高速移動が出来るのにこんなこ
とをしているのかと言うのは⋮⋮今は秘密だ。だって面白くないだ
ろ? どうせなら完成した後にお話をしようと思う。
1758
﹁テストプレイと行きますか﹂
指示を出し終わると飛行機はゆっくりと飛び出した。
ゆっくりとだが確実に飛んでいく飛行機。いい気分だ。ライト兄
弟もこんな気持ちだったのかな? と思ってのんびりと見ていた時
だ。
⋮⋮あれ? なんか様子がおかしいな。
俺が指示をした場所までは行ったが戻ってこない。俺の計算では
そこから元の場所に引き返すように作ったのだが、どこかでプログ
ラムを間違えてしまっていたようだ。
飛行機は少しづつ加速しながら落ちて行く、そして落ちて行く先
には
﹁︱︱︱あっ﹂
俺が気付いた時には時すでに遅しだった。
︱︱︱ドスッ!
飛行機は魔法を撃とうとしたエリラの横腹に綺麗に突撃をし、ぶ
つかった衝撃でエリラも一緒に飛ばされていた。審査員がいれば1
0点中10点は取れそうなぐらい綺麗な決まり方だった。
そのまま地面に滑るようにエリラと飛行機は落ちた。
1759
静まり返る周囲。やがて、イテテとエリラがむくりと起き上がり、
俺の方を向いた。
⋮⋮あっ、アレはアカン。
俺の直感がそう訴えていた。
エリラは立ち上がると自分にぶつかった飛行機を広い上げ、こち
らへと歩いて来た。
﹁いや⋮⋮その⋮⋮悪い、事故なんだ﹂
ジリジリと後さずりする俺とドンドン近づいてくるエリラ。目は
笑っているように見えるが口は全くと言っていいほど笑っていない。
﹁そうよね。クロのことだからわざとじゃないぐらい分かっている
わよ﹂
﹁じ、じゃあ︱︱︱
﹁でも、一発やらせてね♪﹂
﹁あっ、ちょっと待って、慈悲はn︵ドスッ
気付けば俺の顔面に飛行機がぶつけられ俺は、そのまんま吹き飛
ばされていたのだった。
1760
﹁⋮⋮平和ですね﹂
﹁⋮⋮はいなのです﹂
ニャミィとフェイからそんな声が聞こえて来た。
これは平和とは言わないと思うのだが。
そう思いながら俺は地面へと落ちて行くのであった。
1761
第168話:正義の筋肉3兄弟︵?︶登場・前編︵前書き︶
今回は時間の都合で短いです。ご了承ください。
そして、今回と次回は完全にネタ回です。
1762
第168話:正義の筋肉3兄弟︵?︶登場・前編
﹁手紙?﹂
﹁はい、今朝ギルドに届いていたんですよ﹂
武器や兵器を試した翌日、引き続き色々な事を試そうと思い数日
間ギルドに顔を出さないと言おうと思いギルドに顔を出したときミ
ュルトさんがこれまで見たこと無いような謎めいていた顔をして一
枚の紙とにらめっこをしていた。
それで、気になったのでどうしたのかと聞くとどうやら手紙と睨
めっこをしていたようだ。
﹁で、なんで手紙を睨んでいたのですか?﹂
﹁それがですね⋮⋮内容は﹃この事態に是非救援をしたい。今向か
っている﹄とのことなのですが⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ですが⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮見て下さい﹂
﹁?﹂
俺はミュルトさんから手紙を受け取り内容を見てみる。
そして、見た瞬間俺は固まってしまった。
1763
そこには
==========
我々は筋肉3兄弟!!
エルシオンのこの危機に我々は馳せ参じる!!
なお、報酬は現金か筋力増強補助剤か輸血袋でいいぞ!
==========
﹁⋮⋮なんですかこれ⋮⋮﹂
﹁私が聞きたいぐらいです﹂
俺の当然のような反応にミュルトさんの返答も当然のように切り
返す。
﹁筋肉3兄弟って⋮⋮いや、言いたいことは色々ありますけど⋮⋮﹂
もうツッコミどころが多すぎてどこから言えばいいのかさっぱり
わからないのだが。
︵筋力増強補助剤? 輸血袋? プロテインと輸血パックの間違い
じゃないのか?︶
そもそもそんなものがこの世界にあるのか? いや、逆にこの世
界での俗称なのか?
1764
何となく気になったのでミュルトさんに聞いてみることにした。
﹁これ⋮⋮筋肉増強補助剤⋮⋮それと輸血袋ってなんですか?﹂
﹁⋮⋮さぁ? 私にもサッパリ⋮⋮﹂
分からんのかい!
﹁⋮⋮ん? これどうやって届いたのですか? 今、エルシオンは
殆ど外との交易などは無いはずですけど﹂
いや、少ないながらも来ている人の中に届けたのかな?
﹁いえ⋮⋮それが⋮⋮﹂
﹁?﹂
﹁今朝、私がギルドにちょうど着いたのと同時に遠方から何かが走
ってきまして⋮⋮何と思ってみたら上半身裸の男が走ってきまして
⋮⋮﹂
何それ!? 怖っ!? いや、日本なら当然変人だが、この世界
でもアウトだろ!? ﹁それで、私の傍に駆け寄ってきまして﹃そこのお嬢ちゃん! 済
まないがこれをギルドの重役に渡してくれ! では! さらばマッ
スル!﹄などと言った挙句私にこれを渡して走り去って行ったので
すよ⋮⋮﹂
﹁ナノ ソレ コワイ﹂
1765
思わず片言言葉になってしまった俺。いや、当然だろう。てか、
よくミュルトさんそれを読む気になったなおい⋮⋮。俺なら破り捨
てるレベルだぞ⋮⋮。
急に謎の寒気がしだした。こういう奴に限って嫌な予感しかしな
いんだよな⋮⋮。
こうなったらミュルトさんには悪いが全部押し付けさせてもらお
う。だって関わったら作業を止めないといけなそうで嫌なんだもん。
﹁あのー、ミュルトさん。すいませんが俺が用事がありまして数日
間ギルドには顔をだs︱︱︱
そのときだった。
﹁フハハハハハハハハッ!!!﹂
辺りに謎の声がこだます。反射的に刀を取り出し辺りを見渡す。
﹁エルシオンの者たちよ! ワシらが来たからには安心せぇい!!﹂
外から聞こえて来る。
ギルドから出てみると。そこに立っていたのは
﹁三男! テルム・モルレスト! ムゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!﹂
1766
﹁次男! プロレウス・モルレルト! ムゥン!﹂
﹁長男⋮⋮アルバルト・モルレルト⋮⋮むぅん⋮⋮﹂
筋肉モリモリマッチョの二人ともやしと言えそうなほどガリガリ
に痩せて、全員上半身裸の男たちがボディービルダー並のポーズを
決めて立っていたのだった。
1767
第169話:正義の筋肉3兄弟︵?︶登場・後編︵前書き︶
前回の前書きで書いた通り今回もネタ回です。
後悔もしていないし反省もしていない︵キリッ
1768
第169話:正義の筋肉3兄弟︵?︶登場・後編
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
あまりに予想外な光景に色々な意味で絶句する俺とミュルトさん。
えっ、てか何こいつら。上半身裸でポーズ決めているあたり、場
所を弁えないと職務質問待ったなしだと思うのだが。
この時、俺は既にこいつらがあの手紙を出した奴らであろうこと
はおおよそ検討がついていた。
そりゃあ、こんな濃ゆい内容の手紙と光景を見せられれば否が応
でもくっつけられるわな。
だが、それでも一つ言いたいことがある。
﹁⋮⋮何あのもやし⋮⋮?﹂
それは、ポーズを決めている変態3名の中で唯一ひょろっとした
体形をした奴のことだ。
筋肉? どこにあるの? 体脂肪率一桁未満と同時に筋肉量も一
桁未満だと思うのだが。
﹁⋮⋮っ、きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!﹂
と、ここでようやく現実に戻ってきたミュルトさんが顔を真っ赤
にして叫びだした。すぐに顔を手で覆うと俺の後ろに逃げるように
隠れて来た。
1769
⋮⋮ミュルトさん意外と初心なんだな。
﹁フハハハハ! どうだ我ら兄弟の筋肉は! 素晴らしいだろ! あまりに素晴らしすぎて輝いて見えるだろ!?﹂
そういわれると輝いているような⋮⋮いやいや! なわけないだ
ろ!
﹁変態! 変態! こっち来ないでください!!﹂
俺の後ろで来ないでと叫んでいるミュルトさん。
﹁なにぃ!? 輝き過ぎて見ていられないだと!? フハハハハそ
うだろう! なんせワシもサングラスをしないと3分で目が筋肉に
なってしまうほどだからな!﹂
今のをどう聞いたらそんな言葉に聞き取れるんだよ!? てか、
目が筋肉になる!? 怖いわ!! ﹁ごはぁ!!!﹂
﹁今度は何!?﹂
もやし
見ると長男と名乗っていた男が⋮⋮何故か血を吐いていて倒れて
いた。
⋮⋮っえ?
﹁兄じゃぁぁぁぁぁぁ!!! レウスよ! 何秒じゃ!?﹂
1770
﹁7.8881秒。いつもより0.0001秒長く持って新記録樹
立です﹂
﹁うぉぉぉぉぉぉぉ! やったぞあにじゃぁっ!﹂
﹁やっ⋮⋮た⋮⋮ごふっ!!﹂
﹁ぬぉぉぉぉぉ! さあ兄者もう一度決めますぞ! 今度こそ夢の
8秒台を目指そうではないか!﹂
﹁ストップ! ストップ! ストッォォォォォォプ!!!!!﹂
入る隙間が全く無かったが、いくら何でもこれは止めないとやば
いと判断した俺はここで、止めさせた。
﹁む? お主どうしたのじゃ?﹂
﹁色々言いたいけどまずはそいつ死にかけてるよ!? ポーズ以前
にまず助けろよ!﹂
﹁大丈夫ですよ﹂
そういったのは次男と言っていた二番目に筋肉がある男だった。
﹁どこが!?﹂
目の前には血でちょっとした水たまりを作って倒れている男の姿
⋮⋮どこをどう見たら大丈夫なのか理解に苦しむ場面である。
1771
﹁いつもの事ですから﹂
そういって、グッと手でグッジョブサインを出す次男。
﹁いつものこと!?﹂
いつもなの!? この惨状がいつも!? ちょっと感覚麻痺して
いない!?
﹁そういうこじゃ! さぁ、兄者よ! ﹃逝こう﹄ではありません
か!﹂
違う! そっちの﹃逝く﹄は違う! 天に召されてしまう方や!
あかんパターンの奴や! ﹁⋮⋮ああ、父上の姿が見える⋮⋮﹂
﹁はは、何を言っているのですか兄さん。父上は10年前に死んで
いますぞ。幻覚でも見ているのですか?﹂
それ幻覚じゃない! 走馬灯や! 死にかけているんだよ!
﹁⋮⋮ぐふっ︵ガクリ
それだけ言うと長男は目を閉じて力尽きたのであった。
﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂
1772
﹁兄じゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!!﹂
﹁くっ、何故ですか。今まであんなに元気だったじゃないですか!
?﹂
いやいや死にかけていたからな!? えっ、てか、死ぬあの直前
が平常時だとでもいうの? だとしたらどんな病弱だよ長男!
﹁テルム、血が足りていないようです。至急輸血を!﹂
﹁よしっ、任せろ!! ムゥゥゥゥゥゥゥゥン!!﹂
そういうと、何か先ほどとは違うポーズを取るテルム。すると胸
筋あたりから謎の光が浮かび上がり。やがてビーム︵?︶となって
飛び出した。そしてその光は長男を包み込み回復していk︱︱︱
﹁ごはっ!!﹂
⋮⋮事無く、再び長男は血を吐いていた。
マッスルハイテンション
﹁しまった! これは︻筋肉鼓舞・その29636︼だった!﹂
えっ、何それ。そんな恐ろしい響きの鼓舞とか聞いたことないん
1773
だけど。えっ、てか29636? 最低でも同じのがあと2963
2個あるってこと?
マッスルハイテンション
︱︱︱スキル︽筋肉鼓舞︾を取得しました。
︱︱︱特別条件︽筋肉神への道・初級︾を満たしました。
マッスルハイテンション
==========
スキル名:筋肉鼓舞
分類:筋肉スキル
効果
・胸筋から光を出し、その光を浴びさせることで様々な効果が生み
出される。
・効果は本人が新たなポーズを作ることにより増えて行く。
・使用時に消費するのは魔力でなく体力を消費する。
ゴットマッスル
==========
称号:筋肉神への道・初級
取得条件
・筋肉スキル系を一つでも取得すること。
効果
・筋力ステータス大アップ
・筋肉について有難り教えを説く事が出来るようになる。
==========
いらねぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇ!!!!!!!!
俺はこの時ばかりは︽理解・吸収︾を恨んだ。というよりこれを
授けたセラさんを恨んだ。くそぉっ! 見たら覚えるのを忘れてい
たよコンチクショー!!!!
1774
﹁こっちじゃ、さあ次こそ! ムゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!﹂
先ほどと同じ光を発し、長男の顔色がよくなりだした。
そして、光が止んだと同時に長男は目を開けた。
﹁⋮⋮ハッ、私は⋮⋮﹂
﹁兄者あぁぁぁぁぁぁ!!!!﹂
そういうと、テルムは目覚めた長男を抱きしめた。
うん⋮⋮普通なら感動する︵?︶場面なんだろうけど、なんでだ
ろう。しょっぱい涙しか出てこない⋮⋮。
ま、まあ、何はともあれ、これで長男は助かっt︱︱︱
︱︱︱ボキボキボキィッ!!!
⋮⋮ボキ?
﹁あ、兄者あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!﹂
見ると長男は物凄いエビ反りを決めている状態で力尽きていた。
それを見た瞬間俺は悟ってしまった。いや、悟らざる得なかった。
︵⋮⋮ああ、抱きしめられて骨が折れたんだな⋮⋮︶
その時の俺の目はおそらくこれ以上にないほど、遠くて暖かい眼
1775
差しをしていただろう。
﹁どうでもいいですけど、早く服を着てくださぁぁい!!!﹂
ミュルトさんの悲痛なお願いも目の前の惨状の前に虚しく響くだ
けであった。
1776
第170話:成長早き家族たち
﹁⋮⋮では、この手紙はあなた方からと言う事で間違いないのです
ね?﹂
﹁そうじゃ、ワシの舎弟が届けたもので間違いないぞ﹂
語尾に﹁マッスル﹂を付ける舎弟とかどんな存在だよ。そんなツ
ッコミを内心で入れつつ、俺は彼らとお話合いをすることになった。
⋮⋮ただ、一名を取り除いて。
﹁19876! 19877! 19878! 19879! 1
9880!!﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
ギルドの隅っこで筋トレと称してシャトルランをしている三男の
テルム。
﹁あ、あの⋮⋮テルムさん⋮⋮?﹂
ミュルトさんが困った顔をしながらテルムに話しかけようとするが
﹁ああ! 今は駄目じゃ! あと10116回待って下され!﹂
と言ってきっぱり断りやがった。
1777
﹁え、えっとですね、こちらも忙しいもので手短に済ませますので
取りあえずお話を︱︱︱
﹁駄目じゃ! 今止まると、息まで止ままってしまうから駄目じゃ
!﹂
⋮⋮どうやら聞く気は無いようである。てか、動きを止めたら息
まで止まるって⋮⋮お前はマグロかよ。
﹁まあ、テルムは置いときまして、取り合えずこれはこれでよろし
いですか?﹂
兄弟の中で一番まともそうなのは、この次男のプロレウスぐらい
か。
ちなみに長男はと言うと、先ほどのダメージによりベットに寝か
されている。さっきちょっとだけ称号を覗いてみたら︽貧弱神︾と
か︽スペランカーマスター︾とかもうツッコミどころ満載の称号と
なっていた。
てか、スペランカー︵ゲームの方では無く名詞で﹃無謀な洞窟探
検家﹄を意味するらしい︶ってなんでそんな言葉が⋮⋮称号⋮⋮ま
だまだ奥が深そうである。
﹁はい⋮⋮ですが、いいのですか? 街の復興及び定期的なモンス
ター討伐⋮⋮しかもそれを超格安で受け持って下さる⋮⋮どう考え
ても割にあいませんよ?﹂
﹁まあ、あの馬鹿が言い出した事なので、私は何となくついて来た
だけですし、兄は無理やりですし﹂
1778
﹁は⋮⋮はぁ⋮⋮?﹂
物凄く困っているなミュルトさん。いや、多分内容で困っている
訳ではないだろう。何故なら超格安で付近の治安を守ってくれるの
だから有難いことこの上ないだろう。
ただ⋮⋮
﹁⋮⋮ところでそろそろ服を着てくださいませんか⋮⋮目のやり場
に困ります﹂
そう、彼らは依然上半身裸のままでいるのだ。正直よくミュルト
さんは我慢していると思う。さっきはあんな叫び声を上げて俺の後
ろに隠れていたのに⋮⋮。
﹁いえ、これが私たちの正装なので﹂
﹁上半身裸が正装ですか⋮⋮﹂
﹁いえ、来ているじゃないですか?﹂
﹁えっ?﹂
﹁空気と言う名の服を私たちはこれさえあれば問題ありません︵キ
リッ﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
﹁20987! 20989! 20990! ⋮⋮アレ? 今何
回じゃったけ? ⋮⋮よし、始めからじゃい!!﹂
1779
⋮⋮駄目だこいつら⋮⋮早く何とかしないと。
俺とミュルトさんはそう強く思ったのであった。
==========
︱︱︱パンッ! パンッ! バンッ!
﹁⋮⋮どうですか?﹂
﹁うーん⋮⋮3発中1発か⋮⋮大分精度は上がってきているけど、
まだ出来るはずだ。実弾の銃は反動があるからそれを計算して撃っ
てみるといい。でも短期間でこれくらいの成長すれば十分だ。頑張
ったな﹂
﹁はい! ありがとうございます!﹂
1780
﹁よし、じゃあ次﹂
﹁はい! お願いします!﹂
俺の合図で次々と的に鉛の弾丸が打ち込まれていく。もっとも的
を狙ったと思われる弾丸の殆どは周囲に積まれた土嚢に突き刺さっ
て行くが、3発に1発の確率で当たるので、2,3日でここまで来
たら十分だと俺は思う。
なお、最初の効果音で変な事を想像した人⋮⋮きっとあんたは溜
まっているんだろう。
それにしても、銃を持った獣族⋮⋮漫画やアニメの世界でしか見
られなかった光景が今、自分の前で行われているのを見て改めて異
世界なんだなんと実感するな。
ふと、目を移すとエリラが一人黙々と剣を振っている様子が見え
た。
ここ数日。ずっとあんな感じだ。朝早くから素振り、筋トレと実
にハードなメニューをこなしている。夜も俺と一緒にベットに入っ
ておきながら、夜中にこっそり抜け出している所も多々見ている。
自分から進んで行っているので、特に何も言っていないが本当に
よく頑張っているな⋮⋮。あとでエリラには特製のケーキでもごち
そうしてやることにしよう。たまにはいいよな?
お蔭で、彼女の剣戟にもより一層の磨きがかかったようだ。色々
なスキルや称号を取得していたので、その効果もあるのだろう。
1781
最近自分のことは殆ど行わず仕舞いなので、ここいらで俺も奮起
しないとなと思ってしまう。やった事と言えば新兵器の開発ぐらい
で後は殆ど手が付いていない。称号は⋮⋮いや、考えないようにし
よう。
﹁クロウお兄ちゃん!﹂
フェイが相変わらずの笑顔のまま俺に駆け寄ってきた。
いい笑顔だ。疲れも吹っ飛んでしまいそうだ。
ただ、剣を片手に持っているので光景自体は非常にシュールなの
だが。
﹁どうしたんだ?﹂
﹁お相手をお願いしたいのです!﹂
どうやら、手合わせをしたいらしい。
フェイも短期間で驚くほどの成長を見せている。スキルレベルも
既に﹁3﹂になっていたし子供は本当に成長が著しいと思う。
﹁分かった。テリュール、悪いけどこっちを見てもらえないか?﹂
﹁わかった。気を付けてね﹂
テリュールもすごかった。
魔法は小さいころから覚えださないと出来ないとか言われていた
のだが、その飽くなき探求心が彼女の才能を開花させているようだ。
回復魔法に加え補助と攻撃。さらに銃による遠距離射撃の上達も
1782
早い。
⋮⋮俺もチートだと思うが、それ以上に周りの成長も早い気がす
る。
⋮⋮やっぱり、俺も頑張らないとな。気付いたら追い抜かされて
いそうで怖い。
﹁クロウお兄ちゃん! 早くなのです!﹂
向こうでフェイが元気に手を振っていた。
﹁ああ、今行くよ﹂
さて、俺も頑張らないとな。
俺は改めて気合を入れなおし、フェイが待つ場所へと歩いていっ
た。
1783
第171話:エリラのお願い・前編︵前書き︶
投稿遅れて申し訳ありません。内容をガラリと変えたのはいいの
ですが、もう少し計画性を持った方がいいと反省しました。
1784
第171話:エリラのお願い・前編
﹁⋮⋮﹂
目を瞑り、真っ暗闇に溶け込むかのように気を張り巡らす。
エルシオンから遠く離れ、周りに誰一人も居ない山岳地帯。俺の
目の前には巨大な岩がそびえ立っている。
﹁⋮⋮!﹂
拳を構え、一気に魔力を集束させる。ボッと拳に火が纏わり付き、
さらにそこから水が噴き出した。本来打ち消し合うはずの両属性。
だが、反発し合う事は無く、むしろお互いに足りない部分を補うが
ごとく綺麗な渦を作り上げた。
︱︱︱︽火水・龍渾撃︾!!
作り上げた魔力の塊を岩目がけて全力で叩き込む。ゴッ! と硬
い物がぶつかり合う音が聞こえたかと思えば、次の瞬間ピシッ! と砕ける音が聞こえ岩に亀裂が走る。
そして、拳に集束されていた火と水がまるで噴火でも起きたかの
ように噴き出すと、岩に突き刺さり意図も簡単に貫いてしまった。
高温の炎により溶けたところに高水圧の水による叩き付け、さら
に龍属性を付与した攻撃なので威力は言わずも知れず。貫通力も申
し分なかった。
1785
バラバラと目の前で崩れ落ちる岩を見ながら俺が一人満足してい
た。
︱︱︱称号︽理を破壊する者︾を取得しました。
︱︱︱スキル︽強制融合︾を取得しました。
==========
称号:理を破壊する者
取得条件
・相反する属性を何らかの方法で組み合わせ魔法として成立させる
こと。
効果
・全属性融合を可能とする。
・分子レベルで魔法を扱えるようになる。
・魔力極大アップ
==========
スキル:強制融合
分類:魔法スキル
効果
・どんな物質でも強制的に組み合わせることが出来る。
==========
いや、だからなんでこんなスキルが取得できるんだよ。
最近、俺は神にでもなってしまったのかと思ってしまう。何故自
然界の法則を完全無視したスキルを俺は覚えてしまうのか⋮⋮。
1786
いや、だけど今回はそれ目的だからいいんだ。
俺は無理に自分の心に納得させる。
エリラたちを成長を見て、俺も負けていられないと躍起になった
俺は、エリラが外に抜け出したのを見計らって鍛えることにしたの
だが、レベルアップの余地は殆ど残されていないと俺は考えた。
いや、これでは語弊を生んでしまうか。分かりやすく言うと、レ
ベルを上げにくいと思ったのだ。
何故なら俺の知っている範囲で地上世界には300を超えるレベ
ルを持つ相手はいない。ならあの自重しないゴーレムでも作ればい
いじゃないかと言う話になるのだが考えてほしい。
国一個を潰しかねない国家戦力級の人︵?︶が二人、まともにぶ
つかり合ったらどうなるかを。
阿鼻叫喚⋮⋮そのレベルで済めばいい方かもしれない。下手をし
たら天変地異ものだ。そういう意味では幼少期に行ったあのチート
レベリングは本当に綱渡りな事だったんだと思い知らされる。
で、代わりにどうするのかと言う話になったのだが、武器の制作。
や人員補充。と次に考えたのはスキルや称号による強化だった。
で、試しにさっきやった結果がアレと言う事だ。
ただ、そんな異常なスキルや称号が簡単に手に入る訳では無く、
その後は特にコレといったものは入手出来ず、結局この日はこのま
ま帰ることになった。
1787
==========
﹁お帰り﹂
家に帰り自室に戻るとエリラがベットの上に座っていた。
﹁た、ただいま﹂
﹁どこ行ってたの?﹂
﹁んー⋮⋮訓練?﹂
何故か疑問形になってしまった俺、まあ、アレを訓練と呼ぶかど
うかは怪しいしな。
﹁⋮⋮もう十分強いのに?﹂
少し間があったのち、エリラが真剣な眼差しで聞いてきた。
﹁強さに完全は無い。本人が上を目指し続ける限り終わりなんても
のは無いよ﹂
サラッとそんなことを言って椅子に俺は腰を降ろした。今の俺す
ごくかっこいいと思った俺は末期と思うんだ。
1788
エリラがベットから降り、︽倉庫︾から剣を取り出した。そして、
無言のまま俺の前まで来ると、俺が教えた正座をした。
﹁? どうしたんだ?﹂
﹁お願いがあるの﹂
お願い? お願いなんかよくされるけど、こんなにきちんとした
形をしてのお願いは初めてなような気がする。
もしかして、やっぱり傷を治して欲しいのかと一瞬思ったが、エ
リラに至ってはそんなことは無いなとすぐに考えを振り払った。そ
れに剣を出した理由にはならないしな。
﹁⋮⋮私と修行⋮⋮いやと戦って欲しいの。それも試合などといっ
たレベルじゃない⋮⋮本物の実戦をしてほしいの﹂
﹁実戦⋮⋮? 前に俺とやった訓練では不満ということか?﹂
もっとも、その訓練ですらもエリラは殆ど俺に手を出せない戦い
ばかりだった。俺としては内心少し罪悪感があったほどだ。
﹁⋮⋮そういう訳じゃないの⋮⋮私⋮⋮強くなりたい⋮⋮クロと一
緒に皆を守れるようになりたいの﹂
﹁強くか⋮⋮﹂
今のエリラだってちょっとした人外レベルなんだけどな。これ以
上強くなったらインフレってレベルじゃすまされない気がするのだ
が。
1789
﹁私が捕まってクロが助けてくれたとき、クロが私と一緒にいたい
って言ってくれて嬉しかった。だけど⋮⋮守られているばかりは駄
目だと思ったの⋮⋮。それから真剣に自分と向き合ってトレーニン
グをしてきたけど⋮⋮﹂
ああ、なるほど。あれからずっと一人でやっていたのはそんな事
を思っていたからか。
﹁⋮⋮最近、レベルの上昇が頭打ちになっていたでしょ? それも
鑑みて一人じゃ限界が来ているんだと思ったの⋮⋮﹂
﹁で、俺に改めて特訓をお願いしたいと言う事か?﹂
これで合っていると思ったが、意外な事にエリラは首を横に振っ
たのだ。そして、彼女が次に放った一言は俺の思考を止めるには十
分な一撃だった。
﹁私を⋮⋮潰してほしいの﹂
1790
第172話:エリラのお願い・後編
前回のあらすじ。エリラがMになりました︵棒︶
⋮⋮いやいや、そんなわけあるかぁ!
﹁⋮⋮ちょっとまて、脳内整理するから﹂
そう言ってエリラに待ってもらい。俺は考え出した。
潰してほしい? 一体どういうことだよ。特訓とかじゃないのか
? 潰すって、なんだエリラをフルボッコにしろとでも言う事か?
やっぱりM⋮⋮いやいや、違う。きっとそうだ。俺は信じている。
⋮⋮レベル⋮⋮頭打ち⋮⋮! そうか!
﹁⋮⋮格上相手と全力で戦ってレベルの底上げ⋮⋮またはスキルや
称号の獲得か?﹂
﹁⋮⋮うん⋮⋮卑怯な事かもしれないけど⋮⋮﹂
﹁いや、そうは思わない。少なくとも俺は正攻法だと思うぞ。ただ
︱︱︱﹂
1791
﹁ただ⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮それはやめておけ﹂
﹁⋮⋮なんで?﹂
﹁全力の俺なんて命が何個あっても足りないぞ。︽不殺︾スキルは
死亡を回避できても痛みまでは回避できない。いや、むしろ本来な
ら致死ダメージで即死の攻撃のはずが、代わりに死ななかった場合
の痛みを全て受けることになる﹂
俺は自分を高く見ているつもりはない。だが、例え自分を過小評
価しても俺とエリラの間にある力の差は覆るとは思えなかった。
﹁⋮⋮﹂
﹁それにそんな攻撃を受ければいくら回復魔法で傷を塞ごうがすぐ
には完治しないはずだ﹂
一見、俺が持つ治癒魔法は万能かと言うとそうとも言い切れない。
前にも言ったように魔法では蘇生や即死系の攻撃は出来ない。
回復魔法は自然治癒能力を高める効果があるのは前に話したが、
過去の俺みたいに腕が丸ごと一本潰されたとなれば話は別だ。
この場合、まず魔力がその人の細胞の情報を読み取りそこから魔
力が皮膚など身体の一部の代わりとなりそして癒着する。
魔力万能説。恐らく魔法で出来ないのは蘇生と即死だけなんじゃ
ないかと思う。
でだ、身体の一部になった魔力は簡単にはなじんでもらえない。
1792
癒着するにはそれなりの時間を要す。こればかりはいくら俺でもど
うしようもない。
で、癒着するまで傷口は非常に脆くなっている。そんな時に無理
に動けば当然傷口を開いてしまう、この場合に出来た傷を治療する
のは普通に治療するのと比べ膨大な時間と魔力を消費しなければな
らない。
つまり、俺が何を言いたいかと言うと、そのような非効率な事を
する理由が無いということだ。それなら俺との手合わせを毎日やっ
た方がいい。
そんなことは、エリラも重々承知のようだった。
﹁ええ、分かっているわ。だから治療はしない⋮⋮︽不殺︾スキル
だけで耐えて見せるのよ﹂
﹁⋮⋮理論上は可能か⋮⋮だが、死ぬよりも辛い痛みをもったまま、
まともな戦闘が出来るのか? まともな思考が出来るのか? 魔法
の詠唱が出来るのか?﹂
確かに︽不殺︾スキルで痛みだけの設定にすれば論理的には可能
だが、少なくとも俺は出来る気がしない。想像してみてくれ、致死
ダメージを受けたまま戦っている自分の姿を。俺だったら逃げ出し
ちゃう自信がある。
﹁やってみせるわ!﹂
﹁⋮⋮﹂
1793
﹁それで強くなるなら⋮⋮それでクロの隣で戦えるなら⋮⋮私はど
んなことでも耐えてみせるわ!﹂
﹁⋮⋮﹂
どうするべきか⋮⋮俺としてはエリラが隣で一緒に戦ってもらえ
るのは嬉しいし、俺と張り合えるぐらいの強さになれれば心強いこ
と間違いなしだ。
だが、どうしても俺はそれを実行に移す気にはなれなかった。そ
れにリスクもある。強烈な痛みを受けてそれに精神が耐え切れなか
った場合⋮⋮それは人としての終わりを予期するものになる可能性
がある。戦闘に強烈な恐怖も覚え二度と剣を触れれない危険もあっ
た。そうなれば、エリラが俺のためにと思ってやってくれた努力が
全て無に帰ってしまう。
家の庭で皆が必死で訓練をしている中で、一人ポツンと取り残さ
れたエリラ⋮⋮そんな光景想像出来ないし、したくもない。
﹁お願い!﹂
エリラが俺の足元で必死にお願いをしてくる。
﹁迷惑かもしれないし、そんなことクロはしたくないと思ってる⋮
⋮でも、それでも私は︱︱︱﹂
﹁分かった!﹂
﹁!?﹂
﹁だけど約束だ⋮⋮俺が無理と判断したときはやめる。そしてが起
1794
きてもいい覚悟を持つこと⋮⋮いいな?﹂
﹁⋮⋮分かった。約束する﹂
﹁⋮⋮庭に出ろ⋮⋮見せてもらう、その覚悟を﹂
結局、俺はエリラに折れる形で了承をすることにした。したくな
いのが俺の本音だが、エリラが簡単に折れるとは思えなかったし、
俺の隣で、とお願いされては断りにくかった。
それよりも、あの約束を守れなくてエリラが折れる可能の方が十
分にあり得るしな。 こうして、俺はエリラのお願いで実戦と言う名の本気の戦いをす
ることになった。悲惨な結果になるのは既に分かっていることだっ
たので、俺は子供たちに庭に出ないようにと命令をし、大人たちに
も極力でないようにとお願いしておいた。
⋮⋮血の池が見えそうだと思っているのはきっと俺だけじゃない
はずだと。
1795
第173話:真っ赤な池
﹁⋮⋮準備はいいか?﹂
﹁いつでもいいわよ!﹂
庭の中で対峙する俺とエリラ。俺の手には漆黒が握られ、エリラ
の手にも蒼獣が握られている。互いに本気でやり合う戦いだ。一切
の手抜きは厳禁とのこと。
救済措置はエリラに対しては︽不殺︾スキルで死及びそれに準ず
る攻撃の無効があること。そして、俺が本気を出すと街が消えかね
ないのでその辺も考慮されているが⋮⋮。
やる気がしないと言うか⋮⋮エリラには極力手を付けたくないん
だけどな⋮⋮ただ、今更やめようなんて言える雰囲気でも無い。
なら⋮⋮せめて一撃で終わらせよう。俺は心にそう決め、大まか
な戦いの流れを頭の中で組み立てておく。
っと、いつまでも待たせる訳には行かないから始めるか。
﹁では⋮⋮始め!﹂
俺の合図でお互い、一気に距離を詰める。
﹁はぁぁぁぁぁぁぁ!!!﹂
エリラの剣に薄い水色の色が付き、水属性の魔力が付与されたの
1796
がわかった。その付与スピードは前とは比べものにならないほどに
早くなっていた。
エリラに対し俺も漆黒で対応する。お互いの剣がぶつかり合い周
囲に魔力の衝撃波が飛び散る。
魔力も剣によく馴染んでいる。今のエリラの剣なら鉄すらもも容
易く斬ってしまいそうな気がした。てか、斬れるな。少なくとも市
場に出ている剣なんかは話にならないだろう。
だが。
﹁︽焔斬︾﹂
ボッ! というよりもゴウッ! と言った方が正しいような音と
共に俺の刀から火柱が生れた。
火柱が生れた衝撃で、タイミングを崩されたエリラは一回後ろに
引き体勢を立て直そうとした。
だが、そんな隙を俺が狙う訳では無い。
一瞬でエリラの目の前に移動。そして、つい昨日︵時間にして9
時間ほど前︶開発した︽龍渾撃︾を使うべく一瞬で構え魔力を集中
させる。
だが、前回と違うのは属性だ。エリラが得意な属性は水だ。火水
を打てば水の効果は落ち、火属性のダメージしか通常ダメージは無
い。だが。
﹁風雷⋮⋮﹂
1797
そう、風と雷なら風は通常ダメージ、雷に至ってはダメージの増
加が狙える。
﹁︽龍渾撃︾!!﹂
アッパーに等しい攻撃を繰り出す。
だが、エリラもそれに反応して剣でガードをしにかかった。
︱︱︱バキィ!!
しかし、剣と拳がぶつかり合った瞬間、エリラの剣はまるで泥で
固めていたかのように、いとも簡単に粉々に砕け散ってしまった。
そして、俺の拳は軌道の延長線にあったエリラのお腹に一直線に
向かっていた。
本当は︽動作中断︾で止めれば良かったのかもしれない。だが、
本気でとエリラに言われ、さらに一撃で終わらせるつもりだったの
が重なってしまい、俺はおそらく人間に対して行うには余りにもオ
ーバーキルな攻撃をしてしまった。
ブチッ! そんな音が聞こえたかと思えば俺の腕はエリラのお腹
の中に埋まっていた。
﹁⋮⋮!!﹂
さらにそこから風と雷属性のダブル攻撃。エリラの身体を突き抜
け遥か後方へと消え去って行く。同時に吹き飛ばされたエリラの体
が俺の腕から抜け、吹き飛び、そして地面へと落ちた。
1798
﹁⋮⋮﹂
しばらくの間、俺は無心になっていた。︽不殺︾スキルが起動し
ているのは間違いなかったので、死んではいない。頭の中ではそう
考えていた。
エリラを中心に血の溜まり場が広がっていく。
そして、俺はようやくその時になって体が動き出していた。
﹁エリr︱︱︱
だが、俺はすぐに動きを止めた。
﹁⋮⋮!﹂
俺の視線の先ではエリラが顔をむくりと上げ、体を起き上げよう
としていたのだ。
﹁ケホッ! ゴホッ!﹂
せき込み、口から血が飛び出す。だが、動きを止めることなく。
粉々に砕け僅かばかりの剣身と鍔を残すばかりの剣を支えにして徐
々に体を起こしていくエリラ。
そして、フラフラでありながらもこちらを見ながら立ち上がって
見せたのだ。
﹁どう⋮⋮したの⋮⋮? この⋮⋮程度⋮⋮?﹂
まだやれるわよと言わんばかりの表情を見た瞬間。俺の中で忘れ
1799
かけていた感情が浮き上がってきた。
それは⋮⋮恐怖。
だが、ただの恐怖じゃなかった。身体の心から冷え切り、気付け
ば俺は後さずりをしていた。剣を握っている手にはじっとりと汗が
出来ていた。
︽不殺︾スキルには弱点がある。死なない分、痛みとして相手へ
と蓄積される。それは死ぬことが出来ない無間地獄⋮⋮いや、その
言葉すらも今のエリラには生温い言葉かもしれない。
そんな、状況下の中、彼女は立ち上がってみせた。
﹁なら⋮⋮こちら⋮⋮行く⋮⋮わよ⋮⋮!!﹂
今度は俺の前にエリラが一瞬で現れた。
何故動ける!? と言う疑問よりも先に体が動いていた。
︽防壁︾は間に合わない。なら、持っている刀で︱︱︱
だが、それすらも間に合わなかった。それ程までに今のエリラの
動きは速かったのだ。
︱︱︱ドスッ!
折れた剣先が今度は俺の肩を貫通していた。︽不殺︾スキルは俺
が他者に与えるダメージ量を制限することが出来る事は出来るが自
分に、そして他者から他者へのダメージ量は制限できない。
1800
これがどういうことを表しているかと言うと。
﹁はぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!﹂
開戦当初に叫んだ叫び声とは質も気迫も全く違ったエリラの声と
共に、剣が俺の体内で回転する。言葉では表しにくいが時代劇とか
で刀を刺した後にトドメと言わんばかりに手首を捻るアレのことだ。
﹁かッ⋮⋮!!﹂
声にしたくても出来なかった。
グチャと聞いてはいけない音とが聞こえたかと思えば次の瞬間、
エリラの剣は俺の肩から強引に引き抜かれた。
﹁ア゛ッ!!﹂
俺は素早く後ろに引き、自分の刺された右肩をみた。胴体と腕を
繋ぐ関節あたりから血が噴き出し、傷口はそこからわき腹に抜ける
ように斬られていた。普通の人間ならこんなことはまずできないが、
エリラの人間離れした︵普通の人から見れば︶ステータスによって
強引にやったのだろう。
ズキン! と激しい痛みが襲い掛かる。肩だけでなくまるで全身
を怪我したかのように。
︵あっ、これやばい︶
恐らく急所をやられている。普通の人間なら即死だろう。俺だか
1801
らこそ何とか生きているようなもんだ。だが、このままでは大量出
血死間違いなしだろう。
そう、︽不殺︾スキルでは、俺のダメージ制限は出来ないのなら、
今の俺は死んでもおかしくないということになる。
即座に、詠唱をして傷口を塞ぎにかかった。だが、治療をするほ
どの集中力を維持するのは難しかった。痛みのせいで魔法が上手く
使えなくなっていたのだ。それほどまでに、エリラから受けた一撃
は重かったのだ。
一方のエリラはと言うと、先ほどの俺同様何をしたのか分からな
くなり、頭が真っ白になっているのだろう。完全に動きを止めてい
た。
俺が死ねば︽不殺︾スキルの効果が消え、エリラもただでは済ま
されないだろう。今でさえ何故動けているのか疑問が残るが、そん
なところにまで今の俺は回す余裕は無かった。
そして、ようやく魔法を使う事に成功し、治療を始める。そして、
俺に出来ていた傷から血が止まり、そして徐々に傷口が塞がってい
く。そこでようやく俺は命拾いをしたのだった。
危なかった⋮⋮あと、少し遅かったらどうなっていたか⋮⋮。
﹁∼∼∼∼!!﹂
我に帰ったのかエリラが動きだそうとしたが、一歩踏み出した瞬
間膝から崩れ落ち、今度こそ倒れて動かなくなったのだった。
1802
そして、俺はこの時初めて庭にはエリラの血によって出来た血の
溜まり場と、俺の血によって出来た血の池が生れたことに気付いた
のであった。
1803
第173話:真っ赤な池︵後書き︶
と言う事で、エリラの血だけだと思いましたか?
残 念 だ っ た な !
ちなみに、出血量ならクロウの方が多いです。エリラも体の一部
を貫かれたとはいえ、急所は外れていますので。
次回、今回の出来た謎を回収していく予定です。
予定ですからね!?
追申
本編中にあった﹁時代劇みたいな∼﹂という場面がありましたが、
アレ、調べても名前が分かりませんでした。根本的に名称がないだ
けか、私の語彙力不足かのどちからでしょう。まあ、十中八九後者
でしょうが。
誰か知っていましたら情報お願いします。速やかに訂正しますの
で。
1804
第174話:エリラの人間卒業︵前書き︶
今回はエリラのスキル、称号紹介ですので超短めです。
1805
第174話:エリラの人間卒業
﹁大丈夫か?﹂
﹁それは⋮⋮こっちのセリフよ⋮⋮﹂
庭にはど真ん中で胡坐をかいて座る俺と、横になっているエリラ
がいる以外に人の姿は無い。まあ、正式には俺が命令をしたのです
が。
エリラの声にあんまり力を感じない、極度の疲労感のせいらしい。
﹁まあ、まさか一発入れられた上に瀕死レベルのダメージを与えら
れるとは思って無かったわ、世の中ってホント分からねな﹂
数値で見ても数倍の差があったし、万が一を備えて最善の手を打
ったつもりだったのだが、まさか素の能力で上回られるとは思わな
かった。
で、何故そのような事態が起きたかというと⋮⋮
﹁⋮⋮エリラ、自分で気付いているんだろ?﹂
﹁⋮⋮うん⋮⋮でも、気付いたのはついさっきよ⋮⋮あの時は全く
気付かなかったわ﹂
エリラのステータスには新たな称号やスキルが追加されていた。
少し見ない間に色々追加されていたのだが、一つ一つ順を追って見
て行こう。
1806
==========
称号:永久の忠誠心
取得条件
・特定の者、またはグループに半永久的な忠誠心を持つこと
・特定の者、またはグループの主が認める事
効果
・特定の者、またはグループの主限定でスキル︽意志疎通︾を発動
出来る。
︵ただし、相手も︽意志疎通︾を使えること︶
・生命に大幅補正
・特定の者、またはグループの主とスキル︽以心伝心︾を使用する
ことが出来る。
︵相手にも強制取得︶
・特定条件下において︽一騎当千︾を発動出来る。
==========
称号:不屈の意志
取得条件
・特定条件下に置かれても自らの意思を持つこと。
・圧倒的格上相手と五分の戦術精神レベルを維持すること。
効果
・スキル︽明鏡止水︾取得
シックスセンス
・スキル︽詠唱短縮︾取得
・スキル︽六感︾取得
・スキル︽気配察知︾取得
・スキル︽一騎当千︾取得
・スキル︽威圧︾取得
・魔力に極大補正
==========
称号:極限を耐え抜きし者
1807
取得条件
・一定ダメージを受けても自らの意思を維持すること
効果
・筋力、生命に極大補正
・スキル︽明鏡止水︾取得
・レベルが5上がる
・精神に大幅耐性付与
==========
称号:覇者
取得条件
・レベルが100を超えること
効果
・全ステータスに大幅補正
==========
称号:限界突破
取得条件
・︽不屈の闘志︾、︽極限を耐え抜き者︾を取得していること。
・レベルが90以上を越えていること。
・一定ダメージを受けて、特定条件下になること。
効果
・︽身体強化 Lv.5︾を取得
・筋力、生命に極大補正、及び付与系能力の効果向上
・魔力に大幅補正
==========
スキル名:︽身体強化 Lv.5︾
分類:戦闘スキル
効果
・全能力を一時的に極大アップすることが出来る。
・全スキルの能力が一時的にワンランク上のスキルへ上昇する。
・一定時間経つと解除、及び︽疲労︾のバットステータス付与。
1808
==========︵その他称号、スキルは省略︶
※なお、下位称号、または下位スキルはすべて省略
==========
状態異常:疲労
効果
・全ステータスダウン。
・全スキルレベルが5ダウン。
・魔法詠唱成功率ダウン。
==========
﹁⋮⋮﹂
俺は何も言わなかった。エリラも改めて自分のスキルを見て唖然
とする。
そして、どれほど時間が経ったか⋮⋮俺はエリラにスッと手を差
し出すと。
﹁おめでとう。これで君も人間卒業だね♪﹂
何故か握手の代わりに四の字固めを受けました。︵ただし全く痛
く無かった︶
1809
第174話:エリラの人間卒業︵後書き︶
祝・エリラ人間卒業
人類で二人目かな?
1810
第175話:︽身体強化 Lv.5︾
戦争により都市の50%の機能が失われたエルシオン。その中で
も人は徐々に復興をするべく各地で仮設住宅の建設や、農地の開拓
などが行われている。
カーンカーンと建築をする音やガラガラと何かを転がしている音。
何か指示を送っているのか叫ぶ声など様々な音が聞こえて来ている。
︱︱︱ピシッ! ゴゴゴゴゴ!
︱︱︱キィン! ガアン!
ただ、その中に明らかに普通では無い音が混じっていた。
ある人はまた魔族か何かが攻めて来たのかと慌てたりする者もい
たが、いつまで経ってもそのような情報などは無く、生き残ってい
た僅かな兵士たちも警戒をしつつも何も起きていないので特に何と
も思っていなかった。その警戒心の薄さはどうなのだと思わざる得
ないが、今回はその判断は正しいので不問としておこう。
で、その音の発生源はと言うと⋮⋮どうやら街の北側から聞こえ
てきているようだった。
==========
1811
ウォーター・スライサー
﹁︽水流斬撃︾!﹂
エリラの剣から水が噴出し巨大な刃となって襲い掛かる。
﹁︽防壁︾﹂
それを俺は冷静に防御系魔法をもって防ごうとした。魔力の壁と
水がぶつかり合い、鍔ぜりが始まる⋮⋮と思いきや魔力の壁に一瞬
でヒビが入り、そしてパキィン! とあっさりと割れてしまったの
だ。
﹁チッ﹂
俺は小さく舌打ちをすると、持っている刀で防御態勢を取り衝撃
に備える。ゴンッ! と水にぶつかったような音とは思えない音が
聞こえ、俺の体はあっという間に後方へと吹き飛ばされてしまった。
襲い掛かる水を防いではいたが、当然刀一本だけで防げるはずも
なく、水と言う名の刃が体の各所を切り裂き血しぶきが舞う。
即座に︽女神の祝福︾で回復をする。血が止まり傷口がみるみる
うちに小さくなり、そして何も無かったかのように傷口は消えてし
まった。
やっぱり︽防壁︾なんかじゃ魔力を全振りしても無理か。
俺は体勢を立て直し、エリラの方を見た。
目視でも分かるほどの魔力がエリラの周囲に集まっており、身体
1812
に渦巻いていた。
︽身体強化 Lv.5︾。一般のスキル︽身体強化︾とは一線を
画すスキルだ。このスキルの恐るべき効果はそのステータスの向上
にある。
一般の︽身体強化︾を使用した場合、熟練度にもよるが最大でも
現ステータスの1.5倍までが限界である。
だが、エリラが取得したスキルはレベル×2倍のステータスアッ
プが出来るのだ。つまり、Lv.1でも2倍。エリラのLv.5は
10倍も上がる事になる。どこぞの界○拳だよと言いたくなってし
まう。
エリラの現レベルは前回の称号の効果もありレベル103。ステ
ータスはと言うと。
==========︵称号効果も追加済み︶
筋力:9,920
生命:9,790
敏捷:9,600
器用:9,900
魔力:8,710
==========
これに︽身体強化 Lv.5︾を発動すると。
==========
筋力:9,920 ↓ 99,200
生命:9,790 ↓ 97,900
敏捷:9,600 ↓ 96,000
器用:9,900 ↓ 99,000
1813
魔力:8,710 ↓ 87,100
==========
になってしまう。チョットマテ 何故300レベル近い俺に迫る
能力値になっているんだよ。てか、器用だけだったら俺負けている
んだけど。︵俺は90,080︶
で、今は何をやっているのかと言うと、この︽身体強化︾を上手
に扱えるようにするために訓練をしているのだ。
ただ、エリラは全力でやっているので、俺も冗談抜きで死んでし
まう可能性があるだけに、もはや俺も余裕をもって戦うのは少し難
儀になっている。
ちなみにこのエリラのスキル。固有スキルに分類されているせい
で俺の︽理解・吸収︾でも取得することは出来なかった。
一見すごいチートスキルと思われるかもしれないが、もちろん問
題もある。
﹁︽桜吹雪︾!﹂
光の刃がエリラを襲う。昔、炎狼相手に使ったあの魔法とは規模
も威力も桁違いの魔法だ。
﹁くっ!﹂
防御魔法などを持っていないエリラはもろに攻撃を受け、先ほど
の俺みたいに後方へと吹き飛ばされる。貫通性能がある光の刃は肩、
胴体、太股を貫通した。
1814
ドォンと地面に激しく衝突し煙が舞い上がる。そこに追撃で光の
刃が飛び込んでいった。俺は攻撃の手を止め、煙があがるエリラの
所へと近づいた。
煙が晴れると中から仰向けに倒れたエリラの姿があった。先ほど
まで溢れるかのように渦巻いていた魔力は完全に消え、全身で激し
く呼吸をしており顔色も悪かった。傷口から血が流れているが、少
しだけ出血量が多いような気もする。
﹁⋮⋮1分ってところか⋮⋮﹂
﹁はぁはぁはぁ⋮そ、それ⋮⋮だけ⋮⋮?﹂
﹁ああ、やっぱり身体的負担が大きすぎるんだ。ステータスが10
倍に跳ね上がるんだ、体の方が追いついていないんだよ。現時点で
Lv.5を使うのは現実的じゃないな﹂
そう言いながら、俺はエリラを治療してあげる。傷口自体は直ぐ
に塞がったが相変わらず全身で大きく息をして、見るからに苦しそ
うだった。
バットステータス︻疲労︼の効果なのか今のエリラのステータス
は4桁をきっていた。こんな状態になるんじゃとてもじゃないが実
戦では使えないな。
エリラをお姫様抱っこで抱えると、屋敷の方へと戻り出す。
﹁ふふ⋮⋮﹂
荒い呼吸の中でエリラが微かに笑った。
1815
﹁? どうしたんだいきなり笑いだして?﹂
﹁クロに⋮⋮抱っこしてもらっていると⋮⋮思ったら⋮⋮嬉しくな
ったのよ⋮⋮﹂
恥ずかしげも無く言ったもんだから、俺は思わず顔を背けてしま
う。それを見てエリラはもう一度笑ったが、それすらもきつかった
のか、すぐに目を閉じ、俺の胸に顔を埋め動かなくなった。
使いどころが難しいスキルを覚えたもんだと俺は思った。
スキルを取得してから3日間はお互い傷がしっかり癒えるのを待
って、再び今日やってみた訓練だが、こんな調子じゃまた寝込むだ
ろうな。
Lv.5は難しいかもしれないが、Lv.4やLv.3は使えな
いのかな? その辺もまた完治してから検証かな。早く上手に使え
るようになってもらいたい。
エリラが強くなると言う事は俺にもメリットが多いからな。
︽身体強化 Lv.5︾の効果にワンランク上のスキルを扱える
って内容があったところを見るに、恐らくだが俺がまだ持っていな
いようなスキルも使えるようになるんだろう。︽理解・吸収︾でゲ
ット出来るなら是非ともゲットしたいところだ。
仲間を守れるようになれば、俺も行動の自由が広がるし負担も減
るからな。
﹁⋮⋮頑張れよ﹂
1816
俺はエリラに一言そういっておいた。聞こえたのかどうかは良く
分からないが、エリラが微かに頷いたように感じた。
さて、俺も頑張っていかないとな。
1817
第175話:︽身体強化 Lv.5︾︵後書き︶
どうでも良い事ですが、最近、艦○れに再びはまってレベリング
頑張っています。国家試験とか色々迫って執筆作業も滞っているの
に何やっているんだと自分に言いながらカチカチしていました。
小休憩章なので、自分自身も少し休憩をする。必要だと思うので
す︵キリッ
⋮⋮あっ、すいませんブラウザバックしないで下さい︵土下座︶
活動報告にて︻コメント返し002︼を掲載しました。よろしけ
れば見て下さい。
1818
第176話:指揮をしてみよう︵前書き︶
遅れて申し訳ありません︵土下座︶
※補足
前回の回を見て普通の︽身体強化︾と︽身体強化 Lv.5︾
の違いが分からないと言う事で、簡潔にまとめておきます。
通常の︽身体強化︾
・全ステータスの最大上昇値は1.5倍︵固定︶
・スキルレベルが上昇すると身体の局所だけを強化して体力の消費
を抑えたりすることが出来る。
エリラが取得した︽身体強化︾
・全ステータスの最大上昇値はスキルレベル︵エリラの場合は最大
5︶×2倍まで上げる事が出来る。
・体力の消費が尋常じゃない。
・体力を消費しすぎると使用後に︽疲労︾状態になる。
こんな感じですね。分からないことがあればご質問お願いします。
⋮⋮ちなみに年齢の質問も頂いていましたが、当の私もどこで数
え間違えたのか疑問に思っています。︵オイ!︶
今後どうなるか分かりませんが、現時点ではクロウの年齢は﹁1
5﹂であることに変わりはありませんのでご了承下さい。
1819
第176話:指揮をしてみよう
﹁GAAAAAAAAA!!!!!﹂
森に鳴り響く獣の叫び声。それも1体や2体ではない。︽マップ
︾で詳しく見た訳ではないが恐らく十数体はいるだろう。それぞれ
が独自の声を出しておりまるで合唱でも聞いている気分になる⋮⋮
超が付くぐらい音痴だが。
﹁来ました! 戦力はフォレストウルフ9体でございます!﹂
﹁銃撃用意、構え!﹂
俺の合図で一斉に銃を構える獣族たち。女性のみで編成された小
隊、その数10名。
その10名全員が持っている銃の口は獣道に全て向いており、そ
の先には狼がこちらに集団で向かって来ていた。
突撃をしてくる狼を見て誰かがゴクリと唾を飲み込んだ。
﹁慌てるなよ。キルゾーンに入って来たら一斉に撃つぞ!﹂
狼との距離は残り200メートルっていった所か。幸い森の中で
も比較的見渡せる開けた場所で出くわしたのは有難いな。まあ初実
践に森を選ぶなよという話になるのだけどな。
と、そうこうしているうちにたいぶ近づいて来た。
狼との距離が残り150メートルを切った所で︱︱︱
1820
﹁撃て!!﹂
俺の指示と共に銃口が火を噴いた。ダダダダッ! とこの森がお
そらく今まで体験したことも無いような音が響く。
そして、コンマ1秒と経たずに放たれた魔力の弾丸が狼たちを襲
っていた。
﹁キャィン!?﹂
何が起きたか分からない狼たち。聞いたこともない音が聞こえた
かと思えば次の瞬間には自分たちの体に激痛が走っていた。
刃物が貫通してしたときの感覚が狼たちを襲った。それも1、2
体では無い、9体全員が個所は違えど血を噴き出し倒れて行った。
︱︱︱称号︽指揮官︾を取得しました。
︱︱︱スキル︽指揮︾を取得しました。
︱︱︱スキル︽武神降臨︾を取得しました。
︱︱︱称号︽一斉射撃︾を取得しました。
︱︱︱スキル︽掃射︾を取得しました。
==========
称号:指揮官
取得条件
・小隊以上の部隊の指揮を一度でも執ること
効果
・指揮時に指揮下にいる隊員全員のステータスが極小アップ
==========
スキル:指揮
分類:戦闘スキル
1821
取得条件
・称号︽指揮官︾取得済み
・付与魔法系スキルレベルが﹁7﹂以上あること
・指揮下隊員全員に統一心があること
効果
・指揮下にいる隊員全員の生命ステータスをアップさせれる。
・24時間に1回、指揮下にいる隊員全員に一人分の魔力で全員に
付与魔法をかけれる。
==========
スキル:武神降臨
分類:戦闘スキル
取得条件
・レベル100以上
・スキル︽一騎当千︾取得済み
・称号︽一騎当千︾取得済み。
・称号︽指揮官︾取得済み。
・武器スキルのいずれかがレベル﹁10﹂を越えている。
効果
・指揮下にいる隊員全員のステータスが極大アップ
・指揮下にいる隊員全員の精神に大幅補正がかかる
・敵に常時︽威圧︾を行える。
==========
称号:一斉射撃
取得条件
・称号︽指揮官︾取得済み。
・遠距離系武器を使用し短時間で︻隊員数/2︼以上の敵を倒す事。
効果
・指揮下にいる隊員全員の器用ステータスアップ。
・指揮下にいる隊員全員の遠距離射撃能力が向上する。
エキストラ取得条件
1822
・レベル70以上
エクストラ効果
クリティカルヒッティング
・銃の使用時発射までの時間を僅かに短縮できる。
・スキル︽掃射︾取得。
ロックオン
==========
スキル:掃射
クラスター
分類:戦闘スキル
効果
・銃弾に︻分裂︼︻狙い︼︻急所撃ち︼を付与する。
・弾一発の消費魔力大幅削減︵魔銃使用時のみ︶
==========
もはや恒例となったスキルと称号の山。もはや自分でもどれを持
っていたか正確に把握するのが難しくなって来た。
今回取得したのは指揮系スキルと射撃系スキルか。︽掃射︾が新
たに追加されたことにより︽全属性装填︾と組み合わせれば恐ろし
クラスター
ロックオン
クリティカルヒッテ
いことになりそうだ。と言うか先にこっちを取得しろよ、どう考え
ても見劣りしてしまうだろうが。
ィング
これで、銃に一気に付与できる効果は︻分裂︼︻狙い︼︻急所撃
ち︼︻追尾ホーミング︼︻爆発エクスプロージョン︼ということに
なる。これに銃一発に使う魔力も削減されるとなると、俺一人と銃
一本用意すれば中隊ぐらいまでは潰せるよな。
どうしよっか、マジで機銃作った方がいいかもしれないな。まあ、
その分の素材は不足しているからまた後の話だけど、検討しておこ
う。
次に指揮系スキルだが⋮⋮一見すると普通かなと思ったら一つお
かしなのが混ざっていやがった。︽武神降臨︾ってなんだよ、オイ。
軍神じゃないんだな、上杉謙信じゃないんだな。どっちかと言うと
1823
武田信玄の方なんだな。
︽指揮︾は魔法学園の時に取れそうだなと思ったが﹁統一心﹂の
3文字を見た瞬間、心にグサッと来るものがあった。あの方法じゃ
心は合わせれないという現実を突きつけられた気分になる。
逆に言えば彼女たちとはそれなりの関係を作れているんだなと少
し安心したりもした。
統一心がいるということはおそらくだが、彼女たちを指揮する時
にしかこのスキルは発動できないのだろう。まあ、今後他の奴らの
指揮を取るなんざゴメンだけどな。自由に戦っている方が性にあっ
ていると思うし。
その後、スキルの実験も兼ねて森での訓練を続けた。スキルや称
号の効果は絶大で、その後の戦闘では彼女たちが驚いたり慌てたり
緊張してたりする様子は見られなかった。︽武神降臨︾の精神補正
のお蔭だろう。射的技術もグンと上がっていた。
ここまで差が出るとなると何も話さないのは不自然になるので、
指揮系スキルについては彼女たちには話しておいた。驚いたが最後
は﹁クロウさんですからね⋮⋮﹂で納得した。納得の仕方に疑問は
抱いたが納得してくれたらならそれでいいやと特に何も思わなかっ
た。
結局、この日は丸一日を費やして森での実践を行った。倒した数
は狼100体前後。これくらいやってしまうとちょっとした食物連
鎖の崩壊を招いてしまったのでは無いかと不安になるが気にしない
でおこう⋮⋮次は気を付けます。
1824
==========
時間は戻り、クロウが森の中でスキルを取得した頃。
エリラは庭で一人訓練をしていた。
子供たちはというと貰った試作品の武器で遊んでいた。ただ、地
面を叩いたらヒビが入り、剣で鍔迫り合えば火花が舞うこの状況下
を﹁遊ぶ﹂で済ませていいのか疑問になるが、彼らにとっては﹁遊
び﹂なので、ここでは遊びで通させてもらう。
そんな子供たちと大分距離を開けた所で早速エリラは訓練を始め
た。
﹁⋮⋮︽身体強化 Lv.1︾﹂
Lv.1でもエネルギーの使われ方が半端じゃないわ
体に力がみなぎって来る。だが、それと同時にすぐに息が荒れて
来る。
﹁やっぱり
ね⋮⋮﹂
昨日、クロウに言われ︽身体強化 Lv.1︾にまずは慣れるこ
とにしたエリラ。目標時間は取りあえず20分を目途に考えていた。
1825
︽身体強化 Lv.1︾を使用したまま普段から続けている素振
りを中心としたメニューをこなし始める。
いつもなら丸半日は動き続けるのだが、今日にいたっては10分
も立たずにエリラは地面に倒れ込んでしまった。
大粒の汗を掻き、大きく息をする。たった10分間の素振りです
らもスキルを使った状態の彼女にはまるでフルマラソンでもしてい
るような状態になってしまう。それ程までにこのスキルを使うには
膨大な力が必要となるのだ。
︵Lv.1でも10分程度⋮⋮これじゃあ実戦には程遠いわね⋮⋮︶
ぐっしょりと掻いた汗を手で払いながら重い体を持ち上げる。
︵でも⋮⋮やらなきゃ!︶
息が荒いまま再び剣を構え、︽身体強化 Lv.1︾を発動し素
振りを始める。だが、今度は僅か3分足らずで動けなくなり地面へ
と再び倒れ込んだ。
頭がグラグラし、視界が狭まる。流石のエリラもこれには動かな
い方がいいと直感で理解したのか、ある程度治るまでは地面に倒れ
たままだった。
﹁大丈夫?﹂
そんなエリラを上から覗きこむ人がいた。テリュールだ。
1826
﹁⋮⋮﹂
エリラはその言葉に何も答えない。いや、正確には答えれなかっ
た。
﹁⋮⋮ある程度の無理は仕方が無い事かもしれないけど、無茶は駄
目よ。体を壊したら元もこうもないからね、いいね?﹂
﹁⋮⋮﹂
息は乱れたままだったが、エリラは少しだけ頷いてみせた。その
様子にテリュールは納得をしたのか、笑顔で子供たちの方へとむか
って行った。
﹁⋮⋮﹂
この時エリラが何を思ったかはエリラ自身しか分からないことで
あったが、その後、再び息を整え終わると︽疲労︾状態のまま彼女
は再び剣を振り始めるのであった。
1827
第177話:掛け声は﹁KINNNIKU﹂︵前書き︶
最後にお知らせがあります。
1828
第177話:掛け声は﹁KINNNIKU﹂
﹁ただいまー﹂
﹁おかえりなさいなのです!﹂
帰宅と同時に待っていたのはフェイのお帰りなさいダイブだった。
﹁お利口さんにしていたか?﹂
﹁もちろんなのです!﹂
﹁そうか、フェイはいい子だな、よしよし﹂
﹁えへへ﹂
それを華麗に受け止めフェイを褒めてあげる。しっぽをフリフリ
している姿がとても可愛い。フェイの後ろにいたフェイのお姉さん
が﹁私も⋮⋮﹂と何やら呟いていたがそれ以上は聞き取れなかった
のでスルーしておこう。
﹁お帰りなさい。どうだった?﹂
テリュールも家の奥から出てきた。彼女には留守番を任せていた
のだが、様子を見るに特に何も起きて無さそうだ。
﹁ああ、想像以上の物を得て来たよ﹂
1829
武神と付く謎のものをな。
﹁そう、良かった。こっちは⋮⋮まあ、大丈夫だと思うよ﹂
﹁? どういうことだ?﹂
﹁いやね、エリラが一人特訓をしていたんだけど気付いたら、完全
に伸びててね。叩いても反応が薄くて自力で起きそうも無かったか
ら、私が寝室まで運んでおいたけど⋮⋮﹂
﹁⋮⋮死んでないだろうな?﹂
﹁それは無いよ⋮⋮たぶん﹂
たぶんかよ!?
﹁⋮⋮ちょっと見て来る﹂
﹁! だ、大丈夫だよ! 息もしていたし私の声にも多少は反応し
ていたから!﹂
俺がエリラのもとに行こうとするのを見てテリュールが全力で止
める。
﹁本当かよ、なんか言葉から怪しい雰囲気しかしないんだけど?﹂
﹁ほ、本当よ! ただ、回復魔法が効かなかったからちょっと不安
になっただけで⋮⋮﹂
ああ、そういうことか。恐らくだが︽身体強化 Lv.5︾の練
1830
習をした反動で﹃疲労﹄のバットステータスが付いたのだろう。あ
スキルオーバーヒート
れは、回復魔法が通用しないものらしいから仕方ないよな。
前に聞いた話だと俺も︽技能異常熱︾だっけ? になっていたら
しいからな。あれも回復魔法が全く通用しない状態異常だったらし
いからな。
﹁それなら多分大丈夫だろうけど、あとで一度様子を見に行くか﹂
﹁うん、そうしたらいいよ⋮⋮所でさ﹂
﹁?﹂
﹁⋮⋮あれ⋮⋮誰?﹂
ん? と思い俺は後ろを振り返った。俺の後ろにいたのはニャミ
ィ以下獣族の大人たちだ。それだけなら別に問題は無い。だが、問
題はさらにその後ろの方にあった。
﹁⋮⋮﹂
どこかで見たことある顔かつ上半身裸の男が一人、片腕を天に向
け、もう片腕を腰に当てるという言葉には非常に表しにくいポーズ
を取ったまま満遍の笑みをこちらに向けていると言うシュールな光
景がそこにはあった。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ムゥゥゥゥゥゥン!!!﹂
1831
﹁第一発言がそれかよ!﹂
しばしの無言ののち、男は謎の声を上げながら今度はファイティ
ングポーズを取った所に俺のツッコミが入る。
﹁中々会話に入り込むタイミングが無くての、途中からめんどくさ
くなったので終わるまで筋肉フェロモンを増やすトレーニングをし
てまっていたのじゃよ﹂
﹁アレが!?﹂
あのポーズがトレーニングだと言うのか。
﹁⋮⋮知り合い?﹂
﹁イエ ゼンゼン シリマセン ヨ ハジメ テ アッタ ヨ﹂
テリュールはドン引きしながら俺に聞いてきた。好奇心旺盛な彼
女からしてみても、まずこの人と友達になるのは無理そうだなと思
った。
で、テリュールの問いに俺も当然、否定をしたのだが。
﹁oh! 何をいっているんじゃ! 一緒の筋肉教の仲間じゃない
かいブラザーよ!﹂
﹁そんな宗教に入った覚えもないし、お前と兄弟になった記憶もね
ぇぞ!﹂
当然、即答である。
1832
﹁だれなのでs
﹁見ちゃいけません﹂
フェイが変質者を指さしながら何かを言おうとしたのを、テリュ
ールが即座に止めフェイの両目を隠した。
﹁何もねえなら帰ってもらえるか? うちの子供たちの教育上よろ
しくないのと、俺に変な疑いをかけられたくないんだけど?﹂
﹁フハハハハ! そう怒るなよブラザーよ! 実はのレウスからお
前を呼んで来てくれとお願いされての﹂
レウス? 確か筋肉兄弟の次男を名乗っていた奴だっけ? あの
中で一番まともそうな︵?︶奴から呼ばれたのか。
﹁なんかの、ワシが日課のフルマラソンをしていた時に鎧とかいう
貧弱な服をつけた集団が来ての、この街の兵士たちともみ合いにな
っていたんじゃよ。まあ、ワシはフルマラソンを続けるべく走ろう
としたのじゃが、レウスが﹁面白そうなのでクロウさんも呼びまし
ょう﹂と言って、ワシがお使いに任されたわけじゃ﹂
面白そう!? そんな理由で? てか、鎧という貧弱な服? い
や、それよりも謎の集団? なんのことだよ!?
﹁と、いう訳で行くぞ!﹂
KINNNIKU!!﹂
﹁いや、俺帰って来たばかりで疲れているのでパスさせてm
﹁Let`s
﹁ギャアアアアアア! いやだ死にたくなあい!!!!﹂
1833
謎の掛け声と共に首元を掴まれた俺は成す術も無く引きずられて
行くのだった。
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
あまりの唐突なことにテリュールを始めとする皆は一時呆然とし
たのち。
﹁⋮⋮! まっ待ってよ!﹂
﹁お兄ちゃんがつれさられたのです! きゅうしゅつするのです!﹂
後を追いかけて来たのだった。
1834
第177話:掛け声は﹁KINNNIKU﹂︵後書き︶
という訳で、今回も遅くなった挙句短くてすいません。
そして、待たせている皆様には大変もうしわけないのですが、2
週間の間更新を止めさせて頂きます。
と言うものですね、国家試験が近づいておりまして、私勉強しな
いとやばい状態なのです。
何とか合格をしたいので、試験が終わるまでしばしの間更新は止
めさせてもらいます。
更新再開後はその分の遅れを取り返すつもりで頑張っていきます
ので、皆さんなにとぞご理解お願いします︵土下座︶
1835
第178話:無知とは恐ろしいもの︵前書き︶
皆様大変お待たせしました。本日より再開いたします!
1836
第178話:無知とは恐ろしいもの
筋肉兄弟の三男に引きずられ気付けば街の出入口付近まで来て
しまった。
途中全力で逃げようとも考えたのだが、どこに逃げても追って
来そうで怖くなったのでやめた。
日課がフルマラソンの人にはスタミナで勝てる気がしません。
というか、この世界の事だからきっと恐ろしいスキルや称号を持っ
ているに違いない。
﹁レウスよ、連れてきたぞ!﹂
テルムがプロレウスを呼んだ。ふと視線を向けると城門付近に
人が集まっている様子が見えた。
よく見ると人の集まりは二つの集団に分けられそうだ。
︵あれは⋮⋮アルダスマン国の兵士と⋮⋮残りはどこの奴らだ?︶
鎧の装飾などから明らかにアルダスマン軍とは別の軍隊だ。
殺気立っている二つの集団。その集団の中央に兵士が二人いた。
ここからではよく聞こえないが何かを言い合っているようだ。
﹁戻ってきましたか﹂
兵士たちの集団を近くから見ていた次男のプロレウスことレウ
スがこちらに気付き近付いて来た。
1837
﹁約束通りクロウ殿を連れて来ましたぞ﹂
﹁⋮⋮で、俺を呼んでどうするつもりだ?﹂
俺は不機嫌な気持ちを出すように言った。
﹁いえ、あそこで揉めている兵士たちをどうにかして欲しかったん
ですよ﹂
﹁それだけ?﹂
﹁ええ、あれをどうにかしないと街から出れないじゃないですか﹂
﹁⋮⋮てめぇ⋮⋮﹂
帰っていいよね?
﹁いやー、私たちではどうにもなりませんので助かりますあざーす
︵棒﹂
﹁言葉に有り難みを全く感じないんだが﹂
そんなことで俺は連れて来られたの?
てか、帰ってやる!
と、その時
﹁クロウお兄ちゃんを見つけたのです!﹂
どこからともなく明るい声が聞こえてきた。
1838
﹁きゅうしゅつするのです!
ぷらんえーで行くのです!﹂
フェイだ。見ると街の方から俺を追っかけて来たのかフェイを
プランA?
初めとする獣族たちとテリュールがこちらに向かって来ていた。
⋮⋮ん?
﹁かかれーなのです!﹂
フェイの合図と共に子供たちが一斉に飛びかかってきた。そし
てなんの躊躇もなしに俺を捕まえていたテルムに向かって思いっき
り突っ込んで来た。
プランA。これは後で分かったことなのだが前に俺が何かの拍
子に言った﹁プランAが駄目ならB⋮⋮まあ、そんなのないけど﹂
から来ているらしい。
当事、何故そんなことを言ったのかよく覚えてはいないが、お
そらく某Aチームから何となく連想して言ってしまったのだろう。
で、それを彼女は覚えていたということだ。なのでフェイたち
はプランAの意味など全く知らない。
﹁クロウお兄ちゃんを離せなのです!﹂
そう叫びながら強烈なタックルを自らテルムにお見舞いする。
俺が家に帰った際にフェイからのお帰りなさいダイブを俺は結構簡
単に受け止めていたが、あれでも最初のころ、不意打ちで受けたと
きは、しばらく呼吸が出来なかったほどに強烈だった。
そのときと比べてステータスが大幅に上昇したフェイのタック
1839
ル⋮⋮それは最早子供のタックルなどとは言えない。例えるなら車
との正面衝突ほどの威力はあるだろう。
ーーーゴスッ!!
﹁あっ﹂
そして有ろう事かそのタックルの矛先はテルムの息子がある股
間を捉えてしまっていたのだ。しかもご丁寧に人の一番固いであろ
う頭からフェイは突っ込んでいた⋮⋮。
フェイがぶつかった衝撃でテルムは何やら言葉にならないよう
な声を出しながらフェイとともに城壁の方へと吹き飛ばされてしま
大丈夫かッ!?﹂
った。俺はと言うとテルムが手を離したお陰で事なきを得たのだが。
﹁フェイ!
当然、フェイの事が心配となり慌ててかけよる。砂煙のお陰で
どうなったのか全く分からなかったのだが。
﹁かったのです!﹂
ほめてほめてー!﹂
その中からブイサインをしながらフェイが飛び出して来たのを
見て俺はホッとした。
﹁お兄ちゃんかったのです!
そんなフェイを俺はガシッと捕まえ、優しくなでなでしてあげ
た。
1840
﹁そうだなよくやったよ﹂
本当はあんな無茶をするなと怒りたかった気持ちもあったが、
自分のためにあんな無茶をしてくれたと思ったら、怒るに怒れなか
った。
﹁でも、あんな無茶な真似はするなよ﹂
フェイをなでなでしながら俺は注意だけはしておいた。
﹁はーい﹂
聞いているかどうかは分からないがニコニコしながらフェイは
元気に返事をしてくれた。
声がした方を見ると砂煙の中からテルムが
﹁フォォォォォォォォォォォ!!!!﹂
今度はなんだ?
