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2013年3月 - bicoid

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2013年3月 - bicoid
bicoid NOTE
March 2013
i
130301:0053
やさしい訴え
バスと電車での移動中はコンピュータを覗き込み、入浴中
は伊丹市立図書館の古本市で購入した『やさしい訴え』を少
しずつ読み進めている。どのようなジャンルのものであれ、
僕は優しい文章よりも丁寧な文章の方が好きだ。
バレンタインデーの話。
息子が、同じ幼稚園の誰かからもらったチョコレートがコ
ーヒー味で苦手であったため、そのまま僕が譲り受ける形に
なった。ちょうど僕はコーヒーが好きだし、ちょうど僕は是
が非でもチョコレートが欲しい日だったし、色々な物事が収
まるべきところに綺麗に収まったように思う。そして収まり
きらなかった涙だけが夜の台所に静かにこぼれ落ちた。
3
130302:0003
手詰まりローマ
もしも手詰まりになったら、全盛期の山城新伍のモノマネ
を研究して気を紛らわせようと思う。
めずらしく早めに帰宅できる段取りとなったので、移動中
の電車内で前月分のサイトのまとめを作成。近頃は、単なる
「過ごし方の報告」みたいな写真はフォトストリームにアッ
プロードしているので、こうしたまとめを作る時には手つか
ずの写真があまり残っていない。せめて昼食にマカロニを食
べるくらいの頻度では、カメラを持って出かけたいと思うん
だけど。
とうとう必要性に迫られてきたので(といってもiOSは無関
係なんだけど)、僕がベネディクト16世の次に尊敬する永野
さんの著書を探しているのだけど、入手が難しいみたいだ。
数年前に比べればWeb上のドキュメントも充実しているみた
いなので、しばらくはスローペースで勉強してみよう。
4
130302:0011
それはただの
パンチパーマさ
あそうそう、下記のPDFを参照してもらえると、僕たちが
Podcast上で「パンチパーマにしか見えない」と言っている村
上君の様子が垣間見えると思います。まるでパンチパーマに
見えるような帽子をかぶっているように見えるけれど、本当
はただのパンチパーマなんですよ。
6
じゃない?」と声に出してみるけれど、日付をまたいだ直後
130305:0034
仮に誰かが
の自室には僕ひとりしか居ない。さっきのN嬢は、あくまで
救いを求めているとして
回想シーンなので都合よく呼び出せたのだ。
数日前に、次期プロダクトにおいて一番肝心で、当然一番
手間のかかる部分を作り終えた。
いくつかの経験から学んだのだけど、肩こりを忘れる唯一
高校生くらいの頃からずっと、僕の肩は凝り続けている。
仕事場の後輩N嬢が、入社したばかりの時期に「……じつは
私、人生で肩こりって経験した事がないんですよね」と言っ
ていたのをなんとなく覚えているのだけど、ここ数年、彼女
の効果的な方法は、肩の力を抜くことである。もしも誰かが
世界を救おうと立ち上がるのなら、あるいは誰かが悲しみに
沈んで絶望の縁に立つのなら、僕は彼や彼女に、なんの救い
も見えないほどのくだらない冗談を並べるだろう。
が重苦しい表情で「肩が……」と言っているのを耳にする
と、老いたなと思う。そして「老いたな」と声に出してみ
る。
無償の愛を信じることに幾ばくかの勇気が必要であるのと
同じ文脈で、これまでのところ僕は鍼
師をあまり信じてい
ない。率直に、「なんかすごく痛そうだし熱そうだな」とは
思う。そして「あれってなんかさ、すごく痛そうだし熱そう
8
130307:0033
真夜中のちいさなかけら
ころも同じ。つまるところ、僕の愛用するコーヒーミルはス
イッチひとつで豆を砕く自動性ではないけれど、代わりに十
分な児童性の回転能力を兼ね備えており、性能の指標として
は自動よりも手動よりも遅い。そしてたまに反対に回転す
る。
「嫌なことは早く忘れてしまいたい」と安直に考える日もあ
iBookstoreの開店記念に小川洋子さんの本を一冊買ったけ
れど、読み進めるより先に『ドグラ・マグラ』が無料で読め
ることの方に驚いてしまった。僕が知らなかっただけで、
