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Keysight Technologies U5855A TrueIR赤外線サーモグラフィーによる
Keysight Technologies U5855A TrueIR赤外線サーモグラフィーによる 放射率が不明な物質/材料の温度測定 Application Note はじめに 赤外線(IR)サーモグラフィーでは、測定結果に大きな影響を与える物質の表面放射率を理解することが必要です。 特に確度が重要な定量的なサーモグラフィーでは注意が必要です。このアプリケーションノートでは、赤外線 サーモグラフィーを使用して測定対象の放射率(ε)を収集/予測する実用的な手法について説明します。 放射率の基礎 放射率は、物質の表面から放出される熱エネルギーに関連しています。放射率(ε)は、物質の表面からの熱放 射と、同じ温度の理想的な黒体からの熱放射(ε=1)との比(0 ∼ 1)として定義されています。放射率の高い物 質は、放射率の低い物質よりも多くの熱エネルギーを放出します。放射率が高くなるほど、熱反射率は低くな ります。不透過性物質から放射される赤外線エネルギーと反射される赤外線エネルギーの関係を図1に示します。 参考として表1に一般的な物質の放射率の値を掲載します。 対象物質 外部熱 エネルギー源 反射された赤外線エネルギー(R) 物質から放射された赤外線エネルギー(E) E+R=1 図1. サーモグラフィーの放射と反射の関係 赤外線(IR)サーモグラフィー 03 | Keysight | U5855A TrueIR赤外線サーモグラフィーによる放射率が不明な物質/材料の温度測定 - Application Note 物質の放射率に影響を与える要因に以下のものがあります。 物質の温度 放射率は変動する値で、物質の温度によって変化します。材料によっては、物質の温度に応じて 放射率が非常に低い値から高い値まで変化するものもあります。表面がクリーンな金属では、温 度が高いほど放射率も高くなります。非金属の場合は、温度が高いほど放射率は低くなります。 視野角 視野角も物質の放射率に大きな影響を与えます。物質の放射率は垂直な方向から見たときに最大 になるので、物質表面に垂直な方向から撮影する必要があります。 物質の寸法/形状 物質の形状は放射率に重要な影響を与える可能性があります。物質の形状に凸凹がある場合は熱 放射率が変化するため熱画像と放射温度に影響を与えます。 同じ物質でも、表面が平坦な部分よりも窪んだ部分の方が放射率が高くなります。窪みの大きさ や深さによっては放射率が1.0近くに達することもあります。表面が平坦な部分と比較すると、物 質の出っ張った部分では放射率が低くなります。 表面の状態 表面の状態が放射率に大きな影響を与える可能性があります。表面が滑らかな研磨金属では反射 率が高く、通常、放射率が非常に低くなります。このため、光沢のある金属で赤外線画像を撮影 したり温度を非接触測定するのは極めて困難です。 表面の粗さの他、汚れ、埃、錆、非金属コーティングにより、一般的に放射率は高くなります。状 況によっては、ε値が1.0に近くなることもあります。 表1. 一般的な材料の放射率 材料 放射率 鉄(研磨あり) 0.10 アルミニウム(酸化皮膜あり) 0.15 ステンレス鋼(研磨あり) 0.20 ニッケル(酸化皮膜あり) 0.37 銅(酸化皮膜あり) 0.40 真鍮(酸化皮膜あり) 0.64 鉄(酸化皮膜あり) 0.75 ステンレス鋼(酸化皮膜あり) 0.80 雪 0.85 布 0.90 紙 0.90 ガラス 0.90 ゴム 0.90 粘土 0.92 コンクリート 0.92 煉瓦 0.93 ペンキ(代表値) 0.94 黒鉛(カーボン) 0.95 水 0.96 皮膚 0.98 04 | Keysight | U5855A TrueIR赤外線サーモグラフィーによる放射率が不明な物質/材料の温度測定 - Application Note スキャンする物質表面の放射率が高ければ赤外線サーモグラフィーは良好に機能します。これは、 より高い赤外線エネルギーがカメラに対して放射されるためで、その赤外線放射が温度測定値に変 換されます。放射率が低いと赤外線放射率も低くなり、対象の周辺にある他の熱源から反射される 赤外線エネルギーにより、変換された測定温度が高くなる場合があります。