変な奇声と共にのたうち回りながら出てきた。
﹁いやーお嬢ちゃん流石ですね。テルムを吹き飛ばすなんて子は滅
多にいませんよ﹂
そう言いながらレウスがテルムの方へと歩いていく。
ワシの球は
男の子として生
レウスよ!
生きているのか!?
﹁ヌオオォォォォォォォォォォ!!
大丈夫なのか!?
きているのか!?﹂
1841
のたうち回りながら、叫び声を上げるテルム。
﹁そんなにしゃべれるなら大丈夫ですよ。子供にタックルされただ
けでなに騒いでいるのですか?﹂
子供のタックルと言っても威力は尋常じゃないけどな。
﹁とりあえず起きてジャンプすれば大丈夫ですよ。ほら起きて起き
て﹂
﹁う、うm﹂
ーーードスッ!
﹁﹁あっ﹂﹂
一瞬何が起きたか分からなかった。
何故ならレウスの爪先がテルムの股間を捉えていたからである。
﹁フオォォォォォォォォォ!﹂
ふたたびのたうち回るテルム。
﹁おっと足が滑ってしまいましたすいません︵棒﹂
﹁おい、全く悪く思っていないだろ﹂
﹁いやそんなことありませんよ︵棒﹂
嘘つけ。
1842
﹁?
クロウお兄ちゃん。あの攻撃はそんなに痛いのです?﹂
フェイの純粋な疑問に何故か心が痛くなる。
そうなのですか?﹂
﹁⋮⋮すっごく痛い﹂
﹁?
多分フェイには一生わからない痛さだろう。
無知って怖いね。俺は改めてそう感じるのであった。
1843
第178話:無知とは恐ろしいもの︵後書き︶
当初の予定では土曜日更新でしたが、何故今日更新したかとい
いますと。
我慢出来ませんでした。︵キリッ
いや、パソコンが帰って来ていたら土曜日更新予定だったので
すが。
も
ディスプレイの
修理に出したのは10月半ばですよ?
ノートパソコンですよ?
何故か再来週以降しか帰ってこないとのことで。
いや、何で?
交換だけですよ?
う一ヶ月ですよ?
と、先生に今日聞いて私のなかで何かが吹っ切れました。
スマホからの更新ですので量も内容も薄いかもしれませんが、
しばらくの間はこれで我慢お願いします。お願いします何でもしま
せん︵キリッ
こんな調子ですが、これからも異世界転生戦記をよろしくお願
いします。
1844
誤字を修正しました。
第179話:開戦? ラ・ザーム帝国︵前書き︶
※11/21
1845
第179話:開戦? ラ・ザーム帝国
フェイからの強烈なタックルとレウスによる無慈悲な蹴りをピ
ンポイントで受けたテルムの事は置いといて、俺の視線は門付近で
揉め合っている連中に向いた。
﹁何度も言っているだろ、主要都市はほぼ壊滅した。アルダスマン
国は首都を魔族に落とされ事実上滅亡した。これ以上の抵抗は孤立
悪いが悪名高いラ・ザームに渡
を深め魔族や龍族によって滅ぼされるという事が判らないのか?﹂
﹁だからさっさと明け渡せと?
すものなど何もない。欲しければ力ずくで取るんだな﹂
おい、なんか聞こえちゃ行けない言葉が聞こえて来ているんだ
が。
試しに︽透視︾で見てみると街の外にラ・ザームと思われし軍
隊がズラリと並んでいた。
数にしておよそ3000と言った所か。
だが驚くところは数では無い。
︽千里眼︾で兵士一人一人の顔を見るが誰一人として姿勢を崩
さず、顔色1つ変えることは無く、まるで人形のように黙って立っ
ているのだ。
︵怖⋮⋮︶
素直にそう思った。強い弱いといった問題では無い。あれはま
1846
るで⋮⋮何かに支配されているような⋮⋮呪われているような⋮⋮
いや、この結論は安易につけるべきじゃないな。普通に良く訓練さ
れた兵なのかもしれないからな。
良く見ると門で騒いでいるのもアルダスマンの兵士でラ・ザー
ムの兵士たちは暴れようとするアルダスマンの兵士たちを牽制して
いるだけのようだ。
﹁そうか⋮⋮ならこれ以上何も言わない。戦いでけじめを着けさせ
てもらおう﹂
﹁当たり前だ! 分かったらさっさと帰りな!﹂
カエレカエレと騒ぐアルダスマン兵に対し顔色一つ変えないラ・
ザーム兵、彼らを見ていると子供と大人の争いに見えて来る。
⋮⋮いや、待て冷静に考えるな俺。今、目の前で宣戦布告をされ
ているんだぞ。と言っても俺はアルダスマン国に特に思い入れがあ
る訳でもないので正直な所この街がどの国の統治下になっていよう
ともどうでもいいのだが。
と言うか、俺は正直な所ラ・ザームが占拠した方がいいと思う。
都市国家になるよりもある程度勢力を持っている国の傘下に入っ
た方が魔族や龍族の侵入を抑えれるだろうし、復興も早く進むだろ
う。
それはそうとして、その前に悪名高いと言う事が妙に気になる。
重税を課したり、強制徴収されたり強制労働をやらされるのだろう
か? そういうのはお断りしたいものだ。
﹁君たち!﹂
1847
一人の兵士がこちらに近づいてきた。近づいてきた兵士は一度だ
け未だにのたうち回るテルム︵上半身裸︶を見たが、関わっちゃい
けないと思ったのかすぐにこちらを向いた。
﹁今からラ・ザーム帝国と一戦を交える! 門付近は危険だから離
れるのだ!﹂
あっ、マジで一戦するんですね。あんなやり取りでやる気なんで
すね。
兵士はやる気満々のようだが、正直勝ち目はないだろう。数では
圧倒され練度も新兵が多く話にならない。
勝ち目は薄い。門があるから多少の防衛は出来るかもしれないが、
外壁は一部あの龍王のせいで未だに穴が開いたままの状態で、正直
殆ど機能はしないだろう。
﹁? クロウお兄ちゃん何が始まるのですか?﹂
物騒な雰囲気になったのをフェイは敏感に感じ取ったのだろう。
不安な目でこちらを見てきた。
﹁だ⋮⋮まあ、フェイたちには関係ないことだと思うよ﹂
フェイの言い方に思わず﹁第三次大戦だ﹂といいかけてしまいそ
うになるが、ギリギリで言葉を飲み込んだ。
﹁そうなのですか?﹂
﹁ああ、俺がいる以上は何も起きないよ﹂
1848
そういってフェイの頭をなでなでする。耳がピョコピョコ動いて
いるので撫でられて喜んでいるようだ。実際、顔が非常に喜んでい
たので間違えではないだろう。
さて、俺は皆を家に帰るように指示をし、どうしようかと考えよ
うとしたとき
﹁ここはクロウさんもドンパチに混ざりましょう﹂
レウスだ。おい、キリッってこちらを見てるんじゃねーよ。
﹁何故そうなるんだよ⋮⋮﹂
﹁安心して下さい。骨は捨ててあげますから﹂
﹁いや、そこは拾えよ﹂
﹁そして、フェイちゃんは私がもらって行きますので︵キリッ﹂
﹁帰れロリ○ン﹂
﹁フォォォォォォォォ!! 球が! 球がぁぁぁぁぁ! 息子がぁ
ぁぁぁぁ!﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
﹁まあ、アレは置いときまして、実際どうするつもりですか?﹂
テルムの事は無視しておくとして実際はどうするんだとレウスが
1849
問いかけてきた。
﹁どうするって⋮⋮家に戻って逃げる支度でもするつもりだけど﹂
﹁いやぁ、嘘つかないでいいですよ、クロウさんぐらいの人ならあ
の兵力ぐらいなら一人でどうにかなりますでしょ?﹂
﹁いや、何故そうなる﹂
﹁だってそうでしょ? 数百の龍族や魔族を一瞬で葬るあなたなr
﹁!﹂
考えるよりも先に手が動いた。気付けば俺はレウスの口を手で押
さえ引きずるような形で近くの壊れた民家の裏側にまで移動をして
いた。
民家の裏側でレウスの胸倉を掴んで問いかける。
﹁⋮⋮何故それを知っている?﹂
魔物の方は学園の生徒の前で盛大に使ってしまったので仕方が無
いにしても龍族の方は誰も知らないはずなのに。
どうする? 口封じするか? ︽倉庫︾から剣を引き抜こうか考
えていると、レウスからとんでもない言葉が返ってきた。
﹁あれ? 本当だったんですか?﹂
﹁⋮⋮え?﹂
1850
﹁いやぁ、噂で誰かが倒したって言うのは聞いたので、まさかと思
っていましたが⋮⋮いやぁ、意外でしたね﹂
﹁⋮⋮﹂
この時、俺は素直に﹁しまった⋮⋮﹂と思ってしまったのだった。
1851
第179話:開戦? ラ・ザーム帝国︵後書き︶
活動報告にも書いていますが無事にPCが一か月以上の期間を経
て帰ってきました。これで、執筆作業もモリモリ進みそうです。
ただ、卒業研究も同時進行で行っていますので、元の更新速度は
厳しいかもしれませんがご了承下さい。
1852
誤字を修正しました。
第180話:レウスの提案︵前書き︶
※11/29
1853
第180話:レウスの提案
﹁⋮⋮チッ﹂
俺は小さく舌打ちした。
くそ⋮⋮完全に先走ってしまった。
﹁若いわりには大きな家に住んでいるとは思いましたが、まあその
ような実力があるなら納得ですね。ああ、心配しないでください別
に他人に話すつもりはありませんので﹂
俺の心を読んだのかレウスはそう言った。
﹁ん? そうなのか? それは有難いが何故だ?﹂
意外な反応だったので俺は思わず聞いた。
﹁強い人を敵に回したら速攻で消されることぐらいカラスにでも分
かりますよ⋮⋮まあ、テルムはどうだか分かりませんが﹂
一人でのたうち回っているテルムを思い出し内心シュールだなと
思いつつ、何となく納得した。してしまったのだ。何故か﹁ああ⋮
⋮あいつだからな﹂と思ってしまったのだ。
﹁⋮⋮まあ、誰にも言わないでくれよな⋮⋮ばれたら面倒なんだ﹂
物分かりのいい人で助かった。これで﹁ばらさない代わりに∼﹂
みたいなことを言い出したらどこかで消す必要もあったかもしれな
1854
いからな。まあ、それは最終手段だろうが。
今の所、力を見せるメリットは皆無なのでレウスの言葉は有難い。
﹁じゃあ、改めてそんな桁違いの強さを持ったクロウさんはこの事
態をどう対処しますか?﹂
ああ、なんかそんな質問されてたな。
﹁どうするって言ってもな⋮⋮孤立を防ぐなら間違いなく降伏だけ
ど俺にどうしろと? 正直、こんな争いに参加したくはないぞ﹂
なかま
この街にそこまで執着する理由も愛着心も無い以上、家族の安全
第一に行動するのが一番良い。家族の事を思うなら、出来るだけ安
全な方が良いに決まっている。
﹁まあ、面倒事を見るのは好きですが、巻き込まれるのは私も勘弁
ですね﹂
﹁巻き込まれるって⋮⋮あんた、この街に来た時点で巻き込まれて
いないか?﹂
﹁いえ、まだ見ているだけですよ。だってテルムの行動が面白いで
すから﹂
レウスは満遍の笑みでそう答えた。
こいつ⋮⋮腹黒い⋮⋮。
先ほどのテルムへの追撃も見るにどうやらレウスは一種の﹁S﹂
1855
なんだろう。だから俺を呼んだのだろう︵楽しそうと言う意味で︶。
﹁さて、では巻き込まれる前に面倒事を起こしてみてはいかがでし
ょうか?﹂
相変わらず満遍の笑みを浮かべたままレウスは言った。
﹁? どういうことだ?﹂
言葉の意味をサッパリと掴めない俺は首を傾げる。問題を起こせ
ば巻き込まれることは覚悟しないといけないはずだが⋮⋮?
﹁クロウさんなら可能でしょう?﹂
そう言ってレウスは城壁を指さし
﹁アレをぶっ壊すぐらい﹂
と言った。
アレ
﹁⋮⋮オーケー、一回整理しようか。門を壊すとはどういう意味だ
?﹂
﹁何、簡単な話ですよ。籠れる場所を無くせばさっさと降伏するじ
ゃないかと言う事です。まあ、その後の修繕などは知った事ではあ
りませんが﹂
﹁いや、門壊したぐらいで降伏するか? あの様子だと市街地戦に
なってもやり合うぞ?﹂
1856
﹁いえ、それはないでしょう。先ほどの会話を見る限り将兵は新人、
周りの兵士らもあの噛みつきようから練度は高くないはず⋮で、こ
の街の周辺は僅かに森が少々あるのみの平原で撤退する場所も無い
⋮⋮と言う事は、守備側は打って出るか、籠城戦以外の手は無い。
そして、もともと数にも差がある以上打って出ることは自滅に近い。
よって籠城して敵の士気を削る持久戦に持ち込む以外に勝利は無い
のです。なら、その籠城を出来なくしてしまえば? 手を無くした
軍と言うのはやけくそで暴れるか降伏するかの二択になるものです。
この場合後者である確率は高く、また暴れた所で逃げ場など無いの
ですから討つことぐらいは容易いでしょう⋮⋮と私は思うのですが
?﹂
長々と話したが要は戦う意思を作り上げている物をぶっ壊して降
伏させちまおうぜと言うことか?
口では言うのは簡単だが、そう簡単に事は運ばないんじゃね? 俺はそう思った。
第一、大事な事が抜けている。それは何を何から守ると言う意思
だ。この場合﹁ラ・ザームからエルシオンの住民を守る﹂が該当す
る訳だが。それを言おうとしたとき
﹁あっ、戦う意思はこの場合は考えなくていいでしょう。彼らが新
兵だとすれば、戦う意思が高いのはある意味当然と言えるかもしれ
ません。なんせ志願して集まったのですから低い理由が無いですか
らね。ですが、訓練されていない以上、現実を見ればその理想は簡
単に崩れると思いませんか?﹂
と、逆に言われてしまった。
1857
何度も言うが俺は戦争を本やテレビ越しでしか見たことや聞いた
ことは殆どない。なので、実際兵士たちがどう思っているのかを想
像するのは無理に近い。
﹁んー⋮⋮﹂
﹁それにどうですか? 修繕を手伝うと言う面目で手助けをする代
わりにお金をもらえば悪い話ではないと思いますが?﹂
﹁まぁ⋮⋮それはそうだな⋮⋮﹂
無駄な争いが起きなければお金も稼ぐことが出来る。一石二鳥っ
てやつか。そういう意味ではやってみる価値はあるのかもしれない。
﹁やるかやらないかはクロウさん次第です。それに行った所で先ほ
ど言った通りになるかは分かりませんが、やらないよりかは良いと
私は思いますよ⋮⋮では、私はこれで、テルムがそろそろ復活しそ
うですので、もう一撃入れに行ってきます﹂
﹁お⋮おう⋮⋮︵汗﹂
キリッとした表情で何食わぬ顔で去って行ったレウスを尻目に俺
はどうしようかと、レウスに出された案を真剣に考えるのであった。
1858
﹁第一陣、攻勢用意! 目標、目の前、エルシオン! 魔導部隊!
援護用意!﹂
将兵の合図と共に一番最前列に布陣する兵士たちが一斉に抜刀を
する。それと同時に後方に配置されている魔導兵も詠唱を開始する。
﹁容赦はいらない! 逆らうものには一斉の手加減をするな! 全
軍とつげk︱︱︱
将兵は突撃を合図しようとしたまさにその瞬間だった。
︱︱︱ズゴゴゴゴゴゴゴ⋮⋮!!
辺りに地響きが響き始めたのだった。
1859
第180話:レウスの提案︵後書き︶
卒業研究などの影響で中々更新できませんが、少しずつでも行い
ますのでよろしくお願いします。
いつも感想、誤字報告をして下さる皆様ありがとうございます。
返信は遅れるとは思いますが、すべてに目を通しているのでこれか
らもよろしくお願いします。
1860
最後の場面の主人公のセリフを変更しました。
第181話:騙されました︵前書き︶
※12/7
1861
第181話:騙されました
地響きが響き渡り、地面が揺れる。まるでこの世の終わりだとで
も言うかのような激しさだ。
復興中であったエルシオンの人々は手を止め、あたふたとするこ
としか出来ず、あるものはどこかへと逃げようと、ある者は祈りを
捧げ、ある者は呆然とするだけだった。
そして、どれ程の時間があっただろうか、数秒だったかもしれな
い、数十秒だったかもしれない、だが、人々にとっては何時間にも
感じたであろう地響きは終わりを告げ静寂が訪れた。
人々がゆっくりと立ち上がり辺りを見渡す。地震かと思われたが
辺りに新たに壊れた建物などは見受けられず、変わらない光景が広
がっているかのように思えた。
だが、人々はこれまでにない違和感を感じていた。そして、その
違和感の根源はすぐに判明をした。
﹁⋮⋮! おい、アレを見ろ!﹂
一人の住民が指を刺した先を見た人々は一斉に凍り付いてしまっ
た。
何故なら、普段そこにあった巨大な城壁が跡形も無く消え去って
しまっていたからである。
1862
﹁派手にやりましたね﹂
﹁うっせぇ、言い出したのはお前じゃねぇか﹂
夕刻。陽が沈み薄く月が見え始めた時間帯。俺は街の片隅に腰を
降ろして考え事をしていた。そんなとき、レウスがやって来て俺を
煽っているわけだ。
﹁いやぁ、いいものを見させてもらいましたよ。久々に満足しまし
た。お礼として何かお手伝いできる事がありましたら、手伝います
よ﹂
﹁⋮⋮あんた、本当に楽しむためだけに言いやがったのか﹂
﹁ええ、言ったじゃないですか最初に、面白そうだからと﹂
えっ、何言っているのこいつ? みたいな顔でレウスは俺に言っ
てきた。こいつ⋮⋮喧嘩売っているのだろうか? 多少イラついた
が、怒る気は起きなかった。何故だろう、俺はこいつは悪い奴じゃ
ないと思っているのだろうか? 面白そうで城壁ぶっ壊す案を平然
と出してくるあたり悪い奴というよりか冷淡な奴というイメージだ
ろうか? いや、違う。どっちかと言うと自分が面白ければいいと
1863
でも思っているのか?
考えてみるが、何とも雲を掴むような考えでならなかった。もや
もやした思いだけが残りとてもじゃないが、答えは出そうにない。
﹁⋮⋮ところであの筋肉馬鹿はどうしたんだ?﹂
﹁ああ、テルムなら﹃くそっぉぉぉぉぉ! 女子に負けるとは屈辱
! ちょっとチ○コを鍛えて来るでござる!﹄とか言ってどこかに
出かけて行きましたが?﹂
﹁あっ⋮⋮そう⋮⋮うん、分かったもう言わなくていいよ⋮⋮アレ
? そう言えば長男は?﹂
﹁アレですか? 逝ってしまいましたよ﹂
﹁逝った!? いや、納得だけよそんな淡々と言っちゃう!?﹂
﹁嘘です﹂
﹁嘘かい!﹂
﹁嘘ですよ。彼ならちょっと宿で昏睡状態になっているだけですか
ら﹂
﹁昏睡状態!? どっちにしろやばいじゃないか!﹂
﹁大丈夫ですよ。2か月に1回ぐらいのペースで昏睡状態になりま
すから﹂
﹁2か月!? そんなペースで!? そのうちマジで死んでしまう
1864
ぞ!?﹂
﹁そういって早二十数年、生き続けていますから大丈夫ですよ。何、
死んだら骨はその辺の動物にでもあげますよ﹂
犬かよ!? と言いたそうになったが、この世界に犬はいないの
で言うのはやめておいた。︵犬に近いのはいるが、どっちかという
とコボルトみたいな動物なので犬と言うべきか悩むところである︶
﹁⋮⋮ああ、なんかあんたら兄弟と関わっていたら疲れるわ﹂
結論、こいつら全員良く分からねぇわ。
﹁で、どうするのですか?﹂
﹁どうするって何をだ?﹂
﹁これからですよ。ラ・ザーム帝国の支配下になったこの街でこれ
からどうするのですか?﹂
﹁ああ、そういう事か﹂
あのあとアルダスマン兵は戦わずして降伏。敗因は城壁の崩壊に
よる戦意喪失だった。これによりエルシオンはラ・ザーム帝国の支
配下になったのだ。
﹁別に、やる事は変わらないが⋮⋮強いていうなら金儲けでもさせ
てもらうとしようか。返済の件も残っているしな﹂
1865
いい加減何か商売でもしないとお金がすっからかんなのだ。ギル
ドで依頼を受けようにもエルシオンに今の所依頼などは無い。これ
から復興すれば徐々に出て来るだろうが、そうだとしても安定して
収入を得る必要はあるだろう。
﹁そうですか、あっ言っときますけどラ・ザーム帝国ってかなり重
税をかける所で有名ですからね。多分土地代とかでごっそり持って
いかれるんじゃないですか?﹂
﹁マジで!?﹂
衝撃の事実。もしかして悪名高いってそこから来てたりするの!?
﹁商売をしようにも店を開く商税や物を売った時に出る消費税や維
持費こみこみでアルダスマン国の数倍はかかりますよ﹂
orz
﹁それを最初っから言えよ!!﹂
﹁いや、お金の話はしましたが、税金のお話なんてしていないじゃ
ないですかヤダー﹂
﹁くっ、こ、こいつぅ⋮⋮!﹂
﹁HAHAHAHA∼、では私はこれでサラバ∼﹂
﹁オイこらマテヤ!﹂
﹁あっ、そうそう﹂
1866
俺が颯爽と逃げて行こうとするレウスを追いかけようとしたとき、
レウスが後ろをくるっと向き。
﹁壁の修理ですがラ・ザームでは防衛系の事業は全て国が受け持つ
のでクロウさんの出番はありませんよ﹂
と、更に俺にダメージを与えるかの如く言って去って行った。
﹁⋮⋮﹂
あとに取り残された俺。夕日は完全に沈み辺りは先ほどよりも暗
くなっていた。俺はガクッと膝から崩れ落ち両手を地面についてし
ばしの間黙っていたのち顔を上げ
﹁⋮⋮ああ、俺完全に遊ばれたな⋮⋮﹂
と、嘆くのであった。
1867
第181話:騙されました︵後書き︶
卒業研究難しいです。私はソフト開発を行っていますが、環境整
備とか言語を調べたりとかでとにかく大変です。二人組でやってい
るのですが、もう片方の方がいなければ私は何も出来なかったでし
ょう。いや、マジで。
結構忙しいのでペースは暫くこんな感じになるかもしれません、
マジですいません。
あっ、そういえば今回のお話で最後クロウが叫んでいますが、最
初は某閣下の人みたいに﹁ちくしょうめ!﹂と叫ばせようと思った
りしました。ネタ入れすぎやと怒られそうなので自重しましたが。
>>追記﹃セリフ変更理由﹄
読者に指摘されたのもありますが、読み直すと﹁城壁ぶっ壊して
金儲けしようぜ﹂と受け取れたからです。私としてはレウスに遊ば
れたと言う部分を強調したいので変更しました。
1868
第182話:ギルド再建︵1︶
城壁が謎の陥没を遂げた翌日、仮設ギルドだったエルシオンのギ
ルドの再建が始まる事となった。
唐突な話ではあったが、街がこんな状態である以上一種の酒場の
役割も果たしているギルドは、兵士たちの憩いの場にもなり、尚且
つ他の街⋮⋮つまり、他の街のギルドとの連係による流通の再建な
どにも繋がる為再開を急ぎ始めた⋮⋮という訳だ。
しかし、ギルドの再建をラ・ザーム帝国は行わなかった。詳しく
説明をすると昨晩ギルドの再建のお話がミュルトの元へと来たとき、
たまたま居合わせた少年が、一つの条件を出しただけで無償でギル
ドの再建を買って出たのだ。
その条件も別にラ・ザームにとって特にマイナスな物でもなく、
無料で復興が早まるのと、マスター代理であるミュルトが彼を信頼
していることも重なりギルド再建は一人の少年に任されることにな
った。
十数になる少年にこんな事を任せていいのか、不安になった首脳
部の人も多少はいたが、実力はAクラスにも匹敵する凄腕の冒険者
でエルシオンにも大きな土地を持っているということで、大丈夫だ
ろうと最終的には納得をした。
ここでラ・ザーム帝国について少しお話をしよう。
ラ・ザーム帝国。強力な軍事力を備えた強国の一つだ。
国土は広くは無く人間勢力の中でも下位に属する国といえよう。
しかしその狭い国土の中には裕福な土地が数多く存在し、従来から
戦地となる場所としても有名だ。
1869
ラ・ザーム帝国の初代皇帝は建国するや否や即座に帝国全土に重
税を課した。住宅税、商税︵店の出店の時にかかるお金や維持費の
こと︶、所持品税、関税などなどその数は数十にも及んだと言われ
る。
当然、反発は起き国は一時大混乱となった。
だが、初代皇帝は反発する勢力を武力を以てして鎮圧した。そし
て、帝国内部にいた反重税派の一派はことごとく惨殺されその姿を
消したという。
それ以来、帝国では大きな反乱は一切なくなったと言う。帝国の
武力を恐れた部分もあったが、中には帝国が守ってくれると言うな
ら潔く払おうという考えを持った人は少なくなかった。
ある意味仕方の無い事なのかもしれない。昔から戦争が長く続い
たこの地にようやく平和が訪れたのだ。例え生活が苦しかろうと家
族が失われずに済むぐらいならと考える者がいてもおかしくは無い
だろう。
そして、帝国もまたその思いに応えるべく重税によって集めたお
金はその殆どが軍事研究や軍備に充てられた。テルムが﹁防衛系の
事業は全て国が受け持つ﹂と言ったのはまさにこれのことだ。もし、
この税を王族たちが裕福な暮らしをするために使ったのであれば、
この国は直ぐに崩壊していただろう。
もちろん、中にはその莫大な税を我が物にしようと裏で暗躍した
者もいたが、それらは見つけられ次第、一族もろとも処刑された。
そこには国の重鎮などの地位は関係なく、誰もが殺される立場にあ
った。
こういった建国背景があるからか、ラ・ザーム帝国の住民たちに
は自分だけが苦しいわけではないという、一種の諦めとそれでもこ
の地で生きるんだという力強さを持っており、また力こそが全てと
1870
いう実力主義の国であるといえよう。
そんな国に新たに編入されたエルシオンにも当然その税が適用さ
れる。ただ、戦後ということで、当分は免税されると予想されたが、
その判断を下すのは皇帝自身であるので、結果が来るのは暫く後の
事となろう。
さて、占領時に多少の混乱は起きたものの、エルシオン残留兵力
の全面降伏によりラ・ザーム帝国がほぼ予定していた形で占領され
た。もっとも、戦後復興に忙しいエルシオンの民たちが占領された
実感を得るにはまた先のお話になる。
==========
﹁材料がそろったので早速始めましょう﹂
﹁揃ったって⋮⋮どこにですか?﹂
ミュルトさんが首を傾げるのも無理はない。何故なら今の俺は端
からみれば何も持っていない状態だからだ。
﹁まぁ、いっぺんに出してしまうと邪魔ですからね。︽倉庫︾に保
管させてもらってますよ﹂
﹁あっ、なるほど⋮⋮ですが、小道具なども見当たらないようです
が?﹂
1871
﹁それも含めて全部ですよ、さて始めましょう。ミュルトさんも手
伝ってくださいよ﹂
﹁えっ、あの⋮⋮は、はい﹂
真面目に聞かれたらスキルレベルの事まで聞かれるので適当な所
で話を無理やり切り上げ、俺は早速ギルドを再建するべく作業を始
める事にした。
昨日、レウスにいいように遊ばれた俺はその足でギルドに顔を出
してこれからどうなるのだろうとミュルトさんと話していたとき、
例のラ・ザーム帝国軍の偉そうな奴が現れギルドを立て直す話を始
めた。
その話を盗み聞きをさせてもらったとき︵当然、俺はただの冒険
者なので話には入れない︶、ちょうど良い事を考え付いたので思い
切って話に介入をし、ギルドの再建を受け持つことになった。
当然、反発というか話に入った瞬間にちょっかいをかけて来た人
が2人ほどいたがお話︵物理︶をして、黙らせておいた。お蔭で帝
国からは危険人物と認定されただろう。全く、手を出さなければ穏
便に済んだのだけどな︵笑︶
さて、再建という訳だが俺は建物の作り方などそこまで詳しいわ
けでは無いので、多少不安はあったが、その辺はスキルというチー
トに任せる事にしよう。と言うか土だけで作っていいなら爆発を受
けても傷一つ付かないような建物を作ってしまうのだが、周りと明
らかに浮いた色になってしまうので、今回は木で建築することにし
た。
まあ、その材料集めも森に行って風魔法で木を伐採してこのまま
形を整えてと言った感じにスキル任せに集めて来たのですが。
1872
まずは、作りたい形に地面に縄を張り、さらに正確な形を作るべ
く丁張と呼ばれる作業をする。なお、ギルドの形は前もって︽SL
G︾で疑似的に作成済みなので頭の中にはしっかりと設計図が浮か
び上がっているが、端から見れば図面無しでやっているのと同等な
どで、﹁えっこれ大丈夫?﹂といった不安の声がミュルトさん以外
のギルド員から多少上がっていた。
︱︱︱スキル︽土木建築技術︾を取得しました。
そんな声︵色々な意味で︶は無視し、次に﹁根切り﹂と呼ばれる
作業を始めて⋮⋮終わった。だって穴を掘る作業なんてスキルで一
瞬で終わるし形を整える作業もスキルだけで十分出来る⋮⋮むしろ
手作業より早く美しいぐらいだ。時間にして30秒。ミュルトさん
たちからしてみればまさにあっと言う間に出来ちゃったと感じるだ
ろう。
そんな感じでその後の作業も慣れている訳では無いが着々と作業
を進めて行く。途中スキルレベルが上がり作業が一層早く進んだの
で基礎工事が出来上がったのは、その日の昼下がりの事だった。
1873
第182話:ギルド再建︵1︶︵後書き︶
もうすぐ冬休みですね。皆さんは年始年末どう過ごす予定ですか?
ちなみに私の誕生日は1月2日で来年は成人式だったりもします。
2日にバイトがあったら泣いている自信がありました。危ない危な
い。
1874
第183話:ギルド再建︵2︶
﹁ところで⋮⋮何故ギルドの再建を引き受けたのですか?﹂
基礎工事が終わり、支柱など建物自体の製作へ入って暫く立った
とき、ミュルトさんはそう唐突に話しかけてきた。ちなみにミュル
トさんには家具などの組み立てをお願いしている。図面︵子供のこ
ろに作った工作の設計図みたいなの︶と材料をあげているので組み
立てるだけの簡単な作業だが、ミュルトさんは問題なかったが他の
ギルド員は初めて見るタイプの図面に困惑されっぱなしで椅子を作
らせていたはずなのに何故かブーメランが4つほど出来たりなど﹁
お前ら子供かよ!﹂とつっこみを入れたくなるほどの悲惨っぷりだ。
いかに現代の子供たちが優秀なのか、それともこいつらが馬鹿な
のか⋮⋮。
このような惨状なので必然的に俺やミュルトさんが出来ても他が
出来上がらないという形が出来上がってしまう。ミュルトさんも組
み立てをやってはいるが、既に大きいのは済ませて残りは簡単なの
だけになっている。
﹁それは、条件である﹃商店﹄を出す許可が欲しかったからに決ま
っているじゃないですか﹂
今回俺がこんな面倒なことを進んで引き受けた理由とは、﹃店﹄
を出したかったのが理由にあげられる。商店自体は復興の途中でど
こかにしれっと建てたり鍛冶場を改造しさえすれば作れるが、俺が
望んだ場所はギルド⋮⋮つまり街の中央ということだ。
で、街の中央も被害を受けたとはいえ住民の大半は生き延びてい
1875
るので建てる場所を選ばないといけないし、何より情報が集まるギ
ルドと言う好立地条件が整った場所が欲しかったのだ。
﹁いえ⋮⋮クロウさんなら問題ないとは思いますが、何故商売を?
冒険者なら依頼をこなした方が収入は断然良いはずですが?﹂
﹁確かに収入はいいでしょうね。ですが、私が求めているのはそれ
だけじゃないんです。収入の安定性、情報収集のしやすさ⋮⋮他に
もいくつか私なりのメリットがあるからそうしたのです﹂
﹁はぁ⋮⋮?﹂
よほど珍しいのかミュルトさんは首を傾げる。
﹁それに⋮⋮今、この街で高レベルの依頼なんてどれくらい来てい
ますか?﹂
﹁えっ⋮⋮あ、そういうことですか⋮⋮﹂
﹁そういうことです。仕事をしたくてもその肝心の仕事が無ければ
意味がないのですよ﹂
そういえば、Aランクの冒険者って依頼を受けて出発してから戻
ってきてないんだよな。そう考えるとAランクの依頼はかなり長期
に及ぶものなのかもしれない。まぁ、現状を見るにただ単に今戻っ
ても面倒事が待っているだろうから今は他の街で活動をしているの
かもしれない。
﹁しかし⋮⋮本当にいいのですか? 土地は借りるだけ、維持費も
自分で受け持つだけでなく、売り上げの何割かをギルドに還元する
1876
ということですが⋮⋮?﹂
﹁いいんですよ。長期間やるとは限りませんしギルドもお金が少し
でも欲しいのが本音なのでしょう? 今回の再建費は私がやるので
無料で済みますが、その後の費用を全て払える余力はないのでしょ
う?﹂
﹁そ、それは⋮⋮はい⋮⋮お恥ずかしながら﹂
例えギルドが治ってもその次に待っているのは運営費の再構築だ。
例の襲撃のせいで資金なども全部消えてしまったギルドの再建は楽
な話ではない。本来なら本部から援助が降りるのだろうが、マスタ
ガラムのこと
ー代理であるミュルトさんには援助をお願いできる権限は無く、あ
のクソ爺が言うしか方法が無いのだ。
話に出たついでに話しておくと、今あのクソ爺はエルシオンから
北西に向かって移動をしていることが分かっている。例の小型発信
器は一応バレてはいないようだ。しかし、一人で移動しているのか
乗っている馬の駆ける音しか聞こえてこないので、未だに何も得て
いない。
﹁それにミュルトさんには色々お世話になってますし、そのミュル
トさんが困っているなら助けるのは普通かなと﹂
﹁そ、そんなこと⋮⋮! こちらこそ復興のお手伝いまでしてもら
っているのに何も出来ずに申し訳ありません﹂
申し訳なさそうに頭を下げるミュルトさん。
﹁それについては私が勝手にやり始めたこのなので気にしないで下
さい。それよりも早くギルドを再建してしまいましょう﹂
1877
﹁は、はい!﹂
再び元の作業に戻り黙々と自分の作業をこなすミュルトさんの姿
を見て﹁良い人だな⋮⋮﹂と思いつつ、俺も元の作業に戻る事にし
た。
==========
翌日の昼頃。
新たに建て替えられたギルドを眺めながら自分の仕事っぷりに満
足する俺。
結局建築作業は僅か二日で終わってしまった。これにはミュルト
さんを始めとするギルド員も開いた口がふさがらない思いだろう。
こんなに早くできた理由だが、スキルのお蔭であることは言うま
スキルスティール
でも無いだろう。もう、スキルのせいにすれば何でもいいんじゃね
? と思えて来るレベルだが︽理解・吸収︾を持っている俺だから
こそできる芸当であって、普通の建築士が作れば当然のごとく数か
月かかるので決して、この世界がチートじみている訳では無い、俺
がおかしいだけだ。
1878
﹁すごい⋮⋮﹂
ミュルトさんが思わずつぶやいているのが聞こえて来た。まぁ、
2日でギルドが出来てしまうなんて誰が予想できるだろう。
ちなみに今回のギルドは前にあってギルドをそのまま再建しただ
けなので、外見は元通りになったように見える。
だが、中は結構俺が勝手に知っている現代知識をふんだんに盛り
込んだので見たことない設備が多数存在している。いくつか紹介す
ると水のろ過︵この世界では目に見えるごみを取ったりはするが見
えない微生物などまでは取らない︵と言うか知らない︶ので細菌ウ
ヨウヨしまくりの水を飲むのが普通だった。せめて紅茶みたいに一
回沸かせよと思う。なお俺の家については当然ろ過させている︶や、
シャワー室︵自宅には完備済み︶など主に水回りの設備が非常に充
実した。ろ過された水を初めて見た時にミュルトさんたちに驚かれ
たが飲むと非常に好評だった。なお、水の透明度も断然違うので一
番最初は﹁水ではない別の液体﹂と思われた。お前ら川の上流行け
よ︵普通は魔物が多いせいで立ち寄れない︶
そしてギルドの一階の入り口を入ってすぐ左手に俺が商店を構え
るスペースを用意した。ここでは一応、雑貨屋という形を取るが、
その他にも買取や検診も出来るようにする予定だ。それについては
また明日にでもしよう、色々準備もしないといけないしな。
こうして、ギルド再建の最初の段階は無事突破することが出来た
のだった。
1879
第183話:ギルド再建︵2︶︵後書き︶
今年のクリスマス番外編は無しとさせてもらいます。途中までは
書いていたのですが、どう頑張っても今日中には仕上げれないと判
断し泣く泣くお蔵入りとなりました。
ちなみに皆さんは今年のクリスマスは楽しく過ごされていますか?
私ですか⋮⋮? ボッチだよチクショウメェ!!︵号泣︶ ↑某
閣下風に
来年こそは誰かと過ごしたいです。
1880
第184話:発令! 第一号作戦︵1︶︵前書き︶
皆さん。新年あけましておめでとうございます。2016年も黒
羽と異世界転生戦記をよろしくお願いします。
お年玉などはあげれませんが、少しだけ量を多めに新年1話目を
お送りします。まぁ、もう正月過ぎているけどね︵血涙︶
1881
第184話:発令! 第一号作戦︵1︶
クロウがギルドを立て直し終わる丁度その頃。魔法都市ハルマネ
に忍び寄る新たなる影の姿があった。
ハルマネより東に10キロ地点。そこには魔物たちが隊列を組み
静かに立っていた。
﹁ホウコク⋮⋮テキ ノ トシ ノ ヘイリョク カクニン。コド
モタチ ノミ トノコト﹂
﹁ふむ⋮⋮報告通りか。分かった下がっていいぞ﹂
報告にやってきたコボルトを下がらせ自らは参謀とこれからのこ
とを協議する。黒い弾幕に囲まれた一室で魔族が2体、話をしはじ
めた。
﹁しかし、下位のほうなれど上級魔族である我らがこんな片言しか
しゃべれないゴミどもを連れ添ってまともな兵力も居ない人の街を
攻撃しなければならないのか⋮⋮全く⋮⋮﹂
先ほど報告を受けた身長2メートルにもなろう茶色の毛を全身に
纏う狼男の口から思わず愚痴がこぼれる。
﹁そう嘆くのではない。今回は新型の兵器の試しを兼ねているのだ。
我ら上級魔族が事細かく報告をせねばならぬかつ、戦う奴らは捨て
てもいいゴミどもでなければならない以上、こうなるのも致し方あ
るまい﹂
1882
黒色をした狼男がイライラを募らせる茶色の狼男を宥める。
﹁逆だろ! 普通、新しい兵器を運用するときはある程度訓練され
た優秀な部隊が行うべきだ! もし敵に兵器が奪われた場合、同じ
ものを量産してきたらどうするというのだ﹂
﹁心配せぬとも、彼らに我らの武器は作れぬ。何せ我らの武器は天
から送られた未知の兵器。未だに弓に頼っている人間どもには到底
理解できぬまい。仮に作られたとしても量産する術も知らぬ以上大
きな脅威にはなるまいて﹂
あくまで問題ないと言う黒い狼男の言葉に納得がいかない茶色の
狼男。
エルシオンの略奪失敗と敵の砦の攻略失敗。全体的に見て今回の
戦争で勝利を収めた魔族に取っては小さな事かもしれないが、彼の
中では小さい事では無いように感じられた。
しかもどちらの戦いも聞けば、魔族はほぼ全滅したと言うではな
いか。さらに今回自分らが攻める予定の街も攻撃を仕掛けたはずの
味方との連絡も付いていないときたではないか。
そして、着いてみるも味方の姿は無く。代わりに半壊状態となっ
た街がぽつんと立っているだけだった。
﹁さて⋮⋮そろそろ始めるとしようかの。人狩りの始まりじゃ﹂
黒色の狼男はそう呟くと弾幕の外へと姿を消した。後に残された
茶色の狼男もこれ以上ここにいても仕方が無いと判断し、重い腰を
持ち上げ外へと出た。
︵今回、わが軍の兵数は240体。それに対し敵は実戦もほぼ無い
1883
ガキが100名程度⋮⋮前回、ハルマネを襲った魔族は1000体
以上⋮⋮︶
もし、姿を消した味方部隊が全滅したとしたら。人間で言うCク
ラスやAクラスばかりで組まれた味方すら勝てなかった相手を我ら
は弱兵と新兵器のみで相手をしなければならないと言う事になる。
いくら新兵器が強力だと言っても嫌な予感は否めない。
︵しかも、今回の新兵器とやらはあの爆炎筒の小型バージョン⋮⋮︶
しかし、ここで撤退したらどんな仕打ちを受けるか分からない。
行きは地獄帰りも地獄とはまさにこのことだろう。
︵ああ⋮⋮逃げ出したい⋮⋮︶
そんな事を心に思いつつ、茶色の狼男は黒い狼男の後を追うよう
にして付いていくのだった。
==========
﹁アルゼリカ理事長!﹂
バンッと勢いよくドアを開けたのはシュラだった。クロウがエル
シオンに帰宅後は彼が主に生徒と理事長間の伝令を任せられている。
1884
﹁ふぇっ!? な、なんですか?﹂
午前中から午後にかけての生暖かい日差しについウトウトしてし
まっていたアルゼリカは弾かれたかのように反応する。
﹁大変だ! 西に魔族の軍勢が確認された! 数はおよそ300!﹂
そんなアルゼリカのことなど気にもせず、シュラは報告をする。
﹁まだ距離があるか数時間後には開戦している可能性がある! 既
に応戦の準備は始めているが間に合うか合わないかは分からない。
特に前と同じ遠距離攻撃が来たらやばいぞ!﹂
﹁急いで準備をしなさい。難民たちの報告通りなら私たちにはこれ
以上後ろはありません。背水の気持ちで挑みなさい﹂
﹁は、はい!﹂
一通りの報告をしたシュラが理事長︵未だに半壊︶から出て行っ
たのち、アルゼリカは机の引き出しから手のひらサイズの水晶玉を
取り出した。
﹁⋮⋮﹂
暫くの間じっとその水晶を見つめていたアルゼリカだったが、不
意に首を横に振ると、水晶を元にあった場所にそっと戻した。
﹁⋮⋮彼ばかりに頼ってはいられないわ⋮⋮でも⋮⋮﹂
1885
かつての光景を思い出し、思わず口を押える。突然襲ってきた吐
き気が収まるまでじっと何も考えずに待つ。やがて、吐き気が収ま
りふぅとため息を吐き、そして思い立ったかのように再び机の引き
出しを開け、中から水晶を取り出した。
﹁⋮⋮﹂
そこからは何も言わなかった。ただ無言で身の回りの整理を済ま
せるとアルゼリカは速足で理事長を後にしたのだった。
==========
﹁全員準備を急いで! 敵はいつ攻撃を開始するか分からないわ!﹂
﹁それくらい分かっているさ。さあ、僕の真の実力を今度こそ見せ
るときだね!﹂
﹁うっさい! そんな事を言っている暇があるなら急ぎなさいバカ
ッ!﹂
﹁ば、バカだと⋮⋮!? ぼ、僕にそのような卑劣な言葉をかける
とは⋮⋮だg︵ドスっ
﹁⋮⋮うざい⋮⋮﹂
1886
またしてもスピンをしそうだったセルカリオスをワンパンで沈め
るサヤ。
﹁あー、セルカリオス様ぁ!﹂
﹁ちょっとぉ! 何をやっているのよ!﹂
そんな沈んだセルカリオスを介護する女子︵自称:セルカリオス
親衛隊︶たちに白い目で見られるサヤ。だが、当の本人はそんなの
どうでもいいと軽く無視をし、自らの武器であるナックルダスター
の最終チェックを行う。
﹁⋮⋮やる事は変わらない⋮⋮勝つ⋮⋮﹂
そんな彼女を遠くから見る人が二人いた。一人は青髪のロングを
した少女、もう一人は縦まきロールが特徴的ないかにもお嬢様と言
った感じの少女だ。
﹁⋮⋮サヤちゃん怖いね⋮⋮﹂
﹁なんといいますか⋮⋮クロウさんが離脱した後からずっとあんな
感じですわね﹂
﹁なんというか⋮⋮良く分からないけど心配だね⋮⋮無理して敵に
突っ込んだりしないかな?﹂
サヤの親友でもあるセレナは不安な眼差しで見つめる。
﹁彼女なら大丈夫でしょう。あんな感じですがきっと心の中はいつ
も通りだと思いますわよ?﹂
1887
﹁だといいんだけど⋮⋮﹂
ローゼの言葉にも不安を隠せないセレナ。もっともローゼもまた
表面上はいつも通りだが、内心では決して平常とはいい難かった。
︵私、大丈夫でしょうか⋮⋮?︶
ただえさえ前回の戦いで完膚なきまでに叩かれ、さらに今回は前
回の主戦力である︵と言うか、実質彼一人で戦っていたが︶クロウ
が居ないのである。不安になるのも仕方がないのかもしれない。
背中に熱くも無いのに妙な汗が流れる。気付けば手もぐっしょり
と濡れておりそれが、今のローゼの心境を物語っていた。
他の人も似たような感じだ。﹁死にたくないよぉ!﹂と叫ぶもの
がいれば、それを半泣きになりながら押さえつける者。部屋の隅で
緊張のあまり吐いてしまう者などもいた。戦うなどもっての外だ。
こんな状態で戦えるか! 誰もが心に少しは思っていただろう。だ
が、そんな考えはすぐに消え、自分は生き残るにはどうすればいい
のだろうと、自分の事ばかりを考えるのであった。
そんな中、周りと同じように不安になりつつも自分の準備を着々
と進める少女がいた。
﹁魔法具よし、クロウさんから貰った回復薬もよし⋮⋮と﹂
装備品の確認をし終えた彼女は最後に、ポケットから一枚の紙を
取り出した。広げてみるとそこにはややこしい魔法式が書かれてお
り魔法を多少なりとも心得ている人でも﹁なにこれぇ?﹂と言いた
くなるような量が書かれていた。
1888
だが、十数歳程度の彼女は、それをいとも簡単に読み取り自分の
記憶している魔法式と間違いが無い事を確認し終えると元あったポ
ケットへとすっと戻した。
﹁⋮⋮大丈夫⋮⋮⋮⋮勝てる⋮⋮﹂
大切な師匠の顔を思い浮かべながら準備を整え終えた少女は待機
場所へと移動をするのだった。
1889
第184話:発令! 第一号作戦︵1︶︵後書き︶
1月2日つけで20歳になり、成人式があるなぁと思いましたが、
そんなことはどうでもいい! それよりも卒業研究や! 就職や!
小説や! 状態です。
20歳になったと言いましたが、心はいつでも18歳︵!?︶の
黒羽です。ちなみにバイト先の先輩からお誕生日と言ってエロ本︵
新品︶をもらいました。なんでやねん!
1890
誤字を修正しました。
第185話:発令! 第一号作戦︵2︶︵前書き︶
※1/16
1891
第185話:発令! 第一号作戦︵2︶
﹁︱︱︱撃て!!﹂
号令と共に200丁もの銃口が一斉に火を噴く。直径1センチ程
度の穴から放たれた魔弾の精密度はお粗末にも高いとは言えず20
メートル程度離れた対象物すらも狙った位置に当たらないなど当た
り前だった。
だが、下手な豆鉄砲数撃っちゃ当たるという言葉があるように2
00もの銃口から放たれた弾のほんの僅かな数だが対象物へと当た
りそして、魔弾を受けた者は次々と倒れていく。
魔弾は使用者の魔力を消費する代わりに使用者の魔力が続く限り
撃ち続ける事が可能となる。当たった時の威力は実弾よりも低いが、
速度や当たった位置によっては即死しかねない危険な魔法に当たる。
だが、そんな即死させれるような魔弾を撃つことが出来るのは魔導
士の上位しか扱えない上にそんな魔弾を撃てば魔力がすぐそこを尽
きてしまうので、実戦で使う者はまずいない。
だが、﹃アモン﹄と名づけられたこの銃は、そんな常識をいとも
簡単に覆してしまった。
魔法式を前もって内部に埋め込み、弾のスピードの命となる発火
部分の魔力は魔法石を使い、使用者の消費する魔力は魔弾を作る時
だけで、魔力消費量が抑えられた上に威力が高い武器となった。
そして、この武器の最大のメリット⋮⋮それは、使用するのに訓
練をする必要が殆ど無い事にある。
1892
なにせ、トリガーを引けばいいだけの武器である。精度は元から
低いので射撃訓練を行う必要は無く、必要と言えば魔力を底上げす
る訓練と、一斉射撃の合図や持ち運び方程度であった。
さらに、使用している魔族は元々魔力が高い種族が多く魔力の底
上げは実質行わなくても良かった。
つまり、歩兵みたいに剣術、基礎体力、行軍など手間がかかるこ
とを一切する必要が無いのである。それ、その辺の雑魚でもコレを
持たせるだけで手が付けられなくなると言っても過言では無かった。
欠点と言えば発火用の魔石の魔力や使用者の魔力が尽きれば撃て
なくなるのと、作成時にコストがかかることであった、魔石は小さ
いサイズでもそれなりの値になるので、それを揃えるだけでも一苦
労である。そういう意味ではまだまだ大量運用出来ないのが難点で
あろう。
だが、一戦だけそれも規模が小さい戦いでなら、そんな心配も無
用だった。
﹁う゛っ!!﹂
﹁あ゛あ゛あ゛ッッ! 目があぁぁぁぁぁ!!!﹂
目の前で次々と倒れて行く敵。それを見て気分は高揚され攻撃は
一層激しさを増す。初めて見る武器に敵はなす術なく倒れて行く。
倒れた者を見て途端に後ろと逃げ出していくのを見るのは、魔族た
ちにとっては快楽にも等しい刺激を与え、逃げ惑う敵を見てまた気
分を高揚させるのであった。
1893
﹁くっ⋮⋮引け!﹂
サヤの指示を聞く前に、既に味方は我先にと逃げ出していた。
﹁どうして⋮⋮?﹂
サヤは目の前の光景に納得がいかなかった。
前回の敵の攻撃方法は遠距離からの攻撃だった。それが魔法にせ
よ武器にせよ、ある程度安全な位置から攻撃が出来る武器を敵が持
っており、尚且つそれが一定の戦果を挙げた以上次も使ってくるだ
ろうと考えた。
残念ながらサヤたち学園には敵の射程距離と互角の距離で使う事
の出来る魔法や武器は持ち合わせていなかった。
そこで、考えられたのが近距離による肉弾戦だった。
武器の破壊力を考えるに、乱戦状態では味方すらも巻き込んでし
まいかねないあの武器を使われる前に、こちらから近づいて近距離
で魔法などを撃ち、殲滅しようと言うものだった。
だからこそ、彼女らは街を出て決戦を挑んだ。その決戦には学園
の生徒たちに加え勇気ある市民が武器を持ち加勢をしてくれた。
行ける! 数ではこちらの方が多いと見た何人かは、僅かながら
も希望を見た。
1894
だが、それはまるでガラスのように脆く、そしてあっけなく崩れ
た。
開戦から僅か1分。僅か1分で味方は総崩れになった。敵から目
に見えないほどの速さで飛ばされて来る魔弾の雨の前にあっと言う
間に数十名が倒れて、そしてそれを見た生き残りは恐怖に怯え逃げ
出していく。それは、ただえさえ恐怖に怯えていた生徒たちの心を
打ち崩すのには十分な打撃だった。
﹁⋮⋮逃げなさい! ⋮⋮私が引きつける!﹂
傍にいた仲間にそう言い残すとサヤは敵の方へ突撃を開始した。
目に見えないほどの速さで飛んでくる魔弾であったが、サヤには
魔弾の軌道が見えていた。これもクロウとの特訓の成果だろう。伊
達にレベル70台では無いと言う事だ。
数発だけならそれで十分避けれた。だが、サヤが一人前に出ると
話は変わった。敵の銃口200が一斉にサヤへと向き一斉に放たれ
る。毎秒数発撃つことが出来る﹃アモン﹄から魔弾が次々と飛び出
し、たちまち数百とも千とも言えない数になってサヤへと襲い掛か
った。
それを風魔法とご自慢の武器ナックルダスターで弾いて行き、な
おも接敵を試み続ける。その様子に流石の魔族も焦りが見えた。
だが、忘れてはならない。魔弾も当然空気抵抗を受け失速をする。
しかし、近づけば近づくほど空気抵抗を多く受ける前に敵へと到達
をする⋮⋮つまり、近づけば近づくほど威力が上がっていくのだ。
威力の前にサヤよりも先に、音を上げたのがいた。
1895
︱︱︱パキッィ!
突如、サヤの手に激痛が走った。何事と見てみれば拳に付けられ
ていたナックルダスターが粉々に砕り、ナックルダスターを砕いた
魔弾の後ろから来ていた魔弾が何もつけていないサヤの拳に当たっ
たのだ。
いくら魔力で威力軽減がされようとも完全には殺しきれない。
体勢を崩されたサヤに新たに数百の魔弾が襲い掛かった。
胸、腕、お腹、太股、足⋮⋮体中に魔弾を受けたサヤは苦痛に顔
を歪めた。当たり所が悪かった場所からは出血もしていた。
﹁ぐっ⋮⋮! ⋮⋮ま、m︱︱︱
﹁︽炎津波︾!!﹂
尚も前へと出ようとしたサヤの前方から、突如として火柱が立ち
上がり、そして火柱はまるで波のように峰を撃ちながら魔族へと襲
い掛かった。
﹁何をしているんですか!? 逃げますよ!!﹂
後ろからサヤの手を握りしめ、そのまま一気に街の方へと引っ張
っていく。
﹁⋮⋮リネア⋮⋮!?﹂
サヤが突撃をする様子を見ていたリネアは、咄嗟にサヤの後ろを
つけていたのだ。
1896
﹁⋮⋮! ⋮⋮頭⋮⋮!﹂
振り返りながらリネアの顔を見たサヤの目には頭から大量の血を
流すリネアの姿だった。いくらサヤの後ろを付けていたとはいえ、
サヤに向けられた魔弾はその精密の悪さから後ろのリネアにも飛ん
でいたのだ。サヤよりも防御力の低いリネアも忽ち数発の銃撃を受
け、そのうちの一発が頭にヒットしたのだ。運よく貫通せずに弾か
れたのだろうが、その出血量からかなりの衝撃だったと推測される。
脳震盪を起こして倒れてしまってもおかしくは無かっただろう。だ
が、それでもなお魔法を唱えサヤのピンチを救ったリネアの精神力
に流石のサヤも驚くしかなかった。
﹁いいから逃げますよ! あなたが死んだらどうするのですか!?
他の人に簡単に任せられない役を背負っていることを忘れないで
ください!﹂
サヤよりも数歳年下のリネアに説教をされたサヤは、だけどと反
論しようとしたが、リネアの怪我を見てその言葉はどこかへと消え
てしまった。こんな怪我をしてまでも自分を助けに来たリネアを怒
ることはサヤには出来なかったのだ。
﹁! 急いでください!﹂
ハッとサヤが後ろを振り返ると、先ほどの炎の津波を逃れた魔族
がこちらへと追撃を開始していた。既に何体かはこちらへと銃口を
向け撃って来ていた。
少しだけ距離を取ることが出来たので即死するようなダメージこ
そ無いものの、それでも受ければかなりのダメージ量になる。
1897
そして、そのうちの一発があろうことかリネアの蟀谷にヒットし
た途端、リネアの体勢が大きく崩れ、そのまま地面へと倒れ込んで
しまった。
﹁⋮⋮リネア!﹂
一発耐えたリネアもさすがに二発目は耐えられずに、その意識を
手放してしまった。
﹁くっ⋮⋮!﹂
考えている暇は無い。気絶しているリネアを背負いあげると、担
いだまま走り出そうとした。
だが、リネアを背負いあげる僅かの時間を敵が待ってくれるはず
が無かった。
タァン! と銃口から放たれた魔弾はリネアの太股を捉え、当た
り方が悪かったのか貫通をしてしまったのだ。
﹁ああッ⋮⋮!?﹂
膝からすべきこむかのように地面に倒れこむサヤ。撃たれた方の
足は痙攣を起こし、走るどころか歩くことすらも困難な状態になっ
てしまった。
そんな彼女たちに無情にも次の攻撃が襲い掛かってきた。
ここまでなの!? サヤがそう思った次の瞬間
アースウォール
﹁︽土壁︾!!﹂
1898
地面が盛り上がり目の前に巨大な壁が一瞬にして出来上がり、彼
女たちを狙っていた魔弾は全て壁に当たり消えて行ってしまった。
何が起きたか分からないサヤ。そんな彼女の耳に知っている声が
聞こえて来る。
﹁ギリギリか⋮⋮大丈夫か?﹂
サヤの前に立ったのはサヤと同世代ぐらいの黒髪をした少年だっ
た。
﹁待ってろ、今治療をするからな﹂
少年が、スッと両手を出すと、そこから緑色をした綺麗な光が溢
れ出て、そのままサヤとリネアの体をそっと包み込んだ。するとサ
ヤやリネアに出来ていた傷はあっと言う間に塞がれ、まるで何もな
かったかのように再び、元の綺麗な肌が姿を現した。
﹁⋮⋮!!﹂
サヤは何も言わなかった。いや、何も言えなかった。ジーンとし
た感情が体をゆっくりと駆け巡り、悔しいのか嬉しいのかなんとも
言えない感情が彼女の中で渦巻き、混乱した。
だがそんな心の中でも彼女は一つだけハッキリとしていることが
あった。
︱︱︱約束通り彼は駆けつけてくれた。
やがて、心の混乱が少し収まったときサヤの口からは彼の名前だ
けがこぼれていた。
1899
﹁⋮⋮クロウ⋮⋮﹂
クロウはニッコリと笑顔で彼女に微笑むと、次の瞬間には真面目
な顔つきとなり、立ち上がる。
﹁待たせたな﹂
クロウはそれだけ言うと︽土壁︾を取り除き、こちらも同じく何
が起きたか分かっていない魔族たちと対峙をした。
﹁⋮⋮悪いが、今回の相手は俺じゃないぜ⋮⋮﹂
彼はそれだけ言うと片手を上げた。何があったのか分からない魔
族であったが、自分らが狙っていた獲物が健在と分かるが否や、再
び一斉に銃口を向けた。
だが、それよりも前にクロウが動いた。
﹁撃て!﹂
その瞬間、再び戦地に銃声が鳴り響いた。
1900
第186話:発令! 第一号作戦︵3︶
・ ・
初代小型銃器﹃アモン﹄。
魔族により運用が開始された遠距離系武器。従来の魔弾の弱点で
あった魔力消費量を大幅に抑え、尚且つ高威力の魔弾を撃つことが
出来た。
初運用となったのはハルマネへの攻撃。この時使用された銃の数
およそ200。使用時その高威力を見た魔族は大いに喜んだという。
これまで劣勢を強いられ、大陸の辺境地にしか領土が無かった魔族
たちにとっては、集団戦闘に次ぐ革新的な戦術だった。
だが、この銃がこの戦いの以降、戦線に投入される事は無かった。
何故か? それは宿敵である人がこの戦いに置いて、魔族が使っ
た武器を凌駕する新兵器を使った事が後世の理由とされた。
ズダダダァン!! 響き渡る銃声。それはこれまで戦場に響いて
いた銃声とは明らかに音の大きさ、質ともに全く異質の音だった。
ヒュン! と空を切る音が聞こえたと同時に、魔族へ銃撃の雨が
降り注いだ。大きさ僅か5ミリ。魔族が使う魔弾の半分の大きさの
魔弾であったが、魔弾は魔族の皮膚をあっさりと貫通しさらに後列
にいた魔族の皮膚ですらも貫通して見せた。
立場逆転。先ほどまで人の血だけしか見ていなかった魔族は一転
1901
し、今度は自分らの血を見る事となる。
﹁遠慮はいらねぇ! 撃てぇ!!﹂
クロウの号令のもと、再び魔弾の嵐が魔族を襲い掛かる。何体か
の魔族が敵の攻撃元を確かめようと前を見る。
するとどうだろうか。自分らを攻撃しているであろう者はたった
10人程度しかいなかった。しかも人では無く森などで生活をして
いる獣族だった。この当時、種族を超えての共闘は殆どなく、隷属
になった僅かな者が戦わされる程度のものだった。この常識は魔族
の間でも当然のことだったが、魔族はゴブリンやオークなど様々な
種類がいるので、そのまで過敏に反応をすることは無かった。
それでも彼らにとって、その光景は異常に見えるだろう。
==========
時間はさかのぼり⋮⋮
クロウがギルドを建て終え無事に帰宅をした直後の事だった。
﹁はぁ⋮⋮疲れた⋮⋮﹂
﹁お疲れ様。ギルドは無事に復興出来たの?﹂
リビングのソファでのびている俺にエリラが声をかけて来た。
1902
クソ爺
﹁ああ、と言ってもまだ形だけだ⋮⋮これからが本当の戦いになる
だろうな。あのガラムが帰って来るとは思えねぇ以上、ミュルトさ
んには頑張ってもらわないと⋮⋮それよりトレーニングはどうなっ
ているんだ?﹂
﹁うーん⋮⋮ボチボチかな?﹂
﹁ボチボチって⋮⋮﹂
﹁ふふん、次に見るまでにあっと驚かせてあげるんだから﹂
エリラは笑顔でそう言った。まぁ、エリラがそういうんだったら
楽しみに待たせてもらおう。
その時だった。
︱︱︱ピィィィィ!
鳥の鳴き声などレベルにならない高さの音が周囲に響く。クロウ
はそれを聞いた瞬間ポケットからいつか見たことあるカードを取り
出す。そこには﹁救援要請 NO.03﹂の文字が浮かび上がって
いた。
﹁No.3⋮⋮! サヤたちか!﹂
急いで︽マップ︾を開き︽検索︾をかける。赤いマーカーがハル
マネの近くで浮かび上がる。数は244。数自体は大したこと無さ
そうである。
ただ、あいつらになると240はちょっと荷が重いかな⋮⋮? 1903
いや、間違いなく重い。サヤやリネアだけじゃ流石に手が足りない
か?
﹁仕方ないな、エリラ悪いが獣族の大人たちを全員集めてくれ、武
装をしてな﹂
﹁わ、分かった⋮⋮でも、本当に行くの?﹂
﹁ん? まあな、正直学校の奴なんてどうでもいいけどサヤやリネ
あいつら
ア、アルゼリカ理事長はほっとけないからな。約束をしたのもある
し獣族にもいい経験をさせれるだろう。エリラは悪いけどテリュー
ルと一緒に子供たちを見ててもらえないか?﹂
﹁分かった⋮⋮気を付けてね﹂
﹁ああ﹂
エリラに獣族を集める事をお願いして僅か数分後。リビングには
武装した獣族10名が直立不動で立っていた。﹁武装をするときは
常に緊張感を持て﹂と言っていたのを忠実に守っているようだ。
﹁よし、集まったな。行き成りで済まないが、ハルマネより救援要
請が入った。本来であれば俺一人でも十分だけど、今回は実戦も兼
ねて皆にも来てもらう。使用する銃は﹃15式アサシン﹄で弾のタ
イプは実弾を使用してもらう﹂
﹃15式アサシン﹄俺が作った銃で魔弾を撃つタイプと実弾を撃
つタイプの二つのタイプを持つ小銃だ。銃身長43センチ、全長8
9センチとやや小型にまとめてあり、さらに撃つときに銃声をかき
消す消音モードを搭載してある。ちなみに消音モードは魔力を余分
1904
に消費するので必要ない時はオフにすることも出来る。
アサシンと名付けたのはこの消音があるからだ。15式とは俺の
年齢をそのまま取っただけだ。︵只今15歳︶
﹁目標はハルマネを攻める敵の殲滅。及び主要人物の救援。戦闘の
流れとしては俺が先陣を切る。皆はその後ろから俺の合図と共に魔
族たちの正面から向かい討つ形となる。万が一に備えて︽自動防御
︾を付与しておくが油断はするなよ。何か質問は?﹂
簡単にクロウが説明をしたのち、質問が無いか聞く。すると一人
が手を上げた。
﹁はい﹂
﹁ん? なんだ?﹂
﹁えっと⋮⋮実弾を使うのは何故ですか? 魔弾の方が魔力を消費
するだけでいいと思うのですが?﹂
﹁ああ、それには理由がある。まず実弾がどれくらい通用するかを
確かめたいのが一つ。それから︽自動防御︾に出来るだけ魔力を振
れるようにしておきたいのもある﹂
魔法学園にいるときから︽自動防御︾を何とか︽付加魔法︾で他
人に付与出来ないか試行錯誤を行い、つい先日ようやく出来るよう
になったばかりなのだ。今回はそれの効果を確かめるのもある。ま
ぁ、これは本当にオマケ程度でしか考えていないし、使われないに
越したことは無い。
もちろん大本命はサヤたちを助けることだ。ただ、さっき︽マッ
1905
プ︾で見た限りでは、まだ会敵をしているようには見えなかったの
で少し時間があると思っていた。
もっとも、この直後に学園の生徒たちの軍は壊滅をするのだが、
この時はまさかそんなに早く沈黙されるとは思いもしていなかった。
分かりましたと質問した獣族が下がり、﹁他には?﹂と辺りを見
渡すが誰も手を上げなかった。
﹁よし、では今作戦名を﹃第一号作戦﹄と命名をする﹂
﹁? 第一号作戦ですか?﹂
﹁そうだ、個人で動くわけじゃない。一人ひとりが勝手な行動をし
ては隊の壊滅につながりかねない。それを防ぐには一人ひとりが作
戦内容をしっかりと分かって行動をしないといけない。作戦名は他
の作戦と混合してしまわないようにするための予防策の一つだな。
あと、作戦開始を合図するときの掛け声にも使うな﹂
﹁な、なるほど﹂
獣族の大人たちは分かったような分かっていないような顔で頷く。
まぁ戦いには無縁だったしましてや集団戦闘など見たこともなさそ
うな彼女らだから仕方が無いのかもしれない。こればかりは実戦を
経験していくしかないか。
ゲート
﹁よし、じゃあ門を使ってハルマネへと向かうぞ。第一号作戦発令
!﹂
1906
==========
そして、︽門︾を潜り戦地に立った時。既に生徒の軍勢は壊滅を
してて、更にサヤが足を撃たれ倒れる瞬間だったのだ。
なんとかスレスレで間に合ったから良かったものの、一歩間違え
れば救援失敗だった。危ない危ない⋮⋮。
﹁ほら、今のうちに街に逃げろ。治ったと言っても傷口はまだ脆い
からちょっとした衝撃でも出血するかもしれないからな﹂
﹁⋮⋮了解⋮⋮﹂
﹁⋮⋮サヤ﹂
リネアを抱えて街に向かおうとするサヤを俺は引き留めた。
﹁⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮何があったかは分からないが一人で抱えても仕方が無いぞ。
一人で無理した結果がリネアに起きたんじゃないか?﹂
﹁⋮⋮!!﹂
ハッとした顔になるサヤ。どうやら図星みたいだ。見た訳じゃな
1907
いが他の生徒たちと距離を開いているのと、リネアの頭の怪我。そ
して壊れたナックルダスターから察するに、サヤが一人で突っ込ん
だが途中でリネアに引き留められ、逃げているときにやられたとい
った感じだろうか?
﹁⋮⋮と、止めて悪かったな。ほら行け。あいつらは俺らが始末し
ておくから﹂
﹁⋮⋮わかった⋮⋮﹂
クロウの言葉をサヤはすんなりと受け入れ街へと引き上げる。そ
の様子を僅かの時間確認したのち、再び戦地に視線を戻る。
パアッン! と後方へはじけ飛ぶ魔物の様子が見えた。獣族の銃
弾が眉間を貫通したのだろう。獣族の撃った弾丸は魔族を次々と捉
えて行く。一方魔族側も小銃を持っているようだが、先ほどから関
係ない方ばかりへと飛んでいるのが殆どのようだ。もっとも万が一
当たったとしても︽自動防御︾のお蔭でダメージになることは無い。
⋮⋮命中精度は話になっていないようだ⋮⋮あれじゃあまるで散
弾銃だな。
こちらの攻撃は確実に魔族たちにダメージを与えていた。既に3
分の1は消えたかもしれない。既に戦線は崩壊の顔を見せ始めてい
た。だが、先ほどまで優勢だった記憶から抜け出せないのか、攻撃
を続けようとする魔族の姿が多数確認出来た。
一方、街の方へと逃げた生徒や市民たちも魔族が劣勢になってい
ることが分かり始めた。
﹁何なんだあいつらは?﹂ 1908
﹁魔族と同じ武器で戦っているのか?﹂ ﹁何故そんなものを?﹂
﹁そもそも、あれは獣族じゃないか? 何故そんな奴らが助けてく
れたのか?﹂
﹁いや、まてあの前にいる奴は人じゃないか?﹂
様々な憶測が飛び交う中、こちらへ向かってくるサヤとリネアの
元に特待生たちが駆け寄る。
﹁サヤちゃん! 大丈夫!?﹂
親友のセレナが真っ先に声をかける。
﹁⋮⋮うん⋮⋮﹂
その声に頷くサヤ。それを見たセレナはホッと息をつく。
﹁それにしても⋮⋮何故クロウが⋮⋮? 彼はエルシオンにいたの
では⋮⋮?﹂
ローゼがもっともな疑問を投げかける。その問いに答える人は居
ない。だが、サヤだけはクロウに救援を要請した人が誰だか分かっ
ていた。
その人を見つけるべく周囲を見渡すが、その姿は確認できなかっ
た。
︵⋮⋮アルゼリカ理事長⋮⋮どこへ⋮⋮?︶
様々な考えが頭の中を回る中サヤは、もうしばらくの間アルゼリ
1909
カ理事長の姿を探したのであった。
1910
第186話:発令! 第一号作戦︵3︶︵後書き︶
突然ですが2月から一人暮らしが始まります。本当いきなりでし
た。
いきなりで全く準備が出来ていません︵笑︶
家具とか一通り揃えないといけないなぁと思いつつも、40年ぶ
りと言われる寒波を目の前に家から出たくないと引き籠っています
︵笑︶
皆さんも体には気を付けて下さい。
1911
第187話:発令! 第一号作戦︵4︶
﹁何故じゃ!? 何故あ奴らが我らと同じ武器を有しておる!?﹂
参謀であろう茶色の狼男は持ち前の爪で頭を掻き毟る。
無理もない。先ほどまで一方的だった戦いのはずなのに、気付け
ば魔族はその数を2/3にまで減らしていた。
そして、突如現れた人間の援軍は僅か10名程度。だが、問題は
そこでは無かった。
﹁アレは天から授かった未知なる兵器では無かったのか!?﹂
上層部から天から授かった未知なる兵器と教えられていただけに、
上層部を疑いたくなってしまう。
﹁⋮⋮アレは我らのと同じようで違うものだな﹂
﹁何故そう言える!?﹂
狼狽する茶色の狼男を他所に、黒色の狼男は冷静に敵の持ってい
る武器を見つめていた。
﹁確かに形はほぼ一緒に見えるが、精度、威力共に奴らの武器の方
が上に見えるな⋮⋮どうやら敵は我らの武器を⋮⋮神をも超える武
器を作ったと見える﹂
﹁お主はアホか!?﹂
1912
黒色の狼男の言葉に茶色の狼男が猛烈に反発をする。
﹁アホはどちらだ! 見て見ろ敵の方が遥かに少人数であるのに、
我らの兵を次々と倒しているではないか! もし、﹃アモン﹄が天
より授かりし兵器であるならば敵は、その上の武器を作った以外に
何があるというのだ!﹂
黒色の狼男の言う事も最もだった。
﹁少し冷静になれ。我らは新兵器の実験に投入されたのだろ? な
ら、我らのすることは一つ。これ以上被害が拡大する前に撤退をし、
報告をすることだ。我が兵器では敵の兵器には勝てぬとな﹂
﹁ぐっ⋮⋮!!﹂
茶色の狼男が苦々しくも納得したのを確認した黒色の狼男は指示
を出す。
﹁撤退だ! 全軍撤退の準備をしろ!﹂
だが、黒色の狼男の声に反応する者はいない。代わりに聞こえて
くるのは怒りの声と何かが弾ける音だけだった。
﹁⋮⋮話を聞くまい。あ奴らは劣等種。もともと軍としての能力な
ど皆無じゃて﹂
もともと、魔族は集団戦闘をする種族ではない。ゴブリンなど比
較的弱い魔族は同族同士で動くことはあったが、他の魔族たちと集
団戦闘を行う事など考えもしなかった。︵ただし、持ちつ持たれず
1913
の関係があった種族はそれなりにいたがあくまで集団生活での場合
のみである︶
そんな彼らが集団戦闘を行うようになったのはつい最近のことだ。
それまで決して協力し合うことが無かった彼らであったが、度重な
る人や他種族との戦いにより疲弊したある魔族たちが始めたのがき
っかけであった。勿論、それに反対する者もいたが、そんな彼らが
次々とやられて行くのを見た者どもは手を組むことを選んだのであ
る。そこから強い魔族がコミュニティを束ねるようになり、コミュ
ニティ間での戦争、併合を重ねた結果、今のような巨大な集団にな
ったのだ。
﹁チッ⋮⋮仕方が無い。我らだけでも引くぞ﹂
﹁⋮⋮いや、我は残る﹂
﹁なにっ⋮⋮!?﹂
狼狽した結果、脳までいかれてしまったのかと黒色の狼男は思っ
た。
﹁報告は主だけで十分だろ? どうせ戻ったところでこんな失敗を
しては、先は無かろうて﹂
そんな思いを見切ってか茶色の狼男が答える。
﹁⋮⋮残るのは勝手だがどうするつもりだ? 例えあの獣族どもを
どうか出来たとしても、あれの指揮を取っている人はかなりの使い
手と見えるが﹂
どこからともなく現れて一瞬にしてあの防壁を作ったクロウのこ
1914
とを黒色の狼男は強いと判断していた。
﹁ふん、弱気になってるの⋮⋮まあ、よい。どの道、時間稼ぎぐら
いはしてやらぬとならぬ。最後にひと暴れさせてもらう⋮⋮﹂
そういうと茶色の狼男は戦地へと消えて行った。後に残された黒
色の狼男は暫くの間立ち止まっていたが、やがて﹁くそが⋮⋮﹂と
言いながら舌打ちをすると離脱を始めたのであった。
﹁ふん、魔族も落ちぶれたものだ⋮⋮﹂
後に残った茶色の狼男は先ほどまで自分の兵士であった屍の山を
見ながら呟いた。もはや兵は最初の1/5にまで落ち込み敗北は確
定的だった。
﹁せめて一矢は報いてやるか﹂
茶色の狼男はそう言うと自分のズボンのポケットから錠剤を取り
出した。
その錠剤は私たちが普段目にしている白いのとは全くもって違い、
まるで毒を思わせるような紫色をしていたのだ。
1915
その錠剤をじっと見つめたのち、茶色の狼男はそれを一飲みする
のだった。
1916
第187話:発令! 第一号作戦︵4︶︵後書き︶
すいません、一人暮らしの準備と企業研修が重なって中々筆が進
みませんでした。3月中までには元の更新速度に戻れるように頑張
りますので、もうしばらくご辛抱お願い申し上げます。
1917
第188話:発令! 第一号作戦︵5︶
﹁敵兵力残り2割を切りました。どうされますか?﹂
﹁引き続き攻撃を続けろ。要人の安全は確認出来ているからそこは
安心していい﹂
﹁了解しました﹂
獣族たちに指示を送ると、そのまま︽マップ︾で要人︵アルゼリ
カ、サヤ、リネア︶の確認を引き続き行う。
リネアやサヤは城門前にいるから問題なし。アルゼリカ理事長も
街中にいるみたいだから取りあえずは安心かな?