2007年から青空文庫で公開されていたらしい。
るけれど、いつか同じ思いを繰り返さないためにも、ほんと
うは僕たちはそうした物事をできるだけ具体的に覚えておく
べきなのだろうと思う。たとえば廊下を照らす白熱灯の最後
の色合いや、世界中が寝静まった夜の質感を。
みたいな思考を、夜中の台所でガリガリという音を立てな
がら、僕はひとつひとつ丁寧に砕いていく。ちいさなかけら
このところ、二十四時を回る頃に、家族を起こさないよう
にして捨ててしまうためではなく、温めて抽出して喉に通す
リビングで静かにコーヒー豆を
ために。
くのが日課になってきた。
これまでに三人の子供たちの成長を見てきた(ふりをして
きた)けれど、我が家に存在するアイテムのうち、その三人
が寸分違わず同じ表情になるおもちゃといえばコーヒーミル
だった。きちんとハンドルを回す方向を教えても必ず何度か
は反対側に回し、僕から注意を受けるのを待ち構えていると
9
130307:1247
続 よふけのわ
睡眠時間を削ってまで進めることでもないんだけど(全く
もって)、収録済の次回分の鮮度を落とさないよう、Podcast
を更新しました。誰もなにも発言していないのに急に三人で
笑っている場面が度々訪れるのだけれど、これはつまり村上
君の髪型が強烈すぎるせいで吹き出しているのだと理解して
頂ければ。
また、今回の収録(村上/岡久/杉尾)と、次回の収録分
(村上/岡久/長官)との会話の内容を比較して頂けると、
いったい毎回毎回、我々の意識を下品な方向に導いている犯
人が誰であったのか、すっきりすると思います。
11
130308:0127
ティーポット(未使用)
日常会話のなかで、ごく自然な表情で「ラッセルのティー
ポット」を使う機会を虎視眈々と狙い続けて、もうかれこれ
五年が過ぎようとしている。
次のiPhoneがいつ登場するのかわからないけれど、一旦解
禁となったテザリング機能が次期モデルで再び禁止される可
能性も低いだろうし、WiMAXを契約し続ける理由が徐々に
減りつつあるので、年間フラット契約をやめて好きなタイミ
ングで解約できるプランに変更した。
このため、月々の料金がスターバックスコーヒー二杯分く
らい高くなるのだけれど、最近のスターバックスでは、当日
限定で二杯目のコーヒーを百円で提供してくれるサービスが
あるため、上記のような比喩表現にはまるで適さない。
12
130308:1254
鉛筆を余らせないように
しばらくセール中だと聞いて、バージョンみっつ飛ばしく
らいで久しぶりにParallelsを試用してみる。念のために
VirtualBoxも当面は平行利用するとなると、MacBook Airの
残り容量は15GBを切ってしまい、キーボードを叩くたびに濃
い緑色の汗が吹き出るくらい緊迫感がある。
でも本当は、ストレージ容量なんてうまく使い切るほうが
快適で賢い使い方なのだろうと思う。まるでせっかく買った
絵筆を何本か余らせたまま過ごしていくように思えて。
14
130310:0156
書かざるを得ない話
る」みたいな表現も見聞きしない。随分ひねくれている。ま
るで何かを否定することでしか自らの居場所を主張できなか
った、あのナイフのように尖った若き日々の自分自身を思い
描いてしまわざるを得ない。
「……ところで『水を打ったような静けさ』って、なんか変な
表現じゃない? パシャッってうるさいじゃん」といった疑
問を誰かが口にするたびに、水を得た魚のように嬉々として
「水を打つってのはそういう事じゃないんだよ」と説明する
親切な僕も、土曜日に働いて帰宅時間が二十四時を回ると、
死んだ魚のような目でテキストを書かざるを得ない。
そういえばこの「を得ない」という表現。物心ついたとき
から腑に落ちないまま使い続けている。
それほど注意深く観察してきたわけではないけれど、「ざ
る」と「やむ」以外の言葉が「を得ない」とくっついている
所を見た事がないし、「働かざるを得る」とか「やむを得
16
130310:1713
種を植えた場所
それから「Blossom STORE」。これは半年くらい前から村
上君が取得しているドメインなんだけど、なにが目的のサイ
トなのかよくわからないので、今回の会話のなかで槍玉に挙
がったのでした。
Podcast「よふけのわ」を完結して、録り溜めていた「花の
