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案件創出型営業スタイルへの転換
1 事 業と人を強くする[ 新 連 載 ] 案件創出型営業スタイルへの転換 生 産 財 企 業 の 営 業 力・C S 力 を 強 化 す る 刻々と変化する経営環境のなか、企業には解決すべき課題が山積みだ。 いかにしてそれらの課題を解決して組織を強化するかが、企業の今後を左右する。 この連載では、事業と人を強くするためのヒントを、事例を挙げながら探っていきたい。 日本能率協会コンサルティング CS・マーケティング事業部 シニア・コンサルタント 青木和博 Kazuhiro Aoki 日本能率協会 経営ソリューション本部 カスタムソリューション事業部 次長 早川和秀 Kazuhide Hayakawa 日本のホワイトカラーは低迷しているのか 「種まき活動」 を阻む2つの問題 これらの方法は即効性があり有効な策ともいえる が、問題はこれだけに終始していないか、という点 昨年来の需要環境悪化を受けて、各社はさまざ である。たとえば、営業経費の一律削減で、出張な まな取組みをしているが、多くの企業で見受けられ どの旅費・交通費が大幅に削減されると、意図した る営業部門の対応策は、収益に即効性のある「イン 以上に訪問件数が減少し、社内在席比率アップの プット削減策」 、すなわちコストの削減である。 大きな言い訳にもなるので注意が必要だ。また、需 企業の収益は、売上というアウトプットとコスト 要減に伴う案件情報の減少は、営業余力を生み出 というインプットの関係で決まる。収益を上げるた すが、この余力の使い方を営業担当者個人任せに めには、売上を上げてコストを下げることが基本図 しておくと、いつの間にか余力は消え失せて、不景 式となる。需要環境悪化のように売上が下がれば、 気なのになぜか忙しい状態になってしまう。 コストを大幅に下げて収益維持や収益ダウンを最小 営業部門にとって重要なことは、インプット削減 限に食い止めようとする。もちろんこれは営業に限 策のみで景気回復をじっとガマンして待つのではな らず全社的な取組みになるが、営業部門における代 く、アウトプットにつながる何らかの手を打つこと 表的な方法は営業経費などのカット(一律 25%な である。特に生産財企業では、活動と成果にタイム ど) 、不況で生じた営業余力人員を一部他の事業部 ラグがある。今日の活動(種まき)は、半年先、1 に回す、あるいはリストラ(固定費削減策)といっ 年先の成果(刈り取り)につながってくる。したがっ たものがある。 て、いまの時期こそ種まき活動を強化すべきである。 38 August 2009 この種まきも、営業担当者個人の自主性に任せる のではなく、戦略性をもって組織的に行ったほうが 不況時を乗り切るための有効な方策になる。まして、 不況時だからこそ種まき活動のための余力は、おお いに見込めるのである。しかしながら、この種まき 活動を組織的に行おうとする際にネックとなる問題 点がいくつかある。 図表1◎ 「引合対応型」 と 「案件創出型」営業活動 100% 一般的な割合 案件創出型 引合対応型 需要環境好調時に 成り立つスタイル 需要環境悪化時に 力を発揮するスタイル 1つめは、業績評価の問題である。活動と成果に タイムラグがあるために、種まき活動は短期的成果 極的に種をまいて顧客のニーズ(需要)を喚起しよ につながりにくい。そのため種まき活動の重要性を うとするものである。 認識しつつも、短期的成果につながらないので中途 一般的に生産財営業は、自ら仕掛けて種をまいて 半端にやめてしまうことになる。したがって、種ま 受注に至るというよりも、ほとんどが「引合対応型」 き活動のプロセスをきちんと評価する必要がある。 で営業プロセスを回していることが多い。景気がよ 2 つめは、種まき活動をどのようにすればよいの いときはこの営業活動は効率的な方法であるが、需 かわかっていないという点だ。もちろん単に顧客に 要環境悪化時には、引合対応の “待ちの姿勢” が 電話などしても、相手から忙しいと断られるのは当 ネックとなるため、案件創出型営業に切り替えてい たり前の状況だ。