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系統用蓄電池等に関する海外動向調査

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系統用蓄電池等に関する海外動向調査
平成 25 年度新エネルギー等導入促進基礎調査事業
系統用蓄電池等に関する海外動向調査
報告書
平成 26 年 2 月
はじめに
蓄電池は、現下の厳しい電力需給の下で、需給両面での負荷平準化やスマートコミュ
ニティなどの分散電源の促進にとって核となる重要技術であり、今後の成長産業分野で
ある。現在、日本国内をはじめ各諸外国においても車載用、系統用等様々な用途におけ
る蓄電池の開発・導入が進んでおり、今後の潜在的な成長分野としての蓄電池を戦略的
な我が国産業に育て上げるためには、蓄電池の高度化・低コスト化に向け、官民連携し
てより一層取り組んでいくことが必要不可欠である。
このうち、系統用蓄電池は、世界規模での再生可能エネルギーの大幅な導入拡大に伴
い必要となる系統安定化対策としてコア技術の一つであり、我が国が世界に誇る技術を
有する分野である。ここ数年、欧米諸国を中心に、系統の不安定化への対策として蓄電
池を応用する動きが活発化しつつあるものの、依然として実証段階での取組みが大宗を
占めており、マーケットとしては未成熟な状況である。最近では、新たなビジネスモデ
ルとして米国のアンシラリーサービス市場向けやチリの火力発電所の向けに発電予備
力向けを提供する20MW級の大型リチウムイオン電池が商用導入される案件が出始
めており、市場化の動きは徐々に進みつつある。
今回の事業では、こうした系統用蓄電池に焦点を絞り、海外の市場動向や課題を把握
し、その背景となる各国の制度や電力系統の置かれる状況について調査を行う。我が国
においては、電力会社の変電所に系統用蓄電池を設置する実証試験や系統用蓄電池の価
格を現在の半分程度にするための研究開発など多種多様な施策を講じているが、海外に
おいても年々こうした開発・支援は加速度的に増している。こうした熾烈な競争が繰り
広げられている中、我が国蓄電池産業の競争力強化を図るため、系統用蓄電池の導入可
能性の高い国を選定し、市場獲得のために必要な情報の収集を行うとともに、関連する
メーカを中心に今後の蓄電池産業の動向に関する意見交換の場の設定を通じ、こうした
企業の取組みの活性化を図る。
目次
有望地域の選定(各国の制度や電力系統に関する状況などの背景把握).................... 1
I
1.
2.
市場の視点 ................................................................................................................... 1
1.1.
米国 ............................................................................................................. 2
1.2.
ドイツ ............................................................................................................ 3
1.3.
フランス ........................................................................................................ 4
1.4.
イギリス ........................................................................................................ 5
1.5.
イタリア ......................................................................................................... 6
1.6.
スペイン ........................................................................................................ 6
1.7.
日本 ............................................................................................................. 7
プレーヤの視点 ........................................................................................................... 8
有望地域の市場動向や課題........................................................................................... 10
II
1.
2.
3.
4.
5.
米国(カリフォルニア州) ....................................................................................... 12
1.1.
米国(カリフォルニア州)において蓄電池が導入される背景............................. 12
1.2.
米国(カリフォルニア州)における蓄電池関連の主要な政策 ............................ 13
1.3.
米国(カリフォルニア州)における蓄電池導入に向けた課題 ............................ 15
1.4.
米国(カリフォルニア州)において想定されるビジネスモデル ........................... 17
米国(PJM) ............................................................................................................. 18
2.1.
米国(PJM)において蓄電池が導入される背景 .............................................. 18
2.2.
米国(PJM)における蓄電池関連の主要な政策・制度 .................................... 19
2.3.
米国(PJM)における蓄電池導入に向けた課題.............................................. 19
2.4.
米国(PJM)において想定されるビジネスモデル............................................. 20
ドイツ ........................................................................................................................ 21
3.1.
ドイツにおいて蓄電池が導入される背景 ....................................................... 21
3.2.
ドイツにおける蓄電池に関連数関連する主要な政策・プロジェクト ................... 22
3.3.
ドイツにおける蓄電池導入に向けた課題 ....................................................... 23
3.4.
ドイツにおいて想定される蓄電池事業のビジネスモデル................................. 23
イタリア .................................................................................................................... 25
4.1.
イタリアにおいて蓄電池が導入される背景 .................................................... 25
4.2.
イタリアにおける蓄電池に関連数関連する主要な政策・プロジェクト ................ 26
4.3.
イタリアにおける蓄電池導入に向けた課題 .................................................... 28
4.4.
イタリアにおいて想定される蓄電池事業のビジネスモデル.............................. 28
イギリス .................................................................................................................... 29
5.1.
イギリスにおいて蓄電池が導入される背景 .................................................... 29
5.2.
イギリスにおける蓄電池に関連数関連する主要な政策・プロジェクト ............... 30
5.3.
イギリスにおける蓄電池導入に向けた課題 ................................................... 31
5.4.
6.
イギリスにおいて想定される蓄電池事業のビジネスモデル ............................. 31
有望国における事業機会 ........................................................................................... 32
日本企業の課題と政策支援の方向性 ............................................................................ 34
III
1.
ビジネスモデル仮説と成功要因 ................................................................................ 34
2.
日本企業の課題 ......................................................................................................... 36
3.
政策支援の方向性 ...................................................................................................... 37
有望地域の選定(各国の制度や電力系統に関する状況などの背景把握)
I
本章では、欧米の主要国の中で本調査にて現地調査の対象とする有望国を図 I-1 にある通
り、
「①市場の視点」と「②プレーヤの視点」から絞り込んだ。
出所)NRI
図 I-1 有望地域の選定ロジック
「①市場の視点」は、市場状況を「中長期の市場ポテンシャル」と「短期市場顕在化状
況」の二つの視点から評価を行い、米国、ドイツ、イタリア、イギリスが有望国として想
定した。
また、
「②プレーヤの視点」は、日本企業に対するアンケート結果より、日本企業が有望
だと考えている地域を把握した。現状日本企業が有望だと考えている国として米国に対す
る期待が各社高く、続いてドイツ、イタリア、イギリスに対する期待が高いことが分かっ
た。
以上の絞り込みを行った結果、本調査では、米国、ドイツ、イタリア、イギリスを有望
国として現地調査の対象国とした。なお、以下有望国を選定した手順の詳細を記載する。
1.
市場の視点
本節では、
「①市場の視点」として各国の制度や電力系統に関する状況などの背景情報を
把握した。なお、図 I-2 に記載した通り、各調査項目を NRI の調査の視点に集約する形で
各国の概況状況を把握した。
―1―
出所)NRI
図 I-2 各国の制度や電力系統に関する状況などの背景把握の調査の視点
今回、関連制度や電力系統に関する状況などの背景情報を把握する対象とした国は、米
国、ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、スペイン、日本とした。以下各国ごとに、
中長期の市場ポテンシャルの視点と短期市場顕在化状況の視点にて概況を記載する。
1.1. 米国
米国は、中長期市場ポテンシャルの視点では、電力市場規模が大きく、蓄電池の導入背
景となり得る課題も存在している。また、短期市場顕在化状況の視点でも蓄電池の関連政
策が立案され、蓄電池の商用プラントも立ち上がり始めている。そのため、米国は、中長
期の視点からも短期的な視点からも最も有望な市場であると想定される。以下米国の概況
を記載する。

中長期市場ポテンシャル
電力市場規模:優先順位高
米国の電力の最大需要は 2011 年時点で約 770GW であり、
他国と比較すると電力市場規模が最も大きい。
想定課題有無:優先順位高
米国では先進国でありながらピーク需要が増加している。
今後も需要拡大に対応するための発送配電設備投資が必要
であり、効率的な発送配電設備投資をいかにして実現する
―2―
かが課題となっている。
また、一部の州において風力発電や太陽光発電の増加によ
る系統運用への悪影響が課題として懸念されている。例え
ば、
カリフォルニア州は、
2020 年までに電力の発電量の 33%
を再生可能エネルギーによって賄うことを目標としており、
今後大量の太陽光発電や風力発電所の導入されることで系
統運用への悪影響が懸念されている。

短期市場顕在化状況
関 連 政 策:優先順位高
周波数制御卸取引市場において各設備の周波数調整能力に
応じた支払いを実施する制度 (FERC order 755)が導入され
ており、PJM 等の一部の周波数制御市場において即応性の
高い蓄電池が、他のリソースよりも高い対価を得ることが
できる。また、カリフォルニア州において電力会社に一定
割合の蓄電容量を保有することを義務付ける政策(AB2514)
が導入されている。
案 件 情 報:優先順位高
PJM の周波数制御卸取引市場において複数の大型蓄電シス
テムが商用化されている。
カリフォルニア州において電力各社が複数の蓄電池の実証
プラントが稼働、導入検討されており、今後 AB2514 の義
務量履行のための蓄電池導入に向けた RFP が提出される見
通し。
市場の持続性:優先順位中
PJM や PJM 以外の ISO(Independent System Operator)の周
波数制御卸取引市場における大型蓄電システムの導入拡大、
カリフォルニア州の電力会社による AB2514 の義務量履行
のための蓄電池導入が今後想定される。
1.2. ドイツ
ドイツは、電力市場規模が比較的大きく、再生可能エネルギーの導入が特に進んでいる
ため、中長期的な市場ポテンシャルは高い。また、家庭向け太陽光併設蓄電システムの導
入や大型蓄電池実証プロジェクトが実施されており、短期市場の視点でも、有望性がある。
これらから、ドイツは、米国についで有望性が高い市場と想定される。以下ドイツの概況
を記載する。