このため、対象物質の 温度測定値が不正確になります。 このため放射率εを赤外線サーモグラフィーに入力して、表面温度を正確に補正する必要がありま す。図2は、アルミニウムプレート付きのUSB保温器に2色の塗料を噴霧したもので、色によって 放射率が異なります。この黒い塗料は赤い塗料よりも放射率が高いので、このように赤外線サーモ グラフィーでは黒い塗料の部分が赤い塗料の部分よりも熱い状態で表示されます。赤い塗料の部分 の正確な温度を測定するには、カメラに設定されている放射率の値を必要に応じて下げる必要が あります。問題は、どのような放射率の値を赤外線サーモグラフィーに入力すれば良いのかとい うことです。 BLACK RED 図2. サーモグラフィーでの放射率の影響 BLACK RED 05 | Keysight | U5855A TrueIR赤外線サーモグラフィーによる放射率が不明な物質/材料の温度測定 - Application Note 放射率の決定 物質表面の放射率の値を予測/測定する手法には以下があります。 一般的な材料の放射率表 表1のような一般的な材料の放射率表を使用すれば、対象物質の放射率を最も迅速に予測できます。 これが特に有用なのは、測定対象の高温部と低温部(または常温部)を比較してホットスポットを検 出するのがテストの主な目的である定性的なサーモグラフィーアプリケーションです。例えば、配 電盤メンテナンスでサーモグラフィーによる点検作業を行う場合、作業者は、通常、予測放射率を 入力してから配電盤システム周辺のホットスポットのスキャンを開始します。配電盤は、電気ス イッチ、ケーブル、コネクタ、ヒューズ、サーキットブレーカー、その他の部品で構成されていま す。Keysight U5855A TrueIRなどの赤外線サーモグラフィーには0.90という一般的な放射率値が 設定されています。図3は、赤外線画像に記録されたホットスポット(左側のケーブル)です。 図3. 配電盤システムのホットスポットの赤外線画像 06 | Keysight | U5855A TrueIR赤外線サーモグラフィーによる放射率が不明な物質/材料の温度測定 - Application Note 温度の比較 対象物質の放射率を測定する別の方法として、赤外線サーモグラフィーの温度測定結果と接触型熱 電対センサの測定を比較する方法があります。図4のように、測定対象の表面温度を最初に熱電対 または同等の温度センサ測定システムで測定します。赤外線サーモグラフィーで同じ温度測定結果 が得られるまで、サーモグラフィーの放射率値を適切に調整します。最後に入力した放射率値が、 対象物質の表面放射率を表しています。 このような放射率測定は、接触型温度センサ収集システムと赤外線サーモグラフィーがあれば容易 に行えます。測定対象のホットスポットを特定するために赤外線サーモグラフィーを温度スキャン ツールとして使用する場合もあります。このようなホットスポットに温度センサプローブを配置し て温度を測定/収集します。 DAQ+計測器 1 熱電対センサによる温度測定 熱電対センサ 物質から放射される熱赤外線エネルギー 対象物質 2 熱電対センサの測定温度に近い値が 測定温度に近い値が 得られるようにカメラの放射率(ε)を 調整 図4. 熱電対センサによる温度測定との比較による放射率値の調整 07 | Keysight | U5855A TrueIR赤外線サーモグラフィーによる放射率が不明な物質/材料の温度測定 - Application Note 放射率のコーティング 未知の表面放射率を測定する別の方法として、放射率の高いコーティング(黒体ペイントやビニー ル絶縁テープのような高放射率テープなど)を対象に追加する方法があります(図5参照)。テープ などのコーティング材料の熱放射率は通常0.90より高くなっています。以下にこの手法の手順を 示します。 1. 物質の表面を清浄して可能な限り埃や汚れを取り除きます。黒体ペイントまたはビニール絶 縁テープをAの部分に追加します。 2. 黒体ペイント/テープと対象物質の温度が平衡状態になるまで待ちます。対象物質が熱を放 射していない場合は、表面の温度が平衡状態になるまで対象を加熱すると有効です。 3. 