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慢性腎不全および腎移植患者におけるT-1220

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慢性腎不全および腎移植患者におけるT-1220
CHEMOT
464
HERAPY
JULY
1978
慢 性 腎 不 全 お よび 腎 移 植 患 者 に お け る
T-1220(Piperacillin)の
柏 原 英 彦 ・蜂 巣
基 礎 的 ・臨 床 的 検 討
忠 ・宍 戸 英 雄 ・横 山 健 郎
国立佐倉療 養所
出
口
浩
一
東 京 総 合臨 床 検 査 セ ンタ ー
(昭和52年7月7日
受 付)
I.
腎 移 植 に お い て 最 も多 く,且 つ 致 命 的 な合 併 症 は 感 染
症 で あ り,こ れ は 拒 絶 反 応 防 止 の た め の免 疫 抑 制 剤 投 与
に よ る免 疫 能 低 下 に 起 因 す る と こ ろが 非 常 に 大 きい 。
ま た血 液 お よび 腹 膜 透析 を 必 要 とす る慢 性 腎 不 全 患 者
基礎的検討
T-1220はAmpicillinのamino基
に4-ethyl-2,3-
dioxopiperazinylcarbonyl基
を 導 入 し た 半 合 成PC系
抗 生 物 質 で あ る 。 こ れ は,筋
注 ま た は 静 注 に よ り,腎
に お い て も免 疫 能 の低 下 が 認 め られ て お り,感 染 症 は重
よ び 肝 に と く に 高 い 移 行 性 を 示 し,ま
大 な 問 題 で あ る。
ど 代 謝 さ れ ず に 主 と し て 尿 中 に 排 泄 さ れ る が,胆
し か し,抗 生 剤 の 中 で 投 与 量 の大 部 分 が 腎 か ら排 泄 さ
腎 不 全 に お け るT-1220の
内 に 蓄 積 した 抗 生 剤 が 極 端 な高 濃度 に 達 し,臓 器 毒 性 を
が多い。
発 揮 す る恐 れ が あ るた め,投 与 量 に 充 分 注 意 し な けれ ば
そ こ で,血
るT-1220の
望 まれ る。
ま た は2gを20%ブ
今 度,富
山 化 学 で 開 発 され た β-ラ ク タ ム系 抗 生 剤 で,
誘 導 体 で あ るT-1220
1)に つ い て,慢 性 腎 不 全
お よ び腎 移 植 患 者 を 対 象 に 基 礎 的 ・臨 床 的 検 討 を行 な っ
Table 1
Serum
ご溶 解 し て 静 注 後,
間 に 採 血 し,Pseudomonas
10490を
1,
与 群 で は,1時
levels of T-1220 and CBPC in the uremic patients
( ) : during hemodialysis
泄 を 検 討 す る 目 的 で,T-12201g
ド ウ 糖 液40mlに
NCTC
を 測 定 し た(Table
1g投
た の で報 告 す る。
吸 収,排
1,2,4,6,8,12,24,48時
aeruginosa
性
代 謝 に つ い て は 不 明 な とこ ろ
液 透 析 を 必 要 と す る慢 性 腎 不 全 患 者 に お け
な ら な い。 こ の た め,安 全 か つ効 果 的 な 抗 生 剤 の開 発 が
ABPCの
汁中へ
の 排 泄 も比 較 的 良 好 と 報 告 さ れ て い る1)。 し か し,慢
れ る もの を 腎 不 全 患 者 に 使 用 す る と,排 泄 障 害 に よ り体
お
た 体 内 で は ほ とん
用 い,cup法
に
こて 血 中 濃 度
Fig.1)。
間101μg/ml(88∼120)で,半
after
intravenous
injection
VOL.
Fig.
26
1
NO.
Serum
uremic
CHEMOT
4
levels
of
patients
(cross
over
T-1220
after
: 2•`4
and
CBPC
intravenous
in
HERAPY
465
以 上 の 慢 性 腎 不 全 患 者 に おけ る 血 中 濃 度 の 測 定 結 果
the
injection
と,既 に 報 告 され て い る よ うに,T-1220は
patients)
に 高 い 移 行 性 を 示 す こ とか ら,慢
1220は
腎 お よ び肝
性 腎 不 全 に お け るT-
主 と して 胆 汁 内 に 排 泄 され て い る と推 察 さ れ,
また,そ
の 排 泄 時 間 もCBPCに
比 し非 常 に 短 くな って
い る。
II.