中長期市場ポテンシャル
―3―
電力市場規模:優先順位中
80GW
想定課題有無:優先順位高
再生可能エネルギーの導入が進んでおり、ドイツ北部にお
いては、風力発電の大量導入により余剰電力の問題が、ド
イツ南部の太陽光発電の大量導入により、配電系統の電圧
上昇の問題が顕在化している。

短期市場顕在化状況
関 連 政 策:優先順位中
太陽光発電と組み合わせた蓄電池に対する補助政策が導入
されている。一部の大型蓄電池の実証実験には、補助金が
拠出されている。
案 件 情 報:優先順位中
SMA 等の事業者が小規模な PV と組み合わせた蓄電池シス
テムの販売を開始した
大型蓄電システムとしての水素蓄電システムの実証が実施
されている。大型蓄電池の案件数は数件に留まる
市場の持続性:優先順位低
システムコストに加え、補助金の持続可能性や電気料金水
準の変化によって配電側での蓄電池導入の拡大が見込まれ
るが、補助金の持続可能性は現状不透明
1.3. フランス
フランスは、市場規模が大きいものの再生可能エネルギー増加による系統運用への悪影
響などの課題が顕在化しておらず、市場拡大を後押しする制度や複数の案件も存在してい
ないため、他国と比較すると蓄電池に対するニーズは相対的に低いと想定。

中長期市場ポテンシャル
電力市場規模:優先順位中
フランスの電力の最大需要は 2011 年時点で約 93GW であり、
欧州の他国と比較すると電力市場規模は大きい。
想定課題有無:優先順位低
長期的には周波数調整に問題が生じる恐れがあるものの、
当面系統問題を引き起こすほど再生可能エネルギーの導入
比率は高まらないと想定。

短期市場顕在化状況
関 連 政 策:優先順位低
現状、蓄電システム向け大規模な補助制度は存在していな
―4―
いと想定。
案 件 情 報:優先順位低
一部 EDF が主導する実証試験等は存在しているものの、規
模は小さく、多数の案件は存在していない。
市場の持続性:優先順位低
現状蓄電池システム導入が持続的に拡大する制度や市場状
況は存在しないと想定。
1.4. イギリス
イギリスは、電力市場規模が比較的大きいが、再生可能エネルギーの導入量は、米国や
ドイツなどと比べると未だ限定的であり、系統運用への悪影響などの課題は顕在化してい
ない。しかし、中長期的な問題顕在化に向けて、蓄電システムに対する政府補助金の拠出
や、蓄電池の実証プロジェクトが実施されており、比較的有望性の高い市場であると想定
される。以下イギリスの概況を記載する。

中長期市場ポテンシャル
電力市場規模:優先順位中
60GW
想定課題有無:優先順位中
局地的に風力発電の余剰問題が顕在化しているが、大きな
課題には至っていない
風力発電を中心とした再生可能エネルギー増加による課題
は中期的な課題として想定されている

短期市場顕在化状況
関 連 政 策:優先順位中
DECC は、ESC(Enegy Strage Competitions)を設け、蓄
電システム実証実験と調査・FS に対して最大 20million ポン
ドの予算を確保し補助を実施。OFGEM の LCNF(Low
Carbon Network Fund)を活用した蓄電池システムの実証実
験も実施されている。
今後容量市場が成立する見通し
案 件 情 報:優先順位低
ESC(Enegy Strage Competitions)の選定事業者が今後複
数の蓄電システムを導入する見込み。
DNO(配電事業者)が、LCNF(Low Carbon Network Fund)
を活用した蓄電池プロジェクトを実施・計画中
市場の持続性:優先順位低
―5―
容量市場が成立し、蓄電池に対して優位な制度設計となれ
ば、蓄電池導入が進む可能性があるが現状不透明
1.5. イタリア
イタリアは、電力市場規模が比較的大きく、系統強化による問題解決が困難な南部地域・
離島部を中心に再生可能エネルギーの導入が特に進んでいるため、中長期的な市場ポテン
シャルは高い。また、短期視点でも、送電事業者による大型蓄電池実証プロジェクトが複
数件実施されており、有望性が高い。これらから、イタリアは、米国についで有望性が高
い市場と想定される。以下イタリアの概況を記載する。

中長期市場ポテンシャル
電力市場規模:優先順位中
60GW
想定課題有無:優先順位高
近年、急速に再生可能エネルギーの導入量が増加してきて
いる。特に南部地域・離島部において再生可能エネルギー
増加による系統運用上の問題が顕在化してきている

短期市場顕在化状況
関 連 政 策:優先順位中
送電事業者が蓄電システムを保有し、運用できる制度が導
入された
案 件 情 報:優先順位高
送電事業者である Terna が蓄電池を 75MW 導入予定。
Terna の試算では、240MW 以上の導入量が見込める
市場の持続性:優先順位低
今後新たな制度が導入されれば、送電系統における蓄電シ
ステム導入の拡大が見込まれるが、現状不透明
1.6. スペイン
スペインは、最大需要の増加や再生可能エネルギーの余剰問題等が既に顕在化している。
しかし、最大電力需要の観点から他国と比較すると市場規模が小さい点や蓄電池導入の拡
大を後押しする重要な制度が存在しておらず、大規模な蓄電池案件も存在していない点か
ら他国よりも優先順位を一旦下げた。

中長期市場ポテンシャル
電力市場規模:優先順位中
スペインの電力の最大需要は 2011 年時点で約 45GW であり、
―6―
欧州の他国と比較すると電力市場規模は大きくない。
想定課題有無:優先順位中
電力の最大需要が最低需要の2倍近くあり低負荷率である
ため、ピーク電源の投資回収が困難な状況になっている。
また、再生可能エネルギーの大量導入により特定時期に電
力が供給過剰になる。そのため、風力発電を対象とした中
央給電指令所には余剰発生時に再生可能エネルギー電源の
出力を抑制する機能も持たせている。

短期市場顕在化状況
関 連 政 策:優先順位低
CDTI(The Centre for Industrial Technological Development)
が EU と共同で、スマートグリッド実証 PJT に対して、
€11million の補助金を支給している。国単独での大規模な補
助政策は存在していないと想定。
案 件 情 報:優先順位中
Enel group でもある電力会社 Endesa は、政府と EU からの
援助を受けた Project STORE により、大規模蓄電池システ
ムの実現可能性の検証を開始した。
市場の持続性:優先順位低
現状蓄電池システムの持続的な導入拡大を支援する制度や
市場は存在しないと想定。
1.7. 日本
日本は、北海道等の一部地域にて再生可能エネルギー増加による系統運用面での悪影響
が顕在化し始めており、北海道電力管内と東北電力管内において大規模な蓄電池が政府の
補助により設置される見通しになっている。その他様々な政府の補助政策等により、短期
的には蓄電池の導入拡大が想定される。一方、再生可能エネルギー増加による系統の不安
定化の懸念は一部の地域に留まっており、広域系統全体の課題としては顕在化していない。
そのため、現状の各種補助政策が終了した際に市場が持続的に拡大するかどうかは不透明
である。しかし、今後の国内におけるアンシラリー市場の設計によっては蓄電池が活用さ
れる可能性もあるため注視が必要。なお、本調査は海外市場に主眼を置いているため日本
市場の詳細調査の優先順位は落としている。

中長期市場ポテンシャル
電力市場規模:優先順位高
日本の電力の最大需要は 2011 年時点で約 160GW であり、
欧米の他国と比較すると電力市場規模は大きい。
想定課題有無:優先順位低
―7―
北海道等の特定地域において再生可能エネルギー増加によ
る系統の不安定化が懸念されているが、広域系統全体の課
題としては顕在化していない。