いまの時代、無意味な訪問はアポ かねばならない。生産財企業の営業力強化のコン イントさえ取れなくなっており、 「用件があればメー サルティング経験からいえば、一担当者の日常営業 ル」で済まされてしまう。 活動での「引合対応型」と「案件創出型」の比率 種まき活動の方法をわかりにくくしている原因の 1 つに、 「引合対応型」営業スタイルがある。 「引合 は9:1あるいは8:2 程度で、圧倒的に引合対応型 営業スタイルが多い(図表1) 。 対応型」営業とは、 「こういうものができないか」と ニーズ喚起のための具体的な案件創出型営業の いった話(情報)がユーザー(顧客)直接か経由す 内容としては、顧客への技術講習会やサービスの定 る代理店・商社などから入ってきて、これに対応し 期巡回などを切り口にした方法などいくつかのパタ て受注に向けての営業プロセスを回すもので、これ ーンがあるが、ここでは顧客の抱える課題や仮説を まで慣れ親しんだ営業スタイルである。 盛り込んだ初期提案を通してニーズ喚起を図り、案 この「引合対応型」営業から、受注の種まきを仕 込む「案件創出型」営業へ切り替えていくことが求 められているのである。 顧客の課題を盛り込んだ提案を 件創出につなげる方法について述べたい。 このプロセスでは、まず顧客とその市場をよく理 解することがスタートとなる。本来、顧客に関して は営業担当者として知っていて当たり前であるが、 「引合対応型」に慣れ親しんでいると、この当たり 「案件創出型」営業とは、自ら積極的に市場・顧客 前のことさえできなくなってしまう。最近は顧客企 に仕掛けて、ニーズ(需要)を喚起する営業スタイ 業(見込客)のHP でかなりの情報が公開されてい ルをいう。待ちの姿勢の「引合対応」ではなく、積 るので、有効な分析視点を設定して企業の動きや ◉ 事 業と人 を 強くする◉ JMA Management Review 39 図表2◎初期提案を切り口にした案件創出型営業のプロセス例 ターゲット・ユーザー の公開情報 採用 (受注) 基本的な押さえどころ 対象顧客と取り巻く市場の理解 情報の整理 補足情報収集 (現場ヒアリング) ネゴシエーション 反応評価 ● ●SWOT分析する (強み・弱み・機会・脅威視点で分析) ●想定される課題を考えてみる ● 課題をブレークダウン する 初期提案書作成 (ニーズ喚起) 反応・フォロー 提案テーマの検討 本格提案書 変化点情報を見ることができる。その動きや変化の なかに顧客の抱える経営課題が潜んでいるので、そ の課題に対して “お役立ちの切り口” を考え、提案 書の形で訪問時にぶつけていくのである。 ● ●ある課題に焦点をあて、 課題の構造を分析してみる ● ●単なるテーマ表現だけでなく 顧客の言葉でもテーマ表現 例:○○製品のご提案 →画期的コストダウンを 実現する○○のご提案 実践化研修方式で体系的な営業スキルがアップ トプコンは、ポジショニング(GPS、マシンコン トロール、レーザー応用機器、一般測量機) 、アイ この初期提案書はあくまでもニーズを喚起した ケア(眼科用医用機器、眼鏡店向け装置) 、ファイ り、顧客の気づきを促したりするためのものなので、 ンテック(半導体検査装置、FPD関連装置、デバイ これによって案件情報化が図られる必要はない。重 ス)などの製造・販売を行う会社である。 要なことは顧客から何らかの反応を引き出すこと 実践化研修の対象となったのは国内グループ会社 だ。その反応に応じて、さらに顧客の生の情報収集 のひとつ、ポジショニング部門を担う販売会社で、 を行い、再度初期提案書の見直しサイクルを回せ 業界ではトップシェアを誇るトプコン販売である。 ばよい。こうしたニーズ喚起や顧客が抱える課題へ 流通形態は、代理店を通じた部分と直販部分とがあ の気づきの提供は、将来の案件情報化に向けた種 る。会社を取り巻く営業環境としては、商品知識を まき的なものであり、次期の予算に組み込まれれば 核とした営業活動では仕事が取れなくなってきてお 案件創出の成功につながるし、そうでなくても “お り、営業のスキルアップを通じた新たな営業スタイ 役立ち提案” をするということは、顧客から評価さ ルの構築が課題であった。