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5 - 経済産業省
第5章 関係者との情報交換、調整方法の検討 図 5-1 の通り、循環型社会を機能させるためには、製品メーカーは、部品メーカーや材 料メーカー、さらには、分別・解体事業者やリサイクル事業者との連携を強化し、情報交換 を密にしなければならない。 図表 5-1 循環型社会における連携 素材メーカー 部品メーカー 製品メーカー (部品リユース) リサイクル業者 流通業者 (製品リユース) 分別・解体業者 回収業者 消費者 (出所)三和総合研究所 第 2 章、第 3 章においては、製品アセスメントの評価結果をわかりやすく公表していく 上での重要なチェックリスト項目及び評価指標について整理したが、今後このようなチェッ クリスト項目や評価指標が、広くメーカーの製品アセスメント実施時に活用されることを念 頭に置いた場合に、その実効性を高めるためには、製品メーカーと関係者(部品・材料メー カー、解体・リサイクル事業者)との間での情報交換、調整を円滑化することが求められる。 特にこの中でも、部品・材料メーカーとの情報交換が量的にも質的にも重要性が高いこと から、ここでは、製品メーカーと部品メーカーの間の情報交換、調整方法を中心に整理した。 また、環境負荷関連情報については、従来からやりとりを行ってきた製品仕様に関わる情 報とは異なることから、どのような内容を新たに付加する必要があるのか、また、企業秘密 との関係から入手困難なものはないのか、といった点についても検討を行った。 1.部品、材料に関する環境関連情報システム構築の背景 従来より製品メーカーと部品メーカーの間では、納入仕様書等を通じて製品仕様に関わる 情報交換が行われてきた。しかし、近年、欧州において材料データベースシステム構築が進 展してきたこと、また、国際的に PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)の 法制度が整備・施行されてきたことから、わが国においても部品、材料に関する環境関連情 報システムを構築する機運が高まりつつある。 (1)EU における材料データベース構築状況 ①欧州連合(EU)における材料データベースシステム構築の動き 欧州連合の欧州委員会においては、製品の原材料採取から生産、流通、使用ならびに廃棄 153 物管理に至る製品のライフスタイルにおける環境影響低減を目的として、2001 年に「包括 的製品政策に関するグリーンペーパー」を作成した。このグリーンペーパーの中で、環境影 響低減に資する戦略の一つとして『製品情報の作成』が挙げられ、消費者等のステークホル ダーが、製品や部品の決定に際しライフサイクルの環境影響の情報を持ち利用することが可 能になるよう、生産者は消費者やバイヤーに簡単にアクセスできる形で情報を渡すべきであ ると記されている。また、生産者による「製品情報の作成」に関し、今後の取組の方向性を 示唆する具体例として、電機産業の業界団体である欧州情報通信技術工業会(EICTA)の事 例や、自動車分野の情報システム構築例である国際材料データシステム(IMDS)の動向が 取り上げられている。 このような欧州委員会の動きを受け、欧州のメーカーを中心に、材料データベースシステ ムの構築および標準化への対応の動きが活発化している。 図表 5-2 包括的製品政策に関するグリーンペーパー中の「製品情報の作成」部分(抜粋) 情報の創出と入手可能性を増進することについて考えられる手法は、製品のチェーンに沿 って消費者にキーデータを供給するよう生産者に義務づけること、および、または奨励する ことである。このような義務づけ/奨励ならびにその実施の詳細は、費用効果の基準に照ら して作成され、評価されなければならないだろう。現存の生産者やステークホルダーのイニ シアティブはこのような措置に対する閃きの源として使用可能であろう。そのようなイニシ アティブの例を以下に述べる: EICTA ( European Information and Communications Technology Industry Association:欧州情報通信技術工業会)のサプライ・チェーン管理のイニシアティブ は、供給品目の環境改善を行う一方、依頼人および供給者双方のためにデータ収集を単 純化し、電機産業に対しては共通の欧州サプライ・チェーン管理アプローチを展開させ ることを目的としている。これは、製品情報提供のために報告可能な材料の共通リスト および共通テンプレートを保証することになる。供給者間での批判的な材料の比較を可 能にすることになる。 自動車分野において、使用済み自動車指令は、国際材料データシステム(International Material Data System:IMDS)と呼ばれる製品材料に関するデータを収集するため の共通の IT システムを奨励するために戦略的な協定を策定するよう自動車製造業者に 勧めた。この核となるデータベースは、サプライ・チェーンの各部門に自己製品に関す るデータのインプットを認めることになる。したがって乗用車製造業者は、ピラミッド 型の階層式データベースとして、乗物自体の多様な部品全体の構成に関するリポートを 裏づけできるような情報をそれぞれのレベルで照合できる。構成部品データは、階層が 上位になればなるほど非公開となっている。レポートへのアクセス料金でシステムのメ ンテナンスを賄うこととなる。EICTA はスキームを IMDS に組入れるかどうか調査中 である。 154 ②国際材料データベースシステム(IMDS)の概要 ここでは、自動車業界で試行されている国際材料データベースシステム(IMDS)の概要 を示す。 ア)国際材料データベースシステム構築の経緯 IMDS は、欧州各国及び国際機関において環境関連の法整備が進展してきたことに伴い、 自動車メーカーとして、自らの製品が環境に及ぼす影響に対して責任を有するようになった ことから、EU の各種環境関連指令( 「使用済み自動車指令」1、Recycling Law, ISO14040, Integrated Product Policy 等)への対応を図るために必要なものとして構築されたもので ある。 そもそも EU 指令等で要求されている条件を満たすためには、自動車で使用される材料や 部品の性質に関して特別な知識がどうしても必要となる。こうして、乗用車製造業者協会は、 1996 年に、”VDA Handbook2”の中で材料データシートを紹介した。さらに、VDA(IMDS のデータベース構築機関)の理事会は、1998 年に、材料データシートを電子上で構築・加 工することを可能にするシステムを構築することを決定した。これを受け、各自動車メーカ ーは、EDS3社との間で IMDS の開発・メンテナンスに向けた二者間契約を締結した。なお、 IMDS は、委員会4の責任下で運営され、乗用車製造業者協会とは独立に活動することにな っている。 イ)IMDS への参加メンバー 現在、IMDS に参加しているメンバーは、以下の 9 社である。親会社や子会社等もこのデ ータベースシステムに統合されることとなる。 アウディ、BMW、ダイムラー・クライスラー、フォード、オペル、ポルシェ、 フォルクスワーゲン、ボルボ、フィアットの 9 社。 ウ)IMDS で利用するデータベースのコンテンツ IMDS の導入により自動車メーカーの部品供給業者に対する要求事項が変わるわけでは なく、自動車メーカーは単に、よりダイナミックに変化する情報を得ることができるように なったに過ぎない。所定のフォーマットに記載された各部品のデータはデータベースに伝 1 Directive 2000/53/EG of the European Parliament and the Council, Sep., 18th 2000, on End of Life 2 VDA-Handbook: Quality Management in the Automobile Industry, Vol.2, Security of the Quality of Supplies 3 EDS Information Technology and Service GmbH, Frankfurt 4 IMDS Steering Committee 155 達・蓄積され、高度な情報技術により巨大な量の情報が効率的に運用される仕組みになって いる。 図表 5-3 データベースの内容 ○作成構成要素 ・法的要求事項 ・予防的措置に基づく環境保全策及び労働安全要求事項 ・環境に配慮した作法で行動するというモットーに基づく、人類や生態系への責任 ・将来的には、人体や自然環境へのリスクに関するデータも取り込まれる。 ○具体的データ ・消費者と供給者の間で自主的に取り決めた許容値に関わるデータ(「D」 ) ・法的許容値に関わるデータ(「V」 ) 図表 5-4 データシートのイメージ例 Material/Substance CAS-No. Danger/ Risk Pentachlorophenol (PCP) or its compounds (87-86-5) C3 Phenol 108-95-2 T 25265-76-3 Phenylendiamine Phthalates: see: Di-(2 ethyl)-phthalate and DOP 59536-65-1 Polybrominated Biphenyls ( PBB ) Polybrominated Diphenylethers ( PBDE ) Polybrominated Terphenyls ( PBT ) (1336-36-3) Polychlorinated Biphenyls ( PCB ) Polychlorinated Terphenyls ( PCT ) Examples for usage/existence Wood preservative, salt used in treating leather and animal skins, stabilizer for latex Residual monomer in phenolic resins, epoxy resins, anti-oxidant in phenol derivatives, decomposition product in polymeric materials, wooden Pesticides, dyes Flame retarders in plastics and textiles. Flame retarders in plastics and textiles. Flame retarders in plastics and textiles. Insulation fluid in electrical systems, switch boards transformers and condensers, in wood and paper impregnation, as a softening agent Insulation fluid in electrical systems, switch boards transformers and condensers, in wood and paper impregnation, as a softening agent (61788-33-8) Polycyclic aromatic hydrocarbons (PAH's) see: Benzo(a)pyren (資料)IMDS ホームページ 156 VDAn D V X X X X X X X X X エ)IMDS の窓口、運営機関 IMDS は、IMDS Service Center において運営されている。