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我が国製油所の事故の要因分析調査

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我が国製油所の事故の要因分析調査
平成24年度石油産業体制等調査研究
(我が国製油所の事故の要因分析調査)
報
告
書
平成25年3月
特定非営利活動法人
1
安全工学会
報
告
書 目 次
第1章 調査概要 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------01
1-1 調査目的 --------------------------------------------------------------------------------------------------------- 01
1-2 調査実施項目 --------------------------------------------------------------------------------------------------- 01
1-3 委員会の開催 --------------------------------------------------------------------------------------------------- 02
第2章 事前準備 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------03
2-1 事象進展図作成 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 03
2-2 事前アンケート調査結果------------------------------------------------------------------------------------ 04
2-3 事前入手データ整理 ------------------------------------------------------------------------------------------ 10
第3章 製油所現地調査 ---------------------------------------------------------------------------------------------------13
3-1 現地調査計画 --------------------------------------------------------------------------------------------------- 13
3-2 現地調査確認項目 --------------------------------------------------------------------------------------------- 14
3-3 現地調査結果 --------------------------------------------------------------------------------------------------- 15
3-4 現地調査結果に基づく良好事例の抽出 ----------------------------------------------------------------- 23
第4章 石油業界の課題と支援に向けた提言 ------------------------------------------------------------------------28
4-1 製油所の課題 --------------------------------------------------------------------------------------------------- 28
4-2 支援に向けた要望 --------------------------------------------------------------------------------------------- 31
4-3 製油所横断的な課題に対する提言 ----------------------------------------------------------------------- 32
第5章 補完的な調査 ------------------------------------------------------------------------------------------------------35
5-1 事故トラブル予兆検知手法適用有効性調査 ---------------------------------------------------------- 35
5-2 関連事故情報の収集整理------------------------------------------------------------------------------------ 59
5-3 海外先進動向調査 --------------------------------------------------------------------------------------------- 67
【参考資料】
参考資料 ① 事象進展図 ---------------------------------------------------------------------------------------------- 75
参考資料 ② 事前アンケート調査票 ------------------------------------------------------------------------------- 85
参考資料 ③ 現地調査確認項目に関する深掘質問リスト --------------------------------------------------- 87
2
第1章
調査概要
1-1 調査目的
昨今、製油所で事故が多発しており、国民生活・経済活動に不可欠な石油製品等の供給に支障が生じ
る可能性がある。そのため、原因の究明と対策を実施した上で、定常時における保安確保の充実、強化
を行い、安全操業の維持に繋げていくことが重要な課題である。
そこで、本調査ではこうした現状を踏まえ、複数の事故事例に即し、事故当時の設備管理、運転管理、
保守点検等における組織体制、保安技能の伝承状況などを把握し、事故の要因分析を行うとともに、必
要な対応方針等を提言することを目的とする。
1-2 調査実施項目
仕様書に記載されているとおり本調査では、表 1 左列の六項目について現状を把握し、問題点と課題
を精査することが求められている。これらの調査項目を俯瞰すると、事故を起点に事業者側の対応と問
題意識に迫り、さらに、運転や保全など現場での安全管理の実態や組織運営の詳細まで踏み込み、状況
を整理する必要がある。
そこで、本調査ではこれらの調査項目に関して事業者側と詳細な意見交換を行う「現地調査」を中心
に検討を進めた。その際、「現地調査」を有効に行うための事前準備として「事象進展図作成」や「事前
アンケート調査」などの手法も併用した。さらに、「補完的な調査」として「事故トラブル予兆検知手
法適用有効性調査」
、
「関連事故情報の収集整理」
、
「海外先進動向調査」も実施した。これらの検討結果
を合わせて「石油業界の課題と支援に向けた提言」を整理し、本調査全体のとりまとめとした。
仕様書の調査項目と報告書の章立ての関係を整理すると表 1 のとおりとなる。
表 1 仕様書調査項目と報告書章立ての関係
仕様書の調査項目
報告書の章立て
①安全管理上重要な情報を含む事例に係る
第2章
2-1
事象進展図作成
事故時の運転環境、直接・背後要因と対策
第3章
3-3
現地調査結果
②類似事故の把握とそれに対する事業者側の
第2章
2-2
事前アンケート調査結果
第3章
3-3
現地調査結果
第5章
5-2
関連事故情報の収集整理
第2章
2-2
事前アンケート調査結果
第3章
3-3
現地調査結果
第2章
2-2
事前アンケート調査結果
第2章
2-3
事前入手データ整理
第3章
3-3
現地調査結果
第5章
5-1
事故トラブル予兆検知手法
第5章
5-1
適用有効性調査
第2章
2-2
事前アンケート調査結果
第3章
3-4
現地調査結果に基づく良好事例
第3章
3-4
の抽出
第5章
5-3
海外先進動向調査
問題意識
③安全運転に対する現場の意識
④設備管理と事故トラブルの関連
⑤現場情報に基づく事故トラブル予兆検知
手法の適用有効性
⑥保安業務に係る先進事例
1
1-3 委員会の開催
本調査の実施にあたっては、田村昌三 東京大学名誉教授を委員長とする「我が国製油所の事故の要
因分析調査委員会」を設けて 3 回の委員会を開催し、以下のとおり具体的な検討を進めた。
第 1 回委員会:平成 25 年 1 月 9 日(水)10:00~12:00
主な議題
・
事業概要について
・
事業実施計画について
第 2 回委員会:平成 25 年 2 月 25 日(月)10:00~12:00
主な議題
・ 第 1 回現地調査まとめ案について
・
現場情報に基づく事故トラブル予兆検知手法の適用有効性について
・ 第 2 回現地調査の進め方について
第 3 回委員会:平成 25 年 3 月 25 日(月) 9:30~11:30
主な議題
・
現地調査まとめ案について
・
課題と提案について
・
報告書(案)について
表 2 我が国製油所の事故の要因分析調査委員会 委員名簿
役
職
氏
名
委員長
東京大学 名誉教授
田村 昌三
委
岡山大学大学院 自然科学研究科 産業創成工学専攻 教授
鈴木 和彦
石油連盟 技術環境安全部長
田和 健次
員
〃
2
第2章
事前準備
2-1 事象進展図作成
第3章で詳述するとおり、本調査では 5 事業所を対象に現地調査を実施し、部門ごと階層ごとに意見
交換を行い、製油所の実態を把握したが、その際、当該事業所の事故事例を事前に解析し、その内容を
説明する工程を当日設けることで、意見交換を活性化するよう努めた。
具体的には、対象製油所で平成 17 年以降に発生した事故のなかから、腐食や行止り配管など現在の
製油所の安全管理における重要な論点と思われる典型的なケースを各製油所 1~2 件ずつ計 9 事例選定
した。選定した一つひとつの事例について、事象の流れとそれに伴う原因を時系列で整理してフローに
図示し、再発防止対策と専門家のコメントを付記した事象進展図を作成した。
対象事故事例の選定リストを表 3 に、作成した事象進展図を参考資料 ①に、それぞれ示す。
表 3 事象進展図作成の対象事故事例の選定リスト
製油所
発生日
事故名
選定理由(キーワード)
A社
H17.08.25
減圧蒸留装置の熱交換器から漏洩した重油の火災
a製油所
H18.02.03
桟橋の配管からの硫黄の漏洩
H21.07.27
高級潤滑油製造装置の第 1 減圧蒸留装置のフランジ部分から
保全管理の方法、過去事例
高温の重油が漏洩し発火
の水平展開(繰返し事例)
H22.07.11
重油調合装置の配管のフランジ部分から重油の流出
類似箇所(フランジ)多い
H22.10.03
屋外タンク貯蔵所の側板の腐食による重油の流出
H22.10.22
製油所内の重油移送配管の腐食による重油の流出
H22.12.10
屋外タンク貯蔵所のエアーベントバルブに腐食穿孔からの
原油流出
B社
H18.04.04
BTU 製造装置配管部からの漏洩事故
b製油所
H18.04.10
HS 内接触改質装置安全弁放出配管からの火災事故
H20.03.09
移送取扱所配管からの第 4 類第 2 石油類の流出
H20.04.17
屋外タンク貯蔵所サンプリングノズルからの改質油の流出
H20.07.01
常圧蒸留装置 HGO 抜き出しポンプのメカニカルシールからの 保全管理の方法、運転員の
流出火災
H21.12.15
内面腐食、外面腐食
意識
パラキシレン製造装置内パージ用配管からのパラジエチル
ベンゼン流出事故
C社
H19.06.18
c製油所
オフサイト配管、外面腐食
から重油漏洩
H24.07.19
D社
屋外タンク貯蔵所から装置へのチャージ配管の防油堤貫通部
H18.03.17
d製油所
第二常圧蒸留装置の火災
設備老朽化への対応
LPG 洗浄装置内の砂ろ過装置のドレンバルブから LPG が噴出
し着火
H18.10.05
定期修理中の施設の臭気対策を実施していた機器が爆発
H19.08.22
重油漏洩による火災
H19.11.22
タンクローリーの火災
H21.02.01
製造所の配管からの重油の漏洩
H22.03.05
一般取扱所におけるガソリンの流出
注:太字網掛部が選定事例
3
行止り配管、内面腐食
表 3 事象進展図作成の対象事故事例の選定リスト (続き)
製油所
発生日
事故名
E社
H17.05.29
第 1 常圧蒸留装置の蒸留塔内部での火災
e製油所
H18.04.16
減圧軽油脱硫装置/水素製造装置爆発・火災事故
H18.05.27
流動接触分解装置からの軽油漏洩事故
H18.08.22
ナンバー102 タンク付属配管ナフサ漏洩事故
H18.08.24
海上漏油事故
H18.09.15
#122 タンクルーフへの油漏洩事故
H18.12.29
第 2 接触改質装置第 2 反応器入口配管部漏洩火災事故
H19.01.24
第 20 硫黄回収装置反応炉火災事故
H19.03.23
タンク車への軽油充填中の火災事故
H19.05.13
WT-3 側板からの漏洩事故
H20.03.14
第 1 常圧蒸留装置原油サンプル配管破損による流出
H21.08.08
第 0 号桟橋 A 重油出荷船からの海上漏洩
H21.10.31
廃油配管からの漏洩
H22.04.14
減圧蒸留装置における加熱炉バーナー周りでの火災
H22.07.12
屋外タンク貯蔵所付属配管腐食によるナフサの流出
選定理由(キーワード)
類似箇所(メラパック)多い
行止り配管、内面腐食
注:太字網掛部が選定事例
2-2 事前アンケート調査結果
第3章で詳述するとおり、本調査では 5 事業所を対象に現地調査を実施し、部門ごと階層ごとに意見
交換を行い、製油所の実態を把握したが、その際の事前準備として当日質問する大項目三つ、すなわち、
「設備面」
、
「体制/基準面」
、
「従業員の知識/認識/経験面」の三つについて当該製油所の強みと弱み
を尋ねた。あわせて、競争力を高めるために実施している取組と現在の課題についても回答を得た。
以下に、その結果を整理する。なお、製油所に対して配布した事前アンケート調査票を参考資料 ②
に示す。
設問 1 事故の未然防止にあたり、貴製油所の長所と考えている部分と弱点を抱えている気がかりなと
ころをそれぞれ<設備面>、<体制/基準面>、<従業員の知識/認識/経験面>に分けて、
自由に記述してください。
<設備面の強み>
設備面の強みについては、主な意見として下記に示すとおり、網羅的な点検、検査データの活用、リ
スクベースに基づく余寿命管理、自動化による運転支援、ユーティリティーのバックアップ機能の 5 点
が挙げられた。その他としては、材料選定の工夫やシミュレーションによる運転改善などの意見が挙げ
られた。
網羅的な点検
・ 近年顕在化している保温施工機器の外面腐食対応として、全プロセスユニットを対象に検査基
準を明確にし、運転管理部門と設備管理部門が合同で、保温被覆材の健全性について調査。運
転条件から判断して保温材を撤去し、外面腐食に対する網羅的な検査を実施。
・ 過去の不具合事例に基づく設備点検を重点的・網羅的に実行。運転部門による外観の総点検と
腐食懸念箇所の点検を実行し、顕在化している設備の危険箇所に加えて、潜在的な危険箇所に
ついても改善。
4
検査データの活用
・ 検査用アイソメ図の作成や個別の機器・配管系ごとの過去の検査記録の整理とファイリングを
進め、検査結果の電子データ化を推進。検査データ類を有効に活用できる体制を構築。
・ 設備管理の計画と評価を充実させるため、A-MIS 等の設備管理に関する総合的なデータベース
を構築し、継続的に運用。
リスクベースに基づく余寿命管理
・ 機器・配管系に対してリスクベースに基づく機器保全戦略を作成し、保全計画に反映。余寿命
による発生確率の評価方法や取替基準などの明確な基準を定め、常に同じ尺度でリスク評価を
実施。
・
静機器の余寿命管理には蓄積した技術情報に基づき自社で開発した保全管理システムを使用。
個別の機器単位で劣化・損傷モードを特定し、必要な検査を計画的に実行し、余寿命管理を一
元的に実施。適正な検査周期を設定し、管理基準に基づき計画的に機器を更新。
自動化による運転支援
・
バルブの遠隔操作、ITV 等の遠隔監視、計器類のオンボード化。
・ APC(運転支援システム)の導入による運転の自動化・効率化。
・
運転支援システムを導入。通常の運転からの逸脱を早期に検知し、警告を発するシステムは、
若手運転員の運転監視と最適化操作に有効。
・
振動モニタリングシステムによる大型回転機の運転傾向の常時監視。
ユーティリティーのバックアップ機能
・ 装置群が 3 つのエリアに分かれており、トッパー、改質装置、分解装置、脱硫装置、ユーティ
リティー設備を複数系統保有。装置停止の際にバックアップが可能。
・ 所内で必要な電気やスチームは自家発電設備により 100%自己供給が可能。他のプロセスプラ
ントと共通で自家発電設備を所有し、緊急時にはプラントと連携を密にして安定したユーティ
リティー供給が可能な体制を構築。
その他
・
機器更新時における耐食性・耐久性を考慮した材料選定の実施。
・
熱解析シミュレーションによる加熱炉の運転改善。
・
機械式から電子式への変更による大型回転機ガバナーの制御性の向上と安定化。
・
モペット弁の採用によるレシプロコンプレッサーの運転の安定化。
<設備面の弱み>
設備面の弱みについては、主な意見として下記に示すとおり、設備の老朽化、検査や補修の対象の膨
大さ、構造やレイアウトの複雑さの 3 点が挙げられた。その他としては、自動化設備の導入遅れやオン
サイト優先の検査体制などの意見が挙げられた。
設備の老朽化
・
オンサイト・オフサイトの各種設備は設置以来約 40 年が経過し、更新や補修を継続的に実施
し機能維持を図っているものの、部分的な対応に留まっており、全般的に老朽化。
検査や補修の対象が膨大
・
装置数が多く、検査データが膨大。
5
・ 敷地が細長く、海岸線に面しているオフサイト配管が長大。
・
対象物量が多く、発生予測技術に限界があり、中長期劣化対応が困難。
構造やレイアウトが複雑
・
増強を繰り返してきたため、配管のレイアウトが複雑。
・
配管ラックが多段であり、上部の配管検査が困難。
・
主要設備が 3 箇所に分かれており、連絡配管設備の保全の労力を要す。
・ 道路を横断する埋設配管が多く、検査時の通行制限から逐次検査となり、検査全体の完了まで
時間を要す。
・ 建設年次の古い装置は逐次増設を重ねており、レイアウトエリアや外周道路が狭く、スペース
的に飽和状態。メンテナンス時の仮設場所と駐車場の確保に苦労。
・ オフサイトの桟橋や配管は腐食しやすい環境にあり、構造的にも点検しづらく、設備信頼性と
メンテナンス性の面で課題あり。
その他
・ ESD 時の緊急停止に対する自動化が未導入の設備が一部あり。
・
オンサイトに比べてリスクが低いので、検査対象はオンサイトを優先する傾向あり。
・ 現行法規と比較して、建設当時は耐震性能や耐火・散水等、防消火機能の検討が限定的。近年
の地震を考慮すると、設備の耐震性、液状化対策、護岸などの津波対策等について検討が必要。
<体制/基準面の強み>
体制/基準面の強みについては、主な意見として下記に示すとおり、マニュアルの整備と活用、HAZOP
によるリスク抽出、保安情報の収集と活用、効果的なパトロール、協力会社との連携の 5 点が挙げられ
た。その他としては、所長・副所長の現場巡回や種々の監査などの意見が挙げられた。
マニュアルの整備と活用
・
社内技術基準や規程類が完備。
・ 運転マニュアルの定期改訂を 3 年ごと実施。全装置でフォーマットを統一し、どの章にどのよ
うな内容を記載するか周知。製油部で文書作成や作図等を行い、使用者の立場で読みやすくマ
ニュアルを作成。
・ 「要領書使い切り」により、要領書に従った操作を行う習慣化。理解し難い要領があれば改善
する仕組みを構築。
・
製造各課は運転管理標準に基づき、各装置の緊急時作業指図書を整備。指図書に従い、教育・
訓練を実施し、課題を抽出。課題に基づき指図書を改訂することにより常に緊急時の対応能力
を強化。
・ 不具合の原因調査や対策の検討結果より、製油所の規則類や運転の作業標準類を見直し。改訂
を速やかに実施し、内容を充実化。
HAZOP によるリスク抽出
・ 知識・経験を持った有資格者が各装置 3~5 年ごとに HAZOP レビューを実施。網羅的にリスク
を抽出。
・
SD/SU の手順について Transient Operation HAZOP でレビュー。
保安情報の収集と活用
・
グループ内の製油所や製造所間で事故事例等の水平展開情報が豊富。
6
・ オペレーションシステムを活用し保安情報を本社、各製油所、各部署で共有化。事例対応等に
より業務へ反映。
・ グローバルグループの一員として、海外の情報を入手できる立場。
効果的なパトロール
・
所長が巡回パトロールを行い、現場側との対話を実施。管理職が定修中にパトロールを実施。
・ 運転管理部門と設備管理部門が定期的に合同でパトロールを行い、運転情報と設備管理情報を
共有し、より効果的に設備の点検を実施。不具合の前兆を早期に発見し、対処。
協力会社との連携
・ 協力会社との連携を密にして安全協力体制を確立。安全に関する情報は協力会(工事/陸運/
船舶)を通じて周知。
・ 非定常作業の作業前に行われる連絡調整会議の場に協力会社も参加。作業内容、注意事項等を
共有。
その他
・ 保安管理部門が安全投資方針を策定し、計画計上まで関係部署を指導。事例等を踏まえて適時
監査。
・
所長と運転現場の社員とが安全への想いを語り合い。ほぼ毎朝副所長が運転の現場を訪問し、
朝礼に参加。
・
色々な立場から事業所の監査を実施(ISO、HSSE、監査室、グローバル監査等)
。
・ 非定常作業時は非定常作業計画書を作成し、計画書に基づき作業関係者全員で作業前の打合せ
を実施。必要となる知識や認識を確認し、経験不足をカバー。
<体制/基準面の弱み>
体制/基準面の弱みについては、主な意見として下記に示すとおり、業務量に対する人的リソースの
不足、マニュアルの理解不足、レイアウトに起因するコミュニケーション不足の 3 点が挙げられた。そ
の他としては、管理の仕組みの重さや複雑さなどの意見が挙げられた。
業務量に対する人的リソースの不足
・ 運転員を主体とした体制で危険源を特定しているが、スタートアップ・シャットダウンなどの
非定常作業を推進するマンパワーが不足。
・ 大きな不具合が発生するたびに新たな対策を打ち出して実行しているため、対策の計画および
実行が主な業務となっており、通常業務の PDCA の CA 部分がうまく機能せず。
マニュアルの理解不足
・
世代交代が急速に進むなか、運転マニュアルに対する理解が不十分な若年層が増加。
・ 要領に従った操作を強く指導している結果、マニュアル人間をつくっているのではないかとの
見方あり。手順の背景や根拠の理解が不足。
レイアウトに起因するコミュニケーション不足
・