さらに社内事情として、 れる価値ある営業活動にもなる(図表2) 。 トプコン販売の営業担当者に対しては、これまで単 こうした営業プロセスを回して種まきを行うこと 発研修のみで実践につながる研修ができておらず、 は一見して簡単なように見えるが、意外にできない 営業スキルにバラツキが大きく、市場分析力や提案 ものだ。その理由は、こうした訓練を経ていないた 能力が欠けているという課題もあった。過去におい めであることが大きい。以下に、案件創出型営業活 て、営業のスキルアップを図るために研修に取り組 動の組込みを、実践化研修方式で取り組んだトプコ もうとしたこともあったが、生産財という自社の営 ン販売の事例を紹介したい。 業特性に合わなかったため実現できないでいた。ま 40 August 2009 図表3◎実践化研修方式による体系的なスキルアップ研修プログラム 自社営業プロセスでのスキルアップテーマを設定 市場への戦略的アプローチ 案件創出型提案活動の進め方 情報収集活用の進め方 ☆市場での拡販余地を 認識する! ☆ターゲット市場での 見込客顕在化 市場 戦略 得意先評価と拡販活動余地 ☆受注フォロー 見 込 客 ︵ 情 報 ︶ ☆耕す畑と耕し方を決める タ ー ゲ ッ ト ☆ソリューション営業 提 案 成 約 ターゲットへの戦略計画 作戦検討とアフターセールス活動 営業マネジメントの進め方(管理職) テーマを組み合わせて複数回の実践化研修を運営 た研修をするにしても知識系中心では実践につなが ため、その資料がそのまま日常活動の提案書に使え りにくく、これも研修が疎かになった理由でもある。 たことである。提案活動が活発になったとともに、 今回取り組んだ実践化研修方式での体系的なス 各営業担当者が自主的に提案書を作成できるように キルアップ研修の特長は、①自社営業特性を加味し なり、これが案件創出型営業のツールとしてデータ てカスタマイズされた複数回開催の体系的なスキル ベース化され、全社的に活用できるようになった。 アップ研修、②講義だけでなく自社の生データ(市 2つめは、市場・顧客(得意先)に対して共通の 場・顧客データ)などを使った実践的討議場面の ものの見方や言葉(概念) 、手法で会話できるよう 組込み、③研修間(インターバル)に研修で学ん になったことである。トプコン本社、トプコン販売 だ考え方・手法で課題(宿題)を実践し、次回持 プロパー、過去に統合した販社の営業などさまざま ち寄り、 検討する実務直結型の運営方法などである。 な根っこをもった営業の集団であるため、互いの育 管理職も含め全員が対象となるこの研修は、営 った企業風土の違いから会話にギャップがあった 業担当者にとっては実践スキル習得の場となり、管 が、研修を通じた共通語が組織としてのシナジー効 理職にとっては共通の考え方、手法を理解しマネジ 果(相乗効果)をもたらした。 メントに活かす方法を学ぶ場となる。実践化研修の 3つめは、研修で活用した分析フォーマットがそ ため、1回当たりの研修開催人員は20 人以内とし、 のまま実務での資料につながったことである。研修 対象者数十人を3 班に分けて、全5回コースでスト と実務は別、ということではなく、研修そのものが ーリー性のある体系的な研修を実施した。研修間に 営業実務検討の場となったのである。 実践活動が入るため(実践活動の発表は次回研修 こうして現在も、トプコン販売は業界トップの地 の冒頭に実施) 、期間は約9カ月の長期的な運営と 位を強固にすべく、研修の実践的なスキルをベース なった(図表3) 。そして、この長期間、実践化研 に営業力強化に取り組んでいるのである。 修に取り組んできて、大きく3つの成果がみられた。 なお、本稿へのお問合せはeメール mgt-review @ 1つめは、初期提案書づくりを研修の場で行った jma.or.jpまで。 ◉ 事 業と人 を 強くする◉ JMA Management Review 41