T-1220の
で,4例
臨床的検 討
治 療 対 象 と な った の は 慢 性 腎 不 全 患 者6例
は 腎移 植 症 例 で あ る(Table
症 例1
2,3)。
H. J., 22才,男
生 体 腎 移 植 症 例 で,移 植 後7日
目に 急 性 拒 絶 反 応 が 起
こ り,こ の 期 間 に 移 植 腎 破 裂 を合 併 した 。 破 裂 部 縫 合 を
行 な い,創 を1次 的 に 閉 鎖 す る と共 に,感 染 予 防 の た め
T-1220を4日
100mg,メ
mgを
間,計9g投
与 し た。 こ の 間 イ ム ラ ン
チ ル プ レ ドニ ン80mg,抗
リンパ 球 血 清100
免 疫 抑 制 剤 と し て投 与 し て い た が,術 後 感 染 は認.
め られ な か った 。 副 作 用 とし て 白血 球 減 少 が み られ た。
減 期 は2.48時
間(1.49∼3.05)で
例 の5.6μg/mlを
あ り,24時
間 で は1
測 定 し た 以 外 は0.5μg/ml以
症 例2
下 であ
った 。
生 体 腎 移 植 後,肛 門 周 囲 膿 瘍 に罹 患 し,種
ま た,こ
の 群 の 透 析 期 間 中 の血 中 濃 度 測 定 に お い て も
与 群 で は,1時
減 期 は2.14時
0.8μg/mlを
を37日
中,イ
間 値196.3μg/ml(140∼235),半
間(1.58∼2.66),24時
測 定 し た 以 外 は 全 例0.5μg/ml以
1gを
間,総 量102g投
ム ラ ン100mg,メ
ム ラ ンを 中 止 した。 白 血 球 はT-1220お
に
下 とな っ
止 後1週 間 で5,000ま
症 例3
,対
象 と し て,同
減 期 は12.11時
間 でT-1220に
間値
比 し5倍
の 長 さ に 達 し て い る。
: transplantation
よ び イ ム ラ ン中
で 回 復 した(Fig.2)。
S.M., 47才,男
体 腎 移 植 を施 行 した。 しか し,非 可 逆 性 拒 絶 反 応 の た め
移 植 腎 を摘 出 し,シ
ャ ン ト トラ ブル も あ り,腹 膜 灌 流 を
行 な っ て い た が,汎 発 性 腹 膜 炎 を 合 併 し た。 灌 流 液 中 に
Table
Tx
で減 少 した た め イ
糖 尿 病 性 腎症 を基 礎 疾 患 とす る腎 不 全 の た め2回 の 死
患 者 に カ ル ベ ニ シ リ ン(CBPC)
投 与 し て 同 方 法 で 血 中 濃 度 を 測 定 す る と,1時
150μg/ml,半
与 し治 癒 さ せ 得 た 。 こ の期 間
チ ル プ レ ドニ ゾ ロ ン10mgを
服 用 させ て い た が,白 血 球 数1,700ま
間 で は,1例
て い る。
一方
々の 抗 生 物
質 の 投 与 に も拘 らず 治 癒 傾 向が 見 られ な い た め,T-1220
同様 の傾 向 を示 した 。
2g投
I.U., 21才,男
2
Clinical
results
CHEMOT
466
Table
B:
Before,
D : During,
Case 2 I. U. 21 M Periproctal
(Basic disease : Chronic renal
Kidney transplantation)
よ びGMを
Laboratory
JULY
1978
findings
A : After
Fig. 2
CBPCお
3
HERAPY
abscess
failure,
Fig. 3
Case 3 S. M. 47 M Peritonitis
(Basic
disease : D. M. nephropathy,
Post kidney
transplanta tion)
添 加 し た が,腹 膜 炎 の 増 悪 が 認 め
られ た た め,T-1220を
全 身 的 に 投 与 す る と共 に 血 液 透
析 に 変 更 し,良 好 な 結 果 を 得 た。 こ の症 例 で は,軽 度 の
症 例5
白 血 球 減 少,GOT(21→83)・GPT(19→60)の
子 宮 癌 の放 射 線 治 療 後,腎 機 能 不全 と滲 出 性 肋 膜 炎 を
上昇が認
め られ た が,投 与 中止 後 正 常 に 復 し た(Fig.3)。
症 例4
H.H.,
42才,男
死 体 腎 移 植 症 例 で,消 化 管 出 血 お よび 拒 絶 反 応 の た め
Y.K.,
51才,女
合 併 した 。T-1220を1日0.5∼19を2回
下 熱 せ ず,ま
投 与 した が,
た 自覚 症 状 の改 善 も認 め られ ず9日 で 中 止
し た。
移 植 腎 を 摘 出 。 摘 出 部位 の 出 血 か ら膿 瘍 へ 発 展 し,T-
症 例6
1220を
腎 不 全 に強 度 の 肺 浮 腫 を合 併 し,た だ ちに 腹 膜 灌 流 を
使 用 し 自覚 症 状 の 好 転 を み た 。 副 作 用 と して 白
血 球 減 少 を み た。
M.S., 62才,男
施 行 した 。 灌 流 液 中 にCEZ系
抗 生 剤 を 添 加 し てい た に
VOL.