短期市場顕在化状況
関 連 政 策:優先順位中
現状予算規模が大きい蓄電池関連政策として定置用リチウ
ムイオン蓄電池への補助と系統向け蓄電池への補助を挙げ
ることができる。上記の二つの政策的支援により、今後数
十万 kWh の容量の蓄電池が導入されると想定 。
案 件 情 報:優先順位高
補助金を活用した需要家向けリチウムイオン蓄電池は約
200MWh 程度導入されていると想定。また、系統向け蓄電
池システムへの補助金を活用し合計 80MWh の大型蓄電池
が導入されている予定。
市場の持続性:優先順位低
現状は補助金の継続有無によって市場の継続性が判断され
る市場であり、継続的な市場拡大の見通しは現状不透明
総 合 評 価:優先順位中
2.
プレーヤの視点
本節では、日本の各企業が有望視している市場を明らかにすることで多くの企業が有望
視している国を本調査の対象国として絞り込んだ。図 I-3 に蓄電池に関連する日系企業に対
するアンケート結果を記す。本アンケートの結果から、日系各社は、系統向け蓄電池の有
望市場として米国市場に対する期待値が高い。続いてドイツ、イタリア、イギリスに対す
る期待値が高い。
―8―
出所)NRI
以上の絞り込みを行った結果、本調査では、米国、ドイツ、イタリア、イギリスを有望
国として現地調査の対象国とし、次章以降調査対象国の調査結果を記載する。
図 I-3 日系企業が想定する系統向け蓄電池の有望市場
―9―
II
有望地域の市場動向や課題
有望国の市場動向や課題に関しては、調査項目を NRI の着眼点に集約する形で把握した。
出所)NRI
図 II-1 有望国の市場動向の調査の視点
―10―
表 II-1 有望地域の市場動向や課題まとめ
CA 州
①蓄電池が
導入される
背景
・GHG 低下などの環境規制
の観点から再生可能エネル
ギーが増加し、系統運用が
難しくなる上、新たなビジ
ネスモデルを構築するとい
った産業政策の側面から蓄
電リソース導入を進める
②関連する
・AB2514
主要な政策
・SGIP
③蓄電池導
入に向けた
課題
④想定され
るビジネスモ
デル
・導入義務量に対し、蓄電
リソースの費用対効果を如
何に担保するかが今後の検
討項目となる
・揚水発電などの競合技術
と比較して蓄電池が費用対
効果で優位に立つ必要があ
る
・電力会社へのシステム販
売に加え、PPA 契約モデル
も想定される
ドイツ
PJM
・効率的な市場運用の実現
・Pay for performance
・Capacity 市場における蓄
電池の活用可能性を検討中
・ガス発電に対するコスト
優位性、蓄電設備を活用し
た参加者の拡大による価格
の下落リスクへの対応
・アンシラリー市場での収
益獲得に加え、その他の収
益源による複数収益の獲得
・再生可能エネルギー大量
導入により、調整力低下の
見通し
・脱原発と風力発電増加に
よる南北電力需給バランス
の崩れ
・Energy Storage R&D 補助
金
・小規模 PV+ESS への導入
補助金
・大型蓄電池本格普及には、
送電開発計画に遅延が生じ
ること、Gas to Power 等の
他技術に対する競争力が必
要
・周波数制御市場における
蓄電池プラント運用
イタリア
・再生可能エネルギー大量
導入により、調整力低下の
見通し
・特に、南部・離島におけ
る系統運用上の問題顕在化
・ネットワークオペレータ
の蓄電池保有の許可
・再生可能エネルギー+蓄
電池モデルの促進に向けた
蓄電池の取扱いルールの整
備
・Terna/Enel の実証プロジ
ェクトで蓄電池のメリット
が認められることが必要
・再生可能エネルギー+蓄
電池モデルの促進には、蓄
電池のコスト低減が必要
・短期的には、Terna/ENEL
Distribuzione 向けの蓄電池
システム販売が有望
・中長期的には、再生可能
エネルギープラントオーナ
ーや需要家への蓄電池販
売・サービス提供
イギリス
・スコットランド地域を中
心とした再生可能エネル
ギーの大量導入による系
統運用上の問題顕在化の
見通し
・DECC による Energy
Storage の R&D 補助金:
・ofgem の LCNF による蓄
電池プロジェクト
・蓄電池は、種々の選択肢
の一つとして検討されて
いるフェーズであり、蓄電
池以外の Storage 技術を含
むその他対策に対する費
用対効果の成立が課題
・短期的には、DNO の補
助金プロジェクトへの蓄
電池システム販売が有望
出所)NRI
―11―
1.
米国(カリフォルニア州)
カリフォルニア州まとめ

蓄電池が導入される背景
・温室効果ガスの排出量低下などの環境規制の観点から再生可能エネルギ
ーが増加し、系統運用が難しくなる。
・新たなビジネスモデルを構築するといった産業政策の側面もある。

関連する主要な政策
・2020 年までに約 1.3GW の蓄電池の導入目標を定めた AB2514
・需要家に設置される蓄電リソースに関する補助政策である SGIP

蓄電池導入に向けた課題
・AB2514 においては、蓄電リソースの費用対効果を如何に担保するかが今
後の検討項目となる。
・様々な蓄電リソースの中で揚水発電などの競合技術と比較して蓄電池が
費用対効果で優位に立つ必要がある。

想定されるビジネスモデル
・現状ベネフィットが不透明な中でアンシラリーサービスやピーク需要向
けの容量不足への対応などがメリットとして想定される。
・AB2514 は、電力会社が直接保有するリソースと電力会社以外が保有する
リソースに分かれるため、複数のビジネスモデルを想定する必要ある。
1.1. 米国(カリフォルニア州)において蓄電池が導入される背景
カリフォルニア州では電力需要が増加する中で厳しい環境規制を背景に再生可能エネル
ギーの導入量増加がしてきていることで蓄電設備へのニーズが顕在化してきている。
出所)NRI
図 II-2 Back ground of AB2514
―12―
カリフォルニア州では、ピークの電力需要が伸びている中で、火力発電所や送配電設備
の多くが老朽化してきている状況にある。しかし、微細粒子に関する排出規制や海洋保護
の観点などの環境上の問題から新たな火力発電所の建設が困難な状況にある。さらに、景
観保護や環境保護の観点から送配電設備を増設することも難しい状況にある。一方で、環
境意識の高まりにより、再生可能エネルギー推進の政策がとられており、多くの再生可能
エネルギーが導入されてきている。これらの背景から、系統の調整力の調整力が不足する
ことが懸念されている。
1.2. 米国(カリフォルニア州)における蓄電池関連の主要な政策
上述のような背景から、カリフォルニア州では、蓄電池を推進する政策・補助制度が施
行されている。以下に、カリフォルニア州における蓄電池導入を促進する主要な政策を占
める

AB 2514

CPUC( California public utilities commission :カリフォルニア州公益事
業委員会)が、カリフォルニア州の IOU(大手民間電力会社)3 社に対し
て、2014 年、2016 年、2018 年、2020 年末時点での蓄電システム調達目
標を企業ごとに設定した。


2020 年までに 3 社計 1.325GW の導入量目標を設定した。
SGIP(Self Generation Incentive Program)

自家発電を推進するためのインセンティブプログラム。

2001 年に制度が開始され、2009 年には温室効果ガス削減にフォーカスする
形で 2014 年までの実施が決められ、年間約$80million 程度のファンドが形
成されている。

技術分野によって、インセンティブは異なっているが、蓄電池に関しては、
$1.8/W が取得可能(2013 年時点)
。

PLS(Permanent Load Shifting)

カリフォルニア州の IOU(大手民間電力会社)3 社を通じて、需要家の蓄
熱ストレージ導入に対して、875$/kW を上限とした補助を行う制度
上記の政策・補助制度の中でも、大型蓄電池事業に最も大きな影響を与えるのが、2020
年に約 1.3GW の蓄電容量目標を示した AB2514 である。AB2514 における各 IOU の導入目
標量の詳細を下表に示す。
―13―
表 II-2
Southern
California
Edison (SCE)
Pacific Gas &
Electric
(PG&E)
San Diego Gas
& Electric
(SDG&E)
AB2514 の導入目標量 (MW)
2014
2016
2018
2020
Total
90
120
160
210
580
Transmission
50
65
85
110
310
Distribution
30
40
50
65
185
Customer
10
15
25
35
85
90
120
160
210
580
Transmission
50
65
85
110
310
Distribution
30
40
50
65
185
Customer
10
15
25
35
85
20
30
45
70
165
Transmission
10
15
22
33
80
Distribution
7
10
15
23
55
Customer
3
5
8
14
30
200
270
365
490
1,325
Total
出所)NRI
AB2514 では、上表のように各 IOU に、蓄電池の用途、導入時期についての明確な数値
目標が示された。しかし、CPUC は、AB2514 の目標に対して、柔軟性を持った運用をおこ
なっていくことを予定している。Transmission/Distribution/Customer それぞれの用途にお
ける導入量目標量の分配や、2014 年、2016 年、2018 年といった時期の目標達成について
は、各 IOU に厳格な順守を求めるのではなく、2020 年の最終的な導入量達成に向けて、各
IOU が、費用対効果に見合った導入を進めていくことを求めている。
なお、AB2514 は、業界関連団体のロビー活動などにより成立した経緯があり、蓄電池シ
ステムに関する産業政策的な側面も持っている。高い数値目標を設定することで、カリフ
ォルニア州に多くの蓄電池関連プレーヤが集まり、技術革新や、新たなビジネスモデルが
出てくることが期待されている。
―14―
1.3. 米国(カリフォルニア州)における蓄電池導入に向けた課題
カリフォルニア州では、AB2514 を背景に今後、蓄電池の導入が進むことが期待されてい
るが、蓄電池導入が本格化するには、費用対効果の明確化が必須の課題となる。
AB2514 を背景にした蓄電池の導入について、ステークホルダーごとに想定している課題
を以下に示す。

各ステークホルダーの考える AB2514 に関する課題

規制当局(CPUC: California public utilities commission)
・既に目標数値は作成したため、導入が進むか否かは、蓄電システムの費
用対効果が見合うかどうかの課題であると認識。現在、想定されるコスト
とベネフィットを検討している最中である。