事務所本館と運転グループ計器室間の物理的距離が離れているため、連絡・連携に難あり。
・ 計器室建屋を運転グループごとに設置しており、敷地内に分散しているため、連絡・連携に難
あり。
7
その他
・
要領や仕組みが重い。仕組みの数が多く複雑。
・ 国内で入手できる災害情報などについては、詳細に検討し、横展開できるほどの内容が少ない
のが現状。
<従業員の知識/認識/経験面の強み>
従業員の知識/認識/経験面の強みについては、主な意見として下記に示すとおり、従業員への要求
事項の明確化、人材育成に向けた基盤整備、技術伝承の推進、長期安定的な現場関与の 4 点が挙げられ
た。その他としては、変更管理の実施などの意見が挙げられた。
従業員への要求事項の明確化
・
運転員の目指すべき姿をプロダクションエンジニア等として明示。
・ プロダクションエンジニア育成体系により、修得すべき知識・技能を明確化。自己開発・集合
教育・研修体系を充実。
・
社員一人ひとりに対して、業務遂行に要求される自らの力量を明確化した個人力量表を作成。
人材育成に向けた基盤整備
・ 指示書に基づく運転監視・運転操作だけでなく、設備・プロセス・システムを論理的に理解し、
相互に関連づけて総合的に判断し、安全で効率的な運転を実現する高度運転技術者を育成。
・ ベテラン社員の退職や運転停止開始の機会減少等を考慮し、社員の教育を専門に行う Learning
Center を発足。教育基本方針規程を制定し、教育に関する会社の役割、管理職の役割、OJT の
重要性を明確化。
・ ベテラン社員のノウハウ伝承とシミュレータ教育の充実を目的に専門チームを発足し、検討を
開始。トレーニングシミュレータを導入し、オペレータの運転停止開始、緊急時対応訓練等を
実施。
技術伝承の推進
・ 計画的な中途採用を進めて世代間の偏りを修正したことで、ベテランと中堅層の運転員による
一対一の技術伝承が可能な状況。
・
ロス予防のための計画的な作業観察を行い、ベテランから若手へ安全面での技術伝承を推進。
・
現場での体験・体感を重視した教育を実施。
・ 異常判断訓練や瞬時判断訓練を定期的に実施し、プロセス異常時に適切に対応できるスキルを
養成。
・
若手社員とベテラン社員を他製油所の SDM へ派遣し、OJT を実施。
・
シミュレータ教育、体感教育、階層別教育の充実による知識の習得。
・
ベテラントレーナーによる OJT 教育を通じた知識、危険度、経験の習得。
長期安定的な現場関与
・
運転員の転勤・異動が比較的少ない。
・ 会社への定着率が高く、多くの社員は当該製油所の勤務経験が長いことで、運転・設備保全に
関して熟知した管理が実行できる素養あり。
その他
・
運転条件や設備改善等の変更管理による安全確認の実施。
8
・ 大きな不具合を経験したことから、安全の重要性、設備の危険性、二度と事故を起こさないと
の認識が向上。
<従業員の知識/認識/経験面の弱み>
従業員の知識/認識/経験面の弱みについては、主な意見として下記に示すとおり、人員構成の偏り、
各種経験不足の 2 点が挙げられた。その他としては、部門間のコミュニケーション不足などの意見が挙
げられた。
人員構成の偏り
・
40 代の割合の少なさ。ベテラン層の早期退職。
・
世代交代による若手社員の増加。
各種経験不足
・
中堅層とベテランが特定の職場に長期間固定され、他職場を経験する機会が少ない。
・
定期検査が 4 年ごとであり、40 代の中堅社員数が少なく、経験者不足が進行。
・
中堅社員のリーダーとしての経験不足。
・
世代交代による OJT トレーナー自身の経験不足。
・
長期間にわたる装置運転停止による通常運転の経験不足。
その他
・
ベテラン社員に対するフォローアップ研修がない。
・ 業務負荷の増大傾向が続き、運転管理部門、設備管理部門、保安管理部門の垣根を越えた検討
やコミュニケーションが不十分。
設問 2 貴製油所の競争力を高めるために、現在どのような取組を進めており、どこに課題があると考
えていますか。
<進めている取組>
競争力強化に向けた取組としては、下記に示すとおり、潜在リスクの抽出や非定常作業の事前準備な
どの事項が挙げられた。
・
オフサイト遊休配管の管理を強化。
・
3 地区一括の SD メンテナンスを実施。
・
作業前に安全作業自己評価を実施。
・ 教育訓練ツールのカリキュラムを強化。
・ 装置の潜在的リスクを継続的に発掘。リスクユニットとして数値化し、確実に削減。
・
トラブル事例や定期整備のデータを機器・保全戦略に反映し、設備の信頼性を改善。
・ 人件費、保全費、エネルギーコスト等の工場運営に係る経費を継続的に注視し、収益の改善に
向けた計画と実行を強化。
・
MSK(皆で・作業・確認)活動を行い、多視点で潜在危険を発掘。
・
重大災害防止のため、リスクランク A 案件の実施は、経営層が管理。
・
怖さを植えつける教育や課長職層を対象とした安全文化マネジメント研修を開講。
・
設備信頼性向上のため、シミュレーション技術を活用。新規検査技術を開発、導入。
・
スタートアップ・シャットダウン工程におけるプロセス面での危険源発掘を HAZOP で推進。
9
・ 安全・安定操業、高品質、環境保全を最優先に持続的競争力をつけるため、心技体の 3 本柱を
ベースとした人財力アップ全社運動を展開。
・
保全基盤資料の整備を進め、各種保全データを一元管理し、各部位の履歴や寿命を見える化。
・ 関係部署の連携や担当者の意識・スキル向上を図るため、人材育成とコミュニケーション強化
に尽力。
・ 慎重に慎重を重ねて安全第一に各装置のスタートアップ作業を実施。非定常作業計画書を作成
し、その教育に重点を置くよう尽力。
・ 設備の構造上腐食環境が厳しく漏れが生じた場合の影響が大きい桟橋設備、オフサイト配管等
について、構造・材質変更等によりメンテナンスフリー化を図り、不要な設備は撤去。
<現在の課題>
現在の課題としては、下記に示すとおり、教育体制やマンパワー不足などの事項が挙げられた。
・ 教育・訓練と省エネの推進が課題。
・
中長期劣化対応の物量が多いことが課題。
・
スクリーニング検査技術の開発による検査の短期化が課題。
・
マンパワー不足の面があり、OB への支援依頼等の人材活用が課題。
・ リスク案件を抜けなく俎上に上げることと予算を確実に確保することが課題。
・ 効果的な研修カリキュラムを組むための情報や専門家の不足を補うことが課題。
2-3 事前入手データ整理
第3章で詳述するとおり、本調査では 5 事業所を対象に現地調査を実施したが、その現地調査に先立
ち、事前アンケート調査を実施するのと同じタイミングで、製油所から関連資料の提供を求めた。それ
らのなかから、以下では、定量的に分析できる四つのデータ、すなわち、生産設備の稼働状況、運転管
理部門と設備管理部門の要員数、保全管理費、労働災害発生状況の四つについて、直近 5 年間の推移を
整理する。
<生産設備の稼働状況>
生産設備の稼働状況の推移を表 4 に示す。震災の影響を別にすれば、稼働状況はほぼ一律で低下傾向
にあり、2011 年度でみると 2007 年度に比べて 1 割程度の減産となっている。
表 4 生産設備の稼働状況の推移
2007
2008
2009
2010
2011
A 社 a 製油所
トッパー処理量
1.00
0.97
1.02
0.90
0.90
B 社 b 製油所
常圧蒸留装置通油糧
1.00
1.00
0.95
1.07
0.85
C 社 c 製油所
トッパー稼働率
1.00
0.97
0.93
0.89
0.91
D 社 d 製油所
原油処理稼働率
1.00
0.93
0.88
0.91
0.96
E 社 e 製油所
常圧蒸留装置稼働率
1.00
0.90
0.99
0.91
0.00
1.00
0.95
0.95
0.93
0.72
5 製油所平均
注 1:各製油所とも 2007 年度をベースとした比率により表記
注 2:E 社 e 製油所の 2011 年は震災の影響で設備が全停
10
<運転管理部門と設備管理部門の要員数>
運転管理部門の要員数の推移を表 5 に示す。どの製油所でみても、製造を担う運転管理部門の要員数
には大きな変化がなく、総じて安定している状況にある。
表 5 運転管理部門の要員数の推移
2008
2009
2010
2011
2012
A 社 a 製油所
1.00
0.97
0.97
0.96
0.96
B 社 b 製油所
1.00
1.03
1.00
1.02
1.01
C 社 c 製油所
1.00
1.03
1.08
1.10
1.07
D 社 d 製油所
1.00
1.01
1.00
0.99
1.00
E 社 e 製油所
1.00
1.03
1.04
1.07
1.04
5 製油所平均
1.00
1.01
1.02
1.03
1.01
注:各製油所とも 2008 年度をベースとした比率により表記
一方、設備管理部門の要員数の推移を表 6 に示す。運転管理部門の状況とは異なり、保全を担う設備
管理部門の要員数は 5 製油所中 4 製油所において増加傾向を示している。2011 年度でみると 2007 年度
に比べて 1~2 割程度の増員となっている。
表 6 設備管理部門の要員数の推移
2008
2009
2010
2011
2012
A 社 a 製油所
1.00
1.00
0.96
0.95
0.95
B 社 b 製油所
1.00
1.07
1.13
1.09
1.15
C 社 c 製油所
1.00
1.06
1.18
1.16
1.28
D 社 d 製油所
1.00
1.12
1.07
1.14
1.11
E 社 e 製油所
1.00
1.05
1.29
1.19
1.19
5 製油所平均
1.00
1.06
1.13
1.11
1.14
注:各製油所とも 2008 年度をベースとした比率により表記
<保全管理費>
保全管理費の推移を表 7 に示す。定期修理や機器更新をいつ実施するかで保全管理費は大きな影響を
受ける要素が強く、各社ともかなり大きなばらつきを示しており、一定の傾向を読み取ることが困難な
結果となった。ただし、単純に 2007 年度と 2011 年度を比較すると、2 割程度の減少傾向を示している。
表 7 保全管理費の推移
2007
2008
2009
2010
2011
A 社 a 製油所
1.00
0.98
0.77
0.76
0.84
C 社 c 製油所
1.00
0.47
0.83
0.32
0.68
D 社 d 製油所
1.00
1.00
2.38
1.38
0.75
E 社 e 製油所
1.00
1.24
1.11
0.85
0.99
4 製油所平均
1.00
0.92
1.27
0.83
0.82
注 1:各製油所とも 2008 年度をベースとした比率により表記
注 2:B 社 b 製油所からはデータを取得できず
11
<労働災害発生状況>
労働災害発生状況の推移を表 8 に示す。年度ごとでみても、製油所ごとでみても、かなり大きなばら
つきが生じている実態にある。
表 8 労働災害発生状況の推移
2007
2008
2009
2010
2011
2012
A 社 a 製油所
発生件数
-
17
14
17
9
15
B 社 b 製油所
発生件数
-
4
2
0
3
1
C 社全製油所
度数率
0.00
0.33
0.00
0.34
0.70
-
D 社 d 製油所
度数率
-
0.00
0.00
1.03
0.00
0.00
E 社 e 製油所
度数率
-
1.38
0.00
2.60
1.37
5.40
注:C 社に関しては c 製油所のみならず全製油所を平均したデータを表記
12
第3章
製油所現地調査
3-1 現地調査計画
本調査では第2章に記した事前準備を済ませた上で、石油会社による自主的なリスク管理体制の向上
を政策的に後押しする観点から、事故の背景にある様々な要因を把握すべく現地調査を実施した。
現地調査の体制は、経済産業省 資源エネルギー庁 資源・燃料部 石油精製備蓄課が、製油所や石油
化学プラントにおける事故改善指導の経験や IT コンサルティング等の経験を有する有識者・専門家の
協力を得る形で行った。具体的には、表 2 に示した 3 名の委員を中心とする調査チームを構成し、石油
元売り 5 社から 1 製油所ずつ計 5 事業所を選定・訪問し、種々の意見を交換した。
調査方法は、対象製油所を原則 2 回訪問し、階層(製油所幹部層/中間管理職層/現場担当者層)と
部門(運転管理部門/設備管理部門/保安管理部門)ごとにグループを分けて、意見交換を実施した。
各製油所への訪問日を表 9 に、現地調査当日のスケジュールを表 10 に、それぞれ示す。
表 9 調査対象製油所への訪問日時
対象製油所
A社a製油所
訪問日
第 1 回:平成 25 年 1 月 31 日(木)
第 2 回:平成 25 年 3 月 15 日(金)
B社b製油所
第 1 回:平成 25 年 2 月 04 日(月)
第 2 回:平成 25 年 3 月 11 日(月)
C社c製油所
第 1 回:平成 25 年 2 月 06 日(水)
第 2 回:平成 25 年 3 月 19 日(火)
D社d製油所
第 1 回:平成 25 年 2 月 07 日(木)
E社e製油所
第 1 回:平成 25 年 2 月 18 日(月)
第 2 回:平成 25 年 3 月 22 日(金)
注:D 社 d 製油所だけは第 1 回現地調査のみ実施
表 10 現地調査当日のスケジュール
日
第1回
取
内
容
製油所幹部層、中間管理職層を対象とした実態把握
09:00~09:30 当該製油所の概要と安全活動の紹介(製油所)
09:30~10:30 当該製油所での事故事例(2 事例)の事象進展図による解析内容
09:30~10:30 (調査チームが事前に準備)を踏まえた意見交換
10:30~12:00 製油所幹部層意見交換(所長、副所長、部長クラス)
13:00~14:30 運転管理部門意見交換(課長、係長)
14:30~16:00 設備管理部門意見交換(課長、係長)
16:00~17:30 保安管理部門意見交換(課長、係長)
第2回
現場担当者層を対象とした実態把握及び現地調査結果の報告
13:00~14:30 運転管理部門意見交換(直長、主任、スタッフ、オペレータ)
14:30~16:00 設備管理部門意見交換(主任、スタッフ)
16:00~17:30 保安管理部門意見交換(主任、スタッフ)
17:30~17:40 結果報告の準備(調査チーム)
17:40~18:00 現地調査の結果報告(委員長からの講評)
注:意見交換の時間帯は製油所により若干異なる
13
3-2 現地調査確認項目
現地調査で確認する内容としては、「設備面」、
「体制/基準面」、「従業員の知識/認識/経験面」の
三つに分けて製油所が現在抱えている問題点や課題を明確にすべく質問項目を設定した。さらに、項目
の重要度を踏まえて、対象階層・対象部門ごとに質問の優先順位をつけて、当日詳細に踏み込む内容を
深掘質問として別途用意した。
現地調査確認項目の一覧を表 11 に、その深掘質問リストを参考資料 ③に、それぞれ示す。
表 11 現地調査確認項目一覧
(1)設備面
① 最近(過去5、6年間)の事故・トラブルはどのプラント(常圧蒸留装置、水素化重油脱硫
装置等)
、設備(加熱炉、塔槽、熱交換器、配管、ポンプ等)に多いか
② そしてどのような原因(劣化、基準等不備、知識不足等)が多いか
③ オンサイトとオフサイトの事故・トラブルにはどのような違いがあるか
④ オンサイトとオフサイトでは保全の方法や留意するポイントに相違はあるか
⑤ 配管の外面腐食は、どのような箇所に多いか
⑥ 配管の外面腐食の早期検知と対応はどのようにしているか
⑦ 配管において「腐食はマイルドでも長期間の使用で内面減肉が進み漏洩に至る」という事例
が増えていないか(行き止まり配管や盲腸配管を含めて)
⑧ 配管の緩やかな内面減肉にどのような対応をとっているか、また、どのような難しさがある
か
⑨ 設備の信頼性維持に関して、課題や困っていることは何か(例えば、工事品質不良、エアフ
ィンクーラーなど検査技術の確立していないもの)
(2)体制/基準面
① 緊急事態に対する網羅性向上のため、運転マニュアルはどのような工夫をしているか
(HAZOP 等の検討結果を運転マニュアルに反映するなど)
② マニュアルを読みやすく、かつ、背景や根拠を理解しやすくするため、どのような工夫をし
ているか
③ 運転情報(引き継ぎ記録など)
・保全情報(保全記録など)
・安全情報(ヒヤリハットなど)
等を電子化しているか。その場合どのように活用しているか
④ 国内だけでなく海外の保安情報を広く集めて活用しているか。その場合どのように活用して
いるか
⑤ 保安情報を共有化(運転管理部門、設備管理部門、保安管理部門、本社等)し、業務に反映
しているか。
⑥ 保安情報を具体的に手順書や規定に反映しているか。その実施にあたっての課題は何か
(3)従業員の知識/認識/経験面
① 世代交代が進んでいると思うが、技術・技能の伝承にどのような問題があるか
② SDM の長周期化に伴いシャットダウンやスタートアップを経験することが少なくなってい
るが、これに対応してどのような教育訓練を行っているか
③ 運転や保全を担う中堅・若手の意欲、感性及び現場におけるコミュニケーションはここ 5、
6年程度でどのように変化してきているか
④ 技術・技能の伝承にどのように取り組んでいるか
⑤ 机上の教育や OJT において、実際に安全を高めるためにどのように工夫しているか(体験
教育、訓練プラント等)
⑥ 中堅・若手のオペレータがプロセス異常や想定外の緊急事態に臨機応変に対応できる能力を
どのように養成しているか
⑦ 技術・技能の伝承において、実行上どのような工夫をしているか
14
3-3 現地調査結果
前述した現地調査計画および現地調査確認項目に基づき、現地調査を実施した。
現地調査では、現地調査確認項目において分類した「設備面」、
「体制/基準面」、「知識/認識/経験
面」の三つに分けて、それぞれの項目ごとに「保安確保の上での課題」および「支援に向けた要望」の
二点を聴取した。そのまとめとして、「保安情報面」という項目を追加して全体を括り直し、現地調査で
聴取した課題と要望の相互関係を整理すると表 12 のとおりとなる。
以下本節では、現地調査における聴取内容について、項目ごと製油所別に列挙して示す。なお、表 12
に示すとおり、得られた調査結果には製油所横断的な意見もあれば、1 製油所のみが単独で回答した個
別の意見もみられる。それらがわかるように、各々の見出しの後には回答した製油所数を明記した。
15
○
保全費の適正さ
○
○
設備面
自然災害(地震・津波など)への対応の
○
困難さ
体制/
基準面
人手不足に起因するゆとりのなさ
○
手順書の記載方針
○
操業管理のマネジメントシステム確立
○
5
検査技術の開発
○
○
○
○
3
不用配管撤去の支援
○
○
○
5
○
3
○
計
2
○
2
自然災害(地震・津波など)への対策の
支援
○
○
○
3
1
○
2
○
保安情報の収集・活用不足
支援に向けた要望
E社e製油所
○
○
計
D社d製油所
不用配管撤去の遅れ
C社c製油所
○
B社b製油所
○
A社a製油所
C社c製油所
○
E社e製油所
B社b製油所
検査手法の限界
保安確保の上での課題
D社d製油所
A社a製油所
表 12 現地調査で聴取した課題と要望の関係
保安情報面
16
○
1
○
保全基盤情報の整備の遅れ
統合保安情報基盤の整備の遅れと
保安情報分析環境の不備
○
3
○
1
○
1
業界共通の保安情報を収集・活用する
○
システム
IT を用いた業務支援ツールの開発
○
○
○
○
○
製造メーカでの製造中止による部品
供給停止の対応
3
3
○
1
○
2
人材育成の難しさ
知識/認識/経験面
・経験・体験する機会の減少
○
○
○
・意欲と感性の低下と維持
○
○
○
・現場の意欲と意識づけ
・きめ細かなコミュニケーション
・訓練プラント・シミュレータの
有効性確保
人員構成の偏りへの対応
3
○
○
○
○
○
3
○
○
教育・訓練センターの創設
1
2
○
3
実機に近い訓練プラント・シミュレータ
の開発
○
○
○
3
○
3
1
規制緩和の要望
16
○
○
(1)保安確保の上での課題
<設備面>
検査手法の限界(5 社が該当)
・ 外面腐食の早期発見や部材劣化の寿命予測などに関する現行の検査手法は、必ずしも万能では
ない。検査結果の的中率は低く、抜き取り検査の代表性を担保することは容易ではない。こう
した事態への対応として、検査ポイントや抜き取りサンプル数を増やしたり、実際に保温材を
はがしたりすると、今度は手間やコストに跳ね返ってしまう。(A 社 a 製油所)
・ 外面腐食の検査は保温板金や端末シールの状況を点検し、不良箇所について放射線検査や目視
検査を実施している。検査対象の機器・配管は膨大で、このように手間暇かけて検査をしても
その的中率は低く、かつ検査費用以外に足場の仮設や保温板金の撤去・復旧の検査付帯工事に
多くの費用がかかるという問題がある。
(B 社 b 製油所)
・ 外面腐食の早期発見や部材劣化の寿命予測などに関する現行の検査手法は、必ずしも万能では
ない。検査結果の的中率は低く、予見性や管理性が難しい。こうした事態への対応として、エ
リア管理およびポイントを明確にした網羅性の確保、小口径配管の全数保温外しを実施してい
るが、大口径配管については今後の課題になっている。
(C 社 c 製油所)
・ 外面腐食の検査は保温板金や端末シールの状況を点検し、不良箇所について目視を主体に検査
を実施している。検査対象の機器・配管は膨大で、このように手間暇かけて検査をしてもその
的中率は低く、かつ検査費用以外に足場の仮設やアスベストを含む保温・板金の撤去・復旧の
検査付帯工事により多くの費用がかかるという問題がある。
(D 社 d 製油所)
・ オンサイト、オフサイトとも配管の量は膨大である。全面検査が理想であるがコスト面からそ
れはできずエリア管理での検査と配管の一本一本の検査を腐食環境や配管敷設場所等を考慮
に入れて行っているが、内面腐食、外面腐食とも確実にキャッチできる検査手法がないのが現
状であり、よいスクリーニング手法の開発が望まれる。
(E 社 e 製油所)
不用配管撤去の遅れ(3 社が該当)
・ 人手不足で業務量が多い現状を踏まえると、盲腸配管や行き止まり配管などの不用配管は逸早
く撤去し、管理ポイントを減らしていくことが望ましいが、膨大な時間と費用がかかることか
ら、あまり対応が進んでいない実態にある。
(A 社 a 製油所)
・ 盲腸配管や行止り配管などの不用配管は逸早く撤去し、管理ポイントを減らしていくことが望
ましいが、膨大な時間と費用がかかることから、対応が本格化するのはこれからである。(C
社 c 製油所)
・ 行止り配管の数を把握し切れていない。オンサイトの行止り配管は撤去しようと考えているが、
オフサイトの行止り配管、不用配管に関してはなにかに使えるのではないか、撤去すると運用
面で支障が出るのではないかなどと考慮し、漏洩防止の対策をとりながら残しているのが現状
である。撤去にはコストがかかるため補助金等があるとよいと考えている。
(E 社 e 製油所)
保全費の適正さ(2 社が該当)
・ 保全費の手当ての仕方について、幹部層と設備部門管理職層の意見が異なる。幹部層は過去 10
年くらいは保全費のレベルが十分でなかったと認識しているのに対して、設備部門管理職層は
現場で工夫を重ねることにより現状レベルでも不足はないと考えている。このように意見の分
かれはみられるものの、これは、幹部層としては設備の老朽化を踏まえて保安の確保のために
も経営としてできるだけ保全に手当てしたいとの思いの現れであり、設備管理部門としては予