ただ、アルゼリカ理事長のマーカーが先ほどから全く移動してい
ないのが気になるな。場所も路上みたいだし一体何をやっているん
だ? 確認しに行った方がいいかもしれない。
﹁クロウさん!﹂
そんな事を考えているときに突然、声が聞こえ現実に戻って来る。
﹁どうs︱︱︱
それは一瞬の出来事だった。
獣族の声に反応して後ろを向いた瞬間、突如自分の前に殺気を感
化け物
じた。バッと前を向いてみるとそこには、先ほどまでこの戦場には
見られなかった魔物が立っていた。
1918
魔物は既にその手を俺に向かって振り下ろしており、その手には
見るからによく斬れそうな爪がギラリと光っていた。
空を斬る音と共に血飛沫が舞い、獣族たちの叫び声が聞こえて来
る。彼女らには俺が一瞬で真っ二つにされたように見えたのだろう。
﹁︱︱︱っ!!﹂
だが、そんなことは無く、俺は間一髪の所で攻撃を防いだ。魔法
は間に合わなかったので︽硬化︾で自分の腕を硬い鱗に変えるとそ
のまま自分の上半身ぐらいはある爪を腕一本で防いでみせた。
だが、硬いと思われた龍族の鱗には魔物の巨大な爪が抉りこんで
おり、腕の肉は見事に斬られていたのだ。感覚でだが、骨の部分で
止まったのだろう。
﹁グガァァァァァァァッァ!!!!﹂
だが、辛うじて止まっていた爪は魔物の一声と共にバキャァ! と折れてしまった。だが、僅かにでも止まってくれたおかげで俺は
回避をする時間が出来、自分の腕と引き換えにその命を守る事が出
来た。
﹁う゛⋮⋮﹂
自分の後ろには獣族がいる。そう思うと対して後ろには引き下が
れない。そう判断した俺は僅かに一歩後退しただけで、攻撃を防い
だ腕とは逆の方を使った。
ポセイドンブラスター
﹁︽海神の鉄槌︾!!﹂
ポセイドン
ウグラ戦の反省を生かし、︽海神の槍︾を改良した第二世代型魔
1919
法︵第一世代が︽海神の槍︾になる︶︽海神の鉄槌︾。
威力アップは勿論の事。槍状の先端に爆撃魔法とスキル︽瞬断︾
の能力を追加することにより貫通能力を大幅に向上させた。さらに
発動の瞬間に一気に加速をするために風魔法を取り入れたことによ
り威力は桁違いにアップした。
狙うは心臓部。腕から繰り出された槍は一瞬にして音速の領域に
まで加速。そして勢いそのままに魔物の胸の中央部に直撃をした。
ボッと初撃の音が聞こえたかと思うと突如、爆炎をあげ強烈な衝
撃波が辺りを襲う。その勢いの強さに真後ろにいた獣族たちも後方
へと転がるように吹き飛んでいった。︵これでも衝撃波が極力いか
ないようにカバーはしています︶
勿論、直撃した魔物もただでは済まされない。一瞬にして数十メ
ートルほど吹き飛び、さらに着地しても勢いは死なず数百メートル
ほど吹き飛ばされて行った。
だが、そんな光景を見た俺はショックを受けていた。
︵貫通をしなかった!?︶
威力は申し分なかったはず。恐らくだが俺の単体攻撃魔法として
は現時点で最強クラスの魔法のはず。それが通用しなかったのだ。
︵やっぱりまだ魔法の扱い型は下手か⋮⋮7年のブランクも予想以
上に響いているのか⋮⋮?︶
そんな事を考えていると突如、ズキッと鈍い痛みが襲い掛かって
来た。見ると先ほど魔物の攻撃を受け止めた腕は肘から先が抉り取
られており血管や筋肉が露出している状態となっていた。︽硬化︾
1920
状態の名残か鱗がそこらじゅうに散らばっており手の骨や筋肉は地
面に叩き付けられ木端微塵に粉砕されていた。
﹁︽硬化︾状態の腕がこうもあっさりと⋮⋮!﹂
急いで再生させないと。そう思った俺は回復の準備に取り掛かろ
うとした。
だが、そうは問屋が卸してくれなかった。
﹁ガァァァァァァァァァァ!!!﹂
そんな音が聞こえたかと思うと、突如突風が巻き起こり先ほどの
爆風で舞い上がっていた土煙が一瞬にして吹き飛ばされていった。
見ると先ほどの魔物がむくりと起き上がり、こちらをジッと見つ
めていた。その胸には俺の魔法を防いだ後があったが、その傷も既
に修復をし終えようとしているように見てとれた。
﹁あの回復方法は⋮⋮!﹂
見たことがあった。それは魔法学園の魔闘大会で化け物へと変わ
ったウグラの回復方法と全く同じだったのだ。
よく見ると姿もウグラの時とよく似ている。だが、その強さはウ
グラとは比べものにならないのは、俺の腕が証明していた。
﹁クソッ⋮⋮!﹂
俺は後ろに吹き飛ばしてしまった獣族たちに大声で指示を飛ばし
た。
1921
﹁全員、街まで走れ! 命令だ!﹂
そういうと、︽倉庫︾より︽漆黒・改︾を取り出し魔物へと俺は
走り出した。
転げ回った衝撃で色々と混乱をしていた獣族は俺の声を聞いても
暫くの間、動けないでいた。正直、俺の命令も聞こえていなかった
かもしれない。だが、体の本能、それから︽契約︾の能力が補助し
たのか、全員すぐに立ち上がり街へと移動を始めた。
俺は自分で火の魔法を使い腕の傷口を燃やす。失血を防ぐためだ。
回復をしたかったがそんな時間は無かった。
﹁ウグラの時と言い、何なんだあの化け物は⋮⋮﹂
だが、考えている暇は無い。既に魔物もこちらに向かって来てい
たからだ。
﹁⋮⋮すべては終わった後でだな﹂
俺はそれだけ呟くとその後、考える事をやめ敵との戦闘に突入し
た。
1922
第188話:発令! 第一号作戦︵5︶︵後書き︶
ブラスターって日本語に訳すとどういう意味なんでしょうか? と書いてて思いました。まあ、中二風ってことで一つ我慢をお願い
します。
一人暮らしを始めたのはいいのですが、ネット環境が無いので週
末に家に帰ってこないとネットが扱えないことに気付き慌ててネッ
トの申し込みをしたのですが、工事が3月5日になり、二週間以上
できないことに気付き、某閣下みたいに﹁チクショウメ!!﹂と叫
びました。マジです。
1923
第189話:発令! 第一号作戦︵6︶︵前書き︶
超久々の連日投稿です。休日しか書けないから頑張りました⋮⋮
!
1924
第189話:発令! 第一号作戦︵6︶
﹁⋮⋮そんな⋮⋮﹂
﹁? サヤさんどうしたのですか?﹂
﹁⋮⋮腕一本持っていかれた⋮⋮あの魔物⋮⋮強い﹂
遠方の平野で突如として現れた魔物とクロウとの戦いを見えてい
たサヤは動揺を隠せないでいた。
残念ながら、一般市民や生徒ではクロウと魔物との戦いの詳細は
殆ど分からない。遠すぎるのと戦いの展開が早すぎるのだ。
その点、僅かばかりにでも実力があるサヤは格闘家ならではの動
体視力の良さである程度は戦いの流れについていけた。そして、彼
女は見たのだクロウの腕が吹き飛ぶ瞬間を。
﹁クロウさんが⋮⋮!? わ、私たちも戦うべk︱︱︱
参戦しましょう! と提案するリネアにサヤは首を横に振る。
﹁⋮⋮実力に差がありすぎる⋮⋮足手まといになるだけ⋮⋮﹂
﹁︱︱︱で、でも⋮⋮!﹂
﹁⋮⋮迷惑かけたくないなら⋮⋮ジッとしてなさい⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
1925
リネアも分かってはいた。サヤの言葉から考えるに恐らくだがク
ロウでも苦戦をしているのだろう。そんな敵相手に今の自分らが何
も出来ないことぐらい。
だが、分かってはいるが頭の中では助けたい! その一心だった。
﹁⋮⋮今の私たちに出来る事は⋮⋮待つ⋮⋮信じる⋮⋮それだけ⋮
⋮﹂
壊れたナックルダスターの破片をぎゅっと握りしめ、唇を噛みし
めるサヤ。それを見たリネアも黙り込むしかほかなかった。
﹁⋮⋮クロウさん⋮⋮﹂
少女たちは一心に彼の無事を祈るしかほかなかった。
==========
﹁ガァァァァァァァァァ!!!﹂
﹁ああ、うるせぇ!!﹂
叫び声に鼓膜が破けそうだ。
振りかざしてくる爪を︽漆黒・改︾で捌き、隙を狙い斬撃を加え
る。
1926
だが、斬った傍から傷口が修復され無意味だと言う事を思い知ら
される。
﹁こいつの回復能力もおかしいだろ!﹂
やっぱり、ウグラの時みたいに千切りにするしかないか。
︱︱︱スキル︽身体強化︾使用。﹃全能力50%アップ﹄
︱︱︱スキル︽明鏡止水︾使用。
︱︱︱スキル︽力点制御︾使用。﹃瞬間的なパワー150%アップ﹄
持ち前の豊富なスキルを使用したドーピングを加える。
﹁︽千乱刃︾、︽滅炎陣︾﹂
ウグラ戦の時同様、魔物の体を細切りにして燃やし尽くす作戦に
出る。繰り出された音速の刃は魔物の体へと食い込むように当たっ
ていく。
だが、ウグラのときみたいに切断するまでには至らず、半ばで止
まってしまうようだ。
ただ、それも無意味では無く︽滅炎陣︾による業火が傷口を焼き、
魔物の悲痛な叫び声が響き渡る。
あいつ
﹁よし、剣での攻撃は有効だな。ウグラみたいに切り刻んでやる⋮
⋮!﹂
そう思った矢先のことだ。魔物の腕が突如として黒い霧が覆い始
め、魔法陣が浮かび上がって来た。
1927
﹁くそっ、こいつ魔法も使えるのか!?﹂
︱︱︱キエロ コゾウガ!
声⋮⋮?
﹁二十連式魔法陣︽多重防壁︾!!﹂
そんな、声に反応しながらもご自慢の魔法防壁で防御態勢を作る。
魔物の腕が魔力で暴発しそうなぐらい膨らんでいるのが防壁越しに
見て取れた。
そして、振り抜かれた魔物の腕が防壁にあたると、魔物の腕にま
とわりついていた黒い霧が破裂し、周囲へとまき散らされた。
まき散らされた黒い物体は最初、霧みたいなものだと思ったが地
面に落ちるとそのまま、ベチャっと地面に広がって行った。
液体か⋮⋮?
︽神眼の分析︾を使いその謎の物体を瞬時に読み取ってみた。詳
しい詳細を知りたいが、こんな戦闘中に見る暇も無く、後回しにな
る。
︽倉庫︾から先ほどの獣族が使った銃と同じ型の銃を取り出し敵
に銃口を向ける。ただし、この銃には一点だけ獣族の使っている銃
とは違う点がある。
エレメンタルリロード
︱︱︱︽全属性装填︾発動。﹃銃に属性・光、︻分裂︼︻爆発︼付
与﹄
︱︱︱︽掃射︾発動。﹃銃に︻狙い︼︻急所撃ち︼付与﹄
︱︱︱︽瞬断︾発動。﹃銃弾に︽瞬断︾付与﹄
1928
デスクラスター
﹁︽死の銃舞︾、フルバースト!!﹂
銃口から放たれる数十発の魔弾。放たれた魔弾は直後に分裂をし
さらに、分裂、分裂⋮⋮と、増えて行く。そして、それらの分裂し
た魔弾は魔物の急所と思われる場所に吸い込まれるように飛んでい
く。
魔物に当たった魔弾は︽瞬断︾の能力で魔物の体内へと抉り込む。
それも一つや二つではない。数十発もの魔弾は分裂を繰り返し今や
その数は数千をゆうに超えるまでに増えており、それら全て外れる
ことなく全身のあらとあらゆる場所へと潜り込んでいくのだ。
アサルトフレイム
そして、体内に潜り込んだ魔弾は大爆発を起こす⋮⋮それも一発
一発の威力はあの黒龍を葬った︽誘導火炎弾︾並のおまけつきだ。
カッと魔物の傷口が光ったかと思えば、次の瞬間。とてつもない
爆発が発生した。それに続く形で魔物の体内で爆発を繰り返す魔弾
が火を噴く。
腸を抉り返される⋮⋮そんな生温いレベルじゃないだろうな。
これが、俺独自の銃技︽死の銃舞︾。銃に付与できるすべての能
力を付与し︵︻追尾︼は今回は超至近距離なので除外︶ありったけ
の魔力をつぎ込んでぶっぱなす⋮⋮口で説明すると力技に感じるが、
魔弾に︻分裂︼を相乗させるために複雑な魔法陣を組み込み、爆発
時に他の魔弾と競合しないように調整を加えるなど、中身は超精密
な仕組みとなっている。作るの苦労したんだぞ。
そんな、技を受けた魔物の末路は決まったも同然だった。
ウグラの時同様、細かくなってしまった状態では再生は出来ない、
魔○○ウ並に木端微塵となったら最後再生は出来ないだろう。︵あ
1929
っちの魔神はその状態から再生してましたけど︶
そして、魔物は声にならない、そんな表情を最後に炎の中へと姿
を消したのだった。
1930
第189話:発令! 第一号作戦︵6︶︵後書き︶
結論:どんなに強くてもクロウは上を行ってしまう。
現在の状態を分かりやすくするために、何のステータスが上がっ
たか書いてみましたがどうだったでしょうか?
個人的には書いている私も分かりやすかったので、助かるなと思
いました。
追伸
ブラスターの意味を教えて下さった方。ありがとうございました。
水と炎で相殺しそうだなと見てて思ってしまいましたが、これはこ
れで間違っていないので許してください︵笑︶
さらに追伸
魔弾の詳しい数ですが、仮に初弾発射数が50と仮定し、一回の
分裂が最低値の2とすると。
50×2=100︵分裂1回目︶
100×2=200︵2回目︶
200×2=400︵3回目︶
400×2=800︵4回目︶
800×2=1600︵5回目︶
1600×2=3200︵6回目︶
・
・
・
と、僅か5回の分裂で1000を超えてしまう事態に。そして、
私の構想では1回の分裂で1発の魔弾から5発生れるとしていたの
1931
で、50発で5回分裂したと仮定すると。
50×5=250
250×5=1250
1250×5=6250
6250×5=31250
31250×5=156250
となり、そこに︻狙う︼や︻急所撃ち︼の効果で全弾外すことな
く魔物に当たったと仮定すると⋮⋮
ああ、もう阿鼻叫喚ではすみませんね︵笑︶
魔物の大きさはウグラの時同様5メートルを仮定しているのです
が、どう考えてもオーバーキルだったなと反省しています。︵なお、
恒例のように後悔はしていない︶
1932
第190話:発令! 第一号作戦︵7︶︵前書き︶
お久しぶりです。生きてましたよ?
取りあえず色々いいたいことはありますが、本編どうぞ。
1933
第190話:発令! 第一号作戦︵7︶
﹁⋮⋮ふう﹂
魔物の肉片が雨のように降り注ぐシーンはグロいの一言に限ると
思う。赤黒い肉片と血の雨、そして内臓らしき物体が空から落ちて
来るのを見てそう思った。
そんな情景に思い耽って︵!?︶いると突如、腕⋮⋮というより
全身に電流が走るような痛みが襲ってきた。
﹁イテテ⋮⋮忘れてた⋮⋮﹂
ものの見事にもぎ取られた腕。︽硬化︾付きであんなにアッサリ
と切り落とされるとは思いもしなかった。素が人間の皮膚だから防
御力が底上げされなかったのかな?
それについてもどうにかしないと、と思いながら戦闘中に出来な
かった腕の治療をしつつ、俺は魔物の体の一部だった肉片を調べる
こととにした。
なお、腕の治療は回復系魔法では無く再生魔法を使った。流石に
ごっそり持っていかれたら回復なんてできません。
再生魔法⋮⋮生と死を操れないこの世界の魔法で、これを作るの
は本当に大変だった。再生⋮⋮というより創生に近いこの魔法は、
この世界の魔法の摂理の穴をついた魔法と言えるだろう。
﹁さて⋮⋮この肉片は持って帰って調べてみるか﹂
再生をしないか心配だな⋮⋮鉄塊で覆っておくか、どこか辺境の
地下にでも保管しておいた方がいいか? そんな、辺境の生き物た
1934
ちが顔を真っ青にしそうな事をサラッと考えつつも、この肉片を調
べてみる。触るなんてとんでもない。こんなどす黒い汚物みたいな
の誰が触るかよ。
==========
アイテム名:魔力崩壊し始めた肉片
︽説明︾
魔力に汚染された物質。膨大な魔力を持っているが、物質がその魔
力に耐え切れず崩壊をし始めた物質。崩壊時間の長さは物体の強さ
に比例する。
食べると魔力自然回復量が大幅に上昇する。ただし過剰摂取をする
と汚染されてしまい肉体の崩壊へとつながる。
完全崩壊まで残り約2分
==========
魔力汚染⋮⋮? てか、なにこれ? かなりエグイ物体⋮⋮いや、
そんなレベルのもんじゃねぇ、崩壊ってなんだよ崩壊って!? な
んか下の方に完全崩壊までの残り時間とか書かれているんだけど?
これ2分経過したら消えてしまうってこと?
試しに︽倉庫︾に入れて︵入れたくなかったけどやむ得ない︶メ
ニューから見てみるとアイテム名の横に︵2:03︶という数字が
浮かんでいた。恐らくだがこれが崩壊時間だろう。ただ、カウント
はされておらず数字はピタッと止まったままになっている。
︽倉庫︾内では時間が止まるからだろう。
暫くの間待っていたが、結局、数字が動く気配は無かった。その
間地面に放置された肉片は徐々にその姿を小さくしていた。例える
ならドライアイスのような感じだろうか。氷じゃないドライアイス
だ。というのも、肉片は解けるとかでは無く本当に徐々に小さくな
っているのだ。
1935
液体と言えば、先ほど俺が戦闘中に確認した液体だが、どうやら
あれも魔力崩壊し始めた肉片の一部だったらしい、肉体が形を維持
できずに崩れたということだ。︽多重防壁︾と衝突したときに耐え
切れなかった物体ということだな。
⋮⋮どうやら、これはかなり調べてみる必要があるようだな。
そう判断した俺は嫌々ながらも、小さくなっていた残りの肉片も
回収した。
それにしても⋮⋮こいつもウグラのとき同様、魔物化したのか?
まだ調べた訳では無いが、前にレシュードが飲みかけていたのが
あるから、あれも一緒に調べれば何か分かるかもしれない。
魔力汚染というのも気になるし、やることは山積みだな。分身出
来るなら分身したいです。スキルでどうにかなりませんかね?
﹁クロウ様!!﹂
そんな事を考えていると、背後から声をかけられた。振り向いて
みると獣族たちが、こちらに駆け寄ってきていた。全員、心配そう
な顔をしていた。まあ、原因は俺の腕だろう。
﹁クロウ様⋮⋮その⋮⋮腕⋮⋮﹂
案の定、腕に付いて聞かれてきた。まだ、再生途中で手首までし
か回復していないが、取りあえず﹁大丈夫だよ﹂と一言言った。
それのどこが大丈夫なの? と獣族は言いたげな顔をしたが﹁そ
うですか﹂とそれ以上聞くことは無かった。かわりに、その次に発
した声は謝罪だった。
1936
﹁⋮⋮申し訳ございません⋮⋮お力になれなく⋮⋮﹂
そういうと頭を下げて来たのはニャミィだ。他の獣族も頭を下げ
る。中には半泣き状態になっている者もいた。
﹁いや、謝る必要は無い。アレは完全に予想外だったからな仕方が
無いことだ﹂
そうフォローしたが、それでもやはり腕の事もあるからか、沈ん
だ表情のままだった。彼女たちからしてみれば、いざと言う時に主
を守れなかったのが悔しいのだろう。
﹁ほら、腕も回復してきたし何も問題ないからさ、元気出せよ。そ
んな顔俺は見たくないぞ?﹂
そういうと先ほどよりも、少しだけ再生された腕を振りながら笑
顔で言ってみせた。腕が抉れた状態で笑顔で腕を振る⋮⋮なんだろ、
物凄くシュールな光景に見える。
﹁えっ⋮⋮クロウ様⋮⋮腕が⋮⋮?﹂
その時、初めてニャミィたちが腕が先ほどよりも再生しているこ
とに気付いた。
﹁⋮⋮あっ、そう言えば再生魔法のこと話していなかったけ? 時
間はかかるがこうやって体の一部を再生出来るんだよ﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
1937
﹁﹁えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?﹂﹂
彼女たちの叫び声が静かだった平野に響き渡る。
﹁な、なんでございますかその魔法は!?﹂
﹁そ、そんな魔法、き、聞いたこともありませんよ!?﹂
獣族たちの反応は、ほぼ予想通りだった。彼女たちはだんだんと
再生されていく俺の腕に食い入るように見つめていた。
﹁まあ、だから俺なら別に腕が切れても時間さえかければ元に戻る
んだよ。だから別に心配しなくてもいいぞ?﹂
再生出来る事を知ったからか、先ほどまでお通夜に行く人のよう
な雰囲気だったのが、再生魔法の珍しさも重なり幾分明るくなった
気がする。
﹁さ、流石クロウ様でございます⋮⋮﹂
﹁私たちには到底無理なお話ですね⋮⋮﹂
﹁まぁ⋮⋮﹂
﹁﹁クロウ様ですからね﹂﹂
1938
おい。
結局最後はそれで納得するんかい!
︱︱︱特殊条件︻理解を諦められた者︼を取得しました。
アッハイ。
結局、俺も納得するしかなかった。俺っていったい⋮⋮
==========
腕がほぼ元通りになったのを見計らって俺らは一応街に向かう事
にした。獣族たちもいるからサッサと帰ろうかなとも思ったが、リ
ゲート
ネアたちに会わないで戻るのも悪いと感じたので顔を出す程度はし
ておくことにした。それに、こんな開けた平原じゃ︽門︾をだす場
所も無いしな。
まぁ、彼女らに何か悪影響を与えようものなら市内引きずり回し
の刑にでもしてやろうかな? そんな物騒なことも視野に入れつつ
︵あっ、勿論しないよ⋮⋮多分︶、彼女たちには防衛のために危な
1939
くなったら撃っていいと指示をしておく。
だが、街に向かう前に俺らは足を止めることになった。
と言うのもすでに俺らの後ろでは傷ついて倒れていた人たちを救
護している街の人の姿があったからだ。
俺と魔物が戦った場所は負傷兵がいるところよりも前だったので
獣族たちの影に隠れて気付かなかったのだ。
そんな人込みの中から一人の少女が走り寄って来る姿が見て取れ
た。
﹁クロウさん! よかった⋮⋮無事だった⋮⋮!!﹂
リネアだ。紫色の髪が特徴的な彼女だが、彼女の顔をつたる涙が
見えるとやはり顔の方に意識がいってしまう。
彼女は走っている勢いのまま俺に飛び込むような形で飛びついて
来た。
﹁サヤさんから腕が切れたと聞いて⋮⋮私⋮⋮もしクロウさんの身
に何かあったら⋮⋮どうしようかと⋮⋮﹂
泣きながら言ってるせいでよく聞き取れないが、俺を心配してく
れたことだけは分かった。
﹁ああ、ごめんな心配かけたな﹂
獣族たちの視線が少し痛いが、自分の身を案じているリネアを無
下に扱う事など出来る筈もなく、彼女が泣き止むまで暫くの間待っ
ていた。
そして、泣き止んでから初めて腕の事に気付いたのか、俺に聞い
て来たが﹁さあ? サヤの見間違えじゃない?﹂と適当にはぐらか
1940
しておいた。いや、どっちにせよサヤに問い詰められそうだから今、
答えをはぐらかしてもしょうがないんだけど。
﹁そういえばサヤは?﹂
辺りを見渡してみるが、彼女らしい姿は見受けられなかった。
﹁それが⋮⋮クロウさんの戦いが終わったと言った後から姿が見え
なくて⋮⋮﹂
﹁? どういうことだそれ?﹂
︽マップ︾を広げてみてみると、街の中で反応があった。よくよ
く見るとアルゼリカ理事長も一緒にいるようだ。
生きている事は分かったので、そんなに心配をしなくても大丈夫
かなと思ったが、そういえばアルゼリカ理事長の動きが先ほどから
全く無かったことを思い出し、やはり心配だから見に行こうと思っ
た、その矢先だった。
﹁クロウ君!!﹂
今度は男性の声だ。見るといつの日か、特待生組をフルボッコに
した時にお世話になった救護の先生だった。
﹁クロウ君! 色々聞きたいことが山積みだが、今はそれどころじ
ゃない。頼む! 助けてくれないか!?﹂
﹁助ける⋮⋮? なn︱︱︱
言いかけると、俺は口を止めた。先生が言いたいことが分かった
1941
からだ。
その答えは先生の後ろにあった。
運ばれていく負傷者たち。ピクリとも動かない生徒に声をかける
生徒たち。先生が言いたいことは一目瞭然だった。
﹁⋮⋮ああ、分かりました。手当の手伝いですね﹂
﹁! ほ、本当か!? 早速お願いをしたい!﹂
本当は助けるのも癪なんだけどな︵ある一部の生徒を見て︶。負
傷者の中には一般市民も多く混ざっているようだし、面倒なので今
回はまとめて助けてあげることにした。
﹁でもその前に、負傷者を一か所に集めて下さい。場所はどこでも
構いません。こんなに広範囲にかつ大人数をまとめて治療とかでき
ませんからね﹂
﹁わ、分かった。ではここでいいな? すぐに集めて来る!﹂
そういうと先生は速足で負傷者たちを運ぶ人たちへ声をかけに行
った。
その呼びかけに応じて集まりだす人たち、しかし、中には先生と
言い争った挙句俺とは正反対の街の方へ運んでいく人もいた。
割合的には、あんな少年に出来る訳がない。と言うのが6割、獣
族がいるから嫌だと言うのが4割ってところか。
人間より耳がいい獣族たちにはダダ漏れだろう。
﹁⋮⋮あんな奴らのこと気にしないでいいからな?﹂
別にあんな事を言われるのは初めてではないが、念のため、一言
1942
言っておく。
﹁⋮⋮はい、分かっています﹂
彼女たちは淡々と答えたが、どうしても運ぶ人たちの意によって
街へと運ばれていく負傷者たちを思ってか、しかめっ面となる。負
傷者たちからしてみれば一秒でも早く治したいならこっちだろうに
な。俺の腕の再生を目の当たりにした直後では尚更そう考えるだろ
う。
と、そんな事を考えていると俺の元に続々と負傷者たちが運ばれ
てきた。当然、﹁こんな少年が本当に?﹂と怪奇的な目で見る人も
いれば、﹁獣族︵又は奴隷︶の近くになんか行きたくない﹂と不快
な目で見る人もいたが治せるならと言う事で、渋々運んできたと言
う人も多くいるように見える。
ただ、出血が激しかったり重症の負傷者を街まで担架も無しに︵
あるのはあるが数が絶対的に足りない︶運ぶのがリスクが高すぎる
し、本当に死にかけの人もいて藁にでもつかむ思いで来た人もいる
だろう。
﹁さて、始めますか﹂
そして、俺の回復魔法を目の当たりにして驚いたり腰を抜かした
りする人が出て来るのは、もう間もなくのお話である。
また、この治療で沢山の民を助けて﹁聖者﹂と言われるようにな
るのも、もう間もなくのことであった。
1943
==========
﹁はぁはぁ⋮⋮! アルゼリカ理事長!!﹂
負傷兵が運ばれてくるのを前にごった返す街中をひた走るサヤ。
人と人の間を掻い潜って走るその様子は、某アメフト漫画に出て来
る主人公顔負けの動きだ。
﹁くっ⋮⋮一体どこに!? 開戦前はいたのに!﹂
大通りは一通り探索した。城門付近も一通り調べた。なのに探し
ている人は見つからなかった。
焦りが出始めた頃、ふとした瞬間にサヤの動きは止まった。
止まった場所は脇道に繋がる小さな道だった。この道の先は行き
止まりで、人の往来もほとんどない寂れた道だ。
だからこそ、その道の先で倒れる人の姿を彼女は見逃さなかった。
﹁⋮⋮アルゼリカ理事長!﹂
駆け寄ってみると、アルゼリカ理事長はうつ伏せに倒れておりピ
クリとも動いていなかった。
そして、倒れている顔付近には赤い液体が散らばっているのが見
て取れた。
急いで彼女を抱きかかえる。息こそしていたが、顔色は悪く口か
らは血を吐いていた。手から感じる体温も低く、襟や胸元部分は湿
っており大量の汗を掻いた後があった。
1944
﹁しっかりして⋮⋮! アルゼリカ理事長!﹂
サヤの必死の声も、今のアルゼリカ理事長には届かなかったのだ
った。
1945
第190話:発令! 第一号作戦︵7︶︵後書き︶
という訳で、前書きにも書きましたがお久しぶりです。
気付いてみれば前回の投稿日より一か月経っているんですよね。
一人暮らしの準備や、ネット環境を整えたりと色々していました
ら、随分と開けてしまいました。許してヒヤs︵その後彼の姿を見
たものはいなかった。
・
・
・
と、言うのは置いときまして。あっ、すいませんブラウザバック
しないでください。マジですいません。
あと、書くモチベーションが上がらなかったのもありますね。︵
ネタはあっても書く力が沸いてこない︶。
これを機にまた、復活目指したいと思います。久しぶりの更新で
したが、特に何もなくて申し訳ありませんが、これからもどうかよ
ろしくお願いいたします。
では、また次回で会いましょう!
オマケ
==========
1946
称号:理解を諦められた者
取得条件
・一般人の常識を超えた何かをやってのける
・周りに訂正されることを諦められる。
効果
・精神耐性が上がる
==========
1947
第191話:発令! 第一号作戦︵8︶
﹁お⋮⋮おおぉ! 治った! 治ってるぞ!!﹂
﹁俺の腕が! 腕が治ってる!﹂
﹁よかったぁ! 本当によかったぁ!﹂
先ほどまで致死量のダメージを負って死にかけていたのが嘘のよ
うに元気になった人、折れていた自分の腕が治った事に驚きを隠せ
ない者。治ったことを手と手を取り合い喜びを分かち合う者。様々
な人がいたが共通している事は、嬉しいと言う事だろう。
﹁ああ、本当にありがとうございます!﹂
﹁神だ! 神がいるぞ!!﹂
手当をした俺に感謝する人もいた。その中には涙を流す者や、神
に祈りを捧げてるような姿勢を取っている者もいた。
そんな、彼らに笑顔で答えつつ、俺は次の負傷者の治療へと移る。
先ほどの戦闘による負傷者の治療を始めること10分。既に数十
マップ
人ほどの治療を終え、残るはごくわずかの者のみとなった。
治療の片手間などから調べた結果、今戦闘による死者は123名。
負傷者68名。無傷だったのは後方にいた数人のみという悲惨な結
果だった。
敵の銃弾と言う雨に私服という防具無しで突撃をすれば当然の結
果かもしれない。魔法による遠距離攻撃を行う前に撃たれたのだろ
1948
う。いくら命中精度が低い敵の銃とも言えど集団で襲ってくる敵に
は非常に効果的だったということだ。
更に死者の割合を見ると、一般市民が約2割。残りの8割は魔法
学園の生徒だった。戦闘参加者の割合からすれば妥当な割合だが、
それでも多すぎた。今回の戦闘で魔法学園の生徒の大半は戦闘不能
となってしまった。これでは次回以降の戦闘ではもはや戦力として
は使えないだろうな。
そうこう考えているうちに、俺の元に来た怪我人の治療は残り一
人となった。
で、その一人が
﹁ぐっ⋮⋮! 離せ! あんたの世話になんか⋮⋮!﹂
﹁レミリオン様! 今は素直に治療を受けて下さい! 本当に死ん
でしまいますよ!﹂
⋮⋮ああ、なんというか、またお前かよ。魔闘大会で治療してや
った記憶がよみがえる。
いつかの従者のうちの一人がレミリオンと呼ばれた少女を押さえ
つけている。
しゃべれるからまだ平気だろうが、彼女はわき腹に二発銃弾を受
けていた。当たり所が悪かったのか、出血量は多い。
彼女の顔色も大分悪い。あと10分もすれば危険かもしれない。
そして10分程度では街まで運ぶことは困難だろう。そう考えると
従者の判断は正解だと言える。
ただ、治療を受ける当の本人にはどう映るか。
﹁こいつに⋮⋮治療を受けるぐらいなら⋮⋮死んでやる⋮⋮! あ
1949
んたも⋮⋮離しな!﹂
﹁嫌です! いくらレミリオン様の命令でも、それは聞けません!﹂
従者がグッと涙を堪えてこちらに振り向く。ちなみにだが、従者
も傷を負っていたのを治療してあげている。結構な怪我だったが、
それでも従者として主のレミリオンを運んできたのだろう。
﹁⋮⋮あなたに助けられることはレミリオン様に取っては屈辱以外
の何物でもないかもしれません⋮⋮。ですが⋮⋮お願いします!﹂
その時、ふと思い出した。そういえば、レミリオンに付き添って
いた従者は二人いたはずだ。もう一人は⋮⋮?
﹁⋮⋮あいつも⋮⋮きっとそう望んでいる筈です﹂
俺の疑問は最後に従者がぽろっと言った一言で解決した。恐らく
だが⋮⋮もう一人の従者はもうこの世にはいないのだろう。
﹁⋮⋮﹂
しばし、考えた俺であったが、レミリオンの傍まで近づき座った。
それを見たレミリオンが離せと従者にせがむが従者は頑なにそれを
拒んでいた。
﹁いいから黙って受けろや、俺もお前の治療なんかしたくねぇよ﹂
思わずそんな言葉が出てしまう。
﹁なら︱︱︱
1950
レミリオンが尚も断ろうと口を開ける前に俺は言葉を続けた。
﹁だけどな、ココで死んでどうするつもりだ? お前に付き添って
くれた従者を独りぼっちにでもするのか?﹂
レミリオンは自分の従者の方を改めて見た。従者は涙を流しなが
らもレミリオンを離すつもりはないようだ。その従者の様子を見て
レミリオンも言葉を失った。
﹁もし死にたいなら、まずはお前の従者を説得してみせろよ。今回
はそこの従者のお願いだから治療をしてやるんだからな?﹂
﹁⋮⋮﹂
俺も進んで治療をする理由もないしな。
レミリオンは従者の方をじっと見つめる。それに対し従者は涙を
流しながらレミリオンに治療を受けるようにと目で訴えかける。
﹁⋮⋮っ⋮⋮早くして! 私はあんたの顔なんか見たくもないのよ
!﹂
やがて、負けを認めたのかレミリオンが、治療のお願いをした。
それを聞いた従者は﹁レミリオン様ぁ⋮⋮﹂と嬉しそうに涙を流し
ていた。
﹁やれやれ⋮⋮﹂
素直に受ければいいものを⋮⋮と内心思いながらも、さっさと治
1951
療を行う。わき腹に出来た傷口は10秒程度で塞がった。悪かった
顔色も治療が終わる前にはだいぶ良くなっていた。
﹁⋮⋮ほら、終わったぞ﹂
俺が終わったぞと言うや否や跳ねるかのように飛び起きた。キッ
とこちらを人睨みするとそのまま礼も言わずに去って行く。
︵礼ぐらいあってもいいだろ︶
分かってはいたがいざ言われないとなると、ちょっと寂しい気も
した。ただ
﹁ありがとうございます﹂
その礼は代わりに彼女の従者がしてくれた。
﹁お礼は何も出来ませんが、私にできる事があれば何でも言ってく
ださい。レミリオン様を助けてくれたお礼ぐらいは何とか出来るよ
うにしますので﹂
そういうと従者はレミリオンの後を追いかけて走り去って行った。
﹁⋮⋮あんな奴に、あんなのが付いていくなんてな⋮⋮世の中分か
らないもんだな﹂
素直にそう思った。まあ、人の考え何てそれぞれだ。分からない
こともあるか。
その後は、教師から礼を受けたり、治療を受けた人から沢山の礼
1952
を受けたり、治療者の友人らしき人に礼を受けたりと、とにかく感
謝され尽くした時間となった。
と、このように俺のお蔭で助かったと言う人は沢山いた。だが、
その反面で散って行った者も多く居る。そして散っていった中には
俺の知った顔もあった。
1953
第192話:戦死者
﹁救護班急げ!﹂
﹁くそっ、傷が深すぎる! これじゃあ治療魔法が効かねぇ!﹂
﹁ありったけの医療品をかき集めろ!﹂
ハルマネにある病院は混乱状態に陥っていた。
先ほどの戦闘による負傷者を運び込んだまでは良かったが、銃弾
による傷は深く治療魔法は殆ど意味がない状態だった。
そこで、ポーション系を大量投入するという量に任せた治療を行
おうともしていたが、制作難易度が比較的高いポーションを大量に
持っている筈も無く直ぐに枯渇してしまった。
そこで、病院や魔法学園は街にいる商人から直接買うことにした。
だが、既に戦争が始まってそれなりの日数が経っている中、定価で
売ってくれる商人など簡単に見つかるはずも無かった。例え見つけ
たとしても価格は大幅に高騰して品薄状態であった。︵そもそも傷
を治療するポーション自体が非常に高価で数が少ないのも原因だが︶
そのため、病院では包帯などを使用した一般的な治療を行うしか
手は無かった。
そんな状態であるため、クロウやクロウが治療を行った人たちが
戻って来た時に驚かれたのは想像に難くないだろう。
そして、当然の如くどうやって治療したんだ? と言う話になっ
た。
当然の事ながら治療者は俺のことを話し、それを聞いた人たちが
1954
﹁探せぇ!﹂と言って俺を探し出す始末だ。
正直今すぐにでも帰りたかった。サヤとアルゼリカ理事長などに
会うのもまた今度でいいかなとも思ったりもしたが、アルゼリカ理
事長のことが気になっていた俺は渋々強行することにした。
幸い︽マップ︾で場所は把握しているので最短距離で移動が可能
だが⋮⋮そこは一般の人も沢山いるみたいで結局一筋縄でいかない
ようだ。
しかも今回は獣族たちも連れてきている。先ほどの感じを受ける
ここでも、彼らの目は変わらないだろう。どこかのタイミングで彼
女らだけでも戻らせればよかったのかもしれない。︵もっともそん
なタイミングがあったらとうにそうしてるが︶
獣族たちが固まって歩いていれば当然周囲の視線も集まる。そし
て、治療した人たちの中にはきっと﹁獣族に囲まれた⋮⋮﹂とか言
っている奴がいるに違いない。そうなれば俺を見つけるなんざ簡単
なもんだ。
彼女たちだけ別行動に⋮⋮とも考えたが、それはそれで彼女たち
が心配なので却下だ。まあ、武装している彼女らに勝てる奴なんか
早々いないだろうが⋮⋮さっきの化け物が他にもいる可能性がしな
⋮⋮。
﹁⋮⋮一応自分の判断で撃っていいが⋮⋮極力しないようにな﹂
そう言って彼女たちには射撃許可命令を出しておき、俺らはアル
ゼリカ理事長がいる病院へと足を踏み込んだ。 1955
==========
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
クロウが病院へ足を踏み込む直前のことだった。
﹁⋮⋮嘘だろ⋮⋮?﹂
シュラがそう呟く。口以外の顔は硬直しており表情は険しいとい
うより悲しいと言った表情だった。一体普段の明るい彼はどこに行
ってしまったのだろうか。普段の彼を知っている者ならそう聞いた
だろう。彼だけではない、病院の一室の一つのベットを取り囲むよ
うにしてサヤ以外の特待生組の面々が揃っていたが、シュラが呟い
た以外に口を発するものはいない。カイトは窓の外を黙って見つめ、
物
者
をじっと見つめていた。表情
を見ないようにしていた。
セレナ、ローゼは見たくもないと言わんばかりに視線を下に向けて
ベットの上にある
﹁⋮⋮﹂
そんな中ネリーだけは、その
一つ変えず、ずっと見つめていた。彼女は腕に銃弾を受けており、
包帯で応急手当てをされただけの傷口からは血がにじんでおり、そ
の変わらない表情と重なり、まるで地獄でも見て来たかのような雰
囲気を漂わせていた。
もちろん彼女だけではない。シュラ、カイト、セレナ、ローゼの
四人もどこかしらを負傷しており、少し前に応急手当を済ませたば
かりだ。
1956
だが、今はそのようなこと彼らにとってはどうでもよかった。
︱︱︱コンコン
ドアをノックした音が聞こえたかと思うとドアが開き、二人の男
が新たに病室へと入って来た。
﹁失礼するよ﹂
部屋に入って来たのは三人衆の内の二人であるセルカリオスとリ
ーファだった。
﹁お前ら⋮⋮﹂
﹁なんだい。現場指揮官が来たらおかしいかい?﹂
思わぬ登場に驚いている特待生組にそう言ったのはセルカリオス
だ。いつものうざテンションとは裏腹に今日は非常に落ち着いてい
た。
﹁いや⋮⋮別にそういう意味じゃねぇよ﹂
いつものテンションとのギャップに驚きつつもシュラが軽く返す。
セルカリオスの後ろから付いてきていたリーファがセルカリオスの
前へと出て来きた。その手には一枚の報告書が握られている。
﹁⋮⋮やられたよ⋮⋮完全にね﹂
報告書に視線を落としつつリーファは続ける。
1957
﹁もう戦うことは無理だと思うよ⋮⋮。元々軍としての体裁を保っ
ていなかったところに今回の敗戦⋮⋮﹂
﹁僕のマイハニーたちもかなりの子たちが散ってしまったよ⋮⋮ク
ソッ﹂
リーファが報告書をシュラに渡す。その後ろでセルカリオスが歯
ぎしりをした。
そんな普段見れない様子に驚きながらもシュラはリーファから受
け取った報告書に目を通す。
そこには、今戦闘による負傷者と死者の割合が書かれていた。
100
という数字は戦争で初めて指揮官と
﹁⋮⋮死者100名以上⋮⋮﹂
そこに書かれてる
して戦った者たちにとっては余りに重い数だった。しかもこれは現
時点での数である。これから当然増えて行くことは間違いなかった。
﹁⋮⋮﹂
シュラの言葉に先ほどから流れてる重い空気に拍車がかかる。
﹁⋮⋮で、これからどうするつもりなんだい?﹂
重い空気に耐えかねたリーファが質問をする。
﹁⋮⋮どうするってもな⋮⋮﹂
シュラが話ながらチラッと視線を向ける。それにつられてリーフ
1958
ァも視線を移す。
その視線の先はベットだった。
﹁⋮⋮報告で聞いていたよ⋮⋮﹂
彼の名前を呟いた。
前に聞いていたリーファはベットの上に眠る⋮⋮いや、
眠ってしまった
﹁⋮⋮テリー・ラーナ君だっけ⋮⋮本当に⋮⋮残念だよ﹂
﹁⋮⋮﹂
永遠に
﹁⋮⋮全身にくまなく敵の攻撃を受け重症⋮⋮まもなく死亡が確認、
死因はおそらく出血死か⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ああ⋮⋮﹂
リーファの答えにシュラが辛うじて答える。
﹁⋮⋮で、いつまでこうしているつもりなんだい?﹂
﹁お、おいセルカリオス⋮⋮!!﹂
リーファが止めようとするのを無視してセルカリオスが続ける。
﹁知人が死んだのは君たちだけでは無い。リーファも僕も一緒だ。
だが、上にいる者が嘆き悲しんでいる暇はないのじゃないかい? 全く⋮⋮不幸ちゃんの彼氏が来なかったらどうするつもりだったの
か⋮⋮本当、彼以外はまるで役に立たないね、これだから特待生は
1959
嫌いなんだよ、分かるかい?﹂
﹁テメェ⋮⋮!﹂
シュラが壁によりかけていた剣を握りしめ一歩前に出ようとする。
その動きをみたローゼが慌てて止めにかかる。
﹁シュラ! 落ち着きなさい! 今はそんなこと言っている暇では
ございませんよ!﹂
﹁分かってる! だが⋮⋮!﹂
シュラの視線はベットを見続けているネリーに行っていた。先ほ
どから彼女はピクリとも動いていなかった。
︵それが肉親が死んでいる奴の目の前で言う言葉かよ⋮⋮!︶
そう言いかけてシュラは言葉を飲み込んだ。
言っては駄目だ。それを言ってしまったら自分も同じ事になって
しまうからだ。
重い雰囲気から一転、険悪な雰囲気が漂い始めたとき、事態は動
いた。
﹁分かった! あとでするから取りあえずあっち行ってろよ!﹂
病室の外から聞こえる声。その声と同時に沢山の声が聞こえた。
﹁あの声は⋮⋮!﹂
1960
先ほどから黙って聞いていたカイトが病室を飛び出し廊下に出た。
特待生を始めとする面々も後に続く。
﹁お願いします! 今すぐに治療をお願いしたいのです!﹂
一人の少年におっさんが一人しがみ付いていた。周りには首輪を
付けた獣族たちの奴隷が十数人。そしてさらにその周りを囲むかの
ようにたくさんの人たちがいた。
﹁だからポーションやっただろ!? あれを怪我人に与えておけば
大丈夫だって言ってるだろうが!﹂
﹁あんなポーション一つでどうにかなるなら今頃苦労していません
! どうか、どうかお願いします!﹂
﹁だ、か、ら! アレは特殊なポーションで重症でも回復できるほ
どの能力を持っているって言ってるだろ!﹂
﹁そんなの信じれる訳が無いじゃないですか! 何故あなたが来て
下さらないのですか!?﹂
﹁俺にもやることがあるっつってるだろ! いい加減にしろよ! ぶっとばされ︱︱︱﹂
そこまで言って彼はこちらを見ている特待生たちの視線に気付い
た。
﹁⋮⋮お前らか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮クロウ⋮⋮?﹂
1961
クロウと言われた少年は黙ってシュラたちを見ていた。特待生た
ちも動く事無く黙っていた。
両者の間に流れる異様な空気を感じてか、クロウの腰にへばりつ
いていたおっさん︵恐らく医者であると思わる︶もクロウの腰から
手を離しそそくさとクロウから距離をとった。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
暫くの間どちらとも口を開く事は無く、またその様子を見ていた
群衆たちも決して口を開くことは無かった。
1962
第193話:一触即発
︵くそっ、会いたくない奴らにあっちまった⋮⋮︶
クロウは心の中でため息を吐かざる得なかった。今の特待生に会
っても良い事が一つも無い事は分かっていた。本当はこのルートを
通るのも嫌だったのだが、ここしかアルゼリカ理事長の病室に移動
するルートがなかったので仕方が無かった。もっとも彼にかかれば
窓から不法侵入したり、屋根に穴をあけてダイナミック入室ぐらい
楽勝だったが、それは獣族がいる今は出来なかったので、泣く泣く
正攻法で入った訳だ。
入ったところで静かにサッと行けば問題ないなと思っていたら、
今度は医師らしき人及び一般市民による﹁ちょっとツラかせや﹂状
態になったりと、世の中上手くいかないなとクロウは思った。
もっとも、予想していなかった訳では無い。市民が押し掛けるこ
とは予想していたし、︽マップ︾で特待生組たちの位置は完全に把
握していた。しかし、分かってはいても打つ手が無い以上、強行す
る以外に手がないのが現実だった。
﹁て、テメェどの面下げてきやがったんだ!﹂
真っ先に食いついたのはカイトだった。他の特待生たちは特に何
も言わなかったが、各々良い顔をしているとはいい難かった。ただ、
敵意丸出しで来ているのはカイトのみで、セレナやローゼ、シュラ
は苦虫を噛み潰したような顔をして、ネリーは表情一つ動かさずじ
っとしていて、セルカリオス、リーファはどうなることかと先行き
1963
を見守っていた。︵見守っていたと言えば聞こえはいいが、要は高
みの見物である︶
敵意丸出しのカイトを見たクロウはやっぱりなと半ば呆れ顔にな
った。と言うのも、最後にここを出る前から、クロウのカイトに対
する印象は決していいとは言えなかった。何を言っても反対、他人
の力に頼りっぱなし、そして言うだけ言って自分は何もしない⋮⋮
まるで、無能な政治家の言葉を聞いている気分にクロウはなってい
た。
それを見たカイトはさらに激昂する。
﹁お前のせいで人が大勢死んだんだぞ! お前が最初からおっとけ
ばこんな事には︱︱︱
﹁ならなかったと言うのか?﹂
カイトの言葉を防ぐかのようにクロウが口を開けた。
﹁そうだ! お前のその力があれば、こんなことにはならなかった
んだよ! こんなに死人は出なかった! テリーも死なずに済んだ
んだよ!﹂
﹁ばっ、お前︱︱︱
﹁シュラはすっこんでろ!﹂
どこの口が言うか⋮⋮。もっともカイトはクロウがエルシオンに
戻る事を認めた訳ではなかったので、筋は通ってはいるのだが。カ
イトはシュラが止めようとするのも聞く様子は見られなかった。止
めようとした理由は言わずも分かろう。それはクロウも分かってい
1964
た。
クロウがテリーの戦死を知ったのはこの病院に入った直後⋮⋮正
確には一般市民たちがクロウに群がる前に、誰かが話しているのを
聞いて、︽マップ︾で調べたときだ。
そのため、特に驚くことも無くクロウは淡々と答える。
﹁そうだな、確かに俺がいればテリーは死ななかったのかもしれな
い﹂
﹁なら、︱︱︱
﹁だが、それは所詮たられ場だ。そんなのは理由にはならない。戦
争中の今、死ぬ理由なんていくらでもある。それが戦死だったとい
うだけだ﹂
事実、戦時中の死は色々ある。普段の病死もそうだが、それ以外
にも場所によっては飢餓で飢え死に、薬が無ければ、感染症で命を
落とし、など理由を上げだしたらきりがないだろう。
もっとも、こんな事を言っても言う事を聞く奴じゃないことは、
クロウは分かっていた。既に頭の中ではどうやってこの状況を打開
しようかと考えを張り巡らしていた。
﹁そうやって逃げるのか? 結局、お前は戦争を理由に人が死んだ
理由を押し付けているだけじゃねぇか! そんなの許されるはずが
ねぇだろうが!﹂
カイトの怒りが収まる気配は無かった。最初はどうやって宥めよ
うかとも考えていたクロウであったが、ここまで来るともう、何を
言っても止まらないだろうなと薄々感じてはいた。
1965
﹁謝れ! 今すぐ土下座の一つでもしろや!﹂
ついには土下座しろまで言い出す始末。ちなみにこの世界で土下
座とは屈辱以外の何でもない行動のひとつだ。人によっては土下座
させられるぐらいなら死ぬと言って本気で死ぬ人も出るぐらいだ。
一度公の場で土下座をすれば、その後一生涯に渡ってその汚名を着
せられ、笑われ続ける事になる。
何を言っているのかというと、それくらいこの世界での土下座は
周りからの目をガラッと変えかねないものなのだ。
流石にこの言葉に、今まで黙っていた人たちも我慢出来ないとば
かりに動き出した。
﹁ふざけるな! お前いくらなんでも言い過ぎだろ!﹂
先ほどカイトを止めきれなかった、シュラが真っ先にくいついた。
カイトの胸倉をつかみ鬼の形相でカイトを睨み付ける。だが、カイ
トも引く気はなく、あ゛ん?と睨み返す始末になった。
﹁そうよ! クロウがいればこんなことにはならなかったかもしれ
ないけど、クロウをエルシオンに行かせたのは他でもない私たちな
のよ!? それを言うなら、その前に言っておく人がいるのじゃな
いかしら?﹂
﹁カイトさん⋮⋮あなたは少しクロウさんに厳しすぎませんか? ⋮⋮その言葉を言うなれば、それは私たちの力が未熟でこの事態を
招いたとも解釈できそうですが?﹂
高みの見物をしている三人衆の二人もカイトには決していい顔を
していなかった。セルカリオスとリーファは二人ともあきれ顔を通
1966
り越して、どことなく苛立ちの表情を浮かべていた。
獣族たちの状況はもっと悪かった。普段のホワワンとした雰囲気
はどこいったやら、今は殺気に満ち溢れており、銃はいつでも撃て
るように構えの前の体勢をとっていた。言葉こそ何も言っていない
が、その目からは怒りを通り越して殺意を感じざる得なかった。
彼女たちからしてみれば、自分たちの命の恩人を侮辱されたのだ
当然、怒るに決まっていた。普段温厚であるからこそ、こういうと
きの殺意はより一層恐ろしい物を感じた。
状況を理解していない一般市民と医師であったが、クロウに特に
印象を持っていない彼らにとってはカイトは、自分たちを助けてく
れるであろう人に、そのような暴言を振りかけたことに怒りを覚え
ていた。一般市民の中には、前にも助けられたことがある人もおり、
その人たちはそれ以上の怒りを覚えた。
まさにカイトにとっては四面楚歌の状況だろう。だが、既に怒り
で周りが見えていないのか、それとも分かった上で行動しているの
か、カイトが止まる気配は微塵も感じられなかった。
﹁考えてみろ! クロウがいればこんな悲惨な事にはならなかった
んだろが! こいつのせいだろうが!﹂
なおも暴れてるカイトに、獣族たちはついに危険を感じてか、一
斉に銃口をカイトの顔へと向けた。銃が構えられた瞬間、魔族との
戦闘で銃の威力を見ていた人たちは一歩も、二歩も後さずりをする。
作られたばかりの銃は、その存在を十二分に発揮していた。
﹁お、おい。お前ら落ち着けって﹂
流石にクロウは不味いと感じてか、獣族たちを宥める。
1967
﹁これが落ち着いておられますでしょうか! あの人はクロウ様を
侮辱したのでございますよ!? クロウ様が助けてあげなかったら
⋮⋮!﹂
ニャミィの言葉に他の獣族たちも賛同するかのように頷く。
﹁分かった! 気持ちは分かったからここで撃ったら駄目だからな
!? いいから銃を降ろせ!﹂
ぐっと悔しい表情を浮かべる獣族であったが、主人の命令である
ならば仕方ないと構えを解く。
﹁なんでテメェらが、魔族と同じ武器を持っている!? さてはテ
メェ、魔族に媚びを売ってやがったな!﹂
ついに頭までおかしくなってしまったか? クロウはそう思わざ
る得なかった。そして、その言葉はクロウの命令で収まった獣族た
ちの感情を見事に逆なでした。
﹁ふ、ふざけているでございますか!? そ、それが助けてもらっ
た人への言葉でございますか!?﹂
﹁クロウ様を侮辱するのもいい加減にしてください!﹂
本来、人間領土内︵しかも街中で︶獣族が人間に対して反発する
など、あってはならないことだ。というか、まずありえないと言っ
ても過言ではない。当然といえば当然であるが、この時の彼女たち
は、この常識をいとも簡単に破ってしまったのだ。おそらくクロウ
の統制によるスキルの恩恵がなかったとしても彼女たちは、今この
1968
場で反論していただろうが、それでも、普段大人しい獣族が反論す
るとは思ってもいなかった、クロウは﹁えっ、マジで?﹂と我を忘
れて驚いた。
そんな常識を平然と破られた挙句、獣族に反論されたことが気に
入らなかったのか、ますますカイトの言葉が荒くなる。
﹁そうだろ! そんな知らない武器を何故、お前らと魔族が持って
いる!? どちらかが渡したとしか考えられねーだろ! どちらが
渡したにせよ、お前は魔族の味方なんだろ? それとも獣族か? そうだよな! だってそんなもしそうでないなら、クソ獣族に優し
くしている理由が分からねぇもんな!﹂
カイトの一言についにクロウ自身もキレそうになり、事態はいよ
いよ一触即発の状態になったその瞬間だった。
﹁本当なの?﹂
特待生たちの動きがとまり、一斉にクロウとは反対の方を向いた。
そこには、ネリーが表情一つ変えずに立っていたのだった。
1969
第193話:一触即発︵後書き︶
クロウがエルシオンに戻った理由は第160話あたりを、前にク
ロウに助けられたと言うのは第159話での治療のことです。
こうしてみれば、クロウは聖者への階段を順調に登ってますね︵
遠い目︶
いつも感想やアドバイスありがとうございます。時間の関係上、
誤字の報告などに中々手を付けられていませんが、すべての感想に
必ず目を通しているので、ドンドン書いていってください。返信や
誤字修正が出来ていないのは本当に申し訳ありません︵土下座︶
ブログなんて更新している場合じゃありませんね︵汗︶
1970
第194話:気持ちの持ち方
﹁本当なの?﹂
抑揚が無い声が聞こえた瞬間、この場にいたすべての人の動きが
止まった。
カイトたちが恐る恐るといった感じで後ろを振り向くと、そこに
いたのは先ほどから一つも声を発していなかったネリーの姿があっ
た。
﹁今、カイトが言った事全部本当なの?﹂
目が完全に死んでいる。無理もない血の繋がった兄が死んでしま
っているのだから。
今頃、失言に気付いたのかカイトが﹁あっいや﹂と言いたそうな
顔をしている。もっとも申し訳ないと思っているのはネリーに対し
てであって、クロウには微塵も思っていなかったが。
ネリーが一歩、また一歩と前へ足を進める。カイトを始めとした
特待生組はビビッて通路の端に移動し、ネリーとクロウの間に隔て
る者はいなくなった。
﹁⋮⋮﹂
家族が死んだ者にどんな声をかければいいか。クロウは迷った。
例え自分のせいでないにしても、今彼女の心が不安定なのは間違い
ない。ここで言葉を間違えると彼女は今後立ち直れなくなるだろう。
それは前世で家族を失った自分が一番理解している。
1971
と言っても、それはもはや過去のさらに過去の前世でのお話。あ
の時とは感情も状況も全く違う。彼にとっては彼女がどうなってし
まおうが、助けるのはあくまで最後であって、自分の家族が最優先
だ。
もし、彼女がここで自分にではなく家族に襲い掛かった場合、ク
ロウは間違いなく彼女を倒すだろう。それは彼の家族に危険が迫っ
たからであり、彼にとっては当然の行動である。
﹁⋮⋮もし、カイトが言った事が事実だとして、何故俺は今お前ら
の前にいる? そんなことをするメリットも動機も理由もない、そ
れが全てを物語っているだろ? そんな馬鹿らしいことを俺がやる
訳ないだろ︱︱︱﹂
そう発言した後でクロウは思った。
ここで、自分が否定した場合、彼女は一体どんな行動にでるのだ
? 恐らく、ネリーも普段の状態であればカイトの戯言など疑いも
しないで即座に否定しただろう。だが、そんな戯言すらも今の彼女
は簡単に信じそうになってしまっている。
今のネリーの心境は物に当たるときの感情に似ているかもしれな
い。怒りの矛先をどこかにぶつけたいのと同じことで、彼女は今、
心に空いた虚無感を何でもいいから埋めたいのかもしれない。また
は、兄が死んだことへの怒りや悲しみを、向ける事が出来ても叩く
ことが出来ない戦争ではなく、形があるもの⋮⋮ここではクロウに
向けたかったのかもしれない。
どちらにせよ、彼女は今、何でもいいから縋りたいのだろう。
そして、その縋るものを拒否した瞬間、彼女には何も残らない状
態になる。
1972
そんな状況に陥ったときに取る行動は限られてくるだろう。
﹁そう⋮⋮嘘を付くのね﹂
そういうと彼女は通路端に避けていたカイトに近づき持っていた
剣をさっと奪い取った。
﹁いや、嘘ついてな︱︱︱
﹁お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだ
のはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。
お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだの
はクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。
お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだの
はクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。
お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだの
はクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。
お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだの
はクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。
お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだの
はクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。
お兄ちゃんが死んだのはクロウさんのせい。お兄ちゃんが死んだの
はクロウさんのせい。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。
仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。
仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。仇を取る。
仇を取る。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺
す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺
す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺
す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺
す。﹂
1973
あっ、これアカンやつや。
クロウはネリーは完全に自己暗示モードに入っているが分かった。
ぶつぶつと唱えるあの様子を見ると小説だったとしても寒気が襲っ
たものだ。もし自分だったらと。そして、今そのときのシチュエー
ションが現実となってしまったのだ。
それにしても、特待生組のメンタルの弱さはどうにかならないも
のなのか。ネリーはまだ、同情の余地はあってもカイトになったら
話にならないレベルだ。
﹁殺す﹂
そして、突然こちらを向いたかと思えば、ネリーがこちらへと向
かってきた。その瞳は相変わらず死んでいたが、その死んだ瞳の置
くに感じる殺意はとてつもないものだった。
その殺意に獣族たちも咄嗟に銃を構える。剣の届く範囲まで来た
ら間違いなく撃ちにかかるだろう。
﹁撃つな!﹂
クロウはすぐさま獣族に撃たないように命令を下す。獣族たちが
戸惑っている間にもネリーはどんどん近づいてくる。
そして、ついにネリーの剣が届く範囲まで接近を許すこととなっ
た。
﹁クロウ様!﹂
﹁手を出すんじゃないぞ!﹂
1974
ネリーの斬撃がクロウへと襲い掛かるが、当然クロウには当たる
はずもない。力の差が歴然なのもあるが、普段の太刀筋よりも明ら
かに鈍かったのだ。
﹁ほら、殺したいんだろ? やってみろよ?﹂
﹁うるさい! 殺ってやる!﹂
挑発するクロウにネリーは簡単に乗り、さらに攻撃は激しくなる。
だが、対照的に剣速は遅くなっている。力で無理やり振っているの
だから当然だと言えるかもしれない。
そして、力によるゴリ押しがいつまでも出来るはずが無く。
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮殺⋮⋮す⋮⋮﹂
開始1分。すぐに息切れしまう始末だった。
﹁お兄ちゃんの⋮⋮かた
﹁いい加減、目覚ませや!!﹂
今まで防戦だけしていたクロウから強烈なキックが飛び出す。横
から鞭のように繰り出された蹴りはネリーの身長の丁度中間あたり
を綺麗に捉え、クロウはそのまますぐ横の壁へと押し込むかのよう
に振りぬいた。当然、手は抜いてある。︵全力で蹴った場合、風圧
で周りの人どころか建物自体が崩壊する恐れがある︶
ズドンと音が鳴り、周囲が僅かに振動が発生した。壁にはひびが
入ったのが確認できた。一般市民はその場から逃げ出し、特待生た
ちは唖然とするしかなかった。
1975
壁にぶつかったネリーは、しばしの間壁にひっついてしまってい
たが、やがて重さに耐えれなくなった壁の一部がはがれ同時に地面
へと落ちた。
﹁⋮⋮ったく、どうだ? 少しは頭が冷めたか?﹂
地面にうつ伏せに倒れるネリーへクロウは問いかける。しかし、
ネリーは何も答えなかった。
﹁本当は分かっているんだろ? カイトが言った事が違うことぐら
い﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮別にお前が正しいと思ってるならそう思っていればいい。そ
れでお前の気持ちが満足するならな﹂
﹁⋮⋮だったら⋮⋮﹂
﹁?﹂
先ほどまで無反応だったネリーから声が聞こえたかと思うと、急
にワナワナ震えだしたのが分かった。
﹁だったらどうすればいいのよ! 私のこの怒りは!? 悲しみは
!? 誰に? 何にぶつければいいのよ!﹂
﹁⋮⋮俺は別に復讐をするなとは言って無い。さっきも言ったがお
前の気持ちが満足するならな。だが、もしそれで俺の家族に悲しい
1976
思いをさせることがあれば⋮⋮その時、お前は特待生の知り合いで
も何でもない⋮⋮ただの敵だ⋮⋮その時は⋮⋮消す⋮⋮それだけは
覚悟しとけ﹂
﹁⋮⋮どうせクロウさんには分からないわよね⋮⋮こんな別れ方と
は無縁そうだもの⋮⋮﹂
ネリーが体を起き上げながら、自虐に近い言い方をする。
﹁そうだな。そんな別れ方したくもないし見る気もない。そんなも
の昔に嫌と言うほどみたしな﹂
﹁えっ⋮⋮それはどういう
﹁でも、それがどうした? それで諦めるのか?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁嫌だろ? 嫌ならどうする? 俺みたいな強い奴にただ助けを求
めるだけか?﹂
﹁⋮⋮!﹂
﹁違うだろ? 本当に守りたい人がいるなら⋮⋮それを守れるくら
い強くなってみせろよ。他人の力に過信しているようじゃ、今後何
回同じ目に遭うだろうな﹂
﹁⋮⋮うっ⋮⋮うう⋮⋮﹂
ついに折れたのか泣き始めるネリー。﹁おい﹂とどこからか声が
1977
聞こえたが、謎の打撃音により直ぐに聞えなくなった。
﹁悔しいか? 辛いか? もうこんな思いしたくないか? そんな
の誰だって一緒だ。だが、その後どうするかはネリー、自分自身が
決める事だ。同じ目に遭わないため、周りとの交流を絶ち、孤独に
生きるかそれとも、それを承知でこのまま生きるか⋮はたまた他の
方法を選ぶか⋮⋮俺が言える事はこれくらいだ﹂
それだけ言うと、クロウは獣族たちに行くぞと言い、再びアルゼ
リカ理事長のいる病室へと歩き始める。しばし唖然としていた獣族
であったが、慌てて後を追いかける。その後ろ姿を涙ながらにネリ
ーは見る事しか出来なかった。
﹁ああ、そうそう﹂
思い出したかのようにクロウが言うと。今度は特待生組に近づく。
そして何故か地面に伏しているカイトを持ち上げると、︽威圧︾を
全開にして、更にご自慢の刀を︽倉庫︾から取り出すと、先端をカ
イトの喉へと突きつける。サクッと良い音がしたかと思うと、カイ
トの喉仏あたりから血がスゥと流れ出す。
﹁俺をバカにしたり、いちゃもんつけるのは別に構わねぇけどよ⋮
⋮俺の家族をバカにするならお前も敵とみなすからな? いいか。
? 忠告はしたからな? 二度目は無いぞ?﹂
カイトが何か言いたげな顔をするが、言うより前にクロウはカイ
トを放り捨てると、今度こそ獣族を従え歩みを止めることなく廊下
の奥へと消えて行った。
後に残されたものは、ただ茫然とする他なかった。
1978
第194話:気持ちの持ち方︵後書き︶
次回、いよいよアルゼリカ理事長の元へと行きます。恐らくそこか
らちょっとした昔話になるかもしれません。予定ではそこで本格的
な戦記が入る予定です。これで本格的にタイトル詐欺はおさらばで
すね。︵約3年近く連載しといてどの口がいうのか︶
1979
第195話:病室
﹁入るぞ﹂
とある病室のドアを開けると、そこにはベットの上で眠るアルゼ
リカ理事長と、それを心配そうに見つめるサヤの姿があった。
この部屋のベットの数は8。その全てが埋まっていたが、全員重
症患者なのかとても静かだった。その証拠に寝ている患者の布団は
どれも乱れておらず、まるで人の代わりに人形でも横たわらせてい
るかのように見えた。
ちなみに、この世界の病室は患者ごとに区切るカーテンなどはな
く、患者は隣の人の様子が24時間いつでも丸わかりとプライバシ
ーの保護など少しも感じさせない作りとなっている。個々のプライ
バシーよりも収容能力を優先した結果と言えるだろう。
﹁⋮⋮クロウ⋮⋮﹂
サヤがこちらに気付き振り向いた。顔の表情からかなり心配して
いる様子がうかがえた。
﹁一体何があったんだ?﹂
マップを見たときアルゼリカ理事長のマーカーが動かなかったこ
とから、何かあった事は分かるが、具体的に何が起きているかまで
は分からない。アルゼリカ理事長は今の所眠っているようですぐに、
何かあるという訳ではなさそうだった。
クロウの問いにサヤは首を横に振る。
1980
﹁⋮⋮分からない⋮⋮ただ、私が見つけた時には⋮⋮血を吐いて倒
れていた⋮⋮﹂
﹁血?﹂
﹁⋮⋮そう⋮⋮医者は今は出血も止まっているし命に別状は無いっ
て言っていたけど⋮⋮﹂
﹁それだけ?﹂
﹁⋮⋮外傷じゃないから詳しい事は分からない⋮⋮﹂
日本での感覚で聞いてしまったクロウは、一瞬戸惑ったが、すぐ
にこの世界では当たり前だったことを思い出した。
日本⋮⋮もとい現在の医療の場ではレントゲンや胃カメラなど、
私たちの体内に何が起きているかを詳しく調べることが出来る。
だが、この世界では当然そのような道具は無い。医者は外傷と己
のスキルを駆使して患者の症状を調べるしか有効な手段を持ってい
ないのだ。ただ、本当にそれだけしか無いのかと言うと違う。
病院単位でや国単位で死体の解剖を行ったりすることもあるし、
昔からある症状ごとにある程度の病気は見当がつく。クロウが前に
かかった︽技能異常熱︾もその一つだ。
流石に癌や新種の病原菌による感染症などのレベルになると手に
負えなくなってしまうが、例え病名が分からなくても治療スキルが
あれば大抵の病気は治ってしまうので、そこまで医療機器や薬、知
識がなくても問題なしらしい。その証拠にこの世界では病院を開設
したり、治療をするために必要な免許などは一切ない。
﹁ちょっと見せてくれ﹂
1981
クロウはそういうと鑑定スキルでアルゼリカ理事長の状態を調べ
だした。
病気は︽鑑定︾スキルで見る事が出来る。しかし、病名が浮かび
上がるという訳では無く、肺に穴が開いているとか現在の状況程度
の事しかわからない。
だが、それはあくまで現在の一般人での場合だ。
クロウの場合は少し違う。他と同じように個所によって症状が分
かるが、そこから自動的にどんな病気にかかっているかが分かる優
れもたスキルだ。ちなみにこれはクロウが作った訳では無く︽神眼
の分析︾の初期からついているものだ。
じっと見つめる事十数秒。鑑定が終わったクロウがサヤの方を向
いて病名を告げる。
﹁⋮⋮急性胃潰瘍だ﹂
﹁? ⋮⋮きゅうせいいかいよう?﹂
初めて聞く単語にサヤが首をかしげる。
﹁簡単に言うと胃が荒れたり、胃に穴が開いたことによる腹痛など
の症状の総称だな﹂
﹁い、胃に穴が⋮⋮?﹂
想像しただけでも胃が痛くなりそうな言葉に、サヤは思わず自分
のお腹を触ってしまう。
﹁ああ、まあ初期で見つかれば大丈夫だ。ただ⋮⋮﹂
1982
クロウは険しい表情でアルゼリカ理事長を見ながら続ける。
﹁問題は胃潰瘍になった理由だ﹂
急性胃潰瘍の原因はいくつか存在する。現代ではたばこを吸い過
ぎたり、アルコールを取り過ぎたりすることで起きる。また、精神
的ストレスが原因でなってしまうこともある。
クロウは今回の原因が精神的ストレスだと分かっていた。先ほど
も説明したようにスキルを通して見ることによって身体の様々な部
分で何が起きているかを確認することが出来る。それは目では見る
ことが出来ない物もだ。
そして、今回の胃潰瘍になってしまった原因はストレスだったの
だ。
︵今回の戦争が原因でなったと考えるべきか⋮⋮、いやでも過去に
隊長をやっていたと言っていたからそれは無いか? そもそもなん
で自分で指揮を取らなかったんだ?︶
クロウは全校が集まったあの日、アルゼリカ理事長とレミリオン
とのやり取りを思い出していた。
︵昔は出来たが今は出来ない⋮⋮負傷? 剣も握れないと言ってい
たな⋮⋮もしかしたら腕を負傷していたのか? いや、もしそうだ
としても補佐をしない理由にはならない⋮⋮別になにかあると考え
るべきだろう⋮⋮じゃあ他に何がある⋮⋮?︶
暫く考えていたクロウであったが、いくら自分で考えても答えは
分からないと思いなおすと、直接本人から聞いた方がいいと判断し
た。
1983
持ち前の治癒スキルを使用してアルゼリカ理事長の治療を開始す
る。ほどなくしてステータス異常にあった、胃の項目が消え、身体
的には完全に回復したことが分かった。
﹁⋮⋮これで大丈夫だ﹂
﹁⋮⋮ほ、本当⋮⋮?﹂
﹁ああ、さて、目が覚めたらなんでこうなったか聞くとするか﹂
﹁⋮⋮話を聞く⋮⋮?﹂
﹁こっちの話さ。言っても分からないだろストレスとかアルコール
とかたばことか﹂
﹁? ? ?﹂
完全においてきぼりになっていたサヤ。その表情は今にも頭上に
はてなマークが浮かびそうな表情だった。それは先ほどから蚊帳の
外だった獣族も同じで﹁何を言っているのでございましょう?﹂と
ニャミィが全員の心の声を代弁する形で呟いた。
﹁こちらの話さ。一応治療はしておいたから、俺は一度家に戻って
からまた来るよ。目が覚めるまで暫くかかるだろうし、これ以上騒
がれたくないしな﹂
﹁ま、まって⋮⋮﹂
やる事はやったので獣族たちの事を考えて早めにクロウは病室を
1984
後にしようとすると、サヤが慌てて呼び止めた。
﹁ん?﹂
﹁⋮⋮さっきは⋮⋮ありがとう﹂
そういうと深々と頭をさげるサヤ。
﹁⋮⋮気にするな。言っただろ? ﹃万が一のときは助ける﹄って﹂
﹁⋮⋮そうね⋮⋮﹂
﹁じゃ、俺らは一回帰るわ、ほら皆行くぞ﹂
獣族たちを再び従え病室を後にするクロウ。
あとに残されたサヤは、暫くの間クロウたちが出て行った扉を見
ていたが、やがてアルゼリカ理事長のベットの傍にあった椅子に腰
を降ろしアルゼリカ理事長が目を覚めるのを待つことにした。
﹁⋮⋮よかった⋮⋮﹂
医者が言う﹁大丈夫﹂とクロウが言う﹁大丈夫﹂とではこうも安
心感が違う者なのか。サヤは安堵している自分を見てそう思った。
そして、改めて自分の無力さを同時に感じていた。アルゼリカ理事
長のこともだが、先の戦いで何も出来なかった自分が嫌になりそう
だった。
﹁⋮⋮私もいつか⋮⋮﹂
1985
少女は静かな病室で、静かに決心を固めるのであった。
﹁⋮⋮あれ? そういえば腕⋮⋮﹂
今頃になってクロウの腕が治っていることを思い出したサヤであ
ったが
﹁⋮⋮まあ、クロウだし⋮⋮﹂
と、深く考えるのはやめておくことにした。それと同時刻どこと
なく新たな称号を得た少年がいたが、本人にとってももはや息をす
るが如く当然のことだったので、割愛させていただく。
1986
第195話:病室︵後書き︶
次回戦記ものをすると言ったな。
アレは嘘だ。
あっ、まってブラウザバックしないで、マジですいません、書く
時間が無くて泣く泣く前倒しで出してしまったのです、次回にはな
んとかします。
話を変えて次回でこの小説も200回になるのですね。まあ、だ
から何かをするのかと言うとそうでもなく、私は今までどうり平常
運行で行こうと思います。
多分次回も何もかわらないと思いますが、それでもよろしければ
次回もよろしくお願いします。
1987
第196話:モフモフは素晴らしい
﹁申し訳ございません﹂
﹁ん? 何が?﹂
アルゼリカ理事長に会ったのち俺はさっさと街を後にした。
ちなみに、俺にしがみ付いていた医者らしき人たちのことだが、
俺が挙げたポーションで全員無事に復活したのは︽透視︾で確認で
きた。オマケではあるが、そのポーションの残りを医師たちが血眼
になって奪い合っているのも確認できた。
その様子を見た俺は、俺の所に来るのも時間の問題だと判断して、
さっさと病院を脱出することにした。
脱出する方法は至極簡単。窓からのダイナミック入室があるなら、
ダイナミック退室もあるだろう。ということで、その辺の廊下の窓
から飛び出しました。勿論、獣族も一緒です。
飛び出す直前﹁マジで?﹂といった顔を獣族がしたのは忘れる事
は無いだろう。森の中で生きて来た彼女らにとっては取るに足らな
いことらしく、体操選手風に軽々と飛び出していった。まあ、1階
だから大したことなかっただろう。
飛び出した後は一直線に街の外へとダッシュするのみ。一直線と
は比喩ではなくリアルだ。流石に民家をぶち抜くわけにはいかない
から、屋根の上を走らせてもらった。⋮⋮あれ? 前にも民家の屋
根を走った記憶が⋮⋮? ま、まあその話は置いといて、先ほども
言ったが、森の中で育った彼女らにとっては民家の屋根なんかは平
地と変わらないのかスイスイと進んでいく。某忍者漫画の移動シー
ンに負けず劣らずの素早さだった。
1988
フェイ
流石、あの子供たちの鬼ごっこの相手をしていただけはあると思
った。
で、最後にぶっ壊れた外壁にから平地へと飛び降りて、無事脱出
成功したわけだ。ちなみにぶっ壊した窓は放置してきました。
ゲート
それで、︽門︾を使って帰ろうと思った矢先で、冒頭に戻るわけ
だが、何か不味いことでもしたっけ俺?
