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現代フランスにおける 「結社」

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現代フランスにおける 「結社」
Kobe University Repository : Kernel
Title
現代フランスにおける「結社」(Associations in France
today)
Author(s)
白鳥, 義彦
Citation
神戸大学文学部紀要,39:19-37
Issue date
2012-03
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81008296
Create Date: 2017-03-29
現代フランスにおける「結社」
現代フランスにおける「結社」
白鳥義彦
1
. はじめに
フランス社会は従来、中央集権的で、すなわち一般に中間集団が弱く、また、
ジャコパン的に、自立した個人が各々社会に参加することによって社会が構成
されるという「個人主義」のイメージでとらえられることが多い。しかし今日、
s
s
o
c
i
a
t
i
o
n
Jが社会の中で占める位置も大きくなってきているととらえ
「結社 a
ることも可能で、ある。例えば、 1
9
6
0年から 1
9
8
2年の聞に、年間の結社の創設
0
0
0から 4万へと 3倍以上になっているという数字が示されている
数は約 l万 2
(
B
a
r
t
h
e
l
e
m
y,2
0
0
0,p
.
6
0
)。また、 1
9
8
9年以降、毎年 6万以上の結社が創設され
ており (
1
9
9
7年には 6万 2
6
4
6
)、これに対して 1
9
8
5年には 4万 7
9
0
8
、1
9
7
5年に
万3
3
1
8にとどまっていたという数字や、フランス人の 1
0人に 3人が一つあ
は2
るいは複数の結社のメンバーであり、 7
0
0万人以上のボランティアが結社の活
動に関わっていて、 1
3
0万人の雇用を結社は有しているという数字も挙げられ
る (
D
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b
b
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tB
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u
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n,1
9
8
5,p
.
3
)。さらには、 2
0
0
2年現在、 2
1
6
0万人が結
社に加入しており、多くのボランテイアが複数の結社に加入していることから
5
6
0万人に達していて、スポーツ領域では 7
3
0万人、
結社加入者の延べ人数は 3
文化領域では 4
9
0万人が結社に加入しているともされる。換言すると、 1
5歳以
上のフランス人の 45%が少なくとも一つの結社に加入し、その 37%がスポー
ツおよび文化領域の結社であり、文化領域の 70%が結社の活動に年間を通し
-19-
現代フランスにおける「結社」
て自発的に参加し、季節に応じて参加するのは 17%、かなり不定期に参加す
る者が 12%、全く参加していない者は 1%、という数字も示される (
P
o
u
j
o
.
l
Mignon,2
0
0
5= 2
0
0
7,p
.
3
0
)。結社の創設数の推移についての統計的な詳しい数
字はあらためて示すが、このように、結社に関する著書の多くで、結社の活動
の拡大について述べられている。一方、「国境なき医師団」のような、著名な
結社の存在を指摘することもできる。
社会学の分野において、「中間集団」の問題は常に研究関心の重要な一分野
を占めてきた。社会学的な思考の根本的な背景をなす近代的な「個人」の理念
が生まれる中で、その個人と全体社会とをつなぐものとして、中間集団はとら
えられてきた。古典的な著作にさかのぼって考えるならば、例えば『アメリカ
におけるデモクラシー j (
T
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i
l
l
e,1
8
3
5,1
8
4
0=2
0
0
5,2
0
0
8
) などに見られ
るトクヴイルによる考察は、その代表である。彼は、フランスとの対比を念頭
に置きながら当時のアメリカ社会を鋭く観察する中で、アメリカにおいては
様々な「結社」が政治的、社会的な活動を行っていることに注目し、中央集
権化が進んで中間集団が解体されたフランスにはない、アメリカ社会の構成
のあり方のある種の独自性を指摘した。またデユルケームは、『社会分業論』
(Durkheim,1893=1
9
71)や『自殺論j (
Durkheim,1897=1
9
8
5
)、あるいは『社
会学講義j (
Durkheim,1950=1
9
7
4
) などに示されるように、 1
9世紀末から 2
0
世紀初めの時期におけるフランス社会を考察する中で、中間集団の解体を様々
な社会問題の原因として見出し、「職業集団」、「同業組合」による新たな形で
の中間集団の再生を求めた。
さらに現代においては、とりわけ、選挙における投票率の低下や、政党や労
働組合への参加の度合いの低下といった形で現われる、伝統的な形態による社
会参加の減退の傾向が見出される一方で、結社の創設数の推移、活動分野の多
様性、結社の活動に参加する人々の特性、若者や女性や年長者の結社の活動に
おける存在、結社におけるボランテイアあるいは雇用者数の推移、結社に対す
る寄付の額の大きさなどから、現代のフランス社会の中で、結社が担っている
-20-
現代フランスにおける「結社」
重要性を読み取ることも可能で、ある (
C
.
fB
a
s
t
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d
e
.2
0
1.
