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LTEテストの概要 - Keysight

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LTEテストの概要 - Keysight
Keysight Technologies
LTEの動作と測定におけるMIMO:
LTEテストの概要
Application Note
はじめに
このアプリケーション・ノートは、LTE
(Long Term Evolution)でのMIMO
(マルチ入力マルチ出力)無線機の動
作を理解する必要のある方を対象としています。MIMO
(空間多重化とも呼ばれる)は、LTEで実装される何種
類かのマルチ・アンテナ手法の1つです。このアプリケーション・ノートでは、主にMIMOの実装について説明
します。
広帯域アプリケーション(ストリーミング・ビデオなど)の普及により、無線システムのスループットの向上や
カバレージの拡大への要求がますます高まっています。このようなニーズは、OFDM
(直交周波数分割多重化)
や64 QAMなどのI/Q変調方式の使用によりある程度は満たされてきました。その他の最適化手法として、マル
チ・アンテナを使用する方法があります。これには、2本以上のアンテナの使用、マルチパス信号を結合する
レシーバ・チェーン、位相相関のある複数の基地局アンテナによるカバレージ・エリアの制御などがあります。
この他にも、さまざまな手法が新しく開発されつつあります。利用可能な帯域の使用方法を変えるいくつかの
手法が試みられています。その1つがMIMOです。LTE
(Long Term Evolution)を規定した3GPP仕様のリリー
ス8には、新しい動作要件が含まれています。これは、基地局とハンドセットが複数の送受信チェーンを経由
して通信し、無線伝送経路の間の違いを利用する手法です。その目標は、セルの容量全体の拡大と、1人のユー
ザがシステムで利用できるデータ・レートの向上です。
MIMO無線機は、トランスミッタとレシーバの間を複数の経路を利用することにより、1つのチャネルを使用し
た場合よりも、占有するRF帯域幅を有効に利用できます。従来の単一チャネル無線システムが、トランスミッ
タとレシーバ間に1本のデータ・パイプを通すものだとすると、MIMO無線システムの目的は、そのようなパイ
プを複数通すことにあります。このためには、トランスミッタからレシーバへの経路の数学的モデルを作成し、
その方程式を解く必要があります。しかも、チャネルは変化するので、この計算はできるだけ高速に行う必要
があります。データ・パイプが完全に分離されていれば、チャネルの容量は、トランスミッタ/レシーバ・ペ
アの追加数に比例して増加します。
しかし、実際の無線環境では容量はそれほど簡単には増加しません。 MIMO無線機の動作は、パイプを分離で
きることに依存しています。数学の問題を解く場合と同様に、未知数の個数に対して十分な個数の方程式が必
要になります。この他に、干渉、雑音、相互運用性、ハードウェアのコスト、消費電流などの一般的な問題に
も対処する必要があります。
無線機が単独で正しく動作するだけでなく、さまざまなメーカの異なるデザインが混在する中でも正しく動作
することを保証するには、テストが重要な役割を果たします。
入力と出力
仕様では、
「入力」と「出力」という用語はトランスミッタとレシーバの間の媒
体に使用されます。これには、「チャネル」と呼ばれるそれぞれのRFコンポー
ネントが含まれています。すなわち、
2つのトランスミッタを持つ基地局は、チャ
ネルに対して2つの入力を供給します(“MI”部分)
。また、
2つのレシーバ・チェー
ンを持つハンドセットは、チャネルから2つの出力を受け取ります(“MO”部分)。
これは、以下で説明するように、送受信されるデータが独立していて、同じデー
タのコピーでない場合に限り、意味があります。
SISO(シ ング ル入力 シン グル出力 )
SISO
Tx
Rx
図1. シングル入力シングル出力(SISO)
無線チャネル・アクセス・モード
SIMO
Tx
Rx0
Rx1
図2. シングル入力マルチ出力(SIMO)
無線チャネル・アクセス・モード
MISO
Tx0
Rx
Tx1
図3. マルチ入力シングル出力(MISO)
無線チャネル・アクセス・モード
MIMO
Tx0
Rx0
Tx1
Rx1
図4. 独立したデータ・コンテンツを持つ2つ
のトランスミッタと2つのレシーバから構成さ
れたMIMO
3
は、多くのシステムの標準の伝送モー
ドであり、これより複雑なシステム
の目的は、SISOに比べて容量やデー
タ・レートを改善することです。
SIMO(シングル入力マルチ出力)は、
受信ダイバーシティとも呼ばれ、1つ
の トラ ンスミッ タ、す なわち1つの
データ・ストリームから2つのレシー
バ・チェーンにデータを供給します。
これは、マルチパス・フェージング
によりS/N比が悪化した場合に、受
信データの信頼性を改善する効果が
あります。エラー・レートの改善に
より再送信の必要が減少するという
効果を除いては、データ容量の拡大
には寄与しません。
MISO(マルチ入力シングル出力)は、
送信ダイバーシティと呼ばれる手法
で す。LTEでは、SFBC
(空 間周波数
ブ ロ ッ ク・ コ ー ド 化 )を 使 用 し て、
フェージング条件での信号の信頼性
を改善しています。トランスミッタ
は、RF周波数空間の異なる部分で同
じユーザ・データを送信します。
真のMIMOは、2つのトランスミッタ
と2つのレシーバで独立したデータ・
コンテンツを伝送するもので、空間
多重化とも呼ばれます。各レシーバ
は、チャネルの出力を受け取ります。
これは、各トランスミッタの出力を
組み合わせたものです。レシーバは、
チャネル予測手法に基づいて、行列
演算 を使 用して2つの デー タ・ス ト
リームを分離し、データを復調しま
す。理想条件ではデータ容量が2倍に
なりますが、このためにはSISOの場
合よりもS/N比の要件が厳しくなり
ます。実際にはデータ容量が2倍にな
ることはありませんが、ある程度の
データ容量の増加は実現できます。
LTEでは、ダウンリンクの性能を改善するために、以下の5種類のマルチアンテ
ナ手法が定義されています。
1. 移動機での受信ダイバーシティ
2. eNB(evolved Node B)でのSFBCを使用した送信ダイバーシティ