ニャミィが頭を下げると他の獣族たちも頭を下げる。うーん、本
当に何も思い浮かばないのだが。
﹁沢山の人間族たちの前で出しゃばった真似をして、本当に申し訳
ございません﹂
﹁あっ、そのこと? 別に気にしていないぞ?﹂
﹁しかし⋮⋮﹂
﹁むしろ俺は嬉しかったけどな﹂
﹁えっ?﹂
獣族たちは驚きの表情を浮かべた。
﹁だってさ、逆に考えてみろ? あんな沢山の人の前で一寸の迷い
も無く俺を庇おうとしてくれたんだぜ? やろうと思っても簡単に
やれることじゃねぇよ﹂
﹁クロウ様⋮⋮﹂
1989
﹁それに命令した訳でもないしな⋮⋮﹂
事実、あのとき彼女たちは間違いなく俺の為に怒ってくれた。そ
れも人間の街の中でだ。勿論、普通はないし、あってはならないこ
とかもしれない。
でも、それがなんだと言わんばかりに彼女たちは己の身を守るた
めの武器を俺を守るために使おうとした。いや、銃で撃ったら駄目
だろ? と反論する声があるかもしれないが、咄嗟の行動にその人
の本音が現れると言う通り、彼女たちの本音を体現してくれたと俺
は思った。
﹁だからさ、謝る必要なんかねぇよ。むしろ⋮⋮ありがとうな﹂
こういうのを面と言うのは照れ臭いものだ。俺は恥ずかしく思い
ながらも彼女たちに言った。
﹁お礼⋮⋮ってわけでもないけどさ、俺に出来る事ならなんでも言
ってくれよ。出来る限り叶えるからな。まぁ、別に普段から言って
くれてもいいんだけどな﹂
﹁えっ⋮⋮えっと⋮⋮では⋮⋮﹂
獣族の一人が恐る恐るといった感じで前に出ると、頭を下げてこ
う言った。
﹁⋮⋮頭を撫でてもらえませんか?﹂
﹁えっ? い、いいけど﹂
そんなことでいいの? と野暮を入れかけたが彼女が、それと言
1990
うのだから素直にやるべきなんだろう。どんな撫で方をすればいい
のだろうと撫でる前に思ったが、いつもフェイにやるやり方で、優
しく撫でてあげた。
﹁ふぇぇぇぇぇ⋮⋮﹂
撫でた瞬間、気が抜けるどころか魂まで抜けたと錯覚してしまい
そうな声を上げられ、一瞬撫でている手を止めてしまう。
﹁あぁ、やめないでください∼続けて下さい﹂
﹁アッハイ﹂
言われるがままに撫で続ける俺。撫でられている彼女は﹁ふにゃ
ぁぁぁぁぁ﹂とこれまた気が抜けような声を発しており、顔はまる
で蕩けそうな表情を浮かべていた。
﹁あっ、ずるい私もお願いします﹂
﹁私も!﹂
﹁私もお願いします!﹂
今撫でている獣族に続くような形で、続々と獣族たちが撫でて欲
しいと申し立てる。
﹁私が先です!﹂
﹁あーずるい私よ!﹂
いや、まて、これ今どんな状態だよ。俺に撫でてほしいとばかり
に俺を囲うかのように集まる獣族。端から見れば俺が獣族におしく
らまんじゅうされているように見えているかもしれない。気分は満
1991
員電車に乗っているようだが、獣族特有の柔らかい毛と、女性らし
い柔らかい肌がぶつかりとっても気持ちい。たまに胸が当たるのが
尚グッジョブだ。
これは後に聞いて知った事だが、女性の獣族の頭と尻尾は一種の
性感らしく、好きな人にそこを撫でられることが快楽の一種である
らしい。言われてみれば、前にサヤとセレナがある獣族の尻尾など
をモフモフしていたときも、気持ちよさそうだったような⋮⋮?
だが、この時はそんな事を思い出すことは無く、皆を順番に撫で
つつ傍に寄り添う彼女たちの柔らかい毛と肌と胸を堪能したのだっ
た。
結局、その場にいた獣族全員を撫でてあげるという結果になり、
気付けば小2時間ほど、その場で時間を潰してしまうのだった。
⋮⋮実に素晴らしい時間だったと後で思いました。あの時感想を
モフモフは素晴らしい
と。
聞かれたらこう言っていただろう。
1992
第196話:モフモフは素晴らしい︵後書き︶
200回目と言う事でマイルドなお話にしてみました。
私も一度でいいから猫に囲まれてみたいものです。
1993
第197話:子供は誤魔化せない
﹁あっ、クロウお兄ちゃんおかえりなさいなのです!﹂
帰って来るや否や恒例となりつつあるフェイのダイブに迎えられ
る。
いつもなら、この後頭をなでなでしてあげてるのだが、今回はち
ょっと違った。
﹁くんくん⋮⋮? お兄ちゃんいつもとちがいます?﹂
﹁違う⋮⋮? 何が?﹂
フェイの言葉にヘロヘロになった︵色々な意味で︶獣族の大人た
ちがビクッと震える。フェイから放たれるであろう爆弾発言から逃
れるべく持ってた銃を壁によりかけると、そのままこそこそと部屋
の奥に逃げようとする。
﹁おかあさんたちの匂いがします! これは抱き付いていますです
?﹂
子供とは無邪気である。親︵大人︶の気持ちなど関係なしである、
奥に逃げようとした大人たちの中で何人かが吹いたであろう音が聞
こえた。
﹁それはな。お母さんたちにもフェイにいつもやっていることをや
ってあげたんだよ。ほらこうやってな﹂
1994
そう言ってフェイの頭を撫でてあげる。えへへと笑顔になるフェ
イ。大人たちから﹁ちょっと何言ってるの!?﹂と言った声が聞こ
えてきそうだ。
えっ、フォローすると思った? する訳ないじゃん︵笑︶
普段、俺が大人を撫でているようなシーンなど見たことない︵し
たことない︶ので、子供たちは﹁えっ﹂ときょとんとした顔で大人
たちを見る。性感という言葉を知らない子供たちからしてみれば、
大人たちがしてもらう理由など見当たらないので疑問に思うのも無
理ないだろう。
﹁親たちもして欲しいっていうからしてあげたんだよ。可愛いよな﹂
﹁﹁クロウ様!?﹂﹂
味方すると思われていたであろう、俺が次々と爆弾発言を飛ばし
ていくのでもはや大人を守る盾は存在しなくなり、大人たちは顔真
っ赤に顔を隠し、オロオロする始末である。正直可愛い。
﹁じゃあ、お母さんたちも皆でなでてもらうのです!﹂
無邪気とは恐ろしい物だ。フェイからしてみれば、皆で仲良く⋮
⋮みたいな感じで言っているのだろうが、大人たちからしてみれば、
まさに﹁穴があったら入りたい﹂気分だろう。
﹁も、もうどうにでもなれよ!﹂
恥ずかしい気持ちに耐えれなくなった大人の獣族の一人がこちら
><
コレ
だったのを俺はハッ
に走って来た。そして、顔は真っ赤で目を瞑ったままの状態で俺に
飛びついて来た。その時の顔はまさに
キリと見た。多分忘れる事は無いだろう。
1995
フェイがいるにも関わらず、その横に顔を持っていき俺の胸に顔
を埋める始末。
﹁慰めて下さい! この気持ちを慰めて下さい!﹂
この行動は流石に俺も予想外だった。そしてこれを皮切りに。同
じく空気に耐え切れなくなった獣族たちが次々と俺に突撃してくる
事態となった。状況としては先ほどの流れと全く変わらない。普段
の彼女らならまずこんなことにならないだろうが、あんな事の直後
だったのも重なり再びおしくらまんじゅう状態になってしまった。
﹁だぁぁぁぁあああ、何だよこの状況はぁ!﹂
﹁クロウ様のせいです! クロウ様があんなこと言うからです! 責任取って下さい!﹂
﹁俺!? 俺のせいなの!?﹂
﹁クロウお兄ちゃんせきにんとるです!﹂
﹁フェイ! お前分かってないで言ってるだろ!?﹂
初めて体感する状況に子供たちはただ単にポカンとするしかなく、
大人たちは恥ずかしいであろう状況に悶え、フェイは良く分かって
ないだろうが非常に楽しんでるようだった。
﹁ナニコレ?﹂
騒ぎを聞きつけたテリュールがやってきた。あっ、なんか嫌な予
感が⋮⋮
1996
﹁私も混ざる!﹂
そういうとテリュールはピョンと跳ねると、そのまま獣族のせい
で絨毯みたいになっている俺のところへとダイブを繰り出して来た。
柔らかい胸と鍛えられた筋肉が俺の顔面に襲い掛かる。嬉しいのや
ら痛いのやら良く分からない気分になった時間であった。
結局、理性を取り戻した大人の獣族たちが一斉に自分らの部屋に
逃げていくことで、事態は収束したが、その日、大人の獣族が部屋
を出る事はなかった。
エリラが訓練で庭に出ていて本当に助かった。エリラが来たらど
うなってたか⋮⋮うん、考えないようにしておこう。
==========
﹁入るぞ﹂
﹁あっ、クロウ君﹂
病室に戻るとアルゼリカ理事長が目を覚ましていた。
﹁無事目を覚ましたようですね。体は大丈夫ですか?﹂
1997
﹁はい、サヤさんから聞きました。ありがとうございます﹂
うん。身体の方は問題なさそうだな。では、本題に入らせてもら
いますか。
﹁どういたしまして⋮⋮さて、アルゼリカ理事長﹂
﹁? はい、なんですか?﹂
﹁最近、何か悩んでいませんか?﹂
﹁⋮⋮いえ、特には﹂
﹁嘘は駄目ですよ。アルゼリカ理事長が倒れた理由の一つは急性胃
すとれす
と⋮⋮何か関係
潰瘍という病気だと思います。聞きなれない言葉かもしれませんが、
れっきとした病名です﹂
﹁⋮⋮クロウ、それはさっき言ってた
があるの⋮⋮?﹂
﹁ああ、大アリだ。急性胃潰瘍とはタバコや酒などの嗜好品を多く
摂取することでなるんだが、それ以外にもストレスが原因で発症す
ることもある。ストレスというのは普段からある程度はあるんだが、
心配事や不安なこと悩みなどが重なると体に悪影響を及ぼすように
なる。その一例が今回の急性胃潰瘍という訳だ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁アルゼリカ理事長は確か、国の軍隊で指揮をしたこともあると聞
きました。しかし、今回の戦いでは指揮は全て俺らに任せ自身は指
1998
揮を取らない⋮⋮普通に考えてみれば俺らよりも実際に部隊を動か
したことがあるアルゼリカ理事長が指揮を取る方が皆も納得するは
ずだ。にもかかわらず指揮を行わなかった理由⋮⋮これは俺の予想
ですが、アルゼリカ理事長。あなたは戦で自分が指揮を取る事によ
り死者が生れることを恐れていませんか?﹂
﹁⋮⋮っ!﹂
﹁アルゼリカ理事長が指揮を取った事がある戦は知りませんが、一
番直近での大きな戦いと言えば龍族との戦争ですか? そこで何か
あったと考えるのが妥当と思いますが﹂
﹁⋮⋮それは﹂
﹁まだ、ありますよ。俺が今回ハルマネに来た理由は前に渡した魔
法道具に反応が来たからです。あれはアルゼリカ理事長が持ってい
る筈ですよね? あれを使った後に倒れたと俺は予想しました。ま
あ、たまたまと言ってしまえばそれまでですが、俺はそうは思えま
せんでした⋮⋮もしかしたら、理事長は自らが判断を下すことに相
当な抵抗と重圧が重なりに重なったのが、急性胃潰瘍という形で出
たと俺は予想しますが?﹂
﹁⋮⋮完敗ですね﹂
俺の話を最後まで聞いていたアルゼリカ理事長は、一呼吸置いて
そう答えた。
﹁私は魔法学園の理事長となる前はアルダスマン王国軍の国軍とし
て各地を転戦としていたわ﹂
1999
彼女はそういうと自らの過去について語り始めた。
2000
第198話:敵はだれなのか︵1︶︵前書き︶
投稿が遅れて申し訳ありません。
送れた理由は後書きに記しておきます。
興味のある方だけ閲覧して下さると幸いです。
2001
第198話:敵はだれなのか︵1︶
私は、18歳のときに国軍に入隊をしました。
入隊した理由は色々ありましたけど、元々父が傭兵だったので、
その影響を受けたと言うのが一番でしたね。
戦う父はたくましく見えましたが、傭兵事業という収入が安定し
ない職種でしたので、生活に安定感というのはありませんでした。
ですから、私は国軍という道を選んだのです。父は﹁国のしがらみ
なんか嫌に決まっておるだろ﹂と言って、国軍に入る事には同意し
ませんでしたが、戦う道に入る事に対しては好意的で、入隊出来る
歳になるまで、厳しく指導されました。
そのかいあってか、入隊試験は一発で合格することが出来ました。
軍隊に女性が入るということは少ないですが、珍しいという訳で
もなかったようで、同期の女友達もそれなりに出来たわ。
⋮⋮もっとも、今はもうこの世にはいませんけど。
==========
﹁⋮⋮戦死?﹂
﹁⋮⋮そうね。公式にはそうなっているわ⋮⋮だけど⋮⋮﹂
2002
そこまで言ったアルゼリカ理事長は、顔を下に向け暫く黙り込ん
でしまった。肩が微かに震えており、何かに耐えている様子が伺え
た。
﹁⋮⋮あんな死に方⋮⋮認めたくは⋮⋮﹂
﹁⋮⋮理事長⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
再び黙り込んでしまうアルゼリカ理事長。俺は特に口を挟むこと
はせず、黙って見守っていた。サヤも何かを言いたそうにしていた
が、ぐっと堪えて理事長が話すのを待った。
﹁⋮⋮今から数年前⋮⋮アルダスマン国は龍族と戦争をしていたわ﹂
﹁⋮⋮!﹂
その言葉にピクッと反応をしてしまった。その戦いの結末は親父
から聞いていたし、俺がこの世界に生まれるきっかけにもなった戦
争なだけに反応するなと言う方が難しいかもしれない。
﹁当時、私は国軍の小隊長を務めていて、各地に転戦をしていた。
開戦直後から私たち国軍は有利に戦いを進めていたわ﹂
﹁⋮⋮えっ?﹂
サヤが首を傾げる。おそらく有利に戦いを進めていたというとこ
ろに疑問点を抱いたのだろう。この戦いの終着点は痛み分けの引き
2003
分けだったからだ。
﹁⋮⋮そう、有利に進めていたわ⋮⋮あの時までは⋮⋮龍族が挑ん
だ最後の決戦。のちに﹃死谷﹄のあだ名が付けられたあの戦いまで
は⋮⋮﹂
==========
﹁亀甲陣を組みなさい! 迎え撃つわよ!﹂
キッコウジン
突撃をしてくる龍族を迎え撃つため兵士たちが密集して槍を揃え
て平行進軍を行う亀甲陣は個別に挑んでくる龍族には有効な陣形だ
った。これは私たちの対龍族戦のセオリーになっていたわ。
その時の地形は大軍を展開しにくい谷間での戦いだった。
このときの私たちに聞かされていた作戦内容は、谷の中央を進む
軍と谷を挟んだ山の外側を迂回して敵の後方を突く挟撃作戦だった。
既に戦争末期。敵の数が少なくなり勝利まであと一歩のところま
で来ていた。この作戦が成功すれば敵の主力は壊滅して、戦争は終
結するはずだった。
==========
﹁⋮⋮その戦いは⋮⋮﹂
﹁⋮⋮谷を進撃していた軍7000人のうち生還者987名⋮⋮残
りは全て生き埋めにされ、今もあの谷に埋まっているままになって
います⋮⋮﹂
2004
﹁⋮⋮確か龍族側が土砂崩れを起して味方を巻き込んでの作戦だっ
た⋮⋮﹂
﹁⋮⋮公式ではそうなっています﹂
﹁⋮⋮理事長⋮⋮先ほどから公式と言ってるけど⋮⋮どういうこと
⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮今から言う事は他言無用にすること⋮⋮いいですか?﹂
話の行き先が良く分かってないサヤであったが、黙って頷いた。
俺も黙って頷いた。龍族側の作戦と親父から聞いていただけに、そ
の話の続きが気になったからだ。
﹁⋮⋮公式では、﹃敵方の捨て身の攻撃により敵味方壊滅的打撃を
受け痛み分けに終わった﹄と表記書物には表記され、発表もされま
したが⋮⋮実際は、敵味方の首脳部による作戦だったのです﹂
その言葉に、俺とサヤは体に雷でも落ちたかのような衝撃を受け、
暫くの間呆然としてしまったのだった。
2005
第198話:敵はだれなのか︵1︶︵後書き︶
今回も短くて申し訳ありません。
私自身今回及び、この後数回分の内容を書く上で、こうするしかな
かったのか私自身の想像力の無さに嫌になってしまっていた部分が
ありました。
最近は、話は浮かぶけどそれをまとめる気力が落ちていた部分もあ
るので、本気で一度休載しようかなとも考えました。
しかし、少なからず待って下さる読者の方々、きつい言葉でも感
想欄に指摘内容を書いて下さる方々に、未完結のままで切るのは私
のプライドというか信念が許しませんでした。
私の嫌いな作家の姿の一つに﹁書くのが苦しいから投げ捨てる﹂
というのがあります。お金をもらって書いている人がそれをやって
はいけないのは勿論ですが、趣味で書いているような人でも待って
下さる方々がいる以上、自分が苦しいからと投げ捨てるのは、見て
いる読者を裏切る行為に値すると私は思っています。
私はプログラマーとして働いている仕事の中でも﹁大変でも、難
しくても自分の持てる力を出して﹂ということを意識しています。
小説はお金など発生しない趣味かもしれませんが、読んで下さる相
手がいるのであれば、それは一種の商談⋮⋮読者の﹁時間﹂をもら
ってやっています。そして、楽しんで読んで下さる人がいる以上、
私は少しずつでも自分の力を出して書いていきたいと思います。
これからも、更新が遅くなれば内容が薄っぺらいこともあるかもし
れませんが、最後まで書き上げて見せます。楽しんで下さる読者の
方々には申し訳ありませんが、ゆっくりでも楽しんでいただけると
幸いです。
2006
では、次回もよろしくお願いします。以上、黒羽でした。
⋮⋮あれ? 後書きの方が質が濃ゆいような⋮⋮?
2007
第199話:敵はだれなのか︵2︶︵前書き︶
生きてますよ。まずは投稿遅れてすいません。
前回の後書きで反応して下さった皆さんありがとうございます。皆
さんの暖かい声で元気をもらえました。
では、第199話をどうぞ。
09/22:密告した人の名称を﹁将兵﹂から﹁部隊長﹂に変更し
ました。
2008
第199話:敵はだれなのか︵2︶
﹁両首脳陣⋮⋮どういうこと⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮語弊があったわね。正しくは敵は首脳陣、味方は一部首脳陣
よ﹂
﹁⋮⋮裏切りか内通者のどちらかというところですか﹂
﹁⋮⋮ことの発端は戦後のこと⋮⋮戦後処理が終わり軍の再編が行
われている最中だった﹂
==========
きっかけは一人の部隊長の告白からだった。その部隊長はあの最
後の戦争のとき山の外側を進撃する部隊の隊長だった。優しくて人
当たりも良く周囲からの人気も高かったわ。
そんな人がある日、唐突に王の前に謁見したいと言い出した。そ
してその人は王の前でこう言った。
﹁私は国を⋮⋮皆を⋮⋮売ってしまいました⋮⋮!﹂
突然泣きながら言い出したことに、何のことか最初は王も含め誰
も分からなかったらしい。だけど、その部隊長の口が進むにつれ、
恐ろしいことが分かって来た。
その内容を抜粋するとこうなるわ。
1、軍、及び内政官の一部が敵と連絡し合い、渓谷での決戦に持ち
2009
込ませた。
2、敵軍による山での戦法は前もって一部の味方に伝わっていた。
だが、それを知った者は逆に敵と商談をして、これを外に漏らさな
いことで金銀財宝を受け取る︵=賄賂︶ことを約束。
3、味方内部の勢力で邪魔になるであろう人物もついでに消すべく
軍の編成を峡谷での戦いの前に変更をした。
勿論、最初はだれも信じなかったらしい。だけど、その話はあま
りに鮮明に緻密な話で、とてもではないが作り話には感じなかった。
そして本人は、この話をしたのちに自害すると言い出して聞かなか
ったらしいわ。
結局、その将校の普段の行いも配慮して、その話を元に極秘裏で
調査が行われることとなった。作戦は王以下側近中の側近のみで行
われ、部隊長が裏切者であると言った人物複数人とその周辺の動き
を徹底的に調査した。
そして、その辺りから事態は大きくなり始めた。
まず、ある人物が送ろうとしていた手紙を見つけた。なんでも通
常の発送方法︵馬を使う伝達手段のこと︶を使用せず本人の側近が
直々、しかも時間帯は夜中に送られようとしてたらしいわ。︵通常
は配下の配下や、配達を職業としている人に渡して送る︶
手紙の宛先はとある龍族への手紙だった。内容はまずこのたびの
作戦成功の謝礼の残り半分の要求。どうやら前金で半分は既に貰っ
ていたようだわ。そしてこれからも宜しくの意味合いを含めた魔石
を送るといった趣旨の事が書かれていたらしい。その手紙自体は、
私も見たから間違いないわ。
そして、他複数の調査隊からも似たような手紙を入手したという
報告が上がった。
2010
王様はひっくり返るような思いだったでしょうね。直ちにそのこ
とは報告され大規模な粛清が始まったわ。まず、私を含めた渓谷戦
で谷間で進軍をしていた部隊の主な隊長格及び訴えた部隊長が知ら
ないはずと言った人物の中で特に高い地位にいる人たちが集められ
た。
ある意味、賭けに近かったでしょうね。部隊長の言葉をどこまで
信じていいか分からなかった上に、下手をすれば関係の無い人も巻
き込みかねないことだったから。だけど、ここで行動をしなければ
国家転覆の可能性もあった以上、仕方が無かったのかもしれないね。
私が最初にその話を聞かされたときは、耳を疑ったわ。敵と判断
された人の中には私が信頼していた人も数人入っていたわ。味方の
手によって味方が殺された⋮⋮その事実は私の今後を大きく変える
事になった。
話を戻して、その報告を聞いた味方将兵たちは当然、怒り狂った
わ。敵に倒されるならまだしも、味方から殺されたなど断じて許さ
ぬと。
そこで王はこういったわ。
﹁ここで忠誠を改めて誓い、この命令を忠実にこなすのであれば主
らをこれまでのより高い地位に遣わすぞ﹂と
脅しだったのでしょうね。あそこで誓わなければ自分も殺される
⋮⋮嫌とは言えない雰囲気だったわ。確かに仲間が殺されたことに
は許せなかったけど、それで味方をまた殺すなんて⋮⋮その上、地
位と言う餌につられて⋮⋮これじゃあ、私たちも龍族と取引をした
味方と何一つ代わりやしないじゃない⋮⋮まぁ、そんな事あんな場
所ではとてもじゃないけど言えなかった⋮⋮もっとも、他の人たち
は地位よりも仇討ちに固執してたし、一概にそうとは言えないけど
2011
ね。
そこからは早かった。報告に上げられた者たちは容赦なく捕まえ
られ処刑されていったわ。中には取り押さえられた時に殺された人
もいたわ。そして、彼らの屋敷などからは、龍族から受け取ったで
あろう財宝と書簡が大量に見つかったわ。その財宝を始めとした裏
切者の財産などは全て没収。親族を始めとした多くの妻子も禁固刑
や何らかの処罰を受けたわ。中には反抗に一役買ったとして処刑さ
れる人もいたわね。もっとも、口封じと言った方が正しかったのか
もしれない。
国民へは﹁戦犯者の処刑﹂と伝えられたけど当然、やり過ぎでは
?といった疑問の声も多く飛んできた。しかし、そうした声もどこ
かで握りつぶされ、発覚から僅か1週間足らずで粛清は終了した。
処刑された人物数十名、その他数百名が何らかの処罰を渡された。
約束通り、私たちには全員今の地位より高い地位が送られた。私
が第4部隊の隊長になったのもその時だったわ。
==========
﹁⋮⋮ちなみに、その密告をした部隊長はどうなったのですか?﹂
﹁⋮⋮事の終焉を確認したのち自殺したわ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そうですか⋮⋮﹂
2012
﹁⋮⋮その時からだったわね⋮⋮私は何のために戦っているんだろ
うって⋮⋮生きて食べて行くために国軍に入ったけど、大切な仲間
を失って、味方を殺して⋮⋮こんな思いしてまでやることなの?っ
て、いつも考えていた。そして指揮をしようとするたびに身体は震
え、ときに嘔吐を繰り返し、食事も碌に喉を通らなかった⋮⋮結局、
第4部隊長に就任してから僅か2ヵ月足らずで私は自身の体調不良
を理由に軍を退団したわ﹂
﹁⋮⋮それからは⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮数年間は自宅に引き籠りっぱなしだったわね⋮⋮生活を助け
るために軍に入ったけど、結局養われるかたちになってたわ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁国から学徒動員令が出た時も逃げ出したくてしょうがなかった、
クロウ君に全部押し付けて自分はどこか遠くに行ってしまいたかっ
た⋮⋮フフ⋮⋮卑怯よね⋮⋮生徒に押し付けて自分は逃げようとし
ているのよ? 指揮する人は強い人がいいとか他の先生の前では言
ってたけど、本当は理由なんてどうでよかった。私が指揮しなけれ
ばどうでもよかったのよ⋮⋮笑ってよ⋮⋮こんな卑怯な私を笑って
よ⋮⋮!﹂
終いには泣き出してしまったアルゼリカ理事長に俺とサヤは言葉
を失っていた⋮⋮いや、かける言葉が思い浮かばなかった。
アルゼリカ理事長が悪いわけではない。と一声かければいいか?
いや、事はそういう訳には行かないだろう。そんな事を言えば今
のアルゼリカ理事長にどう受け取られるか分かったものでは無い。
下手をすれば抜け出すことの出来ない負のスパイラルに陥りかねな
2013
い危険をはらんでいるからだ。
結局、アルゼリカ理事長を泣いている姿を俺とサヤはただ黙って
みているしかなかった。
そして、アルゼリカ理事長が次に口を開くまでの時間は、これま
でにないほど長く感じていたのだった。
2014
第199話:敵はだれなのか︵2︶︵後書き︶
暗い話を書くときは指先がどうしても重くなって仕方がありません。
一体誰がこんな話を思ついたんだ!︵私だ!︶
感想いつもありがとうございます。返信は出来ていませんが、すべ
てのコメントに目は通していますので、宜しければこれからも書き
込みお願いします。
2015
第200話:敵はだれなのか︵3︶
次にアルゼリカ理事長が話し始めたのは泣きだしてから10分後
ぐらい経った後だった。
泣いて少し落ち着いたのだろうか、先ほどほど狼狽している様子
は見受けられなかった。
﹁怖かった⋮⋮指揮をするのが、大切な仲間を失うのが。理由はど
うであれ上の者の指揮一つであんな悲劇を起こせるのを見てしまっ
た以上、私には無理なことだったのよ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮今回の件が片付いたら私は理事長をやめようと思ってます﹂
﹁えっ!?﹂
﹁これ以上迷惑はかけられません。事あるたびに倒れていては学園
の運営にも支障をきたすでしょう﹂
﹁⋮⋮そんな⋮⋮﹂
サヤは理事長の言葉に動揺を隠せなかった。だけどなんて言って
引き留めればいいの? そんな考えを裏付けるかのようにサヤは何
かをいいかけたのち、黙り込んでしまった。
﹁別に俺はやめる必要なんかないと思いますけどね﹂
2016
﹁何故ですか? 私がいれば︱︱︱﹂
﹁そりゃ、指揮の度にぶっ倒れていたら困りますけどね。逆に考え
て下さいよ。今回はそんな理事長だったからこそ、皆が助かったん
ですよ﹂
﹁それは一体どういう⋮⋮?﹂
﹁自慢に聞こえるかもしれませんが、俺がいたからこそ学園、この
街は被害はあれど最悪な状況を回避できたんだと思います。逆に俺
がいない状態で、そのまま戦っていたらどうなっていたか想像して
みてくださいよ﹂
﹁クロウ君がいない状態⋮⋮﹂
﹁⋮⋮死んでた⋮⋮﹂
実際に戦場に立って、助けられたサヤは身を持ってしてそれを感
じていた。もしあの時クロウが、居なかったら⋮⋮そう思うと彼女
は少しだけ体が震えてしまっていた。
﹁確かに、そのようなトラウマを持っているなら、早めに言うべき
ではあったと思いますが、そんな事は周りの人がフォローすれば良
いだけの話じゃないですか。今回で言うのであれば、代わりの人に
お願いするのは間違っていないし正しい判断だと思いますよ﹂
﹁しかし、そのせいでクロウ君の方は⋮⋮﹂
﹁はは、あんな事予想出来る訳ないじゃないですか、そんな予想も
出来なかったことを後で責めるのは違いませんか? その時の最善
2017
の手をアルゼリカ理事長は打ったと俺は思っていますが? むしろ
その状態を隠して指揮を行おうとする方が間違えていると思います。
それに俺の方は俺が了承したんですから、俺個人の問題です。理事
長が責任を感じる必要は全くないと思いますが?﹂
﹁⋮⋮しかし﹂
﹁ああ、もう一個ありました。確かあの時渡した水晶は理事長が持
っていたのですよね?﹂
﹁? これですか?﹂
そういうと彼女は自分のズボンのポケットに入れていた透明な水
晶球を取り出した。
﹁それの効果はあの時説明したとおりです。で、何故それは理事長
が持っていたのですか? もし本当に逃げ出してしまいたかったの
なら、サヤにでも渡しておけばよかったじゃないですか? それを
使う判断を行うのも立派な指揮の一つだと思いますけど?﹂
﹁そ、それは⋮⋮﹂
﹁まあ、それで血を吐いてぶっ倒れていたら元も子も無いのですけ
どね﹂
﹁⋮⋮すいません﹂
﹁でも、頑張る事はいいと思いますよ⋮⋮理事長﹂
﹁は、はい?﹂
2018
﹁あなたは本当にやめたいのですか?﹂
﹁わ、私は⋮⋮﹂
そこで口を閉じた。しばし訪れる静寂の間。やがて、彼女はゆっ
くりと口を開いた。
﹁⋮⋮まだここに来てそんなに月日は経っていませんが、私はこの
学園が好きです。特待生組の皆は勿論のこと、他の教員、生徒たち
も皆⋮⋮﹂
﹁よしっ、じゃあ続投決定ですね♪﹂
﹁ふえっ!? で、ですが私では︱︱︱﹂
何を言いかける前に俺は、理事長の手を掴んだ。急な行動にびっ
くりしたのかアルゼリカ理事長は、そこで言葉を止めてしまった。
﹁俺は口だけ言って何もしない奴は大嫌いですが、頑張っている人
は好きで、つい助けたくなってしまうのですよね。アルゼリカ理事
長、もしもう一度頑張るというのであれば、俺も力を貸しますよ﹂
﹁クロウ君⋮⋮﹂
﹁さて、もう一度聞きますよ? アルゼリカ理事長、あなたは本当
にやめたいのですか?﹂
再び訪れる静寂の時間。その間何を考え何を思ったのか、俺には
分からない。だが、次に口を開いたときの声は、どことなく明るく
2019
感じられた。
﹁⋮⋮ふふ、酷い人ですね⋮⋮そんなこと言われたらやめれないじ
ゃないですか⋮⋮﹂
﹁あー、自分勝手なことを押し付ける癖はあるかもしれませんね︵
笑﹂
﹁そうですね⋮⋮もう一度頑張ってみましょうか⋮⋮自分を変える
ためにね⋮⋮ですから﹂
今度はアルゼリカ理事長が俺の手を両手で包み込んで来た。
﹁力を貸してくれますか?﹂
今日、初めてアルゼリカ理事長の笑顔を見た。そして、その笑顔
は今まで見てきた中でも一番の笑顔だったかもしれない。
﹁ええ、任せて下さい﹂
俺もそれに答えるようにアルゼリカ理事長に笑顔で答えるのであ
った。
2020
﹁⋮⋮女たらし⋮⋮﹂
完全に蚊帳の外だったサヤがボソリと呟く。
﹁えっ、そう見えた?﹂
全然そんなつもりじゃなかったのだが⋮⋮。
﹁⋮⋮エリラが見たら⋮⋮嫉妬する⋮⋮﹂
﹁あっ、まって言わないでよな? マジで締め上げられそうだから﹂
﹁⋮⋮私も⋮⋮﹂
再びボソリと何かを呟いたような気がしたが、よく聞こえなかっ
た。元々小さい声で話す上にさらに小さな声で言われたら良く分か
らないんだよな。
﹁ん? 今何て言った?﹂
﹁⋮⋮別に⋮⋮﹂
﹁あっ、うん﹂
なんだか良く分からないが、妙な殺気を感じたので、これ以上聞
くのはやめておこう。
2021
第200話:敵はだれなのか︵3︶︵後書き︶
これで無事に200話になりました。いつ終わるんだよと言うく
らいまったりペースな気がしますが、いつかは完結するでしょう︵
キリッ︶
次回はまたエルシオンでの活動が始めると思います。︵理事長の
話の中で戦記やると言って結局できなかったので思います。と言っ
ておきます︶
2022
第201話:任せるは信頼の証
取りあえず魔法学園の方は一息ついたな。一応、これからはアル
ゼリカ理事長が中心となって頑張るみたいだし、俺は所々で手を貸
す程度で大丈夫だろう。
水晶はアルゼリカ理事長に渡したままにしておいた。なんかあった
時はアレで呼べるからな。早馬なんかよりずっと早いぜ。
さて、次はこっちの番だな。
前にギルドを立て直した︵物理的に︶ことを覚えているだろうが、
あのとき俺はギルドの建設と引き換えにあるものを借りる許可をも
らっていた。
それは、エルシオンのギルドの一角を借りることだ。まあ、維持
費代わりにお金をギルドに納入するからテナントとかの感じかな。
で、そこで何をするんだ? と言った話になるのだが、条件とし
ては俺がある程度いなくても安定的に運営が出来、かつギルドとい
う利便性を活かした商売だ。
まあ、俺が報酬高いクエストをもらってちゃっちゃと倒すのもあ
りなんだが、それでは収入は安定しないし、万が一俺が動けなくな
った時の収入源がゼロになってしまうのは安定性を考える上でどう
かと思う。それに高額なクエストはいつもある訳では無い、そうな
ると稼ぎたくても稼げないときは遠からずやって来てしまうだろう。
あと、オマケ程度だが、せっかく異世界で過ごすんだから、ちょ
っとはそういう事もしてみたいわけよ。好奇心です。人生を賭けた
好奇心なんて失敗する予感しか見えないのは俺だけだろうか。
2023
話を戻すが、俺の中での考えは雑貨屋なんて面白そうだと思った。
面白いだけじゃないぞ? 基本的に売るのはいわゆるポーション関
係だったり俺が鍛えた︵失敗した︶武器を売ってもいいしな︵失敗
したと言ってもこの世界では十分どころか高値で買い取ってくれる
レベルの失敗作だが︶
で、ポーション系と言えば森の中で過ごしてきた獣族さんたちは、
その辺の知識が豊富かつ調合は得意だったので、量産も出来ると判
断してお願いすることにした。話してみると皆結構乗り気で承諾し
てくれたので有難かった。
お礼に今度ケーキでも作ろう。
で、店をやるとなると当然必要になるのが人手だ。
最初はエリラやテリュールでも回せるかなと思ったが、彼女ら個
人の時間も確保したいので、即ボツとなった。
で、代案に獣族たちを入れるのはどうだろうと思った。
だが、これもリスクが大きい。元々異種間での対立が激しいこの
世界で売り子をさせれるのと言った話になるが、獣族は結構愛玩感
覚で買う輩︵勿論対等意識などない︶がいて、いわゆるパシリにさ
れている子も結構いるので、問題ないと思いたいのだが、獣族が売
り子をやっていたりするのはあんまり見たことないので、そこら辺
が不安なのだ。
俺がいる時はお話︵物理︶で帰らせるのも手だが、いないときが
どうしても不安になってしまう。いない間に報復なんてされたくな
いしな。
==========
2024
そんなこんなで色々考えてみたが、いい案は浮かばない。自宅の
ソファで横になりながら、頭を悩ませる。
﹁うーん⋮⋮どうしようかな⋮⋮﹂
﹁どうかされましたか∼?﹂
そんなソファで寝っ転がって考えている俺の元に一人の獣族が近
づいて来た。この人の名前はココネ。この前の自宅での﹁なでなで
してください事件﹂︵俺命名︶で真っ先に飛びついて来た獣族だ。
青髪のロングでどことなくほんわかとした空気を漂わせている。例
の事件︵?︶のときは恥ずかしさのあまり、興奮状態だったが、普
段の彼女はというと、なんか周囲が和んでいるようなと感じたら間
違いなく彼女が傍にいると言うぐらいほんわかとしている。
﹁ああ、次にココネに飛びつかれたらどう対処しようかな∼ってな﹂
勿論、そんなこと考えていなかったけど。例の事件︵?︶を思い
出したのか、顔を真っ赤にしているところが可愛いと思った。
﹁あ、あの時の事は忘れて下さいよ∼﹂
﹁だが断る︵キリッ﹂
そう言いながらスッと立ち上がりココネの腰回りをガバッと掴む
とそのまま、ソファに再び座り込んで見せる。あっ、ソファに座っ
たのは俺であって、ココネは俺の膝の上に座らせたぞ。何が起きた
のか最初は分かっていなかったココネだが︵この辺りの感づくのも
この子はちょっと遅い︶状況が分かりだすとジタバタとし始めた。
2025
﹁ふえっ!? ちょ、何をしているのですか∼?﹂
﹁えっ、ココネにはお仕置きが必要だなって、例えばこんなのとか﹂
そういうとココネの頭をなでなでしてあげる。ふぁぁぁぁと気の
抜ける声と共に力が抜けたのか、俺に全体重を預けているのが分か
った。
いやぁ、このモフモフ感がちょっと癖になってやめられないんだ
よな。ちょっとした中毒性があるんじゃないかと疑いたくなるレベ
ルだ。
﹁あぅ∼いじめないで下さいよクロウさまぁぁぁ∼∼∼﹂
口では嫌がっているが猫耳がピョコピョコと動きながら尚且つ、
俺の手をのけようともしないところを見るに嫌がっているとは思え
ないけどな。
﹁まぁ、それは冗談だよ。ちょっと考え事をしてたんだ﹂
そう言いながら、手を止めて彼女を隣に座らせる。ふぅと息を付
くと同時にちょっと残念そうにこちらを見るあたりもう少ししてあ
げようかな?
﹁か、考え事ですか∼?﹂
﹁ああ、この前言ってた店の件のことだよ。やっぱり外部かギルド
の人を雇おうかどうしようかなって﹂
﹁私たちでは駄目なのですか∼?﹂
2026
﹁う∼ん、ココネたちにも自分の時間を確保させてあげたいし、街
に出るということになるから、どういうことか分かるでしょ?﹂
﹁それもそうですが∼私たちはクロウ様の役に立ちたいって思って
いるのですよ∼﹂
﹁ん? そうなのか?﹂
﹁そうですよ∼その件でも﹃私たちにやらせないのかな∼?﹄って
皆さんで丁度話していたのですよ∼﹂
﹁へぇ⋮⋮﹂
﹁クロウ様﹂
﹁ん?﹂
ほんわかとした雰囲気がどことなく張りつめた感覚になるのを感
じる。ココネが真面目な話をするときには大体こんな感じだ。だが、
それでも未だにほんわかとした雰囲気が残っており、彼女に真面目
な話は無理だなと思わせてしまう。いや、そこが可愛いんだけどな。
﹁私たちを大切にしてくださいる気持ちは本当に嬉しいです∼。で
すけど時には私たちも信じてみてください∼﹂
﹁う∼ん、信じていないつもりは毛頭ないんだけどな﹂
﹁そうですね∼。きっとクロウ様は何でもできますから、逆に私た
ちに任せるのが不安になっているのかもしれませんね∼﹂
2027
﹁なるほど﹂
確かに言われてみれば⋮⋮ちょっと過保護すぎる面もあるのかな
⋮⋮?
﹁ですから、時には私たちを信じて欲しいのです∼。大丈夫ですよ、
クロウ様が思っているより私たちはずっと強いですよ∼。人間の前
でも堂々とあなたの奴隷⋮⋮いえ、家族の一員である限り私たちが
負ける事なんてありません∼﹂
﹁はは、そうかそう思ってくれるなら嬉しいよ﹂
本当、素直にそう思う。一緒に住んでみて分かった事だが、獣族
の女性たちは本当に優しい人であると同時に心の中で曲げない芯み
たいなのがあることを感じられる。そんな彼女たちだからこそ、頼
られないのは嫌なのかもしれない。
﹁そうだな⋮⋮一回相談してみるか﹂
﹁本当ですか∼? では、皆さんを集めてきますね∼﹂
そういうと彼女はぴょんとソファから立ち上がり小走りで走りだ
した。
﹁あっ、えっ今から?﹂
そんな俺の声は届かず彼女は家の奥へと消えて行った。
﹁⋮⋮そうか⋮⋮任せるのもまた信頼の一つだな﹂
2028
そういえば、さっきの言葉の中で奴隷を言いなおして家族と言う
単語が出て来てたな。
家族か⋮⋮やっぱりいいよな。
こうして、また一つ成長したと同時に、心から今の生活に感謝を
するのだった。
2029
第201話:任せるは信頼の証︵後書き︶
例の事件とは第197話の時のお話です。
いつも感想、アドバイス、誤字脱字報告ありがとうございます。
更新は今後も遅いかもしれませんが、気長に待って下さると嬉し
いです^^
2030
第202話:1モフリ︵前書き︶
10/10:サブタイトルを間違えていたので修正しました。
獣族達の給料を1モフリに変更しました。感想欄で指摘さ
10/11:誤字を修正しました。
5モフリだとクロウの手がいくらあっても足りませんね。
れた通り
10/12:給料変更時にその他の部分への反映を行っていなかっ
たので行いました。
2031
第202話:1モフリ
﹁⋮⋮という訳だ。皆にはそこで従業員として働いてもらいたいと
いう訳だ﹂
ココネに呼び集められた獣族たちを前に、俺は例のギルドでの活
動のお話をした。結局ココネに流されるがままになってしまったな。
﹁ふふ、ココネに呼ばれたから何の話かと思いましたが、その事で
したか﹂
話を聞いた獣族達の顔は﹁待ってました﹂といった顔をしていた。
﹁私たちであればいつでも大丈夫でございます。﹃むしろ待ってい
ました﹄でございます﹂
ニャミィが元気に答える。他の獣族達も笑顔だ。
﹁ほらね∼、皆さん楽しみにしていたのですよ∼﹂
﹁⋮⋮そうだな。やれやれ、お前たちは自分たちから危険地帯に身
を放り出そうとしているのが分かっているのか?﹂
﹁あら? 武器を持って戦地に行くことの方が、余程危険地帯に身
を放り出していると思いますがどうでございましょうか?﹂
﹁あっ、うんそうだね﹂
2032
言われてみれば、戦場の方が危険だよな普通。あれ? 俺、感覚
麻痺していないか? いや、違う! これは脳筋両親の血がそうさ
せているだけなんだ! きっとそうだ!︵現実逃避︶
﹁⋮⋮まあ、皆が良いと言うならお願いをしようか﹂
人手はいるから結局誰かにお願いをしなければならないのは事実
だしな。ただ、出来るだけ人族であるエリラ、テリュール、俺︵!
?︶と一緒にさせるシフトを取らせる必要があるだろうな。
あと、セラからお願いされた対立の無い世界へのヒントがもしか
したら得られるかもしれないので、彼女たちにやってもらう意味も
あるちゃああるな。
﹁じゃあ、シフトと給料の事も考えるか﹂
﹁シフトは順番で良いと思います∼﹂
﹁給料でございますか? 別に私たちはそんなものは︱︱︱﹂
﹁皆の時間をもらうんだから、それ相応の対価は必要なんだ。まあ、
タダ働きをさせるのは俺のプライドが許さないって事で一つな﹂
﹁はぁ⋮⋮? でも、私たちは別にお金は必要ありませんよ?﹂
﹁それなんだよな﹂
別に彼女たちはお金を別であげているし、そのお金自体も最近使
う事が無いということで、返されている現状もあるんだよな。欲し
い物は大抵買ったとのことだ。
2033
でどうだ? 使用するのはいつ
﹁⋮⋮! そうだ、いいこと思い付いた!﹂
1モフリ
﹁どんなことでございますか?﹂
﹁⋮⋮一日働くごとに
でもいい、溜まれば溜まった分だけ使用していいぞ?﹂
﹁﹁﹁!?﹂﹂﹂
俺の言葉に獣族達の眼の色が変わった。
﹁く、クロウ様! 私で宜しければ何日でも働きます!﹂
﹁わ、私もです!﹂
﹁ちょっと、私もです!﹂
﹁あらあら∼皆さま積極的ですね∼でも、私も働きたいです∼﹂
私よ! 私よ! と目の前でちょっとした騒動が勃発してしまっ
た。
説明をすると、モフリと言うのは俺と家族︵主に獣族︶の間で使
われている単位の事だ。前回の事件︵なでなでしてください事件︶
の後、俺が面白半分で決めたことなのだが、これは簡単に説明する
となでなでしてあげる時間を指しており、1モフリ=3分になる。
まあ、そんな事をしないでもして欲しければいつでもしてあげる
のだが、報奨制度にすれば皆のやる気が上がるかなと思って言って
みたのだが、予想以上の反応だった。
というか、これ絶対決まらないパターンだ。皆やりたがって決ま
らないパターンだ。こういうときはあれだよな。
2034
﹁これじゃあ決まらないですね∼そうだ、アレで決めましょう∼﹂
﹁アレでございますか﹂
そうそう、困ったときに一番蹴りつけるのが早いジャンケ︱︱︱
﹁﹁﹁殴り合いです!﹂﹂﹂
ズコーッ!
﹁⋮⋮? クロウ様どうされましたか?﹂
﹁ちょっと待て! 何故そうなった!? そうちょっと平和的な決
め方とかあるだと、あみだクジとかジャンケンとか!?﹂
﹁あみだくじ? じゃんけん? ⋮⋮なんですかそれ?﹂
﹁⋮⋮あっ、いやなんでもない、うん﹂
そうか、彼女たちもといこの世界では別の言い方だった⋮⋮あれ
? でもクジはまだしも、あみだもジャンケンも見たことないよう
な⋮⋮?
﹁と、とにかく決め方はそっちで決めていいけど、怪我だけは気を
付けてくれ。いや、出来ればもっと平和的な決め方を求め︱︱︱﹂
﹁﹁﹁こっちの方が早いと思いますが?﹂﹂﹂
﹁あ⋮⋮うん、もういいや、気を付けてな﹂
2035
﹁﹁﹁はーい﹂﹂﹂
そう言って外へと出て行く獣族︵女性︶たちの後ろ姿を見送りな
がら俺はポツリと呟いた。
﹁⋮⋮なぜそうなった﹂
主な理由は俺にありそうだが。
今度、ジャンケンとか教えていた方が良さそうだ。
結論:脳筋の血は伝染する
==========
その後、獣族達の健全な話し合い︵物理︶でローテーションは決
まった。彼女たちがボロボロになりながら笑顔で報告に来たときは、
唖然などを通り越して、寒気がした。最初はあんなに嫋やかだった
のに何故こうなった⋮⋮
これは子供たちにも感染する前に手を打たなければならないだろ
う。あっ、いや前に男の急所に全力ヘッドスライディングを決めた
フェイを見てると、もう手遅れな感じがする。
いや、なんとかなる。あれはきっと無邪気な心がそうさせてしま
ったんだ、きっとそうだ︵本日2度目の現実逃避︶
2036
と、兎に角、色々言いたいことはあるが、取りあえず人手は何と
かなったので、次の準備に取り組もうと思う。
==========
﹁⋮⋮えーと、クロウさん? これは一体⋮⋮?﹂
﹁ん? これですか? 冷蔵庫です﹂
﹁れいぞう⋮⋮こ?﹂
翌日、俺はギルドに顔を出していた。やることは内装作業だ。外
形だけ作って内装まで手が回らなかったので今日は内装作業だ。
既にギルド自体は復旧して依頼やその他手続きを行える状態にな
っている。まだ、日は経っていないので出入りする人自体は少ない
が、時間が経てばまた人も増えて行くことだろう。
﹁食べ物を冷やしておく装置です。冷やすことで保存期間を延ばす
ことが出来るんですよ。まあ、例外もありますが﹂
﹁へ、へぇー﹂
ミュルトさんは良く分かっていないようだ。うん、中世レベルの
世界に近代的な装置を持ってきたもんだから仕方ないな。
で、なんでこんなものを⋮⋮と、言えばまあ、職場用に一つ置い
ておこうって思って突貫で作ったよ。︵家には設置済み︶
それをテナントスペースの奥に設置したときに、ふと思った。
2037
﹁⋮⋮思ったより狭いな﹂
休憩室とかも作ろうと思ったら思ったよりも小さかった。まあ、
学校の教室ぐらいのスペースしかないから、当然ちゃっ当然なのだ
が。
で、どうしたかと言いますと、サクッと地下室を作って解決した。
えっ、どうやって作ったかって? そんなの魔法で︵以下略︶
ミュルトさんは慣れたのか﹁へー地下も作ったのですか﹂と軽く
流していた。
その後、商品棚を設置してカウンターを設置してとよくある店内
の装飾をしていたときのことだ。
﹁ふん、お主商売でも始める気かボケ﹂
どこかで聞いたことがある声が準備を進める俺の後ろから聞こえ
て来た。
﹁⋮⋮なんだ、誰かと思えばナイフの投げ方も分からないじじいか
よ﹂
﹁誰がじゃボケ! こう見えても︽投擲︾レベルは6じゃぞボケェ
!﹂
﹁6ぐらいで自慢してるんじゃねぇよ。レベル10の俺からしてみ
れば雑魚同然だ。で、何の用だ?﹂
﹁お主に用など無いわボケ!﹂
2038
︵いや、話しかけたのお前からじゃん⋮⋮︶
つるっつるの頭にこの口癖。忘れる訳が無かった。相変わらずの
ようだな。
話しかけているのはトル・アランシュ。前にエルシオンに竜王︵
笑︶が攻めて来た時に、商売のコツを聞こうと取引を持ち掛けて見
事に返されたことがある。
﹁⋮⋮まあ、いいか。そうだよ商売始めるんだよ。そういえば、あ
んたには何も教えて貰えなかったからな﹂
﹁ふん、小僧に教えるものなんざぁ何もないわボケ﹂
﹁相変わらずだな。まあ、張り合う気は無いから別に教えて貰わな
くてもいいけどな、経験に勝るものは無いってか、自分で勝手に覚
えさせてもらうよ﹂
﹁分かっているならワシの所に来なくてもよかろうがボケ。ワシの
の所に来る方が間違えておろうが﹂
﹁あー⋮⋮確かにな。まあ、あんたは商人としては失敗だろうけど
な﹂
﹁なんじゃとボケェ!﹂
﹁当然だろ、あんな良い商品をタダ同然で作り方を教えてもらえた
んだぜ?﹂
﹁だから、アレは誰が考えても高価な素材を︱︱︱﹂
2039
﹁ああ、言い忘れてたがあれの材料は普通のポーションと全く一緒
だからな?﹂
あれとは前に商売のコツを聞こうとしたときに取引品として差し
出そうとした治癒薬の事だ、アレ自体はどこにでもある治癒薬と殆
ど変わらない。ただ、作った人物のスキルレベルが高いだけだった。
だが、トル・アランシュはこれを﹁高価な素材を使ったポーショ
ン﹂として一蹴したのだ。
﹁何︱︱︱?﹂
﹁まあ、作れる奴は限られるから、そういう意味では高価なアイテ
ムだけどな﹂
﹁⋮⋮ふん、ワシは騙されんわボケ。そう言って今までだましてき
た奴をこの目で見てきているんだからのボケ﹂
﹁⋮⋮あ、うん。もうそれでいいよ。いいから、なんでここに来た
んだ?﹂
﹁ああ、そうじゃったわボケ。ギルドに用があっただけじゃよボケ﹂
﹁あっそう︵なんで俺に話しかけて来たんだよ﹂
﹁⋮⋮ふん、今に見てろ商売なんざ8割以上が失敗する世界だ。そ
んな中で知識もない若造がどこまでやれるか⋮⋮ボケ﹂
︵あっ、今、口癖入れ忘れてたな︶
2040
﹁⋮⋮もっとも、最近は挑戦する輩自体がいない腰抜け状態じゃが
の、そこだけは買ってやるわボケェ!﹂
﹁なんだそれ? 褒めてるのか?﹂
﹁褒めるわけが無かろうがボケェ!﹂
それだけ言い残すとトル・アランシュはギルドの奥へと姿を消し
ていった。
﹁⋮⋮ツンデレか?﹂
いや、じーさんにモテるとかマジ勘弁願いたい。俺にそんな趣味
は無いぞ。やっぱりモテるならかわいい子たちにモテたい。いや、
実際はエリラがいれば十分なんだけどな。
1時間ほどしたのち、トル・アランシュはギルドの奥から姿を現
し、こちらを一瞬だけ見たかと思うとそそくさとギルドを出て行っ
た。
その後に奥からミュルトさんが現れ、こちらの進展状況を聞きに
きた。
﹁調子はどうですか?﹂
﹁んー、予定通りですね。明後日には開店出来ますよ﹂
﹁そうですか、それは良かったです。所で⋮⋮﹂
﹁はい?﹂
﹁トルさんと何かあったのですか?﹂
2041
﹁いえ? ちょっと言い争ったぐらいで他には﹂
﹁何かあったんじゃないですか。さっき帰り際に﹃あの小僧に才能
と根性があるか確かめてやるわいボケェ﹄と言って出て行ったので
恐らくクロウさんの事だと思うのですが﹂
あのジジイそんなことを言っていたのか。
﹁まあ、商売するとなると同業者になりますから敵になりますかね﹂
﹁そうですか⋮⋮ああ見えて、根は多分いいと思いますので、あま
り敵視しないであげてください﹂
﹁多分⋮⋮?﹂
﹁えーと⋮⋮多分です、はい。そこは自信ありません﹂
そこは自信ねぇのかよ!
﹁そ、それよりも明後日には開店するということですか?﹂
︵露骨に逸らした⋮⋮︶
﹁そうですね、まあ、準備が出来たらなので早くてという感じです
が﹂
﹁⋮⋮大丈夫ですか?﹂
﹁はい?﹂
2042
﹁えっと⋮⋮従業員に獣族を雇っているのですよね?﹂
ジュウ
﹁従業員だけに?﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
﹁⋮⋮すんません、今のは忘れて下さい﹂
﹁えっと⋮⋮は、はい﹂
どうやら親父ギャクはこの世界でも寒いようだ。
﹁まあ、色々と気を付けないといけませんが、彼女たちがやる気に
なっているの大丈夫ですよ﹂
﹁そうですか⋮⋮奴隷たちがやる気あるのですか?﹂
﹁そうですね⋮⋮おかしいですか?﹂
﹁いえ、とても大切にされているのですね⋮⋮生き物を大切に扱う
人、嫌いじゃありませんよ﹂
ミュルトさんが笑顔でそう言ってくれた。おお、なんか本当に大
丈夫な気がしてきたぜ。
⋮⋮俺って単純な男だな︵遠い目︶
﹁わ、私は仕事がありますので、これで⋮⋮クロウさん頑張って下
さいね﹂
2043
﹁はい、任せておいてください﹂
こうして、俺が商売を行う準備は無事に整ったのであった。
2044
第202話:1モフリ︵後書き︶
という訳で、次回より本格的に商売の時間です。
ちなみに1モフリはとある感想を見て思い付きました。感想の内
容通りではありませんが、これで勘弁してください︵土下座︶
それと、活動報告を見ている人は知っていると思いますが、感想
返しをまた始めたいと思います。 近い所から順番に返しています
ので、古い感想は遅くなるかもしれませんが、待って下さると嬉し
いです。︵そもそも、そんなに古い感想を書いた人自体が覚えてく
だっしゃるのでしょうか⋮⋮?︶
感想帰ってこねぇんじゃ書かねぇよ! って人もこれを機に書い
て下さると嬉しいです。
詳しい事は活動報告に書いていますので、是非ご覧になってくだ
さい。
では、次回もよろしくお願いします。
2045
第203話:開店︵1︶
いよいよ開店のときが来た。
欲を言えばチラシ配りとか開店アピールしてもいいのだが、まあ、
そこは俺の個人的な商売だからいいかなと思ってしなかった。えっ、
本音? 紙を大量生産するのが面倒なうえに、紙を作るのも金か
かるし、配ったところでどれほどの集客が望めるか分からないし、
そもそもこの店自体が冒険者をターゲットにした店でギルド内にあ
るから、宣伝する必要も無いし。
﹁き、緊張します⋮⋮﹂
﹁大丈夫だよ。クロウ様もいるんだから!﹂
開業初日のメンバーは シャルとフェーレという獣族の二人だ。
シャルは黒髪のロングヘア︱に黒い目と見た目は日本人に近いよう
にみえる。勿論獣族特有の毛としっぽは除いてだが。
性格は非常に優しいが、実は獣族達の中で一番格闘戦が得意だ。
スキルレベルでいうと﹁6﹂であるが、獣族特有の機動力を活かし
た戦いが上手いのだ。複数人に囲まれたとしても彼女なら何とか出
来るだろう。
ちなみに怪力も獣族たちの中で一番高い。聞いて驚くな筋力だけ
ならエリラと互角の勝負が出来るほどだ︵身体強化は無しで︶
そんな能力なので、獣族達の話し合い︵物理︶で一番最初に勝ち
抜けた子なのだ。そして一番多いシフトを取った子でもある。
もう一人はフェーレという獣族だ。黄色の短髪に黄色の瞳、普段
から元気な獣族で常にテンションが高い。この子は投擲が得意でそ
れで話し合い︵物理︶で勝ち抜けた子だ。⋮⋮あれ? 投擲? ⋮
2046
⋮殴り合いじゃなかったっけ?
え、えっと普段から元気な性格だからかココネには苦手意識があ
るようだ。嫌いとかいう訳では無く、一緒にいると調子が狂うらし
い。言っとくが家の獣族たちは全員仲がいいからな、そこは譲らな
いぞ。
﹁そうだ、俺がいるから心配するな。だけど最後には二人でも頑張
ってもらうからな。今のうちに慣れておけよ﹂
﹁﹁はい!﹂﹂
﹁よし、いい返事だ、じゃあ早速開店前の準備を︱︱︱﹂
︱︱︱ドガァン! ガラガラ!
﹁フハハハハハハハハッ!!!﹂
何かがぶっ壊れる音と共に聞きたくない声が辺りに響き渡る。
﹁久しぶりだな同士よ! 店を開くと聞いて応援に駆け付けたぞ!
三男! テルム・モルレスト! ムゥゥゥゥ︱︱︱﹂
﹁ギルドの壁ぶっ壊しているんじゃねぇ!!﹂
︵ゴスッ︶﹁ふべらっ!?﹂
勢い良く登場した筋肉馬鹿の顔面へ飛び蹴りをくらわし、ギルド
の外へと退場させる。登場から僅か4秒の出来事の事である。
﹁⋮⋮えっと⋮⋮今のは︱︱︱﹂
2047
﹁サァ? シラナイナー﹂
フェーレが心当たりがあるのか聞こうとするが、俺はしらを切る。
いや切らせてくれ。俺はあんな奴とかかわりを持ちたくないんだ。
﹁フハハハハハハッ!!! ワシを忘れたとは言わせないぞ同士よ
!﹂
﹁うるせぇ! 俺はお前らの同士になったつもりなんて一ミリ⋮⋮
いや、一ミクロもねぇからな!﹂
﹁何をいっておるブラザーよ! ︻筋肉神︼をスキルを身に着けて
いるからには、我らは同士ではないか!﹂
﹁取りたくて取った訳じゃねぇよ! てめぇらのせいだからな!﹂
いや、核心を突くのであればセラさんのせいになるんだけど、流
石にそれは言えないだろ!
﹁クロウ様そんなスキルを取っているのですか?﹂
﹁⋮⋮ちょっと引きますよー﹂
﹁いや、取りたくて取った訳じゃないんだよ⋮⋮﹂
﹁フハハハハ過程などどうでもよいのじゃ! さぁ、一緒にKIN
IK︱︱︱﹂
﹁やらねぇよ! 帰れ!!﹂
2048
︵ゴスッ︶﹁キンニク!﹂
自ら突き破った穴から外へと飛び出していった男⋮⋮テルムだっ
け? 出来ればもう二度見たくないものだ。
﹁ワシは何度でもよみがえるぞ!﹂
⋮⋮その願いは叶わぬようだ。
﹁ああ、もう分かったから少し落ち着け。じゃねぇとここでミンチ
にするからな﹂
本気を出せばテルムを殺すことは不可能じゃないだろう。だが、
ここで血の池を見せる必要も無い。というか開店早々そんなことは
ご勘弁だ。それにシャルとフェーレ、二人の前でそんな事をしたく
はないしな。
﹁⋮⋮で、何の用だ?﹂
﹁いやぁ、ブラザーが店を開けたと聞いて応援に駆け付けたのじゃ
よ﹂
﹁それだけ? それだけの為にギルドの壁ぶっ壊したのか? あれ、
直したの俺だからな?﹂
マッスルハイテンション
﹁心配ご無用じゃ、後で︻筋肉鼓舞・その19834︼を使って直
しておくぞ﹂
そんなのあるの? てか、︻筋肉鼓舞︼万能だなおい。てか、数
2049
的に3万ぐらいあったよな。全部覚えているんだろうか。
ちなみに、後でマジで直していきました。一体どういう原理だよ
⋮⋮。
﹁そういえば、あのモヤシと弟はどうしたんだ?﹂
﹁ああ、兄者とレウスのことですか!?﹂
==========
﹁はい、頑張ってあと1回で腹筋3回達成ですよ! はい、頑張っ
て! 気合の問題です!﹂
﹁むぅぅぅぅぅぅぅん⋮⋮ボハァ!﹂ ↑吐血
﹁あっあぁぁぁぁぁ、あと一回ですぞ! さぁ、血を吐いてないで
頑張りましょう!﹂
﹁む、むぅぅゴハッア!﹂
︵以下ループ︶
==========
﹁兄者たちなら仲良く筋トレをしていますぞ!﹂
﹁あ、ああ⋮⋮そうか⋮⋮︵嫌な予感しかしない﹂
﹁それよりも、同士よ! ここには筋肉増強剤はあるのか?﹂
2050
﹁あー、プロテ⋮⋮じゃなくて、一応あるぞ﹂
もやし
そう、あるんだな。作った理由なんだが、こいつらが実は関係し
ていたりする。というのも例の長男を見て売ればいけるんじゃね?
と考えたのが発端だ。そこからちょっと、プロティンを作ってみ
たのだが⋮⋮
それがこれだ。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
アイテム名:筋肉増強剤・極
分類:食品︵栄養剤︶
効果:飲んだ者の筋力ステータスの成長にプラス補正をかける。
また、持続して飲むことで補正値が大幅に上昇する。
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
いや、確かにプロティンにはなったよ。だけどさ、この効果は駄
目だと思うんだよ。これ能力上昇値ってものがあるんだが、一年間
飲み続ければ、レベルが1アップしたら筋力は15レベル分の上昇
をしてしまうんだぜ?
勿論、トレーニングは必要だが、飲み続ければ飲み続けるほど、
成長値が上がるんだぜ? もちろん才能なんか関係ない、そこにあ
るのは買うお金と飲んでトレーニングを行う努力のみだ。前の世界
のプロティンの効果が霞んで見えるレベルだよこれ。
あんな奴
作成できるのが俺だけなので量産は出来ないから、そんな急激な
成長をしない程度に売りさばくようにしようと思う。テルムが世の
中にこれ以上増えたりでもしたらと考えると身の毛がよだつよ。
セラス
﹁でも高いぞ? 値段は7000Sだ﹂
2051
﹁な、七千!?﹂
そういってびっくりしているのはフェーレだ。まあ、そうだよな。
7000Sと言えばそれなりに良い宿屋に1週間泊まれるお値段だ。
日本円にして70,000円相当になるので、この値段がいかに高
いかは察しがつくと思う。 これくらい吹っかけておけば、まあ大量買いする奴はいない︱︱︱
﹁よし! 全部買った!﹂
﹁⋮⋮What?﹂
ナンカ イヤナ コトバ ガ キコエタ キガスル ケド キノ
セイ ダヨネ?
﹁ここにあるの全部買わしてもらうわい!﹂
﹁マジデスカ⋮⋮﹂
﹁えっ⋮⋮と、確かこれは15個ありましたので⋮⋮105,00
0Sになりますが⋮⋮?﹂
﹁問題ないわい! ちょっと待て、今出すから⋮⋮むぅぅぅぅぅぅ
ぅん!!﹂
そういうと、テルムはポケットから魔法の鞄を取り出した。どう
でもいいが、財布を出すためだけに変なポーズをとるんじゃない。
﹁よし、開店祝いじゃ受け取れぇぃ!﹂
2052
そういうとテルムは自分の財布から一枚のコインを取り出す。
﹁⋮⋮白金貨?﹂
﹁﹁ふぇっ!?﹂﹂
俺は何枚か持っているので特に不思議に思わなかったが、後ろの
二人にとっては目玉が飛び出すような金額だろう。人族の中で買い
プラチナコイン
物などもしているのでお金の価値はそれなりに分かるのだろう。
忘れている方に説明すると白金貨は一枚で1,000,000S
の価値があるつまり、プロティンを買っても余裕でお釣りが帰って
来るのだ。
﹁釣りはおらぬぞ! これで筋トレが捗るわい!﹂
﹁気前いいな﹂
﹁同士に良くするのは当然じゃい!﹂
﹁だから同士はやめろっつうんだよ。違うからな。でもお金は有難
く頂いておこう。サンキューな﹂
﹁よいってことよフハハッハハッ! では、ワシはこれにて! 帰
って兄弟で鍛えさせてもらうわい!﹂
そういうと、テルムはギルドを出て行っ⋮⋮出て行く前にポーズ
を取ってから出て行った。
テルムが去った後はまるで嵐が過ぎ去ったように感じた。ギルド
で一連の出来事を見ていた冒険者は口々に﹁なにあれ?﹂﹁変な奴
2053
だったな?﹂﹁あいつあの変態の仲間なのか?﹂と感想をこぼして
いる。
お金をもらたのは嬉しいのだが、正直に言おう。周囲の視線が痛
すぎるのでもう来てほしくはない。
﹁⋮⋮クロウ様⋮⋮﹂
﹁⋮⋮なんだ?﹂
シャルが非常に言いにくそうな顔でこちらを見ている。やや間が
あったのち、彼女は一言だけこういった。
﹁⋮⋮子供の教育に悪い人は余り近づけさせないでくださいね﹂
﹁⋮⋮はい﹂
なんでだろう。俺は悪くないはずなのに⋮⋮。
開店前から疲れたわ⋮⋮。
2054
第203話:開店︵1︶︵後書き︶
最近、書きたい衝動に駆られて更新頻度が上がっているなと思い
ます。この調子を維持できるように頑張りますね。
感想、誤字脱字報告いつもありがとうございます。
出来る限り早めに返信で来たらと思っていますので、これからも
ドシドシ書いていってください。
2055
第204話:開店︵2︶
さ、さあ気を取り直そうか。
開始早々⋮⋮いや、開始前から酷い目にあったけど負ける訳には
行かない⋮⋮いや、何に負けるのか分からないのだが。
﹁ん? なんだ獣族が店員をやってるのか?﹂
最初に店を覗いたのは冒険者では無くラ・ザーム帝国の兵士二人
組だった。統一された国軍の鎧を来ているから直ぐに分かった。
この店は周囲をガラスで囲んで外からでも見えるようになってい
る。ただ、外から丸見えかと言えばそういう訳でもなく、肩ぐらい
の高さまで戸棚のせいで外からは顔しか見えないだろう。例えるな
ら街中にあるコンビニみたいな感じだろうか。
﹁ん? 従業員が獣族は悪いですか?﹂
そんな外見だから獣族が見えてもおかしくは無いのだが⋮⋮もし
獣族が嫌なら入ってこないはずだが⋮⋮嫌味でも言いに来たか?