1pp.
l2
2
1
2
3
)。
本稿では、こうした諸側面から重要な存在としてとらえることの可能な、現
代のフランスにおける「結社Jについて考察していきたい。
2
. 1901年の結社法
まず、今日の結社の制度についての歴史的な経緯について、簡単に見ておこ
う。現代のフランスにおいて、「結社」を規定するのは、 1
9
0
1年 7月 1日の「結
社法」である。その全 2
1条のうち、第 l条冒頭では、「結社とは、二人または
それ以上の人びとが、利益を分かち合うのとは異なる目的において、それぞ、れ
の知識や活動を恒常的にともにするという契約である」と記されている。これ
は、趣味、文化、スポーツ、社会貢献など、金銭的な収益とは異なる目的を共
有する人びとが自由な選択的意思をもって契約に基づいて結成する組織を、法
人として認定するための法律であり、これによって結社は、組織として資産を
保有することも遺贈などを受けることも可能になった(福井編、 2
0
0
6、p
.
5
)。
なおこの法律は、カトリックの修道会はこの法の対象からは除外されること、
別の法的規定で承認を受けるべきことを念入りに説明しており、政教分離の原
則を徹底させるという方向で、結社の自由を法認すると同時に、修道会を規制
する目的をも有していた(問、
p
θ 。このような当時の社会的文脈の中で結社
の規定がなされ、今日に至っているということは、まず注目されるところであ
る
。
1
9
0
1年の「結社法」によって、今日的な文脈で述べるならば NPOの法的公
0世紀冒頭からフランスでは行われていたことになるが、ヨーロッパ内
認が 2
で比較した場合、フランスにおける結社法の制定は決して早いもので、はなかっ
8
3
1年のベルギー憲法を晴矢として、 1
9世紀半ば
た。ヨーロッパ各国では、 1
から世紀末までには広く法制化が進んでいった(問、 p
.
7
)。フランスにおいて、
9
ヨーロッパ内で較べても法的な結社の自由の制定が遅かった理由としては、 1
-21-
現代フランスにおける「結社」
世紀のフランスでは、 1
8世紀末の革命下に制定されたル・シャブリエ法が典
型的に示したように、あらゆる組織的結合を個人の活動の自由への阻害要因と
して否定することこそが、自由な市民の存在保障であるという考え方が存在し
ていたことが指摘され得る。アンシアン・レジーム下の同業組合等が身分や各
種特権に基づく不平等なものであり、それらが復活することがあってはならな
い、という考え方によって、結社に対する否定的な見方が存在していたのであ
る(問、 p
.
8
)。これも、歴史的な観点として興味深いところである。
3
.I
結社」の意義
「結社」への参加は、持続的に構成され、公的な領域に関わる集団への、諸
個人の自発的な動員の過程としてとらえることができる。この構成された集団
は、社会運動、利害カテゴリー、価値共同体といったものから区別され、むし
ろそれらの結晶化し、組織化されたものとしてとらえられる。公的領域という
のは、国家空間、市場、家族・親密性領域などから区別されるものとしてとら
えられ、一方で聞かれたアクセスの民主主義的理想を、他方で社会の必要と政
治システムとの問の媒介を指し示す。このようにとらえられた結社への参加
は、「市民体や、公的な事柄に関わる」という意味での、政治的なものとして
理解される (
B
a
r
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h
e
l
e
m
y,2
0
0
0,p.
l3
)。フランスの結社のモデルは、フランス
革命に遡る共和主義的理想、と、中間集団的な構造を評価する反個人主義的な傾
向との聞の妥協を基盤とする社会的・政治的な闘争から生まれてきた。市民社
会の活動は、政治社会と切り離すことはできない。結社の役割は、社会の作動
全体の論理から引き出される (
J
b
i
d
.,p.
l5
)。社会性と社会的危機との管理のみ
に限定されることなく国家から解放されることは、結社の運動にとって、フラ
J
b
i
d
.,
ンス社会が進めなければならない必要な変化であるともとらえられる (
p.