算の枠内で工夫することにより一応の対応はできているという理解であると考えられ、予算が
増えれば、さらに実施すべきことがあるとの認識は、両者に一致しているものと思われる。
(A
社 a 製油所)
17
・ 保全費の手当ての仕方について、過去の社内事故事例を契機として、リスク評価により重要度
を明確にして、重要度の高いものから実施していくルールを確立し、この方針に沿って必要額
の保全費が確保されている。
(C 社 c 製油所)
自然災害(地震・津波など)への対応の困難さ(2 社が該当)
・
地震の対策については対応が進み、一部を除いて対応が終了している。一方津波に関しては、
東日本大震災の後に津波の規模の見直しが進み、軒並みに想定津波高さが嵩上げされた。当工
場においても想定津波高さが当初の 2 倍となり、護岸をはるかに超えて冠水するレベルとなっ
たが、設備対応はもとより避難場所の確保が課題となっている。
(B 社 b 製油所)
・ 地上配管での対策は現状では特に問題ないが、桟橋周りの配管に対する津波対策を行うには大
きな費用が必要となる。また、液状化対策、耐震化対策を進めるには膨大なコストとともに労
力、時間を必要とするので厳しいのが現状である。
(E 社 e 製油所)
<体制/基準面>
人手不足に起因するゆとりのなさ(1 社が該当)
・ 限られた人員で数多くの業務に従事せざるを得ないのが現在の製油所の状況であり、現場はゆ
とりのない状態に追い込まれている。抜本的な解決策としては、人員を増員するか、不要な業
務を廃止し負荷を減らすことが考えられるが、今回話を聴く限りでは、どちらも十分には対応
されていない模様である。
(A 社 a 製油所)
手順書の記載方針(2 社が該当)
・
どこまで細かく手順書に記載すべきかについて、幹部層と運転部門管理職層の意見が異なる。
幹部層は現状の手順書では細かな事項までは定めていないと言う一方で、運転部門管理職層は
手順書では事細かに記載し、できるだけ作業を標準化することが望ましいと考えている。この
ように意見の分かれはみられるものの、これは、基本的には手順書にしっかり記載した上で、
その根拠を理解させることが重要であるという認識については、両者に一致しているものと思
われる。
(A 社 a 製油所)
・ どこまで細かく手順書に記載すべきかについては、手順書で定めるべき内容やレベルについて、
安全に停止するために必要な内容を記載すべきという意見であった。幹部層および管理職層と
も、手順書の限界をよく認識し、その現場教育と組み合わせる等、人材育成に向けた工夫をし
ている。今後の人員構成の変化が生じても、現状のレベルを維持、向上できるように、柔軟に
手順書の内容や訓練を適切に実施していくことが必要であり、そうした人材育成や技術伝承の
ノウハウを継続して蓄積することが望まれる。(C 社 c 製油所)
操業管理のマネジメントシステム確立(1 社が該当)
・ 資本関係の変更により、外資系の親会社が支配株主ではなくなった。操業管理に関わるマネジ
メントシステムは親会社のシステムに依っているが、このシステムは親会社の本社で必要な情
報を把握することを目的とした重厚なシステムである。技術、情報など多くをこのシステムに
頼ってきた状況から脱皮し、当社独自のシステム、技術を確立することが喫緊の課題となって
いる。
(B 社 b 製油所)
18
<保安情報面>
保安情報の収集・活用不足(3 社が該当)
・ 外資系の親会社からの技術、保安情報などの情報ルートが閉ざされた。事故・トラブルの保安
情報の活用は、繰り返し事故の防止といった観点で最も効果的で効率的な方法である。石油精
製プラントは、どの製油所でも類似のプロセスであり、同じ事故が他の製油所でも発生する可
能性が高い。国内の情報に関しては、事故の調査に関わる情報開示が不十分で活用に支障をき
たしている実態にある。
(B 社 b 製油所)
・
保安情報は自社および海外石油会社、コンビナート内から収集している。保安情報の収集は、
事故発生時には公式、非公式を含め積極的に動くが、通常時に国内で入手する情報は、原因、
背景等に関する十分な情報が公開されていないため、活用できないことが多い。活用のために
は、少なくも米国 CSB の事故事例データベースのようなレベルが期待されている。(C 社 c 製
油所)
・ 社内の保安情報を収集・整理しているが、社内に流すのに精一杯の状態で上手に活用し切れて
いないのが現状である。また、海外の保安情報に関しては入手方法もわからないのでまったく
手着かずの状態である。
(E 社 e 製油所)
保全基盤情報の整備の遅れ(1 社が該当)
・ 不具合への対応が続いたことや製油所の規模が大きいため、オフサイトに関する保全基盤情報
の整備が遅れている。現在、人員を動員し整備を進めている。(E 社 e 製油所)
統合保安情報基盤の整備の遅れと保安情報分析環境の不備(1 社が該当)
・
不具合などの保安情報を IT 化しており、PC 上から検索などができる仕組みはできているが、
十分に活用し切れていないのが現状である。運転に関する日誌は紙ベースで行っている。また、
設備管理にあたっての保全情報のシステム化、配管図面の 3 次元化などは、まだ手が回ってい
ないのが現状である。
(E 社 e 製油所)
<知識/認識/経験面>
人材育成の難しさ : 経験・体験する機会の減少(3 社が該当)
・ 現在の石油産業の趨勢として新たにプラントを立ち上げるような事業環境にはなく、若手や中
堅がかつてのようには建設や試運転の機会に恵まれていない。4 年連続運転が実現されたこと
で、定修の実施頻度も少なくなっている。これらの結果として、多様な経験を積み上げること
ができておらず、個々の力量を高めるために人材育成を効率的に進めることが非常に難しくな
っている。
(A 社 a 製油所)
・ 4 年連続運転が定着したことで、定修の実施頻度も少なくなっている。また運転が安定し、事
故・トラブル等異常事態を経験する機会が少なくなった。これらの結果として、多様な経験を
積み上げることができておらず、個々の力量を高めるために人材育成を効率的に進めることが
非常に難しくなっている。
(B 社 b 製油所)
19
・ 人材育成のための教育計画の密度は濃く、教育訓練量はこれを受ける若手にとって相当のロー
ドになっている。5 年間にわたる教育訓練計画を達成するため、夜勤での教育、直勤務からの
一時的離脱、各課への教育担当者の配置、試験等による進捗管理等、様々な工夫を凝らして教
育訓練を行っており、計画は達成できている。運転員からは人手不足により教育が追い着かな
いといった悩みは聞かれなかった。しかし、その密度ゆえ、受講中の精神的フォロー、5 年終
了後の反動による気の緩みへの対応が必要になっている状況であり、人員的にはゆとりがある
状況ではなかった。若手の負担感を緩和する継続的なフォローを行い、意欲や感性の減退が生
じないようにする必要がある。また、今後キャリア採用により 30 才台の新入社員数が増加し
てきた場合の教育方法は、新卒者とは異なる手法が必要になると考えられ、新たな工夫を要す
るものと考えられる。
(C 社 c 製油所)
人材育成の難しさ : 意欲と感性の低下と維持(3 社が該当)
・
幹部層や中間管理職層は「言われたことしかやろうとしない」若手の姿勢を問題視している。
特に、向上心や気づきの感覚などスタッフの資質に関して厳しい見方がなされている。(A 社 a
製油所)
・ 幹部層は「親会社に頼り切って自立心の乏しい」社員の姿勢を問題視し、中間管理職層は「言
われたことしかやろうとしない」若手の姿勢を問題視している。
(B 社 b 製油所)
・ 若手に対し個人特性表を作成させて開示させ、意欲と感性の維持、向上の工夫をしている。若
手の特性を認識した活動であり、若手の成長や将来の人員構成の変化に合わせて、こうした認
識や制度を柔軟に維持することが望まれる。
(C 社 c 製油所)
人材育成の難しさ : 現場の意欲と意識づけ(1 社が該当)
・ ベテランの中には過去に多くのトラブルを経験した者がプラントをよく知っているという悪い
風潮がある。役割分担、責任を明確にして業務に対する意識づけを進めていくことが課題であ
る。
(E 社 e 製油所)
人材育成の難しさ : きめ細かなコミュニケーション(2 社が該当)
・ 現場への深い関与や福利厚生面を含めた濃密なつきあいなど、かつては当たり前のように行わ
れていたきめ細かなコミュニケーションが弱まっている傾向を指摘する声が上がっており、な
にか工夫や配慮が必要な状況にある。(A 社 a 製油所)
・ 若手に実機器を分担させて、改造や保守などを自分で考えさせ、周囲からは声かけ等のサポー
トを行いコミュニケーションの強化を図っている。また、課長が極力現場を回り、所長が現場
と話す場合は、まず、運転員等現場が先に話す等の工夫を行い、コミュニュケーションの維持
に努めている。将来にわたり、こうした制度や工夫を維持することが望まれる。
(C 社 c 製油所)
人材育成の難しさ : 訓練プラント・シミュレータの有効性確保(3 社が該当)
・ 訓練プラントが実際に役立つかどうか、幹部層と運転部門管理職層の意見が異なる。幹部層は
訓練プラントに一定の価値を認めているが、運転部門管理職層はやや厳しい見方をしており、
もう少し実プラントの特性に近い訓練プラントが必要と感じている。このように意見の分かれ
はみられるものの、これは、基本的なことを学ぶ訓練プラントと実機に近い訓練プラントの両
者が必要であり、現場の運転管理部門としては実機に近い訓練プラントまで整備されていると、
より有効であるという認識を抱いているものと考えられる。見方を変えれば、これは訓練プラ
ントの有効性のレベルが異なるだけであり、有効性自体を否定するものではないと思われる。
(A 社 a 製油所)
20
・ 訓練プラントが実際に役立つかどうか、幹部層と運転部門管理職層の意見に大きな違いはなか
った。ただ、共通的訓練プラントに対し一定の価値を認めているが、実現に対しては懐疑的な
見方が共通している。すなわち、得られる成果を最大限のものとするために必要な要件レベル
が高く、実施に向けては石油業界が一体になる必要性を示唆している。(C 社 c 製油所)
・ 運転員の教育に訓練シミュレータを導入しているが、コストが高いため全装置のシミュレータ
がないのが現状である。また、業界で共有のシミュレータを持つことはよい事だと考えている。
企業のプロセス特性をすべて組み込むのは無理であるが、基礎を学ぶ上で業界共有のシミュレ
ータは役に立つと考えている。
(E 社 e 製油所)
人員構成の偏りへの対応(1 社が該当)
・
当製油所の人員構成は、54 才以上と 30 才以下で計約 82%を占めており、2 極分化している。
このため、若手への技術伝承を急いでいる。そのため、人員育成方法や技術伝承方法に対し、
様々な工夫が凝らされている。しかし、今後 10 年程度で上の年齢層が退職すると一挙に若返
り、現在の若手(10 年後の中堅)が製油所の中核を担うこととなる。その時点では、現在の中
堅クラスが少数になり、現在とは様相を異にする世代間の関係が生じる可能性がある。そのた
め、キャリア採用の推進などの長期的努力を行っている。(C 社 c 製油所)
(2)支援に向けた要望
<設備面>
検査技術の開発(5 社が要望)
・ 外面腐食の早期発見を可能にする検査技術の開発が望まれている。長大な配管を対象に補修す
べき部分をピンポイントで正確に予測できる革新的な技術開発を現場は求めている。(A 社 a
製油所)
・
外面腐食の検出を可能にする非破壊検査技術の開発を要望している。学会、非破壊検査業界、
石油業界等が連携して革新的な技術開発に取り組み、長大な配管を対象に腐食箇所、腐食の程
度を精度よく検出できる技術の開発が望まれる。
(B 社 b 製油所)
・ 外面腐食では、保温除去等が必要でありコストが大きい。早期発見を可能にする検査技術の開
発が望まれている。また、エアフィンクーラーのチューブの検査速度の向上も望んでいる。全
数検査への道が開ければ、より網羅的な検査が可能になり、安全性が向上することが期待され
る。また、学会等で検討された手法の実施にあたっては、定量的データが少なく、実用化には
時間を要するとの意見である。
(C 社 c 製油所)
・ 塔槽の最上部の保温材を撤去しないで外面腐食を精度よく検査できる方法の開発、外面腐食部
分の補修に関する基準の緩和の検討・研究などの要望があがった。(D 社 d 製油所)
・ 配管の検査に関しては対象とする物量が多大でコストがかかる。また、外面腐食の検査におい
ても腐食の程度を精度よく検出するのは大変である。腐食箇所の早期検知手法等につき効率的
なスクリーニング手法を学会や業界全体で共通の問題として検討し、開発することが望まれる。
(E 社 e 製油所)
不用配管撤去の支援(3 社が要望)
・ 設備の廃棄は直接的には利益を生まないため、必要な投資が見送られる傾向が強い。しかしな
がら、少ない人員で現場を安全に維持していくためには、不用配管の撤去は必須の措置である
と考えられ、必要な費用を公的に支援していくことも検討に値する。
(A 社 a 製油所)
・ 設備の廃棄は直接的には利益を生まないため、必要な投資が見送られる傾向が強い。しかしな
がら、少ない人員で現場を安全に維持していくためには、不用配管の撤去は必須の措置である
と考えられ、必要な費用を公的に支援していくことも検討に値する。
(C 社 c 製油所)
21
・ 行止り配管、不要配管はその量も多く撤去にはコストがかかる。また、アスベストの保温材を
使用している設備や配管の検査には厳しい作業環境を整備する必要があり、多大なコストがか
かるので補助金が望まれる。
(E 社 e 製油所)
自然災害(地震・津波など)への対策の支援(3 社が要望)
・ 地震や津波などの自然災害を防止するための設備的な対策には、大規模な出費が必要となるた
め、すべてを事業者の負担とするのではなく、行政の支援を求める声が上がっている。(A 社 a
製油所)
・ 特に津波に対し設備の損傷を防止することは現実的ではないが、人身災害を防止するための対
策、被害の拡大を防止するための対策、早期に石油製品の供給を可能とする対策など、企業努
力では実現できない対策について国の支援を要望している。
(B 社 b 製油所)
・ 地震や津波などの自然災害に対し、種々検討を実施しているが、津波に対しては避難優先で対
応する方針である。また、プラントに対する耐震性チェックや対策実施はすでに終了しており、
行政への支援に関する現時点での具体的な要望はなかった。ただし、今後、護岸等の改修など
が必要になった場合の国の支援に対する要望は、共通的にあるものと思われる。
(C 社 c 製油
所)
<保安情報面>
業界共通の保安情報を収集・活用するシステム(3 社が要望)
・ 事故の再発に最も効果的・効率的な国内外の保安情報を収集し、水平展開しやすいように加工
して提供する仕組みを要望している。また国内の事故事例について情報の開示が不十分なので、
監督官庁は報告された事故調査報告書を公開することを徹底することが望まれる。
(B 社 b 製
油所)
・
業界共通の保安情報を収集・活用するシステムについて要望があがった。(D 社 d 製油所)
・ 社内の不具合情報は収集・整理して流しているが、海外の事故をはじめとする保安情報に関し
ては入手方法がわからずまったく手着かずの状況である。保安情報に関して業界全体で共有す
るシステムを作り、内容を分析した上で加工して情報を提供するようなシステムがあることが
望まれる。
(E 社 e 製油所)
IT を用いた業務支援ツールの開発(3 社が要望)
・ 小画面で持ち運びできる端末型の手順書、オフサイトでの管理ポイントの現況を見える化する
ためのツール、種々の運転情報から自動的に判断して検査ポイントを決定する手法など、製油
所の現場で役立ちそうな支援ツールを IT を用いて開発することが望まれている。
(A 社 a 製油
所)
・ IT を用いた支援ツールの開発を要望する声があがっている。
(B 社 b 製油所)
・
製油所では設備図面等の更新に時間と手間がかかり、こうした面で IT 技術により、円滑に最
新版管理ができれば、有効なツールとして歓迎されると思われる。さらに、保全工事のリスク
ランクづけを効率的に実施できる IT 技術の開発も望まれている。製油所における IT 技術の開
発余地は大きいと考えられ、IT 会社との情報交換、IT 技術開発、導入に対する支援などが必要
と考えられる。
(C 社 c 製油所)
製造メーカでの製造中止による部品供給停止の対応(1 社が要望)
・ DCS や計装関係について、製造メーカでの製造中止による部品供給停止の対応に関する要望が
あがった。
(D 社 d 製油所)
22
<知識/認識/経験面>
教育・訓練センターの創設(2 社が要望)
・ 異常事態を疑似体験し、回避処置について訓練するシミュレータや、実際には体験できない安
全体験教育施設などを開発し、体験の場を提供する教育訓練センターを要望している。
(B 社 b
製油所)
・ 標準的な装置のシミュレータによる教育、火災・爆発の影響のシミュレーション、落下体験な
どの体感訓練、電気・計装・機械などのメンテナンス教育訓練などの要望があがった。(D 社 d
製油所)
実機に近い訓練プラント・シミュレータの開発(3 社が要望)
・ 同業他社も含めて業界共通で使用できる訓練センターを設置し、そのなかで現場の実態を精度
よく再現できる、より実機に近い訓練プラントが整備されていると、保安の確保も含めて技術
の伝承に役立つもの考えられる。
(A 社 a 製油所)
・ 現状の訓練シミュレータや実機を転用した訓練プラントはあるが、不十分との認識である。中
国に倣って装置ごとに訓練シミュレータを設置することが理想であるが、費用、人材、時間を
要する。しかし、そのレベルには達せずとも、共通的な部分に対し、実機レベルに近い訓練プ
ラントがあれば、活用できるものと考えられる。また、活用にあたっては、例えば競技会を行
って訓練レベルの向上を図る等の工夫も必要である。(C 社 c 製油所)
・ ボードの操作は経験の浅い若手では無理である。いくつかの装置のシミュレータは導入してい
るが全装置に対してはコストがかかる。業界全体で共用の訓練シミュレータを導入し、活用し
ていくことが望まれる。また、ミニチュアプラントなどで実践に近い訓練ができることも望ま
れる。
(E 社 e 製油所)
規制緩和の要望(3 社が要望)
・
消防法、高圧ガス保安法、ボイラー・1 圧では、補修時の肉厚の考え方がばらばらであり、統
一的な規制を望む、また、1 つの工事でも法律ごとに変更許可申請が必要であるので、保安 4
法の一本化を望むとの意見が聴かれた。
(C 社 c 製油所)
・ 電気設備の防爆規定で国際基準で合格しているものの国内での認可、レイアウト規制の緩和(増
設エリアの緩和)
、基礎の調査や地盤改良などでの土壌汚染対策法の緩和(手間の削減や天然
由来の免除など)など規制緩和絡みの要望があがった。
(D 社 d 製油所)
・ プラントは保安三法が適用されるが法規により要求が異なる。肉厚の考え方も異なり、労働安
全衛生法では腐食代まで含めたものとなっている。肉盛り溶接は消防法では認められないが、
高圧ガス保安法では認められる。また、労働安全衛生法では肉盛り補修は強度部材としては認
めていないので、板をくり抜いて補修することが必要である。このように保安三法がそれぞれ
異なる要求となっており、規制の緩和か統一化が望まれる。
(E 社 e 製油所)
3-4 現地調査結果に基づく良好事例の抽出
今回実施した現地調査では、前節で整理したとおり、保安確保上の課題や支援要望に係る意見などが
多数聴かれたが、そのなかには安全管理や生産活動等の観点から、他の製油所の参考になると思われる
良好な取組に関する情報も含まれている。
そこで、以下では前節と同様に「設備面」
、
「体制/基準面」
、「保安情報面」、
「従業員の知識/認識/
経験面」の四つに分けて良好事例を抽出し、内容を整理する。
23
(1)設備面に関する良好な取組
①
保全方針・保全費管理に関する取組
・ 限られた予算を効率的に使うため、リスクベースで判断しコストを厳しく管理している。コスト
とリスクの相関(一般にコストをかけるとリスクは低下するが、ある線を越えるとリスクは一定
となる)を把握し掛けるコストを判断するなど、判断基準も明確である。但し、リスクベースで
はあるが、
「SHE に関する事故は許容せず」を大方針としている。<B 社 b 製油所>
・ 安全と競争力の両立のため、保全の方針としてリスク評価に従って保全コストの適正化を実施し、
ランク A の案件は極力早く実施する方針を明確化するとともに、安全投資の進捗度の見える化に
より認識の共有化と確実な実施を図っている。これにより、保全費の配分に関する現場の理解が
得られている。<C 社 c 製油所>
・ 設備のトラブルや不調に関する分析等から長期で計画的に管理すべき事項(10 年の長期計画と 5
年の中期計画)と集中して保全費・設備費を投入するものを区分して迅速に取り組んでいる。塔・
槽の最頂部における保温下の外面腐食に関する総足場を組んでの検査、非常用電源の増強、電気
ケーブルの引き替え等に現在集中して取り組んでいる。<D 社 d 製油所>
② 工事の安全や品質の確保に関する取組
・ 協力会社作業員の 70~80%を固定、独自の溶接士技量認定、初めての入構者に若葉マークを付け
て一人作業を禁止、溶接のトレーサビリティ(溶接個所ごとの溶接士の記録)の確保など工事品
質確保に向けた取組を行っており、成果を上げている。<B 社 b 製油所>
・ チェックリスト等により協力会社、元請監督者の技術力を評価する仕組みを構築している。各協
力会社に対しては、半年ごとに仕事の実施状況をアンケートにより確認するとともに、過去の失
敗事例の繰り返しやヒヤリ事例の有無、作業員の技量などもチェックしている。また、優良会社
を確保するため、他社に先んじて早期発注を実施している。<C 社 c 製油所>
③ 自動化を推進する取組
・ 人間が判断せず自動停止するシステム整備の必要性を認識し、また、異常事象による装置停止後、
原因追及、再発防止が重要と認識し、安全制御に関する自動化を進め、さらに、事例に学んで改
善(シンプル化、冗長化等)を推進している。<C 社 c 製油所>
・
製油所内には感震計を 3 器設置し、2 アウトオブ 3 で 150 ガル(オフサイトは 200 ガル)で自動
停止する設定としている。また、地震対策の脆弱性の抽出に際し、専門家が現場を歩きながら目
視観察する(ウォークスルー)方法の採用により、漏れのない抽出に向けて工夫している。<C
社 c 製油所>
④
現場パトロールの強化により設備の信頼性を向上する取組
・ マスタープランに基づき計画的に、設備グループと運転グループの合同パトロール、所長の現場
巡回、グループ相互の巡回などが行われている。また、外面腐食に関しては合同パトロールで保
全担当の指摘をもらった後に運転側が自分たちでリスト化して点検し、アイソメ図と写真を設備
検査側に送ると、補修などの指摘事項が帰ってくる仕組みで対応している。<D 社 d 製油所>
(2)体制/基準面に関する良好な取組
①
保安管理部門が現場の安全確保に向けて実効的に関わる取組
・ 法令対応や申請手続きなど定型的な業務の範疇を越えて、保安管理部門が運転や保全における現
業のレベルまで深く介入し、情報を提供したり対策を提案したりすることを通じて、より実効的
に現場の安全に関与している事例がみられる。<A 社 a 製油所>
