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JMA management review

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JMA management review
BOPビジネス最前線レポート
[東南アジア編]
現地の自立こそ、
BOPビジネスの肝だ!
本誌2010年11月号で紹介した、
アフリカにおけるBOPビジネス最前線レポートでは、
大きなポテンシャルを秘めた次なる市場の断面を明らかにし、
そこでのビジネスの可能性について報告した。
ひきつづき、
2010年12月の東南アジア
(ベトナム、
カンボジア、
インドネシア)
視察から
見えてくる現地の生活者の息吹と、
そこで行われている
BOPビジネスの最前線の動きをレポートする。
日本能率協会
公益事業開発センター
主管
肥本英輔
Eisuke Himoto
農村の自立をめざす
カンボジアのソーシャル・ビジネス
った。国道 4 号線を西へ 30 分、黄色く色づいた稲
穂が視界一面に広がったかと思うと、同じ風景が
延々と続く。ところどころに沼地が散在し、痩せた
東アジアでは最貧国に分類されるカンボジア。し
白い水牛が、のんびりと刈田に遊んでいる。現地通
かしその首都プノンペンは、きらびやかな寺院や現
訳の話では、カンボジア人の大半はこうした稲作農
代的な建築が立ち並び、意外なほど美しい。
家だ。これだけの自然の恵みがあれば、さぞや豊か
ここ数年、中国、韓国からの直接投資が続き、繊
維産業や靴加工などの産業も順調に発達している。
きれいに舗装された幹線道路は自動車で渋滞し、
新型の高級乗用車も少なくない。失礼ながら、想像
を超える発展ぶりである。
しかし市街地を少し離れると、この国の現実の姿
が次第に現れてくる。
に違いないと思われる。
しかし、その大半は電気も引かれていない環境下
の貧困層だ。
なぜ、所得が少ないのか。自然任せの栽培方法
や機械化の遅れ、流通制度の未整備などが指摘さ
れるが、政治体制を含めた、かつての凄惨な内戦
の傷跡もあるに違いない。
秋の昼下がり、われわれは、農業の近代化と生
整備された国道も1時間ほどで砂利道となり、い
産性向上に取り組む現地 NPOの活動現場を訪ねる
ったん脇道にそれると、車が直進できないほどので
ために、雨期明けのプノンペン郊外を2 時間近く走
こぼこ道が続く。
◉ B O P ビジネス 最 前 線レ ポ ート[ 東 南アジア編 ]◉
JMA Management Review 23
ようやく目的地に着くと、10 人ほどの男女が黙々
いてみた。
と農作業を続けていた。見たところ、小さな農園の
「一番欲しいのはカラーテレビ、次に冷蔵庫、3 番
域を出ないが、ホウレン草など多様な園芸野菜が丁
目に欲しいのは扇風機・・・・・・」
寧に栽培されているのがわかる。
この農園を主宰するNPO関係者の説明によると、
ここでいうカラーテレビは、ブラウン管テレビの
ことだ。次いで冷蔵庫は、主婦の気持ちとしてよく
有機農法で栽培し、同じNPO が運営する都市部の
わかる。最後に挙げた扇風機には、やや驚いた。カ
コンビニエンス・ストアなどに出荷を始めた。有機
ンボジアは非常に暑い。欲しいのはクーラーではな
野菜なので値段は高いが、売れ行きは徐々に上向
いかと確認してみた。
いているという。作業者は近隣の農民を採用。給料
「この家を見てください。クーラーなんて役に立ち
は月50ドル。現場責任者は農家の主婦で月100ドル、
ませんよ」
現地の公務員は 30 〜 40ドルといわれているので、
処遇は悪くはない。
この一帯はまだ電化しておらず、この主婦の家も
取り換え用のバッテリーが設置された状態で、電気
風通しを良くした隙間だらけの建付けを見回す