l7
)。現代社会において、結社の意義は、社会の変化にともなう、個人と全
体社会との関係のあり方という新しい局面からとらえることが可能となってい
-22-
現代フランスにおける「結社」
ると言うことができょう
r
4
. 結社j設立の要件
では、フランスにおいて結社を設立するためには、法的にどのような手続き
が必要なのであろうか。具体的に、フランスにおいて「結社」を創設して法人
p
r
e
f
e
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u
r
e
) あるいは
格を取得するためには、結社の所在地の置かれる県庁 (
s
o
u
s
p
r
e
f
e
c
t
u
r
e
) において設立を届け出て、官報に記載されなければな
郡庁 (
らない。その際、知事あるいは副知事に対して、結社の事務局のメンバーによっ
て署名され、以下の内容が記された書類を提出することが必要である。①結社
の正確な名称、②結社の目的、③結社の所在地の住所、④結社の責任者の電話
番号、⑤各人について、姓、該当する場合には旧姓、名、誕生日および出生地、
国籍、住所、職業、結社における役割が明記された、結社の運営にあたる人び
2部)、書類提出者によっ
とのリスト。さらにこの書類とともに、結社の定款 (
て署名された官報記載申請書、結社の所在地の証明書(所在地の家主、賃借入、
責任者によって書かれた同意書、あるいは結社の名によって賃貸借契約がなさ
れているならばその賃貸借契約書の写し)も一緒に提出しなければならない。
結社の設立には定款が必要であるが、一般にそこに含まれるべきものとして
は、結社の名前、結社の目的(目的ならびに活動分野)、目的を実現するため
の活動手段、結社の設立期間(期間の定めがないか、期間の定めがあるか、特
定の任務のためのものか)、結社の活動資金、結社の構成員(諸カテゴリ一、
加入の条件、義務と権限)、構成員の資格の喪失の規定、事務局員(任命され
る方法、任期、交代の方法)、総会(開催の方法、権限)、法廷における結社の
代表の方法、定款の修正の条件、解散および財産の帰属の規定、などが挙げら
れる O
なお、日本で NPOの設立認証を申請する際に提出する書類は、申請書、定款、
l
そうした現代社会における結社の意義は、大村 (
2
0
0
2
) でも論じられている。
-23-
現代フランスにおける「結社」
役員名簿(役員の氏名及び住所又は居所並びに各役員についての報酬の有無を
記載した名簿)、就任承諾及び誓約書の謄本、役員の住所又は居所を証する書
0名以上の者の名簿、確認書、設立趣旨書、設立についての
面、社員のうち 1
意思の決定を証する議事録の謄本、設立当初の事業年度及び翌事業年度の事
業計画書、設立当初の事業年度及び翌事業年度の収支予算書となっている
o
日
本とフランスで似通った書類が多いが、日本の場合には事業計図書や収支予算
書が必要とされている点等、フランスの方がより簡易で、あるようにも感じられ
る。また日本の場合には法務局等において登記の手続きを行うことになるが、
この点も日本とフランスとの間での手続き上の相違点として指摘できる。
5
. 近年のフランスにおける結社の設立の動向
次に、フランスにおける、近年の結社の設立の動向を検討したい。先に見
9
0
1年 7月 1日の「結社法」にもとづいて、官報
たように、フランスでは、 1
に記載されることによって結社が設立されることとなる。また、普仏戦争後
9
0
1年当時ドイツに併合されていた地域である、アルザス地方のパ=ラン
の1
(
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n
) 県およびオー=ラン (
H
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n
) 県、ロレーヌ地方のモーゼル
(
M
o
s
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l
l
e
)県では、地方法によって結社が設立される。ここで検討する数字は、
こうした手続きによって、「公式」に設立された結社の数である。
近年の結社の設立数を見れば、まずフランス本土(上記のアルザス、ロレー
ヌ地方の 3県を除く)の結社の数の推移は、次のようになっている。 1
9
7
5年に
は2万 3
3
1
8の結社が設立され、それ以後、 1
9
9
0年頃までほぼ一貫して上昇傾
5年毎の数字を挙げれば、 1
9
8
0年には 2万 9
6
0
2、 1
9
8
5年には 4万
向にあった (
7
9
0
8、 1
9
9
0年には 5万 8
3
1
5
)。それ以降は、おおよそ 6万前後で推移してきて
いる(19
9
5年には 6万 2
9
9
3、2
0
0
0年には 5万 8
0
5
8、2
0
0
5年には 6万 4
3
7
3、2
0
0
9
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0
1
1年 1
0月 2
5日最終ア
クセス。
2
田
同
-24-
現代フランスにおける「結社」
図 1 フランス本土における結社の設立数の推移
(
但し、バ・ラン県、オ ・ラン県、モーゼル県を除く )
7
0
0
0
0
6
0
0
0
0
トーー
5
0
0
0
0
口0
4
0
0
3
0
0
0
0片ーーー
2
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
1
9
7
51
9
7
7 1979 1
9
8
1 1983 1
9
8
51
9
8
71
9
8
91
9
9
1 1993 1995 1
9
9
71
99
92
0
0
1 200320052007 2009
(
出典)C
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2
01
1.
p
.
8
9より作成。
年には 6万 6
6
0
9、 1
9
9
0年以降で最も多かったのは、 2
0
0
3年の 6万 7
6
4
5、最も
少なかったのは、 2
0
0
2年の 5万 5
4
81
)(
C
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v
e,
2
0
1
1,p
.
8
9
)0
なお、アルザス 2県 お よ び モ ー ゼ ル 県 の 計 3県 で の 1
9
9
5年 以 降 の 設 立 数
は2
0
0
0弱、海外県での 1
9
9
8年以降の設立数は 2
0
0
0強で推移している (
J
b
i
d
.,
p
.