24
・ 安全環境室はリスク評価に基づき安全投資計画へ反映し、防災・減災に向けた計画を作成し、将
来安全の専門家として育成するべく若手を指名して採用し 10 年計画で教育を実施するなど、保
安管理部門の存在感を高め、所内における牽制機能が十分に果たせる体制の確立に向けて努力し
ている。<C 社 c 製油所>
・ 高圧ガス設備以外の設備の網羅的な危険源の特定や、スタートアップ操作の危険源の特定、現場
重視型の教育体制の採用、社内外事故事例を踏まえたガス拡散シミュレーション等を用いた防災
訓練の実施、地震津波に対する避難訓練の実施など、様々な工夫を盛り込み、安全管理に対して
積極的な姿勢を堅持している。<C 社 c 製油所>
②
操業管理に関する組織的な取組
・
グループ企業の操業管理マネジメントシステムを活用しており、組織的な取組がなされている。
本システムはマネジメント・リーダーシップ、設備設計と建設、運転と保全、変更管理、監査な
ど 11 のエレメントにより構成され、各エレメントには要求/期待事項が示されているなど、体
系的に整理されている。<B 社 b 製油所>
③
運転マニュアル整備の取組
・
スタートアップやシャットダウンを対象とした HAZOP に力を入れており、スタートアップ/シ
ャットダウン時にどのようなことが起こり得るかを明確にして手順書に記載するなど、緊急事態
に備えた運転マニュアルの整備に向けて取り組んでいる。<B 社 b 製油所>
・ 若手がマニュアルを理解しているかどうかに感心を抱いて、学べる環境の整備や繰り返し訓練に
力を入れている。装置別の運転要領には設計思想と運転思想を、運転指図書には作業手順を、そ
の作業手順の右側の欄には理由と Know Why を記している。<D 社 d 製油所>
④
安全を中心とした特徴ある全社活動を展開する取組
・
全社活動の経緯は、2006 年のグループの設備事故・労働災害・品質事故を契機に 2007~2009 年
の事故ゼロ全社運動、2010~2011 年の競争力強化全社運動のそれぞれを深化、発展させて 2012
年から「人財力アップ全社運動」を展開中である。特に、安全に関しては、経営トップのゴール
ゼロ運動の掛け声のもとに、労災とプロセス安全について展開している。ボトムアップの活動で
全員が安全の基本事項を定めたカードを携帯し、遵守徹底する活動、現場パトロールを徹底し展
開する活動の二点が特徴である。
「異常はいつ起るかわからない」という緊張感を全員に持たせ、
なにかあったらすぐに報告させ、その場限りで終わらせないよう水平展開を図らせている。<D
社 d 製油所>
⑤
緊急対応訓練を繰り返し行う取組
・ 地震対応、冷却水停止対応、停電等に対して繰り返し訓練を行っている。PYK(プロセス予知訓
練)を実施し、予期せぬ事項からなにが次から次へと起こるか、ツリーを書かせて訓練している。
<D 社 d 製油所>
⑥
職場安全活動により危険要因を抽出する取組
・
リスクアセスメントとしてヒヤリカモシレ活動、危険予知(KY)活動のほか、手順のない非定
常作業における非定常作業計画書および作業手順の作成を行い、作業手順や危険要因を周知徹底
してから作業を実施している。<E 社 e 製油所>
25
⑦
緊急時対応手順をカード化する取組
・ 緊急事態のパターンごとに対応手順をカード化して計器室に常備し、入社 8 年未満の者には実際
にできるかどうかを確認するため、札かけなどにより訓練している。<E 社 e 製油所>
(3)保安情報面に関する良好な取組
①
保安情報の活用・共有化の取組
・ 人災については即発信し、人災以外の保安情報はまず速報を出し分析後報告、人災の情報を受信
した環安部門は仕事を中断して協力会社を含めた工場内の全部署に情報(事故概要、原因、状況
写真など)を伝達、関係部署(協力会社を含む)は仕事を中断し、ミーティングを開いて情報を
共有化するなど、工場間の保安情報の共有化に取り組んでいる。<B 社 b 製油所>
・
また、重大な事故の調査は 24 時間以内に開始し 1 ヶ月以内に調査を終了すること、事故調査の
責任者については、人災などの重大災害は工場長、その他はビジネスチームリーダーであること
などが定められ、事故調査のルールが明確になっている。<B 社 b 製油所>
・ ヒヤリハットを注意力や感性の向上に活用するため、気づいたことを積極的に提出することを奨
励し、年間約 2,700 件程度が提出されている。提出者により分析対象を判断させるシステムとし、
700~1000 件程度をシステムで解析し、結果を所内へ周知し、次年度計画へ反映している。<C
社 c 製油所>
(4)従業員の知識/認識/経験面に関する良好な取組
①
技術伝承・若手教育に関する取組
・ 中途採用を行い世代間のギャップを解消、OB をトレーナーとして採用し、主として新入社員を
対象に 1 対 1 で教育できる体制を構築するなど、世代交代を見据えた取組を行っている。また、
グループ企業の教育システムを活用しており、従業員のポジションに応じて必要とされる知識・
技能が体系化され、統一の教材が開発されている。<B 社 b 製油所>
・
シニア社員が 65 歳まで働けるような体制を構築し、各課に専任の教育担当者(ベテラン 1 名)
を配置し、教育の企画と実行管理を行い、若手へ技術を伝承している。<C 社 c 製油所>
・ 運転管理マニュアルや緊急時対応マニュアルには業務フロ-や背景も併記している。マニュアル
への記載が困難な運転開始・停止操作に必要な「操作量」の知識に関しては、日常操作であって
も目的を明示し、失敗すればどのようなことが起こるか考えるよう訓練している。また、製油所
で稼働している実機を使った運転条件を変動させながらの訓練や、実機を分担させて改造や保守
などに対して自分で考える訓練を実施するとともに、周囲の声かけ等のサポートをするなど、若
手の気持ちを斟酌した教育方法を取り入れている。さらに、教育時間を確保するため、主に夜勤
時に教育を実施し、進捗情況によっては勤務を調整し、職場から切り離して教育を実施するなど、
教育を最後まで完遂するために工夫している。<C 社 c 製油所>
・
「KY ブック」の作成と題し、2003 年から平成一桁から 18 年くらいまでの中堅社員が自主的に
提案し、ベテランがいなくなった場合に備え、120 項目ある操作要領に操作根拠や事故・トラブ
ルからの教訓等を反映する取組を行っている。<C 社 c 製油所>
・ 10 年周期で特定装置のスペシャリストとなるようオペレータを育成している。その後、他の装置
を担当させて順次様々な装置を使えるように教育するとともに、フィールドマンの経験後にボー
ドマンとし、段階ごとに技量を認定し、認定証を交付し、かつ、フィールドマンとボードマンを
定期的に入れ替えて、知識・技能の維持を図るといった工夫が行われている。<C 社 c 製油所>
26
・ 運転員は入社して 8 年で一人前にするという考えのもと、各人が 1 年ごとの修得事項を記入した
コンテンツマップを所有し、修得に努めている。2~3 年先輩の指導者に指導を受けながら修得し
ている(ビッグブラザーシステム)
。ラーニングセンターをつくり、集合教育やカスタマイズさ
れたシミュレータ教育を実施している。特に、緊急対応と想定外の対応に力を入れている。<D
社 d 製油所>
②
個人の特性に応じて教育を実施する取組
・ 自己分析の結果をリスト化した“個人特性表”をそれぞれが開示し、自分の短所や長所を KY 活
動での行動目標策定などに利用している。“個人特性表”基づいて安全活動宣言を行い、個々人
の意欲を向上させている。なお、詰め込みすぎで意欲を失わないよう見守る配慮も行っている。
<C 社 c 製油所>
③
きめ細かな教育とコミュニケーションを進める取組
・ 所長は安全方針を周知するために各課の課員と語らい、副所長は各課の朝礼に参加している。ま
た、当たり前だと思っていた安全運転への取組を表彰することにより、ベテランのモチベーショ
ンを向上し、若手への意識共有を進展させている。<C 社 c 製油所>
・
上司からの積極的な語りかけと指導により、新入社員の意識向上を図るとともに、「ほめる」こ
とを推進し、モチベーションの維持向上を意識した組織的対応を行っている。運転員がミスを正
直に報告してきた時は「ほめる」ことにし、報告しないことの重大性を認識させるなど、運転員
の気持ちに配慮して対応している。<C 社 c 製油所>
・
課長全員を現場からの「たたき上げ」とし、風通しをよくしている。<C 社 c 製油所>
27
第4章
石油業界の課題と支援に向けた提言
石油精製元売各社の製油所との意見交換が 2 回にわたり行われ、その結果、それぞれの製油所の保安
確保にあたっての工夫、努力がみられる良好な取組事例が抽出された。一方、それぞれの企業や事業所
が抱えている固有の課題、さらには意見交換を行った多くの製油所に共通する課題も明らかになった。
ここでは劣化等の「設備面の課題」
、操作基準不備等の「体制・基準面の課題」
、IT 活用を含む「保安情
報面の課題」
、認知確認ミス等の「従業員の知識・認識・経験面の課題」の 4 つの類型について、本調
査の目的である製油所における横断的な課題と必要な対応方針等を提言する。
4-1 製油所の課題
現地調査を行った結果、以下にあげる課題が明らかになった。
(1)設備面の課題
①
検査手法の限界
②
不用配管の撤去の遅れ
③
保全費の適正さ
④
自然災害(地震・津波など)への対策の困難さ
①の検査手法の限界に関しては、現地調査を行った 5 製油所すべてが有する課題である。いずれの
製油所においても外面腐食に対して超音波検査や放射線検査、目視などにより検査を行っているもの
の、検査対象の機器、配管の数は膨大であり、手間暇かけて検査しても的中率は低いこと、また、検
査のための足場組みやアスベストを含有する保温・板金の撤去に多額の費用がかかるという問題を抱
えており、有効な検査手法の開発が望まれる。しかしながら、これまでに検査手法の開発に取り組ん
だ企業もあるが実用化に至らず、一企業で解決することは容易ではなく石油業界が中心となって解決
する課題と言える。
また、検査に多額の費用がかかるという問題については、外面腐食検査は一過性のものではなく繰
り返し行う必要があり、検査の費用は生産に必要な経費。それぞれの企業が対応する課題と言える。
②の不用配管の撤去の遅れに関しては、使用しない配管がオフサイトでは多数残っており、配管管
理の阻害要因になっているという課題である。現地調査を行った 3 製油所における課題であるが、他
の製油所においても同様の課題を有していることが考えられる。
また、オフサイトには使用しない配管が多数存在しており、その不用配管や行止り配管を撤去する
際には生産調整が必要になることがある。オンサイトは定期修理工事のため稼働を停止する期間があ
るが、オフサイトについては入出荷に係る運転が恒常的に行われているため、不用配管や行止り配管
を撤去するためには、完全に縁切りするための出荷設備の一部停止が必要な場合がある。しかしなが
ら、運転を停止したとしても他の製油所等からの出荷対応等の代替も可能である場合があるため、そ
れぞれの企業が対応する課題と言える。
③の保全費の適正さに関しては、競争力強化および市場の評価という観点から世界で広く採用され
ている評価指標(ソロモンサーベイのメンテナンスインデックス)を用いて保全費を低減した時期が
あったが、その結果、老朽化による設備トラブルが増えたため、その後は保全費を増やしつつあり、
現場にも同様の認識があった。
④の自然災害(地震・津波など)への対応の困難さに関しては、東日本大震災の後、想定される津
波の高さが大幅に見直された結果、製油所敷地内が浸水する可能性が高まった。製油所によって影響
の度合いが異なり、個別の対応が必要な課題であるが、一企業での対応の限界を越えた課題である。
28
以上より、
「設備面の課題」として、製油所における横断的な課題と考えられるのは、①検査手法
の限界、②不用配管の撤去の遅れ、および、④自然災害(地震・津波など)への対策の困難さである。
(2)体制・基準面の課題
①
人手不足に起因するゆとりのなさ
②
手順書の記載方針
③
操業管理のマネジメントシステム確立
①の人手不足に起因するゆとりのなさに関しては、限られた人員で数多くの業務に従事せざるを得
ないのが現在の製油所の状況であり、多くの現場では人員にゆとりがあるとは言えない状態である。
抜本的な解決策としては、増員すること、または、不要な業務を廃止し負荷を減らすことも考えられ
るが、いずれにしてもそれぞれの企業で対応する課題と言える。
②の手順書の記載方針に関しては、異常事態に対処するために運転マニュアルに対処方法を網羅す
べきとの方針や、現場での裁量の余地を残しておくとの方針等の考え方がある。いずれかの方針でな
ければならないというものではなく、企業の方針に関わることであり、それぞれの企業が対応する課
題と言える。
③の操業管理のマネジメントシステムの確立に関しては、親会社から独立した結果、独自の操業管
理システムの確立が必要となった製油所があり、企業が対応する課題である。
以上より、
「体制・基準面の課題」として、製油所における横断的な課題として考えられる課題は
なかった。
(3)保安情報面の課題
①
保安情報の収集・活用不足
②
保全基盤情報の整備の遅れ
③
統合保安情報基盤の整備の遅れと保安情報分析環境の不備
①の保安情報の収集・活用不足に関しては、国内の事故情報は間接要因や背後要因など安全管理に
利用するに足る十分な情報が公開されていないことが多く、また、海外の事故情報に関しても十分な
情報量のある事例の入手が困難である。事故・トラブル等の保安情報の活用は、繰り返し事故防止の
観点から効果的な方法であるが、それぞれの企業が単独で取り組むことは非効率であり、また、限界
もあることから、石油業界全体で分析を行い、その結果を共有するなどの取組が必要と言える。
②の保全基盤情報の整備の遅れに関しては、日常的な業務に追われた結果、検査データや補修経歴
などの保全情報に係る管理や整備がおろそかになった製油所もあるが、それぞれの企業が対応する課
題である。保全基盤情報とは、検査データや補修経歴など保全情報の中の基盤と言うべきごく限定さ
れた情報である。
③の統合保安情報基盤の整備の遅れと保安情報分析環境の不備に関しては、IT を適切に活用するこ
とは保安確保上、より効果的と考えられるが、現地調査を行った製油所においては IT を十分に活用
しているとは言えなかった。
③-1 統合保安情報基盤の整備の遅れ
・ 統合保安情報基盤の整備という観点で、一部の製油所では書類や各種情報システムに情報が分散
し、情報の収集や整理に大きな労力が割かれている状況が存在している。保安情報は、保全基盤
情報や事故・トラブル情報を抱合した保安全体の情報を指す。
29
・ オンサイトの設備管理に関しては IT を活用しているが、オフサイトに関してはほとんどの製油
所で IT が活用されていない。また、オンサイトの設備管理に関し、欧米で実績のある国際標準
の設備管理パッケージソフトを導入している製油所では、導入効果がまだ十分ではないため、今
後の活用策を模索しているケースがあった。
これらの課題は、基本的にはそれぞれの企業で対応する課題ではあるが、他方で業界全体で保安情
報を収集し、現場で情報が有効活用されるようにする観点から、各企業において、情報を活用した
PDCA サイクルが適切に回るようにするための統合保安情報基盤の整備は不可欠であると考えられる。
③-2 保安情報分析環境の不備
分析環境の不備に関しては、
・ 事故トラブル予兆検知に有効な保安情報として想定されている運転情報や引き継ぎ情報に関して、
一部の製油所を除いてまったく電子化されていない。
・ ヒヤリハット情報に関しては、ほとんどの製油所で一部電子化されているが、各社によってヒヤ
リハットの収集や分析方針はバラバラである。
という状況が確認された。これについては、具体的な IT 活用の期待効果が、保安管理担当者によっ
て明確にイメージ化されていないことも要因の一つとして挙げられ、効果実証を見える化し、関係者
の認識を深めていく取組も必要である。
以上より、
「保安情報面の課題」として、製油所における横断的な課題として考えられるのは、①
保安情報の収集・活用不足、および、③統合保安情報基盤の整備の遅れと保安情報分析環境の不備で
ある。
(4)従業員の知識・認識・経験面の課題
①
人材育成の難しさ
・ 経験・体験する機会の減少
・ 意欲と感性の低下と維持
・
現場の意欲と意識づけ
・ きめ細かなコミュニケーション
・ 訓練プラント・シミュレータの有効性確保
②
人員構成の偏りへの対応
①の人材育成の難しさに関しては、5 つの課題がある。
・ 経験・体験する機会の減少については、現在の石油産業の趨勢として新たにプラントを立ち上げ
るような事業環境にはなく、かつてのように若手や中堅が新たなプラント建設や試運転を経験す
る機会がなくなってきた。また、4 年連続運転が定着して定期修理工事の実施頻度が少なくなっ
たことでスタートアップやシャットダウンを経験する機会が少なくなっていること、加えて、運
転が安定したことによりトラブル等を経験する機会も少なくなってきている。これらの結果とし
て、多様な経験を積み上げることができないため、個々の力量を高めるための人材育成の中で、
これらの経験を伝承していくことが重要となっている。
・ 意欲と感性の低下と維持については、製油所によって若手の意欲・感性の低下の程度は組織運営
や教育システムの違いにより差異があるが、このような課題は業界共通で対応できるものではな
く、それぞれの企業が対応する課題と言える。
30
・
現場の意欲と意識づけについては、トラブルを数多く経験したベテランの存在は重要であるが、
独断で判断することが事故の要因となることもある。中堅、ベテランの意識を変え、役割分担、
責任を明確にする必要があり、そのような業務に対する意識づけの不足が課題である。このよう
な課題は業界共通で対応できるものではなく、それぞれの企業が対応する課題と言える。
・ きめ細かなコミュニケーションについては、上司、部下の上下間や同僚どうしのコミュニケーシ
ョンは、プライベートな面も含めてつきあいが少なくなってきている傾向もあり、きめ細かなコ
ミュニケーションが弱まっているという現状がある。そのような課題は、それぞれの企業が対応
する課題と言える。
・ 訓練プラント・シミュレータの有効性確保については、実際の流体に代えて水と空気を用いた訓
練プラントがあるが、実装置の複雑な挙動を再現できないため、それほど役に立たないとの認識
を有する製油所もあり、訓練プラントの課題である。また、訓練シミュレータについては、基本
モデルは業界で共有し活用するとの意見と、一方では、基本モデルを含め装置ごとにカスタマイ
ズした訓練シミュレータでなければ役に立たないとの意見がある。いずれの考えでも、訓練シミ
ュレータを設置する費用面の課題、また、設置した後の専任の教育担当者(ベテラン)やシミュ
レータの維持管理の技術者を配置する等人材面の課題がある。
②の人員構成の偏りへの対応に関しては、新卒の採用を抑制していた時期があることで製油所従業
員の年齢構成の偏りが生じ、その対応として逸早く中途採用を進めてきた製油所もあり、それぞれの
企業が対応する課題と言える。
以上より、
「従業員の知識・認識・経験面の課題」として、製油所における横断的な課題と考えら
れるのは、①人材育成の難しさのうち、「経験・体験する機会の減少」、「訓練プラント・シミュレー
タの有効性確保」である。
4-2 支援に向けた要望
現地調査を行った結果、以下にあげる要望があがった。
(1)設備面の要望
①
検査技術の開発
・ 保温下の錆こぶの検出
・ 保温材に浸み込んだ水分の検知
・ 検査の的中率を高める技術
・ 広い範囲における肉厚の薄い配管のピンポイント検知
②
不用配管撤去の支援
③
自然災害(地震・津波など)への対策の支援
(2)体制・基準面の要望
①
・
製造メーカでの製造中止による部品供給停止の対応
例:15 年で部品の供給が停止する DCS
(3)保安情報面の要望
①
・
業界共通で保安情報を収集・活用するシステム
保安情報を収集し、直接原因、背後要因を分析し、提供する枠組み
31
② IT を用いた業務支援ツールの開発
・
オフサイト全域を鳥瞰する現場管理上の重要ポイントの表示
・ 使い勝手の良い携帯端末(現状使用している防爆型携帯端末より画面が大きく、入力が容易な
端末等)
・ DCS 情報を現場に持ち出すことが可能となる携帯端末(ボードマンやフィールドマンが現場で
DCS 情報も見ることが可能となる)
(4)知識・認識・経験面の要望
①
教育・訓練センターの創設
・
体感訓練設備
・
プロセス異常事象体験シミュレータ(バーチャルリアリティ活用)
・
業界全体でベテランや OB を教育担当として配置
②
実機に近い訓練プラント・シミュレータの開発
・
基本的な訓練実施のための共通シミュレータ
・
製油所の設備ごとにカスタマイズしたシミュレータ
・
実際に模した流体を使用し、実装置の挙動を再現できる訓練プラント
③
規制緩和の要望
・ 保安 3 法の整合化(例:必要板厚は労安法のみ腐れ代を含めた板厚)
・ フィットネスフォーサービス(局部減肉)の法制化(高圧ガス保安法等)
・ 電気設備の防爆規定に国際基準の追加適用、法制化(労安法)
・ レイアウト規制(増設エリア)の緩和(石災法)
4-3 製油所横断的な課題に対する提言
現地調査の結果から製油所における横断的な課題として考えられる課題および現地調査を実施した
製油所から寄せられた要望を考慮して、必要な対応方針等を提言としてまとめた。
(1)設備面での製油所における横断的な課題に対する提言(以下、「①」等は各課題に付した番号)
①
検査手法の限界
石油精製元売業界の各企業が個々に解決策を見出そうとするのではなく、業界全体が同じ目的意識
を持って問題解決への参加と協調を図るとともに、高い技術を有する専門の検査会社、エンジニアリ
ング会社、関連学会、検査や腐食に関する知識を持つ学識経験者等で構成される期間限定のプロジェ
クトを立ち上げ、有効な外面腐食の減肉を検出できる検査手法の開発に努力する必要があると言える。
プロジェクトでは、現在抱えている問題点・課題の整理、石油精製元売各社が行っている検査方法や
実務レベルでの経験の共有、検査にあたっての理論的なアプローチの模索、技術的可能性と限界の把
握、早急な開発が望まれる検査技術等について、互いの技術・知識・経験を持ち合うことは有効と考
えられる。
検査手法の開発に関して、効果的な支援の枠組み等について、検討する必要がある。
②
不用配管の撤去の遅れ
不用配管の撤去に関しては、まず第一に、各企業は将来の業務運営を考慮し、不用な配管か否かを
明確にし、その設置箇所、総数を把握したうえで、各配管の特性(油種、長さ等)に応じた検査を行
い、当該配管を管理下に置くことが必要である。第二に、万が一の腐食開口に備え、可能な配管につ
いては縁切りしたうえでドレンアウトすることが必要である。また、こうした対応をしたうえで、管
理対象の配管を減らす等各企業は計画的に行止り配管や不用配管を撤去することも必要である。
32
しかしながら、不用配管は膨大な物量があり、撤去には相応のコストを要することから、それぞれ
の企業の対応には限界もあり、必要な支援の枠組み等について、検討する必要がある。
④
自然災害(地震・津波など)への対策の困難さ
各企業は津波をはじめとする自然災害によって、どのような影響を受けるのかあらかじめ評価し、