3. 1人または 2人のユーザに対するeNBでのMIMO空間多重化
4. 空間多重化と組み合わせて用いられるeNBでのCDD(サイクリック・ディ
レイ・ダイバーシティ)
5. ビームステアリング(ユーザ固有)
最初の2つは、比較的古くからあるダイバーシティ手法です。3番目と4番目の
手法では、空間周波数コード化方式を使用して、データを複数のアンテナに分
散します。CDDは、アンテナ間に意図的に遅延を導入することにより、人工的
にマルチパスを発生させます。LTEではこれを、他の無線システムよりも動的
に適用します。この手法の適用方法は、物理信号または物理チャネルの種類に
応じて異なります。第3世代(3G)セルラ・システムではSIMOとMISOの両方が
採用されていて、LTEネットワークにも引き継がれています。その目的は、接
続の品質を改善し、エラー・レートを改善することです。特に、接続のS/N比
が低い場合(セルの限界近くなど)に有効です。従来からあるフェーズド・アレ
イ・ビームステアリングは、各送信アンテナに供給される信号全体に位相と振
幅のオフセットを付加するものです。その目的は、信号のパワーを特定の方向
に集中させることです。同じように、受信アンテナで位相と振幅のオフセット
を使用することにより、特定の方向からの信号に対するレシーバの感度を上げ
ることもできます。LTEでは、個々のリソース・ブロックの振幅と位相を調整
することにより、ビームステアリングの柔軟性を高め、各ユーザに固有のもの
としています。ビームステアリングではデータ・レートは向上しませんが、ダ
イバーシティと同様に信号の信頼性を高める効果があります。ビームステアリ
ングの有効性は、送信アンテナの数が増えるほど向上します。これは、より細
いビームを発生できるためです。2本のアンテナでは一般的に有意な改善が得
られないとされていて、このためにビームステアリングは通常4本のアンテナ・
オプションの場合のみ考慮されます。
ユーザ機器(UE)では、UEダイバーシティ受信(SIMO)が必須です。これは通常、
最大比を組み合わせて実装されます。セルラ環境では、1本の受信アンテナか
らの信号には、さまざまな種類のフェージングによるレベル変動が見られます。
LTEではチャネル帯域幅が広いため、周波数によって信号レベルが有意に異な
る可能性もあります。2本のアンテナから受信した信号を組み合わせることに
より、UEはより信頼性の高い信号を復元できます。受信ダイバーシティを使用
すれば、S/N比が低い条件で最大3 dBの利得が得られます。
4
MIMOチャネル
入力
出力
図5. 2×2チャネルのモデル
ある特定の時点と1つの周波数において、内部に固定コンポーネントを持つブ
ラック・ボックスとしてチャネルをモデル化します。入力に2つの全く異なる
信号を印加すると、信号は、Z1 ∼ Z4の値に応じて、定義された方法で混合さ
れます。各入力に対して一意のトレーニング信号を送信し、出力を測定するこ
とにより、信号がどのように組み合わされたかを知ることができます。これに
より、信号を分離する方法もわかります。データもトレーニング信号もすべて
同じ方法で組み合わされるので、トレーニング信号から分かったことは実際の
データにも適用できます。出力を分離できる能力の他に、雑音と干渉によって
も使用可能な変調は制限されます。最悪のケースは、Z1 ∼ Z4がすべて同じ場
合で、両方の出力が同じになり、MIMOは動作しません。最善のケースは、出
力の振幅が等しく、位相が逆の場合で、理論的には容量が2倍になります。
式1. チャネル容量理論(詳細バージョン)は、以下のように記述されます。
C=B[log(
(σ/N)ρ12)+log(
(σ/N)ρ22)]
2 1+
2 1+
ここで、 C=チャネル容量(ビット/s)、
B=占有帯域幅(HZ)、σ/N=S/N比、
ρ=チャネル行列の特異値
瞬時システム容量の可能な増加は、チャネル行列Hの特異値の比(コンディショ
ン・ナンバーとも呼ばれる)から求められます。コンディション・ナンバーは、
MIMO信号の復元に必要なS/N比の向上(SISOの場合を基準)を表すためにも使
用できます。
コンディション・ナンバー
行列B
(MIMO SM)
悪
32 %のEVMに対するCNR
良
図6. MIMOによりデータ容量を最大2倍にできるので、システム性能全体が向上します。
5
フェージングとマルチパス効果によるチャネルの変化や、ハンドセットの移動
による周波数のドップラ・シフトなどの理由により、周波数の関数としてのコ
ンディション・ナンバーは、図7に示すように、RFチャネル・スペクトラム内
で大きく変化します。
各トランスミッタの基準信号(パイロット)により、レシーバはチャネル係数を
予測できます。一般的に、データ・パイプの性能はそれぞれ異なります。LTE
では、
「閉ループMIMO」の2つの方法(プリコード化と固有ビームフォーミング)
が採用されています。これにより、ハンドセットは、チャネル特性に合わせて、
トランスミッタ出力のクロス・カップリングの変更を要求します。
図7. サブキャリア周波数の関数としての
コンディション・ナンバー
コードワード、レイヤ、プリコード化という用語は、LTEでは信号とその処理
を記述するために採用されています。図8に、これらの処理手順を示します。
各用語は以下のように使用されています。
ー コードワード:コードワードは、伝送用にフォーマットされる前のユーザ・
データを表します。チャネル条件と使用状況に応じて、CW0とCW1のうち
の1つまたは2つのコードワードが使用できます。最も一般的なケースである
シングル・ユーザMIMO
(SU-MIMO)の場合は、2つのコードワードが1台の
ハンドセットUIに送信されますが、これより頻度が少ないダウンリンク・マ
ルチユーザMIMO
(MU-MIMO)の場合は、各コードワードがそれぞれ1台の
UEにだけ送信されます。
ー レイヤ:レイヤという用語は、ストリームと同じ意味です。MIMOでは、少
なくとも2つのレイヤを使用する必要があります。最大4個使用できます。レ
イヤの数は、常にアンテナの数と等しいかそれ以下です。
ー プリコード化:プリコード化とは、伝送前にレイヤ信号を変更することです。
これは、ダイバーシティ、ビームステアリング、または空間多重化のために
行われます。MIMOチャネルの条件により、あるレイヤ(データ・ストリーム)
が他のレイヤよりも有利になることがあります。基地局(eNB)は、チャネル