系統運用機関)
(CAISO:California ISO)
・今後、より柔軟性の高いリソースが必要となるため蓄電池を活用する可
能性もある。蓄電池に適した新たな市場の導入も検討している。
・しかし、系統運用者としては特定の技術に偏った市場設計は行わない。

電力会社(PG&E と SDG&E)
・蓄電設備の費用対効果の検証は現在実施し、これらの結果を基に CPUC
に蓄電池の導入計画を提出していく。しかし、その後、蓄電システムの導
入を認めるかどうかは最終的に CPUC の判断次第である。

政策立案者(CEC: California Energy Commission)
・実証試験を通じて費用対効果が見合うアプリケーションを見つけていく
ことが重要である。
・蓄電池のコストが見えないことは現状の課題である。
現状は、蓄電池を活用して、収益化できるベネフィットが少ないため、費用対効果の成
立は難しい状況にある。今後、カリフォルニア州における蓄電池の導入を実現していくた
めには、CPUC の許可が得られるよう様々なベネフィットを具体化した計画を、電力会社
が主導となって策定していくことが必要だといえる。
さらに、AB2514 では、目標量を達成するために導入する蓄電技術は定置用蓄電池以外も
想定されている。下表に CPUC が想定する AB2514 における各蓄電技術の活用可能性につ
いて示す。
―15―
表 II-3
AB2514 における各蓄電技術の活用可能性
AB2514 での活用可能性
活用可能性
・あらゆる場所に設置が可能で、
蓄電池
用途によって技術を使い分けるこ
・コストの低下度合い次第で、導
とで活用可能
入が進む可能性がある
・コスト低下が大前提
・SDG&E は、最近運転開始した小
規模揚水発電を AB2514 の義務量
に加える見込み
揚水発電
・PG&E と SCE についても開発が検
・AB2514 の趣旨と照らし合わせ
討されている揚水発電が存在して
て導入が難しいと想定
いるが、新しいビジネスモデルや
(小規模設備は導入可能がある)
技術を開発するという AB2514 の
目的に照らし合わせると導入量に
認められるかは不透明
・PG&E が CAES の検討をしている
CAES(Compressed が、環境アセスなどの問題から開
発が 2020 年以降となり AB1514 の
Air Energy
Storage)
義務量に間に合わない可能性があ
・AB1514 の時間的な制約から導
入は難しいと想定
る
・今後も電気自動車の導入拡大が
電気自動車
想定されており、系統安定化に活
用できる可能性がある
・需要家側の補助制度と連携する
蓄熱ストレージ
形で需要家側にて導入が進む可能
性がある
・電気自動車が目標通りに導入さ
れれば、活用可能性がある
・需要家向けのリソースとして導
入可能性がある
出所)NRI
AB2514 を背景にした蓄電池の導入が進むためには、上表のような他の蓄電技術に対する
競争力を持つこと、および他の蓄電技術と差別化可能なアプリケーションを実現していく
ことが必要となる。
―16―
1.4. 米国(カリフォルニア州)において想定されるビジネスモデル
下図に、AB2514 を背景にした蓄電池導入において、想定されるビジネスモデルを示す。
AB2514におけるビジネスモデル
システム販売
サービス提供
誰に
• カリフォルニア州の大手電力会社(配電小売会社)
• 需要家
• カリフォルニア州の大手電力会社(配電小売会社)
• 需要家
何を
• 蓄電システム一式
• 蓄電システムを活用したサービス(例:ピークシフト、
周波数制御サービス等)
• 自らシステムインテグレータとしてシステムを提供
する
• システムインテグレータと連携し蓄電池等を販売
する
• 自らサービス提供者となってサービスを提供する
(蓄電プラントも自ら保有する)
• サービス提供者と連携し蓄電池などを販売する
どうやって
• 蓄電池システムの安全性(ノックアウトファクター)、システムコスト(アプリケーション別の費用対効果)
KBF
• サービス事業者の信頼性や実績
出所)NRI
図 II-3
AB2514 におけるビジネスモデル
AB2514 では、IOU に対して、自社で蓄電池システムを保有・運用する案件と、他社が保
有する蓄電池システムからサービスの提供を受ける案件の両方を持つことが義務付けられ
ている。このため、今後、カリフォルニア州では、上図に示す蓄電池導入システム販売モ
デルとサービス提供モデルの両方のビジネスモデルが実現していくことが想定される。
―17―
2.
米国(PJM)
PJM まとめ

蓄電池が導入される背景
・Pay for performance 制度の導入により、即応性の高い蓄電池が周波数制
御市場にて獲得できる単価が増加し、蓄電池の導入が進んでいる。

関連する主要な政策
・Pay for performance
・現在、Capacity 市場における蓄電池の活用可能性が検討されている。

蓄電池導入拡大に向けた課題
・蓄電池を導入するプレーヤの視点からは、ガス発電の増加による市場価
格の下落、蓄電設備を活用した参加者の拡大による価格の下落リスクなど
の課題が想定されている。

想定されるビジネスモデル
・アンシラリーサービス市場における蓄電池プラントの運用。
2.1. 米国(PJM)において蓄電池が導入される背景
PJM では、効率的な市場構築と再生可能エネルギーの増加による将来の課題に対応する
ために、即応性の高いリソースを活用する制度を導入した。この結果、大型蓄電池にとっ
て有利な市場が構築され、大型蓄電池の導入が進んでいる。
出所)NRI
図 II-4
PJM における蓄電リソースの導入背景
―18―
米国連邦エネルギー規制員会は、2011 年 10 月に、ISO(独立系統運用機関)や RTO(地
域送電機関)が運営する周波数調整市場において、設備容量あたりの固定価格と業績に応
じた価格による二段階式価格制度の導入を義務付ける制度“Order755”を発令した。
Order755 は、市場ルールの詳細設計を各 ISO/RTO に委ねることになっており、Order755
を受けて PJM では、機動的で出力変動が可能である蓄電池が、特に有利な評価を得られる
制度(”Pay for Performance”)を導入した。PJM の Pay for Performance 制度では、周波数
調整市場を、通常の周波数調整リソース用のものと、即応性の高い周波数調整リソース用
のものに分け、それぞれで別の運用を行う制度とした。この制度により、反応速度の速い
蓄電池は、即応性の高い周波数調整リソースとして、PJM の周波数制御市場に参入するこ
とができ、通常の周波数調整リソースに比べて高い収益を得ることができるようになった。
PJM が、Pay for Performance 制度を導入するまでには、実際に反応速度の速いリソース
を活用した実証実験の実施、制度導入による経済性の分析などが行われた。これらの検討
プロセスの結果、Pay for Performance 制度を導入することで、効率的な市場設計ができる
との判断に至り制度が制定された。実際に、PJM では、Pay for performance の導入により
効率的な市場運営が実現されている。Pay for performance を導入した 2012 年 10 月以降、
ピーク容量に対する Regulation の必要量は、
1.0%から徐々に低下。
2012 年 12 月には、
0.7%
以下の水準にまで低下した。
2.2. 米国(PJM)における蓄電池関連の主要な政策・制度
上述のように PJM 管内において、大型蓄電池の導入を後押しする主な政策・制度として
は、PJM の周波数制御市場における Pay for Performance 制度が挙げられる。Pay for
Performance 制度の導入により、2014 年 1 月末現在、複数の大型蓄電池プラントが、PJM
の周波数制御市場において、商業的な運用を行っている。
Pay for Performance 制度以外では、PJM は、現在、容量市場(Capacity Market)におけ
る大型蓄電池の活用に向けた制度設計の検討を行っている。
2014 年 1 月末現在、PJM が運用する容量市場(Capacity Market)に対して、大型蓄電
池が参入をすることはできない。しかし、もし大型蓄電池が、容量市場に参入できるよう
にあれば、蓄電池は、容量市場においてベースとなる収益基盤を持ちながら、周波数制御
市場等のアンシラリーサービス市場での運用が可能となるため、大型蓄電池の費用対効果
を向上させることができる。そこで、 PJM では、現在、蓄電設備(“Energy Storage
Resources”
)が、容量市場に参入するための制度に関する検討を行うための検討が進めら
れている。
2.3. 米国(PJM)における蓄電池導入に向けた課題
PJM において大型蓄電池の導入が拡大するためには、蓄電池の寿命、市場規模の限定性、
市場価格の変動、および他技術に対する競争力に関する課題が想定される。下表に各課題
の概要を示す。
―19―
表 II-4 想定される課題
想定され
概要
る課題
市場規模
・周波数制御市場の規模が小さいため市場規模が限られている。
他技術の
・ガス発電の増加や DR(デマンドレスポンス)の参入拡大によって周波数制
活用
御市場等の市場における蓄電池の参入余地が少なくなる可能性がある。
・市場取引となるため、他技術の活用拡大や蓄電池の参入拡大によって価格
市場価格
変動
が低下する可能性がある。また、電力需要が低下した場合の価格が下落する
可能性がある。
出所)ヒアリング
2.4. 米国(PJM)において想定されるビジネスモデル
PJM 管内では、既に、大型蓄電池プラントを設置し、周波数制御市場において運用を行
うというビジネスモデルが実現している。実際に、大手 IPP 事業者である AES 社は、PJM
管内に複数の大型蓄電池プラントを設置し、周波数制御市場において商業的な運用を行っ
ている。
しかしながら、想定される課題で述べたように、周波数制御市場は規模が小さいため、
今後、周波数制御市場のみで大型蓄電池の運用を行うことのみを目的とした大型蓄電池の
導入は限定的なものとなると想定される。今後は、複数のベネフィットを組み合わせるこ
とにより収益源を拡大することで、蓄電池の費用対効果成立を実現させるようなビジネス
モデルによる蓄電池の導入が見込まれる。例えば、需要家サイドに蓄電池を設置すること
で、電気料金の容量支払い(Capacity Charge)の低減、自家発電設備や再生可能エネルギ
ーと組みわせることで非常用電源としてのベネフィットの実現、およびアンシラリー市場
での運用によるベネフィットを同時に取り込んでいくというようなビジネスモデルの可能
性に期待がされる。
―20―
3.
ドイツ
ドイツのまとめ