その対応方針や具体的対策等を検討する必要がある。自然災害による設備の損傷を完全に防止するこ
とは不可能であると考えられるが、人身災害の防止、被害の拡大防止、石油製品の供給を早期に可能
とする対策などに分類したうえで、優先度に応じて実行に移すことが必要である。
しかしながら、個々の企業努力のみでは実現は容易ではないことから、必要な支援の枠組み等につ
いて、検討する必要がある。
(2)保安情報面での製油所における横断的な課題に対する提言
①
保安情報の収集・活用不足
トラブル事象の低減のために、保安情報を活用するには、事故の背後要因や対策など、分析に資す
る十分な情報量の保安情報を収集し、活用しやすいよう保安情報を分析し、発信する必要がある。そ
のためには、業界として石油精製元売各社は分析に資する詳細な保安情報を提供し、海外の保安情報
の分析を行っている機関との連携を含めて収集を行い、安全工学等の分野の専門家などが共同して分
析した結果を提供する仕組みを構築することが必要である。
③
統合保安情報基盤の整備の遅れと保安情報分析環境の不備
・ 設備管理担当者が正しいデータに基づき設備管理を実施するためには、IT を活用した設備保全の
状態を正確に把握するためのデータと仕組みが有効である。様々な情報を集約、一元化する戦略
的な IT 化は重要であると考えられる。
・ 各製油所においてオフサイト設備をエリアごとの属性情報をデータベースに登録し、他製油所の
設備に問題が生じた場合に、自社の類似属性を持つ設備情報を簡単に検索可能にすることにより、
点検計画の効率化につながる可能性がある。オフサイト設備の属性情報は、形状(行止り配管
等)
・設置後経過年数、環境情報(平均気温等)などである。
・ 設備構造の変更、改造に伴い、設計図書等も変更後のものに更新して、実際の設備と設計図書等
の履歴を含め、設備管理等に活用する仕組みが現場担当者の労力削減及び作業品質の向上に有効
である。例えば、ある設備の設計図が更新された場合、その設備の設計図を記載しているすべて
の文書に対して一括反映が可能なシステムの構築が望まれる。同様に、ある法令が更新された場
合も上記と同様に一括反映を行う。
・ 設備管理パッケージソフトを採用する場合は、自社の管理プロセスを十分に見直してから、管理
プロセスの抜本的な変更も選択肢の一つとして検討することがポイントである。
・ 各社での保安情報に関する IT 活用の有効性を見極めた上で、将来的には「業界共通で統合情報
基盤」の構築が望まれる。また、業界共通の統合情報基盤を進めるためには、「各社内における
統合情報基盤」が車の両輪的に整備されていくことが極めて重要となることに留意が必要である。
(3)知識・認識・経験面での製油所における横断的な課題に対する提言
①
人材育成の難しさ
・ 経験・体験する機会の減少について、それぞれの企業が必要な体験教育設備を開発し、体験する
場を提供することが重要であるが、開発費用やマンパワーの負担が大きく非効率でもあるため、
業界として共有すべき教育体系や設備のあり方を整理して活用することが望ましい。
33
・ 実機に近い訓練プラント・シミュレータの開発について、実際のプラントと同じ挙動が再現でき
る訓練プラントを業界共同で開発し、共有することが重要とも考えられる。また、シミュレータ
については、製油所共通で利用可能な基本モデルはなにか、それぞれの企業のプロセス特性に応
じカスタマイズが必要なものはなにかを明らかにし、基本モデルについては業界で共有化を図り、
カスタマイズが必要なシミュレータは各企業が開発するという役割分担のもとで進めることが
必要と考えられる。訓練プラントやシミュレータの開発に関し、必要な支援の枠組み等について
検討する必要がある。
②
規制緩和の要望
保安規制の規制間の矛盾点などが提起されていたが、業界としてそれらの問題点の根拠を明確にす
るために引き続き客観的、定量的データの積み上げを図ることが望ましい。
34
第5章
補完的な調査
5-1 事故トラブル予兆検知手法適用有効性調査
(1)IT 活用に関する目的と課題
<IT 活用の目的>
仕様書で規定されている内容の「⑤現場情報に基づく事故トラブル予兆検知手法の適用有効性」に該
当する部分の調査である。
従来の事故トラブル予兆検知手法は、DCS を通じて製油所で取り扱う多種多様なデータを色々なタイ
ミングで収集し、データマイニングと呼ばれる手法で解析されてきた。近年、現場の担当者が作成した
テキストデータにも事故トラブル予兆検知に対して極めて有効な情報が含まれており、テキストマイニ
ングという手法によって様々な業界で現場の声の活用が始まっている。石油業界でのテキストマイニン
グ活用事例としては、ある日本の石油会社において、引継簿のテキストデータからヒヤリハット・キー
ワードやフレーズを自動抽出し事故の予兆検知に有効であるという仮説が、試行プロジェクトによって
検証されている。具体的な分析例としては、重大事故の発生時期とヒヤリの時系列の発生状況を並べて
分析した結果、重大事故発生前に当該設備でヒヤリが増加していることが確認された。
製油所で取り扱うテキストデータには多種多様なものが作成・更新されているが、本プロジェクトで
は、事故トラブル予兆検知に有効なテキストデータとして、特定の製油所のヒヤリハットデータを対象
として分析手法の有効性を検証した。
<IT 活用不足の課題>
・
事故トラブル予兆検知に対する保安情報の活用不足の要因としては、具体的な IT 活用の期待
効果が、保安管理担当者によって明確にイメージ化されていないことがあげられる。このため
事故トラブル予兆検知に有効な保安情報として想定されている運転情報や引継ぎ情報に関し
て、一部の製油所を除いて全く電子化されていない。ヒヤリハット情報に関しては、ほとんど
の製油所で一部電子化されているが、各社によってヒヤリハットの収集や分析方針はバラバラ
である。
・ 業界全体で統一したフォーマットで保安情報を収集し、分析可能な IT 基盤を構築することが
望まれる。
・ 将来的には、業界全体のビッグデータを活用することにより、製油所別や石油会社別などの相
関分析などを実施して製油所ごとの強み・弱みを把握することもできるようになると考えられ
る。
・ 事故トラブルの予防検知に保安情報が有効であることが認識されることによって、現場の保安
担当者がより正確な保安情報を入力することが予想される。
・
保安情報の IT 活用は全社的な取り組みになり、リスクマネジメントが強化される。
<テキストマイニングの対象データ>
テキストマイニングの分析対象データとしては、以下のデータがあげられる。
(保安情報データ)
・ 運転情報(運転日誌、引継記録など)
・ 保全情報(保全記録など)
・ 安全情報(ヒヤリハットなど)
35
<ヒヤリハットの活用>
工場や製造現場における「ヒヤリハット」を分析することにより、重大事故との関連性や、早期検知
による事故の回避に活用できるという説がある。ヒヤリハットとは、一歩間違えば重大事故につながり
かねない事例のことを言う。言葉通りに、
「ひやり」としたり、「はっと」した場合の事を指す。
アメリカのハインリッヒが発表した『1:29:300』の法則より、1 の重大事故の下には、29 の軽症事
故があり、その下には 300 の無傷事故があるという意味であり、図 1 がその法則の図になる。
1
2
9
30
0
図 1 「ハインリッヒ」が発表した 1:29:300 の法則
今回の予備調査プロジェクトでは、限られたデータ量、限られたデータ種類を対象に分析を行った。
今後より多くの種類かつより多量のデータを活用すれば、更なる事故トラブル予兆検知への効果を得ら
れると考えられる。
データ 種類
事故ト ラ ブ ル予兆検知への効果
・ ヒ ヤリ ハッ ト 以外の
テ キスト データ
・
運転日誌
・
引継簿
今回の分析対象範囲
・ 1 製油所のヒ ヤリ
•
•
ハッ ト データ
複数石油会社のデータ
複数製油所のデータ
データ 量
図 2 今回の分析対象範囲
36
<テキストマイニングの事故トラブル予兆検知に対する期待効果>
テキストマイニングによる期待効果としては、
①
火災、爆発等のプロセス事故トラブル予兆の自動検知
②
製油所事故の火災、爆発、漏洩等の発生要因の分類作業の自動化
③
統一ルール適用での発生要因分類の属人性の排除
等があげられる。
本プロジェクトの継続プロジェクトでは、実際に発生した製油所事故事例データと予兆検知に有効な
テキスト情報との統合分析をスコープとする実証実験を実施し、テキストマイニングによる事故トラブ
ル予兆検知手法適用の有効性を検証する。本プロジェクトは、その前提となる火災、爆発等のプロセス
事故を対象とする予備調査の位置づけとする。
<具体的なテキストデータ処理フロー>
石油会社内のテキストデータをテキストマイニングツールで分析することにより、重大なヒヤリハッ
トをアラート情報としてリアルタイムで通知可能である。また、長期的な視点で事故発生要因を可視化
し分析することが可能になる。
図 3 テキストマイニングの事故トラブル予兆検知に対する期待効果
具体的なデータ処理フローは以下のとおりである。
①
分析対象のヒヤリハット・テキストデータを DB から CSV 形式ファイルとして収集する。
②
テキストマイニングツールである ICA(IBM Content Analytics)により、テキストデータの自然言
語処理(形態素解析、構文解析等)を行い、辞書や分析規則を参照して分析に必要な分類情報
を付加する。
③
ブラウザから分析アプリケーションを起動し、ヒヤリハットデータの分析を行う。
37
図 4 具体的なデータ処理フロー
<テキストマイニングに必要な機能要件>
テキストマイニングに必要な機能要件を以下に示す。
情報抽出・分類機能
自然文で書かれたテキストを入力とし、テキスト部分の言語解析とメタデータ生成を自動的に行う。
言語解析部分は、形態素解析と構文解析(係り受け解析等)が含まれる。テキストに含まれるキーワ
ードがメタデータとともに出力される。
図 5 情報抽出・分類機能
分析機能
対話的分析では、ユーザーが、メタデータをもとに分析対象に関する相関関係や傾向などを把握、
あるいは比較することによって業務に有用な知識・情報が獲得できる。
38
図 6 分析機能
(2)現場の声分析手法の具体例
<現場の声分析実現のためのアプローチ>
事故トラブル予兆検知手法適用有効性調査のアプローチとして評価実験(POC:Proof of Concept)を実施
した。POC では、以下の流れにそってヒヤリハット分析シナリオの検討や、その分析に必要なデータの
収集と分析を小規模で行い、テキストマイニング技術が事故トラブルの予兆検知に有効であることを検
証した。
(実証実験)
POC
本資料
POC報告
現行業務の確認と
現行業務の確認と
分析シ ナリ オ検討
現行業務( 保安情報分析)
に関し て 解決し たいと 考
えている 課題の確認
課題解決のための分析シ
ナリ オの導出と 内容検討
データ 項目や
分析軸の検討
データ 取得と
分析作業
ヒ ヤリ ハッ ト の中で分析対象
と する 定型項目を 検討する
対象と する データ を CSV
フ ァ イ ルと し て 準備
取得し たデータ を I CAに
取り 込む
POCで対象と する 分析軸
( フ ァ セッ ト ) を 検討する
辞書を 作成する
分析シ ナリ オに基づいた
分析作業
POCで対象と
で対象と する 分析シ
ナリ オの選定
図 7 現場の声分析実現のためのアプローチ
39
結果のま と めと
ご 報告
分析結果のま と め
報告書の作成
報告会の実施
以下に、POC での作業の流れを示す。
①
現行業務の確認と分析シナリオの検討
・ 現行業務(保安情報分析)に関して解決したいと考えている課題を、製油所の保安担当者
に確認する。
・ 課題解決のための分析シナリオの導出と内容を検討する。
・ POC で対象とする分析シナリオを選定する。
② データ項目や分析軸の検討
・
ヒヤリハットの中で分析対象とする定型項目を検討する。
・ POC で対象とする分析軸(ファセット)を検討する。
③
データ取得と分析作業
・
対象とするデータを CSV ファイルとして準備する。
・
取得したデータをテキストマイニングツール(今回は ICA:IBM Content Analytics)に取り
込む。
・
辞書を作成する。
・
分析シナリオに基づいた分析作業を開始する。
④ 分析結果をまとめる
・ 報告書に分析結果をまとめる。
<分析シナリオ案>
ヒヤリハットデータの分析シナリオ案は、以下のとおりである。
①
時系列でヒヤリハットの傾向を分析する
② 定型項目で全体傾向をみる
③ ヒヤリハットに相関の高いキーワードを抽出する
④ 予知されるトラブル別に深掘する
⑤ 年代別に相関値の高いヒヤリハットを分析する
⑥ 状況別に偏差ビューで分析する
⑦
事象と作業状況の相関を分析する
⑧
分析軸を追加して深掘する
以下では、各分析シナリオ案を説明する。
40
分析シナリオ① 時系列でヒヤリハットの傾向を分析する
時系列ビューは、時系列での件数変化をグラフ表示したものである。
1) 時系列ビューで年別にヒヤリハットの発生傾向を分析する。
図 8 時系列ビュー(年別)
2) 「時間目盛り」を“月別”に変更してヒヤリハットの発生傾向を分析する。
→ 深堀する場合は、件数が急増している月の原因を分析する。
図 9 時系列ビュー(月別)
41
3) 「時間目盛り」を“年ごとの各月”に変更してヒヤリハットの発生傾向を分析する。
→ 一年の中でヒヤリが多い月の内容を分析する。
図 10 時系列ビュー(年ごとの各月)
時系列ビューでは、以下の時間軸によって分析を行う。
・
年
・
月
・
日
・
年ごとの各月
・
月ごとの各日
・
曜日
これにより、様々な時間軸によってヒヤリハットの発生傾向を分析する。
42
分析シナリオ② 定型項目で全体傾向をみる
定型項目はあらかじめヒヤリハット情報に付加されている属性情報(時間、原因、作業者名、年代、
所属、勤務年数等)である。例として、以下の 2 例を示す。
1) 定型項目(時間)を選択し、何時ごろヒヤリハットが多く発生しているかを抽出する。
→
朝とお昼時間のヒヤリ件数が多いことが分かる。
図 11 定型項目(時間)ファセットビュー
2) 定型項目(4M)を選択し、どの項目(設備的、人的等)が多いかを確認する。
図 12 定型項目(4M)ファセットビュー
43
分析シナリオ③ ヒヤリハットに相関の高いキーワードを抽出する。
有益な知見のポイントは、変化、差分、比較に注目し、絶対頻度ではなく相対値に注目することが重
要となる。様々な切り口から相対的な分析を行うことにより、問題や傾向の発見に優れた威力を発揮す
る。
1) 定型項目(4M)から“設備的”で絞込み検索する。
2) 「名詞」ファセットを選択し、
「設備的」ヒヤリに相関が高いキーワードを確認する。
3) 「名詞-術語」ファセットを選択し、相関が高い係り受けキーワードを確認する。
図 13 「設備的」ヒヤリに相関が高いキーワード
4) 定型項目(4M)から“人的”で絞込み、どの名詞が人的ヒヤリに相関が高いかをファセットビュー
で確認する。
5) 「名詞」ファセットを選択し、
「人的」ヒヤリに相関が高いキーワードを確認する。
6) 「名詞-術語」ファセットを選択し、相関が高い係り受けキーワードを確認する。
44
図 14 「人的」ヒヤリに相関が高いキーワード
7) 「名詞」ファセットで相関値が高い“指差呼称”キーワードを選択し、絞り込む。
図 15 “指差呼称”キーワードで絞込検索
45
8) “指差呼称”キーワードと相関の高い“声”キーワードを選択し、絞込検索をする。
図 16 “指差呼称”&“声”キーワードの絞込検索
9) 文書一覧を表示する。
→
指差確認では“声”を出すことが事故予兆検知に有効であることが分かる。
図 17 “指差呼称”&“声”キーワードを含む文書一覧
46
10) 1 つの文書を選択し、内容を表示する。
11) 定型項目(4M)から“設備的”で絞込み、どの名詞が「設備的」ヒヤリに相関が高いかをファセ
ットビューで確認する。
12) 相関の高い“腐食”キーワードで絞込検索を行う。
図 18 「人的」ヒヤリに相関が高いキーワード
47
分析シナリオ④ 予知されるトラブル別に深掘する
1) 定型項目(どうなりそうになったか)から“怪我・負傷・火傷・有害物質接触”で絞り込む。
図 19 予知されるトラブル別に絞込検索
2) “怪我・負傷・火傷・有害物質接触”に相関の高い“保護具”キーワードで絞り込む。
図 20 保護具キーワードで絞込検索
3) “保護具”キーワードの検索結果の文書内容を確認する。
48
分析シナリオ⑤ 年代別に相関値の高いヒヤリハットを分析する
1) 定型項目(年代)を選択する。
図 21 定型項目(年代)ファセットビュー
2) 定型項目(4M)
“人的” AND 名詞 “指差呼称”で絞り込み検索を行う。
3) 「年代」でファセットビューを表示する。
→
若手に“指差故障”の指導がヒヤリハット対策に有効であることが分かる。
図 22 “指差呼称”の検索結果を年代別に表示
49
分析シナリオ⑥ 装置別に偏差ビューで分析する
偏差分析では、特徴的なトピックやキーワードの増減傾向を把握する。同じファセット内のキーワー
ドを比較し、時系列で増加・現象が顕著なキーワードを自動検出する。
1) 装置別ファセットを選択し、偏差ビューで装置別のヒヤリハット発生傾向を分析する。
→
特定の時期にどの装置でヒヤリハットが増加しているか確認する。
→
それに対して対応策がとられ減少しているか確認する。
図 23 装置別のヒヤリ発生に関する偏差ビュー
2) 状況ファセットを選択し、偏差ビューで装置別のヒヤリハット発生傾向を分析する。
図 24 状況別のヒヤリ発生に関する偏差ビュー
50
分析シナリオ⑦ 「足場」に関するヒヤリのトレンド分析する
1) 作業状況別ファセットを選択し、トレンドビューで状況別のヒヤリ発生を予測分析する。
→
特定の作業状況別に、ヒヤリハットの発生頻度を予測する。
→
予測値を超える場合は、色をつけて表示する。
→
急増した場合は、アラートメールを自動的に管理者に発送する。
図 25 トレンドビュー
トレンド分析画面では、出現件数増減傾向からトレンドを把握し、特定のヒヤリが予測値を超えて急
増していないかどうかチェックする。例えば、自動車業界ではリコールの未然防止の目的で、この急増
検知機能を活用している。分析対象となるデータは、自社で収集したデータだけではなくソーシャルメ
ディアから収集したデータも活用して効果をあげている。
51
分析シナリオ⑧ 事象と作業状況の相関を分析する
ファセット・ペア分析は、2 つの異なるファセット(カテゴリ)間の相関関係を数値化したものであ
る。
1) 任意の 2 つのファセットを縦軸・横軸で選択し、キーワード間の相関関係の特徴を色で検出する。
→
縦軸:装置
→
横軸:どうなりそうになったか
図 26 グリッド・ビュー(格子形式)
2) 表形式で相関傾向を分析する
→
例:
「純水装置再生時に呼び水ラインを切替が不必要となるように措置して欲しい」
図 27 テーブル・ビュー(表形式)
52
3) 表形式で作業環境と係り受けキーワードの相関傾向を分析する。
→ 例:
「雪や雨が降っているときは、船の甲板は非常にすべりやすくなると思います。
」
→ 例:
「転倒して思わぬ怪我をする危険があります。
」
図 28 バードビュー
図 29 テーブル・ビュー(表形式)
ダイナミックな対話型分析として、分析対象となる集合の絞り直しが容易にできることも分析機能の
ポイントの一つである。これにより、分析の都度ダイナミックに対象集合を絞って分析作業を連続的に
実施できるため、分析者の思考の流れが中断されず、知見の発見により早くたどり着く。
53
分析シナリオ⑨ 分析軸を追加して深掘する
1) ユーザファセットに定義したファセット「ヒヤリ」→「装置」→「灯火」の順に絞り込む。
図 30 「装置」ファセット
2) 「視認性が悪い」で絞込検索をする。
図 31 「視認性が悪い」の絞込検索
54
3) 「視認性が悪い」の文書内容を確認する。
4) ユーザファセットに定義したファセット「ヒヤリ」→「現象」→「危険」の順に絞り込む。
図 32 装置ファセット
5) 「作業環境」ファセットを選択し、偏差ビューで分析する。
図 33 偏差ビュー
6) 「何にヒヤリとしたか」ファセットを定義する。
7) 「xxx にヒヤリ」というフレーズを抽出するための分析規則を作成する。
8) 何にヒヤリとしたかをファセットビューで確認する。
55
図 34 xxx にヒヤリ
(3)調査結果まとめ
今回の分析を通じ、製油所のヒヤリハット・テキストデータには、担当者による具体的なヒヤリ体験、
原因、上司によるコメントが具体的に記述されており、テキストマイニングの分析対象として質の高い
データであることが確認できた。当初の目的とした、事故・トラブルの予兆検知手法の有効性に関して
も、データの量を確保できればテキストマイニング手法が有効であるというのが本調査での結論である。
テキストマイニングの役割は、膨大な現場情報から有効な情報を抽出し、全体的な観点から分析する
ことで、個々の内容を見ているだけでは把握できない知見を獲得することである。個々の保安情報の特
徴:特殊なのか一般的なのか、特定の装置や環境に偏っていないか、増減傾向:増加しているのか減少
しているのか等を分析する。
事故・トラブル予兆検知に結びつけるためには、複数の製油所の保安情報、複数種類の保安情報、長
期間の保安情報の分析が不可欠である。本調査の継続プロジェクトとして、現場の保安情報を電子化し
ている製油所の協力を得て、保安業務の有識者を含む分析チームによって、保安情報の統合分析をスコ
ープとする実証実験を実施することが効果的である。これにより、具体的な IT 活用の期待効果が、保
安管理担当者に対して明確にイメージ化され、業界全体での保安情報の事故トラブル未然防止への活用
が促進される。
56
【参考資料:検証環境】
<分析軸(ファセット)定義>
ファセットのタイプ
・
システムファセット
システムが提供するファセット
・
定型項目ファセット
入力データ中のカラムに対応するファセット。入力データの内容により定義する
・ 分析用ファセット
分析に有用だと思われるファセット。テキスト内容により定義し、対応する単語・表現を、
ユーザ辞書・分析規則により該当するファセットに紐付ける
システムファセット
システムファセットは、製品にあらかじめ含まれている。
・
「品詞」
:品詞別のファセットを定義
・
「句の構成要素」
:単語の係り受けを抽出
・
「評判」
:評判分析処理の結果を「好評」、
「不評」に分類
・
「固有表現」
:固有表現抽出処理の結果を抽出(「人名」、「地名」、「組織」)
・ 「Term of Interest」
:システムが自動的に抽出した重要と思われる単語
・ 「VOC」
:
「満足」
「感謝」
「疑問」
「要望」
「不満」に相当する単語・表現を抽出
定型項目ファセット
定型項目ファセットは入力データのフォーマットに従って定義される。
・
時間
・
原因(作業環境・施設設備機械・作業方法)
・
性別
・
年代
・
職場名
・
現職場勤務年数
<分析用ファセット>
分析用ファセットは、ユーザが柔軟に追加・変更できる。
57
抽出例
 「 ユーザ辞書」
– 「 装置」
• バルブ
• ポン プ
• タ ンク
• 灯火
• 計器
• 電気装置
• 備品
• その他
– ID
– 移動・ 運搬
– 工具
– 素材
– 部門
– 人
– 書類
– その他
– 表現( ヒ ヤリ ・ ハッ ト etc)
