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冷間押出しとリーチングによるポーラス銅の作製 - J

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冷間押出しとリーチングによるポーラス銅の作製 - J
日本金属学会誌 第 71 巻 第 9 号(2007)708
711
冷間押出しとリーチングによるポーラス銅の作製
康 弘 徹
宇都宮 裕
宮本丈二
左海哲夫
大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻
J. Japan Inst. Metals, Vol. 71, No. 9 (2007), pp. 708 
711
 2007 The Japan Institute of Metals
Fabrication of Porous Copper by Cold Extrusion and Leaching
Hiroaki Koh, Hiroshi Utsunomiya, Jouji Miyamoto and Tetsuo Sakai
Division of Materials and Manufacturing Science, Graduate School of Engineering, Osaka University, Suita 5650871
Conventional porous metals show relatively low strength due to softening in high
temperature treatments such as casting or
strength porous metals using cold
bubbling. In the current study, the authors propose an alternative method to fabricate high
phase bonding. From the Cu/Al comworking. A copper pipe filled with Cu and Al wires was deformed by cold extrusion to solid
dimensional pores.
posite, only aluminum is removed chemically by NaOH solution leaching to produce porous copper with one
The porous copper fabricated shows outstanding compressive yield strength than conventional porous copper.
(Received April 23, 2007; Accepted June 22, 2007)
Keywords: cold working, extrusion, solidphase bonding, leaching, compressive yield stress
本論文では,犠牲材としてアルミニウムを用いて冷間押出
1.
緒
言
しとリーチングによってハス( Nelumbo nucifera )の地下茎
(レンコン)状の一次元気孔を有する(ロータス型)ポーラス銅
熱交換器材料,防音材料,制振材料,フィルター,触媒担
の作製を試みるとともに,その機械的性質を調査した.
持材料などとしてポーラス(多孔質)金属材料が注目を集めて
いる.これまでにポーラス材の製造法として種々の手法が提
2.
ポーラス化手法
 過飽和
案されている13)が,一般的な製造方法としては,
ガスを放出させながら,溶湯を一方向凝固させる方法4,5),
提案するポーラス材の創製プロセスをロータス型ポーラス
 発泡剤を金属粉末あるいは溶融金属と混合し,熱処理によ

銅の場合を例にとり Fig. 1 に示す.銅線とアルミニウム線
り発泡させる方法68)がある.しかしながら,これらの方法
(犠牲材)を用意し,それらを銅管に充てんすることによっ
は高温プロセスを伴うため,凝固組織あるいは粒成長した組
て,押出し素材(ビレット)を構成する.ビレットを,押出し
織を呈し,得られる材料は軟化状態となる.また,気孔の形
加工により圧密化,一体化させる.このとき,銅の加工硬化
態(形状,寸法)や分布が不均一であるため,強度や靭性など
を図るために,加工は冷間(室温)で行う.一体化した加工材
の力学特性が低い.したがって,ポーラス化されたにもかか
を水酸化ナトリウム(NaOH)溶液中に浸漬することにより犠
わらず,比強度は中実材に比べて低くなり,軽量構造材料と
しての応用には限界がある.
そこで新たに,冷温間塑性加工による固相接合を用い,比
強度の高いポーラス金属材料の創製法を提案する.その際,
気孔を形成するためのスペースホルダー(犠牲材)として異種
金属を導入する.金属材料の多くは 75 以上の室温加工に
より固相接合が可能である9)ので,冷間強加工によって一体
化した複合材料を得ることができる.そして,得られた複合
材料から犠牲材のみを除去することによって,ポーラス材が
得られる.この方法は,高温の熱処理を要しないため,組織
制御技術と組み合わせることが可能で,また気孔の形態や分
布の制御も容易である.
大阪大学大学院生(Graduate Student, Osaka University)
Fig. 1
Fabrication process of porous copper.
第
9
号
冷間押出しとリーチングによるポーラス銅の作製
709
牲材であるアルミニウムのみを化学的に除去し,ポーラス銅
素銅 H 材(C1020
H)の中実ビレット(試料 No. 5)も用意した.
を得る.なお,Fig. 1 は本研究で採用した銅およびアルミニ
のダイを用いて,押出し速度
次に,各試料をダイス角 60°
0.05 mm /s ,みかけの押出し比(外径の変化のみから計算さ
ウム線材を用いたポーラス化手法を示している.
れる押出し比) 4.7 で外径が 5 mm になるよう冷間で押出し
実
3.
験
方
法
を行った.押出しの際,潤滑のためダイ表面をフッ素樹脂
(テフロン)でコーティングし,試料表面にはラノリンを塗布
まず,一端を閉じた長さ 40 mm の
q10.8 ×t 0.9
の無酸素
した.
