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天文宇宙検定公式問題集〈1級天文宇宙博士〉訂正&補足解説

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天文宇宙検定公式問題集〈1級天文宇宙博士〉訂正&補足解説
天文宇宙検定公式問題集〈1級天文宇宙博士〉訂正&補足解説
2012 年 8 月 28 日
●32 ページQ34/34 ページA34
設問が曖昧なため、選択肢3も誤りとはいえないのでは? と読者からのご質問がございました。
設問では「最も重視すべき理由はなにか」と問うています。
短い波長の電波を観測するためには、まずそれが観測できる場所、つまり水蒸気などによる電波の
吸収が少ない場所に望遠鏡を設置しなければならず、これが最も重視されます。
となると、5000m 級の高山か南極などが候補となります。
そのうえで、10km2 以上の広さがあり、地面が安定していて、天気が良くて、アクセスもなんとか
なる、ということを考慮するわけです。
したがって最も重視すべき理由は「大気の吸収が少ないこと」となります。
●58 ページQ27/60 ページA27
解説文
【誤】 ③は電子が陽子の電磁力で減速されるときに出る光で制動放射ともいう。
【正】 ③は荷電粒子が静電場(クーロン場)中を運動する際に出る光で制動放射ともいう。
解説の選択肢3の説明が不正確のため、選択肢3も正答から除外できないのでは? と読者からの
ご質問がございました。
【補足説明】
ここでは、通常使われている(狭義の意味での)ブレムストラールング(制動放射)として使いま
した。その場合は、シンクロトロン放射はマグネトブレムストラールング(磁気制動放射)となり
ます。ただし、ブレムストラールングを広く捉えれば、シンクロトロンもその一種になるので、厳
密性に欠けておりました。
●59 ページQ31/61 ページA31
選択肢3も誤りとはいえないのでは? と読者からのご質問がございました。
正答は2に限りますが、問題集では解説を4、5行程度の簡素な解説にしているため、説明が不十分
であり、誤解を招きやすい表現になっておりました。混乱を招いた点をお詫びいたします。以下のよう
に解説文を差し替えさせていただきます。
【現在の解説文】
超ひも理論によれば、時空は 10 次元あると考えるのが都合がよい(現実は 3 次元の空間と時間を加
えた 4 次元空間である)。我々の 4 次元時空では感じられない 6 次元の余剰次元空間は、目に見えな
1
いとても小さなスケールに閉じ込められていると考える。ブレーン宇宙論とは、「我々の住む宇宙その
ものが、高次元の中を漂う薄い膜のような 4 次元時空だ」というアイデアで、1998 年にアルカニハメ
ド、ディモポウロス、デゥバリの 3 人によって提案された新しい宇宙の描像である
【解説文の修正】
ブレーン宇宙論とは、
「我々の住む宇宙そのものが、高次元の中を漂う薄い膜のような 4 次元時空だ」
というアイデアで、1998 年にアルカニハメド、ディモポウロス、デゥバリの 3 人によって提案された。
4つの力の統一を考えるときに、重力だけが 5 次元以上の余剰次元空間を伝播することができると考え
ることで、重力だけが弱い「力の階層性問題」を解決するパラダイムである。(宇宙論と呼ばれるが、
力の理論である)。高次元の考え方自体は、ひも理論・超ひも理論から出されたものであるが、選択肢
3の「ひも理論をさらに拡張した理論で描く宇宙論」は、普通、宇宙の初期特異点問題を回避する宇宙
モデル等を指し、重力だけを分離するようなブレーン(膜)を用いる考えを直接意味しない。
-----------------1級については、市販の書籍で幅広く学んでいただきたいのですが、また一方で、市販の書籍で、いろ
いろあいまいな表記があるというご指摘もいただきました。たしかに本問題については、最先端の話な
ので、出題者にお願いして、詳しい解説をいただきました。
【補足説明】