蓄電池が導入される背景
・再生可能エネルギー大量導入により、経済性を失った火力発電の停止が
進み、調整力が低下する見通しである。
・北部における風力発電由来の電力の余剰等が問題となってきている。

関連する主要な政策・プロジェクト
・蓄電技術に対する R&D 補助金(200 百万€:2012~14 年)
。
・周波数制御市場運用における実証プロジェクト。
・小規模の太陽光発電システム併設蓄電池に対する導入補助金(€25 百万:
2013 年) 。

蓄電池導入に向けた課題
・ドイツ国内における大規模な送電開発計画、および周辺各国との系統接
続強化および連携運用の強化が、系統問題解決の主要対策として捉えられ
ている。このため、大規模な蓄電技術の導入が本格的に検討されるには、
これらの計画の実行が困難になる場合、遅延が生じる等の条件が必要とな
る。
・蓄電技術の導入の検討が本格化された場合にも、Gas to Power 等の他技
術に対して、費用対効果等の競争力を見出すことが必要となる。

想定されるビジネスモデル
・短期的には、周波数制御市場における蓄電池プラント運用のビジネスモ
デルが有望と考えられる。
3.1. ドイツにおいて蓄電池が導入される背景
ドイツでは、風力発電と太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーの導入が、急速に
進んでいる。2012 年時点で再生可能エネルギー由来の電力量は、既に 2 割を超えている。
ドイツ政府は更なる再生可能エネルギーの導入量拡大を目指しており、2050 年に消費電力
量に占める再生可能エネルギーのシェアを 80%にするという意欲的な目標を設定している。
このように再生可能エネルギーが大量に導入されることで、今後、系統安定化のための
調整力の需要が増加する可能性がある。さらに、再生可能エネルギー由来の電力量が増加
することで、卸電力市場の価格が低下し、火力発電等の調整電源として機能してきた従来
電源が、経済性を失い、停止に追い込まれる事態が起こりつつある。つまり、再生可能エ
ネルギーの導入拡大により、系統安定化の調整力の需要が増え、供給が減る事態が生じる
ことが懸念されている。
―21―
さらに、ドイツでは、再生可能エネルギー導入状況にいて、地域毎に大きな偏りが生じ
ている。ドイツの南部では太陽光発電の導入量が多く、北部では風力発電の導入量が多い。
このため、ドイツ北部では、風力発電の大量導入による余剰電力の問題等が顕在化してき
ている。
3.2. ドイツにおける蓄電池に関連数関連する主要な政策・プロジェクト
ドイツにおいて蓄電池の導入を促進する主な政策・補助金としては、政府による蓄電技
術の R&D プロジェクトを対象にした補助金(期間:2012-2014 年、予算:200 百万ユーロ)
と、KfW(ドイツ復興金融公庫)による小規模太陽光発電設備併設の蓄電池の導入補助金
(2013 年予算:25 百万ユーロ)が挙げられる。
下表に、ドイツにおいて実施、または計画されている主な大型蓄電池関連プロジェクト
を記載する。
表 II-5 ドイツにおける大規模蓄電池プロジェクト
事業会社
場所
運転開始年
蓄電池種類
蓄電池容量
Energiequelle GmbH
Feldheim
2014
Li-Ion
10MW/5MWh
WEMAG/Younicos
Schwerin
2014
Li-Ion
5MW/5MWh
Vattenfal/Younicos
Berlin
2013
LiFePO4
2MW/2.6MWh
Vattenfall/Younicos
Berlin
2012
NaS
1MW/6MWh
Evonik Industries
Völklingen
2013
Li-Ion
1MW/0.7MWh
出所)NRI
ドイツ北西部 Feldheim では、
スマートタウンプロジェクトの一要素として、
10MW/5MWh
のリチウムイオン電池の設置をして、地域独立型のエネルギーシステムを構築することが
検討されている。
また、ドイツ北西部の地域配電・小売会社の WEMAG は、5MW/5MWh のリチウムイオ
ン電池を設置し、アンシラリーサービス用途に活用することを計画している。具体的には、
ドイツの周波数制御市場“Primary control Reserve 市場”において、蓄電池を運用すること
を計画している。WEMAG のプロジェクトでは、政府の補助金が活用されており、プロジ
ェクト費用の 2 割程度は補助金から拠出される。この WEMAG のプロジェクトでは、
―22―
Younicos 社(ドイツ、ベルリン)を大型蓄電池の建設・設置事業者として、Samsung SDI
社製のリチウムイオン電池が設置される。
さらに、ドイツでは、KfW(ドイツ復興金融公庫)による小規模太陽光発電設備併設の蓄
電池の導入補助金が設定されるなど、家庭用太陽光発電設備併設型の蓄電池の導入が多く
検討されている。ドイツの家庭部門の電気料金は、再生可能エネルギー賦課金の負担など
により非常に高い水準にあり、太陽光発電設備に蓄電池を併設して、太陽光発電設備由来
の電力を活用することで、経済性が成立することが期待されている。日照の良いドイツ南
部などを中心として、今後、太陽光発電設備併設型の小型の蓄電池の導入が進む可能性が
ある。
3.3. ドイツにおける蓄電池導入に向けた課題
DENA(German Energy Agency)
が、2010 年 11 月に発表した「Integration of Renewable
Energy Sources in the German Power Supply System from 2015 – 2020 with an Outlook to
2025.」では、ドイツにおいて再生可能エネルギーの大量導入により生じる系統上の問題を
解決するために、従来方式による送電線の増強と、送電技術の向上等による対策が必要と
された。これらの送電線の増強に加えて、系統システムの柔軟性を向上させる施策として、
DSM(デマンドサイドマネジメント)や風力の予測技術向上が有効な対策と判断される一
方で、蓄電技術(Energy Storage)については、現状の市場制度を前提にした運用では、費
用対効果が低く、有効な対策とはならないと結論付けられた。
ドイツでは、南北の送電連携の強化を始めとして、全国で大規模な送電線増強計画が進
められている。また、周辺各国との国際連携線の強化に関するプロジェクトも進められて
おり、これらの送電線連携により、風力発電の余剰電力などの、再生可能エネルギー大量
導入に伴う問題の解決が検討されている。
2014 年 1 月末現在、送配電網の開発は、複数のプロジェクトで遅れが生じるなど、必ず
しも計画通りには進んでいない。しかし、ドイツ政府は、現在のところ、送配電網の増強
により、再生可能エネルギー大量導入に伴う問題の解決を第一に考えており、蓄電池の活
用を、大々的に検討している状況にはないといえる。今後、ドイツ国内において、蓄電技
術の導入が本格的に検討されるようになるには、送配電網の計画実行が困難な状況となっ
たり、大幅な遅延が生じるような状況となったりすることが必要となると想定される。
さらに、ドイツでは、Gas to Power 等の水素貯蔵技術の実証プロジェクトが複数実施さ
れており、余剰電力対策などで政府や市場関係者の期待値も高い。このため、蓄電技術の
導入の検討が本格化されるようになった場合においても、蓄電池の導入が本格的に進むよ
うになるためには、他の蓄電技術に対して、費用対効果等の競争力を見出すことが必要と
なる。
3.4. ドイツにおいて想定される蓄電池事業のビジネスモデル
ドイツにおいては、今後、家庭部門における太陽光発電設備併設型の蓄電池システム導
―23―
入、およびアンシラリーサービス市場向け大型蓄電池プラントの運用のビジネスモデルが
成立する可能性が想定される。
上述のようにドイツの家庭部門は、電気料金が高水準にあるため、日照条件の良い地域
(南部地域)から順に、太陽光発電設備併設型の蓄電池システムの導入が進む可能性があ
る。このため、蓄電池事業者としては、各家庭に対してシステム販売を行う形の事業機会
が生じうる。
さらに、上述の WEMAG のプロジェクトのように、今後は、Primary Control Reserve 市
場における大型蓄電池の運用を行うプロジェクトが成立する可能性がある。ドイツの
Primary Control Reserve 市場では、蓄電池を活用して参入することも規制上可能となって
おり、かつその市場単価は比較的高水準である。蓄電池プラントを建設して、Primary control
Reserve 市場において運用を行う事業を計画している WEMAG 社は、「政府の補助金を活用
することで、 このプロジェクトの経済性が成立しうる」という見通しを持っている。このた
め、今後、蓄電池コストの低減が進むことなどにより、ドイツの Primary control Reserve
市場において大型蓄電池の運用が進む可能性が想定される。
―24―
4.
イタリア
イタリアのまとめ