ただし、IMDS のデータベ ースの構築は、VDA(Verband der Automobilindustrie e.V.:ドイツ自動車工業会)が 行っている。 オ)IMDS 導入上の課題 EU の使用済み自動車指令の要求事項を、2003 年 7 月 1 日5までに実現するには、電子 情報の操作が可能な材料データを活用するしかない。乗用車製造業者は、既に 2000 年に IMDS の導入を発表している。次なる課題は、データの供給者との話し合いやワークショッ プにおいて明らかにされているが、いくつかの供給業者では自動車メーカーからの材料や部 品の公表に関する要求事項を十分に実施していないのが現状である。EU の使用済み自動車 指令を実現するためには、組立用部品に含まれている可能性のある、カドミウム、六価クロ ム、水銀、鉛の量を公表することが極めて重要とされている。 5 EU の使用済み自動車指令によれば、各乗用車製造業者は、2003 年 7 月 1 日までに同指令の 要求事項を満たさなければならない。 157 ③EICTA で検討されているデータシート例 ここでは、EICTA を中心に検討が進められている電機業界の環境情報システムの材料リ スト(Material List)及び物質リスト(Substance List)を示した。 図表 5-5 電機業界で検討されている環境情報システムの材料リスト - MATERIALS LIST Select Materials from the material name list below and copy it to the declaration sheet. Note: - Only material names from the Materials list should be used. - At least 99% of the product weight must be declared. - Additionally, all materials containing one or several of the substances in the substance list must be declared . Materials Metals Aluminium/Aluminium alloy Copper/copper alloy Steel (all types) Tin/Tin alloy Other Metal Polymers ABS Epoxy Polyester/TGIC Polytetrafluoroethylene (Teflon) PVC Polycarbonate Other polymer Non metal or non polymer materials (NMNPM) Ceramics Ferosilicon/alloy Gas Glass (all types) Liquid Other NMNPM 158 図表 5-6 電機業界で検討されている環境情報システムの物質リスト(その 1) -SUBSTANCES LIST Select substances from the substance name list below and copy it to the declaration sheet. Note: - Only substances from the substances list need to be declared. - The element content according to the substance name list should only be given for -Declare all substances that are known to be present -Items coloured blue are central EICTA substances. Items in green are specific customers required substances substance CAS No. Sub group elements and their componds Antimony Antimony compound Arsenic Arsenic compound Barium Barium compound except barium sulfate Beryllium Beryllium compound Bismuth Cadmium Cadmium compound Chromium Chromium compound Chromium as hexavalent Chromium Cobalt Cobalt compound Copper Copper compound Gold Gold compound Lead Lead compound Magnesium Magnesium compound Mercury Mercury compound Nickel Nickel compound Palladium Palladium compound Selenium Selenium compound Silver Silver compound Thallium Thallium compound Zinc Zinc compound 7440-36-0 7440-38-2 7440-39-3 7440-41-7 7440-69-9 7440-43-9 7440-48-4 7440-57-5 7439-92-1 7439-95-4 7439-97-6 7440-02-0 7440/5/3 7782/4/2 7440-22-4 7440-28-0 7440-66-6 159 図表 5-6 電機業界で検討されている環境情報システムの物質リスト(その 2) Sub group halogenated aliphatics CFCs- Chlorofluorocarbons HCFCs- Chlorfluorohydrocarbons HFCs- Fluorohydrocarbons Gaseous FCs-Fluorocarbons Halons Chloroparaffines Carbon tetrachloride 1,1,1-trichloroethane Dichloro methane Tetrachloroethylene Trichloroethylene Group Sub group halogenated flame retardandts Polybrominated biphenyls (PBB) Polybrominated diphenylethers (PBDE) Group Group 160 図表 5-6 電機業界で検討されている環境情報システムの物質リスト(その 3) Sub group others Acetamide Acrylonitrile Aliphatic and aromatic amines 4-aminobiphenyl incl. salts Aniline Aniline salts Anthracene Asbestos Azo colorants with carcinogenic amino compound Benzidine Benzidine salts Bis -(dimethylpentyl)- p-phenylenediamine (77PD) bis(dimethylthiocarbanoyl)disfulfide Brominated dioxins&furans (total) Chlorinated dioxins and furans Creosotes cyclohexylthiophthalimide Dieldrin, Lindane Diesel Fuel (high Sulphur) dimethylbutyl-p-phenylenediamine (6PPD) Dimethylformamide Ethene Glycol Ethers Ethylene glycol Formaldehyde Isocyanates Limonene Nonylphenolethoxylates Organic phosphorous compound Organic silicon compound Organostannic compound, Organic tin compound Ozone depleting substances (Montreal protocol) Pentachlorophenol (PCP) PAH oils Petrol (high benzene) Phenyl -? - naphtyl amine Phthalates Polychlorinated Naphthalenes (PCNs) Polycyclic aromatic hydrocarbons (PAH) Radioactive substances Rosin (Colophony) Styrene Sulphur hexafluoride (CS:2551-62-4) Synthetic mineral fibres classified as carcinogenic Tar Oils (Creosote) 4-(1,1,3,3- tetramethylbutyl) phenol Tetramethylthiuram disulfide Thioureaformaldehyde (TMTD) - Tradename Thiram 4-(1,1,3,3- tetramethylbutyl) phenol Sulphur hexafluoride (CS:2551-62-4) 161 60-35-5 107-13-1 000062-53-3 Group 120-12-7 Group 000092-87-5 Group 8001-58-9 Group Group (2)PRTR の法制度の整備状況 PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)とは、化学物質の環境への排出量、 廃棄物に含まれて事業所外に移動する量(移動量)を、事業者の報告や推計に基づいて行政 庁が把握し、公表する制度のことである。現在、アメリカ、カナダ、オランダ、イギリス等 の欧米諸国で実施されているが、PRTR の導入が国際的に進展してきた背景には、数万の化 学物質が製造・使用されることにより、化学物質による環境汚染に対する国民の関心が高ま ってきたことが挙げられる。 わが国においても、 「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関 する法律」 (通称、PRTR 法)が平成 11 年 7 月に成立し、一部の規定を除いて、平成 12 年 3 月 30 日より施行されている。