と、みんな大笑いだが、あらためてプノンペンの高
級住宅街の住人たちとの貧富の差を感じざるを得な
かった。
はつくが、家電はほとんどない。所有する電気製品
この NPO などと連携し、現地の人びとの起業を
は、モノクロテレビ、ラジカセ、携帯電話だけだ。
側面的に支援している日本のソーシャル・ファンド、
しかし、2011年半ばには電化の予定だという。農
こう の
ARUN の功能聡子代表は、起業支援の意義をこう
業を営む夫と3 歳の子どもとの 3 人所帯というこの
説明する。
女性に、電化されたら電気製品は何が欲しいか、聞
「まだまだ始まったばかりだが、農民が現金収入を
得ることの価値や意味を知ったことの意義は大き
い。しっかり働けばお金になるということ、また、
商品を売って利益を上げるには、品質や納期が大事
だということも、こうした活動のなかで身をもって
感じ取ることができる」
功能氏は、10 年近い現地支援活動を続けるなか
で、自立的な営農や商業を現地の人びとの手で立ち
上げないかぎり、途上国の永続的な発展は望めない
ことを確信した。そこで、現地の人びとによる起業
を支援するための社会的投資事業を2009 年に立ち
カンボジアの現地NPOが経営する有機農園。有機肥料の流出を防ぐため
に畝(うね)をレンガで囲っている
上げたのである。
この思いは、この農園経営を実質的に推進する
CEDACという現地 NPOの思いとぴったりと一致し
た。CEDACは同国でも最大規模の NPO で、全国の
1,000 以上の農民組合とのネットワークを構築し、
秋のプノンペン郊外は、一面の稲穂で黄色に染まって見える
24 March 2011
こうした農園経営のほか、小規模農家の経営指導な
どを行い、同時にコメの流通機構を整備し、農民の
現金収入の向上を推し進めようとしている。そのほ
か、コメ焼酎の製造販売など、さまざまな事業に挑
戦している。
「初年度の今年は黒字化を確保する見込みです。
現在の売上は140 万ドルですが、5 年後には 5,000
万ドルを見込んでいます」
ヤクルト・インドネシアのユニークな「昼礼」
。業績向上で、ヤクルトレ
ディたちの士気は高い
CEDAC 系のソーシャル・ビジネスを担当する関
中に入ると、日本でも見なれたヤクルトレディの
連法人、サハクレア・セダックを指揮するラン・セ
制服を着た小柄の女性たちが 10 人ほど、会議机を
ンホン 所長の鼻息は荒い。自信をもって明るい展
囲んでいる。われわれが入り込んできたので、やや
望を語ってくれたが、企業経営の経験には乏しそう
ざわついているが、これから「昼礼」と呼ばれるお
だ。ビジネスの厳しさをこれから学ぶことになるの
昼のミーティングが行われる。
かもしれない。しかし、こうした取組みがカンボジ
全員立ち上がると、賑やかな唱和が始まった。ヤ
アの近代化を推し進め、確実に新たな消費市場を
クルトの経営理念を現地語で唱えているのだそう
生み出すことになる。
だ。若い女性が多いせいか、元気がいい。
ヤクルト・インドネシアの
現地に根ざした経営
人口およそ2 億 3,000 万人を擁するアセアンの大
国、インドネシア。1997 年の金融危機で経済規模
は2 分の1に縮小したが、2000 年以降は急速に回復
し、いまやGDP50 兆円、日本の約1割である。
経済発展に伴い、現代的な生活を享受する中間
層が増え、日本企業にとってもきわめて魅力的な市
場に成長してきた。
現地で活躍する日本企業の実態を探るために、
首都ジャカルタを訪れた。
12月とはいえ日差しの強い1時過ぎ、慢性的な渋
滞を抜けて、ようやく目的地にたどり着いた。ヤク
ついで、業務報告。前のホワイトボードに個人別
の目標を記入した一覧表が手書きで書かれており、
そこに、各人の販売実績が記入されていく。目標を
クリアした人は、みんなが拍手と歓声でたたえてく
れる。