8
9
)。また 2
0
0
9年の数字で見れば、フランス本土(アルザス 2県およびモー
ゼル県を除く)では、平均すると人口 1
0
0
0人当たり1,13の結社が設立された
ということになる (
J
b
i
d
.,p.
l0
6
)0
ちなみに、内閣府によると、日本の NPOの認証数(日本に存在する NPOの
総数)は、 2
0
1
1年 8月 3
1日現在で、 4万 5
1
9
0であり 3、フランスの水準とは大き
く異なっている。
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//w
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.
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l、2
0
1
1年 1
0月 2
5日最終アクセス。
-25-
現代フランスにおける「結社」
6
. フランスにおける「結社j の活動分野の傾向
1
9
6
0年から 1
9
8
2年の期間において、結社の創設は広い分野で行われたが、
とりわけ、宗教的、政治的な分野、文化遺産や環境、住居、雇用、および様々
な権利の保護、定年退職後の年代のもの、芸術やスポーツの分野といった内容
9
8
0年代半ば以降、移民たちの結社や移民への援
のものの創設が多かった。 1
助のための結社、また失業者たちの結社や失業者への援助のための結社、人種
差別主義反対のための結社、相互扶助や人道的活動のための結社なども、相対
的に特に重要なものとなっている。また、とりわけ学校や大学を基盤としてス
ポーツの分野での活動を行うものや、環境保護の結社なども新たに増えてきて
いる。一方、おおよそ 1
9
8
5年頃以降の最近の新しい傾向として、青少年の活
動や民衆教育、 PTAなどの「歴史的な」分野の結社は相対的に後退気味であ
るとも指摘されている (
B
a
r
t
h
e
l
e
m
y,2
0
0
0,p
.
6
3
)。
0
0
9年に設立された結社の、活動分野ごとの分布を見
近年の様相として、 2
れば、教育部門が 7
,
1
1%、健康・社会=家族活動・高齢者部門が 1
0,
93%、商業・
経済活動・雇用・消費部門が 9
.
15%、住居・環境部門が 8,
33%、狩猟・釣り部
3,
57%、余暇・青少年部門
門が1.06%、文化・ツーリズム・国際交流部門が 3
0,
78%、スポーツ部門が 1
4,
8
5%、その他の社会生活部門が 4,
2
1%となって
が1
いる。またここ数年は、ほほ同様の比率の傾向を示している (
C
o
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ln
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l
del
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s
s
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c
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a
t
i
v
e,2
0
1
1,p.
l1
7
)。文化・ツーリズム・国際交流部門が最も多
く、次いでスポーツ部門、健康・社会=家族活動・高齢者部門の順となってお
り、教育部門でも一定数の結社が設立されていることがわかる。
7
. 教 育 の 場 に お け る 「 結 社j
ここで、具体的な結社の活動の様相を示す一事例として、教育の場における
「結社」について考察していくこととしたい。
-26-
現代フランスにおける「結社」
0
0
9年に設立された結社の、さらに詳しい下位
まず、教育部門における、 2
区分を見るならば、学校父母会が 4
2
2(
2
0
0
9年に設立された結社総数全体の
0
,
63%、以下同)、課外活動の結社が 2
0
4(
0,
3
1%)、学生会および同窓会が
1
5
6
3(
2,
3
5%)、私立教育が 8
6(
0
.
13%)、生涯教育が 1654(
2
,
4
8%)、教員組
織および教職員親睦会が 7
0(
0,
1
1%)、旅行・勉学・語学研修の資金組織が
4
4
0(
0,
6
6%)、その他の結社が 2
9
7(
0
,
4
5%)となっている。これらの中では、
学生会および同窓会、生涯教育が特に多いことがわかる。さらに、余暇・青少
年部門の中でも、広い意味で教育に関わる結社として、青少年会館・クラブ
が9
7(
0
,
15%)、青少年活動・民衆教育が 2
7
3(
0,
4
1%)、社会=教育の結社が
3
7
6(
0,
5
6%)、その他の青少年結社が 1
6
2(
0,
2
4%)設立されている (
C
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0
1
1,pp.