これに伴い、セットメーカー、サプライヤーはそれぞれ、 化学物質等の性状や取扱上の注意等についての情報を記載した MSDS(化学物質等安全デ ータシート)の提供が義務付けられ、化学物質に関するセットメーカーとサプライヤーの間 での情報交換の必要性が高まった。 図表 5-7 我が国及び諸外国における PRTR 制度の概要 日本 制 度 オランダ 環境管理法 化学物質管理促 ( 1997 年 進法(1999 年) 改正) 対象物質 435 物質 約 170 物質 英国 環境保護法 (1990 年) カナダ 環境保護法 緊急対処計画及び (1988 年、実 地域住民の知る権 施は 93 年から) 利法(1986 年) 施設ごとに異 なり、統一リ 約 180 物質 ストはない。 化学物質管理促 環境管理法の 環境保護法の 対象施設 進法で規制する 製造施設等 規制対象施設 規制対象施設 事業者 開 示 加工データの公表。個別データ閲覧可。 (資料)新日本法規「Q&A 米国 約 600 物質 製造施設、連邦政 府施設等 個別データ及び集計データの公表。 PRTR と MSDS の手引−新たな化学物質対策の推進に向けて」 162 2.関係者調査の目的、方法 (1)調査の目的 1.で整理したような背景を踏まえ、自動車、家電製品、電子情報機器等の製品メーカー と部品メーカーとの間での情報交換関係について、以下の 4 点の課題について情報収集を 行った。 ①製品アセスメントを進めるには、自動車、電気機器等の製品メーカーと部品メーカーの 間での情報交換が必要だが、部品メーカーからみて、そのような情報交換にどのような 課題があるのか(提供しにくい情報、情報の整理にかかる手間など) 。 ②①の流れを受けて、自動車、電気機器等の部品メーカーは材料メーカーからの情報提供 を求めることになるが、部品メーカーが材料メーカーに求める情報の内容はどのような ものなのか、また、対象となる材料メーカーとしてどのような企業があるのか。 ③欧州では、EU指令に基づき、部品情報のデータベース化が進んでいるが、部品メーカ ーがこれにどう対応しようとしているのか(特に、日本の部品メーカーに不利なような 状況はないのか)。 ④環境関連情報の中には企業秘密に抵触するものもあるなど、環境関連情報提供に当たっ て、問題点を抱えていることも想定される。具体的に、どのような問題点を抱えている のか。 (2)調査方法 部品メーカーへのインタビュー調査を通じて、上記の課題に係る情報収集を行った。まず、 自動車部品及び家電部品・電子情報機器部品関連の業界団体にインタビュー調査を行うこと とした。具体的には、日本電子情報技術産業協会(JEITA) 、日本自動車部品工業会(JAPIA) にプレインタビュー調査を行い、欧州における部品情報のデータベース化の動向を把握した。 併せて、主要な部品メーカーの紹介をしていただいた。 その後、以下の質問項目を基にした個々の部品メーカーへのインタビュー調査を実施し、 上記 2 点の課題に係る情報の収集を図った。 図表 5-8 部品メーカーへの主な質問項目 ◎製品メーカーと部品メーカーの関係 ・環境関連情報が必要となる場面 ・環境関連情報の内容 ◎部品メーカーが材料メーカーに求める環境関連情報 ・対象となる材料メーカー ・対象情報の内容 ◎EU における材料データベースシステムへの対応について ・自動車分野 ・家電・情報機器分野 ◎環境関連情報提供に当たっての問題点について 163 3.関係者へのインタビュー調査結果 ここでは、製品メーカーと部品メーカーの情報交換、調整方法について、電気・電子機器 関連の部品メーカー及び自動車関連の部品メーカーへのインタビュー調査結果を基に、整理 した。 (1)部品メーカーへのインタビュー調査結果 ①電気・電子機器関連A社 【会社概要】 A社は、売上高 3,345 億円(平成 12 年度) 、従業員 4,400 名で、各種の機構部品、通信・ 情報関連部品(43%) 、車載電装部品(12%)等を製造している。 【製品メーカーと部品メーカーの関係】 ア)環境関連情報が必要となる場面 ・製品メーカーの新製品の発表時などに用いる環境関連情報は、製品メーカーに提供するこ とが義務になっている。 ・製品メーカーからは年中、情報提供要請を受ける。会社全体(本社対応、工場対応分の合 計)では年間 1,000 件程度ではないか。依頼内容は、部品数点単位のものから数百点単 位のものまで様々である。 ・環境報告書を通じて、製品メーカーや大学、調査機関、NGO に自社の製品アセスメント の実施状況を情報公開している。ただし、情報公開は簡易なレベルにとどまっている。 イ)環境関連情報の内容 ・同社で製品メーカーから要請を受ける環境関連情報の内容は、以下のとおりである。 −部品の組成(構成材料) −部品内の有害(危険)物質の使用状況 −部品の製品アセスメント(環境への配慮)の実施状況 −会社全体の取り組み(ISO14001 の認証等) ・製品メーカーから要求される環境関連情報の多くは、化学物質に関するものである。 ・依頼内容の中には、分析測定が必要なものもある。成分だけでなく、不純物についても聞 かれる。 ・その他、部品のリサイクル性(使用後部品のリサイクル容易性)、リサイクル材料使用の 有無、省エネ性(部品製造時や部品使用時の省エネに配慮しているか)等についても聞か れる場合がある。 ・製品アセスメントについては、会社として取り組んでいるかどうかを聞かれる。 ・部品の LCA(ライフサイクルアセスメント)については、部品の製造段階の負荷算出は 可能であるが、それ以降の算出は困難であり、現在は行っていない。 ・A 社の使用後部品は小さいものが多く、破砕処理が主流である。部品の分解性、リサイク 164 ル性が最近になり要求されるが、現在までに軽薄短小化のニーズに最大限応えてきたつも りである。 ・製品メーカーのグリーン調達ガイドラインで要求する化学物質に関する仕様は、各社ごと に微妙に異なっているほか、数百点レベルのものから千数百点に上るものまであり、対応 していくのが大変である。 【部品メーカーが材料メーカーに求める環境関連情報】 ア)対象となる材料メーカー ・A 社が関連する材料メーカーとしては、1)プラスチック以外の化学品(セラミックスを 含む)メーカー、2)プラスチックメーカー、3)金属材料メーカーが挙げられる。 ・材料調達に関わる社内ガイドラインを作成して全て提供している。 ・2002 年度中をめどに、グリーン調達基準(海外事業所を含めて)を策定する予定である。 ・その他、下請け部品メーカーや商社から関連情報を入手することもある。これは、材料調 達ルートに対応した動きである。 イ)対象情報の内容 ・材料メーカーに依頼する情報は、基本的には製品メーカーからの要請内容となり、材料の 組成や化学物質を中心とした材料の含有物質情報が中心である。 【EU における材料データベースシステムへの対応について】 ア)家電・情報機器分野 ・「18 社会」 (国内電機メーカー18 社)で進められている議論について、ヒアリングを受 けた。 ・検討中のシステムが(部品メーカーにとって)役に立つかどうかまだ不明であるが、これ まであいまいであった情報開示の対象となる物質等の定義が、明確化されたことに関して は評価している。 イ)自動車分野 ・A 社では、既に IMDS への対応に着手している。欧州自動車メーカー3 社からの要請を受 けて、データ入力を行った。英語もしくはドイツ語で入力しなければならなかったこと、 素材メーカー等の協力を得て新たに情報を入手しなければならないこともあり、長時間を 要した。 ・とりわけ素材メーカーの協力を得る際に、A 社で英文和訳を行い、素材メーカーに説明す る形でないと素材メーカーからデータ提供を受けられなかったため、大変である。 ・IMDS の情報は、製品レベル、部品レベル、物質レベル等の 4 階層からなり、階層間で整 合性がとれなかったりすると、エラーが出る仕組みになっている(IMDS への入力作業は 現在も進行中。一部、国内自動車メーカーも要請を開始した。)。 165 【環境関連情報提供に当たっての問題点について】 ・A 社の製品は機械部品が主であり、A 社にとって成分等に関して企業秘密にあたる情報は 比較的少ない。 ・環境関連情報のデータ収集、データ入力にはやはり多大な労力を要する。A 社の場合、専 任ではないが、環境部の中に化学物質の専門家を 1 名配置し、専任的に対応させている。 工場毎にもほぼ専任の担当者がいる体制である。データ入力方針等は本社で統括するが、 データ入力作業は本社と工場で分担する形をとっている。 ・近年、安価な素材調達を目的に、海外の中小素材メーカーからの海外調達品も増加してい るが、これは環境保全の面からはリスクもある。 ・MSDS(化学物質等安全データシート)作成の場合に、素材メーカーが不透明な回答をす ることもある。 166 ②電気・電子機器関連B社 【会社概要】 B 社は、アルミ電解コンデンサを主力とする会社である。アルミ電解コンデンサの売上が 全売上の 7∼8 割を占めている。アルミ電解コンデンサは、直径が 3mm、高さも数 mm 程 度のものから直径が 100mm、高さが 300mmに及ぶものまで多品種にわたるが、その用途 は、ビデオ、パソコン用といった民生用が多く(80∼90%)、残り 10∼20%が産業用で、 電力機器向け、新幹線等の輸送機器向けである。近年は、自動車メーカー向けが伸びている。 製品メーカーへの納入が中心であるが、電源ユニットメーカーへの納入もある。 国内では東北が生産の中心になっている。海外の生産拠点は、東南アジア、台湾、韓国、 中国などである。 【製品メーカーと部品メーカーの関係】 ア)環境関連情報が必要となる場面 ・最近、製品メーカーからの環境関連情報に関する問い合わせが増えている。月に数十件程 度ではないか。問合せ内容も、1 つの部品の場合から全納入部品を対象にしたものまで 様々である。調査対象物質数が、1,400 種類を越えるケースもある。 ・ISO14000 シリーズの影響から、96 年以降、メーカーからの問合せが増えてきたという 印象である。当初は、有害物質を含有しているか否かというレベルの問合せであったが、 徐々に内容が細かくなり、どのような種類の物質が、どの程度、どういう目的で使用され ているかといった質問になってきている。 ・PRTR 法の施行に伴い、PRTR 法の対象物質に関する問合わせが増えてきている。化学物 質情報の収集、作成にあたり、設計部門工場と環境部門の交流を図り、このような問合せ に個々の生産工場で対応できるようにしている。 イ)環境関連情報の内容 ・B 社でセットメーカ−から要請を受ける環境関連情報の内容は、以下のとおりである。 −部品の組成 −部品内の有害(危険)物質の使用状況 ・アルミ電解コンデンサーの場合、アルミニウム箔をエッチングし、和紙とともに巻き、リ ード線(鉄)を付けて電解液に浸し、ケースに入れゴムで密封し、製品化される。製造時 に用いる素材としては、アルミ、紙、鉄、電解液、ゴム等が挙げられる。 ・有害物質の使用について、製品メーカーから要請を受けることもある。使用禁止、使用量 減少、適正処理等の指示が来る。製品メーカー側は、各部品メーカーの有害物質の使用状 況を把握し、今後は、部品メーカー選別の条件の一つに用いているのではないか。 ・製品メーカーから有害化学物質の含有量や含有率に関する記入フォーマットを渡され、こ れに記入する形になる。