...

第97号

by user

on
Category: Documents
30

views

Report

Comments

Description

Transcript

第97号
計測・診断
企業技術紹介
システム研究
協議会ニュース
SiC基板の加工プロセスの現状と課題 *
* 第15回精密加工プロセス研究会(平成25年 2月20日開催)講演概要
株式会社フジミインコーポレーテッド
河田 研治
2013年4月11日発行
第97号
◆はじめに
SBIR値≦1μ m(□10mm)、SORI値≦30μ m程度が
参考文献
シリコン半導体に比べ高温動作性に優れ、小型 必要とされる。しかし、市販の2インチ基板について
鎌田,堀田,河田,江龍,第55回応用物理学関連連合講演会
講演予稿集,№1,435(2008)
で省エネ効果も高いSiCパワーデバイスの本格的
調査したところ必ずしも要求精度を満たしていな
堀田,廣瀬,田中,河田,江龍,第55回応用物理学関連連合講演会 講演予稿集,№1,435(2008)
普及に向けて、基板の大口径化・量産化が進めら かった。
堀田,河田,廣瀬,田中,江龍,2007年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,1145(2007)
その原因としてまず着目した点は、市販基板の
れ、それに伴い基板加工技術の重要性が増してい
江龍,田中,神田,堀田,鎌田,河田,大島,永利,SiC研究会
第17回講演会予稿集,9(2008)
る。しかし、SiCは極めて高硬度かつ化学的・熱的 縁ダレが大きいことである。これは、CMPのように
堀田,鎌田,河田,江龍,大島,第56回応用物理学関連連合講演会
講演予稿集,№1,446(2009)
にも安定なため加工が非常に難しい。本稿ではSiC 弾性研磨パッドを使う工程において、高圧・長時間
基板加工プロセスの現状と課題について述べると の研磨が行なわれたためと推測される。次に注目
共に著者らが開発してきたSiC基板加工技術を紹 したのは、市販基板の表裏の加工状態の違いであ
る。市販基板はデバイスを作成するSi面をCMP面、
介する。
その裏面はMP(ダイヤモンドラッピング)面であるこ
◆SiC加工技術の現状と課題
SiCの加工プロセスも基本的にはSiと同様、イン とが一般的である。しかし、加工状態の差は表裏
ゴットの切断、切断ウェハの厚みと形状を揃えるた の応力差を発生させ、反りが悪化する(これをトワイ
めの研削或いはラッピング、ダメージ層除去のため マン効果という)と考えられる。これに対してMP工程
の仕上研磨などで構成される。しかし、表1に示す のダメージ層を浅くしてCMP除去量を減らすことに
ようにSiCはSiに比べて遥かに硬く化学的・熱的に より弾性パッドによる形状精度の劣化を抑え、さら
も安定なため、 Siラッピングに使用されるGC、FO に両面をCMP面とすることにより反りの改善を試み
などの一般砥粒が使えないし、Siにおいて前加工 た。そ の 結 果、図 1 の よ う に SBIR 値 ≦ 1 μ m( □
ダメージ層除去に使われるウェットエッチングが化 10mm)、SORI値≦4μ mが得られた1)。
学的に安定なSiCでは適用できない。そのため機
械的作用によるSiCの加工には、高硬度なダイヤモ
ンド或いはcBN砥粒を使用しなければならずコスト
高となる。しかもウェットエッチングが使えないた
め、ダメージ層除去は化学的機械的研磨(CMP)の
みに頼らざるを得ず長時間かけて行われているの
が現状である。また、このことは基板形状精度劣化
の一因ともなっている。
表1 SiとSiCの材料物性の違い
材
料
物
性
新モース
硬度
ヌープ硬
度
融点
薬品溶
解性
シリコン(Si)
シリコンカーバイド(SiC)
7
13
560~710
2,400~3,000
1,410 ℃
酸、アルカリでウェッ
トエッチング可
(加工ダメージ除去)
2,830 ℃
常温でウェットエッチング
できる薬品は無い
(溶 融 ア ル カ リ に お け る
エッチング可能)
◆高精度高品位仕上面を達成する加工プロセス