に関する情報(例えば、UEから返された情報など)を受け取ると、チャネルの
アンバランスを補正するための複雑なクロス・カップリングを適用します。
2×2の構成では、LTEは単純な「3つのうちの1つ」のプリコード化方式を使
用します。これにより、チャネルの変化がそれほど速くない場合には性能を
改善できます。
ー 固有ビームフォーミング(単に「ビームフォーミング」とも呼ばれる)は、チャ
ネルの出力での搬送波対干渉雑音比(CINR)が最高になるように、送信信号
を変更することです。
6
RVインデックス
ペイロード
コード・ブロック・
セグメント化
チャネル・
コード化
QPSK/
16 QAM/
64 QAM
CW0
スクランブル
スクランブル
コード・
ブロック結合
巡回バッファ
アンテナ
番号
空間多重化送信ダイバーシティ
(DCC/SFBC)
リソース・
エレメント・
マッパ
変調マッパ
[d]
CW1
レート・
マッチング
レイヤ・
マッパ
[X]
OFDM信号
マッパ
[y]
プリコード化
リソース・
エレメント・
マッパ
変調マッパ
OFDM信号
マッパ
図8. 送信ダイバーシティと空間多重化(MIMO)のための信号処理。シンボルd、x、yは仕様で使用されているもので、レイヤ・マッピング前の信号、
レイヤ・マッピング後の信号、プリコード化後の信号をそれぞれ表します。
シングル・ユーザMIMO
とマルチ・ユーザMIMO
図9は、2つのコードワードがダウンリンクで1人のユーザに対して使用されて
いる場合を示しています。コードワードをそれぞれ別のユーザに割り当てて、
マルチユーザMIMO
(MU-MIMO)を実現することもできます。eNBで利用でき
るチャネル情報に応じて、レイヤの変調とプリコード化を変えることにより、
性能をイコライズすることができます。
1台のUE
1つのeNB
ユーザ・
データ
クロス・チャネル・
デマッピング
プリコード化
コードワードに
多重化
ユーザ・
データ
デマルチプレックス
レイヤ
(ストリーム)に
マッピング
チャネル
図9. アンテナ・ポート0、1の伝送用コードブック
7
受信した
コードワード
プリコード化の選択肢は、コードブックと呼ばれるルックアップ・テーブルに
より定義されています。コードブックは、使用可能なオプションを量子化する
ことにより、レシーバからトランスミッタにフィードバックされる情報の量を
制限する役割を果たします。プリコード化のいくつかの選択肢はごく単純です。
例えば、コードブック・インデックス(CI)0はレイヤへのコードワードの直接
マッピングであり、CI 1は空間拡張を適用します。
レイヤ数υ
コードブック・
インデックス
1
0
1
√
2
1
1
2
[]
1
1
[ ]
[]
[ ]
1
√
2 −1
2
1
√
2
3
1
√
2
1
j
1
−j
1
√
2
1
√
2
1
√
2
[ ]
[ ]
[ ]
1 0
0 1
1 1
1 −1
1 1
j −j
̶
表1. アンテナ・ポート0、1に対する送信用コードブック
表1に、1つのレイヤと2つのレイヤの場合のコードブックの選択肢を示します。
空間多重化が使用されるのは、2つのレイヤの場合だけです。1つのレイヤの
プリコード化は、0 °、±90 °、180 °の位相シフトに制限されます。
動作中に、UEはeNBスケジューラにメッセージを送って、チャネルに最もよ
く一致するコードブック・インデックスを知らせます。ただし、システムでは
各リソース・ブロック・グループに1つずつの複数のコードブック値が定義さ
れている場合があります。この情報が有効なうちに利用するには、スケジュー
ラはすばやく応答する必要があります。チャネルの変化の速さにも依存します
が、数ms以内の応答が必要です。UEがチャネル情報をより頻繁に送信するよ
うに設定すれば、情報はさらに正確になりますが、シグナリングに使用される
リソースの割合が増え、eNBへの負荷が高くなります。
8
アップリンクでの
シングル・ユーザ
MIMOとマルチ・
ユーザMIMO
SU-MIMOはLTEに含まれていますが、この文書の作成時点では、まだ完全に
は定義されていません。SU-MIMOを実装するには、UEに2個のトランスミッ
タが必要です。これは、コスト、サイズ、バッテリ消費の大幅な増加を伴うた
め、 現 時 点 で はSU-MIMOは 優 先 的 な 開 発 事 項 で は あ り ま せ ん。 ま た、
SU-MIMOにより可能なアップリンクのデータ・レートの向上は、トラフィッ
ク分布の非対称性のために、ダウンリンクの場合ほど重要ではありません。最
後に、アップリンクの性能が制限された状態でシステムを配備する場合は、
eNBレシーバで必要なS/N比を実現するのに十分なUEの送信パワーの増加が、
現実的ではない可能性があります。
1 eNB
2 UE
図10. 2本のアンテナによるダウンリンクのSU-MIMO
(コードブック0の場合)
一般的なUEは基本構成では1つのトランスミッタしか備えていませんが、それ
でも新しい手法のMIMO をサポートできます。受信機能とは異なり、トラン
スミッタが同じ物理デバイスまたは場所に存在することはMIMOでは必須では
ありません。このため、アップリンクMIMOは2台の異なるUEに属する2つの
トランスミッタを使って実現できます。これにより、アップリンクの容量を増
やせる可能性があります。ただし、個々のユーザから見たデータ・レートには
変化はありません。
トランスミッタが物理的に別の場所にあることから、2つの結果が生じます。
1つは、プリコード化が不可能になることです。2台のUEでソース・データを
共有できないので、必要なデータ・ストリームのクロス・カップリングを実現
できないからです。これにより、トランスミッタが同じ場所にある場合に比べ
て、可能な容量の増加は少なくなります。もう1つは、トランスミッタが離れ
ているために、eNBから見た無線チャネル間に相関がない確率が高まることで
す。実際に、eNBがMU-MIMOのために組み合わせる2台のUEを選択する際の
最大の基準は、非相関チャネルが存在することです。プリコード化がないこと
による不利益は、チャネル相関がないことによる利益により、その不利益以上
に相殺される可能性があります。したがって、MU-MIMOはアップリンクの容
量を改善するための有望な手法と言えます。
LTEでの信号復元は、小さなタイミング/周波数誤差を許容できます。通常の
アップリンク動作では、各UEがeNBの周波数に合わせて自分の周波数をきわ