通常は、「化合物」で済ますことが多いが、化合物を構成する個 別の物質まで記入を求められる場合もある。 167 ・製品メーカーに対し、部品の供給者は、納入仕様書の中で、電気特性、寿命の信頼性、有 害物質含有状況、材料構成リスト等を含む詳細情報を出している。製品メーカーの要望に は基本的に情報開示していく方向である。 ・製品アセスメントへの取組についても、部品の小型化、長寿命化、待機電力消費量削減等 について聞かれることがある。 ・部品の LCA に関し、社内的には取組中であるが、情報は開示していない。部品の場合、 製造段階までは算出可能であるが、いろいろな用途に使用されるので、下流部分までの LCA 算出は難しい。 【部品メーカーが材料メーカーに求める環境関連情報】 ア)対象となる材料メーカー ・製品メーカーの要請内容に十分に対応していくためには、MSDS データだけでは足りな いため、材料メーカーに協力要請を行うことになる。 ・材料メーカーの中には大手企業もおり、同社から情報提供要請をしても十分な情報開示が 得られない場合がある。特に、様々な会社が利用する汎用性の高い材料で同社の購入量が 少ない場合は、断られる場合が多い。また、インクの色を作り出す顔料の提供メーカーに も大手メーカーが多く、情報が得にくい。 イ)対象情報の内容 ・製品メーカーからの要求も、徐々に正確性を求められるようになってきており、今後は、 データのないものについては、自社で分析をするケースも発生するのではないか。 【EU における材料データベースシステムへの対応について】 ア)家電・情報機器分野 ・大手電機メーカーなど有志企業 18 社における、グリーン調達のための共通化の協議会で、 回答フォーマットの統一に向けて、昨年から話し合いを始めた。海外メーカーを含めて標 準化を進めていこうという話になり、JEITA に持ち込み、標準化を進める動きとなって いる。 ・標準化に向けてどの物質を対象とするかが論点となっている。各社の要望を最小公倍数的 に集約すると、物質数は 2,000∼3,000 になってしまうのではないか。 ・とりあえず、 「協議会」では 28 の物質及び物質群に絞り込もうという方向である。 ・欧州メーカー(フィリップス、シーメンス、ノキア、エリクソン等)からも部品の構成材 料や有害物質の有無に関する情報提供要請を受けている。 イ)自動車分野 ・米国の自動車電装部品メーカーからの打診を受けているが、IMDS 参加メーカーからの直 接打診は受けていない。 168 ・ELV(欧州の廃自動車指令)の中で規制されている物質については対応していく必要があ るものと捉えている。 【環境関連情報提供に当たっての問題点について】 ・化学物質の中にはノウハウを含んだものがあり、含有量等についてその詳細を開示できな い情報もある。例えば、電解液は部品の競争力の源泉であり、営業秘密にしておきたいも のの一つである。 ・化学物質によっては、 「○○化合物」といった上位概念で容赦願っているものもある。 ・PRTR 法対象物質だけであれば組成の全体を開示するわけではないので、情報開示が可能 である。既述のとおり、納入仕様書等を通じて、製品メーカーへの情報開示は今までも行 ってきた。ただし、従来は、有害化学物質のデータがなかったので、ここ 3∼4 年の要請 をうけて、会社としても蓄積をしてきた。 ・社内的には、材料情報は設計部門に、生産情報は工場に、有害化学物質情報は環境グルー プに集約されており、有害化学物質情報については、設計部門、工場から環境グループに 問合せが来る構造となっている。製品メーカー等外部からの問合せも環境グループが窓口 となっている。今後は、社内データベース構築により、担当者の負担軽減及び情報の共有 化を図ることが課題である。 ・製品メーカーは、有害化学物質の使用目的、使用部位等の質問を web で直接入力、もし くは FD(入力プログラム入り)で入力するよう要請してくる。選択式の場合もあるが、 結構面倒である。これについても環境グループで対応している。環境グループで対応が困 難な情報は一部、工場に依頼している。データ収集、データ入力にはやはり多大な労力を 要するので、専任を 1 名増員した(大手部品メーカーは何名かの専任者がいるのではな いか) 。 ・製品メーカー側のグリーン調達基準制定の動きにも対応していかねばならないが、一方で、 製品性能維持やコストの問題からメーカーの要求通りに有害物質の全廃や削減が容易に 行えない面もある。製品性能向上と有害物質削減の両立をどのように図っていくかが課題 である。 169 ③電気・電子機器関連C社 【会社概要】 C 社は、セラミックコンデンサー等の小型かつシンプルな受動部品に製品が特化している。 納入先は、電機メーカーが大半(95%)で、自動車市場が残り 5%程度を占めている。 【製品メーカーと部品メーカーの関係】 ア)環境関連情報が必要となる場面 ・C 社の場合、環境関連情報に関する問合せは製品安全推進室が窓口となり、自社関係部署 との調整及び問合せ先への対応を行っている。 ・最近、問合せは破竹の勢いで伸びている。1 年前と比較すると 1.8 倍である。問合せの増 加要因として、1)製品メーカーが ISO14001 を取得し、環境マネジメントプログラム等 でグリーン調達を推進してきたこと、2)グリーン購入法が施行され大手企業のみならず 中堅・中小企業においてもグリーン調達が普及し始めたことなどが挙げられる。この流れ は今後とも持続することが予想されるため、製品メーカーからの問合わせ件数は大きく減 少することはないだろう。 ・製品メーカーからの問合せ窓口は製品安全推進室であるが、実際には、営業部門に問合せ が来る場合もある。このような問合せ対応を含め、調査回答窓口業務だけで男性で 1.5 人、女性で 2.0 人が常時対応している計算である。 ・問合せへの対応は、紙で回答する場合が多い(概ね 5,000 枚/月) 。最近は FD も増加し ている。 ・問合せを受けた場合には、顧客満足度向上(CS)、環境保全情報の積極公開の観点から、 積極的に回答するようにしている。 ・現在は、有害物質情報であれば何でもといった混乱が見られるが、今後は、本当に価値の ある情報を引き出す仕組みに収斂していくことを期待している。最近、そのような方向性 に向かいつつあるように感じることもある。ただし、統一基準ができても問合せ件数が減 少することはないと捉えている。回答を効率的に行える仕組みづくりが重要となると考え ている。 ・製品メーカーの動きは、グリーン購入法、エコラベル等への対応の流れに近いが、基本は ISO14001 取得に伴う対応である。 ・問合せの形態は、情報交換の位置付けと理解できる。 ・製品仕様書の中で回答するというよりは、別個に環境関連情報を提供している。 ・C 社の場合、一般消費者との接点が薄いものの、地域とのコミュニケーション推進の観点 からも、環境報告書を作成することとした。本年 4 月に初めて出す予定である。別途、 ホームページも作成している。 ・製品メーカーからの問合せ対応書類の提出にあたっては、責任者の書面であることの証明 もしくは責任者の印鑑が求められる。そのため、手書きになることが多くなってしまう。 ・部品メーカーが ISO14001 を未取得の場合には、企業理念から組織・体制まで細かく聞 170 かれることになってしまい、非常に手間がかかる。 イ)環境関連情報の内容 ・問合せ内容としては製品中に含有する環境負荷化学物質に関するものが最も多い。ただし、 問合せの対象となる対象物質リストは製品メーカーによりまちまちである。例えば、56 点程度のところもあれば、1,400 点に上る場合もある。依頼事項としては、有害物質含有 量、含有の目的、代替の有無、代替の計画、組成情報等が挙げられる。 ・部品の原材料の組成と部品の構成材料は異なっている。組成情報は、一定程度以上の有害 物質を含有していない限り自社からは開示しない情報である。一方、構成材料は、セラミ ック、樹脂等の種類を開示する程度にとどまるので、公開可能である。構成材料は当初は リサイクル目的の情報提供要請であったが、最近は LCA 目的の情報提供要請に変化して きている。 ・今一番新しく、関心の高いテーマは鉛フリーはんだ化に関する質問である。この関心の高 さから、質問の内容も、鉛フリーはんだ化についての一般的質問から、代替時期や計画の 開示へとシフトしてきているのが実情である。 ・次に多いのが工程で使用する環境負荷化学物質に関するものである。例えば、オゾン層破 壊物質や溶剤等がこれに相当する。 ・三番目に多いのが、製品アセスメント関連の質問項目、すなわち、省資源化(小型化/材 料削減/長寿命化/再生材料の使用の有無)、省エネ化、リサイクル可能性等に関するも のである。質問項目は概して細分化されているので回答しやすくなっているが、中には点 数化・比較を目的に行っているところもある。 ・さらに、時々であるが LCA 関連の情報提供要請を受けることもある。 ・いずれにしても、なぜこのような情報が必要なのかといった情報提供要請目的を明確にし てほしいというのが部品メーカーとしての率直な意見である。その意味で、統一化の動き は素晴らしいと感じている。ただし、ISO14001 を取得しているのであれば、企業理念 や環境方針等について詳細に記入しなくとも取得済みということで判断可能な要素があ っても、一律に記入を求められることがあり、これは過剰な要求に当たるのではないかと 感じることも出てきている。今後は製品メーカー及び部品メーカー双方にとって有意義な 情報交換システムが構築されることを念頭に、情報交換システムの対象となる有害化学物 質の種類を限定できれば、作業は効率化できるものと考えている。 【部品メーカーが材料メーカーに求める環境関連情報】 ア)対象となる材料メーカー ・C 社の主力部品の材料であるセラミックス材料は、C 社の関係会社から調達しているため、 対象となる材料メーカーとして関係会社が挙げられる。 ・また、C 社は搭載部品のモジュール化も行っており、構成部品を C 社以外の部品メーカ ーから調達しているため、部品メーカーもここでいう材料メーカーと同じ位置付けになる。 171 イ)対象情報の内容 ・C 社が必要とする情報は、材料の組成、材料の含有物質である。 ・現時点で材料メーカーから情報提供を受けられないような情報は、今後とも情報入手がで きない可能性が高い。しかし、あくまでも規制の範囲内で製品メーカーへの情報提供に対 応せざるを得ない情報は、情報提供を行わざるを得ない流れであることから、材料メーカ ーに情報提供を求めていく。一方、規制の範囲外の情報については、そもそも情報提供を 求めても情報入手が困難なものは無理であり、情報入手ができなくともよいのではないか と考えている。 ・18 社会で決定した 29 物質であれば、材料メーカーにも協力していただけるのではない かと期待しており、協力をお願いしたいと思っている。PRTR 法でカドミウムは 0.01% 以下の含有量であれば報告義務がないこととされているが、29 物質の中でもカドミウム を含め特定の有害な物質については含有量の閾値無しで回答していただく形になるので はないかと考える。 【EU における材料データベースシステムへの対応について】 ア)家電・情報機器分野 ・EICTA の場合、欧州の通信メーカー主導で進められた面があり、十分に部品メーカーの 意見を反映したものとはいえなかった。