l2
0
1
21
)
。
フランスにおける教育の場での結社の活動を考えてみるならば、まず公教
育の学校補完結社として位置づけられるフランス・ボーイ/ガールスカウト
(
1
9
1
1年設立)等の組織も存在してきた。これらの結社の目的は、その介入に
よって、青少年のそれぞれに対して、自己の潜在能力を発達させ、知識と知識
を用いる能力を獲得させるように、また責任を持った大人になるために自らの
権利を行使し、市民として生きるように援助を行うことに貢献することである
ととらえられる。公教育の学校補完結社は、公権力の認めるパートナーである
9
9
2年 1
1月 6日付政令では、「公教育に協力する結社は、その協力が
とされ、 1
次のうちの一つに当たるときには、認可の対象となりうる。①課業時間中に、
支援として学校の実施する教育活動に参加するもの、②課外時間における補完
的教育活動を組織するもの、③教育方法の研究の進展、および教員チームの形
成や教育共同体の教員以外のメンバーの養成に貢献するもの」という形で、こ
うした結社に認可取得を許可するための原則を定めるとともに、その介入の範
囲を明確にしている。こうした結社によって提案される活動は、学校のように
義務的な性格を有するものではなく、親の選択によるものである。学校補完結
社が関係する活動としては、大きくとらえて、第一に、学校の時間に属する活
-27-
現代フランスにおける「結社」
動で、学校関係者や教員に向けられるもの(スポーツ活動、文化活動、学校や
社会への統合、教員や生徒代表の養成への貢献等々)、第二に、学校教育に近
接したところに位置づけられる活動で、一時的に、子どもが時聞をどう過ごす
か、その時間の編成に関係するもの(語学研修滞在、余暇センター、バカンス
センター、付き添い型学習支援活動等々)、第三に、学校教育外の活動として
位置づけられるが、教育的意義を第一義的なものに位置づけるもの(この諸
活動は、文化、環境、青少年スポーツなどの他の省庁に関わる領域から派生
してくる)というように分類することができる (
P
o
u
j
o
.
lMignon,2005= 2007,
p.
14
2
1
4
5
)。フランスでは「学校補完結社」という形で、日本におけるよりも、
学校そのものの活動の周辺にあるこうした諸活動に、より明確な位置づけが与
えられていると考えることができる。またこのことは、別の観点から考えるな
らば、日本におけるよりも学校の「内」、「外」の線引きがより一層明確であり、
「外」の側に位置づけられた諸活動に、「学校補完結社」というよりはっきりと
した形をとった担い手が関わってきている、というようにとらえることも可能
であろう。
8
. 結社の職業化
近年のフランスの結社の特徴のーっとして、「職業化=専門職化」
(
p
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s
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) を指摘することができる (
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0
1
1,p
.
6
8
)0
I
ボラ
ンテイアの職業化」は、今日では通俗化された表現であるが、 1
9
8
0年代末ま
では、激しい抵抗を引き起こし得るものであった。有給専任化は、職業化の重
要な次元であるが、職業化はそれだけに限定されるものではない (
J
b
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d
.,p
.
6
9
)。
分野によって違いはあるが、活動およびそれを担う人材の専門化が見出される
のである。
2
0
0
6年には、 8
4,4%の結社はボランテイアのみによって活動を行っており、
対して有給での雇用者がいる結社は 15.6%であった。この雇用者のいる結社
一 28-
現代フラ ンスに おける 「
結社 j
のうち、 44%は I人 もしくは 2人の被雇用者で、 3
0%は 3人から 9人
、 2
1%は
1
0人か ら4
9人であり、 5
0人以上の被雇用者がい る結社は 5%にしかすぎない
(
J
b
i
d
.,p
.
7
0)
。被雇用者がいる 場合にも、その数は一般に限定的であると 言 う
ことができるであろう。
被雇用者のいない結社と被雇用者のいる結社との、分野による比率の違 い
6,
2% :1
3,
8%、社会活動 部門では 5
0,
7%:
を見れば、人道的活動部 門では 8
5%、保健部門では 8
8,
2% :1
1.
8%、権利擁護部門では 95.7%:4.4%、教育
4
9,
8% :1
9.
2%、文
部門では 64.2%・35.8%、スポーツ・狩猟 ・釣 り部門では 80,
6.
1%、余暇および社会生活部門では 91
.
4% :8.
6%、経
化部門では 83.9% 1
目
.
6% :2
8.
4%、その 他では 9
1
.
2% :9
.
6%で、全体で
済利害擁護部門 では 71
8
3
.
6% :1
6.
4%と いう数字も 見出される (
J
b
i
・
d
.
.p
.
71)。このように、特に社会
活動部門および教育部門は、被雇用者のいる結社の比率が高くなっていること
9
8
0年代を通じての、雇用の増大ならびに社
がわかる 。 こうした傾向には、 1
一
一
会的排除への闘いという、公的政治の新しい必要性への対応が反映していると
J
b
i
d
.
.p.72)。また、メンバ一間での活動を中心 とするのか、外部
考えられる (
の人々へのサービスの提供が活動として行われるの か、とい ったことも、この
比率に影響を与えていると考えることができる。
│
口 被雇用者のいない結社・被雇用者のいる結社 │
(
出典)B
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01
1
.p
.