26
NO.
CHEMOT
4
467
HERAPY
も拘 らず,発 熱 ・腹 痛 と灌 流液 混 濁 を み た た め,T-1220
1例 で,い ず れ も投 与 中 止 後 す み や か に 正 常 に 復 し て い
を 使 用 。7日 間 計8gの
る。
投 与 で 臨 床 症 状 お よび 腹 水 所 見
共 に 改 善 をみ た。
白血 球 減 少 症 に 関 し て は,わ れ わ れ の 今 回 の 経 験 例 で
III.
考
は高 率 で あ るが,症 例 は い ず れ も腎 移 植 の た め 免 疫 抑 制
按
腎 不 全 患 者 に 抗 生 物 質 を 投 与 す る場 合 は,腎 毒 性,排
剤 の 投 与 を 受 け て い た 例 で あ り,今 後T-1220と
免疫抑
泄 経 路 お よび 血 中濃 度 の 推 移 に 注 意 し て 投 与 し な い と重
制 剤 の 白血 球 減 少 症 に 関 す る相 関 関 係 を検 討 す る必 要 が
篤 な 副 作 用 を 招 来 す る こ とが あ る。
一 般 にPC系
抗 生 物 質 は,腎 臓 か ら最 も多 く排 泄 さ れ
あ る と考 え る。
る が,胆 汁 中 へ も高 濃 度 に 排 泄 され る2)。 山 作 は 腎 不 全
患 者 にAmpicillin,
Carbenicillin, Hetacillinを
投与 し
総
1.
中 濃 度 な らび に
ご半 減 期 をCBPCを
て 血 中 濃 度 を 測 定 す る と,そ の 半 減 期 は 正 常 人 の10.28
T-1220
倍 か ら15.45倍
減 期 は2.48時
に延 長 し て い た と報 告 して い る3)。
わ れ わ れ が 透 析患 者 に お け るCBPCの
血 中濃度 を 測
定 した 結 果 で も,そ の 半 減 期 は12.11時
間で あった。
一 方 ,T-1220の
透析患者に お け る血中濃度 の推移を
検 討 す る と,1gま
期 は各 々2.48時
た は2g投
間 と2.14時
与 に お い て も,そ の 半 減
間 で,こ れ はCBPCに
ご比
し5分 の1と 非 常 に 短 い こ とが 判 明 し た 。これ はT-1220
括
血 液 透 析 を必 要 とす る慢 性 腎 不 全 患 者 に 対 す る血
1g投
間 で あ り,CBPC
れ150μg/ml,12.11時
CBPCの
2.
1g投
与 で は,そ
間 とな り,T-1220の
約5分 の1で
慢 性 腎 不 全 を 基 礎 疾 患 とす る感 染 症2例,腎
使 用 し,5例
れぞ
半減期 は
あ った 。
後 の 感 染 予 防1例,術
3.