パイロット事業をはじめることになっていたが未 だ開始されていない。素材リスト、化学物質リストともに 35 種類と簡略化されているも のの、C 社では、以下のような課題を抱えていると感じている。 −部位・材料・化学物資のツリー構造で入力を要求され、重複もあり、大変煩雑となる。 電子部品にはこのようなツリー構造は不必要と思われる。 −材料は 99%まで入力が要求されるが、ここまでの精度は不必要。あるべき姿として は 99%まで把握できればよいが、90%のカバー率で十分ではないかと考えている。 日本の「18 社会」の議論では 99%までの入力は困難との認識。 −化学物質の閾値は 10ppm という規定があるが、これは小さすぎる。部品業界では 1,000ppm が主流である。 −提供されたデータに機密性が保たれず、情報提供者間の比較が可能になれば、情報提 供者は、自身のビジネスに不利に働くようなデータは提供しないようになることが予 想され、データがゆがめられる恐れがある。 ・その後、日本の「18 社会」が EICTA と協議を重ね、近々、対象物質については合意する 見通しになっている。EIA(米国電機・電子工業会)は EICTA と歩調を合わせることで 合意しているため、 「18 社会」と EICTA の合意がなされれば世界的に統一化されること になる。 ・「18 社会」としての提案は部品メーカーにとっても納得できるものと評価している。 ・「18 社会」と EICTA との間の協議で、物質数は 29∼30 程度で合意するのではないか。 2002 年 3 月末にも公表されると聞いている。今後は、 「18 社会」以外の製品メーカーが 172 同調してくれるか否かに関心を持っている。 ・対象物質については合意の見通しがついているものの、データ記入方法等、アウトプット 部分については、今後とも協議していく可能性が有ると感じている。IMDS と同様に、 EICTA の入力方法は部位、材料、物質のツリー構造になっているが、C 社のようなシン プルな部品の場合は、部位からはじめるよりも物質からはじめたほうがわかりやすく効率 的である。モジュール化部品や最終製品の場合であればツリー構造は意味を持つと思うが、 C 社の受動部品にはなじまないフォーマットである。データの記入方法の統一化に向けて は今後とも困難が予想されるが、可能であれば、複数のフォーマットを用意し、使用する 部品メーカーの特徴に応じて使い分けができるような形が望ましいのではないか。 ・統一化に向けてのステップは、①リストの標準化、②アウトプットの標準化(csv 形式∼ カンマを区切り文字として複数要素のデータを記録する形式∼、もしくはプログラムのいずれかの 標準化)の順になろう。いずれにしても短期間で成果を求めることは困難であり、長期的 な取組を通じて、製品メーカーにも部品メーカーにもメリットのある仕組みを構築してい くことが重要であると考えている。その意味でも成果は長い目で見ていきたい。 図表 5-9 「18 社会」の提案する化学物質関連情報 フォーマット 1 フォーマット 2 基本情報 構成情報 物を特定する情報、 材料構成情報調査:マテリアルリスト 工程の化学物質 化学物質調査:サブスタンスリスト 企業独自調査(製品アセスメント等) イ)自動車分野 ・C 社では現在までのところ具体的に IMDS への回答直接入力を要求されたことはない。 電装品メーカーからの問合せには応じているので、場合によっては電装品メーカーが IMDS に入力しているのかもしれない。 ・商取引レベルでは、自動車メーカーと電装品メーカーの間、電装品メーカーと C 社のよ うな部品メーカーとの間でモノや情報のやりとりが発生する構造になっており、直接、自 動車メーカーから情報提供依頼を受けることはない。EDS 社(IMDS の開発・メンテナ ンス会社)からも依頼は来ていない。 ・IMDS 関連で電装品メーカーからの問合せを受けることはあるが、様々な電装品メーカー からひっきりなしに依頼を受けているという状況にはない。 ・ドイツの ZVEI(日本の JEITA にあたる部品業界団体)では、電子部品についても IMDS 入力を行っていない。ZVEI としても IMDS へのデータ入力は難しく、いまだ検討中のよ うである。そのため、同社も IMDS への直接入力は行わないが、電装品メーカーからの 質問事項には回答している。 ・IMDS は、いくつかの環境負荷化学物質関連データベースの中では最もデータ蓄積(量) が充実していると認識しているが、以下の問題点があるのではないかと感じている。 −素材名の設定に自由度が高く、その他用語の定義が不明確なので、一貫性のあるデー タが集まっているとは思えない。 173 −ツリー構造の回答入力で手間がかかる上、電子部品のような軽量のものを積上げても 自動車全体では誤差範囲に入ってしまうのではないか。 −欧州の web に直接入力する方式であり日本からのレスポンスは極めて遅い。 ・重量の重いものを中心にデータベースの設計をするならば、IMDS も具体的に動く仕組み になるのではないか。 ・現在、Flat Reporting, Flat Data System といった提案が出されている。「この製品であ れば有害化学物質の含有率はこの程度」というデータを一回作り、これを各社共通データ として利用しようという試みである。 ・18 社会は自動車業界とも連絡をとりあっている。自動車分野でも電気・電子分野のよう なフォーマット(自動車分野では日本独自のフォーマットになる)を採用することで、両 分野での共通化を模索している。 ・2003 年 7 月には、いずれにしても ELV(EU の使用済み自動車指令)が発効されること になる。日本からの船積を勘案すると、2002 年中には対応しなければならない。 【環境関連情報提供に当たっての問題点について】 ・製品メーカーからの質問への迅速な回答を行うために以下の点が課題となる。 ①製品に含有する環境負荷物質や製品アセスメント関連情報の製品別データベースの 構築 ②回答作業業務への労力、費用 ③質問自体が相当標準化されること ④ノウハウの保全や回答の迅速化のために「有無のみ回答」「幅回答」が認められること ⑤回答情報の機密性が保たれること ⑥調査品種のグループ化等で調査品目自体を少なくしていただくこと ・①について補足すれば、 「18 社会」の合意事項は 29 の物質リストである。 ・②に関しては、 「18 社会」の入力方法も IMDS と同様、品名について納入先メーカー毎 に異なる場合には、それぞれごとに入力しなければならない仕組みとなっている。 ・③に関しては、質問する意味、意義を踏まえ、質問項目や質問内容について標準化される ことを望んでおり、このことが最重要課題であると捉えている。 ・④について補足すれば、使用禁止物質の場合、使用していること自体が問題であり、使用 の有無が確認できれば情報としては十分である。そのため、使用禁止物質の ppm データ の記述方式から「有無のみ回答」に切り替えるとか、4 物質(カドミウム、六価クロム、 水銀、鉛) 、臭素系難燃材等の含有量の直接的表示は困難な場合も考えられ、 「幅回答」を 認めてもらうことも必要と考えている。 ・⑤についていえば、欧州は本データベースにより蓄積されるデータは共有財産という認識、 スタンスで取り組んでおり、機密性の保持は困難である。 ・欧州と日本で部品の作り分けはできないので、欧州のデータベース化の流れに同調せざる を得ないところがある。 174 ④電気・電子機器関連D社 【会社概要】 D 社は、電子部品メーカーである。 【製品メーカーと部品メーカーの関係】 ア)環境関連情報が必要となる場面 ・製品メーカーとの取引上、納入できなくなるリスクを回避するために環境関連情報を提供 していかねばならない。このような情報は、 「グリーン調達情報」と呼んでいる。 ・別途、環境報告書等を通じて、製品メーカーには一般的な環境情報も提供している。 ・グリーン調達情報の提供依頼は最近、増加傾向にある。一昨年は 50 件/月程度であった が、最近は 140∼150 件/月に上る。 イ)環境関連情報の内容 ・D 社で製品メーカ−から要請を受ける環境関連情報のうち、納入製品に関する調査内容は、 以下のとおりである。 −部品の組成 −部品内の有害(危険)物質の使用状況 ・化学物質関連情報は、主として専任者 2 人で対応しており、必要に応じて各事業部の窓 口を経由して、技術者の協力を得る形にしている。 ・部品情報の入手に関し、自社で製造している部品情報については問題がないが、外部から 調達している部品・材料が非常に多く、環境関連情報の入手に苦労している。例えば、D 社で製造するコンデンサのモジュール化部品の場合、外部から調達する個々の構成部品ご とに情報入手レベルが異なることから、モジュール化部品としての総合化されたデータの 精度は悪くならざるを得ない。 ・3 年前から環境報告書を出しており、この中で、環境配慮型部品を PR していきたい。特 に、ビジネスへの影響も大きいので、鉛フリーの部品については、環境報告書で PR する だけでなく、自社のカタログを出したいと考えている。 ・製品アセスメントについては、既に 4 年前にシステム化が完成しており、現在、国内外 で運用中である。開発製品を対象に相対評価で行ってきている。「会社として製品アセス メントを行っているか?」という質問を受けることはある。通常は、「ISO14001 を取得 していますか?」といった一連の質問の中に入っている。 ・LCA の運用は行っていない。過去に LCA の勉強は行ったが、手間ばかりが増えて、実効 性はあるのかという疑念が解けず、合意に至らなかった。ただし、製品メーカーからは、 CO2 発生量の提出等を求められることもある。また、LCA の場合、総合化に向けた環境 負荷の重み付けが難しい。 175 【部品メーカーが材料メーカーに求める環境関連情報】 ア)対象となる材料メーカー ・同社は 178 品種を対象に材料メーカー向けのアンケート調査を実施している。 ・アンケート調査には、世間一般の環境基準に該当するものや同社独自の基準に関するもの を盛り込んでいる。 イ)対象情報の内容 ・材料メーカーから十分な情報を入手できない場合もあるが、アセンブリーメーカーは理 解を示してくれている。埋まらない箇所は有害物質が入っていないという理解を示してい るようである。 ・外部から購入した部品、材料については、当該メーカーに協力を求めている。 ・有害物質を含む部品、材料の製造方法は外部メーカーに問いかけてもデータ入手はできな いと想定される。幸いにしてこのような情報に関するアセンブリーメーカーからの質問は 来ない。 【EU における材料データベースシステムへの対応について】 ア)家電・情報機器分野 ・家電製品の環境関連情報の標準化に向けた動きは、乗用車とは別の世界で動いている。 ・当面は WEEE の動向を注視している状況である。 ・国内では「18 社会」の動きに注視している。対象物質は 24 物質+5 物質になるという話 もある。家電製品業界は国内では東西 2 つのグループに分かれており、「18 社会」の検討 事項が具体的な業界標準につながるのか、客観的に見ている。 ・この環境関連情報の標準化問題に関し、JEITA はあまり関与していない。同業部品メー カーと家電部品の環境関連情報の標準化への対応方針について打合せを計画している。 