可能であれば反射温度校正を実行し、黒体ペイント/テープの既知の放射率値を赤外線サー モグラフィーに設定します。黒体ペイント/テープを追加したAの部分の温度を測定します。 赤外線サーモグラフィーを対象物質に垂直にしてフォーカスを合わせます。赤外線サーモグ ラフィーで測定されたセンタースポット入力を記録します。 4. サーモグラフィーを移動してコーティングしていないBの部分に再度フォーカスを合わせ、温 度を測定しながらコーティング部の測定温度に近い値になるまで放射率値を調整します。こ うすることで、未知の熱放射率値を非常に良好に予測できます。 サーモグラフィーで熱放射率を予測するのが困難な場合に、この手法は実用的で容易に実現できま す。しかし、この手法には制限があります。例えば、コーティング/テープは接触できる対象物質 にしか追加できません。さらに、作業者がコーティングを安全に追加できる環境とセッティング条 件が必要です。 放射率値が 既知の 黒体ペイント/ 黒体テープの 追加 1 放射率値が既知のコーティング/ 既知のコ テープを追加して温度を測定 放射率値が未知の物質/材料 A 2 B 赤外線サーモグラフィーを 未コーティング部分に再フォーカスして、 近い測定温度が得られるように サーモグラフィーの放射率を調整 図5. 放射率が高いコーティング/テープによる未知の放射率の測定 08 | Keysight | U5855A TrueIR赤外線サーモグラフィーによる放射率が不明な物質/材料の温度測定 - Application Note まとめ 赤外線サーモグラフィー解析を実行するときの課題は、対象物質の熱放射率を特定することです。 屋外作業で測定対象の放射率値が不正確だと、赤外線サーモグラフィーで正確な温度測定/プロ ファイルを記録できているのだろうかという疑問が生じます。このアプリケーションノートで解説 したさまざまな手法は、サーモグラフィー解析を定量的に行う場合も定性的に行う場合も、放射率 が未知の対象を正確に測定するための実用的な指針となります。 09 | Keysight | U5855A TrueIR赤外線サーモグラフィーによる放射率が不明な物質/材料の温度測定 - Application Note myKeysight www.keysight.co.jp/find/mykeysight ご使用製品の管理に必要な情報を即座に手に入れることができます。 www.axiestandard.org AXIe(AdvancedTCA® Extensions for Instrumentation and Test)は、 AdvancedTCA®を汎用テストおよび半導体テスト向けに拡張したオープン規格 です。Keysightは、AXIeコンソーシアムの設立メンバーです。 www.lxistandard.org LXIは、ウェブへのアクセスを可能にするイーサネットベースのテストシステム 用インタフェースです。Keysightは、LXIコンソーシアムの設立メンバーです。 www.pxisa.org PXI(PCI eXtensions for Instrumentation)モジュラー測定システムは、PCベー スの堅牢な高性能測定/自動化システムを実現します。 www.keysight.com/go/quality Keysight Electronic Measurement Group DEKRA Certified ISO 9001:2008 Quality Management System 契約販売店 www.keysight.co.jp/find/channelpartners キーサイト契約販売店からもご購入頂けます。 お気軽にお問い合わせください。 キーサイト・テクノロジー合同会社 本社〒192-8550 東京都八王子市高倉町9-1 受付時間 9:00-18:00(土・日・祭日を除く) TEL 0120-421-345 (042-656-7832) FAX 0120-421-678 (042-656-7840) Email [email protected] www.keysight.co.jp © Keysight Technologies, 2014 - 2015 Published in Japan, September 10, 2015 5992-0222JAJP 0000-00DEP www.keysight.co.jp