CMP前の工程としては、ダイヤモンド砥石を用い
た研削加工、ダイヤモンドスラリーを用いたラッピン
グ加工などがあるが一長一短があり確立していな
い。以下では、著者らがダイヤモンドスラリーを用
いた2段ラッピングの後CMPを行い高精度高品位
仕上面を達成した例を紹介する。
企業技術紹介
SiC基板の形状精度はフォトリソ工程で使用され
るステッパー焦点深度、真空吸着の保持性から、
図1 加工プロセスと形状精度
◆SiC専用スラリーによる高品位CMP技術
半導体材料の表面は、ダメージの無い原子レベ
ルの平坦性が要求されるが、ダイヤモンドによる加
工は如何に小さい粒子を使用したとしてもダメージ
を発生させる。そこで著者らはコロイダルシリカを
ベースとしたスラリーによる高品位CMP技術の確
立を試みた 2,3)。図2に、SiC専用スラリーで研磨した
面のAFM画像を示す。結晶面と研磨面のズレから
発現する原子ステップ構造が確認でき、表面粗さ
Raは Si面、 C面ともに0.1nm以下であった。これら
の研磨面はCAICISS測定により、最表面まで単結
晶性が保たれていることも示された 3,4)。また、流通
するSiC基板の全方位面(Si面、C面、A面、M面)で
仕上面粗さRaを0.1nm以下にできることを示した。
更に、工程簡略化が期待できる両面同時CMPにも
挑戦し、その開発に成功した5)。
図2 SiC基板(SI型4H-on axis)CMP面のAFM像
参考文献
1)鎌田,堀田,河田,江龍,第55回応用物理学関連連合
講演会 講演予稿集,№1,435(2008)
2)堀田,廣瀬,田中,河田,江龍,第55回応用物理学関
連連合講演会 講演予稿集,№1,435(2008)
3)堀田,河田,廣瀬,田中,江龍,2007年度精密工学会
春季大会学術講演会講演論文集,1145(2007)
4)江龍,田中,神田,堀田,鎌田,河田,大島,永利,SiC
研究会 第17回講演会予稿集,9(2008)
5)堀田,鎌田,河田,江龍,大島,第56回応用物理学関
連連合講演会 講演予稿集,№1,446(2009)
企業技術紹介
SiC単結晶の結晶欠陥と加工欠陥評価
–加工のダメージ層の深さ評価- *
* ミニマル3DICファブ開発研究会第3回開発会議(平成25年1月30日開催)講演概要
一般財団法人ファインセラミックスセンター
石川由加里
本方法は加工ダメージの種類・密度・面内および深さ分布
次世代パワーデバイス用半導体として注目を集めている 図3.
グリーンイノベーションへの寄与
と情報量が多いため有益であるが、複数回のエピ成長を
4H-SiCは、大きなエネルギーギャップを有し絶縁耐圧が
高く、熱伝導率が大きいなど優れた物性を有している。一
要するため時間・コストともにかかる上、エッチング工程が
方、ダイヤモンドの次に硬く化学的に安定なため加工が困 入るので破壊検査となる。
難である。また、脆い上に、結晶多形の生成エネルギーに
上記の問題を避けるため、発光やラマン散乱を用いた
加工導入欠陥の評価も進めている。ウエハ表面をKOH融
差が少ないので積層欠陥が形成されやすく、加工導入欠
陥の発生を抑えることが困難である。ところが、適切なエッ 液エッチング、化学機械研磨、機械研磨した試料をそれぞ
れ用意し、Raman信号や発光に差異が検出されるかを調
チング液がなく、加工ダメージ層を簡易に除去する方法が
べた。発光に関してはスペクトル形状の変化は殆どない
ないため、ダメージレスの加工に対する強い要求がある。
ダメージレス加工を実現するには、加工導入欠陥の正確 が、強度と寿命には差異がみられた。Raman信号につい
な評価が必要不可欠であるが、加工導入欠陥の浅さゆえ
ては積層欠陥に起因するピークの発生、ピークシフト(歪量
に困難が生じている。本講演では、私達の加工ダメージ層 の変化)、半値幅、ピーク強度比などが表面加工条件に
の評価に関する取り組みと課題について述べる。
よって異なり、適用可能と判断しているが、加工ダメージ
加工導入欠陥は結晶全体を貫くことはあまりなく、表面
の感度評価はこれからの課題である。
偏析することが多い。そこで、結晶のガスエッチングとその
本講演の一部(研磨)は近畿経済局の戦略的基盤技
