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社会サービスの民営化(8) 地域に資金が留まる! シュタットベルケの存在意義と 地域経済への効果 Principal Research Engineer 嶋野 崇文 「社会サービスの民営化」 シリーズ8回目は、 これまでに2回取り上げてきたドイツ・シュタットベルケ の存在意義と地域経済への効果について、 シュタットベルケ・デュイスブルクが公表している効果 推計結果などの現地情報をもとにレポートします。 1 シュタットベルケの存在意義 していた都市ガス事業や水道事業、地域熱供給事業を 母体に設立されていることが多いため、100年といった 長い歴史を持っている事業体が多く存在しています。 これらの長い歴史を持つSWには、エネルギー供給を 行う民間セクターが育つ以前に、 「住民の基本生活の 保証」を担うサービスを自治体が直営で実施し、後にSW という公社形態に移行したものが多くみられます。SWと いう公社形態のため自治体による出資が行われ、提供 意義があり、単に価格が安いという以外のサービス購入 の選択要因となっています。 また 、S W など によるドイツ 自 治 体 公 益 企 業 協 会 (Verband kommunaler Unternehmen:VKU)が世帯に 対して行った「大きな、 または極めて大きな信頼を寄せる 機関は何か?」 というアンケート調査では、SW等の自治 体公益企業が75%、市町村が57%の票を得ており、一 方で大企業は16%の票を得ているに過ぎ ず、市 民 が SWを信頼し、求めていることが垣間見えます。 サービスの地 域 密 着 が ひとつの目的に、そしてS Wの 存在意義ともなっています。 一方、 ドイツで電力完全自由化が行われた1998年以降 に、ヴァルトキルヒ(Waldkirch)、ジンデルフィンゲン (Sindelfingen)、ミュルハイム・シュタウフェン(MüllheimStaufen)など新たに設立されたSWもあり、これら の 中 には「エネルギ ー自治」を目 的 に、地 域でエネル ギー会社を持ちたいという意志の下に新設されたものが みられます。 「エネルギー自治」 として、平常時・非常時の 連続したサービス提供の維持、再生可能エネルギーの 選択を可能とするということがこれら新しいSWの存在意 義となっています。 一例ですが、シュタットベルケ・ヴァルトキルヒ(以下、 大きなまたは非常に大きな信頼を寄せる機関は?(%) シュタットベルケ 75 地方自治体 57 ラジオ 57 信用組合 48 連邦政府 46 労働組合 45 報道機関(新聞) 37 テレビ 28 銀行 23 政党 21 大企業 16 0 20 40 60 図1:様々な機関へのドイツの世帯の信頼 80 i SWW)は、エネルギー自治と再生可能エネルギー導入推 進を目的に1998年11月に新設されました。このような 趣旨に基づき、SWWは以下のような役割を担っています。 ○太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギー事業の発電 適地として誘致・立地させるだけでなく、地域エネルギーの需給 管理と地域マネジメントを連動させ、地域のエネルギー需給を 安定化させること ○地域内の生活・産業活動のコストを低下させ、活性化を図ること ○地域内循環を促進し、地域で生産し消費する経済構造を強化 すること ○地域内循環促進の結果として、地域所得の外部流出を減少させ ること 2 シュタットベルケの地域への経済効果 人口約49万人のデュイスブルク市のシュタットベルケ・ デュイスブルク (以下、SWD)の地域経済への効果につ いて、エデュアルド・ペステル研究所が研究したレポートを、 SWDが公開しています。 (1) シュタットベルケと大手電力/ガス会社との地域への 資金還流の比較 地域への資金還流については、100セント (€1)あたり、 電力では大手電力会社であれば12セントなのに対し、 社会サービスの民営化 ドイツのシュタットベルケ (以下、SW)は元々、市が保有 歴史のあるSW、そして新しいSWにはこれらの存在 (8) SWDの場合は29セントが地域に還流すると試算されて (3) シュタットベルケと大手電力/ガス会社との地域への います。 雇用効果の比較 同様に、ガスの場合は大手ガス会社であれば9セント 同レポートでは、SWDにより1,709人が直接雇用され なのに対し、SWDでは50セントも地域に資金が還流す ると試算されています。 