7
1より作成。
-29-
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結
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百
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こ部部部部部部部部部の全
﹁動動健護吉岡り化活護そ
岡山活活保擁教釣文生擁
i
的会利猟会書
道社権狩社利
人
E
E3
3余
ポ暇
0%
90%
100%
現代フランスにおける「結社J
近年の大きな流れとしてとらえるならば、 1
9
9
3年から 2
0
0
2年の間の、結社
,
6%であったのに対して、労働力人口の年
における雇用数の年平均増加率が 3
,
8%であったという数字も示されており (
J
b
i
d
.,p
.
8
8
)、結社に
平均増加率は 0
おける雇用は、雇用全般の増加の度合いと比較すると相対的に拡大の度合いが
大きかったと見ることができる。
職業化による影響として、内的には、ボランテイアと有給専任者との聞での
役割の新たな配分、外的には、しばしば急速にそして準備なしに、結社が経
J
b
i
d
.,
済領域に組み込まれていく、という変化を指摘することが可能である (
p
.
7
3
)。さらに、より具体的な内的な様相としては、従来ある種の結社の活動
のー側面を特徴づけていた社会運動的な要素から導かれる「運動家」や「活動
家」といった人々とは異なる、「専門家」が結社に増えていくことや、コンピュー
タや、ホームページ作成等を通じた新たなコミュニケーションといったものに
見られるような新たな問題に対応するための新たな職業領域が拡大することに
よって、結社内での人々の関係性の変化が生じてくるといったことも指摘でき
J
b
i
d
.
, p
.
91
)
。
る (
なお、いくつかの部門についての雇用者数、雇用者の給与の平均等を見れば、
次のようになっている。
表 1 活動分野ごとの結社の雇用状況
部門
教育
保健
スポーツ
社会活動
文化・余暇
小計
合計
結社数 雇用者数の割合
9%
2%
1
9
%
1
7
%
1
4
%
6
1
%
1
0
0
%
結社ごとの
平均雇用者数
1
2
%
7%
4%
4
6
%
4%
7
3
%
1
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%
1
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4
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8,
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2
2
2
7
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,
0
9
,
8
賃金の比率
平均賃金 (e)
1
2
%
1
1
%
3%
4
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%
3%
7
2
%
1
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%
1
8
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5
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2
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3
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(出典) B
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7
7
この表を見れば、社会活動の分野の結社に雇用されている者が、結社の雇
-30-
現代フランスにおける「結社」
4
6
%
) を占めていること、結社ごとの雇用者数の平均を
用者全体の半数近く (
見れば、保健部門(約 3
9名)、次いで社会活動部門 (
2
7名)の順に多くなって
いること、平均賃金は、保健部門が最も高くなっており (
2万 7
0
0
0ユーロ強)、
平均では約 l万 8
0
0
0ユーロとなっていることがわかる(なお、 2
0
1
1年 1
0月末
では、 lユーロは約 1
1
0円
)
。
9
. 活動への関わり方の多様性
一方、結社に関わる人々の活動のあり方として、 13%の人々のみが熱心な
活動者であり、 26%が「普通の」会員、約 40%が結社の活動に時々参加して
いる者だとの数字も示されている (
B
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0
0
0,p.
2
7
3
)。また、結社の活
動への参加の仕方がより一時的なものとなり、限定的な期間において目的に即
した形でなされるように変化してきているとの指摘もなされる。短期間の参加
が優勢となり、責任を負おうという意思がより弱まってきているというわけで、
ある (
B
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e,2
0
1
1,p.
l2
4
)。
こうした変化には、一般的な社会的・経済的状況からの影響も認めることが
できる。失業の増大、不安定な雇用の拡大、とりわけ若者における有期雇用契
約の増大などは、個人的・集団的な長期的な計画の見通しを展開させることを
非常に困難にする。これはまた、社会的なプロジ、エクトをもたらしたり、一般
的な利益を目指したりする集団的な関与よりも、文化やスポーツといった個人
の即時的な満足をもたらす結社へととりわけ選好が向けられる、という傾向を
J
b
i
d
.,p.