よく見ると、会議はヤクルトレディたちだけで進
行している。地域管理担当の現地スタッフは2 人い
るが、後ろで見守ることに徹しているようだ。
そのあと、訪問販売のテクニックを学習するため
の演技実習が始まった。今日の担当の2 人が前に出
て、びっくりするほど迫真の演技を始めた。見てい
るレディたちも楽しそうだが、感想を求められた若
い女性からは「ちょっと早口すぎるよ」と、率直な
コメントが返ってきた。
ルトの契約女性販売員、ヤクルトレディが毎日集ま
女性ばかりのせいか、和気あいあいとして底抜け
る地域拠点である。ジャカルタ市内に 40 拠点ほど
に明るい。元来が明るい性格なのだそうだ。同時に、
あるうちの1つで、落ち着いた住宅街の一角にあり、
その明るさを活用して士気を高めているヤクルトの
瀟洒な邸宅を改造した集会所といった趣きである。
現地マネジメントはしたたかというほかない。
◉ B O P ビジネス 最 前 線レ ポ ート[ 東 南アジア編 ]◉
JMA Management Review 25
昼礼は、インドネシア独特のもので、昼礼を行う
ようになってからの業績向上は目覚ましいものがあ
るという。
午前中の仕事を終えて、地域拠点に集まり、前日
の午後からその日の午前中の実績を報告する。昼礼
の後は、午後の分と明朝の分を仕込んでから訪問
ちもびっくりしていました」
インドネシアの責任者となって11 年、幾多の苦
難を乗り越えてきた上野早苗社長は、強い組織が
出来上がりつつある手応えをそう表現した。
もちろん、インドネシアの強い組織は一朝一夕に
出来上がったわけではない。
販売に出向き、業務終了後は自宅に帰る。まさに暑
昼礼の仕組みは2008 年から順次導入したが、そ
い日中を避けた「直行・直帰」の合理的なシステム
れ以前から、販売部門のスタッフを中心にして、エ
なのだ。
リア戦略の再構築とヤクルトレディの戦力化のため
しかし仕組みがうまく回っているポイントは、な
のさまざまな取組みを地道に行ってきたのである。
んといってもレディたちが自主的に昼礼を行う点に
「かつてはレディ任せでやっていた面がありまし
ある。彼女たちは販売員だが、身分は個人代理店
た。これを徹底的に見直して、現地の実態に合った
であり、ヤクルトにとっては大事な取引先でもある。
仕組みをつくりあげることができました」
その人たちが一体感をもって管理業務にまで参画し
2004 年からヤクルトレディ部門を担当する川口
ているのだから、同社の販売力が強いのは当然だろ
博史アドバイザーの言葉だ。現地任せでも本社主
う。現在、同国に3,000 人弱。ジャカルタだけでも
導でもない、まさに「現地に根ざした経営」のお手
500 人がいる。
本といえよう。
「いま6 年目です。この仕事のおかげで、子どもを
学校に行かせてあげることができました。夫も家族
も協力してくれるので、とてもありがたいです」
目の前にいた中年の主婦は、にこやかに答えてく
BOP層の生活現場から
みえてくるもの
●中国、韓国のパワーとプレゼンス
れた。こうした女性はほかにも大勢いるという。イ
カンボジアの農村で目に焼き付いたのが、立った
スラム教国では一般に女性が外に出て働くことは好
ままの若い女性をあふれんばかりに満載にして疾走
感をもたれない。特に、夫からの反発が強いらしい。
するトラックと砂ぼこり。何ごとかと思えば、近在
しかし、平均的なレディの月収は2万円ほどになる。
の縫製工場から帰宅する女性工員たちを運搬して
最低賃金が月1万円ほどに設定されているインドネ
いるとのこと。夕刻にはすさまじい数になる。縫製
シアでは、いい収入源なのだ。こうした女性の立場
工場はほとんどが中国系だから、それだけ中国企業
や家族構成を理解し、きめ細かくケアすることで、
が進出しているということだ。その道路沿いの土地
士気の高い有能なレディを長期にわたって確保する