物理学のまだ解決していない根本問題に、力の統一問題(4つの力を統一して説明する理論がないこ
と)があります。4 つの力のうち、重力以外の電磁気力、強い核力、弱い核力の 3 つの力はゲージ理論
を用いて統一した説明ができています。ところが、重力だけが難しく、現在、ひも理論(あるいは超ひ
も理論)が統一理論の候補とされていますが、まだ完成していません。超ひも理論は、90 年代半ばに、
それまで5つあった理論が、実は時空が 11 次元であることを考えると、1つにまとめられることがわ
かり、M 理論とも呼ばれています。ただし、ひも理論・超ひも理論・M 理論は、あくまで力の統一への
物理的考え方であって、この段階では宇宙論を含むものではありません。
一方で、力の統一を考えるとき、重力だけが他の3力にくらべて非常に弱いことがわかっており、こ
の説明ができていません。これを力の階層性問題とも呼びます。本問の「ブレーン(膜)宇宙論」は、
この階層性問題を解決するアイデアとして 1998 年にアルカニハメド、
ディモポウロス、
デゥバリの 3 人
によって提案されたものです。ここでブレーン(膜)とは、「我々の住む宇宙そのものが、高次元の中
を漂う薄い膜のような 4 次元時空だ」ということを表しています。そして、このブレーンの考え方では、
重力だけが、5 次元以上の余剰次元へもしみ出すことができるので、他の3力にくらべて弱いのだ、と
いう考え方で説明ができます。同じく高次元時空でも、超ひも理論などで想定するゲージ理論の枠組み
を入れるための高次元時空とは性質が違うものです。ブレーンで考える余剰次元の大きさはとても小さ
く、0.01 mm 以下のサイズと考えられています(超ひも理論などで考える高次元時空でもコンパクトな
時空を考えますが、そちらは 10 のマイナス 33 乗 cm ぐらいのプランクサイズになります)。ブレーン
の考え方は、これまでの世界観(宇宙観)を一新する考えですが、現在までのところ、これを支持する
観測的証拠も、逆に、否定する観測や実験事実もありません。高次元を使うアイデアは、すでに超ひも
理論や M 理論で十分自然であると考えられていましたが、重力を除いて我々の世界が4次元に捕えられ
ているのだ、というブレーンの考え方は、超ひも理論などでの高次元時空とは異なる斬新なパラダイム
であり、決して、超ひも理論やM理論を発展させたものではありません。
2
ところで、一般相対性理論が描く現代の宇宙論は、初期の1つの点から真空の大膨張(インフレーショ
ン宇宙)を経て、ビッグバン爆発を引き起こしたことで説明されています。しかし、初期特異点はどの
ように説明するのか、あるいは最近発見されている宇宙の加速膨張をどう説明するのか、といった大き
な問題も残されています。そこで、「ひも理論」の考え方を応用したり、「ブレーン(膜)宇宙論」の
考え方を応用したりして、これらの基本的な問題の解決策が多く提案されています。③の「ひも理論を
さらに拡張した理論で描く宇宙論」という言葉は、ブレーン宇宙論を意味するものではなく、通常、宇
宙の初期特異点を回避する宇宙論を意味し、重力の作用する次元を特別視したようなブレーン(膜)の
アイデアとは異なって用いられます。
以上のような理由から、本問の正解は2となります。
●63 ページQ36/65 ページA36
解説文
【誤】 典型的な X 線光子
【正】 典型的な軟X線光子
【補足説明】
可視光もX線も幅があるため、X線光子を軟X線光子と訂正いたします。
Q36 は典型的な X 線光子(数 keV)は可視光光子(数 eV)の約 1000 倍のエネルギーをもつ。
という比較を知ってもらう問題でした。
これはおおまかにオーダー(桁)を問いたかったものですが、混乱しそうな端数を切り捨て、X 線
光子を 1017Hz ぐらい(問題)
、可視光光子を 1014Hz 程度(解説)としたため、かえって不正確
になってしまいました。
●68 ページQ1/70 ページA1
問題文
【誤】 (第1宇宙速度)
【正】 (第2宇宙速度)
解説文