と、場所が場所、世界が世界なのでやはり構えてしまう。だが、
帰って来た答えは意外な答えだった。
﹁何をいまさら、ラ・ザーム帝国では国軍に他種族がいるほどだぞ
? 別に今更獣族一人や二人で文句をいう奴なんざいないだろ﹂
﹁へぇ⋮⋮その話ちょっと詳しく聞きたいですね。もし質問に答え
て下さるならポーション関係をいくらかサービスしてあげますよ﹂
2056
﹁ほーそうか、だが、それは商品を見てから判断させてもらおうか、
悪いが国軍の兵士と言えども懐が広いわけじゃないんでな﹂
﹁ええ、勿論かまいませんよ﹂
よし、食いついた。話が気になるのもあるが、まずは買ってもら
わないと話にならない。最初に言った通りビラ配りなどの宣伝は行
っていない。唯一あるのはギルド内にあるという、前世で例えるな
ら駅前一等地並の立地条件だけだ。売り上げを伸ばしたいならこう
いう所で売っておいて宣伝してもらおう。
ライフポーション
﹁こちらの︻基礎傷薬︼、一見どこにでもあるポーションに見えま
すか?﹂
そう言って俺は商品のポーションを差し出した。
﹁⋮⋮一見見たら普通だな、ちなみにこれでいくらなんだ?﹂
﹁500Sです﹂
﹁⋮⋮すまん、もう一度聞く、いくらだ?﹂
﹁500Sです﹂
﹁⋮⋮本気で言ってるのか!? 普通の店なら3000Sに達する
場合もあるんだぞ!? 粗悪品じゃないのか!?﹂
﹁いえ、粗悪品ではありません。むしろ一般の店よりも品質は高い
と思われますよ﹂
2057
嘘は言っていない。なんだってこれは俺や獣族達で作ったオリジ
ナルのポーションだからだ。高いスキルレベルと︽SLG︾を使用
して市販のとは成分も全く違う。だが、材料は非常に安価⋮⋮とい
うか、森から取って来たもので作ったからタダだな。しかも一つ一
つの必要材料数は少ない上に、森からは材料が豊富に取れるので大
量生産が可能と言うおまけつきだ。
﹁試してみましょうか?﹂
そういうと俺は、おもむろに︽倉庫︾からナイフ︵投擲用の試作
ナイフ︶を取り出すと、スッと自分の腕を切りつける。
﹁﹁あっ!﹂﹂
驚いたのは獣族達だ。兵士たちも驚いているようだが、それより
もポーションの方が気になるのか反応は微妙だった。
斬った箇所から血がプシャっと弾けるように飛び出し、その後か
らスーと垂れて行く。
﹁で、このポーションを飲むと﹂
瓶の口をふさいでいるコルクを取り外し、中身をクイッと一気飲
みして見せる。するとどうだろうか、飲んだと思うとすぐに効果が
発揮され、みるみるうちに血が止まり、傷口が塞がっていくではな
いか。
﹁﹁おおっ﹂﹂
時間にして10秒足らずで傷口は跡形も無く消え去ってしまった。
腕を軽く振って傷口が治っている事を確認する。
2058
﹁どうですか? 市販のポーションではこんな即効性は無いと思い
ますが?﹂
ポーションといってもピンからキリまで効果の幅は広い。人間の
治癒能力を高めるだけのポーションもあれば、今飲んで見せたポー
ションのように傷口を直ぐに治すものも存在する。一般市場に売ら
れているので多いのは人間の治癒能力を高め、少しだけ傷口を治す
タイプが多い。つまり、人間の治癒能力を高める能力はあるが、即
効性は高くないのが一般市場に売られている。
そして、効果の割りには高い。先ほどの兵士が言った通り市場で
の定価は2000∼3000Sほどの値段だ。
﹁ね、どうですか? これが定価で500S。さらにお話を聞かせ
てくれるなら400Sで売りましょう。今回だけのサービスです。
どうですか?﹂
﹁も、勿論買った!﹂
﹁お、俺も買った! そんなに即効性が高いポーションをこんな格
安で買わない訳には行かないだろ!﹂
﹁交渉成立ですね。本日は100本ほどありますので、その範囲で
したらお好きなだけ買って行ってください。ですが、その前に﹂
﹁あ、ああ何が聞きたいんだ? といっても一兵士に答えられる量
なんか高が知れてるぞ?﹂
よし、もう言う気満々だな。しかし、こんなポーションを400
Sでなぁ⋮⋮正直なところ大量生産すれば千単位で準備できるから
2059
50Sぐらいの使い捨て感覚で売ってあげてもいい気がするぐらい
だ。
﹁いえいえ、簡単な質問をいくつか聞きたいだけですよ。まず先ほ
ど言っていた他種族兵士のことですが、何故他種族などを?﹂
﹁簡単な話だ、安く兵をそろえたいからだろ。他種族の力を借りる
など他国ではありえぬ話であろうが、安く兵士を雇えると言うメリ
ットがある﹂
﹁へぇ、でも忠誠心とか無いに等しいですよね?﹂
﹁だからこその︽契約︾だろ? お主も現に獣族二人を奴隷にして
いるではないか﹂
﹁ああ、それもそうですね﹂
忘れている人も多いかもしれないが、奴隷の︽契約︾は絶対。一
度契約をしてしまえば、契約が解除されるまで、主人には一切歯向
かえなくなる。そういう契約をしていればだが、俺はそんな事をし
たくないから超緩い契約をしているけどな。
﹁︽契約︾をしてしまえば簡単な話だ、捨て駒にでも何にでも使え
る。まあ、そんな無駄死にさせるアホな事をする上司はいないだろ、
兵士を減らしてどうするんだよってな﹂
﹁結構現実的な感じですね⋮⋮﹂
﹁俺も他国に滞在しているときがあったが、まあ理不尽な仕打ちを
してるな。まあ、同じ立場とかには絶対になれないが、家畜ぐらい
2060
には扱えよなとは思うわ﹂
それでも家畜レベルかよ。なんで他種族だからってそんな扱いす
るんだよ。だが、それがこの世界では普通なのだ。日本で鯨を食べ
ることが何気ない事でも︵最近は減ってるが昔は結構普通だったと
のこと︶外国では異常であるのと同じことなのだろう。
この話だけを聞いているとどうやら彼らは、他種族こそ嫌いでは
あるが、そこに目を瞑って過ごしているうちに多少の険悪感は無く
なっているのかもしれない。慣れたと言う事だ。
言われてみればこの街でも、獣族は結構いるためか他の種族︵龍
族とか︶に比べて嫌悪感は少ないように感じる。まあ、じゃないと
こうやって従業員はもとい、性行為を行ったりする相手として見る
事はできないだろう。
しかし、なんでこんなに他種族と仲が悪いのだろうか? これも
いつかは向き合わないといけない問題なだけあり、今から頭を悩ま
せるものになりそうだ。
﹁なるほど、では次の質問です。兵士たちはギルドによく顔を出す
のですか?﹂
﹁あー、休日の奴は飲みに来たりする奴らも多いな。もっとも俺ら
もそれで来たんだけどな﹂
朝っぱらから!? まだ午前中だぞ!?
﹁へー、そうなのですね。あっ、じゃあそのポーションの事是非広
めて下さい﹂
2061
﹁ああ、こんなに安価で高性能な物を買えることを俺らだけ知って
てももったいないからな﹂
﹁そうして下さいますと、助かります。では、聞きたかった事は以
上ですので、後はどうぞご自由に。ポーション以外でも気に召すも
のがあるかもしれませんよ?﹂
﹁そうだな、そうさせてもらおう﹂
それだけ言うと兵士たちは店内の商品を見回りに行った。
よし、取りあえず最初は上手くいったな。
﹁く、クロウ様って結構喋り上手なのですね﹂
一連のやり取りを見ていたフェーレが率直な意見を言った。シャ
ルも同じ意見だと頷く。
﹁いや、これくらいは大したことは無い、皆も出来るさ、フェーレ
とシャルには仕事を早く覚える上では身に着けてもらうからな﹂
﹁えぇ∼、私かしこまったしゃべりとか苦手なのですけど⋮⋮﹂
﹁別にしゃべり方を直せとかは言わないよ。大切なのは行動だ。口
だけ達者な人よりも何倍も大事なことだと俺は思う。フェーレとシ
ャルもそれだけは覚えておいてくれよな﹂
﹁わ、分かりました﹂
﹁はい!﹂
2062
その後、俺にいろいろ話をしてくれた兵士たちはポーションを2
0本ほど買ってからギルドのカウンターへと向かって行った。そう
いえば飲むって言ってたな。
その後、店に来るのはラ・ザーム帝国の兵士たちばかりで冒険者
は殆ど現れなく、気付けばお昼になっていた。
お昼休みは一人ひとり交互に休憩室で取る事にしている。と言っ
ても、日本のお店みたいに、これをやらないといけないアレをやら
ないといけないと言う事でもないので、一人でも結構何とかなるも
のなのだ。むしろ自然で育った獣族達にとってはこれくらいの事は
屁でもないとのこと。むしろ﹁1モフリの為ならずっと働けます!﹂
と豪語するぐらいだ。どれだけ1モフリが楽しみなんだ君たちは。
と、こんな感じで開店初日の無事︵?︶半日が終わった。
さて、残りの半日も頑張るとしますか。
2063
第205話:お約束?︵前書き︶
お約束回︵?︶です。
2064
第205話:お約束?
さて、午後も頑張るとしますか。
と、言ってもお客が来るまでは暇なのだが。
﹁うっは、なんだよ獣族が店員かよ。貧乏くせぇな﹂
⋮⋮前言撤回。嫌な奴と言うよりかテンプレと言うべきか、ある
意味予想通りのお客が来やがったようだ。ちなみに今回、面倒な奴
が来ても基本俺は対処しない。それだと俺が常に見張ってないとい
けなくなるので、極力彼女たちに任せることにしている。
さて、早速最初の犠牲者⋮⋮ゲフンゲフン、面倒臭そうな奴が来
たな。
﹁貧乏ですからね﹂
取りあえず相づちを打っておく。
やって来たのは冒険者だった。顔は見たことなかったので、恐ら
くつい最近やってきた冒険者なんだろう。
レベルは⋮⋮19か、低いな。俺ら視点から見たらの話だが。
﹁貧乏でも獣族を店員にするなよ、買う気が失せるだろうが﹂
﹁そうですか︵だったら買うなよバーカ︶善処しますね﹂
﹁てか、お前が店長か? こりゃまた青二才なガキだな? なんだ
親に留守番でも任せられたか? てか、ガキごときに留守番何て出
2065
来るんかよ? 大丈夫か? 逃げられないか? ぎゃっはっはっは
っ!﹂
冒険者は一人で楽しそうだ。
﹁いえ、私が店長ですよ、彼女たちも私と︽契約︾を結んでいます
から、そんな心配何てありませんよ﹂
﹁ほんとかよ? お前みたいなガキに二人もか? そりゃあ勿体無
いなぁ、一人貸してくれよ、なあ、そこの獣族よ俺と気持ちいいこ
としないか?﹂
そういって下心全開でシャルにすり寄る冒険者。気持ち悪い奴だ
な。
﹁⋮⋮お断りします﹂
当然シャルは断った。
﹁おっ、なんだつれねぇな、そんなこと言わずなっ?﹂
﹁おい、それ以上はやめときな﹂
俺はそういって警告をする。警告だけな。
﹁何をいってるんだガキ? ああ、金なら後で払ってやるよ、ほら
行こうぜ﹂
﹁お断りします。あなたなどと遊ぶつもりなど毛頭ありませんので﹂
2066
獣族にここまで言われたら流石にカチンと来たのか、先ほどまで
余裕を持って接していた冒険者の言動が荒くなる。
﹁おいおい、なんだよ獣族の癖に偉そうなこと言いやがって。テメ
ェに拒否権何てある訳ねぇだろが!﹂
﹁あなたに従う必要は無いと思います。私は従うのはクロウ様の命
令だけです﹂
﹁ほぅ⋮⋮おいガキ! 随分と懐かれているようだな? もしかし
て既にヤッていたりするのか?﹂
﹁ヤッた? 何のことでしょうか?﹂
おおよそ見当ついているけど取りあえず分かっていない振りをす
る。
﹁とぼけるな。当然セッ○スに決まってるだろ!﹂
︵やっぱりそっち方面か︶﹁いえ、特にそんな事はやっていません
が?﹂
﹁ああ? なんだじゃあこいつ処女かよ? それは良くないな。ど
うだ? 俺が今まで味わったことのない世界を味あわせてやろうじ
ゃないか﹂
﹁⋮⋮お断りさせて頂きます。私の初めてをあなたなどの下種に上
げるつもりなどありませんので﹂
﹁何だとぉ⋮⋮!? ⋮⋮おいおい本気で言ってるのか? 奴隷の
2067
獣族で好きな奴に処女を捧げることなんかできると思ってるのか?
どんな甘ちゃんだ? 俺に任せておけば大人にさせてやるってだ
けでも有難いと思いな!﹂
﹁あら? 何を勘違いされていますの? 私がいつ捧げる人がいな
いと言いましたか?﹂
イライラを募らせる男と違い実に冷静な対応をするシャル。端か
ら見ればまさにガキと大人ぐらいの違いがあるな。
えっ? 俺は助けないのかって? まあ、そこはもうちょい待っ
てろって。勿論、今すぐにでもぶっ飛ばしたいがそれは最後の手段
だ。
⋮⋮ところで、捧げる人ってだれのことだ?
﹁ほう⋮⋮いるってのか?﹂
﹁ええ、勿論です。私の初めては⋮⋮主であるクロウ様以外に捧げ
る気はありませんので﹂
﹁﹁ブッ!!?﹂﹂
思わず吹いてしまう俺と冒険者の男。ちょっとまてぇぃ! おい、
シャル、今何て言った? パールン?
﹁勿論、クロウ様が嫌だとおっしゃるならば、生涯誰にも上げるつ
もりはありませんよ﹂
笑顔でこちらを見るシャル。君、今自分が何を言っているのか分
かっているのかな?
2068
﹁ですから、あなたに差し上げるものなんて何もありませんので、
お帰り下さいモヤシさん﹂
︵モヤシさん!?︶
冒険者はレベルこと高くないが腐っても冒険者だ。ガタイは決し
て悪くはない。なのにモヤシとは⋮⋮?
﹁て、てめぇぇぇぇ! 上等だ! 誰が上かテメェの体に叩き込ん
でやる!﹂
あっ、遂にキレた。
見え見えの安い挑発に乗ってしまった冒険者が無理やりでも連れ
出そうとシャルに襲い掛かる。
だが、相手が悪すぎた。男がシャルの両腕を掴もうと手を出す、
シャルが止めようと両手を出し、取っ組み合いになった。当然、力
の勝負になれば男性の方が有利になるはずだが。
﹁あ、あれ? くそっ! こいつ動かねぇ!﹂
男が右に左にとシャルの体を揺らそうとするがピクリとも動かな
い。
当然だ、いくら男性といえども所詮はレベル19。それに対しシ
ャルはレベル100付近のエリラと筋力勝負で互角の戦いが出来る
のだ。力の差は歴然としている。
﹁あらあら、私程度も動かせないのですか? やっぱりモヤシです
わね﹂
﹁クソッたれがぁ! ぬぉぉぉぉぉぉ!!!﹂
2069
男の虚しい奮闘はギルドのカウンターの方からでも見えているの
か、何人かがこちらを見て笑っているようだ。ちなみに笑っている
奴らは大抵、俺の事を知っているので、こんなことをするような奴
らでない。
ちなみに笑っているのはフェーレもであって、店の隅で先ほどか
らの光景を見て、顔を赤くしたり笑い転げたりなど実に忙しそうだ。
﹁ぜぇ⋮⋮ぜぇ⋮⋮﹂
取っ組み合いを始めて僅か30秒で男の方はバテたのか肩で激し
く息をしているのが分かった。それに対しシャルの方は息一つ乱し
ておらず、まだまだ余裕そうな表情を浮かべている。
﹁あら、終わりですか? では、そろそろ終わりましょうか﹂
﹁な、何︱︱︱﹂
ヒュンと一瞬風が吹いたかと思うと、次の瞬間、男は床に頭から
叩き落とされていた。ギルド側から見ていた人もさすがにこの光景
には驚いたのか、唖然としている。
先ほども言ったが男の方は決してモヤシではなく体重もそれなり
にあるだろう。だが、そんなことものともせずにシャルは、パワー
だけで男を持ち上げ地面へと叩き落としたのだ。
﹁あらあら、実に弱いですね。そんなので私の初めてを奪おうとし
ていたなんて⋮⋮馬鹿を通り越して実に哀れですね﹂
顔は笑っていたシャルだが、今の彼女の笑顔は悪魔の笑顔にしか
見えない。俺が思っている以上に彼女は怒っているようだ。普段大
2070
人しいだけあって、怒った時はやっぱり怖いな。
﹁これはお仕置きが必要ですね﹂
そういうと、シャルは男の片腕だけを掴んだ。
﹁な、何をする気だ!?﹂
﹁何って⋮⋮こうするに決まってるじゃないですか﹂
そういうと、シャルは男の掴んでいる腕の方の方に足を乗っける
と、持っていた腕の方を思いっきり反対側の肩へと引き始めたのだ。
﹁ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ご、ごめんなさい! 謝るから!
謝るから許し︱︱︱﹂
﹁嫌です︵笑顔﹂
ベキッ! と何かが外れる音がした。
﹁あああああああああぁっぁぁぁぁ﹂
見ると男の腕が完全に肩から外れているのが分かった。ああ、痛
そう⋮⋮。
そして、これで十分とそのまま持ち上げ店の外に出ると、そのま
ま放り投げるとかなと思ったが、ここで予想外の動きに出る。
シャルは男を一回地面に降ろすと、なんと男のズボンを脱がせに
かかったのだ。
肩の外れた男に止める力などあろうはずもなく、あっという間に
男は下半身を公の場で露出する羽目になったのだ。
2071
﹁あら、冗談で言ったつもりでしたが⋮⋮本当に小さい男ですね。
そんなので私を満足させれると思いましたか?﹂
小さい男⋮⋮ここで行ったのはガタイの方では無くナニの方だ。
これを傍観していた他の冒険者たちはが自分の股間を手で一斉に塞
ぐ動作を行い、実にシュールな光景になっていた。
﹁あっ、このズボンは捨てておきますね﹂
そういうと、ズボンを放り投げると、詠唱を開始した。そして獣
族の大半が得意、または使えるとされる風魔法でズボンを切り刻み
使い物にならないようにしてしまった。
うわぁ⋮⋮。
﹁うわぁぁぁぁぁぁぁぁん! もう嫌だぁぁぁぁぁ!﹂
肩を脱臼させられ、あろうことか公衆の場で下半身を露出させて
てしまった男は泣きながらギルドから全速力で走り去って行った。
その光景を見ていた他の冒険者たちは一斉に爆笑していた。先ほど
まで自分たちも股間を抑えていた人たちの様子には見えないな。
まあ、女⋮⋮それも獣族に返り討ちにあったとなれば、彼の面目
など無いを通り越して奈落の底に落ちてしまっただろう。おそらく
今後ギルドに顔を出す事はあるまい。
男が走り去っていく様子を見届けたシャルが店内へと戻って来た。
﹁お疲れ、派手にやったな﹂
2072
﹁あら、クロウ様の命令じゃないですか﹂
﹁いや、確かに襲ってきたら容赦はしないで良いとは言ったけどな
⋮⋮まあ、あれでもう懲りただろう﹂
男としてより人として終わってしまっただろうけどな。
﹁それよりも俺は初めてを捧げる∼の方が驚いたけどな﹂
﹁本音を言ったまでですよ﹂
﹁本音⋮⋮えっとつまり︱︱︱﹂
言い切り前に、シャルが俺に飛びかかって来た。さっきの光景も
あってか一瞬身構えそうになったが、俺の胸に飛び込んで来た彼女
の柔らかい感触に直ぐに、警戒を解除した。うん、まあ、身構える
必要など最初からないのだけどな。
﹁どうですか? 今晩、私と一緒に︱︱︱﹂
﹁⋮⋮シャル?﹂
シャルの後ろ側でずっと見ていたフェーレが非常に声をかけ難そ
うにかけてきた。
﹁⋮⋮あっ﹂
フェーレの顔を見た彼女の動きが硬直した。どうやら完全に彼女
の存在を忘れていたようである。
プルプルと震えだしたかと思うと、顔を真っ赤にした。
2073
﹁い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!﹂
いつかのエリラ同じく、叫びながら顔を俺の胸に埋めてしまった。
もはや俺の中にあった彼女への大人しいといったイメージは完全に
崩れ去っていた。
﹁忘れ下さい! 今のは全部忘れて下さい! 今のは全部無しにし
てくださぁい!﹂
﹁わ、分かったから落ち着け! 落ち着けな!?﹂
﹁へぇ⋮⋮シャルってそんな一面があったんだ⋮⋮これは報告だね
♪﹂
﹁ちょっ、フェーレおま︱︱︱﹂
﹁いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!﹂
フェーレの言葉を聞いたシャルが一層強く顔を埋めて来る。
﹁と、取りあえずフェーレはこのまま当番しててくれ! 俺はシャ
ルをどうにかしてくる﹂
﹁アイアイサーです﹂
結局、その後小2時間ほどかけて彼女を慰めました。
何と言うか⋮⋮彼女の一面にも驚いたが、俺の童貞が襲われそう
で実に恐ろしかった。
2074
第205話:お約束?︵後書き︶
考えてみれば、クロウってまだ童貞だったんですよね。
これは誰が奪ってくのでしょうか︵笑︶
⋮⋮どこかで殺気を感じたので私はこれにt︵以後彼の姿を見た
ものはいなかった︶
2075
第206話:夜這い︵前書き︶
10/23:サブタイトルを修正しました。
2076
第206話:夜這い
﹁⋮⋮﹂
﹁︱︱︱と、言う事があったのよ∼﹂
﹁ほ、本当ですか?﹂
﹁シャルちゃん意外と肉食だったのね﹂
﹁いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 忘れて下さい! 忘れて下さい!﹂
﹁無理︵笑顔﹂
﹁いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!﹂
予想通りというか⋮⋮。
開店初日を無事︵?︶に終え帰って来ると早速フェーレが皆に今
日のシャルのことを報告。本人、再び阿鼻叫喚。しょうがないよね。
﹁それで、クロウ様はなんて返答したのですか?﹂
﹁返答も何も、その前にフェーレに撃沈されたから何も言ってない
よ﹂
﹁では、答えを教えてくださいです∼﹂
﹁えっ、いやそれは﹂
2077
﹁あら? 何の話をしているの?﹂
獣族達に問い詰められそうになったところで、トレーニングを終
えたエリラがやって来てしまった。oh...嫌な予感しかしない。
﹁シャルが夜這いをしたいってお話です∼﹂
﹁!? な、なにをいっているのでしゅか!?﹂
あっ、噛んだ。
﹁ふーん⋮⋮で、クロなんて答えたの?﹂
エリラがジト目でこちらを見ている。ジェラシーですか? 嫉妬
No
だ﹂
ですか? いや、まて。まず俺の今の状況をどうにかしろ。他人の
事気にしている場合じゃねぇ!
﹁答えたも何も何も言ってねぇよ⋮⋮それに答えは⋮⋮
そう言いながら俺はエリラの傍まで行き、そっと肩を抱き寄せる
⋮⋮練習後のせいか肩がすごくべたついているんだけど⋮⋮で、で
も表情には出さないよ。頑張れ︽ポーカーフェイス︾!
﹁エリラ以外とする気なんて今のところないしな﹂
おおぉっ! と歓声があがる。エリラは恥ずかしそうに顔をそむ
けたが、口元が思いっきり緩んでいるのがわかった。俺の言葉が聞
こえたシャルが、物凄く残念そうにしている。ごめんな。と心の中
で謝って置こう。
2078
﹁で、エリラさんとは⋮⋮?﹂
﹁いや、まだ﹂
﹁﹁﹁ええっ!?﹂﹂﹂
えっ⋮⋮そんなに驚くところ?
﹁ま、まだなのですか!?﹂
﹁えっ、悪い?﹂
﹁い、いえ⋮⋮もうそういう事は済ませている関係かと⋮⋮﹂
﹁二人で一緒に寝る関係ですのにね∼﹂
﹁クロウ様、実はホ○とかでしょうか⋮⋮?﹂
﹁なわけないだろ!!?﹂
﹁あー、でも今朝あの例の人と話してましたね、同士よーって﹂
﹁やめろ! マジで間違えられそうになるからやめろ!﹂
誰があんな変態マッチョマンと同士になるかっ!
﹁でも、まだと言うのは意外ですね∼﹂
2079
﹁そんなに意外か?﹂
うん。と獣族全員が一斉に頷いた。
﹁ま、まあクロウ様は年齢が途中で飛んでいるので、仕方が無いで
ございましょうか﹂
﹁人のそういった話は分かりませんが、私たち獣族でも15、16
でって方も多かったのでつい⋮⋮﹂
﹁ふーん⋮⋮で、ニャミィたちは経験済みなのか?﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
おい、なぜ黙る。
﹁そ、そんな事より一緒に寝ていて、そういう考えには至らなかっ
たのですか?﹂
︵露骨に話を逸らしやがったな︶﹁考えたに決まってるだろ。むし
ろ考えるなという方が無茶な話だ﹂
﹁では、何故行わなかったのですか?﹂
﹁⋮⋮単純にまだ早いと思っただけだよ﹂
﹁⋮⋮クロウ様って思ったより草食系ですか?﹂
﹁何故そうなる﹂
2080
﹁これは⋮⋮今晩が楽しみでございますね﹂
ニャミィが嬉しそうな口調で言った。その時、ビクッと微かであ
るがエリラが反応したことに俺は気付いた。前にエリラ自身から話
して来た時のことを思い出したのかもしれない。
﹁⋮⋮負けません⋮⋮﹂
﹁ん?﹂
先ほどからしょんぼりしていたシャルがボソリと呟いた。
﹁負けません! いつか必ずクロウ様に貰って見せます! エリラ
さんも覚悟して置いて下さい!﹂
豪語するシャル。君、今自分が何を口走っているのか分かってい
るのか?
﹁これは楽しみですね∼﹂
﹁シャルが大人になってる?﹂
﹁これは応援しないといけませんね∼﹂
シャルの発言に周りから応援する声が上がる。しばしの間俺らの
方を見ていたシャルであったが我に戻ったのか。
﹁ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!﹂
顔を真っ赤にして、叫びながら部屋の奥へと消えて行った。
2081
﹁じ、上等じゃない!﹂
エリラが一歩前に出て獣族達の方を向いた。そしてこう一言。
﹁今晩、クロウとやってやるわよ! シャルなんかにクロは渡さな
いよ!﹂
﹁What!?﹂
思わず英語が飛び出してしまった。
﹁いいクロ! 今晩は開けておくのよ!? 覚悟してなさい!﹂
そういうとエリラも部屋の奥へと走り去っていくのであった。
﹁あらあら∼﹂
﹁女の対抗心でございますね﹂
﹁これは今晩楽しみです﹂
獣族の女子トークがこれほどまでに突き刺さった事があったであ
ろうか。
﹁クロウ様、頑張ってくださいです∼﹂
﹁ああ⋮⋮えっと、うん、はい⋮⋮﹂
俺は、流されるがままに流されるしかなかった⋮⋮というか、入
2082
る隙間が無かったと言うべきか⋮⋮女性たちの力、恐るべし⋮⋮。
2083
第206話:夜這い︵後書き︶
書いてて恥ずかしかったです。でも次回はもっと恥ずかしいです。
というか私の描写力が全く足りてません。
先に言っておきます。期待しているほどの事は書けません。気持
ちどうのこうのの前に技術的に難易度高すぎます。こんなのクロウ
が告白した時以来です。
2084
第207話:交わりの時
どうしてこうなった⋮⋮。
夕食を食べ終え、就寝間地かとなった自宅の寝室。本来ならベッ
トイン! 熟睡タイム! って感じで即布団にダイブをする場面だ
が、今日ばかりはそうも言ってられなかった。何故なら︱︱︱
﹁⋮⋮入るわよ﹂
エリラの声がしたかと思うと、ドアが開きエリラの姿が目に映っ
た。いつもなら寝間着姿の彼女であったが、今日は違った。
﹁⋮⋮いやぁ、いつも見ていたけど改めてみるとエロいな﹂
﹁っ! な、何を言ってるのよ!﹂
﹁心の思った通りに申したまでです﹂
﹁ううっ⋮⋮恥ずかしい⋮⋮﹂
今の彼女は下着だけ付けており実に⋮⋮エロいです。体中にはい
つかの傷跡が残っているが、それを考慮しても美しい肌だと思う。
トレーニングを続けている彼女の事だから女子力︵物理︶になって
いないか不安だったが、出る所は出て引き締まるところはきっちり
と引き締まっており15歳とは思えない体つきだった。日本でグラ
ビアアイドルとかで売り出せば絶対人気出てたと思う。ちなみに俺
の服装はいつも通りだ。えっ、脱がないのかって? 男の裸とか誰
得だよ!
2085
﹁⋮⋮そういえばいつかの回答がまだだったな﹂
﹁えっ?﹂
﹁まあ、まずは座りな﹂
ベットに座っていた俺は、自身の隣をポンポンと叩き誘導する。
言われるがままエリラは隣に座る。いつも寝る時は俺に抱き枕感覚
で抱き付いてくる彼女であったが、今日の彼女は恥ずかしいのか、
俺との間に僅かに隙間を作っている。
﹁⋮⋮いつかエリラが言ってたよな、子供が欲しいかって﹂
﹁う、うん⋮⋮﹂
﹁結論から言うと欲しいな﹂
﹁!﹂
﹁でも⋮⋮今は駄目だ﹂
﹁駄目⋮⋮﹂
﹁ああ、そうだ。エリラも察しは付くだろ? 今、この家には何人
いる? 俺、エリラ、テリュール、そして獣族達⋮⋮合計29人も
の家族がいる。そうなるとまずは俺たちを含めた彼女たちの生活の
安定がどうしても優先されてしまう﹂
﹁うん﹂
2086
﹁だからエリラにはもう少し待ってもらいたいんだ⋮⋮いいかな?﹂
﹁ええ、もちろん。10年でも20年でも待つわよ﹂
﹁ありがとうな﹂
﹁うん⋮⋮そのかわり︱︱︱﹂
エリラの顔がスッと近づいて来た、俺も呼応するように顔を近づ
ける。そしてお互いにすぐそばまで近づくとそっと唇を合わせた。
柔らかく、甘い味がする。それと同時に彼女が微かに震えているの
が分かった。
緊張しているな、と言っても俺も他人事では無く前世含めて初の
性行為に緊張しないわけが無く、彼女にも俺が震えているのが伝わ
ったかもしれない。
そして、そのままベットに倒れ込む二人。気付けばエリラが俺を
下にして被さるようかのように乗っかっていた。
﹁今夜はたくさん甘えさせてね⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ああ﹂
﹁⋮⋮大丈夫? ごめんね傷だらけの肌で⋮⋮﹂
﹁何言ってるんだ⋮⋮綺麗な肌じゃないか、俺にはもったいないぐ
らいだよ﹂
﹁ふふ⋮⋮ありがとう⋮⋮﹂
2087
静かな廊下にやがて交わり合う二人の男女の声が響きだしたのは、
それからすぐ後の事だった。
==========
翌朝。小鳥の声がどこからともなく聞こえてきた。その声で目が
覚めた俺は、まだ若干重い瞼を開きつつ、体を起こした。
︱︱︱むにゅ
⋮⋮なんだか柔らかい感触が⋮⋮。
そう思い、手の先を見てみると、そこにはエリラの左胸をがっし
りと掴んでいる俺の手が見えた。
﹁⋮⋮﹂
しばし思考が止まった。チュンチュンと言う鳴き声と今見えてい
るものから嫌でも﹁朝チュン﹂という言葉を思い出し、そして悶絶
を始めてしまうのだった。
﹁ああそうだ⋮⋮やったのか⋮⋮﹂
昨晩の出来事が次々と頭の中に蘇る。蘇る映像一つ一つがとても
2088
じゃないが口では迂闊に語れないもばかりだ。特に事の後半はエリ
ラからの再三にわたる求めに応じて理性? そんなの無いぜ! と
言わんばかりに交わった記憶しかない。何回したっけ⋮⋮ああ、う
ん、もう覚えていないや。少なくともそれくらいしたことは分かっ
ている。
﹁う⋮⋮う∼ん⋮⋮﹂
と、そこまで思い出したところで今度はエリラが目を覚ましたよ
うだ。エリラの眼が拓いた瞬間、俺と彼女との目線が交わった。
止まる世界、その時間は数秒のはずだったが、俺らには何時間に
も感じるようだった。
﹁⋮⋮おはよう﹂
﹁お、おはよう⋮⋮﹂
ようやく口が開いたかと思うとこんな言葉しか出てこなかった。
﹁⋮⋮そうか、私クロと⋮⋮クロと⋮⋮﹂
ようやくエリラも昨晩の事を思い出したのか、俺の名前をぼそっ
と呟きながらそっと布団の中に潜り込んでしまった。
﹁やったんだ⋮⋮獣のようにやってしまったんだ⋮⋮途中から一方
的に求めてしまった⋮⋮ああわあわあああ⋮⋮﹂
﹁そうだな、獣の様だったな﹂
﹁い、言わないでぇぇぇぇぇ!!﹂
2089
エリラの呟きにぼそっと反応してやるとエリラが即座に絶叫する
ことで言葉を返した。やがて、エリラの顔が恐る恐ると言った感じ
に布団からひょっこりと出て来た。髪の色が赤いことも重なってか、
今の彼女の顔を一言で例えるなら真っ赤なトマトのようだ。
﹁⋮⋮幻滅した⋮⋮?﹂
﹁いや、全然﹂
幻滅なんてとんでもない。むしろ俺がされてないか逆に心配にな
るよ。
﹁よかった⋮⋮ねえ⋮⋮?﹂
﹁ん? なんだ?﹂
﹁よかったら⋮⋮また今度⋮⋮いい?﹂
﹁⋮⋮ああ、もちろんだ。むしろ俺からも⋮⋮いいか?﹂
﹁ふふ⋮⋮もちろんよ。クロからだったら断る訳がないじゃない⋮
⋮﹂
﹁そうか⋮⋮ありがとな﹂
そういうと俺は起こしていた上半身を再びベットに倒し、再びエ
リラと隣り合わせとなる。
いつもの見慣れた彼女の顔のはずだが、今日は非常につややかに
見えた⋮⋮いや、見えたじゃない、間違いなくつやつやだ。
2090
﹁⋮⋮綺麗な顔だな﹂
﹁ふあっ!?﹂
思わずつぶやいてしまった。そしてその言葉は目の前にいた彼女
に聞こえないはずが無く思わず反応してしまったようだ。
﹁うう⋮⋮普段から言って欲しいな⋮⋮﹂
﹁はは、悪いな﹂
﹁⋮⋮ねぇ、昨日も聞いたけど、本当に私の肌汚くなかった?﹂
﹁当然だろ? そんな傷なんかでエリラが汚くなるわけが無いだろ
? 昨日も言ったけど綺麗な肌だよ。それに残すって言ったのはエ
リラ自身だろ? 今更らしくないぞ? 何度も言うけど俺はそんな
事で嫌いになったりしないし、嫌いになるつもりもない﹂
﹁⋮⋮うん、ありがとう⋮⋮﹂
そういうと、俺とエリラは唇を合わせる。昨日と同じく、柔らか
く、甘かったが、昨日みたいな震えは感じなかった。
しばし、交わっていたのちスッと合わせていた唇を離す。
﹁⋮⋮ねぇ⋮⋮もう一回⋮⋮しよ?﹂
﹁⋮⋮いいよ﹂
まさか、朝にもう一回やろうと言い出すとは思わなかったが、俺
2091
はいつでもウェルカムだ。
そして、再び両者の体が交わった瞬間︱︱︱
﹁起きるのですーーー!!﹂
バンッとドアを開けてフェイの元気な声が響き渡る。
﹁こ、こら今日は駄目って︱︱︱あっ﹂
フェイを追いかけて来たのかニャミィが後から追従するように入
って来た。そして、ニャミィと目があってしまった。
﹁⋮⋮クロウお兄ちゃんたちはなんで裸なのです?﹂
昨日の行為中に服を脱いだことを、この一言で思い出す。だが、
問題はそこではなかった。
家中にエリラの声が響くのに、それほど時間はなく、朝から非常
に元気な一日となった。
==========
2092
﹁おはよう﹂
﹁お、おはようございます﹂
﹁⋮⋮どうした? なんか眠そうな顔だけど?﹂
色々なハプニングが起きたが無事︵?︶準備を終えて下へ降りて
来ると既にほかの皆は起きていたが、なんだから皆眠そうな顔をし
ていた。逆に変わらず元気だったのがテリュールと子供たちで、彼
女たちは朝からせっせと準備やお手伝いをしていた。
ちなみに今この場にエリラはいなかった。何故なら彼女は今も部
屋のベットで一人悶絶しているからだ。多少布団で隠れていたとは
いえ、俺と交わっている所を別の人にみられたことは相当なダメー
ジだったようだ。
俺も非常に気まずかったが、降りない訳にもいかないし嫌々なが
らも降りてきたところだ。
﹁い、いえ⋮⋮﹂
妙に言葉の噛みきりが悪い。昨日はエリラとあんな事やこんなこ
とをしたことかなと思ったが、考えてみると彼女たちは昨日の出来
事のことは知っていたし、だからと言ってそれが眠そうな顔のこと
に繋がるかと言えばそうでもないし。
そんな俺の疑問に答えるかのようにフェイが首を傾げながら言っ
た。
﹁そういえばお母さんたちは何で昨日は起きていたのです?﹂
﹁あっ、ちょっフェィ何を言って︱︱︱﹂
2093
﹁そういえば昨日は妙なにおいがしたのです、こう⋮⋮なんだか変
な気分になるような感じでしたのです。主にお母さんたちからして
たのです。あとなんで自分の胸とかをもんでたのですか?﹂
﹁⋮⋮ああ、なるほどね﹂
フェイの言葉で事を理解した俺は思わず頷いてしまった。
﹁ふぇ、フェイ! そのことは言わないでって言ったのn︱︱︱﹂
﹁??﹂
獣族の反応にフェイは疑問顔だった。どうやらフェイは覚えてい
ないようだ。寝ぼけながらでも話していたのだろう。
俺が事を理解したことに気付いたのか、大人の獣族たちは全員顔
を真っ赤にしていた。今朝のエリラに負けず劣らずのトマト色だ。
﹁⋮⋮そういえば、獣族って鼻と耳はいいんだよな﹂
﹁く、クロウ様?﹂
﹁⋮⋮自慰をやるのは別にいいけど、子供たちのことを考えてやろ
うな﹂
﹁﹁﹁!?﹂﹂﹂
﹁? じいってなんですの?﹂
﹁ん? フェイも大人になったら分かるよ﹂
2094
﹁そうなのです?﹂
俺とフェイは軽い言葉のキッャチボールを行っていたが、彼女た
ちには何も聞こえていないのかもしれない。何故なら当の獣族たち
は自分たちのしていたことを思い出したのか、顔をさらに赤くして、
プルプルと震えているだけだったのだから。
⋮⋮今度、エリラと行う時は匂いをどうにかしてやらないとな。
俺らの行為で発情していましたなんで、聞いたら何て顔をするか⋮
⋮。
そして、この日ギルドでの仕事は何故か俺とエリラとテリュール
で行う事になってしまい、彼女たちがこの日部屋から出る事はなか
ったのだった。
2095
第207話:交わりの時︵後書き︶
R−18指定⋮⋮もとい作品を消されないか非常に心配になります
ね。
ある日突然この作品が消されていたときは察して下さい。
2096
第208話:我慢出来なかったようです
大人の獣族達の性欲に身の危険を感じてから気付けば二週間が経
とうとしていた。
お店の経営は意外と上手くいってる。主に売れるのはポーション
関係だが、その他にもちょっとした小物︵護身用ナイフや調味料な
どの日用品︶もよく売れるのだ。主なお客は兵士と冒険者で、市民
が来ることはあんまりない。まだ復興最中と言う事もあるだろうが
最大の理由は﹁男性の腕を力だけで外した挙句、その男性のズボン
を切り裂き公共の場で下半身を露出させた獣族が店員をやっている﹂
と言う噂が広まっているのが原因だ。そりゃあそんな人が店員やっ
てたら来たくないよな。﹁獣族が﹂ってのも重なったおかげで市民
からの評判はあまりよろしくない様子。
反対に、兵士や冒険者などからの評判はいいようだ。勿論噂を聞
いて近づきたがらない人もいるが、人間からしてみれば最高性能ポ
ーションが格安で売られているからだ、自分の身を考えるなら買わ
ない手はないだろう。さきほど言ってた護身用ナイフも俺が作った
駄作かつ粗悪品だが能力はそこら辺で売ってるのよりも高性能だ︵
だから多少高くても買ってくれる︶
あと、意外なお客さんで職人がいる。例えば調味料を買いに来る
料理人だ。材料自体はありふれた物ばかりだが作っているのが俺︵
+俺のスキルを付与した状態の獣族︶なので高品質なのが出来るの
で高くても買って行く人があとを絶たない。作り方を教えてくれ!
と土下座してまで頼む人もいた︵前に言ったが土下座はこの世界
では土下座をするなら死んだ方がいいと言われるほど屈辱的な動作
だ︶で、俺の答えはノーだ。理由は簡単。売り上げが落ちるから以
8
ないと作れませんよ? とさ
外にない。と言うのが本音だがそれを言うのは忍びないので﹁いい
ですけど︽錬金術︾のレベルが
2097
りげなく断っておく。もちろんスキル
8
に到達している者など
お客の中で誰一人としていないので誰も作れない、つまり俺のとこ
ろで買うしかない。と言う事になる。それを聞いた瞬間、がっくり
として帰る者もいれば﹁弟子にしてください﹂と頼み込むものなど
その後の動作は人それぞれだが、最終的には﹁使いながら作ってや
る!﹂と言いながら買い占めて行く人が大半だったりする。
研究をするのは別に構わないけど、材料を知った瞬間どんな顔す
6∼7
とかが精一杯と言われてい
るだろうか見てみたいものだ。実は道端に生えているような草が材
料の一部にあるしな。
⋮⋮まあ、一生かかっても
るし、出来る奴なんか一握りしかいないだろうから材料すら分から
ないっていう結果が高いような気がする。
そんなこんなでお店の方は好調なのだが⋮⋮俺としてはそんなこ
とより、獣族達にいつ夜這いされるか分からない方という全く違う
方面で不安を抱えている方が気になって仕方が無い。
あの日以降、獣族達の行動が気になって仕方が無いのだ。ふと気
が付けば周囲に獣族達が集まって物欲しそうにするわ、夜中にトイ
レに行こうとしたら全速力で逃げる獣族をみかけるやらで安心でき
る暇が無い。
求められることは嬉しいんだけど、そのうち後ろから刺されそう
で怖いんだよ。いや、この場合は後ろから襲われる︵性的に︶なん
だけど。
テリュールもテリュールで獣族が群がる中に飛び込んだり、そう
いう話になるや否や﹁じゃあ全員でらn︵以下規制︶﹂などいって
煽る始末。︵なお、本人は非常に楽しんでいる模様︶
ちなみにテリュールはそう言う話自体に興味は無いのかと聞くと
﹁興味はあるけど、エリラからクロウを取れる自信は無いし、せっ
かくこっちに来たんだからもう少し色々な人を見てみたいから今は
2098
いいかな﹂と言った。なんだろう⋮⋮向こうの世界で俺の服に向か
って思いっきり吐いてしまった人の発言とは思えないね。そういえ
ば、あの服どうなったんだろう⋮⋮まあ、思っても確認しに行こう
とは絶対に思わないな。例え行けたとしても。
俺はどうしたいのかと言うと、前にも言ったがエリラ以外とそう
いう関係を持つ気は今のところないのだが⋮⋮彼女たちの気持ちも
なんとかしてあげたいのも、また本音だ。別に嫌々ながらとかそん
なのじゃなく、俺で良ければ相手をしてあげたいのだ。ただ、昔︵
前世︶からの感覚だろう、そういう交わりをするのは結婚している
相手とかだけという感覚が抜け切れていないのもまた事実だ︵こん
な性格だから前世で童貞だったのかもしれない︶
そんな事に頭を悩ませていたある日のことだった。
﹁クロ⋮⋮彼女たちはどうするつもりなの?﹂
いつも通り、寝床に就こうとしたときエリラが聞いて来た。彼女
たち⋮⋮言わずも知れた獣族達のことだろう。エリラも彼女たちの
ことには気になっていたようだ。
既にベットに入っていたエリラの横に俺は腰を降ろしどうしよう
かと頭を抱えた。
﹁どうするかか⋮⋮逆に聞くがエリラならどうする?﹂
﹁い、意地悪な質問ね⋮⋮﹂
﹁それはお互い様だろ?﹂
エリラとはあの日以降、何回か交わった。その時は匂いを外に逃
2099
がさないようにして、音も漏れないように魔法をかけていたのだが、
どうやら最初がまずかったようだ。一度分かってしまったらなかな
かそう言った感情から抜け出せれないのだろう。
﹁私は⋮⋮﹂
エリラがベットから起き上がると俺の横に来て同じように座った。
そしてふぅと息を整えると意外な言葉を発したのだ。
﹁彼女たちの相手もしてあげるべきだろ思う﹂
﹁えっ、それは︱︱︱﹂
﹁勿論、本音は私だけというのはあるよ。でも⋮⋮もしクロが私を
気遣って悩んでいるなら⋮⋮﹂
私は我慢するよと口で言う事は無かったが、代わりに目で訴えて
来た。一見すると大丈夫だよと言いたげな表情だったが、エリラは
自分では気づいていないのだろうか。エリラの左手が俺の腕をギュ
ッと掴んでいる事を。
口では大丈夫と言いながらもはやり心のどこかでは不安があるの
だろう。そのまま私から離れて行くのではないか? という声が聞
こえてきそうだった。
﹁エリラ⋮⋮不安なんだろ?﹂
﹁えっ⋮⋮﹂
つんつんと俺の腕を掴んでいるエリラの腕をつついてみせる。事
に気付いたエリラは慌てて俺の腕から手を離した。様子からみるに
2100
気付いていなかったようだ。
﹁心配するなって⋮⋮エリラから離れるなんて俺は少しも思ってい
ないさ﹂
﹁⋮⋮ありがとう⋮⋮﹂
﹁当然だろ? 俺はエリラの事が好き⋮⋮いや、愛しているんだか
ら﹂
﹁あ、愛って⋮⋮﹂
愛と言葉を聞いてエリラは顔が赤くなった。そういえば好きとは
言っても愛しているとは言った事なかったっけ?
﹁どうしたんだよ、今更赤くなってさ﹂
軽めの口調でエリラをからかうように、笑いながら言った。
﹁だ、だってさ⋮⋮愛してるなんて⋮⋮ねぇクロ⋮⋮もう一回言っ
てくれる?﹂
﹁⋮⋮あ、愛しているよ﹂
ナニコレめっちゃ恥ずかしいのだけど。
﹁ふふふ⋮⋮愛してる⋮⋮私もよクロ⋮⋮好きなんて言葉じゃ足り
ないぐらい⋮⋮いえ、愛しているでも足りないぐらい、あなたの事
を愛してます﹂
2101
そういうとエリラはぎゅっと俺を抱きしめて来た。それにこたえ
るかのように俺もエリラを抱きしめる。
﹁⋮⋮どうしたんだよ急に⋮⋮﹂
﹁んーなんだろう⋮⋮嬉しくてつい⋮⋮この街に来たときはこうい
うときが来るなんて思ってもいなかったからかな⋮⋮﹂
﹁あー、なるほど。確かに最初に出会った時のエリラじゃ無理だろ
うな﹂
﹁ちょっ、さらっと酷くない!?﹂
怒っているような怒っていないような声でエリラは答える。ただ、
抱きしめた手を離すことはなく、そのまま会話は続いた。
﹁いいじゃないか、今は幸せなんだろ?﹂
﹁う、うん⋮⋮とっても幸せ⋮⋮﹂
﹁じゃあ、それでいいじゃないか﹂
﹁⋮⋮うん⋮⋮﹂
暫くの間抱きしめ合っていた俺らだが、ふとした瞬間に二人同じ
タイミングで離れた。
何故なら視線を感じたからだ。それも窓などの外側では無くドア
がある内側の方からだ。
アースウォール
﹁⋮⋮土壁﹂
2102
廊下側の見えない場所に土の壁を発生させる。逃げられないよう
に。そして怪我が無いように慎重に。
ドアの向こう側から声がする。魔法を唱え終わりゆっくりとベッ
トから立ち上がり、入口へと足を向けた。
ドアノブを捻りドアの開けると、そこにはシャルを始めとした獣
族3名が息を荒くして座り込んでいた。もう一度言う。息を荒くし
て座り込んでいた。
﹁⋮⋮何をしていたのかな?﹂
﹁え、あっ、その⋮⋮えっと⋮⋮﹂
あわあわする獣族2名。そして︱︱︱
﹁クロウ様!﹂
ピョンと俺に飛びかかる子が1名。
﹁私たちもお相手をお願いします!﹂
息を荒くしながら懇願するシャル。
何をしていたのかはおおよそ見当がつくが、それはあえて伏せさ
せてもらおう。そしてシャル、君は自分が何を言っているのかわか
っているのかい?
シャルの飛びかかり攻撃をふわりと受け止める。だが、それをチ
ャンスと言わんばかりにガシッと首に巻き付くように体を引き寄せ
ると、そのままシャルは自分の唇を俺の唇に押し当てて来た。⋮⋮
えっ?
2103
離そうとしたが彼女の力は予想以上に強かった。それに加え無下
に出来ない心もあったのだろう。数秒間俺は彼女の柔らかい唇を体
験することとなった。
やがて彼女から口を離した。地面に座り込んでいた獣族2名は一
瞬の出来事に何が起きたのか理解するのに全神経を費やしているの
かピクリとも動かなかった。
﹁エリラさんだけずるいですよ⋮⋮私たちも⋮⋮お願いします⋮⋮
もう、我慢の限界なのです⋮⋮﹂
しっぽをパタパタ振りながら艶めかしい顔をこちらへと向けて来
る。その様子は、飼い主に待てをされて餌を我慢しているペットの
ようだった。
あっ、これやばい。目がマジだ。漫画とかで例えるなら目がハー
トの状態に近い物を感じる。
﹁クロ⋮⋮﹂
エリラがベットから立ち上がると俺に近づいて来た。てっきり助
けてくれるものかと思ったのだが⋮⋮
﹁後で、私も相手してね﹂
それだけ言うとエリラは土壁で塞がれている通路から反対側の窓
側へと走りだし、そして窓をバンッと開けたかと思うと、そのまま
外へと消え去って行った。
﹁⋮⋮えっ?﹂
2104
何が起きたか一瞬分からないかったが、次第に事を理解してくる
と同時に変な汗が出て来た。おそらく彼女は理解したのだろう。こ
れが止められるものではないと。そして自分はここにいてはまずい
と。
﹁ふふふ⋮⋮エリラさんから許可も出ましたしいいですよね∼?﹂
いいですよねと聞きながら、既に服を脱ぎ始めているシャル。答
えは聞いていないようだ。
﹁も⋮⋮もうどうにでもなれやぁ!!﹂
一声そう叫ぶと俺は夜通し3人の相手をすることになるのだった。
そして、これを皮切りに暫くの間3人を始めとする夜這いをかけ
る獣族を相手しなければいけなくなったことは当然と言えば当然の
結果であったのだった。
2105
第208話:我慢出来なかったようです︵後書き︶
私はブラックコーヒーは苦くて飲めませんが、今なら飲めそうな
気がします。
⋮⋮冷静に考えれば彼女たちは2週間、目の前にご馳走があって
も食べれない状態が続いてたと考えると、よく我慢したなと私は思
います。
2106
第209話:課税
一人が行うと皆が行いだす。
こんな経験誰にでもあると思う。後から始めた理由は﹁面白そう
だから﹂﹁皆と違うのが嫌﹂など本当に様々な事が多い気がする。
えっ、なんでそんな話をいきなり始めたかって?
シャルたち3名の獣族が夜這いを仕掛けて来た翌朝。お肌つやつ
やな獣族とちょっと眠そうな獣族と極端に表情が分かれていた。
理由は昨晩のお楽しみタイム以外の何物でもない。夜這いを仕掛
けた獣族たちに囲まれた昨晩は色々と楽しかったです。3人相手と
か無理と最初は思ったりもしたがスキル︽絶倫︾を持っている俺に
はそんなこと関係なかった。三人とも大満足していた。
ミドルテクニシャン
そう言えば、お楽しみタイムの途中で︽中級技術者︾と︽精根尽
きない者︾の二つの称号とスキルを得ていた。
︽中級技術者︾⋮⋮まあ、内容は何となく分かっていたが性的行
為時に相手をある一程度満足させると取得可能となる。話していな
かったがエリラの時は︽初級技術者︾を手に入れていたので、順当
な取得だ。そういえば、これを取得した直後から彼女らの感度が良
かったような⋮⋮?
︽精根尽きない者︾⋮⋮いや、なんだよこれと最初は思って見て
みると、どうやら3人相手をして最後まで持ったことによる︽絶倫
︾の類似的スキルのようだ。ただ、このスキルの恩恵を受けるのは
性行動のみというのが非常に限定的で、︽絶倫︾の類似下位互換ス
キルであることが伺えた。正直いらん。そんなことより⋮⋮
﹁⋮⋮昨晩はお楽しみだったようですね﹂
2107
﹁三人だけずるいです﹂
シャル達夜這い勢が残りの獣族たちから痛い視線を送られている。
そしてその視線は決して俺は他人事では無かった。
﹁クロウ様∼彼女たちに相手をしたのですから、私たちもお相手し
て下さいますよね∼?﹂
うん。分かっていた。3人を相手したときにこうなることは覚悟
していた。ただ。残り丸ごと相手するという訳にもいかないので﹁
じゃあ順番で﹂と言うと、その順番を決めるべく外へ出て行ったこ
とは言うまでもないだろう。
前世では童貞で死んでしまった俺からしてみると信じられない光
景だ。逆に今後不幸なことが起きないか物凄く心配になる。
心配と言えばガラムの方だ。暫く動きが無かったが、どうやら行
き先は人族の領土では無い所に移動しているようなのだ。この時点
で既にグレーゾーンなのだが、じゃあ行き先は? と言われるとな
⋮⋮魔族領土みたいなんだよな。
うん、そうだね。黒確定だね。ただ、何をしたかと言われるとま
だ何も分かっていない。そこは今後の調査次第だろう。
そんな心配を他所に順調に進んでいる店の営業。こんなに順調な
ら今後、色々な商品︵俺が作ったボツ作品︶を置いてみようと思う。
==========
2108
﹁え⋮⋮えっと⋮⋮これは⋮⋮?﹂
﹁売り上げの一部ですが?﹂
﹁いち⋮⋮ぶ?﹂
ギルドのとある一室。そこで俺とミュルトさんは会っていた。
何を話していたかと言うといつかは話したギルドでの売り上げの
一部をギルドに納めるためだ。
俺とミュルトさんの間にはテーブルが置かれてあった。そしてそ
の上には売り上げの一部である金貨が積まれていた。
その金額、ざっと数えて500万S程度といったところだろうか。
ちなみに売り上げの粗利︵売り上げ金額から仕入れ金額だけ抜いた
合計︶は2100万Sほどだ。
売り上げの殆どは冒険者と職人からだ。初回だけあって飛ぶよう
に売れたのが原因だろう。
﹁一応2∼3割程度を渡しておきます。これで1か月は経営出来る
のではないですか?﹂
﹁一か月どころか半年は持ちますよ。復興最中でなぜこれほどの売
り上げを上げることが出来るのですか?﹂
﹁安く仕入れて高く売ったらこうなりました﹂
事実そうでした。大量生産可能な商品をそれなりの価格で売った
結果がこれです。
﹁それを行うことが出来ないから皆さん苦労するんですよ⋮⋮﹂
2109
ミュルトさんは呆れたような物言いだった。
﹁⋮⋮でも⋮⋮ありがとうございます。それにしてもマスターは出
立してから大分立ちますけどいつになったら戻って来るのでしょう
ね?﹂
﹁さぁ? どこかで道草食ってるんじゃないですか?﹂
道草どころか人のいないはずの場所に向かっておりますが。
﹁⋮⋮まあ、帰ってこないのは仕方がありませんね⋮⋮ところで聞
きましたか?﹂
﹁何がです?﹂
﹁その反応を見るに聞いていないようですね⋮⋮どうも復興の目途
がある程度経ったところでラ・ザーム帝国の税率を適応させるとの
ことですよ﹂
﹁それが? 当然だと思いますが⋮⋮?﹂
﹁まあ、その行動自体は当然でしょう。問題はラ・ザーム帝国の税
率が適合されることです。知っているかもしれませんが、彼らの国
の税は非常に高いです。そのような税率をいきなり適応させるとい
うのなら、市民の反発は必至でしようね﹂
﹁そんなに高いのですか?﹂
高い事は知ってはいたが実際どこまで高いかは知らない。レウス
からちょこっと聞いたぐらいだ。
2110
﹁低くて他国の2倍。酷いものでは4倍近くまで差が開くこともあ
りえます。さらに他国では無い税もありますので、市民の負担は実
質3倍∼5倍程度まで跳ね上がる事でしょう﹂
﹁はぁ?﹂
思わず素が出てしまった。日本で例えるならいきなり消費税率が
24%∼40%に跳ね上がったのと変わりがない。段階的にならま
だしもいきなりこんな高い税金を払えなんて言い出せば、そりゃ文
句の一つもでるよな。いや、そもそもそんな高い税を課せれば経済
自体が冷え込みかねない。
﹁既にラ・ザームの支配下になったいくつかの地方では高い税が課
せられたとの報告もあがっており、そこの住民たちは反発している
そうです﹂
﹁⋮⋮一揆に繋がらないといいですね﹂
﹁いっき? なんですかそれは? 反乱では?﹂
﹁あっ、えっと同じ意味ですよ。ただ言い方が違うだけです﹂
一揆って言わないんだな⋮⋮実際は一揆と反乱って違う意味だけ
ど、ややこしくするのもアレなのでここでは反乱と言わせてもらお
う。
﹁それにしても、俺みたいに家持っていたり家族持ってたりすると
高いのですよね?﹂
2111
﹁私も全てを知っている訳ではありませんので、詳しくは分かりま
せんが、高くなるでしょうね。特に土地税は高いらしいですよ﹂
﹁うへぇ⋮⋮奮発して高いの買うんじゃなかったよ、今更後悔して
も遅いけど﹂
﹁売ればよろしいのでは?﹂
﹁まあ、それもそうなんですけどね⋮⋮色々あって売る気にはなら
ないんですよね﹂
既に数多くの家族が住んでいる家を売る気にはどうもなれない。
まあ、あまりに税金が高い時は郊外にでも住むことを考えておこう。
==========
ラ・ザーム帝国のとある地方の片隅にクロルパルスと言う都市が
ある。
静かな田舎の地方でありながら、この街だけは人が多く、活気が
あった。ラ・ザーム帝国領内の中で一番課税が無い地方都市という
こともあり、住みたい人は少なくは無いそうだ。もっとも住みたい
のはラ・ザーム帝国領内で新参者だけで、古参者にはあまり人気が
2112
無いようだ。
その理由は、﹁他の皆も⋮⋮﹂という悲観の共有から来ているよ
うだ。﹁自分だけ∼﹂が嫌と言った方が分かりやすいだろうか。兎
に角自分だけ楽をするというのが嫌いな人たちなのだろう。
で、その都市の中心部には、都市を管理する役所があった。役所
と言っても、その実態は実戦でも耐えうる強固な砦となんら変わり
はない。
都市自体も周囲は堀で囲まれており、その更にその外側には簡易
的な櫓なども建設されている。兵の数はおよそ500人程度だが、
それ以上の戦力を感じさせていた。
そんな、都市を収めていたのは現ラ・ザーム帝国皇帝の弟にあた
る、ミロ・ザームという青年が納めていた。
皇帝の弟が何故帝国の地方都市にいるのかというと、現皇帝との
不和が原因とされている。兄である現皇帝と事あるたびに揉め、結
果として地方へ異動という名の左遷を受けてしまったのだ。
そんな事情があるからか、この都市に集まる者は自然と帝国に不
満を持っている者が多く集まるようになった。その不満を持ってい
るのが新参者であったことは言うまでもないだろう。
国に不満を持つ国民と、現皇帝に追い出された弟。この二つを利
用する者があらわれるのも時間の問題だったのかもしれない⋮⋮。
2113
第210話:家建てます。一軒50万で︵1︶︵前書き︶
サブタイトルを盛大に間違えていたので修正しました。
11/26:数値を間違えていた個所がありましたので修正しまし
た。
2114
第210話:家建てます。一軒50万で︵1︶
﹃家立て直します。材料費など全て込みで1軒50万S。後払い
オーケー。必要なのは家を建てる場所だけです﹄
あなたは、戦争に巻き込まれ家もお金も失ってしまいました。運
よく生き残ったあなたは、まず自分の住むところを探さなくてはい
けません。しかし、当然ながら隣人も同じような状態です。遠い街
に知り合いがいるなど都合のよく友人がいるわけでもありません。
そんな時、あなたの目の前にこのようなチラシがあった場合、話
に乗りますか?
戦後復興最中のエルシオンの早朝。街のいたるところにチラシが
貼ってあった。
﹁おいおい、家を50万Sで立て直すっていうのか?﹂
﹁そんな金で建てる家ってどんな家だよ⋮⋮それに後払いで良いっ
て⋮⋮いくらなんでも話がよすぎないか?﹂
チラシを見た住民たちの声は圧倒的に怪しむ声の方が多かった。
この世界で家を建てるとなると、どんなに安くてもこの価格の6倍、
およそ300万Sはかかってしまう︵日本円換算でおよそ3000
万円︶
そこに土地代やら材料費やらを追加するとその金額は裕に400
万Sはかかるだろう。それなりに高額な仕事がある冒険者ならまだ
2115
しも、一般市民がおいそれと手を出せる金額では無い。加えてエル
シオンは都市だ。当然土地代は高くなるので、さらに上乗せされる
のは間違いない。
それを50万Sでやってやると言っているのだ。50万Sも決し
て安いわけでは無いが、それでもぐっと安くなる。しかも後払いで
良いのだ。
一体誰がこんな物を⋮⋮? 当然、誰が貼ったのかは気になる。
チラシをよく見てみると右下に小さく何かが書かれていた。
﹃詳しい内容はギルド内売店のクロウまで﹄
==========
﹁い、家を建てるぅぅ!?﹂
﹁ああ、1つ50万でな﹂
早朝のギルドにエリラの声が響く。その声は、半分眠りこけてい
たギルドの受付嬢を起こすには十分過ぎる大きさだった。ちなみに
この受付嬢はミュルトさんで、驚いた衝撃でカウンターの角で足の
小指を打ち悶絶したところで椅子から転げ落ちてしまったのは彼女
だけの秘密である。
俺は店の商品棚を点検しながら言葉を続けた。
2116
﹁エルシオンはこの前の戦争で、街の50%∼70%ほどが焦土化
してしまっている。ラ・ザーム帝国が一部復興を進めている所もあ
るらしいが、あいつらは軍事関係を優先しているみたいで街の方は
手つかずの状態だ。なら、格安で受け持ってもそれなりの数を受注
できる今がチャンスだ。街の市長らしき人物も話を聞いていると死
50万⋮⋮こ、これ沢山来たらどうするの?﹂
んでいるようだし、今のうちに勝手にやらせてもらうさ﹂
﹁だ、だけどそれで
﹁何を言っているんだよ。沢山受ける事を前提にしているんだよ﹂
﹁ふぇ!? ど、どうやって沢山建てるつもりなの?﹂
﹁お手伝いたちの魔法を使って、即席の簡易的な家を量産するんだ
よ。まぁ、簡易的って言っても普通の家よりもずっと丈夫だけどな﹂
﹁お手伝い? 私や獣族たちのこと?﹂
﹁いや違う。まあ、それは機会があったら見せてやるよ﹂
﹁??? 話が全く分からないのだけど⋮⋮?﹂
﹁まあ、エリラたちはいつも通り店番をやってくれてたらいいさ。
その件は俺の方で勝手にやって勝手に片づけるから﹂
﹁え、えっと⋮⋮分かった。クロがそう言うんだから私はいつも通
り店番やってるわね﹂
﹁ああ、そうしてくれ﹂
2117
話がひと段落したとき、一人の老婆が店に入って来た。まるで、
話が落ち着くのを待っていたかのようなタイミングだ。
その老婆の、よれよれでボロが出ている服を見たとき、恐らく何
日も着替えてないんだろうなと即座に思った。もっとも、今のエル
シオンにはそんな人は大勢いるので、対して不思議なことでもない。
では、何故そんな事を思ったか。それは老婆の姿勢にあった。
腰が曲がっているというのはよくある事だが、その曲がり方が、
かなり急だったのだ。例えるならエビであろうか⋮⋮その﹁つ﹂型
に曲がっている腰と服が合わさりどうしても、同情の気持ちが芽生
えてしまったのだ。
﹁街に貼られている紙を見て来たのじゃが⋮⋮クロウと言うのはい
るかえ?﹂
﹁はい、私がクロウです﹂
﹁おや、あんたのような若いのがあれを巻いたのかい?﹂
﹁ええ、家の件ですよね? 1軒50万Sで引き受けますよ﹂
﹁ほんとかえ? わしゃにはどうも信じられんがの⋮⋮まあ、今は
そんなことを言ってる余裕は無いがの⋮⋮クロウとやらよ。出来る
ならぜひお願いしたいんじゃが﹂
﹁ええ、是非とも。では、場所に案内してください。それじゃあ、
エリラ店は任せたぞ。もし同じ要件で来る人がいたら、暫くしたら
戻ってきますので、って言って引き留めておいてくれ﹂
﹁了解。気を付けね﹂
2118
こうして俺は老婆の後を着いていく形でギルドを後にした。
2119
第210話:家建てます。一軒50万で︵1︶︵後書き︶
コンテスト落選していました︵泣︶
今の内容と書き方じゃ駄目なんだろうなと思いました。
ただ書き方は変えようと思いますが、話の内容は変えるつもりはあ
りません。
まずは自分が面白くなければ。
そう考えてみると、最近は自分が面白ければと言うのが抜けていた
ような気がします。
もう一回、タイトルを見返しやりたいことをやりたいと思います。
そう﹁チート﹂をです。
という訳で、色々書きましたが頑張ってこれからも書いていきます。
2120
第211話:家建てます。一軒50万で︵2︶
﹁ここですか﹂
老婆に案内された場所には焼け落ちた家の跡が広がっていた。黒
く煤けた柱や壁、もはやかつての面影は見えない家具、雑貨。その
光景から燃えていた時の火の強さを感じ取れた。
﹁そうじゃ、ここは死んだ爺さんと一緒に住んでいた場所じゃ、出
来ればここを離れたくはないからのう﹂
﹁なるほど⋮⋮分かりました。では早速取り掛かりましょう﹂
﹁そうかい⋮⋮で、何か月くらいかかるのかの?﹂
家を建てることは簡単な事では無い。小さな家でも3ヵ月以上か
かるなどこの世界では当然のことだった。
﹁そうですね⋮⋮大きく見積もって10分でしょうか﹂
﹁そうかい⋮⋮今、何日と言った?﹂
聞き間違えたと思ったのか老婆は再度聞き直す。
﹁10分です﹂
言い間違えた訳では無いので同じ言葉を繰り返す。
2121
﹁⋮⋮わしもついにボケて来たかの﹂
﹁いいえ、ボケていませんよ。それじゃあ始めますのでちょっと待
っててください﹂
10分で建てれる家⋮⋮そんな家想像も出来る訳が無かった。﹁
こりゃ騙されたわ⋮⋮﹂と老婆が呟くのが聞こえたが無視しよう。
というか恐らく、それだけ聞いたら誰しもそう思うからだ。
こういうのは言葉で説明するよりも見せた方が早い事が多い。
ゲート
﹁⋮⋮︽門︾展開﹂
俺の前に魔法陣が現れる。紫色をした魔法陣は一つでは無く無数
に出現をした。そして、各魔法陣は中央にお互いを結ぶかのように
線を引いていた。
﹁召喚魔法⋮⋮﹃アーキルド・ドワーフ﹄⋮⋮﹂
名を呟くと魔法陣が光出す。そして、魔法陣は自身の姿を崩し一
つへと集約し始めた。やがて一か所へと全ての魔法陣の残骸が集ま
ったその瞬間。パァン! と弾ける音と共にまばゆい閃光を放った。
まるで、目を潰すかのような光に老婆は、思わず目を瞑ってしま
う。しかし、その光は余りにも強く、目を瞑っていたとしても明る
さが分かるほどだった。
しばし間があったのち、恐る恐る目を開いた老婆。先ほど見えて
いた光の元となった魔法陣の残骸は跡形も無く消え去り、代わりに
そこに立っていたのは背の低い男だった。
﹁⋮⋮ようやくワシの出番かい、クロウ殿よ﹂
2122
﹁ああ、約束通り好きなだけ建築をさせてやる時が来たんだよ﹂
﹁ふむ、それは楽しみじゃの、腕が鳴るってものじゃ﹂
老婆は何が起きたのか分かる事は無かった。ただ、まばゆい光が
走ったと思えば見たことない男が立っていた。老婆が分かった事は
たったこれだけのことだった。
==========
﹁今回は、この範囲でやってもらう。準備は出来ているのか?﹂
﹁ふん、この日を楽しみにしていたのじゃぞ? 材料も道具もデザ
インも当の昔に揃っているわい﹂
﹁そうか、じゃあ建築内容は全部任せるからな。頼んだぞ﹂
﹁承知﹂
アーキルド・ドワーフはそれだけ言うと早速、作業に取り掛かる。
﹁出番じゃぞ、お前ら﹂
そういうと、アーキルド・ドワーフが腕を前にすくうように腕を
振る。すると小さな魔法陣が散発的に現れ、魔法陣から小さいドワ
2123
ーフたちが現れた。大きさはおおよそ15センチ程度。15センチ
定規と同じくらいの大きさだ。数はおよそ30体程度いた。
現れるや否や、小さなドワーフたちは早速、建築場所の整備を始
める。
その光景は驚くべきものだった。僅か15センチ程度の小さな生
き物が自身の10倍以上はある、焼けた木材をひょいと持ち上げた
のだ。そして、建築の邪魔にならない箇所まで持っていくと、その
場に落とした。ドンッと重い音が響く。その音だけでも小さなドワ
ーフが担いでいた木がかなりの重さがあるのが分かった。
そして、みるみるうちに瓦礫の山と化していた場所が整備されて
いく。
⋮⋮えっ、いい加減説明しろって?
覚えているだろうか。俺がチート的な訓練で得たスキルの中に混
じっていた︽惑星創世︾︽次元作成︾︽門︾の3つ。今回使用され
たのは、そのうちの︽門︾だけだが、彼らが住む世界を作る為に︽
惑星創世︾︽次元作成︾が使われている。
かつてセラから簡単に説明されたが、このスキルは別次元に独自
の世界を作り上げる魔法だ。アーキルド・ドワーフ︽惑星創世︾で
生み出された魔力の使役体﹃精霊﹄の一人なのだ。当然、他にも数
えきれないほどの﹃精霊﹄がいる。彼はその一人に過ぎない。
そして、彼らは俺の眷属として別の次元の世界で生きている。俺
は︽門︾を使って彼らを呼び出したのだ。普段は移動に使用してい
る︽門︾だが、本来の使い方はこのように﹃精霊﹄を召喚するため
に使用するスキルなのだ。
アーキルド・ドワーフ。建築関係に特化した﹃精霊﹄だ。茶色い
皮膚に濃ゆい眉毛とひげ。背は低いながらもずっしりとした体格。
良く漫画やゲームなので見るドワーフそのままのイメージで作った。
建築以外でも鍛冶も可能だが、それはまた別の﹃精霊﹄の方が得意
なので、彼は得意という訳でもない。だが、先ほども言ったが建築
2124
関係に特化している分建築時の技能は驚くべき能力を発揮する。
自身の分身にも近い小型ドワーフを駆使して、恐るべき速度で建
築を行う。その速度は通常の民家を5分で建築してしまうほどの速
度だ。さらに某テレビ番組の匠顔負けの技術を用して作るので、彼
が作る建物はどれもハイレベルな物ばかりだ。
ちなみにアーキルドはアーキテクチャー︵日本語で建築を意味す
る英単語︶をもじって命名した⋮⋮えっ、センスが無い? それを
言わないでくれ、泣きたくなってしまうだろ。
そんな説明の最中でも建設はどんどん進んでいく。気付けば骨組
みは完全に出来上がっていた。
そして、そこから更に数分後。
10分ほど前までは瓦礫の山だった場所に、新築の家が建ってい
た。
2125
第211話:家建てます。一軒50万で︵2︶︵後書き︶
召喚魔法! 憧れますよね。
という訳で、長々と使用していなかった︵と言うか使わせなかっ
た︶クロウの切り札の一つの登場です。召喚魔法自体にはある程度
制約がありますが、それはまた後日お話の中で説明します。
本当はもっと後に、出そうかなって思っていたのですが、昨日の
後書きで書いていた通り落選して、改めて主人公無双、つまり自分
の面白いように書きたいということで、登場させました!
当初は、クロウが一人で組み立て建設を行う予定でしたが、急遽
入ってもらいました。
まだ、クロウ君のチートじみた行動は沢山思い付いているので、
積極的に出していきたいと思います。
2126
第212話:家建てます。一軒50万で︵3︶︵前書き︶
12/06:誤字を修正しました。
12/10:一部表記を修正しました。
2127
第212話:家建てます。一軒50万で︵3︶
下らない。
何が、富国強兵か。
やっていることはただの侵略ではないか。
そして、富国といいつつ民からは税を取り立て、そしてそれを元
に再び軍拡を行う。
何故、軍だけに金をつぎ込む? その金は元々は民のものだ。民
のために使うのが筋ではないだろうか? 新たな人員、強固な城壁、
強力な武器。そんなことより学校を建てろ、道路を整備しろ、氾濫
を頻繁に起こす川を治水しろ。使わなければいけないことは他にも
あるはずだ。
民は疲弊している。働いても働いても楽にならない生活。若い男
性は徴兵され若者はどんどん少なくなる。気付けば腰が曲がり、真
っ直ぐに立つことが出来なくなっても働かなければ生きていけない。
人は働くだけの生き物か? 違う! 勉学に精を出すのもよし、
魔法の鍛錬に精を出すのもよし、のんびり生活するもよし、冒険者
となり各地を旅するのもよし、恋愛するのも良し、若い子たちを育
成するのもよし。喜怒哀楽、人により様々な生き方があるのが人間
ではないか! それを他人が奪う権利などあるはずがない。いや、
あってはならない!
私は決心をした。
罪なき人々を守るため。誰もが笑っていられる国を作る為。私は
2128
自らの命をかけ、戦うことを⋮⋮
これは聖戦だ。人々を苦しめる王から人々を開放する聖戦である!
さぁ、立ち上がるのだ圧っせられし民どもよ!