めて正確に調整します。これに加えてeNBは、すべての信号がほぼ同じレベル
とタイミングでeNBのレシーバに到達するように、タイミングとパワーの調整
をUEに指示します。異なるデバイスにアンテナが存在するため、送信経路に
は相関がないと仮定されます。このような条件では、eNBのスケジューラは、
2台のUEが同じサブキャリアを使用して同時にデータを送信するように制御で
きます。
マルチユーザMIMOでは、異なるUEからのレイヤ経由でコードワードが同じ
タイミングと周波数で同時に送信されます。通常の無線管理手法を使用するこ
とにより、eNBが受信する信号の周波数、タイミング、パワーを適切に一致さ
せることができます。容量の増加が目的の場合は、eNBがUEから受信するパ
ワーを揃えることが最も困難な制御です。
9
LTEトランスミッタ/
レシーバのデザインと
テスト
LTEでは、データ・レートの高さ、許容される信号帯域幅の広さ、ハンドセッ
トの集積化と小型化の進展により、基地局/ハンドセットのデザインとテスト
に基本的な変更がすでに要求されています。例えば、以下があります。
ー 1.4 ∼ 20 MHzの6種類の異なるチャネル帯域幅と、周波数分割デュプレック
ス(FDD)および時分割デュプレックス(TDD)の2つのモードを扱えること。
ー 柔軟な伝送方式と無限に近い数の動作の組み合わせがあり、物理チャネル構
成がRF性能に大きな影響を与えます。
ー ベースバンドICとRFIC間の通信のボトルネックをなくす目的で導入された、
数ギガビットの速度を持つDigRF v4規格に準拠したハンドセット・コンポー
ネントのテストには、複数のドメイン(デジタル入力、RF出力)での測定機能
が必要です。デジタル・テスト・ソースは、RFICの機能を制御するデジタル・
インタフェースのデータ・トラフィックとプロトコル・スタックの両方をエ
ミュレートできる必要があります。
ー ハンドセット内のDigRF高速デジタル・シリアル・インタフェースは、アナ
ログ障害による品質の低下とビット・エラー・レート(BER)の悪化が生じる
可能性のある伝送ラインとして扱う必要があり、テスト機器を接続する際に
は信号フローに干渉しないように注意が必要です。
ー ハンドセットのRFICとベースバンドIC間の情報転送は、厳密なタイミングの
制約に従う必要があります。したがって、テスト環境では、IC間で各フレー
ムがいつ送信されたかを正確に測定し、タイミング違反を検出できることが
重要です。
上記に加えて、ダイバーシティ、ビームステアリング、MIMOなどの、マルチ
アンテナ手法をサポートするために必要な固有の問題が発生します。
10
レシーバのデザインと
テスト
レシーバ・テストの最大の目的は、レシーバ全体の性能を測定することです。
しかし、レシーバの性能にはさまざまな要因が影響します。したがって、まず
基本的なレシーバ・サブブロックを検証し、不確かさの寄与を除去するか、定
量的に減らす必要があります。複数のレシーバを使用する場合は、MIMO性能
を検証する前に、個々のレシーバ・チェーンに対してこのような基本的な測定
を個別に実行しておく必要があります。ここで説明する原則は、周波数分割
デュプレックス
(FDD)と時分割デュプレックス(TDD)の両方のアクセス・モー
ドに当てはまりますが、例としてFDDを使用します。代表的なLTEハンドセッ
ト無線機の簡略化したブロック図を図11に示します。
フロントエンド・モジュール
(別のコンポーネントの場合)
周波数変換、フィルタリング、
利得制御
DigRF
インタフェース
ベースバンド処理
ベースバンド処理:
利得制御、
チャネル・
リカバリ、
トラッキング
2チャネル受信
第2バンド送信
制御、クロック、
参照
復調、パワー制御、
周波数
MACおよびホスト・
インタフェース
デジタル・
インタフェース
(USB、mini-PCI
など)による
ホスト・プロセッサ
とのインタフェース
エンコード、
フィルタリング
ホスト・
デバイスの
ローカル・
オペレーティング・
システム上で
動作する
アプリケー ション・
ソフトウェア
電源
パワーアンプ/
ディテクタ
EEPROM/
校正データ
図11. LTE UE無線機の簡略化した図
最新のレシーバでも、使用されている機能ブロックは昔からのデザインと同じ
です。ただし、現在は集積度が上がっているので、1つのコンポーネントが複
数の機能を果たします(特に、スペースが限られたハンドセットの場合)
。これ
は、テストの際に信号の注入やモニタに使用できる場所が少ないことも意味し
ます。
11
ここでは、レシーバ・デザインとテストに関する考慮事項の一部に絞って説明
します。ここで扱うのは、開ループ/閉ループ動作、広帯域幅、クロスドメイ
ン信号解析、チャネルの影響、最後にプリコード化とLTEコードブックです。
開ループ/閉ループ動作
開ループ・テストとは、被試験レシーバがソースにフィードバック情報を送信
しないテストです。これは、レシーバの個々のコンポーネントの基本的な特性
をテストするのに十分であり、ベースバンド・セクションの復調アルゴリズム
も検証できます。ただし、レシーバ全体の性能を実環境条件で完全に検証する
には、フェージングのあるチャネルを使用した閉ループ・テストが不可欠です。
閉ループ・テストでは、レシーバからのリアルタイムのパケット確認フィード
バックに基づいて、消失パケットがインクリメンタル・リダンダンシーを使用
して再送信されます。送信に使用される変調とコード化も、同様にレシーバか
らのリアルタイムのフィードバックに基づいてます。このフィードバックは、
周波数選択スケジューリングを可能にするために、全チャネル帯域幅内のサブ
バンドに対して最適化できます。
広帯域幅
次に、LTEのユニークな特徴の1つ(1.4 MHz ∼ 20 MHzの範囲の6種類のチャ
ネル帯域幅をサポートすること)を考えます。システムの動作とローミングを簡
素化するために、ハンドセットはこれらすべての帯域幅をサポートすることが
要求されています。ただし、特定の地域における実際の配備では、一部の帯域
幅だけが使用される場合もあります。LTEの20 MHzの帯域幅は、現在の他のセ
ルラ・システムよりも大幅に広くなっています。したがって、レシーバのデザ
インでは、位相と振幅のフラットネスに対する特別な注意が必要です。特に、
フィルタ、増幅器、ミキサは、複数のチャネル帯域幅で正しく動作する必要が