l2
4
)。
部分的に説明し得る要因でもある (
1
0
. 結社の活動への参加と階層性
一般的な傾向として、文化的水準や社会階層が高いほど、結社の活動への
参加の度合いも大きくなるということが見出される。国立統計経済研究所
-31-
現代フランスにおける「結社」
(INSEE) の調査によれば、都市化は格差の傾向をより強めており、社会的に
高い階層は、資格を持たない労働者 (
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s
) よりも、最も農
村的な地域で 2倍、小都市で 5倍、パリで 9倍、結社の活動に参加する度合い
が高いとされる。労働者の参加の度合いはどの地域でも、階層別に見て最後尾
に位置するが、とはいえ結社の活動への彼らの参加は地方でより高く、彼らに
とって結社への参加は、あたかもお互いの面識が自明である限定された共同体
の枠組においてのみ考慮され得るものであるかのように、人口集積の規模が大
きくなるに従って減退するともとらえられる。さらに、都市化と相関して、中
間階級の増大は結社の活動の発展の第一の要因として立ち現れてくる。社会的
地位の変化は、関係性のネットワークの漸進的な展開と本質的に結びついてい
るととらえられ得る。結社の成員の構成を見れば、それらの大部分において、
中間的な職業(小学校教員およびそれに相当する職、保健、ソーシャルワーク、
公務員、企業の経営部門および営業部門の「中間的な職 J
、技術者および職工
長、聖職者が包含される) (20%から 35%のメンバー)や、被雇用者 (20%か
ら25%のメンバー)の比率が高いことが見出され、スポーツクラブとある種
の同好会においてのみ労働者の比率の高さが確認される(他の分野では 15%
から 20%程度であるのに対して、これらにおいては約 30%)。管理職層と高度
な知的職業は、結社の参加者の中で占める比率が相対的にとても高く、多くの
事例で 15%から 25%を占めている。さらに、教授職や自由職といった社会的
に高い階層は、結社の中で指導的な役割をより果たすという傾向も見出され
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6
9
7
1
)0 2
0
0
5年 /2006年における、結社の代表、会
る (
計、事務局長の、職業別社会階層による分布として、代表は上級管理職、企
業主、自由職が 30%、中間管理職および教員が 4
1%、被雇用者および労働者
I
J
買に 22%、37%、38%、事務局長は同じく
が 27%を占めており、会計はこの }
T
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,
この順に 17%、37%、43%であるという数字も示されている (
2
0
0
7,p.
2
2
)。なお、国立統計経済研究所による、 2
0
0
9年の、 1
5歳以上の年齢層
における職業別社会階層の分布を見れば、農業が1.1%、職人、小売商、企業
-32-
現代フランスにおける「結社」
主が 3
,4%、管理職層、高度な知的職業が 8,
8%、中間的な職業が 1
3.2%、被雇
6,4%、労働者が 1
2,
8%、退職者が 2
6,
5%、失業者、学生等の無職者が
用者が 1
1
7,
9%とされておりヘこうした全体的な分布と結社への参加者の分布とを比較
することから、それぞれの社会階層の相対的な参加の度合いを理解することが
できる。また、先に見た、 1
9
7
5年頃以降の結社の設立数の増加を、中間階層
の割合の増大という、フランスにおける社会階層の構造的な変化と結びつけて
とらえる視点も提示することが可能であろう。
1
1.結社の予算の出自
次に、結社の予算の出自を、私的な資金および公的な資金という観点から
0
0
5年/2006年における分布を見れば、人道的活動部門で
検討していこう。 2
9,
2%、公的資金が 4
0,
8%、以下同様に、社会活動部門および保
は私的資金が 5
3,
2% :6
6,
7%、権利擁護部門では 6
1,
2% :3
8,
8%、教育部門では
健部門では 3
5
2,4%:4
7,
6%、スポーツ・狩猟・釣り部門では 6
6,
7% :3
3,
4%、文化部門では
5
2,
7% :4
7,
2%、余暇および社会生活部門では 6
3,
7% :3
6,
2%、経済利害擁護部
1,
5% :4
8,
5%、全体では 4
9,
3% :5
0,
8%となっている。ここからは、全
門では 5
体の額として見れば、私的な資金と公的な資金がほぼ半々で措抗していること、
また分野によってこの分布には違いも認められ、権利擁護部門、スポーツ・狩
猟・釣り部門、余暇およびネ士会生活部門などでは私的な資金の比率が高く、逆
に社会活動部門および保健部門は公的な資金の比率が高いことがわかる。活動
分野の特性に応じて、私的な資金と公的な資金の比率に違いが見出されるので
ある。また、全体で 5
0,
8%を占める公的資金のうち、市町村、県、地域圏、園、ヨー
ロッパ、社会組織、他の公的資金の比率を見れば、この順に 1
4
.
1%
、1
0,
0%、3
,
5%、
1
2,
3%、0
,
9%、7,
0%、3
,
0%で合計 5
0,
8%となっており、特に市町村と園、次
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5日最終アクセス。
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現代フランスにおける「結社」
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いで県からの資金が大きい比率を占めていることがわかる (
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.2 7
.
p.
l6)。国レベルからの資金も少なく はないが、結社の活動に対する公的な資金
は、市町村レ ベル とい った身近 なところか ら拠出されている部分が大きいと見
ることができるのである 。 また、固からの資金は継起的に減少傾向にあり、県、
地域圏、そしてしばしば市町村が固からの資金の減少を補う役割を担ってきて
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1
1.p
p
.