咲く場所」を開始しました。とはいえ、編集はほぼノーカッ
トで切り出しただけ。参加メンバがひとり入れ替わるだけで
こうも作業が簡単になるとは思わなかった。本来、僕たちは
生まれながらにして上品な生き物なんだね。そんなことを再
確認させられる日々です。
わかりにくいキーワードを少し解説すると、会話に出てく
る「はなおじ」とは、村上君のご両親が八百年ほど前から経
営する逆瀬川にある喫茶店「花とおじさん」を指します。
「昼は喫茶店、夜はもっぱらtalkhellのレコーディングスタジ
オ」といえばピンとくる人は、そうとう変だと思う。
18
130313:0139
喪失
ど、この作品には「泣きたいために、思い出す作業を続け
た」という一文があって、すこし背筋がざわついた。
つい数日前まで、「実行するのは簡単だけど、漢字が思い
浮かばない単語」シリーズのひとつに「黙祷」があると思っ
ていたのだけど、実際のところ、実行するのもなかなか簡単
なことではないとわかった。自分がなにかを失っていると気
ナショナル・ジオグラフィック 電子版の出来がとても良
がつかなければ、人はなにかを思い出そうとはしない。
い。iPadだけでなくiPhoneでも閲覧できるように丁寧に作ら
れているし、同じく電子版が発行されているNewtonと比べて
も、かなりテンポよく読める。NewtonはNewtonで、新しい
ものに挑戦しようとする志が見えるんだけれど、今のところ
読書のリズムを損なう部分が散見されて、残念な面も多々あ
るのだ。
入浴中に『やさしい訴え』を読み終えた。
つい数週間前、僕は不意に心に浮かんだ「忘れなければ思
い出すことさえできない」という言葉をここに書いたんだけ
20
130314:0058
ラーメン。
僕が時折、突発的にこんな重みのない文章を書くのは、過
去に負った決して癒えることのない深い傷から目を背けるた
めではなく、お風呂の「おいだき」が終わるまでの時間を待
っているからだ。切実に。
二十四時過ぎに帰宅して午前二時に眠る生活が続くと、僕
はどれほど偶数が好きなのだろうと素直に感嘆を覚えたくな
るけれど、目覚ましが六時五十五分にセットしてある事実に
思い当たってどうでもよくなった。
パスタファリアニズムに近い立場に身を置く僕は、村上和
雄先生の言う話は四十半歩ほど身を引いて警戒しながら聞く
ことにしているのだけど(それでもクロゼットを探せば二冊
くらいは著書がある)、Podcastの第一回放送の冒頭に語られ
るエピソードはじつにくだらなくて良かった。そこまでしか
再生していないけれど。
22
130318:0533
沈めない海
入浴中、息子に「海をずっと沈んでいくと、どこにたどり
着くの?」と尋ねられたので、「宇宙かも」と答えた。「お
湯にもぐって目を閉じてみたらわかるよ」と言うと、彼は聞
き分けの良いフクロウのような表情で「ほほう」と言った。
いまだに潜れないので。
午前四時に目を覚ましてコーヒーを淹れていると、一年か
二年ほど前の生活リズムに戻ったような錯覚がある。本当は
いつそんな生活をしていたのか、あまり覚えているわけでは
ないんだけど。
森博嗣の新作が電子書籍で出版されていたので、物珍しさ
もあって買うことにした。シリーズものを途中から電子書籍
で買うなんてあまり心地良くないけれど、消費のあり方を考
えるよりもまず本棚の傾き方の改善を考えるほうが急務と思
えたため。
24
130320:0131
葉脈をたどって
村上君に紹介された花の咲く場所は佳境に入り、残り3∼4
回で完了予定。二分くらいででっち上げたこの回のアートワ
ークが、自分で結構気に入っている。
日付が変わった頃に帰宅。
家中の電気が消えていたので、できるだけ誰も起こさない
ようにと静かに行動していたのだけど、電子レンジでみそ汁
を温めているときに、寝室で横になっていた奥様が何か短い
台詞を小声で叫びながら起きあがった。彼女はそのまま無言
でつかつかと台所に向かい、僕に背を向けて肉を焼き始め
る。いったいテーブルに何が並ぶのか、幾分恐怖に近いもの
を感じる僕。
「明日は休日なので出社は午前十時からで構わない」と矛盾
した優しさに触れ、ラッキーと声に出しながらとめどない涙
で頬を濡らした。
26
130321:0026
風呂敷