あります。LTEの信号構造には、LTE信号全体に周波数と時間の両方で拡散され
た基準信号(RS)が含まれます。UEとeNBのレシーバは、これらの信号とデジ
タル信号処理(DSP)手法を使用することにより、レシーバの振幅と位相のリニ
アリティ誤差を補正できます。フラットネスのテストは、サポートされる帯域
幅とバンドのすべてで実行する必要があります。特に、デュプレックス・フィ
ルタは信号のエッジを減衰させるため、バンド端でのテストが必要です。
クロスドメイン信号解析
クロスドメイン解析については、従来は、レシーバのRFセクションからの信号
がアナログ手法によりI/Q成分に復調されていました。しかし現在では、ダウン
コンバートされたIF信号がADCでデジタイズされ、その後にベースバンド・セ
クションに供給されて復調/デコードされます。ADCの出力の測定には、出力
がデジタルであることによる問題があります。1つの解決法として、ADCから
のデジタル・ビットをロジック・アナライザで直接解析して、デジタル・デー
タを捕捉する方法があります。この方法の難しい点は、データを処理して意味
のある結果を得ることです。ほとんどのロジック・アナライザは、RF指標の生
成を目的としていないからです。Keysight 89601Aベクトル信号解析(VSA)ソ
フトウェアを使用すれば、この問題を解決できます。
12
VSAソフトウェアは、キーサイトのいくつかのスペクトラム・アナライザ、ロジッ
ク・アナライザ、オシロスコープで動作し、さまざまな変調方式の復調に対応
しています。デジタル・データに対してRF測定が行えるので、ADC性能の解析
に独自の威力を発揮します。この方法を使うことで、システム全体の性能に対
するADCの寄与を定量化し、ブロック図(図11)の前の部分で同じ測定アルゴリ
ズムを使って実行されたRF測定と比較できます。
RFICにアナログIQ出力がある場合は、オシロスコープまたはKeysight MXAア
ナライザを使ってこれを解析できます。RFICインタフェースにDigRFv3または
v4が使用されている場合は、RDX(Radio Digital Cross Domain)テスタを使っ
て信号を捕捉できます。
これらのデジタル/アナログIQ信号は、同じ89601A VSAソフトウェアを使っ
て解析できます。ベースバンド開発のために、アナログIQおよびDigRFインタ
フェース用のハードウェア・プローブが用意されています。VSAソフトウェアは、
検証のためのさまざまなEVM性能測定や、製品開発の過程で信号劣化の原因を
特定するために有効なグラフィカル情報を提供します。信号にガウシアン雑音
を付加すれば、EVMと生BERとの間の関係を求めることができます。別の方法
として、捕捉したIQ信号をKeysight LTEデザイン・ソフトウェアなどのレシー
バに供給することもできます。性能はレシーバのデザインによって決まるので、
メーカ固有の実装によって結果が異なる可能性があります。
チャネルの影響
次にチャネルの影響について考えます。基地局のレシーバは、UEレシーバと同
じMIMOに関する問題に加えて、複数のユーザからのデータを同時に受信する
という問題にも直面します。MU-MIMOの観点からは、各信号は別々のUEから
来るため、各信号は完全に独立したチャネルであり、異なるパワー・レベルと
タイミングを持っています。これらの特性をエミュレートするには、Keysight
N5106A PXBシリーズ ユニバーサル受信機テスタとRF信号発生器を組み合わ
せて使用できます。
eNB用のレシーバ・テスト構成は、UE用の構成とは異なります。UEは通常、アッ
プリンク経由でテスト・システムにパケット・エラー・レポートを送信しますが、
基地局ハードウェアには通常適切な復調信号出力が用意されています。
MIMOチャネルの復元には、雑音や干渉が存在する条件で複数の信号成分を分
離する必要があります。送信の時点では信号は直交していますが、信号が複数
のレシーバに到達する時点では、伝搬経路に存在する結合により、信号間の違
いが減少している可能性があります。
13
通常の動作では、レシーバは常に変化する複雑なチャネルを扱う必要がありま
すが、基本的なベースバンド動作が正しいことを検証する際にこのようなフェー
ジング・チャネルを使用すると、テストの再現性がなくなります。経路間の単
純な位相とタイミングの差から構成されるフェージング・チャネルを使用すれ
ば、デターミニステックな信号を使用してレシーバの性能限界を検証できます。
このようなチャネルに雑音を付加することで、一部のサブキャリアが他のもの
よりも復調が難しいテスト信号を容易に作成できます。デュアル・ソース・テ
ストの場合は、周波数基準とフレーム同期信号を使って実現できる RF位相/
ベースバンド・タイミング調整機能を使えば、
ほとんどの目的に対して十分です。
信号の同期
ベースバンド
処理
連続波または任意波形
信号経路とチャネル・
フェージングの構成
RF、アナログIQ、または
デジタル・ハードウェア
被試験
eNB
図12. N5106A PXBシリーズ ユニバーサル受信機テスタを使用したRF/アナログ/デジタル・
インタフェースに対する連続フェージングによるレシーバ・テスト構成
フ ェ ー ジ ン グ が 必 要 な 場 合 は、 図12に 示 す よ う な 構 成 に よ り、Keysight
N5106A PXBシリーズ ユニバーサル受信機テスタを使用して、アナログ/デジ
タル出力における独立した複数のフェージング経路を実現できます。
直接マッピング開ループMIMOテストの場合は、テスト信号の間の位相関係は、
レシーバの性能に影響しません。ベクトル加算を行うために直交信号を2回結
合する必要があるからです。閉ループ・システムの場合は、結合係数を計算し
て適用するために、チャネルがサンプリングされている間は、テスト信号の間
の位相は一定である必要があります。このためには、フェーズ・ロックではなく、
システムが安定していることが必要です。チャネルのコンディション・ナンバー
を使えば、復調器で特定の性能を実現するために必要なS/N比を求めることが
できます。コンディション・ナンバーは、複合チャネル性能の指標を与えます。
MIMO信号の各レイヤは、実際には異なる性能を持つ可能性があります。
14
図13. チャネルに適合したプリコード化なし(上)とプリコード化あり(下)の空間多重化信号
プリコード化とLTEコードブック