イ)自動車分野 ・IMDS 対応で悩んでいる。米国 Big3 自動車メーカーからは IMDS に直接入力するよう要 請がきている。入力しないと部品を購入しないといったプレッシャーを受けている。米国 Big3 の中ではフォードが最も熱心である。このような動きは、2002 年に入ってから本 格化した。 ・IMDS への影響が大きい ELV(EU の使用済み自動車指令)の見直し動向を注視している が、現時点では未決定であり、今年の 12 月に制定されるのを待たなければならない状況 である。 ・IMDS のフォーマットの場合、一度入力しても終りにならないのが問題である。同一部品 でも A 自動車メーカー向けの商品名と B 自動車メーカー向けの商品名が違う場合には、 商品名ごとに必要情報を入力することになる。自動車部品の場合、地域ごとにも製品名が 異なる場合があるので、入力には非常に手間がかかる。入力時に必要な情報を全て入れな 176 いと先へ進めない仕組みになっているため、一商品のデータ入力に数十分を要する。 ・また、今までは複合部品のレベルで情報開示が可能であったものが、素子部品レベルにま でブレイクダウンして情報開示しなければならなくなり困っている。 ・フォード等米国 Big3 からの要請フォーマットは、ISO9000 の QS9000 に基づくもので ある。米国 Big3 側が IMDS とは異なる基準を提唱する動きを受け、ドイツの自動車メー カーは IMDS から脱退するという話も出てきている。 【環境関連情報提供に当たっての問題点について】 ・部品情報に関する製品メーカーからのアンケートは昔からフォーマットが各社間で異なっ ていた。 ・このような大量のデータ入力を行い苦労する割には、データの精度が上がらないのが問題 である。標準化を含め何とかしてほしい。 ・部品製造の拠り所として従来は QS9000、すなわち品質基準を重視してきたが、IMDS は環境重視であり、品質向上と環境負荷低減の最適解を導き出すことは容易ではない。 ・IMDS 等で部品の取扱いを電子部品とバンパー1 枚を一緒にしてほしくない。コンポーネ ントレベルで情報提供を行えるとよいのではないか。 ・製品情報は「特許で守る」ことでよいのであり、情報は隠さずできるだけ開示していくこ とが重要ではないか。分析を行う気になれば、有害物質は数 ppm オーダーで解析も可能 であるし、隠す必要はないと考えている。 ・Cas 番号は化合物も含んでおり、化学物質の背番号として捉えることが可能である。材料 等の情報は、この Cas 番号で統一化できないか。 177 ⑤自動車関連E社 【会社概要】 E 社は、売上高 2,349 億円(平成 12 年度) 、従業員 3,500 名で、パッキンやシール等の ゴム製品を主力としている。従って、一次部品メーカーというより、二次部品メーカーの性 格が強い。納入先及び売上の大まかな内訳は、自動車メーカー(4 割)、家電メーカー(4 割) 、その他(農機メーカー等) (2 割)である。 【製品メーカーと部品メーカーの関係】 ア)環境関連情報が必要となる場面 ・製品メーカーの新製品の発表時などに用いる環境関連情報は、製品メーカーに提供するこ とが義務になっている。 ・製品メーカーからは常時、情報提供要請を受ける。会社全体では月間 100 件程度ではな いか。主な依頼元は自動車関連メーカーと家電関連メーカーであり、依頼件数は概ね半々 である。 ・ユーザー等への情報公開ツールとしてホームページや環境報告書が想定されるが、ホーム ページでは個々の部品情報(組成等)は公開していない。また、現在、ISO14001 を取 得中であり、環境報告書についても今後、作成する予定である。 ・PRTR 法等の規制対応から、成形部品の MSDS(化学物質等安全データシート)を要求 される場合もあるが、通常は顧客の調査フォーマットに従い情報提供している。 イ)環境関連情報の内容 ・E 社で製品メーカーから要請を受ける環境関連情報の内容は、以下のとおりである。 −部品の組成(構成材料) −部品内の有害(危険)物質の使用状況 −部品の製品アセスメント(環境への配慮)の実施状況 ・ゴム製品は混合する薬品がノウハウであり、出しづらい情報である。ある程度まとめた表 現で示せるよう要求している。 ・製品メーカーから要求される環境関連情報の多くは、有害物質に関するものである。調達 する原材料については有害物質の有無を確認している。 ・部品の LCA(ライフサイクルアセスメント)を実施する場合、製造工程別に測定機器を 設置し、積算しなければならず、大変な労力を要することから、現在は行っていない。 【部品メーカーが材料メーカーに求める環境関連情報】 ア)対象となる材料メーカー ・同社が関連する材料メーカーとしては、1)ゴム材料メーカー(樹脂メーカー) 、2)プラ スチックメーカー、3)ゴム薬品メーカー、4)金属材料メーカー等が挙げられる。 178 イ)対象情報の内容 ・材料メーカーに依頼する情報は、基本的には製品メーカーからの要請内容となり、材料の 組成や有害物質を中心とした材料含有物質情報が中心となる。 ・法律的な根拠があるものや過去に問題となったもの(環境配慮等)については、材料メー カーも情報提供に協力的である。ただし、現実に材料に使用されている化学物質や有害物 質の含有状況から察するに、PRTR 法対象物質だけでは安全性や環境保全面が十分に担保 されるとは言いがたい感じがする。 ・また、MSDS では含有量が少量の場合には、 「その他 ○%」といった表記が可能になっ ており、化学物質や有害物質の使用実態を詳細に把握できない要因となっている。 ・ゴム薬品メーカーからは PRTR 法対象物質を基本に情報収集を図っているが、実際は、 PRTR 法対象物質以外の特殊な物質が含有されていることも多い。 ・塗料メーカーは、製品製造途上で特殊な化学物質の混合を行うことで、品質の独自性を確 保している場合があり、このような部分で情報開示にネガティブな場合がある。同様のこ とが合金メーカーでも起こり得る。 ・材料メーカーからの情報提供を円滑に進めるポイントとしては、情報収集の目的と内容の 明確化及び内容の特定化が挙げられる。「何でもかんでも聞く」というスタンスは嫌がら れるようである。 ・材料メーカーからの情報入手内容の特定化を図る際に、将来のリサイクル方法が明確にな っていれば、これに資する情報入手ということで特定化が可能になるか、現時点では最終 的なリサイクル方法が不明確なため、過剰な情報提供を求めてしまう傾向にあると感じて いる。現状、同社の場合は使用済ボルトや使用済ベッド部品等の廃金属を合金化し、「主 成分は鉄」としてグレードの低いものとして鉄スクラップ業者に販売している。 【EU における材料データベースシステムへの対応について】 ア)自動車分野 ・IMDS へのデータ提供(入力)については、現時点は行っていない。しかし、今後、デー タ入力する予定である。 ・そもそも、日本自動車工業会における IMDS の導入検討経緯を簡単に整理すると、次の ようになる。①IMDS が欧州において本格稼動する以前から、自動車メーカー側から部品 メーカーへの情報提供要請頻度は高かった。また、自動車メーカー側の要請内容が会社毎 に異なっていたことから、部品メーカーの負担が重く、日本自動車部品工業会の中で情報 提供内容の統一化を要請する動きが高まり、同工業会から日本自動車工業会に要請を行っ た。②要請を受けた日本自動車工業会は検討部会を設置し、部品メーカーへの情報提供依 頼内容の標準化を試みた。しかし、定義の問題等で統一化が実現できず、なかなか進まな かった。③そのような状況下で IMDS の話が舞い込み、検討した結果、昨年末に IMDS を利用しようという意見が主流になり、各自動車メーカーは IMDS 導入に向け動き出し た。 179 ・ただし、IMDS の導入に際し、日本独自で検討してきた統一フォーマットと IMDS 入力 項目との対応面でまだ不透明な部分が残っており、いまだ協議が必要な状況である。 ・また、表面処理部分の有害物質含有量の提出を求められた場合に、分母の総重量を(表面 処理の膜厚)×(表面積)で算出するなど、対応可能な範囲で個々に対応しているが、要 請内容に 100%対応することが困難な場合もあるというのが実状である。 ・現在、日本自動車工業会、日本自動車部品工業会が共同で化学物質に関する対応部会を設 置しており、日本自動車部品工業会側から日本自動車工業会に対して、当面の有害物質関 連の情報提供は IMDS データに限定してほしいと要請中である。 イ)家電・情報機器分野 ・環境関連情報の統一化の話や、将来、直接データベースに入力していくという話は、まだ 来ていない状況である。 ・現状は、家電各社別に 4 有害物質(カドミウム、六価クロム、水銀、鉛)や臭素系の難 燃剤等の情報提供依頼がある。 【環境関連情報提供に当たっての問題点について】 ・やはり、どのような調査対象範囲になるのかが問題。製品メーカーが指定してくる物質に ついて答えるのはそれほど問題ない。それ以外は概要を回答できるようにして欲しい。 ・環境関連情報のデータ収集、データ入力にはやはり多大な労力を要する。E 社の場合、専 任はいないが、今後、専任者を設置する必要があるかもしれないと考えている。 ・IMDS へのデータ入力にあたっても、最初は大変ではないかと感じている。特に立ち上げ の時には、一定の知見を有する担当者を相当数程度配置する必要があるのではないか。 180 ⑥自動車関連F社 【会社概要】 F 社は、某自動車メーカー系列最大の自動車部品メーカー(同自動車メーカー1 台の各種 部品のうち約 1 割は同社部品)である。カーエアコン、インストパネル等を主力製品とし て製造・販売している。他に、建設関係、産業機械、鉄道、船舶用の部品も製造・販売して いる。 【製品メーカーと部品メーカーの関係】 ア)環境関連情報が必要となる場面 ・自動車メーカーからの情報提供依頼は受けている。1社を除く国内自動車メーカーの様々 な部署(品質管理部門、環境部門等)から要請が来る。同社から供給される部品点数が多 い車種を例にとると、自動車メーカーからは半年で数件程度の情報提供要請を受けた。 ・通常、自動車メーカーからの要請は、新製品(新車)立ち上げ時にあり、既存製品につい ては情報提供要請を受けていない。 ・情報提供対象となるのは新製品に用いる物質情報であり、自動車の国際材料データベース システムにも関連する。仮に色が違えば品番も違うため、報告することになる。 ・F 社の環境負荷低減への取組は環境報告書、インターネットで公開している。自動車部品 メーカーの中で環境報告書を出している企業は、大手部品メーカー等に限定され、同社は 環境マインドが高いと自負している。 【部品メーカーが材料メーカーに求める環境関連情報】 ア)対象となる材料メーカー ・F 社の場合、使用する自動車部品の 3 割は自社製造であるが、残り 7 割は外部調達であ る。自社製造部品の素材に関する情報については、材料メーカー(コンパウンド会社、基 礎素材メーカー等)から MSDS 情報の入手を通じて把握している。一方、部品の外部調 達を通じて F 社でユニット化している部品については、部品メーカーから情報入手を図 っている。 イ)対象情報の内容 ・材料メーカー等への依頼情報は、自動車メーカーからの依頼内容と同様に、材料の組成や 有害化学物質の含有量等である。