午前十時に梅田に着き、黙々と仕事をこなした。ひとしき
りキーボードを叩くのに飽きたら、気分転換にキーボードを
叩いた。
先日の暴風雨で折り畳み傘が脱臼してしまい、小雨の中を
歩くのに骨が折れる。「あの作家は広げた風呂敷をたたむの
がじつに上手いよね」と評されて、それが喩えでなく物理的
な風呂敷の話だったら幾分悲しいだろうなと思う。
28
130322:0205
蜂蜜と苦労話
する」と、これまた適当な中国語で書いて渡したら「加油」
と回答。
たとえば会社という組織を考えるうえでは、「代表取締
役」と対になるように「代表取締まられ役」みたいな相補的
な人材を配置し、多角的な視野を構築する事によってはじめ
て見えてくる部分というのは多分あまりないと思う。
夜中に二、三時間ほど、うつらうつらと横になっていたつ
もりが、気がついたら朝だった、というすごく損した感じの
睡眠をたまに経験する事があるけれど、僕がこれから経験す
るのはそれだと思う。
「ドトールで買ったハニーカフェ・オレが期待していた味と
違ったので、蜂さえも嫌いになった」という比較的どうでも
いい意見を、向かいの席の中国人のK嬢に片言の中国語で書
いて伝えたところ、「『大嫌い』って言いたいならすこし違
いますけどまぁわかります」と軽い指導があった。感情表現
の難しさに落ち込んだりもしたけれど私は元気なので、少し
離れた席のこれまた中国人のS君に「今日から中国語を勉強
30
130324:1259
凱旋の予兆
土曜日の仕事を終えて本日は実家へ。十年ほど前、僕が実
家を出てすぐに荷物の大半は整理されたので、もはや自室と
呼べる空間ではないのだけど、それでも見慣れた天井のくす
んだ様子やはがれたシールの跡を見るとさまざまに思い出す
ものがある。この場所でじつにたくさんの想像が広がり、じ
つにたくさんの出来事が起きた。
何年かぶりに、この土日で例のアイコン作家にインタビュ
ーを申し込んでいたのだけど、先方の都合により一ヶ月ほど
伸びそう。製作中の真面目なセキュリティ系ソフトについて
は、コアエンジン部分を組み終えてユーザインターフェイス
を考える段階。帰宅時間が日付をまたぐ日が常態化している
ので、三月に入ってからの進
状況は散々なんだけど。
32
130325:0027
影を見るための行為
シャワーを浴びて眠る直前、ふと思い立ってPodcastを更
新。今回配信のトラック#14では、これまでの流れを断ち切
るように極めて真
に恋愛や人生の本質に迫っているので、
たいていの人は聞かなくて良いと思う。
小説を読み、音楽に耳を澄ませ、映画を観るとき、どのよ
うな形であれ僕たちはそこに自分自身の影を見ているのだな
と改めて思う。
34
130328:0150
少年切手探偵団
が、アナログで簡単にできる行為を再現できないというのが
もどかしい。
かくいう僕は、電子メールには切手を採用すべきだ、とい
う持論も、未だに引っ込めるつもりはない。送り手が金銭的
負担を伴うことによってどれほどシステムの質が向上する
か、といった難しい話ではなくて、単なる小学生切手収集家
入浴を終えて出てきたら午前一時半。
の懐古として。
帰りの電車の中で、『ジグβは神ですか』を読了。本の(と
いうか作者の)性質による部分も大きいのだろうけれど、読
み終えてみれば電子書籍ならではの目新しい感覚など特にな
く、紙媒体と比べるとどっちもどっちという感じ。
ただ、電子書籍も人に貸せたらよいのに、とは何度か思っ
た。権利者どうこうという話になるだろうから、所持してい
る電子書籍を誰かに貸すたびに、追加で元の値段の何割かの
金額を支払ってもいい。もちろん誰かに貸している間は僕は
その電子書籍を読む権利を失うわけで、なんとなく帳尻は合
うように思うんだけど。デジタルの粋を集めた最先端の技術
36
130329:0113
雨の日のF8
建物の前に戻ると、僕の専属中国語教師のS君とK嬢が売れ
残った子山羊のように雨に打たれていたので、入れ替わるよ
うに僕の傘を手渡して、エレベーターへ向かった。
食事から戻ったS君が、iPhone宛てに「
你的
,我放
在8F了」、「F8」と続けざまにメッセージをくれた。なぜ8
階なのだろう、といぶかしみながらエレベーターに乗って移
めずらしく朝から堂島で、昼は先輩方と後輩との四人で食
事。