の周囲には看板が立てられ、中国や韓国の企業が
ことができる。泥臭いが、これも現地マネジメント
一帯を買い占めているのがわかる。この砂利道が早
の重要な課題だ。
晩、日本の ODA で舗装されるとすれば、なんとも
「2010 年11月に日本で行われたヤクルト世界大会
皮肉な光景といえようか。
には、インドネシアからも13 人のレディを送り込み
アフリカにせよ東南アジアにせよ、途上国の国際
ました。彼女たちの昼礼の迫力を見て、本社の人た
空港は日本の ODA でつくられているところが多い
26 March 2011
と聞く。しかし、空港のロビーにはパナソニックで
もソニーでもなく、サムスンか LG の液晶テレビが
必ず置かれている。空港を出ても、至る所で韓国企
業の広告を見かける。しかもよく目立つ。中国企業
の広告はあまり目にしないが、アフリカやアジアの
一般市民向けの市場に並ぶ電気製品や雑貨の多く
は中国製だ。とにかく安い。何より、どこへ行って
も中国人がいる。
ジャカルタの低所得層の居住地域。戦後の日本の風景とどこか重なる
●金はないけど、不幸ではない普通の人びと
き地では、安っぽい服を着た子どもたちが夕陽を浴
タンザニアの農村では、みんな裸足で生活してい
る。われわれが訪ねた農家の主人もけっして裕福で
はないが、敬虔なイスラム教徒で、家を 3 軒もち、
びて遊んでいる。ふと『三丁目の夕日』の光景が頭
をよぎった。
はたして、何が貧乏で、何が幸せなことなのだろ
それぞれに若い奥さんと子どもを育てている。農作
うか……。
物を売る以外は、特段の収入はない。それでも、家
●捨てたものではない日本企業!
族みんな幸せそうだった。
カンボジアの農村もその意味ではまったく同じだ。
低所得層の地域に行けば行くほど、日本企業の
存在感は感じられなかった。しかし、現地の人たち
痩せた水牛くらいしか財産はないが、楽しそうに暮
との会話のはしばしに、日本製品への憧れや信頼感
らしている。少なくとも東京に住む日本人よりはい
を強く感じることができた。また、その背景には、
きいきとした目をして、笑顔で微笑みかけてくれる。
日本や日本人に対する親近感、安心感のようなもの
インドネシアではジャカルタの貧民街を訪ねた。
があるように感じられた。それは、あいまいな表現
母親と小学 3 年生の女の子に話を聞いた。一族の 4
だが、おそらくは、これまで日本人が海外で築きあ
世帯が一軒家に暮らしているので、各自の収入は少
げてきた信頼の総和のようなものではなかろうか。
ないが、オートバイが 2 台あり、旧式ながら冷蔵庫
今回訪問した日系企業には、共通する特質があっ
もカラーテレビもある。女の子に「ケータイ欲しい?」
た。それは、企業理念を大切にし、現地の人々との
と聞くと、
「もう持っている」との返事。何と日本よ
信頼関係づくりにじっくりと取り組んでいるという
りも進んでいるではないか。次いで母親に、何が欲
ことである。
しいか聞いてみた。
最近のメディアでは、新興市場ブームに乗り遅れ
「まずは、冷蔵庫。次いで、この子のためのパソコン。
ることを恐れる論調が目につくが、途上国で成長し
3 番目は、そう……みんなで撮るためのデジカメが
ている日系企業は、時間をかけて現地に受け入れら
欲しいですね」
れる努力を続けてきた。これからも相互の信頼をベ
カンボジアの主婦が、カラーテレビ、冷蔵庫、扇
ースにした堅実な経営こそが、結果的に、日本企業
風機の順だったことと比較すると、かなり近代的な
を成功に導くような気がする。
生活環境にあることがわかる。
なお、本稿へのお問合せはeメール mgt-review @
ちょうど夕方だった。洗濯物がたなびく小さな空
jma.or.jpまで。
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