上へのエピタキシャル成長、エッチピット法による欠陥検
術高度化支援事業により実施したものである。
出を組み合わせることで表面に偏析する欠陥の種類、密
度、分布深さの評価を可能にした。加工導入欠陥をエピタ
キシャル膜に伸展させることで検出可能なサイズとするも
(b)
(c)
のである。また、結晶のガスエッチング量の増加に伴って (a)
減少する欠陥が加工導入欠陥に起因するものと判断する
大学技術紹介
ことができる。これにより、従来指摘されてきた線状の潜
傷だけではなく数百μ mのサイズを有する三角欠陥や三
100m
100m
100m
角積層欠陥の一部も加工導入欠陥を起因としていること
が分かってきた。前者はエピ成長中のゴミ、後者は結晶中
図1 加工導入欠陥を起点とするエピ膜中の欠陥
の基底面転位の拡張に起因するとされてきたものである。
(a)潜傷、(b)三角欠陥、(c)三角積層欠陥
また、これらの特徴的な欠陥が検出されなくなるエッチン
グ量を加工導入欠陥の分布深さと定義することができる。
この評価法を用いると、化学機械研磨・機械研磨の品質を
加工導入ダメージの観点から評価することが可能である。
Triangular defect
A
B
C
D
500
15
10
5
400
300
200
100
0
0.2
0.4
0.6
Thickness (m)
0.8
Triangular stacking fault
A
B
C
D
120
100
80
60
40
20
0
0.0
c)140
-2
20
600
-2
-2
25
Pit density / cm
b)
Dislocation array
A
B
C
D
Pit density / cm
30
Pit density / cm
a)
0
0.0
0.2
0.4
0.6
Thickness (m)
図2 加工導入欠陥の深さ方向分布の加工方法依存性
0.8
0.0
0.2
0.4
0.6
Thickness (m)
0.8
(a)潜傷、(b)三角欠陥、(c)三角積層欠陥
共著:一般財団法人ファインセラミックスセンター
姚永昭、佐藤功二、菅原義弘
株式会社アクト 岡本好弘、 林紀孝
企業技術紹介
食品用アンペロメトリック・バイオセンサの開発
*
* 平成24年度第2回食品・バイオテクノロジー技術研究会講演会(平成25年3月11日開催)講演概要
図3.
バイオセンサは、生体が有する優れた分子識別能とそ
の反応による変化を電気信号に変換するトランスデューサ
―の組合せにより構成されている。当社では半導体製造
技術を利用したプレーナ型バイオセンサの開発を行ってお
り、デジタル尿糖計を2004年に、尿糖計を食品分野でも利
用できるように改良したポータブル・グルコース計(以下、
グルコース計)を昨年(2012年秋)に販売している(図1)。
本講演では、これまでに蓄積してきたグルコース計開発に
おける製造技術について現在開発中の製品も含め紹介す
る。
大学技術紹介
図1 ポータブル・グルコース計
グリーンイノベーションへの寄与
株式会社タニタ
小出 哲
グルコース計は電極と固定化酵素から成り、酵素には
グルコースオキシダーゼ(GOD)を用いている。GODは以
下のような反応を触媒し、
β -D-グルコース+O2 → グルコノラクトン+H2O2
過酸化水素(H2O2)が生成される。H2O2 は電極活性を有
し、電極と反応する。H2O2の生成量はグルコース濃度に依
存するため、これを測定することで間接的にグルコースを
定量することができる。
電極部は、センサを小型化するためプレーナ型を採用
した。作製方法は、半導体製造技術を用いて電極部のパ
ターニングを行い、スパッタリングによって金属薄膜を形成
し(チタン(Ti)→白金(Pt)→銀(Ag))、リフトオフによって
パターン化した電極部を設置した。参照極部分を残すため
に、パターン化した電極部上に再度パターニングを施し、
エッチングによって参照極部分以外のAg層を除去し、最後
にレジストを除くことで各電極を作製した。作用極をPtとし
たが、これはPtがH2O2に対して高い活性を有し(高感度に
測定可能)、かつ表面に酸化被膜が形成され難くいためで