僕が特に強いこだわりもなく「柚子胡椒唐揚げ定食」を注
文すると、しばらく経ったあたりで「無知というのは恐い」
と先輩N氏がつぶやくように言った。ちょうどアインシュタ
インが「神はサイコロを振らない」と口にしたときと同じ表
情だったのが気にかかり、その意味合いを尋ねてみると、向
かいに座るお二人とも以前同じメニューを注文し、辛くてろ
くに食べられなかったらしい。僕が注文している間に前もっ
て指摘してくれない辺りが、最高にクールだと思う。
動してみたけれど、どこにも傘立てなど見当たらない。そも
そも親切のつもりで傘を貸して、自分の作業場とは何の縁も
ないフロアにその傘を置いておかれる意味がわからない。サ
イコロを振る以前の問題である。
悩みながら廊下を戻っていると、扉をまたいだところでち
ょうどS君と出会った。「すみません、わかりにくいと思って
F8って送り直したんだけど、傘立てのF8の場所です」と流暢
な日本語で説明しながら、彼は目の前にある傘の群れを指さ
した。たしかに、行列が区切られた格好のそれに目をやる
と、8とFの交差する区画に僕の傘が刺さっていた。没
系。
熱の冷めないうちに『花の咲く場所』を完結。
38
たとえば出勤途中の電車の中で、こうして自分たちの会話
をPodcastという形で振り返るとき、僕が心の中に思い描くこ
の感情はなんだろう。数週間前から考えていたその答えは当
たり前すぎて意識しにくいのだけど、言葉で表すならきっと
「日常謳歌」だ。
39
130330:0132
転送失敗
キーボードで文字を入力する際の打
いつだって素直に謝ることは簡単ではないけれど、誤るの
は思いのほか簡単だ。
の余力で織物をこし
らえる事などできないものだろうか。無言のオフィスが一気
に共同体としての躍動感を紡ぎだすように思えるんだけど。
などと発展性のない空想を頭の片隅に思い浮かべつつも、割
ときちんと仕事を進めていると、「あ、明日と明後日は休ん
でくれていいです」と柚子胡椒の上司が声をかけてくれた。
帰りの電車の中で、当サイトのドメインの管理画面をなん
となく確認していたら、これまで「Gmailのアドレスに転送し
て破棄」と設定していたつもりでいたbcoid.com宛のメール
が、一切転送されていなかった事に気づいた。……もっと正
確に言えば、「一切転送されずに破棄」されていた事に気づ
いた。たぶんここ二年くらい。どうしよう。
40
130330:1213
ハム食べたい
でつくっていて、まさか朝から用事があるとは思っていなか
ったのだ。
コーヒーを淹れるためのお湯が沸くのを待ちながら、焼き
上がったばかりのトーストにバターを塗り、チーズを乗せ
て、一瞬のためらいの後それに目玉焼きをかぶせる。なるほ
ど、こういう時に大音量で「ハム食べたい」を鳴らせばよい
目が覚めると午前九時半。奥様を介して、息子から「さつ
まいもこうへんにいってきます」とメールが届いていた。五
のかと今更ながら音楽の効用に気づく。ともあれ、こんなふ
うにして僕は、土曜日のリビングでキーボードを叩くのだ。
月山公園のことだろう。僕は早い段階から「土曜日も仕事に
なると思う」と予告してあったので、奥様の父上が気を利か
せて家族みんなを遊びに連れて行ってくれているらしい。
「らしい」というからには、僕は含まれていないのだけど。
そういえば朝の早い時刻、現実と夢のはざまで、娘から
「ねぇどうするの?」と尋ねられた気がする。さらに「さっ
き寝たところだから無理です」と返事をした記憶が、ややぼ
んやりと回想される。実際、昨晩は午前四時まで自室にこも
り、三国志に登場する全武将を覚えるための替え歌を七番ま
41
130331:1038
失われた数時間
ひさしぶりにまっさらな休日となった昨晩は、午後十時ま
でに眠ってしまい、とびきり早めに起床しようと考えた。計
画の前半は成功したけれど、目が覚めたのは午前十時であ
る。つまり、つい今さっきであり、僕は現在進行形で口の中
に冷めたホットケーキを含んでいる。
多くの人文科学者たちが、文明の発展とともに人間が失っ
て来た様々なものごとについて、改めて体系的に捉え直そう
と試みるならば、僕は今朝の失われた数時間をまず第一に指
摘したい。
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