対 照 と して 検 討 し た 。
与1時 間 後 の血 中 濃 度 は101μg/ml,半
後 感 染3例 の 計6例
に効 果(有 効 率83.3%)を
移植
にT-1220を
認めた。
副 作 用 とし て は 白 血 球 の 減 少 が4例,GOT・GPT
が と くに 肝 に 高 い 移 行 性 を 有 し,慢 性 腎 不 全 に お い ては
の 軽 度 上 昇 が1例 に 認 め られ た が,投 与 中止 後 速 や か に
主 とし て 胆 汁 か ら排 泄 され て い る こ とを 示 唆 し て い る。
正 常 に 復 し た 。 な お この 白血 球 の減 少 は併 用 剤 イ ム ラ ン
す な わ ち,T-1220は
泄 は 他 のPC系
慢性 腎不全患者に おいてその排
抗 生 物 質 に 比べ 非 常 に 早 く,繰 返 し大 量
に も認 め られ る こ とか ら,本 剤 に よ る もの か ど うか は 不
明で ある。
文
投 与 が 可 能 で あ る と考 え られ る 。
次 に,透 析 療 法 を必 要 とす る慢 性 腎 不 全 お よび 免 疫 抑
制 剤 の服 用 を必 要 とす る 腎 移植 で は,感 染 症 の 合 併 率 も
高 く,ま た,し
第23回 日本 化 学 療 法学 会 東 日本 支 部 総 会,新 薬 シ
ン ポ ジ ウ ムI, T-1220, 1976
2)
AYLIFFE, G. A. J. & A. DAVIS : Ampicillin
ば し ば致 命 的 で あ るた め重 大 な 問 題 で あ
vels
る4,5)。これ は免 疫 能 の 低 下 に 起 因 し,そ の た め 病 原 菌 も
グ ラ ム陰 性 菌,真
菌,ウ
nistic infectionで
イル ス,原
虫 な どのopportu-
そ こ で,慢 性 腎 不 全 患 者2名,腎
は5名
移植後再血 液透析者
の感 染 症 に 対 しT-1220の
で あ り,こ の うち 難 治 性 肛 門 周 囲 膿 瘍 を 有 す る 腎
と し て は,白
間 に 総 量102gを
血 球 減 少4例,GOT・GPTの
Brit.
J.
Pharmacol.
le24 :
1965
山 作 房 之 輔:腎
Chemotherapy
4)
coliと
検 出 され た 。 臨 床 効 果 の 認 め られ た の
移 植 患 者 で は37日
bile.
機 能 不 全 時 の 抗 生 剤 の 動 態(第1
報)。 慢 性 腎 不 全 時 な ら び に 人 工 透 析 時 の Ampicillin, Hetacillinお
よ び Carbenicillinの
動態。
臨 床 応 用 を試 み た 。 この うち4名 に お い て,E.
Pseudomonasが
in human
189-193,
3)
あ る こ とが 多 い。
名,腎 移 植 患 者2名,計6名
献
1)
使 用 した 。 副 作用
軽度上 昇例
5)
18:291∼301,
1970
IWASAKI, Y.: Cadaveric renal transplantation.
Igaku shoin (Tokyo), 1974
ANDERSON, R. J. ; L. A. SCHAFER, D. B. OLIN &
T. C. EICKHOFF: Infectious risk factors in the
immunosupressive
host. Am. J. Med. 54 : 453
∼460,
1973
CHEMOT
468
HERAPY
JULY
1978
LABORATORY
AND CLINICAL INVESTIGATIONS
OF T-1220 (PIPERACILLIN)
IN CHRONIC RENAL
FAILURE AND KIDNEY TRANSPLANTATION
HIDEHIKO
KASHIWABARA,
TADASHIHACHISU,HIDEOSHISHIDO
and TAKEOYOKOYAMA
National Sakura Sanatorium
KOICHIDEGUCHI
Laboratory Section of Bacteriology, Tokyo Clinical Research Center
For
studying
under
in
the
excretion
hemodialysis.
2g
admission.
This
bile
time
and
T-1220
is
safe
was
The
short
to
administer
used
patients.
It
As
the
a
life
to
clinically
side
T-1220
with
other
the
in
of
the
T-1220,
was
with
in
2. 48
hours
that
chronic
infections
5
blood
101 ƒÊg/ml
antibiotics
patients
for
T-1220,
was
of
the
effective
effect
antibiotic,
level
compared
was
new
maximal
half
so
transplantation.
domonas.
of
The
patients
leukopenia
of
the
6
1 g
admission,
T-1220
was
1 g
may
measured
in
admission
and
and
be
2. 14
excreted
the
patients
196
hours
mainly
Pena
in
2 g.
in
the
failure.
patients
had
were
of
in
renal
who
levels
group
with
the
chronic
organisms
recognized
renal
such
in
the
failure
as
4
E.
kidney
and
coli
kidney
and
transplanted
Pseu-
Fly UP