“バルブ ”, “操作バルブ ”, “ド レ ン 切り バルブ ”
“照明”, “照明設備”, “ラ イ ト ”
“保護具”, “安全帯”, “工具”
図 35 ユーザ辞書
上記の例では、ユーザ辞書に各ファセットと紐づけられるキーワードをユーザ辞書に登録しておく。
<テキストマイニングの機能例>
テキストマイニングの機能例を以下に示す。
図 36 テキストマイニングの機能例
58
5-2 関連事故情報の収集整理
下記に述べるように、製油所での国内事故事例については自治体消防に報告され、総務省消防庁が集
約している。そこで過去 6 年間の事例を製油所ごとに収集した。また、海外事例については 2000 年以
降の事例を MARS(EC:Major Accident Reporting System)
、CSB(米国:Chemical Accident and Hazard
Investigation Board)について情報量の多い事例を翻訳した。
(1)国内事例情報
消防法危険物事故情報(総務省消防庁)により、過去 6 年間に国内製油所から報告された事故情報を
収集した。事故は火災・爆発と漏洩・噴出であり平成 17 年~平成 22 年で 167 件であった。製油所別の
事故発生件数を表 13 に、概要を表 14 に、それぞれ示す。事故情報の原本は国内事例集として、報告書
に添付する CD-ROM に収録している。近年、石油会社の合併、製油所の閉鎖が進んでいるが、石油会
社名は現在(平成 24 年 3 月)の名称に統一し、また、現在閉鎖されている製油所または閉鎖予定の事
故例も記載した。
表 13 製油所事故(平成 17-22 年)の製油所別発生件数
製油所
事故件数
製油所
事故件数
JX日鉱日石室蘭製油所
3
鹿島石油鹿島製油所
2
JX日鉱日石仙台製油所
3
富士石油袖ヶ浦製油所
5
JX日鉱日石横浜製油所
2
昭和四日市石油四日市製油所
6
JX日鉱日石根岸製油所
7
和歌山石油精製海南工場
4
JX日鉱日石大阪製油所
4
太陽石油四国事業所
4
JX日鉱日石水島製油所
5
南西石油
39
JX日鉱日石麻里布製油所
3
東亜石油京浜製油所
2
九州石油大分製油所
2
出光興産北海道製油所
4
コスモ石油千葉製油所
21
出光興産千葉製油所
3
コスモ石油四日市製油所
5
出光興産愛知知多製油所
6
コスモ石油堺製油所
8
出光興産徳山製油所
6
コスモ石油松山製油所
4
東燃ゼネラル石油川崎工場
4
コスモ石油坂出製油所
3
東燃ゼネラル石油和歌山工場
2
極東石油千葉製油所
3
東燃ゼネラル石油堺工場
7
表 14 製油所事故(平成 17-22 年)の概要
発生県 製油所
別件数
発生
年月日
事故名称
発生場所
発生個所
原因1
原因2
神奈川 1
17.8.25
減圧蒸留装置からの漏洩火災
減圧蒸留装置
フランジ
ガスケットシール機 トルク管理不備
能低下
神奈川 2
18.2.3
桟橋配管からの硫黄の漏洩
桟橋
配管
バルブ誤開放
神奈川 3
21.7.7
減圧蒸留装置からの高温重油漏洩火災
減圧蒸留装置
フランジ
雨水による冷却でフ 検査不十分
ランジ収縮
神奈川 4
22.7.11
重油調合装置配管フランジからの漏洩
重油調合装置
配管フランジ
劣化
検査不十分
神奈川 5
22.10.3
屋外タンク側板からの漏洩
屋外タンク
側板
腐食
保温材に雨水
が浸透
神奈川 6
22.10.22
重油移送配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
保温材に雨水
が浸透
神奈川 7
22.12.10
屋外タンク配管バルブからの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
保温材に雨水
が浸透
北海道 1
18.2.5
減圧残油脱硫装置火災
脱硫装置
配管
腐食
保温材に雨水
が浸透
北海道 2
20.4.15
屋外タンクを溶接で補修中の火災
屋外タンク
屋根
清掃不良
工事管理不備
北海道 3
22.8.24
水素化脱硫装置の火災
脱硫装置
圧縮機
パッキンの破壊
部品の脱落
59
作業手順不備
発生県 製油所
別件数
発生
年月日
事故名称
発生場所
発生個所
原因1
原因2
岡山
1
17.9.15
屋外タンク側板からの漏洩
屋外タンク
屋根
腐食
コーティ ン グ 不
備
岡山
2
19.1.21
水添脱硫装置生成油凝縮器からの漏洩
脱硫装置
凝縮器
腐食
水流化アンモニ
ウム腐食
岡山
3
19.3.28
屋外タンク洗浄中仮設配管からの漏洩
屋外タンク
仮設配管
締め付け不良
トルク管理不備
岡山
4
19.12.31
タンカーからの移送中の漏洩
桟橋
配管
バルブ閉止不完全 確認不足
岡山
5
20.2.11
屋外タンク付属配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
宮城
1
17.6.13
直脱装置下流バルブ近傍での火災
脱硫装置
硫黄回収装置
反 応 熱 に よ る 材 料 管理不十分
損傷
宮城
2
19.11.26
屋外タンク側板からの漏洩
屋外タンク
側板
腐食
検査不十分
宮城
3
20.4.1
ガソリン分留装置加熱炉の爆発
ガソリン分留装 加熱炉
置
失火/再着火
空気供給量不
足
大阪
1
18.1.25
流動接触分解装置の漏洩火災
接触分解装置
フランジ
温度差によるサー ス タ ー トアッ プ
マルショックで漏洩 管理不足
大阪
2
19.5.15
屋外タンク排水設備からの漏洩
屋外タンク
配管
チェーンが引っ掛か 構造不備
り配管変形
大阪
3
19.5.23
減圧蒸留装置の減圧残油配管からの漏洩
減圧蒸留装置
フランジ
液封化で配管内圧 長 期 停 止 の マ
力上昇
ニュアルなく、
誤操作
大阪
4
22.8.18
改質装置反応塔トップフランジからの火災
反応塔
フランジ
フランジの締め付け 長 期 の 高 温 使
用、検査不十分
力低下
山口
1
19.6.18
油受け中の桟橋での漏洩
タンカー
ハッチ
過剰積み込み
連絡不備
山口
2
21.9.8
改質装置フランジ部分からの漏洩火災
改質装置
フランジ
増し締め不備
緊急停止対応
不備
山口
3
22.7.13
屋外タンクルーフサポートからの漏洩
屋外タンク
ルーフサポート 清 掃 不 良 に よ る 排 設備管理不備
水機能低下
神奈川 1
19.10.22
海上出荷施設流量計ガスケット破損による漏 海上出荷施設
洩
流量計
神奈川 2
22.12.19
タンク内容物のヒーティングコイルからの漏洩 タンク
ヒーティングコイ コイル破損
ル
設備管理不備
千葉
1
17.5.12
常圧蒸留装置定期整備中の廃油漏洩
廃油回収装置
手順書不備
千葉
2
17.5.29
常圧蒸留装置の内部火災
蒸留装置
蒸留棟内
硫化鉄の発火
設備管理不備
千葉
3
17.10.22
水素化装置の熱媒ボイラー火災
水素化装置
熱媒ボイラー
クランプ緩み
基準不順守
千葉
4
18.4.16
脱硫装置/水素製造装置の爆発火災
脱硫装置/水素
製造装置
開口
不明
千葉
5
18.5.27
接触分解装置からの軽油漏洩
接触分解装置
ボルトに緩み
コーティ ン グ 剤
の剥離
千葉
6
18.8.22
屋外タンク付属配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
腐食因子がデッ
ド部に堆積
千葉
7
18.12.29
屋外タンクルーフへの漏洩
屋外タンク
浮き屋根
カバー変形
桟橋からの移
送速度過大
千葉
8
18.11.24
屋外タンク浮き屋根シール部からの漏洩
屋外タンク
浮き屋根
移送操作に問題
手順の不備
千葉
9
18.8.24
桟橋配管からの海上漏洩
桟橋
配管
ピンホール
千葉
10
18.9.9
廃油回収装置からの廃油の漏洩
廃油回収装置
タンク側板
腐食
千葉
11
19.1.24
硫黄回収装置反応塔の火災
硫黄回収装置
反応塔壁
腐食
千葉
12
19.3.23
タンク車への充填中の火災
タンク車
千葉
13
19.5.13
スラッジタンク側板からの漏洩
スラッジタンク
側板
内部腐食
硫化水素の存
在
千葉
14
19.6.16
屋外タンク浮き屋根シール部からの漏洩
屋外タンク
浮き屋根
作業不備
手順書不備
千葉
15
20.3.14
常圧蒸留装置サンプル配管からの漏洩
常圧蒸留装置
配管
応力割れ
検査不足
千葉
16
21.8.8
桟橋での重油の海上漏洩
桟橋配管
バルブ
バルブ誤操作
手順逸脱
蒸留装置
60
ガスケット破損
誤操作
原油由来塩素
イオン
過熱
耐火材隙間か
ら内部流体が
侵入
ガソリン、軽油混載 手順の不備
により、ガソリンが
燃焼限界濃度となっ
た
発生県 製油所
別件数
発生
年月日
事故名称
発生場所
発生個所
原因1
原因2
千葉
17
21.8.27
屋外タンクルーフからの滲み漏れ
屋外タンク
ルーフ
腐食
雨水
千葉
18
21.10.31
廃油配管からの漏洩
排水処理施設
配管
腐食
水分、スケール
千葉
19
21.11.1
桟橋配管の逆流によるタンカーからの漏洩
桟橋
配管
バルブ閉め忘れ
手順書不備
千葉
20
22.4.14
減圧蒸留装置加熱バーナ周辺の火災
減圧蒸留装置
加熱バーナ
カーボン付着
運転管理不備
千葉
21
22.7.12
屋外タンクからの漏洩
屋外タンク
行止まり配管
腐食
検査不十分
香川
1
21.7.24
屋外タンク付帯配管の漏洩
屋外タンク
行止まり配管
腐食
スケール堆積
香川
2
21.8.11
屋外タンクミキサー部の漏洩
屋外タンク
ミキサー
非正規ボルト使用
巡回不足
香川
3
21.9.9
屋外タンクミキサー部の漏洩
屋外タンク
ミキサー
非正規ボルト使用
巡回不足
大阪
1
18.9.20
水添脱硫装置加熱炉内爆発
脱硫装置
加熱炉
失火/再着火
停止操作不備
大阪
2
18.10.5
屋外タンク付帯配管の漏洩
屋外タンク
配管
腐食
水分残留
大阪
3
20.1.16
屋外タンクルーフドレンからの漏洩
屋外タンク
ルーフドレン
機器の締付力不足
大阪
4
20.11.5
屋外タンクミキサー部の漏洩
屋外タンク
ミキサー
軸受破損
グリース不足
大阪
5
20.6.4
屋外タンク開放準備中の漏洩
屋外タンク
ホース
発見遅れ
安全管理不備
大阪
6
21.6.8
屋外タンク防油堤内の雑草火災
屋外タンク
防油堤内
火気作業
大阪
7
21.8.21
屋外タンクルーフドレンからの漏洩
屋外タンク
ルーフドレン
水封処理未実施
安全確認不備
大阪
8
22.1.6
屋外タンク付帯配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
塩素イオン存在
三重
1
19.3.3
船舶 k らの荷受け作業中の漏洩
桟橋
配管
緩み
外部応力
三重
2
19.7.2
海水と灯油の熱交換機からの漏洩
熱交換機
ガスケット
電位差腐食
異材接触
三重
3
20.4.29
配管残液の誤廃棄による海上漏洩
減圧蒸留装置
雨水専用枡
誤廃棄
誤操作
三重
4
21.1.29
バルブ誤開放による貯槽からの噴出火災
圧力タンク
バルブ
誤開放
誤操作
三重
5
21.9.10
製油所内でのタンクローリー積込中の漏洩
出荷設備
マンホール
誤運転
確認不足
愛媛
1
20.3.25
熱交換機ドレンノズルからの漏洩火災
熱交換機
愛媛
2
20.6.23
危険物配管からの漏洩
愛媛
3
21.3.12
屋外タンク流量計検定中の漏洩
屋外タンク
愛媛
4
21.9.27
配管フランジガスケット破損による漏洩
千葉
1
19.4.24
千葉
2
千葉
3
愛知
ドレンノズル
ドレン回収過流速
配管
腐食(ピンホール)
流量計
遮断弁不作動
設備管理不備
ローリー充填場 配管
ガスケット破損
過圧
接触分解装置からの漏洩発火
接触分解装置
ポンプケーシング
腐食(ピンホール)
触媒濃度過多
22.1.24
屋外タンク底板からの漏洩
屋外タンク
底板
亀裂
22.7.11
屋外タンク側板からの漏洩
屋外タンク
側板
腐食
1
17.12.10
常圧蒸留装置熱交換器の火災
常圧蒸留装置
熱交換器
腐食
スケール
愛知
2
18.9.22
軽油脱硫装置監視盤からの水素噴出火災
脱硫装置
監視盤
腐食
硫黄化合遺物
愛知
3
19.5.11
重油脱硫装置フィルターからの噴出火災
脱硫装置
フィルタ
フランジボルト破断
水素脆化
愛知
4
19.5.8
屋外タンク配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
塩素イオン
愛知
5
20.3.17
屋外タンク配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
塩素イオン
愛知
6
21.9.24
重油脱硫装置配管ドレンからの漏洩火災
脱硫装置
ドレンバルブ
誤開放
誤操作
千葉
3
19.6.18
屋外タンク配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
雨水
千葉
3
20.3.17
反応塔入り口配管からの漏洩火災
反応塔
配管
フランジ締付力低下
締付不均一
千葉
3
22.1.20
共通配管ラック場の配管からの漏洩
配管ラック
配管
腐食
隙間から水分
山口
1
21.3.4
常圧蒸留装置底油ポンプからの漏洩火災
常圧蒸留装置
底油ポンプ
軸受け破損
山口
2
21.10.31
常圧蒸留装置底油ポンプからの漏洩火災
常圧蒸留装置
苛性ソーダ注入 腐食
部
硫化水素の存
在
山口
3
22.5.9
屋外タンク配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
雨水
山口
4
22.6.28
屋外タンク水切り配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
塩素イオン
山口
5
22.7.20
屋外タンク付属っs配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
保温材に雨水
が浸透
山口
スラッジの影響
6
22.9.25
スチレンモノマー装置防音室内のウエスの火災
モノマー装置
防音室
蓄熱発火
北海道 1
18.1.17
屋外タンク配管からの漏洩
2.1
配管
腐食
保温材に雨水
が浸透
北海道 2
20.9.29
屋外タンク受け入れ配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
アルミメッキ剥
離
北海道 3
21.4.20
屋外タンク配管の保温材での流出
屋外タンク
配管
蓄熱発火
北海道 4
22.7.20
接触分解装置反応塔配管からの漏洩火災
反応塔
配管
三重
1
18.3.17
LPG 洗浄装置内砂ろ過装置からの漏洩火災 LPG 洗浄装置 配管
バルブ誤操作
三重
2
18.10.5
定期修理中のピット内での爆発
ピット
空気予熱器
ガス残留
三重
3
19.8.22
熱交換機フランジからの漏洩火災
熱交換機
フランジ
片締め
三重
4
19.11.22
タンクローリーの火災
タンクローリー
61
疲労破壊
管理不十分
繰り返し応力
キャビテーショ
ン
発生県 製油所
別件数
発生
年月日
事故名称
発生場所
発生個所
原因1
原因2
三重
5
21.2.1
配管ラックからの漏洩
配管ラック
(盲腸)配管
腐食
三重
6
21.3.5
タンクローリーから移送中の漏洩
マンホール
バルブ
ダイヤフラムが閉と 施工不良
ならず
塩素
愛媛
1
18.1.17
屋外タンク清掃中の火災
屋外タンク
タンク内
清掃に軽油使用
愛媛
2
18.8.30
接触改質装置熱交換機フランジからの漏洩
熱交換機
フランジ
フランジ熱圧縮
誤操作
愛媛
3
20.7.3
付帯配管整備中の漏洩
BTX 装置
配管
非定常作業不備
誤操作
愛媛
リスク評価不足
4
21.7.23
屋外タンク伸縮継ぎ手配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
神奈川 1
19.5.21
残油タンクの爆発火災
残油タンク
払出作業
過熱
神奈川 2
19.10.9
集中合理化装置底部ドレン抜き弁からの漏洩 集 中 合 理 化 装 底部ドレン抜き 閉止不十分
置
弁
設備管理不備
大阪
1
18.4.4
BUT 製造装置配管からの
BUT 製造装置 配管
腐食
ドレン水
大阪
1
18.4.10
接触改質装置安全弁放出配管からの漏洩
接触改質装置
安全弁
安全弁放出
反応塔温度上
昇
大阪
1
20.3.9
反応塔入り口配管フランジからの漏洩火災
反応塔
フランジ
フランジ締め付け力 締め付け不良
低下
大阪
1
20.3.17
移送配管からの漏洩
移送取扱所
配管
ホース外れ
仮設配管使用
大阪
1
20.4.17
屋外タンクサンプリングノズルからの漏洩
屋外タンク
配管
プラグ緩み放置
点検不良
大阪
1
20.7.1
常圧蒸留装置ポンプメカニカルシールの漏洩火災
常圧蒸留装置
ポンプメカニカルシー O リング破損
ル
大阪
7
21.12.15
パラキシレン製造装置パージ用配管からの漏 パラキシレン製 配管
洩
造装置
腐食
バルブ誤開放
冷却不良
雨水
神奈川 1
18.10.5
減圧蒸留装置塔底部からの漏洩火災
減圧蒸留装置
配管
腐食
施工不良
神奈川 2
19.2.8
エンジン実験棟分析室での火災
分析室
床面
蓄熱発火
ウエスに油含浸
神奈川 3
21.7.31
接触分解装置到底油循環ラインからの漏洩
接触分解装置
循環ライン
ドレンバルブ開放
誤操作
神奈川 4
21.8.18
屋外タンク屋根上での火災
屋外タンク
屋根上
溶接残り火
管理不十分
和歌山 1
20.6.26
屋外タンク払い出し配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
雨水
和歌山 2
21.11.11
水添脱硫装置加熱炉出口配管からの漏洩火 水添脱硫装置
災
配管
フランジボルト緩み 雨による急冷
沖縄
1
17.7.11
屋外タンク落油配管安全弁からの漏洩
屋外タンク
配管
安全弁誤作動
沖縄
2
18.7.6
屋外タンク側板からの漏洩
屋外タンク
側板
老朽化
沖縄
3
18.7.21
灯油落油配管からの漏洩
落油系
配管
腐食
沖縄
4
18.7.26
積算流量計配管フランジからの漏洩
積算流量計
フランジ
バルブ操作ミス
沖縄
5
18.8.1
屋外タンク側板からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
点検不備
沖縄
6
18.8.10
屋外タンク側板からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
点検不備
沖縄
7
18.8.29
スロップ配管からの漏洩
オフサイト
配管
腐食
点検不備
沖縄
8
18.10.13
屋外タンク受け払い配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
点検不備
沖縄
9
18.11.6
水添装置水素供給配管からの漏洩
水添装置
配管
沖縄
10
18.11.8
クローズドレンヘッダーからの漏洩
クローズドレン
ヘッダー
沖縄
11
18.12.12
ボイラー燃料用配管からの漏洩
ボイラー
沖縄
12
18.12.26
屋外タンク浮き屋根ボンツーン内からの漏洩 屋外タンク
沖縄
13
18.12.28
沖縄
14
沖縄
15
沖縄
構造不備
腐食
点検不備
腐食
点検不備
配管
腐食
点検不備
ボンツーン
腐食
点検不備
屋外タンク浮き屋根ボンツーン内からの漏洩 屋外タンク
ボンツーン
腐食
点検不備
19.1.8
屋外タンク加熱用循環配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
点検不備
19.1.25
屋外タンク水抜き配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
点検不備
16
19.2.4
屋外タンクミキサー部の漏洩
屋外タンク
ミキサー
腐食
点検不備
沖縄
17
19.2.15
オフサイトスロップ配管からの漏洩
オフサイト
配管
腐食
点検不備
沖縄
18
19.3.6
屋外タンク浮き屋根ボンツーン内からの漏洩 屋外タンク
ボンツーン
腐食
点検不備
沖縄
19
19.3.7
屋外タンク浮き屋根ボンツーン内からの漏洩 屋外タンク
ボンツーン
腐食
点検不備
沖縄
20
19.3.12
屋外タンク浮き屋根ボンツーン内からの漏洩 屋外タンク
ボンツーン
腐食
点検不備
沖縄
21
19.3.19
屋外タンク浮き屋根ボンツーン内からの漏洩 屋外タンク
ボンツーン
腐食
点検不備
沖縄
22
19.3.29
屋外タンク浮き屋根ボンツーン内からの漏洩 屋外タンク
ボンツーン
ピンホール
点検不備
沖縄
23
19.4.3
屋外タンク浮き屋根ボンツーン内からの漏洩 屋外タンク
ボンツーン
ピンホール
点検不備
沖縄
24
19.4.30
オフサイト配管からの漏洩
オフサイト
配管
腐食
点検不備
沖縄
25
19.5.2
屋外タンク水抜き配管の漏洩
屋外タンク
配管
腐食
点検不備
沖縄
26
19.6.4
屋外タンク吸い込み配管の漏洩
屋外タンク
配管
工事不良
マニュアル不順
守
62
発生県 製油所
別件数
発生
年月日
事故名称
発生場所
発生個所
原因1
原因2
沖縄
27
19.7.9
屋外タンク落油ライン安全弁からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
点検不備
沖縄
28
19.7.16
屋外タンク底部ヘヤークラックでの漏洩
屋外タンク
底部
経年劣化
点検不備
沖縄
29
19.7.18
屋外タンク底部溶接部からの漏洩
屋外タンク
底部
腐食
点検不備
沖縄
30
19.9.19
屋外タンク底部ヘヤークラックでの漏洩
屋外タンク
底部
経年劣化
点検不備
沖縄
31
19.10.2
屋外タンク底部ヘヤークラックでの漏洩
屋外タンク
底部
経年劣化
点検不備
沖縄
32
19.10.10
屋外タンク底部ヘヤークラックでの漏洩
屋外タンク
底部
経年劣化
点検不備
沖縄
33
19.12.13
屋外タンク水抜きラインからの漏洩
屋外タンク
水抜きライン
腐食
点検不備
沖縄
34
20.2.11
屋外タンク落油ラインからの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
点検不備
沖縄
35
20.3.7
屋外タンク保温被覆配管からの漏洩
屋外タンク
配管
腐食
点検不備
沖縄
36
20.4.15
熱交換器溶接部からの漏洩
熱交換器
本体
腐食
点検不備
沖縄
37
20.7.22
屋外タンク浮き屋根ボンツーン内からの漏洩 屋外タンク
ボンツーン
腐食
点検不備
沖縄
38
21.7.9
屋外タンク側板からの漏洩
側板
腐食
点検不備
沖縄
39
22.1.20
屋外タンクルーフデッキ上のヘヤークラックか 屋外タンク
らの漏洩
千葉
1
17.4.13
減圧残油熱分解装置からの漏洩火災
熱分解装置
配管
腐食
材料誤選定
千葉
2
18.10.26
オフサイト油水分離設備爆発
油水分離設備
配管
誤作業
連絡不備
千葉
3
19.8.20
屋外タンク付帯配管の漏洩
屋外タンク
千葉
4
22.6.1
常圧蒸留装置スチーム導入バルブから漏洩 常圧蒸留装置
火災
千葉
5
22.11.21
BTX 製造装置残油抜き取り作業中の漏洩
