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6 知床で予想される危険の例
知床・うみ、やま、かわ環境教育プログラム 6 知床で予想される危険の例 ここでは、「知床で予想される危険の例」として、危険及び注意を要する野生生物の対処法等を掲載し ました。「スズメバチ」と「アブ」の見分け方がわからない、カバキコマチグモなんて名前を聞いたこと がない等あると思います。対処法を覚えるのと同時に、インターネット等で写真を探し、実際に見分けら れるようにしましょう。 (1)イラクサ類 山菜として食べておいしいイラクサですが、茎や葉の表面には毛のような無色透明なとげがあり、イラ クサ類に皮膚が触れるとこのとげがささり、ちくちくとした軽い痛みがでてきます。そのまま放置しても 時間とともに痛みはなくなりますが、ただれる場合もあります。気になる方は、明かりに透かしてとげを 探し、それを先のとがったピンセットで取り除けば、疝痛から開放されます。浅く刺さっている場合は患 部にガムテープを貼り、はがすことでとげを抜くという方法もありますが、無理に押しつけるなどしない ようにします。 (2)ウルシの対処 ウルシかぶれは、ウルシのもつウルシオールという物質に対するアレルギー性皮膚炎です。知床では三 出複葉のツタウルシがたくさん生えています。秋になるとツタウルシの葉は美しい赤色に紅葉します。見 た目はすばらしい景観を演出してくれますが、触ると人によっては災難になります。それも初回の接触で は問題は起きないのですが、ウルシに対する抗体ができた人の場合は、2回目の接触以降に、手についた ウルシオールを、無意識に全身に(特に陰部に)こすりつけてしまった場合、夜も眠れずもだえ苦しむ災 難に陥る可能性がでてきます。ウルシかぶれにならないようにするには、①ウルシの葉の形を覚え、間違 っても触らないようにしましょう。②また、刺し傷、切り傷などの傷を負わないよう山や藪に入るときは、 長袖シャツや長ズボン、手袋などを着用し、肌が露出しない服装で身を整えるのが基本です。③万が一、 藪こぎをした後に、皮膚にかゆみを感じ、かいた部分に直線状の発疹が出た場合は、ツタウルシに接触し てかぶれた可能性が高いと考えられます。1回だけ石鹸で皮膚のやわらかい部分を中心に丁寧にウルシオ ールを洗い落としてください。 (洗い過ぎは、健康維持に欠かせない皮膚に常在する菌を排除し過ぎること になるので注意してください。)洗えば、かぶれが出ないか、出ても症状を軽減することができる場合があ ります。④かゆくて眠れないなどかゆみがひどい場合は、速やかに皮膚科の医師の治療を受け、症状を抑 える努力をしてください。患部を冷やすのも症状を軽減させる方法です。なお、ウルシかぶれになった場 合はアルコール飲料は厳禁です。1~2度皮膚をかいてウルシ独特のかぶれの初期症状に気づいた場合、 以降、一切皮膚をかかないでいると数日で完治します。かき続けた場合は、炎症や水ぶくれとなり完治す るに2週間以上かかります。 「触らない、かかない、洗い落とす、冷やす」が自分でできるウルシかぶれ対 策の基本です。 (3)エキノコックス エキノコックス症とは、エキノコックスという寄生虫の卵をヒトが土や水、食物などから経口感染する ことにより発症する病気です。エキノコックスの成虫はキツネや犬の腸内で生活し、卵はキツネの糞と一 緒に野外に排出され、ネズミの口に入ると肝臓で幼虫になります。エキノコックスの幼虫が寄生した野ネ ズミをキツネや犬が食べることにより、キツネや犬の腸内で成虫になります。本来の宿主でない人が経口 摂取した場合は体内で幼虫になり、生活環が閉じられた(次に進めない袋小路に入り込んでしまい、本来 の生活ができなくなった)エキノコックスは、人の肝臓に寄生、増殖し致死的な肝機能障害を引き起こし ます(キツネや犬に寄生した場合は、順調な一生の過程の中なので、このような悪さをしません)。野生の キツネには触らないでください。山菜や木の実などを食べる場合、洗わずに生で食べることは厳禁です。 - 18 - (4)エゾシカ 車で移動したり道路から観察する場合は、道路を横断したり道路路肩の法面にいるエゾシカに注意しま す。 おとなしそうに見えるエゾシカですが、不用意に近づいた場合、前足でのしかかかるようにしてくる場 合があります。また、雄の角にも注意しましょう。 交通事故が多いのは、エゾシカの活動が活発になる早朝、日没前後の時間帯、季節としては繁殖期の秋 と、越冬地に終結していたシカが再び分散する春です。 エゾシカには、次のような特徴があります。エゾシカを見たら減速し、注意しながら運転しましょう。 ① エゾシカは群れで行動し、1頭が道路を横断すると、次々に横断します。 ② 車が近づいても逃げないことがあります。 ③ アスファルト上では蹄は滑りやすく、転倒することがあります。 (5)カバキコマチグモ 体長は10~15mmほどで体はオレンジ色をしています。ススキなどの草原に棲息し、葉を丸めてチ マキのような巣を作ります。噛まれると激しい痛みがはしり、赤く腫れ、水ぶくれになる場合もあるので、 病院で治療を受けましょう。対処法は巣やクモに触らないことです。 (6)スズメバチの対処 知床でもっとも危険な野生生物はヒグマと思われがちですが、遭遇の可能性、被害や死亡事故の発生率 を考えると、もっとも危険な野生生物はスズメバチかもしれません。スズメバチに刺されるとその毒によ りアレルギー症状をおこし、刺された箇所の腫れや痛みだけでなく、気持ちが悪くなり顔色が青白くなる、 呼吸が浅く速くなる、脈が弱く速くなる、などのショック状態となります。以前に刺されたことがある場 合はアナフィラキシー・ショックとなり、最悪の場合は死に至ることがあります。 スズメバチは自分からは攻撃せず、スズメバチ自身や巣を守るために攻撃します。また、習性として、 黒くて動くものに対して攻撃することと、フェロモンにコントロールされていることから、においに敏感 です。 スズメバチから自分の身を守るためには、①ハチを刺激しない(服装等、遭遇した場合の対応)、②巣に 近づかないことです。 まず、自分からスズメバチを呼び寄せない準備として、服装やザックは、強く反応する黒っぽい色は避 け、明るい色のものにします。頭髪も色やにおいなどで呼び寄せる原因になるので明るい色の帽子をかぶ りましょう。帽子がない時に遭遇した時はタオルや手ぬぐいでカバーしましょう。香水や整髪料など化粧 品は控えましょう。また、甘いにおいのする菓子やジュース、果物も呼び寄せる原因になります。 遭遇した場合の対応として、一匹のスズメバチがゆっくり飛んでいるときは、餌を探している場合が多 く、じっとしていると飛んでいくので、やり過ごしましょう。逃げ回ったり、手を振り回すことは危険で す。スズメバチは攻撃されていると判断し、反撃します。 一匹でもカチカチあごを鳴らし威嚇する場合は、頭髪や眼球などの黒い部分が目立たないよう頭を低く して速やかにかつ静かにその場を離れてください。近くに巣がある可能性があります。また、頻繁にスズ メバチを見かける場所は、巣が近くにある可能性が高いので、要注意です。 攻撃された場合には、ハチノック(商品名)などの撃退用スプレーがあればこれを噴霧しながら速やか にその場から離れます。スズメバチは何度も刺しますし、あごで咬む力も強く、針から毒液を噴射するの で弱っているように見えても油断しないようにします。毒液が目に入った場合は失明する場合もあります。 応急処置は、安静にさせ、傷口を流水ですすぎながら指で強くつまみ上げるように洗ったり、ポイズン リムーバー(吸引器)を用い毒を体内から外に出し、抗ヒスタミン剤ステロイド軟膏があれば塗ります。 間違っても口では毒を吸い出さないようにしましょう。 人により嘔吐、発疹、息苦しさなどのアレルギー反応の程度は異なりますが、重症の場合、死に至るこ ともあるので、一刻も早く病院で手当を受けてください。 また、一度、スズメバチに刺されると、その毒により体内に抗体ができ、次に刺された時に毒に抗体が 激しく反応することで、呼吸困難や血圧低下や意識の混濁などの「アナフィラキシー・ショック」を起こ し、治療が遅れると死に至るので応急処置を施し速やかに医療機関に移送します。プログラムを実施する 際には、事前に参加者の中に抗体(以前に刺されたことがあるか)を持っている人がいないか確認が必要 - 19 - です。野外での活動が多い方でアナフィラキシー既往のある人や発現する危険性の高い人は、病院で検査 の上、必要と判断されると自分で注射できるエピペン(商品名。注射される薬液はエピネフリン)を購入 して万一に備えることもできます。 (7)ツチハンミョウ 体長1~3cmで、体は藍色で腹部が非常に大きく、飛ぶことはできません。触ると死んだ振りをして、 脚の関節から黄色い液体を分泌します。体液が皮膚に触れるとかゆみや水ぶくれを引き起こすので、むや みに触ったり潰したりしないようにしましょう。流水で患部を洗い、冷やすと良いです。 (8)ヒグマの対処 知床では、ヒグマは海から川に遡上して産卵するカラフトマスやシロザケを食料として捕食しています。 特に、周辺に人家がなく、カラフトマスが遡上する川には100%に近い確率でヒグマが出没します。9 月~10月上旬は、カラフトマスが遡上する川の傍には、必ずヒグマがいるという前提で行動しましょう。 ヒグマは基本的に人を避ける性質が強いので、人が来たこと、人が居ること、人の縄張りであることを知 らせる努力をしましょう。人が利用する歩くルートをいつも決めて線状に移動しましょう(例えば、行き も帰りも同じルートを使うなど)。それ以外の面として捉えられる場所はヒグマの縄張りで、縄張りは荒ら さないというルールをヒグマに知らせる行動が、ヒグマと平和的に共存する手法のポイントです。