銅(C1020 H )管の中に, q7 ×t0.5, q4 ×t0.5 のりん脱酸銅管
押出し後,各試料の定常部から軸方向に長さ 7 mm の試料
( C1220 H )を同心円状に配置した三重管を構成した.管と
を切断して,常温の 20 NaOH 溶液に 1 日間浸漬しリーチ
管の間の空隙および中心の管の内側に, q0.9 電気用軟銅線
ングを行った.その後,気孔率はポーラス材の質量と体積の
(C3102 )および q0.9 アルミニウム(A1070 O )線を幾何学的
測定と銅中実材の密度 8.94 Mg/m3 から求めた.作製された
に密に配置しビレット(押出し素材)を構成した.ここで,用
ポーラス材の機械的性質は軸方向の圧縮試験により評価し
いた純銅の材質が異なるのは,同質の形態が異なる純銅の入
た.圧縮試験は,室温にて,圧縮速度(クロスヘッド移動速
手が困難であったためである.空隙に挿入可能なこれらの線
度) 0.01 mm / s ,無潤滑条件下で圧縮量(クロスヘッド移動
材の本数は幾何学的に外側から 27, 17, 7 本である.リーチ
量)が 3 mm に到達するまで行った.
ング後のポーラス銅の気孔率を変化させるため,銅線材とア
ルミニウム線材の割合を変えた 4 通りのビレットを作製し
4.
実験結果と考察
た.各ビレットの試料番号,銅線とアルミニウム線の充てん
本数を Table 1 に示す.作製されるポーラス材の気孔率は線
Fig. 2 に試料 1 ~4 の充てん後,押出し後,リーチング後
材充てん時の空隙を除いたアルミニウムの体積率で予測する
の各段階の横断面写真を示す.充てん時(図(a ))に銅線およ
ことができる.そこで,その体積率を Table 1 中にあわせて
びアルミニウム線は幾何学的に密に配置されている.押出し
示した.また,比較のために最外管と同材質,すなわち無酸
により空隙はほとんど消滅し,銅およびアルミニウムが一体
化した複合材が得られた(図(b )).また,アルミニウム線材
の方が銅線材に比べて変形が大きいが,充てん時の銅とアル
Table 1 Number of Cu and Al wires filled and porosity after
leaching.
Sample Ratio of Cu to Number of Number of Al
No.
Al wires
Cu wires
wires
Volume
Porosity
fraction after leaching
of Al at filling
VAl/
(VAl/VCu)
1
12
17
34
26.7
29.2
2
11
26
25
19.5
21.1
3
21
34
17
13.2
14.0
4
10
51
0
0
1.1
5
Solid copper
Fig. 2
ミニウムの線材の配置は,押出し後にも概ね維持されてい
る.押出し後の各試料の気孔率の実測値を Table 1 中に示し
た.すべての試料で充てん時のアルミニウムの体積率とリー
チング後の気孔率の実測値はほぼ一致している.このことか
らリーチングによってアルミニウムがほぼ完全に取り除かれ
たことがわかる.しかし,リーチング後の気孔率の実測値は
アルミニウムの体積率よりわずかに高く,またその差は気孔
率が大きいほど若干増加する傾向にある.これは充てん時の
線と線の間の空隙のごく一部が押出しの際に充てんされなか
ったためと考えられる.このことは銅の線材のみで構成され
Cross
sectional photographs of each sample after (a) filling, (b) extrusion, and (c) leaching.
710
第
日 本 金 属 学 会 誌(2007)
Fig. 3
71
巻
Nominal stress
strain curves by compression test.
た試料 4 でもわずかな気孔率を有することからも確認できる.
Fig. 4 Relation between porosity and compressive yield stress
of specimens.
Fig. 3 に各試料の圧縮試験で得られた公称応力公称ひず
み曲線を示す.比較のために最外管素材と同一材料の中実材
(未押出し材)の圧縮試験結果も試料 6 としてあわせて示し
た.ここで,公称応力は圧縮荷重をみかけの圧縮前横断面積
(気孔を含む)で除することによって求め,公称ひずみはクロ
スヘッドの変位量すなわち圧縮量を初期高さで除することに
よ っ て 求 め た . 得 ら れ た 公 称 応 力 公 称 ひ ず み 曲 線 か ら
0.2耐力を求め降伏強度として評価した.未押出し材(試料
6 )の降伏強度は 398 MPa であるが,押出し後の降伏強度は
加工硬化により 466 MPa まで増加した.また,銅線のみを
充てんした試料 4 の降伏強度は 442 MPa と中実押出し材
(試料 5)に比べるとやや低い.その主因は,押出し前に空隙
Fig. 5 Comparison of yield stresses and specific yield stresses
among solid and porous coppers.
