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10月25日 第5回 コミュニティの衰退---
現 代社 会変動 論 第5回 コミュニティの衰退――テンニエスとデュルケム 分業の発達はコミュニティを衰退させるのか 1.19世紀後半のヨーロッパ社会 ● 19 世紀後半のヨーロッパ社会では、工業化と都市化が進み、社会生活が一変した。 ●この変化は、貧困問題、労働問題、都市問題などを生みだした。 ●工業化と都市化は、必ずしも明るい未来を約束するものではなくなった。 ●分業の発達がひきおこしたコミュニティの変容について、ドイツの社会学者テンニエス とフランスの社会学者デュルケムの考察を検討する。 2.テンニエス(Ferdinand Tönnies, 1855 ~ 1936、G) ● 1855.7.16 シュレスヴィヒのキルヒシュピール・オルデンスヴォル トの農場に生まれる。1863 年デンマークに併合、1864 年にプロイセ ンに編入される。 ●ドイツの統一過程にありビスマルク時代。1871 年ドイツ帝国が成 立。1878 年社会主義者鎮圧法、その一方で、社会政策。 ●テンニエスは、イエナ、ライプチヒ、ボン、ベルリン、キール、 テュービンゲンなどの大学で、哲学を学ぶ。 ● 1881 年、キール大学私講師、1908 年、政治経済学の員外教授、1913 年、社会経済学の正教授、1916 年退職。 ● 1909 年、ドイツ社会学会創設、1921-33 年社会学会会長。 ●主著『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』 1881 年、大学教授資格取得論文として書かれる。さらに手を入れて、 1887 年出版、副題「経験的文化形態としての共産主義および社会主義に関する論考」 1912 年改訂版、副題「純粋社会学の根本概念」としてようやく読まれるように...。 ●ゲマインシャフト:「本質意志にもとづく結合体」→感情融合による結合 「あらゆる分離にもかかわらず、結合している」 血のゲマインシャフト――母子、家族、親族、民族 場所のゲマインシャフト――隣人、村落 精神のゲマインシャフト――友人、(自治)都市 ●ゲゼルシャフト:「選択意志にもとづく形成体」→利害関心にもとづく結合 「あらゆる結合にもかかわらず分離している」 契約・大都市・学者共同体など。マルクスの理論をゲゼルシャフトの理論として採用。 ●世界史はゲマインシャフトの時代からゲゼルシャフトの時代へ。 ●ゲマインシャフト(本質意志にもとづく結合)の衰退=コミュニティの衰退にたいする危 機感を表明。ゲマインシャフトを再評価。 -1- 現 代社 会変動 論 3.デュルケム(Émile Durkheim, 1858 ~ 1917, F) ● 1858.4.15.~ 1917.11.15。フランスの社会学者。 ● 1887 年ボルドー大学講師、1896 年ボルドー大学教授(社会科 学講座)、1902 年パリ(ソルボンヌ)大学教授。『社会分業論』、『社 会学的方法の規準』、『自殺論』、『宗教生活の原初形態』などは、 今日でも社会学の古典とされる。社会を実在としてとらえる社会 学主義を唱え、デュルケム学派を築きあげる。 ● 1871 年普仏戦争でプロイセンに敗れたフランスでは内乱が起 こり(パリ・コンミューン)第2帝政が崩壊、第3共和政に移行 した。デュルケムは、共和政下の教育改革に尽力した。 (1)社会学主義 ●デュルケムの社会学の特徴は、社会を個人の外部にあり個人を拘束する現象としてとら えた点にある。 ●社会的事実――個人に対して外在的で拘束的な行動と思考の様式。 これは、多数の人びとの行為の所産であるが、ひとたび成立するとモノのように実在 する。 ●社会的事実を研究するのが社会学。社会は個人を越えた実在物である。 (2)社会分業論 ●機械的連帯から有機的連帯へ。 機械的連帯 → 無規制的分業 → 類似にもとづく連帯 有機的連帯 分業にもとづく連帯 環節型社会 組織型社会 (氏族社会) (職業組織) 共同意識が強い 個人意識が強い ●機械的連帯はなぜ崩壊したか? 社会の「容積」と「密度」の増大が分業を発達させた。 「容積」=人口。 「密度」=相互作用の密度(多くの人とさまざまな組み合わせで頻繁に相互作用する)。 (「動的密度」「道徳的密度」とも言う)。 ●無規制的分業(アノミー)とは? 分業が発達しても有機的連帯が出現せず、有効な社会的規制が働かない状態。 アノミーとはノルムがない状態。「無規範」状態ともいう。 ●有機的連帯:分業は協同なくしては成り立たないから、分業が発展した社会には、それ に応じた社会的連帯がありうる。 -2- 現 代社 会変動 論 (3)自殺論 ●当時の自殺統計によると、自殺は、冬よりも夏に多く、健康な人よりも病気の人に多く、 女性よりも男性に多く、一般市民よりも軍人に多く、青年よりも高齢者に多く、農村より も都市に多く、既婚者よりも独身者や離婚者に多く、子どものあるものよりも子どものな いものに多く、白人よりも黒人に多く、カトリックよりもプロテスタントに多い。 これをどう説明するか。 ●非社会的要因による説明は不十分 個人の精神異常、身体的・心理的特性、季節や気候のような自然環境の相違による説明、 模倣による説明。これらは十分ではない。 ●社会的要因による社会学的説明 ・自己本位的自殺――自殺者の属している社会集団の凝集性が弱く、その内面的な結束力 が弛緩している場合に生じる自殺。カトリックよりもプロテスタントに自殺が多い。既婚 者よりも独身者や離婚者に自殺が多い。子どものあるものよりも子どものないものに自殺 が多いなど。 ・集団本位的自殺――自殺者の属する集団の凝集性や統制力があまりにも強く、その集団 に対してもつ一体感や帰属性の度合いがあまりにも強いがゆえに起こる自殺。名誉を守る ための軍人の自殺。 ・アノミー的自殺――社会的無規制のゆえに過度に欲求が肥大化して、危機状態に陥った ときに焦燥や憤怒から起こる自殺。恐慌のときの商工業者の自殺。 ●アノミーの昂進→欲求の肥大化→自殺の病理的な増大 社会的規制を有効に作用させるために中間集団を再建する必要がある。 中間集団の再建→欲求の制限→個人生活の平安 ●自殺という個人的な現象にも、社会の状態(アノミー)が関与していることを示した。 (4)デュルケムの評価 ●社会学主義は、社会の構造としての実在性を強調する一方で、それが個人の行為によっ て再生産されている側面を強調しそこなっている。 ● 19 世紀後半のヨーロッパ社会を「アノミー」として捉える。 ●伝統的なコミュニティである「機械的連帯」に代わり、分業の発達した社会にふさわし い「有機的連帯」の可能性を示唆。しかしそのイメージは明確ではない。 参考文献 尾高邦雄. 1968. 「デュルケームとジンメル」 『世界の名著 47 デュルケーム ジンメル』 中央公論社. Durkheim, Émile. 1893. De la division du travail social. Paris: P.U.F.(田原音和訳. 1971.『社 会分業論』青木書店、1971 年) -3- 現 代社 会変動 論 Durkheim, Émile.. 1897. Le suicide : étude de sociologie. Félix Alcan, Éditeur. (宮島喬訳『自 殺論』中央公論新社、1985 年) Tönnies, Ferdinand. 1887. Gemeinschaft und Gesellschaft: Grundbegriffe der reinen Soziologie. (杉之原寿一訳『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』岩波書店、1957 年) -4-