このような情報収集を通じて、塗料や染料・顔料中に微 量の重金属が含有していることがわかってきた。 ・製品設計基準では、図面上はカドミウムの使用廃止が実現しているが、製品の性能評価は 実際にはむずかしい。 【EU における材料データベースシステムへの対応について】 ここでは、自動車分野に関する環境負荷低減への取組状況を整理した。 181 ア)環境負荷低減への取組状況 ・欧州指令や使用済み自動車指令では、カドミウム、六価クロム、水銀、鉛の 4 物質に関 する情報公開が義務づけられている。鉛に関しては、はんだ接着時の鉛排除が課題になっ ている。 ・また、世界の自動車メーカーの中で最も環境配慮が進んでいる国内自動車メーカーが、本 年 1 月にグリーン購買基準を出した。その基準の中で、銅製のラジエータは使用しない よう要請しているが、これはかなり厳しい要請であると認識している。現状、空調系のヒ ータコアの部分に銅と鉛を使用しており、鉛削減を目的とした措置であると推察される。 しかし、これを脅威と捉えるのではなく、同自動車メーカーとの取引拡大の好機と受け止 め、現在、対応中である。 ・このような自動車メーカーの調達方針の変更に伴い工程の変更問題が発生する。工程の変 更は製造コスト増につながるリスクをはらむものの、調達方針の変更は取引拡大の好機で もあることから、コスト削減努力と環境負荷低減の両立に向け努力していきたい。 ・自動車の LCA を勘案した場合、製造段階の環境負荷は 6%程度に過ぎない。F 社でも、 製造段階の環境負荷算出は可能であるが、自動車のライフサイクルにおける環境負荷の大 半は利用段階にあり、製造段階での環境負荷低減努力には限界があると考えている。 ・ただし、購買部門で調達している各種部品の環境負荷低減面からのチェックを環境部門が 行う体制は整備してきている。 (同社は、98 年 7 月に環境部門を新設している。 ) イ)IMDS 等への対応状況 日本自動車部品工業会リサイクル部会の中に、2001 年 10 月に「製品含有害化学物質 WG」が発足し、自工会の動きを組織的に収集する体制が整備された。この WG は、以下の 3 チームから構成される。 −データシートチーム −ビジネスモデルチーム −システム要件検討チーム 現時点で、IMDS について詳細は把握できていないのが実情である。 ただし、BMW からは直接、IMDS への入力依頼を受けた。 【環境関連情報提供に当たっての問題点について】 ・F 社は、環境問題に関連する情報については、極力、情報公開をしていく方針である。そ のため自動車メーカーに開示できないような守秘義務が発生する情報は存在しない。例え ば、最近、F 社大宮工場の土壌汚染が発覚したが、これも ISO14001 への積極的な取組 の成果であると認識している。 ・データ入手に労力がかかるのは仕方のないことであると認識している。データ開示は社会 的責任と捉えているので、それほど大変だとは感じていない。 182 ・材料メーカーからの情報入手の際に、当該情報がノウハウに抵触する場合には、情報開示 がなされないこともある。また、MSDS で情報入手ができた場合でも、情報の精度が低 い時がある。 ・また、欧州の部品メーカーは自動車メーカーと対等程度の力を持つことから、欧州部品メ ーカーからの情報入手は一般に困難である。 ・自動車メーカー側の競争原理の中で、部品メーカーからみても環境負荷低減に寄与するこ とから共通化すべきと感じることがある。例えば、クロムによる表面処理は差別化要因と 言うが、この部分は環境配慮面からは競争よりも協調が求められる分野である。むしろ、 別の製品性能で差別化を図ってほしい。このような話は、さまざまな自動車部品でみられ るが、できればボルトナットレベルで共通化してほしい。 ⑦自動車関連G社 【会社概要】 G 社は、熱機器、パワトレイン機器、電気・電子機器等を主力とする自動車部品メーカー である。 【製品メーカーと部品メーカーの関係】 ア)環境関連情報が必要となる場面 ・新しい製品を納入する際は、環境規制の対象となっている有害物質の含有量等を自動車メ ーカーに報告することが義務になっている。基本的なルールとして新しい製品を納入する 場合は品質保証をしなければならないが、その際に有害物質の有無も報告しなければなら ないことになっている。こうした環境関連情報の報告は、定期的に行っているわけではな いが、新しい製品を納入する場合以外に、マイナーチェンジも含め製品仕様を変更する場 合においても適宜行っている。 ・また、自動車メーカーが環境対策(例えば EU への対応)を行う際、問い合わせという形 で部品メーカーに環境関連情報の提供を求めることも多い。特にヨーロッパにおいては、 環境対策を怠ると自動車そのものが販売できなくなるため、自動車メーカーが部品メーカ ーに要求する情報量も多くなる。 ・ユーザー等への情報公開は、環境報告書の中で行っている。製品ごとの情報公開は、エコ 製品(自己認証)、LCA 等の形で行うことを検討中であるが、自動車メーカーではないた め効果はあまりないと考えている。むしろ会社(あるいはグループ)全体としての環境対 策をアピールすることの方を優先している。また、燃費向上の効果等の算出を部品メーカ ーが単独で行うことは難しい。 ・PRTR 法への対応状況は自発的に公開している。 イ)環境関連情報の内容 ・環境関連情報の内容は、主に、構成部品の内訳、部品の組成(構成材料) 、有害物質の使 183 用状況である。 ・自動車メーカーがこうした環境関連情報を部品メーカーに要求する主な理由として、EU の使用済み自動車指令への対応が挙げられる。G 社では、EU の同指令において特に重視 されている 4 物質(鉛、水銀、カドミウム、六価クロム)の含有量に関する情報は必ず公 表することにしている。4 物質以外の物質の情報も必要に応じ公表するが、まずは 4 物質 から始めその後段階的に情報開示する物質の数を増やしていくという方針である。 ・環境関連情報を要求する理由が明確でなく、必要以上の情報を要求されていると判断され る場合は、自動車メーカーの要求を拒否することにしている。 ・製品アセスメントの重視項目はマニュアル化されているが、部品ごとに製品アセスメント のための指標や基準があるわけではない。また、スタータ等のいくつかの部品に関して LCA を実施しているが、LCA のための明確な基準あるいはシステムがあるわけではない。 【部品メーカーが材料メーカーに求める環境関連情報】 ・プラスチックメーカーや金属材料メーカー、あるいは部品メーカー(樹脂ゴムメーカー等) に対して、使用する材料について環境関連情報の提示を求めている。 ・コントロールユニット等のユニット部品を購入する際は、家電メーカー等の他業界に問合 わせなければならないが、この場合は情報をもらうのに苦労する。 ・材料メーカーは、取引先企業の規模や取引量の大小により、情報開示先に関して優先順位 をつける傾向がある。但し、優先順位があるだけで、情報を開示しないわけではない。 ・樹脂ゴムメーカーには中小企業が多いが、樹脂ゴムメーカーの調達先であるゴムメーカー や樹脂メーカーは大手企業が多い。そのため、樹脂ゴムメーカーが調達先から環境関連情 報を入手する際は苦労する場合が多く、その影響で G 社が樹脂ゴムメーカーから十分な 情報提供を受けられないこともでてくる。 ・材料の組成や含有物質に関する情報は、材料メーカーにしかわからない部分が多く、自社 で分析するのは難しい。材料メーカーにより分析・提示された情報を信用するしかない。 ・同社は現在のところグリーン調達(環境配慮)を取引条件にするところまでには至ってお らず、品質やコストを重視している。但し、納入先の態度が変わればグリーン調達基準を 設けそれを取引条件にすることもあり得る。 【EU における材料データベースシステムへの対応について】 ・ヨーロッパの自動車メーカーからの要請で IMDS を利用し始めた。これには、ヨーロッ パの部品メーカーも IMDS を利用しているため、調整がしやすいというメリットもある。 ・IMDS のデータシートに基づいて情報を入力しているが、全ての項目に関して入力するわ けではない。例えば、上記の 4 物質に関する情報は提供するものの、その他の物質に関し ては必要と判断される場合のみ情報を提供している。また、特定の部品(例えばスタータ) の構成部品や構成材料に関する情報を細かく入力することはせず、その部品の重量におけ る 4 物質の含有量だけを示すという形をとることが多い。しかし、今後は構成材料に関す 184 る情報は提示していかなければならないと考えている。 ・特定の自動車メーカーに対してはほとんどの項目を入力する場合もあるが、同社は自動車 部品工業会の中でも重要な地位を占めているため、あまり多くの情報を提供するという前 例を作ってしまうとそれが模範となり他の部品メーカーもそれに従わなければならなく なるという懸念がある。そのため積極的な情報開示を躊躇することもある。 ・部品メーカーが IMDS に入力した環境情報は、その部品メーカーが指定した自動車メー カーのみ閲覧することができる。部品メーカーは IMDS に入力した情報を一般公開すると いう選択もできるが、G 社のような大手部品メーカーの製品は納入先によって仕様や構成 部品が異なるため一般公開しても意味がない。但し、材料メーカーや単品メーカーが扱っ ている素材・製品は、共通化が進んでいるため、一般公開する意味はあるかもしれない。 ・このように、IMDS は、メーカー間の情報交換のツールに過ぎず、一種の E メールのよ うなものとも言える。但し、IMDS は、どのメーカーに情報提供する場合でも入力方法が 同じであるというメリットを持っている。 ・IMDS が導入される以前は、紙ベースで情報をやりとりしていた。今後新製品に関しては IMDS を利用して情報提供していく方針であるが、実務担当者間で了解すれば今後も紙ベ ースで情報をやりとりすることもあり得る。 【環境関連情報提供に当たっての問題点について】 ・IMDS の入力は非常に手間がかかる作業である。G 社のように多数の部品を取り扱う大手 部品メーカーにとっては、IMDS のシステムを使うと入力しなければならない項目が非常 に多くなる。そのため、入力のみならずデータ収集・算出にも負荷がかかり人件費がかさ んでしまう。これはシステム上の問題点と言える。但し、単品メーカーにとってはそれほ ど負担にならないかもしれない。なお、同社では、今後 2 年程度の間、IMDS 等のデータ シートへの入力作業あるいは必要なデータ収集のため専任のスタッフを置き、ノウハウを 蓄積したいと考えている。 ・こうした IMDS のシステムには、理念先行型という欧米の特徴が反映している。即ち、 欧米では、全ての構成成分に関する情報を部品メーカーに提供させようとするが、現実的 にはなかなか難しく、それが可能となるまでに一定の年月がかかる。これに対し、日本で は現実的に提供可能な情報を各自動車メーカー間で確認しつつ提示していくというプロ セスをとる。 ・EU の使用済み自動車指令への対応で流動部品(過去に生産されすでに市場に流通してい る部品)に関する情報を求められることがあるが、これは現実的には極めて難しい。一方、 新製品の情報提示に関しては問題ない。 ・日米欧の各地域によって情報提供システムが異なるのは効率的でなく、データシートや報 告すべき項目は統一してほしいと感じている。また納入先によって環境対策への考え方が 異なっているため情報提示の要求レベルもまちまちであるが、有害物質等は世界共通のは ずなのであるからもう少し改善の余地があると考えている。 185 ・米国 Big3 から IMDS とは違うフォーマットが提示されている、あるいはドイツの自動車 メーカーが IMDS から脱退するといった動きに関しては聞いたことはない。むしろ Big3 は、IMDS の参加企業とのつながりが強いと認識している。但し、自動車メーカー同士が 協力し合うのは難しいので、そうした動きが起きてもおかしくない。 ・自社ノウハウに係わる情報は基本的に提示しない。但し、水質汚濁防止法等で禁止されて いる有害物質に関する情報は、自社ノウハウに係わったとしても公表する方針である。そ れ以外の物質に関しては「その他の物質」という括りで情報を提供する。 ・現在日本において、情報提供すべき物質として合意がとれているのは上記 4 物質のみで、 その他の物質に関しては各自動車メーカーによって取り扱いが異なる。今後情報提供すべ き物質の統一化が進んでいくであろうが、それには 2∼3 年程度かかると予想され、そう いう意味で現在は過渡期と言える。ヨーロッパにおいては 90 物質程度に関しては合意が とれておりその他の物質の取り扱いに関して自動車メーカー間で差があるという状況で ある。 ・ヨーロッパにおいては 90 年代にすでに、提供すべき情報に関して物質の項目の統一化へ の動きが進展していた。日本においては最近ようやく自工会や部品工業会を中心にこうし た動きが見られるようになった。 ・最近日本において自工会や部品工業会が中心となって情報提供のためのフォーマットを統 一化したが、実際には 1 社もそれを使用していない。これは、フォーマットが統一化され た時期が EU 指令の発表後であり、各メーカーは EU 指令に合わせた独自のシートをすで に作ってしまったことにもよる。 ・なお、物質の項目の統一は比較的容易であるが、材料や部品番号を統一化することは汎用 性が相当高くない限り難しい。 186 (2)インタビュー調査結果の整理 ①製品メーカーと部品メーカーの関係 ア)環境関連情報が必要となる場面 製品メーカーから部品メーカーに環境関連情報の提供が要請される場面としては、まず、 新製品の発表時などに用いる環境関連情報が挙げられる。 また、近年、製品メーカーが ISO14001 を取得し、環境マネジメントプログラム等の中 で環境負荷物資の使用低減方策を盛り込んでいたり、グリーン調達の方針を定めていること、 PRTR 法の施行に伴い、有害化学物質の情報開示が義務付けられたこと、さらには、欧州諸 国を中心にした材料データベースシステムの標準化の動きが活発化したこと等から、製品メ ーカーとしても環境関連情報を自身で整備する必要性が生じており、部品メーカーに情報提 供を要請してきている。 イ)環境関連情報の内容 製品メーカーから部品メーカーに要請する環境関連情報を総括すると、次のようになる。 有害化学物質については、欧州指令や使用済み自動車指令でカドミウム、六価クロム、水銀、 鉛の 4 物質に関する情報の提出を義務付けていることから、重点対象物質となっている。 図表 5-10 製品メーカーから部品メーカーに要請される環境関連情報 情報の種類 具体的な情報 会社属性 ・取引先コード ・社名、事業所名、記入者名、連絡先 部品属性 ・ユーザー品番、当社品番 ・部品重量 部品の組成 ・組成情報 部品の構成材料 ・構成材料の種類、構成比 部品内の有害(危険)物質の使用状況 ・部品中に含有する化学物質の種類 ・含有量 ・含有の目的 ・代替の有無、代替の計画 工程で使用する環境負荷化学物質 ・工程で使用する化学物質の種類 ・使用量 ・使用の目的 ・代替の有無、代替の計画 部品の製品アセスメント(環境への配慮)の ・部品の小型化、長寿命化、材料削減 実施状況 ・部品へのリサイクル材使用の有無 ・部品のリサイクル性(使用後部品のリサイ クル容易性) ・部品の省エネ性(部品製造時や部品使用時 の省エネに配慮しているか、待機消費電力 消費量等) 会社の ISO14001 取得状況 ・企業理念 ・環境方針、環境目的・計画 ・組織、体制 など 部品の LCA ・生産工程の環境負荷 187 ②部品メーカーが材料メーカーに求める環境関連情報 部品メーカーから材料メーカーに求める環境関連情報は、基本的には製品メーカーから依 頼を受けたものである。部品メーカーが自身で製造している部品であれば自社で回答可能で あるが、材料メーカーから調達しているものについては、自身で対応することが困難であり、 材料メーカーに依頼することとなる。その際に、部品メーカーと材料メーカーの力関係が影 響し、仮に材料メーカーが強力かつ無理解であれば、依頼した環境関連情報を入手できない 場合もある。 また、顔料、塗料、溶剤、合金等の環境関連情報は、その製品製造途上で特殊な化学物質 の混合を行い品質の独自性を確保している場合があり、入手が困難な場合が多い。 ③海外の動きへの対応 ア)家電・情報機器分野 家電・情報機器分野では、 「18 社会」の動向が、今後の環境関連情報の標準化に大きな影 響を与えると考えられる。 「18 社会」は、2001 年春頃から検討を始めており、海外メーカ ーを巻き込んで環境関連情報の標準化に取り組んできている。 海外での標準化は EICTA を中心に進められてきたが、欧州の通信メーカー主導で進めら れた経緯があり、十分に部品メーカーの意見を反映したものとはいえなかった。 「18 社会」は EICTA と協議を重ね、近々、情報開示義務の対象となる化学物質について 合意する見通しになっている。EIA は EICTA と歩調をあわせることで合意しているため、 対象化学物質については世界的な標準化が進展することになる。ただし、材料構成情報(マ テリアルリスト)については、依然、標準化されていない状況である。また、標準化の見通 しのたった対象化学物質についても、データ記入方法等、アウトプット部分については今後 とも協議を続ける必要がある。 このような標準化の動きが進展する中、一部の部品メーカーにおいては、既に欧州メーカ ー(フィリップス、シーメンス、ノキア、エリクソン等)から部品の構成材料や有害物質の 有無に関する情報提供要請を受けているところもある。 イ)自動車分野 自動車分野では、IMDS の動向が、今後の環境関連情報の標準化において大きな鍵を握っ ている。 日本自動車工業会は日本自動車部品工業会の要請を受け、2001 年末に IMDS の導入を決 定している。しかし、実際には 1 社も IMDS のフォーマットを使用していない状況である。 これは、フォーマットが統一化された時期が EU 指令の発表後であり、日本の各メーカーは EU 指令に合わせた独自のシートを作成してしまったことによる。現在、日本において情報 提供すべき物質として合意がとれているのはカドミウム、六価クロム、水銀、鉛の 4 物質 のみで、その他の物質については、各製品メーカーにより取扱いが異なる状況にある。 2002 年に入り、米国 Big3 が ISO9000 の QS9000 に基づく別の入力フォーマットを提 188 示してきており、今後の標準化の動向は、依然、不透明な状況といえる。 家電・情報機器関連と同様に、既に、欧州系自動車メーカーから IMDS への直接入力の 要請を受けている部品メーカーも一部あり、直接入力を試行的に行った部品メーカーもある。 試行的に入力を行った部品メーカーによれば、同一部品でも納入先ごとに商品名が異なる場 合には、商品名ごとに必要情報を入力する必要があることや、ツリー構造になっており、一 商品のデータ入力に非常に長時間を要するなどの課題を抱えているとのことであった。 ④環境関連情報提供に当たっての問題点 環境関連情報の提供は部品メーカーとしても積極的に公開していくべきとの考えに立ち、 情報公開に臨んでいるものの、情報提供に当たっては以下の問題点を抱えている。 ア)データ収集、データ入力に多大な労力を要し、専担者を配置する等の措置が必要とな っている。 イ)化学物質の中にはノウハウを含んだものがあり、含有量等について開示できない情報 もある。 ウ)製品メーカー毎に指定してくるフォーマットが異なっていたり、対象物質の範囲が異 なるなど、環境関連情報の一層の標準化が必要な状況にある。 エ)製品メーカーのグリーン調達が進展する中で、品質向上と環境負荷低減の最適解をど のように導き出すかが課題となっている。 4.解体事業者、リサイクル事業者との関係 ここでは、自動車メーカーを中心とした解体事業者やリサイクル事業者との間での解体マ ニュアルの普及状況について概観した。 大手自動車メーカーは、自社製造車を対象とした解体マニュアルを作成し、解体事業者や リサイクル事業者に対し、情報提供を行ってきている。解体マニュアルの中では、使用済み 車両からの液体抜き取り技術や再使用可能な部品の取り外し・保管方法など、作業環境に配 慮した効率的な解体技術をとりまとめている。 また、自動車リサイクル促進センターは、自動車のリサイクルに関する情報提供の強化に 着手している。現在、インターネットを利用したモデルシステムによる試験をしており、 2002 年にも「リサイクルネットシステム」として本格運用する予定である。このような情 報システムが構築された背景として、自動車リサイクルに関するまとまった情報を管理・提 供している機関はほとんどなく、このため、解体事業者等が自動車の適正処理を行う際に、 不便が生じるケースが多かった点を指摘できる。 そのため、自動車メーカーの団体である日本自動車工業会、自動車部品メーカーの団体で ある日本自動車部品工業会、解体事業者の団体である日本自動車整備振興会連合会や日本鉄 リサイクル工業会などが連携し、自動車関連団体の持つデータを集約し、それをデータベー 189 ス化することでインターネットからもアクセスができるように取り組んでいる。 図表 5-11 自動車リサイクル促進センターの概要 名 称:財団法人 自動車リサイクル促進センター 所在地:〒100-0006 東京都千代田区有楽町 1−4−1 三信ビルディング内 設 立:2000 年(平成 12 年)11 月 22 日 目 的:本財団は、資源の有効な利用の向上及び環境の保全に資するため、自動車のリサ イクル及び適正処理の促進に関する事業を行うことにより、自動車ユーザーの便 益の確保及び国民経済の健全な発展を図り、もって国民生活の維持、向上に貢献 することを目的とする。 賛助会員:社団法人 日本自動車工業会 社団法人 日本自動車部品工業会 社団法人 日本自動車販売協会連合会 社団法人 全国軽自動車協会連合会 公益法人 日本自動車輸入組合 社団法人 日本中古自動車販売協会連合会 社団法人 日本自動車整備振興会連合会 社団法人 日本鉄リサイクル工業会 財団法人 日本自動車研究所 基 金:1億円 さらに、鉄鋼メーカーの中にも、スクラップヤード業者と共同で廃車の解体マニュアルを 開発している動きがみられる。シュレッダー屑の中には、銅、ニッケル、すず等の製品規格 に影響する不純物が含まれており、この不純物を除去することで廃車屑の品質向上が期待で きる。そのため、廃車屑の品質向上を目的に、解体マニュアルの共同開発を行っている。 190