蓄電池が導入される背景
・再生可能エネルギーの大量導入による南部・離島における系統運用上の
問題顕在化。
・再生可能エネルギー大量導入により、経済性を失った火力発電の停止が
進み、調整力が低下する見通し。

関連する主要な政策・プロジェクト
・ネットワークオペレータによる蓄電池保有の許可(2011 年)
。
・Terna による計 75MW の蓄電池実証プロジェクトの許可 。
・ENEL Distribuzione による計 8MW 以上の蓄電池実証プロジェクトの許可。
・再生可能エネルギー併設型蓄電池の導入促進に向けた大型蓄電池の取り
扱いルールの検討・整備。

蓄電池導入に向けた課題
・ 政 策 サ イ ド か ら の 更 な る 後 押 し を 得 る た め に は 、 Terna と ENEL
Distribuzione の実証プロジェクトの結果、蓄電池のメリットが認められる
ことが必要 。
・再生可能エネルギー併設型蓄電池の導入の促進には、蓄電池のコスト低
減が必要 。

想定されるビジネスモデル
・短期的には、Terna と ENEL Distribuzione 向けの蓄電池システム販売 。
・中長期的には、再生可能エネルギープラントオーナーや需要家への蓄電
池販売・サービス提供 。
4.1. イタリアにおいて蓄電池が導入される背景
イタリアでは、くし型の系統に再生可能エネルギーが大量導入されることで系統への悪
影響が懸念されている。イタリアでは、積極的な促進政策により、ここ数年で、再生可能
エネルギーの導入量が急速に拡大してきた。特にイタリア南部地域・離島部では、地理的
に他国や国内の他地域との系統連携による系統安定化を図ることが困難であることに加え、
イタリア国内でも特に再生可能エネルギーの導入が集中している。イタリア南部・離島の
複数の地域では、2012 年時点で既に、1 時間単位では、最大需要電力量を再生可能エネル
ギーによる発電量が上回る状況が発生している。イタリア政府の National Energy Strategy
では、2020 年に、消費電力量ベースで、35~38%を再生可能エネルギーとすることが目標
として掲げられている。このため、今後も、更なる再生可能エネルギーの導入拡大が見込
―25―
まれ、南部・離島地域を中心に、系統運用がより困難になってくることが想定される。
イタリアでは、過去 10 年間ほどを通じて、電力需要の伸びが停滞する中で多くのガス火
力発電の建設が進んできたことにより、現在は、ピーク需要に対して、10GW 以上もの設
備余剰が生じており(2012 年時点)
、全国的な調整余力は未だ十分な水準が保たれていると
想定される。しかし、イタリアにおいても、今後再生可能エネルギーの導入が進むことで、
卸電力市場の価格が低下し、火力発電等の調整電源として機能してきた従来電源が、経済
性を失い、停止に追い込まれることが懸念される。実際に、イタリアの Primary Control
Reserve の供給量は、既に低下を始めてきており、将来的には、供給不足に陥ることが想定
されうる。
4.2. イタリアにおける蓄電池に関連数関連する主要な政策・プロジェクト
イタリアにおいて蓄電池の導入を促進する主な政策・補助金としては、ネットワークオ
ペレータによる蓄電池保有・運用の許可と、これを背景とした Terna・ENEL Distribuzione
の大型蓄電池実証プロジェクト 、および再生可能エネルギー併設型蓄電池の導入促進に向
けた大型蓄電池の取り扱いルールの検討・整備の動きが挙げられる。
イタリア政府は、2011 年に、送配電会社が、ネットワーク開発計画に蓄電池を織り込む
こと、およびネットワークオペレータが電池を保有・運用することを認める決定を下した。
これを受けて、Terna では、現在、合計 75MW の大型蓄電池導入プロジェクトの実施が
予定されている。このプロジェクトは、Energy Intensive プロジェクト:35MW、Power
Intensive プロジェクト:40MW により構成されている。詳細を下図に示す。
出所)Terna、ヒアリング
図 II-5
Terna の実証プロジェクト(2014 年 1 月末現在)
Energy intensive プロジェクトでは、日本ガイシの NAS 電池が導入される。また、Power
intensive プロジェクトでは、複数の会社の、複数の技術が検証される予定であり、リチウ
ムイオン電池を始めとする複数の種類の電池が採用される予定である。
―26―
一方、イタリアの配電網の大部分を管轄する配電事業者である ENEL Distribuzione も、
複数件の大型蓄電池プロジェクトを実施・計画している。
ENEL Distribuzione が実施・計画する大型蓄電池プロジェクトの概要を下表に示す。
表 II-6
プロジェクト名
Isernia
Project
ENEL Distribuzione による大型蓄電池プロジェクトの概要
地域
Isernia
Sicilia
POI
Project
Calabria
Puglia
Grid4EU
Emilia
project
Romagna
ステータス
Installed
Under-
電池
種類
SIer
Li-Ion Siemens
Battery
Power
Energy
会社
(MW)
(MWh)
SANYO
(Panasonic)
1
0.5
Li-Ion ABB
FAAM
2
1
Li-Ion NEC
NEC
2
2
Planning
Li-Ion SAET
SAFT
2
1
Planning
Li-Ion Loccioni
1
1
construction
Underconstruction
Samsung
SDI
出所)ヒアリングより NRI 作成
ENEL Distribuzione は、上記のプロジェクトを通じて、蓄電池の短周期用途から長周期用
途まで、複数のアプリケーションを検証する。
次に、再生可能エネルギー併設型蓄電池の導入促進に向けた大型蓄電池の取り扱いルー
ル整備の検討状況について述べる。イタリアの規制当局(電力ガス規制機関:AEEG)は、
再生可能エネルギー併設型蓄電池の導入を後押しするために、再生可能エネルギーと蓄電
池を併設した際の蓄電池の扱い方や、再生可能エネルギーインセンティブの取扱いなどに
関する制度作りを進めている(2014 年 1 月末現在)。このような規制機関側の動きに合わ
せて、民間事業者も、再生可能エネルギー併設型蓄電池導入に向けた検討を行っている。
例えば、Enel Green Power 社は、風力発電や太陽光発電設備に大型蓄電池を併設し、これ
らを 1 つの発電ユニットとしてみなし、運用することで、経済性を成立させるためのビジ
―27―
ネスモデルの検討を行っている。
4.3. イタリアにおける蓄電池導入に向けた課題
イタリア政府は、再生可能エネルギーの大量導入により生じる問題への解決策として、送
配電網の強化を優先的な課題として挙げている。一方で、特に、南部地域や離島部等の系
統強化による対策の実現が困難な地域において、蓄電池の活用に対して期待が寄せられて
いる。
上述のように、イタリアでは、現在、主にネットワークオペレータである Terna と ENEL
Distribuzione によって蓄電池の実証プロジェクトが進められている。今後、イタリアにお
ける蓄電池の導入が加速するためには、これらの実証プロジェクトの結果により、政府・
規制当局に蓄電池導入のメリットが認められることが必要だと考えられる。
また、今後、再生可能エネルギー併設型蓄電池の導入が進むためには、政府・規制機関
による市場整備が蓄電池のメリットを十分に引き出せる形で進められ、かつ蓄電池コスト
が低減することで、費用対効果が成立するようになることが必要である。
4.4. イタリアにおいて想定される蓄電池事業のビジネスモデル
イタリアにおいては、Terna や Enel Distribuzione が、今後も複数の大型蓄電池導入の実
証プロジェクトを実施することが想定される。このため、短期的には、これらのネットワ
ークオペレータに対する蓄電池システム販売のビジネスモデルが有望だといえる。
一方、中長期的には、ネットワークオペレータ以外のプレーヤが蓄電池を活用した事業
を実施できるような市場環境整備が実施されていくことが想定される。これにより、再生
可能エネルギー発電設備を保有するプラントオーナーに対する蓄電池システムの販売やサ
ービス提供等のビジネスモデルが成立する可能性が想定される。
―28―
5.
イギリス
イギリスのまとめ

蓄電池が導入される背景
・再生可能エネルギーの大量導入による系統運用上の問題顕在化の見通し。
・北部スコットランドにおいて風力の大量導入による問題が顕在化しつつ
ある。

関連する主要な政策・プロジェクト
・DECC(Department of Energy and Climate Change: エネルギー・気候変
動省)による Energy Storage の R&D 補助金:20million£。
・OFGEM(Office of Gas and Electricity Markets : ガス・電力市場管理局)
の LCNF(Low Carbon Networks Fund)が蓄電池プロジェクトにも資金を
拠出。