が存在するため実効的な押出し比が 3.9 と中実材の押出し比
4.7 に比べて小さく,加工硬化量が小さいためである.ポー
ラス材の公称応力は公称ひずみ 0.05 付近で極大値を示した
後に,その後ポーラス材に特徴的な応力低下とゆるやかな再
から計算した値も示す.未押出し材は加工硬化材( H 材)で
上昇を示した.気孔率の増加にともなって全体として流動応
あるため,焼きなまし材の文献値と比較して,降伏強度は高
力(変形抵抗)は減少している.なお,圧縮試験においてポー
い.ポーラス化によって見かけの降伏強度は減少するが,比
ラス材が線材と管材に分離することはなかった.
降伏強度は冷間押出し中の加工硬化によって上昇している.
Fig. 4 に降伏強度の気孔率依存性を示す.比較のために一
一方,一方向凝固によって作製されたポーラス材は焼きなま
方向凝固によって作製されたポーラス材の実験式(文献
し銅材に比べて降伏強度ならびに比降伏強度はともに低い.
値)10,11) も示してある.気孔率の増加にともなう降伏強度の
したがって,本ポーラス材の比降伏強度が,従来ポーラス材
減少はほぼ直線的であり,気孔率 29の場合でも 302 MPa
に比べて著しく高いことがわかる.本手法はポーラス化によ
と高い降伏強度を示している.参考に示した一方向凝固で作
る軽量化と,加工硬化による強化が同時に実現可能なことか
製された一方向気孔を有するポーラス材料の降伏強度は低い
ら,ポーラス材料の創製に有利な方法であると言える.
が,気孔率の増加に伴う強度減少は直線的である10,11).降伏
強度の気孔率の増加に伴う直線的な減少は,比強度が気孔率
5.
結
言
とともに変化しないことを意味する.これは気孔率ならびに
気孔の寸法が圧縮方向に沿って一様なためである.これに対
冷間塑性加工による固相接合を利用した新たなポーラス材
して,発泡金属では気孔率ならびに気孔の寸法が圧縮方向に
の創製方法を提案した.冷間押出しとリーチングにより気孔
不均一に分布するため,降伏強度は気孔率の増加とともに指
率 30 以下の一方向気孔を有するポーラス銅の作製に成功
数関数的に減少することが知られている.すなわち,一方向
し,軸方向圧縮試験により機械的性質を調査した.
の気孔を有するポーラス材料は気孔が伸びた方向に平行な荷
重を支持する場合に有利である.
作製したポーラス材および未押出し材の比降伏強度すなわ
ち単位密度あたりの降伏強度を求め,降伏強度とともに
Fig. 5 にまとめた.比較のために一方向凝固ポーラス材11)と
中実無酸素銅焼きなまし材12) の降伏強度の実験式(文献値)


ポーラス銅の圧縮応力はひずみ 0.05 付近で極大値を
とり,その後減少した後にゆるやかな増加に転じた.作製さ
れたポーラス材の降伏強度は気孔率の増加に伴って直線的に
減少した.


本ポーラス化手法によれば軽量化と加工硬化による強
化を同時に行えるため,比降伏強度(降伏強度/密度)が改善
第
9
号
冷間押出しとリーチングによるポーラス銅の作製
される.その結果,従来ポーラス材や中実銅材に比べて優れ
た比降伏強度を有するポーラス材料が得られる.
文
献
1) M. F. Ashby, A. G. Evans, N. A. Fleck, L. J. Gibson, J. W.
Hutchinson and H. N. G. Wadley: Metal Foams: A Design Guide,
(ButterworthHeinemann, 2000) pp. 623.
632.
2) J. Banhart: Progress in Mat. Sci. 46(2001) 559
100.
3) H. Nakajima: J. High Temp. Soc. 26(2000) 95
4) A. E. Simone and L. J. Gibson: Acta Mater. 44(1996) 1437
711
1447.
5) H. Nakajima, S. K. Hyun, K. Ohashi, K. Ota and K. Murakami:
Colloids and Surfaces 179(2001) 209214.
2362.
6) I. Duarte and J. Banhart: Acta Mater. 48(2000) 2349
839.
7) T. Miyoshi: J. Japan Foundry Eng. Soc. 74(2002) 835
8) M. Kobashi, S. Tanahashi and N. Kanetake: J. Japan Inst. of
432.
Light Metals 53(2003) 427
135.
9) R. F. Tylecote: Brit. Welding J. 1(1954) 117
10) S. K. Hyun and H. Nakajima: Mat. Sci. Eng. A340(2003) 258
264.
457.
11) A. E. Simone and L. J. Gibson: J. Mat. Sci. 32(1997) 451
12) O. Izumi: Nonferrous Metals, (The Japan Inst. Metals, 1987) p.
75.
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