==========
﹁私もぜひ一軒お願いしたい! お金ならすぐに払う!﹂
﹁いや、まて俺が先だ! なんなら追加料金も払う!﹂
﹁病弱な妻がいるんだ! どうか、私たちを優先してもらえません
か!?﹂
騒然とする店内。狭いお店の中は既に人で敷き詰められていた。
そして、店の外にまであふれだす始末だ。ざっと見た感じ200人
ほどはいるだろうか? 飲みに来た兵士たちが何事と騒ぎ、普通に
買い物に来たお客は日を改めようと店を後にしようとするが、すで
に出入りをする場所自体が人で埋まっており外に出ることが出来ず
困惑をした。
﹁⋮⋮えっと、これは何なのクロ?﹂
人が入り込んでいないカウンター側から状況を見ているエリラは、
2129
何故こんな状況になったのか理解できなかった。
﹁思ったよりか食いついたな。まぁ、まだ序の口だろう﹂
そう言いながらクロウは、前もって用意していた用紙を取り出し
訪れていたお客に回していく。
﹁家を建ててもらいたい人は、ここにおおよその場所と支払方法を
記入してくれ。順番は俺に提出した順にしていくから、早い方がい
いぞ﹂
それを聞いたお客は我先にと用紙に記入を始める。そして、書き
終えた者がまだ書き終えていないお客を跳ね除け、クロウへ用紙を
手渡す。その後ろからまだ手渡せていないお客が、手渡したお客を
後ろへと引きずり込み、前へと出る。その際限ないループで店内は、
ちょっとした地獄絵図になっていた。
﹁こ、怖い⋮⋮﹂
目の前で起きている惨状に素直な感想を述べるエリラ。この人た
ちには並ぶと言う意識は無いのだろうかとつくづく思う。もっとも
災害時にもきちんと並ぶ日本人が異質で、今目の前で起きている光
景が普通なのかもしれない。まぁ、これも日本人からしてみれば異
質なのかもしれないので、どうこう言えるようなものではないだろ
う。
﹁あんまりアレなら、休憩室にでも戻っておくか?﹂
﹁いや、そういう訳じゃないけど⋮⋮人の波ってこの事を言うんだ
ね⋮⋮てか、並ばせないの?﹂
2130
﹁面倒。それにもうこの状態になったら収拾をする方が大変だよ。
︽殺気︾でも浴びせて全員気絶させてやろうか?﹂
﹁い、いや、それはやめといてあげようよ⋮⋮﹂
結局、この日人の波が絶える事はなく。ようやく人を捌き切った
時には深夜を回ろうとしている時間だった。そして、こんな一日が
およそ一週間も続くことになる。後半になると流石に理解したのか
人々が整列したりなど節度を守って行動するようになったのでいく
らか楽になったが、それでも一日何百人と相手をすることになった
ので流石にクロウも疲れたと愚痴をこぼしていた。
もっともクロウ自身は家に帰ると、寄って来る獣族たちをもふっ
て、夜は熱い夜を過ごすと、おい疲れたと言ってたやつは誰だよと
言いたくなるぐらい元気だった。
==========
そんなこんなで、俺のもとに来たお客の数は、2107組み。中
には宿屋を建ててくれ、鍛冶屋を建ててくれなど生活基盤を戻した
い人たちもそれなりにいた。最初は断ろうかと思っていたがアーキ
ルドに聞くと合点承知の助と言って引き受けてくれた。おい、なん
であんたがその言葉を知っている、江戸っ子だったのかお前?
まあ、そういう奴らからは追加金を受け取ることで承諾してあげ
ることにした。えっ、50万で引き受けないのかだって? 儲けれ
るなら儲けた方がいいだろ?
2131
総売り上げはおよそ11億S、後払いオーケーにしたので、この
数値そのまんま手元に入った訳ではないが、なかなかの売り上げだ。
材料費と人件費はタダなので︵材料は近くの森、人件費はアーキル
ドだけなので無し︶そのまんま懐に入って来るというわけだ、旨い
です。後払いは逃げられないか? という声が聞こえてきそうだが、
実はあの書いて貰った用紙には魔法が仕込まれていて、書いた者が
自動的にオーナーになるようになっている。そして、そのオーナー
の位置は︽マップ︾を使えば一発で出て来る。ストーカー? 既に
︽マップ︾でどの位置に、だれがいるか分かる俺に言われても困る
話ですね。
まあ、要は支払いに応じなければ、それ相応の報いはいつでも受
けさせることが出来るという訳だ。まぁ、支払う気がある人でお金
を持っていない人にそんなことはしない。逃げる気満々の奴には容
赦はしないけどな。
ちなみに、売り上げの一部をミュルトさんに渡そうとしたら、急
に倒れてしまった。ナンデダロウナー?
その後、いつか建ててもらった家の借金もキレイに返してあげた
︵およそ2500万S︶そうしたらミュルトさんが﹁もうギルドへ
維持費とか売り上げの一部の上納とか必要ないです⋮⋮﹂とげっそ
りした感じで言われた。﹁えっ、足りないですか?﹂と言うと﹁数
年間は収入が無くてもやっていけれるからもういいです!!﹂と怒
られてしまった︵ショボン︶
さて、話を変えて、じゃあこのお金はどうするの? と言われる
と正直使い道は無い。いや、あるっと言ったらあるのだが、そんな
のは自分で集めればどうにでもなるものが多いので結構マジでどう
しようかなと思っていたりする。まあ、万が一に備えて貯めておく
としましょう。今後も稼げる所では稼いでおくが、殆どは︽倉庫︾
2132
の肥やしになっていくのだろうな。
エリラにこの金額ってどれくらいすごい? と聞くと﹁一般の貴
族より持ってるわよ⋮⋮﹂とこれまたミュルトさんと同じくげっそ
りとした感じで言われた。今後も家を建てるために申し込みに来る
人はたくさん来ると思うので、これでげっそりとされても困るんだ
けどなぁ⋮⋮。
そんなこんなで、その後一ヵ月間、アーキルドは眠らずに家を建
て続ける事になるのだが、本人は﹁やばい、ワシゃあもうすぐ死ぬ
のか? こんな幸せでいいのか?﹂と言って興奮気味に家を建てて
いた。興奮というか、狂喜というか狂気というか⋮⋮とにかく、俺
はアーキルドの顔の方が怖かったです。
2133
第212話:家建てます。一軒50万で︵3︶︵後書き︶
売り上げの1割でいいので、私の手持ちに入りませんかね?︵願
望︶
2134
第213話:新たなる戦火
クロウが億万長者になってしまった頃。一つの戦火が燃え広がり
そうになっていた。
場所は、エルシオンから遠く⋮⋮といってもラ・ザーム帝国領内
のお話なので、物理的には遠いが決して他人ごとではないのだが。
話を戻して、場所はクロルパルス。そこで内乱とも反乱とも受け
とれる戦争が始まろうとしていた。
クロルパルスの中心部。そこで一人の青年が演説をしていた。
顔は、美男子と言われるに相応しく整っており、金色で後ろで束
ねられた髪、全身を白を基調とした鎧が特徴的で、ザ・王子様と言
われてもおかしくない外見をしていた。
その青年を守るように兵士が二人、青年を挟んで立っていた。彼
らは周りの地形よりも高い位置に存在する役所の屋上にいた。その
役所を囲むように周囲には数千ともいえる人々が青年の演説に聞き
ほれていた。
﹁人は働くだけの生き物か? 違う! 勉学に精を出すのもよし、
魔法の鍛錬に精を出すのもよし、のんびり生活するもよし、冒険者
となり各地を旅するのもよし、恋愛するのも良し、若い子たちを育
成するのもよし。喜怒哀楽、人により様々な生き方があるのが人間
ではないか! それを他人が奪う権利などあるはずがない。いや、
あってはならない!﹂
青年の声は周囲にこだまし、マイクなどの拡声器を使っていない
にも関わらず広範囲にまで広がった。
2135
青年が一言話すたびに聴衆は賛同の声を上げ、拍手をする。
﹁私は決心をした。罪なき人々を守るため。誰もが笑っていられる
国を作る為。私は自らの命をかけ、戦うことを⋮⋮これは聖戦だ!
人々を苦しめる王から人々を開放する聖戦である!さぁ、立ち上
がるのだ圧っせられし民どもよ! その身を投じ自由のために戦お
うではないか!﹂
今日一番の盛り上がりを見せる。青年の言葉に同調するかのよう
に民は自らの拳を天高くつき上げ、武器を持っていた兵士たちは拳
の代わりに剣を高く掲げる。
そんな聴衆たちを哀れむかのような目で見る者もいた。
﹁偉そうに⋮⋮なにが聖戦だ⋮⋮この地にまた戦いを呼び入れるつ
もりなのか?﹂
﹁その気だろう⋮⋮また戦争か⋮⋮こりない奴らだ﹂
嘆いてるのは老人たちだった。若き頃、戦乱の渦中に放り投げら
れた彼らからしてみると戦争という誰も幸せになれない行為は馬鹿
らしいと思っていた。
﹁こんな街にいたらまたいつ戦争に巻き込まれるか分からん、ワシ
は疎開でもさせてもらおうかね﹂
﹁わしは残るよ。色々あったが結局、ここが故郷だからの﹂
事実、この演説の後若い人よりも歳がある程度いった老人たちの
方が多くこの街から離れていた。勿論、上記のとおり例外もいたこ
2136
とは頭の隅にでも覚えておいてもらいたい。
﹁これは⋮⋮陛下にお伝えしなければ⋮⋮﹂
演説を聞いていた一人の男はそう言うや否や、すぐに街を出て行
った。実はこの男、ラ・ザーム帝国現皇帝の家臣の一人であり、青
年を監視すべくこの街に赴いていたのだ。
既に青年が怪しい動きを見せている事は知らされていた。だが、
ここまで早い動きだとは彼は思ってもみなかった。
︵この早さ⋮⋮ミロ様だけでは到底無理だ⋮⋮誰が⋮⋮?︶
様々な憶測を浮かべながら男は街を出て行く。その様子を笑いな
がら見ている者がいた。
﹁クク⋮⋮いいぞ、さっさと知らせてこい、どうせお前らでは勝て
ないだろうがな﹂
フードをかぶり、全身をマントで包み隠した人物は、大急ぎで街
を去って行く男を見ながら笑っていた。
﹁戦果はこの前の戦争で十分、分かった、まさかこんな武器が実在
するとな⋮⋮魔王様には頭があがらんな⋮⋮さて、種は巻いた。問
題はガラムの野郎が報告してた少年だが⋮⋮まあいい。こっちは混
乱さえ起こせれば十分だからな、せいぜい派手な争いをみせてくれ
ククク⋮⋮﹂
フードをかぶった謎の人物は、それだけ言うと闇の中へと姿を消
していった。
2137
==========
﹁皇帝陛下! ご報告です!﹂
﹁なんだ?﹂
皇帝陛下と呼ばれた人物は不機嫌そうに答えた。
ここはラ・ザーム帝国首都﹃ラ・ザーム﹄にある王の間。王の間
と言うにはあまりにも簡素な作りであり、飾り気なども一切ない間
だった。他国のものと比べたらその差は一目瞭然で、石で造られた
部屋には皇帝が座る椅子とその机があるだけでそれ以外には、僅か
に観葉植物が隅にポツンと置かれているだけであり、同時代に造ら
れた建造物と比べると豪華さでいうならば月とすっぽんの差であっ
た。
だが、質素倹約、金券質素が基本のこの国では当たり前のことだ
った。むしろこれ以上派手なものを作りでもしたらこの国では大問
題になりかねないほどだ。
﹁ミロ様が動き出した模様です。報告によると数日以内に行軍が始
まる可能性があるとのこと﹂
王の間に飛び込むかのようにやって来た家臣が息も整えるままに
報告をする。
﹁数日か⋮⋮早いな⋮⋮で、こちらの準備は?﹂
2138
﹁早くて3日後には動ける模様です。既に招集をかけておりあとは
準備が整い次第動けるとのこと﹂
﹁そうか、早急に準備をするように伝えろ。それと今回は私も動く
と言っておけ﹂
﹁こ、皇帝陛下自らですか!?﹂
﹁そうだ、弟の不祥事。その責任は我が取らなければならまい﹂
﹁で、ですが今⋮⋮動くはいかがなものかと⋮⋮まだ、旧アルダス
マン国の統治も完全に済んでおりませぬ、下手に動かれると、そこ
から飛び火する可能性が︱︱︱﹂
﹁それも含めて我が動く。まずはミロを仕留め、その後エルシオン
方面にも我が行こうではないか、これで文句はあるまい?﹂
﹁ハッ⋮⋮ありませぬ。では、早急に伝えてまいります﹂
それだけ言うと家臣は速足に去って行った。
﹁ふむ⋮⋮面倒なことになりそうだ⋮⋮この速さ⋮⋮もはやミロだ
けでは無いな⋮⋮﹂
現場を見て来た家臣同様に異変に気付く皇帝。
黒色の髪に銀の鎧。顔はクロルパルスで演説をしていた青年と似
ていたが、こちらの方が些か大人びており、知識深い様子が見て取
れた。
2139
﹁馬鹿者が⋮⋮こんなことをして何になる⋮⋮いや、それが分かっ
ていながらも伝えきれなかった我も同じか⋮⋮﹂
皇帝は自らを嘲笑うかのように言った。
﹁なんにせよ、早急に鎮圧する必要があるな、エルシオン方面で起
きた例の報告も気になるし、暫くは忙しい日が続きそうだ﹂
皇帝はそういうと、王の間を静かに出て行くのだった。
2140
第213話:新たなる戦火︵後書き︶
以上を持ちまして第5章は終焉とさせて頂きます。
気付けば一年以上この章で止まっており、自分で﹁遅っ!?﹂と
嘆いておりました。
次回、第6章はラ・ザーム帝国内を中心に物語は展開していくつ
もりですが、相変わらず一筋縄ではいかない様子が早くも醸し出し
ていますね⋮⋮。
でも、クロウとその家族ならどうにでもなりそうな気がします。
と言うかクロウ一人で国一個沈めれるので彼らだけどう見ても過剰
戦力です。
次章、クロウ領主になります。では、また次回以降もよろしくお
願いします。
2141
第214話:帝国からの使者︵1︶︵前書き︶
12/18:誤字を修正しました。
2142
第214話:帝国からの使者︵1︶
﹁クロウ様、来客が見られていますがいかがなさいますか?﹂
﹁来客?﹂
とある午後の昼下がり。俺は庭で新兵器の実験をしていた。作っ
ていたのは固定砲台の一種で敵を感知すると自動的に砲撃を開始す
る自律型固定砲台だ。
家族に武器を持たせてはいるが、自宅も要塞化してしまおうと思
い立ち作ってみたのだ。大きさはティッシュ箱程度の大きさ。それ
にして威力は家一軒を軽く吹き飛ばすほどの威力を有している。う
ん、絶対家の近くで使えない代物だね。まあ、オーバーキルな兵器
だが威力を小さくすることなんざいくらでも可能なので、最初はこ
んな感じでいいだろう。
で、その実験をしている途中だったのだが、一体誰が来たと言う
のだろうか。家に来客なんて嫌な予感しかしないのだが、最近のお
客と言えばあの筋肉兄弟たちで、それ以前は魔法学園の使者だ。う
ん、嫌な思い出しかないな。
まあ、来ている客を理由も無く追い返すのも嫌なので仕方なく応
対することにした。
==========
﹁初めまして。私はラ・ザーム帝国第3歩兵部隊の指揮官ウォルス・
ログレシアだ﹂
2143
嫌な予感的中キタ︱︱︱!
国の軍隊のお役人とか嫌な予感の塊じゃないですか。国軍、アル
ダスマン国、指揮官⋮⋮うっ頭が!
という、お約束は置いといて。居間に来てみるや否や、数人の兵
士を引き連れたおっさんが待ち構えていました。やや日焼けしたか
のような皮膚と濃ゆいひげが非常に特徴的だ。てか、あのひげどう
見てもマ○オだ。前世でやったゲームを彷彿させるかのようなひげ
に視線が行かないはずが無い。よし、このおっさんのあだ名はマ○
オだ。誰がなんと言おうがマ○オだ。
﹁クロウ・アルエレスです。本日は一体どんなご用件で?﹂
個人的な感想は取りあえず置いといて。国の軍人が来ると言う事
は何かしらの勧誘だろうか。
﹁いえ、実は最近、あなたの店で売られているポーションが兵士た
ちの間で噂になっていましてな﹂
あっ、用件読めたわ。
﹁私も試してみましたが素晴らしい性能ですね。我らの国一の調合
師でも到底足元に及ばない性能です。それを通常の安物のポーショ
ン以下の価格で売っている⋮⋮そんな者を放置すると思いますか?﹂
﹁まあ、いないでしょうね。私が王様なら絶対食いつきます﹂
﹁ええ、そうでしょう。そこで我が国でも是非仕入れたいという話
になりましてな。仕入れルートを聞こうとは思いません。ただ、私
たちにも定期的にまとまった数を手に入れたいと思いまして、やっ
てきました﹂
2144
﹁なるほど、定期購入ということですか﹂
﹁ええ、ちなみにもし、我が国に転売するとなるといかほどの数が
ご用意出来そうですか?﹂
﹁数ですか⋮⋮﹂
なんだ。普通に商売の話になったな。てっきり﹁ルート教えろや
ゴウルァ!﹂とか言うんかと思ってたわ。
﹁まあ、一日100個程度でしょうか﹂
嘘です。本当は量産する気になれば数千でもいけます。でも、そ
んな面倒なことをする気はない。量産できると言っても獣族たちの
手も借りないと行けないからな。そうだ。どうせなら工業化して大
量生産設備を作ってしまおうか? それなら数千と言わず数万単位
で作れるからな。
﹁なるほど。それは是非売ってもらいたいところですね。それにし
てもこんな高性能なポーションを一体誰が作っているのでしょうか
ね?﹂
﹁さぁ? 私も仕入れるだけですからね。詳しい作り方なんか全く
知りませんよ﹂
﹁ふーむ、そうですか? 私はてっきりあなたが作っていると思い
ましたけどね?﹂
﹁⋮⋮何故?﹂
2145
﹁値段が値段ですからね。こんな格安でこんな高性能なポーション
を他人に安く売りつけるとは余程商売の分かっていないバカぐらい
しか思い浮かびませんからね。いえ、バカでもこんな値段では売ら
ないと思いませんか?﹂
⋮⋮このマ○オ鋭いな。いや、当然の思考と言うべきか?
﹁⋮⋮口には気を付けた方がいいですよ。なんせバカは目の前にい
ますからね﹂
ここはサラッと言っておく。どうせ、どこかで感づかれただろう
しな。
﹁やはりですか﹂
﹁まあ、極力面倒な事は避けたいのですよ。別に大金稼ごうってや
っている訳じゃありませんから、安定した金が入れば十分なのです
よ﹂
﹁では、安定した収入を得るためにラ・ザーム帝国に入る気はあり
ませんか?﹂
﹁今のところは無いですね。今の環境で十分間に合っていますから﹂
﹁なるほど、配下になる気はないと言う事ですね。では、そのポー
ションの作り方を教えて下さりはしませんか? 勿論それ相応のお
金は払いましょう。そうですね⋮⋮私が用意できるだけで10億S
でどうでしょうか?﹂
2146
この言葉に一番驚いたのは、俺では無く後ろで厳粛な姿で立つ兵
士だった。身体自体はピクリとも動かしていないが、顔はマジで?
と言いたげそうな顔をしていたからだ。 まあ、10億Sとなれ
ば一生遊んで暮らせる大金だからな。
それにしても淡々と話すなこのマリ○は、いや、某死去済みのウ
グラみたいな奴でもいやだけどさ。このおっさんは一体何を考えて
話しているのだろうか。話し方から見るに、勧誘と言うよりか見に
来たという感覚の方が強い。勧誘は出来ればと言った所だろうか。
﹁うーむ、いい話ですね。でも無理です﹂
﹁理由は?﹂
﹁これを作るスキルレベルに到達している人がいないといけません
からね。ちなみに﹃8﹄は必要ですが、お宅の人材にそれの数値を
有する人材はいますでしょうか?﹂
﹁材料も聞けませんか?﹂
﹁別に教えれますけど、レベルはどうするつもりですか?﹂
﹁劣化版でも作れれば良いのですよ。別にあなたが作られるレベル
の物を、作ろうとは思いません。それに劣化版でも十分な価値があ
ると判断したまでです﹂
﹁なるほど⋮⋮では、教えてあげましょうか。勿論ただではありま
せんよ。100万Sでどうですか?﹂
﹁100万⋮⋮安いですね。嘘を教える気ですか?﹂
2147
﹁何を言っているのですか。それほどの価値しかないと判断したか
らですよ。言っときますが、材料自体はその辺の森とかで直ぐ採れ
る薬草ばかりですからね。大事なのは調合する人なんですよ。なん
なら今から目の前で実践してもかまいませんよ?﹂
﹁ほぅ、面白いですね。是非ともお願いしたいところです﹂
﹁では、準備をしますので、少々お待ちを﹂
それだけ言うと俺は︽倉庫︾から必要な材料をポコポコと取り出
していく。その取り出す種類の多さに兵士は無論の事、○リオも驚
いていた。
﹁素晴らしい能力ですね。一体何をしたらそこまで出来るようにな
るのですか? 後者の為にも一つ教えてもらいたいとことですね﹂
﹁使ってたらですね。それ以外は私でも分かりません。要は経験が
大事なのではないでしょうか?﹂
﹁その若さで経験を口にしますか⋮⋮見たところ私の半分程度しか
生きていないように見えますが?﹂
半分どころかこちらは一回分多く人生を体験していますけどね。
﹁それにしてもやけに素直に話しますね。そんなに易々と教えてい
い物なのですか? 私には到底思えませんね﹂
﹁別に構いませんよ。分かって出来るなら別ですが﹂
﹁いやはや、それはその通りですね。出来たら苦労しませんですな﹂
2148
﹁そうですよ⋮⋮さて、準備が出来ました。では始めて行きましょ
うか﹂
﹁ぜひ、お願いします﹂
素材を片手に俺は彼らの目の前で調合を始めた。
2149
第214話:帝国からの使者︵1︶︵後書き︶
直ぐに怒る人の方が分かりやすくて楽だけど、国のお役人って全
員バカという訳でもないので、第6章はまともな人が増えそうな予
感がします。クロウがまともかどうかは置いといてください。
2150
第215話:帝国からの使者︵2︶
﹁なるほど⋮⋮素材は実にありふれたものだが、能力は飛び抜けて
いる⋮⋮これがスキルレベル8の能力ですか﹂
﹁それもありますが素材の相性もありますね﹂
ウォルス⋮⋮もといマ○オもどきとその他少数の兵士たちの前で
ポーションを作成してみせた。素材は平凡な物ばかりなので、兵士
たちは半信半疑になっている様子だったが、ウォルスはそんな様子
を微塵もみせない辺り信じているのだろうか? まあ、スキル使え
ばすぐに分かるお話なのでどっちでも構わないけどな。
﹁では、話を戻しましょうか。どうですか、そのポーションを私た
ちは定期購入したいのですが﹂
﹁ええ、別に構いませんよ。大量に買って下さるのであれば、単価
を下げて300Sで売りましょう﹂
﹁ふむ、では、それで買いましょう。量としては一週間で500個
程お願いします。納入先は街の詰所に納めて下さい﹂
﹁分かりました。それで売りましょう﹂
﹁商談成立ですね。では、契約書などを用意したいので、後日また
改めて伺わせてもらいますが宜しいですか?﹂
﹁ええ、いいですよ﹂
2151
﹁⋮⋮話は変わりますが、クロウさん。あなたの周りにいる奴隷た
ちは結構腕が立つようですね﹂
﹁何故です? 彼女らの能力でも覗いたのですか?﹂
﹁いえ、見ようとしたら感づかれたのですよ。スキルを使った瞬間
明らかに、こちらを警戒しているようでしたので﹂
﹁⋮⋮勝手に家の子の能力を覗くのはやめて頂けませんかね?﹂
まあ、鑑定スキルがある時点で覗くも何もあったもんじゃないけ
どな。今度彼女らの能力も偽装しておこう。
﹁気分を害されたのれあれば申し訳ない﹂
ウォルスは素直に謝った。
﹁次はないですよ﹂
﹁心得ておきます⋮⋮それにしても、スキルの使用を感づかれてし
まうとは私も生きて来て初めてのことですよ。彼女たちはどこで手
に入れたのですか?﹂
﹁その辺の山賊潰したときに得ただけですよ。別に特別な方法で手
に入れた訳じゃないですよ﹂
﹁どうです? 彼女たちを売っては下さいませんか? もちろんお
金もそれ相応の分を用意しましょう。通常価格の20倍程度でどう
ですか?﹂
2152
﹁お断りさせて頂きます。彼女たち誰一人も譲りませんよ﹂
﹁ふむ、奴隷に思い入れでもあるのですか?﹂
﹁ええ、ありますよ。大いにあります。だから売りません⋮⋮もう
いいでしょうか? 用事が済んだのなら早めに退室してもらえませ
んか? 私も暇じゃないんですよ﹂
﹁⋮⋮ふむ、怒らせてしまったようですな。では、今回はこの辺で
引上げさせてもらいましょうか、では後日また改めさせてもらいま
す﹂
結局、この日の会談はこれで終わった。引き上げて行く彼らを見
ながら﹁もう来るんじゃねぇ!﹂と叫びたい気持ちだ。国からして
みれば有能そうな人物だが、個人で見てみると人のプライベートに
ずかずか入ってきそうな人で、嫌なイメージだった。いっそ商談の
話も無しにすればよかったかもな。まあ、安定した収入が得られそ
うだったので乗って置くに越したことはないだろう︵毎週15万S︶
それ以上関わりたくないけど。
⋮⋮もし、また勧誘してきたときは街一個売ってもらうぐらいの
ことはしてもらおうか。
==========
︵ふむ、あの少年⋮⋮途中から品定めに来たことに感づいておった
な︶
2153
詰所に戻る道の最中、ウォルスは今日初めて出会った少年に興味
を持っていた。
︵炎狼の転異種を倒した者と言うのも嘘ではないようだの⋮⋮そう
なると否が応でも勧誘したいところじゃが⋮⋮最後の様子を見るに
初手は失敗だったの。人はどこに琴線があるか分からないものだの
う。奴隷の話をし始めた途端、露骨に嫌な顔をしておった⋮⋮奴隷
ごときにどんな思い入れがあるのかの、なんにせよ今後会う時には、
この話は禁止じゃな︶
﹁⋮⋮なんにせよ、今日あった事は皇帝陛下の耳に入れなければな
らまい﹂
==========
﹁だー! また、国からかよ! 嫌になるなもう!﹂
﹁そ、そうdふぁあああぁぁぁぁぁ∼﹂
ウォルスが帰った後、ソファの上でシャルをモフリながら文句を
言う。他の獣族達が物欲しそうな目で見つめて来るが、そんなの構
わず俺はシャルをモフリまくった。まるで今日の出来事を忘れるか
のように。
﹁クロウ様! 次は私をモフって下さい!﹂
﹁ちょっと次は私よ!﹂
2154
数分間は我慢していた彼女たちだったが、やがて我慢できなくな
った獣族から順次お願いをされた。そんな彼女らを順番にモフって
行く。ウォルスとの会談でちょっとムカついていたのもあってか、
いつもより激しくモフってしまった。そのせいかモフった獣族達は
変わる頃にはビクンビクンと痙攣をしているようだった。やり過ぎ
たと思ったが、彼女たちの顔を見ると全員幸せそうな顔をしていた
ので良しとしよう。子供たちが﹁お母さんたちがおかしいのです!﹂
と驚いていたときには流石に少し反省をした。これからは夜の営み
で激しくモフることにしよう。⋮⋮ところでモフる時に獣族が座っ
ていた俺のふとももの場所が少し濡れているのは気のせいだろうか?
2155
第215話:帝国からの使者︵2︶︵後書き︶
流石にまずいと思ったので、これ以上は自粛させてもらいます。
何がだって? 察して下さい。
2156
第216話:開戦間近の両者︵前書き︶
2157
第216話:開戦間近の両者
クロルパルスの中心部に位置するこの街の役所⋮⋮現在は軍事拠
点となっている建物内では既に戦争の準備が着々と進んでいた。
﹁ミロ様﹂
兵士の一人が家臣に指示を送っているミロに声をかけた。
﹁なんだ?﹂
﹁帝国側の軍勢が首都ラ・ザームから出陣したとの情報が斥候隊よ
り届きました。到着は1週間後になるとのこと﹂
﹁そうか、斥候部隊はそのまま帝国軍の動きを逐一報告をするよう
に伝えなさい。報告は些細な事でも構いません。僅かにでも動きが
あるのであれば報告をしなさいと﹂
﹁了解しました﹂
兵士は次に指示された事を遂行するべくミロの元を後にする。
﹁思ったよりも兄上の動きが早いですね⋮⋮これは前々から準備し
ていたのでしょう⋮⋮でもまあ、それも予想の範囲内です﹂
ほくそ笑むミロ。現在まで順調な事運びには嬉しさを通り越して
不気味な何かを感じさせるほどだった。
あの日⋮⋮クロルパルスで演説を行った日。恐らくは演説を見た
2158
であろう帝国側の人間が皇帝の耳にいれたのだろう。そこから僅か
数日で出陣を行い、このクロルパルスにやって来る。
そこで迎え撃つ。そのための新兵器も準備した。
﹁遠距離型兵器﹃爆炎筒﹄⋮⋮これさえあればわが軍に敗北など無
い﹂
簡単な訓練さえ行えば誰にでも扱える爆炎筒は、まさに戦争の歴
史を根本から覆す兵器と言えるだろう。
今回、商人から仕入れた爆炎筒はおよそ1000丁。しかも追加
金を払うのであればまだ数は用意できるとのこと。
お金は各都市の備蓄を奪えば追加できるほどの資金は手に入るだ
ろう。
﹁⋮⋮まぁ、この国にそれ程の資金があればの話ですけどね﹂
それにしても、こんな武器を何故商人が持っているのだ⋮⋮? どこで誰が作ったのかもあの商人は結局何も話してはくれなかった。
もし、これが他国の技術であるならばこの聖戦が終わったのちに、
爆炎筒の研究を行わなければならないだろう。
﹁⋮⋮この話は全てが終わった後にしましょうか。今は目の前のこ
とに集中しましょう⋮⋮﹂
現在、クロルパルスに集結した兵はおよそ800人。元々いた兵
は400人ほどだったので、演説からわずか数日で倍増したことに
なる。
兵士たちには今現在、爆炎筒を扱う訓練を行っている。と言って
も、装填出来る魔力さえあればあとは、引き金を引くだけの簡単な
2159
訓練だ。時間はそうかからないだろう。
﹁⋮⋮覚悟しておくことですね兄上よ⋮⋮1ヵ月もあれば、ラ・ザ
ーム帝国は新たな歴史を刻み始める事でしょう﹂
==========
﹁⋮⋮で、取引には成功したが、肝心の本人の気分は害してしまっ
たと﹂
﹁面目ありません。まさか、奴隷を買うと言っただけであそこまで
不機嫌になるとは思いもよりませんでした﹂
ラ・ザーム帝国現皇帝、グラムス・ザームにエルシオンでの出来
事を話すウォルスは、参りましたと言いながらあたまを掻いた。
二人がいるのは首都を出発した帝国軍の野営地のほぼ中央に設置
された仮設テントの中だった。
既に、夜遅く。大半の兵士たちは床の間に就いていた。
﹁まあ、そのような人物もいると言う事だ。今後の教訓にすること
だな﹂
﹁ハッ⋮⋮﹂
﹁しかし貴様が引き抜きたいと言うとは⋮⋮余程優秀な人材だった
のか?﹂
2160
﹁ええ、見れば平均レベルは30∼40ほど。しかし、ステータス
はそれ以上の強さでした⋮⋮もし、彼らが一部隊として加わればど
れ程心強いか⋮⋮また、敵に加わればどれ程恐ろしい事か⋮⋮少な
くともまともにぶつかり合えば我らの軍は甚大な被害を出すでしょ
う﹂
﹁ほう、それは凄まじいな。で、そいつらの主である少年の強さは
どうだったのだ?﹂
﹁少年のレベル50でした﹂
﹁50だと⋮⋮? 貴様のレベルより上だと言うのか?﹂
﹁ハッ、まず帝国内でタイマンで勝てる人物はいないでございまし
ょう﹂
﹁それは嫌でも味方にしておきたいな⋮⋮いや、まずは敵にならな
いようにするのか先決か。そうなると先にエルシオンに向かうべき
か⋮⋮?﹂
﹁いえ、ミロ様⋮⋮ミロの鎮圧の方を優先するべきでしょう。あの
反乱が帝国全土に広がる前に手を打つべきかと、少年の言葉を信じ
るとするならば他の国などからの勧誘があろうとも応じないと思わ
れます。今は高性能基礎傷薬の安定的な入手路を得られただけでも
よしとするのがよろしいかと思われます﹂
﹁なるほど。それにしても我も見てみたがあれほどの効力とは⋮⋮
そういえばアレを量産できる目途は付いたのか?﹂
﹁⋮⋮それが、あまりに作成難易度が高すぎて国の調合師では劣化
2161
版すらも作る事は不可能とのこと⋮⋮いやはや、私も目論見は良く
外れますな﹂
﹁本当か⋮⋮? もし、そうであるならば尚更味方にしておきたい
の﹂
﹁そうでございますね。もし少年を味方に引き入れれば少なくとも
我が国の軍事状況はかなり改善されるでしょう﹂
﹁⋮⋮そうだな。それで民の暮らしが少しでも改善されるといいな﹂
﹁⋮⋮陛下﹂
﹁なんだ?﹂
﹁⋮⋮私は少なくとも陛下が間違えた行いを行っているとは思いま
せん。致し方無い事と理解しております﹂
﹁⋮⋮そうか﹂
﹁⋮⋮では、私はこれにて⋮⋮﹂
ウォルスはまるで逃げるかのように退席をした。それほどまでに
居づらい空気だっのだろう。
後に残された皇帝は一人、ポツンと残った。そして、そのまま移
動することも無く一人天を見つめるのであった。
2162
第217話:開戦からエルシオン戦まで
クロルパルスでの演説より1週間、ジーク歴1098年7月15
日。ラ・ザーム帝国と反乱軍が最初に激突した日とされている。
捕捉を行うとジーク歴とは、人類史上初の国家建設を行ったジー
ク・アルクラインの名前にちなんでおり、1098年とはジーク・
アルクラインの国の建国からの年数のことを指している。
激突場所はクロルパルスが目視でも確認できる距離にあるモルジ
平原。兵数はラ・ザーム帝国約12,000人、反乱軍約950人。
見て分かる通り兵数ではラ・ザーム帝国が圧倒的に有利だった。
更に帝国は早期の鎮圧を行うために帝国の精鋭部隊を数多くこの
戦いに投入した。数々の戦線で﹁血も涙もない﹂と言われた冷酷な
部隊﹃第1突撃部隊﹄通称﹃死神の眷属部隊﹄。防衛戦ではその針
穴をも通す精密さで戦果を挙げる﹃第1弓兵部隊﹄。突撃、偵察、
遊撃、何でも万能にこなし戦場の華とまで言われる騎兵、その騎兵
と弓を組み合わせた﹁弓騎兵﹂と呼ばれるジャンルを作った創始部
隊とも呼ばれる﹃弓騎兵遊撃部隊﹄。どれも帝国で最精鋭と呼ばれ
る部隊で各国からも恐れられている。特にこの3部隊が揃った状態
での戦いでは帝国が負けたことがなかった。
さらに万全を期すために帝国軍は後詰めに7,000もの予備兵
を投入。旧アルダスマンの統治に兵を割り振り徴兵も出来ていなか
った帝国が現状動かせる最大兵力を投入したと言えるだろう。
戦いが始まった時刻は午前9時、平原で両軍は真正面からぶつか
り合ったという。平原での戦いの場合、兵力の差が勝敗の7割を占
めるほど兵力と言うのが大事だった。誰もが帝国側の勝利を予想し
2163
ただろう。
だが、戦いが始まってみればどうだろうか。反乱軍はどこから仕
入れたか分からない新型兵器を数多く投入。爆炎筒の破壊力、有効
範囲の前に帝国軍は成す術無く次々と撃破されていった。午後0時
前、戦い開始から3時間足らずで帝国軍は壊滅した。
帝国軍戦死者数千以上。反乱軍側は爆炎筒の誤射と誤操作による
自爆した数名のみだった。戦死者から分かる通り、帝国側はまさに
手も足も出ずに敗北したのだ。さらにそこから反撃に出た反乱軍に
より後詰めで待機していた帝国軍にも被害が続出。結局帝国側はク
ロルパルスから完全に手を引くこととなった。
この一報は帝国は勿論、その周辺国にも瞬く間に広がった。特に
旧アルダスマン国で既に帝国の税率が適用されていた都市には特に
激震が走った。
ここから戦争は一方的な展開になる。2日後、次の戦いになった
モルジ平原の南側でも反乱軍は勝利した。この戦いで帝国側の突撃
部隊﹃第1突撃部隊﹄は瓦解。以後、この戦争で姿を見せる事は無
かった。さらに4日後の7月21日撤退する帝国軍に反乱軍が追い
打ちをかけた﹃モルジ撤退戦﹄では撤退を援護する﹃第1弓兵部隊﹄
に容赦ない爆炎筒の爆炎が襲い掛かった。
弓の射程範囲の外からの攻撃に成す術無く﹃第1弓兵部隊﹄は壊
滅。以後、戦線から姿を消すことになる。ちなみに何故このとき帝
国の精鋭部隊が殿軍のような役割をしていたのかというと既に帝国
側の遠距離攻撃を行える弓兵部隊が彼らしか残っていなかったとい
う悲しい背景が存在する。つまり、その前の二つの戦いで既に帝国
の遠距離部隊も壊滅的打撃を受けていたことが分かるだろう。
この事態に帝国も何も対策を考え無かった訳では無い。雨の日を
狙っての攻撃、夜間の奇襲作戦といくつかの反撃方法が挙がったが、
2164
そもそもこの数日間雨が降らなかったため前者の作戦は使えず、夜
間の奇襲は数日後に実際に行ったのだが、何故か作戦が読まれ返り
討ちにある結果となった。
敗戦に次ぐ敗戦より帝国内にも動きが出て来る。これまで黙って
いたいくつかの都市からも反乱軍に加わる人たちが現れたのだ。そ
の多くは旧アルダスマン国で既に帝国の税率が適用されていた都市
の市民の中であまりにも高すぎる税率に納得がいかなかった者たち
のさらに過激派だった者たちだった。
そして開戦から僅か3週間足らず。最初は1,000人にも満た
なかった反乱軍は今や4,000人まで膨れ上がっていた。
数が多くなった反乱軍の総司令官ミロ・ザームは彼らを巧みに操
り帝国内の要所を効率的に制圧。帝国軍が旧アルダスマン国の都市
に撤退するように誘導した。帝国軍からしてみれば、いつ爆発する
か分からない爆弾が置かれた街に逃げ込むようなものでいつ襲われ
るか分からない状況に帝国兵士は眠れない日を送る事になる。
旧アルダスマン国都市に追い込む作戦は実に有効な作戦だったと
言える。
だが、帝国軍をある都市に追い込んだ瞬間。その作戦は悪魔の作
戦へと変貌を遂げるのだった。
2165
第217話:開戦からエルシオン戦まで︵後書き︶
新年一発目の更新ですが、どちらかと言うと説明回に近いかもし
れません。戦記物としてはこの回は戦記物と言える回と思います。
2017年も黒羽と異世界転生をよろしくお願いします。
次回、クロウ黒くなります︵くろだけに︶
2166
第218話:クロウの呟き︵前書き︶
01/12:誤字を修正しました。
2167
第218話:クロウの呟き
﹁あーあー⋮⋮こっちに来ちゃったか⋮⋮﹂
ソファに寝ころんで︽マップ︾を確認するクロウ。マップには大
量の赤いマーカーと黄色いマーカーが浮かんでおり、赤いマーカー
はエルシオンの北東部に、黄色いマーカーはエルシオン内、または
その周辺に浮かんでいた。
赤いマーカーは今回、反乱を起こした方の兵士、黄色はラ・ザー
ム帝国兵を指示している。
開戦の一報をクロウが聞いたのは、戦争が始まってから4日後、
7月19日のことだった。
==========
﹁ラ・ザーム帝国が戦争を?﹂
いつも通りギルド内で経営をしていた俺はお昼休みにギルドでミ
ュルトさんとお話をしていた。最近、店の方に人が多く訪れるよう
になったお蔭で売り上げは順調に伸びている。それと同時に獣族た
ちの手際もよくなったお蔭で俺は手ぶら状態になっていた。
そこは忙しくならないのかって? いや、それがな⋮⋮獣族たち
の手際が尋常じゃないぐらい良いんだよ。それに加えてレジの高性
能化に伴い、より速い速度でお客さんを捌けるようになったのもあ
る。実は開店当時のレジは日本のコンビニとかスーパーでよく見る
レジだったのだが、今使っているレジは、カウンターに物を置くと
各商品に付けた値札から情報を発信してレジの方はその情報を集計
2168
して金額を出すだけのシステムになっている。
ちなみに、カウンターの上に商品を置かないでポケットなどに入
れていると防犯ブザーが鳴る仕組みにもなっている。そのため商品
棚に置かれている商品と区別するため、カウンターは商品棚から少
し離した位置に置いていたりする。さらに会計もお金を入れれば自
動的に清算、お釣りを返すようにもしている。まあ、この辺は日本
のスーパーなどでも実装されているから別に不思議な事でもないだ
ろう。
だが、この世界ではそれは異常なことなのだ。その見たことない
システムにレジを見る為だけに来るお客さんもいるほどだ。実際、
売ってくれと言われたことも多々ある。一応近いうちに欲しいお客
にはうってあげようと考えているが、中身を見られてコピーされて
転売でもされたら嫌なので、そこの対策をきちんとしてからにしよ
うと思う。
あと、店が上手くいく理由として挙げられるのは、意外とお客さ
んたちがマナーを守ってくれるのだ。最初こそは獣族ということで
かなりの抵抗があったが、店の商品の能力、価格が知れ渡ってから
はそんなことどうでもいいと言わんばかりに今まで来なかった街の
人たちも来るようになった。それに加えシャルが社会的鉄槌を下し
たあの男の一件以来、暴れたりしたら何をされるか分からない恐怖
からか皆大人しくなってしまった。
それでもたまに調子に乗った客が来るがその度に、その時の獣族
がボコボコにするので次第にそんな人たちは来なくなってしまった。
﹁あいつら俺らよりも強いじゃねぇか⋮⋮﹂とラ・ザーム帝国の兵
士たちはよくそれを口々にしている。
で、話は脱線したがそんなこんなで、俺は暇なのだ。もう少し経
ったら彼女らだけで任せようとも考えているが、防犯とか、緊急時
の対策をしてからの話になるだろう。
その暇をつぶすためにミュルトさんとお話をしているという訳だ。
2169
まあ、たまにミュルトさんの手伝いをしてあげることもあるけどな、
主に面倒な客とのお話︵物理︶だが。
今回、いつも通りお話をしているときに帝国の反乱のお話が出て
来たのだ。
﹁ええ、相手は現帝国の皇帝の実の弟であるミロと呼ばれる人だそ
うですよ﹂
﹁と言う事は兄弟喧嘩という訳ですか。全く⋮⋮そんなことは兄弟
だけで蹴りをつければいいものを⋮⋮﹂
﹁なんでも、兄⋮⋮もといこの帝国の重税に納得出来なかった模様
で、反乱軍は減税や内政への積極的な投入を呼び掛けているとか﹂
﹁へー減税ですか、話だけ聞くと反乱側の方が良さそうな気がする
のですけど⋮⋮そんな甘い話だけですか?﹂
﹁そうですね、今の所こちら側に回ってきている情報は⋮⋮ああ、
そういえば⋮⋮﹂
﹁?﹂
﹁反乱軍側は新兵器を持ち出したとか誰かが言ってましたね⋮⋮な
んでも、火の玉を発射する武器らしいのですが﹂
︵火の玉を発射? ということはもしかして⋮⋮︶
﹁その破壊力は凄まじい物をもっており、並の民家なら一発で破壊
できるほどの威力だそうですよ。それも熟練した魔導士でなくても
使えるらしく名を爆炎筒と言うとか⋮⋮﹂
2170
﹁あー⋮⋮﹂
﹁ん? クロウさんは何か知っているのですか?﹂
﹁いえ、何も﹂
いや、知ってますけどね。前のギルドをぶっ壊したのもそれです
けどね。なんでそんな事を知っているのかと聞かれたら答えなくて
はいけないので、俺は慌てて否定をした。
はぁ⋮⋮爆炎筒が出て来ただけで、一気にこの戦争の行き先が不
安になってきた。何故なら、もし前に手に入れた爆炎筒と今ミュル
トさんが言った武器が同一であるならば、今回の反乱軍の裏には魔
族がいることになるからだ。
そうなると、今回の戦争はかなりの確率で反乱軍の勝利で終わる
だろう。あの爆炎筒に対応する有効手段は現時点では人間側には無
い。持ったもの勝ち状態と言えよう。
﹁⋮⋮こちらには来てほしくはありませんね⋮⋮﹂
色々な意味がこもった愚痴を思わずこぼしてしまう。
﹁そうですね。折角少しずつ復興が始まったのに⋮⋮﹂
それには同意する。特に現在も絶賛建築中のアーキルドが何を言
いだすか分からんのが怖い。あの職人気質のおっさんのことだから
自分の建てた家が燃やされそうとなれば、特攻でもしかねない。
﹁⋮⋮いっそ都市ごと奪うか⋮⋮﹂
2171
﹁? クロウさん今何か言いましたか?﹂
﹁え、ええ、ただアーキルドのおっさんが何を言いだすか分からな
いな∼って﹂
﹁あー、あのおじさんですか。それにしてもあのおじさんすごいで
すね。もうかなりの数の家を建てたのでは?﹂
﹁いやぁ、俺も驚いているんですよ。あんな建築バカだったとは﹂
アーキルド⋮⋮俺の魔法によって召喚された精霊の一人だ。家族
以外の人には﹁知り合いのおっさん﹂とだけ言って答えをはぐらか
している。人が人に近い何かを使役するなど少なくとも魔法学園の
書物では聞いたことも無い話だ。そんな魔法を使ってますと言えば、
またどこかの国のお偉いさんがやってくるに違いない。
そんな事はあと一回限りにさせてもらいたいものだ。
その後はたわいもない話をしたのち、仕事に戻る事にした。仕事
も方も特に問題なく終わり、この日の夜もお約束のお時間を堪能さ
せてもらった。最近、1モフリなど完全に無視してやっちゃってる
が、まあこれはこれで問題無いだろう。ちなみに今晩のお相手はシ
ャルでした。彼女と過ごす夜が何やかんや一番猛々しいです。その
次にエリラだな。一番熱い夜となると彼女が一番だ。身体の相性も
いいのか俺もいつも以上にハッスルしちゃいます。
と、俺の性欲事情はここまでにしておこう。
これ以上言うとどこからともなく、血の涙を浮かべた人たちの叫
び声が聞こえてきそうだからだな。
==========
2172
2日後。俺はモルジ平原での戦いを遠方エルシオンから観戦して
いた。︽千里眼︾︽透視︾の能力があれば何百キロ先の出来事も簡
単に見ることが出来る。これがあればエッチなことを見たい放題だ
が、現状でも十分なのでそんなことには使わない。
で、戦い⋮⋮もとい戦いと言えるか分からない一方的な暴力を見
ていた理由なのだが、爆炎筒と呼ばれた武器の正体の確認だ。これ
は俺の予想してた通りかつてエルシオン、ハルマネで見た爆炎筒と
同じ物だった。あれが魔族しか持っていな武器ならば魔族が何らか
の形で反乱軍に武器を渡していることになるだろう。その辺は大方
予想がつく、人間の商人の振りをして渡したか、もしくは本物の商
人に売らせたか⋮⋮どちらにせよ魔族が関与しているのは間違いな
いだろう。しかし、一体なぜ⋮⋮?
前回のハルマネみたいに自ら行けば早そうな気がするのだが⋮⋮。
まあ、今回はそんなことはどうでもいいな。問題はあの戦火がこ
ちらまで来ないかが不安なのだ。エルシオンからモルジ平原までの
距離は直線距離にしておよそ250キロ。戦火が広がれば飛び火す
る可能性は十分にありえる。
そうなるとまた、エルシオンが火の海になってしまいかねない。
やっぱり、これ以上巻き込まれる前に手を打つか⋮⋮
﹁エルシオン⋮⋮貰っちまおうか﹂
俺はボソリと呟くのだった。
2173
第219話:エルシオン協定︵前書き︶
01/16:誤字を修正しました。
2174
第219話:エルシオン協定
ジーク歴1098年8月4日。この日帝国である協定が結ばれた。
それは人類史上類を見ない協定だった。誰しもが最初に口に出した
のは﹁本気か?﹂の一言であった。
協定にサインをしたグラムス・ザームは協定後に周りの人間にこ
う言ったと言う。
︱︱︱面白い事になった。あの青年がどこまでやるか見せてもらお
うか︱︱︱
当時の皇帝の心境は誰にも分からない。ただ、唯一分かった事は、
皇帝はこの圧倒的に不利な戦況を楽しんでいると言う事ぐらいであ
った⋮⋮。
==========
﹁本当にやる気なの?﹂
﹁当り前さ、そのために準備をして皆に伝えたんだから﹂
エリラが心配そうに声をかけてきたので、俺は大丈夫と答えた。
﹁そう⋮⋮なんか、夢でも見てるみたいね。数か月前は想像できな
かったことよ⋮⋮﹂
﹁俺だってそうだ。まさか、こんなことをやるとはね﹂
2175
﹁⋮⋮頑張ってね。私も⋮⋮頑張るから﹂
﹁ああ、任せろ﹂
お互いに見つめ合う俺とエリラ。最近夜の営みを行っているせい
か肌か艶めかしいような気がするのは気のせいではないはずだ。
﹁⋮⋮もしもーし﹂
﹁﹁ん?﹂﹂
そんな状況に釘を刺す人が一名。
﹁あま∼い空間を作り出すのはいいけどさ。クロウはもう時間じゃ
ないの?﹂
テリュールだ。白色にツインテールという、あまり見ない組み合
わせの髪型が特徴的で、俺らの家族の中では最年長にあたる。そう、
俺よりも年上だ。
そのテリュールはプーと顔を膨らませてこちらを見ていた。その
テリュールの後ろには十数人の獣族達が羨ましそうにこちらを見て
いた。
痛い。視線がめっちゃ痛い。現在の状況に芳しくない空間を作り
出したせいで非常に痛い目で見られた俺とエリラは慌てて今作りだ
されていた甘い空間をかき消すかのように姿勢を整えた。
﹁すまんな。じゃ、ちょっくら話し合いをしてくるから準備だけは
しておいてくれな﹂
﹁はいはい。分かったわ。気を付けてね﹂
2176
﹁ああ﹂
俺は軽くテリュールの注意に答えると我が家を後にするのだった。
==========
﹁ふむ、お主がクロウと言う者か﹂
﹁ええ、初めまして﹂
エルシオンの中央部に建つこの街のギルド。建築されてまだ数か
月程度しか経っていない木造の建築物は、近づけばまだ木材独特の
匂いが強く感じ取れた。
そのギルドの応接にて俺はとある人物と面会をしていた。
その人物の名は、グラムス・ザーム。ラ・ザーム帝国の現皇帝で
反乱軍のリーダー、ミロ・ザームの兄にあたる人物だ。彼の後ろに
は俺の家に一度やってきたマリ⋮⋮げふんげふん、ウォルス・ログ
レシアと帝国ナンバー2と言われるニーケル・ログボーカーの二人
が立っている。ニーケルは黒髪にスポーツ刈りみたいな短髪の髪型
をしており、それだけ聞くとスポーツ少年を連想させるが、顔がお
っさんである。もう一度言おう、顔がおっさんである。
︵こえぇ⋮⋮︶
なんというか⋮⋮三人揃って異様な雰囲気が滲み出ている気がす
る。まあ、ウォルスはマ○オなのでそこで怖さが軽減されているけ
どな。勿論、そんな思いは心の中だけで決して表には出さない。ま
2177
あ、見た目が怖いというだけで、実際ビビッているかと聞かれるそ
うでもないけどな。
﹁お主があの薬を作ったのか﹂
あの薬とはウォルスに100万Sで教えてあげたあのポーション
の事だ。
﹁ええ、コピーは出来ましたか?﹂
﹁むっ⋮⋮残念だが我の帝国では少し技術が足りないようでな⋮⋮
どうだ? 我らの配下になる気はないか?﹂
﹁丁重にお断りさせてもらいます。私は今の生活で満足しているの
で﹂
﹁そうか⋮⋮さて、では本題に入ろうか、態々帝国のトップである
我を呼んだのはそれなりの事であろう?﹂
﹁私はウォルスで良いって言ったのですけどね。態々首脳部のトッ
プが戦時中に来るほどでも無いと思ったので﹂
﹁そのウォルスが我に代わってくれと懇願したのでな⋮⋮別に良い
だろ? それに案件はこの戦争でのお話らしいではないか、ならど
うせ最後には我の判断が必要なのだ。我が聞いた方が早かろ? そ
れからどのみちこの戦争が終わればお主には一度会ってみようと思
ったのでな﹂
﹁そうですか⋮⋮では話しましょうか⋮⋮まず、始めにお聞きしま
すが今回の敵が持っている兵器について皆さんはどれくらい知って
2178
いますでしょうか?﹂
﹁あの爆炎筒と呼ばれる代物か⋮⋮火の魔法を撃てる道具と我らは
見ておる﹂
﹁ええ、それで合っていますよ。ですが、問題はそこでは無いです
よね﹂
﹁そうだ。問題はあの威力と射程距離だ。あの遠距離から打たれて
は矢も魔法も届かぬ﹂
﹁そうですね。あの距離から撃たれるとまず、人間の兵器では届か
ないでしょう﹂
﹁ふむ⋮⋮その言い方を察するに、人間以外の攻撃なら届く術があ
るかのような言い方だな﹂
﹁残念。人間でも届く武器があるんですよね﹂
﹁ほぅ⋮⋮﹂
グラムスは興味深そうな目でこちらを見て来る。話の最初から静
観していた後ろの二人も気になるのか、先ほどよりも真剣な眼差し
になっている。
﹁まずは、彼らと同じ兵器を使えば届きますよね﹂
﹁そうだな。だが、我々はあの武器を持っておらぬ。よって、作る
事も出来なければ研究することも出来ない状態でな﹂
2179
﹁では﹂
俺は︽倉庫︾から、かつて魔族から奪い取った爆炎筒を取り出し
た。爆炎筒が彼らの目の前に現れた瞬間、3人の視線はすぐにこの
武器へと注がれた。
﹁こ、これは⋮⋮!﹂
﹁これは、アルダスマン国が龍族と戦争をした際にエルシオンを襲
った魔族から奪い取った物です﹂
俺は、特に情報を隠すことなど無く話す。隠しても隠さなくても
俺には関係ない話だし何より、これを奪い取った相手は嫌でも聞い
てもらいたいのだ。
﹁魔族だと⋮⋮?﹂
﹁ええ、恐らくですがこれは魔族が作った武器でしょう。これの小
規模にした武器をハルマネで彼らが運用していることも確認済みで
す。恐らくはこれをモチーフにして改良を加えているのでしょう﹂
﹁こんな代物を⋮⋮何故お主が持っておる?﹂
﹁倒したからに決まっているじゃないですか。既にアルダスマン国
は崩壊していたときなので別に問題は無いと思いますが?﹂
﹁倒しただと? これを持った相手にか!?﹂
﹁まぁ、これを持っていた奴は少なかったので倒すのは楽でしたよ。
不意打ちをかけましたしね﹂
2180
﹁お主やるな⋮⋮ん? まて⋮⋮これがもし魔族が作った物だとし
たら、あやつらは魔族と手を組んでいると言うのか!?﹂
﹁直接的には関わってないと思いますよ。恐らく商人に化けた魔族
か、魔族に買収された商人からか⋮⋮どちらにせよ間接的に関わっ
ている事は否めませんね﹂
﹁あの馬鹿が⋮⋮﹂
﹁フォローする訳ではありませんが、あなたもこんな良い武器があ
るなら買っても仕方が無いとは思いませんか?﹂
﹁まあ⋮⋮そうだろう。我も同じ立場ならそうなるだろうな﹂
﹁ですよね⋮⋮それでですね。まず最初の案件は、この武器をあな
た方に差し上げましょう﹂
﹁なに⋮⋮? これを我らに譲ると言うのか?﹂
﹁ええ、私には必要ありませんからね﹂
要らないと言うより、俺からしてみれば時代遅れも良いところだ
し。
﹁勿論、ただという訳には行きませんよ﹂
﹁それはそうだろう。こんな人間が持っていない未知なる武器をタ
ダで売るような馬鹿だったら我なら逆に怪しむな﹂
2181
﹁そうでしょう。条件なのですが⋮⋮その前に次の案件に行きまし
ょう﹂
﹁何故だ?﹂
﹁次の案件にも関わるからです。では、この武器をあなた方が手に
入れたとしましょう。まずどうされますか?﹂
﹁ふむ⋮⋮普通は持ち帰って研究、開発、量産の流れになるだろう
な、普通ならな﹂
﹁はい、普通ならそうですよね。ですが今は戦時下、失礼ながらも
帝国軍は圧倒的不利な状況に立たされています。首都に戻れずエル
シオンと言う支配下に治めたばかりの地方都市に逃げこむほどです
からね﹂
﹁むっ⋮⋮お主、誰に向かって言っておるか分かっているか?﹂
やや不機嫌そうにグラムスは言った。自国の事をそう言われたら
無理もないな。後ろの二人も﹁あっ﹂と言いたげそうな顔をしてい
た。恐らく彼らの内心は非常に怯えていることだろう。
﹁ええ、それを分かった上で言っているのです。怒りたくなるでし
ょうが、これが現実です。現実はきっちりと受け止めて下さらなけ
れば、あなたの元にいる何千もの家臣、兵士たちが困ってしまいま
すよ﹂
﹁⋮⋮ふむ⋮⋮それもそうだな。失礼した。で、話を続けよ﹂
あら、怒らないのね。怒って話がとん挫したら実力行使も考えて
2182
いたけど、まあ、これはこれで話が楽になった。
それにしても、皇帝と言うぐらいだからプライドの塊かと思った
けど、話してみるや意外、冷静な人というのが正直な感想だ。
﹁はい。で、本当なら今すぐこの武器が大量に欲しい所でしょう。
ですが、残念ながら私も持っているのはこれ一つだけです。それに
この中身もかなり複雑で直ぐに解明できるほど容易い物でもありま
せん﹂
俺は量産出来るけどな。
﹁つまり、これだけでは現状の圧倒的不利な戦況を覆すほどの力は
無いと言う事になります﹂
﹁そうだな。それで、お主はどうするつもりだ?﹂
﹁そこで⋮⋮どうですか? 私と私の家族をこの戦争だけ雇っては
みませんか?﹂
﹁ほう、我の配下に下るのは嫌だと申していたではないか?﹂
﹁ええ、そりゃずっとは嫌ですよ。あくまで今回の反乱軍の鎮圧ま
でです﹂
﹁だが、お主らを雇ったところで、この戦況を覆せるとは思えぬ﹂
﹁そうですか?﹂
﹁⋮⋮何が言いたい?﹂
2183
﹁単刀直入に言いましょう。私たちを雇えばこの戦況を覆す⋮⋮そ
んなちっぽけな物ではありません。現在大暴れしている反乱軍を叩
き潰しこの戦争事態を帝国の勝利に導く事が出来るでしょう﹂
﹁⋮⋮ふん、易々と言うな⋮⋮﹂
﹁ええ、私にとっては容易いことですから。なんなら反乱軍のリー
ダーだけ今すぐにでも攫って来て見せましょうか?﹂
﹁ふ、ふざけるな!﹂
突如声を荒げたのは後ろにいたうちの一人ニーケルだ。
﹁陛下をバカにするのもいい加減にしろ! お主たちが加わったと
ころでこの戦争を終わらせることが出来る訳がないだろう!﹂
﹁何故あなたにそれが分かるのですか?﹂
﹁分かるも何も、人間一人⋮⋮それもお主のような青二才に出来る
事など高が知れている! 陛下! もはや彼の戯言などに付き合っ
てやる必要はありません! 今すぐ陣営に戻られてこれからの作戦
を練りましょう!﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁陛下⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮ニーケルよ⋮⋮少し黙っておけ﹂
﹁へ、陛下!?﹂
2184
グラムスからの思いがけない命令に、ニーケルは驚きの様子を隠
せなかった。彼からしてみると目の前にいる青二才は嘘しか言って
いないようにしか見えないのだろう。恐らくだが彼は今すぐにでも
ここを離れたい気持ちでいっぱいだろう。
だが、他の誰でも無い陛下の命令なら致し方なし。ニーケルはお
ずおずと元の定位置に戻った。
﹁⋮⋮ニーケルの言う通り、普通に考えればお主が言った言葉は戯
言⋮⋮と捉えるのが普通だろう﹂
﹁まあ、そうでしょう。私もそう思います。むしろここにいるお三
方すべてがそう考えると、私は思っていました﹂
﹁まあそうであろう⋮⋮さて、先ほどお主が言った通り我は数千の
兵、何十万もの民の上に君臨する者だ。よってたった一人の我が国
の者でも無い者の意見をそうやすやすと受け取る訳には行かぬ﹂
﹁ええ、当然でしょう﹂
﹁では、お主はどうやって我らを頷かせるつもりだ?﹂
﹁簡単な話です。実際に雇ってこの目で見るのです。私たちの報酬
など後払いで宜しいのです。今日、ここで話した事など気にしなく
てもよろしいのです。私たちは勝手に動いて勝手に勝利をしてくる
のですから。そして勝利後にゆっくりと私たちの評価をして対価を
払えばいいのですから。簡単な話ではありませんか?﹂
俺の言葉にグラムスは黙って聞いていた。後ろの二人のうちウォ
ルスは神妙な表情。そしてニーケルはまるで噴火する直前の火山如
2185
く顔を真っ赤に歯ぎしりをしていた。
﹁ですが、いくら私が勝手にするとはいえ彼らの敵はあなた方です。
私が反乱軍を相手にするのは私の家族に危害が及ぶ可能性があるか
らです。ですが私が勝手に横やりを入れるのは、皆さんの癪に触る
事でしょう。そこでどうせなら報酬も貰えるかもしれない一時的な
傭兵として帝国側に自分らを売りつければいいじゃないかという事
に至った訳です﹂
﹁⋮⋮して、お主は対価に何を望む?﹂
﹁おっ、雇う気になりましたか?﹂
﹁勘違いするな。話は最後まで聞かぬと解からぬでは無いか﹂
﹁それもそうですね⋮⋮先ほどの爆炎筒の提供と私たちの一時的な
雇用⋮⋮この二つの代わりに対価として、このエルシオンの統治権
を全て私に譲って下さい﹂
﹁﹁なっ!?﹂﹂
これに驚いたのは皇帝では無く、ウォルスとニーケルだった。先
ほどから神妙な顔つきだったウォルスも流石にこの言葉は予想して
なかったのか面喰った表情をしていた。
﹁統治権全て⋮⋮つまりお主はエルシオンを都市国家にしてお主は
そのトップになると言うのだな?﹂
だが、皇帝だけは表情を崩さず目を瞑り耳を立てるように聞いて
いた。
2186
﹁ええ、先ほども言った通り私が今回、反乱軍を相手にする理由は
私の家族に危害が及ぶ可能性があるからです。ですが、エルシオン
に危機が迫るたびに今回のような交渉が出来るかと言われるとそう
でもありません。それにウォルスさんが前に家にやった来たときに
私の家族を買おうとしたのですよ。勿論、到底私の家族は譲りませ
んが、何度もやってこられるのは正直に申しますと、面倒極まりな
いのですよ。では、いっそ独立してしまおう⋮⋮そうすれば、まず
雇うと言う催促は無くなるでしょう。そして、エルシオンに敵が来
る度にこんなことをせず、勝手に一方的にやっつけてしまえばいい。
そのための用意をエルシオン全域を使って出来るようにする⋮⋮と
いう訳です﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁考えてみてください。こんな圧倒的不利な状況化を都市一つ⋮⋮
それも支配したばかりで税率の適合も出来ていないような地方一都
市を譲るだけで、この戦争に勝ち、尚且つ新型の兵器を鹵獲出来て
しまうのですよ。なんなら不可侵条約や同盟でも結びますか? 私
は家族が守れればそれでいいので、別に他国に攻める気なんて端か
ら無いので全然構いませんよ? 勿論、私の家族に危害を及ぼすよ
うであれば⋮⋮その時は灰一つ残らずに消しますけどね﹂
俺は最後の言葉に威圧を込めるように言った。
僅かばかりにグラムスが震えたように感じたが、特に何事も無か
ったかのように目を瞑り考え込んでいる。その後ろに立つ二人⋮⋮
特にニーケルの方は噴火寸前⋮⋮いや、あれは間違いなく噴火中の
顔をしていた。そして、癇癪が爆発したかの先ほど皇帝に言われた
事も忘れ怒号が飛び出ていた。
2187
﹁ふざけるな!! 小僧いい加減にしろ! そのような戯言⋮⋮い
や、内容など断じて許すわけが無いッ! そのような事を許せば、
今後我が国は他方からも舐められるわ!﹂
﹁クロウさん⋮⋮私は最初あなたを見たとき只者では無いと思って
いた⋮⋮ですが、まさかこんなおお逸れた事を言うとは思いません
でした。どうやら私の勘違いだったようですね﹂
ニーケルほどでは無かったが、ウォルスも多少なりとも怒ってい
るようだ。感情の籠っていない声にもわずかながらの怒りを感じる。
﹁陛下! 帰りましょう!﹂
﹁陛下⋮⋮今回ばかりは私もニーケルに賛同致します﹂
﹁⋮⋮﹂
ウォルスとニーケルがグラムスに問いかけるが、グラムスは何も
答えない。先ほど同じ様子で黙ったままだった。
﹁陛下!﹂
﹁⋮⋮フフ⋮⋮フハハハハハ!!﹂
ウォルスとニーケルの声には答えず、代わりにグラムスは笑い出
したではないか。グラムスは笑い声を暫くの間続けた。その様子は
まるでアニメの敵の親玉の笑い方のようだった。
﹁面白い! 面白いぞ! お主⋮⋮いや、クロウよ!﹂
2188
グラムスが目を開け、こちらの方を向いた。その顔は実に心地よ
さそうな顔をしており、体の芯から笑っているのが見て取れた。
﹁気に入った! 今言った条件⋮⋮全て飲むことにしようではない
か!﹂
﹁へ、陛下!? 本気ですか!?﹂
﹁無論、本気だ! 我がこんなところで戯言など言うはずが無かろ
うが!﹂
﹁へ、陛下! 気でもおかしくなりましたか!? もし、彼の言っ
た事が本当なら彼はあの爆炎に対して打ち勝つと申しておるのです
ぞ!? 我々の精鋭部隊が束になって手も足も出なかった相手にで
すぞ!﹂
﹁ああ、そうだ。普通ならあり得ぬ。だが、クロウは言ったではな
いか﹃報酬は後で良い﹄と⋮⋮買うだけ買って損は無かろう! も
し、クロウの言ってる事が本当に出来るなら実に安い話では無いか
!﹂
﹁さすが、グラムス陛下。この要求を呑んでもプラスと考えたよう
ですね﹂
﹁ああそうだ。こやつらには理解出来なかったようであるが、我に
は理解できたぞ。なるほど、クロウよ、お主の言った通り、我は現
実を見なければならなかったようだな﹂
﹁ええ、そうです﹂
2189
﹁この戦争。このままいけば我らに勝機は無いだろう。戦力、士気、
兵器⋮⋮すべてにおいて敵は我らを凌駕する力をもっている⋮⋮ま
ともにぶつかり合えば敗北は必至だ﹂
﹁﹁へ、陛下!?﹂﹂
﹁そこで我らの目の前に、お主が現れた⋮⋮そして、お主は言った
﹃この戦争を帝国勝利で終わらせる事が出来る﹄と⋮⋮つまり嘘か
誠かなど、どちらでも良かったのだ⋮⋮これは交渉では無い、我ら
はクロウと言う名の商品を都市一個という価格で買うか買わないか
の商売だったのだ﹂
﹁し、商売⋮⋮?﹂
﹁ああそうだ。そしてクロウと言う名の商人は勝てば対価を払えと
言っている⋮⋮逆に言えば、使うだけならタダと言っているのだ。
対価は効果があったときに払ってくださいと言っているのだ。なら、
滅亡の可能性もある現状況を打開するのに買っても問題ないとは思
わないか?﹂
﹁し、しかし、私はこの小僧が本当に彼らに勝てるとは︱︱︱﹂
﹁そんなことわかっておる! 我が言いたいのはそういう事では無
い! 買って失敗しても我らに損は何一つない。逆に買って成功す
れば都市一個という価格で我らは、この戦争の勝利と爆炎筒と言う
名の兵器を手に入れることが出来るのだぞ? 敗北と言う買い物よ
り遥かによい買い物とは思わぬか?﹂
﹁し、しかし、それでは我が国の威厳は︱︱︱﹂
2190
﹁負けたら威厳は残るのか?﹂
﹁そ、それは⋮⋮﹂
﹁負ければすべてが終わりだ。威厳を始めとして何もかも失うだろ
う。なら、例え一時の汚名を受けても勝ち残り後で挽回しようとは
考えぬか?﹂
﹁⋮⋮﹂
完全に黙りこんでしまうニーケル。完全に圧に屈した形となって
いた。そんなニーケルの事は無視してグラムスは俺に話の続きをし
た。
﹁クロウよ。先ほどの話の件だがそちらの条件を飲む代わりに、こ
ちらかも条件を出すが良いか?﹂
﹁ええ、勿論構いませんよ﹂
﹁ならまず一つ。反乱軍のリーダーであるミロ・ザームを捉えて我
の目の前に連れてこい。だが、ただつれて来るだけでは駄目だ。彼
に組した者にそれ相応の罰を与え、奴自身にも死なない程度に罰を
受けさせて来い。お主なら可能なのだろ?﹂
﹁ええ、可能ですよ。死なない程度に地獄を見させて来ましょう﹂
﹁よし、なら二つ目、勝利した暁には約束通りこの都市をやろう。
だが、それと同時に我らと半永久同盟を結ぶこと。お主に攻める気
が無いのであれば、半永久的でも問題無かろう?﹂
2191
﹁ええ、勿論構いませんよ。ただし、そちらから危害を加えようと
したならば、その話は勿論無しです。帝国から手を出さないのであ
れば、私たちも決して手を出す事は無い事を約束しましょう﹂
なるほど⋮⋮もし、勝つことが出来たと言う事は、俺が反乱軍を
鎮圧したことになる。それほどの力を持っている者が配下にならな
いとなれば、次に考えるのは敵対しないことだからな。賢明な判断
だろう。
﹁そして3つ目⋮⋮お主は今店をやっておると聞いた。当然、あの
ポーション以外にも色々な物が売ってあるのだろ?﹂
﹁ええ﹂
﹁では、今後お主が作った商品は優先的にこちらに流すのだ。勿論、
安く買いたたくつもりはない。ただ、優先権だけ我らに譲れば良い
⋮⋮どうだ?﹂
﹁そうですね⋮⋮帝国側には格安で販売することもオマケ付けてあ
げましょう﹂
﹁フハハハハハ!! 本当に欲が無いのお主は! 欲しいのは奴隷
⋮⋮いや、家族の安全だけなのか?﹂
﹁いえ、それと家族の幸せですかね﹂
﹁フハハハハハ!! そうか! 分かった以上の内容でお主を雇お
うではないか! そうそう、反乱軍を相手するにあたって民を巻き
込むのは必要最小限にすることもお願いしようか﹂
2192
﹁あなたは強欲ですね。では、それも内容に付けて合意といたしま
しょうか﹂
﹁決定だな﹂
俺とグラムスはガッチリと握手をした。これを最後にここでのお
話は終わった。後日詳しく書いた協定書を発行するらしいが、ここ
で俺とラ・ザーム帝国の契約が成立したと言っても過言では無かっ
た。
こうして、ジーク歴1098年8月4日。歴史上に初めてクロウ
が登場することとなったのだった。
そして、この日結ばれた協定は後日﹃エルシオン協定﹄と呼ばれ
ることとなるのだが、それはもっと後の話である。
2193
第219話:エルシオン協定︵後書き︶
今回は長くなりました。と言うか書くのが止まりませんでした。
やっぱり戦記物とかで協定とか会談の中身を書くのは楽しいですね。
では、次回もよろしくお願いします。
2194
第220話:炎零︵前書き︶
01/26;誤字を修正しました。
2195
第220話:炎零
﹁さて⋮⋮では、始めて行きましょうか﹂
俺とグラムスが出会った2日後、俺はグラムス、及びその配下に
あたる者たちの前に立っていた。場所は帝国軍本陣の作戦会議室。
会議室と言っても周囲を陣幕で覆った実に簡素な作戦室だった。
﹁まずはこれをご覧ください﹂
俺の目の前にあった机の上には、ラ・ザーム帝国領土内の地理が
描かれた地図がある。その地図の上に俺は︽マップ︾を応用した︽
プロジェクトマップ︾を展開した。
説明をすると、このプロジェクトマップと言うのは俺のみが閲覧
できる︽マップ︾を他人も見れるように可視化したものだ。立体的
な映写を行うことが出来るので、360度どの角度からでも見るこ
とが出来る。
さっそく見慣れないスキルを見た将兵は驚きの声をあげた。そん
な声を俺は無視して説明を続ける。
﹁現在の帝国軍と反乱軍の勢力図はこちらとなります﹂
マップの上に赤と青の凸マークが表示され、マップの各地に浮か
び上がって来た。各地方に多く存在する赤色の凸とエルシオンにポ
ツンと存在する青い凸。この二つを見ただけで、どれが何を表して
いるか、これを見たことが無いラ・ザーム帝国の将兵にも直ぐに分
かった。
2196
﹁このマップ上に浮かび上がったマークのうち赤いマーカーが反乱
軍、青いマーカーが帝国軍を表しています。御覧の通り現在、帝国
軍のうち動ける部隊はここエルシオンのみ、それに対し反乱軍はそ
の数を徐々に膨らませており、ラ・ザーム帝国の領土は無論、旧ア
ルダスマン国の領土も大半を勢力下に置いています﹂
次に俺は凸の上に数値を浮かび上がらせた。エルシオンの青い凸
の上には﹃7,421﹄と言う数字が、赤い凸には﹃1,298﹄
その他の赤い凸にも数百ずつの数値が表示された。
﹁これが、現在の各方面にいる兵数です。敵は数百名ずつを一部隊
として、各方面に回し都市などを制圧している模様です。現に今も
動いている部隊があるようですね﹂
﹁ま、待ってくれ、この数値が兵力数と言うならば、何故お主のよ
うな一冒険者がこのような情報を知っておる? 我らでも各地に散
っている大方の兵数や場所はわかれど、ここまで詳細には知らぬぞ
!﹂
一人の家臣が最もな声を上げた。
﹁ええ、そうでしょうね。これは私が独自に調べ上げた結果です。
こちらとあなた方との情報と食い違いがあっても無理は無いでしょ
う。私は自分のスキルを使用して調べました﹂
﹁し、調べた⋮⋮?﹂
そのようなスキルなど当然聞いたこともないだろう。使ったのは