蓄電池導入に向けた課題
・蓄電池以外の蓄電技術を含むその他対策に対する費用対効果の成立が課
題。

想定されるビジネスモデル
・短期的には、DNO の補助金プロジェクトへの蓄電池システム販売が有望。
5.1. イギリスにおいて蓄電池が導入される背景
イギリスでは、今後の再生可能エネルギーの導入拡大により引き起こされる電力システ
ムの不安定化への対応のため、蓄電池が活用される可能性がある。
現在、風力発電を中心に再生可能エネルギー導入量が増加してきており、2013 年時点で
は、発電電力量の 10~15%程度を再生可能エネルギー電源が占めている。
EU 大で掲げられている再生可能エネルギーの導入拡大の目標に応じて、イギリスにおい
ても今後も再生可能エネルギーの導入拡大が計画されており、系統運用機関の National Grid
は、風力発電の大量導入により、アンシラリー市場の調達規模が増加することを想定して
いる。
また、再生可能エネルギー導入の地域的な偏りも問題視されている。スコットランドで
は、風力発電を中心とした再生可能エネルギーの導入が急速に進んできており、発電電力
量に占める再生可能エネルギーの比率は、2012 年時点で既に 3 割程度にまで達している。
まずは、スコットランドや離島において、再生可能エネルギーの導入比率が高まっていく
ことで、蓄電池のニーズが顕在化していくことが想定される。
―29―
5.2. イギリスにおける蓄電池に関連数関連する主要な政策・プロジェクト
イギリスにおける蓄電池の導入を促進する主な政策・補助金としては、OFGEM(Office of
Gas and Electricity Markets : ガス・電力市場管理局)の LCNF(Low Carbon Networks Fund)
と、DECC(Department of Energy and Climate Change: エネルギー・気候変動省)の R&D
補助金が挙げられる。
OFGEM の LCNF は、ネットワークの省エネ・低炭素化の実現のために、DNO(配電事
業者)が新しい技術や運営・商業上の手法を試験することを促進し、実現することを目的
としたファンドであり、複数の蓄電池の実証プロジェクトが、LCNF を活用して実施されて
いる。イギリスにおける大型蓄電池実証プロジェクトの多くが、この LCNF を活用したも
のである。
DECC の R&D 補助金は、2050 年の Climate Change Target の達成に向けた技術革新を支
援することを目的とした補助金“DECC Innovation Support”の一環として位置付けられて
おり、2011 年 4 月末~2015 年 3 月で総額 200 百万ポンドのうち、蓄電技術を対象に 20 百
万ポンドの補助金が拠出される予定である。現在、複数の事業者が補助金の取得を決めて
おり、1.26MWh のバナジウムレドックスフロー蓄電池の実証プロジェクト等が補助金獲得
を決めている。
下表に LCNF を活用した蓄電池の導入プロジェクトの概要を示す。
表 II-7
LCNF を活用した DNO の蓄電関連プロジェクト (2013 年 11 月時点)
Location
Installation
Status
Power (MW) Capacity (MWh)
Main
Application
Type
Hemsby
April 2011
0.2
0.2Li-ion
Chalvey
June 2012
0.075
0.075Li-ion
Orkney
June 2013
2
0.5Li-ion
Bristol
September 2013
0.06
Darlington
November 2013
2.5
5Li-ion
Darlington
November 2013
0.1
0.2Li-ion
Wooler
November 2013
0.1
0.2Li-ion
Wooler
November 2013
0.05
0.1Li-ion
LV contorol
Maltby
November 2013
0.05
0.1Li-ion
LV contorol
Darlington
November 2013
0.05
0.1Li-ion
Smart Grid Demo
0.09
0.321NaNiCl
Under
construction
Under
Shetland
construction
Under
Milton Keynes
construction
Under
Leighton Buzzard
construction
Bristol
Willenhall
Planned
1
0.15
6
2
―30―
0.0144Lead acid
3Lead acid
0.4510Li-ion
0.375-
Wind
Community
Storage Park
Voltage control
and peak shifting
Distribution
support
Distribution
support
-
Power station
modulation
Peak demand
reduction
Local constraint
management
-
出所)UK Distribution Network Operators ,Electricity Storage Network
現在、イギリスで計画されている最大の蓄電池プロジェクトは、ロンドン近郊の Leighton
Buzzard において、UK Power Networks が計画している“Smarter Network Storage(SNS)
”
である。このプロジェクトでは、6MW/10MWh のリチウムイオン電池を設置し、蓄電池の
複数のアプリケーションを検証・開発を目指す。
5.3. イギリスにおける蓄電池導入に向けた課題
上述のように、スコットランドや離島など一部の地域では、再生可能エネルギーの導入
拡大による系統運用の困難化が懸念されている。しかしながら、ドイツやイタリア等と比
べると、イギリスの再生可能エネルギー導入量による問題は、未だ顕在化していない状況
にあるといえる。このため、イギリス政府は、蓄電技術を将来生じうる問題解決のための
打ち手の一つとして位置付けた検討を行っている段階にある。例えば、LCNF では、系統運
用上の問題を解決するために、蓄電技術以外にも種々の技術実証が行われている。また、
現在、ノルウェー、フランス、ベルギーなどとの国際連携線の建設が計画・実施されてお
り、系統の増強・運用向上による問題解決策も、今後とも推進されていく方針にある。
今後、イギリスにおいて大型蓄電池の導入が促進されるためには、蓄電池コストの低減
や、有望なアプリケーション・運用の開発により、費用対効果を向上させることが必要で
ある。
5.4. イギリスにおいて想定される蓄電池事業のビジネスモデル
イギリスでは、今後、スコットランドや離島などにおける大型蓄電池の活用が期待され
るが、短期的には DNO が主導する実証プロジェクトが、主要な蓄電池の導入案件となるこ
とが想定される。したがって、DNO に対する蓄電池システム販売のビジネスモデルが、当
面は有望だといえる。
しかし、イギリス政府は、電力市場における健全な競争環境の確立のために、ネットワ
ークオペレータである DNO に大量の大型蓄電池を保有・運用させることを推進する方針に
ない。したがって、中長期的には、National Grid が運用するアンシラリー市場での運用や、
再生可能エネルギーとの併設、および需要家サイドへの導入が普及することと想定される。
このため、中長期的には、アンシラリー市場での蓄電池プラントの運用や、再生可能エネ
ルギー発電プラントのオーナーや需要家等への蓄電池の販売・サービス提供のビジネスモ
デルが普及する可能性がある。
―31―
6.
有望国における事業機会
本節では、有望国にて 2020 年までに顕在化する可能性のある蓄電池市場の領域を想定す
る。有望国において顕在化する可能性のある蓄電池市場を図 II-6 に示す。
出所)NRI
図 II-6 各国の直近顕在しているないしは今後顕在化する可能性が高い事業領域
米国の PJM においては、既に周波数制御市場において蓄電池が活用されており、今後も
蓄電池の導入が進むと想定される。仮に PJM の周波数制御市場の必要容量の約半数まで蓄
電池が導入されたと仮定した場合、約 300MW 程度の蓄電池リソースが導入される可能性が
ある。なお、周波数制御市場においては放電レートが高い蓄電池が利用されることが想定
されるため、仮に 3C の蓄電池システムを想定すると累積で約 100MWh の蓄電池システム
の導入が想定される。
米国のカリフォルニア州においては、3 大電力会社が 2020 年までに約 1.3GW の蓄電設
備の導入もしくは導入契約を締結することが想定されている。カリフォルニア州にて導入
される蓄電設備の用途は多岐に亘ることが想定されるため、幅広い事業機会が顕在化する
可能性があると考えられる。ただし、現時点で特定の用途に絞り込むことが難しいため、
kWh での導入容量の想定は難しい。また、カリフォルニア州では定置用蓄電池以外の蓄電
設備の導入も検討される可能性があるため、蓄電池が他の蓄電設備よりも費用対効果が上
回っていることが蓄電池導入拡大の条件となる。
ドイツにおいては、今後、家庭部門に対する太陽光発電設備併設型の蓄電池システム販
―32―
売、およびアンシラリーサービス市場(Primary control Reserve 市場)向け大型蓄電池プラ
ントの運用の可能性が想定される。これらの事業は、蓄電池のコスト低減等の条件が整う
ことで、近い将来実現する可能性がある。
イタリアにおいては、Terna や Enel Distribuzione が、今後とも複数件の大型蓄電池導入
の実証プロジェクトを実施することが想定され、短期的には、これらのネットワークオペ
レータに対する蓄電池システムの販売の事業機会が想定される。また、中長期的には、再
生可能エネルギー発電設備のプラントオーナーや、需要家に対する蓄電池システムの販売
やサービス提供等の事業機会が成立する可能性が想定される。
イギリスにおいては、当面の間は、DNO(配電事業者)が主導する実証プロジェクトに
対して、蓄電池システムの販売事業が有望と想定される。
上記の通り欧州においても、今後様々な事業機会が想定されるものの、実際に直近顕在
化する市場の多くは、実証試験に留まると想定される。そのため、今後実証試験によって
各国の章にて述べた課題に対する解決手段として蓄電池の優位性が証明された場合は、各
国において蓄電池市場が拡大する可能性がある。市場が拡大した場合のおおよその規模感
として、例えばイタリアの送電会社である Terna は、イタリアにおいて再生可能エネルギ
ーが導入拡大した際の蓄電設備の必要容量規模を 240MW と想定していた。仮にイタリアの
事例を参考にドイツやイギリスでの必要な蓄電設備の容量を想定すると 2020 年までにドイ
ツにおいては約 300MW、イギリスについては 100MW 程度の規模感が想定される。なお、
各国における蓄電設備の利用用途は多岐に亘るため kWh での導入容量の想定は現状難しい。
また、欧州の市場顕在化可能性は現状の実証試験の結果によって大きく左右されるため、
今後大きく市場の見通しが変わる可能性も想定される。
このように米国では既に商用化の市場が顕在化しており、今後も PJM 管内やカリフォル
ニア州を中心に市場が拡大する可能性がある。また、欧州の有望国では直近は実証試験に
留まるものの様々な案件が顕在化しており、今後実証試験の結果によっては蓄電池市場が
拡大する可能性がある。そのため、現時点から実績蓄積と有望な顧客に対するアプローチ
を実施しておく必要がある。
―33―
III
日本企業の課題と政策支援の方向性
本章では、まず、有望国における事業機会を獲得するための「ビジネスモデル仮説と成功
要因」を想定する。その上で「日本企業の課題」を想定する。最後に想定される課題に対
する「政策的支援の方向性」を検討する。
1.
ビジネスモデル仮説と成功要因
今回想定されるビジネスモデルとして大きく3つのポジションを設定した。まず、蓄電
池モジュール等の蓄電池部分のみを提供する「①蓄電池メーカ」のポジション。次に蓄電
池システムに必要な PCS やコンテナや空調設備等の様々な設備の調達、エンジニアリング、
設置(EPC(Engineering Procurement Construction))を行う「②蓄電池システムインテグレ
ータ」。最後に蓄電池システムを保有し電力会社との電力供給契約(PPA(Power Purchase
Agreement))や卸取引市場に対するサービスによって収益を獲得する「③蓄電サービス企
業」を想定した。
どのポジションを取るかは各社のスタンスによって異なる。例えば蓄電池メーカであっ
ても電池セルやモジュールのみを販売する「①蓄電池メーカ」のポジションを取る企業が
ある一方で蓄電池メーカであっても「②蓄電池システムインテグレータ」や「③蓄電サー
ビス企業」を目指している企業も存在している。
出所)NRI
図 III-1 ビジネスモデルの想定
次に、海外の電力会社や蓄電池システムインテグレータへのヒアリングから得られた各
ビジネスモデルの成功要因を下記に示す。なお、顧客ヒアリングより、電池単体の安全性
やシステム全体の安全性はノックアウトファクターとして位置付けられているため成功要
因の中には入れていない。
① 蓄電池メーカポジションにおける成功要因