ある(長期間安定に測定可能)。電極は3電極(作用極、対
極、参照極)で構成されており、安定かつ高精度な基質の
測定を実現した。この製造方法は多数の電極を一括作製
することができるため、量産性に優れている。また、電極
部をプレーナ型にすることで固定化酵素層を容易に形成
することができる。
グルコース計は測定対象がH2O2であるため、印加電圧
をある程度高くする必要がある。しかし、高い印加電圧で
は他の物質も酸化されるため(干渉物質と呼ぶ)、余計な
電流が観測され、正確なグルコース濃度を測定すること
ができない。食品中には様々な干渉物質が含まれている
が、干渉物質の多くはアニオン性を示す(例:アスコルビ
ン酸(ビタミンC))。そこで干渉物質の影響を低減するた
めに静電的な反発を利用する方法を考案した。種々検討
した結果、電極上にナフィオン®層を設けることが有効で
あった。
ナフィオン層の上に酵素を固定化することでバイオセン
サは構成できるが、直接測定対象と酵素が触れると酵素
の失活や汚染の起こる可能性がある。そこでフッ素樹脂
によるコーティングを試みたところ、物質の吸着を防ぎ、さ
らにフッ素樹脂濃度の制御により物質の大きさによるフッ
素層の通過を制限することが可能となった。これにより測
定対象物質よりも分子量の大きい物質をほとんど排除す
ることができた。
各層構造の形成は、薄膜形成技術により行った。薄膜
形成技術とは、液体を平滑な基材の上に添加し、これを
高速回転させ遠心力で薄膜を形成させる方法である。開
発したセンサ電極部はプレーナ型のため、この技術を利
用することができる。種々検討した結果、パラメーター制
御により膜厚コントロールが可能であり、条件の最適化に
より検出時間の短縮(6秒)を実現した。
現在このような製造技術によって種々のバイオセンサ
を開発しており、その一つにグルタミン酸センサがある。
非必須アミノ酸の一つであるグルタミン酸は、旨味成分の
一つとして知られており、食品(特に海藻類)に多く含ま
れ、食品工場や調理施設の品質管理の指標(味の指標)
になると考えられている。グルタミン酸を測定する方法
は、アミノ酸自動分析計(HPLC法)や酵素法(呈色法)で
あるが、操作が煩雑、大型の装置が必要、測定に時間が
必要等の問題があり、簡便に測定することができなかっ
た。そこで、新たにグルタミン酸センサの開発を試みた。
グルタミン酸センサの構成はグルコース計と同じで、酵素
をGODからグルタミン酸オキシダーゼに代えただけであ
る。その反応は以下となり、
グルタミン酸+O2+H2O→ケトグルタル酸+NH3+H2O2
生成したH2O2 の検出でグルタミン酸濃度を測定するこ
とができた。アミノ酸自動分析装置とグルタミン酸センサ
を比較したところ極めて高い相関性がみられ、グルタミン
酸センサが簡便、高精度、短時間でグルタミン酸を測定
できることを示した(図2)。このようにH2O2 が酵素反応に
よって生成されるものであれば、新たなバイオセンサの構
築は容易であり、より汎用性の高いセンサの開発が期待
される。
図2 アミノ酸自動分析装置測定値とグルタミン酸計測定値の相関
◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆
今後のイベント予定(詳細は公式HPにて)
・平成25年度計測・診断システム研究協議会総会及び講演会:
4月22日(月)13:30~17:10 リファレンス駅東ビル 7階 会議室D
講演会抜粋
15:00~16:00
講演1
講師:九州経済産業局 産業部 産業課長 成清 四男美 様
演題:「九州におけるエネルギー情勢について(仮題)」
16:00~16:45
講演2
講師:産業技術総合研究所 太陽電池モジュール信頼性評価連携研究体 体長 増田淳
演題:「産総研における太陽電池モジュール信頼性評価に関する研究開発の取り組み」
編集・発行:独立行政法人 産業技術総合研究所 九州産学官連携センター内 計測・診断システム研究協議会事務局
〒841-0052 佐賀県鳥栖市宿町 807-1
公式HP: http://unit.aist.go.jp/kyushu/k-kyougikai/index.html
Fly UP