︽マップ︾の能力である検索を使ったのだが、この世界で、この能
力を持っているのは俺ぐらいのようだ。
2197
家臣たちがひそひそと話し合っているのが見えた。無理もない、
いきなりこんな物を見せられて理解が追いつかないのだろう。目の
前にいる青年は自分らすらも知らない方法で自分たちよりも詳しい
情報を持っていた。
もしかして、こいつは内通者では無かろうか? そんな声が聞こ
えてきそうだった。
﹁静かにしろ! お前たちは黙って聞いておればいいのだ!﹂
ざわめき出した場を沈めたのは、先ほどから黙って聞いていたグ
ラムス皇帝だった。
まさに鶴の一声。先ほどまで五月蠅かった将兵たちは一斉に黙り
込んでしまった。まるで学校で先生が怒鳴った時のようで俺は内心
面白いなと笑っていた。
﹁話を戻しましょう。見てのとおり兵力数にそこまでの差はありま
せんが、皆さんがご覧になった通り敵は帝国軍を一瞬で葬り去るほ
どの強力な兵器を揃えています。このままでは帝国側に勝利は絶望
的と言っても過言は無いでしょう﹂
﹁そんな事は先日聞いた。それよりもお主がどうやって勝つか、我
らはどうすれば良いかを聞かせてもらおうか?﹂
﹁陛下はせっかちですね﹂
﹁それほどまでに時間が惜しいのだ﹂
﹁そうですね。では説明しましょう。まず陛下たちにやってもらう
事ですが⋮⋮一言で言うならば私たちが攻撃した後の都市の制圧を
2198
やってもらいたいのです。流石にこればかりは人数が少ないので帝
国軍にお任せします﹂
﹁ふむ、それでお主はどうする?﹂
﹁私は⋮⋮まず、このエルシオンを包囲している敵軍ですが、これ
は私たちの実力を見せるために、私と私の家族で蹴散らしましょう。
そして、各地方の敵ですが﹂
俺は︽倉庫︾から作成したばかりの武器を取り出す︱︱︱
銀色に輝く胴体。滑らかな形を描く翼。後端に取り付けられた円
状の筒はまるで火を噴きだしているかのような朱色の模様が特徴的
だった。
﹁この﹃炎零﹄で超高度からの爆撃で殲滅します﹂
聞きなれない道具、言葉にグラムスを始めとする将兵たちは一斉
に首を傾げた。無理もない、銃すらも生まれていないこの世界では
この兵器は余りに未来の物なのだから。
﹁これは、魔物のように空を飛ぶことが出来ます﹂
﹁空を飛ぶだと!?﹂
現在、魔族の中で飛行を行える魔物に対抗するために使用されて
いるのは、カタパルトや弩と呼ばれる弓系の武器だ。だが、これら
の武器は必ずしも有効とは言えなかった。まず当てるのに技術力。
敵の動きを読む経験と勘。そして、有効範囲に敵をおびき寄せる事
と多くの技能が必要とされる。それに加えある一定以上上空に逃げ
られると、そこまで矢が届かなくなり、たとえ届いたとしても魔物
2199
たちの皮膚を貫通させることが不可能となるのだ。
そこで、矢の有効範囲を広げるために弦を強化しようとするが、
当然強くなればその分弓を弾く力も必要になり、結局誰も扱えなく
なってしまう。
次に有効な攻撃は魔法であるが、言わずも分かる通り、魔法の取
得、詠唱技術の向上、魔力の向上と弓以上に扱う者を選ぶ攻撃手段
だ。
それに対し飛行系の魔物は、自身が疲れなければいくらでも攻撃
をすることが出来る。さらに遠距離武器は無くとも大きい石を持っ
て上空から落とすだけでも人間にとってはかなりの脅威になる。
誰しもが思うだろう﹁空を飛べたらな﹂と。風魔法を使った浮遊
術もあるが、それが出来るのは極僅かの者たちのみだ。
﹁ええ、しかもこれは魔物たちよりももっと高い所まで飛ぶことが
出来ますよ﹂
﹁ほう、どれくらい飛ぶのだ?﹂
﹁私が試した限界ですと10,000メートルまでは余裕で行けま
すよ﹂
﹁い、一万!?﹂
この世界の生き物では到底届くことが出来ない高さだ。エベレス
トよりも高い位置を飛んでいる事になるので当然と言えば当然なの
だが。
﹁はい、でその高度10,000メートルから、これに内蔵してあ
る︽倉庫︾から爆発の魔法を応用した爆弾を一方的に落とします。
これをするだけでも大半の敵を滅せられるでしょう﹂
2200
﹁⋮⋮﹂
唖然とする一同。もしこれが本当なら、今まで自分たちが恐れて
いた物はなんだったのだと思い知らされたからだ。敵が持っていた
武器は、文字通り未知なる武器だった。だが、今目の前にある炎零
といったこの武器は、その未知なる武器すらも軽々と凌駕する技術
の塊であることは誰しもが予想することが出来た。
もしこの武器を売ってくれと言ったらいくらかかるだろう。
現代の人の技術では到底作ることが出来ない武器だ。万とかの単
位ではない。それこそ億単位と言われても全く不思議では無かった。
ちなみに、ラ・ザーム帝国の年間予算はおよそ1000億S。仮
に炎零を一つ100億で売りつけようとすれば、10機も買えば国
家運営が出来なくなってしまうレベルだ。当然、実際の価値はもっ
とある。
﹁私はこれを現在50機ほど持っています。これを反乱軍の拠点の
ある所に重点的に落としていきます、私の情報では、ミロは現在ク
ロルパルスで多くなった兵たちの分配や新しい武器、食料の調達を
行っているとのこと。クロルパルスを攻撃するのは最後として、今
のうちにすべての都市を奪還します。この作戦期間は最短で4日。
最長でも一週間で終了させます﹂
﹁⋮⋮はっ? 今なんと言った⋮⋮?﹂
﹁一週間で終わります。と申しました。一週間で反乱軍の組織的な
行動を出来ないようにします。その後の残党については、皆さんの
働きによって結果は変わるでしょうね﹂
とんでもない事をケロッと言った青年にもはや何かを言う者など
2201
誰一人も居なかった。当然、この話を聞いた者の中にも﹁戯言だ!﹂
と信じない人もいた。だが、それを口に出すものは一人もいなかっ
た。何故なら皇帝からの有無を言わせぬ雰囲気が漂っていたからだ。
グラムス皇帝も当然、この話には疑問を抱いていた。いくら何で
も話がうますぎる。それにそのような武器を何故、ただの冒険者で
あるこやつが持っているのかと。
まるで、この青年はこの世に生まれたときから知ってたかのよう
に⋮⋮。実際、知っていたのだが、それを考えても疑う事は出来な
かった。お話がうますぎる以前に飛躍しすぎているからだ。
﹁作戦開始は明日。まずは皆さんに私たちの実力をお見せしましょ
う﹂
この場にいた者たちは黙って頷くことしか出来なかった。
2202
第221話:ターニングポイント1
戦いと言うのは、お互いの力と技術と知恵を余すことなく発揮し
てこそ戦いと言えるだろう。例え惨敗しようが万機を期した上での
惨敗ならそれは戦いだ。
なら、今から目の前で始まろうとしている﹃争い﹄は﹃戦い﹄だ
ろうか? それはこれからの出来事を見て各々で判断を下してもら
おう。
ジーク歴1098年8月7日。この日はラ・ザーム帝国と反乱軍
の戦争のターニングポイントとなった。
圧倒的に優勢であった反乱軍であったが、各方面を制圧するため
に元々少ない数を更に分散させていた。そのためエルシオンを攻撃
する反乱軍の人数はおよそ1,300人。これに対し劣勢に立たさ
れている帝国軍の数はおよそ7,100人と数だけは勝っていた。
数が少ない反乱軍に包囲戦という選択肢は無かった。1,300
人程度で都市を囲むことなど到底できないからだ。ならどうするか
? 包囲が無理なら一点突破をするしかないだろう。幸いにも反乱
軍にはそれを行える兵器を所持していたため、反乱軍はエルシオン
を攻撃すると決めた直後に、この作戦で行くことが決定された。
攻撃を行う個所はエルシオン北側。そこから城壁に一点集中攻撃
を行い穴を開け都市内部へと突入をする。複数方面からの攻撃も全
く考え無かった訳では無い。だが、今の彼らからしてみれば帝国軍
が分散されることは嫌だったのだ。
爆炎筒は現代で言うところのミサイルと似ている。一点を狙った
2203
攻撃は強いが広範囲への一斉攻撃となるとあまり有効な攻撃手段と
はいえない︵核ミサイルなどの話になるともはや戦争がどうこう以
前のお話になるので今回は触れないでおく︶
どっちかというと一か所に集まってもらい、そこを攻撃した方が
少ない弾薬︵魔石︶で多くの敵を倒すことが出来るからだ。
7日午前9時。エルシオンを攻撃する反乱軍の布陣が完了した。
このとき、反乱軍の兵士らは少し混乱をしていた。敵である帝国
軍が見当たらないのだ。これまでの戦いから正面からのぶつかり合
いは避け都市内での乱戦に持ち込もうと言うのだろうか。
いや、それだけならまだ納得が出来ただろう。しかし、混乱の原
因はそれだけではなかった。
・・
自分らの前方に人影が映る。数にして十数人程度の小部隊であろ
うか? 都市からやって来たであろう彼女らは反乱軍と真正面から
向き合う形で反乱軍とエルシオンとの狭間に陣取っていた。
人? いや、違う。頭についた獣の耳、体の後ろからチロチロと
見える尻尾。それを見た兵士らは彼女らが獣族であることを即座に
理解した。そして、獣族の前に一人の少女が立っていた。首に付け
られた黒いチョーカーは彼女が奴隷であることを知らしめていたが、
彼女の首にはそれとは別にネックレスが付けられていた、灼熱の炎
を如く真っ赤に輝く大きなルビーは見ただけでとても高価な物だと
分かる。だが、そんな自分たちでも見る事すら稀なネックレスを恐
らくは奴隷であろう少女が身に着けていることに、反乱軍の兵士た
ちはイラついた。もともと帝国の重税に耐えれなかった人たちが集
まった軍隊だ。自分たちより地位が下の奴隷が高価なアクセサリー
を着けている事に快く思わないのは当然の反応だろう。
さらに兵士たちをイラつかせたのは、その後ろの獣族達だった。
少女同様黒いチョーカーが付けられている事から奴隷であること
は確かであったが、着ている服は自分たちが着たこともないような
2204
清潔そうな服を身に着けていた。見た目こそ一般の市民服であった
が上から下まで汚れ一つ見えないその清潔さ、さらには獣族自体も
奴隷としての厳しい仕打ちを受けたような様子も無く、綺麗に束ね
られた髪はとても艶やかだった。獣族とはこんなにも美しい種族だ
ったのかと見直す人すらもいたほど彼女らの姿はとても大切に扱わ
れている様子が見て取れた。それが反乱軍の大半の兵士たちをさら
に逆上させる。自分たちは朝から晩まで働いてもボロボロな安いし
か着れないような生活をしているのに⋮⋮あの奴隷を持っている主
人はさぞかし豪華な生活をしているのだろうと彼らを不確実な妄想
に駆り立て上げた。
あのキレイな服を破り、犯す⋮⋮それを想像しただけで興奮する
者もいたほどだ。それほどまでに彼らに鬱憤がたまっていたのだろ
う。
だが、彼らの妄想が実現することなど到底ありえない話であった。
何故なら、今から自分たちが相手をしなければならない相手は神様
じみた人物のもとで育てられた最強の刺客だったからだ。
==========
﹁⋮⋮で、お主は何故ここにいる?﹂
2205
エルシオンを囲む城壁から反乱軍の様子を眺めていたグラムス皇
帝は、同じように戦地を見つめていたクロウに話しかけた。
﹁何故って⋮⋮それは彼女たちの様子を見る為ですよ﹂
クロウは﹁そんなことも分からんの?﹂と少々戸惑った口調で言
った。
﹁最初は私が一人で潰すことも考えたのですけどね、彼女たちの成
長も見て見たかったので、彼女らに私の代わりに反乱軍を潰しても
らうことにしました﹂
﹁潰す⋮⋮あ奴らが? 確かに個々の能力は高そうだが、それでも
あまりに多勢に無勢ではないか?﹂
﹁あれくらいなら行けますよ。先に行っておきますが、今から始ま
る戦争を陛下の今までの常識で見る事など絶対に出来ないと思いま
すので、その辺は覚悟してご覧になってください﹂
﹁なに⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮そろそろですね﹂
そう言うと、クロウは自分の手を耳元まで持っていくと急に独り
言を話し始めた。
﹁皆、聞こえるか?﹂
<聞こえるわよ。こっちはいつでもいいわ>
<聞こえます∼、すごいですね∼こんなに離れていてもクロウ様の
2206
声が頭の中に入ってくるのですね∼>
﹁昨日話した通り、今日の戦いは俺が良いと言うまで好き勝手にし
てもらっても構わない。ただ、銃を使うのは最後の手段にするんだ。
それ以外は武器、魔法、道具、何でもいい。自分の最適な方法で戦
う事。ただし、連携は忘れるなよ。今回は数が数なんだからな﹂
<分かってるわよ。クロは少し私たちを甘やかしてない?>
﹁うーん、そんなつもりは⋮⋮まあ、否定は出来ないな。皆に武器
を持ってほしく無いのは本音だし﹂
<はいはい、まあ、今回は私たちに任せてよ!>
﹁ああ、期待しているぞ﹂
<く、クロウ様! あ、あの⋮⋮昨日の約束は⋮⋮本当ですよね?>
﹁⋮⋮勿論だ。今回の戦いで一番多く敵を倒した者には⋮⋮もれな
く俺と二人っきりで二晩過ごせる権利を送ろう﹂
その言葉に、獣族たちがキャーとハイテンションになる。その様
子はまるでライブ会場で好きなアイドルが出て来た時の女性たちの
黄色い悲鳴のようだった。そんな彼女らにクロウは心の中で一言﹁
君たち、今から戦争をするテンションじゃないよ﹂と思っていた。
何に事かと話をすると、昨晩、今回のエルシオンでの戦いで一番
敵を倒した人にはご褒美が欲しいという話になり、誰が言ったか﹁
で、では、一番倒した人にはクロウ様と一晩二人っきりになれる権
利を下さい!﹂という言葉で決まってしまったのだ。毎晩代わり代
わりにクロウは相手をしているが、それはあくまでに複数人同時に
2207
相手をしている。つまり、自分だけを愛でる時間が欲しいとのこと
⋮⋮ちなみに何故二晩なのかというと﹁一晩だけで満足する訳ない
じゃない!﹂と性欲満点な獣族からの意見をクロウが了承してしま
ったことが原因だったりする。
さらにその意見に行きつくまでがまた長く﹁一週間よ!﹂とか﹁
いっそ一か月にしましょう!﹂など何とか長くしたい獣族達の声を
防ぎきっての二晩だった。決め手はエリラが﹁二晩以上お願いをす
るなら私と勝負して勝ったらよ!﹂だった。当然誰も勝てないので、
そこでお話は終了した。元々クロウとエリラの関係に割り込む形で
自分たちも相手をしてもらっているので、不満を言う人はいなかっ
た。ただ、話が終わった時、獣族一同の口元は全員﹁へ﹂の字をし
ていたことは言うまでもないだろう。
さて、話を戻し急にクロウが独り言を話し出したことに、周囲に
いた者は﹁こいつ頭でもおかしくなったんじゃね?﹂と怪奇な目で
クロウを見ていた。
実際はそんな事は無く、︽意志疎通︾を契約で獣族全員に付与し
て遠距離会話をしているだけだ。本来は俺とエリラとの間でしか扱
えないスキルだが、それをいつか魔法学園の生徒たちに行ったスキ
ルを一つだけ付与できる︽契約︾を行い、全員で会話を出来るよう
にしたのだ。
﹁! 敵が動き始めました!﹂
一人の兵士がそう叫ぶ。見ると反乱軍の軍勢が少しずつ動き出し
ているのが分かった。
﹁いよいよか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あれだけの大口を叩いたのだ。当然、今になってできません
2208
は無いぞ﹂
﹁ええ、分かっていますよ。まあ、私たちは静観しましょう。そし
て、目に焼き付けて下さい。一歩間違えれば次に彼女たちを相手す
るのは帝国なんですから﹂
皇帝以下帝国の面々は、黙ってクロウの言葉を聞き、黙って戦場
を見つめるのであった。
2209
第222話:ターニングポイント2︵前書き︶
かなり前から登場していたエリラの︽身体強化Lv.5︾ですが、
アド・アビリティ
﹁分かりにくい!﹂﹂という声が多数来ていたので、久しぶりに登
場する今回から︽能力加算︾に名称を変更させて頂きます。
名前がダサい? これが私の限界です︵泣︶
では、第222話をどうぞ
2210
第222話:ターニングポイント2
﹁さて⋮⋮始めるわよ﹂
クロウから貰った自慢の剣を片手に、こちらへと歩を進める反乱
軍を凝視するエリラ。彼女の言葉に答えるがごとく獣族たちも剣を
抜刀する。獣族たちが使う剣は、比較的筋力が低い獣族達でも長時
間持てるように軽量化を施した刃に加え、魔力を流すとその剣に元
から付与していた魔法を発動することが出来た。そこにクロウが一
人ひとり一番能力を発揮できるように個別にカスタマイズを施して
ある。断じて量産型などでは無い。
そして、分かっていると思うが、その剣自体の強度、切れ味は並
の剣とは比にならないほどの強さを誇っている。鍛冶屋に見せれば
ひっくり返るような強さだろう。
アド・アビリティ
﹁︽能力加算︾⋮⋮Lv.1⋮⋮﹂
唱えた瞬間、エリラの身体から一瞬何も感じられなくなった。こ
こでの感じるは魔力だけではない、体温、呼吸を始めとした体から
の音⋮⋮外部が感じることが出来る五感の全てを彼女から感じなく
なったのだ。
だが、そう思ったのも束の間。次の瞬間、膨大な魔力が彼女の体
から飛び出すかのように溢れて来た。ビリッとした衝撃を近くにい
た獣族達もすぐに感じ取ることが出来た。
﹁さぁ、行くわよ!﹂
ドンッと衝撃が走ったかと思うと次の瞬間、エリラの姿はそこに
2211
は無かった。見ると既にエリラは自分たちがいた場所から数十メー
トルほど離れた前を走っているではないか。
﹁あっ! 待つのです!﹂
﹁エリラさんに続きましょ∼﹂
ダッと一斉に駆けだす獣族達。先ほどまでの黄色い歓声はどこへ
やら、既に彼女たちにそのような気配は残っておらず、あるのは統
一された意思と前方にいる敵に対しての戦う意思⋮⋮は5割くらい
で、残りの半分は自分が一番になって、あんな事やこんなことをし
てもらうんだとご褒美をもらった時のことを考えていたりする。そ
のため、ちょっとニマニマしている者もちらほらと見て取れた。
敵を前に間抜けな⋮⋮と思うかもしれないが、既に目の前にいる
敵はそれを考える余裕があるほど弱かったのだ。
レベルにして50程度とクロウ、エリラと見た時にエリラの半分
程度のレベルしかない獣族たちであるが、そんなことを忘れ去るほ
どに、彼女たちにはチートじみた能力を既に持っていた。
かつて魔闘大会で、特待生組よりも魔力が高かった生徒たちのよ
うに、称号を数多く持った彼女たちにとってはもはやレベルは参考
にもならないほどのステータス値を誇っており、それに加え、クロ
ウという化け物︵レベル300以上︶の指導を受け、実戦もしたこ
ともある彼女らのスキルレベルは、もはや国の一部隊程度では相手
に出来ない強さだった。
﹁!?﹂
驚いたのは反乱軍だ。先ほどまでそれなりに距離があったはずの
エリラたちとの差は、気付けば100メートル程度にまで狭まって
いるではないか。
2212
﹁か、かまえ︱︱︱﹂
慌てて指揮官が合図をしようとするが、時すでに遅かった。10
0メートルほどあった間を僅か2秒程度で走り抜けたエリラは、合
図を送ろうとしていた反乱兵の首を掲げていた片腕もろとも胴体か
ら切離してしまっていた。
何が起きたか全くわからなかった反乱兵。だが、硬直させる時間
を彼女たちは許さなかった。
突如、猛烈な突風が吹いたかと思うと、何人かの反乱兵が宙を舞
っていた。そして、自分自身に何が起きたか全くわかっていない兵
士の頭上にシャルが現れる。彼女たちが着ている服は普段気慣れた
ワンピース⋮⋮ではなく、動きやすさを重視した戦闘服だ⋮⋮残念
ながらぱんつは見えない、例え見えたとしてもそれは、ほんの一瞬
の出来ごとで反乱兵には見えたかどうかは分からなかっただろう。
ズンッと反乱兵の左胸に上空から襲い掛かったシャルの剣が突き
刺さる。そして獣族はその剣を躊躇なく刺した状態のまま切り上げ
てみせた。心臓辺りに突き刺さった剣は、そのまま肩を切断して、
反乱兵の体をいとも簡単に切り裂いてみせた。そして、既に虫の息
の反乱兵の、胸元に足を置くとそのまま、地面へと蹴り落とした。
その威力も中々で、当たり所が悪かった兵士の中には骨が外れた者
もいたほどだった。
気付けばエリラや獣族の大半は既に敵陣のど真ん中に襲い掛かり、
そこから円状に反乱兵に襲い掛かっている状態だった。
﹁は、反撃しろぉ!﹂
我に帰った一兵士が声をあげると、呆気に取られていた他の者た
2213
ちも呼応した。だが、そんな彼らもすぐには反撃出来なかった。
何故なら、彼らが持っていた武器は遠距離系の武器である爆炎筒
だったからだ。もし、この場で撃とうものなら自分はもちろんのこ
と周りの味方まで吹き飛ばしかねないからだ。
﹁うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!﹂
だが、既に息絶えた味方を前にパニックになった何人かがトリガ
ーを引き、自分もろとも吹き飛ばしてしまう者がいた、爆発音と共
に周囲にいた反乱兵数名は一瞬にして絶命、さらに外側にいた兵士
体もその衝撃波をもろに受け体勢を大きく崩された。
﹁もらいました!﹂
その隙を逃がさなかったのはニャミィだ。倒れた反乱兵の首元を
丁寧に切り裂き、あたりに鮮血が飛び散る。クロウが作り上げた剣
は血が刃に残らないように表面をコーディングしてあり、数人を切
り裂いたあとでもその刃は陽の光を反射して銀色に輝いていた。
﹁爆炎筒を持つな! 近接攻撃に切り替えろ!﹂
剣を抜き、エリラたちへと襲い掛かる反乱兵。いくら強さを見せ
ようが、相手はたかが十名程度、しかも全員女性⋮⋮自分たちが負
けるはずが無いと、反乱兵は波状に彼女たちへと襲い掛かる。
﹁うーん、そんなに一斉にこないでくださ∼い﹂
フェーレは襲い掛かって来る反乱兵に若干引き気味だった。
﹁やっちまぇ!﹂
2214
その様子に、何を根拠にか既に勝ち誇ったかのような表情で反乱
兵はフェーレに飛びかかる。中には早速服を脱がそうと、武器を放
り投げている阿保もいる始末だ。
そんな彼らに突如として地面から爆炎が襲い掛かった。その炎は
一瞬にして兵士たちを包み込み、有無も言わさず灰へと姿を変えて
しまった。やけどや骨になったわけではない、灰になったのだ。そ
れを見ただけで、その炎が尋常な熱さで無い事は誰の眼にも明らか
だった。
﹁⋮⋮じゃないと∼数えるのが大変なのですよ∼﹂
いつもの口調で、そんなことを言うフェーレ。彼女の腕には炎が
纏われており、持っている剣は炎を身に纏っていながらも燃えるこ
となく、その形を綺麗に残している。
獣族は本来、風魔法が得意な種族でその上住んでいる場所は大抵
が森の中のため炎系魔法は敬遠されがち⋮⋮というよりも禁忌に近
い扱いを受けていた。
だが、その中でもたまに例外があった。それがフェーレである。
彼女も普通の獣族同様、風魔法を扱っていたのだが、クロウがフェ
ーレの称号の中に炎関係の称号があったことに気付き試しに使わせ
てみたところ、一般の人が使う火の魔法よりも高い威力かつ高熱の
魔法を扱う事が出来たのだ。このことは彼女自身も非常に驚いてお
り、自分自身でも扱えることに気付いていなかったようだ。火は風
とは相反する属性では無いので覚えれることは可能だが、獣族で扱
える者はいないに等しいと言う。突然変異では無いが、それに近い
形で生まれつき加護があったのかもしれない。
最初はクロウも﹁無理に扱わなくてもいいよ﹂と言ったのだが、
彼女曰く﹁ここは森じゃありませんし∼、使えるに越したことはな
いと思います∼﹂と彼女はあっさり使う事にしたので、その様子か
2215
らクロウは﹁ねぇ、炎系が禁忌になっていたってホント?﹂と周囲
に聞く始末だった。ちなみにその時の獣族たちは全員、首を縦に振
ったと言う。
既にご察しの通り、今の炎はフェーレが出した炎だ。地面を這う
ように燃え広がった炎は今やその姿を消し、兵装に僅かに残った燃
えカスがチロチロと燃えてるだけだった。
﹁次はだれですか∼?﹂
のんびりとした口調に炎を剣を身に纏い周囲を灰にしてしまった
者には全く似合わない口調で、周囲を見渡す。その様子を目の端で
見ていたエリラは﹁悪魔や⋮⋮﹂と呟いたとか。
開始1分。気付けば既に数十名もの命が散っていた。それでも徐
々に我に帰った反乱兵たちがエリラたちを倒すべく周囲に殺到する。
だが、近づくたびに、剣と魔法を使ったエリラや獣族達には全く刃
が立たなかった。
﹁全方向から一斉に襲い掛かれ!﹂
エリラの周りに十数名の兵士らが集まり、一斉に剣を振り落とす。
ガキィンと剣と剣がぶつかり合う音が響く。その交わった剣の先端
には血だらけのエリラ⋮⋮は、おらずぶつかり合った衝撃で欠けて
しまった、剣だけが残っていた。
﹁どこを見てるの?﹂
バッと兵士たちが上を見上げると、そこには既に魔法を唱え終わ
ったエリラの姿があった。剣を持つ手とは反対の手には魔法陣が浮
かび上がっており、その魔法陣からは水の刃が飛び出し兵士たちへ
2216
と降り注いだ。人間が自分の力で水を叩いたとしても、それほどの
強さではないが、早い速度で水とぶつかった衝撃は、コンクリート
並の強度へと変貌をする。そのコンクリート並の強度の水がもし、
猛スピードで人に当たったら⋮⋮?
答えは、腕を折った者や、目に当たった衝撃で眼球が押しつぶさ
れた者、鎧に大穴を開けそこから血が飛び出している者が示してい
る通りの結果だ。魔法レベルの上昇に加え、スキルでのステータス
補正を受けている彼女の水魔法は既にコンクリート並の強度を誇っ
ており、この世界での防具ではもはや防ぐことが出来ず、軽々と装
甲をぶち抜いていたのだ。
そんな彼女たちの無双を遠くから見ていたクロウはこの様子を見
て後にこういったと言う。
﹁⋮⋮俺、育て方間違えたかな⋮⋮?﹂
全ては後の祭りだったとでも言っておこう。
2217
第222話:ターニングポイント2︵後書き︶
結論:フェーレは怖い
2218
第223話:ターニングポイント3
﹁な、なんだこいつらは!? 攻撃が当たらない!﹂
﹁ひるむな! 所詮は無勢だ、数で押せ!﹂
﹁うわぁぁぁぁぁ、こっちに来るなぁ!﹂
エリラと獣族達の攻撃に反乱軍はパニック状態に陥っていた。
﹁距離を置け! 離れて爆炎筒で撃つのだ!﹂
エリラたち精鋭部隊の人数は12名。1,300もの軍勢に対し
ては余りにも少数だ。そうなると当然、被害を受けていない部隊も
出て来る。
﹁し、しかし、それでは接近している味方までも被害が⋮⋮!﹂
ある程度距離が開いていたある部隊の隊長は爆炎筒を撃つように
命令をした。しかし、今彼女らの周りには味方の兵士もいる、そん
なところに爆発型の球を撃ちだす爆炎筒を使うとなれば、味方もろ
とも吹き飛ばしてしまうだろう。
﹁構うな! それともなんだ、お前らは死にたいのか?﹂
しかし、隊長は撃つように命令をした。味方などどうでもいい、
自分が生き残りたい一心なのだろう。
2219
﹁⋮⋮!﹂
迷ってる暇はなかった、指示された者たちは照準を乱戦状態にな
っている場所に合わせる。そして、一瞬躊躇したと思ったがトリガ
ーを引く。
ドォンと衝撃が走り火球が爆炎筒より撃ちだされた。そして、撃
ちだされた火球は真っ直ぐと狙った場所へと飛んでいく。
﹁!﹂
乱戦状態であったが、一番最初に気付いたのは獣族のココネだっ
た。いつもはほんわかとしている彼女であるが、剣を握ればその性
格はどこへやらか、素早い剣捌きを主軸に戦場を舞う、まさに蝶の
ように舞い蜂のように刺す動きと言えよう。
その動きはここでも活かされた。フェイントを織り交ぜた動作の
前に反乱兵は混乱する。元々訓練された兵では無いうえに、ここま
で爆炎筒という遠距離武器のみを扱い、近距離の剣は全くと言うほ
ど扱っていなかった。それに引き換えココネの方は銃の使い方と同
時に短剣、魔法、剣と様々な戦闘方法をクロウから学び毎日鍛錬を
怠る事は無かったココネとでは戦闘力は歴然としている。
そんな彼女が最初に気付いたのも当然かもしれない。即座にその
場から飛び出し、集団から距離を置いた。そこに丁度爆炎筒からの
火球が集団に突入し、爆発した。距離を置いたとはいえココネの方
にも多少なりとも衝撃が来たが敵の集団と言う肉壁によって血が飛
び散って来るだけだった。
﹁危ないですね∼⋮⋮敵さん味方もろとも殺ってしまいましたね⋮
⋮﹂
どこか思うところがあるのか、ココネは巻き込まれた敵に心の中
2220
で合掌をする。だが、敵に同情するほどココネも甘くは無い。直ぐ
に切り替えると、今度は先ほど撃って来た敵をキリッと睨む。
﹁ひぃっ!﹂
睨まれた兵士は思わず後ろにのけぞる。
﹁ひるむなぁ! うてぇ!!﹂
号令に合わせ一斉に爆炎筒が火を噴く。だが、無情にも撃ちださ
れた火球がココネに当たる事は無く気付けばあっと言う間に距離を
詰められていた。
﹁クロウ様の攻撃を見ていたら、そんなのには当たりませんよ∼﹂
音速以上で飛ばされる剣風を目の前で見た彼女たちだ。火球など
は止まって見えるのかもしれない。もっとも音速で衝撃波を魔法も
無しで撃てるクロウが可笑しい気がするが、そんな事はもはや慣れ
たことなのでおいておこう。
その他の場所でもエリラ、獣族ペアの強さは圧倒的で彼女たちに
対して反乱軍は倒すどころか傷一つ付けれない始末であった。
そんな反乱軍の様子を遠巻きで見ていた皇帝以下帝国の者たちは
唖然とするしかなかった。人数も少ない上に戦い慣れした龍族など
出も無い、一見すると普通の奴隷である彼女たちの戦闘力は驚くし
か他無かった。
いや、充実した武器や服装をみただけでは奴隷とは見えないだろ
う。今や彼女たちを奴隷として示すのは首に付けられたチョーカー
ただ一つだろう。
﹁⋮⋮クロウよ、一体あ奴らはどこで手に入れた?﹂
2221
﹁どこって⋮⋮山賊︵国軍︶ぶちのめして全員同じ場所で見つけま
したよ。あっ、でもエリラは違いますよ﹂
﹁な、なに⋮⋮? そうなるとあ奴らはお主が育てたとでも言うの
か?﹂
﹁ええ、でもそれ以上に彼女らが真面目に鍛錬をしたからこそのあ
れですからね。私は手助けをしたにすぎませんよ﹂
﹁ふむ、本当に勿体無いな⋮⋮あれほどの実力があれば、国⋮⋮い
や大陸でも髄一の部隊となろうに⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮どうしたクロウよ?﹂
﹁いえ、私にはもったいないぐらいの人たちと思っただけですよ﹂
﹁ふむ⋮⋮お主のその奴隷を家族と見る価値観は一体どこから来る
のだ?﹂
﹁どこ⋮⋮そうですね⋮⋮今まで見て来た経験からとでも言ってお
きましょうか﹂
少なくともクロウには前世と言う別の世界を体験している。その
ためこの経験というのも間違ってはいない。ただ、その部分を説明
していないので皇帝からしてみれば、この世界のどこでそんな経験
を⋮⋮? と疑問しか残らなかった。
2222
﹁さて、大分数も減って来たようですし、そろそろですね﹂
﹁む? 何をするのだ?﹂
﹁最後のお片付けですよ﹂
そういうと、クロウは︽意志疎通︾で全員に指示を飛ばす。
﹁全員、そこまでだ。引いてくれ﹂
<了解>
<了解しました>
その合図と共に、エリラと獣族達は一斉に都市へと撤退を始める。
敵からしてみれば、何の前触れも無く、いきなり引き出したので、
ただただ混乱するしかなかった。
<もう少し倒したかったです>
<私が一番倒しましたよ∼>
<いや、私よ!>
<<私です!!>>
<うん、君たち。言い合うのは後でいいからサッサと戻ってきなさ
い>
<<<はーい>>>
﹁さて⋮⋮じゃあ、そろそろ終いとしますか﹂
そういうとクロウの手の上に魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣
を中心に様々な方向に線が延びその先にまた別の魔法陣がありその
魔法陣の中心からまた別の方に線が延びる⋮⋮と繰り返し気付けば
2223
魔法陣の数は100を超えていた。
一つ一つは手のひらサイズの魔法陣だが数が多すぎる。普通10
0個の魔法陣を結合させようとするならば、最低でも、強力な魔力
を持った魔導士30人は必要だからだ。それを一人で出してしまう
あたり、流石はクロウといったとことであろう。
さらに、今回はそれで終わりではない。その結合された100個
の魔法陣と同じ魔法陣が今度はクロウの上空に浮かび上がる。そし
て、その魔法陣の末端に、これまた同じ魔法陣が結合している。そ
の数実に20。魔法陣の数はこれで合計2200個にも上る。
﹁なっ!?﹂
これにはさすがの皇帝も驚きの様子を隠せなかった。通常の人間
が扱える量をゆうに超えてるので無理もないだろう。他の家臣、兵
士たちも同等の様子だ。特に魔法に精通している魔導士に至っては
へなへなと地面に座り込む始末だ。
スーパーノヴァ
﹁さて⋮⋮これが、俺の魔法です⋮⋮天体魔法⋮⋮︽超新星爆発︾﹂
手のひらの魔法陣の上に小さな火球が作られる。その大きさはゴ
マ粒ほどの大きさしか無く、巨大な魔法陣からはとてもではないが
想像できない大きさだった。
その小さな火球は、クロウの手から飛び出し、敵の方にへと飛ん
でいく。その小ささ故に常人の眼では直ぐに見えなくなってしまっ
た。
﹁⋮⋮?﹂
不発か? 誰もがそう思ったその時、突如反乱軍の中央が光った
かと思えば、次の瞬間、突如大爆発を起こしたでは無いか。その爆
2224
発の威力は凄まじく、数キロ離れたエルシオンの城壁でもその熱風
を感じ取る事が出来たほどだ。当然のことながら、下でエルシオン
に向かって逃げている獣族たちにも被害が飛んでいくが、そこはク
ロウのお得意な魔法制御で当たらないように工夫をしている︵具体
的に言うと、爆風と衝撃が当たらないように魔法の壁で彼女たちを
コーディングしてあげてる︶
大地が割けるがごとく轟音が響く。爆発の衝撃により地面が割れ、
エルシオンは地面が揺れるほどだった。
そして、爆発が止み暫くたったのち爆発の中心点あたりの煙が晴
れてくると、そこに人影どころか物すらも落ちていない巨大なクレ
ーターが出来上がっていた。
﹁⋮⋮!!!!﹂
あまりに唐突な出来事に言葉を失う帝国の者たち。そんな中早め
に我に帰った皇帝は、同時に背筋が凍るかのような恐怖を覚えた。
もし、あの爆発が自分らに降りかかっていれば⋮⋮爆炎筒など生
温い、これが本当の一方的な暴力⋮⋮いや、もはや暴力でもない無
への強制返還といえよう。
﹁⋮⋮さて、仕事は終わりました。次へと行きましょうか﹂
もはやクロウの言葉を聞ける者など、誰一人としていなかった。
2225
第223話:ターニングポイント3︵後書き︶
02/26:誤字を修正しました。
2226
第224話:夢は見れたか?
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
クロウの魔法を至近距離から見ていたエリラを始めとした彼女た
ちは、目の前で起きた惨状を理解するのに時間がかかった。爆発四
散と良く言うが、そんな生温いレベルではない。まさに﹁灰すらも
残さず﹂だった。
普段からクロウの魔法を目の前で見ている彼女たちからしてみて
も、これほどのレベルの魔法を見たのは初めてだった。勿論、事前
に聞かされてはいた。
==========
﹁とりあえずトドメに全員吹っ飛ばす魔法を使うからな。皆には当
たらないように制御するけど一応気を付けておいてな﹂
==========
﹁これをどうやって気を付ければいいのよ⋮⋮﹂
エリラの言葉は全員の心の内を代弁するものだった。ふと街の方
を見ると自分たちより遥かに爆心地から離れている街近くの森の木
々の一部はその枝に葉を残していなかった。地面に咲いていた草花
は最早どこにも見えず、先ほどまで緑が広がっていた草原は一変し
まるで火山地帯のような荒々しさになっていた。
﹁クロウ様のことですから、﹃これでも本気じゃないよ﹄とか言い
そうですね∼﹂
2227
﹁いや、流石にそれは⋮⋮﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
ココネが軽い冗談のつもりで言ったであったが、全員の心の内で
は﹁いや、クロウ様のことだからねぇ⋮⋮﹂と最早諦めじみた心の
声が広がっていた。実際のところはどうかはクロウだけしか知らな
い事だろうが、一つだけ言えたのは﹁あの人が敵じゃなくて良かっ
た﹂ということだろう。
﹁これはもう夜の営みでしか勝てそうにないですね∼﹂
﹁その営みでも複数人でようやく対等だからね?﹂
﹁⋮⋮あっ﹂
==========
電話やトランシーバーなどの通信機器が無いこの世界で、情報は
波状に広がる事が普通である。それはこの世界も例外では無かった。
8月7日、エルシオンにて反乱軍総勢1,300名が消滅。跡形
も無く消え去った。そしてこれをクロルパルスに届いたのは8月1
1日。このとき既に戦況は一変しており、各地で反乱軍が一方的に
撃破されるようになっていた。
その戦いを見ていた人たちは言う。
2228
﹁敵なんていないのに一方的にやられていた﹂
﹁何かが爆発していた﹂
﹁空から何かが落ちて来ていた﹂
この世界の人たちからしてみれば摩訶不思議な体験だっただろう。
8月8日、まずエルシオンにほど近い周辺都市に謎の攻撃が飛来。
反乱軍900人ほどがこの攻撃で命を散らしていく。その日の夕刻、
謎の爆撃により壊滅状態になった反乱軍に帝国軍が襲い掛かった。
今まで散々にやられていた分、その反撃ぶりはすさまじいものだっ
たと見たものは口々に言ったと言う。
翌8月9日、さらにエルシオンから離れた位置にあった都市にも
爆撃があった。もっとも都市とはいえ攻撃を受けたのは反乱軍の主
要部分のみで、この二日間で被害に遭った住民は面白半分で反乱軍
の所に行った若者が一人巻き込まれた以外に一般市民への被害は皆
無だった。
そして、8月10日。クロルパルス以外で反乱軍が制圧していた
街全てに攻撃があった。この攻撃により反乱軍は壊滅状態。気付け
ば残る拠点はクロルパルスのみ、一時期は4000と言われた軍も
気付けば僅か400名足らずと最盛期の10分の1にまで縮小して
しまっていた。
謎の爆撃。それはクロウがエルシオンで帝国の面々に言った﹃炎
零﹄による超高度からの爆発系の魔法による攻撃だった。
︽マップ︾の能力で各地のどこに何人いるかは事細かく分かる。
あとは、そこに向けてピンポイントに落とすだけの作業だ。口で言
うのは簡単だが、狙った所にピンポイントで爆弾を落とすのは通常
では不可能に近いことだ。クロウのスキル、魔法があってこそ初め
て成り立つ攻撃方法と言えよう。ちなみにこの炎零はいつかクロウ
がエリラに間違えてぶつけてしまった物の後続機に当たる。毎日エ
リラを初めとした全員の鍛錬に付き合い、日中はギルド内の店で経
2229
営、夜は獣族達とのハッスル行動とそれこそ寝る時間も無いような
生活の中でも着々と作り上げた最新兵器だ。
⋮⋮ちなみに皆は間違っても二週間不眠不休で活動をするような
事は無いように。と忠告だけはしておく。間違ってもしないように。
運命の8月11日。クロルパルスにエルシオンでの全滅の一報が
届いた。
﹁ふ、ふざけるな! そんな情報嘘に決まっているだろ!﹂
当然、この報告を信じる者はミロを始めとして誰一人としていな
かった。だが悪い報告はその後も続いた。その僅か数分後にエルシ
オン周辺都市での帝国軍による逆制圧。その1時間後にはさらに多
くの都市が奪還されたという報がミロの元へと届いた。
まるで準備していたかのように流れて来る報告。実はこれもクロ
ウの作戦の一環で同じ日に報告が集中するように敢えて攻撃日時を
ずらしていたのだ。クロウが﹁最短4日﹂と言ったのはこの時間差
攻撃を加味しての発言だったのだ。
最初の報告こそ嘘だと一蹴したミロであったが、その後に続いた
報告を聞くにつれ、この報告を認めざるえなかった。一人指令室に
籠ると頭を掻き毟り狼狽するミロ。
2230
﹁ど、どういうことだ⋮⋮!﹂
クロルパルスにやってくる早馬の情報を総括し、仮に全てが本当
だとしたら、十数個もの都市が僅か2日で全て奪われてしまったと
いうことになる。
﹁どうやって? そんなこと無理に決まっている! 立った二日で
最大で数百キロ以上離れている都市間を移動しつつ戦闘をするなど
不可能だ。と言う事は、今まで来た情報は全て嘘か!? そうだ嘘
に違いない! こんな馬鹿げた話があるか!﹂
﹁ところがどっこい、馬鹿げた話じゃないんだよなぁ﹂
﹁!? だ、誰だ!﹂
聞いたこのない声に狼狽したままの声で反応するミロ。見ると窓
際に一人の少年が立っていた。
﹁き、貴様どこから!?﹂
あの美しい声で演説をしていた彼はどこへやら、今のミロはまる
で廃人そのものだった。
﹁どこ⋮⋮? ああ、遠いエルシオンから来たんだよ﹂
﹁エルシオンだと⋮⋮!? いや、そんなことは来ていない! ど
うやってここに入って来たと言うのだ!﹂
﹁普通に窓から入って来たんだよ。あんたがあまりにも発狂してい
2231
て気付いていなかったようだけどな﹂
﹁な、なんだと⋮⋮!? き、貴様は何者だ!?﹂
﹁⋮⋮名乗るほどでも無いが言っておこうか⋮⋮初めましてミロ・
ザームさん。俺の名前はクロウ・アルエレス⋮⋮ただの冒険者だよ﹂
﹁冒険者だと⋮⋮!? そのただの冒険者が何故ここにいる?﹂
﹁それはあんたの兄さん⋮⋮グラムス皇帝に頼まれたからだよ。あ
んたを痛めつけてから俺の元へと持って来いってな﹂
﹁な、あ、兄がだと!?﹂
﹁そうだよ。どうだったかい? 一瞬の幸せは? いい夢はみれた
か?﹂
まるで挑発するかのような口調でクロウは言った。実際挑発して
いるのだが、と言うのもグラムス皇帝に﹁痛めつけてから持って来
い﹂と言われているからなのだが。ちなみに本来のクロウなら殴っ
て気絶させて持ってきます。
︵うわぁ⋮⋮俺今すげぇ悪人になってる気分やわ⋮⋮︶
︱︱︱スキル︽悪人面︾を取得しました。
==========
スキル名:悪人面
分類:生活スキル
2232
効果:脅迫、挑発、詐欺発言に追加補正︵相手がより怖がる、挑発
に乗りやすくなるなど︶
==========
︵あっはい︶
﹁貴様⋮⋮一体どういう事だ! 説明をしろ!﹂
﹁あー、はいはい。今説明するよ﹂
脳内アナウンスをスルーしつつ、クロウはエルシオンの戦いが起
きた8月7日からの説明を始めるのであった。
2233
第224話:夢は見れたか?︵後書き︶
いい夢は見れたか⋮⋮これを聞いたらあの言葉が思い浮かぶのは
私だけでしょうか?︵ヒントは♂︶
2234
第225話:魔族に悪魔と呼ばれた
﹁ふ、ふ、ふざけるなぁ!﹂
8月7日からの4日間の出来事をかい摘んで話したクロウに返さ
れた言葉は、そんな言葉だった。
︵まあ、無理もないけど︶
4日間の出来事はこの世界にはあまりにも理不尽過ぎる内容だっ
た。未知なる武器が出て来たと思いきやその武器は一瞬にして地に
還され、空から何かが落ちて来たと思いきや急に爆発が起き、気付
けば反乱軍が3週間かけて制圧した土地は僅か4日にして大部分を
奪い返されており、理解する方が無理であろう。
﹁今言ったことを全て信じるか信じないかはあんたの自由さ。どう
せこれから嫌でも現実を見なければならないんだからな﹂
﹁信じる訳がないだろ! こんな戯言を何故信じなければならない
!? 衛兵! こいつを摘みだせ!﹂
どうやらミロは信じる気は毛頭も無い様だ。大声で外にいるであ
ろう兵士にクロウを外に連れ出すように指示を飛ばす。
だが、いくら待っても兵士が来る様子はなかった。再度大声で指
示を飛ばすが結果は変わらず。不気味な静寂だけが辺りを支配して
いた。
﹁な、何故だ⋮⋮何故誰も来ない?﹂
2235
﹁ああ、もしかしてあいつらの事か?﹂
呆れたクロウは窓の外を指さした。ミロは窓にへばりつくように
近づき、外を見つめた。
外に見えたのはいつもの風景に少しだけ慌ただしい人が多いよう
に見えただけだった。
﹁!?﹂
だが、その慌てている人を見た瞬間、ミロの目の様子が変わった。
何故ならそこにいたのは本来、反乱軍の拠点を守る反乱兵だったか
らだ。それも一人二人では無く十数人規模で四方八方へと逃げてい
るではないか。中には支給されていた爆炎筒やその他装備を投げ捨
てほぼ裸の状態で逃げている者もいた。
﹁ば、馬鹿な⋮⋮!? どこに行こうとしている!? 逃げるなぁ
!﹂
窓をこじ開け、張り裂けるような声でミロは叫んだ。だが、その
声に足を止める者など誰一人としていなかった。
﹁あいつらなんかいい方だよ。上のお偉いさんみたいな恰好をして
た奴らなんて大分前に逃げてたぞ?﹂
﹁なん⋮⋮だと⋮⋮!?﹂
﹁まあ、所詮はこんなもんだよ。聞けば随分と甘い言葉で誘ったよ
うじゃないか﹂
2236
﹁甘い言葉⋮⋮? 違う! 私は国民の生活を今よりも良くしよう
としただけだ! 見ろ! 今の帝国を! これが人間の生き様か?
これでは家畜と同程度の扱いではないか! こんな生活誰が望む
!? お前はこんな苦しい生活をしている民を放っておけと言うの
か!?﹂
﹁⋮⋮別に放置しろなんて言って無いだろ﹂
﹁なら︱︱︱﹂
﹁でもよ、その前に考えたか? 何故帝国の民はこのような苦しい
生活を強いられているのかを?﹂
﹁勿論考えたさ! これは国の強兵政策が原因だ! 兵士を強くし
ようがために軍事費に多額の税金をかけ軍事力のみを上げようとし
た結果がこれではないか!? 国民が豊かになれば必然的に収益も
上がる。軍事費などその次でいいではないか!﹂
﹁⋮⋮まあいいさ。お前がそう思っているならそれで﹂
﹁なんだ、まるでお前は違うかのような言い方だな!?﹂
﹁そうだよ。少なくともあんたの考えに納得はしていない﹂
﹁なっ!? ならお前ならどうすると言うのだ!?﹂
﹁⋮⋮部外者の立場から言う必要は無いだろ? まあ、強いて言う
なればあんたの兄さん⋮⋮現皇帝のやり方に賛同はしないが納得は
している﹂
﹁お、お前も︱︱︱﹂
2237
﹁はいはい、この話はお終い﹂
そういうとクロウは一瞬でミロに近づくとミロのみぞおちに強烈
な膝蹴りを加える。ドスンと鈍重な音が響きミロの体が一瞬硬直し
たかと思うと次にはミロは自身の体から意識を手放しており重力の
成すがまま地面へと倒れ込んでしまった。
﹁⋮⋮ったく、歴史から学びなおせよな⋮⋮さて、オマケはこれで
お終いと⋮⋮次は⋮⋮﹂
クロウは窓の外を見ると次なるターゲットに狙いを定めた。
==========
﹁チッ⋮⋮これは予想外だな⋮⋮﹂
クロルパルスの中心地から外れた郊外に位置する建物の4階にて、
一人の魔族がクロルパルスの中心地を見ながら舌打ちをした。
この建物は1∼2階建てが多いクロルパルス郊外の中では4階建
てと高さは頭一つ抜け出ていた。そのためここからクロルパルスの
中心地は良く見え今もその中心に建つ反乱軍の拠点から兵が逃げ出
しているのが見えていた。
﹁あの少年⋮⋮やはり危険過ぎる⋮⋮早々に手を打たね︱︱︱﹂
﹁誰が危険だって?﹂
2238
﹁!?﹂
バッと振り向いた瞬間、魔族の顔面にまるで鋼鉄のような拳が突
き刺さった。身体能力的には人よりも遥かに高スペックな体を有し
ている魔族であったが、この攻撃は受けきれずに地面へと叩き伏せ
られる。
アースチェーン
﹁︽土鎖︾﹂
魔族の周囲に土の鎖が纏わり付きやがてガッチリと魔族を拘束し
た。自力で引きちぎろうともがく魔族であったが、鎖はジャラジャ
ラと音を鳴らすだけで切れる様子は全くなかった。
﹁やめときな、あんたの力で千切れるほど軟な魔法じゃないぜ﹂
﹁き、貴様は!?﹂
魔族が初めて自身を襲った者の顔を見ると、先ほどまでクロルパ
ルスの反乱軍拠点にいたはずの少年の顔ではないか。
﹁覗きとは悪趣味な魔族だな﹂
﹁いつから気付いていた!?﹂
﹁最初からだよ。覗くならもっと気配を消したりすることをお勧め
するぜ?﹂
﹁チッ⋮⋮﹂
舌打ちをしながらごそごそと自分の腰辺りを探る魔族の手には目
2239
くらましようの閃光弾が握られていた。これを使い一瞬の隙を突き
逃げる算段だったのだろう。だが、同じ魔族から同じ手を一度受け
ている少年に隙は無かった。
魔族に括り付けた土鎖のうち手を拘束していた部分に︽瞬断︾の
能力を付与。そしてそのまま手の拘束を一段ときつくする。土の刃
と化した鎖が魔族の手に抉り込み、そこから血が流れ出る。その痛
みに思わず手に持っていた閃光弾を地面へと落としてしまった。地
面へと落ちた閃光弾が光を放とうとした瞬間、閃光弾の周りに土が
かぶさりすっぽりと囲ってしまったではないか。当然こうなってし
まえば攻撃力を持たない閃光弾は完全に無力化されてしまったとい
えるだろう。
﹁その手で一回逃げられているからな、恨むならその手で逃げた魔
族二人組を恨むことだな⋮⋮さて、聞きたいことは山ほどある。全
てに答えてもらうからな?﹂
﹁ふん⋮⋮簡単に話すとでも思うか?﹂
﹁まさか? こういう時は拷問でもするのがセオリーなんだろうが
⋮⋮﹂
そういうと少年の手から光が放たれ魔法陣が現れた。
﹁面倒だから全て洗いざらいしゃべって貰おうか﹂
魔族の方へ魔法陣が現れている手を出すと魔法陣からより強い光
が放たれる。
フォーシング
﹁︽強制︾﹂
2240
魔族の体を光が覆う。その光は僅か数秒にして消え去り、後には
魔法陣が現れる前の様子に戻ってしまった。
﹁? 何をした!?﹂
﹁今から分かるよ⋮⋮さて、じゃあ早速かかっているか確認させて
もらおうか。手始めに﹃今回、ミロに爆炎筒を渡したのはお前だな﹄
﹂
︵ふん、何故それを答えなければならな︱︱︱︶
﹁そうだ、私だ︱︱︱!? な、何故だ!? わ、私は今︱︱︱﹂
﹁その様子だと効いたようだなよかったよかった﹂
﹁き、貴様ぁ! 私の体に何をした!?﹂
﹁俺とあんたとの間で簡易的な︽隷属︾関係を結ばせただけだよ。
さて、これであんたはもう嘘は付けなくなった。全て知っている事
を洗いざらい吐いて貰うから覚悟しておくことだな﹂
﹁こ、この悪魔め!!﹂
﹁魔族が人に悪魔と言うか⋮⋮フォート城のときと一緒だな﹂
﹁フォート城⋮⋮? き、貴様、まさかフォート城での同士も︱︱
︱﹂
﹁おっと、俺は答えないぜ? それと俺の質問が終わるまで自爆関
係の命令を一切禁止する⋮⋮逃げられると思うなよ?﹂
2241
﹁く、くそがぁ!!!﹂
魔族の声も虚しく、少年⋮⋮もといクロウにによる質問の時間が
始まるのであった。
2242
第225話:魔族に悪魔と呼ばれた︵後書き︶
悪魔度:クロウ>>>>>>魔族
魔族の悪魔っていったい何なんでしょうね? 天使とかでしょうか?
==========
03/08:誤字を修正しました。
2243
第226話:神からの授かりもの
﹁さーて、どこから喋ってもらおうか﹂
﹁くそがぁ! なんだこの鎖は!? パワーでは魔族の上位に入る
私が引きちぎれないだとぉ!?﹂
拘束した縄を解こうとジタバタする魔族であったが、鎖が斬れる
様子は全く無かった。俺が作れる︽土鎖︾の中でも最大の強度を持
つ鎖はどうやら魔族でも切る事は出来無い様だ。
﹁だから、あんた程度の力でどうにかなる代物じゃねぇって俺がち
ぎるか解くかのどちらかだよ﹂
正直、この様子を見て少し安心している。この前のハルマネでは
俺の魔法が殆ど通じなかったから魔族に俺の魔法は通じないのかな
って思っていたところだし。
コレ
﹁まて⋮⋮お前まさかグーロスとハザムに鎖を付けた者か!?﹂
﹁グーロスとハザム? 誰だそいつら? 言え﹂
﹁共に魔族幹部の者だ。エルシオンに出て行ったと思ったらこれと
同じ鎖を付けて帰って来たのだ。しかもその鎖も丈夫で私たちがど
んな手でちぎろうとしてもびくともしなかった⋮⋮お蔭で、今も彼
らは縛られた生活を余儀なくされてるわ!﹂
﹁うわぁ⋮⋮﹂
2244
マジかよ。多分エルシオンっていうことは、いつかの逃げられた
魔族二人のことだろう。てか、まだ縛られたままなのかよ⋮⋮俺の
魔法持続性がありすぎないか? 既に数か月は経過しているぞ? 数か月間縛られたまま生活? 俺だったら発狂してるわ。
自分のやったことに若干ドン引きしてしまったが、聞きたい話は
そんなことではない。気を改めて聞きたいことを順次聞いていくこ
とにする。
﹁まず一つ目。あんたらの目的はなんだ? アルダスマンといい今
回の件といい、人同士で争うのを見る趣味でもあるんか?﹂
﹁貴様らみたいな下等種のつまらぬ争いなど見る趣味は無い。簡単
な話だ。人には滅んでもらいたい。だが、人を滅ぼすには魔族は数
が少なく時間がかかる。なら人同士で消し合ってもらおうという算
段だ﹂
﹁ふぅん⋮⋮で、人同士の争いで武器を渡していると? あんな強
そうな武器をか?﹂
﹁ふん、我らは魔族ぞ? 人に数百程度あれがあったぐらいで何が
出来る? それに量産できる技術が人族に無い事も確認済みだ。あ
れを渡したところで我らには殆ど被害は無い。それに対し人はどう
だ? あんな武器があれば持って一列に並んだだけで、相手を屈す
ことも可能だろう。そんな物を殺してでも入手しようとは思わぬか
?﹂
﹁ふぅん⋮⋮ちなみに量産されたらどうするつもりなんだ? あん
たは出来ないと言ったが⋮⋮﹂
2245
そういうと、俺は普段使っている銃を取り出した。それを見た瞬
間魔族の眼の色が変わった。
﹁御覧の通り、俺は量産⋮⋮いや、あんたらが作ったポンコツなん
かより強力な武器を作れるぞ?﹂
﹁ばっバカな⋮⋮!? 人がいつのまにそんな技術を⋮⋮!?﹂
﹁そこで二つ目の質問だ。あんたらが人に手渡した爆炎筒は誰が作
⋮⋮いや、誰が提案をした?﹂
﹁提案⋮⋮? それは知らぬがそれを授けたのは我が主君の魔王様
だ﹂
﹁魔王⋮⋮﹂
俺が魔王って聞くとやっぱりドラ○エの魔王を思い出す。この世
界にも魔王と呼ばれる奴はいるんだな⋮⋮。
﹁その魔王は発明家か?﹂
﹁発明家などでは無いが聡明で魔族一の美貌を持つ我らが魔王様は
神との通信を行う事が出来ると言う。そこから作り方を聞いたと同
胞の誰かが言ってたぞ﹂
美貌って⋮⋮魔王様は女性か⋮⋮この世界は前世とは違い男尊女
卑の考え方は本当に無いんだな⋮⋮。領主が女性と言う事もよくあ
る事らしいし、アルゼリカ理事長みたいに一国の軍隊の一つを任せ
られるほどだもんな。
いや、そんなことは問題では無い。問題は後半の言葉だ。神って
2246
⋮⋮いや、確かにセラから話は聞いていたし、この世界の文明レベ
ルからみたらどう考えても可笑しい兵器だったから薄々は感じてい
たけど神様思いっきり地上に干渉してるじゃん!
﹁そうか⋮⋮じゃあ次の質問だ。お前らは身体を魔力に汚染させる
ようなアイテムも作ったりするのか?﹂
﹁ああ、作るぞ。魔力を体に過剰に取り込み一時的に身体能力を爆
発的に上げれる薬だ。だが、使用すれば最後、過剰に取り込まれる
魔力の前に体が支えきれなくなり消滅するがな﹂
﹁それは量産できるのか?﹂
﹁それは無理だ。調合に時間がかかる上に作成難易度も高く、おま
けに材料は見たことが無いそうな物ばかりらしいからな﹂
﹁らしいと言う事は、あんたは見た訳じゃないんだな?﹂
﹁作れるのは魔王様だけな上、材料は秘匿になさっているからな﹂
﹁ふぅん⋮⋮これ、人が持っていたんだけどどういう事だ?﹂
そういって俺はレシュードから奪った紫色の錠剤を魔族に見せる。
﹁!? この薬⋮⋮何故貴様が持ってる。先ほどの武器と言い貴様
は一体何者だ!?﹂
﹁ある人間が飲もうとしたのを止めたんだよ。あと、俺はただの冒
険者だ運がいいだけのな﹂
2247
なるほどな⋮⋮どうやらあの武器もこの薬も神がこっちに上げた
もののようだ。
何故武器は神から授かったと言って薬は秘密にする? こんな常
識はずれな薬なうえ材料は秘密⋮⋮武器の話と組み合わせれば薬も
神が魔族に授けた物と言っても間違えでは無いだろう。もし、神の
でなければ作り方ぐらい魔族が分かってもおかしく無いはずだ。
⋮⋮これはセラに報告だな。
﹁う、運がいいだけだt︱︱︱﹂
﹁はいはい、その話はお終い。最後の質問だ⋮⋮ガラムとハヤテと
いう人物を知ってるか?﹂
﹁︱︱︱何⋮⋮? 二人とも我らが魔王様の幹部だが、貴様とどう
いう接点がある!?﹂
﹁魔王幹部ねぇ⋮⋮﹂
よし、今度会ったら消そう。魔族が人間の中で重要なポストに就
いているとか洒落にならないわ。エリラの一件も含めガラムは出会
ったら消して、ハヤテも見つけ次第海の藻屑にしとこう。もっとも
アルダスマン国が滅んだ今あいつがどこで何をしているのか全く分
からないのだがな。
﹁何故お前らは人の中にそこまで溶け込める? ガラムといいハヤ
テといい、役職的にはいい位置に着き過ぎだ﹂
﹁スキルだ。我らには彼らのスキルから欺くスキルを持っている。
それを活用すれば人の生活の中に溶け込むことなど朝飯前だ﹂
﹁それはこちらがどんなに良いスキルを持っていても看破出来ない
2248
レベルなのか?﹂
﹁ああ出来ない。何故ならスキル自体を無効化できるからな﹂
﹁スキルを無効化⋮⋮? もしかして魔法の無効化も可能か?﹂
﹁当然だ﹂
﹁よし、今目の前でやってみせろ﹂
﹁無理だ。あれは特殊な装置をや魔法陣を使わなければ出来ない。
少なくとも今の私では不可能だ﹂
﹁チッ⋮⋮それはお前らが作ったのか? それとも神からの贈り物
か?﹂
﹁そんな事は知らん。ただ唯一言えるのは古くから魔族に伝わると
言う事だけだ﹂
﹁⋮⋮面倒な⋮⋮﹂
ハヤテにチェルストでやられた転送魔法⋮⋮あのとき俺の︽魔力
制御︾が聞かなかったたり、エリラを探すときに魔法探知外の場所
が出来たのはそれが理由か⋮⋮ならば⋮⋮
﹁質問を追加だ。その装置や魔法陣の事を出来るだけ詳しく教えろ﹂
そこからは魔族のちょっとした講座タイムが始まった。結論から
言うとウィルス対策ソフトと同じで特定のスキル、魔法に対して動
きを無効化するスキルや魔法陣を使う様だ。
2249
ただ、聞いた魔法陣を見るとスキルや魔法の能力を一部変えれば
無効化されないことも同時に分かった。これは後で俺のスキルとか
も書き換えておくか⋮⋮なんかやっている事がハッカーみたいだな。
コンバート
︱︱︱スキル︽交換︾を取得しました。
==========
スキル名:交換
分類:特殊スキル
効果:スキル、魔法の魔法式を一部自動で書き換える。
==========
⋮⋮こ、これで無効化されることも無いだろう。
﹁⋮⋮以上で質問は終わりだ。その鎖は解いてやる、ついでに︽強
制︾も解除して置こう﹂
そう言って俺は土鎖を解除する。
﹁!﹂
その瞬間、魔族は窓から外へ飛び出し一目散に逃げようとした。
だが︱︱︱
一瞬で魔族に追いつくと、背後から刀で一刺し。ズンッという音
と共に魔族から赤黒い血が溢れ出る。
﹁き⋮⋮貴様⋮⋮﹂
﹁勝てないと判断して逃げようとしたのは賢明な判断だが相手が悪
かったな。鎖は解いた、だが誰か殺さないと言った? 鎖を解いた
のは刀が傷つくのが嫌だっただけだよ⋮⋮死にな﹂
2250
刀に膨大な魔力を注ぎ込む。刀の刃から既に刀に収まり切れない
魔力が外へとあふれ出している。
﹁起爆﹂
刀に貯めた魔力が瞬間的に一か所に凝縮。そして一気に外側へと
拡散を開始。音速の数倍程度の速さで飛び出した魔力の粒は魔族の
体を内側から抉り魔族の体はあっという間に細切れになり四散して
しまった。
あれ
﹁⋮⋮さて、用件は済んだ。ミロを回収してとっとと戻るとするか﹂
刀についた血を払いのけたのち、俺はミロを片手にエルシオンへ
と帰還した。
==========
﹁帰って来ました、約束のやつです﹂
﹁ほぅ⋮⋮本当に戻って来るとな⋮⋮どうやっ⋮⋮いや、聞かない
ことにしておこう﹂
エルシオンに︽門︾を使って戻った俺は帝国軍の指令所で待つ皇
帝の元へと来ていた。僅か数時間でエルシオンからクロルパルスに
いるミロをどうやって持ってきたのか皇帝は非常に気になったが、
2251
聞かないことにした。
﹁それは有難いですね。まあ、聞いたところで答えませんけど﹂
それは、きっと俺がこう答えることを分かっていたのだろう。無
駄な話をしないで済むので俺としては有難い限りだ。皇帝との話は
大したものは無かった。お礼の件も含め後日また改めて話をすると
いうことだけだった。
﹁そうだろうと思ったわ、さて⋮⋮そやつは我が貰う。後日、話を
聞くつもりだがお主にも同席してもらう。お礼の件はそこで話そう﹂
﹁そうですか。では私は帰りますね﹂
﹁⋮⋮それにしても、まさか本当に数日で片を着けるとはの⋮⋮ど
うやら我は良い買い物をしたようだ﹂
﹁それは光栄ですね﹂
﹁ふっ、戯けを。我から言わして貰えば最後までお主の手のひらで
踊っていた気分だ﹂
﹁⋮⋮まあ、いい勉強になったと思えばいいのでは? 世の中には
頭のねじがおかしいぶっとんだ奴もいると言う事が分かったじゃな
いですか﹂
﹁フハハハッ、自分で自分を頭のねじが外れた奴と言うか?﹂
﹁少なくとも世の中の理から外れたことをしている自覚は持ってま
すよ﹂
2252
﹁そうだな。そんな奴が力を持っておると言う事も重々承知してお
こう。では、後日改めて顔を出してもらうが良いか?﹂
﹁いいですけど⋮⋮どこで? 数日間エルシオンにいるつもりです
か?﹂
﹁なに、どのみちエルシオンとハルマネは見て回る予定だったので
な、クロルパルスからの報告が来る前に見回って来るだけだ﹂
﹁そうですか。では、日時が決まりましたらまた会いましょう﹂
﹁そうしてもらおうか﹂
こうして俺は皇帝のもとを後にした。
これで、やることは全てやり終わったかな?
⋮⋮家での私用が終わってないけど。なんでだろう、帰路が重く
感じる⋮⋮主に性的な意味で。
2253
第226話:神からの授かりもの︵後書き︶
数か月間、拘束されっ放しな魔族のお二人。今回殺された魔族の
方が実は幸せだったりして⋮⋮?
次回、クロウが夜の活動で本気になります。
2254
第227話:結果発表とお仕置き︵前書き︶
さあ、皆さん全裸待機は出来たか?
私はいつでもいいぞ!
※今回の内容はかなりアウトな内容となっております。閲覧する際
は自己責任でお願いします。
2255
第227話:結果発表とお仕置き
俺は恐る恐る家に帰りついた。本来なら﹁ただいまー﹂﹁おかえ
りなさいなのです!﹂とフェイのダイブを受ける所までがテンプレ
なのだが残念ながら今日はそんなことはなかった。
﹁あっ、クロウ様が帰ってきました!﹂
﹁クロウ様! 早速結果発表をお願いします!﹂
わらわらと出迎えたのは獣族の大人たちだ。
何の事かと言うと、先日のエルシオンでの反乱軍との一戦で誰が
どれくらい倒せたかのお話だ。あのときエルシオンに戻って来るや
否や﹁私が一番倒した!﹂と街中で獣族が俺に主張をしてきたのだ。
別に構わないのだが帝国の人たちの目の前では色々変な目で見られ
るから多少は自重してもらいたかったな⋮⋮あっ、でも既に変な目
で見られているから変わらないか︵諦めの心︶
==========
﹁あー、分かった分かった。皆の自己申告じゃなくても俺が数えて
いるから後日発表するよ﹂
そういって俺は獣族達を取りあえず落ち着かせようとした。
﹁﹁えっ、数えていたのですか!?﹂﹂
﹁当たり前だ。皆が嘘を言うとは思ってないけど実際、死にかけで
したなんてこともよくあるしな。どこまで正確か分からないだろ?
2256
だから、俺が最初から数えていたという訳だ﹂
もっとも、数えたのはスキルなのだが︽マップ︾の機能で敵の数
みたいに数を数えれるシステムが存在するがそれを応用して、誰が
何体撃破したかを判定するシステムを作り上げて使ったのだ︵この
日の為だけに作成しました︶
﹁頑張って数えていたのに⋮⋮﹂
﹁いや、スキル出来たの今日だったから言えなかったんだよ、ごめ
んな﹂
﹁い、いえ! クロウ様が謝ることじゃないですから! で、け、
結果はいつ発表ですか?﹂
﹁あら∼シャルは早くクロウ様とセ︱︱︱﹂
﹁おい、ここで言うな! 街中だぞ!﹂
街中でとんでもない発言を仕掛けたのをギリギリで制止する。既
に周囲から﹁えっ、何アレ﹂と注目の的になってしまっているのに、
そこに爆弾発言をしたらあとで何て言われるか分かったものではな
い。ハッと現実に帰った獣族達はここに来てようやく公共の場とい
うことを思い出したのか顔を赤面にした。遅い。気付くの遅すぎる
よ君たち。
﹁⋮⋮最近、自重しないわね⋮⋮﹂
ボソッとエリラが呟いたが俺もその言葉には同感だ。獣族の性欲
を完全に舐めていたわ、まさかここまで強いものだとは⋮⋮。
2257
﹁いいか、今回の件が片付いたら発表するから、それまでは我慢し
てること、いいか?﹂
﹁﹁﹁はーい﹂﹂﹂
クロウの言葉に返事をする獣族達を見ていたエリラはこう思った。
︵⋮⋮我慢してたら反動が来そうね⋮⋮︶
エリラの疑問は予想通りの結果として当たる事になる。
==========
﹁﹁クロウ様! 誰が一番なのですか!?﹂﹂
尻尾をパタパタと振る大人の獣族たち。その後ろから見ていた子
供の獣族たちは若干ドン引きしていた﹁今日のお母さんたちおかし
いのです⋮⋮﹂とフェイの言葉は子供全員の心の声を代弁している
といえよう。
﹁ああ⋮⋮ここまで来ると手遅れね⋮⋮エロ獣が⋮⋮﹂
天を仰ぎながらエリラが呆れた物言いで言った。エリラ、俺は今
日ほど君を常識人と捉えたことはないぞ。
﹁あら∼はしたないですわよ皆さん∼﹂
そういうのはココネだ。いつも通りののんびりとした感覚は健在
2258
だったが、それとは裏腹にしっぽをぶんぶん振っている⋮⋮分かり
やすい⋮⋮どうやらココネも楽しみにしているようだ。
﹁お、教えるから! 教えるから落ち着け!﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
俺の言葉に急に静かになる大人たち。怖い。マジで怖い。そして
静かに出来てもしっぽをぶんぶん振っているのですごいシュールな
絵面だ。君たちは餌を待つ猫たちかな? あっ、餌を待っていると
いう意味では当たっているな。
﹁え、えっとなぁ⋮⋮先日の戦いで一番反乱軍を倒した奴だが⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮シャルとニャミイが同率1位だ﹂
その言葉に狂喜するもの一名、顔がにやにやしているのが一名、
ぐったりとしている者、その他大勢。時間にして僅か1秒足らず。
たった1秒で生き物ってここまで哀楽を表現できるものなんだと思
うレベルだ。
﹁ふ、ふふふやりました⋮⋮が、頑張ったかいがありました﹂
しっぽをぶんぶん、耳をパタパタ。シャル⋮⋮君はそれほどまで
喜びを表現したときが今まであっただろうか⋮⋮。
﹁え、えっと⋮⋮これはどうなるのでございましょうか?﹂
2259
ニャミニが顔をにやにやさせたまま聞いて来た。口元が緩み過ぎ
て今にも涎でも垂れて来そうだ。
﹁同率とか考えて無かったからな⋮⋮まぁ、順番かな?﹂
﹁く、クロウ様と二晩二人っきり⋮⋮﹂
今頃思い出したかのようにニャミニの顔が赤くなる。それくらい
赤いかと言うと今にもポーと汽笛のなる音が聞こえそうなほど赤か
った。しっぽは今まで見てきた中でも一番よく振れている。
﹁うそぉん⋮⋮﹂
﹁う∼ん、残念ですわね∼﹂
そんなシャルとニャミィとは対照的にまるでこの世の終わりかの
ように絶望する他の大人の獣族たち。死屍累々とよく言うが今のこ
の状態はその言葉がぴったりと当てはまりそうだ。おいフェーレ、
床にへばりつくんじゃない、いつもの元気はどこに行った? 他の
皆も起きろ、今の状態は死人と変わらないぞ。
﹁お、お母さんたちやっぱり今日はおかしいのです⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そうね⋮⋮今日はそっとしておきましょう﹂
子供たちの色々な恐怖を取り除くためがテリュールがいつも以上
に優しい口調で子供たちを庭へと連れて行った。グッジョブだテリ
ュール。今の獣族たちは大人の威厳も何もあったものじゃないから
な。
2260
とまあ、結果発表はこのような感じで終わった。エリラが一番じ
ゃなかったのは意外だったが、実は戦闘中に薄々気付いていたりす
る。ちなみにエリラの順位は4位で3位はココネだ。
﹁⋮⋮エリラ﹂
﹁ん? 何?﹂
﹁⋮⋮手抜いただろ?﹂
﹁あっ、バレた?﹂
アド・アビリティ
﹁普通にやればエリラが負けるはずないだろ? ︽能力加算︾と範
囲魔法で簡単に勝負がつくはずだよな﹂
﹁うーん、そうなんだけどね。︽能力加算︾の実験も兼ねて剣と多
少の魔法だけでもいけるかなって思ったんだけど、みんな意外と強
かったね。クロの指導が良い証拠ね﹂
﹁よせよ。褒めても何も出ないぞ?﹂
﹁あら? 褒めなくても色々出るじゃない⋮⋮皆の為にクロが毎日
頑張っているから皆も答えたかったのよ。たぶん能力以上の強さを
皆持っていると思うわよ﹂
﹁⋮⋮そうだな﹂
﹁まあ、3割ぐらいは性欲だと思うけど﹂
﹁⋮⋮それが無ければ完璧なんだけどな﹂
2261
エリラは指導が良い証拠と言ってくれたが、俺はどこで︵性欲の︶
指導を間違えたのだろうな。
==========
﹁クロウ様早速やりましょう!﹂
晩飯を食べ終わり片付けも終わりに近づいていた時のことだ。シ
ャルは待ちきれんとばかりに俺の前へとやってきた。
﹁早速って⋮⋮まだ就寝までは時間があるz︱︱︱﹂
﹁いいえ、待ちきれません! 立った二日しかないのですよ? 一
秒たりとも待てません!﹂
﹁いや待て、落ち着け︱︱︱﹂
﹁待てません! もう下も準備万端で色々溢れそうなので早くお願
いします!﹂
おい、マジで待て。アカン、その言葉はアカン。特に子供たちが
いる前でそれはアカン!
