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新興国で活躍する 日本企業と日本人② (トルコ・イスタンブール編)
JMA グローバルリポート 世界で戦う 3 新興国で活躍する 日本企業と日本人② (トルコ・イスタンブール編) 魅力あるトルコ市場と周辺市場 トルコの人口は現在約7,400 万人。首都のアンカ ラは約500 万人だが、経済都市・イスタンブールは 1,400 万人の大都市である。 この国の最大の魅力は、何といってもその地理的 一般社団法人日本能率協会 経営 ・ 人材ユニット 副ユニット長 曽根原幹人 優位性であろう。北西にヨーロッパ、北にロシア、 東に中央アジア、南に中近東、北アフリカと、多様 な経済圏がぐるりとトルコを取り囲んでいる。自国 および周辺国全体を1つの経済圏と捉えると、その マーケット人口は約15 億人、GDPで22 兆ドルを誇 るエリアである。ヨーロッパとの関係をみると、ト ルコはヨーロッパ市場の生産・輸出基地的存在で、 なかでも自動車産業が発展。イスタンブール市内を 走る車はルノー、プジョー、シトロエン、フィアッ トなどのヨーロッパ車が大半である。日本メーカー は、トヨタがシェアを伸ばしつつあるものの残念な 新興国の市場拡大に注目が集まっているが、日本 企業の目線の多くはアジア圏、特に ASEAN に集 まっており、海外投資活動の多くも同様である。 ASEAN はさまざまな側面で日本を含めた東アジ アの経済国にメリットを提供しているが、全球的・ 長期的観点でみると、注目すべきホットな国・エ リアがまだまだ多数あることに気づく。その1つ が、中東・イスラム圏のトルコである。 日本能率協会(JMA)がこの 4月に、欧米ビジネ ススクールを対象にヒアリングしたところ、欧米 企業は、中近東諸国、南アフリカ、ブラジルなど に着目していた。欧米諸国にとってASEAN は地 理的に遠いため、“ 近場の新興国 ”への関心が高 いのだろう。 今回は、地政学的に将来有望な位置にあるトル コに着目し、現状をレポートする。 26 JMA マネジメント 2012.10 がら苦戦を強いられている。 また、中央アジアとの接点について触れると、ト ルコ民族のルーツは中国北方民族にあるといわれて おり、トルコ語は中国の新疆ウイグル自治区、ウズ ベキスタン、カザフスタン、アゼルバイジャン辺り の言語と非常に似ている。そのため、トルコ企業に とって中央アジアは、言語の壁がなく仕事がしやす い地域となっている。 政治的・宗教的・経済的にさまざまな問題・接点 をもつ周辺国関係ではあるが、各国・各エリアと上 手に付き合えば、長期的に発展することができる恵 まれた環境にある。 トルコの人口構成はピラミッド型で、国民の平均 年齢は29 歳(日本は45 歳)と若い。また労働人口 の増加率も高いため、民間消費の力は強い。いわゆ る、内需主導の経済成長であり、まさにNEXT11の 注目株の1つである。 しかしながら、 「プライドは高く自己主張をする。 日本企業の意思決定の遅れと中韓の脅威 給与・待遇面の要望が強く、 条件が良ければ他社(韓 国系など)への転職も多い」ことも、また事実のよ 在トルコの日系企業は約140 社。今年だけで10 うである。 〜 20 社の進出の動きがあるという。これまで日系 同社の社長は、そのようななかで、人材育成と組 企業は自動車関連産業が主だったが、最近は金融 織活性化に特に力を入れている。海外経験の長い やエネルギーなど、産業の幅が広がりつつある。ま 日本人や現地マネジャーが、研修や交流の機会を た、地方の中小企業の進出も出はじめている。 意図的に企画するなど、組織の一体感向上に積極 筆者が訪ねたトルコ政府系投資機関によると、 「日 的に施策を打っていた。スキルアップ、 キャリアアッ 本企業からの相談が急増しているが、その内容とし プが仕事への意欲に直結しているため、研修に対す て多いのは、立地場所探し、法律・規則の理解・ る社員の関心はことさら高いようである。 順守、家族の生活や教育、そしてパートナー探し」 多様性・複雑性を理解し、 海外事業拡大の選択肢の1つに だという。この政府系機関は、こうした相談にきめ 細やかに、かつワンストップで対応している。外資 導入に積極的な証でもある。 有望市場である反面、当然ながらリスク要因も多 この機関で、日本企業に対する苦言ともいえる手 い。日系商社の現地法人社長は、 「マーケットとし 厳しい質問を受けた。 「日本企業はなぜ意思決定に ては、長期的には成長トレンドだが、過去にはアッ 時間がかかるのか。中国や韓国はスピーディに決め プダウンの激しい経済だ。また、ヨーロッパの影響 てくれるのに……」と。 もあり、ルールがヨーロッパ化しつつあるなかで、 近年、トルコでは韓国車が増えつつあり、ここで 日本企業の対応はますます難しくなっている。地震 も韓国財閥経営の強み、すなわち意思決定の速さと などの自然災害やテロも多く、外資頼みの経済であ 投資の大胆さを発揮していた。他の国々同様、トル り、楽観的に曖昧な目的で進出を考えたら失敗する コでも日本企業の決断の遅さにもどかしさを感じて だろう」と話す。 いる。意思決定に慎重なのは悪い面ばかりではない 隣国のシリア情勢など、トルコの政治・経済にか が、アクションの速さが必要なときを見きわめ、時 かわるさまざまな問題とも付き合わねばならない。 には異なる対応をとるべきだろう。 言語、商慣行・法律、文化が、複雑に絡み合った 多様性をもつ国である。 「グローバル」とは多様性 親日的で「ものづくり」に適した国民性 の幅が格段に大きいことであると、あらためて気づ かされる。トルコは、日本・日本人との相性は良く、 2012 年5月にイスタンブールを訪問した際、トル 日系企業がビジネス(マネジメント)しやすい国の コの国民性を理解するために各所を訪ね歩いてみ 1つであると言われている。 「ポストASEAN」の戦 た。日系製造業のトルコ法人社長によると、 「トルコ 略対象国として、十分なポテンシャルをもつと筆者 は教育水準が高く、また仕事へのマインドも高い。 は考える。ぜひとも日本企業は明確な戦略・目的の いわゆる勤勉な国民だ。適切な報酬があれば、残 もとでスピーディに意思決定をしてほしい。 業や三交代などもいとわない。特にものづくり系 そして、トルコの人びとのマインドを理解し、モ ワーカーは優秀だ」と評価する。 チベーションを基軸としたマネジメントで、親日に 親日的国家で、日本企業にとってはなじみやすい 応えるトルコでの経営の確立を願いたい。 国民性である。 JMA マネジメント 2012.10 27