最後のトピックはプリコード化です。図13のプロットは、LTE信号の1つのフ
レームから復調された信号を示しています。チャネルにはフラット・フェージ
ング(周波数選択性なし)が適用されています。図の上側の2つのコンスタレー
ションは、MIMO信号の2つのレイヤを示しています。左のコンスタレーション
の方が明らかに集中しています。これは実際のレシーバではBERが小さいこと
を意味します。
チャネル特性がわかっている場合(UEがeNBにチャネル・ステート情報を送信
している場合など)、性能の不一致に対処するには2つの方法があります。性能
の高い方のレイヤにより高次の変調を使用するか、プリコード化を適用して2
つのレイヤの性能をイコライズすることです(下側のプロットを参照)。
15
ストリーム2
ストリーム1
コードブック1
コードブック2
ジェネレータ間の位相オフセット
図14. プリコード化の有効性に対する位相誤差の影響(サンプル性能値付き)
LTEでは、コードブック・インデックス法を使って、チャネルのプリコード化
を容易にしています。これは、少数のコードを使用することで、シグナリング
のためのシステムのオーバヘッドを最小化するものです。その結果、コードブッ
ク・インデックスはチャネルを近似したものになり、ある程度の残留誤差が含
まれています。図14は、EVMをイコライズするようにコードブックを選択し
た後でも、実際のEVMがトランスミッタ間の位相整合に引き続き影響される
ことを示します。
図14の中央の長方形のブロックは、コードブック1が最適として選択される領
域を表しています。斜めの線は、各ストリームのEVMが位相誤差によってど
のように変化するかを表しています。性能指標としてはEVMが用いられます
が、BERも使用できます。最善の状況では、コードブックがチャネル・ステー
トに正確に一致し、両方のレイヤの性能が同じになります。
トランスミッタ間の位相が変化した場合(すなわち、コードブックの選択に不
適合があったか、チャネル・ステート情報が提供された後でチャネルが変化し
た場合)は、レイヤの性能に差が生じます。極端な場合は、レイヤの性能が入
れ替わる場合があります。レシーバ測定では、プリコード化誤差の大きさから、
テストに使用する信号発生器の出力での一定のRF位相関係が必要であること
が分かります。複数の発生器の出力でのRF位相が指定された周波数で維持さ
れることを、位相コヒーレンスと呼びます。位相が周波数に対して変化しない
ことを保証する必要がある場合は、図15に示すようなテスト構成が使用でき
ます。
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N5181A
マスタLO
LO入力
RF出力
4方向
スプリッタ
イベント1
10 MHz出力
RF出力
パターン・トリガ
LO入力
RF出力
イベント1
10 MHz出力
パターン・トリガ
LO入力
RF出力
イベント1
10 MHz出力
パターン・トリガ
LO入力
RF出力
図15. タイミングおよび位相同期のための複数の信号発生器の構成
トランスミッタの
デザインとテスト
LTEには、さまざまな要因から生じる非常に広範囲のデザイン/測定の問題が
あります。
ー 1.4 ∼ 20 MHzの6種類のチャネル帯域幅を扱う必要性
ー ダウンリンクの直交周波数分割多重化(OFDMA)とアップリンクのシングル・
キャリア周波数分割多重化(SC-FDMA)のための異なる伝送方式の使用
ー 物理チャネル構成がRF性能に大きな影響を与える柔軟な伝送方式
ー FDDとTDDの両方の伝送モードを含む仕様
ー トラフィック・タイプと負荷に起因するスペクトラム/パワー/時間の変動
による困難な測定構成
ー 送信ダイバーシティ、空間多重化(MIMO)、ビームステアリングなどのマル
チアンテナ手法に起因する多くの問題
ー チャネル内、チャネル外、バンド外の性能の間の複雑なトレードオフを考慮
する必要性
他の最新の通信規格の開発と同様に、デザインでは、コンフォーマンス・テス
トと相互運用性テストを視野に入れながら、トラブルシューティング、最適化、
デザイン検証を行う必要があります。
次のセクションでは、トランスミッタのデザインに関する一般的な問題と、い
くつかの基本的な検証手法について、基本的な特性から始め、次にLTE固有の
側面について説明します。特に、出力パワーとパワー制御、チャネル外/バン
ド外エミッション、パワー効率、クレスト・ファクタとプリディストーション
を含む高ピーク・パワー、位相雑音を説明します。
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出力パワーとパワー制御
出力パワーとパワー制御の側面から考えると、時間的に不変な信号の正確な平
均パワー測定は、LTEにおいて大きな問題ではないことがわかります。正確な
広帯域パワー測定は、パワー・メータ、シグナル/スペクトラム・アナライザ、
またはVSAを使って実行できます。しかし、ダウンリンクとアップリンクの信
号の特性により、LTEの一般的なケースでは、もっと特殊な出力パワー測定が
必要になります。これには、リソース・エレメント(RE)レベル(1つのサブキャ
リア上の長さ66.7 μsの1つのOFDMAまたはSC-FDMAシンボル)での測定が含
まれます。このような測定にはパワー・メータは使用できませんが、スペクト
ラム/シグナル・アナライザまたはVSAが重要な役割を果たします。特に、信
号の特定の部分に対するパワー測定には、VSAのデジタル復調機能が必要な場
合があります。
チャネル外/バンド外エミッション
次に、異なる無線システム間の互換性を保証するためのバンド外エミッション
の規制について考えます。主要な要件は、きわめて低い周波数(9 kHz)からき
わめて高い周波数(13 GHz)までのスプリアス・エミッションの制御に関するも
のです。この点ではLTEは他の無線システムと同じなので、スプリアス・エミッ
ションについてはこれ以上説明しません。LTEに関しては、バンド端でより興
味深い問題があります。バンド端で信号は、チャネル外の要件とバンド外の要
件(こちらの方が厳しい場合が多い)の両方を満たす必要があるからです。LTE
は最大20 MHzのチャネル帯域幅をサポートしていて、多くのバンドは少数の
チャネルをサポートする広さしかないので、LTEチャネルのかなりの部分はバ
ンド端に存在します。
バンド端でのトランスミッタ性能を制御するには、必要なバンド外減衰を実現