また、 ヒグマを人の側に寄せつけないように努力することが重要ですので、 食料を捨てるなどの行為は厳禁です。 北海道におけるヒグマ対処法で基本となる一番重要な考え方は、北海道のヒグマを人に慣れさせない付 き合い方です。自分は大丈夫だからとヒグマと近距離で付き合うと(写真を撮影する、餌を与えるなど)、 ヒグマは「人は恐ろしくない」と勘違いし、誰にでも近づくヒグマが出現するようになります。そうする と、あるきっかけから猛獣でもあるヒグマが人に怪我を負わせる、人を殺すなどの事態に発展する危険性 が高まります。最終的には、人に慣れたヒグマは駆除しなければならなくなります。北海道は人が密集す る地域に隣接した場所で、ヒグマが生活しているという世界的に見ても稀な特徴をもつ地域です。その北 海道で生活する人間が考え出すことができる知恵は「ヒグマを人に慣れさせない、 近づけさせない」「常に、 距離を置いて付き合うルールを維持し続ける」ことです。これが、アラスカと異なる環境である北海道で、 ヒグマと人が平和的に共存するための基本的な考え方だと思います。 なお、ヒグマに近距離で遭遇した場合に、ヒグマを撃退する最後の手段のひとつであるクマスプレーは 全員必携です。クマスプレーの代わりに鉈やナイフを選択することも可能です。 その他、詳しいヒグマの対処法については知床財団の知床自然センターのホームページに資料がありま すので参考にしてください。http://www.shiretoko.or.jp/bear/index.htm (9)マダニの対処 マダニは動物に寄生するものですが、人にも寄生し吸血します。体長は2mmから8mm程度の大きさ で、茶褐色で扁平。皮膚に吸着してもほとんど痛みがないので、気づかない場合が多いです。6月は、特 に注意が必要な時期です。予防法の第1番目は、下山後、または帰宅後、皮膚に気持ちを集中させること です。皮膚の上を歩いている個体や皮膚に食らいついている個体を見つけることができます。2番目の方 法は、髪を櫛でとかす、服を脱いでダニを振り落とすなど物理的に排除することです。万が一、皮膚に食 らいついていたのを見つけた場合は、ダニの体を軽く指でなで、ダニが足をばたつかせている間に爪を立 てないようにダニの体を親指と人差指でつまみ、皮膚より垂直方向に一気に引っ張ると、ダニの体を破壊 することなく取り除くことができます。生きているダニは、手の爪で確実につぶすか、火あぶりにして成 仏させてください。不幸にして頭部が皮膚の中に残った場合は、アルコール消毒で処置を終了し、後は、 そのまま開放状態で(絆創膏を張るなどの処置は、傷口を嫌気的にして体にとってマイナスの結果を招く 場合がありますので厳禁)放置すると2週間後には自身の体が異物(ダニの頭部)を体外に排出してくれ ます。何事もなく排出するか、化膿させて排出するかは各個人の免疫力により反応が異なります。2週間 も待てない方は、自分で針を使って皮膚を切り裂いて排出するか、異物排出作業を隣人に頼むか、病院で 処置してもらうなど自分に適した方法を選択してください。 - 20 - (10)海、川での注意事項 磯で観察をする場合には事前に満潮干潮の時刻、波の高さなど海の状況を177天気予報電話サービス や気象庁、海上保安庁のホームページなどで調べ、台風などで海が荒れている時には海岸へ近づかないよ うにしてください。観察の際には、深い所、大波、ガラスの破片や釣り針、毒をもっている魚やとげのあ る魚、クラゲなどに注意しなければならない事があります。軍手やゴム手袋をし、濡れてよいスニーカー などを履き怪我の対策をするようにしましょう。 場所によっては魚を釣ったり、網で捕まえたりすることが禁止されていることがあるので、事前に漁業 協同組合などに確かめましょう。 乗船の際には、身体を乗り出さないように、船頭や指導者の指示に従いましょう。 <リンク> 気象庁ホームページ http://www.jma.go.jp/jma/index.html 海上保安庁ホームページ http://www.kaiho.mlit.go.jp/ (11)花粉症 北海道では道南以外にはスギが生息していないので花粉症とは無縁と思われがちですが、シラカバや牧 草による花粉症があるので時期によっては注意が必要です。 (12)気象について 新聞やテレビ、インターネット等の天気予報で確認する方法も大切ですが、知床は特殊な気候なので、 「風」や「波」が読めるかが重要です。天気予報だけに頼らず、天気図を見て気圧配置などから天候を読 めるよう普段から勉強しましょう。 また、情報源としては漁業無線局がありますので、こちらで確認することもできます。 羅 臼 漁 業 協 同 組 合 漁業無線局 ウトロ漁業協同組合 漁業無線局 TEL…0153-87-2133 TEL…0152-24-2011(代) - 21 -