ていると報 告されています。また、地 域 の企 業 からの サービス購入などによる間接雇用が1,390人と分析され ています。 さらにSWDが支払った税金や料金によって発 SWDによる電力供給の場合 生する仕事による誘発雇用が2,494人と分析され 、これ 29Cent 大手電力会社による供給の場合 らを合わせて、約5,600人分の地域雇用が創出されて 12Cent SWDによるガス供給の場合 大手ガス会社による供給の場合 いると分析されています。 50Cent 9Cent 0 20 40 図2:地域への資金還流の比較 60 80 ii (2)シュタットベルケによる地域への資金還流の内訳 そして、 これら約5,600人の被雇用者が生活のために 物品やサービスを購入することにより、市および市周辺 地域の誘発雇用を生んでいるとレポートしています。 一方、大手では本社から少数の管理職などが派遣され てくるだけだ、 と主張しています。 社会サービスの民営化 同レポートでは(1)に示したSWDによる地域への資 金還流の内訳も分析されています。 SWDに支払う電気料金100セント (€1) ごとに、下図の ように地 域 内 の 様々な 相 手 先 、使 途 に資 金 が 還 流し、 合計で29セント(比率では29%)がデュイスブルク市 および周辺地域に留まることになります。 5% デュイスブルクに本社を置く企業との契約 (8) 2% 賃金 給与 1% 社会保障負担と税の地域での共有 6% デュイスブルク運輸連合への 配当、 コンセッション料 71% 12% 地域内の他の主体からの 電力や燃料の購入支出 3% 地域内での契約企業だけではなく、 その他の企業への還流 地域還流の合計:29% 図3:電気料金をSWDに支払った場合の地域への資金還流の内訳 i i 同様にSWDにガス料金を支払う場合には、100セント (€1)ごとに合計50セント (比率では50%)がデュイス ブルク市および周辺地域に留まることになります。 8% デュイスブルクに本社を置く企業との契約 3% 賃金 給与 50% 1,709人の 直接雇用 1,390人の 間接雇用 2,494人の 誘発雇用 図5:SWDの地域への雇用効果 ii (4)市財政への寄与 SWDはデュイスブルク市100%出資のデュイスブルク 供給・交通有限会社(Die Duisburger Versorgungsund Verkehrsgesellschaft:DVV)の傘下企業で、SWD の利益はDVVに還元されます(DVVは持ち株会社のよ うな機能)。この利益還元が市の公共交通などの運営の 一部に充てられることから、SWDは地方自治体である市 の予算にも重要な貢献を果たしています。 SWDによる地域への経済効果の分析結果を紹介しまし 1% 社会保障負担と税の地域での共有 たが、我が国においても今後、地域に雇用を確保し、地域 12% デュイスブルク運輸連合への 配当、 コンセッション料 日本の地域エネルギーのあり方、地域を元気にする 20% 地域内の他の主体からの ガスや燃料の購入支出 6% 地域内での契約企業だけではなく、 その他の企業への還流 の富を地域内で再投資する仕組みが重要となります。 地域運営マネジメントの仕組みを考えるうえで、今回紹介 したような地域経済、地域の雇用、市財政への寄与など の視点を取り込み、日本版シュタットベルケが実現できる ように取り組みたいものです。 地域還流の合計:50% 図4:ガス料金をSWDに支払った場合の地域への資金還流の内訳 i i i)図1 データ: forsa社会調査・統計解析有限責任会社を通じた世帯アンケート、2015年12月、ドイツ自治体公益企業協会(VKU) ht tp: //w w w.vku . d e/ filea d min /m e dia / Bild e r/O e ff e ntlich keits a rb eit _ Presse/G ra fi ke n / V K U _ G ra fi k _160126-1.jpg ii)図2、図3、図4、図5 Gut fur Duisburg. Gut fur die Region. Die regionalwirtschaftliche Bedeutung der Stadtwerke Duisburg I s View : 2016(株) イノベーション推進センター All rights reserved. お問い合わせ先:info@ipc-pacific.com