しながら、バンド端の近くでのチャネルのチャネル内性能に影響しないような
トレード・オフを実現するために、慎重なフィルタのデザインが必要です。こ
のトレード・オフでは、コスト(金銭的コスト、パワーまたはパワー効率、物理
的空間など)も考慮する必要があります。これには、チャネル内性能とバンド外
性能の最適化と、このトレード・オフをトランスミッタのブロック図内のどこ
で実現するかに関する調整が必要です。チャネル外エミッションに関する要件
は、隣接チャネル漏洩電力(ACLR)とスペクトラム・エミッション・マスク(SEM)
測 定 に よ っ て 規 定 さ れ て い ま す。 こ れ は、UMTS
(Universal Mobile
Telecommunications Service)の場合と同様です。これらの測定は通常、スペ
クトラム/シグナル・アナライザで、ACLRとSEM用の組み込みルーチンを使
用して行われます。この測定には、シグナル/スペクトラム・アナライザの掃
引解析またはVSAのFFT解析が使用できます。掃引解析の方が、ダイナミック・
レンジが広く、高速な測定が可能です。
パワー効率
次に、パワー効率はeNBとUEの両方のトランスミッタにとって重要なデザイン・
ファクタであり、デザインは、消費電力の目標を達成しながら、トランスミッ
タが出力パワー、変調品質、エミッションの要件を満たすことを保証する必要
があります。パワー効率に関する公式の要件は現在は存在しませんが、将来は
環境に対する意識の高まりによって変わる可能性があります。しかし、パワー
効率は従来から常にデザイン上の大きな問題であり、デザインの選択と最適化
により実現する必要があります。
18
高ピーク・パワーを扱うための方針
高ピーク・パワーに関しては、OFDMA信号は高いピーク対アベレージ・パワー
比(PAPR)を持つ可能性があり、eNBのパワーアンプは、チャネル外歪み成分
の発生を防ぐために、高いリニアリティを持つ必要があります。eNB用の高い
リニアリティを持つパワーアンプは、高価であり、パワー効率があまり高くあ
りません。この問題に対処するには、2つの補完的な方法があります。1つはク
レスト・ファクタ・リダクション(CFR)で、信号のピークを制限することを目
指します。もう1つはプリディストーションで、信号をアンプの非線形特性に
合わせるものです。
CFRはCDMA信号で最初に広く用いられた方法で、LTEにおいても重要な手法
です。ただし、具体的な実装は多少異なります。CFRとプリディストーション
の違いは、プリディストーションがアンプの非線形性を補正するために入力信
号を変形するのに対して、CFRは信号がアンプに到達する前にそのピークを制
限することです。このため、CFRはアンプのデザインを問わずに適用できる一
般的な手法です。CFRはマージンを改善しますが、その代償としてチャネル内
性能が低下します。CFRなしのOFDM信号のRFパワー特性は、相加性白色ガウ
ス雑音(AWGN)に似ていて、ピーク・パワー偏位が平均パワーより10 dB以上
高くなります。これほど大きなマージンを持つパワーアンプをデザインして動
作させるのは現実的ではありません。CFRを注意深く使用することにより、信
号品質を許容範囲内に維持しながら、ピーク・パワー要件を大幅に下げること
ができます。CFRの有効性は、瞬時パワー測定の一連の測定値に相補累積分布
関数(CCDF)を適用することにより評価できます。
プリディストーションを使用すれば、よりパワー効率が高くコストが安いアン
プを使用できます。ただし、プリディストーションを使うとデザインと動作の
複雑さが増加します。プリディストーションは、特定のアンプ・デザインとの
緊密な連携が必要で、CFRよりも高度なパワー管理手法です。プリディストー
ションは、アンプの非線形領域で動作しながら、チャネル内性能を維持するこ
とを目指します。これにより、信号圧縮が最小化され、高い動作レベルでもチャ
ネル外性能が低下しません。プリディストーションには、アナログ・プリディ
ストーションから、フィードフォワード手法、フル・アダプティブ・デジタル・
プリディストーションまで、さまざまな種類のアナログ/デジタル手法があり
ます。最後のものは、最新世代のパワー効率の高い基地局で用いられているも
ので、デジタル入力/RF出力テスト機能が必要です。
最後に、OFDMシステムで十分な位相雑音性能が得られるようにデザインを最
適化することが、2つの理由で特に困難であることを説明します。1つは、位相
雑音が大きすぎると、間隔の近いサブキャリア間の直交性が損なわれ、周波数
ドメインのキャリア間干渉(ICI)が生じて、復調性能が低下することです。もう
1つは、位相雑音の削減は、システム・コストの上昇とパワー効率の低下を招
く可能性があることです。このようなコストは、eNBよりもUEでより大きな
問題になります。
19
トランスミッタ品質を
検証するための
系統的な手法
MIMO信号の解析では、トランスミッタの問題の根本原因を見つけるために、
複数のステップのプロセスが必要です。複雑なデジタル変調信号の検証と最適
化を行う際に、ベクトル信号解析による高度なデジタル復調測定にすぐに頼り
たくなるかもしれません。しかし、通常は、図16に示すように、基本的なスペ
クトラム測定から始め、ベクトル測定(周波数/時間コンバイン測定)を行って
から、デジタル復調と変調解析に進むという測定シーケンスに従う方が、効率
的です。
スペクトラム
測定
ベクトル
測定
デジタル復調
測定
基本信号パワーと
周波数特性
パワー対時間、CCDF、
スペクトログラム
コンスタレーション/
変調品質解析、
高度な解析
図16. LTE性能検証のシーケンス
図17. 5 MHzダウンリンクのスペクトラムに示された、パワー、OBW、中心周波数
ステップ1:最初にRFスペクトラム測定を実行します。
20
図18. アップリンク信号のCCDF測定:左から右に、QPSK、16QAM、64QAM、AWGN 基準曲線
図19. Keysight 89601A VSAソフトウェアによりデジタル復調された5 MHz LTE ダウンリンク信号
の解析
ステップ3:次に、デジタル復調に進みます。
ー トレースBは1つのFFのパワー対周波数を示しています。
ー トレースDはエラー・サマリを示しています。
ー トレースAはIQコンスタレーションを示しています。これは、アナライザが