【誤】 (GM/R)^(1/2)
【正】 (2GM/R)^(1/2)
3
●69 ページQ5/71 ページA5
比推力の単位はs(秒)なのでは? と読者からのご質問がございました。
SI単位系と工業単位系の説明が不十分でした。以下のように解説文を詳細にいたしました。
【解説文の修正】
比推力の定義は推力を推進剤流量で割ったものであり、工業単位系での単位は推力(kgf)を推進
剤流量(kgf/s)で割るため秒(s)となる。SI 単位系での表記は推力(N)を推進剤流量(kg/s)
で割るため、N・s/kg となり、ニュートン(N)は質量(kg)に加速度(m/s2)をかけたものに等
しいため、N・s/kg に代入すると m/s の速度の単位となることがわかる。これは、ノズルの適正膨
張時のガス噴射速度に等しい値となる。比推力は大きいほど大きな速度増分を獲得することが可能
だが、それが必ずしも大きな推力とは結びつかない。またその大きさも、燃焼圧力やノズル膨張係
数などで変化するため、燃料と酸化剤の組み合わせのみでは決定しない。様々な化学推進ロケット
で比較する際には、同じ燃焼条件下で比較しなければならない。したがって正解は②。
【補足説明】
この問題は比推力、というものの意味を理解していれば考えて正解にたどり着くことが可能です。
比推力の単位は s も m/s もどちらも正解です。工業単位系で表わしているか、SI 単位系で表して
いるかの違いであって、従来の文献では工業単位系で表記されていましたので秒として紹介されて
います。近年は SI 単位系が主流ですので、比推力を SI 単位系で導出すると m/s という単位となり
ます。単位換算をしていただければ、比推力の定義(推力/推進剤流量)を理解していると SI 単
位系で出てくる m/s のもつ物理的な意味が分らなくとも導出が可能です。
この速度の物理的な意味としては、ノズルの適正膨張を仮定すると噴射速度となります。
(下記参照)
4
●87 ページQ9/89 ページA9
問題文
【誤】 広がり
【正】 立体角
「広がり」は「幅」を表すのにも用いられる日本語で、この問題文では選択肢4を正答から除外で
きないのでは? と読者からのご質問がございました。
【補足説明】
誤解を招かないよう、「広がり」を、正確に定義される「立体角」へ訂正いたします。なお、立体角は、
観測される天体の見かけの面積(観測者の視線方向へ垂直な平面に投影された面積)を観測者と天体の
距離の2乗で割ったものとして定義されます。具体的な面積や距離がわからなくても、天体の角度の広
がりだけで決まる量で、見かけの面積を測るのに広く使用されます。通常の平面角がラジアンで測られ
るのに対し、立体角はステラジアンで測られます。全天の立体角は4πステラジアンとなります。
●90 ページQ12/92 ページA12
解説文
【誤】天保改暦を行った渋川春海
【正】貞享改暦を行った渋川春海
【補足解説】
天保改暦を行ったのは渋川景佑で、渋川春海は貞享改暦を行いました。
5
●111 ページQ8/113 ページA8
問題文
【誤】自転によって 1g
【正】自転によって 1g(ジー)
【補足】
今後、記号等は「理科年表」の表記にできるだけ統一いたします。
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すでにご存じの方も多いと思いますが、1級問題は、2級や3級と比べて、問題の範囲やレベルが格
段に上がっています。これはひとえに、天文や宇宙に関する学問の最先端まで、また関連知識の最外縁
まで、好奇心をもって接してほしいという天文宇宙検定委員会の気持ちの現れです。委員会・問題制作
者ともに持てる力を尽くしておりますが、お気づきの点等ございましたら、御指摘いただけると幸甚に
存じます。読者の皆様からの御意見・御質問には、今後も真摯に対応してゆく所存です。
引き続き、宜しくお願い申し上げます。
天文宇宙検定委員会 拝
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