﹁下のじゅんび? あふれる? 一体なのことなのですか?﹂
﹁⋮⋮フェイ⋮⋮世の中には知らないで良い事もあるのよ﹂
﹁?﹂
テリュールが諦めた表情でフェイに優しく言った。もはやどっち
2262
がお母さんか俺には分からない。
﹁⋮⋮分かった。先に行っておいてくれ。直ぐに行くから﹂
﹁直ぐにですよ!? では、先に行っておきます!﹂
そういうとシャルは猛ダッシュで二階へと昇って行った。いつも
の冷静なシャルはどこへやら、人⋮⋮じゃなくて獣とはこうにまで
なるものなのだろうか。
﹁テリュール⋮⋮取りあえず子供たちは任せた﹂
﹁⋮⋮分かった⋮⋮﹂
﹁あれは朝になっても離さないパターンね﹂
エリラが苦笑気味に言った。いや、あの様子だと朝どこか一日離
さない気がする。まあ、今回はアレを使うから大丈夫だろう。
﹁大丈夫だよ。2時間ぐらいで終わらせて来るから﹂
﹁⋮⋮2時間?﹂
呆気に取られているエリラをよそ目に俺は二階へと上がるのだっ
た。
2263
==========
﹁クロウ様待っていました!﹂
部屋に行くとすっぽんぽんのシャルがベットの上で待機していた
︵でも服は綺麗に畳んで置いてあった︶
︵⋮⋮ここまで雰囲気の無い営みがこれまであっただろうか︶
数日間、我慢させた結果がこれだとするならばさっさと、その日
の内にすれば良かったと後悔をする俺。我慢させて猛々しい営みを
するという薄い本のような展開をまさか体験する事になるとは夢に
も思わなかった。
﹁ああ、待ってろ準備をするから﹂
そういうと俺はテーブルの上に︽倉庫︾から取り出したものをポ
ンポンと置いていく。
﹁⋮⋮? クロウ様⋮⋮それは?﹂
・
テーブルの上には何やら棒みたいなのが置かれていた。太さは5
・
00円玉よりも大きいぐらいであろうか? それが数個テーブルに
・
置かれており、それが外にも大小様々な棒があった。ナニの形をし
ているようにも見えるが中には飴玉が連結したような棒もあるから
気のせいだろう。
﹁ん? これか? 自制が効かないシャルにお仕置きをするための
道具だよ﹂
2264
﹁お仕置き⋮⋮?﹂
﹁さて、これで全部かな。じゃあ始めようか﹂
・
そう言うと俺は魔法を唱えた。手の上に小さな魔法陣が浮かび上
・
がり、そこから何やらホースのような棒がにゅるにゅると出て来た。
出て来た棒はうねうねと動いておりまるで生きているかのようだっ
た。そして、それは一本だけでは無く魔法陣からさらに数本ほど飛
び出て来たではないか。
﹁え、えっと⋮⋮クロウ様⋮⋮一体な、何を⋮⋮?﹂
﹁それは始まってからのお楽しみということで﹂
その後、始めての経験を前に何とも言えないシャルの声が周囲に
響き渡るまでにそんなに時間はかからなかった。
==========
2階から降りて来た俺は、エリラを始めとした皆︵主に獣族の大
人︶に驚かれた。
﹁えっ、あれ⋮⋮? クロ⋮⋮?﹂
﹁ん? なんだ? 鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしてさ﹂
2265
﹁あっ、いや⋮⋮その⋮⋮まだ1時間程度しか⋮⋮シャルは⋮⋮?﹂
﹁ああ⋮⋮彼女か⋮⋮てか、二階に上がってまだ1時間程度しか経
っていないのか、思ったよりも早かったな﹂
皆が集まっているテーブルに片付けられていた椅子を一つ座りどっ
こいしょと座る俺。そして、エリラの問いに俺はゆっくりと答えた。
﹁⋮⋮上で幸せな顔で気絶しているよ⋮⋮﹂
﹁﹁﹁???﹂﹂﹂
その意味を理解できる者は誰もいなかった。
トップテクニシャン
︱︱︱スキル︽対女性︵営み︶︾を取得しました。
トリッキーテクニシャン
︱︱︱特殊条件︻上級技術者︼を取得しました。
マジックテクニシャン
︱︱︱特殊条件︻特殊技術者︼を取得しました。
︱︱︱特殊条件︻魔法技術者︼を取得しました。
︱︱︱特殊条件︻夜の帝王︼を取得しました。
︱︱︱スキル︽精神耐性︾のレベルが10になりました。スキル︽
無心︾へとスキルアップします。
︱︱︱スキル︽誘惑耐性︾を取得しました。
ナイトキラー
︱︱︱スキル︽対女性︵営み︶︾のレベルが10になりました。ス
キル︽夜の天敵︾へとスキルアップします。
︱︱︱スキル︽誘惑耐性︾のレベルが10になりました。スキル︽
2266
誘惑耐性︾の上位スキルは︽無心︾のため、︽無心︾へと統合され、
︽無心︾に+1の補正が付きます。
==========
スキル名:対女性︵営み︶
分類:戦闘スキル
効果
・女性︵種別関係なく︶への攻撃力︵夜の営み︶が大幅に向上する。
==========
称号:上級技術者
取得条件
・相手にこれ以上ないほどの快感を与える
効果
・女性の感度大幅上昇
==========
称号:特殊技術者
取得条件
・特殊な性行動を行う事で取得
効果
・女性の感度大幅向上
・器用に大幅補正
・︽対女性︵営み︶︾スキルに+1の補正
==========
称号:魔法技術書
取得条件
・魔法を特殊な使用方法で営みに使用すること
効果
・女性の感度大幅向上
・魔力に大幅補正
==========
称号:夜の帝王
2267
取得条件
・︻上級技術者︼取得
・︻魔法技術者︼︻特殊技術者︼いずれかの取得
効果
・女性の感度大幅向上
・︽対女性︵営み︶︾のスキルレベルに+10の補正
・器用に大幅補正
・魔力に大幅補正
・︽絶倫︾の能力向上
・︽誘惑耐性︾取得 初期レベル:7
・︽精神耐性︾に+3の補正
・生命に超大幅補正
==========
スキル名:無心
分類:耐性スキル
効果
・あらゆる精神攻撃を無効化する
==========
スキル名:誘惑耐性
分類:耐性スキル
効果
・誘惑、幻聴などの攻撃を無効化する
ナイトキラー
==========
スキル名:夜の天敵
分類:戦闘スキル
効果
・対性行為で相手の感度が大幅に上がる︵性別関係なし︶
・誘惑、幻聴魔法を得意とする相手と対峙する際、誘惑攻撃を完全
に無効化する。
・︽誘惑耐性︾のスキルレベルに+10の補正
2268
・︽精神耐性︾または︽無心︾に+3の補正
==========
2269
第227話:結果発表とお仕置き︵後書き︶
運営さん、問題があったら修正しますので削除だけは勘弁願いま
す。
なお、毎度の如くスキルには自重無しです。
男の皆さんも魔法を使うとしたら一度はこんな使い方したいと思
いませんか?
03/13:タイトルを修正しました。
2270
第228話:夜の帝王の本気?︵前書き︶
前回の続きとなります。
※前回よりも言葉遣いがアウトな内容となっております。
2271
第228話:夜の帝王の本気?
前回までのあらすじ。
シャルを色々ニャンニャンした。
==========
﹁く、くろぅしゃまぁ∼∼﹂
﹁あら、意外と復活早かったな﹂
シャルをあんな事やこんなことでベットの上に沈めた30分後。
二階からシャルが降りてきた、ご丁寧に服を来てないと言うおまけ
付きで。
子供たちを早めに退室させておいて正解だったな。ちなみに子供
たちは皆でお風呂に入っている。間違ってもロリ○ンたちは風呂場
へ行かないように。
﹁あ、あんにゃのきいてましぇんよ!﹂
﹁そりゃあ言って無かったもんな﹂
全然呂律が回っていないシャルと言うのも珍しい光景の気がする。
足もおぼつかないし震えているしでよく2階から降りてこれたなと
逆に感心するほどだった。
﹁く、クロ⋮⋮一体シャルに何をしたの?﹂
ボロボロ︵色々な意味で︶なシャルを見たエリラはプルプルと震
2272
えながら俺に聞いて来た。
﹁何って⋮⋮ちょっと自制心を持ちなさいと言う意味でお仕置きと
言う名のハードプレイをしてあげただけだよ﹂
﹁はーどぷれい?﹂
﹁まあ、それは気が向いたら説明してあげるよ⋮⋮さて、シャル。
二晩と言ったけどどうする? すぐに続きをやるか?﹂
﹁ま、まってくだひゃい⋮⋮ま、まだあそこがけいれんしているの
でしゅからかんべんくだひゃい﹂
そういってシャルは地面にへたり込んでしまった。ニャミィを始
めとする大人の獣族達は始めてみるシャルの様子に言葉を失ってし
まっていた。
︵う∼ん、やっぱり前の世界の道具は早かったかな? いや、触手
の方がまずかったかな?︶
前世でよく薄い本に出て来た道具や触手をモチーフに対獣族用に
作った大人の玩具の効果は絶大だったようだ。
﹁しゃ、シャル⋮⋮何をされたの?﹂
見かねた獣族の内の一人がシャルに質問をした。
﹁な、なんかナニみたいにゃのがふくしゅうよういしゃれてて、う
ねうねうごきゅいきものといっしょに前とうしゅろにいっしょにい
れられて⋮⋮それかりゃはおぼえていましぇん⋮⋮﹂
2273
﹁え⋮⋮えっと⋮⋮き、気持ちよかった?﹂
﹁きもちよしゅぎてよくおぼえていましぇん⋮⋮﹂
地面にはいつくばってしまったシャルはそう答えた。呂律が全然
回ってないので聞き取りにくかったが、かいつまんで言うと﹁ナニ
と触手が二あな︵以下規制︶﹂
シャルの言葉を聞いた獣族の反応は様々だ。普段は大人しく冷静
なシャルがこのような状態になっていることに素直に驚いている者
や、何をされたんだろうと妄想を膨らませる者、挙句の果てに﹁自
分にも﹂と早くも自分が受けたときのことを考えて興奮する者と色
々な反応が見て取れた。
⋮⋮あっ、これはアカン︱︱︱
﹁く、クロウ様! わ、私もぜひ同じ事を!﹂
やっぱり!
﹁あっ、ずるいですわよ! 私もお願いします!﹂
シャルの言葉に興奮を覚えた者が我よ我よと俺の前に群がって来
アレ
た。うん、予想はしてたよ。シャルが降りてきた辺りから薄々は予
想してたけど、君たちはシャルと同じ状態になりたいのかな!?
﹁⋮⋮クロ⋮⋮﹂
﹁え、えっと⋮⋮何かなエリラ⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮このエロ獣たちどうにかしてよね﹂
2274
﹁アッハイ﹂
==========
結局、この日も複数人と相手をすることになってしまった。しか
し、この日再び大人の玩具や触手を出す事は無かった。何故かと言
うと俺が新たに得たスキルと称号の補正効果がやば過ぎたからだ。
スキル︽夜の天敵︾と称号︻夜の帝王︼というスキルと称号の効
果は相手への感度の大幅向上。媚薬かよとツッコミたくなるような
効果だなと最初は鼻で笑ったが、実際はそんな生温いレベルではな
かった。
﹁あひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?﹂
﹁だ、だめぇぇぇぇぇぇ!!﹂
俺に触られた瞬間に即ダウンしていく獣族達。当の本人たちはビ
クンビクンと痙攣をしているが勘違いしないでほしい、俺はまだ何
もやっていない。本当に肌に触れただけなんだ。入れてもいないん
だ。
なのに、こいつら全員幸せそうな顔で気絶しているんだぜ? 今
日のお相手の中にはココネがいたんだが、試しに気絶している彼女
に再度触れてみると﹁ふにゃぁぁぁぁぁぁぁ!?﹂と飛び起きたか
と思うとそのまま再度気絶をしてしまった。下半身から色々な液体
が溢れ出ている彼女たちをみて一言。
﹁俺が何をしたっていうの?﹂
2275
とにかく、このスキルと称号の効果は無効化しておこう。これを
付けたまま相手なんかしていると彼女たちの気が狂ってしまわない
か心配になってしまう。
これはあれだな。拷問用だなきっと。少し触れただけで相手をい
かせるとかどんだけエグイスキルなんだよ⋮⋮。
ちなみに、この日に相手をした獣族達の意識が戻ったのは次の日
の昼のことだった。もっとも、起きただけで魂がどこかへ飛んで行
ってしまっているのか何を言っても上の空のような回答しか返って
こなかった。彼女たちの意識が本格的に戻ったのはそれから更に次
の日のことで、真っ先に返って来た言葉は﹁エロ神クロウ様だ!﹂
だった。いや、なんでそうなるんやねん⋮⋮。
︱︱︱称号︻エロ神︼を取得しました。
2276
第228話:夜の帝王の本気?︵後書き︶
ということで前回取得したスキルのお話でした。こんなスキルあ
ったら現実でAV業界に呼ばれそうですね。そして真っ先に追放さ
れそうです︵追放理由:廃人を増やしてしまった︶
2277
第229話:反乱鎮圧後1
夜の営みのチートなスキルを入手した数日後、帝国軍エルシオン
駐留所にて、俺はグラムス皇帝に呼び出されていた。
ちなみに、この数日でこの前の優勝者との褒美︵と言う名のイチ
ャイチャ︶は済ませておいた。その際、スキルは無効にして相手を
してシャルとニャミィは大変満足したようで、全ての行為が終わっ
た時には安らかな表情で気絶していた︵死んでないからな?︶
なお、今回の一件で大人の威厳はダダ下がりになった模様で、子
供たちはあんまりお母さんたちに近づかなくなってしまった。
テリュールが必死で親をお膳立てしている姿を見ていると涙が出
て来そうでした。
﹁では、始めようか﹂
呼び出された一室には、俺と皇帝とミロの三人だけだった。普通、
こういうときは家臣たちも一緒に集まるものではないだろうか? と思ったが、今回はあくまで非公式扱いらしく、後に正式なあつま
りはザームで行われるそうだ。
俺と皇帝が向かい合う形で座り、その間に縄で縛られたミロが地
面に座っている形から会談は開始された。
﹁さて、ミロよ今回は派手にやってくれたな﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁別に我はお主の意見に不満を持っていたわけでは無い。人は十人
十色、様々な意見があってもおかしくはないしむしろそれが普通だ
2278
と我は思う﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁だが、民を唆し一時にせよ帝国領を侵略したその罪は例え兄弟で
あっても許されるものでは無い﹂
﹁唆した⋮⋮? 笑止な、私は民を導こうとしただけだ﹂
﹁ほう、導くとな⋮⋮﹂
﹁そうだ、今の帝国を変えるために、人々を幸せに導くため︱︱︱﹂
﹁戯けを言うな! それが今回の乱の発端か!? そのために帝国
民1万もの命を土に還したというのか!?﹂
﹁そうだ! 必要な犠牲だ! 今を変えるための致し方ない犠牲だ
! それに兄を見て見ろ! 日々戦いに明け暮れこれまで何人の民
の命を奪ってきた?﹂
﹁勘違いするな! 守るための犠牲と変えるための犠牲は違うぞ!
何故もっと違う方法を思い付かなかった? 論理主義の帝国では
実績が全てだ。なら、お主の考えでもっと国を豊かに出来る方法が
あったなら試せば良かったのだ。我はそういう意味でクロルパルス
を任せたんだぞ! そこで実績を出せば帝国もその方針に変わる事
は十分ありえたことだぞ﹂
﹁私には兄が頷くとは到底思えない。どうせ理由を付けてやらない
に決まっている。もしその気があるならば何故私の意見をもっと聞
いてくれなかったんだ!?﹂
2279
﹁それが無理だったからに決まってるだろ。学校を建てろ、税金を
引くしろ⋮⋮と何でも出来るものと勘違いしてるのか?﹂
﹁国の財源の半分を軍事費当てているのを減らせばいいだけでしょ
!? 何故減らそうと思わないのですか!?﹂
﹁減らす? 今の国の現状で減らすことなど出来ると思っているの
か!?﹂
﹁ああ、出来るさ。人件費や研究費など減らせるものは沢山あった
だろ!?﹂
﹁⋮⋮もういい⋮⋮どうやらお主は事の上っ面だけしか見えてい無
い様だ。そんな阿保に何を言っても無駄だ﹂
﹁逃げるな! そう言って言い返せないだけだろ!? この暴君め
g︱︱︱﹂
﹁いい加減にしたらどうですか?﹂
﹁!?﹂
話が始まってからずっと黙っていた俺は、口出ししない方がいい
と思っていたが、この兄弟のやり取りを聞いていると兄が不憫でな
らなかった。悪いが、擁護ぐらいはさせてもらおう。
﹁ただの冒険者が何だ!? 帝国の事に口を出すとでも言うのか!
?﹂
﹁ああ、そうだ出させてもらう﹂
﹁なに⋮⋮!?﹂
2280
﹁そもそも帝国は周りと常に交戦状態の国だ、なんでだと思う?﹂
﹁そんなの兄が仕掛けたからに決まっている。国を守るためと言い
ながら領土拡大のための戦争を行えば当然周りとは交戦状態になる
だろ﹂
﹁違うな、帝国領土は奪いたくなるほど魅力のある土地が多いから
だ。豊かに肥えた大地や地下資源が豊富な山脈、大都市を築きやす
い開けた平原など数え切れないほどある。そんな宝の山を前に他国
が動かない理由は無い。さらにいれば帝国を滅ぼすために他の国同
士で同盟を結んでいるところもあると聞いた。常に多方面に戦線を
抱える帝国の軍事費を落とせなど死ねと言ってるのと何一つかわら
ないぞ?﹂
﹁なら仲良くすればいい。こちらが仲良くすれば向こうもむやみに
我が国を奪おうなど考えることもないはずだ! 現に私は既にいく
つかの国に私が勝った際には争いをやめようと書簡を送ってある﹂
﹁何を言ってるんだ? そんなお花畑のような考え方をする馬鹿な
んてあんたぐらいだ。言ったはずだ、あちらはこちらの領土が欲し
いとな、ならそんな仲良くしようという言葉など戯言でしか受け取
られないだろうな。むしろ、敵は仲良くしたいほど困っていると思
って強気に出る可能性もありうる話だ﹂
﹁何故そんな事がお前に分かる? お前は敵の何を知っているのだ
?﹂
﹁じゃあ逆に聞こう。あんたは敵の何を知っている? 平和的解決
を向こうが望んでいると誰が言った?﹂
2281
﹁人は平和を愛する生き物だ。なら平和的解決を望むのは当然だ!
お前のような好戦的な奴の方が珍しいのだ!﹂
︵えぇ⋮⋮︶
どうしようこいつ、本当に頭の中がお花畑だった⋮⋮。
﹁もうよいぞクロウ。お主の言いたいことは十分分かった﹂
俺とミロの言い合いにグラムス皇帝が待ったをかける。言いたい
ことはまだまだ沢山あったが皇帝に言われたのと、これ以上言って
も無駄と判断した俺はさっさと引き下がる事にした。
﹁ふむ、どうやら世界を見て来た冒険者の方が考え方はいい様だ。
お主のように温室育ちで育った者は駄目なようだなミロよ﹂
﹁な、なんだとぉ!?﹂
﹁もうよい、我もお主との会話にはいい加減疲れたのだ。悪いが話
はここまでとしてもらおう﹂
﹁に、逃げr︱︱︱﹂
﹁黙れ!﹂
話を切ったグラムス皇帝にミロが食って掛かろうとしたが、そん
なことはさせないと言わないばかりに皇帝の蹴りが地面に座ってい
るミロの首元に襲い掛かった。
ドスッと鈍い音と共に帝国が蹴りぬいた方向へミロが好き飛ばさ
れ、地面を転がって行き、やがて壁にぶつかり止まってしまった。
2282
﹁あーあー⋮⋮﹂
地面で打ち上げられた魚のようにぴくぴくしているミロに呆れる
ばかりだ。
﹁さて、この話は終わりだ﹂
﹁あっ、そうなのですね。てっきり私にも意見を求めるものかと思
ってました﹂
﹁あ奴はザームに戻ったのちに地下に永久投獄だ。あんな奴には死
よりも恐ろしい罰を与えねばならない﹂
﹁怖いですね、一応血を分けた兄弟なんですよね?﹂
﹁ふん、兄弟だから刑を甘くするなどもっての外。そんなことをす
れば他の者にも示しがつかん﹂
そうだな。前の世界でも﹁泣いて馬謖を斬る﹂という有名な言葉
があるぐらいだからな。まあ、あれは親しい仲というだけであって
兄弟とは違うと思うが。どっちにせよ、俺が口出しする事でもない
し、これは口を出さない方がいいだろう。
﹁話を戻すぞ。まず、今回の戦いではお主のお蔭で帝国は救われた。
こればかりは感謝してもしきれないことだ。改めて礼を言うぞ﹂
﹁どういたしまして。と言っても私も私利私欲でやっただけなんで
すけどね﹂
2283
﹁それで帝国が助かったなら、私利でも義理でも構わん。さて、お
主には約束通りエルシオンの統治権を全て譲ろう。都市国家として
これからは独立することになるな﹂
﹁そうですね。まあ、独立したところで今までと何も変わりません
けどね﹂
﹁そうか。それでだな⋮⋮ちょっとばかし提案なんだが⋮⋮﹂
﹁?﹂
﹁お主、ハルマネも治めてみる気は無いか?﹂
﹁⋮⋮無いですね。前も言いましたが私は家族が平和に過ごせれば
それでいいのですよ。別にハルマネも一緒に治めるメリットも意義
もありませんよ﹂
﹁ふむ、そうか⋮⋮なら、ハルマネにある魔法学園を傘下にする気
も無いか﹂
﹁⋮⋮今、なんと?﹂
﹁ハルマネにある魔法学園を傘下⋮⋮まあ、管理下に置かないかと
いうことだ﹂
2284
第230話:反乱鎮圧後2
﹁何故魔法学園を? 帝国が管理した方がそちらにはメリットが多
いと思いますが?﹂
思わぬ単語に食いつく俺。そりゃ、こんなところで魔法学園の事
が出て来るとは思いもしなかったわ。
そういえばサヤとかリネア元気にしているかな? あっアルゼリ
カ理事長には嫌でも元気にしてもらわないと困るので。
どこからともなく﹁そんなー﹂と言う声が聞こえて来た気がした
が無視して話を続ける。
﹁そう思うだろ⋮⋮だが、残念ながら帝国にはアルダスマン王国ほ
どの教育システムはないのだ。教育など多少お金を持っている上級
民のための施設だったしな﹂
﹁へぇ⋮⋮では、この際に教育にも手を付ければ良いのでは?﹂
﹁そうしたいのは山々なんだが、先の大戦で暫くの間帝国はあれる
だろう。そんな時に学校などのお話など出来るはずもなかろう。そ
れに聞けば魔法学園は元々アルダスマン国から公式に援助を受けて
成り立っていたと聞く。国が無くなった今援助も無くなったのは間
違いない。そうなると潰れる結末が待っておろう、だがそれは勿体
無いとは思わぬか?﹂
﹁そうですね。せっかく国民を育てる場があるのであれば使うべき
と思いますよ﹂
2285
﹁そうだ。だが、それをするには帝国には知識も時間も人も資金も
足りぬ。そこでお主の出番という訳だ﹂
﹁私が? 一体何を押し付ける気ですか?﹂
﹁ナニ、お主が魔法学園を立て直してくれないかと言う事だ。お主
のことだ今まで無かった知識を使って魔法学園の価値を高めること
ぐらい朝飯前だろ?﹂
﹁朝飯前って⋮⋮いや、不可能ではないと思いますけど﹂
﹁そうだろ? それに聞けば魔法学園のトップはお主と知り合いと
のことではないか﹂
﹁あー⋮⋮まあ、そうですけど﹂
そうか、魔法学園のトップってアルゼリカ理事長だったんだな。
学校感覚で行くと校長とか教頭とかがいるイメージが先走るけどこ
こではそうでは無かったんだった。
﹁お主の事を大分気に入っておったぞ? お主の話となると物凄く
元気に話していたわ﹂
えっ何それ。俺気に入られることをした記憶なんてないんですけ
ど。
﹁と、まあお主の元なら面白い発展を見せてもらえそうだからな。
勿論、こちらもタダで渡すのは面目が立たない。そこで、お主は帝
国側から買ったという立場を取らしてもらいたい﹂
2286
﹁買うって⋮⋮学校って買うものでしたっけ?﹂
﹁知らん。取りあえず形だけでも上げたという体裁さえあればこち
らは構わないからな⋮⋮で、どうだ? どうしても貰う気はないか
?﹂
﹁うーん⋮⋮﹂
暫くの間考えたのち、ある事をひらめいた。正直無くてもいいこ
とだけど、あったらあったで今後有利に働くかもしれないし無駄で
はないだろう。
﹁いいですよ。ただ、ハルマネ自体は貰いません。ハルマネにある
魔法学園をエルシオンに移転させます﹂
﹁ほぅ⋮⋮何故だ?﹂
﹁先ほども言いましたが、私がエルシオンを統治下にした理由は家
族と平和に過ごすために必要だったので頂いただけです。別に世界
征服なんか目論んでいる訳ではないのですから﹂
まあ、欲を言うともう一つ理由はあるのだが、それはまだ先の話
だろう。少なくとも現在出来る事では無いとだけ言っておこう。
﹁ですからハルマネなんていらないんですよ。でも魔法学園はちょ
っとした理由で欲しいのです。でも他国の領内にあるのは不便です
し、面倒なんですよね。なら移転させてしまおうじゃないかという
訳です。魔法学園はこの前の戦争で廃墟化してしまっていますので、
ついでというのもありますが﹂
2287
﹁ふむ、まあ、我は別に構わないぞ。ハルマネは魔法都市としてそ
れなりに地位のある場所だからある分には困らないしの﹂
﹁じゃあ何故ハルマネを渡そうとかいいだしたのですか?﹂
﹁移転という手段が思い付かなかったのもあるが、エルシオン、ハ
ルマネは北西に位置する魔族の領土と比較的近い位置にある﹂
﹁あっ、もう言わなくていいです。要は緩和地帯が欲しかったわけ
ですね﹂
皇帝が何を言いたいかと言うと、帝国領土と魔族の間に第三者の
勢力を入れる事で、直接的に魔族と争う事を回避したいということ
だ。要は俺を盾にしたいということだ。よし、ぶっとばそうか? よくそんな事抜け抜けと言えるなおい。あっ、でも俺も戦争前に抜
け抜けと﹁滅亡しますよ﹂とサラッと言ったから一緒じゃねぇか。
皇帝もそれを分かった上で言ってやがるな。
﹁まあ、エルシオンにお主がいる以上、ハルマネを持っていても問
題は無さそうだがな﹂
﹁まあ、下手な砦よりかは役に立つと思いますよ﹂
﹁どの口が言ってる? 一人で国一個潰せそうな魔法を使える力を
有しているくせをして﹂
﹁サテナンノコトデショー?﹂
﹁⋮⋮まあ、本音は別のところにあるがな﹂
2288
﹁?﹂
﹁今回の戦いで帝国は軍人が死に過ぎた。これを補充するにはかな
りの年月が必要だろう﹂
﹁まあ、5割程度が消えたから無理もないですね﹂
﹁だが、我々は実戦でのたたき上げが基本だった﹂
おう、この脳筋めが。
﹁先ほども言ったが学校などの教育などない。上の世代が下の世代
に伝えるいわゆる踏襲制が基本だったのだ﹂
﹁なるほどね。確かにそっちの方が実戦では有利に働くでしょうね﹂
習うより慣れよ。案ずるより生むが易し。こういう言葉があると
ころから、やってみると言う事はそれだけ大事なことなんだろう。
確かに座学なんて社会に出ても殆ど役に立たなかったけどさ。
﹁それが難しくなった今、基礎的なことが出来る者からの平均レベ
ルの向上が手っ取り早いし安全に兵力を増強することが出来る﹂
﹁だけど、それをやる教育の場は帝国には整っていないと﹂
﹁そうだ。そこでお主にお願いがある。魔法学園を受け取った際に、
こちらから選抜した者をある程度受け入れて欲しいのだ。お主が魔
法学園に少し介入すれば今までの常識など覆るようなことが十分可
能になろう。その恩恵を我らにも少し分けて欲しいのだ﹂
2289
﹁それって俺が介入する前提ですよね? 貰うとは言いましたけど
そんなガッツリ介入するとは限りませんよ?﹂
﹁それはそれでまた結構。少なくとも一般的な教養を養えるなら十
分だ。勿論、加入者分の入学金などは一般生徒と全く同じでも構わ
ない﹂
あっ、分かったわ。要は﹁学校を維持する余裕は無いけど、人材
育成はしたい。そこで余裕のある俺の所で学園を運営させて帝国は
一般生徒として入学させて学ばせたいのか。そうすれば維持費は払
わなくても教育は受けれさせれるもんな。もっともこちらのやる事
に介入しにくいというデメリットもあるが、彼らの事だから自分ら
でやるよりかは良いだろうと思っているのかもしれない。
だが、それだけじゃないと思う。教育を任せると言う事は考え方
もある程度在学中に自由に変える事が可能になる。それこそ前の世
界での某お隣の国みたいに特定の国を敵視させる教育も十分可能と
いう訳だ。それを応用すれば帝国内に反乱分子を置くことも十分可
能だろうというか、俺がその気だったらまずそうするわ。それを分
かった上で言ってるのだろうか? いや、分かった上で言ってるの
だろう。恐らくだが皇帝は俺に勢力拡大の野心が無い事を前提で話
しているのだろう。まあ、実際ないから構わないのだが、他の奴に
はその考えは通じないかもしれないぞ。と心の中で忠告だけはして
おく。えっ、言わないのかって? だって、違うかもしれないし言
っても仕方ないからな。それに、皇帝の方が対人︵会話︶スキル高
そうだし、俺よりも色々考えているのだろう。その中で俺にはこれ
で通用すると考えているのかもしれない。
﹁⋮⋮うーん、まあ、いいですよ。こちらもこちらで使わせてもら
いますから﹂
2290
﹁では、この話は以上だな。我は数日後にここを旅立つつもりだが、
その直前でお主にこの都市を引き渡そうと思う。当然、混乱が生じ
るだろうが、そこは我ではなくお主の力量の出番だ。エルシオンが
どう発展していくか、そして帝国がお主たちから何を貰い、何を学
ぶか。楽しみにさせてもらおう﹂
こうして、俺と皇帝の非公式会談はここで終了をした。そして、
数日後エルシオンを出立する皇帝からエルシオンを一人の冒険者に
譲る事が発表されることになる。
2291
第230話:反乱鎮圧後2︵後書き︶
教育って恐ろしいですよね。歴史の勉強をしてみると本当にそう
思います。
2292
第231話:都市国家エルシオン1
﹁おいおい、どういう事だよ⋮⋮﹂
﹁帝国が占領したかと思えば、また次の領主が?﹂
﹁しかも次は冒険者だとか﹂
﹁それも、15歳の若者だろ? まだ復興途中なのに一体この街は
どうなるんだ⋮⋮﹂
グラムス皇帝がエルシオンを出立する当日の朝。それは急に伝え
られた。
伝えられたのはここエルシオンを先の戦争で帝国を勝利に導いた
冒険者に送るということだった。当然エルシオンの民たちは混乱し
た。
龍族の襲撃があり、ついこの前に帝国に占領されたと思ったら次
の者へと変わる。しかも、次の領主は帝国から独立してエルシオン
を都市国家とするらしいでは無いか。
都市国家は大陸にいくつか存在する。だが、それは圧倒的な軍事
力や立地条件的に都市国家にならざる得ない場合が多い。エルシオ
ンは独立した軍事力があるわけでもとりわけ厳しい地形に囲まれて
いる訳では無い。そのため都市国家としては不適切な都市といえる。
市民の心配を他所に皇帝は淡々と話を続ける。街の中央部にある
ギルドの前で突如行われだした皇帝の演説は徐々に観衆を増やして
いた。
﹁では、これより新領主に登場してもらう。エルシオンの者どもは
2293
彼の元で発展していくことを切に願おう﹂
皇帝がそう言い終わると、その背後から一人の少年が現れる。
その少年の顔を見たとき、市民の反応は様々だった。知らない者
は怪しげな目で見つめ、知っている者は驚きの表情を浮かべ、少年
に命を救われたものはその場に跪き祈りを捧げ、ギルド内に存在す
る店でよくお世話になっている者は驚きと同時に、これからのエル
シオンの発展を楽しみにしていた。
﹁始めて見る者もいるだろう。彼こそはこの度の帝国での反乱の鎮
圧にもっとも貢献した者であり、その功績とその持ち前の力を持っ
てしてこのエルシオンを任せるに値するクロウ・アルエレスだ﹂
クロウと呼ばれた少年は一礼をすると、エルシオンのこれからを
話し始めたのだった。
︱︱︱称号︻都市国家の主︼を取得しました。
==========
﹁あっ、おはようございます、クロウさん⋮⋮じゃなくてクロウ様﹂
ギルドに顔を出してみるとミュルトさんが挨拶をしてきてくれた。
﹁クロウ様って⋮⋮いいですよ、今まで通りクロウさんで﹂
今までさん付けされてた人からいきなり様付けをされるとすごい
違和感がある。
2294
﹁では、お言葉に甘えて⋮⋮それにしても凄いですね。一介の冒険
者が都市国家とはいえ領主になった例なんてありませんよ﹂
そりゃないと思うよ。むしろホイホイある方が恐ろしいと思う。
﹁そう言えば⋮⋮先日の戦い、街でも噂になっていますよ﹂
﹁あー⋮⋮やっぱり?﹂
﹁﹃獣族十数人が大軍相手に無双してた﹄とか﹃大爆発が起きて平
原が火山地帯になった﹄とか﹃無双してた獣族が少年の前に行くと
芯が抜けたかのように腑抜けになって淫乱じみた言葉を発していた﹄
などなど﹂
うん、知ってた。というか最後! やっぱり噂になってるじゃね
ぇかチクショウ。
﹁クロウさんはただの冒険者じゃないと思ってましたけど⋮⋮やっ
ぱり只者ではありませんでしたね﹂
﹁⋮⋮その只者にはどんな意味が含まれているのですか?﹂
﹁えっ? え、いや普通にすごいと言う意味ですよ﹂
﹁なら、なんで目が泳いでいるのですか?﹂
﹁な、なんのことでしょうか?﹂
﹁⋮⋮まあ、いいです。今日はミュルトさんにお願いがあってきた
のですよ﹂
2295
﹁えっ、お願いですか?﹂
﹁ええ、前回の戦争から街の中枢はギルドになっているじゃないで
すか?﹂
﹁そうですね。前回の領主は戦時中に亡くなられましたし、帝国に
運営権を渡していませんでしたからね。あっ、クロウさん渡す準備
はもう始めていますよ? 早ければ数日中にでも︱︱︱﹂
﹁いや、それなんですけど。ミュルトさんに全部委任します﹂
﹁そうですか。分かりまし⋮⋮ファァ!?﹂
﹁おっ、ナイスノリツッコミ﹂
﹁あ、ありがとうございま︱︱︱って違います! どういうことで
すか!?﹂
﹁いや、俺領主のノウハウとかゼロなんですもん。都市経営とかし
たことありませんし、そんな人材もいませんし。それなら既に運営
を行っているギルドに押し付けるのがいいのかなって﹂
﹁だ、駄目ですよ!? ギルドが管理というのは本当に臨時の事で
前回みたいに異種族との戦争時だけなんですよ。普通国家間への不
干渉のためにやったらダメなんですよ!﹂
﹁ちぇ、やっぱりこっちでやらないと駄目か﹂
﹁当り前です。ギルドはなんでも屋じゃないのですよ﹂
2296
﹁そうなると当面は人材集めかー。よくよく考えたら一都市といえ
どもそれなりの人数が必要ですよね?﹂
﹁そうですね。最低でも10人程度はいないと最低限のことは出来
ないと思いますよ﹂
﹁うわ、そりゃ簡単には集まらわ⋮⋮仕方が無い、ミュルトさん時
間がある時でいいのでギルドで動かしていた時のことを教えて下さ
い﹂
﹁それは構いませんよ、クロウさんにはお世話になっていますし⋮
⋮でも、私に出来る事は本当に初歩的なことだけだと思いますよ?﹂
﹁ああ、大丈夫。残りは引っ張って来るから﹂
﹁引っ張る?﹂
﹁あ、そうそう、ついでにこれお願いしていいかな?﹂
そう言って俺は一枚の紙を手渡す。
﹁なんですかこれ⋮⋮はぃぃぃ?﹂
その用紙の序盤辺りを見た辺りでミュルトさんから変な声が発せ
られる。その声に気付いた他のギルド員がクスクス笑っているのが
見えた。それに気付いたのかミュルトさんはコホンと露骨にせき込
むと居ずまいを正した。
﹁魔法学園の移転計画にそれに伴う生徒募集⋮⋮く、クロウさん魔
2297
法学園ってあのハルマネの⋮⋮?﹂
・・・・・
﹁ええ、帝国から買いました向こうも手放したいようだったので﹂
﹁か、買ったって⋮⋮ど、どうするのですか!?﹂
﹁そりゃ買った物は仕方が無いですからね。ハルマネからエルシオ
ンに移転させて都市で色々させようかなって、人材集めも出来ます
からね﹂
﹁で、でもクロウさん、それこそ学校の運営何て⋮⋮﹂
﹁やったことないです︵キリッ﹂
ズコォと地面にヘッドスライディングを決めるミュルトさん、漫
画以外で初めて気がするよ、そのリアクション。
﹁や、やったことないって⋮⋮﹂
﹁まあ、学園は学園の人に任せればいいのですよ。私が関与するの
は場所と設備といくつかの魔法指導だけですから﹂
﹁そ、そうですね。ギルドの再建時のこともありますし、設備とか
はクロウさんに任せても大丈夫と思いますけど⋮⋮﹂
﹁で、ミュルトさんにやって欲しいのはギルドで新規生徒の募集を
かけて欲しいのです。条件はそこにあるのをクリアしててればいい
ので﹂
﹁え、えーと、条件はエルシオンの市民であること⋮⋮だけ?﹂
2298
﹁ええ、正式にはエルシオンで市民権を持ちかつ一定の税金を納め
ている者ですが﹂
﹁えっ、に、入学金とかは⋮⋮?﹂
﹁ないですよ。基本税金で賄いますから、だからこそのエルシオン
で納税をしている者って制限をかけているのですよ﹂
﹁ああ、自国民内で回すと言う事ですね﹂
﹁それに資金は足りなかったら私のを使えばいいですしお寿司﹂
﹁お、おすし⋮⋮と、取りあえずギルドに提示しておけばいいので
すね?﹂
﹁ええ、あとは噂任せで勝手に広がるでしょう。エルシオン内だけ
なら1か月もあれば十分かな? じゃ、私は用事がありますのでこ
れにて﹂
﹁えっあっ、ちょ︱︱︱﹂
﹁あっ、分かりやすい所に貼って置いて下さいね﹂
そういうと俺はギルドを後にして次なる目的地ハルマネの魔法学
園へと向かうのだった。
==========
称号:都市国家の主
取得条件
2299
・都市国家のトップになること
効果
・生命+100
==========
2300
第231話:都市国家エルシオン1︵後書き︶
よくよく考えれば何も知らない人が領主って不安の塊ですね。
な、なんとかなるよきっと。だってクロウですもん。
2301
第232話:都市国家エルシオン2
﹁⋮⋮エルシオンに移転⋮⋮?﹂
﹁そうだ﹂
エルシオンに移転。唐突な決定を伝えに来たのは現ラ・ザーム帝
国グラムス皇帝でした。皇帝が態々足を運んで来たという事に驚き
ました。そんなお偉いさんと話すのはあまり好きではないのですが
魔法学園の最高管理人である私が会わない訳には行かないので会う
事になりました。
ハルマネが帝国に占領されたのはつい先日のお話です。当然魔法
学園もハルマネにあるので帝国に組み込まれるはずだったのですが。
﹁残念だが帝国に魔法学園を運営するノウハウは勿論、その時間も
人材も資金も不足している。そこで今度エルシオンは帝国から独立
して完全に都市国家として運営されることになり、そのエルシオン
に完全売却をすることになった。その際、エルシオン新領主はハル
マネからエルシオンに魔法学園を移転することを決定したのだ﹂
とのことです。何と言うか私の知らないところで話が進んでいき
ますね。もっともアルダスマン王国時代からこの魔法学園は王国の
資金を元に運営をされていたので、その決定権の殆どは王国にあっ
たのですけどね。無理もない話です。
それにしてもエルシオンが都市国家として独立するとは⋮⋮聞け
ば帝国ではちょっとした反乱があった危うく負けかけたとのこと、
そこから逆転勝利をしてたとのことですが、その際勝利に貢献した
とある冒険者に街を譲ったとのこと。
2302
いくら勝利に貢献したと言っても街一個を譲るとは⋮⋮一体その
冒険者はどんな交渉をしたのでしょうか。詳しい情報はまだハルマ
ネには届いていないので何とも言えませんが⋮⋮。
﹁ちなみにその冒険者の名前は?﹂
当然、私の興味はそこに行きます。
﹁クロウ・アルエレスと言う者だ﹂
⋮⋮今なんと? 私の耳がおかしくなってなければ今確かにクロ
ウと聞こえたのですが。
﹁今回、帝国はこやつに助けられたと言っても過言ではない。その
こやつがこの度エルシオンを治める領主となったのだ﹂
⋮⋮本当ですか? 嘘では無いですよね? いや、待って下さいクロウさん、あなたは一体何をしているので
すか? ただの冒険者が一都市の領主になった? そんな話聞いた
ことありませんよ? でも何ででしょうか、彼がやったと言えば謎
の納得感を感じらずにはいられません。
私の動揺を感じ取ったのでしょうか。
﹁⋮⋮その顔だとあ奴を知っているようだな﹂
皇帝が彼のことを聞いてきました。
﹁彼はこの魔法学園で特待生として在学しています。と言ってもこ
こ最近はエルシオンの方に戻っていたのですが、彼には私たちもず
いぶん助けられました﹂
2303
﹁ほう、お主らもか﹂
﹁はい、ハルマネは前回の戦争中に二度ほど魔族に攻め入られたの
ですが、その2度の襲撃は彼一人の手で撃退されたと言っても過言
ではないですね。その時でた負傷者の治療も彼が行ったおかげで致
死傷のダメージを受けていた者も数多く助かりました、私も治療し
てもらいましたよ﹂
﹁あやつめ、回復魔法も使えるのか⋮⋮?﹂
﹁そうみたいですね。クロウ君は私たちも底が知れない存在と言わ
ざる言えません﹂
﹁ふむ、分からん奴だ。奴隷を持っているようだが、その奴隷も家
族だと言い出す奴だ、聞けば今までの経験があ奴をそうさせている
らしいが一体どこで⋮⋮﹂
﹁他の世界でも旅してたのでは? 彼ならいいだしかねませんよ﹂
﹁ふむ、それもありえそうだな。あ奴なら﹂
﹁まあ、クロウ君がエルシオンの新領主となるのであれば私たちも
特に問題無く移転出来るしょう。問題は今の生徒たちが何を言いだ
すかと言う事ですが﹂
﹁その辺は、お主やあ奴に任せる。我らはそこまで手を回せぬし、
回す気も無いからな﹂
﹁回す気ないのですね、いや、多分そうだとは思っていましたけど。
2304
まあ、クロウ君とならなんとかなるでしょう﹂
﹁⋮⋮お主は随分とクロウを気に入っているようだな﹂
﹁ふぇ!? そ、そうですか?﹂
そ、そんな風に見えたのでしょうか!? 私はそんなつもりでは
無かったのですが、そもそも私は先生です。一生徒に贔屓するのは
間違えです、あっでもクロウ君には色々お世話になっているので、
す、少しぐらいなら⋮⋮いやいや、私は︵以下ループ︶
﹁⋮⋮何を考えているかは知らぬが、近いうちにクロウが顔を出す
だろう。そこから先はお主たちに任せるぞ﹂
﹁えっ、あっ、はい﹂
私と皇帝の話はここで終了しました。
==========
﹁お邪魔しまーす﹂
そいういって窓からお邪魔をする俺。
﹁⋮⋮クロウ君、あなたはドアから入って来ると言う常識は無いの
ですか?﹂
﹁ありますよ。ただ、人を介さないといけないので面倒なだけです﹂
2305
だって、アルゼリカ理事長に会おうとしたら許可とか待ち時間と
かがあるから面倒なんだよね。という訳でいつかやったように窓か
らお邪魔という訳だ。もっとも前回みたいに急いでる訳じゃないの
で窓を割って入るような野蛮な事はしない。えっ、窓から入る時点
で十分野蛮だって? ナンノコトデショウカー?
﹁⋮⋮まあ、いいでしょう。話はグラムス皇帝から聞きました。こ
の魔法学園をエルシオンに移転させるのですね?﹂
﹁ええ、そこでアルゼリカ理事長には移転準備をお願いしたいので
すが、その様子ですと既に始めているようですね﹂
﹁ええ、戦後の後片付けに加えて移転処理と仕事が増えました﹂
﹁あ、それはすいません。でもアルゼリカ理事長なら何とかなりま
すよ。アルゼリカ理事長ですから﹂
﹁えっと⋮⋮それは期待していると言う事でいいのでしょうか?﹂
﹁当り前じゃないですか﹂
﹁⋮⋮期待に応えられるように頑張りますね﹂
アルゼリカ理事長はそう言って一つため息をする。でも何でだろ
う、その割には顔喜んでいるように見えるのは俺の気のせいだろう
か?
﹁っと、今日来た理由を忘れると事でした。はい、これ﹂
2306
そういうと俺は束ねられた資料を手渡した。
﹁? なんですかこれは?﹂
﹁移転までの流れと移転場所、その後の生徒や先生たちの身振り取
りあえず近場で必要な情報をまとめた資料です﹂
﹁は、早いですね﹂
そりゃあ、徹夜して作りましたもん。考え自体はまとまっていた
んだけど、いざ紙に記載するとなるとどうもうまく書けなかったん
だよな。なんか書いている途中で︽執筆︾とかいうスキル入手しち
ゃうし。
==========
スキル名:執筆
分類:生活スキル
効果
・文章を書く能力に補正が付く
==========
﹁どれどれ⋮⋮ふぁい!?﹂
﹁えっ、不味いことでも書いていましたか?﹂
﹁い、いや、この新しい学園の間取り図はなんですか!? 少なく
見積もっても今の学園の3倍はありますよ!?﹂
﹁いやぁ、エルシオンの中心部に作る場所は無かったのでだったら
郊外に作ろうと思いまして、郊外だと俺が作った畑以外に何もない
2307
ので、作りたいものを作ったらそうなりました﹂
﹁しかも、多目的ホールとか食堂に魔法演習場⋮⋮なんか知らない
名前の場所も見えるのですけど? 魔法研究室? なんですかこれ
?﹂
﹁魔法学園はエルシオンに出来ますからね。どうせなら生徒たちの
中で有志を集って魔法を作る場所を作ろうかなって思いまして﹂
﹁な、なるほど⋮⋮﹂
﹁それと次のページに寮の説明もいれています﹂
エルシオンに移転、それに場所は郊外となれば今までハルマネに
住んでいた者や新たに魔法学園に入る者も遠い場所に住んでいると
移動に不便になる。そこで近場に住む場所を提供しようという魂胆
だ。最初はスクールバスなるものでも作ろうかなと思ったが、そう
なるとまずエルシオンに規格の整備をしないといけないし、そもそ
もバスを作らないと行けないし、バスの乗り方も浸透させないとい
けないしと色々と面倒な事が多いのだ。それなら住む場所を作った
方が早いと判断し作る事にしたのだ。
﹁いや⋮⋮それはいいのですが、この寮の規模も大きくないですか
? 建物自体は複数に分けられているようですけど、これ全部合わ
せると数百人は住めませんか?﹂
﹁もちろん、それくらいははいれると思いますよ﹂
﹁え、えーと⋮⋮これ誰が作るのですか? と言うか、移設予定が
3か月後とあるのですが、どう考えても3か月で出来る代物じゃな
2308
いと思うのですが?﹂
﹁知り合いに建築仲間︵一人︶いますので彼に任せます﹂
と言うかその建築日数アーキルドが自分で指定したんだけどな。
﹁わしにかかればそれくらい余裕じゃい!﹂と豪語していたので大
丈夫だろう。⋮⋮君まだ街の方の建設も残っているんだけどね。
それ以外にも寮の周りに商店を作成したりと、この近くは暫くの
間大規模な工事が行われるだろう。ちなみにここに元からあった農
地は他の場所に移転してかつ規模も大きくしておいた安心しろ農民
たちよ。君たちには暫くバシバシ働いてもらわないといけないから
な。
﹁ま、まあ建物は任せますね⋮⋮あと、この生徒の今後なのですが﹂
﹁ええ、彼らも帝国に占領されて生活が一変する者もいるし、そも
そも親元を離れれない者もいるでしょう。ですので、移転後に残る
かどうかは自由に決めさせて構いません。あと今後入学するのはエ
ルシオンの市民権を持ったものといくつかの例外に限られますが、
今いる生徒はその対象外となりますので、こちらから追い出すと言
う事はさせません﹂
まあ、追い出さないだけで出て行くやつはかなりいるだろう。今
回の戦争で精神的に参った者は多いはずだ。彼らが学園に残り続け
るとは思えない。今の魔法学園の生徒数は百人程度。そこから脱落
する者を考えれば残りは半分程度と言った所だろうか。勿論、これ
以上少なくなる可能性も十分あり得る。
もっとも今は少ない方が助かる。いくら広大な場所を用意しても
運営するには人が必要だ。ただえさえこの前の戦争で学園側の先生
も多少なりとも損害を受けている。その人材を集めるのにも時間が
2309
かかる。そもそも外から引き入れる事は今の所考えていないので必
然的に育成からと言う事になる。育成するにも指導者が必要だし何
をするにも人が必要だなー。
﹁さて、俺もやる事はありますので、あとはその資料を見てお願い
します。一応、3日後ぐらいに顔を出しますので疑問があったらそ
の時にお願いします﹂
﹁あっ、まって、待って下さい一つ聞きたいことが﹂
﹁ん? なんですか?﹂
ミュルトさんの時はスルーしてこっちに来たけど、こっちにはあ
まり顔を出せないからあんまりスルーするのも悪な。
﹁なんでクロウ君は魔法学園を買ったのですか?﹂
﹁あー⋮⋮まあ、理由は色々あるのですけど、一つは帝国が残すこ
とが出来ないと聞きましたので、こっちで買って色々利用しようと
思ったのが一つ、二つ目にそもそも学校は作ろうと思ったのですが、
何もない所から作るよりは名がある魔法学園の名をそのまま引き継
いだ方が何かと都合がいいから⋮⋮あとは、せっかくアルゼリカ理
事長がもう一回頑張ると言ったに、それを無しにされるのは嫌だっ
た⋮⋮ですかね﹂
﹁えっ、それは⋮⋮﹂
﹁という訳で、頑張って下さいねアルゼリカ理事長。応援していま
すので﹂
2310
それだけ言うと俺は理事長の部屋を後にした。どうせなのでサヤ
たちにも顔を出そうかなと思ったが、あんまじ時間的余裕は無いの
で今回はパスさせてもらった。
エルシオンに戻ったら次は、アレをするかな。
2311
第232話:都市国家エルシオン2︵後書き︶
︽執筆︾スキル超欲しいです。
久しぶりにクロウのステータスを公開します。今回から称号も載せ
て行こうと思っているのですが、前の分とかはまだ集計しきれてい
ないので、ご了承下さい。
※称号以外の︻︼内は︽鑑定︾で見られる数値です。
名前:クロウ・アルエレス
種族:龍人族︵龍族・人間︶︻人族︼
敏捷:110,310
生命:110,690
筋力:110,770
︻2000︼
︻1700︼
︻1300︼
︻1290︼
︻51︼
器用:101,021
︻1790︼
レベル:350
魔力:171,700
スキル
・固有スキル
︽理解・吸収︾︽神眼の分析︾︽龍の眼︾︽千里眼:10︾︽絶対
透視:4︾
・言語スキル
︽大陸語︾︽龍神語︾︽妖精語︾︽兎耳語︾︽獣族語︾
・生活スキル
︽倉庫:10︾︽換装:10︾︽調理:8︾︽野営:8︾︽暗視︾
2312
︽マッピング︾︽魔法道具操作:9︾
︽家事:7︾︽演算:6︾︽商人の心得︾︽ポーカーフェイス︾︽
詐術:5︾︽探索:5︾
︽解析:7︾︽装飾技師︾︽土木建築技術︾︽マップ︾︽プロジェ
クトマップ︾
︽悪人面:1︾︽執筆:1︾
・作成スキル
︽武器製作:10︾︽武器整備:10︾︽防具製作:9︾︽防具整
備:10︾
︽装飾製作:9︾︽装飾整備:9︾︽錬金術:10︾︽SLG︾
・戦闘スキル
︽身体強化:9︾︽見切り:8︾︽気配察知:9︾︽回避:9︾︽
遮断:9︾︽跳躍:8︾︽六感:8︾
︽射撃:7︾︽罠:8︾︽不殺:10︾︽斬撃強化:10︾︽対人
戦:10︾︽対龍戦:8︾
︽威圧:8︾︽一騎当千︾︽絶倫︾︽動作中断︾︽瞬断︾︽力点制
御︾︽梟の眼︾
ナイトキラー
︽指揮︾︽武神降臨︾︽掃射︾︽全属性装填︾︽精根尽きない者︾
︽対女性︵営み︶:10︾↓︽夜の天敵:4︾
・耐性スキル
︽状態異常耐性:9︾︽火耐性:6︾︽水耐性:5︾︽雷耐性:5
︾︽悪臭耐性:2︾
︵︽精神耐性:10︾︽誘惑耐性:10︾︶↓︽無心:5︾
・武器スキル
︽二刀流:7︾︽細剣:10︾︽刀:10︾︽大剣:10︾︽槍:
9︾︽投擲:7︾︽斧:8︾︽弓:8︾
2313
︽クロウボウ:8︾︽鈍器:10︾︽盾:10︾︽格闘:10︾
・魔法スキル
︽賢者の心得︾︽創生魔法:4︾︽瞬間詠唱:6︾︽記憶:5︾︽
明鏡止水:5︾
︽魔力支配:5︾︽特異魔法:5︾︽契約︾
・戦術スキル
︽人形操り︾
・特殊スキル
コンバート
︽龍の力:6︾︽意志疎通︾︽変化︾︽次元作成︾
︽門︾︽惑星創世︾︽共鳴︾
・特殊能力 ︽性質変化:4︾︽天駆:4︾︽咆哮:7︾︽交換︾
・筋肉スキル
︽筋肉鼓舞︾
称号
︻初級技術者︼︻中級技術者︼︻上級技術者︼︻魔法技術者︼︻特
殊技術者︼
︻夜の帝王︼︻都市国家の主︼
2314
第233話:ミュルトさんの怒り
魔法学園に戻った翌日。俺は再びギルドに顔を出していた。ミュ
ルトさんに大事な話があると言って応接室で話をすることになった。
﹁で、大事な話とはなんでしょうか?﹂
そう言いながらミュルトさんはカップを差し出した。カップの中
には紅茶が入っており、その匂いだけでもオロロロしてしまいそう
だ。いや、マジで吐きそうになるのでやめて下さい。折角のご厚意
だが、今回は受け取れない、受け取ったところでミュルトさんに紅
茶クラッシュをする未来しか見えない。
﹁ガラムの件です﹂
受け取った紅茶をさりげなく目の前にあったテーブルに置きなが
ら本題へと入る。目の前にある大理石製のテーブルはギルドを建て
たときに一緒に作ったものだ。この世界で大理石製の家具はそれな
りのお値段だが、このテーブルはメイドイン俺なので値段はゼロだ。
毎日手入れをしているのか、テーブルの上には埃一つ見られない。
こうやって大事に使われていると作った身とすれば嬉しいよな。
﹁マスターですか﹂
﹁ええ、先日の戦争時にガラムを知っている魔族に会いました﹂
その言葉にミュルトさんの表情が曇った。
2315
﹁⋮⋮魔族ですか⋮⋮?﹂
﹁ええ、で、その魔族が言うにはガラムは魔王の家臣、それも幹部
クラスのようでそれなりの地位を確立している者らしいです﹂
﹁⋮⋮冗談ですよね?﹂
﹁残念ながら事実かと、それと彼の行き先も魔領であることが分か
っています。この二つから彼が魔族の一人である可能性は高いと思
います。先日の件も含めるとその可能性は一層高まるかと﹂
信じられないと言いたげな顔をするミュルトさん。無理もない、
いくら前々から怪しいと思っていてもまさか、ギルドマスターが魔
族でしかも幹部と言われても信じる方が難しいだろう。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮信じるか信じないかはミュルトさんにお任せします。ですが、
少なくとも俺はこれ以上ガラムを擁護することは一切ありません。
完全に敵とみなします。その事はミュルトさんの耳だけには入れて
もらいます﹂
ミュルトさんは何も答えない。しかし、その震えている体、ギュ
ッと握られている拳から彼女のなんとも言えない怒りを感じること
が出来き、前にガラムの話をしたときと似たような雰囲気を感じた。
﹁⋮⋮私はクロウさんが嘘を付いているようには見えません﹂
﹁⋮⋮そうですか﹂
2316
﹁⋮⋮私はこの街に来て数年経ちますが、街の人たちには本当にお
世話になりました。前回の戦争で亡くなった人の中には街に来て浅
い私のことを気遣って下さった方々も沢山いました⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
ミュルトさんの振るえている拳からうっすらと血が流れ出るのが
見えた。彼女の口調からも彼女の怒りが静かに、だがまるで煮えた
ぎるマグマの様な暑さが手に取るように分かった。
戦争で人が死ぬのは仕方が無い事だ。だが、その死が知っている
人によって起こされたことであったなら? 人は怒りを他にぶつけ
る事が多々ある。八つ当たりもその行動の一つだろう。
﹁クロウさん⋮⋮もし、マスタ⋮⋮ガラムの件で私に出来る事があ
ったら遠慮なく言ってください⋮⋮事の真相を私も知る権利を下さ
い⋮⋮でないとこの気持ちは⋮⋮﹂
﹁ええ、分かりました。そのときは遠慮なく言いますね﹂
ふむ、完全に信じた訳では無いけど、その可能性は高いと踏んだ
のか⋮⋮? いや、彼女のどうしようもない怒りの矛先がガラムに
向いているだけか⋮⋮?
﹁⋮⋮この件は完全に裏が取れるまでは内密でお願いします﹂
﹁そのつもりです。まあ、あいつは用が無くなった時は消すかもし
れませんけど﹂
実際の所、ガラムを抹殺するのはそこまで難しくない。誰もいな
いところで消してしまえばいいのだから。場所も発信機で特定でき
2317
ているのですぐにでも実行できる。
だが、それをしないのはあいつを泳がせておくことで、魔族の情
報を得る事が出来ると踏んだからだ。もし、必要な情報が得られな
いと判断すればそのときは容赦なく消させてもらうつもりだ。
﹁そもそも、どうやって裏を取るつもりですか?﹂
﹁彼が魔族となんらかの関係を持っているのであれば、必ずどこか
に書面などの物があるはずです﹂
﹁取引や交渉内容が書かれた書類と言う事ですか、確かに取引など
をするのであれば証明書は必要なのでそれを奪えば証拠にはなりま
すけど⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そこで、クロウさんにはその書類の入手をお願いしたいので
す﹂
﹁えっ﹂
﹁勿論、成功すれば報酬は出します。もっとも正式な依頼には出来
ないのでギルドからは出せませんが⋮⋮私の出せる物であれば⋮⋮﹂
﹁い、いや、別に報酬とかはいりませんから、俺も個人で動くつも
りでしたし、分かった事があればミュルトさんにも伝えるので気に
しないでください﹂
﹁で、ですが⋮⋮﹂
﹁それにミュルトさんはギルドでの仕事があるでしょ? まだエル
シオンは復興半ばでやる事も色々あるでしょうし、そちらを優先し
2318
て下さい、この件は私の方で動きますので﹂
﹁⋮⋮分かりました。ですが、何か手伝える時は言ってくださいね
? 約束ですよ?﹂
﹁ええ、分かりました﹂
ふぅ、思ったよりもミュルトさんが食いついてきて驚いた。まあ、
この件ではミュルトさんとも連携を取れるようになったと思えば良
かったのかもしれない。
﹁で、この話は終わりにして⋮⋮次はエリラの件です﹂
今日、ギルドに顔を出したのは7割はこのお話の為だ。
﹁エリラさんですか?﹂
﹁はい、お願いは一つ、エリラのブラックリストを解除してほしい
のです﹂
﹁⋮⋮へ? い、いや、それは流石に難しいかと⋮⋮﹂
﹁エルシオン領主の俺の保証付きでも駄目ですか?﹂
﹁⋮⋮あっ﹂
﹁⋮⋮出来るようですね﹂
エルシオンの領主になったことで、俺にもある程度の地位は確立
した。一国とは行かないまでも、それに準ずる都市国家の主の保証
2319
の元エリラのブラックリストを解除できないか気になっていたのだ。
正直な所、今でもエリラを奴隷扱いなど微塵もしてるつもりはな
いが、外の人から見ると奴隷という称号があるだけで対人交渉で相
手にアドバンテージを与えることになってしまう。
それに、俺もいつまでも奴隷関係を結んでおくことに決していい
気分はしていない。前にエリラから聞いた話だと魔族はどうやら強
制的に奴隷の主を上書きする術を持っているようなので、その対策
も兼ねてと言うのもある。
代わりに強制的に隷属関係を結ばれる可能性もあるが、それは対
応策を考えているので問題は無い。
と言う事で、俺としてはこれ以上エリラを奴隷という地位に置い
ておく理由は無いのだ。なら、さっさと無くしてしまった方がいい
のだが、それにはギルドのブラックリストが邪魔になるのだ。
﹁で、出来ますけど、クロウさんはまだ主になったばかりな上に、
都市国家と言っても樹立したばかりで知名度も無いのでもう少し時
間が経たないと厳しいと思いますよ?﹂
﹁ちぇ、すぐには無理と言う事ですか、じゃあまた時間が経ったら
お願いに来ますね﹂
⋮⋮と言ったが待つのは面倒だな。
⋮⋮こうなったらギルドの本部とやらに直訴してやろうか?
﹁あっ、直訴は駄目ですよ? 私の立場が無くなっちゃいますので﹂
﹁あっはい﹂
2320
あれ、顔に出てたかな? ︽ポーカーフェイス︾仕事しろや。あ
っでも俺だからやりかねないと思ったのかな?
ともかく、ミュルトさんの立場が無くなってしまうのは嫌なので、
直訴はやめておこう。
﹁あっでも、奴隷関係は解除してもいいと思いますよ?﹂
﹁えっ、マジで?﹂
﹁ええ、ブラックリストはそもそも町などで買い物が出来なくなる、
ギルドが保証する制度の恩恵を一切受けれなくなるだけで、一国の
主であるクロウさんの庇護を受けているエリラさんなら少なくとも
エルシオンで拒否される心配はないと思いますよ。他の街では分か
りませんが﹂
﹁あー、それもそうですね。じゃあ解除だけしておきますね﹂
なんか知らないけどラッキー。確かに最初話を聞いたときにそん
な話をしていたけど、なんせ10年前のことだから詳しい内容は忘
れていたぜ。
なら帰って早速解除しますか。そうなると急いで帰りたくなる。
今すぐ帰りたい。よし、帰ろう。善は急げと言うしな。
この時、俺はエリラの奴隷を解除した一心だったのだろう。その
せいで他の記憶がいくつか失念してしたのかもしれない。
そのため、ミュルトさんとの話を切り上げて、帰ろうとしたとき
テーブルの上に置かれていたカップの中身が何かということをすっ
かり忘れていたのだ。
﹁じゃあ、俺はそろそろ帰りますね。帰ってエリラの隷属関係を早
速解除して来ます﹂
2321
そう言いながら俺は何故かカップに手を伸ばし、口に含んでしま
った。
﹁ぶほぁ!?﹂
気付いた時には時すでに遅し、口から吐かれてしまった紅茶は目
の前にいたミュルトさんに盛大にかかってしまった。直ぐに顔の向
きを移すことで全てかかる事は回避したが、それでもかなりの量が
かかってしまった。
﹁⋮⋮﹂
何も言わないミュルトさん。だが、ついさっきまでミュルトさん
の怒りを感じていた俺には直ぐに分かった。
︵ああ、これは怒ってる⋮⋮︶
無言の怒りは怒鳴られるよりもきつい。まるで何事も無かったか
のようにミュルトさんは自分のポケットからハンカチを取り出すと
無言で顔を拭いた。そして、顔についた紅茶を拭き終わったあとに
一呼吸入れると一言。
﹁⋮⋮紅茶が無理なら早めに言ってくださいね﹂
﹁は、ハイ、すいません﹂
彼女の怒気の籠った言葉に俺は返事をするので精一杯だった。
2322
ブラックティースプラッシャー
︱︱︱称号︻紅茶を噴き出す者︼を取得しました。
︱︱︱スキル︽紅茶耐性低下︾を取得しました。
ブラックティースプラッシャー
==========
称号:紅茶を噴き出す者
取得条件
・無意識で紅茶を規定回数噴き出すこと
効果
・敏捷+50
・︽紅茶弱耐性︾取得
==========
スキル名:紅茶耐性低下
分類:耐性低下スキル
効果
・紅茶が苦手になる。スキルレベルがあがるほど苦手度アップ。
==========
2323
第233話:ミュルトさんの怒り︵後書き︶
耐性スキルに弱点があってもおかしくないよね?
03/30追記
﹁TSUTAYA×リンダパブリッシャーズ第1回WEB投稿小
説大賞 A賞﹂で異世界転生戦記が受賞しました! これにより書
籍化が決定しました。ここまでこれたのも皆様の応援のおかげだと
思っています。本当にありがとうございます!
以下に﹁TSUTAYA×リンダパブリッシャーズ第1回WEB
投稿小説大賞 A賞﹂の結果ページのリンクを貼って置きます。
リンク:http://www.redrisingbooks.
net/taishou20170330
03/30:︽紅茶弱耐性︾を︽紅茶耐性低下︾に変更しました。
また、耐性スキルに分類していたのを新たに耐性低下スキルを作成
して振り分けました。
03/30:話数を間違えていたので修正しました。
2324
第234話:御触れ
さて、エルシオンを統治するにあたり前々から考えていたことを
実行しようと思う。
その一つに新しいルールがある。今までのルールに変更を加えた
り新たに追加したりとそれなりの規模での変更だ。
特に、いくつかの内容はこの世界の住人にとっては信じられない
内容であるだろう。
もちろん、バッシングを受ける事など覚悟の上で行わせてもらう。
==========
その日、早朝からエルシオンは大騒ぎだった。
街のギルドに掲示されたエルシオン新領主からの御触れは住んで
いる住民にとって⋮⋮いや、この世界に住んでいる者からしてみれ
ば異質な内容ばかりだった。
﹁一体どういうことだ!?﹂
﹁新領主は頭がおかしくなったのか!?﹂
﹁いや、でも俺らには関係ない事だろ? それよりか最初の内容の
方が重要だ﹂
街の人々の反応は様々だったが、半数は不評、半数は好評と賛否
両論であった。
2325
特徴的なのは賛成する人と反対する人の地位や階層がくっきりと
分かれたことだろう。
その内容はこうだ。まず税率の大幅な改正。今まで多額の税が取
られていた住民税を大幅に下げ、さらに日用品や食料品にかけられ
る関税や消費税も一律下げられた。具体的に言うと今まで20%程
度かけられていた税率が5%にまで下げられたのだ。現代日本人の
感覚でもこの税率改正は異常なことだと分かるだろう。その感覚は
この世界でも同じで、急激な税率低下に逆に不安になる住民も少な
からずいた。もっとも、そんな思考深い人はごく一握りで大半の人
は大喜びしていた。
次に新たな市民権の制定を行う事が発表された。今後、新しく作
成するルールにエルシオンの民であるかどうかがかなり関わって来
るからだ。これまでエルシオンにどれくらいの人がいるかおおよそ
の人数は把握されていたが、具体的な数までは把握できていなかっ
た。それを厳正化してきちんとした数を把握しようというのが今回
の狙いだ。
そのため、続きには子供が生まれた場合や、身内が亡くなった場
合は然るべきところに届け出を出すようにとも書かれていた。だが、
気になるのは肝心の届け出場所は﹁後日発表﹂とだけ書かれており、
具体的な場所については記述が無かった。
﹁いや、人はいねーわ、場所も確保してねぇし﹂
新領主であるクロウはこう語っている。場所ぐらい決めておけよ
と現代の行政に関わっている人から文句を言われそうだが、この世
界はこれでも問題ないのだ。なんせ人口どころか税収も詳しく把握
しきれていない行政もあるくらいだからだ。そこから比べるとクロ
ウのこの新しいルールは細かいと言えば細かい分類になるだろう。
なお、このルールの記述には続きがあり、﹁市民権の取得は一定
以上の納税者に限られる﹂と書かれてある。要は金払っていない奴
2326
は国民じゃねぇと言う事だ。
その他にも市民権がある人が受けられる特権についてや新しい人
材の募集など大小さまざまな事がかかれてあった。書かれている内
容はどれも今の日本人にとっては馴染み深いものばかりであったが、
この世界の住人に取ってはとても新鮮に感じられたと言う。
しかし、そんな事などどうでも良かった。何故ならその御触れの
最後に書かれている内容に全住民の視線が釘付けになってしまった
からだ。
エルシオン内での奴隷の売買を一切禁止する︵種族は問わない︶。
またエルシオン内で奴隷を所持する場合は役所に届け出を行い、奴
隷一人1ヵ月につき1000Sを収めること。
どよめく住民。その住民の殆どはこの内容には関係の無い人たち
だ。なんせ奴隷なんて商人や貴族が持つようなものだったからだ。
しかし、その関係が無い人たちからしてみても、この内容は衝撃的
な内容だった。
これが人族に限るならまだ騒がれることは無かったのかもしれな
い。
だが、種族は問わないと書かれている。つまり獣族であろうが妖
精族であろうが一切関係ない。全ての隷属を禁止するということだ。
今まで異種族は敵、家畜以下の存在と教えられて来た人々にとって
は、この御触れは信じがたい事だった。﹁頭がおかしくなったのか
!?﹂という言葉は言い過ぎな気がしないでもないが、この世界で
はそう言われてもおかしくないほど常識外れの内容なのだ。
当然、奴隷を持っている商人などは怒った。ふざけるなと。奴隷
商人にとっては絶望感しかなかっただろう。
もっとも、騒ぎはしたが住民たちにとっては本当に無縁な話でも
あったりする。先ほども言ったが奴隷を持つのはそれこそ商人であ
2327
ったり貴族であることが大半で、一般市民には手が出せない代物だ
からだ。奴隷と言えば安いイメージがあるが、その後の維持費など
は意外と馬鹿に出来ない部分がある、それに一般市民は持っていた
ところで役に立つことなど殆どないと言うのもある。
そのため、この新たな御触れに不満を持つものは必然的に階級が
高い者が多くなり、逆に一般市民は税率の低下やその他の恩恵から
新たな御触れに賛成だったりする。
その不満を持つ者も中にはそれ以外は賛成だったりする者も多く
いる、それほどまでに奴隷の件以外の内容は魅力的な物が多かった
からだ。その詳しい内容は追々話して行くとして、この新しい御触
れに対しての町の住民の反応は最初に述べた通り賛否両論状態で、
この御触れのせいで街が一日大混乱してしまった。
勿論、御触れを発令した当の本人であるクロウはこれくらいの事
は予想していた。
﹁反対があるのは当たり前。寧ろない方が恐ろしいよ。問題はこの
後だ、俺が住民に理不尽な要求をせず、街の暮らしをより良くして
いけば、今回の件も良かったと思えるようになるだろう。そうなる
ようにこれから俺が努力していかないといけないがな﹂
クロウがかつてセラにお願いされた﹁異種族との対立の解消﹂こ
の御触れはまさにその第一歩と言える内容だろう。クロウからして
みれば奴隷関係の制度を一切廃止して、この街にも自由に異種族が
出入りできるようにしてもいいのだが、そんな事をいきなり出来る
はずもない。
物事には順序がある。絶対君主制からいきなり民主主義になって
混乱を招いた現代の中東のようなことにならないように少しずつ、
だが確実に歩を進めて行く必要がある。最終目標を達成したときに
クロウは既に生きていないかもしれないが、それでも良いとクロウ
2328
は思っていた。あとの事はセラに任せる。俺が出来るのは俺の手が
届く範囲までの事しか出来ないのだから。と割り切っている面もあ
る。
新しい御触れが発令されてから暫くの間、エルシオンは騒がしい
状態が続き、その混乱が静まったのは御触れが出てから一週間後の
ことだった。
︱︱︱称号︻常識から外れる者︼を取得しました。
︱︱︱スキル︽外道の心得︾を取得しました。
︱︱︱称号︻常識の開拓者︼を取得しました。
︱︱︱スキル︽常識の先駆者︾を取得しました。
==========
称号:常識から外れる者
取得条件
・ある一定以上の同種族が共有する共通認識から大幅に外れた行為
をすること
効果
・生命+500
・︽外道の心得︾を取得
・称号︻常識の開拓者︼を取得
==========
スキル:外道の心得
分類:生活スキル
効果
・嫌悪の対象になる行為に対して嫌悪感を抱きにくくなる
==========
称号:常識の開拓者
取得条件
2329
・ある一定以上の同種族が共有する共通認識から大幅に外れた行為
をすること
効果
・生命+600
・︽常識の先駆者︾を取得
・称号︻常識から外れる者︼を取得
==========
スキル:常識の先駆者
分類:生活スキル
効果
・嫌悪の対象になる行為に対して嫌悪感を抱きにくくなる
・新しい発想が生まれやすくなる
==========
2330
第234話:御触れ︵後書き︶
書籍化決定!
リンダパブリッシャーズとTSUTAYAが開催した﹃TSUT
AYA×リンダパブリッシャーズ第1回WEB投稿小説大賞 A賞﹄
にこのたび受賞作として︻異世界転生戦記︼∼チートなスキルをも
らい生きて行く∼が選ばれました。いやぁ、有難い限りです。ここ
までこれたのも読者の皆様の声援があってこそだと思います。本当
にありがとうございます!
これからも頑張って行きますので皆さん、どうかよろしくお願い
します。
結果ページのリンクを掲載しておきますので、宜しければこちら
も見て下さい!
リンク:http://www.redrisingbooks.
net/taishou20170330
03/30:称号、スキル取得が抜けていましたので記載しました。
2331
PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n3347cf/
【異世界転生戦記】∼チートなスキルをもらい生きて行
く∼
2017年3月30日21時37分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
2332
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