正常にロックし、信号を復調したことを示しています。
ー トレースCは、エラー・ベクトル・スペクトラムとトレースを示しています。
ー トレースE は、タイム・ドメインでのEVMをシンボルの関数として示してい
ます。
21
多くのトランスミッタ測定は、トランスミッタのRF出力をRFシグナル・アナラ
イザの入力に直接接続して、信号の特性とコンテンツを測定するだけのわかり
やすいものですが、いくつかの測定では、トランスミッタ信号チェーンの最初
または中間のポイントでの接続、
プロービング、
測定が必要になります。図20に、
代表的なトランスミッタのブロック図と、さまざまなポイントで信号を注入し
てプロービングする方法を示します。
RF
トランス
ミッタ
シグナル・アナライザ
ベクトル信号解析
ソフトウェア
アナログ
オシロスコープ
RF
IQ
レシーバ
信号発生器
アップ
コンバージョン
および増幅
増幅および
ダウン
コンバージョン
D/A変換
A/D変換
アナログ
IQ
Signal Studio
デジタイズ
されたIQ
ベースバンド処理
メディア・アクセス制御
ロジック・アナライザ
デジタイズ
されたIQ
ベースバンド・
デジタル・
インタフェース
DUT
図20. UEのブロック図のさまざまなポイントでの信号印加と解析
22
ソフトウェア
MIMO伝送では、各トランスミッタを分離して別々に測定できる場合もありま
すが、結合されたプリコード化済み信号以外にアクセス・ポイントがない場合
もあります。測定方法を決定する際に、最も正確な結果が得られるテスト構成
を選択することが重要です。表2には、各測定に必要なアナライザ入力が1つか
2つかが示されています。
デバイス構成とアナライザ接続
アナライザ構成
測定ステップ
シングル入力測定
SISO信号の場合と同じ解析設定ステップの使用
復調器オフで開始
パワー対時間およびゲーティッド・スペクトラムを
測定して、各チャネルが期待通りのパワー・レベル
とスペクトラムを持つことを確認
ゲート時間=1シンボル(67 μs)のハニング窓を使用
信号を記録してスペクトログラムを使用
復調器をオン
P-SSまたはRSに同期
各トランスミッタ出力に
別々に接続
送信ダイバーシティまたは空間
多重化をオン
コードブック・インデックス=0
パワー・カップラを使用して
信号を結合
コードブック・インデックス=0
信号を2入力のアナライザで測定
すべてのコードブック値
RS、P-SS、S-SSを表示(すべてのトランスミッタに存在する 分離した信号要素のコンスタレーションとEVMを
とは限らない)
確認
共有チャネルおよび制御チャネルの
プリコード化をオン
ダイバーシティおよびSM信号の
コンスタレーションとEVMを確認
2個または4個のトランスミッタ・ポートがアクティブ
相対パワー、タイミング、位相の精密な測定が可能
トランスミッタ間の結合の効果(プリコード化など)を
除去するために2つの入力が必要
UEのレシーバから見た 残留誤差の測定が可能
表2. マルチトランスミッタ信号の劣化を診断するための基本的な設定
23
すべてのRSベースの測定をチェック
すべてのコードブック値で共有チャネルの
コンスタレーションとEVMを確認
シミュレーションと
測定の組み合わせに
よるハードウェア・
テストの実行
今日のデザイン手法は、コストのかかるハードウェアの作り直しを避け、デザ
イン・プロセス全体をスピードアップするために、システム・シミュレーショ
ンが中心になっています。キーサイトのデザイン・ツールを使えば、デザイン・
プロセスの後半で、テスト機器との連携を行うことにより、ミックスド・ハー
ドウェア/シミュレーション環境を実現し、完成したコンポーネントやサブシ
ステムの機能をシステムのコンテキストでテストできます。図21は、トランス
ミッタ/レシーバと、Keysight SystemVueソフトウェアを用いて作成した
フェージングのあるMIMOチャネルを組み合わせたものです。
図21. 完成したトランスミッタおよびレシーバと、Keysight SystemVueソフトウェアを用いて作成
したフェージングのあるMIMOチャネルの組み合わせ
図21に示すように、シミュレーションとテストを組み合わせることにより、さ
まざまな利益が得られます。シミュレーションは強力で柔軟な方法であり、ベー
スバンドとRFのデザイン・エレメントやRF経路障害をモデリングしたり、プ
リコード化されたMIMOチャネルを作成できます。デザインから機能する物理
ブロックを作成した後、シミュレーションとテスト機器を組み合わせて、ブロッ
クに信号を入力して現実の環境で解析できます。
1つの強力な例として、MIMOデュアル・トランスミッタ・ソースを作成し、完
成したMIMO信号源とベースバンドを組み合わせたものに対して、コード化
BER測定を実行できます。トランスミッタのペイロードは、デジタル/アナロ
グのIQデータと制御/プリコード化を組み合わせたもので、レシーバのデータ
出力を送信データと比較することにより、リアルタイムのエラー解析が可能で
す。既知のフェージング/チャネル・カップリング・シナリオを適用してレシー
バのストレス・テストを行いながら、リアルタイムでBERを測定することによ
り、デザインが実環境で正しく動作することを確認できます。このようなシス
テムのブロック図を図22に示します。
フェージングのある2×2 MIMOチャネル
2 入力の
被試験レシーバ
ESGまたは
MXG×2
デジタル・データ 出力
信号ダウンロード
SystemVueが
インストールされた
16822ロジック・アナライザ
図22. MIMO受信部とベースバンドの組み合わせのブロック図
24
25 | Keysight | LTEの動作と測定におけるMIMO: LTEテストの概要 - Application Note
まとめ
MIMOおよびLTEのこのアプリケーション・ノートでは、空間多重化を初めとする
LTEのシステム機能を実現する際のエンジニアリング上の問題のいくつかを紹介しま
した。この知識は、レシーバ/トランスミッタのデザインにおいて、重要な測定か
ら得られた情報に基づいてデザインを改良するために役立つはずです。
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Published in Japan, October 7, 2014
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