電池単体の価格水準
―34―

価格水準を最も重要な購買決定要因としているシステムインテグレータ
が多い。

電池単体の保証期間

顧客によってはシステム全体に対する保証期間を設定することを求めら
れるケースも存在し、保証期間の長さも重要な購買決定要因となる。

PCS 等との連携容易性

蓄電池単体で販売する場合は連携する PCS との連携容易性や不具合が起
こらないことが重要となる。
② 蓄電システムインテグレータポジションにおける成功要因

システム全体の価格水準


価格水準を最も重要な購買決定要因としている顧客が多い。
システム全体に対する保証期間

顧客によっては 20 年の保証期間が求められるケースも存在し、保証期間
の長さも重要な購買決定要因となる。

設置地域の系統連係要件等の技術面の知識

販売先が電力会社となるケースが多く、電力会社によって異なる系統連
係要件に対し、当該地域における系統の特徴等を踏まえたコミュニケー
ションが取れることが求められるケースが多い。
③ 蓄電サービス企業ポジションにおける成功要因

これまでの案件実績

サービスの提供先から声がかかるためには実績蓄積が必要となる。さら
に電力会社は、契約締結先を決定する際に実績の有無を特に重視する傾
向がある。また、様々な案件を保有することで事業全体として幅広いリ
スクリターンが含まれる案件を許容することができるようになり、結果
として他社に対する差別化の源泉となる。

ビジネス実施地域での規制対応や補助金取得対応、系統連係手続きなどの許
認可獲得ノウハウ

地域毎に異なる蓄電システムの設置に関する環境規制対応や系統連係手
続き方法を把握しており、手続きを滞りなく進めることが重要となる。
例えば、米国では既存発電所や需要家側に設置する蓄電設備は系統連係
手続きが実施しやすいなどのメリットがある。また、ターゲット地域に
て活用できる補助金や税控除の制度を把握しており、確実に手続きを進
めることも重要となる。

ファイナンス組成能力

大型案件の場合、今後プロジェクトファイナンス等を活用する可能性も
―35―
想定される。その際に有利な金利でのファイナンス組成能力が差別化の
源泉となる。

なお、自ら蓄電システムを構築する場合は②蓄電システムインテグレータの
成功要因と同様の成功要因も必要となる
なお、ビジネスモデルの成功要因は、市場の黎明期と成熟期で異なることが想定される
ため、上記の成功要因は、市場の黎明期における成功要因を記載している。
2.
日本企業の課題
本節では前節にて検討した 3 つのビジネスモデルの成功要因に対して日本企業が現在成
功要因を具備しておらず、今後具備する必要がある成功要因を想定した。前節の 3 つのビ
ジネスモデル別に日本企業へのアンケートやヒアリングから得られた現状の課題を下記に
記載する。
① 蓄電池メーカポジションにおける課題

蓄電池単体の価格水準が顧客の望む価格水準に対して乖離しているケースが
多い。
② 蓄電システムインテグレータポジションにおける課題

蓄電池価格に加え、PCS のコストや蓄電池システムの設置コストが高くシス
テム全体の価格水準が上がってしまう。

設置地域における系統連係が実施可能な設置事業者の工事コストが高い
ケースがある。

システム全体に対する保証期間の設定ノウハウの不足

蓄電池メーカと PCS メーカが異なる場合の責任の分解点や保証の前提と
なる環境条件などが含まれた契約書の締結実績が少ない。

設置地域の系統連係要件等の技術面の知識が不足している

国や地域毎に異なる系統連系要件を把握しきれていない。ターゲットす
る国の系統連係要件を事前に抑えておくことが必要だが実施できていな
い。
③ 蓄電サービス企業ポジションにおける課題

案件実績が少なく、他社との差別化やファイナンス組成が困難

有望国において複数の案件が立ち上がってきており、既に複数の案件実
績を保有しているプレーヤが顕在化する中で日系企業の多くは有望国に
おいて複数の案件実績を保有していない。そのため、顧客から声がかか
り、他社と差別化するためにはまずは案件実績を獲得することが重要と
なる。

有望国においてプロジェクトファイナンスを活用したファイナンススキ
ームを検討するものの、案件のトラックレコードが少なく技術面や制度
面でのリスクが不透明であるためプロジェクトファイナンスの組成は難
―36―
しい。
3.
政策支援の方向性
本節では前節にて想定した日本企業の課題に対する政策支援の方向性を検討する。下記に
各企業へのアンケートやヒアリングにて得られた政策支援への要望を記載する。


市場調査、マーケティング

系統連係要件や蓄電池の設置に関する各種規制把握等の市場調査

有望国の政府や蓄電関連機関と連携した実証試験の実施
相手国政策形成、国際標準化

政府による標準化への関与(国際標準化に加え有望国の標準化への対応。
例えば米国における安全性確保のための標準化への対応等)

情報発信や情報共有

政府等によるセミナー、展示会開催、各種組織同士の情報共有会の開催
(金融機関と事業者との情報交換、現地システムインテグレータ候補と
のネットワーク形成等)

FS(Feasibility Study)支援


インフラシステム輸出や NEDO 等の FS 調査
融資支援

JBIC、NEXI 等公的金融による支援(出融資、保証)
要望として多かったのは有望国における実績蓄積のための支援であった。例えば米国に
おいて DOE(Department of Energy: アメリカ合衆国エネルギー省)との連携による実証試験
の実施等の要望やプロジェクトに対するファイナンス支援に対する要望があった。また、
現地の系統連係要件や蓄電池設置に関する各種規制状況の把握等の調査の面での支援要望
も多かった。さらに現地にて蓄電池システムを設置する際のパートナーとのネットワーク
を構築するための支援に対する要望もあった。具体的には現地でのセミナー開催や現地調
査を通じたパートナー候補の探索などが想定される。このような政策支援の可能性につい
ては引き続き各市場の状況と各企業の要望を勘案しながら具体的な支援策の実施を適宜行
っていくことが必要となる。
なお、参考までに国内政策に関する各社からの要望を下記に記載する。

蓄電池システム導入補助


蓄電池システムが活用可能な電力市場設計


定置用リチウムイオン蓄電池への補助等の既存の補助政策の継続実施
国内リアルタイム市場における蓄電池システムの活用
情報発信、標準化

蓄電池の残余価値評価手法の標準化

中古蓄電池の安全性基準の標準化
国内政策に対しては既存の補助政策の継続に加え、電力システム改革において蓄電池の
―37―
活用を促すような制度導入に対する要望やリース等の金融的手法を実施するための残価設
定方法や安全性基準の標準化等を求める声があった。国内においても蓄電池導入が継続的
に拡大していくための各種政策を市場の状況を勘案しながら実施していくことが求められ
る。
―38―
Fly UP