90
91
)。
いる、という指摘も見出される (
図 3 部門 ごとの、私的な資金と公的な資金の比率
(
2005年 /2006年)
人道的活動部門
社会活動部門および保健部門
権利擁護部門
教育部門
スポーツ狩猟・釣り部門
文化部門
余暇および社会生活部門
経済利害擁護部門
全体
日目
1
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│ロ私的な資金・公的な資金 │
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出典)T
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7
.p
.
l6より作成。
1
2
. 公的な資金との関係
従来、結社の活動に対する 公的 な資金の援助は、補助金とい う形で提供され
ることが多かった 。 しかし近年、プロジ、エクトの提案とそれの実行、あるいは
公的部門からの発注という形に基づくものなどが増加してきている。こうした
傾向によるならば、実現すべき 必要性を決定するのは公的権力ということにな
り、結社は実行されるべき政策の単なる実施者といつことになりかねない。社
会的な必要性を担い、人々の需要を明らかにするという、結社が従来果たして
-34-
現代フランスにおける「結社」
きた役割を考えるならば、公的権力とのこうした新たな関係のあり方は、従来
の相補的なものから、発注者と受注者といったものに変容し、結社の自発性が
失われてしまう懸念が生じてくる。とりわけ、公的な資金に拠る比率の高い、
社会活動部門や保健部門、あるいは教育部門などでも、こうした傾向が強くな
る懸念が考えられる。数多くの結社において、自らの経済的な重要性が高まる
ことが認められるとすると、それはしばしばこうした文脈の中で自らの自律性
を犠牲にしてのことであり、このことは逆説的にそうした結社の脆弱性を高め
ることになってしまう包括t
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.
9
0
9
3
)。活動を行うための公的な資
金の必要性と、それを得ること、さらにはそれに多くを負うようになることか
ら生じかねない結社のあり方の変容の可能性という問題が、ここに見出され得
るのである。これは一義的な解決策を求めることができるような種類の問題で
はなく、状況に応じた中で、より良い関係のあり方を求めていくことが必要と
されるであろう。
1
3
. 結社の活動の様相と意義
近年のフランスにおいて結社の創設が増大している傾向にある理由として、
いくつかの要因を考えることができる。第ーには、 1
9
0
1年の結社法の精神や
当初の位置づけからは離れているものではあるが、経済活動に関わるものや、
公的機関の直接的な主導による結社が注目される。前者は実際には、結社の活
動分野と市場との境界上に存する、企業に準ずるものであったり、営利目的の
企業が別の装いを施しているものであったりする。後者には、結社および行政
双方の代表によって構成される混合的結社や、公法による規制を避けるため
に、公的機関によって直接に創設されかつ/あるいは運営される「行政的結社」
が合わせて含まれる。第二には、結社の成員をもっぱら対象とし、彼らの必要
を満足させることのみを目指し、社会的な影響や公権力に対する行動を起こそ
うという意志を特に持たない結社の増大も指摘できる。このような結社は、友
-35-
現代フランスにおける「結社」
の会、定年退職者のクラブという形や、趣味あるいは文化的アイデンテイテイ
を拠りどころにして結成される。こうした「自己の問題に専念した」結社はま
た、ある種の状況の中で、社会的な影響を及ぼす可能性も有し得る。その例と
して、退役軍人の会、しかじかの自然景勝地あるいは文化的遺産の友の会、さ
らにはより明白な事例として、 1989年 6月のヨーロッパ議会選挙において「狩
猟、釣り、自然、伝統」の候補者リストが、結社を母体として結成されたこと
が挙げられる。第三には、より多様な主張(自然環境、生活環境、フェミニズ
ム、地域主義、反人種差別主義等々〉を擁護するための結社の運動の発展が挙
げられる (Barthelemy,2000,p
.
6
2
)。日本と比較すると、政治的な内容を含む
結社も多いと言うことができるのではないだろうか。
1
4
. おわりに
本稿では、フランス社会における結社の重要性を明らかにすべく、議論を進
めてきた。従来一般的に提示されてきた「個人主義」という観点のみならず、
結社による人々のつながりに注目することによって、また日本を含めた国際的
な比較の視点にもとづいて研究を進めることによって、フランス社会の新たな
諸相を明らかにすることが可能となると考えられる。またそれを通じてより広
く一般的に、現代社会のあり方について考察を進めていくことが可能となるの
である。
[参考文献 I
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現代フランスにおける「結社」
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社会分業論J青木書庖。
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.=富島喬訳 1
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自殺論一社会学研究』中央公論社(中公文庫)。
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.=宮島喬・川喜多喬訳 1
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社会学講義一習
俗と法の物理学Jみすず書房。
福井憲彦(編)、綾部恒雄(監修) 2
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アソシアシオンで読み解くフランス史』山
川出版社。
大村敦志
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フランスの社交と法』有斐閣。
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.=岩橋恵子監訳、赤星まゆみ、池田賢市、岩崎久美子、戸津京子、夏目
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7 アニマトウール フランスの社会教育・生涯学習の担い手た
達也訳 2
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ち』明石書庖。
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礼二訳 2
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5、2
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8 アメリカのデモクラシー 第一巻(上) (下)、第二巻(上)
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下 H 岩波書庖(岩波文庫)。
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