和歌山 1
19.8.16
溶剤抽出装置のフランジからの漏洩火災
溶剤抽出装置
フランジ
緩み
振動/施工不備
和歌山 2
19.9.20
水素化精製装置熱交換器からの漏洩
水 素 化 精 製 装 フランジ
置
緩み
片締め
和歌山 3
21.1.15
減圧蒸留装置解体中の火災
減圧蒸留装置
解体中
溶断火炎
工事不備
和歌山 4
22.4.5
屋外タンク底部からの漏洩
屋外タンク
底部
腐食
腐食管理不備
大分
1
17.2.19
屋外タンク屋根板からの漏洩
屋外タンク
屋根板
腐食
雨水
大分
2
17.9.6
屋外タンク屋根板からの漏洩
屋外タンク
屋根板
腐食
雨水
千葉
1
18.6.16
フレアスタック周辺の雑草火災
フレアスタック
周辺部
異常燃焼
ミスト混入
千葉
2
20.4.20
パラキシレン製造装置圧力計周辺からの漏 パラキシレン製 ポンプ
洩火災
造装置
ベアリング変形
過熱
屋外タンク
タンクルーフデ 疲労割れ
ッキ
風等の影響
配管
腐食
点検不備
バルブ
過流入
運転管理不備
破損
過圧
BTX 製造装置 ゴムホース
(2)海外事例情報
本調査では 2000 年以降の製油所事故について、EU ならびに米国で重大事故と規定されたものを収集
した。また、一部については翻訳も行った。表 15 に収集した事故の概要を示す。収集した事故情報は
国外事例集として添付する CD-ROM に収録した。
表 15 製油所事故(2000 年以降)の概要
発生年
出典
発生国
概要
被害
2000
ARI
ベルギー
プロピレンをホルダーから脱プロパン塔や分離塔へ移送するポン 施設の一部が焼損し、作業員 1 名が重
プの圧力計交換作業中、バルブ接合部が切断した。高温・高圧の い火傷を負った。
プロピレンが洩れ出し蒸気雲爆発が起きた。
2000
ARI
フランス
接触改質装置のポンプ入口配管の継手からガソリン漏洩して火災 装置の停止は 7 カ月に及び 20 億円近い
となった、火炎により周辺施設の配管や槽などが破裂して火炎が 被害が生じた。また、従業員 1 名が火傷
拡大した。
を負った。
2002
MARS
スペイン
水素化脱硫装置の加熱炉配管に亀裂が発生したため、軽質油と 周辺施設が損傷し、大きな火炎が発生し
水素が漏洩して爆発した。配管の設計不備で摩耗が起きやすい たため周辺道路の閉止や住民への外出
状態になっていた。
禁止=自宅待機要請などが出された
2002
ARI
フランス
水素化脱硫装置リボイラーのガスケット部分からガソリンが漏えい 装置等の焼損のほか、周辺道路が一時
し、火災となった。修理後のガスケット不具合の不備によって、シ 閉鎖された。損害は営業上の損金も含
ール部分の締め付け力が不足した。
め 15 億円以上となった。
2002
MARS
デンマーク 流動接触分解装置液面計でのドレン抜き作業、液面計と分離塔を 周辺設備が焼損し、作業者 1 名が死亡し
接続する配管のバルブが開放状態であったため高温の石油類が た。損害額は 15 億円以上に上った。
漏えいし、火災となった。保守作業における情報連絡とそのための
体制の不備であった。
63
発生年
出典
発生国
概要
被害
2003
MARS
イギリス
アルキレーション装置における圧力放出弁からフッ化水素酸を含 従業員、市民に被害はなかったが有害
むイソブタンガス 20 トンが漏洩した。微量のフッ化水素により、放 性の高いフッ化水素酸が漏えいしたた
出弁周辺の腐食が進行していた。
め、セベソ指令Ⅱにおける重大化学災害
となった
2004
MARS
オランダ
製油所から船積み施設までの 4.5 ㎞の地下配管の腐食でガソリン 有害なエーテル類が河川に流出し、河
とエーテル化合物が漏えいした。配管敷設時の溶接管理が不備で 川に加え土壌も汚染した。汚染除去に 2
腐食が短期的に進行した。
カ月を要した。
2004
MARS
オランダ
屋外タンク底部が腐食し、内容物のベンゼンが漏えいした。腐食 直接的な被害はなかったが、有害性の
の起きやすいタンク底部の点検が不足していた。
高いベンゼンが漏えいしたため、セベソ
指令Ⅱにおける重大化学災害となった
2004
ARI
ドイツ
製油所内の LPG 積荷施設でタンクローリーとが積み込みを終えた 施設の被害は軽微であったが、運転手
とき、ローディングアームと車両のカップリング部が外れ、LPG が が死亡した。
噴出火災となった。
2004
ARI
フランス
水素化脱硫装置加熱炉配管が破裂して火災となった。ポリチオン 加熱炉が焼損し、周辺機器にも被害が
酸腐食により腐食が進行したものと推定された。
出た。市民の避難(60 人)、道路の閉鎖
などが生じた。被害金額は 40 億円近くで
あった。
2005
MARS
ベルギー
ナフサ分解炉で作業員 2 名がデコーキングの準備作業中、火災が 2 名が火傷により重傷となった。
発生した。 バルブ操作のミスによりナフサが噴出して蒸気雲爆発
が起きた。非定常作業における連絡体制や安全教育の不備が指
摘された。
2005
ARI
フランス
スタートアップ作業中の常圧蒸留装置で、加熱炉操作の不備で圧 製油所周辺の住宅や車両、住宅地域の
力が上昇し、安全弁から炭化水素油が噴出した。安全弁はフレア プールなどが汚染された。
スタックなどに接続しておらず、大気放出であったため、周辺地域
に広がった。
2005
MARS
イタリア
接触分解装置塔頂から軽油、水素が噴出し、ジェット火災となっ 設備類が焼損し、150 億円以上の損害
た。ドミノ効果により、周辺施設でも火災となった。
が生じた。
2006
ARI
フランス
定期修理後のスタートアップを行っていた芳香族抽出装置で火災 過熱器と周辺機器を焼損した。
が発生した。定期修理での配管の取り付けミスであった。
2006
MARS
イタリア
製油所内の配管で漏えいが発見されたため、断熱材を除去したと 従業員 14 名が負傷した。また施設の損
ころ漏洩が拡大し火災となった。この火災が連続的な BLEVE(平 害も 40 億円以上であった。
衡破綻型蒸気雲爆発)を引き起こした。
2006
MARS
イタリア
屋外タンクの底部が腐食し、原油が大量に漏えいしたが、防油堤 原油 26,000 トンが漏えいし、損害額は 3
外には漏出しなかった。
億円程度であった。
2006
CSB
アメリカ
屋外タンクの接続配管の溶接作業中、この配管に開口部があった 爆発により 3 名が死亡し、1 名が重傷を
ため、漏えいした炭化水素に蒸気に溶接火炎が着火し、火災が拡 負った。
大し爆発が発生した。作業の連絡不備や可燃性ガス検知警報器
の不備。
2007
MARS
イギリス
スタートアップ作業中のペンタン異性化装置の配管からナフサが 被害は軽微であったが、火災のため製
漏えい気化して、蒸気雲爆発が起きた。弁操作の不備であった。 油所周辺の道路が閉鎖された。
2007
CSB
米国
前日の寒さプロパン脱アスファルト装置の配管内で、プロパン中の 社員と協力会社社員 3 人が重傷を負い、
水分が凍結蓄積し、注入パイプのエルボーに亀裂が発生し、液化 広範囲の施設に被害が生じ、操業は2カ
プロパンが漏洩して火災となった。
月停止された。被害額は5千万ドルに達
した。
2007
ARI
フランス
常圧蒸留装置に原油を供給するための屋外タンクの配管から、原 有害物の放出により環境汚染も引き起こ
油が漏えいし火災となった。
された。
2008
ARI
フランス
燃料タンクとフナ済み施設の接続する地上配管が腐食により開口 周辺の河川や海の汚染が指摘された。
し燃料油が周辺地域まで漏洩した。
2008
ARI
ベルギー
製油所内の電源切り替えに伴うメンテナンス作業で、安全弁から 施設内の作業者は直ちに避難したが、
硫化水素 70kg が漏えいした。
硫化水素は国境を越えてオランダまで拡
散した。周辺地域への広報がなされなか
ったため、数百人が被害を受け、58 名が
治療を必要とした。
64
製油所の事故については以下の情報源があるが、原因分析が不十分なものもあり、情報の質や量によ
り統計分析への活用なども検討する必要がある。
FACTS データ(オランダ応用化学研究機構(TNO))による有料データベース
24,000 件(2011 年現在)の化学品に起因される世界の産業事故情報を掲載、簡易なものが多く補完情報
として利用価値がある。事故データの価格は情報量により異なる。
Abnormal Situation Management 社
プロセス産業を対象にしたコンサルタント会社(Abnormal Situation Management)が主として石油精製
に関する新聞や雑誌、書籍に掲載された情報を提供するサイトであるが、製油所の事故に関して、新規
情報が逐次更新されている。紹介される製油所は毎月 5~10 件あり速報であるが、世界の製油所の事故
の発生状況の把握、今後データを収集する上での予備情報として活用が可能である。
http://www.asmconsortium.net/Pages/default.aspx
ARI データベース(The ARI database)
フランスの公的機関である ARI(analysis, research and information on accidents)が作成する事故データベ
ースで、フランスのエコロジー関連省(Ministry of Ecology, Sustainable Development, Transport and Housing)
の付属機関である BARPI(bureau for analysis of industrial risks and pollutions)から情報の提供を受けている。
収録される事故の産業分野は農業、化学・石油(基礎化学、ファインケミカル、火薬、製油所、石油貯蔵、
プラスチック)、その他の工業(金属、木工、廃棄物など)、移送(陸海上輸送、パイプライン)、ダム、堤
防などである。
http://www.aria.developpement-durable.gouv.fr/The-ARI-Database--5425.html
カリフォルニア州での石油、石化での重大化学事故データベース
カリフォルニア州の製油所の事故が(Contra Costa 郡環境局)から公開されている。1992 年から事故の
概要、施設内外への影響などが記載されている。
http://cchealth.org/groups/hazmat/accident_history.php
ルイジアナ州での製油所事故データベース
ルイジアナ州の製油所の事故が、市民団体である Louisiana Bucket Brigade により提供されている。小
規模漏洩を含め 17 製油所での収録事故数は約 3000 件(2005-2011)で、件数はかなり多いが、原因分析
などは不十分である。なお情報量が少ないものの、多くの事例について発生日時、漏洩量、コメントな
どが付記されている。
http://farm.ewg.org/sites/labb/refineryyear.php?refinery=BB002&year=2010
CCPS(Center for Process Safety:米国化学工業協会プロセス安全センター)
CCPS では重要なプロセス事故の経験や教訓の共有を目的に Process Safety Incident Database (PSID)
プロジェクトを運営している。PSID には重要な火災、爆発、死傷事故、有害物の重大な汚染などのプ
ロセス事故、ならびに、重大事故に発展する可能性があるニアミス情報が収録されている。PSID は 650
件の検索可能な事故が登録されており、PSDI プロジェクトの参加企業から毎月新規事故や有用性の高
い事故データが追加登録されているが。PSDI の加盟には以下の条件がある。
65
・ 化学品の製造または化学物質に関係する企業であること(業界団体や学術団体、研究機関、行政
機関は不可)
・
企業の代表者の同意書、特に秘密保持契約が必須
・ 年間 2,600 ドルの会費の納入義務(CCPS メンバーの場合 1,750 ドル)
・ 年間 3 件以上の事故情報の提供を行うこと
CSB(Chemical Safety Bored)
労働者・社会の安全、環境のために、化学品による事故の解析を行う米国の連邦機関。CSB の定める
基準に基づいて重大事故を選定し、産官学の委員が分析した結果を Web 上で公開している。
http://www.csb.gov/default.aspx
MARS 事故データ
EC の総合研究機関 JRC(Joint Research Center)内の MAHB(Major Accident and Hazard Bureau)が加盟国
から報告された重大化学情報を収集、分析したデータベース。2010 年後半には OECD-WGCA(化学安全
ワーキンググループ;OECD 加盟国の化学安全に関する行政官会議)内で OECD の統合化学事故データ
ベースとして発展させる方向で検討されている。幹事は MAHB と UNEP(国連環境プログラム)。収集さ
れた情報の速報版は公開し、詳細版は各国政府機関(コンタクトポイントとして登録された機関で事故情
報提供の義務を負う)が閲覧可能となる。詳細版は安全活動に自由に活用可能となる予定。なお、産業技
術総合研究所安全科学研究部門産業保安担当を日本の連携機関として登録することについて、所轄官庁
である経済産業省担当部門の了承を得ている。
66
5-3 海外先進動向調査
(1)海外製油所の腐食事故情報の分析結果
EC では化学品を取り扱う施設の安全に関する理事会指令(セベソⅡ)に基づいて、重大化学災害を
定義し、その報告を義務づけている。これを MARS(重大事故報告システム)と言い、加盟国から報告
された重大化学災害の情報は EC の総合研究機関 JRC(Joint Research Center)の付置機関である MAHB
(Major Accident and Hazard Bureau:重大事故調査局)が収集、分析している。
MARB では、収集された事故情報の解析結果の化学産業の現場での安全管理への活用を検討しており、
最初の試みとして製油所の腐食事故の分析を試みている。そこで現在までの解析結果を紹介する。なお、
最終報告は 2013 年 3 月に提案される予定ということであり、2013 年 10 月にパリの OECD 本部で開催
される WGCA-OECD(化学安全ワーキング:この会議は化学安全管理に関する行政官会議であるが、日
本は経済産業省からの委託に基づいて産業技術総合研究所・安全科学研究部門が参加予定)で報告する
とされている。
以下に報告の概要を示す。
①
背景
OECD 加盟国の製油所は高経齢化した施設が多く、その安全が問題となっている。
・ 製油所以外でも、石油産業に関連するエネルギー資源の採掘や製造、移送設備では腐食が事故
の原因となることが多い。
・ 製油施設は複雑で潜在危険性も大きく、OECD/EU 加盟国全体で製油所の安全には関心が高い。
・ 2000 年以降の OECD 盟国の腐食による事故の損害額は 2000 億円以上であると推定されている
(この統計データには非公開の Marsh Risk Report も含まれている)。
・ 1980 年以降に起きた腐食が原因であった事故では、3 事故で 60 人が死亡し、370 人が負傷して
おり、2006 年にドイツの製油所で発生した事故では、10 億円以上の環境被害が発生した。後
述するように、2000 年以降に 1 事故あたりの被害が増大している。
・ 腐食事故は事故例も比較的多く分析に適している。
・ 各国共通に関心があり、将来の事故の収集や分析に関する国際的な連携への発展も望まれる。
②
目的
2000 年以降の OECD/EU 加盟国での腐食による事例を収集整理して、事故シナリオ作成のための分
析を行う。それに基づいて安全管理のための提言を策定する。
③
事故データ
分析に用いた製油所での事故のデータベースと採用した事故数を以下に示す。また、フランスの大手
石油会社であるトタル社から 100 件以上の情報の提供を受けているが、これについては現在未公開であ
る。なお、主要な事故の解析は MARS の事例を利用しているが、それ以外に補助的な活用にフランスの
危機管理局(BARI)の関連機関である ARI(Analysis, Research and Information on Accidents)の化学事故
データベース、JST(科学技術情報機構)が作成した失敗知識データベース(化学プラント編)、化学事
故の収集分析等の役割を担っているドイツの国家機関 ZEMA(Zentrale Melde- und Auswertestelle für
Störfälle und Störungen in verfahrenstechnischen Anlagen)の化学事故データベース、重大な化学事故を選択
して国としての調査と分析を行う米国の連邦機関である CSB(Chemical Safety and Hazard Investigation
Board)の解析結果などを活用した。さらに、事故情報の掘り起こしや分析を行っている研究論文や雑
誌情報も利用した。なお、事故事例が国際的に活用されるためには、英文化が必須であるとの意見は多
い。
67
表 16 分析に使用したデータベースと活用した事例件数
情報源
事故数
収集期間
地域
MARS
ARI
失敗知識
データベース
雑誌類
30
36
18
1984 年以降
1990 年以降
1970 年以降
ほとんど EU
フランス中心
日本
11
1985 年以降
世界
ZEMA
4
1980 年以降
ドイツ
CSB
2
1998 年以降
米国
コメント
総括的な情報
総括的な情報
重大事故選択、
専門家の分析
重大事故選択、
専門家の分析
MARS との重複
もあり
重大事故選択、
専門家の分析
これらの情報源から収集された国別の製油所での登録事故数を図 37 に示す。MARS に次いで日本の
事故件数が多いのは、国内の安全専門家が結集して事例の分析を行ったことと、英文化された情報を無
償で Web 上で提供しているためで、海外では高く評価されている。
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
⑮
①フランス②日本③米国④ドイツ⑤オーストリア⑥イギリス⑦ベルギー⑧ギリシャ
⑨イタリア⑩オーストラリア⑪クエート⑫オランダ⑬ポルトガル⑭ロシア⑮ベネズエラ
図 37 国別の事故情報数
④
2000 年以降の事故の発生傾向と過去との比較
欧米の製油所では 21 世紀に入り甚大な被害を生じさせる化学事故が連続している。そこで、製油所
での事故の発生傾向を 2000 年以降(33 件)と 2000 年以前(64 件)で比較した。
図 38 は被害の大小での比較である。これによると 2000 年以降甚大な被害を含む事故の比率が増加し
ていた。
図 39 に被害の種類による相違を示す。複数の種類の被害を積算している。2000 年以降は製品被害や
市街地への被害の比率が高くなっている。
図 40 では MARS に収録された事故事例による発生施設別事故件数を示す。
これによると 2000 年以降、
水素化脱硫装置の事故が大幅に減少し、貯槽とリフォーミング装置の事故が増加していた。この傾向の
意味については現場ヒアリングを含めてさらに検討する必要がある、としている。
図 41 では主要設備における腐食に起因した物質ごとの発生件数を集計した。なお、使用した事例は
MARS に登録される 59 件であった。蒸留装置ではアンモニア系化合物の比率が高く、水素化脱硫装置
では脱硫操作で発生しやすい硫化水素に加えて塩素と塩化物の比率が高かった。また、貯槽では腐食の
起因となる物質が限定的で、原油と原油に含有される硫黄化合物が大きかった。
68
図 42 では腐食の発生箇所について 2000 年以前(55 件)と、2000 年以降(20 件)に分けて比較した。
件数での比較のため、相対的には 2000 年以降はタンクの基礎部分や埋設配管など、外面腐食による事
例が増加している。対象となる製油所の設備の多くは建設後 30 年以上経過しており、腐食速度が小さ
いと思われる部分で、長期的に腐食が進行したものと推定された。
図 43 では事故の原因分析から抽出されたリスクマネジメントでの問題点について、2000 年以前、2000
年以降で比較した。いずれも複数の項目を抽出している。2000 年以前の事故(64 件)の発生要因は「物
質とプロセスの理解不足」
、「監査項目のリスク評価不足」、「腐食防止対策の不備不足」の順であった。
2000 年以降(33 件)では「物質とプロセスの理解不足」、「監査項目のリスク評価不足」、
「建設時のリ
スク評価不足」で順位は大きく変わっていないが、2000 年以降全体的に発生要因が増加している。高経
齢化により設備が弱体化し、複数の要因による事故の増加が顕在化しつつあるものと思われる。
被害甚大
被害大
被害中
被害小
被害なし
図 38 被害規模の比較 (左:2000 年以前、右:2000 年以降)
物質
設備
環境
汚染
製品
負傷
死亡
市街地
破壊
図 39 被害の種類 (左:2000 年以前、右:2000 年以降)
69
被害なし
■
■
■
■
■
水素化脱硫装置
蒸留装置
貯槽
移送設備
オンサイト配管
■
■
■
■
■
■
触媒分解装置
アルキル化装置
リフォーミング装置
コーキング装置
異性化装置
その他
図 40 MARS の事故事例による発生施設別事故件数 (左:2000 年以前、右:2000 年以降)
蒸留装置
■
■
■
■
■
水素化脱硫装置
貯槽設備
アンモニアとアンモニア化合物
原油
硫黄化合物
水
硫化水素
■
■
■
■
■
■
塩素と塩素化物
水素
塩化水素
ポリチオン酸
硫酸
その他
図 41 腐食に関与した物質の装置別比較
70
その他
■
■
■
■
エルボージョイント
バルブ
タンク基礎部
枝分かれ配管
■
■
■
■
盲腸配管
その他
埋設配管
溶接部
図 42 腐食事故の発生した機器装置 (左:2000 年以前、右:2000 年以降)
物質とプロセスの理解不足
監査項目のリスク評価不足
腐食防止対策の不備不足
建設時のリスク評価不足
検知警報/計測制御不足
情報管理の不備不足
メンテナンスのリスク評価不足
安全感性の不足
装置材料の評価不足
設計時のリスク評価不足
図 43 リスクマネジメント上の問題点 (上:2000 年以前、下:2000 年以降)
71
⑤
結語
事故の分析により以下の知見が得られた。
・ 製油所の腐食による事故は損害額の大きさだけではなく、大きな人災と環境被害を発生させる
例が少なくない。
・ 製油所では過去多くの事故を経験したにもかかわらず、以下の分野ではいまだに危険認識が薄
いように感じられる。
⇒
設備や運転内容が熟知されている既存のプロセスでは、そのリスクは軽視されがちである。
危険も含んでわかっているという思い込みが事故の引き金になる例がある。
⇒
漏洩や破裂の潜在危険性があるプロセスでも、検知警報や軽減化の仕組みが不適切なこと
がある。
⇒
安全監査計画を立てる場合、腐食に関連した危険要素が見落とされることが少なくない。
⇒
プロセスの変更では新たなリスクが発生することもあるが、それが見落とされることが多
い(変更管理の重要性)
。
⇒
経済的要因によって、設備や装置の腐食防止手法の適切な活用に関する知識の周知が不足
しがちである。
(2)海外における第三者評価機関の取組
本調査では、委員会が調査団を結成し有識者を派遣する形で製油所の実態を把握したが、このように
第三者的な立場で企業評価を行う機関は、既にいくつか海外に存在する。そこで、以下では、海外にお
ける第三者評価機関の取組として、欧州の事例を複数紹介する。
① Det Norske Veritas (DNV:Norway)
ノルウェーの Det Norske Veritas 社(DNV)が提供する ISRS(International Sustainability Rating System)
は 1978 年 Frank Bird によって International Safety Rating System として第 1 版が開発された。
その後、
DNV
が 1991 年に買収し、現在は 2009 年に発行された第 8 版が最新である。1994 年の第 6 版までは、労働安
全衛生にフォーカスされた内容であったが、2005 年の第 7 版ではその対象とする分野を環境、品質、セ
キュリティ管理及び持続可能性に関する報告などビジネス的な課題へも拡張し、名称も International
Sustainability Rating System と変更されている。現在では、略称であった ISRS を主に使用し、安全と持
続可能性、両方を対象とした評価となっている。特に 2009 年の第 8 版では、頻発するプロセス事故に
対応し、Process Safety Management(PSM)などの領域も取り込んでいる。さらに DNV は、ISO9001、
14001、OHSAS などのマネジメントシステム認証機関でもあることから、ISRS を同社が買収した 1991
年以降、同社が認証審査を行う各種マネジメントシステムとの接合にも取り組んでいる。
第 8 版では、以下の 5 段階の継続改善ループが定められている。
第 1 段階:Strategy and Policy(戦略と方針)
第 2 段階:Planning(計画)
第 3 段階:Implementation and Operation(構築と運用)
第 4 段階:Monitoring and Measurement(モニタリングと測定)
第 5 段階:Result and Review(事象からの学習)
ISRS は、これら 5 段階の継続改善ループに紐付いた約 700 の設問について、DNV から派遣された審
査員がプロセスオーナーなどに対するインタビュー及び現地調査を行い、対象事業所のパフォーマンス
レベルを 1~10 の間で決定する。レベル 9~10 は世界トップレベルであり、このレベルに達するのは数
えるほどしか無いと言われている。また設問数については、各事業所の規模やパフォーマンスレベルに
72
より数が変わり、初歩のレベルにおいては基本的な設問のみについて評価を行い、パフォーマンスレベ
ルが向上するにつれて設問数が増え、より幅広い観点について評価を行うような仕組みとなっている。
評価に必要な期間は、DNV によると改善プロセスを含んだ標準的なパターンで 18~24 ヶ月である。
ISRS を実施する場合、まず簡易アセスメントを実施し、組織の具体的な課題を把握した後、改善計画を
立案し、それらの改善活動をある一定期間実施する。その上で、詳細アセスメントによる状況評価とパ
フォーマンスレベルの決定を行い、さらに改善活動を一定期間推進する。最終的に、改善箇所のフォロ
ーアップアセスメントを実施して一連の評価プロセスは完了する。
② Health & Safety Laboratory (HSL:England)
イギリスの Health & Safety Laboratory(HSL)では、Safety Climate Tool と呼ばれる安全風土診断を提
供している。1997 年に最初のバージョンが発表されており、現在は 2010 年に発表された 8 要素、40 項
目の質問紙調査が最新版である。Safety Climate Tool の 8 要素は以下のとおりである。
・ Resources for health and safety(安全衛生に関する資源)
・ Organizational commitment(組織的な取組み)
・ Health and safety oriented behaviors(安全衛生に対する態度)
・ Health and safety trust(安全衛生に関する信頼)
・ Accidents and near miss reporting(事故・ニアミス報告)
・ Usability of procedures(作業の容易さ)
・ Engagement in health and safety(安全衛生への関与)
・ Peer group attitude(仲間の態度)
Safety Climate Tool はソフトウェアとして提供されており、ライセンスされた各企業は、そのソフトウ
ェアを利用して、アンケート用紙の作成及び用語等のカスタマイズ、データ集計等ができるようになっ
ている。
③
Institut pour une culture de la sécurité industrielle (ICSI:France)
フランスの産業安全文化研究所(Institut pour une culture de la sécurité industrielle:ICSI)は、2001 年 9
月にフランス・トゥールーズにて発生した肥料工場の爆発事故の事故調査報告書において、技術的側面
のみならず人的・組織的要因を重視すべきであること、産業の安全文化を醸成するために、企業のみな
らず規制当局・学術界・地元当局・NGO など様々なステークホルダーと協働することなどが提言され
たことを受け、2003 年に設立された。現在では、フランスの代表的な企業、大学、労働組合、地方政府、
NGO などから、50 近い企業・団体がメンバーとなっている。
ICSI はメンバー企業の要請を受け、労働安全衛生及び環境に関する文化(HSE Culture)の評価手法を
メンバーと協働して開発し、メンバー企業を中心に適用を行っている。同研究所のメンバーには海外展
開を行っている企業が多いことから、フランスのみならず、欧州各国、アフリカ、中東、南米等におい
ても実施され、多言語での展開が行われている。
ICSI の評価手法は主に Simard らによって提唱されたモデルに基づいている。設問は、重視する安全
文化のタイプ(Safety Culture type beliefs)
、直面するリスクの種類(Risk evaluation)、労働安全衛生・環
境に関する従業員の認識(SHE perceptions)の 3 セクションで構成され、全体で概ね 100 問程度である。
このうち、労働安全衛生・環境に関する従業員の認識(SHE perceptions)のセクションは、HSE and work
(HSE と業務)
、HSE and management(HSE とマネジメント)、HSE and employees(HSE と従業員)の 3
パートに分かれている。その 3 パートに対し、以下に示す 12 の大項目に関わり、計 80 問程度の設問が
設けられている。
73
・ Organization and work context(組織及び職場の状況)
・
Management leadership(マネジメント層のリーダシップ)
・ Technical safety management(技術的な安全管理)
・ Management of safety behavior(安全行動の管理)
・ Risk management(リスク管理)
・
Work team / Peers influence(チーム・周囲からの影響)
・ Ergonomics and engineering(人間工学的配慮とエンジニアリング)
・ Employees compliance(従業員の行動)
・ Employees compliance(従業員によるルール遵守)
・ Employees involvement(従業員の関与)
・ Health(労働衛生)
・ Environment(環境)
ICSI の HSE Culture Survey に関わる一連の評価期間は規模にもよるが標準では 4~10 ヶ月程度である。
当初は、各企業それぞれに対し大きくカスタマイズをしながら、提供を行っていた模様であるが、現在
はほぼ収斂し、設問そのものは言葉遣い以外のカスタマイズを行わない報告になりつつあるとのことで
ある。
74
参
考
資
75
料
参
考
資
料
①
事
象
進
展
図
76
参考図 1 事象進展図(A社a製油所-その 1-)
75
参考図 2 事象進展図(A社a製油所-その 2-)
76
参考図 3 事象進展図(B社b製油所-その 1-)
77
参考図 4 事象進展図(B社b製油所-その 2-)
78
参考図 5 事象進展図(C社c製油所-その 1-)
79
参考図 6 事象進展図(C社c製油所-その 2-)
80
参考図 7 事象進展図(D社d製油所)
81
参考図 8 事象進展図(E社e製油所-その 1-)
82
参考図 9 事象進展図(E社e製油所-その 2-)
83
参
考
資
料
②
事 前 ア ン ケ ー ト 調 査 票
84
【趣旨】
依頼しております●月●日(●)の現地調査では、主に別紙のような項目について、尋ねる
予定です。つきましては、その事前情報として下記二点の質問にご回答ください。
【設問 1】
事故の未然防止にあたり、貴製油所の長所と考えている部分と弱点を抱えている気がかりな
ところをそれぞれ〈設備面〉
、
〈体制/基準面〉
、
〈従業員の知識/認識/経験面〉に分けて、自
由に記述してください。
<設備面>
強み:
弱み:
<体制/基準面>
強み:
弱み:
85
<従業員の知識/認識/経験面>
強み:
弱み:
【設問 2】
貴製油所の競争力を高めるために、現在どのような取組を進めており、どこに課題があると
考えていますか
【依頼事項】
本アンケートの回答とあわせて、下記の項目につきまして、対応可能な範囲で結構ですので、
関係する書類を同封・送付いただけますようお願いします。
・ 製油所としての安全理念・安全方針
・ 生産設備の稼働状況の推移(過去 5~6 年)
・ 運転管理や保全管理に係る要員の推移(過去 5~6 年)
・ 保全管理費の推移(過去 5~6 年)
・ 度数率など労災関連指標の推移(過去 5~6 年)
・ 従業員の教育・訓練に関する体系
86
参
考
資
料
③
現地調査確認項目に関する深掘質問リスト
87
○
○
○
○
の腐食を受け、検査も容易ではない。地上化すれば問題が解決するが、莫大 △
○
○
○
④オンサイトとオフサイトでは保全の方法や留意するポイントに相違はあるか
(Q1)設備能力の削減が進みつつある厳しい環境において、設備の信頼性確保に必
要な保全費をどのように考えているか。
◎
○
○
(Q2)オフサイト配管はエリアも広く総延長も莫大だが、そのメンテナンスにどの
ような工夫をしているか(オフサイト配管は常温・常圧の状態で、漏洩して
も重大な災害になることは稀であるが、岸壁近辺の配管が漏洩すると環境汚
染を引き起こしかねない)。
(Q3)埋設配管の腐食が問題と思うが、対策をどうしているか(埋設配管は内外面
なコストがかかる)。
(Q4)コスト面などの問題から、老朽化設備がなかなか「更新」できないことはな
いか。コストの問題が解決できれば更新したい「大型案件」には、どのよう
なものがあるか(例えば、脱硫装置の高圧熱交群のように腐食が広範にあり ◎
○
○
系全体を検査・補修しながら使用するのは効率や安全面から不安が残るので
本当は一括して更新したいがコスト面から決断できないというような案件)。
⑤配管の外面腐食は、どのような箇所に多いか
○
(Q1)外面腐食は手の内に入っているか。想定外の箇所が漏洩することはないか。 ○
○
○
○
(Q2)検査出来ない箇所など、困っていることは何か。
○
○
○
○
⑥配管の外面腐食の早期検知と対応はどのようにしているか
◎
(Q1)外面腐食検査はどのような考え方、方法で進めているか。
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
保温板金をステンレスに変更など多くのことが考えられる)。また、外面腐 ◎
○
○
○
○
○
○
○
うな方法で抽出しているか(可能性のある箇所および腐食の進んだ箇所は全 ○
○
○
○
◎
○
○
○
◎
○
○
○
◎
○
○
○
*◎ ○
○
(Q2)腐食予想箇所と検査の結果実際に腐食していた箇所との相関(的中率)はど
の程度か。的中率を向上させるため、どのような工夫をしているか。
(Q3)外面腐食の不安箇所はないか。高所の配管、大型容器等の外面腐食対応は終
了しているか。
○
(Q4)外面腐食対策として、設備的にどのような対策をしているか(重防食塗装、
食の検査・補修に中期的にどの程度のコストがかかると見込んでいるか。
⑦配管において「腐食はマイルドでも長期間の使用で内面減肉が進み漏洩に至る」
という事例が増えていないか(行止り配管や盲腸配管を含めて)
(Q1)どのような箇所が問題になっているか。
○
(Q2)このような内面腐食の可能性のある箇所を、網羅的に抽出するためにどのよ
箇所摘出できているのか。何箇所あるのか)。
⑧配管の緩やかな内面減肉にどのような対応をとっているか、また、どのような難
しさがあるか
(Q1)抜取検査だけでは緩やかな減肉の早期発見には限界があると思うが、どのよ
うに対応しているか(例えば、一定期間ごとに全体検査を行う等)。
(Q2)行止り配管や盲腸配管も問題と思うが、どのように対応しているか。
⑨設備の信頼性維持に関して、課題や困っていることは何か(例えば、工事品質不
良、エアフィンクーラーなど検査技術の確立していないもの)
(Q1)機器の余寿命評価はどのように実施しているか。現状の課題と今後注力すべ
きことは何か。
(Q2)地震、津波等自然災害に対し、設備的な対応を進めているか。対策を進める
にあたって、困っていることは何か。
87
◎
◎
○
保安管理
○
(1)設備面
運転管理
直長・担当
設備管理
管理者
○
重要度
○
深掘質問
幹部
対象階層・対象部門
△
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
性と課題をどのように考えているか(緊急時の一次操作、二次操作等におい ◎
○
○
○
(Q4)工事品質不良に伴うトラブルが増えているが、工事品質を確保するため、対
策はどのようにしているか。
(Q5)設備の腐食・劣化に対して寿命予測や解析技術をより活用し、さらに、使い
こなせるようにするためには何を要望するか。何が必要か。
保安管理
○
か。
運転管理
直長・担当
○
(Q3)自動的に停止する安全システムの信頼性向上に、どのように取り組んでいる
設備管理
管理者
○
重要度
*◎
深掘質問
幹部
対象階層・対象部門
(2)体制/基準面
①緊急事態に対する網羅性向上のため、運転マニュアルはどのような工夫をしてい
るか(HAZOP 等の検討結果を運転マニュアルに反映するなど)
(Q1)運転マニュアルは徹底的に整備すべきか。それとも現場の裁量に任す余地を
残すべきか。どのように考えるか。
(Q2)網羅性はどこまでできているか。誤操作防止や緊急時の対応ミスの低減に、
具体的に効果が出ているか。
(Q3)若手がマニュアルに頼りすぎて応用力が低下したといわれるが、具体的な事
例にどのようなものがあるか。
◎
◎
○
○
(Q4)緊急事態の対策として、すべてまたはほとんど設備により対応し(人間系に
頼らない)、より安全に停止等を行うという考え方はあるか。自動化の方向
て人数やロードの問題が生じていないか、さらなる自動化による設備的な充
実が必要な箇所や考え方はないか)。
②マニュアルを読みやすく、かつ、背景や根拠を理解しやすくするため、どのよう
な工夫をしているか
○
(Q1)IT 化によって対応することは考えられないか。
○
○
○
○
(Q2)IT 化はどこまで進めているか。その効果についてはどうか。
○
○
○
○
習得計画、年次ごとの習得レベルの設定と実施、講師確保等の対応が考えら ○
○
(Q3)マニュアルの習得に関して、どのように工夫しているか(習得時間の確保、
○
れる)。また、その効果の確認はどのように行っているか。
③運転情報(引き継ぎ記録など)・保全情報(保全記録など)・安全情報(ヒヤリ
ハットなど)等を電子化しているか。その場合、どのように活用しているか
(Q1)電子化の効果は、具体的にどのようなことか。
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
間の情報を保管しているか(例えば、引継ぎ簿の場合、1 回の報告を 1 件と △
○
○
○
○
(Q2)保安情報が運転にフィードバックされているか。どのような仕組みで実施さ
れているか。
(Q3)電子化している情報は具体的にどのような情報か。
○
○
(Q4)電子化している情報の文書件数は年間どのくらいか。また、どのくらいの期
してカウントする等)。
(Q5)電子化している場合、全社的に各製油所で電子化しているか。電子化してい
る製油所の総数はどのくらいか。
△
(Q6)運転情報・保全情報・安全情報を分析して業務に活用しているか。
○
○
○
○
(Q7)分析している場合、どのような方法で分析しているか。
◎
○
○
○
(Q8)他業界での電子情報の分析活用事例などに興味があるか。
△
○
○
○
(Q9)電子データの活用を目的とした実証実験を行う場合に、データ提供の協力は
可能か。
④国内だけでなく海外の保安情報を広く集めて活用しているか。その場合、どのよ
うに活用しているか
88
△
◎
○
○
○
(Q3)保安情報の収集を行うことに関し、希望、アイデア等があれば聞きたい。
⑤保安情報を共有化(運転管理部門、設備管理部門、保安管理部門、本社等)し、
業務に反映しているか
保安管理
が、そうした考え方はないか。
運転管理
直長・担当
(Q2)業界でまとまって世界の保安情報を収集すると効果的・効率的と考えられる
設備管理
管理者
(Q1)海外の保安情報の収集をどのような方法で行っているか。
幹部
○
○
○
○
○
◎
○
○
○
○
△
○
○
○
○
重要度
深掘質問
対象階層・対象部門
○
(Q1)どこまで共有化できているか。課題は何か。
○
○
○
○
(Q2)どのように IT 化すれば共有化に役立つか。
○
○
○
○
(Q3)整備保全管理システムは、現在どのような仕組みで IT 化しているか。
△
○
○
(Q4)整備保全管理システムを IT 化していない場合、その理由は何か。
△
○
○
⑥保安情報を具体的に手順書や規定に反映しているか。その実施にあたっての課題
は何か
○
(Q1)どのような仕組みで反映しているか(手順書等に反映する仕組みや責任者を
定めて行っているか、また、その結果、現場で実行されているかという確認 ○
○
○
○
○
○
○
はどうしているか)。
(Q2)手順書や規定を IT 化しておけば、反映しやすくなると考えられるか。IT 化
を進める問題点は何か。
○
(3)従業員の知識/認識/経験面
①世代交代が進んでいると思うが、技術・技能の伝承にどのような問題があるか
(Q1)その問題の原因は何と考えられるか。一定年限を経過すれば、自然に解消す
るものか。
(Q2)協力会社も世代交代が進み技能低下が懸念されているが、その対策はどうし
ているか。
(Q3)会社の合併後に一体感を醸成するため、どのように対応しているか。どのよ
うな苦労があるか。
②SDM の長周期化に伴いシャットダウンやスタートアップを経験することが少な
くなっているが、これに対応してどのような教育訓練を行っているか
*◎
○
○
○
△
○
*◎ ○
○
○
○
○
○
◎
(Q1)教育訓練時間をどのように捻出しているか。
○
○
○
○
(Q2)現在の時間数で必要なレベルへの技能向上に十分か。
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
*◎ ○
○
○
○
○
(Q3)実装置を活用した訓練装置は教育訓練に有効と思われるが、どう考えるか。
課題は何か。
③運転や保全を担う中堅・若手の意欲、感性、および、職場におけるコミュニケー
ションは、ここ 5~6 年程度でどのように変化してきているか
○
◎
(Q1)現状の中堅・若手は、具体的にどこが問題か(集中力、好奇心、仕事に対す
る緊張感、責任感、積極性、コミュニケーションに対する意欲・能力等の視 ◎
点でみて)。
(Q2)そのことにより、どのような問題が出ているか。会社や事業所のトップ方針、
規則、マニュアル等の遵守に関する意欲、責任感に対してはどうか。
(Q3)中堅・若手の意欲や感性の低下に対し、どのような対策や工夫をしているか。
その効果はどうか。また、職場の一体感の醸成や人間関係をよくするために、 ◎
どのように取り組んでいるか。
(Q4)中堅・若手において、上司・同僚・部下とのコミュニケーション向上(報告、
連絡、相談等)のために、どのような対策や工夫をしているか。
(Q5)トップの方針を現場にどのように伝えているか(背景や考え方を丁寧に伝え
ているか)。
89
◎
○
○
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
*◎
(Q1)ベテランの暗黙知(ノウハウ)をどのように伝承しているか(イグザパイロ
ット等)。
(Q2)技術・技能の伝承において、どのような工夫をしているか(マンツーマン、
OB の活用等)。
⑤机上の教育や OJT において、実際に安全を高めるためにどのように工夫している
か(体験教育、訓練プラント等)
(Q1)業界共通(共有)の教育訓練センターがあると効率的と思うが、どのように
考えるか。
(Q2)机上教育や OJT において、教育効果を高めるためにどのような工夫をしてい
るか。その工夫の効果はどのように出ているか。
(Q3)現在の机上教育カリキュラム、OJT カリキュラムの効果はどの程度出ている
か。効果をあげることが難しい分野や課題はどのようなものか。
⑥中堅・若手のオペレータがプロセス異常や想定外の緊急事態に臨機応変に対応で
きる能力をどのように養成しているか
(Q1)中堅、若手による緊急対応時に、十分に対応できなかった操作や事象はどの
ような事柄か。
(Q2)中堅・若手のオペレータの対応力養成において、苦労していることや課題は
何か。
(Q3)訓練シミュレータのシナリオやソフトが陳腐化しているといわれるが、どの
ように対応しているか。
⑦技術・技能の伝承において、どのように工夫しているか
◎
◎
○
◎
○
○
○
○
◎
○
○
○
○
○
○
◎
(Q1)その解決に向け、どのような努力・工夫をしているか。専門家、外部教育機
関や他社の取組を調査して、参考になったことはないか。それはどのような ○
○
○
ことか。
(Q2)マニュアルの充実(根拠、背景の明確化、網羅性向上、見やすさ向上等)は、
技術・技能の伝承に有効か。
○
○
○
○
○
○
○
(Q3)根拠・背景を教えたり指導したりする際に、OB の活用や学会の活用など、
どうしたらより効果的と考えるか(現場の担当者が学会等への参加が減少し ◎
ており、活発化のための方策や学会自身がより活動的になることなど)。
90
○
保安管理
*◎
④技術・技能の伝承にどのように取り組んでいるか
○
運転管理
直長・担当
○
◎
設備管理
管理者
○
(Q6)トップの方針が現場に伝わっているか。
幹部
○
重要度
深掘質問
対象階層・対象部門
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